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川崎病治療戦略を意識した血清サイトカインと細胞外蛋白基質代謝の解析 | 群馬大学で行われた無作為化比較試験保存血清を用い、細胞外マトリックス分解酵素・サイトカイン・ケモカイン等の測定を行い重症度(リスクスコア)との関連を検証した。結果リスクスコア点数はIL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-17、G-CSF、MIP-1α、ICAM-1、MMP3と有意に相関していた。また、初期治療開始2日目のIL-6、IL-10、G-CSF、ICAM-1はIVIG群に比べIVIG+PSL群が有意に低値であった。MMP-3は他のmarkerとは逆にIVIG+PSLによる介入で高値にIVIG+PSL療法はより速やかに血管炎をdown-regulationすることによって予後改善に寄与している可能性が示された。群馬大学で行われた無作為化比較試験保存血清を用い、細胞外マトリックス分解酵素・サイトカイン・ケモカイン等の測定を行い重症度(リスクスコア)との関連を検証した。結果リスクスコア点数はIL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-17、G-CSF、MIP-1α、ICAM-1、MMP3と有意に相関していた。また、初期治療開始2日目のIL-6、IL-10、G-CSF、ICAM-1はIVIG群に比べIVIG+PSL群が有意に低値であった。MMP-3は他のmarkerとは逆にIVIG+PSLによる介入で高値にIVIG+PSL療法はより速やかに血管炎をdown-regulationすることによって予後改善に寄与している可能性が示された。川崎病は,乳幼児期に発症する原因不明の全身性炎症性疾患である。現在の基本的治療は免疫グロブリン大量療法(IVIG)であるが治療抵抗例が存在し心後遺症を残すため,より有効な治療戦略が求められている。一方,我々は前方視的多施設共同治療研究を行い,IVIG単独よりも,IVIG/ステロイド併用投与が臨床所見の改善と心後遺症の発生抑制に有効であることを明らかにしたが,その際に同意を得て血清収集し凍結保存した。本研究では,各々の治療が病態に与える影響を検討するため,川崎病患者の血清中各種サイトカイン(IL-1β,IFN-γ,TNF-α,IL-2,IL-4,IL-6,IL-8,IL-10,IL-17,G-CSF,MCP-1,MIP-1β)濃度および細胞外基質代謝関連物質濃度,具体的には蛋白分解酵素(Matrix Metalloprotehinase(MMP)-1,2,3,9,その内因性抑制物質(TIMP)濃度を治療別,経時的に検討した。多種のサイトカイン濃度測定にはBio-Plex Assay systemを,細胞外基質代謝関連物質濃度測定にはEHSA法を用いた。結果,コントロールや回復期に比較して,急性期には,IL-6,IL-8,IL-10,IL-2,G-CSF,MCP-1,MMP-2,3の有意な上昇が認められた。治療別には,治療直後の血中濃度や推移に差異が認められる蛋白があることを見出し,IVIG単独投与と比較してステロイド併用投与が病態に与える影響が異なることが明らかとなった。平成20年度は,血清中MMP酵素活性の測定を含め基礎的な検討を更に進めることと,我々が報告したリスクスコアとの関連を解析することが課題となる。川崎病は、乳幼児期に発症する原因不明の全身性炎症性疾患であるが、その病態としての血管炎に付随しておこるサイトカインストーム、内皮細胞障害マーカー、細胞外マトリックス分解酵素などのbiomarkerが、IVIG不応例を予測するリスクスコアや治療法と関連しているかは不明である。本研究の目的は、治療前血清中サイトカイン・ケモカイン濃度、蛋白分解酵素と抑制系の量的均衡と治療反応性の関連および予測性を明らかにすることである。対象患者は2000年8月2005年3月までの期間に群馬県立小児医療センターにて初期治療を受けた32例とした。32例中31例は先行研究である無作為化比較試験でIVIG群(18症例)とIVIG+PSL群(13症例)にランダム割り付けが行われた。対象患者は(1)初期治療開始前、(2)IVIG終了後2436時間、(3)IVIG終了後23週で血液を採取し、BioPlex suspension arraysystemを用いて、血清中のIL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12、IL-13、IL-17、TNFα、IFNγ、GCSF、MCP-1、MIP-1αを、ELISA法にてMMP-3、TIM-1、ICAM-1を測定した。その結果、リスクスコア点熱はIL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-17、G-CSF、MIP-1α、ICAM-1、MMP3と有意に相関していた。また、初期治療開始2日目のIL-6、IL-10、G-CSF、ICAM-1はIVIG群に比べIVIG+PSL群が有意に低値であった。MMP-3は他のmarkerとは逆にIVIG+PSLによる介入で高値になり、IVIG+PSL療法はより速やかに血管炎をdown-regulationすることによって予後改善に寄与している可能性が示された。 | KAKENHI-PROJECT-19591199 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19591199 |
老化モデル(クロトーマウス)の内耳・脳幹における組織化学的研究 | まずクロトーマウスの形態を加齢に伴って観察し、さらにPAS染色を行った。同週齢の野生型マウスと比較してクロトーマウスの内耳骨組織で骨化が不十分な部位を認めた。コルチ器、クプラや前庭については著明な形態的変化は認めなかった。光顕レベルのPAS染色で本来PAS陽性部位である蓋膜やライスネル膜、血管基底膜などの部位に加えて血管条毛細血管の基底膜やその周囲ににじみ出たような粒状の沈着物を認めた。電顕レベルでのPAS染色では血管条毛細血管内皮細胞や基底膜にPAS陽性反応を認め特に内皮細胞には電子密度の高い粒状沈着物に似た反応を認めた。このPAS陽性反応は腎臓を含め他臓器の血管壁にも認めた。これらは野生型マウスでは認められず複合糖質を多量に含有した石灰化を生じていることも推測される。さらにクロトーマウスと同週齢の野生型マウスで両者のEP(蝸牛内静止電位)と内リンパ中カリウム濃度を測定した。EPは80.9±7.21mVと96.9±7.7mV、カリウム濃度は209.7±20.4mMと207.2±26.2mMであった。内リンパは特異な高カリウムイオン・低ナトリウムイオン濃度をもつにもかかわらず、内外リンパ間には+80100mVにも及ぶ直流電位勾配差がある。加齢に伴ってEPが減少することは知られており、今回のクロトーマウスのEPも同週齢の野生型マウスのEPより有意に低下を認めた。またクロトーマウスの内リンパ中のカリウムイオン濃度は同週齢の野生型マウスのものとほぼ同じ濃度であった。従って内耳に関しては、クロトーマウスは加齢に伴う感音難聴モデルとなりうる可能性が示唆された。クロトーマウスを光顕及び電顕で形態を加齢に伴って観察し、さらにPAS染色をそれぞれ行ったのでその結果を日本耳科学会で報告した。39週齢のクロトーマウスとコントロールのための野生型マウス(体重630g前後)を使用、光顕用のPAS染色は型の如く行った。電顕用のPAS染色はPA-TCH-SP法で行った。さらにTCHを省いたPA-SP法もコントロールとして作製した。内耳の骨組織で骨化が不十分な部位を光顕標本(HE染色)にて認めた。コルチ器、クプラや前庭については著明な形態的変化は認めなかった。光顕用のPAS染色で本来PAS陽性部位である蓋膜やライスネル膜、血管基底膜などの部位に加えて血管条毛細血管の基底膜やその周囲ににじみ出たような粒状の沈着物を認めた.電顕PAS染色(PA-TCH-SP)では血管条毛細血管内皮細胞や基底膜にPAS陽性反応を認め特に内皮細胞には電子密度の高い粒状沈着物に似た反応を認めた。腎臓を含め他臓器の血管壁にもPAS陽性反応を認めた。クロトーマウスではほぼ34週齢から野生型と比較して変化が出てくるがとくに67週齢では各臓器での血管やその周囲のにじみ出るようなPAS陽性物質が認められた。これらは野生型マウスでは認められず、複合糖質を多量に含有する物質であることが推定される。電顕PAS染色ではPA-TCH-SP法とPA-SP法の両方でその電子密度が共に高いことから石灰化も生じていると推測される。はっきりとした結論は言えないが、これらの沈着物の存在が内耳機能に関与する可能性があり、その組成の解明と聴覚機能に関する解析が今後の検討課題である。まずクロトーマウスの形態を加齢に伴って観察し、さらにPAS染色を行った。同週齢の野生型マウスと比較してクロトーマウスの内耳骨組織で骨化が不十分な部位を認めた。コルチ器、クプラや前庭については著明な形態的変化は認めなかった。光顕レベルのPAS染色で本来PAS陽性部位である蓋膜やライスネル膜、血管基底膜などの部位に加えて血管条毛細血管の基底膜やその周囲ににじみ出たような粒状の沈着物を認めた。電顕レベルでのPAS染色では血管条毛細血管内皮細胞や基底膜にPAS陽性反応を認め特に内皮細胞には電子密度の高い粒状沈着物に似た反応を認めた。このPAS陽性反応は腎臓を含め他臓器の血管壁にも認めた。これらは野生型マウスでは認められず複合糖質を多量に含有した石灰化を生じていることも推測される。さらにクロトーマウスと同週齢の野生型マウスで両者のEP(蝸牛内静止電位)と内リンパ中カリウム濃度を測定した。EPは80.9±7.21mVと96.9±7.7mV、カリウム濃度は209.7±20.4mMと207.2±26.2mMであった。内リンパは特異な高カリウムイオン・低ナトリウムイオン濃度をもつにもかかわらず、内外リンパ間には+80100mVにも及ぶ直流電位勾配差がある。加齢に伴ってEPが減少することは知られており、今回のクロトーマウスのEPも同週齢の野生型マウスのEPより有意に低下を認めた。またクロトーマウスの内リンパ中のカリウムイオン濃度は同週齢の野生型マウスのものとほぼ同じ濃度であった。従って内耳に関しては、クロトーマウスは加齢に伴う感音難聴モデルとなりうる可能性が示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-12671674 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12671674 |
老化モデル(クロトーマウス)の内耳・脳幹における組織化学的研究 | 生後59適齢のクロトーマウス10耳とコントロールのための同週令の野生型マウス10耳を使用した。体重の平均値はクロトーマウス8.1±1.3g、野生型マウス19.0±1.9gであった。Ventral approachにより中耳骨胞を開放し、基底回転よりラセン靭帯経由で先端約1μmのカリウムイオン感受性ダブルバレル電極を挿入し、イオン濃度電位とEP(蝸牛内静止電位)を測定した。クロトーマウスと野生型マウスのEPの平均値はそれぞれ80.9±7.2mV(n=10)、96.9±7.7mV(n=10)とクロトーマウスのEPはコントロールよりやや低い値に保たれていた。クロトーマウスの内リンパ中のカリウムイオン濃度は209.7±20.4mM(n=5)であり、野生型マウスのカリウムイオン濃度207.2±26.2mM(n=5)とほぼ同様の値であった。内リンパは特異な高カリウムイオン・低ナトリウムイオン濃度を持つにもかかわらず、内外リンパ間には+80100mVにも及ぶ直流電位勾配差がある。加齢に伴ってEPが減少することは知られており、1996年のSchmiedtの報告では加齢ジャービルにおいてカリウムイオン濃度は成熟ジャービルと同様の値であったという。今回のクロトーマウスのEPも同様に同週令の野生型マウスのEPより有意に低下を認めた。またクロトーマウスの内リンパ中のカリウムイオン濃度は同週令の野生型マウスのものとほぼ同じ濃度であった。従って内耳に関しては、クロトーマウスは加齢に伴う感音難聴モデルとなりうる可能性が示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-12671674 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12671674 |
カチオンアンチポーター作用制御の分子機構の研究 | 本研究では、細胞膜カチオン交換輸送体の構造・機能相関、細胞内情報伝達系との相互作用、並びに、細胞生理における役割を明らかにする研究を行い、以下の結果を得た。1)従来から行っている増殖因子によるヒトNa^+/H^+交換輸送体(NHE1)活性化の機序の研究を続行し、NHE1が細胞内Ca^<2+>とカルモデュリン(CaM)及び蛋白質燐酸化をルートを介して加算的に活性調節されることを確立した。細胞内Ca^<2+>上昇は、NHE1へのCaM結合を引きおこし、本来この結合部位が待つ活性阻害作用を中和させるが、それにはこの部位のLeu639が重要であり、この部位とNHE1分子内に存在するそのアクセプター部位との相互作用は大変特異性が高いことが示された。また、NHE1の細胞質、ドメインに系統的な欠失変異を導入してNHE1活性の細胞内pH依存性を解析して細胞質ドメインが機能上少なくとも4つのサブドメインからなることを明らかにし、それぞれの機能を検討した。また、他のNa^+/H^+交換輸送体分子種NHE14間でキメラを作成し、ホルモンや増殖因子の作用、細胞体積調節などに関わる各分子種の細胞質ドメインの機能セグメントを明らかにする研究を進めた。Na^+/Ca^<2+>交換輸送体に関しては、血管平滑筋並びに心筋細胞の輸送体(NC×1)が、生理活性因子刺激によりcナーゼを介してリン酸化され、同時に、その輸送活性が増大することを明らかにし、その後、輸送体のリン酸化部位を同定した。また、この輸送体の特異的阻害剤の開発を行い、NC×1のCa^<2+>取り込みモードを選択的に阻害する薬剤(KB-R7943)が開発された。この薬剤は虚血性心筋障害などの治療薬の有望な候補である。また、最近、この新しい阻害薬および2価カチオン(Ni^<2+>やCo^<2+>など)によるこのアンチポーターの活性阻害には分子種特異性があり、NC×1およびNC×3分子種間のキメラを利用した膜イオン輸送通路の研究が可能であることが明らかになり、活性阻害に関与するアミノ酸残基が1部同定された。また、これらの研究に加えて、このNa^+/Ca^<2+>交換輸送体を高発現させることにより細胞膜直下のCa^<2+>濃度上昇を阻止したモデル細胞系を作成し、Na^+/H^+交換輸送体系、Ca^<2+>依存性Kチャネル及び細胞接着などの細胞反応制御におけるCa^<2+>シグナリングの貢献の程度を定量的に評価する研究を行った。本研究では、細胞膜カチオン交換輸送体の構造・機能相関、細胞内情報伝達系との相互作用、並びに、細胞生理における役割を明らかにする研究を行い、以下の結果を得た。1)従来から行っている増殖因子によるヒトNa^+/H^+交換輸送体(NHE1)活性化の機序の研究を続行し、NHE1が細胞内Ca^<2+>とカルモデュリン(CaM)及び蛋白質燐酸化をルートを介して加算的に活性調節されることを確立した。細胞内Ca^<2+>上昇は、NHE1へのCaM結合を引きおこし、本来この結合部位が待つ活性阻害作用を中和させるが、それにはこの部位のLeu639が重要であり、この部位とNHE1分子内に存在するそのアクセプター部位との相互作用は大変特異性が高いことが示された。また、NHE1の細胞質、ドメインに系統的な欠失変異を導入してNHE1活性の細胞内pH依存性を解析して細胞質ドメインが機能上少なくとも4つのサブドメインからなることを明らかにし、それぞれの機能を検討した。また、他のNa^+/H^+交換輸送体分子種NHE14間でキメラを作成し、ホルモンや増殖因子の作用、細胞体積調節などに関わる各分子種の細胞質ドメインの機能セグメントを明らかにする研究を進めた。Na^+/Ca^<2+>交換輸送体に関しては、血管平滑筋並びに心筋細胞の輸送体(NC×1)が、生理活性因子刺激によりcナーゼを介してリン酸化され、同時に、その輸送活性が増大することを明らかにし、その後、輸送体のリン酸化部位を同定した。また、この輸送体の特異的阻害剤の開発を行い、NC×1のCa^<2+>取り込みモードを選択的に阻害する薬剤(KB-R7943)が開発された。この薬剤は虚血性心筋障害などの治療薬の有望な候補である。また、最近、この新しい阻害薬および2価カチオン(Ni^<2+>やCo^<2+>など)によるこのアンチポーターの活性阻害には分子種特異性があり、NC×1およびNC×3分子種間のキメラを利用した膜イオン輸送通路の研究が可能であることが明らかになり、活性阻害に関与するアミノ酸残基が1部同定された。また、これらの研究に加えて、このNa^+/Ca^<2+>交換輸送体を高発現させることにより細胞膜直下のCa^<2+>濃度上昇を阻止したモデル細胞系を作成し、Na^+/H^+交換輸送体系、Ca^<2+>依存性Kチャネル及び細胞接着などの細胞反応制御におけるCa^<2+>シグナリングの貢献の程度を定量的に評価する研究を行った。a)これまでの研究で、ヒト1型Na^+/H^+交換 | KAKENHI-PROJECT-07457015 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07457015 |
カチオンアンチポーター作用制御の分子機構の研究 | 輸送系(NHE1)細胞質ドメインにはカルモジュリン(CaM)結合部位が存在し、NHE1のH^+センサーの作用を阻害すること、Ca^<2+>/CaMがこのセグメントの阻害作用を解除できることを示した。今年度はこのCaM結合部位に種々の変異を導入してこの部位の阻害機序について検討し、この部位のLeu639が機能上重要であり、これの変異はCaM結合部位の阻害作用を大幅に低下させること、これを他の疎水性アミノ酸では代替できないことがわかった。従って、この阻害セグメントとNHE1分子内に存在するアクセプター部位は大変特異性の高い相互作用をおこなうものと推定される。b)NHE1の細胞質ドメインの他のセグメントの機能的役割を検討し、この輸送体のpH感受性を生理的な範囲に高く維持するのに必要な部位が細胞質ドメインのN末端約70アミノ酸からなるセグメントに存在することが判明した。このセグメントは、pHセンサーの少なくとも一部を形成する可能性がある。c)NHEアイソフォーム間の機能的差異と構造的差異との関係を明らかにする初期の試みとして、NHE1とヒト3型Na^+/H^+交換輸送系(NHE3)との間で膜ドメインと細胞質ドメインを交換したキメラを作成しその機能を調べた。その結果、NHE3細胞質ドメインはCaMを結合できるにもかかわらず、NHE1の膜ドメインとのミメラでは、intactなNHE3と同様、Ca^<2+/>/CaMによる活性制御が起こらないこと、一方、NHE3の膜ドメインとNHE1の細胞質ドメインのキメラでは、intactなNHE1と同様、Ca^<2+>/CaMによる活性制御が起こることが判明した。従って、1型及び3型の膜ドメインの機能的類似性は高いことがわかった。d)血管平滑筋並びに心筋細胞のNa^+/Ca^<2+>交換輸送体が、エンドセリン-1、PDGFなどの生理活性因子刺激によりCナーゼを介してリン酸化され、同時に、その活性を増大させることを明らかにした。この際、輸送体cDNAを過剰発現させた培養細胞及び大腸菌に融合蛋白質として発現した輸送体細胞質ドメインをリン酸化してそのリン酸化ペプチドマッピング解析を行い、この輸送体の細胞質ドメインがCキナーゼにより直接リン酸化されることを示した。細胞膜Na^+/H^+(NHE)及びNa^+/Ca^<2+>(NCX)交換輸送タンパク分子の構造・機能相関並びに活性制御機序を明らかにする研究を行って以下の結果を得た。(1)普遍型NHE(NHE1)の細胞質ドメインに系統的な欠失変異を導入し、NHE1活性のpH_i依存性に及ぼす効果からこのドメインが少なくとも4つのsubdomainからなることを明らかにした。このうち、subdomain I(aa515-595)は、活性のpH_i依存性を生理的な範囲に維持するのに必須である。興味深いことに、このsubdomainの26個のアミノ酸残基からなるセグメント(aa540-566)を欠損させると細胞内ATP枯渇に伴うNHE1活性阻害(活性のpH_i依存性の酸性側へのシフト)が消失する。(2)NHE3は組織分布及びその機能・性質がNHE1と異なるが、NHE1と同様にカルモデュリン結合タンパク質であることが明らかになった。NHE3のCaM結合部位は細胞質ドメイン内のaa660-690であり、その結合親和性はかなり高い(Kd=50nM)。CaM結合部位の近傍にはPKAのリン酸化部位が存在し、この酸化によってCaM結合が阻害されることが見出された。(3)心筋細胞のNa^+/Ca^<2+>交換 | KAKENHI-PROJECT-07457015 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07457015 |
確率論とその応用的側面の研究 | 確率論とその諸分野への応用について研究を行った。当初、分担者3名(計4名)で研究を始めていたが,10月より早川英治郎を加え計5名で共同研究を行った。研究方法としては、各分担者がそれぞれ専門の分野の研究集会等に参加し,各々の分野における情報・資料を収集し,その専門分野の研究を深めると共に,確率論におけるモデル化,応用等について,その可能性も含めて、討論と研究を行った。研究内容としては、第1に,今までの研究の継続として、非線型微分方程式の解の漸近挙動の研究を行った。種々の非線型微分方程式についての情報・資料を収集し、それらの検討、討論、研究を行った。特に半線型熱方程式のCauchy問題を考え,その解のt→∞における漸近挙動の初期値による分類を試みた。f(u)=u^<1+α>,α=4/(nー2)の場合は初期値a(x)と定常解の大小関数係で漸近挙動が分類できていたので,我々はα〉4/(nー2)の場合を研究していた。昨年11月の研究集会で,WeiーMingNiによってこの場合もα=4/(nー2)と同様の結果が成立することが報告された。現在、我々は初期値と非線型項を共に考慮した条件による(t→∞における)解の漸近挙動の分類について研究を行っている。研究内容の第2として、力学系、関数論の関連分野として、関数反復に関しての情報・資料の収集し研究を行った。この分野ではシミュレ-ションも有効な手段となるが、我々はマウスで簡単に取扱いできるソフトを開発して、数値実験を行っている。研究内容の第3として、解析的整数論に関する分野についても情報収集と討論を行った。この分野に関しては分担者の論文が発表される予定である。確率論とその諸分野への応用について研究を行った。当初、分担者3名(計4名)で研究を始めていたが,10月より早川英治郎を加え計5名で共同研究を行った。研究方法としては、各分担者がそれぞれ専門の分野の研究集会等に参加し,各々の分野における情報・資料を収集し,その専門分野の研究を深めると共に,確率論におけるモデル化,応用等について,その可能性も含めて、討論と研究を行った。研究内容としては、第1に,今までの研究の継続として、非線型微分方程式の解の漸近挙動の研究を行った。種々の非線型微分方程式についての情報・資料を収集し、それらの検討、討論、研究を行った。特に半線型熱方程式のCauchy問題を考え,その解のt→∞における漸近挙動の初期値による分類を試みた。f(u)=u^<1+α>,α=4/(nー2)の場合は初期値a(x)と定常解の大小関数係で漸近挙動が分類できていたので,我々はα〉4/(nー2)の場合を研究していた。昨年11月の研究集会で,WeiーMingNiによってこの場合もα=4/(nー2)と同様の結果が成立することが報告された。現在、我々は初期値と非線型項を共に考慮した条件による(t→∞における)解の漸近挙動の分類について研究を行っている。研究内容の第2として、力学系、関数論の関連分野として、関数反復に関しての情報・資料の収集し研究を行った。この分野ではシミュレ-ションも有効な手段となるが、我々はマウスで簡単に取扱いできるソフトを開発して、数値実験を行っている。研究内容の第3として、解析的整数論に関する分野についても情報収集と討論を行った。この分野に関しては分担者の論文が発表される予定である。 | KAKENHI-PROJECT-03640201 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03640201 |
人工抗体ライブラリーの作製とその利用法の確立 | 本研究は様々な抗原に対してそれをスクリーニングするだけで各々の抗原に特異的に結合する抗体が必ず含まれる抗体ライブラリー作製を実現するために必要な諸条件を検討するために実施された。抗体はHL両鎖のN末端に位置するV領域中のCDRと呼ばれる計6ヶ所が形造る構造を通して抗原に結合する。そこで我々はこのCDR配列のみを多様化した様々な抗体を含むライブラリーを作製する戦略を採用した。ライブラリー作製のためにファージ膜上に抗体を発現する系を用いることとした。最初、抗体の形状としてFab、Fv、scFv型抗体各々について比較検討し、Fab型とした。次にCDRに変異を導入することにより、抗原特異性を変化させる技術開発を行った。更にCDR移植実験を行って、抗原特異性を決定する上でフレームワーク上の数カ所のアミノ酸が重要な働きを持つことを示した。結果として抗原抗体反応に関する様々な知見を得たが、真に役立つ抗体ライブラリー作製には全く別の戦略の方が有効であると結論した。本研究は様々な抗原に対してそれをスクリーニングするだけで各々の抗原に特異的に結合する抗体が必ず含まれる抗体ライブラリー作製を実現するために必要な諸条件を検討するために実施された。抗体はHL両鎖のN末端に位置するV領域中のCDRと呼ばれる計6ヶ所が形造る構造を通して抗原に結合する。そこで我々はこのCDR配列のみを多様化した様々な抗体を含むライブラリーを作製する戦略を採用した。ライブラリー作製のためにファージ膜上に抗体を発現する系を用いることとした。最初、抗体の形状としてFab、Fv、scFv型抗体各々について比較検討し、Fab型とした。次にCDRに変異を導入することにより、抗原特異性を変化させる技術開発を行った。更にCDR移植実験を行って、抗原特異性を決定する上でフレームワーク上の数カ所のアミノ酸が重要な働きを持つことを示した。結果として抗原抗体反応に関する様々な知見を得たが、真に役立つ抗体ライブラリー作製には全く別の戦略の方が有効であると結論した。本研究で作製されている抗体ライブラリーは、様々な物質(抗原)に対してそれをスクリーニングするだけで特異的に結合する抗体が容易に取得できる性質を有することが理想である。抗体はFabの形で融合しM13ファージ粒子表面に発現される。平成9年度に次に挙げる3点の成果を得た。ステロイドには様々な誘導体が存在する、そこで抗原特異性の変換実験を行った。抗17-hydroxyprogesterone(17-OHP)抗体をコードする遺伝子を基に、最初コンピューターを用いて抗原結合部の立体構造モデルを構築した。抗原接触部と推定される多くの部位に多様な変異を導入した後cortiaolを抗原としてpanning法により新たにcortisol結合能を獲得したクローンを単離した。この方法は一般性が高く、抗11-deoxycortisol抗体を抗cortiso抗体へ変換することにも成功した。第二の研究は抗原結合力を増加した抗体の単離法の確立である。最初抗チトクロームC抗体であるE8と抗ニワトリ卵白リゾチーム抗体D1.3の間でCDRの移植実験を行ったところ、フレームワークに位置するV_Hドメインの94番目のアミノ酸がCDRIIIの形造る立体構造に大きな影響を与えることが判明した。更に解析をすすめると27,29,94,101位のアミノ酸の組み合わせが重要であり、とりわけ101のアスパラギン酸(E8)をアスパラギンに変換するだけで数10倍の結合力が獲得された。本研究では、最初マウス遺伝子を基にライブラリー化を進めていたが、平成9年度途中からγ-グロブリン製剤化が可能なように全てヒト型抗体に変化した。それに必要なベクターの作製は終了し、ヒトV_L、V_H遺伝子を大量にクローニングしている。人工抗体ライブラリー作製の正否は、大腸菌中での発現-folding-V_HドメインとV_Lドメインのassemblyが正しく行ったクローンのみからなる多様なライブラリーをいかにして構築するかである。そこでFab型抗体が発現したファージ粒子のみを選別する系を確立した。本研究は、それを特定の抗原と混合してスクリーニングするだけで抗体を単離できる抗体ライブラリーを作製し、その利用法を確立することを目標に進められている。抗体はFabの形でcpIIIタンパクと融合してファージ膜上に発現されている。Bリンパ球に富む臍帯血や扁桃等の数10名の患者手術除去材料を出発材料にして、総数10^<11>個の独立したクローンからなる巨大なレパートリーを持つ抗体ライブラリーの作製を完了した。L鎖については数百種の遺伝子を単離し、全てその塩基配列を決定し、大腸菌中での発現-ホールディング-V_HV_Lドメインの会合が正しく起るクローンを200種用いて、H鎖については片寄りのないようにプライマーを選択し10^9以上のライブラリーを作製して、両鎖をcombinatorialに組み合わせてライブラリーを作製した。ライブラリーに含まれるクローンは、70%以上が正しくFab抗体を発現している。このライブラリーを用いて20種を越える様々な抗原物質に対してスクリーニングを行ったところ、抗原がスクリーニング用のチューブに付着する限り全ての抗原について多種類の抗体が単離できて作製した抗体ライブラリーが優れた性能を有することが示された。それぞれの抗体の抗原結合力は、解析した範囲内では10^65x10^7M^<-1>に分布した。 | KAKENHI-PROJECT-09557030 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09557030 |
人工抗体ライブラリーの作製とその利用法の確立 | 様々な用途に適した抗体の結合力は10^8M^<-1>以上であることが望ましいので、現在error-prone PCRを用いた変異の導入、抗原結合力の高いクローンのみを選択的に濃縮するスクリーニング法の開発に努めている。このシステム構築を完了した以降は、有用な抗体の単離、抗体ライブラリーを利用した新しい研究分野の開発を実施する。本研究は様々な抗原に対してそれをスクリーニングするだけで各々の抗原に特異的に結合する抗体が必ず含まれる抗体ライブラリー作製を目標に計画された。最初数10名のBリンパ球に富むヒト臨床材料を用いてその中で発現されている抗体遺伝子をRT-PCR法で数多く回収し、遺伝子ライブラリーを構築した。それをFab型の抗体がファージ粒子上にcp3と融合して発現される系を用いて1,000億種の抗体を含む抗体ライブラリーが出来上がった。この抗体ライブラリーを用いて数10種類の様々な性質をした抗原に対してスクリーニングしたところ、いづれの場合も複数種のモノクローン抗体を単離することができた。その中にはWestern blot用の試薬として、又発現プロフィール解析用試薬として役立つものも含まれている。更にタンパクの特定リン酸化部位を認識する抗体単離もスクリーニング法さえ工夫すれば可能であった。ほぼ最初計画した通りの理想的な抗体ライブラリー作製を完了したので、その利用法の開発を進める。 | KAKENHI-PROJECT-09557030 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09557030 |
栄養および手術侵襲が肝薬物代謝酵素活性に及ぼす影響に関する研究 | TPNモデルで栄養、手術侵襲が肝薬物代謝に与える影響を肝薬物代謝酵素の面から検討した。その結果、標準カロリー、過負荷カロリーのTPN施行によって、P-450含量、7-エトキシクマリン脱エチル化活性、アニリン水酸化活性、GST活性が低下した。低カロリーTPNではアニリン水酸化活性が低下し、アミノピリン脱メチル化活性が上昇した。手術侵襲によって、P-450含量、7-エトキシクマリン脱エチル化活性、アニリン水酸化活性、アミノピリン脱メチル化活性のすべての薬剤代謝活性と、GST活性が低下した。開腹手術後摂食群と開腹手術後TPN群ではP-450含量は減少し、測定した3種の薬剤代謝活性とGST活性が低下したが、開腹手術後に中鎖脂肪酸を含む経腸栄養剤を投与することによってP-450含量は増加し、3種類すべての薬剤代謝活性が上昇した。特に7-エトキシクマリン脱エチル化活性は手術後摂食群に比べて約8倍にも上昇した。脂肪を少量しか含まない経腸栄養剤の投与では、P-450含量と薬剤代謝活性が低下した。栄養や手術侵襲によるGSTの低下においては、GSTの分子種によって影響をうけるものとうけないものがあることが、抗GST抗体による免疫組織染色によって予想された。中心静脈栄養、経腸栄養、侵襲は、肝薬物代謝系や肝解毒系に大きな影響を与えることが示唆された。TPNモデルで栄養、手術侵襲が肝薬物代謝に与える影響を肝薬物代謝酵素の面から検討した。その結果、標準カロリー、過負荷カロリーのTPN施行によって、P-450含量、7-エトキシクマリン脱エチル化活性、アニリン水酸化活性、GST活性が低下した。低カロリーTPNではアニリン水酸化活性が低下し、アミノピリン脱メチル化活性が上昇した。手術侵襲によって、P-450含量、7-エトキシクマリン脱エチル化活性、アニリン水酸化活性、アミノピリン脱メチル化活性のすべての薬剤代謝活性と、GST活性が低下した。開腹手術後摂食群と開腹手術後TPN群ではP-450含量は減少し、測定した3種の薬剤代謝活性とGST活性が低下したが、開腹手術後に中鎖脂肪酸を含む経腸栄養剤を投与することによってP-450含量は増加し、3種類すべての薬剤代謝活性が上昇した。特に7-エトキシクマリン脱エチル化活性は手術後摂食群に比べて約8倍にも上昇した。脂肪を少量しか含まない経腸栄養剤の投与では、P-450含量と薬剤代謝活性が低下した。栄養や手術侵襲によるGSTの低下においては、GSTの分子種によって影響をうけるものとうけないものがあることが、抗GST抗体による免疫組織染色によって予想された。中心静脈栄養、経腸栄養、侵襲は、肝薬物代謝系や肝解毒系に大きな影響を与えることが示唆された。1. TPNの投与カロリーを変えて肝薬物代謝酵素活性を検討したところ,2日間のTPN施行により標準カロリー(225kcal/day)群と高カロリー(350kcal/day)群では,P-450含量は減少,7-エトキシクマリン脱メチル化活性,アニリン水酸化活性,GST活性は低下した.アミノピリン脱エチル化活性は各群間に差がなかった.体重は摂食群に比べてTPN施行例では各群とも低値で,とくに標準カロリー群がもっとも低値であった.肝体重比は摂食群に比べて低カロリー(100kcal/day)群,標準カロリー群ではやや低下し,高カロリー群では高値であった.2.標準カロリーTPN(225kcal/day)の投与日数で肝薬物代謝酵素活性を検討したところ,4日間施行群で7-エトキシクマリン脱エチル化活性,GST活性がもっとも低下し,8日施行群ではやや回復傾向がみられた.アニリン水酸化活性は1日施行群でもっとも低下した.アミノピリン脱メチル化活性には明らかな変化は認められなかった.体重は1日目に大きく低下するが,4日目で回復し,8日目では上昇していた.肝体重比は8日目で経口群より小さくなった.3.低カロリーTPN(100kcal/day)の投与日数で肝薬物代謝酵素活性を検討した.低カロリーTPNではP-450含量は減少せず,7-エトキシクマリン脱エチル化活性も低下しなかった.GST活性はやや低下,アニリン水酸化活性も低下した.一方,アミノピリン脱メチル化活性は上昇した.体重は減少し,4日目にも術前体重にまで回復しなかった.肝体重比は4日間投与でやや低下した.ラット栄養代謝モデルを用いて実験を継続した。肝薬物代謝酵素系の解析の結果から標準カロリー、過剰カロリーのTPNではP-450含量は減少し、7-エトキシクマリン脱エチル化活性、アニリン水酸化。活性、GST活性が低下した。低カロリーTPNではアニリン水酸化活性が低下し、アミノピリン脱メチル化活性が上昇することが明らかになった。また、開腹や片腎摘出などの手術侵襲によってP-450含量は減少し、すべての薬剤代謝活性とGST活性が低下した。一方、中鎖脂肪酸を含む経腸栄養剤を投与することによってP-450含量は増加し3種の薬剤代謝活性がすべて上昇し特に7-エトキシクマリン脱エチル化活性は手術後摂食群に比べて約8倍にも上昇したが、脂肪を少量しか含まない経腸栄養剤の投与ではP-450含量と薬剤代謝活性がともに低下した。しかし、第二相の反応であるGSTの活性は低下したままであった。 | KAKENHI-PROJECT-10671152 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10671152 |
栄養および手術侵襲が肝薬物代謝酵素活性に及ぼす影響に関する研究 | 静脈・経腸栄養や手術侵襲が肝薬物代謝系に大きな影響を与え、脂肪の投与がP-450含量・活性に大きく関わることが明らかになった。 | KAKENHI-PROJECT-10671152 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10671152 |
準ミリ波帯以上の高周波領域における電圧制御LC発振器の低位相雑音化の研究 | 本研究では、準ミリ波帯以上の周波数におけるCMOS無線通信用電圧制御発振器(VCO)の低位相雑音化を検討した。具体的には、VCOの増幅器回路の位相雑音に対する寄与と雑音伝搬の経路、およびLC共振器の位相雑音に対する寄与をバラクタとインダクタについて解析・改善を行った。バラクタの解析においてはサイズ依存性を明確にし、高Qバラクタを実現することで位相雑音を約10dB改善した。また、インダクタの解析おいては準ミリ波帯以上において表皮効果が課題になることを解明し、ストライプ構造をとることで位相雑音を約4dB改善した。以上本研究により準ミリ波帯以上のVCOの位相雑音を約14dB改善できることを確認した。1.MOSバラクタのQ値向上とそれによる電圧制御発振器の位相雑音の向上MOSバラクタのQ値向上方法としてゲート長の微細化により、一ユニットあたりの寄生抵抗を低減し、更に一定の容量値を得るためにユニット数を増加(並列接続)する事によって、全体としての寄生抵抗を大幅に削減することが可能となったが、一方、ゲート長が微細になることによって、配線等の寄生容量が増加し、MOSバラクタの容量可変範囲は低減することが見いだされた。具体的には、ゲート長2umから0.26umに低減することにより、Q値は約7倍向上し、容量可変範囲は約40%低減した。そのMOSバラクタを用いて、電圧制御発振器を試作・評価した結果、発振周波数約22GHzの発振器において、1MHz離調の位相雑音が約5dB向上することが可能となった。これは、共振器全体のQ値として約2倍向上したこととなり、MOSバラクタのQ値の共振器全体のQ値に対する寄与率が約40%程度であるためである。なお、本結果は、電子情報通信学会英文論文誌2014年3月号に掲載された。2.インダクタのQ値向上とそれによる電圧制御発振器の位相雑音の向上インダクタを断面積一定のもとストライプ形状とすることによって、期待される表皮効果を抑える効果により、高周波領域における寄生抵抗を低減させ、インダクタのQ値向上とそれを用いた電圧制御発振器の位相雑音の向上を検討した。具体的には、インダクタのメタルを3分割することにより実質的な寄生抵抗を(W + T)/(W + 3T)に低減し(W:メタル配線の幅、T:メタル配線の厚さ)、そのインダクタを用いた電圧制御発振器の位相雑音を評価し、3分割の効果を検討した結果、発振周波数21GHzの電圧制御発振器において、位相雑音を35dB向上することを確認した。この結果を、2013年アジアパシフィックマイクロ波会議において口頭発表した。昨年度の研究成果により、ストライプ形状のインダクタを用いた電圧制御発振器の位相雑音特性の向上が確認されたため、今年度は、(1)ミリ波領域および昨年度と異なる回路形式の場合における位相雑音特性向上の確認、(2)インダクタ自体のQ値向上の確認、(3)三次元的なストライプ形状の検討、(4)ストライプ形状のスペース幅依存性の検討、を目標とした。(1)のミリ波領域および昨年度と異なる回路形式の場合における位相雑音特性向上の確認については、昨年度と同一形状のストライプ形状のインダクタ(一辺50um)を用いた23GHzのPMOS発振器、25GHzのNMOS発振器および、更に小型のストライプ形状のインダクタ(一辺20um)を用いた40GHzのPMOS発振器を設計・試作・評価した結果、通常構造のインダクタを用いた電圧制御発振器に対して1MHz離調における位相雑音特性として、それぞれ3.6dB、1.9dB、3.0dBの位相雑音の改善を確認した。(2)のインダクタ自体のQ値向上の確認については、ストライプ形状のインダクタと通常構造のインダクタを単体で評価できるパターンを設計・試作し、Q値の代替として表皮効果が顕在化するコーナー周波数を評価した結果、ストライプ形状のインダクタのコーナー周波数は通常構造のインダクタに対して約1.5倍高周波化されていることを確認した。(3)の三次元的なストライプ形状の検討については、三次元ストライプ構造のインダクタを用いた電圧制御発振器の設計・試作を行ったが、現在評価中である。(4)のストライプ形状のスペース幅依存性については、スペース幅を24umとしたストライプ構造のインダクタを用いた電圧制御発振器の設計・試作を行ったが、こちらも現在評価中である。なお、(1)および(2)の結果は、2014年アジアパシフィックマイクロ波会議において口頭発表を行った。本研究の目的は、準ミリ波帯以上の周波数におけるCMOS無線通信用高周波電圧制御発振器の共振器回路のQ値、能動回路の雑音パラメータに着目し、その位相雑音の劣化原因を明らかにするとともに、それらの改善方法を提案することである。具体的な研究計画として、共振器回路のQ値については(a)MOSバラクタのQ値の劣化要因を明らかにしその改善方法を提案し、(b)インダクタのQ値の劣化要因を明らかにしその改善方法を提案する、また、(c)能動回路の雑音の位相雑音に対する影響を解析することである。 | KAKENHI-PROJECT-25420338 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25420338 |
準ミリ波帯以上の高周波領域における電圧制御LC発振器の低位相雑音化の研究 | 上記の目的・研究計画の(a)に対応する実績として、MOSバラクタのQ値劣化の要因がゲート側と基板側の寄生抵抗に起因する事を明らかにし、それぞれのパラメータがW/Lに対して逆方向の依存性を持つ、つまり最適点があることを示し、さらにゲートの微細化によりQ値が約7倍向上することを確認した。しかしながらトレードオフとしてMOSバラクタの容量可変範囲が約40%低減することも判明した。(b)に対応する実績として、高周波領域におけるインダクタのQ値の劣化が表皮効果であることを明らかにし、インダクタメタルを3分割したインダクタにより表皮効果が低減できることを示し、インダクタのQ値が約1.3倍向上することを確認した。さらに、発振周波数2124GHzの発振器および40GHzの発振器において、その位相雑音が35dB改善することを示した。(c)に対応する実績として、バイアス電流の増加と共にフリッカ雑音成分の重畳がおおきくなることを明らかにし、(b)でおこなった分割したインダクタの線間距離を広げることによりフリッカ雑音成分を低減できることを示した上記の結果より、申請時に計画した目的・研究計画は全て全うできたと考えているが、近接効果等の新たな問題も顕在化し、インダクタの設計としては更なる検討が必要となった。本研究では、準ミリ波帯以上の周波数におけるCMOS無線通信用電圧制御発振器(VCO)の低位相雑音化を検討した。具体的には、VCOの増幅器回路の位相雑音に対する寄与と雑音伝搬の経路、およびLC共振器の位相雑音に対する寄与をバラクタとインダクタについて解析・改善を行った。バラクタの解析においてはサイズ依存性を明確にし、高Qバラクタを実現することで位相雑音を約10dB改善した。また、インダクタの解析おいては準ミリ波帯以上において表皮効果が課題になることを解明し、ストライプ構造をとることで位相雑音を約4dB改善した。以上本研究により準ミリ波帯以上のVCOの位相雑音を約14dB改善できることを確認した。採択時の平成26年度目標は、平成25年度に設計した電圧制御発振器回路の試作・評価であったが、既に平成25年度中に設計・試作・評価を完了しその効果を確認できたため、平成26年度期初に平成26年度平成27年度の目標として、(1)ミリ波領域および昨年度と異なる回路形式の場合における位相雑音特性向上の確認、(2)インダクタ自体のQ値向上の確認、(3)三次元的なストライプ形状の検討、(4)ストライプ形状のスペース幅依存性、を設定した。それぞれの進行状況については、「研究実績の概要」に記したとおりであるが、達成度という観点より以下にまとめる。(1)のミリ波領域および昨年度と異なる回路形式の場合における位相雑音特性向上の確認については、ミリ波領域および三種類の準ミリ波領域の電圧制御発振器回路において位相雑音特性の向上を確認し学会発表を行った。したがって、この項の達成度は100%である。(2)のインダクタ自体のQ値向上の確認については、インダクタ自体の表皮効果が顕在化するコーナー周波数を評価した結果、ストライプ形状のインダクタが通常構造のインダクタに対して、そのコーナー周波数が高周波化していることを確認し学会発表を行った。したがって、この項の達成度も100%である。(3)の三次元的なストライプ形状の検討については、現在、設計・試作を終了しているが評価中であり、達成度としては70%である。(4)のストライプ形状のスペース幅依存性については、現在、設計・試作を終了しているが評価中であり、達成度としては70%である。以上の事から、平成26年度期初に平成26年度平成27年度の目標として立案した内容としての達成度は85%ということになるが、採択時の全体目標に対しては既に大きく上回り100%以上であるため、計画以上に進展していると考えている。 | KAKENHI-PROJECT-25420338 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25420338 |
分子量1300万ダルトンの巨大粒子ボルトの立体構造決定 | 本研究において、ボルト(vault)粒子の回転対称が39回回転対称であることを明らかにした。この事実に基づいて構造解析を進めることで3.5 A分解能でボルト粒子外殻の全体構造を決定することに成功した。粒子外殻は78個のMVP (Major Vault Protein)で形成されており、粒子長軸が約670Å、胴体部分の最大直径が約400Åであった。MVPには12個のドメイン構造があり、そのうちの1つが脂質ラフトへの結合に重要であるとされるストマチンと非常によく似た構造を持つことが明らかになった。これにより、ボルトが脂質ラフトに結合する可能性を示すことができた。本研究において、ボルト(vault)粒子の回転対称が39回回転対称であることを明らかにした。この事実に基づいて構造解析を進めることで3.5 A分解能でボルト粒子外殻の全体構造を決定することに成功した。粒子外殻は78個のMVP (Major Vault Protein)で形成されており、粒子長軸が約670Å、胴体部分の最大直径が約400Åであった。MVPには12個のドメイン構造があり、そのうちの1つが脂質ラフトへの結合に重要であるとされるストマチンと非常によく似た構造を持つことが明らかになった。これにより、ボルトが脂質ラフトに結合する可能性を示すことができた。1986年に米国UCLAのRomeLH.らのグループによってラット肝臓より単離されたボルトは、3種類の蛋白質と1種類のRNAによって構成されており、分子量約1300万Daでサイズが約40×70nmという今日までに報告されている中では最大のRNA-蛋白質複合体である。ほとんどの粒子は細胞質内に存在するが、全体量の5%程度が核膜孔複合体(NPC)とその周辺に局在し、核一細胞質間物質輸送に関与しているのではないかと考えられている。しかし、発見から20年以上を経た現在もなお、生理的な輸送基質は明らかになっていない。最近になり、ヒト由来ボルトを構成するRNAが、抗癌剤のミトキサントロンと特異的に結合するという報告があり、ボルトの多剤耐性への関与を示す有力な証拠となっている。また、緑膿菌感染の際、ボルトが肺上皮細胞の脂質ラフトに急速に集まる現象が確認されており、自然免疫反応への関与も示されている。この様な生体超分子複合体の機能は、各構成成分によって巧妙に制御されている事がいため、ボルト粒子全体の立体構造決定は機能解明のための大きな突破口を開くことが期待される。我々はボルトの全立体構造を決定するため、粒子を構成成分にばらさずに生体内に存在するそのままの状態で取り出し、結晶化することに成功した。得られた結晶はSPring-8の生体超分子専用ビームラインBL44XUにおいて3.5ωÅ分解能の反射を示した。現在、ボルト粒子のクライオ電顕モデルを初期位相として用いた分子置換法と非結晶学的対称(NCS)による平均化によって構造解析を進めている。ボルト(vault)は1986年に来国UCLAのL. H. Romeらによって発見された巨大な粒子である。本粒子は3種類の蛋白質と1種類のRNAで構成され、分子量は約1000万、粒子長軸の長さが約700A、胴体部分の最大直径が約400Aで、細胞質内に存在する最大の分子量を持つ蛋白質-核酸複合体粒子である。樽型をした粒子の外殻はMVP(Major Vault Protein)の多量体によって構成され、他の成分は粒子内部に存在している。本粒子については、これまで様々な役割が報告されているが、粒子の発見から20年以上を経た現在もなお、本質的な機能は解明されていない。よって、本研究では、vaultの全体構造決定を機能解明へのbreakthroughにするため、ボルト粒子全体のX線結晶構造解析に着手した。そして、2008年に3.5A分解能でボルト外殻の全立体構造決定に成功した。構造情報からは、機能解明に繋がる非常に興味深い事実が明らかになってきた。粒子外殻を形成する蛋白質であるMVPの12個あるドメイン構造のうちの1つが、脂質ラフトへの結合に重要であると言われるストマチンと類似の構造を持つことが分かったのである。この事実は、2007年に米国・Harvard大学の研究グループによって報告された「ボルトの自然免疫反応への関与」を強力に支持するものであった。彼らは、緑膿菌が肺上皮細胞に感染する際、肺上皮細胞の脂質ラフトにボルトが急速に集まることで、緑膿菌の内部移行が促進され、自然免疫反応への受け渡しがスムーズにわれて免疫抵抗性が高まるという現象を発見したのである。現段階では、ボルトの本質的な機能は解明されていないが、本研究によりボルトが脂質ラフトに結合する可能性を示せたことで、これまで散漫気味であった機能解明の研究において1つのしっかりとした方向性を示すことができた。 | KAKENHI-PROJECT-19770082 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19770082 |
