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百日咳菌の感染成立機構の解明とワクチン開発への応用
百日咳菌の病原因子の産生は、BvgAS二成分制御系によって調節されている。特に、ヒト上気道の体温(30°C)で培養した百日咳菌の状態はBvgi phaseと呼ばれ、感染の成立に寄与する可能性が高い。本研究の目的は、Bvgi phaseで強く発現するタンパク質Bordetellaintermediate protein A(BipA)の機能を解析し、百日咳菌の感染成立機構の解明ならびに新規ワクチンの開発を目指すものである。本年度は、下記の項目を検討した。1)昨年度に作製した百日咳菌BipA欠損株および親株(BipA発現株)をマウスへ経鼻感染させ、気管および肺に定着した生菌数を測定することで、BipA欠損株のマウス呼吸器への感染能を比較した。その結果、気管および肺における両菌株の生菌数に有意な差は認められなかったことから、BipAは百日咳菌のマウス呼吸器への感染に関与しない可能性が示唆された。一方、ヒト肺由来細胞株A-549を用いて百日咳菌の細胞への接着能を調べた実験では、BipAの欠損により細胞接着能が低下した。百日咳菌はヒトのみを宿主とすることから、ヒトとマウスでは異なる結果が得られたと考えられる。2)BipAが新規ワクチン抗原となりうるかを検討するために、大腸菌にHATタグを付加したリコンビナントBipA(rBipA)を発現させ、ニッケル樹脂を用いて精製した。その後、rBipAをAlumアジュバントと共にマウスに2週間隔で2回免疫し、百日咳菌を経鼻感染させ、気管および肺に定着した生菌数を測定した。その結果、マウス血清中に抗BipA抗体の産生は確認されたが、rBipA免疫群およびコントロール(PBS)群の間で、百日咳菌の生菌数に差は見られなかった。百日咳菌の病原因子の産生は、BvgAS二成分制御系によって調節されている。特に、ヒト上気道の体温(30°C)で培養した百日咳菌の状態はBvgi phaseと呼ばれ、感染の成立に寄与する可能性が高い。本研究の目的は、Bvgi phaseで強く発現するタンパク質Bordetellaintermediate protein A (BipA)の機能を解析し、百日咳菌の感染成立機構の解明ならびに新規ワクチンの開発を目指すものである。本年度は、下記項目を実施した。1)抗BipA抗体を用いたウエスタンブロットにより、ほとんどの百日咳菌国内流行株がBipAを発現していることを確認した。また、BipAを発現しない株を詳細に調べたところ、百日咳菌の病原因子の産生を調節するbvgSの変異に起因することが明らかとなった。本成果については、bvgS遺伝子に変異を持つ臨床分離株の発見として報告した(Hiramatsu et al, Pathog Dis 2017)。2)相同組換え(double cross-over法)により、百日咳菌のワクチン株であるTohama株および臨床分離株のゲノム上のbipA遺伝子を欠失したBipA欠損株を作製した。3)ヒト肺由来細胞株A-549を用いて、BipAが百日咳菌の細胞接着に与える影響を検討した。その結果、Bvgi phaseの百日咳菌BipA欠損株は、親株(BipA発現株)と比較し、細胞接着能が低いことを明らかにした。本結果は、BipAが接着因子として機能することを示している。4) BipAが百日咳菌のバイオフィルム形成に与える影響を検討した。その結果、Bvgi phaseのBipA欠損株は、親株より高いバイオフィルム系性能を有することが明らかとなった。本結果は、BipAがバイオフィルム形成を抑制する因子として機能することを示唆する。本年度は、「百日咳菌の感染成立機構の解明」を目的として研究を実施した。本年度の成果により、BipAがほとんどの百日咳菌国内流行株で発現していること、百日咳菌のヒト肺由来細胞への感染時に細胞接着因子として機能することを明らかにした。よって、おおむね順調に進展していると判断した。百日咳菌の病原因子の産生は、BvgAS二成分制御系によって調節されている。特に、ヒト上気道の体温(30°C)で培養した百日咳菌の状態はBvgi phaseと呼ばれ、感染の成立に寄与する可能性が高い。本研究の目的は、Bvgi phaseで強く発現するタンパク質Bordetellaintermediate protein A (BipA)の機能を解析し、百日咳菌の感染成立機構の解明ならびに新規ワクチンの開発を目指すものである。本年度は、下記の項目を検討した。1) BipAのワクチン抗原としての有用性の検討マウス体内においてBipAを発現するDNAワクチンの作製を試みた。しかし、BipAが膜タンパク質である、高分子量であるなどの理由で、BipAを哺乳類細胞に発現させることはできなかった。2) BipAを含む精製百日せきワクチンの作製培地中に硫酸マグネシウムを加えることで、百日咳菌はBvgi phaseの状態となる。よって、百日咳菌を通常通り培養し、その途中で硫酸マグネシウムを加えることにより、BipAを含む培養上清を得た。その後、濃縮、エンドトキシン除去を行い、BipAを含むワクチンを実験室レベルで作製した。このワクチンには、現行の精製百日せきワクチンの主要抗原であるPTおよびFHAも含まれていることを確認した。
KAKENHI-PROJECT-16K19131
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K19131
百日咳菌の感染成立機構の解明とワクチン開発への応用
一方、日本国内で製造されている3社の4種混合ワクチン(ジフテリア・百日せき・破傷風・ポリオ)にBipAが含まれているかを検討した。具体的には、それぞれのワクチンをマウスに2回腹腔内接種し、血中の抗BipA抗体価を測定した。その結果、1社のワクチンがBipAを含むことが明らかとなった。本年度は、「BipAのワクチン抗原としての有用性の検討」、「BipAを含む精製百日せきワクチンの作製」を目的として研究を実施した。本年度の成果により、BipAを含むワクチンが作製された。一方、哺乳類細胞においてBipAを発現するDNAワクチンの作製には失敗した。この検討に時間を要したため、やや遅れていると判断した。百日咳菌の病原因子の産生は、BvgAS二成分制御系によって調節されている。特に、ヒト上気道の体温(30°C)で培養した百日咳菌の状態はBvgi phaseと呼ばれ、感染の成立に寄与する可能性が高い。本研究の目的は、Bvgi phaseで強く発現するタンパク質Bordetellaintermediate protein A(BipA)の機能を解析し、百日咳菌の感染成立機構の解明ならびに新規ワクチンの開発を目指すものである。本年度は、下記の項目を検討した。1)昨年度に作製した百日咳菌BipA欠損株および親株(BipA発現株)をマウスへ経鼻感染させ、気管および肺に定着した生菌数を測定することで、BipA欠損株のマウス呼吸器への感染能を比較した。その結果、気管および肺における両菌株の生菌数に有意な差は認められなかったことから、BipAは百日咳菌のマウス呼吸器への感染に関与しない可能性が示唆された。一方、ヒト肺由来細胞株A-549を用いて百日咳菌の細胞への接着能を調べた実験では、BipAの欠損により細胞接着能が低下した。百日咳菌はヒトのみを宿主とすることから、ヒトとマウスでは異なる結果が得られたと考えられる。2)BipAが新規ワクチン抗原となりうるかを検討するために、大腸菌にHATタグを付加したリコンビナントBipA(rBipA)を発現させ、ニッケル樹脂を用いて精製した。その後、rBipAをAlumアジュバントと共にマウスに2週間隔で2回免疫し、百日咳菌を経鼻感染させ、気管および肺に定着した生菌数を測定した。その結果、マウス血清中に抗BipA抗体の産生は確認されたが、rBipA免疫群およびコントロール(PBS)群の間で、百日咳菌の生菌数に差は見られなかった。今後は、本年度の研究に引き続き、百日咳菌BipA欠損株を用いて、BipAが百日咳菌のマウスへの感染に与える影響を検討する。さらに、当初の予定通り、「BipAのワクチン抗原としての有用性の検討」、「BipAを含む精製百日せきワクチンの作製」の2項目を実施する。「BipAのワクチン抗原としての有用性の検討」:BipAを発現するDNAワクチンを作製し、マウス体内へ注入後、百日咳菌に対する感染防御効果を評価する。また、BipAが細胞性免疫と体液性免疫のどちらを強く誘導するかを検討する。「BipAを含む精製百日せきワクチンの作製」:現行の精製百日せきワクチンはBipAを含有していない。よって、BipAを分泌する培養条件を検討し、現行ワクチンの主要抗原であるPTとFHAに加えてBipAを含む培養上清から新規ワクチンを精製する。
KAKENHI-PROJECT-16K19131
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K19131
半経験的分子軌道法による歯科薬剤/材料の毒性評価と新規物質のデザイン
ヒト口腔癌細胞(OSCC)に傷害活性を有する新規テトラハイドロイソキノリン誘導体類(TQ)のデザインを行った。TQの構造とOSCCの細胞傷害活性に有意な相関関係があることから、OSCCにより高い活性を持つ新規TQの分子設計をおこなった。デザインソフトを用いてTQ骨格の2位に付いた置換基変換により想定された対象化合物は3984種類あったが、TQのLog Pは2.2付近に活性があったので、Log Pが2.02.3の化合物に絞り込み、合成のし易さを考慮して60種類の化合物を想定し分子記述子を得た。分子記述子から細胞傷害活性が期待される新規化合物の検索を行っている。「研究の目的」は、半経験的分子軌道法による歯科薬剤/材料の毒性評価と新規物質のデザインのタイトルで、歯科薬物/材料などの毒性および生物学的活性能と化学構造との相関関係(QSAR)を三次元での分子の形(分子の表面積、体積、長さ)で検証し、新規化合物のデザインをすることである。「研究計画」は、データベース化されているフェノール化合物の細胞毒性をもとにQSAR解析を行うこと、新規化合物のデザインである。「研究成果」フェノール類の活性酸素除去能力はその還元力にある。その還元性発現の基本はフェノール性水酸基の酸化である。最近フェノール類(フラボノイド)の酵素酸化で中間体として不安定なオルトキノンが生じていることが分かった。このキノン型は細胞毒性が強いとされている。フェノール類の酸化機構の酵素酸化と化学酸化による違いを半経験的分子軌道で検証し、酵素(生体内)酸化と化学酸化(生体外)酸化反応機構が異なることが推定された。新規化合物のデザインはイソキノリン類で行った。新規合成したキノリン類と口腔癌細胞の傷害活性のQSAR解析を行った。活性が見られた化合物をリード化合物として40種類の新規化合物をデザインした。「研究の目的」は、半経験的分子軌道法による歯科薬剤/材料の毒性評価と新規物質のデザインのタイトルで、歯科薬物/材料などの毒性および生物学的活性能と化学構造との相関関係(QSAR)を三次元での分子の形(分子の表面積、体積、長さ)で検証し、新規化合物のデザインをすることである。「研究計画」は、データベース化されているフェノール化合物の細胞毒性をもとにQSAR解析を行うこと、および口腔癌に活性を有する新規化合物をデザインすることである。「研究成果」フェノール類の活性酸素除去能力はその還元力にある。その還元性発現の基本はフェノール性水酸基の酸化である。最近フェノール類(フラボノイド)の酵素酸化で中間体として不安定なオルトキノンが生じていることが分かった。このキノン型は細胞毒性が強いとされている。フェノール類の酸化機構の酵素酸化と化学酸化による違いを半経験的分子軌道で検証し、酵素(生体内)酸化と化学酸化(生体外)酸化反応機構が異なることが前年度の結果からさらに推定でき、このキノイド型が炎症の原因に関係していることも考えられた。新規化合物のデザインは1,2,3,4-テトラハイドロイソキノリン類(TQ)で行った。新規合成したTQ類と口腔扁平上皮癌細胞の傷害活性のQSAR解析を行った結果をもとに、口腔扁平上皮癌に活性が見られた化合物をリード化合物として60種類の新規化合物のデザインをおこなった。これらの化合物の物理的分子記述子からより細胞傷害活性が期待される化合物を選定した。ヒト口腔癌細胞(OSCC)に傷害活性を有する新規テトラハイドロイソキノリン誘導体類(TQ)のデザインを行った。TQの構造とOSCCの細胞傷害活性に有意な相関関係があることから、OSCCにより高い活性を持つ新規TQの分子設計をおこなった。デザインソフトを用いてTQ骨格の2位に付いた置換基変換により想定された対象化合物は3984種類あったが、TQのLog Pは2.2付近に活性があったので、Log Pが2.02.3の化合物に絞り込み、合成のし易さを考慮して60種類の化合物を想定し分子記述子を得た。分子記述子から細胞傷害活性が期待される新規化合物の検索を行っている。「研究の目的」は、半経験的分子軌道法による歯科薬剤/材料の毒性評価と新規物質のデザインのタイトルで歯科薬剤/材料などの毒性や生物学的活性能と化学構造との相関関係(定量的構造活性相関)を従来の方法、絶対ハードネス概念および三次元での分子の形を用いて検証し、さらに新規物質のデザインをすることである。「研究計画」は、フェノール化合物の細胞毒性、抗菌性の生物学的評価はHanschら(J Am Chem Soc)、methacrylatesの毒性の詳細はAutiau ( J Dent Res )にデータベース化されている。そのデータをもとにmethacrylatesの定量的構造活性相関(QSAR)を以下の活性子を用いて行う。最高被占軌道エネルギー(EHOMO)、最低空軌道エネルギー(ELUMO)、chemical hardness(η)= 1/2(ELUMO-EHOMO)、electron negativity(χ)=-1/2(ELUMO+EHOMO)、分子の立体形。上記の研究と並行して、口腔癌細胞に対して細胞傷害活性が予測される新規化合物(薬物)の構造活性相関をPM5法で行うことである。「研究成果」フェノール化合物の細胞毒性、抗菌性の生物学的評価のデータをもとにmethacrylatesの定量的構造活性相関(QSAR)を以下の活性子を用いて行った。
KAKENHI-PROJECT-23592898
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23592898
半経験的分子軌道法による歯科薬剤/材料の毒性評価と新規物質のデザイン
最高被占軌道エネルギー(EHOMO)、最低空軌道エネルギー(ELUMO)、chemical hardness(η)= 1/2(ELUMO-EHOMO)、electron negativity(χ)=-1/2(ELUMO+EHOMO)、分子の立体形。更に口腔癌細胞に対して細胞傷害活性が予測されたトリハロアセチルアズレン類の新規化合物(薬物)の構造活性相関をPM5法で行いトリハロアセチルアズレン類の新規化合物を42種類デザインした。平成24年度の研究の目的は、半経験的分子軌道法による歯科薬剤/材料の毒性評価と新規物質のデザインで、歯科薬物/材料などの毒性および生物学的活性能と化学構造との相関関係(QSAR)を三次元での分子の形(分子の表面積、体積、長さ)で検証し、新規化合物のデザインをすることであった。研究計画は、データベース化されているフェノールル化合物の細胞毒性をもとにQSAR解析を行うこと、口腔癌細胞に活性のある新規化合物のデザインである。研究成果として、フェノール類の酸化機構の酵素酸化と化学酸化による違いを半経験的分子軌道で検証し、酵素(生体内)酸化と化学酸化(生体外)の酸化反応機構が異なることが分かった。新規化合物のデザインはイソキノリン類で行った。新規合成したキノリン類と口腔癌細胞の傷害活性のQSAR解析を行った。活性が見られた化合物をリード化合物として40種類の新規化合物をデザインした。平成25年度の研究の目的は、24年度に得られた結果をもとにして、口腔癌細胞の傷害活性のQSAR解析を行う。さらに活性が見られた化合物をリード化合物として、広範囲にわたる置換基データベースを使用し、新規化合物をデザインを行う。これらの結果を研究の総括、成果の発表とする。「平成24年度」平成24年度は23年度に得られた結果を基にして、フェノール化合物の研究を更に行う。活性子としては、EHOMO、ELUMO、η、χ以外にフェノールのOーHの解離エネルギー(BED)も計算し活性子とする。この領域はHanschが詳細に細胞毒性ばかりでなくアポトーシスの評価も行っているが、HanschはBDEをLog Pのみを活性子としていてη、χ、分子の立体項については検討していない。したがって新しい知見がみつかるかもしれない。疎水性に関連する因子としてvan der waals半径、双極子モーメント、水和の安定性などについて検討する。さらに上記の研究と並行して、口腔癌細胞に対して細胞傷害活性が予測される新規化合物(薬物)の構造活性相関をPM5法で行う予定である。「平成25年度」は広範囲にわたる置換基データベースを使用し、各物質性値算出パラメータから予測するACD/Structure Design Suiteソフトウエア(25年度申請)を用い、新規物質をデザインする。また平成24年度の結果を基にして、口腔癌細胞に対して細胞傷害活性が予測される新規化合物(薬物)のデザインを行う。さらに得られた結果を取りまとめ、研究の総括と、成果の発表を行う。
KAKENHI-PROJECT-23592898
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23592898
DMSO高感受性変異体を用いた植物器官新形成の共通基盤に関する分子遺伝学的解析
本研究は、温度感受性に代わる条件変異としてジメチルスルホキシド(DMSO)への感受性が高まったDMSO高感受性を用いることで新たな変異体を単離し、植物の器官形成機構について解析を行った。胚軸外植片からの不定根形成を指標としたスクリーニングにより、10系統を超えるDMSO高感受性変異体を単離することができた。単離した変異体はDMSO存在下の組織培養実験において、細胞増殖に関連する多様な表現型が観察された。これらの表現型は温度感受性変異体で見られたものとは共通性が低く、DMSO高感受性変異が温度感受性変異と異なるタイプの条件変異として利用可能なことを示している。これまでシロイヌナズナにおいて、器官新形成時の細胞増殖制御に異常を示す温度感受性変異体が多数、単離されてきた。これらは細胞増殖制御を遺伝学的に追究することに貢献しているが、変異の大半がRNAの基本的なプロセッシング・代謝に関するもので、温度感受性変異特有のバイアスがかかっている可能性も考えられる。温度感受性変異体を用いた解析ではまた、温度変化に対する生理応答が関係するために、表現型の解釈が単純ではない。これらの問題に関しては、温度感受性に代わる条件変異の利用が解決策となり得る。本研究では、タンパク質の構造安定性に影響するジメチルスルホキシド(DMSO)への感受性が高まったDMSO高感受性変異を用いることで器官形成時の細胞増殖制御の解析を試みた。DMSO高感受性変異体の単離は、温度感受性変異体の単離で最も実績がある胚軸からの不定根形成を指標とする方法を用いて行った。エチルメタンスルフォン酸により突然変異を誘発したシロイヌナズナのM2世代4672株での1次スクリーニング、その自殖次世代における2次スクリーニング、さらに野生株との交配による遺伝的純化を行い、これまでに11系統のDMSO高感受性変異体を単離した。これらの変異体ではDMSO存在下の不定根形成において、細胞増殖活性の著しい低下や、根端分裂組織の肥大化、不定根形成初期の形態異常など、細胞増殖に異常を示す多様な表現型が観察された。本年度は、単離することができたDMSO高感受性変異体から、順次、責任遺伝子を特定するためのシークエンス解析を進めることを計画していたが、予想していたよりも多くの変異体を単離することができたことに加えて、一部の植物体の生育不良により単離までの時間が予定よりも少し遅れたこともあり、当初の計画を変更して来年度に単離できている変異体をまとめて次世代シークエンスにより解析することとした。平成28年度から継続して、胚軸外植片からの不定根形成を指標としたスクリーニングにより、DMSO高感受性突然変異体の単離を進めたことに加えて、単離した変異体の表現型解析および責任遺伝子の特定を行った。平成28年度に単離した11系統に加え、新たに7系統のDMSO高感受性変異体を単離し、最終手的に18系統を確立した。これまでに単離されたシロイヌナズナの温度感受性突然変異体は、どのような基本RNAプロセッシングに関わるかによって、それぞれ異なるユニークな表現型を示すことがわかっている。単離したDMSO高感受性変異体のカルス形成、シュート再生、側根形成における表現型を解析したところ、1系統においてはプレmRNAプロセッシング関連変異体で共有される表現型と部分的に似た特徴が見られたが、他の系統において共通する表現型は観察されなかった。DMSO高感受性変異体の温度感受性について調べた実験では、3系統が弱い温度感受性を示したが、残りの多くの系統は温度感受性を示さなかった。以前に温度感受性変異体のDMSO高感受性を調べた際は、一部の温度感受性変異体で弱いDMSO高感受性を示すのに対して、大半の変異体はDMSO高感受性を示さないことを確認している。これらの結果は、温度感受性変異とDMSO高感受性変異が概ね共通ではないことを示している。次世代シークエンスと染色体マッピングによる責任遺伝子の特定を進めた結果、13系統について変異存在領域を特定の染色体部分にまで絞り込むことができた。現時点において、候補遺伝子の機能に特別な偏りなどは見つかっていない。これらの一連の結果は、植物においてDMSO高感受性変異と温度感受性変異が同様に、しかし異なるタイプの条件変異として利用可能なことを示している。本研究は、温度感受性に代わる条件変異としてジメチルスルホキシド(DMSO)への感受性が高まったDMSO高感受性を用いることで新たな変異体を単離し、植物の器官形成機構について解析を行った。胚軸外植片からの不定根形成を指標としたスクリーニングにより、10系統を超えるDMSO高感受性変異体を単離することができた。単離した変異体はDMSO存在下の組織培養実験において、細胞増殖に関連する多様な表現型が観察された。これらの表現型は温度感受性変異体で見られたものとは共通性が低く、DMSO高感受性変異が温度感受性変異と異なるタイプの条件変異として利用可能なことを示している。単離したDMSO高感受性変異体は、カルス形成、側根形成、シュート再生などの組織培養応答を中心に、細胞増殖制御に注目して表現型の解析を進める。これまでの解析から、温度感受性変異体はどのような基本RNAプロセッシングに関わるかによって、組織培養応答においてそれぞれ異なるユニークな表現型を示すことがわかっており、表現型上の特徴からRNAプロセッシングとの関連の有無を推測できると考えている。その解析と並行して、責任遺伝子の同定を進め、配列情報に基づいて各遺伝子の分子機能を追究する。
KAKENHI-PROJECT-16H07482
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16H07482
DMSO高感受性変異体を用いた植物器官新形成の共通基盤に関する分子遺伝学的解析
29年度が最終年度であるため、記入しない。植物生理学・分子生物学29年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-16H07482
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16H07482
脊髄神経細胞傷害増悪因子としてのマイクログリアの役割解明とその制御法の開発
平成9年度の研究実績報告書においてラット脊髄圧迫モデルを完成し、動物の行動学的なダメージと脊髄内マイクログリアの出現とに関連があることを報告した。平成10年度にはこの動物モデルにおいてマイクログリアの数が増加するのみならず、その大半が活性化された免疫系細胞のみを認識するOX-42染色に陽性であることが示され、マイクログリアが活性化されていることが分かった。また、損傷された脊髄組織内でTNF-αなどの組織傷害性の強いサイトカイン含有量が増加していることが判明した。これにより脊髄損傷へのマイクログリア関与の可能性が一層大きくなったと思われる。In Vitroの実験では、脊髄より培養したマイクログリアをエンドトキシンで刺激して、TNF-αの放出を細胞傷害作用の指標として測定した。脊髄より培養したマイクログリアにもTNF-αやnitric oxideなどの組織傷害を起こしうる物質を放出する能力があることが分かった。脳の細胞を用いた研究ではアデノシンがマイクログリアからのTNF-αの放出を抑制することが分かっていたが、本研究で脊髄においてもアデノシンはTNF-αの放出を抑制することが分かり、今後脊髄損傷の治療にもこの物質が使用できる可能性が開けてきた。また、アデノシンのトランスポーター阻害剤としてアデノシンの効果を増強するといわれているpropentofyllineを用いてin vivo及びin vitroでの効果を検討した。In vivoの脊髄損傷モデルではpropentofyllineはマイクログリアの増殖を抑制し、in vitroでの培養マイクログリアを用いた研究ではエンドトキシンにより誘導されるTNF-αやnitric oxide放出をpropentofyllineが抑制することが分かった。平成9年度の「脊髄神経細胞傷害増悪因子としてのマイクログリアの役割解明とその制御法の開発」の研究で現在まで以下の結果が得られている。兎、及びラットを用いて脊髄損傷モデルの作成を試みた。全身麻酔下の動物の椎弓を切除して脊髄硬膜を露出し、重さ20gの脊髄損傷用重錘にて脊髄圧迫を行った。脊髄損傷による機能評価には組織学的評価と動物の行動学的評価を行った。組織学的には損傷された脊髄内に増殖してくるマイクログリアをレクチン染色で観察した。動物の行動学的評価としては後肢の機能を反映する動物の時間内での立ち上がり回数をMARYS社製ScanetMV-10MTでカウントするという方法を採用した(この機械は小動物用なので、行動学的研究はラットのみを用いて行うことになった)。20gの重錘による5-30分の脊髄の圧迫によって動物の下肢に不全麻酔を起こさせた。本研究で用いた程度の軽度の損傷では動物の立ち上がり回数は損傷後24時間程度では対照群とあまり差は見られなかったが、2日目、3日目と日を追う毎に減少してきた。同時進行した組織学的研究では、損傷後24時間から脊髄内にマイクログリアの増殖が観察され始め、損傷後3日目でマイクログリアの数はピークに達した。このことより、脊髄損傷後に遅発性に進行する麻痺には神経組織内マイクログリアの増殖が深く関与している可能性が示された。平成9年度の研究実績報告書においてラット脊髄圧迫モデルを完成し、動物の行動学的なダメージと脊髄内マイクログリアの出現とに関連があることを報告した。平成10年度にはこの動物モデルにおいてマイクログリアの数が増加するのみならず、その大半が活性化された免疫系細胞のみを認識するOX-42染色に陽性であることが示され、マイクログリアが活性化されていることが分かった。また、損傷された脊髄組織内でTNF-αなどの組織傷害性の強いサイトカイン含有量が増加していることが判明した。これにより脊髄損傷へのマイクログリア関与の可能性が一層大きくなったと思われる。In Vitroの実験では、脊髄より培養したマイクログリアをエンドトキシンで刺激して、TNF-αの放出を細胞傷害作用の指標として測定した。脊髄より培養したマイクログリアにもTNF-αやnitric oxideなどの組織傷害を起こしうる物質を放出する能力があることが分かった。脳の細胞を用いた研究ではアデノシンがマイクログリアからのTNF-αの放出を抑制することが分かっていたが、本研究で脊髄においてもアデノシンはTNF-αの放出を抑制することが分かり、今後脊髄損傷の治療にもこの物質が使用できる可能性が開けてきた。また、アデノシンのトランスポーター阻害剤としてアデノシンの効果を増強するといわれているpropentofyllineを用いてin vivo及びin vitroでの効果を検討した。In vivoの脊髄損傷モデルではpropentofyllineはマイクログリアの増殖を抑制し、in vitroでの培養マイクログリアを用いた研究ではエンドトキシンにより誘導されるTNF-αやnitric oxide放出をpropentofyllineが抑制することが分かった。
KAKENHI-PROJECT-09771094
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09771094
ω6長鎖脂肪酸を介した神経炎症制御に対して脂肪酸結合蛋白質が果たす役割
野生型および脂肪酸結合タンパク質(FABP)の遺伝子欠損マウスに対して、通常食とアラキドン酸などの多価不飽和脂肪酸含量を調整した餌(脂質コントロール食餌)で、長期間(2ー3か月)飼育しながら、摂食量、体重、血清データ等を集積し、既報の解析モデルとして使用できることを確認した。その後、各種行動解析(行動量、オープンフィールド、Y迷路、高架十字迷路、水迷路等)を施行した。その結果、脂質コントロール食投与後の行動変化について、野生型と変異マウス間で優位な差異が認められた。行動解析後に、マウスから各臓器(空腸、回腸、肝臓、心臓、腎臓、脳、脊髄等)をサンプリングし、脂質成分分析用の凍結した状態で保存するとともに、形態学的解析用に固定標本の準備を進めている。脂質コントロール食の海外からの輸入や、研究分担者である外国人研究者の、施設利用ライセンス取得に手間取ったため、研究の着手が若干遅れたものの、現状では順調に計画が進行している。脂質コントロール食を給餌したマウスの行動解析について検討を継続する。また神経炎症に関わるマーカー分子の脳内局在解析も開始する。更にこれまで集積した各種臓器サンプルについて、タンパク質や脂質分析を開始する予定である。グリア細胞や神経細胞の初代培養細胞レベルでの検証実験も併せて施行する。野生型および脂肪酸結合タンパク質(FABP)の遺伝子欠損マウスに対して、通常食とアラキドン酸などの多価不飽和脂肪酸含量を調整した餌(脂質コントロール食餌)で、長期間(2ー3か月)飼育しながら、摂食量、体重、血清データ等を集積し、既報の解析モデルとして使用できることを確認した。その後、各種行動解析(行動量、オープンフィールド、Y迷路、高架十字迷路、水迷路等)を施行した。その結果、脂質コントロール食投与後の行動変化について、野生型と変異マウス間で優位な差異が認められた。行動解析後に、マウスから各臓器(空腸、回腸、肝臓、心臓、腎臓、脳、脊髄等)をサンプリングし、脂質成分分析用の凍結した状態で保存するとともに、形態学的解析用に固定標本の準備を進めている。脂質コントロール食の海外からの輸入や、研究分担者である外国人研究者の、施設利用ライセンス取得に手間取ったため、研究の着手が若干遅れたものの、現状では順調に計画が進行している。脂質コントロール食を給餌したマウスの行動解析について検討を継続する。また神経炎症に関わるマーカー分子の脳内局在解析も開始する。更にこれまで集積した各種臓器サンプルについて、タンパク質や脂質分析を開始する予定である。グリア細胞や神経細胞の初代培養細胞レベルでの検証実験も併せて施行する。
KAKENHI-PROJECT-18F18713
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18F18713
判例変更と制定法の訂正-理論と動態に関する比較方法論的研究
わが国最高裁における小法廷判決の実務を分析すると、コストのかかる大法廷判決を回避するために、独特の手法で判例変更を回避したり、あるいは特殊な方法的操作により違憲判決を迂回したりしている、という顕著な実態が浮かび上がる。これらのいわば屈折した裁判実務は、それ自体大きな問題をかかえているが、こうした判例変更回避や違憲判断回避の手法は、わが国最高裁の裁判実務を英米独の最高裁における裁判実務と対比するための有益なてがかりを与えてくれる。すなわち、わが国の裁判実務・法実務は、そうした比較研究の結果として、米国の膨張主義、英国の抑制主義、ドイツの折衷主義、という3つの周知のモデルと対比して、英国とドイツのちょうど中間にある独特のタイプとして特色づけることができる。わが国最高裁における小法廷判決の実務を分析すると、コストのかかる大法廷判決を回避するために、独特の手法で判例変更を回避したり、あるいは特殊な方法的操作により違憲判決を迂回したりしている、という顕著な実態が浮かび上がる。これらのいわば屈折した裁判実務は、それ自体大きな問題をかかえているが、こうした判例変更回避や違憲判断回避の手法は、わが国最高裁の裁判実務を英米独の最高裁における裁判実務と対比するための有益なてがかりを与えてくれる。すなわち、わが国の裁判実務・法実務は、そうした比較研究の結果として、米国の膨張主義、英国の抑制主義、ドイツの折衷主義、という3つの周知のモデルと対比して、英国とドイツのちょうど中間にある独特のタイプとして特色づけることができる。この研究は、裁判官が先例を変更することの可否、制約条件、許容範囲や限界、といった判例変更(overruling)の問題の根本的解明を目指している。しかも比較法を無視することなく、各法秩序の基本的な構造差を正確に捉えた上で、日独英米における判例変更の理論と実際を方法論的に位置づけることを志向している。平成19年度は、大陸法という視座の限定のもとに、制定法拘束性の例外である裁判官の制定法訂正の方法論的探究を手がかりとして、先例拘束性の例外である判例変更問題への解決策を探る、というアプローチを採用した。裁判官による制定法訂正に関するエンギッシュ、リュタースたちの理論にヒントを得て、次のように判例変更の理論的解明を行った。裁判官による制定法訂正作業に関しては、矛盾(法秩序統一性の阻害)の訂正と矛盾以外の誤謬の訂正とが区別されている。それとの類比では、先例変更の作業のなかで、先例同士の矛盾の除去という作業と単一の先例の誤謬の訂正とを区別すべきである。先例同士の矛盾とはいかなる種類・性質のものであり、その夫々についてどこまで除去の必然性と可能性があるか。単一の先例の誤謬について、解釈の誤謬と発展的法形成の誤謬に分けると、それらの誤謬はより詳しくはいかなるものであるか、またそれらの訂正はどこまでが後の裁判官にとって正統な訂正作業であるか。これらの問題を、実例に照らしつつ詳細に解明した。その過程で、裁判官には法的安定性と実質的正義の間の独特の緊張関係のなかで、困難な矛盾の訂正や誤謬の訂正といった作業を回避する傾向があり、しかもこうした先例変更の回避には様々な技術があること、をつきとめることができた。こうした考察を、2007年8月のクラカウにおける法哲学・社会哲学国際連合主催第23回世界会議の席上、英文で成果発表を行った。この発表の際には、申請時に言及したフランクフルト大学のU,ノイマン教授も参加し、かれとの間で刺激的な討論を行うことができた。かれの意見でもまた他の米英の学者の意見でも、独創的なアイデアであると評価された。帰途、フランクフルト大学にノイマン教授を訪ね、議論を続行した。この研究は、裁判官が先例を変更することの可否、制約条件、許容範囲や限界、といった判例変更(overruling)の問題の根本的解明を目指している。しかも比較法を無視することなく、各法秩序の基本的な構造差を正確に捉えた上で、日独英米における判例変更の理論と実際を方法論的に位置づけることを志向している。平成20年度は、当初の予定通り英米のケースローの法秩序に目を向け、これまで遂行した判例変更と制定法訂正の理論的解明はどの程度そこでも妥当するのか、英法や米法での方法論と実態のずれはどのような仕方で現象しているか、を検討しようと努力した。しかしこの仕事に着手すると困難な壁にぶつかり、作業はスムースに捗っていかなかった。理由は、英米の方法論議が未成熟状態であり、本研究にとって刺激になるような英米法での先例変更や制定法訂正に関する理論も驚くほど少ないという点にある。そこで、緻密な議論が蓄積されている大陸法での制定法訂正の理論成果に立ち戻り、これを媒介項として用いるという便法を採用することにした。つまり、制定法拘束性の例外である裁判官の制定法訂正に関する考察を下敷きとした上で、先例拘束性の例外である判例変更問題への解決策を探ろうとした。こうした努力の成果は、拙稿「判例変更と制定法の訂正への一試論」に現れている。この年にやっと刊行できた私の共編著『ドイツ法理論との対話』のなかにも、こうした科研費研究にもとづく考察が息づいている。この申請研究では、裁判官が判例法拘束性から逸脱する場合(判例変更)および制定法拘束性から離脱する場合(制定法訂正)にみられる屈折した実務に焦点をあてて、諸国の裁判の動態と構造を比較しようとする目標を立てた。
KAKENHI-PROJECT-19530017
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判例変更と制定法の訂正-理論と動態に関する比較方法論的研究
元来の目標をにらみつつ、最後の1年間は、第1の課題として、英独米3国の法秩序の構造差を対比するなかで、日本の裁判所の法実務、とりわけ日本流の判例変更を、どのように位置づけるか、という問題に力点をおいた。日本法の場合、諸国のうちのどの法秩序に最も近いか、あるいはむしろ大陸法的要素とイギリス的要素の独特の結合とみなすべきか、といった問題に関心を注ぎ、私見の構築に向けて最大限努力した。他方、第2の課題として、とりわけ独仏で話題を呼んでいる「不当な出生」の議論を試金石として取り上げ、諸国の法秩序の構造差がどのようにその問題に影を投げかけているか、にも注目した。可能な限り努力したが、この医事法問題の全容解明のためには、取り上げるべき側面があまりにも多くかつ錯綜しており、思い通りの成果到達までは、まだ多少の時間がかかりそうである。今回の収穫はむしろ、より重要な第1の課題の面で得られた。というのも、その分析の過程で、わが国の最高裁の小法廷判決の実務では、煩瑣な手続の必要な大法廷判決を回避するために独特の手法でしばしば判例変更を回避したり、また同じく違憲判決を迂回するため独特の方法的操作を駆使しているという有様が非常に鮮明に浮かびあがってきて、この問題こそこれまで展開してきた研究の最も中核的な成分であると確信するに至った。そうした判例変更回避や違憲判断回避のためのわが最高裁の屈折実務を英米独と対比すると、わが国の法実務は、英国とドイツの中間タイプとして有意味に位置づけうる。こうした新たな着想は今回の研究の結末であるとともに、より具体的なつぎの研究の出発点ともなる。それとともに、今回の研究は、1つの生産的な転換点に到達できかつ終結したと考えるものである。
KAKENHI-PROJECT-19530017
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顕微解剖により剖出した含水状態での染色体高次構造の解析
本研究では、染色体を細胞から取り出し、固定も脱水もしないで含水状態のまま低真空走査電顕(低真空SEM)で観察し、できるだけ本来の姿に近い状態で染色体の高次構造を解析することをめざした。しかしながら、すでにある装置・方法では観察倍率が数百倍千倍程度で、染色体の高次構造を解析するのに必要十分な高倍観察は難しいことが分かった。そのため、先ず、高倍観察のための試料作製技術を開発し、次いで本来の目的とする染色体の観察を行なった。1.低真空SEMによる高倍観察のための試料作製技術の開発低真空SEMを所有している田中敬一氏(聖隷クリストファー看護大学)と協力して、白金ブルー染色法およびDMSO前処理と冷却ステージ使用法を開発した。それにより、脱盤絨毛、血管中の赤血球、マクロファージ、HeLa細胞、動物染色体など多くの生物試料を含水状態で観察することに成功した。とくに、HeLa細胞内のミトコンドリアクリスタを低真空SEMで観察(直接倍率2万倍)できたのは世界で初めてのことであった。これらの試料作製技術の開発は、染色体のみならず含水生物試料一般の低真空SEMによる研究方法を発展させることにも貢献した。2.含水状態での染色体高次構造の観察本来の目的であった含水状態の染色体高次コイル構造を、固定した培養細胞(チャイニーズハムスター骨髄細胞と肺由来線維芽細胞:CHL)の中期染色体を用いて最高2万倍で立体的かつ明瞭に観察することに成功した。観察の結果、含水状態の中期染色体は、階層的なコイル構造を呈した。さらに、白金ブルー染色による反射電子のコントラストとして、染色体にバンド様構造が認められ、当初全く予期していなかった染色体バンドの形成機序を電子顕微鏡的に解明する糸口が見つかった。これら本研究の成果は、染色体本来の構造を示唆する大変興味深いものである。今後さらにこの研究を発展させて、染色体高次構造の全容を明らかにして行きたいと願っている。本研究では、染色体を細胞から取り出し、固定も脱水もしないで含水状態のまま低真空走査電顕(低真空SEM)で観察し、できるだけ本来の姿に近い状態で染色体の高次構造を解析することをめざした。しかしながら、すでにある装置・方法では観察倍率が数百倍千倍程度で、染色体の高次構造を解析するのに必要十分な高倍観察は難しいことが分かった。そのため、先ず、高倍観察のための試料作製技術を開発し、次いで本来の目的とする染色体の観察を行なった。1.低真空SEMによる高倍観察のための試料作製技術の開発低真空SEMを所有している田中敬一氏(聖隷クリストファー看護大学)と協力して、白金ブルー染色法およびDMSO前処理と冷却ステージ使用法を開発した。それにより、脱盤絨毛、血管中の赤血球、マクロファージ、HeLa細胞、動物染色体など多くの生物試料を含水状態で観察することに成功した。とくに、HeLa細胞内のミトコンドリアクリスタを低真空SEMで観察(直接倍率2万倍)できたのは世界で初めてのことであった。これらの試料作製技術の開発は、染色体のみならず含水生物試料一般の低真空SEMによる研究方法を発展させることにも貢献した。2.含水状態での染色体高次構造の観察本来の目的であった含水状態の染色体高次コイル構造を、固定した培養細胞(チャイニーズハムスター骨髄細胞と肺由来線維芽細胞:CHL)の中期染色体を用いて最高2万倍で立体的かつ明瞭に観察することに成功した。観察の結果、含水状態の中期染色体は、階層的なコイル構造を呈した。さらに、白金ブルー染色による反射電子のコントラストとして、染色体にバンド様構造が認められ、当初全く予期していなかった染色体バンドの形成機序を電子顕微鏡的に解明する糸口が見つかった。これら本研究の成果は、染色体本来の構造を示唆する大変興味深いものである。今後さらにこの研究を発展させて、染色体高次構造の全容を明らかにして行きたいと願っている。本研究では、染色体を含水状態で観察するために低真空試料室をもった走査電顕を用いているが、従来の装置・方法では染色体の高次構造を解析するのに必要十分な高倍観察が難しいことが分かった。そこで、先ず高倍観察のための試料作製技術を開発し、次いで本来の目的とする核および染色体の観察を試みた。1.低真空SEMによる高倍観察のための試料作製技術の開発低真空SEMを所有している田中敬一氏(クリストファー看護大学)と協力して、白金ブルー染色法およびDMSO前処理と冷却ステージ使用法を開発し、それにより凍結研磨法で剖出した培養細胞の核を脱水および乾燥することなく含水状態のまま高倍観察することに成功した(結果の一部を第2回国際マルピギーシンポジウム:1995年9月ローマにて発表、第101回日本解剖学会総会:1996年4月福岡にて発表予定)。2.含水状態での染色体高次構造の観察分裂中期のチャイニーズハムスター骨髄細胞より剖出した染色体(大型で観察に有利である)を、固定のみ行い含水状態で観察した結果、染色体を形成するするクロマチンの立体構築に大変興味ある知見が得られた。この成果は第52回日本電顕学会学術講演会(1996年5月東京)にて発表する予定である。今後は、各種の含水染色体標本を固定もしない"生"のままで観察する方法を検討し、さらに詳細な染色体高次構造の解析を試みる計画である。
KAKENHI-PROJECT-07670015
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顕微解剖により剖出した含水状態での染色体高次構造の解析
