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複数右辺項をもつ連立一次方程式の高速・高精度求解法の開発と科学技術計算への応用 | 本研究課題では,複数本の右辺ベクトルをもつ連立一次方程式を解くためのBlock Krylov部分空間反復法の高速・高精度アルゴリズムの研究を行った.本研究課題を通してBlock Krylov部分空間の安定化手法を開発し,同法の計算量削減による高速化を行った.開発手法を素粒子物理学分野の格子QCD計算に適用し,有効性を確認した.本研究課題では,複数本の右辺ベクトルをもつ連立一次方程式を解くためのBlock Krylov部分空間反復法の高速・高精度アルゴリズムの研究を行った.本研究課題を通してBlock Krylov部分空間の安定化手法を開発し,同法の計算量削減による高速化を行った.開発手法を素粒子物理学分野の格子QCD計算に適用し,有効性を確認した.本研究課題では,複数本の右辺ベクトルをもつ連立一次方程式を高速,かつ高精度に解く数値解法の開発を目的としている.このような連立一次方程式は,数値解析分野においては周回積分に基づく固有値解法,応用分野においては素粒子物理学の格子量子色力学(QCD)計算で現れ,連立一次方程式の高速解法は様々な分野で必要とされる基盤技術となっている.複数右辺ベクトルをもつ連立一次方程式の反復解法として,Block Krylov部分空間反復法がある.同法はKrylov部分空間反復法と比較して,少ない反復回数で解が得られることがあるが,右辺ベクトル数が増加すると数値的不安定性により解が得られない場合も存在する.平成22年度はBlock積型Krylov部分空間反復法の収束性向上を目的として研究を行った.積型の解法では,加速多項式と呼ばれる多項式を用いて解法が安定化される.これまで研究代表者が開発したBlock BiCGGR法は加速多項式のパラメータ数が1つであったため,収束性に問題があった.今年度は2つのパラメータをもつ加速多項式で解法を構築し,高い収束性をもち,かつ高精度近似解を生成する解法を構築した.開発手法は,格子QCD計算で現れる連立一次方程式に対しても,高い収束性を示すことが確認された.また,従来手法であるBlock BiCGSTAB法の不安定性の原因を解析し,安定化を図った.反復過程で複数ベクトルの線形独立性が失われていくと,Block BiCGSTAB法は数値的に不安定な状況に陥る.反復毎に複数ベクトルを直交化することで,Block BiCGSTAB法の収束性・解の精度が大きく改善されることが明らかになった.直交化付きBlock BiCGSTAB法も,格子QCD計算に対して有効であることが確認された.本研究課題では,複数右辺ベクトルをもつ大規模連立一次方程式を解くための高速・高精度数値解法の開発を目的としている.このような連立一次方程式に対する反復解法として,Block Krylov部分空間反復法があるが,右辺ベクトル数が多い場合は近似解の精度劣化の発生や,数値的不安定性により近似解が得られない場合がある.そのため,より頑健で高精度近似解を生成する解法の開発が必要とされている.平成23年度は,「積型」と呼ばれるカテゴリに属するBlock Krylov部分空間反復法の高精度化・安定化に重点をおき,研究を行った.研究代表者のこれまでの研究で開発されたBlock BiCGGR法は高精度近似解が生成可能であるが,右辺ベクトル数が増加すると数値的に不安定になり近似解が得られない場合があったBlock BiCGGR法における数値的不安定性の原因の解析を行った結果,反復過程で現れるベクトルの線形独立性が失われることが原因であることが明らかになった.この現象を回避するために,Block BiCGGR法の残差行列に直交化を施した新たな解法Block BiCGGRRO法を開発した.残差行列の直交化を行うことにより,反復過程で発生した数値的不安定性を抑制することに成功し,多くの右辺ベクトル数をもつ方程式を高精度かつ安定に解くことが可能になった.他のBlock積型Krylov部分空間反復法の研究として,GPBiCG法のブロック版解法の開発,及びその安定化・高精度化を行った.GPBiCG法は一般に高い収束性を示すため,GPBiCG法のブロック版解法も高い収束性を示すことが期待された.しかしながら,Block BiCGGR法と同じく数値的に不安定になり,得られる近似解の精度も非常に悪いことが明らかになった.近似解の精度劣化の原因解析を行い,漸化式を再構築することで高精度近似解が生成可能となり,より高い収束性をもつBlock Krylov部分空間反復法を構築することができた.本研究課題では,複数本の右辺ベクトルをもつ連立一次方程式に対する高速・高精度な数値解法の開発を目的としている.このような連立一次方程式は様々な応用分野において現れ,同方程式の求解部分が計算時間の大部分を占めているため,高速に解くことが求められている.複数右辺ベクトルをもつ連立一次方程式に対する反復解法としてBlock Krylov部分空間反復法があり,このカテゴリに属する解法が数多く提案されている.右辺ベクトル数が多い場合は,Block Krylov部分空間反復法は数値的に不安定な状況に陥り,高精度近似解が得られない,または残差が発散することがある.本研究課題を通して開発されたBlock BiCGGRRO法は,数値的不安定性の緩和を行うことで高精度近似解を生成でき,かつ高い収束性をもつ手法である.しかしながら,同法の反復過程では縦長行列の正規直交化を行う必要があり,この部分が計算時間を増大させていた.平成24年度は,Block BiCGGRRO法の収束性の維持と計算時間の削減を目的として,研究を行った. | KAKENHI-PROJECT-22700003 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22700003 |
複数右辺項をもつ連立一次方程式の高速・高精度求解法の開発と科学技術計算への応用 | 同法において計算時間を削減するには,正規直交化の実行回数を減らす必要がある.しかしながら,強制的に正規直交化を実行しないようにすると,解法の収束性に悪影響を及ぼす.本研究課題では,反復過程で数値的不安定性を検知するための指標について研究を行い,正規直交化を行うかどうかを動的に判断する手法を開発した.同手法で必要とする計算量は極めて少ないため,計算時間に与える影響は少ない.開発手法において適切なパラメータを設定することにより,収束性に大きな影響を与えることなく計算時間を削減できることが確かめられた.また,格子量子色力学計算で現れる連立一次方程式に対して本手法を適用し,その有効性を確認した.平成23年度の研究を通して,高精度近似解を生成し数値的不安定性を抑制できるBlock Krylov部分空間反復法を構築できたため,「おおむね順調に進展している」と評価する.24年度が最終年度であるため、記入しない。平成24年度は,Block Krylov部分空間反復法の数値的不安定性について,より踏み込んだ解析を行う.不安定性の原因をより解析することで更なる収束性の改善のための糸口を見いだし,解法の改良に繋げる.また,様々な応用分野で現れる問題に対して開発手法を適用し,解法の有効性の検証,及び応用分野からのフィードバックによる解法の改良を行っていく.24年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-22700003 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22700003 |
機械的破断接合法による単一有機分子の光スイッチング特性評価に関する研究 | 本年度の研究目標である,非弾性電子トンネル分光測定を取り入れた単一フォトクロミック分子の光スイッチング特性評価には,強固な金属-分子接合を与えるアンカ-分子の探索が不可欠である.そこで,昨年度までに開発した,自己破断接合法(self-breaking法)を応用し,アンカー部位としてチオールまたはアミンを有する分子について,その金属-単分子-金属接合の室温耐久性を定量的に比較評価した.その結果,アミン-金結合に比べ,チオール-金結合を有する単分子接合は、その熱破断寿命に換算すると、10000倍以上安定であることなどを明らかにし,自己破断接合法を用いた本測定技術が,単分子デバイスの信頼性評価において有用な手法となることを実証した.更に,信頼性の高い光スイッチング特性評価にとって重要である極低温下における安定な単分子接合の作製に向け,自己破断接合法を用い,金-ベンゼンジチオール-金接合について、その形成・破断メカニズムを調べた.その結果,分子接合形成の前段階において,分子接合と平行に金単原子接合が形成されていることを明らかにした.更に,破断接合法により得られる単分子接合の安定性は,金単原子接合の機械的伸張過程において分子接合にも蓄積される引っ張り応力の影響を大きく受けることを実験的に示した.以上の結果から,安定な単分子接合を作製するためには,分子接合と平行に形成される金単原子接合を,従来の機械的伸張ではなく,引っ張り伸張を伴わない熱活性破断機構を利用し破断させることが重要であることを明らかにした.本研究の実験基盤となるMCBJ(mechanically-controllable break junction)装置の設計・製作及び立ち上げを行った。MCBJユニットは,コールドヘッドタイプのクライオスタットに取り付け,極低温での測定が実施可能な構造に設計した。MCBJ試料作製にはナノ加工技術を応用した。試料作製工程は以下の通りである。作製したナノMCBJ試料を対象に破断接合法によるAu単原子接点コンダクタンス測定を行い,MCBJ装置のキャリブレーションを遂行した。測定系はGPIB制御し,測定・データ解析プログラムはVisual Basic 6により構築した。更に,プログラム自己組織化配線法を応用し,比較的長い光スイッチ分子(Diarylethene)を対象にその光スイッチング特性評価を行った。まず配線分子の設計を行った。配線分子はp-phenylenevinylene(PPV)を採用した。配線分子の長さは,PPV2-3ユニットとした。反応点分子にはヨードベンゼンチオールを用いた。この分子の全長は約8nm程度である。そこで,電子線描画法により,電極間距離8nm以下の極小ギャップ電極を作製した(基板:SiO_2)。電極金属はAu(35nm)/Ti(5nm)である。作製したギャップ電極を用い,分子配線合成を行った。反応後の電極を顕微鏡観察したところ,反応過程において電極金属が劣化することを明らかにした。その後,下地金属をTiからCrに変更することで,分子配線反応過程における電極金属の劣化を大きく低減させることに成功した。本年度の研究目標である,非弾性トンネル分光測定による単分子識別の実現には,安定な単分子接合の形成が不可欠である.そこでまず,昨年度立ち上げを行った微細加工MCBJ (Mechanically-controllable break junction)を用い,安定な単原子・分子接合の形成条件を模索すると共に,室温下における接合の熱・応力破断機構を調べた.その結果,室温下において接合は熱的に破断すること,安定な接合の形成にはサブピコメートルレベルの機械的安定性が必要となることなどを明らかにした.なおこの測定技術は,単分子接合の潜在的な熱・電気的耐久性評価を可能にするものであり,単分子デバイスの信頼性評価において有用な手法となることが期待できる.上記の実験を通して得られた知見を元に,低温(77K)下において,金-ベンゼヒジチオール単分子接合を対象として,安定な単分子接合の形成・保持を行うと共に,非弾性トンネル分光測定を試みた.はじめにピコアンメータを用いた電流-電圧特性測定を行い,伝導電子とベンゼンジチオールのC-S伸縮振動とのカップリングに対応した電気伝導度の変化が検出された.更に,より高精度での電流測定が可能なロックインアンプを導入した測定系を用い,振動スペクトルを計測したところ,同様の振動スペクトルが得られた,以上の結果から,非弾性トンネル分光測定により,単分子識別が可能であることを実験的に示すことに成功した.本年度の研究目標である,非弾性電子トンネル分光測定を取り入れた単一フォトクロミック分子の光スイッチング特性評価には,強固な金属-分子接合を与えるアンカ-分子の探索が不可欠である.そこで,昨年度までに開発した,自己破断接合法(self-breaking法)を応用し,アンカー部位としてチオールまたはアミンを有する分子について,その金属-単分子-金属接合の室温耐久性を定量的に比較評価した.その結果,アミン-金結合に比べ,チオール-金結合を有する単分子接合は、その熱破断寿命に換算すると、10000倍以上安定であることなどを明らかにし,自己破断接合法を用いた本測定技術が,単分子デバイスの信頼性評価において有用な手法となることを実証した.更に,信頼性の高い光スイッチング特性評価にとって重要である極低温下における安定な単分子接合の作製に向け,自己破断接合法を用い,金-ベンゼンジチオール-金接合について、その形成・破断メカニズムを調べた.その結果,分子接合形成の前段階において,分子接合と平行に金単原子接合が形成されていることを明らかにした. | KAKENHI-PROJECT-06J08647 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06J08647 |
機械的破断接合法による単一有機分子の光スイッチング特性評価に関する研究 | 更に,破断接合法により得られる単分子接合の安定性は,金単原子接合の機械的伸張過程において分子接合にも蓄積される引っ張り応力の影響を大きく受けることを実験的に示した.以上の結果から,安定な単分子接合を作製するためには,分子接合と平行に形成される金単原子接合を,従来の機械的伸張ではなく,引っ張り伸張を伴わない熱活性破断機構を利用し破断させることが重要であることを明らかにした. | KAKENHI-PROJECT-06J08647 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06J08647 |
一本鎖抗体を用いた子宮体癌に対する分子標的治療開発の基礎的検討 | 近年・日本のみならず、先進国において子宮体癌が増加傾向にあり、特に進行例や再発例では既存の化学療法や放射線療法に抵抗性の症例も少なくなく、早期発見をめざした診断法や新たな治療法の開発が望まれている。我々のグループは子宮体癌において、細胞表面の糖鎖であるLewis^b型糖鎖の発現異常が子宮体癌特異的であることを明らかにし、Lewis^b型糖鎖に対するマウス型モノクローナル抗体MSN-Iを作製することに成功した。(Nozawa S. et al.:Am.J. Obstet.Gynecol.161,1989)この抗体を利用して、子宮体癌細胞において選択的にマーカー遺伝子を導入することが可能となれば、癌の転移や浸潤などを治療前により的確に診断することが可能となり、治療成績の向上が見込まれる。我々はこのMSN-Iを利用したミサイル療法開発における基礎的な検討を行い、MSN-Iと植物毒Geloninとの複合体が、子宮体癌細胞において選択的殺細胞効果があることを報告した(Kaneta Y. et al.:Jpn.J.Cancer Res.,89,1998)。さらに、現在子宮体癌に有効な効果を示す薬物のひとつであるアドリアマイシンを用いて前臨床的な検討を行ったところ、子宮体癌培養細胞株を用いた殺細胞効果はMSN-Iと抗がん剤であるアドリアマイシンの複合体のIC50は5x10^<-4>μMであり、MSN-Iとアドリアマイシンの混合物を用いた場合の3x10^<-2>μMと比較して約60倍の効果が認められた。さらに、マウスを用いたin vivoにおいても明らかな副作用を示すことなく腫瘍退縮効果が認められ、MSN-Iを用いた分子標的療法は極めて有用であることが明らかとなった。そこで、子宮体癌細胞へ選択的に、さらに効率良く外来遺伝子を導入するために、MSN-Iとレポーター遺伝子との複合体を作製し、レポーター活性を測定したところ、コントロールと比較して3倍程度の活性上昇を認めた。今後、子宮体癌に対する遺伝子導入効率を高めると同時にヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子やシトシンデアミナーゼなどの自殺遺伝子と組み合わせた複合体を作製し、子宮体癌に対する分子標的治療の可能性について検討する予定である。近年、日本のみならず、先進国において子宮体癌が増加傾向にあり、特に進行例や再発例では既存の化学療法や放射線療法に抵抗性の症例も少なくなく、早期発見をめざした診断法や新たな治療法の開発が望まれている。我々のグループは子宮体癌において、細胞表面の糖鎖であるLewis^b型糖鎖の発現異常が子宮体癌特異的であることを明らかにし、Lewis^b型糖鎖に対するマウス型モノクローナル抗体MSN-Iを作製することに成功した。(Nozawa S.Etal:Am.J.Obstet.Gynecol.161,1989)この抗体を利用して、子宮体癌細胞において選択的にマーカー遺伝子を導入することが可能となれば、癌の転移や浸潤などを治療前により的確に診断することが可能となり、治療成績の向上が見込まれる。我々はこのMSN-Iを利用したミサイル療法開発における基礎的な検討を行い、MSN-Iと植物毒Geloninとの複合体が、子宮体癌細胞において選択的殺細胞効果があることを報告した(Kaneta Y.Etal:Jpn.J.Cancer Res.,89,1998)。そこで、今回は現在子宮体癌に有効な効果を示す薬物のひとつであるアドリアマイシンを用いて前臨床的な検討を行った。子宮体癌培養細胞株を用いた殺細胞効果はMSN-Iと抗がん剤であるアドリアマイシンの複合体のIC50は5x10^<-4>μMであり、MSN-Iとアドリアマイシンの混合物を用いた場合の3x10^<-2>μMと比較して約60倍の効果が認められ、マウスを用いたin vivoにおいても明らかな副作用を示すことなく、腫瘍退縮効果が認められた。したがって、MSN-Iを用いた分子標的療法は極めて有用であることが明らかとなった。今後は子宮体癌細胞へ選択的に、さらに効率良く外来遺伝子を導入するために、MSN-Iとレポーター遺伝子との複合体を作製する。この複合体を用いて子宮体癌に対する遺伝子導入効率を解析し、分子療法開発の基礎的検討をおこなう。さらに、ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子やシトシンデアミナーゼなどの自殺遺伝子と組み合わせた複合体を作製し、子宮体癌に対する分子標的治療の可能性について検討することは意義がある。近年・日本のみならず、先進国において子宮体癌が増加傾向にあり、特に進行例や再発例では既存の化学療法や放射線療法に抵抗性の症例も少なくなく、早期発見をめざした診断法や新たな治療法の開発が望まれている。我々のグループは子宮体癌において、細胞表面の糖鎖であるLewis^b型糖鎖の発現異常が子宮体癌特異的であることを明らかにし、Lewis^b型糖鎖に対するマウス型モノクローナル抗体MSN-Iを作製することに成功した。(Nozawa S. et al.:Am.J. Obstet.Gynecol.161,1989) | KAKENHI-PROJECT-13770934 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13770934 |
一本鎖抗体を用いた子宮体癌に対する分子標的治療開発の基礎的検討 | この抗体を利用して、子宮体癌細胞において選択的にマーカー遺伝子を導入することが可能となれば、癌の転移や浸潤などを治療前により的確に診断することが可能となり、治療成績の向上が見込まれる。我々はこのMSN-Iを利用したミサイル療法開発における基礎的な検討を行い、MSN-Iと植物毒Geloninとの複合体が、子宮体癌細胞において選択的殺細胞効果があることを報告した(Kaneta Y. et al.:Jpn.J.Cancer Res.,89,1998)。さらに、現在子宮体癌に有効な効果を示す薬物のひとつであるアドリアマイシンを用いて前臨床的な検討を行ったところ、子宮体癌培養細胞株を用いた殺細胞効果はMSN-Iと抗がん剤であるアドリアマイシンの複合体のIC50は5x10^<-4>μMであり、MSN-Iとアドリアマイシンの混合物を用いた場合の3x10^<-2>μMと比較して約60倍の効果が認められた。さらに、マウスを用いたin vivoにおいても明らかな副作用を示すことなく腫瘍退縮効果が認められ、MSN-Iを用いた分子標的療法は極めて有用であることが明らかとなった。そこで、子宮体癌細胞へ選択的に、さらに効率良く外来遺伝子を導入するために、MSN-Iとレポーター遺伝子との複合体を作製し、レポーター活性を測定したところ、コントロールと比較して3倍程度の活性上昇を認めた。今後、子宮体癌に対する遺伝子導入効率を高めると同時にヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子やシトシンデアミナーゼなどの自殺遺伝子と組み合わせた複合体を作製し、子宮体癌に対する分子標的治療の可能性について検討する予定である。 | KAKENHI-PROJECT-13770934 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13770934 |
植物に共生するメタノール資化性細菌のランタノイドを利用した生育環境認識機構の解明 | 植物の細胞伸長や分裂に伴い放出されるメタノールは地球規模では年間一億トンを超えると言われている。このメタノールを葉上で直接利用して生育するMethyloruburum属やMethylobacterium属は植物の生育を促してメタノールを獲得するために様々な手段を講じている。例えば植物に対して様々な化学物質を供給するだけでなく、メタノールを得るために有利な環境を認識するためのメカニズムを有すると考えられる。そこで本研究ではこのメタノール資化性細菌が植物とともに生育し、その植物の生育状況に応じた生育環境認識機構を有することを明らかにすることを目的としており、このメカニズムは微生物生態学的な意義だけに限らず、農産物の効果的栽培や病原菌防御効果につながるものと期待している。本年度はMethyloruburum extorquens AM1株をモデル細菌として用いて研究を行った。植物の生育とMethyloruburumの植物体上の環境の認識、具体的にはMethyloruburumが生育する環境として根圏や土壌付近から植物体生長に伴い地上部へ、そして葉上などを認識するためにはこれまで生物体が利用する金属とは知られていなかったランタノイドが主要な役割を持っていると考えている。土壌に含まれるランタノイドが植物体の土壌部から地表部、頂上部に向けて濃度勾配を形成し、それを指標として酵素の補欠因子や酵素の誘導因子として利用することで代謝をコントロールしていることについて検討した。まず、ランタノイドに直接的な応答を示すメタノールデヒドロゲナーゼ(MDH)に着目した。M. extorquens AM1株はゲノム内に3種類のMDHアイソザイムが見出され、そのうち2つがランタノイドに誘導を受け、残る一つはランタノイドで発現が抑えられることが明らかになった。本年度の目標としては、環境認識機構の中心的な役割を持つと考えられるメタノール脱水素酵素(MDH)の発現プロファイルを確認するため、組換え株を作成してMethyloruburum extorquens AM1内でどのような誘導を受けているのか確認することを当初より計画していた。M. extorquens AM1内には3種類のMDHが確認されており、MxaF1, XoxF1, XoxF2と呼ばれている。この内XoxFタイプのMDHは環境認識に関わるランタノイド依存型であり、昨年度から本年度において野生型のプロモータの下流にHis-tagを付与した標識型のMDHを発現させるように組換株を作成した。これをウエスタンブロッティングを用いてランタノイドの有無や濃度変化への応答を確認した。また、His-tag標識されたMDHを精製することも容易になったことから、XoxF1とXoxF2を精製した結果、昨年度Formaldehyde acticating enzyme(Fae)と代謝酵素複合体を形成している可能性が示唆された。そこでFaeの欠損変異株も取得して解析している。以上のように組換株作成からその発現調節機構の解析および新たにFaeとの関係性を明らかにするための変異株の作成にも成功した。このことから、おおむね順調に進展していると考えられる。次年度は最終年度となることから、MDHアイソザイムのランタノイドとの関わりについて、本年度までに作成した様々な変異株及び育種株を駆使し、MethyloruburumのMDHを調節するメカニズム、及びそれに伴う植物葉上で優勢形成するメカニズムへの知見を得ることを目指す。また、Methyloruburumが生成する様々な植物生長を促す化合物に着目し、ランタノイドとの関係性、とくに植物体との共生において成長促進物質を生産する場所(環境)がランタノイド濃度が指標となっているとの推定を確証付けるデータを収集することを行いたい。学会発表や論文発表を通じて新たな知見を公表し、更に研究を展開して次のステージを目指す。特にこれまで明らかにしてきた知見はM. extorquens AM1にかぎらず、生態系で起こっている普遍的であるにもかかわらず、明らかにされていない事例であると考えられ得ることから、応用展開も見据えて研究を推進していく。植物共生細菌であるMethylobacterium属細菌の共生メカニズムを明らかにするため、共生を媒介する化合物や共生細菌の鍵となる代謝酵素に着目して研究を進めている。本年度はモデル菌株であるMethylobacterium extorquens AM1の3種のメタノールデヒドロゲナーゼ(MDH)アイソザイムののうち、ランタノイド依存型XoxF1とXoxF2について検討を行った。共にランタノイドを補欠因子として分子内に保有しているメタノールデヒドロゲナーゼであるがアイソザイムであるため触媒反応はPQQを補酵素とするメタノール脱水素反応であるため、酵素の活性として個々の詳細な解析が困難であった。このことから酵素の詳細については十分明らかになっていなかった。H29年度において、XoxF1とXoxF2遺伝子破壊株をそれぞれHis-tag融合型として相補させ、それぞれの酵素の発現を確認できる野生型相当の相補株、それに加えてXoxF1またはXoxF2単独で発現する株をそれぞれ作成した。His-tagを利用して、それぞれの酵素単独での取得が可能となったことから、これらのサブユニット構造を調べたところ、XoxF1およびXoxF2に由来する60kDaに加え、20KDaのタンパク質が結合していることが明らかになった。これをPeptide Mass Fingerprintingによる解析を行った結果、Formaldehyde activating enzymeの構造と一致した。これまでこのような報告話されておらず、メタノール代謝におけ鍵となる代謝酵素がヘテロなサブユニットを構成するメタボロンを形成していることが示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-17K07738 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K07738 |
植物に共生するメタノール資化性細菌のランタノイドを利用した生育環境認識機構の解明 | これに加えて、環境認識機構をコントロールしていると考えているランタノイドの応答機構についても蛍光タンパク質を用いたスクリーニング系の構築を行った。解析のための遺伝子破壊株を利用したメタノールデヒドロゲナーゼ発現株を目的の応じて4種が作製できた。これを用いた酵素タンパクの解析を行った結果、新たな知見としてXoxF1とXoxF2に別の代謝における鍵となるFormaldehyde activating enzyme(Fae)が結合して高次構造を形成していることを見出した。H30年度においては計画を追加し、Faeの細胞内局在を調べていくことを実施したい。並行してXoxF1とXoxF1がランタノイドを環境認識因子として利用していることを証明するため、XoxF1プロモーターの下流に蛍光タンパク質であるRFPを結合させ、導入した組換え株を作成した。これを用いてランタノイドの中でもLa, Ce, Pr, Ndの四種類に応答して、XoxF1を発現させていることを明らかにしたほか、ランタノイド濃度に応答していることが明らかになった。XoxF2およびMxaFの三種類について同様の組換え株を作成することを計画しており、H30年度には残り2株の作製を行う。土壌側の検討として、鍵となる物質と考えているメタノール、およびランタンを土壌に仮想根圏を作製して供給して菌叢変化を測定した。16SrRNA遺伝子を用いたアンプリコン解析を行ったが、肥沃で菌叢のしっかりした優良な土壌を用いたことから、変化はわずかで、現時点ではっきりとした仮説を導き出すところまでは進行できなかった。当初の検討は実施できていることから、遅れとまでは捉えていない。植物の細胞伸長や分裂に伴い放出されるメタノールは地球規模では年間一億トンを超えると言われている。このメタノールを葉上で直接利用して生育するMethyloruburum属やMethylobacterium属は植物の生育を促してメタノールを獲得するために様々な手段を講じている。例えば植物に対して様々な化学物質を供給するだけでなく、メタノールを得るために有利な環境を認識するためのメカニズムを有すると考えられる。そこで本研究ではこのメタノール資化性細菌が植物とともに生育し、その植物の生育状況に応じた生育環境認識機構を有することを明らかにすることを目的としており、このメカニズムは微生物生態学的な意義だけに限らず、農産物の効果的栽培や病原菌防御効果につながるものと期待している。本年度はMethyloruburum extorquens AM1株をモデル細菌として用いて研究を行った。植物の生育とMethyloruburumの植物体上の環境の認識、具体的にはMethyloruburumが生育する環境として根圏や土壌付近から植物体生長に伴い地上部へ、そして葉上などを認識するためにはこれまで生物体が利用する金属とは知られていなかったランタノイドが主要な役割を持っていると考えている。 | KAKENHI-PROJECT-17K07738 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K07738 |
羊膜の組織修復作用と骨再生能に着目した新規培養歯根膜由来細胞シートに関する研究 | 本研究の目的は,歯周組織再生に有効な新規培養細胞シートを開発することである.羊膜は抗炎症,感染抑制を有し,さまざまな細胞の培養基質としての有用性・有効性が注目されている生体材料である.われわれはこれまで,羊膜を基質に用いた培養ヒト歯根膜線維芽細胞(hPdLF)シートを作製し,実験動物への移植にて新生骨(歯周組織)再生能を有することを報告してきた.また,hPdLFの培養基質に羊膜を用いることで、ケモカインSDF-1/CXCL12やCXCL14の産生が促進され,羊膜の有用性を見出した.今回,羊膜がhPdLFのへの増殖・分化を誘導するシグナル(成長)因子の産生に与える影響について検討を行った.材料および方法については,羊膜は帝王切開時の胎盤より採取し,PDL細胞は抜去歯より採取した歯根膜を初代培養後,3から4代継代したものを研究に供した.上皮細胞を剥離,除去した羊膜上にてPDL細胞を約3週間の培養を行い,羊膜上培養PDL細胞シートを作製,組織再生・修復および骨再生に関する遺伝子解析を行った.なお,本研究は本学医学倫理審査委員会の許可を得た上で実施した.マイクロアレイによる遺伝子解析を行った結果,対照群と比較して羊膜上培養hPdLFシートでは,IGF-1, VEGF-Aの各遺伝子が高発現していた.一方、Dkk-1は遺伝子レベルでの発現の低下を認めた.また,培養上清中のIGF-1, VEGF-A, BNDF, NGFは有意に増加し,Dkk-1は有意に減少していた.上記研究結果より,羊膜上培養hPdLFシートは,自身が骨組織へ分化するだけでなく,成長因子(IGF-1, VEGF-A, BNDF, NGF)やケモカインの産生を促すことが示され,さらには,培養細胞シートは間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化を阻害するDkk-1の産生を抑制していたことで,効率的に骨芽細胞へ分化誘導するものと推測された.羊膜上培養歯根膜由来細胞シートおよび歯根膜由来細胞に対して、組織再生・修復に関与する増殖因子などの発現について、そのメカニズムを解明するために、マイクロアレイ法にて網羅的に遺伝子発現を比較検討、ならびにreal time PCR法を用いた定量分析を実施しているが、試薬調達に時間を要しやや遅れが生じている。羊膜上培養歯根膜由来細胞シートのマイクロアレイによる遺伝子解析、ならびにreal time PCR法を用いた定量分析を行った結果,歯根膜由来細胞(対照群)と比較して、各種成長因子やケモカインの産生を促す研究データが得られた。よって、羊膜が歯根膜由来細胞のへの増殖・分化を誘導するシグナル(成長)因子の産生に影響を与える可能性が考えられ、今後これらの成長因子やケモカインについて検討を加えていく予定である。本研究の目的は,歯周組織再生に有効な新規培養細胞シートを開発することである.われわれはこれまで,羊膜を基質に用いた培養歯根膜由来細胞(PDL細胞)シートの作製に成功し,動物移植実験にて新生骨(歯周組織)再生能を有すことを報告してきた.近年,羊膜は細胞の培養基質としての有用性・有効性が注目されている生体材料であるが,その効果については不明な点が多い.そこで今回,羊膜上培養PDL細胞シートにおける羊膜の培養基質としての効果についての検討を行った.材料および方法については、羊膜は帝王切開時の胎盤より採取し,PDL細胞は抜去歯より採取した歯根膜を初代培養後,3から4代継代したものを研究に供した.上皮細胞を剥離,除去した羊膜上にてPDL細胞を約3週間の培養を行い,羊膜上培養PDL細胞シートを作製,組織再生・修復および骨再生に関する遺伝子解析を行った.なお,本研究は本学医学倫理審査委員会の許可を得た上で実施した.結果として,DNAマイクロアレイ法にて,羊膜上培養PDL細胞シートとPDL細胞の遺伝子群の発現因子を網羅的に解析した結果,羊膜上培養PDL細胞シートは,組織修復・血管新生に関与するStromal cell-derived factor-1(SDF-1)および細胞を骨芽細胞への分化を促進するインスリン様増殖遺伝子1(IGF-1)の遺伝子が強発現していた.またreal-time PCRによる遺伝子発現定量解析を行ったところ,羊膜上培養PDL細胞シートはPDL細胞と比較し,SDF-1およびIGF-1の発現量増加を示した.羊膜上培養PDL細胞シートは,組織修復作用ならびに骨再生能を有する結果が得られた.以上より,羊膜はPDL細胞の骨分化を促進する役割だけでなく,新生骨(歯周組織)の再生に有効な培養基質となる可能性が示された.羊膜上培養歯根膜由来細胞シートおよび歯根膜由来細胞に対して、組織再生・修復に関与するSDF-1、ならびに骨芽細胞への分化を促進するIGF-1などの発現について、そのメカニズムを解明するために、マイクロアレイ法にて網羅的に遺伝子発現を比較検討、ならびにreal time PCR法を用いた定量分析を実施しており、概ね順調に進展していると考えられる。本研究の最終目的は,歯周組織再生に有効な新規培養細胞シートを開発することである.羊膜は抗炎症,感染抑制を有し,さまざまな細胞の培養基質としての有用性・有効性が注目されている生体材料である.羊膜上培養歯根膜由来細胞(PDL細胞)シートの組織 | KAKENHI-PROJECT-16K11695 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K11695 |
羊膜の組織修復作用と骨再生能に着目した新規培養歯根膜由来細胞シートに関する研究 | 修復作用および骨再生能についてのメカニズムを解明するために,同培養シートにおける歯周組織再生に関わる因子について探索を行った.羊膜上にてPDL細胞を3週間の培養を行い,羊膜上培養PDL細胞シートを作製した.上記にて得られた培養PDL細胞シートに対してDNAマイクロアレイ法による網羅的遺伝子発現解析,ならびにELISA法によるタンパクの定量測定を行った.なお,対照群はPDL細胞とした.マイクロアレイにて歯周組織再生に関与する遺伝子解析を行ったところ,PDL細胞と比較して羊膜上培養PDL細胞シートにて, SDF-1/CXCL12,CXCL14,およびIGF-1の各遺伝子が強発現しており,real-time PCRによる定量解析においても発現量増加を示していた.また,CXCL14,IGF-1においてタンパクの高発現が認められた.SDF-1/CXCL12とCXCL14は互いに作用し,様々な種類の間葉系幹細胞の遊走に重要な役割を果たすケモカインとされる.なかでも,SDF-1/CXCL12はPDL細胞で合成・分泌され,間葉系幹細胞の凝集を誘導することで歯根膜の再生と修復に関与すると考えられている.また,IGF-1は骨芽細胞の分化・機能に関与し,歯周組織の再生を促進する増殖因子とされる.本研究にて羊膜上培養PDL細胞シートはこれらの遺伝子の強発現および発現量が増加していたが,タンパクの高発現までを認められたのはCXCL14,IGF-1のみであった.今後,SDF-1/CXCL12のタンパク発現については,移植実験などによる検討が必要と考えている.羊膜上培養歯根膜由来細胞シートおよび歯根膜由来細胞に対して、組織再生・修復に関与する増殖因子などの発現について、そのメカニズムを解明するために、マイクロアレイ法にて網羅的に遺伝子発現を比較検討、ならびにreal time PCR法を用いた定量分析を実施しており、概ね順調に進展していると考えられる。本研究の目的は,歯周組織再生に有効な新規培養細胞シートを開発することである.羊膜は抗炎症,感染抑制を有し,さまざまな細胞の培養基質としての有用性・有効性が注目されている生体材料である.われわれはこれまで,羊膜を基質に用いた培養ヒト歯根膜線維芽細胞(hPdLF)シートを作製し,実験動物への移植にて新生骨(歯周組織)再生能を有することを報告してきた.また,hPdLFの培養基質に羊膜を用いることで、ケモカインSDF-1/CXCL12やCXCL14の産生が促進され,羊膜の有用性を見出した.今回,羊膜がhPdLFのへの増殖・分化を誘導するシグナル(成長)因子の産生に与える影響について検討を行った.材料および方法については,羊膜は帝王切開時の胎盤より採取し,PDL細胞は抜去歯より採取した歯根膜を初代培養後,3から4代継代したものを研究に供した.上皮細胞を剥離,除去した羊膜上にてPDL細胞を約3週間の培養を行い,羊膜上培養PDL細胞シートを作製,組織再生・修復および骨再生に関する遺伝子解析を行った.なお,本研究は本学医学倫理審査委員会の許可を得た上で実施した.マイクロアレイによる遺伝子解析を行った結果,対照群と比較して羊膜上培養hPdLFシートでは,IGF-1, VEGF-Aの各遺伝子が高発現していた. | KAKENHI-PROJECT-16K11695 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K11695 |
海中ロボット用電力供給・通信エネルギネットワークシステムの構築 | 海中ロボット駆動用の電力エネルギー,ならびに付随する通信システムを揺らぎのある海中にて供給可能なシステムについて検討を行った.電力エネルギーについては三角錐型のコーン型コイルを基本とした非接触伝送を基本に,模擬海中にて伝送の確認を行った.電解質である海中に於いても遜色なく電力供給が可能であり,通信システムの検証も併せ,海中充電ステーションの構築が可能である事がわかった.海中ロボット駆動用の電力エネルギー,ならびに付随する通信システムを揺らぎのある海中にて供給可能なシステムについて検討を行った.電力エネルギーについては三角錐型のコーン型コイルを基本とした非接触伝送を基本に,模擬海中にて伝送の確認を行った.電解質である海中に於いても遜色なく電力供給が可能であり,通信システムの検証も併せ,海中充電ステーションの構築が可能である事がわかった.海中ロボット用電力供給・通信エネルギネットワークシステムのうち,電力供給においては相対させた二つのコイルからなるトランスを用い,電磁誘電現象を利用した非接触給電システム方式の適用を考えた.今年度は実際の海中機器,水中ロボットへの組み込みを想定し,海中の揺らぎが生じても確実な電力供給が行える送受電コイル製作について検討を行った.着実に研究の進展を図る為に,まず机上でコイル同士が移動する場合の移動体負荷を想定して検討を進めた.移動体負荷用の平面コイルを製作する際,特に海中ロボット等の大電力機器を想定した伝送電力量を満たすコイル設計では,所望のインダクタンスおよびコイルサイズを実現するために縒り線を複数本並列に構成した.このとき各縒り線間に生じるインダクタンス差によって各縒り線に流れる電流にも差が生じてしまい,磁束分布のアンバランスが生じる原因となった.本検討において,大電力はもとより高周波を用いた給電対象を想定しているため縒り線間に発生する電流差が効率の低下に繋がってしまう.この電流差の発生を抑制する方法として,共振キャパシタを各縒り線に対して分割して接続する方法を考案し,キャパシタを分割しなかった場合の各縒り線に流れる電流比,分割した場合の電流比について検討を行った.分割の有無について,各縒り線のインダクタンス比と電流比との関係を見たところ,キャパシタを分割した場合,インダクタンス比の大小によらず電流差はほとんど発生しなかった.この結果は安定したコイル動作を実現し,海中での安定動作にも繋がるものと言える.海中ロボット用電力供給・通信エネルギネットワークシステムの構築において,トランス間の結合係数とコイルの性能指数を表すQ値との関係について検討を行った.特に海中での使用を想定した場合では,媒質が電解質を含んだ海水となるため,大気中と比較すると伝送効率に与える影響が多少考えられる.つまり電磁気的に弱い結合を保ちつつ,効率を最大限に得るための制御方法を見出す事が最良となる.過年度までの検討においては,電磁誘導方式を用いて,電気的結合を最大に高め,伝送コイル間でのエネルギ蓄積密度を大きくし,大電力を送電する事を行ってきた.特に本研究が目指す海中エネルギーネットワークシステムにおいては,多数の海中ロボット間での電力のやりとり,若しくは基幹送電ステーションでのドッキングにより電力伝送を行う事を想定しているために,近傍での電磁誘導給電システムは非常に有効である.このシステムに関する基礎検討については,本研究課題により進捗が図られたが,海中での揺らぎや,より多動性を有する海中ロボットの動作を支援するためには,距離を隔てたロボットに対しても電力伝送できる事が望ましいと考えられる事から,本検討を行うに至った.検討結果として,周波数をkHzオーダからMHzオーダまで従来よりも拡充し,コイルの銅損を制御する事で,コイルQ値を向上させた.その結果,結合係数とQ値の積で示される伝送効率において,Q値に依存する割合が大きくなり,一方,電磁気的結合係数の依存割合を低減させる事ができた.この事は,電力伝送コイル間の空隙を大きくしながらも伝送効率を補償する事を意味しており,揺らぎの多い,3次元的自由度を持つ海中空間においては有効に動作すると考えられる.この検討結果では,伝送電力を100Wレベルで確保する事に成功し,過年度までの方式との併用を想定して,今後システム構築を更に進める事とする.過年度までの研究結果におけるコーン型(三角錐型)形状のコイルを更に発展させて,送電側には空間的に広い電磁場領域が確保可能なスクエアコイル形状を用いて,海中ロボットのスケールモデル給電システムを検証した.また海中での揺らぎが発生する状況を,更に厳密な電磁気的シミュレーションで検証し,コイル間電磁気的結合の特性を確認した上で送電励磁側コイルの検討を進めた.前年度給電ステーションの基本形として,正四面体の水平方向に4つのコイルが設置される場合から検討を始めたが,今年度前述のコイルを検討した理由として,海中での揺らぎや,海中空間が3次元的自由度を保つことを最大限利用するために,海中空間に於いて広範囲な3次元的磁場分布を得られる様な送電側励磁コイルについて形状を決定した.海中ロボットに於いては,簡易的なスケールモデルを用い,また実際の水中を模擬した水中モデルを製作して実働させた.また送電側給電ステーションの検討には,海中ロボットスケールモデルに内蔵される受電側コンバータに機能性を持たせるシステムを組み込んだ.具体的には,将来エネルギと通信の海中ネットワークを構築するに当たり,給電ステーションのみならず,ロボットに内蔵された受電コイルが送電コイルへとその役割を変え,他のロボットへ電力エネルギと通信情報を送電・送信する事を理想とする旨の実験計画の基,超小型インバータを内蔵した. | KAKENHI-PROJECT-20360122 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20360122 |
海中ロボット用電力供給・通信エネルギネットワークシステムの構築 | 実際は,内蔵コンバータを送電コイルユニットとして機能する様に製作した.実験結果として,海中を模擬した水中空間において,範囲を限定された空間に磁界を分布させ,スケールモデルである海中ロボットに実際に充電を行う事を確認した.また,スクエアコイルの効果としては,海中空間を模擬した揺らぎのある水中にて,安定給電を確認する事ができた. | KAKENHI-PROJECT-20360122 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20360122 |
小脳生後発達初期の登上線維シナプス競合におけるシナプス伝達素過程の機能的変化 | 脳幹聴覚中継核calyx of Heldで見られるシナプス抑圧に対するシナプス前・後機構の各要素の寄与が生後発達に伴いどのように変化するかを明らかにした。その結果、生後発達に従って(1)シナプス前終末の伝達物質放出確率の減少、(2)シナプス後細胞のAMPA受容体脱感作の減弱と回復時間の短縮、及び(3)グルタミン酸に対する感受性の減少の3要素が関わることで、シナプス抑圧に対する受容体脱感作の寄与の減少に至ることが明らかとなった。続いて小脳登上線維シナプスの発達シナプス競合による小脳回路の調節に焦点を当て、発生開始後14日から18日のニワトリ胚由来の小脳スライス標本を用い、電気生理学的および光学的な測定が可能となるような実験システムの確立を行い、中枢神経系の回路形成や恒常性維持に重要な神経栄養因子Brain derived neurotrophic factor (BDNF)の作用を検討した。小脳スライス標本に蛍光標識BDNFを投与し、BDNFとその受容体であるTrkBの挙動を観察した。その結果、小脳の特徴的なグリア細胞であるバーグマングリア細胞に対して極めて特異的にBDNFが結合し、細胞内に取り込まれ突起内を輸送されることを見出した。バーグマングリアに対するBDNFの生理機能は不明である。そこで、小脳スライス標本でバーグマングリア細胞からのwhole-cell記録と、蛍光標識したBDNFの高精度ライブイメージングの同時測定ができる実験系を構築し、稼働に成功した。脳幹聴覚中継核calyx of Heldで見られるシナプス抑圧に対するシナプス前・後機構の各要素の寄与が生後発達に伴いどのように変化するかを明らかにした。その結果、生後発達に従って(1)シナプス前終末の伝達物質放出確率の減少、(2)シナプス後細胞のAMPA受容体脱感作の減弱と回復時間の短縮、及び(3)グルタミン酸に対する感受性の減少の3要素が関わることで、シナプス抑圧に対する受容体脱感作の寄与の減少に至ることが明らかとなった。続いて小脳登上線維シナプスの発達シナプス競合による小脳回路の調節に焦点を当て、発生開始後14日から18日のニワトリ胚由来の小脳スライス標本を用い、電気生理学的および光学的な測定が可能となるような実験システムの確立を行い、中枢神経系の回路形成や恒常性維持に重要な神経栄養因子Brain derived neurotrophic factor (BDNF)の作用を検討した。小脳スライス標本に蛍光標識BDNFを投与し、BDNFとその受容体であるTrkBの挙動を観察した。その結果、小脳の特徴的なグリア細胞であるバーグマングリア細胞に対して極めて特異的にBDNFが結合し、細胞内に取り込まれ突起内を輸送されることを見出した。バーグマングリアに対するBDNFの生理機能は不明である。そこで、小脳スライス標本でバーグマングリア細胞からのwhole-cell記録と、蛍光標識したBDNFの高精度ライブイメージングの同時測定ができる実験系を構築し、稼働に成功した。・小脳登上線維-プルキンエ細胞シナプスは、脳の発達に伴い多重支配から単一入力へとシナプスの選択・除去が行われる。小脳発生の比較的早い段階に生じるシナプス競合のメカニズムを明らかにするため、発生開始から14-19日のさまざまな発生段階にあるニワトリ胚を用い、小脳の代表的な神経細胞であるプルキンエ細胞及びBermannグリアの関与・役割に着目した。・蛍光標識分子の1分子レベルでの検出が可能なイメージングを行うための顕微鏡システムを作成した。またこの高感度ライブイメージングと同時に電気生理学的実験を可能にするための実験装置を組み込んだ。・さまざまなニワトリ胚発生ステージにおける小脳スライス標本を作製し、微分干渉顕微鏡像によりBergmannグリアおよびプルキンエ細胞の位置や形態的構造を確認した。・蛍光色素Cy3を付加した脳由来神経栄養因子(BDNF)を精製・作成した。同様の合成条件で作成した蛍光神経成長因子でその生理活性が保持されていることを脊髄後根節神経細胞の軸索伸長反応をアッセイとして確認した。これを胚性14日(E14)、E17およびE19の小脳スライスに投与し蛍光観察を行ったところ、どのステージにおいてもBergmannグリアの突起膜上に強い結合がみられた。・継時的蛍光ライブイメージング観察を行いBergmannグリアの突起膜上におけるcy3-BDNF分子の動態を調べた。発生の比較的早い段階(E14)において活発にグリア突起膜上を細胞体側へ向かって移動するのが確認できた。・登上線維-プルキンエ細胞シナプスは強い短期シナプス可塑性を示す。短期シナプス抑圧のシナプス前・後機構の生後発達変化を明らかにするに当たって、短期シナプス抑圧に関する研究に適したラット脳幹聴覚中継核calyx of Heldシナプスにおける生後発達変化メカニズムを明らかにし、論文にまとめた。脳由来神経栄養因子(BDNF)は脳に広く存在し、シナプスの形成や生存といった神経発生初期に関わっているだけでなくシナプス伝達の調節にも重要な役割を果たす。本研究は神経栄養因子がシナプスの発生・発達に対する作用に関して、グリア細胞がどのように関わっているかを明らかにすることを目的としている。受精後14日から生後0日の異なる発生段階のニワトリ胚から急性小脳スライス標本(250μm)を作製した。微分干渉顕微鏡像によりマウス小脳の発生段階におけるステージと対応させた結果、受精後17日以降で分子層・プルキンエ細胞層・顆粒細胞層の3層構造となることが明らかとなった。 | KAKENHI-PROJECT-19700355 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19700355 |
