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IVV法を用いたiPS細胞における潜在的腫瘍形成能に関する分子機構の解明 | 本研究では、人工多能性幹細胞(iPSC)の初期化因子であるLin28、Nanog、Klf4の新たな機能を明らかにするために、それぞれに関して我々が開発した独自技術のin vitrovirus (IVV)法を用いてタンパク質間相互作用の解析を行った。その結果、Lin28の相互作用因子としてTnp2が、Nanogの相互作用因子としてNap1が、Klf4の相互作用因子としてegfr mRNAがそれぞれ同定された。Tnp2とLin28は、Msi1を強制発現させたmESCにおいて共局在し、相互作用すること本研究では、人工多能性幹細胞(iPSC)の初期化因子であるLin28、Nanog、Klf4の新たな機能を明らかにするために、それぞれに関して我々が開発した独自技術のin vitrovirus (IVV)法を用いてタンパク質間相互作用の解析を行った。その結果、Lin28の相互作用因子としてTnp2が、Nanogの相互作用因子としてNap1が、Klf4の相互作用因子としてegfr mRNAがそれぞれ同定された。Tnp2とLin28は、Msi1を強制発現させたmESCにおいて共局在し、相互作用すること本研究の目的は、人工多能生幹(iPS)細胞における潜在的な腫瘍形成能に関する分子機構を明らかにすると共に、腫瘍化マーカー因子に関する知見を得ることである。本年度はいくつかの体細胞において細胞増殖および(あるいは)腫瘍形成に関わる因子として知られるKlf4、Lin28、およびNanog(以下、鍵転写因子と称する)を手がかりとし、鍵転写因子群と相互作用する因子を、我が国独自の遺伝子ネットワーク解析技術であるin virus(IVV)法を用いて網羅的にスクリーニングし、鍵転写因子と相互作用する未知の因子を探索することを目指した。最初に、様々な転写因子を網羅し、かつ多様性と複雑性を兼ね備えたIVVライブラリーを構築した。次にこのIVVライブラリーを用いてスクリーニングを行った。その結果、Klf4については8種類の、Lin28については13種類の、Nanogについては16種類の相互作用候補を得た。In vitroプルダウンアッセイの結果、Klf4については4種類、Lin28については2種類、Nanogについては3種類の因子が相互作用することを確認できた。これらの因子は全て相互作用に関して未報告のものであった。Klf4で得られた因子の機能はそれぞれ細胞増殖およびアポトーシス抑制、NF-κB活性化抑制、腫瘍抑制因子との相互作用、および癌遺伝子産物であった。Lin28で得られた因子の機能はそれぞれクロマチンリモデリングおよびDNA結合であった。Nanogで得られた因子の機能はそれぞれヌクレオソーム形成およびクロマチンリモデリング、細胞膜融合、およびプロテアソーム形成であった。以上より、IVV法を用いて既存の手法では得られない新規な相互作用を見出すことに成功した。本研究の結果は、最終目標で掲げた鍵因子を中心とした分子機構の全容の解明および腫瘍化マーカー因子に関する知見の取得を進めていく上で非常に重要な基盤データとなるものである。本研究の目的は、人工多能性幹(iPS)細胞における潜在的な腫瘍形成能に関する分子機構を明らかにすると共に、腫瘍化マーカー因子に関する知見を得ることである。昨年度、いくつかの体細胞において細胞増殖および(あるいは)腫瘍形成に関わる因子として知られるNanog、Klf4、およびLin28(以下、鍵転写因子と称する)を手がかりとし、鍵転写因子群と相互作用する因子を、我が国独自の遺伝子ネットワーク解析技術であるin vitro virus(IVV)法を用いて網羅的にスクリーニングし、Nanogの相互作用因子としてNap1を、Klf4の相互作用因子としてEgfrRNAを、Lin28の相互作用因子としてTnp2を、それぞれ同定した。本年度は、これらの相互作用の検証を試みた。Nap1(Nucleosome assembly protein 1-like 1)はクロマチンリモデリング因子であり、ヒストンをアセチル化することで染色体を開いた状態にする。p300/Creb/Tax複合体と相互作用して、転写制御ターゲットの遺伝子を開いた状態にし、転写を促進する。Nap1はN末端側にCaspaseによる切断サイト、中央部にp300結合領域、C末端側に転写因子結合領域をもつ。NanogはNap1の転写因子結合領域に結合する。それ故、全長のNap1はNanogと結合するが、C末端の転写結合領域が欠損したNap1はNanogと結合できないことが結合検証実験でわかった。また、Nap1は細胞内でNanogと相互作用することが共免疫沈降実験によってわかった。EGFRは細胞増殖やアポトーシス抑制に関わる重要なタンパク質である。RIP(RNA immunoprecipitation)アッセイを行った結果、細胞内において、Klf4がEgfrRNAと結合することがわかった。Tnp2は精子の形成過程においてヒストンと置き換わることで凝集した染色体構造を形成する機能をもつ因子である。in vitroでの結合検証を行ったところ、Tnp2はLin28と結合することがわかった。しかし、Tnp2は細胞内ではMsi1共存下でのみ、Lin28と結合することが共免疫沈降実験によってわかった。これまでに、腫瘍形成に関わる転写因子として知られるNanog、Klf4、およびLin28と相互作用する因子を、我が国独自の遺伝子ネットワーク解析技術であるin vitro virus(IVV)法を用いて網羅的にスクリーニングし、Nap1、egfrRNA、Tnp2をそれぞれ同定した。本年度は、まず、マウス胚性幹細胞(mESC)でのNap1のノックダウンおよび過剰発現の影響を評価した。 | KAKENHI-PROJECT-22310121 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22310121 |
IVV法を用いたiPS細胞における潜在的腫瘍形成能に関する分子機構の解明 | Nap1をノックダウンすると、Nanog、Oct4、Sox2の発現量は減少した。しかし、Nap1を過剰発現させるとこれらの初期化因子のmRNAの量は増加した。その結果、Nap1がNanogと直接結合し、OctやSox2などのNanog標的遺伝子の発現を促進することがわかった。更に、Nap1とNanogはmESCの細胞抽出液中のp300と共免疫沈降することがわかった。これらの結果は、Nap1がNanogを含む転写因子複合体にp300をリクルートすることでNanog標的遺伝子の転写を活性化する可能性を示唆している。細胞増殖およびアポトーシス抑制に関わるegfr mRNAのCDS領域断片が配列特異的にKlf4と結合することがわかった。さらに、ヒト前立腺癌細胞PC-3にKlf4を一過性発現させた結果、EGFRタンパク質の大幅な発現量上昇が確認できた。その際、egfr mRNAの発現量に変化はなかったことから、Klf4がEGFRの発現量を転写後の段階で上昇させている可能性が高いことが示唆された。加えて、マウス線維芽細胞からiPS細胞誘導までの過程におけるEGFRおよびKlf4の発現量推移を経時的に観察した結果、双方の発現量上昇が同じ段階で起きていることがわかった。このことから、iPS細胞誘導時においてもKlf4がEGFRの発現量を上昇させている可能性が示唆された。In vitro virus(IVV)法によるスクリーニングで、腫瘍形成に関わる因子として知られるNanog、Klf4、およびLin28に結合する因子として、生物学的に意味のある興味深いタンパク質やRNAがスクリーニングされたので、その後の機能解析の方針が立て易くなった。24年度が最終年度であるため、記入しない。iPS細胞などの多能性幹細胞の特徴である分化多能性および未分化能に関わる主要転写制御因子群のうち、他の細胞においては細胞増殖および腫瘍形成に関わる因子でもあるNanog、Klf4、Lin28に結合する因子がin vitrovirus(IVV)法によりNap1、EgfrRNA、Tnp2と同定されたので、今後は鍵転写因子と相互作用因子の複合体が司る標的遺伝子の発現制御機構の実態を解明していく。さらに、以上の研究で得られた相互作用データより、腫瘍マーカーとなりうる因子に関する知見も得ていく予定である。24年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-22310121 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22310121 |
単結晶を用いたECAPに伴うHCP金属の変形挙動の解明 | 金属材料の更なる高強度化を目的として、巨大ひずみ加工による結晶粒微細化に関する研究が行われている。しかしながら、六方晶(HCP)金属における変形挙動については明らかになっていない点が多い。そこで本研究では、HCP単結晶(純Mgと純Zn)を用い、その変形挙動を詳細に調査した。純Mgと純Znの結晶粒微細化には、双晶発生の有無が大きく影響することが分かった。双晶が発生できる場合には、従来の知見通り、双晶変形が大きな役割を担う。一方で、双晶が発生できない場合、純Mgは変形できず破断する。純Znでは、キンク変形が生じ、その界面で再結晶が生じることで、結晶粒が微細化することが明らかとなった。金属材料の更なる高強度化を目的として、巨大ひずみ加工による結晶粒微細化に関する研究が行われている。しかしながら、六方晶(HCP)金属における変形挙動については明らかになっていない点が多い。そこで本研究では、HCP単結晶(純Mgと純Zn)を用い、その変形挙動を詳細に調査した。純Mgと純Znの結晶粒微細化には、双晶発生の有無が大きく影響することが分かった。双晶が発生できる場合には、従来の知見通り、双晶変形が大きな役割を担う。一方で、双晶が発生できない場合、純Mgは変形できず破断する。純Znでは、キンク変形が生じ、その界面で再結晶が生じることで、結晶粒が微細化することが明らかとなった。初期方位の異なる純Mg単結晶を2種類準備した。それぞれの方位は、Mgの底面がせん断面と平行(試験片A)および垂直(試験片B)である。これらの2種類の純Mg単結晶に対して、573KでECAP(equal channel angular pressing)を施し、その変形過程を調査した結果、以下の結果が得られた。試験片Aでは、試験片の中部で双晶が発生した。観察された双晶は、室温と473Kにおいて報告されているものと、同様の{1012}双晶であった。押し込み量の増加により、試験片上部のみにおいて、大きな{1012}双晶が発生した。また、直線的に配列した結晶粒が観察され、双晶内で再結晶が生じることが明らかとなった。試験片Bでは、試験片Aでも観察されたように、試料の上部で双晶が発生していたが、試料下部では大きな方位の変化はなかった。さらに押しこみ量を増加させても、双晶による方位変化はなかったが、試験片下部ではすべり変形をしていることが分かった。さらに押し進めると、結晶粒が観察されました。したがって、試験片Bでも試験片Aと同じように双晶内で再結晶していることが分かった。また、これらの方位変化はせん断面の上部で発生していることが分かった。両試験片において、高温でECAPを施した結果、{10-12}双晶と底面すべりによる結晶方位の変化が観察された。また、初期方位が異なるにも関わらず、最終方位のc軸は押込方向に回転することが明らかとなった。この結果はMg多結晶体のECAPによる集合組織と同じ方位であることが分かった。申請者が過去に室温で行ったECAPの試験と比較すると、高温ECAPの試験により導入された双晶の量は、室温ECAPの時と比べ、大きく減少していた。これは、高温で試験を施したため、底面すべりを含むすべり変形が起きやすくなり、すべりによる結晶回転が起きたためだと考えられる。試験片A:試験片Aの方位は、c軸が押出方向(ED)に対して垂直であり、ECAP中にc軸圧縮となり双晶が発生する方位である。試験片Aに対して、ECAPを施した結果、初期に試験片全体で{10-12}双晶が発生し、試験片全体で結晶粒が生じた。また、せん断域通過後の最終方位は、c軸がせん断方向に対して垂直に配向していた。試験片B:試験片Bの方位は、c軸が試験片挿入方向(ND)に対して垂直な方位を有しており、ECAP中にc軸引張となり双晶が発生しない方位である。試験片Bに対して、ECAPを施した結果、せん断域通過前で底面すべりと二次錐面すべりが観察された。また、せん断域でキンク変形が生じた。せん断域通過後では、キンク変形またはマクロ的Shear Bandにより、せん断方向に細長く伸びた結晶粒が生じた。試験片C:試験片Cの方位は、方位Aと方位Bの中間の方位であり、せん断方向に対して底面が平行な方位である。試験片Cに対してECAPを施した結果、底面すべりと{10-12}双晶が発生し、その後、試験片全体に結晶粒が生じた。せん断域通過後の最終方位は、c軸がせん断方向に対して垂直に配向していた。以上の結果から、変形中に発生する{10-12}双晶は、その後の結晶粒微細化に大きな役割を果たしていることが明らかとなった。これは、前年度の純Mg単結晶の結果と一致した。しかしながら、双晶が発生しない試験片Bでは、キンク変形を生じることで、その界面に沿って再結晶が生じ、微細化することが明らかとなった。以上の結果から、同じhcp結晶でも、その変形挙動が大きく異なることで、その後の微細化メカニズムが大きく異なることが明らかとなった。 | KAKENHI-PROJECT-25870556 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25870556 |
単結晶を用いたECAPに伴うHCP金属の変形挙動の解明 | 構造材料物性学初年度においては、Mg単結晶のECAPを573Kで実施し、またその変形過程を調査することができたため。最終年度においては、初年度のMg単結晶に加え、同じHCP金属である亜鉛単結晶を用いて、ECAP変形の実験を行い、c/aの違いによるHCP金属のECAPに伴う変形挙動を明らかにしていく。申請時の備品購入には、金額が不足していたこと。また、既存の設備による部品加工、試料の準備が可能であり、その部品購入費や加工費等を計上せずに済んだため。今後は、亜鉛単結晶の作製を行い、その研究を開始するが、その単結晶作製においては、試料の高純度化が必須であり、その精製機器の作製費に使用する予定である。 | KAKENHI-PROJECT-25870556 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25870556 |
西ニューギニア地域の神経変性疾患の実態と予後に関する縦断的研究 | 2001年17年の調査で、西ニューギニアの神経変性疾患、86例の病型を分類した。1)運動ニューロン疾患:33例、2)パーキンソニズムとALSの合併:18例。3)パーキンソン症候群:30例であった。西ニューギニアの神経変性疾患は、現在も多発していることが判明した。ALSとパーキンソニズムの症状が同一患者で重複し、認知症の合併と家族内発症も認めた点は、紀伊やグアムのALS/PDCと酷似しており、3地域の疾患は同一である可能性が高い。グアムや紀伊で認めた、ALSの減少と、パーキンソニズムと認知症の相対的な増加といった病型変化が、西ニューギニアでも最近認められており、追跡の継続が必要である。インドネシア、パプア州、マッピ、エデラ川沿いの村、バデ、Ia河流域の村およびケピで調査し、運動ニューロン疾患3人、パーキンソン症候群4人、運動ニューロン疾患とパーキンソン症候群の合併3人、小脳症状と錐体路徴候の合併1人を新しく診断し得た。フォローアップによる死亡者は運動ニューロン疾患の3人(1人は小脳症状合併)とパーキンソン症候群の1人であった。生存中の4人の運動ニューロン疾患、1人の運動ニューロン疾患とパーキンソン症候群の合併例と、6人のパーキンソン症候群、小脳症状と錐体路徴候の合併2人をフォローアップした。以上より、西ニューギニア地域の神経難病は、現在も多発しており、また、パーキンソニズムと運動ニューロン疾患と認知症のさまざまな組み合わせの臨床型を示し、個人内で経過中にパーキンソニズムにALSの合併の進展を認めたり、家族内発症をみたことより、紀伊やグアムの神経難病と類似の病態である可能性が高くなった。これまでのパプアの神経難病の典型的な症例として、1.運動ニューロン疾患17例、2.パーキンソニズムとALSの合併症例13例、3.パーキンソン症候群のみ16例を、国際誌BMJ openに発表した。これまでの症例のうち、小脳症状と錐体路徴候の合併者が3人も認めたことは特筆すべきであり、国際誌への論文発表を準備中であるとともに、今後のフォローアップを要する。インドネシア、中央高地のソロバ在住民の20歳以上、125人の検診を行い、神経変性疾患のスクリーニングとともに、血圧、血糖、脂質、脈波速度検査を行った。1999年と比較して、高血圧の頻度の上昇を認めた。脈波速度と年齢の相関を認めたが、血圧と年齢の相関を認めず、ライフスタイルの変化の影響が動脈硬化に現れ始めている可能性が示され、今後のフォローアップが必要である。2014年度では、インドネシア、パプア州、マッピ、エデラ川沿いの村、バデ、Ia河流域の村およびケピで調査し、運動ニューロン疾患2人、パーキンソン症候群4人、運動ニューロン疾患とパーキンソン症候群の合併0人を新しく診断し得た。フォローアップによる死亡者は運動ニューロン疾患の1人,運動ニューロン疾患とパーキンソン症候群の合併3人,パーキンソン症候群の3人であった。生存中の2人の運動ニューロン疾患、2人の運動ニューロン疾患とパーキンソン症候群の合併例と、12人のパーキンソン症候群をフォローアップした。以上より、西ニューギニア地域の神経難病は、現在も多発しており、また、パーキンソニズムと運動ニューロン疾患と認知症のさまざまな組み合わせの臨床型を示し、個人内で経過中にパーキンソニズムにALSの合併の進展を認めたり、家族内発症をみたことより、紀伊やグアムの神経難病と類似の病態である可能性が高くなった。これまでのパプアの神経難病の典型的な症例として、1.運動ニューロン疾患17例、2.パーキンソニズムとALSの合併症例13例、3.パーキンソン症候群のみ16例を、国際誌BMJ openに発表した。これまでの症例のうち、小脳症状と錐体路徴候の合併者が3人も認めたことは特筆すべきであり、国際誌への論文発表を準備中であるとともに、今後のフォローアップを要する。スペイン、アンダルシア、ゴラーフェおよびエルナンバジェ在住民の60歳以上、152人の検診を行い、神経変性疾患のスクリーニングとともに、血圧、血糖、脂質、高齢者包括機能検査を行った。パーキンソン病を2名認めた。空腹時血糖検査による糖尿病27%、耐糖能異常15%、過体重以上が49%、高血圧89%と高率であった。チェンデラワシ大学の学長、副学長、公衆衛生学部長、神経内科医師などの日本への招聘とワークショップ開催を行った。2015年度には、インドネシア、パプア州、マッピ、エデラ川沿いの村、バデ、Ia川流域の村で調査し、新しく診断し得た、神経変性疾患(運動ニューロン疾患、またはパーキンソン症候群)は、認めなかった。フォローアップにより確認し得た死亡者は、5人の運動ニューロン疾患、2人の運動ニューロン疾患とパーキンソン症候群の合併例、1人のパーキンソン症候群であった。生存中の1人の運動ニューロン疾患と6人のパーキンソン症候群をフォローアップし得た。3人の小脳変性症もフォローアップし得た。グアム島や日本の紀伊半島では、ALSの急激な減少とともにパーキンソン症候群の占める割合の増加が報告された。今回のパプアの調査で、ほとんどの運動ニューロン疾患の方が死亡され、あらたな症例を認めなかった。 | KAKENHI-PROJECT-25257507 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25257507 |
西ニューギニア地域の神経変性疾患の実態と予後に関する縦断的研究 | パプア州においては、生活の近代化が今まさに浸透してきており、時代的な環境変化と高齢化に伴うALSとパーキンソン症候群の病型の変遷が、この地域でも来している可能性が有り、今後も引き続き、フォローアップが必要である。インドネシア、中央高地のソロバ在住民の調査を来年度に施行するために、打ち合わせを行った。10人の神経変性疾患をフォローアップし、8人の死亡を確認し得た。時代的な環境変化と高齢化に伴うALSとパーキンソン症候群の病型の変遷が、この地域でも来している可能性が示唆され、フォローアップの重要性を認識し得た。来年度施行予定の、中央高地のソロバ在住民の調査の打ち合わせを行い、順調に進んでいる。2016年度には、インドネシア、パプア州、マッピ郡、ケピ、エデラ川沿いの村、バデ、Ia川流域の村で調査し、新しく診断しえた神経変性疾患は、パーキンソン症候群4名であったが、運動ニューロン疾患は認めなかった。フォローアップ調査により確認しえた死亡者は、パーキンソン症候群3名であった。生存中の7人のパーキンソン症候群をフォローし得た。2001年より2016年度までの調査より診断しえた、西ニューギニアの神経変性疾患、86例の病型を分類した。1)運動ニューロン疾患33例、2)パーキンソニズムとALSの合併例:17例、3)パーキンソン症候群:30例であった。以上より、西ニューギニア地域の神経変性疾患は、減少しているものの多発していることが判明した。ALSとパーキンソニズムの症状が同一患者で重複しており、認知症の合併と家族内発症も認めた点は、紀伊やグアムのALS/PDCと酷似しており、この3地域の疾患は同一疾患である可能性が非常に高まった。さらに、インドネシア、中央高地のソロバ在住民の120人の検診を行なった。神経変性疾患は認めなかった。高血圧、糖尿病の有無とともに、動脈硬化の評価を行い、前回調査との変化を分析中である。グアム島や日本の紀伊半島では、ALSの急激な減少とともに、パーキンソン症候群の占める割合の増加が報告された。今回のパプアの調査でも、昨年に引き続き、運動ニューロン疾患の新たな症例を認めなかった。パプア州においても、生活の近代化が今まさに浸透してきており、時代的な環境変化と高齢化に伴うALSとパーキンソン症候群の病型の変遷が、この地域でも来たしている可能性が有り、今後も引き続き、フォローアップが必要である。2001年17年の調査で、西ニューギニアの神経変性疾患、86例の病型を分類した。1)運動ニューロン疾患:33例、2)パーキンソニズムとALSの合併:18例。3)パーキンソン症候群:30例であった。西ニューギニアの神経変性疾患は、現在も多発していることが判明した。ALSとパーキンソニズムの症状が同一患者で重複し、認知症の合併と家族内発症も認めた点は、紀伊やグアムのALS/PDCと酷似しており、3地域の疾患は同一である可能性が高い。グアムや紀伊で認めた、ALSの減少と、パーキンソニズムと認知症の相対的な増加といった病型変化が、西ニューギニアでも最近認められており、追跡の継続が必要である。今回は、現地のチェンデラワシ大学のスタッフを日本に招聘し、更に良い協力関係のもとに調査を行うことができた。新患者を6例確認でき、16症例の生存者のフォローアップ調査と7症例の死亡例の確認を行うことができた。スペインとの比較調査も行うことができた。 | KAKENHI-PROJECT-25257507 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25257507 |
コホート研究による肝疾患機能検査成績と肝疾患発症との関連性 | 昨年に引き続き平成3年の肝疾患による死亡者を、総務庁告示第41号(平成3年6月17日)に基づいて、日下部保健所保管の死亡小票を転記したものから把握した。肝疾患罹患者についても国保レセプトから、平成2年までの罹患者を把握した。前年度の報告で述べたように、慢性肝炎の病名についてはレセプト病名という点から実際と合致しない可能性が高いと思われたので肝癌・肝硬変に限って把握した。健診結果に付いては、勝沼町役場実施の住民健診結果を昭和63年から平成2年の分について磁気入力した形で入手したが、これが2月に入ってからであったため、その出力作業が進行中である。前年度に報告した山梨県厚生連のデータは、変換作業が複雑なため、今回は解析しないことにした。これらのデータを用いて、GOT,GPT,ZTT,総コレステロール値により健診受診者をカテゴリー化してその後のそれぞれの群の肝硬変、肝癌罹患率及び死亡率を算出して比較分析する作業を進めている。カテゴリー化はGOT,GPT,ZTT,総コレステロール及びGOT/GPT比について、(1)平均値を計算して、三区分にする方法(2)異常値を設定し、一度でも異常値を示したものを異常群として正常群と比較する方法(3)異常値を一定の頻度以上(40%または60%)示すものを異常群として、他の群と比較する方法で行っている。昭和57年から62年までの勝沼町・大和村における肝疾患による死亡者を、両町村の保健婦記録より把握した。昭和63年から平成2年までの肝疾患による死亡者は、総務庁告示第41号(平成3年6月17日)に基づいて、日下部保健所保管の死亡小票を転記したものから把握した。肝疾患罹患者については保健婦巡回記録および国保レセプトから、昭和57年から平成元年までの罹患率を把握した。なお、慢性肝炎の病名についてはレセプト病名という点から実際と合致しない可能性が高いと思われたので肝癌、肝硬変に限って把握した。昭和57年から平成2年末までの肝癌・肝硬変による死亡者は18名で、昭和57年から平成元年までの肝癌、肝硬変罹患者は死亡者を含めて44名であった。罹患者の把握については平成4年2月に、両町村の30歳以上の全住民を対象とした成人病罹患調査を両町村役場の協力を得て行ったが、レセプト等によって把握された罹患者の一致情報を分析した上で、来年度の分析に用いる予である。健診結果については、両町村役場実施の住民健診結果を昭和48年から昭和61年の分については既に磁気入力した形で入手しているが、それ以後の分についても現在町村のマスタ-ファイルからの出力の作業を進めている。また、両町村とも山梨県厚生連が比較的多くの住民を対象として毎年健診を行っているが、こちらのデ-タについても昭和63年度までの分を入手し分析可能な形への変換作業を進めている。昨年に引き続き平成3年の肝疾患による死亡者を、総務庁告示第41号(平成3年6月17日)に基づいて、日下部保健所保管の死亡小票を転記したものから把握した。肝疾患罹患者についても国保レセプトから、平成2年までの罹患者を把握した。前年度の報告で述べたように、慢性肝炎の病名についてはレセプト病名という点から実際と合致しない可能性が高いと思われたので肝癌・肝硬変に限って把握した。健診結果に付いては、勝沼町役場実施の住民健診結果を昭和63年から平成2年の分について磁気入力した形で入手したが、これが2月に入ってからであったため、その出力作業が進行中である。前年度に報告した山梨県厚生連のデータは、変換作業が複雑なため、今回は解析しないことにした。これらのデータを用いて、GOT,GPT,ZTT,総コレステロール値により健診受診者をカテゴリー化してその後のそれぞれの群の肝硬変、肝癌罹患率及び死亡率を算出して比較分析する作業を進めている。カテゴリー化はGOT,GPT,ZTT,総コレステロール及びGOT/GPT比について、(1)平均値を計算して、三区分にする方法(2)異常値を設定し、一度でも異常値を示したものを異常群として正常群と比較する方法(3)異常値を一定の頻度以上(40%または60%)示すものを異常群として、他の群と比較する方法で行っている。 | KAKENHI-PROJECT-03670272 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03670272 |
イオン伝導性高分子を電子移動反応場に用いた機能界面の形成と高効率固体電池 | 本研究の目的は、電子移動反応の場にイオン伝導性高分子を用い、電極活物質との間で迅速な電子移動反応を可能とする機能界面を構築し、これを高効率固体電池創製のための革新的方法論とすることにある。イオン伝導性高分子は、一種の固体溶媒であり、この中に電解質を溶解することにより、イオン伝導性が発現する。さらに固体膜として機能するために、固体電解質としての応用が可能になる。しかし、固体電解質/電極活物質間の機能界面形成には、液体電解質/電極活物質間の界面形成と比較し、多くの克服しなければならない問題がある。例えば液体電解質の持つ分子ダイナミクス、濡れ性、浸透性は、固体電解質とすることで著しく低下あるいはなくなるために、迅速な電子移動反応を可能とする機能界面の形成が困難となる。一方、イオン伝導性高分子を用いることにより、電解質の固体化が可能になるため、電極活物質から高分子固体電解質へと連続的に組成を変化させた高分子傾斜材料が実現されれば、新しい機能界面を持つ迅速電子移動系が創製できる。本研究では、高分子ダイナミクスと電子移動速度の相関を明らかにし、さらに電極活物質と高分子固体電解質の傾斜材料を合成することによって固体電解質の持つ界面形成の問題点を克服した新しい迅速電子移動系の実現を図った。具体的には、高分子固体電解質/金属リチウム界面が極めて安定であり、その電子移動速度はイオン導電率と相関し、高分子中の自由末端側密度の増大とともに増大するという事実を見いだした。さらに高分子固体電解質を用いたピロールのin situ重合によって、電極活物質から高分子固体電解質へと連続的に組成を変化させた高分子傾斜材料が合成でき、さらに迅速電子移動系が実現されることを示した。本研究の目的は、電子移動反応の場にイオン伝導性高分子を用い、電極活物質との間で迅速な電子移動反応を可能とする機能界面を構築し、これを高効率固体電池創製のための革新的方法論とすることにある。イオン伝導性高分子は、一種の固体溶媒であり、この中に電解質を溶解することにより、イオン伝導性が発現する。さらに固体膜として機能するために、固体電解質としての応用が可能になる。しかし、固体電解質/電極活物質間の機能界面形成には、液体電解質/電極活物質間の界面形成と比較し、多くの克服しなければならない問題がある。例えば液体電解質の持つ分子ダイナミクス、濡れ性、浸透性は、固体電解質とすることで著しく低下あるいはなくなるために、迅速な電子移動反応を可能とする機能界面の形成が困難となる。一方、イオン伝導性高分子を用いることにより、電解質の固体化が可能になるため、電極活物質から高分子固体電解質へと連続的に組成を変化させた高分子傾斜材料が実現されれば、新しい機能界面を持つ迅速電子移動系が創製できる。本研究では、高分子ダイナミクスと電子移動速度の相関を明らかにし、さらに電極活物質と高分子固体電解質の傾斜材料を合成することによって固体電解質の持つ界面形成の問題点を克服した新しい迅速電子移動系の実現を図った。具体的には、高分子固体電解質/金属リチウム界面が極めて安定であり、その電子移動速度はイオン導電率と相関し、高分子中の自由末端側密度の増大とともに増大するという事実を見いだした。さらに高分子固体電解質を用いたピロールのin situ重合によって、電極活物質から高分子固体電解質へと連続的に組成を変化させた高分子傾斜材料が合成でき、さらに迅速電子移動系が実現されることを示した。 | KAKENHI-PROJECT-10131228 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10131228 |
ナノアパタイトとショートコラーゲンによるドラッグデリバリーシステム人工骨の開発 | 糖尿病発症の高齢ウサギを糖尿病高脂肪低カルシウム飼料で飼育し、血糖値、HbA1c、骨代謝マーカー(尿中DPD、血中オステオカルシン量、血中I型コラーゲン量)を計測した。そして大腿骨の骨密度をqCTにて測定した結果、糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギが得られた。この糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギの骨髄細胞より、骨芽細胞・破骨細胞共存培養系を樹立した。細胞機能の評価は、骨芽細胞はALP活性、オステオカルシン産生、I型コラーゲン産生、および石灰化能、破骨細胞はアクチンリング形成、象牙切片吸収窩形成、TRAP活性について検証した結果、ALP活性、オステオカルシン発現の減少と、象牙質吸収窩形成、アクチンリング形成の増加が観察された。そこで、Vit Dを添加したNano-DDS-ColHB37に、この糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギの骨髄細胞より得られた細胞を付与して培養した。その結果、BMP-2、IGF-1、RANKLmRNA発現の上昇が見られた。また、破骨細胞のトラップマークの増加が確認された。以上より、Nano-DDS-ColHB37は骨芽細胞と破骨細胞の機能を損なうことなく、正常な骨代謝基盤担体として使用可能なことが確認された。そこで、Nano-DDS-ColHB37Hによる骨造成の効果を糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギの大腿骨に埋入して観察した。術後13か月後では骨梁構造の増加が確認された。また、非脱灰切片による免疫組織化学分析では。I型コラーゲンの増加と早期の新生骨形成、Nano-DDS-ColHB37孔内への豊富な血管新生が確認された。1. H28年度は糖尿病性骨粗鬆症動物の作成を行い1糖尿病発症の高齢ウサギ(3歳、雌)を糖尿病高脂肪低カルシウム飼料で飼育した。対象として、健常な高齢ウサギ(3歳、雌)を通常飼料で飼育した。2血糖値、HbA1c、骨代謝マーカー(尿中DPD、血中オステオカルシン量、血中I型コラーゲン量を測定した。同時に、全骨塩量を骨密度測定装置にて測定した。その結果、高血糖状態が維持され、OVX後のウサギに見られる高回転型の骨代謝傾向を示した。2.この作成されたウサギより骨髄細胞の採取と骨芽細胞・破骨細胞共存培養系として、1骨髄細胞を還流法にて採取し、共存培養にて増やした後、2細胞機能の評価を、骨芽細胞はALP活性、オステオカルシン産生、I型コラーゲン産生、および石灰化能、破骨細胞はアクチンリング形成、象牙切片吸収窩形成、TRAP活性を測定した。その結果、ALP活性、OC産生のある骨芽細胞と、アクチンリングと象牙質吸収かを形成する破骨細胞が得られた。また、ドラッグデリバリーシステムを持つ担体を、ナノハニカムbTCPにショートコラーゲンを付与し、ウサギ大腿骨骨幹部へ埋入した。3ヵ月後に担体摘出し、組織学的検証を行う予定である。計画調書の予定通り、ほぼ9ー12ヶ月で以下の工程が進んでいる。1. H28年度は糖尿病性骨粗鬆症動物の作成を行い1糖尿病発症の高齢ウサギ(3歳、雌)を糖尿病高脂肪低カルシウム飼料で飼育した。対象として、健常な高齢ウサギ(3歳、雌)を通常飼料で飼育した。2血糖値、HbA1c、骨代謝マーカー(尿中DPD、血中オステオカルシン量、血中I型コラーゲン量を測定した。同時に、全骨塩量を骨密度測定装置にて測定した。その結果、高血糖状態が維持され、OVX後のウサギに見られる高回転型の骨代謝傾向を示した。2.この作成されたウサギより骨髄細胞の採取と骨芽細胞・破骨細胞共存培養系として、1骨髄細胞を還流法にて採取し、共存培養にて増やした後、2細胞機能の評価を、骨芽細胞はALP活性、オステオカルシン産生、I型コラーゲン産生、および石灰化能、破骨細胞はアクチンリング形成、象牙切片吸収窩形成、TRAP活性を測定した。その結果、ALP活性、OC産生のある骨芽細胞と、アクチンリングと象牙質吸収かを形成する破骨細胞が得られた。また、ドラッグデリバリーシステムを持つ担体を、ナノハニカムbTCPにショートコラーゲンを付与し、ウサギ大腿骨骨幹部へ埋入した。3ヵ月後に担体摘出し、組織学的検証を行う予定である。糖尿病発症の高齢ウサギを糖尿病高脂肪低カルシウム飼料で飼育し、血糖値、HbA1c、骨代謝マーカー(尿中DPD、血中オステオカルシン量、血中I型コラーゲン量)を計測した。そして大腿骨の骨密度をqCTにて測定した結果、糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギが得られた。この糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギの骨髄細胞より、骨芽細胞・破骨細胞共存培養系を樹立した。細胞機能の評価は、骨芽細胞はALP活性、オステオカルシン産生、I型コラーゲン産生、および石灰化能、破骨細胞はアクチンリング形成、象牙切片吸収窩形成、TRAP活性について検証した結果、ALP活性、オステオカルシン発現の減少と、象牙質吸収窩形成、アクチンリング形成の増加が観察された。そこで、Vit Dを添加したNano-DDS-ColHB37に、この糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギの骨髄細胞より得られた細胞を付与して培養した。 | KAKENHI-PROJECT-16K11665 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K11665 |
ナノアパタイトとショートコラーゲンによるドラッグデリバリーシステム人工骨の開発 | その結果、BMP-2、IGF-1、RANKLmRNA発現の上昇が見られた。また、破骨細胞のトラップマークの増加が確認された。以上より、Nano-DDS-ColHB37は骨芽細胞と破骨細胞の機能を損なうことなく、正常な骨代謝基盤担体として使用可能なことが確認された。そこで、Nano-DDS-ColHB37Hによる骨造成の効果を糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギの大腿骨に埋入して観察した。術後13か月後では骨梁構造の増加が確認された。また、非脱灰切片による免疫組織化学分析では。I型コラーゲンの増加と早期の新生骨形成、Nano-DDS-ColHB37孔内への豊富な血管新生が確認された。計画による組織解析のより最終段階に入っているので、最終年において解析が終了できる可能性があり、研究結果をまとめて論文等に公表の予定である。糖尿病発症の高齢ウサギを糖尿病高脂肪低カルシウム飼料で飼育し、血糖値、HbA1c、骨代謝マーカー(尿中DPD、血中オステオカルシン量、血中I型コラーゲン量)を計測した。そして大腿骨の骨密度をqCTにて測定した結果、糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギが得られた。この糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギの骨髄細胞より、骨芽細胞・破骨細胞共存培養系を樹立した。細胞機能の評価は、骨芽細胞はALP活性、オステオカルシン産生、I型コラーゲン産生、および石灰化能、破骨細胞はアクチンリング形成、象牙切片吸収窩形成、TRAP活性について検証した結果、ALP活性、オステオカルシン発現の減少と、象牙質吸収窩形成、アクチンリング形成の増加が観察された。そこで、Vit Dを添加したNano-DDS-ColHB37に、この糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギの骨髄細胞より得られた細胞を付与して培養した。その結果、BMP-2、IGF-1、RANKLmRNA発現の上昇が見られた。また、破骨細胞のトラップマークの増加が確認された。以上より、Nano-DDS-ColHB37は骨芽細胞と破骨細胞の機能を損なうことなく、正常な骨代謝基盤担体として使用可能なことが確認された。そこで、Nano-DDS-ColHB37Hによる骨造成の効果を糖尿病性骨粗鬆症モデルウサギの大腿骨に埋入して観察した。術後13か月後では骨梁構造の増加が確認された。また、非脱灰切片による免疫組織化学分析では。I型コラーゲンの増加と早期の新生骨形成、Nano-DDS-ColHB37孔内への豊富な血管新生が確認された。これまで概ね計画通りに研究が進んでいるが、H29年度は28年度のデーターを基に標的因子のリコンビナント(RP)と抗体を作成し、疾患モデルの骨髄細胞より骨芽細胞・破骨細胞共存培養系を樹立し、ショートコラーゲンを付与したnano-ColHB37H上で培養し骨形成とアパタイトの吸収について効果をin vitroにおいて確認する。その後、H30年度は標的因子をドラッグデリバリーシステムとして付与したnano-DDS-ColHB37Hにより糖尿病性骨粗鬆症モデル動物の骨欠損部の再生を行い、骨形態計測法よび組織遺伝子学的解析により効果を判定する。なお、研究分担者、連携研究者、研究協力者とともに、結果の評価と問題点をまとめて口腔外科学会、骨代謝学会、口腔衛生学会、米国骨代謝学会等へ発表し、論文をまとめて専門雑誌へ発表する予定である。標的因子をドラッグデリバリーシステムとして付与したnano-DDS-ColHB37Hにより糖尿病性骨粗鬆症モデル動物の骨欠損部の再生を行い、骨形態計測法よび組織遺伝子学的解析により効果を判定する。 | KAKENHI-PROJECT-16K11665 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K11665 |
地域社会の変容下における定時制高等学校の危機と対応過程 | 聞き取り調査(6都府県25校の定時制高校,教育委員会),学校基本調査(1948年2007年)等を基に,定時制高校を都市・地方,伝統・改革の2軸で類型化し,類型ごとに生徒層が異なる仮説を示した。加えて,3地方都市の定・通・全日制における教員・生徒対象質問紙調査から,定時制高校の分化の展開が地方と都市では異なることと生徒類型を提示した。また,全国の定時制高校悉皆調査を実施した。単純集計報告を作成後,定時制高校の役割と課題を考察中である。聞き取り調査(6都府県25校の定時制高校,教育委員会),学校基本調査(1948年2007年)等を基に,定時制高校を都市・地方,伝統・改革の2軸で類型化し,類型ごとに生徒層が異なる仮説を示した。加えて,3地方都市の定・通・全日制における教員・生徒対象質問紙調査から,定時制高校の分化の展開が地方と都市では異なることと生徒類型を提示した。また,全国の定時制高校悉皆調査を実施した。単純集計報告を作成後,定時制高校の役割と課題を考察中である。本年度実施したのは,以下内容である。1.文献・資料収集において,定時制高校研究及び若者研究に関する文献・資料を系統的に集め,分析・討議を行った。2.定時制高校の質的変容を分析するために,全国,都道府県教育委員会及び各定時制高校の文献・資料収集を行い,分析・考察を行った。3.各都道府県レベルの高等学校改革と,その中における定時制高校の位置づけについて,資料収集・分析を行うと共に,都道府県教育委員会等の聞き取り調査を実施し,現状分析を行った。調査対象となった教育委員会は東京都,神奈川県(県及び川崎市),富山県,岡山県(県及び倉敷市),鳥取県,高知県,福岡県であった。4.高校改革の下における定時制高校の対応を具体的に捉えるために,上記2に記した地域で26校の定時制高校を訪問し,資料収集を行うと共に,聞き取り調査を実施した。5.研究参加者及び協力者によって毎月2回定例研究会を持ち,報告,討論を実施した。研究者と実践者の相互が持つ視点からの問題把握が可能になった。6.平成19年度に全国の定時制高校を対象に実施した「現代の高等学校定時制課程に関する調査」の分析及び考察を行い,地域学論集(鳥取大学地域学部紀要)第4巻第3号に発表した。本年度の研究計画に対して,次の成果を得た。(1)これまでの収集資料,定時制高校聞き取り調査(6都県25校)等をもとに,都道府県レベルの高校改革とその中での定時制高校の位置づけについて,現状分析をおこなった。(2)学校基本調査(1948年2007年)をもとに、定時制高校の生徒数と学校数の推移を分析し、定時制高校の発展形態を、「都市型一地方型」「伝統型一改革型」の2軸により類型化した。(3)聞き取り調査等をもとに、現在の定時制高校生徒の質的多様性について分析し、仮説的に類型化(順社会・反社会・非社会・脱社会)を行った。さらに高校類型ごとに生徒層が異なることを指摘し、それぞれの高校類型が抱える課題を整理した。(4)上記(1)(2)(3)の分析に基づいて,教員及び生徒を対象にした質問紙調査を,地域の産業と結びついていると思われる3地方都市を抽出し,定時制および通信制・全日制(普通科・専門学科)高校を対象に,23月に実施した。分析は,次年度4月以降におこなう予定である。(5)上記の分析結果について,日本教育社会学会において共同研究発表をおこなった。(6)本年度も以上の研究計画実施にあたって,月2回程度の定例研究会を継続しておこなった。以上の成果は,本研究目的の一つである,現代の定時制高校が抱える問題とそれへの対応過程の分析を行い,質的変容の特質を捉え,そこから青年期初期を中心とする現代定時制高校の社会的役割と生徒達にとって持つ意味の明らかにすることにおいて,その一端を提示できた点で意義をもつ。(1)昨年度末(23月)に実施した,地域の産業と結びついていると思われる3地方都市を抽出し,定時制および通信制・全日制(普通科・専門学科)高校における教員及び生徒を対象にした質問紙調査について,集計作業および分析をおこなった。分析の焦点は,定時制高校の分化と生徒類型である。従来の定時制の視点では一括りにできない分化(多様化)が進んでいることをこれまでの調査でも明らかにしてきたが,分析結果として,定時制高校では,都市部と地方ではその分化の展開が異なることが新たに見えてきた。都市部では定時制の分化(いわゆる「新たなタイプ」の定時制など)が進み,それぞれの役割が固定されつつあるが,地方では地理・人口規模等もあり,分化が進みにくく,抱える問題の多様さと複合さが調査結果にはみられた。また,生徒類型においては,因子分析で析出された,周辺化競争でボーダーラインに位置づきやすい2つの高校生群(「撤退型」「不活発型」)をどのように包摂できるか,定時制高校は彼らに何を提供できるか,という問いを導き出した。(2)全国の定時制課程高校を対象とした悉皆質問紙調査を8月に実施し,集計作業および分析をおこない,3月に概要版報告書を作成した。詳細の分析は今後の課題である。 | KAKENHI-PROJECT-19530753 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19530753 |
地域社会の変容下における定時制高等学校の危機と対応過程 | (3)上記(1)の分析結果について,日本教育社会学会において共同研究発表をおこない,これまでの聞き取り調査等を含めた成果を雑誌論文(鳥取大学生涯教育総合センター研究紀要)に掲載発表した。(4)本年度も以上の研究計画実施にあたって,月2回程度の定例研究会を継続しておこなった。 | KAKENHI-PROJECT-19530753 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19530753 |
界面機能コア解析 | 先進材料の諸特性は、材料内部に形成される種々の欠陥における量子場、すなわち「機能コア」に起因している。本研究では最先端の超高分解能電子顕微鏡を更に進化させ、局所量子場の直接観察手法を確立し、機能コアにおける構造と量子場の同時直接観察を目指す。これらの技術を様々な機能コアに応用し、本領域の理論解析班およびプロセス制御班と密接に連携する事で、機能コアにおける材料特性発現メカニズムの本質的解明と機能コアに基づく材料創製指針の構築を目指す。これらの研究を通じて機能コアに基づく新たな材料科学の学理構築を最終的な目標とする。先進材料の諸特性は、材料内部に形成される種々の欠陥における量子場、すなわち「機能コア」に起因している。本研究では最先端の超高分解能電子顕微鏡を更に進化させ、局所量子場の直接観察手法を確立し、機能コアにおける構造と量子場の同時直接観察を目指す。これらの技術を様々な機能コアに応用し、本領域の理論解析班およびプロセス制御班と密接に連携する事で、機能コアにおける材料特性発現メカニズムの本質的解明と機能コアに基づく材料創製指針の構築を目指す。これらの研究を通じて機能コアに基づく新たな材料科学の学理構築を最終的な目標とする。 | KAKENHI-PLANNED-19H05788 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PLANNED-19H05788 |
RNA干渉を利用したアトピー性皮膚炎の新規遺伝子治療法開発 | マウスモデルにおけるアレルギー性炎症反応(皮膚、上気道)が、Th2型の免疫反応における重要な役割をもつ転写因子である、STAT6の機能を阻害することによって抑制された。STAT6の阻害はRNA干渉を利用して行った。マウスモデルにおけるアレルギー性炎症反応(皮膚、上気道)が、Th2型の免疫反応における重要な役割をもつ転写因子である、STAT6の機能を阻害することによって抑制された。STAT6の阻害はRNA干渉を利用して行った。(1)アレルギー性炎症反応マウスモデルにおけるSTAT6 siRNAの効果誘導されたマウスの接触過敏反応がSTAT6 siRNAの前投与によって有意に抑制される結果を得た。STAT6 siRNAを投与されたマウス耳介の病理組織サンプルにおいては、コントロールに比較して、好酸球や脱顆粒した肥満細胞の数が減少しており、STAT6 siRNAによってTh2タイプの免疫反応が抑制されたことが耳介腫脹の抑制につながったことを示唆する所見であった。同部位の皮膚中のサイトカインやケモカインを測定したところ、IL-4やIL-13、TARC、MDCといったTh2タイプのサイトカイン、ケモカインの産生がSTAT6 siRNAを投与されたサンプルにおいて低下していることが確認され、病理所見からの推測を裏付ける結果と考えられた。以上、マウスの接触過敏症反応をSTAT6 siRNAの投与によって抑制することが可能であったこと、また、それがTh2型の免疫反応の抑制によるものであることを示唆する結果を得られた。STAT6 siRNAを作製し、STAT6に対するRNA干渉が誘導されることをin vitroで確認した。さらにIL-4/TNFalphaの刺激により線維芽細胞から産生されるケモカインであるCCL11の産生をSTAT6 siRNAの投与により有意に抑制できることを確認した。さらに、ハプテン誘導性のマウス接触過敏反応モデルの皮膚炎症反応をSTAT6 siRNAが有意に抑制することを確認した。炎症局所においてTh2型サイトカインあるいはケモカイン(IL-4、IL-13、CCL11、CCL17、CCL22など)の産生が有意に抑制されたことから、STAT6 siRNAの投与は、Th2型免疫反応を抑制することを通して炎症反応を抑制していることが示唆された。なお、Th2型免疫反応の抑制が皮膚炎症反応に密接に関与することは、同じマウスモデルにおいて抗IL-4抗体あるいは抗IL-13抗体を投与することにより、皮膚炎症反応が有意に抑制されるという結果により確認している。さらに、アレルギー性鼻炎のマウスモデルを使用して、粘膜面におけるアレルギー炎症においてもSTAT6 siRNAが抑制効果を発揮する可能性を検討した。STAT6 siRNAは、鼻炎マウスモデルの粘膜組織に浸潤する炎症細胞を著明に抑制し、また、鼻周辺所属リンパ節由来の細胞からのIL-4やIL-13の産生は有意に抑制されていることが確認された。さらに、実際にマウスがくしゃみする回数や、鼻を引っ掻く動作も著明に減少し、鼻炎マウスモデルにおいてもSTAT6 siRNAが有効な治療効果を発揮することが確認された。 | KAKENHI-PROJECT-21791064 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21791064 |