染色体を含水状態で観察するために本研究において独自に開発してきた低真空SEMによる高倍観察技術および試料作製法を用いて、チャイニーズハムスター染色体の詳細な観察を行った。骨髄細胞、CHL培養細胞(肺由来線維芽細胞)から剖出し固定した染色体を観察した結果、次のことが明らかとなった。1.中期染色体のコイル構造これまでは特殊な染色体(植物の減数分裂期など)または特殊な処理(化学的、物理的)を施し乾燥した染色体でしか電顕的に観察することができなかった中期染色体の高次コイル構造が、固定しただけの含水状態の動物染色体で立体的かつ明瞭に観察された。これは本研究により明らかとなった染色体本来の構造を示唆する結果であり、解剖学会総会(1996年4月)、日本電顕学会学術講演会(1996年5月)、染色体学会(1996年11月)にて発表した。2.染色体の表面構造と内部構造本研究に用いている低真空SEM(クリストファー看護大学・田中敬一氏所有)は反射電子を検出して像にするタイプであるため、その特性を利用して含水状態の染色体の表面構造と内部構造を同時に観察することを試みた。すなわち、すでに低真空SEM観察のために開発している白金ブルー染色法は、観察時にSEMの加速電圧を変えることにより、染色体の表面から内部にいたる各レベルでの構造観察を可能にすることがわかり、その方法を用いて染色体の全体像を観察した。この成果は、第53回日本電顕学会学術講演会(1997年5月尼崎)にて発表する予定である。これまでの本研究により、固定した染色体の含水状態での立体構造観察が可能となり、大変興味ある知見が得られた。今後は、最終目的である固定さえもしない各種の含水染色体標本の観察に向けて研究を進めて行く計画である。これまでの本研究によって開発した、含水染色体観察のための低真空走査電顕法(低真空SEM法)を用いて、チャイニーズハムスター培養細胞から剖出した中期染色体を詳細に観察し、従来の乾燥標本で観察された染色体構造と比較検討をした。また、今年度の実験において、当初予想もしなかった染色体バンド構造が含水染色体で観察され、バンド形成機構解明の手がかりとなる、新たな研究の糸口が見つかった。1.含水染色体と乾燥染色体で観察された立体構造の比較従来のSEM法では、染色体乾燥標本の表面構造をとらえる二次電子像により、中期染色体は不規則におりたたまれたクロマチン線維の凝集体として観察された。しかし、低真空SEM法では反射電子を検出して像を得ることができるため、含水染色体の表面構造のみならず内部構造もとらえることができた。そして、含水状態では、中期染色体は特殊な処理をしなくても、本来、高次のコイル構造を呈することが明らかになった(第53回日本電顕学会学術講演会:平成9年5月、尼崎にて発表)。2.含水染色体における染色体バンド構造の観察染色体バンド構造については、これまではほとんど光顕レベルでしか研究がなされておらず、その形成機構についても十分解明されていない。ところが、今回の研究によって、含水状態の染色体にバンド構造が認められ、しかもその立体構造も保たれたまま同時に観察できることが分かった。このことは、染色体バンド形成機構が電顕レベルで形態学的アプローチにより明らかにできる可能性をもたらしたといえる(第48回染色体学会:平成9年9月、札幌にて発表、第103回日本解剖学会総会:平成10年3月発表予定)。
KAKENHI-PROJECT-07670015
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新人看護師の栄養管理に関する教育プログラムモデルの開発
本研究では、栄養管理に関する新人看護師教育研修と新人看護師の看護実践の実態、さらにNST担当看護師へのヒアリングから新人看護師教育研修の課題とニーズを調査し、栄養管理に関する新人看護師教育プログラムモデルを検討した。これらの結果から、栄養管理に関する新人看護師教育プログラムモデルを検討した。その結果、栄養アセスメントや知識に関してはOJTに任されていた。しかし、OJTでの指導はプリセプターが主であるが、栄養管理に関する知識が低いことが挙げられた。そのため、NSTリンクナースやNSTを活用した系統的な栄養管理に関する看護師教育体制が課題として挙げられた。NSTの普及と診療報酬の改定により、栄養管理における看護師の役割や活動は増加している。看護師は広範囲にわたって栄養に関する業務に関わるが、アセスメント不足や知識不足が指摘されている。そのため、新人看護師の頃から栄養管理に関する臨床実践能力向上を促す教育プログラムが望まれるが、十分に確立されていない。平成27年度は、第1段階として、新人看護師教育研修の実態を明らかにするため、全国の200床以上の1076施設の看護部教育担当者およびNST専任看護師を対象に栄養管理に関する教育研修の質問紙調査を実施した。回収は200施設(回収率18.5%)、有効回答は194施設(有効回答率97.0%)であった。新人看護師教育研修の実施状況は、病床数、新人看護師採用数で比較したが、実施状況に統計的有意差はなかった。さらに第2段階として、新人看護師の栄養管理に関する臨床実践能力の習得状況を明らかにするために、第1段階の調査に協力同意のあった施設のうち、第2段階の調査にも協力同意の得られた100施設1522名の新人看護師を対象に質問紙調査を実施した。回収は406名(回収率26.7%)、有効回答406名(有効回答率100%)であった。所属病棟による平均得点の比較は、「食生活支援・食事援助」「口腔ケア」「中心静脈栄養」において統計的有意差がみられ、所属病棟が「内科系」と回答した者の得点が最も高かった。また、新人看護師教育研修の実施割合と臨床実践能力の平均得点を比較すると、教育研修の実施している割合の高い内容は臨床実践能力の得点も高い結果となった。順調に経過しているため、平成28年度も同様に進めていく。NSTの普及と診療報酬の改定により、栄養管理における看護師の役割や活動は増加している。看護師は広範囲にわたって栄養に関する業務に関わるが、アセスメント不足や知識不足が指摘されている。そのため、新人看護師の頃から栄養管理に関する臨床実践能力向上を促す教育プログラムが望まれるが、十分に確立されていない。平成27年度の栄養管理に関する新人看護師教育研修の実態および新人看護師の栄養管理に関する臨床実践能力の実態調査の結果を基礎資料として、平成28年度は1施設に勤務するNST担当看護師2名へヒアリング調査を実施した。その結果、入職1ヵ月の研修の中で、栄養管理に関する内容は口腔ケアのみであった。食生活支援・食事援助、経管栄養法、中心静脈栄養の看護技術はOJTで教育がされおり、OJTの内容は病棟に任されていた。栄養管理に関する教育の困難さとして、栄養に関するアセスメントは集合研修で企画しにくいこと、病棟看護師も知識が不十分なためOJTでの教育も限界があることが挙げられた。これからの課題として、NSTが中心となり栄養管理に関する勉強会を開催することや病棟で栄養管理に関してリーダー的存在となるNSTリンクナースの活用、病棟看護師の栄養管理に関する知識の向上などが挙げられた。平成29年度は、他施設のNST担当看護師からもヒアリングを実施し、新人看護師教育研修の実態や課題、ニーズについて追加で情報収集をする。NST担当看護師対象に、栄養管理に関する新人看護師教育研修の課題とニーズのヒアリング調査を計画していたが、対象者の確保・調整に時間を要し、予定数のヒアリングを実施できていない。また、分析にあたり、データとして量が不足しているため、追加でヒアリングを実施する必要がある。平成29年度は平成28年度に引き続き、栄養管理に関する新人看護師教育研修の実態や課題、ニーズを明らかにすることを目的に、NST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)担当看護師よりインタビュー調査を実施した。インタビュー調査は、2施設の合計3名のNST看護師を対象とした。その結果、栄養管理に関する新人看護師教育の現状として、経管栄養などの看護技術の手技に関することは集合研修で実施していても、病棟での実践においての指導が重要視されていた。また、手技以外のアセスメントや食事指導のような、知識を統合した実践に関することは病棟で指導されていた。その指導は新人看護師教育担当のプリセプターが担っていても、プリセプター自身の知識が薄いことが挙げられた。さらに、NST担当看護師が新人看護師だけでなく看護師全体の栄養管理に関する教育に取り組もうとしても、NST活動においてどのように取り組むか悩んでいることがわかった。その中で、関連学会などに参加して、他施設での活動状況について情報収集する姿勢がみられた。以上より、栄養管理に関する新人看護師教育について、病棟での指導体制が大部分を占めており、指導を行う看護師を含めて教育体制を構築していく必要性が示唆された。また、病棟で栄養管理に関するリーダー的存在であるNSTリンクナースの役割も期待された。これらをもとに、1施設のNSTと協働し、看護師の栄養管理に関する意識・実践調査を実施した。
KAKENHI-PROJECT-15K20670
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K20670
新人看護師の栄養管理に関する教育プログラムモデルの開発
NSTへの依頼経験者やNSTファイルの活用者、勉強会参加の意欲のあるものは、栄養管理に関する自己評価が高かった。そのため、気軽にNSTへ参加できるような体制づくりなど、看護師全体のレベルアップすることで、新人看護師教育へ還元できると考えられた。本研究では、栄養管理に関する新人看護師教育研修と新人看護師の看護実践の実態、さらにNST担当看護師へのヒアリングから新人看護師教育研修の課題とニーズを調査し、栄養管理に関する新人看護師教育プログラムモデルを検討した。これらの結果から、栄養管理に関する新人看護師教育プログラムモデルを検討した。その結果、栄養アセスメントや知識に関してはOJTに任されていた。しかし、OJTでの指導はプリセプターが主であるが、栄養管理に関する知識が低いことが挙げられた。そのため、NSTリンクナースやNSTを活用した系統的な栄養管理に関する看護師教育体制が課題として挙げられた。平成27年度の結果をふまえ、NST専任看護師へヒアリングを実施し、新人看護師教育研修の課題とニーズを調査する。NST担当看護師へヒアリング調査を実施し、栄養管理に関する新人看護師教育研修の課題とニーズについて情報収集を継続する。また、栄養管理における新人看護師教育プログラムモデル開発にあたり、NST担当看護師と協働し、検討する。成人看護学資料整理に使用する消耗品の使用が少なかった。また、資料整理のための人件費が少なかった。ヒアリング調査が予定数実施できなかったため、旅費や謝金として使用しなかった。ヒアリング調査ではフィールドへ出向き、打ち合わせ、調査を行うため、旅費に使用する予定である。また、ヒアリング調査に協力いただく看護師へ謝金として使用する。フィールドに出向き、ヒアリング調査を行うため、調査旅費として使用する。謝金として、ヒアリング調査に協力して頂く対象者あるいはプログラムモデル開発にあたり情報の提供をして頂く専門家に対し予算化する。
KAKENHI-PROJECT-15K20670
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地球物理観測と熱化学的制約を統合した月内部構造の研究
2018年度に熱化学的制約を取り入れ、マントルのある層について組成と温度をパラメータとして密度と弾性率を計算する定式化を行った。しかし、温度と組成の間にトレードオフが残り、測地観測と走時観測のみを用いる限り、月内部構造を十分に拘束できないことが分かった。そこで、まず一定の仮定の下で測地・走時データと熱化学的制約の双方に調和的な月マントル構造モデルを構築するという観点で検討を進めた。すなわち、Al2O3とFeOのバルク濃度を仮定し、また、深さ150 kmと1000 kmのマントル温度がそれぞれ550±10°C、1150±10°Cであり深さ方向に一定の勾配を持つと仮定した場合に観測値と調和的なモデルを提案した。この成果は査読無しではあるが、Kronrod et al. (2018)として出版された。次に、研究協力者の原田雄司氏を国立天文台に招へいし、月内部の温度構造を拘束するための地球物理観測として電磁誘導応答を追加する具体的な方策について検討を進めた。また原田氏は東京大学地震研究所の研究者達と個別に議論を進めた。具体的には、アポロ計画で行なわれた月の誘導磁場の観測から内部の電気伝導度構造を推定する手法、その手法に関係する数値計算のコードの取り扱い方、固体天体の回転力学の影響を取り込んだ潮汐変形の計算手法に関して議論した。当初は電磁誘導応答も含めたフォワードモデリングまで進む予定であったが、「現在までの進捗状況」に述べる理由により達成するには至らなかった。研究代表者の松本は、「はやぶさ2」レーザ高度計(LIDAR)の一次データ処理およびそのデータを用いた探査機軌道解析の実務担当者となっている。2018年6月に「はやぶさ2」が探査対象天体リュウグウに到着して以来、日々の解析作業に非常に多くのエフォートを割かざるを得なくなっており、2018年度の本研究課題の進捗が遅れた。研究代表者の「はやぶさ2」に係るエフォートは2019年度後半には軽減される予定である。2018年度に生じた遅れを2019年度後半にリカバーし、電磁誘導応答コードの作成とフォワードモデリングの完成を目指す。さらに研究期間を1年延長することで当初の目標を達成したいと考えている。本研究のベースとなるMatsumoto et al. [2015]で用いた内部構造モデルを拡張した。月を次の9層の球殻に分割した:(1)メガレゴリス、(2)地殻、(3,4,5,6)マントル1-4、(7)低速度・低粘性層、(8)流体外核、(9)固体内核。これまでは、各層の厚さ(t)、密度(ρ)、弾性率(μ、κ)、粘性率(η)をパラメータとしていたが、マントル部分(3-6)について新たなパラメータ化を導入した。すなわち、組成と温度を1次パラメータとし、これを基に2次パラメータである密度・弾性率を計算する部分を追加した。組成パラメータとしてAl2O3, FeO, MgOそれぞれの濃度を考慮し、Kronrod and Kuskov [2009]に従ってギブスエネルギーの最小化によって熱化学的に密度・弾性率を計算した。この新たなモデルを用いて試験的にインバージョンを行った。その際、観測値として月の質量、慣性モーメント、ポテンシャルラブ数k2、1か月および1年周期のQ、および月震走時を考慮した。しかし、予想されたことであるが、温度と組成の間にトレードオフがあり、それぞれの分離が困難であることが分かった。これは、温度に感度を持つ電磁気データの重要性を示すものである。そこで、まず中間的な成果として、マントルの温度は深さ方向に一定勾配を持つと仮定し、この仮定の下に上述の地球物理学的観測と熱化学的制約の双方に調和的な月マントル構造モデルを構築した。この部分はロシアの研究協力者Ekaterina Kronrod氏を2か月間招へいして行った。Tobie et al.[2005]に従って低粘性層における潮汐による発熱量を計算するコードを追加した。この部分は連携研究者の鎌田氏によって行われた。以下の2点について研究計画に従った進捗が見られたため:(1)パラメータとしてマントル組成・温度を追加すること、(2)潮汐加熱の計算。熱流量の計算は次年度以降実装する予定である。2018年度に熱化学的制約を取り入れ、マントルのある層について組成と温度をパラメータとして密度と弾性率を計算する定式化を行った。しかし、温度と組成の間にトレードオフが残り、測地観測と走時観測のみを用いる限り、月内部構造を十分に拘束できないことが分かった。そこで、まず一定の仮定の下で測地・走時データと熱化学的制約の双方に調和的な月マントル構造モデルを構築するという観点で検討を進めた。すなわち、Al2O3とFeOのバルク濃度を仮定し、また、深さ150 kmと1000 kmのマントル温度がそれぞれ550±10°C、1150±10°Cであり深さ方向に一定の勾配を持つと仮定した場合に観測値と調和的なモデルを提案した。この成果は査読無しではあるが、Kronrod et al. (2018)として出版された。次に、研究協力者の原田雄司氏を国立天文台に招へいし、月内部の温度構造を拘束するための地球物理観測として電磁誘導応答を追加する具体的な方策について検討を進めた。
KAKENHI-PROJECT-17K05643
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K05643
地球物理観測と熱化学的制約を統合した月内部構造の研究
また原田氏は東京大学地震研究所の研究者達と個別に議論を進めた。具体的には、アポロ計画で行なわれた月の誘導磁場の観測から内部の電気伝導度構造を推定する手法、その手法に関係する数値計算のコードの取り扱い方、固体天体の回転力学の影響を取り込んだ潮汐変形の計算手法に関して議論した。当初は電磁誘導応答も含めたフォワードモデリングまで進む予定であったが、「現在までの進捗状況」に述べる理由により達成するには至らなかった。研究代表者の松本は、「はやぶさ2」レーザ高度計(LIDAR)の一次データ処理およびそのデータを用いた探査機軌道解析の実務担当者となっている。2018年6月に「はやぶさ2」が探査対象天体リュウグウに到着して以来、日々の解析作業に非常に多くのエフォートを割かざるを得なくなっており、2018年度の本研究課題の進捗が遅れた。研究計画に沿った形で、熱流量を計算する部分と電気伝導度からtransfer functionを計算する部分の実装を進める。それを受けて、内部構造パラメータから観測値を計算するフォワードモデリング、適切なモデル設定を調べるための感度解析、総合的なインバージョンと段階的に進める予定である。研究代表者の「はやぶさ2」に係るエフォートは2019年度後半には軽減される予定である。2018年度に生じた遅れを2019年度後半にリカバーし、電磁誘導応答コードの作成とフォワードモデリングの完成を目指す。さらに研究期間を1年延長することで当初の目標を達成したいと考えている。研究代表者のGEOKHI出張を見合わせたことにより、外国旅費に余剰が生じたため。その代わりに、研究協力者のEkaterina Kronrod氏の滞在を当初予定の1か月から2か月に伸ばして研究を進めた。H30年度に繰り越した助成金は主に外国旅費として使用する予定である。「現在までの進捗状況」に記述した通り、2018年度は研究代表者が「はやぶさ2」に割くべきエフォートが著しく増大し、Ekaterina Kronrod氏の招へいや研究代表者のGEOKHIへの訪問が実現できなかったため。2019年度に繰り越した助成金は、主に研究協力者との協働と成果発表の為の旅費として使用することを計画している。また、研究期間を1年延長し、2019年度請求分の多くを2020年度に繰越して使用することにより、当初の目標を達成したいと考えている。
KAKENHI-PROJECT-17K05643
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ハイテク産業を担う人的資源の日本・アジア間比較
アジアにおいては、留学帰りのUターン人材がハイテク産業興隆に大きな役割を果たしてきた。一方、日本のハイテク産業では、技術をバックグランウンドに持つ人材が新規事業の創出や起業の担い手としての役割を果たしているとは言い難い。その理由として、技術系出身の起業家も大企業の経営者も、キャリアの中でマネジメント・スキルを磨く時間が少ないことが挙げられる。人材育成制度の見直しはもちろん、起業に際しては、非技術系人材をマネジメント・チームに組み込む努力が必要である。そのためには、個人レベルの人的ネットワークの拡大が必要となろう。アジアにおいては、留学帰りのUターン人材がハイテク産業興隆に大きな役割を果たしてきた。一方、日本のハイテク産業では、技術をバックグランウンドに持つ人材が新規事業の創出や起業の担い手としての役割を果たしているとは言い難い。その理由として、技術系出身の起業家も大企業の経営者も、キャリアの中でマネジメント・スキルを磨く時間が少ないことが挙げられる。人材育成制度の見直しはもちろん、起業に際しては、非技術系人材をマネジメント・チームに組み込む努力が必要である。そのためには、個人レベルの人的ネットワークの拡大が必要となろう。中国では大企業の雇用が少ないために起業活動が活発化しやすい。北京の精華大学は,インキュベーション施設に投資を行い,アカデミックスピンオフを制度的に生み出そうとする仕組みがあるが,天津大学の場合は,柔軟に大学人の兼業を認めたり,大学の研究室を自由に使用させる等,臨機応変な支援がみられた。Uターン人材による起業は多くみられたが,ハイテクというよりは,ソフトウエアのオフショア開発や大企業をサポートするサービス企業が多い。留学先には,米国以外には日本が目立った。日本における起業は,大企業による雇用の受け皿が広いために低調である。20代から30代の起業は極めて少ない。技術出身者がCEOとCTOを兼任するスタートアップは戦略性に欠ける傾向がある。その中で,半導体ウェーハの検査装置で成功したRAYTEXは,非技術糸のCEOが営業面とビジネスモデルの構築で能力を発揮しており,戦略が技術に先んじることを示した好例であった。製品開発は非正規雇用の人材によってなされ,新しい製品ブインの追加は,外部から事業を買収して行った。日本の大企業で長期間勤務しながらキャリアのマネジリアル・ラダーを登る技術系の人材は,OJTと自力でマネジメント・スキルを身につけて組織を統括している。彼らのラダーの選択は,他者よりも相対的にマネジメント職にふさわしいと自覚したことや,周囲からの期待に応えることが要因になっており,状況依存的であることがわかった。日本における起業は、大企業による雇用の受け皿が広いために低調である。20代から30代の起業は極めて少ない。技術出身者がCEOとCTOを兼任するスタートアップは戦略性に欠ける傾向がある。その中で、半導体ウェーハの検査装置で成功したRAYTEXは、非技術系のCEOが営業面とビジネスモデルの構築で能力を発揮しており、戦略が技術に先んじることを示した好例であった。製品開発は非正規雇用の人材によってなされ、新しい製品ラインの追加は、外部から事業を買収して行った。しかしながら、当初のビジネスモデルが機能せず、試行錯誤の後に成長機会を発見してから新たなビジネスモデルを構築するので、株式公開まで概ね15年以上かかっている。日本の大企業で長期間勤務しながらキャリアのマネジリアル・ラダーを登って上級管理職になる技術系の人材は、マネジメント職であるにも関わらず、その職位を得るためには、技術成果が抜き出ている必要がある。技術成果を挙げるべく努力する傍らで、OJTと自力でマネジメント・スキルを身につけて組織を統括している。以上のような状況の中では、技術系出身の起業家も大企業の経営者も、キャリアの中でマネジメント・スキルを磨く時間が少なく、企業経営が戦略不全になる危険性をはらんでいる。
KAKENHI-PROJECT-19530360
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英領アジアにおける自然・環境保護ネットワークの形成と政策展開
本研究は英領インドおよびスリランカにおける野生動物、自然・環境保護運動の展開を検証し、英領アジアにおける保護運動の全体像を明らかにしようととするものである。4年計画の初年度として、以下の計画のもとに研究を遂行した。1)英領インドおよびスリランカにおける保護運動の有力な担い手だと考えられるCeylon Game ProtectionSociety、Darjeeling Natural HistorySocietyについて、この両団体が発刊した雑誌などの基礎資料を収集すること。2)同時代史料としてのThe Fauna of British India、including Ceylon and Burmaを入手し、インド、とりわけアッサム地方の動物相について、イギリスのナチュラリストおよび保護論者らの抱いていたイメージについて検討すること。3)アッサム州に位置する二国立公園(マナス国立公園、カジランガ国立公園)関係の史料、先行研究(地方史家によるもの)を入手し、その形成前史について検証すること。1)については、両団体の機関誌をBritishLibraryなどでほぼ入手した。さらにはBombay Natural History Societyの機関誌も入手し、ダージリン協会とボンベイ協会とが会員間の緊密なネットワークを形成し、1930,40年代に積極的な運動の担い手となったことなどが明らかになりつつある。2)については、その一部を入手し、分析を進めている。3)については、カジランガ国立公園形成に関する論文、関連資料の一部を入手した。その中で、1)で触れた団体会員、さらにはロンドンに拠点をおく保護団体との間に築かれつつあったネットワークが国立公園形成の前史である森林保全、動物保護区設立運動と深く関わっていたことが明らかになりつつある。その一方で、保護運動の具体相、とりわけ二国立公園の形成前史についての検証が予定したほど進んでいないこと、とりわけマナス国立公園の前史について史料が充分に収集できなかったことがあり、概ね順調という判断をした。今後も予定どおり研究を進めていくつもりである。二年目は、アッサム地方の保護運動に関する基礎資料として、カジランガ国立公園の前身である保護区形成の史料を重点的に収集したい。さらには、マナス国立公園形成史関連の資料も可能な限り収集したい。おそらく、後者については、当初検討していたAssam State ArchivesよりもコルカタのWest Bengal State Archives、さらにはNational Archives of Indiaに比較的豊富な史料が残されていることが判明したので、その収集作業の検討に入る。本研究は英領インドおよびスリランカにおける野生動物、自然・環境保護運動の展開を検証し、英領アジアにおける保護運動の全体像を明らかにしようととするものである。4年計画の初年度として、以下の計画のもとに研究を遂行した。1)英領インドおよびスリランカにおける保護運動の有力な担い手だと考えられるCeylon Game ProtectionSociety、Darjeeling Natural HistorySocietyについて、この両団体が発刊した雑誌などの基礎資料を収集すること。2)同時代史料としてのThe Fauna of British India、including Ceylon and Burmaを入手し、インド、とりわけアッサム地方の動物相について、イギリスのナチュラリストおよび保護論者らの抱いていたイメージについて検討すること。3)アッサム州に位置する二国立公園(マナス国立公園、カジランガ国立公園)関係の史料、先行研究(地方史家によるもの)を入手し、その形成前史について検証すること。1)については、両団体の機関誌をBritishLibraryなどでほぼ入手した。さらにはBombay Natural History Societyの機関誌も入手し、ダージリン協会とボンベイ協会とが会員間の緊密なネットワークを形成し、1930,40年代に積極的な運動の担い手となったことなどが明らかになりつつある。2)については、その一部を入手し、分析を進めている。3)については、カジランガ国立公園形成に関する論文、関連資料の一部を入手した。その中で、1)で触れた団体会員、さらにはロンドンに拠点をおく保護団体との間に築かれつつあったネットワークが国立公園形成の前史である森林保全、動物保護区設立運動と深く関わっていたことが明らかになりつつある。その一方で、保護運動の具体相、とりわけ二国立公園の形成前史についての検証が予定したほど進んでいないこと、とりわけマナス国立公園の前史について史料が充分に収集できなかったことがあり、概ね順調という判断をした。今後も予定どおり研究を進めていくつもりである。二年目は、アッサム地方の保護運動に関する基礎資料として、カジランガ国立公園の前身である保護区形成の史料を重点的に収集したい。さらには、マナス国立公園形成史関連の資料も可能な限り収集したい。おそらく、後者については、当初検討していたAssam State ArchivesよりもコルカタのWest Bengal State Archives、さらにはNational Archives of Indiaに比較的豊富な史料が残されていることが判明したので、その収集作業の検討に入る。本研究の費用は、その多くが海外(英、米、インド)文書館での資料収集のための旅費に充てられる。研究計画策定時点で、2年目にも90万円超の旅費を必要と考えていたが、実際の支給額(直接経費分)が総額で80万円であったので、初年度の設備備品費を節約して、2年目の旅費に補充できるように考えた。そのため、23万円ほどの余剰が生じた。2年目は、再び海外旅費に90万円強を充当し、設備備品および消耗品費10万円強とあわせて支出したいと考えている。
KAKENHI-PROJECT-18K00909
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Zr-Ti合金の臨床応用に関する基礎的研究
1.実験方法Zr-40wt%Ti合金(30gインゴット、神戸製鋼)について、加圧吸引型鋳造機(サイクラーク、モリタ)、スピネル系埋没材(チタベストCB、モリタ)を用いた鋳造性、鋳造精度について検索した。鋳造パターンは、鋳造性の実験にはプレートタイプとグリッドタイプを用い、鋳造精度の実験には、3セグメントのブリッジ型の金型(テ-パ-8°)を用いてワックスパターン(ブルーインレーワックス・TypeII、GC)を製作し、埋没材の混液比を変えた場合の適合性を比較した。2.実験結果1)鋳造性:埋没材チタベストCBにおける鋳造性を標準混液比に対し10%増減させ0.15および0.17で比較した。グリッドタイプでは、混液比に関係なく100%の鋳込み率が得られたが、プレートタイプでは混液比0.17においても70%前後の鋳込み率であり、鋳造物は肉厚部から肉薄部へ移行する形となっていたが肉薄部にほとんど鋳込まれなかった。2)鋳造精度:ブリッジ型の金型を用いてワックスパターンを製作し、混液比を変えた場合の適合性を比較した。標準混液比で標準加熱条件(昇温速度15度/分、850度・50分係留、降温速度6度/分、650度)に従った場合、鋳造精度(浮き上がり量)は、平均150μmであったが、混液比を0.13と小さくし加熱条件を900度係留90分に変更すると平均45μmに改善し、補綴物としての臨床応用が可能と考えられた。このように、補綴方法に応じた的確な鋳造精度を得るためには、埋没材の混液比のおよび加熱条件の調整が必要であることが示唆された。1.実験方法Zr-40wt%Ti合金(30gインゴット、神戸製鋼)について、加圧吸引型鋳造機(サイクラーク、モリタ)、スピネル系埋没材(チタベストCB、モリタ)を用いた鋳造性、鋳造精度について検索した。鋳造パターンは、鋳造性の実験にはプレートタイプとグリッドタイプを用い、鋳造精度の実験には、3セグメントのブリッジ型の金型(テ-パ-8°)を用いてワックスパターン(ブルーインレーワックス・TypeII、GC)を製作し、埋没材の混液比を変えた場合の適合性を比較した。2.実験結果1)鋳造性:埋没材チタベストCBにおける鋳造性を標準混液比に対し10%増減させ0.15および0.17で比較した。グリッドタイプでは、混液比に関係なく100%の鋳込み率が得られたが、プレートタイプでは混液比0.17においても70%前後の鋳込み率であり、鋳造物は肉厚部から肉薄部へ移行する形となっていたが肉薄部にほとんど鋳込まれなかった。2)鋳造精度:ブリッジ型の金型を用いてワックスパターンを製作し、混液比を変えた場合の適合性を比較した。標準混液比で標準加熱条件(昇温速度15度/分、850度・50分係留、降温速度6度/分、650度)に従った場合、鋳造精度(浮き上がり量)は、平均150μmであったが、混液比を0.13と小さくし加熱条件を900度係留90分に変更すると平均45μmに改善し、補綴物としての臨床応用が可能と考えられた。このように、補綴方法に応じた的確な鋳造精度を得るためには、埋没材の混液比のおよび加熱条件の調整が必要であることが示唆された。
KAKENHI-PROJECT-07771879
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戦前の日米関係における日本人とアフリカ系アメリカ人の交流と影響の史的考察
日米間の初期の接触として1797年ごろより約10年間、蘭船に替わり長崎への米傭船の入港があった。それらの米船には「黒人」が乗り込んでいた。19世紀に米船に救助された日本人海難者ジョン万次郎、ジョセフ彦らの黒人についての見聞、1845年米捕鯨船マンハッタン号上での日本人と黒人船員との交歓、「黒船」来航時に旗艦上での黒人芸能ミンストレルシーの披露などにつき、資料により知見をえた。万延元年の遣米使節団の記録と明治4年の岩倉使節団の滞米中の見聞を、その人種観・黒人観から比較検討した。明治期末ごろまでの合衆国の黒人教育期間と日本人との係わりでは、1878年3月のフィスク大学合唱団の来日経緯、アボリッショニズムや黒人教育に貢献したオバリン大学と初期日本人留学生、解放民教育期間ハンプトン師範・農業学院女性教師Alice Baconの3度の来日と山川捨松、津田梅子らとの交流、日本の女子教育への貢献を扱った。なお、この期に同学院や首都のハワード大学、Booker T.,Washington創設のタスキギ-師範・産業学院に日本人留学生が学んでいたり、日本人が視察に訪れていることも紹介した。さらにはハンプトン学院とハワード大学に学んだ小谷部全一郎が帰国後に北海道に設立したアイヌ人のための「虻田学園」は、日本版ハンプトン校と言えるものであったことなどを、学会誌その他に発表した。日米間の初期の接触として1797年ごろより約10年間、蘭船に替わり長崎への米傭船の入港があった。それらの米船には「黒人」が乗り込んでいた。19世紀に米船に救助された日本人海難者ジョン万次郎、ジョセフ彦らの黒人についての見聞、1845年米捕鯨船マンハッタン号上での日本人と黒人船員との交歓、「黒船」来航時に旗艦上での黒人芸能ミンストレルシーの披露などにつき、資料により知見をえた。万延元年の遣米使節団の記録と明治4年の岩倉使節団の滞米中の見聞を、その人種観・黒人観から比較検討した。明治期末ごろまでの合衆国の黒人教育期間と日本人との係わりでは、1878年3月のフィスク大学合唱団の来日経緯、アボリッショニズムや黒人教育に貢献したオバリン大学と初期日本人留学生、解放民教育期間ハンプトン師範・農業学院女性教師Alice Baconの3度の来日と山川捨松、津田梅子らとの交流、日本の女子教育への貢献を扱った。なお、この期に同学院や首都のハワード大学、Booker T.,Washington創設のタスキギ-師範・産業学院に日本人留学生が学んでいたり、日本人が視察に訪れていることも紹介した。さらにはハンプトン学院とハワード大学に学んだ小谷部全一郎が帰国後に北海道に設立したアイヌ人のための「虻田学園」は、日本版ハンプトン校と言えるものであったことなどを、学会誌その他に発表した。平成7年度は、江戸期より19世紀末まで、ないし明治時代まはた主たる対象に、日米の関連資料の発掘と収集にあたった。日米間の初期の接触とし1797年ごろより約10年間、蘭船に替わり長崎への米傭船の入港があった。それらの米船には「黒人」が乗り組んでいた。19世紀に米船に救助された日本人海難者ジョン万次郎、ジョセフ彦らの黒人についての見聞、1845年の米捕鯨船マンハッタン号上での日本人と黒人船員との交歓、「黒船」来航時に旗艦上での黒人芸能ミンストレルシーの披露などにつき、資料により知見をえた。万延元年の遣米使節団の記録と明治4年の岩倉使節団の渋米中の見聞を、その人種観・黒人観から比較検討した。明治期の黒人教育機関と日本(人)の関係では、明治11年のフィスク大学合唱団の来日経緯、ハンプトン学院、ハワード大学に学んだ日本人留学生や政府高官の上記への視察などが明らかになった。北海道虻田村での小谷部全一郎によるアイヌ人職業教育使節の設立(1905)は、彼がアメリカの黒人実業学校や黒人大学で体得した理念の実践であったことが実証された。ラフカディオ・ハーンの米国でのアフリカ系アメリカ人や日本での部落民との接触の事実、日清・日露戦争における日本の勝利が白人人種と有色人種に与えた対照的なインパクト、とりわけアメリカ黒人におよぼした影響下に、日本(人)への親近感が芽生えたことなどが判明した。これらの調査内容については、天理大学アメリカ研究会のニューズレターTHE AMERICAS TODAYやその他に研究の一部を紹介した。平成8年度(前年度より継続研究)は、主として明治期より第2次大戦までの関係資料の発掘と収集にあたった。その結果、初期アメリカ留学者・山川捨松、津田梅子と解放民教育学校Hampton Instituteの教師Alice M.Baconとの交流、同学院に学んだ4名の日本人、19世紀末に首都の黒人大学Howard Universityに学んだ数名の日本人・朝鮮人留学生の存在などが明らかになった。Hampton出身で高名な指導者になったBooker T.Washingtonが創設したTuskegee Instituteには、今世紀初頭に日本人留学生が学び、後年、産学共同のモデル・スクールとして知られるようになった同学院を、澤柳政太郎(文部次官)、小西重直博士(京大)らが見学に訪れている。その他に、Fisk Universityで教えた日本人の社会学者や、その指導を受けた日系人院生の存在、Oberlin Collegeと日本人留学者による友好関係なども判明した。
KAKENHI-PROJECT-07801049
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07801049
戦前の日米関係における日本人とアフリカ系アメリカ人の交流と影響の史的考察
その他、日露戦争時にウラジオストックに駐在していた黒人領事が果たした役割、戦前の日本における黒人問題についての著作や訳書、日本人移民排斥と黒人差別との関連、黒人音楽・芸能の日本への伝来と受容についても調査した。
KAKENHI-PROJECT-07801049
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核磁気共鳴法による巨大蛋白質の立体構造の新規解析法の開発
核緩和機構を制御した新規芳香族アミノ酸を開発し、効率よく目的蛋白質に導入する方法を確立した。このアミノ酸を分子量82kDaの巨大蛋白質に導入し、芳香環CHシグナルを高感度かつ先鋭的に観測し、帰属する事に成功した。また、芳香環シグナルとメチル基およびアミド基との間の距離情報を高精度に解析する方法も確立した。このことにより、従来の方法では困難であった巨大蛋白質の溶液立体構造の決定が可能となった。当該年度において、MSG蛋白質のフェニルアラニン(Phe)およびトリプトファン(Trp)残基の芳香環CHシグナルとイソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)およびバリン(Val)残基のメチルシグナルとの分子間NOEの解析を行った。3次元13CNOESYの解析により、X線結晶構造より期待される分子間NOEシグナルを高感度に観測することに成功した。このことにより、巨大蛋白質の精密立体構造の決定に向けた距離情報の抽出が可能であることが見出された。より多くの距離情報の抽出を目指し、チロシン(Tyr)およびヒスチジン(His)残基の芳香環CHシグナルおよびメチオニン(Met)残基のメチルシグナルの観測も行った。さらにこれら芳香環CHシグナルとメチルシグナルとの間のNOE解析も進めた。しかし、MSG中のこれら残基のメチルシグナルの数が多く、NOEシグナルの帰属に困難が生じた。この問題を回避するため、SAIL技術を駆使して、LeuおよびVal残基のアミノ酸特異的かつメチル基の立体配座特異的な標識法を開発した。本標識法の開発は、実施計画には挙げられていなかったが、巨大蛋白質の構造解析に必要不可欠な技術として、開発を進めた。これにより、従来のアミノ酸前駆体を利用したメチル基の標識法で問題となるシグナルの縮重やシグナル感度低下の問題を解決し、巨大蛋白質においても、簡便かつ正確にNOEシグナルの帰属を行うことが可能となった。これまで、分子量82kDaのMSGを利用して、立体構造解析法の確立を進め、その礎を築いてきた。当該年度では、本手法の有用性を明らかにするため、分子量約1MDaのGroEL-ES蛋白質にも適用した。その結果、GroEL-ESにおいてもPheおよびTyr残基の芳香環CHシグナルを高感度に観測することに成功し、本手法が様々な巨大蛋白質の構造解析に利用できることを見出した。核緩和機構を制御した新規芳香族アミノ酸を開発し、効率よく目的蛋白質に導入する方法を確立した。このアミノ酸を分子量82kDaの巨大蛋白質に導入し、芳香環CHシグナルを高感度かつ先鋭的に観測し、帰属する事に成功した。また、芳香環シグナルとメチル基およびアミド基との間の距離情報を高精度に解析する方法も確立した。このことにより、従来の方法では困難であった巨大蛋白質の溶液立体構造の決定が可能となった。当該年度において、まず、SAIL芳香族アミノ酸を選択的に導入したMSG蛋白質の調製方法の確立を行った。調製にあたり、代表者は、まず試験管内蛋白質合成法やsingle protein production法の利用を検討した。しかしながら、発現量の低下や、SAILアミノ酸の標識率に問題があり、NMR法に供すのに十分なMSG試料を得ることは困難であった。そこで代表者は、汎用な大腸菌生合成法をもとに、SAILアミノ酸標識試料の調製に向けた、培養方法の改良を行った。その結果、MSGの発現量を損なうことなく、SAILアミノ酸を高効率かつ特異的にMSG内に取り込ませることに成功した。次に、SAIL芳香族アミノ酸標識MSGをNMRに供し、Aromatic CH TROSYの測定を行った。その結果、従来の手法では観測し得なかったMSG中の芳香環CHシグナルを高感度かつ先鋭的に観測することに成功した。さらに、個々のアミノ酸に対して変異を施した試料を用意して、芳香環CHシグナルを配列特異的に帰属した。具体的には、TrpをPheやTyrに、PheをTyrやLeuに置換した。各々の変異体について、Aromatic CH TROSYを測定し、野生型のスペクトルと比較することにより、シグナルの帰属を行った。一部のPhe残基に関しては、アミノ酸変異により、MSGの不安定化を引き起こしてしまい、シグナルを帰属することは困難であった。これらの残基に関しては、SAIL芳香族アミノ酸とともに、ILVメチル基を標識したMSGを利用することで、メチル基との間のNOEを利用して帰属を決定することができた。これにより、MSG中に存在するTrpおよびPheに由来する芳香環CHシグナルをすべて帰属することができた。また、ILVメチル+SAIL芳香族アミノ酸標識MSGをNOESY実験に供し、NOE解析を進めている。本課題申請時の計画では、当該年度にSAIL芳香族アミノ酸標識されたMSG蛋白質の調製法を確立する事、Aromatic CH TROSYの測定及び芳香環シグナルの帰属をする事が予定されていたが、順調に進めることができた。次年度に計画していたNOESYの解析にも着手することができ、計画以上に進展することができた。SAILアミノ酸標識試料の調製においては、大きな進展が得られた。従来、SAILアミノ酸を目的蛋白質に導入するには、試験管内蛋白質合成法やsingle protein production法が利用されていた。これらの手法では、添加したアミノ酸が代謝制御されることなく、目的蛋白質に取り込まれる。しかし、通常の大腸菌生合成法に比べて、発現量が低下することが多々あり、万全な方法ではなかった。
KAKENHI-PROJECT-23770111
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核磁気共鳴法による巨大蛋白質の立体構造の新規解析法の開発
本課題では、通常の大腸菌生合成法を用いて、SAILアミノ酸を高効率かつ特異的に標識する方法を確立した。従来の方法に比べ、目的蛋白質の発現量を損なうことはなく、特異的にSAILアミノ酸標識された蛋白質試料を調製することができた。添加するアミノ酸量も15mg/L程度に抑えることができ、経済性にも優れている。既に芳香族アミノ酸のみならず、半数以上のアミノ酸を個別に導入できることを確認しており、汎用性の高い、次世代のアミノ酸標識技術として、発展が期待できる。Aromatic CH TROSYの測定では、SAIL標識技術とTROSY法を組み合わせる事で、非常に高感度に芳香環シグナルを検出できることができた。当該年度においては、分子量82kDaのMSGを対象としてきたが、100kDaを超える巨大蛋白質複合体にも適用できる可能性が出てきた。まず、帰属の確定したPheおよびTrpの芳香環シグナルをもとに、NOE等の原子間距離情報の抽出を進めていく。ILVメチルとSAIL芳香族アミノ酸を同時に標識したサンプルを利用し、3D-13C edited NOESY測定を行っていく。これにより、メチル-芳香環CH及び芳香環CHー芳香環CHについて、NOE情報を取得していく。また、3D-15N edited NOESY測定も行い、アミドプロトンと芳香環CHとのNOEについても解析をおこなう。NOEの解析においては、シグナル同士の重なり合いにより、一義的に帰属することが困難な場合も考えられる。このような場合は、4D-13C,13C-NOESYの測定を行う。また、当該年度に確立したSAIL標識試料の調製法を活用し、ILVメチルを個別に標識した試料を調製し、NOEの解析に供すことも計画する。より多くのNOEが必要な場合は、Ala等の、メチル基を有する他の残基やTyr及びHisについてもSAILアミノ酸を準備し、標識体を調製後、3Dおよび4Dの実験に供す。また、NOE以外の情報として、SAIL芳香族アミノ酸側鎖の二面角の情報や、芳香環CHの残余双極子相互作用に伴う角度情報の抽出も行う予定である。立体構造決定のための束縛情報を集積したのち、立体構造計算を行う。MSGのように80kDaを超えるような巨大分子の構造計算に関しては、膨大な計算時間を要する可能性がある。このような場合、構造計算の専門家であるGuentert教授(Frankfurt大学)らの協力を得て、計算機環境の整備、計算方法等の助言をいただきながら、構造決定を実施する。順調に構造計算が進む見通しがつけば、MSG単体、MSG-グリオキサル酸複合体、MSG-グリオキサル酸-アセチル補酵素A 3者複合体の構造決定を行い、それらの立体構造と動態に関して詳細に検討する。当該年度に確立したSAILアミノ酸標識法を利用することにより、少量のSAILアミノ酸で、効率よく標識サンプルを調製できることが可能となった。その結果、SAILアミノ酸をはじめとする安定同位体試薬の購入量を、当初の計画より抑えることができ、次年度使用額が生じてきた。
KAKENHI-PROJECT-23770111
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23770111
腹腔鏡手術操作における加える力と触覚の測定と定量化の研究
