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レーザーによる高時間分解能RPCの開発とその医用への応用
高時間分解能を持つ高抵抗電極板型チェンバー(RPC)の多層構造RPCを3gap(ガラスった.計測用ガスをAvalanche modeでAr(50)+C_4H_<10>(8)+C_2H_2F_4(87)+SF_6(5),Streamer modeではC_4H_<10>(8)+C_2H_2F_4(87)+SF_6(5)の混合ガスを使用して各々のモードでの時間分解能の測定を行った.3gapのガラス1mmではStreamer,AvaIanche modeでそれぞれ□=0.92,0.48nsec,ガラス2mmでは□=1.0,0.71nsecの時間分解能が得られた.また5gapでは1.14,0.76nsecが得られた.これらの実験より(1)Streamer modeでの時間分解能はStreamer生成のパルスの揺らぎが大きいことよりAvalanchemodeより低い値が得られ,(2)また時間分解能は電極間で荷電粒子により生成された電離クラスターの場所による時間のジッターにより決定され,このジッターは電極間隔が狭くなれば小さくなることが分かった.(3)さらにRPCの時間分解能は電極間を一定とすると電極間に挿入した局抵抗板(ガラス)の厚さにも比例することが分かった.さらに3gapRPCで時間分解能として0.48nsecが得られた.この値はRPCの値としては評価される結果であり,これらの知見から高時間分解能が要求されるPETへの応用が期待できる.高時間分解能を持つ高抵抗電極板型チェンバー(RPC)の多層構造RPCを3gap(ガラスった.計測用ガスをAvalanche modeでAr(50)+C_4H_<10>(8)+C_2H_2F_4(87)+SF_6(5),Streamer modeではC_4H_<10>(8)+C_2H_2F_4(87)+SF_6(5)の混合ガスを使用して各々のモードでの時間分解能の測定を行った.3gapのガラス1mmではStreamer,AvaIanche modeでそれぞれ□=0.92,0.48nsec,ガラス2mmでは□=1.0,0.71nsecの時間分解能が得られた.また5gapでは1.14,0.76nsecが得られた.これらの実験より(1)Streamer modeでの時間分解能はStreamer生成のパルスの揺らぎが大きいことよりAvalanchemodeより低い値が得られ,(2)また時間分解能は電極間で荷電粒子により生成された電離クラスターの場所による時間のジッターにより決定され,このジッターは電極間隔が狭くなれば小さくなることが分かった.(3)さらにRPCの時間分解能は電極間を一定とすると電極間に挿入した局抵抗板(ガラス)の厚さにも比例することが分かった.さらに3gapRPCで時間分解能として0.48nsecが得られた.この値はRPCの値としては評価される結果であり,これらの知見から高時間分解能が要求されるPETへの応用が期待できる.昨年度は下記の順序で実験を行った.(1)RPCの製作とガス気密容器の製作を行った.製作したRPCは極板の大きさは30cmx30cm,厚さ2mmのガラスを電極とし,極板間は2mmである.(2)PET用の位置分解能を得るため8chのストリップを有する読み出しストッリプ製作し,窒素レーザーを使用したとき,入射窓からの距離の関数として電離電子生成の分布を求め,それによる読み出しストリップの間隔や幅によるストリマー生成数を観測した.RPCからの読み出しストリップの製作と読み出し系(エレクトロニクス)の整備を行った.(4)ストリップから得られる信号を処理するオンラインプログラムの開発を行った.さらにGEANTシミュレーターで異なったγ線のエネルギーを入射したときの電極厚さによる光電子の効率のシミュレーションを行い,電離電子によるストリマーの電荷分布,時間分布をそれぞれADC, TDCを用いて測定するプログラムの開発を行いオンライン測定系の構築した.(5)窒素レーザーの整備と光学系の最適化の実験を行い,窒素レーザーによる2光子吸収過程で電離電子が生成される確認を行った.高時聞分解能を持つ高抵抗電極板型チェンバー(RPC)の多層構造即Cを3gap(ガラス1mm,2mm,間隔0.36mm)の2種類,5gap(ガラス1mm,間隔0.36mm)の1種類の計3種類を製作し,実験を行った。計測用ガスをAvalanche modeでAr(50)+C_4H_<10>(8)+C_2H_2F_4(87)+SF_6(5),Streamer modeではC_4H_<10>(8)+C_2H_2F_4(87)+SF_6(5)の混合ガスを使用して各々のモードでの時間分解能の測定を行った。3gapのガラス1mmではStreamer,Avalanche modeでそれぞれσ=0.92,0.48nsec,ガラス2mmではσ=1.0,0.71nsecの時間分解能が得られた.また5gapでは1.14,0.76nsecが得られた。これらの実験より(1)Streamer modeでの時間分解能はStreamer生成のパルスの揺らぎが大きいことよりAvalanche modeより低い値が得られ,(2)また時間分解能は電極間で荷電粒子により生成された電離クラスターの場所による時間のジッターにより決定され,このジッターは電極間隔が狭くなれば小さくなることが分かった。
KAKENHI-PROJECT-18540286
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18540286
レーザーによる高時間分解能RPCの開発とその医用への応用
(3)さらにRPCの時間分解能は電極間を一定とすると電極間に挿入した高抵抗板(ガラス)の厚さにも比例することが分かった。さらに3gap RPCで時間分解能として0.48nsecが得られた.この値はRPCの値としては評価される結果であり,これらの知見から高時間分解能が要求されるPETへの応用が期待できる。
KAKENHI-PROJECT-18540286
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18540286
サイトカインを標的とする強皮症の治療戦略
IFN-γ、IL-4、IL-17Aの各欠損マウスに、ブレオマイシン連日皮内投与による強皮症モデルを誘導した。このうち、IL-17A欠損マウスだけが有意に皮膚硬化が軽減した。IL-17Aの欠損により、白血球の皮膚浸潤やTGF-βやCTGFの発現が抑制された。ブレオマイシンの注射は、Th17細胞の分化を誘導し、皮膚におけるIL-17A発現を増強させた。皮膚の培養線維芽細胞は、IL-17Aの添加によりTGF-β、CTGF、コラーゲンの産生を増加させた。IL-17Aが、TGF-βやCTGFの発現を促進することにより、強皮症の線維化に関与している可能性が示唆された。ブレオマイシンを連日皮内注射して皮膚硬化を誘導する強皮症マウスモデルにおいて、Th1、Th2、Th17のそれぞれ代表的なサイトカインであるIFN-gamma、IL-4、IL-17Aの皮膚線維化への役割を明らかにする。このために、3つのそれぞれのサイトカインの欠損マウスにおいてブレオマイシン誘導性強皮症モデルを作成し、野生型との比較を行った。IL-17Aの欠損マウスでは皮膚硬化が有意に軽快した。一方で、IFN-gammaやIL-4の欠損マウスでは、野生型と差がみられなかった。次に、IL-17Aがブレオマイシン誘導性の皮膚の線維化にどのように作用しているか、その機序に関して検討した。ブレオマイシンの注射は、皮膚におけるIL-17AのmRNAの発現やタンパク量を増加させた。また、ブレオマイシンの注射は、脾臓におけるTh17細胞の増加、IL-17Aの産生を誘導することが明らかとなった。また、IL-17A欠損マウスの皮膚では、ブレオマイシンの注射により誘導されるTGF-betaやCTGFなどの線維化に重要な成長因子の産生が有意に低下していた。これらの結果から、ブレオマイシン誘導性強皮症モデルにおいて、IL-17AがTGF-betaやCTGFなどと協調的に線維化に関与しているものと考えられた。この結果は、皮膚の線維化においてIL-17Aの役割を示す斬新な知見と考えられ、今後の強皮症の病態解明と治療の開発に役立つものと思われる。IFN-γ、IL-4、IL-17Aの各欠損マウスに、ブレオマイシン連日皮内投与による強皮症モデルを誘導した。このうち、IL-17A欠損マウスだけが有意に皮膚硬化が軽減した。IL-17Aの欠損により、白血球の皮膚浸潤やTGF-βやCTGFの発現が抑制された。ブレオマイシンの注射は、Th17細胞の分化を誘導し、皮膚におけるIL-17A発現を増強させた。皮膚の培養線維芽細胞は、IL-17Aの添加によりTGF-β、CTGF、コラーゲンの産生を増加させた。IL-17Aが、TGF-βやCTGFの発現を促進することにより、強皮症の線維化に関与している可能性が示唆された。全身性強皮症患者のその後の症状の進行を予測する指標を検索するために、末梢血中において、さまざまなケモカインの濃度を、cytometric beads arrayにて測定した。その結果、初診時のCXCL8の濃度がその後の身体機能の低下と相関することが明らかとなり、病勢の予測に有用な可能性が示唆された。また、ブレオマイシン誘導性強皮症モデルにおける各サイトカインの役割をサイトカインの遺伝子欠損マウスを用いて検討したところ、Interleukin (IL)-17Aがinterferon-gammaやIL-4よりも炎症やそれに引き続く線維化に重要であることがわかった。IL-17A欠損マウスではリンパ球やマクロファージの浸潤が著明に減少していた。その機序として、IL-17Aは接着分子のひとつであるintercellularadhesion molecule-1 (ICAM-1)の発現誘導に関与している可能性が示唆された。また、IL-17A欠損マウスの皮膚でコラーゲン沈着が増加している機序についても検討した。ブレオマイシンの連日皮内注射により皮膚でのtransforming growthfactor (TGF)-betaやconnective tissuegrowthfactor (CTGF)などの線維化に重要な成長因子の発現が誘導されるが、IL-17Aの欠損により、それらの発現誘導が顕著に抑制されることが示された。<最終年度の成果>強皮症モデルであるタイトスキンマウスは、生後23ヶ月までに皮下を主体とする皮膚の肥厚を示す。今年度は、IL-17A欠損マウスを交配して、IL-17A欠損タイトスキンマウスを作成したところ、IL-17A欠損タイトスキンマウスでは、通常のタイトスキンマウスに比べて、皮膚の肥厚が有意に抑制されていた。また、in vitroでIL-17Aの線維化への役割を明らかにするために、ヒトの皮膚由来の線維芽細胞にTGF-beta1を添加してコラーゲンの産生をみる系において、IL-17Aを追加投与すると用量依存性にコラーゲンの産生が増加した。この培養線維芽細胞においてはTGF-beta1やCTGFが高発現しており、IL-17AはTGF-beta1やCTGFの発現を促進することによりコラーゲン産生を促進する可能性が示唆された。<研究機関全体の成果>初年度では、強皮症患者の病気の進行を予測するバイオマーカーとして血清中のCXCL8が有用であることを報告した。
KAKENHI-PROJECT-24591644
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24591644
サイトカインを標的とする強皮症の治療戦略
また、最終年度までにブレオマイシン誘導性強皮症のマウスモデル、タイトスキンマウス、in vitroの実験などから、IL-17Aが皮膚の線維化に重要であり、その機序としてはTGF-betaやCTGFと協調的に線維化に働いていることを明らかにした。これらの一連の結果から、IL-17Aを標的とした治療が強皮症に有用である可能性が示唆され、今後臨床応用へと発展させたい。全身性強皮症予定どおり、順調に研究成果が得られている。強皮症患者の血清中のケモカインの測定と解析は、予定通りに進行し、大変興味深い結果が得られている。また、マウスを用いた実験においても、ブレオマイシン誘導性強皮症モデルにおいて、IL-17Aが皮膚の線維化に重要であることがわかり、本研究の今後の発展性が見込まれる。今のところ研究は順調に進んでおり、最初の計画どおりに進めて行く。ブレオマイシン誘導性強皮症モデルにおけるサイトカインの役割を、in vivo、in vitroの検討により詳細に検討していく。また、タイトスキンマウスモデルにおいても、同様に遺伝子欠損マウスとの掛け合わせによって、各サイトカインの皮膚線維化への役割を検討していく。今年度は、前年度までに購入した試薬などを使うことが多く、使用額を少なく抑えることができた。これまで貯蓄のあった試薬もなくなってきており、また最終年度には高い試薬を使用する実験も控えているため、最終的には全額を使いきることになるものと思われる。平成24年度に予定していた皮膚硬化の病態解析に関するマウスの研究の一部を次年度に行う予定としたため、それに伴う費用は次年度に繰り越しとした。次年度は、マウスの飼育費に加えて、マウスの実験の解析に用いるPCR、ELISA、フローサイトメトリー、組織染色などの試薬や抗体の購入に用いる。他に、培養細胞の入手、維持やそれに関する実験の試薬の購入に使用予定である。
KAKENHI-PROJECT-24591644
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24591644
微小撹乱を用いた周期渦の効率的制御法の開発
2次元キャビティ流れに対して,フィードバック制御にもとづいた微小流速撹乱を付加することにより空力音の原因となる周期渦を制御する手法について数値流体解析により検討した.微小流速撹乱は,キャビティ下流エッジ付近の監視点の鉛直方向流速に一定の制御ゲインをかけ,上流エッジの撹乱源にフィードバックすることにより与えた.その結果,以下の知見が得られた.1.監視点流速に対して半周期遅れのフィードバック撹乱を付加すれば,制御ゲイン5%程度の微小な撹乱であっても,音圧レベルにして3040dB程度の極めて高い低減効果を得ることができる.2.半周期遅れのフィードバック撹乱付加時には,物体表面上の音源変動がほとんど消滅する.これは,撹乱付加により周期渦とは逆位相の変動成分が剥離せん断層に励起されるため,剥離せん断層における周期渦の形成が抑制されるのが原因である.3.一方,監視点流速に対して時間遅れのないフィードバック撹乱を付加した場合には,周期渦と同位相の変動成分が励起されるため,撹乱と周期渦が互いに強め合い,周期渦および空力音が増幅してしまう.これは一般のキャビティトーンに見られる空力音と周期渦のフィードバック増幅機構と同様なメカニズムが働くためである.4.5%の制御ゲインの他に,1%および10%の制御ゲインについて検討した.5%に比べて1%では一定の制御効果が現れるまでの時間が緩やかであり,10%では逆に急激に制御効果が現れるなど,ほぼ制御ゲインの強さに応じた効果が見られた.キャビティ周辺流れから発生する空力音について数値流体解析を行い,遠方場への伝播特性や物体表面での音源特性について検討した.さらに,微小流速撹乱をキャビティ周辺の剥離流れに付加することにより,空力音の原因となる周期渦の制御を試みた.その結果,以下の知見が得られた.1.キャビティ上流側エッジから剥離した流れが衝突する下流側エッジ付近の物体表面,あるいはキャビティ底面部などが空力音の主な音源となっている.2.周期渦が物体表面上を流下するキャビティ後流部は,強い音源変動は存在するものの,それらの音源は互いの発生音が打ち消し合うような分布特性をしており,実質的には音源としてほとんど作用しない.3.周期渦の放出周波数とその2倍の周波数の中間付近の周波数を有する微小流速撹乱付加により周期渦と同程度の強さの渦を励起し,それらを周期渦と干渉させることによって空力音を低減可能である,4.物体表面上の音源どうしの相関性の低下が,微小流速撹乱付加による空力音低減の要因となっている.またその他に,矩形断面周辺流れから発生する空力音とその音源特性についても検討し,物体角部への剥離流れの衝突が空力音発生において重要な役割をしていること,遠方場に伝播する空力音を低減するような負の音源が存在することなどが明らかとなった.2次元キャビティ流れに対して,フィードバック制御にもとづいた微小流速撹乱を付加することにより空力音の原因となる周期渦を制御する手法について数値流体解析により検討した.微小流速撹乱は,キャビティ下流エッジ付近の監視点の鉛直方向流速に一定の制御ゲインをかけ,上流エッジの撹乱源にフィードバックすることにより与えた.その結果,以下の知見が得られた.1.監視点流速に対して半周期遅れのフィードバック撹乱を付加すれば,制御ゲイン5%程度の微小な撹乱であっても,音圧レベルにして3040dB程度の極めて高い低減効果を得ることができる.2.半周期遅れのフィードバック撹乱付加時には,物体表面上の音源変動がほとんど消滅する.これは,撹乱付加により周期渦とは逆位相の変動成分が剥離せん断層に励起されるため,剥離せん断層における周期渦の形成が抑制されるのが原因である.3.一方,監視点流速に対して時間遅れのないフィードバック撹乱を付加した場合には,周期渦と同位相の変動成分が励起されるため,撹乱と周期渦が互いに強め合い,周期渦および空力音が増幅してしまう.これは一般のキャビティトーンに見られる空力音と周期渦のフィードバック増幅機構と同様なメカニズムが働くためである.4.5%の制御ゲインの他に,1%および10%の制御ゲインについて検討した.5%に比べて1%では一定の制御効果が現れるまでの時間が緩やかであり,10%では逆に急激に制御効果が現れるなど,ほぼ制御ゲインの強さに応じた効果が見られた.
