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紫外線照射したチタン製インプラントの免疫応答の解明
今回、光機能化の機序の理解を深めるため、その免疫担当細胞に対する影響を検索した。in vitroでは、光機能化されたチタン上で培養されたマクロファージの分泌するTNF-αは未処理群と比較して減少し、一方でIL-10の分泌は増加することが明らかとなった。動物実験モデルの結果、光機能化されたインプラント表面に付着するM1マクロファージは未処理群と比較して減少することが観察された。本研究の結果は、光機能化によるインプラント表面の改質が免疫担当細胞の挙動に影響することを示唆している。近年の研究で、骨インプラントとして用いられるチタンの生体親和性が継時的に低下するチタンのエイジングが明らかにされ、このチタンのエイジングに対する解決策として光機能化が報告されている。チタンのエイジングは、チタン表面に炭素原子が付着し、表面が疎水性となり、負に荷電した表面となり、その結果生体親和性が低下する現象である。光機能化はエイジングしたチタン表面から効率的に炭素原子が取り除き、超親水性の表面とし、正に荷電した表面とする、紫外線を用いた表面処理である。これまでの研究では、骨芽細胞を光機能化したチタン上で培養した場合、未処理のものと比較して良好な細胞接着と増殖、分化が観察されることが報告されている。しかし、生体内に埋入されたインプラント周囲には骨芽細胞だけでなく多種多様な細胞が存在する。例えば免疫担当細胞は生体にとって異物であるインプラントに対して何らかの反応を示すことは明らかであり、いかに過剰な免疫応答を抑えるかはオッセオインテグレーションの獲得にとって重要な因子である。本研究では、免疫担当細胞の中でも生体内に入った異物を最初に認識するマクロファージに着目し、光機能化の効果を検証することとした。初年度では、in vitroの実験で用いるマクロファージの培養法を確立した。ラット骨髄をMーCSFを含む培地中で培養したところ貪食能を有する細胞が確認された。また、実験に用いるチタンディスクも作製を終えたため、細胞培養実験を行うための体制が整ったといえる。また、培養した細胞から分泌されるサイトカインを計測する計画となっていたが、研究チーム内で慎重なディスカッションを重ねたうえで、測定するサイトカインの種類の決定を行った。その後、実際の測定に使用する実験キットも購入を終えたため、サイトカイン測定に関する準備も体制が整っている。骨インプラントとして用いられるチタンの生体親和性が、経時的に低下するチタンのエイジングが明らかにされ、このチタンのエイジングに対する解決策として光機能化が報告されている。チタンのエイジングは、チタン表面に炭素原子が付着し、表面が疎水性となり、骨に荷電した表面となり。その結果体親和性が低下する現象である。一方、光機能化は、インプラント埋入の直前に特定の波長と強度を有する紫外線をインプラント他に表面に照射する表面改質法である。これまでの研究では、骨芽細胞を光機能化したチタン上で培養した場合、未処理のものと比較して良好な細胞接着と増殖及び分化が観察されていることが報告されている。我々は“光機能化によって改質されたチタンは未処理のチタンと比較して生体に対する異物反応が少なく過剰な免疫応答を起こさない"という仮説のもと、特に初期の免疫応答において重要な役割持つマクロファージに注目して以下の実験をおこなった本年度は、はじめにin vitroの実験系として、骨髄由来マクロファージを未処理と光機能化したそれぞれのチタンディスク上で培養し、24時間後に培養上清中のサイトカインを定量し免疫応答を確認することとした。次にin vivoの実験系として、ラット大腿骨に直径1mm、長径15mmのチタン製ミニインプラントを埋入し、24時間後にインプラント表面に付着したマクロファージを蛍光免疫染色により観察する。in vitro、in vivoの両者を検討した結果、興味深い結果が得られた。はじめにin vitroの実験系として、骨髄由来マクロファージを未処理と光機能化したそれぞれのチタンディスク上で培養し、24時間後に培養上清中のサイトカインを定量した。その結果、光機能化群は未処理のコントロール群と比較して、上清中のProinflammatory cytokineであるTNF-αは優位に少なく、一方でantiinflammatory cytokineであるIL-10は優位に多いという結果が得られた。TNF-αは骨芽細胞の分化を抑制し、破骨細胞の分化を促進するという報告があり、IL-10は治癒を促進する作用があるため、今回得られた二群間の違いはオッセオインテグレーションの獲得において影響を与える可能性がある。次に、in vivoの実験系として、ラット大腿骨に直径1mm、長径15mmのチタン製ミニインプラントを埋入し、24時間後にインプラント表面に付着したマクロファージを蛍光免疫染色により観察した。今回マクロファージを染色するにあたり、roinflammatory cytokineを分泌し炎症を促進させるM1マクロファージとantiinflammatory cytokineを分泌し炎症を抑制するM2マクロフファージを区別するため、それぞれの特異的表面抗原であるCD68とCD163に対するモノクローナル抗体を用いた。その結果、処理のコントロール群と光機能化群の両方でCD68陽性の細胞が確認された。また、CD163陽性細胞に関しては、光機能化群でのみ多くの陽性細胞が確認された。しかし、今回得られた結果はサンプル数が少ないため、さらなる検討が必要である。近年の研究で、骨インプラントとして用いられるチタンの生体親和性が継時的に低下するチタンのエイジングが明らかにされ、このチタンのエイジングに対する解決策として光機能化が報告されている。しかし、光機能化の詳細な機序は解明されていない。
KAKENHI-PROJECT-26462980
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26462980
紫外線照射したチタン製インプラントの免疫応答の解明
免疫担当細胞は生体にとって異物であるインプラントに対して何らかの反応を示すことは明らかであり、いかに過剰な免疫応答を抑えるかはオッセオインテグレーションの獲得にとって重要な因子である。本研究では、免疫担当細胞の中でも生体内に入った異物を最初に認識するマクロファージに着目し、光機能化の効果を検証することとした。すなわち“光機能化によって改質されたチタンは未処理のチタンと比較して生体に対する異物反応が少なく過剰な免疫応答を起こさない"という仮説のもと実験を行った。ラット初代培養骨髄由来マクロファージを用いたin vitroの実験系と、ラット大腿骨にチタン製ミニインプラントを埋入するin vivoの動物実験モデルを用いて、インプラント周囲におけるマクロファージのサブタイプとそれらの細胞から分泌されるサイトカインのプロファイルを検索した。in vitroの実験系では、光機能化されたチタン上で培養されたマクロファージの分泌するTNF-αは未処理群と比較して減少し、一方でIL-10の分泌は増加することが明らかとなった。動物実験モデルを用いた観察の結果、光機能化されたインプラント表面に付着するM1マクロファージは未処理群と比較して減少することが観察された。M2マクロファージについては差が認められなかった。本研究の結果は、光機能化によるインプラント表面の改質が免疫担当細胞の挙動に影響することを示唆している。今回、光機能化の機序の理解を深めるため、その免疫担当細胞に対する影響を検索した。in vitroでは、光機能化されたチタン上で培養されたマクロファージの分泌するTNF-αは未処理群と比較して減少し、一方でIL-10の分泌は増加することが明らかとなった。動物実験モデルの結果、光機能化されたインプラント表面に付着するM1マクロファージは未処理群と比較して減少することが観察された。本研究の結果は、光機能化によるインプラント表面の改質が免疫担当細胞の挙動に影響することを示唆している。これまでの実験でラット骨髄由来マクロファージの培養法を確立した。過去の報告で用いられた方法を参考として、ラット骨髄をMCS-Fを含む培地中で培養いたところ、貪食能を有する骨髄由来マクロファージが誘導された。現在、獲得された細胞を未処理のチタンディスクと光機能化を行ったチタンディスク上で培養し、それぞれの条件でマクロファージから分泌される液性因子(サイトカイン)をサイトカインアレーキットにて計測し、比較検討を行う予定となっている。現在、サイトカインアレーキットの選択と発注を終えている。初年度においては、サイトカインアレーによる解析を終えるはずであったが、マクロファージの分化誘導に用いるMCS-Fの選択やサイトカインアレーキットの選択に当初の計画より時間時間を要してしまい、実験の遂行には若干の遅れが出ている。
KAKENHI-PROJECT-26462980
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26462980
睡眠障害における生体リズム異常の分子メカニズム
ヒトの皮膚切片から培養した細胞内で時計遺伝子の発現リズム(体内時計リズム)を測定し、体内時計リズムの周期がクロノタイプ(朝型夜型)や休日の睡眠習慣(入眠覚醒時刻)と関連した。体内時計リズム周期の長さは個人の生物時計機能を反映している可能性がある。そこで、概日リズム睡眠障害患者を対象として体内時計リズムを測定したところ、概日リズム睡眠障害の一つのサブタイプ患者群では健常者群と変わらないリズム周期長を示したが、異なるサブタイプの患者群では有意に長い周期を示すことが明らかになった。概日リズム睡眠障害は、生物時計機能の異常や不適応から生じていると考えられているが、生体リズム異常の病態を精確に理解し診断するためには、患者個人の生物時計機能を正しく評価することが必要である。生物時計の発振機構には時計遺伝子群の転写・翻訳制御ネットワークが関与しており、その時計機能は中枢である視交叉上核だけでなく他の組織・器官の末梢細胞にも備わっていることから、末梢細胞における時計遺伝子発現リズムを測定することにより、個人の生物時計機能を評価する代用測定法が試みられている。我々は、以前の研究で、健常被験者由来の初代線維芽培養細胞における時計遺伝子発現リズム周期が社会的制約を受けない休日の睡眠時刻ならびに朝型夜型(クロノタイプ)と有意に相関することを示した。本研究では、International Classification of Sleep Disorders (ICSD) 2nd editionに準じた16歳以上の睡眠相後退型およびフリーラン型、また、対照群として睡眠障害をもたない健常者を対象とした。患者群、対照群被験者の背側部に皮膚生検を行い、皮膚小切片から各被験者由来初代線維芽培養細胞を樹立した。得られた培養細胞に、概日リポーター遺伝子を導入し、その後、微弱発光測定装置を用いて培養細胞内の発光量変化を経時的に測定し、発光リズムの特性を決定した。フリーラン型患者群は対照被験者群に比べて周期長に有意な違いが認められたが、睡眠相後退型患者群では認められなかった。このことから、フリーラン型の発症にはリズム周期の変化が一因であること、睡眠相後退型ではリズム周期長は要因とはならない可能性が示唆された。ヒトの皮膚切片から培養した細胞内で時計遺伝子の発現リズム(体内時計リズム)を測定し、体内時計リズムの周期がクロノタイプ(朝型夜型)や休日の睡眠習慣(入眠覚醒時刻)と関連した。体内時計リズム周期の長さは個人の生物時計機能を反映している可能性がある。そこで、概日リズム睡眠障害患者を対象として体内時計リズムを測定したところ、概日リズム睡眠障害の一つのサブタイプ患者群では健常者群と変わらないリズム周期長を示したが、異なるサブタイプの患者群では有意に長い周期を示すことが明らかになった。概日リズム睡眠障害は睡眠覚醒リズム異常を主徴とし、うつ状態など気分障害を併発する。本研究は、概日リズム睡眠障害患者の末梢組織を用いて、生物時計と気分調節の両システムの機能障害に関わる分子メカニズムを検証する。患者および健常被験者の生体組織由来の初代培養細胞系で、1)細胞内の時計遺伝子発現リズムをリアルタイム測定するシステムを利用して、概日リズム睡眠障害に特徴的な生物時計の障害特性を決定する。同システムを用いて、2)生体リズム周期および気分調節の両作用を持つリチウムが時計遺伝子発現リズムに及ぼす影響を明らかにする。ついで、3)Wntシグナル系の阻害が時計遺伝子発現リズムに及ぼすリチウムの効果を修飾するか検証する。これらの課題を通じて、Wntシグナル系が生物時計と気分調節の両システムにどのように関わっているか明らかにする。概日リズム睡眠障害患者および健常対照者を対象として、皮膚生検から樹立した初代線維芽培養細胞を用いて、培養細胞に概日リポーター遺伝子(時計遺伝子プロモーター+ルシフェラーゼ遺伝子)を導入し、各被験者に特有な時計遺伝子発現リズムをリアルタイムに測定し、得られた発光リズムデータから各被験者の概日リズム特性を決定した。患者と健常者の概日リポーター遺伝子発現リズム特性を比較した結果、概日リズム睡眠障害患者は対照被験者に比べてより長いリズム周期を示す傾向が認められた。このことから、概日リズム睡眠障害の発症にリズム周期の延長が関与すること、また、周期以外の生物時計機能障害も関わる可能性が示唆された。概日リズムに異常を伴う代表的な疾患の一つに概日リズム睡眠障害があげられる。睡眠時間帯が著しく前進する睡眠相前進型、反対に、著しく後退する睡眠相後退型、入眠・覚醒時刻が毎日30分から1時間ずつ遅れていくフリーラン型がある。これらの疾患は、生物時計の発振もしくは同調機能の障害により生じると考えられている。概日リズム睡眠障害患者(睡眠相後退型、フリーラン型)からゲノムDNAを収集し、睡眠相後退型182名(男性111名、女性71名;平均年齢26.68 ±9.25)、フリーラン型67名(男性48名、女性19名;平均年齢26.72 ±9.79)までサンプル数を積み増した。まず、一般生活者925名(男性274名、女性651名;朝型245名、中間型594名、夜型86名;平均年齢36.45 ±12.10)に対して時計遺伝子CLOCK、CRY2、NPAS2、PER1、PER2、PER3、TIM上の30SNPのタイピングを行った。そのうち10
KAKENHI-PROJECT-24621015
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24621015
睡眠障害における生体リズム異常の分子メカニズム
SNPの多型頻度と被験者のクロノタイプ(朝型夜型)の関連性を調べたところ、PER3遺伝子のSNP(rs228697)がクロノタイプと有意に関連することが明らかとなった。さらに、睡眠相後退型182名、フリーラン型67名に対して10SNPの多型頻度を決定し、一般生活者925名を対照被験者群としてケース・コントロール関連解析を行った結果、クロノタイプと有意な関連性を示したPER3 SNP(rs228697)がフリーラン型の表現型とも強い関連性を示すことが明らかとなった。この多型によりPER3蛋白864番目のアミノ酸はプロリン(P)もしくはアラニン(A)になる。概日リズムの形成には時計遺伝子・時計蛋白の相互調節が重要な役割を担っていることから、この多型にともなうアミノ酸置換がPER3蛋白機能に何らかの変化を生じ、生物時計機能に違いをもたらしている可能性がある。時計遺伝子PER3は睡眠習慣の個人差やフリーラン型の発症メカニズムを解明する際の有力なターゲットと考えられる。時間生物学概日リズム睡眠障害患者の皮膚生検由来培養細胞内の時計遺伝子発現リズム測定により、患者群の末梢時計機能を評価し、概日リズム睡眠障害患者サブタイプによる時計機能障害の違いが明らかになってきている。個人の生体試料を利用した末梢時計機能評価システムを概日リズム睡眠障害患者に応用し、患者群と健常群由来初代線維芽培養細胞における時計遺伝子発現リズム特性の比較・検証を通じて、患者群の生物時計機能障害特性を明らかにしている。概日リズム睡眠障害患者の時計機能の障害を特定すると同時に、個人の皮膚由来培養細胞系を利用して、リズム調整薬が生物時計に作用する仕組みを明らかにしていく。概日リズム睡眠障害患者および健常対照者における末梢時計機能評価を進め、概日リズム睡眠障害に特徴的な生物時計の障害特性を決定する。末梢時計機能評価システムを利用して、リズム調整剤が時計遺伝子発現リズムにおよぼす影響を明らかにし、その作用系となるシグナルパスウェイを検証する。今年度も個人の生体試料を用いた生物時計機能の評価を重点的に行ったため、必要となる試薬の量や種類が減少し、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、培養細胞実験を行う研究補助の人件費に充当する。所属機関長に研究費の管理および経理の事務を委任するため間接経費として直接経費の30%計上している。本研究遂行に必要な施設・設備・機器等はすべて現存のものを利用するが、細胞培養実験にかかわる物品の多くは消耗品のため、物品費が直接経費の約30%、細胞培養技術を有する研究補助員1名分の人件費・謝金が直接経費の約30%、本研究成果を発表するため国内学会への旅費・参加費を直接経費の約10%計上している。
KAKENHI-PROJECT-24621015
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24621015
ベクトル概念による飽和移動電子スピン共鳴法の開発
電子スピン共鳴法(以下ESR)は近年その測定手法を従来の線形から非線形領域に拡張し、複雑なスピン系の拳動を観測、解析するに到っている。本研究では、飽和現象や高速掃引によって誘発されるスピンの飽和移動ESR信号の非線形性に着目し,このような場合の信号の観測法の確立と機器システムの開発を目的としている。すなわち非線形応答の場合、ESR信号は参照波に対して振幅ばかりか位相にも変化が現れ、それゆえ、観測された信号はベクトル量となる。したがって飽和移動ESRは、ベクトル概念によって、再構成されなければならなくなり,その結果、次に示すようなシステムの構築と研究の成果が得られた。1.位相を連続的に変えることにより、第一と第二高調波信号を自動的に測定可能な信号検波システムを構築した。すなわち、位相可変を行うオートフェーズコントローラーを既存のセカンド・ハーモニック装置に付設し各位相における信号をAD変換器を通して高速データ処理システムに蓄積する。位相を信号として取出するためにS/N比の良い信号とするために加算平均やフーリェ・フィルタリングを用いた。これらの操作を、最低0.1Gaussごとに共鳴磁場を掃引させながら実行する。この時,磁場のディジタル制御が必要となり,自動磁場掃引コントローラを用いてデータ処理システムとオンラインして遂行した。2.ベクトル信号の観測を振幅と位相成分の分離により、又、ベクトル積分によって、正位相と90°位相おくれ成分信号を独立に求めた。すなわちフーリェ級数展開ないし、最小二乗法によって、任意の変調周波数に対する高次高調波の分離を,データ処理システムを併用して実行した。この手法を脂質膜、メト・ヘモグロビン及び電気伝導性高分子に応用し、遅い運動とゆらぎの精密な測定が可能となった。電子スピン共鳴法(以下ESR)は近年その測定手法を従来の線形から非線形領域に拡張し、複雑なスピン系の拳動を観測、解析するに到っている。本研究では、飽和現象や高速掃引によって誘発されるスピンの飽和移動ESR信号の非線形性に着目し,このような場合の信号の観測法の確立と機器システムの開発を目的としている。すなわち非線形応答の場合、ESR信号は参照波に対して振幅ばかりか位相にも変化が現れ、それゆえ、観測された信号はベクトル量となる。したがって飽和移動ESRは、ベクトル概念によって、再構成されなければならなくなり,その結果、次に示すようなシステムの構築と研究の成果が得られた。1.位相を連続的に変えることにより、第一と第二高調波信号を自動的に測定可能な信号検波システムを構築した。すなわち、位相可変を行うオートフェーズコントローラーを既存のセカンド・ハーモニック装置に付設し各位相における信号をAD変換器を通して高速データ処理システムに蓄積する。位相を信号として取出するためにS/N比の良い信号とするために加算平均やフーリェ・フィルタリングを用いた。これらの操作を、最低0.1Gaussごとに共鳴磁場を掃引させながら実行する。この時,磁場のディジタル制御が必要となり,自動磁場掃引コントローラを用いてデータ処理システムとオンラインして遂行した。2.ベクトル信号の観測を振幅と位相成分の分離により、又、ベクトル積分によって、正位相と90°位相おくれ成分信号を独立に求めた。すなわちフーリェ級数展開ないし、最小二乗法によって、任意の変調周波数に対する高次高調波の分離を,データ処理システムを併用して実行した。この手法を脂質膜、メト・ヘモグロビン及び電気伝導性高分子に応用し、遅い運動とゆらぎの精密な測定が可能となった。
KAKENHI-PROJECT-61850001
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-61850001
保育ソーシャルワークに関するカリキュラムデザインと教育システムの研究
本研究では、保護者支援にまつわる現況を調査した上で、保育ソーシャルワークに関するカリキュラムデザインを検討した。その結果、子どもの生活の安定に保護者支援は重要な役割を果たすが、保護者のニーズ全てを満たせば良い訳ではなく、複雑多様な保護者支援に保育者が苦慮する実態が明らかとなった。これに対し、保育者を目指す学生は、保護者支援における保育者の役割やその方法について、子育て支援現場へのフィールド・ワークや実習を通じて理解を深め、保育ソーシャルワークを体得し駆使する重要性を自ら感じ取っていた。こうした意識は、カリキュラムにアクティブ・ラーニングを系統的に活用する事で、さらに深化、継続できると思われる。平成25年9月から12月にかけて、A市内の幼稚園、保育所の保育者9名を対象に、各園で実施されている保護者支援の内容と現状、保護者支援の対応に関する園内の体制等について、半構造化インタビューを行った。その結果、保護者の価値観や考えが多様化し、保育者には様々なクレーム対応に迫られることがあるが、それ以上に、複雑な事情を抱える家庭や人間関係の希薄化が進む保護者への支援に苦慮し、保育者の心理的負担にもつながっていることが明らかとなった。保育者は、こうした保護者の姿が、将来的な側面を含め、子どもの成長過程に影響を与えていることを危惧しているが、子どもを第一義的に考える保育者と、必ずしもそうではない保護者との間には齟齬が生じていた。これらのことから、子どもの生活環境の安定化に保護者支援は重要な役割を果たし、子育て支援サービスの充実は必須の課題ではあるが、その内容については、保護者が保護者としての役割やあり方を見失わないよう慎重に検討していくことの必要性が示唆された。保育者に求められる保護者支援を学生がどのように捉え理解しているか、明らかにすることを目的とし、保育所実習、幼稚園実習を行った学生を対象に、保育現場における保護者支援に関する意識調査(半構造化インタビュー)を行った。その結果、保育所や幼稚園での実習を経験する以前は、「保護者支援」が保育者の業務の一部であると認識しているものの、講義を聴いただけではその内容に具体的なイメージがわきにくいこと、また、「モンスターペアレント」などのイメージが先行し、「自分に対応できるだろうか」という不安や心配が生じることが明らかとなった。しかし、保育所や幼稚園での実習を通し、具体的に保育者と保護者のやり取りや保育者同士の連携を目の当たりにすることで、対応方法にもヒントが得られ、「保護者支援」の内容についての理解が深まるだけでなく、「難しそうだけれど、周りの職員と連携をすれば解決できる問題かもしれない」、「それほどネガティブな業務ではないのかもしれない」という、前向きな印象に変化していた。これらのことより、現場での経験が学生にとっては「百聞は一見にしかず」という価値を与える一方、そこに着目させるためには、実習前の講義のあり方が非常に大きな意味を持つということが明らかとなった。保育士養成課程の学生に対する調査から保育ソーシャルワークに関する意識を明らかにし(学習者ニーズのアセスメント)、保育現場のアセスメント結果と照らし合わせることを目的とし、保育所実習を通して、実習生がどのような場面を保育士と保護者との関わりの必要性が発生した瞬間ととらえ、それに対してどの程度保育士の対応を理解し、そこから何を感じ、何を学び得たかを明らかにするため、調査を行った。調査は、A大学の保育士養成課程に在籍し、20日間の保育所実習を終えた学生を対象とした。実習中印象的だった、保育所における保護者対応の事例について、1いつ、2どこで、3誰(と誰)が何をどうしたか、43に対する保育士の反応、対応、5この事例に関する学生自身の感想、考え、の5項目に対し自由記述で回答を求めた。その結果、保育士が保護者と直接関わる場面や、保育士同士が相談しあう場面から、保護者支援の重要性を捉えていた。具体的には、それらの場面を通じて、保育士や保育所内外の他の専門職との連携、保育士と保護者との連携、保護者への伝え方、受容や傾聴の姿勢、保護者が相談しやすい環境づくり、保護者とのラポール形成の重要性といった、保育ソーシャルワークの主要素を捉えていた。これらのことから、過去の文献によると、保護者支援がどのようなことを指すのか、具体的イメージをもてないまま実習を迎えたり、その方法論について理解やトレーニングが十分でないまま保育士として勤務する学生がいることが指摘されていたが、大学3年次までの学習の積み重ねにより、保育ソーシャルワークの主要素がどの場面で発揮されるのかを認識し、それらの知識、技術を習得する必要性を学生自身が気づき、感じ取れることが示唆された。本研究では、保護者支援にまつわる現況を調査した上で、保育ソーシャルワークに関するカリキュラムデザインを検討した。その結果、子どもの生活の安定に保護者支援は重要な役割を果たすが、保護者のニーズ全てを満たせば良い訳ではなく、複雑多様な保護者支援に保育者が苦慮する実態が明らかとなった。これに対し、保育者を目指す学生は、保護者支援における保育者の役割やその方法について、子育て支援現場へのフィールド・ワークや実習を通じて理解を深め、保育ソーシャルワークを体得し駆使する重要性を自ら感じ取っていた。こうした意識は、カリキュラムにアクティブ・ラーニングを系統的に活用する事で、さらに深化、継続できると思われる。当初の予定通り、保育者を目指す学生に対し、保護者支援、保育ソーシャルワークについての意識調査を行い、実習前、後に取り組んだソーシャルワーク、保護者支援に関する講義(学習)が、どの内容について、どの程度実習と関連して役に立ったか、あるいは意識として残っていたか、明らかにすることができた。
KAKENHI-PROJECT-25870659
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25870659
保育ソーシャルワークに関するカリキュラムデザインと教育システムの研究
現段階では、当初予定していたカリキュラムデザインの検討まで進んでいないが、散在する既存の学習(方法)に対する課題を発見、整理できたため、おおむね順調に進展しているといえる。子ども学今年度のインタビュー調査で明らかになった、保護者支援に関する学習(方法)の課題について改めて精査し、教授方法(アプローチ)の素案を作成し、効率的かつ有用なカリキュラムデザインを検討する。その上で、学習プロセスの展開過程における学生の意識および行動変容に関する調査を実施する予定である。調査方法を、当初予定していたアンケート調査を実施せず、半構造化インタビューをメインとした調査を進めた結果、具体的な事例について聴取できただけでなく、その記録や資料も拝見させて頂くことができ、アンケート調査では知り得ない現況を把握することができた。今後さらにインタビュー数を増やす必要性はあるが、このように、保護者支援に関する過去の文献では得られなかった新たな視点、質の高い知見を得ることができたことから、概ね順調に進展しているといえる。当初、専門知識を提供して頂く予定でいた研究者が本学へ異動となったため、専門知識提供に係る謝金や、知識提供を受けるための旅費を計上する必要がなくなった。その他の専門知識提供を予定していた協力者からも、メール等の方法で教授頂くことができたため、旅費の支出が抑えられた。今後は、保育士養成課程の学生が、保護者支援、保育ソーシャルワークをどのようにとらえ、認識しているか、半構造化インタビューによる意識調査を実施する。特に、大学で「保育相談支援」を履修中の学生、2「保育相談支援」を履修済みで、かつ、保育所実習を終了した学生を対象に意識調査を行う。これらの結果と、昨年度、保育者を対象に半構造化インタビューを行った際に伺った、「保護者支援に際し若い保育者が身につけるべき技術、求められる役割」の回答を照らし合わせ、カリキュラムデザインの検討に役立てる予定である。引き続き保育者、学生へのインタビュー件数を増やすため、インタビュー協力者への謝金にあてる。研究成果の公表方法を、学会発表から論文投稿に変更したため、旅費が削減された。テープ起こしや資料収集等のデータ入力に際し、研究補助の雇用を予定していたが、研究者自身が行えた部分が少なくなかったため、研究補助に関する謝金が削減された。インタビューの件数を増やすため、インタビュー協力者への謝金にあてる。また、得られた音声データのテープ起こしを専門の業者へ依頼する。資料やデータの量も増える為、研究補助者を雇用し、効率的に研究を進める。
KAKENHI-PROJECT-25870659
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25870659
膵、消化管の再生医療を念頭においた組織再生関連遺伝子Regに関する研究
Regenerating gene (Reg)は、損傷された膵臓が再生する過程で誘導される遺伝子としてクローニングされ、膵ラ氏島に対して細胞増殖作用を有し、膵再生関連因子として注目されている。また膵臓だけで無く、消化管粘膜の障害後の再生にもRegが関わっていることが知られている。本研究課題では、7遺伝子で構成されるReg familyのうち、6遺伝子を欠損させたマウスを作製、解析し、Regの本質的な生体内での役割解明を目指す。Regenerating gene (Reg)は、損傷された膵臓が再生する過程で誘導される遺伝子としてクローニングされ、膵ラ氏島に対して細胞増殖作用を有し、膵再生関連因子として注目されている。また膵臓だけで無く、消化管粘膜の障害後の再生にもRegが関わっていることが知られている。本研究課題では、7遺伝子で構成されるReg familyのうち、6遺伝子を欠損させたマウスを作製、解析し、Regの本質的な生体内での役割解明を目指す。
KAKENHI-PROJECT-19K08405
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K08405
ディープラーニングを活用した単一の慣性センサによる競泳パフォーマンス定量化手法
本研究では、競泳競技力の向上を支援するため、ディープラーニングをベースとした競泳コーチングシステムを構築した。本システムでは、ユーザは単一の防水型慣性センサ(加速度・角速度を取得するデバイス)を腰部に装着する。その後、競泳を遂行することで、個別動作単位のパフォーマンスをフィードバックする。具体的には、一つ一つのストローク、ターンに所要した時間を出力する(1回目のストロークは1.2秒、2回目のストロークは1.1秒、ターンは2.3秒要した、など)。これによりユーザは、個別動作単位のパフォーマンスを知ることができるので、自分自身の何回目のストロークが良くなかったのかなど、競泳終了後、即座に把握することができる。本システムには、3つの人工知能が導入されている。1つ目は、泳法を自動判定する人工知能である。これは決定木を弱学習器としたアンサンブル学習の一つであるランダムフォレスト法により実現されている。これによりユーザは、泳法を指定する必要がなくなる。2つ目は、ターンの開始地点と終了地点を検出する人工知能である。これもまた、ランダムフォレスト法により実装されている。これにより、ターンに要した時間を取得することができる。3つ目は、一回一回のストロークの開始および終了タイミングを自動検出する人工知能である。これにより、一回一回の個別のストロークに何秒要したのか把握できる。競泳経験のある大学生にシステムの評価を行なった結果、良好な結果が得られた。本研究の目的は、単一の防水型慣性センサおよび深層学習(ディープラーニング)を活用して、競泳遂行時のパフォーマンスを定量化するシステム、アルゴリズムの構築である。センサはできるだけ小型であることを想定している。また、装着個所は競技者に違和感を与えないために、腰部としている。今年度の成果として、泳法判別、1ストローク開始タイミングの自動検出、ターン開始・終了タイミングを自動検出するアルゴリズムを考案した。泳法判別については、既存研究でみられたバタフライと平泳ぎの混同を解消するため、それらの判別に特化した時間・周波数領域特徴量およびアンサンブル学習(ランダムフォレスト法)を導入することで、全泳法(バタフライ、平泳ぎ、クロール、背泳ぎ)を高精度で判別するアルゴリズムを考案した。1ストローク開始タイミングの自動検出手法として、近年画像処理分野で高い成果を収めている深層学習を活用した。これにより、高精度でストローク動作開始タイミングを推定するアルゴリズムを考案した。ターン検出についても、時間・周波数領域特徴量およびアンサンブル学習を行うことにより、実現した。さらに、1ストロークの所要時間を高精度に把握するアルゴリズムを考案した。今後はより詳細な精度評価を行うとともに、システム化を行っていく。また、速度評価に関する検討も行うとともに、競技者に対し有益なフィードバックを行う手法の開発も行っていきたい。今年度は、慣性センサにより競泳動作の自動判別手法に関する検討を行った。泳法判別およびターン動作の自動検出では、ランダムフォレスト法と時間・周波数領域特徴量を組み合わせることで、高い判別制度を実現した。1ストロークの開始タイミング検出器については、深層学習を活用することで高い精度を実現した。研究を進めている上で、身体動作の個人差(身長、体重、競泳の習熟度など)により、同じ動作を行っていたとしても、慣性センサにより得られる加速度・角速度信号が大幅に異なることがわかった。そのため、身体動作の個人差に対するロバスト性を保有した機械学習の実現方法に関する検討も行っている。これらに関連する成果について、複数回の学会発表を行うとともに、査読付き論文誌への投稿も行った。以上より、本研究課題については、順調に進展している。本研究では、競泳競技力の向上を支援するため、ディープラーニングをベースとした競泳コーチングシステムを構築した。本システムでは、ユーザは単一の防水型慣性センサ(加速度・角速度を取得するデバイス)を腰部に装着する。その後、競泳を遂行することで、個別動作単位のパフォーマンスをフィードバックする。具体的には、一つ一つのストローク、ターンに所要した時間を出力する(1回目のストロークは1.2秒、2回目のストロークは1.1秒、ターンは2.3秒要した、など)。これによりユーザは、個別動作単位のパフォーマンスを知ることができるので、自分自身の何回目のストロークが良くなかったのかなど、競泳終了後、即座に把握することができる。本システムには、3つの人工知能が導入されている。1つ目は、泳法を自動判定する人工知能である。これは決定木を弱学習器としたアンサンブル学習の一つであるランダムフォレスト法により実現されている。これによりユーザは、泳法を指定する必要がなくなる。2つ目は、ターンの開始地点と終了地点を検出する人工知能である。これもまた、ランダムフォレスト法により実装されている。これにより、ターンに要した時間を取得することができる。3つ目は、一回一回のストロークの開始および終了タイミングを自動検出する人工知能である。これにより、一回一回の個別のストロークに何秒要したのか把握できる。競泳経験のある大学生にシステムの評価を行なった結果、良好な結果が得られた。今後は、各種自動判別手法の精度の向上を目指す。具体的には、使用する時間・周波数領域特徴量、分類器、個人差に対する判別精度の安定性を保証させるための方法を新たに検討する(H30年度前期)。また、加速度・角速度信号を速度に変換する手法の開発も進めていくとともに、ユーザービリティが高く、実運用が可能なシステムを構築していく(H30年度後期)。また、H30年度を通して国際会議や国内学会、査読付き論文誌への投稿など、研究成果の公表に努める。
KAKENHI-PROJECT-17K13179
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K13179
活動依存的メカニズムに基づく大脳皮質長距離軸索投射の再建
本研究では脳の代表的な長距離軸索である脳梁軸索の投射をモデルとして、神経活動依存的メカニズムによって軸索投射を再建することを試みた。マウスにおいては、脳梁軸索投射は生後2週で完成する。その期間、脳梁投射細胞の神経活動を抑制すると、軸索投射が途中で障害される。Tet off system、optogeneticsを用いた実験によって、生後10日目以降の特徴的な自発的神経活動パターンが脳梁軸索投射に重要であり、その期間に神経活動を補うことによって軸索投射を回復させることが可能であると示唆された。また、成熟過程にある皮質神経細胞では、各成熟段階に適した神経活動レベル・パターンがあることが示唆された。本研究では、神経活動依存的メカニズムに基づいて大脳皮質の長距離軸索投射を再建する新しい神経再生技術の開発をめざしている。昨年までに、optogeneticsの技術によって発達期のマウス大脳皮質神経細胞に神経活動を誘導する技術を確立し、神経活動誘導によって長距離軸索投射の再建が可能であることを確認した。本年は、いくつかの神経活動パターンや活動誘導の期間を試し、どのような条件が軸索投射の回復に有効かを検証する実験を進めた。具体的には、子宮内電気穿孔法によってchannelrhodopsin2とKir2.1を発現させたマウスの脳にLEDを装着し、生後1ー2週目に2ー4日間、1-20Hzで光照射を行い、脳梁軸索投射の回復を検討した。光照射をしない個体に比べて、照射を行った動物では脳梁軸索の回復が見られたが、正常動物の軸索投射パターンまでの回復は見られなかった。軸索投射の回復が見られる条件で、どのようなパターンの神経活動が生じるかを検証する目的で、子宮内電気穿孔法とtetracycline-controlled gene expression systemを組み合わせて、時期特異的に神経活動を抑制する実験系を確立した。この実験系を用いて、生後10日目以降に神経活動抑制を解除すると、完全な軸索投射の回復が見られた。一方、12日目以降に神経活動抑制を解除すると、軸索投射の回復の程度が徐々に低下した。これらの結果から、生後10ー12日目の大脳皮質で生じている神経活動パターンが軸索投射に関与することが示唆される。その活動パターンが軸索投射の回復に有効であると考えられるため、生後10ー12日目の大脳皮質で生じている神経活動パターンを記録する実験を進めている。本研究では、神経活動依存的メカニズムに基づいて大脳皮質の長距離軸索投射を再建する新しい神経再生技術の開発をめざしている。これまで、子宮内電気穿孔法を用いて、哺乳類大脳皮質の代表的な長距離軸索投射である脳梁軸索の投射パターンを可視化する実験系を確立し、その過程で投射細胞の神経活動を抑制すると、軸索投射が途中で阻害されることを明らかにした。そして、時期特異的に神経活動を制御することを目的に、(a) tet gene expression system、(b) optogeneticsを用いた2つの実験系を確立した。本年度(最終年度)には、前者の実験から、(1)胎生期から生後15日まで脳梁投射細胞の神経活動を抑制すると、その長距離軸索投射が阻害されるが、生後10日以降の神経活動抑制を解除すると、軸索投射は回復すること、(2)神経活動抑制の解除を数日後ろにずらすと、軸索投射の回復は見られなくなること、(3)生後10日以降の神経活動抑制の解除に伴って、この時期に特徴的な自発的同期的ネットワーク神経活動が現れること、を明らかにした。また、後者の実験から、生後11-13日に10Hzの光刺激で人工的に神経活動を誘導すると、軸索投射の部分的な回復が見られるという結果を得た。これらの結果は、生後初期のマウス大脳皮質の長距離軸索投射に、この時期に特徴的な自発的同期的ネットワーク神経活動が重要な役割を担うことを示唆する。さらに、このパターンの神経活動を用いることで、障害された軸索投射を再建することが可能であると示唆された。今後、神経活動依存的メカニズムによる回路の再建が、機能の再建にどの程度寄与するかを検証する研究が期待される。本研究では脳の代表的な長距離軸索である脳梁軸索の投射をモデルとして、神経活動依存的メカニズムによって軸索投射を再建することを試みた。マウスにおいては、脳梁軸索投射は生後2週で完成する。その期間、脳梁投射細胞の神経活動を抑制すると、軸索投射が途中で障害される。Tet off system、optogeneticsを用いた実験によって、生後10日目以降の特徴的な自発的神経活動パターンが脳梁軸索投射に重要であり、その期間に神経活動を補うことによって軸索投射を回復させることが可能であると示唆された。また、成熟過程にある皮質神経細胞では、各成熟段階に適した神経活動レベル・パターンがあることが示唆された。本研究では、神経活動依存的メカニズムに基づいて大脳皮質の長距離軸索投射を再建する新しい神経再生技術の開発をめざしている。子宮内電気穿孔法を用いて神経活動を抑制する分子ツールKir2.1をマウス大脳皮質2/3層興奮性細胞に発現させると、大脳皮質の代表的な長距離軸索投射である脳梁軸索投射が障害されることをすでに報告している(Mizuno et al., JNS 2007)。
KAKENHI-PROJECT-23500388
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23500388
活動依存的メカニズムに基づく大脳皮質長距離軸索投射の再建
本研究では、Kir2.1と同時に光感受性イオンチャネルchannelrhodopsin2(ChR2)を発現させ、生後発達期の大脳皮質に装着したLEDで光刺激を行うことによって、神経活動を補えば障害された軸索投射が回復するか否かを検証する実験を行う。まず、子宮内電気穿孔法によってChR2を皮質2/3層細胞に発現させ、麻酔下で脳表から473nmレーザー光又はLED光刺激を行ったところ、細胞外記録電極にて光刺激に同期した神経細胞の発火が確認された。次に、より大きなcurrentを期待できる変異体ChR2H134Rの使用、蛋白質のより高い発現が期待できるWPRE配列の追加により、より高効率で光刺激に同期した神経発火を記録できることを確認した。さらに、生後12日目前後から48時間、小型LEDを脳表に装着して任意のパターンで光刺激する実験系を確立した。ChR2とKir2.1を同時に発現させ、生後12日目から48時間5Hzで光刺激を行うと、一部の動物で脳梁軸索投射の回復が確認された。LED装着の仕方の改良、光刺激パターンの検討、より長時間の光刺激の方法の確立など、まだ改良する余地が多いにあるが、optogeneticsの技術によって長距離軸索投射の再建が可能であることが示された。optogeneticsの技術によって大脳皮質の長距離軸索投射の再建を検証する実験系がすでに確立されており、順調に実験を進めている。また、軸索投射の回復が見られる実験系を作り出すことにも成功しており、その際に生じる大脳皮質の神経活動パターンを記録する実験により、軸索投射の再建に有効な神経活動パターンを明らかにできると期待される。両者を合わせることで、当初の目標の達成が期待できる。発達期のマウスの脳に小型LEDを装着する実験系を確立し、optogeneticsの技術を用いて大脳皮質の長距離軸索の再建が可能であることを示唆するデータを得ており、計画は順調に進展している。生後10ー12日目の大脳皮質で生じる神経活動パターンが軸索投射の回復に有効であると考えられるため、生後10ー12日目の大脳皮質で生じる神経活動パターンを記録する実験を進める。その活動パターンが軸索投射の回復に有効であることをoptogeneticsを用いた実験で検証する。生後12日目以降では、軸索投射の回復がほとんど見られなくなる。その理由の一つとして、上記の神経活動パターンが生じないことが考えられる。optogeneticsの技術を用いて、生後12日目以降の大脳皮質に生後10ー12日の神経活動を誘導し、軸索投射の回復が見られるかを検討する。確立した実験系を用いて、生後2週のどの時期に、どのようなパターンで光刺激を行えば、脳梁軸索投射の回復がもっとも見られるかを検証する。再建された軸索が、皮質のどの層でシナプスを作っているかを、synaptophysin-GFP等との共発現で確認する。該当なし研究費は主に消耗品の購入費として使用する(プラスミドの精製キット、細胞特異的マーカー等の抗体、プラスチックディッシュやプレート等)。また、研究成果を公表するため、学会参加費等の旅費、論文投稿や掲載費等として約20万円の支出を予定している。
KAKENHI-PROJECT-23500388
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視覚メディアの図像学的分析を通じたファシズムの比較歴史社会学的研究
平成19年度は、研究対象をナチズムの政治文化に絞り、これまでの研究を発展させるとともに、本格的に視覚メディアの図像学的分析に着手し、研究成果の発表を進めた。理論研究の面では、前年度に引き続き政治文化論・メディア社会論の理論的基礎づけを進め、フランクフルト学派・保守革命派を中心としたドイツの社会理論の検討を行い、「政治の美学化」をめぐる問題を考察したほか、視覚メディアの図像学的分析の手法を検討し、ファシズム研究に応用可能な理論的枠組みを整備した。歴史研究の面では、ナチズムの政治文化に関する歴史社会学的研究を進め、新聞、雑誌、映画、絵画、彫刻、ポスターなど、各メディアに見られる「指導者」「大衆」「共同体」のイメージの図像学的分析を行うとともに、新たに性とジェンダーのイメージに関する研究にも着手し、文化政策・社会政策との関わりについて考察を進めた。また、そのためにドイツヘ赴き、ベルリン連邦文書館、ベルリン国立図書館等で文献・史料の調査を行った。とくに視覚メディアを中心とした文献・史料については、イメージスキャナを使ってマイクロフィルムや印刷物のデジタル化・データベース化を進めた。以上の研究・調査により、「指導者」「大衆」「共同体」のイメージを中心として、ナチズムのメディア戦略を含めた「政治の美学化」に関する研究成果がまとまり、これを著書として平成19年6月に出版した。また、性とジェンダーのイメージに関しても、ナチズムによって性教育が推進されていたことなど、新しい知見が得られ、その研究成果を学術論文として発表した。平成17年度は、さしあたり研究対象をナチズムの政治文化に絞り、これまでの研究を発展させるとともに、本格的に視覚メディアの図像学的分析に着手し、研究成果の出版のための準備を行った。理論研究の面では、政治文化論・メディア社会論の理論的基礎づけを進め、フランクフルト学派を中心としたドイツの社会理論の検討を行ったほか、視覚メディアの図像学的分析の手法を検討した。歴史研究の面では、ナチズムの政治文化に関する比較歴史社会学的研究を進め、新聞、雑誌、映画、絵画、彫刻、ポスターなど、各領域ごとのメディア政策の個別的特徴と全体的関連を考察するとともに、ナチズムの文化・社会政策一般についても検討した。また二度にわたってドイツへ赴き、ミュンヘン現代史研究所、バイエルン国立図書館、ベルリン連邦文書館、ベルリン国立図書館等で文献・史料の調査を行った。とくに視覚メディアを中心とした文献・史料については、イメージスキャナを使ってマイクロフィルムや印刷物のデジタル化・データベース化を進めた。以上の研究・調査により、とくにナチ党大会やヒトラー崇拝の演出に関して、ナチズムのメディア戦略が一般に考えられるよりも柔軟で、プラグマティックな性格をもっていたことが明らかになり、その研究成果を雑誌論文として公表した。またナチズムの政治文化に関するこれまでの研究成果をまとめた著書を完成させ、その出版に向けて現在平成18年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)と申請中である。平成18年度は、さしあたり研究対象をナチズムの政治文化に絞り、これまでの研究を発展させるとともに、本格的に視覚メディアの図像学的分析に着手し、研究成果の出版のための準備を行った。理論研究の面では、前年度に引き続き政治文化論・メディア社会論の理論的基礎づけを進め、フランクフルト学派・保守革命派を中心としたドイツの社会理論の検討を行い、「政治の美学化」とロマン主義の関係をめぐる問題を考察したほか、視覚メディアの図像学的分析の手法を検討し、ファシズム研究に応用可能な理論的枠組みを整備した。歴史研究の面では、ナチズムの政治文化に関する比較歴史社会学的研究を進め、新聞、雑誌、映画、絵画、彫刻、ポスターなど、各メディアに見られる「指導者」「大衆」「共同体」のイメージの図像学的分析を行うとともに、文化政策・社会政策との関わりについても考察した。また、そのためにドイツへ赴き、ベルリン連邦文書館、ベルリン国立図書館等で文献・史料の調査を行った。とくに視覚メディアを中心とした文献・史料については、イメージスキャナを使ってマイクロフィルムや印刷物のデジタル化・データベース化を進めた。以上の研究・調査により、ナチズムの「政治の美学化」がロマン主義の影響を強く受けつつも、これとは微妙な関係に立っていたことが明らかになり、その研究成果を学術論文として公表した。また、ナチズムのメディア戦略を含めた「政治の美学化」に関するこれまでの研究成果をまとめた著書を完成させ、出版に向けた校正作業等の準備を行った。この著書は平成19年6月の刊行予定である。平成19年度は、研究対象をナチズムの政治文化に絞り、これまでの研究を発展させるとともに、本格的に視覚メディアの図像学的分析に着手し、研究成果の発表を進めた。理論研究の面では、前年度に引き続き政治文化論・メディア社会論の理論的基礎づけを進め、フランクフルト学派・保守革命派を中心としたドイツの社会理論の検討を行い、「政治の美学化」をめぐる問題を考察したほか、視覚メディアの図像学的分析の手法を検討し、ファシズム研究に応用可能な理論的枠組みを整備した。歴史研究の面では、ナチズムの政治文化に関する歴史社会学的研究を進め、新聞、雑誌、映画、絵画、彫刻、ポスターなど、各メディアに見られる「指導者」「大衆」「共同体」のイメージの図像学的分析を行うとともに、新たに性とジェンダーのイメージに関する研究にも着手し、文化政策・社会政策との関わりについて考察を進めた。また、そのためにドイツヘ赴き、ベルリン連邦文書館、ベルリン国立図書館等で文献・史料の調査を行った。とくに視覚メディアを中心とした文献・史料については、イメージスキャナを使ってマイクロフィルムや印刷物のデジタル化・データベース化を進めた。