カード破産と免責に関する実態的・比較法的研究 | 本研究の最初の年度は、平成5年度であったが、カード破産を中心とする消費者破産は、わが国の社会においてますます深刻な問題として意識されるようになり、平成9年度には、破産事件の申立件数が7万件を突破し、その大部分を消費者破産が占めていると報告される。本研究の内容は、実態調査と比較法研究を二つの柱としたものであったが、実態調査においては、カード破産の原因にも様々なものがあり、また、その処理手続である破産免責の実務においても、免責不許可事由の運用、免責の条件としての一部弁済、あるいは免責決定の内容としての債務一部免責など、多様な取扱いがなされていることを解明した(青山善充「免責前の一部弁済と一部免責について」(月刊消費者信用94年2月号)参照)。第二に、比較法研究として、免責制度について長い歴史をもつアメリカ破産法と、最近の改正において免責制度を導入したドイツ新倒産法を研究の対象とし、特にドイツ新倒産法においては、免責の付与か否定かという二者択一ではなく、債務の一部弁済を前提として免責を付与するという、債権者の利益と債務者の利益の調和を図る方向での制度設計がなされており、わが国における今後の立法論にとって有益な示唆がえられた。ドイツ新倒産法の研究は、大学院の演習として行い、その成果は報告書の一部として添付されているが、近い将来においてさらに検討を加えたものを公表することを予定している。15EA04:現在わが国においては、カード破磋を含む倒産法改正作業が進行中であるが、報告書中に添付されているとおり、私は各種の研究会等に参加し、実態調査および比較法研究を踏えた本研究の成果を開陳し、それについて学者、実務家との意見交換を行ったところてある。この意味で、本研究の成果は、21世紀のわが国における消費者倒産法制再構成の基磁資料としての意義をもつものと信じている。本研究の最初の年度は、平成5年度であったが、カード破産を中心とする消費者破産は、わが国の社会においてますます深刻な問題として意識されるようになり、平成9年度には、破産事件の申立件数が7万件を突破し、その大部分を消費者破産が占めていると報告される。本研究の内容は、実態調査と比較法研究を二つの柱としたものであったが、実態調査においては、カード破産の原因にも様々なものがあり、また、その処理手続である破産免責の実務においても、免責不許可事由の運用、免責の条件としての一部弁済、あるいは免責決定の内容としての債務一部免責など、多様な取扱いがなされていることを解明した(青山善充「免責前の一部弁済と一部免責について」(月刊消費者信用94年2月号)参照)。第二に、比較法研究として、免責制度について長い歴史をもつアメリカ破産法と、最近の改正において免責制度を導入したドイツ新倒産法を研究の対象とし、特にドイツ新倒産法においては、免責の付与か否定かという二者択一ではなく、債務の一部弁済を前提として免責を付与するという、債権者の利益と債務者の利益の調和を図る方向での制度設計がなされており、わが国における今後の立法論にとって有益な示唆がえられた。ドイツ新倒産法の研究は、大学院の演習として行い、その成果は報告書の一部として添付されているが、近い将来においてさらに検討を加えたものを公表することを予定している。15EA04:現在わが国においては、カード破磋を含む倒産法改正作業が進行中であるが、報告書中に添付されているとおり、私は各種の研究会等に参加し、実態調査および比較法研究を踏えた本研究の成果を開陳し、それについて学者、実務家との意見交換を行ったところてある。この意味で、本研究の成果は、21世紀のわが国における消費者倒産法制再構成の基磁資料としての意義をもつものと信じている。本年度は研究の第1年度であり、文献の収集・整理のほか、次の通り研究を行った。(1)カード破産の実態の調査クレジットカードの発行状況、これについての法的規制の現状、カード所持者がカード破産に至る原因・その回避の可能性、カード破産者の実像、破産後の債務者の生活状況等について、カード発行会社、ノンバンク、消費者行政窓口、弁護士事務所等から、実態をヒアリング調査した。この調査には、私が、東京大学大学院で行っている『カード破産と免責』と題する演習の参加者の協力を得た。(2)比較法的研究現在進行中のドイツ破産法改正作業のうち、個人債務者の破産免責の規定とこれに関する議論について、最近までの資料に基づきフォローした。(3)裁判所における免責実務の実態調査東京、大阪、福岡等の調査に基づき、東京地裁を中心として現在広く行われている、裁判所の裁量による「一部免責」および「免責前の一部弁済」の実務について、その適法性とその問題点を研究した。その成果が、「免責前の一部弁済と一部免責について-その適法性と問題点の検討」(月刊消費者信用'94-2)である。本年度は、研究の第2年度であり、引続き文献の収集・整理をしたほか、次の通り、研究を行った。(1)カード破産と免責実務の実態調査第1年度に引続き、カード破産の実態の把握に努めるとともに、免責実務の運用について調査した。その結果、東京地裁で積極的に採用されている「免責前の一部弁済」の実務は地方でも(例えば、札幌)行われていることを確認した。また、「一部免責」については、本年に入って、すでにいくつかの裁判例が報告されている(判夕822号、判時1484号等)。本年の実態調査に当っては、多くの弁護士からその経験や意見を聴くことができた。 | KAKENHI-PROJECT-05451097 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05451097 |
カード破産と免責に関する実態的・比較法的研究 | とくに、94年7月30日に東京三弁護士会主催で行われたシンポジウム「自己破産手続における「一部弁済方式」を考える」(私もパネラ-として出席)、および、94年10月20日に山形市で行われた日弁連第37回人権擁護大会シンポジウム第3分科会「カード社会を考える」は、現在この問題が法律実務界でも喫緊の課題であることを改めて認識させられて、有益であった。こうした実状を踏まえ、私は、法律の規定がないところで免責制度を弾力的に運用するためには、何よりも、裁判官と弁護士との協議による妥当な基準の形成が必要である旨を説いた(消費者ニュース19号巻頭言)。(2)比較法的研究アメリカ連邦破産法は、数年前から改正作業が進行していたが、94年10月に改正法案が議会を通過した。1978年の現行法制定以来最大の改正といわれる新法の消費者破産および免責について、その概要を把握、検討した。研究の最終年度である本年も、実態調査と比較法的研究を2本の柱として次のように研究を行った。(1)カード破産と免責実務の実態調査第2年度に引続き、カード破産の実態の把握に努めるとともに、裁判所の実務における免責許否の動向についても調査した。その結果、個人消費者カード破産の顕在化は一時より鈍っているものの、カードの発行枚数の増加はとどまるところなく、潜在的カード破産予備室は着実に増加し続けていること、しかし各地の裁判所の免責実務は「少年事件」的な扱いが一般化し、免責前の一部弁済や一部免責許可が今や定着していることが判明した。この免責制度導入は昭和27年の会社更生法の制定と同時に行われたものであるので、本年の研究ではその立法過程を冊念に調査した。この成果は、近く、信山社から日本立法過程資料シリーズの一部として公刊の予定である。(2)比較法的研究本年は、1994年10月に成立したドイツ新倒産法(Insolvenzordnung)の第8編免責(Rechtschuldbefreiung)を中心として研究した。ドイツの免責制度はアメリカ型の全額免責主材ではなく、一部は必ず弁済すべきことを定めている点で、日本の実務との共通点が見出せるように思う。いずれにしても、日本の来るべき倒産法の改正に大きな示唆を与えるものであることがわかった。 | KAKENHI-PROJECT-05451097 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05451097 |
ナラ類の集団枯死の原因究明と枯死機構の解明 | ナラ類集団枯死の原因:ナラ類の枯死被害には、カシノナガキクイムシが密接に関連していた。一方、枯死木の材変色部、坑道壁、キクイムシの幼虫と成虫の体表や菌のうからは、Raffaelea属菌が優占的に分離された。この菌は、既知のRaffaelea属10種と形態的に異なることから新種と判断し、R.quercivori sp.nov.と命名した。この菌は、カシノナガキクイムシによって伝播されることが明らかとなり、三重県の個体群は、他の地域の個体群と明らかに形態が異なった。ナラ類の枯死機構の解明:被害発生地では、ナラ類は夏期に急激に萎凋枯死する。カシノナガキクイムシの加害によって、ナラ類の水ポテンシャル値が急激に低下することから、辺材部で通水阻害が発生して枯死にいたると考えれた。R.quercivoriに対するブナ科樹木の感受性の差異を明らかにする目的で接種試験を行った結果、コナラとミズナラに枯死が発生し、他の樹種は枯死しなかった。R.quercivoriはすべての枯死木から再分離され、その病原性が確認された。ナラ類の枯死被害は、Raffaelea属とカシノナガキクイムシとが関与した世界で最初の事例である。接種後、枯死個体では水ポテンシャルが急激に低下したことから、通水機能に異常が発生し、材部の通水阻害によって萎凋、枯死することがわかった。接種後材部に形成される軸方向の変色と枯死との間には明白な関係がなかったが、放射方向の変色は枯死と密接に関連していることが明らかとなった。すなわち、樹種間の感受性の差異は、R.quercivoriによる放射方向への変色の拡大と関係していた。放射方向の変色は、アラカシで最も小さく、ミズナラでは最も大きかった。また、アラカシでは通水可能な組織が広く、ミズナラでは狭かった。これらのことから、ミズナラは6樹種の中で最も通水阻害を引き起こし枯死しやすい樹種、逆にアラカシは最も感受性が低い樹種でと考えられた。ナラ類集団枯死の原因:ナラ類の枯死被害には、カシノナガキクイムシが密接に関連していた。一方、枯死木の材変色部、坑道壁、キクイムシの幼虫と成虫の体表や菌のうからは、Raffaelea属菌が優占的に分離された。この菌は、既知のRaffaelea属10種と形態的に異なることから新種と判断し、R.quercivori sp.nov.と命名した。この菌は、カシノナガキクイムシによって伝播されることが明らかとなり、三重県の個体群は、他の地域の個体群と明らかに形態が異なった。ナラ類の枯死機構の解明:被害発生地では、ナラ類は夏期に急激に萎凋枯死する。カシノナガキクイムシの加害によって、ナラ類の水ポテンシャル値が急激に低下することから、辺材部で通水阻害が発生して枯死にいたると考えれた。R.quercivoriに対するブナ科樹木の感受性の差異を明らかにする目的で接種試験を行った結果、コナラとミズナラに枯死が発生し、他の樹種は枯死しなかった。R.quercivoriはすべての枯死木から再分離され、その病原性が確認された。ナラ類の枯死被害は、Raffaelea属とカシノナガキクイムシとが関与した世界で最初の事例である。接種後、枯死個体では水ポテンシャルが急激に低下したことから、通水機能に異常が発生し、材部の通水阻害によって萎凋、枯死することがわかった。接種後材部に形成される軸方向の変色と枯死との間には明白な関係がなかったが、放射方向の変色は枯死と密接に関連していることが明らかとなった。すなわち、樹種間の感受性の差異は、R.quercivoriによる放射方向への変色の拡大と関係していた。放射方向の変色は、アラカシで最も小さく、ミズナラでは最も大きかった。また、アラカシでは通水可能な組織が広く、ミズナラでは狭かった。これらのことから、ミズナラは6樹種の中で最も通水阻害を引き起こし枯死しやすい樹種、逆にアラカシは最も感受性が低い樹種でと考えられた。菌類とカシノナガキクイムシとの相互作用の解明:各地の被害発生地から被害材を採集し、材に穿入するキクイムシ類を調べた。その結果、カシノナガキクイムシが全ての被害材から検出され、その他のキクイムシ類はわずかであった。このことから、ナラ類の枯死被害発生には、カシノナガキクイムシが密接に関与していると考えられた。また被害に関連する菌類の探索を行った結果、いずれの被害材からも特定の菌(未同定のためナラ菌と仮称)が優先的に分離された。ナラ菌は、カシノナガキクイムシの幼虫、蛹、成虫体表からも優先的に分離され、さらにカシノナガキクイムシの胞子貯蔵器官からも検出された。これらのことから、ナラ類の枯死被害発生にはナラ菌とカシノナガキクイムシが密接に関与しており、ナラ菌はカシノナガキクイムシによって伝播されている可能性が示唆された。ナラ類の水分生理特性の解明:被害発生地では、ナラ類は夏期に急激に萎凋・枯死するため、ナラ類の辺材部に通水阻害が起こっている可能性がある。 | KAKENHI-PROJECT-11460070 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11460070 |
ナラ類の集団枯死の原因究明と枯死機構の解明 | そこで、カシノナガキクイムシの加害から枯死に至る過程の水ポテンシャルの変化を調べた。その結果、カシノナガキクイムシの加害に伴って水ポテンシャルの値が急激に低下することが明らかとなった。また分離されたナラ菌を用い、健全なコナラとクヌギに対して接種試験を行った結果、接種12週間後には水ポテンシャルの値が急激に低下することがわかった。今回の接種試験では最終的には枯死には至らなかったが、接種2週間以降にコナラ・クヌギともに枝葉に萎凋現象が認められた。これらのことから、ナラ菌の接種によって辺材部に通水阻害が発生していることが示唆された。1999年9月、今まで被害の発生がなかった本州太平洋側(紀伊半島)で被害発生を確認した。この地域では、ナラ類のほかにシイ類・カシ類にも被害が発生していることがわかった。来年度は、この地域も調査対象地としたい。菌類とカシノナガキクイムシとの相互作用の解明:昨年度、各地の被害発生地から採集したいずれの被害材からも、またカシノナガキクイムシの幼虫、蛹、成虫体表、雌成虫の菌のう(胞子貯蔵器官)からも同じ菌(昨年度はナラ菌と仮称)が優占的に分離されることを明らかにした。今年度はまず、このナラ菌の所属について検討し結果、この菌をRaffaelea sp.と同定した。Raffaelea属菌は世界で10数種記録されており、そのほとんどがナガキクイムシ科の昆虫から検出されているが、今までに樹木に対して病原性を有する種は記録になかった。この菌の伝播者であるカシノナガキクイムシについて、山形県、福井県、三重県の被害材からの脱出特性と形態(体長、菌のう円孔数)の比較を行った。その結果、日本海側と太平洋側のカシノナガキクイムシは、脱出特性や形態に大きな差異があることが明かとなった。ナラ類の水分生理特性の解明:昨年度、カシノナガキクイムシの加害に伴ってナラ類の水ポテンシャルの値が急激に低下し、辺材部で通水阻害が起こっている可能性があることを明らかにした。今年度は、ナラ属樹木6種の苗木に対してRaffaelea菌を接種し、病徴進展の差異を比較した。その結果、落葉性のコナラやミズナラでは接種後は早い時期に水ポテンシャルの値が低下したのに対して、常緑性のアラカシやスダジイでは水ポテンシャルの値に変化はなみられなかった。また、滋賀県のクヌギ林での被害実態調査から、カシノナガキクイムシの加害は同程度であっても、混在するコナラで枯死被害が顕著に発生していることがわかった。同じコナラ属の樹木であっても、この被害に対する抵抗性機構に差異があることが明かとなった。来年度は、接種後の樹体内の変化を解剖学的に調べ、抵抗性機構の差異を明らかにする予定である。ナラ類集団枯死の原因:枯死木の材変色部、坑道壁、またカシノナガキクイムシの幼虫と成虫の体表や菌のうから優占的に分離された菌について、その所属を検討した結果、既知のRaffaelea属10種とは分生子、分生子柄の形態が異なることから新種と判断し、R.quercivori Kubnono et Ito sp.nov.と命名した。この菌は、カシノナガキクイムシによって伝播されることが明らかとなった。またカシノナガキクイムシを人工飼料内で産卵させることに成功した。今後確実に繁殖させ、次世代を生産させる飼育方法が可能と考えられる。ナラ類の枯死機構の解明:R.quercivoriに対するブナ科樹木の感受性の差異を明らかにする目的で、コナラ、ミズナラ、クヌギ(落葉性)、アラカシ、ウバメガシ、スダジイ(常緑性)の苗木に接種試験を行った。コナラは7本中1本が、ミズナラは5本が枯死し、その他の樹種は枯死しなかった。R.quercivoriは、すべての枯死木から再分離され、その病原性が確認された。 | KAKENHI-PROJECT-11460070 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11460070 |
ポリサルファイド/硫化水素誘発過硫化によるグルタチオン調節機構の解明 | 硫化水素(H2S)およびH2Sに硫黄が直鎖状に結合したポリサルファイド(H2Sn、n≧2)は、様々な組織で多様な作用を発揮する新規シグナル分子である。統合失調症モデルマウスMpst(3-メルカプトピルビン酸硫黄転移酵素)KO及びMpst Tgマウス脳での検討から、MPSTがH2SやH2Snを生合成し、この作用が結合型イオウの増加として観測されることを明らかにした(理研との共同)。しかし、統合失調症患者脳検体のMPST量は、コントロール脳と有意差が認められなかった(理研・福島医大との共同)。H2SやH2Snの酸化産物である亜硫酸が、両物質より低濃度/同等濃度で神経細胞保護作用を持つこと、これが細胞内グルタチオン(GSH)レベル上昇による抗酸化機能亢進によることを見いだした。亜硫酸はH2SやH2Snの3倍以上の効率でシスチンをシステインに変換する。システインは速やかに細胞に取込まれGSH合成に利用され細胞保護効果を発揮することが分かった(Kimura Y et al, Br.J.Pharmacol. 2018)。H2Sを細胞外液(培地)に添加すると30分程度でその大部分が消失する。高濃度グルタミン酸誘発性酸化ストレスは、その発現に時間がかかり細胞死が顕著となるのはグルタミン酸添加20時間後である。そのため、直ぐに消失するH2Sがどうやって酸化ストレスから細胞を保護するのかという疑問は論文(Kimura Y & Kimura H,2004; Kimura Y et al, 2006))発表当初から筆者らが抱いていた疑問であった。今回得られた結果から、細胞外液に加えたH2Sが、H2Snや亜硫酸に酸化され、それぞれが抗酸化ストレス効果を及ぼすため長時間の細胞保護作用が可能であることがわかった。このように酸化、代謝を含めた観点から含硫化合物の生理作用を検討する重要性が喚起された。MPST KO、MPST Tgマウス脳での検討から、MPSTがH2SやH2Snを生合成し、この作用が結合型イオウの増加として観測されることを明らかにした。これは今まで本研究室が培養細胞で見いだした知見をin vivoの系で再確認するものであった。H2S、H2Snの酸化産物である亜硫酸が、両物質より低濃度/同等濃度で神経細胞保護作用を示すことを明らかにした。これは亜硫酸がシスチンをシステインへと効率的に変換するため細胞内システインレベルが上昇し、結果としてGSHレベルが上昇するためであった(Kimura Y et al, Br. J. Pharmacol. 2018)。H2S、H2Snも細胞内GSHを上昇させるが、そのメカニズムは亜硫酸とは異なり、含硫化合物が硫黄の価数、構造の違い等により多彩な作用機構をもつことを再確認した。研究の結果は、論文4報にまとめ、国際学会3件(うち招待講演2件)、国内学会8件で方向した。このようにおおむね順調に研究が進展している。昨年度から進めていた3MPST遺伝子改変ラットからのホモラット(MPST-KO)系統の確立が完了し、ホモラットが安定して得られるようになった。筆者らが報告したようにMPSTはH2S、H2Sn、システインパーサルファイド(Cys-SSH)、グルタチオンパーサルファイド(GSSH)等の過硫化分子の産生を担う酵素である。本年度のMPST-KO、MPST-Tg動物の解析より、過硫化分子を含む結合型硫黄のレベルが、MPSTの発現レベルに依存することが明らかとなった。今後はMPST KOラットを用いて、過硫化分子の産生、生物作用に対するMPSTの関与を詳細に検討していきたい。また本研究室で作成したTRPA1-KOラットとMPST-KOの交配より、MPSTとTRPA1ダブルKOラットの作成中である。H2SnはアストロサイトにおいてTRPA1チャネルを活性化させて細胞内Ca2+濃度を上昇させる。H2S、H2Snなどの過硫化分子の産生酵素である3MPSTと、H2SnをリガンドとするTRPA1チャネルの両方のKO、つまりリガンドと受容体のKOラットの解析により、生体レベル、細胞レベルでのH2S、H2SnとTrpa1チャネルの関係を詳細に検討していきたい。我々はH2Sが過硫化した、即ちイオウが直鎖状に複数結合したポリサルファイド(H2Sn、n≧2)が脳細胞に存在し、酵素により産生する内在性シグナルであることを報告してきた。これらH2SnはアストロサイトではH2Sの300倍の強さでCa2+応答を誘発する(Kimura et al, 2013等)。本年度はシステイン(Cys)やグルタチオン(GSH)が過硫化したシステインパーサルファイド(Cys-SSH)やGSSHに注目した。これらはレドックス調節分子であると考えられ、強い還元力を持つことが報告されているがその合成酵素は良くわかっていなかった。我々は、Cys-SSHとGSSHが3-メルカプトピルビン酸イオウ転移酵素(3MST)により、H2S2やH2S3とともに産生されることを見出した(Kimura Y et al, Sci, Reports, 7: 10459, 2017)。 | KAKENHI-PROJECT-17K08613 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K08613 |
ポリサルファイド/硫化水素誘発過硫化によるグルタチオン調節機構の解明 | 即ち、野生型マウス脳で産生されるCys-SSHとGSSHが、3MST-KOマウスで産生されない、精製リコンビナント3MSTおよび3MST発現させたCOS細胞ライセートでは、Cys-SSHとGSSHが生理的濃度のCysとGSH存在下で産生され、より低濃度のCysとGSH存在下では、よりイオウ鎖が長いCys-SSnHとGSSnH (n≧2)が産生されること等を見出した。本年度はH2SnがH2Sと同様に細胞内GSHレベルを上昇させて、神経細胞を酸化的ストレスから保護すること、H2Sが酸化してできるSO3(2-)にも細胞保護作用があることを見出し、論文に投稿中である。Cys、GSHが過硫化した分子であるCys-SSHとGSSHは強い還元力を持ち、レドックス調節分子として認識されている。本年度は今までよく分っていなかったCys-SSHとGSSHの合成酵素が3MSTであり、H2S2やH2S3とともに産生されること、生理的濃度のCys、GSH存在下では主としてCys-SSHとGSSHが産生され、より酸化状態、即ちCysやGSH濃度が低い条件では、イオウがさらに結合したCys-SSnHとGSSnH(n≧2)が優先的に産生されることを報告した(Kimura Y et al, Sci. Rep. 2017)。研究成果は論文7件にまとめ、国際学会ConBio2017において学会発表3件を行った。このように全体としておおむね順調に研究が進展している。硫化水素(H2S)およびH2Sに硫黄が直鎖状に結合したポリサルファイド(H2Sn、n≧2)は、様々な組織で多様な作用を発揮する新規シグナル分子である。統合失調症モデルマウスMpst(3-メルカプトピルビン酸硫黄転移酵素)KO及びMpst Tgマウス脳での検討から、MPSTがH2SやH2Snを生合成し、この作用が結合型イオウの増加として観測されることを明らかにした(理研との共同)。しかし、統合失調症患者脳検体のMPST量は、コントロール脳と有意差が認められなかった(理研・福島医大との共同)。H2SやH2Snの酸化産物である亜硫酸が、両物質より低濃度/同等濃度で神経細胞保護作用を持つこと、これが細胞内グルタチオン(GSH)レベル上昇による抗酸化機能亢進によることを見いだした。亜硫酸はH2SやH2Snの3倍以上の効率でシスチンをシステインに変換する。システインは速やかに細胞に取込まれGSH合成に利用され細胞保護効果を発揮することが分かった(Kimura Y et al, Br.J.Pharmacol. 2018)。H2Sを細胞外液(培地)に添加すると30分程度でその大部分が消失する。高濃度グルタミン酸誘発性酸化ストレスは、その発現に時間がかかり細胞死が顕著となるのはグルタミン酸添加20時間後である。そのため、直ぐに消失するH2Sがどうやって酸化ストレスから細胞を保護するのかという疑問は論文(Kimura Y & Kimura H,2004; Kimura Y et al, 2006))発表当初から筆者らが抱いていた疑問であった。今回得られた結果から、細胞外液に加えたH2Sが、H2Snや亜硫酸に酸化され、それぞれが抗酸化ストレス効果を及ぼすため長時間の細胞保護作用が可能であることがわかった。このように酸化、代謝を含めた観点から含硫化合物の生理作用を検討する重要性が喚起された。MPST KO、MPST Tgマウス脳での検討から、MPSTがH2SやH2Snを生合成し、この作用が結合型イオウの増加として観測されることを明らかにした。これは今まで本研究室が培養細胞で見いだした知見をin vivoの系で再確認するものであった。 | KAKENHI-PROJECT-17K08613 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K08613 |
簡便な補正機能を持つ光脳機能計測法の研究 | 近赤外分光法による脳機能計測において、測定信号に含まれる姿勢変化等の外乱や感情等の情報を含む皮膚血流の影響を大脳皮質血流から分離する計測法に関する研究を行った。まず、提案する2種類の補正信号を用いる皮膚血流変化の影響の補正手段に関して、シミュレーション及びファントム実験により、有効性を確認した。また、手段の実現に適した信号の変調・復調方式を提案し、その動作をファントム実験にて確認した。また、生体計測においては、皮膚血流の補正信号を測定対象信号と同時に計測し、測定対象信号に含まれる外乱の影響を確認した。研究の目的は、近赤外光生体計測(NIRS: near infrared spectroscopy)において課題となっている測定信号に含まれる外乱を簡便な手法により大脳皮質血流から分離することにより、高精度な脳機能計測法を確立し、NIRSの活用範囲を広げて学習効果や思考力の評価などの脳機能の解析に役立てることである。このために、本研究は2種類の補正方法を併用した補正技術とプローブ配置に関して、アルゴリズム及び装置化の実現性を検証することを目的としている。平成23年度に提案した正三角形のプローブ配置と生体模擬ファントムによる実験結果を基に、平成24年度は生体計測システムの開発と生体計測に取り組んだ。3チャネル(=1波長3光源4検出)のシステムを拡張して2波長1光源4検出及び3波長1光源2検出のシステムを試作し、生体信号の計測を行った。システム試作においてはプローブの装着方法を検討した。プローブの固定具は2段構造として正三角形の重心が頂点から等距離になるよう調整し、頭部に垂直にプローブが装着できるようにした。また、生体信号の計測を通して以下の知見を得た。(1)姿勢変化に伴う血液量変化:3軸角度センサにより頭部の前方への傾斜角度をモニタしながら血液量変化を測定した結果、角度に比例して血液量の増加傾向が確認できた。(2)感情の起伏に伴う皮膚血流の変化の推定:測定信号に重畳する脈波成分から心拍数を算出する手法を確立した。卓上ゲーム実施時の脳機能計測に適用し、あせりなどの感情変化に伴う血液量と心拍数の増加傾向が確認できた。(3)多波長化3種類の波長の光を用いて酸素化・脱酸素化ヘモグロビン濃度を算出することにより、ヘモグロビン濃度変化に含まれる同相信号成分(血液量)を分離できることを明らかにした。本研究の目的は、近赤外光生体計測(NIRS:near infrared spectroscopy)において課題となっている測定信号に含まれる外乱を簡便な手法により大脳皮質血流から分離することにより、高精度な脳機能計測法を確立し、NIRSの活用範囲を広げて学習効果や思考力の評価などの脳機能の解析に役立てることである。このために、本研究は2種類の補正方法を併用した補正技術とプローブ配置に関して、アルゴリズム及び装置化の実現性を検証することを目的としている。前年度までに、正三角形のプローブ配置を提案して、二種類の表層血流の補正信号の検出の有効性を示した。また、脳機能計測時に必要となる頭部への光ファイバープローブの装着方法を確立し、脳機能計測に適用した。平成25年度は、生体計測システムの開発の最終段階として、多重信号の分離に不可欠となる信号のデジタル変復調方式を提案し、多チャネルシステム(3光源4検出)のシステムを構築し、計算機シミュレーションおよび生体ファントム実験により動作の検証を行った。また、昨年度までに開発した生体計測システム(1光源4検出)により、外頸動脈の圧迫による血液量変化の計測への影響を調べ、提案した正三角形のプローブ配置とその重心における補正信号の検出が血液量変化の検出に有効であることを明らかにした。また脳機能信号の特性を解析する手段として、相関係数を用いた計測波形のチャネル間の類似性の評価方法を提案した。近赤外分光法による脳機能計測において、測定信号に含まれる姿勢変化等の外乱や感情等の情報を含む皮膚血流の影響を大脳皮質血流から分離する計測法に関する研究を行った。まず、提案する2種類の補正信号を用いる皮膚血流変化の影響の補正手段に関して、シミュレーション及びファントム実験により、有効性を確認した。また、手段の実現に適した信号の変調・復調方式を提案し、その動作をファントム実験にて確認した。また、生体計測においては、皮膚血流の補正信号を測定対象信号と同時に計測し、測定対象信号に含まれる外乱の影響を確認した。研究の目的は、近赤外光生体計測(NIRS: near infrared spectroscopy)において課題となっている測定信号に含まれる外乱を簡便な手法により大脳皮質血流から分離することにより、高精度な脳機能計測法を確立し、NIRSの活用範囲を広げて学習効果や思考力の評価などの脳機能の解析に役立てることである。このために、本研究は2種類の補正方法を併用した補正技術とプローブ配置に関して、アルゴリズム及び装置化の実現性を検証することを目的としている。平成23年度はシミュレーションによる手法の解析と生体ファントム実験用の3チャネルの装置を試作し、補正法を検証した。研究内容は以下の通りである。(1)正三角形のプローブ配置を提案し、二種類の補正方法の有効性を検証した。正三角形の頂点では照射、受光、同一開口補正の受光を、各頂点から等距離となる重心では等距離点補正の受光を行う。計算機シミュレーションにより補正信号の特性を解析した結果、局所的な感度を持つ同一開口補正で影響の最も高い開口部近傍の吸収体変化を検出可能であること、等距離点補正で測定対象領域の平均的な表層吸収領域(血液量の変化領域に相当)を検出できることを示した。 | KAKENHI-PROJECT-23560515 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23560515 |
簡便な補正機能を持つ光脳機能計測法の研究 | (2) 3チャネル(=1波長3光源4検出)のシステムを試作し、生体模擬ファントムによる実験を行った。正三角形の頂点から周波数変調された同一波長の近赤外光(780nm)を照射し、各頂点と重心にて受光し、各変調波の強度変化を測定した。対称性の確認と感度調整の後、表層・深部吸収体の位置による受光強度変化(=感度)を求めた。二種類の補正信号を利用することで表層吸収体領域の位置と大きさの検出が容易になることを示した。脳機能信号に重畳する血液量の変化の影響の把握と特性の解析に関して、姿勢変化に伴う血液量変化の特性、感情の起伏に伴う皮膚血流の変化を推定に関して知見を得ることが出来ている。一方、システム構築にやや遅れが出ている。これは、多光源からの受光信号を分離技術に用いる復調技術に関して、方式確認後の精度検証にやや時間を要しているためである。生体計測に向けた検証を実施して構築するシステムに適用する。生体ファントム実験により、提案手法の有効性は確認できているが、生体適用のためのシステム構築にやや遅れが生じている。これは、生体ファントム実験の準備段階での試作回路の不具合に伴う改良に時間がかかり、実験評価の時期が研究協力者である学生の授業のない夏季休暇からずれて評価に十分な時間が取れなかったためである。これに伴い、生体適用のためのシステム構築がやや遅れている。このため、当初計画していた多光源からの受光信号を分離技術に用いる復調技術に関して従来法を用いることで時間の短縮を図る。なお、復調技術はファントムによる方式確認を実施しており、十分な精度を持つことが検証できれば今後システムに適用できる。まず、生体計測システムの開発の最終段階として、多重信号の分離に不可欠となる信号の復調技術を検証しシステムを構築する。多チャネル化の精度検証が上述の通り遅れていたことから今年度システム構築のために必要となる部材などを購入して研究を推進する。また、光の波長を多波長化が血液量の脳機能信号からの分離に有効であることが明らかとなっている。このため、システム構築構築においては余裕があればこの点も視野に入れる。また、生体計測に関しては計測課題として、1氷水による抹消刺激反応時の脳機能、2計算課題による脳機能、3感情変化を含むマルチタスク時の計算課題による脳機能、3感情、姿勢変化、脳機能の情報が混在する将棋等の卓上ゲームを実施する。この時の脳機能を測定し、補正効果を検証する。また、補正効果の検証に関してはファントム実験も継続して行い、ファントム実験結果を生体計測結果へ随時をフィードバックする。生体計測へ向けて、各光源を2波長としたシステムを開発する。生体適用時の2種の補正信号の特性や光ファイバプローブ及びプローブ固定具の評価を行う。開発システムの評価後、姿勢変化や各種タスクに対する脳機能計測への適用する。まず、姿勢変化に伴う血液量変化の測定では、実験の実施状況を把握するために3軸角度センサによる頭部の位置、姿勢変化の検出とビデオカメラによるモニタを実施する。次に、計測データから皮膚血流と深部血流の分離を試みる。 | KAKENHI-PROJECT-23560515 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23560515 |
少量ゲノム含有検体に解析対象を広げた梅毒トレポネーマゲノム多様性の体系的再評価 | 国内臨床検体の提供を受け、梅毒トレポネーマDNA陽性例群(20152018年分)について型別決定を行い、それらのデータの蓄積を進めた。検体中DNA量がGE HealthScienceの「genomi-phi」による増幅に必要な初期量を超える、またはそれに近いものについて選定を行い、検体中のtotal DNAを増幅させた。増幅後のtotal DNA量がAgilentの「Sure Select Target Enrichment System」が必要とする50ng in 2ulを超えるものにつき、指定されたプロトコルで梅毒トレポネーマgenome画分を選択精製して、次世代シーケンサーで各検体中のその全情報を得ることを目指した。最終的にサンプルを次世代シーケンサーで解析ができ、得られたデータがゲノムカバー率90%以上、重複度10以上のものを信頼度が十分なものと判断してSNP比較を行い、予備的にMinimum Spanning Treeを作成した。型別決定途上でまた決定したマクロライド耐性型/感受性型を含む分子型別分布と由来検体患者の性的指向との間に相関性が存在することに気づき、新しい知見として英文誌に論文発表を行なった。試薬コストの面に鑑み、ゲノム配列全情報が成功裏に得られるための検体、およびその由来DNAの条件を見出すことが、今後、第一義的に重要であることを認識した。概要の項で述べた方法によって、これまでに20152018年の国内臨床検体から最終的に49検体由来のDNAを次世代シーケンサーで解析し、同項で述べた基準で、そのうち22検体由来のものを信頼性が十分と判断し、SNP比較を行い、予備的にMinimum Spanning Treeを作成した。この過程で、信頼性の高いゲノムシーケンスデータを得るためには、従来の分子型別が全ての項目で成功していることが必要条件であるが十分条件ではないことを確認することができた。得られた予備的Minimum Spanning Treeから、全体に国内検体は東アジア諸国での分離株と比較的近いpositionを占めたが、東アジアを含め諸外国株と同一と認められるものは無かった。一方、解析した国内株中、同一と考えられる株の組み合わせが見出され、上記、外国株と同一のものが無かったことと合わせて、このゲノム比較方法論は、株間相同性が極めて高く分類が困難と考えられてきた梅毒トレポネーマの感染ルート特定にも極めて有用であるという予備的結果を得ることができた。また、このSNP比較によるMinimum Spanning Treeでも、従来の分子型別でも、国内株は男性同性愛患者由来のものは様々な分子型がみられ、heterogeneityが高い反面、男性異性愛および女性患者由来のものは分子型14d/f、かつマクロライド耐性型であるものがほとんどを占めることが見出され、日本で2015年以降、梅毒報告数増加の主要因となっている男性異性愛および女性患者での増加がクローナルな株によるものである可能性が提起され、英文誌上で報告した。この初年度で、信頼性の高いゲノムシーケンスデータを得る必要条件を見出せたが、使用する試薬のコスト面を考えると、特にAgilentの「Sure Select Target Enrichment System」を使用する直前段階において、最終的に信頼性の高いデータを得るための十分条件を見極める方法を模索することが肝要である。シーケンスデータ、型別結果と患者の性指向との連関性は疫学的に重要で今後とも、よりファインな、ゲノムシーケンスデータでの裏打ちによって今回見出された傾向が今後も継続するのかをサーベーランス的に行う必要性がある。シーケンスデータの情報を基にしたより分解能の高い簡易な分子型別改良法開発については、各国の幅広い多数株を単一プロジェクトで同時解析したグループの報告に先行された。この方法を試行し、特に特定型に集中する傾向が強いことがわかった日本の男性異性愛および女性患者由来株を細分化することが可能かを今後検討することが必要となった。国内臨床検体の提供を受け、梅毒トレポネーマDNA陽性例群(20152018年分)について型別決定を行い、それらのデータの蓄積を進めた。検体中DNA量がGE HealthScienceの「genomi-phi」による増幅に必要な初期量を超える、またはそれに近いものについて選定を行い、検体中のtotal DNAを増幅させた。増幅後のtotal DNA量がAgilentの「Sure Select Target Enrichment System」が必要とする50ng in 2ulを超えるものにつき、指定されたプロトコルで梅毒トレポネーマgenome画分を選択精製して、次世代シーケンサーで各検体中のその全情報を得ることを目指した。最終的にサンプルを次世代シーケンサーで解析ができ、得られたデータがゲノムカバー率90%以上、重複度10以上のものを信頼度が十分なものと判断してSNP比較を行い、予備的にMinimum Spanning Treeを作成した。型別決定途上でまた決定したマクロライド耐性型/感受性型を含む分子型別分布と由来検体患者の性的指向との間に相関性が存在することに気づき、新しい知見として英文誌に論文発表を行なった。試薬コストの面に鑑み、ゲノム配列全情報が成功裏に得られるための検体、およびその由来DNAの条件を見出すことが、今後、第一義的に重要であることを認識した。概要の項で述べた方法によって、これまでに20152018年の国内臨床検体から最終的に49検体由来のDNAを次世代シーケンサーで解析し、同項で述べた基準で、そのうち22検体由来のものを信頼性が十分と判断し、SNP比較を行い、予備的にMinimum Spanning Treeを作成した。 | KAKENHI-PROJECT-18K09184 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K09184 |
少量ゲノム含有検体に解析対象を広げた梅毒トレポネーマゲノム多様性の体系的再評価 | この過程で、信頼性の高いゲノムシーケンスデータを得るためには、従来の分子型別が全ての項目で成功していることが必要条件であるが十分条件ではないことを確認することができた。得られた予備的Minimum Spanning Treeから、全体に国内検体は東アジア諸国での分離株と比較的近いpositionを占めたが、東アジアを含め諸外国株と同一と認められるものは無かった。一方、解析した国内株中、同一と考えられる株の組み合わせが見出され、上記、外国株と同一のものが無かったことと合わせて、このゲノム比較方法論は、株間相同性が極めて高く分類が困難と考えられてきた梅毒トレポネーマの感染ルート特定にも極めて有用であるという予備的結果を得ることができた。また、このSNP比較によるMinimum Spanning Treeでも、従来の分子型別でも、国内株は男性同性愛患者由来のものは様々な分子型がみられ、heterogeneityが高い反面、男性異性愛および女性患者由来のものは分子型14d/f、かつマクロライド耐性型であるものがほとんどを占めることが見出され、日本で2015年以降、梅毒報告数増加の主要因となっている男性異性愛および女性患者での増加がクローナルな株によるものである可能性が提起され、英文誌上で報告した。この初年度で、信頼性の高いゲノムシーケンスデータを得る必要条件を見出せたが、使用する試薬のコスト面を考えると、特にAgilentの「Sure Select Target Enrichment System」を使用する直前段階において、最終的に信頼性の高いデータを得るための十分条件を見極める方法を模索することが肝要である。シーケンスデータ、型別結果と患者の性指向との連関性は疫学的に重要で今後とも、よりファインな、ゲノムシーケンスデータでの裏打ちによって今回見出された傾向が今後も継続するのかをサーベーランス的に行う必要性がある。シーケンスデータの情報を基にしたより分解能の高い簡易な分子型別改良法開発については、各国の幅広い多数株を単一プロジェクトで同時解析したグループの報告に先行された。この方法を試行し、特に特定型に集中する傾向が強いことがわかった日本の男性異性愛および女性患者由来株を細分化することが可能かを今後検討することが必要となった。 | KAKENHI-PROJECT-18K09184 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K09184 |
会計利益と課税所得の一致性が利益の質に与える影響に関する国際比較 | 本研究の目的は、会計利益と課税所得の一致性が利益の質に与える影響を分析することにある。会計利益と課税所得の一致性をAtwood et al.(2010)に基づいて国・年ごとに推定した。また、利益の質の指標として、利益平準化、短期的な会計発生高の見積誤差、裁量的会計発生高の絶対値などを取り上げた。分析の結果、会計利益と課税所得の一致性の水準が高いほど、利益平準化の程度が高く、短期的な会計発生高の見積誤差や裁量的会計発生高の絶対値の程度は小さいことが明らかになった。本研究の目的は、会計利益計算と課税所得計算の制度的連携の程度が、利益の質(earnings quality)に与える影響を国際比較分析することにある。これまでの実証的会計研究の中で開発された利益の質に関する複数の指標を取り上げ、それらが会計利益と課税所得の一致性(book- tax conformity)が高い国とそうでない国で違いがあるのか否かを分析する。このような目的を達成するには、主要国の会計利益計算と課税所得計算の制度的連携の現状を整理するとともに、その制度的連携の程度を指標化および利益の質の指標化などが必要になる。平成25年度は、会計利益計算と課税所得計算の制度的連携の程度に関する指標と利益の質に関する指標を算出するためのデータベースの構築を主に行った。Capital IQのオンラインサービスを利用して、分析に必要となる主要国の会計データを収集した。また、平成25年度は、分析手続きを確認するために、日本企業の時系列データのみを用いてAtwood, Drake, Myers(2010)によって提案された会計利益と課税所得の一致性の程度に関する指標を算出した。さらに、利益の質の指標については、利益の特性に関連するもの、具体的には、利益平準化の程度、裁量的会計発生高、短期的な会計発生高の見積り誤差などの指標を算出した。その結果、日本企業の場合、会計利益と課税所得の一致性が強い企業ほど利益平準化の程度が高い傾向にあるものの、裁量的会計発生高や短期的な会計発生高の見積り誤差は小さいということが明らかとなった。本研究の目的は、会計利益計算と課税所得計算の制度的連携(Book-Tax Conformity:以下BTC)の程度が、利益の質(earnings management)に与える影響を国際比較することである。平成26年度は実際に国際データを用いた分析を行った。分析対象期間は2003年から2012年までの10年間であり、データはすべてS&P社のCapital IQから入手した。その結果、日本は分析対象46カ国の中でBTCが高い方から12番目に位置しており、会計利益計算と課税所得計算の制度的連携が比較的強いカテゴリーに属することが確認された。また、BTCの水準が高い国は利益平準化を行う傾向にあることが観察され、その観点からはBTCの水準が高い国の方がそれが低い国よりも利益の質が低いと考えられる。しかし、BTCの水準が高い国は、短期的な会計発生高の見積誤差や裁量的会計発生高の水準が低く、これらの観点からはBTCの水準が高い国の方がそれが低い国よりも利益の質が高いと考えられる。このように、BTCの水準が高い制度は利益平準化を助長する傾向にあるものの、会計発生高の見積誤差を小さくし、会計発生高の過大または過小計上を抑制する効果を持つことが明らかとなった。BTCの水準が高い国の会計情報は、それが低い国の会計情報よりもキャッシュ・フローへの実現という観点からは確度の高い数値になっていると考えられる。本研究では、会計利益計算と課税所得計算の制度的連携(Book-Tax Conformity:以下、BTC)に焦点をあて、それが利益の質に影響を与えるか否かを分析した。平成27年度は、前年度に引き続き、S&P社のCapital IQから国際データを入手して、国・年ごとにBTCの程度や利益の質の程度を定量化した。前年度では、利益の質をあらわす指標として、利益平準化、短期的な会計発生高の見積誤差、裁量的会計発生高をとりあげ、BTCの程度が高い国ほど利益平準化を行う傾向にあるが、短期的な会計発生高の見積誤差や裁量的会計発生高の水準はむしろ小さいことが明らかとなった。平成27年度は、利益の質として、Basu(1997)によって知られる条件付保守主義の指標を追加して分析を行ったが、BTCの程度と条件付保守主義の程度に有意な関係を見出すことはできなかった。これまでの分析結果をまとめると、日本の会計制度は確定決算主義を背景として会計利益計算と課税所得計算が密接に連携しており、その水準は国際的に比較しても高いことが確認された。さらに、このような制度的連携によって日本企業の会計利益が過度に平準化されている可能性があり、その意味では制度的連携の程度を見直す必要があると指摘できる。しかし、その見直しの程度によっては従来よりも確度の低い会計利益が報告されることになり、短期的な会計発生高の精度が低下し、裁量的会計発生高の水準も高くなるなど、必ずしも利益の質を改善するとは言えない影響をもたらすことが明らかとなった。これらの研究結果については、日本会計研究学会第74回全国大会の「特別委員会(最終報告)経済社会のダイナミズムと会計制度のパラダイム転換に関する総合研究」の一部として報告されている。本研究の目的は、会計利益と課税所得の一致性が利益の質に与える影響を分析することにある。 | KAKENHI-PROJECT-25380589 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25380589 |