KAKENHI-PROJECT-12750434
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12750434
架橋カーボンナノチューブにおける励起子-励起子消滅と光子相関
単一架橋カーボンナノチューブのフォトルミネッセンス分光および光子相関測定に取り組み、励起子ー励起子消滅過程の定量的な理解を深め、また、室温における単一光子発生の有無を検証した。架橋長さやカイラリティ依存性、そして励起強度の影響を調査し、シミュレーションと比較することで、励起子ー励起子消滅過程が励起子密度の三乗に比例するという一次元系特有の振る舞いを示すことを明らかにしたほか、室温でも二次の光子相関係数が0.5を下回ることを確認し、単一光子が発生していることを実証した。2014年度は、単一の架橋カーボンナノチューブにおける励起子-励起子消滅過程を定量的に理解するため、実験・計算・理論の全ての側面から、フォトルミネッセンスの励起強度依存性を調査した。シリコン基板にあらかじめ溝を加工し、化学気相成長法によって単層カーボンナノチューブを合成することにより、架橋カーボンナノチューブを得た。試料走査型分光顕微鏡を用いて、励起分光測定によるカイラル指数の同定と偏光測定による配光角の特定を行ったうえで収集した多数の単一ナノチューブの励起光強度依存性データを解析対象とした。実験的に確認したパラメーターを用いたモンテカルロ・シミュレーションを実行し、励起強度の関数として定常状態における平均の励起子数を求め、これを実験と比較することにより、炭素原子あたりの吸収断面積および発光量子効率に関する知見を得た。また、このシミュレーションから、高励起強度領域では励起子緩和は励起子-励起子消滅過程が支配的になっており、そのレートは励起子密度の三乗に比例していることが明らかになった。これは、二体散乱の頻度は密度の二乗に比例するという二次元以上の系とは異なる振る舞いで、一次元系に特有の依存性である。シミュレーションは実験結果とよく一致するため、単層カーボンナノチューブにおける励起子の拡散と散乱現象は強い一次元性を有することが確認できた。ここで、励起子-励起子消滅の頻度が三乗に比例していることを明示的に取り入れた解析的モデルを構築したところ、実験結果をよく再現できることが分かり、シミュレーションに頼らずとも簡易に励起子密度を推定することが可能となった。励起子-励起子消滅過程が光子相関に与える影響を調査するため、測定系の構築にも着手した。2015年度は、単一の架橋カーボンナノチューブにおける励起子-励起子消滅過程が光子相関に与える影響を調査するため、通信波長帯Hanbury-Brown-Twiss干渉計の構築に取り組んだ。励起光源としてフェムト秒チタンサファイアレーザー、検出器としてInGaAsアバランシェフォトダイオードを用い、これらの機器と光子相関計数器を接続して測定系を構築した。干渉計を構成するビームスプリッターから検出器までの光学系を、ナノチューブの評価に利用している顕微フォトルミネッセンス系に組み込み、評価後にそのまま光子相関測定を開始可能な測定系とした。検出感度を高めるために光学系を最適化したほか、実験系の安定性を向上させるために温度変化や気流の影響を減らす工夫を施した。また、自動測定を実行するためのソフトウェアを開発して長時間積算を可能とする試料位置追跡システムを実現した。その結果、単一の架橋カーボンナノチューブのフォトルミネッセンスにおいて、室温でのアンチバンチングの観測に成功した。また、実験的に確認したパラメーターを用いて励起子生成・拡散・再結合をモデリングしたモンテカルロ・シミュレーションにより、単一光子生成のメカニズムを調査した。集光したレーザー光の直径の範囲内で励起子を生成し、再結合するまで拡散させるが、二つの励起子の軌跡が交差した場合には片方を消滅させることで励起子-励起子消滅過程をモデル化した。シミュレーション結果では二光子相関係数に励起光強度依存性が確認されたほか、励起子拡散長および励起光の集光径にも依存性が見られた。本研究では本研究では単一の架橋カーボンナノチューブにおける光子相関測定を行い、その架橋長さやカイラル指数依存性、そして励起強度の影響を詳細に調査し、励起子ー励起子消滅過程による室温における単一光子発生の有無を検証することを目的としているが、昨年度に励起子ー励起子消滅過程を定量的に評価することを優先したため、今年度に光子相関測定系が構築できたものの、十分なデータの収集と解析までは至らなかったため。2016年度は、通信波長帯Hanbury-Brown-Twiss干渉計により単一の架橋カーボンナノチューブにおける光子相関のデータ収集を進め、モンテカルロ・シミュレーションと比較したほか、簡易な理論モデルにより実験データを説明できることを示し、単一光子発生機構を明らかにした。光子相関測定では、室温におけるアンチバンチングデータを収集した。励起光強度依存性を測定したところ、低強度では二光子相関係数が小さくなり、単一光子純度が向上することが観測された。一方、高強度でも相関係数が1に達することはなく、サブポアソン性を保つことが明らかになった。さらに、カーボンナノチューブの架橋長さが長いものや励起子拡散長の長いことが判明しているカイラリティでは相関係数が低いことも分かった。これらの実験結果をモンテカルロ・シミュレーションと比較したところ、整合性のある強度依存性・架橋長さ依存性・拡散長依存性が確認された。さらに、シミュレーションデータを利用して励起子数や消滅過程を調べることにより、励起子ー励起子消滅過程が支配的になるような条件下で単一光子が生成されやすいことが明らかになった。
KAKENHI-PROJECT-26610080
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26610080
架橋カーボンナノチューブにおける励起子-励起子消滅と光子相関
つまり、励起光の直径が小さく初期密度が高い場合や、拡散係数が大きく励起子同士の衝突確率が高い場合が単一光子発生に有利であることが分かった。また、長いカーボンナノチューブでは端部での緩和が抑制されるため、相対的に励起子ー励起子消滅過程の割合が大きくなり、単一光子純度が改善することも判明した。以上の結果を踏まえ、簡易な理論モデルを構築した。低励起強度では、初期励起子数が2以下であることを利用し、二光子相関係数を励起子ー励起子消滅確立を用いて表すことができた。また、高励起強度では発光強度が飽和することから、励起子数のゆらぎが強く抑制されていると考え、二光子相関係数と励起子数の関係を導くことができた。単一架橋カーボンナノチューブのフォトルミネッセンス分光および光子相関測定に取り組み、励起子ー励起子消滅過程の定量的な理解を深め、また、室温における単一光子発生の有無を検証した。架橋長さやカイラリティ依存性、そして励起強度の影響を調査し、シミュレーションと比較することで、励起子ー励起子消滅過程が励起子密度の三乗に比例するという一次元系特有の振る舞いを示すことを明らかにしたほか、室温でも二次の光子相関係数が0.5を下回ることを確認し、単一光子が発生していることを実証した。本研究では本研究では単一の架橋カーボンナノチューブにおける光子相関測定を行い、その架橋長さやカイラル指数依存性、そして励起強度の影響を詳細に調査し、励起子ー励起子消滅過程による室温における単一光子発生の有無を検証することを目的としているが、今年度は励起子ー励起子消滅過程を定量的に評価することを優先したため、光子相関測定系の構築には至らなかった。今後も引き続き光子相関のデータの収集を進め、モンテカルロ・シミュレーションと実験結果を比較することにより、単一光子生成機構を明らかにする。まずは励起光強度依存性を測定し、これを様々なナノチューブに対して行うことにより、架橋長さや拡散長による単一光子生成効率への影響を明らかにする。また、シミュレーション結果と実験データを比較して整合性を確認し、採用したモデルの妥当性を検証する。光物性・ナノデバイス物理今後も引き続き測定系の構築に取り組み、単一の架橋カーボンナノチューブに対する光子相関測定を実現する。その際、ナノチューブの評価に利用している顕微フォトルミネッセンス系に組み込み、評価後にそのまま光子相関測定を始められるように構築し、効率よくデータを収集できるようにする。検出感度を高めるため、光学系の最適化や長時間積算を可能とする試料位置追跡システムの実現にも取り組む。今年度の研究により、励起子ー励起子消滅過程の理解が深まったため、計算や理論を併用して光子相関測定を行う際の条件をあらかじめ推定する。今年度は単一の架橋カーボンナノチューブにおける光子相関測定を行うために測定系を構築し、系統的にデータを収集することにより励起子ー励起子消滅過程によって単一光子が発生していることを明らかにする計画であった。しかし、昨年度に励起子ー励起子消滅過程の解析を先に進めることを優先し、その後に光子相関測定系を構築することとしたため、今年度は十分なデータの収集と解析までは達成できず、未使用額が生じた。今年度は単一の架橋カーボンナノチューブにおける光子相関測定を行うために測定系を構築する計画であった。
KAKENHI-PROJECT-26610080
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26610080
複合金属錯体触媒によるオレフィンの選択的酸化反応の開発と有機合成への応用
現代の有機工業化学が必要とする合成反応は,位置および立体選択性が高度に制御された効率の良い触媒反応であることは言うまでもない.省資源,省エネルギーの観点に立ったこのような触媒反応の開発は,現代の合成化学者に課せられている一つの課題でもある.特に,還元反応に比較して酸化反応の制御は未だ充分に達成されているとは言い難い.本研究課題ではこうした観点から.オレフィンの不斉酸化および位置選択的酸化反応を実用性のあるプロセスに発展させることを目的とした.1.オレフィンの不斉アセタール化反応の開発と精密有機化学工業への展開パラジウム錯体と銅塩の複合系触媒を用い.分子内に不斉助剤を組み込んだメタクリルアミド誘導体の不斉アセタール化反応を検討した.その結果,本不斉反応は光学活性アルデヒド前駆体を効率良く,しかも高選択的に与えることを見い出した.この不斉アセタール化反応を応用して,第4世代の抗生物質として注目されている光学活性1β-メチルカルバペネム前駆体の合成法を開発した.本反応は大量スケールでの実施が可能で,光学活性アセタール化合物の新合成法となり精密有機化学工業への寄与が期待できる.2.オレフィンのアルデヒド体への位置選択的酸化反応の開発非水溶媒中でパラジウム錯体と銅塩等をヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)と組み合わせた複合系触媒を分子状酸素存在下で用い環状アミド骨格を持つアリル系化合物からアルデヒド体を選択的にが合成できる手法を見い出した.この反応系に水を加えると,アリルオレフィンの内部炭素が酸化されケトン体が得られた.このように酸化反応の位置選択性が逆転する現象はこの分野で例を見ない.アリル系オレフィンの酸化反応で二官能性化合物を得る既存の方法はなく,本法はオレフィンからアルデヒド体の新合成法となる.現代の有機工業化学が必要とする合成反応は,位置および立体選択性が高度に制御された効率の良い触媒反応であることは言うまでもない.省資源,省エネルギーの観点に立ったこのような触媒反応の開発は,現代の合成化学者に課せられている一つの課題でもある.特に,還元反応に比較して酸化反応の制御は未だ充分に達成されているとは言い難い.本研究課題ではこうした観点から.オレフィンの不斉酸化および位置選択的酸化反応を実用性のあるプロセスに発展させることを目的とした.1.オレフィンの不斉アセタール化反応の開発と精密有機化学工業への展開パラジウム錯体と銅塩の複合系触媒を用い.分子内に不斉助剤を組み込んだメタクリルアミド誘導体の不斉アセタール化反応を検討した.その結果,本不斉反応は光学活性アルデヒド前駆体を効率良く,しかも高選択的に与えることを見い出した.この不斉アセタール化反応を応用して,第4世代の抗生物質として注目されている光学活性1β-メチルカルバペネム前駆体の合成法を開発した.本反応は大量スケールでの実施が可能で,光学活性アセタール化合物の新合成法となり精密有機化学工業への寄与が期待できる.2.オレフィンのアルデヒド体への位置選択的酸化反応の開発非水溶媒中でパラジウム錯体と銅塩等をヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)と組み合わせた複合系触媒を分子状酸素存在下で用い環状アミド骨格を持つアリル系化合物からアルデヒド体を選択的にが合成できる手法を見い出した.