title
stringlengths 0
199
| text
stringlengths 3
3.18k
| id
stringlengths 23
32
| url
stringlengths 56
65
|
---|---|---|---|
迅速な肺炎・敗血症診断を可能にする細菌ゲノム抽出・増幅・同定システムの構築 | また、敗血症は感染症で最も重症であり生死にかかわる状態のため、患者様だけでなく家族様からも研究の同意を得るのは困難なことが多い。さらに、初期抗菌薬投与後や検体採取のタイミング次第では、原因微生物が検出されづらいため、検体採取のタイミングも限定されてしまい、症例数が不足している。また、検体採取や処理の段階での常在菌の混入が問題となり、研究解析が一時中断していた。丁寧かつ平易な説明による研究同意の取得、原因微生物を特定するのに質の高い検体の採取、採取時や検体処理時の常在菌の混入防止の強化など、を推進していく。また、敗血症のゲノム解析による原因微生物の同定方法を確立するのに、培養検査結果やゲノム解析結果の微生物占拠率に加えて、病原菌の統計学的頻度、臨床診断や臨床経過も考慮した上で、臨床に活用できる真の原因微生物の同定方法を検証する。また、従来の培養検査結果とゲノム解析結果が異なる場合に、どのように判断するかを適切に解釈する。さらに、近い将来に、臨床現場で一般的な検査として使用されるには、検査の簡便性や迅速性や費用対効果も追及する必要がある。予定していた研究の症例数が集まらなかったため、分析をおこなうゲノム解析数が少なかった。また、途中で汚染菌の混入などにより研究解析を中断していたいため、当初予定していた消耗品の購入をしなかった。今年度は、解析を再開しており、昨年度も含めて研究に必要なフローセルやチップなどに使用する予定。 | KAKENHI-PROJECT-17K16232 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K16232 |
ペテルブルグの文書館史料を用いた、ユーラシア諸民族の多元的宗教生活の歴史的研究 | ペテルブルグの文書館史料を用いた、ユーラシア諸民族の多元的宗教生活の歴史的研究ではつぎのようなテーマで研究を行った。古代・中世期のユーラシア大陸諸民族の宗教生活は、大規模かつ絶え間ない民族接触にともない、複雑な様相を呈している。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教などの世界的宗教は、大陸各地に広がるにつれて、土着の宗教や原始的信仰・呪術と習合し、独自の信仰形態を形作り、ときには高度な哲学・思想体系へと発展していった。そのプロセスと、実態の解明は、しばしば宗教的価値観の違いによって生じている民族対立・紛争の回避という今日的課題に取り組む上で、重要な示唆を与えてくれるものとなろう。本研究では、ロシア、サンクトペテルブルグ市に所在の文書館(アルヒーフ)収蔵の史料を研究対象とする。このコレクションは膨大かつ学問的価値の非常に高いもので、各方面から注目されているところである。その詳細な検討を通して、ユーラシア諸民族の宗教生活およびその歴史性を明らかにすることが、われわれの最終的な目標である。これまで平成14年度、平成15年度に、参加者がサンクトペテルブルグ市アルヒーフを実際に訪問し、現地研究者と意見交換を行いながら、資料収集につとめた。国際学術協力体制が組まれたことは、今後の当該分野の発展に寄与するところが大であろう。平成16年度は研究代表者及び分担者が、各自個別テーマを設定し、収集資料にもとづき実証的な研究を行い。それを一冊の報告書としてまとめた。ペテルブルグの文書館史料を用いた、ユーラシア諸民族の多元的宗教生活の歴史的研究ではつぎのようなテーマで研究を行った。古代・中世期のユーラシア大陸諸民族の宗教生活は、大規模かつ絶え間ない民族接触にともない、複雑な様相を呈している。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教などの世界的宗教は、大陸各地に広がるにつれて、土着の宗教や原始的信仰・呪術と習合し、独自の信仰形態を形作り、ときには高度な哲学・思想体系へと発展していった。そのプロセスと、実態の解明は、しばしば宗教的価値観の違いによって生じている民族対立・紛争の回避という今日的課題に取り組む上で、重要な示唆を与えてくれるものとなろう。本研究では、ロシア、サンクトペテルブルグ市に所在の文書館(アルヒーフ)収蔵の史料を研究対象とする。このコレクションは膨大かつ学問的価値の非常に高いもので、各方面から注目されているところである。その詳細な検討を通して、ユーラシア諸民族の宗教生活およびその歴史性を明らかにすることが、われわれの最終的な目標である。これまで平成14年度、平成15年度に、参加者がサンクトペテルブルグ市アルヒーフを実際に訪問し、現地研究者と意見交換を行いながら、資料収集につとめた。国際学術協力体制が組まれたことは、今後の当該分野の発展に寄与するところが大であろう。平成16年度は研究代表者及び分担者が、各自個別テーマを設定し、収集資料にもとづき実証的な研究を行い。それを一冊の報告書としてまとめた。研究経過平成14年6月に、中澤敦夫は研究分担者を代表し、ロシア・サンクトブルグのロシア科学アカデミー東洋学研究所を訪れ、本年度における、我々の研究計画を伝え、調査への協力を要請した。同時に、研究所において、ロシア中世史関連の資料収集を行った。また、現地における受け入れ体制、宿泊や交通機関の確認をし、夏期に予定されている研究分担者の訪ロへの事前準備を行った。平成14年9月に、中西啓子、深澤助雄、關尾史郎、中澤敦夫をサンクトペテルブルグに1週間派遣。ロシア科学アカデミー東洋学研究所で、中西は敦煌の蔵外仏典関連、深澤は東方キリスト教教父思想関連、關尾は敦煌仏教寺院関連、中澤はロシア中世思想史関連のデータ収集を行った。重要と思われる史料は、研究所の協力を得てマイクロフィルム化して、日本に持ち帰った。平成15年2月には、關尾史郎・白石典之(研究分担者・新潟大学人文学部)をサンクトペテルブルグに1週間派遣。關尾はロシア科学アカデミー東洋学研究所およびエルミタージュ美術館において、敦煌をはじめとするシルクロード関連漢字文書史料のデータ収集に努めた。白石はエルミタージュ美術館およぴ人類学・民族学博物館にて、モンゴル地域出土の考古学資料を中心にデータ収集を行った。研究実績の公開本年度は本研究計画の初年であり、代表者および各分担者ともに、基礎的データの収集に努めたので、公表できた業績は少ない。次年度以降、さらに資料の増補と関連分野との意見交換を踏まえて、最終年度における報告書刊行に備えたい。平成15(2003)年9月に、鈴木佳秀・深澤助雄・關尾史郎・中澤敦夫らをロシア連邦に派遣、サンクトペテルブルグ大学東洋学部で開催された「サンクトペテルブルグ建都300周年記念、サンクトペテルブルグ大学東洋学部・新潟大学人文学部国際ワークショップ」で、「サンクトペテルブルグ所蔵、中央アジア出土漢文文献について」などの研究発表をおこなった。あわせて、サンクトペテルブルグ大学、およびサンクトペテルブルグ文書館を訪問し、所蔵資料の検討をおこなった。とくに敦煌文書に関しては、新資料を明らかにするなど、当該地域の宗教生活について、学術的新知見を与えるものと評価できる。あわせて關尾は、ドイツ連邦共和国のベルリンに足をのばし、同地に所在する研究機関所蔵の資料も実見した。 | KAKENHI-PROJECT-14401002 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14401002 |
ペテルブルグの文書館史料を用いた、ユーラシア諸民族の多元的宗教生活の歴史的研究 | 11月には中澤がサンクトペテルブルグ文書館を訪れ、学術討論会にて研究発表をおこない、ロシア側研究者と意見交換を行うとともに、最終年度報告に向けて、さらなる現地協力を要請した。12月には、白石典之が中国内蒙古を訪れた。これは昨年度サンクトペテルブルグ市エルミタージュ美術館で実見したモンゴル関係の資料に関する補足調査である。内蒙古文物考古研究所の研究員とともに、オルドス市エゼン・ホローのチンギスカン陵を訪れ、チンギスカン祭祀の構造に関わる新たな資料を得た。とくに、20世紀初頭まで祭祀が行われていた場所を調査し、祭壇の規模、構築の構造などを明らかにし、数値データを得るなど、不明な点の多い、チンギスカン祭祀についての新知見を得た。上記調査における成果は、現在整理中あるいは雑誌論文に投稿中である。また、詳細は次年度の報告書の中で明らかにしたい。ペテルブルグの文書館史料を用いた、ユーラシア諸民族の多元的宗教生活の歴史的研究ではつぎのようなテーマで研究を行った。古代・中世期のユーラシア大陸諸民族の宗教生活は、大規模かつ絶え間ない民族接触にともない、複雑な様相を呈している。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教などの世界的宗教は、大陸各地に広がるにつれて、土着の宗教や原始的信仰・呪術と習合し、独自の信仰形態を形作り、ときには高度な哲学・思想体系へと発展していった。そのプロセスと、実態の解明は、しばしば宗教的価値観の違いによって生じている民族対立・紛争の回避という今日的課題に取り組む上で、重要な示唆を与えてくれるものとなろう。本研究では、ロシア、サンクトペテルブルグ市に所在の文書館(アルヒーフ)収蔵の史料を研究対象とする。このコレクションは膨大かつ学問的価値の非常に高いもので、各方面から注目されているところである。その詳細な検討を通して、ユーラシア諸民族の宗教生活およびその歴史性を明らかにすることが、われわれの最終的な目標である。これまで平成14年度、平成15年度に、参加者がサンクトペテルブルグ市アルヒーフを実際に訪問し、現地研究者と意見交換を行いながら、資料収集につとめた。国際学術協力体制が組まれたことは、今後の当該分野の発展に寄与するところが大であろう。平成16年度は研究代表者及び分担者が、各自個別テーマを設定し、収集資料にもとづき実証的な研究を行い。それを一冊の報告書としてまとめた。 | KAKENHI-PROJECT-14401002 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14401002 |
三次元多様体の基本群の表現と双曲構造の退化 | 三次元双曲錐多様体の退化の研究において表現の体積の研究は重要である。なぜならば、退化のタイプが一点につぶれる場合、それに対応する表現の体積は0となるからである。20年度の研究において表現の体積の曲面による切り貼りに関する公式が完成した。この公式を用いて本年度では当初の予定であった二橋結び目を特異集合としてもつ双曲錐多様体の退化に対応するPSL(2,C)表現の特徴付けを行いたい。またとくに絡み目の補空間に特別な3点穴あき球面が埋め込まれているとき、その曲面で切り貼りなおすと新たな絡み目が構成される。21年度ではこの切り貼りに表現の体積の公式を適用することで二つの絡み目の対応するデーン手術の体積が一致することを示すことができた。この結果はもともとRubermanが4点穴あき球面のときに示していたことの類似である。しかし方法はまったく異なり、さらに4点穴あき球面の場合で排除されていた場合にも双曲体積を用いることで示すことができた。22年度ではより一般の対称性のある曲面、例えば1点穴あきトーラスや種数2の閉曲面など、による切り貼りによっても双曲体積が保たれることを示した。この切り貼りによる操作はミューテーションと呼ばれ多くの不変量が保たれる。これは直接双曲構造の切り貼りを行う代わりに、擬展開写像という基本群のPSL(2,C)表現に対して構成することのできる多様体の普遍被覆から3次元双曲空間への写像を切り貼りすることによって得られる。擬展開写像を扱うことによって直接双曲構造を扱うのではなく理想頂点のみを扱えばよいことがこの方法のメリットである。本研究の目的は双曲構造の退化に対応する基本群のPSL(2,C)表現を構成する、または特徴付けることである。一般にトーラスカスプのみをもつ三次元多様体の基本群のPSL(2,C)表現には双曲体積が定義できる。双曲構造の1点につぶれる退化が起こるときは、この体積がOとなるので表現の体積を調べることは重要である。表現の体積を具体的に計算するのは困難なので、いろいろな操作により表現の体積がどうかわるのかを調べることが大切である。本研究の研究実績はこのことに関する以下の3つです。(1)三次元多様体に埋め込まれた本質的トーラス、アニュラス、球面による切り貼りに関する等式(2)3点穴あき球面による切り貼りに関する等式(3)(2)のDehn surgeryにより構成された双曲多様体の体積への応用(1)は本年度の研究実施計画の目標の1つになっていたトーラスによる切り貼りに関する等式の完成を含んでいる。(2)は(1)と同様の形の等式であるが、証明には(1)よりも詳しい考察が必要なので二つの項目に分けた。(3)について詳しく説明する。絡み目に3点穴あき球面によりmutationを行うど一般に異なる絡み目ができる。(3)で主張しているのは、このときそれぞれのDehn surgeryは対応して、双曲体積が一致するというものである。このれは4点穴あき球面によるmutationについては示されていたが、3点穴あき球面についてはまだであった。この研究の延長としては次のことがある。3点穴あき球面をもつ二つの三次元多様体が与えられたときに、それぞれを3点穴あき球面で切り貼りなおすことで新しい三次元多様体ができる。この操作に関する表現の体積の等式が得られれば、(3)とあわせて多くのDehn surgeryにより構成された三次元多様体が簡単な三次元多様体の双曲体積の和で表すことができることがわかる。今までの計画に加えこのことも研究していきたい。本研究の目的は双曲構造の退化に対応する基本群のPSL(2,C)表現を構成する、または特徴付けることである。一般にトーラスカスプのみをもつ三次元多様体の基本群のPSL(2,C)表現には双曲体積が定義できる。双曲構造の1点につぶれる退化が起こるときは、この積が0となるので麦現の体積を調べることは重要である。表現の体積を具体的に計算するのは困難なので、いろいろな操作により表現の体積がどうかわるのかを調べることが大切である。本研究の研究実績はこのことに関する以下の3つです。(1)三次元多様体に埋め込まれた本質的トーラス、アニュラス、球面による切り貼りに関する等式(2)3点穴あき球面による切り貼りに関する等式(3)(2)のDehn surgeryにより構成された双曲多様体の体積への応用(1)は本年度の研究実施計画の目標の1つになっていたトーラスによる切り貼りに関する等式の完成を含んでいる。(2)は(1)と同様の形の等式であるが、証明には(1)よりも詳しい考察が必要なので二つの項目に分けた。(3)について詳しく説明する。絡み目に3点穴あき球面によりmutationを行うと一般に異なる絡み目ができる。(3)で主張しているのは、このとこそれぞれのDehn surgeryは対応して、双曲体積が一致するというものである。これは4点穴あき球面によるmutationについては示されていたが、3点穴あき球面についてはまだであった。平成20年度には3点穴あき球面の場合に示すことが出来た。また平成21年度には一般のmutationに関して示すことができた。三次元双曲錐多様体の退化の研究において表現の体積の研究は重要である。なぜならば、退化のタイプが一点につぶれる場合、それに対応する表現の体積は0となるからである。 | KAKENHI-PROJECT-08J01902 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08J01902 |
三次元多様体の基本群の表現と双曲構造の退化 | 20年度の研究において表現の体積の曲面による切り貼りに関する公式が完成した。この公式を用いて本年度では当初の予定であった二橋結び目を特異集合としてもつ双曲錐多様体の退化に対応するPSL(2,C)表現の特徴付けを行いたい。またとくに絡み目の補空間に特別な3点穴あき球面が埋め込まれているとき、その曲面で切り貼りなおすと新たな絡み目が構成される。21年度ではこの切り貼りに表現の体積の公式を適用することで二つの絡み目の対応するデーン手術の体積が一致することを示すことができた。この結果はもともとRubermanが4点穴あき球面のときに示していたことの類似である。しかし方法はまったく異なり、さらに4点穴あき球面の場合で排除されていた場合にも双曲体積を用いることで示すことができた。22年度ではより一般の対称性のある曲面、例えば1点穴あきトーラスや種数2の閉曲面など、による切り貼りによっても双曲体積が保たれることを示した。この切り貼りによる操作はミューテーションと呼ばれ多くの不変量が保たれる。これは直接双曲構造の切り貼りを行う代わりに、擬展開写像という基本群のPSL(2,C)表現に対して構成することのできる多様体の普遍被覆から3次元双曲空間への写像を切り貼りすることによって得られる。擬展開写像を扱うことによって直接双曲構造を扱うのではなく理想頂点のみを扱えばよいことがこの方法のメリットである。 | KAKENHI-PROJECT-08J01902 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08J01902 |
GTP結合蛋白質の質的変動を惹起する要因(MEKA様蛋白を介するGTP結合蛋白間の相互調節機構の解明) | 阻害性GTP結合(Gi)蛋白質の質的変動を,in vitrcの実験系にて観察するため、百日咳毒素によるADPリボシル化反応,Birnbaumerらの方法に従ったGi蛋白質α,β,γサブユニット三量体の解離実験,Gi蛋白質に対する抗体を用いたWestern blot法などを行なった。昨年度に報告したが,リテウム・イオン添加は、ヒト血小板膜Gi蛋白質のADPリボシル化反応(百日咳毒素(IAP)による)量を減少させ,Gi蛋白質を介するアデニレ-ト・シクラ-ゼ活性阻害を減弱させたが,Mg^<2+>GTP_JSによるGi蛋白質三量体の解離には影響せず,そのサブユニット三量体の解離の変化を伴わない質的変動を引き起こした。また,同イオンの慢性抜与患者血小板では,IAPによるADPリボシル化量は減少した。次に,リン酸化の影響を観た。ラット脳より部分情製したGi蛋白質を,cyclic AMP依存性プロテインキナ-ゼ(Mg^<2+>ATP存在下)と反応させ,同蛋白質α,βサブユニットにリン酸化を生じせしめた後,IAPによるADPリボシル化量の減少,Mg^<2+>GTP_JSによるGi蛋白質三量体の解離促進の抑制が観察された。また,同条件下にて,Gi蛋白質を介するフォスフォ・リパ-ゼC活性刺激が抑制された。このように,Gi蛋白質のcyclic AMP依存性プロテインキナ-ゼによるリン酸化は、同蛋白質の三量体の解離の変化を伴なう質的変動を引き起こした。上述した全実験下において,Gi蛋白に対する抗体を用いたWestern blot法では,変化は観られなかった。以上の通り,G蛋白質の質的変動を惹起する因子として,プロテインキナ-ゼによるリン酸化,リテウムイオンが考えられたが,最近,次々と発見される情報伝達に関与する機能を持つ蛋白質分子が推測され,生体膜を介する情報伝達調節の一つのメカニズムとして,G蛋白質の質的変動は重要であると考えられた。阻害性GTP結合(Gi)蛋白質の質的変動を,in vitrcの実験系にて観察するため、百日咳毒素によるADPリボシル化反応,Birnbaumerらの方法に従ったGi蛋白質α,β,γサブユニット三量体の解離実験,Gi蛋白質に対する抗体を用いたWestern blot法などを行なった。昨年度に報告したが,リテウム・イオン添加は、ヒト血小板膜Gi蛋白質のADPリボシル化反応(百日咳毒素(IAP)による)量を減少させ,Gi蛋白質を介するアデニレ-ト・シクラ-ゼ活性阻害を減弱させたが,Mg^<2+>GTP_JSによるGi蛋白質三量体の解離には影響せず,そのサブユニット三量体の解離の変化を伴わない質的変動を引き起こした。また,同イオンの慢性抜与患者血小板では,IAPによるADPリボシル化量は減少した。次に,リン酸化の影響を観た。ラット脳より部分情製したGi蛋白質を,cyclic AMP依存性プロテインキナ-ゼ(Mg^<2+>ATP存在下)と反応させ,同蛋白質α,βサブユニットにリン酸化を生じせしめた後,IAPによるADPリボシル化量の減少,Mg^<2+>GTP_JSによるGi蛋白質三量体の解離促進の抑制が観察された。また,同条件下にて,Gi蛋白質を介するフォスフォ・リパ-ゼC活性刺激が抑制された。このように,Gi蛋白質のcyclic AMP依存性プロテインキナ-ゼによるリン酸化は、同蛋白質の三量体の解離の変化を伴なう質的変動を引き起こした。上述した全実験下において,Gi蛋白に対する抗体を用いたWestern blot法では,変化は観られなかった。以上の通り,G蛋白質の質的変動を惹起する因子として,プロテインキナ-ゼによるリン酸化,リテウムイオンが考えられたが,最近,次々と発見される情報伝達に関与する機能を持つ蛋白質分子が推測され,生体膜を介する情報伝達調節の一つのメカニズムとして,G蛋白質の質的変動は重要であると考えられた。ラット脳より部分精製した阻害性GTP結合(Gi)蛋白の質的変動を観るための基礎的デ-タを蓄積した。そのα,β,αサブユニット三量体の解離は,Birnbaumerらの方法に従い,精製Gi蛋白をショ糖勾配上に静置後、超遠沈により得られた各分画を百日咳毒素にてADPーribosylationを行ない,オ-トラジオグラフ上にて解析した。無処置Gi蛋白三量体は4Sの沈降定数を示し,50mMMg^<2+>,100μMGTPrSによる前処置により,2Sの沈降定数を示し,後者の条件下にて,三量体は,αサブユニットとβαサブユニットに解離したと考えられた。リチウムイオン(Li)のG蛋白に対する作用点を探るために,以下の研究を行なった。Li2mMをNG108ー15細胞に加えて数日間培養したが,Gi蛋白に対する抗体を用いたimmnnoblot上、変化はなく,LiはGi蛋白に量的な変動を生じさせなかった。次に,Liにて生じるGi蛋白の質的変動を知るため以下の研究を行なった。(1)前述のGi蛋白三量体の解離に対し,Liは,その三量体形成,解離共に影響しなかった。(2)ラット心筋細胞,脳,大動脈,ヒト血小板において,百日咳毒素によるG蛋白のADPR | KAKENHI-PROJECT-02670084 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02670084 |
GTP結合蛋白質の質的変動を惹起する要因(MEKA様蛋白を介するGTP結合蛋白間の相互調節機構の解明) | 反応量を,Liは濃度依存的に抑制して(IG_<50>=約1mM)。(3)ヒト血小板におけるα_2受容体刺激GTPase活性をLiは増加させた。(4)同細胞におけるα_2受容体アンタゴニストを用いた結合実験にて,GTPシフトを減弱させた。(5)同細胞におけるフォルスコリン刺激アデニレ-ト活性に対するα_2受容体刺激による同活性抑制をLiは減弱せしめた。この様に,G蛋白の質的変動を,in vitroの実験系にて観察できることが示され,今后,リン酸化蛋白との関連を研究する。阻害性GTP結合(Gi)蛋白質の質的変動を,in vitroの実験系にて観察するため,百日咳毒素によるADPリボシル化反応,Birnbanmerらの方法に従ったGi蛋白質α,β,γサブユニット三量体の解離実験,Gi蛋白質に対する抗体を用いたWestern blot法などを行なった。昨年度に報告したが,リテウム・イオン添加は,ヒト血小板膜Gi蛋白質のADPリボシル化反応(百日咳毒素(IAP)による)量を減少させ,Gi蛋白質を介するアデニレ-ト・シクラ-ゼ活性阻害を減弱させたが,Mg^<21>GTP_2SによるGi蛋白質三量体の解離には影響せず,そのサブユニット三量体の解離の変化を伴わない質的変動を引き起こした。また,同イオンの慢性抜与患者血小板では,IAPによるADPリボシル化量は減少した。次に,リン酸化の影響を得た。ラット脳より部分精〓したGi蛋白質を,cyclic AMP依存性プロテインキナ-ゼ(Mg^<2+>ATP存在下)と反応させ,同蛋白質α,βサブユニットにリン酸化を生じせしめた後,IAPによるADPリボシル化量の減少,Mg^<2+>GPT_2SによるGi蛋白質三量体の解離促進の抑制が観察された。また,同条件下にて,Gi蛋白質を介するフォスフォリパ-がC活性刺激が抑制された。このように,Gi蛋白質のcyclic AMP依存性プロテインキナ-ゼによるリン酸化は、同蛋白質の三量体の解離の変化を伴なう質的変動を引き起こした。上述した全実験下において,Gi蛋白に対する抗体を用いたWestern blot法では,変化は観られなかった。以上の通り,G蛋白質の質的変動を惹起する因子として,プロテインキナ-ゼによるリン酸化,リチウムイオンが考えられたが,最近,次々は発見される情報伝達に関与する機能を持つ蛋白貭分子が推測され,生体膜を介する情報伝達調節の一つのメカニズムとして,G蛋白質の質的変動は重要であると考えられた。 | KAKENHI-PROJECT-02670084 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02670084 |
精密分子設計に基づく固液界面での2次元分子結晶の制御と機能 | 本研究は、固体表面にプログラム化された2次元分子ネットワークを構築するための指導原理を導出し、未開拓の2次元結晶工学を開拓することを目的として研究を行った。その結果、(1)最大4種類の多成分分子から構成される複雑な2次元分子結晶(分子モザイク)の構築、(2) 2次元分子結晶における熱力学モデルの構築に基づく構造制御の指導原理の導出、(3) 2次元分子結晶が形成する空孔における特異的分子取り込みや化学反応場としての機能開発を行った。本研究は、固体表面にプログラム化された2次元分子ネットワークを構築するための指導原理を導出し、未開拓の2次元結晶工学を開拓することを目的として研究を行った。その結果、(1)最大4種類の多成分分子から構成される複雑な2次元分子結晶(分子モザイク)の構築、(2) 2次元分子結晶における熱力学モデルの構築に基づく構造制御の指導原理の導出、(3) 2次元分子結晶が形成する空孔における特異的分子取り込みや化学反応場としての機能開発を行った。本研究は、有機分子をデザインすることにより、固体表面にプログラム化された2次元分子ネットワークを構築するための指導原理を導出し、未開拓の2次元結晶工学を拓開くことを目的として行った。具体的には、以下の三つの課題について研究を行った。・多重の分子間相互作用による複雑な多成分2次元結晶構造の構築:分子間に働くファンデルワールス力と水素結合あるいは双極子一双極子相互作用を利用するとともに、固体基盤と吸着分子間の相互作用も最適化することにより、ともにこれまで達成されたことがない、4成分からなるカゴメ構造の2次元結晶および4角形タイル構造の2次元交互パターンの形成を実現した。・2次元結晶の動的挙動と指導原理の導出:ファンデルワールス力により固液界面において形成される2次元結晶について、従来研究してきた高対称アルキル置換3角形分子に代わって対称性の低い3角形分子を用いることにより、パターン形成の熱力学的考察を行った。その結果、これまでに提案したエンタールピーに基づく半定量的解析が可能な系と、エントロピーまでも含める必要がある系の存在が示唆された。・2次元ナノ空間の反応場としての利用:まず、高対称アルキル置換3角形分子がファンデルワールス力により固液界面において形成する6角形のナノ空間を利用するための戦略を確立することを目的とし、異なるアルキル基により交互に置換された3角形分子を用いることにより、任意の官能基をナノ空間内に配置できることを実証した。次いで、ナノ空間における異分子間の共有結合形成反応、ナノ空間に取り込まれた異分子とネットワークを形成している分子間との共有結合形成による2次元ポリマーの形成、および外部刺激によるナノ空間のサイズ制御とそれに伴うゲスト分子の吸脱着制御を行うため、必要な基質の合成を行った。本研究は、固体表面にプログラム化きれた2次元分子ネットワークを構築するための指導原理を導出し、未開拓の2次元結晶工学を拓開することを目的として行った。「22年度は、以下の課題について研究を行った。・多重の分子間相互作用による複雑な多成分2次元結晶構造の構築:分子間に働くファンデルワールスカが異なるような、長さの違うアルキル鎖を有する三角形分子によって形成される2次元分子ネットワークについてSTM観測を行い、アルキル鎖の長さの違が相分離と混合ネットワークの形成に及ぼす効果を解明した。・2次元結晶の動的挙動と指導原理の導出:ファンデルワールス力により固液界面において形成される2次元結晶に及ぼす温度効果について研究した。その結果、従来、水素結合ネットワークに関して見出されていた現象とは対照的に、高温ほど密度の低い多孔性のネットワークが形成されるという極めて特異な現象を発見した。溶液中における活量の温度変化が影響しているものと考え、熱力学モデルの構築を検討している。・2次元ナノ空間の反応場としての利用:異なるアルキル基により交互に置換され、末端にアゾベンゼン部位を有する三角形分子を用いることにより、光照射によりナノ細孔の大きさを変化できる2次元分子ネットワークを形成し、光照射前と後で空孔に吸着される分子の数が変化するという現象の観測に成功した。また、ナノ空間が親フッ素的環境を形成するような交互置換3角形分子を合成し、それがグラファイト表面で多孔性のネットワークを形成することを確認した。高度にフッ素化されたパイ電子系化合物の選択的共吸着について検討している。また、高反応性ブタジイン部位を有する環状化合物をグラファイト表面上に整列させ、光照射等の外部刺激による表面上での重合を試みたが反応が生起しなかったため、新たな分子設計を行い再検討している。本研究は、固体表面にプログラム化された2次元分子ネットワークを構築するための指導原理を導出し、未開拓の2次元結晶工学を開拓することを目的として行った。(1)多成分分子から構成される2次元分子結晶の構築:四角マクロサイクルの側鎖のエーテル酸素の位置の最適化により、ファンデルワールス力と双極子-双極子相互作用による交互2次元配列の形成を行い、その駆動力を分子力学計算に基づいて考察した。三角形のデヒドロベンゾアヌレン(DBA)の系では、金(111)表面におけるハニカムパターンの形成と、ゲスト分子存在下における高次の周期性をもつ超格子構造の形成に成功した。(2)2次元分子結晶における動的挙動と指導原理の導出:2次元結晶系の熱力学に関して考察する目的で、DBAの2次元結晶多形に及ぼす温度効果について詳細に検討した。 | KAKENHI-PROJECT-21245012 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21245012 |
精密分子設計に基づく固液界面での2次元分子結晶の制御と機能 | その結果、比較的明確な転移温度が存在することを解明し、熱力学モデルを立てて説明することに成功した。また、異種分子間で形成される分子ネットワークに関して、長さの異なるアルキル鎖をもつ2種類のDBA分子による混合分子ネットワークや1分子中に異なる長さのアルキル基を有するDBA分子が形成する分子ネットワークの選択性について調査し、分子動力学法を用いて実験を再現した。(3)2次元反応場における特異的化学反応:アゾベンゼン部位をもつDBA分子を用いて、アゾベンゼンの光異性化により空孔のサイズが制御できることを、空孔内に共吸着されるコロネン分子の吸着数の変化から読み取ることにより実証した。空孔内におけるゲスト分子間のアルキン-アジド間クリック反応について検討したが、反応が基板上でのみ起こるかどうかについては検証するに至らなかった。しかし親フッ素的空孔を備えたDBAの分子ネットワークにフッ素化されたゲスト分子が選択的な取り込まれることを実証し、2次元ホスト・ゲスト化学の礎を築いた。 | KAKENHI-PROJECT-21245012 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21245012 |
有機質製品に着目した古墳時代馬具の生産流通研究 | 本年度は研究の最終年度であり、これまで進めてきた繋、鋳銅鈴付馬具、鞍、障泥の研究において鍵となる資料の実見を埼玉県立さきたま史跡の博物館(埼玉稲荷山古墳)、和歌山市立博物館(大谷古墳)、若狭町歴史文化館(十善の森古墳)などでおこなった。また、韓国においても慶北大學校博物館において池山洞44号墳出土資料の調査をおこなった。上記の資料調査に基づき、繋に関する論文は学会誌に投稿し、成果を公表した。また、鋳銅鈴付馬具のうち、鈴付楕円形鏡板轡と、五鈴杏葉については成果の一部を、出土品整理報告書の考察という形で執筆した。鞍や障泥金具についての研究は引き続き進めることができた。金属製磯金具を有する鞍の編年上重要な資料である鳥取県小畑4号墳例、和歌山県大谷古墳例、福井県十善の森古墳例について、資料調査を実施し、申請者の分類の型式的まとまり、変遷上の位置づけが妥当なものであることを確認した。これらの成果を踏まえ、早急に論文を完成し公表する。障泥金具については日本列島にみられる円形、心葉形のいずれの系列も、新羅ー高句麗系譜のものである可能性が高く、セットの分析をとおして、列島内での生産開始時期とセットとなる馬具の傾向について検討を進めていく必要がある。同時期に新羅や新羅圏に系譜をたどれる馬具として貝装馬具があり、これらの先行研究であまり注目されてこなかった「新羅系」馬具の分析が古墳時代後期の馬具のセット構成を考える上で重要となる見通しを得ている。また、これまで研究を進めてきた繋を中心としたセット構成過程の分析に基づく、古墳時代馬具の生産・流通の具体像の描出が最終的な課題として残されている。28年度が最終年度であるため、記入しない。28年度が最終年度であるため、記入しない。今年度は研究計画に従って鞍、繋と呼ばれるストラップ、偏在分布する貝装馬具、鈴付鋳造馬具の資料調査を日本国内で実施した。鞍や繋などの有機質製品を用いた馬具については、従来は観察されない金属製馬装具の裏面などを詳細に観察し、写真撮影、実測を行った。このことにより、大部分は腐朽消失してしまった木材、漆、織物、皮革などの用いられた有機質素材の種類とその構造についてデータを収集することができた。今後、これらのデータを用いて、有機質製品を用いた馬装具の構造復原をおこなう。金属製品と有機質製品の双方の素材から、装飾などの要素に基づいて分類を行い、編年研究を行うデータは順調に集まりつつあるといえる。二年次以降、研究の主体となる偏在分布する貝装馬具や鈴付鋳造馬具の資料調査にも着手した。その他、埼玉県どうまん塚古墳、愛知県志段味大塚古墳、大阪府青松塚古墳、鳥取県倭文6号墳、岡山県勝負砂古墳などの良好な馬具のセットを整理報告する機会を得ている。今年度は、これらの実測作業を概ね終了し、次年度以降、報告書の執筆を行う。いずれも学史的に重要な馬具のセットであり、今後、自分の研究の中で、これらの馬具の生産と流通についての考察を深めていく。成果の公表については、繋に関連する雲珠や辻金具についての資料紹介を共著で学会誌に投稿し、また、整理に携わっている報告文のうち2例について入稿した。鋳造馬具のこれまでの研究成果をもとに名古屋市の志段味大塚古墳のシンポジウムで発表を行った。また、繋についての研究発表を木更津市金鈴塚古墳研究会にて発表したほか、京都大学でおこなわれた国際ワークショップにて英語での発表を行った。本年度も前年度に引き続き、研究計画に従って、鞍、偏在分布する貝装馬具と鈴付鋳造馬具、障泥、銀装馬具の資料調査を日本国内で実施した。鞍のうち、金属製磯金具をもつ鞍については、従来十分に観察されてこなかった、磯金具裏面の鞍本体の木材の観察により、金具だけの形態変化だけではなく、鞍橋の木材の構造と関連付けて変遷を理解することが可能となった。これについては、すでに研究会にて発表を行っており、早急に論文を執筆し投稿する。鈴付鋳造馬具についても、本年度は鈴付鋳造馬具の出現を考えるにあたって重要な鈴付楕円形鏡板轡の資料調査をほぼ終了し、鋳造技術など、器種をまたいで分析可能な視点を確認した。貝装馬具については、発掘調査報告書などによる資料収集の補足と、順次資料の実見調査を行っている。障泥については、資料集成を完了し、金具を伴った障泥の日本列島への出現時期、朝鮮半島における系譜、展開等についても見通しを得ることができている。また、資料調査も順次行い、有機質製の障泥本体についての構造についても詳細が判明しつつある。その他、埼玉県どうまん塚古墳、愛知県志段味大塚古墳、大阪府青松塚古墳、鳥取県倭文6号墳、岡山県勝負砂古墳。京都府鹿谷18号墳等、担当している良好な馬具のセットの整理報告書の原稿を執筆し、考察の執筆に関係した資料調査も実施した。成果の公表については、繋についての研究発表を行い、また金属製磯金具をもつ鞍についての分類編年案を発表した、繋についての論文二本を成稿した。金属製磯金具をもつ鞍については、前年度に引き続き資料調査を実施し、全体の6割程度を実見することができた。鈴付鋳造馬具については、鈴付楕円形鏡板轡の資料調査は実見可能なものすべてが完了した。 | KAKENHI-PROJECT-14J03950 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14J03950 |
有機質製品に着目した古墳時代馬具の生産流通研究 | また、鈴付はみえだ轡、五鈴杏葉、三鈴杏葉、三環鈴の観察事例を増やすことができた。障泥金具についても日本列島、韓国の資料収集を完了し、これらの資料調査についても着手することができている。成果の報告については、繋に関する論文二本を脱稿することができたが、投稿までには至らなかった。次年度以降、まず、繋の論文二本を投稿し、金属製磯金具をもつ鞍の論文、障泥の論文を順に執筆、投稿し、随時研究会などでの発表をおこなう。以上、成果の報告、公表はやや遅れ気味であるが、博士論文を構成する繋、鞍、鈴付鋳造馬具、障泥、貝装馬具などの資料収集、分析は進んでおり、全体として概ね70%程度は実施できたものと思われる。本年度は研究の最終年度であり、これまで進めてきた繋、鋳銅鈴付馬具、鞍、障泥の研究において鍵となる資料の実見を埼玉県立さきたま史跡の博物館(埼玉稲荷山古墳)、和歌山市立博物館(大谷古墳)、若狭町歴史文化館(十善の森古墳)などでおこなった。また、韓国においても慶北大學校博物館において池山洞44号墳出土資料の調査をおこなった。上記の資料調査に基づき、繋に関する論文は学会誌に投稿し、成果を公表した。また、鋳銅鈴付馬具のうち、鈴付楕円形鏡板轡と、五鈴杏葉については成果の一部を、出土品整理報告書の考察という形で執筆した。鞍や障泥金具についての研究は引き続き進めることができた。金属製磯金具を有する鞍の編年上重要な資料である鳥取県小畑4号墳例、和歌山県大谷古墳例、福井県十善の森古墳例について、資料調査を実施し、申請者の分類の型式的まとまり、変遷上の位置づけが妥当なものであることを確認した。これらの成果を踏まえ、早急に論文を完成し公表する。障泥金具については日本列島にみられる円形、心葉形のいずれの系列も、新羅ー高句麗系譜のものである可能性が高く、セットの分析をとおして、列島内での生産開始時期とセットとなる馬具の傾向について検討を進めていく必要がある。同時期に新羅や新羅圏に系譜をたどれる馬具として貝装馬具があり、これらの先行研究であまり注目されてこなかった「新羅系」馬具の分析が古墳時代後期の馬具のセット構成を考える上で重要となる見通しを得ている。また、これまで研究を進めてきた繋を中心としたセット構成過程の分析に基づく、古墳時代馬具の生産・流通の具体像の描出が最終的な課題として残されている。鞍については、本年度予定していた資料調査を8割ほど終了することができたが、いまだ、資料調査が不足しているため、二年次以降も引き続き実施する。また、二年次以降に実施する予定であった偏在する馬具についても資料調査に取り掛かれており、この点では計画以上に進展した。その他、整理報告に携わっている古墳出土の馬具のセットについても実測が終了し、見通しがたってきているのは計画以上の進展である。二年次以降、実施する予定の韓国での資料調査のための発掘調査報告書などの文献による資料収集も予定通り進んでいる。一方、成果の報告については、これまでの成果のうち、特に繋や鞍に関する論文を学術雑誌にて発表できなかったため、来年度以降、この点を特に課題としたい。以上、項目として達成できたものと、達成できなかったものが存在するが、全体としてはおおむね実施できたものと思われる。鞍、貝装馬具、障泥、銀装馬具の補足的な資料調査を実施し、博士論文を構成する各種馬装具の変遷、その他の馬装具の組合せからみる生産・流通の論文を執筆する。これらと、これまでの鏡板轡や杏葉、雲珠辻金具などの生産流通モデルを時系列を追って検討することによって、日本列島における古墳時代馬具の生産・流通に関する実態を明らかにした博士論文を執筆する。 | KAKENHI-PROJECT-14J03950 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14J03950 |
雑草を利用した環境修復技術の実用化に関する基礎的研究 | 雑草性を有する野生植物を用いた環境修復技術の実用化に向けた基礎研究として,以下の項目を実施した。1)ミクリ属植物は,水辺の植物群落の復元などにおいて自然修復措置の素材として注目されている水生雑草であるが,自生状態での形態的特徴からの種の識別が困難であるため,環境修復の現場では複数の種からなる集団を単一種とするなどの混乱がみられる。そこで,形態的特徴に頼らない種の識別法を確立する目的で,葉緑体DNAの塩基配列の変異を調査した。葉緑体DNAのtrnLイントロンおよびtrnL-F遺伝子間領域の塩基配列からは種に固有の変異が検出され,ミクリ属の6種を識別できた。この方法は,少量の葉片でも分析できるので,同定の困難な希少種において効果的であると考えられた。2)昨年度からの継続として,ミクリ属植物の実際の保全方法を策定する上で必要となる遺伝的多様性,特に小集団内の遺伝的な構造を,AFLP分析により明らかにした。ミクリ,オオミクリおよびヒメミクリにおいて,それぞれの分類群で特徴的な変異の存在様式が認められ,その変異は繁殖様式や分布の現状と拡散過程を反映していると考えられた。これらの情報をもとに,遺伝的多様性の保全と修復法について検討した。高等植物,とくに雑草性を有する野生植物を用いた環境修復技術(ファイトレメディエーシヨン)の実用化に向けた基礎研究として,以下の項目を実施した。1)タデ科イヌタデ属の雑草には,重金属汚染環境下で生育するものがあり,環境修復の素材として有望である。しかし,イヌタデ属雑草では分類学的な整理が終わっておらず,種や種内群の実体が明らかになっていない。そこで,分子生物学的手法を用いてイヌタデ属雑草の分類学的な再検討を行った。今年度は葉緑体DNAの変異を用いて種間の系統関係を解析した。さらに有効な分子マーカーを開発し,種内変異を調査し,環境修復に関わる形質との関連を調査する予定である。2)水辺の植物群落の復元などにおいて自然修復措置の素材として注目されている水生雑草であるミクリ属植物について,環境修復を効率よく進めるために必要な生活史や生育環境についての基礎的な情報を得るため,ミクリ属の3種を同一環境下で栽培し,根茎断片による分布拡大や根茎によるクローン成長に関する形質を調査した。ミクリ属3種は,それぞれ異なった根茎伸長戦略を持つことが明らかとなった。環境修復ではこのような戦略を反映した計画が望まれる。3)トチカガミ科の一年生沈水植物である水田雑草スブタの種子発芽や繁殖などの生活史は伝統的水田管理の様式に適応しており,スブタの発芽率や生長がイネの共存下で良くなる現象や水質悪化にともなう生長阻害が観察されている。そこでスブタを水田生態系の環境指標種とする可能性を検討するために,スブタの生育とイネとの関係を水質の変化において調査した。イネとスブタの混植条件下で両種の良好な生育と水質がみとめられた。これらの成果は,平成15年4月に開催される日本雑草学会第42回大会において発表する。雑草性を有する野生植物を用いた環境修復技術の実用化に向けた基礎研究として,以下の項目を実施した。1)水辺の植物群落の復元などにおいて自然修復措置の素材として注目されている水生雑草であるミクリ属植物について,実際の保全方法を策定する上で必要となる遺伝的多様性,特に小集団内の遺伝的な構造を,AFLP分析により明らかにした。ミクリでは,地域や水系の異なる集団にはそれぞれ固有の遺伝子型が存在していたが,滋賀県の2集団では,それぞれ単一の遺伝子型しか検出されなかったことから,クローン繁殖によって集団が維持されていると考えられた。ヒメミクリの2集団内にはそれぞれ複数の遺伝子型がみられ,集団内の遺伝子型は非常に類似していたが。異なる集団に属する遺伝子型間の遺伝距離は大きく,近接した集団間にも明瞭な遺伝的な分化が認められ,2集団の遺伝的多様性の違いは生育地の流水状態に起因するものと考えられた。これらの結果から,遺伝的多様性の保全と修復法について考察した。この成果は,平成16年4月に開催される日本雑草学会第43回大会において発表する。2)荒廃地における環境改善や環境修復能を有する植物の探索を目的として,産業廃棄物処分地に出現した植生を定量的に調査した。また,10種類の野生植物を移植栽培し,その生育を観察した。24科103種の高等植物が観察され,帰化率は59%であった。2003年秋期の植生は一年生草本を主体とするものであったが,撹乱強度や土地利用の違いによって種の構成や優占度が異なっていた。平坦面では一年生イネ科草本が優占し,次いでセイバンモロコシの優占度が高かった。周囲ではセイバンモロコシやクズ,ヨモギ等の多年生草本が優占した。移植した植物ではその多くが定着したが,生長は悪かった。これらの結果から,この処分地における今後の植生の推移と維持・管理の方向性について考察した。雑草性を有する野生植物を用いた環境修復技術の実用化に向けた基礎研究として,以下の項目を実施した。1)ミクリ属植物は,水辺の植物群落の復元などにおいて自然修復措置の素材として注目されている水生雑草であるが,自生状態での形態的特徴からの種の識別が困難であるため,環境修復の現場では複数の種からなる集団を単一種とするなどの混乱がみられる。 | KAKENHI-PROJECT-14780446 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14780446 |
雑草を利用した環境修復技術の実用化に関する基礎的研究 | そこで,形態的特徴に頼らない種の識別法を確立する目的で,葉緑体DNAの塩基配列の変異を調査した。葉緑体DNAのtrnLイントロンおよびtrnL-F遺伝子間領域の塩基配列からは種に固有の変異が検出され,ミクリ属の6種を識別できた。この方法は,少量の葉片でも分析できるので,同定の困難な希少種において効果的であると考えられた。2)昨年度からの継続として,ミクリ属植物の実際の保全方法を策定する上で必要となる遺伝的多様性,特に小集団内の遺伝的な構造を,AFLP分析により明らかにした。ミクリ,オオミクリおよびヒメミクリにおいて,それぞれの分類群で特徴的な変異の存在様式が認められ,その変異は繁殖様式や分布の現状と拡散過程を反映していると考えられた。これらの情報をもとに,遺伝的多様性の保全と修復法について検討した。 | KAKENHI-PROJECT-14780446 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14780446 |