会計利益と課税所得の一致性が利益の質に与える影響に関する国際比較 | 会計利益と課税所得の一致性をAtwood et al.(2010)に基づいて国・年ごとに推定した。また、利益の質の指標として、利益平準化、短期的な会計発生高の見積誤差、裁量的会計発生高の絶対値などを取り上げた。分析の結果、会計利益と課税所得の一致性の水準が高いほど、利益平準化の程度が高く、短期的な会計発生高の見積誤差や裁量的会計発生高の絶対値の程度は小さいことが明らかになった。平成26年度では実際に国際データを用いて分析することを目的としていた。国際比較分析を行って結果を得ることができたため、おおむね順調に進展しているとした。財務会計平成26年度の分析結果を基礎としつつ、利益の質の指標間の関係性などに焦点をあてながらさらに分析を行い、研究成果としてまとめる。本研究の最終的な目的は、会計利益計算と課税所得計算の制度的連携の程度が利益の質に与える影響を国際比較することである。グローバル・データは国によって収録されている項目や期間にばらつきがあるため、データベースの構築に時間がかかっている。そのため、進捗が若干遅れている。データ収集及び分析を優先したため、研究会等での成果報告等が少なかった繰越額が生じた。本年度はグローバル・データのデータベース構築を完成させ、会計利益と課税所得の一致性の程度の指標と利益の質の指標の関連性に関する国際比較分析を実施する。追加的に必要なデータを入手するために継続してデータベースを契約する。また、研究成果を国内外の研究会等で報告するための旅費として使用する。研究の進捗がやや遅れ、国内研究会等における成果発表を実施することができなかったため。データベースの構築を急ぐために、研究補助員を雇用して効率的にデータの収集を行う。また、分析結果を国内外の研究会等で報告するための旅費として使用する。 | KAKENHI-PROJECT-25380589 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25380589 |
肝細胞癌におけるマイクロRNAの網羅的解析及び癌特異的マイクロRNAの機能解析 | マイクロRNA網羅的解析において、そのクラスター解析において、肝硬変と肝癌は異なるプロファイリングを形成していた。また、最も差異が認められた、マイクロRNAは、マイクロRNA-527であり、肝癌において、極めて減弱していた。さらに、コンピューター予測により、glypican-3が、マイクロRNA-527の標的遺伝子の可能性を見出した。また、肝癌において減弱するマイクロRNA-527のターゲット分子がglypican-3遺伝子であることを実験的に確かめた。マイクロRNA-527の機能として、MAPキナーゼカスケードを亢進させる役割があった。マイクロRNA網羅的解析において、そのクラスター解析において、肝硬変と肝癌は異なるプロファイリングを形成していた。また、最も差異が認められた、マイクロRNAは、マイクロRNA-527であり、肝癌において、極めて減弱していた。さらに、コンピューター予測により、glypican-3が、マイクロRNA-527の標的遺伝子の可能性を見出した。また、肝癌において減弱するマイクロRNA-527のターゲット分子がglypican-3遺伝子であることを実験的に確かめた。マイクロRNA-527の機能として、MAPキナーゼカスケードを亢進させる役割があった。microRNA(miRNA)は、2125塩基程度のnon-coding RNAであり、これらのmiRNAターゲット遺伝子のメッセンジャーRNAの3'非翻訳領域(3'UTR)に部分相補的に結合し、ターゲット遺伝子の翻訳を抑制する。最近、種々の癌を正常組織と比較し、miRNAの発現パターンが著明に変化していることが報告されており、miRNAが細胞の癌化に関与しているのではないかと推測されている。今回我々は、377のmiRNAが搭載されたマイクロアレイを用い、肝硬変と比較し、肝癌において特異的に変動したmiRNA-527の意義について解析した。対象は、C型肝炎による肝癌4例、その非癌部肝硬変4例であり、それぞれの肝組織よりtotal RNAを抽出後、miRNAを回収し、肝癌組織からのmiRNAをCy3に、非癌部組織からのmiRNAをCy5に蛍光標識させ、それをアレイチップにハイブリダイゼイションさせた。その後、アレイをスキャナーにかけ、各スポットのシグナルを数量化させ、データー解析を行った。また、肝癌において減弱していたmiRNA-527に対し、その標的遺伝子をデータベース(Sanger研究所のmfRBasse)から推測し、さらに、培養細胞株を用いた実験的検証も行った。階層的分類法を用いたクラスター解析では、癌部、非癌部におけるmiRNAの発現パターンは、4症例とも発現パターンの類似性がみられた。非癌部の肝硬変と比較し、減弱していたmiRNAの1つに、miR-527があり、データベースよりそのターゲット遺伝子の候補として、肝癌の腫瘍マーカーであるglypican-3が推測された。glypican-3をCos-7に強制発現させた系に、miR-527を細胞内に同時導入させると、glypican-3の発現が消失した。さらに、glypican-3を発現している肝癌Huh-7を用いた細胞株でも、miR-527を細胞内に導入させるとglypican-3は減弱した。マイクロRNA(2125塩基程度のnoncoding RNA)は、複数のターゲット遺伝子を抑制する新たなタンパク質発現制御機構である。最近、種々の癌細胞において、マイクロRNAの発現パターンが著明に変化していることが報告されており、マイクロRNAが、細胞の癌化に関与しているのではないかと推測されている。前年度、我々は、377種類のマイクロRNAが搭載されたチップを用いて、肝癌において、マイクロRNA-527が減弱することを報告した。今回、さらに、肝癌細胞株、Hep3B, Li7, Alex, HLF, HLE、HuH7、正常肝臓細胞株用いて、マイクロRNAの網羅的解析を行なった。培養細胞においても、正常肝細胞株と比較し、肝癌細胞株において、マイクロRNA-527は減弱していた。データーベースを用いてマイクロRNA-527のターゲット遺伝子としてグリピカン3を予測し、HuH7を用いた実験系でも、マイクロRNA-527を導入すると、グリピカン3の発現が減弱し、anti-マイクロRNA-527を導入するとグリピカン3の発現が増強することを証明した。このことから、マイクロRNA-527のターゲット遺伝子の一つにグリピカン3があり、肝癌において、グリピカン3が増強するのは、マイクロRNA-527の減少によるものであることがわかった。 | KAKENHI-PROJECT-19590770 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19590770 |
多剤耐性HIVに著効を持つ低毒性4'-置換-2'-デオキシヌクレオシド類の創出 | エイズ化学治療の問題は耐性HIVの発現であり耐性が交差しない複数の薬剤を投与する所謂「カクテル療法」が開発されエイズ治療に非常に明るい兆しが見えたが本年2月CDCはカクテル療法が全く無効であったエイズ患者が出現したと報告している。其れ故耐性株の発現阻止が益々重要課題となっている。本研究成果は、逆転写酵素(RT)阻害活性を持つヌクレオシドに注目し、耐性株が発現しないヌクレオシドの設計・合成・生物学的評価を行った十数年の総括である。耐性HIVを発現させないヌクレオシドとして4'-置換-2'-デオキシヌクレオシド(4'SdN)を設計し、4'-位の置換基と核酸塩基の組合せを変えて、抗HIV活性と毒性の関係を研究した。その結果、4'-位置換基は嵩高く無いこと核酸塩基はプリンが良い、という傾向を掴んだ。4'-位置換基として-CNと-C≡CHを選び、各種プリン塩基との組み合わせを研究した。その結果4'-C体は毒性を低減するのが難しいと結論した。4'-C≡CH体はアデニン体(Ad):EC_<50>=0.012μM,CC_<50>=11.7,S.I.=975,ヒポキサンチン体(I):EC_<50>=0.15,CC_<50>=216,S.I.=1440,2-アミノアデニン体(2AAd):EC_<50>=0.0003,CC_<50>=0.82,S.I.=2733,グアニン体(G):EC_<50>=0.0014,CC_<50>=1.5,S.I.=1071(cf:AZT:EC_<50>=0.01,CC_<50>=>20,S.I.=>2000)現存する全ての耐性株にも有効という結果であった。マウス毒性試験の結果:2AAd, Gは3mg/kgで経口・静注共即日死であったがAd, Iは100mg/kgまで無毒であった。アデノシンデアミナーゼで2AAdがGにAがIに変換されることが毒性試験結果の解釈を難しくしたのでアデノシンデアミナーゼに安定な2-フルオロアデニン体(2FA)を合成した。2FAはEC_<50>=0.0002μM,CC50=22,S.I=110,000,現存する全ての耐性株にも著効を持ちマウス毒性も100mg/kgまで無毒という結果であったので現在医薬品としての開発を研究している。エイズ化学治療の問題は耐性HIVの発現であり耐性が交差しない複数の薬剤を投与する所謂「カクテル療法」が開発されエイズ治療に非常に明るい兆しが見えたが本年2月CDCはカクテル療法が全く無効であったエイズ患者が出現したと報告している。其れ故耐性株の発現阻止が益々重要課題となっている。本研究成果は、逆転写酵素(RT)阻害活性を持つヌクレオシドに注目し、耐性株が発現しないヌクレオシドの設計・合成・生物学的評価を行った十数年の総括である。耐性HIVを発現させないヌクレオシドとして4'-置換-2'-デオキシヌクレオシド(4'SdN)を設計し、4'-位の置換基と核酸塩基の組合せを変えて、抗HIV活性と毒性の関係を研究した。その結果、4'-位置換基は嵩高く無いこと核酸塩基はプリンが良い、という傾向を掴んだ。4'-位置換基として-CNと-C≡CHを選び、各種プリン塩基との組み合わせを研究した。その結果4'-C体は毒性を低減するのが難しいと結論した。4'-C≡CH体はアデニン体(Ad):EC_<50>=0.012μM,CC_<50>=11.7,S.I.=975,ヒポキサンチン体(I):EC_<50>=0.15,CC_<50>=216,S.I.=1440,2-アミノアデニン体(2AAd):EC_<50>=0.0003,CC_<50>=0.82,S.I.=2733,グアニン体(G):EC_<50>=0.0014,CC_<50>=1.5,S.I.=1071(cf:AZT:EC_<50>=0.01,CC_<50>=>20,S.I.=>2000)現存する全ての耐性株にも有効という結果であった。マウス毒性試験の結果:2AAd, Gは3mg/kgで経口・静注共即日死であったがAd, Iは100mg/kgまで無毒であった。アデノシンデアミナーゼで2AAdがGにAがIに変換されることが毒性試験結果の解釈を難しくしたのでアデノシンデアミナーゼに安定な2-フルオロアデニン体(2FA)を合成した。2FAはEC_<50>=0.0002μM,CC50=22,S.I=110,000,現存する全ての耐性株にも著効を持ちマウス毒性も100mg/kgまで無毒という結果であったので現在医薬品としての開発を研究している。4'-位にCN基をもつ4'SdNのアデニン体(4'-CNdA)の2'-デオキシアデノシンからの合成を達成した。 | KAKENHI-PROJECT-14360062 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14360062 |
多剤耐性HIVに著効を持つ低毒性4'-置換-2'-デオキシヌクレオシド類の創出 | 4'-CNdAは非常に強い抗HIV活性を示したので抗HIV化合勿としての特許を取得したが、毒性も高くそのままでは臨床薬として使用することは難しいことが分かった。また、4'-CN-アデノシン体(4'-CNA)も合成したが、全く生物活性を持たなかった。これは5'-位の水酸基磯のモノリン酸化酵素の基質とならない為と考えられた。3',4'-ジエチニルリボフラノシルウラシル、-チミン、-シトシンのD-グルコースを原料とする合成に成功した。しかしこらは全て特筆する生理活性を持たなかった。これは4'-CNAと同様5'-OHのモノリン酸化が行かないためと考えられた。以上の結果は4'-位に置換基をもつリボヌクレオシド類はモノリン酸化酵素の基質とはならないという結果を示すものであり、これらの2'-デオキシ体およびアラ体の生理活性が興味ある結果を得た。4'-エチニル-2'-デオキシアデニンおよびイノシンの大量合成は進行中である。アデノシンデエアミナーゼで脱アミノ化され難いヌクレオシドとして2-フルオロ-4'-エチニル-2'-デオキシアデノシンを設計し合成を行っている。4'SdNアデノシンのL-異性体を合成し、生物活性を試験したが何の生物活性を示さなかった。これは、L-型がヌクレオシドとして認識されない為と考えられた。本年度は4'-エチニル-2'-デオキシアデノシンが生体中でアデノシンデアミナーゼにより活性の低いイノシン体に変換されるのを防ぐ目的で、アデノシンデアミナーゼの作用を受け難いことが知られている2-フルオロアデノシンを塩基とした4'-エチニル-2'-デオキシ-2-フルオロアデノシン(A)を合成した。Aは期待通り非常に優れたin vitro活性を示した。その活性試験の結果を以下に、現在の臨床薬で最も優れている活性をもつAZTと比較して示す。次に、リボースの環酸素原子を炭素原子に置換えたカルボサイクリックヌクレオシドの4'-エチニル誘導体の合成を研究した。ジヒドロオキシアセトンを原料として3-α-ヒドロキシ-4-α-エチニル-4-β-ヒドロキシメチル-1-β-(9-アデニル)シクロペンタンのラセミ体(B)の合成に成功した。Bの抗ウイルス活性は現在検討中である。エイズ化学治療の問題は耐性HIVの発現である。耐性が交差しない複数の薬剤を投与する所謂「カクテル療法」が開発されエイズ治療に非常に明るい兆しが見えているが耐性株の発現阻止は医療の面からも学問的にも解決すべき重要な問題である。本研究は、逆転写酵素(RT)限害活性を持つヌクレオシドに注目し、耐性株が発現しないヌクレオシドの設計・合成・生学的評価を行い耐性HIVが発現しないヌクレオシドの開発を目的とする。耐性株を発現させない4'-置換-2'-デオキシヌクレオシド(4'SdN)を設計し、4'-位の置換基と核酸塩基の組合せを変えて、抗HIV活性と毒性の関係を研究した。その結果、4'-位置換基は嵩高く無いこと、核酸塩基はプリンが良い、という傾向を掴んだ。4'-位置換基として-CNと-C≡CHを選び、各種プリン塩基との組み合わせを研究した。その結果4'-CN体は毒性が高いと結論した。4'-C≡CH体ははアデニン体(Ad):EC_<50>=0.012μM,CC_<50>=11.7,S.I.=975,ヒポキサンチン体(I):EC_<50>=0.15,CC_<50>=216,S.I.=1440,2-アミノデニン体(2AAd):EC_<50>=0.0003,CC_<50>=0.82,S.I.=2733,グアニン体(G):EC_<50>=0.0014,CC_<50>=1.5,S.I.=1071(cf:AZT=EC_<50>=0.001,CC_<50>=>20,S.I.=2000)現存する全ての耐性株にも有効という結果であった。 | KAKENHI-PROJECT-14360062 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14360062 |
大麻摂取ならびに精神疾患動物モデルにおける社会的行動障害に関する神経薬理学的研究 | 統合失調症や大麻摂取で最も治療困難であり問題となるのは,感情の平板化,無関心,自閉など精神機能の減退を現す陰性症状である.特に社会的引きこもりや自閉など社会的行動の障害は,治療上問題となるばかりではなく,社会生活を営むことができないため,本人ばかりではなく,家族にとっても,精神的にも経済的にも負担となるものである.ところが,社会的行動の障害に関して十分な発症原因の解明は行われていないのが現状である.そこで本研究では,大麻摂取や統合失調症による社会的行動の障害に着目し,その発症機序の解明を追究した.その結果,我々は,大麻の活性成分THCの投与およびV1a受容体欠損マウスにおいて社会的行動障害が発現することを明らかにした.さらに,これらの障害は不安によって起こるものではないこともわかり,社会的行動障害の動物モデルを作成することができた.さらに,我々はV1a受容体欠損マウスの幼若期における行動の変化についても検討を行い,V1a受容体欠損マウスは開眼率や体重など成長に変化はないが,低不安は幼若期よりみられること,社会的行動障害は幼若期では発現していないことなどを見出し,このマウスは自閉症よりむしろ統合失調症の動物モデルであることを明らかにした.一方,THCの投与で発現される情報処理障害,うつ症状,空間認知障害および意識レベル低下が社会的行動に影響していることが考えられるため,これらの症状について詳細な検討を行った.そしてそれぞれの症状の発現機序が異なっており,改善する薬剤が異なることを明らかにした.さらに,THCによる社会的行動障害はCB1受容体を介しており,抗うつ薬,抗精神病薬および5-HTIA受容体作用薬の急性投与では改善されないことがわかった.一方,V1a欠損マウスにおける社会的行動障害も抗うつ薬などの急性投与では改善されなかった.これらのことから,これらの社会的行動障害は慢性投与による治療効果が必要であると考えられた.統合失調症や大麻摂取で最も治療困難であり問題となるのは,感情の平板化,無関心,自閉など精神機能の減退を現す陰性症状である.特に社会的引きこもりや自閉など社会的行動の障害は,治療上問題となるばかりではなく,社会生活を営むことができないため,本人ばかりではなく,家族にとっても,精神的にも経済的にも負担となるものである.ところが,社会的行動の障害に関して十分な発症原因の解明は行われていないのが現状である.そこで本研究では,大麻摂取や統合失調症による社会的行動の障害に着目し,その発症機序の解明を追究した.その結果,我々は,大麻の活性成分THCの投与およびV1a受容体欠損マウスにおいて社会的行動障害が発現することを明らかにした.さらに,これらの障害は不安によって起こるものではないこともわかり,社会的行動障害の動物モデルを作成することができた.さらに,我々はV1a受容体欠損マウスの幼若期における行動の変化についても検討を行い,V1a受容体欠損マウスは開眼率や体重など成長に変化はないが,低不安は幼若期よりみられること,社会的行動障害は幼若期では発現していないことなどを見出し,このマウスは自閉症よりむしろ統合失調症の動物モデルであることを明らかにした.一方,THCの投与で発現される情報処理障害,うつ症状,空間認知障害および意識レベル低下が社会的行動に影響していることが考えられるため,これらの症状について詳細な検討を行った.そしてそれぞれの症状の発現機序が異なっており,改善する薬剤が異なることを明らかにした.さらに,THCによる社会的行動障害はCB1受容体を介しており,抗うつ薬,抗精神病薬および5-HTIA受容体作用薬の急性投与では改善されないことがわかった.一方,V1a欠損マウスにおける社会的行動障害も抗うつ薬などの急性投与では改善されなかった.これらのことから,これらの社会的行動障害は慢性投与による治療効果が必要であると考えられた.統合失調症や大麻摂取で最も治療困難であり問題となるのは,感情の平板化,無関心,自閉など精神機能の減退を現す陰性症状である.特に社会的引きこもりや自閉など社会的行動の障害は,治療上問題となるばかりではなく,社会生活を営むことができないため,本人ばかりではなく,家族にとっても,精神的にも経済的にも負担となるものである.さらに統合失調症は人口の1%に発症し,出現率が高い割に長期入院を必要とする場合が多く,さらに自殺頻度が一般人口の8倍以上という驚異的なものであり,病態の発症機序の解明や新規治療薬の開発は,国家的経済面や社会的側面からも重要な課題であると思われる.ところが,社会的行動の障害に関して十分な発症原因の解明は行われていないのが現状である.そこで本研究では,大麻摂取や統合失調症による社会的行動の障害に着目し,その発症機序の解明を機能的および形態学的両面から追究し,治療薬の開発や治療法の確立に繋げようとするものである.また,最近,社会的行動障害を主症状とする自閉症においてバソプレシンV1a受容体の遺伝子異常がみられることや統合失調症様の症状を発症するフェンサイクリジンを連続投与すると社会的行動障害とともにV1a受容体が減少することが報告されており,この受容体が社会的行動に関与することが示唆されている.そこで今回我々は,大麻活性成分delta-9-tetrahydrocannabinol (THC)投与およびV1a受容体欠損マウスが社会的行動に対してどのような影響があるのか検討を行った.社会的行動の測定はsocialinteraction testを用いて評価した.その結果,THCの投与およびV1a受容体欠損マウスにおいて社会的行動障害が発現することが明らかとなった. | KAKENHI-PROJECT-18591318 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18591318 |
大麻摂取ならびに精神疾患動物モデルにおける社会的行動障害に関する神経薬理学的研究 | さらに,これらの障害は不安によって起こるものではないこともわかり,社会的行動障害の動物モデルを作成することができた.さらに,我々はV1a受容体欠損マウスにおける社会的行動障害が自閉症に近いものなのかそれとも統合失調症に近いモデルであるのか調べるために,幼若期における行動の変化についても検討を行い,V1a受容体欠損マウスは開眼率や体重など成長に変化はないが,低不安は幼若期よりみられること,社会的行動障害は幼若期では発現していないことなどを見出し,このマウスは自閉症よりむしろ統合失調症の動物モデルであることを明らかにした.これまで我々は、大麻の精神障害に着目し研究を行い、情報処理障害や認知障害など統合失調症患者との類似点を明らかにしてきた。しかしながら、統合失調症や大麻摂取で最も治療困難であり問題となるのは、感情の平板化、無関心、自閉など精神機能の減退を現す陰性症状である。特に社会的引きこもりや自閉など社会的行動の障害は、治療上問題となるばかりではなく、社会生活を営むことができないため、本人ばかりではなく、家族にとっても精神的にも経済的にも負担となるものである。さらに、統合失調症は人口の1%に発症し、出現率が高い割に長期入院を必要とする場合が多く、さらに自殺頻度が一般人口の8倍以上という驚異的なものであり、病態の発症機序の解明や新規治療薬の開発は、国家的経済面や社会的側面からも重要な課題であると思われる。ところが、社会的行動の障害に関して十分な発症原因の解明は行われていないのが現状である。前年度は、大麻の活性成分であるTHCおよびV1a欠損マウスが社会的行動を障害することを明らかにした。そこで本年度は、THCの投与で発現される情報処理障害、うつ症状、空間認知障害および意識レベル低下が社会的行動に影響していることが考えられるため、これらの症状について詳細な検討を行った。そしてそれぞれの症状の発現機序が異なっており、改善する薬剤が異なることを明らかにした。一方、THCによる社会的行動障害はCB1受容体を介しており、抗うつ薬、抗精神病薬および5-HT1A受容体作用薬の急性投与では改善されないことがわかった。また、V1a欠損マウスにおける社会的行動障害も抗うつ薬などの急性投与では改善されなかった。これらのことから、これらの社会的行動障害は慢性投与による治療効果などを検討する必要があると考えられた。 | KAKENHI-PROJECT-18591318 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18591318 |
小胞体ストレス及び筋萎縮性側索硬化症の病態解明及び有効な治療薬の開発に関する研究 | 昨年度の研究により、Glycoprotein non-metastatic melanoma protein B (GPNMB)はNa+, K+-ATPase αサブユニットと結合し、Na+, K+-ATPase αサブユニットを介してPI3K/AktやMEK/ERK経路を活性化させることを見出した。GPNMBはがんの侵潤や増殖に関与しており、グリオーマで高発現しており、がんの進行に関与する。また、Na+, K+-ATPaseもグリオーマで高発現しており、がんの進行に関与する。そこで、本年度はGPNMBあるいはNa+, K+-ATPaseが病態進行に関与している可能性が考えられる、原発性脳腫瘍グリオーマに着目し,GPNMBがNa+, K+-ATPaseを介して脳腫瘍を悪化させるか否かについて検討した。マウスグリオーマモデルの腫瘍組織およびヒトグリオブラストーマの腫瘍組織において、GPNMBはNa+, K+-ATPase αサブユニットと結合した。また、GPNMB過剰発現マウスでは野生型マウスと比較し、グリオーマの形成が増大した。さらに、Na+, K+-ATPase阻害剤は、GPNMB過剰発現マウスにおいて腫瘍の形成を抑制した。加えて、GPNMBはグリオーマ細胞の遊走を促進させ、Na+, K+-ATPase阻害剤によりこの遊走促進作用が抑制されることも見出した。以上の結果より、グリオーマ病態において、GPNMBはNa+, K+-ATPase αサブユニットを介してグリオーマ細胞の遊走を促進することで、腫瘍形成を促進し、グリオーマ病態の進展に関与していることが示唆された。したがって、これらの知見はグリオーマの病態の解明並びにそれら疾患に対する新規治療薬の開発につながることが期待できる。28年度が最終年度であるため、記入しない。28年度が最終年度であるため、記入しない。当該年度は、(1)ALSモデルマウスおよびALSモデル細胞に対するsigma-1受容体アゴニストの作用の検討、並びに(2)GPNMB細胞外フラグメントの詳細な生理機能の解明に関する検討の2項目について実施した。上述した2項目の研究成果について以下に述べる。(1)の検討について、sigma-1受容体アゴニストはALSモデルマウスであるSOD1(G93A)マウスの生存期間を有意に延長した。また、sigma-1受容体アゴニストはマウス運動神経様NSC-34細胞へSOD1(G93A)を過剰発現させたALSモデル細胞に対してAktやERKのリン酸化を促進することで細胞死を抑制した。以上の結果から、sigma-1受容体アゴニストがALSの新規治療薬となる可能性が示唆された。(2)の検討について、当研究室の過去の検討により、GPNMB細胞外フラグメントがPI3K/AktやMEK/ERK経路を活性化することによりALSモデル細胞に対し保護作用を示すことを明らかにした。そこで、GPNMB細胞外フラグメントが細胞膜上の何らかの受容体に結合し、生理作用を示すのではないかと考え、ALSなどのGPNMB関連疾患の克服に貢献することを目的としてGPNMB細胞外フラグメントの新規受容体の探索を行ったところ、新規受容体候補としてNa+,K+-ATPaseが同定された。また、Na+, K+-ATPase阻害剤によりGPNMB細胞外フラグメントのSOD1誘発運動神経細胞毒性保護作用およびPI3K/AktやMEK/ERK経路の活性化が抑制された。以上の結果から、GPNMB細胞外フラグメントがNa+, K+-ATPaseを介して様々な生理作用を示すことが示唆された。今後は、Na+, K+-ATPase siRNAを用いて更なる検討を行い、GPNMB細胞外フラグメントの詳細な生理機能の解明を行う予定である。GPNMB細胞外フラグメントの詳細な生理機能の解明に関して、GPNMB細胞外フラグメントがNa+, K+-ATPaseαサブユニットを介してPI3K/Akt経路およびMEK/ERK経路を活性化させることを見出すことができた。すなわち、GPNMB細胞外フラグメントの受容体のような働きを細胞膜上のタンパク質として、Na+,K+-ATPaseαサブユニットが同定された。これより、ALSや癌などGPNMB関連疾患の病態解明や有効な治療法の開発へとつながる重要な発見ができたことから、今後の治療法への貢献が期待されることから、着実に研究成果が得られている。昨年度の研究により、Glycoprotein non-metastatic melanoma protein B (GPNMB)はNa+, K+-ATPase αサブユニットと結合し、Na+, K+-ATPase αサブユニットを介してPI3K/AktやMEK/ERK経路を活性化させることを見出した。GPNMBはがんの侵潤や増殖に関与しており、グリオーマで高発現しており、がんの進行に関与する。また、Na+, K+-ATPaseもグリオーマで高発現しており、がんの進行に関与する。そこで、本年度はGPNMBあるいはNa+, K+-ATPaseが病態進行に関与している可能性が考えられる、原発性脳腫瘍グリオーマに着目し,GPNMBがNa+, K+-ATPaseを介して脳腫瘍を悪化させるか否かについて検討した。マウスグリオーマモデルの腫瘍組織およびヒトグリオブラストーマの腫瘍組織において、GPNMBはNa+, K+-ATPase αサブユニットと結合した。また、GPNMB過剰発現マウスでは野生型マウスと比較し、グリオーマの形成が増大した。さらに、Na+, K+-ATPase阻害剤は、GPNMB過剰発現マウスにおいて腫瘍の形成を抑制した。 | KAKENHI-PROJECT-14J12376 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14J12376 |
小胞体ストレス及び筋萎縮性側索硬化症の病態解明及び有効な治療薬の開発に関する研究 | 加えて、GPNMBはグリオーマ細胞の遊走を促進させ、Na+, K+-ATPase阻害剤によりこの遊走促進作用が抑制されることも見出した。以上の結果より、グリオーマ病態において、GPNMBはNa+, K+-ATPase αサブユニットを介してグリオーマ細胞の遊走を促進することで、腫瘍形成を促進し、グリオーマ病態の進展に関与していることが示唆された。したがって、これらの知見はグリオーマの病態の解明並びにそれら疾患に対する新規治療薬の開発につながることが期待できる。研究概要において検討項目にあげた2項目の進行状況について以下に述べる。(1)ALSモデルマウスおよびALSモデル細胞に対するsigma-1受容体アゴニストの作用の検討について、sigma-1受容体アゴニストがALSモデルマウスおよびALSモデル細胞の2つのALSモデルに対して保護作用を示したことから、sigma-1受容体アゴニストがALSの新規治療薬となる可能性が示唆された。以上より、ALSモデルマウスおよびALSモデル細胞に対するsigma-1受容体アゴニストの作用の検討については既に終了している。以上、本研究課題は予定通り順調に進んでおり、着実に研究成果が得られている。これまでの研究を発展させ、GPNMBとNa+,K+-ATPaseが関与する疾患に対し、これらの関与の検討を行う予定である。脳腫瘍においてGPNMBのNa+,K+-ATPaseαサブユニット発現上昇が報告されている。脳腫瘍の第一選択治療法は手術による摘出であるが、複雑に浸潤するため完全な摘出が不可能であり、再発率が高い。さらに、抗がん剤や放射線療法に対する反応性が低いことから、有効な治療法が不十分であり、その開発が急務である。そこで、これまでの研究を発展させ、GPNMBがNa+,K+-ATPaseαサブユニットを介して脳腫瘍の病態進展に関与するか否かについて研究することにより、脳腫瘍の病態解明ならびに有効な治療法開発へと繋げる。今後行う検討項目を以下に示す。(1)GPNMB過剰発現マウスを用い、マウスグリオーマ由来GL261細胞を脳実質に移植することで、脳腫瘍マウスモデルを作製する。(2)脳腫瘍モデルマウスにおいて、GPNMBがNa+,K+-ATPaseαサブユニットと相互作用を示すか否かの検討を行う。(3)脳腫瘍モデルマウスに対するNa+,K+-ATPaseα阻害剤の作用の検討を行う。(4)マウスグリオーマ由来GL261細胞を用いて腫瘍病態進展に関する詳細な検討を行う。以上の検討を通して、GPNMBがNa+,K+-ATPaseαサブユニットを介して脳腫瘍の病態進展に関与するか否かを解明することにより、脳腫瘍の新たな有効な治療法開発へと繋げる。28年度が最終年度であるため、記入しない。研究概要において検討項目にあげた2項目について下記の通り継続して研究を進める。 | KAKENHI-PROJECT-14J12376 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14J12376 |
子どもの認知発達を踏まえた防災教育に関する研究 | 本研究は、小学生の児童の防災行動に影響する心理要因を明らかにするとともに、既存の防災教育の問題点を整理し、それらを踏まえた防災教育教材の開発を行った。基礎研究の結果、保護者との関係性を考慮することや児童の効力感に働きかけていくことの有効性が確認された。これらの結果を踏まえ、教材の開発にあたっては、親子で楽しみながら学習可能な教材とし、効力感を感じやすいように対策のプロセスを細分化するなどの工夫を行った。作成した教材は、学校教職員を対象とした研修会や防災講演会などで紹介し、学校だけでなく家庭や地域での活用を促すものとした。本研究は、小学生の児童の防災行動に影響する心理要因を明らかにするとともに、既存の防災教育の問題点を整理し、それらを踏まえた防災教育教材の開発を行った。基礎研究の結果、保護者との関係性を考慮することや児童の効力感に働きかけていくことの有効性が確認された。これらの結果を踏まえ、教材の開発にあたっては、親子で楽しみながら学習可能な教材とし、効力感を感じやすいように対策のプロセスを細分化するなどの工夫を行った。作成した教材は、学校教職員を対象とした研修会や防災講演会などで紹介し、学校だけでなく家庭や地域での活用を促すものとした。本年度は、当初目的の、子どものリスク認知の特性を明らかにするための研究、全国の学校で行われている防災教育の教材や学習指導案の収集と分析、の2点について、以下の内容を実施した。子どものリスク認知の特性を明らかにするための研究については、「地震」「台風」などの自然災害を示す単語からイメージされる単語や文章を自由に回答してもらい、その結果を質的・量的に分析するための調査を実施する予定であったが、調査計画を具体化する段階において、設問内容が抽象的であり、子どもの素朴な認知や感情を適切に抽出できない可能性が考えられた。従って、従来のリスク認知研究、脅威アピール研究の知見を踏まえた研究計画へと変更を行った。具体的には、地震に対する恐怖、リスク認知、効力感などの要因に分けた上で、子どもにとって回答がしやすいように設問内容を工夫し、それに対する回答を求めることとした。その結果、子どもの認知を扱う上では、従来の研究で議論されてきたリスク認知そのものよりも、恐怖感情や効力感に働きかけていくことが重要であることが示された。以上の成果は、学術雑誌に投稿中である。全国の学校で行われている防災教育の教材や学習指導案の収集と分析については、様々な教材・事典等を収集すると共に、実践的な防災教育を行っている全国の防災センター等を訪問した。また、小学校で行われている防災教育の現場も見学した。その上で、専門的視点から、現在の防災教育の問題点を抽出し、それを改善するための防災教育のあり方について考察を行い、その成果を学術雑誌にまとめ、発表した。本年度は、これまでの研究成果を踏まえて投稿した論文の査読結果を踏まえ、数度の改稿作業を行い、最終的に受理された(教育心理学研究,58,480-490)。また新たに行った災害イメージ研究の成果を、国内外の学会(Society for personality and social psychology,日本リスク学会)で発表し、そこでのディスカッションを踏まえて、紀要論文を作成した(学校危機とメンタルケア,3,12-20)。2つの論文で示された重要な知見は、以下の2点にまとめることができる。第一に、防災行動の促進を考える上では、他者との相互作用を考慮する必要があるという点である。特に小学生を対象とした防災行動の促進を考える上では、学校での教育に加えて、保護者との関係性を考慮することの重要性が示された。そして第二に、防災対策に関する自己効力感に働きかけていくことが重要という点である。防災行動には、比較的実施が容易な行動から、実施の困難な行動まで幅がある。実施が困難な行動を考える上では、「自らの力で対策が取れる」という認知的な感覚(自己効力感)を高くしていくような働きかけが重要であることが示された。また昨年度は、小学校高学年で行われている安全教育の授業の分析を行ったが、本年度は、低学年と中学年の授業を分析し、授業での活用が有効な教材のあり方についても検討を行った。その結果、低学年では、基礎的な知識を繰り返し学習することが効果的であるが、中学年や高学年では、正解がひとつに定まらないような問題について他者との意見交換を行うことが効果的である可能性が伺えた。また、いずれの発達段階においても、一度に多くの知識を学習するよりも、基礎的な事項を繰り返し、深めていくことが、実際の教育場面への適合がよいように思われた。以上の知見や観察に基づき、最終年度では、具体的な防災教育教材を開発し、公開する予定である。平成23年度は、平成21年度及び平成22年度に行った基礎研究成果を踏まえ、学校で活用可能な防災教育教材の開発を行った。またこれまでと同様、研究成果を学会等で公表し、学校安全や心理学に関する専門家から意見収集を行った。本研究のこれまでの成果の基本的主張は、子どもの防災行動を考える上では、大人の防災行動を考える上で重要であったリスク認知や効力感などの認知に加え、親子関係を考慮することが重要ということである。また、防災対策は他の安全対策と比較すると、対策の対象となる範囲が広いため限られた時間の中で十分な対策を行うことが難しく、対策の優先度を考慮することが重要ということである。 | KAKENHI-PROJECT-21700672 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21700672 |
子どもの認知発達を踏まえた防災教育に関する研究 | これらの点を踏まえて、子ども向けの防災教育教材を作成する上では、親子で楽しみながら取り組める教材作りを目指すとともに、学校の授業だけでなく家庭や地域のイベントなどの様々な場面での活用が可能となるようにした。また、対策の重要度を考慮した上で実施計画を立て、行動に結びつけやすいような構成とした。具体的な教材の内容としては、災害伝言ダイヤル171を練習するための教材、家族の避難場所や連絡方法を決めて掲示するための教材、家具の固定を親子で実施するための教材を作成した。教材の作成においては、現職の小学校教諭の助言をいただいた。また、作成した教材は小学校の講演会などの場面で公表し、保護者の意見を求めた。本教材は、開発期間終了後も、子どもの安全にかかわる様々な人々(学校の教職員、保護者、子ども、研究者など)から引き続き意見を収集し、必要に応じて改訂を重ねる予定である。 | KAKENHI-PROJECT-21700672 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21700672 |
有機性廃棄物の液肥利用とリサイクル・ループの構築に向けた学際的共同研究 | 水分含有量の高い有機性廃棄物のリサイクル・ループ構築の要は、発酵消化液の浄化処理から液肥利用への転換である。そのため、まず消化液の残留化学物質を分析し、農業利用において問題ない水準であることを示した。他方、液肥利用の進む韓国でも、液肥の運搬散布における効率が大きな課題となっていることを明らかにした。そこで、本研究では、複数の技術を組み合わせることにより、消化液の一般的な散布費用である約2,000円/トン以下で、消化液から窒素、リン酸、カリウムの肥料成分を分離し、さらに窒素は70倍程度、リン酸は50倍程度、カリウムは15倍程度に濃縮が可能であることを実験および理論計算で明らかにした。1)基盤的条件の比較分析チームでは、韓国尚志大学より李明圭教授を招聘して、韓国における液肥利用の現状について情報収集を行った。2)利用環境の高度化チームでは、液肥の生産量は年間27000トンの液肥であるが、利用量は350トンである日田市バイオマス資源化センターを対象に、液肥の処理コストや肥料成分、売電収入などの基礎情報を整理・分析した。また、消化液の利用拡大に向け、メタン消化液を使用した湛水耕栽培が可能であることを確認した。3)最適システムの構築チームでは、日田市を対象に、液肥栽培の実験結果の分析や農事組合法人の聞き取り調査を行い、液肥利用者協議会の設立に向けた条件を整理した。また、福岡県糸島市のバイオマスの利用状況については、肥料の三成分(窒素、リン酸、カリ)が全て不足するため、地元で不足する肥料養分量を全て満たすためには、家畜頭数を現状の1.2倍程度増加させることが可能であることを示した。4)環境経済影響評価チームでは、福岡県築上町、大木町および熊本県山鹿市より液肥を採取し、残留物資を測定した。その結果、動物用医薬品としてOfloxacin(築上町は0.03 mg/L、大木町は0.04 mg/L、山鹿市は検出限界以下), Sulfapyridine(以下同順0.03 mg/L、0.10 mg/L、検出限界以下)のみが検出された。またカドミウムについては(検出限界以下、0.02 mg/L、0.01 mg/L)、銅(1.1 mg/L, 2.5 mg/L, 1.9 mg/L)であり、トリブチルスズは検出されなかったが、ジブチルスズ(1.18 ng/L, 1.78ng/L,検出限界以下)、PFOS (2.57 ng/L, 132 ng/L, 29.8ng/L)となった。海外調査については、米国での有機液肥認証調査を実施した。また、韓国済州道においては、液肥を扱う3箇所の施設(共同資源化施設2箇所、液肥流通センター1箇所)とともに、液肥の提供を受けている大規模露地野菜生産法人について現地調査を実施した。この調査では、家畜糞尿の集荷・処理と液肥の農地還元といったプロセスがどのように行われているかを確認したほか、液肥の耕種部門への供給をめぐるミスマッチが発生する理由と改善点を明らかした。液肥濃縮技術については、欧州における最新技術とその収益性について文献調査を実施してきた。他方、国内技術としては、グラインダーを用いて有機性廃棄物をナノレベルまで粉砕することで、メタン発酵の効率を高めるとともに、ナノ化した消化液を膜分離で濃縮するという画期的技術について、大分県国東市を事例に収支計算を行った結果、この新技術の導入効果が極めて高いことが明らかになった。液肥への化学物質残留調査については、福岡県築上町、大木町、熊本県山鹿市および大分県日田市より液肥サンプルを入手し、重金属についてはJIS法に準拠して、環境ホルモンについてはGC-MSで、さらに農薬や生活系医薬品など約1,000項目についてはLC-TOF-MSを用いて一斉分析を行った。その結果、重金属として微量のカドミウム(検出限界以下、0.02、0.01、0.08 mg/L)、銅(1.4、2.8、6、31 mg/L)が検出された。環境ホルモンとしては、毒性の高いトリブチルスズおよびPFOSが検出限界以下であり、その他の化学物質では各地点数十種類が検出されたがいずれも問題の無い濃度であった。これより、液肥からはある程度の汚染物質は検出されたものの、いずれも現状のレベルでは、問題はないと判断された。海外調査においては、1)米国における有機液肥利用状況や有機認証制度について調べてきたが、論文にまでは仕上げていない。最終年度では集めた資料を分析し、論文にとりまとめる。2)韓国調査では、昨年度の調査結果を踏まえ、畜産糞尿の集積と液肥利用のミスマッチの解消、野菜作への利用拡大について、調査を行ったが何点か調査を残した点がある。欧州における液肥利用においては、再生可能エネルギー政策による制度的支援が極めて重要である点が明らかになり、その支援によって、液肥利用が進展してきたと予想されるので、本年度はこの点を重点的に調査したい。ナノ化技術を用いた液肥濃縮技術の収益性試算を行ったが、実際に稼働している施設で調査したものではない。そこで、今年度は、建設が進む施設を対象に実際のデータを集め、濃縮液肥利用の技術的、経済的分析が残されている。また、昨年は日田市の農家を対象に液肥利用に向けたアンケート調査を実施し分析を進めてきたが、論文に仕上げることが残されている。 | KAKENHI-PROJECT-26310311 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26310311 |
有機性廃棄物の液肥利用とリサイクル・ループの構築に向けた学際的共同研究 | 残留化学物質、環境ホルモン等の分析については、順調に進められてきているので、さらなるデータの蓄積を進める予定である。水分含有量の高い有機性廃棄物のリサイクル・ループ構築の要は、発酵消化液の浄化処理から液肥利用への転換であり、そのための根幹となる技術開発は消化液の濃縮である。そこで、最終年度は、これまでの成果を踏まえ、消化液からの肥料成分の分離・濃縮回収のための実験と理論計算を行った。その結果、いくつかの手法を組み合わせることにより、消化液から窒素、リン酸、カリウムの肥料成分が分離回収でき、さらに窒素は70倍程度、リン酸は30倍程度、カリウムは15倍程度にまで濃縮が可能であることが明らかになった。残された課題としては、より費用対効果の高い濃縮水準の決定や濃縮装置の効率化等が挙げられる。他方、海外調査も行った。韓国においては、「家畜ふん尿の管理・利用に関する法律(2006)」の成立により、家畜ふん尿の対処は、処理から利用へと大きく方向転換し、高温好機性発酵による液肥利用の技術開発が進んできた。そこで、韓国済州島の大型液肥センターを事例に、液肥散布日誌から詳細な散布実態を分析したところ、散布効率の悪い圃場への液肥移動や散布量の過不足などが見られた。今後は、液肥濃縮を含め、これらの問題を解消しうる堆液肥の効率的サプライチェーン構築に向けた研究が必要と考える。また、米国調査においては、水耕栽培が有機農業として認められているかどうか、また家畜ふん尿物由来の液肥が有機資材として認可されているかどうかに関して、現状を生産者および事業者からヒアリングした。暫定的な結論としては、上記に関してはいずれも現段階では認められていないと考えられるものの、これらは団体や州毎の相違が存在する可能性があるため、引き続き調査が必要であ。なお、海外調査は現状での検討結果であるが、消化液からの肥料成分の分離濃縮回収が可能になると、そこで議論された内容も大きく変化すると予想される。水分含有量の高い有機性廃棄物のリサイクル・ループ構築の要は、発酵消化液の浄化処理から液肥利用への転換である。そのため、まず消化液の残留化学物質を分析し、農業利用において問題ない水準であることを示した。他方、液肥利用の進む韓国でも、液肥の運搬散布における効率が大きな課題となっていることを明らかにした。そこで、本研究では、複数の技術を組み合わせることにより、消化液の一般的な散布費用である約2,000円/トン以下で、消化液から窒素、リン酸、カリウムの肥料成分を分離し、さらに窒素は70倍程度、リン酸は50倍程度、カリウムは15倍程度に濃縮が可能であることを実験および理論計算で明らかにした。初年度は、研究計画に従って、概ね予定通りに研究を実施した。平成28年度は、以下のように研究を予定している。1)基盤的条件の比較分析チームでは、米国における有機液肥利用状況や有機認証制度の調査資料を分析し、論文にとりまとめる。また、平成27年度に実施した韓国済州島での調査結果を踏まえて補足調査を行い、韓国における液肥利用拡大の成功要因、および液肥を利用した園芸作物の利用実態などを明らかにする。さらに、欧州におけるバイオエネルギーの固定価格買取制度の展開や液肥濃縮技術の現状に関して現地調査を実施し、その結果を踏まえて有機性廃棄物の循環、消化液濃縮とその液肥利用について政策提言を行う。2)利用環境の高度化チームでは、福岡県宗像市の大規模肥育農家で導入予定のナノ化によるメタン発酵消化液濃縮技術について詳細な分析を行う。また、昨年度実施した日田市農業者の液肥利用に関するアンケート調査を取りまとめる。 | KAKENHI-PROJECT-26310311 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26310311 |