この反応系に水を加えると,アリルオレフィンの内部炭素が酸化されケトン体が得られた.このように酸化反応の位置選択性が逆転する現象はこの分野で例を見ない.アリル系オレフィンの酸化反応で二官能性化合物を得る既存の方法はなく,本法はオレフィンからアルデヒド体の新合成法となる.パラジウム、ルテニウム、オスミニウム錯体等に各種金属塩を組み合せ、その相乗作用を利用しオレフィンの新規媒的酸化反応の開発を行うことを目的として,本研究では以下の点について検討した。1)非水溶媒中で、2価パラジウム錯体と銅塩やビスマス塩等をヘキサメチルホルアミド(HMPA)と組み合わせた複合系触媒を用い,各種オレフィンの分子状酸素による酸化について検討した.その結果,単純オレフィン,例えば1-デセン,はこの反応系を用いても容易に酸素化されることを見い出した.また,メタアクリルミアドの誘導体から選択的にアルデヒド体が合成できる手法をも開発した。2)分子内に、不斉助剤を基質に組み込んだメタクリルアミド体の不斉アセタール化を開発した.この不斉反応を利用して,光学活性アルデヒド体を効率良く合成する方法に関しては,現在検討を続けている3)アクリル酸エステル、スチレン等のオレフィン末端位をアミド求核体で官能基化する手法を開発した.上記の研究計画と関連して,この反応から合成できる光学活性エナミドオレフィンの不斉反応を検討したところ.アルキル化反応,マイケル型付加反応では充分な不斉収率は得られなかった.3)オスミニウム金属を用いたプロキラルオレフィンのエナンチオ面選択的ヒドロキシル化反応にイソオキサゾリジン体不斉配位子を適用した.その結果,触媒効率の向上が認められしかも良好な不斉収率で反応が進行することが判明した.4)ルテニウケ、ロジウム、鉄、オスミニウムなどの複合融媒系を用いオレフィンからヒドロキシケトンやエポキシドを簡易に合成する方法に関しては,現在検討を続けている.パラジウム、ルテニウム、オスミニウム錯体等に各種金属塩を組み合せ、その相乗作用を利用しオレフィンの新規触媒的酸化反応の開発を行うことを目的として、本年度は以下の成果を得た。
KAKENHI-PROJECT-04555206
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04555206
複合金属錯体触媒によるオレフィンの選択的酸化反応の開発と有機合成への応用
1非水溶媒中でパラジウム錯体と銅塩等をヘキサメチルホルアミド(HMPA)と組み合わせた複合系触媒を用い,環状アミド骨格を持つアリル系化合物からアルデヒド体を選択的に合成できる手法を見い出した。この反応系に水を加えると、アリルオレフィンの内部炭素が酸化されケトン体が得られた。このように酸化反応の位置選択性が逆転する現象は、この型の反応ではこれまでにない。2パラジウム錯体と銅塩の複合系触媒を用い、分子内に不斉助剤を組み込んだメタクリルアミド誘導体の不斉アセタール化反応を検討した。その結果、本不斉反応は光学活性アルデヒド前駆体を効率良く、しかも高選択的に与えることを見い出した。この不斉アセタール化反応を応用して、第4世代の抗生物質として注目されている光学活性1β-メチルカルバペネム前駆体の合成法を開発した。3オスミニウム触媒と光学活性イソオキサゾリジン配位子を用いるプロキラルオレフィンのエナンチオ選択的ヒドロキシル化反応の一般性について検討した。その結果、末端オレフィンからは、あまり高い不斉収率で光学活性ジオールを合成することができず、この点は今後の課題として残された。4塩化ルテニウム触媒を水-アセトニトリル-塩化メチレン溶媒中で用い、オレフィンを過酢酸で酸化してα-ヒドロキシケトンを簡易に合成する方法を開発した。この方法は、抗炎症作用を示すコーチゾンアセタートの新合成法となる。
KAKENHI-PROJECT-04555206
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エポキシ樹脂の硬化過程におけるメゾスコピックな空間不均一性と力学特性の相関
エポキシ反応系中では、重合・架橋反応の進行に伴う濃度揺らぎの凍結により、網目サイズよりも大きなスケールの空間不均一性も誘起されると考えられる。このようなメゾスコピックな空間不均一性を明らかにし、不均一性と巨視的な性質との関係の理解ができれば、エポキシ樹脂の新たな設計指針が提案できる。本研究では、エポキシ樹脂の硬化過程における不均一性を理解し、不均一性が巨視的な特性に与える影響を明らかにすることを目的としている。昨年度までに、粒子追跡法に基づきエポキシ反応系中の局所領域における物性とその空間分布を解析し、硬化過程において空間的な不均一性が発現することを明らかにしている。さらに、硬化過程で発現した空間不均一性が硬化物の巨視的な物性に影響を及ぼすことが示唆された。本年度は、不均一性が破壊特性に与える影響を検討するため、異なる硬化過程を経由して得たエポキシ樹脂の分子鎖熱運動性ならびに膨潤破壊挙動を評価した。その結果、高温で硬化したエポキシ樹脂ほどガラス転移温度近傍における動的不均一性が大きいことが示唆された。動的不均一性はガラス状態で凍結されるため、破壊挙動に影響を及ぼすことが予想される。そこで、異なる温度で硬化して得た樹脂を良溶媒に浸漬し、その膨潤破壊挙動を観察したところ、硬化温度が高いほど、破壊に要する浸漬時間が短いことが明らかになった。また、接着界面近傍の膜厚方向におけるエポキシ樹脂の不均一性の非破壊評価手法を確立し、界面近傍におけるエポキシ樹脂はバルクとは異なる組成であることを明らかにした。本研究では、エポキシ樹脂を用いて材料設計を行う場合、系全体の平均的な構造や物性のみならず材料中における構造・物性の不均一性にも着目する必要があることを明らかにした。得られた知見は、熱硬化性樹脂の新たな設計指針に繋がると考えられる。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。エポキシ樹脂の網目構造とその不均一性は、巨視的な力学物性と関係するため、散乱実験等に基づき広く研究されてきた。一方、エポキシ反応系中では、重合・架橋反応の進行に伴う濃度揺らぎの凍結により、網目サイズよりも大きなスケールの空間不均一性も誘起されると考えられる。このようなメゾスコピックな空間不均一性を明らかにし、不均一性と巨視的な力学物性との関係が理解できれば、エポキシ樹脂の新たな設計・開発指針が提案できる。平成28年度は、粒子追跡法に基づき、エポキシ反応系中の局所領域における物性とその空間分布を解析した。粒子追跡法は、試料中に分散させたプローブ粒子の熱運動を追跡し、その動きに基づき周囲媒体の局所物性を評価する手法である。具体的な項目と主な研究成果を以下にまとめる。1、エポキシ化合物とアミン化合物の反応過程を赤外分光測定に基づき評価した。その結果、第一級および第二級アミンの濃度は時間の経過に伴い、それぞれ、減少および増加した。その後、第三級アミンが増加し、12時間後に一定値に到達した。2、レオメーター測定に基づき、反応過程における混合物の粘弾性関数を評価した。その結果、第三級アミンの濃度が一定値に達する12時間後時間においても混合物は流動した。これは、系中には架橋によって形成された網目と未架橋の領域が存在することを示唆している。3、粒子追跡法に基づき、反応過程における混合物の局所物性を評価した。その結果、反応過程において、200nmの空間スケールの不均一性が生じ、その空間スケールは反応の進行に伴い減少することを明らかにした。以上の結果は、エポキシ化合物とアミン化合物の硬化過程において空間的な不均一性が発現すること、ならびに不均一性のサイズスケールは反応の進行に伴い減少することを示している。平成28年度は当初の計画に従って、エポキシ硬化過程における不均一性とその空間スケールの評価を実施し、エポキシ樹脂の硬化過程において空間的な不均一性が発現すること、ならびに不均一性のサイズスケールは反応の進行に伴い減少することを明らかにした。研究成果の一部は国際学会を含め複数の学会にて発表済みであり、現在、論文執筆中である。以上の理由により、期待通り研究が進展したと判断した。エポキシ反応系中では、重合・架橋反応の進行に伴う濃度揺らぎの凍結により、網目よりも大きなスケールの空間不均一性が誘起されると考えられる。このような空間不均一性を明らかにし、不均一性と接着特性との関係が理解できれば、樹脂系接着剤の新たな設計指針が提案できる。本研究では、エポキシ樹脂の硬化過程における不均一性を理解し、不均一性が接着特性に与える影響を明らかにすることを目的としている。初年度には、粒子追跡法に基づき、エポキシ硬化過程において空間的な不均一性が発現することを明らかにした。平成29年度は、異なる硬化過程を経由する樹脂の接着特性を比較することによって、硬化過程で生じる不均一性が樹脂の接着特性に与える影響を検討した。具体的な項目を以下に示す。1エポキシ樹脂は、エポキシ基およびアミノ基を有する化合物の反応によって得られる。プレ硬化条件が283 K、72時間および296 K、24時間の硬化過程を選択した。それぞれ低温条件および高温条件とし、いずれもプレ硬化後に373 Kで1時間加熱した。
KAKENHI-PROJECT-16J02835
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エポキシ樹脂の硬化過程におけるメゾスコピックな空間不均一性と力学特性の相関
反応過程を赤外分光測定に基づき評価した結果、低温条件におけるプレ硬化過程は、高温条件のそれと比較して反応速度が遅く、官能基の消費率は低かったが、373 Kで1時間加熱することによって、両条件における官能基の消費率が同じであることが確認された。2上記の条件で硬化した樹脂の網目構造を、溶媒膨潤法を用いたX線小角散乱測定に基づき評価した。その結果、硬化過程における散乱プロファイルは硬化条件に依存しなかった。これは、異なる硬化過程を経由した樹脂の網目構造はほぼ等しいことを意味している。3接着特性を、ダブルカンチレバービーム試験に基づき評価した。低温条件で硬化した樹脂の接着力は高温条件のそれと比較して大きくなった。これは、硬化過程の違い、すなわち空間不均一性が接着特性に影響を与えることを示唆している。平成29年度は、異なる硬化過程を経由するエポキシ樹脂を用いることによって、エポキシ樹脂の硬化過程で生じる空間不均一性が樹脂の接着特性に影響を与えることを明らかにした。研究成果の一部は国際学会を含め複数の学会にて発表済みであり、現在、学術論文として投稿準備中である。以上の理由により、おおむね順調に進展していると判断した。エポキシ反応系中では、重合・架橋反応の進行に伴う濃度揺らぎの凍結により、網目サイズよりも大きなスケールの空間不均一性も誘起されると考えられる。このようなメゾスコピックな空間不均一性を明らかにし、不均一性と巨視的な性質との関係の理解ができれば、エポキシ樹脂の新たな設計指針が提案できる。本研究では、エポキシ樹脂の硬化過程における不均一性を理解し、不均一性が巨視的な特性に与える影響を明らかにすることを目的としている。昨年度までに、粒子追跡法に基づきエポキシ反応系中の局所領域における物性とその空間分布を解析し、硬化過程において空間的な不均一性が発現することを明らかにしている。さらに、硬化過程で発現した空間不均一性が硬化物の巨視的な物性に影響を及ぼすことが示唆された。本年度は、不均一性が破壊特性に与える影響を検討するため、異なる硬化過程を経由して得たエポキシ樹脂の分子鎖熱運動性ならびに膨潤破壊挙動を評価した。その結果、高温で硬化したエポキシ樹脂ほどガラス転移温度近傍における動的不均一性が大きいことが示唆された。動的不均一性はガラス状態で凍結されるため、破壊挙動に影響を及ぼすことが予想される。そこで、異なる温度で硬化して得た樹脂を良溶媒に浸漬し、その膨潤破壊挙動を観察したところ、硬化温度が高いほど、破壊に要する浸漬時間が短いことが明らかになった。また、接着界面近傍の膜厚方向におけるエポキシ樹脂の不均一性の非破壊評価手法を確立し、界面近傍におけるエポキシ樹脂はバルクとは異なる組成であることを明らかにした。本研究では、エポキシ樹脂を用いて材料設計を行う場合、系全体の平均的な構造や物性のみならず材料中における構造・物性の不均一性にも着目する必要があることを明らかにした。得られた知見は、熱硬化性樹脂の新たな設計指針に繋がると考えられる。次年度は、異なる硬化過程を経由するエポキシ樹脂の力学特性を比較することによって、エポキシ樹脂の硬化過程で生じる空間不均一性が樹脂の力学特性に与える影響について検討する予定である。エポキシ樹脂の力学特性は、ダブルカンチレバービーム(DCB)試験に基づき評価する。
KAKENHI-PROJECT-16J02835
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振動軌道上の鉄道車両の転覆・脱線実験,そのモデル化,および危険度解析