KAKENHI-PROJECT-17730324
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17730324
視覚メディアの図像学的分析を通じたファシズムの比較歴史社会学的研究
以上の研究・調査により、「指導者」「大衆」「共同体」のイメージを中心として、ナチズムのメディア戦略を含めた「政治の美学化」に関する研究成果がまとまり、これを著書として平成19年6月に出版した。また、性とジェンダーのイメージに関しても、ナチズムによって性教育が推進されていたことなど、新しい知見が得られ、その研究成果を学術論文として発表した。
KAKENHI-PROJECT-17730324
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17730324
医療情報の本人閲覧と第三者への開示制限-患者のプライバシー権-
本研究においては、医療記録への本人閲覧を積極的に法認しつつあるアメリカ諸州の制定法、判例法および各種団体の動向に焦点をあてた。そのための前提作業として、アメリカにおける患者記録の意味、種類、作成保存目的、記載内容等について、全米病院協会のマニュアルの指示するところを明らかにした。ついで、患者の本人閲覧を法認するに至る社会的・法的背景につき検討し、全米病院協会や全米医師会が、なぜ、かつては本人閲覧に反対し、その後なぜ賛成論にまわったのか、を明らかにした。さらに、これまでの判例法または判定法が、本人閲覧権につき、どこまで対処してきたか(または対処しうるか)を論じ、近時の制定法の、この分野における顕著な展開について触れた。特に、キャリフォーニア州法、ワシントンD.C、の法律について、詳細に紹介した。現在、アメリカにおいては、過半数の州が、患者の閲覧権を正式に法認しているが、残された問題は、患者の訂正権がどこまで及びうるか、閲覧を認めない医療記録の範囲とその理由を、どこに求めるか、であることが判明した。今後は、わが国の医療記録の作成実態、医療慣行と対比しながら、患者の閲覧・訂正権の限界を論じてみたい。本研究においては、医療記録への本人閲覧を積極的に法認しつつあるアメリカ諸州の制定法、判例法および各種団体の動向に焦点をあてた。そのための前提作業として、アメリカにおける患者記録の意味、種類、作成保存目的、記載内容等について、全米病院協会のマニュアルの指示するところを明らかにした。ついで、患者の本人閲覧を法認するに至る社会的・法的背景につき検討し、全米病院協会や全米医師会が、なぜ、かつては本人閲覧に反対し、その後なぜ賛成論にまわったのか、を明らかにした。さらに、これまでの判例法または判定法が、本人閲覧権につき、どこまで対処してきたか(または対処しうるか)を論じ、近時の制定法の、この分野における顕著な展開について触れた。特に、キャリフォーニア州法、ワシントンD.C、の法律について、詳細に紹介した。現在、アメリカにおいては、過半数の州が、患者の閲覧権を正式に法認しているが、残された問題は、患者の訂正権がどこまで及びうるか、閲覧を認めない医療記録の範囲とその理由を、どこに求めるか、であることが判明した。今後は、わが国の医療記録の作成実態、医療慣行と対比しながら、患者の閲覧・訂正権の限界を論じてみたい。
KAKENHI-PROJECT-61520006
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-61520006
中枢神経系における神経細胞社会の構築機構
哺乳類特有の脳構造である大脳皮質脳室下帯/多極性細胞蓄積帯MAZにおいて、それを構成する細胞の産生様式を制御する分子の検索を行い、機能解析や比較ゲノム解析の結果、重要な候補分子を見いだした。さらに、MAZの多極性移動神経細胞に発現する受容体とその内在性リガンドを複数同定するとともに、多極性移動神経細胞の特徴的な動態がPI(3,4)P2-ラメリポディン-Ena/VASP-アクチン系によって制御されることを見いだした。哺乳類特有の脳構造である大脳皮質脳室下帯/多極性細胞蓄積帯MAZにおいて、それを構成する細胞の産生様式を制御する分子の検索を行い、機能解析や比較ゲノム解析の結果、重要な候補分子を見いだした。さらに、MAZの多極性移動神経細胞に発現する受容体とその内在性リガンドを複数同定するとともに、多極性移動神経細胞の特徴的な動態がPI(3,4)P2-ラメリポディン-Ena/VASP-アクチン系によって制御されることを見いだした。我々は、移動神経細胞を子宮内胎児脳電気穿孔法によって可視化する独自開発の技術を使い、大脳皮質脳室面で誕生した神経細胞の多くがその後多極性に形態変化し、脳室帯直上(多極性細胞蓄積帯MAZと命名した)で多数の微小突起を伸縮しながら長時間留まることによって「脳室下帯」を形作ることを見いだした。そして、この細胞動態を「多極性移動」と命名した。この「脳室下帯」を構成する細胞のユニークな細胞動態を制御する分子機構を明らかにするため、これらの細胞に発現する受容体として同定したUNC5D及びBMP受容体に結合する内在性リガンドを検索した。その結果、前者についてはネトリン1が、後者についてはBMP6/7がその候補として見いだされた。ネトリン1については、確かにUNC5Dに結合することを生化学的に証明することができた。また、多極性移動神経細胞が「脳室下帯」に出現しつつある時期に、これらの細胞を子宮内胎児脳電気穿孔法によるGFP発現ベクターの導入によって可視化し、FACSで分離濃縮した後にマイクロアレイ解析を行った。得られた分子の一部について、マウス胎生期大脳皮質を用いてin situ hybridization法による発現分布解析を行ったところ、興味深いことに大脳皮質の内側と外側とで逆勾配をもって発現する分子群が見いだされた。すなわち、内側皮質に外側皮質より強く発現している分子と、逆に外側皮質に内側皮質より強く発現している分子とがあることがわかった。マウス発生期大脳皮質の多極性細胞蓄積帯(MAZ)に蓄積する多極性移動細胞(SEP)と、多極性細胞蓄積帯とオーバーラップする「脳室下帯」に局在する前駆細胞(REP)は、最近報告されたヒト胎児大脳皮質におけるinner subventricular zone(ISVZ)の細胞及びouter subventricular zone(OSVZ)の細胞とそれぞれよく似た形態を示すことを見いだした。ヒトをはじめとする霊長類の大脳皮質ではOSVZが大きく発達したことを鑑みると、マウスにおいてSEP及びREPの産生や動態を制御する機構を明らかにすることは、進化的にも重要な意義を有し、「脳室下帯」を構成する細胞の制御機構の解明に結びつくと考えられる。そこで、これらの細胞の産生と動態を制御する分子の候補を検索するため、SEPを多く産生する背内側皮質とREPを多く産生する外側皮質で移動最初期にある細胞群を子宮内胎仔脳電気穿孔法を用いてGFPでラベルし、FACSを使ってそれぞれ濃縮した上でマイクロアレイにより発現プロファイルを比較した。その結果、背内側皮質で強く発現する分子を9個、外側皮質で強く発現する分子を29個同定することができた。それらについて、子宮内胎仔脳電気穿孔法を用いて強制発現及び機能阻害実験を行い、REPとSEPに影響を及ぼす分子の検索を行った。24年度までの我々の研究で、マウスの多極性細胞蓄積帯MAZに蓄積する多極性移動細胞(SEP)と、MAZとオーバーラップする脳室下帯に局在する前駆細胞(REP)は、ヒト胎児大脳皮質におけるinner subventricular zone (ISVZ)の細胞及びouter subventricular zone (OSVZ)の細胞とそれぞれよく似た形態を示すことを見いだした。霊長類の大脳皮質ではOSVZが大きく発達したことを鑑みると、SEP及びREPの産生や動態を制御する機構を明らかにすることは、「脳室下帯」を構成する細胞の制御機構の解明に結びつくと考えられる。これまでの解析で、マウスにおけるREPとSEPの比は背内側皮質領域では低く外側皮質領域では高いことを見いだしたため、外側で強く発現する分子と内側で強く発現する分子を同定し、子宮内電気穿孔法によりそれらの機能解析を行った。その結果、複数の分子の強制発現によってREP産生の増加が観察され、他の複数の分子の強制発現では逆にREPの減少が認められた。前者のうち特に重要と思われた候補分子は、マウスの脳室下帯において幹細胞マーカーであるPax6陽性の細胞で実際に発現していることを見いだした。興味深いことに、この分子はマーモセットの大脳皮質においては内側皮質と外側皮質の脳室帯や脳室下帯において明らかな発現差はなく、全体に強く発現していることがわかった。多極性移動神経細胞は、大脳皮質の脳室面近くで誕生した後、脳室下帯(多極性細胞蓄積帯)で長時間留まっている間、あたかも周囲を探索しているかのように多くの突起をさかんに伸縮する特徴的な運動を示す。
KAKENHI-PROJECT-22240041
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22240041
中枢神経系における神経細胞社会の構築機構
そこで、その多極性移動神経細胞の動態を高い時間解像度で観察したところ、成長円錐の突起の動きと良く似た挙動を示すことがわかった。そこで、アクチン系がその動態に関わる可能性を想定し、検証を行った。まず、成長円錐においてアクチン線維の重合/脱重合を制御してその運動に関わるLamellipodin (Lpd)が多極性移動細胞に局在することを確認し、その発現阻害によって突起が減少することを見いだした。LpdはEna/VASPを細胞膜にリクルートすることが知られているため、次にEna/VASPも多極性移動細胞に存在することを確認した上で、その機能を阻害したところ、同様に突起が減少することがわかった。Lpdの発現を阻害した状態でEna/VASPを膜に強制的に発現させると、突起の減少がレスキューされることもわかった。LpdはSHIP2によって産生される細胞膜上のPI(3,4)P2に結合するため、SHIP2を阻害したところ、同様に突起の減少が見いだされた。最後に、Lpdの発現を阻害した状態で、野生型のLpdを発現させると突起の減少はレスキューされるものの、PI(3,4)P2への結合部位であるPHドメインを欠失したLpdではレスキューできないことがわかった。以上より、ダイナミックに動く突起の細胞膜にPI(3,4)P2がSHIP2依存的に局在し、そこにLpdが結合して、さらにEna/VASPを介してアクチン線維をリクルートしてくることにより、多極性移動細胞の突起が制御されることが示唆された。既に具体的な候補分子の同定に成功しており、in vivoでの強制発現実験等により確かに「脳室下帯」の構成細胞に大きく影響する機能を有していることを見いだしているため。25年度が最終年度であるため、記入しない。本研究では、脳室下帯/多極性細胞蓄積帯を構成する細胞がいかなる制御を受けてその構造が成り立っているのかを明らかにすることを目指しているが、本年度は、当初の計画にはなかった、脳室下帯細胞の動態の細胞内からの分子制御機構を含めて明らかにすることができたため。今後は、すべての候補分子についてさらに機能阻害実験を特異性の検証を含めて慎重に行い、それらのうち特にはっきりとした影響が見られた分子について、相互作用の有無や細胞内下流分子の検索などを進めて行く予定である。25年度が最終年度であるため、記入しない。最近、ヒトの脳室下帯(SVZ)細胞の形態と性質が明らかになったが、ヒトのSVZは一様ではなく、より表層にあるOSVZと、より深層にあるISVZからなる。OSVZは発生過程で非常に厚く発達し、oRGと呼ばれる自己複製能の高い細胞を多く含む。一方ISVZはOSVZよりも分裂像が少なく、VZの直上に分布する。ここで我々は、霊長類に特異的と報告されたこれらの構造的特徴が、我々の観察したマウスSVZと非常に良く対応していることに気付いた。SEPはISVZと対応し、REPは、OSVZ内のoRG細胞に相当する。これらのことから、OSVZは霊長類の進化に伴い新たに作られた構造ではなく、マウス等に存在していたREPが著しく発達したものと考えられた。OSVZは特に発生後期には皮質神経細胞の主な産生部位であり、その発達こそが、大脳皮質巨大化の主要因と考えられる。
KAKENHI-PROJECT-22240041
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神経細胞死とシナップスの形成椎持に及ぼすセロトン入力の賦活効果
モノアミン線維のうち特にセロトニン線維がニワトリでは孵化後1週、ラットでは生後2週間をピークトして一時的に増加することを確かめた。その一時的に増加するセロトニン線維はラットではサブスタンスPを共存しないことを二重標識法で明らかにした(J.Comp.Neurol.Vol.325)。一時的に増加するセロトニン線維が如何なる機能を有しているのかを知るために、薬理学的に一時的に増加するセロトニン線維を除去して、その結果生ずる変化を検討した(J.Neurobiol.Vol.24)。その結果、ニワトリで孵化後1週間わたりセトロニンを除去すると、セトロニン線維の標的領域でシナップス密度が最大で70%近く減少することが確かめられた。免疫電顕法でセロトニン陽性のシナップスを検索するとシナップス全体の0.5%以下であることが確かめられた。即ち、減少したシナップスのほとんどは非セロトニン性であることが明らかになった。シナップスの減少が使用した薬物の副作用である可能性を検討した。シナップス密度はセロトニン密度に依存して変化すること、複数の薬理作用の異なる薬物によっても同様の結果が得られたこと、またセトロニンの前駆体を投与することによりシナップス密度が高くなることから、シナップス密度とセロトニン濃度の直接の関係があることが明らかになった。セロトニン線維の成体中枢神経系での働きを知るため、孵化後6カ月の鶏で同様の実験を行った。その結果、成体においてもセロトニン線維を除去するとセロトニン線維の標的領域でシナップス密度は40ー50%減少することが明らかになった。従ってセロトニン線維はシナップスの形成と維持に促進的に働いていることが明らかになった。モノアミン線維のうち特にセロトニン線維がニワトリでは孵化後1週、ラットでは生後2週間をピークトして一時的に増加することを確かめた。その一時的に増加するセロトニン線維はラットではサブスタンスPを共存しないことを二重標識法で明らかにした(J.Comp.Neurol.Vol.325)。一時的に増加するセロトニン線維が如何なる機能を有しているのかを知るために、薬理学的に一時的に増加するセロトニン線維を除去して、その結果生ずる変化を検討した(J.Neurobiol.Vol.24)。その結果、ニワトリで孵化後1週間わたりセトロニンを除去すると、セトロニン線維の標的領域でシナップス密度が最大で70%近く減少することが確かめられた。免疫電顕法でセロトニン陽性のシナップスを検索するとシナップス全体の0.5%以下であることが確かめられた。即ち、減少したシナップスのほとんどは非セロトニン性であることが明らかになった。シナップスの減少が使用した薬物の副作用である可能性を検討した。シナップス密度はセロトニン密度に依存して変化すること、複数の薬理作用の異なる薬物によっても同様の結果が得られたこと、またセトロニンの前駆体を投与することによりシナップス密度が高くなることから、シナップス密度とセロトニン濃度の直接の関係があることが明らかになった。セロトニン線維の成体中枢神経系での働きを知るため、孵化後6カ月の鶏で同様の実験を行った。その結果、成体においてもセロトニン線維を除去するとセロトニン線維の標的領域でシナップス密度は40ー50%減少することが明らかになった。従ってセロトニン線維はシナップスの形成と維持に促進的に働いていることが明らかになった。
KAKENHI-PROJECT-04258204
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森林土壌のカルシウム供給能に対する火山灰の寄与評価
森林土壌のカルシウム(Ca)供給は、生態系の酸性化抑制と生物への養分供給に重要である。日本では、森林土壌中に混入している火山灰が、Ca供給に大きく寄与していると考えられるが、火山灰は地形等の影響で不均一に分布しているため、集水域単位での寄与評価は困難であった。本研究では、渓流水中Caの起源を火山灰・基盤岩・大気に分け、それぞれの寄与率を評価する。まず、火山灰・基盤岩・降水からCaが供給される森林集水域で、Sr同位体比を用いたCa起源解析に必要な観測手法を確立し、渓流水や植物に含まれるCaに対する起源別寄与率を定量評価することを第一目標とする。次に、Caの起源別寄与率を地質と火山灰混入程度が異なる集水域間で比較することで、Ca供給源としての火山灰の重要性を示すことを第二目標とする。平成29年度までに渓流水・岩石・土壌の調査を実施してきた栃木県雨巻山地域において、平成29年度11月から平成30年度10月までの1年間、大気降下物を毎月採取し、Sr同位体比とSr/Cl濃度比の雨量重み付き年平均値を得た。大気降下物と渓流水の分析値を用いて、渓流水中Srに対する大気降下物由来Srの寄与率、および大気降下物以外に由来するSrの寄与率とSr同位体比を算出した。さらに、渓流水中Srに対する岩石由来および火山灰由来のSrの寄与率を、岩石および火山灰含有土壌の酢酸アンモニウム抽出液のSr同位体比をエンドメンバーに用いて算出した。その結果、チャートを母岩とする雨巻山地域の渓流水中Srに対する火山灰の寄与率は平均61%(50-72%)であった。これは花崗岩を母岩とする筑波山の渓流水中Srに対する火山灰の寄与率(1%未満-50%)より高く、チャートの方が花崗岩よりもSrおよびCaの供給能が低いため、火山灰由来のSrおよびCaの寄与率が高くなると考えられた。森林土壌のカルシウム(Ca)供給は、生態系の酸性化抑制と生物への養分供給に重要である。日本では、森林土壌中に混入している火山灰が、Ca供給に大きく寄与していると考えられるが、火山灰は地形等の影響で不均一に分布しているため、集水域単位での寄与評価は困難であった。本研究では、渓流水中Caの起源を火山灰・基盤岩・大気に分け、それぞれの寄与率を評価する。そのために、Caと動態が類似したストロンチウム(Sr)に着目し、その安定同位体比が起源毎に異なることを利用した手法を開発することを第1の目標とする。さらに、Ca供給能に対する火山灰の寄与が異なると予想される国内3集水域で、Caの起源別寄与率を比較して火山灰の重要性を示すことを第2の目標とする。平成28年度は、調査地として、風化が遅くCa供給機能が低い岩石であるチャート(堆積岩の一種)が存在し、かつ赤城山に由来する火山灰が分布する栃木県雨巻山地域を選び、渓流水の広域調査を実施した。まず、地形図と地質図を参考に、採水地点の地質がチャートである30地点と砂岩又は泥岩である14地点で渓流水を採取した。位置情報と地形図に基づいて決定した採水地点の集水域と地質図を用いて地質解析を実施した。集水域を単一の地質が占めたのは、チャート12地点、砂岩4地点、泥岩2地点であり、他の集水域には2種以上の地質が存在した。渓流水の主要元素濃度およびSr同位体比を測定し、集水域地質との関係を解析したところ、チャートの集水域は砂岩の集水域よりもSrおよびCaの濃度が低くSr同位体比が低い傾向を示した。文献によると調査地周辺ではSr同位体比は火山灰<大気降下物<基盤岩の順に上昇すると考えられることから、チャートの集水域の方が砂岩の集水域よりも渓流水中のSr(およびCa)に占める火山灰由来のSr(およびCa)の寄与が高いことを示唆する結果を得た。観測地を選定し、予想と矛盾しない結果を得た。森林土壌のカルシウム(Ca)供給は、生態系の酸性化抑制と生物への養分供給に重要である。日本では、森林土壌中に混入している火山灰が、Ca供給に大きく寄与していると考えられるが、火山灰は地形等の影響で不均一に分布しているため、集水域単位での寄与評価は困難であった。本研究では、渓流水や植物に含まれるCaの起源を火山灰・基盤岩・大気に分け、それぞれの寄与率をSr同位体比を用いて評価する手法の確立を第一目標とする。次に、Caの起源別寄与率を地質と火山灰混入程度が異なる集水域間で比較することにより、Ca供給源としての火山灰の重要性を示すことを第二目標とする。平成29年度は、昨年度に渓流水予備調査を実施した栃木県雨巻山地域において、土壌と大気降下物を採取した。土壌のシュウ酸抽出液を分析したところ、火山灰混入の目安となるAlox +Feox/2が20mg/g以上であって、火山灰由来物質の存在が示唆された。Sr同位体比は土壌のシュウ酸抽出液の方が土壌全分解液より低く、火山灰に近い値であった。大気降下物は、採取器を現地に設置して、月1回の試料回収を開始した。大気降下物のSr同位体比および主要元素濃度の年平均値を求めるために、引き続き平成30年度も実施予定である。
KAKENHI-PROJECT-16K07788
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森林土壌のカルシウム供給能に対する火山灰の寄与評価
また、平成28年度に採取した岩石試料の全分解を進めて、25検体のSr同位体比および主要元素濃度を得た。以上により、渓流水のCaおよびSrの起源解析を行うための各エンドメンバー(火山灰・基盤岩・大気)の基礎情報が得られた。実測に基づいて、火山灰・基盤岩・大気の各エンドメンバーの基礎情報が得られた。森林土壌のカルシウム(Ca)供給は、生態系の酸性化抑制と生物への養分供給に重要である。日本では、森林土壌中に混入している火山灰が、Ca供給に大きく寄与していると考えられるが、火山灰は地形等の影響で不均一に分布しているため、集水域単位での寄与評価は困難であった。本研究では、渓流水中Caの起源を火山灰・基盤岩・大気に分け、それぞれの寄与率を評価する。まず、火山灰・基盤岩・降水からCaが供給される森林集水域で、Sr同位体比を用いたCa起源解析に必要な観測手法を確立し、渓流水や植物に含まれるCaに対する起源別寄与率を定量評価することを第一目標とする。次に、Caの起源別寄与率を地質と火山灰混入程度が異なる集水域間で比較することで、Ca供給源としての火山灰の重要性を示すことを第二目標とする。平成29年度までに渓流水・岩石・土壌の調査を実施してきた栃木県雨巻山地域において、平成29年度11月から平成30年度10月までの1年間、大気降下物を毎月採取し、Sr同位体比とSr/Cl濃度比の雨量重み付き年平均値を得た。大気降下物と渓流水の分析値を用いて、渓流水中Srに対する大気降下物由来Srの寄与率、および大気降下物以外に由来するSrの寄与率とSr同位体比を算出した。さらに、渓流水中Srに対する岩石由来および火山灰由来のSrの寄与率を、岩石および火山灰含有土壌の酢酸アンモニウム抽出液のSr同位体比をエンドメンバーに用いて算出した。その結果、チャートを母岩とする雨巻山地域の渓流水中Srに対する火山灰の寄与率は平均61%(50-72%)であった。これは花崗岩を母岩とする筑波山の渓流水中Srに対する火山灰の寄与率(1%未満-50%)より高く、チャートの方が花崗岩よりもSrおよびCaの供給能が低いため、火山灰由来のSrおよびCaの寄与率が高くなると考えられた。平成29年度は、平成28年度の解析において文献値を使用した栃木県雨巻山地域の大気降下物由来Sr同位体比を実測に基づいて評価するために、通年降水観測を実施する。また、平成28年度に予備的に9検体だけ測定した基盤岩由来Sr同位体比を、より精度よく決定するための分析を追加する。まず、月1回の降水試料回収を11月まで継続し、大気降下物由来Srの年平均値を求める。次に、岩石の抽出実験を実施して抽出液のSr同位体比を測定し、全分解液のSr同位体比と比較検討して、より信頼性の高い岩石エンドメンバーを求める。以上の成果を平成29年度までの成果と合わせて、栃木県雨巻山地域における渓流水のCaおよびSrの起源解析を行う。さらに、連携研究者が取得した他地域のデータとあわせて、Caの起源別寄与率を地質と火山灰混入程度が異なる集水域間で比較することにより、Ca供給源としての火山灰の重要性を示す。イオンクロマトグラフ装置のサプレッサ・プレカラム・分析カラムが想定より長持ちして購入を延期したため。(理由)平成30年度により多くSr同位体比測定を実施することが重要と判断して、テフロンバイアルの購入数を減らすために、テフロンバイアルの洗浄方法と使用方法を工夫した。(使用計画)次年度使用額相当を用いて、Sr同位体比測定のための諸実験を実施する。次年度使用額相当を用いてイオンクロマトグラフ装置のサプレッサ・プレカラム・分析カラムを購入する。
KAKENHI-PROJECT-16K07788
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乳幼児との情動調律が心理療法家の感受性・想像力をはぐくむ教育訓練プログラム
本研究は、乳幼児との情動調律が心理療法家を目指す大学院生の感受性や共感性にどのように影響を与え、その結果、自己内省力が身につくかを検討し、効果的な教育訓練プログラムを提示することを目的として行った。本研究課題では、保育所実習で乳幼児との情動調律を大学院生が行ったその効果を(1)尺度を用いて感受性の変化、(2)観察を行う実習生の内面での気づきについてインタビュー、(3)事例を通しての変化、(4)実習後の臨床事例への影響を検証した。本研究は、乳幼児との情動調律が心理療法家を目指す大学院生の感受性や共感性にどのように影響を与え、その結果、自己内省力が身につくかを検討し、効果的な教育訓練プログラムを提示することを目的として行った。本研究課題では、保育所実習で乳幼児との情動調律を大学院生が行ったその効果を(1)尺度を用いて感受性の変化、(2)観察を行う実習生の内面での気づきについてインタビュー、(3)事例を通しての変化、(4)実習後の臨床事例への影響を検証した。「乳幼児との情動調律が心理療法家の感受性・想像力をはぐくむ教育訓練プログラム」に関する本年度の取り組みは、下記の通りである。(1)平成19年度は、18名の心理療法家を目指す大学院生が、2ヶ所の保育園で実習を行った。(2)実習の事前指導では、各保育園で保育士さんを交えて施設の状況や保育への入り方、観察の仕方等について話し合いを行った。それまでの幼児とのかかわり経験の有無や院生の知識・資質等も把握しながら、保育士さんへの協力依頼も行った。(3)実習中は各人が体験に基づいた詳細な記録を持ち寄り、毎週1回、小グループによるディスカッションを行った。幼児の行動の意味や院生のとった態度や表現に関して、メンバーからのフィードバックをもらったり、グループリーダー(研究分担者)から、気づきへの促しをもらったりすることで、子どもの内的世界への学びや観察能力を発達させ、各人の感受性や想像力は会を重ねるごとに伸びていった。また、対象や自己の内面で起こっている体験を言語化することで、自らの内省力も増し、自らの逆転移に気づいた院生も見られた。それらは、ビデオ撮影し、個人内・集団変化に関して分析中である。(4)事前・事後に「対人関係に関するアンケート調査」を心理療法家を目指す大学院1年生58名に対して実施した。実習に参加した院生と参加しなかった院生との感受性・想像力・共感性に関して違いが見られるかどうか統計的処理を行っているところである。本年度の取り組みは以下の通りである。(1)平成20年度は、18名の心理療法家を目指す大学院生が、2ヶ所の保育園で実習を行った。(2)実習の事前指導では、前年同様、各保育園で保育士さんを交えて施設の状況や保育への入り方、観察の仕方等について話し合いを行った。それまでの幼児とのかかわり経験の有無や院生の知識・資質等も把握しながら、保育士さんへの協力依頼も行った。(3)実習中は各人が体験に基づいた詳細な記録を持ち寄り、毎週1回、小グループによるディスカッションを行った。幼児の行動の意味や院生のとった態度や表現に関して、メンバーからのフィードバックをもらったり、グループリーダー(研究分担者)から、気づきへの促しをもらったりすることで、子どもの内的世界への学びや観察能力を発達させ、各人の感受性や想像力は会を重ねるごとに伸びていった。また、対象や自己の内面で起こっている体験を言語化することで、自らの内省力も増し、自らの逆転移に気づいた院生も見られた。各院生個人の内的体験について聞き取り調査や指導教員に対して質問紙調査を行い、分析中である。(4)事前・事後に質問紙調査を大学院1年生45名に対して実施した。実習に参加した院生と参加しなかった院生との感受性・想像力・共感性に関して違いが見られるかどうか統計的処理を行っているところである。昨年度の同様の調査に関しては分析が終了し、紀要にまとめて掲載した。1.平成21年度の実習本年度は10名が2ヶ所の保育園で実習を行った。前年度の反省を踏まえて、実習生の人数を減らし実習期間を長くするなど改善した。また、実習生の子ども理解がより進むために、保育士さんとのケースカンファレスを行った。2.平成21年度の研究の成果(1)各院生個人の内的体験についての聞き取り調査をカテゴリー分析した。その結果、<幼児理解>のカテゴリーに含まれるものが多く見られ、子どもの発達理解や心情理解ができるようになっていた。「個人にとっての実習の意味」としては、<自己省察>のカテゴリーに含まれるものが多く、客観的な視点の獲得や成長・自信になった等の内容であった。「臨床心理士を目指す大学院生にとっての実習の意味」では、実践的経験、クライエント理解、関係性への気づきなど<臨床的視点>のカテゴリーに含まれるものが多かった。また、乳幼児との関わりと心理臨床の関連性を、関与観察を通して研究紀要にまとめた。(2)実習の事前事後の質問紙調査を行った。その結果、実習経験者と未経験者で、感受性(対人的感受性,対人関係過敏性,ノンバーバル感受性)の変化について検証したところ、対人的感受性の中の非影響性において特に実習参加者の得点が有意に低くなった。
KAKENHI-PROJECT-19530627
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乳幼児との情動調律が心理療法家の感受性・想像力をはぐくむ教育訓練プログラム
(3)保育実習経験者と未経験者の違いを検討するため、大学院生の心理面接のスーパーヴィジョンを行っている教員による質問紙調査を行った。その結果、「情動調律」において、保育実習経験者の平均値は、未経験者より有意に高くなっていたことがわかった。保育実習を経験した者の方が、経験しない者より、心理面接において情動調律をよく行っていた。これらの成果については、日本心理臨床学会第28回秋季大会にて発表を行った。
KAKENHI-PROJECT-19530627
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Adriamycinの下顎・三叉神経への注入実験 -形態学的・電気生理学的研究-
・電気生理学的研究平成5年度より以下の実験を行っている。ウィスター系ラット(雌,8週齢)を使用しオトガイ孔部で、下歯槽神経を露出し、遠位側を陽極に置いた双極の鉤電極(幅0.3mm)にて、軽く神経を鉤り上げ、矩形波電気刺激を与え、三叉神経誘発電位を記録した。記録には関電極を頭頂部に、不関電極をinionに置き刺激後、20mSecの間に誘発される電位をband-pass filter(203000Hz)を通して増幅しコンピュータにて、500回加算した。前記の手技にて、ラットの片側の下歯槽神経に、10%Adriamycin 10mlを注入し、反対側には、生食水を注入しcontrolとして、電気刺激を加えて、誘発される電位を比較した。その結果、Adriamycin注入群は、control群に対し、24時間後から振幅の減少が認められ、7日後では更にそれが著明となり、21日後ではwave formがほぼ平坦化した状態となった。本年度は、まず、無処置ラットにおける測定値の精度(再現性)をより向上させるために、種々の因子による影響を調べた後、Adriamycin注入後の変化を検索したいと考えた。すなわち、・筋電図の影響の有無を調べるため、全麻下にて調節呼吸下におき、筋弛緩薬を注入し、測定値を比較する。・体温の影響を調べるため温庵法にて、体温を変化させ測定する。・刺激強度の影響について、更に詳細に調べる。以上を検査後、Adriamycin注入後の三叉神経誘発電位の変化について実験し報告する予定である。・電気生理学的研究平成5年度より以下の実験を行っている。ウィスター系ラット(雌,8週齢)を使用しオトガイ孔部で、下歯槽神経を露出し、遠位側を陽極に置いた双極の鉤電極(幅0.3mm)にて、軽く神経を鉤り上げ、矩形波電気刺激を与え、三叉神経誘発電位を記録した。記録には関電極を頭頂部に、不関電極をinionに置き刺激後、20mSecの間に誘発される電位をband-pass filter(203000Hz)を通して増幅しコンピュータにて、500回加算した。前記の手技にて、ラットの片側の下歯槽神経に、10%Adriamycin 10mlを注入し、反対側には、生食水を注入しcontrolとして、電気刺激を加えて、誘発される電位を比較した。その結果、Adriamycin注入群は、control群に対し、24時間後から振幅の減少が認められ、7日後では更にそれが著明となり、21日後ではwave formがほぼ平坦化した状態となった。本年度は、まず、無処置ラットにおける測定値の精度(再現性)をより向上させるために、種々の因子による影響を調べた後、Adriamycin注入後の変化を検索したいと考えた。すなわち、・筋電図の影響の有無を調べるため、全麻下にて調節呼吸下におき、筋弛緩薬を注入し、測定値を比較する。・体温の影響を調べるため温庵法にて、体温を変化させ測定する。・刺激強度の影響について、更に詳細に調べる。以上を検査後、Adriamycin注入後の三叉神経誘発電位の変化について実験し報告する予定である。
KAKENHI-PROJECT-07672055
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ミツバチの尻振りダンス解読に関わる異種感覚統合神経機構の解明
蜜源から帰巣した採餌バチは、尻振りダンスにより、餌場の場所や餌場の匂い情報を巣仲間に知らせる。しかし、巣仲間のミツバチがどのように尻振りダンサーに誘引されるのか、尻振りダンサーへの誘引の際、脳内で何が起こるのかはよくわかっていない。本研究では、採餌バチが発する可能性のある2種類の刺激、花の匂いと尻振りダンス音により誘発される歩行様式を解析した。その結果、蜜(報酬)と連合学習した花の匂いと羽ばたきによる振動が巣仲間を誘引すること、その誘引行動を指令する脳内候補ニューロンを発見した。さらに蜜源への距離と方向を統合する脳内領域を発見した。これらは尻振りダンス解読機構解明の糸口になる成果である。蜜源から帰巣した採餌バチは、尻振りダンスにより、餌場の場所や餌場の匂い情報を巣仲間に知らせる。しかし、巣仲間のミツバチがどのように尻振りダンサーに誘引されるのか、尻振りダンサーへの誘引の際、脳内で何が起こるのかはよくわかっていない。本研究では、採餌バチが発する可能性のある2種類の刺激、花の匂いと尻振りダンス音により誘発される歩行様式を解析した。その結果、蜜(報酬)と連合学習した花の匂いと羽ばたきによる振動が巣仲間を誘引すること、その誘引行動を指令する脳内候補ニューロンを発見した。さらに蜜源への距離と方向を統合する脳内領域を発見した。これらは尻振りダンス解読機構解明の糸口になる成果である。今年度はミツバチの通信行動のうち匂い通信に注目し、巣内行動およびトラックボールを用いた歩行行動の解析を行い、それに関連する論文3編と国際シンポジウムでの招待講演を含む13件の学会発表、および尻振りダンス解読に関わる聴覚神経機構に関して専門書(Ai and Itoh, 2011)を執筆した。1.採餌行動における匂いコミュニケーションの解析蜜源の匂い情報が巣内で仲間にどのように伝達されるかを、情報送信者と情報受信者の両面から解析した。その結果、蜜源の匂い情報は尻振りダンスのみならず"口器接触"によって巣仲間に伝達されることが分かってきた。より詳細な解析の結果、尻振りダンスによる通信行動が、口器接触により促進されることが分かってきた。2.古典的匂い条件づけにより制御されたミツバチの2つの歩行行動様式上記のように尻振りダンスによる通信行動は、追従個体の口器接触による嗅覚学習と関係していることが示唆される。本年度は条件づけにより特定の匂いを学習した個体の、その匂いに対する歩行行動様式を、トラックボールを用いた行動解析システムにより解析した。あらかじめ学習の成立した匂いにより左右交互にターンをしながらゆっくり前進するジグザグ歩行が生じ、学習の成立していない匂いにより任意の一方向にターンしながら広い範囲を歩き回る回転歩行が生じることがわかった。3.尻振りダンス解読の一次中枢の解析尻振りダンスのベクトル情報を受容する2つの感覚器官(ジョンストン器官と頸部器官)由来ニューロンがともに食道下神経節背側領域に収斂し終末していることが分かった。さらにこの領域で、蜜源への距離解読に関わることが示唆されている振動応答性介在ニューロンDL-Int-1の樹状突起が、方向情報を受容する頸部器官ニューロン終末と近接していることが分かった(Ai and Itoh, 2011)。ミツバチの尻振りダンスによる振動コミュニケーションは、栄養交換のような匂いコミュニケーションと密接に関連している。昨年度から今年度にかけて、特定の匂いの古典的条件付けによって生じるミツバチの学習が、その後の匂い刺激により誘発される歩行様式にどのような影響を持つのかを、ミツバチの自由歩行が可能なアリーナ内とトラックボールを用いた歩行軌跡解析システムで調べた。その結果、以下のことが分かってきた。1.複数の匂いエリアをもつアリーナでのミツバチの行動実験の結果、あらかじめ特定の匂いに報酬条件付けを行うと、その匂い(CS+)エリアでの滞在時間が他のエリアでの滞在時間よりも有意に長くなる。2.弁別条件付けで報酬と連合学習した匂い刺激(CS+)で、匂い刺激を受容した場所を局所的に探索する行動が生じ、報酬と無関係に学習した匂い刺激(CS-)で、匂い刺激を受容した場所とは関係なく比較的広い範囲を歩行する。3.CS+により体軸を左右交互に変換しながら前進する「ジグザグ歩行」が顕著に現れた。一方、CS-では「ジグザグ歩行」に加え、様々なパターンが不規則に生じた(不規則歩行)。本研究で明らかになったCS+およびCS-により誘発された2つの特徴的な歩行(ジグザグ歩行と不規則歩行)は、巣内でのコミュニケーションを促進するための歩行パターンと考えられ、特にジグザグ歩行は報酬と結びついた匂い源を特定するための探索歩行であると推察できる。一方、蜜源への距離情報を検出するためのジョンストン器官と方向情報を検出するための頸部器官から、それぞれ蛍光色素を注入し、その感覚統合領域を、標準脳を用いて解析した。その結果、食道下神経節背側領域でこれら2つの感覚ニューロンの終末領域があることが分かってきた。現在、免疫組織学的な研究を進め、これらの領域にある介在ニューロンの神経伝達物質は同定を進めている。1、古典的条件付けされた匂い刺激によって生じるミツバチ歩行パターンに対する尻振りダンス音の影響;ミツバチは報酬と連合学習した匂い刺激により、体軸を左右交互に変換しながら歩行するジグザグ歩行を生じる。このジグザグ歩行の出現率は、季節によって変動することも分かっている。
KAKENHI-PROJECT-22570079
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22570079
ミツバチの尻振りダンス解読に関わる異種感覚統合神経機構の解明
本年度の研究で、ジグザグ歩行の出現率に対する尻振りダンス音の影響を調べた結果、ジグザグ歩行時の前進距離が有意に高くなることが分かってきた。しかしこの効果は個体差が高く、匂い学習の他、季節、日齢、採餌経験にも影響を受けて変化する可能性がある。これらの影響を現在調査中である。2、振動応答性介在ニューロンの候補神経伝達物質の免疫抗体染色;ミツバチの脳を用いγーアミノ酪酸(GABA)の免疫抗体染色を行い、脳内のGABAの2次元分布地図を作成した。これまでに同定した振動応答性介在ニューロンの細胞体クラスタが存在する領域において、GABA陽性の細胞体の存在が明らかとなった。現在、このデータを元にGABAの3次元分布地図を作成している。3、計算機神経科学的な解析システムの構築;これまでに収集した振動応答性ニューロンの形態、生理学的実験結果を元に、計算機神経科学的な解析をするためのプログラムおよびそのシステムを構築し、英文論文にした。すでにこのシステムを用い、これまでに申請者らが同定した振動応答性介在ニューロンのデータベースの構築に着手している。1、ミツバチの匂い学習と学習した匂い刺激により誘発される行動の季節変動弁別条件付けにより特定の2つの匂いを学習したミツバチにおいて、その匂い刺激で誘発される歩行様式を調べた結果、報酬と連合学習した匂い刺激(CS+)により体軸を左右交互に変換しながら歩行するジグザグ歩行の出現率が高く、報酬と非連合学習した匂い刺激によりジグザグ歩行の出現率が低いこと分かってきた。今年度は、ミツバチの屋外活動時期である春、夏、秋におけるこの歩行様式の比較を行った。その結果、春には吻伸展反応を用いた弁別学習の成功率が低く、秋に向けてのミツバチの弁別学習率は徐々に高くなることが分かった。また弁別学習が成立した個体において、そのCS+刺激により誘発される歩行パターンを、自作の行動追跡システムで記録・解析した結果、ジグザグ歩行の出現率が春には低いが、秋には高くなることが分かった。2、ミツバチの尻振りダンスで符号化された蜜源ベクトル情報の一次中枢の形態学的、生理学的解析蜜源への距離情報を検出するためのジョンストン器官と方向情報を検出するための頸部器官から、それぞれ蛍光色素を注入し、その感覚統合領域を調べた結果、食道下神経節背側領域でこれら2つの感覚ニューロンの終末領域があること、さらに体軸方向の空間地図が存在することが分かってきた(Ai and Hagio, in press)。一方,食道下神経節背側領域に細胞内記録法および染色法を適用し,振動感受性ニューロンを同定した。その結果,4つのカテゴリーに分類される、33種類の振動感受性介在ニューロンが得られ、これらのニューロンを応答特性および細胞形態によって分類した。ミツバチが尻振りダンスの際に、どのように採餌バチに定位するのかを調べるため、匂い刺激と尻振りダンスで生じる振動刺激で誘発する歩行を,拘束下歩行パターン解析装置上で調べた。報酬と関連づけて学習した匂い刺激中は、小さな左右ターンを繰り返し直進歩行し、匂い刺激後は、ターン角度が大きくなり、歩行範囲、歩行距離も大きくなる。この匂い刺激中の歩行様式は、匂い源付近での局所探索
KAKENHI-PROJECT-22570079
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淡水湖における密度界面の混合過程について
海面あるいは河口を利用した大規模な淡水湖における利水上の問題点は、取水量の確保よりはむしろ安定な水質の維持にある。湖内の水は一般に完全な淡水化はおこなわれず、下層に塩水が残存する。淡塩2層界面間における静拡散とそれによって形成される塩分ヤク層、安定な界面を維持するに必要なスリット排水について考察した。1.塩水(30♯)と淡水(0.2♯)間の静拡散係数は約【10^(-5)】【cm^2】/Sで、貯水池で観測される厚さの塩分ヤク層が静拡散のみによって形成されるとすると、35ケ月かかる。2.界面位置に設けたスリット型排水口より塩水を排水する場合の界面付近の流れを詳細に検討した結果、流れが微流でほぼ層流とみなされるとき、界面付近の鉛直流速分布は双曲線関数あるいは近似的に指数関数で表現できる。また、排水口から水平方向への流速は指数関数的に減衰する。特に、排水口の位置より界面が低下した場合、鉛直流速分布は界面付近の速度こう配du/dyが極めて大きく、かつ界面直下に流速0の位置が存在するとともに、低層では負流が存在する。(y軸は鉛直上方が正)回流水槽による底質層からの塩分溶出実験から1.静拡散から動拡散への遷移域において2層拡散方程式の連立解が現象を非常によく表わしている。2.上層水域内の拡散係数は水深と底面の摩擦速度の関数で示されることを明らかにした。吹送流による表面流速がカルマンの対数分布則より求めたものと非常によく一致することが明らかとなった。海面あるいは河口を利用した大規模な淡水湖における利水上の問題点は、取水量の確保よりはむしろ安定な水質の維持にある。湖内の水は一般に完全な淡水化はおこなわれず、下層に塩水が残存する。淡塩2層界面間における静拡散とそれによって形成される塩分ヤク層、安定な界面を維持するに必要なスリット排水について考察した。1.塩水(30♯)と淡水(0.2♯)間の静拡散係数は約【10^(-5)】【cm^2】/Sで、貯水池で観測される厚さの塩分ヤク層が静拡散のみによって形成されるとすると、35ケ月かかる。2.界面位置に設けたスリット型排水口より塩水を排水する場合の界面付近の流れを詳細に検討した結果、流れが微流でほぼ層流とみなされるとき、界面付近の鉛直流速分布は双曲線関数あるいは近似的に指数関数で表現できる。また、排水口から水平方向への流速は指数関数的に減衰する。特に、排水口の位置より界面が低下した場合、鉛直流速分布は界面付近の速度こう配du/dyが極めて大きく、かつ界面直下に流速0の位置が存在するとともに、低層では負流が存在する。(y軸は鉛直上方が正)回流水槽による底質層からの塩分溶出実験から1.静拡散から動拡散への遷移域において2層拡散方程式の連立解が現象を非常によく表わしている。2.上層水域内の拡散係数は水深と底面の摩擦速度の関数で示されることを明らかにした。吹送流による表面流速がカルマンの対数分布則より求めたものと非常によく一致することが明らかとなった。
KAKENHI-PROJECT-59460192
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大脳皮質介在ニューロンの分化制御機構の解明
脳の神経回路を形成するニューロンには興奮性と抑制性の二種類がある。興奮性ニューロンは比較的均一な形態であるのに比べ、抑制性ニューロンは非常にバラエティに富んだ形態や神経生理学的な特徴を有している。しかし多様な抑制ニューロンのサブタイプがどのようにして形成されるのかよく分かっていない。本研究では、ニューロンが形成される胚発生時期において、これらサブタイプの細胞分化がどのようにして決定されるのか、その制御メカニズムを明らかにする。脳の神経回路を形成するニューロンには興奮性と抑制性の二種類がある。興奮性ニューロンは比較的均一な形態であるのに比べ、抑制性ニューロンは非常にバラエティに富んだ形態や神経生理学的な特徴を有している。しかし多様な抑制ニューロンのサブタイプがどのようにして形成されるのかよく分かっていない。本研究では、ニューロンが形成される胚発生時期において、これらサブタイプの細胞分化がどのようにして決定されるのか、その制御メカニズムを明らかにする。
KAKENHI-PROJECT-19K06684
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魚類網膜における再生機序の細胞・分子生物学的解明