葉の老化に関する研究ーリン酸欠乏により誘導される速やかな葉の老化の系を用いて- | リン酸は窒素と伴に地球上で植物の生育を制限している栄養素である。その欠乏の影響を調べるために、トウモロコシを0.5mMと0.001mMのPi下で生育させ、成長及び光合成的CO_2固定に及ぼす影響の解析を行ってきた。その結果、リン酸欠乏は生長の抑制、クロロフィル含量の低下、光合成の阻害、光合成炭素代謝関連の酵素活性の低下、下位葉におけるタンパク質の分解とそれに伴う窒素の上位葉への転流の促進、更に、下位葉の老化の促進をもたらすことを明らかにしてきた。このリン酸欠乏により引き起こされる下位葉におけるタンパク質の分解、老化の促進の仕組みを明らかにするために、2次元電気泳動によりタンパク質のパターンの変化を追跡した。その結果、リン酸欠乏によりタンパク質の分解、老化が促進される第2葉で以下のことを明らかにした。可溶性タンパク質は2次元電気泳動により450以上のスポットにわかれた。播種後12日の第2葉ではコントロールとリン酸欠乏下で生育したもののこれらのタンパクのパターンは完全に同じであった。コントロールの葉でも生育ステージが進むと、新たなポリプペチドが2つ出現した。また相対含量が増えるスポットが一つあった。一方、リン酸欠乏下で生育したものでは11のポリペプチドの相対含量が減少し、18のポリペプチドの相対含量が増加した。このうち10のスポットはリン酸欠乏により促進される老化過程でのみ検出されたこれらのポリペプチドについて老化時に存在量が増えることが知られている既知のポリペプチドと分子量を比較することなどによりその役割等について考察した。リン酸は窒素と伴に地球上で植物の生育を制限している栄養素である。その欠乏の影響を調べるために、トウモロコシを0.5mMと0.001mMのPi下で生育させ、成長及び光合成的CO_2固定に及ぼす影響の解析を行ってきた。その結果、リン酸欠乏は生長の抑制、クロロフィル含量の低下、光合成の阻害、光合成炭素代謝関連の酵素活性の低下、下位葉におけるタンパク質の分解とそれに伴う窒素の上位葉への転流の促進、更に、下位葉の老化の促進をもたらすことを明らかにしてきた。このリン酸欠乏により引き起こされる下位葉におけるタンパク質の分解、老化の促進の仕組みを明らかにするために、2次元電気泳動によりタンパク質のパターンの変化を追跡した。その結果、リン酸欠乏によりタンパク質の分解、老化が促進される第2葉で以下のことを明らかにした。可溶性タンパク質は2次元電気泳動により450以上のスポットにわかれた。播種後12日の第2葉ではコントロールとリン酸欠乏下で生育したもののこれらのタンパクのパターンは完全に同じであった。コントロールの葉でも生育ステージが進むと、新たなポリプペチドが2つ出現した。また相対含量が増えるスポットが一つあった。一方、リン酸欠乏下で生育したものでは11のポリペプチドの相対含量が減少し、18のポリペプチドの相対含量が増加した。このうち10のスポットはリン酸欠乏により促進される老化過程でのみ検出されたこれらのポリペプチドについて老化時に存在量が増えることが知られている既知のポリペプチドと分子量を比較することなどによりその役割等について考察した。 | KAKENHI-PROJECT-07640869 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07640869 |
フェーズ理論とカートグラフィ分析に基づく節構造の実証的研究―周辺現象から核心へ | 埋め込み節、非定形節、幼児の文法には、主節、定形節、大人の文法に働く(標準的)規則から逸脱して見える現象が存在するが、これらの現象には共通してCP(節)の構造的特性が関与している。本研究では、これらの現象をフェイズ理論とカートグラフィ分析に照らして考察し、CからTへの素性継承の違いが主節と埋め込み節ではあり、幼児の文法ならびに大人の文法でも非定形節に関しては、素性継承が行われない可能性があること、素性継承の中核的役割を果たすのはCPカートグラフィ分析に照らすと、FinとForceであること、さらには、CPカートグラフィは自由併合に基づくラベリング分析から導出できることを示した。埋め込み節、非定形節、右方移動、言語習得期の幼児の文法に見られる主節、定形節、左方移動、大人の文法に働く(標準的)規則からの逸脱を近年の生成文法理論研究で最も注目されているフェイズ理論とカートグラフィ分析に照らして考察し、現象の解明と理論的貢献を目指す本研究の目的にそって、研究計画通りに2015年度は、まず全員で研究計画と準備状況の確認を行った後に、フェイズ理論、カートグラフィ分析の最新の理論的動向を勉強会を開催して理解を深めた。そして、個別に否定(西岡)、動名詞(下仮屋)、不定詞(大塚)、右方移動(田中)、機能範疇の習得研究(團迫)の従来の分析の問題点を洗い出し、主節と従属節、定形節と非定形節、左方移動と右方移動の違いをフェイズ理論とカートグラフィ分析に照らし、新たなモデルを考察した。また、言語習得に関する仮説に対してフェイズ機能範疇とカートグラフィ分析の可能性を探求した。より具体的には、今年度の研究の意義は、日本語を中心とした否定文分析の先行研究の問題点を明らかにしたこと、動名詞の分析におけるフェイズ理論の機能を明らかにしたこと、弱フェイズを伴う不定詞の派生のメカニズムを明らかにしたこと、右方接点繰り上げ構文を中心とする右方移動構文をフェイズ理論の素性継承とCPのカートグラフィ分析におけるForceの役割の関係を示したこと、相手に同意を求める「クナイ」のCPカートグラフィにおける位置づけを明らかにしたことと名詞表現内でフェイズを構成すると考えられるDPのthere構文における制限を言語習得に照らして明らかにした点にある。ほぼ研究計画書どおりに進展しているが、研究代表者が学会での役職等、想定外の業務が増え、分担研究、統括に関して多少の遅れがあったが、職務がなれてくるにつれ遅れを取り戻し、全体としてはほぼ順調といえる。左方移動、大人の文法に働く(標準的)規則から逸脱して見える現象を、フェイズ理論とカートグラフィ分析に照らして考察し、(i)現象の背後にあるメカニズムの解明すると同時に、(ii)フェイズ理論とカートグラフィ分析の整合性を探求し、CPフェーズの内部構造とその核となる機能範疇を解明することにより、理論的貢献を目指す本研究は、今年度は以下の実施計画に従い研究を進めた。(1)前年度の調査・研究を整理し、研究計画の再確認を行う。(2)関連構文の詳細な通言語的調査を言語学文献によって引き続き行う。(3)前年度の調査で明らかになった問題点を踏まえ、それぞれの分析を総合し、CPの核となる機能範疇をつきとめ、それを反映した構造をそれぞれの研究対象現象に提案する。(4)それぞれの分析から抽出される一般化を考察する。本年度は、特にChomsky (2013, 2015)のラベリング理論に基づく分析の可能性も探ることとした。ラベリング理論は、セット併合、ペア併合という2種類の併合操作の自由な適用とその結果生じた構造物のラベル付けという観点から諸現象の説明を試みるものである。具体的には、方言に基づき、日本語の主節と従属節の否定のスコープと主語の位置に関する考察から導きだされるCPフェイズの派生における役割とラベリングの問題の検討(西岡)、動名詞の節構造と派生におけるCP構造とペア併合のはたす役割(下仮屋)、右方移動の種類とカートグラフィ理論との関係、ならびにCPフェイズ内の機能範疇のフェイズ性の違い(田中)、ペア併合の弱フェイズ分析への適用、ならびにフェイズ理論とカートグラフィ分析の融合の可能性(大塚)、CPフェイズ内の特定の機能範疇(「の」)の獲得の問題の事例研究(團迫)を行った。研究代表者が分担者と密に連絡をとり、最新の言語理論とお互いの研究内容の共有がうまくできた。埋め込み節、非定形節、右方移動、言語習得期の幼児の文法には、主節、定形節、左方移動、大人の文法に働く(標準的)規則から逸脱して見える現象が存在するが、これらの現象には共通してCPの構造的特性が関与している。これらの現象をフェイズ理論とカートグラフィ分析に照らして考察し、(i)現象の背後にあるメカニズムを解明すると同時に、(ii)フェイズ理論とカートグラフィ分析の整合性を探求し、CPフェーズの内部構造とその核となる機能範疇を解明することにより、フェイズ理論にもたらされる帰結を明らかにし、最適の文法理論構築に貢献することを目的とした本研究の最終年度として、以下の実施計画に従い研究を進めた。(1)理論的進展と整合性をはかるため、言語理論に関する文献調査を行い、本研究で提案した個々の分析の妥当性を検証する。(全員)(2)全体を総合して、さらなる一般化の可能性を探り、その理論的意義と貢献を提示する。(西岡の統括により全員)(3)研究成果を国内外の学会、ワークショップ等で発表する。(全員)(4)研究成果を論文、図書、報告書等にまとめ公表する。 | KAKENHI-PROJECT-15K02606 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K02606 |
フェーズ理論とカートグラフィ分析に基づく節構造の実証的研究―周辺現象から核心へ | (全員)本年度はChomsky (2013, 2015)のラベリング分析を加味し、全体の総括する目的で研究成果をシンポジウムで口頭発表し、また報告書冊子を作成した。具体的には、日本語の主節と埋め込み節とで否定の作用域が異なる事実をCPカートグラフィとラベリングに基づき素性継承の違いに還元できることを示し(西岡)、CPカートグラフィに照らして素性継承の中核がFinとForceであることを論じ(田中)、言語獲得過程においては大人のカートグラフィに基づく素性継承はおこなわれていないこと(團迫)、非定形補文形成のメカニズムとして素性継承は働いていないこと(下仮屋)、CPカートグラフィは自由併合に基づくラベリング分析から導出できることを論じた。埋め込み節、非定形節、幼児の文法には、主節、定形節、大人の文法に働く(標準的)規則から逸脱して見える現象が存在するが、これらの現象には共通してCP(節)の構造的特性が関与している。本研究では、これらの現象をフェイズ理論とカートグラフィ分析に照らして考察し、CからTへの素性継承の違いが主節と埋め込み節ではあり、幼児の文法ならびに大人の文法でも非定形節に関しては、素性継承が行われない可能性があること、素性継承の中核的役割を果たすのはCPカートグラフィ分析に照らすと、FinとForceであること、さらには、CPカートグラフィは自由併合に基づくラベリング分析から導出できることを示した。研究計画書に記載した通り、以下のように行う。(1)前年度の調査・研究を整理し、研究計画の再確認を行う。(2)関連構文の詳細な通言語的調査を言語学文献によって引き続き行う。(3)前年度の調査で明らかになった問題点を踏まえ、それぞれの分析を総合し、CPの核となる機能範疇をつきとめ、それを反映した構造をそれぞれの研究対象現象に提案する。(4)それぞれの分析から抽出される一般化を考察する。特に今年度は連携を一層密にし、個々の分析の統合を目指す。以下のことを行い、個々の研究のまとめと統合ならびに検証を進める。(1)理論的進展と整合性をはかるため、言語理論に関する文献調査を行い、本研究で提案した個々の分析の妥当性を検証する(2)全体を総合して、一般化の可能性を探り、その理論的意義と貢献を提示する。(3)研究成果を国内外の学会、ワークショップ、シンポジウム等で発表する。(4)研究成果を論文、図書、報告書等にまとめ公表する。英語学、言語学研究代表者が学会役員等での業務が集中したため、当初予定していた、自らの調査、研究、学会発表のための出張ができなかった。また、分担者の中には海外での学会への参加費用とするために意図的に残したものもいた。物品費(特に図書)に関して、当初予定より使用する必要性が減った。また、成果を発表するために最終年度に複数の海外出張、国内出張を予定しており、そのために意図的に予算を残しておいた。当初の予定通り、関連図書を購入する他、研究の効率化を図るため、モバイルコンピュータを購入する。また、国内外の学会発表を行う他、研究打ち合わせ、研究相談のための旅費に充てる。図書購入と国内外での成果発表、ならびに報告書作成等に使用予定である。 | KAKENHI-PROJECT-15K02606 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K02606 |
中国古典文献における画像及びテキストデータ処理の諸問題 | 平成16年度においては、北京の書同文に依頼し、『封神演義』『三教源流捜神大全』『捜神記大全』などのデータベースを作成した。このうち『封神演義』の電子テキスト化に当たって、当初画像データとのリンクについては、インターネット上のみのデータを想定していた。しかし電子データ作成を『四部叢刊』を担当した書同文公司に依頼したところ、関連企業の創新力博公司の協力により、画像と電子テキストのリンクを行うプログラムのプロトタイプを使用できることになった。このプログラムは「青典閲読器」といい、特定の形式で作成したデータを取り込めば、『四部叢刊』で使用している形式でデータを運用できるものである。各研究者がそれぞれ作成したデータを登録することにより、『四部叢刊』と同様の形で検索し、画像とリンクしたデータとして扱うことが可能である。このデータと画像との関連については、「中国古典文献における画像と電子テキスト処理」(『中国古典文献における画像及びテキストデータ処理の諸問題(平成15・16年度文部科学省科学研究費補助金特定領域研究(2)報告書)』所収)を発表し、詳しく検討を行った。さらにこの報告書には、京都大学大型計算機センター第71回研究セミナーにおいて発表した「漢籍データはもっとシンプルでもよいのではないか」の発表稿を加え、漢籍データの問題についてより詳しい検討を行った。平成15年度については、これまで各所で出されている幾つかの漢籍データベースについて調査することが主体となった。台湾中央研究院の「漢籍電子文献」や、国学作成の「歴代基本古籍庫・隋唐五代巻」「国学備覧」など、依然として多くのデータベースは、GBやBig5といったローカルコードによって作成されていることが判明した。また古典データであるにもかかわらず、簡体字を使用しているものも多い。Unicodeを使用してのデータ化は、書同文の『四部叢刊』など、一部では行われているものの、まだ多くはない。また画像とデータとの連関は、これも『四部叢刊』など一部で行われているだけである。一方で、画像との関連を細かく定義づける動きがあるが,そこまで一般の研究者が必要としているか、不明確な点も多い。『封神演義』のデータ化については、Unicodeの処理に長けた書同文に依頼し、まず電子テキスト化を行うこととした。現在、電子テキストを作成中である。可能であれば、先に作成した『武王伐紂平話』との連関も行いたい。また以下の研究会とセミナーにおける発表を行った。1.多漢字文献処理の動向について,文部科学省特定領域研究「東アジア出版文化の研究」第5回研究集会(福岡・九州大学国際研究交流プラザ・平成15年6月28日)2.漢籍データベースのデータ形式,文部科学省特定領域研究「東アジア出版文化の研究」G班研究集会(東京・学土会館・平成15年11月2日)3.漢字データはもっとシンプルでもよいのではないか,東洋学へのコンピュータ利用第15回研究セミナー(京都・京都大学学術情報メディアセンター第76回研究セミナーと併催・平成16年3月26日)平成16年度においては、北京の書同文に依頼し、『封神演義』『三教源流捜神大全』『捜神記大全』などのデータベースを作成した。このうち『封神演義』の電子テキスト化に当たって、当初画像データとのリンクについては、インターネット上のみのデータを想定していた。しかし電子データ作成を『四部叢刊』を担当した書同文公司に依頼したところ、関連企業の創新力博公司の協力により、画像と電子テキストのリンクを行うプログラムのプロトタイプを使用できることになった。このプログラムは「青典閲読器」といい、特定の形式で作成したデータを取り込めば、『四部叢刊』で使用している形式でデータを運用できるものである。各研究者がそれぞれ作成したデータを登録することにより、『四部叢刊』と同様の形で検索し、画像とリンクしたデータとして扱うことが可能である。このデータと画像との関連については、「中国古典文献における画像と電子テキスト処理」(『中国古典文献における画像及びテキストデータ処理の諸問題(平成15・16年度文部科学省科学研究費補助金特定領域研究(2)報告書)』所収)を発表し、詳しく検討を行った。さらにこの報告書には、京都大学大型計算機センター第71回研究セミナーにおいて発表した「漢籍データはもっとシンプルでもよいのではないか」の発表稿を加え、漢籍データの問題についてより詳しい検討を行った。 | KAKENHI-PROJECT-15021208 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15021208 |
神経回路形成・再生を担う成長円錐スクラップ&ビルドの可視化と操作 | 発生期の神経細胞から伸びる軸索末端に存在する成長円錐は、細胞外の軸索ガイダンス因子を感知して自らの形をスクラップ&ビルドすることで正しい経路選択を行う。成長円錐では様々な機能分子がダイナミックな発現調節を受けるが、成長円錐は細胞体から遠く離れたコンパートメントであるため、細胞体とは独立に働く局所メンブレントラフィック(膜交通)システムを発達させていることが予想される。本課題では、新しく開発した高速超解像顕微鏡により、成長円錐における膜交通の精密な時空間動態を観察する。さらに、成長円錐での膜交通を任意に操作する光技術を開発し、将来の軸索再生医療技術開発への光明を見出す。発生期の神経細胞から伸びる軸索末端に存在する成長円錐は、細胞外の軸索ガイダンス因子を感知して自らの形をスクラップ&ビルドすることで正しい経路選択を行う。成長円錐では様々な機能分子がダイナミックな発現調節を受けるが、成長円錐は細胞体から遠く離れたコンパートメントであるため、細胞体とは独立に働く局所メンブレントラフィック(膜交通)システムを発達させていることが予想される。本課題では、新しく開発した高速超解像顕微鏡により、成長円錐における膜交通の精密な時空間動態を観察する。さらに、成長円錐での膜交通を任意に操作する光技術を開発し、将来の軸索再生医療技術開発への光明を見出す。 | KAKENHI-PUBLICLY-19H04764 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PUBLICLY-19H04764 |
粗い推論を行う主体により構成される社会における協力行動の発生 | 本研究の目的は、合理的に振舞おうとしているにもかかわらず、合理的な行動を計算する際に誤りを起こしうる主体により構成される社会状況をモデル化し、そのような社会における協力行動の発生状況検討することである。一般には意思決定理論で仮定するような、「完全に合理的な振る舞い」を現実の人間はできない。これまでは行動に関する段階でのエラーをモデル化することによって、より現実に即した分析が試みられてきた。しかしながら行動の段階だけではなく、問題状況を認識し、それに対し、どう行動しようかと推論する段階において既にエラーが存在するような状況も多い。本研究では、第一にこのような推論エラーに関する一般的なモデルを提案した。第二にこのようなエラーを起こしうる主体からなる社会では、どのような社会システムが協力的行動やモラルの生成に効果的であるのかシミュレーションを用いて検討した。その成果として2005年7月15日にメキシコのカンクンで開催された2005 The 49th Annual Meeting of the International Society for the System Sciencesにおいて、「Is Backward Induction always Optimal? -An analysis of the reasoning with mistakes-」を発表した。2005年11月14-17日に神戸国際会議場で開催されたThe First World Congress of the International Federation for Systems Researchにおいて、より緩い仮定の場合に言及した「Simple Decision Heuristicsin Perfect Information Games」を発表した。さらにJournal of Systems Science and Information vol.4,no.1 pp.183-192 (2006)に「ANew Criterion for Environmental Risk Management of Multiplication Processes」を発表した。本研究の目的は、合理的に振舞おうとしているにもかかわらず、合理的な行動を計算する際に誤りを起こしうる主体により構成される社会状況をモデル化し、そのような社会における協力行動の発生状況検討することである。一般には意思決定理論で仮定するような、「完全に合理的な振る舞い」を現実の人間はできない。これまでは行動に関する段階でのエラーをモデル化することによって、より現実に即した分析が試みられてきた。しかしながら行動の段階だけではなく、問題状況を認識し、それに対し、どう行動しようかと推論する段階において既にエラーが存在するような状況も多い。本研究では、第一にこのような推論エラーに関する一般的なモデルを提案した。第二にこのようなエラーを起こしうる主体からなる社会では、どのような社会システムが協力的行動やモラルの生成に効果的であるのかシミュレーションを用いて検討した。その成果として2005年7月15日にメキシコのカンクンで開催された2005 The 49th Annual Meeting of the International Society for the System Sciencesにおいて、「Is Backward Induction always Optimal? -An analysis of the reasoning with mistakes-」を発表した。2005年11月14-17日に神戸国際会議場で開催されたThe First World Congress of the International Federation for Systems Researchにおいて、より緩い仮定の場合に言及した「Simple Decision Heuristicsin Perfect Information Games」を発表した。さらにJournal of Systems Science and Information vol.4,no.1 pp.183-192 (2006)に「ANew Criterion for Environmental Risk Management of Multiplication Processes」を発表した。 | KAKENHI-PROJECT-04J54101 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04J54101 |
生活保護における自立支援の在り方に関する研究 | 本研究は、生活保護における自立支援の在り方について検討を行うことにある。そこでは、主として次の3つの研究を行っている。(1)生活保護における自立支援を行っていく上で、自立並びに自立支援についてどのような概念構成・内容をもっているのか、またどのような制度・政策的文脈で語られるのか、の検証である(理論研究)。(2)生活保護制度において自立支援がどのように位置づけられているのか、また自立支援プログラムの内容・方法・手順とその体制について、の検証である(制度・政策研究)。(3)生活保護における自立支援がソーシャルワークにどのように位置づけられるのか、また自立支援におけるソーシャルワークの内容・プロセス・方法をどのように構築していくかについて、の検証である(ソーシャルワーク研究)。これら検証を通して、生活保護における自立支援が、より利用者・当事者の利益につながる考え方、制度・政策と行政、ソーシャルワーク実践にしていくかその在り方を提示している。生活保護行政において自立支援プログラムが2005年度に導入され、全国すべての自治体で数多くのプログラムが実施されるようになってきている。そこで、本研究では、生活保護制度における自立支援に関する理論的・歴史的・実践的検討を行なうともに、自立支援プログラムの全国動向を分析するとともに自立支援プログラムで成果を挙げている先駆的自治体を対象に調査を行い、それを素材に自立支援の検討を行なう。昨年度においては、次の事項を行なった。(1)研究会を組織し定期的に開催し、研究報告並ぶに意見交換を行なった。また夏季合宿を行ないそこでも研究の成果について議論を深めた。(2)自立支援に取り組む先駆的自治体である京都府山城北福祉室(福祉事務所)を対象として、利用者インタビュー調査、支援者インタビュー調査、福祉事務所の組織的取組みに関する資料的検討をそれぞれ実施し、自立支援の取組みの成果を明らかにした。本研究は、生活保護における自立支援の在り方について検討を行うことにある。そこでは、主として次の3つの研究を行っている。(1)生活保護における自立支援を行っていく上で、自立並びに自立支援についてどのような概念構成・内容をもっているのか、またどのような制度・政策的文脈で語られるのか、の検証である(理論研究)。(2)生活保護制度において自立支援がどのように位置づけられているのか、また自立支援プログラムの内容・方法・手順とその体制について、の検証である(制度・政策研究)。(3)生活保護における自立支援がソーシャルワークにどのように位置づけられるのか、また自立支援におけるソーシャルワークの内容・プロセス・方法をどのように構築していくかについて、の検証である(ソーシャルワーク研究)。これら検証を通して、生活保護における自立支援が、より利用者・当事者の利益につながる考え方、制度・政策と行政、ソーシャルワーク実践にしていくかその在り方を提示している。1.目的生活保護制度における自立支援に関する理論的・歴史的・実証的検討を行う。2.方法理論的・歴史的検討においては文献研究等に研究者で組織する研究会で検討を重ね、また実証研究においては自治体ヒヤリング調査並びに自立支援の先駆的取組みを行っている行政関係者等で組織する検討会にて検討を重ねた。3.結果理論的・歴史的検討においては「自立(自律)」概念の検討ならびに歴史的・政策的に文脈にて自立助長・自立支援政策がどのように展開されてきたかを検討した。実証研究において、自治体ヒヤリング調査、自治体の先駆的取組みの報告・意見交換、また先駆的自治体に入り自立思念プログラムの開発・策定を行った。その成果として、自治体と共同して自立支援プログラム報告書の刊行(07.03)および07年度において書籍の刊行を予定している。生活保護における自立支援の在り方については、2005年度より自立支援プログラムが導入され、さまざまな実践が行なわれてきている。そこで、本研究では、理論的・歴史的検討とともに、自立支援を行なっている先駆的取組みを調査し、それらを素材に生活保護における自立支援の検討をおこなった。具体的には、次の3つのレベルで取り組んだ。一つは、研究者(研究代表者、分担研究者、ゲスト研究者)で組織する自立支援研究会を基本的に月例で開催し研究報告ならびに意見交換をおこなった。二つには、生活保護行政関係者と研究者で組織する自立支援検討会を、数回開催し、各自治体で行なわれている自立支援プログラムの現状・意義・課題について報告ならびに意見交換を行なった。その一つとしてシンポジュームを開催した。三つには、国内外の生活保護における自立支援プログラムの状況(韓国、京都市)について調査をおこなった。これらのことを通して、生活保護における自立支援の在り方に関しては、自立および自立支援の概念・理念を豊富化し、就労促進に特化することなく日常生活・社会生活を射程に入れた自立支援の必要性・重要性を理論的に検証した。また歴史的に自立・自立支援が政策的にどのようにとらえられてきたのかを生活保護領域・福祉5法領域とりわけ障害領域での歩みを歴史的に検討し、自立が自律の方向へ進んでいることを論証した。さらには、生活保護におけるソーシャルワークにおいて自立・自立支援の方法をどのように位置づけたらよいのかについて、対人援助・支援の側面から十分位置づけられていないことが明らかとなった。そして、自立支援プログラムを生活保護受給の資格要件に組み込んでいる韓国の事例、さらには先駆的といわれている自治体での意義・課題についても明らかにしている。そこでは、自立・自律が強制されない政策・支援の在り方の必要性やプログラム作成の内容・方法の重要性が明らかとなった。生活保護における自立支援の在り方について、2005年度より自立支援プログラムが導入され、国・自治体等にてさまざまな施策が展開されるようになってきている。 | KAKENHI-PROJECT-18330122 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18330122 |
生活保護における自立支援の在り方に関する研究 | そこで、本研究においては、生活保護における自立ならびに自立支援に関する方策(政策・ソーシャルワーク実践)についての理論的・歴史的検討を行なうとともに、自立支援を行なっている先駆的自治体を対象に調査を行い、それを素材に自立支援の検討を行なった。具体的には、次の2つの事項に取り組んだ。第1には、研究者(研究者、分担研究者、ゲスト研究者)で細織する自立支援研究会を定期的に開催し研究報告ならびに意見交換を行なった。また、夏季合宿を研究代表者、分担研究者が集まり行い、そこでも研究報告ならびに意見交換を行なった。第2には、自立支援に取り組んでいる先駆的自治体である京都府山城北福祉室を対象として、利用者インタビュー調査、支援者インタビュー調査、福祉事務所の組織的取組みに関する資料検討をそれぞれ実施し、自立支援の取組みに成果を明らかにした。これらのことを通して、以下のことが明らかとなった。第1については、生活保護における自立がどのようにとらえられてきたのかについて生活保護法における行政解釈や国の委員会報告等での見解を通し、自立の観念が経済的自立を超えた幅広く解釈されるようになったこと、ソーシャルワークの観点から、指導・指示に基づく対人援助と相談・助言に基づく対人援助の違いを提示し、また、自立支援が生活保護におけるこれまでの対人援助活動にどのように位置づけられてきたのかが明らかとなった。第2については、自立支援プログラムが生活保護行政およびソーシャルワーク実践にもたらした意義と課題をそれぞれ明らかとなった。とりわけ、支援者の自立に向けた支援内容・方法、さらには利用者への情報提供等の組織的活動が、利用者の満足・自立に向けた意欲・成果をもたらされていることが、調査を通して確認された。第1、第2それぞれについては、学会報告や書籍等について提示しているとともに、第1については、研究会の議論の成果を、書籍を出版する予定となっている(『生活保護制度の展開と自立支援』ミネルヴァ書房、近刊)。第2については、京都府山城北福祉室と研究代表者・研究分担者の連名で調査報告書を発刊している(2009.3)本年度は、本研究事業の最終年度に当たり研究会や調査研究事業を通してこれまでの研究の到達点と課題を次の3つの観点(理論、制度・政策、ソーシャルワーク)から行った。そこでは、生活保護における自立支援を行っていく上で、自立ならびに自立支援についてどのような概念構成・内容をもっているのか、またどのような制度・政策的文脈で語られるのかの検証(1)、生活保護制度において自立支援がどのように位置づけられているのか、また自立支援プログラムの内容・方法・手順とその体制についての検証(2)、さらには生活保護における自立支援がソーシャルワークにどのように位置づけられるのか、またソーシャルワークの内容・プロセス・方法の検証(3)を行っている。 | KAKENHI-PROJECT-18330122 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18330122 |
再生筋線維タイプの分化に対するマップキナーゼの役割と熱ストレスの影響 | 分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(Mitogen-Activated Protein Kinase; MAPK)と筋線維タイプの発現型との関連についてラット下肢骨格筋間で比較した結果、遅筋線維の割合の高いヒラメ筋でMAPKタンパク質発現量は最も低く、速筋線維の割合が高い腓腹筋表層部で発現量が最も高い結果であった。また、ラットヒラメ筋は発育成熟期にかけて遅筋線維の割合が増加し、速筋線維の割合は減少する。その際、MAPKタンパク質の発現量は減少する傾向が認められた。これらの結果から、MAPKタンパク質はラット下肢骨格筋の速筋線維タイプ発現に関与する可能性が示唆された。本研究は、筋線維の再生過程における遅筋型のタイプ発現に対するカルシニューリンの関与について検討した。実験には7週齢のWistar ratを用い、左脚ヒラメ筋にブピバカインを投与することにより筋線維を破壊し、2週間後の再生筋線維について分析した(ブピバカイン群)。同時に、ブピバカイン群にカルシニューリン阻害剤のサイクロスポリンA (CsA)を投与したグループをブピバカイン+CsA群とした。再生2週間後のブピバカイン群ヒラメ筋では、速筋線維の割合が5.7%、混在型線維が92.8%であったのに対し、ブピバカイン+CsA群では速筋線維の割合が有意に高く(23.7%)、混在型筋線維の割合が有意に低かった(75.0%)。このことは、再生筋線維のfast→Hybrid→slow方向への発現型の変化に対し、サイクロスポリンAが阻害作用を示しており、したがって、再生筋線維のslowタイプ発現の増加にカルシニューリンがある程度は作用していることを意味している。さらに、熱ストレスタンパク質(Hsp72, Hsp60)およびカルシニューリンタンパク質の発現量について生化学的に分析した結果、ブピバカイン群ヒラメ筋に対しブピバカイン+CsA群では、全てのタンパク質の発現量が有意に低値を示しており、このことが再生筋線維のslowタイプ発現の遅延に影響しているものと推察された。分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(Mitogen-Activated Protein Kinase; MAPK)と筋線維タイプの発現型との関連についてラット下肢骨格筋間で比較した結果、遅筋線維の割合の高いヒラメ筋でMAPKタンパク質発現量は最も低く、速筋線維の割合が高い腓腹筋表層部で発現量が最も高い結果であった。また、ラットヒラメ筋は発育成熟期にかけて遅筋線維の割合が増加し、速筋線維の割合は減少する。その際、MAPKタンパク質の発現量は減少する傾向が認められた。これらの結果から、MAPKタンパク質はラット下肢骨格筋の速筋線維タイプ発現に関与する可能性が示唆された。生後65週齢のWistar系雄ラットを用い、高齢ラットヒラメ筋における筋線維の再生と熱ストレスの影響を検討することを目的として研究を行った。ラットを対照群と熱ストレス群に分け、されに両群の左脚ヒラメ筋に塩酸ブピバカインを注入し筋線維を破壊した。右脚ヒラメ筋はその対照脚とした。ブピバカイン注入2週間後の筋線維の再生状態を検討した。生後10週齢以降のyoungadultラットヒラメ筋線維では、遅筋線維の割合が8090%、速筋線維が816%、そして中間タイプの遅筋+速筋混在型線維が数%認められる。これに対して、本研究で用いた高齢ラット対照群ヒラメ筋(生後65週齢)では遅筋線維の割合が95%以上認められた。このことは加齢に伴って速筋線維から遅筋線維へのタイプ変換が生じた可能性が考えられる。もうひとつの可能性である速筋線維の選択的な萎縮・消失については、筋線維横断面積の結果から、65週齢のヒラメ筋線維のサイズは十分な大きさ(28003100μm2)が維持されていることから、速筋線維の選択的な萎縮・消失は考えにくい。したがって、加齢により支配神経の変換、つまりFFタイプまたはFRタイプの運動神経支配がSタイプの支配に取って代わったと解釈される。このことから、加齢による筋線維のタイプ変換は筋線維萎縮に先立って生じる可能性が示唆された。さらに、再生筋線維の成長に対する熱ストレスの影響については、筋線維破壊2週間後では、熱ストレスを加えたラットヒラメ筋の再生筋線維のサイズが、熱を加えていない再生筋線維よりも515%横断面積が大きいという結果が得られた。このことは、熱ストレスが再生筋線維のサイズの増大(筋線維の肥大)を促進することを示唆しており、私たちのこれまでの研究報告(J Appl Physiol 2009, Oishi et al.)を支持する結果であった。さまざまな細胞の機能発現に重要な分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(マップキナーゼ)は骨格筋でも発現がみられるものの、不明な点が多い。本研究では、筋線維のタイプ発現とマップキナーゼの関連について検討した。実験1では、ラット下肢のヒラメ筋、足底筋、腓腹筋表層部、腓腹筋深層部の筋線維組成とマップキナーゼタンパク質発現量の関連を調べたところ、筋に占める速筋線維の割合が高いほど、マップキナーゼ発現量も多い傾向がみられた。実験2では、ラットヒラメ筋において発育に伴い、遅筋線維の割合が増加するに伴いマップキナーゼタンパク質の発現量は減少する傾向にあることを認めた。 | KAKENHI-PROJECT-24500791 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24500791 |
再生筋線維タイプの分化に対するマップキナーゼの役割と熱ストレスの影響 | これらの結果から、マップキナーゼタンパク質は骨格筋の速筋線維の発現に関与する可能性が推測された。運動生理学(骨格筋生理学・生化学)当初の実験計画の約8割の分析が終了しており、実験計画はおおむね順調に推移していると判断できる。再生筋線維の成長について、これまでに私たちの研究室では、熱ストレスが再生筋線維の横断面積の増加を促進すること、筋線維のタイプ移行fast-toslowを促進すること、筋衛星細胞を活性化し、中心核を含む筋核の数を増加させるなどの知見を得ている(J Appl Physiol 2009, Oishi et al.および未発表の分析結果)。筋線維サイズの増大に関しては、収縮タンパク質を含む筋タンパク質の合成速度に対し、熱ストレスが合成を促進する方向で作用していることが推察される。一方、筋線維タイプの移行については、どの様なメカニズムによるかは不明な点が多く、その1つの可能性としてマップキナーゼの関与の可能性が推察される。今回の研究では、マップキナーゼについての発現をタンパク質レベルで検討したものの、明確な発現の違いは得られず、さらなる分析が必要と思われる。その際に、筋線維組成が顕著に変化するような実験系の組立が重要になってくるものと思われる。現在、再生筋線維の横断面積およびカルシニューリンタンパク質の発現を、組織化学的・生化学的に分析しており、これらのデータをまとめることにより原著論文としてまとめ、海外の英文雑誌に投稿するとともに、学会で発表する予定である。今回の実験結果から、高齢ラット骨格筋においても、再生筋線維のサイズがyoungadultラットと同様に元の大きさまで回復する可能性が示唆され、同時に、熱ストレスがその回復を促進することが示唆された。今後は、そのメカニズムの詳細を更に分析するとともに、筋線維タイプの分化に関与するファクターについての詳細を検討する方向で研究を進めていきたい。また、筋線維タイプに顕著な変化が生じる可能性のある実験系、例えば、足底筋に過負荷が生じるような代償性肥大実験や、ヒラメ筋に著しい筋萎縮と速筋線維の割合の増加が生じる後肢懸垂実験などは、理想的な実験系であると思われる。実験に用いる高額・大型の備品としての機械類を新たに購入する必要はなく、現在、実験室および全学共通研究施設に設置している分析器で対応可能である。従って、次年度の研究費の使用予定は、従来通り、一般薬品やターゲットとなるタンパク質発現を分析するための一次・二次抗体の購入、ガラス類・プラスチック類および紙類などの消耗品、実験動物の購入に当てる予定である。さらに、研究成果の発表および資料収集のための旅費、研究論文発表のための投稿料や掲載料、別刷りなどの費用としても使用予定である。また、専門的知識を得るための特別講師招聘のための旅費・謝金等にも使用予定である。 | KAKENHI-PROJECT-24500791 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24500791 |
コンピュータを用いた酵素阻害剤の論理的分子設計に関する研究 | 標的となる生体高分子(受容体とか酵素)の立体構造がX線結晶解析により既知のときには、その構造を利用してある程度論理的な薬物設計が可能である。当研究者らは数年前からこうした目的で、三次元コンピュータ・グラフィックスを用いた効率的なdocking studyにより生体反応メカニズムの解明や構造と活性の関係の説明、さらには新しい活性構造の設計を行うための方法論とプログラムの開発を行ってきた。本研究ではこのプログラムGREENを、Huberらによって解析された牛膵臓の蛋白分解酵素トリプシン-阻害剤の系に適用し、阻害のメカニズムを調べてみた。反応速度的研究から阻害剤のFUT分子中のエステル結合が加水分解されて一部のフラグメントだけが酵素中に残ることがわかっていたので、まず分子全体が結合した状態をシミュレーションし、安定かつ酵素側と加水分解反応を起こしやすい結合をしている構造を見い出した。次に酵素中に留まっている部分が酵素と共有結合しているかどうか調べるため、両方の状態でシミュレートしてみた結果、ただ会合しているモデルよりも共有結合したモデルがはるかに安定であることがわかった。このことを実験的に証明するためにFUTと酵素の複合体結晶をつくり、X線回折強度測定を行い、Huberらのトリプシン-ベンツアミジンの構造をもとに構造解析を行った。ここで得られた差電子密度図上の共有結合したフラグメントの存在を示すピークがはっきりと見られ、予測の正しさを示した。また、GREENの備えているエネギー的に安定な位置やX線解析からの電子密度を表示し比較し、分子モデリングする機能がこうした研究に有用であることがわかった。さらに、蛋白構造を固定してdocking studyを行った後に蛋白質側のinduced fitを考慮するための分子力計算を行うのと、分子動力学場計算を行うのとどちらが結晶の構造を再現できるか調べたところ後者がいい結果を与えることがわかった。標的となる生体高分子(受容体とか酵素)の立体構造がX線結晶解析により既知のときには、その構造を利用してある程度論理的な薬物設計が可能である。当研究者らは数年前からこうした目的で、三次元コンピュータ・グラフィックスを用いた効率的なdocking studyにより生体反応メカニズムの解明や構造と活性の関係の説明、さらには新しい活性構造の設計を行うための方法論とプログラムの開発を行ってきた。本研究ではこのプログラムGREENを、Huberらによって解析された牛膵臓の蛋白分解酵素トリプシン-阻害剤の系に適用し、阻害のメカニズムを調べてみた。反応速度的研究から阻害剤のFUT分子中のエステル結合が加水分解されて一部のフラグメントだけが酵素中に残ることがわかっていたので、まず分子全体が結合した状態をシミュレーションし、安定かつ酵素側と加水分解反応を起こしやすい結合をしている構造を見い出した。次に酵素中に留まっている部分が酵素と共有結合しているかどうか調べるため、両方の状態でシミュレートしてみた結果、ただ会合しているモデルよりも共有結合したモデルがはるかに安定であることがわかった。このことを実験的に証明するためにFUTと酵素の複合体結晶をつくり、X線回折強度測定を行い、Huberらのトリプシン-ベンツアミジンの構造をもとに構造解析を行った。ここで得られた差電子密度図上の共有結合したフラグメントの存在を示すピークがはっきりと見られ、予測の正しさを示した。また、GREENの備えているエネギー的に安定な位置やX線解析からの電子密度を表示し比較し、分子モデリングする機能がこうした研究に有用であることがわかった。さらに、蛋白構造を固定してdocking studyを行った後に蛋白質側のinduced fitを考慮するための分子力計算を行うのと、分子動力学場計算を行うのとどちらが結晶の構造を再現できるか調べたところ後者がいい結果を与えることがわかった。 | KAKENHI-PROJECT-63570984 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-63570984 |
メモリー式雨量・水位計の開発 | 河川計画・水資源計画において、雨量・河川水位(流量)などの水文観測が重要であることはいうまでもない。本研究では、近年急速に進歩した電子技術を応用して、商用電源が得られない丘陵地域などにおいても高精度・長期間の観測が可能なメモリ式-雨量計・水位計を試作するとともに、コンピュータ用インターフェイス及びデータ処理プログラムを開発した。1.計測・記憶装置・インターフェイスの試作(1)雨量計用計測記憶装置:初年度に雨量0.5mm毎のパルス発生時刻を測定するとともに、それを分単位で記憶する装置を試作した。今年度は装置の集約化・小型化を行い、現地設置の簡便化を計った。(2)水位計用計測記憶装置:初年度に、プーリ・ロータリエンコーダを用いて、水位変動を数値データに変換した後、一定時間間隔で記憶する装置(1号機)を試作した。1号機にはCMOS RAMを用いたが消費電力がかなり多く有効期間が短かったので、今年度は消費電力を節滅するために記憶素子にEPROMを用いるとともに書込み時のみに通電する方式を採用して長期間の連続観測が可能な装置を試作した。(3)インターフェイス:記憶部よりデータを取出すとともにRS232C手順でマイクロコンピュータへデータを送出する雨量・水位用インターフェイスを改良・試作した。2.データ処理プログラムの開発雨量・水位データをメモリーよりインターフェイスを介してマイクロコンピュータに取出すとともにファイルに格納する基本プログラム及びこの原始データを有意な物理量に変換するプログラムを作成した。3.現地試験これらの計器を試験流域に設置して、自然条件下での安定動作と耐久性について試験を行った。これまでのところ、温度・湿度による障害は発生していない。河川計画・水資源計画において、雨量・河川水位(流量)などの水文観測が重要であることはいうまでもない。本研究では、近年急速に進歩した電子技術を応用して、商用電源が得られない丘陵地域などにおいても高精度・長期間の観測が可能なメモリ式-雨量計・水位計を試作するとともに、コンピュータ用インターフェイス及びデータ処理プログラムを開発した。1.計測・記憶装置・インターフェイスの試作(1)雨量計用計測記憶装置:初年度に雨量0.5mm毎のパルス発生時刻を測定するとともに、それを分単位で記憶する装置を試作した。今年度は装置の集約化・小型化を行い、現地設置の簡便化を計った。(2)水位計用計測記憶装置:初年度に、プーリ・ロータリエンコーダを用いて、水位変動を数値データに変換した後、一定時間間隔で記憶する装置(1号機)を試作した。1号機にはCMOS RAMを用いたが消費電力がかなり多く有効期間が短かったので、今年度は消費電力を節滅するために記憶素子にEPROMを用いるとともに書込み時のみに通電する方式を採用して長期間の連続観測が可能な装置を試作した。(3)インターフェイス:記憶部よりデータを取出すとともにRS232C手順でマイクロコンピュータへデータを送出する雨量・水位用インターフェイスを改良・試作した。2.データ処理プログラムの開発雨量・水位データをメモリーよりインターフェイスを介してマイクロコンピュータに取出すとともにファイルに格納する基本プログラム及びこの原始データを有意な物理量に変換するプログラムを作成した。3.現地試験これらの計器を試験流域に設置して、自然条件下での安定動作と耐久性について試験を行った。これまでのところ、温度・湿度による障害は発生していない。 | KAKENHI-PROJECT-59850089 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-59850089 |
ミクロポーラス有機ゼオライトの触媒作用 | ホストとゲストが一定の化学量論比を持つ包接結晶の例は多い。また、選択的な固相反応も数多く知られている。しかしながら、有機固体が有効な触媒として機能する例はほとんど知られていない。アントラセンのビスレゾルシン誘導体を用いるディールス・アルダー反応を詳細に検討し、これがゼオライト様の固体触媒能を示すことを明らかにした。アクロレイン(ジエノフィル)と1、3-シクロヘキサジエンとのディールス・アルダー反応は触媒量の固体ホスト1により大きく加速され、また、立体選択性(エンド選択性)も向上する。以下のことがらが明らかとなった。(1)触媒作用は固体状態のホストによりもたらされている。(2)触媒反応は(ア)ホストが形成する空孔へのゲスト基質の取り込み(1:2:2付加体が形成する)、(イ)空孔内でのディールス・アルダー反応、(ウ)空孔内で生成した生成物の離脱と新たなゲスト基質のとりこみ、から成り立ち、空孔内反応(イ)が律速である。(3)固体触媒であるホスト1を粒子(約1mm^3)として用いても、粉末として用いても。触媒効果(触媒の再生(ターンオーバー)速度)には殆ど変化がない。このことは、触媒作用が単なる表面現象ではなく、内部の空孔が本質的に関与していることを示している。(4)関連付加体のX線結晶構造においてはジエノフィルがホストとの水素結合によりホスト空孔内に捕捉され、また、その近傍にジエンが固定されていることが示される。これらのことは、空孔内反応の加速と立体選択性が近接効果と水素結合に基づく酸触媒作用によっていることを強く示唆している。ホストとゲストが一定の化学量論比を持つ包接結晶の例は多い。また、選択的な固相反応も数多く知られている。しかしながら、有機固体が有効な触媒として機能する例はほとんど知られていない。アントラセンのビスレゾルシン誘導体を用いるディールス・アルダー反応を詳細に検討し、これがゼオライト様の固体触媒能を示すことを明らかにした。アクロレイン(ジエノフィル)と1、3-シクロヘキサジエンとのディールス・アルダー反応は触媒量の固体ホスト1により大きく加速され、また、立体選択性(エンド選択性)も向上する。以下のことがらが明らかとなった。(1)触媒作用は固体状態のホストによりもたらされている。(2)触媒反応は(ア)ホストが形成する空孔へのゲスト基質の取り込み(1:2:2付加体が形成する)、(イ)空孔内でのディールス・アルダー反応、(ウ)空孔内で生成した生成物の離脱と新たなゲスト基質のとりこみ、から成り立ち、空孔内反応(イ)が律速である。(3)固体触媒であるホスト1を粒子(約1mm^3)として用いても、粉末として用いても。触媒効果(触媒の再生(ターンオーバー)速度)には殆ど変化がない。このことは、触媒作用が単なる表面現象ではなく、内部の空孔が本質的に関与していることを示している。(4)関連付加体のX線結晶構造においてはジエノフィルがホストとの水素結合によりホスト空孔内に捕捉され、また、その近傍にジエンが固定されていることが示される。これらのことは、空孔内反応の加速と立体選択性が近接効果と水素結合に基づく酸触媒作用によっていることを強く示唆している。 | KAKENHI-PROJECT-08232264 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08232264 |