脊髄損傷後の歩行機能再獲得のための神経リハビリテーション方法の開発 | 本研究では脊髄損傷後の歩行機能獲得のkeywordとして歩行運動の発現に貢献すると目される脊髄中枢パターン発生器(CPG)の性質についての神経生理学的研究を行い、新たなコンセプトに基づく神経リハビリテーション方法を提案することを目的とした。脊髄CPGの機能的役割についての検証実験では、歩行運動中の上肢運動に伴って脊髄の異なる髄節問を跨ぐ神経回路が活性化されることを実証した。12週間の動力歩行装置を用いた歩行リハビリテーションの効果を検証した研究では、過剰な痙性麻痺の減弱傾向と歩行中の荷重入力をトリガとした合目的的な筋活動応答の発現を示唆する重要な所見が得られた。これらの知見は、脊髄損傷後の歩行機能回復のkeywordとなる脊髄CPGの性質についての重要な情報を与え得るものであり、本研究の中核となる貴重な知見である。本研究では脊髄損傷後の歩行機能獲得のkeywordとして歩行運動の発現に貢献すると目される脊髄中枢パターン発生器(CPG)の性質についての神経生理学的研究を行い、新たなコンセプトに基づく神経リハビリテーション方法を提案することを目的とした。脊髄CPGの機能的役割についての検証実験では、歩行運動中の上肢運動に伴って脊髄の異なる髄節問を跨ぐ神経回路が活性化されることを実証した。12週間の動力歩行装置を用いた歩行リハビリテーションの効果を検証した研究では、過剰な痙性麻痺の減弱傾向と歩行中の荷重入力をトリガとした合目的的な筋活動応答の発現を示唆する重要な所見が得られた。これらの知見は、脊髄損傷後の歩行機能回復のkeywordとなる脊髄CPGの性質についての重要な情報を与え得るものであり、本研究の中核となる貴重な知見である。本研究では、近年盛んに行われている中枢神経再生に関する研究成果に呼応して、その後の歩行機能再獲得を円滑に実現するための効果的なリハビリテーション方法を開発することを目指す。具体的には、脊髄損傷後の歩行機能獲得のkey wordとして歩行運動の発現に貢献すると目される脊髄中枢パターン発生器(CPG)の性質に着目、脊髄CPGの性質についての神経生理学的研究を行うと共に、その活動を励起させる手段を検索し、新たなコンセプトに基づく神経リハビリテーション方法を提案する。本研究の目的は脊髄損傷によって歩行機能障害を有する患者に対し、脊髄CPGの活動を励起する適切な神経入力を与えることによりuse-dependent plasticityを促し、合目的的に歩行機能回復を実現する神経リハビリテーション方法を考案することである。【22年度の研究成果】22年度は脊髄CPGの特性についての基礎的検討および脊髄CPGの活動を励起するための効果的な方法の検索を行った。具体的には、左右の下肢間および上肢-下肢間を跨ぐ脊髄神経回路の特定とその機能的意義、さらに体肢協調運動時における高位中枢の活動と上記の脊髄神経回路との連関について検討した。動力歩行装置による受動的歩行運動中に脊髄損傷者の麻痺下肢に発現する歩行様筋活動は、上肢動作の印可や付加的な随意神経指令によって合目的的に調節されることが明らかになった。これらの研究成果は、脊髄損傷後の歩行機能回復のkey wordとなる脊髄CPGの性質についての重要な情報を与え得るものであり、本研究の中核となる貴重な知見である。また、脊髄不全損傷者に対する歩行リハビリテーションの有効性に関する縦断的研究を開始し、22年度中に3名の実験を終了した。本研究では、近年盛んに行われている中枢神経再生に関する研究成果に呼応して、その後の歩行機能再獲得を円滑に実現するための効果的なリハビリテーション方法を開発することを目指す。具体的には、脊髄損傷後の歩行機能獲得のkey wordとして歩行運動の発現に貢献すると目される脊髄中枢パターン発生器(CPG)の性質に着目、脊髄CPGの性質についての神経生理学的研究を行うと共に、その活動を励起させる手段を検索し、新たなコンセプトに基づく神経リハビリテーション方法を提案する。本研究の目的は脊髄損傷によって歩行機能障害を有する患者に対し、脊髄CPGの活動を励起する適切な神経入力を与えることによりuse-dependent plasticityを促し、合目的的に歩行機能回復を実現する神経リハビリテーション方法を考案することである。【23年度の研究成果】23年度は、脊髄不全損傷者に対する歩行リハビリテーションの有効性に関する縦断的研究を引き続き進め、これまでに6名が終了、1名が現在進行中である。12週間の動力歩行装置を用いた受動ステッピングトレーニングによって、過剰な痙性麻痺の減弱傾向と、歩行中の荷重入力をトリガにした合目的的な筋活動応答の発現を示唆する重要な所見が得られた。また、上肢と下肢間の神経連絡と、その歩行への貢献度についての実験を実施し、上肢運動に伴う随伴的な下肢への神経投射のみならず、脊髄の異なる髄節間を跨ぐ神経回路が活性化される可能性が示唆された。これらの知見は、脊髄損傷後の歩行機能回復のkey wordとなる脊髄CPGの性質についての重要な情報を与え得るものであり、本研究の中核となる貴重な知見である。本研究では、近年盛んに行われている中枢神経再生に関する研究成果に呼応して、その後の歩行機能再獲得を円滑に実現するための効果的なリハビリテーション方法を開発することを目指す。具体的には、脊髄損傷後の歩行機能獲得のkey wordとして歩行運動の発現に貢献すると目される脊髄中枢パターン発生器(CPG)の性質に着目、脊髄CPGの性質についての神経生理学的研究を行うと共に、その活動を励起させる手段を検索し、新たなコンセプトに基づく神経リハビリテーション方法を提案する。 | KAKENHI-PROJECT-22680045 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22680045 |
脊髄損傷後の歩行機能再獲得のための神経リハビリテーション方法の開発 | 本研究の目的は脊髄損傷によって歩行機能障害を有する患者に対し、脊髄CPGの活動を励起する適切な神経入力を与えることによりuse-dependent plasticityを促し、合目的的に歩行機能回復を実現する神経リハビリテーション方法を考案することである。研究期間中に脊髄不全損傷者に対する歩行リハビリテーションの有効性に関する研究を進め、13名の横断的検討、7名の縦断的検討を行った。縦断的検討では、歩行動作と麻痺下肢筋活動の関連性についての重要な知見を得ることができた。12週間の動力歩行装置を用いた受動ステッピングトレーニングの効果を検証した縦断的検討では、過剰な痙性麻痺の減弱傾向と、歩行中の荷重入力をトリガにした合目的的な筋活動応答の発現を示唆する重要な所見が得られた。また、上肢と下肢間の神経連絡と、その歩行への貢献度についての実験を実施し、上肢運動に伴う随伴的な下肢への神経投射のみならず、脊髄の異なる髄節間を跨ぐ神経回路が活性化される可能性が示唆された。これらの知見は、脊髄損傷後の歩行機能回復のkey wordとなる脊髄CPGの性質についての重要な情報を与え得るものであり、本研究の中核となる貴重な知見である。歩行運動に関連した脊髄神経回路についての実験的検討は順調に進んでおり、3年目に新たに脊髄硬膜外刺激を用いた実験に展開できる足がかりを得ることができた。脊髄不全損傷者を対象とした12か月の歩行リハビリテーションの効果を検証する縦断的実験は、震災の影響で予定より実施人数に若干の不足があるが、最終年度までに予定の人数を終えることは十分に可能と考えられる。24年度が最終年度であるため、記入しない。歩行機能回復のための具体的な方法論確立を目指して、科学的根拠を得る基礎実験的視座と等分に、歩行リハビリテーションを行う際の注意点や患者さんに対するケアなどについても体系的に情報を整理していく予定である。学会発表、論文発表のみにとどまらず、臨床現場でリハビリテーションに携わる理学療法士、作業療法士との意見交換、情報提供を積極的に行うなど、研究成果の還元に鋭意、努力していく予定である。24年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-22680045 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22680045 |
細胞膜張力がアクチンのパターン制御を通して管状組織の機械的強度を調節する | 生体の管構造を支持する細胞内骨格パターンとして、リング状のアクチン繊維が等間隔に配列する現象が報告されている。管状上皮であるショウジョウバエ気管では内径拡張時、内腔側の細胞膜直下に等間隔アクチンリングが出現し、個体の成長に応じてリングの直径と間隔が拡張する。本研究は、この等間隔アクチンリングの形成・調節機構の上流には細胞膜にかかる張力があるという仮説に基づいて行っており、1等間隔アクチンリング形成過程のアクチンパターン、2等間隔アクチンリング形成・調節に必要なアクチン結合分子・膜脂質、3気管アピカル膜にかかる張力によるアクチンパターン及び管構造強度への影響、4ほ乳類培養細胞系での検証、の4点に着目した研究実施計画を立てた。本年度は、上記の1について、超解像顕微鏡技術(Zeiss社のAiryscan)を用いて気管の拡張前後におけるアクチンパターンの遷移を詳細に観察し、定量的に解析する手法を構築した。その結果、気管拡張前は管の長軸方向を向いていた斑点状のアクチンの集合体が、管の拡張とともに周長方向へ向きを変え、次第に長くなりながらアクチンケーブルを構成し、リングになることが明らかとなった。また、各々のアクチン集合体の移動度および移動方向を定量し、それぞれが気管という組織の方向を感知するシステムあるのではないかという示唆を得た。2について、ショウジョウバエのゲノムからアクチン結合分子と推定されている全遺伝子を候補として、アクチンリングに必要とされる遺伝子をRNAi発現系統を用いて網羅的に探索した結果、16の重要な分子を同定した。RNAi系統によるノックダウン時の表現型を比較することで、気管の拡張とアクチンパターンの関係が整理できると考えられる。研究実施計画の1等間隔アクチンリング形成過程のアクチンパターン、2等間隔アクチンリング形成・調節に必要なアクチン結合分子・膜脂質、3気管アピカル膜にかかる張力によるアクチンパターン及び管構造強度への影響、4ほ乳類培養細胞系での検証、の4点のうち、1と2に関しては計画通り遂行できている。2では、さらにそれぞれの分子の局在を調べるため、GFP融合系統をショウジョウバエ系統ライブラリーから取り寄せるか、もしライブラリーに無い場合はGFPを融合したタンパク質の発現系統を作製中である。GFP融合タンパク質発現系統と、RNAi発現系統を組み合わせることで、3へ効率的なアプローチが可能になると考えられる。2の膜脂質に関しては既存のマーカーの輝度が低く、種類も少ないため、まだ信頼のおけるデータが得られていないが、こちらも得られたアクチン結合分子から候補の膜脂質を絞り、検証していきたいと考えている。2年目は、1等間隔アクチンリング形成過程のアクチンパターン、についてアクチン集合体のダイナミクスの定量的な解析を進め、終わらせる。2等間隔アクチンリング形成・調節に必要なアクチン結合分子・膜脂質、については、スクリーニングで同定された必須のアクチン結合分子のGFP融合系統を用いて、それぞれの分子がアピカル膜上のどこで機能しているかを調べ、張力感知システムとして考えられる分子機構を想定する。そして3気管アピカル膜にかかる張力によるアクチンパターン及び管構造強度への影響、に関してアクチンパターンを乱した時の管構造を検証し、その強度を推定する。また、全長の短い変異体や、一部の筋肉活動を阻害して張力のかからない状況にした際に、管構造およびアクチンパターンがどのように変化するかを検証する。3年目は、4に関して、23で想定された分子機構が、ほ乳類細胞に保存されているかどうかを検証する。得られた結果を論文としてまとめ、国内外の学会で発表する。生体の管構造を支持する細胞内骨格パターンとして、リング状のアクチン繊維が等間隔に配列する現象が報告されている。管状上皮であるショウジョウバエ気管では内径拡張時、内腔側の細胞膜直下に等間隔アクチンリングが出現し、個体の成長に応じてリングの直径と間隔が拡張する。本研究は、この等間隔アクチンリングの形成・調節機構の上流には細胞膜にかかる張力があるという仮説に基づいて行っており、1等間隔アクチンリング形成過程のアクチンパターン、2等間隔アクチンリング形成・調節に必要なアクチン結合分子・膜脂質、3気管アピカル膜にかかる張力によるアクチンパターン及び管構造強度への影響、4ほ乳類培養細胞系での検証、の4点に着目した研究実施計画を立てた。本年度は、上記の1について、超解像顕微鏡技術(Zeiss社のAiryscan)を用いて気管の拡張前後におけるアクチンパターンの遷移を詳細に観察し、定量的に解析する手法を構築した。その結果、気管拡張前は管の長軸方向を向いていた斑点状のアクチンの集合体が、管の拡張とともに周長方向へ向きを変え、次第に長くなりながらアクチンケーブルを構成し、リングになることが明らかとなった。また、各々のアクチン集合体の移動度および移動方向を定量し、それぞれが気管という組織の方向を感知するシステムあるのではないかという示唆を得た。2について、ショウジョウバエのゲノムからアクチン結合分子と推定されている全遺伝子を候補として、アクチンリングに必要とされる遺伝子をRNAi発現系統を用いて網羅的に探索した結果、16の重要な分子を同定した。RNAi系統によるノックダウン時の表現型を比較することで、気管の拡張とアクチンパターンの関係が整理できると考えられる。 | KAKENHI-PROJECT-18K14746 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K14746 |
細胞膜張力がアクチンのパターン制御を通して管状組織の機械的強度を調節する | 研究実施計画の1等間隔アクチンリング形成過程のアクチンパターン、2等間隔アクチンリング形成・調節に必要なアクチン結合分子・膜脂質、3気管アピカル膜にかかる張力によるアクチンパターン及び管構造強度への影響、4ほ乳類培養細胞系での検証、の4点のうち、1と2に関しては計画通り遂行できている。2では、さらにそれぞれの分子の局在を調べるため、GFP融合系統をショウジョウバエ系統ライブラリーから取り寄せるか、もしライブラリーに無い場合はGFPを融合したタンパク質の発現系統を作製中である。GFP融合タンパク質発現系統と、RNAi発現系統を組み合わせることで、3へ効率的なアプローチが可能になると考えられる。2の膜脂質に関しては既存のマーカーの輝度が低く、種類も少ないため、まだ信頼のおけるデータが得られていないが、こちらも得られたアクチン結合分子から候補の膜脂質を絞り、検証していきたいと考えている。2年目は、1等間隔アクチンリング形成過程のアクチンパターン、についてアクチン集合体のダイナミクスの定量的な解析を進め、終わらせる。2等間隔アクチンリング形成・調節に必要なアクチン結合分子・膜脂質、については、スクリーニングで同定された必須のアクチン結合分子のGFP融合系統を用いて、それぞれの分子がアピカル膜上のどこで機能しているかを調べ、張力感知システムとして考えられる分子機構を想定する。そして3気管アピカル膜にかかる張力によるアクチンパターン及び管構造強度への影響、に関してアクチンパターンを乱した時の管構造を検証し、その強度を推定する。また、全長の短い変異体や、一部の筋肉活動を阻害して張力のかからない状況にした際に、管構造およびアクチンパターンがどのように変化するかを検証する。3年目は、4に関して、23で想定された分子機構が、ほ乳類細胞に保存されているかどうかを検証する。得られた結果を論文としてまとめ、国内外の学会で発表する。購入予定だったコンピューター及びソフトウェアは、在籍する研究室のものを使用できたため、購入を見送った。また、スクリーニング補助員の雇用に関しても、所属先の雇用する補助員に協力を仰ぐことができたため、今年度は予算を使用しなかった。翌年度の使用計画として、改めて実験補助員の雇用費として、加えて合成DNAや、ショウジョウバエ変異体系統の作製に使用する予定である。 | KAKENHI-PROJECT-18K14746 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K14746 |
災害被災住民の支援ニーズ変容プロセスと地域精神保健の課題-GHQ30項目版による計量疫学的研究- | 1990年11月に始まった雲仙岳噴火災害は、1996年6月に噴火終息宣言が出されるまでに、44人の死者と広大な農耕地や多数の・家屋の焼失・埋没をもたらした。1991年9月から1995年9月までの期間に行われた被災住民の精神的健康に対する支援活動の中で、総計5回の健康調査が実施された。調査によって、次の諸点が明らかになった。(1)General Health Questionnaire30項目版(GHQ)の所見から、(1)GHQ得点8点以上(GHQ高得点者)のハイリスク群は、被災から8年間で66.9%から32.4%へと低下したが、被災地と同じ島原半島にあり、社会・経済状況が類似した対照地域の住民のGHQ高得点者率(12.3%)よりも明らかに高い水準にあった。しかし、(2)「不安感・緊張感」関連症状や「社会的無能力感」関連症状などは、避難生活開始から12ヶ月で改善した。(3)「抑うつ感」関連症状は、避難生活開始から3年4年以上も継続していた。(4)「対人関係困難感」関連症状は、被災から8年後にも継続していた。このように、被災住民の精神状態は時間経過と共に変化することが明らかになった。(2)自宅に戻った後の被災住民の生活実態と精神状態との関連でみると、(1)生活リズムの顕著な変化、(2)家族内役割の顕著な変化、(4)馴染みの人との付き合い減少、(5)健康感の喪失、などは精神的不健康と有意な関係にあった。(3)被災住民の精神的不健康のリスク要因は、(1)女性、(2)中・高齢者、(3)持病で長期間の受療者、(4)初期の頻回避難経験者、(5)自営業的就業者などであった。災害発生時には、被災住民の支援ニーズ変容プロセスを念頭に置いて、支援活動を行うことの必要性が明らかになった。1990年11月に始まった雲仙岳噴火災害は、1996年6月に噴火終息宣言が出されるまでに、44人の死者と広大な農耕地や多数の・家屋の焼失・埋没をもたらした。1991年9月から1995年9月までの期間に行われた被災住民の精神的健康に対する支援活動の中で、総計5回の健康調査が実施された。調査によって、次の諸点が明らかになった。(1)General Health Questionnaire30項目版(GHQ)の所見から、(1)GHQ得点8点以上(GHQ高得点者)のハイリスク群は、被災から8年間で66.9%から32.4%へと低下したが、被災地と同じ島原半島にあり、社会・経済状況が類似した対照地域の住民のGHQ高得点者率(12.3%)よりも明らかに高い水準にあった。しかし、(2)「不安感・緊張感」関連症状や「社会的無能力感」関連症状などは、避難生活開始から12ヶ月で改善した。(3)「抑うつ感」関連症状は、避難生活開始から3年4年以上も継続していた。(4)「対人関係困難感」関連症状は、被災から8年後にも継続していた。このように、被災住民の精神状態は時間経過と共に変化することが明らかになった。(2)自宅に戻った後の被災住民の生活実態と精神状態との関連でみると、(1)生活リズムの顕著な変化、(2)家族内役割の顕著な変化、(4)馴染みの人との付き合い減少、(5)健康感の喪失、などは精神的不健康と有意な関係にあった。(3)被災住民の精神的不健康のリスク要因は、(1)女性、(2)中・高齢者、(3)持病で長期間の受療者、(4)初期の頻回避難経験者、(5)自営業的就業者などであった。災害発生時には、被災住民の支援ニーズ変容プロセスを念頭に置いて、支援活動を行うことの必要性が明らかになった。雲仙岳の噴火活動は終息に向かったが、(1)新しい居住地への集団移転、(2)小・中学校の統廃合、(3)家族離散による独居老人の新生活再建、(4)「先祖伝来の土地」が基盤である自営業者や農業従事者の生活復興に対する意見の対立、などの諸問題は残ったままである。このような状況のなかで、「頻回の避難歴」、「仮設住宅での避難生活」、「自営業的職業」、「通院を必要とする身体的問題」などの日常生活要因を時間経過・性別に検討すると、(1)男性の場合はそれらの要因が精神医学的問題に対するリスク要因として作用を及ぼしていなかった。しかし、(2)女性の場合、時間が経過すると共に、「仮設住宅での避難生活」、「自営業的職業」、「通院を必要とする身体的問題」などは精神医学的問題を悪化させるリスク要因として作用していた。更に、女性の場合、それらのリスク要因は時間経過と共に次第に加重されていく特性を有していた。また、(3)女性の場合、20歳代と30歳代の若年者におけるストレス度は時間経過と共に有意に低下していくのに対して、40歳代以降の中・高齢者におけるストレス度は高いまま経過するという傾向が認められた。つまり、年齢が高くなればなるほど、ストレス度も有意に高くなるという線形関係を示した。しかし、男性にはこのような現象が顕著な形で現れることは無かった。つまり、災害ストレスの影響には性差と年齢差を認めた。 | KAKENHI-PROJECT-09670995 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09670995 |
災害被災住民の支援ニーズ変容プロセスと地域精神保健の課題-GHQ30項目版による計量疫学的研究- | これらの所見から、被災住民に対する支援対策は、支援ニーズ変容プロセスを念頭に置いて行わなければならないことが明らかになった。雲仙岳の噴火活動は1996年に終息したが、(1)新しい居住地への集団転移、(2)小・中学校の統廃合、(3)家族離散による独居老人の新生活再建、(4)「先祖伝来の土地」が基盤である自営業者や農業従事者の生活復興に対する意見の対立など、現実的な復興過程には諸問題が残ったままである。本格的な避難生活開始後44カ月が経過した時点までに、(1)不安・緊張感、無能力・社会的機能障害感は早期から有意に改善したが、(2)抑うつ感、対人関係困難感は遷延ないし悪化の傾向をたどった。(3)日本の一般人口におけるGHQ8点以上の高得点者率は1525%という報告が多いが、避難住民の高得点者率は、44ケ月が経過した時点でさえ、約46%と高水準のままであった。これらの所見は、避難生活によって、被災住民個々人の安全性と活動性は早期に改善するが、「同じ被災者」という共有感情が消失した後の対人軋轢は容易に改善し難い性質を帯びていることを示唆している。また、(4)自宅や農耕地などに実害にあった群と無かった群を比較しても、GHQ得点の推移・変動は同様なパターンを示した。このことは、災害によって地域社会が破壊されると、その影響は直接失った財産によらず、地域社会に大きな変動を起こし、地域住民全体に波及することを示している。今回の結果は長期的な避難生活を強いられた被災住民の精神保健的支援ニーズが変容していくプロセスを確実にとらえる必要性と、そのプロセスを踏まえた上で支援対策を行うことの重要性を示唆している。雲仙岳噴火活動は1990年11月に始まり、1996年6月に噴火終息宣言が出された。自宅生活を開始した被災住民の精神的健康状態の追跡調査を1998年11月に行った。今回の調査では、自己評価式質問票General Health Questionnaire30項目版の実施と共に、米国精神医学会の診断基準・DSM-IVの「外傷後ストレス障害(PTSD)」の構造化面接であるClinician Administered PTSD Scale(CAPS)を用いて被災住民137人の面接を行った。137人中の64人がCAPSのA項目を満足していた。64人中で全ての診断基準を満足していたのは16人であり、噴火開始時点から8年間におけるPTSDの生涯有病率は25.0%となった。性別にみると、男性は4人、女性は12人であった。面接時の年齢別にみると、50歳代が5人、60歳代が8人、70歳代が3人となっていた。阪神・淡路大震災から3年9ケ月のPTSD生涯有病率は20.5%、臨床閾値下の事例は23.3%であったとされている。雲仙岳噴火災害の観察期間は8年間であり、阪神・淡路大震災の観察期間の約2倍であるが、PTSD生涯有病率は5%の差異の間に収まっている。両災害における地域メンタルヘルス・サービスは「精神科診断学」を基盤とした活動ではなく、生活支援的色彩が強く、PTSDの全発病例を捉えているとは限らないため、この5%の差は発病率の差とは断定できない。阪神・淡路大震災におけるPTSD不全例が23.3%であったことから判断しても、表に現れない潜在性のPTSDも少なくないと推察される。また、診断基準を満たしていなくても、侵入症状・睡眠障害・不安症状で悩む被災住民は多いと考えられ、その支援ニ一ズをくみ取りつつ、長期的な支援活動を実施する必要がある。 | KAKENHI-PROJECT-09670995 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09670995 |
老化抑制遺伝子Klothoを用いた血管及び心移植後の血管内膜肥厚に関する研究 | Klotho遺伝子は個体老化と血管障害を抑制する新規遺伝子である.我々は当初,直接klotho遺伝子の血管内皮細胞の保護効果を検討することを研究目標とした.Klotho遺伝子の役割を解明するために,klotho蛋白の標的となりうる血管平滑筋細胞の増殖様式の基礎研究を竹うことを第1の目標とした.平滑筋細胞増殖分子機構においては転写因子レベルで未知の点が多いため,我々はzinc finger型転写因子のbasictranscription factor binding protein 2(BTEB2)に着目した.まず,in vitroの実験において平滑筋細胞の増殖刺激によりBTEB2遺伝子の発現が誘導されることを突き止めた.さらに血管平滑筋の形質変換が誘導され,BTEB2遺伝子は血管病変の形成に関与すると予想された.次いでin vivoにおける検討を行った.我々が用いた動物モデルは,従来のバルーンを用いた血管内膜障害モデルに加え,心移植モデル,血管移植モデル及び外科的侵襲による血管内膜障害の新しいモデル(血管吻合部狭窄モデル)であった.すなわち,PTCA後の再狭窄,移植後の血管内膜肥厚,冠動脈バイパス後の吻合部狭窄など,患者の生命予後を左右する重要な合併症のモデルにおけるBTEB2の発現経過を検討した.なお,血管吻合部狭窄モデルは我々が開発した新しい実験モデルであった.ラット腹部大動脈に対し切開縫合による侵襲を加えた結果2週間目をピークに内膜肥厚が完成するもので,吻合部狭窄の機序解明に有用であると考えている.以上の各モデルで免疫染色およびmRNAレベルで検討を行い,BTEB2が血管平滑筋細胞の増殖過程で経時的に一致して発現し,内膜肥厚の形成に重要な役割を果たす可能性がin vivoでも確認された.以上の実績を上げたが,BTEB2遺伝子とklotho遺伝子の相互関係を検討し,klotho遺伝子の本質に迫るといった更なる目標は達成できなかった.今後の研究が待たれるものである.Klotho遺伝子は個体老化と血管障害を抑制する新規遺伝子である.我々は当初,直接klotho遺伝子の血管内皮細胞の保護効果を検討することを研究目標とした.Klotho遺伝子の役割を解明するために,klotho蛋白の標的となりうる血管平滑筋細胞の増殖様式の基礎研究を竹うことを第1の目標とした.平滑筋細胞増殖分子機構においては転写因子レベルで未知の点が多いため,我々はzinc finger型転写因子のbasictranscription factor binding protein 2(BTEB2)に着目した.まず,in vitroの実験において平滑筋細胞の増殖刺激によりBTEB2遺伝子の発現が誘導されることを突き止めた.さらに血管平滑筋の形質変換が誘導され,BTEB2遺伝子は血管病変の形成に関与すると予想された.次いでin vivoにおける検討を行った.我々が用いた動物モデルは,従来のバルーンを用いた血管内膜障害モデルに加え,心移植モデル,血管移植モデル及び外科的侵襲による血管内膜障害の新しいモデル(血管吻合部狭窄モデル)であった.すなわち,PTCA後の再狭窄,移植後の血管内膜肥厚,冠動脈バイパス後の吻合部狭窄など,患者の生命予後を左右する重要な合併症のモデルにおけるBTEB2の発現経過を検討した.なお,血管吻合部狭窄モデルは我々が開発した新しい実験モデルであった.ラット腹部大動脈に対し切開縫合による侵襲を加えた結果2週間目をピークに内膜肥厚が完成するもので,吻合部狭窄の機序解明に有用であると考えている.以上の各モデルで免疫染色およびmRNAレベルで検討を行い,BTEB2が血管平滑筋細胞の増殖過程で経時的に一致して発現し,内膜肥厚の形成に重要な役割を果たす可能性がin vivoでも確認された.以上の実績を上げたが,BTEB2遺伝子とklotho遺伝子の相互関係を検討し,klotho遺伝子の本質に迫るといった更なる目標は達成できなかった.今後の研究が待たれるものである.Kiotho遺伝子は個体老化と血管障害を抑制する新規遺伝子である.平成11年度はklotho遺伝子の病態生理学的意義を検討するために,klotho蛋白の標的となりうる血管平滑筋の増殖様式の基礎研究を行った.平滑筋細胞増殖分子機構においては転写因子のレベルで未知の点が多いため,我々はzinc finger型転写因子のbasictranscription factor binding protein 2(BTEB2)に着目した.まず,BTEB2がin vitroで平滑筋増殖に重要な役割を担うことを確認した(Watanabe N,etal.Circulation Res 1999;85:182-191.Kawai-Kowase K,etal.Circulation Res 1999;85:787-795).すなわち,平滑筋細胞の増殖刺激により,BTEB2遺伝子は発現が誘導された.その結果血管平滑筋の形質交換が誘導され,BTEB2遺伝子は血管病変の形成に関与すると考えられた.次いでBTEB2がin vivoでも同様の役割を演じていることを確認した。(Ogata T,etal.JThorac Cardiovasc Surg,in press).なおこの時我々が用いた動物モデルは,従来のバルーンを用いた血管内膜障害モデルとは異なる,外科的侵襲による血管内膜障害の新しいモデルであった.このモデルでは,ラット腹部大動脈に対し切開縫合による侵襲を加えた結果,2週間目をピークに内膜肥厚が完成することが確認された.我々は,血管外科における血管吻合部狭窄モデルとして有用であると考えている.以上の実績をもとに,来年度は1)心移植モデルなど,他のモデルでもBTEB2の同様の役割を確認する.2)BTEB | KAKENHI-PROJECT-11671304 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11671304 |
老化抑制遺伝子Klothoを用いた血管及び心移植後の血管内膜肥厚に関する研究 | 2遺伝子を導入したアデノウィルスを用いて,培養血管平滑筋細胞における増殖抑制効果を確認する.3)我々の確立した血管吻合部狭窄モデルにBTEB2遺伝子導入を行い,血管内膜肥厚の抑制効果を検討する.4)BTEB2遺伝子とklotho遺伝子の相互関係を検討することを目標とする.Klotho遺伝子は個体老化と血管障害を抑制する新規遺伝子である.平成11年度はklotho遺伝子の病態生理学的意義を検討するために,klotho蛋白の標的となりうる血管平滑筋の増殖様式の基礎研究を行った.平滑筋細胞増殖分子機構においては転写因子のレベルで未知の点が多いため,我々はzinc finger型転写因子のbasictranscription factor binding protein 2(BTEB2)に着目した.BTEB2遺伝子は血管病変の形成に関与すると考えられ,BTEB2がin vivoでも同様の役割を演じていることを確認した.なおこの時我々が用いた動物モデルは,従来のバルーンを用いた血管内膜障害モデルとは異なる,外科的侵襲による血管内膜障害の新しいモデルであった.このモデルでは,ラット腹部大動脈に対し切開縫合による侵襲を加えた結果,2週間目をピークに内膜肥厚が完成することが確認された.以上の実績をもとに,平成12年度は1)心移植モデルなど,他のモデルでもBTEB2の同様の役割を確認することを目標とした.まずラット心移植モデルを作製し,冠動脈狭窄におけるBTEB2の発現様式を検討したが,BTEB2は肥厚内膜に特異的に発現し,病変形成に重要な役割を果たすことが示唆された(Ogata T,etal.Transplantation 2000;701653-1656).また2)我々の新しいモデルが遺伝子子導入を行い血管内膜肥厚の抑制効果を評価するモデルとして有用か否かも再検討した(Ogata T,et al.J Cardiovasc Surg,in press).今後は1)BTEB2遺伝子を導入したアデノウィルスを用いて,培養血管平滑筋細胞における増殖抑制効果を確認する.2)我々の確立した血管吻合部狭窄モデルにBTEB2遺伝子子導入を行い,血管内膜肥厚の抑制効果を検討する.3)BTEB2遺伝子とklotho遺伝子の相互関係を検討することを目標とする.Klotho遺伝子は個体老化と血管障害を抑制する新規遺伝子である.klotho遺伝子の病態生理学的意義を検討するために,klotho蛋白の標的となりうる血管平滑筋の増殖様式の基礎研究を行った.平滑筋細胞増殖分子機構においては転写因子のレベルで未知の点が多いため,我々はzinc finger型転写因子のbasictranscription factor binding protein 2 (BTEB2)に着目した.まず,BTEB2がin vitroで平滑筋増殖に重要な役割を担うことを確認した(Watanabe N, et | KAKENHI-PROJECT-11671304 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11671304 |
転写制御タンパク質の大腸菌による大量発現および高次構造に基づく機能解析 | 本研究は薬物代謝酵素P4501A1の発現を調節する転写制御タンパク質の機能ドメインを大腸菌を用いて大量発現させ、精製の後、タンパク質の高次構造解析の結果と関連づけて作用機構を解析することが目的である。P-4501A1遺伝子の転写制御領域は2種類あり、BTE(Basic trans-criptional element)は構成的発現に、XRE(Xenobiotic responsive element)は誘導的発現に必要である。各々の領域には特異的な転写制御タンパク質が結合して転写を調節する。BTEに結合する転写因子BTEBのDNA結合領域は3回連続するZn-フィンガーモチーフとそのN末端側に隣接する塩基性配列を含む。このDNA結合領域の大腸菌での大量発現・精製を完了し、キャラクタリゼーションの結果を報告した。13-C、15-Nでダブルラベルしたタンパク質の高次構造は東京都臨床医学総合研究所の稲垣冬彦博士の協力により、三重共鳴三次元NMR法による解析が進行中である。現在、約70%のシグナルの同定が完了した。さらにこのタンパク質とDNAとの複合体の高次構造解析も開始した。これによりタンパク質とDNAの相互作用をより詳細に理解できると期待される。P4501A1の誘導的発現に必要なXRE領域に結合するタンパク質はAhR(Arylhydrocarbon Receptor)とArnt(AhR nuclear translocator)のヘテロ二量体である。両タンパク質はDNA結合ドメイン(bHLH)、リガンド結合ドメイン(PAS)、二量体形成ドメイン(bHLH+PAS)をもつ新しいタイプの受容体型転写因子である。すでに、両者のbHLH+PASドメインを大腸菌で発現させ、DNA結合活性をもつヘテロ二量体の形成に成功した。しかし、大量発現を試みると大部分が不溶性となり高次構造解析に適した試料の調製は困難であった。そこで、GST-やHis-タグドメインはタンパク質の精製には都合が良いが不溶性の原因になると考え、これらを含めずに目的の配列のみからなるタンパク質を発現させてこの問題点を解決しようと検討中である。本研究は薬物代謝酵素P4501A1の発現を調節する転写制御タンパク質の機能ドメインを大腸菌を用いて大量発現させ、精製の後、タンパク質の高次構造解析の結果と関連づけて作用機構を解析することが目的である。P-4501A1遺伝子の転写制御領域は2種類あり、BTE(Basic trans-criptional element)は構成的発現に、XRE(Xenobiotic responsive element)は誘導的発現に必要である。各々の領域には特異的な転写制御タンパク質が結合して転写を調節する。BTEに結合する転写因子BTEBのDNA結合領域は3回連続するZn-フィンガーモチーフとそのN末端側に隣接する塩基性配列を含む。このDNA結合領域の大腸菌での大量発現・精製を完了し、キャラクタリゼーションの結果を報告した。13-C、15-Nでダブルラベルしたタンパク質の高次構造は東京都臨床医学総合研究所の稲垣冬彦博士の協力により、三重共鳴三次元NMR法による解析が進行中である。現在、約70%のシグナルの同定が完了した。さらにこのタンパク質とDNAとの複合体の高次構造解析も開始した。これによりタンパク質とDNAの相互作用をより詳細に理解できると期待される。P4501A1の誘導的発現に必要なXRE領域に結合するタンパク質はAhR(Arylhydrocarbon Receptor)とArnt(AhR nuclear translocator)のヘテロ二量体である。両タンパク質はDNA結合ドメイン(bHLH)、リガンド結合ドメイン(PAS)、二量体形成ドメイン(bHLH+PAS)をもつ新しいタイプの受容体型転写因子である。すでに、両者のbHLH+PASドメインを大腸菌で発現させ、DNA結合活性をもつヘテロ二量体の形成に成功した。しかし、大量発現を試みると大部分が不溶性となり高次構造解析に適した試料の調製は困難であった。そこで、GST-やHis-タグドメインはタンパク質の精製には都合が良いが不溶性の原因になると考え、これらを含めずに目的の配列のみからなるタンパク質を発現させてこの問題点を解決しようと検討中である。 | KAKENHI-PROJECT-09249202 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09249202 |
カンボジアにおける市民社会に関する実証的研究:人権NGOに着目して | 本研究の目的は、カンボジアにおける市民社会の政治的役割とその実像を、土地紛争の事例から明らかにすることである。この目的に沿い、本研究は次の3つの主題を土地紛争の事例において検討する。(1)ADHOC(カンボジア人権開発協会)と主要ドナーの関係性、(2)ADHOCを含む人権NGOとカンボジア政府、民間企業の権力関係、(3)ADHOCがどのような活動を実施し、政府や民間企業に対していかなる影響を与えたのか。主題(1)は現時点で文献調査の段階のため、引き続き取り組んでいく。主題(2)は、土地紛争において、政府、民間企業、市民社会の三者間の政治力学を明らかにすることが目的であるため、まずカンボジアにおける土地紛争の位置づけが必要となる。これに関する論文(査読有)を執筆し、掲載が確定した。同論文では、2012年に開始された土地政策が、翌年の総選挙に向けた支持調達戦略の一部であったと結論づけた。同論文の意義は、支持調達戦略がどのような分野で、どのように実施され、政府がどのように宣伝材料としているのかという具体的な事実関係を一次資料から明らかにしたことである。主題(3)については、研究成果を学会で報告した。結論は以下のとおりである。ADHOCの活動が、制度の改善や土地の返還など根本的な土地紛争の解決に直接つながることはなかった。しかし、メディアを介して土地紛争の現状を発信し、政府や企業を批判したり、解決を促したりすることで、援助供与国・機関の関心を引き寄せ続け、間接的な監視体制を構築している。つまり、ADHOCの活動は、紛争状況の悪化を防ぐ抑止効果の役割を果たしており、市民社会は政府や民間企業に対して間接的に影響力を行使しているのである。26年度が最終年度であるため、記入しない。26年度が最終年度であるため、記入しない。1、本研究が定めた3つの主題のうち、2つ目は、ADHOC(カンボジア人権開発協会)を含む人権NGOとカンボジア政府、民間企業はどのような権力関係にあるのかを明らかにすることであった。この主題に関して、まずはカンボジア政府の土地紛争の認識を把握する必要がある。そこで本年度は、カンボジア政府が2012年5月に発令した新たな土地政策である指令01に焦点を当てその内容を検討し、所属大学のシンポジウムにおいて成果を発表した。指令01は、2013年7月に実施された総選挙の約1年前に始まり、対象地域を係争のない地域に限定した登記を推進する土地政策であり、政府は国営メディアを通して政策の実施状況を頻繁に宣伝した。これらの内容から、報告者は、同政策は選挙前の支持獲得戦略の一部であると結論づけた。2、1で記述したシンポジウムでの報告内容をもとに、翌年度(2014年度)の研究科電子ジャーナル『AGLOS』に論文を投稿するため、2014年2月-3月に現地調査を実施し、関連省庁役人へのインタビューや補足資料の収集を行った。現地調査の結果から、指令01の発令後、これまでにない進度で土地の登記が進められていることが明らかになった。また、補足資料を検討した結果、指令01を発令した背景には、土地紛争の状況に対する国内外からの批判を、カンボジア政府が意識していたことが明らかになった。3、本研究が定めた3つの主題のうち、3つ目は、ADHOCは土地紛争の解決プロセスにおいて、どのような活動を実施し、政府や民間企業に対していかなる影響を与えたのかであった。この点については、これまでの研究成果をまとめ、日本平和学会において報告を行った。本研究の目的は、カンボジアにおける市民社会の政治的役割とその実像を、土地紛争の事例から明らかにすることである。この目的に沿い、本研究は次の3つの主題を土地紛争の事例において検討する。(1)ADHOC(カンボジア人権開発協会)と主要ドナーの関係性、(2)ADHOCを含む人権NGOとカンボジア政府、民間企業の権力関係、(3)ADHOCがどのような活動を実施し、政府や民間企業に対していかなる影響を与えたのか。主題(1)は現時点で文献調査の段階のため、引き続き取り組んでいく。主題(2)は、土地紛争において、政府、民間企業、市民社会の三者間の政治力学を明らかにすることが目的であるため、まずカンボジアにおける土地紛争の位置づけが必要となる。これに関する論文(査読有)を執筆し、掲載が確定した。同論文では、2012年に開始された土地政策が、翌年の総選挙に向けた支持調達戦略の一部であったと結論づけた。同論文の意義は、支持調達戦略がどのような分野で、どのように実施され、政府がどのように宣伝材料としているのかという具体的な事実関係を一次資料から明らかにしたことである。主題(3)については、研究成果を学会で報告した。結論は以下のとおりである。ADHOCの活動が、制度の改善や土地の返還など根本的な土地紛争の解決に直接つながることはなかった。しかし、メディアを介して土地紛争の現状を発信し、政府や企業を批判したり、解決を促したりすることで、援助供与国・機関の関心を引き寄せ続け、間接的な監視体制を構築している。つまり、ADHOCの活動は、紛争状況の悪化を防ぐ抑止効果の役割を果たしており、市民社会は政府や民間企業に対して間接的に影響力を行使しているのである。26年度が最終年度であるため、記入しない。26年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-13J03833 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13J03833 |
カンボジアにおける市民社会に関する実証的研究:人権NGOに着目して | 申請時の予定では、初年度は主題1および2を同時進行して進める予定であったが、本年度はより主題2の調査に時間を割く結果となったため。来年度は、まず主題2に関する成果として所属大学研究科の電子ジャーナルへの投稿を5月中旬に予定している。主題1に関しては、夏期に現地調査を実施する予定である。 | KAKENHI-PROJECT-13J03833 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13J03833 |
死別が配偶者の健康・福祉に及ぼす影響に関する患者対照研究 | 本年度までにまとめた1,026人の追跡研究で死別後の非嘆にそれぞれ独立に関係していたのは、非嘆を引きおこす方に影響するものとしては、年齢(75才未満)、友人とのつきあい(少い方)であり、非嘆を引きおこさない方に影響するものとしては、宗教活動への参加(少い方)、熟睡感(よく眠れる)、健康状態(健康)、身体的悩み(なし)であった。これらの要因と非嘆の関連については性差はみられなかった。もっとも男女ともに死別後の非嘆への要因が同じであるということは、その後の非嘆の影響も同じであることを意味しない。死別による遺された者への影響についての男女差を報告している研究も存在している。このような性差については今後さらなる追跡検討が必要な由縁である。死別後の閉じこもりにそれぞれ独立的に影響した死別前の要因では、男女にやや差異があり、閉じこもりを引きおこす方に影響するものとしては、男女とも友人とのつきあい(少い方)であり、閉じこもりを引きおこさない方に影響するものとしては、男で身体的悩み(なし)、女では宗教活動への参加(少い方)、精神的悩み(なし)であった。女性の方が男性より多くの死別前の要因が閉じこもりと関係していた。死別が遺された配偶者の死亡の危険を増大することは、本研究でも確認された。しかし、死別後6箇月未満で死因など一括処理しており、これについても今後さらなる検討が必要である。本年度までにまとめた1,026人の追跡研究で死別後の非嘆にそれぞれ独立に関係していたのは、非嘆を引きおこす方に影響するものとしては、年齢(75才未満)、友人とのつきあい(少い方)であり、非嘆を引きおこさない方に影響するものとしては、宗教活動への参加(少い方)、熟睡感(よく眠れる)、健康状態(健康)、身体的悩み(なし)であった。これらの要因と非嘆の関連については性差はみられなかった。もっとも男女ともに死別後の非嘆への要因が同じであるということは、その後の非嘆の影響も同じであることを意味しない。死別による遺された者への影響についての男女差を報告している研究も存在している。このような性差については今後さらなる追跡検討が必要な由縁である。死別後の閉じこもりにそれぞれ独立的に影響した死別前の要因では、男女にやや差異があり、閉じこもりを引きおこす方に影響するものとしては、男女とも友人とのつきあい(少い方)であり、閉じこもりを引きおこさない方に影響するものとしては、男で身体的悩み(なし)、女では宗教活動への参加(少い方)、精神的悩み(なし)であった。女性の方が男性より多くの死別前の要因が閉じこもりと関係していた。死別が遺された配偶者の死亡の危険を増大することは、本研究でも確認された。しかし、死別後6箇月未満で死因など一括処理しており、これについても今後さらなる検討が必要である。富山県内の4市3町(人口約66万人)を調査対象地域に選らび平成6年1月から同年12月までの死亡届けにもとづいて65歳以上死亡例で配偶者が残った場合を調査対象者としてケースの調査を開始した。調査は死亡後6か月を経過した時点で実施することを原則とし、その際に死亡直前の状況と死亡後6か月時点の状況を比較して聞きとることとした。平成7年1月までケース692人(回収率78.2%)について調査を終了している。このあとの回収分を加えて約1000例のケースになると予測される。これまでに回収されたケースの分析によれば性別では男性が36%,女性が64%であった。年齢階級別では75歳未満が42%,75歳以上が58%であった。調査事項に関する主要な成績をみると、死別直前には福祉サービスを利用していたが、死別によりその利用が無くなる等高齢期の特徴も認められた。また、死別後の健康状態では睡眠がよく取れるようになった等介護にまつわる負担から解放された状況が反映されていた。さらに夫婦の役割の喪失に替る人との付き合いでは別居子との交流がさかんになるというこれまで都市部で観察された結果と異る状況も出現していた。現在、これまで回収したケースの対照を4市3町から選出しており、この対照者についても同様の調査をおこない死亡が配偶者の健康に及ぼす影響をケース、コントロール研究で明らかにする。本年度までにまとめた1,026人の追跡研究で死別後の悲嘆にそれぞれ独立に関係していたのは、悲嘆を引きおこす方に影響するものとしては、年齢(75才未満)、友人とのつきあい(少い方)であり、悲嘆を引きおこさない方に影響するものとしては、宗教活動への参加(少い方)、熟睡感(よく眠れる)、健康状態(健康)、身体的悩み(なし)であった。これらの要因と悲嘆の関連については性差はみられなかった。もっとも男女ともに死別後の悲嘆への要因が同じであるということは、その後の悲嘆の影響も同じであることを意味しない。死別による遺された者への影響についての男女差を報告している研究も存在している。このような性差については今後さらなる追跡検討が必要な由縁である。 | KAKENHI-PROJECT-06670403 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06670403 |