小脳生後発達初期の登上線維シナプス競合におけるシナプス伝達素過程の機能的変化 | 蛍光標識分子の1分子レベルでの検出可能なライブイメージングを行うための顕微鏡システムを作成し、同時に電気生理学的実験が可能になるようここに実験装置を組み込んだ。蛍光色素cy3でラベルしたBDNF(cy3-BDNF)を細胞外液に10nMの濃度で小脳スライス標本に全体投与し蛍光観察を行ったところ、cy3-BDNFはバーグマングリアの細胞内小胞膜上に強い蛍光輝点として観察され、これらの蛍光輝点が突起に沿って移動することが確認された。継時的ライブイメージング観察を行い、バーグマングリア細胞内小胞膜上を移動するcy3-BDNF分子の動態を解析した結果、発生の比較的早い段階(E14-E17)において突起に沿って小脳皮質表面から細胞体側へ、あるいは細胞体側から小脳皮質表面側へと蛍光輝点の活発な移動が観察された。cy3-BDNF分子の順方向性及び逆方向性の移動はバーグマングリアに発現するTrkB受容体を介した輸送によるものと考えられる。これらの結果により、BDNFはバーグマングリア細胞膜上のTrkB受容体と結合しエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた後、小胞膜上を順方向性及び逆方向性に輸送されることが示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-19700355 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19700355 |
わが国の学カテストにおける学力構造の分析とその国際比較に関する実証的研究 | わが国においては,テストの結果は重要視されるが,テスト自体の性質が検討されることはほとんどない.そこで本研究では,記述式問題について,無回答に関連する要因,共通要素の教科横断的検討,設問の問い方や解答類型と評定の関連,わが国のテストを用いた日韓比較などの研究を行った.その結果,文章の要約,具体例の記述,理由の記述,図表の読み取り,図示,言葉の当てはめ,情報の取り出しなど,教科を越えた共通要素が存在し得ること,測定しようとする要素の質や量,また,設問の問い方や解答類型などの要因が,正答率や無回答率に影響することなどが明らかにされた.わが国においては,テストの結果は重要視されるが,テスト自体の性質が検討されることはほとんどない.そこで本研究では,記述式問題について,無回答に関連する要因,共通要素の教科横断的検討,設問の問い方や解答類型と評定の関連,わが国のテストを用いた日韓比較などの研究を行った.その結果,文章の要約,具体例の記述,理由の記述,図表の読み取り,図示,言葉の当てはめ,情報の取り出しなど,教科を越えた共通要素が存在し得ること,測定しようとする要素の質や量,また,設問の問い方や解答類型などの要因が,正答率や無回答率に影響することなどが明らかにされた.わが国で開発された学力テストとして,平成18年度に実施された群馬県児童生徒学力診断テストの分析を行った.本テストは,現場の教員だけでなく,教育測定の研究者が専門的意見を述べ,それが開発に生かされたテストであり,従来型の知識だけを問うような問題ではなく,思考力・表現力を測定することを目的としている.解答類型も精緻に構成されており,児童生徒の学習のつまずきを捉え得るものである.テストの分析は,単に項目別の正答率や合計得点の分布を観察したり,平均値の比較をするのではなく,テスト理論における項目分析の手法を用いて行った.その結果,多くの項目において,学力最下位層の児童生徒において正答率が急に低くなるという傾向が確認された.また,読解力が低い児童生徒は,算数・数学等他教科の成績も低くなる傾向にあることが示された.さらに,わが国の生徒が苦手とされている記述式問題について,正答率・無回答率に基づいて設問を分類し,どのような記述問題において無回答率が高くなるのかを分析したところ,本文や資料に書かれていることの要約よりも,それらにもとづいて具体例や自分の考えを述べる設問において,無回答率が高くなり正答率が低くなること等が見出きれた.こうした傾向は,小学校よりも中学校においてより顕著になってくることも確認された.以上のことは,学力低下論争や学力の二極化問題などの議論で,経験または感覚として言われていることの一部をデータで実証的に示したものであり,その意義は大きいと考えられる.平成18年度群馬県児童生徒学力診断テスト中学校3年生テストデータについて,無回答と得点の観点から記述式問題の分類を行い,記述式問題の特徴を教科横断的に検討することを試みた.変数としては,無回答率,無回答識別指標,項目得点率,得点率識別指標の4つを用い,国語,数学,社会,理科のテストに含まれる記述式問題41問を分析対象として,設問のクラスター分析を行った.分析結果, 8つのクラスターが形成され,記述式問題で測定しようとする能力について,文章の要約,具体例の記述,理由の記述,図表の読み取り,図示,言葉の当てはめ,情報の取り出しなど,教科を越えて共有されるいくつかの共通要素が存在し得ること,測定しようとする要素の質や量の違いによって無回答率に差が生じること,設問形式や解答類型など形式的な要因も無回答率に影響することなどが考察された.無回答率と設問形式との対応を見てみると,回答負荷が小さい項目では無回答率は1割未満と低く,要約や具体例を挙げること,理由を書くことなどの設問になると12割程度の無回答率となり,複数の資料からの情報の読み取りや,その情報を簡潔に表現する設問では,無回答率は3割程度と高くなる.また,設問の意味がよく理解できず,何を書いたらよいのかよく分からない設問になると, 5割程度の生徒が無回答となる,ということが理解された.PISA調査などにおいて,記述式問題に対するわが国の生徒の無回答率が高いことが指摘されているが,PISA調査の設問はおもに西欧諸国の文化の中で構開発されたものであり,わが国の従来の教育やテストとは異質な部分があり,PISA調査の正答率や無回答率だけを見て,わが国の生徒の学力について議論するのは,わが国の教育実態を必ずしも正しく捉えたものとは言えない可能性がある.そこで,わが国の教師によって開発された読解テストを用いて,わが国と他国の生徒がどのように応答するかを比較することにより,設問の内容や問い方と,正答率,無回答との関係を検討することを試みた.具体的には,わが国と同じ東アジア文化圏に属し,2000年のPISA調査の読解力テストの成績はわが国と同程度であったが,2006年調査ではフィンランドを抜いて第1位であった韓国との比較を行った.その結果,必ずしもわが国の生徒のほうが韓国の生徒よりも記述式問題の無回答率が高いわけではないことが確認された. | KAKENHI-PROJECT-19730403 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19730403 |
わが国の学カテストにおける学力構造の分析とその国際比較に関する実証的研究 | しかし,わが国の生徒は,文章中の語句を用いて回答することについては,韓国の生徒と同等かそれ以上に正答できるが,具体例や意見など文章中にはないことを書く問題はやはり不得手であることが伺え,これはPISA調査の結果などとも一貫したわが国の生徒における記述式問題への一般的な回答傾向であると考えられた.一方,文脈を読み解きそれに沿って回答することについては,わが国と韓国の生徒に違いがあることが推察された.また,受験者の能力評価において,端的に言えばテスト得点に対して,解答類型や設問の問い方どいうテストの構造的性質がもたらす影響についての検討も行い,テストの構造的性質がテスト受験者の能力評価に影響を及ぼしていること,また,項目分析の結果に基づいてそれらを改訂することの有効性が明らかにされた. | KAKENHI-PROJECT-19730403 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19730403 |
超高品質単結晶金属ナノワイヤの創製および1次元ナノ材料の電子輸送機構の解明 | 本研究は、独創的な発想に基づき、革新的な温度制御プロセスにより、基板と金属薄膜間のストレスグレーディングの制御および金属原子の拡散速度と表面酸化膜の生成速度のマッチングを実現することによって、高品質、高密度、高アスペクト比の単結晶金属ナノワイヤの創製を実現した。さらに、独自に開発した世界をリードするマイクロ波原子間力顕微鏡を利用し、独自に考案した4探針ホール効果計測法を世界に先駆けて開発することによって、金属ナノワイヤの電気伝導率やキャリア濃度、移動度の実験的解析を実現し、新しいエネルギー準位の形成や表面の熱放出効果を考慮した金属ナノワイヤの新たな電子輸送機構の解明を実現した。(Iー1)高品質、単結晶Alナノワイヤの創製ストレスグレーディングを駆使したAlナノワイヤ生成の実現とともにナノワイヤ生成の最適条件を見出した。(Iー2)テンプレート電着法による3次元Cuナノワイヤ配列の創製ポーラスアルミナをテンプレートとして用い、電着プロセスによりシリコン基板上に3次元単結晶Cuナノワイヤ配列を作製し、各仕様なナノワイヤ配列を実現した。また、異なる寸法のポリカーボネートテンプレートを用いて、各仕様なCuナノワイヤ配列の作製を実現した。(IIー1)ストレスの勾配による原子の拡散速度に及ぼす影響の解明フィックの法則より導かれる拡散方程式を解くことにより、ナノワイヤ形成に及ぼす拡散速度の影響を解明した。また、金属薄膜の厚さや温度などの最適条件の解析を行い、熱応力勾配の変化による原子拡散に及ぼす影響を明らかにした。(IIー2)温度による材料の表面酸化膜の形成速度に対する影響の究明オージェマイクロプローブ装置を用いて金属薄膜の原子濃度分布を計測することにより、任意の温度における表面酸化膜の性状や形成速度を評価し、ナノワイヤ形成に及ぼす影響を明らかにした。(IIIー1)マイクロ波原子間力顕微鏡の最適化独自に開発したマイクロ波原子間力顕微鏡のプローブ先端のナノストラクチャーを最適化するとともに、超高感度なマイクロ波画像を構築することによって、金属ナノワイヤのマイクロ波イメージングを実現した。本研究は、独創的な発想に基づき、革新的な温度制御プロセスにより、基板と金属薄膜間のストレスグレーディングの制御および金属原子の拡散速度と表面酸化膜の生成速度のマッチングを実現することによって、高品質、高密度、高アスペクト比の単結晶金属ナノワイヤの創製を実現した。さらに、独自に開発した世界をリードするマイクロ波原子間力顕微鏡を利用し、独自に考案した4探針ホール効果計測法を世界に先駆けて開発することによって、金属ナノワイヤの電気伝導率やキャリア濃度、移動度の実験的解析を実現し、新しいエネルギー準位の形成や表面の熱放出効果を考慮した金属ナノワイヤの新たな電子輸送機構の解明を実現した。本研究は、独創的な発想に基づき、革新的な温度制御プロセスにより、基板と金属薄膜間のストレスグレーディングの制御および金属原子の拡散速度と表面酸化膜の生成速度のマッチングを実現することによって、高品質、高密度、高アスペクト比の単結晶金属ナノワイヤの創製の実現を目的とした。さらに、金属ナノワイヤの電気伝導率やキャリア濃度、移動度の実験的解析を実現し、新しいエネルギー準位の形成や表面の熱放出効果を考慮した金属ナノワイヤの新たな電子輸送機構の解明を目指した。本年度は以下の実績を得た。(Iー4)高品質、高密度、他元素単結晶金属ナノワイヤの創製SiO2薄膜のコーティングや酸素雰囲気での加熱などを通して、いままで作製困難なAlナノワイヤの作製や、Auなど他元素金属ナノワイヤの高密度かつ高アスペクトの創製を実現した。(IIIー3)金属ナノワイヤの電気伝導率のその場計測の実現いままで実現困難であった金属ナノワイヤの長さ方向の電気伝導率分布のその場計測を実現した。さらに、校正プロセスおよび評価モデルの最適化を行い、ナノワイヤの電気伝導率の高精度計測手法を確立した。(IVー3)元素の種類および結晶構造によるキャリア濃度、移動度に及ぼす影響の解明元素および寸法の異なる金属ナノワイヤのキャリア濃度および移動度の計測を行い、ナノワイヤの元素種類および結晶構造がキャリア濃度および移動度に及ぼす影響を実験的に解析することに成功した。(Vー2)金属ナノワイヤの電子輸送機構解明の実現異なる元素および結晶構造の金属ナノワイヤに応用し、新しいエネルギー準位の形成および表面の熱放出効果を考慮したナノワイヤの電子輸送機構を実験的かつ理論的に解析し、金属ナノワイヤの電子輸送機構の新しい理論基盤を構築した。(Iー3)Cuナノワイヤ生成位置の制御および2次元配列の創成イオンビーム加工により、Cu薄膜表面に損傷ポイントの2次元配列を導入し、指定位置でのヒロックの生長および高密度かつ高アスペクト比の単結晶Cuナノワイヤ配列の創製を実現した。(IIー3)温度による各材料の熱膨張係数に対する影響の解析ナノワイヤは熱圧縮応力を緩和するように形成されるため、熱応力はナノワイヤ形成に伴い再分配される。そのため、Cu薄膜は徐冷過程でも熱応力の影響を受け、ヒロックが形成されることが確認されている。そこで、各温度状態における熱膨張係数の変化を考慮に入れ、Cu薄膜の熱応力状態を動力学的解析により明らかにし、ヒロックやナノワイヤの最適形成条件を解析的に明らかにした。(IIIー2)金属ナノワイヤの電気伝導率の定量評価モデルの構築理想状態での反射率を利用した電気伝導率の評価モデルの校正が不可欠である。本研究では、ナノワイヤ専用の校正サンプルを新規に開発することによって、その場での校正を実現し、電気伝導率のその場定量評価モデルを構築した。(IVー1)4探針ホール効果計測法の開発本研究では、独創的な発想に基づき、独自に開発した | KAKENHI-PROJECT-23246024 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23246024 |
超高品質単結晶金属ナノワイヤの創製および1次元ナノ材料の電子輸送機構の解明 | 4探針原子間力顕微鏡プローブの最適化を行い、内側探針をナノワイヤ上に自由電子の平均自由行程より短い距離内に設置し、ローレンツ力により誘起される自由電子の移動で形成される電流を計測することによって、ナノワイヤのキャリア濃度および移動度の計測手法を開発した。(Vー1)自由電子の平均自由行程の実験的に解析開発した各計測手法を用いて、pAオーダーからmAオーダーまでの電流を変化させ、Cuナノワイヤの電気伝導率、キャリア濃度、移動度の計測を行った。さらに、各直径のCuナノワイヤに対して、電流値の大きさによる自由電子の移動速度などへの影響を調査し、ナノワイヤの電子輸送機構の実験的解析を実施した。当初予定されていた本年度の研究計画を順調に実施した上、創製した3次元Cuナノワイヤ配列を用いて、世界初の金属ナノワイヤ面ファスナーを実現した。25年度が最終年度であるため、記入しない。当初予定されていた本年度の研究計画を順調に実施した上、世界初の常温接合可能な金属ナノワイヤ面ファスナーを実現し、その機械的特性および電気的特性を定量的に評価した。(Iー4)高品質、高密度、他元素単結晶金属ナノワイヤの創製前年度の研究成果を踏まえて、SiO2薄膜のコーティングや酸素雰囲気での加熱などを通して、いままで作製困難なAlナノワイヤの作製や、Auなど他元素金属ナノワイヤの高密度かつ高アスペクトの創製を実現する。(IIIー3)金属ナノワイヤの電気伝導率のその場計測の実現いままで実現困難であった金属ナノワイヤの長さ方向の電気伝導率分布のその場計測を実現する。さらに、校正プロセスおよび評価モデルの最適化を行い、ナノワイヤの電気伝導率の超高精度計測を実現する。(IVー2)Cuナノワイヤのキャリア濃度、移動度の実験的に解析開発した4探針ホール効果計側法の最適化を行い、作製した直径、アスペクト比の異なるCuナノワイヤのキャリア濃度、移動度の実験的解析を行う。さらに、ナノワイヤの直径によるキャリア濃度および移動度に対する影響を明らかにする。(IVー3)元素の種類および結晶構造によるキャリア濃度、移動度に及ぼす影響の解明作製した元素および寸法の異なる金属ナノワイヤのキャリア濃度および移動度の計測を行い、ナノワイヤの元素種類および結晶構造がキャリア濃度および移動度に及ぼす影響を実験的に解明する。(Vー2)金属ナノワイヤの電子輸送機構解明の実現前年度の研究成果を異なる元素および結晶構造の金属ナノワイヤに応用し、新しいエネルギー準位の形成および表面の熱放出効果を考慮したナノワイヤの電子輸送機構を実験的かつ理論的に解明し、金属ナノワイヤの電子輸送機構の新しい理論基盤を構築する。25年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-23246024 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23246024 |
契約解除原因に関する総合的研究 | わが民法典においては、契約を解除する場合には、解除権の行使に先立って催告をすることが原則として求められている(催告解除の原則)。他方、その例外(無催告解除)も規定されており、判例・学説によっても同様の例外が認められている。しかし、両者に通底する解除要件が存すると考える。そこで、包括的な解除要件を定めるウィーン国連売買条約などの国際規模での契約法の統一規範や2002年に改正されたドイツ民法の解除要件を検討し、債権者の契約利益に対する著しい侵害が催告解除・無催告解除に共通する正当化原理であることを確認した。わが民法典においては、契約を解除する場合には、解除権の行使に先立って催告をすることが原則として求められている(催告解除の原則)。他方、その例外(無催告解除)も規定されており、判例・学説によっても同様の例外が認められている。しかし、両者に通底する解除要件が存すると考える。そこで、包括的な解除要件を定めるウィーン国連売買条約などの国際規模での契約法の統一規範や2002年に改正されたドイツ民法の解除要件を検討し、債権者の契約利益に対する著しい侵害が催告解除・無催告解除に共通する正当化原理であることを確認した。本研究の目的は、民法の条文および判例・通説において認められている契約解除権の要件たる解除原因を分析し、そこから各解除原因に共通する要素を析出し、契約解除法に通底する根本思想を見出すことである。このような目的を達成するため、平成20年度は、次の手順で研究を進めた。平成20年度は、本研究の初年度であるため、まず、研究対象に関する日本法およびドイツ法についての基礎的な文献を収集することを主に行った。具体的には、第1に、所属機関である大阪大学に所蔵されている文献から、契約解除原因に関する記述を含む体系書、注釈書、債務不履行や契約解除が問題となった裁判例、関連する研究書、雑誌論文、判例評釈等の資料を検索、収集した。第2に、大阪大学にて入手した文献の引用や、データベース等から、大阪大学に所蔵されていない文献をリストアップし、国内の研究機関等の所蔵状況、貸出または複写の可能性について調査を行った。第3に、国内の研究機関等において入手可能な文献については、貸出または複写の手続をとり入手した。この作業のため、平成20年10月および平成21年1月に国内出張を行った。また、新刊として入手可能な書籍(日本法、ドイツ法とも)を整備した。他方、国内の研究機関等において入手が不可能またはきわめて困難な文献のうち、ドイツ債務法に関する文献については、平成20年8月にドイツに赴き、収集を行った。以上のようにして入手した基礎的文献を精読し、わが国における契約解除法の基礎的な考え、およびドイツ法における契約解除法の淵源および2002年改正以前の法制度の概要について把握し、整理を行った。本研究の目的は、民法の条文および判例・通説において認められている契約解除権の要件たる解除原因を分析し、そこから各解除原因に共通する要素を析出し、契約解除法に通底する根本思想を見出すことである。このような目的を達成するため、平成21年度は、次の手順で研究を進めた。平成21年度は、前年度に収集した文献を精査することを中心としつつも、引き続き、研究対象に関する日本法およびドイツ法についての基礎的な文献の収集および精査を行った。とりわけ、平成21年にはわが国における債権法改正の基本方針が公表されたため、これに関連する文献の収集を行った。国内の研究機関等において入手が不可能またはきわめて困難な文献のうち、ドイツ債務法に関する文献については、平成21年8月にドイツに赴き、収集を行った。このようにして入手した基礎的文献を精読し、わが国における契約解除法の基礎的な考え、およびドイツ法における法状況について把握し、整理を行った。上述のように、わが国における債権法改正の基本方針が公表され、そこにおいてわが国の解除規定に関する一定の方向性が打ち出されたため、本研究において、この方向性の妥当性、そこで提示された規定(案)の当否について検討し、一定の応接を行う必要性が生じた。すなわち、当初の研究計画は、現行規定を前提とした解釈論の提示に力点を置いたものであったが、一定の立法提案ないしその前段階の方向性が明示されたため、本研究においてもこれに応接し、一定の立法論を展開する必要が生じた。このため、当初の研究計画の力点をやや後者に移しつつ研究成果をまとめる方針を立て、これに即して文献の収集および精査を行った。平成22年度は、本研究の最終年度となる。このため、おおむね当初の研究計画に沿って、残された文献調査を進めると同時に、調査結果を論文にまとめる作業を行った。具体的には、次のとおりである。前年度までに収集した文献を精査する一方、調査結果をまとめた論文の執筆に着手した。その過程において、なお調査を要する事項が生じたため、これらについて補充的に文献を収集し、精査をした。このうち、国内の研究機関等において入手が不可能またはきわめて困難な外国法文献については、平成22年8月にドイツに赴き、収集を行った。また、本研究を進める中で、わが国における債権法改正の基本方針が公表された(平成21年10月)。その後、法制審議会において本格的な改正作業が開始された(平成21年11月以降、現在も進行中)。この改正作業は本研究と密接に関わるため、これに応接するため、関連する文献の収集を行った。 | KAKENHI-PROJECT-20530072 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20530072 |
契約解除原因に関する総合的研究 | このようにして入手した文献を精査し、論文を執筆した。内容的には、わが国における解除規定の問題点を指摘したうえで、これを解消するため、外国法規範であるウィーン国連売買条約、ドイツ民法における議論の状況を起草過程にさかのぼって整理し、これを踏まえて、わが国の解釈論ないし立法論に対してどのような示唆が得られるかを整理し、今後の望ましい方向性について考察を行ったものである。さらに、現在進行中のわが国における債権法改正につき出された代表的な三つの改正提案についても検討を行った。なお、以上の研究成果たる論文は、平成23年度中に公表する予定である。 | KAKENHI-PROJECT-20530072 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20530072 |
乱流による高分子溶液劣化のハイブリッドシミュレーションによる解明 | 本研究では,乱流による高分子鎖の切断過程を取り込んだ数値シミュレーションを実行し,希薄高分子溶液の劣化過程,及び乱流統計への影響を調べた.その結果,分散する高分子の鎖長が長いほど,乱流への影響が強く表れることがわかった.また高分子の弾性が強い時,流れ場のレイノルズ数は小さくても乱流状態が維持され,このとき運動エネルギースペクトルは特徴的なべき則を示すことが明らかになった.また切断条件を変化させて切断が生じる回数及び流れ場への影響を調べた.結果,比較的切断が生じやすい条件下において,乱流場のエネルギー散逸逓減はゆるやかに回復していき,低減率の減少が確認された.乱流の直接数値計算と非常に多数の高分子鎖モデルのブラウン動力学計算を結合したオイラー・ラグランジュハイブリッドシミュレーションコードを開発し,高分子鎖が乱流により強い張力を受けて切断される過程を取り込んだ,乱流による希薄高分子溶液劣化の大規模並列数値シミュレーションを実行する.溶液劣化の時間依存性とその統計法則を明らかにし,乱流のエネルギー散逸や抵抗低減則といったマクロな乱流統計量への劣化の影響を,メソスケールのレベルから理解する事を目的とする.2年目では,これまで開発してきたハイブリッドシミュレーションコードを発展させ,高分子鎖の切断過程を取り入れた新しい計算コードの作成を行った.ダンベルモデルからマルチビーズモデルへの高分子モデルの変更を行い,高分子の鎖長の変化が乱流の性質に及ぼす影響について,エネルギースペクトルの振る舞いやエネルギー散逸率の低減効果について詳細を調べた.その結果,鎖長の増大とともに乱流統計に及ぼす影響が非常に強く表れることが確認された.また高分子の弾性効果が大きい(ワイセンベルグ数が大きい)時,流れ場のレイノルズ数が小さくても流体運動は乱れた状態を維持することがわかった.この現象は弾性乱流として過去の実験で明らかにされており,弾性乱流の特徴的な性質してエネルギースペクトルのべき則の存在が知られている.本研究ではこの点に着目しエネルギースペクトルの振る舞いについて詳細に調べた.結果,エネルギースペクトルはワイセンベルグ数を増大させると弾性乱流と類似したべき則を示すことを発見した.これらの研究成果は国際会議・国内学会等で発表され,得られた主な成果は論文としてJ. Fluid Mech.に投稿し,最近受理、出版された.また国際会議CCP2012で発表した内容について,J. Phys.: Conf. Ser.にその成果をまとめ発表し、論文が受理された.本研究課題の目的は,乱流の直接数値計算と非常に大多数の高分子鎖(ダンベルモデル)のブラウン動力学計算を連結したオイラー・ラグランジュシミュレーションコードを開発し,高分子と乱流の相互作用の詳細,及び乱流による希薄高分子溶液の劣化過程を明らかにすることである.劣化過程は,個々の高分子鎖が乱流によって強く引き延ばされる際に,鎖の切断過程を取り込むことで実現する.特に乱流のエネルギー散逸逓減といったマクロな統計量への劣化の影響をメソスケールのレベルから理解することを目指す.最終年度では,高分子鎖の切断過程を取り入れたコードを用いて,劣化過程が乱流統計に及ぼす影響について解析した.4ビーズモデルが切断により2個の2ビーズモデルに変化する過程を導入し,切断条件を変化させて切断が生じる回数及び流れ場への影響を調べた.結果,比較的切断が生じやすい条件下において,乱流場のエネルギー散逸逓減はゆるやかに回復していき,逓減率の減少が確認された.一方で昨年度の研究において,高分子鎖の弾性的性質が強く,流れ場が十分減衰した状態では,流体の運動エネルギースペクトルはべき則を示すことを明らかにした.これは「弾性乱流」と呼ばれる高分子溶液特有の乱流現象と非常に類似していることを議論した.そこで,粒子描像に基づく高分子鎖と流れ場の相互作用によって弾性乱流を発生させる並列計算を試みた.外場により定常な渦流れを生成し,そこに高分子を分散させると,流れ場は非定常化し,乱流状態に遷移する事を見いだした.このとき運動エネルギースペクトルはべき則に近い振る舞いをすることを見いだした.本研究では,乱流による高分子鎖の切断過程を取り込んだ数値シミュレーションを実行し,希薄高分子溶液の劣化過程,及び乱流統計への影響を調べた.その結果,分散する高分子の鎖長が長いほど,乱流への影響が強く表れることがわかった.また高分子の弾性が強い時,流れ場のレイノルズ数は小さくても乱流状態が維持され,このとき運動エネルギースペクトルは特徴的なべき則を示すことが明らかになった.また切断条件を変化させて切断が生じる回数及び流れ場への影響を調べた.結果,比較的切断が生じやすい条件下において,乱流場のエネルギー散逸逓減はゆるやかに回復していき,低減率の減少が確認された.乱流の直接数値計算(以下DNS)と非常に多数の高分子鎖モデルのブラウン動力学計算(以下BDS)が連結したハイブリッドシミュレーションコードを開発し,高分子鎖が乱流により強い張力を受けて切断される過程を取り込んだ,乱流による希薄高分子溶液劣化の大規模並列数値シミュレーションを実行する.溶液劣化の時間依存性とその統計法則を明らかにし,乱流のエネルギー散逸や抵抗低減則といったマクロな乱流統計量への劣化の影響を,メソスケールのレベルから理解する事を目的とする.初年度は,これまで開発してきたハイブリッドシミュレーションコードを基盤にして,高分子鎖の切断過程を取り入れた新しい計算コードの作成を行った.まず鎖の切断過程を念頭において,高分子鎖の時間発展法について,これまでの研究で用いた手法からの改良を行った.この改良により,高分子鎖モデルがより安定に高精度に積分できるようになることが確認できた. | KAKENHI-PROJECT-23760156 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23760156 |
乱流による高分子溶液劣化のハイブリッドシミュレーションによる解明 | 切断過程の解析に向けて,まず切断を伴わない場合の高分子の乱流場への影響について調べるために,乱流計算に用いる計算ノードと高分子計算に用いる計算ノードを独立させた大規模並列計算を実行した.特に高分子と乱流場の相互作用を特徴付ける統計量の振る舞いに着目した.その結果,分散させる高分子の濃度を大きくすると,乱流のエネルギー散逸率の強い逓減が生じること,エネルギースペクトルの高波数側が大きく変形することが確認できた.またワイセンベルグ数を増大させると,同様の効果が得られることが確認できた.さらに高ワイセンベルグ数の場合には,エネルギースペクトルは特徴的なべき則を示すことを見いだした.これらの研究成果は国際会議・国内学会等で発表され,得られた主な成果は論文としてまとめ,現在J. Fluid Mech.に投稿中である.昨年度からの懸案事項であった高分子モデルの数値積分法についての問題が解決し,様々なパラメータ,計算条件の下での並列計算が実行可能になり,現在いくつかの興味深い研究成果が得られつつある.乱流による高分子溶液の劣化計算は現在進行中であり,研究構想で想定した成果がまだ得られていない.これについて早急に研究を進める必要がある.初年度に切断過程を取り込んだプログラムコードを作成する予定でいたが,高分子鎖の時間発展法に新たな問題点がみつかり,その解決に時間を費やすことになった.そのため,初年度に切断過程を取り入れたプログラム開発およびそのテスト計算を実施することが出来なかった.昨年度に引き続き,ハイブリッド計算を進めていく.特に切断過程を取り込んだ計算を効率よく実施するために,計算コードの見直しを早急に行う.また結果の妥当性の検証を実験結果との比較を通して行いたい.そのためには,計算で用いるパラメータと切断条件について,議論の詳細を詰める必要がある.特に切断条件の設定が鍵となるため,いくつかの条件下で計算を行い,用いる条件の妥当性について吟味したいと考えている.また最終年度にあたる年なので,この3年の研究成果について論文にまとめ,雑誌に投稿することを考えている.初年度の研究での遅れを取り戻すために,今年度は早速切断過程を取り入れたプログラムの作成に取りかかる.この作業を7月までに終えて,8月以降に本格的に定常乱流による高分子鎖の切断と,それに伴う溶液の力学的劣化の解析に取り組む.具体的には,初年度で実施した高分子鎖の切断が生じない条件下で数値計算結果と,切断過程を導入した計算を実行し,抵抗低減率の時間変化の様子を比較する.得られた結果が実験結果と整合性があるか確認し,問題がある場合にはパラメータ設定を再度見直す.また切断高分子鎖の数密度や空間分布,ストレス場の構造などを解析し,得られた結果を十分吟味する.最終年度では、これまでより大規模な計算を実施したいと考えている。よってスーパーコンピュータの使用量について、研究費の多くを充てたいと考えている。また研究計画の最終年度にあたるので、研究成果について論文としてまとめたい。そのための論文校正費、投稿料に研究費を使用したい。前年度に引き続きスーパーコンピュータ利用料に研究経費を割り当てる. | KAKENHI-PROJECT-23760156 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23760156 |
プローブ分子を用いたゼオライト酸性度の絶対尺度の構築 | ゼオライトは分子サイズの細孔が1次元から3次元的につながった結晶性のアルミノケイ酸塩で、その特異的な細孔構造とカチオン交換能により、他の物質では得られない優れた吸着特性、触媒活性・選択性を有する。ゼオライトは、特に典型的な固体酸触媒として実用的に重要で、その反応機構は基礎化学的にも興味深い。その活性点である酸点をキャラクタライズする方法としてさまざまな手法が使われてきたが、手法によって得られる結果が異なることがあり、手法間の比較をすることが望まれる。特にプローブ分子を用いて分光学的に検討する方法は、分子レベルで酸点をキャラクタライズする方法として注目される。そこで、ゼオライトの酸点の赤外分光学的なプローブ分子として従来から用いられているピリジンやアンモニアと、代表者らが近年提唱してきた窒素、および比較的最近用いられるようになった一酸化炭素などの非常に弱い塩基プローブ分子との比較を行った。また、水のプローブ分子としての特質を検討し、水はルイス酸点に優先的に吸着したのちブレンステッド酸点に吸着すること、このことを利用してルイス酸点量を半定量的に測定できることがわかったさらに、分子長の異なるアルカンを用いて、細孔径の小さなゼオライトであるフェリエライトの吸着を検討し、細孔入り口付近にある酸点の性質を入り口からの距離に応じて調べることができることが明らかになった。このように化学的性質が類似して分子の大きさの異なるプローブ分子を系統的に用いることにより、ゼオライトの酸点の位置関係を検討できることが明らかになった。ゼオライトは分子サイズの細孔が1次元から3次元的につながった結晶性のアルミノケイ酸塩で、その特異的な細孔構造とカチオン交換能により、他の物質では得られない優れた吸着特性、触媒活性・選択性を有する。ゼオライトは、特に典型的な固体酸触媒として実用的に重要で、その反応機構は基礎化学的にも興味深い。その活性点である酸点をキャラクタライズする方法としてさまざまな手法が使われてきたが、手法によって得られる結果が異なることがあり、手法間の比較をすることが望まれる。特にプローブ分子を用いて分光学的に検討する方法は、分子レベルで酸点をキャラクタライズする方法として注目される。そこで、ゼオライトの酸点の赤外分光学的なプローブ分子として従来から用いられているピリジンやアンモニアと、代表者らが近年提唱してきた窒素、および比較的最近用いられるようになった一酸化炭素などの非常に弱い塩基プローブ分子との比較を行った。また、水のプローブ分子としての特質を検討し、水はルイス酸点に優先的に吸着したのちブレンステッド酸点に吸着すること、このことを利用してルイス酸点量を半定量的に測定できることがわかったさらに、分子長の異なるアルカンを用いて、細孔径の小さなゼオライトであるフェリエライトの吸着を検討し、細孔入り口付近にある酸点の性質を入り口からの距離に応じて調べることができることが明らかになった。このように化学的性質が類似して分子の大きさの異なるプローブ分子を系統的に用いることにより、ゼオライトの酸点の位置関係を検討できることが明らかになった。プロトン交換型ゼオライトは、典型的な固体酸触媒であり、かつ分子サイズの細孔を有する特異的な構造をしていることから、反応特異性のある重要な実用触媒のひとつとなっている。その触媒特性の重要な因子である酸性質をキャラクタライズするためにさまざまな手法やプローブ分子が用いられているが、手法やプローブ分子によって異なる結果を与えることが少なくない。そこで、本研究では、研究代表者が近年行ってきた窒素や一酸化炭素などの非常に弱い塩基である小分子気体をプローブ分子として赤外分光法により検討した結果を、従来から用いられてきているアンモニアやピリジンなど比較的塩基性の強いプローブ分子を用いて昇温脱離法や赤外分光法により検討した結果とを比較することを目的とした。窒素や一酸化炭素などの塩基性が非常に弱い気体分子をプローブ分子とすることにより、ゼオライトのブレンステッド酸点やルイス酸点を識別できる。しかし、その識別感度は異なる。一酸化.炭素は・ブレンステッド酸点に対する感度は非常に高いが、強い酸点であるルイス酸点に対する感度は比較的低い。しかし、窒素は、一酸化炭素より両酸点に対する絶対的感度は低いが、ルイス酸点に対する感度が比較的高いことがわかった。したがって、窒素はブレンステッド酸点とルイス酸点をバランスよく検出することができる。アンモニアやピリジンなど塩基性が強いプローブ分子として用いると、窒素や一酸化炭素で検出できない弱い酸点も検出し、中には酸性がほとんどないサイトも検出することがあることがわかった。また、窒素は一酸化炭素より塩基性が非常に弱く、非常に強い酸点のみを検出できることがわかった。このような特性を利用して、酸点の酸強度に応じたプローブ分子の選択基準を構築することを検討している。プロトン交換型ゼオライトは、典型的な固体酸触媒であり、かつ分子サイズの細孔を有する特異的な構造をしていることから、反応特異性のある重要な実用触媒のひとつとなっている。その触媒特性の重要な因子である酸性質をキャラクタライズするためにさまざまな手法やプローブ分子が用いられているが、手法やプローブ分子によって異なる結果を与えることが少なくない。そこで、本研究では、ゼオライトの酸点をキャラクタライズするのに適したプローブ分子を探り、その特徴を検討することを目的とした。 | KAKENHI-PROJECT-14540551 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14540551 |
プローブ分子を用いたゼオライト酸性度の絶対尺度の構築 | 研究代表者は、従来から窒素や希ガスなどのように非常に弱い気体分子がゼオライトの酸点、しかも反応に有効であると考えられる非常に強い酸点をキャラクタライズするのに適していることを報告してきたが、従来から用いられてきているピリジンやアンモニアなどの塩基性の強いプローブ分子との相違は明確でなかった。また、両者の中間的なプローブとして水がある。今回は、水をプローブ分子として酸点をキャラクタライズすることを検討した。その結果、水はまず、ルイス酸点に優先的に吸着したのちブレンステッド酸点に吸着することがわかった。また、このことからルイス酸点の量を半定量的に測定できることがわかった。また、水は、吸着量が少ない領域では、ブレンステッド酸点上に水素結合で吸着することがわかった。さらに、分子長の異なるアルカンを用いて、細孔径の小さなゼオライトであるフェリエライトの吸着を検討し、細孔入り口付近にある酸点の性質を入り口からの距離に応じて調べることができることが明らかになった。このように化学的性質が類似して分子の大きさの異なるプローブ分子を系統的に用いることにより、ゼオライトの酸点の位置関係を検討できることが明らかになった。 | KAKENHI-PROJECT-14540551 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14540551 |
ヒト味覚受容体発現細胞を用いた味の相乗・相殺効果の分子メカニズムの解析 | 食品の味はその価値を決定づける重要な因子である。近年同定された味覚受容体の機能解析により、官能評価に依らない味物質の評価が可能となり、詳細な味物質受容メカニズムも解析可能となってきた。我々は、ヒト甘味受容体を安定発現する細胞株を構築し、甘味感覚を計測しうる細胞系の構築にすでに成功した。本研究では、当該細胞株をはじめとする味覚受容体発現細胞を用いて、味の相乗・相殺のメカニズムを解析しようとする研究である。従来の官能評価によって甘味の相乗効果を有すると報告された物質を中心に、甘味受容体に対する増強作用自体によって、相乗効果を説明しうるかどうかについての検証を行った。まずヒト甘味受容体発現細胞を蛍光カルシウム指示薬にて標識し、味物質投与後の経時的な細胞応答を蛍光イメージングによって解析した。甘味物質としてはスクロースを、味物質に添加する添加物としては官能評価の知見から味覚応答に対して影響を与えうるという知見のある人工甘味料を用いた。人工甘味料はそれ自身がヒト甘味受容体を活性化しうるので、あらかじめ濃度応答関係について計測を行い、単独では応答を与えない極めて低い濃度を設定した。設定した濃度にてスクロースと混合して投与を行ったところ、低濃度の添加であるにもかかわらず、スクロースに対するヒト甘味受容体発現細胞応答を有意に増加させるものが見つけられた。応答増強効果は人工甘味料の種類によって具なっており、単なる相加効果ではなく、相乗効果を有すると判断されたものも存在した。今後は点変異を導入した受容体を用いることで、相乗効果の発生メカニズムについて検討を行っていく。食品の味はその価値を決定づける重要な因子である。近年同定された味覚受容体の機能解析により、官能評価に依らない味物質の評価が可能となり、詳細な味物質受容メカニズムも解析可能となってきた。我々は、ヒト甘味受容体を安定発現する細胞株を構築し、甘味感覚を計測しうる細胞系の構築にすでに成功した。本研究では、当該細胞株をはじめとする味覚受容体発現細胞を用いて、味の相乗・相殺のメカニズムを解析しようとする研究である。従来の官能評価によって甘味の相乗効果を有すると報告された物質を中心に、甘味受容体に対する増強作用自体によって、相乗効果を説明しうるかどうかについての検証を行った。まずヒト甘味受容体発現細胞を蛍光カルシウム指示薬にて標識し、味物質投与後の経時的な細胞応答を蛍光イメージングによって解析した。甘味物質としてはスクロースを、味物質に添加する添加物としては官能評価の知見から味覚応答に対して影響を与えうるという知見のある人工甘味料を用いた。人工甘味料はそれ自身がヒト甘味受容体を活性化しうるので、あらかじめ濃度応答関係について計測を行い、単独では応答を与えない極めて低い濃度を設定した。設定した濃度にてスクロースと混合して投与を行ったところ、低濃度の添加であるにもかかわらず、スクロースに対するヒト甘味受容体発現細胞応答を有意に増加させるものが見つけられた。応答増強効果は人工甘味料の種類によって具なっており、単なる相加効果ではなく、相乗効果を有すると判断されたものも存在した。今後は点変異を導入した受容体を用いることで、相乗効果の発生メカニズムについて検討を行っていく。 | KAKENHI-PROJECT-22380072 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22380072 |
ゼータ関数から派生する関数空間の諸性質の研究 | 本研究の主要なテーマの一つは,数論的ゼータ関数・L関数の零点分布に関する一般リーマン予想を,適当な関数空間の諸性質に関連付けて解明することである.これに取り組むため,代表者は当初,目的とするゼータ関数・L関数をある補助的な2つのパラメータによって微小変形させたものを考察していたが,昨年度の研究によりパラメータを一つ排除して理論を単純化できる可能性が見出された.しかしながら,パラメータを一つ排除することにより,パラメータが2つの時に用いる事のできたde Branges空間という良いHilbert空間の理論が利用できない箇所がいくつも生ずるという問題点が残されていた.本年度はそういった問題点の解決に取り組み,いくつかの問題点を解決した.その結果として,一般リーマン予想の同値条件を,実軸上のL2空間に作用するコンパクトな積分作用素の1パラメータ族の性質によって記述することができた.しかもこの過程において,対数微分の実部の正値性のような従来知られていた一般リーマン予想の同値条件と,本研究との関係も明らかになり,数論的な性質と関数解析的な性質の関係性についての理解が一歩進んだ.いっぽう,上記のような積分作用素の族を経由して,数論的ゼータ関数・L関数とある消散型波動方程式のコーシー問題との関係が見出された.このような波動方程式は,物理的な理由によって,消散項が正の場合に扱われるのが殆どであったが,今回の発見によって消散項が正とは限らない場合の研究にも重要な意義があることが示された.年度の前半には想定通りに研究が進まない状況もあったが,後半には研究実績の概要に記したような結果が得られ,全体としては,次年度以降への準備としても,おおむね満足すべき進展が得られたと思う.研究実績の概要で述べたように,補助的パラメータを一つ排除する際に生ずる問題点は本年度で概ね解決されたが,技術的な細部を埋める必要がある箇所も若干残っているので,そういった細部まで込めて,一旦理論を一通り整えることを目指す.また,整数論関係の専門家のみならず,関数解析学や微分方程式の専門家との意見交換によって,得られた結果の新たな応用の発見や,理論を更に発展させることを目指す.保型L関数などの数論的ゼータ関数・L関数に対して,それらの零点分布に関する一般リーマン予想を仮定すると,de Branges空間と呼ばれる整関数の成すHilbert空間が得られる.そういったde Branges空間の構造を定めるハミルトニアンを具体的に構成するという問題は,一般リーマン予想の成否と深く関わっており,本研究における主要なテーマの一つである.代表者はこれに取り組むため,目的とするゼータ関数・L関数そのものではなく,ある補助的な2つのパラメータによって,ゼータ関数・L関数を微小変形させたものを考察してきた.すると,各微小変形に対応したde Branges空間のハミルトニアンを,ある積分作用素のFredholm行列式を用いて具体的に表示することができる.この構成法は本研究課題開始前に代表者が得たものだが,この手法では一つのゼータ関数に対して,二種の積分方程式を用意する必要があった.本年度の成果の一つとして,この手法は,より単純な唯一種類の積分方程式を用いたものに簡略化された.また,本年度のもう一つの成果として,最も単純なゼータ関数であるリーマンゼータ関数の場合に,従来の手法における補助的なパラメータを排除する方法が一つ得られた.つまり,ゼータ関数・L関数の微小変形を経由する過程を理論から排除したのだが,関連するHilbert空間がde Branges空間ではなくなってしまうというデメリットも生ずるため,それを回避するにはより研究を進める必要がある.いっぽう,補助的パラメータを排除することによって得られた等式の一つは,研究計画で述べたものとは全く別方向から,本研究とゼータ関数の値分布論との新しい関係性を示唆するものとなっており,今後の解明に興味が持たれる.年度前半には想定通りに計算が進まない状況もあったが,後半には研究実績の概要に記したような結果が次々得られ,全体としては,次年度以降への準備としても,おおむね満足すべき進展が得られたと思う.本研究の主要なテーマの一つは,数論的ゼータ関数・L関数の零点分布に関する一般リーマン予想を,適当な関数空間の諸性質に関連付けて解明することである.これに取り組むため,代表者は当初,目的とするゼータ関数・L関数をある補助的な2つのパラメータによって微小変形させたものを考察していたが,昨年度の研究によりパラメータを一つ排除して理論を単純化できる可能性が見出された.しかしながら,パラメータを一つ排除することにより,パラメータが2つの時に用いる事のできたde Branges空間という良いHilbert空間の理論が利用できない箇所がいくつも生ずるという問題点が残されていた.本年度はそういった問題点の解決に取り組み,いくつかの問題点を解決した.その結果として,一般リーマン予想の同値条件を,実軸上のL2空間に作用するコンパクトな積分作用素の1パラメータ族の性質によって記述することができた.しかもこの過程において,対数微分の実部の正値性のような従来知られていた一般リーマン予想の同値条件と,本研究との関係も明らかになり,数論的な性質と関数解析的な性質の関係性についての理解が一歩進んだ.いっぽう,上記のような積分作用素の族を経由して,数論的ゼータ関数・L関数とある消散型波動方程式のコーシー問題との関係が見出された. | KAKENHI-PROJECT-17K05163 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K05163 |