腹腔鏡手術の技術は従来の開腹手術より習得が難しく、技術力や習熟度の客観的な評価が難しい。手術手技を数値化し、特に初心者と経験者の違いを解析することで技術力の評価や科学的な教育が可能になると考えられる。今回我々は手術時に鉗子にかかる力を測定できるセンサー付きの鉗子を用い、腹腔鏡手術における鉗子操作の初心者と経験者の違いを数値的に解析・比較した。今回の研究では初心者に比して経験者の方が弱い力かつ安定した力で鉗子を把持していることが示された。生体内で実際の手術環境と同様の状態で、実際の手術鉗子を用い鉗子にかかる力、把持する力に関する詳細なデータ解析は本研究が世界初であり先進的であると思われた。腹腔鏡下手術における血管および対象臓器からの触覚感と加える力・操作の動きを計測し数値として定量化する手法を研究する。また、この数値を用いて、手術シミュレータでの模擬手術において触覚感を忠実に再現するとともに手術操作における限界値を危険警告としてシミュレータやナビゲーターに組み入れる手法の開発を行う。高周波力センサと加速計などを複合小型化して術具と一体化した計測装置を改良して用い、豚で腹腔鏡下手術手順を実施して腎臓、血管、結合組織などからの物理情報と加える力の情報を収集する。これらのデータを情報処理することにより、手術中に医師が与えた力と、臓器が返す力を推定し、臓器の硬さを示すパラメータを抽出し、手術時の触覚感を忠実に再現する数理手法を開発する。また同じ実験により臓器の破断力の限界値を推定する。これらをわれわれが開発した手術シミュレータに実装して手術での再現性を検討する。臓器の硬さ弾性は良く分かっていない。単一部位の計測でさえ、計測値が論文により3桁も異なっており(肝臓)混沌とした状態にある。また、生体は、単一臓器ではなく、臓器とこれらを保持する膜やリンパ組織および血管などによる複雑な複合構造を持つ。従ってこの複合した状態での計測が理想である。しかし、人体を複合構造と見て操作力および反力を測り、触覚や限界値を数値化した事例は世界に無く、研究はこれらにチャレンジする独創的なものである。計測による数値化ができれば、力学モデルと生体での挙動の差異がどの程度かが、初めて明らかになる。また、触覚感が忠実に再現できると、血管や臓器に損傷を与える力の臨界値も推測できるようになり、モニタ画面に警告を出したり、操作をロックしたりするなど術者に注意を促すような危険予知機能を持つ手術補助ロボットや手術ナビゲーターへの応用につながるのもことが特色である。腹腔鏡下手術における血管および対象臓器からの触覚感と加える力・操作の動きを計測し数値として定量化する手法を研究する。また、この数値を用いて、手術シミュレータでの模擬手術において触覚感を忠実に再現するとともに手術操作における限界値を危険警告としてシミュレータやナビゲーターに組み入れる手法の開発を行う。高周波力センサと加速計などを複合小型化して術具と一体化した計測装置を改良して用い、豚で腹腔鏡下手術手順を実施して腎臓、血管、結合組織などからの物理情報と加える力の情報を収集する。これらのデータを情報処理することにより、手術中に医師が与えた力と、臓器が返す力を推定し、臓器の硬さを示すパラメータを抽出し、手術時の触覚感を忠実に再現する数理手法を開発する。また同じ実験により臓器の破断力の限界値を推定する。これらをわれわれが開発した手術シミュレータに実装して手術での再現性を検討する。臓器の硬さ弾性は良く分かっていない。単一部位の計測でさえ、計測値が論文により3桁も異なっており(肝臓)混沌とした状態にある。また、生体は、単一臓器ではなく、臓器とこれらを保持する膜やリンパ組織および血管などによる複雑な複合構造を持つ。従ってこの複合した状態での計測が理想である。しかし、人体を複合構造と見て操作力および反力を測り、触覚や限界値を数値化した事例は世界に無く、研究はこれらにチャレンジする独創的なものである。計測による数値化ができれば、力学モデルと生体での挙動の差異がどの程度かが、初めて明らかになる。また、触覚感が忠実に再現できると、血管や臓器に損傷を与える力の臨界値も推測できるようになり、モニタ画面に警告を出したり、操作をロックしたりするなど術者に注意を促すような危険予知機能を持つ手術補助ロボットや手術ナビゲーターへの応用につながるのもことが特色である。計測装置の製作:高周波力センサを小型化し、加速度センサおよびマーカと複合させたものを手術用鉗子に組み込むことに成功した。採取したデータは力センサ、加速度計およびその画像上の動き情報から、移動速度と術者が対象に与えた力を推定できるよう開発した。さらに一定方向に押す力、距離を正確に測定できる機器を開発し、物体の硬さを推定しようとしている。豚を用いた計測:上記装置により、豚を用いて人間に行うのと同じ腹腔鏡下手術を行い、データを採取した。データを解析中した。また、同時に医師の加える力や手の動きや範囲等に関係するデータの採取も行った。これらを使用し医師の技量による鉗子動作の違いを見出した。上記装置を用い、豚の臓器を破断させた。この破断限界及び破断の予知が可能な力のパラメータを解析したが、一定の結論は得られていない。計測装置の製作:高周波力センサを小型化し、加速度センサおよびマーカと複合させたものを手術用鉗子に組み込むことに成功した。
KAKENHI-PROJECT-26462420
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26462420
腹腔鏡手術操作における加える力と触覚の測定と定量化の研究
採取したデータは力センサ、加速度計およびその画像上の動き情報から、移動速度と術者が対象に与えた力を推定できるよう開発した。さらに一定方向に押す力、距離を正確に測定できる機器を開発し、物体の硬さを推定しようとしている。豚を用いた計測:上記装置により、豚を用いて人間に行うのと同じ腹腔鏡下手術を行い、データを採取した。このデータを用いて手術上級者と初心者の鉗子を把持する力および臓器に与える力の差異を見出し、論文および学会発表した。上記装置を用い、豚の臓器を破断させた。この破断限界及び破断の予知が可能な力のパラメータを解析中である。磁気センサを用いた鉗子挙動の計測:磁気センサを用いて鉗子挙動を計測し、危険手技の同定を試みる実験に着手し、データを解析中である。今後、豚の実験で得たデータを用い、臓器の硬さ、臓器の破断限界等を解析していく。臓器別物性値情報に関した便覧を完成させたい。これらのデータを基に手術シミュレータ上での運用を目的として計算量が少ない超弾性体モデルを基本として再現性の高い方式をプログラム化する。さらに、磁気センサを用いた実験結果を解析し、危険な手術手技を物理学的に識別できる方法を検討する。腹腔鏡手術の技術は従来の開腹手術より習得が難しく、技術力や習熟度の客観的な評価が難しい。手術手技を数値化し、特に初心者と経験者の違いを解析することで技術力の評価や科学的な教育が可能になると考えられる。今回我々は手術時に鉗子にかかる力を測定できるセンサー付きの鉗子を用い、腹腔鏡手術における鉗子操作の初心者と経験者の違いを数値的に解析・比較した。今回の研究では初心者に比して経験者の方が弱い力かつ安定した力で鉗子を把持していることが示された。生体内で実際の手術環境と同様の状態で、実際の手術鉗子を用い鉗子にかかる力、把持する力に関する詳細なデータ解析は本研究が世界初であり先進的であると思われた。計測装置の製作:高周波力センサを小型化し、加速度センサおよびマーカと複合させたものを手術用鉗子に組み込むことに成功した。採取したデータは力センサ、加速度計およびその画像上の動き情報から、移動速度と術者が対象に与えた力を推定できるよう開発した。さらに一定方向に押す力、距離を正確に測定できる機器を開発し、物体の硬さを推定しようとしている。豚を用いた計測:上記装置により、豚を用いて人間に行うのと同じ腹腔鏡下手術を行い、データを採取した。現在このデータを解析中である。また、同時に医師の加える力や手の動きや範囲等に関係するデータの採取も行った。上記装置を用い、豚の臓器を破断させた。この破断限界及び破断の予知が可能な力のパラメータを解析中である。今後、装置を改良の上、豚の実験を追加し、臓器の硬さ、臓器の破断限界等を解析していく。さらに、危険な手術手技を物理学的に識別できる方法を検討する。現在の装置では術具の位置情報を手術画像のみから得ているが、これでは不十分なので、磁気センサの導入で位置情報を正確に把握する。さらに鉗子の動きや位置情報から医師の技量判定ができる仕組みをさらに深く検証する。泌尿器手術今後、豚の実験で得たデータを用い、臓器の硬さ、臓器の破断限界等を解析していく。
KAKENHI-PROJECT-26462420
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バングラデシュ天然薬物資源調査
平成23年から26年にかけて研究代表者は毎年バングラデシュを訪問し,熱帯植物を中心にバングラデシュ天然薬用資源の調査を行った.その結果,現地特有の植物種や現地で栽培された薬用植物を中心に100種以上の植物種を収集した.得られた植物エキスに対して種々のシグナル経路(ウィント,ヘッジホッグ,トレイルシグナル等)に対するスクリーニング試験を行い,活性を示した植物エキスについて活性成分の分離精製を行い,数多くの生物活性天然物を単離し,それらの作用メカニズムに関する研究を行った.平成23年から26年にかけて研究代表者は毎年バングラデシュを訪問し,熱帯植物を中心にバングラデシュ天然薬用資源の調査を行った.その結果,現地特有の植物種や現地で栽培された薬用植物を中心に100種以上の植物種を収集した.得られた植物エキスに対して種々のシグナル経路(ウィント,ヘッジホッグ,トレイルシグナル等)に対するスクリーニング試験を行い,活性を示した植物エキスについて活性成分の分離精製を行い,数多くの生物活性天然物を単離し,それらの作用メカニズムに関する研究を行った.1)薬用資源調査(天然物探索材料としての植物現地調査):平成23年12月12日から12月19日,研究代表者・石橋は,バングラデシュ国を訪問し,クルナ(Khulna)大学薬学部S.K.Sadhu教授およびジャガンナス(Jagannath)大学薬学部准教授Firoj Ahmed博士の指導のもと,現地の薬用植物の専門家の協力を得て,バングラデシュ北部西北部のボグラ地区およびジョイプルハット市を中心に,熱帯薬用植物資源調査を行った.とくにこれらの地域特有の植物種や現地で栽培される薬用植物を中心に幅広く調査・採取を行った.採取した薬用植物等は約30種に上ったが,一つの種当たり採取量は予備的スクリーニングに最低限必要な量にとどめた.2)ライブラリー構築とスクリーニング:上記の調査によって採取した植物サンプルについて,有機溶媒による抽出を行い,抽出エキスライブラリーの構築を継続して行っている.得られた抽出エキスを用いて種々のシグナル伝達経路(ウィント,ヘッジホッグ,トレイル,ヘスシグナル等)に対する作用に関するスクリーニング試験を継続して行っている.3)活性成分探索:上記スクリーニングで陽性を示したバングラデシュ産サンプルのうち,マメ科Derris indicaの葉部抽出物よりTRAILシグナル経路におけるデス受容体DR5の増強作用をもつ5種のフラボノイドおよびスチルベン化合物を単離した.また,ヒルギ科のKandelia candel葉部のメタノール抽出物からは,ヒト胃がんAGS細胞に対してTRAIL耐性克服作用をもつオイデスマン型セスキテルペンラクトンを5種単離した.一方,センダン科Xylocarpus grantumからはウィントシグナル阻害作用をもつ新規リモノイド型テルペン2種を単離した.これらはTCF/βカテニン転写活性を濃度依存的に阻害し,2種の大腸がん細胞(SW480,HCT116)に対して対照細胞(293細胞)より強い細胞毒性を示した.薬用資源調査(天然物探索材料としての植物現地調査):平成26年3月18日から3月23日,研究代表者・石橋は,バングラデシュ国を訪問し,クルナ(Khulna)大学薬学部S. K. Sadhu教授およびダッカ(Dhaka)大学薬学部Firoj Ahmed教授の指導のもと,バングラデシュ西部のクルナ市およびシャトキラ地区を中心に,熱帯薬用植物資源調査を行った.とくにこれらの地域特有の植物種や現地で栽培される薬用植物を中心に幅広く調査・採取を行った.採取した薬用植物等は約40種に上ったが,一つの種当たり採取量は予備的スクリーニングに最低限必要な量にとどめた.ライブラリー構築とスクリーニング:前年度までに行ってきた資源調査によって採取し,千葉大学側に空輸されてきた植物サンプルについて,有機溶媒による抽出を行い,抽出エキスライブラリーの構築を継続的に行った.得られた抽出エキスを用いて種々のシグナル伝達経路(ウィント,ヘッジホッグ,トレイルシグナル,bHLH転写因子等)に対する作用に関するスクリーニング試験を継続して行っている.活性成分探索:上記現地調査で入手したバングラデシュ産サンプルのうち,現地名「シャタバリ」として市販されている生薬サンプルの化学成分分析を行った結果,Stemonaアルカロイド類を単離した.現植物はAsparagus属と同定されていたが,本化学成分研究の結果,Stemona属植物であることが示唆され,国立医薬品食品衛生研究所との共同研究に基づく塩基配列解析の結果と一致した.一方,ウィントシグナル活性化作用に関するスクリーニングの結果,バングラデシュ産ミカン科植物Zanthoxylum rhetsaの抽出エキスは,ウィントシグナルの指標となるルフェラーゼ活性を約4倍上昇させた.本抽出エキスから活性成分を精製し,フラボノイド配糖体を単離した.1)薬用資源調査(天然物探索材料としての植物現地調査):平成24年11月21日から11月27日,研究代表者・石橋は,バングラデシュ国を訪問し,クルナ(Khulna)大学薬学部S. K. Sadhu教授およびジャガンナス(Jagannath)大学薬学部准教授Firoj Ahmed博士の指導のもと,現地の薬用植物の専門家の協力を得て,バングラデシュ南部のバゲルハット地区およびボリシャル市を中心に,熱帯薬用植物資源調査を行った.とくにこれらの地域特有の植物種や現地で栽培される薬用植物を中心に幅広く調査・採取を行った.採取した薬用植物等は約35種に上った.2)ライブラリー構築:上記の調査によって採取した植物サンプルについて,抽出エキスライブラリーの構築を継続して行っている.得られた抽出エキスを用いて種々のシグナル伝達経路(ウィント,ヘッジホッグ,トレイルシグナル,bHLH転写因子等)に対する作用に関するスクリーニング試験を継続して行っている.3)活性成分
KAKENHI-PROJECT-23404007
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バングラデシュ天然薬物資源調査
探索:上記スクリーニングで陽性を示したサンプルのうち,キク科Saussurea hypoleucaの葉部抽出物よりTRAIL耐性克服作用をもつ4種のセスキテルペンラクトンを単離した.このうちsantamarineは15μMにおいて40%,mokkolactoneは40μMにおいて45%,TRAIL併用時にTRAIL耐性胃がん細胞AGSの細胞生存率を低下させた.一方,ガガイモ科Calotropis gigantea滲出物からはウィントシグナル阻害作用をもつ活性成分として6種のカルデノリド化合物を単離した.また,ヘッジホッグシグナル阻害作用に関するスクリーニングを行い,Vitex negundo(クマツヅラ科)より,新規化合物nishindanolを含む9種のジテルペンやフラボノイド化合物を単離した.天然物化学本海外学術調査研究は2008年から継続して行っており,毎年研究代表者がバングラデシュに出張し,現地のカウンターパートの協力を得て,薬用植物資源調査を行ってきた.これまでに数多くの薬用植物を調査採取し,当研究室におけるスクリーニング試験に用いてきた.その結果,これまでにトレイル,ウィント,ヘッジホッグシグナルに対するスクリーニングを行い,予想よりも数多くの活性化合物を単離してきた.さらにそれらの化合物の分子レベルでの作用機構についての解析も行い,興味深い結果が得られた.25年度が最終年度であるため、記入しない。本海外学術調査研究は2008年から継続して行っており,毎年研究代表者がバングラデシュに出張し,現地のカウンターパートの協力を得て,薬用植物資源調査を行ってきた.これまでに数多くの薬用植物を調査採取し,当研究室におけるスクリーニング試験に用いてきた.その結果,これまでにトレイル,ウィント,ヘッジホッグシグナルに対するスクリーニングを行い,予想よりも数多くの活性化合物を単離してきた.さらにそれらの化合物の分子レベルでの作用機構についての解析も行い,興味深い結果が得られた.バングラデシュ在住のカウンターパート(研究協力者)との共同研究をひきつづき継続させ,最低年に1回は現地へ出張し,さらなる天然薬物資源調査を行い,スクリーニング試験用の抽出エキスライブラリーをさらに拡充する.拡充したライブラリーを活用してTRAILシグナル,ヘッジホッグシグナル,およびウィントシグナル等を対象としたスクリーニング研究をさらに継続して行っていく.これまでに得られた興味深い活性成分については,その分子レベルでの作用メカニズムの解析に関する実験をさらに進展させ,活性化合物の作用点や標的分子を解明するための実験方法を検討する.25年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-23404007
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仮想生産に基づくコンカレントエンジニアリングのための統合工学知識ベースの構築法
本研究の目的は、工学に関する知識を体系的に計算機化することにより、製品の機能や生産性の事前評価を可能とする仮想生産環境を実現し、従来は熟練者のノウハウであり、技術拡散の難しかったコンカレントエンジニアリングを明確な学術としようとすることである。そのために、以下の諸点について研究を進めた。(1)仮想生産とコンカレントエンジニアリングの体系企業における設計生産の技術作業の実態について調査を行ない、仮想生産を基礎とするコンカレントエンジニアリングによる生産システムの構成法を明らかにした。試行錯誤や協調を含む複雑な設計・生産展開過程を記述できるプロトタイプシステムを作成した。(2)中核となる工学知識の抽出と整理物理法則に基づく原理原則的な知識を主体として、基礎的な技術情報(寸法・公差、組立、振舞、機能など)を組織的に抽出し、多様な利用が可能な知識ベースの形態に整理した。実現は今後の課題である。この知識ベースを介して、設計者や生産技術者が自由に協調して仕事を進める。(3)統合工学知識ベース構築のための基礎技術意味や種々の関係を柔軟に表現できることを目的として、数式処理、非標準論理、対象指向などを取り入れ、知識の依存性や整合性管理を強化した記述方式を確立し、プロトタイプシステムを構築して、実験した。(4)統合工学知識ベースプロトタイプの作成企業との共同により、コピアの光学機構や自動車エンジンの主要構造などを例として、製品や製造プロセス情報を記述し評価した。要素技術としての知識ベース構築法と製品や製造プロセス知識の体系化についてまとめることができたが、実現を通じて評価することは今後の課題である。本研究の目的は、工学に関する知識を体系的に計算機化することにより、製品の機能や生産性の事前評価を可能とする仮想生産環境を実現し、従来は熟練者のノウハウであり、技術拡散の難しかったコンカレントエンジニアリングを明確な学術としようとすることである。そのために、以下の諸点について研究を進めた。(1)仮想生産とコンカレントエンジニアリングの体系企業における設計生産の技術作業の実態について調査を行ない、仮想生産を基礎とするコンカレントエンジニアリングによる生産システムの構成法を明らかにした。試行錯誤や協調を含む複雑な設計・生産展開過程を記述できるプロトタイプシステムを作成した。(2)中核となる工学知識の抽出と整理物理法則に基づく原理原則的な知識を主体として、基礎的な技術情報(寸法・公差、組立、振舞、機能など)を組織的に抽出し、多様な利用が可能な知識ベースの形態に整理した。実現は今後の課題である。この知識ベースを介して、設計者や生産技術者が自由に協調して仕事を進める。(3)統合工学知識ベース構築のための基礎技術意味や種々の関係を柔軟に表現できることを目的として、数式処理、非標準論理、対象指向などを取り入れ、知識の依存性や整合性管理を強化した記述方式を確立し、プロトタイプシステムを構築して、実験した。(4)統合工学知識ベースプロトタイプの作成企業との共同により、コピアの光学機構や自動車エンジンの主要構造などを例として、製品や製造プロセス情報を記述し評価した。要素技術としての知識ベース構築法と製品や製造プロセス知識の体系化についてまとめることができたが、実現を通じて評価することは今後の課題である。品質や消費者要求への適合性を重視した知識集約型の生産方式を実現するためには、製品開発全体を一貫して扱うような新しい技術作業方式が必要となる。製品設計や生産設計を緊密に関連させ時に同時並行的に進行させて、高品質製品を実現しようとするコンカレントエンジニアリングは有用であり、その基礎として、生産対象製品やその機能環境・生産環境を計算機内にモデル化し、計算機によるシミュレーションにより機能や生産性の不都合を事前に除去しようとする仮想生産が重要である。本研究の目的は、仮想生産実現の中核技術として、設計生産に関連する工学知識を計算機内に利用可能な形で表現し利用可能とすることである。この目的のために、次の点について研究を進めた。(1)企業における設計生産の技術作業の実態について調査を行ない、新しい生産活動形態としてのコンカレントエンジニアリング実現のための要求を分析し、仮想生産の考えに基づいて体系化する。(2)寸法・公差、組立、振舞、機能などの、基礎となる統合工学知識ベースに含まれるべき情報を整理し、対応する知識ベース技術を開発する。(3)工学知識の体系的記述のためには、論理や数式などを融合した強力な意味記述や階層関係などを柔軟に表現できることなどが重要である。そのために既存のデータベースや知識記述法を整理、拡張して、統合工学知識ベース構築法を確立し、プロトタイプにより評価する。購入設備は、知識ベース構築用ワークステーションが主要なものであり、既設ワークステーションと結合して利用している。本研究の目的は、工学に関する知識を体系的に計算機化する事により、製品の機能や生産の事前評価を可能とする仮想生産環境を実現し、従来は、熟練者のノウハウであり、技術拡散の難しかったコンカレントエンジニアリングを明確な学問にしようとすることである。そのために、以下の諸点について研究を進めた。(1)仮想生産とコンカレントエンジニアリングの体系:昨年度に引き続き、企業における設計・生産準備作業の技術実態について調査し、仮想生産を基礎とするコンカレントエンジニアリングによる生産システムの構成法を明かにした。試行錯誤や協調を含む複雑な設計生産準備過程を記述できるプロトタイプシステムを作成した。(2)中核となる工学知識の抽出と整理:物理法則に基づく原理原則的な知識を主体として、基礎的な技術情報(寸法、公差、組立、振舞、機能など)を組識的に抽出し、多様な雑用が可能な知識ベースの形態に整理した。実験は今後の課題である。
KAKENHI-PROJECT-04452125
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04452125
仮想生産に基づくコンカレントエンジニアリングのための統合工学知識ベースの構築法
この知識ベースを介して、設計者や生産技術者が自由に協調して仕事を進める。(3)統合工学知識ベース構築のための基礎技術:意味や種々の関係を柔軟に表現できることを目的として、数式処理、非標準論論理、対象指向などを取り入れ、知識の依存性や整合性管理を強化した記述方式を確定し、プロトタイプを作成して実験した。(4)統合工学知識ベースプロトタイプの作成:企業との共同によりコピアの光学機構や自動車エンジンの主要構造などを例として、製品や製造プロセス情報の記述を検討し、評価した。要素技術としての知識ベース構築法と製品や製造プロセス知識の体系化についてまとめることができたが、実験を通じて評価する事は今後の課題である。
KAKENHI-PROJECT-04452125
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04452125
機能性4探針STMによる分子の電子・スピン輸送特性の研究
様々な分子組織体や電極表面構造など、「分子アーキテクトニクス」に必要な2次元コンポーネント・3次元コンポーネントの電子輸送特性とスピン輸送特性を、機能性4探針走査トンネル顕微鏡(STM)装置を用いて計測し、それらの機能特性を明らかにした。具体的には、(1)ニッケルジチオレン・ナノシートの電気伝導を測定し、酸化還元状態に応じて伝導変化を検出した。(2) 2層グラフェンにカルシウムをインターカレートして約2Kで超伝導に転移することを発見した。(3)2層グラフェンにLiをインターカレートして熱脱離させると、ベリー位相が0からπに変化することを発見した。(4)純スピン注入プローブの開発に成功した。(1)本研究において,単一分子の電気伝導やスピン輸送特性を測定するために当研究室に既存の4探針走査トンネル顕微鏡(4探針STM)装置を用いるが、その装置によって試料よび探針を観察するために搭載されている走査電子顕微鏡(SEM)鏡筒「2レンズエレクトロンカラム(2LE)」(米国FEI社製)で高分解能・低電子線照射損傷で2次電子像観察を可能とするための専用のコントローラを導入した。その結果、ある程度高分解能化が実現したが、分子構造体の観察には不十分であった。分解能が十分上がらない原因を探索したところ、実験室に浮遊する交流磁場の影響であることがわかったので、試験的に簡易型のパーマロイフィルムでチャンバーをシールドしたところ、分解能が若干向上した。来年度は、試料室チャンバー内にパーマロイ板の磁気シールドを設置することによって、浮遊磁場を完璧にシールドしてSEM分可能を格段に向上させたい。(2)シリコンの平面型構造であるシリセンの多層膜をAg(111)面上に成長させ、その原子配列構造を低速電子回折の強度解析で調べた。その結果、シリコン層はダイヤモンド構造に極めて近い格子を組んでいるため多層シリセンとは言えないこと、また、シリコン最上原子層にはAgの1原子層が偏せきしてSi(111)-√3×√3-Ag表面構造をとっていることがわかった。以上より多層シリセンは形成されていないことが明らかになった。(1)Nickel Bis(dithiolene)Complex π-Nanosheetの単一フレークの電気伝導測定:この物質は「カゴメ格子」状の単分子層物質であり、2次元トポロジカル絶縁体の有機物シートとして理論的に予想されているが、本測定によって極めて高い電気伝導度を持つことが示され、その結果をJ. Am. Chem. Soc. 136, 14357ー14360 (Sep, 2014)に出版することができた。従来は、多数のフレークをペレット状に固めた試料で電気伝導度を測定していたが、本研究では、単一フレークに4本の探針を接触させて電気伝導度を測定した。その結果、従来の値より一桁以上高いことが判明した。もし、この物質が2次元トポロジカル有機絶縁体であるのなら、この高い電気伝導度はエッジ伝導に起因していると思われる。さらに酸化還元によって値が変わることもわかった。酸化還元反応によって物質をトポロジカル物質からトリビアル物質に転移させている可能性がある。(2)シリセンとグラフェンの極低温での量子伝導の測定:Ag(111)表面上に成長させた多層シリセン、およびSiC結晶表面上に成長させた2層グラフェンの電気伝導を1K前後の極低温で測定した。その結果、Ag金属表面上うにも関わらずシリセンの伝導が測定でき、弱局在が見られた。グラフェンでも同様の現象が見られ、電子電子散乱や電子格子散乱の情報が得られた。(3)カーボンナノチューブ探針の作成:磁性金属でコーティングしたカーボンナノチューブSTM探針を作成し、STM動作を確認した。来年度では、この探針を用いて、スピン分解した電気伝導の測定を行う予定である。(1) 4探針型STMを用いた有機分子の電気伝導測定:我々は4探針型STMを用いて、各種有機分子膜の電気伝導率の測定を試みている。本年度はグラフィジン、Fe/Coテルピリジンなど十数種類の測定を行った。どの物質も、バンド計算などでは伝導性が大いに期待される試料であったが、実際に伝導性を持つ試料はわずかに二つだけであった。大阪大学家研究室提供の「Auナノ粒子/チオフェンコンポジット」では、分子伝導でよく見られる高抵抗・非線形性が確認された。化学専攻西原研究室提供のPtジチオレンでは電子線照射時間に依存して伝導度が増大する現象が見られた。(2)2層グラフェン(BLG)における超伝導の観測: BLGに超高真空中でLiやCaをインターカレートし、in situ低温電気伝導測定を行った。SiC(0001)面上成長させたBLGにLiを室温蒸着するとグラフェン層間にLi原子がインターカレートされる(Li-BLG)。さらに、Li-BLGを150°Cに加熱しながらCaを蒸着するとLiとCaが置換し、Caがインターカレートする(Ca-BLG)。Li-BLGが弱局在的な傾向を示して超伝導に転移しなかったのに対して、Ca-BLGは約2 Kで超伝導転移を示した。この結果はBLGにおける初の超伝導観測であり、BLGにおいても層間電子状態と超伝導が密接に関連することを意味している。
KAKENHI-PLANNED-25110010
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PLANNED-25110010
機能性4探針STMによる分子の電子・スピン輸送特性の研究
(3) SiC上のBLGにおける電子局在: SiC結晶表面上に成長させたBLGの電気伝導に関与する散乱において弾性的なバレー内散乱の寄与が最も大きいことが判明した。このバレー内散乱は波数空間をわずかに移動する散乱であるため、その起源はSiC基板中のイオン化したドーパントによる散乱と考えられる。また、このBLGにLiをインターカレートして電気伝導測定を行った結果、Liからの電子ドープによる電気伝導度の増加を観測した。いままで各種の有機分子膜の電気伝導を4探針STM装置を用いて測定してきたが、2、3の例を除いて、ほとんど絶縁体であった。しかし、それでも、研究実績の概要で述べたように、導電性を示すものは極めて少ないながら存在するので、それらを見出した成果は評価できると考えている。また、昨年まで製作を続けてきた磁性体コーティング・カーボンナノチューブ探針は極めて壊れやすく、また特性が安定しない。そのため、別のアプローチを開始した。つまり、東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC)の微細加工設備を用いて、磁性体膜の積層構造を作り、それをパターニングした後へき開してプローブとする。プローブ先端にスピン拡散長よりも短い間隔での接合を作ることが技術的に困難であったが、本年度はその設計および製作技術検証を終え、試作プローブが完成した。来年度はこれを用いて実際にスピン流の生成と測定を行い、スピン注入プローブとしての機能の実証を行う予定である。(1)4探針型STMを用いて、各種有機分子膜のナノスケールでの電気伝導の測定を試みている。化学専攻西原研から提供いただいた金属Dithiolen錯体ナノシートの電気伝導測定を行った。金属Dithiolen錯体はπ共役電子系を持ち、有機伝導体として知られる。特にPtDithiolen薄膜については、電子線照射やアニールによってキャリアがドープされて電気伝導度が5桁以上増加して縮退半導的振る舞いを示すことを見出した。(2)AB積層構造の2層グラフェンではバンド分散が放物線的となるが、AA積層構造ではベリー位相がπとなりディラックコーン状の直線分散となって移動度が大幅に上昇する。しかしAA積層構造を人工的に作成することは難しい。今回、超高真空中でAB積層の2層グラフェンにLiをインターカレートして、更にそれを900°Cに加熱してLiを脱離させると、観測されたシュブニコフドハース振動から、そのベリー位相はπとなり、移動度が上昇することがわかった。この結果からAA積層構造が実現していると言える。(3)グラフェン層間に金属原子(Li, Ca, Kなど)をインターカレートした系では、超伝導が発現したり特異な積層構造が形成される。本研究では、SiC(0001)上に成長した2層グラフェンにLi原子をインターカレートしたC6LiC6の構造解析を、最表面原子層に極めて敏感な全反射高速陽電子回折法で行った。グラフェン層間へのLi原子のインターカレーション以外に、グラフェン-バッファー層間へもインターカレーションされ、層間距離が約0.5Å程度増加することもわかった。さらに、Li原子インターカレート前後での2層グラフェンの積層構造の変化が観測された。(1)次の試料提供を受けて領域内で共同研究を進めているが、論文としてまとまった結果が出た試料、現在解析中の試料、および測定不能の試料などがあり、概ね順調に研究が進展している。
KAKENHI-PLANNED-25110010
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17世紀力学理論における物理学的基礎概念の発展に関する歴史的研究
本研究では,17世紀科学革命の核心とも言える力学の誕生過程に焦点を定め,基本的物理概念-「重さ」,「物質量」,「速さ」,「加速」,「力」,「モーメント」-に関して,ガリレイから,カヴァリエリ,トリチェッリ,デカルト,ホイヘンス,ニュートンらにおける,それらの概念の変遷を検討した.とくに数学的運動論の提唱者であるガリレイに関しては,速度概念とその数学的表現に関して大きな問題を抱えていたことが明らかになった.ガリレイは加速運動の考察において瞬間的速度を表すために「速さの度合」という中世的概念を用い,それを「不可分者」という数学的概念によって扱おうとしたが,それが含む理論的問題点のために彼の落下法則の証明は不完全なものとなっていた.ガリレイの直面したのは無限小量をどのように理解し,数学的に処理するかという問題だった.ガリレイの落下法則はホイヘンスやニュートンにおいても,一定力下の加速運動の法則として,一般的な加速運動の考察の出発点となっていたが,無限小量の導入によりガリレイの証明はまったく過去のものとなった.ニュートンの最大の功績は重量と質量の概念的区別をし,運動法則を定式化したことであるが,彼の第二運動法則が解析化され,力学体系の核心となるにはまだ半世紀を要するのであり,18世紀の解析力学の発展過程に関するさらなる研究が必要である.本研究ではガリレイの主要著作,および他の科学者の力学関係著作に関して,コンコーダンスを作成した.報告書ではとくに約2,000語を選び,各人ごとにまとめてある.このコンコーダンスは後日Webサイトにおいて公開する予定である.また約20,000語に及ぶ全体のコンコーダンスもWebサイトにおいて公開することを計画している.本研究では,17世紀科学革命の核心とも言える力学の誕生過程に焦点を定め,基本的物理概念-「重さ」,「物質量」,「速さ」,「加速」,「力」,「モーメント」-に関して,ガリレイから,カヴァリエリ,トリチェッリ,デカルト,ホイヘンス,ニュートンらにおける,それらの概念の変遷を検討した.とくに数学的運動論の提唱者であるガリレイに関しては,速度概念とその数学的表現に関して大きな問題を抱えていたことが明らかになった.ガリレイは加速運動の考察において瞬間的速度を表すために「速さの度合」という中世的概念を用い,それを「不可分者」という数学的概念によって扱おうとしたが,それが含む理論的問題点のために彼の落下法則の証明は不完全なものとなっていた.ガリレイの直面したのは無限小量をどのように理解し,数学的に処理するかという問題だった.ガリレイの落下法則はホイヘンスやニュートンにおいても,一定力下の加速運動の法則として,一般的な加速運動の考察の出発点となっていたが,無限小量の導入によりガリレイの証明はまったく過去のものとなった.ニュートンの最大の功績は重量と質量の概念的区別をし,運動法則を定式化したことであるが,彼の第二運動法則が解析化され,力学体系の核心となるにはまだ半世紀を要するのであり,18世紀の解析力学の発展過程に関するさらなる研究が必要である.本研究ではガリレイの主要著作,および他の科学者の力学関係著作に関して,コンコーダンスを作成した.報告書ではとくに約2,000語を選び,各人ごとにまとめてある.このコンコーダンスは後日Webサイトにおいて公開する予定である.また約20,000語に及ぶ全体のコンコーダンスもWebサイトにおいて公開することを計画している.今年度は,近代物理学の父といわれるガリレオ・ガリレイの数学的運動論における基本的物理概念について検討を行なった.『新科学論議』や『運動論』といった重要な著作の本文をデータベース化して,「モメントゥム」や「インペトゥス」,「速さの度合」といったキ-・タ-ムに関する分析を進め,彼が数学的運動論というまったく新しい科学を構築していった過程において抱えていた問題を,彼が用いていた基本概念の変遷という側面から解明しようと試みた.具体的には,『新科学論議』における運動論の中でも,斜面の実験で知られる斜面上の下降運動に着目し,この問題に関する一連の命題の出発点となっている「斜面運動の原理」の理論的基盤に関するガリレオの見解の時間的展開を追跡した.この研究の中で,ガリレオが静力学の諸概念を用いて自然落下運動という動力学的問題へのアプローチを試みたことから,「モメントゥム」といった彼の運動論を支える概念には意味上の混乱があったことが判明した.この混乱のおかげでガリレオは加速運動という現象を数学的に扱うことができたのだったが,また同時に加速の発生のメカニズムに関して大きな問題を抱えることになったのでもある.運動における加速発生のメカニズムという問題に対して明確な解答を与えたのは,ニュートンの『プリンキピア』で提示された運動法則であるが,それ以前にも,彼が弟子であるトリチェッリ,またホイヘンスによってこの問題は論じられている.次年度は両者における加速運動の理論を検討する予定である.今年度は,昨年度に続きガリレオ・ガリレイの運動論について検討するとともに,彼の弟子であるボナヴェントゥーラ・カヴァリエリとエンヴァンジェリスタ・トリチェッリの運動論へと研究を進めた.
KAKENHI-PROJECT-09680068
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17世紀力学理論における物理学的基礎概念の発展に関する歴史的研究
ガリレオの手稿と『天文対話』,カヴァリエリの『燃焼鏡』,トリチェッリの『運動論』と『アカデミア講義』の運動論関係の部分を電子データ化し,「モメントゥム」や「インペトゥス」,「速さ」,「速さの度合」といった,考察する上で鍵となる概念に着目し,基本的物理概念がどのようにして形成されていったかを検討した.具体的には,ニュートンの第二法則に端的に示されているように,古典力学の理論的基盤とも言うべき速度と力との関係の数学的把握に着目し,ガリレオの運動論における速度および加速の概念とその数学的表現の発展を検討した.とくに加速運動を扱うために導入された「速さの度合」を数学的に扱う際にガリレオは大きな困難に出会っており,その結果『新科学論議』の運動論体系はその基礎において大きな問題を抱えていた.彼は弟子のカヴァリエリとともに「速さの度合」を「不可分量」として捉えていたために,運動における時間と距離の関係の数学的導出が困難になったのである.この問題の最終的解決には微積分の発展を待たねばならないが,その解決への端緒はトリチェッリの運動論に見いだされる.すなわち彼の「速さの度合」の数学的操作には,17世紀後半の運動論の発展に予見させる「不可分量」から「無限小量」への展開の萌芽が見られるのだった.第1にルネサンス期から科学革命期に至るまでの力学観の形成について検討した.ガリレオ・ガリレイやニュートンは,古典力学を実験データや観測データと理論を緊密に結合するものとして展開したが,そのような実践的な学問観はスコラ学に代表される中世的学問論には存在せず,ルネサンスの人文主義者や技術者たちに起源を持つものである.実践的学問観の誕生の過程を遠近法,建築学,機械的技術を取り上げて検討した.とくに古典力学の直接的先駆が機械的技術の発展と結びついた理論機械学にあることは,今日「力学」と翻訳されている"mechanica"が本来は機械の働きに関する理論的考察を表す「機械学」を意味していたことからも伺われる.この研究は論文「ルネサンスにおける実践的学問観」としてまとめた.第2に古典力学の基本法則とされているニュートンの運動法則について歴史的検討を行った.ときに第二法則に焦点を当て,我々が第二法則としてみなしているものは必ずしもニュートンが主張したものではなく,18世紀にオイラーらによって解析化されたものであり,ダランベールやラグランジュらの18世紀の研究者たちもニュートンによるものとは考えていなかったことを検討した.さらに第二法則が力学体系の基礎原理として認められるのは,19世紀に入ってからであることを,18世紀の数理科学者たちとともに19世紀の科学哲学者ヒューウェルとマッハによる力学の歴史の検討を通じて明らかにした.現在論文「古典力学における運動法則の歴史性-第二法則を中心に」にまとめている.また昨年度に引き続き,カヴァリエリの運動論関係のテキスト(『燃焼鏡』の一部),さらにデカルトの『哲学原理』・『宇宙論』およびホイヘンスの『遠心力論』・『衝突論』・『振子時計』のテキストを,『デカルト全集』や『ホイヘンス全集』などから入力し,電子テキスト化し,さらにそれを元にしてコンコーダンス(用語索引)を作成する作業を進めている.今年度はガリレイの原子論に関して,数学的運動論との関係において考察した.彼は『新科学論議』第1日において物体の凝集力を原子論の立場から論じているが,その際に数学的無限小に関する議論を展開している.この議論に関しては物質論に数学の議論を用いたものとして原子論史の研究者からは低い評価が与えられてこなかった.しかしガリレイにとっては,物質的世界と数学的世界の構造的同一性こそ,数学を自然現象の研究に適用することに関する主要な根拠であり,両世界における共通の構成要素としての「不可分者」の概念は数学的運動論の基本概念としても重要な役割を果たしていた.
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運動ニューロンの分化と成熟に関するする分子生物学的研究
(1)ウシ脳のコリンアセチル転移酵素(ChAT)に対する単クローン抗体を結合したイムノアフィニティクロマトグラフィーにより,ウシ脳のChATを単一の蛋白質にまで精製した.これをリジンエンドペプチターゼで分解し逆層HPLCにより蛋白質断片を分離し,その一部についてアミノ酸配列を決定中である.(2)ウシ脊髄の前角部分を集め,これよりPoly(A)RNAを精製し, cDNAを作成した.このcDNAを発現ベクターであるλgtllと連結したのち, C600大腸菌に感染させcDNAライブラリーを作成した.約5×10^6のファージを上記の単クローン抗体でスクリーニングすることにより陽性クローンを7個分離することがじきた.このうち3個は交叉反応を示し,かつノーザンブロットで脊髄と脳に特異的であることから, ChATのcDNAと考えられた.その制限酵素マップを作成したのち,約1500塩基について塩基配列を決定した.(3)ブタの酵素についてはN-末の11個のアミノ酸配列が報告されているので,これらから推定されるオリゴヌクレオチド(26mer)を作成した.一方,ブタ脊髄よりPoiy(A)RNAを精製し, cDNA-λgt10ライブラリーを作成し,これを上記のオリゴヌクレオチドをプローブとしてスクリーニングした結果陽性反応を示すクローンを11個確立することができたので,現在その塩基配列を決定中である.(4)マウス胎児の脊髄神経細胞を筋細胞と共存培養するとChAT活性が著しく増加し,これは筋細胞からの成長因子によるものと考えられる.このChAT活性の促進効果と筋細胞の成熟(筋管形成)との相関性を解析した.脊髄神経及び筋細胞の共存培養系にβ-TGFを添加すると筋芽細胞の筋管への成熟は阻止される.この際CPKのMBタイプの発現も阻害されるが,この条件下では筋細胞のChAT活性促進効果は観察されなかった.(1)ウシ脳のコリンアセチル転移酵素(ChAT)に対する単クローン抗体を結合したイムノアフィニティクロマトグラフィーにより,ウシ脳のChATを単一の蛋白質にまで精製した.これをリジンエンドペプチターゼで分解し逆層HPLCにより蛋白質断片を分離し,その一部についてアミノ酸配列を決定中である.(2)ウシ脊髄の前角部分を集め,これよりPoly(A)RNAを精製し, cDNAを作成した.このcDNAを発現ベクターであるλgtllと連結したのち, C600大腸菌に感染させcDNAライブラリーを作成した.約5×10^6のファージを上記の単クローン抗体でスクリーニングすることにより陽性クローンを7個分離することがじきた.このうち3個は交叉反応を示し,かつノーザンブロットで脊髄と脳に特異的であることから, ChATのcDNAと考えられた.その制限酵素マップを作成したのち,約1500塩基について塩基配列を決定した.(3)ブタの酵素についてはN-末の11個のアミノ酸配列が報告されているので,これらから推定されるオリゴヌクレオチド(26mer)を作成した.一方,ブタ脊髄よりPoiy(A)RNAを精製し, cDNA-λgt10ライブラリーを作成し,これを上記のオリゴヌクレオチドをプローブとしてスクリーニングした結果陽性反応を示すクローンを11個確立することができたので,現在その塩基配列を決定中である.(4)マウス胎児の脊髄神経細胞を筋細胞と共存培養するとChAT活性が著しく増加し,これは筋細胞からの成長因子によるものと考えられる.このChAT活性の促進効果と筋細胞の成熟(筋管形成)との相関性を解析した.脊髄神経及び筋細胞の共存培養系にβ-TGFを添加すると筋芽細胞の筋管への成熟は阻止される.この際CPKのMBタイプの発現も阻害されるが,この条件下では筋細胞のChAT活性促進効果は観察されなかった.