死別が配偶者の健康・福祉に及ぼす影響に関する患者対照研究 | 死別後の閉じこもりにそれぞれ独立的に影響した死別前の要因では、男女にやや差異があり、閉じこもりを引きおこす方に影響するものとしては、男女とも友人とのつきあい(少い方)であり、閉じこもりを引きおこさない方に影響するものとしては、男で身体的悩み(なし)、女では宗教活動への参加(少い方)、精神的悩み(なし)であった。女性の方が男性より多くの死別前の要因が閉じこもりと関係していた。死別が遺された配偶者の死亡の危険を増大することは、本研究でも確認された。しかし、死別後6箇月未満で死因など一括処理しており、これについても今後さらなる検討が必要である。 | KAKENHI-PROJECT-06670403 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06670403 |
信用の比較史的諸形態と法 | 近代のヨーロッパ・アメリカのみならずギリシャ・ローマ、イスラム、中国、日本の専門家が借財・土地担保・金融等々の社会史的分析をもちより、同時にこれらを(同じく歴史的に多様な)法的な枠組との間の緊張関係にもたらした。そしてそれらをめぐって比較の観点から激しい討論を行った。その結果、現代の信用問題を見る眼と信用問題の歴史を見る眼が共有する或る視座の限界が明らかになった。これは新しい視座の構築方向を示唆する。信用ないし広い意味の金融の問題については、現在のグローバル化の状況の中で、十分な見通しを持ちえない状況である。歴史的に様々に形成された社会構造が各社会に色濃く影響を及ぼし、一律の議論を許さない。そこで比較史的に見られる様々な信用の形態を研究するそれぞれの歴史的社会の専門家を複数結集し、これと法との間の複雑な相互関係を分析することとした。おのずから、多元的多層的なアプローチの構築を目指すものである。近代のヨーロッパ・アメリカのみならずギリシャ・ローマ、イスラム、中国、日本の専門家が借財・土地担保・金融等々の社会史的分析をもちより、同時にこれらを(同じく歴史的に多様な)法的な枠組との間の緊張関係にもたらした。そしてそれらをめぐって比較の観点から激しい討論を行った。その結果、現代の信用問題を見る眼と信用問題の歴史を見る眼が共有する或る視座の限界が明らかになった。これは新しい視座の構築方向を示唆する。今回、初年度においては、一定の蓄積を有する研究者達の集団が形成されたのであるにせよ、したがって互いの研究成果について熟知しあっているにせよ、まずは相互に議論を交わすフォーラムを形式的にも実質的にも創成することに時間が費やされた。中心となったのは7月に二日間にわたって行われた研究集会であり、研究分担者や連携研究者の報告、ないし彼らの研究に対する書評、を中心としつつも他の研究者達をも包含し、二十数名の規模を誇り得た。他方、比較研究の基本グリルを作るため、法学的カテゴリーの水源たるローマにおける(信用を巡る)観念体系コンステレーションを共有する作業が試みられた。2月にはこれを直接担当する研究代表者が報告を行った。比較のための個別研究対象把握においては、具体的な史料から具体的な社会関係を分析する必要がある。これが研究の最も基礎的な出発点をなすことは言うまでもないが、これをまずはローマについて確認すべく、この点で画期的な研究をし現在世界の学界で指導的な地位にあるJean Andreau教授(パリ、EHESS)を招いてインテンシヴな議論を交わす計画が進行した。ただし、2月の研究代表者の報告に接続する予定が諸般の事情で4月に延び、資金の繰り越しが必要となった。しかし4月にはAndreau教授の報告を中心として計三回のインテンシヴな研究会を催すことができ、狭義の組織外に多くの実質的協力者を見出すことにも成功した。こうして、現在のところもちろん共同研究の直接の刊行成果は存在せず、高々共同研究からの刺激を吸収した若干の著作があるにすぎない。研究代表者の2月の報告の内容は、共同研究開始前からの蓄積の上に立つとはいえこの報告をも吸収した、3月刊行著書の第三章第四節と第四章第三節から知ることが出来る。本年度は、主として現代社会における最先端の信用問題に触れることを通じて、通時的研究・比較研究のための軸を共有し理解を深めることが目指された。活発な研究会活動がなされたが、特に7月には、新たに研究分担者に加わった森田果が自身の(法と経済学の手法による)野心的な研究に基づく報告を行い、(イェールの商法学権威ハンスマンのテーゼ等を巡り)書評の形で研究代表者木庭が詳細な批評を行った。連携研究者たる岩原伸作のコメントをも得てこのプロジェクトにとって重要な研究会となった。また2月には、租税法の増井良啓が日米租税条約形成過程に関する歴史的研究の成果を報告した。国際課税の面から現代社会が直面する信用問題を議論した。特に研究分担者(国際私法)原田央が主たるコメンテーターの役割を果たした。さらに同じ2月には、弁護士の寺本振透の報告を仰いだ。知的財産権はそれ自身信用の一形態であるが、法と経済学に対する理論的批判から歴史社会学を援用する独自の野心的基礎付けを知的財産制度そのもののために模索する寺本の報告を巡って長時間が議論がなされた。なかで、桑原朝子の(歴史社会学的な)叙情詩研究に寺本が言及し強い関心を示したことが強い印象を残した。このように、共同作業の面ではプロジェクトのチームの外に協力者を見出しながら各メンバー自身が問題関心を広げるということが行われた。報告者以外にも実務家を含む多くのメンバー外参加者があり、これらが今後の成果に繋がると考えられる。このプロジェクトからのまとまった著作はもちろんまだ無いものの、間接的に繋がる刊行物を各自が準備していったことは言うまでもない。7月に北海道大学法科大学院で行われた木庭=桑原共同講義「法と文学」も挙げうる。今年度は、結局、主として一旦現代的問題について考えるということになった。とりわけ、2月の研究会では、連携研究者であり金融法制の権威である岩原紳作教授に、今般の金融危機についての詳細な報告を依頼し、ほとんど全メンバーが集まる中で多大な刺激が得られた。 | KAKENHI-PROJECT-20243001 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20243001 |
信用の比較史的諸形態と法 | 世界金融危機も実際にはモザイク状をなす非常に様々な社会構造の間の軋轢に帰因するということであり、アメリカ、中国、イスラムの専門家を擁するこの集団の問題関心と響き合う点が多かった。この他にも、9月には渉外取引における「主権免除」問題を研究会で扱い、集団外で協力を願っている垣内秀介准教授の報告をきっかけとしてやはり信用の国際的多元性の問題を討論した。2月にはまた、京都大学高山佳奈子教授を招き、企業秘密の面から信用の問題にアプローチした。他方、歴史的な側面に関する限り、招聘予定のスキアヴォーネ教授(ローマ法)が今般の災害のために来日できなかったということなどのために、グループとしての大きな進展は無かったが、それでも9月の研究会では、中心メンバーの一人桑原朝子准教授が近松門左衛門の作品から江戸期商人の信用問題に触れる報告を行った。成果の面ではしかし、大きな一段階であった。何よりも、両角吉晃「イスラーム法における信用と「利息」禁止」(羽鳥書店、2011)の出版が大きな意義を有する。この研究会の討議の直接的な成果の一つである。さらには、木庭顕「ローマ法案内-現代の法律家のために」(羽鳥書店、2010)も、「第4章:所有権に基づく信用の諸形態」を初めとして、明白に「信用の諸形態」の観点からローマ法を論じ、かつ現代に言及し、例えば前記岩原報告と密接に対話するものである。年度初めに予定されたスキアヴォーネ教授招聘が重要な段階を画するはずであったところ、,震災によりこれが中止になった。また、集まりにくい状況も続き、特に東北大学のチームにおいて、しかし東大などでも、施設や図書の面で困難な中、各自自分の分担部分の研究に従事する期間となった。わずかに夏に札幌に集まり、中国清朝期の土地の上の信用問題、現代日本の相続にかかわる信用問題につき集中的な討議をしえたにとどまる。個別的には、研究代表者が、10月刊行の論文集の中の書き下ろしの二編で全面的に近代日本の信用の問題を扱った。ローマから見た場合、そして文学と法実務を素材として、日本の信用状況の構造的問題がどのように分析されうるか、という論考である。札幌のチームは、アンシャンレジーム期フランスの土地所有および商事法に関して重要な研究の進展を見た。また、松原教授は、上に述べた報告のもととなる英文論考を提出、これが少なくとも校正段階にある。原田准教授は、日本国際私法の基となった明治期の立法史に関し、これを当時の国際的な脈絡に位置付ける論考をものにし、仏文の論文として校正段階にある。このように、それぞれの研究には重要な進展が有り、そこには昨年度までのわれわれの討議が反映されているが、プロジェクト固有の成果をまとめるという方向に関する限り、若干の留保が必要な状況である。準拠枠組みの共有はこれまでの議論、とりわけローマに関する議論、によってできており、他方現代的課題についても、昨年度の岩原教授の貢献等々により確認することができている。ここから各時代各地域の個別研究に出て、さらに戻る、というフィードバックが不十分である、ということになる。今年度は五年計画の最終年度であるために、各自の研究が続行されたほか、以下のような企画が実行された。第一に、秋に財政と信用に関する研究会を開催し、財政が信用面での統括的位置を占める点をめぐって議論が交わされた。さらに、3月には、アルド・スキアヴォーネ教授を招き、一連のインテンシヴな討論を行った。 | KAKENHI-PROJECT-20243001 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20243001 |
ES細胞やiPS細胞、組織幹細胞を用いた肝臓モデル構築と薬物試験への実用化 | EHSゲル上に培養した内皮細胞ネットワークに、初代培養肝細胞、門脈結紮誘導肝幹細胞、またはヒトES/iPS細胞由来肝細胞を播種してin vitro肝組織を構築した。このin vitro肝組織によるアセトアミノフェン誘導肝障害モデルを作製し、メタボローム解析をおこなった。このin vitro肝組織をマイクロ培養装置で培養し、高肝機能な肝組織地チップを開発した。我々の開発した肝組織チップは今後の薬物動態試験への応用に期待できる。EHSゲル上に培養した内皮細胞ネットワークに、初代培養肝細胞、門脈結紮誘導肝幹細胞、またはヒトES/iPS細胞由来肝細胞を播種してin vitro肝組織を構築した。このin vitro肝組織によるアセトアミノフェン誘導肝障害モデルを作製し、メタボローム解析をおこなった。このin vitro肝組織をマイクロ培養装置で培養し、高肝機能な肝組織地チップを開発した。我々の開発した肝組織チップは今後の薬物動態試験への応用に期待できる。動物実験の代替や人の前臨床試験の新しい手法として、本研究は、肝細胞のみではなく、肝組織によるマイクロ培養装置を開発することが目的である。平成21年度では、第一に、マウス初代肝細胞、内皮細胞株とバイオマテリアル(EHSゲル)の3者の組み合わせにより再構築した肝組織(類洞様構造)システムを応用して、開閉式再構築型肝組織フローチップの作製に成功した。この肝組織チップによるフロー培養は、通常のディッシュ上のバッチ培養に比較して有意に肝機能(尿素合成能、チトクロームP450アイソザイム活性能)が高いことがわかった。また、肝細胞の長期培養も可能であった。マイクロ培養装置の設計として、培養槽をより小さく、かつマルチ流路にすることを目指す。第二に、マウス肝門脈を結紮することにより、結紮、非結紮葉ともにから肝前駆細胞を調製することに成功し、この細胞は肝細胞と胆管上皮細胞の両方向に分化できる能力を有することを確認した。これまでの薬物誘導による肝前駆細胞(オーバル細胞)では、この肝前駆細胞を用いて、肝組織を再構築できると思われる。第三に、ヒトiPS細胞を用いて、肝様組織を誘導することに成功した。この分化誘導における分子生物学的な解析をおこない、成熟肝細胞への分化を確認した。ヒトの薬物代謝について検討できることが期待される。動物実験の代替や人の前臨床試験の新しい手法として、本研究は、肝細胞のみではなく、内皮細胞等と構造を構築した肝組織によるマイクロ培養装置を開発することが目的である。平成22年度では、実用化を踏まえ、肝代謝に関わる物質の効果についてマウス細胞の肝組織で調べ、さらに、ヒト肝組織構築を検討した。第一に、マウス初代肝細胞、内皮細胞株とバイオマテリアルの3者の組み合わせにより再構築した肝組織(類洞様構造)システムを応用して、解熱剤であり大量摂取すると肝毒性を示すアセトアミノフェンによる反応を観察した。マウスを用いた肝障害も確認し、マウス個体同様に我々の初代培養肝細胞の肝組織を用いた系では肝毒性が通常の初代培養法に比べて顕著に高いことが分かった。第二に、マウス肝門脈を結紮することにより肝前駆細胞の樹立に成功したが、ラミニンや増殖因子含有培地が高価なため、安価に培養・増殖できるように工夫をおこない、成功した。第三に、ヒトiPS細胞から肝様組織を誘導する手法をヒトES細胞にも応用し、ヒトES細胞から肝細胞への分化誘導に成功した。現在、肝機能や遺伝子発現の確認をおこなっている。第四に、これまでのシングルチャンネルマイクロ培養装置を4流路に設計し、実際にPDMSにより作製し、肝細胞培養として利用できることを確認した。これらの成果により、ES細胞、iPS細胞、肝幹細胞を用いて肝組織を構築することに成功し、薬物代謝の系も確立できた。また、マイクロ培養装置による高肝機能も確認されたことにより、最終年度に薬物代謝試験への実用化の道筋を明確にしたいと思っている。動物実験の代替や人の前臨床試験の新しい手法として、本研究は、肝細胞のみではなく、内皮細胞等と構造を構築した肝組織によるマイクロ培養装置(肝組織チップ)を開発することが目的である。平成23年度では、肝組織チップの実用化への道筋を示すために多角的に肝機能等を調べた。第一に、我々が開発した初代肝細胞、内皮細胞とバイオマテリアル(EHSゲル)の3者の組み合わせにより再構築した肝組織(類洞様構造)システムにおけるアセトアミノフェン誘導肝障害におけるメタボローム解析をおこない、アセトアミフェンの代謝を確認し、さらにその際の様々な代謝物の変化を解析した。この肝組織を応用した開閉式再構築型肝組織チップの小型化と多流路設計も行ったが、用途として必要性がないとのことで中断した。第二に、ヒトips・ES細胞から誘導した肝組織については、安定的に肝組織が構築できる条件を見出した。現在、論文を執筆中である。第三に、肝臓潅流モデルにおけるアンモニアからの尿素合成をモニターし、オルニチン投与によりその尿素合成が促進されることを確認した。そこで、マウスES細胞由来肝組織において、同様に、アンモニアやオルニチンの添加による反応を解析したところ、肝臓潅流モデルの場合と同様な反応性を確認できた。このことは、尿素サイクルの一部がミトコンドリア内で反応が起きていることからも、ミトコンドリアの活性やミトコンドリアへの流入・排出のトランスポーターが働いていることを示している。 | KAKENHI-PROJECT-21300178 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21300178 |
ES細胞やiPS細胞、組織幹細胞を用いた肝臓モデル構築と薬物試験への実用化 | また、色素などの肝細胞への取り込み・反応・局所的排出も確認できたとことから、マウスES細胞由来肝組織の肝細胞には細胞極性が構築されており、特に微小胆管への代謝物の排出が確認できたことは、今後の薬物動態試験への応用に期待できる。 | KAKENHI-PROJECT-21300178 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21300178 |
合成開口レーダによるターゲットの運動パラメータの検出法に関する研究 | 本研究は、かねて提案中の、SARデータからターゲットの位置、速度などの運動パラメータを推定する方法について、実験と計算機シミュレーションとにより、その原理を検証するとともに実用に際して問題となる点を検討し、その解決法を見出だそうとするものである。まず、本方式の検出精度を計算機シミュレーションによって検討した。その結果、全般的に実用上十分な精度が得られるが、レンジ方向速度成分の小さなターゲットに対して精度が低下することがわかった。これはレンジ圧縮データの量子化誤差の影響と考えて、階段状に変化する同データの転移点の値だけを用いる推定処理法に切換えたところ、速度のいかんに関わらず精度(20dBS/Nの下で位置6m,速度5km/h)良く検出できるようになった。またさらに精度を向上させるためには、高い距離分解能と広いレーダビームをもつSARで、遠方から観測すればよいこと等をも明らかにした。次に、本方式の基本原理の検証を目的とする室内実験を行った、その結果精度は別にして、確かにアジマス・レンジ両方向の速度が検出でき、本方式の原理に誤りがないことを確認している。たゞし、室内実験のために、実際の原理に誤りがないことを確認している。たゞし、室内実験のために、実際的でないレーダパラメータを用いているので、この結果から直ちに検出精度などといった量的な側面を言及することはできない。さらに、本方法の実用化に際して是非とも必要な、背景雑音中からターゲットの信号成分だけを分離・抽出する方法について実験的に検討し、アンテナに3つのエレメントをもつものを使用してそれぞれの出力を有機的に合成する方法を提案した。装置の都合により3エレメントアンテナを構成できなかったが、その基本である2つのアンテナ出力の合成による雑音除去を試みた、その結果、期待どうりに背景雑音が除去されてターゲットによる成分だけを検出できることが確認できた。本研究は、かねて提案中の、SARデータからターゲットの位置、速度などの運動パラメータを推定する方法について、実験と計算機シミュレーションとにより、その原理を検証するとともに実用に際して問題となる点を検討し、その解決法を見出だそうとするものである。まず、本方式の検出精度を計算機シミュレーションによって検討した。その結果、全般的に実用上十分な精度が得られるが、レンジ方向速度成分の小さなターゲットに対して精度が低下することがわかった。これはレンジ圧縮データの量子化誤差の影響と考えて、階段状に変化する同データの転移点の値だけを用いる推定処理法に切換えたところ、速度のいかんに関わらず精度(20dBS/Nの下で位置6m,速度5km/h)良く検出できるようになった。またさらに精度を向上させるためには、高い距離分解能と広いレーダビームをもつSARで、遠方から観測すればよいこと等をも明らかにした。次に、本方式の基本原理の検証を目的とする室内実験を行った、その結果精度は別にして、確かにアジマス・レンジ両方向の速度が検出でき、本方式の原理に誤りがないことを確認している。たゞし、室内実験のために、実際の原理に誤りがないことを確認している。たゞし、室内実験のために、実際的でないレーダパラメータを用いているので、この結果から直ちに検出精度などといった量的な側面を言及することはできない。さらに、本方法の実用化に際して是非とも必要な、背景雑音中からターゲットの信号成分だけを分離・抽出する方法について実験的に検討し、アンテナに3つのエレメントをもつものを使用してそれぞれの出力を有機的に合成する方法を提案した。装置の都合により3エレメントアンテナを構成できなかったが、その基本である2つのアンテナ出力の合成による雑音除去を試みた、その結果、期待どうりに背景雑音が除去されてターゲットによる成分だけを検出できることが確認できた。a).本方法におるターゲットの運動パラメータの検出精度について検討したところ,高精度検出のためには信号処理の対象となるターゲットの信号成分が十分なSN比をもつことが条件となるが,許容されるSN比はターゲットのレンジ方向速度成分の大きさに依存し,同速度成分が小さいほど高いSN比が要求されることが明らかになった.例えば, 7km/h以上のレンジ方向速度成分を持つターゲットを位置,速度に関してそれぞれ6m, 5km/h以内の精度で検出するには約20dB以上のSN比を必要とする.また,静止背景に埋もれて受信される運動ターゲットの信号成分を高いSN比で分離・抽出する方法について検討を重ねたところ,レーダアンテナを進行方向に並ぶ3つのエレメントで構成し,各々で得た受信波を適当に合成することによって静止背景の寄与を除去する方法を提案することができた.b).既設のマイクロ波装置の本研究用への改造・整備はほぼ予定どうりに完了した.また,実験のためのデータ収集・処理用の基本ソフトウェアの開発も完了することができた.c).b)の装置を用いて,まず静止背景のない測定環境の中で様々な速度で移動する単体ターゲットの位置と速度とを検出する実験を繰返し,ターゲットの運動パラメータが検出できるという本方法の基本原理を実証した.また,検出精度のターゲットのレンジ方向速度とSN比への依存性を検証することもできた.a)で提案した静止背景を含む受信波の中からターゲットの信号成分だけを高SN比で分離・抽出する方法については,現在予備実験を続けており, 63年度においてアンテナ系を一部改造して,その有効性を実証する予定である.(a)前年度に提案した、アジマス方向に並べた3つのアンテナの出力の有機的な合成処理によって、背景雑音中から運動ターゲットの信号成分だけを抽出する方法について、その効果を実験的に検討した。 | KAKENHI-PROJECT-62550306 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62550306 |
合成開口レーダによるターゲットの運動パラメータの検出法に関する研究 | ただし、装置の都合上3アンテナ出力の合成ができなかったので、その基本である2アンテナ出力の合成(雑音は除去されるが、信号出力のアンナテへの属性が判別不能)による雑音除去を試みている。実験に際して、合成処理の効果を確かなものとするために、レーダ移動装置を改造してアンテナのゆらぎを抑え、レーダー制御用の計算機ソフトを改良して位相安定度等を向上させた。その結果、背景雑音が抑圧され、ターゲットだけが寄与するSARデータを得られることが確認できた。(b)前年度の基礎実験の結果に基づいて、データの収集・処理用の計算機ソフトに、主としてデータの再現性、安定度の向上を目指す様々な工夫を加えて改良した。なお、運動パラメータ検出用の処理ソフトには(a)に述べた新しい信号検出法を反映させるつもりであったが、上述したように3アンテナ系を構成できなかったので、背景雑音処理のないままとした。(c)計算機シミュレーションにおいては、使用するSARパラメータが検出精度に与える影響について明らかにすることができた。また、運動パラメータの検出実験においては、確かにアジマス・レンジ両方向の速度が検出でき、方式の原理に誤りのないことが確認された。なお、実験は室内で行っているので、衛星や航空機に搭載する実際のSARとは掛け離れたレーダパラメータを使用せざる得なかった。このため、この実験結果から直ちに、検出精度などなどといった量的な側面を言及することはできないことを付記しておく。 | KAKENHI-PROJECT-62550306 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62550306 |
戦前の開墾事業における住宅改善の実像ー農村指導者教育と連動した改善手法と理念 | 2018年度は、主に以下の3項目の調査・分析を行った。(1)茨城県新興農場について、『新興農場関係綴』(茨城県立歴史館蔵)および茨城県農業技師・深作雄太郎の日記から検討し、日本建築学会2018年度大会で報告した。新興農場の移住家屋は、1935年に今和次郎の設計で28戸が竣工、平面図と「新興農場従業員住宅建築案」と題する説明書によると、今が1927年に発表した『農家及農業建築物設計参考圖表』の参考図を原案とするとみられる。土間に食卓・椅子を置いて応接や農業事務に用いる点を特徴とするが、農林省で移住奨励を担当した板井申生は、深作との往復書簡において地方固有の住宅を無視したと批判した。(2)兵庫県の小束野耕地整理組合・西光寺野耕地整理組合の移住奨励関係書類を調査し、移住奨励の申請・交付状況と移住家屋の平面の特徴を検討した。192130年の小束野耕地整理組合では納屋のみの申請や未完成など極端な例を除けば、建坪が狭小であっても奨励金を交付された一方、193236年の西光寺野耕地整理組合では複数回の申請を経てなお交付率は2割を下回り、交付状況に大きな差があった。(3)開墾地移住奨励による共同建造物・移住家屋への補助金交付棟数を、1923年『土地利用及開墾事業要覧』(農商務省食糧局)、192640年度『耕地拡張改良事業要覧』(農林省農政局)から検討し、1)不適合事例の却下による趣旨の浸透(1920)、2)交付実績と予算の加増(1923)、3)移住家屋の「質の向上」に向けた規定・運用の厳格化(1929)、4)他事業の着手等による予算縮小(1935)の4期に分かれることを明らかにした。農林省が1920年から実施した開墾地移住奨励制度について、長野県の常盤村中部耕地整理組合文書から検討した成果を日本建築学会技術報告集に発表した。この長野県以外に、岩手県・山形県・・茨城県・兵庫県の史料を収集、さらに宮城県についても県営広淵沼開墾地・短台耕地整理組合の史料を収集・分析しており、全体として6県17地区での比較が可能となった。研究は順調に進展している。(1)富山県・山形県・岩手県・秋田県の修錬農場に建設された「模範農家」等のモデル住宅と開墾地移住家屋の改善について考察する。(2)これまで調査を行った6県17地区について、開墾地移住奨励の申請・交付実態と移住家屋の変化の様相を比較し、移住奨励制度の移住家屋改善への効果と意義を考察する。本研究は、戦前の開墾事業および農村指導者教育における住宅改善の取組みとその手法・理念を検討するもので、1919年の開墾助成法施行から1941年の農地開発営団設立までを主対象とする。本年度は、以下の3項目について調査・分析を行った。(1)東北地方の開墾地移住家屋の調査1山形県営萩野開墾地(1928-32)、2岩手県営岩崎開墾地(1932-38)、3同六原模範農村部(1935-42)、4福島県矢吹原開墾地(1936-46)、5宮城県営広渕沼開墾地(1925-28)を対象に調査した。1は、1年度と2年度以降で基準平面が異なり、前者は山形県最上地方の民家、後者は農林省が1930年に刊行した「開墾地移住家屋及仝附属家設計図例」に類似することから、農林省の指導で変更したと推測できる。山形県は、県立国民高等学校にはこの2案に類似した「標準農家」を建設し、修錬生の居住や一般公開により農村住宅改善を啓発した。萩野開墾地には7棟の移住家屋の現存が確認でき、3棟の実測調査を実施した。2は食堂・浴場・作業所等の共同施設を有し、岩手県は移住家屋の改善のため、耕作形態による地域区分に合わせた「模範農家」4案を1936年に六原青年道場内に建設、1937年以降の入植地区と3でうち1案を基準型として採用した。4は、東北地方集団農耕地開発事業による1・2期の移住家屋は、同事業の基本平面を一部変更して採用したが、国営事業の3・4期は配給材料による自力建設という劣悪な家屋だった。(2)長野県常盤村中部耕地整理組合文書の調査長野県立歴史館所蔵清水家文書中に、常盤村中部耕地整理組合(長野県大町市)の192334年の開墾地移住奨励申請関連書類一式を発見し、農林省の開墾地移住奨励交付者65戸中57戸の申請概要と、53戸の移住家屋の平面、取下・不合格の書類等により、運用実態を具体的に検討した。農林省が1920年から実施した開墾地移住奨励制度については、農林省・各県では申請書類が保存されていないが、先述の通り、長野県・常盤村耕地整理組合の9割近い交付者の申請書類一式の現存が確認でき、同制度の具体的な運用実態と、建設された開墾地移住家屋の平面の分析が可能となった。さらに、茨城県立新興農場についても同種の史料の現存を確認しており、山形県・岩手県・福島県での県営事業との比較も可能となった。調査は極めて順調に進展している。 | KAKENHI-PROJECT-16K06693 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K06693 |
戦前の開墾事業における住宅改善の実像ー農村指導者教育と連動した改善手法と理念 | 2017年度は、主に以下の3項目の調査・分析を行った。(1)常盤村中部耕地整理組合(長野県大町市)の192334年の開墾地移住奨励申請関連書類(長野県立歴史館所蔵清水家文書)を対象に、移住奨励制度の運用実態を検討し、現存する申請家屋1戸の実測調査を実施した。開墾地移住奨励制度は、1921年の創設後、1926年・1929年の改正により、移住家屋の耐久性の確保から、質の向上に主眼が移った。長野県では、移住家屋の平面図や仕様書・予算書の提出と竣工検査を経て補助を行い、規模・仕様・平面に対し指導が行われた。常盤村中部耕地整理組合の移住家屋は、大正期には古家の転用や建坪20坪未満が4割以上で、建築費も1000円未満が7割を越えたが、1927年以降古家の利用が激減、建坪20坪代、建築費10001500円に均一化し、平面も三間取広間型・妻入型など在来民家に近い平面から四間取型に定型化した。(2)茨城県・新興農場について、『新興農場関係綴』(茨城県立歴史館蔵)を調査し、茨城県農業技師・深作雄太郎の日記と合わせて移住家屋の設計・建設経緯を検討した。新興農場は1932年に創設、1934年に移住家屋の設計を今和次郎に依頼し、翌年28戸を建設した。この移住家屋は、平面図および「新興農場従業員住宅建築案」と題する説明書によると、今和次郎が1927年に発表した『農家及農業建築物設計参考圖表』の参考図が原案とみられ、土間の食卓・椅子を備え、炊事場と分離して応接や農業事務等の用途を兼ねる点を特徴とした。(3)開墾地移住奨励による共同建造物の実態を調査した。開墾地移住奨励では、1926年改定以降、公会堂・作業場・社寺など共同施設に対象が拡大、1939年までに24県で146棟が建設され、宮崎県49棟、熊本県17棟が特に多かった。農林省が1920年から実施した開墾地移住奨励制度について、長野県・常盤村耕地整理組合史料により運用実態と移住家屋への影響を明らかにできた。また、茨城県新興農場については、農村住宅改善に勢力的に取り組んだ今和次郎の関与が明らかになった。開墾地移住奨励の開墾地単位の史料については、小束野村耕地整理組合(兵庫県)、昭和村県営南新地(熊本県)等でも現存を確認しており、今後複数の開墾地や県での比較が可能となる。研究は順調に進展している。2018年度は、主に以下の3項目の調査・分析を行った。(1)茨城県新興農場について、『新興農場関係綴』(茨城県立歴史館蔵)および茨城県農業技師・深作雄太郎の日記から検討し、日本建築学会2018年度大会で報告した。新興農場の移住家屋は、1935年に今和次郎の設計で28戸が竣工、平面図と「新興農場従業員住宅建築案」と題する説明書によると、今が1927年に発表した『農家及農業建築物設計参考圖表』の参考図を原案とするとみられる。土間に食卓・椅子を置いて応接や農業事務に用いる点を特徴とするが、農林省で移住奨励を担当した板井申生は、深作との往復書簡において地方固有の住宅を無視したと批判した。(2)兵庫県の小束野耕地整理組合・西光寺野耕地整理組合の移住奨励関係書類を調査し、移住奨励の申請・交付状況と移住家屋の平面の特徴を検討した。192130年の小束野耕地整理組合では納屋のみの申請や未完成など極端な例を除けば、建坪が狭小であっても奨励金を交付された一方、193236年の西光寺野耕地整理組合では複数回の申請を経てなお交付率は2割を下回り、交付状況に大きな差があった。(3)開墾地移住奨励による共同建造物・移住家屋への補助金交付棟数を、1923年『土地利用及開墾事業要覧』(農商務省食糧局)、192640年度『耕地拡張改良事業要覧』(農林省農政局)から検討し、1)不適合事例の却下による趣旨の浸透(1920)、2)交付実績と予算の加増(1923)、3)移住家屋の「質の向上」に向けた規定・運用の厳格化(1929)、4)他事業の着手等による予算縮小(1935)の4期に分かれることを明らかにした。 | KAKENHI-PROJECT-16K06693 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K06693 |
主体とコミュニケーションをめぐる社会理論の再構成―精神分析の視点から | 今年度の研究では、まず、19世紀の性科学・精神医学における本能としてのセクシュアリティという概念の登場を検討し、さらにフロイトの不安論を補助線として、欲動論の考察をすすめた。19世紀の英独仏語圏における「性本能」をめぐる文献の読解を通じて、一般にフロイトの功績とされる生殖に結びつかない性への着眼は、本能としてのセクシュアリティという概念が出現した当初から、すでにこの概念に織り込まれていることが明らかになった。すなわち、セクシュアリティはどれほど可塑的であってもやはり「生殖器官の機能に対応する」本能であるという統一性を失うことはない。この分析を踏まえたうえで、本年度の研究では、不安論の考察を通じて、精神分析におけるセクシュアリティと本能の関係の特異性を明らかにし、19世紀の精神医学において誕生した「性本能」という概念との比較を行った。精神分析の不安論では、対象に先立って存在する不安としての「神経症的不安」と、現実の危険に対する合理的な反応としての「現実不安」が区分される。今年度の研究では、この二つの不安の区分が、フロイトの欲動論における性欲動(セクシュアリティ)と自己保存欲動の区別に対応していることに着目した。この不安論を通じて欲動論を検討した結果、フロイトにおけるセクシュアリティとは、自己保存と種の保存に役立つ生体諸機能の活動に関わる「本能」の対概念として定義される一方で、その本能活動の内実を担うものとして捉えられていることが明らかになった。すなわち、フロイトの主張とは、M・フーコーが分析したような19世紀精神医学における「本能とセクシュアリティの統合」ではなく、むしろそのような統合からの決定的な断絶を示していると言える。以上のような研究の成果を、査読誌に投稿し、受理されている。主体とコミュニケーションをめぐる社会理論としての精神分析の可能性を解明するという課題に向け、今年度はまず、S・フロイトの情動論を検討した。初期の草稿群と論文を主とした考察を通じて、精神分析における不安という情動の特異な位置づけと、それが間主観的コミュニケーションの参与の条件をめぐるフロイト独自の解釈を支えていることが明らかになった。精神分析の情動論の構造を解明する際の重要な着眼点として、フロイトが提起した「現勢神経症」という臨床単位の存在がある。この神経症は、ヒステリーや強迫神経症といった精神分析の主要な対象としての「精神神経症」とは異なり、「抑圧」という心的機制をもたず、その症状が心的な意味をもたないという特徴によって規定される。現勢神経症という範疇にはこれまで十分な注意が払われてこなかったが、心的機制をもたないこの神経症の発見は、心に由来するのではない情動としての不安というフロイト独自の洞察を可能にしたという点で、精神分析の情動論の構成において重要な位置を占めている。そして、この非-心因性の情動としての不安というフロイトの視点は、超自我や良心の成立をめぐる議論の参照点として、主体の構成とその社会化のプロセスをめぐる精神分析固有の解釈を支えているのである。この考察の成果によって、社会という集団の成立と主体の構成についての社会理論としての精神分析の独自性を把握するための足掛かりを得ることができた。今年度の研究では、まず、19世紀の性科学・精神医学における本能としてのセクシュアリティという概念の登場を検討し、さらにフロイトの不安論を補助線として、欲動論の考察をすすめた。19世紀の英独仏語圏における「性本能」をめぐる文献の読解を通じて、一般にフロイトの功績とされる生殖に結びつかない性への着眼は、本能としてのセクシュアリティという概念が出現した当初から、すでにこの概念に織り込まれていることが明らかになった。すなわち、セクシュアリティはどれほど可塑的であってもやはり「生殖器官の機能に対応する」本能であるという統一性を失うことはない。この分析を踏まえたうえで、本年度の研究では、不安論の考察を通じて、精神分析におけるセクシュアリティと本能の関係の特異性を明らかにし、19世紀の精神医学において誕生した「性本能」という概念との比較を行った。精神分析の不安論では、対象に先立って存在する不安としての「神経症的不安」と、現実の危険に対する合理的な反応としての「現実不安」が区分される。今年度の研究では、この二つの不安の区分が、フロイトの欲動論における性欲動(セクシュアリティ)と自己保存欲動の区別に対応していることに着目した。この不安論を通じて欲動論を検討した結果、フロイトにおけるセクシュアリティとは、自己保存と種の保存に役立つ生体諸機能の活動に関わる「本能」の対概念として定義される一方で、その本能活動の内実を担うものとして捉えられていることが明らかになった。すなわち、フロイトの主張とは、M・フーコーが分析したような19世紀精神医学における「本能とセクシュアリティの統合」ではなく、むしろそのような統合からの決定的な断絶を示していると言える。以上のような研究の成果を、査読誌に投稿し、受理されている。 | KAKENHI-PROJECT-10J05964 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10J05964 |
全干渉型ヘテロダイン分光立体映像法の実現 | 自然光で照明された多色物体からの光波を干渉計測し,信号処理を施すことにより,多数の波長バンド毎の立体像を同時に取得する技術を開発し,その3次元空間結像特性と分光特性を理論的に解明した.特に,3次元分光立体像の3次元結像特性と分光特性を同時に指定する4次元インパルス応答関数を解析的に導出した.この4次元インパルス応答関数に基づいて新規な奥行き分解能を評価する規範を導くことに成功した.従来の2光波折り畳み干渉計を改良した第1干渉計の計測システムを開発した.その基本動作を確認したところ,双曲面型インターフェログラムを直接測定できることが確認されたので当初の目的は達成されたといえる.しかし,干渉計の残留位相分布が重畳されることが新たにわかり,これを解消するという新たな課題も明らかとなった.第2干渉計に関しては,産業技術研究所において動作確認を行い,単独の基本動作は問題ないことを確認している.一方,本手法の基礎となる理論研究面では取得される3次元分光立体像の3次元結像特性と分光特性を同時に指定する4次元インパルス応答関数を解析的に導出した.この4次元インパルス応答関数の解析解に基づいて計算されたスペクトル分解能・3次元点広がり関数は実験結果と良く一致することが確認された.さらに,この4次元インパルス応答関数から導かれる3次元点広がり関数は本手法のみならず従来のコヒーレントホログラフィーの3次元結像特性の評価にも利用することができるため,一般のホログラフィック3次元イメージングにおける奥行きに関する正確な分解能を評価する上で有用であることがわかった.従来ディジタルホログラフィーにおいて,奥行き方向の分解能は,波長と再生条件で決まる有効F値から合焦深度を算出し,経験的にこの値のよって評価されてきた.しかし,今回導出した点広がり関数による奥行き方向の強度分布の広がりと従来の系観測を比較すると,両者には大きな隔たりがあることがわかった.従来の経験則はレンズ結像系の焦点深度と同様の考え方であるから,3D物体を2D画像上へ投影して評価している.したがって,3D物体を3Dイメージとして再生するディジタルホログラフィーでは別の評価法が必要ではないかと考えられる.この新しい評価法への足がかりとして,4次元インパルス応答関数をもとに研究を進めていく予定である.昨年度開発した第1干渉計の調整及び双曲面型体積インターフェログラムを直接測定する実験を繰り返すことにより.測定結果の再現性を確認した.その結果,体積インターフェログラムに重畳されていた残留位相分布は,このタイプの干渉計に固有の問題であり,残留位相分布には再現性のあることが確認された.そこで,この問題を解決するために,残留位相分布のみを抽出する新規な合成開口処理の方法を考案した.こうして得られた残留位相分布を測定された体積インターフェログラムの位相分布から差し引くことにより,良質な双曲面型ディジタルホログラムが取得できることを確認できた.一方,本手法の基礎となる理論研究面では,昨年度に解析的な導出に成功した,本手法で得られる3次元分光立体画像の3次元結像特性と分光特性を同時に指定する4次元インパルス応答関数の解を利用して,様々な条件下における分光立体画像の3次元結像特性を詳細に調べた.その結果,点光源の3次元像における奥行き方向に広がるデフォーカステールは光軸と必ずしも平行ではなく,斜めに伸びる場合もあることがわかった.この知見は,3次元イメージングの奥行き分解能に関する新規なクライテリオンを確立する際に考慮すべき必須事項であると考えられる.第2干渉計に関しては単体での動作確認は終了しているが,第1干渉計とファイバー接続すると結合効率が低く,接続方法を工夫する必要がある.自然光で照明された多色物体からの光波を干渉計測し,信号処理を施すことにより,多数の波長バンド毎の立体映像を同時に得る技術を開発し,その3次元空間結像特性と分光特性を理論的に解明した.特に,3次元分光立体像の3次元結像特性と分光特性を同時に指定する4次元インパルス応答関数を解析的に導出した.この4次元インパルス応答関数の解析解に基づいて計算されたスペクトル分解能・3次元点広がり関数は実験結果と良く一致することが確認された.さらに,この4次元インパルス応答関数から導かれる3次元点広がり関数は本手法のみならず従来のコヒーレントホログラフィーの3次元結像特性の評価にも利用することができるため,一般のホログラフィック3次元イメージングにおける奥行きに関する正確な分解能を評価する上で有用であることがわかった.従来ディジタルホログラフィーにおいて,奥行き方向の分解能は,波長と再生条件で決まる有効F値から合焦深度を算出し,経験的にこの値のよって評価されてきた.しかし,今回導出した点広がり関数による奥行き方向の強度分布の広がりと従来の系観測を比較すると,両者には大きな隔たりがあることがわかった.従来の経験則はレンズ結像系の焦点深度と同様の考え方であるから,3D物体を2D画像上へ投影して評価している.したがって,3D物体を3Dイメージとして再生するディジタルホログラフィーでは別の評価法が必要と考えられた.そこで導出した4次元インパルス応答関数に基づいて新規な奥行き分解能の評価する規範を導くことに成功した.自然光で照明された多色物体からの光波を干渉計測し,信号処理を施すことにより,多数の波長バンド毎の立体像を同時に取得する技術を開発し,その3次元空間結像特性と分光特性を理論的に解明した. | KAKENHI-PROJECT-25390087 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25390087 |
全干渉型ヘテロダイン分光立体映像法の実現 | 特に,3次元分光立体像の3次元結像特性と分光特性を同時に指定する4次元インパルス応答関数を解析的に導出した.この4次元インパルス応答関数に基づいて新規な奥行き分解能を評価する規範を導くことに成功した.昨年度発生した新たな課題を解決する手法を新規に開発したという点で,第1干渉計に関する当初目標は十分達成したと判断される.また,当初の研究計画では予想もしていなかった4次元インパルス応答の解析解導出に成功したことから,理論的研究の進展が著しい.しかし,2つの干渉計の結合効率を向上させるという新たな課題も発生したため,全体としておおむね順調に進展していると判断した.応用光学・量子光工学第1干渉計と第2干渉計を組み合わせたとき,高い性能が発揮できる結合方法を研究する.そして当初のシステムの完成を目指す.また,高いデータ取得効率を有するインコヒーレントホログラフィック分光法を実現するという視点から,これまでの研究成果を総括する.さらに,4次元インパルス応答関数の解析解に基づき,分光立体結像特性の評価法の研究も進めたい.現時点での当初目標は十分達成したが,同時に新たな課題も明らかとなった.しかし,当初は予想していなかった4次元インパルス応答関数の解析的導出という成果が得られたので,研究全体から見れば予想以上に進展していると判断した.大学の校舎改修のため実験室の引っ越しが2度あった.そのため,実験系の再構築が何度も必要となり,実験機材の購入等が遅れた.新たな課題の解決方法を研究する.同時に,第1干渉計の性能評価を行い,双曲面型体積インターフェログラムが実際に取得できることを確認する.また双曲線型体積インターフェログラムに対応した分光立体映像再生ソフトウェアを開発する.次に,検証実験として第1干渉計だけで分光立体映像の取得を試みる.被測定物体は,準単色点光源や3次元的に配置した2色2点光源から始め,次に自然光で照明された一般の物体を対象とする.次に,第2干渉計の性能評価を行い,第1干渉計と組み合わせたときに高い性能が発揮できるように調整する.そして,第1干渉計を第2干渉計と結合し,システム的に融合することにより超広帯域ヘテロダイン干渉計測システムを完成させる.このシステムの基本動作確認が,平成26年度の到達目標である.さらに,4次元インパルス応答関数に基づく分光立体結像特性の研究も積極的に進めたい.主に実験系の構築費と研究成果の発信に使用する.第1干渉計の残留位相という想定外の問題が発生し,第2干渉計への着手が遅れたため,第2干渉計構築・調整の予算を繰り越した.第1干渉計の残留位相を低減あるいはキャンセルする方法を研究開発するための予算として使用すると同時に,第2干渉計の構築・性能評価のために繰り越した予算を使用する計画である.また,新たな知見として得られた4次元インパルス応答関数による分光立体結像特性の研究にも一部使用する. | KAKENHI-PROJECT-25390087 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25390087 |
