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爆発物を画像検知する長方形スキャンとウェーブレット再構成に基づく多重MRIの原理
本研究では、対象物体に透過性RFビームを投射して得られる磁気信号から、複数の核種における磁気共鳴信号を分別し同時に複数画像再構成する多重MRI原理の基盤研究を行った。原理的な動作解析を行う観点からシミュレータを作成して、磁気共鳴信号から動作解析や共鳴分布画像再構成をすることによりその構成仕組を明らかにした。並列化構成仕組や実現化について、データ流れに着目したVLSI収容可能性の高い超並列アーキテクチャを明らかにした。本研究では、対象物体に透過性RFビームを投射して得られる磁気信号から、複数の核種における磁気共鳴信号を分別し同時に複数画像再構成する多重MRI原理の基盤研究を行った。原理的な動作解析を行う観点からシミュレータを作成して、磁気共鳴信号から動作解析や共鳴分布画像再構成をすることによりその構成仕組を明らかにした。並列化構成仕組や実現化について、データ流れに着目したVLSI収容可能性の高い超並列アーキテクチャを明らかにした。本研究は,磁気共鳴現象と筆者らの産業用CT手法を組合せて,対象物の内部に仕掛けられた爆発物を,その物質に含まれる複数の原子に関する磁気共鳴現象の信号を計測して,計算により濃度分布を再構成して,対象物内部の物質分布を非破壊画像化する『多重MRI』と呼ぶ産業用非破壊検査装置を創造する基盤研究を行う.本研究では,多重MRIシステムのシミュレータを作成して,磁気共鳴信号から動作解析や共鳴分布再構成を行うことにより多重MRIシステムの基本構成を究明する.まず多重MRIシステムシミュレーションの理論的な体系化を図った.それに基づいて多重MRI実験環境のソフトウェア開発を進めた.磁気共鳴現象プログラムや,共鳴現象投影プログラム,分布再構成プログラムを作成した.同時に,化学シフトを識別するシステムの開発を進めた.対象化学結合の共鳴周波数と,基準物質の共鳴周波数との僅かな差分を拡大して検出するプログラムを作成した.複数官能基を含むNMR信号から特定官能基の磁化を抽出するシステムの開発準備をした.次に,新スキャン方式による画像再構成方法を検討して,ブロック毎に繰り返し画像再構成するプログラムの開発を行った.スキャン線源の調査をした.本研究は,磁気共鳴現象と筆者らの産業用CT手法を組合せて,対象物の内部に仕掛けられた爆発物を,その物質に含まれる複数の原子に関する磁気共鳴現象の信号を計測して,計算により濃度分布を再構成して,対象物内部の物質分布を画像化する『多重MRI』と呼ぶ新しい産業用非破壊検査装置の創造を目指している.本研究では,先ず多重MRIシステムのシミュレータを作成して,多重MRIシステムの基本的な構成仕組を検討した.最初に,理論的な拡張を図り,それに基づいた多重MRI実験環境のソフトウェア開発を行った.化学シフトを伴った磁気共鳴現象について追加プログラムを作成し,共鳴現象投影や分布再構成のプログラム改修を行った.そして,実験を繰り返して,想定するシステム動作を確認することができた.次に、多重MRIシステムの基本的構成仕組について,基本原理に基づいた構成方式の検討を行った.並列処理のアーキテクチャーについて,種々の並列化方式を創案しその概略設計を行った.その中の最良と思われる3方式について,詳細な具体的検討を行ってシステム構成の基本設計を明らかにした.その各部分について,データ流れに着目して構成可能な具体的仕組を考案した.大局的観点からどのような並列化仕組がうまく行くのか、吟味検討を行った.最良の選択の下で, VLSIへの収容可能性が高く,高速で安価な多重MRIの超並列アーキテクチャーについて考察を行った.なお,ビーム線源とセンサーの調査研究も行ない,現況における技術的な課題を明らかにした.
KAKENHI-PROJECT-19560413
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19560413
環状気液二相流における界面積濃度輸送機構解明に関する研究
様々な工学分野における二相流解析手法として一般的な二流体モデルを閉じるには、二相の相互作用の強さを表す界面輸送項の適切なモデル化が必要である。現在、米国・原子力規制委員会を主導機関として、二流体モデルに基づく原子炉安全解析シミュレーションコードの予測性能の飛躍的な改善を目指し、界面積濃度輸送モデルの開発研究が進められている。本研究は、環状気液二相流動構造・界面積濃度輸送機構の解明に関して、その総合的・系統的理解を目的と、実験的(広範な流動条件下における環状二相流動特性値データベースの構築)・解析的研究(環状気液二相流界面積濃度輸送方程式等の開発)を行うことを目的としており、実験装置の作成、計測機器の準備を行うとともに、流れ方向の液膜厚さに関するデータベースを構築し、既存の実験式・理論式との比較を行った。具体的な実績の概要は以下のとおりである。(1)実験装置の作成環状気液二相流実験用流動ループ、試験部の作成を行った。(2)計測機器の準備膜厚計測、波速度・液膜界面積濃度計測、高速度ビデオ撮影、管内圧力計測と液滴流量計測手法の開発・整備を行った。(3)データベース構築・既存モデルとの比較発達域における液膜のデータベースを構築し、主として平均液膜厚さ、界面せん断力、液滴飛散量に関する既存の実験式、理論式との比較を行い、流動パラメータを整理した。(4)界面積濃度輸送方程式の開発環状気液二相流の界面積濃度輸送方程式に関しては、液相を二群(液膜、飛散液滴)で扱う三群界面積濃度輸送方程式の開発を行った。様々な工学分野における二相流解析手法として一般的な二流体モデルを閉じるには、二相の相互作用の強さを表す界面輸送項の適切なモデル化が必要である。現在、米国・原子力規制委員会を主導機関として、二流体モデルに基づく原子炉安全解析シミュレーションコードの予測性能の飛躍的な改善を目指し、界面積濃度輸送モデルの開発研究が進められている。本研究は、環状気液二相流動構造・界面積濃度輸送機構の解明に関して、その総合的・系統的理解を目的とし、実験的(広範な流動条件下における環状二相流動特性値データベースの構築)・解析的研究(環状気液二相流界面積濃度輸送方程式等の開発)を行うことを目的としている。平成17年度は、実験装置の作成、計測機器の準備を行うとともに、流れ方向の液膜厚さに関するデータベースを構築し、既存の実験式・理論式との比較を行った。具体的な実績の概要は以下のとおりである。(1)実験装置の作成環状気液二相流実験用流動ループ、試験部の作成を行った。(2)計測機器の準備膜厚計測、波速度・液膜界面積濃度計測、高速度ビデオ撮影、管内圧力計測と液滴流量計測手法の開発・整備を行った。(3)データベース構築・既存モデルとの比較発達域における液膜のデータベースを構築し、主として平均液膜厚さ、界面せん断力、液滴飛散量に関する既存の実験式、理論式との比較を行い、流動パラメータを整理した。(4)界面積濃度輸送方程式の開発環状気液二相流の界面積濃度輸送方程式に関しては、液相を二群(液膜、飛散液滴)で扱う三群界面積濃度輸送方程式の開発を行った。様々な工学分野における二相流解析手法として一般的な二流体モデルを閉じるには、二相の相互作用の強さを表す界面輸送項の適切なモデル化が必要である。現在、米国・原子力規制委員会を主導機関として、二流体モデルに基づく原子炉安全解析シミュレーションコードの予測性能の飛躍的な改善を目指し、界面積濃度輸送モデルの開発研究が進められている。本研究は、環状気液二相流動構造・界面積濃度輸送機構の解明に関して、その総合的・系統的理解を目的と、実験的(広範な流動条件下における環状二相流動特性値データベースの構築)・解析的研究(環状気液二相流界面積濃度輸送方程式等の開発)を行うことを目的としており、実験装置の作成、計測機器の準備を行うとともに、流れ方向の液膜厚さに関するデータベースを構築し、既存の実験式・理論式との比較を行った。具体的な実績の概要は以下のとおりである。(1)実験装置の作成環状気液二相流実験用流動ループ、試験部の作成を行った。(2)計測機器の準備膜厚計測、波速度・液膜界面積濃度計測、高速度ビデオ撮影、管内圧力計測と液滴流量計測手法の開発・整備を行った。(3)データベース構築・既存モデルとの比較発達域における液膜のデータベースを構築し、主として平均液膜厚さ、界面せん断力、液滴飛散量に関する既存の実験式、理論式との比較を行い、流動パラメータを整理した。(4)界面積濃度輸送方程式の開発環状気液二相流の界面積濃度輸送方程式に関しては、液相を二群(液膜、飛散液滴)で扱う三群界面積濃度輸送方程式の開発を行った。
KAKENHI-PROJECT-17560744
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17560744
被覆群上の保型表現の内視理論の構築
本研究課題ではシンプレクティック群またはメタプレクティック群上の保型形式の典型的な例であるジーゲル・アイゼンシュタイン級数を考察し,そのフーリエ係数の局所因子であるジーゲル級数を深く研究した.とくにジーゲル級数の一般的な関数等式を証明した.また室蘭工業大学の桂田英典氏との共同研究により,局所体上の2次形式のグロス・キーティング不変量の一般的性質を解明し,その結果を用いてジーゲル級数の明示公式を得た.また,京都大学の山名俊介氏との共同研究によりジーゲル保型形式またはエルミート保型形式のリフティングの理論を保型表現論的な方法により総実代数体上に拡張し、その数値計算例を与えた.被覆群の中でもっとも基本的と思われるトーラスの被覆群と特殊線形群の被覆群を考察した。また被覆群の保型形式と深い関連のあるジーゲル・アイゼンシュタイン級数のフーリエ係数などを考察した。4月にはドイツのオーバーヴォルファッハで開かれた研究集会にオーガナイザーとして参加した。オーバーヴォルファッハでは室蘭工科大学の桂田英典との二次形式のグロスキーティング不変量に関する討論を行い、このテーマに関する共同研究を開始した。8月に韓国で開かれた整数論の国際研究集会(PANT)にオーガナイザーとして参加した。また東京で開かれた代数学シンポジウムなども参加して半整数保型形式に関する概説講演を行った。また、9月には立教大学で開かれた研究集会に参加し、概均質ベクトル空間のゼータ関数の関数等式について研究発表を行った。11月には長野県白馬村で開催された整数論の研究集会にも参加し、室蘭工科大学の桂田英典らと二次形式の理論に関する討論を行った。これらの研究集会に参加する研究者の旅費の支援も行った。さらに平成27年2月に数理解析研究所で開かれた保型形式シンポジウムに参加し、二次形式のグロス・キーティング不変量に関する研究(桂田英典との共同研究)の成果を発表した。多変数のジーゲル・アイゼンシュタイン級数のフーリエ係数の局所因子に現れるジーゲル級数は二次形式のグロス・キーティング不変量を用いて表すことができると考えられるのでグロス・キーティング不変量に関する研究成果は今後多変数の保型形式の理論、さらには数論幾何への応用などにつながる重要な成果であると考えられる。平成27年度は局所体上の2次形式のグロス・キーティング不変量に関して研究を行った。これは室蘭工業大学の桂田英典との共同研究である。この研究を発展させ、2次形式のジーゲル級数がグロス・キーティング不変量とそれに関連する不変量で記述できることを示した。この研究に関しては2編の論文にまとめ、1編は現在学術雑誌に投稿中であり、もう1編もプレプリントとしてアーカイブで公開している。また、平成28年2月に数理解析研究所で開かれた保型形式シンポジウムで口頭発表を行った(桂田英典との共同発表)。一方で平成27年度は教室の専攻長を務めたため、教室の仕事が多忙であり、出張を要する研究集会にはあまり出席できなかった。しかし、学生・共同研究者が研究集会に参加するための旅費は支給している。また、2次の特殊線形群の被覆群の跡公式については平賀郁との共同研究でユニポテント元の寄与も含めて研究が進んでいて、現在論文を執筆中である。また、リフティングの問題に関して山名俊介との共同研究でシンプレクティック群のリフティングを一般化のエルミート型の管状対称空間を持つ古典群に一般化する研究を行っており、現在論文を執筆中である。平成27年度は教室の専攻長の仕事で多忙ではあったが、グロス・キーティング不変量、ジーゲル級数、被覆群の跡公式、リフティングの問題などで研究は進展している。グロスとキーティングがグロス・キーティング不変量を導入し、志村多様体のサイクルの交点数などの数論幾何への応用があることが示されたのは約20年前であるが、その後この問題はあまり進展してこなかった。今回の桂田英典との共同研究によりグロス・キーティング不変量の基本的な性質が確立し、さらに一般的な問題に応用が可能になったものと考えられる。実際ジーゲル級数についてはグロス・キーティング不変量で記述できることが明らかになった。さらに局所密度との関連も考えられる。このようにグロス・キーティング不変量の研究は大きく進展し、研究成果があったと思っている。今年度は、被覆群を含む古典群のSiegel-Eisenstein級数の研究に端を発したGross-Keating不変量の研究が進展した。とくに、2次形式に対して定義されていたGross-Keating不変量はエルミート形式に対しても定義することができ、さらにエルミート形式に関する簡約定理を証明することができた。一方、エルミート形式のGross-Keating不変量に関しては、Gross-Keating不変量が0のエルミート形式が常に極大になるなど,2次形式のものと異なる様相を呈することが明らかになりつつある。これは室蘭工業大学の桂田英典氏との共同研究であり、この研究成果については現在共著論文を執筆中である。また、2次形式のGross-Keating不変量とSiegel級数に関する結果を2016年7月11日15日に台湾で開催された国際研究集会「Pan Asian Number Theory Conference 2016」で発表した。この国際会議にはオーガナイザーとして開催にもかかわった。このほか、Gross-Keating不変量については2月に早稲田大学で、佐藤文文氏、広中由美子氏らを交えて桂田氏と討論を行うなど、現在でも活発に研究活動を行っている。
KAKENHI-PROJECT-26610005
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26610005
被覆群上の保型表現の内視理論の構築
また、外国人特別研究員のSungmun Cho氏も研究に加わり、数論幾何への応用などについて研究を進めている。本研究課題ではシンプレクティック群またはメタプレクティック群上の保型形式の典型的な例であるジーゲル・アイゼンシュタイン級数を考察し,そのフーリエ係数の局所因子であるジーゲル級数を深く研究した.とくにジーゲル級数の一般的な関数等式を証明した.また室蘭工業大学の桂田英典氏との共同研究により,局所体上の2次形式のグロス・キーティング不変量の一般的性質を解明し,その結果を用いてジーゲル級数の明示公式を得た.また,京都大学の山名俊介氏との共同研究によりジーゲル保型形式またはエルミート保型形式のリフティングの理論を保型表現論的な方法により総実代数体上に拡張し、その数値計算例を与えた.平成26年度の交付申請書に記入したようにオーバーヴォルファッハで開催された研究集会に参加し、関連分野の研究者と討論を行った。また代数学シンポジウム、保型形式シンポジウムなどの研究集会に参加して、そこで研究発表を行った。また、交付申請の記入したように上記の研究集会などに参加した研究者の旅費の支援を行い、研究うち合わせを行った。室蘭公開大学の桂田英典とグロス・キーティング不変量に関する共同研究を開始し、得られた成果について研究集会で口頭発表を行った。このように研究はおおむね順調に進展しているといってよいと思う。平成28年度以降もグロス・キーティング不変量、被覆群の跡公式、リフティングの問題などの研究に取り組む予定である。とくに2次形式のグロス・キーティング不変量と局所密度の関連について研究を進めてみたい。また、被覆群の跡公式についても共同研究者の平賀郁などと連絡を密に取りながら研究を進める予定である。このような研究計画を遂行するため、秋に開催される白馬整数論オータムワークショップ、2月に数理解析研究所で開催される保型形式シンポジウムなどの研究集会に参加する予定である。また、5月にフランスで開かれる保型形式の周期と相対跡公式に関する研究集会、7月に台湾で開かれる汎アジア数論研究集会(PANT)などにも参加する予定である。また、余裕があれば関連する研究集会に参加する学生・共同研究者の旅費を支援する。使い勝手の良いPCなどを購入して研究環境を整えることも必要である。整数論今後の研究においては、桂田英典とのグロス・キーティング不変量に関する共同研究の成果を論文にまとめて発表することを目標にする。また被覆群、とくにトーラスの被覆群の内視理論の構築を目指して関連分野の研究者と討論を行いたい。今年度は教室の専攻長を務めているという事情によりあまり出張できないので、旅費はもっぱら関連分野の研究者が研究集会等に参加するための支援に使用する。たとえば8月には整数論サマースクール、10月には白馬整数論オータムワークショップが開催されるので、これらに参加する研究者の旅費の支援を行う。また関連分野の研究者に京都に来てもらい、小研究集会を開催することも計画している。年度末に少額の残が発生したが、消耗品などで使い切ることはせず、次年度に繰り越すことにした。
KAKENHI-PROJECT-26610005
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26610005
ω3脂肪酸代謝物の小児喘息に対する能動的消炎機構の解明
小児喘息は気道の慢性炎症であることが知られている.気道の炎症・消炎症の機構を解明するために脂肪酸代謝産物を含む種々の内因的・外因的活性物の気道上皮に対する作用を検討した.(1) leukotrieneB4(LTB4)は気道上皮のICAM-1発現を誘導し,ウイルス感染時に炎症・消炎症に関与していることが示唆された.(2)ウイルス感染のモデルであるPolyIC刺激により気道上皮にセマフォリン(sema3A)分子の発現が誘導されることを明らかにした.またsema3Aは好中球に作用してその貪食能を増強することを見いだした.(3) IL-13はマウスの気道上皮を増殖させることをair-liquid interface assay法を用いて確認した.この作用はepidermal growth factor receptor(EGFR)のリガンドのひとつであるepigenの発現を誘導することによって生ずることを解明した.小児喘息は気道の慢性炎症であることが知られている.気道の炎症・消炎症の機構を解明するために脂肪酸代謝産物を含む種々の内因的・外因的活性物の気道上皮に対する作用を検討した.(1) leukotrieneB4(LTB4)は気道上皮のICAM-1発現を誘導し,ウイルス感染時に炎症・消炎症に関与していることが示唆された.(2)ウイルス感染のモデルであるPolyIC刺激により気道上皮にセマフォリン(sema3A)分子の発現が誘導されることを明らかにした.またsema3Aは好中球に作用してその貪食能を増強することを見いだした.(3) IL-13はマウスの気道上皮を増殖させることをair-liquid interface assay法を用いて確認した.この作用はepidermal growth factor receptor(EGFR)のリガンドのひとつであるepigenの発現を誘導することによって生ずることを解明した.気道のアレルギー性炎症であると考えられている小児喘息病態に.resolution(消炎)が重要な役割をはたしているとの仮説に基づき研究を進めた.消炎に関与した活性物質として,アラキドン酸代謝物のlipoxin(LX)やω-3脂肪酸(EPA,DHA)の代謝産物であるProtectinおよび,Resolvin(Rv)が重要であると考えられる.今年度は,気道の培養細胞を用いてその作用を検討した.まず,BEAS-2B,16HBTE(培養系細胞)とヒト正常気道上皮細胞((NHBTE)を培養し,ChemR23,BLT1,ALX受容体,PGs/TX受容体(EP1-4,,CRTh2),LTs受容体(cysLTR1-2,BLT)等の受容体発現を検討した.その結果,気道上皮細胞は,BLT1,ALX受容体,PGs/TX受容体(EP1-4,,CRTh2),LTs受容体(cysLTR1-2,BLT)を発現していることが確認できた.これらの受容体は種々のサイトカインにより(IL-4,IL-13等)発現が誘導されることも確認された.現在,lipoxin(LX)やProtectinおよびResolvin(Rv)等の気道上皮に対する作用について検討を進めている.同時に,小児喘息のモデルとしての感作マウスの作成を準備している.目的:今年度は気道上皮培養細胞をもちいて,これらの細胞が脂肪酸由来活性物質に関連したいかなる受容体が発現しているかを検討した方法:ヒト培養気道上皮細胞株BEAS-2B、およびヒト正常気道上皮細胞NHBEを用いて実験を行った.培養液はそれぞれLHC-9、およびBEBMを使用し、2日置きに培養液の交換を行った。これらの細胞におけるLTB4受容体、すなわちBLT1、BLT2、および接着分子ICAM-1のmRNA発現を、定量的および半定量的RT-PCR法で、蛋白発現を、Western blotting法、免疫組織染色法およびflowcytometry法で検討した結果:これらの細胞はペプチドLTsの受容体であるCysLT1、CysLT2は発現せず,LTB4受容体のひとつであるBLT1 mRNA発現および蛋白を恒常的に発現していた.しかし,BLT2の発現は認めなかった.そこでLTB4のこれらの細胞に対する作用を検討した.LTB4はICAM-1 mRNA発現を濃度依存的に増強し、蛋白レベルでも気道上皮細胞上の恒常的なICAM-1発現を増強することが判明した.以前より、IFN-γが気道上皮細胞のICAM-1発現を増強することが報告されているが,IFN-γで誘導されたICAM-1 mRNA発現および蛋白発現は、LTB4により相加的に増強されることが新たに判明した目的:気道炎症に対する脂肪酸代謝物の影響を調べるために,引き続き気道上皮培養細胞を用いた研究を中心に遂行した.気道上皮から産生される活性物質であるsemaphorin 3Aの発現調節の機序と,気道上皮から産生されるsemaphorin 3Aの好中球に対する作用について解析を進め,アラキドン酸代謝物がその作用をどのように修飾し気道炎症の制御に関与しているかを検討した.今年度は気道上皮細胞をより生理的な状態で培養する方法についても検討した.
KAKENHI-PROJECT-21591364
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21591364
情緒的印象の記述ー騒音問題の場合ー
日常体験、特に情緒的印象を表現するのに、いかなる記述法を用いるかについて騒音問題を例として検討した。即ち、騒音を表現する用語に関して、先にわれわれが提案した音源記述選択法を用いて、日本、スウェーデン、西ドイツ、中国で同じ音源を用いて実験を行い、様々な音の印象がどのような言葉で表現されるかについて比較検討を行った。刺激として、航空機騒音、鉄道騒音、自動車交通騒音、音声、音楽、建設騒音の6種、各4レベル、計24種の音を用いた。各国の被験者にはこれらの音を聞いてその印象を表現するのに適切だと思われる形容詞を32の形容詞リストの中から順位をつけて3種選ぶように求めた。その結果、"大きい"は、日本、スウェーデンとも主として音楽と音声に、西ドイツでは多くの音源に用いられ、一方、中国では音の表現にほとんど用いられていないことがわかった。"やかましい"、"うるさい"についても各国でかなり相違が認められた。特に日本では2つの用語の選択比率は類似しており、音源のレベルが高いほどこれらの言葉が選ばれる比率も上昇している。一方、他の国では音声に"やかましい"を選択していない。スウェーデン、中国では交通騒音に"やかましい"、建設騒音に"うるさい"がより多く選択され、かつ日本を除く各国において"うるさい"は音源があるレベルを越えると、レベルに関係なく選択されている。このことは、日本を除く各国において、"やかましい"という用語はレベルの高い音、音質の悪い音に用いられ、"うるさい"は音源から受ける迷惑感を表現する言葉として区別されていることを示唆している。この様に、"うるさい"には音の物理的条件以外の心理的要因が関与することが予想される。別途実施した実験で、人工音では"うるささ"判断と"大きさ"判断には差がみられなかったが、現実音の判断においては大きな差がみられたことはこの解釈を支持する根拠の1つとなっている。日常体験、特に情緒的印象を表現するのに、いかなる記述法を用いるかについて騒音問題を例として検討した。即ち、騒音を表現する用語に関して、先にわれわれが提案した音源記述選択法を用いて、日本、スウェーデン、西ドイツ、中国で同じ音源を用いて実験を行い、様々な音の印象がどのような言葉で表現されるかについて比較検討を行った。刺激として、航空機騒音、鉄道騒音、自動車交通騒音、音声、音楽、建設騒音の6種、各4レベル、計24種の音を用いた。各国の被験者にはこれらの音を聞いてその印象を表現するのに適切だと思われる形容詞を32の形容詞リストの中から順位をつけて3種選ぶように求めた。その結果、"大きい"は、日本、スウェーデンとも主として音楽と音声に、西ドイツでは多くの音源に用いられ、一方、中国では音の表現にほとんど用いられていないことがわかった。"やかましい"、"うるさい"についても各国でかなり相違が認められた。特に日本では2つの用語の選択比率は類似しており、音源のレベルが高いほどこれらの言葉が選ばれる比率も上昇している。一方、他の国では音声に"やかましい"を選択していない。スウェーデン、中国では交通騒音に"やかましい"、建設騒音に"うるさい"がより多く選択され、かつ日本を除く各国において"うるさい"は音源があるレベルを越えると、レベルに関係なく選択されている。このことは、日本を除く各国において、"やかましい"という用語はレベルの高い音、音質の悪い音に用いられ、"うるさい"は音源から受ける迷惑感を表現する言葉として区別されていることを示唆している。この様に、"うるさい"には音の物理的条件以外の心理的要因が関与することが予想される。別途実施した実験で、人工音では"うるささ"判断と"大きさ"判断には差がみられなかったが、現実音の判断においては大きな差がみられたことはこの解釈を支持する根拠の1つとなっている。当初計画に従い,現実音(航空機騒音,新幹線騒音,鉄道騒音,自動車交通騒音,建設騒音,音楽,音声など)を収集し,磁気テープに録音した.また,「リアルタイム刺激反応計測装置」を用いて種々のレベル変化パタン,周波数成分を持った音を作成した.これらの音源の内5種類の音源,各4レベル,計20刺激を用いて,日本人学生93名を対象に予備実験を行った. 32の形容詞を選び,被験者に配布し,各音源を聞いて,その印象を表現するのにふさわしいと思われる形容詞をリストの中から3つ選択し,その順位をつけて記入するように求めた.これらの結果,(1)"大きい"は"やかましい", "うるさい"とは異なる音の属性を表す用語であり,昔のnegativeな側面を表現するには適切な用語ではない, (2)"やかましい", "うるさい"は同義語として用いられる場合が多いが,音質が悪い音には"やかましい",敵意レベルを越えた音声などには"うるさい"といったように使い分けられていることなどが示唆された.この予備実験の結果をふまえ,本実験に使用する音源24種(6音源×4レベル)を決定した.これらの音源を相手国の設備に合わせたテープ(PCM, DAT,など)にダビングし,西ドイツ(Oldenburg大学Schick教授),アメリカ(Northeatern大学Florentine準教授),スウェーデン(Stockholm大学Berglund教授),中国(中国科学院鄭副教授)に実験を依頼した.スウェーデンの対応は早く, 120人の学生を対象に実験を行い, 1987年10月上旬にはデータを入手することができた.予備的な分析の結果,スウェーデンでは"大きい", "堂々とした", "きたない"などの形容詞の使用に日本と異なる傾向がみられた.
KAKENHI-PROJECT-62510053
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62510053
情緒的印象の記述ー騒音問題の場合ー
来年度は日本でも同じ音源を用いて,本実験を実施するとともに,各国のデータの分析と比較,並びに,音源の物理的性質を精密に測定し,音の情緒的印象との関係を検討する.昨年度より、日常体験、特に情緒的印象を表現するのに、いかなる記述法を用いるかについて騒音問題を例として検討してきたが、本年度は日本で本実験を行うとともに、あらたに西ドイツ、中国の結果が得られたので、先に得られたスウェーデンの結果とあわせて分析を行い、比較検討した。即ち、騒音を表現する用語に関して、先にわれわれが提案した音源記述選択法を用いて、様々な音の印象がどのような言葉で表現されるかについて比較検討を行った。その結果、"大きい"は、日本、スウェーデンとも主として音楽と音声に、西ドイツでは多くの音源に用いられ、一方、中国では音の表現にほとんど用いられていないことがわかった。"やかましい"、"うるさい"についても各国でかなり相違が認められた。特に日本では2つの用語の選択比率は類似しており、音源のレベルが高いほどこれらの言葉が選ばれる比率も上昇している。一方、他の国では音声に"やかましい"を選択していない。スウェーデン、中国では交通騒音に"やかましい"、建設騒音に"うるさい"がより多く選択され、かつ日本を除く各国において"うるさい"は音源があるレベルを越えると、レベルに関係なく選択されている。このことは、日本を除く各国において、"やかましい"という用語はレベルの高い音、音質の悪い音に用いられ、"うるさい"は音源から受ける迷惑度を表現する言葉として区別されていることを示唆している。別途、日本と西ドイツで実施した実験で、人工音では"うるささ"判断と"大きさ"判断には差がみられなかったが、現実音の判断においては両者の間に大きな差がみられたことはこの解釈を支持する根拠の1つとなっている。現在大きさの測定法の国際標準としてISO532、やかましさの測定法としてISO/R507があるが、その適用に際しては、各国における用語の意味の相違について考察する必要があろう。
KAKENHI-PROJECT-62510053
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-62510053
ナノメータ分極制御デバイスとコヒーレント検出
本研究では、以下のような研究成果が得られた。1)電子ビーム描画法による電荷分布の観察:結晶表面に蓄積した電荷分布と結晶に注入した電荷分布の様相をSEMを用いて測定することができた。これより「砂時計型電荷分布モデル」を証明できた。また、電荷分布形成機構の新たな知見を得た。2)クーロン相互作用の定量化:コントロールリング(内径50μm、幅10μm)とその中央に描画した微小四角形パターン間に働くクーロン相互作用を定量的に検討した。まず、理論式を導出してから実験を行った。その結果、クーロン力一定の条件下では反転サイズがほぼ等しくなり、リング幅やドーズ量を変化させた場合にはクーロン力が大きくなり、計算から予想される定量的関係を満足することが証明できた。3)FCE(Full Cover Electrode)法の実験的検討:提案した微小周期分極反転-FCE法を用いてパルス電界印加実験を行った。電極とレジスト直下の電界強度比E/ERが大きいほど分極反転は有利であること、周期4μmおよび1μm径の分極反転実験を試み良好な結果を得た。4)AFMによるPZT薄膜の観察:(011)配向PZTを作製し、AFMを用いて100nm程度の分極反転を作製できた。コヒーレント検出測定を行い反転観察ができた。5)超広帯域光変調器:2.8Vの駆動電圧で40Gbit/sの伝送速度をもつ超広帯域光変調器を世界で初めて開発した。変調帯域は50GHz、消光比25dB、20年間の安定寿命が見込める。共同開発中のNGK(株)が今後商品化を進める予定。本研究では、以下のような研究成果が得られた。1)電子ビーム描画法による電荷分布の観察:結晶表面に蓄積した電荷分布と結晶に注入した電荷分布の様相をSEMを用いて測定することができた。これより「砂時計型電荷分布モデル」を証明できた。また、電荷分布形成機構の新たな知見を得た。2)クーロン相互作用の定量化:コントロールリング(内径50μm、幅10μm)とその中央に描画した微小四角形パターン間に働くクーロン相互作用を定量的に検討した。まず、理論式を導出してから実験を行った。その結果、クーロン力一定の条件下では反転サイズがほぼ等しくなり、リング幅やドーズ量を変化させた場合にはクーロン力が大きくなり、計算から予想される定量的関係を満足することが証明できた。3)FCE(Full Cover Electrode)法の実験的検討:提案した微小周期分極反転-FCE法を用いてパルス電界印加実験を行った。電極とレジスト直下の電界強度比E/ERが大きいほど分極反転は有利であること、周期4μmおよび1μm径の分極反転実験を試み良好な結果を得た。4)AFMによるPZT薄膜の観察:(011)配向PZTを作製し、AFMを用いて100nm程度の分極反転を作製できた。コヒーレント検出測定を行い反転観察ができた。5)超広帯域光変調器:2.8Vの駆動電圧で40Gbit/sの伝送速度をもつ超広帯域光変調器を世界で初めて開発した。変調帯域は50GHz、消光比25dB、20年間の安定寿命が見込める。共同開発中のNGK(株)が今後商品化を進める予定。本年度は、電子ビーム描画装置を用いて微少反転ドットを作成した。分極反転制御を行う場合、注入された電子間には強いクーロン相互作用が働くことが予想され、ナノメートル分極制御に大きな影響を与える可能性がある。そこで、微小パターンを描画する前にその周辺に電子濃度の異なるガードリングを形成し、クーロン相互作用が分極反転に与える影響を調べた。同一の大きさの微小領域に描画を行って比較した結果、リングなしでは分極反転は得られなかったが、リングを形成した試料では分極反転が見られ、リングの電子密度を増加すると反転領域の大きさも増加した。これより、クーロン相互作用の存在を実証した。これまでに、電子照射量と分極反転部分の面積が必ずしも比例しない原因は、分極反転に「核形成しきい値」と「広がりしきい値」の二つのしきい値が存在するためであることを明らかにしてきた。リングなしで微小領域と描画した場合には、蓄積電荷が「核形成しきい値」に達しないため反転しない。ガードリングの作用は、描画した微小領域の電荷がリングとのクーロン相互作用によって中央部に吹き寄せられ、「核形成しきい値」を越えるためであると説明できる。このとき、反転領域の大きさは、電界の強さが「広がりしきい値」を越える領域に決定される。ガードリングの電荷を増すと、相互作用が強くなることにより、「広がりしきい値」を越える領域が増加したと考えられる。電子ビームをライン上に走査した場合、クーロン相互作用によってお互いに反発し合うモデルを用いて、形成される反転パターン形状を説明してきたが、今回の結果によってこれを実証できた。ナノメータサイズの分極反転を実現するために、東北大学金属材料研究所との共同研究(変調構造材料)によってMBE(分子線エピタキシ)およびイオン打ち込み法を用い、AFMを用いたナノメータ分極構造の実現に向けて研究を進めている。本年度は、LiTaO_3結晶に電子ビームを照射し、分極反転の様相を詳細に検討することによって反転機構に関する重要な知見を得た。
KAKENHI-PROJECT-11450139
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ナノメータ分極制御デバイスとコヒーレント検出
1)電荷分布モデル加速電圧が10kVを越えると、加速電子は結晶中に注入可能となり、結晶の抵抗率が高い(10E1416Ωcm)ので、描画領域に電荷が蓄積される。新たに打ち込まれた電子は既存電荷により強いクーロン相互作用を受けて反発し照射領域から逃げて広がり、砂時計において砂が降り積もり"一定の頂角をもった円錐"が形成されるように、"円錐電荷分布(砂時計電荷分布)"を形成する。2)電荷分布の観測低加速SEMにより初めて撮影に成功した。電荷分布と経時変化の様相は、"SEM電荷分布観測"から容易に判断できることが分かった。3)分極反転のしきい値電子照射量と分極反転領域の大きさの測定結果に、砂時計電荷分布モデルを適用して解析を行った結果、分極反転には反転核形成のための「核形成しきい値hn」と、反転領域を広げる「領域拡張反転しきい値hth」の2つが存在することが判明した。4)各しきい値の定量化このために外部印加電界法により、同じ結晶のP-Eヒステリシスカーブを測定した。その結果、hn=204kV/cm,hth=120kV/cmなる値が得られた。この値は「調和組成の結晶」に対して得られた値である。5)クーロン相互作用コントロールリングを用いたクーロン相互作用の詳細な検討により、従来不明であった電子ビームの連続走査による不連続な点列分極反転形状、nm針状分極反転ドメイン構造発生機構などを合理的に説明が可能となった。今年度は以下のような研究成果が得られた。1)電子ビーム描画法による電荷分布の観察:結晶表面に蓄積した電荷分布と結晶に注入した電荷分布の様相をSEMを用いて測定することができた。これより「砂時計型電荷分布モデル」を証明できた。また、電荷分布形成機構の新たな知見を得た。2)クーロン相互作用の定量化:コントロールリング(内径50μm、幅10μm)とその中央に描画した微小四角形パターン間に働くクーロン相互作用を定量的に検討した。まず、理論式を導出してから実験を行った。その結果、クーロン力一定の条件下では反転サイズがほぼ等しくなり、リング幅やドーズ量を変化させた場合にはクーロン力が大きくなり、計算から予想される定量的関係を満足することが証明できた。3)FCE法の実験的検討:提案した微小周期分極反転-FCE法を用いてパルス電界印加実験を行った。電極とレジスト直下の電界強度比E/E_Rが大きいほど分極反転は有利であること、周期4μmおよび1μm径の分極反転実験を試み良好な結果を得た。4)AFMによるPZT薄膜の観察: (011)配向PZT薄膜を作製し、AFMを用いて100nm程度の分極反転を作製できた。コヒーレント検出測定を行い反転観察ができた。5)超広帯域光変調器: 2.8Vの駆動電圧で40Gbit/sの伝送速度をもつ超広帯域光変調器を世界で初めて開発した。変調帯域は50GHz、消光比25dB、20年間の安定寿命が見込める。共同開発中のNGK(株)が今後商品化を進める予定。
KAKENHI-PROJECT-11450139
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超重力場を用いた粒界組織制御とその原理解明
多結晶材料の機能を最大限に引き出すために、近年では、電場や磁場といった「外場」を積極的に材料プロセスに取り入れる動きが加速している。申請者は重力場を、とりわけその極限状態である“超重力場"を新規物質プロセスに応用する研究を行ってきた。超重力場の物質に及ぼす効果の一つに“超重力誘起拡散"がある。通常の熱処理より効率よく原子拡散を誘起し、なかでも粒界拡散への効果が顕著であることを明らかにした。この事実を応用すれば、熱処理温度を低く抑えられ、粒成長を抑制した粒界の制御が可能となる。本研究は重力誘起拡散現象を用いた低温熱処理粒界制御を目指した研究である。多結晶材料の機能を最大限に引き出すために、近年では、電場や磁場といった「外場」を積極的に材料プロセスに取り入れる動きが加速している。申請者は重力場を、とりわけその極限状態である“超重力場"を新規物質プロセスに応用する研究を行ってきた。超重力場の物質に及ぼす効果の一つに“超重力誘起拡散"がある。通常の熱処理より効率よく原子拡散を誘起し、なかでも粒界拡散への効果が顕著であることを明らかにした。この事実を応用すれば、熱処理温度を低く抑えられ、粒成長を抑制した粒界の制御が可能となる。本研究は重力誘起拡散現象を用いた低温熱処理粒界制御を目指した研究である。
KAKENHI-PROJECT-19K23567
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エコ・エレクトロニクス材料β―FeSi_2バルク単結晶の育成とその応用
昨年度までに半導体鉄シリサイド,β-FeSi_2,単結晶をGa溶液から成長することに成功し,その育成条件,電気的特性,化学的特性について明らかにした。これに加えて本年度新たに得られた主な成果は下記の通りである。1.β-FeSi_2,単結晶をGa溶媒の他にZn溶媒,Sn溶媒からも成長できることを見いだした。またこうした実験から,数多くの金属溶媒からβ-FeSi_2,単結晶が成長できることがわかった。2.成長溶媒によって結晶中の不純物が異なり,伝導型,キャリア濃度の制御が可能であることが判った。Ga溶媒を用いるとp型で0.03Ωcm程度の低抵抗の結晶,Zn溶媒を用いるとp型で10Ωcm程度の結晶,さらにSn溶媒を用いるとn型で数Ωcm程度の結晶が再現性良く成長できることが判った。3.低抵抗のβ-FeSi_2,単結晶は室温から100K程度まで高い導電率を示すことから,高いゼーベック係数と併せて,新たに低温度領域での熱電変換素子としての利用が期待できることが判った。β-FeSi_2,は毒性が無く豊富な材料を用いているため汎用に用いる場合に非常に有用な材料と考えられる。4.β-FeSi_2,の結晶をカーボン面に成長させることで大型の結晶が成長できることを明らかにした。実験では内径10mmのアンプルを用いているため,最大の結晶サイズは10mmφである。5.β-FeSi_2,単結晶の硬度をビッカース硬度計で測定し,Si単結晶とほぼ同じ硬さを持つことを初めて明らかにした。6.β-FeSi_2,単結晶を薄膜化する技術を開発し,単結晶を用いた光透過測定を初めて行った,その結果,これまで薄膜結晶で報告されている多くの実験結果と異なり,β-FeSi_2,は間接遷移型半導体であることを明らかにした。本研究によって得られた主な成果は下記の通りである。1.半導体鉄シリサイド,β-FeSi_2,単結晶を溶液から成長することに初めて成功した。2.溶液から成長した結晶は化学気相法によって成長されている針状結晶とは異り,粒状の多面体であった。このことは,β-FeSi_2,結晶は針状結晶しかできないとの従来の考えが誤りであり,β-FeSi_2,結晶においても大型の結晶が育成可能であることを明らかにした。3.Ga溶媒を用いたβ-FeSi_2,単結晶の成長において,成長温度を900°C以下にすることでβ-FeSi_2,単結晶が再現性良く成長できること,また成長温度を910°C以上にするとα-FeSi_2,ε-FeSi相が成長することを明らかにした。4.Ga溶媒に対するFeSi_2の溶解度を測定し,Ga溶媒が溶液成長に十分な溶解度を有することを明らかにした。5.β-FeSi_2,単結晶の酸,アルカリに対する腐食耐性を評価した結果,室温では塩酸,硝酸,王水,硫酸,水酸化ナトリウムには腐食せず強い耐性を持つことが明らかになった。6.β-FeSi_2,結晶が弗化水素酸に腐食されやすいことを見いだし,希釈弗化水素酸に対するβ-FeSi_2,結晶のエッチング速度を調べた。7.希釈弗化水素酸がβ-FeSi_2,結晶のエッチピット観察用エッチング液として適していることを見いだし,面方位によるエッチング速度の異方性が存在すること,さらにそのエッチピット形状から結晶の面方位が観察できることを示した。昨年度までに半導体鉄シリサイド,β-FeSi_2,単結晶をGa溶液から成長することに成功し,その育成条件,電気的特性,化学的特性について明らかにした。これに加えて本年度新たに得られた主な成果は下記の通りである。1.β-FeSi_2,単結晶をGa溶媒の他にZn溶媒,Sn溶媒からも成長できることを見いだした。またこうした実験から,数多くの金属溶媒からβ-FeSi_2,単結晶が成長できることがわかった。2.成長溶媒によって結晶中の不純物が異なり,伝導型,キャリア濃度の制御が可能であることが判った。Ga溶媒を用いるとp型で0.03Ωcm程度の低抵抗の結晶,Zn溶媒を用いるとp型で10Ωcm程度の結晶,さらにSn溶媒を用いるとn型で数Ωcm程度の結晶が再現性良く成長できることが判った。3.低抵抗のβ-FeSi_2,単結晶は室温から100K程度まで高い導電率を示すことから,高いゼーベック係数と併せて,新たに低温度領域での熱電変換素子としての利用が期待できることが判った。β-FeSi_2,は毒性が無く豊富な材料を用いているため汎用に用いる場合に非常に有用な材料と考えられる。4.β-FeSi_2,の結晶をカーボン面に成長させることで大型の結晶が成長できることを明らかにした。実験では内径10mmのアンプルを用いているため,最大の結晶サイズは10mmφである。5.β-FeSi_2,単結晶の硬度をビッカース硬度計で測定し,Si単結晶とほぼ同じ硬さを持つことを初めて明らかにした。6.β-FeSi_2,単結晶を薄膜化する技術を開発し,単結晶を用いた光透過測定を初めて行った,その結果,これまで薄膜結晶で報告されている多くの実験結果と異なり,β-FeSi_2,は間接遷移型半導体であることを明らかにした。