ゼータ関数から派生する関数空間の諸性質の研究 | このような波動方程式は,物理的な理由によって,消散項が正の場合に扱われるのが殆どであったが,今回の発見によって消散項が正とは限らない場合の研究にも重要な意義があることが示された.年度の前半には想定通りに研究が進まない状況もあったが,後半には研究実績の概要に記したような結果が得られ,全体としては,次年度以降への準備としても,おおむね満足すべき進展が得られたと思う.研究実績の概要で述べたような補助的パラメータの排除を行うと,整関数の成すHilbert空間ではないようなHilbert空間を扱う必要性が生ずる.本研究の方針でゼータ関数の零点分布を研究する際,この事がどれほどの影響を及ぼすのかを明らかにするため,今後そのようなHilbert空間について一層の考察を行う.また,新たに示唆された値分布論との関係についても研究を進める.まずこれらを最も単純なリーマンゼータ関数について行った後,より一般の数論的ゼータ関数への拡張について考察する.研究実績の概要で述べたように,補助的パラメータを一つ排除する際に生ずる問題点は本年度で概ね解決されたが,技術的な細部を埋める必要がある箇所も若干残っているので,そういった細部まで込めて,一旦理論を一通り整えることを目指す.また,整数論関係の専門家のみならず,関数解析学や微分方程式の専門家との意見交換によって,得られた結果の新たな応用の発見や,理論を更に発展させることを目指す.予定していた書籍の納入が遅れる見込みとなったため,当該書籍の購入に必要と見込まれる金額を翌年度分として請求する事とした.この分は,次年度に物品費の一部として使用する予定である.研究代表者の研究成果等に関するwebページ研究代表者の研究成果等に関するwebページ | KAKENHI-PROJECT-17K05163 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K05163 |
学校における福祉学習カリキュラムの調査及び開発 | 本研究は教育実践や体験活動を調査することを通して、学校における福祉学習・教育カリキュラムを検討・構想することにあり、得られた知見は次のとおりである。まず、高齢社会への対応として、1990年代末の学習指導要領改訂時に福祉を課題の一つとする「総合的な学習の時間」や高校教科「福祉」が創設され、また学校における福祉学習・教育は体験活動や奉仕学習の強調によって支えられ、広がってきた経緯がある。しかし、高齢者や障害者が感じるような困難の体験(例えば、アイマスク体験や車椅子体験といった疑似的体験)はどの学校段階においても実施されてはいるものの、生徒たちによる発案でもなく、また主体的な活動になりえていない現状がある。重要なのは生徒たちが教師の支援のもと自主的に活動のテーマや計画を設定することであり、このような活動が継続的であることである。報告書ではいくつかの実践事例を検討した。次に、専門教科「福祉」の創毅は高等学校段階における福祉学習・教育に新たな局面をもたらした。福祉系高校の誕生にともなって、介護福祉専門職の養成システムのありようがこれら高校の福祉を含むカリキュラムに大きな影響を及ぼすこととなっている。2004年度から現在まで、研究代表者は京都府立南八幡高校の福祉系コースのカリキュラムアドバイザーとして高校福祉(科)教育のあり方に関与してきた。2007年の社会福祉士及び介護福祉士法の改正にともなってケアワークがいっそう強調されることによって、高校における福祉(科)教育はソーシャルワークの内容は少なくなり、出発点に企図された「中間的機能」も後退を余儀なくされ、変容してきている。本研究は教育実践や体験活動を調査することを通して、学校における福祉学習・教育カリキュラムを検討・構想することにあり、得られた知見は次のとおりである。まず、高齢社会への対応として、1990年代末の学習指導要領改訂時に福祉を課題の一つとする「総合的な学習の時間」や高校教科「福祉」が創設され、また学校における福祉学習・教育は体験活動や奉仕学習の強調によって支えられ、広がってきた経緯がある。しかし、高齢者や障害者が感じるような困難の体験(例えば、アイマスク体験や車椅子体験といった疑似的体験)はどの学校段階においても実施されてはいるものの、生徒たちによる発案でもなく、また主体的な活動になりえていない現状がある。重要なのは生徒たちが教師の支援のもと自主的に活動のテーマや計画を設定することであり、このような活動が継続的であることである。報告書ではいくつかの実践事例を検討した。次に、専門教科「福祉」の創毅は高等学校段階における福祉学習・教育に新たな局面をもたらした。福祉系高校の誕生にともなって、介護福祉専門職の養成システムのありようがこれら高校の福祉を含むカリキュラムに大きな影響を及ぼすこととなっている。2004年度から現在まで、研究代表者は京都府立南八幡高校の福祉系コースのカリキュラムアドバイザーとして高校福祉(科)教育のあり方に関与してきた。2007年の社会福祉士及び介護福祉士法の改正にともなってケアワークがいっそう強調されることによって、高校における福祉(科)教育はソーシャルワークの内容は少なくなり、出発点に企図された「中間的機能」も後退を余儀なくされ、変容してきている。1.今年度は福祉学習(教育)・ボランティア学習、総合的学習を含む体験学習等に関する文献、資料の収集につとめ、一定の分析を試みた。理念的な議論の段階から、この間の総合的な学習の時間の創設や奉仕活動・体験活動推進政策の流れを受けて、具体例やマニュアルといった実践を強く意識した啓発的な傾向を示している。しかし、その内容はしばしば障害者・高齢者理解のためとして擬似的体験を奨励するレベルに留まり、しかも学校階梯を越えて同一の体験が繰り返し紹介されるきらいがある。一方で、児童・生徒の発達段階や生活経験の状況、地域社会の資源の状況を十分に考慮した上でのカリキュラムづくりが各学校においてますます必要になっており、そのための素地やこうした認識は関係者の中で一定程度共有され始めている。2.上記の現状を踏まえながら、学校福祉学習(教育)の現在の実態を明らかにすべく、京都府内の学校を対象に「学校における福祉教育・ボランティア学習に関する調査」を行うアンケートづくりに今年度着手した。予備的調査を踏まえて、項目の精選、追加等改善をはかっているところであり、次年度中に本調査を実施したい。3.加えて、研究代表者は、今年度から京都府内において特色ある学校づくり・カリキュラムづくりを進めている府立南八幡高等学校の普通科(総合選択制)人間環境コースのスーパーアドバイザーとして、同校の福祉学習カリキュラム開発や教材開発にかかわることとなった。同校教員をはじめ関係者とともに、参与観察をさらに重ねながら高校段階の福祉学習(教育)のあり方を実践的に追究していく段階にある。1.今年度、福祉学習(教育)・ボランティア学習、総合的な学習における社会体験的学習等に関する文献、資料の収集、検討を引き続き行った。総合的な学習の時間の創設や奉仕活動・体験活動推進政策の流れを受けて具体的事例紹介やマニュアルが多数刊行されている。しかし、今年度実施した学校や社会福祉協議会の関係者の聞き取りを含む調査からうかがえるのは、実践的に障害者・高齢者理解としての擬似的体験にとどまり、しかも異なる学校階梯にもかかわらず同様の体験が繰り返し実施されている。また、当事者との交流も短期的イベント的段階から抜け出せず、さらに教師を含む学校関係者はこれら体験的活動をカリキュラム全体のなかに位置づけて展開するよりはむしろ、社会福祉協議会や施設の関係者に委ねがちである。 | KAKENHI-PROJECT-15530599 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15530599 |
学校における福祉学習カリキュラムの調査及び開発 | 他方、児童・生徒の発達段階や生活体験、また地域の社会福祉施設やボランティアといった社会資源を十分に踏まえたカリキュラムづくりが各学校において一層重要であり、その素地や認識が教師や保護者・地域住民、社会福祉協議会や施設の関係者の間で共有され始めている例もある。とりわけ、カリキュラム改革を学校改革の中軸にすえて教師自らがカリキュラムづくりに主体的に担っているケースにあっては学校階梯を越えた経験交流が進められており、また社会的資源との密接な連携が形成されてきている。2.研究代表者は、昨年度から継続して、京都府内において特色ある学校づくり・カリキュラムづくりを進めている府立南八幡高等学校の普通科(総合選択制)人間環境コースのスーパーアドバイザーとして、同校の福祉学習カリキュラム開発や教材開発にかかわっている。同校の実践の参与観察を重ねながら、同校の教員や関係者とともに高校段階の福祉学習(教育)のあり方を実践的に追究するとともに、小・中・高・大という学校階梯を貫く、連携した福祉学習(教育)の可能性について探究している段階にある。1.今年度、福祉学習(教育)・ボランティア学習、総合的な学習における社会体験的学習等の議論や先進的実践事例の収集、整理するとともに、学校関係者や社会福祉関係者との意見交換等を行った。いわゆる「学力低下」批判や総合的な学習に対する不信などが広がるなかで、福祉学習を含め体験活動型の学習活動に動揺が生じている。他方で、こうした学習活動を学校カリキュラム全体の中に明確に位置づけ、展開してきた学校においては、教師集団が地域社会の資源を生かし、また保護者のみならず地域住民、社会的施設や取組みと共同した学校独自のカリキュラムづくりが行われている。すなわち、特色ある学校づくりがその中心であるカリキュラムづくりに焦点化され、学校を取り巻く地域社会の資源と支援を取り込みながら構想され実践されることが、教師のみならず、地域社会のなかで共有され始めている。このことは、福祉学習が単なる擬似的体験やイベントにおわらず、継続的で経験と認識の深まりを伴った学習活動となる可能性を有し、学校階梯を越えた福祉学習カリキュラムの構想・展開を可能とする基盤となると考える。2.研究代表者は、一昨年度から京都府立南八幡高等学校の普通科(総合選択制)人間環境コースのスーパーアドバイザーとして、同校の福祉学習(教育)カリキュラムや教材の開発にかかわり、実践の参与観察を重ねている。同校教員とともに高校段階の福祉学習(教育)の可能性を探究する中で、中学校、高校、大学のそれぞれの階梯における福祉学習(教育)の内容の精選化とともに、各段階の生徒の生き方在り方を含み、とりわけ進路選択・職業選択のあり方に焦点化して中高連携、高大連携を見通したカリキュラム構成や教材の提示といった実践的課題が明らかになった。 | KAKENHI-PROJECT-15530599 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15530599 |
触媒CVD法による高移動度ポリ・シリコン膜の低温形成 | 液晶ディスプレイ用の薄膜トランジスタ(TFT)材料として、ガラス基板上の堆積されたポリ・シリコン膜が期待されている。このポリ・シリコン膜は、現在、600°C前後の熱処理、もしくはレーザー・スポット熱処理により作られているが、デスプレイ面積の大型化にともない、熱歪みの影響が無視できなくなるうえ、レーザー熱処理ではスルー・プットも問題となる。そのため、400°C以下の低温で、大面積にわたって高移動度ポリ・シリコン膜が堆積できる新しい薄膜堆積法の開発が強く望まれていた。一方、本報告者らは、基板近傍に置かれた加熱触媒体に原料ガスを吹き付けるだけで、プラズマも光励起も用いず、薄膜を低温堆積できる「触媒CVD法」と名付けた方法を開発してきた。本研究は、シランと水素ガスを原料とし、堆積条件の選択により、この方法を用いて400°C以下の低温で高移動度なポリ・シリコン膜が形成できることを示すことを目的としたもので、今までに、1)触媒体温度がシリコン融点以下、1300°C前後の時には堆積ガス圧を0.1Torrとし、融点以上の1700°C前後の時には0.001Torrとする、2種類の堆積条件のセットでポリ・シリコン膜が形成できること、2)そのうち、低ガス圧のセット(LP-mode)では、触媒体寿命はほとんど半永久的となり膜堆積自体も安定化すること、3)このLP-modeで作られたポリ・シリコンのホール移動度は100cm^2/vsを越えるほど高いこと、などを明らかにした。また、最近、この方法によるポリ・シリコン膜を用いたTFTが動作することも確認し、本研究の目的を達成した。液晶ディスプレイ用の薄膜トランジスタ(TFT)材料として、ガラス基板上の堆積されたポリ・シリコン膜が期待されている。このポリ・シリコン膜は、現在、600°C前後の熱処理、もしくはレーザー・スポット熱処理により作られているが、デスプレイ面積の大型化にともない、熱歪みの影響が無視できなくなるうえ、レーザー熱処理ではスルー・プットも問題となる。そのため、400°C以下の低温で、大面積にわたって高移動度ポリ・シリコン膜が堆積できる新しい薄膜堆積法の開発が強く望まれていた。一方、本報告者らは、基板近傍に置かれた加熱触媒体に原料ガスを吹き付けるだけで、プラズマも光励起も用いず、薄膜を低温堆積できる「触媒CVD法」と名付けた方法を開発してきた。本研究は、シランと水素ガスを原料とし、堆積条件の選択により、この方法を用いて400°C以下の低温で高移動度なポリ・シリコン膜が形成できることを示すことを目的としたもので、今までに、1)触媒体温度がシリコン融点以下、1300°C前後の時には堆積ガス圧を0.1Torrとし、融点以上の1700°C前後の時には0.001Torrとする、2種類の堆積条件のセットでポリ・シリコン膜が形成できること、2)そのうち、低ガス圧のセット(LP-mode)では、触媒体寿命はほとんど半永久的となり膜堆積自体も安定化すること、3)このLP-modeで作られたポリ・シリコンのホール移動度は100cm^2/vsを越えるほど高いこと、などを明らかにした。また、最近、この方法によるポリ・シリコン膜を用いたTFTが動作することも確認し、本研究の目的を達成した。 | KAKENHI-PROJECT-04650268 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04650268 |
細菌内毒素刺激でリン酸化される細胞内蛋白質の精製、構造決定とそのキナーゼ特異性 | 強力かつ多彩な生物活性を有する細菌内毒素(Lps)の作用機序を解明する目的で、マクロファージ(Mф)をLPS刺激した際にリン酸化される蛋白(phosphoproteir・pp)について調べた。(1)刺激後、15ー30分で数種の蛋白がリン酸化された。(2)これらのPPはMф内で特長的に局在していた。即ち、PP65とPP28は細胞質分画中に、PP58、PP43、PP33とpp19は細胞膜分画中に、PP105とPP75は両者に、それぞれ局在していた(PPの後の数字は分子量)。(3)これらのPP中、最も強くリン酸化される細胞質蛋白(PP65)を単一標品にまで分離精製した。精製PP65の部分アミノ酸配列を決定したところ、最近同定されたプラスチンという新種の蛋白と相同性のあることが分った。プラスチンは、ヒト線維芽細胞が癌化する時に出現してくるリン酸化蛋白として同定されたもので、我々のPP65が細胞の分化や増殖と関連することを示唆するものである。(4)pp65をウサゾに免疫して抗体を得た。この抗体を用いて螢光抗体法にてMф内の局在を調べると、細胞質内にほぼ一様に分布していた。(5)抗PP65抗体を用いて、MфをLPS刺激した際に生成するPP65の程度を免疫沈降法により特異的に検出すると、支激後30分以内にPP65の生成量はプラトーに達し、3時間後には減弱した。LPS不応答性C3HlheJマウス由来のMФでは、PP65の生成は認められなかった。(6)抗PP65抗体を用いたWestern Blot法にて、Mфでは、PP65の生成は認められなかった。(6)抗体を用いたWetern Blot法にて、Mф以外の細胞中のpp65及びP65(非リン酸化蛋白)の存在を調べた。Mфの他、脾B細胞、脾T細胞、多核白血球中に認められたが、胸線T細胞や骨髄細胞中には認められず、細胞の分化段階に依存することが示された。C3HIHeJ細胞中にも、P65は認められたが、LPS刺激でPP65は生成しないことから、HeJ細胞の機能欠損はPP65のリン酸化に至る経路に存在することが示唆された。また、LPS刺激で誘導され、P65をリン酸化するプロティンキナーゼはCa^<2+>を必要とせず、PKCとも異なることが示唆された。強力かつ多彩な生物活性を有する細菌内毒素(Lps)の作用機序を解明する目的で、マクロファージ(Mф)をLPS刺激した際にリン酸化される蛋白(phosphoproteir・pp)について調べた。(1)刺激後、15ー30分で数種の蛋白がリン酸化された。(2)これらのPPはMф内で特長的に局在していた。即ち、PP65とPP28は細胞質分画中に、PP58、PP43、PP33とpp19は細胞膜分画中に、PP105とPP75は両者に、それぞれ局在していた(PPの後の数字は分子量)。(3)これらのPP中、最も強くリン酸化される細胞質蛋白(PP65)を単一標品にまで分離精製した。精製PP65の部分アミノ酸配列を決定したところ、最近同定されたプラスチンという新種の蛋白と相同性のあることが分った。プラスチンは、ヒト線維芽細胞が癌化する時に出現してくるリン酸化蛋白として同定されたもので、我々のPP65が細胞の分化や増殖と関連することを示唆するものである。(4)pp65をウサゾに免疫して抗体を得た。この抗体を用いて螢光抗体法にてMф内の局在を調べると、細胞質内にほぼ一様に分布していた。(5)抗PP65抗体を用いて、MфをLPS刺激した際に生成するPP65の程度を免疫沈降法により特異的に検出すると、支激後30分以内にPP65の生成量はプラトーに達し、3時間後には減弱した。LPS不応答性C3HlheJマウス由来のMФでは、PP65の生成は認められなかった。(6)抗PP65抗体を用いたWestern Blot法にて、Mфでは、PP65の生成は認められなかった。(6)抗体を用いたWetern Blot法にて、Mф以外の細胞中のpp65及びP65(非リン酸化蛋白)の存在を調べた。Mфの他、脾B細胞、脾T細胞、多核白血球中に認められたが、胸線T細胞や骨髄細胞中には認められず、細胞の分化段階に依存することが示された。C3HIHeJ細胞中にも、P65は認められたが、LPS刺激でPP65は生成しないことから、HeJ細胞の機能欠損はPP65のリン酸化に至る経路に存在することが示唆された。また、LPS刺激で誘導され、P65をリン酸化するプロティンキナーゼはCa^<2+>を必要とせず、PKCとも異なることが示唆された。(1)純系マウス(C3H/He)マクロファ-ジ(Mφ)を^<32>P正リン酸でラベル後、変の細菌内毒素(LPS)で刺激し、Mφ内に出現するリン酸化蛋白(phospho protein;PP)を定量した。 | KAKENHI-PROJECT-01570243 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01570243 |
細菌内毒素刺激でリン酸化される細胞内蛋白質の精製、構造決定とそのキナーゼ特異性 | 刺激後、15-30分で、数種のPPが出現し、これはモノカインの産生などのMφの最終応答に先行した。(2)これらのPPはMφ内で特長的に局在していた。即ち、PP65とPP28は細胞質分画中に、PP58,PP43,PP33とPP19は細胞膜分画中に、PP105とPP75は両者に、それぞれ局在していた(PPの後の数字は分子量を示す)。また、これらのPPは、LPS不応答性C3H/HeJマウスMφでは認められず、LPSによるMφ活性化において必須の蛋白群と考えられる。(3)これらのPP中、最も強くリン酸化される細胞質蛋白(PP65)を、ゲル濾過カラム、イオン交換HPLCカラム、ハイドロキシアパタイトHPLCカラムにて、単一標品にまで精製した。アミノ酸組成の分析では、Asx,Glx,Leu,Lysが多かった。(4)PP65のN末端は何らかの修飾をうけており、検出できなかった。そこでPP65(100μg)を酵素処理(リシルエンドペプチダ-ゼ)して得た約10個のペプチド中の2個のペプチドをアミノ酸配列を気相シ-クエンサ-にて決定した。得られた配列を既知の蛋白質の配列と比較したところ、一致するものはなく、新しい蛋白質であることがわかった。(5)PP65(100μg)をウサギに免疫して抗血清を得た。この抗体を用いて、蛍光抗体法にてMφ内の局在を調べると、細胞質内にほぼ一様に分布していた。また、本抗体を用いて、ウエスタンブロット法でPP65(非リン酸化蛋白P65を含む)を定量すると、HeJ-Mφにも正常Mφとほぼ同量の蛋白が存在していることがわかった。LPS刺激で生ずるPPが精製、構造決定されたのは初めてのことである。平成元年度の研究計画の全て、及び平成2年度の研究計画の一部がすでに達成された。細菌内毒素(LPS)は強力な免疫賦活物質であるが、作用機序の詳細は不明である。LPSでマウスマクロファ-ジ(細菌感染防禦において重要な細胞;Mφ)が刺激されると、数種のMφ内蛋白質が特異的にリン酸化されることを既に報告した。このうち最も強くリン酸化される65kDa細胞質蛋白(PP65)を単離精製し、抗PP65抗体を調製した(前年度)。これらを基に、本年度は以下の結果を得た。(1)PP65の部分アミノ酸配列を決定し、既知の蛋白質との異同をコンピュ-タ-検索により調べたところ、一致するものはなく、新蛋白質と考えられたが、その後の検討で、hinらがヒト癌化線維芽細胞から単離したプラスチンという新種の蛋白質と高い相同性のあることが分かった。(2)抗PP65抗体を用いて、Mφ内に生成したPP65を免疫沈降し、LPS刺激により生ずるPP65の程度を、他の非特異的なPPの防害なしに定量する系を確立した。この免疫沈降法により、LPS刺激後、30分以内にPP65の生成量はプラト-に達し、3時間後には減弱することが明らかになった。LPS不応答性C3H/HeJマウス由来のMφでは、PP65の生成は微弱であった。また、LPSの活性中心であるlipid AでもPP65は生じた。(3)抗PP65抗体を用いたWestern Blot法にて、Mφ以外の細胞中のPP65及びその非リン酸化蛋白(P65)の存在を調べた。Mφの他、脾B細胞、脾T細胞、多核白血球中に認められたが、胸腺T細胞や骨髄細胞中には認められなかった。興味あることに、HeJ細胞中にもP65は認められたが、LPS刺激でPP65は生成しないことから、HeJ細胞の機能欠損は、PP65のリン酸化以前に存在することが示唆された。(4)PP65の部分アミノ酸配列を基に、オリゴDNAを合成し、遺伝子クロ-ニングの技法を用いて、PP65をコ-ドする遺伝子のサブクロ-ニングを行なった。また、LPS刺激で誘導され、P65をリン酸化するプロティンキナ-ゼはCa^<2+>を必要とせず、PKCとも異なることが示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-01570243 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01570243 |
ダブルベータ崩壊探索にむけた位置感知型ガタゲルマニウム検出器の開発研究 | ニュートリノの質量がせいぜい数十meV数eVと、電子にくらべて59桁も小さいということは驚きである。このような大きな差を説明する理論的モデルとして、See-Saw機構が提唱されている。これは、ニュートリノがマヨラナ粒子であることを仮定しているが、ニュートリノが本当にマヨラナ粒子であるのかどうかを決定するために、ニュートリノを伴わないダブルベータ崩壊を検出する試みが、世界中でなされている。しかし、いまだその感度は、ニュートリノの質量として1eVまでにしか達していない。ダブルベータ崩壊は、ごく稀にしかおきないため、背景事象をいかに低減するかがキーポイントである。本研究は、背景事象に強いダブルベータ崩壊探索法の開発を目的とする。まず既存のゲルマニウム半導体検出器を用いて、信号波形の解析を行い、バックグランドの低減を試みた。が、信号波形では十分な効果が得られないことが判明した。そこで新たな方法として、ゲルマニウムのかわりにテルル化カドミウム半導体(CdTe)検出器を用いたダブルベータ探索法の検討を行った。CdTe検出器中に含まれるCd-106からの陽電子を捉えることにより、ダブルベータ探索を行うことができる。ゲルマニウムのダブルベータ崩壊からの電子と異なり、陽電子の場合には対消滅で生成するガンマ線を同時計測することで、バックグランドを大幅に低減することができると期待される。ただし、現状のCdTe検出器ではエネルギー分解能がたりない。そこで、エネルギー分解能の向上を目指して、グリッド電極を配した素子を検討し、その試作に成功した。ニュートリノの質量がせいぜい数十meV数eVと、電子にくらべて59桁も小さいということは驚きである。このような大きな差を説明する理論的モデルとして、See-Saw機構が提唱されている。これは、ニュートリノがマヨラナ粒子であることを仮定しているが、ニュートリノが本当にマヨラナ粒子であるのかどうかを決定するために、ニュートリノを伴わないダブルベータ崩壊を検出する試みが、世界中でなされている。しかし、いまだその感度は、ニュートリノの質量として1eVまでにしか達していない。ダブルベータ崩壊は、ごく稀にしかおきないため、背景事象をいかに低減するかがキーポイントである。本研究は、背景事象に強いダブルベータ崩壊探索法の開発を目的とする。まず既存のゲルマニウム半導体検出器を用いて、信号波形の解析を行い、バックグランドの低減を試みた。が、信号波形では十分な効果が得られないことが判明した。そこで新たな方法として、ゲルマニウムのかわりにテルル化カドミウム半導体(CdTe)検出器を用いたダブルベータ探索法の検討を行った。CdTe検出器中に含まれるCd-106からの陽電子を捉えることにより、ダブルベータ探索を行うことができる。ゲルマニウムのダブルベータ崩壊からの電子と異なり、陽電子の場合には対消滅で生成するガンマ線を同時計測することで、バックグランドを大幅に低減することができると期待される。ただし、現状のCdTe検出器ではエネルギー分解能がたりない。そこで、エネルギー分解能の向上を目指して、グリッド電極を配した素子を検討し、その試作に成功した。 | KAKENHI-PROJECT-19034010 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19034010 |
疑偽仏典の綜合的研究 | 本研究は、(1)「漢訳」によってどこまで仏典はそのインド的性格を変えて中国化・東アジア化を果たしたのか、換言すれば、疑偽仏典成立の内在的理由はどこに見出せるのかを探り出すこと、および、(2)東アジア全域を視野に入れ、疑偽仏典が成立し流布する時代と社会の実情を踏まえて、それらの内実を分析・検討し、その全容を解明することを最終目的とし、3年間の研究期間内にこの目的を達成するための確固たる基盤を作り上げることを目指した。研究は、むろんまだ途上にある。しかし、幸い、各年度における研究会の開催を含めて、緊密な協力体制のもとに目的に沿ってほぼ順調に研究を進めることができた。その具体的な成果の一端は、『化珠保命真経』の究明など、「報告書」掲載の諸論文から窺い知って頂けようが、全体としてかなり明瞭になってきたところは、(1)漢訳仏典が、もとの仏典に比較しておおむね「新仏典」とでも呼ぶべき変容、ときには変質を示しているにもかかわらず、中国ないし東アジアの人々、中でも知識人以外の一般社会の人々にそのままで受け入れられ、救いや安らぎをもたらすものとはなりにくいこと、(2)基本的に、漢訳仏典の解釈・読み取りの上に生まれてくる東アジアの仏教思想は、そのような漢訳仏典の限界点を下げ、あるいは消していこうとする一面をもつこと、(3)疑偽仏典には実にさまざまのものがあり、一括りにすることはできないが、もっとも重要な一群の偽経は、漢訳仏典によって果たしきることが難しい救いや安らぎという宗教的課題に応えるべく作成されたと考えられること、などである。われわれは、このような研究の成果を踏まえて、東アジア世界において疑偽仏典が果たしてきた思想史的役割とその宗教的意義のトータルな解明に向けて、さらに本研究を続けていきたいと願っている。本研究は、(1)「漢訳」によってどこまで仏典はそのインド的性格を変えて中国化・東アジア化を果たしたのか、換言すれば、疑偽仏典成立の内在的理由はどこに見出せるのかを探り出すこと、および、(2)東アジア全域を視野に入れ、疑偽仏典が成立し流布する時代と社会の実情を踏まえて、それらの内実を分析・検討し、その全容を解明することを最終目的とし、3年間の研究期間内にこの目的を達成するための確固たる基盤を作り上げることを目指した。研究は、むろんまだ途上にある。しかし、幸い、各年度における研究会の開催を含めて、緊密な協力体制のもとに目的に沿ってほぼ順調に研究を進めることができた。その具体的な成果の一端は、『化珠保命真経』の究明など、「報告書」掲載の諸論文から窺い知って頂けようが、全体としてかなり明瞭になってきたところは、(1)漢訳仏典が、もとの仏典に比較しておおむね「新仏典」とでも呼ぶべき変容、ときには変質を示しているにもかかわらず、中国ないし東アジアの人々、中でも知識人以外の一般社会の人々にそのままで受け入れられ、救いや安らぎをもたらすものとはなりにくいこと、(2)基本的に、漢訳仏典の解釈・読み取りの上に生まれてくる東アジアの仏教思想は、そのような漢訳仏典の限界点を下げ、あるいは消していこうとする一面をもつこと、(3)疑偽仏典には実にさまざまのものがあり、一括りにすることはできないが、もっとも重要な一群の偽経は、漢訳仏典によって果たしきることが難しい救いや安らぎという宗教的課題に応えるべく作成されたと考えられること、などである。われわれは、このような研究の成果を踏まえて、東アジア世界において疑偽仏典が果たしてきた思想史的役割とその宗教的意義のトータルな解明に向けて、さらに本研究を続けていきたいと願っている。研究実施計画に従い、順調に研究を遂行した。具体的には,おおむね以下の通りである。(1)研究代表者,研究分担者とも必要に応じて互いに連絡を取りあいながら,それぞれの課題に応じて資料・文献の調査・収集に努め,できる限りそれらの解読と分析を進めた。例えば,代表者の木村は,疑偽仏典の全体像を捉えるために多くの目録類の調査を慎重に遂行するとともに,別記の通り偽経の『八陽経』や『延命地蔵経』に関する論文をまとめ,また現在,中国・明代に現れたと思われる『化珠保命真経』の解明を進めつつある。分担者の田中は,主に敦煌出土の儀軌類の研究を行い,一定の成果を挙げた。池田は,『老子』『荘子』を中心に,東アジア世界の思想の特質とその変容について考察を深めた。落合は,名古屋・七寺に所蔵される『大周刊定衆経目録』などに関して,七寺古逸経典研究会のメンバーらとともに,その分析・翻刻を行った。西本は,中国・唐代に偽経視されるに至った三階教文献を精力的に調査・検討することに努め,その成果をまとめた。(2)予定通り,2回(平成9年9月と平成10年3月)研究会を開催し,課題研究に関する発表・討論,および意見交換を行った。これによって,相互に本研究の意義についての認識を高め,疑偽仏典に関する知識を深めるとともに,有機的な関連のもとに各自の課題の研究が進捗しつつあることを確認した。(1)研究代表者および各研究分担者は、必要に応じて相互に連絡を取り合い、それぞれの主題に即して研究を進めた。 | KAKENHI-PROJECT-09410010 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09410010 |
疑偽仏典の綜合的研究 | 例えば、代表者の木村は、本年度は中国・明代に貴陽県で作られたと思われる『化珠保命真経』の研究をほぼ完成し、今は仏教思想の統合を目指したと見られる初唐代の偽経『仏性海蔵経』の研究に取り組んでいる。分担者の石上は、漢訳『悲華経』とサンスクリット原典とを比較し、そこに現れる釈迦如来の五百願について詳細に検討した。田中は、敦煌で出土した『金剛頂経』系の偽経『金剛峻経』におけるチベット密教の影響について研究した。蜂屋は、「真経」訳出の第一人者とされる玄奘三蔵の漢訳の意義を追求した。落合は、古写本の『貞元録』に入蔵された『慈仁問八十種好経』の特徴について考察し、日本宗教学会において発表した。(2)研究会を12月2日に開催した。今回は、西本照真氏に「三階教典籍の偽経視」について研究の成果を発表してもらい、また、丘山新氏に「「漢訳仏典の世界」と題して、主に漢訳の諸経典および偽経類との関わりで中国仏教史の捉え直しの試みを披瀝してもらった。両氏の発表後、活発な議論が展開され、課題の研究の進展にきわめて有益であった。(3)各研究者とも、本課題の意義と重要性に対する認識をいっそう深めつつあり、来年度(最終年度)には充実した研究報告ができるのではないかと期待される。1.研究代表者および研究分担者は、最終的な取りまとめに向けて、必要に応じて相互に連絡を取り合い、それぞれの課題に即して研究を進めた。例えば、代表者の木村は、本年度は、昨年度以来取り組んできた『化珠保命真経』の研究を一応完成させ、さらに中国・唐代の成立と推定される偽経『仏性海蔵経』の研究をまとめた。また、これまでの研究を通じて、「疑偽仏典」というものの本質と実態について、全体的な見通しを立てるに至った。分担者の田中は、敦煌で出土した『金刷頂経』系の偽経『金剛峻経』の研究を完成させた。池田は、一群の疑偽仏典の成立の基盤ないし背景となる道家・道教について研究を深めた。落合は、『貫元録』に入蔵される偽経『慈仁問八十種好経』に関する研究を、その七寺本を中心としてまとめ上げた。岡部は、現存最古と思われる七寺本の偽経『父母恩重経』の意義について論究した。蓑輪は、日本成立の偽経を概観した上で、『九條錫杖経』の解読・分析を行った。末本は、七寺蔵『釈迦如来万百本願功徳法門経』について検討した。2.研究会を平成11年11月29日に開催した。今回は、研究代表者の木村が『化珠保命真経』に関する研究の成果を発表して分担者諸氏の意見を徴するとともに、各氏から研究の状況を報告してもらい、研究成果の取りまとめのための方針について話し合った。3.各研究者とも、本研究の意義と重要性に対する認識をさらに深めることができた。その成果の一部は、「研究成果報告書」に掲載される。 | KAKENHI-PROJECT-09410010 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09410010 |
原子論的手法に基づくナノ構造・分子デバイスの量子輸送シミュレーション | 前年度までの研究で開発した3次元のフルバンド量子輸送シミュレータの機能の拡張を行い,スピン軌道相互作用の取り扱いや,輸送方向の結晶方位が[110]方向であるデバイス,任意の断面形状をもつナノワイヤの取り扱いを可能とし,微細な半導体デバイスの解析には必要不可欠な,フルバンド構造や歪効果,結晶方位依存性,スピン軌道相互作用を考慮した量子輸送シミュレーションを可能とした.開発したシミュレータを用いて,次世代の半導体デバイスとして期待されている,チャネル材料がシリコンまたはゲルマニウムであるp型のゲートオールアラウンド型ナノワイヤトランジスタについてデバイス特性の解析を行った.その結果,チャネル材料がシリコンのナノワイヤよりも,ゲルマニウムのナノワイヤの方が大きな電流が得られることが分かった.また,輸送方向の結晶方位が[100]方向のナノワイヤよりも[110]方向のナノワイヤの方が大きな電流が得られることが分かった.直径が数ナノメートルのナノワイヤトランジスタでは,単位面積あたりの電流密度がナノワイヤの直径に依存することが分かった.ナノワイヤの断面の形状が電流密度に与える影響について,開発したシミュレータを用いて解析を行い,断面の形状が正方形のナノワイヤよりも,円形のナノワイヤの方が大きな電流密度が得られることが分かった.また,シリコンに代わる新たなチャネル材料として期待されているアンチモン化インジウムをチャネルに用いたダブルゲート型トランジスタについて,2次元のフルバンド量子輸送シミュレータによる性能予測を行い,同じ寸法のシリコンデバイスと比較して,より大きなソース-ドレイン間のトンネル電流が流れることが分かった.sp^3s^*法ならびにsp^3d^5s*法による半経験的強結合近似法を導入した非平衡グリーン関数法を用いて2次元のデバイスを扱ったフルバンド量子輸送シミュレータを開発した.開発した2次元フルバンド量子輸送シミュレータシミュレータでは,半経験的強結合近似法において,より詳細なバンド構造を記述できるsp^3d^5s^*法を選択可能とすることにより,シリコン,ゲルマニウム等のIV属半導体だけでなく,InSb等のIII-V属化合物半導体にも対応した.半経験的強結合近似法のパラメータを原子間距離に応じて変化させることにより,歪み構造を持つデバイスを取り扱い可能とした.また,面方位として(100),(110)面,輸送方向として〈100〉,〈110〉方向を設定可能とした.ホールの輸送を扱う場合,スピン軌道相互作用を考慮する必要があるため,半経験的強結合近似法において,同じ原子中の異なるスピンを持つ原子軌道間の相互作用を考慮することにより,スピン軌道相互作用を取り扱い可能とした.開発した2次元フルバンド量子輸送シミュレータは多くの計算時間が必要となるため,計算時間の多くを占める非平衡グリーン関数法での逆行列計算の計算手法を,これまでのLU分解法から再帰グリーン関数法に変更することによりシミュレータの高速化を行った.また,エネルギー空間,波数空間の積分にルジャンドル・ガウス積分を取り入れることにより計算時間の短縮を試みた.sp^3s^*法による半経験的強結合近似法を導入した非平衡グリーン関数法を用いて,3次元のデバイス構造に対応したフルバンド量子輸送シミュレータを開発した.この結果,シリコンナノワイヤのような量子細線構造に,3つの電極を接続した電界効果トランジスタの電気伝導特性を計算することが可能となった.この際,デバイス構造等のパラメータをプログラム内ではなく外部ファイルにより指定するようにしたことで,より柔軟にデバイス構造を設定が可能となった.本研究で採用している計算手法を用いて量子細線構造のような3次元デバイスの電気伝導特性を計算する場合,膨大な計算機のメモリ容量が必要となる.このため,メモリ使用に関してより効率的な数値計算ライブラリとしてPARDISO(メモリ共有型マルチプロセッシング並列化直接法スパースソルバー)を導入することで,一般的なデスクトップコンピュータ上でも計算可能なメモリ使用量となった.このライブラリを使用しない部分については,メモリ分散型の並列計算を導入し高速化を施した.並列計算のできる環境を構築するために,マルチコアCPUを複数搭載した計算機1台導入し,メモリ共有型の並列計算環境としてOpenMP,メモリ分散型の並列計算環境としてMPIを使用した.また,強結合近似法を用いたものとは別に,有効質量近似と非平衡グリーン関数法による3次元デバイスに対する量子輸送シミュレータを開発し,シリコンナノワイヤトランジスタにおけるチャネル領域からゲート領域にリークする電流を計算した.さらに,昨年度開発した,2次元デバイスに対するフルバンド量子輸送シミュレータを用いて,ダブルゲート型MOSFETにおける電子輸送特性への一軸性歪みの影響について調べた.前年度までの研究で開発した3次元のフルバンド量子輸送シミュレータの機能の拡張を行い,スピン軌道相互作用の取り扱いや,輸送方向の結晶方位が[110]方向であるデバイス,任意の断面形状をもつナノワイヤの取り扱いを可能とし,微細な半導体デバイスの解析には必要不可欠な,フルバンド構造や歪効果,結晶方位依存性,スピン軌道相互作用を考慮した量子輸送シミュレーションを可能とした.開発したシミュレータを用いて,次世代の半導体デバイスとして期待されている,チャネル材料がシリコンまたはゲルマニウムであるp型のゲートオールアラウンド型ナノワイヤトランジスタについてデバイス特性の解析を行った.その結果,チャネル材料がシリコンのナノワイヤよりも,ゲルマニウムのナノワイヤの方が大きな電流が得られることが分かった.また,輸送方向の結晶方位が[100]方向のナノワイヤよりも[110]方向のナノワイヤの方が大きな電流が得られることが分かった.直径が数ナノメートルのナノワイヤトランジスタでは,単位面積あたりの電流密度がナノワイヤの直径に依存することが分かった.ナノワイヤの断面の形状が電流密度に与える影響について,開発したシミュレータを用いて解析を行い,断面の形状が正方形のナノワイヤよりも,円形のナノワイヤの方が大きな電流密度が得られることが分かった. | KAKENHI-PROJECT-07J00363 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07J00363 |
原子論的手法に基づくナノ構造・分子デバイスの量子輸送シミュレーション | また,シリコンに代わる新たなチャネル材料として期待されているアンチモン化インジウムをチャネルに用いたダブルゲート型トランジスタについて,2次元のフルバンド量子輸送シミュレータによる性能予測を行い,同じ寸法のシリコンデバイスと比較して,より大きなソース-ドレイン間のトンネル電流が流れることが分かった. | KAKENHI-PROJECT-07J00363 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07J00363 |
アフリカにおける住血吸虫症流行地住民の行動研究 | 本研究では,これまでの住血吸虫症研究で用いられてきた水接触行動に関する方法論を再検討し,そこに人類学研究の現場で用いられてきた方法論を応用することで,できる限り正確に感染リスク水との接触に関する直接観察調査を行った.また同時に,質問紙を用いたインタビュー(24時間思い出し法)によって各個人から水接触行動に関する情報を収集し,得られた2つのデータを比較検討し,質問紙法の有効性の検証を行った.タンザニア・ロアモシ地区の小学生の一人一日当たりの水接触回数は,直接観察では平均6.4回(SD=3.7),思い出し法では平均4.5回(SD=1.7)であり,思い出し法による回数は直接観察に較べ有意に少なかった.水接触時間の合計は,直接観察では一日平均24.6分(SD=20.1),思い出し法では平均29.7分(SD=24.4)であり,思い出しによる水接触時間の方が有意に長かった.思い出しによる水接触では,実際(直接観察)よりも回数は少ないが,しかし一回あたりの水接触時間は長かったことになる.各水接触行動について一回あたりの水接触によるobserved exposure index(OEI:%min)を計算すると,水遊び(888),水浴び(816)が大きく,それにつづく洗濯(141)や食器洗い(96)とは大きな差があった.聞き取り調査に基づくrecalled exposure index(REI:%min)でも同じように,水遊び(2273),水浴び(1000)が大きく,それにつづく水汲み(97)や歯磨き(81)とは大きく異なった.OElとREIの間の相関は水全体・リスク水・安全水のいずれでも有意であり,相関係数は非常に高かった(水全体Spearman's ρ=0.547,p<0.01;リスク水ρ=0.885,p<0.01;安全水ρ=0.717,p<0.01).これらの結果は,男女ともすべての水の種頬で有意(p<0.01)であった.本研究では,これまでの住血吸虫症研究で用いられてきた水接触行動に関する方法論を再検討し,そこに人類学研究の現場で用いられてきた方法論を応用することで,できる限り正確に感染リスク水との接触に関する直接観察調査を行った.また同時に,質問紙を用いたインタビュー(24時間思い出し法)によって各個人から水接触行動に関する情報を収集し,得られた2つのデータを比較検討し,質問紙法の有効性の検証を行った.タンザニア・ロアモシ地区の小学生の一人一日当たりの水接触回数は,直接観察では平均6.4回(SD=3.7),思い出し法では平均4.5回(SD=1.7)であり,思い出し法による回数は直接観察に較べ有意に少なかった.水接触時間の合計は,直接観察では一日平均24.6分(SD=20.1),思い出し法では平均29.7分(SD=24.4)であり,思い出しによる水接触時間の方が有意に長かった.思い出しによる水接触では,実際(直接観察)よりも回数は少ないが,しかし一回あたりの水接触時間は長かったことになる.各水接触行動について一回あたりの水接触によるobserved exposure index(OEI:%min)を計算すると,水遊び(888),水浴び(816)が大きく,それにつづく洗濯(141)や食器洗い(96)とは大きな差があった.聞き取り調査に基づくrecalled exposure index(REI:%min)でも同じように,水遊び(2273),水浴び(1000)が大きく,それにつづく水汲み(97)や歯磨き(81)とは大きく異なった.OElとREIの間の相関は水全体・リスク水・安全水のいずれでも有意であり,相関係数は非常に高かった(水全体Spearman's ρ=0.547,p<0.01;リスク水ρ=0.885,p<0.01;安全水ρ=0.717,p<0.01).これらの結果は,男女ともすべての水の種頬で有意(p<0.01)であった.本研究の目的は、タンザニアの住血吸虫症流行地に居住する住民を対象に、個人を厳密に識別しながら河川の水との接触量と排泄虫卵数を定量的に測定することによって住血吸虫に感染し易い住民と感染しにくい住民を個体識別することである。これまでの住血吸虫症研究では、個人の排泄虫卵数の定量化は可能でも、個人の行動の定量化には限界があり、河川との接触量と住血吸虫感染陽性率や感染強度との相関を集団として明らかにすることは出来ても、個人においても同様の事実があるかどうかについては解明することが極めて困難であった。従ってこの目的を達成するためには、まず住民の行動観察を個人別に厳密に行う方法を開発することがもっとも重要な鍵となると考え、初年度の主要な目的を行動の個人別定量化の方法の確立とした。我々は、住民の行動を個人別に厳密に観察できる方法として、GPS(Global Positioning System、全地球測位システム)が最も可能性がある方法と考え、現在行動観察への導入を試みている。本年度は、最も観察が容易と考えられる東アフリカの乾季、2002年2月2日から3月22日の間、タンザニアのマンソン住血吸虫症流行地における小学生を対象に、行動(特に水接触行動)観察の方法として、下記の三種の方法を比較検討している(継続中)。1)直接観察法(個人を起床時間から就寝時間まで追いかけてその行動を記録する)2)質問票による方法(前日の行動をインタビューによって聞き取りを行う) | KAKENHI-PROJECT-13576010 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13576010 |