説得における相互作用性と受け手の自動的反応に関する研究 | 対面する二者が、説得テーマに関する長所と短所を相互に挙げた後、送り手が受け手に一定の意見をもつよう働きかけるという説得場面を実験的に設定した。その結果、長所に同期させる形で、送り手が受け手の動作をミラーリングすることが受け手に影響を与え得ること、個人的な利益よりも社会全体の利益を強調することが効果的である傾向、そして、受け手が自分に説得能力があると認知しているほど影響されにくいことが見出された。対面する二者が、説得テーマに関する長所と短所を相互に挙げた後、送り手が受け手に一定の意見をもつよう働きかけるという説得場面を実験的に設定した。その結果、長所に同期させる形で、送り手が受け手の動作をミラーリングすることが受け手に影響を与え得ること、個人的な利益よりも社会全体の利益を強調することが効果的である傾向、そして、受け手が自分に説得能力があると認知しているほど影響されにくいことが見出された。本研究の目的は、説得における相互作用性に焦点を当て、また、受け手の意識的な反応だけでなく、自動的な反応による説得効果を明らかにすることである。本年度は、2つの実験室実験を行った。第1実験では、実験参加者(大学生)にとって自我関与度の高い卒業試験の導入を説得テーマとし、独立変数として卒業試験導入の長所.短所情報の提示順序(長→短、短→長)、説得の送り手(実験協力者)による受け手の動作のミラーリング(前半で実施、後半)を設定した。実験場面では、送り手が受け手(実験参加者)に対して一方的に卒業試験の情報を与えるのではなく、試験の長所と短所を決められた順番でお互いに出し合うことを約15分間行うようにし、その後、試験導入に関する質問紙に回答させた。その結果、ミラーリングと対提示された情報の影響を受けやすいという、当初、予測した交互作用効果は認められず、試験導入賛成度についてミラーリング要因の主効果が認められた(ミラーリング回数5回以上の場合。F(1,50)=4.71,p<.05)。これは、ミラーリングを後半に行った方が前半に行った場合よりも試験賛成度の高いことを示しており、予測を支持する傾向が認められた。第2実験では、説得テーマをサマータイム制導入に変え、独立変数として、説得情報の提示順序(長→短、短→長)、ミラーリング(有、無)を設定した。ミラーリング有り条件においては、それを15回以上行うことにした。しかしながら、いずれの主効果、交互作用効果も認められなかった。第1実験よりもミラーリングの効果が出るように操作したが、ミラーリングによる効果を生起させるには、第1実験のように長所情報と同期させることが必要なようである。次年度以降は、情報の提示順序とミラーリング、顔面表情など、受け手の自動的反応を引き出しやすい刺激を与え、さらに検討を加えていく計画である。本研究の目的は、対面状況で相互作用性のある説得に焦点を当て、受け手の非意識的な反応、情報の提示順序、判断基準の強調などによる説得効果を明らかにすることである。本年度は、前年度に行った2つの実験室実験に基づき、1つの実験室実験と相互作用的説得の内容分析を行った。前者の実験では、昨年度のものを踏まえて、実験参加者(大学生)にとって自我関与度の高い卒業認定試験の導入を説得テーマとし、独立変数として、(a)卒業試験導入を判断する際に個人的な利益のみに基づくのではなく、広く社会的な視点に立って判断することの重要性を強調すること(有、無)、(b)説得の送り手(実験協力者)による受け手の動作のミラーリング(有、無)を設定した。実験場面では、実験参加者と実験協力者が、試験導入の短所と長所をこの順番で10分間ほど出し合い、その上で、判断基準の要因について操作した。その後、試験導入に関する質問紙に回答させた結果、いずれの主効果、交互作用効果も認められなかったが、相対的に判断基準の強調による効果の傾向が認められた。次に、それぞれ反対の立場を主張する2人が相手の態度を変容させるためにどのような主張の仕方を行うかを明らかにするために、相互作用的な説得(15分間)の内容分析を行った。卒業認定試験と原子力発電という2つのテーマについて自由に相手を説得するよう大学生ペアに教示した。その結果、相手の主張を反駁して自説を主張、相手の主張とは別に自説の支持論拠を提示、自説を主張する際の条件の明確化などのパターンが見出された。平成24年度に行った実験室実験の目的は、説得場面のポジティブな雰囲気と説得テーマを支持する論拠数が受け手の被説得度に及ぼす加算的な影響を明らかにすることであった。実験デザインは、説得場面の雰囲気(ポジティブ、普通)×説得テーマを支持する論拠数(2個、6個)という要因実験であり、いずれも参加者間要因であった。説得テーマとして「秋学期入学の導入」を設定した。実験協力者と実験参加者は、机の角にほぼ45度の角度で座り、秋学期の長所と短所を相互に挙げていくことを510分間行い、その間、実験協力者は上記2要因の操作を行った。実験協力者は、両者の議論の最後に、「いくつかの短所はあるけれども、秋学期を導入した方が良い」という趣旨の意見を述べた。説得場面の雰囲気要因の操作について、ポジティブ条件では、実験協力者が4回以上実験参加者の動作(笑う、手を組むなど)をミラーリングし、さらに、相手の出した論拠を誉めること(例えば、「それは、面白い視点ですね」)を2回以上行った。 | KAKENHI-PROJECT-22530680 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22530680 |
説得における相互作用性と受け手の自動的反応に関する研究 | 普通条件では、そうしたことを行わなかった。長所の論拠数要因については、2人の議論中に実験協力者が提示する、秋学期に関する長所の個数を操作し、2個条件、6個条件を設定した。秋学期入学導入賛成度、賛成度変化(議論後の賛成度ー議論前の賛成度)に関して分散分析を行ったところ、主効果、交互作用効果は認められなかった。しかし、賛成度変化について、両要因に加え、自我関与度、認知欲求、説得能力認知も加えた重回帰分析(ステップワイズ法)を行ったところ、説得能力認知の有意な標準化重回帰係数が認められた(β=-.461, p<.05, R自乗=.212)。これは、自分に説得能力があると認知している実験参加者ほど、秋学期入学に対する賛成度変化が小さいということであり、説得能力認知が被説得度に影響を与えていたことが見出されたと言える。本研究のポイントは、従来の質問紙を用いたテキスト・ベースの説得メッセージの提示ではなく、実際に説得の送り手と受け手とが相互作用を行い、外的妥当性の高い状況で説得に関するデータを取ることである。今までのところ、3つの実験室実験、1つの相互作用の観察を行い、研究の目的に向けたデータの収集がおおむね順調に行われている。24年度が最終年度であるため、記入しない。次年度は、説得テーマとして「大学の卒業認定試験の導入」だけではなく、最近、話題になっている「秋学期入学」を設定すること、また、実験室実験における独立変数として、説得テーマに関連するポジティブな論拠の多寡、送り手が受け手に対してポジティブな反応(好意的な非言語的コミュニケーションや受け手を誉めることなど)の有無などを設定することを計画している。24年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-22530680 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22530680 |
トラフグのシステインプロテアーゼに関する機能化学的研究 | 水圏生物のほとんどは変温動物でその体温は陸上動物に比べて一般に低い。その結果、水圏生物の代謝酵素は低温で機能できるよう構造を柔軟にしているとされるが、その分子機構はトリプシンなど限られたタンパク質で明らかにされているに過ぎない。パパイン・スーバーファミリーに属するシステインプロテアーゼはカテプシン類とも呼ばれ、細胞内タンパク質のターンオーバーに機能していることが知られている。最近、これら酵素は種々の生理的条件で組織特異的に機能することから注目を集めている。ところで、トラフグではゲノムサイズが小さく、全ゲノムデータが公開されており・ゲノム研究のモデル生物として研究蓄積が多い。そこで本研究ではこのトラフグを対象に選び、システインカテプシン類を網羅して性状を明らかにすることを目的とした。その結果、トラフグから14種類の推定カテプシン遺伝子と1つの偽遺伝子が得られた。この中の1つは新規システインカテプシンをコードするもので、このタンパク質は今まで報告されているシステインカテプシンの中で最も分子量が大きいことがわかった。次に、同定されたシステインカテプシン類遺伝子につきRT-PCRで遺伝子発現状況を調べた。その結果、トラフグのシステインカテプシン類は普遍的な遺伝子発現を示すものと、組織特異的な発現を示すものとに分かれた。これらの結果はトラフグのシステインカテプシン類がタンパク質のターンオーバー以外の機能をもつことを示唆する。新規システインカテプシンの成熟タンパク質は大腸菌組み換えDNA体で調製することができたが、活性は示さなかった。しかしながら抗体の調製やプローブの作成には有効と考えられた。水圏生物のほとんどは変温動物でその体温は陸上動物に比べて一般に低い。その結果、水圏生物の代謝酵素は低温で機能できるよう構造を柔軟にしているいれるが、その分子機構はトリプシンなど限られたタンパク質で明らかにされているに過ぎない。本研究は、トラフグ全ゲノムデータベースを利用しつつ産業的な応用に結びつきやすいプロテアーゼ、とくに哺乳類に比べて情報が少ないシステインプロテアーゼの種類と組成、コード遺伝子の上流域を機能解析することを目的とする。さらに、その結果を基に分子構造特性をコンピュータモデリングを行って調べ、哺乳類の相同タンパク質との機能の違いを明らかにする。1.トラフグ全ゲノムデータベースを基に、既報の哺乳類などのカテプシンLを主体とするシステインプロテアーゼ群の塩基配列やアミノ酸配列を利用してin silicoクローニングを行ったところ、13scaffoldに分布した14カテプシンL候補遺伝子を単離できた。それらの中にはヒトのカテプシンL型11種類の遺伝子と相同な遺伝子が含まれていた。したがって、トラフグにはその他の3種類のカテプシン遺伝子が存在し、それらはカテプシンB、カテプシンK、新規カテプシンをコードしていることが示された。新規カテプシン遺伝子は329アミノ酸をコードし、既報のカテプシン(220アミノ酸)より著しく大きかった。2.3種類のトラフグ特異的カテプシン遺伝子をRT-PCRで調べたところ、いずれも増幅産物が認められ、機能タンパク質として発言していることが示唆された。これらの遺伝子はトラフグ生体の種々の組織で発現がみられたが、新規カテプシン遺伝子では心臓、胆嚢、腎臓、小腸での発現は弱かった。3.以上の結果から、トラフグ新規カテプシンは発生段階に依存して発現制御され、魚類に特徴的な機能を果たしていることが考えられた。水圏生物のほとんどは変温動物でその体温は陸上動物に比べて一般に低い。その結果、水圏生物の代謝酵素は低温で機能できるよう構造を柔軟にしているとされるが、その分子機構はトリプシンなど限られたタンパク質で明らかにされているに過ぎない。パパイン・スーバーファミリーに属するシステインプロテアーゼはカテプシン類とも呼ばれ、細胞内タンパク質のターンオーバーに機能していることが知られている。最近、これら酵素は種々の生理的条件で組織特異的に機能することから注目を集めている。ところで、トラフグではゲノムサイズが小さく、全ゲノムデータが公開されており・ゲノム研究のモデル生物として研究蓄積が多い。そこで本研究ではこのトラフグを対象に選び、システインカテプシン類を網羅して性状を明らかにすることを目的とした。その結果、トラフグから14種類の推定カテプシン遺伝子と1つの偽遺伝子が得られた。この中の1つは新規システインカテプシンをコードするもので、このタンパク質は今まで報告されているシステインカテプシンの中で最も分子量が大きいことがわかった。次に、同定されたシステインカテプシン類遺伝子につきRT-PCRで遺伝子発現状況を調べた。その結果、トラフグのシステインカテプシン類は普遍的な遺伝子発現を示すものと、組織特異的な発現を示すものとに分かれた。これらの結果はトラフグのシステインカテプシン類がタンパク質のターンオーバー以外の機能をもつことを示唆する。新規システインカテプシンの成熟タンパク質は大腸菌組み換えDNA体で調製することができたが、活性は示さなかった。しかしながら抗体の調製やプローブの作成には有効と考えられた。 | KAKENHI-PROJECT-07F07175 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07F07175 |
幼小の学びを効果的に接続する話す能力・聞く能力のカリキュラム評価 | 本研究の目的は,平成28年度に明らかにした年長5歳児, 1年生6歳児それぞれの発達段階における話す能力・聞く能力のねらいを見直し充実を図るとともに,平成28年度に開発したカリキュラムの効果について検証することであった。研究の方法としては,平成28年度に開発したカリキュラムに沿った単元における1年生6歳児の発話を記録した。その発話記録を基に, 6歳児の話す能力・聞く能力のねらいを見直し,さらにそのねらいをカリキュラムに反映・修正し,実践した。実践を行った際には,児童の発話やパフォーマンスからねらいの達成状況を分析した。実践した単元は,第1学年(6歳児)の4月単元「ふしょうになかまいりしよう」と11月単元「こだわりのおみせやさんをひらこう」の2単元である。4月単元では,初めて出会うクラスの友達が混在するようグループ(45名)を構成し,そのグループで明石公園を探検する活動を行った。探検にあたっては,広い敷地の公園内をどのような順序で回るのか,どこでどんな遊びをするのか各グループで話し合い計画を立てた。11月単元では, 58名のグループでイメージするお店のこだわりを「○○なお店」と言葉に表し,自分たちの作る商品がその「○○なお店」に合っているかどうかを話し合い確かめながら商品作りを進めた。両単元とも,話し合う際には, 1姿勢,表情,声の大きさ,速さといった非言語性のコミュニケーションの表出と, 2理由,言葉遣いといった言語性のコミュニケーションの表出を観点に支援,評価を行った。ただし, 4月単元は1非言語性コミュニケーションの観点に, 11月単元では2言語性コミュニケーションの観点に比重を置いて支援,評価を行った。両単元ともに,単元の評価規準を8割以上の児童が達成していたこと, 4月単元から11月単元にかけて特に1非言語性において達成児童の割合が増加していることから,カリキュラムの効果が確認された。本研究の目的は,平成28年度に明らかにした年長5歳児, 1年生6歳児それぞれの発達段階における話す能力・聞く能力のねらいを見直し充実を図るとともに,平成28年度に開発したカリキュラムの効果について検証することであった。研究の方法としては,平成28年度に開発したカリキュラムに沿った単元における1年生6歳児の発話を記録した。その発話記録を基に, 6歳児の話す能力・聞く能力のねらいを見直し,さらにそのねらいをカリキュラムに反映・修正し,実践した。実践を行った際には,児童の発話やパフォーマンスからねらいの達成状況を分析した。実践した単元は,第1学年(6歳児)の4月単元「ふしょうになかまいりしよう」と11月単元「こだわりのおみせやさんをひらこう」の2単元である。4月単元では,初めて出会うクラスの友達が混在するようグループ(45名)を構成し,そのグループで明石公園を探検する活動を行った。探検にあたっては,広い敷地の公園内をどのような順序で回るのか,どこでどんな遊びをするのか各グループで話し合い計画を立てた。11月単元では, 58名のグループでイメージするお店のこだわりを「○○なお店」と言葉に表し,自分たちの作る商品がその「○○なお店」に合っているかどうかを話し合い確かめながら商品作りを進めた。両単元とも,話し合う際には, 1姿勢,表情,声の大きさ,速さといった非言語性のコミュニケーションの表出と, 2理由,言葉遣いといった言語性のコミュニケーションの表出を観点に支援,評価を行った。ただし, 4月単元は1非言語性コミュニケーションの観点に, 11月単元では2言語性コミュニケーションの観点に比重を置いて支援,評価を行った。両単元ともに,単元の評価規準を8割以上の児童が達成していたこと, 4月単元から11月単元にかけて特に1非言語性において達成児童の割合が増加していることから,カリキュラムの効果が確認された。 | KAKENHI-PROJECT-17H00083 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H00083 |
新規遺伝子異常を有する疾患特異的iPS細胞を用いた網膜色素変性症の病態解明 | 網膜色素変性は、中途失明の上位を占める遺伝性の網膜脈絡膜の変性疾患である。視細胞や網膜色素上皮(RPE)で働く100以上の遺伝子異常が同定されているが、患者から病変組織を採取することが不可能なため正確にヒトの病態を再現することが難しく、これまで詳細な病態解明や治療法の開発が困難であった。しかし、iPS細胞から網膜色素上皮(iPS-RPE)へ分化誘導する方法を確立し、患者由来iPS-RPE細胞を得ることができるようになった。本研究では、それぞれ異なった新規MERTK遺伝子変異をもつ網膜色素変性患者から樹立したiPS細胞由来のRPEを用いて、患者iPS-RPEでの細胞形態、貪食機能、遺伝子・タンパク発現などを健常人iPS-RPEと比較することで、病態メカニズムを明らかにし、将来的な治療法開発の礎を築くことを目的とした。1、患者由来iPS細胞ならびに健常コントロール由来iPS細胞を樹立した。また、これらのiPS細胞からRPE細胞(iPS-RPE)を分化させた。患者由来iPS-RPE細胞と健常者由来iPS-RPE細胞間で、2、形態に差異がないか、光学顕微鏡下で観察した。また免疫染色によりRPE特異的蛋白質の発現状況を観察した。その結果、両者間で差異は認めなかった。3、貪食能に差異がないか、蛍光ビーズならびに摘出牛眼視細胞外節を用い、蛍光顕微鏡下での観察、FACS解析ならびにロドプシンのウェスタンブロッティングを行い、多角的に検討した。その結果、患者由来RPEのほうが健常者由来RPEより貪食能が低下していることが明らかになった。研究実績にも記載した通り、平成30年度の研究計画は順調に進展した。H31年度の研究計画では、ひきつづき患者由来iPS細胞と健常者由来iPS細胞をそれぞれRPE細胞に分化させ、これらのiPS-RPE細胞を使用して、貪食機能低下について追加実験を施行するとともに、遺伝子発現状況に関して両者に差異がみられるか比較検討する予定である。網膜色素変性は、中途失明の上位を占める遺伝性の網膜脈絡膜の変性疾患である。視細胞や網膜色素上皮(RPE)で働く100以上の遺伝子異常が同定されているが、患者から病変組織を採取することが不可能なため正確にヒトの病態を再現することが難しく、これまで詳細な病態解明や治療法の開発が困難であった。しかし、iPS細胞から網膜色素上皮(iPS-RPE)へ分化誘導する方法を確立し、患者由来iPS-RPE細胞を得ることができるようになった。本研究では、それぞれ異なった新規MERTK遺伝子変異をもつ網膜色素変性患者から樹立したiPS細胞由来のRPEを用いて、患者iPS-RPEでの細胞形態、貪食機能、遺伝子・タンパク発現などを健常人iPS-RPEと比較することで、病態メカニズムを明らかにし、将来的な治療法開発の礎を築くことを目的とした。1、患者由来iPS細胞ならびに健常コントロール由来iPS細胞を樹立した。また、これらのiPS細胞からRPE細胞(iPS-RPE)を分化させた。患者由来iPS-RPE細胞と健常者由来iPS-RPE細胞間で、2、形態に差異がないか、光学顕微鏡下で観察した。また免疫染色によりRPE特異的蛋白質の発現状況を観察した。その結果、両者間で差異は認めなかった。3、貪食能に差異がないか、蛍光ビーズならびに摘出牛眼視細胞外節を用い、蛍光顕微鏡下での観察、FACS解析ならびにロドプシンのウェスタンブロッティングを行い、多角的に検討した。その結果、患者由来RPEのほうが健常者由来RPEより貪食能が低下していることが明らかになった。研究実績にも記載した通り、平成30年度の研究計画は順調に進展した。H31年度の研究計画では、ひきつづき患者由来iPS細胞と健常者由来iPS細胞をそれぞれRPE細胞に分化させ、これらのiPS-RPE細胞を使用して、貪食機能低下について追加実験を施行するとともに、遺伝子発現状況に関して両者に差異がみられるか比較検討する予定である。人件費において、研究推進の為に補佐員を雇う予定であったが、実験が順調に進展したためその必要がなくなった。また予備検討実験がスムーズに進捗した為、物品費、その他経費が少なく済んだ。 | KAKENHI-PROJECT-18K16923 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K16923 |
広帯域ネットワーク上でのデータベース移動を利用した分散DBMSに関する研究 | 本年度の研究実施計画に基づき、以下の成果を得た。1.「データベース移動」を利用した分散データベース管理システムを構築する際に必要となる障害時回復処理手法を提案した。具体的には、データベースごとに固定サイトでバックアップ処理を行い、更新ログ情報は実際に更新処理が行われたサイトに保管する方法、および、データベース移動時にバックアップも移動させる方法の二種類の方法について検討し、それぞれの方法の特性を明らかにした。さらに、前年度までに開発したプロトタイプシステムにこの障害時回復処理機能を実装した。2.「データベース移動」を有効に利用するためには、データベースへのアクセス情報に基づいてデータベースを移動させるべきか否かを効果的に決定する必要があるが、そのためのデータベース移動戦略決定手法を提案した。具体的には、データベースごとにアクセス履歴情報を蓄積管理し、過去のアクセスパタンと似たアクセスが行われた際に、その後のアクセスをアクセス履歴情報を元に予測し、データベース移動を実行するかどうかを決定する手法である。まずこの手法をシミュレーション実験によって従来の手法と比較評価を行った。さらにこの手法を実装し、実システムにおける性能評価を行った。その結果、ネットワークの伝播遅延が大きい状況において、提案した手法が従来の分散データベース管理システムよりもよい性能を示すことが明らかになった。3.データベース移動を利用したトランザクション処理手法を、データベースの複製を許す環境に適応させた手法を前年度に提案したが、その際に重要となるデータベースの位置管理手法を考案し、シミュレーション実験によって手法ごとの特性を明らかにした。本年度の研究実施計画に基づき、以下の成果を得た。1.データベース移動を利用したトランザクション処理手法に関して、特にデータベース移動を分散データベース処理に導入することによって生じる並行処理制御の問題に関して検討した。具体的には、データベースを移動させている間に到着したアクセス要求の処理や、データベース移動を利用してトランザクション処理を行っている場合にさらに他のサイトからデータベース移動要求が到着した場合の並行処理を制御する手法を提案し、そのシミュレーション評価を行った。その結果、トランザクションのスループットを向上させることができることを示した。2.広帯域ネットワークを有効に利用し、データベース移動を短時間で完了させるには、データベースアクセス時間を短縮する必要がある。そこで、データベース移動を考慮した主記憶データベースの設計を行い、プロトタイプシステムの実装を行った。実測評価の結果、従来のディスクベースのシステムよりもデータベース移動を高速に行えることを示した。また、主記憶データベースを実現するにあたって、データベースが移動することを考慮したバックアップおよび更新ログ管理の手法を考案し、その実装を行った。その結果として、バックアップ管理を行わなかった場合とほぼ同じ時間でトランザクションを処理できることがわかった。3.データベース移動を利用したトランザクション処理手法を、データベースの複製を許す環境に適応させた手法を考案し、各サイトの記憶容量を考慮した動的複製配置法を提案した。そのシミュレーション結果から、更新操作が少ない環境では複製を許さない場合よりも処理を高速化できることを示した。本年度の研究実施計画に基づき、以下の成果を得た。1.「データベース移動」を利用した分散データベース管理システムを構築する際に必要となる障害時回復処理手法を提案した。具体的には、データベースごとに固定サイトでバックアップ処理を行い、更新ログ情報は実際に更新処理が行われたサイトに保管する方法、および、データベース移動時にバックアップも移動させる方法の二種類の方法について検討し、それぞれの方法の特性を明らかにした。さらに、前年度までに開発したプロトタイプシステムにこの障害時回復処理機能を実装した。2.「データベース移動」を有効に利用するためには、データベースへのアクセス情報に基づいてデータベースを移動させるべきか否かを効果的に決定する必要があるが、そのためのデータベース移動戦略決定手法を提案した。具体的には、データベースごとにアクセス履歴情報を蓄積管理し、過去のアクセスパタンと似たアクセスが行われた際に、その後のアクセスをアクセス履歴情報を元に予測し、データベース移動を実行するかどうかを決定する手法である。まずこの手法をシミュレーション実験によって従来の手法と比較評価を行った。さらにこの手法を実装し、実システムにおける性能評価を行った。その結果、ネットワークの伝播遅延が大きい状況において、提案した手法が従来の分散データベース管理システムよりもよい性能を示すことが明らかになった。3.データベース移動を利用したトランザクション処理手法を、データベースの複製を許す環境に適応させた手法を前年度に提案したが、その際に重要となるデータベースの位置管理手法を考案し、シミュレーション実験によって手法ごとの特性を明らかにした。 | KAKENHI-PROJECT-09780380 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09780380 |
強磁場・高電場下過渡熱起電力効果法の開発と電荷密度波物質の電子物性 | 本研究では,当初の目標として,(1)我々の研究室で開発したパルスレーザー光を用いた過渡熱起電力効果(TTE)測定系に小型強磁場パルスマグネット及び高電場パルス応答測定装置を組込み,改良・整備すること,(2)CDW転移を示すη-Mo_4O_<11>,有機伝導体(DMe-DCNQI)_2Cu及び層状物質のIT型TaS_2の電子物性を解明することであった。研究途上,η-Mo_4O_<11>で無機物質では初めてバルク量子ホール効果(b-QHE)を見い出した。この物質系で起こるb-QHEの起源解明のために,研究計画(1)の一部変更を行い,学内共同利用施設である広島大学低温センターの^3Heクライオスタットに組込める高電場パルス応答測定装置を設計・製作した。更に,他研究機関の研究者からの共同研究の申入れなどもあり,電荷密度波物質以外の物質系の研究にも注目し,以下のような成果を得た。(1) η-Mo_4O_<11>におけるb-QHEの発見,新しいバルク量子ホール状態であるChiral surfacestatesによる特異な現象の発見,CDW系とQHE系の相互作用及びb-QHEのメカニズムの解明。(3)巨大磁気抵抗を示すペロブスカイ型マンガン酸化物薄膜における過渡熱起電力効果と磁気秩序との関係及びキャリアの再結合過程におけるポーラロン効果の重要性の解明。(4)自作パルスマグネットを用いた層間化合物M_xTiS_2(M:3d遷移金属)の電流磁気効果の解明。(5)直流電気測定とTTE法による超高純度タングステン(補償金属)単結晶の磁気・温度破壊現象の解明。本研究では,当初の目標として,(1)我々の研究室で開発したパルスレーザー光を用いた過渡熱起電力効果(TTE)測定系に小型強磁場パルスマグネット及び高電場パルス応答測定装置を組込み,改良・整備すること,(2)CDW転移を示すη-Mo_4O_<11>,有機伝導体(DMe-DCNQI)_2Cu及び層状物質のIT型TaS_2の電子物性を解明することであった。研究途上,η-Mo_4O_<11>で無機物質では初めてバルク量子ホール効果(b-QHE)を見い出した。この物質系で起こるb-QHEの起源解明のために,研究計画(1)の一部変更を行い,学内共同利用施設である広島大学低温センターの^3Heクライオスタットに組込める高電場パルス応答測定装置を設計・製作した。更に,他研究機関の研究者からの共同研究の申入れなどもあり,電荷密度波物質以外の物質系の研究にも注目し,以下のような成果を得た。(1) η-Mo_4O_<11>におけるb-QHEの発見,新しいバルク量子ホール状態であるChiral surfacestatesによる特異な現象の発見,CDW系とQHE系の相互作用及びb-QHEのメカニズムの解明。(3)巨大磁気抵抗を示すペロブスカイ型マンガン酸化物薄膜における過渡熱起電力効果と磁気秩序との関係及びキャリアの再結合過程におけるポーラロン効果の重要性の解明。(4)自作パルスマグネットを用いた層間化合物M_xTiS_2(M:3d遷移金属)の電流磁気効果の解明。(5)直流電気測定とTTE法による超高純度タングステン(補償金属)単結晶の磁気・温度破壊現象の解明。電荷密度波(CDW)転移を示す2次元伝導体について主として下記の研究を行った。1)擬2次元伝導体η-Mo_4O_<11>の低温強磁場下における輸送特性の解明のため,微弱な電圧測定が可能なナノボルトメータ及び定電流電源を購入(申請)し,装置系の改良を行うとともに,ノイズが極めて入りにくい光伝送機器(申請)でパーソナルコンピュータと接続して,測定系を整備した。2)0.3K及び4.2Kで,この物質系の輸送特性の異方性を測定した結果,通常とは異なる伝導機構によることを明らかにした。また,10Tまでの強磁場測定で見いだされる量子振動の異方性について興味ある結果を得た。3)さらに,特殊な端子づけを行った試料についての同様な測定から,バルクな量子ホール効果らしき振舞いを見いだした。その結果は2次元伝導面に垂直方向に顕著であり,特に,9T付近に現れる異常ピークが特異な温度依存性を示すことを見いだした。4)この物質は,あるしきい電場以上でCDWが変形・並進し,パルス電場応答測定から,磁場中でこれらの過程が磁場に著しく依存することを見いだした。5)別のCDW物質であるTaS_2について,過渡熱起電力効果(TTE)測定を行い,この物質系が低温CDW相で示す局在効果に基づく特異な振舞いを見いだした。いずれも,日本物理学会年会で発表予定であり,一部は,欧文誌に投稿準備中である。最近,η-Mo_4O_<11>で無機物質では初めてバルク量子ホール効果(b-QHE)を見い出した。この物質系で起こるb-QHEの起源解明のために,学内共同利用施設である広島大学低温センターの^3Heクライオスタットに組込める高電場パルス応答測定装置を設計・製作した。設計に際し,ジュール熱の発生を押さえるために単発パルス電場発生回路を新たに製作した。更に他研究機関の研究者からの共同研究の申入れなどもあり,電荷密度波物質以外の物質系の研究にも注目し,以下のよう成果を得た。(1) η-Mo_4O_<11 | KAKENHI-PROJECT-09450037 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09450037 |
強磁場・高電場下過渡熱起電力効果法の開発と電荷密度波物質の電子物性 | >において,^3Heクライオスタットを用いた高電場パルス応答測定より,CDW系とQHE系の相互作用とb-QHEのメカニズムの解明。(3)巨大磁気抵抗を示すペロプスカイ型マンガン酸化物薄膜における過渡熱起電力効果と磁気秩序との関係及びキャリアの再結合過程におけるポーラロン効果の重要性の解明。(4)自作パスルマグネットを用いた層間化合物M_XTiS_2(M:3d遷移金属)の電流磁気効果の解明。(5)直流電気測定とTTE法による超高純度タングステン(補償金属)単結晶の磁気・温度破壊現象の解明。(6)分子性導体(Dme-DCNQI)_2Cuの水素の一部を重水素置換したd_2体における直流電気測定とTTE測定から,ノーマル相における輸送特性及びリエントラント相における異常な輸送現象を明らかにした。 | KAKENHI-PROJECT-09450037 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09450037 |
NPOと行政との協働に関する研究-委託事業の実態と事業評価に関する事例調査- | 本研究の目的は、地方自治体におけるNPOへの業務委託に焦点をあて、その現状を把握し、問題点を検証し、課題を明らかにし、協働としての委託事業のあり方について、今後の方向性を示すことにあった。これらの目的を達成するために47都道府県のNPOと行政の協働施策を対象として事例調査を行った。また、委託事業については、24都府県、5つのNPOを対象に聞き取り調査を行った。その結果、以下のような課題が明らかになった。第1に、ほとんどの都道府県における協働に関するガイドライン(指針)やマニュアルの作成が、行政サイドの必要性に端を発して一方的に行われていることである。第2に、「協働型事業」提案制度の1制度設計・運用に関することである。この種の制度を採用する際に、「パイロット的」あるいは「モデル的」に行われているケースもあり、その場合は2年から3年程度の時限を定めて予算化が図られていることが多い。第3に、協働事業における「委託」の取り扱いである。対象事業や対象団体の限定、また選定プロセスの公正化・透明化を図ることなどにより、既存の業務委託とは異なる基準を設定し、これにより委託契約の「特例的な」運用が図られているところも増えつつある。ただしそれらの多くは、一般競争入札における「価格競争」を代替する選定段階でのシステムといえ、たとえば契約書の記載事項や金額設定の問題、支払い方法など事業の実施段階におけるNPOとの協議体制については、しくみが不十分である。第4に、協働事業評価に関することである。協働事業評価については、「協働関係」の振り返り・評価を重視するものと、「協働事業」を評価するものが実践事例としてみられる。「協働事業」による成果を明らかにし、既存の行政サービスとの相違点やメリット・デメリットを公表していくことで、協働事業の必要性についての認識を広め、理解を得ていくという視点が不可欠である。本研究の目的は、地方自治体におけるNPOへの業務委託に焦点をあて、その現状を把握し、問題点を検証し、課題を明らかにし、協働としての委託事業のあり方について、今後の方向性を示すことにあった。これらの目的を達成するために47都道府県のNPOと行政の協働施策を対象として事例調査を行った。また、委託事業については、24都府県、5つのNPOを対象に聞き取り調査を行った。その結果、以下のような課題が明らかになった。第1に、ほとんどの都道府県における協働に関するガイドライン(指針)やマニュアルの作成が、行政サイドの必要性に端を発して一方的に行われていることである。第2に、「協働型事業」提案制度の1制度設計・運用に関することである。この種の制度を採用する際に、「パイロット的」あるいは「モデル的」に行われているケースもあり、その場合は2年から3年程度の時限を定めて予算化が図られていることが多い。第3に、協働事業における「委託」の取り扱いである。対象事業や対象団体の限定、また選定プロセスの公正化・透明化を図ることなどにより、既存の業務委託とは異なる基準を設定し、これにより委託契約の「特例的な」運用が図られているところも増えつつある。ただしそれらの多くは、一般競争入札における「価格競争」を代替する選定段階でのシステムといえ、たとえば契約書の記載事項や金額設定の問題、支払い方法など事業の実施段階におけるNPOとの協議体制については、しくみが不十分である。第4に、協働事業評価に関することである。協働事業評価については、「協働関係」の振り返り・評価を重視するものと、「協働事業」を評価するものが実践事例としてみられる。「協働事業」による成果を明らかにし、既存の行政サービスとの相違点やメリット・デメリットを公表していくことで、協働事業の必要性についての認識を広め、理解を得ていくという視点が不可欠である。平成16年度は地方公共団体のNPOへの業務委託の実態を把握するために、都道府県の協働のガイドライン等に関する情報収集とNPO活動の促進を担当する部署を対象とした聞き取り調査を行った。本年度聞き取り調査を実施した県は宮城県、千葉県、愛知県、高知県、佐賀県、福岡県、福井県、富山県である。特定非営利活動促進法施行後ただちに条例を制定し、NPO推進事業発注ガイドラインを作成するなど、早くからNPOへの委託事業を進めてきた県から、指針等を作成した県まで、取り組み開始の時期に差が見られるが、NPOへの業務委託を協働のひとつの形として位置づけている点は共通する。聞き取り調査を通して委託事業を「協働」として位置づけることには次のような課題があることが確認された。第1に委託契約は地方自治法で定められている制度に基づいて行われるため、行政が発注しNPOが受注するという縦型の関係が強く、対等性の確保が難しいこと、第2に、行政が作成した仕様書に沿って業務を遂行するという「下請け」の要素が残ってしまうこと、第3に、NPOへの事業委託が行政のサービスの効率化、スリム化の手段として位置づけられ、NPOをコストの安い事業者として認知されている傾向がまだみられることである。そのため、行政と対等な立場で、仕様書作成の段階からの参画を求めるNPO側の不満の要因ともなっている。このような状況を改善するために、宮城県では平成14年度、15年度のNPOへの委託事業について担当課、NPO双方への評価を実施するなど、両者の対等な関係を構築するために、現状の委託契約制度の運用方法のさらなる見直しを行っている。平成17年度は宮城県の委託事業の評価方法、評価基準について検証するとともに、引き続き都道府県のNPOへの委託の実態を把握するためNPO担当課への聞き取り調査を行う。 | KAKENHI-PROJECT-16600005 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16600005 |
NPOと行政との協働に関する研究-委託事業の実態と事業評価に関する事例調査- | 昨年度に引き続き、自治体(件レベル)のNPO活動促進を担当する課を対象に、NPOと行政との協働に位置づけられている委託事業の実態と評価に関する聞き取り調査と資料収集を行った(15県実施)。また、事業を受託しているNPOを対象に、受託したことによる組織経営に関するメリット、デメリット、協働の問題点について聞き取り調査を行った(6団体実施)。その結果、以下のような知見が得られた。各自治体とも、NPOと行政の協働に関する施策を積極的に進めており、職員のNPO理解を促進する意味も含めて、協働の概念の整理、協働の意義、協働の基本原則、協働の形態、協働の進め方等についてのマニュアルを作成、あるいは作成中であるところが増えている。また、先駆的に協働事業を行ってきた自治体は、協働の過程で見出された課題を解決するために、協働、とくに委託事業についての評価を継続的に実施しているところがでてきている。その際、たとえば愛知県のように『あいち協働ルールブック2004』に基づいてNPOと行政の協議・検討を行っているように、自治体とNPO双方が評価しあいながら、課題解決をめざすところも出始めている。本年度の調査から以下のような点が見出された。第1に、事業の継承・発展のためには、NPOのノウハウに対する適切な配慮と活用が必要なこと、第2に、より質の高い協働を実現するためには、施策・政策レベルでの目的・目標の共有をし、中長期的な課題、問題意識を開かれた議論の場を通して共有すること、第3に、NPOの活動の支援に向け、市民一人ひとりの自治意識や当事者意識の向上を図っていくこと、第4に、行政職員のNPOに対する理解は十分とはいえず、今後、質の高い協働の推進のためには、NPOの体験研修や意見交換会、職員研修会などの充実を図り、NPOへの理解や協働への自発性を高めていくこと、第5に、NPOと県との協働の実績や経験を活かして、NPOと市町村の協働促進を図っていくことなどである。特定非営利活動促進法が施行されてから9年が経過し、法人数も3万弱を数えている。地方自治体においては、地方分権の流れの中で、多様な地域のニーズや価値観に対応することを目的に、市民参加とNPOとの協働の仕組みづくりと具体的な協働事業が進められてきている。そこで本年度も、昨年度に引き続きNPOへの委託事業を実施している地方自治体への聞き取り調査、および受託NPOへの聞き取り調査を実施した。また、委託事業の相互評価(地方自治体と受託NPO)を実施している地方自治体の公開されている資料の収集と分析を行った。さらに、地方自治体が作成している協働事業ガイドラインやマニュアルの収集と分析を行った。その結果、地方自治体においては、協働の一形態としてのNPOへの委託事業は増加傾向にあることがわかった。それとともに、「NPOの下請け化」の問題が指摘されるようになり、行政とNPOの協働に対する意識の「ズレ」をどのように調整するべきかが課題として明らかになった。 | KAKENHI-PROJECT-16600005 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16600005 |
超高温域での絶対温度決定と輻射温度計校正精度向上への挑戦 | レーザー加熱・雰囲気制御・ガス浮上・角度分散型・超高温X線回折装置と透過力の高い放射光X線を組み合すことで、4000Kに及ぶ超高温域での精密X線回折実験を可能とした。2次元検出器を設置し、結晶粒成長の効果等を少なくする装置を開発した。真球の結晶試料や融体の高精度データが得られる。超高温域での絶対温度決定、構造解析の高精度化を試みた。高融点物質のバデレー鉱、HfO2, ZrSiO4ジルコン等の精密測定やZrO2-SiO2系等に適応した。試料内での温度勾配を明らかにし、深さ方向の温度勾配を高い精度で決定した。地球最古の物質研究に重要な組成系であるZrO2-SiO2系の詳細を高精度で明らかにした。超高温域での温度の絶対値決定への挑戦と輻射温度計の精度の向上の試みとして、高融点酸化物を用い、雰囲気をコントロールした条件で、不純物の混入の無い実験を行い、格子定数(熱膨張率)、軸比、融点、相転移点等を高精度で決定した。高温レーザー加熱・ガス浮上法による放射光X線回折実験により高精度の回折実験を行った。高融点物質の代表であるZrO2ジルコニ結晶を角度分散型回折計により、3400K程度までの高温下での粉末X線精密結晶構造解析と融体の解析で成果を挙げた。新球の高純度試料を作製し、雰囲気コントロール下で不純物の混入無く計測に成功した。温度の測定精度向上・改善のため、様々な温度測定方法、セル構成、試料調整、解析方法など新たな挑戦的試みを行い、多くの技術的ノーハウを獲得できた。格子定数や軸率を多くの温度で測定することで正確な温度変化、熱膨張特性、融点、相転移点を決定し、中・低温域の結果や分子軌道法シミュレーションによる理論との値との比較・外挿することから、相対値の決定や精度の向上、輻射温度計への温度校正法を確立することを目的とした。決定した温度、融点・相転移点から輻射温度計の温度校正を行い、本法による構成済みの輻射温度計を用いて、各装置付随の輻射温度計の温度を校正を試みた。広い温度域を測定することで、既知の温度域の熱膨張率と超高温域の測定結果を理論値と組み合わせ、試料温度を±20Kほどの誤差で見積もることができた。融点近傍の高温域では結晶の粒成長の問題があるが、試料回転法と2次元検出器による測定、結晶化を阻止する他相粉末混合等で解決できる目処が立った。試料の回転方法を工夫することが重要である。さらに、基礎データの蓄積から高温域の絶対温度決定に向け新方法を確立するべく研究を続けている。温度の正確さが向上することで、地球中心部の理解や地球活動・モデル化の確度が増すことが期待できる。超高温域での物質の温度の精密測定と絶対温度決定に向けた実験法の高精度化を行った。本年度は高融点物質のHhO2の精密測定に成功した。輻射温度計による温度測定精度の向上と試料内での温度分布・温度勾配測定も試みた。熱電対の利用可能域と輻射温度計の分解能をうまく使うことで装置を最大限高精度化し、3000K以上の温度域で±10K程度の精度で温度を決定することに挑戦した。超高温域の構造研究用に開発された雰囲気コントロール可能な、レーザー加熱・ガス浮上法角度分散型超高温X線回折装置と透過力の高いX線を組み合すことで、超高温域4000K以上での精密X線回折実験を目標にした。雰囲気コントロール下、不純物混入のない実験を行い、高精度の回折実験を行った。格子定数(熱膨張率)、軸比、相転移点等を高精度で決定した。本手法は真球の試料を既知の雰囲気下で不純物の混入が無く、雰囲気制御や融解後の融体まで回折データが得られ、融点や相転移の決定が高精度で行えた。今回IP検出器による2次元データ観測装置を設置し、結晶粒成長の効果を校正する装置を開発した。この装置により高融点鉱物zirconの超高温実験、融体共存相等の精密測定に成功した。Planckの関係を用いた輻射温度計等の温度測定とX線その場観察実験を同時に行った。白金による温度校正法を確立し、将来の展開を目指している。高融点化合物の高温下で実験を行う基盤を整えることができた。超高温下での構造解析・評価法の手法開発としての絶対温度決定法確立に向けた新しい挑戦を続けている。3000°Cを大きく超える超高温域での酸化物鉱物や融体の温度の精密測定と絶対温度決定に向けた実験法の高精度化を試み、ジルコンやバデリー鉱に適応した。本年度は高融点物質のZrO2,HhO2,ZrSiO4等の精密測定を行い、新たな成果が得られた。輻射温度計による温度測定精度の向上と試料内での温度分布・温度勾配測定を行い、試料表面と中心部の温度差を標準試料等を用いた回折法やXAFS法により明らかにした。熱電対の利用可能域と輻射温度計の分解能をうまく用いることで装置を最大限高精度化し、3000°C以上の温度域で±3K程度の精度で温度を決定することに挑戦した。 | KAKENHI-PROJECT-25610159 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25610159 |
超高温域での絶対温度決定と輻射温度計校正精度向上への挑戦 | 絶対温度の決定には解決すべき問題があり、研究を続けるが、相対温度に関しては、目標を達成できた。超高温域の構造研究用に開発された雰囲気コントロール可能な、レーザー加熱・ガス浮上法角度分散型超高温X線回折装置と透過力の高いX線を組み合すことで、超高温域4000°C以上での精密X線回折実験も可能である。雰囲気コントロール下、不純物混入のない実験を行い、高精度の回折実験か可能である。ZrO2-SiO2系の相図を再検討し、相図を提案し、格子定数(熱膨張率)、軸比等を高精度で決定した。本手法は真球の試料を既知の雰囲気下で不純物の混入が無く、雰囲気制御や融解後の融体まで回折データが得られ、融点や相転移の決定が高精度で行える。IP検出器による2次元データ観測装置を設置し、結晶粒成長の効果を少なくする装置を開発した。Planckの関係を用いた輻射温度計等の温度測定とX線その場観察実験を同時に行い、高融点金属による温度校正法を確立した。高融点化合物の高温下で実験を行う基盤を整えることができた。超高温下での構造解析・評価法の手法開発としての絶対温度決定法確立に向けた新しい挑戦を続ける。レーザー加熱・雰囲気制御・ガス浮上・角度分散型・超高温X線回折装置と透過力の高い放射光X線を組み合すことで、4000Kに及ぶ超高温域での精密X線回折実験を可能とした。2次元検出器を設置し、結晶粒成長の効果等を少なくする装置を開発した。真球の結晶試料や融体の高精度データが得られる。超高温域での絶対温度決定、構造解析の高精度化を試みた。高融点物質のバデレー鉱、HfO2, ZrSiO4ジルコン等の精密測定やZrO2-SiO2系等に適応した。試料内での温度勾配を明らかにし、深さ方向の温度勾配を高い精度で決定した。地球最古の物質研究に重要な組成系であるZrO2-SiO2系の詳細を高精度で明らかにした。本年度は高融点物質のHfO2の精密測定に初めて成功した。今回IP検出器による2次元データ観測装置を設置し、結晶粒成長の効果を校正する装置を開発した。この装置により高融点鉱物zirconの超高温実験、融体共存相等の精密測定に成功した。Zirconは太古代研究に不可欠な最古の地球物質の一つである。高精度の二次元検出器付きX線回折装置を備えた高温レーザー加熱ガス浮上法により融体・結晶の回折実験を立ち上げた。試料保持フォルダーやキャピラリー材料の制限により、実験が困難になること避け、数mmの新球の試料を空気・磁場浮上することで、不純物の混入無く雰囲気も変えられる超高温下での高精度の回折実験を立ち上げた。レーザーも用いた加熱と輻射温度計の測定システム、X線その場観察実験、同時解析が行える。試料の表面付近と中心部では温度勾配が生じ、その詳細を明らかにした。格子定数を多くの温度域で測定し、決定した格子定数、軸率の温度変化、熱膨張特性を決定し、精度の高い低温域の結果や分子軌道法シミュレーションによる理論との値との比較・外挿することから、絶対値の決定を試みた。Rietveldt法による構造解析を超高温域で行い、転移メカニズムを原子レベルで明らかにした。鉱物結晶学、無機化学、凝縮系物理学さらに高融点物質の対象物を広げて、研究を発展・展開してゆく。新たな挑戦として、さらに装置の高度化と手法の公表と広いユーザー確保に努力して、若手研究者・次世代の育成にも貢献したい。試料特性として温度分布・勾配、精密温度決定法への物質依存性、表面ラフネス等影響等をさらに詳細に調べる。高融点化合物を用いた温度校正法を提案し、広い分野に展開を目指し、可能性を追求する。新球の高純度試料を作製し、雰囲気コントロール下で不純物の混入無く計測に成功した。温度の測定精度向上・改善のため、様々な温度測定方法、セル構成、試料調整、解析方法など新たな挑戦的試みを行い、多くの技術的ノーハウを獲得できた。 | KAKENHI-PROJECT-25610159 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25610159 |