KAKENHI-PROJECT-62623515
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カナダ万年氷河に刻まれた環境急変の歴史と将来予測-核実験と歴史的火山噴火の相関
カナダ万年氷河を用いて、(1)自然(主に火山噴火)が寄与している地球規模環境汚染物質、(2)人間活動が寄与している地球規模環境汚染(主に大気圏核爆発)物質、(3)自然と人間活動が寄与している地球規模環境汚染物質の地球規模輸送の相関関係、の3部分野における研究成果を得た。(1)では、2m間隔という極めて接近した場所で得られた2本のアイスコアの電気伝導度データにおける相違点と類似点を計算機を用いて解析した。その中で、最後の氷河期の終わりが11640年であること、数多くの歴史的火山噴火の時期を、グリーンランドのデータと比較して、北極エレズメア島でも決定できたことは特筆すべきである。(2)では、1945年の長崎原爆に始まるプルトニウムとセシウムの降下量を定量した。また、(3)では、(1)と(2)で得られた知見を総合的に解釈した。雪氷コアに含まれるプルトニウム等の人工放射性核種と過去の火山灰起源と考えられる硫酸イオンなどのデータを基に、これらの拡散現象を比較したところ、拡散の程度が驚くほど類似していることが分かった。また、この拡散の仕方は、発生元の高度(地下・海上等)や、緯度にも関わりがあることをつきとめた。以下に、年度別の活動内容を要約する。平成9年度は、雪氷水の分析項目多元化のため、(1)試料の保存やコア切断等の前処理に当たって発生する試料の汚染ないしは劣化を防止する方法を模索した。水中の不純物元素濃度とその低減対策:当実験所で得られる高純度水の主成分Na,K,Mg,Ca,Al,Feの濃度は0.04-0.03ppbであり、雪氷コアの分析前処理には、概ね差し支えはなかった。清浄度クラス100環境下での水採取容器の酸洗浄、クラス10,000の環境では、いったん開封した水はたえず新鮮なものに交換すること、等の注意が必要であった。平成10年度は、分析項目毎の試料消耗量を必要最小限化するための検討を行った。微量濃縮ネブライザやシールドトーチを取り付けることにより、1から7pptの検出限界値がえられ、試料消耗量も1回の分析あたり60μl程度に低減化できた。平成11年度は、直径10cmの1本のコアの約1cm厚さの各氷層から、プルトニウム、セシウム、酸素同位体、主たる不純物成分(Na,K,Mn,Ca,Mg,Fe,Al、SO_4^<2+>,NO_3,Cl,F等の陰イオン)、さらに極微量不純物成分の全ての分析データを得て、上記3分野を総括した。カナダ万年氷河を用いて、(1)自然(主に火山噴火)が寄与している地球規模環境汚染物質、(2)人間活動が寄与している地球規模環境汚染(主に大気圏核爆発)物質、(3)自然と人間活動が寄与している地球規模環境汚染物質の地球規模輸送の相関関係、の3部分野における研究成果を得た。(1)では、2m間隔という極めて接近した場所で得られた2本のアイスコアの電気伝導度データにおける相違点と類似点を計算機を用いて解析した。その中で、最後の氷河期の終わりが11640年であること、数多くの歴史的火山噴火の時期を、グリーンランドのデータと比較して、北極エレズメア島でも決定できたことは特筆すべきである。(2)では、1945年の長崎原爆に始まるプルトニウムとセシウムの降下量を定量した。また、(3)では、(1)と(2)で得られた知見を総合的に解釈した。雪氷コアに含まれるプルトニウム等の人工放射性核種と過去の火山灰起源と考えられる硫酸イオンなどのデータを基に、これらの拡散現象を比較したところ、拡散の程度が驚くほど類似していることが分かった。また、この拡散の仕方は、発生元の高度(地下・海上等)や、緯度にも関わりがあることをつきとめた。以下に、年度別の活動内容を要約する。平成9年度は、雪氷水の分析項目多元化のため、(1)試料の保存やコア切断等の前処理に当たって発生する試料の汚染ないしは劣化を防止する方法を模索した。水中の不純物元素濃度とその低減対策:当実験所で得られる高純度水の主成分Na,K,Mg,Ca,Al,Feの濃度は0.04-0.03ppbであり、雪氷コアの分析前処理には、概ね差し支えはなかった。清浄度クラス100環境下での水採取容器の酸洗浄、クラス10,000の環境では、いったん開封した水はたえず新鮮なものに交換すること、等の注意が必要であった。平成10年度は、分析項目毎の試料消耗量を必要最小限化するための検討を行った。微量濃縮ネブライザやシールドトーチを取り付けることにより、1から7pptの検出限界値がえられ、試料消耗量も1回の分析あたり60μl程度に低減化できた。平成11年度は、直径10cmの1本のコアの約1cm厚さの各氷層から、プルトニウム、セシウム、酸素同位体、主たる不純物成分(Na,K,Mn,Ca,Mg,Fe,Al、SO_4^<2+>,NO_3,Cl,F等の陰イオン)、さらに極微量不純物成分の全ての分析データを得て、上記3分野を総括した。
KAKENHI-PROJECT-09044164
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カナダ万年氷河に刻まれた環境急変の歴史と将来予測-核実験と歴史的火山噴火の相関
本研究は、歴史的火山噴火に起因する気候急変の前兆予測を可能にするため、北極アイスコア中に保存された核実験の記録を指標として、気候変動をもたらすような火山灰(粒子状物質)の放出規模を定量的に解明することを目指している。今回、申請者らは、北極・エルズメア島のアイスコア中に保存された長崎原爆由来の極微量のプルトニウムを分析し、その結果から、北緯80-90度圏でのプルトニウム降下量の長崎原爆のプルトニウムの全放出量に対する割合は、0.051%と算定した(ただし、長崎原爆プルトニウムの北極圏降下率0.0045Bq/m^2,global falloutに寄与した長崎原爆由来のPu量は13.8kg,Pu-239/240放射能比は0.12とした)。プルトニウムは、例えば原爆から多量に放出される核分裂生成物セシウム-137が、核分裂の初期段階において希ガス(キセノン)であるのと異なり、爆発当初から耐火性無機鉱物として放出される。従って、大気中核実験由来のプルトニウムの挙動を,大気中に吹き上がる火山灰のアナログとして用いて、例えばアイスコア中に保存された火山灰量から当初の火山の噴火規模を逆算することができると考えた。さらに、申請者らは、貴重なアイスコアを最大限に活用する目的で、非破壊的にアイスコアの電気伝導度を測定する装置を考案し、アイスコアの電気伝導度を測定した。その結果、アイスコア中の陰イオン量と電気伝導度の間に良好な相関を見出した。歴史的大噴火時には、硫黄酸化物に代表される多量の火山性ガスが放出され、北極に到達すると考えられるため、電気伝導度測定により火山灰の得られそうな氷層の目安がつけられると考えられた。今後、アイスコアの一部を溶解して粒子状物質の元素成分を測定するとともに、日本各地の火山灰の元素組成を調査して、アイスコア中の火山灰の起源を明らかにしていく計画である。今年度は、北極雪氷水の分析項目の多元化のため、(1)試料の保存やコア切断等の前処理に当たって発生する試料の汚染ないしは劣化の防止、(2)各分析項目毎の、試料の消耗量を必要最小限化、に重点をおいて検討をすすめた。すなわち、直径10cmの1本のコアの約1cm厚さの各氷層から、酸素同位体比、主たる不純物成分(Na,K,Mn,Ca,Mg,Fe,Al、SO_4^<2->,NO_3^-,Cl_3^-,F^-等の陰イオン)、さらに極微量不純物成分の全ての分析データを得ることを目的とした。具体的な検討項目とその結果は、以下の通りであった。1.高純度水中の不純物元素濃度とその低減対策:当実験所で得られる高純度水の主成分Na,K,Mg,Ca,Al,Feの濃度は0.04-0.3ppbであり、雪氷コアの分析前処理には、ほぼ差し支えなかった。清浄度クラス100環境下での水採取容器の酸洗浄、クラス10,000の環境では、いったん開封した水はたえず新鮮なものに交換すること、等の注意が必要であった。2.試料保存容器からの移染に伴う試料劣化とその防止対策:容器の酸洗浄が不十分であれば、高度の汚染が発生した。3.試料保存容器への分析成分吸着に伴う試料劣化とその防止対策:種々検討の結果、クラス100環境下で非沸騰蒸留した高純度硝酸で、pH2に調整するのが、適当と考えられた。4.雪氷コア試料の切断に伴う試料汚染とその防止対策:バンドソーで切断することにより、高度の汚染が発生し、今後検討を要する。5. Na,K,Mg,Ca,Al,Feの分析感度・検出限界の検討と試料消費量低減化の対策:誘導結合プラズマ質量分析装置に、マイクロコンセントリックネブライザ・シールドトーチを取り付けることにより、1から7pptの検出限界値がえられ、試料消耗量も1回の分析あたり60μl程度に低減化できた。この手法により、北極雪氷水の分析を行い、表記の元素について1-10ppbの値を得た。
KAKENHI-PROJECT-09044164
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オ-タコイドと副甲状腺ホルモン関連蛋白による骨代謝調節に関する研究
SCC-HOSO担癌ヌードマウスは腫瘍移植後3週頃より血中カルシウムレベルが上昇し、4週では明らかに高カルシウム血症を呈する。この時期には血中副甲状腺関連蛋白(以下PTHrP)は有意に上昇し、血中プロスタグランディンE2(以下PGE2)も上昇していた。プロスタグランディン合成阻害剤インドメサシンの投与により、血中カルシウムレベルの上昇は不完全に抑制され、血中PTHrPの上昇も不完全に抑制された。SCC-HOSOがPGE2とPTHrPを産出していることは以前に報告したが、この両者の調節機構について実験を行った。RT-PCRにより、SCC-HOSOはプロスタグランディンE2受容体のうち、EP2を発現していることが推測されたが、PTHrPの受容体であるPTH/PTHRP-RのmRNAは検出されなかった。培養SCC-HOSO細胞にPGE2を添加すると、SCC-HOSOのPTHrPのmRNAが発現が増強した。SCC-HOSO培養上清中には長管骨骨吸収活性測定系にて骨吸収活性が認められたが、この活性は、プロスタグランディン合成阻害剤であるインドメサシン共存下で調整した培養上清では不完全に阻害された。また、PGE2共存下で調整した培養上清では増強されていた。3.まとめ以上の結果から、SCC-HOSOの産出するPGE2が自身のPTHrP産出を調整(増強)している可能性が示された。今後、その調節機構についての解析を、主に細胞内情報伝達機構を中心に進める。SCC-HOSO担癌ヌードマウスは腫瘍移植後3週頃より血中カルシウムレベルが上昇し、4週では明らかに高カルシウム血症を呈する。この時期には血中副甲状腺関連蛋白(以下PTHrP)は有意に上昇し、血中プロスタグランディンE2(以下PGE2)も上昇していた。プロスタグランディン合成阻害剤インドメサシンの投与により、血中カルシウムレベルの上昇は不完全に抑制され、血中PTHrPの上昇も不完全に抑制された。SCC-HOSOがPGE2とPTHrPを産出していることは以前に報告したが、この両者の調節機構について実験を行った。RT-PCRにより、SCC-HOSOはプロスタグランディンE2受容体のうち、EP2を発現していることが推測されたが、PTHrPの受容体であるPTH/PTHRP-RのmRNAは検出されなかった。培養SCC-HOSO細胞にPGE2を添加すると、SCC-HOSOのPTHrPのmRNAが発現が増強した。SCC-HOSO培養上清中には長管骨骨吸収活性測定系にて骨吸収活性が認められたが、この活性は、プロスタグランディン合成阻害剤であるインドメサシン共存下で調整した培養上清では不完全に阻害された。また、PGE2共存下で調整した培養上清では増強されていた。3.まとめ以上の結果から、SCC-HOSOの産出するPGE2が自身のPTHrP産出を調整(増強)している可能性が示された。今後、その調節機構についての解析を、主に細胞内情報伝達機構を中心に進める。
KAKENHI-PROJECT-08672301
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08672301
生理活性物質の合成を指向したラジカル環化プロセスの開発と展開
筆者は、まず生理活性天然物の実用的合成を指向した新規ラジカル環化法の開発と展開を目的とし、アルキルラジカルが介在する環拡大反応及びアシルラジカルを経る7員環形成反応の開発と抗腫瘍活性を有するセスキテルペン、コンファーチンの不斉全合成への展開を検討した。さらに、ラジカル付加、ケイ素-酸素結合の酸化を鍵段階とするインターロイキン-1産生遊離阻害活性を有するジテルペン、トリプトキノンBおよびCの不斉全合成研究を行った。1、ラジカル環拡大反応の開発と抗腫瘍性セスキテルペン、コンファーチンの合成ラジカル環化と続くケイ素-酸素結合の酸化を組み合わせて用いる合成ルートに従って導いた基質をアルキル、及びアシルラジカル環化反応に付すことにより、ヒドロアズレン骨格を有する化合物の合成を行った。これより、抗腫瘍性セスキテルペン、コンファーチンの形式的不斉全合成を行った。この全合成は、不斉合成としては第2番目のものであり、その効率性と併せて合成化学的価値は大きい。2、ラジカル環化反応を活用するインターロイキン-1産生遊離阻害活性を有するキノイド型ジテルペン、トリプトキノンB及びCのキラル全合成ならびに植物カルス成分トリプトカロールの全合成と絶対立体構造の決定この合成における大きなポイントである2個の不斉四級炭素を含む四連続不斉中心の構築は、1で開発したプロセスを活用して高ジアステレオ選択的に行った。その出発物質である光学活性三環性ヒドロフェナンスレン誘導体の合成は、candida由来のリパーゼを用いる光学分割法を用いて効率的行った。これより植物から微量にしか得られないインターロイキン-1産生遊離阻害活性を有するキノイド型ジテルペントリプトキノンB及びCの合成を行った。ここで開発した合成ルートは、両天然物の大量供給を可能にした。また、著者の研究室で植物カルスの一成分として単離し、トリプトキノンB及びCの生合成前駆体と考えられるジテルペン、トリプトカロールの全合成も、この方法を適用することで達成した。さらに、トリプトカロールより2工程操作で簡便にトリプトキノンCへと導く方法も確立し、未知であったトリプトカロールの絶対立体構造の確認も行うことが出来た。ここで開発した方法論は、両エナンチオマーを効率良く得ることが出来るものであり、慢性関節リウマチ治療薬の開発の基礎を築いた。筆者は、まず生理活性天然物の実用的合成を指向した新規ラジカル環化法の開発と展開を目的とし、アルキルラジカルが介在する環拡大反応及びアシルラジカルを経る7員環形成反応の開発と抗腫瘍活性を有するセスキテルペン、コンファーチンの不斉全合成への展開を検討した。さらに、ラジカル付加、ケイ素-酸素結合の酸化を鍵段階とするインターロイキン-1産生遊離阻害活性を有するジテルペン、トリプトキノンBおよびCの不斉全合成研究を行った。1、ラジカル環拡大反応の開発と抗腫瘍性セスキテルペン、コンファーチンの合成ラジカル環化と続くケイ素-酸素結合の酸化を組み合わせて用いる合成ルートに従って導いた基質をアルキル、及びアシルラジカル環化反応に付すことにより、ヒドロアズレン骨格を有する化合物の合成を行った。これより、抗腫瘍性セスキテルペン、コンファーチンの形式的不斉全合成を行った。この全合成は、不斉合成としては第2番目のものであり、その効率性と併せて合成化学的価値は大きい。2、ラジカル環化反応を活用するインターロイキン-1産生遊離阻害活性を有するキノイド型ジテルペン、トリプトキノンB及びCのキラル全合成ならびに植物カルス成分トリプトカロールの全合成と絶対立体構造の決定この合成における大きなポイントである2個の不斉四級炭素を含む四連続不斉中心の構築は、1で開発したプロセスを活用して高ジアステレオ選択的に行った。その出発物質である光学活性三環性ヒドロフェナンスレン誘導体の合成は、candida由来のリパーゼを用いる光学分割法を用いて効率的行った。これより植物から微量にしか得られないインターロイキン-1産生遊離阻害活性を有するキノイド型ジテルペントリプトキノンB及びCの合成を行った。ここで開発した合成ルートは、両天然物の大量供給を可能にした。また、著者の研究室で植物カルスの一成分として単離し、トリプトキノンB及びCの生合成前駆体と考えられるジテルペン、トリプトカロールの全合成も、この方法を適用することで達成した。さらに、トリプトカロールより2工程操作で簡便にトリプトキノンCへと導く方法も確立し、未知であったトリプトカロールの絶対立体構造の確認も行うことが出来た。ここで開発した方法論は、両エナンチオマーを効率良く得ることが出来るものであり、慢性関節リウマチ治療薬の開発の基礎を築いた。
KAKENHI-PROJECT-08672426
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光イメージング応用を志向した巨大π共役系短波赤外色素分子の創製
光イメージング法は、分子レベルでの生命現象の解明に向けた医療診断研究における強力な分析ツールであり、より迅速に高解像度でかつ低S/N比の組織画像を取得する生体深部イメージング応用には、極限的に低エネルギー(波長1000 nm以上)の短波赤外光を利用した色素分子の開発が必須である。しかしながら、低分子有機色素の開発例は極めて限られており、本研究では環拡張ポルフィリンを基盤とした短波赤外色素の開発研究を実施する。光イメージング法は、分子レベルでの生命現象の解明に向けた医療診断研究における強力な分析ツールであり、より迅速に高解像度でかつ低S/N比の組織画像を取得する生体深部イメージング応用には、極限的に低エネルギー(波長1000 nm以上)の短波赤外光を利用した色素分子の開発が必須である。しかしながら、低分子有機色素の開発例は極めて限られており、本研究では環拡張ポルフィリンを基盤とした短波赤外色素の開発研究を実施する。
KAKENHI-PROJECT-19K05439
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2つの血管新生抑制遺伝子と自殺遺伝子との融合遺伝子による乳癌遺伝子治療効果の増強
【In vitro study】pEndo(endostatin),pAngio(angiostatin)および両遺伝子を融合したpEndo:Angioの各ベクターが機能しているかを確認するため、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)に遺伝子導入し、Matrigelにて培養し、血管腔形成能を見た結果、いずれのベクターとも血管腔の形成阻害を示した。【In vivo study】《実験1》BALB/c系雌マウスにBJMC3879細胞を移植し、腫瘍径が0.2cm大に達した時点で、腫瘍内にpEndo、pAngio、pEndo:Angioおよび空ベクターを注入し、Electro gene transferした。この処置を週1回の割合で7週間行った結果、pEndoおよびpEndo:Angio群で、実験開始の1週後より有意な増殖抑制が示され、実験終了時まで観察された。pAngio群では7週において有意な抑制が示されたのみであった。《実験2》最も成績の良かったpEndoと自殺遺伝子(pHSVtk/GCV)との複合遺伝子治療を同様のマウス乳癌モデルに対して行った。この実験では腫瘍径が1cm以上に達した場合、遺伝子の腫瘍内の分布を向上させるため、注入量を増加させた。その結果、経時的な腫瘍体積では、pEndoおよびpHSVtk/GCVで有意な抑制が観察され、両者の複合投与群ではそれぞれの単独群に比較して、更に抑制が観察された。リンパ節や肺への転移においても、これらの群では有意な抑制が観察された。しかしながら、転移においては遺伝子複合による加算的・相乗的効果は示されなかった。血管内皮細胞のマーカーであるvWF抗体を用いた腫瘍組織内の微小血管の定量解析では、pEndoおよび複合投与群(pEndo+pHSVtk/GCV)で有意な減少が、また全ての治療群でDNA合成の有意な抑制並びにアポトーシス細胞の有意な増加が観察された。更に、リンパ管内皮のマーカーのPodoplanin抗体を用いて、腫瘍内リンパ管を解析したところ、pEndoと複合投与群で、癌細胞がリンパ管内侵襲しているリンパ管の数が有意に減少していた。以上、高転移性マウス乳癌モデルに対する血管新生抑制遺伝子を用いた癌遺伝子治療では、endostatinで強い抗腫瘍効果と抗転移作用を発揮し、HSVtk/GCVとの複合投与では更に強い抗腫瘍効果が示されたが、転移についてはその増強作用は見られなかった。【In vitro study】pEndo(endostatin),pAngio(angiostatin)および両遺伝子を融合したpEndo:Angioの各ベクターが機能しているかを確認するため、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)に遺伝子導入し、Matrigelにて培養し、血管腔形成能を見た結果、いずれのベクターとも血管腔の形成阻害を示した。【In vivo study】《実験1》BALB/c系雌マウスにBJMC3879細胞を移植し、腫瘍径が0.2cm大に達した時点で、腫瘍内にpEndo、pAngio、pEndo:Angioおよび空ベクターを注入し、Electro gene transferした。この処置を週1回の割合で7週間行った結果、pEndoおよびpEndo:Angio群で、実験開始の1週後より有意な増殖抑制が示され、実験終了時まで観察された。pAngio群では7週において有意な抑制が示されたのみであった。《実験2》最も成績の良かったpEndoと自殺遺伝子(pHSVtk/GCV)との複合遺伝子治療を同様のマウス乳癌モデルに対して行った。この実験では腫瘍径が1cm以上に達した場合、遺伝子の腫瘍内の分布を向上させるため、注入量を増加させた。その結果、経時的な腫瘍体積では、pEndoおよびpHSVtk/GCVで有意な抑制が観察され、両者の複合投与群ではそれぞれの単独群に比較して、更に抑制が観察された。リンパ節や肺への転移においても、これらの群では有意な抑制が観察された。しかしながら、転移においては遺伝子複合による加算的・相乗的効果は示されなかった。血管内皮細胞のマーカーであるvWF抗体を用いた腫瘍組織内の微小血管の定量解析では、pEndoおよび複合投与群(pEndo+pHSVtk/GCV)で有意な減少が、また全ての治療群でDNA合成の有意な抑制並びにアポトーシス細胞の有意な増加が観察された。更に、リンパ管内皮のマーカーのPodoplanin抗体を用いて、腫瘍内リンパ管を解析したところ、pEndoと複合投与群で、癌細胞がリンパ管内侵襲しているリンパ管の数が有意に減少していた。以上、高転移性マウス乳癌モデルに対する血管新生抑制遺伝子を用いた癌遺伝子治療では、endostatinで強い抗腫瘍効果と抗転移作用を発揮し、HSVtk/GCVとの複合投与では更に強い抗腫瘍効果が示されたが、転移についてはその増強作用は見られなかった。《腫瘍内でのGFP遺伝子発現》BALB/c系雌マウスの鼠径部皮下にBJMC3879乳癌細胞を移植し、腫瘍径が0.5cm時点でGFPの発現ベクターのpEGFP-N1をElectrogene transferした。条件は100Voltで、1パルスが20msecの長さで8回繰り返す様に設定した。遺伝子導入後、経時的に腫瘍内のGFP蛍光を測定した結果、2日後より明らかな発現が観察され、3日および7日の間で有意な増加が観察され、以降減衰を示したが、14日後においても弱いながら発現が示された。《腫瘍増殖抑制実験》BALB/
KAKENHI-PROJECT-15591368
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15591368
2つの血管新生抑制遺伝子と自殺遺伝子との融合遺伝子による乳癌遺伝子治療効果の増強
c系雌マウスに上述の如くBJMC3879細胞を移植し、腫瘍径が0.2cm大に達した時点で、腫瘍内にpEndo、pAngio、pEndo:Angioおよび空ベクターを注入し、Electrogene transferした。この処置を週1回の割合で7週間行った結果、pEndoおよびpEndo:Angio群で、実験開始の1週後より有意な増殖抑制が示され、実験終了時まで観察された。pAngio群では7週において有意な抑制が示された。現在、病理組織標本および電顕標本を作製中であり、今後、病理組織学的に転移の有無を詳細に検討するとともに電顕的に腫瘍内の微小血管内皮を解析する。また、血管内皮のマーカーであるCD31抗体を用いて、乳癌組織における微小血管を定量する。更に、屠殺時にBrdUの腹腔内投与を行っているので、乳癌細胞のDNA合成、Apoptosisについても定量する。【腫瘍増殖抑制実験】昨年度の実験では、endostatin、angiostatinおよび両者の融合遺伝子を用いて、マウス乳癌モデルに対して癌遺伝子治療を行った結果、endostatinでは抗腫瘍効果が見られたが、angiostatinでは効果がなかった事から、今年度は最も成績の良かったendostatin(pEndo)と自殺遺伝子(pHSVtk/GCV)との複合遺伝子治療を同様のマウス乳癌モデルに対して行った。この実験では腫瘍径が1cm以上に達した場合、遺伝子の腫瘍内の分布を向上させるため、注入量を増加させた。動物の実験期間は8週間で、週1回の割合でElectrogene transferを実施した。【結果】経時的な腫瘍体積では、pEndoおよびpHSVtk/GCVで有意な抑制が観察され、両者の複合投与群ではそれぞれの単独群に比較して、更に抑制が観察された。リンパ節や肺への転移においても、これらの群では有意な抑制が観察された。しかしながら、転移においては遺伝子複合による加算的・相乗的効果は示されなかった。血管内皮細胞のマーカーであるvWF抗体を用いた腫瘍組織内の微小血管の定量解析では、pEndoおよび複合投与群(pEndo+pHSVtk/GCV)で有意な減少が、また全ての治療群でDNA合成の有意な抑制並びにアポトーシス細胞の有意な増加が観察された。更に、リンパ管内皮のマーカーのPodoplanin抗体を用いて、腫瘍内リンパ管を解析したところ、pEndoと複合投与群で、癌細胞がリンパ管内侵襲しているリンパ管の数が有意に減少していた。以上、高転移性マウス乳癌モデルに対する血管新生抑制遺伝子を用いた癌遺伝子治療では、endostatinで強い抗腫瘍効果と抗転移作用を発揮し、HSVtk/GCVとの複合投与では更に強い抗腫瘍効果が示されたが、転移についてはその増強作用は見られなかった。
KAKENHI-PROJECT-15591368
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基板吸収型超伝導トンネル接合X線検出器の開発
2-4keVの軟X線領域で高感度・高エネルギー分解能を両立し微量元素のXAFS測定を目的として、超伝導トンネル接合(STJ)にピクセル化されたSi吸収体(SPA)を取り付けた新しい検出器の製造法および特性を研究した。400ミクロン厚のSi基板に100素子STJ検出器を製作し、裏面よりSi基板に深さ350ミクロンの溝をドライエッチングにより形成してSPAとした。エネルギー分解能は5.9 keVのX線に対して135eVFWHM、読み出しノイズは18eVFWHMであった。100素子アレイをXAFS測定に用い、ソーダガラス中の微量元素(硫黄、濃度0.1%)の吸収スペクトル測定に成功した。微細加工されたSi単結晶を吸収体とする超伝導トンネル接合(STJ)検出器を開発し、X線吸収分光法に革新をもたらすことを目的としている。目的実現のため、STJ検出器を形成したSi基板に微細加工を施す技術、Si基板に施す加工がSTJ検出器に与える影響の評価を行う。H25年度の目標は(1)アニール特性の評価、(2)Si単結晶を吸収体とするSTJ検出器の試作、(3)Si単結晶を吸収体とするSTJ検出器の評価、の3つであった。(1)アニール特性評価:Siを加工する際にSTJに熱が加わり、性能が劣化することが懸念されたため、アニールによる特性変化を測定する計画であった。同様の加工を行った際にSTJにダメージが見られないことが、埼玉大学のグループにより2013年秋の応用物理学会に於いて報告されたため、この項目はスキップした。(2)試作:微細加工されたSi単結晶を吸収体とするSTJ検出器の作成に成功した。既に高性能のX線検出器として動作することが検証されたSTJチップを用いる予定であったが、このチップは裏面が梨地でSi深堀加工に適さなかったため、両面研磨Si基板を購入し、AISTのCRAVITYに於いてSTJを作成し、NIMSの微細加工プラットフォームに於いてSi基板への深溝加工を行った。(3)評価:歩留まりは初回の試作では7割で、3割の素子には断線が見られた。断線の原因は、冷却時のストレスにより深溝加工部分に亀裂が生じ、その亀裂が成長したことであると考えられる。X線(Mn-Kα, 5.9keV)に対するエネルギー分解能は最良の素子で135eV FWHMであった。2回目の試作では亀裂が成長しにくいよう溝の構造を改めた。歩留まりは9割まで向上した。製作した素子を高エネ研・フォトンファクトリーBL-11Bで使用し、2-4keVでのX線吸収分光に利用できることを確認した。本研究は、微細加工されたSi単結晶を吸収体とする超伝導トンネル接合(STJ)検出器を開発し、高感度かつ高分解能のX線分光検出を実現することにより、X線吸収分光法に革新をもたらすことを目的としている。この目的の実現のため、STJ検出器を形成したSi基板に微細加工を施す技術の研究、およびSi基板に施す加工がSTJ検出器に与える影響の評価を行っている。平成25年度の研究により二つの課題(1) Si基板に加工を行う際に線幅が設計値20ミクロンに対して35ミクロン程度になること(2)入射方位により波高スペクトルの形状が異なること、が明らかになった。平成26年度はそれらを解決するための取り組み、検出器の試作、試作した検出器の評価を行った。フォトレジストよりエッチング耐性が高い材料としてメタルマスクを利用したところ、線幅の設計値からのずれは従来の1/4以下となった。今年度作製した検出器では、昨年度作成したものに比べて応答が半分程度であり、読出しノイズおよびエネルギー分解能は昨年度製作したものより悪かった。応答が小さい原因を探るため赤外線顕微鏡を用いて透過像観察を行ったところ、吸収体とSTJ検出器の位置が最大で50ミクロンずれていることが明らかになった。この値は吸収体サイズの半分に相当するため、波高を低下させる原因の一つと考えられる。また光源と検出器の間に直線導入機およびスリットを導入し波高スペクトルの入射位置依存性を測定可能とした。入射位置依存性は、高エネルギー加速器研究機構放射光施設BL-11Bに於いて実施した。吸収体の中心にX線が入射した際には波高が高く、周囲では波高値が低いこと、特定の照射部位では異常に波高が高い成分があることがわかった。異常に波高が高い成分が生じる原因は不明だが、吸収体と検出器の位置がずれていることと関係あるかもしれない。本研究は、微細加工されたSi単結晶を吸収体とする超伝導トンネル接合(STJ)検出器を開発し、高感度かつ高分解能のX線分光検出を実現することにより、X線吸収分光法に革新をもたらすことを目的としている。この目的の実現のため、STJ検出器を形成したSi基板に微細加工を施す技術の研究、およびSi基板に施す加工がSTJ検出器に与える影響の評価を行っている。本年度は最終年度であり、初年度、2年度に確立した加工方法を基に、より高いエネルギー分解能が得られると期待される構造の素子の作成を行った。STJ検出器を産総研CRAVITYで試作した。裏面の加工はNIMS微細加工ナノテクノロジープラットフォームに依頼した。今年度の加工においては、裏面加工の際に、メタルマスク除去後、表面に四角錐状の穴が無数に生じた。
KAKENHI-PROJECT-25390142
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基板吸収型超伝導トンネル接合X線検出器の開発
メタルマスクの材料としてアルミニウムを用いていたが、アルミニウムの除去に異常に時間がかかっており、エッチングの際にアルミニウムが化合物、たとえばシリサイドを形成している可能性がある。これを避けるため、マスクの厚さを従来の3倍としたもの、マスクの材料をクロム、MgOとしたものを試作した。マスクを厚くすること、またはMgOとしたところ、四角錐状の穴の数、大きさは減少した。しかしながら四角錐状の穴は依然残っており、設計通りの形状を実現する作成プロセスの研究が必要である。全期間をまとめると、Si単結晶をX線吸収体とするSTJ検出器を製作した。歩留まりを高めるピクセル形状・配置を検討し、9割の歩留まりを実現した。X線検出特性は、5.9 keVにてエネルギー分解能135eV,読出しノイズ18eVである。試作した100素子アレイを用いKEK-PF・BL-11Bにて2-4keVの微量軽元素のX線吸収分光を行い、濃度0.1%の硫黄の吸収スペクトル測定に成功した。2-4keVの軟X線領域で高感度・高エネルギー分解能を両立し微量元素のXAFS測定を目的として、超伝導トンネル接合(STJ)にピクセル化されたSi吸収体(SPA)を取り付けた新しい検出器の製造法および特性を研究した。400ミクロン厚のSi基板に100素子STJ検出器を製作し、裏面よりSi基板に深さ350ミクロンの溝をドライエッチングにより形成してSPAとした。エネルギー分解能は5.9 keVのX線に対して135eVFWHM、読み出しノイズは18eVFWHMであった。100素子アレイをXAFS測定に用い、ソーダガラス中の微量元素(硫黄、濃度0.1%)の吸収スペクトル測定に成功した。平成25年度の研究により、シリコン吸収体を形成するために基板に刻む線幅の広がりが、バックグラウンドを上昇させていることがわかった。平成26年度はメタルマスクを導入し線幅の広がりを防ぐことができた。これはバックグラウンド成分の低減につながる重要な結果である。また赤外線透過像の観察により吸収体の位置がSTJ検出器の位置からずれていることがわかった。これのずれを解消できれば感度や分解能が改善する可能性がある。極低温検出器当初の計画では最終年度はSOI基板を用いて吸収体を薄くすることにより、高い分解能を狙うこととしていた。しかし平成26年度の研究により、STJ検出器の位置と、吸収体の位置の間にずれがあることが明らかになった。このようなずれがある状態でSOI基板を用いて複雑な工程に挑戦すると、位置精度はさらに悪化することが懸念される。そこで平成27年度は加工精度を向上させることを主な目標として、二つの方向からアプローチする。一つは加工方法の変更である。従来は、はじめにSTJ検出器の側のアライメントマークを基準にマスクパターンを形成して貫通ビアを開け、次にビアの位置を基準にして裏面よりSi基板を加工している。この2ステップの加工を改め、両面アライナを用いて一度のリソグラフィー・深堀加工で加工を終了させる。もう一つは加工精度に応じた素子形状の変更で、50ミクロンのずれがあることを前提とした吸収体・STJ検出器の配置とする。これらの組み合わせにより最適な加工方法を明らかにすることを目指す。素子の試作に成功し、高い歩留りと半導体検出器と同等のエネルギー分解能を実現した。試作した素子はX線吸収分光に用いることができた。
KAKENHI-PROJECT-25390142
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エイズ高度汚染地域における病原真菌・放線菌の採集・調査とその資源化
エイズは、免疫力を弱らせることによって、他の細菌のよる2次感染を引き起こし、患者が死に至るような重篤な病気を引き起こす。ブラジル、タイ、インドネシアの研究者、医療関係者と協力して、エイズ患者を中心に感染者からエイズ病原放線菌、真菌を採集し、医療に役立てるとともに、菌株遺伝子資源として解析・保存した。これらの輸入菌株・国内採集菌株について、菌株・遺伝子資源として科学や産業に利用し、医療のための情報を提供する目的で、採集菌株の個人情報を含まない感染患者情報、菌の遺伝子情報、生理生化学的性状、薬剤感受性、画像情報などを集積したデータ・ベースを構築している(24年度公開予定)。エイズは、免疫力を弱らせることによって、他の細菌のよる2次感染を引き起こし、患者が死に至るような重篤な病気を引き起こす。ブラジル、タイ、インドネシアの研究者、医療関係者と協力して、エイズ患者を中心に感染者からエイズ病原放線菌、真菌を採集し、医療に役立てるとともに、菌株遺伝子資源として解析・保存した。これらの輸入菌株・国内採集菌株について、菌株・遺伝子資源として科学や産業に利用し、医療のための情報を提供する目的で、採集菌株の個人情報を含まない感染患者情報、菌の遺伝子情報、生理生化学的性状、薬剤感受性、画像情報などを集積したデータ・ベースを構築している(24年度公開予定)。タイ国立感染症研究所と共同して、タイ国内のエイズ患者など易感染性患者の病巣から採取された放線菌40種余りについて分子系統学的、形態学的、生理生化学的解析を行った。結果、多くの新種のストレプトマイセス属放線菌が、2次感染の原因菌をなっていることが明らかになった。この内特に既存の菌種との系統学上の差異が大きいもの1種について、新種としての提案を行った。ブラジル国のエイズ患者や家畜・ペットから単離された放線菌約90種について、分子系統学的、生理生化学的解析を行った。多くはノカルジア属に近縁の放線菌であったが、ストレプトマイセス属菌、バチルス属菌、その他の属の菌と近縁である菌も単離された。新種と思われる菌株については、現在、さらに共同研究により解析を進めている。インドネシア大学医学部・微生物学講座と究力して、同大学病院を訪れるエイズ患者より単離したカンジダ菌について分子系統学的解析を行った。結果は、22年度にジャカルタ市で開催される国際真菌感染症フォーラムで発表の予定である。また、同大寄生虫学講座の連携により、同国エイズ患者のクリップトコッカス症原因菌についての研究協力関係を確立した。南アフリカ・ヨハネスブルグのウイッツワーター大学遺伝学部と協力し、北米の乳牛に広範な薬剤(アミカシン)耐性感染症(乳房炎)を起こし、社会的な問題となったノカルジア・ファルシニカ(エイズ患者にとっても大変に危険な病原因子である)の耐性獲得機構について解析し、論文として報告した。ブラジル・サンパウロ州のヒト、家畜、ペットの感染症原因菌と考えられた放線菌を本年度はさらに60株を輸入し、生理生化学的性状やリボゾーマルRNAの遺伝子配列の解析を行って、特殊な病態について報告し、また疫学的な結果についてまとめた(投稿準備中)。これらの輸入菌株について、今後、放線菌資源として利用するためのデータベース作成など準備を進めている。さらに、日本国内のヒト放線菌症患者からもノカルジア菌等を中心に収集・解析を進め、データ・ベースを構築し、本センターのホームページでの公開準備を進めている。インドネシア・ジャカルタ市のインドネシア大学医学部から千葉大学大学院(真菌医学研究センター)に留学中の学生およびインドネシア大学の教員2名と共同で、主にインドネシアの大学病院を訪れたエイズ等に起因する免疫不全患者が発症したカンジダ症について、菌型に関する分子疫学的な調査を行った。結果は、第9回国際菌学会(英国エジンバラ市)等で発表した。カンジダ等ヒトに病原性を持つ菌種多数種を含む酵母40種あまりの細胞表面糖鎖について、植物由来の糖鎖結タンパク(レクチン)をスライド・ガラスに貼りつけたレクチン・アレイを用いて菌の属や種による違い、種間の違いについて体系的な解析を行い、病原性と糖鎖の関連などについて考察した。結果は米国糖質学会(フロリダ)で発表し、投稿準備中である。ダンゴ虫腸管中に抗菌活性物質を産生する新規の放線菌(ストレプトマイセス属菌)を発見し、新種として報告し、新規化合物の単離を試みた(発表済)。南アフリカ・ヨハネスブルグ市のウィッツワータースランド大学遺伝学教室より、ダボス博士と柴山研究員を招き、病原放線菌に関する今後の共同研究について討議し計画を立てた。ブラジルの大学・病院・医療関係者と協力してブラジル・サンパウロ州のヒト(主としてエイズ感染者)、家蓄、ペットの感染症原因菌と考えられた放線菌を200株あまり輸入し、生理生化学的性状やリボゾーマルRNAの遺伝子配列の解析を行って、特殊な病態について報告し、また疫学的な結果についてまとめた(論文投稿中)。またタイ国立感染症研究所の研究者と協力して、タイ国各地の病院を訪れたエイズ患者からヒト病原性放線菌を採集し、分子生物学、生理生化学的な性状を解析して、現地の医療に役立てるとともに、細菌資源として蓄積・整備した。結果、多くの新種のストレプトマイセス属放線菌が、2次感染の原因菌をなっていることが明らかになった。この中から、新種のストレプトマイセス属放線菌を発見し報告準備中である。
KAKENHI-PROJECT-21406003
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21406003
エイズ高度汚染地域における病原真菌・放線菌の採集・調査とその資源化
ダンゴ虫腸管中に抗菌活性物質を産生する新規の放線菌(ストレプトマイセス属菌)を発見し、新種として報告し、新規化合物の単離を試みた(発表済)。さらに、日本国内のエイズ患者やガン患者その他の感染者からもノカルジア菌等を中心にヒト病原性放線菌を収集し、菌種を同定し薬剤感受性を測定して医療に役立てた。これらの輸入菌株・国内採集菌株について、菌株資源として科学や産業に利用し、医療のための情報を提供する目的で、採集菌株の感染患者情報(個人情報を含まない)、遺伝子情報、生理生化学的情報、薬剤感受性情報、画像情報などを集積したデータ・ベースを構築してい-る(24年度公開予定)。カンジダ等ヒトに病原性を持つ菌種多数種を含む酵母40種あまりの細胞表面糖鎖について、植物由来の糖鎖結タンパク(レクチン)をスライド・ガラスに貼りつけたレクチン・アレイを用いて菌の属や種による違い、種間の違いについて体系的な解析を行い、病原性と糖鎖、の関連などについて考察した。結果は国際学会および専門誌上で発表した。
KAKENHI-PROJECT-21406003
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21406003
光不活化法によるグルタミン酸受容体トラフィックのリアルタイム解析
本研究では、新規に開発された「cagedグルタミン酸受容体ブロッカー」であるANQXの光分解法を用いて、海馬スライス標本におけるAMPA型グルタミン酸受容体の分子動態をリアルタイムで解析することを目的とした。これまでの研究でGFPや金コロイド粒子などの分子タグで標識されたAMPA受容体のシナプス発現が動的に制御されることが明らかとなったが、分子標識が付いていない内在性の受容体の動態を調べた報告は無く、本研究はこの点を明らかにすることを目指した。紫外線の照射により「cagedグルタミン酸受容体ブロッカー」であるANQXを光学的に分解することで、時間的・空間的にコントロールされた形で細胞膜に発現するグルタミン酸受容体機能を不活化することが可能となる。そこで、光照射によりAMPA受容体を不活化し、その後の応答の回復の時間経過を観察することで、受容体トラフィックの速度論的解析を行う。本年度は、昨年度の本研究で合成したANQXを海馬スライス標本のニューロンに適用し光不活化実験を行うための予備実験を開始し、照射時間や強度などの条件を定めた。また、今後AMPA受容体トラフィックの分子機構を追求するために、AMPA受容体の足場タンパクであるTARPsファミリーのうち、海馬で最も強い発現がみられるγ8のノックアウトマウスの電気生理学的解析を行い、AMPA受容体のシナプス発現が著しく低下することを明らかにした。脳の主要な興奮性伝達物質受容体であるグルタミン酸受容体のシナプス発現は神経活動依存的に極めて動的に制御されていることが明らかとなり注目を集めている。本研究では、新規に開発された「cagedグルタミン酸受容体ブロッカー」であるANQXの光分解法を用いて、海馬スライス標本におけるAMPA型およびカイニン酸型グルタミン酸受容体の分子動態をリアルタイムで解析することを目的とする。光学的な手法を用いることで、時間的・空間的にコントロールされた形で細胞膜に発現するグルタミン酸受容体機能を不活化することが可能となる。そこで、光照射によりAMPA受容体およびカイニン酸受容体を不活化し、その後の応答の回復の時間経過を観察することで、受容体トラフィックの速度論的解析を行う。これまでの研究でGFPや金コロイド粒子などの分子タグで標識されたAMPA受容体およびNMDA受容体のシナプス発現が動的に制御されていることは知られているが、分子標識が付いていない内在性の受容体の動的制御の有無を調べた報告は無く、本研究はこの点を検証するものと位置づける。本年度は海馬ニューロンにおける光不活化実験を行うための予備実験を開始し、海馬CA3野のAMPA受容体とカイニン酸受容体応答の記録条件を求め、また、「cagedグルタミン酸受容体ブロッカー」であるANQXのカスタム合成を行い、合成と純度のチェックを終えた。今後これを海馬スライスに適用して、内在性AMPA受容体およびカイニン酸受容体のトラフィックに関する実験を開始する。本研究では、新規に開発された「cagedグルタミン酸受容体ブロッカー」であるANQXの光分解法を用いて、海馬スライス標本におけるAMPA型グルタミン酸受容体の分子動態をリアルタイムで解析することを目的とした。これまでの研究でGFPや金コロイド粒子などの分子タグで標識されたAMPA受容体のシナプス発現が動的に制御されることが明らかとなったが、分子標識が付いていない内在性の受容体の動態を調べた報告は無く、本研究はこの点を明らかにすることを目指した。紫外線の照射により「cagedグルタミン酸受容体ブロッカー」であるANQXを光学的に分解することで、時間的・空間的にコントロールされた形で細胞膜に発現するグルタミン酸受容体機能を不活化することが可能となる。そこで、光照射によりAMPA受容体を不活化し、その後の応答の回復の時間経過を観察することで、受容体トラフィックの速度論的解析を行う。本年度は、昨年度の本研究で合成したANQXを海馬スライス標本のニューロンに適用し光不活化実験を行うための予備実験を開始し、照射時間や強度などの条件を定めた。また、今後AMPA受容体トラフィックの分子機構を追求するために、AMPA受容体の足場タンパクであるTARPsファミリーのうち、海馬で最も強い発現がみられるγ8のノックアウトマウスの電気生理学的解析を行い、AMPA受容体のシナプス発現が著しく低下することを明らかにした。
KAKENHI-PROJECT-18059001
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18059001
スフェロイド形成細胞の形態変化に着目した、卵巣癌腹膜播種進展の病態解明と治療開発
マウス腹膜癌細胞株であるID8にKRAS活性化をした細胞株(ID8-KRAS)では浮遊状態でのスフェロイド形成の亢進と腹膜癌形成の促進を認めていた。KRAS活性化とスフェロイド形成の関係を調べるため、まず、ヒト細胞株(RAS経路に変異を認める卵巣がん細胞株2種と、変異を認めない卵巣がん細胞株3種類)を検討した結果、スフェロイド形成能には明らかな差は認めなかった。次に、2016 PLoS Oneで報告した通り、KRASのみならずcMYCもマウスin vivoモデルにおいて腹膜播種形成を促進することを確認していることを元に、cMYCも同様にスフェロイド形成を促進する作用があるかを検討した。その結果、cMYC導入ID8株(ID8-MYC)ではID8に比べて有意にスフェロイド形成能が高いことを見出した。これらの結果より、スフェロイド形成能に影響を及ぼす因子はKRASの活性化以外のがん遺伝子変異の影響も関与している可能性が示唆された。次に、がん遺伝子の有無と、形態変化によって発現が変化する遺伝子群を検討するためにマイクロアレイ検査を行った。その結果、ID8細胞とID8-KRAS細胞は2次元培養では遺伝子発現にほとんど差を認めなかったのに対し、3次元培養においては顕著な遺伝子発現変化を認めること、特に3次元培養においてID8-KRAS細胞でRAS-RAF-MEK経路の活性化が顕著であることを確認した。また、この経路の阻害剤であるTrametinibを使用することでin vitroにおけるスフェロイド形成の有意な阻害を認めるとともに、マウスモデルにおける腹膜癌形成を有意に阻害することを確認した。また、マイクロアレイの検討より、スフェロイド形態におけるグルタミン代謝経路の活性とマクロファージなどのケモカインであるCXCL17の発現上昇を認めた。スフェロイド形成の亢進がKRAS変異特異的なものかどうかを、ヒト細胞株を用いた検討と、cMYC導入マウス細胞株を用いて検討し、KRAS特異的でないことを確認できた。また、in vivoモデルにおいて、KRAS誘導性のスフェロイド形成亢進をターゲットとした治療戦略についても検討ができた。代謝経路についての確認としては、グルタミン経路がスフェロイド形成に重要である可能性が示唆された。この結果をもとに、グルタミン欠乏状態において、スフェロイド形成能に及ぼす影響を検討する。また、CXCL17の検討に関しては、2018年度に引き続きshRNA技術を用いたshCXCL17細胞株を樹立し、shCXCL17-ID8-KRAS株とshCXCL17-ID8株を用いてin vivoマウスモデルを作成し、腹水形成や腹膜播種形成に及ぼす影響を検討する。また、腹腔内環境の変化を腹水中のマクロファージやTreg, MDSCに着目して検討する。マウス腹膜癌細胞株であるID8にKRAS活性化をした細胞株(ID8-KRAS)では浮遊状態でのスフェロイド形成の亢進と腹膜癌形成の促進を認めていた。KRAS活性化とスフェロイド形成の関係を調べるため、まず、ヒト細胞株(RAS経路に変異を認める卵巣がん細胞株2種と、変異を認めない卵巣がん細胞株3種類)を検討した結果、スフェロイド形成能には明らかな差は認めなかった。次に、2016 PLoS Oneで報告した通り、KRASのみならずcMYCもマウスin vivoモデルにおいて腹膜播種形成を促進することを確認していることを元に、cMYCも同様にスフェロイド形成を促進する作用があるかを検討した。その結果、cMYC導入ID8株(ID8-MYC)ではID8に比べて有意にスフェロイド形成能が高いことを見出した。これらの結果より、スフェロイド形成能に影響を及ぼす因子はKRASの活性化以外のがん遺伝子変異の影響も関与している可能性が示唆された。次に、がん遺伝子の有無と、形態変化によって発現が変化する遺伝子群を検討するためにマイクロアレイ検査を行った。その結果、ID8細胞とID8-KRAS細胞は2次元培養では遺伝子発現にほとんど差を認めなかったのに対し、3次元培養においては顕著な遺伝子発現変化を認めること、特に3次元培養においてID8-KRAS細胞でRAS-RAF-MEK経路の活性化が顕著であることを確認した。また、この経路の阻害剤であるTrametinibを使用することでin vitroにおけるスフェロイド形成の有意な阻害を認めるとともに、マウスモデルにおける腹膜癌形成を有意に阻害することを確認した。また、マイクロアレイの検討より、スフェロイド形態におけるグルタミン代謝経路の活性とマクロファージなどのケモカインであるCXCL17の発現上昇を認めた。スフェロイド形成の亢進がKRAS変異特異的なものかどうかを、ヒト細胞株を用いた検討と、cMYC導入マウス細胞株を用いて検討し、KRAS特異的でないことを確認できた。また、in vivoモデルにおいて、KRAS誘導性のスフェロイド形成亢進をターゲットとした治療戦略についても検討ができた。代謝経路についての確認としては、グルタミン経路がスフェロイド形成に重要である可能性が示唆された。この結果をもとに、グルタミン欠乏状態において、スフェロイド形成能に及ぼす影響を検討する。また、CXCL17の検討に関しては、2018年度に引き続きshRNA技術を用いたshCXCL17細胞株を樹立し、shCXCL17-ID8-KRAS株とshCXCL17-ID8株を用いてin vivoマウスモデルを作成し、腹水形成や腹膜播種形成に及ぼす影響を検討する。
KAKENHI-PROJECT-18K16757
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スフェロイド形成細胞の形態変化に着目した、卵巣癌腹膜播種進展の病態解明と治療開発
また、腹腔内環境の変化を腹水中のマクロファージやTreg, MDSCに着目して検討する。
KAKENHI-PROJECT-18K16757
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暗黒物質探索のための単原子メーザー法による超高感度マイクロ波検出装置
暗黒物質を形成する素粒子の有力な候補として、いわゆる"見えない"axion(アクシォン)が示唆されている。このaxionを観測する方法として、強磁場中で光子に転換させ、その転換光子マイクロ波を高感度で検出することが考えられる。本研究では、単原子メーザー法;リュドベルク原子ビームレーザー分光により、従来にない超高感度でマイクロ波を検出する装置を開発しようとするものである。特に2、4GHz近傍のaxion転換マイクロ波を、液体ヘリウム温度に冷却した超伝導Nb空洞共振器の中で、リュドベルク状態に励起されたアルカリ原子ビームにより検出することを試みる。以上の目的を遂行するために、今年度の研究実施計画予定に従って超伝導Nb共振空洞、液体ヘリウム3用クライオスタット、原子ビーム発生源、及び電離イオン検出のためのフィールドイオン化装置を上記目的に合致するよう設計、製作した。クライオスタットは約20時間の連続使用が出来、液体ヘリウムG3により約0.5Kまで空洞の冷却が出来る。超伝導Nb共振空洞は矩形のTE_<101>型のもので、クライオスタット下部に、着脱容易で取り扱いやすいように配置されている。空洞はNbとCuのクラッド板を用い、プランジャー方式で共振周波数を大幅に変化させ、微細調整は挿入した絶縁棒を移動させて行う。Nbによる実際の空洞の製作に先き立ち、銅を用いた試験用空洞を使って、加工、機械的機能、特性の検討を行った。原子ビームは水平方向の入射とし、空洞通過後フィールドイオン化させて電子増倍管により検出される。装置の全系を組み上げて、全体の調整テストを行った。現在まだ予備運転の段階で、種々の特性が完全には期待通りに出ていないが、ほぼ目的を達成出来る状態に到達し得るものと考えている。今後、来年度購入予定で申請中のレーザー源の完成を待って光源系を整備し、リュドベルグ原子ビームによる実際の光子検出を行う。暗黒物質を形成する素粒子の有力な候補として、いわゆる"見えない"axion(アクシォン)が示唆されている。このaxionを観測する方法として、強磁場中で光子に転換させ、その転換光子マイクロ波を高感度で検出することが考えられる。本研究では、単原子メーザー法;リュドベルク原子ビームレーザー分光により、従来にない超高感度でマイクロ波を検出する装置を開発しようとするものである。特に2、4GHz近傍のaxion転換マイクロ波を、液体ヘリウム温度に冷却した超伝導Nb空洞共振器の中で、リュドベルク状態に励起されたアルカリ原子ビームにより検出することを試みる。以上の目的を遂行するために、今年度の研究実施計画予定に従って超伝導Nb共振空洞、液体ヘリウム3用クライオスタット、原子ビーム発生源、及び電離イオン検出のためのフィールドイオン化装置を上記目的に合致するよう設計、製作した。クライオスタットは約20時間の連続使用が出来、液体ヘリウムG3により約0.5Kまで空洞の冷却が出来る。超伝導Nb共振空洞は矩形のTE_<101>型のもので、クライオスタット下部に、着脱容易で取り扱いやすいように配置されている。空洞はNbとCuのクラッド板を用い、プランジャー方式で共振周波数を大幅に変化させ、微細調整は挿入した絶縁棒を移動させて行う。Nbによる実際の空洞の製作に先き立ち、銅を用いた試験用空洞を使って、加工、機械的機能、特性の検討を行った。原子ビームは水平方向の入射とし、空洞通過後フィールドイオン化させて電子増倍管により検出される。装置の全系を組み上げて、全体の調整テストを行った。現在まだ予備運転の段階で、種々の特性が完全には期待通りに出ていないが、ほぼ目的を達成出来る状態に到達し得るものと考えている。今後、来年度購入予定で申請中のレーザー源の完成を待って光源系を整備し、リュドベルグ原子ビームによる実際の光子検出を行う。
KAKENHI-PROJECT-63629504
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福井県丹南地域における土砂災害対策支援GISの構築
本研究では,土砂災害のソフト的な対策支援を目的とした地理情報システム(GIS)の構築を行った.具体的には,2004年福井豪雨災害を事例として,近隣の丹南地区(鯖江市,越前市の山間部)において発生した斜面崩壊の特性を分析した.また,その分析結果に基づく危険度評価を用いて,土砂災害対策支援GISを構築した.本課題では,上述のGISを構築するために,5つのステップに区切って研究を実施した.なお,平成19年度は,ステップ1から3の総括,ステップ4および5を実施した.ステップ1では,2004年福井豪雨を誘因として広域に発生した斜面崩壊についてALOS AVNIR-2の衛星画像を用いて,位置・規模・形態・形状を検出した.空間分解能の不足を補うために,平成19年度は,SPOT5衛星のパンシャープン画像を作成し,この画像データを用いて斜面崩壊の検出を行った.その結果,高精度で崩壊箇所の位置・規模・形態・形状を捉えることができた.また,斜面崩壊箇所の検出に関するトレーニングデータを取得するために,現地調査を実施した.ステップ2では,土砂災害の特性を分析するための各種の地理情報(地形,地質,植生等)を準備するために,ディジタイズ等の作業を行った.ステップ3では,ステップ1において検出した斜面崩壊について,ステップ2で構築した各種の地理情報を用いて斜面崩壊の地形・地質・植生の特性を分析した.併せて,過去の降雨データを用いた降雨特性の分析も実施した.ステップ4では,ステップ3の特性分析結果を基に,斜面ユニット(単一斜面)ごとに数量化理論II類を用いて精度の高い斜面崩壊の危険度評価を行った.ステップ5では,以上の結果を統合し,土砂災害対策支援GISを構築した.災害直前,災害直後,平常時などにおいて,場面(時間)ごとの対策支援が可能となるシステムが構築できた.わが国は,急峻な地形を有し,脆弱な地質で構成されている.また,地震が多く,台風や集中豪雨に見舞われやすいという気象条件を持つ.このような背景から,毎年のように土砂災害が多発しており,その対策に多くの力が注がれている.そこで本研究では,2004年福井豪雨を事例として,福井県丹南地区における土砂災害のソフト的な対策支援を目的とした地理情報システムの構築を行う.平成18年度は,ALOSデータを用いた斜面崩壊の検出および現地調査,広域での災害特性分析を実施するためのデータベースの準備,地形・地質・植生に関する災害特性分析を実施した.これまでに得られた結論を以下に示す.(1)崩壊箇所の検出は,可視域赤のレベルスライス処理を行うことで崩壊箇所を正確に検出することができた.なお,検出結果は,現地調査の結果とほぼ一致した.(2)北海道地図発行の10mメッシュDEMを用いて地形に関する土砂災害の特性分析を行った結果,崩壊箇所に関しては,「30から35゚」の斜面傾斜角が最も頻度が高かった.また,地すべり地形については,「25から30゚」の頻度が最も高かった.(3)地質調査所発行の1:200,000地質図を用いて地質に関する土砂災害の特性分析を行った結果,崩壊箇所および崩壊箇所地すべり地形のほとんどが,「陸上-水底安山岩溶岩及び火山岩」であった.(4)植生に関する土砂災害の特性分析を行った結果,対象域全体,崩壊箇所,地すべり地形ともに,「スギ,ヒノキ,サワラ植林」が最も多かった.平成19年度は,災害特性分析結果を用いた土砂災害(斜面崩壊,地すべり)の危険度評価を実施する.さらに,最終的には住民の避難支援や砂防ダム建設の優先順位決定に有用な土砂災害対策支援GISを構築する.本研究では,土砂災害のソフト的な対策支援を目的とした地理情報システム(GIS)の構築を行った.具体的には,2004年福井豪雨災害を事例として,近隣の丹南地区(鯖江市,越前市の山間部)において発生した斜面崩壊の特性を分析した.また,その分析結果に基づく危険度評価を用いて,土砂災害対策支援GISを構築した.本課題では,上述のGISを構築するために,5つのステップに区切って研究を実施した.なお,平成19年度は,ステップ1から3の総括,ステップ4および5を実施した.ステップ1では,2004年福井豪雨を誘因として広域に発生した斜面崩壊についてALOS AVNIR-2の衛星画像を用いて,位置・規模・形態・形状を検出した.空間分解能の不足を補うために,平成19年度は,SPOT5衛星のパンシャープン画像を作成し,この画像データを用いて斜面崩壊の検出を行った.その結果,高精度で崩壊箇所の位置・規模・形態・形状を捉えることができた.また,斜面崩壊箇所の検出に関するトレーニングデータを取得するために,現地調査を実施した.ステップ2では,土砂災害の特性を分析するための各種の地理情報(地形,地質,植生等)を準備するために,ディジタイズ等の作業を行った.ステップ3では,ステップ1において検出した斜面崩壊について,ステップ2で構築した各種の地理情報を用いて斜面崩壊の地形・地質・植生の特性を分析した.併せて,過去の降雨データを用いた降雨特性の分析も実施した.ステップ4では,ステップ3の特性分析結果を基に,斜面ユニット(単一斜面)ごとに数量化理論II類を用いて精度の高い斜面崩壊の危険度評価を行った.ステップ5では,以上の結果を統合し,土砂災害対策支援GISを構築した.災害直前,災害直後,平常時などにおいて,場面(時間)ごとの対策支援が可能となるシステムが構築できた.