アフリカにおける住血吸虫症流行地住民の行動研究 | 3)GPSによる方法(自動的な行動軌跡の記録からその行動を推測する)現在観察を継続中であるので、最終的な結果は得られていないが、GPSによる自動的な行動軌跡の記録に特に問題がないことが明らかになりつつある。本研究の目的は、タンザニアの住血吸虫症流行地に居住する住民を対象に、個人を厳密に識別しながら河川の水との接触量と排泄虫卵数を定量的に測定することによって、住血吸虫に感染し易い住民と感染しにくい住民を個体識別することである。これまでの住血吸虫症研究では、個人の排泄虫卵数の定量化は可能でも、個人の行動の定量化には限界があり、河川との接触量と住血吸虫感染陽性率や感染強度との相関を集団として明らかにすることは出来ても、個人においても同様の事実があるかどうかについて解明することが極めて困難であった。目的を達成するためには、まず住民の行動観察を個人別に厳密に行う方法を開発することがもっとも重要な鍵となるため、初年度の主要な目的を行動の個人別定量化の方法の確立とした。また、住民の行動を個人別に厳密に観察できる方法として、GPS(Global Positioning System、全地球測位システム)にも可能性があると考え、現在行動観察への導入を試みている。初年度は、最も観察が容易と考えられる東アフリカの乾季、2002年2月2日から3月22日の間、タンザニアのマンソン住血吸虫症流行地における小学生を対象に、1)直接観察法(個人を起床時間から就寝時間まで追いかけてその行動を記録する)と、2)質問票による方法(前日の行動をインタビューによって聞き取りを行う:思い出し法)による行動(特に水接触行動)観察を行った。そのデータに基づいて本年度は、水接触行動を定量的に把握する方法として、直接観察法と思い出し法の比較を行い、思い出し法(詳細な聞き取り調査による)の有効性について検証を行った。その結果、1)ロア・モシ地区の小学生において、最もリスクの高い水接触行動は川や水路での水遊ぴ(遊泳)と考えられた。2)直接観察法と比較すると、思い出し法では水接触回数は少なく、時間が有意に長かった。3)直接観察法と思い出し法では、特に感染リスク水との接触行動において非常に相関が高かった。4)何らかの補正が必要であるものの、思い出し法(詳細な聞き取り調査)だけで集団としての感染リスクを推定できる可能性が高いと考えられた。(日本熱帯医学会で発表)この結果をもとに、思い出し法による調査を数百人レベルで行うための予備調査を行った。住血吸虫症では、虫体が多数感染している住民と、虫体の少数感染あるいはまったく感染していない住民とを比較し、感染抵抗性個体と非抵抗性個体の間の遺伝学的、免疫学的差異を検討する試みがなされてきたが、必ずしも明確な結論は得られていない。その最大の理由は、感染リスクの推定が非常に困難な点である。理論的には、住血吸虫症は河川との接触のみで感染する熱帯寄生虫病であり、住民行動(河川の水との接触行動)の量的把握により感染リスクを推定することができる。しかし現実には、住民の河川との接触量の測定は容易ではない。そこで、本研究ではまず、住民の水接触量をこれまでにない精密さで個体別に測定する方法を確立し、感染リスクを精密に推定する。更に推定された感染リスクと感染強度を個体毎に比較し、住血吸虫に感染し易い個体と感染しにくい固体を厳密に識別する。研究はタンザニアのモシの小学生を対象に行った。 | KAKENHI-PROJECT-13576010 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13576010 |
スターリンの対日政策に関する基礎的研究:1931-1953年 | ・ソ連の外交史料館では、主として1930年代に駐日全権代表を勤めたユレネフが残した外交日誌を分析した。東京で面会した政治家、外交官、知識人、新聞記者らとの会談内容が克明に記録されており、日本側の日記、回想録、書簡と照合、比較・検討することにより日ソ双方の考え方を立体的に考察することが可能となる。ただし、平成17年度にモスクワのロシア外務省公文書館で行った調査時に、次回訪問時の引渡しを約束して関連文献の複写を請求していたのだが、平成18年9月に同館を再訪したところ、文書館の勝手な方針変更(コピー請求枚数の事後的な制限、文書史料へのアクセス自体への制限等)のためコピーを得ることができず、本来の計画通りに研究を遂行できなかった。ロシアにおける外交分野に関する史料収集の困難さを改めて痛感した。これからの研究にも支障をきたす可能性があるため、この問題への対応をめぐって、ロシアの研究者とも連絡をとりながら対応策を検討中である。・戦後10年間の日ソ関係に関して、終戦記念日(日本及び朝鮮半島における8月15日とソ連、中国における9月3日)に焦点をあてた論考を執筆し、スターリンの対日政策の変化、彼の死後に訪れた変化について考察した。2007年8月に出版される予定である。・平成18年度は、9月に約1ヶ月間モスクワに滞在し、ロシア外務省外交史料館、ロシア連邦国家史料館、ロシア国立図書館等で史料収集にあたったが、上述した通り、外交史料館での史料収集は実り多いものとはいえなかった。一方で、ロシア連邦国家史料館では、迅速な対応のおかげで人民委員会議関連の多数の史料を閲覧、収集することができた。また、ロシア政治社会史史料館では政治局の対日・対極東政策に関する史料を収集し、現在も内容の分析を続行中である。・図書館では関連文書の複写をするとともに、ロシア滞在中にはスターリン時代を中心に、ソ連史に関連した文献を広く収集できた。本年度は3年の科研費調査の初年度にあたるため、1960年代を中心に出版された『ソ連外交文書集』の日ソ関係及び、それと深く関連した項目(ソ中、ソ蒙、ソ米関係)を整理して一覧表を作成し、順次解読を試みた。現在に至るまで外交文書集で刊行されているのは、1941年までであり本研究でカバーする1953年までの後半については、その他の刊行文献及びアルヒーフ資料に頼らざるをえない。諸般の事情により、計画した2004年9月のモスクワ訪問は、2005年1月に延期せざるをえなかった。図書館(旧レーニン図書館、科学アカデミー図書館、歴史図書館)で文献を収集し、公文書館(ロシア国立社会・政治史史料館=スターリンの個人フォンド、ロシア連邦外務省史料館、ロシア国立連邦史料館等)で、史料の所在を調査することができた。対日関係と深く関連した満洲問題について二本の論文を執筆した。「スターリンと中東鉄道売却」『中国東北地域史研究の新視覚』(2005年7月刊行予定、11.研究発表には非掲載)では、日本及び満州国との交渉の末、中東鉄道を1935年に売却するまでの過程、それに対するスターリンの関与を明らかにした。「スターリンと満洲-1930年代前半のスターリンの対満州政策」『東北アジア研究』では、満州問題に対するスターリンの厳格な中立政策、指導部内での意見対立等に関しても明らかにした。2005年春に提出した論文「スターリンと中東鉄道売却」の校正を進めた。1931年の満州事変勃発から、1935年の満州国への中東鉄道の売却に至る過程について、スターリンの対応を最近刊行された新史料をもとに検討した。売却先は満州国であるが交渉相手は日本であり、1930年代前半のスターリンの対日政策の一側面をあきらかにすることができた。本論文は2005年10月に『東北アジア地域史研究の一視覚』の一論文として山川出版社から刊行された。2005年10月4-19日にロシア外務省アルヒーフ(文書館)及びロシア国立図書館(旧レーニン図書館)で関連史料を収集した。2006年2月に別の科研の経費でモスクワを訪問した際に、この調査時に注文したコピー資料を入手し、それらをもとにさらに研究を進めている。一方で2005年10月の本科研費による滞在時と2006年2-3月のモスクワ滞在時(別の科研費による)に、関連書籍を大量に入手することができた。10月21-22日に東京の成蹊大学で行われたロシア史研究会の年次大会では、『ロシアにおける「田中上奏文」:満州事変に関するロシア史学の現状』と題して報告し、戦間期の日ソ関係について、特に1990年代以降のロシア語による研究書を批判的に分析した。歴史的史料に基盤を置かず、冷戦時代のイデオロギーを反映した研究が現在のロシアでも続けられている現状について偽書「田中上奏文」を例に批判した。日ソ関係を研究するには日本ばかりでなくロシア側研究者の研究の進展も望まれるが、新しい視点から叙述を試みる研究者は今のところ少数にとどまっている。12月17日に一橋大学で行われた近代東北アジア地域史研究会に参加して、満州問題に関連した発表を聴講した。・ソ連の外交史料館では、主として1930年代に駐日全権代表を勤めたユレネフが残した外交日誌を分析した。 | KAKENHI-PROJECT-16651116 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16651116 |
スターリンの対日政策に関する基礎的研究:1931-1953年 | 東京で面会した政治家、外交官、知識人、新聞記者らとの会談内容が克明に記録されており、日本側の日記、回想録、書簡と照合、比較・検討することにより日ソ双方の考え方を立体的に考察することが可能となる。ただし、平成17年度にモスクワのロシア外務省公文書館で行った調査時に、次回訪問時の引渡しを約束して関連文献の複写を請求していたのだが、平成18年9月に同館を再訪したところ、文書館の勝手な方針変更(コピー請求枚数の事後的な制限、文書史料へのアクセス自体への制限等)のためコピーを得ることができず、本来の計画通りに研究を遂行できなかった。ロシアにおける外交分野に関する史料収集の困難さを改めて痛感した。これからの研究にも支障をきたす可能性があるため、この問題への対応をめぐって、ロシアの研究者とも連絡をとりながら対応策を検討中である。・戦後10年間の日ソ関係に関して、終戦記念日(日本及び朝鮮半島における8月15日とソ連、中国における9月3日)に焦点をあてた論考を執筆し、スターリンの対日政策の変化、彼の死後に訪れた変化について考察した。2007年8月に出版される予定である。・平成18年度は、9月に約1ヶ月間モスクワに滞在し、ロシア外務省外交史料館、ロシア連邦国家史料館、ロシア国立図書館等で史料収集にあたったが、上述した通り、外交史料館での史料収集は実り多いものとはいえなかった。一方で、ロシア連邦国家史料館では、迅速な対応のおかげで人民委員会議関連の多数の史料を閲覧、収集することができた。また、ロシア政治社会史史料館では政治局の対日・対極東政策に関する史料を収集し、現在も内容の分析を続行中である。・図書館では関連文書の複写をするとともに、ロシア滞在中にはスターリン時代を中心に、ソ連史に関連した文献を広く収集できた。 | KAKENHI-PROJECT-16651116 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16651116 |
ディラック半金属薄膜の超高品質化とトポロジカル量子輸送現象の究明 | 本年度は三次元トポロジカルディラック半金属として知られるCd3As2について、分子線エピタキシー法を用いた希薄キャリア・高結晶性薄膜の作製条件の確立に取り組んだ。トポロジカルディラック半金属はバンド反転を伴った非自明な電子構造を有し、その特異な量子輸送現象は現在の物性物理学において大きな関心を集めている。このトポロジカルディラック半金属の特異な量子輸送現象の解明のため、実験的観点からは希薄なキャリア密度と高結晶性、また三次元性を保証する十分な膜厚を兼ね備えた薄膜試料の作製が必須である。しかしながら、Cd3As2についてはその高い蒸気圧に起因し、上記のような薄膜試料の作製はこれまで困難であった。このような問題点を解決すべく、化合物半導体薄膜の代表的な作製手法である分子線エピタキシー法を応用することにより、超高品質Cd3As2薄膜の作製条件の確立に取り組んだ。基板処理手法や成膜分圧、また成膜過程の詳細な検証の結果、三次元的膜厚領域において、非常に希薄なキャリア密度とこれまでの報告において最高となる電子移動度を両立したCd3As2薄膜の作製を達成した。また、得られたCd3As2薄膜においては、従来の単純な二次元や三次元の電子構造の描像では記述することの出来ない、特異な量子輸送現象が観測された。これはトポロジカルディラック半金属の非自明な電子構造に由来した表面状態が関与するものと考えられる。このような高品質Cd3As2薄膜の作製条件の確立は、化学置換や電界効果によってトポロジカルディラック半金属のバンド反転領域における量子輸送現象の検証を初めて可能にする重要なものである。トポロジカルディラック半金属Cd3As2の電子構造を評価するためには、希薄なキャリア密度を有する試料の作製が重要である。これは、Cd3As2の非自明な量子輸送特性は、ディラック分散を伴ったバンド反転に由来するものであり、フェルミ準位がこのバンド反転領域近傍にある必要があるためである。特に、次年度の研究計画であるZnドープによるフェルミ準位の変調においては、元々のキャリア密度が希薄である必要がある。これは、ZnドープはCd3As2のフェルミ準位を低減させることが出来る一方で、スピン軌道相互作用およびバンド反転エネルギーを減少させるため、より少くないZnドープ量でp型領域までフェルミ準位を変調する必要があるためである。これらのことを踏まえ、本年度に達成したキャリア密度(5e+16cm-3)は、Znドープにより、バンド反転を解くことなくp型領域までフェルミ順位を変調することが出来るものであり、次年度の計画を遂行するにあたり問題ない試料品質を実現している。また、このような希薄なキャリア密度を有するCd3As2薄膜においては、トポロジカルディラック半金属の非自明な表面状態が関与すると考えられる磁気抵抗振動が観測され、試料品質の向上のみならず、量子輸送特性の評価という点でも一定の成果を挙げた。これらのことから、本年度は当初の計画通り順調に研究は進展したと判断する。トポロジカルディラック半金属の特異な量子輸送現象の更なる解明のため、分子線エピタキシー法により得られた希薄キャリアCd3As2薄膜に対して、化学置換を用いることにより、フェルミ準位の制御やバンド構造の変調を行う。特にZnドープについては、10%程度のドープ量でp型領域まで到達することが可能であるため、Cd3As2のバンド反転を維持しながら、pn反転近傍、およびp型領域のそれぞれでの量子輸送特性の評価を行う。また、Sbドープについては、Cd3As2におけるスピン軌道相互作用およびバンド反転エネルギーの増加が可能である。これにより、量子閉じ込め効果による量子化スピンホール状態の実現がより容易になると考えられ、膜厚の制御によりこれを目指す。さらに、ZnドープとSbドープは、フェルミ準位の減少・増加、およびバンド反転エネルギーの減少・増加というそれぞれの点において相補的な関係にあるため、ZnとSbを共にドープすることによりフェルミ準位とバンド反転エネルギーを同時に制御することが可能である。これによりは、ディラック半金属中におけるn型・p型および、非自明・自明な電子状態を自在に制御することが可能となり、Cd3As2の基礎物性評価に留まらず、ディラック半金属の工学応用のための基礎を築く。本年度は三次元トポロジカルディラック半金属として知られるCd3As2について、分子線エピタキシー法を用いた希薄キャリア・高結晶性薄膜の作製条件の確立に取り組んだ。トポロジカルディラック半金属はバンド反転を伴った非自明な電子構造を有し、その特異な量子輸送現象は現在の物性物理学において大きな関心を集めている。このトポロジカルディラック半金属の特異な量子輸送現象の解明のため、実験的観点からは希薄なキャリア密度と高結晶性、また三次元性を保証する十分な膜厚を兼ね備えた薄膜試料の作製が必須である。しかしながら、Cd3As2についてはその高い蒸気圧に起因し、上記のような薄膜試料の作製はこれまで困難であった。このような問題点を解決すべく、化合物半導体薄膜の代表的な作製手法である分子線エピタキシー法を応用することにより、超高品質Cd3As2薄膜の作製条件の確立に取り組んだ。基板処理手法や成膜分圧、また成膜過程の詳細な検証の結果、三次元的膜厚領域において、非常に希薄なキャリア密度とこれまでの報告において最高となる電子移動度を両立したCd3As2薄膜の作製を達成した。 | KAKENHI-PROJECT-18J22132 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18J22132 |
ディラック半金属薄膜の超高品質化とトポロジカル量子輸送現象の究明 | また、得られたCd3As2薄膜においては、従来の単純な二次元や三次元の電子構造の描像では記述することの出来ない、特異な量子輸送現象が観測された。これはトポロジカルディラック半金属の非自明な電子構造に由来した表面状態が関与するものと考えられる。このような高品質Cd3As2薄膜の作製条件の確立は、化学置換や電界効果によってトポロジカルディラック半金属のバンド反転領域における量子輸送現象の検証を初めて可能にする重要なものである。トポロジカルディラック半金属Cd3As2の電子構造を評価するためには、希薄なキャリア密度を有する試料の作製が重要である。これは、Cd3As2の非自明な量子輸送特性は、ディラック分散を伴ったバンド反転に由来するものであり、フェルミ準位がこのバンド反転領域近傍にある必要があるためである。特に、次年度の研究計画であるZnドープによるフェルミ準位の変調においては、元々のキャリア密度が希薄である必要がある。これは、ZnドープはCd3As2のフェルミ準位を低減させることが出来る一方で、スピン軌道相互作用およびバンド反転エネルギーを減少させるため、より少くないZnドープ量でp型領域までフェルミ準位を変調する必要があるためである。これらのことを踏まえ、本年度に達成したキャリア密度(5e+16cm-3)は、Znドープにより、バンド反転を解くことなくp型領域までフェルミ順位を変調することが出来るものであり、次年度の計画を遂行するにあたり問題ない試料品質を実現している。また、このような希薄なキャリア密度を有するCd3As2薄膜においては、トポロジカルディラック半金属の非自明な表面状態が関与すると考えられる磁気抵抗振動が観測され、試料品質の向上のみならず、量子輸送特性の評価という点でも一定の成果を挙げた。これらのことから、本年度は当初の計画通り順調に研究は進展したと判断する。トポロジカルディラック半金属の特異な量子輸送現象の更なる解明のため、分子線エピタキシー法により得られた希薄キャリアCd3As2薄膜に対して、化学置換を用いることにより、フェルミ準位の制御やバンド構造の変調を行う。特にZnドープについては、10%程度のドープ量でp型領域まで到達することが可能であるため、Cd3As2のバンド反転を維持しながら、pn反転近傍、およびp型領域のそれぞれでの量子輸送特性の評価を行う。また、Sbドープについては、Cd3As2におけるスピン軌道相互作用およびバンド反転エネルギーの増加が可能である。これにより、量子閉じ込め効果による量子化スピンホール状態の実現がより容易になると考えられ、膜厚の制御によりこれを目指す。さらに、ZnドープとSbドープは、フェルミ準位の減少・増加、およびバンド反転エネルギーの減少・増加というそれぞれの点において相補的な関係にあるため、ZnとSbを共にドープすることによりフェルミ準位とバンド反転エネルギーを同時に制御することが可能である。これによりは、ディラック半金属中におけるn型・p型および、非自明・自明な電子状態を自在に制御することが可能となり、Cd3As2の基礎物性評価に留まらず、ディラック半金属の工学応用のための基礎を築く。 | KAKENHI-PROJECT-18J22132 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18J22132 |
α-SMA陽性に転化した細胞の動態から歯髄組織修復・再生メカニズムの解明に挑む | 創傷治癒時には、細胞骨格タンパクの1つα-smooth muscle actin(α-SMA)を発現する筋線維芽細胞(myofibroblast)と称される細胞が治癒機転に重要な役割をしていることが示唆されている。本研究の目的は、myofibroblastの歯髄組織修復・再生への関与をin vivo, in vitroにおいて解明することにある。本研究期間で得られた成果は、下記の通りである。1)ラット歯髄組織創傷治癒過程において、myofibroblastはpulp coreから供給され、その後創傷部に移動し、新たな象牙質様被蓋硬組織(dentin bridge)の形成に関与すると考えられた。α-SMAの発現は幹細胞や前駆細胞とも関連することから、pulp coreに出現するmyofibroblastと幹細胞や前駆細胞には何らかの関連性があるものと示唆された。2)Myofibroblastの前駆細胞として幾つかの細胞種が報告されているが、骨髄由来間葉系前駆細胞であるfibrocyteと称される細胞もその1つである。ヒト歯髄組織創傷治癒過程において、fibrocyteは時間的空間的に制御された状態で現れその治癒に関与しているデータが得られた。また、ヒト健全歯髄組織では、fibrocyteは血管壁細胞に存在することも示唆された。3)研究期間最終年度には、ヒト歯髄組織から血管を分離し、培養系を用いて血管壁細胞の動態の解析に取り組んだ。これまでに得られた結果として、1培養系においても血管壁細胞はα-SMA陽性を保つこと、2壁細胞は、上皮系細胞と間葉系細胞の両者の特徴を併せ持つこと、を確認できている。今後さらに培養系を用いて、複数の種類からなる壁細胞の特徴について解析を進める予定である。これにより、新たな歯髄組織保存治療へのアプローチが期待される。創傷治癒時には、細胞骨格タンパクの1つα-smooth muscle actin(α-SMA)を発現する筋線維芽細胞(myofibroblast)と称される細胞が一過性に出現し、その治癒機転に重要な役割をしていることが示唆されている。本研究の目的は、myofibroblastの歯髄組織修復・再生への関与をin vivo, in vitroにおいて解明することにある。H28年度においては、ラットおよびヒトの歯髄組織創傷治癒過程において、興味ある知見を得ることができている。1.ラット歯髄組織創傷治癒過程において、myofibroblastはpulp coreから供給され、その後創傷部に移動し、新たな象牙質様被蓋硬組織(dentin bridge)の形成に関与すると考えられた。Pulp coreと呼ばれる歯髄組織の中心部には太い血管があり、歯髄幹細胞の存在する場所としての報告が幾つかなされている。受傷3日後にmyofibroblastは、pulp coreを中心に出現し、その後受傷部に集積した。α-SMAの発現には幹細胞や前駆細胞との関連も示唆されている。今後pulp coreに出現するmyofibroblastと幹細胞や前駆細胞について検討を進める予定である。2.ヒト歯髄組織創傷治癒過程において、fibrocyteの出現は時間的空間的に制御されその治癒に関与している事を示唆するデータが得られた。Myofibroblastの前駆細胞として、幾つかの種類が列挙されている。そのうちの1つに、骨髄由来のfibrocyteがある。骨髄由来を示すCD45のマーカーと、間葉系細胞であることを示すI型コラーゲンの共陽性を示すこの細胞は近年報告された細胞であり、歯髄組織におけるfibrocytesに関するデータはこれが最初であると思われる。1.ラット歯髄創傷治癒過程における研究上記の研究結果は、学術誌に受理されたことから、ここまでの達成度は高いと考えられる。2.ヒト歯髄創傷治癒過程における研究Fibrocyteを同定するための抗体の選択と組織片の処理の方法に時間を費やしたが、最終的にはin vivoにおいてきれいに同定することが可能となった。この研究ではこのステップが重要な課題であったため、これをベースに研究を発展させることが可能であると考えている。創傷治癒時には、細胞骨格タンパクの1つα-smooth muscle actin(α-SMA)を発現する筋線維芽細胞(myofibroblast)と称される細胞が一過性に出現し、その治癒機転に重要な役割をしていることが示唆されている。本研究の目的は、myofibroblastの歯髄組織修復・再生への関与をin vivo, in vitroにおいて解明することにある。H29年度においては、特にヒトの歯髄組織創傷治癒過程において、興味ある知見を得ることができている。Myofibroblastの前駆細胞として幾つかの細胞種が報告されているが、その1つにfibrocyteと称される細胞がある。骨髄由来間葉系前駆細胞であるこの細胞は、骨髄由来を示すCD45と間葉系細胞であることを示すI型コラーゲンの共陽性を示す特徴を有する。他臓器においてfibrocytesは創傷治癒に関与していることが多数報告されている。健全歯髄組織においては、CD45/I型コラーゲン共陽性を示すfibrocytesは認められなかった。一方、CD45-/I型コラーゲン+の細胞は、血管壁細胞において観察された。歯髄組織創傷治癒過程7日目において、創面下層に多くのfibrocytesの浸潤が観察され、14日目においては活発な血管新生と紡錘形細胞の集積する領域にfibrocytesが観察された。これらの細胞は、vascular endothelial growthfactor (VEGF)を発現していたことから、血管新生に関与していると思われる。 | KAKENHI-PROJECT-16K11546 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K11546 |
α-SMA陽性に転化した細胞の動態から歯髄組織修復・再生メカニズムの解明に挑む | さらに、血管に沿って局在するものもあり、fibrocyteのCD45の発現は細胞分化と共に消失することを考えると、fibrocytesは血管壁細胞にもなり得ることが示唆された。一方、fibrocytesはα-SMAも同時に発現していたが、α-SMA陽性細胞全体に対する比率は小さく、歯髄組織においてはmyofibroblastsのメインソースではないものと考えられた。今回の歯髄組織におけるfibrocytesに関するデータはこれが最初であると思われる。ヒト歯髄組織において、fibrocytesを同定できた意義は大きいと考える。また、今回のデータからは、歯髄組織における血管壁細胞の一部は骨髄から供給される可能性が示唆され、歯髄組織保存治療の新たなアプローチが期待される。創傷治癒時には、細胞骨格タンパクの1つα-smooth muscle actin(α-SMA)を発現する筋線維芽細胞(myofibroblast)と称される細胞が治癒機転に重要な役割をしていることが示唆されている。本研究の目的は、myofibroblastの歯髄組織修復・再生への関与をin vivo, in vitroにおいて解明することにある。本研究期間で得られた成果は、下記の通りである。1)ラット歯髄組織創傷治癒過程において、myofibroblastはpulp coreから供給され、その後創傷部に移動し、新たな象牙質様被蓋硬組織(dentin bridge)の形成に関与すると考えられた。α-SMAの発現は幹細胞や前駆細胞とも関連することから、pulp coreに出現するmyofibroblastと幹細胞や前駆細胞には何らかの関連性があるものと示唆された。2)Myofibroblastの前駆細胞として幾つかの細胞種が報告されているが、骨髄由来間葉系前駆細胞であるfibrocyteと称される細胞もその1つである。ヒト歯髄組織創傷治癒過程において、fibrocyteは時間的空間的に制御された状態で現れその治癒に関与しているデータが得られた。また、ヒト健全歯髄組織では、fibrocyteは血管壁細胞に存在することも示唆された。3)研究期間最終年度には、ヒト歯髄組織から血管を分離し、培養系を用いて血管壁細胞の動態の解析に取り組んだ。これまでに得られた結果として、1培養系においても血管壁細胞はα-SMA陽性を保つこと、2壁細胞は、上皮系細胞と間葉系細胞の両者の特徴を併せ持つこと、を確認できている。今後さらに培養系を用いて、複数の種類からなる壁細胞の特徴について解析を進める予定である。これにより、新たな歯髄組織保存治療へのアプローチが期待される。1.ラット歯髄創傷治癒過程における研究Pulp coreに存在する細胞と、myofibroblastの前駆細胞との関連について、in vitroにおいて更に解析を進める。2.ヒト歯髄創傷治癒過程における研究ここまでのfibrocyteに関するデータはH29年度中に学術誌への投稿・受理を計画している。 | KAKENHI-PROJECT-16K11546 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K11546 |
株式所有構造と会計情報の企業価値関連性 | 本年度の研究では、日本の資本市場に特徴的な株式の持ち合いが、経営者と株主の合意のもとで成立するための十分条件について考察した。株式を相互に所有すれば買収を阻止する有効な手段となるが、エージェンシー問題を前提としたとき、買収の脅威がなければ株主の利益を最大化するよう外部から経営者を動機付けることが難しくなる。ここでは、売上高の持続性と経営者・株主の間の収益配分のあり方が、採用される企業の戦略によって異なると仮定した。簡潔なモデルの構築によって、(1)株式の持ち合いへの合意を取りつけるためには、株主に対してつねに一定水準の利益を保証しなければならないこと、(2)エントレンチメント剥離しても、経営者は自身の持分を増やすことで、失われた利益の多くを回復することができることを明らかにした。企業価値の最大化と売上収益の最大化のいずれに焦点を合わせるかは、株式所有構造と鋭く結びつくことは先行研究から明らかである。他方、本研究のモデルでは、売上収益の分配に関わらせてエージェンシー問題を論じた点が特徴的である。敵方的な買収から自身の経営権を保護するために、経営者は株主配分の面で一定の譲歩を迫られる。それが企業をめぐる各主体の行動の帰結として導かれ、均衡を達成するような株主配分の水準が存在することが示された。たしかに、持ち合いに参加する企業の性質を画一的に規定しているため、現実をよりよく説明する上ではモデルの一層の精緻化が求められる。しかし、ここでの発見事項は、エージェンシー問題が存在するもとで、会計情報が株主の企業評価にどう役立つかを考える際に参考になるであろう。本年度の研究では、株式所有構造が企業の行動にどのような影響を与えるかを、会計上の業績の側面から跡付けた。とりわけ、時系列でみた業績の推移から、企業がどの業績指標に注目しているのかを明らかにした。ここでは、ガバナンスの主要なプレーヤーとして、事業法人、金融機関および外国人投資家の3者を特定した。事業法人の持ち株比率が高い場合、営業上の取引関係を安定させる効果によって、売上や売上原価の水準がより安定すると考えられる。他方、金融機関の持ち株が多ければ、利払いの遂行能力に対するフォーカスが強まるため、企業は経常赤字を回避する姿勢を強く打ち出すことが予想される。また、外国人投資家の持ち株比率が高い企業では、企業価値の向上に向けた圧力が強まるため、利益水準そのもののボトムアップが図られるであろう。このような仮説をもとに本研究では、売上高、売上原価、営業利益および経常利益の時系列でみた自己回帰係数をはじめ4つの業績指標を設定し、上記の3者による持ち株比率との関連を検証し、仮説と整合する推定結果を得た。それとともに、さまざまな業績指標が株価にどう結びつくかに関する理論モデルについて仔細に検討した。なかでもOhlsonモデルは会計情報と株価との関連を理論的に明らかにしたモデルであるが、重要な前提となる業績の時系列変動の線型性が妥当性をもつための必要条件などについては、あまり理解が進んでいなかった。そこで本研究では、株式所有構造が資本市場に与える影響を解明する前段階として、とりわけエージェンシー問題が会計情報と株価との関係にどのような歪みをもたらすのか検証した。その結果、エージェンシー・コストが存在するもとでは、配当の無関連性命題が成立しなくなり、業績指標の持続係数にばらつきが生じる可能性が示された。本年度の研究では、株式所有構造が企業の投資行動に与える影響を残余利益の面から分析すると同時に、所有構造そのものを決める内生的な要因を理論的に考察した。まず、営業資産の増減は1期ラグをつけた残余利益率の大きさに比例することが明らかにされた。基本的に確定した業績が期待を下回れば、事業の縮小が図られることが望ましい。しかし、他企業との支配関係に応じてサンプルを二分すれば、そうした関係が強固な企業では、事業の縮小に向けた圧力が働きにくいことが確認された。そこでは残余利益に対する投資の弾力性が、統計的に有意な数値をとらず、利益というわかりやすい成果の指標と無関係に事業規模が決定されていることがわかった。ただ、ここまでの分析は2001年までの期間に限定されるので、連結会計基準の変更がグループ・ベースでの企業経営のあり方を大きく変化させた1998年以降のサンプルを組み入れれば、異なる結果が析出されるかもしれない。他方、企業が所有構造を内生的に選択する可能性をモデルに含めないと、現実の一面しか捉えていないことになろう。先行研究では企業間競争の程度から、戦略的に株式の持ち合いを選択するモデルが提示されている。そこでは、生産・販売する製品が補完的か代替的かで、資本関係を維持するかどうかが決まる。このモデルを日本企業に適用する場合、支配権の価値を変数としてどのように外挿するかが問題となる。たとえ製品市場で競合関係にある企業でも、他企業からの買収を防ぐ手段として所有構造を変化させる可能性があるからである。企業価値と株主価値が異なる意味をもつのも、株式を持ち合う企業にとっては持分の増価以外に利益を獲得する源泉が用意されているからに他ならない。支配権の価値を明示的にモデルに反映させることが今後の課題である。本年度の研究では、日本の資本市場に特徴的な株式の持ち合いが、経営者と株主の合意のもとで成立するための十分条件について考察した。株式を相互に所有すれば買収を阻止する有効な手段となるが、エージェンシー問題を前提としたとき、買収の脅威がなければ株主の利益を最大化するよう外部から経営者を動機付けることが難しくなる。 | KAKENHI-PROJECT-17730291 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17730291 |
株式所有構造と会計情報の企業価値関連性 | ここでは、売上高の持続性と経営者・株主の間の収益配分のあり方が、採用される企業の戦略によって異なると仮定した。簡潔なモデルの構築によって、(1)株式の持ち合いへの合意を取りつけるためには、株主に対してつねに一定水準の利益を保証しなければならないこと、(2)エントレンチメント剥離しても、経営者は自身の持分を増やすことで、失われた利益の多くを回復することができることを明らかにした。企業価値の最大化と売上収益の最大化のいずれに焦点を合わせるかは、株式所有構造と鋭く結びつくことは先行研究から明らかである。他方、本研究のモデルでは、売上収益の分配に関わらせてエージェンシー問題を論じた点が特徴的である。敵方的な買収から自身の経営権を保護するために、経営者は株主配分の面で一定の譲歩を迫られる。それが企業をめぐる各主体の行動の帰結として導かれ、均衡を達成するような株主配分の水準が存在することが示された。たしかに、持ち合いに参加する企業の性質を画一的に規定しているため、現実をよりよく説明する上ではモデルの一層の精緻化が求められる。しかし、ここでの発見事項は、エージェンシー問題が存在するもとで、会計情報が株主の企業評価にどう役立つかを考える際に参考になるであろう。 | KAKENHI-PROJECT-17730291 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17730291 |
流れの3次元性に着目した数値流体解析による並列構造物の耐風性降対策に対する研究 | 1.平成9年度断面辺長比2,4の矩形断面の空力特性と流れの状態をつかむために2次元解析と3次元解析を行い、これらの結果と既存の風洞実験結果および煙風洞での流れの可視化との比較を行った。なお、年初の計画では並列円柱を扱う予定であったが、基本的な断面形状を把握する必要が生じたので、矩形断面を検討することとした。この結果、扁平箱桁橋に代表される、剥離せん断層が断面前縁で剥離し、断面表面に再付着する矩形断面の正確な空力特性と流れの状態とを数値流体解析で表現する場合には、ある一定のレイノルズ数範囲では3次元解析が必要なことがわかった。2.平成10年度昨年度実施した断面辺長比4の矩形断面の空力特性と流れの状態をつかむための3次元解析を基に、3次元解析で必要な軸方向の分割に関する検討を行った。さらに、複数列並んだ並列構造の解析を実施した。具体的には、再付着が多断面であるB/D=4の矩形断面において、3次元解析を行う場合に軸方向の境界に周期境界条件を用いたときの軸方向長さに関して判断基準のための指針を得ることができた。3.平成11年度再付着型の充腹断面の基本断面である断面辺長比B/D=4の矩形断面を用い、数値流体解析結果の妥当性の検証を目的として、構造物用低速風洞で比較的大きな模型を用いた静的三分力試験を実施した。一方、数値流体解析は、細かい間隔での仰角毎の3次元数値流体解析を実施して、それら両者の結果より、数値流体解析の定量的な評価を試みた。さらに、風洞実験においては、断面の表面圧力の変動も計測し、時間平均値のみではなく時間変動量の評価を行うことも併せて実施した。これにより、現状での数値流体解析に残された検討項目を明らかにすることができた。1.平成9年度断面辺長比2,4の矩形断面の空力特性と流れの状態をつかむために2次元解析と3次元解析を行い、これらの結果と既存の風洞実験結果および煙風洞での流れの可視化との比較を行った。なお、年初の計画では並列円柱を扱う予定であったが、基本的な断面形状を把握する必要が生じたので、矩形断面を検討することとした。この結果、扁平箱桁橋に代表される、剥離せん断層が断面前縁で剥離し、断面表面に再付着する矩形断面の正確な空力特性と流れの状態とを数値流体解析で表現する場合には、ある一定のレイノルズ数範囲では3次元解析が必要なことがわかった。2.平成10年度昨年度実施した断面辺長比4の矩形断面の空力特性と流れの状態をつかむための3次元解析を基に、3次元解析で必要な軸方向の分割に関する検討を行った。さらに、複数列並んだ並列構造の解析を実施した。具体的には、再付着が多断面であるB/D=4の矩形断面において、3次元解析を行う場合に軸方向の境界に周期境界条件を用いたときの軸方向長さに関して判断基準のための指針を得ることができた。3.平成11年度再付着型の充腹断面の基本断面である断面辺長比B/D=4の矩形断面を用い、数値流体解析結果の妥当性の検証を目的として、構造物用低速風洞で比較的大きな模型を用いた静的三分力試験を実施した。一方、数値流体解析は、細かい間隔での仰角毎の3次元数値流体解析を実施して、それら両者の結果より、数値流体解析の定量的な評価を試みた。さらに、風洞実験においては、断面の表面圧力の変動も計測し、時間平均値のみではなく時間変動量の評価を行うことも併せて実施した。これにより、現状での数値流体解析に残された検討項目を明らかにすることができた。本研究では、断面辺長比2,4の矩形断面の空力特性と流れの状態をつかむために2次元解析と3次元解析を行い、これらの結果と既存の風洞実験結果および煙風洞での流れの可視化との比較を行った。なお、年初の計画では並列円柱を扱う予定であったが、基本的な断面形状を把握する必要が生じたので、矩形断面を検討することとした。この結果、偏平箱桁橋に代表される、剥離せん断層が断面前縁で剥離し、断面表面に再付着する矩形断面の正確な空力特性と流れの状態とを数値流体解析で表現する場合には、ある一定のレイノルズ数範囲では3次元解析が必要なことがわかった。主要な結果を以下に示す。(1)レイノルズ数800を越えた付近から3次元的な流れである軸方向変動流が発生する。2次元解析の適用範囲は、レイノルズ数800以下と考えられる。(2)3次元解析は、風洞実験結果で示されている空気力特性および流れの状態を定性的に捕らえている。また、前縁で剥離した剥離せん断層が、2.5D3.0Dの間で再付着をしている。2次元解析では、この現象を捕らえることは不可能である。(3)平均圧力係数は、矩形断面前面以外は、2次元と3次元解析とでは全く異なった分布を示す。特に、2次元解析は、変動量が大きい。これが、2次元解析が空気力を過大または過小評価する要因の一つである。(4)2次元解析では、前縁で剥離した剥離せん断層が、3次元解析や風洞実験で示されている再付着点よりもかなり前方で付着している。さらに形成される渦が強いことから、表面の圧力変動も大きい。 | KAKENHI-PROJECT-09650533 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09650533 |
流れの3次元性に着目した数値流体解析による並列構造物の耐風性降対策に対する研究 | これが、変動揚力に高周波成分を生じさせる原因の一つと考える。2次元解析では軸方向変動流を表現できないので、エネルギー散逸を正しく評価できないことによる。本研究では、まず、昨年度実施した断面辺長比4の矩形断面の空力特性と流れの状態をつかむための3次元解析を基に、3次元解析で必要な軸方向の分割に関する検討を行った。さらに、複数列並んだ並列構造の解析を実施した。具体的には、再付着型断面であるB/D=4の矩形断面において、3次元解析を行う場合に軸方向の境界に周期境界条件を用いた時の軸方向長さに関して、以下の結果と判断基準のための指針を得ることができた。(1)軸方向長さが0.2D以下では,軸方向の長さが足りず周期境界条件の影響を大きく受ける。そのため、流れそのものが2次元解析で得られた結果とほぼ同様な結果となる。(2)軸方向長さが0.8D以下では、揚力係数、モーメント係数の時刻歴に高周波成分が現れる。また、両者の波形の極小値および極大値が、零点近傍までしか到達しない不規則な波形も現れる。(3)軸方向長さが0.8D以下では、再付着点近傍以降、背面付近で圧力の過大又は過小評価を生じている。よって、空気力の過大又は過小評価を生じている。(4)軸方向長さ1.6Dと3.2Dでは、軸方向変動流、空気力等に両者大きな差異は見られない。以上より、3次元解析で軸方向の境界に周期境界を用いる場合の軸方向長さの基準として、軸方向長さ1.6D、32分割以上あれば、軸方向変動流速、空気力に変化が見られないことが確認できた。さらに、B/D=4の矩形断面まわりの3次元流れを定性的に再現出来ていると考えられる。よって,一つの判断基準の指針として、軸方向の長さは、1.6D、32分割以上が必要であることが分かった。複数列並んだ並列構造に関しては、上記で得られた実績を基に、軸方向の分割を決定し、現在、解析を行っているところである。再付着型の充腹断面の基本断面である断面辺長比B/D=4.0の矩形断面を用い、数値流体解析結果の妥当性の検証を目的として、構造物用低速風洞で比較的大きな模型を用いた静的三分力試験を実施した。一方、数値流体解析は、細かい間隔での迎角毎の3次元数値流体解析を実施して、それらの両者の結果より、数値流体解析の定量的な評価を試みた。さらに、風洞実験においては、断面の表面圧力の変動も計測し、時間平均値のみではなく時間変動量の評価を行うことも併せて実施した。これにより、現状での数値流体解析に残された検討項目を明らかにすることができた。(1)レイノルズ数の違い:矩形柱断面は一般的にレイノルズ数依存性が少ないと言われているが、定量的な評価を行うためには両者のレイノルズ数をできる限り近づける必要がある。高レイノルズ数解析のためには、より微細な分割やLES等の乱流モデルの導入が必要となる。(2)閉塞率の違い:風洞実験は4.2%、CFDは5%であるので、迎角が大きくなるに従いこの差が顕著に影響を及ぼし、断面下側面の再付着点を後方へ移動させた可能性が考えられる。(3)流入部分の乱れ:風洞実験の場合、一様流と言っても必ず乱れを含んでいる入力風の乱れの発生を解析条件として与える必要がある。(4)軸方向長さの違い:流れの3次元性に着目した3次元数値流体解析が必要不可欠である。 | KAKENHI-PROJECT-09650533 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09650533 |
GeVオーダー加速器を用いるハブリッドシステムの中性子監視法の開発 | GeVオ-ダ-加速器を用いるハイブリッドシステムの中性子スペクトルを測定監視するための新たな測定手法の開発に関する研究を実施した。大型加速器の実験により高エネルギ-中性子スペクトル測定の導出方法について成果を得た。また、原子炉臨界集合体の実験により、高速中性子(低エネルギー)中性子スペクトル測定手法について成果を得た。これらの測定法を用いて全エネルギー領域における中性子エネルギ-測定法について検討し、加速器駆動未臨界炉(ADS)などに用いることのできる加速器ブリッドシステム内の中性子監視法について新たな知見成果を得た。GeVオ-ダ-加速器を用いるハイブリッドシステムの中性子スペクトルを測定監視するための新たな測定手法の開発に関する研究を実施した。大型加速器の実験により高エネルギ-中性子スペクトル測定の導出方法について成果を得た。また、原子炉臨界集合体の実験により、高速中性子(低エネルギー)中性子スペクトル測定手法について成果を得た。これらの測定法を用いて全エネルギー領域における中性子エネルギ-測定法について検討し、加速器駆動未臨界炉(ADS)などに用いることのできる加速器ブリッドシステム内の中性子監視法について新たな知見成果を得た。GeVオーダー加速器によるハイブリッドシステムのシステム内中性子スペクトルを測定監視するための、新たな測定手法の開発を行うことを目的とし、研究の初年度である平成18年においては、以下の3項目について研究を行なった。ここで実施した項目は全て予定通りのものであり、各項目とも予定通りの成果が得られている。(1)測定システムの整備Ge半導体検出器とデータ処理計算機を購入し、既存の高圧電源・増幅器・MCAなどと結合して、また、鉛ブロックなどとにより遮蔽体系を構築して、高性能な放射化測定システムを、京都大学原子炉実験所に整備した。また、その放射化測定システムの実証試験を、標準線源を用いて実施し、整備したシステムが所定の性能を有することを確認した。(2)高エネルギースペクトル測定法開発高エネルギー測定に用いる放射化試料の検討と基礎データ(断面積)の取得整備を行った。その後、GeVオーダー加速器ハイブリッドシステム向きの解析コードに基づき実験計画を立案した。また、高エネルギー加速器研究機構においてFFAG加速器を用いた高エネルギースペクトル測定を、本研究で想定しているビスマス(Bi)サンプルについて実施した。その結果、高エネルギー中性子スペクトルが所定の精度で得られ、高エネルギー中性子の測定の可能性を確認した。(3)低エネルギースペクトル測定法開発京都大学原子炉実験所臨界集合体(KUCA)を用い、Inなどのサンプルを用いた低エネルギー中性子スペクトル測定実験を実施し、原子炉(低エネルギー)中性子スペクトルが十分な精度で得られることを確認し、低エネルギー中性子測定の可能性を確認した。19年度の研究を基盤として、GeVオーダー加速器によるハイブリッドシステムのシステム内中性子スペクトルを測定監視するための新たな測定手法の開発に関する研究を引き続き行った。平成19年度においては、下記4項目について研究を実施した。ここで実施した項目は全て予定通りのものであり、各項目とも所定の研究成果が得られている。(1)高エネルギースペクトル測定法開発高エネルギースペクトル測定を確立するため、高エネルギー加速器を用い、本研究で想定しているビスマス(Bi)サンプルについて実施した。この実験により数百MeVまでのエネルギー範囲において実験データが取得された。さらにその実験データの解析を行い、高エネルギー中性子スペクトル測定手法をほぼ確立できた。(2)低エネルギースペクトル測定法開発京都大学原子炉実験所臨界集合体(KUCA)を用い、Nbなどのサンプルを用い、eVからMeVのエネルギー範囲における低エネルギー中性子スペクトル測定実験を実施した。また、其の実験データをアンフォールディング解析し、原子炉(低エネルギー)中性子スペクトルが十分な精度で得られる方法をほぼ確立した。(3)ADSエネルギースペクトル測定法開発上記(1)、(2)により確立した両方のエネルギー領域における中性子エネルギー測定手法の統合を図るための検討を実施し、全エネルギー範囲を少数試料により測定する手法(試料の組み合わせ最適化、測定手順確立など)を立案した。(4)ADS監視システム開発上記(3)で検討した手法を元に、実機に用いることのできるシステムのため、全エネルギー領域中性子エネルギースペクトル測定手法について検討した。平成18、19年度の研究を基盤として、GeVオーダー加速器によるハイブリッドシステムのシステム内中性子スペクトルを測定監視するための新たな測定手法の開発に関する研究を引き続き行った。平成20年度においては、所定の計画に沿って、下記4項目について研究を実施した。(1)高エネルギースペクトル測定法開発:平成19年度までに行った実験についての実験解析を実施し、低エネルギー中性子スペクトル測定手法および高エネルギー中性子スペクトル測定の導出方法について成果を得た。(2)低エネルギースペクトル測定法開発:上記と同じく、平成19年度に実施した実験を検討して改良して、KUCAなどにより実験を実施し、それを元にして、低エネルギー中性子スペクトル測定手法ならびに、中性子スペクトルの導出法について成果を得た。(3) ADSエネルギースペクトル測定法開発:上記(1), (2)による両方のエネルギー領域における中性子エネルギー測定手法の統合するための検討を実施し、全エネルギー範囲を単一試料により測定する手法(試料の組み合わせ最適化、測定手順確立など〉について検討し成果を得た。(4) ADS監視システム開発:上記(3)で検討した手法を元に、実機に用いることのできるシステムのため、全エネルギー領域中性子エネルギースペクトル測定手法について検討し成果を得た。以上を通し、ADSやGeVオーダー加速器ブリッドシステム内の中性子エネルギースペクトル測定法およびその測定法に基づいたGeVオーダー加速器によるハイブリッドシステム内の中性子監視法について新たな知見成果を得た。 | KAKENHI-PROJECT-18360449 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18360449 |