反応性プラズマの初期過渡状態の解析と制御に関する研究 | 本研究は、SiH_4をはじめとする薄膜形成用ガスを用いた反応性プラズマの初期過渡状態について、系統的にプラズマ生成条件との因果関係を把握し、プラズマの成長機構の解明と制御法の確立を図ることを目的とする。本年度は、昨年度見いだしたSiH_4の初期プラズマにおけるイオン検出電流の不自然な振舞の要因を究明すると共に、当該者考案の高周波と低周波を重畳した電源の新規開発により、イオン運動の促進効果によるプラズマの制御性を明らかにすることを計画し、下記の成果を得た。1.質量分析による初期過渡状態におけるイオンの検出(1)SiH_4プラズマで見られた質量分析計によるH_n^+やSi_mH_n^+のイオン電流の時定数の長い初期変化は、NH_3プラズマのNH_4^+電流でも観測されるが、HeやArの場合、He^+やAr^+電流はステップ応答する。ただし、HeにSiH_4を10%添加するとHe^+電流は秒オ-ダの遅れを示す。これから、イオン電流の過渡状態は、解離性ガス特有の現象であると結論した。(2)イオン電流遅れの要因と考えられるイオン抽出口と抽出管内壁の電位の揺らぎ、並びにイオン抽出自体による影響について、検討を深め、これらが本質でないことを明らかにした。つまり、イオン電流の初期変化は、プラズマバルクの過渡状態でなく、壁近傍におけるシ-ス形成の反応性プラズマ特有の過渡状態を示していることが明らかとなった。2.低周波重畳高周波電源の開発とプラズマ内部パラメ-タの制御(1)低周波(10K300KHz)と高周波(13.56MHz)を重畳した電源を開発した。(2)SiH_4-H_2の定常プラズマについて、高品質非晶質Si製作の指標となるSiH/H発光強度比が、低周波(250KHz)電力の増加によって電極間中央から膜堆積場の陽極にかけて大きくなる結果を得た。これは低周波によるイオン加熱効果の現れで、プラズマ制御という点で本方式の有用性が明白になった。更にデ-タの蓄積を図り、初期過渡状態への適用を図る。本研究は、SiH_4をはじめとする薄膜形成用ガスを用いた反応性プラズマの初期過渡状態について、系統的にプラズマ生成条件との因果関係を把握し、プラズマの成長機構の解明と制御法の確立を図ることを目的とする。本年度は、昨年度見いだしたSiH_4の初期プラズマにおけるイオン検出電流の不自然な振舞の要因を究明すると共に、当該者考案の高周波と低周波を重畳した電源の新規開発により、イオン運動の促進効果によるプラズマの制御性を明らかにすることを計画し、下記の成果を得た。1.質量分析による初期過渡状態におけるイオンの検出(1)SiH_4プラズマで見られた質量分析計によるH_n^+やSi_mH_n^+のイオン電流の時定数の長い初期変化は、NH_3プラズマのNH_4^+電流でも観測されるが、HeやArの場合、He^+やAr^+電流はステップ応答する。ただし、HeにSiH_4を10%添加するとHe^+電流は秒オ-ダの遅れを示す。これから、イオン電流の過渡状態は、解離性ガス特有の現象であると結論した。(2)イオン電流遅れの要因と考えられるイオン抽出口と抽出管内壁の電位の揺らぎ、並びにイオン抽出自体による影響について、検討を深め、これらが本質でないことを明らかにした。つまり、イオン電流の初期変化は、プラズマバルクの過渡状態でなく、壁近傍におけるシ-ス形成の反応性プラズマ特有の過渡状態を示していることが明らかとなった。2.低周波重畳高周波電源の開発とプラズマ内部パラメ-タの制御(1)低周波(10K300KHz)と高周波(13.56MHz)を重畳した電源を開発した。(2)SiH_4-H_2の定常プラズマについて、高品質非晶質Si製作の指標となるSiH/H発光強度比が、低周波(250KHz)電力の増加によって電極間中央から膜堆積場の陽極にかけて大きくなる結果を得た。これは低周波によるイオン加熱効果の現れで、プラズマ制御という点で本方式の有用性が明白になった。更にデ-タの蓄積を図り、初期過渡状態への適用を図る。 | KAKENHI-PROJECT-01632524 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01632524 |
計算学習理論に基づく知識発見に関する研究 | 膨大なデータベースから有効な情報を効率良く取り出すための,種々の計算のメカニズムを与えるとともに,特にテキストを対象とした情報抽出のための手法を開発した.代表的な成果は以下のとおりである.知識発見とブースティング:ブースティングは,複数の性能の劣る予測アルゴリズムを統合して,高い予測性能をもつ予測アルゴリズムを構成する学習法で,実用性も高い手法である.この手法に関連して,状況に応じてサンプル量を適宜自動調整する適応型サンプリング技法を用いた新しいブースティングMadaBoostを開発した.また,学習アルゴリズムが自ら環境に働きかけ,能動的に情報を収集するという視点にたった能動学習アルゴリズムを考案し,従来法を上回る予測精度が得られることを計算機シミュレーションにより示した.さらに,ブースティングのひとつの方式である決定木ブースティングのための見通しの良い理論を構築するとともに,決定木の視点に線形分離関数を割り当てた決定木ブースティングを開発した.テキスト解析における知識発見:遺伝子情報からの機械発見システムBONSAIの核となるアルゴリズムとして,最良の部分列パターンを見つけるアルゴリズムを開発した.また,話者適応するテキスト解析のために,Baum-Welchアルゴリズムからオンライン型アルゴリズムを構成した.情報圧縮に基づく知識発見:テキストを対応とした文脈木重み付け法により圧縮に基づいた学習アルゴリズムを開発した.また,形態素間の文法的関係を最小記述長のグラフとして表すことにより,辞書知識ベースの作成する方法を提案し,実際の辞書テキストの知識構造化を行い,この方法の妥当性を検証した.不確実環境における知識発見:現実のテキストデータから情報を効率良く抽出する方法として,誤りを含む文字列データの近似マッチング法を与えた.また,適応型サンプリング手法に基づいて,不確実性をもつ環境における学習アルゴリズムの現実的な評価法を与えた.膨大なデータベースから有効な情報を効率良く取り出すための,種々の計算のメカニズムを与えるとともに,特にテキストを対象とした情報抽出のための手法を開発した.代表的な成果は以下のとおりである.知識発見とブースティング:ブースティングは,複数の性能の劣る予測アルゴリズムを統合して,高い予測性能をもつ予測アルゴリズムを構成する学習法で,実用性も高い手法である.この手法に関連して,状況に応じてサンプル量を適宜自動調整する適応型サンプリング技法を用いた新しいブースティングMadaBoostを開発した.また,学習アルゴリズムが自ら環境に働きかけ,能動的に情報を収集するという視点にたった能動学習アルゴリズムを考案し,従来法を上回る予測精度が得られることを計算機シミュレーションにより示した.さらに,ブースティングのひとつの方式である決定木ブースティングのための見通しの良い理論を構築するとともに,決定木の視点に線形分離関数を割り当てた決定木ブースティングを開発した.テキスト解析における知識発見:遺伝子情報からの機械発見システムBONSAIの核となるアルゴリズムとして,最良の部分列パターンを見つけるアルゴリズムを開発した.また,話者適応するテキスト解析のために,Baum-Welchアルゴリズムからオンライン型アルゴリズムを構成した.情報圧縮に基づく知識発見:テキストを対応とした文脈木重み付け法により圧縮に基づいた学習アルゴリズムを開発した.また,形態素間の文法的関係を最小記述長のグラフとして表すことにより,辞書知識ベースの作成する方法を提案し,実際の辞書テキストの知識構造化を行い,この方法の妥当性を検証した.不確実環境における知識発見:現実のテキストデータから情報を効率良く抽出する方法として,誤りを含む文字列データの近似マッチング法を与えた.また,適応型サンプリング手法に基づいて,不確実性をもつ環境における学習アルゴリズムの現実的な評価法を与えた.巨大データベースからの知識発見を試みるとき,データ処理に要する時間やデータを格納するためのメモリー等,計算のリソースの制約が,データ量が膨大となるにつれて厳しい障壁となり,この障壁を乗り越えるための手法の開発が不可欠となる.この厳しい制約のもとで,膨大な“薄い"データを有効で意味のあるコンパクトなデータに変換するためには,巨大データの組織化や知識の抽出において限界まで効率化を図ることに要求される.これまで計算学習理論でも取り扱われてきたデータの抽出のメカニズムも参考にしながら,いろいろの個別問題を取り挙げ,知識抽出の基本問題や抽出方法について研究した.得られた主な成果は次のとうりである.1.特徴空間にユークリット距離やKullbac-Leibler Divergenceをその特殊例として含む一般的な幾何学的な距離を新しく導入し,これに基づきテキストやイメージからなる大量データのクラスター化を行い,この幾何学的距離の妥当性を検証した.2.学習アルゴリズムからの各種質問対象として,多項式時間で学習可能であることを,1回の質問により棄却される仮説空間の割合がある一定の値以上であるという条件で特性化できることを示した.3.エキスパート集団に属する各エキスパートの予測を統合して,その集団の最適のエキスパートと同等の予測性能を実現する,オンラインエキスパートモデルを,階層構造に組み立てることにより,決定木の最適枝刈りを求めるアルゴリズムを与えた.4.方向選択問題を解くためのvon der Malsburgのニューラルモデルに基づき,ある種の“制約"のもとでの生き残りゲームから仮説選択をする基本アルゴリズムを導出した.5.学習者が何を質問するかを得られる情報を最大にするように,選択できるとする枠組みは,強化学習として定式化できる.この強化学習の手法が,これまで機械学習やデータマイニングの分野で開発されてきた手法に匹敵する計算効率を持つことを,計算機シミュレーションにより検証した.6.特徴ベクトルで表わされるオブジェクト集合から知識発見を行うための特徴空間の操作法について,オブジェクト間に構造的な制約がある場合の分類法を提案した. | KAKENHI-PROJECT-10143101 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10143101 |
計算学習理論に基づく知識発見に関する研究 | 今後益々巨大化するデータから有益な情報を取りだすには,計算リソースの限界から障壁は益々厳しいものとなる.巨大データからの情報抽出の可能性と限界を見極め,そのメカニズムを解明することなしでは,関連分野の発展は望めない.そのためデータ中の規則性の抽出,有益な知識の抽出,未知の知識の発見等も広い意味での計算とみなすという立場にたち,これらの計算過程としての共通の側面を取り入れた枠組みをモデル化し研究を展開した.初年度に引き続きこのような視点で情報抽出のためのアルゴリズムの設計,その評価,また対象とするデータの表現形式等について研究を展開した.今年度の具体的な研究課題と成果は以下のとうりである.1.ダイバージェンスの和最小の評価基準に基づいたクラスタリング理論を展開し,文章中の語の出現頻度ベクトルや画像の色頻度ベクトルのデータを対象として,このクラスタリングの有効性を示した.2.これまで独立に開発されてきた集団質問学習,ブースティング,さらにバッキングを能動学習の視点から統一的に取りあげ,これらのアルゴリズムを系統的に設計し、各種ベンチマークデータに基づき,これら方式の限界と可能性を明らかにした.3.情報圧縮されたデータ上で直接パタン照合するため,まず,よく知られたLempel-Ziv族などを含む各種の情報圧縮法を統一的に記述するコラージュシステムという記述システムを新しく導入し,このシステムで記述された情報圧縮法で圧縮されたデータに対して直接働く,効率の良い照合アルゴリズムを開発した.4.与えられたデータのある種の統計量に基づき,信頼性を保障するために必要なサンプ量を自動的に定める適応型サンプリングを,ブースティングに適用し,従来のAdaBoostを凌ぐ良好な結果を得た.5.決定リストを等価な単調DNF式の排他的論理和に変換することにより,単調項決定リストの所属質問を等価性質問による学習アルゴリズムを開発した.6.基本オブジェクトが再帰的構造で組み立てられたオブジェクトを対象とした分類問題を取りあげ,最終的な分類精度を最大化するアルゴリズムを情報量基準に基づいて開発した.知識発見に関するいろいろのテーマについて研究を進めた.この研究の個別のテーマは一見多岐にわたるが,アルゴリズム設計,あるいは計算のメカニズムの解明等の視点から,学習,情報圧縮,テキスト解析,ブースティング,最小記述長基準(MDL),情報構造等の,共通する概念を用いてそれぞれのテーマについて研究を展開した.この特定領域研究も3年目を迎え,それぞれテーマが深く掘り下げられると同時に,相互の繋がりも明らかになって来ている.今年度の具体的な研究課題と成果は以下のとおりである. | KAKENHI-PROJECT-10143101 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10143101 |
環境変動に及ぼす回転・密度成層乱流輸送現象のDNSとモデリング | 環境変動に及ぼす回転・密度成層乱流輸送現象の直接数値シミュレーションを行い,以下のような結論を得た.1.安定成層下にある回転乱流について,鉛直渦の回転方向の偏りに及ぼす内部重力波の影響を詳細に検討した.その結果,鉛直渦の回転方向の偏りは内部重力波の強さに影響され,強い内部重力波が発生するような場合ではサイクロニック渦が強められること,また内部重力波の影響が小さく無視できるような場合では,アンチサイクロニック渦が強くなることを明らかにした.2.鉛直渦の回転方向に偏りが発生する原因は,コリオリ力による線形渦伸張が渦の生成または消滅に寄与し,さらに非線形作用による渦伸張の影響を受けることによることを初めて突き止めた.3.流体のプラントル数は内部重力波の強さに影響し,鉛直方向渦の回転の偏りに影響する.特に,低プラントル数の回転成層乱流では,流れ場は2次元的になり,鉛直方向に伸びた2次元渦柱の生成が示された.4.水平方向温度勾配および鉛直方向速度勾配が加わった場合(サーマルウインドと言う)における鉛直渦の回転の偏りへの影響について検討した.この結果,乱流諸量や渦構造は安定成層の強さやレイノルズ数により影響を受け,安定成層が弱くレイノルズ数が小さい場合,コリオリ力による線形渦伸張と非線形渦伸張によりサイクロニック渦が優位となる.逆に,レイノルズ数が高くなると非線形渦伸張項が卓越するため,サイクロニック渦の優位性はなくなる.但し,レイノルズ数が高い場合でも,それに応じて安定成層が強くなるとサイクロニック渦が強化されることが明らかにされた.5.不安定成層と回転の重畳効果について検討した結果,回転軸を渦軸とする長く伸びた渦柱が生成されること,そしてこの渦柱の生成は,回転角速度と鉛直方向歪み速度による線形渦伸縮によることが明らかになった.但しこの現象が発生する場合でも,鉛直方向の歪み速度が増大するような非線形作用が必要不可欠であることを見出した.なお,これらの結果の主要部は,Webでデーターベースとして公開する.公開するアドレスは,環境変動に及ぼす回転・密度成層乱流輸送現象の直接数値シミュレーションを行い,以下のような結論を得た.1.安定成層下にある回転乱流について,鉛直渦の回転方向の偏りに及ぼす内部重力波の影響を詳細に検討した.その結果,鉛直渦の回転方向の偏りは内部重力波の強さに影響され,強い内部重力波が発生するような場合ではサイクロニック渦が強められること,また内部重力波の影響が小さく無視できるような場合では,アンチサイクロニック渦が強くなることを明らかにした.2.鉛直渦の回転方向に偏りが発生する原因は,コリオリ力による線形渦伸張が渦の生成または消滅に寄与し,さらに非線形作用による渦伸張の影響を受けることによることを初めて突き止めた.3.流体のプラントル数は内部重力波の強さに影響し,鉛直方向渦の回転の偏りに影響する.特に,低プラントル数の回転成層乱流では,流れ場は2次元的になり,鉛直方向に伸びた2次元渦柱の生成が示された.4.水平方向温度勾配および鉛直方向速度勾配が加わった場合(サーマルウインドと言う)における鉛直渦の回転の偏りへの影響について検討した.この結果,乱流諸量や渦構造は安定成層の強さやレイノルズ数により影響を受け,安定成層が弱くレイノルズ数が小さい場合,コリオリ力による線形渦伸張と非線形渦伸張によりサイクロニック渦が優位となる.逆に,レイノルズ数が高くなると非線形渦伸張項が卓越するため,サイクロニック渦の優位性はなくなる.但し,レイノルズ数が高い場合でも,それに応じて安定成層が強くなるとサイクロニック渦が強化されることが明らかにされた.5.不安定成層と回転の重畳効果について検討した結果,回転軸を渦軸とする長く伸びた渦柱が生成されること,そしてこの渦柱の生成は,回転角速度と鉛直方向歪み速度による線形渦伸縮によることが明らかになった.但しこの現象が発生する場合でも,鉛直方向の歪み速度が増大するような非線形作用が必要不可欠であることを見出した.なお,これらの結果の主要部は,Webでデーターベースとして公開する.公開するアドレスは,(1)「密度成層乱流」の直接数値シミュレーション並列型スーパーコンピュータを用いた大規模直接数値シミュレーション(DNS)により,安定および不安定成層下で生じる内部重力波やサーマルプルームの発生機構を調べるとともに,これらのマイクロスケールの運動と大気および海洋乱流との相互作用の影響について検討した。本研究では,非線形効果の大きい乱流を扱いかつ浮力という体積力の効果に着目し,ハードウェア的限界まで,高レイノルズ数・高浮力の大規模計算を行った。その結果,回転と浮力の作用により回転軸方向にコラムが生成されること,また,このコラム生成には非線形作用が大きく関与していて,地球物理学でよく用いられるいわゆる地衡流近似には限界があることが明らかになった。この成果は,海洋および大気の流体力学的性質を理解する上で基礎となるものである。(2)「熱輸送を伴う接地境界層乱流」のモデリングサーマルプルームや内部重力波がどのようなメカニズムで発生するのか,また,現実の気象現象により近い高レイノルズ数や高浮力条件の下では乱流とどのように相互干渉するのかについては不明であり,その数理モデルもまだない。 | KAKENHI-PROJECT-10450085 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10450085 |
環境変動に及ぼす回転・密度成層乱流輸送現象のDNSとモデリング | このような数理モデルの基礎となるものは,これまでの地球流体力学,気象学,海洋学などの分野で確立されていない接地境界層に対する乱流モデルである。本年度はこの課題に着目し,地球地表面近傍の乱流構造をモデル化した2層乱流モデルを開発した。開発した乱流モデルには,地球表面からの熱伝達,流れの圧力勾配の影響,流線の曲がりの影響,流れの剥離・再付着という重要な熱・流体工学的諸因子が組み込まれている。(1)「密度成層乱流」の直接数値シミュレーション並列型スーパーコンピュータを用いた大規模直接数値シミュレーション(DNS)により,安定および不安定成層下で生じる内部重力波やサーマルプルームの発生機構を調べるとともに,これらのマイクロスケールの運動と大気および海洋乱流との相互作用の影響について検討した。本研究では,非線形効果の大きい乱流を扱いかつ浮力という体積力の効果に着目し,ハードウエア的限界まで,高レイノルズ数・高浮力の大規模計算を行った。その結果,回転と浮力の作用により回転軸方向にコラムが生成されること,また,このコラム生成には非線形作用が大きく関与していて,地球物理学でよく用いられるいわゆる地衡流近似には限界があることが明らかになった。この成果は,海洋および大気の流体力学的性質を理解する上で基礎となるものである。(2)「熱輸送を伴う接地境界層乱流」のモデリングサーマルプルームや内部重力波がどのようなメカニズムで発生するのか,また,現実の気象現象により近い高レイノルズ数や高浮力条件の下では乱流とどのように相互干渉するのかについては不明であり,その数理モデルもまだない。このような数理モデルの基礎となるものは,これまでの地球流体力学,気象学,海洋学などの分野で確立されていない接地境界層に対する乱流モデルである。本年度はこの課題に着目し,計算負荷がより小さい低レイノルズ数型1方程式乱流モデルを開発した。開発した乱流モデルには,地球表面からの熱伝達,流れの圧力勾配の影響、流れの剥離・再付着という重要な熱・流体工学的諸因子が組み込まれている。環境変動に及ぼす回転・密度成層乱流輸送現象の直接数値シミュレーションを行い,以下のような結論を得た.1.安定成層下にある回転乱流について,鉛直渦の回転方向の偏りに及ぼす内部重力波の影響を詳細に検討した.その結果,鉛直渦の回転方向の偏りは内部重力波の強さに影響され,強い内部重力波が発生するような場合ではサイクロニック渦が強められること,また内部重力波の影響が小さく無視できるような場合では,アンチサイクロニック渦が強くなることを明らかにした.2.鉛直渦の回転方向に偏りが発生する原因は,コリオリ力による線形渦伸張が渦の生成または消滅に寄与し,さらに非線形作用による渦伸張の影響を受けることによることを初めて突き止めた.3.流体のプラントル数は内部重力波の強さに影響し,鉛直方向渦の回転の偏りに影響する.特に,低プラントル数の回転成層乱流では,流れ場は2次元的になり,鉛直方向に伸びた2次元渦柱の生成が示された.4.水平方向温度勾配および鉛直方向速度勾配が加わった場合(サーマルウインドと言う)における鉛直渦の回転の偏りへの影響について検討した. | KAKENHI-PROJECT-10450085 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10450085 |
古活字本印刷家と著作権揺籃期の「本文意識」(ドゥ・ウォードの仕事を事例として) | 本研究は、英国第2世代の印刷の代表であるウィンキン・ドゥ・ウォードのテキスト編集・印刷ぶりを分析することにより、著作権萌芽期の「本文意識」の実態と変容の解明を意図したものである。写本時代とは異なり、特定庇護者の代わりに、一般読者をえた同時代作家の作品を、貴族の庇護下ではなく商売として出版しはじめた第2世代印刷家の本文に対する意識は、作者の監視と読者の文学趣味への配慮との間で先鋭化し、変化を遂げた。この著作権(authors' rights;copy-rights)の胎動期に観察される、自由な作品受容者としての態度と、作者自筆稿本を忠実に再現する態度との間の振幅を、自ら新旧の本文意識を体現するドゥ・ウォードの仕事ぶりを分析することにより確認し、当時固有の「本文意識」を明らかにした。具体的には、1)初期印刷本において本文異同が生じる仕組み(意図的、技術的)を明らかにし、2)書籍出版業組合の記録から「著作権」の実態と歴史的変容を調査したうえで、3)ドゥ・ウォードが、過去の無名作家の作品の出版に対して、出版当時の文学趣味に配慮して言語を古風化したこと、4)評価ある過去の作家の作品出版に対しては、「正確な本文」を序文で謳うという近代意識を覗かせながら、実際には、安易な本文づくりを行たこと、5)庇護者のある同時代作家の作品出版に対しては、庇護者の意図をくみながら、正確な本文を目指したこと、6)庇護者のない同時代作家の作品出版においては、作家の存命中は原稿に忠実な本文をつくるが、死後は読者や時代の趣味を優先して再版を行ったこと、を明らかにした。写本時代とは異なり、「作者の本文」に対する尊敬という強い意識が生まれたことは明らかであるが、それでもまだ近代の本文意識(法律上、著作権は1709年に確立)にはほど遠いものであった。本研究は、英国第2世代の印刷の代表であるウィンキン・ドゥ・ウォードのテキスト編集・印刷ぶりを分析することにより、著作権萌芽期の「本文意識」の実態と変容の解明を意図したものである。写本時代とは異なり、特定庇護者の代わりに、一般読者をえた同時代作家の作品を、貴族の庇護下ではなく商売として出版しはじめた第2世代印刷家の本文に対する意識は、作者の監視と読者の文学趣味への配慮との間で先鋭化し、変化を遂げた。この著作権(authors' rights;copy-rights)の胎動期に観察される、自由な作品受容者としての態度と、作者自筆稿本を忠実に再現する態度との間の振幅を、自ら新旧の本文意識を体現するドゥ・ウォードの仕事ぶりを分析することにより確認し、当時固有の「本文意識」を明らかにした。具体的には、1)初期印刷本において本文異同が生じる仕組み(意図的、技術的)を明らかにし、2)書籍出版業組合の記録から「著作権」の実態と歴史的変容を調査したうえで、3)ドゥ・ウォードが、過去の無名作家の作品の出版に対して、出版当時の文学趣味に配慮して言語を古風化したこと、4)評価ある過去の作家の作品出版に対しては、「正確な本文」を序文で謳うという近代意識を覗かせながら、実際には、安易な本文づくりを行たこと、5)庇護者のある同時代作家の作品出版に対しては、庇護者の意図をくみながら、正確な本文を目指したこと、6)庇護者のない同時代作家の作品出版においては、作家の存命中は原稿に忠実な本文をつくるが、死後は読者や時代の趣味を優先して再版を行ったこと、を明らかにした。写本時代とは異なり、「作者の本文」に対する尊敬という強い意識が生まれたことは明らかであるが、それでもまだ近代の本文意識(法律上、著作権は1709年に確立)にはほど遠いものであった。予定していた本文調査のうち、特定の庇護者のもとに出版された作品の事例研究として選んだヒルトンのScala Perfectionisの現存写本と初期刊本の本文対校は、当該マイクロフィルムの入手が遅れた関係で、行うことができなかった。しかし、チョーサーのThe Canterbury Talesのキャクストン第2版(1483)とドゥ・ウォード版(1498)の本文校合を済ませ、更に予定外ではあるが、The Parliament of Fowlsの初期印刷本と現存写本の本文調査を行った。この結果、次の3つの知見を得ることが出来た。1)初期印刷本において、チョーサーの言語は、シンが登場するまでは、近代化および合理化の方向で本文改稿が行われた。2)評価の定まった作家の作品といえども、言語と綴りが維持される傾向にあるガワーに対し、チョーサーは、1)に見るとおり、言語の近代化という編集を受けた。3)これは、想定した読者層と関係があり、専ら貴族階級を対象としたガワーに比べ、チョーサーの顧客層は中産階級を狙っていたからと考えられる。また、本研究の中心主題と直接の関係はないが、Parliamentのリサーチを通して、当該作品の本文研究に貢献する新事実を発見した。すなわち、ピンソン版は、キャクストンではなくBodley638に近い写本をエグゼンプラーにしていること、ドゥ・ウォード版は依拠した写本を補うものとしてピンソン版を参照したことである。本研究は、英国第2世代の印刷の代表であるウィンキン・ドゥ・ウォードのテキスト編集・印刷ぶりを分析することにより、著作権萌芽期の「本文意識」の実態と変容の解明を意図したものである。写本時代とは異なり、特定庇護者の代わりに、一般読者をえた同時代作家の作品を、貴族の庇護下ではなく商売として出版しはじめた第2世代印刷 | KAKENHI-PROJECT-05610392 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05610392 |
古活字本印刷家と著作権揺籃期の「本文意識」(ドゥ・ウォードの仕事を事例として) | 家の本文に対する意識は、作者の監視と読者の文学趣味への配慮との間で、先鋭化し、変化を遂げた。この著作権(authors'rights;copy-rights)の胎動期に観察される、自由な作品受容者としての態度と、作者自筆稿本を忠実に再現する態度との間の振幅を、自ら新旧の本文意識を体現するドゥ・ウォードの仕事ぶりを分析することにより確認し、当時固有の「本文意識」を明らかにした。具体的には、1)初期印刷本において本文異同が生じる仕組み(意図的、技術的)を明らかにし、2)書籍出版業組合の記録から「著作権」の実態と歴史的変容を調査したうえで、3)ドゥ・ウォードが、過去の無名作家の作品の出版に対して、出版当時の文学趣味に配慮して言語を古風化したこと、4)評価ある過去の作家の作品出版に対しては、「正確な本文」を序文で謳うという近代意識を覗かせながら、実際には、安易な本文づくりを行たこと、5)庇護者のある同時代作家の作品出版に対しては、庇護者の意図をくみながら、正確な本文を目指したこと、6)庇護者のない同時代作家の作品出版においては、作家の存命中は原稿に忠実な本文をつくるが、死後は、読者や時代の趣味を優先して再版を行ったこと、を明らかにした。写本時代とは異なり、「作者の本文」に対する尊敬という強い意識が生まれたことは明らかであるが、それでもまだ近代の本文意識(法律上、著作権は1709年に確立)にはほど遠いものであった。 | KAKENHI-PROJECT-05610392 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05610392 |
セーフティ・ファーストをめぐる職業倫理の構築米国における技術文化スローガンの創始 | 本研究の目的は、まず米国における技術文化スローガン「safety-first」の構築過程を解析し、そこに内在する精神性と、その輸入概念としての日本語の「安全第一」活動との相違を明示することにあり、具体的には自動車工業都市デトロイトの成立事情とプロテスタント教会及びこれを取り巻く信仰の変質の問題を論じる。考察の軸としたのは信者である事業経営者と牧師との間に生じた、信仰をめぐる葛藤とその局面である。具体的な考察対象としたのは、フォード社における信仰実践に与した人物として、S.S.マーキュス及び着任間もない若きラインホルド・ニーバーである。そこから明らかとなったのは信者である経営者の意図に沿った道徳へと信仰が左右され、さらに従業員の私的生活をも包摂する「奉仕」を容認する「経営宗教」による独自の経営倫理意識の構築と、これによる「フォーディズム」という生産管理の実態であった。そこには時代をめぐる二つの社会的要因が作用している。第一に、労働を取り巻くカトリックを含む移民と禁酒運動による米国市民化という教会外部からの要因である。第二に、教会と信徒教育を取り巻く内的要因であり、これは聖書に依拠したテキスト化に動機付けられた教育の変質を示唆する。以上より、プロテスタンティズムに内在する資本主義の精神性という仮説に依拠せずに労働をめぐる「奉仕」観の変質を捉え、そこから生じた「safety」という理念へと肉迫することが可能となる。「フォーディズム」成立の時代のもとでは、聖書における主体的な「safety」の構えは失われ、空洞化されたスローガン「safety-first」と化したといえよう。本研究の目的は、まず米国における技術文化スローガン「safety-first」の構築過程を解析し、そこに内在する精神性と、その輸入概念としての日本語の「安全第一」活動との相違を明示することにあり、具体的には自動車工業都市デトロイトの成立事情とプロテスタント教会及びこれを取り巻く信仰の変質の問題を論じる。考察の軸としたのは信者である事業経営者と牧師との間に生じた、信仰をめぐる葛藤とその局面である。具体的な考察対象としたのは、フォード社における信仰実践に与した人物として、S.S.マーキュス及び着任間もない若きラインホルド・ニーバーである。そこから明らかとなったのは信者である経営者の意図に沿った道徳へと信仰が左右され、さらに従業員の私的生活をも包摂する「奉仕」を容認する「経営宗教」による独自の経営倫理意識の構築と、これによる「フォーディズム」という生産管理の実態であった。そこには時代をめぐる二つの社会的要因が作用している。第一に、労働を取り巻くカトリックを含む移民と禁酒運動による米国市民化という教会外部からの要因である。第二に、教会と信徒教育を取り巻く内的要因であり、これは聖書に依拠したテキスト化に動機付けられた教育の変質を示唆する。以上より、プロテスタンティズムに内在する資本主義の精神性という仮説に依拠せずに労働をめぐる「奉仕」観の変質を捉え、そこから生じた「safety」という理念へと肉迫することが可能となる。「フォーディズム」成立の時代のもとでは、聖書における主体的な「safety」の構えは失われ、空洞化されたスローガン「safety-first」と化したといえよう。助成の初年に当たる本年度は、労働倫理の構築という観点から、「Safety-first」のモデル化に研究の的を絞った。その際、国内外に及ぶ文献の渉猟とその検討を通し、次年度以降の現地調査(デトロイトでのエヴァンジェリカル教会調査)実施の上で核となる理論枠組みと仮説の設定を図った。作業の具体的な概要は以下の通りである。プロテスタンティズムの世界観から見た「Safety」と「Security」との関連という点である。「Safety」も「Security」も語源的には、ともに聖書的な世界観における中心的な語彙であるが、本研究では、これを聖書に関する米国の註解書や講解書における引用例、さらには語源に関わる辞書類を対象に、「義」「赦し」「恵み」「感謝」「平安」などのキーワードをその使用される文脈との比較を通して、そこからプロテスタント倫理に内在する主体的な「安全」意識構築のモデル化を図った。即ち、人間に内在する弱さを受容するための手段として「Safety」が存在する。だが、その根底には、揺るがされぬ「平安」、すなわち到達すべき目標としての「Security」が横たわる。しかし、そのプロセスを開示するに当たっては、行為者の神への絶対的な「信頼」を前提としており、それは「恵み」の積極的な受容とそれに対する「感謝」と応答という意識的な態度として現出する(この姿勢は、ことにエペソ書等のパウロ書簡や使徒行伝におけるパウロの言行録などに表象する)。これをリスク論に依拠して説明すれば、予め「期待外れの事態をリスクとして想定しつつも、信頼ゆえに却って期待して待ち続けることが可能となる」文化装置が内在すると言えよう。助成の中間に当たる本年度は、マクロレベルとミクロレベル双方からの成果が得られた。まず、マクロレベルにおいては前年度に構築したリスク論の援用に基づく聖書のテキスト分析を通して得た仮説(「恩恵/責任」による信頼の実践としてのセーフティ・ファーストという理論モデル)を精緻化し、かつその一般化を図るために、学会などの機会を利用して成果の公表を行うことに務めた。その過程で見出されたのが、企業体と教会の組織戦略の実践の場としてのデトロイトにおける「経営宗教」の姿である。中でも、「safety-first」の提唱 | KAKENHI-PROJECT-17520559 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17520559 |
セーフティ・ファーストをめぐる職業倫理の構築米国における技術文化スローガンの創始 | 当初の労働者の実態(カトリックの移民労働者を主力としていた点)と彼らを取り巻く社会的環境(ことに労働争議などをめぐる企業の労務管理、労災補償などの発生状況をめぐる統計データから復元される)との関係に注目することで、さらに社会史などの援用により立体的な地域史の構築に至る可能性が示唆された。次にミクロレベルでは、第一に、「経営宗教」の実践者であり、企業とのパイプ役を果たした「safety-man」の存在が見出された。周知のようにフォードでは能率を重視する大量生産方式を採る一方で「safety-first」を企業理念とする「フォーディズム」という特殊な管理方式が構築されていた。「safety-first」は「safety-man」という現場から選任された労働者に一任されていた。この点から労働者による社会的上昇手段としての「safety-first」に内在化された戦略性を読み取ることが出来よう。第二に、「safety-man」の属性という点であり、これは「移民」という視点と絡み合わせることにより興味深い結果が得られた。19151928年の間の当該地における労働者構成からは、カトリックからプロテスタントへの改宗傾向が読み取れ、また「safety-man」が「福音の戦士」とも別称されていたことも、前記したフォードの「経営宗教」の実態を浮き彫りにしていよう。上記の視点は、最終年度の現地調査の成果によって「safety-first」に投影される「経営宗教」の理論枠組みとして提示されることになろう。本年度は、助成の総括としてマクロ、ミクロ双方の総合化に着手した。「safety-first」運動がアメリカで展開されたことへの問題提起として、聖書の内包する"誘惑に陥らずに絶えず目覚めよ"というメッセージ性に触発され、そのテキスト分析に基づき初年度にリスク論を援用した「恩恵(代価なく与えられた自由)/責任(応答)」と、これを動機付ける「信頼」という理論モデルの構築を行なった。「safety-first」はフォードの発展とともにアメリカ全土へと普及したが、その繁栄は若きR.ニーバーの教会活動の時代と重なっていた。これは次の二点を示唆する。第一に、時代と連動した宗教倫理の形成という点であり、具体的には個人的な内面意識のみでなく、社会化した力として働く「社会悪(social injustice)」としての罪の意識の着想とこれに動機付けられた献身による利他的な愛の社会的実践という点が挙げられる。第二に、これがフォーディズムという合理化経営を保障するために流用された「経営宗教」であった可能性である。その根幹には大量の「移民」が不可欠であったが、それには彼らの健全な家庭保護を名目として生活改善を図る「禁酒法」などを包括した、プロテスタント経営層が唱導する「safety-first」の理念が適合していた。これに対処すべく着想されたのが企業とのパイプ役を果たした「safety-man」の存在である。「safety-first」が、現場から選任された「福音の戦士」と称された労働者へと一任された点は社会的上昇手段という戦略性をうかがわせはする。 | KAKENHI-PROJECT-17520559 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17520559 |
血管内皮細胞における接着分子P-セレクチンの発現動態に関する研究 | 本年度は血管内皮細胞表面におけるP-selectinの発現動態とその分子機構に関する検討を行い、下記の結果を得た。[成績]1.初代培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をthrombin 1U/mlで刺激すると、間接免疫蛍光法で測定したP-selectinの表面発現量は2分後に最大となり、以後漸減し、120180分後に刺激前の発現量に戻った。2.Thrombin刺激によるP-selectinの表面発現は、アラキドン酸およびK252a、staurosporine、calphostin Cの各種蛋白リン酸化酵素阻害薬の前処理の影響を認めなかった。細胞骨格蛋白の関与に関する検討では、P-selectinの表面発現は、colchicineの前処理により約20%抑制されたが、cytochalasin D前処理の影響は見られなかった。3.Thrombin 1 U/mlで180分間隔の反復刺激を行ったところ、P-selectinの細胞表面発現は繰り返し誘導された。これはactinomycin D処理による影響を認めず、新たな蛋白合成を介さない、細胞内局在変化によると考えられた。4.^<51>Cr標識した白血病細胞株HL60を用いた接着実験では、HL60のHUVECへの背着率はthrombin刺激の前後で約3倍に増加した。180分後には刺激前と同等の接着率に戻り、再刺激により再び接着率の有位な増加を認めた。[総括]Thrombin刺激によりHUVEC表面におけるP-selectinは繰り返し誘導され、その発現機構に微小管が部分的に関与すること、またP-selectinにrecycling機構が存在することが明かとなった。またrecyclingされたP-selectinは白血球に対する接着能を保持しており、炎症局所において繰り返し白血球との接着に重要な役割を果たすと考えられた。本年度は血管内皮細胞表面におけるP-selectinの発現動態とその分子機構に関する検討を行い、下記の結果を得た。[成績]1.初代培養ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をthrombin 1U/mlで刺激すると、間接免疫蛍光法で測定したP-selectinの表面発現量は2分後に最大となり、以後漸減し、120180分後に刺激前の発現量に戻った。2.Thrombin刺激によるP-selectinの表面発現は、アラキドン酸およびK252a、staurosporine、calphostin Cの各種蛋白リン酸化酵素阻害薬の前処理の影響を認めなかった。細胞骨格蛋白の関与に関する検討では、P-selectinの表面発現は、colchicineの前処理により約20%抑制されたが、cytochalasin D前処理の影響は見られなかった。3.Thrombin 1 U/mlで180分間隔の反復刺激を行ったところ、P-selectinの細胞表面発現は繰り返し誘導された。これはactinomycin D処理による影響を認めず、新たな蛋白合成を介さない、細胞内局在変化によると考えられた。4.^<51>Cr標識した白血病細胞株HL60を用いた接着実験では、HL60のHUVECへの背着率はthrombin刺激の前後で約3倍に増加した。180分後には刺激前と同等の接着率に戻り、再刺激により再び接着率の有位な増加を認めた。[総括]Thrombin刺激によりHUVEC表面におけるP-selectinは繰り返し誘導され、その発現機構に微小管が部分的に関与すること、またP-selectinにrecycling機構が存在することが明かとなった。またrecyclingされたP-selectinは白血球に対する接着能を保持しており、炎症局所において繰り返し白血球との接着に重要な役割を果たすと考えられた。 | KAKENHI-PROJECT-07770338 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07770338 |
リサンプリング法による多重検定の理論的研究とゲノム解析への応用 | 本研究では,ゲノム解析分野での応用を念頭におき,高次元における多重検定問題および変数選択問題について検討を行った.リサンプリングに基づく多重検定法については,理論的な整備,とくにパーミュテーション法の問題点を明らかにすることができた.また, L1正則化法を用いたスパース推定法による有効な変数選択法の開発と,適切な評価指標の導入を行うことができた.本研究では,ゲノム解析分野での応用を念頭におき,高次元における多重検定問題および変数選択問題について検討を行った.リサンプリングに基づく多重検定法については,理論的な整備,とくにパーミュテーション法の問題点を明らかにすることができた.また, L1正則化法を用いたスパース推定法による有効な変数選択法の開発と,適切な評価指標の導入を行うことができた.研究初年度である2010年度は,パーミュテーション法やブートストラップ法などのリサンプリング法に基づく多重検定に関する理論研究の最新動向の情報収集と理論的な検証,関連するゲノム解析についての最新動向に関する調査と整理,および数値実験のための準備をおこなった.リサンプリング法に基づく多重検定に関する理論研究については,P値の推定という立場から見たリサンプリング法に基づく多重検定の妥当性についての研究,多重検定とAdaptive Lasso等によるスパース推定法との比較研究,リサンプリング法に基づいた経験ベイズ多重検定に関する研究,を中心としておこなった.その中で,とくにP値の推定については理論的問題が多く,引き続き次年度も継続して進めていく.スパース推定法に関しては,後述する遺伝子ネットワーク推定等で考えられる時系列モデルにおける新たなスパース推定法を提案し,比較的小規模な数値実験によりその有効性を確認した.高次元の場合の検証については今後進める.また,多重検定法およびスパース推定法の今後の高次元における検証実験のための環境整備をおこない,現在プログラム開発を進めているところである.一方で,本研究における研究対象である高次元における多重検定は,ゲノム解析において,遺伝子発現データを用いて遺伝子間の制御関係を探る遺伝子ネットワーク推定や,一塩基多型(SNP)による疾患関連遺伝子の同定などにおいて用いられる.これらの内容についての調査を行い,その統計的手法の理論的な課題を整理した.平成23年度は、実施計画に挙げたいくつかの具体的なテーマの中から、ゲノム解析等広範な領域で実用化され、理論的研究も進んでいる、線形モデルにおける変数選択問題についてを主に取り上げて研究を遂行した。具体的には、Lasso・Elastic-net・Adaptive Lasso等のスパース推定法(L1正則化推定法)や、種々の多重検定法、さらに近年注目されつつあるリサンプリングを用いたstability selection等、さまざまな方法についての理論的考察と数値的な比較を行い、いくつかの新たな結果を得ることができた。まず、前年度に提案した、時系列モデルにおけるスパース推定法について、他の時系列モデルでの実用性や、高次元での挙動についてを検証し、既存の方法と比較して有用であることを確認できた。また、回帰モデルにおけるスパース推定法における外れ値への頑健性の低さを解決するための新たなモデルを提案し、モデルに含まれるチューニングパラメータの決定法としてブートストラップ法を用いた情報量規準の適用を提案した。さらに、情報量規準の分散を抑える用途でefficient bootstrap法を用いることで、リサンプリングの回数を減らすことができることを示した。なお、最近の研究においてはfalse positive/falsenegativeのみならずtrue positiveにも重きを置いており、こうした観点からの比較などが今後の検討課題である。 | KAKENHI-PROJECT-22700293 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22700293 |
DNA研究のための新手段スラロームクロマトグラフィー | スラロームクロマトグラフィーは本研究者らが発見した、巨大なDNA分子を大きさに従って分離する画期的な手段である。従来のクロマトグラフィーがカラム内での平衡現象に基づいているのとはまったく異なり、充填剤の隙間をDNA分子が移動するときに起こる流体力学的現象に基づいている。今回の研究により、原理面からはきわめて興味深い知見が得られ、今後の応用面での発展に大いに寄与しうる成果が得られた。DNAのサイズ分離に関与する主要な因子は、充填剤の粒径、溶離液の流速および粘度、温度などである。これらはいずれも、充填剤粒子の隙間に生じた流路に形成される層流の勾配の形を決めることになる。従って、層流の中で引き伸ばされたDNA分子の各部分について見ると、長いものほど低流速部分に入り込む部分が増加することになり、遅れが大きくなるとして説明できることが判明した。一方、環状のDNAについては、スーパーコイルでは、半分の分子量の直鎖状のものと同じ程度の遅れを示し、スラロームクロマトグラフィーでの溶出位置を決めるのは、分子の抽象的な大きさではなく、物理的長さそのものであることが証明された。リラックス型、シングルストランド型では独自の流速依存性が見られたことから、DNA分子の動的高次構造などの物理化学的性質を研究する手段としても有望であることが示された。実用上の課題として、分画範囲を可能な限り拡大するために、様々な化学的および物理的な特性を持つカラム充填剤を追求した。そのうちで、スラロームモードと弱い疎水性クロマトグラフィーモードを組合せ、いわゆるミックスモードとすることで、低分子側の分離性能を向上させうることが明らかになった。実用に関しては、cDNAをクローニングに先立って効率的にサイズ分画するのに有効であった。現在企画されているヒトゲノムプロジェクトへ十分に貢献できるものと期待される。スラロームクロマトグラフィーは本研究者らが発見した、巨大なDNA分子を大きさに従って分離する画期的な手段である。従来のクロマトグラフィーがカラム内での平衡現象に基づいているのとはまったく異なり、充填剤の隙間をDNA分子が移動するときに起こる流体力学的現象に基づいている。今回の研究により、原理面からはきわめて興味深い知見が得られ、今後の応用面での発展に大いに寄与しうる成果が得られた。DNAのサイズ分離に関与する主要な因子は、充填剤の粒径、溶離液の流速および粘度、温度などである。これらはいずれも、充填剤粒子の隙間に生じた流路に形成される層流の勾配の形を決めることになる。従って、層流の中で引き伸ばされたDNA分子の各部分について見ると、長いものほど低流速部分に入り込む部分が増加することになり、遅れが大きくなるとして説明できることが判明した。一方、環状のDNAについては、スーパーコイルでは、半分の分子量の直鎖状のものと同じ程度の遅れを示し、スラロームクロマトグラフィーでの溶出位置を決めるのは、分子の抽象的な大きさではなく、物理的長さそのものであることが証明された。リラックス型、シングルストランド型では独自の流速依存性が見られたことから、DNA分子の動的高次構造などの物理化学的性質を研究する手段としても有望であることが示された。実用上の課題として、分画範囲を可能な限り拡大するために、様々な化学的および物理的な特性を持つカラム充填剤を追求した。そのうちで、スラロームモードと弱い疎水性クロマトグラフィーモードを組合せ、いわゆるミックスモードとすることで、低分子側の分離性能を向上させうることが明らかになった。実用に関しては、cDNAをクローニングに先立って効率的にサイズ分画するのに有効であった。現在企画されているヒトゲノムプロジェクトへ十分に貢献できるものと期待される。スラロ-ムクロマトグラフィ-は、本研究者らが発明したDNAを大きさに従って分離する画期的新手法である。まったく新しい原理にもとづいているため、その機構解明には大きな興味が持たれるが、実用の面からも多大な可能性を秘めている。分離機構の解明を目指した実験としては、DNA分子の形の影響を調べるため、これまでの直鎖状DNAに代って環状DNAを用いた。その結果、ス-パ-コイル、リラックス、シングルストランドなど、トポロジ-の異なるものでは、流速依存性がまったく異なり、スラロ-ムクロマトグラフィ-をDNAの高次構造研究の手段としうることがわかった。また環状DNAは流速が十分に大きい時には、同じ分子量の直鎖DNAの半分の長さに相当する位置で溶出することからも、スラロ-ムクロマトグラフィ-が基本的には分子の長さに依存することが再確認された。また理論的にも、これらの実験結果を説明できる十分に単純化したモデルを作ることができた。実用面での本法の現時点での弱点は、分画できる分子量の範囲が限られていることである。これを克服することを目指して、球状以外の充填剤、たとえば珊瑚樹枝状のハイドロキシアパタイトなどを試みたが、さまざまな難点があり今後さらに新しい発想にもとづく充填剤を開発する必要があろう。本法はDNAの大きさの変化を検出できることから、その面での応用への一環として、λ-ファ-ジの付着末端の相互作用を解析することを試み、有効に利用できることを確認した。本研究者らが発明した、DNAを大きさに従って分離するスラロームクロマトグラフィーの原理の解明、性能の向上、応用分野の拡大等を目指して、種々の検討を行った。 | KAKENHI-PROJECT-03559006 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03559006 |