モルフォーゲン勾配によるマウス初期胚細胞の動態制御機構 | 1、Extは、プロテオグリカンコアタンパク質にヘパラン硫酸鎖を重合する活性を担う。マウスExt2欠損胚では、ヘパラン硫酸のみコアタンパク質に付加されていないことを、高感度HPLCを用いた二糖解析から明らかにした。また、野生型胚において、ヘパラン硫酸鎖発現とFGFシグナル活性(dp-ERK)との相関性を調べたところ、受精後3.56.25日目で、ヘパラン硫酸の発現領域とdp-ERK活性の高い領域はよく合致していた。以上から、ヘパラン硫酸がマウス初期胚においてFGFシグナル活性に必須であることを支持する。2、Ext2欠損胚と野生型胚による単一細胞レベルでのキメラ解析から、細胞外基質でなく、細胞膜表面に局在するヘパラン硫酸鎖がFGFシグナルに働くことが示唆された。そこで、両者に機能的な差異が生じる理由として、ヘパラン硫酸鎖の微細構造に違いがないかモノクロナール抗体を用いて解析した。結果、FGFシグナル活性の高い細胞の表面では、より脱硫酸化されたヘパラン硫酸鎖が分布していた。これは、細胞外基質と細胞表面でのヘパラン硫酸の微細構造の違いが、ヘパラン硫酸の機能的な差異を生む一因であることを示唆している。3、我々は、マウス前脳領域においてWntシグナルがエピブラストから神経前駆細胞又は表皮細胞への細胞運命を制御していることを明らかにしている。今年度は、どのような下流標的因子を介して制御しているのか明らかにするため、8日目胚の前脳神経上皮と隣接する表皮外胚葉を用いて、マイクロアレイ解析を行い、表皮外胚葉特異的に発現する標的候補群をプロファイリングした。更に、詳細に発現解析を行うことで、候補遺伝子が、発生過程において表皮外胚葉の系譜で発現していること、Wntシグナル活性の挙動とも良く一致することが分かった。ヘパラン硫酸鎖を介して、FGF等の拡散性シグナル因子の活性がどのように制御されうるのか、マウス初期胚発生過程における細胞動態や分子の発現を詳細に解析することによって、新規な知見(ヘパラン硫酸鎖の脱硫酸化などの微細構造の差異がFGFシグナルの局所的活性と相関する点等)を見いだしており、順調に進展している。Ext2欠損胚では、原条形成は起こるが、中胚葉の移動が正常に進行しないことが分かっている。そこで、中胚葉の移動過程において、拡散性シグナル因子が、ヘパラン硫酸鎖を介してどのように細胞動態を制御しているか明らかにするため、ヘパラン硫酸鎖、拡散性シグナル因子、中胚葉細胞の移動に働く分子などの発現を単一細胞レベルで解析する。Ext2は、プロテオグリカンコアタンパク質にヘパラン硫酸鎖を重合する活性を担う。本部門で同定されたExt2欠損変異胚では、FGFシグナル不全を示す。本年度は、初期胚胚体外外胚葉形成におけるヘパラン硫酸鎖の機能を解析し、以下の知見を得た。1、Ext2欠損胚では、胚体外外胚葉形成過程においてもFGFシグナル不全を示すこと、FGF4に加えFGF8リガンドの胚体外外胚葉細胞に特異的に局在するためには、細胞表面に分布するヘパラン硫酸鎖発現が必要であることを明らかにした。2、細胞膜上のヘパラン硫酸鎖と分泌された細胞外基質のヘパラン硫酸鎖のどちらが働いているか検討するため、ヘパラン硫酸鎖欠損細胞と野生型細胞が共存する凝集キメラ胚を作成し、FGFシグナルの下流分子であるリン酸化ErkやErr-betaの発現を単一細胞レベルで解析した。その結果、野生型細胞と隣接する欠損細胞では、マーカー遺伝子は、発現できるが、野生型細胞から離れた欠損細胞では、FGFシグナルは活性化されなかった。以上の解析から、細胞膜上に局在するヘパラン硫酸鎖がFGFシグナル伝達に関与し、細胞外基質のヘパラン硫酸鎖はほとんど機能しないことが示唆された。3、どのような機構で細胞非自律的なFGFリガンドによる活性化が起因しているのか、特異的な化学阻害剤が、胚体外外胚葉におけるリン酸化Erkなどの発現を検討した。結果、アクチンフィラメント、ヘパラナーゼ、メタロプロテアーゼ、システインプロテアーゼなどの特異的阻害剤では、FGFシグナル活性に変化はなかった。一方、セリンプロテアーゼの特異的阻害剤のみ、FGFシグナル活性を低下させた。これらから、FGFリガンドとヘパラン硫酸がコアタンパク質の複合体と共にセリンプロテアーゼで切断され、周辺細胞でFGFシグナルを活性化することが示唆された。1、Extは、プロテオグリカンコアタンパク質にヘパラン硫酸鎖を重合する活性を担う。マウスExt2欠損胚では、ヘパラン硫酸のみコアタンパク質に付加されていないことを、高感度HPLCを用いた二糖解析から明らかにした。また、野生型胚において、ヘパラン硫酸鎖発現とFGFシグナル活性(dp-ERK)との相関性を調べたところ、受精後3.56.25日目で、ヘパラン硫酸の発現領域とdp-ERK活性の高い領域はよく合致していた。以上から、ヘパラン硫酸がマウス初期胚においてFGFシグナル活性に必須であることを支持する。2、Ext2欠損胚と野生型胚による単一細胞レベルでのキメラ解析から、細胞外基質でなく、細胞膜表面に局在するヘパラン硫酸鎖がFGFシグナルに働くことが示唆された。そこで、両者に機能的な差異が生じる理由として、ヘパラン硫酸鎖の微細構造に違いがないかモノクロナール抗体を用いて解析した。結果、FGFシグナル活性の高い細胞の表面では、より脱硫酸化されたヘパラン硫酸鎖が分布していた。 | KAKENHI-PUBLICLY-22116514 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PUBLICLY-22116514 |
モルフォーゲン勾配によるマウス初期胚細胞の動態制御機構 | これは、細胞外基質と細胞表面でのヘパラン硫酸の微細構造の違いが、ヘパラン硫酸の機能的な差異を生む一因であることを示唆している。3、我々は、マウス前脳領域においてWntシグナルがエピブラストから神経前駆細胞又は表皮細胞への細胞運命を制御していることを明らかにしている。今年度は、どのような下流標的因子を介して制御しているのか明らかにするため、8日目胚の前脳神経上皮と隣接する表皮外胚葉を用いて、マイクロアレイ解析を行い、表皮外胚葉特異的に発現する標的候補群をプロファイリングした。更に、詳細に発現解析を行うことで、候補遺伝子が、発生過程において表皮外胚葉の系譜で発現していること、Wntシグナル活性の挙動とも良く一致することが分かった。ヘパラン硫酸鎖を介して、FGF等の拡散性シグナル因子の活性がどのように制御されうるのか、マウス初期胚発生過程における細胞動態や分子の発現を詳細に解析することによって、新規な知見(ヘパラン硫酸鎖の脱硫酸化などの微細構造の差異がFGFシグナルの局所的活性と相関する点等)を見いだしており、順調に進展している。Ext2欠損胚では、原条形成は起こるが、中胚葉の移動が正常に進行しないことが分かっている。そこで、中胚葉の移動過程において、拡散性シグナル因子が、ヘパラン硫酸鎖を介してどのように細胞動態を制御しているか明らかにするため、ヘパラン硫酸鎖、拡散性シグナル因子、中胚葉細胞の移動に働く分子などの発現を単一細胞レベルで解析する。 | KAKENHI-PUBLICLY-22116514 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PUBLICLY-22116514 |
自己免疫疾患治療を目指した新規蛋白性アンタゴニストの創製 | 本研究は、リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患の克服を目指し、腫瘍壊死因子(TNF)の2種類の異なるレセプター(TNFR1およびTNFR2)のうち、特に炎症反応の惹起に深く関わるTNFR1に選択的結合能を有した構造変異TNFアンタゴニスト(TNFR1指向性アンタゴニスト)の改良と治療効果の検討を通じて、画期的自己免疫疾患治療薬の開発に有用な知見を集積した。本研究は、リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患の克服を目指し、腫瘍壊死因子(TNF)の2種類の異なるレセプター(TNFR1およびTNFR2)のうち、特に炎症反応の惹起に深く関わるTNFR1に選択的結合能を有した構造変異TNFアンタゴニスト(TNFR1指向性アンタゴニスト)の改良と治療効果の検討を通じて、画期的自己免疫疾患治療薬の開発に有用な知見を集積した。本研究は、リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患の克服を目指し、腫瘍壊死因子(TNF)の2種類の異なるレセプター(TNFR1およびTNFR2)のうち、特に炎症反応の惹起に深く関わるTNFR1に選択的結合能を有した構造変異TNFアンタゴニスト(TNFR1指向性アンタゴニスト)の改良と治療効果の検討を通じて、画期的自己免疫疾患治療薬の開発に有用な知見を集積するものである。本年度は、我々が独自に創出したリジン欠損TNFR1指向性アンタゴニストであるT2の体内安定性を高める目的で、N末端へのバイオコンジュゲーションを試みるとともに、自己免疫疾患に対する有用性について、慢性関節リウマチのモデルであるコラーゲン関節炎(CIA)モデルを用いて検討を行った。T2に対して、N末端部位特異的PEG化を行ったPEG-T2は、比活性の低下を招くことなく未修飾T2と同等のアンタゴニスト活性を保持し、かつ優れた体内安定性を呈した。続いて、PEG-T2のCIAモデルにおける有効性を検討したところ、PEG-T2投与群では顕著な関節炎抑制効果を発揮し、既存のTNF阻害薬Etanerceptと同程度の関節炎抑制効果を発揮したことから、有効な関節リウマチ治療薬となり得る可能性が示唆された。さらにT2は炎症の悪化に関与するTNFR1の作用を選択に阻害し、ウイルス感染防御に重要と考えられているTNFR2の作用は阻害しないために、既存の抗TNF療法で致命的問題点であった副作用を低減できるものと期待される。今後は、T2のさらなる安全性・有用性を評価すべく、既存のTNF阻害薬では投与禁忌と指定されている多発性硬化症モデルに対しての治療実験を進めるとともに、生体防御機構に及ぼす影響を評価する予定である。本研究は、疾患や治療目的、蛋白質の作用機序に応じて、特定蛋白質や特定レセプターに対する選択的結合能とアンタゴニスト活性を併せ持つ機能性人工蛋白質を薬物として応用し、治療効果の検討を通じて、画期的自己免疫疾患治療薬の開発に資することを目的とするものである。これまでに我々は、リウマチや多発性硬化症といった自己免疫疾患の発症や悪化に関わると考えられている腫瘍壊死因子(TNF)に着目し、その2種類の異なるレセプター(TNFR1およびTNFR2)のうち、特に炎症反応の惹起に深く関わるTNFR1に選択的結合能を有した構造変異TNFアンタゴニスト(RlantTNF)を創製することに成功している。また、近年の動物モデルを用いた検討から、多発性硬化症においてTNFR2が病態の寛解作用に関与することが示唆されており、TNFR2を介した作用を確保したままTNFR1の作用のみを選択的に阻害することが、新たな治療戦略として考えられる。そこで本年度は、RlantTNFの多発性硬化症のマウスモデルに対する治療効果を評価することで、新規自己免疫疾患治療薬としての可能性を検証した。なお実験には、体内安定性を向上させる目的で高分子修飾(PEG化)をしたPEG-RlantTNFを用いた。実験的自己免疫性脳脊髄炎を発症させたマウスにPEG-RlantTNFを投与したところ、PBS投与群と比較してクリニカルスコアが低くなる傾向が認められた。既存のTNF阻害薬は多発性硬化症患者に禁忌に指定されているが、TNFR1選択性を付与したRlantTNFは、病態を悪化させることなく、症状を緩和させる可能性を示したことから、多発性硬化症患者にも適用可能であり、TNF阻害薬の自己免疫疾患治療薬としての適用範囲拡大に繋がるものと期待される。 | KAKENHI-PROJECT-20890300 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20890300 |
サル類を用いた内分泌撹乱化学物質の神経発達影響評価系の確立 | 本研究では内分泌撹乱化学物質のヒトにおけるリスク評価、特に神経発達影響のリスク評価について有用な情報を提供するためにカニクイザルを用いた神経発達影響評価系の確立を試みた。まず、カニクイザルの神経発達を分子生物学的に評価した結果、生後直後から60日にかけて急激に発達することを明らかにした。また、この時期に甲状腺ホルモンを欠乏させると抑制性神経伝達システムの発達が妨げられることを明らかにした。加えて影響評価に適したカニクイザル胎仔由来神経系細胞の培養法を確立した。本研究では内分泌撹乱化学物質のヒトにおけるリスク評価、特に神経発達影響のリスク評価について有用な情報を提供するためにカニクイザルを用いた神経発達影響評価系の確立を試みた。まず、カニクイザルの神経発達を分子生物学的に評価した結果、生後直後から60日にかけて急激に発達することを明らかにした。また、この時期に甲状腺ホルモンを欠乏させると抑制性神経伝達システムの発達が妨げられることを明らかにした。加えて影響評価に適したカニクイザル胎仔由来神経系細胞の培養法を確立した。3年計画の初年である本年度は次年度以降に続く実験系の確立を最優先課題として研究を行った。1、カニクイザルにおける中枢神経発達カニクイザル脳組織発達の評価を行うため、胎齢50、80、110、140日、生後30日のカニクイザルの脳組織を各23例、組織学的または生化学的検索に適した形で採取した。現在、組織切片を作成し免疫組織学的手法等により神経発達イベントを解析している。2、カニクイザル由来神経幹細胞胎齢80日カニクイザル脳組織より得た細胞を神経幹細胞培養用の特殊な培養液中で培養することにより神経幹細胞から成ると考えられる細胞塊を成長させることに成功した。増殖スピードはげっ歯類のそれよりも著しく遅いが今後、これをさらに増殖させ神経幹細胞であることを分子生物学的に確認するとともに細胞株の安定供給・維持を目指す。3、ラットにおける甲状腺ホルモン欠乏モデル来年度はカニクイザルに抗甲状腺薬を投与することによりカニクイザル甲状腺ホルモン欠乏モデルの作成および解析を目指すが、その準備としてラットにおいてポンプによる持続的皮下投与の際の抗甲状腺薬の濃度等の条件を検討した。これは今後投与期間が長くなるサルで行う際に妊娠期の連続多数回経口投与によるストレス性流産をさけるために必要な検討である。4、水酸化PCBによる甲状腺ホルモン撹乱作用胎生期ラットに水酸化PCBを曝露し、生後直後の脳における遺伝子発現を評価したところ脳部位特異的に甲状腺ホルモン応答性遺伝子の発現変化が確認された。また、本実験結果より水酸化PCBによるグルタミン酸作動性神経伝達の異常が示唆された。ラット胎齢18日海馬または大脳皮質より得た神経細胞に対し甲状腺ホルモンと同時に水酸化PCBを添加し本物質の甲状腺ホルモン撹乱作用の確認を遺伝子発現変化を指標として評価している。3年計画の2年目である本年度は昨年度得られた結果を踏まえて以下のように研究を行った。1、正常カニクイザルの神経発達イベントカニクイザル脳の正常発達を組織学的、生化学的に評価するために胎齢50日、胎齢80日、胎齢110日、胎齢140日、生後30日、生後90日、成熟サルとして3歳の脳組織を各2例サンプルとした。その結果、カニクイザルの脳はマクロ形態(体積、シワ等)はほぼ胎齢140日で完成しているが、神経伝達に重要なタンパク質(シナプス構成タンパク、神経伝達物質受容体、および神経伝達物質合成酵素)は出生後爆発的に発現量を増すことが明らかとなった。また、げっ歯類では大脳神経細胞の発生は比較的早期(出生前)に終了することが知られているが、カニクイザルでは生後も持続的に増殖マーカー陽性細胞が観察できた。2、カニクイザルにおける発達期甲状腺ホルモン欠乏の神経発達イベントへの影響前述の事実を踏まえ、甲状腺機能低下カニクイザルの作成を抗甲状腺剤であるメチマゾールを生後3日目から60日目まで投与した。本実験は現在、新生仔の神経機能等の評価を含め精査中である。3、カニクイザル神経細胞を用いたin viroモデル系の作出前年度作成に成功した神経幹細胞様の細胞塊は非常に増殖能が低く、培養液に加える栄養因子等の改善による増殖能の改善を試みている。また、in viroで増殖能を有するアストロサイトに着目し、大脳皮質、海馬、小脳より大量のアストロサイトを培養することに成功した。現在これらの細胞に化学物質を曝露し、その影響についてげっ歯類との相違を評価している。3年計画の最終年度である本年度は以下のように研究を行った。1.正常カニクイザルの神経発達イベント胎齢80、11O、130日、生後30、60、90日、4歳のカニクイザルの前頭葉皮質、帯状皮質、尾状核、海馬、および小脳の神経発達に重要な一連のタンパク質発現をWesternblotting法により評価した。その結果、神経系細胞の分化は出生前にほぼ終了し、興奮性神経伝達系は胎齢後期から、抑制性神経伝達系は出生後急激に発達することを明らかにした。本成果は霊長類の脳発達の分子生物学的情報として広く神経科学分野にとって重要な情報となる。2.カニクイザルにおける発達期甲状腺ホルモン欠乏の神経発達イベントへの影響生後3日目から生後60日目まで甲状腺ホルモン合成阻害剤であるメチマゾールを投与したカニクイザルの前頭葉皮質、尾状核、扁桃体、海馬、および小脳の発達を評価した。 | KAKENHI-PROJECT-20681005 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20681005 |
サル類を用いた内分泌撹乱化学物質の神経発達影響評価系の確立 | まず、生後60日においてメチマゾールにより甲状腺の過形成、血漿中甲状腺ホルモンの有意な減少を確認した。ついで項目1と同様に神経発達に重要なタンパク質発現を評価した結果、神経細胞の形態発達に重要な細胞骨格タンパク質であるMAP-2の発現低下、アストロサイトの形態発達に重要なGFAPタンパクの発現上昇傾向が確認された。さらに、抑制性神経伝達物質であるGABAを合成する酵素GAD67およびGABA受容体の部位特異的発現低下が確認された。本成果は世界で初めて霊長類であるカニクイザルにおける化学物質による脳発達の撹乱を分子生物学的に明らかにしたという意味で重要である。 | KAKENHI-PROJECT-20681005 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20681005 |
スペイン・バロック演劇の研究 | 計画段階において本研究は総じて6章からなっていた(「平成8年度以降の研究計画・方法」を参照)が、研究の進展にともない全体の構想そのものに大きな変化はないものの、序と第3章が新たに加わり、またサブタイトルにも若干の修正が施され以下のように7章立てとなった。序、ロペ・デ・ベ-ガ以前の演劇第1章、スペイン・バロック演劇-(1)ルネサンス演劇からバロック演劇へ(2)コメディアの意味(3)ロペ・デ・ベ-ガと「新しい演劇」第2章、劇場と観客-(1)マドリードの常設劇場(2)観客(3)宮廷劇場第3章、演劇論争をめぐって第4章、喜劇(≪マントと剣≫のコメディア)-(1)喜劇の特徴(2)様々なモティーフ第5章、悲劇-(1)夫婦の悲劇と名誉意識(2)農夫と名誉意識第6章、宗教劇-(1)カトリック教徒と異教徒の汗格齟齬(2)聖体神秘劇第7章、バロック演劇にみる人生観しかしながら、まだ7章が未完成なことや、4章・5章にも部分的にデーターが不足していること、全体的に細部の文献を慎重にチェックする必要があること、それにこれから出版社をさがす仕事も残っていることから、完成にはもうしばらく時間をいただきたい。予定としては、万全を期すために平成9年12月末までに完成原稿に限りなく近いものに仕上げ、出版社との交渉をはじめたいと考えている。スペイン・バロック演劇に関する研究において、今年度に行う予定であった第一章から第三章(全六章)までのなかで、特に「演劇賛否両論」を深く掘り下げて研究することができた(『日本演劇学会紀要』にその一部を発表の予定)。収集した資料の分析から、必ずしも神学者・聖職者全員が芝居に対して批判的でないことや、興行主・演劇家・劇評論家のあいだにも賛否両論が飛び交ったことを確認したあと、双方の様々な意見から、当時の大衆演劇が人々の道徳観念に多大な影響を及ぼしていたことを明らかにすることができた。また同時に、一七世紀を通して芝居に対する人々の見方が徐々に変化していく様子も捉えることができた。第一章、第二章はマドリードの劇場、劇場の運営、観客等についての研究であることから、当時の膨大な資料を丹念に調べ上げる必要があり、かなり時間を要する部分である。これまでに概ね骨組みを仕上げたうえで、適材適所に詳細なデーターを挿入することによって劇場の内部構造や観客の特徴を調査してきたが、劇場の運営、すなわち慈善団体と劇場経営および契約の問題、それに役者に関してはまだ完成しておらず、もう少し時間をかけて考察する必要がある。第三章はコメディア(悲劇・喜劇・悲喜劇)および演劇と社会との関係についての分析である。一七世紀中だけでも、宗教劇(聖体神秘劇)を含め、書き上げられた脚本の数が優に一万篇を越えるともいわれており、未だ調査されていない作品も数多くあることから、この章でももう少し資料を整理する必要がある。しかしながら現時点では、すでに『日本演劇学会紀要』(三一号、一九九三年)等の誌上で発表した拙稿にもとづいて、本稿の基礎となる論旨はすでに完成済みである。計画段階において本研究は総じて6章からなっていた(「平成8年度以降の研究計画・方法」を参照)が、研究の進展にともない全体の構想そのものに大きな変化はないものの、序と第3章が新たに加わり、またサブタイトルにも若干の修正が施され以下のように7章立てとなった。序、ロペ・デ・ベ-ガ以前の演劇第1章、スペイン・バロック演劇-(1)ルネサンス演劇からバロック演劇へ(2)コメディアの意味(3)ロペ・デ・ベ-ガと「新しい演劇」第2章、劇場と観客-(1)マドリードの常設劇場(2)観客(3)宮廷劇場第3章、演劇論争をめぐって第4章、喜劇(≪マントと剣≫のコメディア)-(1)喜劇の特徴(2)様々なモティーフ第5章、悲劇-(1)夫婦の悲劇と名誉意識(2)農夫と名誉意識第6章、宗教劇-(1)カトリック教徒と異教徒の汗格齟齬(2)聖体神秘劇第7章、バロック演劇にみる人生観しかしながら、まだ7章が未完成なことや、4章・5章にも部分的にデーターが不足していること、全体的に細部の文献を慎重にチェックする必要があること、それにこれから出版社をさがす仕事も残っていることから、完成にはもうしばらく時間をいただきたい。予定としては、万全を期すために平成9年12月末までに完成原稿に限りなく近いものに仕上げ、出版社との交渉をはじめたいと考えている。 | KAKENHI-PROJECT-07610510 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07610510 |
マラリアダイナミンを標的としたマラリア特効薬の開発 | in vitroアクチン重合を指標にした小分子スクリーニンングにより(N'-(4-(diethylamino)benzylidene)-4-methoxybenzohydrazide)(DBHA)によるダイナミン阻害効果を見いだした。さらに、ラッフル膜形成能、細胞遊走活性に対するDBHAの影響も調べ、解析結果を学術論文にまとめた。熱帯熱マラリア原虫ダイナミンpfDyn1, pfDyn2を昆虫細胞に発現、精製し、マラリアダイナミンがGTPアーゼ活性と脂質膜変形能を持つことを明らかにした。GTPアーゼ活性を指標とした小分子スクリーニンングにより、pfDyn2阻害候補物質を同定した。1.アクチン重合を指標としたダイナミン阻害剤スクリーニング:ダイナミン阻害剤ダイナソアの構造類似体181種類について、in vitroアクチン重合を指標としてスクリーニングした。リーディング化合物であるダイナソア(既知のダイナミン阻害剤よ)りも、強力なアクチン線維形成阻害作用を持つ分子(N'-(4-(diethylamino)benzylidene)-4-methoxybenzohydrazide)(DBHA)を同定した。DBHAのがん細胞の遊走に対する効果を調べた。DBHAは、ヒト肺ガン細胞株(H1299)における血清刺激依存性ラッフル膜形成を強く阻害(IC50=16.7 μM)するとともに、細胞遊走活性を著明に抑制することを創傷治癒試験により明らかにした。細胞遊走を阻害するDBHAの濃度では、細胞毒性も見られなかった。2.ダイナミンによるアクチン制御機構:ダイナミン/コルタクチンによるアクチン制御機構の一部を解明した。ダイナミン/コルタクチン複合体は、神経細胞成長円錐の糸状仮足に局在しており、ダイナミン阻害剤やコルタクチンの発現抑制によりこれら分子の機能を抑制すると、成長円錐の急激な退縮を引き起こした。分子機構については、ダイナミン/コルタクチン複合体はリング状を呈し、機械的にアクチン線維を束化することにより成長円錐の糸状仮足を安定させることが判明した。これらの結果結果を学術論文にまとめ、米国神経科学会誌に発表した(Yamada et al. J. Neurosci. 2013)。3.マラリアダイナミンの機能解析:マラリア原虫2種類のダイナミンアイソフォーム(pfDyn1, pfDyn2)について、リコンビナントタンパクを昆虫細胞に発現させた。また、pfDyn1, pfDyn2の部位特異的抗体を作成した。新規のダイナミン阻害剤を探索するため、in vitroアクチン重合を指標にした小分子スクリーニングにより、(N'-(4-(diethylamino)benzylidene)-4-methoxybenzohydrazide)(DBHA)によるダイナミン阻害効果を見いだした。さらに培養細胞を用いて仮足形成、遊走に対するDBHAの影響を解析した。その結果、DBHAは仮足先端部へのダイナミンの動員とラッフル膜形成に対し抑制効果を示した。さらに、細胞の遊走、浸潤に対してもDBHAの抑制効果が認められた。小分子探索による新規のダイナミン阻害剤DBHAの同定と、細胞に対するDBHAの影響についての解析結果を学会発表するとともに学術論文にまとめた。次に、Hisタグをつけた熱帯熱マラリア原虫ダイナミンpfDyn1, pfDyn2を昆虫細胞に発現させ、アフィニティーカラムを用いて精製した。リコンビナントタンパクを用いたin vitro解析により、マラリアダイナミンがGTPアーゼ活性と脂質膜変形能を持つことを明らかにした。また、pfDyn1, pfDyn2をそれぞれ特異的に認識する抗ペプチド抗体を作成し、ウエスタンブロットにより特異性を確認した。さらに、GTPアーゼ活性を指標とした小分子スクリーニンングにより、pfDyn2阻害候補物質を同定した。in vitroアクチン重合を指標にした小分子スクリーニンングにより(N'-(4-(diethylamino)benzylidene)-4-methoxybenzohydrazide)(DBHA)によるダイナミン阻害効果を見いだした。さらに、ラッフル膜形成能、細胞遊走活性に対するDBHAの影響も調べ、解析結果を学術論文にまとめた。熱帯熱マラリア原虫ダイナミンpfDyn1, pfDyn2を昆虫細胞に発現、精製し、マラリアダイナミンがGTPアーゼ活性と脂質膜変形能を持つことを明らかにした。GTPアーゼ活性を指標とした小分子スクリーニンングにより、pfDyn2阻害候補物質を同定した。マラリアダイナミンの機能を明らかにするためにマラリアダイナミンの発現精製系を確立するとともに、マラリアダイナミンの阻害剤探索のためのGTPアーゼ活性測定系の条件検討を行った。また、ほ乳類のアクチン重合を指標としたダイナミン阻害剤のスクリーニングを行なった。1)マラリアダイナミンの精製:熱帯熱マラリア原虫に発現しているダイナミンホモログであるpfDyn1及びpfDyn2遺伝子を全合成し、pET15bにクローニングした。大腸菌にpfDyn2を発現させ、0.1%NP40存在下に、可溶性画分にpfDyn2を得た。pfDyn2をCoカラムに吸着後、50, 100, 200, 250mMイミダゾールを用いてステップワイズに溶出した。pfDyn2は、200mMイミダゾールで溶出され、CBB染色において、ほぼ単一バンドにまで精製する方法を確立した。2)GTPアーゼ活性の測定:哺乳類のダイナミンGTPase活性は、低イオン強度溶液中での自己重合による活性が上昇することから、低イオン強度条件下で、pfDyn2のGTPase活性を測定する比色定量法を構築した。 | KAKENHI-PROJECT-23659213 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23659213 |
マラリアダイナミンを標的としたマラリア特効薬の開発 | 哺乳類ダイナミン1をコントロールとしてGTPase活性を比較した結果、イオン強度依存性のダイナミンGTPase活性変化がpfDyn2ではほとんど見られないことが判明した。3)哺乳類のアクチン重合を指標としたダイナミン阻害剤のスクリーニング:ピレンでラベルした単量体アクチンを脳細胞質に加え、ATP存在下でリン脂質を含んだ人工脂質膜で刺激するとアクチン重合が誘導され、ピレンに由来する蛍光強度を測定することによりアクチン重合を定量的に測定出来る。この測定系を用いて、哺乳類ダイナミン阻害剤のスクリーニングを約150の候補物質について行なった。1.アクチン重合を指標としたダイナミン阻害剤スクリーニング:ダイナソアよりもアクチン重合、ラッフル膜形成,細胞遊走に対する阻害効果が高く、毒性の少ない化合物にヒットしているので、スクリーニングは順調に達成できている.2.ダイナミンによるアクチン制御機構:ダイナミン/コルタクチン複合体によるアクチン制御機構の解析についても順調に進んでいる。既述の研究成果に引き続いて、ダイナミン、コルタクチンのリン酸化による複合体の機能制御調べた結果、コルタクチンがin vitroでタンパクキナーゼCによりリン酸化され、リン酸化によりアクチン束化能が顕著に減少することを見いだしている。3.マラリアダイナミンの機能解析:pfDyn1, pfDyn2発現ベクターを作成し、昆虫細胞に発現させた。精製については、pfDyn2は精製方法が確立されたが,pfDyn1については現在取り組んでいる。pfDyn1, pfDyn2の部位特異的抗体については、抗原を特異的に認識することをウエスタンブロットにより確認した。マラリアダイナミンpfDyn1およびpfDyn2はともに遺伝子を全合成し、大腸菌で発現させた。さらにpfDyn1についてはCBB染色において、ほぼ単一バンドにまで精製する方法を確立した。抗マラリアダイナミン抗体については、作成のための準備はすでに終了している。従って、マラリアダイナミンの機能解析のための実験ツールの作成は順調に達成されていると評価出来る。哺乳類のアクチン重合を指標としたダイナミン阻害剤のスクリーニングについても、高いアクチン重合阻害効果を示す候補物質がいくつか得られており、阻害剤探索に関してもほぼ順調に進展している。1.アクチン重合を指標としたダイナミン阻害剤スクリーニング:これまでのスクリーニング、DBHAに関する解析結果を学術論文にまとめる。2.ダイナミンによるアクチン制御機構:今後、アクチン制御におけるダイナミン・コルタクチン複合体のリン酸化の生理的意義を明らかにする。平行して、ダイナミン/コルタクチン複合体の構造解析を安藤敏夫教授(金沢大学)との共同研究によりすすめる。3.マラリアダイナミンの機能解析:昆虫細胞に発現させたpfDyn1, pfDyn2を精製市,GTPアーゼ活性をHPLCにより解析する。 | KAKENHI-PROJECT-23659213 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23659213 |
肝臓におけるω3脂肪酸欠乏の認識機構の解明 | ドコサヘキサエン酸(DHA)に代表されるオメガ3(ω3)脂肪酸は生体において重要な働きを持ち、その摂取は心血管系障害のリスク低減や抗炎症作用などの効果を示す事が古くから知られてきたが、生体においてω3脂肪酸の量の認識機構や恒常性維持機構については不明な点を多く残しているため、本研究ではその解明を目的としている。平成30年度は以下の結果を得た。本研究の予備検討において、DHA含有グリセロリン脂質を全身性にほぼ欠いているリゾホスファチジン酸アシル転移酵素3(LPAAT3)欠損マウスの肝臓では、DHA合成に必須の脂肪酸不飽和化酵素群と伸長酵素群が誘導されるという知見を得ている。これらの酵素群のLPAAT3欠損マウスにおける誘導はマウスの週齢に関わらず新生児期から見られること、また脳や白色脂肪組織、褐色脂肪組織においては見られないことが明らかとなった。また、LPAAT3欠損マウスにおいてはDHA含有リン脂質の著しい減少する一方、ω6多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸含有リン脂質量が増加していることを見出した。アラキドン酸含有リン脂質の増加については肝臓以外の組織においても見られたことから、肝臓における脂肪酸不飽和化および伸長酵素群の誘導は、リポタンパク質などを介して全身の脂質組成に影響を与えている可能性が示唆された。また、LPAAT3欠損マウス肝臓におけるトランスクリプトーム解析により、欠損マウスの肝臓においては脂質合成のマスターレギュレーターであるSterol regulatoryelement-binding protein-1 (SREBP1)の標的遺伝子群に増加が見られることが明らかとなった。DHA合成に必須の脂肪酸不飽和化、伸長酵素群もSREBP1の標的遺伝子であるため、DHA欠乏時の肝臓におけるセンサーとしてSREBP1が機能する可能性が示唆された。本研究のこれまでの結果から、DHAの欠乏時に肝臓においてはDHAの産生を高める遺伝子発現の変化が起こっており、それには脂質合成のマスターレギュレーターであるSREBP1が関与する可能性が示唆された。また、この誘導は本研究において解析を行った臓器の中では肝臓に特異的であったことから、肝臓においてはDHAの欠乏を認識し、DHAをはじめとした多価不飽和脂肪酸の産生を高める機構が存在することが明らかとなった。過去の研究により、多価不飽和脂肪酸の欠乏は脂肪肝を誘導することが明らかとなっていることと合わせると、本研究において見られたDHA欠乏時の肝臓における脂肪酸不飽和化酵素群の誘導は肝臓における多価不飽和脂肪酸量の維持機構であり、肝臓における脂質代謝に深く関与することが予想される。また、肝臓はリポタンパク質として全身に脂質を供給する臓器であることから、全身性のDHAを含めた多価不飽和脂肪酸量の維持に中心的な役割を持つ可能性がある。事実、本研究においてLPAAT3欠損マウスの様々な組織におけるリン脂質組成を解析した結果、欠損マウスではDHA含有リン脂質が著しく減少しているのに対し、ω6多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸含有リン脂質の量が増加していた。アラキドン酸含有リン脂質の増加は肝臓以外の脳や脂肪組織においても見られたことも、肝臓が全身における多価不飽和脂肪酸量の恒常性維持機構に寄与する可能性を示唆するものであると考えられた。これまでの解析から、DHA欠乏時には肝臓においてSREBP1の標的遺伝子の誘導を介して全身の多価不飽和脂肪酸量を調節する機構が存在することが示唆された。今後は、DHA欠乏時のSREBP1を介した脂肪酸不飽和化酵素や伸長酵素の誘導がどのような機構で起こるかのより詳細な解析を行う。具体的にはSREBP1タンパク質量の変化に加え、活性化型(核内型)のSREBP1のについても解析を行う。また、SREBP1の標的因子のプロモーター領域におけるメチル化やクロマチンの状態なども合わせて解析を行う。また、申請者は現在、肝臓特異的なLPAAT3欠損マウスを作成中であり、このマウスの解析を行うことによりさらに詳細に肝臓におけるDHA欠乏の認識機構が明らかになるものと考えている。さらに、肝臓由来の多価不飽和脂肪酸が全身に供給される機構を明らかにするために、リン脂質のみでなく、トリグリセリドやコレステロールエステルなどの測定することが必要であると考えられる。また、血清から各種リポタンパク質や遊離脂肪酸など様々な画分を分取し、それぞれに含まれる脂質の解析を行うことにより、肝臓におけるDHA欠乏時の脂質代謝酵素の変化が全身に与える影響についても詳細に解析する予定である。これらの解析結果を合わせることにより、肝臓が全身のDHAや多価不飽和脂肪酸量を調節する機構を明らかにし、またその破綻がどのような疾患と結びつくかについても解析する。ドコサヘキサエン酸(DHA)に代表されるオメガ3(ω3)脂肪酸は生体において重要な働きを持ち、その摂取は心血管系障害のリスク低減や抗炎症作用などの効果を示す事が古くから知られてきたが、生体においてω3脂肪酸の量の認識機構や恒常性維持機構については不明な点を多く残しているため、本研究ではその解明を目的としている。平成30年度は以下の結果を得た。本研究の予備検討において、DHA含有グリセロリン脂質を全身性にほぼ欠いているリゾホスファチジン酸アシル転移酵素3(LPAAT3)欠損マウスの肝臓では、DHA合成に必須の脂肪酸不飽和化酵素群と伸長酵素群が誘導されるという知見を得ている。これらの酵素群のLPAAT | KAKENHI-PROJECT-18K08495 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K08495 |
肝臓におけるω3脂肪酸欠乏の認識機構の解明 | 3欠損マウスにおける誘導はマウスの週齢に関わらず新生児期から見られること、また脳や白色脂肪組織、褐色脂肪組織においては見られないことが明らかとなった。また、LPAAT3欠損マウスにおいてはDHA含有リン脂質の著しい減少する一方、ω6多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸含有リン脂質量が増加していることを見出した。アラキドン酸含有リン脂質の増加については肝臓以外の組織においても見られたことから、肝臓における脂肪酸不飽和化および伸長酵素群の誘導は、リポタンパク質などを介して全身の脂質組成に影響を与えている可能性が示唆された。また、LPAAT3欠損マウス肝臓におけるトランスクリプトーム解析により、欠損マウスの肝臓においては脂質合成のマスターレギュレーターであるSterol regulatoryelement-binding protein-1 (SREBP1)の標的遺伝子群に増加が見られることが明らかとなった。DHA合成に必須の脂肪酸不飽和化、伸長酵素群もSREBP1の標的遺伝子であるため、DHA欠乏時の肝臓におけるセンサーとしてSREBP1が機能する可能性が示唆された。本研究のこれまでの結果から、DHAの欠乏時に肝臓においてはDHAの産生を高める遺伝子発現の変化が起こっており、それには脂質合成のマスターレギュレーターであるSREBP1が関与する可能性が示唆された。また、この誘導は本研究において解析を行った臓器の中では肝臓に特異的であったことから、肝臓においてはDHAの欠乏を認識し、DHAをはじめとした多価不飽和脂肪酸の産生を高める機構が存在することが明らかとなった。過去の研究により、多価不飽和脂肪酸の欠乏は脂肪肝を誘導することが明らかとなっていることと合わせると、本研究において見られたDHA欠乏時の肝臓における脂肪酸不飽和化酵素群の誘導は肝臓における多価不飽和脂肪酸量の維持機構であり、肝臓における脂質代謝に深く関与することが予想される。また、肝臓はリポタンパク質として全身に脂質を供給する臓器であることから、全身性のDHAを含めた多価不飽和脂肪酸量の維持に中心的な役割を持つ可能性がある。事実、本研究においてLPAAT3欠損マウスの様々な組織におけるリン脂質組成を解析した結果、欠損マウスではDHA含有リン脂質が著しく減少しているのに対し、ω6多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸含有リン脂質の量が増加していた。アラキドン酸含有リン脂質の増加は肝臓以外の脳や脂肪組織においても見られたことも、肝臓が全身における多価不飽和脂肪酸量の恒常性維持機構に寄与する可能性を示唆するものであると考えられた。これまでの解析から、DHA欠乏時には肝臓においてSREBP1の標的遺伝子の誘導を介して全身の多価不飽和脂肪酸量を調節する機構が存在することが示唆された。今後は、DHA欠乏時のSREBP1を介した脂肪酸不飽和化酵素や伸長酵素の誘導がどのような機構で起こるかのより詳細な解析を行う。具体的にはSREBP1タンパク質量の変化に加え、活性化型(核内型)のSREBP1のについても解析を行う。また、SREBP1の標的因子のプロモーター領域におけるメチル化やクロマチンの状態なども合わせて解析を行う。 | KAKENHI-PROJECT-18K08495 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K08495 |
RNAポリメサーゼIIによる転写開始の酵素機構 | RNAポリメラーゼII(polII)による転写反応において, RNA5′末端のキャッピングとATP水解の要求性の2点は他のRNAポリメラーゼ種(I, III)と異る大きな特徴であり,いずれも転写開始と密接に関連すると考えられている.本研究では, HeLa細胞より得た無細胞転写系を用いてpolIIによる転写開始反応と上記二つの特徴との関連を解析し,以下の結果を得た.(1)転写開始複合体形成におけるキャッピング酵素系の関与-まず, invitro転写系におけるキャップ形成の特異性を調べるためにpolIIおよびpolIII転写産物の5′末端分析を行った.アデノウィルス後期主要プロモーター(Ad2MLP)および同pIXプロモーター(Ad12pIXP)からの転写産物の5′末端はほとんどがキャップされており,それぞれ, m^7Gpppm^6Am, m^7GpppGmであった.一方, polIIIで転写されるAd12VA1RNA遺伝子からの産物の5′末端はpppG-でありキャップ構造は検出されなかった.すなわち,この系ではinvivoと同様, polII転写産物に対するキャッピングの特異性が保持されていた.次に, Ad2MLPを用いて形成させた転写開始複合体(50S)を精製し,鎖の伸長反応を行わせたところ, RNAにm^7GpppAなるキャップ構造が付加された.この事から,キャップ形成に関与する酵素系のうちキャッピング酵素とmRNA(グアニンーク)メチル基転移酵素が転写開始複合対に特異的に組込まれている事が示唆された.(2)転写開始反応とATP水解-塩濃度の違いにより転写の開始と伸長を分離した2段階反応系を用いて各反応のATP水解要求性を調べた.その結果, Ad2MLP, Ad12pIXPいずれを用いた場合にも開始反応にはATP(2′-dATP, 3′-dATP)の存在が必須でありATPはAMPPNPで置換しえなかった.実際に,これら2種類のプロモーターを用いて50S転写開始複合体形成反応を解析したところ,いずれの場合もその形成にはATPのγ位リン酸の水解が必須である事が明らかとなった.RNAポリメラーゼII(polII)による転写反応において, RNA5′末端のキャッピングとATP水解の要求性の2点は他のRNAポリメラーゼ種(I, III)と異る大きな特徴であり,いずれも転写開始と密接に関連すると考えられている.本研究では, HeLa細胞より得た無細胞転写系を用いてpolIIによる転写開始反応と上記二つの特徴との関連を解析し,以下の結果を得た.(1)転写開始複合体形成におけるキャッピング酵素系の関与-まず, invitro転写系におけるキャップ形成の特異性を調べるためにpolIIおよびpolIII転写産物の5′末端分析を行った.アデノウィルス後期主要プロモーター(Ad2MLP)および同pIXプロモーター(Ad12pIXP)からの転写産物の5′末端はほとんどがキャップされており,それぞれ, m^7Gpppm^6Am, m^7GpppGmであった.一方, polIIIで転写されるAd12VA1RNA遺伝子からの産物の5′末端はpppG-でありキャップ構造は検出されなかった.すなわち,この系ではinvivoと同様, polII転写産物に対するキャッピングの特異性が保持されていた.次に, Ad2MLPを用いて形成させた転写開始複合体(50S)を精製し,鎖の伸長反応を行わせたところ, RNAにm^7GpppAなるキャップ構造が付加された.この事から,キャップ形成に関与する酵素系のうちキャッピング酵素とmRNA(グアニンーク)メチル基転移酵素が転写開始複合対に特異的に組込まれている事が示唆された.(2)転写開始反応とATP水解-塩濃度の違いにより転写の開始と伸長を分離した2段階反応系を用いて各反応のATP水解要求性を調べた.その結果, Ad2MLP, Ad12pIXPいずれを用いた場合にも開始反応にはATP(2′-dATP, 3′-dATP)の存在が必須でありATPはAMPPNPで置換しえなかった.実際に,これら2種類のプロモーターを用いて50S転写開始複合体形成反応を解析したところ,いずれの場合もその形成にはATPのγ位リン酸の水解が必須である事が明らかとなった. | KAKENHI-PROJECT-62620505 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62620505 |
哺乳動物初期胚の発生と分化に関与する細胞接着および細胞間情報伝達機構に関する研究 | 卵管の影響下でマウス1細胞期胚を体外培養すると、胚は体外培養における発生停止を起こすことなく、正常にその後の発生を維持できる。これらの胚では4細胞期に割球の偏平化と細胞接着面の増大が観察されることが報告されているが(Minami et al., 1992)、本研究において、この4細胞期胚の細胞接着面にカドヘリン分子が局在することが間接蛍光抗体法によって明らかになった。一般に、カドヘリン分子の細胞接着面への局在は8細胞期におけるコンパクション開始に起こるとされているが、体外における卵管組織との共培養系においては局在が早期に起こることが観察された。このカドヘリンの局在にはプロテインキナーゼCが関与すると考えられているが、接着面の増大した4細胞期胚をPKC阻害剤で処理すると細胞接着が減少すること、またPKA阻害剤で処理すると割球の偏平化が阻害されることが明らかになったが、詳細な分子機構については不明である。また、同様の卵管環境下で発生した4細胞期においては、細胞間の情報伝達に関与するGap Junctionがすでに形成されていることも観察された。機能的なGap Junctionの形成はコンパクション時に始まることや、コネキシン43がGap Junctionへと形成される場合にもコネキシン43のリン酸化が関与していることが示唆されており、初期胚発生過程における卵管の影響とタンパク質のリン酸化についてもさらに詳細な検討が必要である。また、細胞分裂に大きく関与するp34^<CDC2>キナーゼの活性についても測定し、卵管の影響が初期胚の細胞周期の機能に与える影響についても検討した。卵管環境下で発生する胚においてはp34^<CDC2>キナーゼ活性は上昇し、正常な発生過程を示すのに対して、発生停止を示す胚ではp34^<cdc2>キナーゼ活生の上昇は認められなかった。発生停止を示す胚においてもDNA合成は完了しているため、発生停止がG2期に起こることが確認されたが、核膜の崩壊や染色体の凝縮は観察されなかった。また、この胚をokadaic acidで処理すると、核膜の崩壊と染色体の凝縮が観察されることから、G2期における発生停止には減数分裂におけるdictyate期での停止と共通のメカニズムが存在している可能性が示唆され、卵管環境が発生停止を解除するなんらかのシグナルを供給していることが明かとなった。卵管の影響下でマウス1細胞期胚を体外培養すると、胚は体外培養における発生停止を起こすことなく、正常にその後の発生を維持できる。これらの胚では4細胞期に割球の偏平化と細胞接着面の増大が観察されることが報告されているが(Minami et al., 1992)、本研究において、この4細胞期胚の細胞接着面にカドヘリン分子が局在することが間接蛍光抗体法によって明らかになった。一般に、カドヘリン分子の細胞接着面への局在は8細胞期におけるコンパクション開始に起こるとされているが、体外における卵管組織との共培養系においては局在が早期に起こることが観察された。このカドヘリンの局在にはプロテインキナーゼCが関与すると考えられているが、接着面の増大した4細胞期胚をPKC阻害剤で処理すると細胞接着が減少すること、またPKA阻害剤で処理すると割球の偏平化が阻害されることが明らかになったが、詳細な分子機構については不明である。また、同様の卵管環境下で発生した4細胞期においては、細胞間の情報伝達に関与するGap Junctionがすでに形成されていることも観察された。機能的なGap Junctionの形成はコンパクション時に始まることや、コネキシン43がGap Junctionへと形成される場合にもコネキシン43のリン酸化が関与していることが示唆されており、初期胚発生過程における卵管の影響とタンパク質のリン酸化についてもさらに詳細な検討が必要である。また、細胞分裂に大きく関与するp34^<CDC2>キナーゼの活性についても測定し、卵管の影響が初期胚の細胞周期の機能に与える影響についても検討した。卵管環境下で発生する胚においてはp34^<CDC2>キナーゼ活性は上昇し、正常な発生過程を示すのに対して、発生停止を示す胚ではp34^<cdc2>キナーゼ活生の上昇は認められなかった。発生停止を示す胚においてもDNA合成は完了しているため、発生停止がG2期に起こることが確認されたが、核膜の崩壊や染色体の凝縮は観察されなかった。また、この胚をokadaic acidで処理すると、核膜の崩壊と染色体の凝縮が観察されることから、G2期における発生停止には減数分裂におけるdictyate期での停止と共通のメカニズムが存在している可能性が示唆され、卵管環境が発生停止を解除するなんらかのシグナルを供給していることが明かとなった。卵管の影響下でマウス1細胞期胚を体外培養すると、胚は体外培養における発生停止を起こすことなく、正常にその後の発生を維持できる。これらの胚においては4細胞期における細胞接着面が卵管の影響を受けずに発生した4細胞期胚に比較して非常に大きくなることがすでに示されており(Minami et al.,1992)、本研究において、この4細胞期胚の細胞接着面にカドヘリン分子の存在が認められ、この時期にすでに局在が開始していることが間接螢光抗体法によって明らかになった。また、卵管の影響を受けずに発生した4細胞期胚については、カドヘリン分子の局在は認められず、細胞表面に点在することが観察された。 | KAKENHI-PROJECT-07660378 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07660378 |