ダイヤモンドマイクロ切削工具エッジ形状のサブナノメートル超高精度計測法の研究 | 本研究題目では「次世代ダイヤモンドマイクロエッジ形状の自律校正」について取り組み,反転エッジ形状を利用した工具刃先のマイクロエッジ形状の新規な自律的測定法を確立し,その有効性を実験的に検証することを目的としている.本研究題目では,ダイヤモンド工具刃先のマイクロエッジを軟質金属表面に押し込み,表面に形成される反転エッジの形状とダイヤモンド工具刃先の形状から測定に起因する誤差を分離することで,マイクロエッジの自律的な絶対形状測定の算出を行う反転エッジ作動法の提案と検証を実施する.工具刃先マイクロエッジおよび反転エッジの形状は原子間力顕微鏡(Atomic force microscope: AFM)により測定し,それぞれの測定結果との比較からAFMプローブチップおよび測定の誤差を評価し,それぞれの絶対形状を取得する.平成28年度は高精度反転エッジの形成と反転エッジ作動法の実行可能性を実験的な検証を実施するために,高分解能反転エッジ形成システムの構築に取り組んだ.超精密インテンデーションシステムと高分解能変位検出システムにより構成された高分解能反転エッジ形成システムを開発し,軟質金属表面への反転エッジの形成および反転エッジ作動法による工具刃先マイクロエッジとAFMチップの自律的な形状計測を行った.その結果,本研究題目で開発した反転エッジ作動法はサブナノメートルの精度でそれぞれの形状を計測できることが実験的に確認され,本研究課題の目的であるダイヤモンド切削工具マイクロエッジの絶対形状の高精度計測に関する有効性が確認された.28年度が最終年度であるため、記入しない。28年度が最終年度であるため、記入しない。本研究題目では「次世代ダイヤモンドマイクロエッジ形状の自律校正」について取り組み,反転エッジ形状を利用した工具刃先のマイクロエッジ形状の新規な自律的測定法を確立し,その有効性を実験的に実証する事を目的とする.本題目では,ダイヤモンド工具先端のマイクロエッジを軟質金属表面に押し込み,表面に形成される反転エッジの形状とダイヤモンド工具先端の形状から測定に起因する誤差を分離することで,自律的にマイクロエッジの絶対形状を算出できる.工具エッジと反転エッジの形状は原子間力顕微鏡顕微鏡(AFM)により測定され,それぞれの測定形状との比較からAFMプローブおよび計測の誤差を評価する.ナノスケールの反転エッジ形成過程およびAFMによる工具エッジ・反転エッジの計測過程においては,原子オーダでの機械的・化学的相互作用を無視できないため,分子動力学(MD)シミュレーションにより反転エッジ形成およびエッジ-チップ間の相互作用を数値計算し,工具エッジとAFMチップの形状を反転エッジ形状から分離して算出する.それらの結果に基づいて反転エッジ差動法を確立させ,最適なエッジ転写とAFM形状測定の最適条件を論理的に検討する.平成27年度は,軟質金属表面に反転エッジを形成するための高感度力検出型工具制御装置の構成とダイヤモンド工具マイクロエッジ先端形状の加工機上計測およびAFM計測について取り組み,基本原理の確立と自律的測定法について検証した.構築した高感度力検出型工具制御装置による反転エッジの形成はMDシミュレーションと同程度の分解能と精度を達成し,シミュレーション結果を反映するために十分な性能を有することが確認され,またシミュレーション結果の妥当性についての知見を得ることができた.平成27年度には,反転エッジ形成中にダイヤモンド工具先端に加わる加工力を高分解能かつ高精度に測定するための加工力検出型高速高精度工具制御装置(FS-FTS)を構築し,構築したFS-FTSの実験的な評価を通して反転エッジ創生に必要な高精度加工力検出機能を実現できていることが確認された.さらに構築したFS-FTSを用いて,ダイヤモンド工具先端の自律的な形状評価に関する手法の提案と実験的な評価を行い,本研究のFS-FTSはマイクロエッジ形状の評価のための反転エッジ形成に必要な分解能と測定精度を有していることが実験的に確認された.また本研究題目で開発したFS-FTSは加工機上計測においても有効な加工力計測の分解能と精度を有していることが確認され,次年度以降に計画されている加工機上計測においても応用可能であることが確認された.このため,次年度以降の分子動力学(MD)シミュレーションとの比較を行うための実験装置構成を構築することができ,また当初の計画に沿った加工機上計測研究への展開に関する可能性を得ることができたことから,おおむね順調に計画を進展させていると言える.本研究題目では「次世代ダイヤモンドマイクロエッジ形状の自律校正」について取り組み,反転エッジ形状を利用した工具刃先のマイクロエッジ形状の新規な自律的測定法を確立し,その有効性を実験的に検証することを目的としている.本研究題目では,ダイヤモンド工具刃先のマイクロエッジを軟質金属表面に押し込み,表面に形成される反転エッジの形状とダイヤモンド工具刃先の形状から測定に起因する誤差を分離することで,マイクロエッジの自律的な絶対形状測定の算出を行う反転エッジ作動法の提案と検証を実施する.工具刃先マイクロエッジおよび反転エッジの形状は原子間力顕微鏡(Atomic force microscope: AFM)により測定し,それぞれの測定結果との比較からAFMプローブチップおよび測定の誤差を評価し,それぞれの絶対形状を取得する.平成28年度は高精度反転エッジの形成と反転エッジ作動法の実行可能性を実験的な検証を実施するために,高分解能反転エッジ形成システムの構築に取り組んだ.超精密インテンデーションシステムと高分解能変位検出システムにより構成された高分解能反転エッジ形成システムを開発し,軟質金属表面への反転エッジの形成および反転エッジ作動法による工具刃先マイクロエッジとAFMチップの自律的な形状計測を行った.その結果,本研究題目で開発した反転エッジ作動法はサブナノメートルの精度でそれぞれの形状を計測できることが実験的に確認され,本研究課題の目的であるダイヤモンド切削工具マイクロエッジの絶対形状の高精度計測に関する有効性が確認された. | KAKENHI-PROJECT-15F15060 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15F15060 |
ダイヤモンドマイクロ切削工具エッジ形状のサブナノメートル超高精度計測法の研究 | 平成28年度は,反転エッジ形成およびAFM計測における軟質金属表面のサブナノメートルスケールの変形検証するために,分子動力学(MD)シミュレーションを導入し,単一原子レベルでの挙動解析を行う.MDシミュレーションの結果は,FS-FTSを用いた反転エッジ形成およびAFM計測の最適化のためにFS-FTSとAFM計測の実験条件としてフィードバックする.MDシミュレーションおよび実験結果に基づいて,ダイヤモンド工具,反転エッジおよびAFMプローブ先端形状に起因する誤差の分離を行い,エッジ形状のナノメートル自律的計測法について検証する.マイクロエッジ形状の自律的絶対計測を加工機上において行うことで,高速・高精度なエッジ形状を実施する.ダイヤモンド工具により工作物表面に微細加工を施し,切削に伴い生じた工具エッジ形状の変化を加工機上で計測し,切削距離とエッジ形状摩耗量との関係を調査する.28年度が最終年度であるため、記入しない。28年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-15F15060 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15F15060 |
糖尿病におけるKetosis pronenessの機序の解明とインスリン依存性 | 糖尿病病型と血中ケトン体:私達の開発した方法でインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)、インスリン依存性糖尿病(IDDM)多数例において血中ケトン体を測定し、同様な血糖コントロ-ル状態でもIDDMでは血中ケトン体値は高く、ふたつの病型を鑑別しうる判別式を考案した。NIDDMにおいてもインスリン治療を必要とした患者では高い血中ケトン体値を示し、NIDDMにおいても血中ケトン体値はインスリン依存性の指標となり得ることを示した。このNIDDMにおける血中ケトン体の上昇の機序をNIDDMモデルラットの肝細胞を用いて検討し、インスリン依存性の指標であるケトン体代謝のNIDDMにおける異常の機構を明らかとした。ケトン体代謝:糖尿病性昏睡には、血中ケトン体値が著しく増加する糖尿病性ケトアチド-シス(DKA)とその増加は軽度である非ケトン性高浸透圧性昏睡がある。実験的糖尿病ラットに抗利尿ホルモン(ADH)を投与すると血中ケトン体値は低下することから、この病態にインスリン欠乏のみでなくADHがケトン体産生の抑制を介して関与することを明らかとした。このADHの抗ケトン作用はc-kinaseを介した肝におけるケトン体産生、脂肪酸酸化の律速酵素であるカルニチン;パルミチン産転移酵素(CPT)の活性抑制によるものであり、酵素のリン酸化、脱リン酸化による調節が存在することを示した。CPTの阻害剤Emeriamineは、血中ケトン体値を著明に減少させること、また薬剤の臓器特異性は高く治療薬として可能性があることも明らかとした。迅速測定システム:血中3-ヒドロキシ酪酸の簡易測定システムを開発し、小児を含む患者ても正確に測定可能なこと、家庭内血中ケトン体自己測定では、感染症や運動時には血中ケトン体値が血糖値とは関係なく変化することから、このシステムを加えた自己管理がより良い糖尿病コントロ-ルに有用であることを報告した。糖尿病病型と血中ケトン体:私達の開発した方法でインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)、インスリン依存性糖尿病(IDDM)多数例において血中ケトン体を測定し、同様な血糖コントロ-ル状態でもIDDMでは血中ケトン体値は高く、ふたつの病型を鑑別しうる判別式を考案した。NIDDMにおいてもインスリン治療を必要とした患者では高い血中ケトン体値を示し、NIDDMにおいても血中ケトン体値はインスリン依存性の指標となり得ることを示した。このNIDDMにおける血中ケトン体の上昇の機序をNIDDMモデルラットの肝細胞を用いて検討し、インスリン依存性の指標であるケトン体代謝のNIDDMにおける異常の機構を明らかとした。ケトン体代謝:糖尿病性昏睡には、血中ケトン体値が著しく増加する糖尿病性ケトアチド-シス(DKA)とその増加は軽度である非ケトン性高浸透圧性昏睡がある。実験的糖尿病ラットに抗利尿ホルモン(ADH)を投与すると血中ケトン体値は低下することから、この病態にインスリン欠乏のみでなくADHがケトン体産生の抑制を介して関与することを明らかとした。このADHの抗ケトン作用はc-kinaseを介した肝におけるケトン体産生、脂肪酸酸化の律速酵素であるカルニチン;パルミチン産転移酵素(CPT)の活性抑制によるものであり、酵素のリン酸化、脱リン酸化による調節が存在することを示した。CPTの阻害剤Emeriamineは、血中ケトン体値を著明に減少させること、また薬剤の臓器特異性は高く治療薬として可能性があることも明らかとした。迅速測定システム:血中3-ヒドロキシ酪酸の簡易測定システムを開発し、小児を含む患者ても正確に測定可能なこと、家庭内血中ケトン体自己測定では、感染症や運動時には血中ケトン体値が血糖値とは関係なく変化することから、このシステムを加えた自己管理がより良い糖尿病コントロ-ルに有用であることを報告した。Ketosis pronessの機序解明の目的からヒトにおいては低インスリン血症に対する組織反応性,ケトアシドーシス(DKA)および非ケトン性高浸透圧性昏睡(NKHDC)例におけるケトン体調節,また糖尿病ラットおよびラット肝細胞ではケトン体調節の面よりホルモン応答性および機構の検討を行った.(1)ソマトスタチン,少量エピネフリンおよびグルカゴン注入下に血中ケトン体反応性を検討したがIDDMに比しNIDDMではケトン体上昇の示しにくい症例が存在しNIDDM患者における組織での低インスリン血症に対する代謝応答不全の存在が示唆された.(2)DKAおよびNKHDCではインスリン,インスリン拮抗ホルモンに明らかな差異を認めなかったが, Vasopressin(Vp)はDKAに比しNKHDCにおいて上昇しておりcーkinaseがケトン体産生を抑制してる可能性が示唆された.(3)慢性糖尿病ラットにおいてVp単独静注により血糖および血中ケトン体が上昇したが,グルカゴンの著明な上昇も認めたため,内因性グルカゴンインスリン分泌抑制のため同時にソマトスタチン注入を行うと血糖は上昇させたが,ケトン体は低下しNKHDC発症におけるcーkinaseの役割が示唆された.(4)ラット肝細胞において短期(1時間)にはグルカゴン,カテコラシンはケトン体産生を増加させたがcーkinaneを活性化するTPA,djacylー | KAKENHI-PROJECT-62480250 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62480250 |
糖尿病におけるKetosis pronenessの機序の解明とインスリン依存性 | glycerol,Vpはグルカゴンカテコラシンの作用を抑制し,この作用は律速酵素であるcarnitineーpalmitoly transferase(CPT)の活性調節で発現していることを示した.また長期(24時間)ではグルカゴンはケトン体産生を増加させ,低濃度ステロイド,インスリンはこれを抑制し,この作用はCPTの酵素量の調節に由来すると考えられた.今後はNIDDM,IDDMの判定におけるケトン体測定値の判別関数化,インスリン感受性規定要因としての拮抗ホルモンの関与と役割,ヒト肝細胞ラインを用いてケトン体産生調節における酵素の燐酸化・脱燐酸化および誘道機構の検討を行ないたい.1.糖尿病患者の血中ケトン体:精尿病患者300例以上の血中ケトン体を分別定量し、同様な血糖コントロール状態においてもインスリン存在性糖尿病(IDDM)患者では、インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)患者よりも血中ケトン体は高値であり、とくに3ーヒドロキン酩酸(3ーOHBA)の増加が著明なことから、このふたつの病型を鑑別しうる判別式を考案した。また、インスリン治療を将来的に必要とするNIDDM患者でも食事、経口剤にてコントロール可能な患者より血中ケトン体は高値であり、血中ケトン体濃度の測定がインスリン欠乏の指標として臨床的に有用であることを示した。2.糖尿病におけるケトン体代謝調節機構:実験的糖尿病ラットにおいて抗利尿ホルモン(vasopressin)が、血中ケトン体を遊離脂肪酸の変化なしに減少させうることからこのホルモンが非ケトン性高浸透圧性皆睡の病態に関与しうること、またこのホルモンの作用機序はcーkinaseを介してラット単離肝細胞のketogenesisを抑制することも明かとした。インスリン依存性とケトン体代謝に関しては、NIDDMモデルラット肝細胞のketogehesisがインスリン分泌能の低下に伴いCPT活性の増加を通して亢進し、肝グリコーゲン含量、糖放出能と反比例することを明かとして、我々の臨床成績を裏付る結果を得た。3.3ーOHBA測定フィルムの臨床応用:3ーOHBAの迅速測定用フィルムのベットサイドにおける臨床的有用性を糖尿病昏睡患者で証明したのみでなく、このフィルムによる血中ケトン体測定は糖尿病患者で日常的に行われている血糖の自己測定と同様に小児においても実行可能であること、またこのシステムの家庭内での利用により日常生活におけるインスリン欠乏の状況を血糖のみからではなく推測、治療に応用しうることを示した。(1)糖尿病病型とケトン体代謝:インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)患者においても血中ケトン体は健常者より高値であり、インスリン治療を必要とした患者ではさらに高値を示すことから、NIDDMにおいても血中ケトン体値はインスリン依存性の指標となり得ることを示した。このNIDDMにおける血中ケトン体の上昇の機序を新生児ラットにストレプトゾトシンを投与して作製したNIDDMモデルラットの肝細胞を用いて検討した。このモデルではインスリン欠乏の著しいketoticモデルラットと異なり、ホルモンによる調節がなされており、肝ケトン体産生能もインスリンの欠乏に応じて増加していることを示してヒトの非肥満NIDDMにおいてみられたインスリン依存性の指標としてのケトン体代謝異常の機構を明かにした。(2)ケトン体代謝とそのホルモンによる調節:糖尿病性昏睡には、血中ケトン体値が著しく増加する糖尿病性ケトアチド-シスとその増加は軽度である非ケトン性高浸透圧性昏睡がある。 | KAKENHI-PROJECT-62480250 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62480250 |
ヒトゲノムの研究・応用における法と倫理の調査・研究-特に国際的視点から- | 1)本研究は、人間の生命の設計図といわれるヒトゲノムの研究と応用が惹起する様々な社会的影響につき、法と倫理の面から国際的視点に立って検討し、また我が国における対応のあり方を、具体的提言も含めて検討した。2)まずヒトゲノム研究・応用に関わって生じうる問題を網羅的に検討し、生命倫理と法の立場を明確にした(第1章)。とくに人権保護と特許とは今後の重要な課題である。次に、ヒトゲノム研究をめぐる研究者、試料提供者等の権利関係を探り(第2章)、また国際的倫理基準の設定の観点から、ユネスコ「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」につき、成立過程から宣言内容まで分析した(第3章)。次いで、この分野にはまだ明確な法規則が殆どないことから、国際的状況も踏まえて倫理規範の策定と研究の倫理審査制度を検討した(第4章)。また、現実のヒトゲノム研究遂行に関わる問題として、我が国のクローン技術規制法を取り上げ、ユネスコ宣言などの国際的基準との対比で、法による規制の必要性や人の尊厳基準の内容などを詳細に検討した(第5章)。ヒトゲノム研究の応用でもっとも重要なのは遺伝子診断・治療であり、医療現場で守られるべき倫理規範の検討も行っている(第6章)。さらに国際的発信の一環として、現代社会においてヒトゲノム研究を含む生命科学が持つ意味(第7章)や、国際的な生命倫理規範の策定と実施に貢献しているユネスコ国際生命倫理委員会の作業(第8章)について、研究成果を海外で発表した(共に英文)。3)最後に資料として、我が国のヒトゲノム研究に関する倫理面からの憲法ともいうべき基本原則とそれを研究現場で適用するための倫理指針(案)を載せた。両者共、この研究チームの班員が策定に関わった。他の4件の資料は国際的動向を示すものである。1)本研究は、人間の生命の設計図といわれるヒトゲノムの研究と応用が惹起する様々な社会的影響につき、法と倫理の面から国際的視点に立って検討し、また我が国における対応のあり方を、具体的提言も含めて検討した。2)まずヒトゲノム研究・応用に関わって生じうる問題を網羅的に検討し、生命倫理と法の立場を明確にした(第1章)。とくに人権保護と特許とは今後の重要な課題である。次に、ヒトゲノム研究をめぐる研究者、試料提供者等の権利関係を探り(第2章)、また国際的倫理基準の設定の観点から、ユネスコ「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」につき、成立過程から宣言内容まで分析した(第3章)。次いで、この分野にはまだ明確な法規則が殆どないことから、国際的状況も踏まえて倫理規範の策定と研究の倫理審査制度を検討した(第4章)。また、現実のヒトゲノム研究遂行に関わる問題として、我が国のクローン技術規制法を取り上げ、ユネスコ宣言などの国際的基準との対比で、法による規制の必要性や人の尊厳基準の内容などを詳細に検討した(第5章)。ヒトゲノム研究の応用でもっとも重要なのは遺伝子診断・治療であり、医療現場で守られるべき倫理規範の検討も行っている(第6章)。さらに国際的発信の一環として、現代社会においてヒトゲノム研究を含む生命科学が持つ意味(第7章)や、国際的な生命倫理規範の策定と実施に貢献しているユネスコ国際生命倫理委員会の作業(第8章)について、研究成果を海外で発表した(共に英文)。3)最後に資料として、我が国のヒトゲノム研究に関する倫理面からの憲法ともいうべき基本原則とそれを研究現場で適用するための倫理指針(案)を載せた。両者共、この研究チームの班員が策定に関わった。他の4件の資料は国際的動向を示すものである。本年度は、研究の初年度にあたるため、各自が担当課題の見極めと分担範囲の確認から始めた。現在までのところは、全員が必ずしも具体的な研究成果を発表するには至っていないが、これまで何度か研究会を開いてそれぞれの研究状況を報告しあっている。幾人かは、それぞれの研究や相互の議論による知見に基づいて、論文発表、シンポジウム報告、講演、各種機関での意見発表等を行なっている。研究代表者位田は、人クローン個体産生禁止についての邦語論稿のほか、海外でもユネスコ21世紀トークでの「生命倫理と人の生命の未来」についての報告やWHOでの生物医学臨床研究の倫理審査ガイドライン案作成に参加した他、フランス、オランダおよびイギリスでの海外調査も行なった。また、複数の関係省庁の委員会での意見発表などの機会も得ている。分担者上田は、ゲノム解析と遺伝子診療に関する論稿を数本ものにした他、学会等で意見発表の機会があった。同じく前田は、医事法の観点からアプローチを続け、共著『医事法概論』を著した。他の研究者も同様に遂行中であり、近いうちにそれぞれ研究成果を発表する予定がある。なお、次年度にはミニシンポジウムを計画しており、その準備を開始した。まず昨年度に引き続き、所定の役割分担にしたがってヒトゲノム研究に関する各国の国内法令や倫理ガイドライン、関連報告書等の収集を行った。同時に、本研究の進行と並行してわが国政府による重要な倫理規範策定の諸作業が行われ、研究チームの助力を得て研究代表者位田をはじめ、分担者上田、中村が直接間接にこれらに参画した。位田はいわゆるクローン技術規制法の国会審議に際して二度にわたり参考人として意見を述べ、また中村とともに科学技術会議生命倫理委員会の「ヒトゲノム研究に関する基本原則」の策定に携わり、実質的な起草者の役割を果たした。田中は同委員会委員として本研究に基礎をおきつつ議論に参画した。 | KAKENHI-PROJECT-11420006 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11420006 |
ヒトゲノムの研究・応用における法と倫理の調査・研究-特に国際的視点から- | また位田は昨年度からいわゆる遺伝子解析研究に係るいわゆるミレニアム指針の検討に参加し、さらに今年度は上田とともに4省庁(現3省)共通のヒトゲノム・遺伝子解析研究指針の策定に貢献した。熊谷は特許の問題について、医療行為との関連で検討を重ね、海外調査も行っている。前田は遺伝子解析研究と医療におけるその応用の法的位置付けに配慮しつつ、医事法教科書をものにし、吾郷はILOと比較しつつユネスコの宣言のフォローアップ措置を検討した。中井は本年度については特に論考は発表しなかったが、上記の規範策定作業を人権の側面から理論的支えを提供した。このような実際の規範策定作業への参加は、本研究が当初から抱いていたように、学問的研究にとどまることなく積極的に社会に貢献するとの目標を実現した。他方で、各研究者はチーム内での意見交換はもとより、外部のシンポジウムなどに積極的に参加して、研究成果を発表している。また収集した資料を整理して、本研究の成果を京都大学法学研究科の位田のHP(http://www.law.kyoto-u.ac.jp/ida)の形で発表し、一般の利用に供し始めている。 | KAKENHI-PROJECT-11420006 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11420006 |
原子間力顕微鏡による未知の力探査 | ニュートンの逆2乗法則には理論的に破れを示唆するものがあり、実験的な検証が進められてきた。本研究では、マイクロメータ領域での測定限界がどこまで下げられるか、そして、未知の力が存在するかを実験的に確かめることを目的とした。そこで、原子間力顕微鏡を用いて、表面近傍での力の状態を精密に測定することを行った。厚さ1mmの白金板および、シリコン基板上に厚さ100nmと200nmの白金薄膜を付けたものを試料とし、フォースカーブ測定を実施した。その結果、薄膜試料での力の測定から、膜厚によらず10 pN程度の精度で一致していることが分かった。本研究では、原子間力顕微鏡を用いて、巨視的ではあるが非常に短い距離で働く未知の力の探査を行うことを目的としている。巨視的な力としては、電磁気力や重力がある。その中で重力は巨視的な力として逆2乗法則に従うことは知られているが、力の働く距離が短くなるとそれが成り立たなくなる可能性が示唆されている。そこで、表面の力を測定する原子間力顕微鏡を用いて、表面近傍での力の状態を精密に測定することを行う。このとき、通常の表面力が大変に大きな影響を持つので、その影響を取り除くために、異なる物質でできた基板上に同じ物質でコーティングを施し、表面力が同じにして、コーティングの下の基板物質からの力の影響が見えるかどうかを測定する方針で実験の準備を行った。まず、今年度は、原子間力顕微鏡を用いて、これまで知られていない力が存在するかどうかを調べるためのシステムの立ち上げを行った。装置の安定動作のための環境の整備、計測ソフトウエアの整備、測定用の計算機の整備などを実施した。ここで問題としている未知の力の存在を示すためには、非常に微小な力の変化を測定する必要があるので、それに適した原子間力顕微鏡の針の選択を進めた。また、サンプルとして、プラチナの板を準備した。サンプルは、純度が99.99%のもので、1cm×1cm×1mmものを準備した。さらに、表面の状態を光学観察するために顕微鏡を購入して資料の観察の準備を行った。今年度は、原子間力顕微鏡の整備を進め、本体の機能が再現し、計測が可能な状況にまで回復した。主な改善点は、原子間力顕微鏡に用いる探針周りの設定を改善したこと、制御用の計算機関係の更新を図ったことである。次に、新しい探針を準備して、面形状の測定に用いるタッピングモードでの測定を行い、正しい表面像がとれることを確認した。そのうえで、測定用のサンプルの製作を行った。今回の研究では、表面の状態に敏感な力の測定が必要なため、表面状態の安定な物質として白金を選んだが、安定な白金の薄膜を生成するための基板材料の吟味が必要であることが判明した。金属材料、結晶材料などを検討した結果、導電性を持つシリコン基板上に白金をスパッタで製膜することが一番よいという結論に達した。しかし、その製造が可能な会社と協議を進めたところ、厚さが1μmのものを作るのはかなり困難で、500nmでも現状の経験では可能かどうか不明であるという結論に達した。そこで、今回は、100nmと200nmの厚さの薄膜を作成し、500nmのものは次年度に検討して作成することにした。今回作成した、資料では、良好な表面特性が得られていることが、電子顕微鏡写真で確認できた。しかし、この資料の測定を開始する前に、テスト基板を用いて原子間力顕微鏡でフォースカーブを測定したところ、信号が見えない状態になった。現在、その原因を調査している段階にあり、次年度まで持ち越しになった。試料作製に関しての基板の選択をする際の検討に時間がかかった。また、原子間力顕微鏡の動作が思いのほか、複雑で安定しないので測定が進まない、。本年度は、これまで準備した試料の表面での力の測定を行った。試料は、厚さ1mmの白金板および、シリコン基板上に厚さ100nmと200nmの白金薄膜を付けたものを測定した。まず、表面の状態を確認するために、1μm×1μmのエリアで表面粗さを測定した。その結果、白金板の表面状態と白金薄膜の表面の状態にはかなりの差があることが判明した。そのような状態で、力の状態を測定した。これはフォースカーブと呼ばれるものであるが、原子間力顕微鏡の探針と基板の相互作用の大きさがかなり大きく、また、いったん、吸着されてしまうと、探針が離れるまでに大きな力が働くので、今回の未知の力の探査として有効な領域が限られていることも判明した。実際に測定された力の状態を調べると、吸着力は試料ごとにばらつきがあり、フォースカーブ全体を見ると大きな違いが見られているが、非接触の引力領域での振る舞いに関しては、3つの試料で大きな差は見られなかった。さらに、詳細に検討すると、白金板と薄膜の試料ではわずかな違いが見られたが、膜厚にはほとんど依存しなかった。ただ、原子間力顕微鏡の探針の制御の位置分解能が不十分で、最終的な結論の得られるようなデータを取得することができなったが、未知の力の大きさの上限に関しては、既存の制限に比べて10000倍くらいのデータとなった。しかし、今回の研究において、非接触での引力領域での振る舞いは、空気中での測定にも関わらず、かなり安定したものであった。 | KAKENHI-PROJECT-26610061 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26610061 |
原子間力顕微鏡による未知の力探査 | この点を考慮すると、原子間力顕微鏡の測定精度の向上を進めることで、本当の目的であった未知の力探査の精度を向上できることが分かり、研究の方向性を定めることができたと考えている。ニュートンの逆2乗法則には理論的に破れを示唆するものがあり、実験的な検証が進められてきた。本研究では、マイクロメータ領域での測定限界がどこまで下げられるか、そして、未知の力が存在するかを実験的に確かめることを目的とした。そこで、原子間力顕微鏡を用いて、表面近傍での力の状態を精密に測定することを行った。厚さ1mmの白金板および、シリコン基板上に厚さ100nmと200nmの白金薄膜を付けたものを試料とし、フォースカーブ測定を実施した。その結果、薄膜試料での力の測定から、膜厚によらず10 pN程度の精度で一致していることが分かった。原子間力顕微鏡の整備が十分に進まなかったことが一番の原因である。予定の信号が出せない状態から改善できていない。特に、探針の位置の変化を読み取るための光学系のアラインメントがまったくとれず、信号が見えなかった。試料の作成に関しては、200nmまでがうまくできたので、次年度、500nmの資料の作成を進める。また、原子間力顕微鏡の装置の安定化を進める必要がある。精密計測顕微鏡本体の整備を、かなり本格的にやり直す必要があることが判明したので、顕微鏡を製作した会社に整備を依頼することにした。表面の白金の薄膜の厚さを変えた試料の作成に時間がかかることが判明したので、次年度に合わせて作成することにした。顕微鏡の整備が思うように進まなかったので、それに関連した物品の購入が進まなかったことと、学会等の発表もできなかったので、旅費の執行ができなかったためである。試料の作成費用に充当する。顕微鏡の製作会社に、根本的な整備を依頼するための費用に充当する。また、今年度できなかった探針の購入にも使用する。 | KAKENHI-PROJECT-26610061 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26610061 |
連続ポテンシャル場の構築 | 1.高分子の化ミセル中に包埋した白金クラスターを合成し、水/界面/ミセル中に、順次酸素還元ポテンシャルの順に機能分子を配置して、連続ポテンシャル場を構築し、電子移動効率の飛躍的向上に成功した。また、高分子に包埋したバイメタリッククラスター内および高分子-プルシアンブルー平面膜内に連続ポテンシャル場を構築することに成功した。2.非晶質レーヨン繊維担持鉄(II)オクタカルボキシフタロシアニン錯体の配位構造を明らかにした。この高分子錯体の電子構造は、天然のカタラーゼのそれに近い。そこで、この繊維系を用いてカタラーゼ様反応の速度論的研究を行い、この系が、新しいギャドサイクル系を形成して高活性化していることを明らかとした。3.水を4電子酸化して酸素を発生できる触媒として、ルテニウムやマンガンの錯体を開発し、ギャドサイクルを利用して、化学的に及び電気化学的に水を酸にするシステムを確立した。電気化学的酸については、錯体を取り込んだ高分子膜を電極に被覆し、この錯体膜を経由する電荷の輸送により、目的を達成した。4.核酸の高度な機能は塩基対形成による分子間相互作用に基くが、核酸塩基を含む合成高分子系でも、核酸と同様の分子間相互作用によって、高分子錯体を形成することを見いだし、核酸系高分子錯体における連続ポテンシャル場と分子間相互作用についての基礎的知見を得ることができた。5.3-メトキシチオフェン及び3,4-ジメトキシチオフェンの電解重合及び複素5員環ポリマーの錯体を行ない、π共役連続ポテンシャル場を有し10^<-2>10^2Scm^<-1>の導電率を示す高分子を得ることに成功した。また、フェロセン単位を主鎖構造に有する高分子錯体及び高分子-金属硫化物複合錯体系での電子移動過程を解析することができた。1.高分子の化ミセル中に包埋した白金クラスターを合成し、水/界面/ミセル中に、順次酸素還元ポテンシャルの順に機能分子を配置して、連続ポテンシャル場を構築し、電子移動効率の飛躍的向上に成功した。また、高分子に包埋したバイメタリッククラスター内および高分子-プルシアンブルー平面膜内に連続ポテンシャル場を構築することに成功した。2.非晶質レーヨン繊維担持鉄(II)オクタカルボキシフタロシアニン錯体の配位構造を明らかにした。この高分子錯体の電子構造は、天然のカタラーゼのそれに近い。そこで、この繊維系を用いてカタラーゼ様反応の速度論的研究を行い、この系が、新しいギャドサイクル系を形成して高活性化していることを明らかとした。3.水を4電子酸化して酸素を発生できる触媒として、ルテニウムやマンガンの錯体を開発し、ギャドサイクルを利用して、化学的に及び電気化学的に水を酸にするシステムを確立した。電気化学的酸については、錯体を取り込んだ高分子膜を電極に被覆し、この錯体膜を経由する電荷の輸送により、目的を達成した。4.核酸の高度な機能は塩基対形成による分子間相互作用に基くが、核酸塩基を含む合成高分子系でも、核酸と同様の分子間相互作用によって、高分子錯体を形成することを見いだし、核酸系高分子錯体における連続ポテンシャル場と分子間相互作用についての基礎的知見を得ることができた。5.3-メトキシチオフェン及び3,4-ジメトキシチオフェンの電解重合及び複素5員環ポリマーの錯体を行ない、π共役連続ポテンシャル場を有し10^<-2>10^2Scm^<-1>の導電率を示す高分子を得ることに成功した。また、フェロセン単位を主鎖構造に有する高分子錯体及び高分子-金属硫化物複合錯体系での電子移動過程を解析することができた。 | KAKENHI-PROJECT-63612003 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-63612003 |
窒素原子を故意にドープしたアルカリ金属フラーレン超伝導錯体の電子構造 | 1.本研究専用の真空昇華ラインを設置することにより、これまでと同じ時間で、原料フラーレンの純度と量を増加させることが可能となった。また、アジ化アルカリ金属の熱分解反応を行うための電気炉を新たに製作した。これらにより、錯体合成回数(実験試行回数)を増加することができた。2.当初、錯体合成に仕込むアジ化アルカリ金属とフラーレンの量さえ正確に制御すれば、合成される錯体中の、フラーレンとアルカリ金属の存在比は化学量論的に明確なものになると期待していたが、アジ化アルカリ金属の熱分解反応の条件-主として反応温度および反応時間-を変化させることにより、得られる錯体中のフラーレンとアルカリ金属の化学量論比が大きく変化した。さらに、反応条件を丁寧に制御しないと、試料全体に均一な化学組成とならないことも判明した。また、特殊な反応条件下では、窒素原子をふくんだ錯体を得ることができた。この窒素原子をふくんだ錯体の電気輸送特性は、窒素原子をふくまないものと異なったものであった。3.窒素原子をふくんだアルカリ金属フラーレン錯体の粉末X線回析の測定結果は、他の合成方法によって得られたフラーレンとアルカリ金属との化学量論比が明確な錯体の結果と異質のものであった。つまり、アジ化アルカリ金属の熱分解によるアルカリ金属フラーレン錯体の錯体合成方法では、アルカリ金属の存在比の明確な錯体を得る方法として有効であるが、注意を怠ると、窒素原子がふくまれた錯体を生成する危険性があることが判明した。4.紫外線電子スペクトルの測定より、錯体中の窒素原子の化学量論比によって、電子構造が変化した。つまり、窒素原子の存在は、錯体の電気伝導度をはじめとする電子的性質に反映されるものであることが判明した。5.C60以外のフラーレンについて、本研究で用いた方法により、窒素原子が存在するアルカリ金属フラーレン錯体を合成し、それらの電子構造について研究中であり、今後はこれを継続する計画である。1.本研究専用の真空昇華ラインを設置することにより、これまでと同じ時間で、原料フラーレンの純度と量を増加させることが可能となった。また、アジ化アルカリ金属の熱分解反応を行うための電気炉を新たに製作した。これらにより、錯体合成回数(実験試行回数)を増加することができた。2.当初、錯体合成に仕込むアジ化アルカリ金属とフラーレンの量さえ正確に制御すれば、合成される錯体中の、フラーレンとアルカリ金属の存在比は化学量論的に明確なものになると期待していたが、アジ化アルカリ金属の熱分解反応の条件-主として反応温度および反応時間-を変化させることにより、得られる錯体中のフラーレンとアルカリ金属の化学量論比が大きく変化した。さらに、反応条件を丁寧に制御しないと、試料全体に均一な化学組成とならないことも判明した。また、特殊な反応条件下では、窒素原子をふくんだ錯体を得ることができた。この窒素原子をふくんだ錯体の電気輸送特性は、窒素原子をふくまないものと異なったものであった。3.窒素原子をふくんだアルカリ金属フラーレン錯体の粉末X線回析の測定結果は、他の合成方法によって得られたフラーレンとアルカリ金属との化学量論比が明確な錯体の結果と異質のものであった。つまり、アジ化アルカリ金属の熱分解によるアルカリ金属フラーレン錯体の錯体合成方法では、アルカリ金属の存在比の明確な錯体を得る方法として有効であるが、注意を怠ると、窒素原子がふくまれた錯体を生成する危険性があることが判明した。4.紫外線電子スペクトルの測定より、錯体中の窒素原子の化学量論比によって、電子構造が変化した。つまり、窒素原子の存在は、錯体の電気伝導度をはじめとする電子的性質に反映されるものであることが判明した。5.C60以外のフラーレンについて、本研究で用いた方法により、窒素原子が存在するアルカリ金属フラーレン錯体を合成し、それらの電子構造について研究中であり、今後はこれを継続する計画である。 | KAKENHI-PROJECT-08740535 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08740535 |
砕波帯における微細気泡を含む気液混相現象の解明 | 2カ年計画の最終年度である本年度は,砕波帯において砕波により水中に連行される空気塊の特性について検討を行った.砕波帯内の時空間的な空気混入特性と水の流体運動を同時計測するため,シャドーグラフ法とPIV法を組み合わせ,ボイド率と気泡周りの2次元空間的な流速を求める手法を開発した.砕波帯内の流体運動に追従できるように,画像の記録には高解像度高速度CMOSカメラを用いた.液相の流速の計測には半導体連続レーザーと蛍光励起塗料を散布した微小粒子を用いたPIV法を用い,気相側の計測は平面LEDを側壁として用いてシャドーグラフ法によりボイド率を推定する手法を開発した.まず始めに,気液混相流場における気泡の形状および速度を推定する可視化手法(BTV法)を用いて砕波帯内の気液混相特性を明らかにした.気泡径分布の時間的変動とボイド率,平均気泡径の非定常性およびこれら気相・液相統計量の関係にっいて新たな知見を得た.さらに3次元構造を持つ砕波帯の気液混相特性を把握するため,気液混相流場における気泡の3次元形状およびその移動速度を同時に推定する計測手法を開発し,仮想および水理実験を行い,その妥当性について検討を行った.その結果,気泡形状と速度を3次元的に同時に測定する手法を開発した.得られた手法を仮想実験および実際の気泡群に適用し,時空間的に変化する3次元流体場の気泡計測が可能とした.2カ年計画の1年目である本年度は,砕波帯において砕波により水中に連行される空気塊の特性について検討を行った.2次元造波水路を用いて,一様斜面上を入射する規則波の砕波についてボイド率,気泡径および流速の計測を行い,砕波波峰におけるボイド率および気泡径の空間分布,および気泡特性と乱れエネルギーとの関係を調べた.フルード則に基づいた2種類の大きさの水理実験結果から,ボイド率の空間変化に及ぼすスケール効果の影響は非常に大きいことを明らかにした.ついで,連行された気泡径分布について調べ,混入する個数に差はあるものの,その分布形状は岸沖方向に殆ど変化しないことを示した.上記の検討と平行して,時空間的な空気混入特性と水の流体運動を同時計測するため,シャドーグラフ法とPIV法を組み合わせ,ボイド率と気泡周りの2次元空間的な流速を求める手法を開発した.砕波帯内の流体運動に追従できるように,画像の記録には高解像度高速度CMOSカメラを用いた.液相の流速の計測には半導体連続レーザーと蛍光励起塗料を散布した微小粒子を用いたPIV法を用い,気相側の計測は平面LEDを側壁として用いてシャドーグラフ法によりボイド率を推定する手法を開発した.計測は光学分光器とバンドパスフィルターを併用して気相と液相の計測画像を分離し,CMOSカメラを2台同時に使用することにより気相と液相の同時計測を可能とした.次年度では,実験結果をもとにした砕波帯空気混入のモデル化と3次可視化計測を予定している.2カ年計画の最終年度である本年度は,砕波帯において砕波により水中に連行される空気塊の特性について検討を行った.砕波帯内の時空間的な空気混入特性と水の流体運動を同時計測するため,シャドーグラフ法とPIV法を組み合わせ,ボイド率と気泡周りの2次元空間的な流速を求める手法を開発した.砕波帯内の流体運動に追従できるように,画像の記録には高解像度高速度CMOSカメラを用いた.液相の流速の計測には半導体連続レーザーと蛍光励起塗料を散布した微小粒子を用いたPIV法を用い,気相側の計測は平面LEDを側壁として用いてシャドーグラフ法によりボイド率を推定する手法を開発した.まず始めに,気液混相流場における気泡の形状および速度を推定する可視化手法(BTV法)を用いて砕波帯内の気液混相特性を明らかにした.気泡径分布の時間的変動とボイド率,平均気泡径の非定常性およびこれら気相・液相統計量の関係にっいて新たな知見を得た.さらに3次元構造を持つ砕波帯の気液混相特性を把握するため,気液混相流場における気泡の3次元形状およびその移動速度を同時に推定する計測手法を開発し,仮想および水理実験を行い,その妥当性について検討を行った.その結果,気泡形状と速度を3次元的に同時に測定する手法を開発した.得られた手法を仮想実験および実際の気泡群に適用し,時空間的に変化する3次元流体場の気泡計測が可能とした. | KAKENHI-PROJECT-17760409 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17760409 |
中枢神経系におけるAPUD細胞の機能形態学的研究 | I.脳内におけるAPUD細胞の分布Wistar系雄性ラットを用い、末梢性aromatic L-amino acid decarboxylase(AADC)の阻害剤Ro4-4602処理後、L-DOPA負荷を行った。負荷後60分にて灌流固定後、APUD細胞(AADC含有/ドーパミン含有/TH非含有細胞)の検出を異種間抗血清を利用した蛍光二重標識法にて検索した。L-DOPA負荷後、脳内AADC含有細胞はすべてドーパミンを含有していた。このことは脳内特に視床下部に多く存在するAADC細胞は、すべてL-DOPAをドーパミンに変換する能力を持つことを示している。II.中枢内APUD細胞の投射経路の検索逆行性標識物質であるcholeratoxin B subunitと金とを結合した複合体を、視床下部APUD細胞が投射すると想定される大脳辺縁系(海馬・扁桃体・中隔野)などに投与した後、AADC免疫組織化学を行った。これらの検索の結果より、上乳頭体核周囲のAADC含有/TH非含有細胞は海馬歯状回へ投謝することが判明した。他の視床下部にあるAADC含有/TH非含有細胞は視床下部核間どおしの投謝は密であるが、非視床下部領域への投謝は希であった。III.[3H]DOPA取り込み部位のオートラジオグラフィーによる検索[3H]DOPA取り込み能を持つ細胞をin vivoの条件で検索するため、[3H]DOPAの腹腔内注射を、新生仔期ラットに行った。[3H]DOPA17.25mci/匹を腹腔内投与後、60分で断頭、オートラジオグラフィーを行った。[3H]DOPAの放射活性の最も強い部位は被殻尾状核に認められ、つづいて側坐核、嗅結節の順であった。視床下部は予想に反し中程度の放射活性を示すのみであった。このことは、AADCニューロンが大量に存在する視床下部における[3H]DOPA取り込み能は、通常の黒質線条件ドーパミンニューロン系の終末が存在する被殻尾状核よりも低いことを示している。I.脳内におけるAPUD細胞の分布Wistar系雄性ラットを用い、末梢性aromatic L-amino acid decarboxylase(AADC)の阻害剤Ro4-4602処理後、L-DOPA負荷を行った。負荷後60分にて灌流固定後、APUD細胞(AADC含有/ドーパミン含有/TH非含有細胞)の検出を異種間抗血清を利用した蛍光二重標識法にて検索した。L-DOPA負荷後、脳内AADC含有細胞はすべてドーパミンを含有していた。このことは脳内特に視床下部に多く存在するAADC細胞は、すべてL-DOPAをドーパミンに変換する能力を持つことを示している。II.中枢内APUD細胞の投射経路の検索逆行性標識物質であるcholeratoxin B subunitと金とを結合した複合体を、視床下部APUD細胞が投射すると想定される大脳辺縁系(海馬・扁桃体・中隔野)などに投与した後、AADC免疫組織化学を行った。これらの検索の結果より、上乳頭体核周囲のAADC含有/TH非含有細胞は海馬歯状回へ投謝することが判明した。他の視床下部にあるAADC含有/TH非含有細胞は視床下部核間どおしの投謝は密であるが、非視床下部領域への投謝は希であった。III.[3H]DOPA取り込み部位のオートラジオグラフィーによる検索[3H]DOPA取り込み能を持つ細胞をin vivoの条件で検索するため、[3H]DOPAの腹腔内注射を、新生仔期ラットに行った。[3H]DOPA17.25mci/匹を腹腔内投与後、60分で断頭、オートラジオグラフィーを行った。[3H]DOPAの放射活性の最も強い部位は被殻尾状核に認められ、つづいて側坐核、嗅結節の順であった。視床下部は予想に反し中程度の放射活性を示すのみであった。このことは、AADCニューロンが大量に存在する視床下部における[3H]DOPA取り込み能は、通常の黒質線条件ドーパミンニューロン系の終末が存在する被殻尾状核よりも低いことを示している。Wistar系雄性ラットを用い、LーDOPAをド-パミンに変換する未梢性次にこれら視床下部内に存在するAPUD細胞の投射領域を検索するため、逆行性神経標識物質であるgold conjuatecholeratoxin Bsubunit(ChTxーAu)とド-パミン含有/TH非含有細胞の免疫細織化学との多重染色法を開発した。視床下部と密な線維結合が知られる海馬、扁桃体、中隔核、脳幹諸核、また視床下部内の諸核にこのChTxーAuを微量投与(1μg/μl)し、投与後3日にて潅流固定し、硝酸銀にて金を銀に置換し可視化した後、マウスモノクロ-ナル抗ド-パミン血清(ABC法、DAB染色:茶色)、ラビット抗TH血清(ABC法、DABーNickel染色体、青色)の二重免疫組織化学を行なう。注入部位に投射しているAPUD細胞は茶と青の混った色を呈した細胞体に黒色の点状粒子を持つ。この方法により、視床下部APUD細胞は視床下部外へはほとんど投射せず、視床下部内の多くの核群に投射することが判明した。 | KAKENHI-PROJECT-03670027 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03670027 |