Web4uを活用した初級・中級フランス語e-ラーニング教育の応用的研究 | 本研究において、まず独自に初習外国語(フランス語)の学習コンテンツを作成した。次に、これらの学習コンテンツを、WEB対応授業支援システムWeb4uにアップロードし、学生たちが、教室での対面授業と対応しながら、教室外の自宅や自習室など「いつでもどこでも」Web4uにアクセスし学習できる環境を整え、e-Learningの実践を行った。その結果、学生たちの学習意欲の向上や成績の向上などの成果を得た。本研究の実践と成果は生涯学習やe-Learningを進めてゆく上で重要な意義を持つものである。本年度は大阪大学サイバーメディアセンターで行われた第11回e-ラーニング教育学会に参加し、多数の有意義な研究発表から、研究上有意義な知見を得た。とりわけ、立命館大学平尾日出夫教授の「英語学習教材アーカイブの公開」および、大阪大学の細谷行輝教授が中心となって進めている「クオータープロジェクト:15分でできるホームページ教材:15分で作る自動採点式Webテスト問題」は、きわめて有効なe-ラーニング用の教育ツールであるので、今後のe-ラーニング授業実践で大いに利用し、活用していきたい。また平成24年12月7日に、京都大学名誉教授の大木充先生をお招きし、東北大学国際文化研究科において、e-ラーニングに関する講演会を実施した。講演では、「e-Learningによる「学修時間」の増加・確保とタイムマネジメント」および、「グローバル人材育成戦略と大学における外国語教育」の二つのタイトルでお話しをいただくとともに、その後参加者と熱心な質疑・討論を行い、大きな成果を得た。同年11月23日に、沖縄大学で行われたe-ラーニング教育学会主催のシンポジウム「外国語教育におけるe-Learningの現状と課題」および、「語学教育に特化したWeb対応授業支援システム『Web4u』」、「中国語教育におけるe-Learning」に参加し、積極的な発言・提言を行い、参加者から評価を得るとともにe-ラーニング教育に関する新たな知見を得た。平成25年4月末に研究打合会を行い、今年度は主に、e-Learningに関わる講演会を開催すること、研究成果をまとめた冊子を刊行することを確認した。講演会については、11月1日(金)大阪大学サイバーメディアセンター教授細谷行輝氏をお招きし、東北大学国際文化研究科においてe-Learning教育に関する講演会を実施した。講演の題目は「デジタル教育改革ーe-Learningによる最先端の教育システムWebOCMnextの可能性」である。細谷氏は、「日本オープンシステム教育推進協議会」(JMOOC)が配信している教材と比較しながら、WebOCMnextの優れた優位性を実践を交えながら、説得力をもって説明された。聴衆は主に語学関係の教員であったが、現在のハイレベルなデジタル教育改革を体感することができ、e-Learningのよりいっそうの普及の上で大変有意義な講演会であった。研究成果をまとめた冊子については、研究成果の報告書として『Web4uを活用した初級・中級フランス語e-ラーニング教育の応用的研究』を刊行した。冊子の内容は、以下の通りである。「e-Learningシンポジウムin沖縄大学惨禍報告」(寺本成彦)、「大阪大学サイバーメディアセンター視察報告」(米山親能)、「小テストを利用したe-Learningの試み」(米山親能)、「e-Learningに求められるアナログ性」(寺本成彦)、「e-Learning教育に教育における幾つかの「欠如」感」(坂巻康司)、「防災教育とe-Learning」(米山親能)、「<講演要旨> e-Learningによる「学習時間」の増加・確保とタイムマネジメント」(大木充)、「<講演要旨>デジタル教育改革ーe-Learningによる最先端の教育システムWebOCMnextの可能性」(細谷行輝)この研究冊子を多くの方々に読んでいただくことによりe-Learning教育の普及がいっそう計られるものと考える。本研究において、まず独自に初習外国語(フランス語)の学習コンテンツを作成した。次に、これらの学習コンテンツを、WEB対応授業支援システムWeb4uにアップロードし、学生たちが、教室での対面授業と対応しながら、教室外の自宅や自習室など「いつでもどこでも」Web4uにアクセスし学習できる環境を整え、e-Learningの実践を行った。その結果、学生たちの学習意欲の向上や成績の向上などの成果を得た。本研究の実践と成果は生涯学習やe-Learningを進めてゆく上で重要な意義を持つものである。今年度は、東日本大震災による研究棟の被災、研究機器の被災、および研究代表者・研究分担者の被災による研究開始の遅れのため、研究推進のための基礎的な準備を集中的に行った。7月には研究代表者および研究分担者3名による、今後の研究方針に関わる打ち合わせおよび検討を行った。10月には、東北大学の杉浦謙輔教授とともに研究授業を行い、WebOCMを用いたe-ラーニング教育の実践とその有効性に関する検討を行った。あわせてその後、杉浦教授のアドバイスにもとづき、e-ラーニング教育および教材作成に関わる資料の収集を行った。3月10日には、京都大学吉田南キャンパスで開催された、第10回e-ラーニング教育学会に参加し、多くの研究発表のなかから、e-ラーニング教育実践および推進に関わる貴重な知見を得た。とりわけ、大阪大学サイバーメディアセンターの細谷行輝教授を中心に行われている、新開発のe-ラーニング教育基盤ソフトWeb4uの操作とその有効性に関わる具体的なノウハウを習得した。 | KAKENHI-PROJECT-23520659 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23520659 |
Web4uを活用した初級・中級フランス語e-ラーニング教育の応用的研究 | さらには、翌日3月11には、京都大学大学院人間・環境学研究科教授の大木充教授と、e-ラーニング教育教材作成に関わる打ち合わせを行い、大木教授の豊富な教材作成の経験にもとづいた教材作成の貴重なノウハウを学んだ。次年度は今年度に得た貴重な知見やノウハウをもとに、e-ラーニング教育基盤ソフトWeb4uを活用したe-ラーニング教育に関わる独自の教材開発に力を注ぎたい。今年度は12月にe-ラーニング教育にかかわる講演会を開催し、多数の参加者を得て、大きな成果を得た。また、11月に沖縄大学で行われたe-ラーニング教育学会主催のシンポジウムに参加し、積極的な発言・提言を行い、参加者から評価を得た。東日本大震災による、東北大学研究施設の被災、および研究代表者・研究分担者の自宅の被災等により、研究開始が遅れたため。次年度は、大阪大学サイバーメディアセンター細谷行輝教授をお招きし、e-ラーニング教育に関する講演会を東北大学において開催する。また、平成26年3月に関東学院大学で開催予定のe-ラーニング教育学会に参加し、これまでの研究成果をe-ラーニング教育学会において発表するとともに、学会誌に論文として掲載する。平成24年4月に研究代表者および研究分担者3名により、今後の研究推進に関する打ち合わせを行い、e-ラーニング教材の作成のための資料収集を進める。平成24年7月には大阪大学サイバーメディアセンターの視察を行い、e-ラーニング教育の最新の情報と知見を得る。また同時に、同センターの細谷行輝教授と打ち合わせを行い、同センターが中心となって開発したe-ラーニング用基盤ソフトWeb4uの活用について、技術的・実践的なノウハウを学ぶ。平成24年8月以降は、それまでに収集した資料および習得した技術的・実践的ノウハウをもとに、Web4uを活用したe-ラーニング教材の作成を行う。また、平成25年3月に開催予定のe-ラーニング教育学会第11回大会で、研究の成果を発表する予定である。講演会開催のための、講師の旅費および謝金。e-ラーニング教育学会参加のための旅費。e-ラーニング教育を推進するための教材・機器・書籍の購入。次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成24年度請求額とあわせて、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。 | KAKENHI-PROJECT-23520659 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23520659 |
アンドロゲン依存性コレステロール合成系酵素DHCR24の前立腺癌における機能解析 | (目的)マイクロアレイ解析より同定したアンドロゲン依存性前立腺癌関連遺伝子Seladin-1/DHCR24はアルツハイマー病患者側頭葉で発現低下しており、酸化ストレスによるアポトーシツからの細胞保護機能を指摘されている。またコレステロール生合成系経路の酵素遺伝子のひとつでもある。本研究ではSeladin-1/DHCR24の発現、機能解析を行った。(方法と結果)Seladin-1/DHCR24はアンドロゲン依存性前立腺癌細胞株(LNCaP)においてmRNA、蛋白質ともにアンドロゲン依存性に発現誘導されていた。またSeladin-1/DHCR24を高発現した安定LNCaP細胞株を樹立し、Seladin-1/DHCR24の細胞内局在を検索したところ、主に小胞体に局在しており、一部核にも発現していた。高発現LNCaP細胞株と親株とで過酸化水素水を用いた酸化ストレス刺激に対する反応性(主にアポトーシス)を比較したが、明らかな差異を見出せなかった。1997年から2001年までに京都大学で根治的手術を施行した80例前立腺癌患者のホルマリン固定パラフィンブロックを用いて、約320スポットの前立腺癌組織マイクロアレイを作製し、これを用いたin vivoでのSeladin-1/DHCR24の発現を免疫組織化学染色法にて解析をした。Seladin-1/DHCR24は腺管内腔上皮細胞に主に発現しており、一部間質細胞にも発現していた。一方腺管の基底細胞には発現していなかった。しかし、癌と正常とのあきらかな差異は見出せなかった。(考察)Seladin-1/DHCR24は前立腺癌細胞においてアンドロゲン下流遺伝子であることは疑いない。最近癌抑制遺伝子としての機能を示唆する所見もでており、本質的機能については今後の課題である。(760字)前立腺癌細胞株LNCaPを用いた網羅的遺伝子解析によりコレステロール生合成系酵素の一つであるSeladil/24-dehydrocholesterol reductase(DHCR24)がアンドロゲン下流遺伝子であるというマイクロアレイの実験結果得、それをNorthern blotting, quantitative RT-PCRで確認した。蛋白レベルの発現に関してもSeladin1/DHCR24に対するポリクローナル抗体を作製、アンドロゲンにてseladin-1/DHCR24が誘導されることを確認した。pEGFR-N1 vectorにSeladin1/DHCR24遺伝子を組み込み、LNCaP-DHCR24 stable cell(高発現細胞株)を樹立し、Seladin1/DHCR24が小胞体に存在することを確認した。またSeladih/DHCR24は、酸化ストレスによるアポトーシスとの関与も示唆されていることから、この細胞株を用いて過酸化水素添加による酸化ストレス実験を行っているが、現在のところ親株に比べて酸化ストレスに抵抗性を示すことを積極的に示唆する所見は得られていない。(目的)マイクロアレイ解析より同定したアンドロゲン依存性前立腺癌関連遺伝子Seladin-1/DHCR24はアルツハイマー病患者側頭葉で発現低下しており、酸化ストレスによるアポトーシツからの細胞保護機能を指摘されている。またコレステロール生合成系経路の酵素遺伝子のひとつでもある。本研究ではSeladin-1/DHCR24の発現、機能解析を行った。(方法と結果)Seladin-1/DHCR24はアンドロゲン依存性前立腺癌細胞株(LNCaP)においてmRNA、蛋白質ともにアンドロゲン依存性に発現誘導されていた。またSeladin-1/DHCR24を高発現した安定LNCaP細胞株を樹立し、Seladin-1/DHCR24の細胞内局在を検索したところ、主に小胞体に局在しており、一部核にも発現していた。高発現LNCaP細胞株と親株とで過酸化水素水を用いた酸化ストレス刺激に対する反応性(主にアポトーシス)を比較したが、明らかな差異を見出せなかった。1997年から2001年までに京都大学で根治的手術を施行した80例前立腺癌患者のホルマリン固定パラフィンブロックを用いて、約320スポットの前立腺癌組織マイクロアレイを作製し、これを用いたin vivoでのSeladin-1/DHCR24の発現を免疫組織化学染色法にて解析をした。Seladin-1/DHCR24は腺管内腔上皮細胞に主に発現しており、一部間質細胞にも発現していた。一方腺管の基底細胞には発現していなかった。しかし、癌と正常とのあきらかな差異は見出せなかった。(考察)Seladin-1/DHCR24は前立腺癌細胞においてアンドロゲン下流遺伝子であることは疑いない。最近癌抑制遺伝子としての機能を示唆する所見もでており、本質的機能については今後の課題である。(760字) | KAKENHI-PROJECT-15659379 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15659379 |
分子/界面の構造機能解析に立脚した新規錯体系電極触媒の開発 | 高い電極触媒活性を有するRhポルフィリン分子と担体との界面をTEM・AFM・第一原理計算により解析し、界面における分子の配置・配向及び吸着構造の安定性を明らかにした。TEMによる実触媒の直接観察を行い、この錯体触媒ではRhが原子単位で分散していることを明らかにした。AFMによる観察から、分子はグラファイト面にface-on様式で吸着可能であるが、その吸着は強固ではないことが分かった。この結果は分子/界面の第一原理計算の結果からも支持される。得られた知見を基に、新規錯体系触媒の開発に取り組み、低過電圧CO酸化電極触媒及びグルコースの多電子酸化電極触媒を開発した。本研究課題では、Rhポルフィリン系電極触媒の機能を(1)分子それ自身の触媒作用と(2)界面における分子の振る舞いの二つに分けて解析し、得られた情報を基に高活性な分子電極触媒の開発を行うことを目的としている。本年度は、まず、CO酸化反応を電子受容体を含む溶液中で行わせることにより、界面の影響を省いたRhポルフィリン分子による化学的CO酸化反応の解析を行った。電気化学的CO酸化反応の場合Rhポルフィリンごとに大きな差が見られたが、溶液中の反応ではRhポルフィリンごとの差は大きいものではなかった。つまりポルフィリンごとの電極触媒活性の差のかなりの部分は界面の影響に帰着されるということがわかった。次に界面の影響を調べるため、ポルフィリン錯体/HOPG (Highly oriented pyrolytic graphite)の構造をAFM (Atomic Force Microscope)により観察し、ポルフィリン錯体分子の界面上の配向やポルフィリン-HOPGの相互作用について評価した。特に相互作用の強さに対するポルフィリン中心金属の影響について解析した。一方で、このポルフィリン吸着HOPGの電気化学的CO酸化活性を評価することにより、表面構造と活性との相関について解析した。相互作用の強いポルフィリン錯体の方が高い電流密度を与えており、分子の界面上での配置が触媒活性に大きく影響していることが示唆された。一方で、実用的な触媒担体(高比表面積カーボン)を透過型電子顕微鏡により観察し、分子の担体上の配置に関する情報を得た。本年度は分子の溶液中の反応を明らかにしたのみならず、界面での触媒反応についても解析した。また、走査プローブ顕微鏡や電子顕微鏡による界面の構造解析も予定通り進捗しており、界面における分子の配置・配向に関する情報が得られつつある。界面での分子の触媒機能を解析し新しい触媒を生み出すという本プロジェクト全体の目的から鑑みて、順調な進捗と考えている。本研究課題では、Rhポルフィリン系電極触媒の機能を(1)分子それ自身の触媒作用と(2)界面における分子の振る舞いの二つに分けて解析し、得られた情報を基に高活性な分子電極触媒の開発を行うことを目的としている。本年度は、反応中間体として考えられるRhポルフィリン-CO錯体の第一原理計算を行い、この錯体の配位様式及び想定している反応機構の妥当性を検討した。その結果、この錯体においてはRhからCへのπ電子供与もCからRhへのσ供与もどちらも強いことが分かった。対応するFeポルフィリン-CO錯体に比べてRhポルフィリン-CO錯体においてはC原子上のカチオン性が強く、反応機構で想定している水分子の求核置換が起こりやすいことが分かった。また、このような均一系でのCO酸化反応メカニズムに立脚した新規CO除去槽の提案を行った。このRhポルフィリンを用いるCO除去槽は、バッチ系の実験において98%以上のCO除去率を実現できた。次に界面の影響を調べるため、ポルフィリン錯体/HOPG (Highly oriented pyrolytic graphite)の構造をAFM (Atomic Force Microscope)により観察した。RhポルフィリンとCoポルフィリンでは基板との相互作用が異なり、その結果、観測される分子の配向構造が大きく異なることが分かった。本触媒は燃料電池電極触媒で使用することを想定しているので、水系電解液で使用されることが想定される。そこで本年度は特に水の影響を解析し、水存在下での分子の基板に対する吸着安定性を評価した。本年度は分光学的手法により提案していた反応中間体の性質や反応機構に関して第一原理計算からの妥当性を検証することができた。また、均一系のCO酸化反応を利用した新しいタイプのCO除去槽を見出すことができた。一方で、分子/界面の解析においては、分子の基板への吸着の安定性についてAFMを用いてこれまでにない知見を得た。本研究課題では、Rhポルフィリン系電極触媒の機能を(1)分子の触媒作用と(2)界面における分子の挙動の二つに分けて解析し、得られた情報を基に高活性な分子電極触媒の開発を行うことを目的としている。既に昨年度までの解析で(1)について明らかにした。本年度は(2)についてメカニズムを明らかにした。第一原理計算及び原子間力顕微鏡により錯体と基板の相互作用を解析した。分散力補正を入れない第一原理計算においては、グラファイトとRhオクタエチルポルフィリン(Rh-OEP)の間に引力性の相互作用はなくRh-OEPの安定吸着構造を見出すことはできなかったが、分散力補正を入れるとグラファイトとRh-OEPの安定吸着構造が取り得ることが見いだされた。このことからRh-OEPとグラファイトとの間には強い相互作用は存在しておらず、分散力により弱く吸着していることが第一原理計算から示された。これらの結果から、カーボン担持Rhポルフィリン錯体に関しては、分子とグラファイト構造との相互作用は小さいので、この相互作用を強めることにより活性をさらに上昇させられる余地がある。 | KAKENHI-PROJECT-15H03853 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15H03853 |
分子/界面の構造機能解析に立脚した新規錯体系電極触媒の開発 | この基盤との相互作用の知見と、昨年度までの分子の触媒作用の解析で得られた知見をもとに触媒の開発を進め、非常に低い過電圧(CO2/COの酸化還元電位に近い電位領域)でCOを電極酸化できるRh錯体触媒を見出した。高い電極触媒活性を有するRhポルフィリン分子と担体との界面をTEM・AFM・第一原理計算により解析し、界面における分子の配置・配向及び吸着構造の安定性を明らかにした。TEMによる実触媒の直接観察を行い、この錯体触媒ではRhが原子単位で分散していることを明らかにした。AFMによる観察から、分子はグラファイト面にface-on様式で吸着可能であるが、その吸着は強固ではないことが分かった。この結果は分子/界面の第一原理計算の結果からも支持される。得られた知見を基に、新規錯体系触媒の開発に取り組み、低過電圧CO酸化電極触媒及びグルコースの多電子酸化電極触媒を開発した。これまでの分子に関する反応機構及び分子/界面の解析で得られた知見をもとに過電圧が極めて低いCO酸化電極触媒を開発する。一方で、分子/基板の機構解析に関しては、顕微鏡以外の手法でより全体的な情報を得ることを目指す。29年度が最終年度であるため、記入しない。電気化学29年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-15H03853 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15H03853 |
遺伝情報の制御を目指した複合化金属錯体の合成と機能評価 | 種々の混合配位子金属錯体や複核金属錯体を合成し、それらの錯体とDNAとの結合構造の解析、および結合親和性やDNA切断活性の評価を行った。その結果、金属錯体の複合化がDNAとの相互作用を効率的に強め、切断活性を増大させること、さらに、一部の錯体は新しい抗癌作用を示すことを見出した。また新たに、錯体修飾DNAコンジュゲートを合成し、プロテインスプライシング反応を利用した効率的なDNA一塩基多形検出の手法を開発した。種々の混合配位子金属錯体や複核金属錯体を合成し、それらの錯体とDNAとの結合構造の解析、および結合親和性やDNA切断活性の評価を行った。その結果、金属錯体の複合化がDNAとの相互作用を効率的に強め、切断活性を増大させること、さらに、一部の錯体は新しい抗癌作用を示すことを見出した。また新たに、錯体修飾DNAコンジュゲートを合成し、プロテインスプライシング反応を利用した効率的なDNA一塩基多形検出の手法を開発した。本年度は,(1)カチオン性シップ塩基複核金属錯体、(2)フェナントロリンなどの複素芳香環アミン誘導体をインターカレータとする複合金属錯体,(3)機能性錯体修飾DNAコンジュゲートが形成する二本鎖の構造解析,について研究を進めてきたが,(1)については新たにOH架橋の銅二核錯体を合成するとともに,これまで合成した一連の銅二核錯体についてCV測定とDFT計算によって酸化還元挙動を解析した.現在,酸化還元の可逆性が架橋部位の違いによる構造変化と関連していることが明らかとなったが,酸化還元電位とDNA切断機能との関連については明確な相関は見出されず,詳細についてはさら検討を進めている.(2)については,フェナントロリンやビピリジンとアミノ酸シッフ塩基Cr(III)およびVO(II)混合配位子錯体を合成し,DNAとの結合構造,結合親和性,および光切断活性の解析を行った.Cr(III)錯体は,対応するCu(II)錯体に比べて結合親和性や光切断活性が低下し,DNA上での配向性も低下した.また,アミノ酸シップ塩基VO(II)錯体は溶液中でゆっくりと反磁性錯体種に変化するが'フェナントロリンとの混合配位子錯体形成によって著しく変化が抑制されることを見出した.一方,DNAファイバーESRの測定により,一部グループに沿って配向した錯体成分の存在が確認された。現在,より強いインターカレータとなる複素芳香環アミンを用いた錯体を合成し,これらの現象の解明を試みている.(3)については[Ru^<II>(phen)2dppz]^<2+>錯体修飾コンジュゲートが形成するタンデム二本鎖の構造解析を二次元NMRより行うため,固相法にてコンジュゲートの合成を試み,250nmolに到達する量のコンジュゲートを合成できることを確認した.現在,NMR測定精度の向上を目指してさらに大量のコンジュゲート合成を行っている.本年度も前年度に引き続き,(1)カチオン性シッフ塩基複核金属錯体、(2)フェナントロリンなどの複素芳香環アミン誘導体をインターカレータとする複合金属錯体,(3)機能性錯体修飾DNAコンジュゲートが形成する二本鎖の構造解析,について研究を進めてきた.(1)については新たにカチオン側鎖部位をトリエチルアミン側鎖に変えた種々の複核銅(II)錯体を合成し,疎水性の増加と側鎖の嵩高さがDNAとの相互作用にどのような影響を及ぼすかを検討した.結果として結合親和性,酸化的切断活性ともにトリメチル側鎖置換体に比べて低下した.現在,疎水性の増加が細胞毒性にどのような影響を与えるかを検討している.(2)については,フェナントロリンやビピリジンとアミノ酸シッフ塩基Cr(III)およびVO(II)混合配位子錯体について,より強いインターカレータとなる複素芳香環アミンを用いた錯体を合成しDNAとの結合構造,結合親和性,および光切断活性の解析を行った.Cr(III)錯体は,DNA上での配向性が向上し,酸化的切断活性や光切断活性が増加した.VO(II)混合配位子錯体についてもDNA上での配向性がみられ,現在,酸化的切断活性や光切断活性の評価を試みている.また,本年度はあらたにフェナントロリンをアミド結合で結んだ新規銅(II)二核錯体を合成しDNAの酸化的切断活性の評価を行い,フェナントロリン単核錯体に比べて2本鎖切断の活性が著しく向上することを見出した.(3)については発光性希土類金属錯体を鋳型特異的に形成するDNAプローブおよび鋳型特異的にルテニウム-白金二核錯体を脱離するDNAプローブの合成を試みた.いずれもプロテインスプライシング反応を利用した感度の向上を目指したものであるが,現在ジペプチドリンカーの保護基をはずす最終の段階まで到達している.本年度も1.カチオン性サリチルアルデヒドシッフ塩基複核金属錯体、2.フェナントロリンなどの複素芳香環アミン誘導体をインターカレータとする複合金属錯体,3.プロテインスプライシング反応による機能性錯体修飾 | KAKENHI-PROJECT-21550070 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21550070 |
遺伝情報の制御を目指した複合化金属錯体の合成と機能評価 | DNAコンジュゲートの合成と機能評価を行った.1.についてはカルボキシヒドラジド架橋配位子による複核銅(II)錯体(a)とカチオン部位を1-メチル-2-フォルミル-3-ヒドロキシルピリジンに置き換えた複核銅(II)錯体(b)を合成し,架橋部位の親水性の増加やカチオン側鎖の形状がDNAとの相互作用にどのような影響を及ぼすかを検討した.(a)は結合親和性,酸化的切断活性ともに1,3-ジアミノ-2-プロパノール架橋錯体(c)に比べて低下した.一方,(b)は(c)よりもやや高い親和性とほぼ同じ切断活性を示した.現在,配位子の修飾による立体構造と酸化還元電位の変化について検討を行っている.2.については,複合配位子のカチオン側鎖を除いた錯体を合成し,カチオン性側鎖の効果を検証した.その結果,DNAとの結合親和性は低下するが,過酸化水素による酸化的切断活性はあまり減少せず,現在反応条件についてさらに検討を行っている,3.については鋳型特異的にルテニウム-白金二核錯体を脱離するDNAプローブの合成を試み,成功した.SNPs解析を行った結果,標的DNAの一塩基の違いに応じて二核錯体が形成され,サンプル量が5.0pmolでも判別可能であることが分かった.今後,反応条件の最適化を行っていくことで,より高い検出感度の実現が可能であると考えられる.また,本年度は新たにビスピコリルアミン銅(II)および亜鉛(II)錯体をsalen型シッフ塩基銅(II)錯体で架橋した三核錯体を合成し,中心金属の共同効果による効率的なDNA二本鎖切断試薬の開発も試みた.その結果,シッフ塩基架橋部位が複素環アミンの銅(II)三核錯体がen架橋錯体に比べて,二本鎖切断機能が著しく向上することを見出した.今後,これらの錯体の生理活性について検証する予定である. | KAKENHI-PROJECT-21550070 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21550070 |
破面立体構造解析システムの開発と三次元フラクトグラフィーの提唱 | 破壊事故の原因究明,金属破壊機構の解明のためには,従来の平面的な破面の情報だけでなく,表面の三次元的な立体構造を定量的に知ること必要不可欠である.本研究は,光学顕微鏡の可視光波長および電子線波長の寸法領域における破面の三次元微細構造を解析する装置と形状画像解析処理ソフトウエアの開発をおこない,これにより破面診断として有効な学問・技術となり得る三次元フラクトグラフィを提唱することを目的としている.レーザーフォーカス変位計を備えた表面形状測定光学顕微鏡の試料台に水平送り機構を付与し,コンピュータ制御の二方向極微小送り機構を開発した.これにより三次元形状測定を可能とし,汎用のパーソナルコンピュータによる電子顕微鏡像の立体形状全自動化解析システムを開発した.まず,開発した装置の精度を確認した後,引張試験,シャルビー試験により得られた破面を対象に,二次元的な破面領域の凹凸形状をコンピュータに取り込み,開発した立体形状画像解析処理ソフトウェアにより鳥瞰図,等高線図等の三次元画像を得ている.へき開破面のファセット長さ,ディンプル破面のディンプル深さを測定し,破面の三次元的かつ客観的な定量解析を可能としている.本システムは衝撃破壊,疲労破壊,不安定延性破壊などの多くの破壊モードの破壊面にも適用可能であり,事故解析や破壊機構の究明に対するフラクトグラフィの適用範囲を大いに広げるとともに,診断や判定を容易に信頼度高く行うことができ,三次元フラクトグラフィが破面診断の有効な手段となり得ることを示している.破壊事故の原因究明,金属破壊機構の解明のためには,従来の平面的な破面の情報だけでなく,表面の三次元的な立体構造を定量的に知ること必要不可欠である.本研究は,光学顕微鏡の可視光波長および電子線波長の寸法領域における破面の三次元微細構造を解析する装置と形状画像解析処理ソフトウエアの開発をおこない,これにより破面診断として有効な学問・技術となり得る三次元フラクトグラフィを提唱することを目的としている.レーザーフォーカス変位計を備えた表面形状測定光学顕微鏡の試料台に水平送り機構を付与し,コンピュータ制御の二方向極微小送り機構を開発した.これにより三次元形状測定を可能とし,汎用のパーソナルコンピュータによる電子顕微鏡像の立体形状全自動化解析システムを開発した.まず,開発した装置の精度を確認した後,引張試験,シャルビー試験により得られた破面を対象に,二次元的な破面領域の凹凸形状をコンピュータに取り込み,開発した立体形状画像解析処理ソフトウェアにより鳥瞰図,等高線図等の三次元画像を得ている.へき開破面のファセット長さ,ディンプル破面のディンプル深さを測定し,破面の三次元的かつ客観的な定量解析を可能としている.本システムは衝撃破壊,疲労破壊,不安定延性破壊などの多くの破壊モードの破壊面にも適用可能であり,事故解析や破壊機構の究明に対するフラクトグラフィの適用範囲を大いに広げるとともに,診断や判定を容易に信頼度高く行うことができ,三次元フラクトグラフィが破面診断の有効な手段となり得ることを示している.1.人間の認識能力の援用による対話型立体解析システムの試作異なる角度から撮影した破面の一対の走査型電子顕微鏡像を、コンピュータのディスプレイ上で立体視しながら、人間の立体認識能力を利用して主要な対応点を探索しておいたうえで、画像処理による自動探索で補間したところ、地形の航空写真測量とくらべて格段に複雑な金属破面でも、断面形状・等高線の計測が可能であるとの見通しが得られた。今後は実用的な自動解析システムのアルゴリズムを開発をはかる。2.レーザーフォーカス変位計による立体解析システムの試作市販のレーザーフォーカス変位計を備えた表面形状測定光学顕微鏡により、破面の断面形状測定を行った。この装置は破面のように凹凸のはげしい形状の測定には、垂直送り機構の精度と振動の問題があり、また三次元形状の測定のためには、水平送り機構を付与する必要があるので、これらの機構とその制御機構を試作中である。三次元形状測定の予備的な結果が得られたところである。今後は、上記の二つのシステムの試作を完了し、さらに両者が併用できる寸法領域においての比較によって、走査型顕微鏡を用いる測定法の信頼度の確認を行い、またこれらの解析法の破壊力学的な有用性を示した。破壊事故の原因究明,金属破壊機構の解明のためには,従来の平面的な破面の情報だけでなく、表面の三次元的な立体構造を定量的に知ること必要不可欠である.本研究は,光学顕微鏡の可視光波長および電子線波長の寸法領域における破面の三次元微細構造を解析する装置と形状画像解析処理ソフトウェアの開発をおこない,これにより破面診断として有効な学問・技術となり得る三次元フラクトグラフィを提唱することを目的としている.レーザーフォーカス変位計を備えた表面形状測定光学顕微鏡の試料台に水平送り機構を付与し,コンピュータ制御の二方向極微小送り機構を開発した.これにより三次元形状測定を可能とし,汎用のパーソナルコンピュータによる電子顕微鏡像の立体形状全自動化解析システムを開発した.まず,開発した装置の精度を確認した後,引張試験,シャルピー試験により得られた破面を対象に,二次元的な破面領域の凹凸形状をコンピュータに取り込み,開発した立体形状画像解析処理ソフトウェアにより鳥瞰図,等高線図等の三次元画像を得ている.へき開破面のファセット長さ,ディンプル破面のディンプル深さを測定し,破面の三次元的かつ客観的な定量解析を可能としている. | KAKENHI-PROJECT-08555028 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08555028 |
破面立体構造解析システムの開発と三次元フラクトグラフィーの提唱 | 本システムは衝撃破壊,疲労破壊,不安定延性破壊などの多くの破壊モードの破壊面にも適用可能であり,事故解析や破壊機構の究明に対するフラクトグラフィの適用範囲を大いに広げるとともに,診断や判定を容易に信頼度高く行うことができ,三次元フラクトグラフィが破面診断の有効な手段となり得ることを示している. | KAKENHI-PROJECT-08555028 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08555028 |
ユーラシアの遊戯と学習に関する歴史的研究 | 研究代表者は、ロシア極東の都市「マガダン」周辺に居住する少数民族とりわけ「エベン」の人々の遊戯について現地調査を実施した。このために、帆街道教育大学との間に交流のある「マガダン国際教育大学」を訪問し、そこで少数民族の代表の人々とのセミナーに参加することができた。このセミナーのなかで、エベンとエスキモーに伝わる伝統的な遊びが紹介された。これらの遊びが、少数民族の居住する地域の学校などにおいて、現在なお多くの子供たちに親しまれていることは非常に興味深かった。また、これらの遊びのなかに、かわ国でも広く行われている「あやとり」や「お手玉」によく似た遊びもあったが、これらの遊びのルーツを探る興味も深まった。しかし、一般的にはこの地域の遊びは「トナカイ」との関わりや自然条件と生産形態に深く関係していることが分かった。共同研究者は、「国立モスクワ教育大学」を訪問し、同大学の学生・教官に対して、遊びと学習に関する聞き取り調査及びアンケート調査を実施した。また、このなかで行った学生・教官との間に「遊びと学習に関する歴史的比較研究」についての討論を行うとともに、教育学科の教授・助教授に対する「ロシアと日本の子供たちの健康・遊び・学習の諸問題について」の報告を行った。いずれも大きな関心が寄せられた。上記2件の詳細な内容については、本研究の報告書「ユーラシアにおける遊戯と学習に関する歴史的研究」に収録した。研究代表者は、ロシア極東の都市「マガダン」周辺に居住する少数民族とりわけ「エベン」の人々の遊戯について現地調査を実施した。このために、帆街道教育大学との間に交流のある「マガダン国際教育大学」を訪問し、そこで少数民族の代表の人々とのセミナーに参加することができた。このセミナーのなかで、エベンとエスキモーに伝わる伝統的な遊びが紹介された。これらの遊びが、少数民族の居住する地域の学校などにおいて、現在なお多くの子供たちに親しまれていることは非常に興味深かった。また、これらの遊びのなかに、かわ国でも広く行われている「あやとり」や「お手玉」によく似た遊びもあったが、これらの遊びのルーツを探る興味も深まった。しかし、一般的にはこの地域の遊びは「トナカイ」との関わりや自然条件と生産形態に深く関係していることが分かった。共同研究者は、「国立モスクワ教育大学」を訪問し、同大学の学生・教官に対して、遊びと学習に関する聞き取り調査及びアンケート調査を実施した。また、このなかで行った学生・教官との間に「遊びと学習に関する歴史的比較研究」についての討論を行うとともに、教育学科の教授・助教授に対する「ロシアと日本の子供たちの健康・遊び・学習の諸問題について」の報告を行った。いずれも大きな関心が寄せられた。上記2件の詳細な内容については、本研究の報告書「ユーラシアにおける遊戯と学習に関する歴史的研究」に収録した。 | KAKENHI-PROJECT-08358002 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08358002 |
高い対称性を持つ2次元確率場の繰り込みと多重ウィーナー積分 | 研究対象とする等角不変確率場は非同次コーシーリーマン方程式の解として定まるのもである。2次元トーラス上の等角構造を上半平面でパラメータ付けする際のモデュラー群の作用がモデュラー共変性という高い対称性も引き起こしている。解のモデュラー共変性が多重相関関数を有理点で評価したものの保型性を導く。いくつかの具体例においてそれらが実際に保型形式であることが確かめられている。10年度までの研究で、楕円関数を用いた解の表示から、保型性を壊さずに高次の重みを持つ汎関数renormalized productが自然に構成され、表現できる保型形式のクラスを広げることができることが解明されつつある。これは、場の量子論において、2次元空間ではwick積で記述される汎関数が豊富に存在することとの関連を示唆している。そこには、グリーン関数の対数関数的特異性が強く反映しており、更にその根元は2次元空間のもつ等角構造にある。等角構造がrenormalized productをどのように規定するか、さらには表現可能な保型形式をどのように規定するか等の問題と関連している。今後はこれらの特徴付けを明らかにすることへ研究を発展させる必要がある。評価する有理点およびそこでのrenormalized productの重みのペアからなる空間上のコンフィギュレーションへのモデュラー群の作用の分解とおよびカスプへのモデュラー群の作用の関連を調べることにより表現可能な保型形式のクラスを規定するというのが一つの方向である。11年度の研究では、アイゼンシュタイン級数で保型形式の空間が記述できるという条件の下で、いつかの具体例をしらべ、保型形式が多重相関関数として表現可能であることが確かめられた。研究対象とする等角不変確率場は非同次コーシーリーマン方程式の解として定まるのもである。2次元トーラス上の等角構造を上半平面でパラメータ付けする際のモデュラー群の作用がモデュラー共変性という高い対称性も引き起こしている。解のモデュラー共変性が多重相関関数を有理点で評価したものの保型性を導く。いくつかの具体例においてそれらが実際に保型形式であることが確かめられている。10年度までの研究で、楕円関数を用いた解の表示から、保型性を壊さずに高次の重みを持つ汎関数renormalized productが自然に構成され、表現できる保型形式のクラスを広げることができることが解明されつつある。これは、場の量子論において、2次元空間ではwick積で記述される汎関数が豊富に存在することとの関連を示唆している。そこには、グリーン関数の対数関数的特異性が強く反映しており、更にその根元は2次元空間のもつ等角構造にある。等角構造がrenormalized productをどのように規定するか、さらには表現可能な保型形式をどのように規定するか等の問題と関連している。今後はこれらの特徴付けを明らかにすることへ研究を発展させる必要がある。評価する有理点およびそこでのrenormalized productの重みのペアからなる空間上のコンフィギュレーションへのモデュラー群の作用の分解とおよびカスプへのモデュラー群の作用の関連を調べることにより表現可能な保型形式のクラスを規定するというのが一つの方向である。11年度の研究では、アイゼンシュタイン級数で保型形式の空間が記述できるという条件の下で、いつかの具体例をしらべ、保型形式が多重相関関数として表現可能であることが確かめられた。研究対象とする等角不変確率場はモデュラー共変性という高い対称性も持つ。その有理点上での多重相関関数の値は、いくつかの具体例においてそれらが保型形式であることが確かめられている。当面の目標は、これが成り立つような確率場のクラスを広げることであった。一つの方向は、2次元トーラス上の等角構造を上半平面でパラメータ付けする際のモデュラー群の作用をモデルとすることである。確率場は非同次コーシーリーマン方程式の解として定まるものである。解のモデュラー共変性が多重相関関数を有理点で評価したものの保型性を導く。楕円関数を用いた解の表示から、保型性を壊さずに高次の重みを持つ汎関数renorma1ized productが自然に構成され、表現できる保型形式のクラスを広げることができた。これは、場の量子論において、2次元空間ではwick積で記述される汎関数が豊富に存在することとの関連を示唆している。そこには、グリーン関数の対数関数的特異性が強く反映しており、更にその根元は2次元空間のもつ等角構造にある。今後は等角構造がrenorma1ized productをどのように規定するかを明らかにする方向へ研究を発展させる必要がある。これは表現可能な保型形式の特徴付けを明らかにすることとも関連している。一方この手順はポァッソン点過程に基づく多重ウィーナー積分をpartitionのタイプに対応して分解するときのアナログである。確率場のユークリッド自由場への収束が、同時にrenorma1ized productのwick積への収束を導くことが上のアナログの証明となる。ポァッソン点過程を可解性を満たすファイバー上で条件を付けて得られるものを非同次項としている場合の解は粒子密度が大きい極限でwick積へ収束することが示せた。研究対象とする等角不変確率場は非同次コーシーリーマン方程式の解として定まるものである。2次元トーラス上の等角構造を上半平面でパラメータ付けする際のモデュラー群の作用がモデュラー共変性という高い対称性も引き起こしている。 | KAKENHI-PROJECT-10640122 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10640122 |
高い対称性を持つ2次元確率場の繰り込みと多重ウィーナー積分 | 解のモデュラー共変性が多重相関関数を有理点で評価したものの保型性を導く。いくつかの具体例においてそれらが実際に保型形式であることが確かめられている。10年度までの研究で、楕円関数を用いた解の表示から、保型性を壊さずに高次の重みを持つ汎関数renormalized productが自然に構成され、表現できる保型形式のクラスを広げることができることが解明されつつある。これは、場の量子論において、2次元空間ではwick積で記述される汎関数が豊富に存在することとの関連を示唆している。そこには、グリーン関数の対数関数的特異性が強く反映しており、更にその根元は2次元空間のもつ等角構造にある。等角構造がrenormalized productをどのように規定するか、さらには表現可能な保型形式をどのように規定するか等の問題と関連している。今後はこれらの特徴付けを明らかにすることへ研究を発展させる必要がある。評価する有理点およびそこでのrenormalized productの重みのぺアからなる空間上のコンフィギュレーションヘのモデュラー群の作用の分解とおよびカスプヘのモデュラー群の作用の関連を調べることにより表現可能な保型形式のクラスを規定するというのが一つの方向である。11年度の研究では、アイゼンシュタイン級数で保型形式の空間が記述できるという条件の下で、いくつかの具体例をしらベ、保型形式が多重相関関数として表現可能であることが確かめられた。 | KAKENHI-PROJECT-10640122 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10640122 |
条件づけが訓練された文脈に対する動物の認知と行動に関する研究 | ラットを被験体とし, Y迷路の一方の目標箱(文脈)において食物を強化結果として用いた道具的学習を訓練し,もう一方の目標箱で同じ強化結果を用いたパブロフ型条件づけを訓練した後に,これらの文脈に対する被験体の選好をしらべた。道具的訓練が弁別オペラントであった場合,訓練初期に道具的学習文脈に対する選好(コントラフリーローディング)がみとめられた。道具的訓練がフリー・オペラントであった場合にはコントラフリーローディングは起こらなかった。これらの知見のメカニズムと飼育動物の行動的福祉について議論をおこなった。ラットを被験体とし, Y迷路の一方の目標箱(文脈)において食物を強化結果として用いた道具的学習を訓練し,もう一方の目標箱で同じ強化結果を用いたパブロフ型条件づけを訓練した後に,これらの文脈に対する被験体の選好をしらべた。道具的訓練が弁別オペラントであった場合,訓練初期に道具的学習文脈に対する選好(コントラフリーローディング)がみとめられた。道具的訓練がフリー・オペラントであった場合にはコントラフリーローディングは起こらなかった。これらの知見のメカニズムと飼育動物の行動的福祉について議論をおこなった。本年度は,実験で用いる予定の装置の開発,および実験手続きを遂行するためのWindowsプログラミングを主としておこなった。[実験装置の開発]スタートボックスと,2つのゴール区画を備えたY迷路(85×70cm)を装置として製作した。2つのゴール区画は,ラットがこれを弁別できるように,側壁の塗装パタンが異なるものにした。これらのゴール区画に音刺激(ノイズ)を呈示するためのスピーカ,取り外し可能なレバー,ラット用食物ペレットを呈示するためのディスペンサ,およびペレットが呈示される餌皿(マガジン)を設置した。[実験手続きのプログラミング]プログラミングは,VIsal Basic 6.0を用いておこなわれた。具体的な内容は以下のようであった。ある訓練セッションにおいては,ヨークトされた一方のラットをパブロフ文脈に進入させ,同時にもう一方のラットはオペラント文脈に進入させる。この訓練セッションでは両文脈で同時に30秒のノイズを20回(平均刺激間間隔は訓練初期には15秒,学習の完成時には90秒)呈示する。この刺激はパブロフ文脈の中の動物にとってはパブロフ型条件刺激(CS),オペラント文脈の動物にとっては弁別刺激(S^d)として機能する。すなわち,オペラント文脈の動物のノイズS^d呈示中のレバー押しは,変隔(VI)30秒スケジュールで,食物ペレットによって強化される。ノイズS^dが呈示されていない期間のレバー押し行動は強化されない(消去スケジュール;弁別オペラントの訓練)。他方,この被験体にヨークドされているパブロフ文脈のラットは,オペラント文脈のラットが報酬を受けた同時刻に強化され,結果として,ノイズCSと食物ペレットの単純な対呈示を経験する。動物は,自らの自発的な行動遂行が生物学的有意義事象の必要条件となっていることの学習(道具的学習)と,自らの行動遂行とは独立な生物学的有意義事象を予期することの学習(パブロフ型条件づけ)を弁別できるだろうか。適応の様相を異にするこの2つの学習を訓練した実験文脈に対するラットの反応を検討することによってこの問題に対する回答を試みた。それぞれの被験体に対して,Y迷路の一方の目標箱(文脈)において食物を強化結果として用いた道具的学習を訓練し,もう一方の目標箱で同じ強化結果を用いたパブロフ型条件づけを訓練した。このような訓練の合間に,被験体に2つの文脈を自由に選択して進入することを許可したテストをおこなった。実験1では,それぞれの被験体に対してフリー・オペラント訓練と,これに対応したパブロフ型文脈条件づけを訓練した。その結果,テストにおいて被験体はパブロフ型条件づけ文脈を選好することが明らかになった。実験2では,弁別オペラントと,これに対応した離散試行型パブロフ型条件づけを訓練した。この結果,被験体は総じてパブロフ型条件づけ文脈に対する選好を示したが,訓練初期には道具的学習文脈に対する有意な選好がみとめられた。弁別オペラントの訓練初期には,弁別刺激と道具的行動の表象が形態化し,道具的行動の明瞭度を高めたと考えられた。その結果,ラットは自らの行動の遂行とその結果(食物の呈示)の間の制御的な関係をよく検出し,学習性幸福の状態を経験したのだろう。このようにして形成された両文脈間の情動的コントラストが道具的学習文脈に対する選好に内在していたと解釈された。本研究の結果は,動物が道具的学習とパブロフ型条件づけという2つの学習を弁別することを示唆するだけではなく,飼育動物のある種の行動的福祉(コントラフリーローディング)の基礎理論に対する貢献をもおこなった。 | KAKENHI-PROJECT-19830022 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19830022 |