DNA研究のための新手段スラロームクロマトグラフィー | 原理については、長大な分子が層流中でどのように挙動するかを考察することでかなり説明がつくことが明かになり、また分離の程度を決めているのは、充填剤の粒子径、流速、温度、溶媒の粘度であるが、最終的には層流の流速勾配という観点で統一的に説明できる見通しがついた。実験的にも、溶媒について特に詳細に検討し、添加物および温度の影響を解析した結果、これらを粘度に還元できることが明かになった。実用性の向上を目指した検討では、さまざまな特性を持つ吸着体を検討したが、弱い疎水性を持つ吸着体を使うことで、低分子側での分離能を向上させることができた。しかし、この場合には純粋に大きさだけに依存する分離ではなくなり、多少とも塩基組成の影響も現れるので、それに留意する必要がある。DNAに結合する低分子(例、エチジウムブロマイド、DAPIなど)により二重ラセンの長さが変化するとの報告があるので検討したが、これまでのところスラロームクロマトグラフィーで検出できるほどの影響は観察されなかった。しかし、この点は今後も詳細に検討する価値がある。DNAのクローニングにおいては、あらかじめ大きさで分画しておくことが有利だと考えられるので、そのためのモデル実験を行ったところ、有望な結果が得られた。本研究者らが発明した、DNAを大きさに従って分離するクロマトグラフィーをより有効な研究手段となすべく、種々の検討を行なった。最も解決を急がれる課題としては、分画可能なDNAのサイズをできるだけ拡大することと考えられた。そこで昨年度に引き続き、充填剤の粒子径、流速、溶離液の粘度、温度等を詳細に検討した。しかしこれらについて理論的には効果が期待されても、実際上は様々な技術的困難があって、部分的に止まっており、更なる追求が必要である。一方、本来スラロームクロマトグラフィーは充填剤粒子とは相互作用がない状況下で起こる現象であるが、ある程度の相互作用も加味した、いわゆるミックスモードにも効果が期待されたので、弱い疎水性充填剤を検討した。その結果、フェニル基、トリメチル基などを持つ充填剤を使うと、低分子側(5kbp以下)のDNAの分離に改善が見られた。この場合、純粋に大きさのみではなく、塩基組成あるいは配列もある程度分離に影響を与えている徴候があり興味深い。一方、流体力学的効果を期待して、最近入手可能になったパーフュージョンクロマトグラフィー用充填剤も検討したが、現在のところでは有効な結果に至っていない。しかし上記充填剤は非常に興味深い特性を持ち、DNAがどのように挙動するかは極めて興味深いので、今後、更に詳細に検討したい。 | KAKENHI-PROJECT-03559006 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03559006 |
破骨細胞誘導系においてMi転写因子と結合する分子の検索 | mi/mi変異マウスにおいて骨大理石病がみられることが知られている。破骨細胞形成不全によるものといわれており、我々は破骨細胞形成におけるmitfの役割を検討している。正常動物(ddy)の骨髄細胞をビタミンD存在下で培養すると培養した細胞中に多核の破骨細胞様細胞が形成されることが知られており、この系を用いて、まず破骨細胞形成におけるMitfの発現を検討している。mitfの抗体をC端15アミノ酸残基に対して作成した。この部位は、BLASTP、FASTAPで検索した結果mitf以外検出できなかったが、positive controlのB16メラノーマ細胞でも、negative controlのNIH3T3細胞でも核が特異的に染色された。全長のmitfに対する抗体を用いて、同様の実験を行った結果、B16メラノーマ細胞ではpositiveであり、NIH3T3細胞ではnegativeで、ノーザンブロットの結果と一致した結果であった。このことは、mitfのC端15アミノ酸残基に非常によく似た核内蛋白質が存在する可能性を示唆するとともに、全長のmitfに対する抗体はmitfに特異的であることを示している。現在この全長のmitfに対する抗体を用いて、破骨細胞形成におけるmitfの発現を検討している。さらに、Mitfと結合する転写因子をスクリーニングするために、培養骨髄細胞から破骨細胞を形成する系を材料にして、cDNAライブラリーを作成して2-ハイブリッドスクリーニングを行っている。現在のところ転写因子がスクリーニングされていないので、pGBTMiTによって発現する蛋白がMitfとして認識できるかどうか検討している。Mitfが蛋白として発現していない場合、全長のmitfを用いて、Mitfと結合する転写因子をスクリーニングを試みる。破骨細胞においては、mitfのノックアウトマウスでは破骨細胞が正常に形成されるので、Mitfがヘテロダイマーを形成する結合する相手の同定が期待されている。mi/mi変異マウスにおいて骨大理石病がみられることが知られている。破骨細胞形成不全によるものといわれており、我々は破骨細胞形成におけるmitfの役割を検討している。正常動物(ddy)の骨髄細胞をビタミンD存在下で培養すると培養した細胞中に多核の破骨細胞様細胞が形成されることが知られており、この系を用いて、まず破骨細胞形成におけるMitfの発現を検討している。mitfの抗体をC端15アミノ酸残基に対して作成した。この部位は、BLASTP、FASTAPで検索した結果mitf以外検出できなかったが、positive controlのB16メラノーマ細胞でも、negative controlのNIH3T3細胞でも核が特異的に染色された。全長のmitfに対する抗体を用いて、同様の実験を行った結果、B16メラノーマ細胞ではpositiveであり、NIH3T3細胞ではnegativeで、ノーザンブロットの結果と一致した結果であった。このことは、mitfのC端15アミノ酸残基に非常によく似た核内蛋白質が存在する可能性を示唆するとともに、全長のmitfに対する抗体はmitfに特異的であることを示している。現在この全長のmitfに対する抗体を用いて、破骨細胞形成におけるmitfの発現を検討している。さらに、Mitfと結合する転写因子をスクリーニングするために、培養骨髄細胞から破骨細胞を形成する系を材料にして、cDNAライブラリーを作成して2-ハイブリッドスクリーニングを行っている。現在のところ転写因子がスクリーニングされていないので、pGBTMiTによって発現する蛋白がMitfとして認識できるかどうか検討している。Mitfが蛋白として発現していない場合、全長のmitfを用いて、Mitfと結合する転写因子をスクリーニングを試みる。破骨細胞においては、mitfのノックアウトマウスでは破骨細胞が正常に形成されるので、Mitfがヘテロダイマーを形成する結合する相手の同定が期待されている。 | KAKENHI-PROJECT-09771532 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09771532 |
口腔領域における感染症(HSV,HCV,HIV)の唾液中の抗体測定の試み | 単純ヘルペスウイルス(HSV)、C型肝炎(HCV)、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)などの感染症を判定するために唾液からこれら感染症の特異抗体の測定を試みたので経過としてその測定データを示す。「唾液中のHIV抗体の測定」HIVの測定方法はWestern Blot法とELISA法を用い、検体はHIV感染を疑った46検体ですべて唾液と血清のペア採取である。唾液め採取方法は滅菌1%食塩水0.5mlにて分泌刺激して2mlの混合唾液を採取した。HIV陽性検体の血清と唾液のWestern Blot法のパターンで特にGP160、GP110/120、GP41のうち2本以上のバンドが現れたのをHIV陽性と判断した。46検体の測定結果は、血清のWestern Blot法においては46検体中陽性31、陰性15と判定した。この結果を基準にして唾液からELISA法による抗体測定の結果との一致率は100%であった。血清と同じ結果を示したため唾液によるHIVの抗体測定が可能であることが確定した。「唾液中のHSV抗体の測定」測定法は血清中の中和抗体測定法とELISA法、およびこれにアビチン・ビオチン系を応用した改良法を用いて、唾液中のHSV特異抗体の測定を試みた。検体はボランティアからの129検体、医学生と看護学生の193検体である。ボランティアの129検体の血清をNT、ELISA、ABC-ELISA法で測定したところ、各方法と同じ結果を示し、陽性数45、陰性数84検体であった。唾液においては、ELISA、ABC-ELISA法を用いて測定したところ、血清との一致率はELISA法で87.6%であった。感度を上げるためアビチン・ビオチンペルオキシダーゼ法をELISA法に加えたABC-ELISA法を開発した。この結果唾液中のHSV抗体測定の一致率は95.3%となった。医学生と看護学生から採取した193検体についての一致率は95.9%で、血清判定とほぼ一致した。「唾液中のHCV抗体の測定」血清抗体でHCVと判定した35検体と陰性検体3について唾液中の特異抗体をELISA法とABC-ELISA法で測定した結果、ELISA法では一致率は50.0%、ABC-ELISA法では94.7%と血清抗体価のデータに近い状態を示した。単純ヘルペスウイルス(HSV)、C型肝炎(HCV)、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)などの感染症を判定するために唾液からこれら感染症の特異抗体の測定を試みたので経過としてその測定データを示す。「唾液中のHIV抗体の測定」HIVの測定方法はWestern Blot法とELISA法を用い、検体はHIV感染を疑った46検体ですべて唾液と血清のペア採取である。唾液め採取方法は滅菌1%食塩水0.5mlにて分泌刺激して2mlの混合唾液を採取した。HIV陽性検体の血清と唾液のWestern Blot法のパターンで特にGP160、GP110/120、GP41のうち2本以上のバンドが現れたのをHIV陽性と判断した。46検体の測定結果は、血清のWestern Blot法においては46検体中陽性31、陰性15と判定した。この結果を基準にして唾液からELISA法による抗体測定の結果との一致率は100%であった。血清と同じ結果を示したため唾液によるHIVの抗体測定が可能であることが確定した。「唾液中のHSV抗体の測定」測定法は血清中の中和抗体測定法とELISA法、およびこれにアビチン・ビオチン系を応用した改良法を用いて、唾液中のHSV特異抗体の測定を試みた。検体はボランティアからの129検体、医学生と看護学生の193検体である。ボランティアの129検体の血清をNT、ELISA、ABC-ELISA法で測定したところ、各方法と同じ結果を示し、陽性数45、陰性数84検体であった。唾液においては、ELISA、ABC-ELISA法を用いて測定したところ、血清との一致率はELISA法で87.6%であった。感度を上げるためアビチン・ビオチンペルオキシダーゼ法をELISA法に加えたABC-ELISA法を開発した。この結果唾液中のHSV抗体測定の一致率は95.3%となった。医学生と看護学生から採取した193検体についての一致率は95.9%で、血清判定とほぼ一致した。「唾液中のHCV抗体の測定」血清抗体でHCVと判定した35検体と陰性検体3について唾液中の特異抗体をELISA法とABC-ELISA法で測定した結果、ELISA法では一致率は50.0%、ABC-ELISA法では94.7%と血清抗体価のデータに近い状態を示した。口腔領域の患者で,HSV, HCV, HIVの感染者から十分にインフォームドコンセントを行い、唾液と血清を収集し、共同研究者の市川の独自の方法で唾液中よりHIVの抗体測定を行い、またHSV, HCVの市販キットを用いて患者唾液中の抗体と血清中の抗体を測定した。HSV, HCV, HIVの患者より、唾液と血清を収集し、神奈川県立衛生短大公衆衛生で唾液、血清より抗体を測定した。現在のところ、60人のHIV感染者から採取した血清と唾液のペア-について、HIV抗体、HBV抗体、HCV抗体、HSV抗体を測定した。HIV抗体については、市販のELISAキント(GBNELAVIA)を用いた全例が唾液でも抗体陽性であることが確認できた。westem blot | KAKENHI-PROJECT-08672321 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08672321 |
口腔領域における感染症(HSV,HCV,HIV)の唾液中の抗体測定の試み | testでは、唾液の全例にgp160のバンドが確認できた。また、外来受診のたびに再採取した唾液でもHIV抗体は確認でき、日差での抗体確認が異なることは無かった。これらHIV感染者の血清を材料としてHBs抗体、HCV抗体を測定したところ、HBs抗体は28例、HCV抗体陽性は25例であった。現在唾液での抗体検出を試みている。また、HSVに関しても唾液からの抗体測定を行う準備しているが、検体採取を着実に行っている。唾液と血清をできる限り多く集めるように努力している。唾液摂取は93人(98検体)で,その内訳はHBV感染者2人(2検体),HCV感染者30人(35検体),HIT感染者60人(60)検体である。これらの検体を用いて唾液中と血清中の各々のHIV抗体、HBV抗体、HCV抗体、HSV抗体を測定した。唾液検体からはHIV抗体、HBV抗体、HCV抗体、HSV抗体の測定が可能で,血清の抗体測定結果と同じであった.とくにHCV感染者で外来受診のたびに再摂取した唾液でもHCV抗体は確認でき、日差での抗体確認が異なることは無かった。また,HIV抗体の場合は市販のELISAキット(GBNELAVIA)を用いた.全例が唾液でも抗体陽性であることが確認できた。Westem blottestでは、唾液の全例にgp160のバンドが確認できた。また、外来受診のたびに再摂取した唾液でもHIV抗体は確認でき、日差での抗体確認が異なることは無かった。これらHIV感染者の血清を材料としてHBV抗体、HCV抗体を測定したところ、HBV抗体は28例、HCV抗体賜性は25例であった。唾液中の抗体測定と同じ結果を示した。われわれが行っている唾液中の抗体測定の方法は信頼できる方法と思われるが,検体数をできるだけ多く集め唾液中の抗体測定法の信頼性を高めたいと考えている。唾液中のHCV抗体の測定については唾液の採取方法はオラシュアを用いて採取した。オラシュアはエピトップ社製でqCCの保存液と吸収性のパットが滅菌パックに収まっており、口腔内の唾液をぬぐって耳下腺乳頭付近に3分間あてて採取した。血清抗体でHCVと判定した35検体と陰性検体3について唾液中の特異抗体をELISA法とABC-ELISA法で測定して各一致率を得た。ELISA法では一致率は50.0%であったが、ABC-ELISA法では94.7%と血清抗体価のデータに近い状態を示した。ELISA法やABC-ELISA法を用いて、唾液中からHCV抗体の測定を行った結果、唾液中にHCV抗体の存在を認められた。唾液中から血清と同程度の抗体測定結果が得られたので、今後スクーリニング検査や臨床に使用可能と思われた。また、感度を上げるための手技や工夫、改良を試みたいと考えている。唾液による検査は採取が簡単で対象者に苦痛を与えないので、患者の負担を軽減し、採血針などによる針刺し事故の防止に有用な方法である。本研究でえられた結果は他のウイルス性疾患についても応用が可能であると考えられ,この点でも有用な試みと思われ,今後この方面の開発を考えている。 | KAKENHI-PROJECT-08672321 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08672321 |
身体性認知科学に基づいた英語語彙習得促進の手法開発と評価 | 外国語としての英語で書かれた文章の読解において、英単語の語彙力は状況モデルと命題的テキストベース構築のどちらに影響を及ぼすのか検討し、その語彙力を獲得する方法として身体性認知科学がもたらした知見を応用した語彙習得法が他と比べて有用であるかを検討した。2つの実験の結果、英語語彙力は命題的テキストベースの構築に寄与し、また身体性認知科学の知見に基づいた語彙習得法は他の方法に比べて有用であることが判明した。外国語としての英語で書かれた文章の読解において、英単語の語彙力は状況モデルと命題的テキストベース構築のどちらに影響を及ぼすのか検討し、その語彙力を獲得する方法として身体性認知科学がもたらした知見を応用した語彙習得法が他と比べて有用であるかを検討した。2つの実験の結果、英語語彙力は命題的テキストベースの構築に寄与し、また身体性認知科学の知見に基づいた語彙習得法は他の方法に比べて有用であることが判明した。本研究(平成22年24年度)では、知覚運動情報と言語理解の関係を認知心理学的に解明するとともに、そこで得られた知見を応用した実践的・かつ効果的な英語語彙習得の教育手法を開発することを目標とし、申請を行った。これまでの先行研究では、日本語母語話者において、行為文(「棒を握る」など)の意味判断をすると運動表象が活性化し、音韻判断を行うと活性化しないことが示されている。また、英語においても前置詞の意味を視覚的なイメージとして表現することで理解が深まること、文の接続関係を図解として表現することで、文の理解が促進されることなどが明らかになっている。これらの基礎研究の成果を踏まえ、より実際に近い模擬授業を考案し、その効果を検証した。具体的には、英語不定代名詞(other, another, the other)の概念的な説明ののち、学習者自身が棒を用いた行為を行いながら自己の動作を英語で表現することで、不定代名詞の使い分けを体験するという授業を考案し、その効果検証を行った。その結果、行為が不定代名詞の理解を促進する可能性が示されている。ただし、第二言語の理解において、運動表象が関与しているのか、また学習者の能力によって運動表象の関与の仕方に影響があるのか、など基礎的な確認がなされていない。以上の先行研究を踏まえ、平成22年度では知覚運動情報と言語理解との関係を活用した英語教授法の開発に着眼点をおいて研究を行った。知覚運動情報と言語理解との関係を明らかにしただけでは、実際の英語運用場面(読み・聞き)などでは活用語彙として機能する手法の開発とは言えない。そこで知覚運動情報と言語理解との関係を明らかにし、その上でこの手法によって得られた語彙を英語の「読み・聞き」に応用すべくCD-ROM教材の開発を平成22年度に行った。平成23年度は、申請者による先行研究をもとに、行為経験を応用した英語教育手法を試作し、さらにその効果を実際の英語運用場面、特にリーディングにおいて応用可能な教育手法を開発し、この教育手法の効果を検証することを目的として実験を行った。具体的には、英語習得語彙を見た瞬間認識できる「視認語」が活用語彙であると定義し、リーディングにおける活用語彙として定着させるべくCD-ROM教材を開発した。開発したCD-R0Mを用いて語彙を習得する群(実験群:視認語習得群)と、同じ語彙をCD-ROMを用いないで自らのペースで記憶する群(統制群:自己ペース学習群)の2群に分けた。独立変数は単語の記憶方法の違いである。両群の英語能力の均質性を確かめるためにTOEICブリッジテストのリーディングセクションを用いて23名を視認語習得群と自己ペース学習群の2群に分けた。刺激文としてはHaenggi, D., Kintsch, W., & Gernsbacher, M.A.(1995). Spatial situation models and text comprehension. Discourse Processes, 19,173-199.で使用された刺激文の1部を使用した。Haenggiらの研究では、記憶した部屋の構造を頼りに、物語に出てくる人物の動きをどのように読み手は読解しているかを調べたものである。従属変数として文章理解課題を2種類用意した。1つの課題は直後再認課題である。この課題は文章そのものの理解、つまりテキストベースの理解を測るものと位置付けられる。もうl種類の課題は文章をある箇所まで読んだ段階で「いま主人公と一緒にある事物」の正誤を読み手に答えさせるものである。この課題は文章そのものの理解ではなく、文章が描く空間的な状況をどれだけ理解しているか、つまり状況モデルの理解を測るものと位置付けられる。単語の記憶方法の違いによって、テキストベースと状況モデル、両レベルにおける文章理解の程度の差を検証した。日本人学習者が英単語を記憶するときどのような方略をもって記憶しているのだろうか、単語を構成する文字ひとつひとつを描いてスペルを覚える者もいるであろうし、また単語を集合として認識し、その形状を頼りに記憶する者もいると考えられる。またある者は英単語の聴覚的な情報を頼りに記憶している者もいるであろう。英単語の記憶方略によっては、ある英単語を認識し、その意味まで答えられても、発音を出来ない場合や、意味や発音が出来たとしてもスペルを間違えるということも考えられる。ところで、英語のlとrの音素の区別は日本語にはなく、両方ともがはじき音(フラップ音)で発音され、聞き取り、発話に関して日本人英語学習者を悩ませている。 | KAKENHI-PROJECT-22700826 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22700826 |
身体性認知科学に基づいた英語語彙習得促進の手法開発と評価 | しかし、このlとrの区別ができないことは、聴覚情報の聞き取りと発話に限られたことなのであろうか。例えばvocabularyなどの簡単な英単語を1つ考えてみた場合、多くの学習者がlとrの位置を混同する、あるいは両方同じ音素・文字で記すというスペルミスが他の単語よりも多く生起すると想定される。なぜこのようなスペルミスが起こるのであろうか。その原因の1つにlやrなどの音素に対する聴覚的なイメージが日本人は欠如していることが考えられる。それでは逆に、lやrなどの音素を発音できるようになるなど、聴覚的なイメージを持つことができるようになれば、上述したようなlとrを混同するような単語のスペルミスは減らすことができるのであろうか。本研究では、ある特定の音素に関わる聴覚イメージ(発音ができる運動イメージ)の構築(ここではlとrを識別して発音できること)が、表記文字としての正確な単語の記憶(lとrのスペルアウトの正確さ)を補助するのかを検討した。結果として正確な運動イメージを持つことが出来た場合に、正確な書記イメージを構築できることが判明した。ステップ1のCD-ROM教材開発を終えて、ターゲットとなる英単語の意味を3秒以内に選択させる学習プログラムを作成し、また実際に学習者に使用してもらい、ユーザーサーフェイスを確認し終えたから。24年度が最終年度であるため、記入しない。リスニングにおける反応時間を基軸とした語彙習得学習プログラムを作成して、実証実験を行う。ヒトを被験者とした研究計画であるため、謝金の支払いと人員の手配が大変であった。人員の手配には被験者に直接、謝金を支払うことで問題を克服する可能性がある。24年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-22700826 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22700826 |
流通チャネルの選択問題:ケイパビリティ理論と取引費用理論による分析 | 過去25年にわたって,取引費用理論(Williamson,1975,1985,1986,1999)は,製造業者による前方のチャネル選択問題を説明するための有力なアプローチの1つとして知られている。取引費用理論は,取引の状況における機会主義と限定合理性に焦点を当て,資産特殊性と不確実性がチャネル統合度・コントロール度に正の影響を及ぼすと主張する。しかしながら,こうした取引費用分析には,未解決の課題もいくつかある。それらの課題として,例えば,チャネル選択に対する不確実性の影響やチャネル選択における取引費用とケイパビリティの役割などが挙げられる(cf.Rindfleisch and Heide,1997;Rindfleisch et al.,2010)。こうした状況のなかで,現在,ケイパビリティ理論(Langlois 1992,2004,2007;Foss,1993,1996;Langlois and Robertson,1995;Langlois and Foss,1999)が,取引費用理論の不十分な点を補う補完的なアプローチとして台頭している。また,多くの研究者が,取引費用のみならず,企業のケイパビリティが,チャネル選択の意思決定に影響を及ぼすと主張している(cf.Rindfleisch et al.,2010;Teece,2010)。以上を踏まえて,本研究は,取引費用要因とケイパビリティ要因がチャネル統合度およびチャネル・コントロール度に及ぼす影響について,理論的・実証的な検討を試みる。分析の結果,チャネル統合度が取引費用要因とケイパビリティ要因によって影響を及ぼされること,その影響は取引費用要因よりもケイパビリティ要因のほうが大きいこと,およびチャネル・コントロール度が取引費用要因によって影響を及ぼされることが示される。過去25年にわたって,取引費用理論(Williamson,1975,1985,1986,1999)は,製造業者による前方のチャネル選択問題を説明するための有力なアプローチの1つとして知られている。取引費用理論は,取引の状況における機会主義と限定合理性に焦点を当て,資産特殊性と不確実性がチャネル統合度・コントロール度に正の影響を及ぼすと主張する。しかしながら,こうした取引費用分析には,未解決の課題もいくつかある。それらの課題として,例えば,チャネル選択に対する不確実性の影響やチャネル選択における取引費用とケイパビリティの役割などが挙げられる(cf.Rindfleisch and Heide,1997;Rindfleisch et al.,2010)。こうした状況のなかで,現在,ケイパビリティ理論(Langlois 1992,2004,2007;Foss,1993,1996;Langlois and Robertson,1995;Langlois and Foss,1999)が,取引費用理論の不十分な点を補う補完的なアプローチとして台頭している。また,多くの研究者が,取引費用のみならず,企業のケイパビリティが,チャネル選択の意思決定に影響を及ぼすと主張している(cf.Rindfleisch et al.,2010;Teece,2010)。以上を踏まえて,本研究は,取引費用要因とケイパビリティ要因がチャネル統合度およびチャネル・コントロール度に及ぼす影響について,理論的・実証的な検討を試みる。分析の結果,チャネル統合度が取引費用要因とケイパビリティ要因によって影響を及ぼされること,その影響は取引費用要因よりもケイパビリティ要因のほうが大きいこと,およびチャネル・コントロール度が取引費用要因によって影響を及ぼされることが示される。1980年代以降,製造業者が自社製品を販売する際にいかなる流通チャネル形態を用いるかというチャネル選択問題に関して,取引費用理論を用いた分析が行われている。その結果,取引費用理論がチャネル選択問題を検討するうえで有用な理論の1つであること,特に資産特殊性が流通チャネルの統合やコントロールを説明するうえで重要な要因であることが明らかにされている。他方で,この分析には,いくつかの問題点もある。それらの問題点として,例えば,その分析において,生産の状況(例えば,生産・流通活動が実際に遂行される場合)や動的な状況(例えば,企業家的活動によって革新的な製品や生産・流通方法が創造される場合)における諸要因が軽視される傾向があることが挙げられる。こうしたなかで,現在,それらの問題点を補う理論として,ケイパビリティ理論と呼ばれる新しい理論が発展している。それは,取引費用理論が軽視する傾向がある生産の状況や動的な状況における諸要因に注目して,取引形態の選択問題や企業の境界問題を説明する理論である。こうした状況を踏まえ,筆者は,チャネル選択問題をケイパビリティ理論と取引費用理論の観点から理論的かつ実証的に分析するという大きな枠組みのもと,研究を行っているが,本年度は主に次のことを行った。1.「海外流通チャネルの選択問題:ケイパビリティ理論と取引費用理論による分析」という研究を2009年7月にAMS主催の国際学会で発表した。2.「取引費用要因とケイパビリティ要因がチャネル統合度に及ぼす影響」という研究を行った。この研究では,チャネル統合の説明要因として,取引費用要因とケイパビリティ要因のどちらがより重要であるかという問題を理論的かつ実証的に検討している。この研究成果については,2010年2月に日本商業学会の関東部会で報告を行った。また,今後,2010年5月に同学会の全国大会で報告を行った後,論文として公表する予定である。企業の境界問題や取引形態の選択問題を検討する理論として,取引費用理論がよく知られているが,その不十分な点を補うものとして,1990年代以降,ケイパビリティ理論と呼ばれる新しい理論が台頭している。 | KAKENHI-PROJECT-21730342 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21730342 |
流通チャネルの選択問題:ケイパビリティ理論と取引費用理論による分析 | 取引費用理論とケイパビリティ理論は,同様の現象を異なる理論的な概念を用いて説明するために,競合する理論として解釈される可能性もあるが,近年,多くの研究者によって,それらは補完的な関係にあり,総合化される必要があることが指摘されている。こうした状況で,筆者は現在,その2つの理論の総合化を,チャネル選択問題を扱う中で試みている。平成22年度においては,(1)取引費用要因とケイパビリティ要因がチャネル統合度に及ぼす影響と,(2)市場の異質性がチャネル選択に及ぼす影響について研究を行った。(1)では,その2つの理論それぞれの主要仮説を卸売チャネルの統合問題において,構造方程式モデルと階層的回帰分析を用いて経験的にテストした。その結果,人的卸売資産の特殊性と物的卸売資産の特殊性という取引費用要因と,製品知識の技術的複雑性,生産・卸売活動間の相互依存性,卸売市場の厚みというケイパビリティ要因が,卸売チャネルの統合度に有意な影響を及ぼすことが示された。(2)では,その2つの理論を用いたチャネル選択仮説のうち,特に重要なものを取り上げた上で,それらの仮説を国内市場における卸売チャネル選択と海外市場における卸売チャネル選択という2つの状況に適用して,多母集団同時分析を行った。その結果,製品知識の技術的複雑性,生産・卸売活動間の相互依存性,卸売市場の厚みが卸売チャネルの統合度に,人的卸売資産の特殊性と物的卸売資産の特殊性が卸売チャネルの閉鎖度にそれぞれ有意な影響を及ぼすことが,国内市場と海外市場の双方で確認された。また,人的資産の特殊性のチャネル閉鎖度への影響力が国内市場で特に大きくなることが示された。 | KAKENHI-PROJECT-21730342 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21730342 |
生涯スポーツ施策に伴う高齢者の健康・スポーツ生活と体力の変容に関する研究 | 本研究では,小地域(一県)を対象として,生涯スポーツ推進関連事業を展開している市町村に在住の高齢者を対象に,安全で,巧みな全身運動に関与する運動能力の構造,および健康・体力づくりを志向した生活様式や生活行動の実態を統計調査によって明かにすることを通して,生涯スポーツ推進事業の実施に伴う健康生活の変容過程と,健康,体力・運動能力への影響について検討することを目的とした。平成8年度から9年度にかけて,県が主催する生涯学習プログラムに参加している高齢者を対象とした体力・運動能力測定および健康・スポーツ生活調査を継続して実施し,成果をまとめた。調査対象:生涯学習および生涯スポーツプログラムに参加している某県内在住の60歳以上の男女。調査時期:平成8年11月まで.調査期日は,市町村やクラブ団体の年間行事計画に対応させた。調査内容1)体力・運動能力テスト(高齢者用):身長,体重,長座位体前屈,垂直式脚筋力,握力,起き上がり,立幅跳び,垂直跳び,反復横跳び,ラダーステッピング,10m障害物歩行。2)健康・スポーツ生活調査:生活環境状況,運動・スポーツ実施状況(スポーツクラブ参加状況を含む),生活時間構造(睡眠,食生活,余暇生活など),生活様式,生活行動(保健行動,体力維持増進行動),運動・スポーツ欲求,健康体力欲求,不定愁訴,生活満足度,など。測定方法:体力・運動能力のパフォーマンステストは体育館等を使用した。調査方法:健康生活調査は,集合調査法による質問紙調査を実施した。調査系統:某県の生涯学習課の協力を得て測定,調査を実施した。統計的分析:・生涯スポーツを志向したスポーツライフを規定する生活様式要因および生活行動要因を検討した。・高齢者の健康体力づくりを志向した生活様式および生活行動を統計的に認識した。・高齢者の安全で巧みな全身運動に関与する運動動作制御能力の構造を検討した。本研究では,小地域(一県)を対象として,生涯スポーツ推進関連事業を展開している市町村に在住の高齢者を対象に,安全で,巧みな全身運動に関与する運動能力の構造,および健康・体力づくりを志向した生活様式や生活行動の実態を統計調査によって明かにすることを通して,生涯スポーツ推進事業の実施に伴う健康生活の変容過程と,健康,体力・運動能力への影響について検討することを目的とした。平成8年度から9年度にかけて,県が主催する生涯学習プログラムに参加している高齢者を対象とした体力・運動能力測定および健康・スポーツ生活調査を継続して実施し,成果をまとめた。調査対象:生涯学習および生涯スポーツプログラムに参加している某県内在住の60歳以上の男女。調査時期:平成8年11月まで.調査期日は,市町村やクラブ団体の年間行事計画に対応させた。調査内容1)体力・運動能力テスト(高齢者用):身長,体重,長座位体前屈,垂直式脚筋力,握力,起き上がり,立幅跳び,垂直跳び,反復横跳び,ラダーステッピング,10m障害物歩行。2)健康・スポーツ生活調査:生活環境状況,運動・スポーツ実施状況(スポーツクラブ参加状況を含む),生活時間構造(睡眠,食生活,余暇生活など),生活様式,生活行動(保健行動,体力維持増進行動),運動・スポーツ欲求,健康体力欲求,不定愁訴,生活満足度,など。測定方法:体力・運動能力のパフォーマンステストは体育館等を使用した。調査方法:健康生活調査は,集合調査法による質問紙調査を実施した。調査系統:某県の生涯学習課の協力を得て測定,調査を実施した。統計的分析:・生涯スポーツを志向したスポーツライフを規定する生活様式要因および生活行動要因を検討した。・高齢者の健康体力づくりを志向した生活様式および生活行動を統計的に認識した。・高齢者の安全で巧みな全身運動に関与する運動動作制御能力の構造を検討した。本研究では,小地域(一県)を対象として,生涯スポーツ推進関連事業を展開している市町村に在住の高齢者を対象に,健康・体力づくりを志向した生活様式や生活行動および体力・運動能力の実態を統計調査によって明かにすることを通して、生涯スポーツ推進事業の実施に伴う健康生活の変容過程と,健康,体力・運動能力への影響について検討することを目的とした。本年度は,高齢者を対象として,体力・運動能力および健康・スポーツ生活の統計的調査を実施した。調査対象:生涯学習および生涯スポーツプログラムに参加している某県内在住の60歳以上の男女計約1,000名。調査時期:平成7年8月平成8年1月。調査期日は,市町村やクラブ団体の年間行事計画に対応させたため,標本の一部については平成8年度に実施することとなった。調査内容1)体力・運動能力テスト(高齢者用):身長,体重,長座位体前屈,垂直式脚筋力,握力,12分間歩行。起き上がり,連続その場跳び,立幅跳び,垂直跳び,反復横跳びと,これらの運動動作。約100名の標本についてパフォーマンステストを実施した。2)健康・スポーツ生活調査:生活環境状況,運動・スポーツ実施状況(スポーツクラブ参加状況を含む),生活時間構造(睡眠,食生活,余暇生活など),生活様式,生活行動(保健行動,体力維持増進行動),運動・スポーツ欲求,健康体力欲求,不定愁訴など。約1,000名の標本について質問紙調査を実施した。測定方法:体力・運動能力のパフォーマンステストは体育館等を使用した。運動動作はHi-8VTRで撮影した。調査方法:健康生活調査は,集合調査法による質問紙調査。調査系統:某県生涯学習課の協力を得て調査を実施することができた。 | KAKENHI-PROJECT-07680094 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07680094 |
生涯スポーツ施策に伴う高齢者の健康・スポーツ生活と体力の変容に関する研究 | 本研究では,小地域(一県)を対象として,生涯スポーツ推進関連事業を展開している市町村に在住の高齢者を対象に,健康・体力づくりを志向した生活様式や生活行動および体力・運動能力の実態を統計調査によって明らかにすることを通して,生涯スポーツ推進事業の実施に伴う健康生活の変容過程と,健康,体力・運動能力への影響について検討することを目的とした。本年度は、高齢者を対象とした体力・運動能力および健康・スポーツ生活の統計的調査を継続して実施し、成果をまとめた。調査対象:生涯学習および生涯スポーツプログラムに参加している某県内在住の60歳以上の男女。調査時期:平成8年11月まで。調査期日は、市町村やクラブ団体の年間行事計画に対応させた。調査内容:1)体力・運動能力テスト(高齢者用):身長,体重,長座位体前屈,垂直式脚筋力,握力,起き上がり,立幅跳び,垂直跳び,反復横跳び,ラダーステッピング,10cm障害物歩行。2)健康・スポーツ生活調査:生活環境状況,運動・スポーツ実施状況(スポーツクラブ参加状況を含む),生活時間構造(睡眠,食生活,余暇生活など),生活様式,生活行動(保健行動,体力維持増進行動),運動・スポーツ欲求,健康体力欲求,不定愁訴など。測定方法:体力・運動能力のパフォーマンステストは体育館等を使用した。調査方法:健康生活調査は、集合調査法による質問調査を実施した。調査系統:某県の生涯学習課の協力を得て測定,調査を実施した。統計的分析・生涯スポーツを志向したスポーツライフを規程する生活様式および生活行動要因を検討する。・健康体力づくりのための生活様式および生活行動要因と体力との相互依存関係を検討する。・高齢者における健康・スポーツ生活の変容と体力・運動能力との相関性を検討する。 | KAKENHI-PROJECT-07680094 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07680094 |
星間拡散光に基づく星間塵の研究 | 平成7年3月18日にHII3号機で打ち上げられた衛星SFUに搭載されたわが国初の冷却赤外線衛星IRTSにより全天の7%の領域に対して、赤外線観測を行った。われわれのグループはこの中で、低分散の中間赤外分光器(MIRS)により中間赤外域のスペクトル観測を行い、黄道光放射・銀河系の拡散光成分について初めてスペクトルを得ることに成功した。本研究ではまずこのIRTS/MIRS観測の準備として、打ち上げ前からソフトウェアの開発を行い、観測後ただちに観測データの解析を進めた。このIRTS観測データの解析から、銀画面の周りに赤外域未同定バンドと呼ばれる6.2,7.7,8.6,11.3ミクロンに見られる炭化水素物質に特徴的なバンドが存在することを始めてスペクトルデータから明らかにした。これより、星間空間中に、このようなバンドを放射する物質が不偏的に存在することを示し、星間塵のモデルの観測的検証を行った。同時にCOBEのデータの解析を行い、このような放射が星間放射強度とほぼ比例することを明らかにし、紫外光により一時的に高温となるきわめて小さい星間塵によるものとする仮設を裏付ける結果を得た。これと平行して、偏光を測定することにより、拡散光からこの成分を抽出することができることも示した。以上のように、拡散光中のバンドの存在を確認し、これまでの星間塵モデルの観測的検証・及物理的性質の研究の手段を確率するという本研究の目的を達成した。今後はIRTSのデータの詳細な解析を行い、さらに星間塵の性質を解明していく計画である。平成7年3月18日にHII3号機で打ち上げられた衛星SFUに搭載されたわが国初の冷却赤外線衛星IRTSにより全天の7%の領域に対して、赤外線観測を行った。われわれのグループはこの中で、低分散の中間赤外分光器(MIRS)により中間赤外域のスペクトル観測を行い、黄道光放射・銀河系の拡散光成分について初めてスペクトルを得ることに成功した。本研究ではまずこのIRTS/MIRS観測の準備として、打ち上げ前からソフトウェアの開発を行い、観測後ただちに観測データの解析を進めた。このIRTS観測データの解析から、銀画面の周りに赤外域未同定バンドと呼ばれる6.2,7.7,8.6,11.3ミクロンに見られる炭化水素物質に特徴的なバンドが存在することを始めてスペクトルデータから明らかにした。これより、星間空間中に、このようなバンドを放射する物質が不偏的に存在することを示し、星間塵のモデルの観測的検証を行った。同時にCOBEのデータの解析を行い、このような放射が星間放射強度とほぼ比例することを明らかにし、紫外光により一時的に高温となるきわめて小さい星間塵によるものとする仮設を裏付ける結果を得た。これと平行して、偏光を測定することにより、拡散光からこの成分を抽出することができることも示した。以上のように、拡散光中のバンドの存在を確認し、これまでの星間塵モデルの観測的検証・及物理的性質の研究の手段を確率するという本研究の目的を達成した。今後はIRTSのデータの詳細な解析を行い、さらに星間塵の性質を解明していく計画である。本年度はCOBEの銀河面のデータの解析を行った。この結果、60ミクロンにも通常の星間塵だけからでは説明できない超過が銀河背景輻射に存在することが観測的に明らかになった。さらに、この超過と200ミクロンまでのデータから求めた星間塵の温度との関係を調べ、これまでのモデルでは単純に説明できない機構が関与していることが示唆された。今後この説明の検討を進める予定である。また、本年度にCOBEの全天のデータが公表され入手した。現在このデータについても同様の解析を進めている。本年度は、この赤外の超過現象を解明する手段として、偏光を用いる方法を検討し、提案した。これは、非等方性のある輻射場の中に非球状ダストが存在すると、特に観測で超過がみられている短い波長帯で偏光が増加することを示したもので、この性質を利用して、超過成分の性質を調べるものである。この偏光観測はISOの公募観測でも認められ、現在詳しいモデル計算を進めている。さらに、本年度はIRTS観測の準備を行い、IRAS及びCOBEのこれまでのデータ解析の結果を有効に利用し、観測計画、データ解析等のソフトの開発をほぼ完了した。本年度はIRTSの観測が実施され、搭載された中間赤外分光器(MIRS)により全天のほぼ7%の4.6-12ミクロンの拡散光の分光観測に成功した。感度の絶対較正・変化の補正を行ない、観測データの評価を行なった。若干当初の予想より感度の劣化が認められたものの、ほぼ予定の観測が行なわれたことを確認した。さらにIRTS/MIRSのデータ処理のソフトウェアの開発を行なった。本年度は、これらの作業から、銀河面に、炭化水素系の物質から放射されていると考えれている中間赤外の赤外未同定バンドの存在を、世界で初めて明らかにした。また、知られていなかったいくつかの電離領域で、このような赤外バンドが放射されていることも示すことができた。このように星間空間中での炭化水素系の物質の存在が普遍的であることを観測的に証明することができ、当初計画した拡散光の解析をほぼ完了した。 | KAKENHI-PROJECT-06640347 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06640347 |
痴呆性高齢者の構築環境要素に関する研究 | 平成15年度は14年度の調査結果を踏まえたうえで、調査を「住宅がもつ環境要素」に焦点をあて、さらに3ホームを対象として選択し、行動観察を中心としたフィールド調査を行った。改修型を含めたグループホームにおける共用空間のあり方及び「住宅がもつ力」について明らかになったことを以下に記す。1.改修型グループホームと新築型グループホームにおける入居者とスタッフの生活展開についての考察より、改修と新築に関わらず、多様な空間要素をいかに設けるよりこれらの要素をどう配置するかによる空間構成が入居者の空間利用に決定的な影響を与えていることが明らかになった。グループホームにおける生活展開の相違をもたらす要因は空間要素ではないことが確認され、グループホームの空間環境を議論する際、「新築」と「改修」というタイプ別の視点は適切ではないと思われる。2.既存建物活用型のグループホームに展開される生活は、建物が持つ空間形態、つまりは持っていた機能によって異なることが明らかになった。「家」の要素を備える民家は、自然に痴呆性高齢者の生活の場になり得るのに対して、他の種別の建物の中にはGHへの転用において限界があり、避けたいものであると思われる。やむ得ない事情で転用される際は「家」としての機能を十分に配慮し、入居者の生活をシミュレーションしながらの計画が求められる。3.共用空間が生活の中心であるグループホームにおける具体的な空間的あり方について共用空間、特にスタッフが長時間滞在する台所の位置と入居者の滞在拠点との連続性(直接的・視覚的)が求められる。空間的仕掛けも含めて、入居者とスタッフの生活動線上に設けることを配慮し、配置関係を十分に吟味すべきである。4.民家利用型のグループホームがもっている力について、伝統的な民家の空間要素がグループホームに導入した際、必ずしも民家利用グループホームと同様な生活が流れるとは限らないことが明らかになった。民家に潜む力は空間的要素のみでは語りきることができず、むしろそこに住む人(入居者・スタッフ)に心理的影響を与えている力が物語っているではないであろう。つまり、民家の空間構成は「暮らしの場」としての基本的なベースがしっかり出来ている一方、他人同士が集まって暮らすグループホームとしては様々な面においては不足している。これらの空間的要件の不備が入居者とスタッフに「自ら我が家を作り上げる」機会を与えていることで一体感と愛着が生まれ、家族的な生活が築き上げられるようなったといえる。平成14年度は既存資源の利用の視点から、「改修型」の施設に着目して「改修型のグループホーム」と「改修型の大規模高齢者施設」を中心に調査を実施した。現段階において得られた研究結果を下記にまとめる。1.既存建物をグループホームとして利用している3ホームにおいて調査を実施し、それぞれの空間的特徴とスタッフ・入居者の生活構成の関わりを明らかにした。○民家利用型のホームでは家がもつ物理的環境要素と家の地域性に着目して、「家」の中で展開された「ホーム」の生活の考察を通して、「住宅力」の本質を考えた。○遊児園利用型のグループホームでの調査を通して、既存建物をグループホームとして利用する場合、もっとも配慮すべき点はスタッフの動線・滞在拠点と入居者の動線・滞在拠点の関係性であることが分かった。両者の位置関係においては、スタッフの滞在拠点がつねにさり気なく入居者の様子を見守ることができる位置にあることが望ましい。○温泉旅館利用型のグループホームへの調査を通して、既存建物がもつ機能によっては、「生活の場」としてのグループホームを作り上げていくことには限界があることが分かった。既存建物をグループホームとして利用する場合、空間や介護の工夫によっては、入居者の生活を支える環境構築の可能性が示された一方、既存建物がもつ機能によっては「家」として感じさせ、「暮らしの場」として生活を営むには限界があると思われる。一方、民家利用型のグループホームの建物は「家」そのものであり、自然にそこで生活が流れていくことも明らかになった。地域にある住宅をどのようにグループホームとして生かすかは、普及期のグループ・ホームが臨む課題である。2.大規模高齢者施設についての調査は、ユニットケアが導入された特別養護老人ホームと介護単位の小規模化を導入した従来型の老人保健施設で実施された。小規模介護・生活単位が導入されたもとでの入居者の生活展開が明らかにされ、改修型の大規模施設の空間的あり方についてもいくつかの知見を得ることがでさた。平成15年度は14年度の調査結果を踏まえたうえで、調査を「住宅がもつ環境要素」に焦点をあて、さらに3ホームを対象として選択し、行動観察を中心としたフィールド調査を行った。改修型を含めたグループホームにおける共用空間のあり方及び「住宅がもつ力」について明らかになったことを以下に記す。1.改修型グループホームと新築型グループホームにおける入居者とスタッフの生活展開についての考察より、改修と新築に関わらず、多様な空間要素をいかに設けるよりこれらの要素をどう配置するかによる空間構成が入居者の空間利用に決定的な影響を与えていることが明らかになった。グループホームにおける生活展開の相違をもたらす要因は空間要素ではないことが確認され、グループホームの空間環境を議論する際、「新築」と「改修」というタイプ別の視点は適切ではないと思われる。2.既存建物活用型のグループホームに展開される生活は、建物が持つ空間形態、つまりは持っていた機能によって異なることが明らかになった。「家」の要素を備える民家は、自然に痴呆性高齢者の生活の場になり得るのに対して、他の種別の建物の中にはGHへの転用において限界があり、避けたいものであると思われる。 | KAKENHI-PROJECT-02F00022 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02F00022 |