中枢神経系におけるAPUD細胞の機能形態学的研究 | ラット又は、ヒトのAromatic L-Aminoacid Decarboxylase(AADc)のcompleteseguenceを含むcDNAをNicle-Translationにて^<35>S-ATPで標識し、in situ hybridizationを行ないラット脳におけるAADcmRNAの分布を検索した。ラット中脳及び視床下部にAADc免疫陽性細胞の分布と一致してAADcmRNA陽性細胞を検出した。しかし、現在までのところTHmRNAのin situhybridizationの陽性シグナル量に比し、かなり、シグナル強度が低い。上記は、cDNAプローブでの結果であるが、現在更にシグナルの検出能力を上げるためAADcのcDNAをsubcloneし、それよりRNAプローブを作成している。また、^3H-DoPA取り込み能を持つ細胞in viroの条件で検索するため、^3H-DoPAの腹腔内注射を、新生仔期ラットで行なった。^3H-DoPAは、^3H-tyrosineから、精製tyrosine hydroxylase酵素純品を用いて、^3H-DoPAを精製したものを、横浜市大医学部薬理、後嶋、三須先生より供与していただいたものを用いた。ラットはresetpine(10mg/kg)Pargyline(40mg/kg)Ro-4-4602(50mg/kg)を前処置し、^3H-DoPA17.25×10^3μci/π又は、3×10^3μci/πを腹腔内投与し、60分後断頭した。クリオスタット切片(15μm)作成後オートラジオグラフィーを行った。^3H-DOPAの放射活性の最も強い部位は被殻尾状核に認められ、つづいて側坐核、嗅結節の順であった。視床下部は予想に反し大脳皮質と同程度の比較的弱い放射活性を示すのみであった。このことは、AADcニューロンが大量に存在する視床下部における^3-H-DOPA取り込み能は、通常の黒質線条体系の終末が存在する被殻尾状態よりも低いことを示している。しかし視床下部全域に中等度の放射活性が認められたことは、血中の^3H-DOPAは血液脳関門を通り、視床下部のニューロンに取り込まれ得ることを示している。 | KAKENHI-PROJECT-03670027 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03670027 |
東日本大震災の生活環境崩壊による子どもの発達への影響とその支援 | 大震災後8年が経過し、いわき市内の子どもに発達障害の行動特徴を示す者が、他の地域よりも多い。その要因は環境によるものと推測されている。本研究では、大震災による生活環境の崩壊による幼児・児童の発達への影響と支援者(保育者、教師及び保護者)の心理的影響を明らかにする。そして、発達障害の行動特徴を示す者の認知発達と日常の観察の分析結果を併せて、いわき市の発達支援プログラムの開発を目指すことを目的とする。大震災後8年が経過し、いわき市内の子どもに発達障害の行動特徴を示す者が、他の地域よりも多い。その要因は環境によるものと推測されている。本研究では、大震災による生活環境の崩壊による幼児・児童の発達への影響と支援者(保育者、教師及び保護者)の心理的影響を明らかにする。そして、発達障害の行動特徴を示す者の認知発達と日常の観察の分析結果を併せて、いわき市の発達支援プログラムの開発を目指すことを目的とする。 | KAKENHI-PROJECT-19K02964 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K02964 |
心筋細胞肥大における細胞周期制御機構の関与:cdc2キナーゼの動態を中心にして | 最近数年間で細胞周期関連の研究は急速に進歩した。特に、p21^<cip1/waf1/sdi1>およびp16^<INK4>を初めとする細胞周期制御因子の発見により、精巧な細胞周期制御機構の全容が明らかになってきた。しかしながら、分化した細胞である心筋細胞における、これらの細胞周期抑制因子の発現、およびその役割に関しては明らかではない。そこで、計画の一部を変更して以下の研究を行った。【目的】血清刺激による心筋細胞肥大発症機構における、細胞周期制御因子の関与について明らかにする。【方法】(1)新生児ラット初代培養心筋細胞におけるp21,p16,およびこれらのCdk inhibitorのtargetであるcyclin D1のmRNA発現の検討、(2)p21,p16を強制発現させるためアデノウイルスベクター(Ax1CAp21,Ax1CAp16)を作成し、それらを作用させた心筋細胞の細胞表面積の計測、muscle specific gene発現の検討、および〔^3H〕leucine取り込み実験による蛋白合成能の評価、(3)BrdUの取り込みの評価を、抗BrdU抗体および抗sarcomeric-actin抗体の二重免疫染色法を用いて行った。【結果】(1)心筋細胞においてcyclin D1,およびp21mRNAは血清刺激により6時間後まで経時的に発現が亢進した。一方、p16mRNAの発現はほとんど認められなかった。(2)血清刺激により亢進した細胞表面積、muscle specific gemeの発現、および〔^3H〕leucine取り込みは、Ax1CAp21,Ax1CAp16による感染によりそれぞれ抑制された。(3)BrdU陽性細胞数はいずれの条件下でも全心筋細胞数の1%以下であった。【考察・結語】細胞周期抑制因子であるp21およびp16が、血清刺激による心筋細胞肥大の発症に対し抑制的に働くことが示された。非増殖細胞である心筋細胞においても、細胞周期制御機構の一部が機能していることを示唆する所見と考えられる。最近数年間で細胞周期関連の研究は急速に進歩した。特に、p21^<cip1/waf1/sdi1>およびp16^<INK4>を初めとする細胞周期制御因子の発見により、精巧な細胞周期制御機構の全容が明らかになってきた。しかしながら、分化した細胞である心筋細胞における、これらの細胞周期抑制因子の発現、およびその役割に関しては明らかではない。そこで、計画の一部を変更して以下の研究を行った。【目的】血清刺激による心筋細胞肥大発症機構における、細胞周期制御因子の関与について明らかにする。【方法】(1)新生児ラット初代培養心筋細胞におけるp21,p16,およびこれらのCdk inhibitorのtargetであるcyclin D1のmRNA発現の検討、(2)p21,p16を強制発現させるためアデノウイルスベクター(Ax1CAp21,Ax1CAp16)を作成し、それらを作用させた心筋細胞の細胞表面積の計測、muscle specific gene発現の検討、および〔^3H〕leucine取り込み実験による蛋白合成能の評価、(3)BrdUの取り込みの評価を、抗BrdU抗体および抗sarcomeric-actin抗体の二重免疫染色法を用いて行った。【結果】(1)心筋細胞においてcyclin D1,およびp21mRNAは血清刺激により6時間後まで経時的に発現が亢進した。一方、p16mRNAの発現はほとんど認められなかった。(2)血清刺激により亢進した細胞表面積、muscle specific gemeの発現、および〔^3H〕leucine取り込みは、Ax1CAp21,Ax1CAp16による感染によりそれぞれ抑制された。(3)BrdU陽性細胞数はいずれの条件下でも全心筋細胞数の1%以下であった。【考察・結語】細胞周期抑制因子であるp21およびp16が、血清刺激による心筋細胞肥大の発症に対し抑制的に働くことが示された。非増殖細胞である心筋細胞においても、細胞周期制御機構の一部が機能していることを示唆する所見と考えられる。本年度は、cdc2キナーゼファミリーの阻害薬であるブチロラクトン-I(BL-I)による心筋細胞肥大の抑制効果について検討した。BL-I(5X10^<-5>M)は心筋肥大誘発物質であるエンドセリン-1(ET-1)およびアンギオテンシンII(AngII)による心筋細胞肥大(細胞表面積の増加)を抑制した。さらにBL-Iは、心筋肥大の遺伝子マーカーとして知られる骨格筋型アクチン(skeletal α-actin)の遺伝子発現を濃度依存性に抑制した。これらのことは、心筋肥大のメカニズムの一部にcdc2キナーゼファミリーが関与していることを示唆するものと考えられる。一方われわれは、ラット心臓において発現するcdc2キナーゼファミリーに属する新しいプロテインキナーゼ(PK)の単離に成功した。PKのコンセンサスドメインに対するdegenerate oligonucleotide primerを用いて、reverse transcription-PCRおよび3-RACEをラット心臓RNAに対して行い、得られた未報告のキナーゼ配列の一部をプローブにしてラット心臓cDNAライブラリーから2.4kbのクローンを単離した。このクローンがコードする629アミノ酸の蛋白は、cdc2 familyに属するセリン/スレオニン-PKと考えられた。ノーザンブロットにより心臓を含め種々の臓器に発現を認めた。In situ hybridizationでは正常心筋外層に発現が認められるが、圧負荷心筋ではび慢性に発現が亢進していた。 | KAKENHI-PROJECT-06670699 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06670699 |
心筋細胞肥大における細胞周期制御機構の関与:cdc2キナーゼの動態を中心にして | このPK蛋白は分子量68kD、myelin basicproteinおよびhistone H1に対してリン酸化活性を持ち、さらに自己リン酸化能も有した。現在心肥大誘発のメカニズムにおける本キナーゼの役割について検討中である。最近数年間で細胞周期関連の研究は急速に進歩した。特に、p21^<cipl/wafl/sdil>およびp16^<INK4>を初めとする細胞周期制御因子の発見により、精巧な、細胞周期制御機構の全容が明らかになってきた。しかしながら、分化した細胞である心筋細胞における、これらの細胞周期抑制因子の発現、およびその役割に関しては明らかではない。そこで、本年度は計画の一部を変更して以下の研究を行った。【目的】血清刺激による心筋細胞肥大発症機構における、細胞周期制御因子の関与について明らかにする。【方法】(1)新生児ラット初代培養心筋細胞におけるp21,p16,およびこれらのCdk inhibitorのtargetであるcyclinD1のmRNA発現の検討、(2)p21,p16を強制発現させるためアデノウイルスベクター(Ax1CAp21,Ax1CAp16)を作成し、それらを作用させた心筋細胞の細胞表面積の計測、muscle specific gene発現の検討、および[^3H]leucine取り込み実験による蛋白合成能の評価、(3)BrdUの取り込みの評価を、抗BrdU抗体および抗sarcomeric-actin抗体の二重免疫染色法を用いて行った。【結果】(1)心筋細胞においてcyclinD1,およびp21mRNAは血清刺激により6時間後まで経時的に発現が亢進した。一方、p16mRNAの発現はほとんど認められなかった。(2)血清刺激により亢進した細胞表面積、muscle specific gemeの発現、および[^3H]leucine取り込みは、Ax1CAp21,Ax1CAp16による感染によりそれぞれ抑制された。(3)BrdU陽性細胞数はいずれの条件下でも全心筋細胞数の1%以下であった。【考察・結語】細胞周期抑制因子であるp21およびp16が、血清刺激による心筋細胞肥大の発症に対し抑制的に働くことが示された。非増殖細胞である心筋細胞においても、細胞周期制御機構の一部が機能していることを示唆する所見と考えられる。 | KAKENHI-PROJECT-06670699 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06670699 |
臓器移植後のヘルペスウイルス感染症制御に関する総合的研究 | 1 VZVマウスの系でVZV特異的細胞性免疫誘導におけるVZV糖蛋白の検討VZVの糖タンパク質を精製。どの糖蛋白抗原が細胞性免疫(DTH)を誘導するかを検討した。その結果、皮下投与の場合と同様にLTと共に投与すればgE:IがgE:Iに対するDTHを誘導することを確認した。さらにgH:Lも同等のgH:Lに対するDTHを惹起することを明らかにした。これは、LTを併用した鼻腔投与ではgE:Iと同様にgH:LもVZV感染予防に重要な細胞性免疫を誘導できることを始めて明らかにした。2肝移植におけるHHV6、HHV-7感染と病態の検討・HHV-6感染のピークが移植後2週から4週にあり臨床的には不明熱との関連が認められた。HHV-7感染には明確なピークがなく20%程度の患者で常にゲノムが検出された。・肝移植後のHHV-6、HHV-7感染の診断にはウイルス分離あるいはPCRによる検討に加え、各ウイルスに特異的な血清学的診断法が必要なことを確認。・生体肝移植後にHHV-6初感染を受けた乳児例をまとめて解析。免疫抑制状態宿主においても致死的な経過は示さない。さらに、突発性発疹症患児に見られる皮疹の形成に、宿主免疫能が重要な働きをしていることが示唆された。・肝移植後のHHV-6感染源として、移植されるドナーグラフト中に残存するリンパ球が重要であることを証明。3骨髄移植におけるHHV6、HHV-7感染と病態の検討・骨髄移植患者におけるHHV-6感染モニタリングとして、リアルタイムPCR法によるレシピエント末梢血単核球中ウイルスゲノム量の測定が有用であることを示唆。・BMT後4週間目までに出現するGVHD類似の発疹症にHHV-6感染が関与していることを明らかにした。・自家骨髄移植と同種骨髄移植を比較すると、同種骨髄移植の方がHHV-6感染を起こしやすい。・ウイルス分離を指標にBMT後HHV-6感染を診断し、臨床症状との関連性を統計学的に解析。欧米のグループが示唆している間質性肺炎や骨髄抑制との関連性は認められず、唯一GVHD類似の移植後早期に見られる発疹症との関連が確認された。1 VZVマウスの系でVZV特異的細胞性免疫誘導におけるVZV糖蛋白の検討VZVの糖タンパク質を精製。どの糖蛋白抗原が細胞性免疫(DTH)を誘導するかを検討した。その結果、皮下投与の場合と同様にLTと共に投与すればgE:IがgE:Iに対するDTHを誘導することを確認した。さらにgH:Lも同等のgH:Lに対するDTHを惹起することを明らかにした。これは、LTを併用した鼻腔投与ではgE:Iと同様にgH:LもVZV感染予防に重要な細胞性免疫を誘導できることを始めて明らかにした。2肝移植におけるHHV6、HHV-7感染と病態の検討・HHV-6感染のピークが移植後2週から4週にあり臨床的には不明熱との関連が認められた。HHV-7感染には明確なピークがなく20%程度の患者で常にゲノムが検出された。・肝移植後のHHV-6、HHV-7感染の診断にはウイルス分離あるいはPCRによる検討に加え、各ウイルスに特異的な血清学的診断法が必要なことを確認。・生体肝移植後にHHV-6初感染を受けた乳児例をまとめて解析。免疫抑制状態宿主においても致死的な経過は示さない。さらに、突発性発疹症患児に見られる皮疹の形成に、宿主免疫能が重要な働きをしていることが示唆された。・肝移植後のHHV-6感染源として、移植されるドナーグラフト中に残存するリンパ球が重要であることを証明。3骨髄移植におけるHHV6、HHV-7感染と病態の検討・骨髄移植患者におけるHHV-6感染モニタリングとして、リアルタイムPCR法によるレシピエント末梢血単核球中ウイルスゲノム量の測定が有用であることを示唆。・BMT後4週間目までに出現するGVHD類似の発疹症にHHV-6感染が関与していることを明らかにした。・自家骨髄移植と同種骨髄移植を比較すると、同種骨髄移植の方がHHV-6感染を起こしやすい。・ウイルス分離を指標にBMT後HHV-6感染を診断し、臨床症状との関連性を統計学的に解析。欧米のグループが示唆している間質性肺炎や骨髄抑制との関連性は認められず、唯一GVHD類似の移植後早期に見られる発疹症との関連が確認された。VZVのエンベロープ糖蛋白を大量精製し、経粘膜免疫に使用した。アジュバントとしては、毒素原性大腸菌の産生する易熱性下痢毒素(LT)の変異毒素を使用した。1回の鼻腔内投与、ならびに1週間間隔で3回の鼻腔内投与ではVZVに対する中和抗体価の上昇は認められなかったが、2ヶ月間の間欠投与でほぼ半数のマウスに中和抗体価の上昇を認め、6ヶ月間の間欠投与でほぼ全例に中和抗体価の上昇を確認した。さらに抗体価の上昇したマウス血清をWestern blottingで調べたところ、100KD前後に2本、45KDから80KDに特異的に反応する蛋白質バンドが確認された。2. VZV特異的細胞性免疫 | KAKENHI-PROJECT-10470181 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10470181 |
臓器移植後のヘルペスウイルス感染症制御に関する総合的研究 | 能測定系の確立細胞障害性T細胞(CTL)活性を非RIのシステムを使用して測定する系を確立するため、1.で精製した大量のVZV糖蛋白を抗原として実験を行った。まず水痘罹患の既往のある健康成人ならびに水痘既往のない小児より末梢血単核球を採取、それぞれ陽性、陰性コントロールとして使用した。Cell Proliferation Kit(Boehringer Manheim)を使用し、被検検体をVZV糖蛋白で刺激。ELISAリーダー(ABI)にて刺激後の各リンパ球活性化の程度を測定した。その結果、水痘既往のある成人と既往の無い小児では明らかな差が確認され本システムがVZVに対するCTL活性測定に応用可能であることを確認した。3.今後の計画1.で示したように、変異LTを用いたVZVに対する経鼻免疫はマウスに良好な中和抗体活性を誘導することが確認された。今後2.で確立したVZVに対するCTL活性測定系を用いて、これらマウスでCTL活性が十分に誘導されているかを確認する。さらに、将来的にヒトに応用することを目標として変異LTの安全性試験を行ってゆく予定である。現在市販されている水痘ワクチン岡株をマウスの系で経粘膜免疫に使用した。アジュバントとしては、毒素原性大腸菌の産生する易熱性下痢毒素(LT)の変異毒素を使用した。同ワクチンをLTと共に2ヶ月の間隔で3回投与した場合には約半数のマウスに中和抗体価の上昇を認めた。また6ヶ月の間隔で3回投与した場合には全例に中和抗体価の上昇を確認した。この中和抗体にはVZVの110K、100K、62K、54K、46Kに反応するVZV特異タンパクが含まれており、糖蛋白であることが確認された。2.水痘ワクチンとLTによるマウスの系でのVZV特異的細胞性免疫1と同じ免疫法、即ち、市販水痘ワクチンとLTを2ヶ月間隔で3回投与し、その4週後にマウスfoot padにVZV抗原を注射、PBS(-)とVZV抗原単独のものと比較しVZV特異的細胞性免疫の誘導を検討した。コントロールと比較しVZV抗原5μl以上で1mm以上の差が生じ、VZV特異的細胞性免疫の誘導が確認された。3.VZV特異的細胞性免疫誘導のための至適条件の検討マウス免疫回数、VZV抗原量、LT量などを様々に変え、2と同様の検討を行った。その結果、VZV特異的細胞性免疫誘導のためにはVZV50μl以上、LT10μgを混合し、1回の経鼻接種で十分であることが確認された。4.今後の計画VZVのみならず移植成績に関与することの多いCMV、HSV1、HSV2に関してもマウスの系で特異的免疫誘導を確認する。またVZVに関しては本研究組織の構成員で精製VZV糖蛋白と変異毒素アジュバントを用い検討する。1 VZVマウスの系でVZV特異的細胞性免疫誘導におけるVZV糖蛋白の検討VZVの糖タンパク質を精製。どの糖蛋白抗原が細胞性免疫(DTH)を誘導するかを検討した。その結果、皮下投与の場合と同様にLTと共に投与すればgE:IがgE:Iに対するDTHを誘導することを確認した。さらにgH:Lも同等のgH:Lに対するDTHを惹起することを明らかにした。これは、LTを併用した鼻腔投与ではgE:Iと同様にgH:LもVZV感染予防に重要な細胞性免疫を誘導できることを始めて明らかにした。2肝移植におけるHHV6、HHV-7感染と病態の検討・HHV-6感染のピークが移植後2週から4週にあり臨床的には不明熱との関連が認められた。 | KAKENHI-PROJECT-10470181 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10470181 |
ヒトプリオン蛋白過剰発現モデルの確立 | 家族性クロイツフェルト・ヤコブ病(以下CJDと略)やゲルストマン・ストロイスラ-症候群のプリオン蛋白遺伝子に点変異が存在することが知られるようになってから、今までのマウスへの伝播実験で得られる実験動物では、モデル動物として不十分であることが明らかとなってきた。この不十分さを補うために、本研究ではプリオン病(特に点変異を有する)のマウスモデルの作製を主目的とした。まず、正常なプリオン蛋白の発現をめざして、ES細胞を用いてマウスからヒトへの遺伝子置換を行った。loxpの間にneo遺伝子とgpt遺伝子をはさむヒト型のプリオン蛋白遺伝子をES細胞に導入し、homologous recombinationを確認後、germ-line化し、ヘテロのマウスの受精卵にCre recombinaseを導入し、完全な形の遺伝子置換に成功した。この方法により、ヒト型プリオン蛋白が、マウスのプリオン蛋白と同様の発現分布および発現量が得られることが期待できる。次にプリオン蛋白遺伝子の過剰発現の系として、トランスジェニックのシステムを利用した。マウスのプリオン蛋白遺伝子のプロモーター領域、exon1,exon2をクローニングし、20kbpにおよぶintron2をBgl IIとBamH I間で欠失させたトランスジーンを準備し、マウスの卵に導入した。F1マウスのDNA解析にて、11匹中2匹にトランスジーンを確認し、現在はトランスジーンのホモ化を行っている。上記のように、予定していた過剰発現、および正常発現のヒト化マウスの作製の系は本研究の期間内に終了することが出来た。今後は、この系を使用して、さらに多くの変異マウスを作製するとともに、作製したマウスを用いて伝播実験を行う予定である。また、intron 2の欠失のないトランスジーンの作製にも成功しており、より自然な遺伝子を用いて過剰発現の系を得ることが可能となった。家族性クロイツフェルト・ヤコブ病(以下CJDと略)やゲルストマン・ストロイスラ-症候群のプリオン蛋白遺伝子に点変異が存在することが知られるようになってから、今までのマウスへの伝播実験で得られる実験動物では、モデル動物として不十分であることが明らかとなってきた。この不十分さを補うために、本研究ではプリオン病(特に点変異を有する)のマウスモデルの作製を主目的とした。まず、正常なプリオン蛋白の発現をめざして、ES細胞を用いてマウスからヒトへの遺伝子置換を行った。loxpの間にneo遺伝子とgpt遺伝子をはさむヒト型のプリオン蛋白遺伝子をES細胞に導入し、homologous recombinationを確認後、germ-line化し、ヘテロのマウスの受精卵にCre recombinaseを導入し、完全な形の遺伝子置換に成功した。この方法により、ヒト型プリオン蛋白が、マウスのプリオン蛋白と同様の発現分布および発現量が得られることが期待できる。次にプリオン蛋白遺伝子の過剰発現の系として、トランスジェニックのシステムを利用した。マウスのプリオン蛋白遺伝子のプロモーター領域、exon1,exon2をクローニングし、20kbpにおよぶintron2をBgl IIとBamH I間で欠失させたトランスジーンを準備し、マウスの卵に導入した。F1マウスのDNA解析にて、11匹中2匹にトランスジーンを確認し、現在はトランスジーンのホモ化を行っている。上記のように、予定していた過剰発現、および正常発現のヒト化マウスの作製の系は本研究の期間内に終了することが出来た。今後は、この系を使用して、さらに多くの変異マウスを作製するとともに、作製したマウスを用いて伝播実験を行う予定である。また、intron 2の欠失のないトランスジーンの作製にも成功しており、より自然な遺伝子を用いて過剰発現の系を得ることが可能となった。 | KAKENHI-PROJECT-07680822 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07680822 |
オンライン電話応答による喉頭癌スクリーニングシステムの開発 | 電話音声で喉頭癌のスクリーニングを行うためには、品質の良い音声データを収集する必要がある。電話音声の品質を左右する要素には、発声が小さすぎることによるS/Nの悪化や、大きすぎることによる信号のひずみ等がある。電話の着信に対しコンピュータで自動的に応答し音声を収集するようなシステムの場合、前者については信号レベルの絶対的な大きさで判断できるため、比較的簡単に適切なメッセージを返すことができる。しかし、後者については、音声波形がクリッピングされても、様々なフィルタを通過し、また、非線形性の影響を受けるため検出することは困難である。この検出を行うために、様々な音圧レベルで送信した音声を分析し、ひずみの有無に対する音声信号の特徴量の変化を調べ、また、聴覚的な印象の程度と比較した。このスクリーニングシステムでは持続して発声した母音/a/を使用する。波形レベルで飽和やクリッピングの影響を受けた音声信号を周波数分析すると、そのスペクトル構造が変化している。一般に、持続母音のような周期的な信号はクリッピング等の非線形の影響を受けることで高調波成分が増加しスペクトルが平坦化してくる。この傾向は電話回線を通して得られる音声でもみられることが分かった。電話音声をLPC分析しホルマント周波数のバンド幅を求めることで、ひずみの有無が判断できることが分かった。このアルゴリズムを電話音声による喉頭癌スクリーニングシステムに組み込み、より適切な音声が収集できるようになった。電話音声で喉頭癌のスクリーニングを行うためには、品質の良い音声データを収集する必要がある。電話音声の品質を左右する要素には、発声が小さすぎることによるS/Nの悪化や、大きすぎることによる信号のひずみ等がある。電話の着信に対しコンピュータで自動的に応答し音声を収集するようなシステムの場合、前者については信号レベルの絶対的な大きさで判断できるため、比較的簡単に適切なメッセージを返すことができる。しかし、後者については、音声波形がクリッピングされても、様々なフィルタを通過し、また、非線形性の影響を受けるため検出することは困難である。この検出を行うために、様々な音圧レベルで送信した音声を分析し、ひずみの有無に対する音声信号の特徴量の変化を調べ、また、聴覚的な印象の程度と比較した。このスクリーニングシステムでは持続して発声した母音/a/を使用する。波形レベルで飽和やクリッピングの影響を受けた音声信号を周波数分析すると、そのスペクトル構造が変化している。一般に、持続母音のような周期的な信号はクリッピング等の非線形の影響を受けることで高調波成分が増加しスペクトルが平坦化してくる。この傾向は電話回線を通して得られる音声でもみられることが分かった。電話音声をLPC分析しホルマント周波数のバンド幅を求めることで、ひずみの有無が判断できることが分かった。このアルゴリズムを電話音声による喉頭癌スクリーニングシステムに組み込み、より適切な音声が収集できるようになった。電話音声で喉頭癌のスクリーニングを行うためには、品質の良い音声データを収集しなければならない。音声の品質を決定する要素には様々なものがあるが、信号レベルが小さいことによるS/Nの悪化や、大き過ぎることによる受話器やアナログ回路での飽和が考えられる。前者については、信号レベルの絶対的な大きさで判断でき、適切に応答することが可能である。後者については、様々なフィルタを通過することによって滑らかな信号になってしまうため、信号のクリッピングという形では検出できない。ここでは、電話機での歪みがどのように音響パラメータに影響するかを調べるために、実際の電話回線を通して音声を送信しDAT装置に録音した。音声サンプルには、喉頭癌患者の音声も含まれている。送信時の受話器での平均的な音圧レベルを、85から115dBまで10dBずつ変化させて録音した。音圧レベルの大きいものについては、入力が過大になったことによる歪みが確認できた。この音声サンプルを音響分析的手法で分析し、飽和の特徴を示す音響パラメータについて検討を行った。この結果については学会誌に投稿を予定している。過小入力・過大入力による音声を自動的に検出する可能性が見つかり、これを現在運用中のシステムに組み込むことで状況に応じた適切な応答メッセージを返すことができ、品質の良い音響分析に適した音声を収集することが可能となる。電話音声で喉頭癌のスクリーニングを行うためには、品質の良い音声データを収集する必要がある。電話音声の品質を左右する要素には、発声が小さすぎることによるS/Nの悪化や、大きすぎることによる信号のひずみ等がある。電話の着信に対しコンピュータで自動的に応答し音声を収集するようなシステム場合、前者については信号レベルの絶対的な大きさで判断できるため比較的簡単に適切な応答を返すことができる。しかし後者については、様々なフィルタを通過しまた非線形性の影響を受けるため、波形のクリッピングという形では検出することは困難である。この検出を行うために、様々な音圧レベルで送信した音声を分析しひずみの有無に対する音声信号の特徴量の変化を調べ、また聴覚的な印象の程度と比較した。なお、このスクリーニングシステムでは持続母音/a/を使用している。波形レベルで飽和やクリッピングの影響を受けた音声信号を周波数分析すると、そのスペクトル構造が変化している。一般に、持続母音のような周期的な信号はクリッピング等の非線形の影響を受けることで高調波成分が増加し、スペクトルが平坦化してくる。この傾向は電話回線を通して得られる音声でもみられることが分かった。またこのことがホルマント分析においてホルマント周波数のバンド幅を広げ、同時に、高次ホルマントのレベルを増加させることが分かった。 | KAKENHI-PROJECT-09555118 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09555118 |
オンライン電話応答による喉頭癌スクリーニングシステムの開発 | また、前もってひずみのない電話音声に対するホルマントのバンド幅やレベルの範囲を調べておき、電話応答システムで得られた音声の分析結果を比べ、ひずみの疑いがある場合再度発声してもらうことで、適切な音声を収集できることが分かった。このクリッピング検出機能を従来の電話応答システムに組み込んだ。その改善の効果については引き続き調査を行っている。 | KAKENHI-PROJECT-09555118 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09555118 |
「治療義務論」と「治療行為論」との有機的連関に基づく医事刑法の理論的再構成 | ドイツ刑法判例・学説の「治療行為制約論」は、生命維持治療の制約要因として、親が同意権を濫用して呈示した治療拒絶意思をも刑法上有効と解し、治療拒絶それ自体を規整するための有効な法原理を定立しえていない。また、ドイツ刑法学説の「治療義務限定論」は、親による治療拒絶の問題については、その事後的結果たる治療放棄に着目し作為義務論の枠内で微視的に把捉するにすぎない。そのため、本来は、生命維持治療の不作為の適法性について論ずる以前に、「治療行為制約論」のもとで生命維持治療のための作為に対して親の拒絶意思が不当に事前抑制的に作用する点をまず問題視すべきであるにも拘わらず、「治療義務限定論」は、この点に対し批判的な検討を加える理論的契機を失い、やはり治療拒絶に対する有効な法的規整原理を示しえていない。このような刑法上の理論状況とは対蹠的に、民法・福祉法領域では、同意権の濫用への司法的介入が積極的になされ、親の治療拒絶意思を排除し治療放棄を事前に回避するための措置が可能となっている。これにより「治療行為制約論」の暇疵が超克され、年少患者の権利擁護の点からみて、治療拒絶への法的規整が実質化している。しかし、「治療行為制約論」が生命維持治療を不当に制約することがそもそも問題であり、刑法理論としても、親が同意権を濫用して呈示した治療拒絶意思は、司法的介入を待つまでもなく無効であり、当該拒絶意思に反した治療行為を違法とし処罰するべきではない。この点に関しては、推定的同意の法的性格をめぐる議論-専ら同意論のもとに本人の自己決定の延長上においてその主観的な意思方向に着目するのか、あるいは違法阻却の一般原理である優越的利益の原理に則して行為の客観的な優越利益性を考慮に入れるのか-なども踏まえつつ、さらに理論的深化を図ることが今後の課題となる。従来の医事刑法は、治療義務論と治療行為論とを完全に分化し、治療強制原理と治療制約原理とを別個に論じてきたが、このことにより、今日の医療実務において生起する具体的な問題への法的対応の指針を明確に呈示することが困難化している。例えば、親権者が子への生命維持治療を拒否した場合、治療義務論の見地からは子の救命のため生命維持治療が義務づけられる一方、治療行為論に基づく「同意原則」からは親権者の意思に反して治療を強行することに疑義が生じ、治療強制原理と治療制約原理との衝突により治療上のジレンマが生じる。本研究では、こうした問題に対処すべく、治療義務論と治療行為論との有機的連関により医事刑法の理論的な再構成を試みた。すなわち、理論的考察として、治療義務論と治療行為論との接点を見出すために、例えば、不作為の因果性の問題に着目することとした。いわゆる期待説によれば、不作為の条件関係は、「期待された作為」がなされていれば結果が回避されたであろう場合に肯定される。そして、条件関係論は、不作為犯においては、単に行為と結果の結合を論定するだけではなく、「期待された作為」が結果回避可能性のある行為として十分な実質を具備していたかという観点から作為義務を限定する機能を有する。この点を踏まえて、治療義務論と治療行為論とを連関させるべく、前者において「期待された作為」としての生命維持治療が結果回避可能性すなわち患者の救命可能性を具備した行為といえるか否か、そしてつまりは生命維持治療を義務づけうるか否かを判断するため、後者の視点から生命維持治療が治療行為として患者を救命しうるだけの医学的適応性を具備しているか否かをその判断基準とすることの妥当性について検討を試みた。治療義務論と治療行為論とを有機的に連関させ、前者に基づく治療強制原理と後者に基づく治療制約原理を調和させるため、例えば、不作為の因果性の問題に着目した。いわゆる期待説によれば、不作為の条件関係は、「期待された作為」がなされていれば結果が回避されたであろう場合に肯定される。そして、条件関係論は、不作為犯においては、単に行為と結果の結合を論定するだけではなく、「期待された作為」が結果回避可能性のある行為として十分な実質を具備していたかという観点から作為義務を限定する機能を有する。この点を踏まえて、治療義務論と治療行為論とを連関させるべく、前者において「期待された作為」としての生命維持治療が結果回避可能性すなわち患者の救命可能性を具備した行為といえるか否か、そしてつまりは生命維持治療を義務づけうるか否かを判断するため、後者の視点から生命維持治療が治療行為として患者を救命しうるだけの医学的適応性を具備しているか否かをその判断基準とすることを試みた。さらに、「期待された作為」としての生命維持治療の結果回避可能性のみならず、その結果回避行為としての容易性をも考慮に入れた。すなわち、治療行為論における医学的適応性の見地から生命維持治療による救命可能性と危険性とを考量し、生命維持治療が容易でなく救命が困難であると判断されるような場合には、治療義務論において生命維持治療を義務づけることは、適当ではないと考えた。そもそも不真正不作為犯の成立要件とされる作為と不作為の同価値性の観点からは、作為に出ることが困難な場合の不作為を作為犯とは同視しえないからである。 | KAKENHI-PROJECT-16653005 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16653005 |
「治療義務論」と「治療行為論」との有機的連関に基づく医事刑法の理論的再構成 | したがって、治療行為論の医学的適応性の見地から容易性を欠き困難な生命維持治療については、その不作為は、作為犯とは同視できず、その実施を義務づけることは、妥当ではないと考えた。ドイツ刑法判例・学説の「治療行為制約論」は、生命維持治療の制約要因として、親が同意権を濫用して呈示した治療拒絶意思をも刑法上有効と解し、治療拒絶それ自体を規整するための有効な法原理を定立しえていない。また、ドイツ刑法学説の「治療義務限定論」は、親による治療拒絶の問題については、その事後的結果たる治療放棄に着目し作為義務論の枠内で微視的に把捉するにすぎない。そのため、本来は、生命維持治療の不作為の適法性について論ずる以前に、「治療行為制約論」のもとで生命維持治療のための作為に対して親の拒絶意思が不当に事前抑制的に作用する点をまず問題視すべきであるにも拘わらず、「治療義務限定論」は、この点に対し批判的な検討を加える理論的契機を失い、やはり治療拒絶に対する有効な法的規整原理を示しえていない。このような刑法上の理論状況とは対蹠的に、民法・福祉法領域では、同意権の濫用への司法的介入が積極的になされ、親の治療拒絶意思を排除し治療放棄を事前に回避するための措置が可能となっている。これにより「治療行為制約論」の暇疵が超克され、年少患者の権利擁護の点からみて、治療拒絶への法的規整が実質化している。しかし、「治療行為制約論」が生命維持治療を不当に制約することがそもそも問題であり、刑法理論としても、親が同意権を濫用して呈示した治療拒絶意思は、司法的介入を待つまでもなく無効であり、当該拒絶意思に反した治療行為を違法とし処罰するべきではない。この点に関しては、推定的同意の法的性格をめぐる議論-専ら同意論のもとに本人の自己決定の延長上においてその主観的な意思方向に着目するのか、あるいは違法阻却の一般原理である優越的利益の原理に則して行為の客観的な優越利益性を考慮に入れるのか-なども踏まえつつ、さらに理論的深化を図ることが今後の課題となる。 | KAKENHI-PROJECT-16653005 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16653005 |
代数体上のアーベル多様体及びそのモジュライと保型形式に関する研究 | 代数曲線X上にd次の関数があるとき、Xはd-gonalであるという。特に、Xの種数が2以上かつd=2であるとき、Xを超楕円曲線と呼び、d=3のときXをtrigonal曲線と呼ぶ。モジュラー曲線X0(N)の上にはアトキン-レーナー対合と呼ばれる一連の対合が存在する。いまそれらの全体をW(N)とすると、これは位数が2のr乗の基本2-アーベル群となる。ただしrはNの相異なる素因子の個数である。1970年代にオッグによってX0(N)のうち超楕円曲線となるものがすべて決定された。その後、1990年代後半になって商曲線X0(N)/W'(ただしW'はW(N)の部分群)のうち超楕円曲線となるものが長谷川(本研究代表者)と橋本・古本両氏との共同研究者により決定された。この結果は定義方程式の計算を含め具体的に与えられており、そのためX0(N)/W'の有理点計算をするのに効果的な情報をもたらす。さて、X0(N)/W'のうちtrigonalとなるものの決定が1990年代後半より長谷川(本研究代表者)と志村真帆呂氏との共同研究により開始され、本研究の成果によりすべてのW'に対しtrigonalとなるX0(N)/W'の決定が完了した。その結果、自明にtrigonalとなるものを除けば(つまり、種数5以上で考えて)全部で18通りのtrigonal曲線があることがわかった。有理点探索などを行うにはよい平面モデルを与えておくことが重要であるが、それは|W'|=2またはW'=W(N)の場合には既に済んでいる。(W'={1}の場合は自明なtrigonal曲線しか存在しない。)今回X0(N)/W'(2<|W'|<W(N))でtrigonalとなっているものについてもよい平面モデルを計算するところまで行った。その成果をまとめたものは「11.研究発表(平成17年度の研究成果)」に記入したとおり論文として出版された。その後biellipticなる場合に対しても研究を進め一定の成果を得たが、これに関しては現時点で未出版で、平成19年度中にまとめて出版となる計画である。代数曲線X上にd次の関数があるとき、Xはd-gonalであるという。特に、Xの種数が2以上かつd=2であるとき、Xを超楕円曲線と呼び、d=3のときXをtrigonalと呼ぶ。モジュラー曲線X_0(N)の上にはアトキン-レーナー対合と呼ばれる一連の対合が存在する。W(N)によってX_0(N)上のアトキン-レーナー対合全体を表すと、W(N)は位数が2^r(ただし、rはNの相異なる素因数の個数)の基本2-アーベル群となる。1970年代にオッグによってX_0(N)のうち超楕円曲線となるものが全て決定された。その後、1990年代後半になって商曲線X_0(N)/W^l(ただしW^lはW(N)の部分群)のうち超楕円曲線となるものが長谷川(本研究代表者)と共同研究者により決定された。この結果は定義方程式の計算を含め具体的に与えられ、そのためX_0(N)/W^lの有理点計算をするにあたり効果的な情報をもたらす。さて、X_0(N)/W^lのうちtrigonalとなるものの決定が1990年代後半より長谷川(本研究代表者)と志村真帆呂氏との共同研究により開始され、本研究によりすべてのW^lに対しtrigonalとなるX_0(N)/W^lの決定が完了した。その結果、自明にtrigonalとなるものを除けば(つまり種数5以上で考えて)全部で18通りのtrigonal曲線があることがわかった。超楕円曲線のときと同じく、定義方程式の計算などが具体的に与えられているので、X_0(N)/W^lの有理点計算に一定の効果をもたらすと期待される。本研究で得た結果は2005年3月の日本数学会年会で発表した。また、現在論文投稿準備中である。代数曲線X上にd次の関数があるとき、Xはd-gonalであるという。特に、Xの種数が2以上かつd=2であるとき、Xを超楕円曲線と呼び、d=3のときXをtrigonal曲線と呼ぶ。モジュラー曲線X0(N)の上にはアトキン-レーナー対合と呼ばれる一連の対合が存在する。いまそれらの全体をW(N)とすると、これは位数が2のr乗の基本2-アーベル群となる。ただしrはNの相異なる素因子の個数である。1970年代にオッグによってX0(N)のうち超楕円曲線となるものがすべて決定された。その後、1990年代後半になって商曲線X0(N)/W'(ただしW'はW(N)の部分群)のうち超楕円曲線となるものが長谷川(本研究代表者)と橋本・古本両氏との共同研究者により決定された。この結果は定義方程式の計算を含め具体的に与えられており、そのためX0(N)/W'の有理点計算をするのに効果的な情報をもたらす。さて、X0(N)/W | KAKENHI-PROJECT-16740002 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16740002 |
代数体上のアーベル多様体及びそのモジュライと保型形式に関する研究 | 'のうちtrigonalとなるものの決定が1990年代後半より長谷川(本研究代表者)と志村真帆呂氏との共同研究により開始され、本研究の成果によりすべてのW'に対しtrigonalとなるX0(N)/W'の決定が完了した。その結果、自明にtrigonalとなるものを除けば(つまり、種数5以上で考えて)全部で18通りのtrigonal曲線があることがわかった。有理点探索などを行うにはよい平面モデルを与えておくことが重要であるが、それは|W'|=2またはW'=W(N)の場合には既に済んでいる。(W'={1}の場合は自明なtrigonal曲線しか存在しない。)今回X0(N)/W'(2<|W'|<W(N))でtrigonalとなっているものについてもよい平面モデルを計算するところまで行った。その成果をまとめたものは「11.研究発表(平成17年度の研究成果)」に記入したとおり論文として出版された。代数曲線X上にd次の関数があるとき、Xはd-gonalであるという。特に、Xの種数が2以上かつd=2であるとき、Xを超楕円曲線と呼び、d=3のときXをtrigonal曲線と呼ぶ。モジュラー曲線X0(N)の上にはアトキン-レーナー対合と呼ばれる一連の対合が存在する。いまそれらの全体をW(N)とすると、これは位数が2のr乗の基本2-アーベル群となる。ただしrはNの相異なる素因子の個数である。1970年代にオッグによってX0(N)のうち超楕円曲線となるものがすべて決定された。その後、1990年代後半になって商曲線X0(N)/W'(ただしW'はW(N)の部分群)のうち超楕円曲線となるものが長谷川(本研究代表者)と橋本・古本両氏との共同研究者により決定された。この結果は定義方程式の計算を含め具体的に与えられており、そのためX0(N)/W'の有理点計算をするのに効果的な情報をもたらす。さて、X0(N)/W'のうちtrigonalとなるものの決定が1990年代後半より長谷川(本研究代表者)と志村真帆呂氏との共同研究により開始され、本研究の成果によりすべてのW'に対しtrigonalとなるX0(N)/W'の決定が完了した。その結果、自明にtrigonalとなるものを除けば(つまり、種数5以上で考えて)全部で18通りのtrigonal曲線があることがわかった。有理点探索などを行うにはよい平面モデルを与えておくことが重要であるが、それは|W'|=2またはW'=W(N)の場合には既に済んでいる。(W'={1}の場合は自明なtrigonal曲線しか存在しない。)今回X0(N)/W'(2<|W'|<W(N))でtrigonalとなっているものについてもよい平面モデルを計算するところまで行った。その成果をまとめたものは「11.研究発表(平成17年度の研究成果)」に記入したとおり論文として出版された。その後biellipticなる場合に対しても研究を進め一定の成果を得たが、これに関しては現時点で未出版で、平成19年度中にまとめて出版となる計画である。 | KAKENHI-PROJECT-16740002 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16740002 |