魚類網膜の外顆粒層には,桿前駆細胞が散在しており,それは正常では桿細胞の新生に関与している。しかし,一旦神経網膜に変性(細胞脱落)が生ずると,直ちに他種の網膜細胞に分化成長する潜在的な能力を秘めている。魚類網膜の再生が速やかに行われる所以である。本研究では,このような魚類網膜の特徴に着目して,6ーOHDA,ツニカマイシン(TM),神経成長因子,サイトカインなどを金魚の1側眼球内に注射投与し,核内増殖抗原(PCNA)陽性細胞の動態を,時間経過(注射後290日)を追って,両側眼球からの網膜伸展標本上で密度を算出し,統計的に精査した。PCNAは免疫組織化学的に検出した。(1)注射側網膜において,6ーOHDAはド-パミン細胞を,TMは視細胞を,それぞれ選択的に破壊するが,注射後320日に亘って,PCNA陽性細胞の群生化と密度の急増を起こし,高密度の状態は60日間にも亘った。非注射側では各種網膜細胞は正常であるが,PCNA陽性細胞の密度は,注射側の変化とほゞ平衡して増加を示した。これらの密度増加は,注射前の対照値と比較して明らかな有意差を示した。(2)TM投与群では,視細胞の破壊と再生の経過は,眼盃標本から記録した網膜電図(ERG)のb波振幅の消長とほゞ軌を1つにした。(3)再生過程にある網膜での,H^3ーチミジン取り込みのオ-トラジオグラフ法による分裂S期細胞の検出は,PCNA陽性細胞の動態とほゞ対応する知見を得た。(4)細胞破壊またはそれに伴う浸潤細胞胞(マクロファ-ジやミクログリア)がある種の化学物質を放出し,それが桿前駆細胞の分裂を促進すると想定し,FGFやサイトカインを眼球内に投与した。網膜細胞は脱落しないが,PCNA陽性細胞の群化と密度上昇が惹起された。(5)以上の知見から結論を出すのは早尚であるが,6ーOHDAとTM投与の実験デ-タは,2つの論文(Ref.1と2)に記述的にまとめて発表した。魚類網膜の外顆粒層には,桿前駆細胞が散在しており,それは正常では桿細胞の新生に関与している。しかし,一旦神経網膜に変性(細胞脱落)が生ずると,直ちに他種の網膜細胞に分化成長する潜在的な能力を秘めている。魚類網膜の再生が速やかに行われる所以である。本研究では,このような魚類網膜の特徴に着目して,6ーOHDA,ツニカマイシン(TM),神経成長因子,サイトカインなどを金魚の1側眼球内に注射投与し,核内増殖抗原(PCNA)陽性細胞の動態を,時間経過(注射後290日)を追って,両側眼球からの網膜伸展標本上で密度を算出し,統計的に精査した。PCNAは免疫組織化学的に検出した。(1)注射側網膜において,6ーOHDAはド-パミン細胞を,TMは視細胞を,それぞれ選択的に破壊するが,注射後320日に亘って,PCNA陽性細胞の群生化と密度の急増を起こし,高密度の状態は60日間にも亘った。非注射側では各種網膜細胞は正常であるが,PCNA陽性細胞の密度は,注射側の変化とほゞ平衡して増加を示した。これらの密度増加は,注射前の対照値と比較して明らかな有意差を示した。(2)TM投与群では,視細胞の破壊と再生の経過は,眼盃標本から記録した網膜電図(ERG)のb波振幅の消長とほゞ軌を1つにした。(3)再生過程にある網膜での,H^3ーチミジン取り込みのオ-トラジオグラフ法による分裂S期細胞の検出は,PCNA陽性細胞の動態とほゞ対応する知見を得た。(4)細胞破壊またはそれに伴う浸潤細胞胞(マクロファ-ジやミクログリア)がある種の化学物質を放出し,それが桿前駆細胞の分裂を促進すると想定し,FGFやサイトカインを眼球内に投与した。網膜細胞は脱落しないが,PCNA陽性細胞の群化と密度上昇が惹起された。(5)以上の知見から結論を出すのは早尚であるが,6ーOHDAとTM投与の実験デ-タは,2つの論文(Ref.1と2)に記述的にまとめて発表した。
KAKENHI-PROJECT-03670055
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新しい環軸椎固定術の開発と生体力学的検証。致死的合併症根絶のために。
近年普及してきた環椎外側塊スクリューにおける致死的合併症を根絶し、さらに安全で強固な環軸椎固定術を可能とするために、従来から着目してきた環椎外側塊スクリューの後弓刺入法の有用性に関して、解剖学的、生体力学的に検討を行った。の有用性に関して、解剖学的、生体力学的に検討を行った。環椎外側塊スクリューの刺入方法は、十分に内方刺入角度を確保すれば、致死的合併症なく安全に刺入しうることを明らかとしたが、同時に、術中刺入誤差や術前存在する環軸椎の回旋角度など種々の要因から、意図した刺入角度は決して保証されないため、術中刺入に際して十分注意する必要があることを解明した。生体力学試験では直接刺入法と後弓刺入法とを比較検討し、後弓刺入法が生体力学的にきわめて強固であり、有用性が高いことを解明した。またリウマチ頚椎固定術において3次元実体モデルを用いた術前計画を検討し、術後長期間装着を余儀なくされていたハローベスト装着を回避しうる可能性に関して報告した。近年普及してきた環椎外側塊スクリューにおける致死的合併症を根絶し、さらに安全で強固な環軸椎固定術を可能とするために、従来から着目してきた環椎外側塊スクリューの後弓刺入法の有用性に関して、解剖学的、生体力学的に検討を行った。の有用性に関して、解剖学的、生体力学的に検討を行った。環椎外側塊スクリューの刺入方法は、十分に内方刺入角度を確保すれば、致死的合併症なく安全に刺入しうることを明らかとしたが、同時に、術中刺入誤差や術前存在する環軸椎の回旋角度など種々の要因から、意図した刺入角度は決して保証されないため、術中刺入に際して十分注意する必要があることを解明した。生体力学試験では直接刺入法と後弓刺入法とを比較検討し、後弓刺入法が生体力学的にきわめて強固であり、有用性が高いことを解明した。またリウマチ頚椎固定術において3次元実体モデルを用いた術前計画を検討し、術後長期間装着を余儀なくされていたハローベスト装着を回避しうる可能性に関して報告した。本年度は、新鮮凍結屍体9体を用いて、環椎外側塊スクリューを直接刺入法と後弓刺入法に群分けして、それぞれの引き抜き強度を比較検討した。引き抜き強度は後弓刺入法は平均1048.5N(712.ON-1023.1N)であり、一方、直接刺入法は平均448.ON(74.7N-440.8N)であり、我々が予想した通り,後弓刺入法が統計学的に有為に引き抜き強度に優れており、後弓刺入法の有用性を裏付ける重要な基礎的データが得られた。加えて、環椎外側塊スクリューbi-cortical刺入で近年問題となっている、内頚動脈損傷を回避するための、臨床解剖に関する基礎的検討を行い,環椎外側塊スクリュー前面に、内頚動脈は約20パーセント程度存在していることが明らかとなり、約15度内振り角度をもって正確に刺入を行うと、bi-cortical刺入を行っても内頚動脈損傷は回避できるという知見が得られたが,同時に解析したデータからは、スクリュー刺入時の意図した刺入角度との刺入誤差も約10度程度存在していることから,きわめて慎重な刺入が必要であるという、外側塊スクリュー刺入における重要な知見が得られた。有限要素解析法の正常頚椎に関するデータは鋭意解析中である。また、3次元実体モデルの術前計画における有用性を検討した。現在広く行われている外側塊全長にスクリュー刺入を行う、経後弓刺入外側塊スクリュー(以下:経後弓法)および直接刺入外側塊スクリュー(以下:直接法)と我々が新たに考案した後弓基部のみにスクリュー刺入を行う後弓スクリューとの力学強度比較を行った。9例の新鮮凍結屍体を用いて後弓スクリュー群、経後弓法群、直接法群、さらには軸椎椎弓根スクリュー群とにわけて、各群で引き抜き強度試験を施行し、統計学的有意差をTurkey-Kramer検定を用いて検討した。得られた結果は以下の如くであり、経後弓法群と後弓スクリュー群との間には統計学的には差を認めなかったが、後弓スクリュー群は直接法群および軸椎椎弓根スクリュー群に比べて統計学的に有意に強い引き抜き強度を有していた。後弓スクリューとスクリュー径との関係は、後弓の厚みのCT画像ならびに屍体標本を用いた計測上、3.5ミリ径スクリューでも約1/3の症例で刺入が不可能な後弓厚であることが判明し、また3.5ミリスクリューでも引き抜き強度は1000N程度ときわめて強固であったことから、現存の3.5ミリ径スクリューが臨床使用には妥当であると考えられた。また、昨年度明らかとした経後弓法の力学的有用性をもとに、臨床応用を重ねてきたが、臨床症例の術後データ解析からは、出血量、第2神経根損傷ともに経後弓法が統計学的有意差をもって少なく、実際に臨床使用した場合にも経後弓刺入法の有用性が裏付けられた。今後は今年度力学的有用性が明らかとなった、我々が新たに考案した後弓スクリューの臨床応用を始めたいと考えている。
KAKENHI-PROJECT-19591728
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電波天文用相関器LSIの試作
将来必要とされる多素子・広帯域の連続波電波干渉計を実現するための障害の一つは、大規模な相関器群を、適正なサイズと低消費電力で製作する問題であり、その鍵を握る大規模・高遅・低消費電力のデジタル相関器LSIを開発する問題である。本試験研究では、このような相関器LSIの基礎となる技術の開発を目標として、中規模(ゲート数2000)・高速(クロックスピード50MHz目標)・低消費電力の相関器LSIを開発・試作した。試作された相関器LSIは、詳細な回路検討と、計算機シミュレーションによる回路解析を経た後、CMOSゲートアレイにより製作され、評価装置により動作特性を確認した。試作LSIは、40MHzの高速クロックで正常に動作することが確認され、将来に向けてさらに大規模な高速相関器LSI製作への技術的展望を得ることができた。将来必要とされる多素子・広帯域の連続波電波干渉計を実現するための障害の一つは、大規模な相関器群を、適正なサイズと低消費電力で製作する問題であり、その鍵を握る大規模・高遅・低消費電力のデジタル相関器LSIを開発する問題である。本試験研究では、このような相関器LSIの基礎となる技術の開発を目標として、中規模(ゲート数2000)・高速(クロックスピード50MHz目標)・低消費電力の相関器LSIを開発・試作した。試作された相関器LSIは、詳細な回路検討と、計算機シミュレーションによる回路解析を経た後、CMOSゲートアレイにより製作され、評価装置により動作特性を確認した。試作LSIは、40MHzの高速クロックで正常に動作することが確認され、将来に向けてさらに大規模な高速相関器LSI製作への技術的展望を得ることができた。本研究の目的は、電波天文学用の多素子・広帯域の電波干渉計に使用することを目標に、連続波用高速相関器LSIを、62年度・63年度の2年間に開発・試作することである。本年度(63年度)は、前年度に行った相関器LSI回路の検討・設計に基き、(1)試作LSIのさらに詳細な回路設計を行い、(2)2000ゲートのCMOSゲートアレイにより相関器LSIを試作することに決定し、(3)実装上の回路の問題点を計算機シミュレーションによって解析し、(4)相関器LSIの試作品を製作し、(5)評価装置によって試作LSIの特性を確認した。この結果、試作した相関器LSIは、規模は小さいものの40MHzの高速クロックで正常に動作することが確認され、将来に向けてさらに大規模な高速相関器LSI製作への展望を固めることができた。
KAKENHI-PROJECT-62840002
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62840002
翼列複合による小型テスラタービンの高性能化
本年度は,前年度に引き続き翼列複合型テスラタービンの設計指針を得るための数値解析,および,前年度に設計したローターディスクの試作及び試運転を行った.まず数値解析については,これまでは衝動タービンの翼設計を参考にした翼型を採用してきたが,まだ効率改善の余地があることが見込まれたことから,翼型設計の改善を目指して,数値シミュレーションによる設計検討を行った.特に,排気が持つ流速の旋回成分に着目し,より多くの円周方向運動量をトルクに変換することを目標として,翼型の検討を実施した.その結果,流路スロート幅を適切に定めた増速翼列を採用することによって,より多くの円周方向運動量をトルクに変換することができ,結果として,ローターの断熱効率が改善することが示された.一方,実験においては,前年度に設計した翼列を付加した,翼列複合型のローターディスクを,3Dプリンタによって試作した.素材としては,積層ピッチの観点から,光硬化性樹脂を選択し,製造及び組み立て工程で生じる様々な問題を明らかにしたうえで,翼列を付加しないオリジナル形状のローターディスクと,翼列を複合したローターディスクを製造した.まず,オリジナル形状のものを用いた実験を行い,樹脂で製造したディスクが20000rpm程度の回転数まで構造的に耐えられることを確認した.そのうえで,翼列を複合したディスクを用いた場合の結果との比較を行い,オリジナル形状のディスクよりも翼列複合型のほうが高い効率を示すことを確認した.今年度は,前年度に得られた設計指針に基づいた,翼列複合型ローターディスクを製造し,試作機に組み込んで試運転を行った.また,数値解析においては,引き続き,より良い設計指針を得るための検討を進めることができた.よって,おおむね予定通りに進捗しているとみなすことができる.実験における翼列複合型ローターディスクの試運転については,まだ実験データが十分ではないため,引き続きデータの取得を進める.また,オリジナル形状のローターディスクについて,同形状の金属製のディスクで得られたデータとの間に差が認められることから,その原因についても議論する.さらに,各種設計パラメタを変更した翼列複合型ローターディスクについても試作試運転を行い,各パラメタが与える影響について議論する.本年度は,翼列複合型テスラタービンを対象に,設計指針を得るための数値流体解析を実施した.なお,テスラタービンの基本形状(ロータ直径など)は,次年度以降実施予定のテスラタービン試作機の設計諸元を使用している.まず設計コンセプトより,翼列の追加によるディスク領域の流れ場の変化を最小限に留めるものとし,その条件の下にロータ効率が最大となる翼列設計を得ることを目指した.事前に実施したオリジナル形状のテスラタービンの流れ場から,翼列を付加する領域においては,流体の静圧はほぼ出口静圧に等しいことから,翼型設計としては衝動タービンの翼形状が適しているものと考え,その翼形状を参考にすることにした.そのうえで,流れの転向角,コード長,翼枚数を設計変数として,様々な形状の翼列を対象に,CFD解析を実施した.まず転向角の影響についてであるが,前述の設計指針から,前縁の角度は流れの向きに平行に固定し,後縁の角度をパラメタとした比較を行った.その結果,流入と流出が対称になるように転向角を定めるのが良いという結論を得た.次に翼枚数の影響について解析したところ,翼枚数が多いほどロータ効率は良くなったものの,30枚以上とした場合,その改善は極めて小さいことが分かった.最後にコード長の影響について解析したところ,これについてもコード長が長いほどロータ効率が改善している様子が見られたものの,コード長が7.5mm以上の場合は,ほとんど改善がみられないことが判明した.以上のことから,次年度以降実施する予定の,翼列複合型テスラタービン試作機の設計指針として,1)翼型形状について,前縁は流れの向きに合わせ,後縁は前縁に対して対称形状とする,2)翼枚数については30枚程度,3)翼コード長については,およそ57.5mm程度,といった方針を得た.今年度は,翼列複合型テスラタービンのロータ及び翼形状の設計指針を得るために,翼形状に関する設計パラメタがロータ効率に与える影響を,CFD解析によって議論し,次年度に予定している試作機の設計に必要な結果を得ることができた.よって,概ね予定通りに進捗しているとみなすことができる.本年度は,前年度に引き続き翼列複合型テスラタービンの設計指針を得るための数値解析,および,前年度に設計したローターディスクの試作及び試運転を行った.まず数値解析については,これまでは衝動タービンの翼設計を参考にした翼型を採用してきたが,まだ効率改善の余地があることが見込まれたことから,翼型設計の改善を目指して,数値シミュレーションによる設計検討を行った.特に,排気が持つ流速の旋回成分に着目し,より多くの円周方向運動量をトルクに変換することを目標として,翼型の検討を実施した.その結果,流路スロート幅を適切に定めた増速翼列を採用することによって,より多くの円周方向運動量をトルクに変換することができ,結果として,ローターの断熱効率が改善することが示された.一方,実験においては,前年度に設計した翼列を付加した,翼列複合型のローターディスクを,3Dプリンタによって試作した.素材としては,積層ピッチの観点から,光硬化性樹脂を選択し,製造及び組み立て工程で生じる様々な問題を明らかにしたうえで,翼列を付加しないオリジナル形状のローターディスクと,翼列を複合したローターディスクを製造した.まず,オリジナル形状のものを用いた実験を行い,樹脂で製造したディスクが20000rpm程度の回転数まで構造的に耐えられることを確認した.
KAKENHI-PROJECT-17K06942
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K06942
翼列複合による小型テスラタービンの高性能化
そのうえで,翼列を複合したディスクを用いた場合の結果との比較を行い,オリジナル形状のディスクよりも翼列複合型のほうが高い効率を示すことを確認した.今年度は,前年度に得られた設計指針に基づいた,翼列複合型ローターディスクを製造し,試作機に組み込んで試運転を行った.また,数値解析においては,引き続き,より良い設計指針を得るための検討を進めることができた.よって,おおむね予定通りに進捗しているとみなすことができる.入口ノズル及び出口流路形状の影響について引き続きCFD解析を行い,翼列を付加した場合に適した流路形状の検討を続ける.一方,実験機の製作については,まず翼列複合ディスクの設計及び製造方法について検討を進める.設計については,今年度得たCFD解析結果を元に,まず基準形状となるものを試作する.製造方法については,3Dプリンタ,ハーフエッチング,MEMSといったいくつかの製造手法の候補を念頭に,ディスク製造の可否を検討する.そして,翼列複合ディスクの製造に成功すれば,オリジナルのテスラタービンと作動特性や効率がどのように変化するかを中心に,作動試験を実施する.実験における翼列複合型ローターディスクの試運転については,まだ実験データが十分ではないため,引き続きデータの取得を進める.また,オリジナル形状のローターディスクについて,同形状の金属製のディスクで得られたデータとの間に差が認められることから,その原因についても議論する.さらに,各種設計パラメタを変更した翼列複合型ローターディスクについても試作試運転を行い,各パラメタが与える影響について議論する.今年度実施した出張旅費が事前の計画よりも高額にならざるを得なかったために,物品の購入計画を変更した結果,最終的な残額に差が生じた.一方,実験装置の試作を依頼する企業の候補のひとつと打ち合わせを行ったところ,翼列複合ディスクの製造に技術的な困難が生じる可能性があることが判明したことから,次年度使用額をその試作費用の一助とする予定である.年度末に行った出張について,事前の計画から変更したため,差額が生じた.次年度にも出張を計画していることから,その旅費の一部に充てる予定である.
KAKENHI-PROJECT-17K06942
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K06942
非平衡物理に現れる確率過程に関する確率幾何的手法の開拓
身の回りの系では,非平衡状態(例:コップに熱いコーヒーが入っている)が最終的に平衡状態(コーヒーが冷めて室温と同じ温度になる)に落ち着くことはよく経験する.ところが,このような緩和現象を量子力学から説明できる満足な理論はない.本研究ではこの問題に取り組み,特に,どのような条件の下で緩和が起きるかの条件と,その際の緩和時間を解明することを目的とした.結果として,自然と思われる仮定(非平衡部分空間が典型的である)の下では緩和が必ず起きるが,緩和時間が「ボルツマン時間」というべき異常に短い時間スケールになることがわかった.これは「自然と思われる仮定」が全く自然ではなかったことを示す.初年度は,非平衡統計力学に現れる確率過程をよく理解することから始めた.この過程で,非常に面白い,より具体的な研究テーマが見つかった.すなわち,孤立量子系における緩和時間の問題である.身の回りの現実の系では,非平衡状態(例えばコップの中に熱いコーヒーが入っている)が最終的には平衡状態(例えばコーヒーが冷めてしまう)に落ち着くことはよく経験することであり,これは典型的な緩和現象である.ところが,このような緩和現象は身の回りにあふれているにもかかわらず,「なぜ緩和が見られるのか」については未だに満足のいく理論がない.特に現在の理論の多くは宇宙年齢よりも長い緩和時間を予言するものが多く,これでは現実を全く説明できていない.これは非常な難問で,この百年近くの物理学者の挑戦にも関わらず,未解決となっている.さて,申請者は,共同研究者との研究の中で,この難問がある種「解ける」場合があることに気づいた.孤立量子系の時間発展を考えて,緩和時間を考察する.このままではこれは百年来の難問のままである.ところが,その系の「非平衡部分空間」を「典型的」なものにとると,系が厳密に解析できる.その結果,これらの典型的な系では緩和時間は異常に短くなり,ボルツマン定数とプランク定数から決まる時間スケール(ボルツマン時間と命名)になることが証明できた.これまでの理論が異常に遅い緩和を予言していたことに比べると,我々のこの結果はかなりの驚きであり,重要だと自負している.もちろん,これで緩和時間の問題が解決した訳ではない.我々の結果は,「典型的」な状況では緩和時間が異常に短いということを厳密に示しているが,これは逆に言えば,我々が見ている緩和現象は「典型的」なものではないということを意味する.現実の(非典型的な)系をどのようにとらえるべきか,これが(非常な難問ではあるが)これからの課題である.身の回りの現実の系では,非平衡状態(例:コップの中に熱いコーヒーが入っている)が最終的に平衡状態(例:コーヒーが冷めて室温と同じになる)に落ち着くことはよく経験することである.ところが,このような緩和現象は身の回りにありふれているにもかかわらず,満足のいく理論がない.特に,これまでの研究は宇宙年齢よりもはるかに長い緩和時間を予言するものがほとんどであった.初年度では,孤立量子系の緩和時間について研究し,非平衡状態の作る空間が「典型的」な場合についての結果を得た.要約すればそのような場合,緩和時間は異常に短く,ボルツマン定数とプランク定数で決まる時間スケール(ボルツマン時間と命名)のオーダーであることがわかった.これは先行研究での異常に長い緩和時間の予言と鋭く対立するもので,我々の結果には十分な価値がある.しかし同時に,現実的な時間スケールを予言できない点が非常に不満足であった.そこで,初年度の最後には,より現実的な緩和時間のスケールを予言できる理論の構築を今年度の目標として掲げた.その計画に従い,今年度は,「なぜ,我々の身の回りでは1秒とか1日くらいの緩和時間がありふれているのか」を深く解明することに全力を傾けた.これはこの100年近くの未解決問題であるので簡単に解決できる性質のものではなく,大変に苦労した.しかし最近,漸く,かなり本質をついていると考えられる描像に到達することができた.現在,その描像を確かめるために,数学・物理の両面から深い解析を行っている途中であるが,すべての解析結果はこの描像を支持する方向になっており,日々,確信を強めている状況である.さらに,この解析過程で,緩和現象に関連する確率過程の解析も行い,結果を得ている.大きな見落としがなければ,この結果は数ヶ月のうちには論文にまとめて発表できるものと期待している.身の回りの現実の系では,非平衡状態(例:コップの中に熱いコーヒーが入っている)が最終的に平衡状態(例:コーヒーが冷めて室温と同じ温度になる)に落ち着くことはよく経験することである.ところが,このような緩和現象は身の回りに溢れているにもかかわらず,それをミクロな理論から説明できる満足のいく理論は存在しない.特に,これまでの研究は(すべて),「宇宙の年齢よりもはるかに長い(ほぼ無限大の)時間が経てば,かなりの系は緩和する」ことを主張するものであって,現実的な緩和時間を説明できるものではなかった.これは統計力学の基礎づけにおいて,非常に深刻な問題を提起する.今回の研究では緩和時間の問題に正面から取り組み,現実的な緩和時間を導出して統計力学の基礎づけを行うことを大きな目標として掲げた.もちろん,これはこの100年くらいの未解決問題であるので,簡単に解決できる性質の問題ではない.これまでの研究実績は以下の通りである.1.孤立量子系の緩和時間に関して,非平衡状態の作る部分空間がどのようなものであれば,満足のいく緩和時間が得られるかを研究した.特に,非平衡部分空間が「典型的」な場合の緩和時間を詳しく調べた.
KAKENHI-PROJECT-25610021
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非平衡物理に現れる確率過程に関する確率幾何的手法の開拓
その結果,この場合には緩和時間は異常に短く,ボルツマン定数とプランク定数で決まる「ボルツマン時間」ともいうべき時間スケールになることが,数学的に厳密に証明できた.これは先行研究での異常に長い時間スケールと鋭く対立するものであり,大変に興味深い.2.ただし,このように異常に速い緩和現象は身の回りに観測できていないので,「その理由はなにか」「より現実的な緩和時間を得るにはどう考えるべきか」が当然の問題となる.これに関する知見を蓄積するため,様々な解析手法を試みた.特に系の持つ乱雑さと緩和時間の関係,相互作用の到達度と緩和時間の関係が徐々に明らかになってきている.身の回りの系では,非平衡状態(例:コップに熱いコーヒーが入っている)が最終的に平衡状態(コーヒーが冷めて室温と同じ温度になる)に落ち着くことはよく経験する.ところが,このような緩和現象を量子力学から説明できる満足な理論はない.本研究ではこの問題に取り組み,特に,どのような条件の下で緩和が起きるかの条件と,その際の緩和時間を解明することを目的とした.結果として,自然と思われる仮定(非平衡部分空間が典型的である)の下では緩和が必ず起きるが,緩和時間が「ボルツマン時間」というべき異常に短い時間スケールになることがわかった.これは「自然と思われる仮定」が全く自然ではなかったことを示す.初年度は,当初の予定を大幅に上回る結果を出せたが,2年目はかなり,苦戦した.しかし,「研究実績の概要」に書いたように,ここに来てまたもや予想外の進展が相次いでいる.これは全く予想外の良い結果であり,正しければ確実に「当初の計画以上」と言って良いものになる.(ただし,この進展が本当に数学的・物理的に意味のある理論として確立できるのかについては,現在,鋭意解析中ではある.全ての結果は正しい方向を向いてはいるが,あと数ヶ月の集中した解析が必要と考えるー申請者自身はそれが正しいことをほとんど確信してはいるが,科学者としてはもちろん,断言すべきではない).また最悪,今回の進展のうち,まだ確認中である一部分が正しくないと判明した場合でも,すでに確実に言えることがかなりの部分,蓄積されてきている.これらはこれからのさらなる進展の基礎になることは確実であり,そのため,現在確実な部分でも十分に「おおむね順調」と言って良いレベルに達している.これらの事情から,すでに確実に言えていることだけを評価の対象として,評価は少し控えめに「おおむね順調」とした.数理物理学,確率論,統計力学おおむね,当初の計画通りに進めていく予定である.すなわち,非平衡現象における確率過程について,詳しく解析する.ただし,孤立量子系の緩和時間の問題は非常に重要であるので,この問題については確率過程に関係しない部分でも研究を進める(ただし,以下に説明するように,確率過程が本質的に関わってくると期待する).具体的には以下のような計画になっている.(1)孤立量子系の緩和時間について,平成25年度は「典型的な非平衡状態の空間をとると緩和が異常に速い」ことを見出した.
KAKENHI-PROJECT-25610021
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バウハウス以前の工房教育についての研究
本研究の目的は、19世紀末から1919年のバウハウス創設までのドイツにおける、工房教育による美術工芸の教育改革や新しい美術工芸教育の試みについて明らかにすることにある。本研究では特にシュトゥットガルト教育実験工房や応用自由美術教育実験アトリエの綱領やカリキュラム、教育の実態について調査研究を行った。それにより、本研究ではミュンヘン手工芸連合工房に関与した芸術家たちがそれらの教育施設の設立、綱領やカリキュラム、創成期の教育に深く関与し、工房教育概念の導入により美術工芸教育の改善を試みたことを検証した。本研究は,20世紀初頭のドイツの教育施設における美術工芸の工房教育について,そのカリキュラムや実際に行われた教育内容について明らかにすることを目的としている。本研究では特にミュンヘン手工芸連合工房に関与した芸術家たちの,ドイツ各地の美術工芸の教育施設での美術工芸教育の取り組みに着目し,その際ミュンヘン手工芸連合工房の工房や工房教育の理念が持ち込まれた可能性を探る。平成25年度は科学研究費により9月上旬にベルリンの美術図書館で国立ベルリン王立美術工芸博物館教育施設ならびに国立ベルリン統一自由・応用実験工房に関する基礎的な資料の調査を行った。その結果,シュトゥットガルト王立教育実験工房がミュンヘン手工芸連合工房に関与した主要な芸術家たちを中心に据えて工房教育を行う,重要な教育工房のひとつであることが明らかになった。そこで,平成26年3月上旬に私費でシュトゥットガルトの古文書館とヴュルテンベルク州立図書館,ならびに造形美術アカデミー附属図書館でシュトゥットガルト王立教育実験工房に関する資料の収集を行った。その後,それらの資料の整理と翻訳を進めている。平成25年6月までの研究成果は博士論文にまとめて筑波大学に提出し,平成24年度の調査研究の成果のひとつとして「『ドイツ手工芸工房ドレスデン附属工芸専門学校および教育工房の指導原理,規則,カリキュラム,学則』」を『長崎大学教育学部紀要ー人文科学ー』(No. 80,平成26年3月)に発表した。本研究の目的は、19世紀末から1919年のバウハウス創設までのドイツにおける、工房教育による美術工芸の教育改革や新しい美術工芸教育の試みについて明らかにすることにある。本研究では特にシュトゥットガルト教育実験工房や応用自由美術教育実験アトリエの綱領やカリキュラム、教育の実態について調査研究を行った。それにより、本研究ではミュンヘン手工芸連合工房に関与した芸術家たちがそれらの教育施設の設立、綱領やカリキュラム、創成期の教育に深く関与し、工房教育概念の導入により美術工芸教育の改善を試みたことを検証した。平成24年度は,バウハウス創設前夜のドイツで設立された教育工房や工房教育を行う美術学校の中でも、特に応用自由美術教育実験アトリエに焦点をあて,資料収集と翻訳,その沿革とカリキュラムについて整理を行った。同アトリエは,ミュンヘン手工芸連合工房の創設に関わったヘルマン・オプリストがヴィルヘルム・フォン・デプシツとともに1902年ミュンヘンに設立した私立の美術学校である。同アトリエではオプリストの教育理念に従い,基礎教育として人体のデッサンやモデリング,自然の観察によって捉えた対象の形態や動きに実用性を加味して美術工芸の図案制作が行われた。専門教育では制作した図案を各種工房において様々な素材で制作する技術の修得が行われた。工房には金属工房,陶・鋳造工房,スタッコ工房,建築造形工房,グラフィック工房,家具工房,写真工房等があり,生徒はそれらの工房を自由に行き来できた。オプリストは1904年には難聴の悪化により引退せざるをえなくなったが,彼の理念を受け継いだデプシツが学内に商業施設としての工房や展示室を開設し,学外のいくつかの工房と契約することで同アトリエでは活発に工房教育が展開された。基礎教育の内容や素材別の工房に分かれて専門教育を受ける所など,同アトリエとバウハウスのカリキュラムの類似点は多い。この点が1906年にワイマールに設立され,ヴァン・ド・ヴェルドが校長を務めた大公立美術工芸学校とともに,同アトリエがバウハウスの先駆的な組織と捉えられる所以である。実際,バウハウスの校長の人選を行ったヴァン・ド・ヴェルドはオプリストと,バウハウスの初代校長であるグロピウスはデプシツと交流があり,彼らが同アトリエの教育に強い関心を寄せていたことが判っている。そうした交流を通して,同アトリエの教育理念とカリキュラムが直接間接にバウハウスに影響を与えた可能性も考えられている。本研究は,19世紀末から1919年バウハウス創設までのドイツにおいて試みられた美術工芸の工房教育について,そのカリキュラムや実際の教育内容等について明らかにすることを目的としていた。本研究では特にミュンヘン手工芸連合工房に関与した芸術家たちの,各地の美術工芸学校での教育改革への関与に注目し,その際同工房の工房教育理念が反映された可能性を探った。平成26年度は9月にシュトゥットガルト造形美術アカデミー資料室等を訪れ,ヴュルテンベルク王立美術工芸学校教育実験工房(以下,シュトゥットガルト教育実験工房と呼ぶ)を中心とした近代ドイツにおける美術工芸の工房教育に関する資料収集を進めた。これまでの調査を踏まえ,11月22日にはデザイン史学研究会研究発表会においてシュトゥットガルト教育実験工房について発表。10月には同教育実験工房の綱領及び規定の和訳を『長崎大学教育学部紀要』に,12月には同教育実験工房についての論文を『デザイン史学』に投稿した。以上の研究により,平成26年度は以下のことを明らかにした。ヴュルテンベルク王ヴィルヘルム2世は,芸術家支援を通じた地域産業の活性化を目指し,ヴュルテンベルク王立美術工芸学校の教授カルクロイト伯とグレーテに助言を得た。
KAKENHI-PROJECT-24520162
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バウハウス以前の工房教育についての研究
彼らはヘッセン大公エルンスト・ルートヴィッヒによるダルムシュタット芸術家コロニーの芸術性を高く評価したが,その生産体制や後継者の問題を指摘し,ミュンヘン手工芸連合工房のシュトゥットガルト移転をヴィルヘルム2世に提言する。この計画は頓挫したが,後のシュトゥットガルト教育実験工房構想の礎となった。同教育実験工房は1901年に創設され,F.A.O.クリューガーやB.パンコックらミュンヘン手工芸連合工房の芸術家たちを中心に運営された。1913年に教育実験工房が美術工芸学校と統合されるに至って,美術工芸の各種部門の工房が揃うことになった。人文学(美学・美術史)博士論文の修正が平成25年7月上旬まで続くとともに,4月下旬と10月下旬には研究室の引っ越しがあったため,予定よりも研究の進度がやや遅れている。当初の計画ではザーレック自由応用美術学校とシュテーグリッツ工房附属応用美術専門学校についても調査を行う予定であったが、ヘルガ・シュモル・gen.アイゼンヴェルスらの先行研究によりバウハウス創設前夜における応用自由美術教育実験アトリエの重要性が明らかになり、本年度は同アトリエの調査研究に的を絞った。平成24年度は夏季休業中に資料調査予定であったが、博士論文の審査に備えて資料調査を春季休業中に変更を行ったため、先行研究の把握が予定よりも少し遅くなった。しかし、同アトリエの概要の把握やオプリストの教育理念についての文章の翻訳は概ね順調に進めることができた。平成26年度はこれまでに収集したシュトゥットガルト王立教育実験工房の資料を整理して論文にまとめ,9月上旬に大学美術教育学会に投稿する。続いて9月中旬にはシュトゥットガルトの美術アカデミー附属図書館でシュトゥットガルト王立教育実験工房に関する資料のさらなる調査を進める。10月以降はこれまでの調査資料を整理し,まとめを行う。平成25年度前期は、平成24年度3月の資料調査の際に収集したオプリストの著作の翻訳や、応用自由美術教育実験アトリエに関する先行研究の整理を行う。9月にはベルリン、ドレスデン、シュトゥットガルト、ミュンヘンにおいて国立ベルリン王立美術工芸博物館教育施設と国立ベルリン統一自由・応用美術学校、ドイツ手工芸工房附属工芸学校・教育工房、シュトゥットガルト王立教育実験工房とシュトゥットガルト国立工芸学校についての資料収集を行い、ミュンヘン手工芸連合工房の主力図案家たちがバウハウス創設以前にドイツ各地の美術学校において試みた工房教育について明らかにしていきたい。また、後期においては大学美術教育学会や美術史学会西支部研究発表会において応用自由美術教育実験アトリエについて研究発表を予定している。平成25年度は洋書を購入依頼し,1月末の時点で予算をすべて執行する予定であった。ところが,調べていた金額よりも請求額が高く,予算内に入らなかったため,いくつかの項目をまとめて他の研究費に移管措置を行ったが,移管額が多過ぎ,年度末に予定外に残額が生じてしてしまった。差額の7122円は今年度書籍代に使用します。
KAKENHI-PROJECT-24520162
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植物由来の揮発性物質テルペン類の気液境界相における不均一反応研究
生物圏から年間数百テラグラムという膨大な量が放出されているテルペンはその反応性の高さから容易に大気エアロゾルを生成し、また大気のHOx濃度に重要な影響を与えている。筆者はこれまでにない気液界面反応測定装置を用いて気体のテルペンがどのように酸性表面に吸着・変質するかを調べた。その結果、これらのテルペンはpH4以下の水の表面に吸着し、気液境界相でオリゴマー化することが明らかになった。この気液境界相における不均一反応が気体テルペンの未知のシンクになっていることが、初めて実験的に明らかになった。生物圏から年間数百テラグラムという膨大な量が放出されているテルペンはその反応性の高さから容易に大気エアロゾルを生成し、また大気のHOx濃度に重要な影響を与えている。筆者はこれまでにない気液界面反応測定装置を用いて気体のテルペンがどのように酸性表面に吸着・変質するかを調べた。その結果、これらのテルペンはpH4以下の水の表面に吸着し、気液境界相でオリゴマー化することが明らかになった。この気液境界相における不均一反応が気体テルペンの未知のシンクになっていることが、初めて実験的に明らかになった。我々の身の回りにおけるすべての環境の中で、もっとも興味深く、本質的な反応は「界面」で起きている。例えば、地球の気候変動に大きな影響を与えている大気エアロゾルは大気中でオゾンやOHラジカルなどの反応性ガスと空気/エアロゾル境界相において不均一界面反応を起こす。その結果、液相や気相中とは全く異なる新規反応によって新しい反応性気体を大気に放出していることが明らかになってきた(Enami et al, J.Phys. Chem. A, 2007,111. 8749)。大気エアロゾルの表面積は地表の総面積の100倍以上であり、その膨大かつ未知の反応場への理解は極めて重要である。気液境界相はその他の媒体とは本質的に異質な、極めてユニークな媒体である。例えば、気液境界相では特定のアニオンが選択的に存在し、そこでの反応速度は液中のそれと比較しての10の5乗倍以上促進される例も報告されている。テルペン類は植物由来の揮発性成分であり膨大な量が放出されている。例えばHumuleneは松の木やオレンジ、タバコ、ヒマワリなどの植物から放出されており、2次生成エアロゾルの発生に重要な寄与をしていると考えられている。その重要性にもかかわらずテルペン類の界面反応に関する研究はこれまでほとんどなかった。そのような反応を直接測定することができる界面反応測定装置がなかったためである。キャビティーリングダウンレーザー分光法(CRDS)とエレクトロスプレー質量分析法(ESMS)を組み合わせたこれまでにない斬新な界面反応測定装置を用いて近年大気化学で重要視されてきたテルペン類の気液境界相における不均一反応を研究する。具体的にはテルペン類の中でも最も反応性の高いHumuleneを含む液体マイクロジェットに気体オゾンを吹き付け、気相、液相、界面にそれぞれ生成する中間体と生成物を検出・同定する。オゾン濃度とHumulene濃度を変化させて、その反応機構を考察する。またESMSの電圧を変化させることでCollision Induced Dissociation (CID)を起こし、その生成物を分析することで界面に生成する中間体・生成物の構造を決定する。これらによってテルペン類が霧などの大気の微小液滴に付着しどのような界面反応を経て変質していくかが解明される。このような研究は前例がなく、本装置を用いて初めて実現される。すでにオゾンを吹き付けるセットアップは完了しており、予備的実験であるレチノイン酸とオゾンの界面反応に関する知見を得ている。また本装置を用いて水の界面でのイオン挙動に関する成果を上げた(Enami et al. J Chem. Phys. 2012 in press)。地球の気候変動を正しく理解・予測するためには大気圏と生物圏の複雑な相互作用を解明する必要がある。生物圏から年間数百Tg Cという膨大な量が放出されているテルペンはその反応性の高さから容易に大気エアロゾルを生成し、また大気のHOx濃度に重要な影響を与えている。しかしその大気寿命に関しては未知のファクターが多い。気液境界相はその他の媒体とは本質的に異質な、極めてユニークな媒体である。例えば、気液境界相では特定のアニオンが選択的に存在し、そこでの反応速度は液中のそれと比較しての10万倍以上促進される例も報告されている。近年フィールド観測によって相当量のテルペンが酸性の水の表面に沈着している可能性が示唆されている。従来、大気環境化学で不均一反応を調べるときに一般的に用いられるのがフローチューブ法や液滴法である。これらの実験装置で測定できるのは気体の濃度の減少であり、気液境界相の組成が反応性気体との反応によってどのように変化するかに関して情報を得ることはできなかった。筆者は新しく考案した気液界面反応測定装置を用いて気体のピネン、リモネンがどのように酸性表面に吸着・変質するかを調べた。その結果、これらのテルペンはpH 4以下の水の表面に吸着し、気液界面でオリゴマー化することが明らかになった。オリゴマーの生成収率は吹き付けるテルペン類の濃度に比例して大きくなった。酸性の水の界面に存在するH3O+イオンによってテルペン類がプロトン化し、オリゴマー化が進むと考えられる。
KAKENHI-PROJECT-23810013
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23810013
植物由来の揮発性物質テルペン類の気液境界相における不均一反応研究
pH 4以下の弱酸性表面は実際の森林において十分に存在する条件であり、この気液境界相における不均一反応が気体テルペン類の未知のシンクになっていることが初めて実験的に明らかになった(Enami et al. J. Phys. Chem. Lett. 2012)。すでに本装置を用いて界面におけるイオンの挙動に関する重要な研究成果を上げることができたため(Enami et al. J.Chem. Phys. 2012 in press)。またオゾンを吹き付けるセットアップは完成しており、すでに予備的実験を行っている。以上の結果、上記の研究は今年度中に完成する予定である。24年度が最終年度であるため、記入しない。すでにオゾンを吹き付けるセットアップまで進んでおり、後は実際に実験を行うだけになっている。まずは生成物が比較的予想しやすいレチノイン酸とオゾンの界面反応を測定する。レチノイン酸は水・アセトニトリル混合溶媒に溶解させ、マイクロジェットにする。そこに気体のオゾンを吹き付け、生成するエポキシ化合物を検出する。またバルク中のオゾン反応とどのように違うのかを考察する。次に上記と同様にHumuleneとオゾンの界面反応を測定する予定である。24年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-23810013
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戦前から戦後を通じて変わりゆく地中海世界(1930〜50年代を中心として)
本研究は、国際秩序の変化を、比較の視座を加えながら、多元的に捉えようとした。その手始めとして、環地中海地域が、第二次世界大戦前から戦後にかけて、どのような構造的変化を遂げていったかを考察した。研究の方向性は、一方で現在の国際情勢を包括的に概念化し、他方で歴史的な背景と流れを理解していく、という二つの流れが存在した。このため、とりわけ中東地域においてPKO活動等が注目された、国際連合の役割を検討し、戦後の国際秩序をめぐる議論の整理を行った。また同時に、後発帝国主義国イタリアを素材として、第二次世界大戦への転換点となる1930年代に注目し、研究を続けた。この時期は、戦前の帝国主義構造の解体期であると同時に、戦後の国際秩序形成の黍明期でもある。当時のファシスト・イタリアは、地中海新ローマ帝国を作り出そうとして、旧来の帝国主義国イギリス、フランスと対決姿勢を鮮明にしたのである。こうして戦後に形成されていく新たなナショナリズムの流れは、戦間期に様々な形で展開された新旧帝国の抗争から生じたものと言えよう。本科学研究においては、戦前と戦後にまたがる双方の史料を収集、整理し、新たな分析視角形成を試みてきた。その直接の成果は、1935-6年のエチオピア戦争をめぐる国際環境に関する論文として結実した。歴史に関する実証的研究の場合、資料の収集、整理、分析に膨大な時間がかかるため、今後更にこの方向性に根ざした別の論文が準備されていく。また、理論的整理の方向性については、特に日本との関係で国連改革の問題が考察された。これは、冷戦構造崩壊後の秩序形成を念頭に置きつつ、世界全体から地中海にまで広がる新たな枠組みの分析と連動している。このように歴史的考察と理論的分析双方から新たな検討が試みられていく予定である。平成9年度においては、基本的史料の収集、公刊資料の購入、各地域研究者との情報交換が中心的な作業となった。その中でも、基本的史料が東京に集中していたため、国内旅費の消費が多くなり、同時に収集した史料の整理にアルバイトが活用され、謝金の支出が増大した。こうした活動により基礎的調査が進行し、研究の基盤が確立しつつある。また、10月より千葉大学法経学部に移ったため、移転作業の関係上、やや活動が中断されたが、東京を中心とする調査がより容易になり、研究の更なる進展が期待されている。20世紀における地中海地域の研究は、これまで世界的にも蓄積の少ない分野であったため、ようやく最近になり多くの業績が見られるようになった。また、イスラーム地域研究が日本でも活発となるにつれ、ヨーロッパ側とは異なる視点からのアプローチも増加している。国際政治史を複合的な分析方法で行うためにも、こうした流れを踏まえながら裾野の広い実証研究が必要となっている。以上のことから、第一の方向としては、より長いタイムスパンと広い地域的視野から歴史を捉えていくことが試みられ、第二の方向としては、増加しつつある新しい研究を概観して整理することが重要となろう。これからの指針としては、この二つの方向性を念頭におきつつ、二種類もしくは複合された包括的論文が準備されることになる。但し現段階では、これまで集積してきた史料、文献を慎重に吟味していくことが、実りある成果をもたらすと考えられる。このため、二つの方向性をどのように統合していくかという課題を着実に追求する関係からも、発表予定論文として明確な主題を性急に提出することは控えるが、平成10年度末までには具体的な業績が見込まれている。本研究は、国際秩序の変化を、比較の視座を加えながら、多元的に捉えようとした。その手始めとして、環地中海地域が、第二次世界大戦前から戦後にかけて、どのような構造的変化を遂げていったかを考察した。研究の方向性は、一方で現在の国際情勢を包括的に概念化し、他方で歴史的な背景と流れを理解していく、という二つの流れが存在した。このため、とりわけ中東地域においてPKO活動等が注目された、国際連合の役割を検討し、戦後の国際秩序をめぐる議論の整理を行った。また同時に、後発帝国主義国イタリアを素材として、第二次世界大戦への転換点となる1930年代に注目し、研究を続けた。この時期は、戦前の帝国主義構造の解体期であると同時に、戦後の国際秩序形成の黍明期でもある。当時のファシスト・イタリアは、地中海新ローマ帝国を作り出そうとして、旧来の帝国主義国イギリス、フランスと対決姿勢を鮮明にしたのである。こうして戦後に形成されていく新たなナショナリズムの流れは、戦間期に様々な形で展開された新旧帝国の抗争から生じたものと言えよう。本科学研究においては、戦前と戦後にまたがる双方の史料を収集、整理し、新たな分析視角形成を試みてきた。その直接の成果は、1935-6年のエチオピア戦争をめぐる国際環境に関する論文として結実した。歴史に関する実証的研究の場合、資料の収集、整理、分析に膨大な時間がかかるため、今後更にこの方向性に根ざした別の論文が準備されていく。また、理論的整理の方向性については、特に日本との関係で国連改革の問題が考察された。これは、冷戦構造崩壊後の秩序形成を念頭に置きつつ、世界全体から地中海にまで広がる新たな枠組みの分析と連動している。このように歴史的考察と理論的分析双方から新たな検討が試みられていく予定である。
KAKENHI-PROJECT-09720065
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09720065
海洋酸性化の沿岸生物と生態系への影響評価実験