哺乳動物初期胚の発生と分化に関与する細胞接着および細胞間情報伝達機構に関する研究 | 一般に、カドヘリン分子の細胞接着面への局在は8細胞期におけるコンパクション開始時に起こるとされているが、体外における卵管組織との共培養系においては局在が早期に起こることが観察された。このカドヘリンの局在にはプロテインキナーゼCが関与すると考えられているが、この卵管組織との共培養系においてもなんらかのかたちでプロテインキナーゼCが活性化されたのではないかと考えられるが、卵管の影響とプロテインキナーゼCの活性化についての詳細なメカニズムについては今後の検討課題である。また、同様の卵管の影響下で発生した4細胞期において、細胞間の情報伝達に関与するGap Junctionがすでに形成されていることも観察された。Gap Junctionはコネキシン43タンパク質の6量体からなり、そのタンパク質の合成は4細胞期に開始されるが、機能的なGap Junctionの形成はコンパクション時に始まることが示されている。また、コネキシン43がGap Junctionへと形成される場合にもコネキシン43のリン酸化が関与しているとが示唆されており、初期胚発生過程における卵管の影響とタンパク質のリン酸化についても詳細な検討が必要であると考えられる。発生過程における卵管の効果は、体外における初期胚の発生停止の解除に対しても有効に作用することから、以上のような胚の形態変化にともなう細胞間情報伝達機構の形成と発生に卵管がどのように作用しているかについて今後さらに研究が必要だと考えられる。昨年度の研究において、卵管環境下で体外培養した4細胞期胚の細胞接着面にカドヘリン分子の局在していることが間接蛍光抗体法によって明らかになった。本年度の研究では、このカドヘリンタンパク質の局在と、細胞間の情報伝達に重要な役割を果たすと考えられているGap Junctionの形成について検討した。その結果、卵管環境下の体外培養で発生した4細胞期胚においては、Gap Junctionの形成も認められた。一般に、カドヘリンの局在やGap Junctionの形成は8細胞期のコンパクション時に誘導されることが分かっているが、体外での卵管環境によってこれが早期に誘導されることが明らかとなった。また、体外での卵管環境によって細胞接着が増大した4細胞期胚をプロテインキナーゼC(PKC)阻害剤で処理すると、割球間の接着が阻害されることが観察されたが、割球の偏平化は阻害されなかった。しかしながら、プロテインキナーゼA(PKA)阻害剤でこの胚を処理すると、割球の偏平化も阻害されることが観察され、割球間の接着と割球の偏平化は種類の異なるリン酸化酵素によって調節されていることが示唆された。リン酸化酵素阻害が実際にカドヘリンの局在や、Gap Junctionの形成にどのように作用するかは今後の課題である。また、本年度の研究では、卵管の影響が発生停止を解除し細胞を分裂に導くことから、細胞分裂に大きく関与するp34^<cdc2>キナーゼの活性についても測定し、卵管の影響が初期胚の細胞周期の機能に与える影響についても検討した。その結果、卵管環境下で培養した胚においては、分裂後20時間からp34^<cdc2>キナーゼ活性は上昇し始め、21時間でピークに達して、24時間で完全に低下した。しかしながら、発生停止を示す条件下では、p34^<cdc2>キナーゼ活性の上昇は認められなかった。 | KAKENHI-PROJECT-07660378 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07660378 |
歯牙移動の促進のための遺伝子導入法の検討 | マウス歯周組織における遺伝子導入法の検討前年度に確立した、歯間にエラスティックを挿入して歯を移動するワルド法の実験系は、短期間に強い矯正力が加わるため、歯周組織に発現する因子を長期的に観察するには不適であった。そこで緩徐で持続的な矯正力が加わる実験系を確立することを目的に、マウスの上顎切歯にニッケルチタンワイヤーを装着し、上顎臼歯を口蓋側に移動した。歯の移動から0、1、3,5、7、14、21及び28日間後に薄切切片を作成し、H-E染色及びTRAP染色を用いて、組織形態学的な解析を行った。またIn situ hybridyzation法を用いて,Collagen Type I, osteopontin及びosteocalsinの発現を経時的に解析した。その結果から2週間以上にわたって緩徐な矯正力が持続的に加わる、新たな実験系の確立に成功した。(国際誌に投稿準備中)現在、前年度に確立したHVJ-liposome法を用いた遺伝子導入の実験系を、この新しい歯の移動の実験系に応用し、in vivoでの遺伝子導入を試みている。CSF-1やCTGFなどの遺伝子を組み込んだplasmid DNAとHVJ-liposomeを混合し.これをマウスの上顎右側第一臼歯口蓋側の歯周組織に直接投与し、同時に実験的歯の移動を行った。歯の移動開始から1,3,5,7,14,28日後にマウスをパラホルムアルデヒドにて灌流固定した。摘出した上顎骨において、導入した遺伝子の発現状況をin situ hybridization法を用いて観察し、遺伝子導入の成果を検討している。また、これらの内容の一部はすでに国際誌に発表した(Journal of Bone and Mineral Metabolis,2005)。マウス歯周組織における遺伝子導入法の検討マウス歯周組織にHVJ-liposome法を用いて遺伝子導入を試み,その導入効果を検討するため,in vitroでの予備実験を行った.マウスから単離した未分化間葉系細胞にHVJ-liposome法を用いてLuciferase遺伝子を組み込んだplasmid DNAを遺伝子導入した.24時間後,ルミノメーターを用いて,ルシフェラーゼアッセイを行い,in vitroにおける遺伝子導入の至適条件を検索した.予備実験としてマウスにおける実験的歯の移動の系を確立した.ワルド法を用いて上顎右側臼歯の移動を行いin situ hybridyzation法を用いてosteopontinの発現を解析し,TRAP染色を用いて破骨細胞の発現様相を経時的に観察した.(国外誌に発表予定)次に,HVJ-liposome法を用いてin vivoでの遺伝子導入を試みた.β-galactosidase遺伝子(LacZ)を組み込んだPlasmid DNAとHVJ-liposomeを混合し.これをシリンジにより上顎右側第一臼歯近心の歯周組織に直接投与した.遺伝子導入1,3,5,7,14,28日後にマウスをパラホルムアルデヒドにて灌流固定し,上顎骨を摘出した.EDTAによる2週間の脱灰の後,クリオスタットにて凍結切片を作成しX-gal染色した.β-galactosidase遺伝子(LacZ)の発現様相を蛍光顕微鏡下で観察し,マウス歯槽骨における遺伝子導入の至適条件を検討した.今後,それらに条件設定を踏まえ,CSF-1,CTGFなどの歯牙移動促進因子を遺伝子導入させ,局所で発現させる予定である。マウス歯周組織における遺伝子導入法の検討前年度に確立した、歯間にエラスティックを挿入して歯を移動するワルド法の実験系は、短期間に強い矯正力が加わるため、歯周組織に発現する因子を長期的に観察するには不適であった。そこで緩徐で持続的な矯正力が加わる実験系を確立することを目的に、マウスの上顎切歯にニッケルチタンワイヤーを装着し、上顎臼歯を口蓋側に移動した。歯の移動から0、1、3,5、7、14、21及び28日間後に薄切切片を作成し、H-E染色及びTRAP染色を用いて、組織形態学的な解析を行った。またIn situ hybridyzation法を用いて,Collagen Type I, osteopontin及びosteocalsinの発現を経時的に解析した。その結果から2週間以上にわたって緩徐な矯正力が持続的に加わる、新たな実験系の確立に成功した。(国際誌に投稿準備中)現在、前年度に確立したHVJ-liposome法を用いた遺伝子導入の実験系を、この新しい歯の移動の実験系に応用し、in vivoでの遺伝子導入を試みている。CSF-1やCTGFなどの遺伝子を組み込んだplasmid DNAとHVJ-liposomeを混合し.これをマウスの上顎右側第一臼歯口蓋側の歯周組織に直接投与し、同時に実験的歯の移動を行った。歯の移動開始から1,3,5,7,14,28日後にマウスをパラホルムアルデヒドにて灌流固定した。摘出した上顎骨において、導入した遺伝子の発現状況をin situ hybridization法を用いて観察し、遺伝子導入の成果を検討している。また、これらの内容の一部はすでに国際誌に発表した(Journal of Bone and Mineral Metabolis,2005)。 | KAKENHI-PROJECT-15791207 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15791207 |
魚類における外来遺伝子の導入と発現に関する研究 | 本研究は魚類の染色体の発現シグナルにかかわる遺伝子の構造と機能の解明を行い、さらに、魚類培養細胞あるいは卵へ遺伝子を導入する方法の確立を目的とする。研究実績は以下の通りである。1.魚類(コイ・ハマチ)のαーグロビン遺伝子の5'上流領域に-100領域、CCAATボックス、TATAボックスが存在した。キャップサイトはコイの場合開始コドンATGより上流48番目に、ハマチの場合46番目に認められた。5'フランキング領域および5'非翻訳領域の塩基配列はコイおよびハマチ間においてほとんど差が認められなかった。2.ハマチのαーグロビン遺伝子の5'上流領域とクロラムフェニコ-ル不活化酵素(CAT)産生遺伝子の組換え体は3種類の異なった魚類培養細胞においてCAT産生遺伝子が翻訳され、CATの産生が認められたことより、5'上流領域にプロモ-タ-領域が存在することが確認出来た。3.ウイルス山来SV40の初期遺伝子のプロモ-タ-は魚類培養細胞内で機能することが確認された。そのプロモ-タ-活性は魚類培養細胞とほぼ細胞とほぼ同様であった。4.コイaーグロビン(CαG)遺伝子を1mM還元型グルタチオンで処理した二ジマス受精卵の細胞質にマイクロインジェクション法により導入を行ったところ、約65%が孵化し、ほぼ正常に発生した。5.導入した遺伝子は魚体内において複製していることが確認出来た。その遺伝子導入雄魚より採精し、完熟卵に媒精し、孵化した仔魚よりCαG遺伝子の存在が確認できた。この事実は雄親魚の体内にCαG遺伝子をもつ細胞がモザイク状に分布し、子孫に導入遺伝子が継代することが明らかとなった。本研究は魚類の染色体の発現シグナルにかかわる遺伝子の構造と機能の解明を行い、さらに、魚類培養細胞あるいは卵へ遺伝子を導入する方法の確立を目的とする。研究実績は以下の通りである。1.魚類(コイ・ハマチ)のαーグロビン遺伝子の5'上流領域に-100領域、CCAATボックス、TATAボックスが存在した。キャップサイトはコイの場合開始コドンATGより上流48番目に、ハマチの場合46番目に認められた。5'フランキング領域および5'非翻訳領域の塩基配列はコイおよびハマチ間においてほとんど差が認められなかった。2.ハマチのαーグロビン遺伝子の5'上流領域とクロラムフェニコ-ル不活化酵素(CAT)産生遺伝子の組換え体は3種類の異なった魚類培養細胞においてCAT産生遺伝子が翻訳され、CATの産生が認められたことより、5'上流領域にプロモ-タ-領域が存在することが確認出来た。3.ウイルス山来SV40の初期遺伝子のプロモ-タ-は魚類培養細胞内で機能することが確認された。そのプロモ-タ-活性は魚類培養細胞とほぼ細胞とほぼ同様であった。4.コイaーグロビン(CαG)遺伝子を1mM還元型グルタチオンで処理した二ジマス受精卵の細胞質にマイクロインジェクション法により導入を行ったところ、約65%が孵化し、ほぼ正常に発生した。5.導入した遺伝子は魚体内において複製していることが確認出来た。その遺伝子導入雄魚より採精し、完熟卵に媒精し、孵化した仔魚よりCαG遺伝子の存在が確認できた。この事実は雄親魚の体内にCαG遺伝子をもつ細胞がモザイク状に分布し、子孫に導入遺伝子が継代することが明らかとなった。本研究は魚類の染色体の発現シグナルにかかわる遺伝子の構造と機能の解明を行う。さらに、魚類の培養細胞あるいは卵への遺伝子導入法の確立を目的とする。平成元年度の研究実績は以下の通りである。1.魚類(コイ・ハマチ)のαーグロビン遺伝子の発現領域はー100領域、CCAATボックス、TATAボックスは5'ーフランキング領域に認められた。キャップサイトはコイの場合開始コドンATGより上流48塩基目に、ハマチの場合46番目に認められた。5'ーフランキング領域および5'ー非翻訳領域の塩基配列はコイとハマチ間においてほとんど差は認められなかった。2.クロラムフェニコ-ル耐性遺伝子(CAT)をコ-ドするpSRrーCAT196およびpSUーCATを魚類培養細胞GF、TUおよびCHHー1にリン酸カルシウム法にて導入を行った。クロラムフェニコ-ル・アセチルトランスフェ-ラ-ゼ(CATase)の産生が認められた。3.魚類のグロビン遺伝子の5'ーフランキング領域および5'ー非翻訳領域とCAT遺伝子とのリコンビナントプラスミドを作製し、魚類培養細胞への導入を試みたところ、CATaseの産生が認められた。4.コイのαーグロビン遺伝子2.2KbのDNA断片を1mM還元型グルタッチオンで付活した受精卵の細胞質にマイクロインジェクションを行った。導入卵の約65%が孵化し、ほぼ正常に発生した。サザン・ブロット・ハイブリダイゼ-ションを行ったところ、導入遺伝子(コイのαーグロビン遺伝子)の複数が確認された。現在、CAT遺伝子を魚類細胞内導入実験においてはプロモ-タ-の違いによるCATaseの発現量の差をニジマス受精卵への遺伝子導入実験においてはコイのαーグロビン遺伝子が発現しているかどうかを確認中である。本研究は魚類の染色体の発現シグナルにかかわる遺伝子の構造と機能の解明を行う。さらに、魚類培養細胞あるいは卵へ遺伝子を導入する方法の確立を目的とする。 | KAKENHI-PROJECT-01480080 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01480080 |
魚類における外来遺伝子の導入と発現に関する研究 | 平成2年度の研究実績は以下の通りである。1.ハマチのaーグロビン遺伝子の5'ー上流領域とクロラムフェニコ-ル不活化酵素(CAT)産生遺伝子の組換え体は3種類の異なった魚類培養細胞においてCAT産生遺伝子が翻訳され、CATの産生が認められた。ハマチのaーグロビン遺伝子の5'ー上流領域にプロモ-タ-領域が存在し、遺伝子の転写の調節活性を有することっが示唆された。2.CAT遺伝子は4種類の魚類培養細胞のいずれでも発現し、そのうちGF細胞においてもっとも強く発現した。3.ウイルス由来SV40の初期遺伝子のプロモ-タ-は魚類培養細胞内で機能することが確認された。そのプロモ-タ-活性は4種類の魚類培養細胞とほぼ同様であった。4.既に前年度おいてコイaーグロビン(CaG)遺伝子をニジマス卵に導入し、導入遺伝子が複製していることを明らかにしたが、その遺伝子導入雄魚より採精し、完熟卵に媒精し、仔魚よりCaG遺伝子の存在が確認できた。この事実は雄親魚の体内にCaGをもつ細胞がモザイク状に分布し、子孫に導入遺伝子が継代することが示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-01480080 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01480080 |
バイオマス由来カルボン酸の選択的水素化触媒の開発 | コハク酸(SUC)やアジピン酸(ADI)などのジカルボン酸の水素化反応は,高分子の原料となるジオールが得られるため有用な反応である.SUCの水素化ではラクトンを経由し,ADIの水素化ではヒドロキシカルボン酸を経由して(Scheme 1(B))ジオールが生成される.これまでの研究より,高級脂肪酸の水素化反応用触媒としてin-situ液相還元(1,4-ジオキサンとジカルボン酸の溶液中で還元)Re-Pd/SiO2触媒(Re=14 wt%, Pd=1 wt%, Re/Pd=8; Catalysis Science & Technology, 2 (2012) 2221-2223,ACS Catal., 182 (2016) 193-203)が高選択的・高活性であることを見出した.よって,本研究ではこのRe-Pd/SiO2触媒を基にジカルボン酸の水素化反応においてジオールを高収率で得る触媒開発とその触媒の構造解析を目的とした.結果として,これまで課題だったRe-Pd/SiO2触媒を用いたジカルボン酸の水素化反応について,Re種の還元状態をコントロールすることにより高活性を示すことを見出した.また,ジカルボン酸の水素化反応における反応速度論,主な活性種,触媒構造などを明らかにすることで,Re-Pd/SiO2触媒の反応機構も提案し,現在学術論文を執筆中である.また,国内・国際学会にも積極的に参加し,これらの研究については,申請者が全て実験を行っており,1回の口頭発表(国内1)と1回のポスター発表(国際1)を行っている.また,現在論文を執筆中である.27年度が最終年度であるため、記入しない。27年度が最終年度であるため、記入しない。これまでの研究にて,バイオマス由来カルボン酸の一種であるステアリン酸の水素化反応においてReOx-Pd/SiO2触媒が特に有効であり,温和な条件下で高活性か高アルコール選択的であることを報告している(Catalysis Science & Technology, 2 (2012) 2221-2223).今回,この触媒の構造解析と反応機構の解明,そして課題である触媒安定性の改善を目的とした.結果として,触媒上のRe種の一部が23 nmの高分散したメタル状態であり,このメタルが活性に寄与していることが示唆された.また,この結果を踏まえて,再利用試験を行った.それまで,空気中処理による触媒の再利用試験を行っており,この方法では活性が最初の半分程度まで減少してしまっていた.この再利用後触媒のXRDを行うと,活性に寄与するReメタル種が大きく減少しており,これが活性低下の原因であると考えられる.そこで,Reメタルが酸化されないように再利用操作を窒素雰囲気下で行った.その結果,活性低下を起こすことなく再利用が可能となった.これらの研究結果について,現在論文を執筆中である.その他にも,バイオマス由来カルボン酸の一種である乳酸の水素化用触媒として有能なRu-MoOx/SiO2やアミノ酸の水素化反応に有効な触媒であるRh-MoOx/SiO2について,反応特性や触媒のキャラクタリゼーションを行った.これらの研究については3報学位論文を発表している.また,国内学会や国際学会に積極的に参加し,口頭発表3回,ポスター発表1回を行っている.コハク酸(SUC)やアジピン酸(ADI)などのジカルボン酸の水素化反応は,高分子の原料となるジオールが得られるため有用な反応である.SUCの水素化ではラクトンを経由し,ADIの水素化ではヒドロキシカルボン酸を経由して(Scheme 1(B))ジオールが生成される.これまでの研究より,高級脂肪酸の水素化反応用触媒としてin-situ液相還元(1,4-ジオキサンとジカルボン酸の溶液中で還元)Re-Pd/SiO2触媒(Re=14 wt%, Pd=1 wt%, Re/Pd=8; Catalysis Science & Technology, 2 (2012) 2221-2223,ACS Catal., 182 (2016) 193-203)が高選択的・高活性であることを見出した.よって,本研究ではこのRe-Pd/SiO2触媒を基にジカルボン酸の水素化反応においてジオールを高収率で得る触媒開発とその触媒の構造解析を目的とした.結果として,これまで課題だったRe-Pd/SiO2触媒を用いたジカルボン酸の水素化反応について,Re種の還元状態をコントロールすることにより高活性を示すことを見出した.また,ジカルボン酸の水素化反応における反応速度論,主な活性種,触媒構造などを明らかにすることで,Re-Pd/SiO2触媒の反応機構も提案し,現在学術論文を執筆中である.また,国内・国際学会にも積極的に参加し,これらの研究については,申請者が全て実験を行っており,1回の口頭発表(国内1)と1回のポスター発表(国際1)を行っている.また,現在論文を執筆中である.これまで課題であった触媒構造の解明や触媒の再利用に成功した.これらの結果を国際学会および国内学会にて発表しており,また学術論文を現在執筆中であるため,研究は順調に進展していると考えます.27年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-14J03554 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14J03554 |
バイオマス由来カルボン酸の選択的水素化触媒の開発 | 基質を変え,バイオマス由来カルボン酸の一種であるコハク酸から1,4-ブタンジオールへの水素化反応を高収率で行う触媒を開発する.コハク酸はカルボキシル基を二つ持つジカルボン酸であるため,触媒や反応条件の見直しが必要である.具体的には,添加金属の変更や水素解離能力の高いCo,Niなどの第三金属の添加,担体として活性炭などの高表面積担体を用いた活性点の分散化,触媒還元方法の変更などが考えられる.また,最適化された触媒については種々のキャラクタリゼーションを行い,触媒構造と反応機構を明らかにする.27年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-14J03554 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14J03554 |
慢性腎臓病における血管・弁膜石灰化分子病態ネットワークの解明と治療標的分子探索 | 慢性腎臓病において、血管石灰化を生じることが様々な合併症に関与することが知られている。そこで、動物実験を通してこの機序を解明するために、慢性腎臓病の状態を再現したマウスで血管石灰化を生じるモデルを作成した。この時、大動脈の平滑筋細胞が本来の性質を失い、骨を形作る骨芽細胞様細胞への形質変換を生じていることが分子レベルで示され、多くの炎症を起こす疾患で重要な役割を果たすNFκBという蛋白が血管特異的に働かなくなるようにしたマウスでは、血管石灰化が改善することを明らかとした。以上の結果は、NFκB抑制薬が慢性腎臓病で見られる血管石灰化抑制薬として有用である可能性を示唆する極めて重要な知見と言える。慢性腎臓病の進展とともに動脈石灰化病変の形成・進行が認められる。石灰化病変は心血管病の基盤となる病態であり、慢性腎臓病患者の予後を左右する最も重要な因子の一つである。本研究では、慢性腎臓病における血管石灰化の分子機構の解明と治療標的分子の同定を目標として、培養細胞およびモデル動物を用いて検討を行っている。まず、モデル動物を用いた検討では、慢性腎臓病における動脈石灰化モデルマウスの確立を行った。当初5/6腎摘マウスを用いたが、このモデルでは腎不全の重症度にばらつきが比較的多く認められたため、薬剤を用いた腎不全モデルに変更して確立を試みた。腎不全病態を作製して高リン食を与えたところ、大動脈・頚動脈・腎動脈など、様々なサイズの動脈中膜に著明な石灰化が認められた。この石灰化は、リン吸着薬の投与によって軽減することから、慢性腎臓病に伴う石灰化には、高リン血症が石灰化誘導因子として強く働いていることが改めて確認された。また、血管平滑筋特異的に転写因子のNF-kB活性を抑制したマウスを作製して、そのマウスに腎不全病態を誘導したところ、動脈石灰化に減弱が認められた。この知見は平滑筋局所での炎症が血管石灰化に影響していることを示しており、平滑筋のNF-kBが治療標的分子となることを示している。結果の一部は第60回日本透析医学会学術集会で発表した。現在、培養血管平滑筋細胞を用いて、その分子機構の解明に取り組んでいる。当初の目的としている、慢性腎臓病における血管石灰化の進展機序解明において、血管平滑筋が病変の場であり、その変化にNFkBが重要な役割を果たすことを明らかとすることができた。現在もマウスモデルでは引き続き検討を行っているが、ほぼ計画に沿って進行している。慢性腎臓病では心血管イベントの発症率が有意に高いことが知られている。両者の関係は「心腎連関」という言葉で表現されるが、とくに慢性腎臓病においては血管石灰化病変の形成・進行が、心血管イベントの発生に大きく関与しており、血管石灰化病変を克服することが患者の生命予後を改善するものと期待されている。本研究では、慢性腎臓病における血管石灰化および弁膜石灰化の分子機構の解明と治療標的分子の同定を目標として、培養細胞、遺伝子操作動物、慢性腎臓病モデル動物を用いて検討を行っている。昨年度の本研究では、遺伝子操作動物において慢性腎臓病における血管・弁膜石灰化機序の解明を行うために、先ず、各種の遺伝子操作マウスのバックグラウンドを、血管石灰化を生じやすいDAB/2系に変更した。次いで、慢性腎臓病モデルを作成することにより、血管石灰化モデルマウスを新たに樹立した。その慢性腎臓病モデルマウスを用いた検討では、マウスに対して高リン血症治療薬を投与すると血管石灰化が減弱することが示され、臨床例の慢性腎臓病で認められる高リン血症は血管石灰化の強力な促進因子であることが確認された。さらに、本年度は、この血管石灰化発症慢性腎臓病モデルマウスでは高サイトカイン血症を呈しており、サイトカインの阻害薬を投与することによっても、血管石灰化の形成を抑制できることが判明した。また、培養血管平滑筋細胞を用いた検討によって、高リン血症や高サイトカイン血症が血管石灰化を形成・進行させるメカニズムには、NF-kBを中心とする転写調節因子群が関与することが明らかとなった。現在さらに詳細なメカニズムの解明に取り組んでいる。本研究の目的である、慢性腎臓病における血管石灰化発症機序の解明のために、計画にしたがい、先ずそのモデル動物作成を行った。さらに,昨年度はこの血管石灰化機序に、血管平滑筋のNFkBが重要な役割を果たすことを明らかとした。本年度も計画に沿い、さらに血管石灰化機序をin vitro、in vivoで検討し、NFkBの下流にあるサイトカイン産生亢進の役割を明らかとした。弁膜の石灰化機序に対する検討がやや遅れているが、概ね予定通りである。慢性腎臓病では心血管イベントの発症率が有意に高いことが知られている。両者の関係は「心腎連関」という言葉で表現されるが、とくに慢性腎臓病においては血管石灰化病変および心臓弁膜石灰化病変の形成・進行が、心血管イベントの発生に大きく関与しており、それらの心血管病変を克服することが患者の生命予後を改善するものと期待されている。本研究では、慢性腎臓病における血管石灰化の分子機構の解明と治療標的分子の同定を目標として、培養細胞およびモデル動物を用いて検討を行った。本研究では、まず慢性腎臓病における血管石灰化モデルマウスを新たに樹立した。 | KAKENHI-PROJECT-15K09271 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K09271 |
慢性腎臓病における血管・弁膜石灰化分子病態ネットワークの解明と治療標的分子探索 | これまで、慢性腎臓病のマウスに石灰化病変を引き起こすことは、非常に難しいと考えられてきたが、今回はDBA/2系統のマウスを用いて、それらに慢性腎臓病を引き起こすと、高リン食投与時に著明な血管石灰化が形成されることが明らかとなった。この血管石灰化は、高リン血症治療薬を投与すると減弱することから、慢性腎臓病で認められる高リン血症は血管石灰化の強力な促進因子であることが確認された。さらに、この慢性腎臓病マウスでは高サイトカイン血症を呈しており、サイトカインの阻害薬を投与することによっても、血管石灰化の形成を抑制できることが判明した。さらに、サイトカインのシグナル伝達物質であるNF-kBを血管平滑筋内において選択的に抑制した場合も血管石灰化が抑制されることから、血管平滑筋局所での慢性炎症が石灰化に関与することが明らかとなった。高リン刺激とサイトカイン刺激の血管石灰化への相互作用は、培養血管平滑筋細胞を用いた検討によっても確認された。今後、血管平滑筋細胞内でのNF-kBシグナルを治療ターゲットとした創薬が血管石灰化の新たな治療標的となる可能性が示された。慢性腎臓病において、血管石灰化を生じることが様々な合併症に関与することが知られている。そこで、動物実験を通してこの機序を解明するために、慢性腎臓病の状態を再現したマウスで血管石灰化を生じるモデルを作成した。この時、大動脈の平滑筋細胞が本来の性質を失い、骨を形作る骨芽細胞様細胞への形質変換を生じていることが分子レベルで示され、多くの炎症を起こす疾患で重要な役割を果たすNFκBという蛋白が血管特異的に働かなくなるようにしたマウスでは、血管石灰化が改善することを明らかとした。以上の結果は、NFκB抑制薬が慢性腎臓病で見られる血管石灰化抑制薬として有用である可能性を示唆する極めて重要な知見と言える。初年度に引き続き、血管石灰化進展機序を、NFkBの役割を中心として、in vivo、培養細胞を用い、遺伝子操作動物を用いて検討していく。さらに、当初の予定通り、2年目においては、弁膜石灰化機序の解明に着手し、心筋線維芽細胞を標的とした研究を行っていく。現時点では研究計画の変更は想定していない。当初の予定通り、血管石灰化を生じる遺伝子操作モデルマウス作成に成功し、その石灰化の場として血管平滑筋が重要であることを示した。今後の研究も、計画にしたがい、NFkBの下流にある石灰化促進因子の同定を行うと共に、石灰化を抑制しうる因子、薬剤の検討を行っていく。また、弁膜石灰化についての研究に若干の遅れを生じているが、これも当初の研究計画にしたがい、病変の場を明らかとするとともに、その発症促進因子を同定していく。腎臓病学 | KAKENHI-PROJECT-15K09271 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K09271 |
Cr系超伝導体の新奇超伝導状態の解明と探索 | CrAsの圧力誘起超伝導の発見を受け,CrAs及び類似ジグザグ構造物質の電子状態の解明,また新奇のCr,Mn系超伝導体の探索を行った。CrAsの圧力下NMR測定から低温に向けてのスピン磁化率が増大,つまりCrAsが強磁性に近い相関を持つことを明らかにした。また,線形磁気抵抗という特異的な振舞を明らかにした。類似構造物質RuAsに対しては単結晶試料の作製に成功し,絶縁体相の結晶構造を明らかにした。新奇の超伝導体探索として複数の物質の試料作製,及び置換効果、圧力効果を調べた。Cr2GaN,HfMnGa2,CrNiAs,Mn3Pに対しては磁気秩序相の抑制に成功したものの,超伝導は出現しなかった。圧力誘起超伝導体CrAsのAs-NQR(核四重経共鳴)測定を行い、約0.7 GPaの圧力下に存在する磁性ー非磁性転移の境界において臨界的挙動が観測されないことを明らかにした。これは磁性ー非磁性転移が強い1次相転移であることを示しており、従来の量子臨界点において期待される振舞いとは異なる。よって、CrAsの温度ー圧力相図上には量子臨界点が存在していないことが明らかとなった。核磁気緩和率の振舞いから本系の磁気的な量子臨界点は1次相転移で出現する磁気秩序相に覆い隠されていると推測される。また、Knight shift測定のためにAs-NMR(核磁気共鳴)実験を開始した。現状ではa軸方向のみの測定を行っているが、低温でスピン磁化率が増大する振舞いを観測している。この振る舞いは銅酸化物や鉄系超伝導体とは大きく異なっており、CrAsの超伝導は単純な反強磁性的な磁気揺らぎを媒介としていないことが推察される。また、さらなる超伝導体の探索としてMnSn2やCrNiAsを初めとするいくつかのCr系、Mn系化合物において、圧力下における磁気秩序相の抑制を期待して、圧力下電気抵抗測定を行った。いくつかの物質では磁気秩序相が抑制される振舞いを観測したが、現在のところ、新たな超伝導は見つかっていない。また、Cr2GaNにおいては約170 Kの反強磁性転移は圧力印加と共に緩やかに増加し、圧力下における磁気秩序相の抑制は困難であったが、NをCで一部置換することによって磁気転移が抑えられることが分かった。CrAsのNQR測定はほぼ終了し、磁場中のNMR測定に移行している。NMR測定においても単結晶試料で信号の観測に成功しており、Knight shiftの測定を開始した段階である。新たな圧力誘起超伝導の探索としてすでに10程度の化合物の圧力下電気抵抗測定を行っており、こちらも順調に進んでいる。Cr系超伝導体CrAsの電子状態の解明と新たな超伝導体の探索を行った。まず、これまでのCrAsの結晶は結晶軸方向の異なるドメインを含んでいたという問題点があったが、その原因が高温における直方晶ー六方晶の構造相転移であることをつき止め、試料作製時の温度シークエンスを改良することで単一ドメインの結晶成長に成功した。新しい単結晶は圧力下の電気抵抗測定から残留抵抗比が500を超える高純度の結晶であることが分かった。また、CrAsの磁気抵抗が磁場に対して線形の異常な振る舞いを示すことを明らかにした。その線形磁気抵抗はフェルミ面の特殊な形状と強い磁気揺らぎの影響の両者を考慮することで説明できると報告した。また、CrAsは純良な結晶においても量子振動効果が観測されておらず、このことは強い磁気相関を示唆する結果と言える。CrAsの圧力下単結晶NMR測定にも着手し、圧力セルを磁場中で角度回転させることでKnight shiftの精密測定を行った。Knight shiftの結果から、常磁性領域においてスピン磁化率が低温に向けて顕著に増大することが分かった。つまり、超伝導が出現する領域において強磁性的な相関が発達していることを見出した。このことから特異な磁気揺らぎと超伝導の関連が示唆される。新たな超伝導体探索のために複数の物質の作製、圧力効果を調べた。層状反強磁性体Cr2GaNのNサイトをCに置換することで磁気秩序を消失させることに成功した。磁性が抑制される置換量付近で磁気揺らぎの増大は観測されたが、超伝導は観測されなかった。CrAsの単結晶NMRのデータが順調に出ている。単結晶試料が単一ドメインでないという問題点があったが、試料作製方法の改善により、その問題点は克服された。磁気抵抗実験などで共同研究においても順調に成果が出てきている。また、量子振動観測実験も準備が順調に進んでいる。圧力誘起超伝導体CrAsの超伝導発現機構を明らかにすることが本研究課題の課題の一つである。今年度は超伝導発現領域における電子状態について、より詳細な情報を得るためにP置換系のNMR測定を行った。CrAsのAs-NQR(核四重極共鳴)測定から超伝導発現に磁気揺らぎの寄与が示唆されていたが、As核の核スピンが3/2であることから、実験的には観測された揺らぎが磁気的か電気的か同定は出来ていなかった。事実、CrAsの磁気転移には非常に大きな磁歪が伴うため、構造の揺らぎ、電子軌道の揺らぎが誘発されている可能性もあった。Pは核スピンが1/2であり磁気揺らぎしか検知しないため、その検証が可能である。 | KAKENHI-PROJECT-15H03689 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15H03689 |
Cr系超伝導体の新奇超伝導状態の解明と探索 | 実験の結果、As核とP核での緩和の振舞が似ているため、CrAsで発達している揺らぎは磁気的であることが確かめられた。また、CrAsと同構造の関連物質RuAsの単結晶試料の作製に成功した。RuAsは金属絶縁体転移を示す物質であるが、その機構は明らかではなかった。単結晶試料を用いた構造解析の結果、低温の絶縁相での結晶構造を明らかにした。バンド計算による考察から金属相はRuAsの非共型空間群によって保護されたバンドの縮退によってフェルミ面の状態密度が大きくなっていることが分かり、これによる不安定性から金属絶縁体転移が生じていることが示唆された。このフェルミ面の特徴がCrAsの超伝導発現にも寄与している可能性が示唆される。加えて、Cr系、Mn系化合物における量子臨界点や超伝導の探索を行った。Mn3Pでは単結晶試料の作製、及び圧力による量子臨界点の誘起に成功した。CrAsの圧力誘起超伝導の発見を受け,CrAs及び類似ジグザグ構造物質の電子状態の解明,また新奇のCr,Mn系超伝導体の探索を行った。CrAsの圧力下NMR測定から低温に向けてのスピン磁化率が増大,つまりCrAsが強磁性に近い相関を持つことを明らかにした。また,線形磁気抵抗という特異的な振舞を明らかにした。類似構造物質RuAsに対しては単結晶試料の作製に成功し,絶縁体相の結晶構造を明らかにした。新奇の超伝導体探索として複数の物質の試料作製,及び置換効果、圧力効果を調べた。Cr2GaN,HfMnGa2,CrNiAs,Mn3Pに対しては磁気秩序相の抑制に成功したものの,超伝導は出現しなかった。CrAsのKnightshift測定に関しては、今後は詳細な温度変化、圧力変化、磁場方向依存性を測定する。核磁気緩和率との比較から磁気揺らぎの波数依存性や異方性を明らかにし、CrAsの超伝導発現機構について明らかにして行く。また、対象となる化合物の育成や圧力下電気抵抗測定を通して、さらなる圧力誘起超伝導を発見するために実験を推進する。CrAsの単結晶試料を用いたNMR測定を希釈冷凍機温度で行い、圧力誘起超伝導がスピン一重項なのか三重項なのかを明らかにする予定である。また、量子振動観測実験を推し進め、CrAsのフェルミ面の概要を明らかにする。また、新たな超伝導体の探索も並行して進める予定である。29年度が最終年度であるため、記入しない。低温物性物理29年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-15H03689 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15H03689 |
人口移動現象を表すエージェント・ベースド・モデルの計算機シミュレーション | 研究計画に沿って研究を行い下記のような成果を得ることができた.研究発表の1番目の論文では,モデルに年齢構造のポピュレーションダイナミクスを導入し,時間変数について離散化したモデルを構築し,それに対して日本赤十字社の輸血部門によって得られたHTLV-Iの統計データとの有意の一致を確認できた.これによりHTLV-Iの母子感染予防の為の公衆衛生上の政策立案に強力な数値計算ツールを提供することができた.研究発表の2番目の論文では,効用がエージェント密度の線形関数である場合と上に凸な2次関数である場合に,それぞれの移動現象を記述するABMを構築した.これらのモデルは,人口移動を表すマスター方程式にマイクロ・ファウンデーション(ミクロ的な理論的基礎)を与えるABMであると考えることができる.SLの計算方法を適用して,時間変数とエージェントの総数が無限大になった場合に,モデルがどのような漸近挙動をするのかを調べ,それぞれが定常状態に確率密度収束することを証明した.研究発表の3番目の論文においては,人口移動理論に現れるマスター方程式の解を,研究代表者の工夫による有限クラマース-モイヤル展開することにより,人口移動に必要なコストが十分に大きい場合に,フォッカー-プランク方程式の解と非常に近いことを証明した.境界条件としては周期的境界条件を仮定している.この論文によって,人口移動理論における2つの重要な理論であるWeidlich-Haagの人口移動理論とHotellingの人口移動理論の整合性を数学的に厳密に証明することがでた.研究計画に沿って研究を行い下記のような成果を得ることができた.研究発表の1番目の論文では,モデルに年齢構造のポピュレーションダイナミクスを導入し,時間変数について離散化したモデルを構築し,それに対して日本赤十字社の輸血部門によって得られたHTLV-Iの統計データとの有意の一致を確認できた.これによりHTLV-Iの母子感染予防の為の公衆衛生上の政策立案に強力な数値計算ツールを提供することができた.研究発表の2番目の論文では,効用がエージェント密度の線形関数である場合と上に凸な2次関数である場合に,それぞれの移動現象を記述するABMを構築した.これらのモデルは,人口移動を表すマスター方程式にマイクロ・ファウンデーション(ミクロ的な理論的基礎)を与えるABMであると考えることができる.SLの計算方法を適用して,時間変数とエージェントの総数が無限大になった場合に,モデルがどのような漸近挙動をするのかを調べ,それぞれが定常状態に確率密度収束することを証明した.研究発表の3番目の論文においては,人口移動理論に現れるマスター方程式の解を,研究代表者の工夫による有限クラマース-モイヤル展開することにより,人口移動に必要なコストが十分に大きい場合に,フォッカー-プランク方程式の解と非常に近いことを証明した.境界条件としては周期的境界条件を仮定している.この論文によって,人口移動理論における2つの重要な理論であるWeidlich-Haagの人口移動理論とHotellingの人口移動理論の整合性を数学的に厳密に証明することがでた.当該研究期間において2つの研究を行いました.一つは自己言及性を持つagent-based modelの研究です.自己言及性を持つモデルによって記述される社会経済現象をマクロ的に解析するには,そのモデルのスケーリング・リミットを取らないといけませんが,自己言及性の影響によってスケーリング・リミットが存在したり,しなかったりします.そこで本論文では,自己言及性を持つself-referential agent-based modelと自己言及性を持たないagent-based modelの2つを構築して,それらの違いを評価することが出来ました(比較定理).そして自己言及性を持つモデルのスケーリング・リミットが存在する為の十分条件と存在しない為の十分条件を求めました(収束定理と発散定理).スケーリング・リミットが存在しないとは,現象を記述するミクロ的な基礎を持つマクロモデルが通常の意味では存在しないことを意味します.もう一つはヒト成人T-細胞白血病ウイルス(HTLV-I)の感染モデルの研究です.HTLV-Iは母子感染が主な感染経路です.そのため,母集団に,女性の結婚,出産というライフサイクルのポピュレーション・ダイナミクスを組み込む必要があります.本論文では,に年齢構造のポピュレーションダイナミクスを導入し,時間変数について離散化したモデルを構築し,日本赤十字社の輸血部門によって得られたHTLV-Iの統計データとの有意の一致を確認できました.本論文の数値計算結果は大分医科大学においてHTLV-Iの母子感染予防の治療指針作成に利用されています.またHTLV-Iの母子感染予防の為の公衆衛生上の政策立案に強力な数値計算ツールを提供することができ(母子感染率の変化が実際の感染者数の低減にどの程度効果があるかをかなり正確に予想することができ,公衆衛生政策の費用対効果を計算することができます),本研究で得られた結果の内容や社会的意義が,2003年6月29日の読売新聞朝刊(全国版)の社会欄で紹介されました.本年度は下記の2つの研究成果を得た:1.効用関数がエージェント密度の線形関数である場合と,上に凸な2次関数である場合それぞれについて,人口移動現象を記述するエージェント・ベースド・モデルを構築した.これらのモデルは,人口移動を表すマスター方程式にマイクロ・ファウンデーションを与えることができる.またそれらのモデルに平成15年度に開発したスケーリングリミットの計算方法を適用し,時間変数とエージェントの総数が無限大になった場合に,モデルがどのように漸近挙動するのかを調べ,これらのモデルが定常状態に確率密度収束することを証明した. | KAKENHI-PROJECT-15560053 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15560053 |
人口移動現象を表すエージェント・ベースド・モデルの計算機シミュレーション | これにより平成16年度の研究計画のエージェント・ベースド・モデルの構築に関係する部分を達成することができた.2.統計力学においては、クラマース-モイヤル展開を用いることにより,非線形偏微分積分方程式であるマスター方程式から非線形放物型偏微分方程式であるフォッカー-プランク方程式を導き出すことができる.しかしクラマース-モイヤル展開の収束の数学的に厳密な証明は高次項の評価が困難で,数学的にはほとんど結果が得られていなかった.そこで新たに有限クラマース-モイヤル展開を用いることにより,人口移動に必要なコストが十分に大きい場合に,人口移動理論に現れるマスター方程式の解が,フォッカー-プランク方程式の解と非常に近いことを証明した.この論文によって,人口移動理論における2つの重要な理論であるWeidlich-Haagの人口移動理論とHotellingの人口移動理論の整合性を数学的に厳密に証明することができた.これにより平成16年度の研究計画のマスター方程式に関係する部分を達成することができた.平成15年度はエージェント・ベースド・モデルの熱力学的極限としてマスター方程式を表現して,元のエージェント・ベースド・モデルとマスター方程式の統計力学的関係を明らかにした.平成16年度は周期的境界条件の下で,マスター方程式とフォッカー-プランク方程式の解の関係を,2次の有限クラマース-モイヤル展開を用いて高階の剰余項を評価することにより,明らかにした.平成17年度は平成16年度までのこれらの研究結果とマスター方程式の基本定理を組み合わせて,混合問題の解の正則性の評価と漸近評価を行った.そしてその結果を用いて3次の有限クラマース-モイヤル展開を導いた.この展開結果を利用してエージェント・ベースド・モデルから導出されるマスター方程式によって記述される地理的な人口移動現象とフォッカー-プランク方程式によって記述される生物粒子の拡散輸送現象の比較を行った.平成15年度と平成16年度の研究では,周期的境界条件が置かれていた.しかし平成17年度の研究ではそのような仮定を置かない一般的な境界条件のもと,十分に滑らかな境界を持つ一般的な連結領域でマスター方程式の解とフォッカー-プランク方程式の解の幾何学的相似性を証明した.証明では3次の有限クラマース-モイヤル展開を用いる.この展開によって剰余項の評価をより精密にすることができた.証明した幾何学的相似性は「生物学的粒子の拡散と人口移動の違いは単にそれらの間の空間的スケールの違いである」ことを示している. | KAKENHI-PROJECT-15560053 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15560053 |