桜島火山の活動により放出された水銀の環境動態に関する研究 | 桜島は日本有数の活火山であり、桜島及びその周辺地域の土壌はこれまでの爆発で放出された火山性堆積物によって、過去の噴火の歴史を記録している。一方、火山活動によって放出される水銀は、ほとんど金属水銀蒸気であり、火山灰等の噴出物は高温下で一度mercury freeの状態になった後、これら金属水銀蒸気を吸着しつつ降下すると考えられる。すなわち、火山性堆積物は土壌中の存在期間及び水銀の元々の化学形が明快な試料になり得る。この点に着目した著者らは、水銀の環境中での動態変化を追跡する第一段階として、桜島及びその周辺地域、7箇所において、表層からlcm毎に深度約1mまで土壌を採取し、総水銀濃度、水分含有量、有機物含有量及び粒度分布の測定を行った。それぞれの垂直分布及びそれらの相関についても検討した。その結果、水銀濃度と有機物含有量及び水分含有量の間に高い正の相関が見出され、土壌への水銀の供給に植物が重要な役割を持っていることが示唆された。しかし、明らかな火山性堆積物の層では、有機物含有量はほとんどが1%以下で、植物の影響をほとんど受けていないことがわかった。また、土壌中の水銀は上下方向へはほとんど移動しないことを実験的に明らかにし、本フィールドの火山性堆積物が、水銀の土壌中の経時変化を追跡するのに有用であることを確認する事ができた。また、年間を通じて大気中水銀(金属水銀蒸気)の測定を行ってきたが、気温-水銀濃度の間に温度-蒸気圧と同様の関係式が成り立つことを見出した。このことは、土壌表面と大気との間に蒸着発散機溝が存在することを示唆している。さらに、その関係式は桜島が気中水銀採取地点の風上になるときには成立せず、桜島から放出される水銀の影響を評価するのに有用な知見であることを見出した。桜島は日本有数の活火山であり、桜島及びその周辺地域の土壌はこれまでの爆発で放出された火山性堆積物によって、過去の噴火の歴史を記録している。一方、火山活動によって放出される水銀は、ほとんど金属水銀蒸気であり、火山灰等の噴出物は高温下で一度mercury freeの状態になった後、これら金属水銀蒸気を吸着しつつ降下すると考えられる。すなわち、火山性堆積物は土壌中の存在期間及び水銀の元々の化学形が明快な試料になり得る。この点に着目した著者らは、水銀の環境中での動態変化を追跡する第一段階として、桜島及びその周辺地域、7箇所において、表層からlcm毎に深度約1mまで土壌を採取し、総水銀濃度、水分含有量、有機物含有量及び粒度分布の測定を行った。それぞれの垂直分布及びそれらの相関についても検討した。その結果、水銀濃度と有機物含有量及び水分含有量の間に高い正の相関が見出され、土壌への水銀の供給に植物が重要な役割を持っていることが示唆された。しかし、明らかな火山性堆積物の層では、有機物含有量はほとんどが1%以下で、植物の影響をほとんど受けていないことがわかった。また、土壌中の水銀は上下方向へはほとんど移動しないことを実験的に明らかにし、本フィールドの火山性堆積物が、水銀の土壌中の経時変化を追跡するのに有用であることを確認する事ができた。また、年間を通じて大気中水銀(金属水銀蒸気)の測定を行ってきたが、気温-水銀濃度の間に温度-蒸気圧と同様の関係式が成り立つことを見出した。このことは、土壌表面と大気との間に蒸着発散機溝が存在することを示唆している。さらに、その関係式は桜島が気中水銀採取地点の風上になるときには成立せず、桜島から放出される水銀の影響を評価するのに有用な知見であることを見出した。桜島をほぼ一周するように5採取地点を設定した。各地点で、降下火山灰の堆積状況を詳細に記録した後、表層から深度約1mまで、1cmごとに試料を採取した。採取した試料はチャック付きビニール袋にいれて、実験室に持ち帰り、葉、根、石などを取り除き、総水銀濃度、水分含有量、有機物含有量および、粒度分布を測定した。桜島の土壌では、火山活動の活発な時期に降下した火山灰の堆積によって形成した層(A層)と、火山活動の穏やかな時期に形成した層(B層)とを区別することは容易であった。5地点より採取された約500検体について測定を行ったところ、試料中の総水銀濃度は、0.42-27.9μg kg^<-1>の範囲にあり、B層の水銀濃度に比べてA層の濃度がかなり低いことがわかった。水分含有量、有機物含有量は、それぞれ、2.1-22%、および、0.0-4.0%であり、やはりこれらの含有量もA層に比べてB層が多かった。そこで、これらの相互関係について検討したところ、試料を採取したいずれの地点においても、水銀濃度-水分含有量、水銀濃度-有機物含有量および水分含有量-有機物含有量の間に正の相関が見い出された。粒度分布の測定も行ったが、これについては得られた中央粒径値(2.2-3.6φ)と水銀濃度の間には相関は見られなかった。現在得られている結果からは、高温下で水銀を完全に放出した火山灰が、降下中に吸着する水銀は比較的微量であり、桜島土壌への水銀の供給は火山灰以外によるものがかなりのウェートを占めていることが示唆されている。 | KAKENHI-PROJECT-09640582 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09640582 |
桜島火山の活動により放出された水銀の環境動態に関する研究 | また、水銀濃度と有機物含有量、水分含有量との正の相関は極めて興味深い結果であり、水銀の環境中の挙動を探る上で、重要な手がかりとなることが期待される。今後、桜島火山の影響を受けていない地点より試料を採取し、桜島の結果と比較すること、また、試料中水銀の分別定量を行うことにより、さらに興味深い知見が得られると考えられる。桜島は日本有数の活火山であり、桜島及びその周辺地域の土壌はこれまでの爆発で放出された火山性堆積物によって、過去の噴火の歴史を記録している。一方、火山活動によって放出される水銀は、ほとんど金属水銀蒸気であり、火山灰等の噴出物は高温下で一度mercury freeの状態になった後、これら金属水銀蒸気を吸着しつつ降下すると考えられる。すなわち、火山性堆積物は土壌中の存在期間及び水銀の元々の化学形が明快な試料になり得る。この点に着目した著者らは、水銀の環境中での動態変化を追跡する第一段階として、桜島及びその周辺地域、7箇所において、表層から1cm毎に深度約1mまで土壌を採取し、総水銀濃度、水分含有量、有機物含有量及び粒度分布の測定を行った。それぞれの垂直分布及びそれらの相関についても検討した。その結果、水銀濃度と有機物含有量及び水分含有量の間に高い正の相関が見出され、土壌への水銀の供給に植物が重要な役割を持っていることが示唆された。しかし、明らかな火山性堆積物の層では、有機物含有量はほとんどが1%以下で、植物の影響をほとんど受けていないことがわかった。また、土壌中の水銀は上下方向へはほとんど移動しないことを実験的に明らかにし、本フィールドの火山性堆積物が、水銀の土壌中の経時変化を追跡するのに有用であることを確認する事ができた。また、年間を通じて大気中水銀(金属水銀蒸気)の測定を行ってきたが、気温-水銀濃度の間に温度-蒸気圧と同様の関係式が成り立つことを見出した。このことは、土壌表面と大気との間に蒸着発散機構が存在することを示唆している。さらに、その関係式は桜島が気中水銀採取地点の風上になるときには成立せず、桜島から放出される水銀の影響を評価するのに有用な知見であることを見出した。 | KAKENHI-PROJECT-09640582 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09640582 |
準連続発生高出力VUVコヒーレント光源の開発 | 基本光源と予備実験結果を基に、VUV光の高出力発生のための高効率波長変換技術の開発を実施した。準連続発生マルチモード赤外コヒーレンント光源(波長800nm)の波長変換による高出力UV光をVUV光発生のための紫外域の基本光源とし、エンハンスメント共振器へのビーム結合の最適化のためにモード形状制御およびパルス形状精密測定、さらに共振器のカップリング値の選択を行うことで、UV光入力790mWのとき波長199nmで60mW出力を発生し、また波長変換効率7. 6%を達成した。基本光源と予備実験結果を基に、VUV光の高出力発生のための高効率波長変換技術の開発を実施した。準連続発生マルチモード赤外コヒーレンント光源(波長800nm)の波長変換による高出力UV光をVUV光発生のための紫外域の基本光源とし、エンハンスメント共振器へのビーム結合の最適化のためにモード形状制御およびパルス形状精密測定、さらに共振器のカップリング値の選択を行うことで、UV光入力790mWのとき波長199nmで60mW出力を発生し、また波長変換効率7. 6%を達成した。本研究は、準連続発生の赤外域のレーザー光に複数段の高効率波長変換を行うことで発生例が限られるVUV領域(波長200nm以下)において、出力とコヒーレンス特性において優れ、実用性の高い新たな光源の実現を目的とする。これは当該波長領域の光応用の展開に資する光源開発を意図するものである。基本光源、エンハンスメント共振器、非線形結晶に関する技術開発が研究開発の主な課題となり、平成21年度は、基本光源の整備を行うとともに、VUV光発生に用いるため開発された特殊マウントによる非線形結晶KBBFの基礎特性を実施した。基本光源として準連続発生マルチモード赤外コヒーレンント光源を用い、波長800nm付近の安定した准連続パルス動作を確保した。ピコ秒動作による高い光ピーク値を活かして最終段波長変換の予備実験を行った。シングルパス配置の波長変換により波長199nmで出力25mWの発生を確認するとともに、また波長変換係数等の基礎特性を把握した。これらの結果は、次年度以降の高出力化へ向け有用な基礎データとなるとともに当該波長域での准連続コヒーレント光の新たな発生法として学会および論文にて発表した。本研究は、準連続発生の赤外域のレーザー光に複数段の高効率波長変換を行うことで発生例が限られるVUV領域(波長200nm以下)において、出力とコヒーレンス特性において優れ、実用性の高い新たな光源の実現を目的とする。これは当該波長領域の光応用の展開に資する光源開発を意図するものである。基本光源、エンハンスメント共振器、非線形結晶に関する技術開発が研究開発の主な課題となり、平成22年度は、前年度に整備した基本光源と予備実験結果を基に、VUV光の高出力発生のための高効率波長変換技術の開発を実施した。準連続発生マルチモード赤外コヒーレント光源(波長800nm)の波長変換による高出力UV光をVUV光発生のための紫外域の基本光源として、エンハンスメント共振器へのビーム結合の最適化のためにモード形状制御およびパルス形状精密測定、さらに共振器のカップリング値の選択を行うことで、UV光入力620mWのとき波長199nmで60mW出力を発生し、また波長変換効率6.8%を達成した。これらの結果は、最終年度へ向け目標達成への見通しを付けるとともに、当該波長域での新たなコヒーレント光発生技術として学会および論文にて発表した。本研究は、レーザー光に多段の高効率波長変換を行うことで発生例が限られる波長200nm以下の短波長域である真空紫外域において、出力とコヒーレンス特性を両立させる準連続発生方式で、実用性ある新たな光源技術確立を目的としている。これは当該波長領域の光応用の展開に資する光源開発を意図するものである。基本となる準連続発生光、光エンハンスメント、非線形光学結晶に関する技術開発が研究開発の重要課題となり、最終年度となる平成23年度は、前年度までに技術的な目途をつけた高効率波長変換技術を、ビーム形状の精密制御、光ビームの段間結合の効率向上などとともに、さらに残留損失の低減するため仕組みを考案し、特性の解析と光源としての質の向上をめざして開発を実施した。高効率波長変換技術では、ビーム形状制御等のほか、エンハンスメント共振器内の微小の残留ロスがその性能を決定づける大きな要因である。これまで波長変換結晶の入出力側に新たな低損失構造を設けた(ブリュースターカットKBBF-PCD)波長変換実験を実施し、システム完成度を高めた。また更なる研究展開を踏まえ、新たな低損失化共振技術を含む技術確開発を行った。このように、最終年度にあたり目標の光源技術に見通しを付けるとともに、当該技術による新たなコヒーレント光発生の成果を学会および論文にて発表した。 | KAKENHI-PROJECT-21360029 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21360029 |
短期交換留学生は異文化にどう適応しているか | 本研究課題では短期交換留学生として派遣・受入れされた調査協力者39名とともにPersonal Attitude Construct分析(個人別態度構造PAC分析と示す)(内藤1993)とマンスリー・レポートの内省記述の分析を基に、留学意義のイメージや意味解釈を加えながら、認知変容の分析・考察を縦断的に行う質的研究を進めてきた(奥村2012; 2016)。しかし、調査協力者の文化への理解は、表層的な知覚、気づきに留まっている場合と、価値観、態度、行動を左右し変化させる認識に至っている場合では大きな差があること、その文化に関しても深さの差が多岐に亘っていることが明らかとなった。研究代表者の勤務大学でも、教育の国際化を目指し、学術交流協定書に則り、海外の大学と短期交換留学生を相互交換している。本研究課題の目的は、異文化間心理学、言語教育の統合的視点から、1、派遣・受入れ生たちはいかに文化を受容し異文化適応をしているかの認知構造の分析の為のPAC分析(内藤1993)とインタビュー調査を通して、認知面、情動面、そして態度・行動面を考察し、2、留学から2年経過した段階で、国際的な人材育成の視点から留学の意味と意義を改めて問い、3、有意義な交換留学派遣と受入れの促進に直結した留学前ガイダンスや事前・事後指導、そして異文化間教育の参考となるデータを収集し発信すること、の3点である。4年にわたっての本研究課題の2年目である2012年度には、以下の研究活動を行った。1、認知構造の分析であるPAC分析を行うにあたり、留学開始時、留学半ばの時点、留学終了時向けの連想反応を得る刺激文を微調整した。2、2012年8月31-9月1日の英国日本語教育学会で受入れ学生1名の異文化適応のケースの報告を行った。3、2011年9ー10月来日の協定大学A、B、Cからの受入れ生5名とAに派遣された2名に対して、昨年度に続き、PAC分析3(留学終了時)を基にしたインタビューを行った。4、2012年4月来日の協定大学Dからの受入れ生3名、10月に来日したA、B、C、Eからの8名、及び新たにAに派遣された2名とDとEに派遣された各1名を含む全員にPAC分析1(留学開始時)、全受入れ生とEへの派遣生にPAC分析2(留学半ばの時点)を行った。5、派遣生には、毎月マンスリー・レポートを記述してもらい、許可を得て分析の参考資料とする。6、3と4の文字化を進め、異文化適応に影響する要因を集団要素と個人要素に分類し、現在個人要素に注目した分析を進めており、2013年夏の学会で発表する予定である。高等教育機関においてグローバル人材の養成が喫緊の課題である昨今、グローバル社会に求められる人材には、語学力のみならず、相手の価値観や文化的背景を理解しその場に合わせて行うコミュニケーション力も必要とされる。その能力を習得する絶好の機会である短期交換留学に関しても、積極的な促進と質の向上が望まれる。本研究課題では、異文化間心理学、言語教育の二面から、認知行動分析の一手法であるPAC(Personal Attitude Construct)分析(内藤1993)を応用し、1、短期交換留学制度を通して提携大学と双方向に交換される受入学生と派遣学生(調査協力者)に対し、留学直前または直後(PAC1)、そして留学中半ば(PAC2)、留学後(PAC3)に認知面、情動面、そして態度・行動面での異文化適応を考察し、2、留学から2年経過した段階で、改めて留学の意味、意義を問い、彼らの人生の中での留学を考えることにより、異文化適応モデルを考察し、3、これらの資料を有意義な交換留学派遣と受入の促進に役立つ予備教育、予防的教育の支援・指導に繋ぐ、ことの3点である。本研究課題3年目である2013年度には以下の研究活動を行った。1)2012年10月来日の受入生とのPAC2・3、派遣生とのPAC2・3を実施、2013年10月派遣・受入生のPAC1・2を行った。PAC分析学会においてPAC分析の開発者から面談についての指導を受け、面談技法の改善を行った。現在これらの書き起こし作業と分析を進めている。2)英国での異文化コミュニケーション関連の研究会において本研究課題についてコメントを得、参考となる異文化適応モデルに関する多岐に亘る示唆を得た。3)本来対面式で行なう派遣された調査協力者とのインタビューだが、Skypeを使用してのe-PAC分析を試験的に3件行い、遠隔地であっても対応し得ることを確認した。日本の大学と海外の協定大学間では、学生交流の協定書に則り、学生の短期交換留学を相互に行っている。本研究課題の目的は、異文化間心理学、言語教育の統合的視点から、1、派遣・受入れ生たちはいかに文化を受容し異文化適応をしているかについて、認知構造の分析であるPAC分析(内藤1993)とインタビュー調査を通して、認知面、情動面、そして態度・行動面を考察し、2、留学から2年経過した段階で、国際的な人材育成の視点から留学の意味と意義を改めて問い、3、有意義な交換留学派遣と受入れの促進に直結した留学前ガイダンスや事前・事後指導、そして異文化間教育の参考となるデータを収集し発信すること、の3点である。初年度の2011年度には、以下の研究活動を行った。 | KAKENHI-PROJECT-23520667 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23520667 |
短期交換留学生は異文化にどう適応しているか | 1、認知構造の分析であるPAC分析において、目的に適合する連想反応を得る刺激文を作成。また、2011年5月に勤務大学の短期交換留学の派遣候補生と指導教員から研究への協力の承諾を得た。2、2011年9月、英国の学会において、短期交換生を含む留学生向けの、日本人とのコミュニケーション活動を重視した授業実践報告を発表。3、2011年9ー10月に協定大学A、B、Cからの受入れ生5名と協定大学Aへの派遣生2名へのPAC分析1(留学前、または到着直後)とインタビューを実施。4、2012年3月に上記被験者7名のPAC分析2(留学中間時点)とインタビューの実施。5、協定大学Aへの派遣生については、毎月マンスリー・レポートの記述と提出をしてもらい、その都度フィードバックを返している。6、2012年4月に新たに協定大学Dから到着した受入れ生3名にPAC分析1(到着直後)とインタビューを実施。3、4、6で収集したデータについては、その文字化中で、今後5とともに分析を進め、研究の成果の一部を口頭発表、もしくは論文での発表をする予定である。本研究課題では、グローバル人材の育成をめざし推進している短期交換留学制度を通して海外の交流協定大学へ派遣された学生とそれらの協定大学から日本へ派遣された留学生の異文化適応を、異文化間心理学、言語教育の両面から考察するものである。研究の目的は、1)彼らの異文化適応において重要な要素は何か、2)彼らの新しい異文化への適応プロセスはいかなるものか、3)交換留学生間に何らかの共通する適応プロセス・パターンがあるか、4)彼らにとっての留学の意義はどのように変化しているか、を調査・研究することである。認知構造分析の手法である内藤(2002)のPAC(Personal Attitude Construct)分析を2011年度から、留学の初期段階(PAC-A)、留学半ば(PAC-B)、そして留学直後(PAC-C)に実施し、認知面、情動面、そして態度・行動面から調査、考察を行っている。それに加え、留学後2年から3年(PAC-D)の段階の調査を可能な範囲で実施し、改めて留学の意味、意義を問い、彼らにとっての留学像を炙り出すことにより、今後の留学前の予備教育の指導や留学を促進する出版物などに生かす考えである。2014年度は、分析に応用できる異文化適応とその適応能力についての先行研究から様々な理論的なフレームワークを学んだ。加えて派遣学生から出されるダイアリー的な記述の分析方法に関する助言を英国の研究者から得、PAC分析からの結果を補完する分析を行っている。一方、データ収集に関しては、2013・14年度の派遣・受入れ生のPAC-A、B、Cを継続的に行うと同時に、2011・2年度の受入れ生のPAC-Dを一部実施し、彼らにとっての留学の意義を改めて問うことができた。また、今後Skypeでの遠隔インタビューに備え、PAC分析支援ソフトのマニュアルを元にその英語版を作るべくソフトの開発者と検討中である。経済産業省(2011)がこれからのグローバル人材として挙げるのは、1)語学力・コミュニケーション能力、2)主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感、3)異文化に対する理解と自国の人間としてのアイデンティティなどの要素や資質を併せ持つ人材である。 | KAKENHI-PROJECT-23520667 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23520667 |
係留バルーン磁力計による活断層構造の調査 | 一昨年(1991年)及び1988年に行った地表面における全磁力測定の結果を参考して,また現地には電柱・塔などの障害物がないことを確かめて,我々は鳥取市吉岡温泉の南,吉岡断層をバルーン磁力計による測定対象として選んだ。そして農学部農場を利用してバルーンの飛揚テストを重ねた後,1992年12月19日に,現地における測定を実施した。当日は幸い晴天かつ殆んど無風という好条件に恵まれて予定した測線上に設けた9点において最高100mまで磁気センサーと吊下げたバルーンを飛揚させて各高度毎の全磁力値を測定することができた。測定結果の概要は次の通りである。1.地表において正(負)の磁気異常が存在する地店では,全磁力値は高度と共い減少(増大)してほぼ一定の値に落着く。2.センサー高度およそ30m40mで一定値に落着く地点と,センサー高度が100m程度になって落着く場合がある。吉岡断層上の二次元的磁気異常の上では後者の変化パターンが見られる。3.地表及び上空での全磁力値分布に基きこれらの磁気異常を作る源を計算してみると,吉岡断層直下の位置に断層の走行方向にほぼ直交して厚さ68.4m,帯磁率2.9×10^<-3>o.m.uの岩脈が地表下11.9mの波さに北下り11.6の傾斜で存在しているとして説明できる。4.この岩脈状磁性体の底面の深さは200m以深である。一昨年(1991年)及び1988年に行った地表面における全磁力測定の結果を参考して,また現地には電柱・塔などの障害物がないことを確かめて,我々は鳥取市吉岡温泉の南,吉岡断層をバルーン磁力計による測定対象として選んだ。そして農学部農場を利用してバルーンの飛揚テストを重ねた後,1992年12月19日に,現地における測定を実施した。当日は幸い晴天かつ殆んど無風という好条件に恵まれて予定した測線上に設けた9点において最高100mまで磁気センサーと吊下げたバルーンを飛揚させて各高度毎の全磁力値を測定することができた。測定結果の概要は次の通りである。1.地表において正(負)の磁気異常が存在する地店では,全磁力値は高度と共い減少(増大)してほぼ一定の値に落着く。2.センサー高度およそ30m40mで一定値に落着く地点と,センサー高度が100m程度になって落着く場合がある。吉岡断層上の二次元的磁気異常の上では後者の変化パターンが見られる。3.地表及び上空での全磁力値分布に基きこれらの磁気異常を作る源を計算してみると,吉岡断層直下の位置に断層の走行方向にほぼ直交して厚さ68.4m,帯磁率2.9×10^<-3>o.m.uの岩脈が地表下11.9mの波さに北下り11.6の傾斜で存在しているとして説明できる。4.この岩脈状磁性体の底面の深さは200m以深である。本研究は平成3年度から4年度の2年間にわたって行われる計画のものであり,本年度はその初年度に当る。今年度は研究の主体となる系留バル-ン磁力計の製作とその飛揚テスト並びに測定予定地(吉岡断層)一帯の地表全磁力値サ-ベイの追加実施を目標として研究を開始した。係留バル-ン磁力計の製作はKKガウス製作所(東京)に依頼し,これに対する指導は大志乃(東京在住)が担当した。バル-ン磁力計の製作は順調に進行して納入され1991年10月2223日に鳥取大学農学部所属農場において飛揚テストを行った。その結果,バル-ンはプロトン磁力計のセンサ-部分を持上げる充分な浮力を持つこと,全磁力値のシグナルも安定に受信できることが確認された。ただ残念ながらテスト当日の風がやや強く(約7m/sec),揚程高度は安全のために20m程度に止めた。しかしながらこのテストによって風に対する対策に関する多くの経験を得ることができた。また,これとは別に,吉岡断層に対して全磁力値サ-ベイを実施し,従来得られていた全磁力値の線的分布ではなく面的な分布を知ることができたがこの結果も吉岡断層の全磁力値の二次元的分布を確認するものであった。一昨年(1991年)及び19988年に行った地表面における全磁力測定の結果を参考して,また現地には電柱・塔などの障害物がないことを確かめて,我々は鳥取市吉岡温泉の南,吉岡断層をバルーン磁力計による測定対象として選んだ。そして農学部農場を利用してバルーンの飛揚テストを重ねた後,1992年12月19日に、現地における測定を実施した。当日は幸い晴天かつ殆ど無風という好条件に恵まれて予定した測線上に設けた9点において最高100mまで磁気センサーと吊下げたバルーンを飛揚させて各高度毎の全磁力値を測定することができた。測定結果の概要は次の通りである。1.地表において正(負)の磁気異常が存在する地点では、全磁力値は高度と共い減少(増大)してほぼ一定の値に落着く。2.センサー高度およそ3040mで一定値に落着く地点と、センサー高度が100m程度になって落着く場合がある。吉岡断層上の二次元的磁気異常の上では後者の変化パターンが見られる。 | KAKENHI-PROJECT-03452058 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03452058 |
係留バルーン磁力計による活断層構造の調査 | 3.地表及び上空での全磁力値分布に基きこれらの磁気異常を作る源を計算してみると、吉岡断層直下の位置に断層の走行方向にほぼ直交して厚さ68.4m、帯磁率2.9×10^<-3>o.m.uの岩脈が地表下11.9mの深さに北下り11.6の傾斜で存在しているとして説明できる。4.この岩脈状磁性体の底面の深さは200m以深である。 | KAKENHI-PROJECT-03452058 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03452058 |
電気化学アプローチによるグアニン類縁体の酸化損傷研究とDNA損傷マーカーの検索 | 最近、アセトアルデヒドによるDNA損傷が、アルコールによる発ガン機構の最初のアクションであることを支持する統計的結果が報告されています。サイクリックプロパノグアニン(CPrG)はその損傷形態として有力であり、近年提唱されるDNA鎖内電子ホッピング機構による酸化損傷発生論を背景に、私はこの損傷塩基を原因とする塩基情報の読み違い機構の一部として、後続酸化反応が関与していることを提案しました。水系媒体内でのCPrGの電解酸化反応の結果、主生成物の一つとしてCPrG二分子縮合体が見いだされました。CPrG及び縮合体の各種NMRスペクトルの詳細な比較から、縮合体中の2つのCPrG部位は、非常に良く似ていなが、ら化学シフトが僅かにずれて等価ではない2つの構造を有することが示され、この生成物は、結合部位が同一ではない2分子縮合体である構造であることが強く示唆されました。加えて、多次元NMR法かち2分子の架橋接点を突き止め、全体構造を決定しました。この同定構造はMS/MS分析で完全に支持されました。この構造から、生成物は、片方のCPr-Guaから2電子1プロトン引き抜き結果生じるカルボカチオンと未酸化のCPr-Guaから生じたと考えられました。この反応機構は、分子軌道計算結果からも支持されました。MOPACによるDNAコンフォメーションの検討は、DNA異鎖間及び同鎖間で形成することが可能であり、特に後者は遺伝子情報のミスリーディングに直結する損傷と言えます。ごく最近、鎖内にCPr-G部位を形成させた二本鎖DNAを直接電解酸化したところ、この2分子縮合体の形成を確認しました。また、この2分子縮合体は、飲酒習慣者の発ガン危険度を示すマーカーとして用いることができる可能性があります。(発表論文は、バイオマーカーである損傷塩基分析を目的とする高機能分離分析法の開発に関するものです。)最近、アセトアルデヒドによるDNA損傷が、アルコールによる発ガン機構の最初のアクションであることを支持する統計的結果が報告されています。サイクリックプロパノグアニン(CPrG)はその損傷形態として有力であり、近年提唱されるDNA鎖内電子ホッピング機構による酸化損傷発生論を背景に、私はこの損傷塩基を原因とする塩基情報の読み違い機構の一部として、後続酸化反応が関与していることを提案しました。水系媒体内でのCPrGの電解酸化反応の結果、主生成物の一つとしてCPrG二分子縮合体が見いだされました。CPrG及び縮合体の各種NMRスペクトルの詳細な比較から、縮合体中の2つのCPrG部位は、非常に良く似ていなが、ら化学シフトが僅かにずれて等価ではない2つの構造を有することが示され、この生成物は、結合部位が同一ではない2分子縮合体である構造であることが強く示唆されました。加えて、多次元NMR法かち2分子の架橋接点を突き止め、全体構造を決定しました。この同定構造はMS/MS分析で完全に支持されました。この構造から、生成物は、片方のCPr-Guaから2電子1プロトン引き抜き結果生じるカルボカチオンと未酸化のCPr-Guaから生じたと考えられました。この反応機構は、分子軌道計算結果からも支持されました。MOPACによるDNAコンフォメーションの検討は、DNA異鎖間及び同鎖間で形成することが可能であり、特に後者は遺伝子情報のミスリーディングに直結する損傷と言えます。ごく最近、鎖内にCPr-G部位を形成させた二本鎖DNAを直接電解酸化したところ、この2分子縮合体の形成を確認しました。また、この2分子縮合体は、飲酒習慣者の発ガン危険度を示すマーカーとして用いることができる可能性があります。(発表論文は、バイオマーカーである損傷塩基分析を目的とする高機能分離分析法の開発に関するものです。)グアニンのアルコール摂取による一損傷体であるサイクリックプロパノグアニン(CPr-Gua)の電解酸化を分光学的に追跡し、そこで生成する酸化生成物の同定を行いました。一般にCPr-Guaのようなアルキル化グアニンは酸化的損傷を受けやすくなるため、その酸化損傷体の構造は、CPr-Gua形成の毒性を解明する重要な手掛りになります。ここでは、反応環境として水系(中性リン酸緩衝液)と非水系(アセトニトリル溶液)の双方を検討しました。水系は、生体内の標準的な環境として、非水系は、水の酸化活性種による基質酸化への関与を除外し、最近の注目されている、DNA鎖からの電子引き抜きから始まる塩基損傷機構の起こりうる場としての意味を持ちます。薄層電解分光法による各電解電位における紫外吸収スペクトルの推移は、水系と非水系で有意に異なりました。非水系では、250nm付近の極大吸収波長で明確なレッドシフト観測され、電解生成分子における共役鎖の伸張が示唆されました。水系でもわずかなレッドシフトを観測しましたが、非水系とは異なる反応が主であることが示唆されました。電解溶液を逆相HPLC/ESI-MSで分析した結果、水系ではCPr-Guaより分子量の小さな分解成分が主に観測されました。これに加えて、副成分としてCPr-Guaの二量体が含まれていました。NMR及び高分解能ESI-MSによる分析の結果、異なる部位で連結した構造であり、片方のCPr-Guaから2電子1プロトン引き抜き結果生じるカルボカチオンと未酸化のCPr-Guaから生じたと考えられました。この反応は、HOMO・LUMOエネルギー計算結果からも支持されました。 | KAKENHI-PROJECT-17590035 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17590035 |
電気化学アプローチによるグアニン類縁体の酸化損傷研究とDNA損傷マーカーの検索 | 一方、非水系では、この二量体が主成分として生成しており、スペクトルの明確なレッドシフトはこのためと判りました。生体内での酸化損傷を考える場合、水系及び非水系双方の生成物が重要と思われます。アセトアルデヒド分解酵素2型の欠損遺伝子を有するひとの、飲酒由来の発ガン率の高さは、アセトアルデヒドによるDNA損傷が、アルコールによる発ガン機構の最初のアクションである可能性が高いことを示しています。サイクリックプロパノグアニン(CPrG)はその損傷形態として有力であり、斎藤らによって提唱されるDNA鎖内電子ホシピング機構による酸化損傷発生論を背景に、私はこの損傷塩基を原因とする塩基情報の読み違い機構の一部として、二つのCPrGの酸化的縮合体生成を提案しました。まず、前年の検討で生成が示唆された、このCPrG縮合体の構造を決定するため、電解を酸化手段として酸化生成物を相当量合成し、詳細な構造解析を行いました。まず、CPrG及び縮合体の^1H-NMRスペクトル、^<13>C-NMR、の詳細な比較から、縮合体中の2つのCPrG部位は、非常に良く似ていながら化学シフトが僅かにずれて等価ではない2つの構造を有することが示され、結合部位が同一ではない2分子縮合体である構造が強く示唆されました。加えて、多次元NMR法(DEPT観測及び且MBC観測)で2分子の架橋接点を突き止め、全体構造を決定しました。この構造はMS/MS分析でも支持されました。この構造は、MOPACによるDNAコンフォメーションの検討より、DNA異鎖間及び同鎖間で形成することが可能であり、特に後者は遺伝子情報のミスリーディングに直結する損傷と言えます。現在、二本鎖DNA鎖内にCPrG部位を形成させて直接電解酸化を行い、鎖内に二本鎖形成が生じるかどうかを検討しております。また、この2分子縮合体は、発ガン危険度を示すマーカーとして用いることができる可能性があります。(掲載した発表論文は、バイオマーカーとしての損傷DNA塩基分析を目的に高機能分離分析法の開発を志向して行った研究の成果です。) | KAKENHI-PROJECT-17590035 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17590035 |
第二次世界大戦後のヨーロッパにおける崩壊社会の再建と地域和解 | 第二次世界大戦期のナチ・ジェノサイドと強制移住はその全ヨーロッパ的広がりと複合性にもかかわらず、これまで主としてドイツ史上の問題として取り扱われてきた。しかし、ナチ・ジェノサイドと強制移住がともに中東欧の秩序全体に波及する問題であったこと、それに対する処理が第二次世界大戦の戦後処理の枠内で国際社会の多様な要因とアクターが絡み合うなかで進められたことに鑑みれば、同問題をヨーロッパという地域全体の問題としてとらえるとともに、第二次世界大戦後の国際関係の文脈のなかに位置づける必要がある。また、冷戦終結後の欧州統合の拡大の流れの中でこれに関わる正義の回復と歴史的記憶の問題が改めて浮上し、関係各国間に摩擦を生んでいる現状を踏まえれば、この問題を長期的なスパンでとらえることの重要性も明らかである。本研究では、第二次世界大戦後のヨーロッパにおける、ナチ・ジェノサイドと強制移住後の秩序再編と社会変動について、国際社会における国家間の力学、当該地域における社会経済構造や民族構成の変化、被害者・加害者双方の社会復帰ならびに社会再建への共同参画を進めるための法的、制度的、社会的枠組みの形成、精神的後遺症に対するメンタルケアを含めた被害者の救済・支援のあり方など幅広い観点から包括的に検討した。同時に、ヨーロッパにおける社会再建の分析を通じて、他地域におけるジェノサイド後の地域和解・反ジェノサイド社会構築のための指針を提供することを目的として、歴史的記憶の継承と地域和解の展開と現状についても検討を行なった。国民国家原理に基づく、主としてエスニックな基準による少数者排除の論理が20世紀において各国内ならびに国際社会においていかに正当性を獲得し、また失っていくか、民族問題の解決のためにとられる手段としての暴力が戦争・紛争のなかでいかに急進化し、大規模な強制移住や虐殺による絶滅に帰着するにいたるか、崩壊した秩序が国内的・地域的に再編されていく際にいかなる要因が作用するかを考えるうえで、第二次世界大戦期のヨーロッパは20世紀史における重要な事例である。これがどのような世界史的文脈に置かれているかを整理するために、本研究では近現代世界の諸地域における様々な類似現象との比較を進めたが、今後の研究の一層の進展のためにはさらに多くの事例との比較が不可欠となろう。第二次世界大戦期のナチ・ジェノサイドと強制移住はその全ヨーロッパ的広がりと複合性にもかかわらず、これまで主としてドイツ史上の問題として取り扱われてきた。しかし、ナチ・ジェノサイドと強制移住がともに中東欧の秩序全体に波及する問題であったこと、それに対する処理が第二次世界大戦の戦後処理の枠内で国際社会の多様な要因とアクターが絡み合うなかで進められたことに鑑みれば、同問題をヨーロッパという地域全体の問題としてとらえるとともに、第二次世界大戦後の国際関係の文脈のなかに位置づける必要がある。また、冷戦終結後の欧州統合の拡大の流れの中でこれに関わる正義の回復と歴史的記憶の問題が改めて浮上し、関係各国間に摩擦を生んでいる現状を踏まえれば、この問題を長期的なスパンでとらえることの重要性も明らかである。本研究では、第二次世界大戦後のヨーロッパにおける、ナチ・ジェノサイドと強制移住後の秩序再編と社会変動について、国際社会における国家間の力学、当該地域における社会経済構造や民族構成の変化、被害者・加害者双方の社会復帰ならびに社会再建への共同参画を進めるための法的、制度的、社会的枠組みの形成、精神的後遺症に対するメンタルケアを含めた被害者の救済・支援のあり方など幅広い観点から包括的に検討した。同時に、ヨーロッパにおける社会再建の分析を通じて、他地域におけるジェノサイド後の地域和解・反ジェノサイド社会構築のための指針を提供することを目的として、歴史的記憶の継承と地域和解の展開と現状についても検討を行なった。国民国家原理に基づく、主としてエスニックな基準による少数者排除の論理が20世紀において各国内ならびに国際社会においていかに正当性を獲得し、また失っていくか、民族問題の解決のためにとられる手段としての暴力が戦争・紛争のなかでいかに急進化し、大規模な強制移住や虐殺による絶滅に帰着するにいたるか、崩壊した秩序が国内的・地域的に再編されていく際にいかなる要因が作用するかを考えるうえで、第二次世界大戦期のヨーロッパは20世紀史における重要な事例である。これがどのような世界史的文脈に置かれているかを整理するために、本研究では近現代世界の諸地域における様々な類似現象との比較を進めたが、今後の研究の一層の進展のためにはさらに多くの事例との比較が不可欠となろう。本研究は,第二次世界大戦期に大規模なジェノサイドや強制移住を経験したヨーロッパについて,大戦終結後の秩序再編の二重性(国内の社会再建と地域的な秩序再編の同時進行),秩序再編の段階性,長期性(冷戦下での地域秩序の再編と冷戦終結後の地域秩序の再再編),秩序再編のための取組みの包括性という三点の特徴に着目しながら,国内的,地域的な秩序再編の様相を分析するものである。具体的には,(a)社会崩壊と秩序変動,(b)被害者支援,加害者の統合,(c)被害者のメンタルケア,(d)歴史的記憶の継承,(e)再発防止のための教育実践の5つの観点から分析を行なう。これらの分析を通じて地域和解,反ジェノサイド社会の構築のための方策を追究し,ジェノサイド後の社会復興を急務とする地域の復興,再建に応用してゆくための指針を提供することが本研究の目的である。 | KAKENHI-PROJECT-19320115 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19320115 |
第二次世界大戦後のヨーロッパにおける崩壊社会の再建と地域和解 | 研究初年度にあたる本年度は,ゲオルク,エッカート,国際教科書研究所(ドイツ),北東アジア財団(韓国)との協力の下に平成20年10月にブランシュヴァイク市(ドイツ)にて開催予定の国際シンポジウムの準備会合を,研究代表者ならびに研究分担者1名がFalkPingel博士(ゲオルク,エッカート,国際教科書研究所),ハン,ウンスク教授(高麗大学)らとともに平成19年5月にソウル市(韓国)にて開催した。また,同年10月には研究代表者ならびに研究分担者2名がハレ市(ドイツ)にてHarald.G.Muller教授(ハレ,ヴィッテンベルク大学)と研究交流を行なった。そのほか,同年6月,8月,11月,平成20年1月に計4回の研究打ち合わせを東京大学にて行なった。研究成果の公表としては,研究代表者ならびに研究分担者の一部が,雑誌,口頭報告等のかたちで成果を公表した。本研究は、第二次世界大戦期に大規模なジェノサイドや強制移住を経験したヨーロッパについて、大戦終結後の秩序再編の二重性(国内の社会再建と地域的な秩序再編の同時進行)、秩序再編の段階性・長期性(冷戦下での地域秩序の再編と冷戦終結後の地域秩序の再再編)、秩序再編のための取組みの包括性という三点の特徴に着目しながら、国内的・地域的な秩序再編の様相を分析するものである。具体的には、(a)社会崩壊と秩序変動、(b)被害者支援・加害者の統合、(c)被害者のメンタルケア、(d)歴史的記憶の継承、(e)再発防止のための教育実践の5つの観点から分析を行なう。これらの分析を通じて地域和解・反ジェノサイド社会の構築のための方策を追究し、ジェノサイド後の社会復興を急務とする地域の復興・再建に応用してゆくための指針を提供することが本研究の目的である。研究二年度目にあたる本年度は、ゲオルク・エッカート・国際教科書研究所(ドイツ)、北東アジア財団(韓国)との協力の下に、平成20年10月にブランシュヴァイク市(ドイツ)にて、国際シンポジウム「History Education and Reconciliation - comparative perspectives on East Asia」をFalk Pinge1博士(ゲオルク・エッカート・国際教科書研究所)、ハン・ウンスク教授(高麗大学)らとともに開催し、研究代表者と連携研究者1名が参加した。また、同年10月には研究代表者ならびに研究分担者1名がハレ市(ドイツ)にてHarald.G,Muller教授(ハレ・ヴィッテンベルク大学)と研究交流を行なっだ。研究成果の公表としては、研究代表者ならびに研究分担者の一部が、雑誌、口頭報告等のかたちで成果を公表した。本研究は、第二次世界大戦期に大規模なジェノサイドや強制移住を経験したヨーロッパについて、大戦終結後の秩序再編の二重性(国内の社会再建と地域的な秩序再編の同時進行)、秩序再編の段階性・長期性(冷戦下での地域秩序の再編と冷戦終結後の地域秩序の再再編)、秩序再編のための取組みの包括性という三点の特徴に着目しながら、国内的・地域的な秩序再編の様相を分析するものである。具体的には、(a)社会崩壊と秩序変動、(b)被害者支援・加害者の統合、(c)被害者のメンタルケア、(d)歴史的記憶の継承、(e)再発防止のための教育実践の5つの観点から分析を行なう。これらの分析を通じて地域和解・反ジェノサイド社会の構築のための方策を追究し、ジェノサイド後の社会復興を急務とする地域の復興・再建に応用してゆくための指針を提供することが本研究の目的である。 | KAKENHI-PROJECT-19320115 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19320115 |
植物ゲノムにおける特定DNA配列の分布 | 本研究は、植物の特定DNA配列がゲノム内でどのような分布をしているかを明らかにする事を目的とし、ソラマメ由来の高度反復配列であるBamHlファミリ-(250bp及び1500bp配列)あるいはタバコゲノムより単離した自己複製能をもった配列(ARS)をプロ-ブとしたサザン・ハイブリダイズ法及びin situハイブリダイズ法による解析を行い以下のような結果を得た。1.ソラマメ(vicia faba)BamHlファミリ-の250bpと1500bpの相同配列が、カラスノエンドウ(Vicia angustifolia)およびスズメノエンドウ(Vicia hirsuta)のソラマメ属の野生種にも分裂散型反復配列として存在することが明かとなり、さらに、250bp配列と1500bp配列は古くは互いに隣接した形でのみゲノム内に存在したいたものが、進化の過程で分離しながら別のファミリ-を形成するようになったということが示唆された。またカラスノエンドウ染色体における1500bp相同配列の分布に注目すると、ほとんどの場合、長腕あるいは短腕のテロルメもしくは動原体付近に見出され、長腕の中間の位置には存在しないか、存在していてもわずかであることが分かった。1500bp配列が全ての染色体の全長にわたって存在しているソラマメゲノムにおける分布様式とこの結果を対比させて考えると、この配列が進化と共に分散化が強まっていったことが示唆される。2.タバコARSと相同な配列はタバコ以外のいくつかの植物種にも存在することが分かった。その中で、ソラマメについてin situハイブリダイゼイションを行ったところ、明確な結果は未だ得られていないが、傾向として、銀粒子が各染色体に存在することを示唆するパタ-ンが多数得られた。今後、さらに比活性の高いプロ-ブを得るか、ARSと相同な配列をソラマメから単離しされをプロ-ブに用いることにより確かなデ-タを得る必要があろう。本研究は、植物の特定DNA配列がゲノム内でどのような分布をしているかを明らかにする事を目的とし、ソラマメ由来の高度反復配列であるBamHlファミリ-(250bp及び1500bp配列)あるいはタバコゲノムより単離した自己複製能をもった配列(ARS)をプロ-ブとしたサザン・ハイブリダイズ法及びin situハイブリダイズ法による解析を行い以下のような結果を得た。1.ソラマメ(vicia faba)BamHlファミリ-の250bpと1500bpの相同配列が、カラスノエンドウ(Vicia angustifolia)およびスズメノエンドウ(Vicia hirsuta)のソラマメ属の野生種にも分裂散型反復配列として存在することが明かとなり、さらに、250bp配列と1500bp配列は古くは互いに隣接した形でのみゲノム内に存在したいたものが、進化の過程で分離しながら別のファミリ-を形成するようになったということが示唆された。またカラスノエンドウ染色体における1500bp相同配列の分布に注目すると、ほとんどの場合、長腕あるいは短腕のテロルメもしくは動原体付近に見出され、長腕の中間の位置には存在しないか、存在していてもわずかであることが分かった。1500bp配列が全ての染色体の全長にわたって存在しているソラマメゲノムにおける分布様式とこの結果を対比させて考えると、この配列が進化と共に分散化が強まっていったことが示唆される。2.タバコARSと相同な配列はタバコ以外のいくつかの植物種にも存在することが分かった。その中で、ソラマメについてin situハイブリダイゼイションを行ったところ、明確な結果は未だ得られていないが、傾向として、銀粒子が各染色体に存在することを示唆するパタ-ンが多数得られた。今後、さらに比活性の高いプロ-ブを得るか、ARSと相同な配列をソラマメから単離しされをプロ-ブに用いることにより確かなデ-タを得る必要があろう。平成元年度当初の研究計画としては次の2点があった。1)ソラマメ(Vicia faba)に存在する分散型高度反復配列及びヘテロクロマチン成分の高度反復配列がV.faba以外のVicia属植物のゲノムにおける分布のパタ-ンを調べ、Vicia属内のゲノムの変異の様式を探る。2)タバコから単離された自己複製能を有するDNA配列(ARS)のタバコ染色体における分布を見るとともに、このARSのタバコ以外の植物ゲノムにおける分布を調べる。これらの解析によって植物染色体上の複製開始点の位置及びその共通性の有無を知る。1)に関しては、ソラマメの分散型高度反復配列の一つであるBamHIファミリ-がVicia属の野生種においてどのような分布様式をとっているかを、カラスノエンドウ(V.angustifolia ssp,segetalis)及びスズメエンドウの(V.hirsuta)についてin situハイプリダイズ法によって解析した。その結果、少なくともカラスノエンドウゲノムにおいてはこの反復配列は分散しておらず、複数の染色体上にクラスタ-を形成して存在していることを示唆するパタ-ンが得られた。もしそうであるならば、ソラマメにおける分散型反復配列の成立過程を知る上で興味深い。現在更に解析中である。一方、2)に関しては、クロ-ン化したタバコのARSをプロ-ブにしてゲノミック・サザンを実施し、タバコ以外のいくつかの植物における相同配列の有無を検索した結果、調べた全ての種に存在することが明かとなった。このことは、植物においてDNA複製の起点として機能する配列がよく保存されていることを暗示しており、その染色体における分布様式をin situハイブリダイズ法で調べる予定である。 | KAKENHI-PROJECT-01540562 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01540562 |