海洋酸性化と同時に起こる温暖化がサンゴの石灰化に及ぼす複合影響を評価する実験として、二酸化炭素分圧と温度を制御して2種のサンゴを飼育した。その結果両種ともに二酸化炭素分圧と温度の一方のみが高い条件より、両方が高い条件で石灰化率が有意に減少すること、酸性化と高温への感受性が種によって異なることが明らかとなった。温帯性サンゴの海洋酸性化影響を評価する実験として、九州天草海域から採取されたスギノキミドリイシとハマサンゴ属について、一定水温下で二酸化炭素濃度4段階(対照区,750,1200,2000μatm)での約1ヶ月の飼育実験を行った。高二酸化炭素濃度区で骨格成長が低下する傾向が見られたが、4つの群体を試験に用いたスギノキミドリイシでは、群体間の海洋酸性化応答に種内変異が大きいことが示唆された。亜寒帯沿岸域の主要な植食動物であるキタムラサキウニについて、異なる二酸化炭素分圧下(300,400前後,700,1000,2000μatm)で幼体から成体に成長するまでの26ヶ月間にわたり長期飼育を実施し、生残、成長、摂餌量を比較した。分圧区間で摂餌量に有意差は認められなかったが、2000μatm区では700μatm以下の区と比較して体重および殻経の成長速度が有意に低下した。いくつかの飼育実験における生物炭酸殻のMg/Ca比を分析したことから、高二酸化炭素条件でMgの含有量が高まり方解石の飽和度が低下していることが分かった。海洋酸性化に対する魚類の順化・適応の可能性を評価する目的で、世代交代の早い魚種(熱帯性のテンジクダイ科魚類を用いて酸性化環境における継代飼育実験(第2世代の産卵実験及び急性毒性実験)を継続実施した。また、有用魚種の再生産への海洋酸性化と温暖化の複合影響を評価する目的で、二酸化炭素分圧と水温を制御した水槽内におけるマダイの繁殖実験を実施した。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。飼育実験を行う主要臨海施設を定め、種および生態系レベルの海洋酸性化影響を評価する海水CO2制御システム整備を行った。東北区水産研究所宮古庁舎には屋内精密型飼育装置を移設し、無節サンゴ藻の長期飼育実験を開始した。冬季の凍結のため他所では屋外に設置する大流量型CO2制御飼育装置を建屋内に整備した。新設の施設での飼育実験にあたり、海水塩分・アルカリ度観測を行い、供試海水の炭酸系条件を連続推定する式を得た。海洋生物環境研究所柏崎実証試験場では、屋外大型海水槽でCO2制御操作を確認し、大型有用魚種の再生産へのCO2影響評価実験としてマダイを供試生物としてCO2分圧3段階の実験水槽で予備的実験を実施した。高CO2環境の生態系影響を評価する生物加入実験のために、屋外大流量型CO2制御飼育装置を整備し長期確認試験を行った。高CO2環境の長期的影響を評価するために、世代が回るのが早い魚種Pterapogonkauderniの雌雄判別を行い実験水槽内で第1世代ペアの飼育を開始した。サンゴの飼育と並行して貝類の実験を行う水槽システムで、アワビ類の飼育実験を実施した。京都大学瀬戸臨海実験所では、新たに屋外大流量型CO2制御飼育装置の整備を開始した。加入実験における生物分類同定の準備を行った。琉球大学瀬底研究施設では、屋内精密型飼育装置の増設と既設屋外大流量型CO2制御飼育装置の改良を行った。屋外装置では定着板設置による加入生物群の予備調査を行った。5条件(300-1000μatm)のpCO2で定着板には主に海藻類が付着・成長することを確認した。屋内装置ではユビエダハマサンゴを対象とした飼育実験を行い、遺伝子型の違いで酸性化海水中における石灰化率や光合成活性に顕著な違いが見られた。生物殻のCa輸送機構の解析や、海洋酸性化評価に必要な沿岸海洋モデル化のためのデータセット整備などを開始した。無節サンゴ藻のCO2分圧可変条件での飼育実験を実施した。pCO2が3001500μatmとなるように調整した海水中で無節サンゴモを5ヶ月間培養し、エゾアワビ浮遊幼生に対する着底・変態誘因効果を調べた結果、浮遊幼生はいずれの無節サンゴモに対しても80%以上の高い割合で着底・変態し、培養時のpCO2間で着底・変態率に有意な差は認められなかった。屋外設置型装置を用いてpCO2を約300から1000μatmの5段階に調整した海水でハマサンゴ片について長期飼育を試みたところ、過去のpCO2である約300μatmの実験区のみ骨格成長量が大きい結果が得られた。pCO2を調整した条件で沿岸生物の加入・定着を明らかにする実験のために、国内4施設で実験装置の整備を完了した。また、加入実験を開始するための技術的検討を行った。石灰藻類を含むサンゴ礁生物を対象とした水槽内での加入実験のため、複数の着底板を、瀬底研究施設における屋外式のpCO2制御装置で作成した酸性化海水に設置し、石灰藻類や細菌類等のDNAサンプルを得るための基本的準備を進めた。実験に用いる定着板の溶出実験を実施した。各定着板の1M酢酸24時間
KAKENHI-PROJECT-26220102
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海洋酸性化の沿岸生物と生態系への影響評価実験
溶出液をICP発光分光分析装置で定性分析した。材質により元素の溶出の程度が大きく異なり、生物定着のしやすさも考慮して、複数材質を用いることとした。定着板に付着した藻類を評価する方法として、多波長蛍光光度計で異なったpCO2の海水に長期間設置した定着板に付着した藻類を計測したところ、藍藻量が高いpCO2区で高くなる傾向が見られた。魚類の順化・適応の可能性を評価する目的で、世代交代が10か月程度と特に短いPterapogon kauderniを用いて継代飼育実験を実施した。また、有用魚種の再生産への海洋酸性化影響を評価する目的で、pCO2を制御した水槽内におけるマダイの繁殖実験を実施した。屋内型pCO2調整装置を用いる沿岸生物への海洋酸性化影響を評価する実験は、琉球大学瀬底研究施設、東北区水産研究所宮古施設で、それぞれ亜熱帯、亜寒帯の生物種を対象として進めている。宮古施設では、巻貝に対してpCO2の日周変動を加えた影響を推定する実験も行い成果を得た。屋外型pCO2調整装置は、大流量海水のpCO2調整を行う点で先進的な取り組みであるが、その設置については施設ごとの条件の違いを考慮する必要があり、予定よりやや時間がかかった。この大流量海水pCO2調整装置を用いる共同実験である加入・定着実験については、その技術的問題の解決について、分担者間の協力を進めた。主として海洋生物環境研究所で実施している魚類の順化・適応の可能性を評価する実験では、世代交代が10か月程度と特に短いPterapogon kauderniの第0世代(親世代)を3段階のpCO2(対照区・850μatm区・1,200μatm区)に設定した海水でペア飼育し、産卵頻度・産卵間隔・産卵数を求め、現在第1世代の飼育を行っている。第0世代では、全ての測定項目についてpCO2分圧の違いによる顕著な影響は認められなかった。また、魚類の再生産に及ぼすpCO2の影響評価では、マダイ親魚を3つの実験水槽(対照区、1,000μatm区、2,000μatm区)に収容し、産卵数・正常発生率を求めた結果、2,000μatm区でばく露後に産卵が停止し、高CO2分圧での影響が示唆された。また、常葉大学では海洋酸性化評価に必要な沿岸海洋モデル化のためのデータセット整備や化学過程の解析を継続するとともに、計算サーバーを導入し沿岸域の流動モデル開発に着手した。屋内型CO2制御装置を用いた研究では、サンゴのプラヌラ幼生の定着率と、定着後の初期ポリプの成長・代謝に及ぼす海洋酸性化の影響の評価として、サンゴ産卵期に得られたコユビミドリイシのプラヌラ幼生と初期ポリプを用いて、4段階の酸性化暴露実験を行った。6段階同時計測型大容量CO2制御装置を用いた研究では、世代交代の早い熱帯性のテンジクダイ科魚類Pterapogon kauderniの第0世代(親世代)を3段階のpCO2に設定した海水でペア飼育し、産卵回数と産卵間隔を求めた。第1世代稚魚のCO2影響急性毒性実験を行った。継代飼育実験は継続中である。アカガイ,ウバガイの2種について海洋酸性化実験を実施し、体成長や殻成長への影響を評価した。アカガイは酸性化条件下でも殻成長・体成長ともに有意な変化はみられなかった一方で、ウバガイでは酸性化が進行するほど、殻の厚みが薄くなる傾向がみられ、種による海洋酸性化耐性の違いが顕著であった。屋外型CO2制御装置を用いた研究では、海洋酸性化がサンゴ種間の空間競争に及ぼす影響を評価した。2種のサンゴを異種間であるいは死んだサンゴと接触させ、通常海水と酸性化海水中で飼育し骨格の伸長から酸性化と種間競争の影響を評価した。
KAKENHI-PROJECT-26220102
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可換環上のホモロジー予想への新たな挑戦
位相幾何における不変量として登場してきたホモロジーの考え方が代数的に整理され、ホモロジー代数という分野が確立してのは20世紀中頃であった。その当初から問題として提出されていた多くの予想がある。これらの予想については,およそ50年の間に多くの試みがなされてきて解決されたものもあるが,一方では解決の方向性すら定まらないものもある。本研究ではそれらの未解決の予想のうちで可換環上の加群に関する予想について、新たな視点を提供し解決の糸口を探るものである。位相幾何における不変量として登場してきたホモロジーの考え方が代数的に整理され、ホモロジー代数という分野が確立してのは20世紀中頃であった。その当初から問題として提出されていた多くの予想がある。これらの予想については,およそ50年の間に多くの試みがなされてきて解決されたものもあるが,一方では解決の方向性すら定まらないものもある。本研究ではそれらの未解決の予想のうちで可換環上の加群に関する予想について、新たな視点を提供し解決の糸口を探るものである。
KAKENHI-PROJECT-19K03448
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K03448
デルタ翼面上の前縁剥離渦崩壊の制御及びフィンとの干渉
デルタ翼面上に取り付けたフェンスによって渦の崩壊に及ぼす影響を調べるとともに、デルタ翼の迎え角を種々変えて、渦の構造、フィンの相対位置を変えた実験を行った。さらに、渦の構造を定量的に論じ、渦度の軸方向成分に対して検討を加えて、選られた結論が一般化出来ることを確認いた。特に、PIVデータから流れの諸物理量を計算し可視化することにより、モデル周辺の複雑な流体構造を把握することに主眼を置いた。具体的には、デルタ翼単独の翼面上で前縁剥離渦の軸上にフェンス(突起物)を設置し、フェンスの大きさや位置を変化させた場合に、渦崩壊に及ぼす影響を調べた。従来の方法に従いPIVによる速度測定を行い、PIVの計測結果の可視化を行った。即ち、PIVデータ(ベクトルデータセット)からフロープロパティ(流れの諸物理量)を計算し表示することにより、モデル周辺の複雑な流体構造を把握することが出来た。デルタ翼に取り付けたフェンスによって渦の崩壊に及ぼす影響を調べるとともに,デルタ翼の迎角を種々変えて,渦の構造,フィンの相対位置を変えた実験を行った。さらに,渦の構造を定量的に論じ,渦度の軸成分に対して検討を加えて,得られた結論が一般化できることを確認している。特に,PIVデータから流れの諸物理量を計算し可視化することにより,モデル周辺の複雑な流体構造を把握することに主眼を置いた。今年度は特に,デルタ翼単独の翼面上で前縁剥離渦の軸上にフェンス(突起物)を設置し,フェンスの大きさや位置を変化させた場合に,渦崩壊に及ぼす影響を調べた。従来の方法に従いPIVによる速度計測を行い,PIVの計測結果の可視化を行った。すなわち,PIVデータ(ベクトルデータセット)からフロープロパティ(流れの諸物理量)を計算し表示することにより,モデル周辺の複雑な流体構造を把握することができた。デルタ翼面上に取り付けたフェンスによって渦の崩壊に及ぼす影響を調べるとともに、デルタ翼の迎え角を種々変えて、渦の構造、フィンの相対位置を変えた実験を行った。さらに、渦の構造を定量的に論じ、渦度の軸方向成分に対して検討を加えて、選られた結論が一般化出来ることを確認いた。特に、PIVデータから流れの諸物理量を計算し可視化することにより、モデル周辺の複雑な流体構造を把握することに主眼を置いた。具体的には、デルタ翼単独の翼面上で前縁剥離渦の軸上にフェンス(突起物)を設置し、フェンスの大きさや位置を変化させた場合に、渦崩壊に及ぼす影響を調べた。従来の方法に従いPIVによる速度測定を行い、PIVの計測結果の可視化を行った。即ち、PIVデータ(ベクトルデータセット)からフロープロパティ(流れの諸物理量)を計算し表示することにより、モデル周辺の複雑な流体構造を把握することが出来た。デルタ翼に取り付けたフェンスによって渦の崩壊に及ぼす影響を調べるとともに,デルタ翼の迎角を種々変えて,渦の構造,フィンの相対位置を変えた実験を行った。さらに,渦の構造を定量的に論じ,渦度の軸方向成分に対して検討を加えて,得られた結論が一般化できることを確認した。特に,PIVデータから流れの諸物理量を計算し可視化することにより,モデル周辺の複雑な流体構造を把握することに主眼を置いた。今年度は,昨年度に引き続き,デルタ翼単独の翼面上で前縁剥離渦の軸上にフェンス(突起物)を設置し,フェンスの大きさや位置を変化させた場合に,渦崩壊に及ぼす影響を調べた。従来の方法に従いPIVによる速度計測を行い,PIVの計測結果の可視化を行った。すなわち,PIVデータ(ベクトルデータセット)からフロープロパティ(流れの諸物理量)を計算し表示することにより,モデル周辺の複雑な流体構造を把握することができた。デルタ翼に取り付けたフェンスによって渦の崩壊に及ぼす影響を調べるとともに,デルタ翼の迎角を種々変えて,渦の構造,フィンの相対位置を変えた実験を行った。さらに,渦の構造を定量的に論じ,渦度の軸方向成分に対して検討を加えて,得られた結論が一般化できることを確認した。特に,PIVデータから流れの諸物理量を計算し可視化することにより,モデル周辺の複雑な流体構造を把握することに主眼を置いた。今年度は,昨年度に引き続き,デルタ翼単独の翼面上で前縁剥離渦の軸上にフェンス(突起物)を設置し,フェンスの大きさや位置を変化させた場合に,渦崩壊に及ぼす影響を調べた。従来の方法に従いPIVによる速度計測を行い,PIVの計測結果の可視化を行った。すなわち,PIVデータ(ベクトルデータセット)からフロープロパティ(流れの諸物理量)を計算し表示することにより,モデル周辺の複雑な流体構造を把握することができた。
KAKENHI-PROJECT-12650896
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MUレーダーとラマンライダーの複合観測による対流圏・中層大気力学の研究
本研究は、対流圏・中層大気中の力学過程で重要な役割を果たす大気波動について、MUレーダーなどの大型レーダーでも観測できない25-60kmの高度をライダーで観測し、両者を複合することで、広い高度範囲での波動の振る舞いや対流圏の励起源との対応を明らかにすることを目的としている。本年度は、前年までに開発した回転ラマンライダーのシステムのデータ取得部、干渉フィルターなどを改善して、観測可能高度範囲を拡大したほか、光学系を最終的に調整し、現段階で世界最高性能の回転ラマンライダーを構成することに成功した。また、回転ラマンライダーの信号から微量成分の観測の際の大気分子散乱の基準信号を高精度に作成する新しい技術を開発した。さらに水蒸気観測においても、フィルターを最適化し、感度とブロッキング性能を高めた。システムの性能は、MUレーダー/RASS観測、ラジオゾンデ観測などと比較され、良好であることが確認された。とりわけ、雲が存在する対流圏においても、干渉フィルターの入射角の最適化によりレーザー波長の信号を高い抑圧比で観測が可能となった。このシステムでMUレーダーとキャンペーン観測を行うことで、温度と水蒸気のこれまでにないこう時間分解能の比較観測を実現し、温度逆転層、大気波動の伝搬、砕波などを観測することができた。また、大型望遠鏡の感度を活かして、成層圏上部での回転ラマン温度とレイリー温度の比較研究も行われている。なお、研究成果は国内外の学会で発表し高い評価を受けたほか、学術雑誌に発表しまた投稿中である。本研究で開発した技術は、他のライダー観測を大いに刺激するものと期待できる。本研究は、対流圏・中層大気中の力学過程で重要な役割を果たす大気波動について、MUレーダーなどの大型レーダーでも観測できない25-60kmの高度をライダーで観測し、両者を複合することで、広い高度範囲での波動の振る舞いや対流圏の励起源との対応を明らかにすることを目的としている。本年度は、前年までに開発した回転ラマンライダーのシステムのデータ取得部、干渉フィルターなどを改善して、観測可能高度範囲を拡大したほか、光学系を最終的に調整し、現段階で世界最高性能の回転ラマンライダーを構成することに成功した。また、回転ラマンライダーの信号から微量成分の観測の際の大気分子散乱の基準信号を高精度に作成する新しい技術を開発した。さらに水蒸気観測においても、フィルターを最適化し、感度とブロッキング性能を高めた。システムの性能は、MUレーダー/RASS観測、ラジオゾンデ観測などと比較され、良好であることが確認された。とりわけ、雲が存在する対流圏においても、干渉フィルターの入射角の最適化によりレーザー波長の信号を高い抑圧比で観測が可能となった。このシステムでMUレーダーとキャンペーン観測を行うことで、温度と水蒸気のこれまでにないこう時間分解能の比較観測を実現し、温度逆転層、大気波動の伝搬、砕波などを観測することができた。また、大型望遠鏡の感度を活かして、成層圏上部での回転ラマン温度とレイリー温度の比較研究も行われている。なお、研究成果は国内外の学会で発表し高い評価を受けたほか、学術雑誌に発表しまた投稿中である。本研究で開発した技術は、他のライダー観測を大いに刺激するものと期待できる。
KAKENHI-PROJECT-00F00765
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-00F00765
スキルス胃癌の腹膜播種性転移およびリンパ節転移の病態解明と治療
スキルス胃癌患者の摘出胃より,原発巣由来の胃癌細胞株(OCUM-2M;以下2M)を樹立した.2Mを胃壁に移植する方法により,高率に播種性腹膜転移を形成する細胞株(OCUM-2MD3;以下D3)を樹立した.腹膜中皮細胞に対する接着性は,抗CD44H抗体により抑制された.つぎに癌細胞と,腹膜間質成分との接着性を検討した.その結果,LamininやFibronectin, Collagenなどの間質成分への接着性は,D3の方が2Mに比べ有意に亢進していた.D3細胞は,α2β1,α3β1-integrinをより強く発現していた.さらにD3細胞の接着性は抗α2β1,抗α3β1-integrin抗体の添加で抑制された.以上,腹膜への接着には,癌細胞に発現する接着分子CD44Hやα2β1,α3β1-integrinが関与していることが判明した.次に,抗CD44抗体や,β1-integrinの阻害剤である接着ペプチドRGDおよびYIGSRによる腹膜転移抑制効果を検討した.腹膜播種性転移マウスに,抗CD44抗体やRGDまたはYIGSRを投与することにより,D3の腹膜基底膜成分への接着・浸潤性は有意に抑制された.以上,接着ペプチドにより,腹膜播種性転を抑制しえる可能性が示唆された.胃癌細胞株OCUM-2Mを用い、より高率にリンパ節転移を形成する細胞株を樹立し、親株と比較したところ,リンパ節転移株においてICAM-1の発現が低下していた.さらに,抗ICAM-1抗体を用いた胃癌標本の免疫組織染色学的検討にて,ICAM-1陰性症例は、リンバ節転移率や腹膜転移率が高いことを明らかにした.以上,転移機序の一つとして,癌細胞のICAM4の発現低下による免疫監視機構からの逸脱が関与していることが示唆された.さらに,ICAM-1遺伝子導入は胃癌リンパ節転移や腹膜転移治療に有用であることを明らかにした.スキルス胃癌患者の摘出胃より,原発巣由来の胃癌細胞株(OCUM-2M;以下2M)を樹立した.2Mを胃壁に移植する方法により,高率に播種性腹膜転移を形成する細胞株(OCUM-2MD3;以下D3)を樹立した.腹膜中皮細胞に対する接着性は,抗CD44H抗体により抑制された.つぎに癌細胞と,腹膜間質成分との接着性を検討した.その結果,LamininやFibronectin, Collagenなどの間質成分への接着性は,D3の方が2Mに比べ有意に亢進していた.D3細胞は,α2β1,α3β1-integrinをより強く発現していた.さらにD3細胞の接着性は抗α2β1,抗α3β1-integrin抗体の添加で抑制された.以上,腹膜への接着には,癌細胞に発現する接着分子CD44Hやα2β1,α3β1-integrinが関与していることが判明した.次に,抗CD44抗体や,β1-integrinの阻害剤である接着ペプチドRGDおよびYIGSRによる腹膜転移抑制効果を検討した.腹膜播種性転移マウスに,抗CD44抗体やRGDまたはYIGSRを投与することにより,D3の腹膜基底膜成分への接着・浸潤性は有意に抑制された.以上,接着ペプチドにより,腹膜播種性転を抑制しえる可能性が示唆された.胃癌細胞株OCUM-2Mを用い、より高率にリンパ節転移を形成する細胞株を樹立し、親株と比較したところ,リンパ節転移株においてICAM-1の発現が低下していた.さらに,抗ICAM-1抗体を用いた胃癌標本の免疫組織染色学的検討にて,ICAM-1陰性症例は、リンバ節転移率や腹膜転移率が高いことを明らかにした.以上,転移機序の一つとして,癌細胞のICAM4の発現低下による免疫監視機構からの逸脱が関与していることが示唆された.さらに,ICAM-1遺伝子導入は胃癌リンパ節転移や腹膜転移治療に有用であることを明らかにした.スキルス胃癌原細胞株(OCUM-2M;以下2M)を胃壁に移植する方法により,高率に播種性腹膜転移を形成する細胞株(OCUM-2MD3;以下D3)を樹立した.腹膜中皮細胞に対する接着性は,D3の方が2Mに比べ有意に亢進していた.中皮細胞が細胞表面に発現しているヒアルロン酸に対する接着性も,D3の方が冗進していた.この接着能は,抗CD44H抗体により抑制された.以上のことより,腹膜中皮細胞への接着には,癌細胞に発現する接着分子CD44Hと中皮細胞上のヒアルロン酸との接着が関与していることが判明した.つぎに癌細胞と,腹膜間質成分との接着性を検討した.その結果,LamininやFibronectin, Collagenなどの間質成分への接着性は,D3の方が2Mに比べ有意に亢進していた.D3細胞は,α2β1,α3β1-integrinをより強く発現していた.さらにD3細胞の接着性は抗α2β1,抗α3β1-integrin抗体の添加で抑制された.以上のことより,中皮細胞下マトリックスとの接着には,癌細胞に発現するα2β1,
KAKENHI-PROJECT-13470260
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13470260
スキルス胃癌の腹膜播種性転移およびリンパ節転移の病態解明と治療
α3β1-integrinが関与していることが判明した.以上の転移機序の結果から,抗CD44抗体の接着阻害効果や,β1-integrinの阻害剤である接着ペプチドArg-Gly-Asp(RGD)およびTyr-lle-Gly-Ser-Arg(YIGSR)による腹膜転移抑制効果を検討した.腹膜播種性転移マウスに,抗CD44抗体やRGDまたはYIGSRを投与することにより,D3の腹膜基底膜成分への接着・浸潤性は有意に抑制された.以上,接着ペプチドにより,腹膜播種性転移を抑制しえる可能性が示唆された.RGDやYIGSRは副作用が少なくその効果が期待された.1.スキルス胃癌の発育進展に,胃由来の線維芽細胞から産生される増殖促進物質がparacrine的に作用していることが明らかとなった.この増殖促進物質は,熱処理で失活し,HPLCで10KDaに増殖活性を示したことより,分子量10KDaの蛋白と考えられた.2.癌細胞に発現するICAM-1は,白血球に発現するLFA-1との接着を介して腫瘍免疫に関与していることが知られている。そこで,マウスリンパ節転移モデルを用い,癌細胞にICAM-1遺伝子を導入することによるリンパ節転移抑制効果を検討した。胃癌リンパ節転移株OCUM-2MLN(以下2MLN)にICAM-1遺伝子をリポフェクション法にて導入し,ICAM-1高発現株2MLN/ICAMを樹立した。この2つの細胞株を用いて末梢血単核球(以下MNLs)との接着率,MNLsによるcytotoxicityについて検討を行った。MNLsの接着率は2MLNおよび2MLN/ICAMに対し,30分間でそれぞれ0%,31.5%,60分間で0.01%,81.8%であり,2MLN/ICAMに対する接着率が有意に高かった。MNLsによるcytotoxicityは,2MLNに対しては12,24,36時間後にそれぞれ7.37%,32.57%,35.55%,2MLN/ICAMに対しては16.19%,48.83%,62.3%であり,いずれの時点においても2MLN/ICAMに対するcytotoxicityが有意に高かった。胃癌細胞へのICAM-1遺伝子の導入はリンパ節転移に対し高い抑制効果が認められた。1.胃線維芽細胞から産生されるスキルス胃癌増殖促進因子は,熱処理で失活したこと,HPLCで約10KDaに増殖活性を示したことなどより,分子量約10KDaの蛋白と判明した.次に,既存の増殖因子との関連を検討した。方法は、スキルス胃癌細胞株、高分化型胃癌細胞株、種々の臓器由来の線維芽細胞株を用い、1)線維芽細胞の培養上清添加によるスキルス胃癌細胞の増殖促進作用2)keratinocyte growthfactor(KGF)のスキルス胃癌細胞、高分化型胃癌細胞への増殖促進作用を検討した。その結果、1)胃線維芽細胞のみスキルス胃癌細胞の増殖促進作用を示した。2)KGFはスキルス胃癌細胞の増殖促進作用を示したが、高分化型胃癌細胞の増殖には影響を与えなかった。胃線維芽細胞から産生されるスキルス胃癌増殖促進因子としてKGFの可能性が示唆された。2.胃癌細胞へのICAM-1遺伝子導入による転移抑制効果を検討した。2MLNにICAM-1遺伝子を導入し,ICAM-1高発現株2MLN/ICAMを樹立した。末梢血単核球による2MLN/ICAMに対する接着率や細胞障害活性は,2MLNに比し有意に亢進していた(P<0.01)。マウス転移モデルにおいて,2MLN/ICAMのリンパ節転移は減少し,リンパ節転移がICAM-1遺伝子導入により有意に抑制された(P<0.01)。2MLN/ICAMの組織像は,2MLNに比し単核球の浸潤が高頻度に認められた。胃癌細胞へのICAM-
KAKENHI-PROJECT-13470260
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13470260
半導体材料に対する高エネルギーイオン照射効果の「その場」測定
高エネルギーイオンによる高密度電子励起と、それに伴い誘起される局所高温状態について、各種半導体材料の発光を、照射中に「その場」測定することによって解析した。時間積分型の発光スペクトルは、OMAを用いて測定された。また、時間分解スペクトルの測定は、イオンがcarbon foilを通過する際に放出される二次電子をMCPによって検出することによってイオンの通過時刻を同定することによる、時間相関単一光子計測法によって測定した。まず、半導体の多重量子井戸構造を自然に形成することが知られている、有機無機層状ペロブスカイト型化合物の高速な励起子発光を用い、イオンの飛跡近傍で生じる過渡的な局所高温状態を、世界で初めて観測することに成功した。観測された局所温度と、イオンによる励起密度との関係より、局所的な融解が起きていることも解明した。次に、CdSの時間分解発光スペクトルの測定により、半導体中での励起キャリアの空間挙動の解析を行った。観測された、電子-正孔プラズマによる高速な発光帯のスペクトル形状を解析することにより、輻射緩和時の励起キャリア密度と平均エネルギーを見積もった。得られた結果は、キャリアの極性光学フォノン散乱を考慮したキャリア拡散モデルによって、定量的に説明された。また、電子格子相互作用が半導体よりもやや強い、MgO結晶についても実験を行った。励起密度の増大とともに自由励起子発光の強度が減少し、消滅した。対照的に、自由励起子発光よりもやや低エネルギーの発光帯が現れた。これは、従来の半導体で観測されていたのと同様に、静電遮蔽による自由励起子の解離を伴い、電子-正孔プラズマに類似した集団励起状態からの発光であると考えられる。高エネルギーイオンによる高密度電子励起と、それに伴い誘起される局所高温状態について、各種半導体材料の発光を、照射中に「その場」測定することによって解析した。時間積分型の発光スペクトルは、OMAを用いて測定された。また、時間分解スペクトルの測定は、イオンがcarbon foilを通過する際に放出される二次電子をMCPによって検出することによってイオンの通過時刻を同定することによる、時間相関単一光子計測法によって測定した。まず、半導体の多重量子井戸構造を自然に形成することが知られている、有機無機層状ペロブスカイト型化合物の高速な励起子発光を用い、イオンの飛跡近傍で生じる過渡的な局所高温状態を、世界で初めて観測することに成功した。観測された局所温度と、イオンによる励起密度との関係より、局所的な融解が起きていることも解明した。次に、CdSの時間分解発光スペクトルの測定により、半導体中での励起キャリアの空間挙動の解析を行った。観測された、電子-正孔プラズマによる高速な発光帯のスペクトル形状を解析することにより、輻射緩和時の励起キャリア密度と平均エネルギーを見積もった。得られた結果は、キャリアの極性光学フォノン散乱を考慮したキャリア拡散モデルによって、定量的に説明された。また、電子格子相互作用が半導体よりもやや強い、MgO結晶についても実験を行った。励起密度の増大とともに自由励起子発光の強度が減少し、消滅した。対照的に、自由励起子発光よりもやや低エネルギーの発光帯が現れた。これは、従来の半導体で観測されていたのと同様に、静電遮蔽による自由励起子の解離を伴い、電子-正孔プラズマに類似した集団励起状態からの発光であると考えられる。高エネルギーイオンによる高密度電子励起と、それに伴い誘起される、試料の局所的な構造変化については、これまでに多くの研究者による報告があるにも関わらず、その基礎過程については解明されていない。我々は、この問題に対し励起された電子や正孔、あるいは励起子の輻射緩和による発光スペクトを測定することにより、高密度に付与されたエネルギーのダイナミクスを「その場」で観察することに成功した。具体的には、多重量子井戸構造を持つ試料中の励起子の高速な輻射緩和を利用することにより、イオンの飛跡近傍に形成される局所高温状態について、初めて実験的に捉えることに成功した。励起子吸収帯の低エネルギー側尾部の形状にUrbach則を適用し、それによって得られた物性定数を用いて、イオン励起による励起子発光帯の低エネルギー側尾部を解析し、励起子近辺の局所温度を求めた。その結果、測定された局所温度は、イオンによる電子励起密度の増加関数であることが分かったが、励起密度の増大に伴って、飽和傾向を示すことが明らかになった。我々は、これが局所高温状態によって誘起された融解現象によるものであると考え、量子井戸構造のバリア層である有機層の構造を変化させて測定を行った結果、観測される「局所融点」が、有機鎖の長さによって異なることが分かつた。また、得られた「局所融点」が、バルクでの融点と比較して非常高いことも明らかとなった。この結果より、局所融解現象が・熱平衡下とは異なる過程で進んでいることが示唆された。他方、低温下においては、励起子分子によるものと思われる発光帯が観測された。このため、試料の温度が、イオンの飛跡近傍におけるキャリアや格子のダイナミクスにどのような影響を与えているかを解析することが今後の課題となる。高エネルギーイオンによる高密度電子励起と、それに伴い誘起される、試料の局所的な構造変化については、これまでに多くの研究者による報告があるにも関わらず、その基礎過程については解明されていない。
KAKENHI-PROJECT-14380233
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14380233
半導体材料に対する高エネルギーイオン照射効果の「その場」測定
我々は、この問題に対し、励起された電子や正孔、あるいは励起子の輻射緩和による発光スペクトルを測定することにより、高密度に付与されたエネルギーのダイナミクスを「その場」で観察することに成功した。今年度は、時間分解発光スペクトルの測定により、高密度励起状態のダイナミクスの解析を行った。単一のイオンが入射する時間を、イオンがCarbon foilを通過した際に放出される二次電子をMCPによって検出することによって同定し、イオン誘起発光が検出される時間との時間差を測定することにより、発光時間プロファイルを得た。これを、複数の発光波長で測定することによって、時間分解発光スペクトルを得た。半導体であるCdSを試料として測定を行うと、220ps程度の輻射寿命をもった、電子-正孔プラズマのものと思われる発光帯が観測された。この発光帯の形状は、イオンによる励起密度によって変化した。この発光体の形状解析を行い、輻射緩和開始時での励起キャリア密度を同定することができた。各イオンによる励起によって得られたキャリア密度の比は、各イオンによる励起密度の比と非常によく一致した。このことから、本研究での解析手法が非常に妥当であることが裏付けられた。また、キャリア・フォノン相互作用を考慮した拡散モデルにより、実験結果を再現することに成功した。これらのことから、半導体中での局所高密度キャリアの空間挙動が、キャリア・フォノン相互作用を考慮することによって定量的に記述できることが明らかとなった。高エネルギーイオンによる高密度電子励起と、それに伴い誘起される、試料の局所的な構造変化については、これまでに多くの研究者による報告があるにも関わらず、その基礎過程については解明されていない。我々は、この問題に対し、励起された電子や正孔、あるいは励起子の輻射緩和による発光スペクトルを測定することにより、高密度に付与されたエネルギーのダイナミクスを「その場」で観察することに成功した。今年度は、時間分解発光スペクトルの測定により、高密度励起状態のダイナミクスの解析を行った。単一のイオンが入射する時間を、イオンがCarbon foilを通過した際に放出される二次電子をMCPによって検出することによって同定し、イオン誘起発光が検出される時間との時間差を測定することにより、発光時間プロファイルを得た。これを、複数の発光波長で測定することによって、時間分解発光スペクトルを得た。CdSなどの半導体よりも、電子-格子相互作用がやや強い、MgOを試料として測定を行った。照射するイオンの質量を大きくし、励起密度を増大させるにつれ、160nm付近の自由励起子による鋭い発光帯の強度は減少し、ついには消滅した。対照的に、180nm付近の幅広い発光帯の強度が増大した。これらの発光帯では共に、100ピコ秒程度の、非常に高速な減衰が観測された。現在のところ、以上の励起密度依存性は、半導体中の電子-正孔プラズマに類似した集団励起状態が発生し、その中での静電遮蔽により、自由励起子が形成されなくなったためであり、180nm付近の発光帯は、電子-正孔プラズマに類似した集団励起状態における1対の電子-正孔の輻射再結合によるものであると考えられる。
KAKENHI-PROJECT-14380233
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首都圏民間大規模戸建団地の空家・空区画発生メカニズムとその再生に関する基礎的研究
これまでほとんど実態が明らかにされていない、首都圏における民間大規模戸建団地を対象に、主として開発許可登録簿の資料と、経年的住宅地図、および現地調査を通して空家や空き区画の発生状況を確認し、その中から選ばれた団地について、空き区画が発生するメカニズムを、登記簿調査や開発立地特性分析から導きだした。また、全国の先進的な団地の住環境運営事例調査を通して、空家・空き区画等の再生の知見を得た。これまでほとんど実態が明らかにされていない、首都圏における民間大規模戸建団地を対象に、主として開発許可登録簿の資料と、経年的住宅地図、および現地調査を通して空家や空き区画の発生状況を確認し、その中から選ばれた団地について、空き区画が発生するメカニズムを、登記簿調査や開発立地特性分析から導きだした。また、全国の先進的な団地の住環境運営事例調査を通して、空家・空き区画等の再生の知見を得た。本年度の研究は、以下の4項目について行った。(1)首都圏における民間戸建住宅団地の開発経緯と空家・空区画の全貌把握(団地基礎データ収集):首都圏(1都7県)において戦後行われてきた「旧宅地造成事業」「開発許可制度による宅地開発」「土地区画整理事業による宅地開発」で、開発面積5ha以上の民間大規模戸建て住宅団地の全てを対象とし、各行政機関が保有する関連資料を網羅した上でその開発経緯の全貌を把握した(=以下「団地基礎データ」と称する)。(2)団地基礎データのGIS化と団地開発経緯の類型化:(1)で補足した1都7件全ての団地を対象とし、GIS上に、団地基礎データを数値化したものを落としこみ、首都圏における民間戸建団地開発過程特徴・立地的特徴を明らかにし、団地形成過程、空家・空区画発生過程の分類を試みた。(3)開発許可団地における住環境の変遷把握と類型化:東京・千葉・神奈川に立地する団地を対象とし、当初の土地利用計画図をベースとしたマップを作成し、これに過去の住宅地図から読み取った建物用途や空家空区画の発生状況、国勢調査から明らかになる人口動態や就業構造等によって、団地の変遷パターンを類型化した。(4)空区画発生メカニズムの解明:茨城県の開発許可団地数箇所を対象とし、対象団地管轄の法務局出張所にて当該団地空区画の過去の所有状況・所有者の居住地などを網羅的に把握した。(5)空家・空区画の再利用を通した団地再生の検討:茨城県内の団地を対象に、団地居住者組織及び自治体職員に対してのヒアリングを行った。また、関西方面の比較的著名な団地(千里NT等)について、空家・空区画を利用する団地再生に関するヒアリングを行い、団地再生手法の検討材料とした。本研究では、首都圏戸建住宅団地の最大の課題となるであろう空家・空区画に着目し、その発生メカニズムを登記簿情報等を駆使して解明し、空家・空区画の発生状況や利用方法を操作することを通じての団地再生の方策についての検討を行うことを目的としている。まず、(1)「開発許可団地における住環境の変遷把握と類型化」をテーマに、埼玉、群馬、栃木、山梨の各県における開発許可団地の、過去の経年的住宅地図と国勢調査データをもとに団地の住環境の変遷を把握した。この中で、東京への交通アクセスと開発団地の立地の相関が読み取れた。次いで、(2)「空き区画発生メカニズムの解明」に関して東京、千葉、神奈川の各都県のいくつかの団地を選定して、主として公図や登記簿データを用い、当該団地に発生する空区画の発生過程について分析した。この中で、空き地の多くがいわゆる「投機」によって発生していることが推測できた。そのうえで、(3)「空家・空区画の再利用を通した団地再生の検討」として、(2)で対象としたいくつかの団地を中心に、ヒアリング等を行い、空家・空区画に関わる住環境運営上の課題とその解決手法の実態を捕捉し、団地の住環境形成種別に応じた空家・空区画の利用手法の検討を行う。一方で、広く関東圏以外の、住環境運営に成功している団地への聞き取り調査を通して、空家・空区画の活用を通しての団地再生手法の検討を行った。この中で、特に、団地を運営している町会・自治会などの主体と、NPOや他団体との連携が、住環境の運営に大きく影響を与える可能性のあることが推察できた。首都圏戸建住宅団地の最大の課題となるであろう空家・空区画に着目し、その発生メカニズムを登記簿情報等を駆使して解明し、空家・空区画の発生状況や利用方法を操作することを通じての団地再生の方策についての検討を行うことを目的としている。本年度においては、「主として埼玉、群馬、栃木、山梨を対象に空区画発生メカニズムの解明」と、「空家・空区画の再利用を通した団地再生の検討」の大きく2つのテーマを設定し、研究を進めた。まず、前者の空区画発生メカニズムの解明については、団地の開発過程と環境形成過程に関する類型化をもとに、特に、栃木県の事例を中心にして、主として登記簿データ等を用い、当該団地に発生する空区画の発生原因を探った。結果は、前年度とほぼ同様に、都心からの交通の利便性と空き区画の発生状況に大きな相関があることと、空き区画の多くが、いわゆる「塩漬け」と呼ばれる、不動産登記の対象であり、開発未着手期間が長い物件であったことが分かった。次に、後者の空家・空区画の再利用を通した団地再生の検討では、これまで対象としてきた団地以外にも、対象を広げ、町の自治会・町内会長等に対してヒアリング等を行い、空家・空区画に関わる住環境運営上の課題とその解決手法の実態を捕捉した。
KAKENHI-PROJECT-19560633
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19560633
首都圏民間大規模戸建団地の空家・空区画発生メカニズムとその再生に関する基礎的研究
この中で、空き区画や空家を埋めていく現象として、大きく二つの現象が着目される。ひとつは、すでに居住している居住者自身やその縁者による利用であり、その促進が地域の荒廃を防ぐと同時に、地域の著しい高齢化を阻止する機能を有していることが推測された。もうひとつは、近隣居住地区との連携である。近隣に若年者向けのマンションや戸建て住宅団地が建設されることにより、古いほうの居住地に移り住む世帯があることが確認された。このような、血縁、非血縁によるいわば地域循環居住を促進することが、空家・空き区画を再生する、可能性ある道筋であることが示された。
KAKENHI-PROJECT-19560633
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19560633
非線形方程式の摂動論
研究代表者は非線形波動方程式の散乱理論及びporous flowを記述する非線形放物型方程式の解の存在と漸近性質を研究した。これらは別記の論文となっている。分担者井上は正規確率場の条件つき独立性について研究した。分担者岸本は可換環及び代数群について研究した。分担者横田は例外型の単純リー群について研究した。分担者浅田は非ターベルゲージ場理論を研究した。また分担者松田はバーンサイド環についての研究を行った。これらは別記の論文笄として発表されている。これらの他に名前を記していない分担者の研究もあるが省略する。以上の研究を総合し、本研究組織の研究課題は充分達成されたものと考えることができる。なお、代表者をはじめとして、今後に発表されるまであろう研究成果もあり、目下そのとりまとめに追われている。研究代表者は非線形波動方程式の散乱理論及びporous flowを記述する非線形放物型方程式の解の存在と漸近性質を研究した。これらは別記の論文となっている。分担者井上は正規確率場の条件つき独立性について研究した。分担者岸本は可換環及び代数群について研究した。分担者横田は例外型の単純リー群について研究した。分担者浅田は非ターベルゲージ場理論を研究した。また分担者松田はバーンサイド環についての研究を行った。これらは別記の論文笄として発表されている。これらの他に名前を記していない分担者の研究もあるが省略する。以上の研究を総合し、本研究組織の研究課題は充分達成されたものと考えることができる。なお、代表者をはじめとして、今後に発表されるまであろう研究成果もあり、目下そのとりまとめに追われている。
KAKENHI-PROJECT-61540092
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-61540092
低酸素暴露による透過性肺水腫の発症機序に関する研究
本年度申請者はラットを低酸素環境に暴露した際の肺動脈圧、肺血管透過性、肺内水分量、肺組織中のミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を測定、検討した。オスのSprague-Dawleyラット24匹を低酸素暴露(Hx)群と室内気対照(Nx)群に分けた。麻酔下に頚部から動脈カテーテル、肺動脈カテーテルを留置した。Hx群を290Torrの低圧チャンバー(大気圧下ではFIO_2 0.07に相当する低酸素環境)内で、Nx群を大気圧下(FIO_2 0.21)で24時間飼育した。その後Hx群を低酸素チャンバー(FIO_2 0.07)に、Nx群を室内気チャンバーに移し実験を開始した。両群にFITC-アルブミンを静脈内注射した。4時間後、肺動脈圧を測定、血液を採取、気管支肺胞洗浄を施行した。気管支肺胞洗浄液と血漿の蛍光強度の比を肺血管透過性の指標とした。肺組織の湿乾重量比を算出し肺内水分量の指標とした。活性化好中球の指標として肺組織中のMPO活性を測定した。申請者はラットを低酸素環境に暴露した際に生じる肺血流分布の変化を非放射性マイクロスフェア法を用いて評価し、低酸素性肺血管収縮が不均一に生じるか否かを検討した。オスのSprague-Dawleyラット14匹を低酸素暴露(Hx)群8匹と室内気対照(Nx)群6匹に分けた。ハロセン吸入麻酔下に頚部から動静脈カテーテルを留置し、麻酔から十分に覚醒した後に実験を開始した。実験中、すべてのラットで血圧、脈拍をモニターした。Hx群ではバリウム標識マイクロスフェアを静注後、FlO_2 0.07の低酸素チェンバーに移し10分後にヨード標識マイクロスフェアを低酸素下に静注した。Nx群では室内気下10分間隔で2種類のマイクロスフェアを静注した。2種類のマイクロスフェア静注後、動脈血ガス分析を行った後、過量の麻酔下に全肺を摘出した。摘出した肺を28ピースに分けた。それぞれの組織を摂氏60度で乾燥し、乾燥重量を測定後2NのKOHで完全に溶解した。各ピースに含まれるマイクロスフェア量をX線蛍光分析を用いて測定した。各ピースに含まれるマイクロスフェア量はピース内の血流量を反映する。各ピースで、全肺単位重量あたりの血流量に対する各ピース単位重量あたりの血流量を相対血流量として算出した。両群各サンプルの2回測定した相対血流量(1回目に測定したベースの相対血流量と2回目に測定した相対血流量、Nx群では1回目と同じ室内気の条件、Hx群では低酸素暴露開始10分後の相対血流量)の相関係数(r)を求めた。Nx群では2回測定した相対血流の相関係数rは0.899で各サンプルの相対血流量はほぼ一致した。それに対してHx群のrは0.694であり室内気の条件と低酸素の条件で肺血流分布に違いを生じていた。FlO_2 0.07の低酸素暴露10分後、肺血流分布は変化していた。本実験で低酸素性肺血管収縮が不均一に生じている可能性が示唆された。次年度、主に肺血管透過性、肺内水分量および炎症細胞の関与についての検討を加え、得られる知見より学術論文を作成する予定である。本年度申請者はラットを低酸素環境に暴露した際の肺動脈圧、肺血管透過性、肺内水分量、肺組織中のミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を測定、検討した。オスのSprague-Dawleyラット24匹を低酸素暴露(Hx)群と室内気対照(Nx)群に分けた。麻酔下に頚部から動脈カテーテル、肺動脈カテーテルを留置した。Hx群を290Torrの低圧チャンバー(大気圧下ではFIO_2 0.07に相当する低酸素環境)内で、Nx群を大気圧下(FIO_2 0.21)で24時間飼育した。その後Hx群を低酸素チャンバー(FIO_2 0.07)に、Nx群を室内気チャンバーに移し実験を開始した。両群にFITC-アルブミンを静脈内注射した。4時間後、肺動脈圧を測定、血液を採取、気管支肺胞洗浄を施行した。気管支肺胞洗浄液と血漿の蛍光強度の比を肺血管透過性の指標とした。肺組織の湿乾重量比を算出し肺内水分量の指標とした。活性化好中球の指標として肺組織中のMPO活性を測定した。
KAKENHI-PROJECT-10770277
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10770277
外国人看護師の受け入れ体制整備に関する研究