本研究では、地震時における鉄道車両の全安性を,ロッキング・脱線・転覆等の極限状態での挙動のみに的を絞り,この現象の挙動およびその発生条件を実験および解析により明らかにした.1.実験:車両模型のロッキング・転覆・脱線などの極限挙動を,ビデオ・変位計・加速度計等を用いて測定した.以下に示す条件を変化させ,これらの条件の極限挙動に及ぼす影響,および,極限挙動の発生時の入力に及ぼす影響を明らかにした.(1)振動台の加振振動数・振幅(2)車両の種類,載荷状態(3)停止または走行状態,走行速度(4)入力振動が定常正弦波,非定常な入力(5)車両のばね,リンク部分の剛性2.解析:次の3種類の車体モデルを用い、上記の条件を取り込んで,実験結果との適合性を十分に保つように,ロッキング・脱線・転覆のモデル化を行った.(1)車体と車輪との2つの剛体が剛結された二次元の角柱モデル.(2)車体と車輪との2つの剛体が非線形なばねで連結された二次元のモデル.(3)車体と2つの車輪との3つの剛体が非線体なばねで連結された二次元のモデル.尚,(1)(2)(3)のモデル共,ロッキング現象等を扱うため有限変位を考慮したものである。実験結果と解析結果との比較を行い,ロッキングおよび転覆の発生条件およびロッキングとヨ-イング挙動の説明を行った.また脱線の発生条件および挙動についても幾つかの知見を得た.以上得られた実験及び解析結果に基づいて研究成果をまとめた.本研究では、地震時における鉄道車両の全安性を,ロッキング・脱線・転覆等の極限状態での挙動のみに的を絞り,この現象の挙動およびその発生条件を実験および解析により明らかにした.1.実験:車両模型のロッキング・転覆・脱線などの極限挙動を,ビデオ・変位計・加速度計等を用いて測定した.以下に示す条件を変化させ,これらの条件の極限挙動に及ぼす影響,および,極限挙動の発生時の入力に及ぼす影響を明らかにした.(1)振動台の加振振動数・振幅(2)車両の種類,載荷状態(3)停止または走行状態,走行速度(4)入力振動が定常正弦波,非定常な入力(5)車両のばね,リンク部分の剛性2.解析:次の3種類の車体モデルを用い、上記の条件を取り込んで,実験結果との適合性を十分に保つように,ロッキング・脱線・転覆のモデル化を行った.(1)車体と車輪との2つの剛体が剛結された二次元の角柱モデル.(2)車体と車輪との2つの剛体が非線形なばねで連結された二次元のモデル.(3)車体と2つの車輪との3つの剛体が非線体なばねで連結された二次元のモデル.尚,(1)(2)(3)のモデル共,ロッキング現象等を扱うため有限変位を考慮したものである。実験結果と解析結果との比較を行い,ロッキングおよび転覆の発生条件およびロッキングとヨ-イング挙動の説明を行った.また脱線の発生条件および挙動についても幾つかの知見を得た.以上得られた実験及び解析結果に基づいて研究成果をまとめた.1.実験車両模型のロッキング・転覆・脱線などの極限挙動を、ビデオ・変位計・加速度計等を用いて測定した。以下に示す条件を変化させ,これらの条件の極限挙動に及ぼす影響、および、極限挙動の発生時の入力に及ぼす影響を明らかにした。(1)振動台の加振振動数・振幅(2)車両の種類(二軸、ボギ-車両)、載荷状態(重心の中心線からのずれ)(2)停止または走行状態、走行速度(3)入力振動が定常正弦波、非定常な入力2.解析次の2種類の車体モデルを用い、上記の条件を取り込んで、実験結果との適合性を十分に保つように、ロッキング・脱線・転覆のモデル化を行った。(1)車体と車輪との2つの剛体が剛結された二次元の角柱モデル(3自由度)。(2)車体と車輪との2つの剛体が非線形なばねで連結された二次元のモデル(6自由度)。尚、(1)(2)のモデル共、ロッキング現象等を扱うため有限変位を考慮したものである。実験結果と解析結果との比較を行い、ロッキングおよび転覆の発生条件および挙動の説明を行った。また脱線の発生条件および挙動についても幾つかの知見を得た。平成1年度の実験および解析に引続き,今年度は,更に複雑な場合に対して,検討を深める一方,平成1年度に行った実験および解析の精度を向上させ,結果をより明らかなものとした.1.実験:車両模型のロッキング・転覆・脱線などの極限挙動を,ビデオ・変位計・加速度計等を用いて測定した.以下に示す条件を変化させ,これらの条件の極限挙動に及ぼす影響,および,極限挙動の発生時の入力に及ぼす影響を明らかにした.(1)振動台の加振振動数・振幅(2)車両の種類,載荷状態(3)停止または走行状態,走行速度(4)入力振動が定常正弦波,非定常な入力(5)車両のばね,リンク部分の剛性2.解析:次の3種類の車体モデルを用い,上記の条件を取り込んで,実験結果との適合性を十分を保つように,ロッキング・脱線・転覆のモデル化を行った.
KAKENHI-PROJECT-01550358
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01550358
振動軌道上の鉄道車両の転覆・脱線実験,そのモデル化,および危険度解析
(1)車体と車輪との2つの剛体が剛結された二次元の角柱モデル.(2)車体と車輪との2つの剛体が非線形なばねで連結された二次元のモデル.(3)車体と2つの車輪との3つの剛体が非線形なばねで連結された三次元のモデル.尚,(1)(2)(3)のモデル共,ロッキング現象等を扱うため有限変位を考慮したものである.実験結果と解析結果との比較を行い,ロッキングおよび転覆の発生条件およびロッキングとヨ-イング挙動の説明を行った.また脱線の発生条件および挙動についても幾つかの知見を得た.以上得られた実験及び解析結果に基づいて研究成果をまとめた.
KAKENHI-PROJECT-01550358
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01550358
癌転移抑制分子Nm23-H1の分子間相互作用に基づく胃癌転移機構の解明とその制御
我々は癌転移抑制分子Nm23-H1の細胞内標的分子候補を見出してきた。Nm23-H1分子と標的分子の関わりを検討し、がん細胞がいかにして移動能を獲得し転移を可能にしたかを調べた。大腸がん、大腸腺腫症で発現しAPCにより活性化されるAsef2分子がNm23-H1の発現を認めない高転移性胃癌細胞株でその発現を認めた。Asef分子のGEF活性が優位になった結果がん細胞の運動能が亢進した。乳がん、膵臓がんの増殖・進展に関連するG3BP分子も結合標的分子であったが、結合強度に差があった。各G3BP分子は異なる機能を有することが知られ、共発現細胞では両分子が顆粒形成をして細胞質に共局在するのを認めた。今年度は、これまで申請者が準備段階でスキルス胃癌細胞株より見出した癌転移抑制分子Nm23-H1のパートナー分子のうちSPATA13(Asef2)分子とそのファミリー分子Asef1分子にについて物理的、生化学的性状における影響の解析を行った。標識付きNm23-H1およびAsef2, Asef1各遺伝子発現ベクターを用いて、in vitroおよびin vivoにおいて種々の検討を行い分子間の結合性、細胞内局在が一致することを確認した。また、高運動性を示す細胞へのAsef2, Asef1遺伝子の単独導入による運動能増強効果は弱く、一方でNm23-H1は強い運動抑制能を示した。Asef2-Nm23-H1, Asef1-Nm23-H1の組み合わせによる共発現では強い運動能抑制効果を認め、Nm23-H1の運動抑制能・癌転移抑制能を細胞レベルでの確認が得られた。しかし、Nm23-H1単独発現時と比べると運動能の回復を見たことから完全抑制ではなく、Asef2, Asef1の制御する他のシグナル経路の存在が示唆された。Asef2, Asef1の活性化因子であるAPC発現下では、Nm23-H1による細胞運動抑制からの強い回復を確認した。生化学的機能解析においてAsef2, Asef1はともに低分子G蛋白質Cdc42を活性化したが、Nm23-H1の共発現下ではCdc42の活性が抑えられた。内在性Asef2発現胃癌細胞株はCdc42が活性化されており、Nm23-H1の導入により活性が大きく抑制された。つまり、Nm23-H1によるAsef2細胞運動能の抑制・癌転移抑制の作用点は低分子G蛋白Cdc42の活性制御であると示唆された。現在これらの結果は論文投稿へ向け準備中である。高知大学から所属機関を異動することとなり、移動に関する時間がとられてしまったこと、投稿予定雑誌の規定の変更から修正等に時間がとられており若干の遅れを生じた。しかし、現段階での共著者間での話し合いで追加実験は済ませてあり、おおむね順調と考える。本研究は癌転移抑制蛋白質Nm23-H1の細胞内標的分子に対する相互作用および、その作用メカニズムの解明を目指している。今年度はNm23-H1の標的2分子との関係に関する投稿論文の修正及び評価者からの追加検証実験を実施した。検証実験は酵素蛋白質でもあるNm23-H1が及ぼす酵素活性について、1癌転移抑制蛋白質Nm23-H1による低分子Gタンパク質に与える影響、2標的分子の種々の細胞株における発現状況を検討、3Nm23-H1分子自身の酵素活性について検討を行った。細胞内においてNm23-H1分子との共発現により1は複数のGタンパク質分子が知られており、我々が以前より解析してきたCdc42に注目したところ、完全な変化を示すわけではなく、一部の変化に留まった。つまりNm23-H1が関わるシグナル経路は、我々が注目したCdc42以外の経路Rac1が並行して関わっていることを示唆すると結論付けた。2に関しては様々なタイプ、分化度の異なる胃がん細胞株のうち、入手できた細胞株に対して検討し、発現量の大小は認められたが、多くの細胞で標的分子の発現があることを確認した。3に関しては酵素活性レベルが安定せず、現在も検討中である。現在これら追加検討の結果を踏まえ論文修正を行っており、論文再投稿へ向け準備中である。胃がんは様々な分類・タイプがあり今後、分類別胃がん組織(病理検体標本を用いて)において両分子間の発現状況と特にがんの転移状況について検討してみたい。また、悪性度との相関関係、予後との相関関係などについても検討することを考えている。その他、本年度における研究業績は共同分担研究が主に発表成果となった。予備実験にて関連が示唆されていた、G3BP分子と癌転移抑制蛋白質Nm23-H1との相互作用及びその影響について解析を継続しており、予備実験結果通りこれら両分子は種々のin vitro, in vivo実験系において直接結合していることが各種結合確認実験にて証明できた。従って、両分子の物理的相互作用の証明は固まりつつある。しかし、1生化学的性状解析において、ファミリー分子間で細胞内発現量が一定せず、大きな差があることから、分解機構もしくは半減期に差があるのではないかと疑問に感じる結果となった。また。2分子機能解析において、G3BP分子や癌転移抑制蛋白質Nm23-
KAKENHI-PROJECT-15K08951
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K08951
癌転移抑制分子Nm23-H1の分子間相互作用に基づく胃癌転移機構の解明とその制御