コンパクト化されたタイプII型超弦理論とM理論の低エネルギー有効作用 | カラビ・ヤウ多様体上にコンパクト化されたII型超弦理論(及びM理論)の低エネルギー有効理論はN=2の4次元超重力理論のハイパー多重項で詳しく調べられている。摂動的な補正(1ループ)と非摂動的な補正(Dインスタントン)の両方を記述する新しい結果は[1,2,4]で主要な研究者によって得られている。ゴールドスティーノの厳密な作用は[3]で導かれた。ゼロでないグラビフォトン背景場は四次元超空間での非可換性を引き起こす。これによる低エネルギー有効理論への寄与は[5,6,7,8]でグラビフォトン場に関するすべての次数で求められた。Dブレインの配置とそのオービフォールドとオリエンティフォールド上でのコンパクト化からのフレーバー構造、湯川結合の構造、結合の選択規則に関する現象論的な予言は[9,10]で得られた。カラビ・ヤウ多様体上にコンパクト化されたII型超弦理論(及びM理論)の低エネルギー有効理論はN=2の4次元超重力理論のハイパー多重項で詳しく調べられている。摂動的な補正(1ループ)と非摂動的な補正(Dインスタントン)の両方を記述する新しい結果は[1,2,4]で主要な研究者によって得られている。ゴールドスティーノの厳密な作用は[3]で導かれた。ゼロでないグラビフォトン背景場は四次元超空間での非可換性を引き起こす。これによる低エネルギー有効理論への寄与は[5,6,7,8]でグラビフォトン場に関するすべての次数で求められた。Dブレインの配置とそのオービフォールドとオリエンティフォールド上でのコンパクト化からのフレーバー構造、湯川結合の構造、結合の選択規則に関する現象論的な予言は[9,10]で得られた。本研究において、5ブレインインスタントン補正が小さい場合についてカラビ・ヤオ3重多様体にコンパクト化したII型超弦の非摂動的低エネルギー有効作用の普遍的な多重項を我々は計算した。得られた作用はU(1)×U(1)同型を持ち、SL(2,Z)-双対不変であってそれらは古典的でかつ1ループおよびD-インスタントン補正を表している。後者はある種の非自明なカラビ・ヤオの3サイクルの周りに巻きついたユークリッド的なD2-ブレインとして現れる。我々は更に普遍多重項のモジュライ空間の対称性のひとつをゲージ化することによって得られたスカラーポテンシャルを求め、その結果を一つの物質多重項の場合に一般化した。デル・プレッツオ面から構成されたある特別なカラビ・ヤオ空間において、4重ゲージーノ相関についてある種の世界面のインスタントン補正を陽に求めた。ドイツのカイザースラウテルン大学のルエール教授のグループとの共同研究は特に有益であり非摂動的な低エネルギー有効作用を求めるための異なる方法の提案に基づいてなされたボソニックなAdS/CFT対応に関する研究の成功は主にこの共同研究による。本研究費により申請者のカイザースラウテルン大学への出張は実行された。以上の結果、第1年目として計画された研究はそれを達成することが出来た。我々の研究の二年目には、カラビ・ヤウ多様多にコンパクト化したタイプII型超弦理論に由来する.N=2超重力有効理論の理解に大きな進展を与えた.我々の研究の初期の時点(一年目)では、数種の物質ハイパー多重項を扱うための幾何学的な枠組みが適していなかったため、N=2超重力に結合しているひとつの物質ハイパー多重項しか扱えなかった.最近、我々は、微分幾何学でペダーセン-プーンの定理として知られる.より一般的な方法を任意の数の物質ハイパー多重項の場合に応用することに成功し、その有効作用を明示的に導いた.N=2超対称性と非反可換超空間を用い、U(1)ゲージ群を持つ非反可換N=2超対象ゲージ理論において、いわゆるBPS方程式の一般化を発見した.さらに我々は、成分場で全作用を計算することでこの結果を、SU(2)ゲージ群を持つ非反可換で非アーベル的なN=2超対称ゲージ理論に拡張することができた.これらの理論はN=2超対称性、ローレンツ対称性のいずれも破っていない.また我々は、オリエンティフォールドT^6/Z_2×Z_2にコンパクト化したタイプII A型超弦理論における交差Dブレインモデルで湯川結合の導入に新しいシナリオを提案した.そして現象論的に興味深い四世代クォーク・レプトンを持つモデルで湯川結合の明確な具体例を与えた.S.ケトフはドイツ、カイザースラウテルン大学へ研究滞在したが、情報を集めたり、W.ルーエル教授とドイツにいる彼の共同研究者たちとアイデアを意見交換することができ、新しい結果を得るために著しく有益であった.非反可換(NAC)に変形された4次元ユークリッド超空間上に定義される、一般的なN=1/2超対称非線形シグマモデル(NLSM)の成分場の構造について詳細に調べた。最も一般的なNLSMは任意のケーラーポテンシャルとカイラルおよび反カイラルスーパーポテンシャルで記述される。NAC変形された超空間上のNLSMのポテンシャルは、カイラル超場がひとつのときにはスプリッティングを起こすのだが、カイラル超場が任意個あるときには、ぼかされる(ファジィになる)ことがわかった。いずれにしてもNAC変形された効果は補助場を伴っている。運動方程式を解くことによって補助場を消去してみると、得られる結果はファジィさを決めている補助場の積分を先にやるか、補助場の消去を先にやるかで違ってくることがわかる。 | KAKENHI-PROJECT-15540282 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15540282 |
コンパクト化されたタイプII型超弦理論とM理論の低エネルギー有効作用 | カイラル超場がひとつのとき、つまりスプリッティングが起きるときには、その不定性はない。また、NAC変形された4次元のN=1/2超対称CP^nNLSMに関して、完全に明示的な結果を導いた。私のドイツ、ハノーバー大学のレフテンフェルト教授との共同研究のための出張では、大変有意義な成果を得ることができた。 | KAKENHI-PROJECT-15540282 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15540282 |
1400℃以上での安定使用を可能とする超高温構造材料用シリサイド複相合金の創製 | 昨年度の研究により明らかにした、適切な組織制御により引き出される複相結晶の優れた力学特性を損なうことなく、高温材料として必要不可欠な組織の熱的安定性を向上させる方策として、本年度は微視的観点からの複相組織ラメラ界面の構造制御に取り組んだ。得られた結果は以下のとおりである。1.遷移金属シリサイドの格子定数評価より、通常の擬二元型複相結晶においては、いずれの相の組み合わせにおいても界面ミスフィットの完全消失は不可能であることを実験等により確認した。そこでこれに代わる手法として、第三元素添加によるラメラ界面への偏析を利用した複相界面構造制御の可能性を検討した。この結果、第三元素としてCrを母合金(Mo_<0.15>Nb_<0.85>)Si_2に対し1%添加するだけで、界面の熱的安定性は飛躍的に向上することを見出した。具体的に、無添加材では1400°C・1週間の焼鈍において、組織の粗大化、平滑なラメラ界面の崩壊が生じ始めるのに対し、Cr添加材においては、同温度にて2週間の焼鈍においてもラメラ組織が安定に維持されることを実証した。2.走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いた原子レベル組成分析を行い、この結果、添加されたCr原子がC11_b/C40界面上の幅約数nmの領域に局所的に偏析していることの直接観察に成功した。この界面でのCr偏析濃度は、母相中に対し約5倍もの高い値を示した。一方、C11_b/C11_b同相界面上ではCrの偏析は確認されなかった。3.TEMを用いたモアレフリンジ解析により、ラメラ界面上での局所ミスフィットひずみは、Cr添加材中では無添加材に比べ約20%も低減していることが確認された。以上のように、複相ラメラ界面の熱的安定性向上には、適切な第三元素の添加による局所ミスフィットの低減が極めて有効な手法となることを明らかにし、本研究により、シリサイド複相材実用化に向け必要不可欠な、広室温力学特性、熱的安定性といった合金特性の改善策に対する、非常に有益な指針を示すことができた。本年度は、方位制御複相シリサイド結晶の特性改善に向け、相構成制御による組織安定性の評価、および、高温変形機構、室温破壊挙動の解明を行った。得られた結果は以下のとおりである。1.高温にて高い熱的安定性を保持するラメラ組織は、(Mo,Nb)-Si系および(Mo,Ta)-Si系にてのみ得られることが確認された。このうち特に(Mo,Nb)Si_2複相結晶の変形挙動を評価したところ、極めて強い方位依存性の発現が認められた。例えば、複相界面が荷重軸と平行な方位では、1400°Cにおいても約800MPa以上の極めて高い強度を保持するが、この際の延性は非常に乏しい。一方、界面が荷重軸と45°をなす場合には、300MPa程度の高強度を保持しつつ、かつ数%の塑性ひずみを同時に得ることができる。しかしこの方位においても、1200°C以下においては十分な塑性ひずみを得ることができなかった。個々の単結晶(MoSi_2,NbSi_2)の挙動を基にした事前の予想に反し、45°方位の試料においても低温延性が得られない要因として、複相結晶中に存在するC11_b/C11_bラメラ相界面を介し変形が進行する際、{110}<111]すべりのみでは、界面にてひずみの連続性が満足されないためと考えられる。この改善策としては、高温度域でのみ活動する{013}<331]すべりをより低温で活性化することが有効であると考えられ、第三元素添加の効果等について検討していく必要がある。2.上記複相結晶は室温靭性も強い方位異方性を示すことが三点曲げ試験より明らかとなった。例えば、クラックがラメラ界面を伝播する際の破壊靭性は約2.1MPam^<1/2>と極めて低い値を示すものの、界面を横切る方位では約3.2MPam^<1/2>程度まで上昇した。さらにその値は構成C40結晶の結晶方位によっても変化することから、その両者の制御により、破壊靭性の上昇を期待することができる。昨年度の研究により明らかにした、適切な組織制御により引き出される複相結晶の優れた力学特性を損なうことなく、高温材料として必要不可欠な組織の熱的安定性を向上させる方策として、本年度は微視的観点からの複相組織ラメラ界面の構造制御に取り組んだ。得られた結果は以下のとおりである。1.遷移金属シリサイドの格子定数評価より、通常の擬二元型複相結晶においては、いずれの相の組み合わせにおいても界面ミスフィットの完全消失は不可能であることを実験等により確認した。そこでこれに代わる手法として、第三元素添加によるラメラ界面への偏析を利用した複相界面構造制御の可能性を検討した。この結果、第三元素としてCrを母合金(Mo_<0.15>Nb_<0.85>)Si_2に対し1%添加するだけで、界面の熱的安定性は飛躍的に向上することを見出した。具体的に、無添加材では1400°C・1週間の焼鈍において、組織の粗大化、平滑なラメラ界面の崩壊が生じ始めるのに対し、Cr添加材においては、同温度にて2週間の焼鈍においてもラメラ組織が安定に維持されることを実証した。 | KAKENHI-PROJECT-18760529 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18760529 |
1400℃以上での安定使用を可能とする超高温構造材料用シリサイド複相合金の創製 | 2.走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いた原子レベル組成分析を行い、この結果、添加されたCr原子がC11_b/C40界面上の幅約数nmの領域に局所的に偏析していることの直接観察に成功した。この界面でのCr偏析濃度は、母相中に対し約5倍もの高い値を示した。一方、C11_b/C11_b同相界面上ではCrの偏析は確認されなかった。3.TEMを用いたモアレフリンジ解析により、ラメラ界面上での局所ミスフィットひずみは、Cr添加材中では無添加材に比べ約20%も低減していることが確認された。以上のように、複相ラメラ界面の熱的安定性向上には、適切な第三元素の添加による局所ミスフィットの低減が極めて有効な手法となることを明らかにし、本研究により、シリサイド複相材実用化に向け必要不可欠な、広室温力学特性、熱的安定性といった合金特性の改善策に対する、非常に有益な指針を示すことができた。 | KAKENHI-PROJECT-18760529 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18760529 |
エンドトキシン血症における好中球接着因子の発現と制御に関する検討 | ラットに一定量のLipopolysaccharideを投与して作成した急性エンドトキシン血症モデルに、好中球の接着因子であるLFA-1とMac-1にそれぞれ特異的な合成アンチセンスDNAを投与することで臓器障害の軽減を試みた。LFA-1とMac-1ノアンチセンスDNAを投与したのちに好中球のmRNAを経時的に抽出し、各々の遺伝子レベルでの発現をノザンブロット法やin situ hybridization法により検討したところ、いずれもアンチセンスDNAの投与により早期に抑制されることが示されたが、これらの抑制は一過性のものであった。また、好中球から蛋白質を精製し、LFA-1とMac-1のモノクローナル抗体を用いてこれらの蛋白質レベルでの発現量をウェスタンブロット法などの解析したところ何れも抑制される傾向を示したが、アンチセンスで投与量や投与間隔は更に検討を要するものと考えられた。さらに、アンチセンスDNA投与後の臓器障害の程度を肺・肝などの諸臓器の組織標本を顕微鏡下で観察することと血中逸脱酵素を測定することで評価したが、試みたアンチセンスDNAでは完全に臓器障害を防ぎ得るものではなかった。以上の実験結果より好中球LFA-1とMac-1が臓器障害に深く関与していることが明らかにされ、これらの制御が臓器障害の軽減に有用である可能性が示唆された。今後は臨床応用に向けてより多くの知見を蓄積させたい。ラットに一定量のLipopolysaccharideを投与して作成した急性エンドトキシン血症モデルに、好中球の接着因子であるLFA-1とMac-1にそれぞれ特異的な合成アンチセンスDNAを投与することで臓器障害の軽減を試みた。LFA-1とMac-1ノアンチセンスDNAを投与したのちに好中球のmRNAを経時的に抽出し、各々の遺伝子レベルでの発現をノザンブロット法やin situ hybridization法により検討したところ、いずれもアンチセンスDNAの投与により早期に抑制されることが示されたが、これらの抑制は一過性のものであった。また、好中球から蛋白質を精製し、LFA-1とMac-1のモノクローナル抗体を用いてこれらの蛋白質レベルでの発現量をウェスタンブロット法などの解析したところ何れも抑制される傾向を示したが、アンチセンスで投与量や投与間隔は更に検討を要するものと考えられた。さらに、アンチセンスDNA投与後の臓器障害の程度を肺・肝などの諸臓器の組織標本を顕微鏡下で観察することと血中逸脱酵素を測定することで評価したが、試みたアンチセンスDNAでは完全に臓器障害を防ぎ得るものではなかった。以上の実験結果より好中球LFA-1とMac-1が臓器障害に深く関与していることが明らかにされ、これらの制御が臓器障害の軽減に有用である可能性が示唆された。今後は臨床応用に向けてより多くの知見を蓄積させたい。 | KAKENHI-PROJECT-08770412 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08770412 |
新しい循環調節薬としてのエンドセリン変換酵素抑制薬開発のための研究 | エンドセリン(ET)は内皮細胞内でアミノ酸212残基の前駆体(ヒトの場合)より、アミノ酸38残基の中間体(bigET-1)を経て生合成される。bigET-1は血管収縮活性がほとんどない。したがってbigET-1からET-1への変換は生理的に重要であると考えられる。この変換を仲介するエンドセリン変換酵素(ECE)が実際に存在することは今までの研究からわかっていた。本研究計画ではこの変換酵素のcDNAを単離し、発現させ、その基礎的性質を調べ、変換酵素抑制薬開発の基礎とすることを目的とする。本年度はまずこのcDNA単離のための方法として、逆溶血反応法を開発した。ETを分泌していないCHOK1細胞にウシ内皮細胞cDNAライブラリーをトランスフェクトさせる。一方、ET-1の抗体を赤血球に結合させ、このET-1を分泌するCHO-K1細胞を溶血反応を指標として探索した。これによってウシ内皮細胞ET-1cDNAを分泌するCHO-K1細胞を単離し、最終的にECEcDNAを単離した。その結果ECEは蛋白部分の分子量約8万、膜貫通部位を1ケ所もち、亜鉛結合部位を持つ。中性エンドペプチターゼときわめて構造の似た金属プロテアーゼであることがわかった。さらにC末端側に10個のグリコシレーション部位を持つことから、C末端部を細胞外に持ち、したがつて活性部位を細胞外に持つと考えられる。さらにこのECEはbigET-1に特異的であるが、この他にET-3に特異的なECEも存在することがわかった。エンドセリン(ET)は内皮細胞内でアミノ酸212残基の前駆体(ヒトの場合)より、アミノ酸38残基の中間体(bigET-1)を経て生合成される。bigET-1は血管収縮活性がほとんどない。したがってbigET-1からET-1への変換は生理的に重要であると考えられる。この変換を仲介するエンドセリン変換酵素(ECE)が実際に存在することは今までの研究からわかっていた。本研究計画ではこの変換酵素のcDNAを単離し、発現させ、その基礎的性質を調べ、変換酵素抑制薬開発の基礎とすることを目的とする。本年度はまずこのcDNA単離のための方法として、逆溶血反応法を開発した。ETを分泌していないCHOK1細胞にウシ内皮細胞cDNAライブラリーをトランスフェクトさせる。一方、ET-1の抗体を赤血球に結合させ、このET-1を分泌するCHO-K1細胞を溶血反応を指標として探索した。これによってウシ内皮細胞ET-1cDNAを分泌するCHO-K1細胞を単離し、最終的にECEcDNAを単離した。その結果ECEは蛋白部分の分子量約8万、膜貫通部位を1ケ所もち、亜鉛結合部位を持つ。中性エンドペプチターゼときわめて構造の似た金属プロテアーゼであることがわかった。さらにC末端側に10個のグリコシレーション部位を持つことから、C末端部を細胞外に持ち、したがつて活性部位を細胞外に持つと考えられる。さらにこのECEはbigET-1に特異的であるが、この他にET-3に特異的なECEも存在することがわかった。 | KAKENHI-PROJECT-06557008 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06557008 |
走化性を応用した内分泌撹乱化学物質検出システムの開発 | 本研究は、運動性細菌の有する走化性に基づく化学物質認識能力を応用した内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)検出システムの構築を目指している。昨年度までに環境ホルモンに疑いのあるビスフェノールA(BPA)、p-ニトロトルエン(PNT)、p-tert-ブチルフェノール(PBP)に対して走性を示す細菌(PNT1株)を分離し、その走化性プロファイルを作成することに成功している。そこで本年度は、新たに走化性応答を示す事が明らかとなったクレゾールを走化性プロファイルに追加し、さらにPNT1株の有する走化性センサー遺伝子の単離に関する基礎的知見を得たので報告する。1)走化性センサーの適応状態を利用して、ある誘引物質で適応させたPNT1株における別の誘引物質に対する走化性を測定することにより、両物質が同一の走化性センサーで感知されるかどうかを推定した。その結果PNT1株のp-クレゾールは、BPA、PNT、PBPを感知する全てのセンサーとも異なるセンサーで感知され、逆にニトロベンゼンはBPA、PNT、PBPを感知するいずれのセンサーとも相互作用していることが推察された。2)PNT1株の走化性センサー遺伝子の単離を行うために、塩基配列が既知の緑膿菌由来走化性センサー遺伝子をPCRにより増幅・合成し、それをプローブとしてPNT1株の染色体DNAに対するサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果緑膿菌由来走化性センサー遺伝子と相同性を示すDNA断片が約20検出された。今後はこれらのDNA断片の単離、遺伝子破壊株の構築、更にはPNT1株との走化性プロファイルの比較を行い、内分泌攪乱化学物質検出システムの創成に関わる基礎的知見を蓄積する。なお以上の成果については1件の学会発表(荷方ら,日本生物工学会,2005年11月,つくば国際会議場)を行った。本研究は、運動性細菌の有する走化性に基づく化学物質認識能力を応用した内分泌攪乱化学物質(以下環境ホルモンと呼ぶ)検出システムの構築を目指している。平成15年度には環境ホルモンに走化性を示す細菌を分離することを目的として研究を行った。スクリーニングの前段階として、ビスフェノールA(BPA)、p-ニトロトルエン(PNT)、p-tert-ブチルフェノール(PBT)の3種類の環境ホルモンを唯一の炭素源として用い活性汚泥を馴養した。これらの汚泥から各環境ホルモンの資化性細菌を分離し、個々の分離細菌について環境ホルモンに対する走化性を測定したところ、BPAに対して3株、PNTおよびPBTに対してそれぞれ1株の走化性細菌を分離することに成功した。そこで本年度はPNTに対して走性を示す分離細菌のうち、PNT1株について詳細な解析を行った。PNT1株はグラム陰性の桿菌であり、16SrRNA遺伝子の塩基配列に基づく系統学的解析により、本菌はγ-proteobacteriaに分類されるStenotrophomonas maltophiliaと99.6%の相同率を示した。またPNT1株はPNTだけでなく、BPAやPBTのいずれにも走性を示すことが明らかとなった。このようにPNT1株が3種類の環境ホルモンに対して走性を示すということは、本菌がこれらの環境ホルモンをセンシングし得る走化性センサーを有していることを意味しており、今後さらに分子レベルでの詳細な解析を行うことにより本細菌そのものを動的センサーとして、あるいは走化性センサーの部分を固定化センサーとして応用しうる可能性が示唆される。なお以上の成果については2件の学会発表((1)荷方ら,日本環境学会年会,2004,札幌コンベンションセンター、(2)荷方ら,日本農芸化学会年会,2004,広島大学)を行なった。本研究は、運動性細菌の有する走化性に基づく化学物質認識能力を応用した内分泌攪乱化学物質検出システムの構築を目指している。昨年度の研究においてビスフェノールA、p-ニトロトルエン、p-tert-ブチルフェノールに走性を示す細菌(PNT1株)の分離に成功した。そこで平成16年度には、1)PNT1株による環境ホルモンの認識部位の推定、2)PNT1株の走化性センサー遺伝子の単離、について研究を行った。1)PNT1株は、ベンゼン、トルエン、キシレン、p-tert-ブチルベンゼンに対しては走性応答を示さず、フェノール、ニトロベンゼン、p-ニトロフェノールに対して走性応答を示したことから、本菌株の走化性センサーはベンゼン骨格やメチル基よりむしろ、ヒドロキシル基及びニトロ基を認識していることが示唆された。またニトロトルエン、ブチルフェノール、ニトロフェノールの構造異性体のうちオルト体にはいずれも応答しなかった。これは官能基同士が近接して立体障害がおこったためと考えられ、この結果も走化性センサーによる官能基の認識が重要である事を示唆している。2)走化性センサー遺伝子を単離するために、そのタンパク質に高度に保存されているアミノ酸配列(HCD)をもとに、HCDをコードするDNAプローブの合成を行った。これにハイブリダイズするPNT1株染色体DNA断片を4クローン単離し、塩基配列を決定した。その中で、P.aeruginosa PAO1株の走化性センサーと比較的相同性を有するORFが見いだされた。今後はこのORFの欠損変異株を構築し、走化性センサー遺伝子の同定を行う予定である。なお以上の成果については2件の学会発表((1)荷方ら,日本生物工学会,2004年9月,名城大学、 | KAKENHI-PROJECT-15750131 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15750131 |
走化性を応用した内分泌撹乱化学物質検出システムの開発 | (2)加藤、荷方ら,日本水環境学会,2005年3月,千葉大学)を行った。本研究は、運動性細菌の有する走化性に基づく化学物質認識能力を応用した内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)検出システムの構築を目指している。昨年度までに環境ホルモンに疑いのあるビスフェノールA(BPA)、p-ニトロトルエン(PNT)、p-tert-ブチルフェノール(PBP)に対して走性を示す細菌(PNT1株)を分離し、その走化性プロファイルを作成することに成功している。そこで本年度は、新たに走化性応答を示す事が明らかとなったクレゾールを走化性プロファイルに追加し、さらにPNT1株の有する走化性センサー遺伝子の単離に関する基礎的知見を得たので報告する。1)走化性センサーの適応状態を利用して、ある誘引物質で適応させたPNT1株における別の誘引物質に対する走化性を測定することにより、両物質が同一の走化性センサーで感知されるかどうかを推定した。その結果PNT1株のp-クレゾールは、BPA、PNT、PBPを感知する全てのセンサーとも異なるセンサーで感知され、逆にニトロベンゼンはBPA、PNT、PBPを感知するいずれのセンサーとも相互作用していることが推察された。2)PNT1株の走化性センサー遺伝子の単離を行うために、塩基配列が既知の緑膿菌由来走化性センサー遺伝子をPCRにより増幅・合成し、それをプローブとしてPNT1株の染色体DNAに対するサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果緑膿菌由来走化性センサー遺伝子と相同性を示すDNA断片が約20検出された。今後はこれらのDNA断片の単離、遺伝子破壊株の構築、更にはPNT1株との走化性プロファイルの比較を行い、内分泌攪乱化学物質検出システムの創成に関わる基礎的知見を蓄積する。なお以上の成果については1件の学会発表(荷方ら,日本生物工学会,2005年11月,つくば国際会議場)を行った。 | KAKENHI-PROJECT-15750131 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15750131 |
カニクイザルにおける革新的採卵システムの開発 | 前年度に明らかにしたカニクイザルでは2回採卵時にFSH抗体が産生され、この抗体産生によって2回目の採卵数が有意に低下するという研究成果をまとめ日本繁殖生物学会誌に投稿し受理されている(Seita et al., 2019 Journal of Reproduction and Development)。さらにFSHと供に過剰排卵時に投与するヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)に対する抗体が生成されることも明らかにし、hCG抗体の生成が2回目採卵時に卵成熟率が低下する一因であることも明らかにしている。前年度に、このFSH抗体の産生をを克服する手法として同種のカニクイザルFSH発現プラスミドの作製を行い、CHO細胞を用いてカニクイザルFSH高分泌株を作製したが、ELISAの結果から細胞培養上清への分泌は確認されなかった事から、ベクターに挿入されている分泌シグナルに何らかの不備があることが予想される。今後カニクイザルFSH発現ベクターを精査することが必要である。本研究では卵の数、質を高め、さらに複数回採卵可能なカニクイザルの新しい過剰排卵誘起法を開発することを目的とした。特に2度目の採卵時にヒトFSHに対する反応性が極端に低下することが観察されたことから、その原因を明らかにした。2回採卵を実施した個体の血清を用いてヒトFSHの抗体の測定をELISA法で測定を行った結果、2回目に採卵数が50%以下に低下した個体の血清からのみ、ヒトFSHに対する抗体の上昇が検出された。そこでヒトFSHに対する抗体産生が抗体産生が2度目の採卵数が減少する一因であると考えられ、カニクイザルFSHをヒトFSHの代わりに投与すれば抗体産生が抑制され、複数回の採卵が可能になることが期待されることから、カニクイザルFSHの合成を行った。カニクイザルの卵丘細胞cDNAからFSH遺伝子をクローニングし、薬剤耐性遺伝子を挿入したFSH発現ベクターを作製し、CHO細胞にトランスフェクションを行なった。FSH抗体によるFSH発現の確認、薬剤選抜によるFSH発現細胞の濃縮を行ったのちに、限界機釈法による1細胞由来コロニーを樹立した。FSH-ELISAの構築を行ったのちに、カニクイザルFSH遺伝子を発現させたCHO細胞株の培養上清中に分泌されたカニクイザルFSHをELISAで測定しFSH高分泌株を選抜した。当該年度ではヒトFSHに対する抗体の産生が2度目以降の採卵時のホルモンに対する卵巣の反応低下の原因であるか事を明らかにし、さらにそれを克服することが期待されるカニクイザルFSHの作製に成功した。複数回採卵可能なカニクイザルの新しい過剰排卵誘起法については、2度目以降の採卵時のFSHに対する卵巣の反応低下が、2度目採卵数の低下の原因であるか事を明らかにし、抗体産生が起こらない事が期待される、カニクイザルFSHの作製に成功しているが、卵の数、質を高める過剰排卵法の開発については、インヒビン抗血清の投与に至っていないため、やや遅れているとした。前年度に明らかにしたカニクイザルでは2回採卵時にFSH抗体が産生され、この抗体産生によって2回目の採卵数が有意に低下するという研究成果をまとめ日本繁殖生物学会誌に投稿し受理されている(Seita et al., 2019 Journal of Reproduction and Development)。さらにFSHと供に過剰排卵時に投与するヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)に対する抗体が生成されることも明らかにし、hCG抗体の生成が2回目採卵時に卵成熟率が低下する一因であることも明らかにしている。前年度に、このFSH抗体の産生をを克服する手法として同種のカニクイザルFSH発現プラスミドの作製を行い、CHO細胞を用いてカニクイザルFSH高分泌株を作製したが、ELISAの結果から細胞培養上清への分泌は確認されなかった事から、ベクターに挿入されている分泌シグナルに何らかの不備があることが予想される。今後カニクイザルFSH発現ベクターを精査することが必要である。カニクイザルFSHについては、顆粒層細胞を用いてバイオロジカルアッセイを行い分泌されたFSHの有効性を確認した後に、大量作製、各種クロマトグラフィーを用いて精製を行う。また精製されたFSHを未採卵のカニクイザルに投与し卵胞の発育を確認した後に、一度過剰排卵を行なった個体に再度カニクイザルFSHを投与し2度目の採卵の可否を調べる。インヒビン抗血清については入手済みであるので、実際、投与試験を行い血液中のFSHが上昇するかどうかを検証する。インヒビン投与が進まなかったため、それに使用予定であった経費を繰り越した。今年度、インヒビン投与実験に使用予定である。 | KAKENHI-PROJECT-17K14977 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K14977 |
破壊計測用マイクロ流路による液中反応X線レーザーイメージング | 本研究では、溶液中で反応過程にあるナノ粒子や生体試料の高分解能に観察することを目標に、X線自由電子レーザー(X-ray free-electron laser : XFEL)を利用したコヒーレント回折イメージング法と、マイクロ流路デバイスによる液中反応制御技術を組み合わせた新たな顕微法を開発することを目指している。平成30年度は当初の研究計画通り、これまで開発を行っていたXFEL用破壊計測型マイクロ流路デバイスのさらなる高度化と、取得したコヒーレント回折パターンデータの高精度・高効率解析法の開発に取り組んだ。XFELでの計測に対応したマイクロ流路デバイスの開発では、X線透過窓となる窒化ケイ素薄膜を備えた流路構造を、リソグラフィやドライエッチングといった半導体プロセス技術を利用して作製している。昨年度までに、サブμm精度を有するマイクロ流路デバイスアライメント・組立装置を開発し、12 mm角のチップ上にX線照射窓数を528個まで大きく向上させることに成功しているが、さらに従来の4倍程度以上の大面積のチップを利用し、作製プロセスを改善することにより、マイクロ流路デバイス構造を洗練・最適化し、溶液試料保持・導入機構の改善を目指した。また、XFELを利用したコヒーレント回折X線パターン取得の基礎実験では、マイクロ流路デバイス内微小試料解析用に新たに開発したナノ粒子トラッキング解析を利用した溶液試料のオフラインでの試料サイズの評価と、SACLAでのイメージング結果がよく一致することを確認し、液中での試料状態をXFELの実験前も評価可能であることを確認した。また、取得したコヒーレント回折パターンデータの解析に関しても高度化に取り組み、取得した多数のデータに対する自動解析処理プログラムの開発も行った。これまでの研究進捗状況としては、本研究で開発する破壊計測型マイクロ流路デバイスの作製・高精度化を行い、実際にデバイス中のナノ粒子からのコヒーレント回折パターン取得し、オフライン計測でのデータとの比較に成功するなど、当初計画に沿った順調な進展が得られている。破壊計測型マイクロ流路デバイスの作製では、新たに導入したマスクレス描画装置やドライエッチング装置などの半導体プロセス装置を利用して作製したマイクロ流路デバイスの試作・評価を行っており、さらに効率的な計測を目指した高集積化デバイスの作製も行った。SACLAでのXFEL実験では、デバイス内部の金ナノ粒子集合体から、問題なく再構成可能なコヒーレント回折パターンを取得することに成功しており、オフライン計測によるデータとの整合性も取れており、本研究の基本構想に問題がないことを確認できている。これらの成果を元に、令和元年度以降様々な液中試料の計測実験を、マイクロ流路デバイスのさらなる高度化と並行しながら、SACLAを利用して実施していく予定である。計測対象の選定に関しては、北海道大学電子科学研究所の三友准教授などの協力を得て、化学上の意義も考慮しながら選定を行う計画である。これまでの研究成果を踏まえ、今年度はSACLAを利用した液中試料のイメージング実験を行うとともに、本イメージング開発のために必要なXFEL用マイクロ流路デバイスの高度化に引き続き取り組む計画である。SACLAを利用した液中試料のイメージング実験では、まず計測対象とするナノ試料の選定を行う。ナノ試料の選定に関しては、マイクロ流路の流速・流量といったパラメータに適するかといった条件以外にも、科学的な意義も考慮する。本件に関しては、機能性ナノ粒子の合成に関して造詣の深い専門家である、北海道大学電子科学研究所の三友准教授などの協力を得て行う計画である。また、選定した対象をマイクロ流路デバイス中で反応させるための条件最適化を、これまで本研究で開発してきた可視光レーザーを利用したナノ粒子トラッキング解析技術を利用して行う。これらの情報をもとに、条件を最適化された溶液試料をSACLAで計測し、マイクロ流路中に導入した試料のXFELによるフェムト秒イメージングの実現を目指す。また、理化学研究所・高輝度光科学研究センターと共同で開発した多層膜X線集光ミラーを利用した世界最高性能のコヒーレント回折イメージング装置を新たに利用し、最高で数nmに相当する分解能での液中試料の可視化を目指す。本研究では、溶液中で反応過程にあるナノ粒子や生体試料の高分解能イメージングを目指し、X線自由電子レーザー(X-ray free-electron laser : XFEL)を利用したコヒーレント回折イメージング法と、マイクロ流路デバイスによる液中反応制御技術を組み合わせた新たな顕微法を開発することを目指す。平成28年度は当初の研究計画通り、XFEL用破壊計測型マイクロ流路デバイスの開発と、マイクロ流路中での試料反応調整法の検討に取り組んだ。破壊計測型マイクロ流路デバイスの開発では、X線透過窓となる窒化ケイ素薄膜を備えたマイクロ流路構造を、フォトリソグラフィ、反応性イオンエッチング、水酸化カリウムエッチングといった半導体プロセス技術を利用して作製した。窒化ケイ素膜サイズはおよそ20μmと非常に小さいため、マイクロ流路構造を作製するには2枚のウエハの正確な貼り合わせが必須となるが、光学顕微鏡を二台使用した高精度アライメント装置を開発することによって、1 mrad以下の角度誤差でのウエハ貼り合わせに成功した。XFELによる計測ではバクテリアやタンパク質といった高粘度の試料の計測も想定しているが、作製したマイクロ流路の内部にグリセリンといったの高粘度溶液を問題なく導入可能であることを確認した。また、マイクロ流路中での試料反応調整法の検討では、マイクロギャップ中でのナノ粒子粒径分布の評価実験に取り組んだ。 | KAKENHI-PROJECT-16H05989 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16H05989 |
破壊計測用マイクロ流路による液中反応X線レーザーイメージング | 可視光暗視野顕微鏡を用いて直径60 nmの超純水中金ナノ粒子を検出し、個別粒子のブラウン運動を解析することによって、想定通りの粒子径を導出することに成功した。これらの結果を元に、次年度に向けてより微小な粒子径の試料を検出するために必要な光学系の検討を行った。平成28年度までの研究進捗状況としては、本研究で開発する破壊計測型マイクロ流路デバイスの試作を行い、マイクロ流路中試料反応計測技術の原理検証に成功するなど、当初計画に沿った順調な進展が得られている。破壊計測型マイクロ流路デバイスの試作では、北海道大学オープンファシリティ所有の半導体プロセス装置を利用して作製したマイクロ流路デバイス構造の原理検証を行った。本研究の特徴の一つとして、通常のマイクロ流路と異なり、X線の透過率を考慮して数μm以下の狭小なギャップに試料溶液を導入する点がある。こうした狭小なギャップを利用する際の懸念として、タンパク質溶液など粘性の高い試料の導入に困難が生じる可能性があったが、純水の1000倍程度の粘度を持つグリセリンであっても流路内部に導入可能であることを試作したデバイスを用いて確認し、本研究の基本構想に問題がないことを証明できた。こうした結果を元に平成29年度以降、SACLAでの実際の使用を想定した高集積化および精密化を図る計画である。またマイクロ流路中での試料反応調整法の検討では、XFELを用いた実験前の事前検討に使用するマイクロギャップ中でのナノ粒子粒径分布の評価実験に取り組み、ブラウン運動に関するストークス・アインシュタイン式を利用した純水中金ナノ粒子の粒子径算出に成功した。次年度以降、本結果をXFEL用マイクロ流路デバイス内の試料評価に応用する計画であり、当初計画通りに研究を進めることができている。破壊計測型マイクロ流路デバイスの開発では、X線透過窓となる窒化ケイ素薄膜を備えたマイクロ流路構造を、フォトリソグラフィ、反応性イオンエッチング、水酸化カリウムエッチングといった半導体プロセス技術を利用して作製した。昨年度までに、光学顕微鏡を二台使用した高精度アライメント・組立装置を開発し、20 μmという狭小なX線照射窓を有するマイクロ流路デバイスの開発に成功しているが、当該年度は、当初の予定通り液中試料の効率的な計測を目指した高集積化を実現した。マイクロ流路構造を洗練・最適化し、溶液試料導入方法を改善することによって、これまで12 mm角のチップ上に72個程度だったX線照射窓数を、528個まで大きく向上させることに成功した。また、XFELを利用したコヒーレント回折X線パターン取得の基礎実験では、作製したマイクロ流路デバイスをSACLAに持ち込み評価を行った。マイクロ流路デバイス中に封入した金ナノ粒子集合体からコヒーレント回折パターンの取得に成功し、試料像の再構成に関しても問題なく可能であることを確認した。これまでの研究進捗状況としては、本研究で開発する破壊計測型マイクロ流路デバイスの作製・高精度化を行い、実際にデバイス中のナノ粒子からのコヒーレント回折パターン取得に成功するなど、当初計画に沿った順調な進展が得られている。 | KAKENHI-PROJECT-16H05989 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16H05989 |
腸内細菌叢と遺伝子変異の相互作用に着目した滲出型AMDの病態解明 | 世界に類のない超高齢社会を迎える本邦において、失明原因として増加を続ける加齢黄斑変性は生活の質の維持や医療経済的にも多くの問題を抱えている。新たな治療のブレークスルーには、病態に依存したAMD個別化医療の開発が鍵となる。本研究では、個人の生体反応に大きく関与するとされる腸内細菌叢を次世代シーケンサーで網羅的に解析し、さらに遺伝子変異や酸化ストレスとの相互作用を検討することで加齢黄斑変性の患者層別化に重要なバイオマーカーの同定と創薬ターゲットの探索を行う。世界に類のない超高齢社会を迎える本邦において、失明原因として増加を続ける加齢黄斑変性は生活の質の維持や医療経済的にも多くの問題を抱えている。新たな治療のブレークスルーには、病態に依存したAMD個別化医療の開発が鍵となる。本研究では、個人の生体反応に大きく関与するとされる腸内細菌叢を次世代シーケンサーで網羅的に解析し、さらに遺伝子変異や酸化ストレスとの相互作用を検討することで加齢黄斑変性の患者層別化に重要なバイオマーカーの同定と創薬ターゲットの探索を行う。 | KAKENHI-PROJECT-19K18831 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K18831 |
核内受容体PPARγに対する海洋生物由来リガンドによるアレルギー抑制 | 近年、PPARγのアゴニストがアレルギーを制御する可能性が示唆されているが、この点からアレルギーを抑制する成分を見出す試みはない。また、I型アレルギーは、肥満細胞の脱顆粒に伴って放出される炎症性メディエーターによって誘発されるが、PPARγとの関わりは不明である。本研究の目的は、海洋生物からPeroxysome proliferator-activated receptor γ(以下PPAR)のリガンドを見出し、アレルギー惹起性ケミカルメディエーターの放出抑制を図ることである。これまでに、PPARγアゴニストが脱顆粒を抑制することを確認した。そこで、海洋生物特有のカロテノイドに着目し、フコキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ペリジニンについて脱顆粒反応に与える影響を同様に調べたところ、これらの海洋生物カロテノイドもPPARγアゴニストと同様の脱顆粒抑制効果を有することを始めて見出した。しかし、これらの効果は抗原刺激後30分程度の極めて短時間で認められ、核内レセプターを介さない新しい機構で活性を示している可能性が強く示唆された。そこで、肥満細胞に発現している高親和性IgEレセプター(FcεRI)を介したシグナル伝達経路に着目し、細胞内へのCa2+の流入およびそれと平行して起こるプロテインキナーゼC-β,およびδ(PKC-β,PKC-δ)のリン酸化に与える影響を調べた。共焦点レーザー顕微鏡を用いて抗原刺激によるFcεRIの凝集に対する影響を調べた。その結果、実験に用いたすべてのカロテノイドは、抗原刺激に伴う細胞内へのCa2+の流入を有意に抑制した。また、これらのカロテノイドはPKC-βの活性化を抑制し、PKC-δの活性化を増強することを確認した。さらに、抗原刺激によるFcεRIの凝集を阻害することを始めて見出した。近年、PPARγのアゴニストがアレルギーを抑制する可能性が示唆されているが、この点からアレルギーを抑制する成分を見出す試みはない。また、I型アレルギーは、肥満細胞の脱顆粒に伴って放出される炎症性メディエーターによって誘発されるが、PPARγとの関わりは不明である。本研究の目的は、海洋生物からPeroxysome proliferator-activated receptorγ(以下PPAR)のリガンドを見出し、アレルギー惹起性ケミカルメディエーターの放出抑制を図ることである。今年度は、まずPPARγ合成アゴニストであるトログリタゾンを用いて、PPARγを介した脱顆粒抑制効果についてラット由来RBL-2H3細胞及びマウス骨髄由来肥満細胞BMMCを用いて検討した。DNPに特異的なIgE抗体で感作した細胞をDNP-BSAで刺激したときの脱顆粒反応に及ぼすトログリタゾンの影響をβ-ヘキソサミニダーゼの放出を指標として調べた。さらに、ELISA法によりヒスタミン放出量も測定した。また、脱顆粒反応を惹起するメカニズムの一つである細胞内へのCa^<2+>の流入を調べるために、脱顆粒刺激後の細胞内のCa^<2+>濃度変化を測定した。その結果、トログリタゾンはDNP-BSA刺激によるβ-ヘキソサミニダーゼとヒスタミンの放出を有意に抑制し、細胞内へのCa^<2+>の流入も有意に減少させることがわかった。したがって、PPARγのアゴニストは細胞内へのCa^<2+>の流入を抑制することで脱顆粒反応を抑制することが示唆された。そこで、肥満細胞の脱顆粒反応に及ぼす影響について知られていない海洋生物特有のカロテノイドに着目し、フコキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ペリジニンについて脱顆粒反応に与える影響を同様に調べたところ、これらの海洋生物カロテノイドもPPARγアゴニストと同様の脱顆粒抑制効果を示した。今後はPPARγを介した脱顆粒抑制のメカニズムを解明し、海洋生物カロテノイドがPPARγのアゴニストとしての作用によるものかどうかを調べる。近年、PPARγのアゴニストがアレルギーを制御する可能性が示唆されているが、この点からアレルギーを抑制する成分を見出す試みはない。また、I型アレルギーは、肥満細胞の脱顆粒に伴って放出される炎症性メディエーターによって誘発されるが、PPARγとの関わりは不明である。本研究の目的は、海洋生物からPeroxysome proliferator-activated receptor γ(以下PPAR)のリガンドを見出し、アレルギー惹起性ケミカルメディエーターの放出抑制を図ることである。これまでに、PPARγアゴニストが脱顆粒を抑制することを確認した。そこで、海洋生物特有のカロテノイドに着目し、フコキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ペリジニンについて脱顆粒反応に与える影響を同様に調べたところ、これらの海洋生物カロテノイドもPPARγアゴニストと同様の脱顆粒抑制効果を有することを始めて見出した。しかし、これらの効果は抗原刺激後30分程度の極めて短時間で認められ、核内レセプターを介さない新しい機構で活性を示している可能性が強く示唆された。そこで、肥満細胞に発現している高親和性IgEレセプター(FcεRI)を介したシグナル伝達経路に着目し、細胞内へのCa2+の流入およびそれと平行して起こるプロテインキナーゼC-β,およびδ(PKC-β,PKC-δ)のリン酸化に与える影響を調べた。共焦点レーザー顕微鏡を用いて抗原刺激によるFcεRIの凝集に対する影響を調べた。その結果、実験に用いたすべてのカロテノイドは、抗原刺激に伴う細胞内へのCa2+の流入を有意に抑制した。また、これらのカロテノイドはPKC-βの活性化を抑制し、PKC-δの活性化を増強することを確認した。 | KAKENHI-PROJECT-17658096 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17658096 |
核内受容体PPARγに対する海洋生物由来リガンドによるアレルギー抑制 | さらに、抗原刺激によるFcεRIの凝集を阻害することを始めて見出した。 | KAKENHI-PROJECT-17658096 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17658096 |