アダルトビデオにおける性差別と人権侵害の実態及び法的救済策の比較法研究 | アダルトビデオなどのポルノグラフィ被害の実態把握という課題については、「ポルノに関連した被害に関するアンケート調査」を全国の婦人相談員、女性弁護士(一部男性含む)、フェミニスト・カウンセラー約2500人を対象に行ない、311の回答を得た。回答結果を集計・分析した結果、ポルノに関連した被害の相談を受けたことがあったのは167人で、総計267件の被害件数に上った。被害内容は「強制視聴」80件、「模倣行為の強要」73件、「強制だましによる出演」9件など、私たちが想定したあらゆる被害が報告された。婦人相談員を対象にしたこともあり、ドメスティック・バイオレンスの一形態としてポルノグラフィに関連した被害が非常に多発している実態を把握できた。ドメスティック・バイオレンスとしてのポルノグラフィ被害の被害者は、女性(妻)だけでなく、幼い(4歳や8歳)の女児が父親にポルノグラフィに影響を受けた強制わいせつ、ポルノグラフィの強制視聴の被害を受けていた。ある弁護士の回答には、「あらゆる性犯罪の裏にはポルノグラフィがあると思われる」という現状認識があった。法的救済策の比較法研究であるが、アメリカで起草された、従来の刑法わいせつ物規制とはまったく異なる新しい法的アプローチ、反ポルノグラフィ公民権条例について、その全体構造・ねらい・社会的歴史的背景・政治的インパクトなど多面的に分析できた。またカナダ、オーストラリアでも政府がポルノグラフィ被害について調査し認識しているが、イギリス同様ポルノグラフィの蔓延とその被害救済には無力なわいせつ物規制法しか有しない実態も明らかになった。アダルトビデオなどのポルノグラフィ被害の実態把握という課題については、「ポルノに関連した被害に関するアンケート調査」を全国の婦人相談員、女性弁護士(一部男性含む)、フェミニスト・カウンセラー約2500人を対象に行ない、311の回答を得た。回答結果を集計・分析した結果、ポルノに関連した被害の相談を受けたことがあったのは167人で、総計267件の被害件数に上った。被害内容は「強制視聴」80件、「模倣行為の強要」73件、「強制だましによる出演」9件など、私たちが想定したあらゆる被害が報告された。婦人相談員を対象にしたこともあり、ドメスティック・バイオレンスの一形態としてポルノグラフィに関連した被害が非常に多発している実態を把握できた。ドメスティック・バイオレンスとしてのポルノグラフィ被害の被害者は、女性(妻)だけでなく、幼い(4歳や8歳)の女児が父親にポルノグラフィに影響を受けた強制わいせつ、ポルノグラフィの強制視聴の被害を受けていた。ある弁護士の回答には、「あらゆる性犯罪の裏にはポルノグラフィがあると思われる」という現状認識があった。法的救済策の比較法研究であるが、アメリカで起草された、従来の刑法わいせつ物規制とはまったく異なる新しい法的アプローチ、反ポルノグラフィ公民権条例について、その全体構造・ねらい・社会的歴史的背景・政治的インパクトなど多面的に分析できた。またカナダ、オーストラリアでも政府がポルノグラフィ被害について調査し認識しているが、イギリス同様ポルノグラフィの蔓延とその被害救済には無力なわいせつ物規制法しか有しない実態も明らかになった。今年度行なった研究によって、アメリカの州や市などの自治体で1983年以降制定が目指された「反ポルノグラフィ公民権条例」の意義が具体的に明らかになった。それは、1970年代からの性暴力に対抗する草の根のフェミニズム運動を継承しており、ポルノグラフィに対する「公民権アプローチ」を提唱してポルノグラフィの法規制に反対するという70年代の運動の限界を突破するものであった。また「反ポルノグラフィ公民権条例」は、ポルノグラフィによって生じた被害を救済する民事法であり、その特徴を正確に紹介することによって従来の日本の研究者の数々の誤解を明確にすることができた。日本におけるポルノグラフィ被害の実態把握という課題については、「ポルノグラフィ被害に関するアンケート」を実施するべく準備を進めた。アンケートは2種類あり、1つはポルノグラフィに関連する被害の相談を職業上受ける可能性のある弁護士と婦人相談員を対象にするものであり、もう1つは不特定多数の女性個人を対象にするものであり、各8頁と7頁の冊子形式のものとなった。アンケート用紙や返信用封筒等印刷も完了し配布する直前に、女性個人を対象にしたアンケートに関する不備を性暴力被害のカウンセラーの方から指摘され、アンケートをひとまず中止した。主たる不備は、アンケートに答えたポルノ被害サバイバーから被害相談を受けた場合に研究グループにサポート体制が整っていないという点であった。また弁護士・婦人相談員アンケートについても現職の婦人相談員から内容の改善提案が出され、今年度中のアンケートの実施を見送ることにした。弁護士・婦人相談員向けは改善後直ちに実施し、女性個人向けは内容を抜本的に見直して実施を検討する。14年5月から7月にかけて、「ポルノグラフィ被害に関するアンケート」を、約2,300名の全国婦人相談員、女性弁護士、フェミニストカウンセラーを対象に行なった。そして311名からアンケート用紙を回収できた。被害の相談を受けたことがあるという回答は、167名であった。その結果、アンケートが想定したすべての種類について被害が生じている実態がわかった。その詳しい分析結果は、報告書というかたちで公刊を準備しているが、とりわけ、ポルノグラフィの被害が、ドメスティック・バイオレンスと深く結びついていることがわかった。また、アメリカに続き、カナダにおけるポルノグラフィの法規制について情報収集に努めた。 | KAKENHI-PROJECT-13837001 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13837001 |
アダルトビデオにおける性差別と人権侵害の実態及び法的救済策の比較法研究 | その結果、アメリカで発展した、ポルノグラフィ被害者の救済という被害アプローチがカナダの最高裁で継承され(Butler判決)、発展させられている(Little Sisters判決)ことが明らかになった。カナダでは、ポルノグラフィが「わいせつ」ではなく、女性に対する暴力として定義されていることに特徴がある。なお、研究代表者が、14年8月から1年間アメリカ・イギリスに在外研究に出たため、イギリスについての情報収集を引き続き行なうことにした。なお、本研究結果をもとに、本研究代表者も執筆者の1人なり、『キャサリン・マッキノンと語るポルノグラフィと売買春』(不磨書房)を公刊した。 | KAKENHI-PROJECT-13837001 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13837001 |
圧電薄膜アクチュエータの高安定・高信頼性センシングと高精度制御 | 圧電薄膜マイクロアクチュエータは,位置決め精度とその安定性,および信頼性に課題を有する。その主たる理由は,高電界で大きく駆動させる状況で,既存の多結晶圧電薄膜に特性変化が生じることにあると考えられる。本研究の目的は,その課題に学術的メスを入れ,解決法を示すことにある。高精度・高安定の歪計測が可能であれば,高速デジタル制御によって上述の課題を解決できる。これを実績のあるSi歪ゲージを用いて実現するため,PZT系圧電薄膜とのコンパチビリティ,ドリフト,スケールファクタ安定性などに関する学術的研究を行う。並行して,圧電センシングの不安定性が多結晶性にあると仮定し,研究代表者らが開発したSi基板上のc軸配向単結晶PZT系薄膜による歪計測について,安定性と信頼性に焦点を当てて研究する。平成30年度には,Siピエゾ抵抗を形成した基板にPZT系圧電材料を成膜し,両者のコンパチビリティについて調べた。その結果から,SIMSを用いてSiピエゾ抵抗中の不純物濃度を測定し,PZT成膜によってSiピエゾ抵抗が影響を受けることが示唆された。アクチュエータを試作するには,この現象を分析的に明らかにし,必要な対策をする必要がある。また,マイクロミラーデバイスを想定したテストデバイスを設計し,フォトマスクを作製した。今後,テストデバイスを作製し,評価を行う。さらに,単結晶PZT系薄膜を2種類のバッファ層上に形成し,電流リークの問題を明らかにした。電流リークはバッファ層によることがわかっているが,その原因は調査中である。今後,引き続き電流リークの原因を明らかにする実験を進め,この問題を解決して,安定的に薄膜が得られる条件を探索する。本研究の中心課題は,長期的に特性の不安定性があるPZT系薄膜を用いたアクチュエータを,安定性の高いSi歪ゲージを用いてフィードバック制御するために,そのPZT系圧電薄膜とのコンパチビリティ,ドリフト,スケールファクタ安定性などに関する学術的研究を行うことにある。この課題に対して,実際にSi歪ゲージの作製,その上へのPZTのゾルゲル成膜を行い,SIMSを用いて鉛の拡散などを調査し,問題の把握を行った。実際に鉛の拡散が確認されたが,これは,Si歪ゲージとPZT系圧電薄膜とのコンパチビリティ問題について重要な知見である。この結果に基づき,鉛の拡散を防ぐ構造を検討するためのテストサンプルの設計を行い,今後,その作製,評価と進めていくことができる。Si歪ゲージとPZT系圧電薄膜とのコンパチビリティ問題を評価するためのテストデバイスを作製し,その評価を行う。これについて,MEMS技術の著名な研究者である台湾・国立精華大学のWeileun Fang教授と共同研究を行う。Si基板上のc軸配向単結晶PZT系薄膜については,信頼性と安定性を向上するための成膜技術を研究する。これについては,その一部を企業と共同で研究する。圧電薄膜マイクロアクチュエータは,位置決め精度とその安定性,および信頼性に課題を有する。その主たる理由は,高電界で大きく駆動させる状況で,既存の多結晶圧電薄膜に特性変化が生じることにあると考えられる。本研究の目的は,その課題に学術的メスを入れ,解決法を示すことにある。高精度・高安定の歪計測が可能であれば,高速デジタル制御によって上述の課題を解決できる。これを実績のあるSi歪ゲージを用いて実現するため,PZT系圧電薄膜とのコンパチビリティ,ドリフト,スケールファクタ安定性などに関する学術的研究を行う。並行して,圧電センシングの不安定性が多結晶性にあると仮定し,研究代表者らが開発したSi基板上のc軸配向単結晶PZT系薄膜による歪計測について,安定性と信頼性に焦点を当てて研究する。平成30年度には,Siピエゾ抵抗を形成した基板にPZT系圧電材料を成膜し,両者のコンパチビリティについて調べた。その結果から,SIMSを用いてSiピエゾ抵抗中の不純物濃度を測定し,PZT成膜によってSiピエゾ抵抗が影響を受けることが示唆された。アクチュエータを試作するには,この現象を分析的に明らかにし,必要な対策をする必要がある。また,マイクロミラーデバイスを想定したテストデバイスを設計し,フォトマスクを作製した。今後,テストデバイスを作製し,評価を行う。さらに,単結晶PZT系薄膜を2種類のバッファ層上に形成し,電流リークの問題を明らかにした。電流リークはバッファ層によることがわかっているが,その原因は調査中である。今後,引き続き電流リークの原因を明らかにする実験を進め,この問題を解決して,安定的に薄膜が得られる条件を探索する。本研究の中心課題は,長期的に特性の不安定性があるPZT系薄膜を用いたアクチュエータを,安定性の高いSi歪ゲージを用いてフィードバック制御するために,そのPZT系圧電薄膜とのコンパチビリティ,ドリフト,スケールファクタ安定性などに関する学術的研究を行うことにある。この課題に対して,実際にSi歪ゲージの作製,その上へのPZTのゾルゲル成膜を行い,SIMSを用いて鉛の拡散などを調査し,問題の把握を行った。実際に鉛の拡散が確認されたが,これは,Si歪ゲージとPZT系圧電薄膜とのコンパチビリティ問題について重要な知見である。この結果に基づき,鉛の拡散を防ぐ構造を検討するためのテストサンプルの設計を行い,今後,その作製,評価と進めていくことができる。 | KAKENHI-PROJECT-18H01390 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18H01390 |
圧電薄膜アクチュエータの高安定・高信頼性センシングと高精度制御 | Si歪ゲージとPZT系圧電薄膜とのコンパチビリティ問題を評価するためのテストデバイスを作製し,その評価を行う。これについて,MEMS技術の著名な研究者である台湾・国立精華大学のWeileun Fang教授と共同研究を行う。Si基板上のc軸配向単結晶PZT系薄膜については,信頼性と安定性を向上するための成膜技術を研究する。これについては,その一部を企業と共同で研究する。 | KAKENHI-PROJECT-18H01390 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18H01390 |
立坑内の岩石塊の挙動に関する研究 | 急峻な山地に発達するわが国の石灰石鉱山では、山頂付近や山腹から深さ数100mもの立坑を開さくして、これを中心にベンチを造成する"立坑式階段採掘法"が広く行われている。この方式はわが国で発達した方式といってよく、この方式の採用によって、わが国の石灰石鉱山は高い生産能率を得ることができた。立坑を鉱石運搬の手段とすることは大変に優れた方法であるが、時には立坑の閉塞や出坑鉱石の品位の乱れを生ずることがあり、問題となる。こうしたトラブルの原因を解明し、その対策を立てるために、立坑内で岩石塊がどのような挙動をするのかを研究することが本研究の目的であるが、2年間の研究である程度の目的を達成することができたと考えられる。研究は模型実験と現地の調査を組合せて行われ、さらに、観測の結果の整理とそれに基づく解析が行われた。その成果は、すでにいくつかの発表となったが、まとめると以下のようになる。1.立坑における岩石塊の挙動がかなりの程度まで定量的に把握でき、とくに塊と粘土質物から成る投入物の粒度と粘着性が岩石塊の挙動を支配することがわかった。2.立坑の設計に必要な諸要素がわかったので、立坑詰りを防止する方策の手がかりが得られた。3.立坑内での岩石塊のじょう乱は、坑底のシュートにおけるものと、立坑部で、立坑断面内での岩石塊の流下速度の差によって惹き起されることがわかった。4.上記のことから、立坑内での岩石塊の混合の状況が推定できるようになったので、立坑における品質の管理を行う可能性が得られた。急峻な山地に発達するわが国の石灰石鉱山では、山頂付近や山腹から深さ数100mもの立坑を開さくして、これを中心にベンチを造成する"立坑式階段採掘法"が広く行われている。この方式はわが国で発達した方式といってよく、この方式の採用によって、わが国の石灰石鉱山は高い生産能率を得ることができた。立坑を鉱石運搬の手段とすることは大変に優れた方法であるが、時には立坑の閉塞や出坑鉱石の品位の乱れを生ずることがあり、問題となる。こうしたトラブルの原因を解明し、その対策を立てるために、立坑内で岩石塊がどのような挙動をするのかを研究することが本研究の目的であるが、2年間の研究である程度の目的を達成することができたと考えられる。研究は模型実験と現地の調査を組合せて行われ、さらに、観測の結果の整理とそれに基づく解析が行われた。その成果は、すでにいくつかの発表となったが、まとめると以下のようになる。1.立坑における岩石塊の挙動がかなりの程度まで定量的に把握でき、とくに塊と粘土質物から成る投入物の粒度と粘着性が岩石塊の挙動を支配することがわかった。2.立坑の設計に必要な諸要素がわかったので、立坑詰りを防止する方策の手がかりが得られた。3.立坑内での岩石塊のじょう乱は、坑底のシュートにおけるものと、立坑部で、立坑断面内での岩石塊の流下速度の差によって惹き起されることがわかった。4.上記のことから、立坑内での岩石塊の混合の状況が推定できるようになったので、立坑における品質の管理を行う可能性が得られた。わが国の石灰石鉱山では,採掘ベンチからの鉱石の運搬に,数100mにも達する長大な立坑を使用することが多い.この方法はきわめて能率が良いが,時には立坑のつまりや投入品位の乱れを生ずることがある.こうしたトラブルの原因を解明し,その対策を立てるために,立坑内で岩石塊がどのような挙動をするのかを解明するのが本研究の目的である.本年度は上記の目的に沿って, 1)2,3の実際の立坑において,投入した鉱石(主として石灰石)と立坑底から抜き出される鉱石の関係を観測する.2)透明アクリルパイプを用いて模擬立坑を作り,これを用いて,立坑を下る岩石塊の挙動に関与する要因を検討する. 3)1)で得られる実際の立坑における状況を模擬立坑でシミュレートすることを試みる.そのために2)で得られる要因を種々に組合せた実験を行う.を行ったが,その結果,いろいろと不充分な点はあるが,立坑内における岩石塊の挙動を支配するもっとも大きな要因が, 1)立坑径に対する粒径の相対的大きさ2)粒子内のインターロッキングであることがわかった.そして,これらをさらに検討した結果,立坑詰りの原因などを解明する手掛りを得ることができた.急峻な山地に発達するわが国の石灰石鉱山では、山頂付近や山腹から深さ数100mもの立坑を開さくして、これを中心にベンチを造成する"立坑式階段採掘法"が広く行われている。この方式はわが国で発達した方式といってよく、この方法の採用によって、わが国の石灰石鉱山は高い生産能率を得ることができた。立坑を鉱石運搬の手段とすることは大変に優れた方法であるが、時には立坑の閉塞や出坑鉱石の品位の乱れを生ずることがあり、問題となる。こうしたトラブルの原因を解明し、その対策を立てるために、立坑内で岩石塊がどのような挙動をするのかを研究することが本研究の目的であるが、2年間の研究である程度の目的を達成することができたと考えられる。 | KAKENHI-PROJECT-62460183 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62460183 |
立坑内の岩石塊の挙動に関する研究 | 研究は模型実験と現地の調査を組合せて行われ、さらに、観測の結果の整理とそれに基づく解析が行われた。その成果は、すでにいくつかの発表となったが、まとめると以下のようになる。1.立坑における岩石塊の挙動がかなりの程度まで定量的に把握でき、とくに塊と粘土質物から成る投入物の粒度と粘着性が岩石塊の挙動を支配することがわかった。2.立坑の設計に必要な諸要素がわかったので、立坑詰りを防止する方策の手がかりが得られた。3.立坑内での岩石塊のじょう乱は、坑底のシュートにおけるものと、立坑部で、立坑断面内での岩石塊の流下速度の差によって惹き起こされることがわかった。4.上記のことから、立坑内での岩石塊の混合の状況が推定できるようになったので、立坑における品質の管理を行う可能性が得られた。 | KAKENHI-PROJECT-62460183 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62460183 |
3次元多様体の幾何と基本群 | 最近の3次元多様体論の成果を概観し,今後の研究方向について色々な角度から討論をおこなうため,東京工業大学で12月19日より4日間のべ150名の参加者を集め「3次元多様体論」と題した研究集会を開催した.午前中は北野晃朗(東工大)が中心になり,接触構造,カット&ペースト,写像類群に関する最近の成果についてサーベイを行った.午後は分担者と小林穀(奈良女子大)がそれぞれ座長を勤める5つの特別セッションを催した.森田茂之は,河野俊丈(東大)・深谷賢治(京大)・村上順(阪大)・N.Reshetikhin(Berkeley)の各氏の講演を集め,無限次元を経由して得られる3次元多様体の位相不変量についての研究の最近の展開を網羅した.吉田朋好は,松本幸夫(東大)・高倉樹(福岡大)・橋本義武(阪市大)の各氏の講演を集め,リーマン面の研究との係わりの重要性を強調した.神島芳宣は,D.McCullough(Oklahoma)・S.Hong(Pusan)の両氏を講演に招き,3次元多様体の写像類群に関する米国での研究の展開を紹介した.相馬輝彦は,大鹿健一氏(東工大)と共同で,不連続群論と3次元多様体論という2つの分野の相互作用の最近の展開とその魅力を,トポロジスト向けに概観した.小林穀は,作間誠(阪大)・D.Heath(奈良女子大)の両氏と共に,Heegaard分野に関する最近の興味深い成果を挙げ,古典的な手法の有用性を披露した.やや発散気味の研究集会となったが,多数の参加者を集め充実した討論ができた.今後の研究方向について答えは1つではないが,重要な問題と進むべき方向がいくつか示唆され,当初の目的は達成できたといえる.最近の3次元多様体論の成果を概観し,今後の研究方向について色々な角度から討論をおこなうため,東京工業大学で12月19日より4日間のべ150名の参加者を集め「3次元多様体論」と題した研究集会を開催した.午前中は北野晃朗(東工大)が中心になり,接触構造,カット&ペースト,写像類群に関する最近の成果についてサーベイを行った.午後は分担者と小林穀(奈良女子大)がそれぞれ座長を勤める5つの特別セッションを催した.森田茂之は,河野俊丈(東大)・深谷賢治(京大)・村上順(阪大)・N.Reshetikhin(Berkeley)の各氏の講演を集め,無限次元を経由して得られる3次元多様体の位相不変量についての研究の最近の展開を網羅した.吉田朋好は,松本幸夫(東大)・高倉樹(福岡大)・橋本義武(阪市大)の各氏の講演を集め,リーマン面の研究との係わりの重要性を強調した.神島芳宣は,D.McCullough(Oklahoma)・S.Hong(Pusan)の両氏を講演に招き,3次元多様体の写像類群に関する米国での研究の展開を紹介した.相馬輝彦は,大鹿健一氏(東工大)と共同で,不連続群論と3次元多様体論という2つの分野の相互作用の最近の展開とその魅力を,トポロジスト向けに概観した.小林穀は,作間誠(阪大)・D.Heath(奈良女子大)の両氏と共に,Heegaard分野に関する最近の興味深い成果を挙げ,古典的な手法の有用性を披露した.やや発散気味の研究集会となったが,多数の参加者を集め充実した討論ができた.今後の研究方向について答えは1つではないが,重要な問題と進むべき方向がいくつか示唆され,当初の目的は達成できたといえる. | KAKENHI-PROJECT-06302003 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06302003 |
希土類磁石を利用した超小形高周波振動研磨工具の開発と微細径円管内面研磨への応用 | 本研究は,トンネルや高速道路の照明に使用される高輝度・高圧ナトリウム発光管(99.99%以上の高純度アルミナ)などの入り口が狭くて内部が広い微細径円管内面を超精密研磨加工できる新技術の開発を目的にしている.小形希土類磁石を採用し,この磁石を核としてその回りにクッション作用と研磨作用を有する層を持つ「新しい磁性研磨工具」を製作し,微細管の外部に設置した静磁場と変動磁場により,静磁場は研磨工具に研磨圧力を,変動磁場は研磨工具に高周波振動を与えるようにした「高周波振動研磨工具とその加工システム」を開発する.小形の高周波振動研磨工具により,細管及び樽形異形管内面の高能率・高精度磁気研磨技術の実現が期待できる.研究成果は下記の通りである.1.振動研磨装置を製作し,各種の「希土類磁石工具」を用いて変動磁場における挙動を観察した結果,5mm径の球形磁石を核として,回り0.6mm厚さのWA#4000砥粒混入エポキシ樹脂接着剤からなる加工層を有する磁性工具が高周波振動研磨工具の機能をもつことを明らかにした.2.交流変動磁場振動数100Hzに磁性研磨工具は追従して微小振動しながら研磨作用することを確認し,外径10mm,内径9mmのステンレス鋼円管内面の鏡面仕上げ実験を行った結果,加工前表面粗さ14.7μmRzを0.04μmRzの鏡面に仕上げることに成功した.3.新たな高周波振動研磨工具の開発のために,薄い板ばねの先端に小形軽量の希土類磁石を接着し,円管外部に設置した電磁石の変動磁場により磁石工具を磁力加振した結果,板ばねの共振点で著しく大きな振動振幅を得ることを確認できた.このことから,共振現象を利用する新たな工具開発の手法があることを明らかにした.本研究は、トンネルや高速道路の照明に使用される高輝度・高圧ナトリウム発光管(99.99%以上の高純度アルミナ)などの入り口が狭くて内部が広い微細径円管内面を超精密研磨加工できる新技術の開発を目的にしている.小形希土類磁石を採用し,この磁石を核としてその回りにクッション作用と研磨作用を有する層を持つ「新しい磁性研磨工具」を製作し,微細管の外部に設置した静磁場と変動磁場により,静磁場は研磨工具に研磨圧力を,変動磁場は研磨工具に高周波振動を与えるようにした「高周波振動研磨工真とその加工システム」を開発する.小形の高周波振動研磨工具により,細管及び樽形異形管内面の高能率・高精度磁気研磨技術の実現が期待できる.本年度において得られた成果は下記の通りである.1まず,振動研磨加工が実験できる装置を製作した.つぎに,各種の小形「希土類磁石」を用いて変動磁場における挙動を観察した結果,5mm径の球形希土類磁石を核として,その回りWA#4000の砥粒を混入したエポキシ樹脂接着剤からなる磁性工具が高周波振動研磨工具として機能を発揮することを明らかにした.2交流変動磁場の振動数を100Hz,760巻電磁コイル2個を工作物円管軸方向に16mm離して直列に配置し,4Aの励磁電流を通電して磁性研磨工具の挙動を観察した結果,磁性研磨工具は外部磁場に追従して微小振動することを確認した.3この磁性研磨工具を用いて,外径10mm,内径9mmのステンレス鋼円管内面の鏡面仕上げ実験を行った結果,円管内面の加工前表面粗さ14.7μmRzを0.04μmRzの鏡面に仕上げることに成功した.4なお,円管内面全面にわたる鏡面仕上げを実現するには工夫が必要であるが,次年度で解決したい.本研究は,トンネルや高速道路の照明に使用される高輝度・高圧ナトリウム発光管(99.99%以上の高純度アルミナ)などの入り口が狭くて内部が広い微細径円管内面を超精密研磨加工できる新技術の開発を目的にしている.小形希土類磁石を採用し,この磁石を核としてその回りにクッション作用と研磨作用を有する層を持つ「新しい磁性研磨工具」を製作し,微細管の外部に設置した静磁場と変動磁場により,静磁場は研磨工具に研磨圧力を,変動磁場は研磨工具に高周波振動を与えるようにした「高周波振動研磨工具とその加工システム」を開発する.小形の高周波振動研磨工具により,細管及び樽形異形管内面の高能率・高精度磁気研磨技術の実現が期待できる.研究成果は下記の通りである.1.振動研磨装置を製作し,各種の「希土類磁石工具」を用いて変動磁場における挙動を観察した結果,5mm径の球形磁石を核として,回り0.6mm厚さのWA#4000砥粒混入エポキシ樹脂接着剤からなる加工層を有する磁性工具が高周波振動研磨工具の機能をもつことを明らかにした.2.交流変動磁場振動数100Hzに磁性研磨工具は追従して微小振動しながら研磨作用することを確認し,外径10mm,内径9mmのステンレス鋼円管内面の鏡面仕上げ実験を行った結果,加工前表面粗さ14.7μmRzを0.04μmRzの鏡面に仕上げることに成功した.3.新たな高周波振動研磨工具の開発のために,薄い板ばねの先端に小形軽量の希土類磁石を接着し,円管外部に設置した電磁石の変動磁場により磁石工具を磁力加振した結果,板ばねの共振点で著しく大きな振動振幅を得ることを確認できた. | KAKENHI-PROJECT-15656034 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15656034 |
希土類磁石を利用した超小形高周波振動研磨工具の開発と微細径円管内面研磨への応用 | このことから,共振現象を利用する新たな工具開発の手法があることを明らかにした. | KAKENHI-PROJECT-15656034 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15656034 |
チャンネル結合DWIAの枠組みによるK中間子の深い束縛状態生成反応の研究 | 理論的に存在し得るK中間子原子核の中で最も基本的なものは"K-pp"系の束縛状態であると予想されているが、その存在は未だ実験的に確立されていない。茨城県東海村のJ-PARCにおいて、ヘリウム3標的の(飛行K-, n)反応を用いたK-pp探索実験が進行中であるが、K-ppの束縛エネルギーや幅の値を実験データから引き出すためには、理論計算によるスペクトルとの比較が必要である。そこで同反応スペクトルを理論的に十分な信頼性をもって計算できるチャンネル結合DWIA(歪曲派インパルス近似)計算の枠組みを完成させることが本研究課題の目的である。本年度の主な成果は、1. K-pp単一チャンネルDWIA計算の枠組において、K-ppのpoleの位置は複素エネルギー平面内で固定された点ではなく、実軸上のどのエネルギー点から見るかによってその位置が変化するという"moving pole"の考え方を提唱し、スペクトルの形は"moving pole"の動き方と関係づけられることを明らかにした。これは実験データの解釈に影響を及ぼす重要な結果である。この成果はPhysical Review Cで公表した。2. K-pーπΣ間チャンネル結合DWIA計算の枠組にさらにπAチャンネルの効果を加えた結果、これまでよりも詳細なsemi-exclusiveスペクトルの記述が可能になった。定量的議論のためにはまだ相互作用のモデルに改良の余地が残されているものの、適当な相互作用ポテンシャルさえ与えればチャンネル結合DWIA計算が可能になったことは大きな成果である。今後、他の様々な反応への応用も期待できる。以上の成果は日本物理学会、及び多数の研究会等において公表した。理論的に存在し得るK中間子原子核の中で最も基本的なものは"K-pp"系の束縛状態であると予想されているが、その存在は未だ実験的に確立されていない。茨城県東海村のJ-PARCにおいて、ヘリウム3標的の(飛行K-,n)反応を用いたK-pp探索実験が進行中であるが、K-ppの束縛エネルギーや幅の大きさしだいでは、それらの値を実験データから直接引き出すことが困難となり、理論計算の助けが必要となる事態が起こり得る。そこで、同反応スベクトルを理論的に十分な信頼性をもって計算できるチャンネル結合DWIA(歪曲派インパルス近似)計算の枠組みを完成させることが本研究課題の目的である。本年度の主な成果は以下の2点である。1.チャンネル結合計算の準備的段階として、単一チャンネルDWIA計算の枠内において、K-ppの束縛エネルギーが非常に浅い場合から深い場合まで様々な場合に対応するスペクトルを調べ、そのK'p→πΣ崩壊閾値近傍においてカスプ的構造が現れるための条件を見出した。単一チャンネル計算の結果をまとめた論文を現在投稿中である。2.これまでの単一チャンネルDWIA計算の枠組みに出口チャンネルにおけるK-p-πΣ間の結合を取り入れたチャンネル結合DWIA計算コードを完成させ、ヘリウム・3標的の(飛行K-,n)反応スペクトルをチャンネル結合DWIAの枠組ではじめて計算することに成功した。現段階では相互作用のモデルがまだ不完全なため、定量的議論のためにはさらなるモデルの改良が必要であるものの、これによりK-p→πΣ崩壊閾値近傍におけるスペクトルの振る舞いを従来よりも詳細に調べることが可能となった意義は大きい。以上の成果は日本物理学会、および2件の国際会議を含む多数の研究会等において公表した。理論的に存在し得るK中間子原子核の中で最も基本的なものは"K-pp"系の束縛状態であると予想されているが、その存在は未だ実験的に確立されていない。茨城県東海村のJ-PARCにおいて、ヘリウム3標的の(飛行K-, n)反応を用いたK-pp探索実験が進行中であるが、K-ppの束縛エネルギーや幅の値を実験データから引き出すためには、理論計算によるスペクトルとの比較が必要である。そこで同反応スペクトルを理論的に十分な信頼性をもって計算できるチャンネル結合DWIA(歪曲派インパルス近似)計算の枠組みを完成させることが本研究課題の目的である。本年度の主な成果は、1. K-pp単一チャンネルDWIA計算の枠組において、K-ppのpoleの位置は複素エネルギー平面内で固定された点ではなく、実軸上のどのエネルギー点から見るかによってその位置が変化するという"moving pole"の考え方を提唱し、スペクトルの形は"moving pole"の動き方と関係づけられることを明らかにした。これは実験データの解釈に影響を及ぼす重要な結果である。この成果はPhysical Review Cで公表した。2. K-pーπΣ間チャンネル結合DWIA計算の枠組にさらにπAチャンネルの効果を加えた結果、これまでよりも詳細なsemi-exclusiveスペクトルの記述が可能になった。定量的議論のためにはまだ相互作用のモデルに改良の余地が残されているものの、適当な相互作用ポテンシャルさえ与えればチャンネル結合DWIA計算が可能になったことは大きな成果である。今後、他の様々な反応への応用も期待できる。以上の成果は日本物理学会、及び多数の研究会等において公表した。 | KAKENHI-PROJECT-20028012 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20028012 |
半導体歪超格子のナノメ-タ-電子回折 | (1)平成3年度は,2年度のInP/InGaP超格子界面に存在する歪の検出の実験に引き続き,ガスMBE法で作製したGe/Si界面の構造と歪,欠陥の状態を高分解能電顕法及びナノメ-タ-電子回折で研究した。顕微鏡像からはGeとSiの格子不一致による転位が界面に多数存在しかつその分布はマシュ-ズらの理論に示すように等間隔ではないことを見い出した。またこの転位の近傍をGe側からSi側へナノプロ-ブを走査しナノメ-タ-電子回打図形を連続的に観察することにより、界面でGeの格子間隔から、Siの格子関隔に縮む時に各(hkl)面は対称的に縮むのではなく,各々転位との位置関係に応じて別々の方向に変化することが分かった。(2)さらに、平成3年度は熱電子鏡を用いた従来のナノメ-タ-電子回打装置の他にNTT(株)との共同研究の一環として電界放射型電子鏡を用いた装置で実験を行った。その結果、電子線プロ-ブの大きさが従来のものと同じ数nmの条件でもナノメ-タ-回打図形中に現われる回打斑点の角度分解能は数倍以上よくなり、半導体歪超格子の界面の局所の単位胞の歪がより正確に測定できることが分かった。(1)平成3年度は,2年度のInP/InGaP超格子界面に存在する歪の検出の実験に引き続き,ガスMBE法で作製したGe/Si界面の構造と歪,欠陥の状態を高分解能電顕法及びナノメ-タ-電子回折で研究した。顕微鏡像からはGeとSiの格子不一致による転位が界面に多数存在しかつその分布はマシュ-ズらの理論に示すように等間隔ではないことを見い出した。またこの転位の近傍をGe側からSi側へナノプロ-ブを走査しナノメ-タ-電子回打図形を連続的に観察することにより、界面でGeの格子間隔から、Siの格子関隔に縮む時に各(hkl)面は対称的に縮むのではなく,各々転位との位置関係に応じて別々の方向に変化することが分かった。(2)さらに、平成3年度は熱電子鏡を用いた従来のナノメ-タ-電子回打装置の他にNTT(株)との共同研究の一環として電界放射型電子鏡を用いた装置で実験を行った。その結果、電子線プロ-ブの大きさが従来のものと同じ数nmの条件でもナノメ-タ-回打図形中に現われる回打斑点の角度分解能は数倍以上よくなり、半導体歪超格子の界面の局所の単位胞の歪がより正確に測定できることが分かった。(1)本年度はまずInP/InGaP歪超格子の界面の歪をナノメ-タ-電子回折により解析するため、試料作製技術の建ち上げを行なった。本助成金により半導体結晶を微小片に切断するディスクカッタ-を購入し上記の半導体超格子を0.3×0.3×0.3mmに切り出し、電子顕微鏡の試料ホルダ-に光学顕微鏡下で取り付けるシステムを開発した。(2)InP/InGaP超格子の界面における歪の検出については,電子顕微鏡の暗視野像中の等厚干渉縞を用いる方法とナノメ-タ-電子回折を用いる方法の両方を試み、界面における歪が上下に対称ではないことを見い出した。またこの歪量は(220)格子面に換算して10^<ー3>rod程度であることも判明した。この結果は第12回国際電子顕微鏡学会及び応用物理学欧文誌に発表した。(3)界面からのナノメ-タ-電子回折図形はTVービデオシステムにより記録できるようにし、プロ-ブを動かしながら回打図形を連続的に観察した。これによって歪の2次元分布を検討した。(4)本年度は最初の計画をほぼ達成することができたので、平成3年度はこの歪分布の3次元的な描出の方法の開発を行なう予定である。(1)平成3年度は,2年度のInP/InGaP超格子界面に存在する歪の検出の実験に引き続き,ガスMBE法で作製したGe/Si界面の構造と歪、欠陥の状態を高分解能電顕法及びナノメ-タ-電子回折で研究した。顕微鏡像からはGeとSiの格子不一致による転位が界面に多数存在しかつその分布はマシュ-ズらの理論に示すように等間隔ではないことを見い出した。またこの転位の近傍をGe側からSi側へナノプロ-ブを走査しナノメ-タ-電子回折図形を連続的に観察することにより、界面でGeの格子間隔から,Siの格子間隔に縮む時に各(hkl)面は対称的に縮むのではなく,各々転位との彼置関係に応じて別々の方向に変化することが分かった。(2)さらに,平成3年度は熱電子鏡を用いた従来のナノメ-タ-電子回折装置の他にNTT(株)との共同御林の一環として電界放射型電子鏡を用いた装置で実験を行った。その結果、電子線プロ-ブの大きさが従来のものと信じ数nmの条件でもナノメ-タ-回折図線中に現われる回折斑点の角度分解能は数倍数上よくなり、半導体歪超格子の界面の局所の単位胞の歪がより正確に測定できることが分かった。 | KAKENHI-PROJECT-02650039 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02650039 |
染色体凝縮と分配におけるコンデンシンの作用機序 | 染色体凝縮は複製されたゲノムを娘細胞に正確に分配するために、細胞が持っている最も基本的な機能の1つである。この過程は単に染色体腕部の長さを短くする役割だけではなく、複製によって姉妹染色体間に生じた絡まりを解消し、分離可能な2つの姉妹染色分体にする上で重要な役割を果たしている。さらに細胞分裂期だけではなく、rDNAリピート等の繰り返し構造を安定に維持する上でも重要な役割を果たすことが知られている。近年の研究で、酵母からヒトにまで広く保存されたコンデンシン複合体が、染色体凝縮で中心的役割を果たしていると考えられるようになった。本研究では、モデル生物の出芽酵母を使い、コンデンシンの主要な局在部位であるrDNAリピート領域で、RNAポリメラーゼIIによる転写抑制、および相同組換えの抑制に、コンデンシンがどの様に働いているかを明らかとした。染色体凝縮は複製されたゲノムを娘細胞に正確に分配するために、細胞が持っている最も基本的な機能の1つである。この過程は単に染色体腕部の長さを短くする役割だけではなく、複製によって姉妹染色体間に生じた絡まりを解消し、分離可能な2つの姉妹染色分体にする上で重要な役割を果たしている。さらに細胞分裂期だけではなく、rDNAリピート等の繰り返し構造を安定に維持する上でも重要な役割を果たすことが知られている。近年の研究で、酵母からヒトにまで広く保存されたコンデンシン複合体が、染色体凝縮で中心的役割を果たしていると考えられるようになった。本研究では、モデル生物の出芽酵母を使い、コンデンシンの主要な局在部位であるrDNAリピート領域で、RNAポリメラーゼIIによる転写抑制、および相同組換えの抑制に、コンデンシンがどの様に働いているかを明らかとした。細胞が分裂期に入るとその遺伝情報を記録したDNA鎖は、娘細胞に正確に分配するために太くて短い分裂期染色体へとその形態を大きく変化させる。このダイナミック形態変化でDNAに作用して中心的役割を果たすのがコンデンシンとして知られる蛋白質複合体である。これまでに、酵母ゲノム中でコンデンシン結合のシス配列をリボソームRNA遺伝子(rDNA)領域に同定した。またその結合に必要な4種類の因子を同定した。面白いことに、この結合に必要な因子が欠失すると、rDNA領域での組換え頻度の上昇とコンデンシン結合部位近傍でのRNA polymerase II(Pol II)による転写の上昇が観られる。本年度は、コンデンシンのrDNAクロマチンへの結合が組換えと転写の抑制に関与する可能性について検討した。その結果、コンデンシン複合体を構成する遺伝子自体(smc2-157やycs4-1)に変異が生じる事でrDNA領域での組換え頻度が上昇する事、またコンデンシン結合部位近傍でのPol IIによる転写が上昇する事がわかった。さらに、rDNA領域にある複数の内在性Pol IIプロモーターからの転写をRT-PCR法で調べた結果、コンデンシン結合部位近辺では変異細胞になると比較的強い転写の脱抑制が観られたのに対し、結合部位から遠ざかるに従い脱抑制効果が観られなくなることがわかった。またコンデンシン変異によるSir2タンパクの結合分布の変化と、内在性プロモーターからの転写の脱抑制の変化の間に位置的な正の相関が見られた。これらのことからコンデンシンがSir2の結合に影響を与え、転写や組換えに関与し、rDNAリピート領域の安定性に関与している可能性が考えられた。遺伝情報を記録したDNAはヒストン(タンパク質)に巻き付いたクロマチン繊維の状態で核内にある。ところが細胞が分裂期に入ると、クロマチン繊維は折りたたまれて太くて短い分裂期特有の形態をした染色体へとその形を大きく変化させる。これにより、長い繊維状の遺伝物質を小さな細胞内で正確に2つの娘細胞へと分配することが可能となる。このクロマチン繊維のダイナミックな形態変化でDNAに作用して中心的役割を果たすと考えられているのがコンデンシンという複数のタンパク質からなる複合体である。これまでに、酵母細胞を使ってコンデンシンが結合するDNA部位を、リボソームRNA遺伝子リピート領域(rDNA)中から特定した。さらに、コンデンシンがそこに結合出来なければrDNAリピート領域が不安定化し得ることを見出している。また、その結合に必要な因子を、コンデンシンと遺伝的相互作用(合成致死性)を示す遺伝子を同定することで、これまでに4種類の因子を特定した。本年度は、コンデンシン変異と合成致死性を示す変異細胞群をさらに解析することで、これまでコンデンシンとの関与が知られていなかった遺伝子産物を新しく1つ特定した。コンデンシンと、新しく特定した遺伝子の2重変異細胞では、rDNAリピート領域が不安定化することがこれまでに分かった。今後、この遺伝子産物の機能を解析することで、クロマチン折りたたみによる染色体構造形成や、染色体の安定維持の理解に向けた新しい知見が得られると期待できる。遺伝情報を記録したクロマチンDNAは、細胞が分裂期に入ると太くて短い分裂期染色体へとその形態が大きく変化する。染色体凝縮と呼ばれるこの現象は、次世代に遺伝情報を継承するために重要な役割を果たしている。モデル生物の出芽酵母では、リボソームRNA遺伝子(rDNA)リピート領域は分裂期になると顕著な形態変化(凝縮)が観られ、またそれに働くコンデンシン複合体の主要な局在部位であることもわかっている。これまでの解析から、コンデンシン複合体の因子に変異を持った細胞では、rDNAリピート領域での組換え頻度の異常な上昇と、それに伴うリピートの不安定化によりコピー数が著しく減少することがわかってきた。 | KAKENHI-PROJECT-21570188 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21570188 |
染色体凝縮と分配におけるコンデンシンの作用機序 | 今年度、コンデンシン変異細胞では何故rDNAリピート領域での組換え頻度の異常な上昇が観られるのかを、DNA組換えで中心的な役割を果たすRad52蛋白質の局在を中心に調べた。野生型細胞においてRad52蛋白質は、細胞周期を通してrDNAリピートがある核小体にはほとんど局在しない。一方、コンデンシン変異細胞では、間期の細胞では野生型と同様にRad52蛋白質の核小体への局在が観られないが、分裂期の細胞では核小体への局在が観られるようになることが判明した。この結果から、コンデンシン変異細胞ではRad52の核小体への侵入が、rDNAリピートでの組換え頻度の異常な上昇に繋がっていることが示唆される。分裂期にコンデンシンによりrDNAリピート領域が正常に凝縮することが、組換えタンパク質の侵入を防ぎ、リピート構造を維持することに貢献していると考えられる。 | KAKENHI-PROJECT-21570188 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21570188 |
枯草菌転写因子の機能とネットワークの解明 | 本研究年度では、枯草菌のHelix-Turn-Helix(HTH)を含む転写制御因子およびアルカリプロテアーゼ構造遺伝子aprEの発現制御因子に関する研究を行った。研究手法は、種々の転写制御因子の標的遺伝子をマイクロアレーで調べ、発現の差異が検出された場合にはlacZ fusionでの検討を行った。AhrC(HTH)では、既知の作用以外にプリン分解系遺伝子群の負の制御遺伝子であるpucRが標的であることが判明した。、また、AhrCはaprEの発現を負に制御し、さらに、GlnAの標的であるureオペロンやnrgAの発現を下降させることが確認された。AhrC,GlnAおよびAprEは、窒素源の確保という細胞が生きて行く上でのプロセスと関連が深く、細胞内においてネットワークが形成されていることが示唆された。ComK(HTH)では多くの標的が見つかり、それらの遺伝子の上流にはComKが結合するコンセンサス配列が見いだされた。HTHを含むAnsRとDeoRについても解析したが、既知標的以外は発見できなかった。2成分制御系の制御因子YclJ(HTH)についても検討し、その複数の標的遺伝子の配列から、YclJのコンセンサス配列をを発見した。一方、HTHを含む転写制御因子でaprE発現を正に制御するSenSについて検討し、その標的はaprEの負の制御因子であるSeoCを転写レベルで抑制することを発見した。また、本研究において、機能未知の遺伝子であるybaL(sayAと命名)がSenSとは逆にscoCを転写レベルで正に制御することを見いだした。aprEの発現には多くの正および負の制御因子が関与しているが、その意義は、アルカリプロテアーゼを含む菌体外プロテアーゼは大量に生産・分泌されるので、無駄なエネルギーを不要に使わないよう正負制御因子がバランスを保ちつつ厳密に制御しているものと思われる。本研究年度では、枯草菌のHelix-Turn-Helix(HTH)を含む転写制御因子およびアルカリプロテアーゼ構造遺伝子aprEの発現制御因子に関する研究を行った。研究手法は、種々の転写制御因子の標的遺伝子をマイクロアレーで調べ、発現の差異が検出された場合にはlacZ fusionでの検討を行った。AhrC(HTH)では、既知の作用以外にプリン分解系遺伝子群の負の制御遺伝子であるpucRが標的であることが判明した。、また、AhrCはaprEの発現を負に制御し、さらに、GlnAの標的であるureオペロンやnrgAの発現を下降させることが確認された。AhrC,GlnAおよびAprEは、窒素源の確保という細胞が生きて行く上でのプロセスと関連が深く、細胞内においてネットワークが形成されていることが示唆された。ComK(HTH)では多くの標的が見つかり、それらの遺伝子の上流にはComKが結合するコンセンサス配列が見いだされた。HTHを含むAnsRとDeoRについても解析したが、既知標的以外は発見できなかった。2成分制御系の制御因子YclJ(HTH)についても検討し、その複数の標的遺伝子の配列から、YclJのコンセンサス配列をを発見した。一方、HTHを含む転写制御因子でaprE発現を正に制御するSenSについて検討し、その標的はaprEの負の制御因子であるSeoCを転写レベルで抑制することを発見した。また、本研究において、機能未知の遺伝子であるybaL(sayAと命名)がSenSとは逆にscoCを転写レベルで正に制御することを見いだした。aprEの発現には多くの正および負の制御因子が関与しているが、その意義は、アルカリプロテアーゼを含む菌体外プロテアーゼは大量に生産・分泌されるので、無駄なエネルギーを不要に使わないよう正負制御因子がバランスを保ちつつ厳密に制御しているものと思われる。転写制御因子ComK, AhrC, AnsR, DeoRについてはマイクロアレーの結果を得ており、この内の前3者に関してそのターゲット候補遺伝子をlavZ fusionとRT-PCRにより詳細に検討した。ahrC破壊ではプリン代謝系およびGlnAのターゲットであるureオペロンやnrgAの発現の上昇が確認された。ansR破壊株では、RT-PCRと再度のマイクロアレー解析により、そのターゲットは既知のansABを含む極めて少数であることが分かった。comKでは既知遺伝子の他に多くのターゲット遺伝子が見つかり、それらの遺伝子の上流にはComKが結合すると思われる配列が観察された。ターゲット遺伝子の内の2つがコンピテンスに直接関係していることが実験的に証明された。deoRについては引き続き確認作業を継続中である。2.aprEの発現制御因子に関する研究枯草菌の菌体外プロテアーゼ遺伝子であるaprEは正にも負にも厳密に制御されている。正の制御遺伝子のdegR、degQ、proB、senS、paiA、tenAについてこれらの遺伝子をマルチコピーで導入しマイクロアレーを行った。その結果、その作用が正の制御遺伝子であり中心的な役割を果たすDegUに依存するdegR、degQでは共通のターゲット遺伝子が観察された。DegU依存性のproBでは数個のターゲット遺伝子しかなく、前2者との間に共通性は見い出されなかった。SenSはこれらとはターゲットが異なり、また、DegU依存性でないことから既知遺伝子とは作用点がことなることが判明した。paiA遺伝子はaprE発現を制御する遺伝子として発見されたが、クエン酸の取り込みや代謝に関連している可能性がある。tenA | KAKENHI-PROJECT-14360058 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14360058 |