H1分子の発現遺伝子を導入したクローンを作成し、胃癌細胞の運動性確認実験の準備が整っていたが、研究施設の変更による培養環境の変化及び保存環境の変化、もしくは上記の遺伝子発現量の差に付随する細胞死のシグナル経路の活性化が起こったことによる細胞死により作成クローンが死滅してしまった。現在これら死滅したクローン細胞株の再作製中であり、発現量の差が生じる原因・メカニズムについて同時に検討している。また、旧所属機関に在籍する研究分担者からの協力がなくなったことから、新たな研究協力者を育成するとともに、新たな協力者を探し、機器使用によりデータ収集と解析を円滑に進める。さらに、現所属機関において協力研究員として協力可能研究者を見出しており、主に病理学的解析やデータ収集での協力を得る予定である。そのため病理標本における検討を今後加えていく予定にしている。我々はMALDI-TOF-MSを用いた先行解析研究においてNm23-H1の細胞内標的分子候補を検索し、種々の分子を見出してきた。本年度は標的分子のうちG3BP2及びG3BP1分子に焦点を絞りその詳細について解析を進めた。G3BP2及びG3BP1分子はこれまで、すい臓癌、乳癌の悪性度との関連が示唆されていたが我々は、柳原博士により樹立されたスキルスタイプ胃がん細胞株HSC39からNm23-H1の標的分子として見出した。このことから、G3BP1、G3BP2分子が胃がんにおいてもその発現が認められるかを、種々の胃がん細胞株と高転移性・高浸潤性を示すスキルスタイプ胃がん細胞株で比較検討した。その結果1G3BP2分子はスキルスタイプ胃がん細胞株(HSC39, 58)や高分化型腺癌細胞株(HSC57)において発現していることを確認した。これは先のマウスにおける転移・腹膜播種能確認実験の結果と一致していたことから、G3BP1, G3BP2分子が高浸潤・高転移性に関わっていることが示唆された。しかし、ヒトの臨床検体での確認・検討にまで至らず、本研究が残した今後への宿題である。さらに、両分子間相互作用について検討したところ、2in vitro , in vivoにおいてNm23-H1分子とG3BPの3つのファミリー分子各々は物理的な結合性を示し、3核移行ドメインを有する各G3BP分子と細胞質に優勢的に局在するNm23-H1の結合性が細胞内においては、細胞質に広く共局在していることを確認した。特筆すべき点はG3BPの3ファミリー分子(G3BP1, G#BP2a, G3BP2b)の各単独発現では大きな違いは認めなかったが、Nm23-H1との共発現細胞ではG3BP1だけが大小多くの粒子を形成し細胞質全体に広がり、G3BP2分子とは異なっていた。G3BP1がストレス顆粒形成と関連していることから、Nm23-H1との共発現がストレス刺激となって形成された可能性が考えられた。我々は癌転移抑制分子Nm23-H1の細胞内標的分子候補を見出してきた。Nm23-H1分子と標的分子の関わりを検討し、がん細胞がいかにして移動能を獲得し転移を可能にしたかを調べた。大腸がん、大腸腺腫症で発現しAPCにより活性化されるAsef2分子がNm23-H1の発現を認めない高転移性胃癌細胞株でその発現を認めた。Asef分子のGEF活性が優位になった結果がん細胞の運動能が亢進した。乳がん、膵臓がんの増殖・進展に関連するG3BP分子も結合標的分子であったが、結合強度に差があった。各G3BP分子は異なる機能を有することが知られ、共発現細胞では両分子が顆粒形成をして細胞質に共局在するのを認めた。
KAKENHI-PROJECT-15K08951
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排尿障害を有する脳卒中患者における自立支援からみた排尿誘導法の有用性
回復期脳卒中患者に対する排尿援助の実態を明らかにするとともに、入院中の筋肉量の変化量の意義を示し、入院中の筋肉量の変化量を用いて、トイレ排尿誘導を行っていることの評価をした。入院中のADLの変化に入院中の筋肉量の変化量が関係していることが明らかとなり、看護援助の評価指標として筋肉量の変化量を用いることができると確認した。トイレ排尿誘導を実施しているか否かにより、入院中の筋肉量の変化量に有意な違いは認められなかった。少数での検討であったため、今後データ収集を重ねるとともに、より積極的に意図した能動的動作を取り入れた排尿誘導法の検討が課題であることが明らかとなった。回復期脳卒中患者に対する排尿援助の実態を明らかにするとともに、入院中の筋肉量の変化量の意義を示し、入院中の筋肉量の変化量を用いて、トイレ排尿誘導を行っていることの評価をした。入院中のADLの変化に入院中の筋肉量の変化量が関係していることが明らかとなり、看護援助の評価指標として筋肉量の変化量を用いることができると確認した。トイレ排尿誘導を実施しているか否かにより、入院中の筋肉量の変化量に有意な違いは認められなかった。少数での検討であったため、今後データ収集を重ねるとともに、より積極的に意図した能動的動作を取り入れた排尿誘導法の検討が課題であることが明らかとなった。本年度の研究では、多施設における排尿障害を有する回復期脳卒中患者に対する排尿援助についての実態調査を実施した。調査対象は、「2010年版近畿病院情報」(医事日報)をもとに近畿圏下の病院で、診療科にリハビリテーション科を有し、施設基準としてリハビリテーション(脳血管)のある病院のうち1/2等間隔抽出法により選定し、郵送許可の得られた病院に調査票を郵送した。267病院に調査票を郵送し、202病院(75.7%)から回収があった。排尿援助については、排尿日誌の活用が32.2%に止まる一方で、行動療法の実施は75.7%であり、多くの施設で導入されていた。中でも、時間排尿誘導法、パターン排尿誘導法が多く実施されていた。また、排尿援助を実施する職種として、看護師は99.0%と最高で、半数の施設では介護職者や看護補助者と協働して実施していた。以上の結果より、行動療法の実施割合にくらべ、排尿日誌の活用割合は半分以下であることが明らかになった。排尿日誌が用いられていない場合、排尿に関する情報を経時的に詳細に得ていないことが多く、患者の状態にあった行動療法の実施、実施による効果判定のためにも、排尿日誌の活用割合が、行動療法の実施割合により近づくことが望ましいと考えられた。また、排尿援助は、多職種と連携しながら実施に至っていることが示された。排尿行動が少しでも自立できるような排尿援助となるためにも、職種を問わず実施可能なエビデンスに基づいた共通のケア計画が必要であることが明らかになった。現在は、次ステップとして、排尿日誌の活用及び排尿誘導法のプログラムを作成中である。本研究は、自立支援、寝たきり予防の観点から排尿援助のあり方を示す研究として実施している。エビデンスに基づいた実践のためにも、本研究を続行する意義は大きいと考える。排尿障害のある脳卒中患者にとって、排尿の機会に、ベッド上でおむつ交換だけに終わることは、尿失禁の改善が得られにくいうえに、トイレに行くという生活上のリハビリテーションの機会を失うことになり、筋肉量やADL自立度の維持・向上を阻害する可能性があると考えられる。先行研究において、尿失禁のある患者に対して、排尿誘導法の実施が、尿失禁の改善につながることが示唆されている。また、研究代表者が行った研究において、自らの力で動作を行おうとする能動的動作を引き出す排尿援助をしている患者の方が、筋肉量が多い傾向にあった。そこで第一に、回復期脳卒中患者における入院中の筋肉量の変化量の意義を示すため、入院中の基本的ADL向上群と不変・低下群の間で、入院中の筋肉量の変化量に違いがあるか関係をみた。第二に、病棟で実施されている援助として、入院中の筋肉量の変化量を用いて、トイレ排尿誘導を行っていることの効果について検討した。1.入院中の筋肉量の変化量の意義入院中の基本的ADL向上群と不変・低下群の間で、入院中の非麻痺側下腿、および麻痺側下腿において筋肉量の変化量に有意差が認められ、基本的ADL向上群の方が低下群より、入院中の筋肉量の変化量が大きかった。また、非麻痺側下肢全体の筋肉量の変化量も同様に有意傾向を示した。入院中のADLの変化に入院中の筋肉量の変化量が関係していることが明らかとなり、回復期脳卒中患者における看護援助の評価指標として筋肉量の変化量を用いることができると確認した。2.入院中の筋肉量の変化量を用いたトイレでの排尿誘導病棟で実施されている援助として、トイレ排尿誘導を実施しているか否かにより、入院中の下肢筋肉量の変化量に有意な違いは認められなかった。少数例での検討のため、今後データ収集を重ねていく。また、より積極的に意図した能動的動作を取り入れた排尿誘導法の効果を検討していく必要がある。25年度が最終年度であるため、記入しない。25年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-22792294
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骨髄幹細胞の肝細胞分化誘導における微小重力環境の影響
今年度、我々は骨髄幹細胞から微小重力環境下に肝臓を分化誘導するための準備実験として、以前から行なっているhanging drop culture培養系でのembryoidbody(EB)を用いた、多能性を有する胚性幹(ES)細胞から肝細胞への分化誘導に関する研究を行った。hanging dropにて5日間培養してEBを作製した後、ES細胞の分化誘導を試み、肝細胞特異的に取り込まれるindocyanine green(ICG)試薬がES細胞由来の肝細胞の同定に有用であるかどうかを検討した。ICG陽性細胞は免疫組織化学染色でalbumin陽性を示す三次元構築をもつ細胞群として分化することを突き止めた。この細胞群をRT-PCRで解析したところ、肝細胞markerであるalbumin, α-fetoprotein, transthyretin, α-1-antitrypsin, glucose-6-phosphatase,および内胚葉マーカーであるHNF-3βの発現を認めた。さらに、電子顕微鏡を用いた形態学的解析では、細胞質内に多数のER, lysosomes, Golgiの存在が明らかとなったほか、cell-cell contact(desmosomes)およびbile canaliculusも確認された。さらに我々は、EBの培養日数を6日間に延長した実験系によりES細胞から蠕動運動能を有する腸管の分化誘導にも成功した。電気生理学的にも解剖学的にも(粘膜上皮、平滑筋、ICC、神経細胞)腸管特異的な特徴を有していた。発生学的に肝臓が原腸から分化することを考えると、これらの結果は今後、骨髄幹細胞から微小重力環境下に肝臓つくるという命題にとって大変重要かつ画期的な発見であると考えられる。現在、骨髄幹細胞を角いた実験の前に、マウスから分離した肝細胞を用いてSpheroidを作製し、微小重力環境における形態変化を分析中である。今後実験計画申請書に記したように、微小重力環境下に骨髄幹細胞からの肝臓の分化誘導を行い、重力が臓器分化誘導に及ぼす影響を検討したいと考えます。
KAKENHI-PROJECT-17790896
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新光延試薬を用いたsp^3炭素上での効率的炭素-炭素結合形成反応の開発
光延型反応に利用されている従来試薬(DEAD-Ph_3P)では反応しない,あるいは反応しにくいとされていた炭素求核種を活性化できる新試薬として,安定型ホスホランCMBP, CMMPを開発した.以下に,その研究結果を列挙する.1.CMBP, CMMPの合成法を確立するとともに,それらの特性を正確に評価した.その結果,pK_a値が23程度の求核剤も反応することを見いだした.2.新試薬を用いて,従来試薬では不可能だった(アリールメチル)フェニルスルホン類及び,(アリルメチル)フェニルスルホン類のアルコールとの縮合反応に成功した.3.本反応に際し,アルコール側の立体化学は完全にWalden反転した.4.本反応を用いピリジンアルカロイドやフェロモン誘導体の立体選択的合成法を開発した.光延型反応に利用されている従来試薬(DEAD-Ph_3P)では反応しない,あるいは反応しにくいとされていた炭素求核種を活性化できる新試薬として,安定型ホスホランCMBP, CMMPを開発した.以下に,その研究結果を列挙する.1.CMBP, CMMPの合成法を確立するとともに,それらの特性を正確に評価した.その結果,pK_a値が23程度の求核剤も反応することを見いだした.2.新試薬を用いて,従来試薬では不可能だった(アリールメチル)フェニルスルホン類及び,(アリルメチル)フェニルスルホン類のアルコールとの縮合反応に成功した.3.本反応に際し,アルコール側の立体化学は完全にWalden反転した.4.本反応を用いピリジンアルカロイドやフェロモン誘導体の立体選択的合成法を開発した.光延型反応に利用されている従来試薬(DEAD-Ph_3P)では反応しない,あるいは反応しにくいとされていた炭素求核種を活性化できる新試薬として,安定型ホスホランCMBP, CMMPを開発した.以下に,その研究結果を列挙する.1.CMBP, CMMPの合成法を確立するとともに,それらの特性を正確に評価した.その結果,pK_a値が23程度の求核剤も反応することを見いだした.2.新試薬を用いて,従来試薬では不可能だった(アリールメチル)フェニルスルホン類及び,(アリルメチル)フェニルスルホン類のアルコールとの縮合反応に成功した.3.本反応を用いピリジンアルカロイドやフェロモン誘導体の立体選択的合成法を開発した.光延型反応に利用されている従来試薬(DEAD-Ph_3P)では反応しない,あるいは反応しにくいとされていた炭素求核種を活性化できる新試薬として安定型ホスホランCMBP, CMMPを開発した.以下に,その研究結果を列挙する.1.CMBP, CMMPの合成法を確立するとともに,それらの特性を正確に評価した.その結果,pK_a値が23程度の求核剤も反応することを見いだした.2.新試薬を用いて,従来試薬では不可能だった(アリールメチル)フェニルスルホン類及び,(アリルメチル)フェニルスルホン類のアルコールとの縮合反応に成功した.3.本反応に際し,アルコール側の立体化学は完全にWalden反転した.4.本反応を用いピリジンアルカロイドやフェロモン誘導体の立体選択的合成法を開発した.