超高速スピン応答光デバイス | スピンは円偏光と相互作用を持つので、円偏光を用いて半導体中に任意のスピン偏極を生成することや、逆に半導体中のスピン偏極を円偏光に変換することが可能である。このため、光とスピンを結合させれば、スピンの自由度を利用した新しい光半導体デバイスやシステムを実現できる可能性がある。スピンの応用としては、隣接する量子ドット間の交換相互作用を利用してスピンを制御する量子コンピューティングが提案されている。結合した量子ドット間では反強磁性結合が生じると理論的に予測されているが、量子ドット間でこの演算を実現するほどの大きな交換相互作用が働くかどうかは実験的に検証されていない。本研究では、超高速スピン応答デバイス実現の観点から、量子ドット間の交換相互作用によるキャリアのスピン反転について調べた。実験では、時間分解フォトルミネッセンス測定によって、半導体結合量子ドット間の反強磁性結合の観測に初めて成功した。また、この反強磁性結合は、50-80K以下で存在することが確認された。これによって量子ドット間の交換相互作用のエネルギーがマイナスであることが明らかになり、また、量子ドットのスピンを操作することによって隣接するドットのスピンを制御し得ることが明らかになった。ハイトラー・ロンドン近似を用いて交換相互作用を見積もると、バリア幅8nmと10nmで、シングレットとトリプレットのエネルギー差は、0.58meV(6.7K)と0.12meV(1.4K)となり、実験と比較的よい一致を示した。これらの結果は、電子スピンを利用した超高速スピン応答デバイスに道を開く結果として極めて重要である。また、スピンの操作と検出に円偏光を用いており、光とスピンを結合させた系として量子コンピューティングなどへの今後の発展が期待される。スピンは円偏光と相互作用を持つので、円偏光を用いて半導体中に任意のスピン偏極を生成することや、逆に半導体中のスピン偏極を円偏光に変換することが可能である。このため、光とスピンを結合させれば、スピンの自由度を利用した新しい光半導体デバイスやシステムを実現できる可能性がある。スピンの応用としては、隣接する量子ドット間の交換相互作用を利用してスピンを制御する量子コンピューティングが提案されている。結合した量子ドット間では反強磁性結合が生じると理論的に予測されているが、量子ドット間でこの演算を実現するほどの大きな交換相互作用が働くかどうかは実験的に検証されていない。本研究では、超高速スピン応答デバイス実現の観点から、量子ドット間の交換相互作用によるキャリアのスピン反転について調べた。実験では、時間分解フォトルミネッセンス測定によって、半導体結合量子ドット間の反強磁性結合の観測に初めて成功した。また、この反強磁性結合は、50-80K以下で存在することが確認された。これによって量子ドット間の交換相互作用のエネルギーがマイナスであることが明らかになり、また、量子ドットのスピンを操作することによって隣接するドットのスピンを制御し得ることが明らかになった。ハイトラー・ロンドン近似を用いて交換相互作用を見積もると、バリア幅8nmと10nmで、シングレットとトリプレットのエネルギー差は、0.58meV(6.7K)と0.12meV(1.4K)となり、実験と比較的よい一致を示した。これらの結果は、電子スピンを利用した超高速スピン応答デバイスに道を開く結果として極めて重要である。また、スピンの操作と検出に円偏光を用いており、光とスピンを結合させた系として量子コンピューティングなどへの今後の発展が期待される。 | KAKENHI-PROJECT-13026225 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13026225 |
分泌ペプチドを介した細胞間シグナル伝達による細胞極性形成と分化調節の機構 | 植物の表皮細胞は、まず、気孔系列か非気孔系列かの運命の選択を行う。気孔系列に入れば不等分裂を行い、小さい方の細胞がメリステモイドとなる。メリステモイドは最終的に気孔を形成する孔辺細胞となる。不等分裂の結果として出来る大きい方の細胞は、非気孔表皮細胞になるか、あるいは不等分裂を行って上に述べた過程を繰り返すことにより、気孔と非気孔表皮細胞を作る。メリステモイドや孔辺細胞からは、隣接細胞の不等分裂の分裂面を制御する何らかのシグナルが出ており、これにより隣接した気孔の形成を防いでいる。この仕組みにより、気孔は隣接して形成されることなく、必ず間に一つ以上の表皮細胞が存在する。私達は、気孔パターニングの制御因子として分泌タンパク質EPF1とEPF2を見いだしている。epf1破壊株では、気孔が隣接して形成される。epf2破壊株では、孔辺細胞を含む表皮細胞の数が増加する。これらのニ重変異株では、表現型は相加的であった。また、EPF1はメリステモイドと孔辺細胞母細胞、孔辺細胞で発現しており、EPF2はメリステモイドとメリステモイド母細胞(MMC)で発現している。EPF1もEPF2も過剰発現すれば気孔の数を減少させ、それらの効果には、TMM(気孔パターニングに働くreceptor like protein)とERECTA-familyが必須であった。マーカー遺伝子を用いた実験から、EPF2過剰発現はMMCへの分化をブロックするのに対し、EPF1過剰発現はメリステモイドを形成する不等分裂を阻害することがわかった。これらのことから、EPF2は最初の運命決定の調節因子であり、MMCとメリステモイドで発現して、気孔系列の細胞の数の負のフィードバックとして働いていること、EPF1は気孔形成において、次に形成される気孔が隣接して形成されることを阻害するシグナルとして働いていることがわかった。多細胞植物の形態形成の必須条件の一つは細胞間コミュニケーションである。本申請では、特に細胞外分泌小ペプチド分子を介したシグナル伝達が、どのように細胞の軸と分化状態を制御するのかという問題に取り組む。その一つのモデルシステムとして、気孔パターニング機構を解明する。双子薬類の気孔は、隣接することなく均一に形成される。孔辺細胞は、メリステモイドと呼ばれる細胞に由来する。メリステモイドが不等分裂すると、小さな細胞はメリステモイド、大きな細胞は通常の表皮へと分化する。メリステモイドはまた、孔辺細胞母細胞を経て孔辺細胞へと分化する。私達は、これまでに、過剰発現すると気孔が形成されなくなる遺伝子としてgene20-9とgene20-10を見出している。これらの遺伝子は、小さな分泌ペプチドをコードしている。gene20-9は、メリステモイドと孔辺細胞母細胞で発現している。gene20-9の破壊株を観察したところ、気孔が隣接して形成していた。これらのことは、気孔系列細胞がgene20-9産物を分泌し、周辺細胞に阻害的に働き、隣接した位置に気孔を作ることを阻害していることを示している。また、gene20-9の過剰発現の効果には、気孔形成経路で働いている受容体TMMが必須であることを見出した。一方、シグナル分子のプロセッシングに関わっていると考えられてきたSDD1は、gene20-9の働きには必要ないことがわかった。gene20-9と、これに似た遺伝子gene20-10の過剰発現の効果は同じであるが、遺伝子破壊株の解析から、gene20-10は、メリステモイド母細胞の数の調節に抑制的に働いているらしいことがわかった。植物の表皮細胞は、まず、気孔系列か非気孔系列かの運命の選択を行う。気孔系列に入れば不等分裂を行い、小さい方の細胞がメリステモイドとなる。メリステモイドは最終的に気孔を形成する孔辺細胞となる。不等分裂の結果として出来る大きい方の細胞は、非気孔表皮細胞になるか、あるいは不等分裂を行って上に述べた過程を繰り返すことにより、気孔と非気孔表皮細胞を作る。メリステモイドや孔辺細胞からは、隣接細胞の不等分裂の分裂面を制御する何らかのシグナルが出ており、これにより隣接した気孔の形成を防いでいる。この仕組みにより、気孔は隣接して形成されることなく、必ず間に一つ以上の表皮細胞が存在する。私達は、気孔パターニングの制御因子として分泌タンパク質EPF1とEPF2を見いだしている。epf1破壊株では、気孔が隣接して形成される。epf2破壊株では、孔辺細胞を含む表皮細胞の数が増加する。これらのニ重変異株では、表現型は相加的であった。また、EPF1はメリステモイドと孔辺細胞母細胞、孔辺細胞で発現しており、EPF2はメリステモイドとメリステモイド母細胞(MMC)で発現している。EPF1もEPF2も過剰発現すれば気孔の数を減少させ、それらの効果には、TMM(気孔パターニングに働くreceptor like protein)とERECTA-familyが必須であった。マーカー遺伝子を用いた実験から、EPF2過剰発現はMMCへの分化をブロックするのに対し、EPF1過剰発現はメリステモイドを形成する不等分裂を阻害することがわかった。 | KAKENHI-PROJECT-17027017 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17027017 |
分泌ペプチドを介した細胞間シグナル伝達による細胞極性形成と分化調節の機構 | これらのことから、EPF2は最初の運命決定の調節因子であり、MMCとメリステモイドで発現して、気孔系列の細胞の数の負のフィードバックとして働いていること、EPF1は気孔形成において、次に形成される気孔が隣接して形成されることを阻害するシグナルとして働いていることがわかった。 | KAKENHI-PROJECT-17027017 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17027017 |
血管内皮細胞に発現する接着因子とmicrofilamentに及ぼす紫外線の影響 | 1.目的PUVA療法の作用機序を検討する一助として下記の実験を計画した。ヒト臍帯静脈血管内皮(HUVEC)を用い、アクチンフィラメントとの関連が指摘されるCD44の発現に関して、紫外線照射ならびにサイトカラシン処理前後の変化を、Eセレクチンを対照として発現プロフィールに関してはFACS、形態的変化については共焦点レーザー顕微鏡で検討した。2.実験材料と方法【.encircled2.】HUVECに種々の量の紫外線を照射前もしくは後に、IL-1betaで刺激しCD44とEセレクチンの発現プロフィールの変化をFACSと共焦点レーザー顕微鏡で検討した。【.encircled3.】HUVECを種々の濃度のサイトカラシンDで処理後、IL-1betaで刺激同様にCD44とEセレクチンの変化をFACSと共焦点レーザー顕微鏡で検討した。3.結果【.encircled1.】INF-gamma、IL-1beta、TNF-alphaの刺激によりCD44は刺激4時間後より発現、8時間後にピークに達した後24時間後には正常に復した。Eセレクチンは刺激2時間後より発現、6時間後にピークとなり24時間後には同様に消失した。【.encircled2.】紫外線をIL-1beta刺激の前、後のいずれに照射してもCD44の発現は遅れ、ピークは24時間となった。【.encircled3.】サイトカラシン処理後でも、Eセレクチンの発現は通常と変わらなかった。一方CD44の発現は消失する事なく、かえって増強し48時間後でもなお高度に持続していた。【.encircled4.】共焦点レーザー顕微鏡による観察では、アクチンフィラメントは紫外線処理やサイトカラシン処理でもほぼ同様の変化を示したが、CD44とアクチンフィラメントとの関連は不明であった。結論CD44とアクチンフィラメントとの直接的関係はないように思われる。1.目的PUVA療法の作用機序を検討する一助として下記の実験を計画した。ヒト臍帯静脈血管内皮(HUVEC)を用い、アクチンフィラメントとの関連が指摘されるCD44の発現に関して、紫外線照射ならびにサイトカラシン処理前後の変化を、Eセレクチンを対照として発現プロフィールに関してはFACS、形態的変化については共焦点レーザー顕微鏡で検討した。2.実験材料と方法【.encircled2.】HUVECに種々の量の紫外線を照射前もしくは後に、IL-1betaで刺激しCD44とEセレクチンの発現プロフィールの変化をFACSと共焦点レーザー顕微鏡で検討した。【.encircled3.】HUVECを種々の濃度のサイトカラシンDで処理後、IL-1betaで刺激同様にCD44とEセレクチンの変化をFACSと共焦点レーザー顕微鏡で検討した。3.結果【.encircled1.】INF-gamma、IL-1beta、TNF-alphaの刺激によりCD44は刺激4時間後より発現、8時間後にピークに達した後24時間後には正常に復した。Eセレクチンは刺激2時間後より発現、6時間後にピークとなり24時間後には同様に消失した。【.encircled2.】紫外線をIL-1beta刺激の前、後のいずれに照射してもCD44の発現は遅れ、ピークは24時間となった。【.encircled3.】サイトカラシン処理後でも、Eセレクチンの発現は通常と変わらなかった。一方CD44の発現は消失する事なく、かえって増強し48時間後でもなお高度に持続していた。【.encircled4.】共焦点レーザー顕微鏡による観察では、アクチンフィラメントは紫外線処理やサイトカラシン処理でもほぼ同様の変化を示したが、CD44とアクチンフィラメントとの関連は不明であった。結論CD44とアクチンフィラメントとの直接的関係はないように思われる。 | KAKENHI-PROJECT-05670752 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05670752 |
軟磁性体粒子によるヒートフラックスコントローラーの開発研究 | 本研究では、軟磁性体フェライト粒子の磁化の温度依存性を利用し、粒子の挙動を磁場で操作することによって、伝熱面からの熱流束を制御することを目的とした。実験系には、液体で満たされた矩形容器を、上面から加熱、下面から冷却し、液体中に軟磁性体粒子を添加した系を用いる。磁場を印加し粒子を加熱面に引き寄せると、粒子の温度上昇に伴い、次第に磁力の影響は弱まる。そのため粒子に働く力は、重力や、粒子の運動により生じた、対流による抗力が支配的となり、粒子は逆に冷却面へと移動する。冷却面に近づくにつれて、粒子は磁性を回復するので、再び加熱面へと引き寄せられる。その結果、粒子は同様の運動を繰り返し、粒子、加熱面間の直接接触熱伝導や、粒子の運動が誘起する対流攪拌の支配的な要因となって、伝熱が促進される。印加する磁場の強度と粒子の挙動は密接に関わっているので、磁場の強度を変化させることにより、伝熱を制御することが可能になる。以上のような原理を用いた伝熱制御手法に関し、水およびシリコンオイルの二種類の液体を用いて実験を行い、伝熱の評価、およびメカニズムの検討を行った。液体に水を用いた場合、粒子は磁力と重力の作用を交互に強く受け、上下運動を行い、粒子、加熱面間の接触熱伝導が支配的な要因となって、伝熱が促進される。また磁場を変化させることにより、単相の熱伝導時と比較して、約6倍まで熱流束を制御できるとの知見を得た。シリコンオイルを用いた場合は、粘性が大きいため、粒子の運動が流体に組織的な循環運動を起こす。この対流は、伝熱促進の要因として寄与し、また粒子の挙動にも影響を与えて、粒子に同様の循環運動を引き起こす。この場合、熱流束は単相時の約10倍まで制御することが可能であった。また、粒子の径や質量混合比が伝熱に及ぼす影響に対する知見により、効果的に伝熱制御を行うための条件が明らかになった。本研究では、軟磁性体フェライト粒子の磁化の温度依存性を利用し、粒子の挙動を磁場で操作することによって、伝熱面からの熱流束を制御することを目的とした。実験系には、液体で満たされた矩形容器を、上面から加熱、下面から冷却し、液体中に軟磁性体粒子を添加した系を用いる。磁場を印加し粒子を加熱面に引き寄せると、粒子の温度上昇に伴い、次第に磁力の影響は弱まる。そのため粒子に働く力は、重力や、粒子の運動により生じた、対流による抗力が支配的となり、粒子は逆に冷却面へと移動する。冷却面に近づくにつれて、粒子は磁性を回復するので、再び加熱面へと引き寄せられる。その結果、粒子は同様の運動を繰り返し、粒子、加熱面間の直接接触熱伝導や、粒子の運動が誘起する対流攪拌の支配的な要因となって、伝熱が促進される。印加する磁場の強度と粒子の挙動は密接に関わっているので、磁場の強度を変化させることにより、伝熱を制御することが可能になる。以上のような原理を用いた伝熱制御手法に関し、水およびシリコンオイルの二種類の液体を用いて実験を行い、伝熱の評価、およびメカニズムの検討を行った。液体に水を用いた場合、粒子は磁力と重力の作用を交互に強く受け、上下運動を行い、粒子、加熱面間の接触熱伝導が支配的な要因となって、伝熱が促進される。また磁場を変化させることにより、単相の熱伝導時と比較して、約6倍まで熱流束を制御できるとの知見を得た。シリコンオイルを用いた場合は、粘性が大きいため、粒子の運動が流体に組織的な循環運動を起こす。この対流は、伝熱促進の要因として寄与し、また粒子の挙動にも影響を与えて、粒子に同様の循環運動を引き起こす。この場合、熱流束は単相時の約10倍まで制御することが可能であった。また、粒子の径や質量混合比が伝熱に及ぼす影響に対する知見により、効果的に伝熱制御を行うための条件が明らかになった。 | KAKENHI-PROJECT-07805024 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07805024 |
近赤外線撮像多天体分光観測装置の開発とhigh-z領域での階層構造進化の研究 | 近赤外線撮像多天体分光観測装置(以下、MOIRCS)を国立天文台ハワイ観測所と共同で開発し、すばる望遠鏡に取り付けてhigh-z銀河の観測を基に、大質量銀河の空間分布についての研究を行った。MOIRCSは世界の8m級望遠鏡としては高い空間分解能を保ちつつ、最も広い視野を持つ赤外線撮像装置である。従来の10倍近い広視野を得るため、800万画素のHgCdTe赤外線センサー(HAWAII2)を2個搭載し、それに結像するための冷却光学システムを開発した。内部には冷却結晶レンズとしては世界最大の大きさを持つ光学レンズを有する。望遠鏡に取り付けての性能評価試験において、視野の端まで収差のない良好な星像を得ることを確認した。さらに50以上の天体を同時に分光できる多天体分光機能を開発した。スリットマスクを観測中に交換する機能を持つ。19枚のスリットマスクを観測前に設置し、真空引き、冷却の後、ゲートバルブを開け、本体と結合させる。観測中、本体内の焦点面にマスクを引き出して観測を行う。交換可能な冷却マスクを持つ多天体分光器として世界で初めての機能である。その性能評価についても機能試験観測によって当初の仕様を満たすことを確認した。機能試験観測の一環として、z=3.1に誕生間もない原始銀河団が存在すると言われているSSA22領域の観測を行った。8m級望遠鏡としては最も広い視野での広域赤外線サーベイである。その結果、z=3.1の銀河団に付随すると思われる大質量銀河の集団を発見した。近赤外線撮像多天体分光観測装置(以下、MOIRCS)を国立天文台ハワイ観測所と共同で開発し、すばる望遠鏡に取り付けてhigh-z銀河の観測を基に、大質量銀河の空間分布についての研究を行った。MOIRCSは世界の8m級望遠鏡としては高い空間分解能を保ちつつ、最も広い視野を持つ赤外線撮像装置である。従来の10倍近い広視野を得るため、800万画素のHgCdTe赤外線センサー(HAWAII2)を2個搭載し、それに結像するための冷却光学システムを開発した。内部には冷却結晶レンズとしては世界最大の大きさを持つ光学レンズを有する。望遠鏡に取り付けての性能評価試験において、視野の端まで収差のない良好な星像を得ることを確認した。さらに50以上の天体を同時に分光できる多天体分光機能を開発した。スリットマスクを観測中に交換する機能を持つ。19枚のスリットマスクを観測前に設置し、真空引き、冷却の後、ゲートバルブを開け、本体と結合させる。観測中、本体内の焦点面にマスクを引き出して観測を行う。交換可能な冷却マスクを持つ多天体分光器として世界で初めての機能である。その性能評価についても機能試験観測によって当初の仕様を満たすことを確認した。機能試験観測の一環として、z=3.1に誕生間もない原始銀河団が存在すると言われているSSA22領域の観測を行った。8m級望遠鏡としては最も広い視野での広域赤外線サーベイである。その結果、z=3.1の銀河団に付随すると思われる大質量銀河の集団を発見した。私たちのグループがすでに開発した400万画素(2048×2048)HgCdTe赤外線検出器の制御回路を用いて近赤外線多天体分光撮像装置(MOIRCS)に搭載するサイエンスグレ-ドの検出器の性能試験を行った。特に安定性、量子効率、線形性、ダイナミックレンジ、暗電流、リードアウトノイズなどの測定を行い、その課程で明らかになった問題点をもとに回路の改良を行った。光学系レンズシステムの組上げと性能評価を行った。光学糸レンズシステムは28分角の視野は焦点面に置かれた屋根型ミラーによって2光路に分割され、それぞれ4×3.5分角の視野で検出器に結像する。各光路は10枚の組み合わせレンズからなり、設計はすばる望遠鏡の高い光学性能を生かす高い空間分解能(0.12画素)を達成している。そのために高い精度での位置決めと光軸合わせが必要である。そこでレンズの形状を国立天文台(三鷹)の測定装置を用いて測定した。広い域干渉フィルターの製作を行った。本研究で用いる赤外線フィルターは光学系の瞳の位置に置かれ、100Kに冷却される。大きさは直径80mmと赤外線フィルターとしては従来にない大きさである。これはMOIRCSの特徴である広視野を実現するために瞳の大きさも必然的に大きくなるためである。完成したMOIRCSのクライオスタットの真空冷却実験を行った。個々の部品の性能評価の後に光学系、マルチスリット交換機構、焦点デュワー、検出器デュワーをくみ上げ、総合動作試験と性能評価を行い、問題点を明らかにした。さらに光学シミュレータに本装置を取り付けて全体のくみ上げを行った。昨年度までに開発した2048×2048HgCdTe赤外線センサーの駆動回路を改良して、1検出器当たり32チャネルでの同時読出しを実現する回路を設計した。その結果、現在の読出し速度の8倍となり、高い背景放射における条件においても効率の良い観測を可能にした。28分角の視野は焦点面に置かれた屋根型ミラーによって2光路に分割され、それぞれ4×3.5分角の視野で検出器に結像する。平成14年度中に完成した2光路の光学系を光学ベンチの上で組み上げ、当初の設計値通り、レンズマウントが所定の位置に設置されることを確認した。 | KAKENHI-PROJECT-14340059 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14340059 |
近赤外線撮像多天体分光観測装置の開発とhigh-z領域での階層構造進化の研究 | そらに、クライオスタット内に搭載し、真空冷却の後、結像性能を確認した。その結果、冷却中においても設計仕様の性能を達成することを確認した。さらに装置の総合性能評価を行った。個々の性能評価の後に、光学系、マルチスリット交換機構、焦点デュワー、検出器デュワー、フィルター・グリズムターレットデュワーを組上げ、総合動作試験と性能評価を行った。最初に実験室ですばる望遠鏡のビーム角に似せた疑似星の光を観測装置に導き、マルチスリットの交換機構の再現性、光軸の精度、最終的な焦点面画像の評価を行った。さらに光学シミュレータに本装置を取り付け、望遠鏡に取り付けた状態と同様に装置を前後左右に動かし、装置の総合性能を評価した。またz>7におけるLyman α天体の探査を目的とした干渉フィルターを設計した。平成15年度までに開発したクライオスタット、検出器、MOS機構などを用い、近赤外線撮像多天体分光観測装置(以下、MOIRCS)を国立天文台ハワイ観測所に置いて組み上げた。総合動作実験において真空漏れと冷却不備を見いだし、改良を施した。さらに、観測所のミュレータに取り付けて、装置のたわみやゆがみ、耐久性のテストを行った。その結果、16年8月にMOIRCSの総合テストを終了し、開発を終了した。9月には8.2mすばる望遠鏡に取り付けて、第1回の機能試験観測を行い、3日間の観測期間中、故障もなく、テスト観測データを得ることができた。そのデータを解析した結果、MOIRCSの撮像性能はほぼ、仕様を達成したことを確認した。さらに17年1月の第2回機能試験観測において、多天体分光機能のテストを行い、基本的な機構の動作が確認された。その結果、多天体の分光データを得ることできた。2回の機能試験観測データから、本研究に必要なデータ解析手法を開発し、HAWAII2検出器固有問題点を明らかにした。機能試験の過程で、赤外線観測に基づくhigh-z銀河の進化や分布の研究を行うために、原始銀河団の存在するSSA22領域において、撮像観測を行った。そのデータからLBGやLAEの赤外線同定を行い、その性質を明らかにした。また、この領域における500個もの天体の距離を求めることに成功し、恒星質量に基づく銀河の空間分布を明らかにした。 | KAKENHI-PROJECT-14340059 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14340059 |
植物病原糸状菌付着器分泌型エフェクターの病原性機能の解析 | 植物病原糸状菌であるオオムギうどんこ病菌が宿主植物の免疫反応を抑制する分子メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、本菌の新規エフェクターを同定し、病原性機能を分子レベルで解明することを目的としている。本菌の付着器発芽管に含まれるタンパク質を網羅的に解析することにより、候補タンパク質としてAPEC1(appressorial effector candidate 1)を単離している。前年度までに、APEC1が宿主による侵入抵抗性を抑制すること、AVRエフェクターとして宿主に認識される可能性は低いこと、宿主細胞内のペルオキシソームに局在すること、APEC1を過剰発現させたシロイヌナズナでは顕著な成長阻害およびクロロシスを引き起こすことを明らかにしてきた。本年度においては、APEC1の宿主標的因子を単離して病原性機能を解明することを目的として、APEC1-GFPをベンサミアナタバコ葉で過剰発現させ、相互作用するタンパク質を単離して質量分析に供した。その結果、ペルオキシソームに局在する酵素の1つが同定された。共免疫沈降法によりAPEC1とその酵素が相互作用するか確認した。その酵素は、植物ウイルスが感染する際にも標的とされるということが2018年に報告されており、オオムギうどんこ病菌についても、APEC1を宿主細胞へ送り込み、酵素活性を阻害することで侵入抵抗性をかく乱、抑制する可能性が示唆された。また、APEC1の病原性をさらに確認するとともに、さらなる遺伝学的解析を行うために、エストラジオール誘導性プロモーターあるいは表皮細胞特異的発現プロモーターで発現制御可能な形質転換シロイヌナズナを作成し、解析している。植物病原糸状菌が分泌するエフェクターは植物の細胞内へ侵入して免疫反応を抑制するが、病原性機能の分子メカニズムはまだよくわかっていない。本研究の目的は、オオムギうどんこ病菌(Blumeria graminis f. sp. hordei)の新規のAVRエフェクターを同定してRタンパク質による認識機構及びその病原性機能を解明し、世界的に問題となっているコムギ黒さび病菌の問題解決に寄与することである。オオムギうどんこ病菌のプロテオーム解析によりすでに単離しているエフェクター候補のうち、APEC1が病原性を持ち、オオムギ表皮細胞内のある特定の細胞小器官に局在することを明らかにした。また、APEC1と共局在する宿主標的候補を得ており、病原性との関連性を解析している。AVRエフェクターとしてHR細胞死を起こすかどうかを調べる実験系(Wahara et al., JGPP 2017)をさらに改良し、オオムギ表皮細胞における細胞死率を半定量的および経時的に解析可能とした。プロトプラストを用いた細胞死アッセイ系についても実験設備を含め準備が完了した。シロイヌナズナpen3 eds1変異体にAPEC1を過剰発現させた形質転換体はT2世代を得ており、解析に着手している。以上に加え、国際共同研究として、我々の菌株(RACE1およびOU14)と世界各地の菌株のゲノムワイド関連解析により、Rタンパク質であるMLA1およびMLA13が認識すると考えられていたAVRa1およびAVRa3を新たに発見した(Lu et al., PNAS 2016)。現在はAPEC1とともに、改良したHR細胞死アッセイ系を用いてAVRa1およびAVRa13の認識機構の解析に取り組んでいる。本研究では、オオムギうどんこ病菌のプロテオーム解析により得られたエフェクター候補を中心としてAVRエフェクターの同定、認識機構および病原性機能の解明を計画していた。それと並行して、我々の菌株(RACE1およびOU14)とその他遺伝的バックグラウンドの異なる菌株のゲノムワイド関連解析を進め、Rタンパク質であるMLA1およびMLA13が認識すると考えられていたAVRa1およびAVRa13の同定に成功した。これらのAVRエフェクターの非病原型と病原型のアミノ酸配列の相違をもとに認識機構の解析が可能となった。加えて、これらAVRエフェクターがHR細胞死の指標となり得るため、今後のAPECのHR細胞死誘導能の評価が容易となった。植物病原糸状菌が分泌するエフェクターが宿主植物の免疫反応を抑制する分子メカニズムについては不明な点が多く、とりわけ作物病原菌においての知見は未だ少ない。本研究では、オオムギうどんこ病菌の新規エフェクターを同定し、病原性機能を分子レベルで解明することを目的としている。オオムギうどんこ病菌の付着器発芽管に含まれるタンパク質を網羅的に解析することにより、候補タンパク質としてAPEC1を単離している。APEC1がオオムギ細胞において侵入抵抗性を抑制することを明らかにしたが、本年度では、AVRエフェクターとして宿主に認識されHR細胞死を引き起こすかを主に調査した。構築したHR細胞死アッセイ系(Wahara et al., JGPP 2017)をベースに、昨年度共同研究で単離した新規AVRエフェクターであるAVRa1をポジティブコントロールとして、新たなアッセイ系を確立して解析した。異なるR遺伝子を持つオオムギ品種にパーティクルガンを用いてAPEC1を発現させ、GFP蛍光発現細胞数の減少を指標に細胞死率を解析したところ、既知のどのR遺伝子にも認識されないことが明らかとなった。したがって、APEC1はAVRエフェクターではないと強く示唆された。また、APEC1の宿主細胞内局在を解析した結果、ペルオキシソーム膜に局在することが明らかとなったため、局在に関与するアミノ酸領域の同定を行った。 | KAKENHI-PROJECT-16K07618 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K07618 |
植物病原糸状菌付着器分泌型エフェクターの病原性機能の解析 | その結果、APEC1のC末端の数アミノ酸が局在を決定付けていることがわかった。さらに、APEC1を過剰発現させたシロイヌナズナ形質転換体を作製したところ、顕著な成長阻害および葉のクロロシスを引き起こすことが明らかとなった。この結果から、葉組織においては葉緑体とペルオキシソームとの相互作用を阻害する機能を持つことが示唆された。葉における病原性機能の解析を行うため、誘導プロモーター制御の発現体を作製している。当初計画していた主な実験として、APEC1のHR細胞死誘導能の調査を計画しており、昨年度新たに発見したAVRa1をポジティブコントロールとして、GFP蛍光発現細胞の減少を指標とすることで達成することができた。また、APEC1シロイヌナズナ過剰発現体の作製を完了したが、予想していなかった成長阻害を起こしてしまった。そのため病原性についての解析を行うことができなかった点が計画を遅らせる原因となっているが、むしろ興味深い表現型であり、APEC1が植物細胞において何らかの影響をもたらす傍証となった。宿主細胞内局在について詳細に解析を行い、関与するアミノ酸領域を同定することができたため、オオムギ細胞内およびシロイヌナズナ個体における、局在性と病原性(表現型)についての解析を行うための基礎情報を得ることもできた。オオムギうどんこ病菌の侵入後のAPEC1の局在を解析するために、免疫染色あるいは免疫電顕を行うことを目標としており、そのための特異抗体の作製に着手した。ペプチドを抗原として抗体の作製を試みたが、APEC1タンパク質をうまく認識することができず、抗体としては使えないことが判明した。APEC1タンパク質を合成し、抗原として抗体作製をする必要があると考えられたため、小麦胚芽無細胞タンパク質発現系にて、APEC1タンパク質を合成した。植物病原糸状菌であるオオムギうどんこ病菌が宿主植物の免疫反応を抑制する分子メカニズムについては不明な点が多い。本研究では、本菌の新規エフェクターを同定し、病原性機能を分子レベルで解明することを目的としている。本菌の付着器発芽管に含まれるタンパク質を網羅的に解析することにより、候補タンパク質としてAPEC1(appressorial effector candidate 1)を単離している。前年度までに、APEC1が宿主による侵入抵抗性を抑制すること、AVRエフェクターとして宿主に認識される可能性は低いこと、宿主細胞内のペルオキシソームに局在すること、APEC1を過剰発現させたシロイヌナズナでは顕著な成長阻害およびクロロシスを引き起こすことを明らかにしてきた。本年度においては、APEC1の宿主標的因子を単離して病原性機能を解明することを目的として、APEC1-GFPをベンサミアナタバコ葉で過剰発現させ、相互作用するタンパク質を単離して質量分析に供した。その結果、ペルオキシソームに局在する酵素の1つが同定された。共免疫沈降法によりAPEC1とその酵素が相互作用するか確認した。その酵素は、植物ウイルスが感染する際にも標的とされるということが2018年に報告されており、オオムギうどんこ病菌についても、APEC1を宿主細胞へ送り込み、酵素活性を阻害することで侵入抵抗性をかく乱、抑制する可能性が示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-16K07618 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K07618 |
レチノイン酸受容体の樹状細胞分化への影響と腸管におけるビタミンA代謝機構の解明 | 本研究は、クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患における樹状細胞分化や腸管におけるビタミンA代謝機構および腸管におけるビタミンAの重要性を明らかにする事を目的としている。本研究ではこれまでに合成レチノイン酸であるAm80の健常人に対する樹状細胞(dendriticcell;DC)分化に対する影響を検討してきており、レチノイン酸がDCの分化過程に影響を与えることでIL-12低産生型DCを分化誘導し、またこのDCはTh1分化も抑制していることを明らかにしている。さらに、Am80と分化させたDC(Am-DCs)をCFSE希釈したナイーブT細胞と共培養し、抗原提示能を確認した。その結果、Am-DCsは、Am80を添加していないコントロールのDC(cDCs)と同等の分化誘導能を有しており、分化誘導能低下によるTh1誘導抑制ではないことを示した。また、Am-DCはTh1誘導を抑制する事を細胞内染色で既に確認しているが、Am-DCで分化誘導した後のT細胞を回収し、そのサイトカインについても検討したところ、IFN-γの産生が有意に低下していた。またこの時Am-DCs、cDCsともに制御性T細胞への分化は限定的であった。細胞の生存率においても検討を行ったが、DC分化での生存率にcDC、Am-DCの間で差はなかった。さらに、RARα/βのpan-antagonistを用いて、それらをT細胞分化誘導の際に添加し、受容体を阻害することで、Am-DCsそのものがTh1誘導に影響を与えていることを示し、分化誘導能に関する裏付けの検討を詳細に行った。以上のように、DC分化におけるレチノイン酸(Am80)の効果を確かなものとする詳細な検討を行い、Am80が炎症性腸疾患、特にTh1疾患とされるクローン病に対する新たな治療の一助となりうる可能性が示唆された。本研究計画は、炎症性腸疾患における樹状細胞分化や腸管におけるビタミンA代謝機構および腸管におけるビタミンAの重要性を明らかにする事を目的としている。これまでに合成RARα/βアゴニストであるAm80の健常人に対する樹状細胞(dendritic cell ; DC)分化に対する影響を検討してきており、レチノイン酸がDCの分化過程に影響を与えることでIL-12低産生型DCを分化誘導し、またこのDCはTh1分化も抑制していることを明らかにしている。さらなる追及のため、Am80と分化させたDC(Am-DCs)をCFSE希釈したナイーブT細胞と共培養し、抗原提示能を確認した。その結果、Am-DCsは、コントロールのDC(cDCs)と同等の分化誘導能を有していた。Am-DCはTh1誘導を抑制する事を細胞内染色で既に確認しているが、Am-DCで分化誘導した後のT細胞を回収し、そのサイトカインにおいてもIFN-_Yの産生が低下していた。またAm-DCs、cDCsともに制御性T細胞への分化は限定的であった。細胞の生存率においても検討を行ったたが、DC分化での生存率にcDC、Am-DCで差はなかった。さらに、RARα/βのpan-antagonistを用いて、MLRの際での阻害実験等も行い、分化誘導能に関する裏付けを詳細に行った。以上のように、DC分化におけるレチノイン酸(Am80)の効果を確かなものとする検討を行った。本研究計画は、炎症性腸疾患における樹状細胞分化や腸管におけるビタミンA代謝機構および腸管におけるビタミンAの重要性を明らかにする事を目的としている。これまでに合成レチノイン酸であるAm80の健常人に対する樹状細胞(dendritic cell ; DC)分化に対する影響を検討してきており、レチノイン酸がDCの分化過程に影響を与えることでIL-12低産生型DCを分化誘導し、またこのDCはTh1分化も抑制していることを明らかにしている。さらに、本年度はAm80と分化させたDC(Am-DCs)をCFSE希釈したナイーブT細胞と共培養し、抗原提示能を詳細に確認した。その結果、Am-DCsは、コントロールのDC(cDCs)と同等の分化誘導能を有していた。Am-DCはTh1誘導を抑制する事を細胞内染色で既に確認しているが、Am-DCで分化誘導した後のT細胞を回収し、そのサイトカインにおいてもIFN-γの産生が低下していた。またAm-DCs、cDCsともに制御性T細胞への分化は限定的であった。細胞の生存率においても検討を行ったたが、DC分化での生存率にcDC、Am-DCで差はなかった。さらに、RARα/βのpan-antagonistを用いて、MLRの際での阻害実験等も行い、分化誘導能に関する検討を詳細に行った。また、炎症性腸疾患患者の腸管におけるビタミンA代謝の検討をするための条件検討を詳細に行った。以上のように、本年度はDC分化におけるレチノイン酸(Am80)の効果を確かなものとする検討を行い、さらに患者の腸管における検討をするための基礎検討を行った。本研究は、クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患における樹状細胞分化や腸管におけるビタミンA代謝機構および腸管におけるビタミンAの重要性を明らかにする事を目的としている。本研究ではこれまでに合成レチノイン酸であるAm80の健常人に対する樹状細胞(dendriticcell;DC)分化に対する影響を検討してきており、レチノイン酸がDCの分化過程に影響を与えることでIL-12低産生型DCを分化誘導し、またこのDCはTh1分化も抑制していることを明らかにしている。 | KAKENHI-PROJECT-09J06042 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09J06042 |
レチノイン酸受容体の樹状細胞分化への影響と腸管におけるビタミンA代謝機構の解明 | さらに、Am80と分化させたDC(Am-DCs)をCFSE希釈したナイーブT細胞と共培養し、抗原提示能を確認した。その結果、Am-DCsは、Am80を添加していないコントロールのDC(cDCs)と同等の分化誘導能を有しており、分化誘導能低下によるTh1誘導抑制ではないことを示した。また、Am-DCはTh1誘導を抑制する事を細胞内染色で既に確認しているが、Am-DCで分化誘導した後のT細胞を回収し、そのサイトカインについても検討したところ、IFN-γの産生が有意に低下していた。またこの時Am-DCs、cDCsともに制御性T細胞への分化は限定的であった。細胞の生存率においても検討を行ったが、DC分化での生存率にcDC、Am-DCの間で差はなかった。さらに、RARα/βのpan-antagonistを用いて、それらをT細胞分化誘導の際に添加し、受容体を阻害することで、Am-DCsそのものがTh1誘導に影響を与えていることを示し、分化誘導能に関する裏付けの検討を詳細に行った。以上のように、DC分化におけるレチノイン酸(Am80)の効果を確かなものとする詳細な検討を行い、Am80が炎症性腸疾患、特にTh1疾患とされるクローン病に対する新たな治療の一助となりうる可能性が示唆された。 | KAKENHI-PROJECT-09J06042 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09J06042 |
X線分光による超新星残骸のエネルギー非平衡と宇宙線加速の研究 | 本年度は、主にX線天文衛星Suzakuを用いた超新星残骸の観測およびそのデータ解析に専念した。まず超新星残骸SN1006の南東部(熱的放射が最も強い領域)からは極めて電離度の低い鉄からのK殻輝線を世界で初めて検出した。さらに全X線帯域のスペクトル解析によって、超新星爆発時に生成された多量の鉄が残骸の中心付近に局在するため、逆行衝撃波による加熱が他の生成元素に比べて遥かに遅れている証拠をつかんだ。これらの結果は査読論文として受理され、また博士論文の主軸にもなった。また、超新星残骸RCW86北東領域のデータ解析においては、鉄のK殻輝線放射の空間分布を初めて明らかにし、その放射起源が極めて近い過去に逆行衝撃波によって加熱されたイジェクタ(爆発噴出物)であることを明確に示した。イジェクタのX線放射強度分布とプラズマ年齢は、RCW86周辺の星間物質の密度が極端な非一様性を持つため、逆行衝撃波の進化が場所によって大きくことなることを示唆する。これらの内容についても既に査読論文として受理され、学会誌に掲載されている。この他に、Tycho,EO509-67.5,N103Bなど、様々な超新星残骸からの熱的X線のスペクトル解析を行い、それらの結果を博士論文にまとめた。一般に若いIa型の超新星残骸では、未加熱のためX線を放射できない鉄が残骸の中心付近に多量に残存することや、1keV以上の連続スペクトルがほとんど非熱的起源である可能性が高いことなどを示した。平成17年7月に、日本で5番目となるX線天文衛星「すざく」の打ち上げに成功した。私は、「すざく」に搭載されるX線CCDカメラ「XIS」の開発に取り組み、打ち上げまでの期間は主にその地上較正試験を、そして打ち上げ後はその機上較正試験を担当してきた。具体的には地上試験のデータや既知の天体の観測データをもとに検出効率やゲイン、応答関数を正確に評価し、観測スペクトルから得られる情報の精度を向上させてきた。また、打ち上げ前から「すざく」の特徴と謳われてきたバックグラウンドの低さ、安定性を実証し、バックグラウンドレベルを極限まで低く抑える解析法を決定する作業を行ってきた。これらの較正試験の結果は、今後「すざく」のデータ解析に携わる方々にとって非常に有用なものとなる。これに平衡して、「すざく」XISの観測によって得られたデータの解析も行ってきた。「すざく」の優れたエネルギー分解能と検出効率を利用し、超新星残骸SN1006から高温プラズマと非熱的粒子の空間的な切り分けに成功、それぞれの成分のマッピングを行い、両者の分布が異なることを実証した。この結果は、熱的成分の温度や密度、平衡度、そして粒子加速の効率などが超新星残骸中での場所ごとに大きく異なることを示唆する。現在これら場所ごとの物理状態を定量化する作業を行っており、平成18年度中には論文にする予定である。同様の解析をSN1006以外の超新星残骸についてもおこなっており、私の研究課題でもある、「超新星残骸のエネルギー非平衡と宇宙線加速」の普遍的な理解を追及している。18年度の前期は、主にX線天文衛星Suzaku搭載CCDカメラXISの機上較正試験に専念した。XISは軌道上での宇宙線被曝により、その性能が刻一刻と変化する。これを常時追跡し、正確に評価することが、信頼性の高いスペクトル解析には必要不可欠である。私は、XISに備え付けられた55Feのキャリブレーション用線源や、スペクトルがよく理解されている較正用天体のデータをもとに、観測時期に応じた応答関数作成用データベースを作成した。このデータベースは世界中の研究者に配布され、利用されている。その他にも、検出効率やエネルギーゲインの較正などに中心的な役割を果たした。後期はそれらキャリブレーション結果を利用して、超新星残骸、主にSN1006の熱的スペクトルの解析を行った。鉄からの強い輝線を初めて明確に検出し、他の元素との組成比を精度良く求めることによりSN1006がI型超新星爆発の残骸であることを確定的にした。さらにプラズマ中の陽子の温度が電子の温度の20倍程度も高い極端な熱的非平衡状態にあることや、鉄が他の元素よりも残骸の内部に多く分布したため衝撃波による加熱の開始が遅かったことなどを証明した。この結果は超新星残骸の熱的進化の理解に大きな助けとなると確信している。また、SN1006以外にも、RCW86やTeVγ線望遠鏡HESSが発見した超新星残骸候補天体などのX線観測を行い、そのデータ解析に貢献した。このうちいくつかは既に論文として受理され、他のものも近日中に投稿する予定である。本年度は、主にX線天文衛星Suzakuを用いた超新星残骸の観測およびそのデータ解析に専念した。まず超新星残骸SN1006の南東部(熱的放射が最も強い領域)からは極めて電離度の低い鉄からのK殻輝線を世界で初めて検出した。さらに全X線帯域のスペクトル解析によって、超新星爆発時に生成された多量の鉄が残骸の中心付近に局在するため、逆行衝撃波による加熱が他の生成元素に比べて遥かに遅れている証拠をつかんだ。これらの結果は査読論文として受理され、また博士論文の主軸にもなった。 | KAKENHI-PROJECT-05J52632 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05J52632 |
X線分光による超新星残骸のエネルギー非平衡と宇宙線加速の研究 | また、超新星残骸RCW86北東領域のデータ解析においては、鉄のK殻輝線放射の空間分布を初めて明らかにし、その放射起源が極めて近い過去に逆行衝撃波によって加熱されたイジェクタ(爆発噴出物)であることを明確に示した。イジェクタのX線放射強度分布とプラズマ年齢は、RCW86周辺の星間物質の密度が極端な非一様性を持つため、逆行衝撃波の進化が場所によって大きくことなることを示唆する。これらの内容についても既に査読論文として受理され、学会誌に掲載されている。この他に、Tycho,EO509-67.5,N103Bなど、様々な超新星残骸からの熱的X線のスペクトル解析を行い、それらの結果を博士論文にまとめた。一般に若いIa型の超新星残骸では、未加熱のためX線を放射できない鉄が残骸の中心付近に多量に残存することや、1keV以上の連続スペクトルがほとんど非熱的起源である可能性が高いことなどを示した。 | KAKENHI-PROJECT-05J52632 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05J52632 |
変動環境における生活史進化に関する数理的研究 | 蛹化や羽化のタイミング、繁殖の開始や、高さと光合成器官の成長のバランスなど、さまざまな生活史パターンは、環境要因(日長、温度、被陰、水分資源)から、従来の変動や近隣競争個体の挙動を予測して生物が応答する過程と考えられる。これらの要因に対する生物の応答の仕方、つまり反応基準が、自然淘汰をうける場合の進化的に安定な生活史を議論する、新しい解析方法を開発した。いままでの取り扱いでは、関数関係を仮定してそのパラメータが進化するという取り扱いをしてきたが、これは正しい解が予想できる簡単な場合にしか使えない。中間層を含むニューラルネットは任意の形の関数を近似できることが知られているので、反応基準をニューラルネットで表現し、ニューロ素子間の結線の重みを進化させる。さらに、通常の最急降下法では局所最適解がとまる困難をのりこえるために、突然変異と交叉を利用する遺伝的アルゴリズムを用いる。巌佐は、大学院生の江副とともに、この方法を、昆虫の密度依存的相変異の進化に適応した。多くの昆虫では、移動力の強いタイプと繁殖力の強いタイプの2型があり、それらの比率が生育時や母親の経験した密度によって決まる。進化すべき反応基準の形を探り、アブラムシやウンカなどでの知見と突き合わせる。武田は、多数の因子が生活史上の決定に対して影響する場合に、入出力関係から読み取る方法としてニューラルネットワークの技法、忘却付誤差逆伝播学習プログラムをさらに改良した。ことに、ある信号の入力をそのまま入れるのではなくて、高いレベルで反応する素子、低いレベルで反応する素子などを別々に準備して、それらを入力として取り扱うというニューロファジ-のネットワークを調べ、レベルによって反応の方向がことなる場合をうまつ取り扱えるようになった。また、(1)樹木の多様な成長戦略の分化、(2)季節的環境での休眠開始や羽化のタイミング、などの問題に適用してその有効性を確かめつつある。蛹化や羽化のタイミング、繁殖の開始や、高さと光合成器官の成長のバランスなど、さまざまな生活史パターンは、環境要因(日長、温度、被陰、水分資源)から、従来の変動や近隣競争個体の挙動を予測して生物が応答する過程と考えられる。これらの要因に対する生物の応答の仕方、つまり反応基準が、自然淘汰をうける場合の進化的に安定な生活史を議論する、新しい解析方法を開発した。いままでの取り扱いでは、関数関係を仮定してそのパラメータが進化するという取り扱いをしてきたが、これは正しい解が予想できる簡単な場合にしか使えない。中間層を含むニューラルネットは任意の形の関数を近似できることが知られているので、反応基準をニューラルネットで表現し、ニューロ素子間の結線の重みを進化させる。さらに、通常の最急降下法では局所最適解がとまる困難をのりこえるために、突然変異と交叉を利用する遺伝的アルゴリズムを用いる。巌佐は、大学院生の江副とともに、この方法を、昆虫の密度依存的相変異の進化に適応した。多くの昆虫では、移動力の強いタイプと繁殖力の強いタイプの2型があり、それらの比率が生育時や母親の経験した密度によって決まる。進化すべき反応基準の形を探り、アブラムシやウンカなどでの知見と突き合わせる。武田は、多数の因子が生活史上の決定に対して影響する場合に、入出力関係から読み取る方法としてニューラルネットワークの技法、忘却付誤差逆伝播学習プログラムをさらに改良した。ことに、ある信号の入力をそのまま入れるのではなくて、高いレベルで反応する素子、低いレベルで反応する素子などを別々に準備して、それらを入力として取り扱うというニューロファジ-のネットワークを調べ、レベルによって反応の方向がことなる場合をうまつ取り扱えるようになった。また、(1)樹木の多様な成長戦略の分化、(2)季節的環境での休眠開始や羽化のタイミング、などの問題に適用してその有効性を確かめつつある。 | KAKENHI-PROJECT-06640820 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06640820 |