KAKENHI-PROJECT-12750256
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12750256
繊維補強低品質再生骨材コンクリートを用いた場所打ち鉄筋コンクリート杭のせん断耐力
繊維補強低品質再生骨材コンクリートを用いた場所打ち鉄筋コンクリート杭のせん断耐力を検討するにあたり,本年度は試験体の作製を行った。試験体は,まず場所打ちコンクリート杭が軸方向力に対してどの位の耐荷力を有するのか検討を行うため中心圧縮実験試験体の作製を行った。次に場所打ちコンクリート杭のせん断耐力を検討するため逆対称加力を作用させるせん断耐力実験試験体の作製を行った。繊維については,繊維補強コンクリートを建築構造物の場所打ち鉄筋コンクリート杭へ適用するため,その基礎的性状を把握することを目的として強度特性(圧縮強度,曲げ強度,引張強度)の向上に効果のある繊維を選択した。繊維の種類としては,近年建築構造物への適用が顕著なビニロン繊維を採用し,直径660μm,標準長30mm,引張強度900MPa,ヤング率23GPaとなる物性のものとし,ビニロン繊維の混入率を1.0%とした。低品質再生骨材コンクリートについては,日本建築学会から発行されている,再生骨材を用いるコンクリートの設計・製造・施工指針(案)の『第11章鉄筋コンクリートに用いる再生骨材コンクリートL』に示される再生骨材Lの置換率の上限値を使用することとした。使用する置換率は再生細骨材の有効利用を考慮して,再生粗骨材と再生細骨材を併用した場合の置換率として,再生粗骨材を30 %と再生細骨材を15 %とした。置換率を上限値とすることで乾燥収縮率が大きくなると考えられる厳しい条件下の低品質再生骨材コンクリートを用いる設定とした。中心圧縮実験試験体とせん断耐力実験試験体ともにコンクリート打設後56週で載荷する試験体と再生骨材コンクリートを使用した際に乾燥収縮率が大きくなるという特徴から乾燥収縮ひび割れの発生の有無について確認するためコンクリート打設後半年1年間保存する試験体を作製した。実験計画における使用材料の検討に対してビニロン繊維メーカー,低品質再生骨材コンクリートの製造工場などとの打合せおよび調整に時間が掛かってしまった。平成30年5月には低品質再生骨材コンクリートの製造工場において工場見学を行い,再生骨材と天然骨材との併用について,天然骨材の調達方法,低品質再生骨材のストック状況,製造工場の出荷実績によるスランプ値および圧縮強度発現について協議を行った。その結果,平成30年5月中に場所打ち鉄筋コンクリート杭試験体の製作会社に試験体作製を発注することができた。しかし試験体の作製について製作会社の協力を得ることはできたが,製作会社の試験体を設置するストックヤードが他の研究機関からの試験体作製依頼により平成30年度は大変混んでいて当面開いていないことなどの理由で具体的な試験体の作製計画の段取りが遅れてしまった。実際には平成30年10月末にコンクリート打設の日程調整を製作会社と行い,コンクリートの打設は平成30年12月に試験体の試験部分と補強部分(スタブ部分)の2回に分けて行った。試験部分のコンクリート打設後,コンクリートの養生期間を5週ほど確保し,試験体の大学への搬入が平成31年1月上旬となった。そのため本年度は試験体の作製のみが主な研究実績となった。コンクリート打設後56週で載荷する試験体の実験は平成31年1月中旬以降の実施となり,実験後のデーター整理を現在行っているところで,今後はさらに急いで実験データを分析してまとめる予定である。低品質再生骨材コンクリートを用いた場所打ち鉄筋コンクリート杭は乾燥収縮ひひ割れが発生すると予想されるため,材齢56週での実験用と材齢半年1年での実験用の2シリーズについて同時に作製した。平成30年12月にコンクリートを打設後,材齢が若く乾燥収縮ひび割れがまだ発生していない材齢56週での実験用の試験体の実験が終了し,現在実験後のデーター整理を行っている。平成31年度はビニロン繊維で補強した低品質再生骨材コンクリートを用いたコンクリート角柱供試体を恒温恒湿室に保存して,乾燥収縮率を定期的に計測するとともに,杭試験体の乾燥収縮ひび割れの発生状況を材齢半年1年までの予定で長期的に観察している。これらの乾燥収縮率の測定と乾燥収縮ひび割れの観察ののち,コンクリート打設後材齢半年1年間保存した試験体を載荷して耐荷力に及ぼす乾燥収縮率および乾燥収縮ひび割れの影響について検討を行う予定としている。繊維補強低品質再生骨材コンクリートを用いた場所打ち鉄筋コンクリート杭のせん断耐力を検討するにあたり,まず実験計画を行った。繊維については,繊維補強コンクリートを建築構造物の場所打ち鉄筋コンクリート杭へ適用するため,その基礎的性状を把握することを目的として文献調査を行った。調査した内容は,繊維補強コンクリートのフレッシュ性状,強度特性(圧縮強度,曲げ強度,引張強度),耐久性(乾燥収縮率,乾燥収縮ひび割れ,中性化,耐凍害性)などに関する項目である。繊維の種類,径および長さなどの形状,繊維の添加率の違いにより各種性状に及ぼす影響を文献により調べた。繊維の種類としては,近年建築構造物への適用が顕著なビニロン繊維を採用することとした。低品質再生骨材コンクリートについては,平成26年10月20日に日本建築学会から発行された,再生骨材を用いるコンクリートの設計・製造・施工指針(案)の『第11章鉄筋コンクリートに用いる再生骨材コンクリートL』に示される再生骨材Lの置換率の上限値を使用することとした。使用する置換率は再生細骨材の有効利用を考慮して,再生粗骨材と再生細骨材を併用した場合の置換率として,再生粗骨材を30 %と再生細骨材を15 %とした。
KAKENHI-PROJECT-17K06656
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繊維補強低品質再生骨材コンクリートを用いた場所打ち鉄筋コンクリート杭のせん断耐力
置換率の上限値とすることで乾燥収縮率が大きくなると考えられる厳しい条件下の低品質再生骨材コンクリートを用いる設定とした。主筋については,場所打ち鉄筋コンクリート杭のせん断耐力を検討するための中心圧縮実験試験体とせん断耐力実験試験体の主筋の長さなどの配筋計画,ひずみゲージ貼付け位置の検討を行った。また,横補強筋については,横補強筋の径,リングの形状および継手位置,ひずみゲージ貼付け位置の検討を行った。実験計画における使用材料の検討に対して構造ヘルスモニタリング装置の製作企業,ビニロン繊維メーカー,低品質再生骨材コンクリートの製造工場などとの打合せおよび調整に時間が掛かってしまった。また,場所打ち鉄筋コンクリート杭試験体の製作会社の試験体を設置するストックヤードが他の研究機関からの試験体作製依頼により混んでいて当面開いていないことなどの理由で具体的な試験体の作製計画の段取りが遅れてしまった。構造ヘルスモニタリング装置の製造企業との打合せでは,試験体に設置する光ファイバーセンサの種類や形状などを設計図で確認し,光ファイバーセンサの本体を受注生産しているドイツから輸入した。またビニロン繊維メーカーとの打合せでは,乾燥収縮率あるいは構造耐力のどちらを優先させて改善させるのかによって使用する繊維の種類や形状の選択,添加量の違いについて協議した。低品質再生骨材コンクリートの製造工場との打合せでは,再生骨材と天然骨材との併用について,天然骨材の調達方法や製造工場の出荷実績によるスランプ値および圧縮強度発現の協議に時間を費やした。現在は,実験計画が完了し,試験体の作製に取り掛かっている。まず試験体内部の鉄筋を購入し,ひずみ測定用のひずみゲージの貼付け作業を先行させている。主筋については,場所打ち鉄筋コンクリート杭のせん断耐力を検討するための中心圧縮実験試験体とせん断耐力実験試験体に分けて,異なる主筋の長さごとにひずみゲージの貼付け作業を行った。並行して,横補強筋については,横補強筋のリングの内側にひずみゲージの貼付け作業を行った。低品質再生骨材ンクリートの打設は,平成30年9月に予定しており,平成30年10月にコンクリートの材齢が5週時における載荷実験を行う予定である。実験後は早急に実験データを分析してまとめる方針である。繊維補強低品質再生骨材コンクリートを用いた場所打ち鉄筋コンクリート杭のせん断耐力を検討するにあたり,本年度は試験体の作製を行った。試験体は,まず場所打ちコンクリート杭が軸方向力に対してどの位の耐荷力を有するのか検討を行うため中心圧縮実験試験体の作製を行った。次に場所打ちコンクリート杭のせん断耐力を検討するため逆対称加力を作用させるせん断耐力実験試験体の作製を行った。繊維については,繊維補強コンクリートを建築構造物の場所打ち鉄筋コンクリート杭へ適用するため,その基礎的性状を把握することを目的として強度特性(圧縮強度,曲げ強度,引張強度)の向上に効果のある繊維を選択した。繊維の種類としては,近年建築構造物への適用が顕著なビニロン繊維を採用し,直径660μm,標準長30mm,引張強度900MPa,ヤング率23GPaとなる物性のものとし,ビニロン繊維の混入率を1.0%とした。
KAKENHI-PROJECT-17K06656
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非専門家との連携協働による新たな建物強震観測体制「Pネット」の構築
将来の広域巨大地震災害に向けて建物の強震観測体制を充実するために、非専門家との協働に基づく新たな観測体制を提案し、観測システムの構築と運用テストを行った。まず、安価な地震計を用いて、機材の維持管理や記録の回収・分析などを容易に行いうるソフト・ハードを開発した。観測システム一式を高等学校などに貸与し、校舎等に設置して、理科教員と生徒による長期運用を行い、テストと改良を行った。結果として、最小限のコストで十分な観測結果を得るとともに、理科教育や防災普及啓発にも有効であることを示した。本研究では、強震観測のいっそうの普及と観測データの蓄積・活用に向けて、一般市民や技術者と連携した新たな強震観測体制「Pネット」について検討を進めている。昨年度は観測機材、データ蓄積・転送、データベースシステムなどの基礎的検討を行っており、本年度はそれを受けて実際的な運用テストに基づく問題点の把握と改良を主に行った。名古屋市内の高校において、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の活動と連携した観測を継続しており、昨年度から今年度にかけて多数の観測記録が得られている。高校教員・生徒とともに分析を行い、地震による建物応答特性の差や、校舎の建てかえ・耐震補強に伴う振動特性の変化などの成果を出し、同時に高校教育における強震観測の活用について検討を行った。そのほかに本システムで観測を行っている複数の建物についてデータ蓄積・分析を加え、システムの改良に結び付けている。簡易な観測のための機材について、携帯情報端末に内蔵されている加速度センサの活用を検討し、データ転送まで含めて一体で対応できる可能性を得ている。またウェブGISを基礎とするデータベースに関しては、建物・地盤情報や地域情報の蓄積を進めている。観測結果を被災度判定等に活用するための検討として、観測記録から層間変形等の情報を評価する手法の検討を加えている。評価結果はセンサの精度や観測の質にも依存するため、従来の高精度観測システムの知見によらない検討が必要である。将来の広域巨大地震災害に向けて建物の強震観測体制を充実するために、非専門家との協働に基づく新たな観測体制を提案し、観測システムの構築と運用テストを行った。初年度(23年度)には、市販の廉価地震計、あるいは既存観測システムの更新に伴って廃棄された旧型地震計などを用いて、記録の回収・分析や機材の維持管理などを容易に行いうるシステムを開発した。スタンドアロン運用だけでなく、簡易なネットワーク接続を行う手法についても検討した。旧型の強震計は、利用時のインターフェイスが貧弱であり、これらの運用環境は有用であることが確認された。並行して、ウェブGISと相互運用技術に基づき、観測記録を他の地理情報とともに活用できる環境構築(サーバの作成)を試み、技術者の利用や市民の防災啓発、理科教育などへの活用を検討した。2年目にかけては、開発した観測システムを複数の高等学校に設置し、教員(主に理科)と生徒による観測を開始した。得られた観測記録の分析を行うとともに、分析方法や得られた結果の活用を生徒とともに検討し、エクセルマクロなどによる波形分析環境も検討した。また複数のユーザによる観測結果をまとめて閲覧・活用できる環境の整備を試みた。最終年度(25年度)は、高等学校における観測を継続し、複数の建物で地震観測記録が得られた。またそれらを生徒および理科教員とともに分析して、発表資料を作成するまでの過程を検証した。以上のシステムおよび関連資料により、最小限のコストで十分な観測結果を得るとともに、高等学校における理科教育や防災普及啓発にも有効であることを示した。一方、振動台実験において廉価型センサの計測を試み、構造ヘルスモニタリング目的での活用可能性を検討した。この結果は一般建物のローコストなモニタリング開発に向けた基礎資料となる。将来の広域巨大地震災害に向けて建物の強震観測体制を充実するために、非専門家との協働に基づく新たな観測体制を提案し、観測システムの構築と運用テストを行った。まず、安価な地震計を用いて、機材の維持管理や記録の回収・分析などを容易に行いうるソフト・ハードを開発した。観測システム一式を高等学校などに貸与し、校舎等に設置して、理科教員と生徒による長期運用を行い、テストと改良を行った。結果として、最小限のコストで十分な観測結果を得るとともに、理科教育や防災普及啓発にも有効であることを示した。本研究は、広域巨大地震災害における建物の被災状況把握やデータ蓄積にむけて、多数の建物の強震観測・モニタリング体制を改善・推進するために、強震観測を専門としない技術者や市民との協働による新たな強震観測体制「Pネット」を提案し、その基礎技術の開発、実地テストおよび協力者との連携運用体制の基盤構築を行うものである。初年度となる23年度には、まず提案するシステムの要素技術の開発・テストを行った。具体的には、機器更新で廃棄されたり運用されなくなっている旧型の地震計・震度計について、新たに多種・多数入手し、それらの故障状況や観測性能を調べた。観測は可能な場合が多いが、メモリが少ないなどの制約が大きく、そのままでは活用しにくい。そこで、地震計に耐久性にすぐれた小型サーバを接続し、自動でデータを読み出してネットワークや電話網で送信する安価なシステムを開発した。特に、LAN環境が整っている場合は労力・コストともに大幅に低減される。さらに、観測記録の活用に向けて、地震記録・対象建物・地盤等のデータベース化とウェブGISによる表示、さらに相互運用による他の地理情報との連携強化により、建築・防災技術者のみならず、まちづくりや学校教育に活用できるシステムとインターフェイスの開発を試みた。
KAKENHI-PROJECT-23560669
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23560669
非専門家との連携協働による新たな建物強震観測体制「Pネット」の構築
以上の検討に際して、地震計を名古屋市内の複数の高校に設置し、理科教育への活用方策も含めて連携して開発を行った。その過程は当該高校が参加するSSH(スーパーサイエンスハイスクール)でも取り上げられ、地震や災害に対する意識啓発にもなるなど、提案するシステムの活用方針に有用な知見も得られた。その他に、複数の建物やEディフェンス実験などで本システムによる観測を行い、観測状況やシステム稼動状況のテストを継続している。以上から、多くの地点での地震観測を開始・運用するために有効であることを確認しつつある。今年度計画では、(1)実地運用テストを継続して改善点を探ること、(2)一般向け機能として、観測建物耐震性や地域防災に活用可能なシステムの可能性を探ること、の2点を挙げていた。上記の実績概要に示したように、(1)については高校を中心に運用を行い成果を挙げていること、またより簡易な観測の希望を踏まえて携帯端末の活用などが進んでいる。(2)については、建物の被災度判定に向けた指標の可能性や精度の検討をお行ない、また多様な地域情報の相互運用環境の開発が進んでいる。以上から、おおむね順調に進展していると考えられる。23年度の研究実施計画に挙げた点は、システムのソフト・ハードの開発、学校等におけるテストの開始、データ利用環境の検討である。これらは、上述のようにほぼ予定通りの検討が進んでいる。特に高校におけるテスト運用が進展し、実際の地震観測成果が得られ、高校教育への導入も進んでいる点は重要と考えている。主に以下の諸点の検討を行い、新た強震観測体制の基盤を確立する。(1)これまで観測を行ってきた建物で、利用状況および観測成果をまとめて、システムの評価を行う。特に、今後、比較的長期にわたる安定運用を行いうるかの検討が重要となる。(2)情報活用に関して、一般向けには平常時の建物モニタリング、災害時の被災状況確認、地域防災状況の評価など、技術者向けには観測データの蓄積・整理環境の提供などを目標として、実際的なシステムを構築する。主に以下の2点を予定している。(1)23年度に開発した観測用システムについて、実地運用テストを継続し、利用状況に関するヒアリングや観測記録の詳細な検討を通して改良点を探る。(2)一般住民向け機能として、強震観測対象建物の入力地震動・建物情報の入力に基づく耐震性等の判定を提供するシステムを検討する。またウェブGISと連携して、地域防災リーダーやボランティア向けに、地域防災力に関する情報として活用できるようにする。企業や建物管理者にとっては、組織や建物の安全性と防災力向上に利用できる。以上のように、様々な状況での利用方法を提示することで、強震観測の底辺を拡げ、一般的な技術として、あるいは耐震化・防災活動の普及啓発の有効な手段として利用できることを示す。観測システムやデータ分析のための関連物品や消耗品の購入、観測状況のヒアリングや情報収集のための国内旅費、ソフトウェア開発などに使用する。
KAKENHI-PROJECT-23560669
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漢字熟語の形態素処理と漢字の形態-意味対応の一貫性
今年度は、複数の漢字で構成された漢字熟語を読む際に、個々の漢字に対応する形態素への分解と、語全体レベルの表象への統合のプロセスが介在するかどうかについて検討するための研究を中心に行った。漢字三字熟語には、先頭の漢字が後続の二字熟語を修飾する構造を持つもの(e.g.,重工業)と先頭の二字熟語が後続の単漢字を修飾する構造を持つもの(e.g.,図書館)とが存在する。そこで、先行して提示される漢字三字熟語プライムと後続して提示される漢字三字熟語ターゲットとの間の形態素構造の一致による関係プライミング効果を語彙判断課題を使って検討した。同時に、この課題では、漢字熟語ペアの先頭漢字の共有によるプライミング効果についても合わせて観察を試みた。関係プライミング効果が形態素の統合処理の段階で生じる効果であるなら、この効果を観察するためには、単漢字と漢字二字熟語を統合することで、はじめて実在語であるかどうかの判断が可能となる課題設定が必要である。そこで、この実験では、非語刺激として実在する単漢字と二字熟語を組み合わせた非語(e.g.,菌誠実、芋宇宙)を用いた。実験の結果、先頭漢字の共有によるプライミング効果と形態素構造の共有によるプライミング効果の両方が観察された。ただし、これら二つの要因間には、交互作用は認められなかった。この結果は、これら2つのプライミング効果が異なる処理段階で生じる効果であることを示唆する。すなわち、先頭漢字の共有によるプライミング効果は、形態素への分解処理の段階で生じる効果であるのに対し、形態素構造の共有による関係プライミング効果は、個々の形態素レベルの表象を語全体レベルの表象に統合するプロセスにおいて生じる効果であることを示唆するものと思われる。今年度の研究を通して、漢字熟語を読む際に、形態素への分解のプロセスと、分解された形態素を語全体レベルの表象に統合するプロセスとが介在する可能性を示唆するデータを確認することができた。また、実験では、プライムーターゲット間の先頭漢字の共有と形態素構造の共有の二要因間には、交互作用は観察されなかった。この結果は、先頭漢字の共有による形態素プライミング効果と形態素構造の共有による関係プライミング効果とは、異なる処理段階において生じる効果であることを示唆するものである。つまり、漢字熟語を読む際には、個々の漢字に対応する形態素レベルの表象が活性化される処理プロセスに加えて、形態素構造に依存した形態素の統合処理が行われるプロセスとが、独立に機能しているものと思われる。漢字熟語を読む際に漢字に対応する形態素の活性化と活性化された形態素を語全体レベルの表象に統合するプロセスの存在を示唆することができたことから、さらに、この仮説の妥当性の検証を実施したいと考えている。語彙判断課題では、使用する非語刺激によって、課題遂行に含まれる処理をある程度制御できる可能性が高い(e.g., Taft, 2004)。例えば、関連のない漢字三文字を組み合わせて作成した非語(e.g.,毒電明、劇字者)を使うと、分解した個々の形態素(漢字)を組み合わせて二字熟語を作成できなければ、その段階で非語であることが明らかとなるはずである。そのため、語ー非語判断の遂行に統合のプロセスは必要ないことになる。一方、単漢字と二字熟語を組み合わせて作成した非語を使った場合(e.g.,菌誠実、芋宇宙)には、統合が完了できるかどうかで語か非語かが判別されるものと考えられる。これが正しいなら、関連のない漢字を組み合わせて作成した非語を使った場合には、統合のプロセスは十分に機能しないため、関係プライミング効果は観察されないはずである。一方、先頭漢字の共有による形態素プライミング効果は観察されるはずである。こうした予測が正しいかどうかを検討することで、漢字熟語を読む際に、形態素への分解と語全体レベルの表象への統合のプロセスが介在することをさらに明確に示したい。また、新たに、漢字熟語を構成する漢字が持つ形態ー意味対応の一貫性の測定に関する作業についても進めて、漢字の形態ー意味対応の一貫性という変数が漢字熟語を読む際にどのような役割を果たしているのかという問題についても取り組んで行きたいと考えている。今年度は、複数の漢字で構成された漢字熟語を読む際に、個々の漢字に対応する形態素への分解と、語全体レベルの表象への統合のプロセスが介在するかどうかについて検討するための研究を中心に行った。漢字三字熟語には、先頭の漢字が後続の二字熟語を修飾する構造を持つもの(e.g.,重工業)と先頭の二字熟語が後続の単漢字を修飾する構造を持つもの(e.g.,図書館)とが存在する。そこで、先行して提示される漢字三字熟語プライムと後続して提示される漢字三字熟語ターゲットとの間の形態素構造の一致による関係プライミング効果を語彙判断課題を使って検討した。同時に、この課題では、漢字熟語ペアの先頭漢字の共有によるプライミング効果についても合わせて観察を試みた。関係プライミング効果が形態素の統合処理の段階で生じる効果であるなら、この効果を観察するためには、単漢字と漢字二字熟語を統合することで、はじめて実在語であるかどうかの判断が可能となる課題設定が必要である。そこで、この実験では、非語刺激として実在する単漢字と二字熟語を組み合わせた非語(e.g.,菌誠実、芋宇宙)を用いた。
KAKENHI-PROJECT-18K03186
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漢字熟語の形態素処理と漢字の形態-意味対応の一貫性
実験の結果、先頭漢字の共有によるプライミング効果と形態素構造の共有によるプライミング効果の両方が観察された。ただし、これら二つの要因間には、交互作用は認められなかった。この結果は、これら2つのプライミング効果が異なる処理段階で生じる効果であることを示唆する。すなわち、先頭漢字の共有によるプライミング効果は、形態素への分解処理の段階で生じる効果であるのに対し、形態素構造の共有による関係プライミング効果は、個々の形態素レベルの表象を語全体レベルの表象に統合するプロセスにおいて生じる効果であることを示唆するものと思われる。今年度の研究を通して、漢字熟語を読む際に、形態素への分解のプロセスと、分解された形態素を語全体レベルの表象に統合するプロセスとが介在する可能性を示唆するデータを確認することができた。また、実験では、プライムーターゲット間の先頭漢字の共有と形態素構造の共有の二要因間には、交互作用は観察されなかった。この結果は、先頭漢字の共有による形態素プライミング効果と形態素構造の共有による関係プライミング効果とは、異なる処理段階において生じる効果であることを示唆するものである。つまり、漢字熟語を読む際には、個々の漢字に対応する形態素レベルの表象が活性化される処理プロセスに加えて、形態素構造に依存した形態素の統合処理が行われるプロセスとが、独立に機能しているものと思われる。漢字熟語を読む際に漢字に対応する形態素の活性化と活性化された形態素を語全体レベルの表象に統合するプロセスの存在を示唆することができたことから、さらに、この仮説の妥当性の検証を実施したいと考えている。語彙判断課題では、使用する非語刺激によって、課題遂行に含まれる処理をある程度制御できる可能性が高い(e.g., Taft, 2004)。例えば、関連のない漢字三文字を組み合わせて作成した非語(e.g.,毒電明、劇字者)を使うと、分解した個々の形態素(漢字)を組み合わせて二字熟語を作成できなければ、その段階で非語であることが明らかとなるはずである。そのため、語ー非語判断の遂行に統合のプロセスは必要ないことになる。一方、単漢字と二字熟語を組み合わせて作成した非語を使った場合(e.g.,菌誠実、芋宇宙)には、統合が完了できるかどうかで語か非語かが判別されるものと考えられる。これが正しいなら、関連のない漢字を組み合わせて作成した非語を使った場合には、統合のプロセスは十分に機能しないため、関係プライミング効果は観察されないはずである。一方、先頭漢字の共有による形態素プライミング効果は観察されるはずである。こうした予測が正しいかどうかを検討することで、漢字熟語を読む際に、形態素への分解と語全体レベルの表象への統合のプロセスが介在することをさらに明確に示したい。また、新たに、漢字熟語を構成する漢字が持つ形態ー意味対応の一貫性の測定に関する作業についても進めて、漢字の形態ー意味対応の一貫性という変数が漢字熟語を読む際にどのような役割を果たしているのかという問題についても取り組んで行きたいと考えている。今年度、ワークステーションの購入を計画していたが、実験参加者と研究補助者への謝礼の支払い額が予定よりも多かったことから、ワークステーションの購入を次年度に繰り越した。繰り越し額は、予定通り、ワークステーション購入のために充てる予定である。
KAKENHI-PROJECT-18K03186
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非可縮多様体上の時変システムの大域的制御
本研究では,多様体上で定義された時変/時不変な非線形システムを対象とし,微分不可能な制御Lyapunov関数(CLF)を使った大域的な制御則の設計法について研究した.大域的な局所半凹なCLFの設計法として,時変なシステムを考慮した最小射影法を提案するとともに,多層最小射影法でCLFを設計する際に必要となる,層(多層空間)の設計法も提案した.提案法は移動体による未知空間の探索制御に適用可能であるメリットがある.さらに,研究の副産物として,局所半凹なCLFに対する種々の一般化同士の関係を解析するとともに,本研究で得られた研究成果をロボット制御の一種である受動速度場制御に応用した.ロボティクス分野における自律移動制御に対する貢献をモチベーションとして,非可縮な多様体(穴が開いた空間)上の非線形システムに対する大域的な制御の設計法を考えた.従来法である多層最小射影法は微分不可能な制御Lyapunov関数の設計法であり,Rifford-Sontag型制御則と組み合わせることで大域的な制御が設計できることが期待されるが,ロボティクス分野への適用を行うには理論に未整備な点があった.そこで,本年度は時変システムへの拡張や多層最小射影法の適用に必要な層の設計法の開発に取り組むことで,多層最小射影法の理論的な整備を行うことを交付申請書では述べた.まず,時変システムへの拡張を行う前に,時不変なロボットシステムへ多層最小射影法がどこまで適用可能か確認を行った.これまでの研究では多層最小射影法は,Rifford-Sontag型制御則が要求する局所半凹実用制御Lyapunov関数の設計が可能であるかどうかは示せていなかったため,証明を行った.証明は意外にも自明ではなく,局所半凹関数の定義や一般化微分の一種である分解微分の性質を整理する必要があった.結果,研究の副産物として,可到達微分・フレシェ微分はそれぞれ極小分解微分・極大分解微分と等しいことが明らかになり,局所半凹関数に対する一般化微分同士の関係を明らかにすることができ,結果を論文として投稿した(査読中).層の設計法の開発法として,ベルマンフォード法を使った層の設計法を提案し,国際会議に投稿したが証明の不備を指摘されたため,修正・再投稿作業を行っている.また,層の設計法を検討中に,最小射影法は時変システムに拡張せずとも,二台同時トラッキング制御に適用可能な場合があることに気づき,発表を行った.その他,若年層をターゲットとした研究成果発信として,マイクロマウスロボット競技の推進に関する2件の国内会議発表を行った.多層空間の設計法に関する研究が進んだ.多層最小射影法により制御Lyapunov関数(CLF)を設計する場合には多層空間の設計が必要となるが,これまでは設計する多層空間が満たすべき条件しか示されていなかった.これに対し,システムが定義されている空間の開被覆を使った多層空間の設計法を示した.言い換えれば,SLAMなどで得られた地図情報から大域的なCLFを設計可能とした.動的障害物回避制御を実現するためには,計算量の低さが求められる.制御Lyapunov関数により動的障害物回避を実現する観点から,一般化微分の一種である分解微分の簡便な計算法を研究したところ,方向微分の差分近似では分解微分が計算できないことを数理的に明らかにした.この一連の解析の中で,分解微分は,制御則の設計ツールとしてだけでなく,一般化微分同士の関係を示す解析ツールとしても有用であることに気づいた.この結果を発展させ,可到達微分を使った実用CLFの定義と分解微分を使った実用CLFの定義は同値であることを示した.高次元システムへの最小射影法の適用可能性を検証するため,多リンクロボットアームの研究も行った.ロボットアームの目標ベクトル場追従問題における目標ベクトル場の特異点の処理法,ロボットアームの有限時間整定制御などを示すことができた.その他,若年層をターゲットとした研究成果フィードバックの一環として,マイクロマウス関西地区大会の運営を主催し,参加者ならびに現地審査をご担当いただいた(公財)ニューテクノロジー振興財団理事である中川友紀子様より素晴らしい運営であったと好評をいただくことができた.さらに,本研究費の中間発表としてMICANSと呼ばれる研究者同士の研究会を主催した.今後の予定として,国際会議の査読でも時変システムへの拡張を提案されているため,急ぎ,多層最小射影法の時変システムへの拡張を実現したい.当初の計画通り多層空間の設計法について示すこと,(定理としては示しきれていないものの)アプリケーションの適用可能性を示すことは出来たが,一般化微分の整備に追われ,時変システムに対する多層最小射影法の適用には至っていない.当初の研究計画で論じたテーマの中で時変システムに対する理論整備が残っているため,最終年度である3年目にしっかりまとめきりたい.これまでの研究では,多様体上で定義された時変システムに対する微分不可能な制御Lyapunov関数の設計法について研究してきた.従来研究で行われていた時不変システムに対する制御Lyapunov関数の設計法である最小射影法を拡張するに,記法や定義の複雑さから拡張はなかなか進まなかったが,おおよそ整理作業は完了し,本年度は最小射影法の拡張に取り組むことができた.多様体上で定義された時変システムに対する微分不可能な制御Lyapunov関数の設計法を提案した.
KAKENHI-PROJECT-26870711
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非可縮多様体上の時変システムの大域的制御
これまでの研究では多様体上で定義された時変な大域的制御Lyapunov関数について導入されていなかったため,Sontag, Edwards, Jiangなどの各研究者がよく使っているユークリッド空間上で定義された時変な大域的リアプノフ関数を自然に拡張したものを導入し,また,提案した制御Lyapunov関数の設計法は最小射影法を自然に拡張にすることに成功した.また,最小射影法に関する整理作業による副産物として,受動速度場制御というロボット制御を不連続は目標ベクトル場を取り扱い可能なように拡張することに成功した.これまでの受動速度場制御は微分可能な目標ベクトル場しか取り扱うことができず,車両の障害物回避や剛体の姿勢角制御への適用が行えなかった問題があった.最小射影法の整理作業で見出した「局所半凹関数の分解」という考え方を応用し,従来の受動速度場制御を拡張し,局所半凹関数の一般化微分によるベクトル場によって目標速度場が記述されている場合に対する,不連続な目標速度場を取り扱い可能な受動速度場制御を開発することができた.これまでの研究ではなかなか時変システムへの拡張ができず,従来研究の整理作業を行わざるをなかった状況にあったが,これまでの整理作業が実りはじめ,時変システムに対する一般的な結果を出すことができた.昨年度の研究の継続・発展を行うとともに,時変システムに対する微分不可能な制御Lyapunov関数の設計法に関する結果の国際会議化を行った.昨年度提案した多様体上で定義された時変システムに対する微分不可能な制御Lyapunov関数の設計法のブラッシュアップを行い,動的障害物回避制御問題への適用を適用例として,国際会議である57th IEEE Conference on Decision and Controlへの投稿を行った(現在査読中).多層最小射影法により制御Lyapunov関数(CLF)を設計する場合には多層空間の設計が必要であり,過年度にシステムが定義されている空間の開被覆を使った多層空間の設計法を示した.これを移動ロボットによる未知空間の探索問題に応用し,制御Lyapunov関数に基づいた探索制御を提案し,国際会議にて発表を行った.提案法は解析的な大域的制御であり,目標地点への到達が理論的に保証されている点,空間の変化に対するある種のロバスト性を持つ点で優れている.微分不可能関数に対する一般化微分の概念を整理することによる副産物として,昨年度は受動速度場制御というロボット制御を不連続は目標ベクトル場を取り扱い可能なように拡張した.昨年度はポテンシャル場として記述できるような目標ベクトル場しか取り扱えなかったが,これをさらに拡張し,目標軌道追従タスクを不連続な目標ベクトル場として記述する方法ならびに,設計した目標軌道追従用の目標ベクトル場に追従可能となるように受動速度場制御のさらなる拡張を行った.従来の受動速度場制御はタスクごとに個別に目標速度場を設計するしかなく,一般的な目標速度場の設計法は提案されていなかったが,これに対するひとつの答えを与えたことになる.
KAKENHI-PROJECT-26870711
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26870711
買い物環境が高齢者の活動と健康に与える影響についての縦断研究
買い物不便と高齢者の活動・健康の関連はさまざまな先行研究で報告されているが,横断的な分析であり曝露期間や脱落が考慮されていない.買い物不便への曝露期間が長い地域では,曝露によりすでに健康を損なった者は調査対象から脱落してしまっており,みかけ上買い物不便の影響は過小評価されている可能性がある.そこで,愛知県知多圏域在住の高齢者の調査データ,タウンページデータベースの2001年から2010年の3年おきの4時点データを用い,買い物不便地域を「曝露期間が長い地域」「曝露期間の短い地域」に分けて,食物摂取頻度,外出頻度の状況をみた.食物摂取,外出頻度とも,「曝露期間の短い地域」では,買い物不便でない地域の居住者に比べて有意に「少ない者」が多く,「暴露期間の長い地域」では多くないことが明らかになった.この分析では各個人の食料入手手段についての調査データがなく,入手手段を特定できていなかった.また他地域で同様の結果がみられるのかを確認するため,食料入手手段についての質問項目を含んだ2013年調査データ,東京大学空間情報科学研究センターとの共同研究によって利用可能となった2010年から2013年の各年の小売店データを用いて食料入手手段を考慮しつつ,買い物不便の曝露期間の長さの違いを考慮した分析を行った.その結果,愛知県のデータのみを用いた分析と同様に曝露期間の短い地域で食物摂取状況が悪くなりやすいことが示された.本研究は縦断データを用いて,経年的な買い物環境と高齢者の活動・健康の関連を検討しようとするものである.研究のプロセスは大きく1郵送調査の実施,2縦断データの作成,3縦断データの分析,4将来推計,の4つに分けられる.28年度に予定していたプロセスは1郵送調査の実施であった.買い物環境が悪化した場合に高齢者に起こりうる変化(アウトカム)として,1)活動性の低下(外出頻度・食物摂取頻度の減少),2)活動性の低下の結果としての健康の喪失(要介護化・死亡),3)当該地域からの転出の3つを想定し,2010年から2016年までの転帰を,2010,2013年に実施済みの調査に加え2016年度に実施する郵送調査,介護保険関係データにより追跡ことを目的とし,2016年10月,対象地域である愛知県知多郡南知多町において,町に居住する要介護認定を受けていない高齢者全数に調査票を郵送し回収した.地域在住高齢者の健康状態,活動状況の把握を行った.また,買い物環境の把握のため,タウンページデータベース(NTTタウンページ)の2001年2016年データを加工し,15年間の小売店の出店・撤退の状況の縦断変化データを作成した.食料品小売店の総数は2001年から2016年までの間に約3割減少していた.店舗種別にみると,コンビニエンスストアは1.5倍程度に増加していた.スーパーストアの店舗数はほぼ横ばいであったが,米店,鮮魚店,青果物店,個人商店等半数程度に減少していた.予定通り郵送調査を実施することができた.遅れて返送された調査票がありデータはまだ完成されていないが,現状のデータで高齢者の健康・活動を状況を概観できた.買い物環境のデータの加工も進み,地域の外出環境の概要も把握できた.高齢者の運転停止の状況,運転停止後の活動状況と地域要因の関連を検討した.高齢者の運転停止は,都市など利便性の高い市町村で多く,農村地域などの利便性の低い市町村で少ないことが示された.また農村地域では運転停止者で外出頻度が低い者が多かった.運転停止をした高齢者のうち,外出環境の良くない地域に居住する高齢者は環境の良い高齢者に比べ活動が制限されている可能性が考えられた.この成果は公衆衛生学会で報告した.またより細かい地域レベル要因の影響をみるため,小学校区レベルの買い物環境と運転停止の関連を検討した.小学校区単位の小売店の1000m圏のカバー人口割合の高さは,個人レベルの健康や身体機能を考慮しても運転停止のしやすさに対し有意に正の関連を示した.この成果は第56回土木計画学研究発表会・秋大会で報告した.運転を停止した高齢者のうち,どのような高齢者が要介護状態になりやすいかを2時点の自記式調査データと介護保険関連データを結合して作成したデータを用いて検討した.2006年の調査時点では自家用車を運転していた者を対象とし,2010年時点の自家用車運転状況とバスや自転車の利用状況を説明変数,要介護発生を目的変数とした生存分析を行った.運転停止者は運転継続者に比べ,健康や身体機能の状態を考慮しても要介護になりやすかった.また運転停止者の中でも,バスや自転車が利用可能でない高齢者は利用可能な高齢者にくらべ,健康や身体機能状態を考慮しても要介護になりやすかった.この成果は英文誌に投稿中である.買い物環境についての項目だけでなく運転停止状況の項目を含んだ2016年のデータの基礎的な分析が進んだ.また2006年,2010年の複数時点の調査を結合したパネルデータ.さらに介護保険データを結合したコホートデータを用いた分析を進めることができた.15年間の小売店舗のデータを用い,地理情報システム上に15年間の小売店舗の1000m圏の変化を図化することができた.買い物不便と高齢者の活動・健康の関連はさまざまな先行研究で報告されているが,横断的な分析であり曝露期間や脱落が考慮されていない.
KAKENHI-PROJECT-16K09122
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買い物環境が高齢者の活動と健康に与える影響についての縦断研究
買い物不便への曝露期間が長い地域では,曝露によりすでに健康を損なった者は調査対象から脱落してしまっており,みかけ上買い物不便の影響は過小評価されている可能性がある.そこで,愛知県知多圏域在住の高齢者の調査データ,タウンページデータベースの2001年から2010年の3年おきの4時点データを用い,買い物不便地域を「曝露期間が長い地域」「曝露期間の短い地域」に分けて,食物摂取頻度,外出頻度の状況をみた.食物摂取,外出頻度とも,「曝露期間の短い地域」では,買い物不便でない地域の居住者に比べて有意に「少ない者」が多く,「暴露期間の長い地域」では多くないことが明らかになった.この分析では各個人の食料入手手段についての調査データがなく,入手手段を特定できていなかった.また他地域で同様の結果がみられるのかを確認するため,食料入手手段についての質問項目を含んだ2013年調査データ,東京大学空間情報科学研究センターとの共同研究によって利用可能となった2010年から2013年の各年の小売店データを用いて食料入手手段を考慮しつつ,買い物不便の曝露期間の長さの違いを考慮した分析を行った.その結果,愛知県のデータのみを用いた分析と同様に曝露期間の短い地域で食物摂取状況が悪くなりやすいことが示された.今回(2016年度)の調査データを第1回調査(2010年度)と第2回調査(2013年度)に結合し,縦断データを作成する.高齢者の3時点における,活動性の低下,健康の喪失(要介護・死亡),当該地域からの転出の3つの変化を想定しているが,高齢者によって,活動性の低下にとどまる者,健康を維持し続ける者などさまざまであると考えられる.これらの転帰を類型化し,地域の高齢者が,どのような転帰の類型別の割合をとるのかを買い物環境の要因別にみる記述的な分析を行う.地理情報システム上で図化した15年間の小売店舗の1000m圏の変化を用いて,買い物利便の変化による高齢者の行動の変化,適応の状況を,厳しい買い物環境への暴露期間を考慮した分析を進め論文として投稿する予定である.論文の掲載料として確保していたが,論文が採択にいたらなかったため.