EPA(経済連携協定)により来日したインドネシア人、フィリピン人を対象とした学習支援から、日本の看護師国家試験合格に向けた学習、異文化適応にかかる課題を明らかにした。英国におけるONP(外国人看護師研修)の視察から、教育機関と外国人看護師受入れ先の医療機関が連携して人材育成を行うシステムの日本への適用について検討した。EPA(経済連携協定)により来日したインドネシア人、フィリピン人を対象とした学習支援から、日本の看護師国家試験合格に向けた学習、異文化適応にかかる課題を明らかにした。英国におけるONP(外国人看護師研修)の視察から、教育機関と外国人看護師受入れ先の医療機関が連携して人材育成を行うシステムの日本への適用について検討した。平成22年度は、EPA看護師候補者の就業する医療機関における受け入れ体制、職場適応、看護師国家試験対策に係る実態を明らかにし、課題を明確化することを目的とした。文献検討と対象者であるEPA看護師候補者への学習支援を通じて直面する課題についての情報収集から以下のことが明らかになった。英国、オーストラリアでは、外国人看護師に対し異文化適応や受け入れ国の看護業務基準を解説するための3-6ヶ月程度の研修が義務付けられており、これを大学等の教育機関が担うことも多い。EPA看護師候補者の現状については、医療機関等で学習に関わっている日本語教育者、看護師国家試験対策のための学習支援を行っているNPO、母国語での生活相談等のサポートをしている人類学者等から情報を収集した。更に看護専門学校の教員経験を持つ研究協力者と共に東京・神戸においてEPA看護師候補者を対象とした看護師国家試験対策の学習会を開催した。学習会時のディスカッションにおいて直面する課題として、学習時間の確保の困難さ、日本語を母国語としない者にとって分かりやすい参考書が欠如していることが明らかになった。特に、日本の医療制度についてはインドネシア・フィリピンには医療保険制度や高齢者介護施設が普及していないことから概念を理解すること自体が難しいと感じていた。国立インドネシア教育大学体育・健康教育学部看護学科における看護教育カリキュラムの分析では、日本の基礎看護教育に比して母性看護学等の内容が不十分なことが明らかになった。平成23年度は前年度の情報収集の対象を拡大してEPA看護師候補者の職場適応の実態を明らかにするとともに、フィリピン、インドネシアにおける看護教育カリキュラムの調査を行い、EPAによる看護師候補者が国家試験合格のために必要な補完教育について明らかにすることを目的とした。インドネシアについては、前年度に学内研究費により、本学と大学間協定のあるインドネシア教育大学を訪問しカリキュラムを入手し、分析を行ったため、本年度は教科書を入手し、学習内容を分析した。フィリピンについては、フィリピン看護協会が詳細なカリキュラムをホームページで公開しているため、他の文献と合わせ分析を行った。その結果、2009年のカリキュラム改正前には老年看護学は含まれておらず、改正後も在宅看護学は教授されていないことが明らかになった。大学間連携と文献等により送り出し国の基礎教育の状況が明らかになったため、外国人看護師を多く受け入れている英国におけるONP(Overseas Nurses Program)の実態調査としてロンドンシティ大学およびボーンマス大学の担当者に面接調査を行った。開発途上国(インド、フィリピン、南アフリカ等)からの看護師は言語的障壁が高いこと、看護師としての自律性が低いと評価されていた。ONPコースはNMC(Nursing and Midwifery Council)に認定された大学が行っており、能力の評価方法も確立されており、外国人看護師の適応促進のための看護系大学の担う役割モデルが示されていた。さらに今年度は、EPAのインドネシア人看護師候補者が特に宗教上(イスラム教)を周囲に理解されないために困難を感じることが多いことから異文化紹介のパンフレットを作成した。また、看護師国家試験対策のための必修問題の参考書を研究協力者らと共に作成した。外国人看護師の国家試験対策として補完的な教育内容を明らかにするためにインドネシア、フィリピンの看護教育カリキュラムの分析を行った。インドネシアでは指定されたカリキュラムが存在しておらず、今後の看護師の海外派遣を視野に入れた統一カリキュラムの検討がなされているが、現段階では養成校によりばらつきが多いことが明らかになった。なされたフィリピンでは統一されたカリキュラムが存在するが、近年の度重なるカリキュラム改正により来日している看護師の教育内容は多様であるといえる。平成22年度に作成した必修問題解説書は候補者に使用されていたが、ある段階からは日本語で各領域の学習を進めることが効率的と考えられる。EPA看護師候補者の抱える問題は個別の情報収集等から明らかにされたが、量的、質的な分析に至っていない。また周囲への異文化理解の促進するためパンフレットの作成、参考書の作成を行ったがその効果については検証していない。24年度が最終年度であるため、記入しない。今年度はグループインタビューからEPA看護師候補者の直面する問題を質的に分析する。また昨年度に作成した異文化理解のパンフレットおよび国家試験対策参考書の効果について検証する。24年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-22592385
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22592385
細胞分裂制御遺伝子CHFRの機能解明および口腔癌の診断・分子標的薬の開発への応用
癌抑制遺伝子CHFRは細胞周期M期チェックポイント機能を有し、E3ユビキチンリガーゼをコードするが、その標的基質分子および制御機構は不明な点が多い。本研究では、CHFR結合分子としてPARP-1を同定し、CHFRがこの標的分子である1本鎖切断DNA結合性のDNA修復関連タンパクPARP-1のポリユビキチン化およびタンパク分解を介してM期チェックポイントを制御していることを突き止めた。またChfr欠損マウスおよびヒト口腔癌由来の細胞においてPARP-1タンパクレベルが有意に上昇していることを確認した。本研究はタキサン系抗癌剤抵抗性メカニズムの解明に貢献し、この抵抗性を示す口腔癌細胞において微小管阻害剤とPARP阻害剤とが有効な併用効果をもたらす分子機序を提唱する。癌抑制遺伝子CHFRは細胞周期M期チェックポイント機能を有し、E3ユビキチンリガーゼをコードするが、その標的基質分子および制御機構は不明な点が多い。本研究では、CHFR結合分子としてPARP-1を同定し、CHFRがこの標的分子である1本鎖切断DNA結合性のDNA修復関連タンパクPARP-1のポリユビキチン化およびタンパク分解を介してM期チェックポイントを制御していることを突き止めた。またChfr欠損マウスおよびヒト口腔癌由来の細胞においてPARP-1タンパクレベルが有意に上昇していることを確認した。本研究はタキサン系抗癌剤抵抗性メカニズムの解明に貢献し、この抵抗性を示す口腔癌細胞において微小管阻害剤とPARP阻害剤とが有効な併用効果をもたらす分子機序を提唱する。ヒト癌細胞において分裂期チェックポイントに関与するCHFR遺伝子制御領域のDNAメチル化および発現消失が高頻度に見出されている。さらに、CHFR発現消失した腫瘍細胞はタキサン系微小管阻害剤に対する感受性が高いことを既に報告した。本年度は、CHFRノックアウトマウスの分子生物学的、細胞生物学的解析を行った。1.CHFRノックアウトマウスを作成した。CHFR(-/-)マウスは正常に発生し、CHFRは個体の発生には必須でないことが示唆された。2.CHFR(-/-)マウス由来線維芽細胞では、タキサン系微小管阻害剤処理に高感受性を示すことを再確認した。CBFR(-/-)マウス由来線維芽細胞は、docetaxel処理により、8n細胞の出現、アポトーシスの増強を認め、CHFRが染色体の安定性維持に重要であることを明らかにした。さらに、CHFR(-/-)マウス由来の線維芽細胞において、CHFR E3ユビキチンリガーゼ活性欠損により、基質として既に知られているPlk-1およびAurora Aがタンパクレベルで増強していることを確認し、この動物モデルの有用性を明らかにした。3.CHFR(-/-)マウス由来細胞ではCHFRの基質となるタンパク質のユビキチン化が起こらず細胞内に蓄積していると考えられ、正常マウス由来細胞をコントロールにして網羅的プロテオミクス解析を行い、CHFRにより分解を受ける基質タンパクの同定を進行中である。さらに、cDNAマイクロアレイを利用して遺伝子発現プロファイルを比較し、CHFRが深く関与するシグナル経路を同定した。4.作成したCHFRノックアウトマウスをバッククロスにより、C57B6のバックグラウンドを持ったヘテロ欠失マウスを作製中である。その後,個体における機能解析や発がんにおける役割の解析を行う予定である。CHFR(Checkpoint with fork head-associated and ring finger)は、様々な悪性腫瘍でエピジェネティック異常による遺伝子の発現消失が認められる重要な癌抑制遺伝子の一つである。CHFRの機能解明は、がんの発生、進展の機構を明らかにする上で重要であり、がんの分子標的治療の開発への可能性からも、国内外において関心が高い。本年度は、CHFRの新規機能として転写因子NF-κBの負の制御分子であることを初めて明らかにした。まず、cDNAマイクロアレイ解析によりCHFRの過剰発現がNF-kB標的遺伝子群の発現を抑制することを確認した。CHFRの過剰発現はNF-kB転写活性を抑制し、CHFRのノックダウンはNF-kBの転写活性を増強した。このNF-kB転写活性の抑制は、E3活性非依存的な新規メカニズムによるものであることが示唆された。大腸癌細胞HCTl16において、CHFRはNF-kB標的遺伝子の一つであるIL-8のmRNAレベルを顕著に抑制した。NF-kB結合配列を含むIL8プロモーター領域がCHFRによる転写抑制に重要であった。さらに、培養上清中に分泌されるIL-8タンパク質はCHFRの過剰発現により有意に減少した。IL-8は血管内皮細胞の遊走、浸潤を促進し血管新生に関わることで癌の進展に寄与することが既に知られている。CHFRの過剰発現によりHUVECの遊走および浸潤が有意に抑制され、この効果はIL-8依存的であった。異種移植マウスモデルを用いて、CHFRの血管新生への効果を観察したところ、CHFR発現アデノウイルスベクターの腫瘍内注射はコントロールと比較して有意に血管新生を抑制した。NF-κBは種々の悪性腫瘍で恒常的に活性化していることが報告されており、創薬ターゲットとして注目されていることから、CHFRが癌治療の候補となることを明らかにした。CHFRタンパクはE3ユビキチンリガーゼ活性を持つことが分かっているが、その機能の詳細は不明な点が多い。本研究ではCHFRの機能および制御機構の解明を目的とし、CHFR結合分子の探索を行った。
KAKENHI-PROJECT-20390519
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細胞分裂制御遺伝子CHFRの機能解明および口腔癌の診断・分子標的薬の開発への応用
1.ポリ(ADP-リボシル)化(PAR化)酵素であるPARP-1タンパクを新規CHFR結合分子として同定した。CHFRとPARP-1がin vitroおよびin vivoで結合することを確認した。CHFRはPARP-1をポリユビキチン化し、一方、PARP-1はCHFRをPAR化することを見出した。次に、CHFR/PARP-1の結合はPARP-1の酵素活性により制御されていることを明らかにした。2.CHFRが微小管阻害剤に応答して活性化されるチェックポイントであることから、細胞周期M期に焦点を当て、さらなる機能解析を行った。その結果、微小管阻害剤に応答して、PARP-1はCHFR依存的に自己PAR化、さらにポリユビキチン化され、その結果、PARP-1タンパク分解が促進されることを明らかにした。3.さらに、このPARP-1タンパク量の減少が、細胞周期進行の抑制を誘導することが分かった。すなわち、微小管ストレスに応答してPARP-1の自己PAR化が促進され、その修飾されたPARP-1にCHFRが結合する。CHFRはPARP-1をポリユビキチン化、タンパク分解することによりM期チェックポイントとして機能しているという新規分子メカニズムを解明した。4.以上のCHFR機能解析から、M期チェックポイントがPARP阻害剤により抑制されることが予測できる。したがって、タキサン系抗癌剤抵抗性を示す口腔癌細胞において、PARP阻害剤との併用によりCHFR依存的な抗癌剤抵抗性を改善できる可能性の検討を行った。その結果、タキサン系抗癌剤/PARP阻害剤の相乗効果による抗癌剤抵抗性改善がみられ、新規治療法の可能性が示唆された。
KAKENHI-PROJECT-20390519
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2次元伝導を示す六方晶化合物のファンホーベ特異点を利用した高性能熱電材料の創製
2次元3角格子で特徴づけられるNa_xCoO_2は,巨大なゼーベック係数と金属的な電気伝導を示す.Na_xCoO_2で観測されるこれらの特徴的な熱電物性の起源は明らかではなく,その起源を解明することができれば,新しい熱電材料の材料設計指針の構築に大きく寄与できるはずである.我々は,2次元3角格子が生み出す電子構造に熱電物性の特徴を生み出す起源があると考え,高分解能角度分解光電子分光を用いてNa_xCoO_2の電子構造を明らかに,その熱電物性への影響を解明する研究を実施した.測定した角度分解光電子分光スペクトルにおいて,波数kとともにエネルギー固有値が変化するスペクトル強度と,波数kに依存しないスペクトル強度が共存することを確認した.前者は,波として振る舞うコヒーレントな電子であり,後者は局在したインコヒーレントな電子である.電子状態がコヒーレントパートとインコヒーレントパートに分離する現象は,強い電子相関に影響を受けた典型的なフェルミ流体が示す特徴であり,Na_xCoO_2の電子状態が電子相関により強く影響を受けていることを示唆している.角度分解光電子分光から得られた電子構造と線形応答理論から得られる熱電能の評価式を用いてゼーベック係数を計算したところ,ゼーベック係数の温度依存性及び組成依存性を定量的に再現することに成功した.その結果,Na_xCoO_2の熱電能は低温ではコヒーレントパートにより,また,高温ではインコヒーレントパートにより支配されていることがわかった.さらに,コヒーレントパートから生み出される熱電能が大きくなる原因として,2次元3角格子のファンホーベ特異点が重要な役割を果たしていることを解明した.大量消費による化石燃料の枯渇や,その燃焼により排出されるガスによる地球温暖化が深刻な社会問題となっている.これらの問題を緩和する方法として,近年,熱電変換材料の利用が脚光を浴びている.しかし,熱電材料のエネルギー変換効率は高くないために,現状では,熱電発電は極く限られた状況でしか利用されていない.熱電材料の特性を向上させることで大規模熱電発電システムを実用化することが,21世紀の材料研究者に与えられた重要な課題である.本研究では,研究代表者の提案する新しい熱電材料設計指針(2次元伝導を示す六方晶化合物の利用)が有効であることを実験的に証明し,さらに,2次元伝導を示す一連の六方晶化合物を用いて新しい高性能熱電材料を創製することを目指す.平成19年度に行った研究により,2次元電気伝導を示す典型的な六方晶化合物であるNa_xCoO_2に対して,高分解能角度分解光電子分光実験を実施した.真空紫外光を励起光として得た光電子分光スペクトルから,Na_xCoO_2が低温においてコヒーレントな準粒子状態の波束としての伝導が支配的であることを明らかにした.一方,高温では強い電子相関により生み出されるインコヒーレントな局在電子の拡散伝導が支配的であることも解明した.さらに,軟X線角度分解光電子分光実験も実施し,上記の結果が固体内部の電子状態を反映していることを検証した.低温におけるコヒーレント伝導を電子構造(E-k関係)とBoltzmann輸送方程式から解析し,同様に解析した2次元正方格子物質と比較した結果,2次元三角格子(六方晶)に特徴的なvan Hove特異点が大きな熱電能の発現に寄与していることを明らかにした.さらに,Na_xCoO_2と同様に2次元電気伝導を示す六方晶化合物としてTiS_2の単結晶を,気相輸送法を用いて作成した.作成した試料の熱電物性を測定したところ,Na_xCoO_2と同様に大きな熱電能と金属伝導で特徴づけられることを確認し,本研究で提案する2次元電気伝導を示す六方晶化合物が熱電材料として有望であることを検証することができたと考えている.2次元3角格子で特徴づけられるNa_xCoO_2は,巨大なゼーベック係数と金属的な電気伝導を示す.Na_xCoO_2で観測されるこれらの特徴的な熱電物性の起源は明らかではなく,その起源を解明することができれば,新しい熱電材料の材料設計指針の構築に大きく寄与できるはずである.我々は,2次元3角格子が生み出す電子構造に熱電物性の特徴を生み出す起源があると考え,高分解能角度分解光電子分光を用いてNa_xCoO_2の電子構造を明らかに,その熱電物性への影響を解明する研究を実施した.測定した角度分解光電子分光スペクトルにおいて,波数kとともにエネルギー固有値が変化するスペクトル強度と,波数kに依存しないスペクトル強度が共存することを確認した.前者は,波として振る舞うコヒーレントな電子であり,後者は局在したインコヒーレントな電子である.電子状態がコヒーレントパートとインコヒーレントパートに分離する現象は,強い電子相関に影響を受けた典型的なフェルミ流体が示す特徴であり,Na_xCoO_2の電子状態が電子相関により強く影響を受けていることを示唆している.角度分解光電子分光から得られた電子構造と線形応答理論から得られる熱電能の評価式を用いてゼーベック係数を計算したところ,ゼーベック係数の温度依存性及び組成依存性を定量的に再現することに成功した.その結果,Na_xCoO_2の熱電能は低温ではコヒーレントパートにより,また,高温ではインコヒーレントパートにより支配されていることがわかった.さらに,コヒーレントパートから生み出される熱電能が大きくなる原因として,2次元3角格子のファンホーベ特異点が重要な役割を果たしていることを解明した.
KAKENHI-PROJECT-19656160
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半導体レーザーの動的電子相関理論
半導体の電子励起多体状態と光子場との結合系を対象とし,動的電子相関効果を取り入れた非平衡光学応答理論を構築した。それをレーザー発振や発光過程に適用して,従来の現象論や自由電子近似に代わる新しい半導体レーザー理論体系や発光理論体系を整備した。特に,共振器ポラリトン凝縮と半導体レーザーの類似と相違が理論的に明らかになり,非平衡量子凝縮の基礎学術にも新しい知見をもたらした。微小共振器列を用いた光の量子状態の制御法に関する理論的な予測を行い,量子光学素子への応用につながる研究も進展した。半導体中の電子励起多体状態と光子場との結合系を対象とし,動的電子相関効果を取り入れた量子光学応答理論を構築する。それをレーザー発振や自然放出過程に適用することによって,従来の現象論や自由電子近似に代わる新しい半導体レーザー理論体系を整備する。同時に,非平衡定常状態での多粒子系の量子応答理論の定式化と深化に寄与し,電子-正孔-フォノン系と電子-正孔-フォノン-光子系での量子コヒーレンス形成の類似と相違を明らかにし,動的電子相関を用いて物質コヒーレンスと光コヒーレンスを制御・設計するための指導原理を確立する。そのために,(1)準静的性質:準熱平衡状態にある電子正孔系での動的電子相関効果を微視的に考究して,反転分布状態の量子・熱揺らぎ特性や光学利得発生および自然放出機構を明らかにし,(2)動的性質:光励起法および電流注入法によって生成される非平衡定常状態にある反転分布とそこでの量子多体相関と量子凝縮の形成・崩壊ダイナミクスを追跡し,(3)光の性質:反転分布と混成した共振器光子場および外部出力光子場の量子コヒーレンスと揺らぎ・雑音特性を解明する,という3項目の研究目標を定める。これらを統合して,反転分布状態の動的電子相関効果を取り入れ,励起子モット転移励起子量子凝縮ポラリトン量子凝縮レーザー発振を統一的に記述しうるような一電子近似を超えた量子光学応答理論を,実験結果と照らし合わせながら構築する。半導体の電子励起多体状態と光子場との結合系を対象とし,動的電子相関効果を取り入れた非平衡光学応答理論を構築した。それをレーザー発振や発光過程に適用して,従来の現象論や自由電子近似に代わる新しい半導体レーザー理論体系や発光理論体系を整備した。特に,共振器ポラリトン凝縮と半導体レーザーの類似と相違が理論的に明らかになり,非平衡量子凝縮の基礎学術にも新しい知見をもたらした。微小共振器列を用いた光の量子状態の制御法に関する理論的な予測を行い,量子光学素子への応用につながる研究も進展した。平導体中の電子励起多体状態と光子場との結合系を対象とし,動的電子相関効果を取り入れた量子光学応答理論を構築し,新しい半導体レーザー理論体系を整備すると同時に,非平衡定常状態の量子応答理論の定式化と深化に寄与することを目的としている。本年度は,従来の半導体レーザー理論の有効範囲・適用限界の解明,利得スペクトル形状の解明,励起子凝縮・ポラリトン凝縮・レーザー発振の類似点と相違点の解明に集中して取り組んだ。従来用いられてきたハートリーフォック近似での半導体ブロッホ方程式理論・半導体ルミネッセンス方程式理論の適用限界を調査した結果,利得スペクトルの幅や形状を決定する「現象論的緩和定数」の取り入れ方に問題があることが明らかになった。この解決のためには,自己エネルギーの虚部を微視的に計算しうる高次の近似手法(T行列近似など)を用いるか,有限系の数値計算手法を用いる必要がある。これは,上海応用物理学研究所との共同研究としても推進している。また,半導体レーザーの反転分布状態である「電子正孔系」は,共振器中の光子場と結合して「励起子ポラリトン系」を形成する。このポラリトン系の量子コヒーレンス形成とレーザー発振による光のコヒーレンス形成との関連を解明する。これは,非平衡定常状態で連続発振する量子半導体レーザーの理論の構築の上で欠かすことはできない。そこで,近年の先行研究を精査し,光子場の記述と物質系の取り扱い(特に動的電子相関効果)および散逸効果の取り入れ方に問題があることを見いだした。超放射の量子論を基にして,空間分散効果と動的電子相関効果(クーロン散乱)とを取り入れたモデルでの数値計算研究を開始した。これは, 2009年2月1日から雇用した博士研究員とともに進めている。半導体中の電子励起多体状態と光子場との結合系を対象とし,動的電子相関効果を取り入れた量子光学応答理論を構築し,新しい半導体レーザー理論体系を整備すると同時に,非平衡定常状態の量子応答理論の定式化と深化に寄与することが研究目的である。本年度は,昨年度の成果を踏まえて,(1)従来の半導体レーザー理論の有効範囲・適用限界の解明と,(2)励起子凝縮・ポラリトン凝縮・レーザー発振間の関連の解明に取り組んだ。(1)中国科学院上海応用物理研究所のHuai教授と共同研究を進め,従来の半導体ブロッホ方程式理論と半導体ルミネッセンス方程式理論の適用限界を調査し,クーロン相関の取り入れ方を改良する方法を模索している。利得スペクトルの幅や形状を決定するには,現象論的緩和定数ではなく,自己エネルギーの虚部を,電子間散乱による寄与と電子-フォノン散乱による寄与とに分離して導入する必要がある。来年度に数値計算の方法を決定し,計算を進める。
KAKENHI-PLANNED-20104008
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半導体レーザーの動的電子相関理論
さらに,京都大学田中研究室のテラヘルツ分光実験でも,スペクトル幅の密度依存性と励起子モット転移との間に関連がある結果が出ており,線幅や散乱を理論的にきちんと取り扱う必要性が高まっている。田中研究室との共同討論を開始した。(2)電子正孔系が共振器中の光子場と結合した励起子ポラリトン系で,励起子凝縮の現象論的理論を援用した理論を博士研究員と構築し,励起子ボーズアインシュタイン凝縮とレーザー発振とのつながりを考察した。光のエネルギーと電子正孔系の励起子準位エネルギーとの離調および結晶の原子間隔の有限性に由来する紫外カットオフの2つのパラメータに強く依存し,相転移的な変化とクロスオーバー的な変化の両方が生じ得る。昨年度の成果を踏まえて,(1)動的相関半導体レーザー理論を半古典近似下で構築,(2)励起子ポラリトン凝縮における内部自由度(電子正孔相関)の解明,(3)バンド縮退半導体での電子正孔液滴の理論の再構築,(4)二準位原子集合系での超蛍光におけるコヒーレンス形成時間の評価に取り組んだ。(1)上海応用物理研究所のHuai教授との共同研究を進め,クーロン相関を半導体マクスウェル・ブロッホ方程式法により取り入れた半導体レーザー理論を,半古典近似のもとで博士研究員とともにほぼ完成させた。A02班の秋山研究室(東京大学)および横山研究室(東北大学)での実験結果との比較を行い,理論の改良を進めた。(2)電子正孔系が共振器中の光子場と結合した励起子ポラリトン系で,高密度励起下での「光の量子凝縮」と呼ぶべき状況が生じることを発見し,その状態でのポラリトン内部自由度(電子正孔相関)の特徴を明らかにした。世界各地で,対応する実験が進められている。(3)バンド縮退度が大きな半導体では,励起状態で電子正孔液滴が生じる。半導体レーザーの反転分布状態の一つとして重要であるため,その形成過程と液滴サイズや粒子密度の動径分布関数を計算しうる理論を,経路積分法と電子ガス理論を援用して構築中である。(4)半導体レーザーの発振閾値以下での光コヒーレンス形成では,協同的自然放出過程が重要である。そこで,超蛍光と増幅自然放出との違いを明らかにするため,コヒーレンス形成時間を評価しうる理論計算を進めた。電場の空間伝搬高価および原子密度の空間不均一性を取り入れた。昨年度の成果をさらに拡張し,1.動的相関半導体レーザーの半古典理論を用いた新しい光学利得発現,2.動的相関半導体レーザーの非平衡定常状態の安定性,3.励起子ポラリトン凝縮と半導体レーザー動作とのクロスオーバー理論の構築,4.バンド縮退半導体での電子正孔液滴の理論の再構築,5.双極子相互作用する二準位原子集合系での超蛍光における光子統計の評価に取り組んだ。1.上海応用物理研究所のHuai教授との共同研究をさらに進め,昨年度に定式化した半導体レーザー理論を用いて,低温での新しい光学利得発現機構を研究した。電子と正孔のコーパーペアリング不安定性に起因する「ファノ共鳴利得」が生じ,半導体レーザーの動作が通常とは異なる。AO2班の秋山研究室(東京大学)および横山研究室(東北大学)での実験結果との比較を行い,理論の改良を進めた。2.発振閾値以上での非平衡定常発振状態の安定性を考察し,レーザー動作とキャリア間相互作用との関連を明らかにした。
KAKENHI-PLANNED-20104008
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高齢者の口腔管理とプロバイオティクスに関する研究
地域の健康な高齢者の全身の健康と口腔内環境の管理のために、乳酸菌Ls WB21タブレットを利用した8週間使用による介入研究において、口臭を含めた口腔環境への影響について検討した。この特色は、我々が地域に出向いて検診するとともに、対象者は自発的に参加することである。33名の高齢者が参加した。LsWB21株を配合したタブレットの8週間継続摂取は、健康な高齢者に対して舌苔付着量の減少と唾液中の分泌型IgAの増加をもたらした。インドでの乳酸菌配合タブレットの口臭抑制効果に関する臨床研究について、口臭患者21名に対する4週間の介入研究で、口腔内臨床所見の改善や口臭の改善が認められた。口腔内の歯牙や歯周組織の病的悪化が、口臭、味覚障害、口腔機能や嚥下機能の低下を招き、誤嚥性肺炎や低栄養、認知症の進行につながるとされ口腔ケアを含めた歯科治療の重要性が強く示唆されている。特に、口臭は高齢者の方の口腔内環境の状態を示す指標として着目されている。また、歯周病は、その原因となる口腔内細菌が形成する歯垢(バイオフィルム)が、誤嚥性肺炎などの呼吸器疾患、糖尿病、心血管系疾患といった全身疾患の発症や進行に関連するとされ注目され、高齢者における口腔管理が、元気な高齢者の育成と介護予防の重要な要素となっている。このことを実証するために、地域の元気な高齢者の全身健康状態と口腔内環境の管理を目的に、まず、出前講座「心と体・口・歯の健康の話」を元気な高齢者を対象に、福岡市内4か所で各2時間ほど精力的に行った。今年度も3件予約が入っており、これらの講演の参加者で、臨床研究に参加することに関して充分に理解されインフォームドコンセントが得られている方から希望を募り、対象グループを選択準備中である。またプロバイオティクスの概念についても十分に講演説明して理解していただくようにした、なお、口腔管理に利用する乳酸菌配合錠果およびそのプラセボは準備済みである。この乳酸菌は、口臭患者に対しプラセボを対照とした二重盲検クロスオーバー比較試験を実施し、口臭や歯周炎への有効性を確認した。また、乳酸菌は酸を産生することから利用する乳酸菌がう蝕に与える影響を確認しておく必要があるため、乳酸菌配合錠果の摂取前後でのう蝕リスク因子の変化を調べた。その結果、摂取後にミュータンス菌レベルの減少が認められ、刺激唾液量と唾液緩衝能には影響がなかった。これらのタブレット摂取はう蝕リスクに対して抵抗性を示すことが示され、高齢者への歯牙に対するリスクは低いものと考えられた。口腔内環境の悪化によろの歯や歯周病の進行が、高齢者・有病者の誤嚥性肺炎や認知症、低栄養といった全身性疾患などに関連するとされ、口腔ケアを含めた口腔機能の管理の重要性が強く示唆されている。この観点から、高齢者における口腔機能管理が、元気な高齢者の維持・育成と今後の介護予防の重要な要素となっている。このことを実証するために、地域の高齢者の全身健康と口腔環境の管理を目的として、高齢者を対象とした出前講義を3回行った。さらに、口腔環境管理のために、プロバイオティクスの手法を用いた臨床研究を準備中であり、現在このうちの1グループと臨床研究について交渉中である。プロバイオティクス手法に関しては、乳酸菌Lactobacillus salivarius WB21株に関しては、日本における効果は既に報告し、インドのJSS Dental College & Hospital (Mysuru)にてopen-label試験を実施中である。、乳酸菌Enterococcus faecium (Ef) WB2000株は、歯周病原細菌であり口臭成分を産生するPorphyromonas gingivalis (Pg)に対する影響を調査検討中である。これらの乳酸菌は、口臭や歯肉出血を抑制し、う蝕リスク因子に関しても影響が低く、すでにそのタブレットや歯磨き粉が市販されていることからプラセボも含めて使用準備が整っている。出前講義を平成26年度は4回、27年度は3回の計7回、高齢者を対象として行った。現在、このうちの1グループと臨床研究について交渉中である。市民参加型臨床研究のため、内容のしっかりとした理解と同意が必要であるため、グループの選定とその説明会を十分におこなうために、時間がかかっている。なお、乳酸菌やそのプラセボ検査器具に関しては、ほぼ準備済みである。現在、筑紫野市原田の筑紫南コミュニティセンターにおいて、高齢者の口腔内環境の改善効果の高い食品の開発を目的として、乳酸菌Lactobacillus salivarius WB21株とキシリトールを配合するサプリメント(みんなの善玉菌WB21タブレット,わかもと製薬会社)を使用して、元気な高齢者を対象として乳酸菌L. salivarius WB21(以下、Ls WB21)を口腔内に長期投与することにより、この乳酸菌が口臭や口腔疾患、全身状態に及ぼす効果に関して臨床的ならびに細菌学的臨床研究を開始した。私以下8名の共同研究者と以下の業務を行った。研究デザインは二重盲検クロスオーバー試験(倫理審査許可310号)を行った。介入時期は1期目8週→wash out期間8週→2期目8週とした。参加人数は34名(筑紫南高年クラブ)で、途中脱落または除外者恵4名を含でいる。摂取方法:は1日3回食後(ブラッシング後)乳酸菌錠あるいはプラセボ錠を1錠舐めるようにした」事前調査として、年齢、性別、全身的既往、服薬状況、喫煙状況を調査した。
KAKENHI-PROJECT-26463203
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高齢者の口腔管理とプロバイオティクスに関する研究
また、日誌を配布(研究期間中記録)し、口腔内自覚症状、便通、血圧、服薬状況、副作用などを調べることとした。診査項目として、初回の今回は、歯式、口臭検査(オーラルクロマ&reg; (エフアイエス,大阪))、プラーク付着(Plaque Index)、代表歯のポケットと出血(CPIの代表歯)、舌苔付着(9分割法)、安静時唾液採取、洗口排液採取を行った。平成28年11月から開始して、基本平成29年4月に終了予定であったが、開始が12月、1月スタートの方が、計3名おり6月まで継続中である。臨床研究対象者の募集に時間がかかった。28年度で終了予定であったが、半年に及ぶ臨床研究であったので1年ほど予定を延長した。28年の11月に開始し、開始後は1,2か月のスタートがずれた対象者がいたが、概ね良好に研究は進行中である。インドでのLactobacillus salivarius WB21配合タブレットの口臭抑制効果に関する臨床研究について、我々の発表論文を読んだJSS Dental College & Hospital(インド、マイソール)の研究者より、インドでも口臭に効果があるかどうかを検討したいという相談があり、共同研究を行った。その結果、インドにおいても口臭患者21名に対する4週間の介入研究で、口臭検査値、プラーク付着量、歯周ポケット、歯肉出血、舌苔量の有意な減少、唾液量の有意な増加が認められた。Ls WB21配合タブレットの口臭および口腔環境の改善効果が示唆された(J Dent Oral Care2017)。本研究はJSS Dental College & Hospitalの倫理審査委員会の承認を得ている。また、福岡県筑紫野市において、元気な高齢者を対象として長期間LS WB21タブレット使用による口臭を含めた口腔環境への影響について検討した。この特色は、我々が地域に出向いて検診するとともに、対象者は自発的に参加することである。研究デザインは、二重盲検クロスオーバー試験で、介入方法は、1期目8週→wash out期間8週→2期目8週の計24週で摂取方法は1日3回食後(ブラッシング後)Ls WB21配合タブレットあるいはプラセボ錠を1錠舐めるものとした。目標人数は、30名であった。事前調査として、年齢、性別、全身的既往、服薬状況など調査後、歯式、口臭検査、代表歯のポケットと出血、舌苔付着、安静時唾液採取、洗口排液採取である。期間は平成28年11月から29年6月となった。33名が参加し最終的に30名(平均年齢70.3歳)試料を得た。また。実験期間中は日誌を記入していた。現在、資料の解析中である。この研究も、学校法人福岡学園倫理審査委員会の承認を得ている。地域の健康な高齢者の全身の健康と口腔内環境の管理のために、乳酸菌Ls WB21タブレットを利用した8週間使用による介入研究において、口臭を含めた口腔環境への影響について検討した。この特色は、我々が地域に出向いて検診するとともに、対象者は自発的に参加することである。33名の高齢者が参加した。LsWB21株を配合したタブレットの8週間継続摂取は、健康な高齢者に対して舌苔付着量の減少と唾液中の分泌型IgAの増加をもたらした。
KAKENHI-PROJECT-26463203
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26463203
FDiFA-PETを用いた新しい低酸素評価方法の確立
その後、7例の患者を対象として新しい低酸素PETであるFDiFA-PETと従来の低酸素PETであるFMISO-PETの両方を行い、両者の画像の質ついて検討した。その結果、FDiFA-PETはFMISO-PETと比較し有意に短い時間で同等の画像を得る事ができた。この結果は治療前の低酸素確認目的の検査における患者負担の軽減に貢献する事を示唆する。これらの成果について論文を執筆し、英文査読雑誌「The Journal of Nuclear Medicine」に投稿した。理由当該科研費の研究計画書において、研究計画・方法(概要)に以下の研究計画が記載されている。【1.研究承認】、【2.患者選択、説明同意、登録】、【3.PET検査施行】、【4.基礎実験】、【5.評価・解析】、【6.成果発表】研究2年目である平成30年度は、上記のうち【2.患者選択、説明同意、登録】、【3.PET検査施行】、【4.基礎実験】、【5.評価・解析】、【6.成果発表】を完全ではないものの行う事ができた。平成30年度は、上記【現在までの進捗状況】に記載した研究計画・方法(概要)のうち、【2.患者選択、説明同意、登録】、【3.PET検査施行】、【4.基礎実験】【5.評価・解析】、【6.成果発表】を継続し、より確実な成果を得る事を目標にする。患者を対象とする研究では、FDiFA-PETが治療方針の選択や治療後の予後に与える影響について検討を行う予定である。基礎実験においては、腫瘍へのFDiFAの集積領域と他の低酸素マーカーの発現領域が一致するかを検討することで、低酸素プローブとしての性能を調べる。当該研究を開始するために、担癌患者に対するFDiFA-PETとFMISO-PETを用いた低酸素評価の前向き研究について詳細な研究計画書を作成し、北海道大学の倫理委員会に研究を申請し、承認を得た。その後北海道大学病院放射線治療科を受診し、放射線治療を行う予定となった未治療の悪性腫瘍患者に対して、上記研究検査を平成28年度内に1例に対して無事に行うことができた。1例の画像から研究結果を評価する事はできないが、当初の予想通り、FDiFA-PETはFMISO-PETよりも短い待機時間でFMISO-PETと同等の画像を得られそうな画像であった。この事から平成30年度以降も引き続き予定通りに当該研究を継続する事ができると考える。当該研究に関わる低酸素PET研究の情報収集やこれまでの成果発表を目的に、以下の学会に参加し、口演発表を行った。1.渡邊史郎、平田健司、岡本祥三、真鍋治、内山裕子、小林健太郎、豊永拓哉、井上哲也、孫田恵一、西嶋剣一、久下裕司、志賀哲CTのテキスチャー解析による非小細胞肺癌の低酸素予測の可能性第57回日本核医学会学術総会(2017年10月5日7日、横浜)2.岡本祥三、志賀哲、安田耕一、渡邊史郎、孫田恵一、鬼丸力也、土屋和彦、久下裕司、白土博樹、玉木長良頭頚部癌に対するIMRT後の再発予測能におけるIMRT前・中・後のFMISO-PETについての比較検討第57回日本核医学会学術総会(2017年10月5日7日、横浜)当該科研費の研究計画書において、研究計画・方法(概要)に以下の研究計画が記載されている。【1.研究承認】、【2.患者選択、説明同意、登録】、【3.PET検査施行】、【4.基礎実験】、【評価・解析】、【成果発表】研究開始初年度でである平成29年度は、上記のうち【1.研究承認】を終了し、【2.患者選択、説明同意、登録】、【3.PET検査施行】を開始する事ができた。その後、7例の患者を対象として新しい低酸素PETであるFDiFA-PETと従来の低酸素PETであるFMISO-PETの両方を行い、両者の画像の質ついて検討した。その結果、FDiFA-PETはFMISO-PETと比較し有意に短い時間で同等の画像を得る事ができた。この結果は治療前の低酸素確認目的の検査における患者負担の軽減に貢献する事を示唆する。これらの成果について論文を執筆し、英文査読雑誌「The Journal of Nuclear Medicine」に投稿した。理由当該科研費の研究計画書において、研究計画・方法(概要)に以下の研究計画が記載されている。【1.研究承認】、【2.患者選択、説明同意、登録】、【3.PET検査施行】、【4.基礎実験】、【5.評価・解析】、【6.成果発表】研究2年目である平成30年度は、上記のうち【2.患者選択、説明同意、登録】、【3.PET検査施行】、【4.基礎実験】、【5.評価・解析】、【6.成果発表】を完全ではないものの行う事ができた。平成30年度は、上記【現在までの進捗状況】に記載した研究計画・方法(概要)のうち、【2.患者選択、説明同意、登録】、【3.PET検査施行】、【4.基礎実験】を継続し、予定症例数に近い検査数を行う予定である。また【4.基礎実験】も並行して行う。可能であれば、ある程度研究が進んだ時点で中間報告として【評価・解析】、【成果発表】を行う方針である。平成30年度は、上記【現在までの進捗状況】に記載した研究計画・方法(概要)のうち、【2.患者選択、説明同意、登録】、【3.PET検査施行】、【4.基礎実験】
KAKENHI-PROJECT-17K10428
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FDiFA-PETを用いた新しい低酸素評価方法の確立
【5.評価・解析】、【6.成果発表】を継続し、より確実な成果を得る事を目標にする。患者を対象とする研究では、FDiFA-PETが治療方針の選択や治療後の予後に与える影響について検討を行う予定である。基礎実験においては、腫瘍へのFDiFAの集積領域と他の低酸素マーカーの発現領域が一致するかを検討することで、低酸素プローブとしての性能を調べる。物品購入費や旅費が当初予定より少なかったため。次年度の研究に必要となる物品費や、情報収集・研究成果発表での旅費などに充当予定。
KAKENHI-PROJECT-17K10428
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糖尿病性腎症の成因におけるマクロファージの役割の解明
研究の目的糖尿病性腎症の成因にマクロファージがどのように関与しているかを解明する。実験の概略平成12年度にはICAM-1 Knockout(KO)mouseに糖尿病を作製した実験により、糖尿病性腎症早期の病態形成とその後の進展にマクロファージが強く関与していることを示した。早期糖尿病性腎症では糸球体過剰濾過が存在し、腎症の病態形成に強く関与している。本年度は、この糸球体過剰濾過にマクロファージがどの程度影響しているのかを検討するため、ICAM-1 KO mouseに糸球体過剰濾過モデルである5/6腎摘出モデルを作製した。実験結果5/6腎摘出後6ヶ月において、wild typeマウスの糸球体では、マクロファージの浸潤とともに著明な糸球体肥大とメサンギウム基質の増加が認められたが、KOマウスではマクロファージの浸潤は著明に少なく、糸球体肥大とメサンギウム基質の増加が有意に抑制された。したがって5/6腎摘出マウスにおいて、マクロファージが糸球体肥大とメサンギウム基質の増加に関与することが示された。以上の結果より、早期糖尿病性腎症における病態形成のひとつの機序として、糸球体過剰濾過とマクロファージの相互作用が関与していることが示唆された。しかし糖尿病性腎症においてマクロファージは糸球体過剰濾過のみを介して働くのだけではなく、Advanced Glycation End Productsを介した作用など多岐にわたると考えられるため、今後も引き続き糖尿病性腎症の成因におけるマクロファージの役割を検討していく予定である。研究の目的糖尿病性腎症の成因にマクロファージがどのように関与しているかを解明する。実験の概略ICAM-1はマクロファージの組織への浸潤に強く関わり、M-CSFはマクロファージの分化、活性化に関わる重要な因子である。また糖尿病性腎症の発症進展にはマクロファージが強く関わると考えられている。本研究ではそれぞれのノックアウトマウスであるICAM-1 KO mouseとop/op mouseに糖尿病を惹起させ、糖尿病性腎症の発症進展に影響がみられるのかを検討した。実験結果糖尿病マウスモデルを作製すると発症後3ヶ月、6ヶ月において腎糸球体内にマクロファージの浸潤が認められたが、ICAM-1 KO mouse群ではコントロール群(正常マウスを糖尿病にした群)と比較して糸球体へのマクロファージの浸潤は有意に減少していた。また発症後3ヶ月、6ヶ月において、コントロール群では尿中アルブミン排泄量(早期糖尿病性腎症の指標)が増加したが、ICAM-1 KO mouse群では有意に低値であった。発症後6ヶ月では、腎重量、糸球体面積、メサンギウム基質の増加はICAM-1 KO mouse群ではコントロール群に比べて有意に軽減されていた。腎症早期に特徴的である糸球体過剰濾過(Ccr)もICAM-1 KO mouse群では軽度であった。以上結果より、糖尿病性腎症早期の病態形成とその後の進展にマクロファージが強く関与していることが示唆された。今後の研究予定糖尿病状態でのICAM-1 KO mouse群とコントロール群の腎臓において、マクロファージに関わるケモカインや接着分子、血管作動性物質などのタンパク及び遺伝子発現の変化を検討する。またop/op mouseでも同様の検討を試みる。研究の目的糖尿病性腎症の成因にマクロファージがどのように関与しているかを解明する。実験の概略平成12年度にはICAM-1 Knockout(KO)mouseに糖尿病を作製した実験により、糖尿病性腎症早期の病態形成とその後の進展にマクロファージが強く関与していることを示した。早期糖尿病性腎症では糸球体過剰濾過が存在し、腎症の病態形成に強く関与している。本年度は、この糸球体過剰濾過にマクロファージがどの程度影響しているのかを検討するため、ICAM-1 KO mouseに糸球体過剰濾過モデルである5/6腎摘出モデルを作製した。実験結果5/6腎摘出後6ヶ月において、wild typeマウスの糸球体では、マクロファージの浸潤とともに著明な糸球体肥大とメサンギウム基質の増加が認められたが、KOマウスではマクロファージの浸潤は著明に少なく、糸球体肥大とメサンギウム基質の増加が有意に抑制された。したがって5/6腎摘出マウスにおいて、マクロファージが糸球体肥大とメサンギウム基質の増加に関与することが示された。以上の結果より、早期糖尿病性腎症における病態形成のひとつの機序として、糸球体過剰濾過とマクロファージの相互作用が関与していることが示唆された。しかし糖尿病性腎症においてマクロファージは糸球体過剰濾過のみを介して働くのだけではなく、Advanced Glycation End Productsを介した作用など多岐にわたると考えられるため、今後も引き続き糖尿病性腎症の成因におけるマクロファージの役割を検討していく予定である。
KAKENHI-PROJECT-12770582
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非平衡・非定常状態における細胞膜機能変化の分子的機構:せん断力による変化
異種の脂質分子,およびコレステロールを含む細胞膜系の分子シミュレーションを行い,より現実に近い状態での細胞膜分子モデルを構築し,それらの物性値を明らかにした.また,細胞膜分子モデルに対して,非平衡・非定常状態でせん断力を与えるコードを開発し,せん断力下で,コレステロールの含有によって膜厚さの変化が抑制される事等を明らかにした.さらに,応力負荷後の膜への水分子導入をきっかけとして孔構造が自発的に形成することも明らかにした.異種の脂質分子,およびコレステロールを含む細胞膜系の分子シミュレーションを行い,より現実に近い状態での細胞膜分子モデルを構築し,それらの物性値を明らかにした.また,細胞膜分子モデルに対して,非平衡・非定常状態でせん断力を与えるコードを開発し,せん断力下で,コレステロールの含有によって膜厚さの変化が抑制される事等を明らかにした.さらに,応力負荷後の膜への水分子導入をきっかけとして孔構造が自発的に形成することも明らかにした.本研究の目的は,流体現象に伴って発生するせん断力の影響による細胞膜の機能変化を,分子レベルの構造変化とそれに基づく物性値の変化という観点から明らかにすることである.この研究においては,複雑系である細胞膜をその構成部分に分けて,分析的に膜機能変化を調べることが特色となっている.この目的のために,本年度は,細胞膜を構成部分に分けた分子モデルを構築し,その分子モデルを用いてせん断力の作用していない状態(平衡状態)における細胞膜系の物性値の独自のデータベースを作成することを計画した.具体的にはOPOPC単一脂質膜,DPPC単一脂質膜,そして混合脂質膜,という異なる構成成分によって表現された細胞膜分子モデルの開発に取り組み,それらの分子モデルの構築に成功した.この分子モデルを用いた計算結果から,脂質分子一個あたりの膜面積,脂質分子のオーダーパラメータ,構成成分の密度分布などの細胞膜に関する物性値のデータベースの作成することができた.これらの分子モデルやデータベースは,次年度の研究計画である,せん断力を細胞膜の分子シミュレーションに適応させるためのコード開発の土台となるものである.混合脂質膜の分子モデルの開発に成功したことで,これまで単一脂質膜分子モデルのみを扱っていた当該分野の他の細胞膜の解析よりも,より現実の細胞膜に近い状況を扱うことが可能になり,2008年度の日本流体力学会でその研究成果の一部を発表した。また,本年度開発した平衡状態における細胞膜の分子モデルをいち早く非平衡な状況に応用した研究を行い,その成果を医学系,理論系の研究者と共著で,2009年度のJournal of Biomechanical Science and Engineeringに発表した.本研究の目的は,流体現象に伴って発生するせん断力の影響による細胞膜の機能変化を,分子レベルの構造変化とそれに基づく物性値の変化という観点から明らかにすることである.この研究においては,複雑系である細胞膜をその構成部分に分けた分子モデルを構築し,その膜の分子モデルに対して様々な状況でのせん断力を働かせるコードを開発することが特色となっている.この目的のために,本年度は,昨年度開発した細胞膜を構成部分に分けた分子モデルに対してせん断力に伴う膜面積変化を与えるコードを開発した.具体的には,POPC単一脂質膜,DPPC単一脂質膜によって表現された最も単純な細胞膜分子モデルに対して従来の方法でせん断力を与え,これにより膜面積が増加する可能性を見出し,その知見を基に,細胞膜分子モデルの膜面積変化を与えるコードを新たに開発した.この研究によりせん断に伴う膜面積変化に対する膜の応答を調べ,膜面積の増加に伴い膜の構造の一部に水分子が流れ込み,膜を貫く穴構造ができることが確認された.またシミュレーションを実行するための計算パラメータの最適化に成功した,この予備的な研究は,次年度の研究計画である,せん断力を様々な細胞膜分子モデルに対して適応するシミュレーションの土台となるものである.細胞膜の分子モデルの開発に関して,昨年度より得られてきた成果を2009年度の日本計算工学会に発表した.また,せん断力に伴う膜面積の増加による膜構造の変化に関しては,その初期段階での結果を,2009年度のThird Switzerland-Japan Workshop on Biomechanicsにて発表した.本研究の目的は,流体現象に伴って発生するせん断力の影響による細胞膜の機能変化を,分子レベルの構造変化とそれに基づく物性値の変化という観点から明らかにすることである.この研究においては,複雑系である細胞膜をその構成部分に分けた分子モデルを構築し,その膜の分子モデルに対して様々な状況でのせん断力を働かせるコードを開発することが特色となっている.この目的のために,本年度は,研究初年度に開発した細胞膜を構成部分に分けた分子モデルに対して,昨年度開発したせん断力に伴う膜面積変化を与えるコードを適用して得られた結果の詳細な解析と,せん断力が作用する環境下において細胞膜に水分子が輸送されることによる膜の孔構造の形成に関して詳細な解析を行った.DPPC単一脂質膜によって表現された最も単純な細胞膜分子モデルに対して,膜の疎水部分に水分子を挿入し,その後の膜構造の変化を調べたところ,初期に挿入する水分子の数に依存して,膜に孔構造が自発的に発生することがわかり,これは,波動に基づく細胞膜の透過性変化の分子的機構の一つとなることが予測できた.