中国浙江講唱文藝研究 ―勧善・免災の機能から考える― | 2018年度の研究実績の概要を、(1)公表した成果、(2)調査で得られ今後公表予定の成果、に分けて述べる。(1)【公表した成果】磯部は、昨年度にひきつづき、浙江の歌と語りによる藝能でありまた宗教儀礼でもある温州鼓詞の演目のひとつ「霊経大伝」について、実地調査にもとづいて分析・考察を行い、その結果を公表した。今年度はとくにこの演目の「地獄めぐり」に注目し、文献調査で得られた、歌と語りの藝能のテキストである宝巻についての知見もあわせて、女性の血の穢れによる「罪」を中心に、この藝能そしてこの演目に現れた勧善と免災のありかたを明らかにした。小南は、長年行ってきた目連救母の物語りの研究を本科研費研究によって集大成する計画をもち、昨年度にひきつづき報告書3部の第2部を作成した(2019年度前半刊行予定)。目連救母の物語りは、それを題材とする演劇、目連戯が勧善と免災を目的として、中国で広く行われてきたことからわかるように、本研究にとって重要な題材である。松家は、2018年3月、浙江の歌と語りによる藝能、金華道情の実地調査で得られた知見と文献資料にもとづき、ひとりの作家をとおしてこの藝能について考察し、その結果をまとめた。(2)【調査で得られ今後公表予定の成果】2018年度、浙江で歌と語りの藝能の実地調査を行うことは、できなかった。しかし、松家が、中国における研究協力者から、浙江の歌と語りの藝能である紹興宣巻について、多くの資料の貴重な提供を受け、また、明清史の国際学会に出席して、歴史方面の研究について新しい知見を得た。2019年度は本研究の最終年度であるので、実地調査を行うとともに、これまで行った調査の報告を作成しながら、研究をより大きな視点からまとめていきたい。2018年度は、紹興宣巻、温州鼓詞、金華道情など、浙江の歌と語りによる藝能もしくは宗教儀礼の実地調査を行うことができなかった。調査可能な期間が所属の各大学の方針や状況によって年々限られていき、研究分担者・研究協力者の予定の調整がしにくくなっている。他の研究・調査とのかねあいや健康上の問題など個別の事情もあり、他にばかり非を求める意図はないが、日本における大学の研究環境の悪化、とりわけ我々にとっては時間的な条件の悪化の影響はやはり大きいといわざるを得ない。この状況が改善されることを切に願う。研究成果の公表についても、代表者が金華道情をとりまく状況にかかわる論文を書いたものの、本研究の主題である「勧善」「免災」について成果をまとめられず、また分担者の報告の刊行が2019年度にずれこむことになったりした。上記のことを勘案し、「やや遅れている」に該当すると判断した。2019年度は本研究の最終年にあたる。まず第一に、実地調査について、年間の見とおしを立てるとともに、現地研究者・現地協力者との連絡の緊密化を図って、これを確実に実施する。また、3年間の研究のまとめとしての報告書刊行に向け、研究代表者・研究分担者・研究協力者間でもよく打ち合わせをし、文献調査およびより充実した研究成果公表を実現したい。2017年度の研究実績の概要を、(1)公表した成果、(2)実地調査で得られ今後公表予定の成果、に分けて述べる。(1)【公表した成果】小南は長年行ってきた目連救母の物語りの研究を、本科研費研究によって集大成する計画をもち、2018年度は報告書3部の第1部を刊行した。目連の物語りは、中国文化史を考えるうえで重要な民間の物語りであり、また、宗教的な行事と密接にかかわり、講唱文藝における勧善と免災についても多くを教えてくれる。磯部は、温州鼓詞「霊経大伝」の実地調査の結果をまとめ、現代中国において、禳災と招福を目的とする一大宗教行事における講唱文藝のありかたを、分析・考察した。(2)【実地調査で得られ今後公表予定の成果】2018年度は、金華・紹興・湖州において実地調査を行った。金華道情は宗教的(免災)機能をもたないが勧善の要素を含む。金華における調査では、金華道情の研究者でありまた作り手である人物にインタビューを行うことができ、口頭あるいは提供された文献によって多くの重要な情報を得た。紹興では新たに「玉釵宝巻」の宣巻を実地に見聞、この宝巻にも横死した人物が現れ、孤魂の慰撫と考えられる儀礼が行われたことから、紹興宣巻における勧善と免災の機能について確認することができた。湖州では、蚕神信仰の一大聖地である含山の蚕神廟をはじめ、多くの廟を訪ねて調査し、免災祈願をはじめとする信仰の実態について情報を収集した。本研究グループにとって4回めの科研費研究となる今回の研究の特徴は、「歴史学や思想史学における豊かで上質の先行研究を生かすことによって」「講唱文藝を、時間的さらには空間的なひろがりの中でとらえなおし、普遍性のより高いことばで説明をすることができるようにな」る(申請書「研究目的」)ことにある。個別の調査を着実に行うことはもちろん、2018年度はこのことにも留意して研究を進める。 | KAKENHI-PROJECT-17K02652 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K02652 |
中国浙江講唱文藝研究 ―勧善・免災の機能から考える― | 本研究グループは、例年、9月、11月、2-3月に、中国における実地調査を行ってきた。しかし、2017年度は、9月に研究代表者が体調をくずし、11月は研究代表者の本務校の都合で海外に出ることができず、3月の後半、ようやく中国で調査を行ったにとどまった。また、研究代表者は、研究進行上の事情により、2017年度中に本科研費の研究成果を発表することができなかった。一方、主として研究分担者により、2017年度に行った調査の報告が作成され(磯部)、また、文献調査の研究成果が報告書にまとめられた(小南)。以上の状況に鑑みて、進捗状況を「やや遅れている」とした。2018年度の研究実績の概要を、(1)公表した成果、(2)調査で得られ今後公表予定の成果、に分けて述べる。(1)【公表した成果】磯部は、昨年度にひきつづき、浙江の歌と語りによる藝能でありまた宗教儀礼でもある温州鼓詞の演目のひとつ「霊経大伝」について、実地調査にもとづいて分析・考察を行い、その結果を公表した。今年度はとくにこの演目の「地獄めぐり」に注目し、文献調査で得られた、歌と語りの藝能のテキストである宝巻についての知見もあわせて、女性の血の穢れによる「罪」を中心に、この藝能そしてこの演目に現れた勧善と免災のありかたを明らかにした。小南は、長年行ってきた目連救母の物語りの研究を本科研費研究によって集大成する計画をもち、昨年度にひきつづき報告書3部の第2部を作成した(2019年度前半刊行予定)。目連救母の物語りは、それを題材とする演劇、目連戯が勧善と免災を目的として、中国で広く行われてきたことからわかるように、本研究にとって重要な題材である。松家は、2018年3月、浙江の歌と語りによる藝能、金華道情の実地調査で得られた知見と文献資料にもとづき、ひとりの作家をとおしてこの藝能について考察し、その結果をまとめた。(2)【調査で得られ今後公表予定の成果】2018年度、浙江で歌と語りの藝能の実地調査を行うことは、できなかった。しかし、松家が、中国における研究協力者から、浙江の歌と語りの藝能である紹興宣巻について、多くの資料の貴重な提供を受け、また、明清史の国際学会に出席して、歴史方面の研究について新しい知見を得た。2019年度は本研究の最終年度であるので、実地調査を行うとともに、これまで行った調査の報告を作成しながら、研究をより大きな視点からまとめていきたい。2018年度は、紹興宣巻、温州鼓詞、金華道情など、浙江の歌と語りによる藝能もしくは宗教儀礼の実地調査を行うことができなかった。調査可能な期間が所属の各大学の方針や状況によって年々限られていき、研究分担者・研究協力者の予定の調整がしにくくなっている。他の研究・調査とのかねあいや健康上の問題など個別の事情もあり、他にばかり非を求める意図はないが、日本における大学の研究環境の悪化、とりわけ我々にとっては時間的な条件の悪化の影響はやはり大きいといわざるを得ない。この状況が改善されることを切に願う。研究成果の公表についても、代表者が金華道情をとりまく状況にかかわる論文を書いたものの、本研究の主題である「勧善」「免災」について成果をまとめられず、また分担者の報告の刊行が2019年度にずれこむことになったりした。上記のことを勘案し、「やや遅れている」に該当すると判断した。本研究は、大きく、実地調査と文献調査に分かれるので、そのそれぞれと、両者の総合について記す。1実地調査本研究は研究課題名に記すとおり浙江省を主要な調査対象とし、これまで、1紹興、2金華、3温州の3地点で実地調査を行ってきた。研究の推進のためには、まずこれらの地点に赴いて調査調査を重ねることが必要である。 | KAKENHI-PROJECT-17K02652 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K02652 |
情報科学・情報数学からの知見を活用した新しい算数教育の構築と実践に関する研究 | 本年度においても、子どもが身近な事象をいかに捉えるか,また捉えたことをいかに分析し数学的な見方・考え方をとおして,その数理に迫ることができるかについて研究した.,その際,先行研究で得られた中・高校生,短大・大学の学生たちの持つ算数・数学の「負のイメージ」や生活感を伴わない「問題がとけたらうれしい」などの「正のイメージ」だけではなく,算数の学習においては「身の回りの事象をいかに捉え,論理的に分析し,解決方法を構築するかといった方法を学ぶものである」といった生きる力となる「プラスのイメージ」を持たせることのできる教育コースウェアの開発を目指した.その一環として「デッドロック=行き詰まり現象の数理」の構造についてや,「時間逆行の数理」や「アルゴリズムと算数教育」などの情報科学の知見から得られた各種の課題を子どもたちがどのように捉え,学び,そして数理的な分析を加えるかということについて,子どもたちの生活観からくる認知の様子を主に考察した結果,子どもは相対立する論理構造をどのように捉えるのか,自分と他者を意識した捉え方ができるのか,また子どもの生活環境との関わりが見えてくるのかを明らかにしようとした.さらにコンピュータを有効なツールとして活用することと共に,各自の考えを「ビジュアル(視覚的)」に表現させた.情報科学・情報数学の知見を活かした課題を中心として,子どもの持つ世界観を大切にしつつ算数の有効性や算数に対する興味・関心・意欲を生みだし,ひとりひとりが課題を粘り強く考え自主的に解決する力や,思考力・表現力・創造力・実践力を育成できる新しい算数・数学教育構築の一端を担えるよう試案をたてて研究と実践をおこなった.本研究は子どもたちがすでに獲得している知識・技能の分析を先行させる必要があることから,まず児童の興味・関心を調査した。その際,教育内容(題材)は従来とは逆に情報科学(コンピュータ科学)・情報数学から得られた知見を活かして,オペレーディングシステムにおける「デッドロック=行き詰まり現象」をとりあげた。そして,児童のなかの「この問題に対する捉え方」を考察し,「潜在的な数理」として,「デッドロックの数理」をいかに認知しているかという構造を明らかにしようとした。そこで第一段階として,この題材に対する子どもたちから得られた調査回答を分析し,カテゴリー分析をおこない,以下の6つのカテゴリー(a型学習に関することb型自分を中心としてc型友人とのかかわりでd型学校に関することe型塾に関することf型社会に関すること)にわけることが妥当であること,さらにこの関心別のカテゴリー分割が,各カテゴリー項目間の比較分析に有効であることのみならず,学年間を比較対照することにより,児童の「年齢における認知構造の差異」を明確にできること(f型の出現比率が小6で約40%もあることに対して小5では約5%程度しか出現しないことから社会への関心に大きな年齢差があること。またこれらの結果は教育コースウェアに反映しなければならないこと)を明らかにした。また,デッドロックの現象を「何と何がぶつかりあうのかという構造」から以下の3つのタイプ(I型1つのことが単に行き詰まるII型2つのことが対立して動きがとれなくなるIII型ぐるぐる循環して終わりがない)に類別し,先のカテゴリーと連携させ,構造分析・比較対照をおこない,マスとしての学年間の比較と,通常の算数・数学の学習ではみられない「個としての児童の背景(子どもの内面や生活体験)」も促えることが可能な教育コースウェアであることを明らかにした。次年度は研究実施計画に従い,研究を展開する。本年度においても、子どもが身近な事象をいかに捉えるか,また捉えたことをいかに分析し数学的な見方・考え方をとおして,その数理に迫ることができるかについて研究した.,その際,先行研究で得られた中・高校生,短大・大学の学生たちの持つ算数・数学の「負のイメージ」や生活感を伴わない「問題がとけたらうれしい」などの「正のイメージ」だけではなく,算数の学習においては「身の回りの事象をいかに捉え,論理的に分析し,解決方法を構築するかといった方法を学ぶものである」といった生きる力となる「プラスのイメージ」を持たせることのできる教育コースウェアの開発を目指した.その一環として「デッドロック=行き詰まり現象の数理」の構造についてや,「時間逆行の数理」や「アルゴリズムと算数教育」などの情報科学の知見から得られた各種の課題を子どもたちがどのように捉え,学び,そして数理的な分析を加えるかということについて,子どもたちの生活観からくる認知の様子を主に考察した結果,子どもは相対立する論理構造をどのように捉えるのか,自分と他者を意識した捉え方ができるのか,また子どもの生活環境との関わりが見えてくるのかを明らかにしようとした.さらにコンピュータを有効なツールとして活用することと共に,各自の考えを「ビジュアル(視覚的)」に表現させた.情報科学・情報数学の知見を活かした課題を中心として,子どもの持つ世界観を大切にしつつ算数の有効性や算数に対する興味・関心・意欲を生みだし,ひとりひとりが課題を粘り強く考え自主的に解決する力や,思考力・表現力・創造力・実践力を育成できる新しい算数・数学教育構築の一端を担えるよう試案をたてて研究と実践をおこなった. | KAKENHI-PROJECT-09680292 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09680292 |
黒潮再循環変動特性の解明と大気大循環場への影響理解 | 観測資料(Argoフロートによる水温・塩分観測資料,人工衛星観測海面水温資料・海面高度計資料,大気再解析資料等)解析を行うことで,黒潮再循環域の海洋構造(水温・塩分)の時間変動特性を調べた.その結果,水温の決定には,黒潮蛇行期に現れる四国沖の再循環流(高気圧性循環流)による熱輸送が重要な役割を果たすことがわかった.そして,形成された水温偏差が,直上大気場への熱放出源になることを指摘した.また,再循環域の塩分は,暖候期の降水量を反映しており,この降水量は再循環域上を通過する温帯低気圧によると結論づけた.日本南方を流れる黒潮は,2種類の流路形態(蛇行・直進流路)を取る.そこで,本年度は,Argoフロートによる観測資料(水温・塩分)を使用することで,黒潮の流路形態が,黒潮再循環域の海洋構造決定に果たす役割解明を目指した.まず,海洋循環系を調べた結果,黒潮蛇行に伴い四国沖に局地的な直径500km程度の再循環が分布することがわかった.そして,冬の間に,この再循環域で高水温(19度以上)の暖水塊が形成されることを発見した.そして,水塊特性を調べた結果,この暖水塊は一様な水温で特徴づけられることがわかった.さらに,この暖水塊の季節変化を調べた結果,春から夏までは亜表層(150m深度近辺)に存在するが,秋以降にその特性を失うことがわかった.この消失要因として,暖水塊上部での鉛直密度混合の影響を指摘するに至った.黒潮再循環域海洋構造の更なる理解を得るためには,水温だけではなく,塩分の知見も必要不可欠である.そこで,Argoフロートを使用することで,再循環域の亜熱帯モード水の塩分変動を調べた.その結果,2009年・2010年の塩分が極めて低いことがわかった(34.7 psu以下).そこで,気象庁作成の大気再解析資料を用い,この低塩化要因を調べた結果,暖候期の過剰降水が主因であることがわかった.そして,この降水は,亜熱帯高気圧の南東縮退に伴う低気圧経路の変化によることを明らかにした.また,本課題が着目した黒潮再循環系の東部境界域では,亜熱帯海面水温前線が位置している.この変動特性を理解するために,気象庁気象研究所提供の歴史実験資料を使用した.その結果,前線強度は約20年周期で変動しており,これは低渦位水(モード水)分布に伴う海洋構造変化によることがわかった.一連の成果は,国内・国外で開催された学会で発表され,1編が国際学術誌に掲載され,2編が投稿・改訂中である.過去2年間の活動により,黒潮蛇行期に出現する四国沖再循環(直径約500km)内に,水温19度以上で特徴づけられる暖水塊(以下,四国沖暖水塊;約100mの層厚)が分布することがわかった.そこで,本年度は,この四国沖暖水塊の形成機構解明を目指した.まず,四国沖周辺のArgoフロート・船舶観測資料を収集し,暖水塊の時間変化を調べた.その結果,四国沖暖水塊は,冬季混合層内で形成されることがわかった.そこで,冬季混合層水温形成機構を調べた.まず,大気再解析資料を用い,北西季節風に伴う大気冷却の影響を検証した.相関解析等の統計手法を適用した結果,大気強制にはよらないことがわかった.そこで,船舶観測資料を用い,再循環流に伴う水平熱移流の影響に着目した.その結果,熱移流が冬季混合層水温の決定に寄与していることがわかった.さらに,簡単な数値実験を行った結果,再循環流変動に伴う海面水温分布が,直上大気への熱放出源になっていることがわかった.すなわち,これは,黒潮流路(蛇行・非蛇行)に伴う海洋構造変化が本州南方での気温鉛直構造に影響を及ぼすことを示唆した結果である.加えて,冬季再循環内の塩分変動の理解を目指した.資料解析の結果,塩分は,海流ではなく降水により決定されることがわかった.特に,暖候期の降水量が極めて重要であり,これは該当海域上を通過する温帯低気圧の数で説明されると指摘した.本結果は,日本周辺の気候メカニズム解明に資するものであり,上記内容は国際学術誌に掲載された(2編).また,上記手法を南半球に応用・展開した.その結果,南半球でも,再循環流により形成された海面水温偏差が,直上大気場への熱放出の要因であることがわかった.本研究は,先行研究がほとんど存在しない中で行われたものであり,得られた知見は南半球の大気海洋系の理解に資するものである.本成果は,国外で開催された学会で発表した.観測資料(Argoフロートによる水温・塩分観測資料,人工衛星観測海面水温資料・海面高度計資料,大気再解析資料等)解析を行うことで,黒潮再循環域の海洋構造(水温・塩分)の時間変動特性を調べた.その結果,水温の決定には,黒潮蛇行期に現れる四国沖の再循環流(高気圧性循環流)による熱輸送が重要な役割を果たすことがわかった.そして,形成された水温偏差が,直上大気場への熱放出源になることを指摘した. | KAKENHI-PROJECT-23740348 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23740348 |
黒潮再循環変動特性の解明と大気大循環場への影響理解 | また,再循環域の塩分は,暖候期の降水量を反映しており,この降水量は再循環域上を通過する温帯低気圧によると結論づけた.本年度は,近年整備されてきた人工衛星観測資料(海面高度計データ)を活用することで,黒潮再循環強度の時間変動特性解明を目指した.海面高度の時間・空間変動特性を調べた結果,再循環はその分布特性で2種類に大別されることがわかった.すなわち,黒潮南方で形成される再循環と,黒潮続流南方に位置する再循環である.海面高度の領域積分値で,その再循環強度を定義した.その結果,いずれの再循環からも,約10年の長周期変動成分が同定された.そこで,両者の変動を比較した結果,位相の一致は見られず,無相関の関係にあった.続いて,この変動要因を調べた結果,アリューシャン低気圧南北位置変動に伴い励起された海洋ロスビー波が主因であることがわかった.この海洋ロスビー波の伝播速度には,緯度依存性が知られている.すなわち,ロスビー波到達時間の差が,2つの再循環強度の位相差を生み出したと結論づけた.本研究で得られた成果は,10月に米国で開催された国際会議で発表され,現在,国際学術雑誌への投稿準備中である.上記研究を遂行する中で,再循環北部に位置する黒潮および黒潮続流の流路の理解が必要であると考えた.そこで,人工衛星による海面高度計データを用いた結果,両流路形態に明確な関係性があることがわかった.すなわち,黒潮が非大蛇行離岸流路をとる時期に,その下流の黒潮続流が不安定流路形態をとなっていた.上記関係は,流路方程式等の理論の観点からも,妥当な結論であることがわかった.また,黒潮続流の不安定流路期には,多くの中規模渦(直径200km程度)が生成されていた.この渦の影響を調べた結果,周囲の海面水温の決定要因であることがわかった.これらの一連の研究成果は,2編の論文としてまとめ,既に国際学術雑誌に掲載されている.本年度の目的は,観測資料解析を遂行し,黒潮再循環域の海洋内部構造の理解を得ることであった.そこで,日本南方での黒潮の流路に注目した結果,黒潮蛇行期に四国沖に暖水塊が形成されることを見出し,その季節変化特性を示すことに成功した.本研究が得た四国沖暖水塊に係る知見は,黒潮再循環域の海洋構造の理解に資するものである.また,一連の結果は,現存の海洋大循環モデル実験の再現性向上に貢献する成果である.現在,得られた研究結果を論文としてまとめ,国際学術雑誌へ投稿している段階である.さらに,本課題を遂行する中で,黒潮再循環域の海洋構造決定に際し,水温だけではなく塩分も重要であると着想するに至り,その時空間変化を調べるに至った.その結果,2009年・2010年の異常低塩化を発見することに成功した.そして,その主因が,外洋での過剰降水であることを明らかにした.当研究は,本研究課題の発展型研究であり,現在,得られた成果を国際学術誌に投稿中である.以上より,本年度は,「当初の計画以上」に進展したものと判断するに至る.本年度の主目的は,衛星海面高度計データを用いて黒潮再循環強度の時間変動特性を調べ,その要因として,アリューシャン低気圧起源の海洋ロスビー波の役割を調べることであった.この目的は達成され,現在,国際学術雑誌への投稿を準備している段階である.また,本研究課題を遂行する中で,黒潮/黒潮続流の「流路形態」の理解の重要性を認識した.そこで,衛星海面高度計データを活用することで,黒潮と黒潮続流流路間の明瞭な関係を提示するにいたった.すなわち,黒潮が非大蛇行離岸流路を取る時期に,黒潮続流は不安定な流路形態をとることがわかった.そして,黒潮続流不安定流路期には,黒潮続流から切離した中規模渦(直径200km程度)が存在・分布することがわかった. | KAKENHI-PROJECT-23740348 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23740348 |
記憶痕跡細胞集団の分子・活動特性の解明 | 研究代表者らが開発した遺伝子改変マウスを用いた最近の研究により、学習時に活動した脳内の一部の神経細胞集団(神経アンサンブル)の活動が記憶の実体であることが実証されつつある。このいわゆる「記憶痕跡細胞」の活動操作による記憶の操作実験が脚光を浴びる一方で、肝心の記憶痕跡細胞がどのような仕組みで選ばれ、また周囲の他の細胞と較べて何が異なるのかという「記憶痕跡細胞の基本的な性質」に関してはほとんど理解が進んでいない。そこで本研究では、独自の遺伝子改変マウスを軸に、in vivo脳内活動イメージング、光活動操作、行動解析、数理解析、プロテオミクス解析を組み合わせた融合的研究により、「記憶痕跡(候補)細胞」と「周囲のそれ以外の細胞」をそれぞれ区別した解析を行い、活動と分子の二つのレベルでの特性を明らかにする。平成30年度は、「記憶痕跡細胞集団」と「周囲の他の細胞集団」の活動状態を区別して解析し、それぞれの特徴(強度・頻度や同期性など)を明らかにするために、カルモジュリン依存性キナーゼIIアルファのプロモーターの制御下でGCaMP6fを発現するアデノ随伴ウイルスベクターをC57Bl/6Jマウスの背側海馬CA1領域に注入し発現させた。inscopix社製の超小型蛍光内視型顕微鏡を目的領域に取り付け、自由行動下のマウスのカルシウム活動のダイナミクスの計測を行った。特に、恐怖条件付け学習課題を用いた、学習、記憶消去、再学習時における解析を共同研究者と共に行った。また、記憶痕跡細胞を表敷くする遺伝学的システムの構築を行った。当初の研究計画通りに進行しているため。今後は、実験マウス検体の数を増やし、データの収集に努めると共に、得られた膨大な量のデータの解析に力を注ぐ。研究代表者らが開発した遺伝子改変マウスを用いた最近の研究により、学習時に活動した脳内の一部の神経細胞集団(神経アンサンブル)の活動が記憶の実体であることが実証されつつある。このいわゆる「記憶痕跡細胞」の活動操作による記憶の操作実験が脚光を浴びる一方で、肝心の記憶痕跡細胞がどのような仕組みで選ばれ、また周囲の他の細胞と較べて何が異なるのかという「記憶痕跡細胞の基本的な性質」に関してはほとんど理解が進んでいない。そこで本研究では、独自の遺伝子改変マウスを軸に、in vivo脳内活動イメージング、光活動操作、行動解析、数理解析、プロテオミクス解析を組み合わせた融合的研究により、「記憶痕跡(候補)細胞」と「周囲のそれ以外の細胞」をそれぞれ区別した解析を行い、活動と分子の二つのレベルでの特性を明らかにする。平成30年度は、「記憶痕跡細胞集団」と「周囲の他の細胞集団」の活動状態を区別して解析し、それぞれの特徴(強度・頻度や同期性など)を明らかにするために、カルモジュリン依存性キナーゼIIアルファのプロモーターの制御下でGCaMP6fを発現するアデノ随伴ウイルスベクターをC57Bl/6Jマウスの背側海馬CA1領域に注入し発現させた。inscopix社製の超小型蛍光内視型顕微鏡を目的領域に取り付け、自由行動下のマウスのカルシウム活動のダイナミクスの計測を行った。特に、恐怖条件付け学習課題を用いた、学習、記憶消去、再学習時における解析を共同研究者と共に行った。また、記憶痕跡細胞を表敷くする遺伝学的システムの構築を行った。当初の研究計画通りに進行しているため。今後は、実験マウス検体の数を増やし、データの収集に努めると共に、得られた膨大な量のデータの解析に力を注ぐ。 | KAKENHI-PROJECT-18H02543 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18H02543 |
擬似移動層型クロマトグラフィック固体化酵素反応器によるオリゴ糖合成 | 1.擬似移動層型クロマトグラフィックリアクターを用いたラクトスクロース製造実験グルタルアルデヒドを用いてβ-フルクトフラノシダーゼをイオン交換樹脂に固定化したものをカラムに充填し、擬似移動層型クロマト分離装置の回転ディスク側に取り付けた。この擬似移動層型クロマトグラフィック固定化酵素反応器に、ラクトースとスクロースの混合溶液を供給し、ラクトスクロース合成を行った。原料供給口から順に固定化酵素カラムを設置し、その本数が製品収率に与える影響を調べたところ、最適な本数が存在することがわかった。カラム切替周期についても最適値が存在した。これらの条件を同一にして3通りの固定化酵素カラム長で実験を行ったところ、ある長さ以上では製品収率はほぼ一定となる傾向が認められた。2.擬似移動層型クロマトグラフィックリアクターを用いたラクトスクロース製造の数値解析固定化酵素カラムを組み込んだ擬似移動層型反応器をシミュレートする数値モデルを開発し、昨年度得られた吸着平衡定数、物質移動係数、反応速度式を用いて、擬似移動層型クロマトグラフィックリアクターを用いたラクトスクロース製造の数値シミュレーションを行なった。数値シミュレーションの結果、原料濃度が低い領域での反応速度式の精度が悪いことが判明したため、シングルカラムでの反応実験を追加し、より適用範囲の広い反応速度式を求めた。改良された反応速度式を用いて擬似移動層型クロマトグラフィックリアクターの数値シミュレーションを行い、最適製造条件を探索した。固定化酵素カラム長さの影響を詳細に検討したところ、実験では収率一定と見られた領域に製品収率を最大とするカラム長が存在することがわかった。これは、分離カラムと反応カラムでの液滞留時間が等しくなる点であることが明らかとなった。1.固定化酵素カラムのみを用いた反応実験グルタルアルデヒド法により、βーフルクトフラノシダーゼをイオン交換樹脂に固定した。担持量の異なる2種類の固定化酵素を調製し、50°Cで、ラクトスクロース合成反応実験ならびに副反応であるスクロースの加水分解反応とラクトスクロースの加水分解反応の実験を行った。固定化酵素の場合でも、酵素溶液の場合と同じ反応機構が適応することがわかった。各固定化酵素試料について、反応速度式中の定数を求めた。得られた式は、実験結果を良好に再現した。また、固定化酵素の担持量が過大なときには、製品収率が低下することがわかった。2.破過応答実験による吸着等温線と総括物質移動係数の測定ラクトース、スクロース、ラクトスクロース、グルコース、フルクトースの各成分について、シングルカラムでの破過応答実験を行い、吸着等温線ならびに総括物質移動係数を決定した。本実験条件の範囲内では吸着平衡は線型であった。3.擬似移動層型クロマトグラフィックリアクターを用いたラクトスクロース製造調製した固定化酵素カラムを組み込んだ擬似移動層型クロマトグラフィックリアクターを用いて、実験を行ない、ラクトスクロースを合成することができた.製品取り出し口付近に固定化酵素カラムを配置すると、生成したラクストスクロースが加水分解し、収率が低下することがわかった。これを避けるためには、固定化酵素カラムを原料供給口付近にのみに配置すればよい。スクロース反応率を増加させていくと、製品収率も増加していくが、反応率が100%に近くなると、逆に製品収率が低下することが明らかとなった。1.擬似移動層型クロマトグラフィックリアクターを用いたラクトスクロース製造実験グルタルアルデヒドを用いてβ-フルクトフラノシダーゼをイオン交換樹脂に固定化したものをカラムに充填し、擬似移動層型クロマト分離装置の回転ディスク側に取り付けた。この擬似移動層型クロマトグラフィック固定化酵素反応器に、ラクトースとスクロースの混合溶液を供給し、ラクトスクロース合成を行った。原料供給口から順に固定化酵素カラムを設置し、その本数が製品収率に与える影響を調べたところ、最適な本数が存在することがわかった。カラム切替周期についても最適値が存在した。これらの条件を同一にして3通りの固定化酵素カラム長で実験を行ったところ、ある長さ以上では製品収率はほぼ一定となる傾向が認められた。2.擬似移動層型クロマトグラフィックリアクターを用いたラクトスクロース製造の数値解析固定化酵素カラムを組み込んだ擬似移動層型反応器をシミュレートする数値モデルを開発し、昨年度得られた吸着平衡定数、物質移動係数、反応速度式を用いて、擬似移動層型クロマトグラフィックリアクターを用いたラクトスクロース製造の数値シミュレーションを行なった。数値シミュレーションの結果、原料濃度が低い領域での反応速度式の精度が悪いことが判明したため、シングルカラムでの反応実験を追加し、より適用範囲の広い反応速度式を求めた。改良された反応速度式を用いて擬似移動層型クロマトグラフィックリアクターの数値シミュレーションを行い、最適製造条件を探索した。固定化酵素カラム長さの影響を詳細に検討したところ、実験では収率一定と見られた領域に製品収率を最大とするカラム長が存在することがわかった。これは、分離カラムと反応カラムでの液滞留時間が等しくなる点であることが明らかとなった。 | KAKENHI-PROJECT-11750665 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11750665 |
コンピュータ不安検査と情緒的リテラシー形成のための教材の開発研究-不安感の発達的な変化と不安低減教育の方略- | 本研究は,次の4点を目標とした。(1)小川ら(小川,1991;小川・浅川,1991)が作成したコンピュータ不安尺度(CAS)を用いて3つの中学を対象に調査をもい,コンピュータの利用形態の違いによる情緒的リテラシーの差を検討する。(2)同形式の調査結果から、大学生と中学生の情緒的な反応の差を検討する。(3)大学生がコンピュータに対して不安を感じる場面を検討する。(4)浅川・小川(1990)によれば,コンピュータに対する不安感はコンピュータを利用することによって低減するが,嫌悪回避の傾向についてはむしろ増加する。そこで,コンピュータに対する消極的な態度(嫌悪・回避・アレルギー)の原因となる「不合理な信念」について分析的に検討する。研究の結果から,次のことが示された。(1)中学におけるコンピュータ利用形態との関係から,基本的技術を身に付けさせるためには「道具的利用」が有効だが,ネガティブなイメージを増加させること。CAIを中心とした利用は道具的利用よりも不安の低減に有効でありネガティブなイメージを増加させることもないが,ポジティブなイメージを減少させてしまうことが明らかとなった。(2)大学生との比変較から,利用技術については中学生は大学生よりも劣る面があるものの,不安は大学生よりも低くイメージについても中学生の方が圧倒的にポジティブであることが示された。(3)大学生は,1.操作,2.メカニックなもの,3.身体への悪影響,4.他人からの評価等に不安を感じることが明らかになった。(4)今回作成した42項目の調査は,内容の再検討が必要である。意味内容の異なる信念を網羅し,かつ統一された概念枠組みの中で整理することによって,よりよい検査が作成可能である。本研究は,次の4点を目標とした。(1)小川ら(小川,1991;小川・浅川,1991)が作成したコンピュータ不安尺度(CAS)を用いて3つの中学を対象に調査をもい,コンピュータの利用形態の違いによる情緒的リテラシーの差を検討する。(2)同形式の調査結果から、大学生と中学生の情緒的な反応の差を検討する。(3)大学生がコンピュータに対して不安を感じる場面を検討する。(4)浅川・小川(1990)によれば,コンピュータに対する不安感はコンピュータを利用することによって低減するが,嫌悪回避の傾向についてはむしろ増加する。そこで,コンピュータに対する消極的な態度(嫌悪・回避・アレルギー)の原因となる「不合理な信念」について分析的に検討する。研究の結果から,次のことが示された。(1)中学におけるコンピュータ利用形態との関係から,基本的技術を身に付けさせるためには「道具的利用」が有効だが,ネガティブなイメージを増加させること。CAIを中心とした利用は道具的利用よりも不安の低減に有効でありネガティブなイメージを増加させることもないが,ポジティブなイメージを減少させてしまうことが明らかとなった。(2)大学生との比変較から,利用技術については中学生は大学生よりも劣る面があるものの,不安は大学生よりも低くイメージについても中学生の方が圧倒的にポジティブであることが示された。(3)大学生は,1.操作,2.メカニックなもの,3.身体への悪影響,4.他人からの評価等に不安を感じることが明らかになった。(4)今回作成した42項目の調査は,内容の再検討が必要である。意味内容の異なる信念を網羅し,かつ統一された概念枠組みの中で整理することによって,よりよい検査が作成可能である。 | KAKENHI-PROJECT-04211202 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04211202 |
動脈硬化症におけるプラーク形成と安定化に関わる因子と制御機構に関する研究 | 本研究では,急性冠症候群の誘発因子としての,粥状動脈硬化症に見られるプラークに着目し,その形成に係わるマクロファージの泡沫化,および安定性に係わるマトリックスタンパク質とその分解酵素(MMP)の産生機構について研究し,以下の成績を得た.1.マクロファージの泡沫化の原因となるコレステロールエステルの産生に,ホスホリパーゼA_2(PLA_2)の活性化が関与することを,酸化低密度リポタンパク質(酸化LDL)で刺激したマウス腹腔マクロファージを用いて明らかにした.また,その活性化は酵素の膜移行の促進によることを,さらにそのサブタイプがIVC型PLA_2であることを,IVA型PLA_2ノックダウン細胞,IVA型PLA_2欠損マウス由来のマクロファージ,およびIVC型PLA_2過剰発現細胞を用いて明らかにした.2.ヒト冠動脈平滑筋細胞を酸化LDLで刺激した時のMMP-1の産生機構を検索した結果,酸化LDLが血小板由来増殖因子(PDGF)受容体を介して下流のextracellular signal-regulated kinase 1/2および転写因子AP-1を活性化する機構を明らかにした.一方,ヒト単球性白血病細胞株から分化させたヒトマクロファージを酸化LDLで刺激した時のMMP-9産生にIVA型PLA_2が関与することを,IVA型PLA_2ノックダウン細胞やIVA型PLA_2欠損マウス由来マクロファージを用いて明らかにした.3.プラークの被膜成分であるフィブロネクチンの産生機構をヒトメサンギウム細胞を用いて検索した.その結果,酸化LDL刺激による産生の一部に活性酸素種と,転写因子SP-1の活性化が関与すること,さらにこの産生がIVA型PLA_2阻害剤や,IVA型PLA_2遺伝子欠損マウスから調製したメサンギウム細胞で著明に低下することを見出し,IVA型PLA_2の関与を明らかにした.本研究では,急性冠症候群の誘発因子としての,粥状動脈硬化症に見られるプラークに着目し,その形成に係わるマクロファージの泡沫化,および安定性に係わるマトリックスタンパク質とその分解酵素(MMP)の産生機構について研究し,以下の成績を得た.1.マクロファージの泡沫化の原因となるコレステロールエステルの産生に,ホスホリパーゼA_2(PLA_2)の活性化が関与することを,酸化低密度リポタンパク質(酸化LDL)で刺激したマウス腹腔マクロファージを用いて明らかにした.また,その活性化は酵素の膜移行の促進によることを,さらにそのサブタイプがIVC型PLA_2であることを,IVA型PLA_2ノックダウン細胞,IVA型PLA_2欠損マウス由来のマクロファージ,およびIVC型PLA_2過剰発現細胞を用いて明らかにした.2.ヒト冠動脈平滑筋細胞を酸化LDLで刺激した時のMMP-1の産生機構を検索した結果,酸化LDLが血小板由来増殖因子(PDGF)受容体を介して下流のextracellular signal-regulated kinase 1/2および転写因子AP-1を活性化する機構を明らかにした.一方,ヒト単球性白血病細胞株から分化させたヒトマクロファージを酸化LDLで刺激した時のMMP-9産生にIVA型PLA_2が関与することを,IVA型PLA_2ノックダウン細胞やIVA型PLA_2欠損マウス由来マクロファージを用いて明らかにした.3.プラークの被膜成分であるフィブロネクチンの産生機構をヒトメサンギウム細胞を用いて検索した.その結果,酸化LDL刺激による産生の一部に活性酸素種と,転写因子SP-1の活性化が関与すること,さらにこの産生がIVA型PLA_2阻害剤や,IVA型PLA_2遺伝子欠損マウスから調製したメサンギウム細胞で著明に低下することを見出し,IVA型PLA_2の関与を明らかにした.当該年度では,プラーク形成の原因としてのマクロファージの泡沫化機構,さらに,プラークの安定性に関わるマトリックスタンパク質の産生,およびその分解をつかさどるmatrix metalloproteinase (MMP)の産生の分子機構を検索し,以下の成績を得た.1)マウス腹腔マクロファージ,およびマクロファージ系RAW264.7細胞を用い,酸化低密度リポタンパク質(酸化LDL)の貪食に伴うコレステロールエステル産生に,細胞質型ホスホリパーゼA_2(cPLA_2)が関与する可能性を検索した.その結果,コレステロールのエステル化に必要な脂肪酸を,酸化LDLの貪食により活性化されたcPLA_2が膜リン脂質から遊離して供給することが示され,プラークの成因の一つであるマクロファージの泡沫化にcPLA_2が関与する機構が明らかになった.2)酸化LDLによるマトリックスタンパク質産生のシグナル伝達機構を解析する一つのアプローチとして,腎メサンギウム細胞におけるフィブロネクチンの産生機構を検索した.その結果,酸化LDLは転写因子のSP-1を介してフィブロネクチンを産生すること,この反応の一部に活性酸素が関与すること,さらに酸化LDL中の脂質酸化物である7-ketocholesterolがこの反応を担うことが明らかになった.3)プラークの不安定化に関与する最も重要な因子であるMMPの産生とその分子機構を,血管平滑筋細胞を酸化LDLで刺激して検索した.その結果,MMPの分子種のうち,MMP-1が著明に発現すること,その産生にextracellular signal-regulated kinase 1/2および転写因子のactivator protein-1が関与することが示された. | KAKENHI-PROJECT-15590079 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15590079 |
動脈硬化症におけるプラーク形成と安定化に関わる因子と制御機構に関する研究 | さらに詳細なシグナル伝達機構について次年度に検索する.マクロファージの酸化LDLの貧食に伴うコレステロールエステル産生に,細胞質型phospholipase A_2(cPLA_2)の寄与を明らかにしたので,その活性促進機構,および本反応に寄与する酸化LDL中の活性物質の検索を行なった.さらに,プラークの破綻に関わるmatrix metalloproteinase(MMP)の産生機構を血管平滑筋細胞を用いて詳細に検索した.以下に成績を示す.1)マウス腹腔マクロファージを酸化LDLで刺激したときのcPLA_2の活性化機構を検索したところ,酵素の活性や発現量には変化はないが,膜画分申の酵素量が著明に増大した.したがって、刺激によるcPLA_2の細胞質から膜への移行が増大し,水解活性が促進されることが判明した.2)上記1)の活性を引き起こす,酸化LDL中の活性物質を検索した.酸化LDL中に存在することが知られている脂質酸化物を種々検索した結果,13-hydroxyoctadecadienoic acid(13-HODE)がcPLA_2の水解反応を亢進させることを見出し,さらにこの亢進が,13-HODEによるcPLA_2の膜への移行の促進によることを明らかにした.動脈硬化巣の形成に関わるマクロファージの泡沫化や,プラークの安定性に関与する因子の産生に対するphospholipase A_2(PLA_2)の寄与をその分子種を含めて検討し,以下の成績を得た.1.マクロファージの酸化low-density lipoproteins(酸化LDL)の貪食に伴うコレステロールエステル(CE)産生に寄与するPLA_2の分子種を検索するため,IVA型PLA_2をノックダウンさせたマクロファージや,IVA型PLA_2遺伝子欠損マウスのマクロファージを用いて検索した.しかしこれら細胞の酸化LDLによるCE産生に影響は見られなかった.そこで,他の型であるIVC型PLA_2を強制発現させたヒト肝癌由来HepG2細胞を用いたところCE産生は増大したことから,IVC型PLA_2の関与が示唆された.2.酸化LDL刺激によるmatrixmetalloproteinase(MMP)の産生機構を検索する目的で,血管平滑筋細胞でのMMP-1産生を誘起する酸化LDL中の活性物質を検索したところ,4-hydroxynonenalがその産生を誘起することが判明した.また,マクロファージを用いて酸化LDL刺激下でのMMP-9産生の分子機構を検索した結果,IVA型PLA_2が関与することを,IVA型PLA_2ノックダウン細胞やIVA型PLA_2欠損マウス由来マクロファージを用いて明らかにした.3.プラークの被膜を形成するフィブロネクチンの,酸化LDL刺激による産生機構を腎メサンギウム細胞をモデルとして検索した.その結果,酸化LDL刺激によるその産生が,IVA型PLA2阻害剤,およびIVA型PLA_2遺伝子欠損マウスから調製したメサンギウム細胞で,その産生が著明に低下することが判明した.したがって,酸化LDL刺激によるフィブロネクチン産生にIVA型PLA_2が関与することが明らかになった. | KAKENHI-PROJECT-15590079 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15590079 |
1941~1953年の米国軍事経済における中小企業の位置 | ●研究目的第二次大戦期の戦時経済における中小企業の位置を解明することを目的として、第二次大戦期に存在した中小企業支援機関であるSWPC(Smaller War Plants Corporation;中小戦時工場公社)を分析対象とし、SWPCの創設をめぐる立法過程と運営実態を明らかにしようとした。●研究方法関西大学や国会図書館で入手した、連邦議会における委員会の公聴会記録や、SWPCの報告書を主たる資料として、それらを丹念に読み込み再構築するという研究方法を用いた。●研究成果立法過程の分析では、1941年12月の真珠湾奇襲から42年6月11日のSWPC創設法の成立までの時期を対象として、創設法案の形成と修正をめぐる審議過程を解明した。その結果、連邦政府における中小企業の政治的位置を強化するという政策志向と、戦時動員に中小企業を活用するという政策志向をもった「二重の性格」を持つ機関として、SWPCが創設されたことを明らかにした。また、運営実態の分析では、大企業利害を代表する第2代SWPC議長ジョンソンにより、中小企業が意図しない契約配分形態(大企業体制のもとに中小企業を下請再編する)をSWPCが選択することになった点、第3代SWPC議長マヴェリックの下で、SWPCが戦後の再転換問題へと業務を拡張していった点などを明らかにした。本研究は、国内では直接的な研究対象としてこれまで取り上げられてこなかった、SWPCの実態を解明した上で、SWPCを総合的に評価した点がまず重要な成果である。さらに第二次大戦期の戦時経済において、SWPCの主体的な選択を通じて、中小企業が大企業の下請けという従属的な地位を強制されたという事実を解明した点は、米国軍事経済における中小企業の位置が形成された始点を解明したという意義を持つ。●研究目的第二次大戦期の戦時経済における中小企業の位置を解明することを目的として、第二次大戦期に存在した中小企業支援機関であるSWPC(Smaller War Plants Corporation;中小戦時工場公社)を分析対象とし、SWPCの創設をめぐる立法過程と運営実態を明らかにしようとした。●研究方法関西大学や国会図書館で入手した、連邦議会における委員会の公聴会記録や、SWPCの報告書を主たる資料として、それらを丹念に読み込み再構築するという研究方法を用いた。●研究成果立法過程の分析では、1941年12月の真珠湾奇襲から42年6月11日のSWPC創設法の成立までの時期を対象として、創設法案の形成と修正をめぐる審議過程を解明した。その結果、連邦政府における中小企業の政治的位置を強化するという政策志向と、戦時動員に中小企業を活用するという政策志向をもった「二重の性格」を持つ機関として、SWPCが創設されたことを明らかにした。また、運営実態の分析では、大企業利害を代表する第2代SWPC議長ジョンソンにより、中小企業が意図しない契約配分形態(大企業体制のもとに中小企業を下請再編する)をSWPCが選択することになった点、第3代SWPC議長マヴェリックの下で、SWPCが戦後の再転換問題へと業務を拡張していった点などを明らかにした。本研究は、国内では直接的な研究対象としてこれまで取り上げられてこなかった、SWPCの実態を解明した上で、SWPCを総合的に評価した点がまず重要な成果である。さらに第二次大戦期の戦時経済において、SWPCの主体的な選択を通じて、中小企業が大企業の下請けという従属的な地位を強制されたという事実を解明した点は、米国軍事経済における中小企業の位置が形成された始点を解明したという意義を持つ。 | KAKENHI-PROJECT-23912003 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23912003 |