KAKENHI-PROJECT-16K09122
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数学科教師の省察における専門的知識の形成過程を分析するための理論的枠組みの構築
本研究は,数学教師の省察を分析するための理論的枠組みの構築および研究方略の開発を目的とする。研究の遂行にあたっては,省察における知識の表出を捉え,知識間の相互作用を分析するために,数学教育学における「教授人間学理論」を援用し,その理論の特徴である知識の記述枠組みを用いる。構築した理論的枠組みによる省察の分析と枠組みの検証・修正を往還することにより,精緻な枠組みの構築と定式化された研究方略の開発が可能である。本研究は,数学教師の省察を分析するための理論的枠組みの構築および研究方略の開発を目的とする。研究の遂行にあたっては,省察における知識の表出を捉え,知識間の相互作用を分析するために,数学教育学における「教授人間学理論」を援用し,その理論の特徴である知識の記述枠組みを用いる。構築した理論的枠組みによる省察の分析と枠組みの検証・修正を往還することにより,精緻な枠組みの構築と定式化された研究方略の開発が可能である。
KAKENHI-PROJECT-19K14242
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K14242
絶滅種エゾオオカミの生態学的役割の解明に向けた、骨の同位体分析による食性復元研究
北海道で20世紀初め頃までに絶滅したエゾオオカミがかつての生態系で果たしていた役割を解明するため、北海道内の遺跡から出土した骨試料の同位体分析を行った。放射性炭素同位体比による年代測定の結果、分析した考古試料はいずれも縄文時代の骨であることが示された。続いて、炭素・窒素安定同位体分析による食性復元の結果、7個体中5個体はエゾシカなどの陸上動物を主要な餌資源としていたが、2個体はサケなどの海由来の餌資源に強く依存していたことが示された。カナダ沿岸の島嶼部には、海産物に強く依存した「海辺のオオカミ」と呼ばれる個体群が存在するが、エゾオオカミでも同様の生態を持つ個体群が存在した可能性が示唆された。本年度は、北海道内の博物館及び埋蔵文化財センターに依頼し、エゾオオカミの骨格試料8検体分から安定同位体分析用の骨粉採取を行った。この他、エゾオオカミの餌資源となりうる陸上哺乳類及び海棲哺乳類の骨粉も、同一の遺跡から出土した試料よりサンプリングした。また、動物の骨を使った多元素同位体比履歴の復元手法開発のため、1970年代まで生きていた陸生哺乳類5種7個体分の大腿骨試料から骨片のサンプリングを行った。エゾオオカミとその餌資源の骨粉試料は、コラーゲンを抽出後、食性推定用に炭素・窒素安定同位体比、死亡年代推定用に放射性炭素同位体比を測定した。1970年代の陸生哺乳類の骨片試料については、先行データとして、ヒグマの大腿骨のみ成長停止線ごとに分離して、放射性炭素同位体比分析を行った。エゾオオカミは、8個体中の7個体で純粋なコラーゲンが抽出できたが、1個体はコラーゲンの純度が不十分であり、被熱した試料であったことが予測される。純粋なコラーゲンが抽出できた試料では、7個体中5個体がエゾシカなどの陸上哺乳類を利用していたことが示唆された。一方、残りの2個体ではサケや海獣類などの海産物にある程度依存していたことが示された。ヒグマ大腿骨の成長層ごとの放射性炭素同位体比分析では、骨の代謝に伴う同位体比の置換が、骨の中で一定で起こるのではなく、強く代謝される部位とほとんど代謝されない部位に分けられることが明らかになった。本年度の研究成果から、絶滅したエゾオオカミは一部の個体群で海産物に依存していた可能性を強く示唆するデータが得られた。これは、これまで生態学的なデータが全く得られていなかったエゾオオカミで、初めて得られた食性情報である。この内容は、論文として国際学術誌であるJournal of Zoology誌に投稿し、掲載された。さらに、地方新聞やネットニュースで取り上げられ、注目を集めた。当初の予定では、初年度はサンプル収集とエゾオオカミのデータ取得までの予定であったが、論文執筆から掲載まで達成することができた。これは当初の予想以上の進捗速度であるため、上記の評価とした。本研究では、1同位体比分析により絶滅したエゾオオカミの食性復元を行うこと、2骨の成長層ごとの同位体分析手法を開発し、年ごとの食性の変化を調べる方法論を構築すること、32の手法をエゾオオカミに適用して、食性の年変動を明らかにすることの3つを研究課題として挙げていた。一つ目の課題は、北海道内の遺跡から出土した7個体分のエゾオオカミ骨試料を博物館等から提供いただき、炭素・窒素安定同位体比分析による食性解析、さらに放射性炭素同位体比分析による年代推定を行った。分析の結果、本研究に用いた試料は全て過去に死亡したエゾオオカミの骨であることが示された。また、7個体のエゾオオカミのうち5個体は陸上哺乳類を主食としていたが、2個体は海産物に強く依存した食性を示した。かつてのエゾオオカミは一部の地域個体群が河川に遡上するサケや海獣類を多量に捕食していたことが示唆された。ただし、これらの個体がアイヌに飼育されていた可能性も否定できない。二つ目の課題である骨の成長層ごとの同位体分析手法は、20世紀末に死亡した複数種の哺乳類の大腿骨の放射性炭素同位体比分析によって妥当性の評価を行った。20世紀末は大気核実験によって放出された放射性炭素が急速に海水に吸収された時期であり、この時期の生物では放射性炭素同位体比を測定することで年単位で正確に年代推定を行うことができる。大腿骨を成長方向に10の切片に分割して放射性炭素同位体比を測定したところ、部位によって一様な同位体比のパターンが見られ、大腿骨には5年程度の同位体比の履歴が保存されていることが示された。以上より、骨の分析により年ごとの食性の変化を調べる方法論の確立という目標は達成された。ただし、この手法は分析に必要な骨の量が多いため、貴重なエゾオオカミ標本に適用することはできなかった。したがって、三つ目の課題は達成することはできなかった。北海道で20世紀初め頃までに絶滅したエゾオオカミがかつての生態系で果たしていた役割を解明するため、北海道内の遺跡から出土した骨試料の同位体分析を行った。放射性炭素同位体比による年代測定の結果、分析した考古試料はいずれも縄文時代の骨であることが示された。
KAKENHI-PROJECT-16K18627
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絶滅種エゾオオカミの生態学的役割の解明に向けた、骨の同位体分析による食性復元研究
続いて、炭素・窒素安定同位体分析による食性復元の結果、7個体中5個体はエゾシカなどの陸上動物を主要な餌資源としていたが、2個体はサケなどの海由来の餌資源に強く依存していたことが示された。カナダ沿岸の島嶼部には、海産物に強く依存した「海辺のオオカミ」と呼ばれる個体群が存在するが、エゾオオカミでも同様の生態を持つ個体群が存在した可能性が示唆された。今後は、ヒグマ以外の陸生哺乳類の試料について、放射性炭素同位体比分析を行い、本分析手法の妥当性と多種での再現性について調査する。また、これらのデータが得られ次第論文化し、国際学術誌への掲載を目指す。併せて、手法の妥当性が確保できた段階で、エゾオオカミの試料についても大腿骨の骨片のサンプリングを各所蔵機関に依頼する。骨片の採取が可能であれば、この手法をエゾオオカミにも応用し、食性の時間変化を調査する。これによって、分析に使用していたエゾオオカミがアイヌに飼育された個体かどうかの判別や、おおまかな行動圏の大きさまで推定できる可能性がある。同位体生態学当初の計画では凍結式ミクロトームの購入に多額の予算を見込んでいたが、直前に所属機関が別予算で購入したため、本科研費で購入する必要がなくなった。しかし、次年度からは申請者の所属先が変更となるため凍結式ミクロトームを購入する必要がある。従って、残額を次年度使用とする。申請者が獲得見込みとなっている別予算と合わせて、凍結式ミクロトーム(約150万円)の購入費に充てる予定である。新聞掲載:2017年1月28日毎日新聞(朝刊)25面、2017年1月26日北海道新聞(朝刊)3面、2017年2月24日苫小牧民報(朝刊)16面
KAKENHI-PROJECT-16K18627
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HIV-1ワクチン開発に向けたエンベロープタンパクの機能・構造解析
一般にタンパクの機能は、その立体構造と密接に関係していることが知られている。本研究では、HIV-1に対するワクチン開発において、その標的の一つと考えられるエンベロープタンパクのアミノ酸配列と、その機能、立体構造の相関を検討した。その結果、特定の部位のアミノ酸が、エンベロープタンパクの立体構造上の特徴を保持する上で重要であること、そして、その部位のアミノ酸置換が、ウイルスの感染性にきわめて大きな影響を及ぼすことを明らかとした。一般にタンパクの機能は、その立体構造と密接に関係していることが知られている。本研究では、HIV-1に対するワクチン開発において、その標的の一つと考えられるエンベロープタンパクのアミノ酸配列と、その機能、立体構造の相関を検討した。その結果、特定の部位のアミノ酸が、エンベロープタンパクの立体構造上の特徴を保持する上で重要であること、そして、その部位のアミノ酸置換が、ウイルスの感染性にきわめて大きな影響を及ぼすことを明らかとした。1.HIV-1に対するワクチン開発の標的として、ウイルスエンベロープタンパクは重要なターゲットである。そのアミノ酸シークエンスは、ウイルスの特性上きわめて変異に富む一方、感染の過程で標的細胞表面のケモカインレセプターと結合するという機能は、多くのHIV-1株で保存されている。本研究では、エンベロープタンパクが一定の機能を保持するためには、アミノ酸シークエンス上の変異にかかわらず一定の立体構造を保持する必要がある、という仮説を立て、それを、情報工学的手法、遺伝子工学的手法、およびコンピューターシミュレーションによる立体構造解析により立証し、HIV-1に対するワクチン開発の基礎とすることを目的とする。2.HIV-1エンベロープタンパクにおいて、ケモカインレセプターとの結合に重要であることが知られているV3ループを解析対象とした。Los Alamos National Library HIV-l Sequence Databaseに登録されているV3ループのアミノ酸シークエンスを用い、V3ループ内での相互情報量の検討を行った。その結果、V3ループ内で、立体構造上相対する部位のアミノ酸同士において依存関係がみられることを明らかとした。3.これらの特徴が、生物学的な意義を持つかどうかの検証を、HIV-1の実験室株に(1)特徴に合致する変異、(2)特徴に反する変異、および(3)上記で抽出された特徴に基づき、相補的な変異を(2)に加えたもの、の3通りの変異を加え、それらの変異が感染性に及ぼす影響を、ウイルス感染実験により観察することで行っている。平成20年度において、これらの変異と、その機能(感染性)への影響との相関関係を、コンピューターシミュレーションを用いた立体構造予測を用いて検討する予定である。1. HIV-1に対するワクチン開発の標的として、ウイルスエンベロープタンパクは重要なターゲットである。そのアミノ酸シークエンスは、ウイルスの特性上きわめて変異に富む一方、感染の過程で標的細胞表面のケモカインレセプターと結合するという機能は、多くのHIV-1株で保存されている。本研究では、エンベロープタンパクが一定の機能を保持するためには、アミノ酸シークエンス上の変異にかかわらず一定の立体構造を保持する必要がある、という仮説を立て、それを、情報工学的手法、遺伝子工学的手法、およびコンピューターシミュレーションによる立体構造解析により立証し、HIV-1に対するワクチン開発の基礎とすることを目的とする。2. HIV-1のエンベロープタンパクV3ループのアミノ酸配列を、情報工学的手法を用いて解析した結果、13番、19番のアミノ酸の間に強い相関関係が認められた。コンピューターシミュレーションによるV3ループの立体構造解析を行ったところ、これらのアミノ酸は、一定の陽性荷電を維持していた。さらに、20番目のアミノ酸(多くはフェニルアラニン)により、この陽性荷電が一定の位置に保持していることが示唆された。さらに、コンピューターシミュレーション上、この部位に特定のアミノ酸変異を加えることで、陽性荷電の立体構造上の位置が変動することがわかった。3.ウイルス感染実験の結果、V3ループの20番目のアミノ酸に特定の変異を加えることで、ウイルスの感染性が著しく阻害されることがわかった。この結果は、上記で検討したコンピューターシミュレーションによる予測と一致していた。これらの結果は、機能的なV3ループは、その立体構造上特定の部位に陽性荷電を持つことが必要であることを強く示唆し、V3ループが保存している、特定の立体構造の一部であると考えられた。
KAKENHI-PROJECT-19790343
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小・中・高一貫性に基づく歴史教育カリキュラム開発のための基礎的研究
本研究の目的は,小・中・高一貫性に基づく歴史教育カリキュラム開発の方法論を探ることである。研究の成果は,次の点にある。(1)アメリカ社会科における小・中・高の歴史教育の位置づけを類型化し,その編成のしかたを明らかにしたこと。(2)授業構成における小・中・高の連続性を見出したこと。(3)以上の分析結果を応用して,日本史を事例とした小・中・高の授業モデルを構想したこと。本研究の目的は,小・中・高一貫性に基づく歴史教育カリキュラム開発の方法論を探ることである。研究の成果は,次の点にある。(1)アメリカ社会科における小・中・高の歴史教育の位置づけを類型化し,その編成のしかたを明らかにしたこと。(2)授業構成における小・中・高の連続性を見出したこと。(3)以上の分析結果を応用して,日本史を事例とした小・中・高の授業モデルを構想したこと。1.アメリカにおける社会科カリキュラム改革の動向調査全米社会科協議会(NCSS)による社会科カリキュラム改革の基本理念を読み解いた上で,アメリカ各州の社会科スタンダードを収集し,その動向を調査した。州によって様々な違いはあるものの,小・中・高の一貫性を重視したカリキュラム開発(スコープ・シークエンスの設定)が進められていることを確認することができた。2.オハイオ州の社会科スタンダード分析(1)現代アメリカ社会科カリキュラム改革の一つの事例として,オハイオ州の社会科スタンダードを取り上げ,そのスコープとシークエンスの編成にっいて分析した。全学年を貫くスコープ(「歴史」「社会の人々」「地理」「経済」「政治」「市民の権利と責任」「社会科技能と方法」の7つ)は,人文・社会諸科学を中心にしつつ,市民としての権利・責任や技能を学ばせるように設定されていた。シークエンスは,時間と空間を軸に学習対象を拡大し,最終的に市民としての実践的な資質を育成するように組織されていた。この分析により,小・中・高一貫の社会科カリキュラムを編成するための一方法論を導くことができた。(2)オハイオ州の社会科スタンダードを事例として,歴史教育における小・中・高一貫性の原理を抽出した。全学年を貫くスコープ「歴史」のプログラムは,学年(学校)段階の上昇にしたがって,(1)歴史を読み解く視点の学習(主に初等)→(2)現代社会の成立過程の学習(主に中等前期)→(3)今後に向けた歴史とのかかわり方の学習(主に中等後期)へと発展するように組織されていた。過去・現在・未来を関連づけて思考できる力を育成するための一方法論を導くことができた。(3)オハイオ州の社会科スタンダードに基づく小・中・高の単元・授業構成について資料を収集し,予備調査を行った。1.アメリカにおける小・中・高一貫社会科カリキュラム改革の動向調査アメリカ各州の社会科スタンダードを収集・分析し,大きく二つの潮流を見出した。一つは,歴史教育の社会科からの分化的傾向が見られるものである。もう一つは,歴史教育の社会科への統合的傾向が見られるものである。一般的に,前者の場合,歴史教育(特に自国史教育)は独立性が高く,小・中・高で数回繰り返しを行うように構成される(たとえば小・中・高で現代までの歴史を3回繰り返し,同じ時代・事象を重複して学習させる)。後者の場合,歴史教育は独立性が低く,原則的には繰り返しをせずに社会科全体の中に有機的に位置づけられている(時代・事象の重複を避け,社会科全体との調和が図られている)。2.小・中・高一貫性に基づく社会科・歴史教育の分析(1)分化的な傾向が見られるニューヨーク州を事例として,そのスタンダードに基づく社会科を分析した。歴史教育に着目して分析したところ,小学校段階=過去と現在の関連づけとしての歴史教育,中学校段階=学際的な社会研究としての歴史教育,高等学校段階=過去の評価・問い直しとしての歴史教育,として組織されていることが明らかになった。小・中・高で歴史教育(自国史教育)を繰り返す際の連続性と発展性が明確になり,示唆を得ることができた。(2)統合的な傾向が見られるオハイオ州を事例として,そのスタンダードに基づく社会科を分析した。オハイオ州社会科のカリキュラム構成の分析は前年度に行ったので,本年度は,小・中・高の授業構成における基本原理を解明した。分析の結果,学校・学年段階の上昇に応じて,授業を,事実学習→解釈・理論学習→価値・思想学習へと発展させる,という方法論を抽出することができた。小・中・高一貫性の論理を授業構成レベルまで踏み込んで明確にすることができた。1.小・中・高一貫性に基づく社会科・歴史教育の分析本年度は,「開かれた社会認識形成」という視点から小・中・高のカリキュラムの連続性を考察するために,M.A.ラフリンとH.M.ハートニアンの社会科モデルを分析した。この社会科は,NCSS(全米社会科協議会)が提示した10のテーマをもとに編成されている。また,学年段階による区分は,初等前期「世界に対する私の位置づけ」,初等後期「私の世界の地平を拡大する」,中等前期「異なる視点から世界をみる」,中等後期「変化しつつある世界で豊かな市民性を身につける」となっている。分析の結果,このカリキュラムは,"自己-社会の関係性"の学習(初等),多様な"社会の見方"の学習(中等前期),多様な"社会の見方"をふまえた査定(事象の効果・影響の測定)の学習(中等後期),へとシフトすることがわかった。
KAKENHI-PROJECT-19730532
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小・中・高一貫性に基づく歴史教育カリキュラム開発のための基礎的研究
分析を通して,子どもの認識を開くための一つの方法論を明らかにした。2.小・中・高一貫性に基づく歴史授業モデルの構想これまでの分析を基にして,次のような日本史「鎖国」の授業モデルを構想した。小学校では,鎖国までの歩みとその制度下の海外交流の様子を調べ,現在への影響について考えさせる。中学校では,鎖国の背後にある情報管理政策の理論を探求させ,政治的社会的な一般概念の形成を促す。高等学校では,鎖国政策の評価や,現在の鎖国論の問い直しを行わせる。以上のモデルは構想段階であるが,今後,具体化し実践へと結びつけたい。3.研究の全体総括と課題本研究では,「分化と統合」「開かれた社会認識形成」を視点にして小・中・高一貫の社会科にアプローチし,歴史教育カリキュラム開発への示唆を得た。しかし,具体的なカリキュラム・単元・授業の開発には至っていない。今後の研究課題としたい。
KAKENHI-PROJECT-19730532
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軸不斉アミン型有機分子触媒を用いた高選択的合成手法の開発
近年、天然のアミノ酸を原料とした数々の光学活性アミン触媒が様々な有機化合物の不斉合成に汎用されているが、本研究では原料をアミノ酸に代表される天然物に依存しない新規光学活性アミン触媒を開発した。これらの光学活性アミン触媒はその構造や性質において、いずれも従来の触媒にない特徴を有している。そうした新触媒の特徴を利用することで、反応性が高すぎるために反応制御が困難であった基質を用いることが可能となり、実用的な反応が実現された。近年、天然のアミノ酸を原料とした数々の光学活性アミン触媒が様々な有機化合物の不斉合成に汎用されているが、本研究では原料をアミノ酸に代表される天然物に依存しない新規光学活性アミン触媒を開発した。これらの光学活性アミン触媒はその構造や性質において、いずれも従来の触媒にない特徴を有している。そうした新触媒の特徴を利用することで、反応性が高すぎるために反応制御が困難であった基質を用いることが可能となり、実用的な反応が実現された。本研究では、二級アミン型有機分子触媒であるビナフチル型アミン触媒を用いることで、従来のピロリジン型アミン触媒では困難とされる反応の精密制御を目指した。ビナフチル骨格の3位へ高い酸性度を有した活性化基であるトリフルアミド基を導入した触媒を用いて、ニトロソベンゼンによるアルデヒドに対する直裁的不斉アミノオキシル化反応を試みた。光学活性ピロリジン型触媒として用いた反応では、アルデヒドの直裁的不斉アミノオキシル化反応が高立体選択的に進行することが知られているが、触媒量を低減した場合、副反応や触媒の不活性化のために高収率で反応進行させることが困難である。そこで、触媒構造やその電子的性質の全くことなるビナフチル型アミン触媒を用いたところ、高収率、高エナンチオ選択的にアルデヒドのアミノオキシル化反応が進行することを見出した。本反応においては、エナミン経由型の反応としては極めて少ない0.2mol%という触媒量で良好な収率やエナンチオ選択性を実現することに成功した。また、本反応に用いたビナフチル型アミン触媒はピロリジン型アミン触媒と比較して穏やかな求核性を有しているため、高反応性の基質を利用する反応において、副反応の抑制が期待出来る。そこで反応性が高く反応の制御が困難とされるアセトアルデヒドを基質としたマンニッヒ反応に本触媒を適用してところ、良好な収率かつほぼ完全なエナンチオ選択性で目的の生成物を得ることに成功した。本研究では、二級アミン型有機分子触媒であるビナフチル型アミン触媒を用いることで、従来のピロリジン型アミン触媒では困難とされる反応の精密制御を目指した。ビナフチル骨格の3位へ高い酸性度を有した活性化基であるトリフルアミド基を導入した触媒を用いて、様々なイミンとアルデヒド間の直截的不斉マンニッヒ反応や異なる二種類のアルデヒド間の直裁的不斉交差アルドール反応を試みた。プロリンに代表される光学活性ピロリジン型触媒として用いた反応ではマンニッヒ反応ではシン体が、アルドール反応ではアンチ体が主生成物として高エナンチオ選択的に得られてくることが知られているが、いずれの反応においても求核剤であるアルデヒドが求電子剤としても働き、結果として同一のアルデヒド同士のホモアルドール反応が副反応として進行する。そこで、触媒構造やその電子的性質の全くことなるビナフチル型アミン触媒を用いたところ、マンニッヒ反応、アルドール反応いずれにおいても、求核剤となるアルデヒド同士のホモアルドール反応を進行させることなく、目的の生成物を高収率、高立体選択的に得られることを見出した。この際、それぞれの反応においてピロリジン型触媒を用いた反応とは逆のジアステレオマーが得られており、本反応ではそうした立体選択性の発現する要因についても明らかにした。また、本触媒の適用範囲についても詳細に検討し、マンニッヒ反応においては、求核剤としてアルデヒドの代わりにケトンを用いられることを見出した。
KAKENHI-PROJECT-20750030
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20750030
水素エネルギー社会実現を目指したCOxメタン化触媒の開発
固体高分子形燃料電池の燃料である水素を炭化水素の改質により供給する際、副生するCOによるPt電極被毒を防ぐため、CO除去が必要である。CO除去プロセスとして現在のCO選択酸化反応にかえCOメタン化反応を採用すると、高精度での空気供給が不要となり、装置の小型化、制御の簡易化が進むため、PEFCシステム製造コストの低減につながる。この反応では改質燃料中に共存するCO2のメタン化を抑制しつつCOのみを選択的にメタン化することが必要である。CO選択メタン化反応機構(以下反応機構)を明らかにすることで、反応機構に立脚した触媒開発を行うことができると考えた。そこで、近年報告されたCO選択メタン化反応に関する報告をもとに、CO選択メタン化反応機構を考察した。その結果、CO2メタン化反応のみを抑制するためには、担体ー活性種界面で進行するformate種の水素化反応抑制が重要であることを予想した。昨年度までの検討により、CO選択メタン化反応用触媒として、Ru-Ni/TiO2触媒が有用であることを見いだした。これは、Ni種がRu-TiO2界面を塞ぎ、formate種の水素化を抑制したためであると考えられる。CO選択メタン化反応用触媒を実際の燃料電池に適用する場合に、実条件下での耐久性が課題となる。そこで、1kw級PEFCの運転を模擬し、開発したRu-Ni/TiO2触媒およびNi/TiO2触媒の長期試験を行った。Ni/TiO2触媒では、低空間速度(2500 h-1)であるものの、7000時間の安定性を示した。また、Ru-Ni/TiO2触媒では実条件に近い空間速度10000 h-1において、5500時間以上の安定性を示した。開発したRu-Ni/TiO2触媒は、優れた初期性能のみならず、高い耐久性も有していることがわかった。1000時間を越える実条件下での長期試験の報告は本研究が初めてである。26年度が最終年度であるため、記入しない。26年度が最終年度であるため、記入しない。1、CO_2メタン化触媒の開発化石燃料の枯渇などの問題のため、再生可能エネルギーにより製造されるグリーン水素を水素キャリアを用いて輸送・貯蔵することが重要な課題になっている。CO_2メタン化反応により生成されるCH_4は有力な水素キャリアの一つと考えられる。CO_2メタン化反応は、逆シフト反応によって生成されたCOがメタン化することで進行する。COメタン化反応が発熱反応であるため、高温での反応ではCH_4選択率が低下してしまう。現在までに申請者は、低温において、高い逆シフト反応およびCOメタン化反応活性を有するCO_2メタン化触媒であるNi/CeQ_2触媒を報告している。本年度はNi/CeO_2触媒を改良したRu/CeO_2/Al_2O_3触媒を開発した。CO_2メタン化触媒に有効であるCeO_2をAl_2O_3に分散させることで、低温でのCO_2メタン化活性を向上させることに成功した。2、CO選択メタン化触媒の開発固体高分子形燃料電池の燃料である水素を炭化水素の改質により供給する際、副生するCOによるPt電極被毒を防ぐため、CO除去が必要である。CO除去プロセスとして現在のCO選択酸化反応にかえCOメタン化反応を採用すると、高精度での空気供給が不要となり、装置の小型化、制御の簡易化が進むため、PEFCシステム製造コストの低減につながる。この反応では改質燃料中に共存するCO_2のメタン化を抑制しつつCOのみを選択的にメタン化することが必要である。新規CO選択メタン化触媒を開発するため、Ru/TiO_2触媒への金属添加効果(Ni、Co、Fe、La、K、Na)を検討した。Ru/TiO_2触媒にNiを添加することで、CO_2メタン化反応中間体である蟻酸種の分解が抑制されたため、CO_2メタン化活性が低下することを見出した。また、Laを添加することで、COのC-O結合解離が促進され、低温におけるCOメタン化活性が向上した。固体高分子形燃料電池の燃料である水素を炭化水素の改質により供給する際、副生するCOによるPt電極被毒を防ぐため、CO除去が必要である。CO除去プロセスとして現在のCO選択酸化反応にかえCOメタン化反応を採用すると、高精度での空気供給が不要となり、装置の小型化、制御の簡易化が進むため、PEFCシステム製造コストの低減につながる。この反応では改質燃料中に共存するCO2のメタン化を抑制しつつCOのみを選択的にメタン化することが必要である。CO選択メタン化反応機構(以下反応機構)を明らかにすることで、反応機構に立脚した触媒開発を行うことができると考えた。そこで、近年報告されたCO選択メタン化反応に関する報告をもとに、CO選択メタン化反応機構を考察した。その結果、CO2メタン化反応のみを抑制するためには、担体ー活性種界面で進行するformate種の水素化反応抑制が重要であることを予想した。昨年度までの検討により、CO選択メタン化反応用触媒として、Ru-Ni/TiO2触媒が有用であることを見いだした。これは、Ni種がRu-TiO2界面を塞ぎ、formate種の水素化を抑制したためであると考えられる。CO選択メタン化反応用触媒を実際の燃料電池に適用する場合に、実条件下での耐久性が課題となる。そこで、1kw級PEFCの運転を模擬し、開発したRu-Ni/TiO2
KAKENHI-PROJECT-13J05374
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13J05374
水素エネルギー社会実現を目指したCOxメタン化触媒の開発
触媒およびNi/TiO2触媒の長期試験を行った。Ni/TiO2触媒では、低空間速度(2500 h-1)であるものの、7000時間の安定性を示した。また、Ru-Ni/TiO2触媒では実条件に近い空間速度10000 h-1において、5500時間以上の安定性を示した。開発したRu-Ni/TiO2触媒は、優れた初期性能のみならず、高い耐久性も有していることがわかった。1000時間を越える実条件下での長期試験の報告は本研究が初めてである。26年度が最終年度であるため、記入しない。26年度が最終年度であるため、記入しない。本年度は、CO選択メタン化触媒を開発するために、反応機構の検討と金属添加による反応活性への活性種金属の影響を検討した。また、低温でのCO_2メタン化反応活性の高い触媒であるCeO_2/Al_2O_3担持金属触媒を開発することを目標とした。以上の目標は、研究実績の概要に示した通り、おおむね達成した。1、CO選択メタン化触媒の検討更なる反応機構検討を行うため、Ru-Ni/TiO_2触媒における金属(RuおよびNi)担持量の影響を検討する。加えて、開発したRu-Ni/TiO_2触媒の長期安定性を評価し、市販用燃料電池システムへの搭載可能性を探る(新規課題)。また本年度の知見をもとに、CO選択メタン化反応に適した触媒の調製法を検討する。2、CO_2メタン化触媒の開発CO_2メタン化活性の高い触媒に必要なCeO_2系担体を改良し、長期安定な触媒を開発する。検討する担体としては、(SmO_<1.5>)_x (CeO_2)_<1-x>や(GdO_<1.5>)x (CeO_2)_<1-x>といったCeO_2系酸化物を考えている。
KAKENHI-PROJECT-13J05374
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13J05374
人文科学支援のための「かたち」と色の解析ツールの開発研究
人文科学研究においては「もの」の「かたち」や色が解析の鍵になる場合が少なくない。本研究はそれを数量的に支援するソフトウエアツールの開発を目的にしている。「かたち」の解析については、閉曲線図形の対称性を解析して主形状、局所的幅、くびれを数量的に表現したり、立体モデルを作成、計量するといった展開を図っている。本年度は、作成してきたプログラムの整理、改訂を中心にして作業した。また、毛筆による筆跡解析への応用の可能性を検討した。一方、色の解析については、カラー画像入力に用いられるR(赤)、G(緑)、B(青)の3原色による表色系からH(色相)、V(明度)、C(彩度)によるマンセル表色系への宮原のMTMによる変換プログラムを作成して、その応用を検討している。後者はヒトの心理的色知覚に対応した均等色空間を形成するので、人文科学研究により適していると考えられる。この研究の過程で色補正(規格化)の問題に遭遇したため、計画の実施に遅れを生じた。しかし、色補正の方式を確立しておくことは今後避けて通ることのできない重要な課題と考えられるので、これについて検討した。最近はマルチスペクトルカメラが発表され、これを用いて入射光のスペクトル分布を直接画像として入力することも可能になってきたが、従来からの3原色人力方式は実用的に見て捨て難いように思われる。そこで、従来方式にもとづくために、画像入力においてH、S、Vの色スケールを同時に撮りこみ、画像認識の手法を用いて色補正を自動的に行う方式を開発してきた。しかし、色相と明度の補正は比較的容易にできたが、彩度についてはスケールの作成が困難であった。いずれも、本質に等色という色感覚の機構の問題を含むので、何らかの実践的妥協が必要であり、さらに検討を続けていきたい。人文科学研究においては「もの」の「かたち」や色が解析の鍵になる場合が少なくない。本研究はそれを数量的に支援するソフトウエアツールの開発を目的にしている。「かたち」の解析については、閉曲線図形の対称性を解析して主形状、局所的幅、くびれを数量的に表現したり、立体モデルを作成、計量するといった展開を図っている。本年度は、作成してきたプログラムの整理、改訂を中心にして作業した。また、毛筆による筆跡解析への応用の可能性を検討した。一方、色の解析については、カラー画像入力に用いられるR(赤)、G(緑)、B(青)の3原色による表色系からH(色相)、V(明度)、C(彩度)によるマンセル表色系への宮原のMTMによる変換プログラムを作成して、その応用を検討している。後者はヒトの心理的色知覚に対応した均等色空間を形成するので、人文科学研究により適していると考えられる。この研究の過程で色補正(規格化)の問題に遭遇したため、計画の実施に遅れを生じた。しかし、色補正の方式を確立しておくことは今後避けて通ることのできない重要な課題と考えられるので、これについて検討した。最近はマルチスペクトルカメラが発表され、これを用いて入射光のスペクトル分布を直接画像として入力することも可能になってきたが、従来からの3原色人力方式は実用的に見て捨て難いように思われる。そこで、従来方式にもとづくために、画像入力においてH、S、Vの色スケールを同時に撮りこみ、画像認識の手法を用いて色補正を自動的に行う方式を開発してきた。しかし、色相と明度の補正は比較的容易にできたが、彩度についてはスケールの作成が困難であった。いずれも、本質に等色という色感覚の機構の問題を含むので、何らかの実践的妥協が必要であり、さらに検討を続けていきたい。
KAKENHI-PROJECT-09204218
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09204218
知覚フィードバックに基づく人間の安定化動作のモデリングに関する研究
本研究は,人間が視覚・力覚情報をもとに人体各部の制御を行うメカニズムを解明し,人間の動作のモデリングを行うことを目的としている。知覚としての視覚・力覚情報のフィードバックから分散配置されている人間の各部は3次元的な動きをしながら協調動作しているが、若者には簡単でも高齢者はスムーズに機能しないことが多い。この動作を学術的に定義してそのメカニズムを解明し何らかの扱いやすいモデルとして表現できるならば、高齢者用のリハビリテーション分野や建築設計分野に貢献するだけでなく、スポーツ・散歩などのレクリエーションを楽しめるような高齢者の高度活動支援技術に貢献できるものと考える。そこで、本研究は、幅広い分野でも扱いが容易であることを主眼において、制御工学で従来からその性質がよく解明されている伝達関数要素を複数組み合わせた協調システムを構成し、知覚フィードバックに基づく人間の安定動作における四肢の動きを予測できるモデル構築を図った。本研究で得られた成果を下記にまとめる。1.1次元の機械的拘束を持つ倒立振子装置の手動安定作業を対象とし、計算機上に仮想化した装置を作り、これを人間が操作することにより、不安定系を制御する人間の標準的な伝達特性、特定のタスクに対するスキルレベル(人間の直感的な感覚に近い評価指標)と伝達特性との関係、トレーニングによるスキルの上達と伝達特性の変化の関係について明らかにした。2.上記の装置に、対象の伝達特性を意図的に変えるダイナミクス歪曲の情報補償器を組み込むことにより、操作者のトレーニング効果が得られることが明らかになった。3.人間の運動モデルの一つとして、足漕ぎペダルの操作感で操縦するペダル付電動車の操縦モデルを提案し、これに基づいた制御系を実装した。操縦者の意図に対応した操縦性が得られることが確認された。本研究は,人間が視覚・力覚情報をもとに人体各部の制御を行うメカニズムを解明し,人間の動作のモデリングを行うことを目的としている。知覚としての視覚・力覚情報のフィードバックから分散配置されている人間の各部は3次元的な動きをしながら協調動作しているが、若者には簡単でも高齢者はスムーズに機能しないことが多い。この動作を学術的に定義してそのメカニズムを解明し何らかの扱いやすいモデルとして表現できるならば、高齢者用のリハビリテーション分野や建築設計分野に貢献するだけでなく、スポーツ・散歩などのレクリエーションを楽しめるような高齢者の高度活動支援技術に貢献できるものと考える。そこで、本研究は、幅広い分野でも扱いが容易であることを主眼において、制御工学で従来からその性質がよく解明されている伝達関数要素を複数組み合わせた協調システムを構成し、知覚フィードバックに基づく人間の安定動作における四肢の動きを予測できるモデル構築を図った。本研究で得られた成果を下記にまとめる。1.1次元の機械的拘束を持つ倒立振子装置の手動安定作業を対象とし、計算機上に仮想化した装置を作り、これを人間が操作することにより、不安定系を制御する人間の標準的な伝達特性、特定のタスクに対するスキルレベル(人間の直感的な感覚に近い評価指標)と伝達特性との関係、トレーニングによるスキルの上達と伝達特性の変化の関係について明らかにした。2.上記の装置に、対象の伝達特性を意図的に変えるダイナミクス歪曲の情報補償器を組み込むことにより、操作者のトレーニング効果が得られることが明らかになった。3.人間の運動モデルの一つとして、足漕ぎペダルの操作感で操縦するペダル付電動車の操縦モデルを提案し、これに基づいた制御系を実装した。操縦者の意図に対応した操縦性が得られることが確認された。本研究は、人間が視覚・力覚情報をもとに人体各部の制御を行うメカニズムを解明し、モデリングを行うことを目的としている。今年度は特に、制御工学の視点から見た安定化制御器としての人間行動の特性に注目した研究を行った。研究はまず、拘束の少ない状況下における自由な動きを測定することから開始した。対象を人間が手のひらに棒を立てた状態を保つタスクとし、このときの手先と棒の動きを3次元的にリアルタイムに計測する手法を開発し、動作の周波数解析を行った。続いて、人間のより詳細な伝達特性を求めるために、単純化した装置を用いた実験へと続いた。この実験は1次元の機械的拘束を持つ倒立振子装置の手動安定作業を対象とし、計算機上に仮想化した装置を作り、これを人間が操作することで行った。これらの実験では、1.不安定系を制御する人間の標準的な伝達特性2.特定のタスクに対するスキルレベル(人間の直感的な感覚に近い評価指標)と伝達特性との関係3.トレーニングによるスキルの上達と伝達特性の変化の関係について調べた。その結果、1.で人間というもの一般における特性を、2.で個人間の性能差、3.で特定の個人の訓練による変化を明らかにした。これらの知見は、高齢者の高度活動支援技術の理論的基礎を構築することに大きく寄与するものである。本研究は,人間が視覚・力覚情報をもとに人体各部の制御を行うメカニズムを解明し,モデリングを行うことを目的としている。今年度は手動制御の倒立振子装置を倒立状態で安定化させる作業を主たる研究対象とした。今年度の主な成果は次の2点である。1.人間が行う知覚フィードバックに基づく安定化制御行動における,伝達特性に基づいた性能評価手法の提案と実験による検証2.1.の評価に基づいた人間-機械系の伝達特性整形による,システム全体としての性能向上を行う補償器の提案と基礎的な実験による有効性の確認上記項目の1.については,人間の個体間の伝達特性の違いや訓練による伝達特性の変化と,スキルレベル(人間の直感的な感覚に近い評価指標)との間の相関を明らかにした。
KAKENHI-PROJECT-16500364
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16500364
知覚フィードバックに基づく人間の安定化動作のモデリングに関する研究
これにより,従来では制御理論の立場からは説明が難しかった人間行動の「上手」や「下手」という直感的評価を結びつけることが可能になった。この結果を応用して2.項では,スキルレベルの低いオペレータの伝達特性をスキルレベルの高い者のものに近づけるような補償器設計の基礎概念を提案した。この考え方の有効性の検証をするための初歩的な実験システムを構築し,複数の被験者で実験を行った結果,期待通りの結果が得られた。今後はこの考え方を発展させ,ここの人間が持つコントローラとしての潜在的な性能を引き出す補償器の実現に向けた研究を行う予定である。本年度得られたこれらの知見は、高齢者をはじめ,多くの人間の高度活動支援技術の理論的基礎を構築することに大きく寄与するものである。本研究は,人間が視覚・力覚情報をもとに人体各部の制御を行うメカニズムを解明し,人間の動作のモデリングを行うことを目的としている。手動制御の倒立振子装置を倒立状態で安定化させる作業を主たる研究対象として行って得られた成果に対して、システム全体を向上させるために人間に対する補償モデルを利用することについて研究を行った。今年度の主な成果は次の2点である。1.人間の視覚フィードバックを利用した新しいトレーニング手法の提案2.人間の運動特性に応じた脚部トレーニング手法の提案上記項目1については、人間が視覚情報を元に判断し振子を安定化するという手動制御システムにおいて、システム全体の特性を向上させるために、補償モデルにより人間に提示する情報を操作し、結果的に人間の操作能力を向上させる実験を行った。これはこれまでの本研究で提案したダイナミクス歪曲の手法により情報補償器を設計したもので、実験ではシステム全体の特性向上が見られ、本手法が有効なことが明らかになった。上記項目2については、人が知覚するシステム全体のモデルの利用という観点から、足漕ぎ式電動車において、操作者に応じた複数の負荷モデルを作成し、このモデルに応じて人間の足に加わる負荷を調整できるシステムを構築した。負荷モデルは仮想インピーダンスモデルと呼ばれ、人が知覚するシステムがこのモデルに一致するような制御システムを構築した。実験では設計通りの負荷が得られた。本研究で得られたこれらの成果は、今後高齢者をはじめ,多くの人間の高度活動支援技術の理論的基礎を構築することに大きく寄与するものである。
KAKENHI-PROJECT-16500364
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16500364
患者の事前指示及び医療代理制度に関する比較法的研究
民事上の制度として諸外国で導入されてきた患者の事前指示及び医療代理に関する法整備は,どのように刑法上の自殺・他殺規制と調整されてきたか。その学問的知見は,従前,我が国で十分に蓄積されてきたとはいえない。この点の分析を介して,医療における適正手続を保障する観点から,最終的に「法は,どのようなかたちで,人生の終焉に関わるべきか」という制度設計の妥当な在り方を提示する。民事上の制度として諸外国で導入されてきた患者の事前指示及び医療代理に関する法整備は,どのように刑法上の自殺・他殺規制と調整されてきたか。その学問的知見は,従前,我が国で十分に蓄積されてきたとはいえない。この点の分析を介して,医療における適正手続を保障する観点から,最終的に「法は,どのようなかたちで,人生の終焉に関わるべきか」という制度設計の妥当な在り方を提示する。
KAKENHI-PROJECT-19K01424
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K01424
核酸認識TLR受容体の構造生物学的研究
本申請課題において、核酸認識TLR受容体(TLR7,TLR8,TLR9)についての蛋白質調製、結晶化、構造解析を進めた。TLR8に関しては、リガンド非結合状態と低分子リガンドとの複合体の状態での構造解析に成功した。TLR7とTLR9に関しては、結晶化可能な量の蛋白質を得ることに成功し、複数の状態での結晶を得ている。本申請課題では,自然免疫系の受容体によるリガンド認識機構やシグナル伝達機構を主にX線結晶構造解析により明らかにすることを目的として,核酸認識TLRs (TLR7,TLR8,TLR9)と核酸の複合体(抗ウイルス薬,ワクチン)の構造解析を目指す。本年度は,核酸を認識する自然免疫系受容体のTLR7,TLR8,TLR9について,結晶化に適した発現系の構築を進めるとともに有望なコンストラクトについて結晶化を進めた。様々な種由来のTLR7, TLR8, TLR9の発現をチェックし、なかでもTLR8について高純度の精製試料を得ることに成功した。また、TLR7、TLR9についても有望そうなコンストラクトを得ることに成功した。ヒトTLR8について、リガンド非結合型および低分子リガンド結合型での構造解析に成功した。TLR8は、リガンド非結合型ですでに2量体を形成しており、リガンドに結合することでこの2量体が再構成されることで活性型の2量体になることが明らかになった。リガンドは2量体の界面に結合しており、2量体につき2分子が結合していた。リガンド認識の詳細が明らかになったことから、TLR8をターゲットにした薬剤の開発が加速することが期待される。TLR8に関して、引き続きRNA複合体の構造解析を目指して研究を進めている。TLR7、TLR9については、複数の条件で結晶が得られているので、今後結晶化条件を検討するなどして構造解析を目指す。本申請課題において、核酸認識TLR受容体(TLR7,TLR8,TLR9)についての蛋白質調製、結晶化、構造解析を進めた。TLR8に関しては、リガンド非結合状態と低分子リガンドとの複合体の状態での構造解析に成功した。TLR7とTLR9に関しては、結晶化可能な量の蛋白質を得ることに成功し、複数の状態での結晶を得ている。自然免疫は微生物の感染に対する生体の初期防御反応である。微生物の構成成分はToll-like receptors (TLRs),NOD-like receptors (NLRs),RIG-I-like receptors (RLRs)などの受容体によって認識されることで様々な免疫応答を引き起こす。これら受容体は,様々な病気の治療薬のターゲットとして注目されている。本申請課題では,自然免疫系のTLR受容体のうち核酸の認識に関わるTLR7,TLR8,TLR9と核酸の複合体を主にX線結晶構造解析により明らかにすることを目的とする。平成23年度は,TLR7,TLR8,TLR9(それぞれヒトとマウス由来)のショウジョウバエS2細胞での発現系を構築した。ヒトTLR7,マウスTLR7,マウスTLR9については精製条件を確立して,結晶化可能な量の蛋白質が得られるようになった。結晶化条件のスクリーニングの結果,ヒトTLR7/RNA複合体,マウスTLR9については既に結晶を得ている。今後,条件を最適化して構造決定を目指す。既に発現系の構築が済んでおり,結晶が得られているものもある。おおむね順調に進んでいるので,このままの計画で研究を遂行する予定である。次年度は特に結晶化と構造解析に注力して研究を進める予定である。結晶化可能な量の蛋白質を得るには,1度につき10 L程度の昆虫細胞の培養が必要である。これを年度を通して恒常的に行うため、ほとんどすべての研究費は培養や精製などの蛋白質の調製のための培地や試薬に使用する予定である。
KAKENHI-PROJECT-23770106
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23770106
超好熱菌の細胞分裂タンパク質に関する研究
ゲノム解析に基づくと、超好熱菌の多くは真核生物のホモログを持っている。そのため、細胞分裂するときには、真核細胞が分裂するときと類似の周期調節があると考えられている。そこで、KOD1株のヌクレオイド構造と分裂について位相差と蛍光顕微鏡による観察を行った。KOD1のヌクレオイドは細胞の中心に位置し、対数増殖期と定常期の細胞は異なるヌクレオイド構造を示した。特に、定常期細胞のヌクレオイドは対数増殖期細胞のヌクレオイドに比べてサイズが大きく、細胞内部の大部分を占めていた。また、対数増殖期には様々な形態のヌクレオイドが観察され、細胞分裂は周期調節を受けていることが示された。KOD1の細胞周期の長さを測定するため、KOD1の対数増殖期の細胞の中から、形態的に区別される細胞の数を数え、その割合を調べた。その結果、KOD1の全細胞の中で40%は染色体が複製され細胞の狭窄が起こる前の状態にあることが認められ、KOD1の細胞は真核細胞と同様に長いG2期様の期間を有することが確認された。しかしKOD1細胞の狭窄が起こる期間は原核細胞と同様に短いことが示された。また、ヌクレオイドの形成にはヒストンによるDNAのコンパクト化が必要だが、KOD1株のヒストンが形成するヌクレオイドはポリアミンの添加により安定化されることも明らかになった。細胞分裂を行う上で、DNAポリメラーゼは遺伝子を複製する際に、中心的な役割を演じている。そこで、DNAポリメラーゼとそのインテインであるエンドヌクレアーゼについて結構構造解析を試みた。特にKOD1株のDNAポリメラーゼの構造が既知の酵素のものと異なる点がForked pointと名付けられた領域に認められた。この領域ではKOD1ポリメラーゼはDNAに対する親和力が高く、鋳型DNA・プライマーDNAを高度に安定化していることが予想された。超好熱菌Pyrococcus kodakaraensisKOD1株からチューブリンをコードする遺伝子をクローン化を試みた。保存配列に基づき、合成オリゴヌクレオチドプローブを作成し、KOD1株の染色体ファージライブラリーから、遺伝子ホモログを有するクローンを3種類取得した。塩基配列を決定したところ、いずれも、4つの保存モチーフ及びGTP結合領域を有するタンパク質をコードすることが明らかとなった。これらをtubA、tubB、tubCと命名した。tubB、tubCがコードするタンパク質は一次配列から細菌のFtsZに近いチューブリンと考えられた。tubA、tubBそれぞれを大腸菌PAT84株(ftsZ84)に導入し、42°Cでの生育相補を試みたが、大腸菌での相補はなされなかった。一方、野生型大腸菌にtubBを導入したときに菌の分裂以上が認められた。tubA、tubBを大腸菌で発現し、それぞれを組換えタンパク質として精製した。得られたタンパク質のGTP結合活性、GTPase活性の有無、またそれに伴う金属イオンの要求性を確認したところ、TabAはMg^<2+>依存性のGTP結合活性とGTPase活性を示したが、これらの性質はTabAでは認められなかった。また、細胞分裂の周期調節遺伝子ホモログcdcAを取得し、生化学的性質も検討したところ、真核生物のCDCと同様にATPase活性を有することが明らかになった。分裂の際、DNA複製の中心的な酵素であるDNAポリメラーゼについては構造解析のため、タンパク質分子の結晶化を試み、安定な結晶を得た。現在、構造解析中である。KOD1株のヒストンを組換えタンパク質として取得し、DNAへの安定化効果についても検討したところ、特に高温での構造維持に重要であることがわかった。ゲノム解析に基づくと、超好熱菌の多くは真核生物のホモログを持っている。そのため、細胞分裂するときには、真核細胞が分裂するときと類似の周期調節があると考えられている。そこで、KOD1株のヌクレオイド構造と分裂について位相差と蛍光顕微鏡による観察を行った。KOD1のヌクレオイドは細胞の中心に位置し、対数増殖期と定常期の細胞は異なるヌクレオイド構造を示した。特に、定常期細胞のヌクレオイドは対数増殖期細胞のヌクレオイドに比べてサイズが大きく、細胞内部の大部分を占めていた。また、対数増殖期には様々な形態のヌクレオイドが観察され、細胞分裂は周期調節を受けていることが示された。KOD1の細胞周期の長さを測定するため、KOD1の対数増殖期の細胞の中から、形態的に区別される細胞の数を数え、その割合を調べた。その結果、KOD1の全細胞の中で40%は染色体が複製され細胞の狭窄が起こる前の状態にあることが認められ、KOD1の細胞は真核細胞と同様に長いG2期様の期間を有することが確認された。しかしKOD1細胞の狭窄が起こる期間は原核細胞と同様に短いことが示された。また、ヌクレオイドの形成にはヒストンによるDNAのコンパクト化が必要だが、KOD1株のヒストンが形成するヌクレオイドはポリアミンの添加により安定化されることも明らかになった。細胞分裂を行う上で、DNAポリメラーゼは遺伝子を複製する際に、中心的な役割を演じている。そこで、DNAポリメラーゼとそのインテインであるエンドヌクレアーゼについて結構構造解析を試みた。特にKOD1株のDNAポリメラーゼの構造が既知の酵素のものと異なる点がForked pointと名付けられた領域に認められた。