KAKENHI-PROJECT-18710156
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単スリットを用いた位相イメージング法の開発
平成30年度では、本研究課題で提案しているイメージング法において、最も重要な部分であるX線用の単スリットを購入し、現有の移動ステージと組み合わせて装置の光学系を作製することができた。また、移動ステージによる試料の移動と撮影を同期させ、連続撮影が可能な自動システムを構築することもできた。そして、既存のソフトウェアに機能を追加する形で、得られた多数のデータを一括処理して位相像を得るためのソフトウェアも作成できた。このことにより、これまで手動で行ってきた方法に比べ、短時間での撮影、および解析、画像化を行うことが可能になり、一連の作業が迅速化された。さらに、X線光学の立場から、本手法で画像化する量、特に位相像である屈折像と、散乱像の意味を理論的に説明できた。つまり、検出器の分解能よりも十分大きな物体については屈折像として、分解能以下のサイズの物体の集合体については散乱像として検出できることが分かった。そして、実験的にもそれを確認できるデータを得ることができた。加えて、次段階の目標の一つである、撮影に使用するX線のエネルギーについて、予備的な実験で使用した15keVを、20keVに上昇させても鮮明な像を得られることが確認できた。また、若干鮮明さに劣るが、30keVでも撮影を行い位相像を得ることが可能であった。以上より、平成30年度において、本研究課題で当初予定していた位相イメージング装置の作製と自動化、および、処理ソフトの作成はおよそ実現できた。本研究課題における第一段階の目的であった、単スリットを用いた位相イメージング装置の開発においては、海外で同様の手法を使ったイメージング装置の開発が予想以上に進展している。そのため、装置開発の面での新規性は当初予定したほど十分な独自性を発揮できなかった。しかしながら、装置能力の評価方法、具体的には屈折像、散乱像における分解能の定量評価を行う方法の開発および、実際に立ち上げた装置における分解能評価という面においては、他に先駆けて成果を出すことができた。このような装置能力の定量評価は、装置開発の段階においては諸条件を決めるために必須であり、この点においては有利な立場にある。本研究課題における第一段階の目標である、単スリットを用いた位相イメージング法用装置の作製は完了した。また、屈折像、および散乱像用の分解能評価方法、およびそのための評価用試料も開発が終わっている。そこで第二段階では、それらの試料を使用して、スリット幅や試料-検出器間距離等の撮影条件を変化させつつ、分解能評価を行い最適な撮影条件を見つける。そして、撮影時間のさらなる短縮と高分解能化を実現する。平成30年度では、本研究課題で提案しているイメージング法において、最も重要な部分であるX線用の単スリットを購入し、現有の移動ステージと組み合わせて装置の光学系を作製することができた。また、移動ステージによる試料の移動と撮影を同期させ、連続撮影が可能な自動システムを構築することもできた。そして、既存のソフトウェアに機能を追加する形で、得られた多数のデータを一括処理して位相像を得るためのソフトウェアも作成できた。このことにより、これまで手動で行ってきた方法に比べ、短時間での撮影、および解析、画像化を行うことが可能になり、一連の作業が迅速化された。さらに、X線光学の立場から、本手法で画像化する量、特に位相像である屈折像と、散乱像の意味を理論的に説明できた。つまり、検出器の分解能よりも十分大きな物体については屈折像として、分解能以下のサイズの物体の集合体については散乱像として検出できることが分かった。そして、実験的にもそれを確認できるデータを得ることができた。加えて、次段階の目標の一つである、撮影に使用するX線のエネルギーについて、予備的な実験で使用した15keVを、20keVに上昇させても鮮明な像を得られることが確認できた。また、若干鮮明さに劣るが、30keVでも撮影を行い位相像を得ることが可能であった。以上より、平成30年度において、本研究課題で当初予定していた位相イメージング装置の作製と自動化、および、処理ソフトの作成はおよそ実現できた。本研究課題における第一段階の目的であった、単スリットを用いた位相イメージング装置の開発においては、海外で同様の手法を使ったイメージング装置の開発が予想以上に進展している。そのため、装置開発の面での新規性は当初予定したほど十分な独自性を発揮できなかった。しかしながら、装置能力の評価方法、具体的には屈折像、散乱像における分解能の定量評価を行う方法の開発および、実際に立ち上げた装置における分解能評価という面においては、他に先駆けて成果を出すことができた。このような装置能力の定量評価は、装置開発の段階においては諸条件を決めるために必須であり、この点においては有利な立場にある。本研究課題における第一段階の目標である、単スリットを用いた位相イメージング法用装置の作製は完了した。また、屈折像、および散乱像用の分解能評価方法、およびそのための評価用試料も開発が終わっている。そこで第二段階では、それらの試料を使用して、スリット幅や試料-検出器間距離等の撮影条件を変化させつつ、分解能評価を行い最適な撮影条件を見つける。そして、撮影時間のさらなる短縮と高分解能化を実現する。当該年度において、本研究課題で使用する単スリット法装置の重要な部分の一つである、試料移動ステージを購入予定であったが、現有のステージが流用可能であることが判明したため購入の必要がなくなった。
KAKENHI-PROJECT-18K12027
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K12027
単スリットを用いた位相イメージング法の開発
また、高エネルギー加速器研究機構で実験を行う際の補助者の雇用を予定していたが、当該研究所スタッフから十分なサポートが得られたため、必要がなくなったことにより未使用額が発生した。平成31年度においては、最適な撮影条件を見つけるため、スリット幅や試料-CCD間距離等の諸条件を変更しつつ分解能の評価を行う。そのため、多量の画像データが蓄積される。そこで、大容量のハードディスクを購入する。平成30年度に得たデータ量から推定し、本来予定していたよりもさらに容量が大きなハードディスクを購入予定である。平成30年度に生じた残額は、そのために使用する予定である。また、条件を変化させるためのスリット調整用のステージ、CCDカメラ移動用のステージの購入については計画通りに使用する。平成30年度で得られた高エネルギー加速器研究機構スタッフの補助は、平成31年度においては受けられない。そのため、実験補助者の雇用も計画通り行う。さらに、得られた成果の一部を発表するため、学会参加のための費用、論文の校閲費も計画通り使用する。
KAKENHI-PROJECT-18K12027
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ノックアウトマウスを用いたMHC領域内non-HLA遺伝子機能の解析(疾患感受性遺伝子の検索)
主要組織適合複合(major histocompatibility complex ; MHC)にはヒト白血球型抗原(human leukocyte antigen ; HLA)の遺伝子群が存在し、多様なHLA分子は、免疫系による「自己」と「非自己」の識別機構に中心的な役割をはたす。特定のHLA型が自己免疫疾患への罹患し易さ(疾患感受性)と相関する現象は古くから知られているが、その機序は未だに不明である。申請者らはMHC領域の遺伝子が強い連鎖不均衡にあることに着目し、MHC領域に存在するHLA以外の遺伝子(non-HLA遺伝子)が、疾患感受性遺伝子の本態であるという仮説を検証したいと考えている。すなわち、本研究ではMHC領域の中でも、もっとも疾患感受性との関わりが深い腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子の周辺のnon-HLAへ遺伝子群についてノックアウトマウスを作製し、non-HLA遺伝子の疾患感受性への関与を調べる研究に取り組んだ。そのため、セントロメアからテロメアにかけてlymphotoxi-β(LTβ)、TNF、lymphotoxin-α(LTα)の3つの遺伝子がクラスターを形成して存在する、いわゆるTNF/lymphotoxin locus周辺の遺伝子に焦点を当てて研究を進めた。今回の研究では、TNF/lymphotoxin locusのセントロメア側とテロメア側に存在する2種類の遺伝子を最初の破壊遺伝子として、ノックアウトマウスを作製する作業に取り組んだ。いずれの遺伝子も生体内での役割は不明であるが、生体防御機構に深く関わり、それによって炎症を主病変とする疾患の病態形成に関与している可能性が高い。本研究期間中に1種類の遺伝子についてはキメラマウスの作製まで到達したが、もう1つの遺伝子については、targeting vectorの構築を完了した段階である。今後は、これら2種類の遺伝子のノックアウトマウスを出来るだけ早急に完成させ、MHC遺伝子が疾患感受性と関わるメカニズムについて、個体レベルで明かにしてゆきたい。主要組織適合複合(major histocompatibility complex ; MHC)にはヒト白血球型抗原(human leukocyte antigen ; HLA)の遺伝子群が存在し、多様なHLA分子は、免疫系による「自己」と「非自己」の識別機構に中心的な役割をはたす。特定のHLA型が自己免疫疾患への罹患し易さ(疾患感受性)と相関する現象は古くから知られているが、その機序は未だに不明である。申請者らはMHC領域の遺伝子が強い連鎖不均衡にあることに着目し、MHC領域に存在するHLA以外の遺伝子(non-HLA遺伝子)が、疾患感受性遺伝子の本態であるという仮説を検証したいと考えている。すなわち、本研究ではMHC領域の中でも、もっとも疾患感受性との関わりが深い腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子の周辺のnon-HLAへ遺伝子群についてノックアウトマウスを作製し、non-HLA遺伝子の疾患感受性への関与を調べる研究に取り組んだ。そのため、セントロメアからテロメアにかけてlymphotoxi-β(LTβ)、TNF、lymphotoxin-α(LTα)の3つの遺伝子がクラスターを形成して存在する、いわゆるTNF/lymphotoxin locus周辺の遺伝子に焦点を当てて研究を進めた。今回の研究では、TNF/lymphotoxin locusのセントロメア側とテロメア側に存在する2種類の遺伝子を最初の破壊遺伝子として、ノックアウトマウスを作製する作業に取り組んだ。いずれの遺伝子も生体内での役割は不明であるが、生体防御機構に深く関わり、それによって炎症を主病変とする疾患の病態形成に関与している可能性が高い。本研究期間中に1種類の遺伝子についてはキメラマウスの作製まで到達したが、もう1つの遺伝子については、targeting vectorの構築を完了した段階である。今後は、これら2種類の遺伝子のノックアウトマウスを出来るだけ早急に完成させ、MHC遺伝子が疾患感受性と関わるメカニズムについて、個体レベルで明かにしてゆきたい。主要組織適合複合体(major histocompatibility complex;MHC)領域には「自己と非自己の識別」という免疫系の基本原則に直接関わる中心的な分子の遺伝子群が存在する一方、このような機能とは直接関わらない遺伝子群が存在し、古典的なHLA遺伝子に対してnon-HLA遺伝子と呼ばれる。他方、特定のHLA型が自己免疫疾患をはじめとするおよそ200種類の疾患の疾患感受性と相関を示すことが知られているが、その本態は不明である。MHC領域に存在する疾患感受性遺伝子の解明を目指し、これまでに申請者らは、この領域に存在する3種類のnon-HLA遺伝子(lymphotoxin-α遺伝子、factor B遺伝子およびS遺伝子)の機能をノックアウトマウスを用いて明らかにし、これらの遺伝子と疾患感受性との関わりについて検討してきた。本研究では、このアプローチをさらに発展させ、多数のnon-HLA遺伝子についてノックアウトマウスを作製し、疾患感受性の本能となるnon-HLA遺伝子の同定を試みる。すなわち、lymphotoxin-β、TNF、lymphotoxin-αの3つの遺伝子がクラスターを形成して存在する領域近傍に存在するB144(LST-1)とIkB-like (IkBL)を最初の破壊遺伝子とした。現在、targeting vectorの構築を行ない、これらの遺伝子のES細胞へのTransfectionを開始し相同組換え体の取得を試みている。これら2つの遺伝子は発現様式と構造から、生体防御機構に深く関わり、それによって炎症を主病変とする疾患の病態形成にも関与している可能性がある。今後は、これら2種類の遺伝子ノックアウトマウスの作製に向けて作業を進めて行きたい。
KAKENHI-PROJECT-11557013
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11557013
ノックアウトマウスを用いたMHC領域内non-HLA遺伝子機能の解析(疾患感受性遺伝子の検索)
主要組織適合複合体(major histocompatibility complex;MHC)領域には「自己と非自己の識別」という免疫系の基本原則に直接関わる中心的な分子の遺伝子群が存在する一方、このような機能とは直接関わらない遺伝子群が存在し、古典的なHLA遺伝子に対してnon-HLA遺伝子と呼ばれる。他方、特定のHLA型が自己免疫疾患をはじめとするおよそ200種類の疾患の疾患感受性と相関を示すことが知られているが、その本態は不明である。MHC領域に存在する疾患感受性遺伝子の解明を目指し、これまでに申請者らは、この領域に存在する3種類のnon-HLA遺伝子(lymphotoxin-α遺伝子、factor B遺伝子およびS遺伝子)の機能をノックアウトマウスを用いて明らかにし、これらの遺伝子と疾患感受性との関わりについて検討してきた。本研究では、このアプローチをさらに発展させ、多数のnon-HLA遺伝子についてノックアウトマウスを作製し、疾患感受性の本態となるnon-HLA遺伝子の同定を試みる。すなわち、lymphotoxin-β、TNF、lymphotoxin-αの3つの遺伝子がクラスターを形成して存在する領域近傍に存在するB144(LST-1)とIkB-like(IkBL)を最初の破壊遺伝子とした。現在、targeting vectorの構築を終了し、これらの遺伝子のES細胞へのtransfectionにより、IkBLについては相同組換え体を取得した。これら2つの遺伝子は発現様式と構造から、生体防御機構に深く関わり、それによって炎症を主病変とする疾患の病態形成にも関与している可能性がある。今後は、これら2種類の遺伝子ノックアウトマウスの作製に向けて、さらに作業を進めて行く。主要組織適合複合体(major histocompatibility complex ; MHC)にはヒト白血球型抗原(human leukocyte antigen ; HLA)の遺伝子群が存在し、多様なHLA分子は、免疫系による「自己」と「非自己」の識別機構に中心的な役割をはたす。特定のHLA型が自己免疫疾患への罹患し易さ(疾患感受性)と相関する現象は古くから知られているが、その機序は未だに不明である。そこで、申請者らはMHC領域の中でも、もっとも疾患感受性との関わりが深い腫瘍壊死因子(TNF)遺伝子の周辺に存在する、いわゆる非HLA遺伝子群についてノックアウトマウスを作製し、これらの遺伝子の疾患感受性に関与するメカニズムを調べる研究に取り組んでいる。すなわち、MHC遺伝子と疾患感受性との関わりを明らかにする目的で、セントロメアからテロメアにかけてlymphotoxin-β(LTβ)、TNF、lymphotoxin-α(LHα)の3つの遺伝子がクラスターを形成して存在する、いわゆるTNF/lymphotoxin locus周辺の遺伝子に焦点を当て、研究を進めている。
KAKENHI-PROJECT-11557013
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近代化の計量社会学的分析
本研究の目的は、日本の近代化過程を、産業化の観点からの統一的に捉えた後、実証データにもとづいて解明することにあった。まず戦後40有余年を経て一応の近代化を達成した今日、日本社会は転機を迎え新しい社会編成原理が要請されていることが明らかになった。つぎに日本の近代化過程の実証的分析に関しては、データの入手可能性の制約のため、時代を戦後日本社会に限定し、領域も社会階層に限定して、階層構造の変動過程の分析を行なった。用いたデータは「社会階層と社会移動(通称SSM)」全国調査3時点(1955年,1965年,1975年)データである。昭和60年度には、地位の非一貫性(Status in coneistlncy)に関して分析を行ない、(1)1955年から1975年までの20年間に地位の非一貫性が増大したこと、(2)地位非一貫性の増大は下層一貫の人びとの生活水準の上昇によって可能になったこと、(3)地位非一貫性が欲求不満やストレスをひきおこし、革新的な政治態度と結びつきやすいというレンスキー(Lenski,G.)の仮説は、日本社会にはあてはまらないこと、が明らかになった。昭和61年度には階層帰属意識に関してすう勢分析を行ない、(1)1955年から1975年までの20年間に「中」に帰属させる人の割合が増大したこと、(2)階層帰属意識が社会的地位によって規定される度合が小さくなったこと、が明らかになった。戦後日本社会の変動を社会階層論の観点から概括するならば、戦後の日本社会が未曽有の平等社会を実現したということになるのである。ところで、一般に価値としての平等主義は、同質化規範と差異化規範という相対立する規範を内臓している。したがって、これら2つの規範のどちらが社会の中心的な編成原理になるかによって、成熟を迎えた日本型中流社会の今後の変貌を見すえることも可能になるであろう。本研究の目的は、日本の近代化過程を、産業化の観点からの統一的に捉えた後、実証データにもとづいて解明することにあった。まず戦後40有余年を経て一応の近代化を達成した今日、日本社会は転機を迎え新しい社会編成原理が要請されていることが明らかになった。つぎに日本の近代化過程の実証的分析に関しては、データの入手可能性の制約のため、時代を戦後日本社会に限定し、領域も社会階層に限定して、階層構造の変動過程の分析を行なった。用いたデータは「社会階層と社会移動(通称SSM)」全国調査3時点(1955年,1965年,1975年)データである。昭和60年度には、地位の非一貫性(Status in coneistlncy)に関して分析を行ない、(1)1955年から1975年までの20年間に地位の非一貫性が増大したこと、(2)地位非一貫性の増大は下層一貫の人びとの生活水準の上昇によって可能になったこと、(3)地位非一貫性が欲求不満やストレスをひきおこし、革新的な政治態度と結びつきやすいというレンスキー(Lenski,G.)の仮説は、日本社会にはあてはまらないこと、が明らかになった。昭和61年度には階層帰属意識に関してすう勢分析を行ない、(1)1955年から1975年までの20年間に「中」に帰属させる人の割合が増大したこと、(2)階層帰属意識が社会的地位によって規定される度合が小さくなったこと、が明らかになった。戦後日本社会の変動を社会階層論の観点から概括するならば、戦後の日本社会が未曽有の平等社会を実現したということになるのである。ところで、一般に価値としての平等主義は、同質化規範と差異化規範という相対立する規範を内臓している。したがって、これら2つの規範のどちらが社会の中心的な編成原理になるかによって、成熟を迎えた日本型中流社会の今後の変貌を見すえることも可能になるであろう。
KAKENHI-PROJECT-60510104
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エンドセリンの受容体及び変換酵素レベルでの心不全形成に果たす意義の解明
エンドセリン(ET)-1はアンジオテンシンII産生系と同様にET変換酵素(ECE)によって前駆体Big-ETからET-1へ変換され、ET-A及びET-B受容体を介して血管収縮、心筋細胞肥大や線維増生に機能する。(1)ETA受容体拮抗薬FR139317、ETA/B ; TAK044、ETB ; K8794を、ヒト拡張型心筋症に相当する高頻度右室ペーシング心不全イヌに投与し、心不全でのETの意義を検討した。ETはETA受容体を介して血管抵抗を増加させ、糸球体濾過率、腎血漿流量を低下させ水ナトリウム貯留的に働くが、遠位尿細管での水再吸収には関係しない。しかしETB受容体を介しては、血管抵抗を低下させ腎血漿流量の増加させる。さらに遠位尿細管、集合管での水再吸収を低下させ体液排泄的に作用している。しかしレニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAA)分泌を有意に抑制している事が明らかになった。(2)ECEとアンジオテンシン変換酵素(ACE)両阻害が心筋リモデリングの形成過程に単独阻害よりも有効かは明かにするため、ECE阻害薬FR901533とACE阻害薬エナラプリルを慢性併用投与し心筋リモデリングに及ぼす効果を単独群と検討した。ECE/ACE阻害薬は各単独治療群と比して左室径の拡大を防止し、左室内圧の上昇を抑制した。不全心でのSR Ca2+-ATPase mRNAのupregulationに伴い、拡張能の指標である時定数タウの有意な短縮を認めた。線維化の指標であるcollagen I、III mRNAの発現を低下させ、picrosirus red染色で定量したコラーゲン蓄積を抑制した。ECEを介したET-1産生は心リモデリング形成に重要な役割を演じているが、ECE/ACE両阻害薬は単に血行動態の改善にとどまらず、Caハンドリングの改善、線維化抑制を介して単独阻害に比してより心不全改善効果を有すると考えられた。エンドセリン(ET)-1はアンジオテンシンII産生系と同様にET変換酵素(ECE)によって前駆体Big-ETからET-1へ変換され、ET-A及びET-B受容体を介して血管収縮、心筋細胞肥大や線維増生に機能する。(1)ETA受容体拮抗薬FR139317、ETA/B ; TAK044、ETB ; K8794を、ヒト拡張型心筋症に相当する高頻度右室ペーシング心不全イヌに投与し、心不全でのETの意義を検討した。ETはETA受容体を介して血管抵抗を増加させ、糸球体濾過率、腎血漿流量を低下させ水ナトリウム貯留的に働くが、遠位尿細管での水再吸収には関係しない。しかしETB受容体を介しては、血管抵抗を低下させ腎血漿流量の増加させる。さらに遠位尿細管、集合管での水再吸収を低下させ体液排泄的に作用している。しかしレニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAA)分泌を有意に抑制している事が明らかになった。(2)ECEとアンジオテンシン変換酵素(ACE)両阻害が心筋リモデリングの形成過程に単独阻害よりも有効かは明かにするため、ECE阻害薬FR901533とACE阻害薬エナラプリルを慢性併用投与し心筋リモデリングに及ぼす効果を単独群と検討した。ECE/ACE阻害薬は各単独治療群と比して左室径の拡大を防止し、左室内圧の上昇を抑制した。不全心でのSR Ca2+-ATPase mRNAのupregulationに伴い、拡張能の指標である時定数タウの有意な短縮を認めた。線維化の指標であるcollagen I、III mRNAの発現を低下させ、picrosirus red染色で定量したコラーゲン蓄積を抑制した。ECEを介したET-1産生は心リモデリング形成に重要な役割を演じているが、ECE/ACE両阻害薬は単に血行動態の改善にとどまらず、Caハンドリングの改善、線維化抑制を介して単独阻害に比してより心不全改善効果を有すると考えられた。1.心不全下で増加したエンドセリン(ET)がETA及びETB受容体を介していかに心不全の体液バランスに関与しているかは明らかでない。ETA受容体拮抗薬FR139317、ETA/B受容体拮抗薬TAK044を、ヒト拡張型心筋症に相当する高頻度右室ペーシング心不全イヌに投与し、各受容体を通した腎での水、ナトリウム調節に及ぼすETの意義、各ET受容体拮抗薬の心不全治療における体液量調節効果を検討した。ETはETA受容体を介して血管抵抗を増加させ、糸球体濾過率、腎血漿流量を低下させ水ナトリウム貯留的に働くが、遠位尿細管での水再吸収には関係しない。しかしETB受容体を介しては、血管抵抗を低下させ腎血漿流量の増加させる。さらに遠位尿細管、集合管での水再吸収を低下させ体液排泄的に作用しているに。よってETA受容体拮抗薬は腎血行動態を改善し利尿効果をもたらすと期待できるが、ETA/B拮抗薬はETB受容体を介した尿細管レベルでの水再吸収抑制により、心不全での利尿効果において劣るものと考えられた。
KAKENHI-PROJECT-12670661
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エンドセリンの受容体及び変換酵素レベルでの心不全形成に果たす意義の解明
2. ETB受容体を介したETの長期抑制が、心不全進展にいかに影響しうるかを更に明らかにするため、同じく心不全イヌを対象に、ETB受容体拮抗薬K8794の慢性投与を行ない、心血行動態、神経体液因子、体液量調節に及ぼす効果を検討した。K8794の慢性投与は心不全進展に伴う心内圧の上昇、心拍出量の低下を更に悪化させた。しかしレニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAA)分泌を有意に抑制し、予想に反し尿量低下を防止した。よってETB受容体拮抗薬の慢性阻害は血行動態的には障害的であるが、RAA系の抑制を介し、心不全の進展増悪を防止しうる可能性もあることが示唆された。1.「心不全におけるエンドセリン変換酵素慢性阻害の意義」エンドセリン(ET)-1は前駆体のBig-ETからET変換酵素(ECE)によってET-1へ変換され産生される。ECE阻害薬が心筋リモデリングの形成過程に有効か、またその機序はどうか、高頻度ペーシング心不全イヌにECE阻害薬FR901533を慢性投与し検討した。[結果]体血圧に心不全コントロール群と差は無かったが、ECE阻害薬は左室駆出率の低下、左室径の拡大を防止した。また不全心でのpreproET-1mRNAの発現抑制に加えて、SR Ca^<2+>-ATPase及びeNOS mRNAの発現を改善させ、collagen I、III mRNAの発現を低下させた。[結論]ECEを介したET-1産生は心リモデリング形成に重要な役割を演じており、ECE阻害薬はET-1抑制を通して不全心でのNOやCaハンドリングの改善、線維化抑制を介して心不全改善効果を有すると考えられる。2.「心不全進展過程においてエンドセリンは血管の構造的リモデリングを促進する」心不全は運動耐容能の低下と組織灌流の減少が特徴とされるが、血管構築の変化が病態の原因の一つと考えらる。ET-1は血管平滑筋増殖、線維化作用を有することから、ECE阻害が心不全の血管構築の変化を防止するか検討した。[結果]心不全では正常に比べ大腿動脈において中膜肥厚、内腔の狭小化、コラーゲン量の増加を認め、中膜でのET-1陽性細胞は有意に増加した。ECE阻害薬は血圧に影響を及ぼさず、大腿動脈の中膜肥厚、内腔の狭小化、線維増生という構築的変化を抑制し、ET-1陽性細胞数を減少させた。体血管抵抗を低下させた。[結論]心不全において、ET-1は単に血管トーヌスの調節のみならず、その構造的変化にも強く関与し、組織灌流、運動耐容能の規定因子として心不全の重要な役割を演じていることが示唆された。本年度は「心不全におけるエンドセリン及びアンジオテンシン変換酵素同時阻害の意義」を検討した。エンドセリン(ET)-1はアンジオテンシンII産生系と同様にET変換酵素(ECE)によって前駆体Big-ETからET-1へ変換され心筋細胞肥大や線維増生に機能する。現在アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が心不全治療に広く使用されるが、ECEとACE両阻害が心筋リモデリングの形成過程に単独阻害よりも有効かは明かでない。高頻度ペーシング心不全イヌにECE阻害薬FR901533とACE阻害薬エナラプリルを慢性併用投与し心筋リモデリングに及ぼす効果を単独群と検討した。[結果]体血圧に心不全対照群を含め各群間に差は無かったが、ECE/ACE阻害薬は各単独治療群と比して左室径の拡大を防止し、左室内圧の上昇を抑制した。心不全の予後規定因子の血漿ANP、アルドステロンを有意に低下させた。
KAKENHI-PROJECT-12670661
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被子植物の花粉外膜のパターン決定機構の解明
昨年度に引き続き、ジャケツイバラおよびコウホネを研究材料として、花粉外膜のパターン決定機構の解明の研究を遂行した。今年度は特に私の従来の研究で明らかにしてきた原形質膜による花粉外膜の基本的なパターン形成モデルの一般化にむけて検証することを中心とした。さらに、被子植物の各分類群にみられる花粉外膜の多様化の機構を明らかにすることと、初期花粉外膜の内部超微細高次講造の解明を研究の目的とした。これらの植物について、花粉母細胞の減数分裂から成熟花粉にいたる花粉形成過程に見られる小胞子および発達しつつある花粉の表層構造系の変化を超高分解能走査型電子顕微鏡および透過電子顕微鏡を用いて微細構造のレベルで追跡した。具体的には、野外でこれらの植物をサンプリングし花粉母細胞から成熟花粉にいたる適当な発育段階の雄蕊を光学顕微鏡で確認しながら切断し、小片化した後で、急速凍結固定およびパラホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドにて化学固定した。オスミウム産にて二重固定後、脱水処理し、TF-1型を用いて、凍結割断面を作製し、超高分解能走査型電子顕微鏡S-900にて、初期花粉外膜の内部超微細高次講造および連続的な発育段階に従って花粉外膜のパターンが決定されていく過程を3次元的に解析した。一方、急速凍結固定法は、四分子細胞が厚いカロース層に被われているためにどうしても氷晶ができてしまうと言う技術的問題を解決できなく成功しなかった。以上の結果、大きな針状突起をもコウホネの花粉の花粉外膜のパターン形成過程において、針状突起は上部表層突起と形成時期が異なっており、針状突起は4分子初期にカロースの中に伸長していくように形成されることが明らかになった。外観的には類似している針状突起にも上部表層突起と相同でないものがあることを示唆している。花粉外膜の層構造の相同性を明らかにしていくのに形成過程の研究が重要である。また、花粉外膜の内部基本構造が繊維状の構造物によって構成されていると言う新しい見解が生まれた。これらの研究成果は、それぞれ国際誌であるAmerican Journal of BotanyとReview of Paleobotany and Palynologyに発表した。昨年度に引き続き、ジャケツイバラおよびコウホネを研究材料として、花粉外膜のパターン決定機構の解明の研究を遂行した。今年度は特に私の従来の研究で明らかにしてきた原形質膜による花粉外膜の基本的なパターン形成モデルの一般化にむけて検証することを中心とした。さらに、被子植物の各分類群にみられる花粉外膜の多様化の機構を明らかにすることと、初期花粉外膜の内部超微細高次講造の解明を研究の目的とした。これらの植物について、花粉母細胞の減数分裂から成熟花粉にいたる花粉形成過程に見られる小胞子および発達しつつある花粉の表層構造系の変化を超高分解能走査型電子顕微鏡および透過電子顕微鏡を用いて微細構造のレベルで追跡した。具体的には、野外でこれらの植物をサンプリングし花粉母細胞から成熟花粉にいたる適当な発育段階の雄蕊を光学顕微鏡で確認しながら切断し、小片化した後で、急速凍結固定およびパラホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドにて化学固定した。オスミウム産にて二重固定後、脱水処理し、TF-1型を用いて、凍結割断面を作製し、超高分解能走査型電子顕微鏡S-900にて、初期花粉外膜の内部超微細高次講造および連続的な発育段階に従って花粉外膜のパターンが決定されていく過程を3次元的に解析した。一方、急速凍結固定法は、四分子細胞が厚いカロース層に被われているためにどうしても氷晶ができてしまうと言う技術的問題を解決できなく成功しなかった。以上の結果、大きな針状突起をもコウホネの花粉の花粉外膜のパターン形成過程において、針状突起は上部表層突起と形成時期が異なっており、針状突起は4分子初期にカロースの中に伸長していくように形成されることが明らかになった。外観的には類似している針状突起にも上部表層突起と相同でないものがあることを示唆している。花粉外膜の層構造の相同性を明らかにしていくのに形成過程の研究が重要である。また、花粉外膜の内部基本構造が繊維状の構造物によって構成されていると言う新しい見解が生まれた。これらの研究成果は、それぞれ国際誌であるAmerican Journal of BotanyとReview of Paleobotany and Palynologyに発表した。花粉外膜が、それぞれ独自の構造と表面模様をもっているBougainvillea属植物、Ipomopsis属植物、Illicium属植物、Nuphar属植物、を用いた。Bougainvillea属植物の花粉粒は網目模様をもつ3溝孔粒型であり、明確なColumellae構造があると言う特徴があり、Ipomopsis属植物の花粉は、特異的な線条紋の表面模様をもっており、Nuphar属植物の花粉の表面には多くの針状突起があります。これらは、主に野外に生息している植物である。これらの植物について、花粉母細胞の減数分裂期から成熟花粉にいたる花粉形成過程に見られる小胞子および発達しつつある花粉の表層構造系の変化を超高分解能走査電子顕微鏡および透過電子顕微鏡を用いて微細構造のレベルで追跡した。具体的には、野外でこれらの植物をサンプリングし花粉母細胞から成熟花粉にいたる適当な発育段階の雄蕊を光学顕微鏡で確認しながら切断し、小片化した後で、急速凍結固定およびパラホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドにて化学固定した。
KAKENHI-PROJECT-03804057
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03804057
被子植物の花粉外膜のパターン決定機構の解明
オスミウム酸にて二重固定後、脱水処理し、TFー1型を用いて、凍結割断面を作製し、超高分解能走査型電子顕微鏡にて、連続的な発育段階に従って花粉外膜のパタ-ンが決定されていく過程を3次元的に解析した。一方、急速凍結固定および化学固定サンプルを通常の方法で樹脂に包理し、ウルトラミクロト-ムで超薄切片を作製した。この超薄切片作製のために、ダイヤモンドナイフを使用した。電子染色後、透過型電子顕微鏡にて観察、写真撮影をした。以上の方法によって得られたデ-タを従来の文献等と比較、解析をし、研究成果を取りまとめることによって、花粉外膜パタ-ンの決定機構の普遍性と分類群による独自性を明らかにしつつある。Bougainvillea属植物とIpomopsis属植物についての研究成果は、2つの論文として国際学術雑誌に発表した。昨年度に引き続き、ジャケツイバラおよびコウホネを研究材料として、花粉外膜のパターン決定機構の解明の研究を遂行した。今年度は特に私の従来の研究で明らかにしてきた原形質膜による花粉外膜の基本的なパターン形成モデルの一般化にむけて検証することを中心とした。さらに、被子植物の各分類群にみられる花粉外膜の多様化の機構を明らかにすることと、初期花粉外膜の内部超微細高次構造の解明を研究の目的とした。これらの植物について、花粉母細胞の減数分裂から成熟花粉にいたる花粉形成過程に見られる小胞子および発達しつつある花粉の表層構造系の変化を超高分解能走査型電子顕微鏡および透過電子顕微鏡を用いて微細構造のレベルで追跡した。具体的には、野外でこれらの植物をサンプリングし花粉母細胞から成熟花粉にいたる適当な発育段階の雄蕊を光学顕微鏡で確認しながら切断し、小片化した後で、急速凍結固定およびパラホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドにて化学固定した。オスミウム産にて二重固定後、脱水処理し、TF-1型を用いて、凍結割断面を作製し、超高分解能走査型電子顕微鏡S-900にて、初期花粉外膜の内部超微細高次構造および連続的な発育段階に従って花粉外膜のパターンが決定されていく過程を3次元的に解析した。一方、急速凍結固定法は、四分子細胞が厚いカロース層に被われているためにどうしても氷晶ができてしまうと言う技術的問題を解決できなく成功しなかった。以上の結果、大きな針状突起をもつコウホネの花粉の花粉外膜のパターン形成過程において、針状突起は上部表層突起と形成時期が異なっており、針状突起は4分子初期にカロースの中に伸長していくように形成されることが明らかになった。外観的には類似している針状突起にも上部表層突起と相同でないものがあることを示唆している。花粉外膜の層構造の相同性を明らかにしていくのに形成過程の研究が重要である。また、花粉外膜の内部基本構造が繊維状の構造物によって構成されていると言う新しい見解が生まれた。これらの研究成果は、それぞれ国際誌であるAmerican Journal of BotanyとReview of Paleobotany and Palynologyに発表した。
KAKENHI-PROJECT-03804057
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03804057
溶解・析出を伴う金属/水溶液界面反応における「反応トリガー」可視化
金属腐食・劣化や電池電極等では溶解・析出を伴う金属/水溶液界面の反応がキーである。しかしこれらの反応系では、反応の進行に伴い固液界面の形状や凹凸が変化するため、その場観察が困難であった。本研究では、放射光と特別な反応セルを組み合わせたシステムを開発し、X線吸収分光法により、溶液内の化学種の濃度と存在状態をその場観察する技術を確立し、界面からの距離の関数として可視化することに成功した。同手法をステンレスでの孔食反応に応用してメカニズム解明を進めることを達成した。溶解・析出を伴う金属/水溶液界面反応における「反応トリガー」を可視化することを目的として、A.金属/水溶液界面の形状を三次元で可視化、B.界面近傍に存在する化学種の分布を二次元で可視化、C.電気化学反応を例題として反応トリガーの可視化、の三点から研究に取り組んでいる。平成27年度は、項目A.について以下の三点を実施した。A-1. X線CTによる反応静止状態での金属/水溶液界面観察:電気分解により数100μmの凹凸をつけた金属と水溶液の界面にX線を透過させ、その三次元形状の変化をX線CT装置(H26FY中に別予算で整備予定)で観察する技術を確立した。A-2.電気化学的ポテンシャルを印加可能な反応セルの開発:金属/水溶液の界面にX線を透過可能な条件下で、溶液の種類や金属の電気化学ポテンシャルを変えることのできる反応セルの開発を行った。A-3.強制腐食反応による界面形状変化観察:項目A-2で製作した反応セルを用いて、強制腐食反応による界面形状変化を観察に着手した。鉄金属箔を用いて電気化学ポテンシャルを低pHかつ卑な(高い)電位に保つことにより、金属元素の溶解が進行する過程を観察した。電位および水溶液中のハロゲン化物イオン濃度を変化させることによる反応条件の差異の観察を開始した。申請時の計画に沿って研究が進捗している。手製の反応セルでの実験を先行して進めることにより研究遂行ができたため、平成27年度に購入予定であった電気化学反応セルの購入は平成28年度以降とした。溶解・析出を伴う金属/水溶液界面反応における「反応トリガー」を可視化することを目的として、A.金属/水溶液界面の形状を三次元で可視化、B.界面近傍に存在する化学種の分布を二次元で可視化、C.電気化学反応を例題として反応トリガーの可視化、の三点から研究に取り組んでいる。平成28年度は、項目B.について以下の三点を実施した。B-1.電気化学的ポテンシャルを印加した状況での化学種の存在状態の観察するシステムの高度化:平成28年度に作製したprototypeの反応セルを、高エネ研の物質構造科学研究所/放射光施設PFのBL-15A1ビームラインと組み合わせることによるシステムの高度化を実施した。その結果を用いて金属/水溶液の界面にX線を透過可能な条件下で、溶液の種類や金属の電気化学ポテンシャルを変えながら化学種の観察をする空間分解能を従来の100μmから20μmへと大幅に高分解能化することに成功した。B-2.強制腐食反応による界面形状変化観察:項目B-2で製作した観察システムを用いて、強制腐食反応による界面形状変化を観察に成功した。鉄金属箔を用いて電気化学ポテンシャルを低pHかつ卑な(高い)電位に保つことにより、金属元素の溶解が進行する過程を観察した。電位および水溶液中のハロゲン化物イオン濃度を変化させることによる反応条件の差異の観察を解明した。B-3.広く社会で使用され工学的にも非常に重要なステンレス鋼にB-2の技術を適用し、HCl溶液下での溶解現象を観察した。溶解の速度定数を決めると共に、耐食性を決める添加元素であるクロムイオンとハロゲン化物イオンの相互作用について重要な知見を得た。申請時の計画に沿って研究が進捗している。平成27年度はA.金属/水溶液界面の形状を三次元で可視化、を行い、その基礎技術をベースに平成28年度はB.界面近傍に存在する化学種の分布を二次元で可視化に必要なシステムの開発とステンレスでの基礎的実験を完了した。最終年度である平成29年度は、C.電気化学反応を例題として反応トリガーの可視化から研究に取り組み、本課題の総括をする。溶解・析出を伴う金属/水溶液界面反応における「反応トリガー」を可視化することを目的として、A.金属/水溶液界面の形状を三次元で可視化、B.界面近傍に存在する化学種の分布を二次元で可視化、C.電気化学反応を例題として反応トリガーの可視化、の三点から研究に取り組んでいる。平成29年度は、最終年度として、項目C.について以下の点を実施した。C-1.開発した電気化学反応セルを、高エネ研の物質構造科学研究所/放射光施設PFのBL-15A1ビームラインと組み合わせることにより、金属/水溶液の界面にX線を透過可能な条件下で、溶液の種類や金属の電気化学ポテンシャルを変えながら化学種の観察をする空間分解能を従来の100μmから20μmへと大幅に高分解能化して測定する手法の高度化を実施した。特に平成27,28年度の研究成果を元に、設備を導入し、電気化学ポテンシャルの制御や溶液の流通方法について高度化を進めた。C-2.その結果、広く社会で使用され工学的にも非常に重要なステンレス鋼について反応トリガーの可視化を行った。強制腐食反応による界面形状変化を観察し、電位および水溶液中のハロゲン化物イオン濃度を変化させることによる反応条件の差異の観察を解明した。
KAKENHI-PROJECT-15K06517
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溶解・析出を伴う金属/水溶液界面反応における「反応トリガー」可視化
ステンレス鋼中の金属元素(Ni,Cr)やハロゲン化物イオン等の化学種の界面近傍の濃度勾配や配位構造が明らかになり、電気化学反応のトリガーに関する知見を得られた。成果については、米国電気化学会にて国際会議発表、および学術誌への論文発表を行った。金属腐食・劣化や電池電極等では溶解・析出を伴う金属/水溶液界面の反応がキーである。しかしこれらの反応系では、反応の進行に伴い固液界面の形状や凹凸が変化するため、その場観察が困難であった。本研究では、放射光と特別な反応セルを組み合わせたシステムを開発し、X線吸収分光法により、溶液内の化学種の濃度と存在状態をその場観察する技術を確立し、界面からの距離の関数として可視化することに成功した。同手法をステンレスでの孔食反応に応用してメカニズム解明を進めることを達成した。平成28年度以降は、項目B.およびC.について下記の通り取り組む。B-1.透過X線によるXAFS分光法による界面近傍の化学種観察:項目A.で明らかになった強制腐食反応が進行する条件下で、数10μmに集光した放射光マイクロビームを溶液部分に照射し、X線吸収分光(X-ray Absorption Fine Structures)により溶液中の化学種の状態を観察する手法を確立する。具体的には、組成の異なるステンレス鋼を試料とし、ハロゲン化物イオン(Cl-,Br-)を含む低pHの水溶液との界面での反応を観察する。ステンレス鋼中の金属元素(Ni,Cr)やハロゲン化物イオン等の化学種の界面近傍の濃度勾配や配位構造を明らかにする。B-2.界面近傍の化学種の二次元マッピング:金属より溶け出した金属イオンや電位勾配下バルク溶液から拡散してきたイオンにより、界面近傍には様々な化学種が濃化していると考えられる(特に、凹部の溶液だまりで反応が著しい部分)。その濃度勾配やバルクと異なる化学種を項目Bー1で開発した手法により、界面方向およびそれと垂直方向の二次元マッピングを行う。C.電気化学反応を例題として反応トリガーの可視化:溶解・析出を伴う金属/水溶液界面反応における「反応トリガー」の反応機構の解明に取り組む。C.強制腐食反応が進行する条件下で、数10μmに集光した放射光マイクロビームを溶液部分に照射し、X線吸収分光(X-ray Absorption Fine Structures)により溶液中の化学種の状態を観察する手法を確立する。具体的には、組成の異なるステンレス鋼を試料とし、ハロゲン化物イオン(Cl-,Br-)を含む低pHの水溶液との界面での反応を観察する。ステンレス鋼中の金属元素(Ni,Cr)やハロゲン化物イオン等の化学種の界面近傍の濃度勾配や配位構造を明らかにする。電気化学反応を例題として反応トリガーの可視化:溶解・析出を伴う金属/水溶液界面反応における「反応トリガー」の反応機構の解明に取り組む。放射光科学、材料科学、X線吸収分光、XAFS、X線回折、腐食、電気化学、触媒、金属、鉄鋼手製の反応セルでの実験を先行して進めることにより、装置導入の詳細仕様を決定した上で電気化学反応セル装置の購入を平成27年度に計画していた。しかし手製の反応セルでの実験により、導入装置に付加すべき新機能(仕様)を新たに着想し、それを含めた装置の導入が本研究の目的遂行上必要であることが判明した。
KAKENHI-PROJECT-15K06517
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宇宙用集積回路の革新へ向けたグラフェン/SiC基板量産技術の確立
本研究では,宇宙用集積回路の革新へ向けて,グラフェン/SiC基板の量産技術の確立を目指す.近年の集積回路技術はシリコンの微細化による高速化,省エネ化,高機能化が主流であった.一方,高放射線環境となる宇宙空間で用いる宇宙用集積回路では,回路に対する高エネルギー粒子の入射によって半導体中に意図しない導電性キャリア(電子・正孔対)が誘起され,回路の動作に悪影響を及ぼす(シングルイベント現象)ことから,シングルイベント現象に対する耐性(耐放射線性)が求められる.集積回路が小型であるほど,回路に対するシングルイベント現象の影響が相対的に大きくなるため,微細化による高性能化と耐放射線化には本質的なトレードオフが存在する.本研究ではこのトレードオフを解消するため,従来の集積回路材料であるシリコン基板から,グラフェン/SiC基板への転換を提案する.超導電性2次元材料であるグラフェンとワイドバンドギャップ半導体であるSiCを用いることで,微細化に頼らない集積回路の高性能化と材料レベルからの放射線特性の向上が期待される.グラフェン/Sic基板の実用化にあたっての技術課題の1つに,量産技術,すなわちSic基板上への高品質グラフェンの成膜技術の確立が挙げられる. Sic基板上へのグラフェン成膜は, Sic表面のアニーリングによる表面改質によってなされるが,実験的制約によって改質プロセスが十分理解されていないことが,グラフェンの高品質化に向けた体系的な取り組みを妨げている.本研究では量子力学計算によって表面改質プロセスを原子レベルで明らかにする.また,その結果と熱力学的解析を組み合わせることで,実際の実験条件でどのような改質プロセスが行われるかを定量的に明らかにする.以上の理論解析の結果を実験家にフィードバックすることで,実験・理論の両面からグラフェンの高品質化が実現することが期待できる.(抄録なし)【本研究課題の目標】本研究課題では宇宙用集積回路が抱える高速・低消費電力化と放射線耐性強化のトレードオフを解消することを目的とし,グラフェン/炭化ケイ素(SiC)集積回路技術の基礎となるグラフェン/SiC基板量産手法の確立を目指す.具体的にはSiC表面熱分解過程におけるグラフェン成長機構を量子力学シミュレーションによって解明し,電子デバイス用途の高品質グラフェン/SiC基板を得るための熱分解プロセスを提案する.【平成24年度研究内容の概要】平成24年度はグラフェン成長の初期段階に対して理解を深めた.申請者は前年度までにグラフェン成長初期過程について,SiC基板表面の熱分解とC原子の表面拡散に主眼を置いて研究を進めてきた.今年度は,基板表面を拡散するC原子が凝集し,グラフェン核が形成するまでを検討した.【研究成果】1.テラス上のC原子凝集過程原子解像度で平坦なSiC表面(テラス)上のC原子凝集過程を調べたところ,テラス上の微小なグラフェン核は5員環,7員環などのトポロジカル欠陥を含む不完全な結晶構造を持つことがわかった.この5員環,7員環はグラフェン核がグラフェン・シートへ成長する過程で6員環に変形すると考えられる.以上の結果は,核形成頻度を制御することによるグラフェン・シート内の結晶粒の拡大には,結晶粒内部の結晶構造を完全化させる作用もあるため,単に結晶粒界を低減させる以上の意義があることを示唆している。2.ステップ近傍のC原子凝集過程次にSiC表面上のステップ近傍におけるC原子の凝集過程を調べたところ,グラフェン核はSiC表面上のステップ構造を反映し,テラス状とは異なる構造を持ち得ることが示唆された.特に[1120]傾斜ステップとSi終端の[1100]傾斜ステップにおいてグラフェン核は主に6員環で構成されることがわかり,適切なステップを選ぶことで欠陥の導入を抑制できることが明らかとなった.本研究では,宇宙用集積回路の革新へ向けて,グラフェン/SiC基板の量産技術の確立を目指す.近年の集積回路技術はシリコンの微細化による高速化,省エネ化,高機能化が主流であった.一方,高放射線環境となる宇宙空間で用いる宇宙用集積回路では,回路に対する高エネルギー粒子の入射によって半導体中に意図しない導電性キャリア(電子・正孔対)が誘起され,回路の動作に悪影響を及ぼす(シングルイベント現象)ことから,シングルイベント現象に対する耐性(耐放射線性)が求められる.集積回路が小型であるほど,回路に対するシングルイベント現象の影響が相対的に大きくなるため,微細化による高性能化と耐放射線化には本質的なトレードオフが存在する.本研究ではこのトレードオフを解消するため,従来の集積回路材料であるシリコン基板から,グラフェン/SiC基板への転換を提案する.超導電性2次元材料であるグラフェンとワイドバンドギャップ半導体であるSiCを用いることで,微細化に頼らない集積回路の高性能化と材料レベルからの放射線特性の向上が期待される.グラフェン/Sic基板の実用化にあたっての技術課題の1つに,量産技術,すなわちSic基板上への高品質グラフェンの成膜技術の確立が挙げられる. Sic基板上へのグラフェン成膜は, Sic表面のアニーリングによる表面改質によってなされるが,実験的制約によって改質プロセスが十分理解されていないことが,グラフェンの高品質化に向けた体系的な取り組みを妨げている.本研究では量子力学計算によって表面改質プロセスを原子レベルで明らかにする.また,その結果と熱力学的解析を組み合わせることで,実際の実験条件でどのような改質プロセスが行われるかを定量的に明らかにする.以上の理論解析の結果を実験家にフィードバックすることで,実験・理論の両面からグラフェンの高品質化が実現することが期待できる.平成24年度の研究活動によってグラフェン成長の初期段階(C拡散過程グラフェン核形成過程)に対する理論検討が完了した.