KAKENHI-PROJECT-20760114
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20760114
非平衡・非定常状態における細胞膜機能変化の分子的機構:せん断力による変化
この結果は,2010年,Physical Review Letter誌に掲載された.次に,初年度に開発した細胞膜分子モデルの中で,POPC単一脂質膜,POPC/コレステロール混合脂質膜に対して,昨年度開発したLees-Edwards法,および衝撃波力積モデルを用いて細胞膜の分子モデルに対してせん断力を与え,細胞膜の構造変化を調べた.この研究により,コレステロールの含有により膜に垂直な方向の構造変化が抑制される一方で,せん断力によるPOPC分子の傾きは逆に促進されることがわかった.この結果は,日本機械学会平成22年度年次大会において発表した.
KAKENHI-PROJECT-20760114
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核融合炉第一壁の強度設計に関する研究
本研究で得られた主な成果は以下の通りである。(1)核融合炉の安全性・健全性を考える上で、プラズマのディスラプション時に構造物に働く電磁力を評価することが重要である。本研究では、この電磁力の誘因となる第一壁/ブランケット中に流れる渦電流を数値的に解析し、得られた解析結果をグラフィック表示することにより、渦電流の複雑な3次元的流れを示した。(2)影響関数法をもとにして、熱衝撃負荷等の複雑な負荷を受ける表面き裂部材の、パソコンによるき裂伝播寿命評価コード(FCG;Fatigue Crack Growth)を開発した。プラズマのディスラプション時を想定した熱応力の変動に対して核融合炉第一壁中の表面き裂の進展解析を行ない、き裂の大きさと進展との関係を示した。また、このFCGコードを用いることにより複雑な応力履歴を受ける表面き裂部材の疲労き裂伝播寿命の評価が容易に行なえるようになった。(3)第一壁のエロージョンによる減肉効果の座屈荷重と座屈モードに及ぼす影響について、側壁を考慮した2次元モデルを用いて解析した。座屈荷重に及ぼすエロージョンの影響はそのエロージョンの期間に比例して減少することが示された。(4)核融合炉ブランケットの構造設計上の問題点と設計例を調査し、設計基準を作成する上で必要となる解決するべき課題を整理した。第一は、AMSE Code Case N-47に代る核融合炉設計のためのコードを作成することである。第二は、高速中性子の照射を受ける材料の物性データを整備することである。第三は、核融合炉に負荷する荷重の合理的分類を行なうことである。第四は、複雑な構造物に対する応力評価法を開発することである。本研究で得られた主な成果は以下の通りである。(1)核融合炉の安全性・健全性を考える上で、プラズマのディスラプション時に構造物に働く電磁力を評価することが重要である。本研究では、この電磁力の誘因となる第一壁/ブランケット中に流れる渦電流を数値的に解析し、得られた解析結果をグラフィック表示することにより、渦電流の複雑な3次元的流れを示した。(2)影響関数法をもとにして、熱衝撃負荷等の複雑な負荷を受ける表面き裂部材の、パソコンによるき裂伝播寿命評価コード(FCG;Fatigue Crack Growth)を開発した。プラズマのディスラプション時を想定した熱応力の変動に対して核融合炉第一壁中の表面き裂の進展解析を行ない、き裂の大きさと進展との関係を示した。また、このFCGコードを用いることにより複雑な応力履歴を受ける表面き裂部材の疲労き裂伝播寿命の評価が容易に行なえるようになった。(3)第一壁のエロージョンによる減肉効果の座屈荷重と座屈モードに及ぼす影響について、側壁を考慮した2次元モデルを用いて解析した。座屈荷重に及ぼすエロージョンの影響はそのエロージョンの期間に比例して減少することが示された。(4)核融合炉ブランケットの構造設計上の問題点と設計例を調査し、設計基準を作成する上で必要となる解決するべき課題を整理した。第一は、AMSE Code Case N-47に代る核融合炉設計のためのコードを作成することである。第二は、高速中性子の照射を受ける材料の物性データを整備することである。第三は、核融合炉に負荷する荷重の合理的分類を行なうことである。第四は、複雑な構造物に対する応力評価法を開発することである。
KAKENHI-PROJECT-60050013
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-60050013
ソーシャル・インクルージョン構想と社会資源を活用した行刑福祉
本研究ではソーシャル・インクルージョンの理念を犯罪行為者処遇の領域に応用した。その結果、多様な対象者に対して多様な手段を用いて、犯罪を犯す以前から有していた社会的負因及び刑事司法過程に関与したことに伴う弊害を主体的に克服することを目指した支援を提供することが求められることが明らかになった。具体的には、刑事司法過程を通じた一貫した支援体制の構築と支援のための多様な担い手が有機的に連携しながら実効的支援を提供する体制を構築することが必要となる。本研究ではソーシャル・インクルージョンの理念を犯罪行為者処遇の領域に応用した。その結果、多様な対象者に対して多様な手段を用いて、犯罪を犯す以前から有していた社会的負因及び刑事司法過程に関与したことに伴う弊害を主体的に克服することを目指した支援を提供することが求められることが明らかになった。具体的には、刑事司法過程を通じた一貫した支援体制の構築と支援のための多様な担い手が有機的に連携しながら実効的支援を提供する体制を構築することが必要となる。2008年度に実施した研究は以下の通りである。1.理論研究。ソーシャル・インクルージョンに関係する内外の文献調査を進めた。その結果、この概念には多様な含意があり、そこから何を汲み取り実践に応用していくかは、ある程度合目的的に決定していくべきことが判明した。また、自己決定の理念との衝突可能性や受刑者領域に応用した場合の再犯予防論との関係など、今後明確にしていくべき課題が浮き彫りになった。2.実態調査。知的障害者領域を中心として、厚生労働省と法務省の連携が一気に具体化しつつある事情が認められたため、国外調査を2009年度廻しとし、国内調査を優先させることにした。具体的には、喜連川社会復帰促進センター、美祢社会復帰促進センター、島根あさひ社会復帰促進センター、沼田町就業支援センター、更生保護法人ウィズ広島、NPO法人神戸の冬を支える会等を訪問し、地域や福祉機関との連携の実情について実態調査を行った。また特に、美祢市及び浜田市旭町において、施設での処遇にボランティアとして参加している地域住民に聴き取り調査を実施した。さらにシンポジウムに参加する等により、知的障害者の社会復帰プランとして現在具体化しつつある構想についての情報を収集した。3.研究成果の公表。これまでの蓄積を活かしつつ、受刑者処遇一般、刑事施設視察委員会、民間企業の役割、葉物依存者の処遇の各領域で、ソーシャル・インクルージョンの観点を加味した研究成果を公表した。21年度に実施した研究は以下の通りである。1.国内調査:北九州医療刑務所、北九州自立更生促進センター、福岡刑務所、南高愛隣会、長崎刑務所、長崎県地域生活定着支援センター、長崎啓成会、佐世保白雲に赴き聴き取り調査を実施した。その結果、障害を有する受刑者・出所者に対する処遇及び社会復帰支援の新たな取組みにより、従来支援を受けられなかった層に対する支援が始められているものの、まだまだ体制作りが十分でないこと、また一般受刑者の社会復帰支援のために存在している従来型の更生保護施設と新たに作られた自立更生促進センターにはそれぞれ一定の意義が認められるものの、抱えている問題も大きいことが明らかになった。2.海外調査:ドイツにおいて薬物依存者支援施設の実情を調査し、依存の程度に応じて現実的かつきめ細かな対応がなされていることが明らかになった。また、イギリスにおいて出所者をスムーズに社会生活に移行させるための支援の実情を調査し、入所中・出所後の支援をシームレスに提供するための取組みや、住居・就労等の様々な支援を統合的に提供するための取組みが意識的になされていることが明らかになった。3.理論研究及び成果発表: 20年度・21年度に実施した実態調査の成果をも踏まえつつ、特に民間企業が参入したPFI刑務所で地域住民をも巻き込んだ社会復帰支援の取組みとその課題について理論研究を進め、論文を執筆した。また、刑事施設や出所者支援施設と地域社会の関係が深まりつつある一方、対立が先鋭化しかねない現状において、施設が地域といかに向き合うべきかについて、学会発表としてテーマセッションを実施し、参加者との討議を行った。22年度に実施した研究は以下の通りである。1.国内調査:ホームレス支援に取り組むNPO法人・ふるさとの会、更生保護法人有光苑、茨城就業支援センター、札幌刑務所、沼田町就業支援センター、社会福祉士・弁護士からなる支援団体A-Unit、島根あさひ・播磨社会復帰促進センターでの事業を受託している大林組、就労支援事業に取り組む元保護観察官、三重ダルクの各団体・個人について聴き取り調査を実施した。その結果、新たに犯罪行為者支援に取り組むようになった社会福祉関係の団体や民間企業においては創意工夫による有効な支援が提供されているが、官との連携など課題もあること、従来からの支援の担い手である刑事施設・更生保護官署・更生保護施設においても新たな取組みが展開されているが、それを有効な支援にまで高めるためにはなお課題が大きいことが明らかになった。2.海外調査:フランスの保護観察官を招いての共同研究を実施するなど、英仏の取り組みから学ぶべき点を明らかにした。その結果、両国では、刑事施設及び更生保護の両分野において犯罪行為者支援に取り組む人的資源が官民ともに豊富であり、支援内容も多様であることが明らかになった。3.シンポジウム実施:これまで実施してきた国内外での聴き取り調査及び文献を通じての研究を総括するためのシンポジウム「日本における犯罪行為者のソーシャル・インクルージョン」を3月に実施した。
KAKENHI-PROJECT-20330014
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20330014
ソーシャル・インクルージョン構想と社会資源を活用した行刑福祉
この分野で活躍する国内の実務家4名から実践を踏まえた問題提起を受け、研究会からソーシャル・インクルージョンを犯罪行為者支援の分野で語る意味、それを刑事司法手続の中で実現するための具体的な方策についての提言を行い、パネル・ディスカッションを実施した。
KAKENHI-PROJECT-20330014
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20330014
レーザ切断による傾斜断面を用いて組み合わせた新しいアクリル表示板の開発
研究目的アクリル板の切断面に一定の傾斜をつけて組み合わせる手法を確立し、新たな表示板等の製造方法を開発する。研究方法炭酸ガスレーザ加工機にて、レーザの焦点位置をあえて適正値からずらして加工することで傾斜をつける。焦点位置と各諸条件を変化させ、その切断面形状をマイクロスコープにて観察する。板表面からの深さごとにその形状を統計し、最適な切断条件を確立する。その条件をベースとして切断した様々な形状の部材を実際に組合せ、実用化に向けた調整を行なう。研究成果焦点位置が表面から0±2mmの範囲では、切断面はほぼ垂直となった。±3mm位から傾斜が進む傾向がみられた。傾斜方向は焦点位置が+・-の両方とも予想に反して同一になったが、+側の方が、傾斜角の変化が明瞭で、形状のばらつきが少ないため安定していた。焦点位置以外の諸条件については、通常の条件値で十分安定した結果が出ることが判った。また切断した部材をはめ合わせる際には、オス・メスの傾斜方向を逆にすることと、丁度良いはめあいにするために大きさの微調整が必要になる。それに対しては、NCのプログラム上でミラー機能と径補正機能を用い対応できた。さらに実用化に向けた取り組みとして、まず身近なところでのこの手法の利用価値を探るために、受付用のプレートやコースター、表札、部屋名やトイレのサインなどを製作した。無色透明なベース板と色付の透明文字を組み合わせたものは、それぞれの断面は美しいが組み合わせるとその美しさが双殺してしまった。しかしガラス色のベースにピンクや黄色の島を模った形を組み合わせることで、あたかも島が水に浮かんでいる様に見える涼しげなコースターが出来上がった。また厚さの違う板同士を組み合わせることにより凹凸が生じ、手で直に触れても楽しいサインが出来上がった。研究目的アクリル板の切断面に一定の傾斜をつけて組み合わせる手法を確立し、新たな表示板等の製造方法を開発する。研究方法炭酸ガスレーザ加工機にて、レーザの焦点位置をあえて適正値からずらして加工することで傾斜をつける。焦点位置と各諸条件を変化させ、その切断面形状をマイクロスコープにて観察する。板表面からの深さごとにその形状を統計し、最適な切断条件を確立する。その条件をベースとして切断した様々な形状の部材を実際に組合せ、実用化に向けた調整を行なう。研究成果焦点位置が表面から0±2mmの範囲では、切断面はほぼ垂直となった。±3mm位から傾斜が進む傾向がみられた。傾斜方向は焦点位置が+・-の両方とも予想に反して同一になったが、+側の方が、傾斜角の変化が明瞭で、形状のばらつきが少ないため安定していた。焦点位置以外の諸条件については、通常の条件値で十分安定した結果が出ることが判った。また切断した部材をはめ合わせる際には、オス・メスの傾斜方向を逆にすることと、丁度良いはめあいにするために大きさの微調整が必要になる。それに対しては、NCのプログラム上でミラー機能と径補正機能を用い対応できた。さらに実用化に向けた取り組みとして、まず身近なところでのこの手法の利用価値を探るために、受付用のプレートやコースター、表札、部屋名やトイレのサインなどを製作した。無色透明なベース板と色付の透明文字を組み合わせたものは、それぞれの断面は美しいが組み合わせるとその美しさが双殺してしまった。しかしガラス色のベースにピンクや黄色の島を模った形を組み合わせることで、あたかも島が水に浮かんでいる様に見える涼しげなコースターが出来上がった。また厚さの違う板同士を組み合わせることにより凹凸が生じ、手で直に触れても楽しいサインが出来上がった。
KAKENHI-PROJECT-23917033
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23917033
タンザニアの中等学校におけるシティズンシップ教育 -アフリカ的共同体論に着目して
論文の調査の為に2度、計5カ月に渡ってタンザニア・ダルエスサラームに滞在し、必要なデータの収集を行った(2018年4月-6月、2018年10月-12月)。調査許可の取得等のために現地研究者や学生が協力してくれたために、多くの時間を要することになったものの、現地行政機関とは円滑なコミュニケーションをとり、良好な関係性のもの調査を実施することができた。滞在中は市内の私立・公立それぞれ複数の中等学校に訪問し、教育活動の様子を参加観察するとともに校長・教員・生徒・保護者など関係者からの聞き取りを行い貴重な情報を収集した。調査対象は主にダルエスサラーム地域の中でも比較的成績の優秀な学校であった。公民を中心とした授業の観察に加えて、課外活動として扱われるクラブ活動・生徒会活動等を観察することができた。アフリカ教育研究の分野では主に教育成果・成績等に注目が集まる中で、生徒の自主性を重んじる活動に着目する興味深い研究であると考える。その成果の一部を英国バーミンガムで開催された英国アフリカ研究学会大会にて口頭発表を行った(2018年9月11日)。発表者数が800を超える非常に大きな学会大会であり、特に人類学的研究が多く、有意義な意見をもらうことができた。また、タンザニア、バガモヨ市で開催されたダルエスサラーム大学、ザンジバル大学、オスロー大学共催のワークショップにおいても発表した(2018年11月21日)。主に生徒のドロップアウトの問題に取り組むワークショップであったが、現地研究者との意見交換を通じて研究を深めることができた。現地調査のためにタンザニアへ入国したのち、実際に学校を訪問し聞き取り調査を実施するまでに予想以上の時間を要した。行政手続きが複雑なうえ、担当者不在、面会予約の突然のキャンセル、必要書類の急な変更など、さまざまなトラブルにみまわれ、準備に時間を要した。予定では2018年度中の2度の現地調査で十分なデータを収集できるとしていたが、現地での準備時間の延長を受けて、再度2019年度中にデータ収集の為現地を訪れる必要が出てきた。今年度の研究予定は以下の通り。4月-5月:投稿論文の執筆、および第3回調査の為の調査許可等、行政手続き準備、6月-8月:3回目のフィールド調査を実施、9月-2月:投稿論文および博士論文の執筆、3月:博士論文草稿書き上げ前年度の反省を活かし、現地にて調査協力者に行政手続きの補佐を依頼。渡航前までに手続き可能なものについては事前に手続きをする。論文の調査の為に2度、計5カ月に渡ってタンザニア・ダルエスサラームに滞在し、必要なデータの収集を行った(2018年4月-6月、2018年10月-12月)。調査許可の取得等のために現地研究者や学生が協力してくれたために、多くの時間を要することになったものの、現地行政機関とは円滑なコミュニケーションをとり、良好な関係性のもの調査を実施することができた。滞在中は市内の私立・公立それぞれ複数の中等学校に訪問し、教育活動の様子を参加観察するとともに校長・教員・生徒・保護者など関係者からの聞き取りを行い貴重な情報を収集した。調査対象は主にダルエスサラーム地域の中でも比較的成績の優秀な学校であった。公民を中心とした授業の観察に加えて、課外活動として扱われるクラブ活動・生徒会活動等を観察することができた。アフリカ教育研究の分野では主に教育成果・成績等に注目が集まる中で、生徒の自主性を重んじる活動に着目する興味深い研究であると考える。その成果の一部を英国バーミンガムで開催された英国アフリカ研究学会大会にて口頭発表を行った(2018年9月11日)。発表者数が800を超える非常に大きな学会大会であり、特に人類学的研究が多く、有意義な意見をもらうことができた。また、タンザニア、バガモヨ市で開催されたダルエスサラーム大学、ザンジバル大学、オスロー大学共催のワークショップにおいても発表した(2018年11月21日)。主に生徒のドロップアウトの問題に取り組むワークショップであったが、現地研究者との意見交換を通じて研究を深めることができた。現地調査のためにタンザニアへ入国したのち、実際に学校を訪問し聞き取り調査を実施するまでに予想以上の時間を要した。行政手続きが複雑なうえ、担当者不在、面会予約の突然のキャンセル、必要書類の急な変更など、さまざまなトラブルにみまわれ、準備に時間を要した。予定では2018年度中の2度の現地調査で十分なデータを収集できるとしていたが、現地での準備時間の延長を受けて、再度2019年度中にデータ収集の為現地を訪れる必要が出てきた。今年度の研究予定は以下の通り。4月-5月:投稿論文の執筆、および第3回調査の為の調査許可等、行政手続き準備、6月-8月:3回目のフィールド調査を実施、9月-2月:投稿論文および博士論文の執筆、3月:博士論文草稿書き上げ前年度の反省を活かし、現地にて調査協力者に行政手続きの補佐を依頼。渡航前までに手続き可能なものについては事前に手続きをする。
KAKENHI-PROJECT-18J14587
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口腔扁平上皮癌網羅的遺伝子解析に基づく 免疫チェックポイント阻害薬感受性の評価
近年、がんの新しい治療薬である免疫チェックポイント阻害薬(ICB)が注目され、口腔扁平上皮癌(OSCC)でもその期待は高い。しかし、効果が得られない症例、薬剤耐性により効果が得られなくなる症例が報告され、問題となっている。原因の一つに遺伝学的要因が指摘されているが、そのプロファイルは明らかではない。われわれはOSCCの生命予後にNOTCH遺伝子の影響があると考えている。またNOTCHの活性化とICB標的分子(PD-1)の発現率に関連があることが報告されている。よって、OSCCの遺伝学的解析と、ICB標的分子とNOTCHの関連性の解析から、治療効果を上げる足掛かりのデータを得ることを目標とする。近年、がんの新しい治療薬である免疫チェックポイント阻害薬(ICB)が注目され、口腔扁平上皮癌(OSCC)でもその期待は高い。しかし、効果が得られない症例、薬剤耐性により効果が得られなくなる症例が報告され、問題となっている。原因の一つに遺伝学的要因が指摘されているが、そのプロファイルは明らかではない。われわれはOSCCの生命予後にNOTCH遺伝子の影響があると考えている。またNOTCHの活性化とICB標的分子(PD-1)の発現率に関連があることが報告されている。よって、OSCCの遺伝学的解析と、ICB標的分子とNOTCHの関連性の解析から、治療効果を上げる足掛かりのデータを得ることを目標とする。
KAKENHI-PROJECT-19K19245
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分子シャペロンAPG-1とAPG-2の生体における機能の解析
マウスでは、HSP110ファミリーはAPG-1、APG-2、HSP110/105の3種からなる。これら分子シャペロンの生体内における機能は不明である。そこでAPG-1遺伝子ノックアウトマウスにおける異常、特に生殖機能、神経機能、ストレス応答を解析する。また、APG-2に対する抗体がin vitroでマウス卵の受精を阻害することを見出したので、卵又は精子でAPG-2に結合し受精に必須であるシャペロン基質を同定する。さらにAPG-2遺伝子をノックアウトしたマウスを作製し機能を明らかにすることを目的とした。その結果1.マウスAPG-2に結合する蛋白のcDNAを精巣から酵母2ハイブリッド法によりクローニングした。10種がマウス細胞中でも結合することがわかり、解析中である。2.ヒトでもマウス同様に、HSP110ファミリーがAPG-1、APG-2、HSP110/105の3種からなることを明らかにした。3.APG-1遺伝子ノックアウトマウスは表現型に異常がなく、生殖機能、脱水ストレス応答も正常であった。APG-1同様に精子形成細胞で発現していて、その遺伝子欠損によって表現型の異常が出なかったHsc70tノックアウトマウスを入手して両方の遺伝子欠損による影響を見る予定である。4.APG-2ノックアウトマウスは作成中である。マウスでは、HSP110ファミリーはAPG-1、APG-2、HSP110/105の3種からなる。これら分子シャペロンの生体内における機能は不明である。そこでAPG-1遺伝子ノックアウトマウスにおける異常、特に生殖機能、神経機能、ストレス応答を解析する。また、APG-2に対する抗体がin vitroでマウス卵の受精を阻害することを見出したので、卵又は精子でAPG-2に結合し受精に必須であるシャペロン基質を同定する。さらにAPG-2遺伝子をノックアウトしたマウスを作製し機能を明らかにすることを目的とした。その結果1.マウスAPG-2に結合する蛋白のcDNAを精巣から酵母2ハイブリッド法によりクローニングした。10種がマウス細胞中でも結合することがわかり、解析中である。2.ヒトでもマウス同様に、HSP110ファミリーがAPG-1、APG-2、HSP110/105の3種からなることを明らかにした。3.APG-1遺伝子ノックアウトマウスは表現型に異常がなく、生殖機能、脱水ストレス応答も正常であった。APG-1同様に精子形成細胞で発現していて、その遺伝子欠損によって表現型の異常が出なかったHsc70tノックアウトマウスを入手して両方の遺伝子欠損による影響を見る予定である。4.APG-2ノックアウトマウスは作成中である。
KAKENHI-PROJECT-11153211
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固形癌遺伝子治療におけるベクター注入制御装置の開発・実用化に関する研究
試作された注入装置を用いて以下の研究を行い所定の実績を上げた。1.遊離筋肉組織と色素を用いた注入実験。注入速度、注入量の条件設定を行った。毎秒0.1mlの注入とフットスイッチを用いた操作が重要であることが判明した。2.注入装置の改良3.改良装置の動作確認改良された装置を用いて昨年に引き続き動作確認を行い、ヒトでの遺伝子治療における使用への最終動作確認とした。4.ヒト遺伝子治療における装置の使用ヒトでの遺伝子治療に用いその動作確認を行い、操作性、安全性等の検討を行った。その結果本装置は当初の仕様通りに作動し、従来の手動注入より安全かつ適格にアデノウイルスベクターを前立腺内における病変に注入することが可能となったことを確認した。特に以下の点は特記すべき研究成果と考えられた。1)フットスイッチを用いた注入は術者が超音波モニター画面に集中することを可能とし、より正確かつ安全な注入を確保することとなった。2)一回の注入時間1秒につき0.1mlのベクター液を注入する条件設定が本装置を用いた場合の至適注入条件と思われた。なお、本遺伝子治療については科学的・倫理的妥当性につき審査をうけ、既に国からの実施承認を取得している。本プロトコールは遺伝子治療臨床研究に関する国からのガイドラインに準拠して実施される。特にインフォームドコンセントの実施等、被験者の人権に対する十分な配慮がなされたうえで実施された。現在までに7例に対して実施しその有用性を確認した。試作された注入装置を用いて以下の研究を行い所定の実績を上げた。1.遊離筋肉組織と色素を用いた注入実験。注入速度、注入量の条件設定を行った。毎秒0.1mlの注入とフットスイッチを用いた操作が重要であることが判明した。2.注入装置の改良3.改良装置の動作確認改良された装置を用いて昨年に引き続き動作確認を行い、ヒトでの遺伝子治療における使用への最終動作確認とした。4.ヒト遺伝子治療における装置の使用ヒトでの遺伝子治療に用いその動作確認を行い、操作性、安全性等の検討を行った。その結果本装置は当初の仕様通りに作動し、従来の手動注入より安全かつ適格にアデノウイルスベクターを前立腺内における病変に注入することが可能となったことを確認した。特に以下の点は特記すべき研究成果と考えられた。1)フットスイッチを用いた注入は術者が超音波モニター画面に集中することを可能とし、より正確かつ安全な注入を確保することとなった。2)一回の注入時間1秒につき0.1mlのベクター液を注入する条件設定が本装置を用いた場合の至適注入条件と思われた。なお、本遺伝子治療については科学的・倫理的妥当性につき審査をうけ、既に国からの実施承認を取得している。本プロトコールは遺伝子治療臨床研究に関する国からのガイドラインに準拠して実施される。特にインフォームドコンセントの実施等、被験者の人権に対する十分な配慮がなされたうえで実施された。現在までに7例に対して実施しその有用性を確認した。試作されたベクター注入装置について、以下の実験、検討を実施した。1)遊離筋肉組織と色素を用いた注入実験。遊離筋肉組織として肉片(豚肉)を用い色素としてはインジゴカルミンを用いて注入装置を駆動させ色素の広がりを指標として注入速度、注入量の条件設定を行った。毎秒0.1mlの注入とフットスイッチを用いた操作が重要であることが判明した。2)注入装置の改良。上記研究を通じて注入装置の問題点を検証し改良の必要な点を明らかにした。特に安全性確保への配慮をから注入装置以外の装備(穿刺針、注入用シリンジ、注入用回路)の動作確認もあわせて行い同様に改良点を明らかにした。その結果冷却回路の密閉性の確保、注入量を0.1ml毎の可変設定が可能となるような仕様とすること、フットスイッチを装着することを主な改良点として第1号試作機に対する改良を実施した。(根本杏林堂に製作を発注し備品として購入。)3)改良装置の動作確認改良された装置を用いて動作確認を行い、ヒトでの遺伝子治療における使用への最終動作確認とした。4)ヒト遺伝子治療における装置の使用ヒトでの遺伝子治療に用いその動作確認を行い、操作性、安全性等の検討を行った。その結果本装置は当初の仕様通りに作動し、安全かつ適格にアデノウイルスベクターを前立腺内における病変に注入することが出来た。なお、本遺伝子治療については科学的・倫理的妥当性につき審査をうけ、既に国からの実施承認を取得している。本プロトコールは遺伝子治療臨床研究に関する国からのガイドラインに準拠して実施される。特にインフォームドコンセントの実施等、被験者の人権に対する十分な配慮がなされたうえで実施された。昨年度の成果をもとに引き続き以下の研究を行い予定の実績を上げた。1)改良装置の動作確認改良された装置を用いて昨年に引き続き動作確認を行い、ヒトでの遺伝子治療における使用への最終動作確認とした。2)ヒト遺伝子治療における装置の使用ヒトでの遺伝子治療に用いその動作確認を行い、操作性、安全性等の検討を行った。その結果本装置は当初の仕様通りに作動し、従来の手動注入より安全かつ適格にアデノウイルスベクターを前立腺内における病変に注入することが可能となったことを確認した。特に以下の点は特記すべき研究成果と考えられた。
KAKENHI-PROJECT-13557134
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13557134
固形癌遺伝子治療におけるベクター注入制御装置の開発・実用化に関する研究
1)フットスイッチを用いた注入は術者が超音波モニター画面に集中することを可能とし、より正確かつ安全な注入を確保することとなった。2)一回の注入時間1秒につき0.1mlのベクター液を注入する条件設定が本装置を用いた場合の至適注入条件と思われた。なお、本遺伝子治療については科学的・倫理的妥当性につき審査をうけ、既に国からの実施承認を取得している。本プロトコールは遺伝子治療臨床研究に関する国からのガイドラインに準拠して実施される。特にインフォームドコンセントの実施等、被験者の人権に対する十分な配慮がなされたうえで実施された。
KAKENHI-PROJECT-13557134
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13557134
聴覚障害生徒の言語表現および論理的思考能力の育成に関する研究
聾学校における数学指導の現状と課題に関する調査研究から,聴覚障害児童生徒の数学的思考力が聾学校の数学指導における重要な検討課題となっていながら,教育現場では各聾学校や指導者での工夫で終わっており,研究として積み上げられていないことが明らかとなった.そこで,まず聴覚障害児童生徒の数学的思考力を育成する教材を開発し,実践を通して効果を検討した.教材は,(1)視覚的イメージを持たせる教材(視覚的教材),(2)具体的な体験をさせる教材(体験的教材),(3)具体的な操作が伴う教材(操作的教材),(4)多様な見方・考え方引き出す教材,(5)コミュニケーションの活性化を図る教材の開発した.例えば,多様な見方・考え方を引き出す教材と学習活動の言語化について以下述べる.聴覚障害児童生徒にとって,自分の考えや行動を言語化することは困難であることが言われている.しかし,数学においては,論理的に考えたり,順序立てて考えたりすることが必要であり,そのためには,自分の考えや学習活動を言語化することが必要と考えた.そこで,ここでは,多様な見方・考え方の引き出す教材と学習活動の言語化の効果を検討した.そのために,「直線m上にない点Pを通り,直線mに平行な直線を引く」という「平行線の作図」問題の教材化を検討するとともに,作図操作の文章化とスモールステップの設定を指導の手だてとし,聾学校専攻科において指導実践を行い授業を分析した.その結果,平行線を引くという一見容易に見える課題を多様に解決することで,聴覚障害生徒の多様な見方・考え方を引き出すことができるとともに,今まで学習してきたことを体系的に関連付けることに有効であるとの知見が得られた.また,聴覚障害児童生徒の数学的思考力の育成には,多様な見方・考え方を引き出す教材の活用と数学的活動の文章化が有効な指導の手だてとなるという示唆を得た.聾学校における数学指導の現状と課題に関する調査研究から,聴覚障害児童生徒の数学的思考力が聾学校の数学指導における重要な検討課題となっていながら,教育現場では各聾学校や指導者での工夫で終わっており,研究として積み上げられていないことが明らかとなった.そこで,まず聴覚障害児童生徒の数学的思考力を育成する教材を開発し,実践を通して効果を検討した.教材は,(1)視覚的イメージを持たせる教材(視覚的教材),(2)具体的な体験をさせる教材(体験的教材),(3)具体的な操作が伴う教材(操作的教材),(4)多様な見方・考え方引き出す教材,(5)コミュニケーションの活性化を図る教材の開発した.例えば,多様な見方・考え方を引き出す教材と学習活動の言語化について以下述べる.聴覚障害児童生徒にとって,自分の考えや行動を言語化することは困難であることが言われている.しかし,数学においては,論理的に考えたり,順序立てて考えたりすることが必要であり,そのためには,自分の考えや学習活動を言語化することが必要と考えた.そこで,ここでは,多様な見方・考え方の引き出す教材と学習活動の言語化の効果を検討した.そのために,「直線m上にない点Pを通り,直線mに平行な直線を引く」という「平行線の作図」問題の教材化を検討するとともに,作図操作の文章化とスモールステップの設定を指導の手だてとし,聾学校専攻科において指導実践を行い授業を分析した.その結果,平行線を引くという一見容易に見える課題を多様に解決することで,聴覚障害生徒の多様な見方・考え方を引き出すことができるとともに,今まで学習してきたことを体系的に関連付けることに有効であるとの知見が得られた.また,聴覚障害児童生徒の数学的思考力の育成には,多様な見方・考え方を引き出す教材の活用と数学的活動の文章化が有効な指導の手だてとなるという示唆を得た.新学習指導要領の実施により,聾学校での算数・数学の指導内容は基礎的なものに限られ,授業では本時の具体的目標さえ達成が難しいのが現状ある.論理的思考能力の育成は,聾学校でも数学の授業では高次目標と位置づけられている.そこで,基礎的内容を,基礎的な扱いに加えさらに発展的に扱うことで,この目標の達成を考え次の様な成果を発表した:.(1)黒木伸明:発展的な学習教材の開発について.第37回全日本聾教育研究大会研究集録(2003)125-126.(2)黒木伸明・長谷川恵・小暮美智代:聴覚障害生徒の数学的作業活動と文章表現の関連づけによる論理的思考能力の育成.第37回全日本聾教育研究大会研究集録(2003)129-130.(3)伊澤浩仁・長谷川恵・黒木伸明:基礎の定着と数学的な思考力の育成をめざして.-子どもの気づきから発展させた授業の実践-第37回全日本聾教育研究大会研究集録(2003)127-128.(4)中村好則・黒木伸明:数学的表現力を育成するための指導の一考察.第37回全日本聾教育研究大会研究集録(2003)121-122.さらに,テクノロジーの活用による視覚的アプローチによる教材の開発およびその実践の成果として(5)中村好則・黒木伸明:聾学校の算数・数学教育に関する実践的研究の現状と課題.ろう教育科学,45(3)(2003)203-219.(6)中村好則・黒木伸明:聾学校高等部における数学的活動を支援するWeb教材の開発と活用の効果.科学教育研究28(2)(2004)日本科学教育学会(印刷中)を発表した。
KAKENHI-PROJECT-15530574
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15530574
聴覚障害生徒の言語表現および論理的思考能力の育成に関する研究
聾学校における数学指導の現状と課題に関する調査研究から,聴覚障害児童生徒の数学的思考力が聾学校の数学指導における重要な検討課題となっていながら,教育現場では各聾学校や指導者での工夫で終わっており,研究として積み上げられていないことが明らかとなった.そこで,まず聴覚障害児童生徒の数学的思考力を育成する教材を開発し,実践を通して効果を検討した.教材は,(1)視覚的イメージを持たせる教材(視覚的教材),(2)具体的な体験をさせる教材(体験的教材),(3)具体的な操作が伴う教材(操作的教材),(4)多様な見方・考え方を引き出す教材,(5)コミュニケーションの活性化を図る教材の開発した.例えば,多様な見方・考え方を引き出す教材と学習活動の言語化について以下述べる.聴覚障害児童生徒にとって,自分の考えや行動を言語化することは困難であることが言われている.しかし,数学においては,論理的に考えたり,順序立てて考えたりすることが必要であり,そのためには,自分の考えや学習活動を言語化することが必要と考えた.そこで,ここでは,多様な見方・考え方の引き出す教材と学習活動の言語化の効果を検討した.そのために,「直線m上にない点Pを通り,直線mに平行な直線を引く」という「平行線の作図」問題の教材化を検討するとともに,作図操作の文章化とスモールステップの設定を指導の手だてとし,聾学校専攻科において指導実践を行い授業を分析した.その結果,平行線を引くという一見容易に見える課題を多様に解決することで,聴覚障害生徒の多様な見方・考え方を引き出すことができるとともに,今まで学習してきたことを体系的に関連付けることに有効であるとの知見が得られた.また,聴覚障害児童生徒の数学的思考力の育成には,多様な見方・考え方を引き出す教材の活用と数学的活動の文章化が有効な指導の手だてとなるという示唆を得た.