KAKENHI-PROJECT-11750692
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11750692
超好熱菌の細胞分裂タンパク質に関する研究
この領域ではKOD1ポリメラーゼはDNAに対する親和力が高く、鋳型DNA・プライマーDNAを高度に安定化していることが予想された。
KAKENHI-PROJECT-11750692
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11750692
特異的DNA切断分子の開発のための修飾オリゴタクレオチドの大量合成とその高度利用
DNAを特異的に切断する分子はこれまでにもいくつか合成されているが、反応の選択性や効率の点で満足できるものとはなっていない。その理由の1つは、DNAのデオキシリボ-スの水素引き抜きから開始されるDNA切断機構が断片的にしか理解されていないため、切断分子のひきおこしている反応を評価できなかったことによる。特に1',2',3'位の水素引き抜きにより起こるDNA切断反応については、機構やその生成物については不明である。そこで修飾オリゴヌクレオチドを大量合成し光照射や抗生物質の基質として用いその切断機構について検討した。5ーハロウラシル類はDNA中にチミンの代わりにとりこまれ、光照射によりウラシル5位にラジカルを生じるが、その反応はほとんど理解されていない。DNA中に生成するラジカルがデオキシリボ-ス骨格より水素を引き抜くものと考え、5ーブロモウラシル( ^<Br>U)及び5ーヨ-ドウラシル( ^IU)を含む修飾短鎖DNAを大量に化学合成し、その光反応性を検討した。その結果、A ^<Br>U配列では2本鎖DNA中において、1'位の酸化が効率よく起こること、また^IUにおいては配列に関係なく2'位の反応も起こることが発見された。これらの結果は1'位、2'位の水素引き抜きから開始されるDNA切断機構を考える上で重要であるばかりか、5ハロウラシル類の引きおこす反応として、光生物学的にも注目される。4',5'位の水素引きぬき反応については、抗がん剤ブレオマイシン(BLM)及びネオカルチノスタチンによるDNA切断反応を同様に有機化学的に分子レベルで詳細に検討し、その反応機構、生成物の同定、それらの定量法を開発することに成功した。またイノシン及び2ーアミノアデニンを含む修飾短鎖DNAを種々合成し、BLM及びNCSがいかにDNA塩基配列を認識し、切断しているかを検討した。その結果NCSでは新しい認識モデルを提案すること可能となり、コンピュ-タ-モデルを用いて、その妥当性と視覚化に成功した。DNAを特異的に切断する分子はこれまでにもいくつか合成されているが、反応の選択性や効率の点で満足できるものとはなっていない。その理由の1つは、DNAのデオキシリボ-スの水素引き抜きから開始されるDNA切断機構が断片的にしか理解されていないため、切断分子のひきおこしている反応を評価できなかったことによる。特に1',2',3'位の水素引き抜きにより起こるDNA切断反応については、機構やその生成物については不明である。そこで修飾オリゴヌクレオチドを大量合成し光照射や抗生物質の基質として用いその切断機構について検討した。5ーハロウラシル類はDNA中にチミンの代わりにとりこまれ、光照射によりウラシル5位にラジカルを生じるが、その反応はほとんど理解されていない。DNA中に生成するラジカルがデオキシリボ-ス骨格より水素を引き抜くものと考え、5ーブロモウラシル( ^<Br>U)及び5ーヨ-ドウラシル( ^IU)を含む修飾短鎖DNAを大量に化学合成し、その光反応性を検討した。その結果、A ^<Br>U配列では2本鎖DNA中において、1'位の酸化が効率よく起こること、また^IUにおいては配列に関係なく2'位の反応も起こることが発見された。これらの結果は1'位、2'位の水素引き抜きから開始されるDNA切断機構を考える上で重要であるばかりか、5ハロウラシル類の引きおこす反応として、光生物学的にも注目される。4',5'位の水素引きぬき反応については、抗がん剤ブレオマイシン(BLM)及びネオカルチノスタチンによるDNA切断反応を同様に有機化学的に分子レベルで詳細に検討し、その反応機構、生成物の同定、それらの定量法を開発することに成功した。またイノシン及び2ーアミノアデニンを含む修飾短鎖DNAを種々合成し、BLM及びNCSがいかにDNA塩基配列を認識し、切断しているかを検討した。その結果NCSでは新しい認識モデルを提案すること可能となり、コンピュ-タ-モデルを用いて、その妥当性と視覚化に成功した。
KAKENHI-PROJECT-03242205
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03242205
超音波により誘起されるマイクロヘテロ反応場の解析と化学プロセスへの展開
溶液中に超音波を照射することにより生成するキャビテーション気泡を用いた特異な化学反応場について検討した。マイクロリアクター内での気泡挙動の顕微鏡観察により、キャビテーションや気泡構造形成のメカニズムについての基礎理解を深めるとともに、機能性ナノ粒子の合成等を行い新規反応場の特徴と有用性を明らかにした。溶液中に超音波を照射することにより生成するキャビテーション気泡を用いた特異な化学反応場について検討した。マイクロリアクター内での気泡挙動の顕微鏡観察により、キャビテーションや気泡構造形成のメカニズムについての基礎理解を深めるとともに、機能性ナノ粒子の合成等を行い新規反応場の特徴と有用性を明らかにした。マイクロヘテロ反応場として、空間的に反応領域が拘束されたマイクロリアクター型反応場と、溶液内に形成されるエマルション型反応場の2つについて研究を進めた。マイクロ空間への気泡導入は、これまで超音波キャビテーションの結果として生じる気泡を用いてきたが、可制御性を得るために、マイクロ電極を利用した電気分解やマイクロチャンネルからの気泡導入により、数と大きさ(数ミクロンから100ミクロン程度まで)を制御した気泡導入法を開発した。このようにして外部から導入した気泡に対して、超音波による振動を励起し、振動モードやマイクロストリーミング強度に対する気泡径依存性等を検討した。また、気泡振動と気泡周囲の流れを同時観測するためのパルス半導体レーザーを光源とした顕微観測装置を組み上げ、観察や測定に利用した。また、マクロな系においても、マイクロバブルの導入によりソノケミカル反応効率を上昇させることが可能であることを見出した。一方、エマルション型マイクロヘテロ反応場を用いた材料合成応用としては、生体への応用を視野においたナノ蛍光体粒子の合成を進めた。具体的には、アパタイトナノ粒子にユーロピウムイオンをドープした蛍光体を作成し、蛋白質との親和性についての検討を進めている。さらに、パラフィンを超音波で極微分散したエマルジョンをテンプレートとして用いたジルコニア多孔体を作成し、気孔径分布を評価した。本研究のもう一つのテーマである理論解析では、これまでにKeller式を基礎とした微小気泡のダイナミクスと気泡内化学反応、熱交換などを組み入れたシミュレーションコードを開発してきたが、本年度は、有限要素法を用いた器壁振動と連成させた音場解析に着手した。超音波により誘起されるマイクロヘテロ反応場として、空間的に反応領域が拘束されたマイクロリアクター型反応場と、溶液内に形成されるエマルジョン型反応場の2つについて研究を進めた。マイクロリアクター型については、マイクロ空間において超音波によるキャビテーションを生起し、気泡を介した超音波エネルギーの伝達・集中を実現した。その効果を定量的に確認するために、アルコール注入法によるリン脂質リポソームの調製を行い、その粒径分布の変化から従来にない高効率な攪拌効果が得られることを実証した。また同様の反応場を用いて金ナノ粒子の合成を行い、核生成に対する超音波の効果について検討した。マイクロリアクターにおいては超音波の照射時間が短いことや生成するラジカル数が金イオン数の4桁程度少ないために、超音波のみでの効率的な金ナノ粒子生成は困難であったが、核生成を制御することにより、生成粒子の大きさや粒径分布を制御することが可能であった。同様に、金ナノ粒子含有リポソームの調製が可能であるを実証した。一方、エマルジョン型マイクロヘテロ反応場を用いた材料合成応用では、超音波により形成される微細エマルションをテンプレートとしたセラミックス多孔体作成を試み、いくつかのセラミックス材料において所望の多孔体を得ることができることを示した。また、多くの機能を発揮することが期待される多糖類ゲル状物質への超音波照射に関する基礎的な実験を開始した。本研究のもう一つのテーマである理論解析では、超音波の物理的作用の起源である衝撃波強さについて検討し、溶存気体種によって衝撃波のエネルギーが変化することを定量化した。また、音場解析は超音波の作用を考える上で重要であるが、反応槽を形成する器壁振動と音場を達成させた有限要素法を用いた解析を行い、器壁の剛性により形成される音場が大きく変化することを見出した。超音波により誘起されるマイクロヘテロ反応場を用いて、アルコール注入法によるリン脂質リボソームの作成を行った。マイクロチャンネルにおいては、流体力学的高効率混合が起こることが知られているが、超音波照射によってリボソーム粒子径はさらに小さなものとなり、従来にない高効率な撹拝効果が得られることを実証した。一方、気泡集団の動きがマイクロ空間に特定され、顕微鏡観察が容易になるというメリットを生かして、気泡の分裂や合体が起こる様子をマイクロ空間において高速度ビデオカメラにより詳細に観察し、界面活性剤添加の効果などを明らかにした。すなわち、界面活性剤の添加により気泡問の合体は大きく阻害され、条件によっては気泡が集団化したクラスターが観測された。また、気泡の分裂は界面活性剤により促進され、合体・分裂どちらの過程においても界面活性剤は気泡径を小さくする方向に有利に作用することを確認した。また、数十ミクロン程度の気泡表面から小さな気泡が連続的に規則正しく発生している様子が観測されるなど、従来、確認の困難であった各種の気泡挙動を明確にとらえることができた。また、超高感度、高選択性のバイオアッセイ素子として注目されている貴金属プラズモン共鳴粒子に関し、マイクロリアクター内での超音波照射によって貴金属ナノ粒子の粒径制御が可能であることを示した。
KAKENHI-PROJECT-17310086
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超音波により誘起されるマイクロヘテロ反応場の解析と化学プロセスへの展開
さらに、超音波照射により調製した多糖類マイクロ粒子と貴金属ナノ粒子との複合化を行い、マイクロ粒子表面に貴金属ナノ粒子が析出していることを確認した。本研究のもう一つのテーマである理論解析としては、多数気泡についての解析を開始し、単一気泡からの展開が容易な均一分布を仮定することによって、気泡集団の特性を解析可能であることを示した。また、器壁振動と音場を連成させた有限要素法を用いた解析を行った。超音波により誘起されるマイクロヘテロ反応場として、空間的に反応領域が拘束されたマイクロリアクター型反応場と、溶液内に形成されるエマルション型反応場の2つについて研究を進めた。マイクロリアクター型においては、脂質やたんぱく質などを殻としたマイクロバブルの調製を試みたが、特異なメリットを見出すことはできなかった。一方、マイクロバブルのその場観察においては、顕微鏡下でマイクロリアクター型セルを用いることによって、ガス拡散によるバブル消滅過程や、密集したバブル集団の振動挙動などを高速ビデオやストロボ撮影法を用いて観察することができた。一方、エマルジョン型マイクロヘテロ反応場を用いた合成応用では、タンパク質、脂質、多糖類、および生体親和性高分子などを殻としたマイクロバブルの作成を試みた。超音波ホーンによるエマルジョン型マイクロヘテロ反応場と機械式攪拌法(ホモジナイザー)を比較すると、一般に、超音波ホーンを用いることによって、より微細なマイクロバブルを形成することが可能であった。さらに、超音波により誘起される特殊な反応場を制御・理解するために、レーザー散乱法や回折法を用いた多数キャビテーション気泡評価法を開発し、気泡振動挙動、気泡数密度や気泡径分布などの測定を可能とした。本研究のもう一つのテーマである理論解析では、多数気泡間の相互作用を取り入れたモデルを作成し、気泡集団が発生する音響スペクトルの意味を明確にするとともに、マイクロバブルの数密度と破壊耐性の関係について議論した。
KAKENHI-PROJECT-17310086
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化合物半導体薄膜結晶のヘテロ成長における結晶性の性御
(1)開管減圧水素輸送法によるGaAs基板上ZnSeヘテロエピ成長において、ZnSe/GaAsヘテロエピ界面にZnSe/ZnS_xSe_1 _x(x=0.16)歪み多層膜(各層の厚さ約1500Å)を挿入した結果、ZnSe成長層のX線回折ピークの半値幅が減少すると共に、表面モフォロジーが改善された。また、歪み多層膜上のZnSe成長層の成長速度は約1/2程度に低下した。これは格子歪み緩和時の不整合転位発生に伴って形成される成長層表面のすじ状の凹凸に起因するものと考えられる。(2)ジメチル亜鉛及び硫化水素をもちいたMOCVD法により、GaP基板上にZnSを成長させた。VI-II比を小さくするほど(111)A面上の成長速度が小さく、H_2の熱分解プロセスが(111)A及びB面の成長を律速し、成長速度差の原因となっていることが示唆された。MOCVD法によるIII-V族化合物半導体成長において(1)格子ミスマッチの大きいGaAs基板上InAs成長において、380°Cでの低温成長層を初期バックファ層として挿入することにより、X線ロッキングカーブの半値幅が大幅に低下し、また、GaとInの相互拡散(特に基板から成長層へのGaの拡散)が減少した。(2)InGaAs、InGaPの成長において、トリメチルInはトリメチルGaより分解速度が大きく、横型成長炉で組成を制御するためにはキャリアガス流速を上げることが必須である。また、フォスフィンよりアルシンと反応しやすく、その結果両者で成長層へのInの取込み率に差が見られる。などの結果を得た。(1)開管減圧水素輸送法によるGaAs基板上ZnSeヘテロエピ成長において、ZnSe/GaAsヘテロエピ界面にZnSe/ZnS_xSe_1 _x(x=0.16)歪み多層膜(各層の厚さ約1500Å)を挿入した結果、ZnSe成長層のX線回折ピークの半値幅が減少すると共に、表面モフォロジーが改善された。また、歪み多層膜上のZnSe成長層の成長速度は約1/2程度に低下した。これは格子歪み緩和時の不整合転位発生に伴って形成される成長層表面のすじ状の凹凸に起因するものと考えられる。(2)ジメチル亜鉛及び硫化水素をもちいたMOCVD法により、GaP基板上にZnSを成長させた。VI-II比を小さくするほど(111)A面上の成長速度が小さく、H_2の熱分解プロセスが(111)A及びB面の成長を律速し、成長速度差の原因となっていることが示唆された。MOCVD法によるIII-V族化合物半導体成長において(1)格子ミスマッチの大きいGaAs基板上InAs成長において、380°Cでの低温成長層を初期バックファ層として挿入することにより、X線ロッキングカーブの半値幅が大幅に低下し、また、GaとInの相互拡散(特に基板から成長層へのGaの拡散)が減少した。(2)InGaAs、InGaPの成長において、トリメチルInはトリメチルGaより分解速度が大きく、横型成長炉で組成を制御するためにはキャリアガス流速を上げることが必須である。また、フォスフィンよりアルシンと反応しやすく、その結果両者で成長層へのInの取込み率に差が見られる。などの結果を得た。
KAKENHI-PROJECT-04204010
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社会的災害の被害救済に係る横断的・総合的制度研究
公害・薬害・職業病などの社会的災害において同様の障害を負っても事件ごとにバラバラの救済の仕組みとなっている現状について、分野横断的に比較制度研究を行い、個々の制度改善につなげるとともに、一定の内容を統一した迅速な救済を可能とする総合的救済制度の必要性について提言することを目的としたものである。それは、従来「認定」の線引き(基準)をめぐって被害者ー加害者間で長年続いた不幸な紛争を防止することや、一時金や医療給付以外の生活再建・社会復帰、地域生活を保障するための非金銭的なサポートを充実する上でも重要なことである。第2年度にあたる平成24年度の成果は、結論から述べると、研究対象についてより具体的に実地調査をふまえた知見の深化を図ることができたこと、そして端緒的ではあるが学会誌等に本研究の研究成果を複数発表して、本研究の意義を一定程度世に問うことができたこと、といえる。研究対象に関しては、当初からの課題である原爆症(広島・長崎)の健康障害および被害補償制度の実態調査に併せて、昨年度後半から取り組み始めた、福島第一原発事故被災地域における放射線被曝による健康被害の可能性、健康不安等について、複数の自治体(主として大熊町、飯舘村、いわき市)をモデルケースに住民や行政等の定点観測を続けることにした。もちろん口述調査と並行して文献収集、一次資料の発掘を行って、資料分析も行ってきた。研究成果の公表については、まず、昨年度末に筆者が司会・コーディネーターを務めたシンポジウム「原爆症、森永ひ素ミルク事件、医薬品副作用被害、薬害エイズ、そしてフクシマ『被害補償』のあるべき姿を問う」(2012年2月4日開催)の成果を、今年度、報告集にまとめるとともに、関係学会等の学会誌および学術雑誌にこのような比較研究の意義に関する論文を複数発表した(環境経済・政策学会編『環境経済・政策研究』など)。また、筆者が平成22年度までの科研費若手研究の時から研究を続けてきた大気汚染公害の被害者に対する補償制度に関して、制度創設に大きな役割を果たした大阪・西淀川地域(大気汚染激甚地)の医療者・被害者・行政についての歴史的経緯、および現代的意義を共著書にまとめて発表することができた(『西淀川公害の40年』ミネルヴァ書房、2013年3月刊)。以上、いまだ研究途上だが、分野ごとの研究蓄積を成果として公表していくことができており、各分野を統合した横断的な比較制度研究という当初の目的に徐々に近づいてきていると考えている。第3年度にあたる平成25年度は,結論から述べると,前年度から新たに取り組み始めた現地調査の知見も集積し,比較検討を通じた研究成果を学術雑誌に公表することができた。しかしながら,放射能汚染の被害地域(福島県内の各地域はもとより広島・長崎でも訴訟が継続)の動向が刻一刻と変化しているため,本研究の最終的な成果をまとめる上では当面継続的なフォロー調査が必要であると考えている。現地調査の対象に関しては,具体的に福島第一原発事故被災地域における放射線被曝による健康被害の可能性、健康不安等について,とくに強制避難地域の避難住民の「帰還」の是非をめぐる意識,区域外避難者(自主的避難者)及び現地滞在者の不安の意識,などの背景に長期低線量被曝についてのリスクマネジメントの課題が存在するといえる。放射線被ばくの長期的健康影響とそのための救済制度については,広島・長崎および,第5福竜丸事件,鳥取・人形峠ウラン残土事件,JCO臨界事故,の事例が参考になり,これらの地域にも2425年度にかけて被害実態と補償・救済の現状把握のために現地調査を行ってきた(そのための費用は,科研費以外にも所属大学の研究及び民間財団からの助成金を一部充てている)。そして,今後はさらに予防原則に基づく被害の未然防止のための制度づくりも必要であり,次年度の課題である。次年度(26年度)が本研究の最終年度であり,これまで集約してきた各事例の知見を総合して研究報告をまとめ,公表し,政策提言に結びつけていくことが課題となる。公害・薬害・職業病などの社会的災害において同様の障害を負っても事件ごとにバラバラの救済の仕組みとなっている現状について、分野横断的に比較制度研究を行い、個々の制度改善につなげるとともに、一定の内容を統一した迅速な救済を可能とする総合的救済制度の必要性について提言することを目的としたものである。それは、従来「認定」の線引き(基準)をめぐって被害者ー加害者間で長年続いた不幸な紛争を防止することや、一時金や医療給付以外の生活再建・社会復帰、地域生活を保障するための非金銭的なサポートを充実する上でも重要なことである。平成23年度は,本研究の初年度ということで,平成22年度までの科研費若手研究で行ってきた大気汚染公害と水俣病の問題とは対象範囲も規模も広がるため,単なる「広く浅い」研究にならぬよう,課題のスクリーニングを行うことに努めてきた。折しも本研究開始の直前に3・11の東日本大震災・原発事故が発生したことで,放射能汚染および被曝の健康影響についての認識の必要性が急速に高まってきたこともあり,当初から位置づけていた原爆症(広島・長崎)の健康障害および被害補償の実態調査に併せて,福島第一原発事故周辺地域における放射線被曝の実態把握と被害発生の可能性についても研究の重点を置くことになった。福島での放射線による健康障害の発生の可能性およびその対処のあり方を考える上でも,広島・長崎での原爆症の経験は最も重要な教訓となるからである。
KAKENHI-PROJECT-23530688
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社会的災害の被害救済に係る横断的・総合的制度研究
このように原爆症だけでなく原発事故による被害も社会的災害の研究対象に加えながら年度の前半はこれらの問題把握に時間を割いたが,秋以降は少し鳥瞰的に薬害や食品公害についてもサーベイを開始し,各事件に取り組んできた研究者,弁護士,被害者支援者から知見を得つつ,彼らと協同しながら,年度末には市民公開の研究シンポジウムを開催することができた(本研究の着想の土台となった2009年開催のシンポジウムの第2弾「原爆症,森永ひ素ミルク事件,医薬品副作用被害,薬害エイズ,そしてフクシマ『被害補償』のあるべき姿を問う」2012年2月4日開催,筆者が司会・コーディネーター)。また,以上のような横断的な比較制度研究の意義について,関係の学会誌,および海外での学会においてさしあたりの到達点をまとめた論文を発表することができた。いまだ端緒的ではあるが,研究成果を世に問うとともに,本研究の方向性もより明確になってきたと考えている。最終年度にあたる平成26年度は、これまで集約してきた各事例の知見を総合して研究成果をまとめていくことに傾注した。ただし、最終年度ではあるが、公式確認から50年、59年を迎える新潟水俣病、熊本水俣病にかんして新たな大型訴訟が提起された状況を受けて、問題の背景を詳細に把握し政策提言を行うための研究会を新たに立ち上げた。また、この2年間定点観測を続けてきた放射能汚染の被害地域についてもフォロー調査を行っている。これらを受けて、最終年度ということを意識して、研究業績としては論文5本を執筆し(うち3本は平成27年度中の発刊)、学会等での研究報告を3回行ってきてきた。最終年度においてそれなりの政策提言を行うことができたと考えている。具体的に言えば、「原子力災害からの復興と医療・福祉的課題」(2014年9月)、「原発避難と復興政策の狭間にゆれる被災者の生活問題」(2015年5月刊行)、「避難地域の医療・福祉にみる復興の課題](2015年7月刊行予定)においては、原子力災害がもたらす被害の特殊性を明らかにし、とくに長期避難にともなう被災者の健康問題(精神的負荷も含む)が発生する構造を論じた。上記に関連して、「被災者の暮らしの再建と医療・福祉的課題」(2015年1月)では、自然災害(津波等)による被害構造との違いを意識しながら論じた。「横断的比較による水俣病の補償システムの検証」(2015年4月刊)は、公害や薬害、職業病における被害補償制度の横断的比較研究をふまえて、鳥瞰的に水俣病の補償システムをあらためて検証する論文であり、本研究の趣旨に基づく研究蓄積の成果の一つであるといえる。以上、平成26年度中に執筆あるいは報告できた研究成果には限りがあるものの、本研究によって得られた視点および研究蓄積は今後もそのまま応用が可能なものであり、引き続き成果の公表に努めていきたい。社会政策・環境政策平成24年度の課題は、上述のように研究対象の概括的なサーベイ(昨年度)から、現地の実態調査をふまえてより実質的な知見を得ることを目的としてきたが、全ての分野を1年で行うのは物理的に困難だとしても、原爆症(放射線被曝)および大気汚染公害についてはかなりの成果を得ることができたといえる。また、第2年度ということもあり、徐々にできるところから研究成果を形にしていくことも求められる。そうした意図から、まず、横断的な比較制度研究の意義について、学会誌および学術雑誌にそれぞれ論文を発表し、本研究の目的とするところをアカデミズムの場に多少なりとも位置づけることができたと思われる。
KAKENHI-PROJECT-23530688
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化学反応“その場”観測のための光電子透過窓を用いた実作動環境制御セルの開発
高真空内に湿潤な試料環境を保てる雰囲気制御セルを開発に成功し、SPring-8の硬X線光電子分光(HAXPES)を用いて、湿潤試料における電子状態観測を実現した。開発したセルを用いて、実作動条件である反応ガスを制御した燃料電池触媒の電極反応中の各元素の化学結合状態や電子状態を直接観測した結果を報告した。Pt微粒子への酸素表面吸着に起因して強い軌道混成が起きることを明らかにし、水分子よりも酸素分子が触媒劣化に強く影響することを実験検証した。本研究は高真空内に湿潤な試料環境を保てる雰囲気制御セルを開発し、反応中の化学状態や電子状態の“その場"観測を行う。従来の光電子分光は測定試料環境に高真空(10-6Pa以上)が必要で、湿潤な試料の適応が困難であった。SPring-8で開発された硬X線光電子分光法(HAXPES)を湿潤試料測定法へと高度化し、この問題を解決する。光電子透過窓を用いた実作動環境セル開発を行い、実デバイスへの応用実現に必要な要素技術を確立し、広い研究分野へ展開するため、高い汎用性を図る。実験条件は光電子窓から透過した微弱な信号を統計精度良く計測するため、いかに光電子強度・検出効率を上げるかが重要である。この問題を克服するために、立体角±34°程度の広角対物レンズ(開発済:既存)を併用した。この対物レンズの最大の利点は試料角度を変えることなく、一度に広角度の光電子放出角度依存性を観測し、深さ分析が可能なことである。また励起光はSPring-8放射光施設で高エネルギーおよび高密度X線を用いた。研究開発したセル機構はポリイミド膜厚10μmおよびSi3N4ーメンブレン薄膜(厚:15nm)を用いることで高真空槽内(5×10-6 Pa)にリークなく保持することに成功した。光電子透過窓と試料位置間の距離を15μmと短くしたセル機構を開発し、KBミラーを用いた1μm集光に本開発環境セルを適応させた。入射エネルギーを6,8,10keVと変えてAu4f光電子分光計測から光電子透過窓の影響を調査した。励起エネルギー6keVでの光電子はSiーメンブレン膜厚15nmを透過できないことが分かった。また入射エネルギーを8、10keVと雰囲気セル内圧をN2およびHeガスを用いて変化させ、Au4fのシグナル強度を調査した。この強度変化は8keV、10keVともに同様な強度変化をすることが分かった。これから測定範囲の真空度では光電子強度の気体による減少は光電子の運動エネルギーには依存しないことを見出した。本研究は高真空内に湿潤な試料環境を保てる雰囲気制御セルを開発し、反応中の化学状態や電子状態の“その場"観測を行う。従来の光電子分光は測定試料環境に高真空(10-6Pa以上)が必要で、湿潤な試料の適応が困難であった。SPring-8で開発された硬X線光電子分光法(HAXPES)を湿潤試料測定法へと高度化し、この問題を解決する。光電子透過窓を用いた実作動環境セル開発を行い、実デバイスへの応用実現に必要な要素技術を確立し、広い研究分野へ展開するため、高い汎用性を図る。実験条件は光電子窓から透過した微弱な信号を統計精度良く計測するため、いかに光電子強度・検出効率を上げるかが重要である。この問題を克服するために、立体角±34°程度の広角対物レンズ(開発済:既存)を併用した。この対物レンズの最大の利点は試料角度を変えることなく、一度に広角度の光電子放出角度依存性を観測し、深さ分析が可能なことである。また励起光はSPring-8放射光施設で高エネルギーおよび高密度X線を用いた。研究開発したセル機構はポリイミド膜厚10μmおよびSi3N4ーメンブレン薄膜(厚:15nm)を用いることで高真空槽内(5×10-6 Pa)にリークなく保持することに成功した。光電子透過窓と試料位置間の距離を15μmと短くした「ガス用セル機構」を開発し、KBミラーを用いた1μm集光に本開発環境セルを適応させた。この機構を用いて、酸素雰囲気下の金属ナノ微粒子における量子サイズ効果に関する知見を得た。また液体試料を対象としたセルの開発にも成功している。エタノール(C2H5OH)溶液の角度分解計測した深さ依存結果から、明瞭なケミカルシフトした2つのC1sピーク(エタノールに由来)を観測し、溶液自体の化学結合状態観測が可能となった。環境制御セル機構の主な特徴はX線を透過する窓と光電子を透過する窓を分けて構成しており、窓材自体から励起された光電子の検出を避ける点である。8keV程度の硬X線で励起された高い運動エネルギーをもつ光電子の非弾性平均自由行程(IMFP)は15nm程度であることを利用して、メンブレン膜を透過した光電子の運動エネルギーを測定する。H26年度開発した「ガスフロー用環境制御セル」は、メンブレン膜厚15nmのSi3N4を光電子透過窓として用いることで、高真空内(10-6Pa以上)に大気圧下で湿潤な試料環境を保ち、H27年度に酸素雰囲気下の金属ナノ微粒子における量子サイズ効果に関する知見を得た。また同H27年度には固液界面の光電子計測を目的に計画した「フロー循環型液体用セル」の開発も並行して行った。
KAKENHI-PROJECT-26390120
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26390120
化学反応“その場”観測のための光電子透過窓を用いた実作動環境制御セルの開発
こちらも高真空槽内(5×10-6 Pa)にリークなく保持することに成功し、送液時の水圧と薄膜剥離の関係を調査し、最適な光電子透過窓材と膜厚の選定を行った。エタノール(C2H5OH)溶液の角度分解計測した深さ依存結果から、明瞭なケミカルシフトした2つのC1sピーク(エタノールに由来)を観測し、溶液自体の化学結合状態観測が可能となった。計画通り、おおむね順調に進展していると考えられる。本研究は高真空内に湿潤な試料環境を保てる雰囲気制御セルを開発し、反応中の化学状態や電子状態の“その場"観測を行う。従来の光電子分光は測定試料環境に高真空(10-6Pa以上)が必要で、湿潤な試料の適応が困難であった。SPring-8で開発された硬X線光電子分光法(HAXPES)を湿潤試料測定法へと高度化し、この問題を解決する。光電子透過窓を用いた実作動環境セル開発を行い、実デバイスへの応用実現に必要な要素技術を確立し、広い研究分野へ展開するため、高い汎用性を図る。研究開発したセル機構はポリイミド膜厚10μmおよびSi3N4ーメンブレン薄膜(厚:15nm)を用いることで高真空槽内(5×10-6 Pa)にリークなく保持することに成功した。光電子透過窓と試料位置間の距離を15μmと短くした「ガス用セル機構」を開発し、KBミラーを用いた1μm集光に本開発環境セルを適応させた。この機構を用いて、酸素雰囲気下の金属ナノ微粒子における量子サイズ効果に関する知見を得た。また実作動条件である反応ガスを制御した燃料電池触媒の電極反応中の各元素の化学結合状態や電子状態を直接観測した結果を報告した。Pt微粒子への酸素表面吸着に起因して強い軌道混成が起きることを明らかにし、水分子よりも酸素分子が触媒劣化に強く影響することを実験検証している。また液体試料を対象としたセルの開発にも成功している。エタノール(C2H5OH)溶液の角度分解計測した深さ依存結果から、明瞭なケミカルシフトした2つのC1sピーク(エタノールに由来)を観測し、溶液自体の化学結合状態観測が可能となった。溶液実験では、突発的にメンブレン膜が壊れ真空を悪化するトラブルも発生したので、さらにX線照射ダメージを調査し、微量溶液循環機構の製作やインターロックの構築等の安全対策を図り、固気、固液界面におけるオペランドHAXPES計測技術を確立している。高真空内に湿潤な試料環境を保てる雰囲気制御セルを開発に成功し、SPring-8の硬X線光電子分光(HAXPES)を用いて、湿潤試料における電子状態観測を実現した。開発したセルを用いて、実作動条件である反応ガスを制御した燃料電池触媒の電極反応中の各元素の化学結合状態や電子状態を直接観測した結果を報告した。Pt微粒子への酸素表面吸着に起因して強い軌道混成が起きることを明らかにし、水分子よりも酸素分子が触媒劣化に強く影響することを実験検証した。環境制御セル機構の主な特徴はX線を透過する窓と光電子を透過する窓を分けて構成しており、窓材自体から励起された光電子の検出を避ける点である。8keV程度の硬X線で励起された高い運動エネルギーをもつ光電子の非弾性平均自由行程(IMFP)は15nm程度であることを利用して、メンブレン膜を透過した光電子の運動エネルギーを測定する。H26年度開発した「ガスフロー用環境制御セル」は、メンブレン膜厚15nmのSi3N4を光電子透過窓として用いることで、高真空内(10-6Pa以上)に大気圧下で湿潤な試料環境を保ち、N2およびHeガス雰囲気下で透過したAu4f光電子の運動エネルギー観測を達成した。
KAKENHI-PROJECT-26390120
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26390120
アジア太平洋の安全保障枠組みと沖縄-冷戦史の文脈からみた沖縄返還-
アメリカは、沖縄に米軍基地を長期的に維持するために、沖縄の施政権を日本に返還することを決めた。ニクソン・ドクトリンに伴って縮小されたアジア太平洋の軍事的プレゼンスの支柱として在沖米軍は不可欠なのであり、その在沖米軍基地を維持するために是非とも必要だったのが沖縄返還なのであった。デタントが進行し、ニクソン・ドクトリンによってアジア諸国から多くの米軍が撤退した。冷戦構造の変容や国際緊張の緩和はアジア諸国の米軍受け入れの負担を軽減していったといえる。しかし、沖縄が受けた緊張緩和の「配当」は限られたものとなり、沖縄の相対的負担が増していった。とりわけ、韓国と台湾は、在沖米軍基地機能の維持を強く望んでいたが、これは、沖縄返還が、アジア太平洋地域が沖縄への依存を深めるプロセスであったことを意味している。屋良ら琉球政府は、冷戦構造の変容と沖縄問題をリンクさせる視点がなかったわけではないが、主に「基地密度論」に代表される基地被害の軽減という観点から、在沖米軍基地を縮小することを求めた。他方、佐藤政権が、緊張緩和と在沖米軍基地の削減をリンクさせる発想を持っていたのかは定かではない。多極化、デタント、そしてニクソン・ドクトリンによってアジア太平洋地域から多くの米軍が撤退したにもかかわらず、在沖米軍の削減は限られたものとなり、アジア太平洋における米軍のプレゼンスを支えるうえでの沖縄の負担は相対的に増していった。沖縄返還とは、日本だけでなくアジア太平洋地域全体が、安全保障面で、即ち米軍の受け入れという点で、沖縄への依存を深めていくプロセスであったといえよう。(1)沖縄県立公文書館所蔵・アメリカ国務省文書沖縄県立公文書館に所蔵されているアメリカ国務省文書の調査及び収集を行った。本年度においては、とくに、1960年代における国務省の対日政策が記されているものに重点を置いた。アルバイトを雇い、沖縄県立公文書館での作業を進めてもらった。現在は、複写した資料の整理を行っている段階であり、本格的な解読・分析は、今後行うこととする。(2)外務省史料外務省情報公開を利用して、資料の入手を試みた。そのなかで、とくに、池田勇人首相の沖縄観を示すものが目を引いた。また、佐藤栄作首相が行った二度にわたる東南アジア訪問に関する記録も入手した。アジア各国首脳との会談で、沖縄問題がどのように取り上げられているのかについて、来年度、調査を進めたい。(3)アメリカ国立公文書館、ケネディ・ライブラリー調査アメリカ国立公文書館では、基礎的作業として、資料群のインデックスを入手した。ケネディ・ライブラリーでは、ケネディ政権の対日政策に関する資料を入手することができた。その本格的な分析は、来年度に行う。(4)研究成果の公表研究初年度であるため、本研究事業の本格的な成果を発表するには至っていない。だが、本研究に関連するものとして、沖縄国際大学米軍ヘリコプター墜落事件を事例としながら、本研究の意義、あるいは今後の歴史研究の課題について指摘する論考を、日本同時代史学会で報告し、さらに『沖縄タイムス』と『沖縄法学』に発表した。(1)沖縄県立公文書館調査池田政権期から佐藤政権期を対象として、沖縄県立公文書館に所蔵されているフライマス文書の調査及び資料調査を行った。注目すべきものとしては、ニクソン・ドクトリンとアジアにおける米軍のプレゼンスについて分析した報告書が発見されたことである。この文書は、ニクソン・ドクトリンと在沖米軍の関係について記しており、アメリカ側がニクソン・ドクトリンのなかに沖縄をいかに位置づけていたかを知るうえで重要な手がかりとなるだろう。昨年度に収集した、沖縄県立公文書館所蔵のアメリカ国務省文書の分析にも着手した。アメリカ政府が、沖縄返還とアジアにおける米国の威信と関連付けて捉えていたことなどが判明した。(2)二次資料調査戦後沖縄史を知る上での基礎資料である『沖縄年鑑』各年版を利用して、1960年代から1970年代初頭における在沖米軍の概況を調べることとした。また、『屋良朝苗回顧録』や『西銘順治日記』など、1960年代における沖縄の指導者たちの回顧録や日記も調査した。(3)アメリカ国立公文書館調査アメリカ国立公文書館で、アメリカ国務省のLot Filesを調査し、複写を行った。これらの文書のなかには、韓国や台湾が沖縄返還をどのように見ていたかを示す興味深い文書が含まれていた。(4)研究成果の公表池田政権期における沖縄問題についての分析を進める過程で、「『経済主義』イメージの形成と定着」と題する池田外交研究史論を執筆した。またアメリカ国立公文書館で、昭和天皇が日米関係に強い関心を示していたことを示す、非常に興味深い資料を発見した。本研究事業においては「副産物」ではあるが、日本外交、日米関係史研究に極めて大きな進展をもたらす、非常に大きな発見であった。現在、これらの史料を用いた論文を執筆しているところである。アメリカは、沖縄に米軍基地を長期的に維持するために、沖縄の施政権を日本に返還することを決めた。ニクソン・ドクトリンに伴って縮小されたアジア太平洋の軍事的プレゼンスの支柱として在沖米軍は不可欠なのであり、その在沖米軍基地を維持するために是非とも必要だったのが沖縄返還なのであった。デタントが進行し、ニクソン・ドクトリンによってアジア諸国から多くの米軍が撤退した。冷戦構造の変容や国際緊張の緩和はアジア諸国の米軍受け入れの負担を軽減していったといえる。しかし、沖縄が受けた緊張緩和の「配当」は限られたものとなり、沖縄の相対的負担が増していった。
KAKENHI-PROJECT-16730092
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アジア太平洋の安全保障枠組みと沖縄-冷戦史の文脈からみた沖縄返還-
とりわけ、韓国と台湾は、在沖米軍基地機能の維持を強く望んでいたが、これは、沖縄返還が、アジア太平洋地域が沖縄への依存を深めるプロセスであったことを意味している。屋良ら琉球政府は、冷戦構造の変容と沖縄問題をリンクさせる視点がなかったわけではないが、主に「基地密度論」に代表される基地被害の軽減という観点から、在沖米軍基地を縮小することを求めた。他方、佐藤政権が、緊張緩和と在沖米軍基地の削減をリンクさせる発想を持っていたのかは定かではない。多極化、デタント、そしてニクソン・ドクトリンによってアジア太平洋地域から多くの米軍が撤退したにもかかわらず、在沖米軍の削減は限られたものとなり、アジア太平洋における米軍のプレゼンスを支えるうえでの沖縄の負担は相対的に増していった。沖縄返還とは、日本だけでなくアジア太平洋地域全体が、安全保障面で、即ち米軍の受け入れという点で、沖縄への依存を深めていくプロセスであったといえよう。
KAKENHI-PROJECT-16730092
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コンドロイチン硫酸生合成に関わるN-アセチルガラクトサミン転移酵素の研究
ウシ胎児血清を酵素源として本酵素の簡便なアッセイ法を開発し、このアッセイ法を用いてウシ胎児血清中の本酵素の性質を調べた。また、ウシ胎児血清中に本酵素と異なる新奇のα-GalNAc転移酵素を検出した。1.遠心カラム法を用いた簡易アッセイ法の開発とGalNAc転移酵素の反応条件の検討酵素源としてウシ胎児血清、ドナーはUDP-[^3H]GalNAc、アクセプターにはコンドロイチンを用いて酵素反応を行い、Sephadex G-25が詰まった注射筒に反応液をアプライし、その注射筒を試験管につり下げて遠心し溶出液を回収後、その放射活性を測定する簡易アッセイ方法を開発した。また、本酵素の至適pH、バッファー、金属要求性、そしてUDP-GalNAcやコンドロイチンに対するKm値を調べ、アッセイ系の確立を行った。現在、このアッセイ法を用いて、本酵素の精製を行っている。2.プロテオグリカンの糖-タンパク質結合領域に作用する新しいα-GalNAc転移酵素の発見コンドロイチン硫酸の重合に関与する上記のGalNAc転移酵素を研究している過程で、各種グリコサミノグリカンに共通である糖とタンパク質の結合領域四糖の化学合成品を糖受容体とし、ウシ胎児血清を酵素源として、コンドロイチン硫酸生合成の鍵となるGalNAc転移酵素について調べたところ、この酵素は従来から考えられていたβ-GalNAc転移酵素ではなく、α-GalNAc転移酵素である事を明らかにした。現在、このα-GalNAc転移酵素の精製のための簡易アッセイ法を開発中である。ウシ胎児血清を酵素源として本酵素の簡便なアッセイ法を開発し、このアッセイ法を用いてウシ胎児血清中の本酵素の性質を調べた。また、ウシ胎児血清中に本酵素と異なる新奇のα-GalNAc転移酵素を検出した。1.遠心カラム法を用いた簡易アッセイ法の開発とGalNAc転移酵素の反応条件の検討酵素源としてウシ胎児血清、ドナーはUDP-[^3H]GalNAc、アクセプターにはコンドロイチンを用いて酵素反応を行い、Sephadex G-25が詰まった注射筒に反応液をアプライし、その注射筒を試験管につり下げて遠心し溶出液を回収後、その放射活性を測定する簡易アッセイ方法を開発した。また、本酵素の至適pH、バッファー、金属要求性、そしてUDP-GalNAcやコンドロイチンに対するKm値を調べ、アッセイ系の確立を行った。現在、このアッセイ法を用いて、本酵素の精製を行っている。2.プロテオグリカンの糖-タンパク質結合領域に作用する新しいα-GalNAc転移酵素の発見コンドロイチン硫酸の重合に関与する上記のGalNAc転移酵素を研究している過程で、各種グリコサミノグリカンに共通である糖とタンパク質の結合領域四糖の化学合成品を糖受容体とし、ウシ胎児血清を酵素源として、コンドロイチン硫酸生合成の鍵となるGalNAc転移酵素について調べたところ、この酵素は従来から考えられていたβ-GalNAc転移酵素ではなく、α-GalNAc転移酵素である事を明らかにした。現在、このα-GalNAc転移酵素の精製のための簡易アッセイ法を開発中である。
KAKENHI-PROJECT-07857169
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3R(リユース・リディース・リサイクル)技術開発に及ぼす環境規制のあり方
我が国の環境規制と環境技術のあり方を検証し、かつ海外の環境規制について調査を行った。まず、我が国のフッ素のマテリアルフローを調査し、環境規制がマテリアルフローと環境技術の開発状況に及ぼす影響を見た。その結果、規制が強化されると我が国のフッ素の輸入量の半分を占める鉄鋼産業での輸入量が2/3に減少し、その数年前にフッ素の処理技術に関する特許が多く提案されていることがわかった。これにより、環境規制と環境技術の相関が強いことが確認され、そのような現象は容器包装リサイクル法の導入とプラスチックの再資源化についても見られた。自動車リサイクル法とシュレッダーダストの資源化技術についても同様な関係があることがわかった。ヨーロッパにはEUとしての規制がある一方、各国の独自性もあることがわかった。特にRoHs指令は我が国の家電メーカーに大きな影響を及ぼしている。中でも鉛はんだの規制はその影響が顕著に現れ、各電機メーカーがこぞって無鉛はんだの開発を行った。しかしながら、無鉛はんだの導入は、鉛の拡散リスクが大きく低下することはないことがわかった。我が国電気メーカーではRoHs指令に対応すべき、素材から部品まで使用されている化学成分をすべて管理するシステムの開発が行われ、実施されている。このような技術は我が国の得意とするところであり、世界標準となる可能性があることがわかった。また、将来環境技術を売り込む可能性を調べるために東ヨーロッパの環境規制についても調査を行った。その結果旧東欧でもよりヨーロッパに近く、拡大EUに加入したもしくは加入が予定きれているポーランドやバルト3国、チェコなどはほぼヨーロッパに準じた環境規制を考えていることがわかった。我が国の環境規制と環境技術のあり方を検証し、かつ海外の環境規制について調査を行った。まず、我が国のフッ素のマテリアルフローを調査し、環境規制がマテリアルフローと環境技術の開発状況に及ぼす影響を見た。その結果、規制が強化されると我が国のフッ素の輸入量の半分を占める鉄鋼産業での輸入量が2/3に減少し、その数年前にフッ素の処理技術に関する特許が多く提案されていることがわかった。これにより、環境規制と環境技術の相関が強いことが確認され、そのような現象は容器包装リサイクル法の導入とプラスチックの再資源化についても見られた。自動車リサイクル法とシュレッダーダストの資源化技術についても同様な関係があることがわかった。ヨーロッパにはEUとしての規制がある一方、各国の独自性もあることがわかった。特にRoHs指令は我が国の家電メーカーに大きな影響を及ぼしている。中でも鉛はんだの規制はその影響が顕著に現れ、各電機メーカーがこぞって無鉛はんだの開発を行った。しかしながら、無鉛はんだの導入は、鉛の拡散リスクが大きく低下することはないことがわかった。我が国電気メーカーではRoHs指令に対応すべき、素材から部品まで使用されている化学成分をすべて管理するシステムの開発が行われ、実施されている。このような技術は我が国の得意とするところであり、世界標準となる可能性があることがわかった。また、将来環境技術を売り込む可能性を調べるために東ヨーロッパの環境規制についても調査を行った。その結果旧東欧でもよりヨーロッパに近く、拡大EUに加入したもしくは加入が予定きれているポーランドやバルト3国、チェコなどはほぼヨーロッパに準じた環境規制を考えていることがわかった。環境技術を有効に実用化するには、環境規制の把握が重要である。特に環境技術立国を目指す我が国においては、開発した環境技術を世界に向けて展開するためにも世界の環境規制の状況を知る必要がある。初年度である本年度は、主に我が国の環境規制と環境技術のあり方を検証し、かつ海外の環境規制について調査を行った。まず、我が国のフッ素のマテリアルフローを調査し、環境規制がマテリアルフローと環境技術の開発状況に及ぼす影響を見た。その結果、規制が強化されると我が国のフッ素輸入量の半分を占める鉄鋼産業での使用量が2/3に減少し、その数年間に前にフッ素処理技術に関する特許が多く提案されていることがわかった。これにより、環境規制と環境技術の相関が強いことが確認され、そのような現象は容器包装リサイクル法の導入とプラスチックの再資源化についても見られた。海外については、環境規制が十分に行われている北米とヨーロッパについて重点的に調査した。特にヨーロッパについてはEUとしての気勢がある一方、各国の独自性もあることがわかった。特にRoHS指令は我が国の家電メーカーや自動車メーカに関しても大きな影響を及ぼしている。中でも鉛はんだの規制はその影響が顕著に現れ、各電機メーカーがこぞって無鉛はんだの開発を行っている。また、RoHS指令に対応すべき、素材から部品まで使用されている化学成分をすべて管理するシステムの開発が行われ、実施されている。このような技術は我が国の得意とするところであり、世界標準となる可能性があることがわかった。また、将来環境技術を売り込む可能性を調べるために東ヨーロッパの環境規制についても著差を行った。その結果、ポーランドやバルト3国、チェコなどは、ほぼヨーロッパに準じた環境規制を考えていることがわかった。その他、環境規制に関係する溶出試験の各国の考え方についても調査を行い、解析を進めた。本研究は、これまで各国で開発された3R(リユース・リデュース・リサイクル)を中心とした環境技術の調査を行い、その技術開発の動向がそれらの地域性・経済・具体的な環境規制とどのように関わっているかを日本との比較において明らかにするものである。特に経済成長(たとえばGDP)と環境問題への意識の変化ならびにどのような問題が顕在化するのかとその問題への具体的な対応を3R技術の開発動向を通して考察する。