KAKENHI-PROJECT-12J07700
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宇宙用集積回路の革新へ向けたグラフェン/SiC基板量産技術の確立
また,量子力学計算プログラムの高速化(並列計算プログラムの実装)および予定していた研究成果の公開(国際会議1件,論文発表2件,国内招待講演1件,国内会議6件)を達成した.以上の理由から、当初の計画通り研究を進展させたと言える。平成25年度は研究計画に従ってグラフェン成長の初期段階以降を理論検討し,成長過程全体を理解する.グラフェン成長過程に対する一連の理解に基づき,高品質グラフェンを得るための熱処理プロセスを提示し,その効果を共同研究先の実験グループ(九州大学工学府エネルギー量子専攻田中研究室)の協力の下で検証する.以上の成果を論文2件,国際会議1件,国内会議3件で公表するとともに,積極的な議論により研究の質的向上を図る.(抄録なし)
KAKENHI-PROJECT-12J07700
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第一原理計算によるゲルマニウム系デバイスの機能予測
Geをチャネルとする次世代高速電子デバイスの実現には、Geとその酸化物(GeO_2)の界面の原子構造や電子状態を解明する必要がある。当該年度では、Ge(001)表面の酸化過程におけるGe/GeO2界面歪に着目した第一原理計算を行った。Ge(001)表面におけるGe-Ge結合の間に酸素(0)原子を挿入していくと、クリストバライトと呼ばれるGeO_2構造がGe(001)表面上に形成されることが先行研究でわかっている。また、クリストバライトGeO_2構造のa軸は、Ge(001)表面に平行な方向であることから、クリストバライトGeO_2構造のa軸を圧縮し、c軸の長さおよび内部原子構造の最適化を行った。クリストバライトGeO_2構造は、Ge(001)-(1x1)表面あたり17%大きく、Ge原子は0原子に対して四配位構造をとっている。a軸の圧縮を行っていくと、四配位構造よりも安定かつ格子定数不整合がわずか5%の六配位構造の方が安定であることがわかった。したがって、クリストバライトGeO_2構造は、Ge(001)表面の歪の下では、四配位構造よりも六配位構造の方が安定であることがわかった。さらに、Ge/六配位GeO_2界面およびGe/四配位GeO_2界面をモデル化し、エネルギーの比較を行ったところ、Ge/六配位GeO_2界面の方が安定であることがわかった。最後に、Ge/GeO2界面における六配位構造の電子状態への影響を調べたところ、六配位構造が界面に存在すると、GeO_2のバンドが伝導帯側ヘシフトすることがわかった。これまでにGe/GeO2界面の価電子帯オフセットの実験結果がいくつか報告されているが、ばらつきがあることがわかっている。当該年度の成果から、価電子帯オフセットのばらつきは、界面における六配位酸化物の割合の違いによるものであると推測できる。シリコンを超えるトランジスタのチャネル材料としてゲルマニウム(Ge)が注目を集めている。本研究は、実験パラメータを一切使用することなく材料特性を予測できる第一原理計算を用いて、Geをチャネルとする金属-絶縁体-Ge界面の形成技術の確立を目的としている。通常の密度汎関数法で半導体や絶縁体を扱うとバンドギャップを過小評価することがわかっている。これは、交換・相関項共に近似した局所密度近似や一般化密度勾配法(GGA)を用いるからである。一方で、ハートリー・フォック(HF)法では交換項のみを厳密に取り扱うため、バンドギャップが過大評価される。したがって、近似した交換・相関項(GGA)と厳密な交換項(HF法)を一定の比率で混合すれば、バンドギャップの過小評価を克服できると考えられる。このような交換・相関項の取り扱い方法をハイブリッド汎関数法といい、バンドギャップを過小評価する問題を解決する一つの方法として近年注目を集めている。ハイブリッド汎関数法には混合比の決め方により様々な種類があるが、本年度はPBEOという種類のハイブリッド汎関数法の開発を行った。PBEOでは、PBEと呼ばれるGGAの交換を75%、HF法の交換を25%、PBEの相関を100%とする。本研究では、すべての物理量を実空間で計算を行う実空間差分法に基づく第一原理計算手法にハイブリッド汎関数法を導入した。平面波を基底関数とするハイブリッド汎関数法と同等の解離曲線やバンド図が得られることを確かめ、当初の予定通り当該年度内に実空間差分法に基づくハイブリッド汎関数法の開発を完成させた。次年度以降は、更なるプログラムの高速化を行い、絶縁体-Ge界面のシミュレーションを目指す。Geをチャネルとする次世代高速電子デバイスの実現には、Geとその酸化物(GeO_2)の界面の原子構造や電子状態を解明する必要がある。当該年度では、Ge(001)表面の酸化過程におけるGe/GeO2界面歪に着目した第一原理計算を行った。Ge(001)表面におけるGe-Ge結合の間に酸素(0)原子を挿入していくと、クリストバライトと呼ばれるGeO_2構造がGe(001)表面上に形成されることが先行研究でわかっている。また、クリストバライトGeO_2構造のa軸は、Ge(001)表面に平行な方向であることから、クリストバライトGeO_2構造のa軸を圧縮し、c軸の長さおよび内部原子構造の最適化を行った。クリストバライトGeO_2構造は、Ge(001)-(1x1)表面あたり17%大きく、Ge原子は0原子に対して四配位構造をとっている。a軸の圧縮を行っていくと、四配位構造よりも安定かつ格子定数不整合がわずか5%の六配位構造の方が安定であることがわかった。したがって、クリストバライトGeO_2構造は、Ge(001)表面の歪の下では、四配位構造よりも六配位構造の方が安定であることがわかった。さらに、Ge/六配位GeO_2界面およびGe/四配位GeO_2界面をモデル化し、エネルギーの比較を行ったところ、Ge/六配位GeO_2界面の方が安定であることがわかった。最後に、Ge/GeO2界面における六配位構造の電子状態への影響を調べたところ、六配位構造が界面に存在すると、GeO_2のバンドが伝導帯側ヘシフトすることがわかった。これまでにGe/GeO2界面の価電子帯オフセットの実験結果がいくつか報告されているが、ばらつきがあることがわかっている。
KAKENHI-PROJECT-11J00621
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第一原理計算によるゲルマニウム系デバイスの機能予測
当該年度の成果から、価電子帯オフセットのばらつきは、界面における六配位酸化物の割合の違いによるものであると推測できる。当初の計画通り当該年度内にプログラムを完成させることができたが、現状のアルゴリズムでは翌年度に行う予定である規模のシミュレーションを行うのが難しい。研究計画では、次年度は完成したプログラムを用いてシミュレーションを行う予定であったが、次年度も引き続きプログラムの更なる高速化が必須であることから、やや遅れていると評価した。当該年度に導入したハイブリッド汎関数法におけるイオン・電子間相互作用は、ノルム保存型擬ポテンシャルを用いている。一方で、PAW擬ポテンシャルは、内殻電子を正確に取り扱いつつ、ポテンシャルが滑らかであるため、高い精度を保ちつつ、より高速なシミュレーションを可能とする。したがって、ハイブリッド汎関数法を用いた大規模なシミュレーションを実現するために、PAW擬ポテンシャルを用いたハイブリッド汎関数法の開発が必要である。そこで、当初の研究計画を変更し、PAW擬ポテンシャルを用いたハイブリッド汎関数法のプログラム開発を行い、高精度かつ超並列計算が可能なハイブリッド汎関数法の完成を目指す。
KAKENHI-PROJECT-11J00621
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ペアレントトレーニングの手法を応用した看護師の支援技術の開発
ペアレントトレーニング(PT)とは、発達障害児の行動に対する適切な対応を、保護者が、習得するための訓練である。このPTの手法を、看護師の支援技術として応用するために、看護師の行動調査、適応行動を増加させる言動調査、看護師の心の健康度を実施した。結果、行動調査では385の行動が抽出され、看護師の対応後に行動が改善した事例は52%、行動が悪化した事例は48%であった。また、適応行動を増加させる言動の調査では、398の言動が抽出され、患者への肯定的な評価や、感謝、尊敬、承認を表す言動を多く用いていた。さらに、心の健康度の調査では、25%の看護師の心の健康度が良好であった。ペアレントトレーニング(PT)とは、発達障害児の行動に対する適切な対応(PTの手法)を、保護者[ペアレント]が、習得するための訓練[トレーニング]である。しかし、PTの手法は、教育現場などの子ども集団では実践しにくいことが指摘されていた。そこで、研究代表者らは、教師や保育士などを対象とした新たなPT(支援者を対象としたPT)を開発し、子ども集団への有用性を実証した。これにより、保護者に限定されていたPTの適用範囲が拡大し、子どもに携わる支援者への適用が可能となった。そこで本研究は、発達障害児や精神障害者を支援する看護師に着目し、PTの手法を応用した看護師の支援技術を開発、さらには、開発した支援技術を習得するためのトレーニングプログラムを構築することを目的とした。今年度は昨年度の調査結果をもとに、PTの手法の一つである「無視する手法(相手をしない・待つ)」が応用実践しにくい要因を分析している。要因の一つは、日本人の国民性である。欧米と異なり日本は集団主義であり、「他の同じこと」を美徳とする国民性がある。このため、特に集団内での手法の実践に抵抗感があり、実践が困難であると考えている。他の要因として、無視への抵抗感である。調査協力者の大部分が「無視」に対して抵抗感があり、ネガティブな印象を抱いている。ネグレクトと混同してる場合もある。また、支援者にとって、「支援=与えるもの」との認識が高いことも、無視する手法の実践を困難としていると考える。その他の実績としては、昨年度同様に、PTの認知度とPTの手法の応用に関する調査を引き続き実施した。ペアレントトレーニング(PT)とは、発達障害児の行動に対する適切な対応(PTの手法)を、保護者[ペアレント]が、習得するための訓練[トレーニング]である。しかし、PTの手法は、教育現場などの子ども集団では実践しにくいことが指摘されていた。そこで、研究代表者らは、教師や保育士などを対象とした新たなPT(支援者を対象としたPT)を開発し、子ども集団への有用性を実証した。これにより、保護者に限定されていたPTの適用範囲が拡大し、子どもに携わる支援者への適用が可能となった。そこで本研究は、発達障害児や精神障害者を支援する看護師に着目し、PTの手法を応用した看護師の支援技術を開発、さらには、開発した支援技術を習得するためのトレーニングプログラムを構築することを目的とした。今年度は、看護師へのインタビュー調査、行動調査、メンタルヘルス調査を実施した。インタビュー調査は24名に実施し、録音データから逐語録を作成して質的に分析した。適応行動を増加させる看護師の多くが、日々の看護の中で、患者との信頼関係の構築に努め、意識的に肯定的な言葉がけ(ほめ言葉を含む)をしていた。昨年度の調査では、日々の看護において「無視する手法(相手にしない・待つ)」が応用実践しにくいことが懸念されたが、調査の結果、不適応行動への良好な対応の多くが、「無視する手法」を応用実践した対応であった。また、看護師が普段使用しているほめ言葉を約300抽出し、20のカテゴリに分類した。さらに、行動調査では、385の対応場面から、適応行動を増加または減少、不適応行動を増加または減少させる看護師の対応をそれぞれ抽出した。看護師のメンタルヘルス調査では、心の健康度と疲労度を調査した。結果、心の健康度が良好な看護師が約3割、心の疲労度が高い看護師が約5割であった。ペアレントトレーニング(PT)とは、発達障害児の行動に対する適切な対応を、保護者が、習得するための訓練である。このPTの手法を、看護師の支援技術として応用するために、看護師の行動調査、適応行動を増加させる言動調査、看護師の心の健康度を実施した。結果、行動調査では385の行動が抽出され、看護師の対応後に行動が改善した事例は52%、行動が悪化した事例は48%であった。また、適応行動を増加させる言動の調査では、398の言動が抽出され、患者への肯定的な評価や、感謝、尊敬、承認を表す言動を多く用いていた。さらに、心の健康度の調査では、25%の看護師の心の健康度が良好であった。ペアレントトレーニング(PT)とは、発達障害児の行動に対する適切な対応(PTの手法)を、保護者[ペアレント]が、習得するための訓練[トレーニング]である。しかし、PTの手法は、教育現場などの子ども集団では実践しにくいことが指摘されていた。そこで、研究代表者らは、教師や保育士などを対象とした新たなPT(支援者を対象としたPT)を開発し、子ども集団への有用性を実証した。
KAKENHI-PROJECT-23792680
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23792680
ペアレントトレーニングの手法を応用した看護師の支援技術の開発
これにより、保護者に限定されていたPTの適用範囲が拡大し、子どもに携わる支援者への適用が可能となった。そこで本研究は、発達障害児や精神障害者を支援する看護師に着目し、PTの手法を応用した看護師の支援技術を開発、さらには、開発した支援技術を習得するためのトレーニングプログラムを構築することを目的とした。今年度は、PTの認知度と、PTの手法の応用に関する調査、また看護師の行動調査を行った。調査対象は、精神科看護師と、対照群として、子ども支援に携わるもの(保育士、保健師、子ども相談員等)と、子育て中の保護者とした(計55名)。結果、PTの認知度は、3群間で有意差は見られず、いづれもPTの認知度は低いことが明らかとなった。また、精神科看護師のPTの手法の応用に関する調査では、PTの3つの手法の内、無視する(相手をしない・待つ)手法が、応用実践しにくいことが明らかとなった。看護師の行動は、現在調査中である。結果を今後分析し、適応行動が増加する看護師の言動や、不適応行動が減少する看護師の言動等を明らかにしていく。今年度は、看護師の支援技術を開発するために看護師の行動を質的に調査・分析する計画であったが殆ど実施できていない。昨年度同様に、被災地支援活動が増加し、研究活動の時間が大幅に短縮していることが要因と考える。研究代表者のフィールドの大部分は宮城県であり、今回の東日本大震災で、研究協力(含、候補)病院の多くが被災した。このため、多くの病院が、病院機能を正常化すること、復旧・復興、災害対策が優先される状況にあり、研究・調査を実施できる環境ではなかった。また、研究代表者も復旧・復興に携わり、研究開始が大幅に遅れた。これらのことが遅れている要因である。現在、研究の進捗状況は遅れている。研究計画の大幅な変更はないが、看護師の行動の質的な調査は、看護師へのインタビューを中心に実施する。集団インタビューとし、患児や精神障害者の適応行動を増加させる看護師の言動や、不適応行動を減少させる看護師の言動、日々の看護で注目している患者の言動等について調査する。また、調査協力の得られた施設の看護師を対象に心の健康度を調査する。これらの調査や分析を通して、看護師が実践可能な具体的なほめる手法や、無視する(相手をしない・待つ)手法を開発し、又看護師の現状に合ったトレーニングプログラムを構築していく。今年度は、震災があり研究開始が大幅に遅れ、現在の進捗状況もやや遅れ気味である。現在は研究フィールドの大部分が宮城県内であるため、他地域にもフィールドを拡大し実施する必要がある。今後は、看護師の行動を調査し、行動の分析を重点的に実施する。行動分析の結果から、患児や患者の適応行動を増加させる看護師の言動や、患児や患者の不適応行動を減少させる看護師の言動を明らかにしていく。これらの結果から、具体的なほめる手法や、無視する(相手をしない・待つ)手法を開発し、又看護師の現状に合ったトレーニングプログラムを構築していく。また、ペアレントトレーニングの手法を習得する前の看護師の心の健康度も調査する。次年度に使用する研究費は、研究協力病院や施設への依頼・相談・調査に関する旅費や、プレゼンテーション用の備品費、調査データの分析に関連する経費が主である。研究対象者への謝金は、インタビューを中心とするため1万円に変更する。また、関連図書の購入や研究協力者との打ち合わせでも使用する。
KAKENHI-PROJECT-23792680
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歯周病原因子と過大な機械的刺激が歯の移動の細胞シグナリング機構に及ぼす影響の解明
骨芽細胞の機械的刺激によるケモカインMIP-2とMCP-1の発現誘導には構成的なIL-1βを必要とすること、また、それがIL-1レセプターおよびTLRのアダプタータンパクであるMyD88を介することが明らかとなった。よって、MyD88を介したシグナル伝達系が、矯正治療における骨改造の初期反応に関与することが示唆された。また、IL-1βのタンパク濃度が高い状況下では、これらの反応を促進させる可能性が示唆された。臨床研究では、歯根長は咬合接触と関連し、不良な骨架橋は、早期に矯正治療を開始した場合に良好な骨架橋になる可能性が認められ、機械的刺激が歯根形成や移植骨の骨改造に関連することが示唆された。研究の目的は、矯正学的歯の移動で生じる炎症様反応に、過大な咬合力や歯周病による炎症反応が生じた場合のサイトカインやケモカインの動態と細胞シグナル伝達機構を解析することである。まずはじめに、炎症反応において重要な役割を担っているTLRやIL-1のアダプタータンパク質であるMyeloid differentiation factor 88(MyD88)が、機械的刺激に対するシグナル伝達経路に関与するのかを明らかにすることにした。従って、MyD88遺伝子欠損マウス(MyD88(-/-))の骨芽細胞を用いて、機械的刺激によるケモカインやサイトカインの発現誘導やシグナル伝達経路を解明するとともに、IL-1βの中和抗体を投与した実験を行い、機械的刺激におけるMyD88の働きを明らかにした。WTの骨芽細胞では、機械的刺激後にMIP-2の発現は増加し、MAPキナーゼ活性化が認められたが、MyD88(-/-)の骨芽細胞では認められなかったことから、機械的刺激によるケモカインの発現誘導およびMAPキナーゼ活性化には、少なくとも部分的にMyD88を介していることが示された。さらに、IL-1βの中和抗体を投与した実験において、MIP-2の発現やMAPキナーゼ活性は、MyD88(-/-)の骨芽細胞での実験と同じ傾向を示したことから、機械的刺激によるケモカインの動態には、MAPキナーゼ活性によるIL-1βを介したシグナル伝達が関与し、MyD88を間接的に介す伝達経路が示唆された。また、vivoでの実験が困難であったことから、開咬患者における咬合接触や下顎下縁平面角の開大などの咬合刺激が、歯周組織や歯に及ぼす影響を解明する研究を追加した。この研究結果により、開咬患者の歯根が短いことが明らかとなり、咬合刺激が歯根の形成に重要であることが示唆され、論文が掲載された。前年度までに、MyD88ノックアウトマウス(以下MyD88(-/-))の骨芽細胞に圧刺激を負荷した場合、炎症性メディエーターであるケモカインMIP-2とMCP-1の発現は、MyD88(+/+) (以下WT)の骨芽細胞と比較して減少することを確認した。今年度は、さらに、シグナル伝達経路について解析を行った。その結果、WTの骨芽細胞にIL-1βの中和抗体を添加した状況下において圧刺激を負荷した場合、MIP-2とMCP-1の発現は増加しなかった。また、WTの骨芽細胞にIL-1βを添加した場合、両ケモカインの発現は増加し、MAPキナーゼのリン酸化が増加したが、MyD88(-/-)の骨芽細胞では、IL-1βを添加してもケモカインの発現増加とMAPキナーゼのリン酸化の増加は認められなかった。このことから、骨芽細胞の機械的刺激によるケモカインの誘導には、IL-1βが必要で、MyD88を介したシグナル伝達経路とMAPキナーゼカスケードが関与することが示唆された。これらの結果を、日本矯正歯科学会学術大会にて報告した。また、臨床研究においては、口唇口蓋裂患者の骨移植後の骨架橋の長期的評価を行い、骨架橋の変化と予後に関与する因子を明らかにした。結果から、骨移植後6-12か月時の骨架橋は、マルチブラケット装置による治療後の骨架橋と同じである確率が高く、骨移植後6-12か月時の骨架橋の評価は中切歯側の骨量に依存していた。従って、骨移植後6-12か月の中切歯側の骨量がMB後の骨架橋の指標となることが示唆された。また、骨移植後6-12か月では不良な骨架橋であっても、骨移植後早期に移植骨部へ歯の移動を行った場合、良好な骨架橋へ変化する症例も認められたことから、歯の移動による移植骨への機械的刺激は、骨架橋の維持にとって有益である可能性が示唆された。これらの結果を、国際誌(CPCJ)にて報告した。骨芽細胞の機械的刺激によるケモカインMIP-2とMCP-1の発現誘導には構成的なIL-1βを必要とすること、また、それがIL-1レセプターおよびTLRのアダプタータンパクであるMyD88を介することが明らかとなった。よって、MyD88を介したシグナル伝達系が、矯正治療における骨改造の初期反応に関与することが示唆された。また、IL-1βのタンパク濃度が高い状況下では、これらの反応を促進させる可能性が示唆された。臨床研究では、歯根長は咬合接触と関連し、不良な骨架橋は、早期に矯正治療を開始した場合に良好な骨架橋になる可能性が認められ、機械的刺激が歯根形成や移植骨の骨改造に関連することが示唆された。
KAKENHI-PROJECT-23593037
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歯周病原因子と過大な機械的刺激が歯の移動の細胞シグナリング機構に及ぼす影響の解明
H23年度研究計画:マウスの骨芽細胞における至適矯正力,過大な機械的刺激および歯周病原因子による刺激に対する細胞シグナル伝達経路の解析1)骨芽細胞に圧刺激を負荷したときの生化学的メディエーターのmRNAおよびタンパク産生の解析: MyD88(-/-)とMyD88(+/+)(以下WT)のC57BL/6新生仔マウスの骨芽細胞に圧刺激を負荷し,ケモカインのmRNA発現をリアルタイムPCRで定量した.WTの骨芽細胞では,定常的にMIP-2, MCP-1, RANTESの遺伝子発現が認められ,刺激後にいずれも増加した.しかし,MyD88(-/-)では,定常的なMIP-2の発現量は有意に低く,機械的刺激後のMIP-2とMCP-1の発現は,WTと比較すると有意に小さいことから,MyD88が機械的刺激によるケモカインMIP-2とMCP-1の発現に関与することが示唆された.また,歯周病原性因子である液性成分(Pam3CSK4)を加えた条件下で,培養ヒト歯根膜細胞に伸展刺激を加え,炎症性サイトカインの遺伝子発現を調べた結果,Pam3CSK4と伸展刺激の共刺激下では,IL-6,IL-8およびMCP-1の発現が,それぞれの単独の刺激と比較して高い発現を示したことから,歯周病原性因子下での機械的刺激は,ヒト歯根膜細胞でのサイトカイン発現を増強させることが示唆された.2)細胞シグナル伝達機構の解明:ウエスタンブロット法でMAPキナーゼカスケードについて解析した.WTの骨芽細胞およびヒト歯根膜細胞では,機械的刺激とPam3CSK4添加後に3種類のMAPキナーゼのリン酸化が認められたが,圧刺激によるMyD88(-/-)のリン酸化量は,WTと比較していずれも減少した.今後,各細胞での刺激条件を変え,ケモカインとサイトカインの動態を解析し,シグナル伝達経路の詳細な解明を行う予定である.H24年度は、骨芽細胞に機械的刺激を負荷したときの生化学的メディエーターのmRNAおよびタンパク産生の解析、細胞シグナル伝達機構の解明を行うことを計画しており、概ね計画通り進行している。vivoの実験も計画していたが、MyD88遺伝子欠損マウスは長期間の生存が困難であり、vitroのみの実験を行っている。vivoの実験の代わりに、矯正患者における咬合接触などの咬合刺激や矯正力と歯周組織や歯根の関連を調査する研究計画を追加した。開咬患者の咬合刺激と歯根長の関連を調べ、論文が掲載され、成果を上げた。in vitroにおいて,1)マウス骨芽細胞に至的矯正力による刺激を負荷したときの炎症反応や歯の移動に関連するサイトカインやケモカインの産生および骨の改造のマーカーの解析.2)さらに過大な機械的刺激や歯周病原因子の刺激によって生じる反応の解析.3)これらのシグナル伝達経路を明らかにするために、MyD88などのノックアウトマウスの骨芽細胞を用いて,細胞レベルでの細胞応答を明らかにすること.が初年度の目標であり,MyD88ノックアウトマウスの骨芽細胞を培養し,機械的刺激によるケモカインの動態や細胞シグナル伝達経路の解析を行った.また、ヒト歯根膜細胞における歯周病因子(Pam3CSK4)下での機械的刺激についての解析も行った.しかし、歯周病の環境想定モデルとして,PGE2とLPSを前投与したときの細胞の反応についても同様に解析が未実施であるため,来年度行っていく予定である.機械的刺激によるケモカインの発現には、MAPキナーゼ活性によるIL-1βを介したシグナルを経由し、MyD88を間接的に介す伝達経路が示唆されたため、さらにIL-1βを中和した条件下で詳細な実験を行う。その後、実験結果をまとめて、論文を執筆する。
KAKENHI-PROJECT-23593037
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カキの雌雄性分化とその制御に関する研究
本研究からカキの雌雄性分化とそれに影響を与える生理活性物質の効果について以下のことが明確となった。1.雌花と雄花の性決定は花芽分化の初期(6月)にすでに決まっており,8月までに雌花ではがく片形成期,雄花では中心花の花弁形成期まで進行し,その状態で越冬する。2.雌花と雄花の分化はその枝梢に着生した花性と関連しており,雌花を着生した枝は雌花,雄花を着生した枝は雄花を分化する傾向がある。また,先端の芽では雌花が,下部の芽では雄花が分化する傾向があった。3.カキの雌雄性発現はサイトカイニン処理によって顕著に影響された。すなわち,合成サイトカイニンであるベンジルアデニンを春の萌芽直後に出現した雄花に処理すると偽雌ずいが発達し,両性花への性転換が引き起こされた。さらに,BAは雄花の分化期の処理でも効果があり,`台湾正柿'の2番枝に着生する雄花を両性花に転換させた。これらの事実は,雌雄性発現に枝梢内の生理活性物質が重要な要因である可能性を強く示唆した。4.雄花着生枝からは雄花が,雌花着生枝からは雌花が出現する規則性のある`岩瀬戸'を用い,雄花着生枝と雌花着生枝について花芽分化期の枝梢内サイトカイニン様物質と抑制物質の活性を測定した。測定はメタノ-ル抽出液を精製し,高速液体クロマトグラフィ-による分画後,サイトカイニンについてはアマランサス,抑制物質についてはイネ幼苗テストの生物検定によって行った。その結果,サイトカイニンについては雄花・雌花着生枝ともにゼアチン様,2ーiP様サイトカイニンが認められたが,それらの活性は着生した花性で差異がなく,抑制物質は予想とは逆に雌花着生枝でその活性が強かった。この事実は,雌雄性発現に及ぼす生理活性物質の複雑な作用を示唆していた。本研究からカキの雌雄性分化とそれに影響を与える生理活性物質の効果について以下のことが明確となった。1.雌花と雄花の性決定は花芽分化の初期(6月)にすでに決まっており,8月までに雌花ではがく片形成期,雄花では中心花の花弁形成期まで進行し,その状態で越冬する。2.雌花と雄花の分化はその枝梢に着生した花性と関連しており,雌花を着生した枝は雌花,雄花を着生した枝は雄花を分化する傾向がある。また,先端の芽では雌花が,下部の芽では雄花が分化する傾向があった。3.カキの雌雄性発現はサイトカイニン処理によって顕著に影響された。すなわち,合成サイトカイニンであるベンジルアデニンを春の萌芽直後に出現した雄花に処理すると偽雌ずいが発達し,両性花への性転換が引き起こされた。さらに,BAは雄花の分化期の処理でも効果があり,`台湾正柿'の2番枝に着生する雄花を両性花に転換させた。これらの事実は,雌雄性発現に枝梢内の生理活性物質が重要な要因である可能性を強く示唆した。4.雄花着生枝からは雄花が,雌花着生枝からは雌花が出現する規則性のある`岩瀬戸'を用い,雄花着生枝と雌花着生枝について花芽分化期の枝梢内サイトカイニン様物質と抑制物質の活性を測定した。測定はメタノ-ル抽出液を精製し,高速液体クロマトグラフィ-による分画後,サイトカイニンについてはアマランサス,抑制物質についてはイネ幼苗テストの生物検定によって行った。その結果,サイトカイニンについては雄花・雌花着生枝ともにゼアチン様,2ーiP様サイトカイニンが認められたが,それらの活性は着生した花性で差異がなく,抑制物質は予想とは逆に雌花着生枝でその活性が強かった。この事実は,雌雄性発現に及ぼす生理活性物質の複雑な作用を示唆していた。カキは雌雄混株であるとされているが、その雌雄性分化に関する要因は殆ど解明されていない。本研究は雌雄性分化に関与する内的要因を明らかにし、その分化を人為的に制御する方法を探索しようとするものである。1.まず、雌雄両花を着生する品種について、それぞれの分化時期を形態的に調べたところ、雄花は雌花よりいくぶん早く分化発達することが判明した。また、両花の着花特性については、前年度雄花を着生した結果母枝からは雄花が、雌花を着生した母枝からは雌花が着生しやすい傾向が認められ、さらに、母枝先端の芽ほど雌花が、下部の芽ほど雄花が、着生する傾向が認められた。2.雌花及び雄花をそれぞれ着生した新梢のメタノ-ル抽出物について生理活性物質を分画検定したところ、サイトカイニン活性を示す1分画が雌花着生枝において高く、抑制物質の1分画が雄花着生枝において高いことが明らかになった。これらの活性については今後詳細な分画を進めてゆく必要がある。なお、合成サイトカイニンであるベンジルアデニンを雌雄両花を着生する品種の新梢に散布したところ、本来雄花のみが分化すると考えられる2番枝上で雄花から両性花への移行がみられ、まれに雌花にまで発達するものが観察された。in vitro条件下で雌雄性分化を制御する方法を探索するため、休眠芽の培養を試みた。
KAKENHI-PROJECT-01480046
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カキの雌雄性分化とその制御に関する研究
まず基本培地の検討を行ったところMS培地の無機塩類を1/21/5の濃度に希釈したもので、花芽の発達がすぐれることが明らかになった。次年度以降、さらに好適な培地条件を明らかにするとともに、種々の生理活性物質の効果を試してゆきたい。本研究ではカキの雄花,雌花の着花特性と花芽分化期を明らかにし,養分の調節や化学薬剤処理による花性転換の可能性,特にサイトカイニンの影響を調査するとともに内生ホルモンについて調べた。1.結果母枝の太さや長さは前年の花性によって大きく影響されたが,翌年の花性に与える影響は小さく,前年の花性そのものが翌年の花性に与える影響の方がはるかに大きいことを明らかにした。また,花芽分化期は雌雄花で異なり,雄花の分化期の方が早かった。2.雄花着生品種についてベンジルアデニンの散布が花性転換に与える影響を調べたところ,中心花,側生花ともに雄花の偽雌ずいの発達がみられ,両性花,雌花に転換するものが観察された。3.雄花着生品種のはち植え幼樹について窒素施肥量を変えて処理したところ,窒素量が多いほど雌花の着生数が増えたが,ベンジルアデニンと窒素量との相互作用は樹齢によって異なり,樹齢が進むほど雌花着生に対する作用が大であった。4.雄花,雌花をそれぞれ着生した新梢の80%メタノ-ル抽出物を高速液体クロマトグラフィ-で分離し生物検定を行ったところ,両者間でゼアチン様サイトカイニン及び2iP様サイトカイニンの濃度には差異は認められなかった。しかし,雌花着生枝は雄花着生枝に比べてサイズが大きく花数が少いことから,新梢1本当たりのサイトカイニン量が多く,雌花1花当たりに配分されるサイトカイニンが多くなることが推測された。5.以上の結果から,サイトカイニンがカキの雌性化を誘導するホルモンの1つであることは間違いないことであるが,雄性化を誘導する物質についてはさらに検索する必要がある。過去2か年間にわたる本研究の結果より,前年度雄花を着生した結果母枝からは雄花,雌花を着生した母枝からは雌花が着生しやすい傾向が明確となった。また,雄花着生枝が雌花着生枝に比べ細くて短かいことから,雄花着生枝での抑制物質の存在と雌雄性発現との関係が示唆された。一方,雄花へのサイトカイニン処理によって雌性化が引き起こされたことから,雌雄性発現と内生サイトカイニン含量との係わりも推測された。本年度はこれらの結果を踏まえ,カキの雌雄性発現を制御する物質を検討した。1.雌花着生枝からは雄花,雌花着生枝からは雌花が出現する規則性が強い`岩瀬戸'を用い,花芽分化期の6月に雄花あるいは雌花を着生した新梢を採集し、新梢内のサイトカイニン様物質と抑制物質の活性を測定した。サイトカイニン様物質の測定は,メタノ-ル抽出液を精製した後,高速液体クロマトグラフ(HPLC)に導入し,各分画を集め,アマランサスの生物検定により測定した。抑制物質の測定は精製したメタノ-ル抽出液をHPLCに導入後,各分画をイネ幼苗テストで検定することで行った。その結果,サイトカイニンについては雄花・雌花着生枝ともにゼアチン様,2ーip様サイトカイニンが認められたが,その活性については着生した花性で顕著な差異はなかった。また,抑制物質についても2,3の強い活性を示す分画が得られたが,雌花着生枝の方が抑制活性が強く,予想とは逆の結果となった。2.サイトカイニンが雌性化に効果があったことから,雄性化に及ぼすアンチサイトカイニンの影響を調査した。雄花の着生が稀である`裂御所',`甲州百目'を用いて,アンチサイトカイニンの処理を行ったが,雄性化への効果を認めることはできなかった。3.以上の結果は,雌雄性発現に及ぼす生理活性物質の複雑な作用を示唆しており,さらなる検討の必要性を示唆した。
KAKENHI-PROJECT-01480046
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高強度・超短レーザーパルスによって誘起される2電子系原子の多光子イオン化における共鳴効果の役割
高強度・超短レーザーパルスによって誘起される多光子イオン化については,これまで報告されている論文の大半が直線偏光レーザーを仮定している。そこで本研究では,レーザーの偏光によってイオン化ダイナミクスがどのように異なるかを調べるため,円偏光レーザーパルスを仮定して時間依存シュレーディンガー方程式を数値的に解いた。対象とした原子はマグネシウム原子である。パルス時間幅100fs,波長400nm,光強度10^<12>W/cm^2の光が照射された場合について計算を試みたところ,予想されたように超閾イオン化と呼ばれる幾つかのピークが光電子スペクトルに現れた。さらには,超閾イオン化ピークの間に幾つかの副ピークが現れた。これらの副ピークについては,過去に幾つかの理論および実験報告がなされているが,その物理的起源については明確にされていない。そこで,この副ピークの物理的起源を明らかにするため,さらに研究を進めた。まず,この副ピークは主ピークに比べ数桁ほど信号強度が低い。また,レーザーの偏光(直線偏光,円偏光)を問わず,同程度の強度で光電子スペクトルに現れる。2電子系原子の持つ複雑な内部構造,即ち,何らかの束縛状態が副ピークに寄与していると予測し,幾つかの試行的計算を試みた結果,非常に非共鳴ではあるが,実励起された3s3p ^1P_1状態がこの副ピークの物理的起源であることが判明した。同様に,レーザー波長が266nmである場合についても計算を試みた。400nmの場合と同じく,副ピークが光電子スペクトルに現れたが,このレーザー波長については,やはり非共鳴的に実励起された3s4p ^1P_1が副ピークの起源であることがわかった。このような副ピークは価電子を1つしか持たない水素原子には現れないので,多電子系原子特有の現象であるといえる。高強度・超短レーザーパルスによって誘起される多光子イオン化については,これまで報告されている論文の大半が直線偏光レーザーを仮定している。そこで本研究では,レーザーの偏光によってイオン化ダイナミクスがどのように異なるかを調べるため,円偏光レーザーパルスを仮定して時間依存シュレーディンガー方程式を数値的に解いた。対象とした原子はマグネシウム原子である。パルス時間幅100fs,波長400nm,光強度10^<12>W/cm^2の光が照射された場合について計算を試みたところ,予想されたように超閾イオン化と呼ばれる幾つかのピークが光電子スペクトルに現れた。さらには,超閾イオン化ピークの間に幾つかの副ピークが現れた。これらの副ピークについては,過去に幾つかの理論および実験報告がなされているが,その物理的起源については明確にされていない。そこで,この副ピークの物理的起源を明らかにするため,さらに研究を進めた。まず,この副ピークは主ピークに比べ数桁ほど信号強度が低い。また,レーザーの偏光(直線偏光,円偏光)を問わず,同程度の強度で光電子スペクトルに現れる。2電子系原子の持つ複雑な内部構造,即ち,何らかの束縛状態が副ピークに寄与していると予測し,幾つかの試行的計算を試みた結果,非常に非共鳴ではあるが,実励起された3s3p ^1P_1状態がこの副ピークの物理的起源であることが判明した。同様に,レーザー波長が266nmである場合についても計算を試みた。400nmの場合と同じく,副ピークが光電子スペクトルに現れたが,このレーザー波長については,やはり非共鳴的に実励起された3s4p ^1P_1が副ピークの起源であることがわかった。このような副ピークは価電子を1つしか持たない水素原子には現れないので,多電子系原子特有の現象であるといえる。
KAKENHI-PROJECT-05F05709
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南西諸島人骨格の人類学的再検討
1.奄美諸島住人の頭蓋140例、沖縄本島122例、先島諸島63例について、計測的、非計測的特徴を調査した。2.顔面平坦度計測の結果から、沖縄本島人が予想以上に顔面が平坦であることが明らかになった。3.沖縄本島人の顔面の平坦性は渡来系弥生人、古墳人とほぼ同様で、顔面の立体的なアイヌや縄文人とは著しく異なっていた。4.したがって、従来の伝統的計測法による結果のみをもって、琉球・アイヌ同系説を議論することがいかに危険であるかを指摘した。5.頭蓋の非計測的特徴の出現パターンも、沖縄、奄美諸島人はアイヌや縄文人と明らかに異なり、むしろ本土の日本人や中国人と近いことが明らかになった。6.我々の今回の結果だけから、琉球・アイヌ同系説を否定してしまうのもまだデータ不足と思われ、例数がまだ100例に満たない先島諸島を中心に、今後も調査を継続することで共同研究者と意見が一致した。1.奄美諸島住人の頭蓋140例、沖縄本島122例、先島諸島63例について、計測的、非計測的特徴を調査した。2.顔面平坦度計測の結果から、沖縄本島人が予想以上に顔面が平坦であることが明らかになった。3.沖縄本島人の顔面の平坦性は渡来系弥生人、古墳人とほぼ同様で、顔面の立体的なアイヌや縄文人とは著しく異なっていた。4.したがって、従来の伝統的計測法による結果のみをもって、琉球・アイヌ同系説を議論することがいかに危険であるかを指摘した。5.頭蓋の非計測的特徴の出現パターンも、沖縄、奄美諸島人はアイヌや縄文人と明らかに異なり、むしろ本土の日本人や中国人と近いことが明らかになった。6.我々の今回の結果だけから、琉球・アイヌ同系説を否定してしまうのもまだデータ不足と思われ、例数がまだ100例に満たない先島諸島を中心に、今後も調査を継続することで共同研究者と意見が一致した。1.平成5年6月に百々が東京大学総合研究資料館に出張し、同館所蔵の沖縄本島と先島諸島の頭蓋34例の頭蓋計測と写真撮影を行なった。2.平成5年7月、8月に土肥が西表島上原地区の風葬墓人骨約50例の整理・復元を行い、これらの資料を琉球大学医学部に移送した。3.平成5年12月上旬に近藤が京都大学理学部自然人類学研究室に出張し、同研究室保管の沖縄本島と奄美諸島の頭蓋130例について、頭蓋計測と写真撮影を行なった。4.平成5年12月から平成6年1月にかけて、百々と近藤が琉球大学医学部に出張し、土肥と三人で西表島上原地区の頭蓋26例と沖縄本島島尻群玉泉洞風葬墓の頭蓋94例について、頭蓋計測、頭蓋形態小変異の調査および写真撮影を行なった。5.平成5年度において、奄美諸島、沖縄本島の頭蓋がそれぞれ100例以上調査できたので、平成6年度は宮古島長墓の風葬墓人骨の調査を行い、先島諸島の資料も100例以上に増やし、南西諸島人頭蓋の形質人類学的再評価を完成させたい。1.奄美諸島住人の頭蓋140例、沖縄本島122例、先島諸島63例について、計測的、非計測的特徴を調査した。2.顔面平坦度計測の結果から、沖縄本島人が予想以上に顔面が平坦であることが明らかになった。3.沖縄本島人の顔面の平坦性は渡来系弥生人、古墳人とほぼ同様で、顔面の立体的アイヌや縄文人とは著しく異なっていた。4.したがって、従来の伝統的計測法による結果のみをもって、琉球・アイヌ同系説を議論することがいかに危険であるかを指摘した。5.頭蓋の非計測的特徴の出現パターンも、沖縄、奄美諸島人はアイヌや縄文人と明らかに異なり、むしろ本土の日本人や中国人と近いことが明らかになった。6.我々の今回の結果だけから、琉球・アイヌ同系説を否定してしまうのもまだデータ不足と思われ、例数がまだ100例に満たない先島諸島を中心に、今後も調査を継続することで共同研究者と意見が一致した。
KAKENHI-PROJECT-05640805
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05640805
植物による都市冷却機構の解明と応用
本研究の目的は,樹木と大気の熱交換メカニズムを定量的に示し,葉のスケールや三次元構造の影響について,緑地を都市の微気象制御に応用するための基礎的知見を得ることである。顕熱伝達の特性は,植物の葉の熱伝達係数の影響が大きいため,樹木全体の熱交換を推定するため,個葉の測定を行った。熱画像データから得られた,地表面と樹冠の昼夜の表面温度差分布から,樹木は昼に低温を示し,夜高温を示す。この現象は,樹木の熱伝達係数が高いことが原因である可能性が高いため,シミュレーションモデルにより,その現象を再現した。本研究の結果は,樹木と大気との熱交換の特性解明や,温熱環境予測にも使用できると考えられる。都市の緑は蒸発散により都市を冷やすと考えられているが,さまざまな測定結果から,緑地が冷えるのは,蒸発散の効果だけでは必ずしも説明出来ない場合がある。その原因には,小さい葉の集合体である植物と大気との顕熱交換が従来の常識よりも大きいことが考えられる。従来,熱収支を考えるとき,空中にある葉群の構造や分布と顕熱交換との関係などは,あまり扱われていなかった。そこで,本研究では,葉の集合体としての樹木と大気との熱交換の特性や,葉のスケールや三次元構造が熱収支に及ぼす影響の解明をその目的とした。本年度は,個葉の熱伝達係数を実験により求めた。葉の熱伝達係数算出に当たっては,潜熱輸送量の異なる2個体を用いて,熱収支式を連立して解く方法を用いた。実験に用いた樹種は,アオキ,ヤブツバキ,イヌツゲの3種である。葉面積の大きさが,熱伝達係数に影響するかどうかを見るため,このような3種の葉を用いた。熱伝達係数の平均値の結果は,アオキが24(W/m2K),ヤブツバキが17(W/m2K),イヌツゲが39(W/m2K)であった。葉面積は,アオキ(110cm2),ヤブツバキ(18cm2),イヌツゲ(0.7cm2)の順で小さくなるので,必ずしも葉面積が大きいほど,熱伝達係数が小さくなる傾向は見られなかった。これは,異なる樹種の葉を実験に用いたため,単純に葉の大きさのみが,熱伝達係数に影響しなかったためと考えられる。葉温は,小さい葉ほど,低い温度となった。葉の熱伝達係数の測定は,非常に研究例が少ないが,今回用いた手法により,個葉について熱伝達係数を求めることが可能であることを示すことができ貴重なデータを得られた。今後も実験を続けて測定例を増やす予定である。この結果をもとに,葉の集合体である樹木の個体について,三次元構造などを考慮して熱伝達係数を把握し分析する予定である。都市の緑は蒸発散により都市を冷やすと考えられているが,さまざまな測定結果から,緑地が冷えるのは,蒸発散の効果だけでは必ずしも説明出来ない場合がある。その原因には,小さい葉の集合体である植物と大気との顕熱交換が大きく気温に近い温度になるため,見かけ上冷却されているように見えることが考えられる。従来,熱収支を考えるとき,空中にある葉群の構造や分布と顕熱交換との関係などは,あまり扱われていなかった。そこで,本研究では,葉の集合体としての樹木と大気との熱交換の特性や,葉のスケールや三次元構造が熱収支に及ぼす影響の解明をその目的とした。本年度は,植物の立体形状モデルの作成,リモートセンシング熱画像データの解析とともに,昨年度と同様個葉の熱伝達係数を実験により求めた。植物の立体形状モデルの作成では,シミュレーションに用いる樹木三次元データを作成した。リモートセンシング熱画像データの解析では,地表面と樹冠の昼夜の表面温度差と,樹木の大きさの関係を求めた。このデータは今後,シミュレーションの検証に用いる。葉の熱伝達係数を求める実験では,今回も潜熱輸送量の異なる2個体を用いて,熱収支式を連立して解く方法を用いた。実験結果を昨年と比較できるように,実験に用いた樹種は,アオキ,ヤブツバキ,イヌツゲの3種とした。葉面積は,アオキ>ヤブツバキ>イヌツゲの順で小さく,熱伝達係数の平均値の結果は,アオキが<イヌツゲ<ヤブツバキであった。必ずしも葉面積が大きいほど,熱伝達係数小さくなる傾向は見られなかった。異なる種の葉を実験に用いたため気孔の構造,数や葉の表面特性が異なるため,単純に葉の大きさが熱伝達係数に影響しなかったためと考えられる。以上のようなモデル化,測定結果により,個葉の集合としての樹木の熱伝達解析について,重要な知見が得られたといえる。都市の緑は蒸発散により都市を冷やすと考えられているが,緑地が冷えるのは,蒸発散の効果だけでは必ずしも説明出来ない場合がある。その原因には,小さい葉の集合体である植物と大気との顕熱交換が大きく気温に近い温度になるため,見かけ上冷却されているように見えることが考えられる。そこで,本研究では,葉の集合体としての樹木と大気との熱交換の特性や,樹木の三次元構造が熱収支に及ぼす影響の解明をその目的として,ミクロの個葉からマクロの公園レベルまで,測定とシミュレーションによる解析を行った。本年度は,昨年度までの個葉の熱伝達係数の測定実験により求められたデータをもとに,シミュレーションを行った。また,リモートセンシングにより測定された都市表面温度の解析を行い,都市緑地とシミュレーション結果との比較を行った。
KAKENHI-PROJECT-25450368
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植物による都市冷却機構の解明と応用