KAKENHI-PROJECT-15530574
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矯正力の再荷重時の歯周組織の変化について
1.実際の矯正臨床では矯正力を幾度も再荷重する事により歯を移動している。そこでわれわれは、いままで行ってきた実験系を用いて実験動物に100gの矯正力を4週間加えて、さらに1、2、4週間100gの再荷重を加えることにした。実験終了後、灌流固定し、セロイジン包埋、薄切、H-E染色し、光学顕微鏡で観察した。また、現有の三次元画像解析システムで三次元再構築像を作製した。その結果、初期荷重終了時に吸収されていなかった歯槽骨に接した歯根膜には内変性帯がそのまま存在し、その周囲には無細胞帯が出現していた。また、初期荷重終了時に歯槽骨の吸収により、矯正力が解放された領域では、再荷重されても変性組織は存在しなかった。一方、破骨細胞の分布は、吸収されていなかった歯槽骨を取り囲むようにみられ、穿下性骨吸収を行っていた。また、そこでは背部骨吸収も活発に行われていた。そして、初期荷重終了時に穿下性骨吸収を行っていた破骨細胞が分布していたと思われる領域には再荷重後では破骨細胞はみられず、新たに圧迫を受けた歯槽骨に破骨細胞が出現していた。また、今後、これらの変性領域を電子顕微鏡にて微細構造の観察を行っていく予定である。2.再荷重した歯根膜を現有の近赤外光歯根膜血流計測装置にて圧迫側の歯頚部および根尖部の歯根膜血流量を測定し、初期荷重時の血流量と比較検討した。1.実際の矯正臨床では矯正力を幾度も再荷重する事により歯を移動している。そこでわれわれは、いままで行ってきた実験系を用いて実験動物に100gの矯正力を4週間加えて、さらに1、2、4週間100gの再荷重を加えることにした。実験終了後、灌流固定し、セロイジン包埋、薄切、H-E染色し、光学顕微鏡で観察した。また、現有の三次元画像解析システムで三次元再構築像を作製した。その結果、初期荷重終了時に吸収されていなかった歯槽骨に接した歯根膜には内変性帯がそのまま存在し、その周囲には無細胞帯が出現していた。また、初期荷重終了時に歯槽骨の吸収により、矯正力が解放された領域では、再荷重されても変性組織は存在しなかった。一方、破骨細胞の分布は、吸収されていなかった歯槽骨を取り囲むようにみられ、穿下性骨吸収を行っていた。また、そこでは背部骨吸収も活発に行われていた。そして、初期荷重終了時に穿下性骨吸収を行っていた破骨細胞が分布していたと思われる領域には再荷重後では破骨細胞はみられず、新たに圧迫を受けた歯槽骨に破骨細胞が出現していた。また、今後、これらの変性領域を電子顕微鏡にて微細構造の観察を行っていく予定である。2.再荷重した歯根膜を現有の近赤外光歯根膜血流計測装置にて圧迫側の歯頚部および根尖部の歯根膜血流量を測定し、初期荷重時の血流量と比較検討した。
KAKENHI-PROJECT-06771981
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06771981
腐植物質の多分散性と多様性を包括した化学構造モデルの構築
腐植物質は地球表層環境中に普遍的に存在する最も主要な有機態炭素である。本研究ではその重要性を啓蒙するため,実体を視覚的にアピールできるモデルの構築を目的とした。腐植物質の解析は多様性と多分散性の両側面からおこなった。多様性については起源物質や生成環境の異なる多種多数の試料を用意し,また,多分散性については各種分画法で細分画して多分散性を減少させた試料を調製し,それらの化学構造解析から,多分散性と多様性を包括した構造モデルを提示した。得られた成果を列記する。1)起源物質や生成環境の異なる多種多様な試料を取得し,土壌腐植83試料,河川・湖沼腐植75試料,土壌水溶性腐植13試料,堆肥その他の腐植11試料を厳選し,これらの基本分析(NMR,元素分析,HPSECなど)データベースを構築した。2)土壌のA層腐植酸は土壌型で,河川湖沼腐植物質は有色/比有色で特性が大きく異なった。土壌水溶性腐植物質はO間層で差異がなく,A層間で土壌腐植酸に類似することが明らかになった。3)データベースを元に構造特性に基づいた腐植物質の類型化が達成できた。これをもとに,グループ間の異同に応じた構造モデルイメージ図を提示した。4)多分散性を減少させた試料として,類型化した土壌腐植酸4グループの典型試料を選定し,各試料についてpH別逐次抽出分画,分取HPSECによる細分画をおこなった。これによって分散度のより小さな試料を64試料得た。その分析結果から各土壌腐植酸における分子サイズの違いに伴う構造特性の違いが明らかになった。5)分画試料の異同性と4)の多様性による異同性の両者の知見を総合し,多様性と多分散性を包括した構造モデルイメージ図を提示した。腐植物質は地球表層環境中に普遍的に存在する最も主要な有機態炭素である。本研究ではその重要性を啓蒙するため,実体を視覚的にアピールできるモデルの構築を目的とした。腐植物質の解析は多様性と多分散性の両側面からおこなった。多様性については起源物質や生成環境の異なる多種多数の試料を用意し,また,多分散性については各種分画法で細分画して多分散性を減少させた試料を調製し,それらの化学構造解析から,多分散性と多様性を包括した構造モデルを提示した。得られた成果を列記する。1)起源物質や生成環境の異なる多種多様な試料を取得し,土壌腐植83試料,河川・湖沼腐植75試料,土壌水溶性腐植13試料,堆肥その他の腐植11試料を厳選し,これらの基本分析(NMR,元素分析,HPSECなど)データベースを構築した。2)土壌のA層腐植酸は土壌型で,河川湖沼腐植物質は有色/比有色で特性が大きく異なった。土壌水溶性腐植物質はO間層で差異がなく,A層間で土壌腐植酸に類似することが明らかになった。3)データベースを元に構造特性に基づいた腐植物質の類型化が達成できた。これをもとに,グループ間の異同に応じた構造モデルイメージ図を提示した。4)多分散性を減少させた試料として,類型化した土壌腐植酸4グループの典型試料を選定し,各試料についてpH別逐次抽出分画,分取HPSECによる細分画をおこなった。これによって分散度のより小さな試料を64試料得た。その分析結果から各土壌腐植酸における分子サイズの違いに伴う構造特性の違いが明らかになった。5)分画試料の異同性と4)の多様性による異同性の両者の知見を総合し,多様性と多分散性を包括した構造モデルイメージ図を提示した。本研究の目的は、地球表層すべての環境中に普遍的に存在する最も主要な有機態炭素である腐植物質の機能や役割の重要性を啓蒙するため、その実体を視覚的にアピールできるように化学構造モデルを提示することにある。具体的には、液体・固体NMR分析法などを駆使し、腐植物質を多様性と多分散性の二つの側面から解析するために、多様性については起源物質や生成環境の異なる多種多数の試料を、多分散性については各種分画法で多分散性を減少させた試料を採取調製し、それぞれ化学構造を解析し、多分散性と多様性を包括して説明できる化学構造モデルの構築をおこなう計画である。本研究を遂行するためには分析試料を研究期間内の早期に調達し、分析操作とモデル構築のためのデータ解析に十分な時間を用意することが必要であるため、初年度の16年度はこの試料調達に重点をおいた。腐植試料の調製過程の見直しと効率化の促進をおこない、腐植試料の採取・調製をおこなった結果、土壌腐植物質はチェルノーゼム10点、黒ボク土3点、その他、褐色森林土など試料を総計24点採取調製し、当初目標の総計2030点の補完を達成した。また、水中腐植物質については十勝川、安曇川、与那川など予定通り5河川から計5試料を、土壌溶液中腐植物質もほぼ計画通りの計4試料を、堆肥中腐植物質は計6試料を取得した。並行して、分取HPSEC法による腐植物質の分子サイズ別分画1試料(10画分)を取得し、現在残りの1試料分を調整中である。すべての調製済み試料は随時NMR等の分析に供し,データを集積している。得られた知見は随時国際腐植物質学会等で発表し、「^<13>C NMR Spectroscopic properties of humic
KAKENHI-PROJECT-16380049
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16380049
腐植物質の多分散性と多様性を包括した化学構造モデルの構築
acids in black soils」として学術雑誌に投稿準備中である。本研究は,地球表層環境中に普遍的に存在する最も主要な有機態炭素である腐植物質の重要性を啓蒙するため,その実体を視覚的にアピールできる化学構造モデルの構築を目的としている。多様性と多分散性の両側面から解析するために,多様性については起源物質や生成環境の異なる多種多数の試料を,多分散性については各種分画法で細分画して多分散性を減少させた試料を調達し,NMR分析法などをもとに化学構造を解析することで,多分散性と多様性を包括した構造モデルを提示する計画である。本研究の遂行には分析試料の早期調達が必須であるため,初年度(16年度)から本年度にかけては,試料調達を中心におこない,本年度は特に採取が困難な河川・湖沼の試料と土壌の水溶性試料を重点的に収集した。初年度に加えて安曇川,十勝川,筑後川の源流,上流,中流,下流で同時に採取した試料,および,不動川と琵琶湖の季節別に採取した試料を調達した。他に巣之浦川など42試料を補填し,河川・湖沼の水系腐植物質の総数を100以上とした。土壌腐植の120試料とならんで充分な試料数にもとづいた基本分析データ(NMR,元素分析,HPSECなど)が収集できた。土壌の水溶性腐植試料は総数25点,堆肥の腐植試料は42点となり,分取HPSECによる細分画(多分散性減少)試料も含めて,当初予定の試料数と種類,およびそれらの分析値の80%以上が確保できた。これらをもとに,水系腐植試料のNMR解析では,脂肪族炭素領域の特定ピークの相対強度比を算出することで類型化が可能となることを見出した。また,土壌と水系腐植物質の本質的相違性と同一性が明らかになり,河川源流の腐植は土壌腐植と構造化学的側面からみて関連性が高いことも明らかになった。本研究は,地球表層環境中に普遍的に存在する最も主要な有機態炭素である腐植物質の重要性を啓蒙するため,その実体を視覚的にアピールできる化学構造モデルの構築を目的としている。多様性と多分散性の両側面から腐植物質を解析するために,多様性については起源物質や生成環境の異なる多種多数の試料を,また,多分散性については各種分画法で細分画して多分散性を減少させた試料を調達し,それらの化学構造解析から,多分散性と多様性を包括した構造モデルを提示する。得られた成果は次のとおりである。1)起源物質や生成環境の異なる多種多様な試料として,土壌腐植120試料,河川・湖沼腐植54試料,土壌水溶性腐植25試料点,堆肥腐植42試料を調達し,これらの全基本分析データ(NMR,元素分析,HPSECなど)を取得し,データベースを構築した。2)NMRにおける脂肪族炭素領域の特定ピークの相対強度比を算出する解析法を考案し,新たな類型化パラメータを見出した。3)土壌と水系腐植物質の本質的異同性を明らかにし,河川源流の腐植は土壌腐植と構造化学的側面からみた関連性の高いことを明らかにした。4)データベースを元に構造特性に基づいた腐植物質の類型化をおこない,グループ間の異同に応じた構造モデルイメージ図を提示した。5)多分散性を減少させた試料として,類型化した土壌腐植酸4グループの典型試料を選定し,各試料についてpH別逐次抽出分画,分取HPSECによる細分画をおこなった。これによって分散度のより小さな試料を64試料得た。6)分画試料の異同性と4)の多様性による異同性の両者の知見を総合し,多様性と多分散性を包括した構造モデルイメージ図を提示した。
KAKENHI-PROJECT-16380049
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原子価制御による機能性鉄チタン複合酸化物薄膜の開拓
本研究では、ヘマタイト-イルメナイト固溶体を中心とする混合原子価酸化物について単相試料を合成し、その磁性や電子状態を明らかにするとともに、それら酸化物の単結晶状薄膜を作製し、結晶配向性や格子歪みがその構造や電荷移動に及ぼす影響を解明・制御することを試みた。その結果、ヘマタイト-イルメナイト固溶体薄膜の微細構造や電気輸送特性は、薄膜の配向面により大きく異なることが明らかとなり、その原因として、結晶構造そのものが持つ異方性に加えて、薄膜と基板と間のミスフィットが大きく影響することを明らかにした。本研究では、ヘマタイト-イルメナイト固溶体を中心とする混合原子価酸化物について単相試料を合成し、その磁性や電子状態を明らかにするとともに、それら酸化物の単結晶状薄膜を作製し、結晶配向性や格子歪みがその構造や電荷移動に及ぼす影響を解明・制御することを試みた。その結果、ヘマタイト-イルメナイト固溶体薄膜の微細構造や電気輸送特性は、薄膜の配向面により大きく異なることが明らかとなり、その原因として、結晶構造そのものが持つ異方性に加えて、薄膜と基板と間のミスフィットが大きく影響することを明らかにした。本研究では、まず、サファイア単結品基板上に(11O)配向すなわち結晶のc軸が膜面内に配向したエピタキシャル固溶体薄膜を幅広い組成範囲で作製することを試み、次に、得られた(110)配向膜の磁気的、電気的性質が固溶体組成によってどのように変化するのかについて検討した。また、得られた薄膜のデバイス化への展開を見据えて、フォトリソグラフィー法による薄膜の微細加工を試み、基板上に薄膜を20×100μm矩形状に切り出し、15°間隔で同心円状に配置した試料を作製した。XRD構造解析の結果、得られた薄膜はx=0.50.9の幅広い組成範囲で、薄膜の成長方向および面内方向の方位関係が、サファイア基板単結晶のものと完全に一致しており、非常に結晶性に優れたエピタキシャル薄膜であった。くわえて、すべての固溶体薄膜は低温で大きなフェリ磁性を示すことが確認され、x≦0.7の組成範囲では室温でも磁化を示したことから、空間群R3の秩序相が生成したと言える。また、固溶体薄膜は膜面内で[110]方向が容易軸、[001]方向が困難軸となる非常に大きな磁気異方性を示すことも確認できた。さらに薄膜のホール効果測定を行なった結果、組成x<0.73の薄膜は負のホール係数を持ち、キャリアはn型であったのに対し、x>0.73の薄膜のキャリアはP型であり、いずれも半導体的な電気伝導挙動を示した。また、同心円状に配置した微細加工後の試料の電気伝導性を測定したところ、[110]方向の電気伝導性が、[001]方向の電気伝導性に比べて3倍ほど高く、(110)面内の電気伝導性は、方向による異方性を示すことが確認された。α-Fe2O3-FeTiO3固溶体薄膜を、RFマグネトロンスパッタ法により、α-Al2O3単結晶基板上に作製した。組成の異なる固溶体薄膜を作製するため、成膜ではα-FeとTi又はTiOの2種類のターゲットによる2元同時スパッタを用い、2基のターゲットの出力比を厳密に制御することで、薄膜のFe/Ti組成を制御した。使用した基板はα-Al2O3(001)および(110)であり、成膜時の基板温度は、500°C800°Cの範囲で変化させた。また成膜中はFe2+/Fe3+の混合原子価状態を制御するため、質量分析計でチャンバー内の酸素分圧を厳密に制御しながら微量の酸素ガスを導入した。作製した薄膜の膜厚は約50 nmであり、薄膜の固溶体組成はEDX分析により決定した。薄膜の評価として、結晶相およびその配向性の同定をXRD測定で行い、FIB加工後に微細構造をTEM観察した。また、磁化測定をVSM又はSQUID、さらにPPMSにより電気抵抗ならびにホール効果測定を実施した。実験では、まず、n型相であるFe1.4Ti0.6O3及びp型相であるFe1.8Ti0.2O3の成膜条件の最適化と、その半導体物性(キャリア密度や移動度など)を重点的に評価した。その結果、成膜時の微妙な成膜条件のずれが薄膜の半導体物性に大きく影響することが判明した。また、これらn型相とp型相の二層からなるp/n積層膜の作製を試みた。さらに、固溶体薄膜の合成に加え、FeTiO3のTiサイトを他の元素で置換した新規なイルメナイト型鉄酸化物の合成を行い、FeTiO3の磁気構造や電子状態を変化させ、あらたな機能性材料を導き出すことを目指した。その手始めとして、Tiサイトを同じ第4周期に属し、かつ4価のカチオン状態が安定なGeで置換したFeGeO3の高圧合成を実施し、メスバウアー分光法によりその電子状態と磁性を評価した。α-Fe2O3-FeTiO3固溶体薄膜を、RFマグネトロンスパッタ法により、α-FeとTiOの2種類のターゲットによる2元同時スパッタを用いてサファイア(α-Al2O3)単結晶基板上に作製した。
KAKENHI-PROJECT-23350092
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原子価制御による機能性鉄チタン複合酸化物薄膜の開拓
使用した基板はα-Al2O3(001)および(110)であり、成膜時の基板温度は、500°C800°Cの範囲で変化させた。また成膜中は固溶体組成に応じて2基のターゲットの出力比を厳密に制御するとともに、質量分析計でチャンバー内の酸素分圧を厳密に制御しながら微量の酸素ガスを導入した。作製した薄膜の膜厚は約50 nmであり、薄膜の固溶体組成はEDX分析により決定した。薄膜の評価として、結晶相およびその配向性の同定をXRD測定で行い、FIB加工後に微細構造をTEM観察した。また、磁化測定をVSM又はSQUID、さらにPPMSにより電気抵抗ならびにホール効果測定を実施した。ところで、FeTiO3固溶体の磁性や伝導性は、主としてFeサイトが担っているとされている。そこで本研究では、固溶体薄膜の合成に加え、FeTiO3のTiサイトを他の元素で置換した新規なイルメナイト型鉄酸化物の合成を試み、FeTiO3の磁気構造や電子状態を変化させ、あらたな機能性材料を導き出すことを目指した。その手始めとして、Tiサイトを同じ第4周期に属し、かつ4価のカチオン状態が安定なGeで置換したFeGeO3の高圧合成を試み、その結晶構造と磁性を評価した。RFマグネトロンスパッタ法によりα-Fe2O3-FeTiO3固溶体薄膜をサファイア(α-Al2O3)単結晶基板上に作製した。成膜ではα-FeとTiOの2種類のターゲットによる2元同時スパッタを用い、2基のターゲットの出力比を厳密に制御することで、薄膜のFe/Ti組成を制御した。使用した基板はα-Al2O3(001), (110)及び(100)であり、成膜時の基板温度は、800°Cと固定した。また成膜中はFe2+/Fe3+の混合原子価状態を制御するため、質量分析計でチャンバー内の酸素分圧を厳密に制御しながら微量の酸素ガスを導入した。作製した薄膜の膜厚は約50 nmであり、薄膜の固溶体組成はEDX分析により決定した。薄膜の評価として、結晶相およびその配向性の同定をXRD測定で行い、FIB加工後に微細構造をTEM観察した。また、磁化測定をVSM又はSQUID、さらにPPMSにより電気抵抗ならびにホール効果測定を実施した。実験では、n型相であるFe1.4Ti0.6O3及びp型相であるFe1.8Ti0.2O3の成膜条件を確立した後、完全な単相膜が得られた(001)配向膜について、これらn型相とp型相の二層からなるp/n積層膜の作製を行った。作製したp/n積層膜の電流-電圧特性を測定したが、残念ながら整流特性は示さなかった。その原因として、積層膜の断面をTEM観察したところ、Fe/Tiの組成が深さ方向になだらかに変化しており、接合界面でFe/Tiの拡散が生じたためと考えられる。また、Fe2-xTixO3固溶体と同様、Fe2+/Fe3+の混合原子価状態をもつ希土類鉄酸化物YbFe2O4についてもスパッタ法による単結晶状薄膜の作製を試みた。その結果、成膜時の基板温度と酸素分圧を制御することで、ほぼ単相のYbFe2O4薄膜が成長する成膜条件を見い出すことができた。26年度が最終年度であるため、記入しない。無機材料化学26年度が最終年度であるため、記入しない。ヘマタイト・イルメナイト固溶体薄膜を幅広い組成範囲で再現性良く成膜できる成膜条件を確立することができ、また、そのデバイス化に向けて必要となる薄膜のフォトリソグラフィー条件、エッチング条件も見出すことができたため、上記のように判断した。今年度はスパッタ成膜装置がトラブルなく稼働したため、薄膜の試料作製が順調に進み、成膜条件の微妙な違いが薄膜の微細構造や半導体特性に与える影響を系統的に解明することができたため。また、高圧合成についても、合成手順を習熟することができ、物性評価に耐えうるだけの試料を得ることができた。成膜装置が安定せず、数ケ月にわたりイルメナイト固溶体薄膜の成膜が行えなかったため、予定していたpn接合膜の作製ができなかった。
KAKENHI-PROJECT-23350092
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日本と台湾におけるボランタリズムと社会資本の多様化に関する比較研究
近代化とともにボランタリズムが高揚し、ボランティア団体によって家族機能を補うことが期待される。子育て支援に焦点をおき、東アジア社会に特徴的な文化構造を共有する日本と台湾において、ボランティア団体の活動やボランティア意識に関する実証的調査を行った。その結果、台湾においてボランティア意識がより高く、個人の寄付や民間の基金会がボランティア活動を支援しており、東アジア社会に特徴的な親族組織や地域集団を基盤とした共同主義的ボランタリズムが存在することが明らかとなった。近代化とともにボランタリズムが高揚し、ボランティア団体によって家族機能を補うことが期待される。子育て支援に焦点をおき、東アジア社会に特徴的な文化構造を共有する日本と台湾において、ボランティア団体の活動やボランティア意識に関する実証的調査を行った。その結果、台湾においてボランティア意識がより高く、個人の寄付や民間の基金会がボランティア活動を支援しており、東アジア社会に特徴的な親族組織や地域集団を基盤とした共同主義的ボランタリズムが存在することが明らかとなった。21年度は、まず、社会資本の多様化に関する、ボランティア活動やNPO団体に関する文献資料を収集した。近代化とともに解体する家族機能をおぎなう、社会資本の実態を明らかにするための調査を、子育て支援の活動に焦点を絞って、日本と台湾との比較研究を開始した。まず日本においては、大都市(福岡市)と地方都市(山口県内市部)の、青少年健全育成に関する市民活動団体に対して、アンケート調査を郵送法にて実施した。抽出したサンプルは、福岡市558、山口県403、計961サンプルで、福岡市220票、山口県162票、計382票を回収し、回収率は39.8%であった。調査データの入力を終了し、詳細な調査結果の分析が可能となっている。台湾においては、子育て支援に関する、官・民の取組の実態に関する概況調査を、台北県と高雄県において実施した。台北県三郷鎮児童健康発展センター、台北県永和市の公設託児所民権牧托場、高雄県政府社会局旗山区社会福利館における親子図書室のボランティア活動の実態、高雄県政府委託伊旬社会福利鋭基金会経営の鳳山区児童早期療育発展中心、旗山基督長教会付設博愛託児所、仏光山大慈育幼院、台湾高雄市のショウ毅文教事業集団、蔵林文教機構、新育幼稚園における学童保育の実態に関する実態を調査し、それぞれの施設長や職員と意見交換を行った。その結果、子育て支援に関する市民団体の活動は、台湾においては日本ほどにはみられず、台湾においてはそれ以外の社会的ネットワークが、子育てを支援していることが明らかとなった。台湾におけるボランティア団体に対するアンケート調査を、昨年度実施した日本のボランティア団体の実態と比較するために、台北市と台北県の社会服務慈善団体名簿より450団体を抽出し、郵送法にて実施した。回収票は現在までのところ78票で、住所等不明の調査票を除去した有効回収率は17.6%である。第2に、児童を家庭で保育する「保育ママ制度」に関して、日本における先進的な取り組みを行ってきた東京都江戸川区において聴き取り調査を実施した。日本の保育ママ制度に類似した制度は、台湾では「ベビーシッター制度」と呼ばれ、インフォーマルに広く浸透しており、保育者を管轄する台北市保母協会に対しても聴き取り調査を行った。近年この制度は、日本においては国が「家庭的保育事業」とし、台湾では公的に制度化されてきたことから、保育者の資格をめぐる問題や、保育者と行政、公的施設、および地域における子育て支援ネットワークとの連携が、今後の重要な課題となることが明らかとなった。第3に、台湾のボランティア活動に関して、日本統治時代に創設された貧困者の救済施設愛愛寮(現・財団法人台北市私立愛愛院)、高齢者支援の地域福祉的モデルといえる、祖先を同じくする地域共同体の台北県淡水鎮の蔡家村、および、アンケート調査に回答を寄せられた団体に対して聴き取り調査を実施した。これらの台湾におけるボランティア活動の実態から、東アジアにおける固有のボランタリズムの基層構造として、親族ネットワークと地縁的ネットワークの累積した公共領域における共同性が潜んでいることが解明された。第4に、台湾国立政治大学社会科学研究科主催の国際シンポジウムに招聘され、近代化とボランティア団体の家族支援における可能性に関する研究発表を行ったほか、東アジアにおけるボランタリズムの基層構造に関する考察結果や、保育ママ制度に関する研究報告を国内の学会においても行った。1.日本と台湾においてボランティア意識に関するアンケート調査を、子育て支援団体「山口ファミリーサポートセンター」の会員全体、及び、日本と台湾の大学生に対して実施した。センター会員調査は郵送法で行い、196票が回収され、回収率は21.3%であった。大学生に対しては集合法で調査を実施し、日本の学生からは238票、台湾の学生からは380票を回収した。それらのデータを比較分析した結果、ボランティア活動の経験には国別の違いはみられないが、日本では行政の要請が大きいのに対して、台湾では、ボランティア活動への目的意識が明確で、ボランティア意識も日本より高いことがわかった。2.台湾において、淡江大学の学生ボランティア団体、及び、民間のボランティア団体に対する聴き取り調査を行った。いずれも、主体的な団体形成の態度が明確で、民間の基金会が、活動を経済的に支援しており、これらの基金会や行政からの支援に加えて、個人の寄付も積極的に行われていることが明らかとなった。3.「企業のボランティア活動に関して、[台塑グループ]の運営する、高齢者施設「長庚養生文化村」における聴き取り調査を実施した。この施設では、高齢者が可能な限り文化的な生活を持続する仕組みが模索さていた。
KAKENHI-PROJECT-21530499
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21530499
日本と台湾におけるボランタリズムと社会資本の多様化に関する比較研究
4.これまでの台湾における調査から得られた知見をもとに、台湾における調査協力者と意見交換会を行った。その結果、ボランタリズムは近代化とともに促進される個人の自発性に依存するものではあるが、東アジア社会においては、血縁的、地縁的、その他のさまざまな縁による社会的ネットワークに支えられており、台湾ではその基盤がより明確であることが明らかとなった。
KAKENHI-PROJECT-21530499
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皮膚病変部に認められるマスト細胞の増殖機構及びその機能に関する研究
1.我々はこれまでNIH/3T3線維芽細胞とマウス骨髄由来培養マスト細胞の共生培養系を用い、炎症性サイトカインIL-1α、TNF-αが線維芽細胞を介してマスト細胞増殖を促進し、このマスト細胞増殖にはStem cell factor(SCF)、c-kitを介した経路が重要な役割を占めているが、それ以外の因子も存在することを見出していた。本年度の研究では、この系におけるプロスタグランジン(PG)の関与について検討した。シクロオキシゲナーゼ・インヒビター、インドメタシンは、IL-1α、TNF-αのマスト細胞増殖活性を抑制し、また共生培養系にPGE2を加えることにより、マスト細胞増殖が認められた。この結果より、IL-1α、TNF-αによるマスト細胞増殖には、線維芽細胞由来のPGが重要な役割を演じていると考えられた。2.種々の皮膚疾患病変部で認められるマスト細胞増加に対する線維芽細胞の役割を調べるため、手術、生検の際得られた皮膚組織より、線維芽細胞を分離・培養し、SCFの産生量をELISAにより測定した。その結果、線維芽細胞は無刺激でもSCFを産生するが、IL-1α、TNF-αはその産生に影響を及ぼさず、線維芽細胞増殖活性を持つTGF-βは、むしろSCFの産生を抑制することが明らかとなった。遊離SCFだけでなく、フローサイトメトリーにより細胞表面上のSCFの発現についても検討したが結果は同様であった。また、マスト細胞増加を伴うとされる肥厚性瘢痕、ケロイド病変部より得た綿維芽細胞からのSCF産生についても検討したが、無刺激、サイトカイン刺激いずれの場合にも正常部より得た線維芽細胞との間に明らかな違いは見出されず、同病変におけるマスト細胞増殖が、線維芽細胞からのSCF産生の増加によるものではないことが示唆された。皮膚におけるマスト細胞増殖機構解析のためのモデルとして、我々はNIH/3T3線維芽細胞とマウス骨髄由来培養マスト細胞の共生培養系を用いている。これまでにマウス有棘細胞癌培養上清、炎症性サイトカインIL-1α、TNFαが線維芽細胞を介しマスト細胞増殖を促進することを見出し、現在この系におけるマスト細胞増殖機構の解析を試みている。WBB6F_1-+/+およびW/W^vマウス由来のマスト細胞を比較した結果より、この系でのマスト細胞増殖にはStem cell factor(SCF),c-kitを介した経路が重要な役割を占めているが、それ以外の因子も存在することが示唆された。細胞接着因子はその候補の一つであるが、RGDSペプチドをこの共生培養系に加えてもマスト細胞増殖は阻害されないことがわかった。種々の皮膚疾患病変部で認められるマスト細胞増加に対する線維芽細胞の役割を調べるため、手術、生検の際得られた皮膚病変組織より、線維芽細胞を分離・培養し、その比較を試みた。ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕強皮症、神経線維腫、アトピー性皮膚炎、および、正常皮膚を対象とし、各々より得られた3ないし5代目の線維芽細胞培養上清中に含まれるSCFをELISAにて測定した。いずれの線維芽細胞でも無刺激でSCFの産生がみられ、その量には差が見られたが、まだ症例数が少ないため疾患との関連については判定できていない。また線維芽細胞をサイトカインで刺激した場合のSCF産生量についても検討しているが、これまでのところIL-α、TNFαでは明らかなSCF量の変化は見られていない。現在他のサイトカインについて検討中である。1.我々はこれまでNIH/3T3線維芽細胞とマウス骨髄由来培養マスト細胞の共生培養系を用い、炎症性サイトカインIL-1α、TNF-αが線維芽細胞を介してマスト細胞増殖を促進し、このマスト細胞増殖にはStem cell factor(SCF)、c-kitを介した経路が重要な役割を占めているが、それ以外の因子も存在することを見出していた。本年度の研究では、この系におけるプロスタグランジン(PG)の関与について検討した。シクロオキシゲナーゼ・インヒビター、インドメタシンは、IL-1α、TNF-αのマスト細胞増殖活性を抑制し、また共生培養系にPGE2を加えることにより、マスト細胞増殖が認められた。この結果より、IL-1α、TNF-αによるマスト細胞増殖には、線維芽細胞由来のPGが重要な役割を演じていると考えられた。2.種々の皮膚疾患病変部で認められるマスト細胞増加に対する線維芽細胞の役割を調べるため、手術、生検の際得られた皮膚組織より、線維芽細胞を分離・培養し、SCFの産生量をELISAにより測定した。その結果、線維芽細胞は無刺激でもSCFを産生するが、IL-1α、TNF-αはその産生に影響を及ぼさず、線維芽細胞増殖活性を持つTGF-βは、むしろSCFの産生を抑制することが明らかとなった。遊離SCFだけでなく、フローサイトメトリーにより細胞表面上のSCFの発現についても検討したが結果は同様であった。また、マスト細胞増加を伴うとされる肥厚性瘢痕、ケロイド病変部より得た綿維芽細胞からのSCF産生についても検討したが、無刺激、サイトカイン刺激いずれの場合にも正常部より得た線維芽細胞との間に明らかな違いは見出されず、同病変におけるマスト細胞増殖が、線維芽細胞からのSCF産生の増加によるものではないことが示唆された。
KAKENHI-PROJECT-09770633
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09770633
癌遺伝子関連ゲノム情報を活用した先天奇形症候群原因遺伝子の同定
本研究の目的は、先天奇形症候群の病因遺伝子を同定するため、これまで体細胞変異が数多く検出されている癌遺伝子およびそのシグナル伝達経路関連遺伝子を候補として探索する戦略について、その検討と実証をおこなうことにある。1)遺伝子変異のスクリーニングおよび遺伝子のコピー数の検討(松原、青木)新たな候補遺伝子における遺伝子変異の検索を行い、これまで報告されていない変異を同定した。また、シークエンスにより遺伝子変異が認められなかった症例について、MLPA法を用いた候補遺伝子のコピー数の検索をおこなったが、これまでのところコピー数の異常は同定されなかった。2)変異蛋白の機能解析(1)細胞内発現による変異蛋白の生化学的・細胞生物学的特性の検討(青木)変異遺伝子を細胞内で発現させ、その変異蛋白の活性や他の分子との結合について検討した。(2)細胞内発現によるシグナル伝達系に及ぼす影響の検討(青木)上記の発現ベクターと共に、シグナル伝達系の下流にあたる転写因子の転写活性をルシフェラーゼ活性として測定し、変異蛋白がそのシグナル伝達系に及ぼす影響を検討した。(3)変異蛋白を過剰発現させたトランスジェニックマウスの作製に関する検討(青木、松原)トランスジェニックマウス作成のためのベクター作成をおこなった。なお、本研究は東北大学医学部倫理委員会の承認(承認番号#2001-217)を得ており、遺伝子解析研究は3省庁の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に沿って行った。原因不明の先天奇形症候群のうち、新生突然変異による優性遺伝疾患の可能性が示唆されているものは少なくない。わたしたちはこれまでに、先天奇形症候群のひとつであるコステロ症候群が、これまで癌遺伝子としてよく知られていたHRAS遺伝子の変異によってひきおこされるシグナル伝達異常症であることを世界に先駆けて報告した(Nature Genet 37:1038-1040,2005)。癌遺伝子のgain-of-functionによってひきおこされる先天奇形症候群の同定はこれが最初である。この成果をもとに、本研究の目的は、これまで体細胞変異が数多く検出されている癌遺伝子およびそのシグナル伝達経路関連遺伝子を候補とし、先天奇形症候群の病因遺伝子を同定するための戦略について検討と実証をおこなうことにある。本年度はまず、癌遺伝子の変異データベースを対象に、これまでに知られている遺伝子機能、そのシグナル伝達系、その発現部位、発生過程における発現時期などから、先天奇形症候群の候補遺伝子を抽出・選定した。次に、新生突然変異による可能性が高い先天奇形症候群で、その発生・発達過程において過成長や特定臓器の肥大を伴うことがあるもの、腫瘍(良性・悪性)の合併が報告されているものなどを中心に、国内外の臨床遺伝専門医との共同によって検体の収集をおこなった。さらに、選定した候補遺伝子について、症例より得られた検体を対象に、順次、遺伝子変異の検索をおこなった。遺伝子変異の検索に当たっては、遺伝子の各エクソンと近傍イントロンのPCR増幅を行い、塩基配列を決定した。シークエンスにより遺伝子変異が認められなかった症例については、Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification(MLPA)法を用いて、候補遺伝子のコピー数の増減の有無を検索した。本研究の目的は、先天奇形症候群の病因遺伝子を同定するため、これまで体細胞変異が数多く検出されている癌遺伝子およびそのシグナル伝達経路関連遺伝子を候補として探索する戦略について、その検討と実証をおこなうことにある。1)遺伝子変異のスクリーニングおよび遺伝子のコピー数の検討(松原、青木)新たな候補遺伝子における遺伝子変異の検索を行い、これまで報告されていない変異を同定した。また、シークエンスにより遺伝子変異が認められなかった症例について、MLPA法を用いた候補遺伝子のコピー数の検索をおこなったが、これまでのところコピー数の異常は同定されなかった。2)変異蛋白の機能解析(1)細胞内発現による変異蛋白の生化学的・細胞生物学的特性の検討(青木)変異遺伝子を細胞内で発現させ、その変異蛋白の活性や他の分子との結合について検討した。(2)細胞内発現によるシグナル伝達系に及ぼす影響の検討(青木)上記の発現ベクターと共に、シグナル伝達系の下流にあたる転写因子の転写活性をルシフェラーゼ活性として測定し、変異蛋白がそのシグナル伝達系に及ぼす影響を検討した。(3)変異蛋白を過剰発現させたトランスジェニックマウスの作製に関する検討(青木、松原)トランスジェニックマウス作成のためのベクター作成をおこなった。なお、本研究は東北大学医学部倫理委員会の承認(承認番号#2001-217)を得ており、遺伝子解析研究は3省庁の「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に沿って行った。
KAKENHI-PROJECT-18018001
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18018001
有病高齢者の摂食・嚥下を評価するための新たな機能画像の開発と臨床応用
正常ボランティア、口腔がん患者及び口腔がんにより舌、顎骨等を切除した患者を対象にT2強調をベースにしたMR sequencesを用いてCine-MRIを撮像し、嚥下機能の評価に試みた。具体的には、T2強調をベースにしたMR sequencesを用いてCine-MRIを撮像する際、生理食塩水5 mlを経口摂取する状態を経時的に撮像する。昨年度の研究で決定した撮像sequencesとして1秒あたりの撮影数を15枚として正常ボランティア、口腔がん患者の術前及び口腔がんにより舌、顎骨等を切除した患者にCine-MRIの撮像を行った。正常ボランティアではほぼ全員撮像し、嚥下による液体の流動性を確認することができた。口腔がん患者でも、術前の場合はほぼ全員撮像することに成功し、正常ボランティア同様液体の流動性を確認することが可能であった。一方、手術後の患者では切除の程度のよって体動による画質の低下が強い症例が若干見られた。しかし、撮影対象者の全員に嚥下による飲水の口腔から食道迄の流れを評価することは可能であった。更に、今回手術後の患者さんの中には1回嚥下のみではなく、2回嚥下、3回嚥下を示すものも見られた。従って、そのような多数回嚥下の状態も我々のCine-MRIでは描出することが可能であることも確認できた。加えて、正常者と嚥下機能が低下している患者を比較することにより4つのパラメータ(oral transit times、orovelar opening time、first passavant ridge、tissue immobility score)において両者差異のある可能性を見出した。今後、症例数を増すことで統計的な有意性を明らかにし、客観的な指標としての有効性を確認していく予定である。Super Dynamic MR sialography及びfMRIのデータも集める。Cine-MRIを用いた嚥下機能評価により正常ボランティアと口腔がん患者及び口腔がんによる舌や顎骨を切除した患者に対する応用も可能であることを確認できた。同時に正常者と嚥下機能が低下している患者を比較することにより4つのパラメータ(oral transit times、orovelar opening time、first passavant ridge、tissue immobility score)において両者差異のある可能性を見出した。このようなデータがでていることは順調に進んでいると考える。しかし、Super Dynamic MR sialographyの手法は確立したものの、昨年度同様唾液の流出状態を描出することには成功しておらず、新しい知見の発見には至っていないのが現状である。Functional MRIによる咬合状態の評価に関しては、高齢者のボランティア及び咬合状態が著しく壊れた高齢者に対するデータ取得があまり進んでいないため全体としてはやや遅れていると考えている。我々が試みたT2強調をベースにしたMR sequencesを用いて作成したCine-MRIは1秒間に15回撮影を施すことで生理食塩水を嚥下する状態を適切に評価できることは確認している。それは正常ボランティアだけではなく、口腔がん患者及び口腔がんに対する手術を行った患者へも可能である。従って、今後は口腔がん患者に対して行っている術前及び手術後のMRによる評価時に必ずCine-MRIを追加撮影する。そのことで、Cine-MRIの症例数を増やし、その意義を確立して結果の発表に繋げていきたいと考えている。併行してSuper Dynamic MR sialographyによる極短時間の撮像において唾液流出の状態を描出し、その画像が意味するものを探求していく。更に、Functional MRIにおける咬合状態の把握について、若年者のボランティアにおけるデータに加えて高齢者や歯周病で咬合状態が不全になった患者を対象として撮像を追加し、基礎データの確立を目指す予定である。平成29年度より開始した研究内容を継続して行い、分析対象者の症例数を蓄積して行く。具体的には以下の通りである。Cine-MRIに関しては進行が良いため同研究を中心に進めていく。1.正常ボランティア、口腔がん患者及び口腔がんにより舌、顎骨等を切除した患者を対象にT2強調をベースにしたMR sequencesを用いてCine-MRIを撮像し、嚥下機能の評価に試みた。T2強調をベースにしたMR sequencesを用いてCine-MRIを撮像する際、生理食塩水5 mlを経口摂取する状態を経時的に撮像する。今年度の研究では、撮像sequencesの決定が重要であったが、1秒あたりの撮影数は28枚迄可能であるが確認できた。しかし、撮像コマ数を上昇することに画質の劣化が強まるため、実際の飲水による嚥下機能を評価するにあたり、その最適なものとして1秒あたり15枚撮像することにした。その結果、試みた正常ボランティア、口腔がん患者及び口腔がんにより舌、顎骨等を切除した患者全てにCine-MRIの撮像は可能であった。患者の中には体動により画質が低下したものも見られた。しかし、撮影対象者の全員に嚥下による飲水の口腔から食道迄の流れを評価することが可能であった。この結果より、我々が試みたT2強調をベースにしたMR sequencesを用いて口腔がん患者に非侵襲的で安全に嚥下機能を評価できる方法は確立できたと思われる。Cine-MRIを用いた嚥下機能評価について、ボランティアだけではなく、口腔がん患者に対する応用も可能であることを確認しているため順調に進んでいると考える。しかし、Super Dynamic MR sialographyの手法は確立したものの画像化については成功しておらず、新しい知見の発見には至っていないのが現状である。
KAKENHI-PROJECT-17K11680
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K11680
有病高齢者の摂食・嚥下を評価するための新たな機能画像の開発と臨床応用
Functional MRIによる咬合状態の評価に関しては、若年者ボランティアでの評価は可能であることから高齢者のボランィア及び咬合状態が著しく壊れた高齢者に対して今後行っていきたいと考えている。正常ボランティア、口腔がん患者及び口腔がんにより舌、顎骨等を切除した患者を対象にT2強調をベースにしたMR sequencesを用いてCine-MRIを撮像し、嚥下機能の評価に試みた。具体的には、T2強調をベースにしたMR sequencesを用いてCine-MRIを撮像する際、生理食塩水5 mlを経口摂取する状態を経時的に撮像する。昨年度の研究で決定した撮像sequencesとして1秒あたりの撮影数を15枚として正常ボランティア、口腔がん患者の術前及び口腔がんにより舌、顎骨等を切除した患者にCine-MRIの撮像を行った。正常ボランティアではほぼ全員撮像し、嚥下による液体の流動性を確認することができた。口腔がん患者でも、術前の場合はほぼ全員撮像することに成功し、正常ボランティア同様液体の流動性を確認することが可能であった。一方、手術後の患者では切除の程度のよって体動による画質の低下が強い症例が若干見られた。しかし、撮影対象者の全員に嚥下による飲水の口腔から食道迄の流れを評価することは可能であった。更に、今回手術後の患者さんの中には1回嚥下のみではなく、2回嚥下、3回嚥下を示すものも見られた。従って、そのような多数回嚥下の状態も我々のCine-MRIでは描出することが可能であることも確認できた。加えて、正常者と嚥下機能が低下している患者を比較することにより4つのパラメータ(oral transit times、orovelar opening time、first passavant ridge、tissue immobility score)において両者差異のある可能性を見出した。今後、症例数を増すことで統計的な有意性を明らかにし、客観的な指標としての有効性を確認していく予定である。Super Dynamic MR sialography及びfMRIのデータも集める。Cine-MRIを用いた嚥下機能評価により正常ボランティアと口腔がん患者及び口腔がんによる舌や顎骨を切除した患者に対する応用も可能であることを確認できた。同時に正常者と嚥下機能が低下している患者を比較することにより4つのパラメータ(oral transit times、orovelar opening time、first passavant ridge、tissue immobility score)において両者差異のある可能性を見出した。このようなデータがでていることは順調に進んでいると考える。しかし、Super Dynamic MR sialographyの手法は確立したものの、昨年度同様唾液の流出状態を描出することには成功しておらず、新しい知見の発見には至っていないのが現状である。
KAKENHI-PROJECT-17K11680
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K11680
要介護高齢者の地域生活を可能にする地域ケアシステムの構造に関する研究
居宅サービス利用水準が高く、出来る限り住み慣れた家庭や地域で生活を送ることが可能な地域ケアシステムは、地域の現状を把握した上で、限られた資源の中で最も効果が高い方法が選択され、老人保健福祉計画・介護保険事業計画等に組み込まれている。同時に、居宅サービスの提供に関わる機関・施設がネットワークを組み、高齢化の進行等の変化に対応しつつ、介護保険内外の適切なサービスの組み合わせが総合的かつ継続的に提供されるケアマネジメントが行われている。また、看取りへの対応ができていることも重要な要素である。居宅サービス利用水準が高く、出来る限り住み慣れた家庭や地域で生活を送ることが可能な地域ケアシステムは、地域の現状を把握した上で、限られた資源の中で最も効果が高い方法が選択され、老人保健福祉計画・介護保険事業計画等に組み込まれている。同時に、居宅サービスの提供に関わる機関・施設がネットワークを組み、高齢化の進行等の変化に対応しつつ、介護保険内外の適切なサービスの組み合わせが総合的かつ継続的に提供されるケアマネジメントが行われている。また、看取りへの対応ができていることも重要な要素である。本研究では「介護保険事業状況報告」のデータを使い、2002、2005、2006年度の1)訪問介護、2)訪問看護、3)通所介護と通所リハビリテーションを足したもの、4)短期入所それぞれについて保険者ごとに要介護認定者1人あたりの利用件数を偏差値化し、それらを平均したもの(以下居宅4サービス利用指数)で全国の保険者をランキングした上で、保険者ごとの基礎的データ及び医療・福祉資源データとも併せて分析することで地域差を明らかにした。また地域属性と居宅4サービス利用指数の関係性についても分析している。さらに居宅4サービス利用指数が経年でみて「高」のグループに属している6市町村についてヒアリング調査を行い、地域ケアシステムの現状と地域密着型サービス実施前後での変化を分析している。以下主要結果を記述する。居宅4サービス利用指数1位と最下位の保険者の指数の差は年々拡大傾向にある。また、上位100位まででみると、市が占める割合の増加及び、長野県、特に南信州広域連合に属している町村の占める割合が高いという傾向が引き続いてみられた。居宅4サービス利用指数の分布を属性別に高位から低位まで5グループに分けてみたところ、各年度とも「人口規模が大きい」「人口密度が高い」「高齢化率が低い」「財政力指数が高い」「人口10万人当たり医師数が多い」グループの指数が高くなっており、介護保険制度施行前に居宅サービスの利用指数が上位のグループに属していた市町村とは異なる傾向を示していることが分かった。居宅4サービス利用指数が経年でみて「高」のグループに属している市町村の地域ケアシステムは、様々なサービスの単なる寄せ集めではなく、利用可能な社会資源を有効に連携させ、包括的サービスが提供できる体制になっている。このことが様々な環境の変化に対応し、在宅化を推進させる要因になっている。本研究では「介護保険事業状況報告」のデータを使い、2002、2004、2005、2006、2007年度の1)訪問介護、2)訪問看護、3)通所介護と通所リハビリテーションを足したもの、4)短期入所それぞれについて保険者ごとに要介護認定者1人あたりの利用件数を偏差値化し、それらを平均したもの(以下居宅4サービス利用指数)で全国の保険者をランキングした上で、保険者ごとの基礎的データ及び医療・福祉資源データとも併せて分析することで地域差を明らかにした。また地域属性と居宅4サービス利用指数の関係性についても分析している。さらに居宅4サービス利用指数が経年でみて「中」のグループに属している4市町村についてヒアリング調査を行い、地域ケアシステムの現状と地域密着型サービス実施前後での変化を分析している。以下主要結果を記述する。居宅4サービス利用指数1位と最下位の保険者の指数の差は年々拡大傾向にある。また、上位100位まででみると、市が占める割合の増加及び、長野県、特に南信州広域連合に属している町村の占める割合が高いという傾向は、引き続きみられた。居宅4サービス利用指数の分布を属性別に高位・中位・低位の3グループに分けてみたところ、各年度とも「人口規模が大きい」「人口密度が高い」「高齢化率が低い」「財政力指数が高い」「老人保健医療給付対象者一人当たりの医療諸費費用額が低い」「人口10万人当たり医師数が多い」グループの指数が高くなっている。保険者をさらに細かく属性別に高位から低位まで5グループに分けてみても、医師数以外は同じ傾向がみられた。居宅4サービス利用指数が経年でみて「中」のグループに属している市町村の地域ケアシステムは、「高」のグループにみられたような共通の傾向はみられず、地域内の様々な施設・機関による連携がとれているところから、限定的な連携になっているところまで多様であることが分かった。2010年度までに構築した、全国の市町村(保険者)の「介護保険事業状況報告」(厚労省)等を使用した2002、2004、2005、2006、2007年度のDBに、2003、2008年度のデータを新たに付加し、居宅4サービス((1)訪問介護、(2)訪問看護、(3)通所介護と通所リハを足したもの、(4)短期入所)、施設サービス、施設+居住系サービス(特定施設入居者生活介護)の利用状況を偏差値化した指数及び人口等の基礎データ、医療・福祉資源データを分析することで、地域差を明らかにした。