KAKENHI-PROJECT-13672244
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2001年インド西部大地震の総合的調査研究
地表地震断層調査班は震源域に分布する推定活断層沿いの地表地震断層の有無に重点をおいた航空機による観察と、変動地形の地上調査、および地震に伴って発生した亀裂についてのトレンチ調査を行った。その結果、地表地震断層は確認できず、Budarmora村北の活断層の延長上で発見されたプレッシュア・リッジは地盤の液状化を伴う亀裂と連動して発生した地滑りによって説明できることが明らかになった。余震観測班は2月27日3月6日までBhachauからRaparにかけての地域に8観測点を設置し、余震の観測を行なった。震源決定された余震はほとんどが1035kmの深さに分布し、本震の断層が地殻下部に達し、地表には突き抜けなかったことが強く示唆された。余震は全体的に南傾斜の面に分布しており、メカニズム解の二つの節面のうち、南傾斜の節面が断層面であることを示している。GPS観測班は2月中旬から3月上旬にかけて、14観測点で余効地殻変動の観測を行なった。5月中旬に実施された第2回目の観測との比較からは数cm程度の上下変動が認められた。被害調査班は3月413日にかけて、建物種別の被災度簡易評価によるMSK震度分布の推定、アンケート震度調査、Gandhidhamにおける建物の詳細被災度調査、組積造及びRC構造物の微動測定による振動特性評価、地盤・土木構造物の被害調査、人的被害と緊急対策の調査を実施した。その結果、Bhachauを中心に東西50kmの範囲で最大MSK震度10、震度分布は東西に長い楕円状となり、震央距離210kmのAhmedabadで震度6と推定された。死亡率はBhachau郡で6.5%、Bhuj郡では1.6%に達し、組積造住宅倒壊の影響が大きいこと、組積造の破壊パターン・周期等について知見が得られた。RC造の被害原因として壁率の少ない一階、不適切な補強筋量と施工が指摘され、1956年Anjar地震後に建設されたGandhidhamのRC造は設計施工が良好で被害小とわかった。現地における観測調査は2月18日3月13日にかけて行われ、現在資料の解析を行なっている段階であるが、現時点における各班の観測調査の概要は下記のとおりである。GPS観測班は2月18日に現地入りし、全14観測点(インド側受信機7台と日本側受信機7台を使用)の設置を21日までに完了した。引き続き観測網に対する24時間連続観測(30秒サンプリング)のメンテナンスを行い、連続観測は3月4日まで続けられた。地表地震断層調査班は震源域に分布する推定活断層沿いの地表地震断層の有無に重点をおいた航空機による観察と、変動地形の地上調査、および地震に伴って発生した亀裂についてのトレンチ調査を行った。その結果、地表地震断層は認定できなかったが、Budarmora村北で活断層上に位置する地盤の液状化を伴う亀裂についてはトレンチ調査を行なうことにより、主要な変形は地滑りよって説明されることが明らかになった。余震観測班は2月27日3月6日までBhachauからRaparにかけての地域に8観測点を設置し、余震の観測を行なった。予備的な結果によれば、余震の震源のほとんどが1030kmの深さに分布し、本震の断層がかなり深いことを示唆している。また、余震は全体的に南傾斜の面に分布しており、メカニズム解の二つの節面のうち、南傾斜の節面が断層面である可能性が高い。被害調査班は3月413日の10日間、現地において、町村の建物種別の被災度簡易評価によるMSK震度分布の推定、アンケート震度調査、Gandhidhamにおける建物の詳細被災度調査、組積造及びRC構造物の微動測定による振動特性評価、地盤及び土木構造物の被害調査、人的被害と緊急対策の実施状況に関する調査などを実施した。また、インド側の研究協力者と調査結果のとりまとめ及び今後の情報交換について協議するとともに、デリーの科学技術省、国立災害対策研究所、日本大使館を訪問し、調査結果の報告および研究交流のニーズについて意見交換を行なった。地表地震断層調査班は震源域に分布する推定活断層沿いの地表地震断層の有無に重点をおいた航空機による観察と、変動地形の地上調査、および地震に伴って発生した亀裂についてのトレンチ調査を行った。その結果、地表地震断層は確認できず、Budarmora村北の活断層の延長上で発見されたプレッシュア・リッジは地盤の液状化を伴う亀裂と連動して発生した地滑りによって説明できることが明らかになった。余震観測班は2月27日3月6日までBhachauからRaparにかけての地域に8観測点を設置し、余震の観測を行なった。震源決定された余震はほとんどが1035kmの深さに分布し、本震の断層が地殻下部に達し、地表には突き抜けなかったことが強く示唆された。余震は全体的に南傾斜の面に分布しており、メカニズム解の二つの節面のうち、南傾斜の節面が断層面であることを示している。GPS観測班は2月中旬から3月上旬にかけて、14観測点で余効地殻変動の観測を行なった。5月中旬に実施された第2回目の観測との比較からは数cm程度の上下変動が認められた。被害調査班は3月413日にかけて、建物種別の被災度簡易評価によるMSK震度分布の推定、アンケート震度調査、Gandhidhamにおける建物の詳細被災度調査、組積造及びRC構造物の微動測定による振動特性評価、地盤・土木構造物の被害調査、人的被害と緊急対策の調査を実施した。
KAKENHI-PROJECT-12800019
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12800019
2001年インド西部大地震の総合的調査研究
その結果、Bhachauを中心に東西50kmの範囲で最大MSK震度10、震度分布は東西に長い楕円状となり、震央距離210kmのAhmedabadで震度6と推定された。死亡率はBhachau郡で6.5%、Bhuj郡では1.6%に達し、組積造住宅倒壊の影響が大きいこと、組積造の破壊パターン・周期等について知見が得られた。RC造の被害原因として壁率の少ない一階、不適切な補強筋量と施工が指摘され、1956年Anjar地震後に建設されたGandhidhamのRC造は設計施工が良好で被害小とわかった。
KAKENHI-PROJECT-12800019
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食物繊維に対する消化管細胞応答の解明
腸管の絨毛を構成する上皮細胞は,タイトジャンクション近傍に存在するフィブロネクチンを介して水溶性食物繊維のペクチンの化学構造を認識すること,またその結果,α5β1インテグリンを介して細胞内に情報を伝達し,細胞表面に存在するヘパラン硫酸糖鎖の硫酸化構造を変化させていることを明らかにした。これは,食物繊維の機能性が,従来知られている分子のかさ高さによって発揮される物理化学的性質や,大腸における腸内細菌を介した二次代謝産物に起因するものに加え,直接的な細胞応答に起因する可能性を新たに示したものである。昨年度までに,フィブロネクチンがペクチンを認識する腸管上皮細胞局在タンパク質であること,さらにフィブロネクチンは食物繊維の化学構造を識別して特異的に結合していることを明らかにした。そこで今年度は,フィブロネクチンを介して細胞内に伝えられる情報を解析するため,腸管上皮細胞様モデル細胞としてCaco-2細胞を用い,ペクチンに対するCaco-2細胞応答の解析を行った。まず,Caco-2細胞にペクチンを与えた際の細胞内代謝産物の変化をメタボローム解析によって調べたところ,細胞内のポリアミン量が減少していることが示されたことから,ペクチンに誘導されるポリアミン代謝関連遺伝子の発現量の変化をリアルタイムRT-PCRを用いて解析した。ポリアミン合成に関与するODC遺伝子,ポリアミン合成を調節するOAZ遺伝子,ポリアミン分泌に関与するSSAT遺伝子,ポリアミン再合成に関与するPAO遺伝子にそれぞれ注目し,ペクチンを細胞に添加6時間後のトータルRNAを回収した後に解析した。その結果,ペクチンを添加すると,ODCとSSATの遺伝子発現量が増加し,PAO遺伝子の発現量が減少することから,ペクチンによってCaco-2細胞のポリアミン合成が誘導され,さらにポリアミンが細胞外に分泌されていることが示唆された。そこで次に,ポリアミンがペクチンの添加により細胞外に放出されているかを確かめるため,トランスウェルを用いた細胞培養によって培養上清を回収した後,塩化ダンシルを用いてポリアミンをダンシル化して標識し,HPLCによって分析した。その結果,ペクチン添加によって細胞外にポリアミンの一種であるスペルミジンが分泌されていることが示された。動物細胞表面に普遍的に存在するヘパラン硫酸(HS)が,さまざまな生理機能に関与することに着目し,腸管上皮細胞様モデルとしてCaco-2細胞を用い,ペクチン添加による細胞表面HS構造への影響を調べたところ,HSの硫酸化構造の大きな変化が認められた。さらに,この構造変化に影響を与える脱硫酸化酵素HS 6-O-endosulfatase(HSulf)に注目し,ペクチン添加時のCaco-2細胞内発現をリアルタイムRT-PCRにより確認したところ,Caco-2において発現するHSulf-2の発現が増加していた。そこで,Caco-2細胞におけるHSulf-2の発現誘導を指標として,ペクチンと相互作用する細胞外マトリクスタンパク質のフィブロネクチンとその受容体であるα5β1インテグリンが,ペクチンによる細胞応答に関与しているか検討した。すなわち,フィブロネクチンのペクチンとの結合部位であるIII1Cペプチドやフィブロネクチンのインテグリンとの結合部位であるRGDペプチドをペクチンと同時に添加すると,ペクチンによるHSulf-2の発現誘導に対して,それぞれのペプチドが抑制的に影響することが明らかとなり,ペクチンはこれらのタンパク質を介してHSulf-2の発現を制御し,ヘパラン硫酸の構造変化をもたらしていることが示唆された。さらに,小腸陰窩細胞のIEC-6細胞とCaco-2細胞とを用いて複合培養系を構築し,トランスウェルの分化Caco-2細胞のアピカル側にペクチンを添加すると,アウターウェルのIEC-6細胞の生育数が,ペクチンの濃度依存的に増加することを見出した。また,ペクチン添加時にCaco-2細胞内Wnt3aタンパク質の発現量が上昇すること,さらに,ペクチン添加によりCaco-2細胞表面のヘパラン硫酸の硫酸化構造は,Wntタンパク質に対して結合力を著しく減少させることを明らかにした。腸管の絨毛を構成する上皮細胞は,タイトジャンクション近傍に存在するフィブロネクチンを介して水溶性食物繊維のペクチンの化学構造を認識すること,またその結果,α5β1インテグリンを介して細胞内に情報を伝達し,細胞表面に存在するヘパラン硫酸糖鎖の硫酸化構造を変化させていることを明らかにした。これは,食物繊維の機能性が,従来知られている分子のかさ高さによって発揮される物理化学的性質や,大腸における腸内細菌を介した二次代謝産物に起因するものに加え,直接的な細胞応答に起因する可能性を新たに示したものである。今年度は,食物繊維を認識する腸管上皮細胞局在タンパク質の候補となるフィブロネクチンが,ペクチンと生理的条件下で相互作用するかを検討した。まず,ヒト小腸由来cDNAライブラリーを導入したファージディスプレイ法によって,プルーン由来ペクチンと相互作用することが明らかになったペプチドとの相同性にしたがい,フィブロネクチン・フラグメントIII領域を候補タンパク質とし,ペクチンとの相互作用を表面プラズモン共鳴法により解析した。タンパク質をセンサーチップに固定し,プルーン由来ペクチン,レモン由来ペクチン,ポリガラクツロン酸をそれぞれアナライトとして実験を行った。その結果,プルーン由来ペクチンとフィブロネクチンの解離定数は0.0006 mMと非常に強い相互作用を示すことが分かった。
KAKENHI-PROJECT-23580163
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23580163
食物繊維に対する消化管細胞応答の解明
一方,レモン由来ペクチンとの解離定数は2 mM,ポリガラクツロン酸との解離定数は38 mMと非常に弱いものであり,フィブロネクチンはプルーン由来ペクチンが有する特異的な構造に選択的に結合することが推察された。次に,フィブロネクチンどうしが結合することを利用し,固定されたフィブロネクチンに対して,ペクチンとフィブロネクチンを同時に添加することによる競合阻害実験を行った。その結果,プルーン由来ペクチンが最も強くフィブロネクチンどうしの結合を阻害し,レモン由来ペクチンやポリガラクツロン酸は高濃度でのみ阻害作用をすることが分かった。これにより,フィブロネクチンがプルーン由来ペクチンが特徴的に有する化学構造を認識していることが確認された。さらに,小腸上皮様モデル細胞のCaco-2細胞を用いて,フィブロネクチンの局在を調べたところ,基底膜側の主要な存在部以外にタイトジャンクションに一部局在しており,腸管に到達したペクチンは,タイトジャンクションに存在するフィブロネクチンと相互作用する可能性が示唆された。フィブロネクチンのレセプターとして知られている細胞表面のインテグリンが,ペクチンによる細胞応答に関与しているかについて今年度内に明らかにすることは出来なかったものの,ペクチンによる細胞応答としてポリアミン代謝関連遺伝子の発現量が変化すること,その発現量の変化から細胞外にポリアミン放出量が増加していることが示唆されること,そして実際に細胞外にポリアミンの一種であるスペルミジンの分泌量が増加していることを明らかにしたことは,Caco-2細胞においてペクチンを添加することで応答する代謝経路を解明するという研究の目的を達成したことにあたる。これは,本年度の当初の目標を十分に達成する結果が得られたと考えている。本研究は,健康食品素材として注目されている「食物繊維」が示す生理機能のうち,腸管上皮細胞への直接的な作用の結果もたらされる生体への影響を明らかにし,高齢化社会を脅かすさまざまな現代病から健康を守るための食材として,食物繊維が有効であるかを検証する科学的基盤の確立を目指している。本年度は,食物繊維(ペクチン)を認識する腸管上皮細胞局在タンパク質を同定するために,ヒト小腸由来cDNAライブラリーを導入したファージディスプレイ法によって同定されたペプチドに相同性のあるフィブロネクチンを候補タンパク質として,表面プラズモン共鳴法を利用し,まず食物繊維と相互作用するタンパク質の存在の検証を行った。その結果,生理的な条件下で,フィブロネクチンとプルーン由来ペクチンが相互作用する可能性が示唆されたこと,由来の異なるペクチンによってフィブロネクチンとの結合力が異なることから,細胞外マトリクスに存在するフィブロネクチンは,腸管内に摂取されたペクチンと構造特異的に相互作用する可能性が強く示された。これは,本年度の当初の目標を十分に達成する結果が得られたと考えている。これまでに,ペクチンとフィブロネクチンが構造特異的に相互作用することを示し,またCaco-2細胞を用いてペクチンによるポリアミン分泌が誘導されることを明らかにしてきた。そこで今後は,フィブロネクチンの細胞表面レセプターとして知られているインテグリンが,ペクチンに対する応答においても機能しているかについて,阻害剤を用いた実験等によって解明する。