枯草菌転写因子の機能とネットワークの解明 | 遺伝子をマルチコピーで導入しても遺伝子発現には全く影響せず、既発表論文に疑問がある。前年度のマイクロアレー解析によりAhrCのターゲットと予想されたGlnAは更に枯草菌の菌体外プロテアーゼ遺伝子であるaprEを負に制御する因子であることが判明した。aprE転写開始点上流の種々の削除株による解析から、その作用点は転写開始点上流-299塩基から-340塩基までの間と予想された。一方、aprE転写はグルコースによるカタボライト制御を受けるが、この作用点も同位置にマップされた。この領域には負の制御因子であるScoCが作用する部位があり、この因子を介してaprEに作用することが示唆される。これらの結果は、GlnAまたはその産物およびグルコースのカタボライトが同一の負の制御因子を通してaprEの発現を制御していることが考えられる。マイクロアレーにより、DeoRでいくつかの遺伝子が、また、PaiAではcitMがそのターゲットであるとの結果を得たが、RT-PCRにより詳細に解析したが再現性は得られなかった。これまでの我々の経験から、マイクロアレーでは所謂false positiveな遺伝子が高頻度で検出されてしまうことが観察されている。2.aprEの発現制御因子に関する研究aprEの正の制御因子守あるsenSをマルチコピーで導入し、転写開始点上流の領域を種々の長さに削除したaprE-lacZの発現を測定した結果、作用点は-340から-299にあることが判明した。既知の正負転写制御因子遺伝子破壊株でのマルチコピーsenSによるaprE-lacZ発現解析実験では、spo0A-abrB, degU, sinR変異ではSenSの促進作用は見られたが、scoC変異株では促進作用は観察されなかった。次に、scoC-lacZ発現への影響を調べたところ、SenSがこの発現を阻害した。これらのことからScoCは負の制御因子scoCの発現を阻害し、その結果aprEの発現を促進すると結論された。65個のアミノ酸からなり、分子内にHelix-Turn-Helix構造を含むSenSは枯草菌のアルカリプロテアーゼ構造遺伝子であるaprEの発現を上昇させる。aprEの正および負の制御遺伝子を破壊した株でのepistatic分析と、正負制御因子が作用するaprEの上流領域の欠失株での解析から、SenSは負の制御因子scoCの発現を抑制することが示唆された。そこで、scoC-lacZfusionとNorthern解析を行った結果、SenSはscoCの発現を転写レベルで制御していることが判明した。すなわち、SenSは負の制御因子であるscoC発現を抑制することによりaprE発現を上昇させていることが明らかになった。しかしながらHelix-Turn-Helix構造を持つタンパク質に特徴的なDNAへの結合が、SenSのターゲットであるscoC上流域では観察されなかった。グルタミン合成酵素glnA遺伝子破壊株ではaprE発現が上昇する。glnA遺伝子破壊株では、aprEの負の制御因子scoCの発現が減少していること、すなわちGlnAはscoCの正の制御因子であることが判明した。 | KAKENHI-PROJECT-14360058 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14360058 |
低分子化合物によるヒト成体肝細胞からの肝前駆細胞の作製 | 本研究では,ラット・マウスの成熟肝細胞を前駆細胞へとリプログラミングできることを確かめている低分子化合物を用いて,ヒト肝細胞も同様にリプログラミングできるかどうか,またそのようにして得られた肝前駆細胞(ヒトCLiP)が,肝臓再生に寄与しうるかどうかを検討することを目的とした.主な成果は以下の通りとなる.(1)乳幼児肝細胞からヒトCLiPを誘導できた.(2)ヒトCLiPから分化誘導した肝細胞はCYP活性を示した.(3)ヒトCLiPは慢性肝疾患モデルマウスの肝臓を高効率に置換し,移植後のキメラ肝臓から取り出したヒト肝細胞は初代成熟肝細胞と同等レベルの代謝能を示した.初年度である平成28年度は,ヒト成熟肝細胞からのCLiP誘導の可能性について検討した.げっ歯類でのリプログラミング因子を少し改変することで,乳幼児のヒト肝細胞をリプログラミングできることを明らかにした(詳細に関しては特許申請中のため記述を控える).誘導されたヒトCLiPはEPCAM, CD24, CD133, CD49f, CD44といった,一連の肝前駆細胞マーカータンパクを発現し,少なくとも10回以上継代培養可能であった.また,オンコスタチンMの刺激を与えることで,肝細胞の機能に関わる遺伝子の発現を誘導することも可能であった.重要なことに,この細胞を免疫不全肝障害モデルマウスであるcDNA-uPA/SCIDマウスに移植すると,血中ヒトアルブミン濃度は最大15 mg/ml以上に達し,置換率は90%以上に達した.過去の培養細胞の移植では,血中ヒトアルブミン濃度は最大でも1 mg/ml以下,置換率は30%以下であったことからも,本研究の成果が極めて重要であることがわかる.以上の通り,初年度において既に,本研究計画のStep1, Step 2, Step 3の重要項目を概ね完遂できたと言える.2年目はStep 2の課題の一部である胆管分化の可能性を探るとともに,長期培養後のヒトCLiPの移植によっても高置換の肝再生が可能となるかどうかに重点をおいて研究を進める.さらに,代謝活性に焦点を当てて,移植後のヒト細胞が機能的な肝細胞になっているかどうかについても検討していく.当初の予定では,初年度はStep 1の遂行,すなわち低分子化合物ライブラリーを用いた,ヒト肝細胞リプログラミング因子の探索が主目的であった.これに基づき,本研究ではまずTOCRIS社から提供されている,幹細胞培養に役立つ80種類の化合物を収録したライブラリーであるStem Cell Tool Boxを用い,成人肝細胞が増殖能を獲得するかどうかについてスクリーニングを行った.しかし,残念ながら成人肝細胞では増殖能の獲得には至らなかった.一方,当研究室の経験および文献上効果がありそうと思われる化合物についてピックアップし,小規模なスクリーニングを実施した.この際,成人肝細胞に加え乳幼児肝細胞も並行して解析を行ったところ,ある化合物の組み合わせにおいて,乳幼児肝細胞であれば明らかな増殖能の獲得が達成でき,さらにこの増殖細胞は複数回にわたって継代培養が可能であった(特許申請中のため詳細については記述を控える).成人肝細胞についてもある程度の増殖は確認できたが,増殖能には限りがあり,継代培養は現在のところ困難である.将来的には成人肝細胞のリプログラミングにも挑みたいと考えているが,当面は現時点で有望な結果が得られている乳幼児肝細胞に焦点を当てて進める.乳幼児細胞であっても,HLA型が適合すれば他家移植も可能であることから,細胞ソースの規模を拡大することで,移植可能な培養肝細胞バンクを樹立することも可能であると考えている.なお,乳幼児由来のヒトCLiPについては既に,生体外での肝分化能および,慢性肝炎モデルマウスの肝臓の高置換能を既に確認済みである.本年度はまず,初年度に見出した培養条件を基に,複数ドナー由来の乳幼児肝細胞を用いてヒトCLiP誘導実験の再現性を確認した.誘導したヒトCLiPは,一連の薬物代謝酵素CYP450の活性、およびその誘導能をもつことが確認できた.さらに,この細胞を慢性肝障害モデル動物に移植することで,高置換に至る個体が得られることも確認した.また,移植後に肝臓再生に寄与したヒト細胞をマウスキメラ肝臓から採取し,一連の薬物代謝酵素CYP450の活性を測定したところ,初代成熟ヒト肝細胞と同等の酵素活性を示すことも確認できた.また,移植前の細胞と移植後に取り出した細胞とを用いてマイクロアレイによるトランスクリプトーム解析を行ったところ,肝機能に関わる遺伝子群の発現が顕著に上昇しており,移植細胞が生体内で成熟していることが確かめられた.なお,カリオタイピングを行った3ドナー由来のヒトCLiP全てにおいて核型以上は認められず(5ー7継代時点で解析),細胞が正常な状態を維持していることが強く示唆された.以上より,初年度からの成果をまとめると,本研究の主な成果は以下の通りとなる:(1)複数ドナーを使って,乳幼児肝細胞からヒトCLiPを誘導できた;(2)ヒトCLiPから分化誘導した肝細胞はCYP活性および,その誘導能を示した;(3)ヒトCLiPは慢性肝疾患モデルマウスの肝臓を高効率に置換し,移植後のキメラ肝臓から取り出したヒト肝細胞は初代成熟肝細胞と同等レベルの代謝能を示した;(4)ヒトCLiPは正常な核型解析を持ち,安全性の面で現在まで問題は見られていない.一方,課題として残った項目は以下のとおりである: | KAKENHI-PROJECT-16K16643 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K16643 |
低分子化合物によるヒト成体肝細胞からの肝前駆細胞の作製 | (1)長期培養したヒトCLiPの移植では十分な置換率を得ることができず,培養の長期化による細胞の質の低下が問題として判明した;(2)成人ヒト肝細胞からのヒトCLiPは現時点で達成できていない.本研究では,ラット・マウスの成熟肝細胞を前駆細胞へとリプログラミングできることを確かめている低分子化合物を用いて,ヒト肝細胞も同様にリプログラミングできるかどうか,またそのようにして得られた肝前駆細胞(ヒトCLiP)が,肝臓再生に寄与しうるかどうかを検討することを目的とした.主な成果は以下の通りとなる.(1)乳幼児肝細胞からヒトCLiPを誘導できた.(2)ヒトCLiPから分化誘導した肝細胞はCYP活性を示した.(3)ヒトCLiPは慢性肝疾患モデルマウスの肝臓を高効率に置換し,移植後のキメラ肝臓から取り出したヒト肝細胞は初代成熟肝細胞と同等レベルの代謝能を示した.今後の課題は(1)ヒトCLiPの胆管分化能の評価,(2)ヒトCLiPの染色体・ゲノム安定性の評価,(3)長期継代後のヒトCLiPが障害肝臓の再生に寄与しうるかどうかの評価,(4)成人肝細胞からのヒトCLiP誘導の可能性の検討,の4つが主たるものとなる.具体的な研究方針は以下のとおりである.(1)ラット・マウスでの実験と同様の条件で,ヒトCLiPからの胆管分化誘導を試みる.(2)複数回継代を重ねた細胞を用い(継代数1, 5, 10が目安),カリオタイピングおよび,発がん関連の遺伝子についてのサンガーシークエンスを行って評価する.(3)継代数1, 5, 10の細胞を肝障害免疫不全マウスに移植することで,どの程度継代数を重ねた細胞でも再生能が維持されているかを検討する.(4)リプログラミング刺激を与えた際に,乳幼児肝細胞と成人肝細胞とで発現変動する遺伝子プロファイルおよび,パスウェイ群を探索する.これにより,成人肝細胞のリプログラミングの誘導に必要な刺激をある程度予測できるようになると考えている.再生医療、細胞生物学 | KAKENHI-PROJECT-16K16643 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K16643 |
RNAポリメラーゼIIと相互作用をもつ蛋白質因子の単離とその機能の解析 | RNAポリメラーゼII(PolII)は、12種のサブユニット蛋白質で構成される。このうち、分裂酵母での遺伝子クローニングが遅れていたRpb4、Rpb9の2つのサブユニットの遺伝子をクローニングし、12種全ての遺伝子の単離を完了した。これらの遺伝子を用いて、サブユニット蛋白質にGST、ヘマグルチニン、ヒスチヂンクラスター等のタグを導入した分裂酵母株を作製した。これらの酵母株を大量培養し、タグに対するアフィニティーを利用した生化学的方法で、タグ導入サブユニットまたはそれを含むPolIIと複合体を形成する蛋白質の単離条件を検討中である。また、PolIIの本体構造についての解析を行い、以下の結果を得ている。精製PolIIを架橋試薬で処理し、ウェスタン法でサブユニット間架橋体を同定する方法と、組換えサブユニット蛋白質を用いたファーウェスタン法による解析で、サブユニット間相互作用の全体像をほぼ決定した。小型サブユニットは、それぞれ、Rpb1、Rpb2の二つの大型サブユニットの一方または両方と相互作用をもち、小型サブユニット間の相互作用は、Rpb3-Rpb10、RPb3-Rpb11、Rpb5-Rpb6、Rpb6-Rpb7、Rpb6-Rpb8の間で検出された。また、試験官内で構成した伸長複合体のRNA3'末端に光反応性のUTP誘導体を導入し、伸長途中のRNAをPolIIに架橋して、活性中心を構成するサブユニットを特定した。活性中心はRpb1、Rpb2の二つのサブユニットにより構成される。さらに、架橋後これらのサブユニットを単離し、酵素で限定分解することにより、アミノ酸番号でRpb1の509-917、Rpb2の306-530、934-994の領域が活性中心の近傍に存在することを示した。RNAポリメラーゼII(PolII)は、12種のサブユニット蛋白質で構成される。このうち、分裂酵母での遺伝子クローニングが遅れていたRpb4、Rpb9の2つのサブユニットの遺伝子をクローニングし、12種全ての遺伝子の単離を完了した。これらの遺伝子を用いて、サブユニット蛋白質にGST、ヘマグルチニン、ヒスチヂンクラスター等のタグを導入した分裂酵母株を作製した。これらの酵母株を大量培養し、タグに対するアフィニティーを利用した生化学的方法で、タグ導入サブユニットまたはそれを含むPolIIと複合体を形成する蛋白質の単離条件を検討中である。また、PolIIの本体構造についての解析を行い、以下の結果を得ている。精製PolIIを架橋試薬で処理し、ウェスタン法でサブユニット間架橋体を同定する方法と、組換えサブユニット蛋白質を用いたファーウェスタン法による解析で、サブユニット間相互作用の全体像をほぼ決定した。小型サブユニットは、それぞれ、Rpb1、Rpb2の二つの大型サブユニットの一方または両方と相互作用をもち、小型サブユニット間の相互作用は、Rpb3-Rpb10、RPb3-Rpb11、Rpb5-Rpb6、Rpb6-Rpb7、Rpb6-Rpb8の間で検出された。また、試験官内で構成した伸長複合体のRNA3'末端に光反応性のUTP誘導体を導入し、伸長途中のRNAをPolIIに架橋して、活性中心を構成するサブユニットを特定した。活性中心はRpb1、Rpb2の二つのサブユニットにより構成される。さらに、架橋後これらのサブユニットを単離し、酵素で限定分解することにより、アミノ酸番号でRpb1の509-917、Rpb2の306-530、934-994の領域が活性中心の近傍に存在することを示した。 | KAKENHI-PROJECT-10173225 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10173225 |
昆虫を用いた行動と神経系の可塑的性質についての研究 | 片側尾葉切除後に生じるフタホシコオロギの空気流刺激に対する逃避方向の回復は、歩行の際の自己刺激空気流を手がかりとして引き起こされる。静止歩行時に人工の空気流刺激(偽自己刺激空気流)を与えて調査したところ、自発歩行開始から偽自己刺激空気流を与えるまでの潜時とその持続時間は、逃避方向の回復に対して取引(trade-off)可能な要素としてはたらくことが明らかとなった。また、腹部神経索内下行する介在神経のバースト発生時の活動量と後肢のEMGとの間には、非常に強い相関があることが確認された。このような下行性の介在神経は、歩行時の運動出力の遠心性コピーシグナルを伝えている有力な候補と考えられる。片側尾葉切除後に生じるフタホシコオロギの空気流刺激に対する逃避方向の回復は、歩行の際の自己刺激空気流を手がかりとして引き起こされる。静止歩行時に人工の空気流刺激(偽自己刺激空気流)を与えて調査したところ、自発歩行開始から偽自己刺激空気流を与えるまでの潜時とその持続時間は、逃避方向の回復に対して取引(trade-off)可能な要素としてはたらくことが明らかとなった。また、腹部神経索内下行する介在神経のバースト発生時の活動量と後肢のEMGとの間には、非常に強い相関があることが確認された。このような下行性の介在神経は、歩行時の運動出力の遠心性コピーシグナルを伝えている有力な候補と考えられる。コオロギは空気流刺激に対し、反対方向へと逃避行動を発現する。空気流の感覚器である機械感覚毛が密生している1対の尾葉の片側を除去すると、逃避の方向が不正確となるが、自由歩行できる環境で飼育すると、約2週間で逃避方向に補償的回復が見られる。これまでの研究で、コオロギの神経系は自分が動いたことにより生じる自己刺激空気流の方向を基準として、その機能を修正していること、また、体を固定した状態で引き起こされた歩行運動(静止歩行)に同調して与えられた人工の空気流刺激(偽自己刺激空気流)も、回復に有効に作用することが明らかとなっている。今年度は、片側尾葉を切除したコオロギを静止歩行させ、その際に同調して与える偽自己刺激空気流のタイミング、あるいはその持続時間を様々に変化させることにより、それぞれの刺激が逃避方向の補償的回復におよぼす影響を調査した。偽自己刺激空気流によるトレーニングは2週間行った。その結果、偽自己刺激空気流の持続時間と、それを与えるタイミング(自発歩行開始からの潜時)は取引(trade)可能な要素であるらしいことが明らかとなってきた。すなわち、例えば持続時間が50msecの刺激の場合、潜時が500msecだと効果がないが、250msecになると回復を引き起こすことができた。また、潜時が500msecの場合でも、持続時間を100msecと長くすると効果が現れる。このように、調査した範囲内で、逃避方向に補償的回復を生じさせるための潜時と持続時間は、比例関係を示すように変化していく傾向があった。コオロギは空気流刺激に対し、反対方向へと逃避行動を発現する。空気流の感覚器である機械感覚毛が密生している1対の尾葉の片側を除去すると、逃避の方向が不正確となるが、自由歩行できる環境で飼育すると、約2週間で逃避方向に補償的回復が見られる。これまでの研究で、コオロギの神経系は自分が動いたことにより生じる自己刺激空気流の方向を基準として、その機能を修正していること、また、体を固定した状態で引き起こされた歩行運動(静止歩行)に同調して与えられた人工の空気流刺激(偽自己刺激空気流)も、回復に有効に作用することが明らかとなっている。今年度は、昨年度に引き続き片側尾葉を切除したコオロギを静止歩行させ、その際に同調して与える偽自己刺激空気流のタイミング、あるいはその持続時間を様々に変化させることにより、それぞれの刺激が逃避方向の補償的回復におよぼす影響を調査したが、昨年度との相違点は刺激空気流の強度(流速)を2倍に変化させたことである。偽自己刺激空気流によるトレーニングは2週行った。その結果、昨年度に明らかとなった偽自己刺激空気流の持続時間と、それを与えるタイミング(自発歩行開始からの潜時)に加え、刺激強度も行動の補償的回復を引き起こす上で重要な要素であり、前記2つのパラメータとも取引(trade)可能な要素であるらしいことが明らかとなってきた。すなわち、昨年度の調査で回復が見られなかった持続時間50msec、潜時500msecの偽自己刺激空気流刺激においても、刺激流速を2倍にすることにより回復が見られることが確認された。これまでの研究では、片側尾葉切除後のコオロギを固定し、その静止歩行に同期させて人工の空気流刺激(偽自己刺激空気流)を与えることにより、空気流刺激に対する逃避方向に補償的回復が生じること、また、その際に偽自己刺激空気流のタイミング(遅延)と持続時間はトレード可能なパラメータとして、行動補償の程度に影響することを行動学的に明らかにしてきた。さらに、偽自己刺激空気流の流速も第3のパラメータとしてこの行動補償に影響することも明らかにしてきた。今年度は、偽自己刺激空気流の流速の影響をより確かなものにするため、これまでよりも遅い流速の空気流を用いて行動補償の発現を調査した。用いた空気流は流速15 mm/secであり、最初の実験(30mm/sec)の半分である。遅延は500msecのみを用いたが、持続時間は100 msec、150 msecおよび200 msecと変化させた。 | KAKENHI-PROJECT-22570074 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22570074 |
昆虫を用いた行動と神経系の可塑的性質についての研究 | その結果、持続時間が100 msecおよび150 msecの刺激では補償的回復は生じなかったが、200 msecにおいては回復が見られた。すなわち、流速を遅くすることにより、回復を生じさせることのできる持続時間の範囲が長い方向へシフトしたことから、これまでの結果と整合性のある結果が得られた。このことにより、今年度に発表した論文(Zoological Science, 30: 339-344, 2013)において提唱した行動補償の神経メカニズムにおける仮説の妥当性が、より確かなものとなった。また、今年度は行動補償に関係するであろう神経系の検索にも着手した。行動補償の仮説においては、遠心性コピーシグナルが重要な役割を果たすと考えられているが、その考えに従い、コオロギの歩行中に遠心性コピーと考えられる神経活動を記録に成功した。解析はまだ初期の段階であるが、仮説に従い遠心性コピーの候補として適当かどうか検証を進める。昨年度に引き続き片側尾葉切除後のコオロギを静止歩行させ、その際に同調して与える偽自己刺激空気流のタイミング(自発歩行開始からの潜時)とその持続時間を様々に変化させることにより、それぞれの刺激が逃避方向の補償的回復におよぼす影響を調査した。昨年度は刺激空気流の強度(流速)を2倍に変化させることにより、偽自己刺激空気流の潜時と持続時間に加え、刺激強度も行動の補償的回復を引き起こす上で重要な要素であり、それぞれがトレード可能な要素である可能性を示した。すなわち、流速30mm/secの偽自己刺激空気流で回復が見られなかった潜時500msec、持続時間50msecの組み合わせにおいても、刺激流速を2倍の60mm/secにすることにより回復が見られることを確認した。今年度は、このことについてより確かな結果を得るため、前回とは異なる潜時と持続時間との組み合わせの刺激を用いて実験を行った。用いたのは潜時750msecと持続時間100msecの組み合わせ、および潜時1000msec、持続時間100msecの組み合わせである。これらは昨年の場合と同様、流速30mm/secの偽自己刺激空気流では回復が見られなかった組み合わせである。その結果、今回用いた2つの組み合わせにおいて、それらの刺激が共に逃避方向の補償的回復を引き起こすために有効であることが判明した。すなわち、刺激強度も行動の補償的回復を引き起こす上で重要な要素であり、潜時、持続時間とともにトレード可能なパラメータであることが明らかとなった。これらの結果、およびそのメカニズムに関する仮説を提唱した論文を学術誌(Zoological Science:日本動物学会)に投稿し受理された。現在印刷中で、掲載は次年度になる予定である。昨年度までの行動学的研究において、申請者が過去に提唱した行動補償の神経メカニズムに関する仮説の妥当性が、より確かなものとなった。その仮説においては、遠心性コピーシグナルが重要な役割を果たすと考えられている。本年度は、その考えに従い歩行中のコオロギの腹部神経索より神経活動の記録を行った。また同時に肢の運動神経からの記録を試みたが、どうしても歩行に支障をきたしたので、後肢の筋肉からの記録(EMG)に切り替え、腹部神経索内の介在神経の活動との同時記録を行った。歩行中、下行性の介在神経のリズミカルなバーストが確認された。 | KAKENHI-PROJECT-22570074 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22570074 |
レセプト情報と健診情報を統合活用した企業退職者のシームレスな健康管理 | 糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病は、しばしば併発することが知られている。本研究では企業健康保険組合加入者のレセプトデータにAssociation Rule Miningを適用し、心血管疾患、慢性腎臓病、およびこれらの発症リスクを高めるとされる生活習慣病のMulti-morbidityについて明らかにすることを目的とした。使用されたデータは、2011年4月-2018年3月までの間にある企業の健康保険組合に加入していた40-59歳の21,051人を含む。対象8疾患(虚血性心疾患、脳血管疾患、心不全、慢性腎臓病、糖尿病、脂質異常症、高血圧性疾患および慢性閉塞性肺疾患)の抽出には国際疾病分類第10版を使用し、抽出は年度ごとに名寄せした。解析にはフリーソフトウェアRのパッケージApriori機能を使用した。過去7年間で全体の加入者数は増加したが、疾患別ではCOPDを除き患者数は減少した。抽出された患者数は脂質異常症が最も多く、CKDが最も少なかった。ARMの結果、7年間を通して11個のルールが共通して抽出された。最もsupportが高いルールは「高血圧=>脂質異常症」であった(2017年度でsupport:10.22%、confidence:56.0%、lift:2.13)。最もconfidenceが高いルールは「高血圧性疾患および糖尿病=>脂質異常症」であった(2017年度でsupport:4.25%、confidence:79.26%、lift:3.02)。最もliftが高いルールは「高血圧性疾患および脂質異常症=>糖尿病」であった(2017年度でsupport:4.25%、confidence:41.59%、lift:3.77)。本研究から生活習慣病、特に高血圧、糖尿病、脂質異常症および虚血性心疾患、脳血管疾患における強い共存関係が明らかになった。単年度ごとの解析は実施できたが、時系列的な追跡による解析実施が遅れている。今後は時系列的なデータの結合を行い、また健康診断結果との突合も進めて、説明変数と結果変数の関連性を解析するための統計モデルを適用する。さらにレセプト記載の傷病名だけでなく、処方薬との照合も行ったうえでの確定的な傷病名を用いた場合の解析を実施する。某企業での2004年度から2014年度までの退職者および家族を対象に、医療機関から提出された診療報酬明細書(レセプト)と健診結果のデータを入手し、それぞれの分析と突合を行った。このうちレセプトデータは2009年度から2014年度までが電子化された状態で入手可能であり、年間あたり約4万5,000件が発行されていた。健診データも2009年度以降について電子化された状態で入手可能であり、年間の受診者数は約2万人であった。この期間で突合された受診者数は年間2万人であった。しかし退職者は在職時と異なり健康診断受診は義務ではないため健診受診率が5割以下と低かった。診療行為マスターファイルとの照合で透析治療の記載があったレセプト抽出したところ、年間あたり141172人が透析治療を受けており、平均年間医療費は500万円を超えていることが明らかとなった。さらに医薬品マスターファイルとの照合を行ったところ、透析患者群は非患者群より経口糖尿病用剤、インスリン注射のいずれも処方率が高かった(2014年度での処方率は31.9%対11.4%)。両群とも経年的に糖尿病薬の処方率が増加しているが、近年は透析患者での経口薬の処方率の増加が顕著であり、透析導入の背景疾患として糖尿病が経年的に増加している傾向が明らかとなった。2009年度の透析利用者で同年度に健康診断を受診した患者は15人と少なかったが、肥満度や肝機能に関しては特徴的な所見は認められなかった。2010年度の突合データから年間総医療費の比較を行うと、飲酒習慣や喫煙習慣を有さない群の方が有する群より高かった。その背景として、高額な医療費につながるような傷病を有する患者は、飲酒や喫煙を抑制しているからと考えられる。他方、肥満度については、高い方が点数も高いことから、肥満がさまざまな疾患の関連要因であることがうかがえる。企業退職者のレセプトデータと健診データの突合は2009年度から2014年度において可能となった。レセプトデータは紙媒体請求を前提に、非正規形式で多様な情報を1件としてまとめた状態であるため、分析のためにはあらかじめ処理を施して加工しておく必要がある。また各医療機関や調剤薬局から患者ひとりついてひと月ごとに1枚づつ作成されるため、ひとりあたりのデータとして集約するためには名寄せなどなかりの段階を踏む必要がある。傷病名、処方薬、診療行為などはすべて記号化されており、最新の公開マスターファイルと照合しながら翻訳する作業も必要なため、解析にいたるにはかなりの事前作業を要することが、遅れの原因となっている。前年度に作成した企業退職者のレセプトデータと健診データを突合して作成されたデータベースの点検と解析を実施した。 | KAKENHI-PROJECT-15H04792 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15H04792 |
レセプト情報と健診情報を統合活用した企業退職者のシームレスな健康管理 | 本人および家族で2009年度健診受診者は12,835名であり、そのうち59%がメタボリックシンドロームの基準に該当した(健診受診時の年齢が40歳未満、高血圧用剤、高脂血症用剤、糖尿病用剤のいずれかの処方がある場合、または各要素の計測値に欠損がある場合は対象から除外した)。この群で翌年度のメタボリックシンドロームの要素数と医療費(平均値、中央値)の間には明らかな関連性が認められた。またこの群で2010年度から2013年度の追跡期間中に新規に血圧降下剤、高脂血症用剤、糖尿病用剤、インスリン注射が処方された場合をエンドポイントとする比例ハザードモデル解析では、開始時(2009年度)のメタボリック要素数と、その後のイベントとの間には有意な関連性が認められた。死因とレセプトの傷病名との間の関連性については、レセプトをさかのぼっても死因と類似する傷病名を突合できない場合が多く見られ、レセプト記載傷病名から死因を推定・予測する方法の精度は高くないと考えられた。国保レセプトと企業退職者の突合は、レセプトの匿名化作業が実施可能となり、両データから成るデータベースの構築が進行しつつある。現時点では、レセプトデータのみの解析作業を行っているが、同世代の2014年国民医療費との比較では、企業退職者で本研究参加に同意が得られた約850名の国保医療費はかなり低いことが明らかとなった。自治体での国保レセプトを用いた企業退職者追跡研究では、毎年イベントを実施して参加者をリクルートするため、その作業には多大な時間とエネルギーを要する。また国保レセプトから対象者を抽出するためには愛知国保連合会から自治体にレセプトデータの提供をうけ、個人情報保護に配慮して第三者による匿名化手続きを依頼しなければならないため、当初の見込みより進展が遅れている。糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病は、しばしば併発することが知られている。本研究では企業健康保険組合加入者のレセプトデータにAssociation Rule Miningを適用し、心血管疾患、慢性腎臓病、およびこれらの発症リスクを高めるとされる生活習慣病のMulti-morbidityについて明らかにすることを目的とした。使用されたデータは、2011年4月-2018年3月までの間にある企業の健康保険組合に加入していた40-59歳の21,051人を含む。対象8疾患(虚血性心疾患、脳血管疾患、心不全、慢性腎臓病、糖尿病、脂質異常症、高血圧性疾患および慢性閉塞性肺疾患)の抽出には国際疾病分類第10版を使用し、抽出は年度ごとに名寄せした。解析にはフリーソフトウェアRのパッケージApriori機能を使用した。過去7年間で全体の加入者数は増加したが、疾患別ではCOPDを除き患者数は減少した。抽出された患者数は脂質異常症が最も多く、CKDが最も少なかった。ARMの結果、7年間を通して11個のルールが共通して抽出された。最もsupportが高いルールは「高血圧=>脂質異常症」であった(2017年度でsupport:10.22%、confidence:56.0%、lift:2.13)。最もconfidenceが高いルールは「高血圧性疾患および糖尿病=>脂質異常症」であった(2017年度でsupport:4.25%、confidence:79.26%、lift:3.02)。最もliftが高いルールは「高血圧性疾患および脂質異常症=>糖尿病」であった(2017年度でsupport:4.25%、confidence:41.59%、lift:3.77)。本研究から生活習慣病、特に高血圧、糖尿病、脂質異常症および虚血性心疾患、脳血管疾患における強い共存関係が明らかになった。単年度ごとの解析は実施できたが、時系列的な追跡による解析実施が遅れている。企業退職者のレセプト情報と健診情報の突合が可能となったため、生活習慣病の発症リスクの評価を実施する。 | KAKENHI-PROJECT-15H04792 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15H04792 |
スリット状ノズルによる超均斉顆粒群の製造法に関する研究 | 従来、顆粒群の製造は噴霧乾燥による場合が多かった。しかしその方法では原理的にみて発生する粒子に高い均斉度を期待することはできない。筆者らは、スリット形状のノズルを用いる、きわめて高い均斉度をもつ液滴群を容易にしかも安定して発生させることのできる均一粒生成法を開発した。本研究はこの新方法の適用により、従来困難視されていた超均斉顆粒群の工業的規模での製造の可能性を探ろうとするものである。昨年度、まず液の大量処理を目的としてノズルを多孔化することを考え、多孔化にともなう均一粒生成特性への影響を調べる実験を行い、詳細に検討を加えた、本年度は乾燥用の小型プラントを試作し、これを用いて実験的に乾燥に関する知見を求めることを計画した。しかし乾燥後に計測しやすい固形になるような液を考えると液は高粘性となり、高粘性液に対しては均一粒化はおろか微粒化法そのものがほとんどない。しかも高粘性液の均一粒製造法は工業的にも実用価値が高いと考えられる。そこで当初計画に並行して新たに考案した衝撃法をもあえて試みた。本報告は3部に分かれる。1.スリット状ノズル法では、(1)多孔化によりノズルプレートやノズルホルダが大型になるためにおこる容積効果は極端な場合を除き少ない。(2)千鳥配置の多孔ノズルではノズル間隔がノズル長さの2倍以上あれば相互干渉はおこらず、1倍では影響が現われる。(3)総合的に本方法が比較的小型かつ小エネルギの装置で目的を達し得ることがわかった。2.(1)衝撃法は高粘性液の数少ない微粒化法のひとつとなり、かつ均一生成法でもある。(2)均一粒発生のパターンは4種である。(3)液の粘性が高いほど均一粒生成領域は低速流、低周波数側に移行する。(4)発生粒数はノズル径を変えることにより調整できる。3.試作した乾燥装置は若干の手直しを経れば実用に供し得る。従来、顆粒群の製造は噴霧乾燥による場合が多かった。しかしその方法では原理的にみて発生する粒子に高い均斉度を期待することはできない。筆者らは、スリット形状のノズルを用いる、きわめて高い均斉度をもつ液滴群を容易にしかも安定して発生させることのできる均一粒生成法を開発した。本研究はこの新方法の適用により、従来困難視されていた超均斉顆粒群の工業的規模での製造の可能性を探ろうとするものである。昨年度、まず液の大量処理を目的としてノズルを多孔化することを考え、多孔化にともなう均一粒生成特性への影響を調べる実験を行い、詳細に検討を加えた、本年度は乾燥用の小型プラントを試作し、これを用いて実験的に乾燥に関する知見を求めることを計画した。しかし乾燥後に計測しやすい固形になるような液を考えると液は高粘性となり、高粘性液に対しては均一粒化はおろか微粒化法そのものがほとんどない。しかも高粘性液の均一粒製造法は工業的にも実用価値が高いと考えられる。そこで当初計画に並行して新たに考案した衝撃法をもあえて試みた。本報告は3部に分かれる。1.スリット状ノズル法では、(1)多孔化によりノズルプレートやノズルホルダが大型になるためにおこる容積効果は極端な場合を除き少ない。(2)千鳥配置の多孔ノズルではノズル間隔がノズル長さの2倍以上あれば相互干渉はおこらず、1倍では影響が現われる。(3)総合的に本方法が比較的小型かつ小エネルギの装置で目的を達し得ることがわかった。2.(1)衝撃法は高粘性液の数少ない微粒化法のひとつとなり、かつ均一生成法でもある。(2)均一粒発生のパターンは4種である。(3)液の粘性が高いほど均一粒生成領域は低速流、低周波数側に移行する。(4)発生粒数はノズル径を変えることにより調整できる。3.試作した乾燥装置は若干の手直しを経れば実用に供し得る。1.多孔ノズルの特性の解明均一粒の量産のために多孔ノズルを用いることとするが,まずその際の干渉効果を確認するため次のことを行なった.(1)ノズル孔の間隔の影響を調べるため,間隔をノズル孔長さの2倍および等倍にとり10孔をうがったノズルプレートを縦横比の異なる3種のノズルに対して試作した.(2)多孔ノズルを用いて実験を行い,液流速と粒子発生周期をパラメータとして均一粒発生領域を調べた.これを基礎研究により判明してした単孔ノズルの場合と比較して次のようなことがわかった.(イ)多孔化にともないノズルプレートやノズルホルダが大型になるために起こる容積効果は均一粒生成領域には影響しない,(ロ)ノズルの仕上り寸法の精度も含む形態上の微妙な違いが均一粒生成領域の広さに影響する.(ハ)ノズル孔が千鳥型に配置されたノズルではノズル間隔がノズル長さの2倍以上あれば相互干渉はおこらず,等倍では影響が現われ均一粒生成領域は狭まる.以上の結果最適ノズルを決定する指針が見出された.またこれらの結果をまとめて国際会議に発表する.(3)追加事項として,これまで不明であった印加音波の強度と発生領域との関係を,自作した亜無響室を用いて明らかにした.120デシベル以上の音圧は不要である,など多くの知見が得られた. | KAKENHI-PROJECT-62550143 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62550143 |
スリット状ノズルによる超均斉顆粒群の製造法に関する研究 | (4)発生液性の蒸発・乾燥による粒径変化を実時間で計測できるレーザ利用の光学式測定システムの試行を完了した.2.小形プラントの設計上の結果を考慮しながら,内部の観察・測定の可能なガラス窓を備えた,縦形熱風乾燥装置を設計した.本研究は、筆者らの開発したスリット形状のノズルを用いる均一液滴群の生成法で得られる極めて高い均斉度を応用して、従来困難視されていた超均斉度顆粒群を工業的規模で製造する可能性を探ろうとするものである。そのために、まず液の大量処理を目的としてノズルを多孔化することを考え、昨年度において、多孔化にともなって予想される均一粒生成特性への影響を調べる実験を行ない、結果は国際会議に発表した。次の本年度の計画は乾燥用の小型プラントを試作し、これを用いて実験的に乾燥に関する知見を得ることであった。しかし乾燥後に計測しやすい固形になるような液を考えると液は高粘性となり、高粘性液に対しては均一滴化はおろか微粒化法そのものがほとんどない。しかも高粘性液の均一粒製造法は工業的にも実用価値が高いと考えられる。そこで当初計画に並行して、新たに考案した衝撃法をもあえて試みた。衝撃法の試験はノズルの横振動にストッパへの衝突による衝撃力を組合せ、流体に極めて大きな外乱を与える方法である。実験の結果次のようなことが明らかとなった。(1)この方法は高粘性液の数少ない微粒化法のひとつとなり、かつ均一粒生成法でもある。(2)均一粒の発生と衝撃周期との関係は4パターンに分類される。(3)液の粘性が高いほど均一粒生成領域は低流速、低周波数側に移行する。(4)発生粒径はノズル径を変えることにより調整できる。乾燥装置の試作と試験計画にしたがい、内径200mm、高さ2500mmの側面観測窓つき縦置円筒型で電熱加熱の熱風式乾燥装置を試作した。試験の結果、滴径約1mmの水滴は装置内を落下中に蒸発消滅することが確かめられた。しかしガス加熱も併用するなどして立上り時間の短縮をはかる、光学式測定系に装置内の空気のゆらぎに対する対策をほどこすなど、手直しが必要で、今後の進展に待ちたい。 | KAKENHI-PROJECT-62550143 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62550143 |
原発事故後を生きる有機農業者の生活再建と地域コミュニティ再生のエスノグラフィー | 本研究の目的は、福島第一原子力発電所事故により生活を根底から破壊された有機農業者の生活再建と地域コミュニティ再生過程に関するフィールドワークにより、モノグラフを作成すると共に、フクシマ後の社会をどう生きるかという課題を被災地だけでなく現代日本社会の問題として捉え直すことにあった。3年間を通して、メインのフィールドは福島県二本松市東和地区で、特にキーパーソンの一人であるSS氏とその家族が暮らす集落のモノグラフを作成した。また、周辺の川俣町、飯舘村、福島市等隣接の市町村、埼玉県内、島根県内での調査も併せて行った。二本松市東和地区は避難指示区域ではなかったが、近隣の市町村は避難指示区域となり、当該地区の住民たちは避難を余儀なくされた。また、自主避難の人々も多数出ている。そうしたさまざまに異なる状況の人々が、時に対立、分断にある事例、また、裁判を通して連帯する事例についても、聞き取りや参与観察を通して明らかにした。避難先の埼玉県内での生活とそれを支える人々との関係も構築されてきたが、生活再建の目途が立った人、立たない人、状況は多様である。2020年のオリンピック・パラリンピックを前に、「復興」のかけ声が大きくなる中、未だに多くの人々の暮らしも地域コミュニティも再建、再生とは言いがたい状況があることが見えにくくなっている。そしてそのことは、被災の当事者たちを深く傷つけている。東和地区は、事故後すぐからの営農再開に向けた動きを作り出すことができた、稀なケースであった。一方、避難指示区域に指定された住民たちはもちろんのこと、区域外においても生活の基盤の破壊に加えて、従来の社会関係をはじめとするソーシャルキャピタルの大半を喪失したことが、その後の営農再開、生活の再建、地域コミュニティの再生をたいへん困難なものにしていることが明らかになった。本研究の目的は、福島第一原子力発電所事故により生活を根底から破壊された有機農業者の生活再建と地域コミュニティ再生過程に関するフィールドワークによりモノグラフを作成すると共に、フクシマ後の社会をどう生きるかという課題を被災地だけでなく現代日本社会の問題として捉え直すことにある。2016年度は、福島県二本松市東和地区で有機農業を暮らしの根本に据えて生きてきた人々に聞き取りを行い、福島の原発事故以前、どのような歴史的・社会的状況下、暮らしを営んでいたのか、事故を境にどのような変化を余儀なくされたのか、その後、人々はどのような選択をし、現在に至っているのかを捉えた。それぞれの家の歴史、個人のライフヒストリー、ムラや地域社会の歴史や運営のしくみ等を通して、山や田畑に根ざした暮らしを成り立たせてきた知恵や工夫とそれを支えるしくみが浮かび上がってきた。また、人々の語りを通して、事故を契機に東和地区以外の隣接市町村あるいは福島県内各地の人々の状況と自身のそれとを常に比較、意識しながら暮らすという視点の転換、また政治や社会への関心の目覚めや高まりといった変化が起きていることもうかがえた。東和地区以外の地域および自治体の住民たちの状況も関連して捉えた。全村避難となった飯舘村の現状と課題、自主避難者たちの状況と全国の支援の様子、東和地区に隣接し避難地区となった川俣町山木屋地区の状況等である。家族、集落がバラバラになる中、各人が自己および相手の状況をどのように認識してきたか、また、つながりを維持するためにどのような努力がなされてきたか、当事者やその支援者による集会等で生の声を聞いた。さまざまな対立や葛藤がどのようなメカニズムで発生しているのかについても情報収集を行った。メインのフィールドとなる福島県二本松市東和地区での調査は、既に東和地区で人的ネットワークを有し、地元からの信頼も厚いジャーナリスト・研究者からの紹介を受けて始めることができた。それによって、話者の紹介をはじめとする様々な便宜を受けることができている。また、お話をうかがった方からさらに他の方をご紹介いただいたり、補足の情報を提供いただいたりするなど、調査は順調に進めることができた。東京都世田谷区内を中心とする調査については、「コミュニティ&オーガニックカフェふくしまオルガン堂下北沢」が2016年3月に閉店となったため、計画変更が生じたが、二本松市東和地区と世田谷区との交流イベント等の調査は行うことができた。また、福島県のアンテナショップの調査を追加することで東和地区だけでなく、福島県全体の現状や課題等の把握ができた。島根県内での調査を2016年度は行えていないが、島根県への移住に関する東京都内でのイベントでの参与観察や情報収集等を通して、震災以降の地方への移住という1つの流れを捉えることができた。以上のことから、若干、当初の計画とは異なることも生じたが、その都度代替策を講じて対応しているため、現在までの進捗状況はおおむね順調と認識している。本研究の目的は、福島第一原子力発電所事故により生活を根底から破壊された有機農業者の生活再建と地域コミュニティ再生過程に関するフィールドワークにより、モノグラフを作成すると共に、フクシマ後の社会をどう生きるかという課題を被災地だけでなく現代日本社会の問題として捉え直すことにある。2017年度は、2016年度に引き続き、メインのフィールドである福島県二本松市東和地区の他、川俣町、飯舘村、福島市等隣接の市町村、埼玉県内、島根県内での調査を進めた。二本松市東和地区は避難指示地区ではなかったが、近隣の市町村は避難指示地区となり、当該地区の住民たちは避難を余儀なくされた。また、自主避難の人々も多数出ている。そうした、さまざまに異なる状況の人々が時に対立、分断にある事例、また、裁判を通して連帯する事例等について、聞き取り調査や参与観察を行った。 | KAKENHI-PROJECT-16K12381 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K12381 |
原発事故後を生きる有機農業者の生活再建と地域コミュニティ再生のエスノグラフィー | 避難先の埼玉県内での生活およびそれを支える人々との関係等を捉える中で、生活再建のめどが立った人から立たない人まで、多様であることも分かった。しかし、それらの状況は「復興」のかけ声の中、かき消され、無視される現実がある。そのこと自体が避難者を深く傷つけている。一方で、福島県内各地においては、2017年3月末の避難指示解除の自治体を中心に、前のめりで復興、地域再生が報じられ、語られている。そのことは、解除地区以外の人々の間でも複雑なものとして受け止められている。最終年度の2018年度では、「根こぎ」、「根っこ」、「生活再建」、「継承」をキーワードに二本松市東和地区のモノグラフ作成を行い、そこに住む人々が対峙する世界を捉えようと思う。メインのフィールドである福島県二本松市東和地区での調査では、初年度の2016年度以降、キーパーソンと思われる人々への聞き取りや参与観察を行ってきた。そして、そこから広がるさまざまなネットワークおよびそれぞれのキーパーソンとのつながり等も捉えることができた。当初予想していたよりも、はるかに広く、多様な人々がつながり、さまざまな活動に取り組み、暮らしていることが分かってきた。島根県内での調査からは、移住先に少しずつ根を下ろしている人々と移住先の地域住民との相互作用の蓄積が新たなムラおよび暮らしのあり方を創出していることがうかがえた。勤務先がレンタカー使用を認めていないため、調査地での機動性が大きく制約されており、そのことが問題ではある。それ以外は特に大きな障害はない。本研究の目的は、福島第一原子力発電所事故により生活を根底から破壊された有機農業者の生活再建と地域コミュニティ再生過程に関するフィールドワークにより、モノグラフを作成すると共に、フクシマ後の社会をどう生きるかという課題を被災地だけでなく現代日本社会の問題として捉え直すことにあった。3年間を通して、メインのフィールドは福島県二本松市東和地区で、特にキーパーソンの一人であるSS氏とその家族が暮らす集落のモノグラフを作成した。また、周辺の川俣町、飯舘村、福島市等隣接の市町村、埼玉県内、島根県内での調査も併せて行った。二本松市東和地区は避難指示区域ではなかったが、近隣の市町村は避難指示区域となり、当該地区の住民たちは避難を余儀なくされた。また、自主避難の人々も多数出ている。そうしたさまざまに異なる状況の人々が、時に対立、分断にある事例、また、裁判を通して連帯する事例についても、聞き取りや参与観察を通して明らかにした。避難先の埼玉県内での生活とそれを支える人々との関係も構築されてきたが、生活再建の目途が立った人、立たない人、状況は多様である。2020年のオリンピック・パラリンピックを前に、「復興」のかけ声が大きくなる中、未だに多くの人々の暮らしも地域コミュニティも再建、再生とは言いがたい状況があることが見えにくくなっている。そしてそのことは、被災の当事者たちを深く傷つけている。東和地区は、事故後すぐからの営農再開に向けた動きを作り出すことができた、稀なケースであった。 | KAKENHI-PROJECT-16K12381 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K12381 |