KAKENHI-PROJECT-21530605
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21530605
要介護高齢者の地域生活を可能にする地域ケアシステムの構造に関する研究
2006年度以降については、地域密着型サービスの利用状況を偏差値化した指数も分析に含めた。地域属性とこれらの指数の関係性についても分析を行っている。また、居宅4サービス利用指数が経年でみて「低」のグループに属している3市町村にヒアリグ調査を行い、地域ケアシステムの現状を分析している。さらに、居宅4サービス利用指数が「高」「中」「低」の市町村のケース・スタディ結果を比較し、「出来る限り住み慣れた家庭や地域で生活を送ること」を可能にする地域ケアシステムの構造を提示した。以下主要結果を記述する。施設サービス利用指数の分布を行政区分別に経年でみると、各年度とも、政令指定都市・特別区は他の区分に比べて指数45以下の低い方に多く分布している。また市、町、村、広域連合ともに指数50近辺に分布のピークはあるが、全体的に非常に広く分布しており、グループ内の差が大きい。施設・居住系サービス利用指数も、各年度とも、政令指定都市・特別区以外は非常に広く分布しており、グループ内の差が大きい。地域密着型サービス利用指数は、政令指定都市・特別区、市、広域連合に比べて、町・村は指数が高い方に多く分布している。保険者別の指数の分布を属性別に高位低位の5グループに分けてみると、施設サービス利用指数が高いのは、「人口規模が小さい」「高齢化率が高い」「財政力指数が低い」グループである。地域密着型サービス利用指数については、「人口規模が小さい」「人口密度が低い」「高齢化率が高い」「財政力指数が低い」「人口10万人あたりの医師数が少ない」グループの指数が高くなっている。居宅4サービス利用指数が「高」「中」「低」の市町村のケース・スタディの比較からは、居宅サービスの利用水準が高く、出来る限り住み慣れた家庭や地域で生活を送ることが可能になっている地域ケアシステムは、地域の現状を把握した上で、限られた資源の中で最も効果が上がる方法が選択され、老人保健福祉計画・介護保険事業計画に組み込まれている。同時に、居宅サービスの提供に関わる機関・施設がネットワークを組み、高齢化の進行や重度の要介護者の増加等の変化に対応しつつ、介護保険内外の適切なサービスの組み合わせが総合的かつ継続的に提供されるケアマネジメントが行われている。また、看取りへの対応ができていることも重要な要素になっている。
KAKENHI-PROJECT-21530605
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21530605
量子ドット人工原子による電波・赤外分光天文観測の為の次世代超高感度検出素子の開発
近年、ブラックホールや、生命起源物質、系内外惑星大気の観測的研究において、より微弱な電波光赤外域の分光観測の重要性が高まっている。そこで、カーボンナノチューブを用いた量子ドットによる極限的な高感度検出素子の製作に着手した。また、素子にフェムトアンペアのレベルで低雑音に電流・電圧を供給する極低温機械式冷却システムを完成させた。さらに2重接合の量子ドット素子のモデルを開発し、クーロンブロッケードやクーロンステアケース、光アシステッドトンネリング現象に付随する非線形電圧電流特性のシミュレーションを可能にした。これにより、回路設計や、動作点の最適化、プロセスへのフィードバックが容易化した。近年、天文学において、系外惑星大気、原始惑星系円盤、遠方銀河などからの極めて微弱なスペクトル線の観測の必要性が一層高まってきている。本研究では、分野横断のユニークな共同研究開発により、電波・赤外領域において究極の感度をもつと期待される人工原子カーボンナノチューブ量子ドット(CND-QD)検出素子を応用し、天文学の分光観測や直接撮像のための極限的な高感度検出素子の開発に着手する。本年は、CND-QD素子へのビーム集光用2次元アンテナを設計し、これに多層カーボンナノチューブ、サイドゲート電極、ソース/ドレイン電極への微弱電流/電圧を供給するパターン実装/インピーダンス整合について検討を行った。これをもとに電子ビーム描画システムや光露光などのリソグラフィー装置のマスクパターンの検討も行った。本パターンの設計評価は、境界要素法と有限要素法による高周波電磁界シミュレータを用いて行った。また、CND-QD素子に供給する2チャンネルの微小電流電圧ソースユニット(分解能:0.1fA)などを、我々の天文/地球惑星観測のための実験開発専用機械式4K冷却システム/超伝導ヘテロダイン検出素子評価系にアセンブリーし、CND-QD素子のDC特性/クーロンブロッケード現象、RF応答/光アシステッドトンネリング現象の評価系の環境を構築した。また、CNT-QDの電磁波応答に関わる物理素過程・動作メカニズムのモデルの開発を進めた。近年、系外惑星探査が飛躍的に進み、生命起源物質のサーベイや、系内外惑星大気やハビタブルゾーンからの極めて微弱な電波赤外域の分光観測の重要性が急速に高まっている。本研究では、カーボンナノチューブ量子ドット(CND-QD)検出素子を応用し、電波・赤外領域の天文学の分光観測や直接撮像のための極限的な高感度検出素子の開発に着手する。具体的にはインピーダンス整合やビーム集光アンテナ、サイドゲート電極などの設計改良・集積を行い、ヘテロダイン検出素子・ダイレクト応答素子としての性能評価・実用化開発を推進する。さらに、CNT-QDの電磁波との相互作用の物理素過程を探り、検出素子としての動作メカニズムをモデル化し、高感度化開発にいかすことを目指す。本年(1)量子ドット素子の形成プロセスについて、従来のエッチングから、新しい手法に改良し、接合部の容量・抵抗などの物性の再現性を改善することができた。(2)そのパラメータを用いて、従来の準光学型のTHzヘテロダインミクサ検出素子とコンパチブルな設計パターンを検討し、試作段階に入った。(3)極低温真空冷却チャンバーを改良し、3ポートの微小電流・電圧供給システムを融合し、外的な電磁場ノイズの影響を受けず、フェムトアンペアのオーダーでも安定かつ低雑音に電流を供給する量子ドット素子の冷却・評価実験システムを完成させた。(4)2重接合の量子ドット素子の、回路内の電磁場環境も考慮したモデルを構築し、クーロンブロッケードやクーロンステアケース、RF/LO入射によるフォトンアシステッドトンネリング効果に付随する温度依存の非線形電圧電流特性のシミュレーションを可能にした。これにより、入射電磁波とのマッチングの回路設計や、稼働時のバイアス動作点の最適化、量子ドット接合部の物理パラメータの設計・プロセスへのフィードバックが容易化した。近年、ブラックホールや、生命起源物質、系内外惑星大気の観測的研究において、より微弱な電波光赤外域の分光観測の重要性が高まっている。そこで、カーボンナノチューブを用いた量子ドットによる極限的な高感度検出素子の製作に着手した。また、素子にフェムトアンペアのレベルで低雑音に電流・電圧を供給する極低温機械式冷却システムを完成させた。さらに2重接合の量子ドット素子のモデルを開発し、クーロンブロッケードやクーロンステアケース、光アシステッドトンネリング現象に付随する非線形電圧電流特性のシミュレーションを可能にした。これにより、回路設計や、動作点の最適化、プロセスへのフィードバックが容易化した。実際のRFパターンまでを実装したチップについて、マスク作成の目処までたてることができた。また既存のマスクによるQD-CNTについて4mm角の試作素子を用いて、実装を踏まえたハンドリングなどを確認する作業も進めることができた。また、fAオーダーの微小電流を供給する専用のDC回路系を構築し、我々のパルス管冷凍機に実装することができた。一方、QD-CNT素子の抵抗が極めて高いことから、RF帯域でのマッチングの最適化にはまだ検討を要している。また、一度に製作できるチップ数が限られるため、実験可能なチップの抽出方法や複数素子の同時製作などのプロセス検討が今後の課題となっている。電波天文学地球・惑星科学
KAKENHI-PROJECT-26610049
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26610049
量子ドット人工原子による電波・赤外分光天文観測の為の次世代超高感度検出素子の開発
1) CNT-QD素子を製作し、低振動パルス管冷凍機による受信機評価システムに搭載し、クーロンブロッケードによる非線形電流・電圧特性を確認する2)ミリ/テラヘルツ波帯(0.1-2THz)の固体CW発振器を2器用いてCNT-QDに照射し、ビート信号の取り出しなど、ヘテロダイン動作/直接検波の検証・確認を行う。3)アラン分散を測定し、検出器の安定動作時間を調べる。特にCNT-QD素子の出力特性が印加電圧・電流に対して緩やかに変化する最適動作ポイントを探る。冷凍機や周辺機器の温度変化やパルス管冷凍機の微弱振動(振動の変位は数μm以内)に誘起される不安定性なども調べ、必要に応じて受信器システムとしての改善を行う。4) CNTと電極間の界面における抵抗と接合容量の発生メカニズム、量子ドット部の抵抗値の再現性、トンネリングした励起電子の拡散・フォノンとの相互作用の時定数など、まだ明らかになっていない物理素過程/メカニズムを、上記IF帯域、非線形特性、クーロンブロッケード特性、テロダイン動作特性、直接検波特性を通して紐解き、CNT-QD素子の設計モデルの開発にいかす。マスクの設計の議論に慎重を期したため(歩留まりやインピーダンス整合など)、素子製作が2014年度内にスタートできなかったため、素子の製作費/材料費を繰り越すことなった。2015年度の4月現在、素子の製作を速やかにスタートさせており、遅れを挽回し、素子の冷却実験を開始していく予定である。
KAKENHI-PROJECT-26610049
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代償性僧帽弁伸展の破綻:3次元心エコーによる新たな虚血性僧帽弁逆流発症機序の解明
3次元心エコー法を用いて虚血性僧帽弁逆流(MR)と僧帽弁面積の関連を検討した。正常左室を有する175例の検討では、僧帽弁面積は弁接合部面積と有意な相関があり、僧帽弁面積は虚血性MRの予防に重要なことが示された。また、弁葉面積は左室サイズや年齢よりも、体表面積と強い相関を示した(r =0.907, p<0.001)。Cardio-ankle vascular index (CAVI)を用いて動脈硬化を評価した68例においては、CAVIの値は、僧帽弁接合部面積/体表面積の独立した規定因子であった。すなわち、動脈硬化により僧帽弁接合面積が減少し、虚血性MRの発症リスクになることが示された。本研究は、3次元心エコー法を用いて、虚血性僧帽弁逆流と僧帽弁面積の関連を明らかにすることを目的としている。昨年度は、本研究助成を得てYD社製3次元心エコー解析ソフトウェアREAL VIEWおよび解析用のPCを購入した。同時に経胸壁心エコーによる3次元心エコーデータの蓄積を開始した。これまで260名の経胸壁3次元心エコーデータを収集し、94名(平均年齢64±15歳)のデータを解析した。本研究の最初の検討項目として、左室拡大を伴わない例で加齢や動脈硬化の進行に伴い僧帽弁葉面積が変化するか検討を行っている。この検討は、動脈硬化に伴い僧帽弁が硬化短縮し、左室拡大に伴う虚血性僧帽弁逆流と関連するとの仮説に基づいている。3次元的な広がりを考慮した僧帽弁の弁葉面積は平均で11.2±1.8cm2、前尖と後尖の接合部分面積は2.0±0.3cm2であった。この僧帽弁葉面積と接合部分面積は、年齢と相関して小さくなる傾向があり、動脈硬化と関連して僧帽弁葉が短縮していくことが示唆された。今後は、症例を増やした上で多変量解析を用いて僧帽弁葉面積の規定因子を求める予定としている。また、同時にQ labソフトウェアを用いて左室の3次元心エコーの定量解析も進めており、左室と僧帽弁面積の関係についても検討する予定である。1ヶ月あたり3050例の3次元心エコーデータを収集しており、順調にデータ収集が進行している。一方で、虚血性僧帽弁逆流を伴った心筋梗塞例の登録数が不足しており、登録を増やす必要がある。本研究は、3次元心エコー法を用いて、虚血性僧帽弁逆流と僧帽弁面積の関連を明らかにすることを目的としている。昨年度までで既に400例以上の3次元心エコーデータを収集して電子媒体に保存し、順次解析を開始している。最初の検討として、これまで左室収縮能が正常で左室拡大を伴わない175例(平均年齢67±15歳)の僧帽弁構造を、YD社製3次元心エコー解析ソフトウェアREAL VIEWを用いて解析した。また、3次元心エコーによる左室容積はPhilip社製Q-LABを用いて解析した。3次元的な広がりを考慮した僧帽弁葉面積は平均で10.7±1.7cm2、前尖と後尖の接合部分面積は1.8±0.7cm2であった。この僧帽弁葉面積は、逆流を防ぐための僧帽弁閉鎖機能として重要な接合部面積と有意な相関があり(r=0.48, p<0.001)、左室拡大を認めない例においても僧帽弁葉面積は僧帽弁閉鎖機能に重要であることが示された。僧帽弁葉面積は体表面積と密接な関連があり(r=0.907、p<0.001)、僧帽弁葉面積は、先天的に体の大きさによって規定されており、比較的保持されているものと考えられた。この結果により、僧帽弁葉面積を体表面積で補正して検討することは妥当と考えられ、現在は僧帽弁葉面積/体表面積として検討を行っている。僧帽弁葉面積は左室容積係数や左室拡張期圧、透析の既往と有意な関連を示した。また僧帽弁接合面積/体表面積は左室容積係数の他、冠動脈の既往と関連した。これらの結果は、僧帽弁葉面積は比較的体格に応じた大きさによって規定されているが、なお動脈硬化や左室拡大に応じて短縮あるいは拡大することを示している。以上の結果は、日本循環器病学会(2017年3月)および日本心エコーズ学会(2017年4月)で口述発表し、論文投稿準備を行っている。1ヶ月あたり3050例の3次元心エコーデータを収集しており、順調にデータ収集が進行している。現在は、さらに僧帽弁葉面積と動脈硬化の指標として脈波速度CAVIとの関連や、大動脈弁狭窄症における機能的僧帽弁逆流を対象にした解析を行っている。機能的僧帽弁逆流の症例がやや不足しているが、研究全体としては概ね順調に進行している。本研究では、3次元心エコー法を用いて虚血性僧帽弁逆流(MR)と僧帽弁面積の関連を検討している。昨年度までの研究結果については英文論文として投稿し、リバイスした論文を再投稿しているところである。今年度は、昨年度までの研究に加えて動脈硬化と僧帽弁葉面積の関係について検討し、僧帽弁面積の規定因子についてより詳細に検討を行った。動脈硬化評価のためCAVI検査を行った68例を対象に、3Dエコーによる僧帽弁葉面積および接合部面積の計測を行った。
KAKENHI-PROJECT-15K01327
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代償性僧帽弁伸展の破綻:3次元心エコーによる新たな虚血性僧帽弁逆流発症機序の解明
3次元的に求めた僧帽弁葉面積および接合部面積はそれぞれ10.6±1.5 cm2および1.3±0.4 cm2であった。さらに、MR発生の重要な機序である僧帽弁接合部面積の減少は、左CAVI計測値、右CAVI計測値、E/A、E波減衰時間、糖尿病の既往と関連していた(それぞれstandardized coefficients; -0.561 (p<0.001), -0.403 (p=0.001), 0.121 (p=0.016), 0.059 (p=0.026)and 0.023 (p=0.032))。中でも、CAVI計測値は最も重要な僧帽弁接合部面積の規定因子であった。CAVIで評価される動脈硬化と類似のメカニズムで僧帽弁面積は減少し、機能性僧帽弁発症に起用する可能性がある。以上の研究結果については、2018年日本循環器病学会で発表し、英文論文を準備中である。3次元心エコー法を用いて虚血性僧帽弁逆流(MR)と僧帽弁面積の関連を検討した。正常左室を有する175例の検討では、僧帽弁面積は弁接合部面積と有意な相関があり、僧帽弁面積は虚血性MRの予防に重要なことが示された。また、弁葉面積は左室サイズや年齢よりも、体表面積と強い相関を示した(r =0.907, p<0.001)。Cardio-ankle vascular index (CAVI)を用いて動脈硬化を評価した68例においては、CAVIの値は、僧帽弁接合部面積/体表面積の独立した規定因子であった。すなわち、動脈硬化により僧帽弁接合面積が減少し、虚血性MRの発症リスクになることが示された。今後は、虚血性僧帽弁逆流の症例の登録を増やし、僧帽弁葉面積と僧帽弁逆流の重症度について検討を加えていく。また、順次登録した3次元心エコーデータの解析を行っていく。今後は、僧帽弁逆流の症例の登録を増やし、僧帽弁葉面積と僧帽弁逆流の重症度について検討を加えていく。また、これまでの研究結果により、左室の大きさだけでなく形態も重要との着想を得た。解析を進めながら、機能性僧帽弁逆流の新たな病態の解明を行っていく予定である。画像診断データのまとめがやや遅れ、学会発表が少なかったために出張費などが予想より少なかった。また、データ集計まで行かなかったために、統計解析ソフトを購入しなかった。データ解析が少し遅れたために、学会発表の機会が少なく旅費が見積もりより少なかったことや、論文別冊代、英文校正代などの支出が少なかった。国内外の学会において研究発表を行うための出張旅費として使用する。また、統計ソフトを購入して統計解析を行う。データ解析はやや遅れたものの概ね順調に進行しており、データがまとまり次第、学会発表、論文化を行う。
KAKENHI-PROJECT-15K01327
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盲ろう者の歌唱支援のための触覚フィードバック音声ピッチ制御システムの実用化研究
盲ろう者は、視覚と聴覚に重複した障害を持つため歌唱が困難である。これまで盲ろう者・聴覚障害者の歌唱支援のための触覚フィードバックによる2次元触覚ディスプレイを用いたシステムを開発し、その有効性を示してきた。本研究では、実用化のために市販の新触覚ディスプレイに対応した触覚刺激呈示方式を確立することを主な目的とした。その結果、新たな触覚ディスプレイを用いたシステムを構築し、その有効性を確認することができた。平成27年度においては、新触覚ディスプレイに対応した触覚刺激呈示システムの整備をおこなう計画であった。新触覚ディスプレイは、点字ディスプレイとして市販されているもので32行×48列の刺激ピンが2.4mmピッチで配置されている。これまでに使用していた旧触覚ディスプレイとは呈示ドット数と解像度が異なるので、これに対応した触覚刺激呈示システムの確立が必要となっていた。具体的には、次のようにしてシステムを整備した。配置されている触覚ディスプレイの触知ピンは32行42列なので、横方向をx、縦方向をyと定義し、x方向に48ドット、y方向に38ドットの触知ピンが配列されていることになる。縦方向では、yの1ドットを半音として縦方向に2オクターブ分の音階を呈示できるようにした。オクターブをユーザに呈示するために基準音階を左端2列に呈示し、そのすぐ右側の2列に目標音階を呈示した。ユーザは、この目標音階と同じyの高さになるように発声する。ユーザが発声した音高は目標音階の右側に呈示され、既定値では1秒間に4ドットの速さで右側にスクロールする。ユーザが発声した音声はリアルタイムに処理され触覚ディスプレイに呈示されるので、ユーザは目標音階と自身の音高を確認することができる。目標音階と自身の音高とに違いがあれば触覚フィードバックにより音高を調節することができる。本システムには、設定した目標音階とユーザが発声した際の音高のデータ等を記録する機能も付加されている。新触覚ディスプレイに対応するために開発した本システムを評価し、旧触覚ディスプレイを用いていた旧システムと同等程度の正確性でユーザが歌唱できることを確認した。平成27年度の研究では、当初計画通りに新触覚ディスプレイに対応した触覚刺激呈示システムの整備をおこない、従来使用していた旧触覚ディスプレイを用いたシステムと比べて十分な機能が確認できたことから、平成27年度の実績として概ね順調に進展していると考えられる。平成28年度においては、平成27年度において新たに開発した新触覚ディスプレイに対応した触覚刺激呈示システムを用いた評価をおこなった。従来の研究で用いていた旧触覚ディスプレイは刺激ピンが縦16行で横4列であったが新触覚ディスプレイは縦32行横48列となり、特に横方向にスクロールさせ音声ピッチ周波数の軌跡を呈示できるようになったという特徴がある。平成28年度においては、このように従来の旧触覚ディスプレイに比べて表示ドット数が増えた新触覚ディスプレイを用いたシステムで評価をおこない、平成27年度において開発したシステムが従来システムと比べてどのような効果があり、どのような表示設定をおこなうと効果的に本システムを利用できるのかを検討した。その結果、次にあげることが確認された。縦方向における音声ピッチ(声の高さ)の呈示に関しては1つの刺激ピン(1行)に半音を割り当て、12行で1オクターブを割り当てる設定で十分効果的に利用可能なことが確認された。なお、特定の音高に音声ピッチを合わせる訓練においては、半音に割り当てる行数を増やす必要があるので、そのための改良が必要になると考えられる。横方向における音声ピッチの呈示のスクロール速度については、1秒間に4ドットの速さでの右スクロールで十分利用可能なことが確認された。今後は本システムを用いた訓練効果の検証をおこなう予定であり、繰返し行う訓練の効果により最適な設定が変化する可能性もあるが、平成28年度の結果がそのための基礎データになると考えられる。平成28年度においては、平成27年度において新たに開発した新触覚ディスプレイに対応した触覚刺激呈示システムを用いた評価とその結果に基づいた本システムの改良をおこなったことから、平成28年度の実績として概ね順調に進展していると考えられる。本研究課題では、盲ろう者・聴覚障害者の歌唱支援のための触覚フィードバック音声ピッチ制御システムの実用化を目的とした研究をおこなった。平成27年度と28年度においては、従来用いていた試作の触覚ディスプレイを用いたシステムでは実用化が難しいことから市販の触覚ディスプレイを用いたシステムを新たに開発し、その評価をおこなった。最終年度の平成29年度においては、本システムを用いた訓練効果の検証と本システムの普及に向けたシステムの改修をおこなった。本研究課題の成果は次のようになる。市販の触覚ディスプレイを用いたシステムの開発については、従来の刺激ピンが縦16行×横4列の試作の触覚ディスプレイを用いたシステムから、刺激ピンが縦32行×横48列の市販の触覚ディスプレイを用いた新しいシステムに変更した。新システムでは、縦方向における音声ピッチ(声の高さ)の提示に関しては1つの刺激ピン(1行)に半音を割り当て、12行で1オクターブを割り当てる設定で十分効果的に利用可能であることが確認された。横方向における音声ピッチ提示のスクロール速度においては、1秒間に4列の速さでの右スクロールでの十分利用可能なことが繰り返し行う訓練効果の検証の結果から確認された。
KAKENHI-PROJECT-15K01015
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盲ろう者の歌唱支援のための触覚フィードバック音声ピッチ制御システムの実用化研究
さらに、本システムの普及に向けて、市販の触覚ディスプレイの専用ドライバ経由での駆動での不安定さを解消するために、専用ドライバを介さずに本システムから市販の触覚ディスプレイを直接駆動する方式へと変更するためにシステムを改修した。本研究課題の結果、盲ろう者・聴覚障害者の歌唱支援のための触覚フィードバック音声ピッチ制御システムの実用化が大きく進展したと考えられる。今後は、本システムの教育への応用に向けた研究を本学に在籍する盲ろう学生等を対象としておこなっていく計画である。盲ろう者は、視覚と聴覚に重複した障害を持つため歌唱が困難である。これまで盲ろう者・聴覚障害者の歌唱支援のための触覚フィードバックによる2次元触覚ディスプレイを用いたシステムを開発し、その有効性を示してきた。本研究では、実用化のために市販の新触覚ディスプレイに対応した触覚刺激呈示方式を確立することを主な目的とした。その結果、新たな触覚ディスプレイを用いたシステムを構築し、その有効性を確認することができた。平成28年度以降においては、整備した本システムにより訓練効果の検証をおこなうとともに、本システムにより触覚ディスプレイの呈示面積が大きくなったことを活用した新たな触覚呈示方式を検討していく計画である。これまでの研究では、新触覚ディスプレイに対応した触覚刺激呈示システムを開発し、新しい刺激呈示方式に対する評価・改良をおこなってきたが、平成29年度においては、このように整備されたシステムを用いた訓練効果の検証をおこなっていく予定である。福祉工学平成27年度に実施する予定であった評価実験の一部と国際会議発表論文の英文校閲をおこなわなかったためにこれらの費用が未使用となった。平成28年度に実施する予定であった評価実験の一部と国際会議発表論文の英文校閲をおこなわなかったために費用が未使用となった。平成28年度においては、平成27年度に実施予定であった評価実験を実施し、また、国際会議発表論文の英文校閲をおこなう予定である。平成29年度においては、平成28年度において実施する予定であった評価実験及び国際会議発表論文の英文校閲をおこなう予定である。
KAKENHI-PROJECT-15K01015
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捕食者と被捕食者の相互作用に関わる化学物質
本研究では、自然界の捕食者と被捕食者の間の生物現象に着目し、海洋生物を用いた活性試験法を確立するとともに異種個体間の相互作用に関与する化学物質の解明を目指した。1.シカクナマコとウズラガイの化学的成分ウズラガイを実験用水槽で飼育し、シカクナマコ抽出物を寒天で保持して水槽試験によりウズラガイの捕食行動を実験的に再現させることに成功した。このように海洋生物の行動を生物活性試験に用いる例はまだ少なく、今後の化学物質の探索に新しい方向性を提示できたと考えている。ここで開発した生物活性試験法を指標として各種カラムクロマトグラフィーによる生物活性物質の精製を試みたが、対象としたウズラガイが予想していたよりも稀少であり、数個体しか入手できなかったために化学成分の特定には至らなかった。本研究により確立させた生物活性試験法は、種々の海洋生物にも広く応用が可能であり、生物間の相互作用を司る物質を解明するために有用となる。尚、ウズラガイの中毒成分、シカクナマコのウズラガイ認識成分についても研究を進めた。2.ウツボが忌避行動を示すマベガイ内臓の化学的成分マベガイのエタノール抽出物から各種カラムクロマトグラフィーによりマウス急性毒性を指標としてプテリアトキシンA、B、Cの三種類を単離した。この新規毒性物質は各々ナノモルオーダーの量しか得られなかったが、800MHz NMRを用いてその平面構造および絶対立体配置を決定することができた。また、ウツボに対して忌避作用があるとされるマベガイの内臓を水槽内のウツボに与えたところ一度口にして吐き出す行動を再現させることに成功した。ウツボを用いた活性評価法の確立には至らなかったが、今回単離した強力な毒性物質がこの忌避行動に重要な役割を果たしていると予想している。本研究では、自然界の捕食者と被食者の間の生物現象に着目し、それを制御する化学物質を研究することで、画期的な天然有機化合物の発見を目指している。特定の動物間での試験法は、従来の細胞毒性や急性毒性などによるランダムスクリーニングとは異なった化合物の発見が期待される。例えば(1)シカクナマコが逃避行動を示すウズラガイの化学的成分、(2)ウツボが忌避行動を示すマベガイ内臓の化学的成分、(3)サンゴを殺しながら被覆成長していくカイメンがあげられる。被捕食者の逃避作用や捕食者に対して忌避作用を示す物質は、シカクナマコやマベガイなどの被食者にとって防衛物質として機能すると考えられる。このように、海洋生物を用いた活性試験法を確立するとともに、異種個体間の相互作用に関与する化学物質の解明を目的としている。マベガイの内臓の抽出物からは、マウスに対して強力な毒性を示すプテリアトキシン類を単離した。ナノモルオーダーの量しか得られなかったが、800MHz NMRを用いてその構造を決定することができた。現在、ウツボの忌避作用物質との関連を検討している。また、サンゴに被覆するカイメンTerpios sp.の抽出物からは、P388マウスリンパ性白血病細胞に対する細胞毒性を示すテルピオジエンを単離、構造決定した。また極微量成分として、強力な細胞毒性(IC_<50>=0.05μg/mL)を示す化合物の単離に成功しており、構造解析を進めている。本研究では、自然界の捕食者と被捕食者の間の生物現象に着目し、海洋生物を用いた活性試験法を確立するとともに異種個体間の相互作用に関与する化学物質の解明を目指した。1.シカクナマコとウズラガイの化学的成分ウズラガイを実験用水槽で飼育し、シカクナマコ抽出物を寒天で保持して水槽試験によりウズラガイの捕食行動を実験的に再現させることに成功した。このように海洋生物の行動を生物活性試験に用いる例はまだ少なく、今後の化学物質の探索に新しい方向性を提示できたと考えている。ここで開発した生物活性試験法を指標として各種カラムクロマトグラフィーによる生物活性物質の精製を試みたが、対象としたウズラガイが予想していたよりも稀少であり、数個体しか入手できなかったために化学成分の特定には至らなかった。本研究により確立させた生物活性試験法は、種々の海洋生物にも広く応用が可能であり、生物間の相互作用を司る物質を解明するために有用となる。尚、ウズラガイの中毒成分、シカクナマコのウズラガイ認識成分についても研究を進めた。2.ウツボが忌避行動を示すマベガイ内臓の化学的成分マベガイのエタノール抽出物から各種カラムクロマトグラフィーによりマウス急性毒性を指標としてプテリアトキシンA、B、Cの三種類を単離した。この新規毒性物質は各々ナノモルオーダーの量しか得られなかったが、800MHz NMRを用いてその平面構造および絶対立体配置を決定することができた。また、ウツボに対して忌避作用があるとされるマベガイの内臓を水槽内のウツボに与えたところ一度口にして吐き出す行動を再現させることに成功した。ウツボを用いた活性評価法の確立には至らなかったが、今回単離した強力な毒性物質がこの忌避行動に重要な役割を果たしていると予想している。
KAKENHI-PROJECT-13878117
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中国内蒙古における土地条件の劣化プロセスと農牧民による環境利用形態の変容
内蒙古中部武川県にて、ガリーの年間最大浸蝕速度は25-115cm/yr(2003-2010年)などを観測により明らかにした。本地域のガリー形成環境は完新世中盤以降継続している。烏蘭布和沙漠東縁における沙地前進量は約8ka以降1, 5002, 800m程度以上、1960年以降110m/yr程度の速度で前進し、このような自然環境条件下、地域農民は向日葵集中栽培など、持続的とは言えない生業に従事していることが判明した。渾善達克沙地周辺におけるNDVI値変化と現地調査により、近年の植生量変化および沙漠化の過程の一端が明らかになった。内蒙古中部武川県にて、ガリーの年間最大浸蝕速度は25-115cm/yr(2003-2010年)などを観測により明らかにした。本地域のガリー形成環境は完新世中盤以降継続している。烏蘭布和沙漠東縁における沙地前進量は約8ka以降1, 5002, 800m程度以上、1960年以降110m/yr程度の速度で前進し、このような自然環境条件下、地域農民は向日葵集中栽培など、持続的とは言えない生業に従事していることが判明した。渾善達克沙地周辺におけるNDVI値変化と現地調査により、近年の植生量変化および沙漠化の過程の一端が明らかになった。継続的な調査実施地である呼和浩特市武川県地域において、定点ピンを基準としたガリー後退量の計測、気象・地温・土壌水分データの回収と観測装置の維持点検、固定カメラによる砂塵暴生起記録、土地利用の変化、および農牧家の生業行動と家計状況等を実施・把握した。同呼和浩特市内においては、都市近郊を中心に展開し始めた酪農業の地域的類型化の作業を実施し、その一類型である都市近郊の生態移民による集団酪農について、土黙特左旗において酪農民を対象とした聞き取り調査を開始した。新たに設定した調査地のうち、内蒙古西部、烏海市・阿拉善左旗境界の烏蘭布和沙漠縁辺にては、近年の沙地前進状況を聞き取り調査により把握するとともに、沙地埋没河成段丘面の7.28.7kaという14^C年代を示すこと、同時期以降の最小沙地前進量が約400mであることを明らかにした。併せて沙地前縁に位置する回族集落調査を開始し、近年における農牧家の生活形態変化と家計状況把握の端緒を開いた。他方、内蒙古中部、渾善達克沙地付近における調査を本格化させ、同沙地を含む広域的範囲において衛星データの解析を行ない、植生指標の経年変化を明らかにした。併せて主として錫林浩特付近にて砂漠化の現況を視察し、社会経済統計データを取得した。植生地理学的視点においても、渾善達克沙地から北部高原地帯にかけて、年間降水量勾配に沿う人為的撹乱、とくに農耕や牧畜による変化、および草原植生劣化の実態を調査し、相互のかかわりを把握した。呼和浩特市武川県地域において、定点ピンを基準としたガリー後退量の計測、気象・地温・土壌水分データの取得、固定カメラによる砂塵暴生起記録、土地利用の変化等を把握・実施した。また都市近郊を中心に展開し始めた酪農業の地域的類型化の作業を実施し、その一類型である都市近郊の生態移民による集団酪農について、土黙特左旗において酪農民を対象とした聞き取り調査を行った。上記データに基づき、武川県地域のガリー壁の後退は、各年暖候季の初回に近い降雨イベントであれば、平均降雨強度12mm/hr内外、継続時間10時間程度の降雨によっても引き起こされる可能性を指摘した。これは季節凍土の発現・消失に伴い、春季以降、ガリー壁付近の地盤が脆弱化し、地表流等の集中箇所で選択的にガリー浸蝕が発生していることに因ると推察した。内蒙古西部、鳥海市・阿拉善左旗境界の鳥蘭布和沙漠縁辺にては、沙地前縁に位置する回族集落調査を行い、近年における農牧家の生活形態変化と家計状況把握を目指した。地形・表層地質調査、および農牧家からの聞き取り調査等に基づき、完新世前期(約8ka)以降、1950年代以降、および1980年代以降の沙地前面の最大移動速度はいずれも1m/yr内外に及ぶことが明らかにした。こうした土地条件下で、黄河河岸直近に限定される農耕地の集中的利用により、とくに農産物を少品種に特化させ、化学肥料投入による連作に頼るなどにより、地力低下および土壌塩性化が生じ耕作放棄地が増加する傾向にある点など、現在の問題点が浮上した。内蒙古中部、渾善達克沙地沙地を含む広域的範囲において衛星データの解析を継続し、植生指標の経年変化を詳細に明らかにした。併せて植生地理学的視点においても、渾善達克沙地から北部高原地帯にかけて、年間降水量勾配に沿う人為的攪乱、とくに農耕や牧畜による変化、および草原植生劣化の実態を調査し、相互のかかわりを把握した。呼和浩特市武川県地域において、これまで継続的に実施してきた定点ピンを基準としたガリー後退量の計測、気象・地温・土壌水分データの取得、固定カメラによる砂塵暴生起記録、土地利用の変化等を把握し、2010年の観測・観察データの蓄積を図った。
KAKENHI-PROJECT-20401005
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中国内蒙古における土地条件の劣化プロセスと農牧民による環境利用形態の変容
とくにガリー浸蝕をもたらす降雨イベントを明らかにするために、より精度の高い雨量データの取得を試み、現在解析を継続している。まだ内蒙古西部、烏海市・阿拉善左旗境界の烏蘭布和沙漠前縁に位置する回族集落調査においては、沙地地形変化および沙地前進速度データ取得を継続するとともに、沙地前進に伴う近年の土地利用・生活形態の変化に関するより詳細なインタビューデータを取得した。内蒙古中部、錫林郭勒盟渾善達克沙地においては、広域的な植生変化状況を把握するとともに、沙漠化進行の著しい上都付近の草原における詳細な植生調査、牧民の生活形態に関する行動変化等の聞き取り調査データを継続的に蓄積し、とくに微地形・土壌特性と植生の対応関係および変遷について景観生態学的な視点から現地調査を行い,沙漠化プロセスの一端を明らかにした。最終年度である2010年度は、内蒙古大学蒙古学研究中心、内蒙古師範大学地理科学学院の協力を得て、呼和浩特市において「内蒙古〓源〓境与可持〓〓展第二次中日研〓会(第二回「内蒙古資源環境および持続可能な発展」日中シンポジウム)」を9月に実施し、本研究課題で明らかになった2008年度以降の研究成果を中心に成果発表を行い、合わせて在内蒙古研究者(本課題研究協力者を含む)と情報交換・討論を行った。[連携研究者]西城潔(宮城教育大学教授)自然環境変遷解明に関する調査研究および土壌・堆積物データ解析.小金澤孝昭(宮城教育大学教授)農牧業経営形態に関する農業地理学的調査研究.平吹喜彦(東北学院大学教授)植物生態学・植生地理学的調査研究.[研究協力者]蘇徳斯琴(内蒙古大学蒙古学研究中心副教授).佐々木達(東北大学大学院研究生)
KAKENHI-PROJECT-20401005
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20401005
融液表面からの高速電子の反射率測定による表面価電子分布の研究
融液表面には熱的に励起された表面波が存在する。表面波の振幅は温度が上がると共に大きくなるので、その分、密度が気相の値から液相の値に連続的に移り変わる表面層の厚さが増すことになる。この結果、融液表面からの高速電子の反射率の視斜角依存性の測定を行うと、試料温度が高い程視斜角の増大による反射率の減少が著しくなる。それ故、異なった温度での反射率の視斜角依存性の測定から、表面波の性質を調べることが出来る。融液の表面張力や粘性係数は温度の上昇と共に小さくなる。このため、融点から離れた高温での反射率測定では、周囲からの機械的振動が試料に伝わって試料表面に巨視的な波長の波が立ち易くなる。波が励起されると、視斜角が曖昧になるだけでなく、反射強度も時間的に変動するので、反射強度測定の重大な障害となる。実験室における外的な機械的振動の主要なものは、他の実験装置で使用しているロータリーポンプ等によって引き起こされた床振動である。そこで反射率測定装置架台に4基の除振機構を取り付け、装置全体を圧空で実験室床から浮かせることにより床振動が試料に伝わるのを防いだ。更に試料を支えるマニピュレータの回転軸シャフトを剛性の高いものに変え、低周波の外的振動に試料部が共振しないようにした。右の図は測定結果である。装置の改良のおかげで、融点より100°Cも高い温度で測定を行うことが出来た。融液表面には熱的に励起された表面波が存在する。表面波の振幅は温度が上がると共に大きくなるので、その分、密度が気相の値から液相の値に連続的に移り変わる表面層の厚さが増すことになる。この結果、融液表面からの高速電子の反射率の視斜角依存性の測定を行うと、試料温度が高い程視斜角の増大による反射率の減少が著しくなる。それ故、異なった温度での反射率の視斜角依存性の測定から、表面波の性質を調べることが出来る。融液の表面張力や粘性係数は温度の上昇と共に小さくなる。このため、融点から離れた高温での反射率測定では、周囲からの機械的振動が試料に伝わって試料表面に巨視的な波長の波が立ち易くなる。波が励起されると、視斜角が曖昧になるだけでなく、反射強度も時間的に変動するので、反射強度測定の重大な障害となる。実験室における外的な機械的振動の主要なものは、他の実験装置で使用しているロータリーポンプ等によって引き起こされた床振動である。そこで反射率測定装置架台に4基の除振機構を取り付け、装置全体を圧空で実験室床から浮かせることにより床振動が試料に伝わるのを防いだ。更に試料を支えるマニピュレータの回転軸シャフトを剛性の高いものに変え、低周波の外的振動に試料部が共振しないようにした。右の図は測定結果である。装置の改良のおかげで、融点より100°Cも高い温度で測定を行うことが出来た。
KAKENHI-PROJECT-08226236
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08226236
量刑事情に関する実体法的・手続法的規制のあり方に関する研究
量刑事情のあり方に関する裁判員裁判の判決書の分析、実務家へのインタビュー、比較法研究、論文資料等の理論的検討により多角的に分析した。その結果、現在の実務では量刑においても裁判員を拘束する法解釈の局面があることが承認されつつあり、いわば量刑事情の「法化」ともいうべき現象が進行していることが明らかになった。その方向性は量刑に正当性を付与するもので望ましいと思われる。しかしなお、個別の量刑事情について評価の方向性が固まっていないものがあり、そのことが裁判員裁判において被告人自身の個別事情の適切な評価を妨げている可能性がある。そこで少年事件などを取り上げて、検討の方向性を明示した。平成24年度の実績は以下の通りである。第1に、裁判員裁判の判決書の収集及び実務家へのインタビューを継続し、分析を行った。その結果、当事者の論告・弁論での主張の方法と判決書の有り様に関連性があるものとないものがあることが明らかになった。前者は当事者主義型とも言うべき判決書で、当事者追行主義を徹底した裁判員裁判に相応しい形式だと思われるが、この形式を採る場合に論告に付されている求刑が単なる参考意見を超えた強い影響を有する場合があることに注意する必要があると判明した。第2に、量刑に関する理論研究を実施した。司法研究報告書『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』を始めとして重要な資料が公刊されたため、その分析に重点を置いた。とりわけ司法研究報告書が提言する判決書の簡素化については、争点を厳選した核心司法に対応するものとされているが、それにより量刑理由の可視性が後退するおそれがあることが懸念された。第3に、近年、量刑に関して注目すべき制度改正を行ったイギリス(イングランド・ウェールズ)の状況について、調査を実施した。イギリスでは裁判官を中心とする法曹関係者、警察や保護観察の代表者、外部の有識者により構成された量刑委員会が、一般への意見聴取プロセスを経て、拘束力のない量刑ガイドラインを作成している。ガイドラインは罪名ごとに定められ、その内部でさらに犯罪類型を細分化したうえで、刑の上限と下限を示す。この仕組みは、裁判員制度のもとで日本で採用された、犯罪の社会的類型に応じた量刑分布グラフの作成に通じるものがある。両者の異同についてさらに分析を進め、今後日本方式の比較法的意義を明らかにしたい。第4に、研究成果を公表した。研究代表者本庄は、少年事件や精神障害者事件についての量刑の在り方について考察し、研究分担者三島は、量刑評議の進め方及び評議の環境について考察した。第1に、2013年度において、裁判員裁判における量刑の実情について、裁判実務家からの聞き取り調査を実施した。その結果、評議の過程では付箋紙を用いるなどして裁判員が重視する量刑事情を可視化する工夫が行われるなどしていたが、最終的な刑量の導出過程にはなお不透明な点が残り、この点をいかに統制するかという課題が残ることが明らかになった。2012年度までの成果とあわせると、量刑の当事者主義化が進行する中で、量刑データベース以外の有効な統制手段を検討する必要性があり、その際にはイギリス法などの知見が有用となる。第2に、2013年度において、2012年度までに引き続き、裁判員裁判の判決書の研究を行った。裁判員裁判施行当初は裁判員が参加して行われた量刑判断がかなり尊重される傾向があったが、2013年度に至って、裁判員量刑尊重の流れに一定程度歯止めがかかったように見えた。こうした動向は理論的にも是認できるものであると考えられた。第3に、量刑事情の理論的検討については、2013年度において、対立が最も先鋭化する少年事件での量刑に関して法改正の動向が具体化したため、喫緊の課題として検討を行った。その結果、裁判員裁判実施当初に見られた社会記録の限定的採用、鑑定に対する消極的姿勢には変化が見られ、少年の裁判員裁判において適正な判断を実施するために不可欠な少年自身に関わる情報の不足の問題は一定程度改善の兆しが見られたが、当該事情の評価のあり方が明確でないように思われたため、方向性を提示した。また併せて、法制審議会刑事司法制度特別部会で議論されている、刑の減免制度及び協議・合意制度についても、量刑事情論として見過ごせない問題があったため検討を行った。量刑事情のあり方に関する裁判員裁判の判決書の分析、実務家へのインタビュー、比較法研究、論文資料等の理論的検討により多角的に分析した。その結果、現在の実務では量刑においても裁判員を拘束する法解釈の局面があることが承認されつつあり、いわば量刑事情の「法化」ともいうべき現象が進行していることが明らかになった。その方向性は量刑に正当性を付与するもので望ましいと思われる。しかしなお、個別の量刑事情について評価の方向性が固まっていないものがあり、そのことが裁判員裁判において被告人自身の個別事情の適切な評価を妨げている可能性がある。そこで少年事件などを取り上げて、検討の方向性を明示した。今年度の実績は以下の通りである。第一に、裁判員裁判の判決書を収集し、量刑の理由の項目につき、分析を行った。その結果、当事者の主張に沿って理由を示すもの、先例における量刑分布に言及するものなど従来見られなかった一定の様式があることが明らかになった。また、研究分担者三島は、工学系研究者と連携し、量刑事情キーワードの自動抽出に関する研究を行い、関連学会で報告を行った。
KAKENHI-PROJECT-23530073
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量刑事情に関する実体法的・手続法的規制のあり方に関する研究
第二に、裁判員裁判での量刑審理及び評議の進め方につき、制度に即した研究を行った。まず個別事件での評議内容に関わらない範囲で、裁判官に対しインタビューを行った。また、量刑問題に詳しい弁護士から裁判員裁判での量刑に関して問題となっている点についてインタビューを行った。これらにより有用な知見を得ることができた。さらに言語学の研究者と連携し、裁判員裁判における評議の分析方法について研究を進め、関連学会でワークショップを行い、成果を報告した。最後に、研究代表者本庄は、被告人自身に関わる背景的事情を法廷に顕出するための有用な手法である判決前調査制度について、日本において存在しない理由、存在しない中でいかなる対応が取られてきたのかについて考察し、関連学会で報告を行った。第三に、量刑問題に関連する理論研究を実施した。研究代表者本庄は、少年事件の裁判員裁判で死刑判決が下された事件について事例研究を行ったほか、裁判員裁判の上訴審での量刑審査のあり方について研究を行い論文を執筆した。後者においては、上訴審が原審の量刑に介入できる根拠論を通じて、量刑の法化が進行している可能性を指摘した。研究分担者三島は、量刑資料ともなり得る被告人自身の法廷での陳述を証拠として扱える範囲について研究を行い論文を執筆した。平成24年度は裁判実務の分析、文献研究、イギリス(イングランド・ウェールズ)の研究を予定していたところ、それぞれについておおむね順調に研究を進めることができた。裁判実務については判決書の分析作業を進める過程で、判決書の簡素化を提言する司法研究報告書が公刊され、それに対応するため当初の予定を変更せざるを得なくなったものの、この作業は、実態を解明するだけでなくあるべき量刑理由の記載方法を考察することにつながり、かえって分析を深めることができたと考えている。イギリスの研究については、量刑委員会の実務担当者及び委員の1人に対しインタビューを実施することができ、公刊資料だけでは分からない実情を知ることができた。また関連資料を多く入手することができた。研究成果の公表に関しては、平成24年度当初に予定していた被害感情の位置づけに関する研究は公表するに至らなかったものの、その代わりに、従来の裁判官裁判よりも重要性が後退しているように見える被告人が少年であったり精神障害者であったりする事情が有する意義を考察することができた。また、従来から継続している評議を充実させるための提言に関する研究成果をあげることもできた。これについては、平成25年度において、量刑評議に特化した形で提言をとりまとめるための基礎作業として位置づけられるものである。平成23年度においては、基礎的な資料の収集に重点を置くこととなっていたところ、判決書の収集、実務家へのインタビュー調査等を通じてある程度の資料を収集することができた。もちろん資料収集作業は今後とも継続していく必要はある。理論研究においては、量刑の制度的枠組みに関する研究に重点を置き、成果を公表することができた。これは平成24年度以降に量刑事情の法的評価のあり方という本研究の本体に属する研究を推進していく上で基盤となるものである。なお、研究計画で予定してもののうち、比較法研究について、当初予定していた量刑ガイドラインの研究を十分に行うことができなかった点は若干問題である。
KAKENHI-PROJECT-23530073
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