シミュレーションでは,植物の立体形状モデル,熱収支,気流解析モデルを使用し,熱収支の各項,気温,湿度,風速などを求めた。測定された表面温度との比較では,新宿御苑の一部を対象区域として,その樹木の立体構造を用いてシミュレーションを行ない比較した。その結果,昼は樹林の表面温度が低く,夜は芝生の表面温度が低いという現象が,表面温度の絶対値はシミュレーションのほうがやや高くなるものの,再現できた。樹林が夜に低温とならないのは,その熱伝達係数が高いことが理由と考えられる。以上のようなシミュレーションと測定との比較の結果から,樹木の熱伝達と都市を冷却する機構について重要な知見が得られたといえる。本研究の目的は,樹木と大気の熱交換メカニズムを定量的に示し,葉のスケールや三次元構造の影響について,緑地を都市の微気象制御に応用するための基礎的知見を得ることである。顕熱伝達の特性は,植物の葉の熱伝達係数の影響が大きいため,樹木全体の熱交換を推定するため,個葉の測定を行った。熱画像データから得られた,地表面と樹冠の昼夜の表面温度差分布から,樹木は昼に低温を示し,夜高温を示す。この現象は,樹木の熱伝達係数が高いことが原因である可能性が高いため,シミュレーションモデルにより,その現象を再現した。本研究の結果は,樹木と大気との熱交換の特性解明や,温熱環境予測にも使用できると考えられる。本研究の目的は,葉の集合体としての樹木と大気の熱交換がどの程度かを定量的に示し,これまでの気象,工学的な理論では扱われてこなかった,空中にある葉群の構造や分布と顕熱交換係数との関係などについて解析することである。また,葉の集合体と大気との熱交換の特性や,葉のスケールや三次元構造の影響についてモデル化し,樹木の集合体である緑地を都市の微気象制御に応用するための基礎的知見を得ることも目標である。本年度は,植物の葉の三次元的密度分布データを作成し,検証データの一部として,リモートセンシング熱画像データから,地表面と樹冠の昼夜の表面温度差分布を求めた。また熱伝達係数の測定では,前年度の測定データを積み重ねることができた。これらにより,植物と大気間で,顕熱交換メカニズムの概要が把握できた。また,葉の集合体である樹木の顕熱交換シミュレーションモデルについても基本的なデータを得ることができた。以上より,葉の集合体としての樹木と大気との熱交換の特性解明や,葉のスケールや三次元構造が熱収支に及ぼす影響の解明などの最終的な目標に向かっての準備が順調に進んだといえる。農業情報工学今後は作成した植物の葉の三次元的密度分布データを使用し,葉の熱伝達係数の測定値をもとに,樹木全体の熱交換モデルを作成し,三次元的な温度分布や,樹木全体としての熱交換のシミュレーションを行う予定である。リモートセンシング熱画像データから得られた,地表面と樹冠の昼夜の表面温度差分布からは,大域的,限定的な情報しか得られないが,検証データとして使用することを試みる。また,葉の集合体である個体についても,個葉の場合と同じ手法を用いて熱伝達係数の測定を行ない検証データとする。葉の空間的な分布が熱伝達係数にどのような影響を及ぼすかについては,シミュレーションモデルの葉の大きさ,葉の角度,密度などを変化させて分析する。以上より,葉の集合体としての樹木と大気との熱交換の特性解明や,葉のスケールや三次元構造が熱収支に及ぼす影響の解明を行う。
KAKENHI-PROJECT-25450368
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体細分化と生殖細胞分化におけるゲノム刷り込みの成立と消去
ゲノム刷り込みは、遺伝子がその由来する親によって異なる現象で、片親由来の遺伝子のみが機能することをいう。ゲノム知り込みは、DNAのメチル化による制御を受けているが、どのようにして得意な発現様式が確立するかについての詳細は明らかではない。本研究では、ES細胞の試験管内分化誘導系を用い、刷り込み型遺伝子発現が細胞分化にともなって成立してくることを明らかにし、その分子基盤を解析する解析系の確立を行った。ゲノム刷り込みは、遺伝子がその由来する親によって異なる現象で、片親由来の遺伝子のみが機能することをいう。ゲノム知り込みは、DNAのメチル化による制御を受けているが、どのようにして得意な発現様式が確立するかについての詳細は明らかではない。本研究では、ES細胞の試験管内分化誘導系を用い、刷り込み型遺伝子発現が細胞分化にともなって成立してくることを明らかにし、その分子基盤を解析する解析系の確立を行った。ゲノム刷り込みの実験モデルとして、独自に樹立した亜種間雑種ES/EG細胞の性質を解析している。ES/EG細胞において刷り込み遺伝子、Igf2r、Air、H19、Igf2、Kcnq1,Kcnq1ot1の発現解析を行った。MSMのゲノム配列情報とB6との間でcSNPの検索を行い、制限酵素多型を多数発見した。この制限酵素多型を利用して、刷り込み遺伝子群の発現解析を行った。未分化ES細胞においては、刷り込み遺伝子の発現は様々であったが、分化後のES細胞においてはいずれも刷り込み型の発現様式を示した。一方,刷り込み遺伝子のメチル化が全く失われているEG細胞株においては分化後も,両アレルから発現していた。以上から,刷り込み型遺伝子発現を支配しているのはDNAのメチル化であり、その発現様式が成立するのは分化後の細胞であることがわかった。刷り込み型遺伝子発現制御のクロマチンレベルでの制御機構を明らかにするために、クロマチン免疫沈降法(ChIP)についての技術確立を行った。抗修飾ヒストン抗体を用い、亜種間雑種胚由来線維芽細胞を対象にChIPを行った。その結果、予想されるパターンで刷り込み遺伝子座のクロマチンにヒストン修飾が入っていることが確認された。亜種間のゲノムに存在するSNPsにより制限酵素多型を利用して、クロマチンの修飾がアレルの由來で異なり、その割合を定量的に検出する技術を確立できた。ES細胞の試験管内分化系により、生殖細胞分化過程とゲノムの再プログラム化を解析している。Vasa-Venus BAC Tgマウスから樹立したVasa-Venus ES細胞は分化させることで、効率かつ再現性よくPGC様細胞(iPGC)に分化させることができる。このiPGCをVenusの蛍光を利用して分取することができた。現在そのゲノムDNAのメチル化の状態、及びRNAの発現プロファイリングを行っている。ゲノム刷り込み型遺伝子発現が成立する過程においてゲノムDNAのメチル化が与える影響について調べるために、体細胞方のメチル化パターンを持つ胚性幹(ES)細胞とゲノム再プログラム化によって刷り込み遺伝子のメチル化を失った生殖細胞に由来する胚性生殖(EG)細胞とを用いて解析を行なっている。これまでに、ES細胞、EG細胞共に未分化状態では両アレル発現を示すが、細胞を分化させることで、体細胞方のメチル化パターンを持つES細胞においては刷り込み型発現を示すが、メチル化情報を失っているEG細胞においては、両アレル発現が維持されていることが分かってきた。本年度においては、細胞分化と刷り込み型発現の成立にともなってメチル化を受ける、Igf2遺伝子のプロモータの解析を行った。未分化状態ではES細胞、EG細胞のいずれでも、この領域はメチル化されていなかった。これらの細胞を分化させることによって、ES細胞においては母親アレルがメチル化され、EG細胞においてはランダムにどちらかのアレルがメチル化されていることがわかり、ランダムな片側アレル発現を示唆するものであった。これらの結果は、遺伝学会において発表を行った。また、ES細胞を分化させて生殖細胞様の細胞を分化する系を応用し、iPS細胞からも生殖細胞によく似た細胞を分化誘導させることができることを共同研究として行い、Mol. Reprod. Dev.誌に発表した。また、ES細胞を扱う技術を用いて、ゲノム刷り込みと同様にエピジェネティックな現象として良く知られているX染色体の不活性化の解析を行う国際研究グループにも参加し、Cell誌にその成果を報告することができた。哺乳類のゲノム刷り込みは、片方の親から受け継いだ遺伝子のみが発現する現象であり、DNAのメチル化やヒストン修飾などのゲノムへのエピジェネティックな修飾により制御されている。刷り込み遺伝子のエピジェネティック修飾は、生殖細胞形成過程に一旦消去され(ゲノム再プログラム化)、そのごの配偶子形成過程において、精子・卵子それぞれに特異的な刷り込みが形成される。また、刷り込み遺伝子は着床前胚においては両アレルから発現しているものが知られているが、着床後の体細胞において刷り込み型の遺伝子発現様式が成立するという報告がある。これまでの研究により、ES細胞を用いた解析においては、フィーダーに依存しないES細胞を利用することが重要であることが分かってきたので、フィーダーに依存しないES細胞の樹立を行った。通常の実験用マウス系統C57BL/6Jとその亜種にあたるJFI/Msfの相互交配によって得られる胚から樹立されたES細胞は、非常に効率よく分化することが定量的PCRによって示すことができた。この結果を元に、日本内分泌撹乱物質学会と分子生物学会において研究発表を行った。
KAKENHI-PROJECT-21570009
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体細分化と生殖細胞分化におけるゲノム刷り込みの成立と消去
新しいES細胞株を利用することによって、二次インプリントマークにおけるDNAメチル化のダイナミクスを、これまでと同様のバイサルファイトシークエンス法と共に、所属研究室に導入されたパイロシークエンサーを用いて、詳細な解析を行っている。さらに、九州大学、理化学研究所バイオリソースセンターの共同研究にも参画し、Xist遺伝子への挿入突然変異によって得られた、表現型としてX染色体不活性化が不完全となる形質をしめすノックアウトマウスにおける遺伝子発現制御様式の解析により論文を発表した。
KAKENHI-PROJECT-21570009
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ハンセン病医療倫理学の創出に向けた学術的基盤の構築とカリキュラム開発
ハンセン病は古来から差別や排斥の対象となり、明治以降は、らい予防法下で、強制収容・終生隔離の対象とされ、療養所内でも人権蹂躙のあった歴史を持つ。本プロジェクトの目的は、ハンセン病を医療教育の中で語り継ぎ、医療倫理について深く考えることのできる人材を育成できるよう、教育環境を整えることである。本年度は初年度であることから、まず、ハンセン病と医療倫理に関する研究の動向について、文献レビューを行った。その結果、ハンセン病の差別・排斥については、法学・社会学・歴史学・民俗学・優生学などの視点からの指摘はあるものの、医の倫理・医療倫理・看護倫理の視点からの指摘は少ないことが示唆された。次に、ハンセン病を語り継ぐための教材を作成した。教材には、ハンセン病を正しく理解するために必要な知識として、ハンセン病の病態生理、および、わが国におけるハンセン病の歴史を加えた。さらに、ハンセン病者がらい予防法下でどのような苦悩を体験したのかを理解するために、ハンセン病回復者のライフレビュー、すなわち、誕生から、ハンセン病の診断をうけて療養所に入所し、療養者内で人生のほとんどの時間を過ごし、老境に至った現在までの、生涯にわたる人生の回想を加えた。これらの教材を元に、コメディカル系学部1年生、看護系学部2年生・4年生、医療系以外の大学生、一般社会人などを対象に授業展開を行った。現在は、これらの学生の授業評価および授業をとおして学びについて分析を行っている。今後は、これらの結果に基づき、教材の加筆修正を行い、公開を目指す予定である。研究計画書に基づき、教材作成が順調に進んでいるため。引き続き、研究計画書に基づき、教材作成を滞りなく進める。ハンセン病は古来から差別や排斥の対象となり、明治以降は、らい予防法下で、強制収容・終生隔離の対象とされ、療養所内でも人権蹂躙のあった歴史を持つ。本プロジェクトの目的は、ハンセン病を医療教育の中で語り継ぎ、医療倫理について深く考えることのできる人材を育成できるよう、教育環境を整えることである。本年度は初年度であることから、まず、ハンセン病と医療倫理に関する研究の動向について、文献レビューを行った。その結果、ハンセン病の差別・排斥については、法学・社会学・歴史学・民俗学・優生学などの視点からの指摘はあるものの、医の倫理・医療倫理・看護倫理の視点からの指摘は少ないことが示唆された。次に、ハンセン病を語り継ぐための教材を作成した。教材には、ハンセン病を正しく理解するために必要な知識として、ハンセン病の病態生理、および、わが国におけるハンセン病の歴史を加えた。さらに、ハンセン病者がらい予防法下でどのような苦悩を体験したのかを理解するために、ハンセン病回復者のライフレビュー、すなわち、誕生から、ハンセン病の診断をうけて療養所に入所し、療養者内で人生のほとんどの時間を過ごし、老境に至った現在までの、生涯にわたる人生の回想を加えた。これらの教材を元に、コメディカル系学部1年生、看護系学部2年生・4年生、医療系以外の大学生、一般社会人などを対象に授業展開を行った。現在は、これらの学生の授業評価および授業をとおして学びについて分析を行っている。今後は、これらの結果に基づき、教材の加筆修正を行い、公開を目指す予定である。研究計画書に基づき、教材作成が順調に進んでいるため。引き続き、研究計画書に基づき、教材作成を滞りなく進める。
KAKENHI-PROJECT-18H03075
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Non-coding RNAを介した妊娠出産期の皮膚基底細胞の増殖制御機構の解明
長鎖非翻訳RNAであるH19遺伝子は、古くから知られたインプリンティング遺伝子です。H19 RNAは発生中の多くの組織で発現しており、細胞の増殖や分化の制御に関わるとされていますが、H19の発現制御機構についてはインプリンティングのほかには、ほとんど知られていません。本研究では、H19の発現制御機構としてグアニン四重鎖を介した転写制御機構を見出しました。グアニン四重鎖とは、グアニンが豊富な核酸が取ることのできる高次構造で、テロメアやがん関連遺伝子によく見られることがわかっています。H19の転写開始点直後には進化的に保存された、グアニンに富んだ配列が存在しており、in vitroの実験からこの配列がグアニン四重鎖を形成していること、またこの配列が転写を制御していることが明らかになりました。さらに、H19グアニン四重鎖と結合する因子として二つの転写因子、Sp1とE2F1を同定しました。これらの因子は細胞周期や胚性幹細胞の分化といった細胞の状態によって、H19グアニン四重鎖との結合状態を変化させ、H19の発現量を正および負の両方向に制御していることを突き止めました。H19 RNAは多くのがん細胞で高発現し、細胞の増殖や浸潤を引き起こす原因となっていることからも、本研究で明らかになったグアニン四重鎖によるH19の発現調節機構は、エピジェネティックな機構を介した、がん治療の有効なターゲットとなることが期待されます。28年度が最終年度であるため、記入しない。28年度が最終年度であるため、記入しない。マウスの周産期における腹部皮膚基底細胞の増殖変化に、long non-coding RNAであるH19遺伝子が関与している可能性について検討している。またH19のRNAからはmicroRNAが産生されることが報告されており、このmicroRNAの関与も合わせて調べている。これらのRNAの発現は周産期の母体皮膚において、変動がみられることをこれまでに確認した。また、H19ノックアウトマウスを入手し、皮膚増殖異常などの解析を進めている。さらに、この発現量変化について実験を行っていく中で、H19の転写制御機構について注目した。H19はインプリンティング遺伝子であり、長期間にわたって発現が固定されているとみなされているが、これまでに一過的な発現変動が確認されている。このことからH19の発現制御にはインプリンティングによらない制御機構が存在することが示唆される。我々は、H19の転写開始点直後にグアニンに富んだ配列が存在し、その配列がグアニン四重鎖(G4)を形成することを見出した。グアニン四重鎖とは、4つのグアニンが四量体を作った面が複数面重なった、核酸による立体構造で、テロメアの安定性に関わるほか、遺伝子の転写や翻訳を制御することが報告されている。そこで、H19に見られたG4が転写制御に関わっているのかを調べたところ、複数のプロモーターからの転写を抑制する能力があることがわかった。現在、G4の高次構造に結合するタンパク質複合体の探索を行っており、G4による遺伝子発現制御がどのように行われているのか、さらなる解明を目指している。当初の目的であった、マウスの周産期における腹部皮膚基底細胞の増殖変化についてはH19ノックアウトマウスを導入することができ、細胞染色などのデータを得つつある。またH19について、新たな発現制御メカニズムを発見した。H19の転写開始点がグアニンに富み、G4を形成すること、またその配列が転写を制御している可能性を示唆するデータが得られている。長鎖非翻訳RNAであるH19遺伝子は、古くから知られたインプリンティング遺伝子です。H19 RNAは発生中の多くの組織で発現しており、細胞の増殖や分化の制御に関わるとされていますが、H19の発現制御機構についてはインプリンティングのほかには、ほとんど知られていません。本研究では、H19の発現制御機構としてグアニン四重鎖を介した転写制御機構を見出しました。グアニン四重鎖とは、グアニンが豊富な核酸が取ることのできる高次構造で、テロメアやがん関連遺伝子によく見られることがわかっています。H19の転写開始点直後には進化的に保存された、グアニンに富んだ配列が存在しており、in vitroの実験からこの配列がグアニン四重鎖を形成していること、またこの配列が転写を制御していることが明らかになりました。さらに、H19グアニン四重鎖と結合する因子として二つの転写因子、Sp1とE2F1を同定しました。これらの因子は細胞周期や胚性幹細胞の分化といった細胞の状態によって、H19グアニン四重鎖との結合状態を変化させ、H19の発現量を正および負の両方向に制御していることを突き止めました。H19 RNAは多くのがん細胞で高発現し、細胞の増殖や浸潤を引き起こす原因となっていることからも、本研究で明らかになったグアニン四重鎖によるH19の発現調節機構は、エピジェネティックな機構を介した、がん治療の有効なターゲットとなることが期待されます。周産期において、H19ノックアウトマウスの皮膚基底細胞の増殖変化が野生型マウスと異なっている様子を増殖マーカーであるKi67で染色を行い、観察する。またH19RNAやそこから産生されるmicroRNAの発現している部位をin situハイブリダイゼーションにより決定する。さらにこれまでH19の発現制御メカニズムとして同定したG4に特異的に結合するたんぱく質や転写因子を同定し、これらの制御がマウスの体内においても同様に機能しているのかを解明する。
KAKENHI-PROJECT-15J06476
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15J06476
Non-coding RNAを介した妊娠出産期の皮膚基底細胞の増殖制御機構の解明
28年度が最終年度であるため、記入しない。28年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-15J06476
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被削材内部応力の高速度偏光撮影に基づいた超音波振動切削加工の現象究明と最適化
メタクリル樹脂の二次元切削における光弾性法における縞次数から算出される切削分力を推定可能にした.その結果,超音波振動援用切削における断続切削下においては,切削応力が消失する期間が観察された.さらに短時間での応力変動の有無を確認するために,発光時間15nsのパルスレーザ光源を切れ刃の振動に同期させて発光させ,極短時間での応力変動を可視化した.そして,超音波振動1周期36.2μsを360コマで撮影するシステムを構築した.切れ刃の振動による応力分布変動が振動振幅や送り速度から受ける影響を調査するとともに,被削材の弾性変形による切り残しについて着目し,超音波切削加工現象について検証した.【被削材内部の応力変動の動的撮影手法の確立】光弾性法では,主応力差が偏光の位相差としてBrewsterの法則に従って干渉縞として観察される.すなわち,位相差は,被削材の厚さと光弾性定数に比例する.実際には,光弾性定数は素材によるばらつきが大きく,また,応力値が高くなって縞次数が二次以上では,応力値に対しての非線形性が強くなる.そこで,本研究では,被削材となるテストピースと同一素材に対して既知の単軸応力を作用させることで,撮影される位相差と主応力差との校正を行った.その結果,工具動力計で測定した切削力との差は,8%以下であることが確認された.一方、超音波振動加工の再現性のある周期的現象に注目し,撮影光源を超音波振動よりも充分に短い時間だけ,振動に同期発光させるストロボ撮影を行った.光源には,超音波振動の同期信号トリガに対して応答性の高いパルスレーザー光源(パルス発光時間15ns,波長525nm)を選定し,適切な測定系,光学系を構築した.その結果,発光時間が極短時間であったが,光量は十分であり,1ショットでの撮影が可能になった.【二次元切削加工装置の開発】超音波切削加工において,送り速度が低い場合には,相対的に振動速度(振動周波数×振幅)の効果が高い.振動速度と送り速度が等しくなる,「臨界切削速度」での二次元切削実験が可能となる装置を開発し,上述の撮影装置に組み込んだ.インサートを周波数28kHz ,振幅6μmで送り方向,背分力方向,およびそれらの鉛直方向に振動させる切削ユニットを製作した.切削実験の結果,理論的には超音波振動1周期中の10%ほどの期間でインサートと被削材が接触している加工条件においても,応力が消失する時間は理論時間よりも著しく短く,切り込み深さを大きくすると消失時間がほとんど見られなくなることもあった.加工特性を改善する「超音波振動加工技術」は,難削材加工,高精度・微細加工に適用される.しかし,超音波帯域で繰り返される動的かつ短時間な加工メカニズムは,いまだに明らかになっていない.そこで、平成26年度には、超音波振動に同期して発光するパルスレーザー発光源と、振動速度と同程度の送り速度を実現する高速二次元切削装置を開発した。そして、被削材内部の応力を光弾性によって撮影することで、動的撮影手法を確立した。平成27年度は、同装置を用いて臨界送り速度(振動する切れ刃が,被削材から離脱できなくなる理論的な最高送り速度)から,より遅い送り速度での応力変動を測定した.その結果,臨界速度の半分程度で切れ刃が離脱を始め,1/6程度では完全に応力が消失して断続切削となることがわかった.撮影結果を詳細に検証した結果,被削材の弾性変形が超音波帯域で繰り返されるため,弾性回復によって切れ刃が離脱できなくなることがわかった.すなわち,切れ刃と送り運動の相対関係から求められる臨界送り速度の理論は,超音波切削現象を説明するには不十分であることがわかった.また,弾性変形量は,振動振幅によって大きく変化することがわかった.計画の通り,超音波帯域での加工現象を撮影できるシステムが構築され,その加工原理について明らかにすることができた.しかし,計画書では,超音波振動の周波数が加工特性に与える影響を検証するために,複数の切削装置を製作する予定であったが,年度内での完成には至らなかったが,平成28年度4月中に装置設計は完了する.以上の結果,おおむね計画通りに研究は遂行中である.超音波振動を援用した研削加工においては目づまりの抑制や研削抵抗の低減など,さまざまな加工特性の改善効果)が知られている.これらの効果は,加工結果から確認されている一方,そのメカニズムについては,未だに不明な点が多い.その理由は,研削状態を定量的に計測するために一般的に用いられる工具動力計の周波数帯域は数kHz以下であり,超音波振動に起因する加工現象を十分に論じるための応力変動を測定できないためである.昨年度までに,メタクリル樹脂を超音波2次元切削したときに生じる応力変動を,光弾性法により可視化することに成功した.今年度は,パルスレーザを撮影光源とすることで,時間分解能15nsでの極短時間での応力変動の撮影を可能にした.パルスレーザの照射タイミングを,超音波振動の周期よりも充分に短い時間で制御することで,内部応力と工具位置の変動を同期して測定することに成功し,両者の時間的関係性を明確にした.
KAKENHI-PROJECT-26289014
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26289014
被削材内部応力の高速度偏光撮影に基づいた超音波振動切削加工の現象究明と最適化
具体的には,28kHzの超音波振動に対して,1周期間(33μsec)に360枚の撮像を行っている.実験の結果,本撮影システムでは,視野内で弾性波の伝播現象を観察できるはずであるが,突発的な変動は確認できなかった.すなわち,切れ刃と被削材の相対的な変位のみで述べられる断続切削の理論では,加工現象を説明できないことがわかった.被削材の弾性変形による切り残しを光弾性による切削力測定法で評価した結果,超音波振動切削によって切り残し量が22μmから数μm以下まで減少することがわかった.しかし,振動振幅3μmにおいては,切り残し量は振幅以上となるために断続切削にならない一方で,振動振幅6μmにおける切り残し量は2μm程度しかないために,断続切削となりうることがわかった.すなわち,超音波振動切削では,振動振幅も重要な加工パラメータとなることが検証された.メタクリル樹脂の二次元切削における光弾性法における縞次数から算出される切削分力を推定可能にした.その結果,超音波振動援用切削における断続切削下においては,切削応力が消失する期間が観察された.さらに短時間での応力変動の有無を確認するために,発光時間15nsのパルスレーザ光源を切れ刃の振動に同期させて発光させ,極短時間での応力変動を可視化した.そして,超音波振動1周期36.2μsを360コマで撮影するシステムを構築した.切れ刃の振動による応力分布変動が振動振幅や送り速度から受ける影響を調査するとともに,被削材の弾性変形による切り残しについて着目し,超音波切削加工現象について検証した.平成26年度では,装置開発を主に行う予定であった.おおまかに,撮影機器の構築と切削装置の製作であるが,順調に開発が終わり,実験結果を得ることができた.実験の結果,予想とは異なるような加工状態が得られたのは,大きな進展であると考えられる.加工原理が明確化されれば,超音波加工技術の体系化ができる.特に,被削材の弾性変形を減らす工具形状が開発されれば,高い生産性を実現できる.この実験結果を,各種被削材,例えば熱可塑性CFRPやガラスの加工に適用し,本手法の活用分野を探っていく.28年度が最終年度であるため、記入しない。工学加工条件に対しての,振動加工特性の変化を詳細に測定する.また,今年度の結果として得られた,予想以上に応力の発生時間が長い点については,微速で送り速度を制御できる送り機構を用いて,被削材のスプリングバック特性も考慮に入れた検証を行う.28年度が最終年度であるため、記入しない。消耗品の決算が遅れたため、会計上の理由により次年度に繰り越されたものです。28年度が最終年度であるため、記入しない。平成26年度中に納品され研究遂行上は影響なかった。平成27年度に消耗品購入の一部として使用する予定です。28年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-26289014
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介入的自由主義と管理型市場経済の生成に関する国際比較研究-戦間期から戦後へ-
現代経済史研究はドイツとその周辺に限っても次のような顕著な発展を示し、新たな認識枠組みを必要としている。景気回復期ナチス経済をケインズ主義と結びつける通説の相対化とナチス賃金政策の重要性への注目、ナチス期初期をワイマール経済の問題性の解消過程として捉える視点からのナチス経済政策の自由主義的性格の注目、ドイツ新自由主義とナチズムとの親和的関係への注目、ナチ期国家と企業の関係における私的所有権の意義および契約とインセンティブの解明、国際決済銀行を媒介とした国際的連携の実証研究の蓄積、以上である。こうした新しい研究水準を踏まえて現代経済史に対して次のような視点からアプローチを行った。すなわち危機に直面した「経済的自由主義」と「市場経済」の、戦間期をへて「介入か放任か」という対立軸を超えた「介入的自由主義」と「管理型市場経済」への発展という視点である。明らかにしたのは次のような諸点である。(1)ドイツにおける介入的自由主義の生成過程を、市場経済論・競争政策論、金融システム、公益産業の諸視点から解明した。(2)金本位制崩壊後の国際経済秩序再建に関してBISの新自由主義的な国際通貨・金融システムの構想を明らかにした。(3)日本戦時物資動員計画の特質を統制と市場の観点から解明した。戦時経済システムに関して日本へのドイツからの政策思想の影響を考察した。(4)ドイツの社会的市場経済との関連で新自由主義の意味を考察した。平成18年度には政治経済学・経済史学会・秋季学術大会においてパネル・ディネカッションを試みた。ラロジェクト遂行にあたってはW.アーベルスハウザー教授、J.シュトレープ教授を海外共同研究者として日本に招聘し、研究集会を実施した。現代経済史研究はドイツとその周辺に限っても次のような顕著な発展を示し、新たな認識枠組みを必要としている。景気回復期ナチス経済をケインズ主義と結びつける通説の相対化とナチス賃金政策の重要性への注目、ナチス期初期をワイマール経済の問題性の解消過程として捉える視点からのナチス経済政策の自由主義的性格の注目、ドイツ新自由主義とナチズムとの親和的関係への注目、ナチ期国家と企業の関係における私的所有権の意義および契約とインセンティブの解明、国際決済銀行を媒介とした国際的連携の実証研究の蓄積、以上である。こうした新しい研究水準を踏まえて現代経済史に対して次のような視点からアプローチを行った。すなわち危機に直面した「経済的自由主義」と「市場経済」の、戦間期をへて「介入か放任か」という対立軸を超えた「介入的自由主義」と「管理型市場経済」への発展という視点である。明らかにしたのは次のような諸点である。(1)ドイツにおける介入的自由主義の生成過程を、市場経済論・競争政策論、金融システム、公益産業の諸視点から解明した。(2)金本位制崩壊後の国際経済秩序再建に関してBISの新自由主義的な国際通貨・金融システムの構想を明らかにした。(3)日本戦時物資動員計画の特質を統制と市場の観点から解明した。戦時経済システムに関して日本へのドイツからの政策思想の影響を考察した。(4)ドイツの社会的市場経済との関連で新自由主義の意味を考察した。平成18年度には政治経済学・経済史学会・秋季学術大会においてパネル・ディネカッションを試みた。ラロジェクト遂行にあたってはW.アーベルスハウザー教授、J.シュトレープ教授を海外共同研究者として日本に招聘し、研究集会を実施した。今年度は東京で3回、千葉で1回、滋賀で1回の研究会を精力的かつインテンシヴにもった。とくに東京と千葉での3月の研究会にはドイツから研究協力者のW.アーベルスハウザー教授を招聘し、シンポジウムとセミナー形式によって2回の研究会を実施した。各メンバーの研究課題にそくして実績を記せば以下の通りである。雨宮昭彦は、単著『競争秩序のポリティクス』を公にして、戦間期における管理型自由主義市場経済の生成過程を大恐慌以降のドイツそくして跡づけ、本科研費テーマの基本線を明らかにした。柳澤治は、ナチス経済政策の戦時体制下日本への影響を「経済新体制」について検討した。田野慶子は、1935年にドイツで成立したエネルギー産業促進法を取り上げ、電力産業の集中化・合理化とその背後にある公共財と自然独占に関する経済政策思想との関わりの考察から戦後への連続性の手がかりをえた。三ツ石郁夫は、30年代ナチス金融政策における国有化回避と個人動機など自由主義視点の台頭を指摘するとともに、貯蓄銀行における預金量増加と有価証券購入によって、短期債務を整理して長期金融への転換を明らかにし、従来の研究史を批判した。山崎は、国民更生金庫・戦時金融金庫の内部資料を利用して、戦時期の企業整備政策と重要産業への特殊資金融資の実態を解明した。矢後は、ヴィシー体制がナチスドイツの要求に応じながらも、国民経済を持続可能にするための諸制度を模索し、そこには戦後へと連続する生産性の認識が現れていたことを確認した。アーベルスハウザーを招聘しての研究会では、現代ヨーロツパが自由主義とコーポラティズムとの路線闘争にあること、および西ドイツの戦後再建においてマーシャルプランと社会的市場経済の役割を相対化するとともに、経済制度的連続性の視点を導入する必要があることが強調された。第二に、中間報告として企画した政治経済学・経済史学会秋季学術大会におけるパネル・ディスカッションを、柳澤、山崎、田野の3本の報告、雨宮の司会の構成で実施し、70名以上の参加者をえて成功を収めた。
KAKENHI-PROJECT-17203027
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介入的自由主義と管理型市場経済の生成に関する国際比較研究-戦間期から戦後へ-
従来、経済的自由主義とは無縁な経済体制と位置づけられてきた1930年代と戦時期のドイツと日本をとりあげ、日本については、経済総動員のリスク管理の視点から金融市場の機能変化を、ドイツについては、戦後への連続性の視点から公益産業である電力業め市場規制の意味を解明した。これらの研究によって、国家による統制計画化という資本主義の「例外状態」のなかで、市場メカニズムや経済的自由主義が戦後へと進化していく重要な過程が明らかにされた。第一に、海外研究協力者ヨッヘン・シュトレープ氏(ドイツ・ホーエンハイム大学教授Prof.Dr.Jochen Streb,Univetsitat Hohenheim)と同僚のマルク・シュペーラー氏(Dr.Mark Spoerer)に、ナチス経済に関するドイツの最新の研究成果に関するオリジナル論考の執筆を依頼し、"Neue okonomische Erklarungender "Wirtschaftswunder"des Nationalsozialismus"をお送りいただいた。これに関する打ち合わせに基づいて、雨宮と三ツ石が同論考の日本語訳を次のように作成した。M.シュペーラー、J.シュトレープ「ナチス経済研究のパラダイムチェンジードイツにおける最新の研究動向」。この訳文は、首都大学東京大学院社会科学研究科経営学専攻Research Paper Series No.34」としてホームページ(http://www.comp.metro-u.ac.jp/lib.【keiei/rps.html)上に公開した。本稿は、改訂の上、わが国の学会誌『歴史と経済』(第199号以降)に掲載される予定である。第二に、3年間の共同研究を総括して研究成果報告書を作成するための打ち合わせに基づいて、報告書の編集方針として次を採択した。研究成果の全容を示すための資料となるよう<全十一章+付録>の構成とすること、各メンバーの研究成果を可能な限り細大漏らさず収録すること、邦語のみならず欧米語での成果も収録すること、海外研究協力者であるアーベルスハウザー教授、シュトレープ教授を招聘しての研究会の報告原稿および上記シュペーラー・シュトレープ共著論考も収めて最新の研究水準を示すこと。この方針に基づいて論考執筆に入り、その成果をここに示したように取りまとめた。
KAKENHI-PROJECT-17203027
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抽象名詞の可算性とその習得の難しさ:日本人英語学習者への実証研究
本研究は、第二言語(L2)学習者による英語名詞の可算性の習得について、抽象名詞に焦点を絞り、その難しさの原因を明らかにするものである。平成30年度では、(1)文脈内での可算性判断と単語のみ表示された際の直感的可算性判断の関係性、(2)名詞の語彙的アスペクトに基づいた境界及び派生タイプと可算性判断の関係性について調査を実施し、分析を行った。(1)L2学習者(特に習熟度の低い者)は名詞の可算性を固定された特性だと思う傾向があり、名詞に対する直感的な可算性と文脈内でどの冠詞を選ぶのかには相関があるという指摘がある。そのような相関が学習者の個人レベルで見られる現象なのか、名詞の意味特性(状態・動作・達成)に起因するものなのかを調査した。学習者別に結果を見ると、中級・上級の学習者の多くは直感的な可算性判断と冠詞の選択が必ずしも常にリンクしているわけではなく、文脈情報を読み取り、直感的に不可算だと感じた名詞にも不定冠詞を使用できることがわかった。しかし、名詞の意味特性からの影響がないわけではなく、特に状態を表す名詞(fear, satisfactionなど)に対しては不定冠詞を使用しづらいことがわかった。(2)語彙的アスペクト(状態・動作・達成)に基づく時間的境界と名詞の派生タイプ(転換・接尾辞)がどのように可算性判断と関係しているのかを調査した。その結果、派生タイプが可算性判断に影響している可能性は低く、-tionという接尾辞が名詞を可算として捉えやすくしているわけではないとわかった。また、境界がある達成名詞が、非境界である状態・動作名詞より可算として捉えやすいというような傾向も顕著ではなかった。しかし習熟度別にデータを見ると、上級学習者が境界に敏感になっている可能性も見られ、ニアネイティブレベルの学習者であれば、L1話者と同様に、境界性と可算性を関連付けるかもしれないと示唆された。本研究は、第二言語(L2)学習者による英語名詞の可算性の習得について、抽象名詞に焦点を絞り、その難しさの原因を明らかにするものである。本年度は、難しさが第一言語(L1)からの転移によるものかどうかを明確にするため、日本語抽象名詞と類別詞(つ、個など)の使用分布、メタファーや異質性による抽象名詞の個別度合いを日本語母語話者対象に調査し、抽象名詞における日英語の相違点を比較するためのデータを収集した。類別詞の共起容認度の結果から、抽象名詞の可算性には有界性(boundedness)に基づく順序があることが明らかとなった。例えば、非有界である出来事を指す名詞より、有界である抽象物を指す名詞の方が数えられる対象として容認されることが多かった。また、アスペクトに基づく動詞分類(状態、継続、瞬間)により選出された名詞においても、非有界である状態・継続タイプより、有界である瞬間タイプの方が数えられる対象として容認されることが多かった。しかし、語彙的有界性の有無が指摘されている形容詞からの転生名詞においては、どの名詞においても数えられる対象となる容認度は低かった。また、有界とされる極限的・相補的意味を持つ形容詞(例:素晴らしい、正しい)より、非有界とされる段階的尺度を持つ形容詞(例:美しい)の方が名詞化した際に数えられることが多かった(例:美しい→美しさ)。このことは、形容詞の名詞化接尾辞「さ」が程度を表すことに起因しており、段階的尺度を持つという形容詞の非有界的特徴が、程度を可算対象として捉えることを促した結果と言える。これらの結果に加え、固体メタファー、気体・液体メタファーの使用(例:を固める、が膨らむ)、異質性の解釈をどの程度容認するか(例:同じ二つの存在を示す、異なる二つの存在を示す)を個別度合いの指標とし、個別化と有界性との関連を分析している。実験アイテムとして当初より多くの名詞を対象としたこと、被験者数を増やしたことにより、データ入力、分析に少し遅れが出ている。データ収集はすべて完了しているため、メタファーの使用、異質性の解釈の容認度の分析を進めている。本研究は、第二言語(L2)学習者による英語名詞の可算性の習得について、抽象名詞に焦点を絞り、その難しさの原因を明らかにするものである。抽象名詞の可算性の習得の難しさは、先行研究で多く指摘されているが、体系的に記述した研究はなく、具体的な要因は明らかになっていない。そのため、第一言語(L1)の影響、単語・文脈レベルでの難しさを調査するのが、本研究の目的である。平成28年度では、昨年度に収集した母語(L1)データとの比較を含め、L2学習者を対象とした調査を行うため、以下の通り実験の準備を進めた。(1)学習者はそもそも抽象と具象の区別ができるのかを調査するため、日本語名詞を用いた実験を作成した。抽象・具象の区別という認知判断と、英語習熟度に関連があるのかを調査する。(2)L2学習者の傾向として、直感的に判断した単語の可算性をどのような文脈にでも適用する可能性があるため、単語のみの可算性判断課題を作成した。これらの単語の可算性判断が、日本語類別詞の使分けに表れる個別度合いと相関関係にあるのかを分析する。(3)可算性判断課題で使用した単語に一定の文脈を与えた場合、可算・不可算の区別をどう判断するのかを測定するための実験を作成した。
KAKENHI-PROJECT-15K16800
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抽象名詞の可算性とその習得の難しさ:日本人英語学習者への実証研究
これらの実験マテリアルを用いて、データを収集している段階である。L1に関する研究成果は、6th UK Cognitive Linguistics Conference(国際学会)、中央大学人文科学研究所公開研究会にて発表した。当初の計画では、平成28年度は単語レベル、平成29年度に文脈レベルの調査を分けて実施する予定であったが、同一の被験者における相違を観察するため、単語・文脈レベルの実験を同時に行うことに変更した。そのため、実験計画を再考し、データ収集・整理・分析方法について、他の研究者からの意見を伺い、検討を行った。そのため、本年度では複数の実験マテリアルの作成を中心に行った。次年度には円滑に実験、データ収集・分析を開始できるように準備は整っている。本研究は、第二言語(L2)学習者による英語名詞の可算性の習得について、抽象名詞に焦点を絞り、その難しさの原因を明らかにするものである。平成29年度では、(1)日本語と英語の名詞における抽象・具象の判断課題、(2)可算・不可算の判断課題、(3)英語における文脈内での可算性判断課題を実施し、分析を行った。(1)抽象か具象かの直感的判断に、日本語・英語の二言語間で大きな差がないことがわかった。語彙によっては二言語間で差が見られる場合があったが、その原因は、単語が指す意味が言語間で異なること、英語習熟度が低い学習者ほど英単語とそれが指す意味の結びつきが弱く、判断にぶれが生じていることが考えられた。(2)英単語の抽象性判断と可算性判断は相関関係にあり、抽象名詞は不可算、具象名詞は可算と判断される傾向があることがわかった。さらに、抽象名詞の語彙意味カテゴリー(もの、事、関係、状態、動作、達成)が名詞の可算性判断に影響をもたらすかを調べたところ、状態を表す名詞(worry, hope, respect, trust)は不可算と判断されやすいが、その他のカテゴリーではそのような相関は見られなかった。つまり、抽象名詞が可算と判断される場合、その原因はカテゴリーに共通するような性質によるものわけではない可能性が示唆された。最後に、習熟度が高い学習者ほど抽象性と可算性の相関は弱くなり、具象でも不可算、抽象でも可算という判断をするようになることがわかった。(3)適切な文脈が与えられた場合でも、状態名詞は可算として使用されにくいことが明らかになった。また、telicity, durability, punctualityなどに起因する時間的境界の有無が可算性判断に影響を及ぼす可能性は低いこともわかったが、これについてはもう少しデータを増やした上で、統計的に差があるのかどうかを判断する必要がある。単語レベルの調査・分析は順調であった。学会発表(中部地区英語教育学会、全国英語教育学会)も行い、国際ジャーナル(Language Learning, Applied Linguistics等)に投稿するため、論文を執筆している。文脈レベルの調査に際し、実験参加者の英語習熟度レベルを上級に設定する必要があったため、当初予定した人数を確保するに至らなかった。信頼性の高い統計分析をするためにも実験参加者を増やす必要があったため、研究期間を延長し、引き続きデータを収集している。暫定的な実験結果については、American Association for Applied Linguistics (AAAL)で口頭発表を行った。本研究は、第二言語(L2)学習者による英語名詞の可算性の習得について、抽象名詞に焦点を絞り、その難しさの原因を明らかにするものである。
KAKENHI-PROJECT-15K16800
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平衡/非平衡プラズマを併用した超音速流における着火・燃焼促進技術の開発
2年目かつ最終年度である平成23年度には,「課題2平衡/非平衡プラズマを併用した着火・燃焼促進手法の確立」および「課題3分光計測,レーザ計測による着火過程および火炎形成伝播過程の解明」に取り組んだ。PJトーチと前年度に開発した誘電体バリア放電(DBD)による非平衡プラズマ発生装置を超音速流路に上流から順に直列に配置し着火・燃焼試験を行った。燃料には水素を用い,燃料噴射位置およびPJトーチ投入電力を変化させた.その結果,燃料をDBDプラズマ発生装置の上流から噴射した場合に、平衡/非平衡プラズマ併用が平衡プラズマ単独使用よりも優れた燃焼促進効果を示した.燃焼促進効果について詳細な理論的考察を行い,その主因が非平衡プラズマによって生成されるオゾンが燃焼場に供給されることにより水素の着火遅れ時間を短縮したことであると明らかにした.DBDによって生成された非平衡プラズマによる超音速流中での燃焼促進効果は本研究により初めて実証されたものであり,極めて重要な成果である.プラズマ分光法による活性化学種分布の計測によるより詳細な調査が期待される.また,実験と並行して,高電圧印加を模擬した非平衡プラズマの着火促進効果の数値解析も昨年度に引き続き行った.数値解析ではメタンに加え水素とエチレンもその対象に加えた.得られた重要な結果を以下に示す.・いずれの燃料においても,印加する高電圧の強さおよび印加時間が大きいほど優れた着火促進効果が現れた.・燃料種によって高電圧印加時の中間生成物の組成が異なり,着火促進効果にも違いが現れる.よって,燃料種やその組成により高電圧印加条件を変えることで、燃焼場に最適な組成のプラズマを供給できる.1年目である平成22年度には,計画通り、「課題(1)非平衡プラズマ発生手法の確立」および「課題(2)平衡/非平衡プラズマを併用した着火・燃焼促進手法の確立」に取り組んだ.課題(1)に関しては,年度の前半に非平衡プラズマ発生手法を確立した.非平衡プラズマの発生には誘電体バリア放電を用い,点火器として用いるために重要ではあるがこれまで明らかになっていなかった超音速流中での放電特性を放電電力の測定や分光計測により調べ,特に重要な結果として以下の3点を明らかにした.・主流マッハ数が大きいほど小さい印加電圧でプラズマが発生する・いずれの主流マッハ数においても,印加電圧が大きいほど放電電力は大きくなる・プラズマには窒素ラジカルや窒素分子イオン,酸素ラジカルが存在する課題(2)に関して,実際の着火・燃焼実験を行う前にその条件を絞るため,燃料の供給方法と非平衡プラズマの着火促進効果の関係を数値計算により調べた.計算手法はプリンストン大学のグループとの共同研究による成果から得られたもので,電子ボルツマン方程式解析の汎用ソフトBolsig+と燃焼解析コードSENKINを併用した独自の手法である.解析対象とした燃料は,プラズマに含まれるラジカル等の活性種の添加による着火促進効果が高級炭化水素より大きいことが知られているメタンである.この解析により,メタンと空気を予め混合したものを非平衡プラズマ化するよりもメタン燃料のみを非平衡プラズマ化する方がより大きな着火促進効果が期待できることが明らかとなった.2年目は1年目の結果を踏まえ着火・燃焼実験を行い手法を確立させ,「課題(3)分光計測,レーザ計測による着火過程および火炎形成伝播過程の解明」にも取り組む予定である.また,数値計算も引き続き行い,実験と計算の両面からの現象の解明を目指す.2年目かつ最終年度である平成23年度には,「課題2平衡/非平衡プラズマを併用した着火・燃焼促進手法の確立」および「課題3分光計測,レーザ計測による着火過程および火炎形成伝播過程の解明」に取り組んだ。PJトーチと前年度に開発した誘電体バリア放電(DBD)による非平衡プラズマ発生装置を超音速流路に上流から順に直列に配置し着火・燃焼試験を行った。燃料には水素を用い,燃料噴射位置およびPJトーチ投入電力を変化させた.その結果,燃料をDBDプラズマ発生装置の上流から噴射した場合に、平衡/非平衡プラズマ併用が平衡プラズマ単独使用よりも優れた燃焼促進効果を示した.燃焼促進効果について詳細な理論的考察を行い,その主因が非平衡プラズマによって生成されるオゾンが燃焼場に供給されることにより水素の着火遅れ時間を短縮したことであると明らかにした.DBDによって生成された非平衡プラズマによる超音速流中での燃焼促進効果は本研究により初めて実証されたものであり,極めて重要な成果である.プラズマ分光法による活性化学種分布の計測によるより詳細な調査が期待される.また,実験と並行して,高電圧印加を模擬した非平衡プラズマの着火促進効果の数値解析も昨年度に引き続き行った.数値解析ではメタンに加え水素とエチレンもその対象に加えた.得られた重要な結果を以下に示す.・いずれの燃料においても,印加する高電圧の強さおよび印加時間が大きいほど優れた着火促進効果が現れた.・燃料種によって高電圧印加時の中間生成物の組成が異なり,着火促進効果にも違いが現れる.よって,燃料種やその組成により高電圧印加条件を変えることで、燃焼場に最適な組成のプラズマを供給できる.