KAKENHI-PROJECT-23580163
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23580163
授業の省察過程と教師の専門的成長に関する研究
本研究課題の第1の目的である「教師の省察」に関する研究に関して、1985年から近年での国内外での動向について、約110本の研究をレビューした。そこで明らかになった点の一つは、省察の概念の展開に伴う多義性の問題であり、特に国内での省察研究では技術的知に関する省察、省察の方法論は検討されているが、省察の認識過程自体や批判的省察の視点による研究がみられない点、また近年の米国での動向の一つに、フェミニズム教育学の視点から教師-生徒間の関係性やケアの視点からの省察の必要性が指摘されていること、また第2に初期の研究が教師個人の自己省察に焦点をあてた研究が多かったのに対し、近年はアクションリサーチによる研究がとりいれられ、学校-大学・教育委員会の連携により、個としての省察だけではなく、メンタリングやカンファレンスなど同僚生を軸にした省察過程の検討がなされていること、かつトップダウンではなく教師自らの声による省察の重視がなされていること、また第3に海外での省察研究では実習生や新任教員の省察を促す開発プログラムが進められているがわが国の実態を考えるならば中堅、熟練教員の省察を考えていく必要性を指摘した。また第2の目的としての教師の専門的成長に関しては、実践知としてのイメージに焦点をあて、第1研究では学生から熟練教師までを対象にし、教職経験年数とともに授業イメージが変容すること、第2に学生を対象に授業一般の授業イメージのみならず教科固有のイメージを検討し、その間には時には非一貫性が認められること、第3に教師間の授業カンファレンスにおける談話の分析からイメージが専門的な実践知の共有のための重要な役割を担っており、それが一つの教師文化を形成していることを明らかにした。本研究課題の第1の目的である「教師の省察」に関する研究に関して、1985年から近年での国内外での動向について、約110本の研究をレビューした。そこで明らかになった点の一つは、省察の概念の展開に伴う多義性の問題であり、特に国内での省察研究では技術的知に関する省察、省察の方法論は検討されているが、省察の認識過程自体や批判的省察の視点による研究がみられない点、また近年の米国での動向の一つに、フェミニズム教育学の視点から教師-生徒間の関係性やケアの視点からの省察の必要性が指摘されていること、また第2に初期の研究が教師個人の自己省察に焦点をあてた研究が多かったのに対し、近年はアクションリサーチによる研究がとりいれられ、学校-大学・教育委員会の連携により、個としての省察だけではなく、メンタリングやカンファレンスなど同僚生を軸にした省察過程の検討がなされていること、かつトップダウンではなく教師自らの声による省察の重視がなされていること、また第3に海外での省察研究では実習生や新任教員の省察を促す開発プログラムが進められているがわが国の実態を考えるならば中堅、熟練教員の省察を考えていく必要性を指摘した。また第2の目的としての教師の専門的成長に関しては、実践知としてのイメージに焦点をあて、第1研究では学生から熟練教師までを対象にし、教職経験年数とともに授業イメージが変容すること、第2に学生を対象に授業一般の授業イメージのみならず教科固有のイメージを検討し、その間には時には非一貫性が認められること、第3に教師間の授業カンファレンスにおける談話の分析からイメージが専門的な実践知の共有のための重要な役割を担っており、それが一つの教師文化を形成していることを明らかにした。本研究課題の第1の目的である「授業に関する省察と教師の成長の文献研究」に関しては、特に省察に関しては、1985年以降の文献、特に1990年以降の近年の欧米における動向を、本年度は主に検討した。そして、省察研究の教師教育への導入が、主に初任期の教育のあり方として検討されており、熟練教師のためにもこの概念をさらに検討することが必要である点、また実際の教育研究においてはVan Manen(1977)が指摘する省察の3レベルのうち、経験主義的・分析的視点からの研究が主となっており、解釈学的・現象学的水準、批判的・弁証法的水準からの研究が少ないこと、またShonの指摘する“reflection after action"の研究は多いが、“reflection in action"の研究が少ないことを明らかにし、現在この点を展望論文として整理し、執筆中である。さらに、わが国で行われてきている授業実践報告や研究紀要をこの概念枠組みから検討するため、現在文献の収集と分析を行っているところである。また、教師の専門的成長に関してはライフコース、生涯発達という視点から、教師の危機の問題を捉え、「学習評価研究」に執筆し発表した。第2の目的である「省察過程に関する実証研究」については、予備調査を行った。1人の熟練教師の授業を継続的にビデオ撮影し、授業後にそのビデオを再生しながら、筆者との面接を通して省察を行ってもらうことを2つの小学校2年生の国語の授業に関して行い、現在その授業ならびに省察の会話を言語資料として書き起こし、分析を行っており、本年度末までには、1論文として整理し発表する予定である。また教師の成長に伴う信念の変容に関する実証研究をまとめて「教育心理学研究」に執筆し、現在印刷中である。以上のように、おおむね順調に研究は進められている。本研究の第1目的である「授業に関する省察と教師の成長の文献研究」に関しては、近年の省察研究の動向をまとめ、「教育学年報第5巻」に発表した。また省察に関して、この発表論文よりもさらに、考えを深め、省察の内容枠組み、修辞枠組み、主体枠組みからなる筆者なりのモデルをまとめ、「児童心理」で、現在印刷中である。
KAKENHI-PROJECT-07610278
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07610278
授業の省察過程と教師の専門的成長に関する研究
本論文では十分に書ききれなかった部分をさらに深め、別論文として執筆を計画中である。また教師の成長モデルに関しては、新任期、初任期、中年期、熟練期各段階の特徴と発達課題を同じく、「児童心理」(印刷中)の3回の連載論文にまとめて発表した。本論文では省察主体として主に個人の教師が論じられているため、集団としての省察の必要性を論じた論文を「教育と医学」にその案を発表した。さらにこの点については来年度検討する予定である。また第2の目的である「省察過程に関する研究」に関しては昨年度収録したデータに関しては論文として執筆発表する準備段階にあり、またさらに1単元を通して一人の教師の省察過程を追うデータを収録し、そちらは現在整理中である。また実証データの一部に関しては日本心理学会の「熟達化研究の現在とこれから」というシンポジウムにおいて話題提供者としてその一部を公開発表した。以上のようにおおむね順調に研究は進められており、来年度には本年度までの実証研究を論文化し、まとめていく予定である。本研究の第1目的である「授業に関する省察と教師の成長の文献研究」に関しては、既に「教育学年報」、「児童心理」の連載論文でまとめたものをさらに整理することによって、「省察の内容枠組」をモデルとしてさらに精緻化し、教師の発達を職人モデルではなく、コミュニテティにおける同僚性モデルで考えることを提案し、コミュニティと教師文化が教師の成長を支えるという視点を「実践の創造と同僚関係」「教員としての成長を支援するために必要な視点とシステム」(いずれも印刷中)の2論文に執筆しまとめた。ただし両論文では紙数の制限から当該領域の近年の研究を網羅することができなかったため、90年代の実証的な省察研究を網羅して収集し方法論を軸に現在レビュー論文としてまとめており、投稿予定である。また第2の目的である「省察に関する研究」に関しては、実際に授業検討カンファレンスのデータを収集分析し、その結果の一部は「実践の創造と同僚関係」「授業をイメージする」(印刷中)の両論文に発表した。また98年7月開催予定の教育心理学会第40回総会において「教師の成長を考える」と題するシンポジウムを企画し、「教師の成長を支える同僚性」と題して具体的な分析結果を発表報告する予定となっている。当初に予定された研究のうち、教師と実習生の会話分析、教師達が行っている授業研究会の談話の収集分析に関しては予定通り進められた。ただし当初予定されていた教師の成長に関する質問紙研究に関しては、まだ実施することができなかった。報告書には含めることができないが、今後この研究を契機に実施する予定にはしている。
KAKENHI-PROJECT-07610278
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ジチオカルボン酸塩およびエステルを用いる大環状化合物の合成研究
これまで、ジチオカルボン酸誘導体の合成研究を行って来たが、本研究ではこれらの合成方法を応用して、特異性のある大環状化合物を得ることを目的とした。活性メチレン化合物あるいはスルホンアミド類に,アルカリ存在下で二硫化炭素を作用させて、ジチオカルボン酸の塩,およびジチオカルボン酸ジメチルエステル,を得た。これら各々に,ジハロゲン化ポリエーテルおよびジアミノポリエーテルを高希釈下で反応させて,チアクラウンエーテル類およびアザクラウンエーテル類を合成した。また,ジチオカルボン酸ジメチルエステルとジアミンとの2:1反応では,2:1反応生成物を得ることが出来,さらにあらたにジアミンと反応させて大環状化合物(2:2)を得た。以上合成した大環状化合物の各種金属イオンとの錯形成についての研究は,現在,進行中である。これまで、ジチオカルボン酸誘導体の合成研究を行って来たが、本研究ではこれらの合成方法を応用して、特異性のある大環状化合物を得ることを目的とした。活性メチレン化合物あるいはスルホンアミド類に,アルカリ存在下で二硫化炭素を作用させて、ジチオカルボン酸の塩,およびジチオカルボン酸ジメチルエステル,を得た。これら各々に,ジハロゲン化ポリエーテルおよびジアミノポリエーテルを高希釈下で反応させて,チアクラウンエーテル類およびアザクラウンエーテル類を合成した。また,ジチオカルボン酸ジメチルエステルとジアミンとの2:1反応では,2:1反応生成物を得ることが出来,さらにあらたにジアミンと反応させて大環状化合物(2:2)を得た。以上合成した大環状化合物の各種金属イオンとの錯形成についての研究は,現在,進行中である。
KAKENHI-PROJECT-05640592
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05640592
左右決定が99.99%のキャナリゼーションを達成するしくみ
現在までに、マウス胚ノード中に存在する左右非対称な水の流れが、ノード脇で発現するCerberus like 2 mRNAの不安定化を引き起こし、Cerberus like 2 mRNAの発現パターンを左右非対称に変化させる事を解明した。本研究は、物理的な水の力を遺伝子発現の左右非対称性へと変化させる機構であると考えられr、非常に興味深いものである。私達はさらに理解を深めるため、アクチノマイシンDを使用して遺伝子発現におけるmRNAの転写をストップさせ、さらにWntシグナルの促進剤であるBIOを添加して、マウス胚を培養した。その結果、Cerberus like 2 mRNAの量は減少しており、この結果はWntシグナルがCerberus like 2 mRNAの分解に影響している事を示している。従来までの結果から、Cerberus like 2 mRNAとWntシグナルは、連結したフィードバック機構を持つ事を明らかにしており、本研究はそのフィードバックメカニズムの実体を解明する物となった。またWntシグナルがCerberus like 2 mRNAのどの部位に作用するのかを理解するため、Cerberus like 2 mRNAの欠失解析をおこない、3'側のUn-translatedregionがその機構に極めて重要である事を明らかにした。さらに、解明したフィードバックメカニズムを用いて、数理モデルを作成したところ、連結したフィードバック機構はノイズに対して極めて安定で、確実に左右を決定するために重要である事がわかった。脊椎動物の心臓、胃、肺、腸等の内臓臓器の形態は左右非対称である。内臓臓器の左右非対称性は、高度に保存された遺伝子カスケードで正確に決められており、マウスでは左右決定を間違う確率が1万匹に1匹、つまりCanalizationの値は99.99%と非常に高い。マウス胚の左右決定では、まず体の中心に位置するノードで右から左への水流が起こる。その結果、ノードの左右両脇に存在する約30個ずつのcrown cellと呼ばれる細胞で、Cerberus/DANファミリーに属する分泌因子Cerl2のmRNAが、右側で左側よりも多く発現する。現在までの研究から、crown cell内のCerl2 mRNAの局在を観察すると、細胞膜に強く局在している事が明らかになった。さらにノード流を受けた部分の膜に存在するCerl2 mRNAの量が減少している事を明らかにした。そこで、300bpの短い特殊な配列を挿入した改変Cerl2遺伝子を作成した。このレポーター遺伝子をBACのCerl2遺伝子領域と置き換えて、マウス受精卵にインジェクションし、胚を回収して300bpに対する蛍光In situ hybridizationを行って局在を観察した。同時に上記のBACコンストラクションからCerl2のイントロン又はUTRを欠失させ、膜のテンショ変化を感知し細胞内局在に重要な部位を同定した。Cerl2のmRNAのdeletion解析を行ったところ、Cerl2の3'UTRとintron領域が、Cerl2のmRNAの安定性をコントロールする事で、Cerl2 mRNAの量を変化させている事がわかった。