KAKENHI-PROJECT-16404023
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3R(リユース・リディース・リサイクル)技術開発に及ぼす環境規制のあり方
その結果は、すぐれた3R技術を保有する日本が世界に向かってそれらの技術をどのように移転することが可能かを、地域別に、時間軸を考慮しながら検討するために大きな貢献をするものと思われる。最終的には日本が世界において環境面からのリーダーシップをとることを大きく支援するための具体的な指針を示すことが可能となる。本年度は、前年度に引き続き海外における3R技術の調査を行った。各調査国において、大学、研究所、省庁などから3R技術に関する情報を得た。また、前年度得られた調査資料内容に関して詳細に評価を行い、分類・整理を行った。本年度訪問調査した国は次の通りである。北米圏調査:カナダ(中村崇)アジア圏調査:中国(柴田悦郎)オセアニア圏調査:オーストラリア、ニュージーランド(Mariusz Grabda)ヨーロッパ圏調査:オーストリア、スロバキア、チェコ(吉本敦)以上の情報を収集後、データを整理し、それぞれの地域における3R技術の開発・稼動状況を決定する本質的な社会科学的因子の解析を進めた。特に、地勢学的状況が及ぼす影響に関しては、可能な限り定量的評価を行うように検討した。平成18年度は、最終年度として環境規制に関するワークショップを開催し、報告書を作成した。ワークショップでは現状の環境問題の認識、特に温暖化と環境規制物質の拡散防止、ならびに産業発展の間のトレードオフについて議論した。特に、EUからはEU政策担当者を呼び、いかにして環境政策を決定していくのかを議論した。また、環境技術に関するBest Available Technologyについても環境汚染物質の規制を例に国際的な比較を行った。具体的な内容としては、カナダの銅製錬をはじめとする非鉄製錬業における環境問題の認識、アメリカでの環境規制ならびにスクラップのリサイクル状況、EUにおけるリサイクル産業とそれ関連する環境規制の動向、オーストラリアでのリサイクルと環境保全の取組みに関する統計的な調査、それから各国における環境汚染物質の抑制技術とその規制に関する比較である。また、小型電子機器には、鉄や銅などの通常回収される金属の他、高付加価値のレアメタルであるガリウム、インジウムやビスマスなどが含有されている。しかし、一般家庭の使用済み電子機器の回収方法が確立されていないため、通常の:ゴミに混入され回収不可能な形で処分されることが多く、資源として確保するシステムの確立が望まれている。そこで、我が国の家電リサイクル法ならびに資源化システムとEUのWEEEの比較を行い、日本独自の小型電子機器の回収システムを提案した。
KAKENHI-PROJECT-16404023
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縄文時代における稲作伝播ルートに関する実証的研究
1.琉球列島における稲作の始まりと伝播ルートの存否について琉球列島に所在する34の遺跡について調査分析を実施し、琉球列島におけるグスク時代と貝塚時代後期における稲作の存在について検討を行った。その結果、グスク時代の遺跡については、稲作の存在を分析的に確認することができたが、貝塚時代後期については、稲作の存在を示すデータは得られなかった。特に、グスク時代には琉球列島全域で稲作が営まれていたことを示すデータが得られている。また、プラント・オパール形状解析の結果、栽培されていたイネはジャポニカであることも明らかとなっている。以上の結果から、貝塚時代における稲作および南方ルート成立の可能性は低く、列島に稲作が定着したのは、グスク時代であると考えられる。なお、この結果は、現在までの考古学的な調査所見とも矛盾のないものとなっている。2.北部九州における縄文後期、晩期における稲作の存在とその広がりについて南方ルートを除く2つの伝播ルートの可能性を検討するために、これらの共通の窓口である北部九州における縄文後晩期の稲作の存在とひろがりについて調査を行った。具体的には、北部九州に所在する13の遺跡の土器や土壌についてプラント・オパール分析を実施し、検討を行った。その結果、7つの遺跡で、縄文後期あるいは晩期の試料からイネプラント・オパールが検出され、北部九州における縄文後晩期の稲作の存在とその広がりについて確認をすることができた。今回の結果は、北部九州を窓口とする伝播ルートの可能性を支持するものであり、今後、さらに調査事例を増すことにより、検証を進める必要がある。1.琉球列島における稲作の始まりと伝播ルートの存否について琉球列島に所在する34の遺跡について調査分析を実施し、琉球列島におけるグスク時代と貝塚時代後期における稲作の存在について検討を行った。その結果、グスク時代の遺跡については、稲作の存在を分析的に確認することができたが、貝塚時代後期については、稲作の存在を示すデータは得られなかった。特に、グスク時代には琉球列島全域で稲作が営まれていたことを示すデータが得られている。また、プラント・オパール形状解析の結果、栽培されていたイネはジャポニカであることも明らかとなっている。以上の結果から、貝塚時代における稲作および南方ルート成立の可能性は低く、列島に稲作が定着したのは、グスク時代であると考えられる。なお、この結果は、現在までの考古学的な調査所見とも矛盾のないものとなっている。2.北部九州における縄文後期、晩期における稲作の存在とその広がりについて南方ルートを除く2つの伝播ルートの可能性を検討するために、これらの共通の窓口である北部九州における縄文後晩期の稲作の存在とひろがりについて調査を行った。具体的には、北部九州に所在する13の遺跡の土器や土壌についてプラント・オパール分析を実施し、検討を行った。その結果、7つの遺跡で、縄文後期あるいは晩期の試料からイネプラント・オパールが検出され、北部九州における縄文後晩期の稲作の存在とその広がりについて確認をすることができた。今回の結果は、北部九州を窓口とする伝播ルートの可能性を支持するものであり、今後、さらに調査事例を増すことにより、検証を進める必要がある。1.南九州・沖縄の在来イネ品種の機動細胞珪酸体(プラント・オパール前身)形状の調査について南九州・沖縄のイネ(在来品種43品種:九州大学農学部の保存品種)について、その遺伝特性(塩素酸カリ抵抗性、フェノール反応など)や機動細胞珪酸体(プラント・オパールの前身)の形状特性について調査を行った。その結果、これまでアジアの在来品種、中国の在来品種から作成されたプラント・オパール形状による亜種判別の方法が当該地域の調査にも適用できることが確認された。2.九州・沖縄の遺跡土壌や土器のプラント・オパール分析について平成12年度は、九州沖縄に所在する6つの遺跡について、調査と土壌や土器の採集を行った。また、琉球列島の稲作開始期に関する検討のために、沖縄の貝塚時代およびグスク時代の各時期の土器についても、収集を行った。現在、分析を進めている途中であるが、琉球列島の遺跡で、時代は新しいものの、中世の土層からイネのプラント・オパールが検出され、稲作の存在を確認することができた。また、琉球列島の調査では、石灰岩隆起の島が多いため、プラント・オパールの風化が大きいこと(アルカリの影響による風化)が懸念されたが、今回、沖縄本島、伊江島、宮古島など、さまざまな遺跡土壌と土器の分析を行った結果、風化の進んだプラント・オパールが比較的多く認められたものの、分析上は、支障がないことが明らかとなった。1.琉球列島の遺跡から出土した土器の収集と分析について本年度は、昨年度に試料収集を行えなかった奄美大島、八重山諸島の石垣島に所在する以下の遺跡の土器の収集と分析を行った。現在、分析を進めている途中であるが、イネのプラント・オパールが検出されたものもあり、稲作の存在を証明するデータが得られつつある。石垣島:フルスト原遺跡、大田原遺跡、キダモリ遺跡、ピューツタ遺跡、ビロースク遺跡奄美大島:赤木名グスク、用見崎遺跡、宇宿小学校校内遺跡、宇宿貝塚、マツノト遺跡2.琉球列島および九州の遺跡土壌の採取と分析について琉球列島については、宮古島、石垣島、奄美大島に所在する下記の遺跡土壌の採取と収集を行い、現在分析を進めている。宮古島:浦底遺跡、アラフ遺跡石垣島:フルスト原遺跡、大田原遺跡、キダモリ遺跡、ピューツタ遺跡、ビロースク遺跡奄美大島:赤木名
KAKENHI-PROJECT-12480028
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縄文時代における稲作伝播ルートに関する実証的研究
グスク、用見崎遺跡、宇宿小学校校内遺跡、宇宿貝塚、マツノト遺跡九州の遺跡については、宮崎県田野町に所在する本野原遺跡および同県都城市に所在する坂元A遺跡について現地調査と試料採取を行った。縄文後期については、複数の遺跡について稲作の存在が確認されている。本野原遺跡は、縄文後期の集落遺跡であり、その立地等からも稲作を検証する必要がある。同遺跡については、現在、採取試料を分析中である。坂元A遺跡については、縄文晩期から近世までの各土層からイネプラント・オパールが検出され、また、その形状解析から、当該地域で熱帯ジャポニカのイネが長期間にわたって利用されていた可能性をとらえることができた。1.琉球列島、九州および台湾の遺跡から出土した土器と土壌の収集と分析収集した土器胎土のプラント・オパール分析の結果、琉球列島については、以下の遺跡出土の土器および土壌からイネプラント・オパールを検出した。石垣島:キダモリ遺跡、ピロースク遺跡、フルスト原遺跡宮古島:住屋遺跡、砂川元島遺跡、根間西里遺跡沖縄本島:伊佐前原第一遺跡奄美大島:赤木名グスクこの結果から、グスク時代には琉球列島全域で稲作が営まれていたことが明らかとなった。本年度は、さらにその広がりとグスクに先行する貝塚時代後期における稲作の検証を行うため、下記の遺跡について土器と土壌の収集と採取を行った。沖縄本島:アンチ貝塚、名護屋部遺跡、平敷屋トウパル遺跡、喜如嘉貝塚、熱田貝塚石垣島:白保カラ岳貝塚、富野岩陰遺跡、平川貝塚、大川東ノハカ遺跡、名蔵瓦窯遺跡、吹通第二貝塚また、九州については、福岡市、久留米市に所在する以下の遺跡からの土器と土壌の収集と採取を行った。福岡・久留米市:正福寺遺跡、西小路遺跡、津古土取遺跡なお、台湾での試料採取は日程調整等の都合で、本年度は行わなかった。2.プラント・オパール形状解析による中国在来イネと九州・沖縄の在来イネの比較中国、江蘇省および浙江省に所在する在来イネ約100系統についてその機動細胞珪酸体(プラント・オパールの前身)を調査し、九州・沖縄の在来イネとの比較を行った。その結果、水田稲作適地に分布する在来イネの形状は、亜種判別の基準とする判別得点が2.0よりも小さい範囲に分布しているのに対し、畑作系譜の稲作の存在が考えられる九州・沖縄の在来イネの多くは2.0よりも大きな範囲に分布しており、両者の間に違いがあることが確認された。1.琉球列島におけるグスク時代および貝塚時代後期の稲作存否の検討本年度は、これまでの調査結果をふまえて、さらに以下の遺跡について調査分析を実施し、琉球列島におけるグスク時代と貝塚時代後期における稲作の存在についてさらに検討を行った。石垣島:白保カラ岳貝塚、富野岩陰遺跡、平川貝塚、大川東ノハカ遺跡、名蔵瓦窯遺跡、吹通第二貝塚沖縄本島:アンチ貝塚、名護屋部遺跡、平敷屋トウバル遺跡、喜如嘉貝塚、熱田貝塚その結果、富野岩陰遺跡をはじめとするグスク時代の遺跡については、稲作の存在を分析的に確認することができたが、貝塚時代後期については、稲作の存在を示すデータは得られなかった。
KAKENHI-PROJECT-12480028
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12480028
植物の生産性を向上させるためのデンプン生合成酵素の機能変換
植物のデンプン生合成における唯一の基質であるADPglucoseは、ADPglucose pyrophosphorylase(AGPase)によって合成される。AGPaseは、2つの大サブユニットと2つの小サブユニットからなるヘテロ4量体であり、3-phosphoglycerateおよびPiによりアロステリックに調節される。本研究では、AGPaseのアロステリック特性を改変することによるデンプンの量的変換を目指し、以下に示す成果を得た。(2)Arabidopsis genomeより、プロモーター領域を含むApL1遺伝子を単離し、14イントロン・15エクソンからなる遺伝子構造を解析した。(3)(1)で得た結果を基に、ApL1遺伝子に変異を導入し、自身のプロモーター下流に連結し、Arabidopsis TL46植物(ApL1タンパク質を欠損した変異体)を形質転換した。(4)(3)で得られた形質転換植物を解析し、アロステリック変異をもつApL1遺伝子を発現する形質転換植物の葉における同化デンプン量が、親株TL46の約5倍、野生株の1.2倍に増加することを示した。以上の結果より、植物AGPaseのアロステリック特性は、同化デンプン量に影響することが示唆された。植物のデンプン生合成における唯一の基質であるADPglucoseは、ADPglucose pyrophosphorylase(AGPase)によって合成される。AGPaseは、2つの大サブユニットと2つの小サブユニットからなるヘテロ4量体であり、3-phosphoglycerateおよびPiによりアロステリックに調節される。本研究では、AGPaseのアロステリック特性を改変することによるデンプンの量的変換を目指し、以下に示す成果を得た。(2)Arabidopsis genomeより、プロモーター領域を含むApL1遺伝子を単離し、14イントロン・15エクソンからなる遺伝子構造を解析した。(3)(1)で得た結果を基に、ApL1遺伝子に変異を導入し、自身のプロモーター下流に連結し、Arabidopsis TL46植物(ApL1タンパク質を欠損した変異体)を形質転換した。(4)(3)で得られた形質転換植物を解析し、アロステリック変異をもつApL1遺伝子を発現する形質転換植物の葉における同化デンプン量が、親株TL46の約5倍、野生株の1.2倍に増加することを示した。以上の結果より、植物AGPaseのアロステリック特性は、同化デンプン量に影響することが示唆された。植物のADPglucose pyrophosphorylase(AGPase)は2つの小サブユニット(SS)と2つの大サブユニット(LS)からなる4量体であり、3-phosphoglycerate(3-PGA)とPiにアロステリックに調節されている。小サブユニットが主として触媒活性を有し、大サブユニットがアロステリック調節を受けている。Arabidopsis TL46植物は、葉におけるAGPase LSを欠損している変異体であり、葉におけるAGPase活性および同化デンプン量がめざましく減少している。AGPaseによるデンプン生合成の量的変換を目指し、TL46植物の欠損しているAGPase LSに対応する遺伝子を健全植物から単離し、アロステリック変異体を作製し、さらに変異遺伝子をTL46植物に戻すことを計画した。すでにジャガイモのAGPaseLS遺伝子のランダム変異の結果得られた情報を基に、健全植物から単離したAGPase LS cDNAに部位特異的変異を導入し、大腸菌を用いた発現系を用いて導入変異の特性を評価した。さらに、Arabidopsis AGP SS cDNAと変異AGPase LS cDNAを有する組換え大腸菌よりAGPaseを精製し、酵素化学的性質を調べた。その結果、アロステリック感受性が変化したAGPase、すなわちPiによる阻害を受けにくく、3-PGAの濃度が低くても活性化される変異酵素の単離に成功した。次に、健全植物より14イントロン・15エクソンからなるADPase LS遺伝子をプロモーター領域を含むように単離した。この遺伝子に、先に得られたアロステリック変異を部位特異的変異法により導入した。作製した変異遺伝子をTL46植物に導入後、得られる形質転換植物の解析を計画している。植物ADPglucose pyrophosphorylase(AGPase)は、デンプン生合成においてグルコース供与体となるADPglucoseの合成を触媒する。AGPaseは大サブユニット(LS)と小サブユニット(SS)からなる4量体であり、LSはアロステリック調節を受け、SSは触媒活性を有している。Arabidopsis TL46植物は、葉におけるAGPase LSを欠損している変異体であり、野生株に比べ葉のAGPase活性および同化デンプン量がめざましく減少している。AGPaseによるデンプン生合成の量的変換を目指し、TL46植物の欠損しているAGPase LSに対応する遺伝子断片の単離、アロステリック変異AGPaseの作製、変異AGPaseのTL46植物での発現を計画した。昨年度までにアロステリック感受性の変化した3種の変異AGPaseを作製し、また健全植物よりプロモーター領域を含む14イントロン・15エクソンからなるAGPaseLS遺伝子断片を単離した。単離した遺伝子をそのまま、あるいは遺伝子にアロステリック変異を導入したのち自身のプロモーター下流に連結し、TL46植物を形質転換した。得られた形質転換植物の葉におけるAGPase活性およびデンプン蓄積量を経時的に解析した。
KAKENHI-PROJECT-11660068
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植物の生産性を向上させるためのデンプン生合成酵素の機能変換
その結果、アロステリック変異の導入により、同化デンプンの蓄積量はTL46変異株の4倍以上、野生株の約1.2倍に増加した。これらのことから、AGPaseのアロステリック調節は、植物のデンプン生合成量を左右しうることが示された。
KAKENHI-PROJECT-11660068
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ATP感受性カリウムチャネルの分子多様性の解析
ATP感受性カリウム(K_<ATP>)チャネルは、心筋、血管平滑筋、膵臓、中枢神経等多くの臓器にわたって存在する。しかし、ATPだけでなく、NDP、Mg_<2+>、ポリアミン、pH、PIP2、G蛋白質などの種々の細胞内因子によってチャネル活性は修飾され、その作用機序は臓器によってかなり異なることが報告されている。さらに、カリウムチャネル開口剤や糖尿病治療剤等のK_<ATP>チャネル阻害剤の作用機序までも臓器ごとに差異がある。K_<ATP>チャネルはカリウム透過機構を担うKir分子Kir6.1、Kir6.2と膜13回貫通領域を持つスルフォニルウレア剤受容体分子(SUR)SURl、SUR2A、2Bが複合体を形成することで、機能チャネルを作っている。Kir6.xとSURxの2種の異分子を培養細胞に発現させると機能的なK_<ATP>チャネルが再構成され、生体内のK_<ATP>チャネルと比較できる。SURlとKir6.2の組み合わせが膵臓β細胞のK_<ATP>チャネルと同様の特性を再現されるように、SUR2AとKir6.2、SUR2BとKir6.1からなるK_<ATP>チャネルの特性は、心筋、骨格筋と血管平滑筋に発現するK_<ATP>チャネルに各々相当するものであった。また、キメラ実験からKir6.xのコンダクタンスと自発的開口特性は、2つの細胞外領域間と細胞質内のN、C両末端側に存在する2つの領域によって決定されていることが判った。また、SUR2のC末端領域は、K_<ATP>チャネル開口剤の作用点近傍に存在するか、作用点の構造を維持するために必要であること、K_<ATP>チャネル開口剤のK_<ATP>チャネルに対する作用機序は、SUR上のK_<ATP>チャネル開口剤、ATPの作用点にKir分子が影響を与えることが明らかとなった。このようにK_<ATP>チャネルの薬理学的多様性は、このような異種分子の種々の組み合わせが一つの要因であることが判った。ATP感受性カリウム(K_<ATP>)チャネルは、心筋、血管平滑筋、膵臓、中枢神経等多くの臓器にわたって存在する。しかし、ATPだけでなく、NDP、Mg_<2+>、ポリアミン、pH、PIP2、G蛋白質などの種々の細胞内因子によってチャネル活性は修飾され、その作用機序は臓器によってかなり異なることが報告されている。さらに、カリウムチャネル開口剤や糖尿病治療剤等のK_<ATP>チャネル阻害剤の作用機序までも臓器ごとに差異がある。K_<ATP>チャネルはカリウム透過機構を担うKir分子Kir6.1、Kir6.2と膜13回貫通領域を持つスルフォニルウレア剤受容体分子(SUR)SURl、SUR2A、2Bが複合体を形成することで、機能チャネルを作っている。Kir6.xとSURxの2種の異分子を培養細胞に発現させると機能的なK_<ATP>チャネルが再構成され、生体内のK_<ATP>チャネルと比較できる。SURlとKir6.2の組み合わせが膵臓β細胞のK_<ATP>チャネルと同様の特性を再現されるように、SUR2AとKir6.2、SUR2BとKir6.1からなるK_<ATP>チャネルの特性は、心筋、骨格筋と血管平滑筋に発現するK_<ATP>チャネルに各々相当するものであった。また、キメラ実験からKir6.xのコンダクタンスと自発的開口特性は、2つの細胞外領域間と細胞質内のN、C両末端側に存在する2つの領域によって決定されていることが判った。また、SUR2のC末端領域は、K_<ATP>チャネル開口剤の作用点近傍に存在するか、作用点の構造を維持するために必要であること、K_<ATP>チャネル開口剤のK_<ATP>チャネルに対する作用機序は、SUR上のK_<ATP>チャネル開口剤、ATPの作用点にKir分子が影響を与えることが明らかとなった。このようにK_<ATP>チャネルの薬理学的多様性は、このような異種分子の種々の組み合わせが一つの要因であることが判った。ATP感受性カリウム(K_<ATP>)チャネルは種々の組織に発現しており、主に細胞内ATPによりその活性が制御されている。このK_<ATP>チャネルは、異なる2種の分子(SU剤受容体とカリウムチャネル分子)の複合体から形成されることが示された。これらの分子には現時点で2種の遺伝子とスプライシングアイソフォームが見い出されており、それらの組み合わせがK_<ATP>チャネルの薬理学的多様性を反映していると考えられている。K_<ATP>チャネルの開口薬ピナシジルは、血管平滑筋に発現するK_<ATP>チャネルを、他の組織に発現するK_<ATP>チャネルに比してより強く活性化し、強い血管拡張作用を示す。そこで我々は平滑筋タイプのK_<ATP>チャネル(Kir6.1/SUR2B)をHEK293細胞に共発現させ、その活性様式を電気生理学的に解析した。平滑筋タイプK_<ATP>チャネルの活性はベル型のATP用量依存曲線を示した。これは、このチャネルが低濃度のATPにより活性化され、高濃度のATPにより抑制されるためである。ピナシジルは用量依存的にこの活性化曲線を左にシフトさせ、ATPの抑制作用には効果を示さなかった。
KAKENHI-PROJECT-09670716
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ATP感受性カリウムチャネルの分子多様性の解析
つまり、ピナシジルはK_<ATP>チャネルの活性化曲線をより低濃度のATP側で上方に移動させる機序で、培養細胞中で再構成された平滑筋タイプK_<ATP>チャネルを活性化させることが分かった。このSU剤受容体とカリウムチャネル分子から構成されるK_<ATP>チャネルの活性化機構は他の分子の組み合わせでは観察されないため、2種の分子間相互作用は、各々の分子の組み合わせによって異なることが明らかとなった。ATP感受性カリウム(K_<ATP>)チャネルは、心筋、血管平滑筋、膵臓、中枢神経等多くの臓器にわたって存在する。しかし、ATPだけでなく、NDP、Mg_<2+>、ポリアミン、pH、PIP_2、G蛋白質などの種々の細胞内因子によってチャネル活性は修飾され、その作用機序は臓器によってかなり異なることが報告されている。さらに、カリウムチャネル開口剤や糖尿病治療剤等のK_<ATP>チャネル阻害剤の作用機序までも臓器ごとに差異がある。K_<ATP>チャネルはカリウム透過機構を担うKir分子Kir6.1、Kir6.2と膜13回貫通領域を持つスルフォニルウレア剤受容体分子(SUR)SURl、SUR2A、2Bが複合体を形成することで、機能チャネルを作っている。Kir6.xとSURxの2種の異分子を培養細胞に発現させると機能的なK_<ATP>チャネルが再構成され、生体内のK_<ATP>チャネルと比較できる。SUR1とKir6.2の組み合わせが膵臓β細胞のK_<ATP>チャネルと同様の特性を再現されるように、SUR2AとKir6.2、SUR2BとKir6.1からなるKATPチャネルの特性は、心筋、骨格筋と血管平滑筋に発現するK_<ATP>チャネルに各々相当するものであった。また、キメラ実験からKir6.xのコンダクタンスと自発的開口特性は、2つの細胞外領域間と細胞質内のN、C両末端側に存在する2つの領域によって決定されていることが判った。また、SUR2のC末端領域は、K_<ATP>チャネル開口剤の作用点近傍に存在するか、作用点の構造を維持するために必要であること、K_<ATP>チャネル開口剤のK_<ATP>チャネルに対する作用機序は、SUR上のK_<ATP>チャネル開口剤、ATPの作用点にKir分子が影響を与えることが明らかとなった。このようにK_<ATP>チャネルの薬理学的多様性は、このような異種分子の種々の組み合わせが一つの要因であることが判った。
KAKENHI-PROJECT-09670716
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孤立した前主系列星の観測
東京大学木曽観測所が実施した可視光域での「変光天体の銀河面探査」のデータベースを用いて、変光を示す天体を探査した。調査領域は、いっかくじゅう座の星形成領域NGC2264を含む一平方度である。その結果、これまでは一般的な恒星と思われ、何の特徴も見られない天体において、有意な光度変化を発見した。変光は周期的に変光するものもあれば不規則に変動するものもあった。このような天体は探査領域で約40個もある。これらの天体は比較的明るい。NGC2264に付随するのであれば、中質量で主系列に近いもしくは主系列に達した若い恒星である可能性がある。また、これらの天体は近赤外線に超過を示すことから、周囲に原始惑星系円盤またはデブリ円盤を伴うことが考えられる。従って、ポストTタウリ型星であるか、ハービックAe/Be型星、もしくはベガ型星である可能性が高い。今後は、西はりま天文台の「なゆた望遠鏡」の可視光分光器MALLSまたはWFGS2を用いて、これらの天体の可視光分光観測を行う。若い天体に特有のHα輝線や、リチウムの吸収線が存在することを確認する。そして、他の金属吸収線の強さなどから光球の温度と表面重力を求め、天体の質量と年齢を推定する。また、複数の吸収線の等価幅から、ベーリング量を算出することにより、周囲の円盤からの質量降着の状態を明らかにする。さらに吸収線の半値幅から光球の自転速度を求め、規則的な変光を示す天体についてはその変光が光球の自転によって生じたものかを議論する。孤立して誕生した恒星を探査する方法を応用して、今まで知られていた星形成領域を調査した。その結果、今まで若い天体であると認識されてこなかった天体が、変光を示すことが明らかになった。この結果は、研究を計画した当初には想定していなかったものであるが、新たな種類の若い天体を見つけたことになる。集団で生まれた星にもかかわらず今までの手法では見逃されていた天体を、同じ手法で発見できる可能性が開けた。そこで今後も、孤立して誕生する前主系列星の調査を継続するとともに、前主系列星候補天体の可視光分光観測を重点的に行いたい。東京大学の研究グループが整備した「銀河面付近に存在する変光星カタログ」を精査し、不規則に明るさが変動する天体をリストアップした。我々の今までの研究から「不規則変光星の中でも近赤外線に超過を示す天体はバルマーアルファー線の輝線を持ち、前主系列星である可能性が非常に高い」ということがわかっている。そこで、リストアップした天体の近赤外線での等級を2MASSカタログなどで調べ、一部の天域で前主系列星の可能性が非常に高い天体を同定した。西はりま天文台「なゆた望遠鏡」の可視光分光器MALLSの高分散分光モードの開発は、進捗が予定よりも少し遅れている。これは、高分散分光観測に精通している外部研究者から提案された、光学素子の新たな配置方法について検討したためである。この新たな方法を使えば光学素子を一つ少なくすることができるので、観測装置の効率が上昇することが見込まれる。一方で、既存の中低分散分光モードが使えなくなることがわかった。そこで、将来の他の観測装置の開発やアップグレードの見通しを整理した。その結果、引き続きMALLSが中低分散分光モードを維持することが望ましいとの結論に至った。このため、光学素子の元来の配置方法に戻り光学設計を行った。概念設計が終了し、計画通りにクロスディスパーザーを購入した。またクロスディスパーザーの保持マウントも購入した。CCD容器は熱パスの形状に工夫を施すことにより、「CCD素子マウント部でマイナス100度」という目標を達成することができた。外部研究者から、可視光分光器の高分散分光モードについて光学素子の新しい配置方法が提案された。その利点と欠点を精査するという、当初予期していないことが起きたために、進捗はやや遅れている状況である。しかしながら、概念設計が完成し光学素子などは予定通りに購入できたため、この遅れは研究期間の間に取り戻せるだろう。東京大学木曽観測所が実施した可視光域での「変光天体の銀河面探査」のデータベースを用いて、変光を示す天体を探査した。調査領域は、いっかくじゅう座の星形成領域NGC2264を含む一平方度である。その結果、これまでは一般的な恒星と思われ、何の特徴も見られない天体において、有意な光度変化を発見した。変光は周期的に変光するものもあれば不規則に変動するものもあった。このような天体は探査領域で約40個もある。これらの天体は比較的明るい。NGC2264に付随するのであれば、中質量で主系列に近いもしくは主系列に達した若い恒星である可能性がある。また、これらの天体は近赤外線に超過を示すことから、周囲に原始惑星系円盤またはデブリ円盤を伴うことが考えられる。従って、ポストTタウリ型星であるか、ハービックAe/Be型星、もしくはベガ型星である可能性が高い。今後は、西はりま天文台の「なゆた望遠鏡」の可視光分光器MALLSまたはWFGS2を用いて、これらの天体の可視光分光観測を行う。若い天体に特有のHα輝線や、リチウムの吸収線が存在することを確認する。
KAKENHI-PROJECT-17K05390
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孤立した前主系列星の観測
そして、他の金属吸収線の強さなどから光球の温度と表面重力を求め、天体の質量と年齢を推定する。また、複数の吸収線の等価幅から、ベーリング量を算出することにより、周囲の円盤からの質量降着の状態を明らかにする。さらに吸収線の半値幅から光球の自転速度を求め、規則的な変光を示す天体についてはその変光が光球の自転によって生じたものかを議論する。孤立して誕生した恒星を探査する方法を応用して、今まで知られていた星形成領域を調査した。その結果、今まで若い天体であると認識されてこなかった天体が、変光を示すことが明らかになった。この結果は、研究を計画した当初には想定していなかったものであるが、新たな種類の若い天体を見つけたことになる。前主系列星の探査は、可能性の高い候補天体から可視光分光観測を進め、バルマーアルファー線の輝線の有無を確認する。可視光分光器MALLSの高分散分光観測の開発については、光学素子保持部品やモーター駆動部などを含めた詳細設計を可能な限り迅速に行い、早期の完成を目指す。MALLSに取り付けるCCD検出器についても、国立天文台と共同で駆動・読み出し回路を製作し、1チップでの運用を早期に目指す。集団で生まれた星にもかかわらず今までの手法では見逃されていた天体を、同じ手法で発見できる可能性が開けた。そこで今後も、孤立して誕生する前主系列星の調査を継続するとともに、前主系列星候補天体の可視光分光観測を重点的に行いたい。光学保持部品の設計などを外部業者に委託することなく、機関内のスタッフで設計をすることができたため次年度使用額が生じた。次年度には設計した光学保持部品などを特注品として製作する予定である。消耗品や旅費の一部を他の外部資金から支出したため、次年度使用額が生じた。今年度に得られた研究結果を確認する追観測を行い、また、その成果を発表するため、次年度には複数回の海外主張を予定している。
KAKENHI-PROJECT-17K05390
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南斉・竟陵文宣王蕭子良撰『浄住子』の訳注作成を中心とする中国六朝仏教史の基礎研究
中国六朝仏教史において、南斉時代は、その存続期間の短さに反して、きわめて重要な時代である。それは東晋劉宋における仏教の本格的研究の導入開始と、南朝仏教の頂点としての梁代という二つの時代のはざまにあって、儀礼や教理解釈、仏教書の編纂等のさまざまな要素が相互に連関しながら形を整えはじめる時代であった。梁代における仏教文化の開花は、すでに南斉時代によって準備された部分が少なくない。ところが南斉仏教については未だ十分な研究がなされてこなかった。本研究では、このような南斉仏教の基礎研究として、南斉を代表する在家仏教徒である蕭子良によって編纂された『浄住子』を研究主題とし、それかかわる様々な事象を多角的に検討した。以下に研究をおこなった具体的な論点をあげる。『浄住子』は本来二十巻から成る大部の書であったが現存せず、その内容を一巻分に要約した唐の道宣『統略浄住子浄行法門』のみが『広弘明集』巻27に収められ、現在に伝えられている。敦煌写本は一点のみ関連文献が知られている。本研究では、いままで翻訳がなされなかった『統略浄住子浄行法門』について、その校訂テキスト、および、和訳と注釈を作成し、さらに、内容分析を加えた。校訂テキストを作成するにあたっては高麗版初雕本など大正大蔵経には含まれない重要版本も参照した上で校勘を行なった。内容分析については、第1章、『浄住子』の概略(細目:はじめに、浄住子序について、各門の名称をめぐって、南斉時代の佛書編纂について)、第2章、『釈門自鏡録』『法苑珠林』『慈悲道場懺法』との関係(細目:三書の概略、『法苑珠林』が先人の著作を転用する例、平行句一覧)、第3章、蕭子良本と道宣本の関係(細目:スタイン721Vについて、道宣による改編と加筆、蕭子良原本についての仮説)、第4章、蕭子良の所依経典、第5章、版本問題餘録、の5章にわけて詳細な分析を加えた。中国六朝仏教史において、南斉時代は、その存続期間の短さに反して、きわめて重要な時代である。それは東晋劉宋における仏教の本格的研究の導入開始と、南朝仏教の頂点としての梁代という二つの時代のはざまにあって、儀礼や教理解釈、仏教書の編纂等のさまざまな要素が相互に連関しながら形を整えはじめる時代であった。梁代における仏教文化の開花は、すでに南斉時代によって準備された部分が少なくない。ところが南斉仏教については未だ十分な研究がなされてこなかった。本研究では、このような南斉仏教の基礎研究として、南斉を代表する在家仏教徒である蕭子良によって編纂された『浄住子』を研究主題とし、それかかわる様々な事象を多角的に検討した。以下に研究をおこなった具体的な論点をあげる。『浄住子』は本来二十巻から成る大部の書であったが現存せず、その内容を一巻分に要約した唐の道宣『統略浄住子浄行法門』のみが『広弘明集』巻27に収められ、現在に伝えられている。敦煌写本は一点のみ関連文献が知られている。本研究では、いままで翻訳がなされなかった『統略浄住子浄行法門』について、その校訂テキスト、および、和訳と注釈を作成し、さらに、内容分析を加えた。校訂テキストを作成するにあたっては高麗版初雕本など大正大蔵経には含まれない重要版本も参照した上で校勘を行なった。内容分析については、第1章、『浄住子』の概略(細目:はじめに、浄住子序について、各門の名称をめぐって、南斉時代の佛書編纂について)、第2章、『釈門自鏡録』『法苑珠林』『慈悲道場懺法』との関係(細目:三書の概略、『法苑珠林』が先人の著作を転用する例、平行句一覧)、第3章、蕭子良本と道宣本の関係(細目:スタイン721Vについて、道宣による改編と加筆、蕭子良原本についての仮説)、第4章、蕭子良の所依経典、第5章、版本問題餘録、の5章にわけて詳細な分析を加えた。本研究は,階唐以前の中国仏教史の実態を知る上で不可欠な『浄住子』全31章の平易な日本語訳と詳細な注釈を作成することを中心課題とする,文献学的基礎研究である。対象となるテキストは南斉時代を代表する篤信の皇族,蕭子良(460-494年)によって編集され,唐の道宣撰『広弘明集』に収録されている。三年間を研究期間とする研究の初年度として,本年は,最も基礎的な作業として,まず最初に,原文の電子化をほぼ全体にわたって成し遂げた(ただし異読の入力問題と入力結果の校正は今後の課題である)。次に,関連諸資料を蒐集整理し電子化することと,そのための基礎的入力編集作業とに,多くの労力と時間を割いた。
KAKENHI-PROJECT-15520049
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南斉・竟陵文宣王蕭子良撰『浄住子』の訳注作成を中心とする中国六朝仏教史の基礎研究
具体的に言えば,『浄住子』三十章のうち,約三分の一弱の分量に関して,現代日本語訳と関連注釈を作成することと,入力整理の原則と方法論を策定することを当初の目標としていたが,作業を実際に様々に進めてみた結果,訳注の中に引く関連諸文献の性格を,当該文言の直接的な典拠・類例・当該文言を引用する後代の他文献など幾つかに分類して表示すべきであるという結論に達した。この上に立って,本文のほぼ全体にわたり直接的な典拠の推定を行ない,さらに類例と当該文書を引用する後代の他文献の整理に関しても,全体の半分を超える分量についてこれを実行した。そしてこれらの作業の上にいくつかの章の和訳を作成した。本研究は,採択が秋になってから決定されたことに伴い,研究遂行手順に最小限の修正を加える必要は生じたものの,おおむね予定通りに近い作業を初年度として遂行し得,目下それらを整理中である。次年度には他の関連諸文献の分析を継続調査することによって,訳注のうち,注釈部分を完成に近づけることと,そして残りの部分について日本語訳を作成入力することを実行したい。三年計画の二年目となる本年度は、初年度の成果を承けて『統略浄住子浄行法門』全三十一章のうち、約三分の一に相当する分量に関して、現代日本語訳と関連注釈の作成を行なった。これとあわせて、既に前年度において作業を行なった箇所についての再検討も行ない、さらに、来年度に行なうべき作業の準備となる基礎的チェックも一部始めることができた。以上の作業を遂行するために必要な資料の蒐集ならびに整理のために消耗品図書・コンピュータ関連諸費用・旅費およびデータ入力費等を使用し、また研究論文の作成にあたり英文論文校閲の謝金を使用した。今年度にまとめ得た研究成果を記すと、訳注作業とは別に、五世紀末の在家仏教徒の活動を歴史的に概観する研究として、「聖者観の二系統-六朝隋唐仏教史鳥瞰の一試論」を執筆し、現在校正を行なっている。また五世紀における仏教の戒律受容史の総合的研究として、"The Acceptance of Buddhist Precepts by the Chinese in the Fifth Century"を公表した。このほか、昨年一〇月にはカナダ・バンクーバーのブリティッシュコロンビア大学において開催された研究集会「アジアの仏教聖地」に参加して、「Gunavarman and Some of the Earliest Examples of Oridination platforms (jietan) in China"(求那跋摩と中国における戒壇の最初期の諸例)と題する発表を行ない、五世紀仏教史とりわけ戒律史に新たな視点を与えた。また「真諦三蔵の著作の特徴-中印文化交渉の例として」という研究もまとめ、これによって五六世紀の南朝仏教思想史の新展開について考察を行なった。また仏教の実践形態として、戒律の遵守と共に最も重要な項目である瞑想についても考察を行ない、その観点から「瞑想の実践における分別知の意義」と題する論考をまとめた。中国六朝仏教史において、南斉時代は、その存続期間の短さに反して、きわめて重要な時代である。それは東晋-劉宋における仏教の本格的研究の導入開始と、南朝仏教の頂点としての梁代という二つの時代のはざまにあって、儀礼や教理解釈、仏教書の編纂等のさまざまな要素が相互に連関しながら形を整えはじめる時代であった。梁代における仏教文化の開花は、すでに南斉時代によって準備された部分が少なくない。ところが南斉仏教については未だ十分な研究がなされてこなかった。本研究では、このような南斉仏教の基礎研究として、南斉を代表する在家仏教徒である蕭子良によって編纂された『浄住子』を研究主題とし、それかかわる様々な事象を多角的に検討した。以下に研究をおこなった具体的な論点をあげる。『浄住子』は本来二十巻から成る大部の書であったが現存せず、その内容を一巻分に要約した唐の道宣『統略浄住子浄行法門』のみが『広弘明集』巻27に収められ、現在に伝えられている。敦煌写本は一点のみ関連文献が知られている。本研究では、いままで翻訳がなされなかった『統略浄住子浄行法門』について、その校訂テキスト、および、和訳と注釈を作成し、さらに、内容分析を加えた。校訂テキストを作成するにあたっては高麗版初雕本など大正大蔵経には含まれない重要版本も参照した上で校勘を行なった。
KAKENHI-PROJECT-15520049
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15520049
宿主感染に関与する寄生線虫の非コードRNAマシナリーの機能解明
非コードRNAマシナリーは、植物、動物を問わず、細胞の分化とその維持に深く関与している。宿主寄生体相互作用においても、非コードRNAマシナリーが深く関与していると考えられる。植物に寄生するネコブセンチュウは多くの農作物に壊滅的な被害を与えることが知られている。ネコブセンチュウは根に寄生する際、宿主の細胞を分化させるが、その仕組みを明らかにする必要がある。本研究では、i)ネコブセンチュウ感染と宿主細胞変化におけるRNAi機構の役割を明らかにする。ii)ネコブセンチュウ分泌物に含まれるmicroRNAの機能を解明する、ことを目的とした。ネコブセンチュウの動きに影響を与えない処理方法でDicerと他のRNAi機構主要構成要素のRNA量を減らし、そのネコブセンチュウの植物への感染状況を観察することで、それらが感染サイトの形成に必要かどうか検証しようとした。その結果、感染状況の変化は見られなかった。そこで別のアプローチとしてネコブセンチュウ分泌物中のsmallRNAの存在を調べた結果、ネコブセンチュウの分泌物の中に小分子RNAが含まれていること、さらにネコブセンチュウの分泌物中に特定の長さのRNA成分が存在することも明らかにした。また、ネコブセンチュウの分泌物に含まれているmiRNAの植物標的遺伝子を予測するため、当研究室では単細胞アッセイ系を新規に開発した。この新規単細胞アッセイ系を用いてネコブセンチュウ分泌物が植物細胞の核分裂を促進することを世界で初めて実証することに成功した。さらに小分子RNAや他のRNA成分が含まれた分泌物はRNA分解酵素の処理によってネコブセンチュウ分泌物の核分裂誘導活性が消失することを明らかにした。植物に寄生するネコブ線虫は多くの農作物に壊滅的な被害を与えることが知られている。ネコブ線虫は根に寄生する際、宿主の細胞を分化させるが、その仕組みを明らかにする必要がある。非コードRNAマシナリーは、植物、動物を問わず、細胞の分化とその維持に深く関与している。本課題では、ネコブ線虫の寄生と宿主細胞変化における非コードRNAマシナリーの役割を明らかにする。ネコブ線虫M.hapla VW9種を使用し、RNAi機構の主要構成要素をコードしている遺伝子、Dicerが初めてクローンニングされ配列決定された。このことによって、ネコブ線虫におけるRNAi機構の活性を操作するターゲットが提示された。RKN幼虫内のターゲット遺伝子の発現解析のための、新たなRNA抽出法の確立に成功したため、定量リアルタイムPCR解析法により、ネコブ線虫の遺伝子発現を正確に測定することが可能となった。予備実験では、DicerのRNA量を減らす事に成功したが、線虫の動きにも影響がでたため、処理方法が厳格であった事が明らかになった。したがって、現在、線虫の動きに影響を与えない処理方法を使用している。新規に発見されたmiRNAの寄生感染中における生物学的役割を解明するため、マイクロインジェクション法を用いて発見されたmiRNAを植物細胞に注入すう予定である。本年度は、マイクロインジェクションによって植物の培養細胞への新たな注入方法を立ち上げた。従来のマイクロインジェクション実験では植物培養は数時間程度しか続かないが、我々の培養方法を用いることで、マイクロインジェクション後、数日間継続して培養し続けることが可能になった。また、ネコブ線虫幼虫の純培養液からの分泌物を抽出するための新たなアプローチが確立された。これらの分泌物は、植物細胞の分化を誘導する活性を持つと考えられており、本研究においてこれらの分泌物の注入による植物細胞の変更が確認された。この成功により、次年度からmiRNAの役割を解明できるようになった。非コードRNAマシナリーは、植物、動物を問わず、細胞の分化とその維持に深く関与している。宿主寄生体相互作用においても、非コードRNAマシナリーが深く関与していると考えられる。植物に寄生するネコブセンチュウは多くの農作物に壊滅的な被害を与えることが知られている。ネコブセンチュウは根に寄生する際、宿主の細胞を分化させるが、その仕組みを明らかにする必要がある。本研究では、i)ネコブセンチュウ感染と宿主細胞変化におけるRNAi機構の役割を明らかにする。ii)ネコブセンチュウ分泌物に含まれるmicroRNAの機能を解明する、ことを目的とした。ネコブセンチュウの動きに影響を与えない処理方法でDicerと他のRNAi機構主要構成要素のRNA量を減らし、そのネコブセンチュウの植物への感染状況を観察することで、それらが感染サイトの形成に必要かどうか検証しようとした。その結果、感染状況の変化は見られなかった。そこで別のアプローチとしてネコブセンチュウ分泌物中のsmallRNAの存在を調べた結果、ネコブセンチュウの分泌物の中に小分子RNAが含まれていること、さらにネコブセンチュウの分泌物中に特定の長さのRNA成分が存在することも明らかにした。また、ネコブセンチュウの分泌物に含まれているmiRNAの植物標的遺伝子を予測するため、当研究室では単細胞アッセイ系を新規に開発した。この新規単細胞アッセイ系を用いてネコブセンチュウ分泌物が植物細胞の核分裂を促進することを世界で初めて実証することに成功した。さらに小分子RNAや他のRNA成分が含まれた分泌物はRNA分解酵素の処理によってネコブセンチュウ分泌物の核分裂誘導活性が消失することを明らかにした。
KAKENHI-PUBLICLY-22115501
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歯周病の病因解明に関する研究ー特に白血球の役割についてー