痴呆性高齢者の構築環境要素に関する研究 | やむ得ない事情で転用される際は「家」としての機能を十分に配慮し、入居者の生活をシミュレーションしながらの計画が求められる。3.共用空間が生活の中心であるグループホームにおける具体的な空間的あり方について共用空間、特にスタッフが長時間滞在する台所の位置と入居者の滞在拠点との連続性(直接的・視覚的)が求められる。空間的仕掛けも含めて、入居者とスタッフの生活動線上に設けることを配慮し、配置関係を十分に吟味すべきである。4.民家利用型のグループホームがもっている力について、伝統的な民家の空間要素がグループホームに導入した際、必ずしも民家利用グループホームと同様な生活が流れるとは限らないことが明らかになった。民家に潜む力は空間的要素のみでは語りきることができず、むしろそこに住む人(入居者・スタッフ)に心理的影響を与えている力が物語っているではないであろう。つまり、民家の空間構成は「暮らしの場」としての基本的なベースがしっかり出来ている一方、他人同士が集まって暮らすグループホームとしては様々な面においては不足している。これらの空間的要件の不備が入居者とスタッフに「自ら我が家を作り上げる」機会を与えていることで一体感と愛着が生まれ、家族的な生活が築き上げられるようなったといえる。 | KAKENHI-PROJECT-02F00022 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02F00022 |
ヒトiPS細胞を用いた画期的人工発癌モデルの開発 | これまで申請者らは肝細胞癌のゲノム変異プロファイルを次世代シークエンサーを用いて網羅的に解析し、肝発癌リスク因子とともに病因・予後との関連を解明してきた(Hepatology 2010, 2013, 2014, J Gastroenterol 2016)。本研究では、ヒトiPS細胞由来肝細胞系譜に最新ゲノム情報に基づく遺伝子改変を順次加えることで人工的肝発癌モデルを開発し、肝発癌機序の詳細を解明することを目的としている。これまで、ヒトiPS細胞から肝細胞系譜への分化誘導法を改良し、肝幹細胞マーカーでFACS分離を繰り返すことで、未分化細胞の混入のないヒトiPS細胞由来肝幹・前駆細胞の純化・培養法を確立した。また発生過程を模倣する分化誘導法を開発し、ヒトiPS細胞から中胚葉系細胞、さらには肝星細胞様細胞への分化誘導法を開発し、得られた細胞は脂肪滴を含有するなど肝星細胞としての形質を有していた。このヒトiPS細胞由来星細胞様細胞と肝細胞系譜細胞との共培養系を構築し、肝細胞系譜細胞のさらなる成熟化と、それには星細胞におけるラミニン等の遺伝子発現プロファイルの変化が関与することが示唆された。これと並行して、次世代シークエンサーを用いて肝腫瘍のゲノム変異およびウイルスゲノムの宿主ゲノムへのintegrationを網羅的に解析し、発癌過程に重要なゲノム異常とHBV-宿主キメラDNAを探索した。この情報をもとに、ヒトiPS細胞にHBV遺伝子挿入を加えるためのベクターの構築を進め、人工発癌モデル作成に必要な遺伝子候補における遺伝子改変を推進している。人工発癌モデル作成に関わる解析可能なヒトiPS細胞由来肝細胞系譜を樹立する必要があったため、これまでの分化・培養法の改良を行い、間葉系細胞への分化誘導法を確立した。これらの共培養系を構築することにより、より生体に近い培養モデルにおける解析が可能となった。また、臨床検体における遺伝子情報を基盤として、ヒトiPS細胞における改変遺伝子および導入遺伝子を進めた。肝癌組織における網羅的ゲノム解析の結果、HBV-ヒトキメラ遺伝子情報が明らかとなってきたため、ヒトーウイルス遺伝子のbreak pointにHBV遺伝子を挿入した遺伝子改変iPS細胞を樹立することで、HBVintegration発癌モデルを構築し、腫瘍性に関わる表現型および幹細胞機能に与える影響を解析し、非HBV起因性肝癌と本質的に病態を異にするHBV肝癌に特異的な発癌メカニズムの詳細を明らかとする予定である。これまで申請者らは肝細胞癌のゲノム変異プロファイルを次世代シークエンサーを用いて網羅的に解析し、肝発癌リスク因子とともに病因・予後との関連を解明してきた(Hepatology 2010, 2013, 2014, J Gastroenterol 2016)。本研究では、ヒトiPS細胞由来肝細胞系譜に最新ゲノム情報に基づく遺伝子改変を順次加えることで人工的肝発癌モデルを開発し、肝発癌機序の詳細を解明することを目的としている。本年度は、ヒトiPS細胞から肝細胞系譜への分化誘導を改良し、肝幹細胞マーカーでFACS分離を繰り返すことで、未分化細胞の混入のないヒトiPS細胞由来肝幹・前駆細胞の純化・培養法を確立した。さらにヒトiPS細胞から間葉系細胞への分化誘導法を開発し、これにより得られたヒトiPS細胞由来星細胞様細胞と共培養することでさらに成熟した肝細胞様細胞を得ることが可能となった。これと並行して、次世代シークエンサーを用いて肝腫瘍のゲノム変異およびウイルスゲノムの宿主ゲノムへのintegrationを網羅的に解析し、発癌過程に重要なゲノム異常とHBV-宿主キメラDNAを探索した。特に、HBV起因性肝癌におけるHBV遺伝子の宿主ゲノムへのintegrationはhTERT変異とは相互排他的にhTERT近傍に多く、ウイルス側ではHBx遺伝子のintegrationが多かったが、これ以外にも特定の宿主遺伝子領域への挿入を認めた。これらの情報に基づき人工発癌モデル作成に必要な遺伝子候補を選定し、遺伝子改変を試みた。人工発癌モデル作成に関わる解析可能なヒトiPS細胞由来肝細胞系譜を樹立する必要があったため、これまでの分化・培養法の改良を行った。また、ヒトiPS細胞における改変遺伝子および導入遺伝子を同定するために、肝癌組織におけるゲノム情報を網羅的に解析した。これまで申請者らは肝細胞癌のゲノム変異プロファイルを次世代シークエンサーを用いて網羅的に解析し、肝発癌リスク因子とともに病因・予後との関連を解明してきた(Hepatology 2010, 2013, 2014, J Gastroenterol 2016)。本研究では、ヒトiPS細胞由来肝細胞系譜に最新ゲノム情報に基づく遺伝子改変を順次加えることで人工的肝発癌モデルを開発し、肝発癌機序の詳細を解明することを目的としている。これまで、ヒトiPS細胞から肝細胞系譜への分化誘導法を改良し、肝幹細胞マーカーでFACS分離を繰り返すことで、未分化細胞の混入のないヒトiPS細胞由来肝幹・前駆細胞の純化・培養法を確立した。また発生過程を模倣する分化誘導法を開発し、ヒトiPS細胞から中胚葉系細胞、さらには肝星細胞様細胞への分化誘導法を開発し、得られた細胞は脂肪滴を含有するなど肝星細胞としての形質を有していた。このヒトiPS細胞由来星細胞様細胞と肝細胞系譜細胞との共培養系を構築し、肝細胞系譜細胞のさらなる成熟化と、それには星細胞におけるラミニン等の遺伝子発現プロファイルの変化が関与することが示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-17K19647 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K19647 |
ヒトiPS細胞を用いた画期的人工発癌モデルの開発 | これと並行して、次世代シークエンサーを用いて肝腫瘍のゲノム変異およびウイルスゲノムの宿主ゲノムへのintegrationを網羅的に解析し、発癌過程に重要なゲノム異常とHBV-宿主キメラDNAを探索した。この情報をもとに、ヒトiPS細胞にHBV遺伝子挿入を加えるためのベクターの構築を進め、人工発癌モデル作成に必要な遺伝子候補における遺伝子改変を推進している。人工発癌モデル作成に関わる解析可能なヒトiPS細胞由来肝細胞系譜を樹立する必要があったため、これまでの分化・培養法の改良を行い、間葉系細胞への分化誘導法を確立した。これらの共培養系を構築することにより、より生体に近い培養モデルにおける解析が可能となった。また、臨床検体における遺伝子情報を基盤として、ヒトiPS細胞における改変遺伝子および導入遺伝子を進めた。肝癌組織における網羅的ゲノム解析の結果、HBV起因性肝細胞癌は、C型肝癌やNBNC肝癌とはそのプロファイルが大きく異なることが明らかとなったため、今後この点にも着目し、臨床サンプルから同定されたHBV-ヒトキメラ遺伝子のbreak pointにHBV遺伝子を挿入した遺伝子改変iPS細胞を樹立することで、HBVintegration発癌モデルを構築し、腫瘍性に関わる表現型および幹細胞機能に与える影響を解析し、非HBV起因性肝癌と本質的に病態を異にするHBV肝癌に特異的な発癌メカニズムの詳細を明らかとする予定である。肝癌組織における網羅的ゲノム解析の結果、HBV-ヒトキメラ遺伝子情報が明らかとなってきたため、ヒトーウイルス遺伝子のbreak pointにHBV遺伝子を挿入した遺伝子改変iPS細胞を樹立することで、HBVintegration発癌モデルを構築し、腫瘍性に関わる表現型および幹細胞機能に与える影響を解析し、非HBV起因性肝癌と本質的に病態を異にするHBV肝癌に特異的な発癌メカニズムの詳細を明らかとする予定である。理由:試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。使用計画:検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。理由:試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。使用計画:検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。 | KAKENHI-PROJECT-17K19647 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K19647 |
炎症の場における骨改造の分子機構:アジュバント関節炎ラットをモデルとして | アジュバント関節炎(AA)は慢性リュウマチ関節炎の実験モデルであるが、その距腿関節では滑膜組織への単核細胞の侵入、パンヌスの形成、関節軟骨の破壊、骨の吸収、骨棘の形成などが特徴とされる。本研究の目的はAAラット炎症組織での骨吸収と骨形成の分子機構を明らかにすることである。解析の結果得られた以下の所見は、専門誌上で既に公表し、一部は現在印刷中である。1)知覚神経は滑膜組織の炎症を緩解させる。また、知覚神経と大食細胞は骨棘の形成にも関与すると思われる。知覚神経は炎症の経過を左右することで骨棘の形成に関わる可能性が強いと思われる。なお、骨芽細胞への知覚神経の直接作用も否定できない(Wuら、2002)。2)アジュバント投与によって新たに伸長増殖してくる知覚神経の終末から放出されるCGRPが、Th1/Th2バランスの調節を介して滑膜の炎症の緩解に関与していると思われる。このことはAAラットにおいて炎症の初期にTh1サイトカインが増加し、炎症後期ではTh1サイトカインが増加するという最近の報告と符合する。準々の所見は知覚神経の抗炎症作用を強く示唆する(Wuら、2004)。3)AAラットにおいてMIP-1αは破骨細胞形成を促進するとともに脛骨遠位端への破骨細胞前駆細胞の移動に関わっていると思われる。遠位端ではMIP-1αの作用で破骨細胞様細胞の集塊からRANKLが発現され、その結果、移動してきた破骨細胞前駆細胞は効率的に破骨細胞へと分化すると思われる。破骨細胞の形成にみられるこの正のフィードバックによってAAラットに特徴的な破骨細胞の著しい形成が可能になると考えられる(Tohら,in press)。アジュバント関節炎(AA)は慢性リュウマチ関節炎の実験モデルであるが、その距腿関節では滑膜組織への単核細胞の侵入、パンヌスの形成、関節軟骨の破壊、骨の吸収、骨棘の形成などが特徴とされる。本研究の目的はAAラット炎症組織での骨吸収と骨形成の分子機構を明らかにすることである。解析の結果得られた以下の所見は、専門誌上で既に公表し、一部は現在印刷中である。1)知覚神経は滑膜組織の炎症を緩解させる。また、知覚神経と大食細胞は骨棘の形成にも関与すると思われる。知覚神経は炎症の経過を左右することで骨棘の形成に関わる可能性が強いと思われる。なお、骨芽細胞への知覚神経の直接作用も否定できない(Wuら、2002)。2)アジュバント投与によって新たに伸長増殖してくる知覚神経の終末から放出されるCGRPが、Th1/Th2バランスの調節を介して滑膜の炎症の緩解に関与していると思われる。このことはAAラットにおいて炎症の初期にTh1サイトカインが増加し、炎症後期ではTh1サイトカインが増加するという最近の報告と符合する。準々の所見は知覚神経の抗炎症作用を強く示唆する(Wuら、2004)。3)AAラットにおいてMIP-1αは破骨細胞形成を促進するとともに脛骨遠位端への破骨細胞前駆細胞の移動に関わっていると思われる。遠位端ではMIP-1αの作用で破骨細胞様細胞の集塊からRANKLが発現され、その結果、移動してきた破骨細胞前駆細胞は効率的に破骨細胞へと分化すると思われる。破骨細胞の形成にみられるこの正のフィードバックによってAAラットに特徴的な破骨細胞の著しい形成が可能になると考えられる(Tohら,in press)。アジュバント関節炎ラットの距腿関節における骨棘形成メカニズムを解明する目的で、坐骨神経を切除したアジュバント関節炎ラットと疑似手術を施したアジュバント関節炎ラット(以後対象ラットと称する)の関節滑膜組織中の末梢神経と炎症性細胞の分布を検索した。解析には神経成長因子の受容体(p75NGFR)、増殖中の神経線維のマーカー(GAP-43)、知覚神経のマーカー(CGRP)、ヘルパーT細胞のマーカー(W3/25)、大食細胞のマーカー(ED-1)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-β1)およびその受容体(TGF-βRII)に関する免疫染色を行った。対象ラットでは炎症を惹起した関節滑膜中の骨棘に接近してCGRP陽性神経の密な神経叢が見られた。これらCGRP陽性神経の殆どはp75NGFRやGAP-43の染色でも陽性を示した。従って、これらの神経は新たに出芽伸長した知覚神経であると考えられる。一方、坐骨神経を切除したアジュバント関節炎ラットではCGRP陽性神経は全く観察されず、骨棘は対象ラットのそれと比較して明らかに小型であった。また、対象ラットの滑膜組織中の単核細胞に占めるW3/25陽性細胞およびED-1陽性細胞の比率を求めたところ、いずれもアジュバント投与2-3週間後に最大に達した。しかし、神経を切除したアジュバント関節炎ラットではそのピークは4週間後まで持続した。すなわち、炎症の快復は神経切除によって遅延した。炎症滑膜組織中の大食細胞と骨芽細胞には神経切除手術の有無とは関係なく、TGF-β1を発現していた。その受容体TGF-βRIIは骨棘表面を被う骨芽細胞に発現しており、TGF-β1を介する骨形成の促進作用が確認された。以上の知見は、知覚神経と大食細胞の両者がアジュバント関節炎ラットの距腿関節における骨棘形成に関わることを示唆している。 | KAKENHI-PROJECT-14571737 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14571737 |
炎症の場における骨改造の分子機構:アジュバント関節炎ラットをモデルとして | アジュバント投与に先だって坐骨神経を切除した関節炎ラットおよび神経切除の疑似的手術を施したアジュバント関節炎ラット(以後対象ラット)の関節において、ヘルパーT細胞の分布を検索したところ、対象ラットの滑膜組織中の単核細胞に占めるヘルパーT細胞の比率がアジュバント投与2-3週間後に最大に達するのに対し、神経を切除した関節炎ラットではそのピークは4週間後まで持続する、すなわち神経切除によって炎症からの回復が遅延することを示唆する所見を得た。ところで、ヘルパーT細胞はTh0、Th1およびTh2の三者に分類され、後二者の量的バランスが炎症の進行に深く関わるとされている。本研究はアジュバント関節炎ラットの炎症滑膜組織に浸潤したヘルパー細胞の量的変化をTh1およびTh2細胞に区別して解析し、炎症の動態をより詳細に考察するのが目的である。特に、知覚神経の関与に注目して解析を進める。ケモカインやサイトカインを指標としてTh1細胞とTh2細胞とを区別する報告がみられる。しかし、in vivoの研究は数も少なく、指標としての信頼性についてはまだ議論が定まっていない。我々は、Th1細胞を識別するためのケモカインとしてCXCR3を、同サイトカインとしてはIFN-γを、一方Th2細胞のケモカインとしてはCCR4を、同サイトカインとしてはIL-4を採用することとしてアジュバント関節炎ラットの炎症滑膜組織での二重染色を実施し、その妥当性を検討した。その結果、CXCR3とIFN-γとのいずれかに陽性な細胞の90%以上がそれらに二重陽性、CCR4とIL-4とのいずれかに陽性な細胞の95%以上がそれらに二重陽性を示すこと、一方、CXCR3とIL-4およびCCR4とIFN-γに二重陽性の細胞はそれぞれ10%以下、および5%以下に過ぎないことが明らかとなった。よって、Th1およびTh2細胞の動態を解析するための指標として、これらのケモカインとサイトカインを用いることの妥当性が証明された。次いでこれらのケモカインとサイトカインを指標としてTh1およびTh2細胞を識別し、Th1細胞/Th2細胞の比率を経時的に解析したところ、神経切除によって炎症からの回復が遅延することを裏付ける結果となった。 | KAKENHI-PROJECT-14571737 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14571737 |
超高磁場MR装置を用いた興奮性アミノ酸画像による高次脳機能の解析 | 本研究はこれまで定性的であったケミカルシフト画像から得られる代謝物質の分布を、定量的に求めるためることを一つの目的とした。さらに、これまで行われてきたfMRIの脳機能画像と併せて脳賦活領域に相当する部分のアミノ酸分布の変化をとらえようとした物である。これまで、定性的であった領域選択MRS法で得られたMRSデータを解析するプログラムLCModelを用いて脳内の代謝物質の定量分布を作り上げることに成功した。さらにコイル感度の補正、脳脊髄液の測定領域における占有率の補正などを施すソフトウエアの開発を行った。fMRIで得られる分解に対して、LCModelを用いて解析できる感度制限からケミカルシフト画像の分解能は1ccとなった。サーフェイスコイルにより感度が向上したものの、分解のをあげるとさらに解析誤差が大きくなることがわかり、十分な精度での分布画像が得られないことがわかった。今後、感度を向上させるためにはアレイタイプのサーフェイスコイルを利用することなどが望まれる。また、ケミカルシフト画像のマトリックスを減少させ、同時にFOVを小さくして分解能を一定にたもちながら、観測時間をを短縮させた。この結果脳賦活のタスクの持続が可能となった。1.5Tに対して3Tではケミカルシフトの差が、大きくなることにより信号の分離能が高まり、結果として高分解能のケミカルシフト画像法のデータで代謝物の定量分布画像が得られた。本研究はこれまで定性的であったケミカルシフト画像から得られる代謝物質の分布を、定量的に求めるためることを一つの目的とした。さらに、これまで行われてきたfMRIの脳機能画像と併せて脳賦活領域に相当する部分のアミノ酸分布の変化をとらえようとした物である。これまで、定性的であった領域選択MRS法で得られたMRSデータを解析するプログラムLCModelを用いて脳内の代謝物質の定量分布を作り上げることに成功した。さらにコイル感度の補正、脳脊髄液の測定領域における占有率の補正などを施すソフトウエアの開発を行った。fMRIで得られる分解に対して、LCModelを用いて解析できる感度制限からケミカルシフト画像の分解能は1ccとなった。サーフェイスコイルにより感度が向上したものの、分解のをあげるとさらに解析誤差が大きくなることがわかり、十分な精度での分布画像が得られないことがわかった。今後、感度を向上させるためにはアレイタイプのサーフェイスコイルを利用することなどが望まれる。また、ケミカルシフト画像のマトリックスを減少させ、同時にFOVを小さくして分解能を一定にたもちながら、観測時間をを短縮させた。この結果脳賦活のタスクの持続が可能となった。1.5Tに対して3Tではケミカルシフトの差が、大きくなることにより信号の分離能が高まり、結果として高分解能のケミカルシフト画像法のデータで代謝物の定量分布画像が得られた。平成12年度は1H-RMS測定パルスシーケンスの調整および、脳内グルタミン酸の定量方法の確立を行い、ケミカルシフト画像法を用いたときのグルタミン酸の測定限界について検討した。定量ためのソフトウェアとしてLCModelを選択し、これを3T用に調整するため、種々の脳内の代謝物質と同様の試薬を含む水溶液の満たされたファントムを化合物ごとに作成し、この1H-MRSデータから波形分離のもととなる参照スペクトルを作成した。この結果、大脳のMRSから各代謝物質の濃度を分離して、計量することが可能となった。定量のための測定限界はヘッドコイルでは1cc程度の脳容積が必要であることがわかった。ケミカルシフト画像法のパルスシーケンスを改良し、TEを短縮させた。TEを25ms以下にした場合水信号の消え残りが問題となり、更なるシーケンスの改良が必要であることがわかった。また、測定限界を0.5cc(0.7mm x 0.7mm x 10mm)程度にするために、4インチのサーフェイスコイルを用いて感度向上を図った。感度はヘッドコイルに対し、2-3倍の感度の上昇が認められた。この結果目標とする0.5ccの容積から得られた信号でも明確なグルタミン/グルタミン酸のピークが認められた。グルタミン酸/グルタミンの分離限界について検討した結果、これらのスペクトルはかなり類似しており、上記の脳容積では十分な分離ができなかった。グルタミン酸の定量は既知濃度の外部試料の基準信号値を用い、コイルの感度補正や組織占有率を補正し、精度を高める方法を取ることで解決できた。また、測定容積内に含まれるCSF領域を算出することを目的に、今後3D-MR画像からの容積の見積もりについて検討することとした。平成13年度は、平成12年度に作成した高空間分解能を持つ1H-RMSケミカルシフト画像法を用いた健常人の脳のアミノ酸分布を定量的に求めるために、ケミカルシフト画像法から得られるMRSデータを分割して、解析ソフトウエアのLCModelにて処理することが主となった。さらにソフトを改良して、3D画像を用いて脳脊髄液の除去をない、観測領域内の脳実質の割合を補正するようにした。本年度ソフトウエアの作成と同時に、サーフェイスコイルを導入し、サーフェイスコイルによる感度の向上を図った。水信号を元にして位相を調整することにより、従来ケミカルシフト画像で得られた磁場の変動に伴う位相ずれが改善された。ピークの位置も安定して、画像の安定度を向上させることができた。しかし、参照信号としても水の測定時間の増加が伴っているのが問題であった。 | KAKENHI-PROJECT-12671388 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12671388 |
超高磁場MR装置を用いた興奮性アミノ酸画像による高次脳機能の解析 | 脳賦活をケミカルシフト画像の測定時間の間行うことは困難であったため、化学シフト画像のFOVを小さくし、マトリックスを減少させ、分解能を落とさずに想定時間の短縮を試み、時間を短縮することが可能となった。このときでもN-アセチルアスパラギン酸などの代謝物質の濃度分布はかなり良好に保たれており、分布変化をとらえるには十分の感度が認められた。期限内に十分なfMRIとケミカルシフト画像から得られるアミノ酸分布画像を対応させることはできた。アミノ酸分布の変化を調べるまでには十分な解析ができなかっが、基本技術が確立しており、今後の研究によりさらなる成果が期待できると考えられる。 | KAKENHI-PROJECT-12671388 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12671388 |
ファジィ関係方程式に基づいた動画像圧縮およびその大量動画像運用への応用 | 平成17年度の主な研究成果は、平成15および16年度に開発・改良したファジィ関係方程式に基づいた動画像圧縮プロトタイプシステムの工学面および理論面からの一般化である。工学面での一般化では、動画像圧縮で利用する色空間としてRGB色空間に加えYUV色空間を採用している。YUV色空間の場合、UV色空間の情報をY空間に比べ大幅に間引くことができるため、RGB色空間に比べ、同程度の画像品質を維持しながら高圧縮率を実現できる。本研究では、YUV色空間に基づいた動画像圧縮のための符号器設計アルゴリズムを提案し、さらに標準動画像データベースを対象にした圧縮実験を通して、提案アルゴリズムの有効性を確認している。理論面での一般化として、ファジィ関係方程式を取り扱うベースであるファジィ代数を、マックスプラス代数に拡張している。マックスプラス代数は、1)ハードウェアに対する親和性が高く2)量子化誤差が発生しない、3)画像圧縮においてエッジを優先的に保存できる、とう特徴を持つ。本研究では、このマックスプラス代数に基づきウェーブレット変換を定式化し、さらにこれに基づく動画像圧縮・再構成法を提案している。マックスプラス代数に基づくウェーブレット変換は、エッジを優先的に保存するため、エッジを多く含む動画像圧縮の差分フレームに適用することで、高品質・高圧縮が実現できる。標準動画像データベースを対象にした動画像圧縮実験を通して、マックスプラス代数に基づくウェーブレット変換の有効性を確認している。以上を要するに、本年度はファジィ関係方程式に基づいた動画像圧縮法の工学面および理論面からの一般化を行い、特にマックスプラス代数を採用することによってハードウェア化への親和性向上・大量動画像運用への展開を行っており、当初の目標を十分に満たしているといえる。ファジィ関係方程式に基づいた静止画像圧縮法(ICF)をベースとして、ファジィ関係方程式に基づいた動画像圧縮法(MCF)を定式化した。提案MCFでは、グレースケール動画像を対象とし、それらを静止グレースケール画像の系列とみなし、IフレームおよびPフレームの2種類に分けて取り扱う。Iフレームを圧縮する場合は、従来のICFで採用されている一様分布型符号器方式、すなわち、対象画像全体に均一に符号器を配置する方式を用いて圧縮する。一方、2枚のIフレームの差分画像であるPフレームの場合、画素の分布が偏るため、対象画像の画素分布に合わせて符号器を配置する、非一様型符号器方式を用いて圧縮を行う方が効率がよい。よって、本研究では、Pフレーム圧縮のための非一様型符号器の最適設計法を、符号器のファジィ集合のオーバーラップレベル指標および、ファジィ量子化に基づき提案した。ここで最適符号器の場合のオーバーラップレベル値をCOREL1000枚の画像圧縮・再構成実験を通して実験的に求めた。また、オハイオ州立大学(米国)で公開している動画像データベースから選択したグレースケール動画像を用いて動画像圧縮・再構成実験を行い、提案MCFの有効性、特に、動画像内の移動物体の動きが、従来法に比べて滑らかに再構成されることを確認した。さらにPフレームの高速・高品質圧縮を行うための符号器設計に対する基礎理論として、ファジィ関係の分解問題について研究を行い、ファジィ関係の高速分解法、および改良コスト関数による高品質分解法を提案した。平成16年度の主な研究成果は、平成15年度に開発したファジィ関係方程式に基づいた動画像圧縮プロトタイプシステムの拡張、および性能向上、さらに理論面における新しい知見の発見である。システムの拡張では、対象動画像をグレースケールからカラー動画像に設定し定式化、および実装を行っている。さらに、性能向上においては、Pフレーム圧縮のための非一様符号器設計法において、新しいファジィ・エントロピー基準を導入し、従来の設計法に比べ高品質の画像圧縮・再構成を実現する符号器の設計を可能にしている。また、理論面における新しい知見として、ファジィ代数系における固有ファジィ集合の概念を、画像圧縮・再構成問題において再定式化し、符号器の設計段階の際に、どの程度の対象画像スペクトルが圧縮過程において保存されるか、に関する見通しを明確にしている。さらに、本年度は、形式開眼解析という大量のデータに対するデータマイニング手法に着目し、従来の距離型画像検索・画像格納手法とは異なる、順序型画像データベース管理技術の実用可能性についても議論を行っている。以上を要するに、本年度は、画像圧縮システムの拡張、および性能向上、さらに理論面では符号器設計時における再構成画像品質の理論的な見通し、さらに新しい大量画像運用法の検討を行っており、次年度以降の本格的システムの運用に対する準備は十分に整っており、当初の目標を十分に満たしているといえる。平成17年度の主な研究成果は、平成15および16年度に開発・改良したファジィ関係方程式に基づいた動画像圧縮プロトタイプシステムの工学面および理論面からの一般化である。工学面での一般化では、動画像圧縮で利用する色空間としてRGB色空間に加えYUV色空間を採用している。YUV色空間の場合、UV色空間の情報をY空間に比べ大幅に間引くことができるため、RGB色空間に比べ、同程度の画像品質を維持しながら高圧縮率を実現できる。本研究では、YUV色空間に基づいた動画像圧縮のための符号器設計アルゴリズムを提案し、さらに標準動画像データベースを対象にした圧縮実験を通して、提案アルゴリズムの有効性を確認している。理論面での一般化として、ファジィ関係方程式を取り扱うベースであるファジィ代数を、マックスプラス代数に拡張している。マックスプラス代数は、1)ハードウェアに対する親和性が高く2)量子化誤差が発生しない、3)画像圧縮においてエッジを優先的に保存できる、とう特徴を持つ。 | KAKENHI-PROJECT-15700181 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15700181 |
ファジィ関係方程式に基づいた動画像圧縮およびその大量動画像運用への応用 | 本研究では、このマックスプラス代数に基づきウェーブレット変換を定式化し、さらにこれに基づく動画像圧縮・再構成法を提案している。マックスプラス代数に基づくウェーブレット変換は、エッジを優先的に保存するため、エッジを多く含む動画像圧縮の差分フレームに適用することで、高品質・高圧縮が実現できる。標準動画像データベースを対象にした動画像圧縮実験を通して、マックスプラス代数に基づくウェーブレット変換の有効性を確認している。以上を要するに、本年度はファジィ関係方程式に基づいた動画像圧縮法の工学面および理論面からの一般化を行い、特にマックスプラス代数を採用することによってハードウェア化への親和性向上・大量動画像運用への展開を行っており、当初の目標を十分に満たしているといえる。 | KAKENHI-PROJECT-15700181 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15700181 |
魚類の免疫機構に関与するサイトカイン、特にTNFおよびFasリガンドの機能解析 | 本年度は、TNFおよびFasの細胞内情報伝達およびアポトーシス誘導に関与するカスパーゼ10遺伝子のクローン化を行なうと共にカスパーゼ10遺伝子発現プラスミドをヒラメ培養細胞へ導入し機能解析を行なった。クローン化したヒラメカスパーゼ10のcDNAは、全長2,282bpで、495アミノ酸残基をコードしていた。ヒラメカスパーゼ10は、2か所のDeath effectordomain (DED)ホモロジー領域、LargeサブユニットおよびSmallサブユニットにより構成されていた。ヒラメカスパーゼ10の推定アミノ酸配列は、ヒトカスパーゼ10と全長配列で32.6%、Smallサブユニットで59.8%の相同性を示した。カスパーゼ10遺伝子は、ヒラメの14種類の臓器(脳、眼球、頭腎、心臓、腸、肝臓、筋肉、卵巣、白血球、表皮、脾臓、胃、後腎)の内、鰓、白血球、脾臓および後腎で強い発現を示した。その他にも、頭腎、心臓、腸、表皮および胃において発現がみられた。ヒラメカスパーゼ10のcDNAを真核生物発現用ベクター(pCI-neo vector)に組込んだ。構築した発現プラスミドをトランスフェクション法によりヒラメ胚由来の培養細胞(HINAE)に導入したところ、アポトーシス誘導能が認められた。これらのことより、ヒラメのカスパーゼ10はほ乳類のものと類似のアポトーシス誘導能を有していることが示唆された。本年度は、ヒラメFasリガンド遺伝子のクローン化を行なうと共に組換えタンパク質を作製して機能解析を行なった。さらに、ヒラメのシグナル伝達経路の解明を目的としてマイクロアレイ法を用いた遺伝子発現解析を行なった。クローン化したヒラメFasリガンドcDNAの全長は1,016bpで、230アミノ酸をコードしていた。ヒラメFasリガンドの細胞外領域において、ジスルフィド結合を形成し活性に関与する2つのシステイン残基が存在した。ヒラメFasリガンドの推定アミノ酸配列は、ヒトのものと、26.1%の相同性を示した。ヒラメFasリガンド遺伝子の全長は約1.7kbであり、ヒトのFasリガンド遺伝子と同様に4エキソンおよび3イントロンより構成されていた。Fasリガンド遺伝子はヒラメの12種類の組織(筋肉、表皮、心臓、鰓、卵巣、腎臓、胃、脳、脾臓、腸、肝臓、胸腺)の内、腎臓および胸腺において発現が見られた。ヒラメFasリガンド組換えタンパク質を大腸菌発現系により作製し、ヒラメ由来の培養細胞を用いて機能解析を行なったところ、2.0μM以上の濃度で細胞傷害活性を示した。マイクロアレイ法による解析を行なうにあたり、92種類の免疫関連遺伝子を含む871種類のクローンがスポットされたヒラメDNAチップを作製した。マイトジェン(Concanavalin A : Con A、Phorbol myristate acetate:PMA、Lipopolysaccharide:LPS)刺激下あるいはヒラメラブドウイルス(Hirame rhabdovirus ;HRV)感染下にて遺伝子の発現変化を解析したところ、それぞれ特徴的な遺伝子の発現様式が見られた。Con Aによる刺激では発現変化した遺伝子数はほとんど見られなかったものの、PMAによる刺激ではアポトーシス制御因子であるEaly growth response protein II、c-Fos、Jun-B遺伝子等の発現上昇が確認された。LPSの刺激では炎症関連因子であるChemokine receptor、Collagenase、Interleukine-1β、Lctate dehydrogenase A等の遺伝子において発現量の上昇が認められた。HRVの感染では、細胞性免疫に関与するMHC class IIやNK cell enhancingfactorの遺伝子発現が含まれた。その他、Heat shock protein 70や90、CD83antigen、Map kinase interacting kinase I等の遺伝子の発現が誘導された。さらに、マイトジェンの刺激あるいはHRVの感染後特異的に発現上昇する機能未知遺伝子が19種類見られた。本年度は、TNFおよびFasの細胞内情報伝達およびアポトーシス誘導に関与するカスパーゼ10遺伝子のクローン化を行なうと共にカスパーゼ10遺伝子発現プラスミドをヒラメ培養細胞へ導入し機能解析を行なった。クローン化したヒラメカスパーゼ10のcDNAは、全長2,282bpで、495アミノ酸残基をコードしていた。ヒラメカスパーゼ10は、2か所のDeath effectordomain (DED)ホモロジー領域、LargeサブユニットおよびSmallサブユニットにより構成されていた。ヒラメカスパーゼ10の推定アミノ酸配列は、ヒトカスパーゼ10と全長配列で32.6%、Smallサブユニットで59.8%の相同性を示した。カスパーゼ10遺伝子は、ヒラメの14種類の臓器(脳、眼球、頭腎、心臓、腸、肝臓、筋肉、卵巣、白血球、表皮、脾臓、胃、後腎)の内、鰓、白血球、脾臓および後腎で強い発現を示した。その他にも、頭腎、心臓、腸、表皮および胃において発現がみられた。ヒラメカスパーゼ10のcDNAを真核生物発現用ベクター(pCI-neo vector)に組込んだ。構築した発現プラスミドをトランスフェクション法によりヒラメ胚由来の培養細胞(HINAE)に導入したところ、アポトーシス誘導能が認められた。これらのことより、ヒラメのカスパーゼ10はほ乳類のものと類似のアポトーシス誘導能を有していることが示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-04J12153 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04J12153 |
鉄輝線精密分光による銀河宇宙線加速の初期機構解明 | 今年度は宇宙線起源の中性鉄輝線が見つかった超新星残骸IC443とG323.7-1.0の結果を査読付き論文として発表した。IC443では、低エネルギー宇宙線がプラズマを電離することで、電離優勢プラズマ(過電離プラズマ)を作り出している可能性も見出した。中性鉄輝線で低エネルギー宇宙線を測定する研究手法は世界的にも注目されつつあり、昨年度に引き続き今年度も国際会議で招待講演を行った。また理論分野の研究者と共同研究を開始した。W28とW44について、中性鉄輝線の強度がガンマ線の結果と矛盾しないことを見出した。これは中性鉄輝線が宇宙線起源であるということを補強する成果である。並行して、2021年度打ち上げ予定の「XRISM」衛星搭載X線CCDの開発も行っている。X線CCDの重要な性能の1つは、一回の転送で電荷を失う割合を示す電荷転送非効率(CTI)である。CTIが大きいと、ゲインやエネルギー分解能が悪くなる。「ひとみ」衛星搭載X線CCDでCTIの測定を行った経験を生かし、「XRISM」用X線CCDの試作品でCTIの評価を行った。その結果、蓄積領域と撮像領域でCTIが異なること、また、裏面処理を行うときに撮像領域のCTIが悪化することを明らかにした。MeV宇宙線と星間物質の衝突で放射される中性鉄輝線に着目し、超新星残骸(SNR)で中性鉄輝線の探査を行っている。「すざく」衛星のアーカイブデータを用いて探査し、これまでに10個以上の暗いSNRで中性鉄輝線を検出し、MeV宇宙線測定に成功した。今年度はIC443とG323.7-1.0の結果を査読付き論文として発表した。理論分野の研究者との共同研究も行った。π0崩壊起源のガンマ線と、低エネルギー宇宙線起源の中性鉄輝線の両方が見つかっているSNRW28とW44に着目し、「escape model」を用いた検討の結果、シンプルなモデルでガンマ線と中性鉄輝線の両方を説明できることがわかった。また中性鉄輝線は、SNRの年齢の20%以上の間放射されうることもわかった。つまり、SNRで中性鉄輝線が見つかる可能性は小さくないことが定量的に裏付けできた。上記の低エネルギー宇宙線研究を発展させるため、「XRISM」搭載X線CCDの開発に携わっている。X線CCDの性能評価における重要な指標の1つは電荷転送非効率(CTI)である。Xtend用CCD素子の試作品であるmini CCDを用いてCTIの評価を行った。mini CCDでは通常のBI素子だけでなく、電極面だけを処理した素子(NT素子)も製作した。「ひとみ」SXIでは、CTIは転送速度によって変化すると考えることで失われる電荷量を説明できた。しかしmini CCDでこの仮説を当てはめると、NT素子の結果が説明できなかった。そこで、CTIが転送領域(蓄積領域、撮像領域)によって変化するモデルを新たに構築した。新モデルはNT素子とBI素子の両方のCTIを説明できた。また、NT素子に裏面処理をしてBIにする際に、撮像領域のCTIが数倍悪化していることも分かった。これはフライト用大型素子の地上較正に対して重要な知見である。今年度新たに中性鉄輝線が見つかったW51領域の解析を進める。この領域は超新星残骸W51Cと星形成領域を含む濃い分子雲W51Bの衝突が起きている領域である。また高いionization rate、強いガンマ線放射(ハドロン起源と考えられている)も見つかっている。まず中性鉄輝線が低エネルギー宇宙線かどうかを判定し、その上で中性鉄輝線の結果と他波長観測の関連性から、宇宙線の加速と拡散の様子を明らかにしたい。IC443では、低エネルギー宇宙線がプラズマを電離することで、電離優勢プラズマ(過電離プラズマ)を作り出している可能性を見出した。理論分野の研究者との共同研究によって、このアイデアを定量的に検討する。銀河面には個々の天体に分解できない広がった放射(GRXE)が存在している。その最大の特徴は中性および高階電離した鉄からの輝線である、GRXEの起源として激変星(CV)やactive binary(AB)といった星の集まりが有力である。しかし従来のGRXE研究は、中性鉄と高階電離鉄からの輝線を区別せず議論してきた。我々はすざく衛星を用いて、中性鉄と高階電離鉄からの輝線を分離した上で空間分布(スケールハイト: SH)を精密測定した。その結果、高階電離鉄のSHはCVやABとほぼ無矛盾だが、中性鉄輝線のSHはCVやABの半分以下であり、むしろ分子雲と近いことを突き止めた。またCV、ABのスペクトルを抽出し、GRXEと比較したところ、星の集まりだけでは、GRXEの中性鉄輝線放射の高々50%しか説明できないことがわかった。MeV帯域宇宙線と分子雲の衝突で出る中性鉄輝線がGRXEに寄与していると考えられる。銀河宇宙線の加速源として現在最も有力な候補は超新星残骸(SNR)である。ガンマ線観測によって、SNRでGeV陽子が加速されている証拠は見つかっている。宇宙線は低い帯域から徐々にエネルギーを得るので、MeV陽子も大量に存在するはずだ。しかし、陽子起源と思われる中性鉄輝線がSNRから見つかった例はこれまでわずか2つ(3C391, Kes79)しかない。 | KAKENHI-PROJECT-16J00548 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16J00548 |
鉄輝線精密分光による銀河宇宙線加速の初期機構解明 | 我々は、SNRにおけるMeV宇宙線の生成量とエネルギー獲得過程を求めるため、系内のSNRでMeV宇宙線起源の中性鉄輝線放射の系統的な探査を開始した。本年度は銀河中心に対して東側の銀河面に位置する4つのSNR(W28, W48, Kes 67, Kes 78)で、MeV宇宙線陽子起源の中性鉄輝線を検出した。またMeV陽子のエネルギー密度は、星間空間でのGeV以上の高エネルギー宇宙線の密度(1 eV/cc)より一桁高いことが分かった。分子雲に衝突した陽子は、鉄原子中のK殻電子だけでなく、外殻電子も複数電離する。その結果、中性鉄輝線の幅は10 eV程度に広がる。一方、電子やX線では輝線幅は広がらない。そこで、従来の観測装置の35倍の分光能力を持つ「ASTRO-H」搭載カロリメータで輝線幅を測定し、陽子起源を確定する計画であった。また「すざく」の4倍の広視野と2倍の鉄輝線感度を持つ「ASTRO-H」搭載X線CCDカメラで中性鉄輝線の広範囲な銀河面強度分布を得る予定だった。しかし2016年2月に打ち上げた「ASTRO-H」は初期機能確認中の異常事象発生のため、同年4月で運用が断念された。そのため「ASTRO-H」によるGRXEや銀河系内SNRの観測は行えなかった。そこで「すざく」の10年分のアーカイブデータを用いて、GRXEの空間分布を測定した。また、GRXEと点源(CV、AB)のスペクトルをそれぞれ抽出し、両者を比較した。その結果、GRXEの中性鉄輝線放射は点源だけでは説明できず、宇宙線の寄与があることを突き止めた。また、「すざく」の銀河系内SNRのデータを用いて中性鉄輝線探査を行い、4つのSNR (W28, W48, Kes 67, Kes 78)からMeV宇宙線陽子起源の可能性が高い中性鉄輝線を発見した。宇宙線加速の観測的研究の主流は、超新星残骸(SNR)からのガンマ線を用いたGeV-TeV宇宙線の観測によって宇宙線(陽子)の密度やスペクトルを解明することである。しかし、これはπ中間子を生成できる280MeV以上の陽子に限定される。宇宙線の加速理論では低い帯域(keV-MeV)から徐々にエネルギーを獲得するので、銀河宇宙線生成に対するSNRの寄与を解くカギは低エネルギー側にある。しかしこれまでは、データがない低エネルギー宇宙線の存在量は仮定して理論を構築し、「SNRが全ての銀河宇宙線を生成している」という結論に帰結していた。私は、SNRにおける低エネルギー宇宙線測定によって加速機構の全貌を解明しようと考えた。この研究のため、X線天文衛星「すざく」のアーカイブデータを用いて、分子雲と相互作用していることが知られているSNRを中心に系統的な探査を行い、10天体以上のSNRから低エネルギー宇宙線陽子起源の可能性が高い中性鉄輝線を発見した。これによりMeV宇宙線測定に成功し、周辺空間に比べ100倍以上エネルギー密度が高いことを明らかにした。以上の結果は、3つの査読付き論文として報告し、国際会議での招待講演を含む4件の口頭発表で報告した。私はこの低エネルギー宇宙線研究を発展させるため、「ひとみ」搭載X線CCDの開発に携わってきた。「ひとみ」は、打ち上げ後2ヶ月で運用を停止したが、その観測期間の中で熱的X線を持つSNRを1つだけ観測した。それは、「すざく」で中性鉄輝線を見つけた天体の1つ、N132Dであった。 | KAKENHI-PROJECT-16J00548 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16J00548 |
ヒト食細胞の抗体レセプタ-の構造と機能に関する生化学的研究 | 食細胞による抗体依存性の生体防御反応は外界からの微生物の侵入を防ぎ,有害な異物を排除するために不可欠である。この反応は食細胞膜上のFCレセプタ-(FcγR)を介して認識されるが,このFcγRは多様でヒト多形核白血球(PMN)の場合2種類のタイプ,FcγRII,FcγIIIが存在する。両タイプの異物認識における役割分担を明らかにするために,プロナ-ゼ処理により調製したFcγRIIIのみを欠くPMNへの抗原抗体結合物(IC)の結合量をフロ-サイトメトリ-で測定し,対照PMNのそれと比較した。FcγRIIIを欠いてもPMNへのIC結合量の低下はみられなかった。ICのPMNへの結合に対する抗FcγR抗体の影響を調べたところ,対照PMNでは抗FcγRIIIのみで,FcγRIII欠損PMNでは抗FcγRIIのみで強い阻害が認められた。これより,PMNはFcγRIIIを介してICを捕足するが、炎症時に生ずるプロテア-ゼでFcγRIIIを欠いてもFcγRIIを介してICを結合すると考えられる。また、ICによるPMNのス-パ-オキシド生成応答の強さはFcγRIIIの有無にかかわらず同程度であった。一方,PMN膜上には補体成分C3の分解産物iC36と結合する補体レセプタ-(CR3)の存在が知られており,FcγRと協同して異物を排除する。iC36を結合したIC(iC3bーIC)によるPMNのス-パ-オキシド生成応答はICによる応答の約2倍である。ICによるPMN応答は,前述のように、抗FcγRIIIで強く阻害されるのに対して、iC3bーICの場合は抗FcγRIIIでまったく阻害されず、抗FcγRIIで強く阻害された。このことはiC3bがICに結合することで,PMNへの結合がFcγRIIIを介する結合からFcγRIIを介する結合に変換することを示している。今後,この知見を手がかりに,より生理的条件に近い反応系を確立し,FcγRの異物認識と細胞応答の分子機構を明らかにしたいと考えている。食細胞による抗体依存性の生体防御反応は外界からの微生物の侵入を防ぎ,有害な異物を排除するために不可欠である。この反応は食細胞膜上のFCレセプタ-(FcγR)を介して認識されるが,このFcγRは多様でヒト多形核白血球(PMN)の場合2種類のタイプ,FcγRII,FcγIIIが存在する。両タイプの異物認識における役割分担を明らかにするために,プロナ-ゼ処理により調製したFcγRIIIのみを欠くPMNへの抗原抗体結合物(IC)の結合量をフロ-サイトメトリ-で測定し,対照PMNのそれと比較した。FcγRIIIを欠いてもPMNへのIC結合量の低下はみられなかった。ICのPMNへの結合に対する抗FcγR抗体の影響を調べたところ,対照PMNでは抗FcγRIIIのみで,FcγRIII欠損PMNでは抗FcγRIIのみで強い阻害が認められた。これより,PMNはFcγRIIIを介してICを捕足するが、炎症時に生ずるプロテア-ゼでFcγRIIIを欠いてもFcγRIIを介してICを結合すると考えられる。また、ICによるPMNのス-パ-オキシド生成応答の強さはFcγRIIIの有無にかかわらず同程度であった。一方,PMN膜上には補体成分C3の分解産物iC36と結合する補体レセプタ-(CR3)の存在が知られており,FcγRと協同して異物を排除する。iC36を結合したIC(iC3bーIC)によるPMNのス-パ-オキシド生成応答はICによる応答の約2倍である。ICによるPMN応答は,前述のように、抗FcγRIIIで強く阻害されるのに対して、iC3bーICの場合は抗FcγRIIIでまったく阻害されず、抗FcγRIIで強く阻害された。このことはiC3bがICに結合することで,PMNへの結合がFcγRIIIを介する結合からFcγRIIを介する結合に変換することを示している。今後,この知見を手がかりに,より生理的条件に近い反応系を確立し,FcγRの異物認識と細胞応答の分子機構を明らかにしたいと考えている。 | KAKENHI-PROJECT-02680126 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02680126 |