ソーラー・シーオアシスの開発 | 内湾域で夏期に発生する底層貧酸素化現象を改善するための方法を検討した.表層の高酸素水を底層に導入する方法と高密度の底層水をくみ上げ,マイクロバブルを添加して,再度底層付近に注入する方法を試みた.後者により,底層付近の溶存酸素濃度を上昇させることができた.内湾域で夏期に発生する底層貧酸素化現象を改善するための方法を検討した.表層の高酸素水を底層に導入する方法と高密度の底層水をくみ上げ,マイクロバブルを添加して,再度底層付近に注入する方法を試みた.後者により,底層付近の溶存酸素濃度を上昇させることができた.夏期の底層貧酸素化による底生生物の死滅を防止するために,東京海洋大学品川キャンパス内の係船場の海底の狭い区域を囲い,内部の溶存酸素濃度を高く保つための装置(シーオアシス)を作成し囲いの内外の水質および底泥環境のモニタリングを行った。まず,囲いの内部に表層の高酸素水を注入する装置を開発し,連続運転した結果,囲い内の溶存酸素濃度は周囲より高く,また底泥の硫化物濃度は周囲より低くなるなどの効果が得られた。しかし,係船場では表層水の密度が底層水のそれに比べて極めて小さく、囲いの内部で混合された酸素濃度の高い海水は速やかに上昇するため,有効区域を拡大して実用化することは難しいこと,また表層水の溶存酸素濃度が低下する時期があり,効果の得られないことがあることが分かった。そこで,密度の高い底層水をくみ上げてマイクロバブルを添加し,囲いの内部に注入する装置を設置し,周囲の溶存酸素濃度を測定して両者の比較を行った。後者では,酸素の溶け込んだ海水が囲いの内部だけではなく周囲の底層付近にも滞留することが明らかとなったため,囲いを広げても効果を維持できることが示唆された。一方,使用したマイクロバブル発生装置では,空気の注入量を増すと大きなバブルが発生し,海水が連行して上昇するため,高酸素水が底層に滞留しにくくなることが明らかとなった。このため,均質で小さなバブルを作るために最適な空気注入量を求めることが今後の課題であることが判明した。密度成層の強い汽水域においては,夏期に底層が貧酸素化して底生生物が死滅する。この現象を改善するための方法を開発するため,東京海洋大学品川キャンパス内の係船場において,海底付近の高塩分(高密度)の海水をポンプでくみ上げマイクロバブルを添加して再度海底付近に戻すことによる溶存酸素の上昇効果を調べた。予備実験では,海水流量約14L min^<-1>に対して,空気注入量を0.2L min^<-1>とした場合に最もバブル径が小さくなることが,ビデオ画像解析により観察されたことから,この条件で現場実験を行った。バブル発生ノズルを海底直上約30cmに位置するように設置し,周囲の溶存酸素の上昇を調べた結果,ノズル付近では溶存酸素濃度が上昇し,酸素濃度の上昇した海水は水平方向に広がる様子が観察された。この効果を確かめるため,バブル発生装置の周囲を直径125cm,高さ3mのビニール製の囲いで仕切って実験を行ったところ,バブルに連行して海水が上方に移動することはなく,高酸素水は底層にとどまったことから,マイクロバブル内の酸素は効率よく海水に溶け込むことが明らかとなった。発生装置運転中は海底直上水の溶存酸素濃度は約2mg L^<-1>上昇したが,この効果は運転停止後1日以内に見られなくなることから,溶存酸素は海水中の有機物により速やかに消費されたと考えられる。今回使用した,マイクロバブル発生装置用のポンプは250Wの小規模のものであったため,今後装置を大型化して研究を継続する予定である。 | KAKENHI-PROJECT-19580202 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19580202 |
西太平洋における中新世温暖期貝類相の古生物学的・地球化学的研究 | 中新世温暖期における日本と東南アジア(フィリピン・インドネシア)の貝類化石群の比較を行い,当時の海洋生物地理と海洋気候の検討を行った.その結果,日本と東南アジアには共通種は存在するもののその割合は非常に低く(5%以下),それぞれは独自の生物地理区を形成していたと考えられる.その数少ない共通種であるMelongena lainei系列の地理的分布の時代的変遷を明らかにした.MMCO期の二枚貝化石殻の同位体分析に基づく古水温推定は今後の課題として残された.中新世温暖期における日本と東南アジア(フィリピン・インドネシア)の貝類化石群の比較を行い,当時の海洋生物地理と海洋気候の検討を行った.その結果,日本と東南アジアには共通種は存在するもののその割合は非常に低く(5%以下),それぞれは独自の生物地理区を形成していたと考えられる.その数少ない共通種であるMelongena lainei系列の地理的分布の時代的変遷を明らかにした.MMCO期の二枚貝化石殻の同位体分析に基づく古水温推定は今後の課題として残された.中期中新世初期(約1700-1600万年前)の温暖期には日本列島の大部分が熱帯亜熱帯海洋気候であったとする考えが定説となっている.その根拠となっているのはビカリアなどの特徴的な南方系化石の分布であるが,一方でこれとは矛盾する証撚も存存する.本研究では,貝類化石の古生物学的・地球化学的解析から,中期中新世温暖期における西太平洋低-高緯度沿岸域の古水淵変動と貝類化石相の比較を行い,海洋古気候と海洋古生物地理区の再評価を行うことを目的としている.本年度はフィリピン・ネグロス島で野外調杳を行い,試料標取を行った.その結果,2つの中新世貝類化石を含む層準を新たに発見し,下位層準にはテチス系要素であるカンムリボラ科腹足類Melongena lainei,上位層準にはインド-西太平洋要素であるフトヘナタリ科腹足類Vicarva callosaがそれぞれ含まれていることを確認した.これらはいずれも日本の中期中新世温暖期に産出する種と同種ないし近縁な種であるが,いずれの貝類相とも日本の中期中新世沮暖期のそれとは大きく異なっているが判明した.現在,研究協力者とともに微化石による年代決定を進めるとともに貝類化石相の分析を進めている.化石二枚貝殻による古水温推定の研究では,これまでに採取済みである東北日本(門ノ沢層)産試料のXRD分析を行い,アラゴナイトが保存されていることを確認した.これにより酸素・炭素安定同位体比分析が可能であることが判明した.日本の中期中新世温暖期の地層でアラゴナイトが保存されたカガミガイ類化石が産出するのは非常に稀であり,分析試料として畳重である.本研究では,貝類化石の古生物学的・地球化学的解析から,中期中新世温暖期における西太平洋低-高緯度沿岸域の古水温変動と貝類化石相の比較を行い,海洋古気候と海洋古生物地理区の再評価を行うことを目的としている.本年度はインドネシア・ジャワ島で野外調査を行い,試料採取を行った.その結果,従来ビカリアが報告されている西ジャワのボジョマニック層からフネガイ科二枚貝のAnadara(Hataiarca)亜属が産出することを初めて確認した.本亜属は日本の中期中新世温暖期ではビカリアに伴って多産する干潟群集の重要な要素であるが,これまで東南アジアのビカリアを含む層準からは確実な産出記録がなかったものである.ボジョマニック層の年代についても浮遊性有孔虫化石の検討から中期中新世に限定できることが初めて明らかとなった.ただし,ボジョマニック層の貝類化石は多産せず,保存状態も不良であることから,貝類相の比較ができる試料を得るには至らなかった.前年度,調査したネグロス島のビカリアを含む層準の年代が石灰質ナノ化石により中期中新世である可能性が高いことが明らかとなった.化石二枚貝殻による古水温推定の研究では,東北日本(門ノ沢層)産カガミガイ類の酸素・炭素同位対比分析を開始したものの,サンプリング装置の故障などの理由によりデータを出すことが出来なかった.これについては今後作業を進める予定である.日本の中新世貝類化石群の変遷の概要について日本古生物学会で発表した.フィリピン・インドネシアでの研究成果については今後,発表・論文化を進める予定である. | KAKENHI-PROJECT-22740338 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22740338 |
文体論における下位範疇化の再検討 | 過去の文体理論の基本概念を検証し直し、適当な枠組みに従って体系化することを目的とした本研究は、研究調書に記載した手順に従い、文体論及び関係諸分野の文献の収集、それぞれの文献の基本理念の定義、分類という形で進められた。そして、従来きわめて恣意的な概念・名称の下に分類されていた文体理論を最終的に何を目指して文体分析を行うのかという、「分析の目的」という基準に従って、まず文学的文体論(literary stylistics)、言語学的文体論(linguistic stylistics)、教育的文体論(Pedagogical stylistics)の3つに分けて体系化した(例えば、今まで生成文体論(generative stylistics)や機能文体論(functional stylistics)と呼ばれていた文体理論は、それぞれ生成文法、機能文法という言語理論を文学テクストに応用することを目的とした言語学的文体論ということになる)。また、この過程において、過去の文体研究においてはテクストが出発点かつ終着点であるということ、言い換えれば、テクストは作者が最終的に選んだ最善の言語形式を有しているということが疑うべからざる公理となっていたが、実際にはよりよい書き方の可能性は常に存在しており、ある意図が与えられた場合の、「こちらの書き方の方がより効果的である」という議論の仕方、つまり発信者の意図から出発する修辞学的なアプローチがなされていなかったことが明らかになり、近年盛んになりつつあるcreative writingに応用可能な創作文体論(creative stylistics)を4つ目の下位範疇として提唱した。過去の文体理論の基本概念を検証し直し、適当な枠組みに従って体系化することを目的とした本研究は、研究調書に記載した手順に従い、文体論及び関係諸分野の文献の収集、それぞれの文献の基本理念の定義、分類という形で進められた。そして、従来きわめて恣意的な概念・名称の下に分類されていた文体理論を最終的に何を目指して文体分析を行うのかという、「分析の目的」という基準に従って、まず文学的文体論(literary stylistics)、言語学的文体論(linguistic stylistics)、教育的文体論(Pedagogical stylistics)の3つに分けて体系化した(例えば、今まで生成文体論(generative stylistics)や機能文体論(functional stylistics)と呼ばれていた文体理論は、それぞれ生成文法、機能文法という言語理論を文学テクストに応用することを目的とした言語学的文体論ということになる)。また、この過程において、過去の文体研究においてはテクストが出発点かつ終着点であるということ、言い換えれば、テクストは作者が最終的に選んだ最善の言語形式を有しているということが疑うべからざる公理となっていたが、実際にはよりよい書き方の可能性は常に存在しており、ある意図が与えられた場合の、「こちらの書き方の方がより効果的である」という議論の仕方、つまり発信者の意図から出発する修辞学的なアプローチがなされていなかったことが明らかになり、近年盛んになりつつあるcreative writingに応用可能な創作文体論(creative stylistics)を4つ目の下位範疇として提唱した。 | KAKENHI-PROJECT-05710279 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05710279 |
南アジアにおける赤痢アメーバ症のゲノム疫学および免疫学的コホート研究 | バングラデシュにおいて赤痢アメーバ症のゲノム疫学および免疫学的コホート研究を展開した。研究期間中、生後30ヶ月までの新生児385人より1426検体の下痢便検体が得られた。病原性E. histolyticaに加えて、非病原性E. dispar、病原性が未確定のE. moshkovskiiの検出・同定を試みたところ、4.6%の検体において病原性E. histolyticaが検出され、およそ3%の検体においてはE. moshkovskiiが検出され、同原虫と下痢症との相関関係が認められた。一方、非病原性E. disparは僅か0.4%の検体で検出されるにとどまった。さらに、少なくとも6検体がE. moshkovskii単独感染による下痢と考えられた。以上の研究結果よりE. moshkovskiiが小児下痢症の原因となる病原性アメーバである可能性が示唆された。バングラデシュにおいて赤痢アメーバ症のゲノム疫学および免疫学的コホート研究を展開した。研究期間中、生後30ヶ月までの新生児385人より1426検体の下痢便検体が得られた。病原性E. histolyticaに加えて、非病原性E. dispar、病原性が未確定のE. moshkovskiiの検出・同定を試みたところ、4.6%の検体において病原性E. histolyticaが検出され、およそ3%の検体においてはE. moshkovskiiが検出され、同原虫と下痢症との相関関係が認められた。一方、非病原性E. disparは僅か0.4%の検体で検出されるにとどまった。さらに、少なくとも6検体がE. moshkovskii単独感染による下痢と考えられた。以上の研究結果よりE. moshkovskiiが小児下痢症の原因となる病原性アメーバである可能性が示唆された。赤痢アメーバ症は発展途上国における小児下痢症の主要原因であり、世界中の感染者人口およそ5000万人、同症で毎年10万人の命が失われています。我々は赤痢アメーバ症が蔓延している南アジアにおいて、感染の成立から赤痢アメーバ症の発症・重症化までを規定する宿主因子ならびに病原体の病原性因子の同定を目指して国際的な共同研究を開始しました。具体的には、1.ICDDR,B.(国際下痢症研究センタ、ダッカ、バングラデシュ)で研究の詳細を綿密に打ち合わせ、2.ダッカ市のスラム街Mirpurで保健婦の方々も交えて研究計画の詳細に関する確認を行い、3.コホート集団を設定し、ICDDR,B.の倫理委員会での承認を経て、家屋配置も含めた住民台帳の準備、ICDDR,B.による個人情報の管理・保護をスタートさせました。実際の研究に関しては、現在、追跡している既存の400名のコホート集団のSNPs解析を更に推し進めると共に、新生児を漸次コホート研究の対象に追加してきました。新生児乳幼児の感染と免疫応答の動態を疫学的に捕捉するために最終的には500人の新生児群を追加する予定です。現地の医療スタッフがコホート集団の追跡調査を行っており、下痢・発熱・腹痛・赤痢アメーバの感染などのエピソードに関して経時的に観察・治療を続けています。また、新生児からから血清と末梢血単核球を回収・刺激・上清の保存などを行い、母親から移行する赤痢アメーバのレクチン特異的移行抗体の測定や新生児末梢血単核球の赤痢アメーバに対する自然免疫応答の測定などに備えています。赤痢アメーバ症は発展途上国における小児下痢症の主要原因であり、世界中の感染者人口はおよそ5000万人、同症で毎年10万人の命が失われている。効果的な対策には、赤痢アメーバの感染成立のメカニズムならびに同原虫に対する感染防御機構の理解が不可欠である。我々は赤痢アメーバ症が蔓延している南アジアにおいて、国際的な共同研究を展開し、感染の成立から赤痢アメーバ症の発症・重症化までを規定する宿主因子ならびに病原体の病原性因子の同定を目指している。前述の目的を達成するため、バングラデシュ国際下痢症研究センター(ICDDR,B.)のRashidul Haque博士、Mondal Dinesh博士、ヴァージニア大学のWilliam A.Petri Jr.博士と綿密な打ち合わせを重ね、調査地であるバングラデシュはダッカのスラム街ミルプールにおいて、既存の400名のコホート集団に加えて、新たにコホート研究対象となった400人余りの新生児に関して追跡調査を行い、10年前に同地域で行われた研究に比べて赤痢アメーバの罹患率が低下していることを明らかにした。また出生半年後の乳児から末梢血単核球と血清を回収し、末梢血単核球の赤痢アメーバに対する自然免疫応答を測定(上清中の炎症性サイトカインの量をCytokine Bio-Plexで測定)すると共に、赤痢アメーバのレクチン特異的移行抗体の推移を測定した。次年度以降は、これらデータの詳しい解析に着手すると共に、さらなるコホート研究を継続する予定である。我々はPetri教授やHaque博士らと共にバングラデシュのミルプールでCohort研究に携わり、同研究における免疫学的側面を強化すると共に、スラムの現状に対する理解を深めてきた。赤痢アメーバ症の動物モデルを使用した研究より、病原性が未確定の赤痢アメーバEntamoeba moshkovskiiがCBA/Jの腸管に定着し下痢や粘血便などアメーバ赤痢に典型的な消化管症状を引き起こすことが判明したため、今回、E.moshkovskiiのヒトにおける下痢原性を調査した。 | KAKENHI-PROJECT-20406008 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20406008 |
南アジアにおける赤痢アメーバ症のゲノム疫学および免疫学的コホート研究 | まず、同地域において新たに開始された約400人の新生児・乳児を対象としたBirth Cohort研究において、下痢エピソードとE.histolytica,E.moshkovskii,E.disparの関連性を調査した。すると生後30ヶ月までの小児に認められるアメーバ陽性下痢検体において、E.histolytica陽性検体が約38%、E.moshkovskii陽性検体が約59%、非病原性E.dispar陽性検体が5%であった。同地域での健常者におけるアメーバとしては、非病原性E.disparが最も蔓延していろことから、下痢エピソードとE.histolyticaならびにE.moshkoyskiiの強い関連が示唆された。また、E.moshkovskii陽性検体42例において、下痢を引き起こす可能性のある原虫7種、細菌8種、ウイルス6種などと多重感染している検体を除いたところ、少なくとも6検体では、E.moshkovskiiのみが陽性であり、病原性E.histolyticaに加えて、ヒトにおいてもE.moshkoyskiiも病原性を有することが強く示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-20406008 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20406008 |
農村生活環境整備の経済評価と生活圏重視の農村整備に関する研究 | わが国農政に求められているのは、将来にわたって国民生活及び経済に安定的な役割を果たすことはもとより、農村地域における自然的、社会的諸条件等を考慮する中で農業の生産基盤整備やこれと密接に関連を持つ農村生活環境の整備を総合的に実施し併せて都市と農村の交流促進のための条件整備を図りながら活力ある農村地域を発展させることが重要な課題となっている。具体的な農政施策として農村生活環境整備事業の実施では、これまで定住促進、地域活性化、景観形成等の直接的な効果以外に地域にもたらした様々な波及的効果が生み出されていると云われているが、実際にはこれらの効果を適切に測定・評価していないのが現状である。そこで、本研究では、農村生活環境整備事業がもたらす質的・量的な側面を包含する多面的効果をマクロ計量経済モデルによるシミュレーション分析を通じて実際に計測し、政策評価を行った。また、農村地域の計画的な整備の促進、有効な事業の実施手法を検討するために実態調査を行い、今後の農村地域の活性化戦略に向けた総合的、計画的な整備のあり方や地域資源の有効活用による地域づくりを実現するための各種施策を提言した。計量分析並びに実態調査の結果、(1)農村生活の質の向上を意図する当該整備は、農地のスプロール的改廃の抑制を通じて耕地面積、作付面積を増加、農業部門の投資・生産、分配面へプラス効果。(2)非農業部門に対しては、住環境整備による新規住宅需要の創出や建設・不動産等関連産業への誘発、さらに3次産業及び消費需要への効果や経済効率が高い。また、農村生活環境整備に関連した事業として、農村地域での有機性資源の堆肥化・資源化に向けた協働による地域環境創造事業(例えば、生ゴミの堆肥化処理委託事業等)は、社会的便益評価の観点から経済的合理性を十分に有することが確認された。わが国農政に求められているのは、将来にわたって国民生活及び経済に安定的な役割を果たすことはもとより、農村地域における自然的、社会的諸条件等を考慮する中で農業の生産基盤整備やこれと密接に関連を持つ農村生活環境の整備を総合的に実施し併せて都市と農村の交流促進のための条件整備を図りながら活力ある農村地域を発展させることが重要な課題となっている。具体的な農政施策として農村生活環境整備事業の実施では、これまで定住促進、地域活性化、景観形成等の直接的な効果以外に地域にもたらした様々な波及的効果が生み出されていると云われているが、実際にはこれらの効果を適切に測定・評価していないのが現状である。そこで、本研究では、農村生活環境整備事業がもたらす質的・量的な側面を包含する多面的効果をマクロ計量経済モデルによるシミュレーション分析を通じて実際に計測し、政策評価を行った。また、農村地域の計画的な整備の促進、有効な事業の実施手法を検討するために実態調査を行い、今後の農村地域の活性化戦略に向けた総合的、計画的な整備のあり方や地域資源の有効活用による地域づくりを実現するための各種施策を提言した。計量分析並びに実態調査の結果、(1)農村生活の質の向上を意図する当該整備は、農地のスプロール的改廃の抑制を通じて耕地面積、作付面積を増加、農業部門の投資・生産、分配面へプラス効果。(2)非農業部門に対しては、住環境整備による新規住宅需要の創出や建設・不動産等関連産業への誘発、さらに3次産業及び消費需要への効果や経済効率が高い。また、農村生活環境整備に関連した事業として、農村地域での有機性資源の堆肥化・資源化に向けた協働による地域環境創造事業(例えば、生ゴミの堆肥化処理委託事業等)は、社会的便益評価の観点から経済的合理性を十分に有することが確認された。本研究は、農村生活環境整備事業がもたらす質的・量的な側面を包含する多面的効果を可能な限りモデル化し得る有効なシミュレータを構築し、実際にこれらの効果を適切に把握し評価を行い、今後の農村地域の活性化戦略に向けた総合的、計画的な整備のあり方や地域資源の有効活用による地域づくりを実現するための各種施策を提言するものである。初年度である本年度は、農村生活環境整備事業の効果測定の基本的な考え方の検討するとともに、併せて理論モデルの定式化に関して検討を行った。具体的に本年度実施した内容は以下の通りである。1)農村生活環境基盤整備事業の実施による地域及び地域住民に与える影響について、主に北海道の十勝エリア、斜網根釧エリアの農村部、また、札幌圏を中心とした都市部それぞれについてヒアリング調査を実施した。2)ヒアリング調査の結果を踏まえ、生活環境基盤整備事業の効果計測に必要な基礎データの収集と具体的に計量モデルを構築するための公表統計データの抽出・整理を行った。3)本年度は、農村生活基盤事業がもたらす農業生産・農家経済構造、非農業・国民経済全体への相互依存関係について、その波及構造を考慮し得る全体構造を理論モデルにより構築した。4)都市部と農村部との混住社会化の進展を考慮し得る効果フローの作成を行うとともに、データ収集、理論モデルの構築を行った。以上、今年度の中間的な成果を踏まえながら、次年度では、構築した理論モデルに従って、具体的な計量モデルを定式化するとともに、シミュレーションによる効果分析を実施する。併せて、生活の質やアメニティといった質的指標の検討や全体として農村環境を評価する手法の検討を加え、具体的な政策評価と提言を行うものである。 | KAKENHI-PROJECT-13660226 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13660226 |
農村生活環境整備の経済評価と生活圏重視の農村整備に関する研究 | わが国農政に求められているのは、将来にわたって国民生活及び経済に安定的な役割を果たすことはもとより、農村地域における自然的、社会的諸条件等を考慮する中で農業の生産基盤整備やこれと密接に関連を持つ農村生活環境の整備を総合的に実施し併せて都市と農村の交流促進のための条件整備を図りながら活力ある農村地域を発展させることが重要な課題となっている。具体的な農政施策として農村生活環境整備事業の実施では、これまで定住促進、地域活性化、景観形成等の直接的な効果以外に地域にもたらした様々な波及的効果が生み出されていると云われているが、実際にはこれらの効果を適切に測定・評価していないのが現状である。そこで、本研究では、農村生活環境整備事業がもたらす質的・量的な側面を包含する多面的効果をマクロ計量経済モデルによるシミュレーション分析を通じて実際に計測し、政策評価を行った。また、農村地域の計画的な整備の促進、有効な事業の実施手法を検討するために実態調査を行い、今後の農村地域の活性化戦略に向けた総合的、計画的な整備のあり方や地域資源の有効活用による地域づくりを実現するための各種施策を提言した。計量分析並びに実態調査の結果、(1)農村生活の質の向上を意図する当該整備は、農地のスプロール的改廃の抑制を通じて耕地面積、作付面積を増加、農業部門の投資・生産、分配面へプラス効果。(2)非農業部門に対しては、住環境整備による新規住宅需要の創出や建設・不動産等関連産業への誘発、さらに3次産業及び消費需要への効果や経済効率が高い。また、農村生活環境整備に関連した事業として、農村地域での有機性資源の堆肥化・資源化に向けた協働による地域環境創造事業(例えば、生ゴミの堆肥化処理委託事業等)は、社会的便益評価の観点から経済的合理性を十分に有することが確認された。 | KAKENHI-PROJECT-13660226 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13660226 |
自己修復機能を有する多孔性ソフトマテリアルの創出 | ナノサイズ空間を有する分子である金属錯体多面体(MOP)を用い、自己集合化プロセスを制御することで、多孔性を有するソフトマテリアル(ゲルやコロイド粒子)を合成する研究は、空間機能と材料物性の相関という基礎的研究に加えて、空間材料のプロセッシングといった応用研究への展開にむけて大変重要である。本研究では、これまでの多孔性材料では達成できなかった自己修復能の発現を目指す。課題としては、(1)MOP表面の事後修飾による可逆的結合サイトの導入、(2)超分子重合によるゲル化、(3)自己修復能評価と(2)へのフィードバック、(4)多孔性ゲルの機能評価を行う。ナノサイズ空間を有する分子である金属錯体多面体(MOP)を用い、自己集合化プロセスを制御することで、多孔性を有するソフトマテリアル(ゲルやコロイド粒子)を合成する研究は、空間機能と材料物性の相関という基礎的研究に加えて、空間材料のプロセッシングといった応用研究への展開にむけて大変重要である。本研究では、これまでの多孔性材料では達成できなかった自己修復能の発現を目指す。課題としては、(1)MOP表面の事後修飾による可逆的結合サイトの導入、(2)超分子重合によるゲル化、(3)自己修復能評価と(2)へのフィードバック、(4)多孔性ゲルの機能評価を行う。 | KAKENHI-PROJECT-19F19376 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19F19376 |
新世代光ネットワーク基盤におけるコンテンツベース交換方式 | 光回線/光パケット/光バースト交換網などの将来ネットワークに対し、それらをコンテンツ転送という視点から統一的に扱うことが可能な新たな光・電気融合ネットワーク基盤を提案し、拡張設計を行った上で・仕様を作成した。全光の交換処理ではなく、特定の中継ノードで光電変換を伴うトランスルーセント(半透明)な光ネットワークにおいて、転送コンテンツのサイズと各中継ノードにおける波長・メモリなどのネットワーク資源の利用状況に基づき光電変換処理及び蓄積転送処理を行うべき必要最低限の中継点を自律的に決定する制御を確立し、そのシグナリング規律を拡張設計した。シミュレーション評価により性能改善効果を明らかにした。最終目標である新世代光ネットワーク基盤におけるコンテンツベース交換方式の確立に向けて、平成24年度は、前年度の基礎評価の結果、問題となっていた中継トラヒックとアクセス部からの入力トラヒックが混在するため、長距離パスの特性が大きく劣化する問題に対応するため、波長資源の優先利用領域を確保する方式を導入した。次に、前年度では、コンテンツのサイズに応じて、ブロッキング特性や遅延特性に大きな違いがでることから、サイズに応じた異なるシグナリング方式を検討・評価してきたが、根本的な問題として、サイズ境界をどのように決定するかという方針が確定しない。そこで、シグナリング方式を統一化するため、絶対的なサイズによる判定ではなく、基本的に経路上の波長資源とノード内メモリ資源の空き状況に応じて特定サイズのコンテンツの伝送要求をLarge用として扱うか、Small用として扱うかを適応的に判断する方式を提案した。途中で資源が不足した場合などの各ケースに対して網羅的にシグナリング手順を規定した。性能評価のためには大幅なシミュレータ改良を伴うことが自明であったため、平成24年度は入念な仕様の策定と、性能評価が可能なOmnet++を利用した計算機シミュレータの構築に専念した。また、詳細に規定できていなかった、アクセス部における、コンテンツ転送要求が不可能であった場合の再試行の方式や複数の転送要求のスケジューリング機構の方式を検討し、具体的な手順を明確化した。本研究では,様々な種類の大容量通信を伝送・交換することができる将来のネットワークアーキテクチャの確立を目的として,これまで個別に研究開発が進められてきた光回線交換網,光パケット交換網,光バースト交換網などの将来ネットワークに対し,それらをコンテンツ転送という視点から統一的に扱うことが可能な新たな光・電気融合ネットワーク基盤を提案し,継続して詳細設計を行った.全光の交換処理ではなく,特定の中継ノードで光電変換を伴うトランスルーセント(半透明)な光ネットワークにおいて,転送コンテンツのサイズと各中継ノードにおける波長・メモリなどのネットワーク資源の利用状況に基づき,光電変換処理及び蓄積転送処理を行うべき必要最低限の中継点を自律的に決定する制御を確立し,そのシグナリング規律を詳細に設計した.さまざまな条件におけるシグナリングを網羅的に抽出し,適切な手続きを明確化した.また,計算機シミュレーションによる性能評価を通して,各種交換原理を統一化した提案方式により,コネクションの接続成功率が向上することを定量的に明らかにした.転送対象である情報(コンテンツ)を一体として伝送するという斬新な原理を導入し,情報転送の単位をパケット,部分ファイル,完全ファイル,複数ファイル集合など,任意に設定可能とすることにより,従来のTCP/IPネットワークにおける情報の細断に伴う不到達問題や順序逆転問題,部分再送問題などの複雑性を原理的に解消できることを示唆した.送受信ノード間距離が離れた通信に対して,特に接続成功率が低下するという接続品質の不公平性問題に対し,優先利用波長領域を導入し,適応的にその優先領域を変更することにより,長距離大容量伝送の要求に対する接続成功率を向上させ,公平な接続品質を達成した.光回線/光パケット/光バースト交換網などの将来ネットワークに対し、それらをコンテンツ転送という視点から統一的に扱うことが可能な新たな光・電気融合ネットワーク基盤を提案し、拡張設計を行った上で・仕様を作成した。全光の交換処理ではなく、特定の中継ノードで光電変換を伴うトランスルーセント(半透明)な光ネットワークにおいて、転送コンテンツのサイズと各中継ノードにおける波長・メモリなどのネットワーク資源の利用状況に基づき光電変換処理及び蓄積転送処理を行うべき必要最低限の中継点を自律的に決定する制御を確立し、そのシグナリング規律を拡張設計した。シミュレーション評価により性能改善効果を明らかにした。最終目標である新世代光ネットワーク基盤におけるコンテンツベース交換方式の確立に向けて、平成23年度は、基本方式や原理の詳細化を行い、基本特性の基礎評価を行った。具体的な成果は以下のとおりである。まず、詳細なシグナリングプロトコルを設計した。コンテンツ転送に先立ちシグナリングプロトコルによりメモリ確保や波長リンクの予約を行う必要がある。上記の物理資源を確保できない場合にコンテンツ交換ノードでの大容量蓄積部での蓄積を遂行する。いくつかのアプローチでシグナリング手順を検討した結果、メモリ資源の容量や往復の信号伝搬遅延に対し相対的に大きなコンテンツと小さなコンテンツでシグナリング手順を変更すべきであると判断し、適切な基本提案方式を規定することができた。また、ノードの構成法に関して詳細な検討を行い、入出力側のインタフェースカードに対し、交換部を光交換部と電気交換部を並列に配置し、光カットスルーと電気蓄積交換とを資源予約処理の状況に応じて自在に切り替えることが可能なコアの交換ノードアーキテクチャを採用することとした。これにより、全光伝送交換の高速性と電気交換の蓄積能力を適応的に使い分けることが可能となった。次に、計算機上でOmnet++を利用した提案方式のシミュレータを開発した。本シミュレータを用いた基本性能評価を行い、光回線交換とコンテンツベース交換とを転送時間と転送要求の棄却率の面から比較した。 | KAKENHI-PROJECT-23650030 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23650030 |
新世代光ネットワーク基盤におけるコンテンツベース交換方式 | その結果、両方式間で転送時間の大きな差はなく、ホップ数の長い経路の設定要求に対して特に棄却率を大きく改善できることが明らかとなった。様々な種類の大容量通信を伝送・交換することができる将来のネットワークアーキテクチャの確立を目的として、これまで個別に研究開発が進められてきた光回線交換網、光パケット交換網、光バースト交換網などの将来ネットワークに対し、それらをコンテンツ転送という視点から統一的に扱うことが可能な新たな光・電気融合ネットワーク基盤を提案し、拡張設計を行った上で・仕様を作成した。全光の交換処理ではなく、特定の中継ノードで光電変換を伴うトランスルーセント(半透明)な光ネットワークにおいて、転送コンテンツのサイズと各中継ノードにおける波長・メモリなどのネットワーク資源の利用状況に基づき光電変換処理及び蓄積転送処理を行うべき必要最低限の中継点を自律的に決定する制御を確立し、そのシグナリング規律を拡張設計した。様々な条件におけるシグナリングを網羅的に抽出し、適切な手続きを明確化した。また、計算機シミュレーションによる性能評価を通して、各種交換原理を統一した提案方式により、コネクションの成功確率が向上することを定量的に実証した。提案方式の普及問題に着眼し、提案方式を実装した交換機がネットワークコア部に限定的に設置された場合の制御機構を提案・設計し、計算機シミュレーションによりある程度の割合の提案ルータが存在すれば性能向上が見込まれることを実証した。提案方式を経路設定問題について、事前計算型経路候補を全体の負荷バランスを考慮に入れつつ事前に準備する方式をヒューリスティック・メタヒューリスティックの両視点から提案し、その負荷バランス効果を計算機シミュレーションを通して実証した。総合領域-情報学・計算機システム・ネットワーク当初の予定とは異なり、段階を踏んで研究を進めて行くにつれて、新たな課題が浮上したものの、本研究全体における各課題解決の重要度を鑑みて、適切な改良を行うことができている。平成24年度の研究の進捗により、より多様性のある、フレキシブルなネットワーク制御方式が確立できた。本申請課題では、将来の全光ネットワーク基盤と連携可能であるコンテンツ配信指向のフレキシブルなネットワーク基盤のあり方に関して、情報の交換・転送単位を敢えてコンテンツそのものに拡張した「コンテンツベース交換網」という新たなパラダイムを提唱し、技術的課題を抽出するとともに、有効性を定量的に明らかにすることを目的としているが、本目的に対し、新方式を提案し、きわめて詳細に設計を行った。本方式では、経路に沿ったシグナリングを経て適切なコンテンツ交換ノード間で、互いに独立なコンテンツ単位の蓄積・交換・転送を行う。 | KAKENHI-PROJECT-23650030 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23650030 |
結合振動子としての生命システムの自律分散的な機能発現と位相ダイナミクス | 哺乳動物由来の培養細胞の代謝相関と協調による同調的な細胞機能を実験的に研究した。すなわち、ヒト子宮頸がん細胞であるHeLaに抗腫瘍薬を投与しアポトーシスを誘導すると、ある培養条件下でアポトーシス進行が局所的に同期し、巨視的スケールでチューリング様構造を形成することを見い出した。このようにアポトーシスに関わる細胞内シグナル伝達が細胞を超えて相関をもち、何らかの協調機構の存在が示唆されたため、この新奇なパターン形成現象について詳しく調べた。まず細胞からの代謝シグナルを無侵襲的に検出する目的で、昨年度までに構築した極微弱発光測定装置を改良し、検出感度を高めるとともに細胞培養の維持時間を60時間まで延長し、長時間にわたる代謝変動の測定を可能とした。ここで極微弱発光(UPE)とは、細胞内代謝やシグナル伝達において生じるフリーラジカルを起因とする発光現象である。通常状態にある細胞は活性酸素消去系などの作用によりほとんど発光を示さないが、生体防御機構によりフリーラジカル生成量が過剰となると、細胞構成成分の過酸化とともにUPEが増大する。次に、アポトーシスのうちフリーラジカルが関わるシグナル伝達過程に着目し、UPEを用いてアポトーシス動態を詳しく観察した。実験系には抗がん剤(2-ME)による腫瘍細胞(培養細胞)のアポトーシスを用いた。細胞から発生するUPEを高感度計測した。その結果、2-MEを投与しない培養条件では、HeLa細胞はごくわずかのUPEを示すのみであったのに対し、2-MEを投与すると細胞からの発光レベルが有意に上昇した。発光強度は時間的に一定でなく絶えず揺らいだ。一方、同調培養を行ったサンプルに2-MEを投与すると、ほぼ一定の時期に顕著な発光バーストが見いだされた。この発光バーストのタイミングはアポトーシスに伴う細胞形態の変化に先立つため、発光バーストがアポトーシス最終段階のdeath signalではなく、シグナル伝達の比較的上流側の反応過程に依存することが示唆された。ここで発光バーストは細胞内シグナル伝達の細胞間相関を意味するが、このバーストとともにアポトーシス細胞のクラスター構造が観察された。この細胞間協調がマクロスコピック・スケールでのアポトーシスを亢進するものと考えられる。但しこの協調性を担う細胞間シグナル伝達機構は未解決として残された。多細胞システムの結合性・協調性と機能発現の関係を物理的観点から明らかにし、システムの自律分散機構を細胞間引き込みによる組織的ネットワーク形成として記述する為に、細胞を2次元的に分散培養した系における細胞集団の運動(遊走)、分裂増殖などのダイナミクスの時空間相関を調べた。まず培養細胞の2次元位相差像を長時間にわたって継続的に観察するための実験系を構築した。その上で、多細胞性の動物細胞(HeLa)の2次元界面上での運動と増殖をさまざまな生理条件・細胞密度の下で観察した。この細胞は情報伝達チャネルであるギャップ結合を失っているために細胞間の自律的な増殖調節機構が機能しない。それにも関わらず、細胞運動や分裂サイクル位相は、局所的には同調し、空間的コヒーレンスを示すことが実験的に分かった。またこのコヒーレンスは細胞同士が互いに接触せずある程度離れていても同様に見られる。このことは、細胞間にはギャップ結合を介さない長距離型の相互作用機構が存在することを示唆するが、この生理的背景はこれまで知られていない。そこで次に、細胞間の代謝活性相関を検出する指標を確立するために、細胞呼吸によって産生する活性酸素に着目した。細胞に備わる活性酸素消去機構によって分解されずに残留する余剰活性酸素は細胞膜や細胞内オルガネラを酸化しDNAに損傷を与えるが、このとき開放される電磁エネルギーが可視波長域のフォトン(極微弱生体発光)として放出される。そこでこのフォトンを超高感度光電子増倍管により検出することで、細胞動態をモニタリングすることができるか否かを実験的に検討した。その結果、細胞の代謝活性はフォトン発光量と相関があることが分かった。この検出法を用いて細胞の運動状態による代謝活性を計測したところ、多数の細胞が同調して増殖する場合とランダムに増殖する場合には、発生するフォトン量に有意な差異が見られた。すなわち細胞間の位相分布が、系全体の代謝活性量に反映することが明らかになった。これらの発見は細胞間相互作用とマクロスコピックな多細胞システムの代謝機能との連関を示すものであり、新しいタイプの細胞結合機構が系全体の代謝レベルを制御していると推測される。これについて今後さらに詳しく調べる予定である。多細胞システムにおける代謝制御の細胞間相関の一端を明らかにする目的で、アポトーシスのシグナル伝達過程に関与するフリーラジカルに着目し、極微弱生体発光によるモニタリングを試みた。ヒト子宮頚癌由来の株化細胞であるHeLaを分散培養し、有糸分裂を阻害してアポトーシスを誘導する2-メトキシエストラジオール(2-ME)を加え、細胞集団としてのアポトーシスの経過進行を観察した。その結果、細胞密度が低いときはアポトーシスに細胞間相関は見られず、ある一定の割合で細胞ごとに独立してアポトーシスを起こした。一方で細胞密度がある値を超えて高くなると、以下のような集団的効果が現れた。すなわち、(1)アポトーシス誘導が細胞間で協調的に起こり、(2)集団全体としてのアポトーシス発生率が格段に増大した。またこの際に、(3)一過的で強い発光が、ある決まった時刻(細胞死の46時間前)に観察された。 | KAKENHI-PROJECT-16740243 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16740243 |
結合振動子としての生命システムの自律分散的な機能発現と位相ダイナミクス | なお、極微弱発光が観察されるのは細胞周期におけるG2/M期であり、細胞質と染色体の複製が終わって細胞が球状に膨張した状態である。したがって発光に現れる細胞間相関はアポトーシス実行段階における細胞質を介した情報伝達ではなく、それ以前のアポトーシス決定段階における高効率の細胞間シグナル伝達によって成される。このシグナル因子は同定されていないが、非常に高速で隣接する細胞に伝達し機能を発現する因子であると推測される。今回見い出した現象が細胞密度に依存することから、細胞間相互作用に対して臨界的な細胞密度が存在し、これを超えると時間的・空間的な細胞間相関が顕著となって集団的なアポトーシスが起こったものと考えられる。したがってこの現象を支配する相互作用の因子を同定することで、アポトーシスや制癌作用の効率、ならびに制癌剤等の薬効を高めることができると期待される。哺乳動物由来の培養細胞の代謝相関と協調による同調的な細胞機能を実験的に研究した。すなわち、ヒト子宮頸がん細胞であるHeLaに抗腫瘍薬を投与しアポトーシスを誘導すると、ある培養条件下でアポトーシス進行が局所的に同期し、巨視的スケールでチューリング様構造を形成することを見い出した。このようにアポトーシスに関わる細胞内シグナル伝達が細胞を超えて相関をもち、何らかの協調機構の存在が示唆されたため、この新奇なパターン形成現象について詳しく調べた。まず細胞からの代謝シグナルを無侵襲的に検出する目的で、昨年度までに構築した極微弱発光測定装置を改良し、検出感度を高めるとともに細胞培養の維持時間を60時間まで延長し、長時間にわたる代謝変動の測定を可能とした。ここで極微弱発光(UPE)とは、細胞内代謝やシグナル伝達において生じるフリーラジカルを起因とする発光現象である。通常状態にある細胞は活性酸素消去系などの作用によりほとんど発光を示さないが、生体防御機構によりフリーラジカル生成量が過剰となると、細胞構成成分の過酸化とともにUPEが増大する。次に、アポトーシスのうちフリーラジカルが関わるシグナル伝達過程に着目し、UPEを用いてアポトーシス動態を詳しく観察した。実験系には抗がん剤(2-ME)による腫瘍細胞(培養細胞)のアポトーシスを用いた。細胞から発生するUPEを高感度計測した。その結果、2-MEを投与しない培養条件では、HeLa細胞はごくわずかのUPEを示すのみであったのに対し、2-MEを投与すると細胞からの発光レベルが有意に上昇した。発光強度は時間的に一定でなく絶えず揺らいだ。一方、同調培養を行ったサンプルに2-MEを投与すると、ほぼ一定の時期に顕著な発光バーストが見いだされた。この発光バーストのタイミングはアポトーシスに伴う細胞形態の変化に先立つため、発光バーストがアポトーシス最終段階のdeath signalではなく、シグナル伝達の比較的上流側の反応過程に依存することが示唆された。ここで発光バーストは細胞内シグナル伝達の細胞間相関を意味するが、このバーストとともにアポトーシス細胞のクラスター構造が観察された。この細胞間協調がマクロスコピック・スケールでのアポトーシスを亢進するものと考えられる。但しこの協調性を担う細胞間シグナル伝達機構は未解決として残された。 | KAKENHI-PROJECT-16740243 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16740243 |
消化管における上皮細胞増殖因子(EGF)前駆体の生理的、病態的意義に関する研究 | 1.高分子EGFの酵素免疫測定系の調節ヒトEGF前駆体の分子構造中、高分子EGFに相当するアミノ酸配列のうちN末端より858番-873番、952番-969番のペプタイドを合成した。これらを牛血清アルブミンまたはヘモシアニンにカップリングし、えられた4種類の抗原で家兎を免疫し、特異的抗体(γ-グロブリン分画)として858-873抗体(抗体I)、952-969抗体(抗体II)をえた。これら両抗体とすでに所有している抗ヒトEGF抗体をそれぞれ一次抗体、二次抗体とする組み合わせによる各種サンドイッチ型EIA系を調整し、湧永製薬研究所より提供されたヒト高分子EGFをスタンダ-ドとして測定系を検定した。しかし、蛍光強度の最大値は約3倍にとどまり、高分子EGFのEIAの確立には本研究で用いたよりも高分子のペプタイドを合成し検討を進めることの是非を検討中である。2.高分子のEGFの精製健常男性尿からえられた290gの高分子EGF溶出濃縮液(日立化成より提供)を精製し約300ngのヒト高分子EGFをえた。しかし、EIA系の調整には少なくともμg単位の量が必要で、これに要する数千リッタ-の人尿の収集は極めて困難なため高分子EGFの自己精製は不可能と判断した。3.EGFの臓器局在性に関する免疫組織学的検討抗体I、抗体IIを用い、剖検でえられたヒト正常腎臓の血管内膜細胞、尿細管上皮、間質、顎下腺の導管上皮、間質に染色陽性所見がえられ、現在、染色像について高分子EGFであることの同定を検討する一方、他臓器についても染色を進めている。1.高分子EGFの酵素免疫測定系の調節ヒトEGF前駆体の分子構造中、高分子EGFに相当するアミノ酸配列のうちN末端より858番-873番、952番-969番のペプタイドを合成した。これらを牛血清アルブミンまたはヘモシアニンにカップリングし、えられた4種類の抗原で家兎を免疫し、特異的抗体(γ-グロブリン分画)として858-873抗体(抗体I)、952-969抗体(抗体II)をえた。これら両抗体とすでに所有している抗ヒトEGF抗体をそれぞれ一次抗体、二次抗体とする組み合わせによる各種サンドイッチ型EIA系を調整し、湧永製薬研究所より提供されたヒト高分子EGFをスタンダ-ドとして測定系を検定した。しかし、蛍光強度の最大値は約3倍にとどまり、高分子EGFのEIAの確立には本研究で用いたよりも高分子のペプタイドを合成し検討を進めることの是非を検討中である。2.高分子のEGFの精製健常男性尿からえられた290gの高分子EGF溶出濃縮液(日立化成より提供)を精製し約300ngのヒト高分子EGFをえた。しかし、EIA系の調整には少なくともμg単位の量が必要で、これに要する数千リッタ-の人尿の収集は極めて困難なため高分子EGFの自己精製は不可能と判断した。3.EGFの臓器局在性に関する免疫組織学的検討抗体I、抗体IIを用い、剖検でえられたヒト正常腎臓の血管内膜細胞、尿細管上皮、間質、顎下腺の導管上皮、間質に染色陽性所見がえられ、現在、染色像について高分子EGFであることの同定を検討する一方、他臓器についても染色を進めている。1.高分子EGFの精製高分子EGFの尿よりの精製はゲル濾過等によりおこなったが、尿中の高分子EGF濃度は低く、約300ng(ヒトEGF換算)を精製したにすぎなかった。そのため、EGF前駆体EIA系のスタンダードには湧永製薬株式会社より提供された高分子EGF(5μgヒトEGF換算)を使用している。ヒト尿中の高分子EGFは収量が低く、高分子EGF精製には大量スケールの精製法が必要であると考えられた。2.ペプチド合成によるEGF前駆体抗原の合成Bellらによって決定されたEGF前駆体の分子構造中高分子EGFに相当する部分(N末端より828-1023番目)のアミノ酸配列のうち、858-873(分子量1668)、952-969(分子量2099)の2種類のポリペプチドを合成した。(塩野義製薬に合成を依頼)3.抗EGF前駆体抗体の調製及びEIA系の確立合成したペプチドをbovine serum albumin(BSA)をキャリアとして家兎に免疫したところ、858-873,952-969の両ペプチドに対する抗体が得られた。抗体価測定にはimmunablottingとEGF抗体を用いたヘテロEIA法を用いた。これらの抗体(γ-G1b分画)から、それぞれのペプチドにアームスペーサーをつけセファロースに結合させたアフィニティカラムにより、さらに特異的な抗体を単離した。現在この特異抗体を用いEGF前駆体EIA系を調整している。4.免疫組織化学的検討今後、抗EGF前駆体抗体を用い、手術、剖検で得られるヒト唾液腺、消化管組織、膵、肝、腎などを対象にヒト臓器に於けるEGF前駆体あるいは高分子EGFの局在と産生細胞の同定を行う予定である。1.高分子EGFに対するEIA系の調整昨年度報告したように、高分子EGFのアミノ酸配列から2種類のペプタイドを合成し、それに対する抗体(858ー873抗体:抗体I、952ー969抗体:抗体II)を調整した。 | KAKENHI-PROJECT-63480204 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-63480204 |
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