本年度は本研究の最終年度にあたるため、2年間にわたる基礎的および臨床的研究を基に、歯周病における白血球、特に好中球の役割に関して更に詳細な検討を行った。すなわち、これまでの研究で、1)ラットの上顎右側第1臼歯と第2臼歯の歯間部(実験側)にナイロン糸を3週間挿入することにより歯周組織に軽度の炎症性病変を惹起させることが可能であること。2)それらの動物に全身的に抗腫瘍剤の一種であるメソトレキセ-トを投与することにより好中球の減少状態を引き起こし得ること、3)それらの動物を7週間にわたり観察すること、歯槽骨の高度な吸収を伴う著しい歯周組織破壊が生じることが明らかになった。そこで今回は、このような好中球の減少状態をある種の薬剤を投与することにより回復させた場合、歯周組織破壊が抑制されるか否かを確認することにした。薬剤としては、サイトカインの一種で好中球の機能を高めることが確認されているGーCSF(GramulocyーColony Seimulating Factor)を用いた。GーCSFは、好中球減少症や腫瘍患者の治療に一部応用されていることが報告されている。今回の実験ではラットにGーCSFを投与して、メソトレキセ-ト投与ラットにおいても好中球の数の上昇が認められるか否かを確認した。その結果、GーCSF投与3日および5日後に好中球の数の上昇が認められた。しかし、組織学的所見では歯周組織破壊の抑制は観察されなかった。このことは、歯周病の進行における局所的因子である炎症と全身的因子の1つである好中球機能との関係がきわめて複雑であることを示唆しているものであり、今後さらに詳細に両者の関係を追求して行くことの必要性が示唆された。本年度は、ラットの歯周組織にナイロン糸を挿入することによって、歯周組織に軽度の歯周病変を惹起させた後、動物に全身的にメソトレキセートを投与することによって実験的な白血球の減少状態を引き起こし、その動物の歯周組織の病理組織学的変化と白血球の変化、特に好中球の数と走化性の変化を検索した。生食水を投与した対照群では、全ての実験期間において、歯肉上皮に潰瘍はみられず、歯肉結合組織には軽度の炎症性細胞浸潤が観察された。歯槽骨には骨吸収はみられず、歯根膜にも炎症性細胞浸潤は認められなかった。メソトレキセートを全身的に投与した実験群では、歯肉上皮に潰瘍はみられず、歯肉結合組織では7日目に中等度の炎症性細胞浸潤が観察された。歯槽骨では5日目、7日目と9日目に破骨細胞性の骨吸収像がみられた。歯根膜では5日目、7日目と9日目に炎症性細胞浸潤が観察された。対照群の動物では、全ての実験期間において、総白血球数、好中球数ともに変化はみられなかった。実験群の動物では、対照群に比較して、総白血球数は7日目まで低下し、また、好中球数は7日目まで低下し、また、好中球数は5日目と7日目に著しく低下していた。また、実験群の動物では、対照群の動物に比較して、好中球数に危険率1%で有意に走化性の低下が認められた。以上、本年度の研究結果より、動物の歯周組織に惹起された軽度の炎症性病変は、メソトレキセートの全身的な投与によって、歯槽骨の吸収を伴う高度の炎症性病変にまで進展することが判明した。また、この変化には、好中球の数の減少ばかりでなく、その走化性の低下も強く関与していることが示唆された。本年度は本研究の最終年度にあたるため、2年間にわたる基礎的および臨床的研究を基に、歯周病における白血球、特に好中球の役割に関して更に詳細な検討を行った。すなわち、これまでの研究で、1)ラットの上顎右側第1臼歯と第2臼歯の歯間部(実験側)にナイロン糸を3週間挿入することにより歯周組織に軽度の炎症性病変を惹起させることが可能であること。2)それらの動物に全身的に抗腫瘍剤の一種であるメソトレキセ-トを投与することにより好中球の減少状態を引き起こし得ること、3)それらの動物を7週間にわたり観察すること、歯槽骨の高度な吸収を伴う著しい歯周組織破壊が生じることが明らかになった。そこで今回は、このような好中球の減少状態をある種の薬剤を投与することにより回復させた場合、歯周組織破壊が抑制されるか否かを確認することにした。薬剤としては、サイトカインの一種で好中球の機能を高めることが確認されているGーCSF(GramulocyーColony Seimulating Factor)を用いた。GーCSFは、好中球減少症や腫瘍患者の治療に一部応用されていることが報告されている。今回の実験ではラットにGーCSFを投与して、メソトレキセ-ト投与ラットにおいても好中球の数の上昇が認められるか否かを確認した。その結果、GーCSF投与3日および5日後に好中球の数の上昇が認められた。しかし、組織学的所見では歯周組織破壊の抑制は観察されなかった。このことは、歯周病の進行における局所的因子である炎症と全身的因子の1つである好中球機能との関係がきわめて複雑であることを示唆しているものであり、今後さらに詳細に両者の関係を追求して行くことの必要性が示唆された。
KAKENHI-PROJECT-63870115
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歯周病の病因解明に関する研究ー特に白血球の役割についてー
本年度はラットに長期にわたる好中球減少状態を惹起した場合の歯周組織の変化を組織学的に検索した。実験動物には、生後4週令の体重約100gのウイスタ-系雄性ラット40匹を用い、A群とB群の2群に分けた。動物の歯周組織に軽度の異症状変化を惹起させる目的で、上顎右側第一臼歯と第2臼歯の歯間部に歯肉に損傷を与えないように縫合用ナイロン糸を挿入して実験例とした。B群の動物にはナイロン糸挿入後3周目から生食水に溶解したメソトレキセ-ト(1.0mg/kg)を腹腔内注射で、週3回、屠殺時まで連続的に投与した。A群には何も投与せず対照群とした。実験群、対照群ともに1、3、5、7、9週後に、エ-テル麻酔下で各群4匹を用いて採血処置後屠殺し病理学的検索を行った。結果:1)血液所見、メソトレキセ-トを投与したB群の動物では、総白血球数、好中球数ともに3週およびそれ以後で有意に低下していた。2)組織学的所見、メソトレキセ-トを投与した実験群の実験例において歯肉結合組織に軽度の炎症性細胞浸潤が観察され、経時的に増加していた。歯根膜にも5週で軽度の炎症性細胞浸潤がみられた。また、歯槽骨には5週で少数の破骨細胞による骨吸収が観察され、7、9週で著名な骨吸収が行っていた。メソトレキセ-トを投与した実験群の動物でもリガチャ-を挿入していない対照例では、歯肉上皮、歯肉結合組織、歯根膜、歯槽骨には特に変化はみられなかった。又、メソトレキセ-トを投与しない対照群の動物のリガチャ-を挿入した実験例では炎症性変化が生じていたが、メソトレキセ-ト投与群の実験例に比較すると骨吸収の程度が有意に少なかった。以上のことより、歯周病の炎症性病変の進行に白血球、特に好中球が大きな役割を果たしていることが明らかとなった。本年度は本研究の最終年度にあたるため、2年間にわたる基礎的および臨床的研究を基に、歯周病における白血球,特に好中球の役割に関して更に詳細な検討を行った。すなわち,これまでの研究で,1)ラットの上顎右側第1臼歯と第2臼歯間部(実験側)にナイロン系を3週間挿入することにより歯周組織に軽度の炎症性病変を惹起させることが可能であること,2)それらの動物に全身的に抗腫瘍剤の一種であるメソトレキセ-トを投与することにより好中球の減少状態を引き起こし得ることと、3)それらの動物を7週間にわたり観察すると、歯槽骨の高度な吸収を伴う著しい歯周組織破壊が生じることが明らかになった。そこで今回は、このような好中球の減少状態をある種の薬剤を投与することにより回復させた場合、歯周組織破壊が抑制されるか否かを確認することにした。薬剤としては、サイトカインの一種で好中球の機能を高めることが確認されているGーCSF(GranulocytoーColony Stimulating Factor)を用いた。GーCSFは、好中球減少症や腫瘍患者の治療に一部応用されていることが報告されている。今回の実験ではラットにGーCSFを投与して、メソトレキセ-ト投与ラットにおいても好中球の数の上昇が認められるか否かを確認した。その結果、GーCSF投与3日および5日後に好中球の数の上昇が認められた。しかし、組織学的所見では歯周組織破壊の抑制は観察されなかった。このことは、歯周病の進行における局所的因子である炎症と全身的因子の1つである好中球機能との関係がきわめて複雑であることを示唆しているものであり、今後さらに詳細に両者の関係を追求して行くことの必要性が示唆された。
KAKENHI-PROJECT-63870115
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アルデヒドの可視化技術を利用した水産物の品質評価法の開発
水産物の品質は様々な指標によって評価されているが、水産物は酸化し易い高度不飽和脂肪酸を多く含むことから、この酸化物に由来する物質を指標とすれば、正確な評価が期待できる。本研究は脂質酸化物の一つであるアルデヒド類に注目し、蛍光一高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析する方法を開発する。また、品質指標は可視化されると汎用性が高いため、このHPLCでの技術を応用し目視で判断できる簡易的な方法を開発する。水産物の品質は様々な指標によって評価されているが、水産物は酸化し易い高度不飽和脂肪酸を多く含むことから、この酸化物に由来する物質を指標とすれば、正確な評価が期待できる。本研究は脂質酸化物の一つであるアルデヒド類に注目し、蛍光一高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析する方法を開発する。また、品質指標は可視化されると汎用性が高いため、このHPLCでの技術を応用し目視で判断できる簡易的な方法を開発する。水産物の品質を評価するにあたり、アルデヒドを指標とした評価が有効である。アルデヒドの分析には様々な方法が用いられているが、本研究では蛍光標識によるアルデヒドの分析を試みた。なお、着目するアルデヒドとして水産物に多く含まれるn-3系脂肪酸の酸化によって生じる4-hydroxy-2-hexenal(HHE)に注目し、既報のdansylhydrazineなど4種の蛍光試薬を検討した結果、1,3-cyclohexane-dione(CHD)による蛍光標識による分析が最適であった。次に、蛍光標識化されたCHD-アルデヒドをHPLCによって分離する方法を検討した結果、汎用のODSカラムを利用した逆相HPLCにより分離が可能となり、HHEをはじめとして、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロパナールなど主要なアルデヒドの分離分析が可能となった。このHPLCの条件を参考にし、アルデヒドの可視化ならびに簡易的な分析方法を検討した結果、薄層クロマトグラフィー(TLC)の利用が有効であった。TLC法は、安価、同時に多検体の分析が可能であり、目視での判定が可能である。はじめに、TLCの固定相を検討した結果、HPLCでは逆相クロマトでの分離が最適であったが、TLC法では順相シリカゲルによる分離が最適であり、分析コストも安価となった。また、可視化の観点から、CHD-アルデヒドの励起ならびに蛍光波長はそれぞれ、385nm、450nmであることから、汎用的なUV照射ランプ(励起波長350nm)の照射によって、450nmの蛍光が確認され、無色であるアルデヒド類が蛍光標識により可視化された。本法を利用し、市販7魚種の可食部(筋肉)中のアルデヒドを分析した結果、n-3系脂肪酸を多く含むサンマ、イワシ、サバにHHEが多く検出され、目視によって確認された。また、タラには筋肉その他の組織自身にホルムアルデヒドが存在することが知られているが、本法での分析により、他魚種と比較し多くのホルムアルデヒドが含まれることが目視で確認された。以上、本法の利用により、アルデヒドの可視化が可能となり、品質評価への指標となり得ることが示唆された。本年度は、生存中の脂質酸化が製品の品質に影響をおよぼすことに着目し、生魚の脂質酸化によって生じるアルデヒドについて以下の検討を行った。1.人為的に酸化ストレスを与えたコイのアルデヒドの増加コイに四塩化炭素を腹腔内に注射することにより人為的にストレスを与えた。四塩化炭素の投与によって、肝臓の脂質含量の増加、過酸化物価の上昇、我々がストレス指標として使用している脂質酸化物由来のヒドロキシ脂質の増加がそれぞれ確認された。この結果は、既報と同様な結果を示した。そして、今回着目しているアルデヒドの一つであるn-3系不飽和脂肪酸より生じる4-hydroxy-2-hexenal(HHE)も有意に増加したことから、新たな指標となり得ることが示唆された。また、同時に分析可能な他のアルデヒドについて検討したところストレスによるHHEの増加はプロパナールとの相関性が高かった。2.養殖現場にて発生する病魚のアルデヒドの増加養殖現場で発生した病魚をサンプリングし、人為的酸化ストレスモデルと同様にアルデヒドの分析を行い、病気の種類、魚種との関連性について検討した。今回分析した魚種ならびに病気の種類は、トラフグ(ピセリオ、トリコディナの寄生虫に感染)、ヒラメ(連鎖球菌に感染)、ブリ(黄疽菌に感染)、カンパチ(類結節症原因菌に感染)について分析を行った。この結果、魚種ならびに病気の種類に関係なく、四塩化炭素の投与と同様に病気魚の肝臓中のHHEならびにプロパナールが増加したことから、これらの指標はストレスに反映することが示唆された。3,アルデヒドの生成による他の成分への影響アルデヒドの生成は、臭いなどの品質劣化を引き起こすだけではなく、他の生体内構成成分にも影響をおよぼす。そこで、その影響について考察する必要があるため、上記1.2の実験について、アルデヒド以外の他の成分を検討した結果、タンパク加水分解由来のアミノ酸の減少が確認された。水産物の品質を評価するにあたり、アルデヒドを指標とした評価が有効である。アルデヒドの分析には様々な方法が用いられているが、本研究では蛍光標識によるアルデヒドの分析を試みた。なお、アルデヒドは水産物に多く含まれるn-3系脂肪酸の酸化によって生じる4-hydroxy-2-hexenal(HHE)に注目し、蛍光標識を行いHPLCによって分析する方法を開発した。さらにHPLCの分析条件を参考にし、薄層クロマトグラフィー(TLC)によるアルデヒドの可視化ならびに簡易的な分析方法を開発した。
KAKENHI-PROJECT-22580229
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アルデヒドの可視化技術を利用した水産物の品質評価法の開発
TLC法では順相シリカゲルによる分離が最適であり、CHD-アルデヒドの励起ならびに蛍光波長はそれぞれ、385 nm、450nmであることから、汎用的なUV照射ランプ(励起波長350 nm)の照射によって、450nmの蛍光が確認され、無色であるアルデヒド類を蛍光標識により検出することが可能となった。本法を利用し市販7魚種の可食部(筋肉)中のアルデヒドを分析した結果、n-3系脂肪酸を多く含むサンマ、イワシ、サバにHHEが多く検出された。次に、コイに四塩化炭素を腹腔内に注射することにより人為的にストレスを与えた結果、ストレス指標として使用している脂質酸化物由来のヒドロキシ脂質の増加とともにHHEも有意に増加した。また、養殖現場で発生した病魚において、アルデヒドと病気の種類、魚種との関連性について検討した。なお、魚種ならびに病気の種類は、トラフグ(ピセリオ、トリコディナの寄生虫に感染)、ヒラメ(連鎖球菌に感染)、ブリ(黄疸菌に感染)、カンパチ(類結節症原因菌に感染)について分析を行った。この結果、魚種ならびに病気の種類に関係なくHHEが増加したことから、HHEは生魚のストレスを評価できることが示唆された。本方法で開発された手法により、簡便に生魚のストレスを評価できることが明かとなった。水産食品の品質劣化ならびに生魚の健康状態について4-hydroxy-2-hexena1(HHE)を指標として分析を行ったところ、それぞれの評価が可能となり、これに関する論文ならびに著書を公表したため。24年度が最終年度であるため、記入しない。水産加工品の中でも脂質酸化の影響を受けやすい乾物(干物)に着目しHHEを利用した品質評価を行う。なお、干物には、魚種、乾燥方法、乾燥時間、調味液の有無などが考えられるが、魚種を限定し、乾燥時間と調味液の有無について検討を行う。また、調味液の有無については、HHEの存在によって調味液中のエキス成分(アミノ酸等)との反応にともない、色、匂い、味など品質に直接影響を与えている。従って、HHEの分析に限定せず、エキス成分に含まれるアミノ酸、核酸関連物質、有機酸などの成分も同時に測定し、前述の褐変反応の指標である赤色色素の測定を行い、色、匂い、味などの官能評価によって総合的に品質評価を行う。24年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-22580229
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パーキンソン病のうつへの認知行動療法、及び家族を含めた支援プログラムの開発
平成30年度においては、研究実施施設における人事が大幅に変更し、実施環境の再整備を行うことを要した。結果的に、研究の進行が遅延することになった。対策として、該当施設内に新設された心のケア病棟を実施場所として追加した。該当年度においては、これまでに開発したパーキンソン病の認知行動療法プログラムを基盤として、神経内科で加療中の患者59人に認知行動療法を実施した。認知行動療法の周知、実施体制を行なった。今後もリクルート、患者、介護者を対象に啓蒙活動を行う予定である。平成27年度においては、2名の心理療法士をパーキンソン病、および認知行動療法の知識を習得させ、家族を含めた包括的な認知行動療法の実施体制を整えた。また、介護者向け認知行動療法プログラムの草案を作成し、平成28年度にパイロット研究を実施に向けた準備を整えた。また8セッション版の認知行動療法プログラムを作成し、2症例に対して試行し概ね良好な結果であった。認知行動療法実施者、および、評価者の訓練を継続し、実施体制を整えている。今年度は、パーキンソン病を持つ介護者向けの認知行動療法セミナーを7回実施し、当事者、当事者家族から心理社会的ニーズを聴取した。その上で、臨床心理学、教育学に精通した研究者の協力を得て、介護者の負担感軽減、家族の関係性のバランスなどを主眼に置いた当事者、介護家族を対象とした認知行動療法プログラム2セッション版を開発した。本プログラムは、8回版の患者向け認知行動療法プログラムに対応すべく、感情教育、指示的関わりと支持的関わりのバランス、パーキンソン病に付随する心理社会的葛藤のモデル提示などを盛り込んだ。本プログラムの実施可能性、効果を評価するためのパイロットスタディの企画を開始し、倫理審査に向けた準備を行った。また、パーキンソン病を理解した認知行動療法実施者、評価者の育成においては、週一度の症例検討会においてその教育を行なってきた。さらに、パーキンソン病の症状評価においては、神経内科専門医と連携したMDS-UPDRS評価チームを構築した。リクルートルートの整備、実施態勢の整備に時間を要したため、家族を含めた認知行動療法プログラムの臨床試験には至っていない。平成29年度においては、2回版の介護者プログラムのワークブックを作成した。90分間で介護者、およびパーキンソン病患者が日常のコミュニケーションパターンを俯瞰し、その内容を再検討できる内容とした。具体的には、1回目のセッションでは、ネガティブな感情の役割について学び、日常生活で自覚しているネガティブ感情を同定する。2回目までの宿題として、ネガティブな感情が沸き起こった場面と、その時に用いたコミュニケーションの方法を書き出してもらう。2回目のセッションでは、宿題を元に、コミュニケーションのロールプレーを行い、普段とは違うコミュニケーションパターンを検討してもらう。本プログラムを用いて、4組のパーキンソン病患者とその家族に対して予備試行を行った。普段は習慣化していて意識されないコミュニケーションが自覚されたり、他の家族が自分の家族と同様の葛藤を持っていることに安心したなど、概ねポジティブなフィードバックを参加者から得た。研究全体としては、リクルートが円滑に進まず、症例数の集積に時間を要している。家族間で生じるコミュニケーション、それによって強まるストレスは多くの患者、家族が実感していると思われるが、心理社会的な取り組みについてはさらなる啓蒙活動が必要である。平成30年度においては、研究実施施設における人事が大幅に変更し、実施環境の再整備を行うことを要した。結果的に、研究の進行が遅延することになった。対策として、該当施設内に新設された心のケア病棟を実施場所として追加した。該当年度においては、これまでに開発したパーキンソン病の認知行動療法プログラムを基盤として、神経内科で加療中の患者59人に認知行動療法を実施した。認知行動療法の周知、実施体制を行なった。今後もリクルート、患者、介護者を対象に啓蒙活動を行う予定である。平成28年度においては、パーキンソン病介護者向けプログラム、および認知行動療法と介護者プログラムの併用の実施可能性を検証するパイロット研究を企画し、国立精神・神経医療研究センターにおける倫理審査を完了する予定である。その後は、これまでに訓練したスタッフにより、パイロットスタディを開始する。家族プログラムのパイロット研究を開始するべく、倫理審査、および家族用マテリアル、実施者用マテリアルを整備する。本年度中に、倫理審査を経て、パーキンソン病患者の介護者20名を対象としたパイロット研究を実施し、当事者、介護者を含めた治療パッケージを確定させる。リクルートを継続し、症例数を集積する。27年度末から雇用しているコーディネータを継続雇用するために、人件費を確保する必要がある。パーキンソン病の介護者プログラムに関する情報が少なく、文献を網羅するのに時間を要した。結果的に、実際の介入研究が開始できておらず、プログラム開発にのみ研究費を使用したことが理由としてあげられる。研究コーディネーターの財源変更があり、元々の支出計画と差が生じた。上記研究コーディネータの人件費、8日×1ヶ月に使用する予定である。研究コーディネーター、プログラム実施者、資料整理等を行う人件費に消費する予定である。
KAKENHI-PROJECT-15K13155
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K13155
ナノダイヤモンド配列センサを用いた高感度光熱顕微分光リアルタイムイメージング
本研究は、微小空間における熱分布をリアルタイムで可視化する光熱顕微イメージング法の実現を目指すものである。ダイヤモンド窒素欠陥中心が示す電子スピン信号変化からナノ環境の温度計測が可能である。本研究ではNV中心を用いて高感度に温度計測(すなわちスピン計測)を行う技術を開発した。開発したパルススピン計測技術を用いて、ダイヤモンドナノ粒子に含まれるNV中心の電子スピン特性を評価し、表面処理によってその向上を目指した研究を行った。また、ナノ結晶をガラス基板上に高密度配列する事に挑戦し、数10マイクロメートルスケールでの配列パターンを実現した。本年度は、電子スピン共鳴検出が可能なワイドフィールド顕微鏡系の構築を中心に研究を行った。既存の顕微鏡はスキャニング型の共焦点顕微鏡系であったため、高感度CCDカメラを用いてワイドフィールドイメージングが可能なように系を変更した。装置構築の上で必要な制御用パソコンとプログラミングソフトを導入した。ガラス基板上で電子スピンを励起できるように、半導体リソグラフィ技術を用いて、厚さ100nm、幅20マイクロメートルのAu/Crマイクロ波ストリップラインを形成した。これを用いた電子スピン操作に関しては、ストリップラインと外部導線の接着が弱く、接着手法を改善中である。しかしながら、この事による研究の遅延を防ぐために、銅細線を用いた簡易手法を現在は採用している。この手法でも、電子スピン操作の実験そのものへの影響はない。ただ、試料準備を考えると、ストリップラインへの移行が望ましいので、来年度に完全移行を行う。電子スピン操作のためのマイクロ波パルス技術に関しては、想定以上に複雑であったため、共同研究先のドイツにおいて技術研修を行った。これにより、どのようにNV中心の電子スピンをマイクロ波パルスで効率的に操作するかという技術を修得する事ができた。ダイヤモンドナノ結晶自己組織化膜に関しては、共同研究者からの助言を基に、検討を重ねた結果、シンプルにスピンコート法によってダイヤモンドナノ結晶を分散させ、偶然、配列化した部分を選択的に使用する方が高い空間分解能が得られ、技術的にも容易であるとの結論に至ったため、ナノダイヤモンド配列作成手法の変更を決断した。現在、高密度にNV中心を含むナノダイヤモンドをガラス基板上に分散させ、蛍光画像を上述のCCDカメラによって取得する実験を行っている。本年度は、電子スピン位相緩和時間計測システムによる、NV中心の電子スピン操作を実現し、イメージングや実際の試料の発熱をどの程度の感度や応答速度で検出可能かについて定量的な評価を行う事を目標とした。その結果、ダイヤモンドナノ粒子中に存在する単一窒素欠陥(NV)中心が示すコヒーレントなスピン信号の計測に成功した。NV中心のスピンが示すラビ振動を計測し、それより割り出されるπパルス、π/2パルスを用いてスピンエコー測定を行った。その結果、現在使用中のナノダイヤモンドに存在するNV中心は位相緩和時間が0.510マイクロ秒の範囲でばらついている事が明らかになった。また、ナノ粒子を均一に基板上に分散させるのに必要な粒子サイズの均一化に関しては、購入したダイヤモンドのナノ粒子を遠心分離器でさらに分画する取り組みも行った。これに合わせてダイヤモンド表面に存在するグラファイト層を強酸(硫酸、硝酸、過塩素酸)で除去する作業も行い、位相緩和時間の平均的な増加とスピン信号コントラストの増加という結果を得た。これにより温度検出の感度増加が期待される。これらの成果発表に関してはデータの詳細な解析や共同研究者との議論を行う必要があったため当初の年度内発表計画を変更し、次年度秋に開かれる物理学会もしくは応用物理学会での発表に切り替えた。本研究は、微小空間における熱分布をリアルタイムで可視化する光熱顕微イメージング法の実現を目指すものである。ダイヤモンド窒素欠陥中心が示す電子スピン信号変化からナノ環境の温度計測が可能である。本研究ではNV中心を用いて高感度に温度計測(すなわちスピン計測)を行う技術を開発した。開発したパルススピン計測技術を用いて、ダイヤモンドナノ粒子に含まれるNV中心の電子スピン特性を評価し、表面処理によってその向上を目指した研究を行った。また、ナノ結晶をガラス基板上に高密度配列する事に挑戦し、数10マイクロメートルスケールでの配列パターンを実現した。本年度は異動に伴い、実験装置の移設等があったため、研究進捗は当初目標に対してやや遅れているという判断をした。しかしながら、電子スピン操作に関するノウハウなど、目的達成の核となる技術に関しては、得る事ができたため、来年度の研究遂行にとって重要な進展が得られている。ナノフォトニクス今後の研究は、電子スピン位相緩和時間計測システムによる、NV中心の電子スピン操作を実現し、イメージングや実際の試料の発熱をどの程度の感度や応答速度で検出可能かについて定量的な評価を行う。研究の進展速度を上げるために、現在構築中のCCDを用いた光学系を用いず、既存のアバランシェフォトダイオードを用いた光学系を活用して測定系(特にサンプル周辺マイクロ波特性、温度特性など)の性能評価を優先する(より早い信号処理が可能なため、性能評価には都合が良い)。この顕微鏡で金ナノ粒子を光照射によって発熱させた場合の光熱信号を取得する。これにより光熱信号を実際に取得し、実応用としてどの程度の温度感度や応答速度を有するかを先行的に調べる。これと平行して、CCDを用いたワイドフィールド顕微鏡系で同様の光熱信号の取得も目指す。センサ部となる、ナノダイヤモンド配列試料に関しては、適切なポリマー材料を探索すると共に、遠心分離器を用いて、ナノ粒子の粒径分散を小さくする事も目指す。現在使用するナノダイヤモンドは粒径にバラツキが大きく、規則的なナノ粒子配列構造を実現しにくい。現所属研究室には、超遠心分離器も所有しているために、良質なナノダイヤモンド試料を準備できると考えている。
KAKENHI-PROJECT-26610077
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ナノダイヤモンド配列センサを用いた高感度光熱顕微分光リアルタイムイメージング
本年度はこれらの成果をまとめて、学会で発表する予定である。秋と春に行われる、物理学会および応用物理学会のいずれかで研究発表を行う予定である。本年度は研究代表者の異動があった事で、測定装置の立ち上げが遅れたためである。CCDカメラを用いた電子スピン操作システムの構築のために、多数の光学素子・光学実験部品などの消耗品の購入を予定している。また、NV中心を励起するための緑色CWレーザーの購入も予定している(30万円)。また、NV中心を高密度に分散させたナノダイヤモンド試料が新たに発売されたので、その購入も予定している。試料調製のためには、遠心分離の際に必要な化学実験の消耗品(試薬、ガラス器具)の購入を行う。
KAKENHI-PROJECT-26610077
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高齢者介護事業における包括的な業績評価に関する研究
本研究では社会福祉法人の高齢者介護事業を対象とし,財務と非財務の両面からみる包括的な業績評価指標の開発に向けたエビデンスを蓄積することを目的とする.平成30年度は1高齢者介護領域のサービス評価等の非財務的業績の評価および財務的業績の評価に関する文献・資料の検討,2介護分野のビッグデータの開発と運用の面で先行する韓国の事例について検討を行った.平成30年度に実施予定であった先行・関連研究の検討および介護分野のビッグデータの開発と運用の面で先行する韓国の事例について予定通り検討を行うことができたため.令和1年度は引き続き国内外における先行・関連研究の検討を実施し,高齢者介護領域を対象とした業績評価の枠組みおよび評価指標について整理・検討していく.さらに社会福祉法人の財務データや非財務データについて収集していく計画である.本研究では社会福祉法人の高齢者介護事業を対象とし,財務と非財務の両面からみる包括的な業績評価指標の開発に向けたエビデンスを蓄積することを目的とする.平成30年度は1高齢者介護領域のサービス評価等の非財務的業績の評価および財務的業績の評価に関する文献・資料の検討,2介護分野のビッグデータの開発と運用の面で先行する韓国の事例について検討を行った.平成30年度に実施予定であった先行・関連研究の検討および介護分野のビッグデータの開発と運用の面で先行する韓国の事例について予定通り検討を行うことができたため.令和1年度は引き続き国内外における先行・関連研究の検討を実施し,高齢者介護領域を対象とした業績評価の枠組みおよび評価指標について整理・検討していく.さらに社会福祉法人の財務データや非財務データについて収集していく計画である.訪問調査等の費用が想定よりも少なく済んだため次年度使用額が生じた.生じた差額は令和1年度以降に調査費等として使用する計画である.
KAKENHI-PROJECT-18K12967
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糖の立体配座変化を利用したβ選択的マンノシル化反応の開発
糖はその種類によってピラノース環の立体配座の存在比が決まっている。L-ラムノースとD-マンノースはそれぞれ^1C_4配座,^4C_1配座を持つものが圧倒的に優先する。今回私達は,L-ラムノースとD-マンノースを用いてピラノース環の立体配座反転の可能性を探り,ラムノースの3位にTBS,4位にTPS基を導入した化合物が,通常不安定な^4C_1配座を取ることを明らかにした。マンノースも同様に3位にTBS,4位にTPS基を導入することで反転し,通常不安定な^1C_4配座で安定に存在した。反転には3,4位水酸基のシリル保護基のみが関与しており,3,4位水酸基以外の保護基を除去した化合物もその立体配座を保ち,また,開環せずピラノースのまま存在した。通常場合高いα選択性を示すラムノースはピラノース環の立体配座を反転させると,O-グリコシル化反応において,β選択的な反応を示すことが明らかになった。同様に,目的としたマンノースでも環立体配座の反転によりβ選択的なO-グリコシル化反応を実現した。糖はその種類によってピラノース環の立体配座の存在比が決まっている.L-ラムノースとD-マンノースはそれぞれ^1C_4配座,^4C_1配座を持つものが圧倒的に優先する.今回私達は,L-ラムノースとD-マンノースを用いてピラノース環の立体配座反転の可能性を探り,ラムノースの3位にTBS,4位にTPS基を導入した化合物が,通常不安定な^4C_1配座を取ることを明らかにした.マンノースも同様に3位にTBS,4位にTPS基を導入することで反転し,通常不安定な^1C_4配座で安定に存在した.反転には3,4位水酸基のシリル保護基のみが関与しており,3,4位水酸基以外の保護基を除去した化合物もその立体配座を保ち,また,開環せずピラノースのまま存在した.2位の置換基がアキシアル配座を取る糖を用いたO-グリコシル化反応は,オキソニウムカチオン中間体を経由する場合高いα選択性を示す.ラムノースはこのケースに該当する.反転したラムノース誘導体を用いたグリコシル化反応は,通常とは異なったアノマー位での選択性を示し,α体とβ体がほぼ同率で生成した.環配座が反転したことで,立体電子効果が1位アキシアルの置換基を持つβ体の生成に有利に働く一方,3位OTBS基と6位メチル基による立体反発が1位エカトリアルの置換基を持つα体の生成に有利に働いた結果であると考えられる.今後,反転したマンノース誘導体を用いて,より高いβ選択的な反応を開発する.糖はその種類によってピラノース環の立体配座の存在比が決まっている。L-ラムノースとD-マンノースはそれぞれ^1C_4配座,^4C_1配座を持つものが圧倒的に優先する。今回私達は,L-ラムノースとD-マンノースを用いてピラノース環の立体配座反転の可能性を探り,ラムノースの3位にTBS,4位にTPS基を導入した化合物が,通常不安定な^4C_1配座を取ることを明らかにした。マンノースも同様に3位にTBS,4位にTPS基を導入することで反転し,通常不安定な^1C_4配座で安定に存在した。反転には3,4位水酸基のシリル保護基のみが関与しており,3,4位水酸基以外の保護基を除去した化合物もその立体配座を保ち,また,開環せずピラノースのまま存在した。通常場合高いα選択性を示すラムノースはピラノース環の立体配座を反転させると,O-グリコシル化反応において,β選択的な反応を示すことが明らかになった。同様に,目的としたマンノースでも環立体配座の反転によりβ選択的なO-グリコシル化反応を実現した。
KAKENHI-PROJECT-10780359
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唾液メタボローム解析による膵癌・乳癌をはじめとする癌の早期診断技術の確立
癌検診の受診率、発見率向上の為、非侵襲的で良いマーカーが求められている。唾液検体のメタボローム解析により、膵癌や乳癌の腫瘍マーカーとなる可能性のある物質を発見し、肺癌・大腸癌などに関しても同様の研究を進行中である。当該物質が健常者では異常をきたさないことの確認、異常値を認めた被験者について診断治療の一助とし当該検査の有用性を評価検討する為、当施設における、人間ドック受診者よりボランティアを募り唾液を採取、解析を行っている。総計3000例を予定も、総計2296件の検体採取にとどまったが、試験的に1000症例弱で統計解析によって体重変化やBMIなどが、唾液中代謝物への影響要因と考えられる。膵臓がんは早期発見が難しく、予後が不良であり、また、乳がんは早期発見が重要だが、検診の受診率が低く、発見率も低率で、このため、膵臓がんや乳がんをはじめとした癌の早期発見の良い腫瘍マーカーが求められている。唾液を用いたメタボローム解析という方法で、膵がん、乳がんの腫瘍マーカーとなる可能性のある物質を発見し、肺癌・大腸癌などに関しても同様の研究が進行中である。この、唾液という低侵襲な検体を用いた腫瘍マーカー測定法の開発を進めるに際して、当該物質が健常者では異常を示さないことを確認し、また、異常値を認めた被検者について、健診データを分析し、必要あれば精密検査の受診を勧め、診断・治療の一助とし、その有用性を評価検討するため、東京医科大学病院健診予防医学センターにおける、人間ドック受診者よりボランテイアを募り、同意の得られた被験者より唾液を採取して、その検体を慶應義塾大学先端生命科学研究所にてメタボローム解析を行っている。総計3000例の検討を予定しており、平成27年度は1000件以上の検体解析を見込んでいたが、研究補助者の確保が出来ず、開始の遅れ、および、一日当たりの検体採取件数の遅滞が発生したため、平成27年度は、310件の検体採取にとどまった。しかしながら、スムーズな検体採取、検体送付手順のシステム化、解析の手順のシステム化等、において順調に進行し、当施設内の受診者移動等に関わる知見の蓄積が行ない、スピードアップを図っている。28年度以降、進行状況に応じて解析数の再検討・対応を予定している。予定していた研究補助者の確保が出来ず、開始の遅れ、および、一日当たりの検体採取件数の遅滞が発生した。このため、平成27年度は、310件の検体採取にとどまった。膵臓がんは早期発見が難しく、予後が不良であり、また、乳がんは早期発見が重要だが、検診の受診率が低く、発見率も低率で、このため、膵臓がんや乳がんを始めとした癌の早期発見の良い腫瘍マーカーが求められている。唾液を用いたメタボローム解析という方法で、膵がんや乳がんの腫瘍マーカーとなる可能性のある物質を発見し、肺癌・大腸癌などに関しても同様の研究が進行中である。この、唾液という低侵襲な検体を用いた腫瘍マーカー測定法の開発を進めるに際して、当該物質が健常者では異常をきたさないことを確認し、また、異常値を認めた被験者について、健診データを分析し、必要あれば精密検査の受診を勧め、診断・治療の一助とし、その有用性を評価検討するため、東京医科大学病院健診予防医学センターにおける、人間ドック受診者より、ボランティアを募り、同意の得られた被験者より唾液を採取して、その検体を慶應義塾大学先端生命科学研究所にてメタボローム解析を行っている・総計3000例の検討を予定している。平成27年度は研究補助者の確保が出来ず、開始の遅れ、及び、一日当たりの検体採取数の遅滞が発生し、350件の検体採取にとどまった。平成28年度は、研究補助者の確保に加え、平成27年度の知見を活かし、1249件の検体採取を行った。また、将来的に一般的ドック健診に組み込めるよう、一般受診者に分り易い結果報告の方法を模索している。平成29年度、進行状況に応じて解析数の再検討・対応を予定している。平成27年度に予定していた研究補助者の確保が出来ず、開始の遅れ、及び、検体採取数の遅滞が発生し、平成28年度は持ち直したが、最終目標数にから鑑みて、十分な検体数とは考えていない。膵臓がんは早期発見が難しく、予後が不良であり、また、乳がんは早期発見が重要だが、検診の受診率が低く、発見率も低率で、このため、膵臓がんや乳がんを始めとした癌の早期発見の良い腫瘍マーカーが求められている。唾液を用いたメタボローム解析という方法で、膵がんや乳がんの腫瘍マーカーとなる可能性のある物質を発見し、肺癌・大腸癌などに関しても同様の研究が進行中である。この、唾液という低侵襲な検体を用いた腫瘍マーカー測定法の開発を進めるに際して、当該物質が健常者では異常をきたさないことを確認し、また、異常値を認めた被験者について、健診データを分析し、必要あれば精密検査の受診を勧め、診断・治療の一助とし、その有用性を評価検討するため、東京医科大学病院健診予防医学センターにおける、人間ドック受診者より、ボランティアを募り、同意の得られた被験者より唾液を採取して、その検体を慶應義塾大学先端生命科学研究所にてメタボローム解析を行っている。
KAKENHI-PROJECT-15K08751
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K08751
唾液メタボローム解析による膵癌・乳癌をはじめとする癌の早期診断技術の確立
総計3000例の検討を予定していたが、研究補助者の確保ができず等の問題で、開始の遅れ、及び、一日当たりの検体採取数の遅滞が発生し、総計2296件の検体採取にとどまった。現在、測定そのものは終わっており、試験的に1000症例弱で統計解析によって成人になってからの体重変化やBMIなどが、唾液中代謝物への影響要因と考えられる。現在、測定が終わった全症例での統計解析も進め上記の結果の評価を行うところである。癌検診の受診率、発見率向上の為、非侵襲的で良いマーカーが求められている。唾液検体のメタボローム解析により、膵癌や乳癌の腫瘍マーカーとなる可能性のある物質を発見し、肺癌・大腸癌などに関しても同様の研究を進行中である。当該物質が健常者では異常をきたさないことの確認、異常値を認めた被験者について診断治療の一助とし当該検査の有用性を評価検討する為、当施設における、人間ドック受診者よりボランティアを募り唾液を採取、解析を行っている。総計3000例を予定も、総計2296件の検体採取にとどまったが、試験的に1000症例弱で統計解析によって体重変化やBMIなどが、唾液中代謝物への影響要因と考えられる。研究補助者の確保により、検体採取の件数の増加が可能となった。検体解析数の増加により、基準となる測定値の範囲(正常考えられる測定値の範囲)を設定する方向で検討を進めている。今後は、目標検体数を採取するため、さらなる効率化を図り、将来的に、一般的ドック健診に組み込めるよう方策を練っていく方針である。当東京医科大学では、健康増進及び先制医療を司る部門を今期新たに開設した。測定・解析場所を近隣に確保する等の、さらなる発展を模索している。今回の研究により、低侵襲で、簡便かつ安価に行えるこの「唾液を用いたメタボローム解析」という方法を、がん検診・診断法として確立していきたいと考えている。より多く人が気軽に受けられる早期診断スクリーニング検査として、この唾液を用いた解析手法を社会に普及し、がんの早期の発見に貢献できるようにしたいと考えている。研究補助者の確保により検体採取の件数の増加が可能となった。検体解析の増加により、基準となる測定値の範囲(正常と考えられる測定値の範囲)を設定する方向で検討を進めている。今後は目標検体数を採取するため、さらなる効率化を図り、また、将来的に一般的ドック健診に組み込めるよう、一般受診者に分り易い結果報告の方法など方策を練っていく方針である。当東京医科大学に新たに開設した健康増進及び先制医療を司る部門をと連携し、さらなる発展を模索している。今回の研究により、低侵襲で簡便かつ安価に行えるこの「唾液を用いたメタボローム解析」という方法を、がん検診・診断法として確立し、より多くの人が気楽に受けられる早期診断スクリーニング検査として、この唾液を用いた解析方法を社会に普及し、がんの早期発見に貢献できるようにしたいと考えている。健診予防医学平成27年度に当初より予定していた研究補助者の確保が出来ず、開始の遅れ、検体採取件数の遅滞が発生した。この為、遅滞分を次年度以降に施行予定の為。平成27年度、28年度よりの遅滞分を、繰り越して次年度以降に施行予定の為。さらに人員の確保に努め、平成27年度中に予定していたが試行できなかった分の検体採取、検査、解析を行う予定である。また、説明用PC購入、学会出席、研究施設見学等の支出も見込んでいる。さらに人員の確保に努め、平成27年度、28年度に予定していたが施行できなかった分の検体採取、検査、解析を行う予定である。また、説明用PC購入、学会出席、研究施設見学等の支出も見込んでいる。
KAKENHI-PROJECT-15K08751
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マイトラーヤニー・サンヒター研究の基礎資料(校訂本・翻訳)の完全整備
古代インド祭式文献の中で、最も古い散文資料であるマイトラーヤニー・サンヒター(紀元前900年頃の成立)について、写本資料を用いた原典校訂本、および現代語訳(ドイツ語訳、英訳)を行う。同文献は、古代インドの社会と宗教を理解する上で、大変重要な資料でありながら、全訳がなされておらず、研究者にすら十分に利用されてこなかった。同文献の全訳は多くの研究者に待たれている。また、既存の校訂本(von Schroeder本;1881-86)は、現代の言語学的水準に照らして、多くの訂正が必要である。本研究は、これらの課題を解決すべく、同文献の基礎資料の完成を目指す。古代インド祭式文献の中で、最も古い散文資料であるマイトラーヤニー・サンヒター(紀元前900年頃の成立)について、写本資料を用いた原典校訂本、および現代語訳(ドイツ語訳、英訳)を行う。同文献は、古代インドの社会と宗教を理解する上で、大変重要な資料でありながら、全訳がなされておらず、研究者にすら十分に利用されてこなかった。同文献の全訳は多くの研究者に待たれている。また、既存の校訂本(von Schroeder本;1881-86)は、現代の言語学的水準に照らして、多くの訂正が必要である。本研究は、これらの課題を解決すべく、同文献の基礎資料の完成を目指す。
KAKENHI-PROJECT-19H01192
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中等段階の職業・専門教育と高等段階の専門教育の連携に関する国際比較研究
本科研研究では、中等段階の職業・専門教育と高等段階の専門教育との連携に関する国際比較研究を行った。その結果アメリカ、フランスでは、両者の連携に関するプログラムが進展していることが指摘される。前者では、テック・プレップがカリキュラム上の基準が明確にした学習プログラムに変えられた。4年制大学工学系学部への進学準備教育を意図したハイ・スクールの工学予備教育プログラムも発展している。フランスでは、リセ(高校)で工学系のグランゼコール進学準備教育のための工学準備教育が発展しつつある。一方日本やドイツでは中等後の職業教育機関と中等段階の職業教育・専門教育と連携したプログラムは、まだ発展していない。まず海外調査で研究課題について基礎的なデータを収集した。横尾恒隆は、2013年1月米国シカゴで開催されたミシシッピヴァリ会議に参加し、同国の中等段階と中等後・高等段階の職業教育の接続に関する動向に関する情報を収集した。また西美江は、2014年3月にアメリカ・マサチューセッツ州ボストンにて、シンクタンクJobs for the Futureの副所長Nancy Hoffman博士にインタビューを実施し、ハーバード大学教育学大学院と連携して行っているPathways to Prosperity Projectに関する情報を収集した。一方吉留久晴は、ドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州の職業教育系学校で、職業教育と高等教育の接続構造に関する調査を行い、職業教育から高等教育に至るルートが複雑化・多様化しているという知見を得た。またフランスについては、上里正男が、既にフランスで収集した資料を分析し、同国においてリセ(高等学校)のグランゼコール準備級において、光学系高等教育機関への進学準備としての性格を持つ工学教育のプログラムが発達していることを明らかにした。一方日本の状況に関する調査は、佐藤史人が、愛知、岐阜、山口の各県立図書館を訪問し、それぞれの県の職業教育行政や県立高校の職業教育に関する資料収集を行った。また2013年10月に名古屋で、2014年3月に大阪で研究会を開催し、研究の成果を交流するとともに、今度の研究計画について協議した。こうした活動の成果として、横尾恒隆『アメリカにおける公教育としての職業教育の成立』(学文社、2013年)が出版されたほか、堀内達夫・佐々木英一ほか編著『日本と世界の職業教育』に横尾恒隆、佐藤史人、西美江が論文を執筆するなど、今年度は大きな成果を上げることができた。西美江と横尾恒隆ががアメリカを訪問し、中等段階の職業教育・専門教育と中等後段階の専門教育を連続的に組織するプログラムについての調査を行った。西は、2015年3月、カリフォルニア州サクラメントで、州の職業教育に関する会議Educating for Careers Conferenceに参加し、キャリア・アカデミーやLinked Learningといったハイスクールの改革モデルに関する情報収集を行った。次に、Linked Learningの先進的な実践で知られるロングビーチでは、担当者から学区レベルの取組について説明を受けた。また、2年制のシティ・カレッジでは、産業界やハイスクールとの連携について聞き取りを行った。このほか州立大学のロングビーチ校のLinked learningについて調査した。また横尾は、2014年11月にカリフォルニア大学バークレー校において、4年制大学工学系学部の進学準備プログラムであるPLTWについての資料調査を行った。また日本国内では、横尾恒隆、佐藤史人、西美江の3人が、大阪府東大阪市において、技術教育研究会の全国大会に参加し、中等教育段階の技術・職業教育の教育実践報告や教材研究に関して報告を聞き、協議に参加した。最新の国内教育実践の現状についての情報を得た。さらに今年度は、研究成果の発表も活発に行われた。横尾恒隆は、2014年11月にアメリカのミシシッピヴァリ会議で日本の技術・職業教育の動向に関する報告を行った。このほか上里正男、吉留久晴、西美江、佐藤史人が研究成果を論文や学会発表などの形で発表した。。このほか、2014年8月に、大阪府東大阪市において、研究会を開催して、アメリカ・フランス・ドイツ・日本の中等技術・職業教育に関する情報交換と今後の政策動向に関して協議し、各国間の相違を検討した。まず調査活動について今年度も、昨年に引き続き外国調査を行った。アメリカについては横尾恒隆が、ナシュビルで開催されたミシシッピバリ技術教育教員会議に参加し、アメリカの技術・職業教育の動向に関する情報収集と関連分野の研究者に対する聞き取り調査を行い、大学工学系学部進学準備プログラムとしての性格を持つPLTWが、広範な形で同国の技術・職業教育に影響を与えていることが明らかになった。また西美江が、カリフォルニア州のパサデナ・シティ・カレッジ、同州ロングビーチ・コール、同州パサデナ統一学区にあるジョン・ミュール・ハイスクールにおいて調査を行い、これらの教育機関で、キャリア・パスウェイ開発や二重単位の取組など、中東段階の専門教育・職業教育と中等後・高等教育段階の接続のためのプログラムが実施されていることを明らかにした。このほかの国については、訪問調査はできなかったものの、これまで収集した資料の分析を行った。フランスについては、上里正男が中等段階の専門教育とグランゼコールなどの高等教育機関におけるそれの接続問題とかかわって、テクノロジー教育からエンジニア教育の変遷に関する資料分析を行った。またドイツについては吉留久晴が、ドイツの中等教育及び高等教育における職業教育・訓練に関する資料分析を行った。この結果、いくつもの研究成果を出すこともできた。横尾恒隆は、これまでの研究成果に基づき、高学歴化の下ので高校職業教育の必要性に関する論文を『技術教育研究』に発表したほか、職業教育の公共性について論じた論文を『教育学研究』に投稿し、掲載が決定した。
KAKENHI-PROJECT-25285228
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25285228
中等段階の職業・専門教育と高等段階の専門教育の連携に関する国際比較研究