マルチスケールその場観察によるFe基化合物の新規な超弾性挙動の解明 | D03型規則構造を有するFe3Al、Fe3Ga化合物、さらにそれらの擬二元系化合物であるFe3(Al,Ga)では、既存の形状記憶合金とは異なり、転位や双晶の可逆運動による新規の超弾性(擬弾性)が発現することが示唆される。しかしながら、その詳細は未だ不明な点が多い。本研究では、TEM、SEM-EBSP、J-PARC中性子回折といった観察スケールの異なる解析手法をシームレスにつないだ「マルチスケールその場観察」とも呼ぶべき手法を用いて、変形中の結晶構造、結晶方位、転位の運動速度および密度等をその場計測することで、上記D03型Fe基化合物における超弾性の発現機構解明を行った。D03型規則構造を有するFe3Al、Fe3Ga化合物、さらにそれらの擬二元系化合物であるFe3(Al,Ga)では、既存の形状記憶合金とは異なり、転位や双晶の可逆運動による新規の超弾性(擬弾性)が発現することが示唆される。しかしながら、その詳細は未だ不明な点が多い。本研究では、TEM、SEM-EBSP、J-PARC中性子回折といった観察スケールの異なる解析手法をシームレスにつないだ「マルチスケールその場観察」とも呼ぶべき手法を用いて、変形中の結晶構造、結晶方位、転位の運動速度および密度等をその場計測することで、上記D03型Fe基化合物における超弾性の発現機構解明を行った。Fe_3Al、Fe_3GaといったFe基化合物の超弾性挙動について、透過型電子顕微鏡(TEMやSEM-EBSD法といったその場観察法を駆使して、調査を行った。とりわけ、本年度は、Fe_3Al単結晶ならびに多結晶の超弾性挙動をSEM-EBSD法でその場観察することに重点を置いた。その結果、Fe_3Al単結晶では、2つの異なる荷重軸方位で変形してもマルテンサイト変態や双晶変形は生じず、転位の運動のみで変形が生じ、歪量が5%以下である場合、除荷時にほぼ完全な形状回復が生じることが明らかとなった。また、多結晶試料についても同様に調査を行ったところ、結晶粒界にて転位による変形が局在化する様子が観察され、特に微細粒の試料ほどその傾向は強い。このため、微細粒試料は除荷後も歪の回復が困難であった。一方、粒径がミリメートルオーダーの粗大粒試料では、結晶粒界のごく近傍では歪回復が生じないが、それ以外の場所では十分な形状回復が生じた。この知見を活かして、再結晶集合組織を利用した組織制御を行ったところ、多結晶試料であっても巨大な歪回復を生じさせることに成功した。また、Fe_3Al単結晶中の転位運動をTEMにてその場観察したところ、逆位相境界(APB)を引きずった1/4<111>超部分転位の応力負荷時・除荷時における運動を捉えることに成功した。例えば、1/4<111>超部分転位は負荷・除荷に伴って単に往復運動しているわけではなく、除荷中に新たな転位が増殖されたり、ある転位の引きずるAPBを他の転位が消去する様子が観察された。以上のように、Fe_3Al単結晶の超弾性につながる転位運動は従来考えられていたモデルよりもより複雑であることが示唆された。平成25年度は、平成24年度に主な研究対象としたFe3Gaを除き、Fe3AlならびにFe3(Al,Ga)化合物に絞って調査を行った。具体的には、本研究課題で購入したSEM内小型引張試験機を用い、変形中の方位変化をEBSD法でその場観察することで、超弾性挙動の解明を行った。Fe3Al化合物ではD03構造特有の転位の可逆運動に由来した超弾性のみが発現し、その挙動は結晶方位に強く依存する。そこで、これまで実施例のない方位での実験データを追加した。例えば、<001>近傍の荷重軸方位でも超弾性の発現が確認されたが、完全な形状回復は生じなかった。このとき、{112}<111>すべりの活動が確認され、荷重軸が{112}すべり面と<111>すべり方向を結ぶ晶帯上を可逆的に変化する様子が確認された。このような特徴から、Fe3Alでは、転位の可逆運動に由来する超弾性が発現していることが改めて確認された。一方、Fe3AlとFe3Gaの擬二元系であるFe3(Al,Ga)では、転位運動に由来する超弾性に加え、変形双晶の形成・消滅を基調とした超弾性の発現も確認された。特に、D03相に十分規則化したx≧0.6のFe3(Al1-x,Gax)では、低温側にて2.2Tタイプ擬双晶の形成消滅に由来する超弾性の発現が確認された。さらに形状回復率は、温度の低下とともに、全変形量に対する双晶の寄与が増加することで増加した。さらに、擬双晶形成に必要な応力は、xの増加ととともに減少した。その原因について、低xではD03相中に規則ドメイン構造が存在し、変形双晶の形成を規則ドメイン境界が抑制するためと考えられる。このことは、熱処理にて規則ドメインサイズを制御した結晶を用いた実験の結果からも裏付けられている。さらに、応力-歪曲線の解析により2.2Tタイプ擬双晶のエネルギーを見積もることにも成功した。Fe3Al、Fe3GaといったFe基化合物の超弾性挙動について、各種その場観察法を駆使して、調査を行った。とりわけ、平成24年6月に、茨城県東海村にあるJ-PARCの中性子回折装置を用いて変形 | KAKENHI-PROJECT-23360308 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23360308 |
マルチスケールその場観察によるFe基化合物の新規な超弾性挙動の解明 | その場観察実験を実施した。その結果、Fe-23at%Al単結晶では、7%までの変形中もマルテンサイト変態に由来する回折ピークの出現は認められなかった。さらに、引張変形に伴う格子歪の変化は、応力-歪曲線の傾向と一致していたことから、第二相の形成は考えらない。さらに、回折線の半価幅は応力負荷・除荷に伴い可逆的に変化したが、これは転位の導入と消滅に対応している。また、検出器内の回折ピークの位置から、転位運動特有の結晶回転が生じていることがわかった。以上の知見から、Fe3Al単結晶の超弾性は、転位運動に由来することが明確となった。一方、Fe3Gaでは、組成や熱処理条件の異なる多結晶の変形その場観察実験を実施した。その結果、Fe-2325at%Gaの組成で、いずれの場合も変形中に相変態に由来すると思われるピークがわずかに観察されたが、そのピーク強度はGa濃度や試料の熱処理条件に強く依存した。例えば、溶体化処理を施したFe-23at%Ga合金では、相変態に由来する回折ピークが比較的明瞭に観察された。したがって、同組成付近では、転位運動に加え、マルテンサイト変態が超弾性に関与していると考えられる。一方、Fe3(Al0.2Ga0.8)擬二元系多結晶では、変形中の相変態は確認されなかった。以上のように、Fe3Al、Fe3(Al0.2Ga0.8)合金では、転位運動に由来する超弾性が、Fe3Gaでは転位運動とマルテサイト変態に由来する超弾性が生じていることが示唆された。さらに、その場観察以外にも実験を行い、特に、Fe3Ga多結晶の超弾性に及ぼすGa濃度、変形温度、熱処理条件に関する知見を得ている。各種その場観察法によるFe基化合物の超弾性挙動の解明が本課題の主目的であったが、当初の予定通り、TEM、SEM-EBSD法を利用したその場観察実験で、超弾性挙動に関する新規知見が得られたとともに、その知見を活かして、組織制御によりFe_3Al多結晶の超弾性特性を飛躍的に改善することに成功している。また、得られた知見を、ICOMAT2011をはじめとする国際会議で発表し、大きな反響を頂いた。25年度が最終年度であるため、記入しない。昨年度は震災の影響で実験ができなかったJ-PARCのマシンタイムをH24年6月に確保し、変形中の中性子その場回折実験を行うことができたのが大きい。この実験により、超弾性の発現モードに関する決定的な情報が得られたといえる。特に、Fe3Ga合金において、マルテンサイト型の超弾性が発現する組成ならびに熱処理条件を、今回の研究で確定させることができた。なお、得られた知見の一部は、国際的に権威のある論文誌Materials Transactionsに掲載されている。来年度以降は、震災の影響で使用不能となっていたJ-PARC(茨城県東海村)が復旧し、再び施設利用が可能となるため、その中性子回折装置を用いたその場観察実験を実施し、超弾性変形時の結晶内部の構造、方位をその場観察することで、超弾性挙動の解明に繋げる。また、Fe_3Al合金よりもより複雑な挙動を示すFe3Ga合金の超弾性についてより重点的に調査を行う予定である。25年度が最終年度であるため、記入しない。平成25年度は最終年度となるが、よりマクロな超弾性挙動を捉えるために、SEM-EBSDを用いた変形その場観察実験を中心に実施したい。Fe3Gaの擬弾性挙動については、かなり把握できたため、残りのFe3Al、Fe3(Al,Ga)合金の超弾性の調査に注力したい。 | KAKENHI-PROJECT-23360308 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23360308 |
ハイリスク妊娠症例における胎児中枢神経系機能評価の前方視的検討 | 九州大学病院産科婦人科ならびに総合周産期母子医療センターで妊娠・分娩管理をおこなう症例のうち、研究への協力の同意を文書でえられたものについてデータ採取を行った。対象症例は母体合併症症例(妊娠高血圧症候群、精神・神経疾患、羊水過多・羊水過少)、胎児異常例(胎児脳形態異常、子宮内胎児発育遅延、胎児心拍数モニター異常)である。妊娠35-38週時に超音波断層装置を用いて胎児の行動を観察し、胎児中枢神経系機能評価を行った。本評価法によって胎児脳機能障害と診断し、出生後画像診断により確定診断した症例が存在した。今後、胎児脳機能評価結果を出生後の神経学的検査結果および画像診断所見と検討し、脳機能障害の不可逆的なものと可逆的なものとを判断できる指標の検討を行っていく。このことにより、新生児の脳障害を減少させることが期待される。また、胎児脳機能評価法が臨床応用可能なものであることを検証するために、検者間、施設間の差がないことを確認していく。九州大学病院産科婦人科ならびに総合周産期母子医療センターで妊娠・分娩管理をおこなう症例のうち、研究への協力の同意を文書でえられたものについてデータ採取を行った。対象症例は母体合併症症例(妊娠高血圧症候群、精神・神経疾患、羊水過多・羊水過少)、胎児異常例(胎児脳形態異常、子宮内胎児発育遅延、胎児心拍数モニター異常)である。妊娠35-38週時に超音波断層装置を用いて胎児の行動を観察し、胎児中枢神経系機能評価を行った。本評価法によって子宮内で急性の脳機能障害と診断し、出生後画像診断により確定診断した症例が存在した。その他の症例については、今後出生後の神経学的検査を施行し、評価項目と出生後の神経学的異常に関して検討を行っていく。また、プロトコール運用の組織化のための準備として胎児中枢神経系機能評価法の説明資料をDVD等により作成した。説明資料をもとに本スクリーニングを施行する施設を増やすために資料配布を行っている。今後協力施設をふやすことで、研究の精度を高めるのみならず、プロトコール運用組織を設立する。九州大学病院産科婦人科ならびに総合周産期母子医療センターで妊娠・分娩管理をおこなう症例のうち、研究への協力の同意を文書でえられたものについてデータ採取を行った。対象症例は母体合併症症例(妊娠高血圧症候群、精神・神経疾患、羊水過多・羊水過少)、胎児異常例(胎児脳形態異常、子宮内胎児発育遅延、胎児心拍数モニター異常)である。妊娠35-38週時に超音波断層装置を用いて胎児の行動を観察し、胎児中枢神経系機能評価を行った。本評価法によって子宮内で急性の脳機能障害と診断し、出生後画像診断により確定診断した症例が存在し、出生後の神経学的検査あるいは、画像診断所見は胎児機能診断の結果と合致した。また、その他にも脳幹機能障害と診断した症例が存在した。今後出生後の神経学的検査を施行し、評価項目と出生後の神経学的異常に関して検討を行っていく。また、プロトコール運用の組織化のための準備として胎児中枢神経系機能評価法の説明資料を作成し本スクリーニングを施行する施設を増やすために資料配布を行っている。今後協力施設をふやすことで、研究の精度を高めるのみならず、プロトコールの随時改良を行って行く。九州大学病院産科婦人科ならびに総合周産期母子医療センターで妊娠・分娩管理をおこなう症例のうち、研究への協力の同意を文書でえられたものについてデータ採取を行った。対象症例は母体合併症症例(妊娠高血圧症候群、精神・神経疾患、羊水過多・羊水過少)、胎児異常例(胎児脳形態異常、子宮内胎児発育遅延、胎児心拍数モニター異常)である。妊娠35-38週時に超音波断層装置を用いて胎児の行動を観察し、胎児中枢神経系機能評価を行った。本評価法によって胎児脳機能障害と診断し、出生後画像診断により確定診断した症例が存在した。今後、胎児脳機能評価結果を出生後の神経学的検査結果および画像診断所見と検討し、脳機能障害の不可逆的なものと可逆的なものとを判断できる指標の検討を行っていく。このことにより、新生児の脳障害を減少させることが期待される。また、胎児脳機能評価法が臨床応用可能なものであることを検証するために、検者間、施設間の差がないことを確認していく。 | KAKENHI-PROJECT-19659276 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19659276 |
近似圧縮アルゴリズムによるテキストデータ処理の高速化 | 本年度は,文字分類写像の概念に基づく近似圧縮アルゴリズムについて,以下にあげる研究結果が得られた.まず,(1)テキストデータの復元不可能な情報損失について近似誤差の定式化を行ったところ,文字分類写像は,文字種数を減らすときに失われるシャノン情報量を最小にするものであることが明らかになった.このことから,文字分類写像の定式化の方法が妥当であることが明確になった.次に,(2)組合せ最適化問題として定式化した文字分類を用いる近似圧縮について,多項式時間近似アルゴリズムの設計を行う上での文字分類写像を求める問題の計算量を解析した.結果として,この問題の近似は文字照合としてとらえると可能であるが,相異なる二つの文字列の集合を混同しないという問題として考えると,多項式時間では困難な問題となることが明らかになった.さらに,(3)近似文字列照合機械として非帰還性のオートマトンを用いる方法が一般的であるが,その場合,入出力を完全に特定しなければ最小状態のオートマトンを作ることが計算量的に困難であることがわかった.また,(4)具体的な適用分野で必要とされる処理に圧縮したデータが適しているかを検証するために,遺伝子情報処理のシステムのプロトタイピングを行い,エンジニアリング・ワークステーションで計算実験をおこなった.結果として,実験対象が文字分類の概念に適したものであれば,厳密な文字列の区別においても非常に効果的であることがわかった.本年度は,文字分類写像の概念に基づく近似圧縮アルゴリズムについて,以下にあげる研究結果が得られた.まず,(1)テキストデータの復元不可能な情報損失について近似誤差の定式化を行ったところ,文字分類写像は,文字種数を減らすときに失われるシャノン情報量を最小にするものであることが明らかになった.このことから,文字分類写像の定式化の方法が妥当であることが明確になった.次に,(2)組合せ最適化問題として定式化した文字分類を用いる近似圧縮について,多項式時間近似アルゴリズムの設計を行う上での文字分類写像を求める問題の計算量を解析した.結果として,この問題の近似は文字照合としてとらえると可能であるが,相異なる二つの文字列の集合を混同しないという問題として考えると,多項式時間では困難な問題となることが明らかになった.さらに,(3)近似文字列照合機械として非帰還性のオートマトンを用いる方法が一般的であるが,その場合,入出力を完全に特定しなければ最小状態のオートマトンを作ることが計算量的に困難であることがわかった.また,(4)具体的な適用分野で必要とされる処理に圧縮したデータが適しているかを検証するために,遺伝子情報処理のシステムのプロトタイピングを行い,エンジニアリング・ワークステーションで計算実験をおこなった.結果として,実験対象が文字分類の概念に適したものであれば,厳密な文字列の区別においても非常に効果的であることがわかった. | KAKENHI-PROJECT-08780373 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08780373 |
慢性関節リウマチ患者滑膜組織のおけるサブスタンスP受容体mRNAの局在 | 慢性関節リウマチ(RA)において神経ペプチド、特にサブスタンスP(SP)は、RA罹患関節の関節液中に多量に存在し、血管拡張および血管透過性を亢進させ、滑膜細胞の増殖能や、PGE_2産生、コラゲナーゼの活性化を促進するとされている。しかしRA滑膜組織においてSPの受容体が存在するか否か、またどのような局在を示すかという点は未だ不明である。そこで本年度の研究では、ミクロオートラジオグラムによるin situ hybridization組織化学法を用い、RA患者および変形性膝関節症(OA)患者の滑膜組織におけるSP受容体遺伝子の局在と発現強度を解析した。その結果、SP受容体mRNAの陽性率はRAでは滑膜表層細胞および滑膜深層細胞で80%、血管内皮で62%であったが、リンパ濾胞ではSP受容体mRNAの発現はみられなかった。またOAにおける陽性率は滑膜表層細胞、滑膜深層細胞、血管内皮とも60%であったことよりRAの滑膜細胞では高率にSP受容体遺伝子が発現していることが明らかになった。また陽性細胞における単位面積当たりの平均銀粒子数から比較したSP受容体mRNAの発現強度は、RAの滑膜表層細胞および滑膜深層細胞で80個/100μm^2であるのに対し、RAの血管内皮、OAの滑膜表層細胞、滑膜深層細胞、血管内皮とも20個/100μm^2と有意に低かった。以上からRAの滑膜細胞ではSP受容体遺伝子が高率かつ強度に発現していることが明らかになった。これらの結果はRAにおいてSPがRAの関節炎増悪因子であるという従来の知見を裏付け、SPの主要な標的細胞が滑膜細胞であることを示すだけでなく、RAの滑膜細胞でのSP受容体の発現亢進という遺伝子発現制御機構の異常に起因する可能性が考えられた。今回の結果から亢SP受容体抗体を用いたSP受容体のブロック、およびアンチセンスプローブを用いたSP受容体遺伝子発現抑制による滑膜炎の抑制実験を行うための基礎的データーが得られた。慢性関節リウマチ(RA)において神経ペプチド、特にサブスタンスP(SP)は、RA罹患関節の関節液中に多量に存在し、血管拡張および血管透過性を亢進させ、滑膜細胞の増殖能や、PGE_2産生、コラゲナーゼの活性化を促進するとされている。しかしRA滑膜組織においてSPの受容体が存在するか否か、またどのような局在を示すかという点は未だ不明である。そこで本年度の研究では、ミクロオートラジオグラムによるin situ hybridization組織化学法を用い、RA患者および変形性膝関節症(OA)患者の滑膜組織におけるSP受容体遺伝子の局在と発現強度を解析した。その結果、SP受容体mRNAの陽性率はRAでは滑膜表層細胞および滑膜深層細胞で80%、血管内皮で62%であったが、リンパ濾胞ではSP受容体mRNAの発現はみられなかった。またOAにおける陽性率は滑膜表層細胞、滑膜深層細胞、血管内皮とも60%であったことよりRAの滑膜細胞では高率にSP受容体遺伝子が発現していることが明らかになった。また陽性細胞における単位面積当たりの平均銀粒子数から比較したSP受容体mRNAの発現強度は、RAの滑膜表層細胞および滑膜深層細胞で80個/100μm^2であるのに対し、RAの血管内皮、OAの滑膜表層細胞、滑膜深層細胞、血管内皮とも20個/100μm^2と有意に低かった。以上からRAの滑膜細胞ではSP受容体遺伝子が高率かつ強度に発現していることが明らかになった。これらの結果はRAにおいてSPがRAの関節炎増悪因子であるという従来の知見を裏付け、SPの主要な標的細胞が滑膜細胞であることを示すだけでなく、RAの滑膜細胞でのSP受容体の発現亢進という遺伝子発現制御機構の異常に起因する可能性が考えられた。今回の結果から亢SP受容体抗体を用いたSP受容体のブロック、およびアンチセンスプローブを用いたSP受容体遺伝子発現抑制による滑膜炎の抑制実験を行うための基礎的データーが得られた。 | KAKENHI-PROJECT-06771121 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06771121 |
非干渉型位相・蛍光同時3次元イメージング技術とそのバイオ応用 | 本年度は,強度輸送方程式に基づく蛍光及び位相の3次元計測を行なうシステムを構築し,蛍光ビーズを用いた原理検証実験と,神経細胞を用いたバイオ応用に適用した。強度輸送方程式に基づく蛍光イメージングでは,通常の落射型フルフィールド蛍光顕微鏡の構成を元に,可変焦点レンズによる焦点距離を変更させて3カ所で蛍光像を取得し,位相分布を求める。バイオ応用では,蛍光タンパク質が導入された細胞や細胞核の大きさが数マイクロメートルから10数マイクロメートルであるため,擬似点光源として考えることができ,伝搬後に広がった光波は空間コヒーレンスを有すると考えられる。強度画像と位相分布から複素振幅分布を再構成し,光波伝搬計算によりフォーカスの合った蛍光再生像を得ることに成功した。位相計測では,He-Neレーザー光及びLED光を用いて透過型配置により透過像を異なる奥行き位置で3枚取得した。強度輸送方程式を用いて位相分布を計測した。蛍光ビーズ及びマイクロレンズアレイを計測物体として用いて測定した。空間的な分布に不均一性が残るものの位相分布を計測することができている。得られた研究成果をまとめ学術論文を投稿する準備を整えている。また4月に国際会議で発表し,研究成果の情報発信に努める。位相計測の応用分野を開拓するために,ディジタルホログラフィによる位相計測を実施した。高速記録可能なイメージセンサを用いて,可聴域を超える周波数の音波分布の記録と再生を行なった。スピーカーを用いた実験により周波数が正しく計測可能であることと,超音波の音声データを再構成することに成功した。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。本年度は,強度輸送方程式に基づく,位相と蛍光の同時イメージングの実現に向けて,実験光学系の設計と構築を行なった。はじめに,強度輸送方程式による位相情報を求めるために,波長632.8 nmのHe-Neレーザー光を光源として用い,物体を移動させることで2つの強度分布を取得し,位相分布を算出した。測定対象として解像度チャートを用いて位相計測を行なった。その結果,位相分布形状を得ることに成功した。今後の研究課題として測定した位相分布の精度を評価する必要があるため,計測結果の比較としてオフアクシフディジタルホログラフィー計測を行う光学系を併設した。強度輸送方程式を用いて位相計測を行う系においては,新規に購入した可変焦点レンズを用いて,物体を移動させることなく,2カ所以上での強度画像を取得し,位相及び蛍光像を取得することを目指す。比較対象として用いるディジタルホログラフィー計測に関しては動的位相計測を行うために,位相変化を計測する実時間ホログラム取得と再生ソフトウェアを構築した。構築した系の応用として物体形状の変化を計測する位相計測と物体の構造変化に伴う音を光学的に計測する実験を行なった。特に,スピーカーを利用した音場計測として毎秒2,000フレームの高速イメージセンサによるホログラム情報の高速記録を行うことにより,音の周波数およびガラスをハンマーで破壊するときの構造変化及び発生音を同時記録するマルチモーダル記録を実現した。11月から研究を開始したため,実験系を構築するための設計及び光学部品の購入を行なった。強度輸送方程式を用いて解像度チャートを用いた原理検証実験として位相計測を行なった。その結果,位相分布形状を得ることに成功しているため,研究の進捗状況としてはおおむね順調としている。本年度は,強度輸送方程式に基づく蛍光及び位相の3次元計測を行なうシステムを構築し,蛍光ビーズを用いた原理検証実験と,神経細胞を用いたバイオ応用に適用した。強度輸送方程式に基づく蛍光イメージングでは,通常の落射型フルフィールド蛍光顕微鏡の構成を元に,可変焦点レンズによる焦点距離を変更させて3カ所で蛍光像を取得し,位相分布を求める。バイオ応用では,蛍光タンパク質が導入された細胞や細胞核の大きさが数マイクロメートルから10数マイクロメートルであるため,擬似点光源として考えることができ,伝搬後に広がった光波は空間コヒーレンスを有すると考えられる。強度画像と位相分布から複素振幅分布を再構成し,光波伝搬計算によりフォーカスの合った蛍光再生像を得ることに成功した。位相計測では,He-Neレーザー光及びLED光を用いて透過型配置により透過像を異なる奥行き位置で3枚取得した。強度輸送方程式を用いて位相分布を計測した。蛍光ビーズ及びマイクロレンズアレイを計測物体として用いて測定した。空間的な分布に不均一性が残るものの位相分布を計測することができている。得られた研究成果をまとめ学術論文を投稿する準備を整えている。また4月に国際会議で発表し,研究成果の情報発信に努める。位相計測の応用分野を開拓するために,ディジタルホログラフィによる位相計測を実施した。高速記録可能なイメージセンサを用いて,可聴域を超える周波数の音波分布の記録と再生を行なった。スピーカーを用いた実験により周波数が正しく計測可能であることと,超音波の音声データを再構成することに成功した。強度輸送方程式に基づく,位相及び蛍光の3次元同時イメージングを行なう光学系を構築し,レンズアレイや蛍光ビーズ,細胞を用いた実験を実施する。位相計測の検証として,併設しているディジタルホログラフィーシステムを用いる。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。 | KAKENHI-PROJECT-17F17369 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17F17369 |
地域営農システムの機能と展開方向に関する研究 | 本研究で提示した地域営農システムは、集落、旧村単位及び市町村等、一定の拡がりをもった地域で住民合意のもとで担い手を育成し、この担い手を中心にして地域農業を維持発展させる仕組みである。本研究では担い手育成のための合意形成プロセスと土地利用調整主体に関する実態調査を実施し以下のような知見を得た。1)集落を単位とした営農は「土地利用調整機能」と「担い手機能」を併せ持っており、そのどちらに重点がおかれているかによって展開方向も違ってくる。一般的に集落という狭い領域の土地利用調整にはきめ細かい気配りが必要であり、まとめにくい要素も多いが、逆にうまく合意できれは、農地の面的集積や団地的利用が一挙に実現されるというメリットがある。ただし、営農主体という側面でみれば、限られたエリアでの展開でスケールメリットを発揮することができない。2)どのような担い手に地域農業をまかせるのか、その経営規模の設定はどのくらいが適当かを決めるには、地域の土地所有者の現況と将来意向を適切に把握し、地域の営農体制のあり方、中長期の土地利用計画を町、農協、土地改良区、集落組織のパートナーシップで策定していくプロセスが大切である。本年度の調査地区では、土地改良区が担い手育成基盤整備事業や21世紀型水田農業モデルは場整備事業の換地業務と関連して6集落にまたがる受益地の集団的土地利用を実現しているケースが見られた(三重県名賀郡青山町上津地区)。3)地域営農システムを支えるのは、認定農業者等の経営体型農業者だけではなく、生活型農業者(兼業主型、高齢者・年金受給型)の層厚い存在であり、農業生産が継続することにより農業・農林地の多面的機能を維持していくためには、両者の相互信頼と連携が必要条件になっていることなどが明らかになった。4)農業・農地の多面的機能が見直されている一方でも、中山間農業地域や都市的農業地域において遊林農地や耕作放棄状態の農地の解消方策が政策課題になっている。農地所有者の耕作者としてのモラルの希薄化が最大の問題であるが、農地本来の環境維持形成的機能をそのような農家家族では維持できなくなってきていることも事実であり、集落営農システムの確立がその面からも期待されている。(青森県黒石市、千葉県千葉市、長野県長野市)本研究で提示した地域営農システムは、集落、旧村単位及び市町村等、一定の拡がりをもった地域で住民合意のもとで担い手を育成し、この担い手を中心にして地域農業を維持発展させる仕組みである。本研究では担い手育成のための合意形成プロセスと土地利用調整主体に関する実態調査を実施し以下のような知見を得た。1)集落を単位とした営農は「土地利用調整機能」と「担い手機能」を併せ持っており、そのどちらに重点がおかれているかによって展開方向も違ってくる。一般的に集落という狭い領域の土地利用調整にはきめ細かい気配りが必要であり、まとめにくい要素も多いが、逆にうまく合意できれは、農地の面的集積や団地的利用が一挙に実現されるというメリットがある。ただし、営農主体という側面でみれば、限られたエリアでの展開でスケールメリットを発揮することができない。2)どのような担い手に地域農業をまかせるのか、その経営規模の設定はどのくらいが適当かを決めるには、地域の土地所有者の現況と将来意向を適切に把握し、地域の営農体制のあり方、中長期の土地利用計画を町、農協、土地改良区、集落組織のパートナーシップで策定していくプロセスが大切である。本年度の調査地区では、土地改良区が担い手育成基盤整備事業や21世紀型水田農業モデルは場整備事業の換地業務と関連して6集落にまたがる受益地の集団的土地利用を実現しているケースが見られた(三重県名賀郡青山町上津地区)。3)地域営農システムを支えるのは、認定農業者等の経営体型農業者だけではなく、生活型農業者(兼業主型、高齢者・年金受給型)の層厚い存在であり、農業生産が継続することにより農業・農林地の多面的機能を維持していくためには、両者の相互信頼と連携が必要条件になっていることなどが明らかになった。4)農業・農地の多面的機能が見直されている一方でも、中山間農業地域や都市的農業地域において遊林農地や耕作放棄状態の農地の解消方策が政策課題になっている。農地所有者の耕作者としてのモラルの希薄化が最大の問題であるが、農地本来の環境維持形成的機能をそのような農家家族では維持できなくなってきていることも事実であり、集落営農システムの確立がその面からも期待されている。(青森県黒石市、千葉県千葉市、長野県長野市)本研究で提示した地域営農システムは、集落、旧村単位及び市町村等、一定の拡がりを持った地域で、住民合意のもとで担い手を育成し、この担い手を中心にして地域農業を維持発展させる仕組みである。本年度は、この地域営農システムの組織範囲と内部構造の違いに注目して実態調査を実施し以下のような知見を得た。第一は、一般的に集落という狭い領域の土地利用調整はきめ細かい調整が必要であり、まとめにくい要素も多いが、逆にうまく合意できれば、農地の面的集積や団地的利用が一挙に実現されるというメリットがある。ただし営農主体という側面でみれば、限られたエリアでの展開でスケールメリットを発揮することができない。したがって、集落営農体制は安定兼業農家が多く、専業的担い手の希薄なところで主としては展開している。(新潟県吉川町竹直生産組合)第二は、集落をベースにして展開する営農集団であっても、集落を越えて農地利用集積を図る場合もある。 | KAKENHI-PROJECT-09660238 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09660238 |
地域営農システムの機能と展開方向に関する研究 | この場合は広域の土地利用調整が必要であり、JA系統が営農センターを設置し、農地保有合理化法人と連携しながら作業委託や農地貸付希望農家の窓口になり広域調整を図っている。(長野県豊科町)第三は、地域営農システムは、地域の担い手をいかに育成し、成長させることができるかということが重要である。この点ではJAとして独自に「集落営農診断システム」を開発し、集落営農ごとのデーターをコンピュタ-に入力し、営農診断プログラムによる診断結果に基づいて集落営農に対する経営指導システムが確立している事例に大きな示唆を受けた。(石川県松任市)地域営農システムの目的は、集落・市町村等の一定の拡がりをもった地域における住民合意のもとで、土地利用型農業の担い手を育成し、またこの担い手を中心にして地域農業を維持・発展させる仕組みである。本年度は地域農業の担い手をどのようなプロセスで選定し、その担い手に農地利用集積を図るためにどのような手法、仕組みが選択されているのか実態調査を実施した。(1)農業の構造改善を図るためには、関係者自らが問題意識を持って個々の農業経営(生活設計)や地域農業(住みやすさの条件のあり方)の改善の方向を地域的な広がりの中で検討し、合意を形成していく仕組みが必要である。どのような担い手に地域農業をまかせるのか、その経営規模の設定はどのくらいが適当かを決めるには、地域の土地所有者の現況と将来意向を適切に把握し、地域の営農体制のあり方、中長期の土地利用計画を町、農協、土地改良区、集落組織のパートナーシップで策定していくプロセスが大切である(新潟県吉川町、上越市)(2)地域農業の担い手が確認されたら、次はその担い手育成のために農地の利用を集積し規模拡大を図ること、また作業効率をあげるために農地の集団化を図ることであるが、これをどのような仕組み、やり方で進めるかである。福島県猪苗代町では担い手育成事業と農地保有理化事業がセットで取り組まれ、町、農地保有合理法人、土地改良区が連携しながら事業地区の地域営農構想を描き、育成すべき担い手への計画的農地集積が合意されている。兼業農家群の中から土地所有意向結果等により三人のオペレーターを育成し、営農改善組合を設立し集落農業を実施するという計画である。(3)育成すべき担い手を少数の農家(営農団地)に絞り込めない地域もあった。山形県遊佐町は土地利用型農業の中核的担い手は35haの稲作に園芸、畜産をプラスした複合経営が主流で、大規模稲作経営をめざす経営体は少ない。そこで将来の営農体制も地域複合経営におかれ、この体制を支えるために水田の基幹三作業の受託作業の担い手を選定し、その担い手による農作業受託組合が集落を超えて、土地改良事業の工区単位に組織されている。また、オール兼業で担い手の特定できないところでは集落農場体制を全員でささえる構想が提起され、特定農業法人化が合意されている。(新潟県吉川町)本年度は担い手育成のための合意形成プロセスと土地利用調整主体に関する実態調査を実施し以下のような知見を得た。1)集落を単位とした営農は「土地利用調整機能」と「担い手機能」を併せ持っており、そのどちらに重点がおかれているかによって展開方向も違ってくる。 | KAKENHI-PROJECT-09660238 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09660238 |
遺伝子欠損マウスを用いた自然突然変異の制御機構の解析 | 活性酸素はDNAやその前駆体ヌクレオチド中のグアニン塩基を酸化して8-オキソグアニンをつくるが、この酸化塩基はシトシンのみならずアデニンとも対合し得るので、その結果突然変異がひき起こされる。MTH1タンパクは8-オキソdGTPを分解する酵素活性を持っており、これによって8-オキソグアニンがDNA中へ入るのが抑えられ、その結果突然変異や発がんが抑制されると考えられた。それを実証するためにMth1遺伝子を欠くマウスを作出したところ、確かに肺や肝での自然発がんの頻度が野生型マウスより有意に増加していることがわかった。Mth1^<-/->細胞株について6-チオグアニン耐性をマーカーとして自然突然変異の頻度を調べたところ、その値は野生型株の約2倍であった。細胞の突然変異率が2倍に上昇したことで生体内の各種臓器における発がんの頻度が上がることは注目に値する。我々が注目する第2の問題はMTH1タンパクが完全に欠損しても自然突然変異率がせいぜい2倍しか上昇しないという事実である。大腸菌はMth1に対応する遺伝子としてmutTを持っているが、大腸菌mutT^-ミュータントの自然突然変異率は野生型株の約1000倍に上昇することが知られている。これらの事実は哺乳動物はMth1に加えて同様な機能を持つ別の遺伝子を持っていることを示唆する。MutT/MTH1に共通する配列を指標としてcDNAライブラリーを検索した結果、それらと共通する配列を持つ遺伝子を分離することができ、それをMth2と命名した。Mth2の産物は8-オキソdGTPを分解する活性を持っており、さらにMth2遺伝子を大腸菌mutT^-株中で強制発現させるとその自然突然変異率を著しく下げることが明らかとなった。現在Mth2ノックアウトマウスを作製中であり、これが得られた時にはMth1 Mth2二重欠損マウスを作出してその自然発がん率を調べることの意義が大きい。活性酸素はDNAやその前駆体ヌクレオチド中のグアニン塩基を酸化して8-オキソグアニンをつくるが、この酸化塩基はシトシンのみならずアデニンとも対合し得るので、その結果突然変異がひき起こされる。MTH1タンパクは8-オキソdGTPを分解する酵素活性を持っており、これによって8-オキソグアニンがDNA中へ入るのが抑えられ、その結果突然変異や発がんが抑制されると考えられた。それを実証するためにMth1遺伝子を欠くマウスを作出したところ、確かに肺や肝での自然発がんの頻度が野生型マウスより有意に増加していることがわかった。Mth1^<-/->細胞株について6-チオグアニン耐性をマーカーとして自然突然変異の頻度を調べたところ、その値は野生型株の約2倍であった。細胞の突然変異率が2倍に上昇したことで生体内の各種臓器における発がんの頻度が上がることは注目に値する。我々が注目する第2の問題はMTH1タンパクが完全に欠損しても自然突然変異率がせいぜい2倍しか上昇しないという事実である。大腸菌はMth1に対応する遺伝子としてmutTを持っているが、大腸菌mutT^-ミュータントの自然突然変異率は野生型株の約1000倍に上昇することが知られている。これらの事実は哺乳動物はMth1に加えて同様な機能を持つ別の遺伝子を持っていることを示唆する。MutT/MTH1に共通する配列を指標としてcDNAライブラリーを検索した結果、それらと共通する配列を持つ遺伝子を分離することができ、それをMth2と命名した。Mth2の産物は8-オキソdGTPを分解する活性を持っており、さらにMth2遺伝子を大腸菌mutT^-株中で強制発現させるとその自然突然変異率を著しく下げることが明らかとなった。現在Mth2ノックアウトマウスを作製中であり、これが得られた時にはMth1 Mth2二重欠損マウスを作出してその自然発がん率を調べることの意義が大きい。我々は先に大腸菌モデル系を用いて、細胞内で生じる活性酸素によって遺伝子DNAが傷害をうけること、生物はそのような傷害を防ぐ機構をもつことを明かにした。そこで主役を演じる遺伝子mutTのホモログMTH1を哺乳動物より分離し、遺伝子ターゲティングの手法によるその遺伝子を欠くマウスを作製した。MTH1^<-1->マウスは外見上は正常であるが、生後1年6ヶ月で解剖して内部の臓器を調べたところ正常マウスに比し高い頻度で肝や肺に腫瘍がみられることがわかった。一方このマウスの細胞を分離してその自然突然変異頻度を調べると、その値は正常マウス由来の約2.5倍だった。しかしこの値は正常の大腸菌とmutT^-変異菌の差(約200倍)に比し著しく低いので,MTH1タンパクは確かに生体内で自然突然変異の抑制に働いてるが、この他にも同様な機能をもつ酵素が存在することを示唆した。このような酵素のcDNAを分離するため、MTH1欠損マウスよりcDNAライブラリーを作製し、それを大腸菌mutT^-株中で大量発現させることによって同様な機能をもつ遺伝子をスクリーニングした。これまでに異なるDNAをもついくつかのクローンを分離することができたので、これらのクローン中のcDNAの解析を行っている。高等生物はさらにDNAに障害をもつ細胞をアポトーシスによって積極的に排除するメカニズムをもっていると考えられるので、MTH1MLH1二重欠損マウスを作製して検討を行っている。 | KAKENHI-PROJECT-11440222 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11440222 |
遺伝子欠損マウスを用いた自然突然変異の制御機構の解析 | 活性酸素が生物の老化や発がんに関わる可能性についてはこれまでも指摘されてきたが、本研究では活性酸素によるDNA障害を防ぐ酵素系に異常をもつマウスを用いてその遺伝子欠損が自然突然変異や自然発がん、さらに老化にいかなる影響を与えるか明らかにすることを目的としている。昨年度n研究で活性酵素によって生じたDNA合成前駆体dGTPの酸化型(8-oxo-dGTO)を排除する酵素を欠くマウス(MTH1-/-)を樹立することに精巧したので、そのマウスの病態を調べた。その結果このマウスは生後1年6ヵ月の耳点で、肝、肺、胃の各臓器に正常型マウスに比べて明らかに有意に多数のがんをしょう実ことが明らかになった。一方、MTH1-/-細胞について自然突然変異率を調べたところそれは野生型の約2倍であった。このことは突然変異をおこす可能性がある細胞をアポトーシスによって排除する機構があることを示唆しており、それをMTH1-/-MLH1+/-マウスおよび細胞株を用いて検討している。またMTH1タンパクと相同な配列を含むcDNAクローンをマウスおよび突然変異抑制作用を調べている。活性酸素はDNAやその前駆体ヌクレオチド中のグアニン塩基を酸化して8-オキソグアニンをつくるが、この酸化塩基はシトシンのみならずアデニンとも対合し得るので、その結果突然変異がひき起こされる。MTH1タンパクは8-オキソdGTPを分解する酵素活性を持っており、これによって8-オキソグアニンがDNA中へ入るのが抑えられ、その結果突然変異や発がんが抑制されると考えられた。それを実証するためにMth1遺伝子を欠くマウスを作出したところ、確かに肺や肝での自然発がんの頻度が野生型マウスより有意に増加していることがわかった。Mth1^<-/->細胞株について6-チオグアニン耐性をマーカーとして自然突然変異の頻度を調べたところ、その値は野生型株の約2倍であった。細胞の突然変異率が2倍に上昇したことで生体内の各種臓器における発がんの頻度が上がることは注目に値する。我々が注目する第2の問題はMTH1タンパクが完全に欠損しても自然突然変異率がせいぜい2倍しか上昇しないという事実である。大腸菌はMth1に対応する遺伝子としてmutTを持っているが、大腸菌加mutT^-ミュータントの自然突然変異率は野生型株の約1000倍に上昇することが知られている。これらの事実は哺乳動物はMth1に加えて同様な機能を持つ別の遺伝子を持っていることを示唆する。MutT/MTH1に共通する配列を指標としてcDNAライブラリーを検索した結果、それらと共通する配列を持っ遺伝子を分離することができ、それをMth2と命名した。Mth2の産物は8-オキソdGTPを分解する活性を持っており、さらにMth2遺伝子を大腸菌mutT^-株中で強制発現させるとその自然突然変異率を著しく下げることが明らかとなった。現在Mth2ノックアウトマウスを作製中であり、これが得られた時にはMth1 Mth2二重欠損マウスを作出してその自然発がん率を調べることの意義が大きい。 | KAKENHI-PROJECT-11440222 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11440222 |
関節リウマチの多様な病態はCaMK II deltaの機能異常でどこまで説明可能か? | 滑膜細胞と免疫担当細胞におけるCaMKII・PADIs・シトルリン化・細胞機能異常と関節リウマチ(RA)の病態の関わりを解析した。RA滑膜組織でのPADIs発現には一定の報告がない。今回の実験からは滑膜細胞(滑膜線維芽細胞)にはシトルリン化ペプチド基質はあるもPADIs発現は弱く、周囲の免疫担当細胞との相互作用でin vivoでは滑膜細胞由来の蛋白(ペプチド)がシトルリン化される可能性が考えられた。このシトルリン化されたペプチドが環状シトルリン化ペプチド抗体(抗CCP抗体)産生のソースである可能性も考えられた。免疫担当細胞として重要な制御性T細胞機能の低下はRAの病勢悪化を誘導することも示唆された。しかしながら、この事象がprimaryか(原因)?secondaryか(結果)?に関しては今後の検討が必要である。また、制御性T細胞機能とCaMKIIやPADIsの発現および活性化との関連も今後の研究課題である。臨床的には早期RAにおけるMRI骨髄浮腫と抗CCP抗体の相関を明らかとした。現状では検出が困難なシトルリン化ペプチドに関してはイムノコンプレキソーム解析の手法でアプローチを開始した。滑膜細胞と免疫担当細胞におけるCaMKII・PADIs・シトルリン化・細胞機能異常と関節リウマチ(RA)の病態の関わりを解析した。RA滑膜組織でのPADIs発現には一定の報告がない。今回の実験からは滑膜細胞(滑膜線維芽細胞)にはシトルリン化ペプチド基質はあるもPADIs発現は弱く、周囲の免疫担当細胞との相互作用でin vivoでは滑膜細胞由来の蛋白(ペプチド)がシトルリン化される可能性が考えられた。このシトルリン化されたペプチドが環状シトルリン化ペプチド抗体(抗CCP抗体)産生のソースである可能性も考えられた。免疫担当細胞として重要な制御性T細胞機能の低下はRAの病勢悪化を誘導することも示唆された。しかしながら、この事象がprimaryか(原因)?secondaryか(結果)?に関しては今後の検討が必要である。また、制御性T細胞機能とCaMKIIやPADIsの発現および活性化との関連も今後の研究課題である。臨床的には早期RAにおけるMRI骨髄浮腫と抗CCP抗体の相関を明らかとした。現状では検出が困難なシトルリン化ペプチドに関してはイムノコンプレキソーム解析の手法でアプローチを開始した。PADI4発現をRT-PCRで確認した。ヒト末梢血単核球(PBMC)、ヒト細胞株HL-60でのPADI4発現は確認されるもヒト滑膜線維芽細胞(FLS)でのPADI4発現は認めなかった。シトルリン化蛋白発現もPBMC、HL-60では陽性なるもFLSでは認めなかった。シトルリン化蛋白はヒストン分子量の部位に強く検出された。次にPBMCのCaMKII活性化と蛋白シトルリン化を検討した。CaMKII活性化阻害をchemical inhibitor、KN93で誘導しても蛋白シトルリン化の低下は検出されなかった。In vitro実験結果では有意なCaMKII-蛋白シトルリン化経路が不明確ではあるがヒストンがシトルリン化の大きなターゲット分子であると考えられた。そこで関節リウマチ(RA)患者血清とヒストンの反応性を検討した。ヒストンは非シトルリン化ヒストンとin vitroシトルリン化ヒストンを用い患者血清との反応性は抗ヒトIgG-ELISAで検出した。現在までの結果では、1.抗CCP抗体陽性早期RA患者血清のヒストンに対する反応性は抗CCP抗体陰性早期RA患者血清より高い。2.ヒストンに対する反応性は抗CCP抗体陰性早期RA患者血清と健常人血清には差はない。3.抗CCP抗体陽性早期RA患者血清の一部分はシトルリン化ヒストンに対する反応性がより高いことが分かってきた。すなわちin vitroで検出されるヒストンのシトルリン化は抗CCP抗体陽性RAでは免疫反応を誘発していると考えられた。今後はin vitroでのCaMKII-蛋白シトルリン化経路の確認実験を追加し、細胞種でのCaMKIIアイソフォーム機能とRA患者で検出される事象の関連性を追求したい。前年に引き続いてシトルリン化責任酵素のPADI2とPADI4に注目した。滑膜線維芽細胞での直接的なシトルリン化蛋白発現の評価は困難であり、PADI2およびPADI4 cDNAの遺伝子導入細胞株の確立に着手した。いずれの遺伝子導入もtransientな系では遺伝子導入可能であることは確認した。今後はstableな系を確立し、この細胞株を用いてPADI2、PADI4、蛋白シトルリン化、CaMKIIアイソフォーム発現および活性化の評価を行いたい。ヒトサンプルでは抗リウマチ治療経過でのTregサブセットおよび抗CCP抗体値の推移を検討した。TregサブセットはCD4+CD25+CD127-/low細胞に着目したが、これはこの細胞群には非常に強いFoxp-3発現を認めたからである。健常人コントロールと比較して活動性関節リウマチ(RA)末梢血のCD4+CD25+CD127-/low細胞陽性率は有意に低値で臨床的寛解達成RA群は健常人と有意差はなかった。CRP、ESR、DAS28-ESRなどRA疾患活動性の指標はCD4+CD25+CD127-/low細胞陽性率と逆相関を示し、これら細胞サブセットとRA病態との関連性が強く示唆された。抗CCP抗体価の推移を検討すると、抗体値が高値の症例ではRA画像的重症度の指標である骨髄浮腫の出現頻度が高かった。 | KAKENHI-PROJECT-20591173 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20591173 |