植物ゲノムにおける特定DNA配列の分布 | 本研究は、植物の特定DNA配列がゲノム内でどのような分布をしているかを明らかにする事を目的とし、ソラマメ由来の高度反復配列であるBamHIファミリ-(250bp及び1500bp配列)、あるいはタバコゲノムより単離した自己複製能をもった配列(ARS)をプロ-ブとしたサザン・ハイブリダイズ法及びin situハイブリダイズ法による解析を行い以下のような結果を得た。1.ソラマメ(Vicia faba)BamHIファミリ-の250bpと1500bpの相同配列が、カラスノエンドウ(Vicia angustifolia)およびスズメノエンドウ(Vicia hirsuta)のソラマメ属の野生種にも分散型反復配列として存在することが明かとなり、さらに、250bp配列と1500bp配列は古くは互いに隣接した形でのみゲノム内に存在していたものが、進化の過程で分離しながら別のファミリ-を形成するようになったということが示唆された。またカラスノエンドウ染色体における1500bp相同配列の分布に注目すると、ほとんどの場合、長腕あるいは短腕のテロメアもしくは動原体付近に見出され、長腕の中間の位置には存在しないか、存在していてもわずかであることが分かった。1500bp配列が全ての染色体の全長にわたって存在しているソラマメゲノムにおける分布様式とこの結果を対比させて考えると、この配列が進化と共に分散化が強まっていったことが示唆される。2.タバコARSと相同な配列はタバコ以外のいくつかの植物種にも存在することが分かった。その中で、ソラマメについてin situハイブリダイゼイションを行ったところ、明確な結果は未だ得られていないが、傾向として、銀粒子が各染色体に存在することを示唆するパタ-ンが多数得られた。今後は、さらに比活性の高いプロ-プを得るか、ARSと相同な配列をソラマメから単離しそれをプロ-ブに用いることにより確かなデ-タを得る必要があろう。 | KAKENHI-PROJECT-01540562 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01540562 |
学校と企業のパートナーシップに関する国際比較調査研究 | イデオロギー対立の終焉の後の失われた10年と言われる間に、経済開発モデルとしての日本の地位は地に落ちた。代わってグローバリゼーションが風靡し、各国の経済開発を牽引するモデルとしてアメリカの地位が強大になった。国際的な経済競争に勝つか否かは教育システムがボーダーレスになった世界経済に適合しているかどうかが一つの重要な鍵になっているのではないかと考え、平成11年度から平成13年度までの3年間、英、米、独、仏、オランダ、ノールウエー、ヨーロッパ連合、中国、韓国、台湾、タイ、マレーシア、シンガポール、オーストラリアの12カ国2地域を訪問し、これらの国で学校と企業の間のパートナーシップの状況を調査した。調査には団体あるいは個人で25回延べ36人が出かけた。またこの間に、国内学会で3回、国際学会で2回、国際セミナーとワークショップでそれぞれ1回発表し評価を受けた。報告書は第2年度に中間報告書(125頁)と最終年度に最終報告書(232頁)を刊行した。調査の結果、共通に見られる傾向としては、脱イデオロギーと経済競争への対応が教育の最も強力な動因となったことにより、官僚支配が弱まり市場化・民営化がどこの国も起こっており、グローバリゼーションの影響を強く受けていることが分かった。その結果、教育システムと経済システムの調和的あり方がどこの国においても重要な課題とされており、教育改革が模索されている。その対応のあり方に、経済そのものの建て直しがうまくいっていないロシア連邦などと、急成長を遂げつつある中国などとは大きな差が見られた。他方、新経済開発国(NIES)と言われる韓国、台湾及びシンガポールではグローバルな経済に対応した人材育成に成功している。注目すべきことは、これらの国が脱日本の政策をとっているらしいことである。かつて日本を先頭とする国際分業の雁行モデルが語られたことがあったが、今は影を潜めてしまった。逆に、日本は改革のスピードが遅く、日本のまねをしていてはならないという考えが強くなっている。韓国、台湾、シンガポールの国々は、米国を先頭とするグローバリゼーションに柔軟についていく姿勢を見せており、イギリスに倣って学校教育と就職後の職能開発を統合する傾向がある。イデオロギー対立の終焉の後の失われた10年と言われる間に、経済開発モデルとしての日本の地位は地に落ちた。代わってグローバリゼーションが風靡し、各国の経済開発を牽引するモデルとしてアメリカの地位が強大になった。国際的な経済競争に勝つか否かは教育システムがボーダーレスになった世界経済に適合しているかどうかが一つの重要な鍵になっているのではないかと考え、平成11年度から平成13年度までの3年間、英、米、独、仏、オランダ、ノールウエー、ヨーロッパ連合、中国、韓国、台湾、タイ、マレーシア、シンガポール、オーストラリアの12カ国2地域を訪問し、これらの国で学校と企業の間のパートナーシップの状況を調査した。調査には団体あるいは個人で25回延べ36人が出かけた。またこの間に、国内学会で3回、国際学会で2回、国際セミナーとワークショップでそれぞれ1回発表し評価を受けた。報告書は第2年度に中間報告書(125頁)と最終年度に最終報告書(232頁)を刊行した。調査の結果、共通に見られる傾向としては、脱イデオロギーと経済競争への対応が教育の最も強力な動因となったことにより、官僚支配が弱まり市場化・民営化がどこの国も起こっており、グローバリゼーションの影響を強く受けていることが分かった。その結果、教育システムと経済システムの調和的あり方がどこの国においても重要な課題とされており、教育改革が模索されている。その対応のあり方に、経済そのものの建て直しがうまくいっていないロシア連邦などと、急成長を遂げつつある中国などとは大きな差が見られた。他方、新経済開発国(NIES)と言われる韓国、台湾及びシンガポールではグローバルな経済に対応した人材育成に成功している。注目すべきことは、これらの国が脱日本の政策をとっているらしいことである。かつて日本を先頭とする国際分業の雁行モデルが語られたことがあったが、今は影を潜めてしまった。逆に、日本は改革のスピードが遅く、日本のまねをしていてはならないという考えが強くなっている。韓国、台湾、シンガポールの国々は、米国を先頭とするグローバリゼーションに柔軟についていく姿勢を見せており、イギリスに倣って学校教育と就職後の職能開発を統合する傾向がある。世界主要国における学校と企業のパートナーシップに関する国際調査研究を目的とする本プロジェクトは、初年度、(1)研究総会を7月3日に開催し,(2)研究会を12月18日に開催した.(3)海外調査に関しては、山田達雄研究代表者と本間学研究分担者は8月28日9月初旬にかけてアメリカのフロリダ州商工会議所の行っている教育支援事業及びディズニーワールド社がセレブレーション市で実施している学校支援活動等を調査した。岩崎久美子研究分担者は9月7日17日にヨーロッパに出張し、欧州連合(EU)がギリシャで開催した「産業と教育における新しい広がり」に出席するほか、ベルギーのEU本部を訪れ欧州連合の教育と企業の連繋に関する現状を調査した。坂野慎二研究分担者は9月13日25日にドイツに出張し、マックスプランク教育研究所、ドイツ連邦雇用庁、職業学校等を訪問しドイツにおける学校と企業の連携に関して調査した。澤野由紀子研究分担者はオランダ政府が主催した「社会的インクルージョン促進のための世代間交流プロジェクトに関する国際会議」に出席するほか、アムステルダム市等を訪問調査し、オランダにおける学校と企業の連携を調査した。池田 | KAKENHI-PROJECT-11691110 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11691110 |
学校と企業のパートナーシップに関する国際比較調査研究 | 充裕研究分担者と手嶋將博研究協力者は11月13日12月26日にシンガポール及びマレーシアをそれぞれ訪問し、これらの国における職業教育制度と政策の現状を調査した。馬場将光研究分担者は12月9日18日にロンドン大学、マンチェスター大学の専門家を訪問し、英国における大学と企業の連携に関する情報を入手した。稲葉継男研究分担者は2月16日22日に韓国の商工会議所及び経済団体連合会を訪れ、韓国における学校と企業の連携を調査した。一見真理子及び白土悟研究分担者は2月27日3月5日に中国深せん州の大学、職業学校、教育委員会、留学人員創業公司を訪問し、中国における学校と企業の連携を調査した。山田礼子((同志社大学文学部助教授)7月18日7月24日にイギリスのノッティンガム大学、Sheffield Hallam University・Sheffield Universityを訪問調査した。池田紘一(九州大学教授)は、7月28日8月8日にドイツのカッセル大学、ベルリン大学を訪問調査した。平田利文(大分大学教授)は、12年8月6日8月13日にタイ国の文部省、企業、大学を訪問調査した。佐々木毅(国立教育政策研究所総括研究官)は、9月5日9月13日にイギリスの教育行政当局、シティテクノロジーカレッジを訪問調査した。山田達雄研究代表は、権藤與志夫(アジア太平洋センター理事長)と共に9月23日10月1日に中国の新彊ウイグル自治区行政機関および新彊大学、新彊師範大学、新彊工学院、新彊農学院、中等専門学校等を訪問調査するととに、中等教育学生及び訪問先の大学生対象に価値観と職業選択に関するアンケート調査を実施した。今年度11月3日4日に開催した研究総会に合わせて、海外から研究分担者のジョン・モルガン(ノッティンガム大学教授)を招聘して、研究会を開催した。また、モルガン教授は龍谷大学、京都大学、北海道大学、国立教育政策研究所、早稲田大学を訪問し、研究者とインタビュー調査を行った。池田充裕(日本学術振興会特別研究員)と手嶋將博筑波大学大学院生は11月18日12月2日にマレーシア国及びシンガポール国のシンガポール国立大学、マネジメント大学、ボリテクニック・継続教育センター、国家生産性庁、富士通支店、日本商工会議所他を訪問調査した。池田輝政(名古屋大学高等教育研究センター教授)は、平成13年3月12日3月15日にアメリカ合衆国のミネソタ大学、ニューヨーク大学、ACE(全米教育評議会)、DEC(遠隔教育協会)を訪問調査した。山田達雄(中村学園大学教授)と権藤與志夫アジア太平洋センター理事長は、3月12日3月15日に韓国のKEDI(韓国教育開発研究所)、ソウル大学、韓国教育大学、延世大学等を訪問調査した。その他、研究会を3回開催した。第1回は6月27日に中村学園内会議室で、研究協力者の中野和光福岡教育大学教授を招いて「米国のカリキュラム改革動向:企業との連携の視点から」の話を聞いて討議した。第2回目の研究回は、10月27日に同じく中村学園内で、大江淳良メディアファックトリー株式会社常勤監査役を招いて「大学と企業との連携」に関する研究会を開催した。 | KAKENHI-PROJECT-11691110 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11691110 |
運動制御における脳の適応的可塑性 | 本研究班の主要な目的は可塑性神経回路の動作原理が最も端的に現れる運動制御を例にとり、学習運動の成立を含めて高次神経系にみられる適応的可塑性の原理を解明し、そしてそれを確立することにある。この壮大な研究目的にチャレンジするためには、随意運動の成立過程、自動運動の成立過程、また脳損傷後にみられる運動機能の再獲得など複数の課題に対するアプローチが当然必要となり、またそのためにはシナプスを含めたニューロンの微細構築と、またその系を作動させる化学物質の同定も必要となる。そしてまた一方では次々と同定されるputative chemical agentがシステムの中にとりこまれたとき、予想される機能を発現し得るのか否かを解析することも重要な問題となる。この班に所属する11名の班員は、それぞれ独創的な立場から異なる実験モデルで研究を展開し、研究の初年度にもかかわらず今後に期待をもてる研究成果を上げつつある。適応的可塑性の原理を解明するためには上に述べたいくつもの問題点を、異なる実験モデルで並列的に取り上げ、またそれぞれの問題点を一つ一つ細部にわたって解決し、共通項を求めていく努力が必要と考えられる。さらにその一方では大胆な作業仮説を提示することも、研究の実りある発展を期する上で重要なポイントとなろう。第四班では班員一人一人の報告書からも理解できるように着実なデータの積み重ねと、そのデータの読み取りから構築し得る作業仮説の提示を二大目標として研究を展開してきた。その意味で班員の研究努力によって得られつつある新しいデータの数々と新しい実験モデルの確立は、適応的可塑性の原理を解明する上で重要となる作業仮説の提示を十分に予想させるものであり、研究初年度の目標はかなりの程度まで満足したものと考えられる。本研究班の主要な目的は可塑性神経回路の動作原理が最も端的に現れる運動制御を例にとり、学習運動の成立を含めて高次神経系にみられる適応的可塑性の原理を解明し、そしてそれを確立することにある。この壮大な研究目的にチャレンジするためには、随意運動の成立過程、自動運動の成立過程、また脳損傷後にみられる運動機能の再獲得など複数の課題に対するアプローチが当然必要となり、またそのためにはシナプスを含めたニューロンの微細構築と、またその系を作動させる化学物質の同定も必要となる。そしてまた一方では次々と同定されるputative chemical agentがシステムの中にとりこまれたとき、予想される機能を発現し得るのか否かを解析することも重要な問題となる。この班に所属する11名の班員は、それぞれ独創的な立場から異なる実験モデルで研究を展開し、研究の初年度にもかかわらず今後に期待をもてる研究成果を上げつつある。適応的可塑性の原理を解明するためには上に述べたいくつもの問題点を、異なる実験モデルで並列的に取り上げ、またそれぞれの問題点を一つ一つ細部にわたって解決し、共通項を求めていく努力が必要と考えられる。さらにその一方では大胆な作業仮説を提示することも、研究の実りある発展を期する上で重要なポイントとなろう。第四班では班員一人一人の報告書からも理解できるように着実なデータの積み重ねと、そのデータの読み取りから構築し得る作業仮説の提示を二大目標として研究を展開してきた。その意味で班員の研究努力によって得られつつある新しいデータの数々と新しい実験モデルの確立は、適応的可塑性の原理を解明する上で重要となる作業仮説の提示を十分に予想させるものであり、研究初年度の目標はかなりの程度まで満足したものと考えられる。 | KAKENHI-PROJECT-61131001 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-61131001 |
個人差から注意の最適制御戦略を探る | 注意の最適制御戦略を探る目的で、個人差を梃子にして能動的注意制御能を調べる実験を行った。1)年齢による前頭葉機能の衰えに伴う能動的注意機能低下を調べることを目的として、注意の捕捉を起こしにくい視覚probe検出課題を工夫した上で、これと聴覚課題とを組み合わせた二重課題事態での空間的注意配分を、若年者と高齢者(両者は能動的注意機能に差があると想定される)で比較したところ、高齢者では、若年者と比較して全体として検出成績が低下していたことに加え、聴覚入力が左耳からの場合、右耳からの場合と比較して、probeの見落としが増えた。これは、左耳からの入力では左半球で言語課題を処理することと右半球で刺激を検出することが相互に干渉したためだと解釈できる。2)作業記憶の個人差と空間的注意機能の個人差との関連を分析する目的で、2種類の作業記憶容量(言語性と視空間性)を測定し、その成績により被験者を二群に分け、群間で外発的注意制御及び内発的注意制御機能を比較した。その結果、能動的注意の維持と言語性作業記憶容量が関係することを伺わせる知見を得たが、全体としては、空間的注意制御と作業記憶の容量とは関連しなかった。これは、予想しなかった結果であった。さらに、予備的な実験として、attentional blink実験での干渉抑制と注意容量配分を調べる実験を行い、両者がT1とT2のSOAに対し、異なる変化パターンを示すことを示唆する結果を得た。注意の最適制御戦略を探る目的で、個人差を梃子にして能動的注意制御能を調べる実験を行った。1)年齢による前頭葉機能の衰えに伴う能動的注意機能低下を調べることを目的として、注意の捕捉を起こしにくい視覚probe検出課題を工夫した上で、これと聴覚課題とを組み合わせた二重課題事態での空間的注意配分を、若年者と高齢者(両者は能動的注意機能に差があると想定される)で比較したところ、高齢者では、若年者と比較して全体として検出成績が低下していたことに加え、聴覚入力が左耳からの場合、右耳からの場合と比較して、probeの見落としが増えた。これは、左耳からの入力では左半球で言語課題を処理することと右半球で刺激を検出することが相互に干渉したためだと解釈できる。2)作業記憶の個人差と空間的注意機能の個人差との関連を分析する目的で、2種類の作業記憶容量(言語性と視空間性)を測定し、その成績により被験者を二群に分け、群間で外発的注意制御及び内発的注意制御機能を比較した。その結果、能動的注意の維持と言語性作業記憶容量が関係することを伺わせる知見を得たが、全体としては、空間的注意制御と作業記憶の容量とは関連しなかった。これは、予想しなかった結果であった。さらに、予備的な実験として、attentional blink実験での干渉抑制と注意容量配分を調べる実験を行い、両者がT1とT2のSOAに対し、異なる変化パターンを示すことを示唆する結果を得た。平成18年度は、予備的な検討として、作業記憶及び性格特性で実験参加者を群分けし、それぞれの群について、空間的注意機能、二重課題時の成績低下、ストループ干渉量の違いなどを比較した。その結果、作業記憶の個人差によりStroop干渉抑制の程度(これは、ストループ条件から非ストループ条件に変化した後で、反応時間がベースラインの反応時間からどれ位遅延したかで調べた)に作業記憶による個人差が見られた。具体的には、作業記憶容量の大きな群では容量の小さな群に比べ、より反応時間の遅延が大きくなり、干渉抑制をより強く働かせていることが想定された。また、外向性や神経症傾向が注意の切り替え課題でのStroop干渉抑制に影響することも判明した。具体的には、外交的で神経症傾向の低い実験参加者では、その逆の内向的で神経症傾向の高い実験参加者に比べ、数字を英語で読む課題に続いて行われたStroop課題での抑制がより小さかった。これは、英語で数字を読むという行為は、数字は英語・日本語での共通の表現(アラビア数字)であるため、より習熟した日本語での反応が自動的に生じてしまい、それを抑制しつつ英語で読む必要がある。この抑制傾向が、引き続き行われたSTROOP課題での干渉量を減らす作用を及ぼしたものと考えられた。以上のように、作業記憶容量及び性格特性の個人差が、注意課題に影響することが確認された。その影響は、1つは作業記憶で重要な機能だとされる抑制を媒介としていることが伺えた。さらに、現在、作業記憶と手がかり提示による空間的注意制御及び音声に対する応答と視覚検出課題を組み合わせた二重課題での成績低下が生ずることを確認する予備実験を行っているところである。与簿実験としては、検出課題をbottom-upの注意制御をなるべく無くした条件とbottom-upの注意制御が可能な条件(onset及びsingletonによる注意の捕捉が生ずる条件)の2条件を設定し、注意を向ける主課題と組み合わせて実験を行うことにしている。作業記憶容量の個人差により被験者を分類し、それぞれの群でbottom-upの注意制御がより強い条件と弱い条件とで二重課題時の単独課題に対する成績低下のあり方が異なっているかどうかを次年度の課題としている。注意の最適制御戦略を探る目的で、個人差を梃子にして能動的注意制御能を調べる実験を行った。 | KAKENHI-PROJECT-18530556 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18530556 |
個人差から注意の最適制御戦略を探る | 1)年齢による前頭葉機能の衰えに伴う能動的注意機能低下を調べることを目的として、注意の捕捉を起こしにくい視覚probe検出課題を工夫した上で、これと聴覚課題とを組み合わせた二重課題事態での空間的注意配分を、若年者と高齢者(両者は能動的注意機能に差があると想定される)で比較したところ、高齢者では、若年者と比較して全体として検出成績が低下していたことに加え、聴覚入力が左耳からの場合、右耳からの場合と比較して、probeの見落としが増えた。これは、左耳からの入力では左半球で言語課題を処理することと右半球で刺激を検出することが相互に干渉したためだと解釈できる。2)作業記憶の個人差と空間的注意機能の個人差との関連を分析する目的で、2種類の作業記憶容量(言語性と視空間性)を測定し、その成績により被験者を二群に分け、群間で外発的注意制御及び内発的注意制御機能を比較した。その結果、能動的注意の維持と言語性作業記憶容量が関係することを伺わせる知見を得たが、全体としては、空間的注意制御と作業記憶の容量とは関連しなかった。これは、予想しなかった結果であった。さらに、予備的な実験として、attentional blink実験での干渉抑制と注意容量配分を調べる実験を行い、両者がT1とT2のSOAに対し、異なる変化パターンを示すことを示唆する結果を得た。 | KAKENHI-PROJECT-18530556 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18530556 |
皮下脂肪厚を利用した各種身体組成評価法の検討 | 本研究では、一般の人でも手軽に測定でき、普段その変化に気づきやすい皮下脂肪厚が持つ情報を、様々な角度から見直し、それを利用した各種身体組成評価法を提案することを目的とした。その結果、皮下脂肪厚およびフィールドで利用可能な人体計測変数により、内臓脂肪面積や部位別(四肢、体幹)脂肪量に関する簡易推定式等を開発し、国内外のジャーナルにその成果を公表した。本研究では、一般の人でも手軽に測定でき、普段その変化に気づきやすい皮下脂肪厚が持つ情報を、様々な角度から見直し、それを利用した各種身体組成評価法を提案することを目的とした。その結果、皮下脂肪厚およびフィールドで利用可能な人体計測変数により、内臓脂肪面積や部位別(四肢、体幹)脂肪量に関する簡易推定式等を開発し、国内外のジャーナルにその成果を公表した。本研究では、一般の人でも手軽に測定でき、普段その変化に気づきやすい皮下脂肪厚が持つ情報を、様々な角度から見直し、それを利用した各種身体組成評価法を提案することを目的に、本年度では、以下の課題について、データ収集および基礎的な分析を実施した。1.皮下脂肪厚を利用した体脂肪分布・体型・肥満タイプ評価法の検討2.全身各部位の皮下脂肪厚と各種(全身、表面、内臓、部位別)脂肪量の関係の検討3.皮下脂肪厚を利用した各種(表面、内臓、部位別)脂肪量の推定法の開発まず、皮下脂肪厚の計測として精度の異なる2種類の超音波皮下脂肪測定器により測定し、測定精度の違いがもたらす測定値への影響を測定部位別に検討した。その結果、両測定器の信頼性は概ね高いが、皮下脂肪厚の薄い部位(頬骨部、舌骨部、下腿部)、あるいは皮下組織の複雑な部位(背中上部、背中下部、膝蓋部)は、測定器の精度の違いが、測定値の誤差に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、肩甲骨下部や大腿外部は男女により測定器の精度の違いが、測定誤差に反映される可能性が示唆された。つまり全身17部位のうち、測定誤差の大きさは部位間差があり、測定器の精度の影響を受けやすい部位もあることが明らかにされた。この結果を受けて、全身各部位の皮下脂肪厚と各種(全身、表面、内臓、部位別)脂肪量の関係を検討するために、超音波法による皮下脂肪厚とCT法による脂肪量を測定し、両者の関係から、皮下脂肪厚による各種脂肪量の推定式の開発を試みた。本研究は、一般の人でも手軽に測定でき、普段その変化に気づきやすい皮下脂肪厚が持つ情報を、様々な角度から見直し、それを利用した各種身体組成評価法を提案することを目的として種々の課題を検討している。本年度は、皮下脂肪厚を利用した各種(表面、内臓、部位別)脂肪量の推定法の開発を主なテーマとし、以下の課題について検討を行った。1.内臓脂肪量と各部皮下脂肪厚、その他形態変数相互の関係の検討2.表面脂肪量と各部皮下脂肪厚、その他形態変数相互の関係の検討3.皮下脂肪厚を利用した内臓脂肪面積推定法の検討4.部位別脂肪量と皮下脂肪厚、その他形態変数相互の関係の検討5.皮下脂肪厚を利用した部位別脂肪量推定法の検討6.部位別脂肪量を用いた内臓脂肪面積推定法の検討(追加)フィールドでも利用可能な内臓脂肪面積の簡易推定法として、皮下脂肪厚を利用した方法を検討した。全身の脂肪量と全身の皮下脂肪厚から推定した表面皮下脂肪量の差を予測変数として内臓脂肪面積の推定を試みた結果、フィールドでの利用に耐えうる推定式が得られた。さらに、当初の研究計画には含まれていなかったが、部位別脂肪量を用いた市販のインピーダンス測定器により得られる体幹部脂肪量を予測変数とした内臓脂肪面積推定法を検討し、有効な推定式が得られた。これらの研究成果は国際誌においてアクセプトされている。これらに加え、部位別脂肪量の簡易推定法の検討を試みた。内臓脂肪面積に加え、これらの部位別脂肪量は、体型や肥満タイプの評価にも利用が期待され、フィールドで利用可能な推定法やそれらを利用した評価法について今後も検討する。本研究は、一般の人でも手軽に測定でき、普段その変化に気づきやすい皮下脂肪厚が持つ情報を、様々な角度から見直し、それを利用した各種身体組成評価法を提案することを目的として種々の課題を検討している。本年度は、前年度より検討している課題(皮下脂肪厚と各種(全身、表面、内蔵、部位別)脂肪量との関係、および各種脂肪量の推定法の検討)に加え、皮下脂肪厚の変化と各種脂肪量の変化の対応関係について、持久的トレーニングおよび筋力トレーニングによる影響を踏まえて検討した。1)皮下脂肪厚を利用した体脂肪分布、体型、肥満タイプ評価法の検討2)全身各部位の皮下脂肪厚と各種脂肪量との関係の検討3)皮下脂肪厚を利用した各種脂肪量との関係の検討4)全身各部位の皮下脂肪厚の変化と各種脂肪量の変化との関係の検討a.持久的運動が各種(全身、表面、内臓、部位別)脂肪量に及ぼす影響b.筋力トレーニングが各種(全身、表面、内臓、部位別)脂肪量に及ぼす影響皮下脂肪厚と各種脂肪量との関係について検討した結果、腹部の皮下脂肪厚と内臓脂肪との間に非線形な関係が認められ、肥満レベルや肥満タイプによって異なる可能性が示唆された。すなわち、両者は直線的な関係で増加していくが、肥満レベルが一定水準を超えると、内臓脂肪の増加のみが認められた。 | KAKENHI-PROJECT-17300217 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17300217 |
皮下脂肪厚を利用した各種身体組成評価法の検討 | これは、皮下脂肪の蓄積量には限界があり、それを超えると、内臓脂肪の蓄積が顕著になることを示唆しており、代謝異常をきたす肥満レベルについて、人種や性別、肥満タイプ等を考慮して評価する際のヒントになるかもしれない。最終年度にあたる本年度は、これまでの研究成果を包括的に整理することに加え、縦断的な体組成特性の変化に対する我々が作成した簡易推定法の妥当性を検証することを目的として実施した。本研究では、我々が開発した2つの内臓脂肪面積簡易推定式(体幹部脂肪量を利用した方法と皮下脂肪厚から算出した身体内部脂肪量を利用した方法)における運動による内臓脂肪面積変動時の推定精度を検討した。これらの推定式における基準値との一致度をトレーニング前後それぞれで検討した結果、いずれの推定式も運動前後ともに基準値と高い一致度を示した。また、推定値の標準誤差に関しても、推定式開発時と同等かそれ以下であった。これらのことは、本推定式の個体間における基準値との一致度を保証している。内臓脂肪面積減少後にも同等な一致度が認められたことは、本推定式の交差妥当性に関する頑健性を示す結果とも解釈できるかもしれない。一方、変化量に関する基準値と予測値との一致度については、いずれの推定式も低かった。すなわち、この結果は、個人内変動に関する基準値との一致度は低く、本推定式を用いた個人内の内臓脂肪面積変動量の推定には限界があることを示している。本研究の結果より、我々の簡易推定式による内臓脂肪面積推定は、集団のスクリーニングなど横断的な利用には耐えうるが、個体内変化量の評価には限界があることが明らかになった。これは簡易推定法の限界を意味しているかもしれない。簡易推定法の長所・短所を理解した上での利用が重要である。また、研究期間内における研究成果を整理し、成果報告書としてまとめた。 | KAKENHI-PROJECT-17300217 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17300217 |
都市における高齢者の心理的・社会的孤立に関する質的研究 : 支援策への示唆 | 都市部の高齢者の社会的孤立と心理的孤独の特徴を、量的・質的調査により把握することを目的とした。量的調査は、都内一市部に居住する65歳以上の5000人に対して郵送法にて行い、孤立・孤独の存在割合と関連要因等を分析した。量的調査により把握した孤立・孤独高齢者に対して半構造化面接を行い、(1)孤立・孤独に至った過程や理由、(2)本人の現状評価と今後の意向、(3)社会参加や対人交流の阻害要因、(4)支援策についての本人の意見・要望等、に関する質的分析を行った。都市部の高齢者の社会的孤立と心理的孤独の特徴を、量的・質的調査により把握することを目的とした。量的調査は、都内一市部に居住する65歳以上の5000人に対して郵送法にて行い、孤立・孤独の存在割合と関連要因等を分析した。量的調査により把握した孤立・孤独高齢者に対して半構造化面接を行い、(1)孤立・孤独に至った過程や理由、(2)本人の現状評価と今後の意向、(3)社会参加や対人交流の阻害要因、(4)支援策についての本人の意見・要望等、に関する質的分析を行った。都市部では高齢単身世帯と高齢夫婦世帯の著しい増加が見込まれているが、家族による支援基盤の脆弱化とともに近隣関係も希薄化しているため、心理的・社会的に孤立した高齢者の増加が懸念されている。本研究は、このような高齢者に対する支援策の確立に資するため、東京都内の一市部において心理的・社会的に孤立している高齢者をスクリーニングし、その高齢者に対してin-depth interviewを行うことによって孤立高齢者の価値観や態度、ニーズ等を高齢者の側から内的に理解することを目的としている。18年度は以下の課題に取り組んだ。1.高齢者の孤独感・社会的孤立に関する先行研究のレビュー:孤独感の定義を要約すると「社会関係の不足を感じたことによって生じる不快や苦痛などの主観的体験」で、UCLA孤独感尺度やその改訂版が多用されているが問題点も指摘されており、単に「孤独を感じているか」といった質問で発生頻度を調べている研究も少なくないこと、社会的孤立の定義は「社会関係が不足している客観的な状態」で、社会的ネットワークの測度に世帯構成を組み合わせたものが測度として使用されていること、孤独感と社会的孤立に共通する関連要因としては世帯構成(独居)、ライフイベント(死別)、健康状態があるが、社会的孤立と比べると孤独感の関連要因は結果が一致していない場合が多く、測度や測定法に問題がある可能性が高いことが明らかになった。2.予備調査の実施:心理的孤独、社会的孤立、および閉じこもりの状態が疑われた高齢者10名に対して面接調査を行い、孤立に至った経過や現在の状態に対する当事者の考え、サポートニーズ等を調べた結果、健康状態の悪化(歩行障害)や友人・家族との離死別、活動していたグループの解散等を期に孤独・孤立に至るケースが多く、新たな社会関係の構築については「わずらわしい」と感じている人が少なくないことがわかった。都市では高齢単身世帯と高齢夫婦世帯の著しい増加が見込まれているが、家族や地域による支援基盤が脆弱化しているため、心理的・社会的に孤立した高齢者の増加が懸念されている。本研究は、このような高齢者に対する支援策の検討に資するため、心理的・社会的に孤立している高齢者を地域調査により把握し、その高齢者に対して質的調査を行うことによって、孤立高齢者の価値観や態度、ニーズ等を内的に理解することを目的としている。19年度は以下の課題に取り組んだ。1)心理的・社会的孤立高齢者を把握する調査の実施:東京都内の一市部に居住する65歳以上の住民の中から、住民基本台帳を基に無作為に5000人を抽出し、郵送調査を実施した(有効回収率82.5%)。「グループ活動への参加が月に1回未満」「別居の子どもや親戚との交流頻度が月に1回未満」「友人・近隣との交流頻度が月に1回未満」のすべてにあてはまる人を「社会的孤立」と定義した結果、入院・入所中の人を除く地域在住の高齢者の11.3%が該当した。要介護度が重いほど社会的孤立の割合は増え、要介護3以上では4割が該当した。男性、後期高齢者、民間賃貸住宅居住者、低所得者で、社会的孤立の割合が高かった。単身世帯と同居家族がいる世帯では、その割合に有意な違いはなかった。一方、「孤立していると感じることがどのくらいあるか」との問に対して、「そう感じていることが多い」は4.2%、「ときどきある」が23.9%であった。要介護度が重いほど孤独感も強く、要介護3以上では6割が孤独感を感じていた。男性、後期高齢者、単身世帯、民間賃貸アパート・都営・市営住宅居住者、低所得者で、孤独感が強い傾向がみられた。2)質的調査の実施:上記の調査で把握した社会的・心理的孤立の状態にある人のうち、調査への同意が得られた人に対して、インタビュー調査とその内容分析を、現在継続中である。本研究は、都市部の高齢者の社会的孤立と心理的孤独の特徴を量的・質的調査により把握し、支援策への示唆を得ることを目的とした。量的調査は、平成19年度に、都内一市部に居住する65歳以上の5000人に対して郵送調査を行い、孤立・孤独の存在割合と関連要因を分析した。平成20年度は、量的調査で把握した孤立・孤独高齢者に対して半構造化面接を行い、当事者の考えや要望等を質的に分析した。 | KAKENHI-PROJECT-18530475 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18530475 |
都市における高齢者の心理的・社会的孤立に関する質的研究 : 支援策への示唆 | 質的分析の結果、以下の点が明らかとなった。(1)孤立・孤独に至った過程や理由は、手術・入院を契機とする健康悪化が最も多く、現在は回復していたとしても、入院等で関係が途切れると関係の修復・構築は難しいこと、病気体験や加齢に伴う虚弱化により、社会参加や社会関係よりも「毎日倒れずに生きていること」の方が重要となっていることが伺えた。(2)現状の評価と今後の意向については、「寂しいのは寂しいけど、特に何かしたいという気はしない」「もう歳だから、家で一人でいた方がよい」との言葉が多く、社会関係の縮小を寂しいと思いつつも、受容している傾向が伺えた。(3)社会参加の阻害要因としては、健康悪化の他に、友人の死亡、グループの解散やメンバーとの年齢ギャップ、自分から集団に入っていけない心理的障壁、人間関係上のトラブル等が示された。人生経験の中で、人づきあいに関しては「深入りしない、触らぬ神に崇りなし」との考えに至っている人が多いことも伺えた。(4)孤立防止策については、行政や地域に対して特に要望はないという人が多く、上記(1)(3)からも、グループ活動や近隣との関わりは、関係の構築と維持が難しいことが伺えた。しかし、買い物や通院等の場で、店員や話しやすそうな人と軽い会話をすることで孤独感を癒している人が少なからずいたことから、このような弱い紐帯の活用が、都市部の高齢者の孤立・孤独化を防ぐために有効である可能性が示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-18530475 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18530475 |
大深度地下掘削における多層帯水層での最適排水設計法に関する研究 | 本研究では、従来の井戸理論による排水設計法に代わる新しい排水設計手順として、数値解析による定常・非定常浸透流解析手法と最適化手法とを組み合わせた方法を用い、従来の理論的な方法では困難であった掘削地盤条件や施工条件を考慮し、各井戸における必要揚水流量や井戸配置等の検討を系統的に行う排水設計方法の提案を行なった。特に、井戸配置の決定に際しては情報量基準の導入を試み、複数の井戸配置計画案の中から、適切な井戸配置を選択する基準について考察した。本研究により得られた成果を要約すれば、以下のようになる。1.掘削工事における排水設計を地下水位低下施工期間に応じて定常排水設計と非定常排水設計に大別し、各期間で求めるべき定常、非定常揚水流量を浸透流解析手法と最適化手法を用いて系統的に算定する方法を提案した。2.排水設計で問題となる井戸配置の決定法として、赤池の情報量基準の導入を試み、複数の井戸配置計画案の中から最も効率の良い地下水位低下施工を行えるものを評価、選択するための客観的な判断基準を提案し、その有用性を吟味した。3.本研究で提案した排水設計方法の適用例として、従来の方法では検討が困難であった不均一な水理境界を有する場合や、復水工法を併用する場合の排水設計例を対象として本方法の適用性を吟味した。本研究では、従来の井戸理論による排水設計法に代わる新しい排水設計手順として、数値解析による定常・非定常浸透流解析手法と最適化手法とを組み合わせた方法を用い、従来の理論的な方法では困難であった掘削地盤条件や施工条件を考慮し、各井戸における必要揚水流量や井戸配置等の検討を系統的に行う排水設計方法の提案を行なった。特に、井戸配置の決定に際しては情報量基準の導入を試み、複数の井戸配置計画案の中から、適切な井戸配置を選択する基準について考察した。本研究により得られた成果を要約すれば、以下のようになる。1.掘削工事における排水設計を地下水位低下施工期間に応じて定常排水設計と非定常排水設計に大別し、各期間で求めるべき定常、非定常揚水流量を浸透流解析手法と最適化手法を用いて系統的に算定する方法を提案した。2.排水設計で問題となる井戸配置の決定法として、赤池の情報量基準の導入を試み、複数の井戸配置計画案の中から最も効率の良い地下水位低下施工を行えるものを評価、選択するための客観的な判断基準を提案し、その有用性を吟味した。3.本研究で提案した排水設計方法の適用例として、従来の方法では検討が困難であった不均一な水理境界を有する場合や、復水工法を併用する場合の排水設計例を対象として本方法の適用性を吟味した。大深度地下空間利用等を目的とした地盤掘削工事において、地下水処理の最適化は工費の節約と共に、周辺地下水環境への影響を最小限に抑え、工事全体の成否を左右する重要な課題である。そのためには地下水拳動の定量的な評価が必要であり、地盤の帯水層構成や各層での浸透特性等の把握が重要となる。本研究では、大深度地下掘削に際して問題となる多層帯水層における地下水流動および水圧伝播特性の把握、そして複数の帯水層や介粘土層の浸透特性での算定を目的として、以下の研究を行った。1.長さ300cm、深さ100cmの軸対称扇形の大型土槽を用いて多層帯水層地盤モデルを作成し、揚水および注水試験の室内模型実験を行い、その結果より多層帯水地盤において地下水に与えたインパクトと各層で計測される水位変動との関係の定性的把握を行った。水位変化の計測用に高精度間隙水圧計をマイコンによって制御する高精度間隙水圧測定システムを作成した。2.多層帯水層地盤での原位置透水試験結果の新しい解析手法として、有限要素法による浸透解析により水位計測データのシミュレートを行い、帯水層の水理特性を評価する逆解析手法を開発した。3.各帯水層における水理地質特性や掘削地条件を考慮し、揚水井戸の最適配置ならびに各井戸における必要揚水流量の決定を可能とする排水設計手法として、数値解析による平面二次元浸透流解析手法と最適化手法を組み合わせた手法の開発を行った。本研究では、従来の井戸理論による排水設計法に代わる新しい排水設計手順として、数値解析による定常・非定常浸透流解析手法と最適化手法とを組み合わせた方法を用い、従来の理論的な方法では困難であった掘削地盤条件や施工条件を考慮し、各井戸における必要揚水流量や井戸配置等の検討を系統的に行う排水設計方法の提案を行なった。特に、井戸配置の決定に際しては情報量基準の導入を試み、複数の井戸配置計画案の中から、適切な井戸配置を選択する基準について考察した。本研究により得られた成果を要約すれば、以下のようになる。1.掘削工事における排水設計を地下水位低下施工期間に応じて定常排水設計と非定常排水設計に大別し、各期間で求めるべき定常、非定常揚水流量を浸透流解析手法と最適化手法を用いて系統的に算定する方法を提案した。2.排水設計で問題となる井戸配置の決定法として、赤池の情報量基準の導入を試み、複数の井戸配置計画案の中から最も効率の良い地下水位低下施工を行えるものを評価、選択するための客観的な判断基準を提案し、その有用性を吟味した。3.本研究で提案した排水設計方法の適用例として、従来の方法では検討が困難であった不均一な水理境界を有する場合や、復水工法を併用する場合の排水設計例を対象として本方法の適用性を吟味した。 | KAKENHI-PROJECT-04650440 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04650440 |
ショウジョウバエにおける紫外線誘発奇形の研究 | 奇形の研究で重要な要素として化学物質、紫外線、電離放射線で生体が暴露されたとき安全量つまりしきい値が存在するかどうかである。マウス個体の系では、電離放射線による奇形ではしきい値の有無は奇形の種類によっている。ショウジョウバエの1令幼虫に紫外線Cを照射し成虫まで飼育すると高頻度に成虫背板の奇形が誘発されることを発見したので、しきい値の有無、この奇形の誘発機構および紫外線Cに幼虫の致死の機構を主に遺伝学的方法で調べた。ハエの1令幼虫を受精卵から寒天だけでできている培地で約24時間培養すると、紫外線を吸収する物質が少ないため幼虫は透明で紫外線Cが透過しやすくなることがわかった。1令幼虫に紫外線Cを照射し成虫になるまで飼育したとき、幼虫が成虫に発生できるかどうかを幼虫の致死と定義した。この致死をまぬがれ成虫まで発生した個体の背板に高頻度で奇形が生じることを発見した。ハエの除去修復欠損変異株、光回復欠損変異(CPD photolyase deficient)を用いることにより奇形、致死の主因は紫外線CのDNA損傷であるピリミジンダイマーであること、しかし64光物産も関与していることがわかった。紫外線誘発背板奇形は明確なしきい値の存在が認められた。紫外線誘発背板奇形は背板に特異性がみられた。紫外線の波長が254nmであるため、紫外線を吸収する幼虫の部位が背側表皮に特に集中することが主な理由と考えられる。幼虫の背側表皮には、将来成虫の背板になる背板原基細胞(histoblast)あること、さらに紫外線が幼虫表皮に多く吸収されるので幼虫は死ににくい、つまり紫外線照射で幼虫は簡単に死亡しないので、その分奇形頻度が高くなっていることが推測される。紫外線誘発奇形を系は高頻度でおこるため実験系として優れているとおもわれる。今後さらに解析を進めてゆきたい。奇形の研究で重要な要素として化学物質、紫外線、電離放射線で生体が暴露されたとき安全量つまりしきい値が存在するかどうかである。マウス個体の系では、電離放射線による奇形ではしきい値の有無は奇形の種類によっている。ショウジョウバエの1令幼虫に紫外線Cを照射し成虫まで飼育すると高頻度に成虫背板の奇形が誘発されることを発見したので、しきい値の有無、この奇形の誘発機構および紫外線Cに幼虫の致死の機構を主に遺伝学的方法で調べた。ハエの1令幼虫を受精卵から寒天だけでできている培地で約24時間培養すると、紫外線を吸収する物質が少ないため幼虫は透明で紫外線Cが透過しやすくなることがわかった。1令幼虫に紫外線Cを照射し成虫になるまで飼育したとき、幼虫が成虫に発生できるかどうかを幼虫の致死と定義した。この致死をまぬがれ成虫まで発生した個体の背板に高頻度で奇形が生じることを発見した。ハエの除去修復欠損変異株、光回復欠損変異(CPD photolyase deficient)を用いることにより奇形、致死の主因は紫外線CのDNA損傷であるピリミジンダイマーであること、しかし64光物産も関与していることがわかった。紫外線誘発背板奇形は明確なしきい値の存在が認められた。紫外線誘発背板奇形は背板に特異性がみられた。紫外線の波長が254nmであるため、紫外線を吸収する幼虫の部位が背側表皮に特に集中することが主な理由と考えられる。幼虫の背側表皮には、将来成虫の背板になる背板原基細胞(histoblast)あること、さらに紫外線が幼虫表皮に多く吸収されるので幼虫は死ににくい、つまり紫外線照射で幼虫は簡単に死亡しないので、その分奇形頻度が高くなっていることが推測される。紫外線誘発奇形を系は高頻度でおこるため実験系として優れているとおもわれる。今後さらに解析を進めてゆきたい。ショウジョウバエの幼虫は、受精卵から孵化した直後はえさをたべていないため透明で紫外線(UVC)を比較的透過しやすい。この状態の幼虫を準備し紫外線C(UVC)を照射し成虫になるまで飼育すると、成虫の腹部背板に奇形が高頻度で生じる。UVC誘発奇形の要因を調べるために、除去修復欠損変異株、CPD光回復酵素欠損変異株など変異株を用い遺伝学的手法により調べた。その結果、UVC誘発奇形は除去修復されること、光回復処理により光回復されること、がわかりUVC誘発奇形の主因は、ピリミジンダイマーと64光産物のDNA損傷であることが示唆された。光回復処理によりほとんどの奇形は回復されること(除去修復遺伝子の有無によらない)から、ハエの発生初期には、ピリミジンダイマー光回復酵素、64光産物光回復酵素が多量が存在することがわかった。U C誘発奇形の線量効果曲線はしきい値があることもわかり、マウスの系でのX線誘発奇形でのしきい値存在と矛盾しない。UVC誘発奇形の腹部背板特異性を調べたところ、腹部腹板にも奇形が観察されたが、腹部背板の約15%の低頻度であり腹部背板に特異的であった。UVC照射のとき背板原基細胞が幼虫の背表面直下にあること、UV光源が幼虫の上側にあることから背板原基細胞が特にUVCの標的細胞になっているためと思われる。また幼虫個体一様にUVCが透過している可能性は低く(背板特異性奇形のため)、個体として生存する確立が大きいので高頻度奇形が出現するとおもわれる。奇形誘発の要因であるDNA損傷が、とのぐらいの時間持続するかを調べた。 | KAKENHI-PROJECT-10680515 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10680515 |
ショウジョウバエにおける紫外線誘発奇形の研究 | 照射後46時間までほとんどの傷は残存し、74時間で40%、96時間でも4%残存していることがわかった。ショウジョウバエ1令幼虫を受精卵から寒天だけでできている培地で約24時間培養することで用意すると、紫外線を吸収する物質が少ないため幼虫は透明で紫外線Cが透過しやすくなる。このような幼虫に紫外線Cを照射し成虫になるまで飼育すると、除去修復欠損変異株(mei9^<RT2>)はその正常株に比べて致死(幼虫数に対する成虫数の割合)および背板の奇形頻度が約10倍高感受性であった。これら1令幼虫に光回復処理をおこなうと致死、奇形ともほぼ100%回復した。また光回復欠損変異(ピリミジンダイマー光回復酵素欠損:phr^-/phr^-)株の1令幼虫は光回復しない。このことは致死、奇形を誘発する紫外線によるDNA損傷が主に、ピリミジンダイマーであると示唆される。ハエは紫外線損傷の主因であるピリミジンダイマー(CPD)と64光産物(64photoproduct)に対しそれぞれ光回復酵素(CPD photolyase,64photolyase)をもっており、1令幼虫に多量に存在すること、さらにこれらの酵素は雌成虫の卵巣に由来することが分子生物学的方法でわかっている。このことが幼虫の生体でどのように反映されるかを紫外線による致死への光回復を調べることで検討した。交配A:母親phr^-/phr^-x父親phr^+/phr^-、交配B:母親phr^+/phr^-x父親phr^-/phr^-からの1令幼虫を用意する。交配Aからのphr^-/phr^-幼虫は遺伝子形が光回復欠損であるにもかかわらずphr^+/phr^-幼虫同様に光回復したが、交配Bからのphr^-/phr^-幼虫は光回復しなかった。また交配Bからのphr^+/phr^-幼虫は紫外線高線量域で交配Aからのものより光回復の割合は減少していた。このことは、幼虫の光回復はmaternal由来の酵素量で充分光回復すること、またzygotic由来の酵素でもDNA損傷が少なければ充分であることを示している。ヘテロ(phr^+/phr^-)1令幼虫の母親をphr^+/phr^+にしたとき、gel shift法により検出したCPD photolyaseの量はphr^+/phr^+幼虫のそれと同量であったが、母親をphr^-/phr^-にしたときはわずかにしか検出されなかった。生物学的方法による結果と一致しないが、少量の酵素でも酵素が再利用されるのに充分な時間さえあれば回復可能であることが示された。 | KAKENHI-PROJECT-10680515 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10680515 |
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