このほか吉留久晴や西美江も、論文を発表しているほか、学会等でその成果を発表している。また上里正男も論文発表を予定している。これまでアメリカ、ドイツにおいて学校訪問による実態調査や資料収集を行い、1)アメリカでは、中等段階の職業教育・専門教育と2年制中等後教育機関とを接続させるいプログラムのみならず、4年制大学との接続を目指したプログラムも出現していることを明らかにしてきた。またドイツについては、中等段階の職業教育・専門教育と中等後・高等段階の専門教育との接続させるプログラムは、発達していないものの、大学でのデュアル・システムの出現や様々な中等後職業教育機関の出現という形で、中等後・高等教育段階の専門教育・職業教育で注目すべき新しい動きが出ていることも明らかになっている。またそうした成果を踏まえ、今年度は、査読つき論文を含む数本の論文を、参加者が発表することができ、また掲載予定の査読つき論文も存在している。なお今年度フランスは、テロが起きたため、現地調査を行うことができず、すでに収集した資料をするにとどまった。今年度は、最終年度ということで、外国調査の補充調査と、研究成果の発表を行った。まず外国調査の補充調査に関しては、西美江が、アメリカ・カリフォルニア州、とりわけロングビーチやサンディエゴで現地調査を行った。その結果カリフォルニア州では、進学とキャリアへの準備を両立するLinked Learningの実践が推進されており、とりわけ1その先進例として知られるロングビーチでは、様々な職業分野に焦点を当てたプログラムが実施されていること、2またサンディエゴでは、チャーター・スクールとして進学とキャリアへの準備を統合させたカリキュラムを実施しているハイテク・ハイで、工学や芸術を統合させたカリキュラムが高い評価を受けていることが明らかになった。つぎに成果発表である。西は、上記の調査の成果をアメリカ教育学会に発表し、論文を『関西女子短期大学紀要』に「アメリカ合衆国におけるキャリア・パスウェイの開発:地域パートナーシップに着目して」を発表している。また横尾恒隆、上里正男が、2016年12月にオーストラリアの南オーストラリア大学(アデレード)において開催された9th Biennial International Conference on Technology Education Researchで、"Histori-pan"という報告を行い、日本と諸外国の技術・職業教育の国際比較について発表し、諸外国と比べて、日本において技術・職業教育が軽視されている問題について提起した。また横尾は『教育学研究』等の雑誌で論文を発表した。このほか佐藤史人は、『職業とキャリアの教育学』等の雑誌で論文を発表した。本科研研究では、中等段階の職業・専門教育と高等段階の専門教育との連携に関する国際比較研究を行った。その結果アメリカ、フランスでは、両者の連携に関するプログラムが進展していることが指摘される。
KAKENHI-PROJECT-25285228
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聴覚伝導路でのGABA作動性神経の聴覚情報処理における機能的意義
GABA作動性神経による抑制回路システムの生理学的役割をより詳細にしかも体系的に論ずるためには、GABA作動性神経によって構成される神経回路を明らかにすること、また、常にGABA作動性神経を他の神経と区別して電気生理学的実験を行う必要がある。これまで、通常のスライス標本ではGABA作動性神経を生きた状態で識別することは不可能であった。これを打開するために,柳川らが作成したGABA作動性神経を特異的にGFPで標識したノックインマウス(GAD67-GFP mouse)を導入した。本研究は大脳皮質聴覚野を含む聴覚路での、局所あるいは核間のGABA作動性の抑制性神経回路とその生理機能を明らかにする事を目的とし、下丘のGABA作動性神経からの電気的な応答を記録するとから始めた。その結果、下丘のGABA作動性神経には、1)脱分極通電刺激に対して、制止膜電位から持続的に発火を示す神経細胞群と、2)脱分極刺激に対して刺激直後に一過性の発火を示すものの2群を区別できることを明らかにした。1)には通電刺激の開始する直前の膜電位を変化させると、発火様式がかわるものとそうでないものの、2つのグループが、2)には低閾値Caスパイクを認めるもと、そうでないものが含まれていた。2)の低閾値Caスパイクを認める神経は、細胞体が他のグループに比べ小さく、下丘の背外側皮質に限局して分布し、樹状突起の発達の方向性に著しい方向性があることが明らかとなった。この神経は興奮性の差異のほかに、形態学的にも他のグループとは隔絶しており、生理学的機能にも差があると推察される。下丘外側皮質には、大脳皮質聴覚野からの投射を受けることも明らかにした。聴覚伝導路ではGABA作動性神経による抑制性の情報が,興奮性の情報と同等に上位核にもたらされる。この特色ある、GABA作動性神経の聴覚伝導路での機能的意義を体系的に論ずるためには、この神経によって構成される神経回路を明らかにし,かつ電気生理学的な知見を得る必要がある。実験では常にGABA作動性神経を視認して実験を行う卿要がある。本研究はこれを実現するために,柳川らが開発したGABA作動性神経を特異的にGFPで標識したマウス(GAD67-GFP mouse)を実験に導入した。平成14年度の研究では、スライス標本上でGABA作動性神経を確認し、記録を試み,下丘のGABA作動性神経の電気生理学的な特性を明らかにした。中心核にに存在する細胞は静止膜電位からの脱分極通電刺激に対して、全て規則的かつ持続的に発火させた(regular-sustained型)。これらの細胞の半数は膜電位を過分極させた状態で、通電すると、最初の1回の発火の後,発火をしばらく中止し、その後規則的に発火をはじめた(pauser-build up型)。背側核ではregular-sustained型(non-pauser-build up型)が観察される他、脱分極通電刺激に対してその初期に1、2回発火するだけの細胞(transient型>が認められた。外側核のGABA神経では3種全ての発火パターンが観察された。いずれの亜核においてもpauser-build up型を含むregular-sustained型は後過分極電位を持ち、transient型は後脱分極電位を生じさせた。下丘のGABA作動性神経の発火パターンはこの3種に分類することができた。GABA作動性神経による抑制回路システムの生理学的役割をより詳細にしかも体系的に論ずるためには、GABA作動性神経によって構成される神経回路を明らかにすること、また、常にGABA作動性神経を他の神経と区別して電気生理学的実験を行う必要がある。通常の動物のスライス標本ではGABA作動性神経を生きた状態で識別することは不可能であった。これを打開するために,柳川らが開発したGABA作動性神経を特異的にGFPで標識したノックインマウス(GAD67-GFP mouse)を研究に導入した。本研究は大脳皮質聴覚野を含む聴覚路での、局所あるいは核間のGABA作動性の抑制性神経回路とその生理機能を明らかにする事を目的とし、下丘のGABA作動性神経からの電気的な応答を記録するとから始めた。その結果、下丘のGABA作動性神経には、1)脱分極通電刺激に対して、制止膜電位から持続的に発火を示す神経細胞群と、2)脱分極刺激に対して刺激直後に一過性の発火を示すものの2群を区別できることを明らかにした。1)には通電刺激の開始する直前の膜電位を変化させると、発火様式がかわるもの、2)には低閾値Caスパイクを認めるものなどが含まれている。1)と2)では、樹状突起の発達の方向性に関して異なる傾向があり、興奮性の差異と共に、その生理学的機能に差があることが強く推察された(第80回日本生理学会年会、第26回近世生理学談話会発表)。また、2)が多く認められる、下丘外側皮質には、大脳皮質聴覚野からの投射を受けることも明らかにした(発表予定)。GABA作動性神経による抑制回路システムの生理学的役割をより詳細にしかも体系的に論ずるためには、GABA作動性神経によって構成される神経回路を明らかにすること、また、常にGABA作動性神経を他の神経と区別して電気生理学的実験を行う必要がある。これまで、通常のスライス標本ではGABA作動性神経を生きた状態で識別することは不可能であった。
KAKENHI-PROJECT-14580788
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聴覚伝導路でのGABA作動性神経の聴覚情報処理における機能的意義
これを打開するために,柳川らが作成したGABA作動性神経を特異的にGFPで標識したノックインマウス(GAD67-GFP mouse)を導入した。本研究は大脳皮質聴覚野を含む聴覚路での、局所あるいは核間のGABA作動性の抑制性神経回路とその生理機能を明らかにする事を目的とし、下丘のGABA作動性神経からの電気的な応答を記録するとから始めた。その結果、下丘のGABA作動性神経には、1)脱分極通電刺激に対して、制止膜電位から持続的に発火を示す神経細胞群と、2)脱分極刺激に対して刺激直後に一過性の発火を示すものの2群を区別できることを明らかにした。1)には通電刺激の開始する直前の膜電位を変化させると、発火様式がかわるものとそうでないものの、2つのグループが、2)には低閾値Caスパイクを認めるもと、そうでないものが含まれていた。2)の低閾値Caスパイクを認める神経は、細胞体が他のグループに比べ小さく、下丘の背外側皮質に限局して分布し、樹状突起の発達の方向性に著しい方向性があることが明らかとなった。この神経は興奮性の差異のほかに、形態学的にも他のグループとは隔絶しており、生理学的機能にも差があると推察される。下丘外側皮質には、大脳皮質聴覚野からの投射を受けることも明らかにした。
KAKENHI-PROJECT-14580788
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現代「教師層」の供給源に関する実証的研究ー北海道・東北・関東・東海・関西・中国・四国・九州の各地区の公立小学校の場合ー
研究課題について、全国を二つのブロック(関東・関西)に分け、田中(関東地区担当)と矢野(関西地区担当)が分担し調査を行なった。教師の「出身校」と「意識」と「出身階層」の三者に関する基礎資料収集のため「面接法」と、教師の属性・意識を直接的とらえ統計的に数理するための「郵送法」が試みられた。「面接法は、7・8月を中心に、対象校への挨拶を兼ねて行なった。関東ブロックでは9校、関西ブロックでは5校がそれぞれ対象となった。とくにこの面接では、教師の意識についての構造的かつ類型的に把握する必要性が示唆された。この面接から得られた資料・示唆に基づき、「郵送法」が10月を中心に行なった。関東地区では、東京学芸大学を卒業し、首都圏(東京都,埼玉県・千葉県・神奈川県)の公立小学校に勤務する教論を対象とした、600名に配票し回収は241部であり、そのうち有効なものは、201部であった。関西地区では、山口大学教育学部を卒業し、現在、山口県内外(主に広島・福岡)の公立小学校に勤務する教諭を対象とした、抽出された8研究室の卒業生459名に配票された。回収は273部であり、そのうち有効なものは、257部であった。かくして、同一出身校の教師の意識を、出身地・勤務校の属性・学区の諸変数で分析している。研究課題について、全国を二つのブロック(関東・関西)に分け、田中(関東地区担当)と矢野(関西地区担当)が分担し調査を行なった。教師の「出身校」と「意識」と「出身階層」の三者に関する基礎資料収集のため「面接法」と、教師の属性・意識を直接的とらえ統計的に数理するための「郵送法」が試みられた。「面接法は、7・8月を中心に、対象校への挨拶を兼ねて行なった。関東ブロックでは9校、関西ブロックでは5校がそれぞれ対象となった。とくにこの面接では、教師の意識についての構造的かつ類型的に把握する必要性が示唆された。この面接から得られた資料・示唆に基づき、「郵送法」が10月を中心に行なった。関東地区では、東京学芸大学を卒業し、首都圏(東京都,埼玉県・千葉県・神奈川県)の公立小学校に勤務する教論を対象とした、600名に配票し回収は241部であり、そのうち有効なものは、201部であった。関西地区では、山口大学教育学部を卒業し、現在、山口県内外(主に広島・福岡)の公立小学校に勤務する教諭を対象とした、抽出された8研究室の卒業生459名に配票された。回収は273部であり、そのうち有効なものは、257部であった。かくして、同一出身校の教師の意識を、出身地・勤務校の属性・学区の諸変数で分析している。
KAKENHI-PROJECT-02610096
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橋梁交通振動のアクティブ制御に関する実験的・解析的研究
1.橋梁交通振動のアクティブ制御による制振効果の確認研究代表者らが開発してきた模型桁,模型車両およびアクティブ制振装置を用いて実験的にアクティブ制御の制御効果を示すとともに模型実験で用いられた制御理論を用いて理論解析を行い,実験結果との比較を行った。解析で用いる制御理論は出力フィードバック制御とロバスト安定性が高いと思われるH∞最適制御理論とした.そして実橋に対するアクティブ制御の制振効果を理論的に確認するために,阪神高速道路梅田入路橋の応答データに基づき,曲げ振動だけではなく曲げとねじり連成振動に対しても制御を行い,出力フィードバック制御とH∞最適制御理論との制振効果の比較を行った.結果として,H∞最適制御理論による橋梁交通振動の動的応答解析結果から,曲げ振動および曲げとねじり連成振動共に制振効果が高いことが分かった.2.歩道橋群集歩行振動のアクティブ制御による制振効果の確認大阪ドーム前歩道橋のうち最も揺れやすいと報告されている,支間長30.19m,幅員3.4mの区間を対象として現地歩行振動実験を行い,振動応答結果に基づき歩行外力モデルを検討するとともに,歩行者の振動感覚アンケート調査を行った.さらに,単独共振歩行および群集歩行に起因する振動の低減化対策について解析的に検討した.結果としてTMDは単独共振歩行に対しては効果的であるが,群集歩行時には共振成分以外の振動はあまり低減されず,振動を感じることがわかった.アクティブ制御においては,最適レギュレータ理論,H∞制御およびファジィ制御を適用したが,全ての制御理論において制振効果が高く,歩道橋に対しても,その有用性が確認された.各制御理論の比較から,H∞制御が最も制振効率が良く,単独・群集歩行時の共振成分以外の様々な振動成分を低減できることが明らかとなった.1.橋梁交通振動のアクティブ制御による制振効果の確認研究代表者らが開発してきた模型桁,模型車両およびアクティブ制振装置を用いて実験的にアクティブ制御の制御効果を示すとともに模型実験で用いられた制御理論を用いて理論解析を行い,実験結果との比較を行った。解析で用いる制御理論は出力フィードバック制御とロバスト安定性が高いと思われるH∞最適制御理論とした.そして実橋に対するアクティブ制御の制振効果を理論的に確認するために,阪神高速道路梅田入路橋の応答データに基づき,曲げ振動だけではなく曲げとねじり連成振動に対しても制御を行い,出力フィードバック制御とH∞最適制御理論との制振効果の比較を行った.結果として,H∞最適制御理論による橋梁交通振動の動的応答解析結果から,曲げ振動および曲げとねじり連成振動共に制振効果が高いことが分かった.2.歩道橋群集歩行振動のアクティブ制御による制振効果の確認大阪ドーム前歩道橋のうち最も揺れやすいと報告されている,支間長30.19m,幅員3.4mの区間を対象として現地歩行振動実験を行い,振動応答結果に基づき歩行外力モデルを検討するとともに,歩行者の振動感覚アンケート調査を行った.さらに,単独共振歩行および群集歩行に起因する振動の低減化対策について解析的に検討した.結果としてTMDは単独共振歩行に対しては効果的であるが,群集歩行時には共振成分以外の振動はあまり低減されず,振動を感じることがわかった.アクティブ制御においては,最適レギュレータ理論,H∞制御およびファジィ制御を適用したが,全ての制御理論において制振効果が高く,歩道橋に対しても,その有用性が確認された.各制御理論の比較から,H∞制御が最も制振効率が良く,単独・群集歩行時の共振成分以外の様々な振動成分を低減できることが明らかとなった.1.橋梁交通振動のアクティブマスダンパーAMDによる制振効果の理論解析近年,走行車両による橋梁振動が周辺地盤に影響を与える環境振動影響や低周波空気振動の問題を引き起こしており,対策の1つとして注目されている橋梁交通振動制御を解析的に検討した.今年度の研究に至るまでに,最適レギュレータ理論を用いたアクティブ制御解析を実施してきた.今年度は,実用化に向けてより効率の良い振動制御を考え,制振効果が大きく安定しているとされるH∞制御理論を橋梁交通振動に適用し,実構造物に対するその制振効果を解析的に確認した.その結果,曲げ振動および曲げとねじり連成振動共に制振効果が高いことがわかった.さらに,橋桁動的応答の変位と速度をフィードバックさせて制御する出力フィードバック制御とH∞制御理論の制振効率を比較するとH∞制御理論の方が制振効率が良いことがわかった.次年度以降は,このH∞制御理論を用いて模型実験を行い,制振効果を確認する予定である.2.歩道橋の現地実樹による振動使用性評価近年,歩道橋の多種多様化に伴う支間長・幅員の増大あるいは景観設計などにより,歩道橋の歩行者による共振に伴い歩行者の不快感が懸念されている.そこで揺れやすいとの報告があった歩道橋において歩行振動実験を行い,それと併行して振動感覚アンケート調査を行い,振動使用性を検討した.アンケート対象者が橋上で静止状態にある場合はかなり揺れていると感じていることが分かった.1.橋梁交通振動のアクティブマスダンパーAMDによる制振効果解析
KAKENHI-PROJECT-14350244
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橋梁交通振動のアクティブ制御に関する実験的・解析的研究
近年,走行車両による橋梁振動が周辺地盤に影響を与える環境振動影響や低周波空気振動の問題を引き起こしており,対策の1つとして注目されている橋梁交通振動制御を解析的に検討した.前年度に,制振効果が大きく安定しているとされるH∞制御理論を橋梁交通振動に適用し,実構造物に対するその制振効果を解析的に確認した.今年度は,このH∞制御の橋梁交通振動に対する制振効果を高めるための改良検討を進めた.すなわち,発生制御力の現実性の基での制振効果の評価を行った.2.歩道橋の歩行者による振動解析歩道橋において歩行者による共振に伴い振動が大きくなり振動使用性が問題となる場合がある.前年度に歩道橋において歩行振動実験を行い,振動感覚アンケート調査により振動使用性を検討した.アンケート対象者が橋上で静止状態にある場合はかなり揺れていると感じていることが分かった.今年度はその理論解析を試み,歩行外力の評価の重要性が分かった.3.桁端補強による交通振動低減効果橋梁交通振動制御のためにはアクティブ制御のみではなく桁端補強が併用される場合がある.実橋梁においては効果があると期待される手法が種々試みられ,それらが併用されている.そこで,研究代表者が開発してきた三次元橋梁交通振動解析を用いて,桁端対傾構をコンクリートで巻き立てる補強により交通振動がどの程度低減するのか検討した.1.歩道橋群集歩行振動のAMDによる制振効果の確認対象歩道橋はイベント会場近くに立地しており,単独共振歩行のみならず,大きな歩行密度を有する群集が継続して通過するため,定常的に一定レベル以上の応答が生じ,利用者に不安・不快感を与える可能性がある.そこで,これらの単独共振および群集歩行外力のモデル化を検討するとともに,橋梁交通振動の低減化において有効であったアクティブ制御を適用し,振動応答の低減化を試みた.まず歩行外力モデルの検討として,現在までに提案されている,梶川の方法,小幡・林川の方法,Wheelerの方法,米田の方法の4種類について検討した.歩行状態での速度応答が最大になる時間および応答波形に基づき評価したところ,Wheelerモデルが最も実験結果を的確に表現することがわかった.次に共振歩行・群集歩行に起因する振動応答に対する制振効果の確認を行なった.TMDは単独共振歩行に対しては効果的であるが,群集歩行時には共振成分以外の振動はあまり低減されず,振動恕限度による評価でも振動を感じることがわかった.アクティブ制御においては,最適レギュレータ理論,H∞制御およびファジィ制御を適用したが,すべての制御理論において振動低減率が高く,対象を歩道橋にした場合でも,その有用性を確認することができた.各制御理論の比較結果から,単独共振歩行に対しては,H∞制御が最も制振効率が良く,単独・群集歩行時の共振成分以外の様々な振動成分を低減できることが明らかとなった.2.桁端補強の交通振動低減効果の確認研究代表者が開発してきた三次元橋梁交通振動解析を用いて,桁端対傾構をコンクリートで巻き立てる補強により交通振動がどの程度低減するのか検討した.対象橋梁は合理化・省力化の観点から,近年導入されている鋼2主桁橋とし,桁端補強の有無また橋梁の構造形式の違いにより発生する振動を解析的に評価した.
KAKENHI-PROJECT-14350244
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RNA結合蛋白を介したオートファジー制御による抗癌剤耐性克服への挑戦
癌化学療法の問題点の一つは、治療経過中に薬剤耐性細胞が出現するために腫瘍が再増殖をきたすことである。そのため抗癌剤耐性に関する研究は重要な課題である。RNA結合タンパクの1つであるRBM5をノックダウンさせた胃癌細胞に各種抗癌剤を投与すると、オートファジー調節因子の1つであるp62のmRNAおよびタンパク発現量が増加することが判明した。また、5-FU耐性胃癌細胞においてはp62の発現亢進を認め、5-FUにオートファジー阻害剤を併用すると感受性は部分的に回復した。これらのことは、オートファジーの経路が抗癌剤耐性獲得の経路に関与しており、RBM5がその調節経路に関与していることを示唆された。癌化学療法の問題の一つに、治療により薬剤耐性細胞が出現し、やがて再増殖を来すことがあげられる。そのため抗癌剤への感受性や耐性に関する分子機構の解明は非常に重要である。一般に飢餓状態におかれた細胞は、自己の蛋白質やオルガネラの分解により、不足したアミノ酸等を補う反応としてオートファジーが起こる。しかしオートファジーは飢餓以外にも、低酸素、DNA損傷、酸化ストレスなどによっても誘導され、細胞質内蛋白質の品質管理、細胞分化、感染・免疫制御などの様々な生理的役割が推測されている。また、オートファジー制御遺伝子であるBeclin1やAtg7などのノックアウトマウスでは発癌が見られ、癌抑制遺伝子としても機能していると考えられる。しかし一方で、オートファジーは腫瘍細胞が血管新生による栄養供給を受けるまでの栄養補給源として機能することや、抗癌剤抵抗性を助長する可能性も指摘されている。現時点では、抗癌剤効果によるオートファジーの分子機構やアポトーシスとの相互作用は十分に解明されていない。RNA結合蛋白質は、mRNAのスプライシング、核外輸送、細胞質内局在および翻訳効率の調節などの転写後遺伝子発現調節において重要な働きをしている。申請者らはRNA結合蛋白RBM5が、癌抑制遺伝子p53の転写活性を亢進させることを見出した。さらにRBM5は癌細胞に対して、5-FUなどの各種抗癌剤の感受性を高めることを明らかにしてきた。現在、RBM5の発現量により変動するRBM5下流遺伝子群の解析およびRBM5結合遺伝子を網羅的に解析し、癌細胞内での機能解析を行っている。今後はこれらの基礎研究を発展させ、抗癌剤投与中の癌細胞において、RBM5相互作用する新規のオートファジー制御遺伝子を検索し、抗癌剤感受性あるいは耐性に与える影響を検討し、その機序を解明することにより抗癌剤耐性克服への応用を目指す研究を行っている。癌化学療法の問題点の一つは、治療経過中に薬剤耐性細胞が出現するために腫瘍が再増殖をきたすことである。そのため抗癌剤耐性に関する研究は重要な課題である。RNA結合タンパクの1つであるRBM5をノックダウンさせた胃癌細胞に各種抗癌剤を投与すると、オートファジー調節因子の1つであるp62のmRNAおよびタンパク発現量が増加することが判明した。また、5-FU耐性胃癌細胞においてはp62の発現亢進を認め、5-FUにオートファジー阻害剤を併用すると感受性は部分的に回復した。これらのことは、オートファジーの経路が抗癌剤耐性獲得の経路に関与しており、RBM5がその調節経路に関与していることを示唆された。癌化学療法の問題の一つに、治療により薬剤耐性細胞が出現し、再増殖を来すことがあげられる。そのため抗癌剤への感受性や耐性に関する分子機構の解明は非常に重要である。一般に飢餓状態におかれた細胞は、自己の蛋白質やオルガネラの分解により、不足したアミノ酸等を補う反応としてオートファジーが起こる。しかしオートファジーは飢餓以外にも、低酸素、DNA損傷、酸化ストレスなどによっても誘導され、細胞質内蛋白質の品質管理、細胞分化、感染・免疫制御などの様々な生理的役割が推測されている。また、オートファジー制御遺伝子であるBeclin1やAtg7などのノックアウトマウスでは発癌が見られ、癌抑制遺伝子としても機能していると考えられる。しかし一方で、オートファジーは腫瘍細胞が血管新生による栄養供給を受けるまでの栄養補給源として機能することや、抗癌剤抵抗性を助長する可能性も指摘されている。実際、当教室での基礎実験では、各種癌細胞において、5-FUなどの抗癌剤とオートファジー阻害剤を併用することにより、アポトーシスの増強が観察された。現時点では、抗癌剤効果によるオートファジーの分子機構やアポトーシスとの相互作用は十分に解明されていない。RNA結合蛋白質(RBP)は、mRNAのスプライシング、核外輸送、細胞質内局在、安定性及び翻訳効率の調節などの転写後遺伝子発現調節において重要な働きをしている。申請者らはRNA結合蛋白RBM5が、癌抑制遺伝子p53の転写活性を亢進させることを見出した。さらにRBM5は癌細胞に対して、5-FUなどの各種抗癌剤の感受性を高めることを明らかにした。今後はこれらの基礎研究を発展させ、抗癌剤投与中の癌細胞において、RBM5に直接結合する新規のオートファジー制御遺伝子を検索し、抗癌剤感受性あるいは耐性に与える影響を検討し、その機序を解明し、抗癌剤耐性克服への応用を目指している。癌化学療法の問題の一つに、治療により薬剤耐性細胞が出現し、再増殖を来すことがあげられる。そのため抗癌剤への感受性や耐性に関する分子機構の解明は非常に重要である。一般に飢餓状態におかれた細胞は、不足したアミノ酸等を補う反応としてオートファジーが起こる。
KAKENHI-PROJECT-24590910
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24590910
RNA結合蛋白を介したオートファジー制御による抗癌剤耐性克服への挑戦
しかしオートファジーは飢餓以外にも、低酸素、DNA損傷、酸化ストレスなどによっても誘導され、細胞質内蛋白質の品質管理、細胞分化、免疫制御などの様々な生理的役割が推測されている。また、オートファジー制御遺伝子であるBeclin1やAtg7などのノックアウトマウスでは発癌が見られ、癌抑制遺伝子としての機能も推定される。しかし一方で、オートファジーは腫瘍細胞が血管新生による栄養供給を受けるまでの栄養補給源として機能することや、抗癌剤抵抗性を助長する可能性も指摘されている。このように現時点では、オートファジーが抗癌剤効果に与える影響は抗癌剤や癌細胞の種類などにより、相反する現象が知られており、その分子機構は十分に解明されていない。RNA結合蛋白質は、mRNAのスプライシング、安定性及び翻訳効率の調節などの転写後遺伝子発現調節において重要な働きをしている。以前、申請者らはRNA結合蛋白RBM5が、癌抑制遺伝子p53の転写活性を亢進させることを報告した。そこで本研究では、RBM5が関与するオートファジー制御遺伝子を検索し、抗癌剤感受性あるいは耐性に与える影響を検討した。今回の研究では、RBM5の発現量を変化させることにより、オートファジー制御因子の一つであるp62の発現量が変動し、5-FUなどの抗癌剤感受性に影響を与えることを見出した。またオートファジー阻害剤を癌細胞に加えると、抗癌剤の効果を増強できることが判明した。今後は、癌細胞内においてRBM5によるp62の発現調節機序を解明し、抗癌剤耐性克服への応用へ発展させていきたい。臨床腫瘍学RBM5に結合するmRNAをRNA-結合タンパク質免疫沈降法を実施し、胃癌細胞からRBM5に特異的に結合するmRNAを回収している。しかしながらRBM5に結合しているRNAは微量であり、さらにはmRNAそのものが非常に不安定であるため、定量・定性の検討が予想以上に困難であり、再現性の検討を慎重に行っている。現在までの実験結果から、RBM5が発現量の制御に関与するオートファジー制御分子として候補遺伝子が抽出されてきている。しかしながら、これらの幾つかの候補遺伝子が、胃癌細胞株に特異的なものか、他の消化器癌細胞にも機能している普遍的な分子であるのかのを見極めることも簡単ではない。また一方で、これらの候補遺伝子がRBM5に特異的に相互作用しているのかを慎重に検討している。癌細胞において、オートファジーが抗癌剤による抗腫瘍効果に与える影響は、抗癌剤により様々であり、いくつかの抗癌剤に絞る必要性があることが判明した。また癌細胞の種類によっても影響度は様々であった。またオートファジーそのものが、複雑な機序で制御されており、オートファジー誘導因子、オートファジー阻害因子の影響も単純ではないため、結果の解釈に膨大な時間を要している。マイクロアレイの解析は今後も繰り返し行う必要性があるが、解析過程におけるデータマイニング手法による遺伝子抽出のアルゴリズムの厳格さに問題があると考えられた。RBM5に結合するmRNAをRNA-結合タンパク質免疫沈降法を実施し、胃癌細胞からRBM5に特異的に結合するmRNAを回収している。
KAKENHI-PROJECT-24590910
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24590910
共感経験尺度改訂版(EESR)とロールシャッハテストとの関連
本研究では、共感経験尺度改訂版(EESR)の妥当性を検討するために、ロールシャッハ・テスト(ロ・テスト)との関連を検討した。これまでに蓄積したデータに加え、大学生230名に対し新たにEESRを施行し、統計的処理を行った後、共感性の類型化を行った。各類型(両向型、共有型、両貧型、不全型)から抽出された被験者(各10名)に対し、個別にロ・テストを施行し、データを収集した。得られたロ・テストデータを、クロッパー法にて記号化し、また、あわせてロ・テスト場面ならびに検査者-被験者関係を、心理治療場面における心理治療者の共感の観点から分析した。EESRとロ・テストの関連については、数量的な記号化においては明らかな関連はみられなかった。これは、ESSRが意識的な統制の可能な質問紙法であるのに対し、ロ・テストは意識的統制のなされにくい投影法であるためといえる。しかし、即座に両者の関連が否定されたとはいえず、いわゆる記号化されたデータだけでなく、元々の素データからの検討が必要と考えられた。現在さらに精細な観点からの分析をしょうと試みている。また、ロ・テスト場面における検査者-被験者関係に焦点を当てた、より個性記述的な共感の観点からの分析については、研究論文としてまとめ、「心理臨床学研究」誌に投稿し、現在審査結果を待っている状況である。本研究では、共感経験尺度改訂版(EESR)の妥当性を検討するために、ロールシャッハ・テスト(ロ・テスト)との関連を検討した。これまでに蓄積したデータに加え、大学生230名に対し新たにEESRを施行し、統計的処理を行った後、共感性の類型化を行った。各類型(両向型、共有型、両貧型、不全型)から抽出された被験者(各10名)に対し、個別にロ・テストを施行し、データを収集した。得られたロ・テストデータを、クロッパー法にて記号化し、また、あわせてロ・テスト場面ならびに検査者-被験者関係を、心理治療場面における心理治療者の共感の観点から分析した。EESRとロ・テストの関連については、数量的な記号化においては明らかな関連はみられなかった。これは、ESSRが意識的な統制の可能な質問紙法であるのに対し、ロ・テストは意識的統制のなされにくい投影法であるためといえる。しかし、即座に両者の関連が否定されたとはいえず、いわゆる記号化されたデータだけでなく、元々の素データからの検討が必要と考えられた。現在さらに精細な観点からの分析をしょうと試みている。また、ロ・テスト場面における検査者-被験者関係に焦点を当てた、より個性記述的な共感の観点からの分析については、研究論文としてまとめ、「心理臨床学研究」誌に投稿し、現在審査結果を待っている状況である。
KAKENHI-PROJECT-07851012
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07851012
ずり流動下での揺動散逸定理の破れの検証
本研究では過冷却液体状態にある物質に対して、ずり流動を印加することにより、非平衡状態を実現し、そこでの揺動散逸定理(FDT)の破れを振動回路のノイズのパワースペクトルを測定することにより、実験的に検証する。さらに、解析パラメータとして決まる有効温度を評価し、非平衡状態での`温度'としての可能性を検討することを目的としている。このような目標実現に向けて、昨年度の経過を踏まえて、今年度は以下の手順で研究を進めた。1)ずり流動下での電気測定、特に、誘電測定が可能なシステム構築のため、現有備品である動的弾性装置を改良し、振動ずり変形下での誘電測定が可能なシステムを昨年度構築した。このシステムは振動ずりのみ印加可能であったので、この装置を改良することにより、定常ずり(回転的なずり変形)が印加可能なシステムへと発展させた。現在、電気接点を調整し、ずり流動下での誘電測定実施の準備を行っている。2)揺動散逸定理の破れたガラス状態でのダイナミクスが示す現象であるエイジング現象を誘電測定により調べた。特に、ポリメタクリル酸メチルとポリスチレンにおいて、エイジングダイナミクスを明らかにするとともに、興味深いメモリー効果、若返り効果の存在を明らかにした。これにより、ガラス状態の性質の一部が明確になった。3)以上のような成果を踏まえて、ずり流動を印加した条件下でのノイズのパワースペクトルの評価による揺動散逸定理の破れの検証を試みているが、現在までのところ、ノイズレベルを超えて、その破れを主張できるには至っていない。このプロジェクトは本年度が最終年度であるが試料の調整などにより、有意なシグナルを得ることができるように、今後とも本研究を推進してゆく。本研究では過冷却液体状態にある物質に対して、ずり流動を印加することにより、非平衡状態を実現し、そこでの揺動散逸定理(FDT)の破れを振動回路のノイズのパワースペクトルを測定することにより、実験的に検証する。さらに、解析パラメータとして決まる有効温度を評価し、非平衡状態での`温度'としての可能性を検討することを目的としている。このような目標実現に向けて、今年度は以下の手順で研究を進めた。1)ずり流動下での電気測定、特に、誘電測定が可能なシステム構築のため、現有備品である動的粘弾性装置を改良し、振動ずり変形下での誘電測定が可能なシステムを構築した。現在、このシステム下でのずり変形の定量化を行うため、装置変数の較正を行っている。2)1)でのシステムにより得られた信号から、ノイズのパワースペクトルの評価を動的に行えるシステムを構築するため、ローパスフィルター、前置ローノイズ増幅器、LCRメーターとPCを組み合わせて、LabViewにより、コントロール可能なソフトを作成している。現在のところ、パワースペクトルの算出に必要なノイズレベルの評価に苦労しており、システムの完成には至っていない。3)ずり流動下での測定に適した系として、高分子系が考えられる。上記のシステム構築と平行して、高分子系のとくに、ガラス状態でのエイジング現象を調べ、揺動散逸定理(FDT)の破れた状態で見られる特異なダイナミクスについての検討を重ねた。本研究では過冷却液体状態にある物質に対して、ずり流動を印加することにより、非平衡状態を実現し、そこでの揺動散逸定理(FDT)の破れを振動回路のノイズのパワースペクトルを測定することにより、実験的に検証する。さらに、解析パラメータとして決まる有効温度を評価し、非平衡状態での`温度'としての可能性を検討することを目的としている。このような目標実現に向けて、昨年度の経過を踏まえて、今年度は以下の手順で研究を進めた。1)ずり流動下での電気測定、特に、誘電測定が可能なシステム構築のため、現有備品である動的弾性装置を改良し、振動ずり変形下での誘電測定が可能なシステムを昨年度構築した。このシステムは振動ずりのみ印加可能であったので、この装置を改良することにより、定常ずり(回転的なずり変形)が印加可能なシステムへと発展させた。現在、電気接点を調整し、ずり流動下での誘電測定実施の準備を行っている。2)揺動散逸定理の破れたガラス状態でのダイナミクスが示す現象であるエイジング現象を誘電測定により調べた。特に、ポリメタクリル酸メチルとポリスチレンにおいて、エイジングダイナミクスを明らかにするとともに、興味深いメモリー効果、若返り効果の存在を明らかにした。これにより、ガラス状態の性質の一部が明確になった。3)以上のような成果を踏まえて、ずり流動を印加した条件下でのノイズのパワースペクトルの評価による揺動散逸定理の破れの検証を試みているが、現在までのところ、ノイズレベルを超えて、その破れを主張できるには至っていない。このプロジェクトは本年度が最終年度であるが試料の調整などにより、有意なシグナルを得ることができるように、今後とも本研究を推進してゆく。
KAKENHI-PROJECT-16654068
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16654068
大腸癌及び肝臓癌に対するスフィンゴ脂質調節を介した新規治療法の開発
スフィンゴ脂質シグナルは種々の細胞機能に関与している。そこで、大腸がんの肝転移モデルをマウスで作成し、スフィンゴ脂質を調節する酸性スフィンゴミエリナーゼの役割を解析した。酸性スフィンゴミエリナーゼは腫瘍のマクロファージを増加させることにより抗腫瘍効果を示すことを見出した。この効果は、悪性黒色腫の肝転移モデルでも認められた。また、肝臓内のマクロファージは肝線維化や原発性肝細胞癌に対してもβカテニンシグナルを介して重要であることを見出した。スフィンゴ脂質はマクロファージの機能を調節しており、種々の病態の治療標的になりうることが示唆された。大腸癌は癌死の原因として我が国で女性で1番、男性で3番目に多く、患者数は年々増加している。切除不能大腸癌は現在の抗癌治療では予後不良であり、新規治療法の開発は急務である。酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)欠損マウスでは、SL4大腸がん細胞を門脈内に投与し作製できる肝転移巣が増悪し、反対に、ASMを肝臓に過剰発現することにより(アデノウイルスによる発現; AdASM)抑制された。ASM欠損マウスでは腫瘍内のマクロファージが少なく、また、マクロファージを消去したマウスでは、腫瘍増殖が増悪した。一方、骨髄由来細胞のみがASM欠損となったキメラマウスでは、腫瘍増殖に変化が認められなかった。このことから、腫瘍増殖に酸性スフィンゴミエリナーゼとマクロファージが重要であるが、マクロファージの酸性スフィンゴミエリナーゼはこのメカニズムに関与しないことが明らかとなった。そこで、どの細胞のASMが重要であるかを検討するため、ASMのFloxを作製した。骨髄由来細胞が候補ではなかったことから、肝細胞および線維芽細胞のASMが腫瘍増殖に影響するとの仮説のもと、肝細胞特異的ASM欠損マウスと線維芽細胞特異的ASM欠損マウスを現在作製している。SL4以外の癌細胞での検討では、B16C2M以外の細胞株では解析可能な肝転移巣は作製できなかった。発癌モデルについては、DEN投与によるモデルの予備実験が進行している。昨年度の研究において、マウスに高増殖性大腸癌細胞株を門脈内に投与すると肝臓に転移性腫瘍を形成したが、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損マウスに同様の処置を施したところ腫瘍の増殖が促進されることを明らかにした。そこで本年度は以下の項目について検討した(1)他の悪性腫瘍細胞において、上記と同様の結果が得られるかを検討した。(2)これまでの解析により転移先の実質細胞の酸性スフィンゴミエリナーゼが免疫細胞を介した転移性腫瘍の増殖に関わっている可能性が高い。そこでそれを証明するため、Cre-loxPシステムを用いた細胞特異的酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損マウスを作製する。(3)酸性スフィンゴミエリナーゼ過剰発現では縮小効果が予想され、さらに臨床応用が期待できる。そこで、アデノウイルスベクターを用いた過剰発現法を構築した。(4)原発性肝発癌と転移性肝腫瘍との差異について、特に線維化のメカニズムに着目して検討した。結果(1)悪性黒色腫細胞においても大腸癌細胞株と同様の結果が得られた(2)flox酸性スフィンゴミエリナーゼマウスは作製が完了し、今後、種々のCre発現マウスと掛け合わせることにより細胞特異的酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損マウスを作製する。(3)酸性スフィンゴミエリナーゼおよびスフィンゴシンキナーゼをアデノウイルスベクターにより過剰発現すると、腫瘍の縮小効果を認めた。(4)原発性肝細胞癌の場合、マクロファージや線維芽細胞の活性化は、腫瘍促進的に作用することが知られている。肝発癌の重要な因子として、Wnt/βカテニンシグナルが重要であることがしられている。そこで、まず、βカテニンシグナルの肝線維化に対する作用を検討したところ、四塩化炭素誘導性肝線維化はCBP/βカテニン阻害剤により抑制された。当初予定していた研究は実施できたが、得られた結果からは追加実験や、一部仮説の修正が必要であった。全体としては、研究はおおむね順調に進展している。昨年度までの研究において、マウスに高増殖性大腸がん細胞株を門脈内に投与すると肝臓に転移性腫瘍を形成したが、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損マウスでは腫瘍の増殖が促進され、そのメカニズムとして免疫細胞と線維芽細胞を介して腫瘍増殖にかかわることを見出した。また、この効果は大腸がん細胞株のみでなく、メラノーマ細胞でも観察された。原発性肝細胞癌についても免疫細胞と線維芽細胞が報告されている。原発性肝細胞癌を含め種々の悪性腫瘍でβカテニンシグナルが重要であることが報告されている。四塩化炭素誘導性肝線維化はCBP/βカテニン阻害剤より抑制することを見出し、そのメカニズムを検討した。CBP/βカテニン阻害剤は肝臓より単離した線維芽細胞の活性化を抑制し、肝臓内白血球におけるマトリックスメタロプロテアーゼの上昇させた。このことから、CBP/βカテニン阻害剤による抗線維化効果には、線維芽細胞の活性化抑制とマクロファージによる線維溶解の亢進が重要であることが示唆された。近年、脂肪肝を背景とした肝硬変が問題となっているが、マウスモデルによる検討では脂肪肝炎による線維化においてもβカテニンシグナルが重要であることを示唆する結果が得られた。
KAKENHI-PROJECT-26460965
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26460965
大腸癌及び肝臓癌に対するスフィンゴ脂質調節を介した新規治療法の開発
肝細胞癌に対しては、CBP/βカテニン阻害剤が腫瘍内の免疫細胞に作用することを示唆する結果が得られており、今後、βカテニンシグナルとスフィンゴ脂質シグナルを調節することによる新しい治療法の開発につながる結果が得られた。スフィンゴ脂質シグナルは種々の細胞機能に関与している。そこで、大腸がんの肝転移モデルをマウスで作成し、スフィンゴ脂質を調節する酸性スフィンゴミエリナーゼの役割を解析した。酸性スフィンゴミエリナーゼは腫瘍のマクロファージを増加させることにより抗腫瘍効果を示すことを見出した。この効果は、悪性黒色腫の肝転移モデルでも認められた。また、肝臓内のマクロファージは肝線維化や原発性肝細胞癌に対してもβカテニンシグナルを介して重要であることを見出した。スフィンゴ脂質はマクロファージの機能を調節しており、種々の病態の治療標的になりうることが示唆された。マウス作製や発がんモデルの検討など、当初予定していたよりも早く進展している。一方、得られた結果から仮説の修正が必要であり、全体としては研究はおおむね順調に進展していると考える。今年度の実験結果より、肝線維化にbeta-cateninシグナルが関与することが明らかとなった。今後は、線維芽細胞と腫瘍細胞の関連の中で、beta-cateninシグナルとスフィンゴ脂質シグナルがどのように関連しているのかを検討する予定である。肝臓病学引き続きマウス作製や発がんモデルによる検討を行う。また、研究結果よりbeta-cateninシグナルの関与が示唆され、当初の計画に加えて検討を行う予定である。論文化にあたり、予定外の実験を施行しなければならず、当該年度に施行予定であった実験の一部を、来年度にもちこすことにしたため。当該年度に施行予定であった実験の一部を、来年度に持ち越すことにしたため。次年度中に施行予定次年度中に使用予定
KAKENHI-PROJECT-26460965
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26460965
外国為替レート変動における不完全情報と学習効果の役割
第1の成果は、外国為替レートの変動における中央銀行の政策に対する市場参加者の不完全情報の役割を、動学的確率的一般均衡モデル(DSGE)の枠組みのなかで理論的に考察し、「金融政策ショックに対する為替のdelayed overshooting puzzle」を理論的に導出した。第2にDSGEモデルのベイズ統計的アプローチにより消費の習慣形成がある小国開放経済モデルの推定を行い、さらには周波数領域における新しい実証的評価方法を開発した。第3に地域間価格差における輸送費の役割を、日本の青果物卸売価格のマイクロデータを用いて分析し、過去の研究より大きな輸送費の役割を観察した。第1の成果は、外国為替レートの変動における中央銀行の政策に対する市場参加者の不完全情報の役割を、動学的確率的一般均衡モデル(DSGE)の枠組みのなかで理論的に考察し、「金融政策ショックに対する為替のdelayed overshooting puzzle」を理論的に導出した。第2にDSGEモデルのベイズ統計的アプローチにより消費の習慣形成がある小国開放経済モデルの推定を行い、さらには周波数領域における新しい実証的評価方法を開発した。第3に地域間価格差における輸送費の役割を、日本の青果物卸売価格のマイクロデータを用いて分析し、過去の研究より大きな輸送費の役割を観察した。今年度の当初の研究計画の目標は、「新しい開放マクロ経済学」(New Open Economy Macroeconomics : NOEM)として知られる動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルを、Gourinchas and Tornell(2004)の部分均衡モデルで考察された金融政策ショックに関する不完全情報と学習効果によって理論的に拡張することにあった。実際、今年度のかなり早い時点で、Gourinchas and Tornellの部分均衡モデルで考察されたような、各国の金融政策ショックの持続性に関し情報の不完全性が存在し市場が誤った信念を形成しているという状況を2国モデルに導入し、金融政策ショックの為替レートに関する一般均衡的効果を理論的に観察することができた。このとき過去の実証研究で示されているNOEMのパズルの一つである「金融政策ショックに対する為替のdelayed overshooting puzzle」を、モデルのパラメータの設定によっては理論的に導出できることを示した。しかしながら、もう一つのNOEMのパズルである「為替レートのdisconnect puzzle」をモデルから生成することができないことが明らかになった。それゆえ為替トレーダーとその他の経済主体間に金融政策ショックの構造に関する信念の異質性を認めたうえで動学的一般均衡モデルの解を導出することに着手した。2008年5月に共同研究者であるHafedh Bouakez准教授(HEC Montreal, Quebec, Canada)を客員研究員として招聘しこの方法を模索し始めたが、現在まで適切で妥当な解の導出に残念ながら至っていない。一方今年度の研究計画の一部である、ベイズ統計量と周波数解析を用いた動学的一般均衡分析の実証的評価方法の開発と応用は一定の成果をあげることができた。とりわけNOEMの一部である小国開放経済のDSGEモデルのベイズ推定の研究は、国際経済学におけるtop jounalであるJournal of International Economicsに採択され現在掲載予定である(下記研究発表の欄参照のこと)。またJames Nason博士(アトランタ連邦準備銀行)との共同研究である周波数解析を用いたDSGEモデルの実証的評価の研究は多くの各国中央銀行およびその研究会で報告されるに至り(下記学会発表の欄参照のこと在学術雑誌に投稿するための校正を重ねている。本年度は昨年度から研究を進めている為替トレーダーとその他の経済主体間に金融政策ショックの構造に関する信念の異質性(heterogeneous belief)が存在する動学的一般均衡(DSGE)モデルの解の導出に取り組んだ。誤った信念が学習効果(learning)を通じてDSGEモデルの中でどのように修正されてゆくか、また誤った信念が助長されてゆくメカニズムが存在するか理論的に考察するというのが本年度の当初の目的であったが、残念ながら現在のところ画期的な発見までには至っていない。一方本年度の研究計画の一部であるベイズ統計量と周波数解析を用いた動学的一般均衡分析の実証的評価方法の開発と応用には著しい進捗がみられた。James M.Nason博士(米国・フィラデルフィア連邦準備銀行)との共同研究である周波数解析を用いたDSGEモデルの実証的評価の研究では、通常の構造的ショックに対するインパルス応答関数の周波数領域における分解がDSGEモデルの実証的な識別における強力な統計量になっていることを示した。この統計量によっていわゆるニューケインジアンのDSGEモデルにおけるさまざまな実物的および名目的な硬直性のマクロ経済データにおける役割をベイズ評価したとき、それら硬直性の役割が特定の周波数領域と構造的なショックの種類(恒久的な技術ショックか一時的な金融政策ショックか)とに密接につながっていることが明らかになった。論文はアトランタ連邦準備銀行のワーキングペーパーとして出版され、また多くの各国中央銀行および大学(フィラデルフィア連銀、サンフランシスコ連銀、ジョンズ・ホプキンス大学、香港科技大学、大阪大学、慶応大学、東北大学等)での研究会で報告されるに至った。現在学術雑誌に投稿するための校正中である。本年度のもう一つの進展は、現在シドニー工科大学所属している加納和子博士と法政大学経済学部武智一貴准教授との実質為替レートおよび一物一価の法則に関する研究が大きく進展したことである(この研究は当初為替レートのパススルーに関するものだったが、一物一価の法則に関するものに修正した)。国際金融の分野では、同一財はおなし通貨で評価して同じ価格を持つという一物一価の法則が、実質為替レート決定の基礎となっている。