関節リウマチの多様な病態はCaMK II deltaの機能異常でどこまで説明可能か? | これらよりin vivoにおいてもT細胞サブセットおよび抗CCP抗体は疾患活動性と相関してダイナミックに変動すると考えられる。今後はこれらin vivoデータにもCaMKIIアイソフォーム発現を追加し、in vitro、in vivoの両面から、蛋白シトルリン化、CaMKIIアイソフォーム活性化とRA病態の関連性を解析する。シトルリン化責任酵素であるPADI2、PADI4とCaMKIIとの関連についてはPADI2とPADI4のin vitro実験系の確立について解析した。これら遺伝子導入系に加え、リコンビナントPADIs(rPADIs)(rPADI2、rPADI4)で滑膜線維芽細胞抽出蛋白のin vitroシトルリン化を誘導させることができた。このin vitro無細胞実験系を用い、関節リウマチ患者血清が如何なるシトルリン化分子を認識するか?また、CaMKII(各アイソフォーム)はこの候補分子か?を確認することが可能となった。それに加え新たな系での解析を免疫複合体の網羅的な解析:イムノコンプレキソーム解析で着手した。これは患者血清に自己抗原抗体複合物(イムノコンプレックス)が存在すればそこから抗原を同定する手法であるが、すでにいくつかの候補分子が同定された。この手法からも関節リウマチ患者血清が如何なるシトルリン化分子を認識するか?また、CaMKII(各アイソフォーム)はこの候補分子か?の課題にアプローチすることが可能となった。臨床的な局面からは抗CCP抗体と関連するMRI骨髄浮腫と抗CCP抗体価を計時的に解析した。初診時から抗CCP抗体が陽性の早期関節リウマチ患者を2年間にわたりMRI骨髄浮腫と抗CCP抗体価をフォローした場合、抗CCP抗体価が高いとMRI骨髄浮腫が検出されやすいことが明らかとなった。これはPADIs(PADI2、PADI4)↑→抗CCP抗体産生→関節傷害のプロセスを想定させる。これらサンプルを用いて上記の検討を加えると、シトルリン化およびCaMKII活性化の動的変動と関節傷害との相関が明らかとなる。 | KAKENHI-PROJECT-20591173 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20591173 |
ザンビア農村部における持続発展教育(ESD)の理念による環境教育の実践研究 | 社会や自然の持続可能性への懸念が高まる中、持続可能な開発のための教育(ESD)が、世界規模で推進されている。ESDのねらいは、持続可能な社会づくりに貢献する市民を育てることにある。この理念をもとに、ザンビア農村部の学校の協力を得て、地域に根差した環境教育プログラムの開発を試みた。その結果、授業案4件、環境に関連した地域知に関する副教材及び環境データからなるだけではなく、これらの要素を地域の生活・自然環境と関連付けて構造化した環境教育プログラムを開発した。1.研究実施に関する国内及び現地関係機関(特定非営利活動法人TICO、教育省、地方教育局及び学校等)からの連携・許可及び協力の取り付け(平成26年6月-11月):研究対象地域(中央州モンボシ地区)で活動している特定非営利活動法人TICO(本部:徳島県吉野川市)と連携に関する覚書を交わした。また、ザンビアの教育省及び同地区を管轄する地方教育局長より研究実施の許可及び承諾を得、研究対象校3校の校長より協力の了解を得た。2.試行授業案の作成及びワークショップの実施(平成25年11月2日11月10日)対象校3校の校長及び教員(計13名)を対象にワークショップを実施した。その内容は1ESDについての説明、2国内開発した水をテーマとするSocial Development Studies(以下「SDS])のモデル授業案の提示、3モデル授業案を参考とした現地教員による授業案作成である。なお授業案は、本実践研究の趣旨との関連が強い教科であるSDSを対象とした。対象校でのSDSの授業観察及び対象校2校のの井戸水の水質検査(大腸菌群を含む)を行った。3.作成したSDS授業案による授業観察及び研究代表者によるモデル授業の実施及び各校の状況把握(平成26年3月1日3月7日)11月のワークショップにおいて作成した授業案による授業実践状況の調査(聞き取り及び授業観察)、さらにモデル授業案による授業を現地児童を対象に各校教員が観察する中で3校において、それぞれ実施した。授業観察後の検討会において授業の改善点などについて協議した。またこれら一連の活動を通して、授業に一定のパターンがあることが明らかとなった。また、授業観察時に学校の状況について調査した。4.23の活動成果を踏まえ、環境教育プログラムの構成及び26年度以降の調査研究スケジュールを作成し、TICO関係者及び研究チームで協議の上成案を得た。平成26年度においては、平成26年6月、9月、11月及び平成27年2月の計4回にわたり、「調査対象校3校の教員を対象としたワークショップの実施」、「授業の提示」、「授業観察」「現地調査」を実施した。ワークショップにおいては、授業の観察方法や観察結果の分析方法などについての助言・指導を行うとともに、「水とくらし」及び「水の循環」などをテーマにした授業案の検討及び環境データ(各学校の井戸水の水質及び周辺の気温)を現地教員に還元した。授業の提示では、「水とくらし」、「水の循環」及び「温度計による気温測定法」をテーマとする授業を、調査対象校3校の教員が参観する中、児童・生徒に対して実施し、授業後検討会を実施した。授業観察では、Social Development Studies (SDS)及びIntegrated Science及び算数の授業を参観した。その結果、SDSの授業について、学校や教員によらない授業構成上の類似性が認められた。このことについては、このことについては、国内、国外での学会で口頭発表するとともに、論文としても発表した。このような調査研究による成果は、3件の水や環境の質を知るための方法をテーマとする授業案が作成されたこと、ほぼ1年間にわたる気温や水質などのデータが蓄積され、順次現地教育関係者にも周知されつつあること、ある樹木に関する地域知が、学校の教育活動を通して収集されたことである。また、調査研究の成果を踏まえつつ、本研究において開発を目指す環境教育プログラムの枠組みが作成され、成果を統合するための基盤が確立された。平成27年度には、平成27年7月、11月及び平成28年2月の計3回現地に渡航した。渡航期間は、移動も含めて計23日である。本年度は、期間の最終年度に当たるため、授業の提示、授業観察及び授業後の検討会の実施など、これまでの活動を継続するとともに、研究成果を取りまとめ、現地の地方教育局(District Education Board)の局長、調査研究協力校の校長及び教員と成果報告書を共有した。なお、共有した成果報告書の概要は、第24回南部アフリカ理科、算数/数学及び技術教育学会第24回年次大会(24th Annual Meeting of Association for Science, Mathematics and Technology Education)(Tshwane University of Technology,プレトリア市、南アフリカ共和国、2016年1月12日1月16日)において口頭発表した。7月渡航時には、「水の循環」についての授業提示を行い、さらに、生徒のノート・テイキングに注目した調査研究も同時に行った。これらの授業実践の概要及び調査研究の結果は、同行した鳴門教育大学大学院生により、修士論文として取りまとめられている。11月渡航時には、樹木の観察をテーマとする授業を提示し、提示後、本授業の構成、実施及び課題等について、調査協力校の教員と協議した。調査研究協力校の中の1校では、校庭に木を植える活動が行われており、このような学校全体の活動に、本授業が貢献できることを期待したい。2月渡航時には、これまでの調査研究の成果を取りまとめて作成した冊子により、各学校で開催したワークショップを通して校長及び教職員と共有した。 | KAKENHI-PROJECT-25350253 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25350253 |
ザンビア農村部における持続発展教育(ESD)の理念による環境教育の実践研究 | 本冊子は、調査研究に関する概要、開発した授業案及び環境教育プログラム、及び土着知とその環境教育における応用の3部構成となっている。社会や自然の持続可能性への懸念が高まる中、持続可能な開発のための教育(ESD)が、世界規模で推進されている。ESDのねらいは、持続可能な社会づくりに貢献する市民を育てることにある。この理念をもとに、ザンビア農村部の学校の協力を得て、地域に根差した環境教育プログラムの開発を試みた。その結果、授業案4件、環境に関連した地域知に関する副教材及び環境データからなるだけではなく、これらの要素を地域の生活・自然環境と関連付けて構造化した環境教育プログラムを開発した。合計4回、渡航期間合計約1か月にわたる現地調査の実施により、本研究が目的としている「持続可能な開発のための教育(ESD)」の理念に基づいた環境教育プログラムの要素となる授業プランが現地教員との協議を通して、確実に作成されつつある。現在、「水とくらし」、「水循環」など水に関する授業案が2件、算数の教科内容と融合をねらいとした「温度計の使い方」に関する授業案1件をすでに作成済みである。また、本研究を開始する前の本研究調査対象地域における予備調査の段階で作成・提案した、水及び樹木観察に関する授業プラン2件をあわせると、本研究にかかわる授業プランは5件となった。また、現地に長く伝えられてきた環境に関する地域知やほぼ年間にわたる気温及び水質の変化に関するデータも蓄積された。また、授業プランの企画・立案によって重要な基礎データとなる授業観察データも蓄積され、現地調査対象校での授業には、授業構成上の類似性があることを認め、二種の理論枠組みを活用して分析した。このようなことから、来年度における研究成果の取りまとめのための準備は順調に進んでいると判断した。環境教育国際教育開発平成27年度が本研究の最終年度となるため、平成26年度に作成した環境プログラムの枠組みにそって、最終成果物である現地の現実に根差した環境教育授業プラン及び実践事例集を作成する。また、調査研究に参加した現地関係者をも含めて、本研究に関する評価を実施する。現地で活動するTICOとの連携、教育省、地方教育局などからの研究実施許可及び調査研究対象校の協力などを取り付けることができ、研究を開始することができた。ただ、現地での研究受け入れ環境の整備に時間を要したたため、平成25年10月末まで渡航できず、研究の開始が予定より約2か月遅くなった。ザンビアの教科書の内容を精査することにより、本研究の趣旨に沿ったねらいをもつSocial Development Studies (以下「SDS」)というザンビア特有の教科を対象に環境教育プログラムを開発すること、現地教員と共同でSDSの授業案作成を開始するなど当初予定した環境教育プログラム原案の作成活動を開始することはできた。しかし、これらの授業案の実践を通した現地教員との共同作業による改訂に時間を要しているため、25年度内において環境教育プログラム原案の作成及びその現地教員への提示までには至らなかった。 | KAKENHI-PROJECT-25350253 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25350253 |
B細胞分化における1細胞転写ネットワーク解析 | 造血幹細胞は様々な系列決定過程を経て最終的にB細胞にしかなれない前駆細胞となる。この運命制御には転写因子が重要な働きをしているが、詳細は明らかでない。特に、1細胞レベルでの遺伝子発現制御機構は不明である。我々は独自に開発したB細胞分化誘導系を用いて個々の細胞の網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、1細胞レベルの遺伝子発現パターンは複数の細胞を用いて得られた結果と類似していた。また、骨髄の前駆細胞を用いた1細胞RNA発現解析結果もこれを支持していた。このことから、モデル系を用いて明らかとなった転写ネットワークは通常のB細胞分化においても重要であることが示唆された。B細胞を含むすべての血液・免疫細胞は造血幹細胞から作られる。その過程で多能性の造血幹細胞は徐々に分化能が限定されていき、最終的にB細胞にしかなれない前駆細胞に運命決定される。この運命決定は様々な転写因子やエピジェネティック因子によって制御されているが、詳細は明らかでない。特に、個々の細胞レベルの遺伝子発現調節機構は不明である。申請者らは最近B細胞への運命決定における分子機構を調べることの出来る新しい分化誘導系を開発した(Ikawa et al. Stem Cell Reports,2015)。そこで本研究ではこの培養系を用いて、経時的に個々の細胞のRNA発現解析を行い、多能前駆細胞からB細胞への運命決定を制御する転写ネットワークを1細胞レベルで明らかにすることを目的とする。本年度は研究計画に従い、多能前駆(iLS)細胞の作成、B細胞への分化誘導、経時サンプルの採取、およびDrop-seq法を用いた1細胞レベルでのRNA発現解析を行った。クラスタリング解析を行ったところ、分化誘導前のサンプルは2つのクラスターに分けられるが、分化誘導後は1つのクラスターであることが示された。また、分化誘導前には多能性を示す様々な遺伝子発現が認められたが、分化誘導後にはほとんどの細胞においてこれらの遺伝子発現は消失し、代わりにB細胞特異的遺伝子の発現が認められた。このことから、iLS細胞の分化誘導系では、B細胞分化プログラムが個々の細胞において同調的に一斉に誘導されることが明らかとなった。研究計画通り、iLS細胞のB細胞分化誘導系を用いて1細胞レベルでの遺伝子発現解析を行った。その結果、B細胞関連遺伝子プログラムが分化誘導後にほとんどの細胞において誘導されることが明らかとなった。B細胞を含むすべての血液・免疫細胞は造血幹細胞から作られる。その過程で多能性の造血幹細胞は徐々に分化能が限定されていき、最終的にB細胞にしかなれない前駆細胞に運命決定される。この運命決定は様々な転写因子やエピジェネティック因子によって制御されているが、詳細は明らかでない。特に、個々の細胞レベルの遺伝子発現調節機構は不明である。申請者らは最近B細胞への運命決定における分子機構を調べることの出来る新しい分化誘導系を開発した(Ikawa et al. Stem Cell Reports,2015)。そこで本研究ではこの培養系を用いて、経時的に個々の細胞のRNA発現解析を行い、多能前駆細胞からB細胞への運命決定を制御する転写ネットワークを1細胞レベルで明らかにすることを目的とする。本年度は研究計画に従い、マウス骨髄細胞の多能前駆細胞(LMPP)、リンパ系前駆細胞(CLP)、プロB細胞(pro-B)を用いて1細胞RNA-seq解析を行った。得られたデータをクラスタリング解析した結果、LMPP, CLP, pro-Bは完全に別々のクラスターを形成した。興味深いことに、CLPおよびpro-Bではさらに2つのクラスターに別れた。LMPPでは多能性を示す遺伝子の発現が多く見られたが、B細胞系遺伝子はほとんど発現していなかった。一方、pro-Bでは多能性を示す遺伝子発現が認められなかったが、B細胞関連遺伝子は多くの細胞で高く発現していた。このことから、通常のB細胞分化における個々の細胞の遺伝子発現パターンは人工白血球幹(iLS)細胞のB細胞分化誘導系を用いて得られた遺伝子発現パターンと類似していることが明らかとなった。従って、iLS細胞分化誘導系を用いて得られた転写ネットワークは生体内のB細胞分化においても正しいことが示された。造血幹細胞は様々な系列決定過程を経て最終的にB細胞にしかなれない前駆細胞となる。この運命制御には転写因子が重要な働きをしているが、詳細は明らかでない。特に、1細胞レベルでの遺伝子発現制御機構は不明である。我々は独自に開発したB細胞分化誘導系を用いて個々の細胞の網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、1細胞レベルの遺伝子発現パターンは複数の細胞を用いて得られた結果と類似していた。また、骨髄の前駆細胞を用いた1細胞RNA発現解析結果もこれを支持していた。このことから、モデル系を用いて明らかとなった転写ネットワークは通常のB細胞分化においても重要であることが示唆された。研究はほぼ計画通りに進んでいる。今後は生体内の細胞についても同様の解析を行い、論文にまとめることを目標に進めていきたい。免疫学、血液学 | KAKENHI-PROJECT-16K15506 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K15506 |
薬剤誘発性顎骨壊死に関する遺伝学的要因の解明に関する研究 | 臨床的には、骨吸収抑制薬関連顎骨骨髄炎(BROMJ)の発症に根尖性歯周炎や歯周病などの口腔における吸収性骨疾患が関連している可能性が示唆されている。しかし、それらの吸収性骨疾患と骨吸収抑制薬関連顎骨壊死との関連は明らかになっていない。一昨年までに以下の方法にて根尖性歯周炎ラットモデルを用いて根尖性歯周炎とBROMJ発症との関係を検討した。【方法】7週齢のラットを作製し,関連について検討したビスフォスフォネート(BP)投与群にはZoledronateを8週間投与し,対照群に生理食塩水を投与した.歯髄腔内にPorphyromonas gingivalisを投与することによって実験的ラット根尖性歯周炎を惹起させた。その後3,6週間目に標本を採取し、99mTC-MDPによるSPECT、μCT及び組織学的評価を行った。抜髄により対照群では根周囲に透過像が確認された。しかし、BP投与では透過像の範囲が3、6週目とも有意に小さかった。組織学的評価において、BP投与群では明らかな骨吸収を認めず、根尖周囲骨にempty lacunaeや炎症性細胞の浸潤を認めた。酒石酸抵抗性アルカリフォスファターゼ染色陽性細胞は、3週目で対照群と比較し有意に少なかった。SPECTでは6週目において有意に高い集積を認めた。壊死骨の発症、炎症性細胞の存在、99mTC-MDPといった骨髄炎様の状態であった事から、BP投与中の根尖性歯周炎がBROMJ発症の原因となる可能性が考えられた。昨年度は、遺伝情報を用いた研究に関する倫理審査を行うと同時にBRONJ患者の臨床研究を開始した。患者の背景情報(性別、年齢、BP使用薬剤、期間、既往歴、その他のリスクファクター)の調査を行った。臨床データの収集及び動物実験については既に倫理委員会の承認を得て解析が進んでいる。しかし、遺伝子研究に関連した計画を京都大学大学院医学研究科および京都大学附属病院の倫理委員会の承認を申請中であり、承認が得られていない。承認が得られれば、対象となる患者に同意を得たうえで血液を採取し、白血球からDNAを抽出準備を進める。倫理委員会の承認に時間を要しているため、採血などサンプルの保存が進んでいない。できるだけ早く承認を得るとともに、現状あるデータで研究を進めていく。倫理員会承認後は、まずサンプルを採取し、保存する作業を進める予定である。現在、当科を受診したMRONJの患者は申請時よりも増加しており352症例男性72例女性280例平均年齢:70.3歳となっている。あらたに受診した患者についても、発症部位、投与製剤、投与期間、MRONJの重症度、原疾患、既往歴などの詳細な情報を新たに収集している。現在は、臨床データの収集については既に倫理委員会の承認を得ているが、遺伝子研究に関連した計画を京都大学大学院医学研究科および京都大学附属病院の倫理委員会の承認を申請中であり、承認が得られていない。そのため、臨床研究を中心に計画を進めている。本年度では、ビスフォフォネート関連顎骨骨髄炎に対する外科治療の有効性と高圧酸素療法併用の効果を検討した。当科においてBROMJと診断された男性57名,女性237名,平均年齢69.7歳を対象とした.外科的治療の分類については,手術なし,局所的な掻把,腐骨除去とした.症状改善の有無についてBRONJのstage分類を用いてstageが不変もしくは増悪した症例を非改善群,stageが改善した症例を改善群とした.症状改善の有無と外科的治療との関連について統計学的に検討した.つぎに外科的治療による症状改善の有無を目的変数とし,HBO併用の有無,投与経路,ステロイドなどの要因との関係について検討した.297例中80%で症状の改善を認めた.改善した症例のうち82%で外科的処置が施行されていた.外科的治療を行った200名のうち95%で改善を認めた.腐骨除去施行の有無とHBOの併用が外科的治療による改善の有無と有意な関連を認めた.今回の調査によりBROMJ患者に対し外科的治療が有効である可能性が示唆された.また,外科的治療を行う場合は,高圧酸素療法併用が有効であると考えられた.臨床データの収集については既に倫理委員会の承認を得ているが、遺伝子研究に関連した計画を京都大学大学院医学研究科および京都大学附属病院の倫理委員会の承認を申請中であり、承認が得られていない。承認が得られれば、対象となる患者に同意を得たうえで血液を採取し、白血球からDNAを抽出準備を進める。臨床的には、骨吸収抑制薬関連顎骨骨髄炎(BROMJ)の発症に根尖性歯周炎や歯周病などの口腔における吸収性骨疾患が関連している可能性が示唆されている。しかし、それらの吸収性骨疾患と骨吸収抑制薬関連顎骨壊死との関連は明らかになっていない。そこで,根尖性歯周炎ラットモデルを用いて根尖性歯周炎とBROMJ発症との関係を検討した。【方法】7週齢のラットを作製し,関連について検討した。ビスフォスフォネート(BP)投与群にはZoledronateを8週間投与し,対照群に生理食塩水を投与した.歯髄腔内にPorphyromonas gingivalisを投与することによって実験的ラット根尖性歯周炎を惹起させた。 | KAKENHI-PROJECT-16K20570 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K20570 |
薬剤誘発性顎骨壊死に関する遺伝学的要因の解明に関する研究 | その後3,6週間目に標本を採取し、99mTC-MDPによるSPECT、μCT及び組織学的評価を行った。抜髄により対照群では根周囲に透過像が確認された。しかし、BP投与では透過像の範囲が3、6週目とも有意に小さかった。組織学的評価において、BP投与群では明らかな骨吸収を認めず、根尖周囲骨にempty lacunaeや炎症性細胞の浸潤を認めた。酒石酸抵抗性アルカリフォスファターゼ染色陽性細胞は、3週目で対照群と比較し有意に少なかった。SPECTでは6週目において有意に高い集積を認めた。壊死骨の発症、炎症性細胞の存在、99mTC-MDPといった骨髄炎様の状態であった事から、BP投与中の根尖性歯周炎がBROMJ発症の原因となる可能性が考えられた。臨床データの収集及び動物実験については既に倫理委員会の承認を得て解析が進んでいる。しかし、遺伝子研究に関連した計画を京都大学大学院医学研究科および京都大学附属病院の倫理委員会の承認を申請中であり、承認が得られていない。承認が得られれば、対象となる患者に同意を得たうえで血液を採取し、白血球からDNAを抽出準備を進める。臨床的には、骨吸収抑制薬関連顎骨骨髄炎(BROMJ)の発症に根尖性歯周炎や歯周病などの口腔における吸収性骨疾患が関連している可能性が示唆されている。しかし、それらの吸収性骨疾患と骨吸収抑制薬関連顎骨壊死との関連は明らかになっていない。一昨年までに以下の方法にて根尖性歯周炎ラットモデルを用いて根尖性歯周炎とBROMJ発症との関係を検討した。【方法】7週齢のラットを作製し,関連について検討したビスフォスフォネート(BP)投与群にはZoledronateを8週間投与し,対照群に生理食塩水を投与した.歯髄腔内にPorphyromonas gingivalisを投与することによって実験的ラット根尖性歯周炎を惹起させた。その後3,6週間目に標本を採取し、99mTC-MDPによるSPECT、μCT及び組織学的評価を行った。抜髄により対照群では根周囲に透過像が確認された。しかし、BP投与では透過像の範囲が3、6週目とも有意に小さかった。組織学的評価において、BP投与群では明らかな骨吸収を認めず、根尖周囲骨にempty lacunaeや炎症性細胞の浸潤を認めた。酒石酸抵抗性アルカリフォスファターゼ染色陽性細胞は、3週目で対照群と比較し有意に少なかった。SPECTでは6週目において有意に高い集積を認めた。壊死骨の発症、炎症性細胞の存在、99mTC-MDPといった骨髄炎様の状態であった事から、BP投与中の根尖性歯周炎がBROMJ発症の原因となる可能性が考えられた。昨年度は、遺伝情報を用いた研究に関する倫理審査を行うと同時にBRONJ患者の臨床研究を開始した。患者の背景情報(性別、年齢、BP使用薬剤、期間、既往歴、その他のリスクファクター)の調査を行った。臨床データの収集及び動物実験については既に倫理委員会の承認を得て解析が進んでいる。しかし、遺伝子研究に関連した計画を京都大学大学院医学研究科および京都大学附属病院の倫理委員会の承認を申請中であり、承認が得られていない。承認が得られれば、対象となる患者に同意を得たうえで血液を採取し、白血球からDNAを抽出準備を進める。倫理委員会の承認に時間を要しているため、採血などサンプルの保存が進んでいない。できるだけ早く承認を得るとともに、現状あるデータで研究を進めていく。 | KAKENHI-PROJECT-16K20570 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K20570 |
新約聖書偽名書簡についての文学的研究:擬似パウロ書簡を中心に | 本研究は、新約聖書に含まれている擬似パウロ書簡(コロサイ、エフェソ、第二テサロニケ、第一テモテ、第二テモテ、テトス各書簡)を対象とするもので、偽名書簡がもつ文学史的背景を考察すると共に、これらの偽作書簡が、パウロが亡くなった後の時代に、パウロ自身が書いた書簡の内容の「正しい理解」を示し、異なるパウロ理解を退ける目的で記されたものであることを示すものである。これらの書簡の存在は、パウロ思想に対する理解が、パウロ後の時代において一様ではなく、さまざまな受容の仕方があったことを証言している。本年度は、第二テサロニケ書簡の偽名性および偽作手法についての分析を重点的に行う予定であったが、古代キリスト教史におけるこの偽名書簡の受容史を丁寧に跡付ける必要のあることがわかったため、この作業は次年度に継続して行うこととし、次年度に集中的に行う予定であった牧会書簡(第一・第二テモテ書簡およびテトス書簡)の分析から着手した。とくに3通の書簡がひとまとまりの「書簡集」として偽作されている目的について、3通を並行して分析することによって一定の見解を得た。また、2013(平成15)年7月に開催された国際新約聖書学会において、類似の研究課題と取り組んでいる国外の研究者と意見を交換した。これらの成果は、後掲の単著書籍、英語論文1本、邦語論文1本にまとめて公表した。本研究は、新約聖書に含まれている擬似パウロ書簡(コロサイ、エフェソ、第二テサロニケ、第一テモテ、第二テモテ、テトス各書簡)を対象とするもので、偽名書簡がもつ文学史的背景を考察すると共に、これらの偽作書簡が、パウロが亡くなった後の時代に、パウロ自身が書いた書簡の内容の「正しい理解」を示し、異なるパウロ理解を退ける目的で記されたものであることを示すものである。これらの書簡の存在は、パウロ思想に対する理解が、パウロ後の時代において一様ではなく、さまざまな受容の仕方があったことを証言している。本研究は、新約聖書中の擬似パウロ書簡を取り上げて、偽名文書としての文学史的位置づけ、偽作の手法、そして初期キリスト教史のどのような状況に働きかけようとしたものであるかを明らかにしようとするのが目的であり、当初の研究計画によれば、平成24年度はまず、偽名文書が12世紀のキリスト教においてどのように評価されていたのかを検証するため、(1)偽名文書の評価及び受容史をキリスト教以前の時代から追うことから始めると共に、(2)擬似パウロ書簡のうちコロサイ書簡とエフェソ書簡の分析を行うことになっていた。計画(1)は概ね順調に遂行されたが、この課題を果たすためには、まずやはり擬似パウロ書簡全体の概観的分析を行うことが必要となったため、(2)に記したコロサイ書簡とエフェソ書簡に限らず、平成25年度および26年度に分析を行う予定であった第二テサロニケ書簡と牧会書簡についても、その形式および内容についてまず大まかな分析を施し、古代世界における偽名文書の評価と付き合わせる作業を行うことになった。これによって、古代ギリシア・ローマ世界およびユダヤ教世界における偽名文書の評価という背景のもとに擬似パウロ書簡を捉え直す準備作業が整った。ただしその分、コロサイ書簡とエフェソ書簡についてのより詳細な分析は終了することができなかった。ここまでの成果の一部は別記の通り学会発表を行った。その内容は英語論文としてまとめる作業に入っている。また、成果を社会一般に還元する方策として研究計画書に記した通り、一般向けの雑誌(『福音と世界』新教出版社)に文章として連載の形で発表した。本研究は、新約聖書の1/3以上を占める偽名書簡に注目し、1世紀後半から2世紀前半にかけての初期キリスト教の中でこのような偽名書簡が登場した文学史的背景、新約偽名書簡に特徴的な偽作手法、そしてこのような文書が生み出されてきた歴史的状況を明らかにしようと試みるものであった。最終年度である平成26年度には、前年度に終えられなかった第二テサロニケ書簡に関する分析を行い、この書簡が、パウロの真筆である第一テサロニケ書簡の内容を実質的に上書き修正しようとする意図を有していること、しかし同時に、第一テサロニケ書簡との内容的矛盾ゆえに偽作であることが露呈しないよう工夫されていることを明らかにした。この結果は、日本新約学会第54回学術大会(平成26年9月12-13日、於:広島女学院大学)において口頭発表すると共に、日本聖書学研究所欧文紀要Annual of Japanese Biblical Institute 40 (March 2015)に英文で投稿、掲載された(査読つき)。最終年度の課題であった牧会書簡(第一・第二テモテ書簡およびテトス書簡)の偽作手法に関する研究はなお継続中であり、研究期間終了後にドイツ語および日本語による学術的注解書の形で公表するため準備を進めている。研究期間内に実施した分析によれば、牧会書簡3通は、最初からひとつのグループとしてまとめられており、当時すでに形成されつつあった「パウロ書簡集」を補う形で、パウロ書簡の「正しい解釈」を示す目的をもって作られた偽名書簡である。この見解については、本研究の重要な実績である単著『偽名書簡の謎を解く:パウロなき後のキリスト教』(新教出版社、2013年)においても部分的に示しているが、学術的検討をさらに深めて、専門書(注解書)の形で公表する手はずである。 | KAKENHI-PROJECT-24520359 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24520359 |
新約聖書偽名書簡についての文学的研究:擬似パウロ書簡を中心に | 新約聖書学第2年度と第3年度の研究計画に入れ替えが生じたが、第3年度に行う予定であった研究内容を概ね第2年度に行うことができたので、第3年度は第2年度に予定していた作業に取り組むことで、全体の研究計画を達成できるものと考えられる。上記の通り、当初の計画で平成24年度に行う予定であったコロサイ書簡とエフェソ書簡の詳細な分析は完了できなかったものの、その分析のために必要な予備作業として、擬似パウロ書簡全体の概観的な分析は行うことができた。また当初の計画通り、古代ギリシア・ローマ世界及びユダヤ教世界における偽名文書の評価という問題を扱う作業は達成し、その成果を文章の形で公表することもできたので、概ね順調に進展していると評価できる。上記「現在までの達成度」にも記したとおり、第2年度と第3年度の研究計画を入れ替えることになったので、第3年度は主として、第2年度に予定していた第二テサロニケ書簡の偽名性および偽作手法について分析を行う。なおその際に、この書簡が真正のパウロ書簡として古代キリスト教の中で受け入れられた過程を文献資料によって跡付け、その理由を考察することにも重点的に取り組む予定である。平成24年度に遂行するはずであった課題のうち、コロサイ書簡とエフェソ書簡についての詳細な分析は完了できなかったので、この作業を優先的に行うとともに、当初の計画にあった、第二テサロニケ書簡の詳細な分析にも併せて着手する。分析の結果は学会で口頭発表すると共に、論文の形で公表していく。第二テサロニケ書簡については、とりわけ真正パウロ書簡である第一テサロニケ書簡との関係をどう見定めるかが重要なので、この点に留意しつつ分析を進める。また、平成24年度の分析作業を踏まえて、まずはより一般向けの書物を刊行し、擬似パウロ書簡についての一般の関心を高めたい。平成25年度は研究費を計画に基づいて適切に使用したが、その結果として少額の端数が生じた。次年度は、平成25年度の残額3714円と平成26年度の予算を合わせて使用する。残額が少額なので、当初提出した平成26年度の予算計画にしたがって全体を使用し、平成25年度の残額は、予算の中の図書購入費に算入して使用する。研究費は主として、上記の擬似パウロ書簡関係研究書及び注解書の収集(書籍購入)に充てると共に、成果発表及び資料収集、また同じテーマを扱っている海外の研究者との討議を行うための旅費として使用する。また、分析作業に必要なパソコンソフトの購入並びに英語論文の校閲のためにも用いる。研究書及び注解書については、コロサイ書簡及びエフェソ書簡の詳細な分析作業が平成24年度中に完了しなかったので、このための書籍購入を、従来平成25年度の課題であった第二テサロニケ書簡分析のための書籍購入と併せて行うことになる。 | KAKENHI-PROJECT-24520359 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24520359 |
市民の政治行動の変容―参加方式と日本政治文化の変化― | 本研究は、現代日本の政治参加の変動を分析することを目的とする。標本調査を愛知県内で平成14年、15年の2回に分けて行った。主な調査項目は(1)政治参加の構造、(2)政治参加と政治的動員、(3)利益誘導型政治の否定と自己決定システムの確立、(4)アドボカシーとしてのボランタリーセクター、の4つであり、これまでの日本人の政治参加が徐々に構造変動を起こしていることを検証するものである。平成14年の調査地点は、愛知県内の4ヶ所、名古屋市(中村区、東区、昭和区、千種区)、豊橋市、半田市、藤岡町から各600サンプル、合計2400サンプルを無作為抽出した。調査は11月下旬から調査票を対象者に郵送し、返送してもらう郵送調査の方法を用いた。回収率が心配されたが、1026票回収できた。平成15年の調査は愛知県内の3ヶ所、名古屋市(中区、東区、昭和区、千種区)、豊田市、江南市から各400サンプル、合計1200サンプルを無作為抽出した。調査結果の概要を次に記す。平成15年の調査は、主にボランタリーセクターに含まれる団体の活動がアドボカシーとしての役割を如何に果たしているのかを検証するものであった。サーベイデータを共分散構造分析により詳細に検討すると、幾つかの特徴的なことがわかった。以下、その特徴を記す。(1)ボランタリーセクターの活動は、参加する市民の意識から見ると3つの次元を有する。第一に社会参加・貢献、第二に自己充足、第三に政治的影響力、である。(2)ボランタリーセクターの活動は、これまでの市民・住民運動と似ているが、独自性を強く持つ。なぜなら、これまでの市民・住民運動(新しい社会運動を含む)の多くは、政治・行政との対抗関係にあった。しかし、ボランタリーセクターの活動は、コラボレーションといわれるように、政治・行政との信頼関係を含む。今回の調査からは、以上この二点がデータから検証された。この結果が示唆することは、ボランタリーセクターの存在がソーシャルキャピタルの存在を可能にしていることである。本研究は現代日本の政治参加の変動を分析することを目的とする。本調査の項目は(1)政治参加の構造、(2)政治参加と政治的動員、(3)利益誘導型政治の否定と自己決定システムの確立、の3つであり、これまでの日本人の政治参加が徐々に構造変動を起こしていることを検証するものである。調査地点は、愛知県内の4ヶ所、名古屋市(中村区、東区、昭和区、千種区)、豊橋市、半田市、藤岡町から各600サンプル、合計2400サンプルを無作為抽出した。調査は11月下旬から調査票を対象者に郵送し、返送してもらう郵送調査の方法を用いた。回収率が心配されたが、1026票回収できた。調査結果の概要を次に記す。従来、日本人の政治参加は選挙による投票だけが突出して大きかったが、現在では異なる参加形態も増加してきている。特に、市民運動、住民運動、ボランティアなどの形態が、その枠組みを融合させつつ増加傾向にある。しかし、ボランティアなどの社会参加が明確に政治参加の範疇に含まれる事ができるかどうかは、断言できない。有権者の政治的動員は、縮小傾向にあると思われるが、それが既存の政党政治といかなる関係にあるのかは、更なる調査を必要とする。55年体制の象徴である利益誘導型政治は完全に否定されている訳ではない。まだ、多くの地域では、それを望む声もある。詳細な分析は現在行っている。また、この調査と平行しておこなってきた研究として、1998年の選挙制度改革(「投票時間の延長」、「不在者投票制度事由の緩和」、「不在投票時間の延長」の3項目である。)が投票率にいかなる影響を与えたのかを実証的に分析し、これからどのように変化するかをシミュレートした。分析結果は、制度改革が一時的には投票率上昇に貢献したと思われるが、それは、決して恒常的に続くことではないと考えられる。本研究は、現代日本の政治参加の変動を分析することを目的とする。標本調査を愛知県内で平成14年、15年の2回に分けて行った。主な調査項目は(1)政治参加の構造、(2)政治参加と政治的動員、(3)利益誘導型政治の否定と自己決定システムの確立、(4)アドボカシーとしてのボランタリーセクター、の4つであり、これまでの日本人の政治参加が徐々に構造変動を起こしていることを検証するものである。平成14年の調査地点は、愛知県内の4ヶ所、名古屋市(中村区、東区、昭和区、千種区)、豊橋市、半田市、藤岡町から各600サンプル、合計2400サンプルを無作為抽出した。調査は11月下旬から調査票を対象者に郵送し、返送してもらう郵送調査の方法を用いた。回収率が心配されたが、1026票回収できた。平成15年の調査は愛知県内の3ヶ所、名古屋市(中区、東区、昭和区、千種区)、豊田市、江南市から各400サンプル、合計1200サンプルを無作為抽出した。調査結果の概要を次に記す。平成15年の調査は、主にボランタリーセクターに含まれる団体の活動がアドボカシーとしての役割を如何に果たしているのかを検証するものであった。サーベイデータを共分散構造分析により詳細に検討すると、幾つかの特徴的なことがわかった。 | KAKENHI-PROJECT-14720084 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14720084 |
市民の政治行動の変容―参加方式と日本政治文化の変化― | 以下、その特徴を記す。(1)ボランタリーセクターの活動は、参加する市民の意識から見ると3つの次元を有する。第一に社会参加・貢献、第二に自己充足、第三に政治的影響力、である。(2)ボランタリーセクターの活動は、これまでの市民・住民運動と似ているが、独自性を強く持つ。なぜなら、これまでの市民・住民運動(新しい社会運動を含む)の多くは、政治・行政との対抗関係にあった。しかし、ボランタリーセクターの活動は、コラボレーションといわれるように、政治・行政との信頼関係を含む。今回の調査からは、以上この二点がデータから検証された。この結果が示唆することは、ボランタリーセクターの存在がソーシャルキャピタルの存在を可能にしていることである。 | KAKENHI-PROJECT-14720084 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14720084 |
3次元人工腹膜の機能化と腹膜繊維化機構の解明に関する研究 | 細胞外マトリックス中の主要成分のコラーゲンとヒアルロン酸の比が溶質透過性にどのような影響を及ぼすかトランスウェルを用いた透析実験により系統的に把握した。試験溶液に色素を用いた透過試験ではコラーゲン、ヒアルロン酸濃度の増加によって溶質透過速度が低下するという結果が得られた。しかし、試験溶液に尿素を用いた透過試験ではヒアルロン酸の添加による溶質透過速度の亢進がみられた。3次元積層培養モデルを使った腹膜中皮細胞の傷害修復モデルを作成することが可能となったので、単層モデルでの傷害修復実験系の確立を行った。confluentになった培養腹膜中皮細胞に1N NaOHを滴下することで円形の傷害を加え、その修復過程の画像取込みと解析、遺伝子発現を測定した。取り込んだデジタル画像を画像処理ソフト(OPT1MUS v.6)で解析することにより、修復速度、細胞面積・面積分布の変化の定量化を行える評価システムを構築した。又、画像情報と細胞の分子生物学的変化を統合するため修復過程における各種サイトカインのmRNAの発現をRT-PCR法により半定量化した。傷害直後の遊走から終盤の増殖と細胞の大きさは増加し、修復終了後は若干小さくなるものの前値の3040%増を示した。サイトカインの発現は修復後半に高くなる傾向にあり、TGF-β1が有意に増加した。本モデルを用いることにより、より複雑な系の研究が可能となり今後の腹膜硬化症発症機序の解明に大きく貢献できるものと考えられた。細胞外マトリックス中の主要成分のコラーゲンとヒアルロン酸の比が溶質透過性にどのような影響を及ぼすかトランスウェルを用いた透析実験により系統的に把握した。試験溶液に色素を用いた透過試験ではコラーゲン、ヒアルロン酸濃度の増加によって溶質透過速度が低下するという結果が得られた。しかし、試験溶液に尿素を用いた透過試験ではヒアルロン酸の添加による溶質透過速度の亢進がみられた。3次元積層培養モデルを使った腹膜中皮細胞の傷害修復モデルを作成することが可能となったので、単層モデルでの傷害修復実験系の確立を行った。confluentになった培養腹膜中皮細胞に1N NaOHを滴下することで円形の傷害を加え、その修復過程の画像取込みと解析、遺伝子発現を測定した。取り込んだデジタル画像を画像処理ソフト(OPT1MUS v.6)で解析することにより、修復速度、細胞面積・面積分布の変化の定量化を行える評価システムを構築した。又、画像情報と細胞の分子生物学的変化を統合するため修復過程における各種サイトカインのmRNAの発現をRT-PCR法により半定量化した。傷害直後の遊走から終盤の増殖と細胞の大きさは増加し、修復終了後は若干小さくなるものの前値の3040%増を示した。サイトカインの発現は修復後半に高くなる傾向にあり、TGF-β1が有意に増加した。本モデルを用いることにより、より複雑な系の研究が可能となり今後の腹膜硬化症発症機序の解明に大きく貢献できるものと考えられた。1)腹膜繊維芽細胞をDifferntial Sub-culture法(ヒト繊維芽細胞はウェールズ大学:ラット腹膜繊維芽細胞は東亜大学で既に研究進行中)にて採取・増殖した後、単層培養し薬物障害モデルを作成した。1N水酸化ナトリウム1μ1の滴下によって損害を加えた細胞を培養し、経時的な培養液中採取を行った。採取した培養上澄をgrowth arrestした腹膜繊維芽細胞へ添加し、VEGFやTGF-β1 mRNAの発現を確認し、両サイトカインが創傷治療に関与するとともに、腹膜硬化症発症の重要な要因であることが示唆された。2)単離した腹膜繊維細胞をI型及びIII型コラーゲンに包埋し、孔径の異なる合成膜間に挟み込むことにより結合組織モデルを作成した。ウェールズグループは血管内皮細胞の培養とコラーゲン中での血管造成モデルを手掛けている。結合組織モデルと血管造成モデルの結合は来年度以降の課題である。ラット尾より抽出した酸可溶性コラーゲンを4mg/mlの濃度にてトランスウェルに100μl入れゲル化した後、ラット腹膜繊維芽細胞を1×10^4、2×10^4、1×10^5/mlの細胞密度で懸濁した間質モデルを各々100μl積層した。F12培地で2日間培養後、トランスウェル底部の膜の外側に腹膜中皮細胞を1×10^5/ml播種し、細胞接着が十分であると判断できるまで培養した。積層化した腹膜モデルはM199培地で3週間培養し、その形態的変化を観察している。コラーゲンに包埋された繊維芽細胞は2×10^4/mlの細胞密度以上ではFCS未添加においても細胞の伸展がみられたが、それ以下では形態の変化は僅かであった。トランスウェル上において、本条件下ではコラーゲンの収縮は観察されなかった。間質モデルに隣接する膜上の腹膜中皮細胞は播種後3週間以内では玉石状の形状を保つことができるようになった。現在、滲出性のマクロファージを用いて経マトリックスの遊走実験を行っている。試作した3次元積層培養モデルを用い、腹膜中皮細胞傷害や腹膜線維芽細胞傷害時の修復過程をIn vitro系で再現することを目的に、中皮細胞層の剥離モデル(平成11年度成果)を連続的な顕微鏡下ビデオ撮影を行うとともに、A/D変換、画像情報保存、編集を施行する技術を確立している。 | KAKENHI-PROJECT-11694181 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11694181 |
3次元人工腹膜の機能化と腹膜繊維化機構の解明に関する研究 | 傷害モデルは1N水酸化ナトリウムの滴下によるdenudationであるが、最も著明であった修復経路は残存部位からの遊走であり、増殖は遊走にて中皮細胞が移動した間隙を中心に、denudationがほぼ完了した時期より活発化するようである。現在、画像解析と免疫染色により定量・定性両面から研究を進めており来年度の重点課題である。細胞外マトリックス中の主要成分のコラーゲンとヒアルロン酸の比が溶質透過性にどのような影響を及ぼすかトランスウェルを用いた透析実験により系統的に把握した。試験溶液に色素を用いた透過試験ではコラーゲン、ヒアルロン酸濃度の増加によって溶質透過速度が低下するという結果が得られた。しかし、試験溶液に尿素を用いた透過試験ではヒアルロン酸の添加による溶質透過速度の亢進がみられた。3次元積層培養モデルを使った腹膜中皮細胞の傷害修復モデルを作成することが可能となったので、単層モデルでの傷害修復実験系の確立を行った。confluentになった培養腹膜中皮細胞に1N NaOHを滴下することで円形の傷害を加え、その修復過程の画像取込みと解析、遺伝子発現を測定した。取り込んだデジタル画像を画像処理ソフト(OPTIMUS v.6)で解析することにより、修復速度、細胞面積・面積分布の変化の定量化を行える評価システムを構築した。又画像情報と細胞の分子生物学的変化を統合するため修復過程における各種サイトカインのmRNAの発現をRT-PCR法によ.り半定量化した。傷害直後の遊走から終盤の増殖と細胞の大きさは増加し、修復終了後は若干小さくなるものの前値の3040%増を示した。サイトカインの発現は修復後半に高くなる傾向にあり、TGF-β1が有意に増加した。本モデルを用いることにより、より複雑な系の研究が可能となり今後の腹膜硬化症発症機序の解明に大きく貢献できるものと考えられた。 | KAKENHI-PROJECT-11694181 | https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11694181 |
Subsets and Splits
No saved queries yet
Save your SQL queries to embed, download, and access them later. Queries will appear here once saved.