KAKENHI-PROJECT-10J03415
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フォノンエコーを用いた高温超伝導体中の磁束のダイナミックの研究
この研究では高温超伝導酸化物におけるフォノンエコーという新しい手法を用い、超伝導の第二臨界磁場あるいは非可逆磁場近傍での磁束の性質を明らかにすることを目的とした。磁束のピン止めの強い高温超伝導酸化物であるYBCO-QMGの粉末試料と最も典型的なYBa_2Cu_3O_7(Tc=90K)の粉末試料におけるフォノンエコーの強度の温度変化を,ヘリウム温度から消失する温度まで外部磁場の強さH(=520kOe)をパラメータとして詳しく調べた。Tc近傍で温度を止めてフォノンエコーの強度の磁場変化を調べる実験も行った。従来の超伝導体におけるフォノンエコーの振る舞いとも比較するため,Nbの粉末試料において,同様の実験を行った。YBCO-QMGの粉末試料とYBa_2Cu_3O_7(Tc=90K)の粉末試料のどちらの場合も磁束のピン止めの強さと関係していると考えられるフォノンエコーの強度の異常(消失)は,非可逆磁場(H_<irr>)でおきるのではなく,第2臨界磁場H_<c2>でおきることを見いだした。すなわちフォノンエコーという物理現象から見ると、相転移のおきる臨界磁場は非可逆磁場(H_<irr>)ではなくむしろ第2臨界磁場H_<c2>であることが明らかとなった。フォノンエコーの出現の機構としては本来の結晶の異方性によるイントリンシックピニングの機構が主としてきいていることも明らかとなった。この成果は1994年3月の物理学会年回において発表予定(28aYE14)である。また1994年7月5日9日にグルノーブルで行われる第4回超伝導国際会議(M^2S-HTSC-IV)でも発表予定である。この研究では高温超伝導酸化物におけるフォノンエコーという新しい手法を用い、超伝導の第二臨界磁場あるいは非可逆磁場近傍での磁束の性質を明らかにすることを目的とした。磁束のピン止めの強い高温超伝導酸化物であるYBCO-QMGの粉末試料と最も典型的なYBa_2Cu_3O_7(Tc=90K)の粉末試料におけるフォノンエコーの強度の温度変化を,ヘリウム温度から消失する温度まで外部磁場の強さH(=520kOe)をパラメータとして詳しく調べた。Tc近傍で温度を止めてフォノンエコーの強度の磁場変化を調べる実験も行った。従来の超伝導体におけるフォノンエコーの振る舞いとも比較するため,Nbの粉末試料において,同様の実験を行った。YBCO-QMGの粉末試料とYBa_2Cu_3O_7(Tc=90K)の粉末試料のどちらの場合も磁束のピン止めの強さと関係していると考えられるフォノンエコーの強度の異常(消失)は,非可逆磁場(H_<irr>)でおきるのではなく,第2臨界磁場H_<c2>でおきることを見いだした。すなわちフォノンエコーという物理現象から見ると、相転移のおきる臨界磁場は非可逆磁場(H_<irr>)ではなくむしろ第2臨界磁場H_<c2>であることが明らかとなった。フォノンエコーの出現の機構としては本来の結晶の異方性によるイントリンシックピニングの機構が主としてきいていることも明らかとなった。この成果は1994年3月の物理学会年回において発表予定(28aYE14)である。また1994年7月5日9日にグルノーブルで行われる第4回超伝導国際会議(M^2S-HTSC-IV)でも発表予定である。
KAKENHI-PROJECT-05224239
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05224239
植物病原糸状菌の侵入器官の形態分化と環境応答機構の解析
1.付着器の形態分化時に特異的に発現する遺伝子の探索、および構造・機能解析ウリ類炭そ病菌の侵入器官の形態分化に特異的な遺伝子の構造、機能解析を目的とし、付着器形成時発現遺伝子の均一化cDNAライブラリーの作製に成功した。このライブラリーについてDifferential screening法により発芽・付着器形成時特異的に発現するcDNAの選抜を行い、4種の特異的cDNAを同定した。これらの遺伝子について構造・機能解析を行った。2.付着器の形態分化を誘導する環境要因と環境応答機構の解析付着器の形態分化と外的環境刺激の関係を明らかにすることを目的として研究を行った。ウリ類炭そ病菌においては、植物葉表面の可溶性成分が胞子発芽を誘導し、この反応にcAMP依存蛋白質リン酸化酵素が信号伝達系として関与している可能性を示す実験結果を得た。また、MAPキナーゼ信号伝達経路について検討を加え、MAPキナーゼ遺伝子のクローニング、構造・機能解析を行い、本信号伝達経路が胞子発芽、付着器形成、植物細胞内進展に多面的に関与していることを明らかにした。さらに、メラニン合成系遺伝子の転写因子(CMR1)をクローニングし、機能解析を行った。本遺伝子はCys6 zinc binuclearとCys2His2 zincfingerの2つの異なるDNA結合モチーフをもつ極めてユニークな転写因子であることを明らかにした。1.付着器の形態分化時に特異的に発現する遺伝子の探索、および構造・機能解析ウリ類炭そ病菌の侵入器官の形態分化に特異的な遺伝子の構造、機能解析を目的とし、付着器形成時発現遺伝子の均一化cDNAライブラリーの作製に成功した。このライブラリーについてDifferential screening法により発芽・付着器形成時特異的に発現するcDNAの選抜を行い、4種の特異的cDNAを同定した。これらの遺伝子について構造・機能解析を行った。2.付着器の形態分化を誘導する環境要因と環境応答機構の解析付着器の形態分化と外的環境刺激の関係を明らかにすることを目的として研究を行った。ウリ類炭そ病菌においては、植物葉表面の可溶性成分が胞子発芽を誘導し、この反応にcAMP依存蛋白質リン酸化酵素が信号伝達系として関与している可能性を示す実験結果を得た。また、MAPキナーゼ信号伝達経路について検討を加え、MAPキナーゼ遺伝子のクローニング、構造・機能解析を行い、本信号伝達経路が胞子発芽、付着器形成、植物細胞内進展に多面的に関与していることを明らかにした。さらに、メラニン合成系遺伝子の転写因子(CMR1)をクローニングし、機能解析を行った。本遺伝子はCys6 zinc binuclearとCys2His2 zincfingerの2つの異なるDNA結合モチーフをもつ極めてユニークな転写因子であることを明らかにした。1.付着器の形態分化時に特異的に発現する遺伝子の探索、および構造・機能解析ウリ類炭そ病菌の侵入器官の形態分化に特異的な遺伝子をクローニングするシステムを構築することを目的とし、付着器形成時発現遺伝子のcDNAライブラリーを作製した。このライブラリーについてDifferential screening法により付着器形成時特異的に発現するcDNAの選抜を行い、選抜したクローンについて菌糸生育時と付着器形成時の両RNAを用いたRNAブロット分析を行った。その結果、付着器形成時に特異的に発現しているとみられる12種のcDNAを同定した。2.付着器の形態分化を誘導する環境要因と環境応答機構の解析付着器の形態分化と外的環境刺激の関係を明らかにすることを目的とし、研究を行った。ウリ類炭そ病菌では胞子下の基質の親水性・疎水性が発芽能に関与していること、また、植物葉表面の可溶性成分が発芽を誘導していることを示す実験データを得た。さらにcAMPおよびcAMP依存蛋白質リン酸化酵素が信号伝達系の1つとして関与している可能性を示唆する実験結果を得た。イネいもち病菌を用いた実験では胞子下の基質の親水性・疎水性を界面活性剤により制御できるシステムを構築し、発芽、付着器形成に対する影響を検討し、付着器の形成には持続的な疎水性シグナルが必要であること、一過的な親水性条件は付着器形成を阻害しないことを示唆する実験結果を得た。1.付着器の形態分化時に特異的に発現する遺伝子の探索、および構造・機能解析ウリ類炭そ病菌の侵入器官の形態分化に特異的な遺伝子をクローニングするシステムを構築することを目的とし、付着器形成時発現遺伝子のcDNAライブラリーを作製した。このライブラリーについてDifferential screening法により付着器形成時特異的に発現するcDNAの選抜を行い、選抜したクローンについて菌糸生育時と付着器形成時の両RNAを用いたRNAブロット分析を行った。その結果、付着器形成時に特異的に発現しているとみられる12種のcDNAを同定した。その内の3種のクローンの遺伝子配列を決定し、遺伝子破壊実験により昨日解析を行っている。2.付着器の形態分化を誘導する環境要因と環境応答機構の解析付着器の形態分化と外的環境刺激の関係を明らかにすることを目的とし、研究を行った。ウリ類炭そ病菌では胞子下の基質の親水性・疎水性が発芽能に関与していること、また、植物葉表面の可溶性成分が発芽を誘導してることを示す実験データを得た。さらにcAMPおよびcAMP依存蛋白質リン酸化酵素が信号伝達系の1つとして関与している可能性を示唆する実験結果を得た。
KAKENHI-PROJECT-09460031
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09460031
植物病原糸状菌の侵入器官の形態分化と環境応答機構の解析
イネいもち病菌を用いた実験では胞子下の基質の親水性・疎水性を界面活性剤により制御できるシステムを構築し、発芽、付着器形成に対する影響を検討し、付着器の形成には持続的な疎水性シグナルが必要であること、一過的な親水性条件は付着器形成を阻害しないことを示唆する実験結果を得た。3.タッギング法による形態形成異常挿入変異株の分離プラスミド挿入による付着器形成異常、病原性欠損変異株の分離に成功した。変異株の形質からシグナル伝達系の欠損株と予想され、欠損遺伝子のクローニングを試みている。1.付着器の形態分化時に特異的に発現する遺伝子の探索、および構造・機能解析ウリ類炭そ病菌の侵入器官の形態分化に特異的な遺伝子の構造、機能解析を目的とし、付着器形成時発現遺伝子の均一化cDNAライブラリーの作製に成功した。このライブラリーについてDifferential screening法により発芽・付着器形成時特異的に発現するcDNAの選抜を行い、4種の特異的cDNAを同定した。これらの遺伝子について構造・機能解析を行った。2.付着器の形態分化を誘導する環境要因と環境応答機構の解析付着器の形態分化と外的環境刺激の関係を明らかにすることを目的として研究を行った。ウリ類炭そ病菌においては、植物葉表面の可溶性成分が胞子発芽を誘導し、この反応にcAMP依存蛋白質リン酸化酵素が信号伝達系として関与している可能性を示す実験結果を得た。また、MAPキナーゼ信号伝達経路について検討を加え、MAPキナーゼ遺伝子のクローニング、構造・機能解析を行い、本信号伝達経路が胞子発芽、付着器形成、植物細胞内進展に多面的に関与していることを明らかにした。さらに、メラニン合成系遺伝子の転写因子(CMR1)をクローニングし、機能解析を行った。本遺伝子はCys6 zinc binuclearとCys2His2 zincfingerの2つの異なるDNA結合モチーフをもつ極めてユニークな転写因子であることを明らかにした。
KAKENHI-PROJECT-09460031
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現象学的な観点から見たマイノング対象論の現代的意義
マイノングの対象論は、フッサールの現象学やラッセルの記述理論に大きな影響を与え、現象学と分析哲学の接点を見いだすうえで極めて重要な位置を占めている。対象論の出発点となるのは、無対象的表象のパラドクスである。無対象表象のパラドクスは、存在しない対象をどのように扱うかという「存在の問題」である。それと同時に、存在しない対象が表象されるという「表象の問題」でもある。このパラドクスに対し、フッサールは「存在・非存在を度外視」する「現象学的還元」という方法を用いることで、いわば「存在の問題」を棚上げし、「表象」の分析へ、そして意味の分析へと歩みを進めた。ラッセルの「存在の問題」に対する答えは、はじめから決まっていた。「存在しない対象などない」というのがそれである。それに対し、マイノングは、表象の分析を通して「存在の問題」に正面から取り組もうとしている。それによってもたらされたのが「純粋対象」の「超存在」といった「対象論」の概念であった。こうした議論の前提とされているのは、何らかの対象を表象することによって、われわれの認知が形成されるという立場である。しかし、こうした立場が成り立たないとすれば、これらの議論の出発点となった「無対象的表象」の問題に対しては、まったく別のアプローチがなされねばならないことになる。今日の認知科学や認知言語学は、人間の認知が表象主義的な立場からは考察しえないことを示している。しかし、われわれの認知が、表象によるものではないとしても、われわれが存在しない対象について思考し、判断していることは確かである。非-表象主義的な立場から見たとき、存在しない対象はどのように扱われるべきなのか。ここに、なお今後の課題が残されているといえるだろう。マイノングの対象論は、フッサールの現象学やラッセルの記述理論に大きな影響を与え、現象学と分析哲学の接点を見いだすうえで極めて重要な位置を占めている。対象論の出発点となるのは、無対象的表象のパラドクスである。無対象表象のパラドクスは、存在しない対象をどのように扱うかという「存在の問題」である。それと同時に、存在しない対象が表象されるという「表象の問題」でもある。このパラドクスに対し、フッサールは「存在・非存在を度外視」する「現象学的還元」という方法を用いることで、いわば「存在の問題」を棚上げし、「表象」の分析へ、そして意味の分析へと歩みを進めた。ラッセルの「存在の問題」に対する答えは、はじめから決まっていた。「存在しない対象などない」というのがそれである。それに対し、マイノングは、表象の分析を通して「存在の問題」に正面から取り組もうとしている。それによってもたらされたのが「純粋対象」の「超存在」といった「対象論」の概念であった。こうした議論の前提とされているのは、何らかの対象を表象することによって、われわれの認知が形成されるという立場である。しかし、こうした立場が成り立たないとすれば、これらの議論の出発点となった「無対象的表象」の問題に対しては、まったく別のアプローチがなされねばならないことになる。今日の認知科学や認知言語学は、人間の認知が表象主義的な立場からは考察しえないことを示している。しかし、われわれの認知が、表象によるものではないとしても、われわれが存在しない対象について思考し、判断していることは確かである。非-表象主義的な立場から見たとき、存在しない対象はどのように扱われるべきなのか。ここに、なお今後の課題が残されているといえるだろう。当初の研究実施計画にしたがい,近年のParsons,Kalsi,Lambert,Perszykなどの研究に依拠しつつ,マイノング対象論の内容を現代的な視点から詳細に分析するとともに,当時の時代状況における対象論の位置づけを再確認し,より一層明確化するために,トワルドウスキーの表象論や,フッサール現象学との関連を考察した.特に,マイノングにおける「表象」概念と「対象」概念を中心に考察をすすめたが,その過程で,「像」という概念に関する現代の哲学および記号論における成果を明確化しておく必要があると考えられた.そこで,ガダマ-やグッドマンなどの議論を中心に,「類像」に関する現代の論点を整理しておくことにした.その研究成果は,論文「像の指示機能と代表機能」(『現象学年報』第12号)および「絵画的記号における約定」(『中央学院大学人間・自然論叢』第5号)として発表した.「像の指示機能と代表機能」においては,像の一般的機能を明らかにするとともに,『真理と方法』におけるガダマ-の画像理論を分析し,この画像理論がガダマ-の解釈学の展開においてもつ意義も考察した.「絵画的記号における記号と約定」においては,記号としての像において約定性の果たす役割とその射程を解明した.これらの研究成果は,今後,特に対象論における「表象」概念を現代的な観点から分析する際に、活用しうるものと思われる.平成9年1月以降は,対象論と深く関係する「無対象的表象」の問題をめぐるマイノングとフッサールとの関係を,主にフッサールの「還元」という方法との連関において研究しており,その成果の発表準備中である.当初の研究計画にしたがい、マイノング対象論に関する最近の研究動向の分析、新たな観点からのテキストの解読の試みを継続した。
KAKENHI-PROJECT-08610003
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08610003
現象学的な観点から見たマイノング対象論の現代的意義
特に、ラッセルが、論文「指示について」において記述理論を提示する際にマイノングに対しておこなった批判の意味を再検討することを中心に、考察をすすめた。マイノングは、トワルドウスキーがその著書『表象の内容と対象の理論について』で論じた「関係項の一方が存在しない関係」を容認するが、それに対し、ラッセルはそうした関係をいっさい認めず、いかなる関係においても関係項は存在すると主張する。マイノング対象論における「純粋対象の超存在」という概念は、そうした対立に由来するものであり、他方、ラッセルの記述理論も、この前提ぬきに正しく理解することはできない。対象論と記述理論の対立の出発点ともいえるこの「関係項の一方が存在しない関係」に関する分析は、論文「表象の内容と対象」(『東北哲学会年報』第14号)として発表した。また、対象論と密接な関係にある「無対象的表象」の問題をめぐるフッサールとマイノングの関係を「現象学的還元」という方法を中心に分析するために、「現象学的還元」と言語との関係についての考察をおこなった。その成果は、論文「フッサールの本質直観理論と私的言語批判」(『中央学院大学人間・自然論叢』第7号)として発表した。平成10年1月以降は、現代の認知科学と対象論との関係を検討するための準備として、特に意識内における記号の在り方についての考察をすすめ、その成果の発表準備中である。当初の研究計画にしたがい,マイノング対象論に関する最近の研究動向の分析,新たな観点からのテキストの読解の試みを継続した.今年度は研究成果の総括として,特に現代の認知科学との関係に焦点を当て,研究をすすめた。まず,現代の認知科学と対象論との関係を検討するための準備として,特に意識内における記号の在り方についての考察をすすめた.意識内の記号的把握という視点からマイノングおよびフッサールの立場を捉え直すことで,「思考の言語」をめぐる現代の認知科学との関連を明らかにすることを目指した。その際,存在しない対象の意識内における記号的な把握の仕方に注目することで,マイノングの対象論に,新たな観点から考察を加えられることになるからである.フッサールの「ノエマ」概念は,感覚的所与に対する意味付与作用としてのノエシスの相関者として位置づけられている.それは,意識内の感覚的所与を一種の記号トークンと見なして,記号系を構成することに他ならない.その際,フッサールは意識内の記号系が,現実の記号系にまったく制約を受けないと考えている.しかし,問題はそのような記号系の構成が可能か否かという点にある.その意味で,この問題は,「思考の言語」をめぐる今日の心の哲学の論争につながる論点を含んでいる.以上の研究成果は,論文「意識内の記号」(『理想』第661号)として発表した.対象の存在を前提とせずに意識と対象との関係を論じるマイノングの議論が今日の認知科学との連関においてどのように位置づけられるのかを検討する際にも,意識内の記号の在り方が問題となるものと考えられる.そこで,平成11年1月以降は,現代の認知科学における心的内容や「思考の言語」に関する理論についての考察をすすめ,マイノング対象論との関係を考察し,その成果の発表準備中である。
KAKENHI-PROJECT-08610003
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傾斜構造付与によるジルコニア材料高機能化の確立
本研究では歯科用インプラントおよび歯牙欠損修復に用いるジルコニア傾斜機能材料の開発を実現すべく、1)ジルコニアの高機能化が可能な傾斜構造付与方法の解明、2)オッセオインテグレーション早期獲得可能なジルコニア傾斜構造の解明、3)ジルコニア傾斜構造によるドラッグデリバリー機能付与の解明、4)ジルコニア傾斜構造による破壊靭性、接着性、加工性(切削性)・審美性の向上について解明し、社会実装へのトランスレーショナル研究、産学連携での新規材料開発へ繋ぐ非臨床POC (Proof of Concept)を獲得することを目的とする。本研究では歯科用インプラントおよび歯牙欠損修復に用いるジルコニア傾斜機能材料の開発を実現すべく、1)ジルコニアの高機能化が可能な傾斜構造付与方法の解明、2)オッセオインテグレーション早期獲得可能なジルコニア傾斜構造の解明、3)ジルコニア傾斜構造によるドラッグデリバリー機能付与の解明、4)ジルコニア傾斜構造による破壊靭性、接着性、加工性(切削性)・審美性の向上について解明し、社会実装へのトランスレーショナル研究、産学連携での新規材料開発へ繋ぐ非臨床POC (Proof of Concept)を獲得することを目的とする。
KAKENHI-PROJECT-19K10199
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K10199
フォーカスの生成、知覚に関する生理・音響音声学的研究
日本人の特殊拍生成及び日本語学習者の日本語子音生成における時間パタンの計測とその音声の知覚実験を行なった。1.日本人促音の時間パタン日本語の閉鎖子音の単子音と促音は、閉鎖区間長になって区別されることは良く知られているが、ここでは、その時間関係が話速によりどのように変化するかを検討した。3名の被験者に/ata/,/ita/,/aci/が話速を3段階変えて発話した音声を分析した結果、話速が4モ-ラ/秒から7.5モ-ラ/秒まで広範囲に変化しても、単子音と促音の閉鎖区間長の比は2.53.5の範囲に極めて一定に保たれていた。促音の時間長が発音のリズム(平均モ-ラ長)をもとに精密に制御されていることが示唆された。なお、破擦音/c/については促音の制御はその閉鎖区間長によっており、摩擦音区間は、単子音と殆どで差がなかった。2.日本語学習者の発話における日本語単子音の時間パタン日本語学習者にとって促音の発音が困難なことは従来から指摘されているが、単子音の発音においても時間制御が正確でなく、促音に聴取される適合があると考えられたのでその点を定量的に検討した。仏,フィンランド,米,中,韓話者にcvcvcv及びcvcvvの3モ-ラ語の発話を記録し、時間パタンを計測すると同時に日本人による聴取実験を行なった。語長に対する第2子音の閉鎖区間長の比較を検討したところいずれの話者もその値は日本人より大きい。ただし仏,フィンランド語話者では日本人との差は小さく、その発音が促音に聴取されることはないが、米,中国語話者ではその差が大きく、促音に聴取される発話が約3割あった。米語ではストレスとの関係により閉鎖区間長が伸長する傾向が見られた。中国語では母語においてもVに対するCの時間長が長い傾向が示唆されたが、その機構についてはさらに検討を要する。日本人の特殊拍生成及び日本語学習者の日本語子音生成における時間パタンの計測とその音声の知覚実験を行なった。1.日本人促音の時間パタン日本語の閉鎖子音の単子音と促音は、閉鎖区間長になって区別されることは良く知られているが、ここでは、その時間関係が話速によりどのように変化するかを検討した。3名の被験者に/ata/,/ita/,/aci/が話速を3段階変えて発話した音声を分析した結果、話速が4モ-ラ/秒から7.5モ-ラ/秒まで広範囲に変化しても、単子音と促音の閉鎖区間長の比は2.53.5の範囲に極めて一定に保たれていた。促音の時間長が発音のリズム(平均モ-ラ長)をもとに精密に制御されていることが示唆された。なお、破擦音/c/については促音の制御はその閉鎖区間長によっており、摩擦音区間は、単子音と殆どで差がなかった。2.日本語学習者の発話における日本語単子音の時間パタン日本語学習者にとって促音の発音が困難なことは従来から指摘されているが、単子音の発音においても時間制御が正確でなく、促音に聴取される適合があると考えられたのでその点を定量的に検討した。仏,フィンランド,米,中,韓話者にcvcvcv及びcvcvvの3モ-ラ語の発話を記録し、時間パタンを計測すると同時に日本人による聴取実験を行なった。語長に対する第2子音の閉鎖区間長の比較を検討したところいずれの話者もその値は日本人より大きい。ただし仏,フィンランド語話者では日本人との差は小さく、その発音が促音に聴取されることはないが、米,中国語話者ではその差が大きく、促音に聴取される発話が約3割あった。米語ではストレスとの関係により閉鎖区間長が伸長する傾向が見られた。中国語では母語においてもVに対するCの時間長が長い傾向が示唆されたが、その機構についてはさらに検討を要する。日本語の韻律制御に関わる喉頭調節を声帯振動の超高速ディジタル撮影およびファイバースコープによる観察および筋電図学的計測により研究した。発話内の終端部ではピッチの下降等境界を特徴づける韻律的特徴が存在する。この時の音声振動パタンを超高速ディジタル撮影により解析した結果、発話末の声帯振動停止時には声門は閉鎖したままであり、停止時には声帯の緊張度の増大等の存在が示唆された。又、発話句末にしばしば観察されるボ-カル・フライの生成機序について、声帯が閉鎖状態にとどまろうとする状態にあること、閉鎖の状態より振動が生じてその振幅が数周期にわたってビルドアップした時に再び、強い閉鎖が生じてもとにもどること、そのために数拍子の変動的振動パタンの生ずることがわかった。日本語のフォーカスの生成に関する筋電図学的研究では、フォーカスの有無により輪状甲状筋の活動のピッチ制御に関する効果の大きさが異なること、フォーカスに伴って胞骨舌骨筋の活動が制御されることが明らかになった。さらにフォーカスが発話の全体におよぼす影響を持続時間、音声基本周波数(F_0)、母音フォルマント周波数について検討し、又、フォーカスが調音運動におよぼす影響をウィスコンシン大学のX線マイクロビーム装置により測定した。現在分析中であるが、主として下顎の運動に顕著な影響が観察されることが示唆された。日本人の特殊拍生成及び日本語学習者の日本語子音生成における時間パタンの計測とその音声の知覚実験を行なった。1.日本人促音の時間パタン
KAKENHI-PROJECT-08610522
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08610522
フォーカスの生成、知覚に関する生理・音響音声学的研究
日本語の閉鎖子音の単子音と促音は、閉鎖区間長になって区別されることは良く知られているが、ここでは、その時間関係が話速によりどのように変化するかを検討した。3名の被験者に/ata/,/ita/,/aci/が話速を3段階変えて発話した音声を分析した結果、話速が4モ-ラ/秒から7.5モ-ラ/秒まで広範囲に変化しても、単子音と促音の閉鎖区間長の比は2.53.5の範囲に極めて一定に保たれていた。促音の時間長が発音のリズム(平均モ-ラ長)をもとに精密に制御されていることが示唆された。なお、破擦音/c/については促音の制御はその閉鎖区間長によっており、摩擦音区間は、単子音と殆どで差がなかった。2.日本語学習者の発話における日本語単子音の時間パタン日本語学習者にとって促音の発音が困難なことは従来から指摘されているが、単子音の発音においても時間制御が正確でなく、促音に聴取される適合があると考えられたのでその点を定量的に検討した。仏,フィンランド,米,中,韓話者にcvcvcv及びcvcvvの3モ-ラ語の発話を記録し、時間パタンを計測すると同時に日本人による聴取実験を行なった。語長に対する第2子音の閉鎖区間長の比較を検討したところいずれの話者もその値は日本人より大きい。ただし仏,フィンランド語話者では日本人との差は小さく、その発音が促音に聴取されることはないが、米,中国語話者ではその差が大きく、促音に聴取される発話が約3割あった。米語ではストレスとの関係により閉鎖区間長が伸長する傾向が見られた。中国語では母語においてもVに対するCの時間長が長い傾向が示唆されたが、その機構についてはさらに検討を要する。
KAKENHI-PROJECT-08610522
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サイズダイナミクスの生態学
【研究1,2】エゾサンショウウオの襟裳と千歳の集団とそれらの交配系を用いた実験を行った。その結果、襟裳の集団は千歳の集団に比べて攻撃形態の発現能力が高いこと、交配集団はその中間的な値をとることが示されたが、攻撃形態の発現が期待していたよりも不明瞭であった。条件を変更した再実験により、仮説の再検証に取り組む必要があると考えられた。【研究3】捕食ー成長フィードバックの生起とその結果としての相互作用が地理集団によって異なるかを、襟裳と千歳の両生類を材料にした実験で確かめた。その結果、千歳よりも襟裳ではサンショウウオとカエルの捕食ー被食相互作用の強度にばらつきが生じやすいことが明らかになった。これは、千歳に比べ襟裳のサンショウウオでは共食いが起きたときに、より強く捕食ー成長フィードバックがかかるためであった。カエル幼生については、千歳に比べ襟裳の防御力が高く捕食されにくいことも明らかとなった。以上は、捕食者と被食者の遺伝的な性質が相互作用の強度に影響することと、そのばらつきが成長の遺伝的違いによって生じていることを示している。【研究4】高齢コホートの存在が複数の地域の孵化コホートに与える影響を調べたが、高齢コホートの有意な影響自体が生じず、これは、実験操作上の問題が浮き彫りになった。【研究5】予備実験により、国内外来種のアズマヒキガエルの孵化直後の幼生は、毒餌として働くことでエゾサンショウウオ孵化直後の成長を抑制することが示唆された。【発展的課題】これまでは両生類を材料に個体成長の研究に取り組んできたが、魚類も材料とした研究を開始した。その結果サクラマス幼魚では、雌雄によって成長が異なることや、集団中にオスが多いほど成長が抑制されることがわかり、個体成長の制御要因として性の重要性が示唆された。このほか、野外でのサケ科魚類の成長を制御する要因についてのモニタリングも開始した。新奇な知見として、捕食者と被食者の表現型可塑性の遺伝的変異が、相互作用強度のばらつきの地理的な変異を生じさせる要因になることを明らかにできた。これは、食物網の空間的変異の創出機構についての新しい知見であり、期待通りの成果といえる。捕食者の表現型可塑性の遺伝的変異性の検証については、実験条件が悪く、結果が不明瞭であったが、平均値においては期待通りのパターンが得られていることから、来年度以降再実験を試みたい。研究5は予備的な研究ではあったが、外来種が捕食者の成長を妨げることを示唆する結果も得られており、今後の発展を大いに期待できる。さらに本年度は、新たに魚類を研究対象とすることで、個体成長の研究に広がりを持たせた。両生類と同様に種内で明瞭な個体間相互作用が観察されるサクラマスを材料とした研究では、幼魚期の成長が雌雄によって異なることや、集団の性比の影響を受けるなど、新奇的な結果も得ることができた。以上のように一部の研究については課題が生じたものの、多くの研究は予定通り進められたこと、また、新たに取り組んだ研究では、当初想定していなかった成長制御要因を発見することもでき、プロジェクト全体としては順調に進展しているといえる。両生類を材料とした研究では、個体成長の条件依存性についてさらに複雑なシナリオでの研究を行う。これまでは当年に孵化した幼生間の相互作用に着目して研究を進めてきたが、今後は捕食者の齢構成を組み込んだ研究を展開する。複雑なシナリオでの研究であるため、これまでに培った操作実験の技術を最大限に生かし、明瞭かつ頑健な結果を得ていきたい。一方で、今年度から開始した魚類を対象とした研究については、今後は野生個体のモニタリングによるアプローチを重用する。北大苫小牧研究林を流れる幌内川に生息するサケ科魚類にICタグを装着し、個体識別することで、個体の成長を左右する要因を探る。特に、河川内での個体の行動や生活史が個体成長とどのような関係にあるのかなど、探索的な研究を行う。以上のように、対象生物の特徴に合わせた効果的なアプローチを採用し、個体成長の生態学について理解を深めたい。テーマ1:「他種による捕食ー成長フィードバックの制御」エゾサンショウウオ幼生の捕食ー成長フィードバックの生起がどんな生物種によって引き起こされやすいのか、また抑制されるのかを実験的に調べた。その結果、大型のエゾアカガエルのオタマジャクシがいると、孵化直後のエゾサンショウウオの共食いが活発になり、結果として捕食ー成長フィードバックが起こりやすいことがわかった。さらに、捕食ー成長フィードバックの強化の結果として最終的には大型のエゾアカガエルのオタマジャクシに対しても強い捕食圧が生じることが明らかとなった。このほか、予備的な研究から、外来種であるアズマヒキガエルの幼生がいる場合、エゾサンショウウオ孵化幼生はアズマヒキガエルを食うが、むしろ捕食ー成長フィードバックが生じにくいというパターンが検出されつつあり、餌種であっても異なる効果を持つ場合があることが示唆されている。テーマ2:「池の物理構造が決める捕食ー成長フィードバックの生起」野外調査による形態パターンの分析から捕食ー成長フィードバックが生じやすい条件を探った。その結果、植物が少ない小規模の池(大木の根がひっくり返ってできた穴や小さな水溜りや人工的な水ためなどを含む)で捕食ー成長フィードバックがおこっていることがわかった。テーマ3:「捕食ー成長フィードバックが捕食者の無脊椎動物利用を変える」
KAKENHI-PROJECT-17H03725
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H03725
サイズダイナミクスの生態学
エゾサンショウウオ幼生の胃内容物を調べたところ、捕食ー成長フィードバックが生じ大型化した個体は小さな個体に比べて、胃内容物に大型の無脊椎動物個体が含まれていることがわかった。おおむね当初の計画通り研究を進められた。テーマ1:「他種による捕食ー成長フィードバックの制御」については、一部のテーマについてはしっかりとしたデータが取れ論文化もすすめている。一方で、論文化できるほどではないが、想定外の発見をしたテーマもあり、今後の研究の方向性を示すことができた。テーマ2:「池の物理構造が決める捕食ー成長フィードバックの生起」については、野外調査から作業仮説が整理された段階であり、今後さらにその作業仮説を検証する形で調査を進める必要がある。テーマ3:「捕食ー成長フィードバックが捕食者の無脊椎動物利用を変える」については、大きくは当初の仮説に見合うパターンを検出できた一方で、最も期待していたプロセスを検出することができなかった。以上、テーマによって進み具合に違いはあるものの、総合するとおおむね順調に進展していると評価している。【研究1,2】エゾサンショウウオの襟裳と千歳の集団とそれらの交配系を用いた実験を行った。その結果、襟裳の集団は千歳の集団に比べて攻撃形態の発現能力が高いこと、交配集団はその中間的な値をとることが示されたが、攻撃形態の発現が期待していたよりも不明瞭であった。条件を変更した再実験により、仮説の再検証に取り組む必要があると考えられた。【研究3】捕食ー成長フィードバックの生起とその結果としての相互作用が地理集団によって異なるかを、襟裳と千歳の両生類を材料にした実験で確かめた。その結果、千歳よりも襟裳ではサンショウウオとカエルの捕食ー被食相互作用の強度にばらつきが生じやすいことが明らかになった。これは、千歳に比べ襟裳のサンショウウオでは共食いが起きたときに、より強く捕食ー成長フィードバックがかかるためであった。カエル幼生については、千歳に比べ襟裳の防御力が高く捕食されにくいことも明らかとなった。以上は、捕食者と被食者の遺伝的な性質が相互作用の強度に影響することと、そのばらつきが成長の遺伝的違いによって生じていることを示している。【研究4】高齢コホートの存在が複数の地域の孵化コホートに与える影響を調べたが、高齢コホートの有意な影響自体が生じず、これは、実験操作上の問題が浮き彫りになった。【研究5】予備実験により、国内外来種のアズマヒキガエルの孵化直後の幼生は、毒餌として働くことでエゾサンショウウオ孵化直後の成長を抑制することが示唆された。【発展的課題】これまでは両生類を材料に個体成長の研究に取り組んできたが、魚類も材料とした研究を開始した。その結果サクラマス幼魚では、雌雄によって成長が異なることや、集団中にオスが多いほど成長が抑制されることがわかり、個体成長の制御要因として性の重要性が示唆された。このほか、野外でのサケ科魚類の成長を制御する要因についてのモニタリングも開始した。新奇な知見として、捕食者と被食者の表現型可塑性の遺伝的変異が、相互作用強度のばらつきの地理的な変異を生じさせる要因になることを明らかにできた。これは、食物網の空間的変異の創出機構についての新しい知見であり、期待通りの成果といえる。捕食者の表現型
KAKENHI-PROJECT-17H03725
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経済連携協定に基づく外国人看護師の国際労働力移動と受入れシステム構築に関する研究
2008年より日本インドネシア経済連携協定(以下「JIEPA」)に基づき、インドネシア人看護師らが来日したのを皮切りに、2009年からは、日本フィリピン経済連携協定(以下「JPEPA」)に基づくフィリピン人看護師らが来日した。本制度における外国人看護師の導入は、国が公的な形で導入した最初の医療福祉専門職の受入れにあたり、今後の日本の受入れ態勢を整備すると同時に、国際化社会における看護師の移住の観点から起こりうる様々な問題を抱えていた。本研究では、JIEPA,JPEPA制度に基づく外国人看護師の移住のパターンの比較を行う。本研究の研究成果の概要は以下のとおりである。1.JIEPA、JPEPAでは、看護師の受入れスキームは一部を除き、ほぼ共通していたが、実際に来日する看護師たちの社会的人口学的特徴及び来日動機は、インドネシア人、フィリピン人の間でかなり異なっていた。2.看護師の国籍によってかなり特徴は見られたにもかかわらず、日本の病院側は、「学習意欲がある者」「患者に対する接遇態度がよい者」を高く評価する傾向があり、その傾向には国籍別に差は見られなかった。3.病院側は、外国人看護師を受入れた後に職場が活性化したことを高く評価しており、その傾向には、受入れた看護師の国籍別に差は見られなかった。2008年より日本インドネシア経済連携協定(以下「JIEPA」)に基づき、インドネシア人看護師らが来日したのを皮切りに、2009年からは、日本フィリピン経済連携協定(以下「JPEPA」)に基づくフィリピン人看護師らが来日した。本制度における外国人看護師の導入は、国が公的な形で導入した最初の医療福祉専門職の受入れにあたり、今後の日本の受入れ態勢を整備すると同時に、国際化社会における看護師の移住の観点から起こりうる様々な問題を抱えていた。本研究では、JIEPA,JPEPA制度に基づく外国人看護師の移住のパターンの比較を行う。本研究の研究成果の概要は以下のとおりである。1.JIEPA、JPEPAでは、看護師の受入れスキームは一部を除き、ほぼ共通していたが、実際に来日する看護師たちの社会的人口学的特徴及び来日動機は、インドネシア人、フィリピン人の間でかなり異なっていた。2.看護師の国籍によってかなり特徴は見られたにもかかわらず、日本の病院側は、「学習意欲がある者」「患者に対する接遇態度がよい者」を高く評価する傾向があり、その傾向には国籍別に差は見られなかった。3.病院側は、外国人看護師を受入れた後に職場が活性化したことを高く評価しており、その傾向には、受入れた看護師の国籍別に差は見られなかった。平成21年度は、本研究において以下の研究に着手し、以下の結果を得た。(1)経済連携協定に基づいて来日するフィリピン人及びインドネシア人看護師候補者調査フィリピン人とインドネシア人では、それぞれ看護師候補者らの来日動機や来日に際しての心配事の分布が異なることが明らかになった。具体的には、インドネシア人においてより高かった項目は、「日本での就労経験を、他の国で活かしたいから」「日本人と結婚したいから」の各項目、フィリピン人において、より高かったのは、「応募当時無職であったから」「家族に、日本に行くことを勧められたから」「家族を経済的に助けるため」「日本の高度技術を勉強したいから」「海外に住むという自分の夢を実現したいから」「政府間プログラムに貢献したいから」「他の国よりも日本の給料が高いから」「仲介料を取られないから」「祖国での給与に満足できなかったから」の各項目であった。また、フィリピン人では「来日後の労働条件」「日本での生活」等が、インドネシア人では、「いつまで祖国の家族と離れ離れになるのか」等が心配ごととしてそれぞれ有意に高かった。(2)フィリピン人及びインドネシア人看護師候補者を受入れる日本の病院の調査インドネシア人を受け入れる直前に比べ、病院の意識は、「国家資格がなくても看護師として働けるようにする」(p<0.01)また、「EPAに基づくフィリピン人看護師も受け入れる」(pく0.01)という意見に賛成・どちらかといえば賛成と回答したものの割合が有意に少なくなった。平成22年度は、本研究において以下の研究に着手し、以下の結果を得た。(1)経済連携協定に基づき、来日するフィリピン人およびインドネシア人看護師候補者の調査フィリピン人とインドネシア人では、それぞれ看護師候補者らの来日動機や属性が異なることが示された。また、昨年度と比べ、平均年齢が若く、既婚者の割合も低くなるなど、属性の変化や、来日動機などの状況が徐々に変化していることが明らかになった。(2)フィリピン人看護師受け入れ病院に関するフォローアップ調査フィリピン人看護師を受け入れた病院の一年後の現状を把握した。その結果、フィリピン人看護師の評価は「性格が明るい」「敬老精神がある」「接遇態度が良い」などの順で高いことが明らかになった。(3)インドネシアの看護学生を対象とした看護師国家試験模擬試験調査インドネシアの看護学生を対象とした看護師国家試験の模擬試験調査を、インドネシア国内五カ所、計10校の学生を対象に実施した。正答率の低い問題では、看護手技の方法、検査場面での患者への説明内容、在宅場面における家族の意思決定の判断などの点において、インドネシアと日本での看護教育や文化背景の違いが見て取れた。(4)公開講座「アジアの看護を理解しよう」の開催大阪府看護協会、京都大学東南アジア研究所との共催により、外国人看護師およびその指導者ら看護職者、看護教育関係者、日本語教育者などを対象とする公開講座を開催した。
KAKENHI-PROJECT-21390166
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経済連携協定に基づく外国人看護師の国際労働力移動と受入れシステム構築に関する研究
インドネシア大学およびフィリピン大学の看護教員より、当該国における看護業務および看護教育の現状が報告された。また、臨床現場における外国人看護師に対する指導上の問題点なども、担当者から発表された。その結果、看護は普遍的であるといわれているが、そのコアとなるところは、日本、インドネシア、フィリピンで共通していても、その実践の仕方は文化的社会的に多様であることが示唆された。本講座における研究発表や議論は、取材にあたった朝日新聞、毎日新聞、NHK、毎日放送、九州放送などのマスメディアを通じて、社会に広く発信された。平成23年度は、本研究において以下の研究に着手し、以下の結果を得た。(1)経済連携協定に基づき、来日するフィリピン人およびインドネシア人看護師候補者の調査昨年度に引き続き、継続的な調査を行った。フィリピン人(第3陣)とインドネシア人(第4陣)では、それぞれ看護師候補者らの来日動機や属性が異なることが示された。また、東日本大震災が来日するフィリピン人およびインドネシア人看護師・介護福祉士に与える影響についての調査し、両国とも半数近くが「心配」と回答したが、心配の度合いは直接的精神的健康度には影響していないことが明らかになった。(2)経済連携協定に基づくベトナム人看護師の受け入れに関する予備的調査2014年より受入れの始まる、ベトナム人看護師の送出しの現状について、予備的調査を行った。その結果、ベトナムにおいては、インドネシア、フィリピンとは異なり、来日前の教育に取り組むことで国家試験の合格率を上げようと工夫していることが明らかになった。(3)経済連携協定に基づく外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れに関する経済学的調査経済連携協定に基づく外国人看護師・介護福祉士の「コスト負担問題」について調査を行った。その結果、介護福祉士受入れ施設においては、人員配置基準に算入してくれれば現状でも採算性があるとみるところが多いのに対し、看護はその傾向が少なかった。(4)国際保健医療福祉政策セミナー『転換期を迎える外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れ-EPA枠組の見直しに向けて』の開催上記(3)の調査結果および、厚生労働省、外務省における担当者、受入れ施設及び、ベトナム人看護師受入れ団体等有識者を招き、話題提供を踏まえたうえで、今後の外国人看護師・介護福祉士受入れの見直しに必要な事柄について、参加者とワークショップを行った。平成24年度は、本研究において、以下の研究に着手し、結果を得た。(1)経済連携協定に基づき、来日するフィリピン人およびインドネシア人看護師候補者の調査昨年度に引き続き、継続的な調査を行った。フィリピン人(第4陣)とインドネシア人(第5陣)では、それぞれ看護師候補者らの来日動機や属性が異なることが示された。(2)経済連携協定に基づき、来日したフィリピン人およびインドネシア人看護師(国家試験合格者)の調査国家試験合格者に対して個別インタビューを行った。その結果、候補者(国家試験合格前)とは異なるタイプのストレスを抱えていることが明らかになった。
KAKENHI-PROJECT-21390166
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受動的電界電子放出素子による静止軌道衛星帯電防止法の開発
静止軌道衛星の帯電・放電による事故を防止するために、衛星が帯電すると自動的に電子を放出する受動型電子放出素子の開発を行なった。銅とポリイミドの積層フィルムにマイクロエッチングを施した試作品について、改良と評価を繰り返し、必要な電子放出性能を発揮できること、宇宙環境に長期間曝露されても地上実験で確認した。また放出の物理的メカニズムの解明と軌道上での動作時のシミュレーションを行なった。静止軌道衛星の帯電・放電による事故を防止するために、衛星が帯電すると自動的に電子を放出する受動型電子放出素子の開発を行なった。銅とポリイミドの積層フィルムにマイクロエッチングを施した試作品について、改良と評価を繰り返し、必要な電子放出性能を発揮できること、宇宙環境に長期間曝露されても地上実験で確認した。また放出の物理的メカニズムの解明と軌道上での動作時のシミュレーションを行なった。静止軌道衛星で衛星表面の帯電に起因した放電事故が増えている。これまでの研究で導電体と高分子フィルム絶縁体を隣接させることで、フィルムが高エネルギー電子によって帯電すると同時に両者の境界付近の電界が高まって、空間に露出された炭素系接着剤から電子が放出されることを見いだした。これは一種の電界放出素子であるが、センサや電源を必要としない完全受動型素子である。本研究の目的は、この電子エミッタについて(1)動作原理の詳細な解明と(2)軌道上実証用素子の開発を行なうことである。2006年度の成果は以下の通りである。・銅とポリイミドの積層材のマイクロエッチングを使って、電子エミッタを試作し、レーザー顕微鏡等を用いて、表面の加工精度を確認した。・エミッタ表面で電界が局所的に300倍程度に強められている箇所があることをレーザ変位計と微動ステージを用いて確認した。・電子エミッタ形状を最適化するための計算プログラムを製作した。・30分以上に亘って0.035から0.05mAの電子放出を確認した。理論解析の結果、一個の放出点につき空間電荷制限によって0.1-10mA程度で電流値が制限されることが明らかにされ、これらの電流値は実際に実験で観察され0.05-0.7mAに非常に近い値となっている。・軌道上での表面汚染に耐えられるかどうかを調べるために、汚染模擬装置を開発した。同装置を使用して実験したところ、宇宙ステーションのコンタミネーション規定値の50倍のコンタミ量をつけた供試体において、電子放出性能が失われないことを確認した。静止軌道衛星で衛星表面の帯電に起因した放電事故が増えている。これまでの研究で導電体と高分子フィルム絶縁体を隣接させることで、フィルムが高エネルギー電子によって帯電すると同時に両者の境界付近の電界が高まって、空間に露出された炭素系接着剤から電子が放出されることを見いだした。これは一種の電界放出素子であるが、センサや電源を必要としない完全受動型素子である。本研究の目的は、この電子エミッタについて(1)動作原理の詳細な解明と(2)軌道上実証用素子の開発を行なうことである。2008年度の成果は以下の通りである。・供試体作成時にエミッタ素子にひび割れが発生することが確認されたため、製造工程を改善し、高温焼成することによってひび割れを防止した。・真空容器内で連続動作試験を行い、素子が安定して100時間動作することが確認できた。現状の開発品では当初予定していた突起周辺部分の幾何学的相関関係がほぼ達成されていることも考え合わせ、加工精度は十分であると考えられる。・-150°Cから+100°Cの温度サイクルを印加した後でも、供試体の電子放出性能に影響のないことを確認した。・静止軌道で10年分相当の陽子線を照射した後でも、外観に影響のないことを確認した。・衛星帯電解析ソフトMUSCATに電子エミッタモデル機能を追加し、静止軌道サブストーム状態であっても、エミッタの動作によって衛星電位が0となることを確認した。静止軌道衛星で衛星表面の帯電に起因した放電事故が増えている。これまでの研究で導電体と高分子フィルム絶縁体を隣接させることで、フィルムが高エネルギー電子によって帯電すると同時に両者の境界付近の電界が高まって、空間に露出された炭素系接着剤から電子が放出されることを見いだした。これは一種の電界放出素子であるが、センサや電源を必要としない完全受動型素子である。本研究の目的は、この電子エミッタについて(1)動作原理の詳細な解明と(2)軌道上実証用素子の開発を行なうことである。2009年度の成果は以下の通りである。・エミッタ素子製作時の歩留まりを測定するために、24個の供試体に対して性能評価試験を実施し、22個の素子から電子放出を確認した。・-150°Cから+150°Cの温度サイクルを1000回印加した供試体からも、電子放出を確認した。・静止軌道で10年分に相当する10MeVの陽子線並びに1MeVの電子線を照射した後でも電子放出を確認した。・供試体に静止軌道4年分相当の紫外線を照射した。・エミッタ表面の絶縁体をより高抵抗の物質に置き換え、低密度の帯電電子電流環境であっても、動作することを確認した。・エミッタ表面に特殊なコーティングを施すことで、性能が向上することを確認した。
KAKENHI-PROJECT-19206090
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