KAKENHI-PROJECT-20730205
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20730205
外国為替レート変動における不完全情報と学習効果の役割
従来一物一価の法則が満たされないのは非貿易財が主な原因だという既成概念があったが、個別商品の小売価格データを用いた最近の研究では、地域間で容易に貿易が可能であると考えられている商品でもこの一物一価の法則が満たされていないことが明らかになっている。その際一物一価の法則が満たされない要因の一つとして考えられているのが輸送費用の存在である。この輸送費用の重要性を実証するため、既存の研究では地域間価格差の絶対値を地域間距離で回帰する方法が採られており、通常統計的には有意だが非常に小さい係数(価格差の距離に対する弾力性)が確認される。つまり一物一価からの乖離を説明するうえで距離に比例する輸送費用は経済的にはあまり大きくないという推測が得られる。この共同研究の問題意識は、既存の回帰分析が財の貿易輸送をするかしないかという供給者の離散選択を無視しているという点にある。もし貿易輸送の離散選択が価格差同様に輸送費用に依存して決定されているとする。このとき価格差が観察できるかどうかは貿易輸送するかどうかに依存する。よって価格差の情報だけから輸送費用の推定を行うと、その推定はサンプルセレクションバイアスの影響を受ける可能性がある。それゆえこの共同研究の目的は、財の貿易輸送の離散選択を考慮しサンプルセレクションバイアスを除去し地域間価格差における輸送費用の役割を再考することにある。この目的のため、離散選択がある経済モデルを考察し、そのモデルの制約を課した上で計量経済学的なサンプルセレクションモデルを推定する。推定においては当該財の生産地と消費地およびそれらの地域での価格の情報が必要になるが、従来の研究が扱う小売価格データでは、これらの情報は入手できない。この共同研究の大きな特色は日本の青果物卸売市場価格の日次データを用いることにある。このデータの極めてユニークな点は青果物の産地と産地卸売価格および消費地の卸売市場価格が直接観察できることであり、輸送の離散選択を確認できることにある。現在データを使用しサンプルセレクションモデルの推定を開始している。いくつかの青果物で得られた現在時点での結果によると、従来の価格差の距離に対する弾力性の推定値よりはるかに大きい値を観察している。平成22年度の大きな成果は、昨年度から行っている東京大学経済学部特任研究員の加納和子博士と法政大学経済学部武智一貴准教授との一物一価の法則に関する共同研究が当初の予想以上に進捗し、その成果が「Exaggerated Death of Distance:Revisiting Distance Effects on Regional Price Dispersions」としてワーキングペーパーとして公刊することができたことである。
KAKENHI-PROJECT-20730205
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リン単体を直接用いる含リン複素環化合物の遷移金属触媒合成
P-P結合のみを有するリン単体を直接触媒的に利用する目的で、P-P結合に挟まれたリン原子の反応性を知るために、ポリホスフィンP-P-P結合の反応を開発した。ロジウム触媒存在下、シクロペンタホスフィン(PhP)5のPhP基を有機ジスルフィドS-S結合に挿入して、S-P-S結合を有する環状有機リン化合物を与える反応を見出した。加えて、(PhP)5の二つのP-P結合の触媒的切断交換を利用して、二種の複素環をリン原子上に有する非対称ビス複素環ホスフィンの合成法を開発した。この反応を基に、リンと同族元素である窒素を含むビス複素環アミンやウレアの触媒的合成に展開できた。また、(PhP)5とアルキンを反応させると、アルキンに三つのPhP基が付加したトリホスフェート化合物を与えることが分かった。即ち、ロジウム触媒を利用すると、(PhP)5の複数のP-P結合活性化が可能で、挿入・交換・付加反応によって多様な含リン環状化合物を合成できる。(PhP)5のロジウム触媒による活性化様式を調べた結果、二つのPhP基がロジウム上に配置したジフェニルジホスフェンロジウム錯体の生成を示唆する結果を得た。加えて、リンと同周期隣接元素であるイオウを含む有機イオウ化合物の変換反応を比較検討した。これまでに、イオウ単体とアルキンの反応は、ジチオロジウム錯体の生成を伴って1,4-ジチインを与えることを示した。今回、1,4-ジチインの触媒反応を調べた結果、sp2C-S結合切断を伴って、異性化反応とアルキン交換反応が進行することを見出した。ここでは、ジチオラートロジウム錯体の生成を経由する。即ち、有機リン・イオウ化合物の活性化様式と反応性は類似することが分かった。これらのポリホスフィンP-P-P結合の触媒的変換反応は、P-P結合のみをもつリン単体を直接用いる新規含リン環状化合物の合成のための重要な知見である。リン単体を直接利用する有機リン化合物の高効率合成法を開発する目的で、リン原子同士に挟まれたリン原子の反応性を知るために、ポリホスフィンP-P-P結合の触媒的変換反応に着目した。今回ロジウム触媒存在下、ペンタフェニルシクロペンタホスフィン(PhP)5のフェニルホスフィニル基をジスルフィド化合物S-S結合に挿入して、S-P(Ph)-S結合を有する有機リン化合物を与える反応を開発した。ロジウム触媒は、(PhP)5の2つのP-P結合を切断して、2つのP-S結合を形成する。これまでに、(PhP)5から有機リン化合物を触媒的に合成した例は知られていない。本法は、ジセレニドや様々な環状ジスルフィド化合物に適用できた。加えて、ロジウム錯体による(PhP)5の活性化様式を調べる目的で、嵩高いイソシアニドを添加して安定化した錯体を単離した。その結果、二つのPhP基がロジウム金属上に配置したジフェニルジホスフェンロジウム錯体の生成を示唆する結果を得た。加えて、テトラアルキルジホスフィンと複素環スルフィドを用いて、ジアルキル複素環ホスフィンの合成法を開発した。ジアルキル芳香族ホスフィン類は、医薬品の部分骨格や助燃剤等の機能性材料、配位子として利用されるが、芳香環を複素環に置換したジアルキルホスフィン化合物はほとんど合成例がない。ロジウム触媒を用いると、5員環および6員環の多様な複素環にジアルキルホスフィニル基を導入可能で、これまでに合成例のない新規ジアルキル複素環ホスフィン類を簡便に合成できた。本研究の過程で、複素環ホスフィンと複素環スルフィド間の変換はロジウム触媒条件下平衡であり、適切な条件を選択すると平衡制御して相互変換できることも示した。即ち、生じたジアルキル複素環ホスフィンにジスルフィドをロジウム触媒下反応させると、複素環スルフィドに変換できた。本年度は、ジアルキル複素環ホスフィン化合物の合成研究を通して、複素環-リン結合生成をロジウム触媒的に行えることを示した。この成果をもとに、本ロジウム触媒を用いる複素環交換反応を利用して、二つの異なる複素環(HetArとHetAr')をヘテロ元素一原子(X)で連結した非対称ビス複素環HetAr-X-HetAr'化合物群の合成研究に展開できた。これまでに芳香環Ar基を有するAr-X-ArやHetAr-X-Ar化合物の合成法は確立されているが、非対称ビス複素環HetAr-X-HetAr'化合物群の合成例は、効率合成法がないために極めて少ない。本ロジウム触媒複素環交換反応を用いると、複素環芳香族エーテルと複素環ヘテロ元素アシル化合物から、非対称ビス複素環スルフィドやエーテルを簡便に合成できることが分かった。加えて、複素環芳香族エーテルとN-アシル複素環化合物を反応させると、ロジウム触媒的にC-N結合型ビス複素環化合物を合成できた。これらのロジウム触媒法はいずれも5員環および6員環複素環などの幅広い基質に適用可能である。最近、置換シクロペンタホスフィンと二つの異なる複素環化合物を反応させると、非対称ビス複素環フェニルホスフィンを与えることを見出した。非対称ビス複素環ホスフィンの合成例はこれまでになく、医薬品としての利用や新しいキラルホスフィンとしての利用が期待できる。
KAKENHI-PROJECT-17K19112
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K19112
リン単体を直接用いる含リン複素環化合物の遷移金属触媒合成
これに関連して、本研究で合成した非対称ビス複素環化合物の中から、認知機能改善薬の候補化合物を見出すことができ、現在構造展開研究を行っている。以上のように本研究では、有機リン化合物を触媒的に合成するための方法論を多様な有機ヘテロ元素化合物の合成法に適用できることを示し、当初の計画以上の成果をあげることができた。P-P結合のみを有するリン単体を直接触媒的に利用する目的で、P-P結合に挟まれたリン原子の反応性を知るために、ポリホスフィンP-P-P結合の反応を開発した。ロジウム触媒存在下、シクロペンタホスフィン(PhP)5のPhP基を有機ジスルフィドS-S結合に挿入して、S-P-S結合を有する環状有機リン化合物を与える反応を見出した。加えて、(PhP)5の二つのP-P結合の触媒的切断交換を利用して、二種の複素環をリン原子上に有する非対称ビス複素環ホスフィンの合成法を開発した。この反応を基に、リンと同族元素である窒素を含むビス複素環アミンやウレアの触媒的合成に展開できた。また、(PhP)5とアルキンを反応させると、アルキンに三つのPhP基が付加したトリホスフェート化合物を与えることが分かった。即ち、ロジウム触媒を利用すると、(PhP)5の複数のP-P結合活性化が可能で、挿入・交換・付加反応によって多様な含リン環状化合物を合成できる。(PhP)5のロジウム触媒による活性化様式を調べた結果、二つのPhP基がロジウム上に配置したジフェニルジホスフェンロジウム錯体の生成を示唆する結果を得た。加えて、リンと同周期隣接元素であるイオウを含む有機イオウ化合物の変換反応を比較検討した。これまでに、イオウ単体とアルキンの反応は、ジチオロジウム錯体の生成を伴って1,4-ジチインを与えることを示した。今回、1,4-ジチインの触媒反応を調べた結果、sp2C-S結合切断を伴って、異性化反応とアルキン交換反応が進行することを見出した。ここでは、ジチオラートロジウム錯体の生成を経由する。即ち、有機リン・イオウ化合物の活性化様式と反応性は類似することが分かった。これらのポリホスフィンP-P-P結合の触媒的変換反応は、P-P結合のみをもつリン単体を直接用いる新規含リン環状化合物の合成のための重要な知見である。ロジウム触媒が、ポリホスフィンの2箇所のP-P結合を同時に切断して有機化合物中に挿入してヘテロ元素-P結合やC-P結合を生成できることを明らかにした。置換シクロペンタホスフィン、環状ジホスフェート類やトリホスフェート類を合成して、ロジウム触媒的に含リン複素環化合物を合成する触媒法を多数開発する予定である。予備的に、置換シクロペンタホスフィンとアルキンを反応させると、フェニルホスフィニル基が付加した環状リン化合物を与えることが分かったので、これを継続して検討する。加えて、ポリホスフィンとロジウム錯体から生じる活性種ロジウムジホスフェートを別途合成する方法を確立できたので、本ロジウム活性種を用いて多様な不飽和有機化合物への付加や、有機ヘテロ元素化合物C-X結合との交換反応を検討して、多様な新しい含リン複素環化合物の合成を行う。ポリホスフィンの検討をもとにして、有機官能基を持たないリン単体のP-P結合を遷移金属触媒で活性化する反応条件を探索する。例えば、リン単体と高反応性の有機不飽和化合物としてベンザインとの反応を検討し、付加による芳香族ホスホール誘導体の合成を検討する。
KAKENHI-PROJECT-17K19112
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結晶場を利用した立体選択的反応の設計
結晶場を利用した立体選択的反応の設計を目的として、固体中で反応する種々の系について、反応系の設計、新規化合物の合成、結晶化、結晶構造解析、固相反応性の検討及びその解析を行い以下の成果を上げることが出来た。1)種々の芳香族ジアセチレン化合物を新しく合成し、これまでに研究されたものとの放射性重合活性を比較検討した。また、重合初期過程の機構を解明するため、放射線照射時間を種々変えた結晶試料につき構造解析を行った。現在その構造化学的分析を進めている。2)多くの非対称ジオレフィン化合物結晶は、結晶格子支配による〔2+2〕光付加環化反応によって、主鎖にシクロブタン環を有するポリマーを与える。新しく合成したジオレフィン化合物のチオエステル誘導体の中から、同族エステル誘導体と混晶を作るものを見出し、これを用いることによりはじめてトポケミカル重合による線状高分子量コポリマーを合成することに成功した。3)原子価拡張性を示す有機硫黄化合物のX線構造解析をもとに、立体選択的反応経路と分子設計との関連について検討し、スルフラン構造を経由するリガンドカップリング不斉反応に関与する化合物の絶対配置と反応経路の関連について明らかにした。またテトラアザチアペンタレン誘導体の結晶構造解析を行ない、12π電子系骨格の異常原子価硫黄化合物における分子内・分子間の相互作用を検討した。4)二分子膜における二次元配向場を、反応場や種々の機能場として利用する目的で、両親媒性化合物CnAzoCmN^+Br^-のティル部の炭素数(n)とスペイサー部の炭素数(m)の変化による配向制御を検討している。この化合物のとる典型的構造にはH-会合形態とJー会合形態の二つがありJー会合はm=5で最も安定であり、この時はキャスト膜だけでなく単結晶にまで成長しうること、Hー会合はmーn=2の時最も安定であり、m>nがHー会合となるための必要条件であることを見出した。結晶場を利用した立体選択的反応の設計を目的として、固体中で反応する種々の系について、反応系の設計、新規化合物の合成、結晶化、結晶構造解析、固相反応性の検討及びその解析を行い以下の成果を上げることが出来た。1)種々の芳香族ジアセチレン化合物を新しく合成し、これまでに研究されたものとの放射性重合活性を比較検討した。また、重合初期過程の機構を解明するため、放射線照射時間を種々変えた結晶試料につき構造解析を行った。現在その構造化学的分析を進めている。2)多くの非対称ジオレフィン化合物結晶は、結晶格子支配による〔2+2〕光付加環化反応によって、主鎖にシクロブタン環を有するポリマーを与える。新しく合成したジオレフィン化合物のチオエステル誘導体の中から、同族エステル誘導体と混晶を作るものを見出し、これを用いることによりはじめてトポケミカル重合による線状高分子量コポリマーを合成することに成功した。3)原子価拡張性を示す有機硫黄化合物のX線構造解析をもとに、立体選択的反応経路と分子設計との関連について検討し、スルフラン構造を経由するリガンドカップリング不斉反応に関与する化合物の絶対配置と反応経路の関連について明らかにした。またテトラアザチアペンタレン誘導体の結晶構造解析を行ない、12π電子系骨格の異常原子価硫黄化合物における分子内・分子間の相互作用を検討した。4)二分子膜における二次元配向場を、反応場や種々の機能場として利用する目的で、両親媒性化合物CnAzoCmN^+Br^-のティル部の炭素数(n)とスペイサー部の炭素数(m)の変化による配向制御を検討している。この化合物のとる典型的構造にはH-会合形態とJー会合形態の二つがありJー会合はm=5で最も安定であり、この時はキャスト膜だけでなく単結晶にまで成長しうること、Hー会合はmーn=2の時最も安定であり、m>nがHー会合となるための必要条件であることを見出した。
KAKENHI-PROJECT-01628003
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言語・時代・文化横断型の情報アクセスに関する研究
本研究では,近年急速に電子化が進んでいる過去の古い資料の有効活用を目的に,言語だけではなく時代や文化をも横断する情報アクセス技術を確立することを目標として研究を行った.具体的には「日本語古典史料のテキスト処理手法の開発」「人文系データベースの多言語統合検索システム」「伝統的モンゴル文字文書のディジタル図書館システム」「多言語Webページの作成支援システム」「確率モデルに基づく情報推薦手法」に関する研究を行った.本研究では,近年急速に電子化が進んでいる過去の古い資料の有効活用を目的に,言語だけではなく時代や文化をも横断する情報アクセス技術を確立することを目標として研究を行った.具体的には「日本語古典史料のテキスト処理手法の開発」「人文系データベースの多言語統合検索システム」「伝統的モンゴル文字文書のディジタル図書館システム」「多言語Webページの作成支援システム」「確率モデルに基づく情報推薦手法」に関する研究を行った.本年度は,本研究課題の最終目標である言語・時代・文化横断型の情報アクセスの実現に向けて,以下の3つの研究を中心に行った.1.古文並列コーパスを利用した時代横断対訳辞書の構築古文の現代語による検索および古文テキストマイニングの実現に必要となる現代語-古語間の対訳辞書を,重文とその現代語訳の並列コーパスから自動的に構築する研究を行った.『源氏物語』の原文とその現代語訳を用いた実験において,古文テキスト中に現れる固有名詞を除去することにより,除去しない場合と比較して精度が向上することが確かめられた.2.古典史料に対するテキストマイニングおよび可視化主に日記形式の古記録から人名・地名などの固有表現を抽出し,可視化する手法について研究を行った.平安時代の古記録『兵範記』の原文テキストから,人名とその人名が出現した日付の情報を抽出して時系列で可視化する手法および,人名と地名・建造物名の関係を時系列で可視化する手法を提案した.また,古典史料テキストに現れる二人の人物間の関係を,別の第三者を介した共起により推定する「推移的共起」を用いたテキストマイニング手法の提案および,抽出した人物関係の散布図による可視化を行った.3.多言語検索における言語横断キーワード抽出システムの構築Web上の多言語検索サービスにおいて,検索結果のリストから利用者が必要なページを見つけることを支援するため,スニペット(ページの抜粋)の翻訳に加えてページ中の重要なキーワードを自動抽出し,利用者に提示する手法について研究を行った.利用者による評価実験の結果,提案手法により検索結果の内容の把握が容易になることが確かめられた.本年度は,本研究課題の最終目標である言語・時代・文化横断型の情報アクセスの実現に向けて,以下の5つの研究を中心に行った。1.日本語古典史料のテキスト処理手法の開発言語資源に乏しい日本語古典史料のテキスト処理の手法として,文字Nグラム出現確率に基づく単語抽出手法について研究を行った.また,日本語古典史料を対象として,人名の共起関係を通した人物関係の推移の取得と可視化および人名・地名を通した人物関係の取得と可視化の研究を行った.2.人文系データベースの横断検索システム浮世絵のデータベースを対象として,国内外の複数のデータベースを横断検索する手法について研究を行った.3.伝統的モンゴル文字文書のデジタル図書館システムすでにインターネット上で公開している伝統的モンゴル文字文書のデジタル図書館システムについて,検索精度の向上および伝統的モンゴル文字文書のコンテンツ拡充を行った.4.多言語Webページの作成支援システムWebサイトの多言語化を支援する技術として,文章の構文や意味の情報を保存することによりWebページの翻訳を容易にし,多言語Webページの作成を支援するシステムの開発を行った.5.確率モデルに基づく情報推薦手法潜在的ディリクレ配分法(LDA)に基づく評判情報のトピックモデリングおよび確率的潜在意味解析(PLSI)を用いた文書分類およびその情報推薦手法への応用について研究を行った.最終年度である本年度は,本研究課題の最終目標の実現に向けて,以下の5つのテーマについて研究を進め,最終的な評価等を行った.1.日本語古典史料のテキスト処理手法の開発言語資源に乏しい日本語古典史料のテキスト処理の手法として,文字Nグラム出現確率に基づく単語抽出手法について研究を行い,名詞の抽出において一定の精度を得ることができた.また,日本語古典史料を対象として,人名・地名の共起関係を通した人物関係の可視化の研究を行い,人文系研究者による利用者評価実験を行った結果,概ね肯定的な評価を得ることができた.2.人文系データベースの横断検索システム浮世絵画像のデータベースを対象として,国内外の複数言語からなる異種データベースを横断検索する手法について研究を行い,実際に大英博物館,ボストン美術館,国立国会図書館などのデータベースを横断検索可能なプロトタイプシステムを完成させた.3.伝統的モンゴル文字文書のデジタル図書館システムすでにインターネット上で公開している同システムについて,モンゴル文字の研究者および一般利用者による評価実験を行った結果,システムの有用性および意義について非常に高い評価を得ることができた.4.多言語Webページの作成支援システムWebサイトの多言語化を支援する技術として,文章の構文や意味の情報を保存することで機械翻訳の精度を向上させ,多言語Webページの作成を支援するシステムを開発した.本研究の成果について,国際会議IMECS2012においてBest Student Paper Awardを受賞した.5.確率モデルに基づく評判情報の評価側面の推定トピックモデルによる評判情報の評価側面の推定手法について研究を行った.本研究の成果について,国際会議IMECS2012においてBest Student Paper Awardを受賞した.
KAKENHI-PROJECT-21700271
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観光客の属性と旅行形態が観光周遊行動に与える影響に関する研究
多様化する観光客の行動特性を把握し、的確な観光・交通政策の策定に資するべく、道路交通の経路選択や需要予測に関する研究を、観光研究に応用する方法が開発されてきた。本研究の目的は、観光客の属性および旅行形態が、その観光周遊行動に与える影響を定量的に明らかにすることである。そのために、第1に、JR京都駅と那覇空港の2箇所でのアンケート調査およびネットワーク調査によって、調査対象地を訪れる観光客の特徴、選好、行動意図の関係を計量分析で解明する。第2に、第1の分析結果に基づき、地域の活性化策と観光客の分散支援策を検討し、今後の観光振興のあり方を考察する。多様化する観光客の行動特性を把握し、的確な観光・交通政策の策定に資するべく、道路交通の経路選択や需要予測に関する研究を、観光研究に応用する方法が開発されてきた。本研究の目的は、観光客の属性および旅行形態が、その観光周遊行動に与える影響を定量的に明らかにすることである。そのために、第1に、JR京都駅と那覇空港の2箇所でのアンケート調査およびネットワーク調査によって、調査対象地を訪れる観光客の特徴、選好、行動意図の関係を計量分析で解明する。第2に、第1の分析結果に基づき、地域の活性化策と観光客の分散支援策を検討し、今後の観光振興のあり方を考察する。
KAKENHI-PROJECT-19K20573
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孤立クラスターにおける結合転換の確立とボレンの創製
金属結合クラスターの軌道エネルギーはWoods-Saxonポテンシャルの電子準位と良く対応し、一方、共有結合クラスターでは対応しなかった。Woods-Saxonポテンシャル中の電子は自由電子に相当し、このポテンシャルを使って、クラスターの金属結合を評価できることを明らかにした。また、Al13ーは正20面体クラスターが安定構造となり、B13ーは三角格子平面構造が安定になる理由を明らかにした。一方、ボレンの創製は、検討中に他の複数のグループにより報告があり諦めた。これに代わり、液体ボロン中の主たる結合が共有結合であることを発見した。これまで我々は、Al系およびB系固体中の正20面体クラスターにおいて、「金属結合ー共有結合転換」が起こることを提案し、実験と計算により、この概念を確立してきた。Si、Al、B等の孤立クラスターにおける「金属結合ー共有結合転換」や「π結合ーσ結合転換」の存在を提案し、確立することを目的とした。平成27年度の実施計画として、1)第一原理計算によるクラスターの結合性と安定性の評価を行い、併せて本研究目的と関連の深い、2)液体ボロンの結合状態の解析も行った。下記に、それぞれの研究成果について記述する。1)計算プログラムとしてGaussianを用い、基底関数は6-31G(d)または6-311+G(d)を、汎関数はB3LYPまたはPBE0を使った。クラスターの軌道エネルギーと比べる、金属結合クラスターの良い近似と考えられるWood-Saxonポテンシャルにおける電子準位を計算するため、球対称ポテンシャルにおける3次元シュレディンガー方程式を、極座標形式で計算するプログラムを作成した。典型的な金属結合クラスターであるAl13-のクラスター軌道と合うように、ポテンシャルのパラメーターを調整中である。2)液体ボロンは融点が2000°Cを超えるため、ルツボを使って溶かすことは難しい。宇宙技術として開発された靜電浮遊法を使って、液体ボロンを空中に静止させ、軌道放射光(SPring-8)を使ってコンプトン散乱実験を行った結果を解析した。その結果、液体シリコン中に残っている共有結合が17%であるのに対して、液体ボロン中には66%もの共有結合が残っていることが明らかになった。シリコンの場合、固体中の4配位のsp3共有結合は、液体中で配位数が大幅に増えることにより、大部分は金属結合に転換する。一方、固体ボロン中の配位数は6配位から9配位で、液体でも配位数はあまり増えず、共有結合が残ると考えられる。「1)第一原理計算によるクラスターの結合性と安定性の評価」に関しては、概ね順調に計算プログラムの作成が終わり、分子軌道エネルギーとの比較を行いつつある。一方、「2)液体ボロンの結合状態の解析」に関しては、予想外に解析が進み、大変興味深い結果が得られ、Physical Review Letters誌に、論文が掲載されたためである。この成果は、日経産業新聞や科学新聞等で報道され、東北大学多元物質科学研究所新機能無機物質探索研究センターのシンポジウムにも招待された。これまで我々は、Al系およびB系固体中の正20面体クラスターにおいて、「金属結合ー共有結合転換」が起こることを提案し、実験と計算により、この概念を確立してきた。Si、Al、B等の孤立クラスターにおける「金属結合ー共有結合転換」や「π結合ーσ結合転換」の存在を提案し、確立することを目的とした。平成28年度は、1)第一原理計算によるクラスターの結合性と安定性の評価を完成させ、2)安定性を確認したクラスターの水素吸蔵材料としての可能性を検討し、3)実験による純および水素化クラスターの創製を試み、4)固体表面上のBの一原子層(ボレン)の創製を検討した。下記にそれぞれの研究成果について記述する。1)平成27年度に引き続き、Wood-Saxonポテンシャルにおける電子準位でクラスター軌道を再現するためのパラメーターの調整を行い、再現に成功した。現在、成果を論文にまとめている。2)価電子総数が40個で安定な、Al13-、中心原子をN、Liで置換したAl12N+、Al12Li3ーへの水素の原子吸着、分子吸着の室温吸着圧と約90°C脱離圧を計算し、Al12N+の分子吸着が最も実用目標に近いことを明らかにした。3)水素化Bと同様に水素化Alの創製を試みたが成功しなかった。4)ボレンの創製を検討したが、複数の他のグループからすでに報告されたので創製を諦めた。5)平成27年度に、液体B中に多くの共有結合が残っていることを明らかにすることに成功し、すでに論文を出版しており、当初の計画以上の成果を得た。金属結合クラスターの軌道エネルギーはWoods-Saxonポテンシャルの電子準位と良く対応し、一方、共有結合クラスターでは対応しなかった。Woods-Saxonポテンシャル中の電子は自由電子に相当し、このポテンシャルを使って、クラスターの金属結合を評価できることを明らかにした。また、Al13ーは正20面体クラスターが安定構造となり、B13ーは三角格子平面構造が安定になる理由を明らかにした。一方、ボレンの創製は、検討中に他の複数のグループにより報告があり諦めた。これに代わり、液体ボロン中の主たる結合が共有結合であることを発見した。今後は、「1)第一原理計算によるクラスターの結合性と安定性の評価」に関しては、作成したプログラムで計算したWood-Saxonポテンシャルにおける電子準位と、各クラスターの分子軌道エネルギーを比較することにより、結合性と安定性の評価を行う。
KAKENHI-PROJECT-15K14106
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孤立クラスターにおける結合転換の確立とボレンの創製
さらに、四重極イオントラップを使い、水素化Alクラスターの創製を行う。また、固体表面上のBの一原子層(ボレン)の創製について検討を行う。材料物性学
KAKENHI-PROJECT-15K14106
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戦後的家族モデルと住宅計画 -家族をめぐる意思決定プロセスの分析-
本研究の目的は、戦後活発化した「住宅計画論」において、家族に関するイメージがどのようなものとして持ち出され、また住宅計画に関する議論においてどのようなレトリック的な効果を発揮したのかを明らかにすることにある。公団に代表されるようなnDKの間取りを内包した集合住宅は、核家族に象徴されるような戦後的な家族のありかたに適合的であったことがしばしば指摘されるが、本研究では、こうした戦後的な住宅の計画という段階の学術的な議論において、想定される家族のあり方がどのように言及されてきたのか、そしてとりわけそうした家族認識の妥当性がどのように担保されていたのかということに注目している。方法論的には住居をめぐる議論における「家族言説」の社会学的な分析を試みており、研究の手順としては、住宅計画をめぐる著作や論文といった文献サーベイを行うとともに、そこでの家族の言及のされかたに共通するものや特徴的なものがないか検討している。一年間の作業の結果えられた興味深い所見としては以下の二点があげられる。・「核家族」という語の使用:社会学においても「核家族」という訳語が定着するのは1960年代であるとされるが、住宅をめぐる議論においては1956年の住宅金融公庫をめぐる議論においてこの用語の使用が確認された。・住宅計画論と社会学との関り:戦後の住宅計画論に与えた影響が大きかったと思われる、西山夘三の住宅研究(とりわけ住宅営団所属期)において入口学や社会学といった領域での家族に関する知見の援用が認められた。本研究の目的は、戦後活発化した「住宅計画論」において、家族に関するイメージがどのようなものとして持ち出され、また住宅計画に関する議論においてどのようなレトリック的な効果を発揮したのかを明らかにすることにある。公団に代表されるようなnDKの間取りを内包した集合住宅は、核家族に象徴されるような戦後的な家族のありかたに適合的であったことがしばしば指摘されるが、本研究では、こうした戦後的な住宅の計画という段階の学術的な議論において、想定される家族のあり方がどのように言及されてきたのか、そしてとりわけそうした家族認識の妥当性がどのように担保されていたのかということに注目している。方法論的には住居をめぐる議論における「家族言説」の社会学的な分析を試みており、研究の手順としては、住宅計画をめぐる著作や論文といった文献サーベイを行うとともに、そこでの家族の言及のされかたに共通するものや特徴的なものがないか検討している。一年間の作業の結果えられた興味深い所見としては以下の二点があげられる。・「核家族」という語の使用:社会学においても「核家族」という訳語が定着するのは1960年代であるとされるが、住宅をめぐる議論においては1956年の住宅金融公庫をめぐる議論においてこの用語の使用が確認された。・住宅計画論と社会学との関り:戦後の住宅計画論に与えた影響が大きかったと思われる、西山夘三の住宅研究(とりわけ住宅営団所属期)において入口学や社会学といった領域での家族に関する知見の援用が認められた。
KAKENHI-PROJECT-11710117
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11710117
細胞毒素を利用した制がん研究への総合展開
微生物由来の細胞毒素パラスポリン-2(PS2)が、特定の培養がん細胞やヒト摘出がんに対してがん細胞特異的に作用し細胞破壊を引き起こす。本年度、PS2の受容体に関する基礎研究と担がんマウスへの腫瘍効果や動態を評価した。昨年度、PS2に特異的に結合する細胞因子としてHep27タンパク質(Hep27p)を同定したが、Hep27p発現のノックダウンでのPS2感受性の低下は観察されなかった。またHep27pのPS2低感受性細胞への発現ではPS2の結合や細胞毒性は見られなかった。しかし、Hep27p発現低下がん細胞では細胞増殖が著しく低下しており、がん抑制遺伝子として機能している可能性を見出した。一方、PS2の立体構造情報を精査し、4箇所に各々蛍光標識反応を行った。このうち1種類の蛍光標識PS2分子が効率的に細胞に結合するものの毒性が低下することがわかった。そこで、がん可視化や標的運搬体としての生体分子としての作用を明らかにするため、蛍光標識PS2をマウス尾静脈より投与し、24時間後の蛍光シグナルを観察した。この結果、蛍光はがん部に優位なシグナルが観察されたが、他の主要器官にはほとんど観察されなかった。よって今回、がん識別能力のあるPS2プローブを得ることができた。一方、昨年度の研究結果の再現性を得るため、腫瘍モデルマウスに対するがん局部へのパラスポリン-2の注射投与を行った。KLN205、Colon-26ともに約24時間以内で劇的な腫瘍の縮小が観察された。対照投与群との比較では、パラスポリン投与群マウスで腫瘍抑制がみられた。微生物由来の細胞毒素(パラスポリン-2)が、特定の培養がん細胞やヒト摘出がんに対してがん細胞特異的に作用し細胞破壊を引き起こす。本年度、パラスポリン-2の受容体に関する基礎研究と担がんマウスへの腫瘍効果や動態を評価した。まず、パラスポリン-2に特異的に結合する細胞因子としてHep27タンパク質を同定したが、これには3種のアイソファームを確認した。一方、マウスを用いた生体実験研究から、パラスポリン-2がマウス由来の培養がん細胞KLN205(肺がん)とColon-26(大腸がん)細胞に対して高い選択性を示すことがわかった。細胞をマウス(BALB/c ♂)皮下に注入し移植、腫瘍モデルマウスを作成した。がん局部へのパラスポリン-2の注射投与では、KLN205、Colon-26ともに約24時間以内で劇的な腫瘍の縮小が観察された。対照投与群との比較では、パラスポリン投与群マウスで腫瘍抑制がみられた。今回、食欲の不振と体重の減少が数日観察されるものの、目だった副作用はなく、組織化学的な所見では、がん細胞の広範な壊死などが観察されたが、正常周辺細胞への影響はほとんど観察されなかった。肝臓や腎臓をはじめとする各種組織器官へのダメージは検出されず、パラスポリンの分布もほとんど観察できなかった。よってパラスポリンはがん細胞に効果的に結合し破壊したと考えられる。一方、パラスポリンの立体構造情報を精査し、4箇所に各々蛍光標識反応を行った。ほぼ全ての分子で蛍光標識がみとめられ、この修飾分子を培養細胞に作用させたところ、3種類の蛍光標識分子が効率的に細胞に結合した。がん可視化や標的運搬体としての分子ツールを得ることができた。微生物由来の細胞毒素パラスポリン-2(PS2)が、特定の培養がん細胞やヒト摘出がんに対してがん細胞特異的に作用し細胞破壊を引き起こす。本年度、PS2の受容体に関する基礎研究と担がんマウスへの腫瘍効果や動態を評価した。昨年度、PS2に特異的に結合する細胞因子としてHep27タンパク質(Hep27p)を同定したが、Hep27p発現のノックダウンでのPS2感受性の低下は観察されなかった。またHep27pのPS2低感受性細胞への発現ではPS2の結合や細胞毒性は見られなかった。しかし、Hep27p発現低下がん細胞では細胞増殖が著しく低下しており、がん抑制遺伝子として機能している可能性を見出した。一方、PS2の立体構造情報を精査し、4箇所に各々蛍光標識反応を行った。このうち1種類の蛍光標識PS2分子が効率的に細胞に結合するものの毒性が低下することがわかった。そこで、がん可視化や標的運搬体としての生体分子としての作用を明らかにするため、蛍光標識PS2をマウス尾静脈より投与し、24時間後の蛍光シグナルを観察した。この結果、蛍光はがん部に優位なシグナルが観察されたが、他の主要器官にはほとんど観察されなかった。よって今回、がん識別能力のあるPS2プローブを得ることができた。一方、昨年度の研究結果の再現性を得るため、腫瘍モデルマウスに対するがん局部へのパラスポリン-2の注射投与を行った。KLN205、Colon-26ともに約24時間以内で劇的な腫瘍の縮小が観察された。対照投与群との比較では、パラスポリン投与群マウスで腫瘍抑制がみられた。
KAKENHI-PROJECT-20011007
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20011007
会社法における第三者保護制度の再検討――会社役員の対第三者責任制度を中心に
本年度の研究実績の概要は、以下の4点にまとめることができる。(1)平成29年度の会社法関係の重要判例を分析する機会を得たことから、当該分析の一環として取締役・監査役の対第三者責任に関する判例の分析を行った。任務懈怠の要件の位置づけが不明確な裁判例が最近においても少なくないこと、事実上の取締役に相当する者に対して端的に不法行為責任を認めた裁判例が存在すること等、本研究を進めるにあたって有意義な情報を得ることができた。当該分析の成果は2018年9月に公表済みである。(2)取締役の対第三者責任について他の研究者および実務家(弁護士)とディスカッションを行った。既存の判例法理についての問題意識およびあるべき法制度についての考え方を共有することができた。当該研究成果は2019年7月に公表される予定である。(3)会社補償およびD&O保険に関する会社法改正の議論をフォローし、対第三者責任への影響について考察した。今後さらに分析を深め、論文として公表する予定である。(4)取締役の対第三者責任制度と関連する法制度として、信託法における役員の連帯責任制度(信託法41条)について考察を行い、論文を執筆した。当該論文の中では、信託法41条を会社法429条1項の特則として理解しうること、および信託法41条の各要件の解釈論においては会社法429条1項の各要件の解釈論を応用することができることを論じた。同論文は2019年中に公表される予定である。対第三者責任制度について、様々な観点から分析・検討を深めることができたほか、研究成果の公表に向けても着実に準備を進めることができたため。次年度は、本研究の最終年度となるため、これまでの研究成果をまとめ、公表する予定である。ちょうど、7月に学術雑誌での論文掲載、10月に私法学会でのワークショップ報告の機会を得たので、それらを研究成果の公表機会の1つとして活用したい。あわせて、会社補償およびD&O保険に関して他の研究者および実務家との研究会において報告し、成果を公表する機会を得たので、それに向けても準備を進めたい。会社役員の対第三者責任規定(会社法429条1項)は、裁判において援用されることが非常に多い極めて重要な規定であるが、その趣旨や内容は必ずしも理論的に明らかでない。同規定の適用範囲を広く捉える判例法理は、その理論的正当性・整合性が疑わしいまま、第三者保護という理念の下、政策的に是認されてきたものである。しかし、内部統制システム構築義務違反などに基づき対第三者責任が広範に成立しうるようになり、また、取締役(会)の役割も変容しつつある今日においては、判例法理の政策的妥当性についても再検討の余地がある。本研究は、会社法における第三者保護のあり方に関して、会社役員等の対第三者責任制度を中心に、解釈論・立法論の観点から再検討するものである。会社役員の対第三者責任規定(会社法429条1項)は、悪意または重過失を要件としており、重過失概念の理解が重要となる。本年度は、(他の領域に関するものではあるが)同概念の意義が問題となった近時の裁判例を検討した。当該検討を通じて、同概念の意義・役割についての再検討が必要であるとの認識に至った。対第三者責任規定およびその関連規定における、重過失概念の内容については、次年度以降、具体的に検討したい。また、本年度は、アメリカ・ドイツにおける第三者保護制度の概要を調査した。その結果、アメリカ法に関しては、会社補償制度、ドイツ法に関しては不法行為法の分析が重要であるとの認識に至った。それらの詳細な調査・分析は、次年度以降進めていくことを予定している。当初の予定どおり、わが国の最近の裁判例および外国法(アメリカ法・ドイツ法)の概況を調べることができた。本年度の研究実績の概要は、次の3点にまとめることができる。第1に、会社役員の対第三者責任に関する近年の裁判例および学説の動向を調査し、整理・考察した。近年においては、同責任が様々な場面で問題となっていること、とりわけ会社役員の内部統制システム構築義務や監視義務と関連付けて問題となっていることが改めて明らかとなった。また、金融商品取引法上の会社役員の責任においても、こうした義務が問題となることが少なくないことも明らかとなった。第2に、現在進行中の会社法改正作業において主たる改正項目のひとつとされている会社補償制度について、アメリカ法(法律・判例・学説)の状況を調査し、考察した。今後は、当該考察をふまえて、引き続き法制審議会での議論をフォローしながら、今回の会社法改正において、会社補償制度がどのような形で条文化され、どのような解釈上の問題が生じるのか、そしてそれにどう対処すべきかを検討したい。第3に、オリンパス株主代表訴訟事件東京地裁判決について、判例解説を執筆する機会を得たので、同事件の経緯について調査し、判決内容を分析・検討した。同事件は会社役員の対会社責任に関するものではあるが、任務懈怠の内容やその判断方法、損害論(課徴金を損害賠償額に含めることの可否)、過失相殺などによる責任限定の可否など、対第三者責任においても参考となる点が数多く含まれており、本研究を進める上でも非常に有益であった。本年度も、前述のとおり、研究計画に比して相当程度の研究をおこなうことができたため。本年度の研究実績の概要は、以下の4点にまとめることができる。
KAKENHI-PROJECT-16K17026
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K17026
会社法における第三者保護制度の再検討――会社役員の対第三者責任制度を中心に
(1)平成29年度の会社法関係の重要判例を分析する機会を得たことから、当該分析の一環として取締役・監査役の対第三者責任に関する判例の分析を行った。任務懈怠の要件の位置づけが不明確な裁判例が最近においても少なくないこと、事実上の取締役に相当する者に対して端的に不法行為責任を認めた裁判例が存在すること等、本研究を進めるにあたって有意義な情報を得ることができた。当該分析の成果は2018年9月に公表済みである。(2)取締役の対第三者責任について他の研究者および実務家(弁護士)とディスカッションを行った。既存の判例法理についての問題意識およびあるべき法制度についての考え方を共有することができた。当該研究成果は2019年7月に公表される予定である。(3)会社補償およびD&O保険に関する会社法改正の議論をフォローし、対第三者責任への影響について考察した。今後さらに分析を深め、論文として公表する予定である。(4)取締役の対第三者責任制度と関連する法制度として、信託法における役員の連帯責任制度(信託法41条)について考察を行い、論文を執筆した。当該論文の中では、信託法41条を会社法429条1項の特則として理解しうること、および信託法41条の各要件の解釈論においては会社法429条1項の各要件の解釈論を応用することができることを論じた。同論文は2019年中に公表される予定である。対第三者責任制度について、様々な観点から分析・検討を深めることができたほか、研究成果の公表に向けても着実に準備を進めることができたため。引き続き、当初の計画に従い研究を進める予定である。平成30年度は、会社法429条の解釈のあり方および会社補償制度・D&O保険制度について、他の会社法研究者や会社法に精通した実務家と議論をし、その成果を公表する機会(公表は平成31年度となる予定である)を得たので、それに向けて準備を進めていきたい。次年度は、本研究の最終年度となるため、これまでの研究成果をまとめ、公表する予定である。ちょうど、7月に学術雑誌での論文掲載、10月に私法学会でのワークショップ報告の機会を得たので、それらを研究成果の公表機会の1つとして活用したい。あわせて、会社補償およびD&O保険に関して他の研究者および実務家との研究会において報告し、成果を公表する機会を得たので、それに向けても準備を進めたい。残額以下で必要な書籍等がなかったため、次年度使用額とした。ごくわずかな金額であり、書籍の購入等により使用する予定である。
KAKENHI-PROJECT-16K17026
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K17026
火山災害に対する防災意識の社会構造的要因に関する研究-誰と誰に何を伝えるか-
北海道駒ケ岳ならびに樽前山は、日本の活火山の中でも最も活動的な火山であるが、噴火の規模や推移は多様であり、迅速な避難が必要であることから、防災意識の涵養が求められる。そこで、住民意識調査と地域リーダーへの面接調査を実施した。駒ヶ岳調査は、駒ヶ岳周辺4町の住民から郵送法で439票(回収率=43%)の回答を、樽前山調査は、苫小牧市内危険の高い地区と低い地区2地区の住民から211票(回収率=42%)の回答を得た。地域リーダーへの面接調査は、12人を対象とした。主な知見を示すと以下の通りである。1.この15年間で防災意識も防災情報行動も向上している。2.駒ヶ岳小噴火ならびに2000年有珠山噴火への関心は高く、大半の人が周囲の人と話題にしているが、職場や同業者で話題になる率が高い。3.防災教育上の課題として、避難の判断を行政に依存していると思われる点、前回の噴火パターンへの拘泥や誤った周期説が流布してしまっている点等が見いだされた。4.防災情報行動にとって重要なのは、単に危険性を認知させたり、不安を高めるだけではなく、関心を高めることが必要である。5.防災情報行動は、噴火への関心の程度といった個人変数だけではなく、地域要因も関係していることを示している。6.地域凝集性の高い地区では、資源動員論でいうフレーム増幅戦略が、未形成な地域では、フレーム拡張戦略が採用されている。北海道駒ケ岳ならびに樽前山は、日本の活火山の中でも最も活動的な火山であるが、噴火の規模や推移は多様であり、迅速な避難が必要であることから、防災意識の涵養が求められる。そこで、住民意識調査と地域リーダーへの面接調査を実施した。駒ヶ岳調査は、駒ヶ岳周辺4町の住民から郵送法で439票(回収率=43%)の回答を、樽前山調査は、苫小牧市内危険の高い地区と低い地区2地区の住民から211票(回収率=42%)の回答を得た。地域リーダーへの面接調査は、12人を対象とした。主な知見を示すと以下の通りである。1.この15年間で防災意識も防災情報行動も向上している。2.駒ヶ岳小噴火ならびに2000年有珠山噴火への関心は高く、大半の人が周囲の人と話題にしているが、職場や同業者で話題になる率が高い。3.防災教育上の課題として、避難の判断を行政に依存していると思われる点、前回の噴火パターンへの拘泥や誤った周期説が流布してしまっている点等が見いだされた。4.防災情報行動にとって重要なのは、単に危険性を認知させたり、不安を高めるだけではなく、関心を高めることが必要である。5.防災情報行動は、噴火への関心の程度といった個人変数だけではなく、地域要因も関係していることを示している。6.地域凝集性の高い地区では、資源動員論でいうフレーム増幅戦略が、未形成な地域では、フレーム拡張戦略が採用されている。2002年10月に駒ヶ岳火山防災会議協議会の協力を受け、1,017名を対象に防災意識とその規定因と考えられる類似イベントや地域構造特性を調査した(回収率は43%)。15年前と比べて関心や不安は高くなっていることが実証された。67%が大噴火が近いうちに起こると考えている。毎日の暮らしの関心事の中で、83%が噴火を第1位か第2位にあげており、自宅が非常にあるいはかなり危険と、67%が考えている。その最大の原因は、96年からの一連の小噴火と2000年の有珠山噴火災害であり、家族や仕事関係、近所の人の間で話題となり、その結果関心や不安を高めている。防災ハンドブックも3分の2の人で活用されており、72%が関心を高めたと評価している。85%が配布時に毎回目を通しているが、半数はざっと目を通すだけであった。このため、危険区域については充分に伝わっているとは思われず、3割の人が知らないと回答している。また、予知の可能性については、虻田住民と比べると悲観的であり、先回調査よりも予知は不可能とする人が増加しており、これもパンフレットや講演会等防災教育の効果であると考えられる。そうでありながら、過半数が避難勧告待ちであり、火山性地震だけで避難する人は14%にとどまる。町内会役員に対する聞き取り調査でも、上記の傾向は確認されたが、地域差も存在した。詳細は15年度に実施するが、過去の災害が生々しく伝承されている地区ほど関心も高く、町内会長を支える防災リーダーの存在も大きいことが示唆された。昨年度の駒ヶ岳周辺住民の意識調査から、近隣集団や職場・同業者集団といった地域社会の中で、火山イベントについて伝達や解釈が行われていること、意識レベルが高い地域ほどその傾向が高いこと、が分かった。今年度は、その結果を深化、一般化させるために主に以下の2つについて調査、研究した。第1に、鹿部町にある別荘分譲地を対象地として、防災に関わる意識とそれを中心とする町内会活動を巡る対立構造とを調査した。この別荘分譲地は、別荘地として分譲されながら、高齢者を中心とする定住者が多くなり、しかも火砕流の危険性が極めて高い地域ながら購入後に始めてその危険を知らされた地区である。無関心派が多い中で、自衛のために組織化を志向する住民が住民組織を立ち上げながら、内部対立をはらみ組織変更を繰り返してきた。
KAKENHI-PROJECT-14580509
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14580509