BMP阻害剤を応用した新規大腸癌治療法の開発 | 大腸癌細胞では高頻度にWnt/beta-cateninシグナルが亢進し、これによりBMP4遺伝子の転写が亢進しており、この機能解析を行った。その結果、BMPI型受容体キナーゼ阻害剤によりこのシグナルを阻害すると、癌細胞にアポトーシスが誘導され、腫瘍形成が抑制された。またRNA-seqから、BMP-4は脱リン酸化酵素DUP5の発現を減少させ、Erkを活性化することでアポトーシス耐性を生じさせていることが判明した。本研究ではBMP-4シグナルを介した大腸癌細胞のアポトーシス制御の分子メカニズムを解明し、BMP阻害剤を用いた分子標的治療の可能性を明らかにすることができた。予備的検討からヒト大腸癌細胞株では自己分泌されたBMP4による内因性のBMPシグナル伝達を阻害することで、癌細胞のアポトーシスが誘導されることがわかっている。今年度はこのBMP-4発現亢進が、Smadシグナル伝達を活性化させているか、ヒトの臨床検体を用いて検討を行った。ヒト大腸癌症例の原発腫瘍組織に用いて、BMP-4やリン酸化Smad1/5に対する抗体による免疫組織化学を行ったところ、正常大腸上皮細胞に比べ、大腸癌細胞ではBMP-4発現が亢進し、これによって内在性にSmad1/5シグナル伝達が活性化していることがわかった。また、public databaseを用いて、各病期の大腸癌症例の予後と、BMP4 mRNA発現量の相関性しらべたところ、少なくともstage IIの大腸癌症例ではBMP4発現量が独立した予後規定因子であることがわかった。さらに、BMP-4によるアポトーシス制御の分子メカニズムを調べるために、RNAシーケンシング解析(RNA-seq)を行い、BMP-4-Smad1/5の標的遺伝子を網羅的に探索した。これらの解析結果を用いて、次年度以降にはBMP-4で発現制御されるアポトーシス制御因子の同定を試みる予定である。さらに、BMP-4-Smad1/5シグナル伝達をすることで、大腸癌の進展を抑制できるか、移植モデルを用いて予備的な検討を行った。今年度はBMP受容体キナーゼ活性阻害作用を有する低分子化合物LDN-193189を、様々な方法でマウスに投与を行った。至適な投与条件が定まりつつあるので、次年度以降では本格的な大腸癌治療実験に着手する予定である。臨床検体をもちいた解析から、ヒト大腸癌細胞ではBMP-4発現が亢進しており、これが予後不良と相関していることが判明した。また次年度以降に予定しているRNA-seqや治療実験のための予備的検討なども遂行できた。本年度に計画した研究がほぼ予定通りに遂行され、さらに次年度以降の解析への準備が整ったため、概ね順調に進展している、と判断した。なお、発光イメージング技術を大腸癌細胞移植モデルに応用し、BMP-4-Smad1/5シグナル伝達の可視化を試みたが、こちらはシグナル/ノイズ比が低く、in vivoでの観察が容易でないと判断された。ただし、ヒト大腸癌組織の免疫組織化学や多変量解析など、より臨床的意義のあるデータが得られため、研究全体の遂行には支障はないと考えている。昨年度までの研究から、大腸癌細胞はBMP-4を自己分泌しており、これにより細胞内にSmad依存的なBMPシグナルを活性化させていることが分かった。さらにこのBMPシグナルを阻害することでm大腸癌細胞にアポトーシスが誘導されることが分かった。そこで本年は、大腸癌細胞におけるBMP-4発現亢進の分子メカニズムの解明を行った。既知の報告や予備的な実験の結果から、BMP4遺伝子の発現は、大腸癌細胞において高頻度に更新しているWnt/β-cateninシグナルの異常によることが示唆された。特にChIP-qPCRの結果から、TCF4がBMP4のlocusに直接的に結合していることがわかり、Wnt/β-cateninシグナル亢進がBMP4転写亢進に重要であると示唆された。また、大腸癌細胞のアポトーシス制御に重要なBMP-4標的遺伝子の同定を試みた。大腸癌細胞の生存にはErkのリン酸化が深くかかわっているが、RNA-seqから脱リン酸化酵素の発現がBMP-4によって制御されていることが分かった。さらにBMPシグナル伝達阻害剤を用いた治療の可能性に関して研究を行った。今年度はBMP I型受容体キナーゼ阻害剤(LDN-193189)を、大腸癌細胞移植モデルマウスに投与した。この結果、BMPシグナル阻害剤によって腫瘍形成が抑制されることがわかった。大腸癌細胞ではWnt/β-cateninシグナルの亢進からBMP-4を自己分泌的に産生し、これによるシグナルがErkシグナルを活性化することで細胞の生存を促進する経路が存在していることが分かったが、BMPシグナル伝達阻害剤によってこの経路を阻害することは新たな治療戦略になると期待された。BMPシグナル阻害剤が大腸癌治療に応用できるか検証することが本年度の最大の目的であった。BMPシグナル阻害剤の投与方法の最適化に多少の時間を要したが、最終的にin vivoの実験において、BMPシグナル阻害剤が一定の治療効果を確認することができた。また大腸癌細胞のアポトーシス制御の分子メカニズムの解明に関しても、RNA-seqを用いることで、BMP-4の標的として新規性の高い脱リン酸化酵素を同定することができたため、一定以上の成果があったと考えた。 | KAKENHI-PROJECT-15K08393 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K08393 |
BMP阻害剤を応用した新規大腸癌治療法の開発 | ここで得られた研究成果は、研究最終年度である来年度の後半に論文報告する予定であった。ただし今年度中に主要な実験データをすでに集めることができたため、今年度中に論文投稿をする段階にまで至った。これまでの研究成果から、大腸癌細胞では高頻度にWnt/beta-cateninシグナルが亢進しているが、これによりTCF4がBMP4のlocusに直接的に結合することでBMP4遺伝子の転写が亢進していることが明らかになった。またこれによって自己分泌的に活性化しているBMP-4-Smadシグナルを、BMP I型受容体キナーゼ阻害剤(LDN-193189)によって阻害することで大腸癌細胞にアポトーシスが誘導され、大腸癌細胞移植モデルマウスでの腫瘍形成が抑制されることがわかった。そこで本年度は昨年度から継続して、大腸癌細胞のアポトーシス制御に重要なBMP-4の標的遺伝子の同定を行った。特に大腸癌細胞の生存にはErkを介したシグナル伝達が深く関わっていることから、RNA-seqを用いたスクリーニングを行い、大腸癌細胞でのErkのリン酸化を制御する遺伝子を重点的に捜索した。この結果、BMP-4はErkの脱リン酸化酵素のひとつであるDUP5の発現を減少させ、これによってErkの活性を高めることで、大腸癌細胞にアポトーシス耐性を生じさせていることが判明した。研究期間全体を通じて、BMP-4シグナルを介した大腸癌細胞のアポトーシス制御の新たな分子メカニズムを解明し、LDN-193189等のBMPシグナル伝達阻害剤を用いた新たな分子標的治療の可能性を明らかにすることができた。ここまでのすべての研究成果を取りまとめ、本年度はCancer Research誌にて論文報告をおこなったが、同誌のHighlightでも取り上げていただくなどの評価を得ることができた。大腸癌治療におけるBMPシグナル伝達阻害剤の応用に関しては明確にPOCは取得することができたが、今後は他の疾患にも応用できる可能性があるか探っていきたい。大腸癌細胞では高頻度にWnt/beta-cateninシグナルが亢進し、これによりBMP4遺伝子の転写が亢進しており、この機能解析を行った。その結果、BMPI型受容体キナーゼ阻害剤によりこのシグナルを阻害すると、癌細胞にアポトーシスが誘導され、腫瘍形成が抑制された。またRNA-seqから、BMP-4は脱リン酸化酵素DUP5の発現を減少させ、Erkを活性化することでアポトーシス耐性を生じさせていることが判明した。本研究ではBMP-4シグナルを介した大腸癌細胞のアポトーシス制御の分子メカニズムを解明し、BMP阻害剤を用いた分子標的治療の可能性を明らかにすることができた。本年度の研究が概ね予定通りに遂行され、かつ予想した結果が得られているため、次年度以降でも研究開始当初の予定の通りに進行する予定である。BMP-4によるアポトーシス制御の分子メカニズムを調べるために、RNA-seqで得られた多くのBMP-4-Smad1/5の標的遺伝子の中から、アポトーシス制御に重要な遺伝子の同定を試みる予定である。さらに、大腸癌細胞移植モデルにおいて、低分子化合物LDN-193189を投与し、大腸癌の進展が抑制できるか、in vivoで検証する。 | KAKENHI-PROJECT-15K08393 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K08393 |
日本軍「慰安婦」制度の国際比較―帝国主義諸国の軍隊と性売買・性暴力 | 本研究は、日本軍「慰安婦」制度について、軍隊と性売買・性暴力との関連の視点から、19世紀から20世紀の帝国主義諸国との国際比較をおこなうことによって、その世界史的な位置とその歴史的な意味を明らかにすることを目的としている。そのために日本・沖縄を含めて、比較対象とする国は、米国、英国、フランス、ドイツ、オランダなど欧米諸国と韓国である。日本の場合、近代公娼制の展開から戦後の性売買の実態と政策のなかでこの問題を位置づける必要があるので、その史料調査を日本各地でおこない、史料を収集しつつある。特に元日本軍慰安婦が戦後に遺した日記や遊郭史料の分析を進めつつある。また韓国について、植民地時代ならびに戦後軍事政権下の性売買は日本軍と米軍と密接に関連しており、韓国での調査とともに韓国から研究者やこの問題に取り組んでいる民間団体のスタッフを招いての研究会もおこなった。米国の国立公文書館、議会図書館、トルーマン大統領図書館、ニューヨーク公共図書館、南カリフォルニア大学図書館など米国各地で史料収集をおこなった。米軍ならびに米国政府・社会の性売買と軍との関連についての多くの史料を収集することができた。フランス軍と韓国軍の関連史料の収集に努め、重要と考えられる文献・史料の邦訳を進めてきた。邦訳作業は今後も継続していく予定である。本共同研究の初年度として、史料調査、関連する研究文献の調査と邦訳(英語以外の諸外国語)に着手し、順調に研究は進展していると考えられる。今年度はすでに「研究実績の概要」でも述べたように、米国の各地の文書館における史料調査をおこない、多くの関連史料を収集できた。また韓国での植民地期ならびに戦後軍事政権下での軍隊向け性売買について、史料収集とその邦訳、関係する研究者や市民団体との研究交流もおこない、理解を深めることができた。まだ収集した史料などを分析するには至っていないが、本共同研究の初年度としては、史料・情報収集に重点をおいてきたので、おおむね順調に進展していると考えることができる。2019年度においても国内外での史料調査、関連する研究者などとの研究交流を進める。昨年度は実施できなかった英国の国立公文書館をはじめとし、英国図書館、ロンドン大学LSE図書館(女性図書館)、Society of Friends図書館、Wellcome図書館などで史料調査をおこない、英軍ならびにヨーロッパ各国の軍と性売買に関する史料を収集する計画である。また日本の公娼制に関する史料ならびに元日本軍慰安婦の日記の読み込み、分析を進める。またフランス軍についての史料収集に努め、それに関するフランスの研究者を日本に招請して研究会を持ち、これまで情報が少なかったフランス軍についての理解を深めたい。2019年度は、5年計画の2年目にあたり、引き続き史料・情報収集、関連する海外の研究者とのネットワーク作りを中心に進めていく計画である。本研究は、日本軍「慰安婦」制度について、軍隊と性売買・性暴力との関連の視点から、19世紀から20世紀の帝国主義諸国との国際比較をおこなうことによって、その世界史的な位置とその歴史的な意味を明らかにすることを目的としている。そのために日本・沖縄を含めて、比較対象とする国は、米国、英国、フランス、ドイツ、オランダなど欧米諸国と韓国である。日本の場合、近代公娼制の展開から戦後の性売買の実態と政策のなかでこの問題を位置づける必要があるので、その史料調査を日本各地でおこない、史料を収集しつつある。特に元日本軍慰安婦が戦後に遺した日記や遊郭史料の分析を進めつつある。また韓国について、植民地時代ならびに戦後軍事政権下の性売買は日本軍と米軍と密接に関連しており、韓国での調査とともに韓国から研究者やこの問題に取り組んでいる民間団体のスタッフを招いての研究会もおこなった。米国の国立公文書館、議会図書館、トルーマン大統領図書館、ニューヨーク公共図書館、南カリフォルニア大学図書館など米国各地で史料収集をおこなった。米軍ならびに米国政府・社会の性売買と軍との関連についての多くの史料を収集することができた。フランス軍と韓国軍の関連史料の収集に努め、重要と考えられる文献・史料の邦訳を進めてきた。邦訳作業は今後も継続していく予定である。本共同研究の初年度として、史料調査、関連する研究文献の調査と邦訳(英語以外の諸外国語)に着手し、順調に研究は進展していると考えられる。今年度はすでに「研究実績の概要」でも述べたように、米国の各地の文書館における史料調査をおこない、多くの関連史料を収集できた。また韓国での植民地期ならびに戦後軍事政権下での軍隊向け性売買について、史料収集とその邦訳、関係する研究者や市民団体との研究交流もおこない、理解を深めることができた。まだ収集した史料などを分析するには至っていないが、本共同研究の初年度としては、史料・情報収集に重点をおいてきたので、おおむね順調に進展していると考えることができる。2019年度においても国内外での史料調査、関連する研究者などとの研究交流を進める。昨年度は実施できなかった英国の国立公文書館をはじめとし、英国図書館、ロンドン大学LSE図書館(女性図書館)、Society of Friends図書館、Wellcome図書館などで史料調査をおこない、英軍ならびにヨーロッパ各国の軍と性売買に関する史料を収集する計画である。また日本の公娼制に関する史料ならびに元日本軍慰安婦の日記の読み込み、分析を進める。またフランス軍についての史料収集に努め、それに関するフランスの研究者を日本に招請して研究会を持ち、これまで情報が少なかったフランス軍についての理解を深めたい。 | KAKENHI-PROJECT-18H00716 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18H00716 |
日本軍「慰安婦」制度の国際比較―帝国主義諸国の軍隊と性売買・性暴力 | 2019年度は、5年計画の2年目にあたり、引き続き史料・情報収集、関連する海外の研究者とのネットワーク作りを中心に進めていく計画である。 | KAKENHI-PROJECT-18H00716 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18H00716 |
DNA修復酵素と光シグナル受容体 | 光回復酵素・青色光受容体(CRYタンパク)ファミリーのin vitro,in vivoでの機能解析を目指している。これら機能的に全く異なる2種類のタンパクについて以下の解析を行なった。1)光回復酵素については、Xenopusよりクローンした遺伝子に点突然変異を導入し、それらのrecombinantタンパクの活性をチェックする事により、酵素活性に変化があらわれる変異体を同定した。損傷特異的なDNA結合活性は残っているものの、DNA修復能を失っている、2種類の変異体を得た。これらの変異体はヒスチジン残基に変異を導入したものである。酵素活性のユニークなpH依存性、及びD20により活性が低下するというアイソトープ効果の解析は、この2つのヒスチジンが酸塩基として働き、損傷DNAを生成中間体にまで変化している事を示唆している。また、酵素の作用メカニズムを明らかにする有力な方法として、基質と結合した状態での結晶構造の決定を目指している。しかしながら、良好な状態の結晶はまだ得られていない。2)CRYタンパクについては、マウス、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエを用い、その機能解析を行っている。最初の予想通りショウジョウバエのCRYタンパクは概日リズムの光受容ステップに作用していた。しかし、マウスにおいては、mCry1,mCry2各々の遺伝子をダブルノックアウトマウスしたところ、恒暗条件では、全くリズムを失った。この事は、この遺伝子が概日リズムの時計本体として機能していることを示している。しかしながら、光受容能を持っていないのか同化は未定である。今後、更にin vivo,in vitroでの機能解析を行うために、ゼブラフィッシュ、シアノバクテリアからCRY遺伝子を単離した。このタンパクファミリーの全体像が明らかにされることが期待される。光回復酵素・青色光受容体(CRYタンパク)ファミリーのin vitro,in vivoでの機能解析を目指している。これら機能的に全く異なる2種類のタンパクについて以下の解析を行なった。1)光回復酵素については、Xenopusよりクローンした遺伝子に点突然変異を導入し、それらのrecombinantタンパクの活性をチェックする事により、酵素活性に変化があらわれる変異体を同定した。損傷特異的なDNA結合活性は残っているものの、DNA修復能を失っている、2種類の変異体を得た。これらの変異体はヒスチジン残基に変異を導入したものである。酵素活性のユニークなpH依存性、及びD20により活性が低下するというアイソトープ効果の解析は、この2つのヒスチジンが酸塩基として働き、損傷DNAを生成中間体にまで変化している事を示唆している。また、酵素の作用メカニズムを明らかにする有力な方法として、基質と結合した状態での結晶構造の決定を目指している。しかしながら、良好な状態の結晶はまだ得られていない。2)CRYタンパクについては、マウス、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエを用い、その機能解析を行っている。最初の予想通りショウジョウバエのCRYタンパクは概日リズムの光受容ステップに作用していた。しかし、マウスにおいては、mCry1,mCry2各々の遺伝子をダブルノックアウトマウスしたところ、恒暗条件では、全くリズムを失った。この事は、この遺伝子が概日リズムの時計本体として機能していることを示している。しかしながら、光受容能を持っていないのか同化は未定である。今後、更にin vivo,in vitroでの機能解析を行うために、ゼブラフィッシュ、シアノバクテリアからCRY遺伝子を単離した。このタンパクファミリーの全体像が明らかにされることが期待される。光回復酵素・青色光受容体(CRYタンパク)ファミリーのin vitro,in vivoでの機能解析を目指している。光回復酵素については、Xenopusよりクローンした遺伝子に点突然変異を導入し、それらのrecombinantタンパクの活性をチェックする事により、酵素活性に変化があらわれる変異体を同定した。損傷特異的なDNA結合活性は残っているものの、DNA修復能を失っている、2種類の変異体を得た。これらの変異体の解析から、どのようなメカニズムにより修復反応が起こっているのか、理論的な展開が期待される。また、酵素の作用メカニズムを明らかにする有力な方法として、基質と結合した状態での結晶構造の決定を目指している。しかしながら、良好な状態の結晶はまだ得られていない。CRYタンパクについては、マウス、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエを用い、その機能解析を行っている。マウスには2種の青色光受容体遺伝子が存在するが、各々の遺伝子のノックアウトマウスを作成し、その表現型を観察した。mCry1,mCry2各々の遺伝子をノックアウトしたマウスは、行動リズムの周期が、それぞれ短くまたは、長くなっていた。これらからダブルノックアウトマウスを作成し、その行動リズムを観察したところ、恒暗条件では、全くリズムを失った。この事は、この遺伝子が概日リズムの時計本体として機能していることを示している。今後、更にin vitroでの機能解析を行うことにより、このタンパクファミリーの全体像が明らかにされることが期待される。光回復酵素・青色光受容体(CRYタンパク)ファミリーのin vitro,in vivoでの機能解析を目指している。光回復酵素については、Xenopusよりクローンした遺伝子に点突然変異を導入し、それらのrecombinantタンパクの活性をチェックする事により、酵素活性に変化があらわれる変異体を同定した。損傷特異的なDNA結合活性は残っているものの、DNA修復能を失っている、2種類の変異体を得た。これらの変異体はヒスチジン残基に変異を導入したものである。 | KAKENHI-PROJECT-11480140 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11480140 |
DNA修復酵素と光シグナル受容体 | 酵素活性のユニークなpH依存性、及びD20により活性が低下するというアイソトープ効果の解析は、この2つのヒスチジンが酸塩基として働き、損傷DNAを生成中間体にまで変化している事を示唆している。また、酵素の作用メカニズムを明らかにする有力な方法として、基質と結合した状態での結晶構造の決定を目指している。しかしながら、良好な状態の結晶はまだ得られていない。CRYタンパクについては、マウス、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエを用い、その機能解析を行っている。最初の予想通りショウジョウバエのCRYタンパクは概日リズムの光受容ステップに作用していた。しかし、マウスにおいては、mCry1,mCry2各々の遺伝子をダブルノックアウトマウスしたところ、恒暗条件では、全くリズムを失った。この事は、この遺伝子が概日リズムの時計本体として機能していることを示している。しかしながら、光受容能を持っていないのか同化は未定である。今後、更にin vivo,in vitroでの機能解析を行うために、ゼブラフィッシュ、シアノバクテリアからCRY遺伝子を単離した。このタンパクファミリーの全体像が明らかにされることが期待される。 | KAKENHI-PROJECT-11480140 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11480140 |
走査型微小ホール素子顕微鏡を用いたエキゾチックな超伝導状態の研究 | 本研究は強相関電子系において近年数多く発見されているエキゾチックな超伝導状態の解明を目的としている。本年度は重い電子系超伝導体URu_2Si_2の特異な超伝導状態の舞台となる「隠れた秩序」状態について研究を行った。この物質ではT_c=1.4Kで超伝導転移を示し、これまでの熱測定による先行研究や昨年度までの本研究による下部臨界磁場の実験結果より、時間反転対称性の破れた特異な超伝導状態であることが示唆されているが、その発現機構の解明には至っていない。その一方で、この物質ではT_h=17.5Kで比熱が明瞭な2次相転移を示すことが知られており、その秩序変数は発見以後25年経過した現在においても明らかになっておらず、「隠れた秩序」として注目を集めている。この物質では圧力・温度相図においてこの隠れた秩序相でのみ超在導が発現することが知られている。従って超伝導発現機構を解明する上で、この隠れた秩序相の解明は極めて重要である。そこで本研究では、この隠れた秩序状態を明らかにすべく、T_hで何の対称性が破れているかに注目して、磁気異方性に非常に敏感な磁気トルク測定装置の開発及び測定を行った。今回、正方晶単結晶のab面内に正確に磁場を印加することによってトルク測定を宅った結果、隠れた秩序相において正方晶では予期されない2回対称振動を観測した。このことに隠れた秩序が正方晶の面内4回回転対称性を破る電子状態であることを示唆しており、隠れた秩序の解明に向けた重要な実験結果であるといえる。本研究では、重い電子系化合物や有機伝導体などにおいて期待されるエキゾチックな超伝導状態の磁気構造を直接研究することのできる新しいスペクトロスコピーを確立すべく、極低温・強磁場下において測定可能な走査型微小ホール素子顕微鏡の開発を進めている。第1年度目における研究では、走査型微小ホール素子顕微鏡の立ち上げ、及びアレイ状に配置した微小ホール素子を使用することで超伝導体試料の局所磁化の空間依存性を測定可能なシステムを構築し、重い電子系超伝導体や昨年発見された鉄砒素系高温超伝導体の下部臨界磁場の精密な評価を行った。まず走査型ホール素子顕微鏡の立ち上げに関しては、顕微鏡部分の設計・開発を行い、極低温用インサートと組み合わせ、ヘリウム3温度において強磁性体試料(ガーネット膜)の磁区の観測を行った。現在は第二種超伝導体における渦糸構造の観測を行い、測定条件等の最適化を進めている。また我々は微小ホール素子アレイを使用することで試料の中心や端など各々の場所における局所磁化の測定を行い、磁束の侵入が始まる試料端における局所磁化を評価することによって砒素系高温超伝導体の下部臨界磁場の精密な決定を行った。さらに、得られた下部臨界磁場の温度依存性はマイクロ波による磁場侵入長測定の結果と非常に良く一致し、鉄砒素系高温超伝導体PrFeAsO_<1-y>がノードを持だないフルギャップの超伝導体であること、そして下部臨界磁場の異方性からは、この系がマルチバンド超伝導体であり、二次元的なフェルミ面がより大きなギャップを持つことが示唆され、これらはこの系における超伝導発現機構を研究する上で重要な結果であると考えられる。第2年度目における研究では、走査型微小ホール素子顕微鏡及びアレイ状に配置した微小ホール素子を用いて、重い電子系超伝導体URu2Si2の下部臨界磁場の精密な評価を行った。ここで下部臨界磁場及びその異方性は、ノードの有無に敏感な磁場侵入長やフェルミ面の異方性を反映するパラメーターであり、超伝導発現機構と密接に関係する超伝導ギャップ構造を議論する上でその評価は極めて重要である。しかしながら、これまでこの下部臨界磁場の評価は主にバルクの磁化測定に限られており、そのような手法では渦糸のピン止めに起因する試料全体の不均一な磁化を平均して測定してしまうという問題点があり、下部臨界磁場の決定は非常に困難であった。そこで我々は、本研究で立ち上げた、走査型微小ホール素子顕微鏡や微小ホール素子アレイを使用することで試料の中心や端など各々の場所における局所磁化の測定を行い、磁束の侵入が始まる試料端における局所磁化を評価することによって下部臨界磁場の精密な決定を行った。また希釈冷凍機と測定システムとを組み合わせることで、55mKという非常に低い温度までの測定を行った。得られた下部臨界磁場の温度依存性は、従来型のフルギャップの超伝導体で予想される温度依存性とは明らかに異なっており、低温側における振る舞いから、URu2Si2がノードをもつ非従来型の超伝導体であるということを支持する結果を得た。さらに、超伝導転移より低い温度で下部臨界磁場が折れ曲がりを示すという非常に特異な振る舞いが新たに観測された。これは異常な磁束侵入が起こっている可能性を示唆しており、実験・理論両面からのさらなる研究が望まれる。これらの研究成果については学会報告を行っている。本研究は強相関電子系において近年数多く発見されているエキゾチックな超伝導状態の解明を目的としている。本年度は重い電子系超伝導体URu_2Si_2の特異な超伝導状態の舞台となる「隠れた秩序」状態について研究を行った。 | KAKENHI-PROJECT-08J00412 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08J00412 |
走査型微小ホール素子顕微鏡を用いたエキゾチックな超伝導状態の研究 | この物質ではT_c=1.4Kで超伝導転移を示し、これまでの熱測定による先行研究や昨年度までの本研究による下部臨界磁場の実験結果より、時間反転対称性の破れた特異な超伝導状態であることが示唆されているが、その発現機構の解明には至っていない。その一方で、この物質ではT_h=17.5Kで比熱が明瞭な2次相転移を示すことが知られており、その秩序変数は発見以後25年経過した現在においても明らかになっておらず、「隠れた秩序」として注目を集めている。この物質では圧力・温度相図においてこの隠れた秩序相でのみ超在導が発現することが知られている。従って超伝導発現機構を解明する上で、この隠れた秩序相の解明は極めて重要である。そこで本研究では、この隠れた秩序状態を明らかにすべく、T_hで何の対称性が破れているかに注目して、磁気異方性に非常に敏感な磁気トルク測定装置の開発及び測定を行った。今回、正方晶単結晶のab面内に正確に磁場を印加することによってトルク測定を宅った結果、隠れた秩序相において正方晶では予期されない2回対称振動を観測した。このことに隠れた秩序が正方晶の面内4回回転対称性を破る電子状態であることを示唆しており、隠れた秩序の解明に向けた重要な実験結果であるといえる。 | KAKENHI-PROJECT-08J00412 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08J00412 |
水素分子による抗酸化力を利用した肺疾患の新しい治療と予防 | 多様な呼吸器疾患の病態には酸化ストレス関与が強く示唆されているが、水素分子(H2)の抗酸化作用はハイドロキシラジカル(-OH)などの酸化力が強い活性酸素種への選択的還元性と高い生体膜通過性を特徴としている。今回-OHが主な傷害活性酸素種である放射線肺障害やイレッサ薬剤性肺障害モデルとなる培養細胞、マウスを用いたモデル実験においてH2処理はいずれも抗酸化、傷害抑制効果をもたらした。副作用の少ない独創的な抗酸化剤としてその臨床応用が期待される。多様な呼吸器疾患の病態には酸化ストレス関与が強く示唆されているが、水素分子(H2)の抗酸化作用はハイドロキシラジカル(-OH)などの酸化力が強い活性酸素種への選択的還元性と高い生体膜通過性を特徴としている。今回-OHが主な傷害活性酸素種である放射線肺障害やイレッサ薬剤性肺障害モデルとなる培養細胞、マウスを用いたモデル実験においてH2処理はいずれも抗酸化、傷害抑制効果をもたらした。副作用の少ない独創的な抗酸化剤としてその臨床応用が期待される。水素(H_2)分子独特の抗酸化作用はin vitroでH_2がヒドロキシラジカル(・OH)、パーオキシナイトライト(ONOO-)などの強い活性酸素種を選択的に還元する事とH_2分子が生体膜を速やかに通過する事などの利点が考えられ、様々な酸化障害モデルで抗酸化による障害抑制効果を示しており、副作用の少ない抗酸化剤としてその臨床応用が期待されている。一方、多様な呼吸器疾患の病態には酸化ストレスの強い関与が示唆され、その効果的除去は疾患治療の新たな手段となる。本研究ではH_2の臨床応用を念頭におき各種の障害モデルを用い種々の肺疾患の病態でのH_2処理による抗酸化効果に伴う酸化ストレス障害抑制効果を検討することを目的とする。平成22年度は、急性酸化障害に対するH_2処理の抗酸化効果を解析する目的で、放射線障害において特に・OHが主要な障害活性酸素種である為、放射線肺障害でのH_2分子治療の保護効果を培養細胞と動物モデルを用い検討し以下を報告した。ヒト肺胞上皮細胞A549に放射線照射で産生される・OHはESR、蛍光試薬HPF解析にてH_2処理群(H_2溶解培地)で低下し、酸化ストレスマーカーの8-OHdGや4HNE染色やアポトーシスマーカーのactivecaspase3,Baxのウエスタンブロット解析でもH_2処理群に抗酸化や抗アポトーシス効果を認め細胞生存率が上昇した。放射線肺障害マウスモデルでも8-OHdG染色やMDA解析またTUNEL染色、Baxのウエスタンブロット解析から放射線肺障害後1週間内の急性期でH_2処理群(3%H_2吸入、H_2飲水)に抗酸化や抗アポトーシス効果を認めた。胸部CT画像解析や肺組織のEMG染色、3型コラーゲン染色により放射線肺障害後5ヶ月の慢性期でもH_2処理群の線維化減少を認めた。H_2分子治療は放射線の活性酸素種による肺障害に抑制効果があることが示唆された。効果、毒性、耐性、選択性などから、臨床的に有効な理想的な放射線障害防御剤は見いだされていない為、独創的な放射線障害防御方法としてH_2分子は副作用のない治療として有用と考えられた。水素(H2)分子独特の抗酸化作用はin vitroでH2がヒドロキシラジカル(・OH)、パーオキシナイトライト(ONOO-)などの強い活性酸素種を選択的に還元する事とH2分子が生体膜を速やかに通過する事などの利点が考えられ、様々な酸化障害モデルで抗酸化による障害抑制効果を示しており、副作用の少ない抗酸化剤としてその臨床応用が期待されている。一方、多様な呼吸器疾患の病態には酸化ストレスの強い関与が示唆され、その効果的除去は疾患治療の新たな手段となる。本研究ではH2の臨床応用を念頭におき各種の障害モデルを用い種々の肺疾患の病態でのH2処理による抗酸化効果に伴う酸化ストレス障害抑制効果の検討を目的とする。平成23年度は、急性酸化障害に対するH2処理の抗酸化効果を解析する目的で、放射線障害において特に・OHが主要な障害活性酸素種である為、放射線肺障害でのH_2分子治療の保護効果を培養細胞と動物モデルを用い検討し以下を論文として報告した。ヒト肺胞上皮細胞A549に放射線照射で産生される・OHはESR、蛍光試薬HPF解析にてH_2処理群(H_2溶解培地)で低下し、酸化ストレスマーカーの8-OHdGや4HNE染色やアポトーシスマーカーのactive caspase3,Baxのウエスタンブロット解析でもH_2処理群に抗酸化や抗アポトーシス効果を認め細胞生存率が上昇した。特にミトコンドリアでのBaxの発現を抑制していた。放射線肺障害マウスモデルでも8-OHdG染色やMDA解析またTUNEL染色、Baxのウエスタンブロット解析から放射線肺障害後1週間内の急性期でH_2処理群(3%H_2吸入、H_2飲水)に抗酸化や抗アポトーシス効果を認めた。胸部CT画像解析や肺組織のEMG染色、3型コラーゲン染色により放射線肺障害後5ヶ月の慢性期でもH_2処理群の線維化減少を認めた。H_2分子治療は放射線の活性酸素種による肺障害に抑制効果があることが示唆された。効果、毒性、耐性、選択性などから、臨床的に有効な理想的な放射線障害防御剤は見いだされていない為、独創的な放射線障害防御方法としてH2分子は副作用のない治療として有用と考えられた。 | KAKENHI-PROJECT-22590873 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22590873 |
水素分子による抗酸化力を利用した肺疾患の新しい治療と予防 | 水素分子(H2)の抗酸化作用はハイドロキシラジカル(・OH)などの酸化力が強い活性酸素種への選択的還元性と高い生体膜通過性を特徴とし臨床応用が期待されている。放射線肺障害は・OHが主な傷害活性酸素種である為、昨年度まではH2による障害抑制効果を培養細胞と動物モデルで検討した。結果、H2添加によりヒト肺胞上皮細胞に放射線照射で産生される・OHの低下がESR解析で示され、8-OHdGの定量やcaspase3発現解析などから酸化ストレスとアポトーシスの増大が抑制されていた。放射線肺障害マウスモデルでも8-OHdGやTUNEL染色、Bax発現解析から照射後1週間の急性期でH2処理群(照射時3% H2吸入、以後H2水自由飲水)の肺で抗酸化や抗アポトーシス効果を認め、照射後5ヶ月の慢性期にはH2処理群で肺線維化の減少が認められた。このように放射線肺障害に対する水素分子治療の可能性が示唆される事を論文報告した。今年度は抗がん剤シスプラチンによるマウス腎毒性モデルにおいてH2水の飲水のみで腎障害が抑制される報告もあるため、肺がん治療薬ゲフィチニブの副作用である肺障害へのH2水飲水による抑制を検討した。ナフタレンをマウス腹腔内に投与し気道上皮に傷害を与え、更にゲフィチニブを1週間経口投与し傷害が増強するゲフィチニブ副作用肺障害モデルを作製した。ナフタレン肺障害のゲフィチニブによってより増強した体重低下やBALF中や肺組織気道周囲での炎症細胞の増加がH2水飲水群で有意に抑制された。以上、H2治療により放射線肺障害やゲフィチニブ肺障害が抑制された。H2摂取の安全性は高いことから、早期の臨床応用が期待できる。主に急性酸化障害に対するH2処理の抗酸化効果を解析する目的で、放射線障害において特に・OHが主要な障害活性酸素種である為、放射線肺障害でのH_2分子治療の保護効果を培養細胞と動物モデルを用い検討したが、H_2分子治療は放射線の活性酸素種による肺障害に抑制効果があり英文論文として報告する事ができた。24年度が最終年度であるため、記入しない。他の肺病態でのH2処理による抗酸化効果に伴う酸化ストレス障害抑制効果の検討を目的とする意味で、酸化傷害の病態が関わるとされるブレオマイシン肺傷害、線維症モデル(培養細胞、マウスモデル)および肺気腫モデルとしてSAMP1マウスを用いH_2処理(H_2溶解培地、3%H_2吸入、H_2飲水)による抗酸化効果に伴う酸化ストレス障害抑制効果、保護効果を同様に検討する。24年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-22590873 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22590873 |
高度経済成長期の地方都市におけるスーパーマーケット進出と民俗文化の変容 | 1.地方都市におけるスーパーマーケット進出と商店街の対抗策と衰退昭和30年代初頭より、東京や大阪に本部を置くスーパーマーケットが四国の諸都市に進出し、戦前から存在した商店街の顧客の奪った。特に、高知県中村市での調査から、最初は商店街が地域独自のスーパーマーケットを設立して対抗したが、結局は全国展開する大手チェーンのスーパーマーケットに飲み込まれていくというプロセスが明らかとなった。これは全国の中小都市に共通する現象であると思われる。2.スーパーマーケット進出と民俗文化の変容当時の人々は、東京・大阪資本のスーパーマーケットの商品は「都会」、地元の店の商品は「田舎」と考え、「都会」の商品を好んで購入するようになった。このため、スーパーマーケットの商品に示された「都会」が、四国の各地に侵食し定着することとなった。最も好まれた「都会」は、子供の菓子類であった。そのため、子供の誕生日や子供の節供などの人生儀礼、年中行事を通じて「都会」が生活の中に侵入する様子が見て取れる。また、母親もまた惣菜や洋服、子供用品の購入を通じて「都会」化していくこととなった。こうしたことから、戦後の消費社会化は、子供母親父親の順で浸透し、伝統的な民俗文化が変容していったことが明らかとなった。このことは、現在の消費文化を考える際にも大いに参考になると思われる。1.地方都市におけるスーパーマーケット進出と商店街の対抗策と衰退昭和30年代初頭より、東京や大阪に本部を置くスーパーマーケットが四国の諸都市に進出し、戦前から存在した商店街の顧客の奪った。特に、高知県中村市での調査から、最初は商店街が地域独自のスーパーマーケットを設立して対抗したが、結局は全国展開する大手チェーンのスーパーマーケットに飲み込まれていくというプロセスが明らかとなった。これは全国の中小都市に共通する現象であると思われる。2.スーパーマーケット進出と民俗文化の変容当時の人々は、東京・大阪資本のスーパーマーケットの商品は「都会」、地元の店の商品は「田舎」と考え、「都会」の商品を好んで購入するようになった。このため、スーパーマーケットの商品に示された「都会」が、四国の各地に侵食し定着することとなった。最も好まれた「都会」は、子供の菓子類であった。そのため、子供の誕生日や子供の節供などの人生儀礼、年中行事を通じて「都会」が生活の中に侵入する様子が見て取れる。また、母親もまた惣菜や洋服、子供用品の購入を通じて「都会」化していくこととなった。こうしたことから、戦後の消費社会化は、子供母親父親の順で浸透し、伝統的な民俗文化が変容していったことが明らかとなった。このことは、現在の消費文化を考える際にも大いに参考になると思われる。1、地方都市におけるスーパーマーケット進出と商店街の衰退昭和30年代初頭より東京や大阪に本部をおくスーパーマーケットが四国の諸都市に進出し、戦前から存在した商店街は顧客の多くを奪われ衰退していった。最終的に、商店街は地域独自のスーパーマーケットを設立して対抗することを選んだことが、とくに、高知県高知市と中村市での聞き取り調査および図書館所蔵の資料から明らかになった。中村市の場合、東京・大阪資本のスーパーマーケットで販売されている商品は「都会のもの」と認識されたのに対し、地域独自のスーパーマーケットの商品は「田舎のもの」と受け取られたため、売り上げは伸びなかった。こうしたように、昭和30年代の高度経済成長期において、東京・大阪資本のスーパーマーケットが尖兵となり、地方都市住民の嗜好性を東京・大阪発の商品を好むように変化させることになったことを実証的に明らかにできた。2、スーパーマーケット進出と民俗文化の変容上記のように、東京・大阪資本のスーパーマーケットでの日用品の購入が好まれるようになると、生活そのものが「東京・大阪」化することとなった。たとえば、もっとも変化したのは、東京・大阪などで流行している衣服が安価に購入できるようになったため、まず衣文化から劇的に変容したことが、徳島市・高知市・中村市での聞き取り調査調査および図書館・文書館所蔵の資料から裏づけられる。また、人生儀礼では、子どもの誕生日祝いに、子どもが好む「都会」の菓子類を準備することが一般的となっていった。その他の、結婚式や葬式などの人生儀礼は、まだこの段階では伝統性を強く保持しており、高度経済成長期の民俗文化の変容が、子ども文化から生じたことが、徳島市・高知市・中村市での聞き取り調査より明らかとなった。1、地方都市におけるスーパーマーケット進出と商店街の対抗策・衰退昭和30年代初頭より、地元商店街が「黒船」と呼んだ東京や大阪に本部をおくスーパーマーケットが四国の諸都市に進出し、戦前から存在した商店街の顧客の多くを奪った。とくに、高知県中村市での調査から、商店街が地域独自のスーパーマーケットを設立して対抗したが、結局、商店街との競合を避けるため小規模で、しかも郊外に設立することしかできなかったため、地元スーパーも商店街も共倒れになっていくというプロセスが明らかとなった。これは、全国の中小都市に共通する現象であると思われる。2、スーパーマーケット進出と民俗文化の変容・戦後子供消費文化の成立東京・大阪資本のスーパーマーケットでの商品は「都会」、地元の店の商品は「田舎」という区別が定着することにより、東京から取り寄せた商品を販売している店自体も「田舎」と認識され、営業することが困難となっていった。このため、スーパーを発信基地とする「都会」が四国の中小都市にも蔓延することとなった。最も好まれた「都会」は、子どもが好む有名な会社の菓子類であった。 | KAKENHI-PROJECT-15520524 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15520524 |
高度経済成長期の地方都市におけるスーパーマーケット進出と民俗文化の変容 | そのため、子供の誕生日祝いや子供の節句などの人生儀礼、年中行事を結接点として、当時の子供から「都会」が侵入する様子が見てとれる。そしてこれに引きずられるように、母親もまた商品購入を通して「都会」化して行くことになった。その逆に、結婚式や葬式などの人生儀礼、その他の年中行事は「父親」が指揮して行なわれていたため、伝統性を強く保持した形で行なわれていた。こうしたことから、戦後の消費社会化は、子ども母親父親の順で浸透し、伝統的な民俗文化が変容していったことが明らかとなった。このことは、現在の消費文化を考える際にも大いに参考になることであると思われる。 | KAKENHI-PROJECT-15520524 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15520524 |
Osborne-Mendelラットの糸球体足細胞障害に関わる新規RAS分子の同定 | 【緒言】慢性腎不全の起点ともいえる足細胞障害の機序については不明な点が多く、その病理発生の解明が待たれている。Osborne-Mendel(OM)ラットは比較的早期に糸球体傷害を発症する系統で、病変形成の引き金として糸球体足細胞の障害が重要であると考えられるが、詳細な研究は行われていない。本研究ではこのOMラットの足細胞障害に関連する新規レニン・アンジオテンシン系(RAS)分子を同定し、足細胞障害と糸球体傷害の進行機序の解明に資することを目的として研究を行った。(1)降圧剤の投与によるOMラットの足細胞障害の修飾:OMラットにRAS阻害薬であるRAS阻害薬とRASに作用しない血管拡張薬Hydralazine(HYD)を投与した。その結果、いずれの投与群においても同程度の降圧作用が確認されたのにもかかわらず、HYD投与群ではRAS阻害群と比較して十分な足細胞障害抑制効果が認められなかったことから、OMラットの糸球体傷害は血圧非依存性であり、足細胞障害にRAS、特にアンジオテンシンII(Ang II)とその受容体(Ang IItype1受容体;ATIR)が足細胞障害の病理発生に関与していることが示唆された。(2)In vitroにおけるOMラットの足細胞の性状の検索:次にin vitroの系を用いて足細胞の組織RASに焦点を絞り、OMラットとF344ラットの足細胞を単離・培養し、その性状を比較した。その結果、OMラットの培養足細胞は他系統のそれと比べATIRの発言量が高く、Ang IIに対する感受性が高い可能性が示された。さらに、両系統の培養足細胞の培養液中にAng IIを添加し、nephrin mRNA発現量と足細胞のアクチン細胞骨格への影響を評価した。その結果、Ang II刺激によるnephrinmRNA量の発現低下は両系統の培養足細胞で誘導されたが、OMラットでより有意な低下がみられた。また、OMラットではアクチン細胞骨格に再編がみられた。なお、これらのAng II誘導性の作用はAng IIアンタゴニストを同時に添加することにより抑制された。(3)in vivoにおけるATIRの発現量の比較:OMラットの足細胞におけるATIRの発現量を免疫電顕を用いて他系統のそれと比較したところ、OMラットではATIRの発現量が高いことが示された。また糸球体中のAT1R mRNA発現量も他系統と比べ、有意に高いことが示された。【結語】OMラットの足細胞はAng IIに対するレセプター、ATIRの発現量が高く、細胞局所におけるRASの活性化により足細胞の細胞骨格の再編が生じ、足細胞障害とGBMからの剥離と減少、糸球体傷害と慢性腎不全が誘導されていることが示唆された。足細胞障害の進行機序には組織RASの活性化に対する足細胞の感受性と、その細胞骨格の変化が重要であり、これらを治療標的とすることが足細胞障害の抑制に有効であると考えられた。本研究では足細胞障害にかかわる新規のRAS分子を同定することを目的としたが、本ラットで示された足細胞障害に関わるRAS分子は既知のアンジオテンシIIとその受容体(アンジオテンシンII type1受容体)であった。そのため、実験の方向性を転換し、アンジオテンシンII誘導する足細胞障害のメカニズムをin vitroの系を用いて探索した。結果的にアンジオテンシンIIは足細胞骨格に作用して、足細胞の機能と足細胞関連タンパク質の発現量に影響を与えることが示唆されたが、アンジオテンシンIIが細胞骨格に作用を及ぼす過程の伝達経路の特定にまでは至らなかった。上述のとおり、アンジオテンシンIIが足細胞の細胞骨格の再編を誘導する過程で活性化される伝達経路の特定がされておらず、今後はその経路を解明することが重要となる。他の報告を参考とするとRhoタンパク質ファミリーが深く関与することが予想され、RnoA、Rac1、cdc42を中心にその発現量を解析していく必要がある。OMラットにおいてこの伝達経路の特定がなされれば、本研究の臨床応用の幅が広がることが予想される。本年度は以下の2つの実験を行うことにより、研究成果を挙げている。1)アンジオテンシンII受容体ブロッカー投与によるOsborne-Mendelラットの腎糸球体足細胞障害に対する効果これまでの研究によりOsborne-Mendel(OM)ラットの腎糸球体足細胞障害にはレニン・アンジオテンシン系(RAS)が関与することが示唆されており、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)の投与により、足細胞障害の抑制効果が確認されている。本実験ではOMラットの足細胞障害に関わるRAS分子をさらに特定していくことを目的に、ACEi以外のRAS阻害薬であるアンジオテンシンII(Ang II)受容体ブロッカー(ARB)をOMラットに投与した。その結果、ARBの投与によりOMラットの収縮期血圧の降下がみられ、同時にタンパク尿の発現抑制、糸球体傷害および糸球体硬化病変の形成の抑制、足細胞の形態学的な傷害の抑制、ならびに足細胞関連分子の発現低下の抑制が観察された。以上、ARBの投与により足細胞障害の抑制効果が得られたことから、OMラットの足細胞障害の病理発生においてAng IIが重要な役割を示すことが示唆された。1)の実験結果より、OMラットの足細胞障害にはRAS、特にAng IIが重要であることが示唆された。そのため、足細胞に対するRASの作用に焦点を絞り、OMラットの足細胞を初代培養し、その性状を検索した。 | KAKENHI-PROJECT-11J09653 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11J09653 |
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