さらにCerl2の3'UTRを欠いたトランスジェニックマウスでは、Cerl2の膜付近の局在が左右ともに強くなっていた。現在、3'UTRに結合する蛋白を同定中であり、候補蛋白を2つに絞った。現在までに、マウス胚ノード中に存在する左右非対称な水の流れが、ノード脇で発現するCerberus like 2 mRNAの不安定化を引き起こし、Cerberus like 2 mRNAの発現パターンを左右非対称に変化させる事を解明した。本研究は、物理的な水の力を遺伝子発現の左右非対称性へと変化させる機構であると考えられr、非常に興味深いものである。私達はさらに理解を深めるため、アクチノマイシンDを使用して遺伝子発現におけるmRNAの転写をストップさせ、さらにWntシグナルの促進剤であるBIOを添加して、マウス胚を培養した。その結果、Cerberus like 2 mRNAの量は減少しており、この結果はWntシグナルがCerberus like 2 mRNAの分解に影響している事を示している。従来までの結果から、Cerberus like 2 mRNAとWntシグナルは、連結したフィードバック機構を持つ事を明らかにしており、本研究はそのフィードバックメカニズムの実体を解明する物となった。またWntシグナルがCerberus like 2 mRNAのどの部位に作用するのかを理解するため、Cerberus like 2 mRNAの欠失解析をおこない、3'側のUn-translatedregionがその機構に極めて重要である事を明らかにした。さらに、解明したフィードバックメカニズムを用いて、数理モデルを作成したところ、連結したフィードバック機構はノイズに対して極めて安定で、確実に左右を決定するために重要である事がわかった。Cerl2 RNAの安定性をコントロールする部位を、トランスジェニックマウスの解析から同定した。さらに、同定した部位に結合する蛋白質をほぼ同定しており、目的であるCerl2の安定性コントロールを行うメカニズムはほぼ明らかになりつつある。超高感度センサーの仕組みと振る舞い、センサーが間違う確率を解析するために、センサーの動作を直接観察する。BAC(Bacterial Artificial Chromosome)を利用したトランスジェニックマウスで、Cerl2の転写量をLuciferaseを用いて、Cerl2 mRNAの細胞内での振る舞いをMS2-GFP蛋白を用いてリアルタイムに定量する。これよりセンサーへの入力値、揺らぎ、誤動作する確率を解析する。その後、ノイズを含むダイナミックシミュレーションと実験から揺らぎの原因を解明する。また、ノード流が細胞膜に与える張力と膜付近でのRNA分解機構を、PIV解析とmRNAのイメージングで明らかにし、センサーへの入力を解明する。
KAKENHI-PUBLICLY-23127507
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PUBLICLY-23127507
女性の肥痩意識と皮下脂肪厚ー大学生と40歳代の比較ー
本研究の目的は、自分の身体に対する自己評価をさせ、あわせて脂肪量を実測することによって、自己評価と現実との差異を明らかにしていくことである。研究対象としては、東京及びその周辺のテニススク-ルに参加している中高年男女を選び、合計84人のデ-タを収集した。肥痩の自己評価は質問紙法によって行うと同時に、脂肪量の実測を体脂肪率計測器(栄研式キャリパ-など)を用いて行い、数値は直ちにフィ-ドバックした。肥痩自己評価(5段階:痩せている、どちらかといえば痩せている、普通、どちらかといえば肥っている、肥っている)と体脂肪率との間の相関を男女別に調べてみたところ、男女ともこの両者の間には正の相関があることが示され、対象者全体としてみると、自己評価には信頼性があると考えられたが、個人別にみると回帰直線から大きくはずれた値を示すものも多く、全員が正しい評価をしているとはいえない、ということが明らかになった。その原因については、現在検討中である。なお、実際に調査・測定を行っていく際には、不正確な判定をしたものに対しては、得られた体脂肪率をもとに、正しい肥痩度というものを認識させ、「余分な脂肪を減少させる」という、健康的に減量するためのアドバイスを行った。今回は、この脂肪量の測定に加え、膝関節の伸展力の測定、障害の調査等も実施し、この年代の体力を総合的に判定することも、試みているところである。このように、多角的にデ-タを収集することは、測定評価の分野の研究を運動生理学やスポ-ツ医学につなげるという意味でも、重要であると思われる。本研究の目的は、自分の身体に対する自己評価をさせ、あわせて脂肪量を実測することによって、自己評価と現実との差異を明らかにしていくことである。研究対象としては、東京及びその周辺のテニススク-ルに参加している中高年男女を選び、合計84人のデ-タを収集した。肥痩の自己評価は質問紙法によって行うと同時に、脂肪量の実測を体脂肪率計測器(栄研式キャリパ-など)を用いて行い、数値は直ちにフィ-ドバックした。肥痩自己評価(5段階:痩せている、どちらかといえば痩せている、普通、どちらかといえば肥っている、肥っている)と体脂肪率との間の相関を男女別に調べてみたところ、男女ともこの両者の間には正の相関があることが示され、対象者全体としてみると、自己評価には信頼性があると考えられたが、個人別にみると回帰直線から大きくはずれた値を示すものも多く、全員が正しい評価をしているとはいえない、ということが明らかになった。その原因については、現在検討中である。なお、実際に調査・測定を行っていく際には、不正確な判定をしたものに対しては、得られた体脂肪率をもとに、正しい肥痩度というものを認識させ、「余分な脂肪を減少させる」という、健康的に減量するためのアドバイスを行った。今回は、この脂肪量の測定に加え、膝関節の伸展力の測定、障害の調査等も実施し、この年代の体力を総合的に判定することも、試みているところである。このように、多角的にデ-タを収集することは、測定評価の分野の研究を運動生理学やスポ-ツ医学につなげるという意味でも、重要であると思われる。
KAKENHI-PROJECT-03680122
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03680122
平城京木簡と飛鳥藤原京木簡の字形比較
平城京木簡の字形についてのデータと、それより以前の藤原宮木簡にみえる字形を比較することによって両木簡における字形の特徴を把握することを目的とし、字例を収集し、整理する基礎作業および成果発表に取り組んだ。研究対象(調査範囲)は、平城京および藤原京出土木簡で、奈良文化財研究所が調査にあたりすでに報告されている木簡に限定して対象とした。具体的には、次の報告書所収のものに限定する。『平城宮木簡』17、『平城京木簡』13、『平城宮発掘調査出土木簡概報』141、『藤原宮木簡』13、『飛鳥藤原京木簡』1・2、『飛鳥藤原宮発掘調査出土木簡概報』122。基礎作業を行いながら、まず、一定の基準に照らすべく、中国の『干禄字書』の字体注記(正字・俗字・通字)のいずれに相当するかを調査した。対象とする文字は『干禄字書』所収文字に限定されるが、両木簡群ともに、『干禄字書』の正字に該当するものより、俗字・通字に該当するものが多かったことが明らかになった。これは、以前行った、木簡とほぼ同時期の、正倉院文書等との比較における傾向とも一致した。この結果を論文にまとめた。また、飛鳥藤原京木簡では、平城京木簡の場合と比べは字の大部分を省略する場合が多いことに注目し、口頭発表を行った。これらのうち、中国の敦煌木簡にみられる類似した形も取り上げた。両木簡群の字形の比較には、まだ様々な観点からの分析が必要であり、本調査はごく一部の観点にすぎないが、上記の調査から、特に、筆画の省略に対する意識について、さらに深める必要があると考えた。また、中国において口頭発表および資料収集を行った際、中国文字学関連の情報を入手することができたが、中国の文字資料との対照については、どの時期の、どの範囲の資料と対照させていくか、さらに多くの資料にあたるとともに、文化的背景も考慮しながら、絞っていきたいと考えている。平城京木簡の字形についてのデータと、それより以前の藤原宮木簡にみえる字形を比較することによって両木簡における字形の特徴を把握することを目的とし、字例を収集し、整理する基礎作業および成果発表に取り組んだ。研究対象(調査範囲)は、平城京および藤原京出土木簡で、奈良文化財研究所が調査にあたりすでに報告されている木簡に限定して対象とした。具体的には、次の報告書所収のものに限定する。『平城宮木簡』17、『平城京木簡』13、『平城宮発掘調査出土木簡概報』141、『藤原宮木簡』13、『飛鳥藤原京木簡』1・2、『飛鳥藤原宮発掘調査出土木簡概報』122。基礎作業を行いながら、まず、一定の基準に照らすべく、中国の『干禄字書』の字体注記(正字・俗字・通字)のいずれに相当するかを調査した。対象とする文字は『干禄字書』所収文字に限定されるが、両木簡群ともに、『干禄字書』の正字に該当するものより、俗字・通字に該当するものが多かったことが明らかになった。これは、以前行った、木簡とほぼ同時期の、正倉院文書等との比較における傾向とも一致した。この結果を論文にまとめた。また、飛鳥藤原京木簡では、平城京木簡の場合と比べは字の大部分を省略する場合が多いことに注目し、口頭発表を行った。これらのうち、中国の敦煌木簡にみられる類似した形も取り上げた。両木簡群の字形の比較には、まだ様々な観点からの分析が必要であり、本調査はごく一部の観点にすぎないが、上記の調査から、特に、筆画の省略に対する意識について、さらに深める必要があると考えた。また、中国において口頭発表および資料収集を行った際、中国文字学関連の情報を入手することができたが、中国の文字資料との対照については、どの時期の、どの範囲の資料と対照させていくか、さらに多くの資料にあたるとともに、文化的背景も考慮しながら、絞っていきたいと考えている。
KAKENHI-PROJECT-24902005
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24902005
バイオオルガノメタリクス研究戦略に基づく内皮細胞メタロチオネイン誘導機構の解析
血管内皮細胞におけるメタロチオネイン(MT)誘導を介在する細胞内シグナル経路を有機-無機ハイブリッド分子を活用して解析し,MTアイソフォームのうち,MT-1の誘導にはMTF-1-MRE経路とNrf2-ARE経路の両方が必要なのに対し,MT-2の誘導にはMTF-1-MRE経路のみが関与することを明らかにした。さらに,MT-1AおよびMT-2の誘導は,ALK5-Smad2/Smad4-Sp1経路およびALK5-Smad2-Sp1経路によって介在されることも明らかにした。MTアイソフォームには機能上の違いはないと考えられてきたが,実際には機能分化が存在することが示唆された。zinc(II)bis(diethyldithiocarbamate)の銅置換体copper(II)bis(diethyldithiocarbamate)も内皮細胞のMTを誘導することを明らかにした。この銅錯体がユビキチンプロテアソーム系の阻害を通じてNrf2を活性化することも明らかにした。この銅錯体を活用し,MT-1A/Eの誘導にはMTF-1-MRA経路およびNrf2-ARE経路の両方の活性化が必要であるが,MT-2Aの誘導にはNrf2-ARE経路は関与しないことを示唆する結果を得た。有機アンチモン化合物ライブラリーから,MT-1AおよびMT-2Aの転写誘導を行う化合物tris(pentafluorophenyl)stibaneを得た。この化合物を用いた検討の結果,やはりMT-1A/Eの誘導にはMTF-1-MRA経路およびNrf2-ARE経路の両方の活性化が必要であるが,MT-2Aの誘導にはNrf2-ARE経路は関与しないことが示された。以上の結果は,MT-1の本来の役割が解毒機構にあり,一方,MT-2の本来の役割は亜鉛代謝にあることを示唆している。申請者らは,有機ー無機ハイブリッド分子のバイオロジーをバイオオルガノメタリクスと名付け,その研究を展開している。血管内皮細胞は血液と直接接している唯一のcell typeであり,血管病変の防御に重要な役割を果たしている。メタロチオネイン(MT)は亜鉛代謝制御に寄与するだけでなく,重金属の毒性軽減作用,抗酸化作用,炎症反応の抑制作用などを有する生体防御タンパク質である。本研究の目的は,有機ー無機ハイブリッド分子を生体機能解析のツールとして活用し,MTアイソフォームの機能分化に重要な血管内皮細胞におけるMTアイソフォームの発現誘導に介在する細胞内シグナル伝達を解析し,エピジェネティックなMTアイソフォーム発現誘導制御機構についても検討を加えることである。そこで平成28年度に予定していた有機ー無機ハイブリッド分子によるMTアイソフォームの誘導を介在する細胞内シグナル伝達経路を解析する研究に取り組み,内皮細胞のMTの誘導が無機亜鉛では起こらないこと,MTF-1-MRE経路の活性化だけでも起こらないことを明らかにするとともに,MT-1A/Eの誘導にはMTF-1-MRE経路およびNrf2-ARE経路の両方の活性化が必要であるが,MT-2Aの誘導にはNrf2-ARE経路は関与しないことを明らかにした。これらの新知見は4報の国際学術論文として公表され,目標を超過達成できた。内皮細胞をCu10で処理したとき,ZIP7 mRNAの発現上昇が認められた。そこで,ZIP7 siRNAを導入しZIP7をノックダウンしたところ,Cu1024時間処理ではMT誘導に変化は認められなかったが,48時間後においてCu10によるMT誘導の抑制が認められた。同様に,Cu10処理後8および16時間後にはZIP7のノックダウンによるMT-1A/1E/2A mRNA発現の抑制は認められなかったが,24時間後にはMT-2A mRNAの発現上昇が抑制された。他のZIPファミリーをそれぞれノックダウンしたときには,このようなCu10によるMT誘導の抑制は認められなかった。これらの結果から,ZIP7の発現上昇は小胞体から細胞質への亜鉛イオンの流出を促進し,この亜鉛イオンによるMTF-1の活性化がCu10によるMT誘導に寄与すると推察された。今年度の結果は,MT誘導を介在するMTF-1の活性化に必要な亜鉛イオンが小胞体からZIP7を介して供給されるという新しいMT誘導機構を示唆するものである。また,ほとんど不明であった亜鉛輸送体ZIP7の機能に新しい視点を与えるものである。メタロチオネイン(MT)の誘導機構については不明な点が多く残されているが,特に血管内皮細胞は無機亜鉛が誘導能を示さないという特殊な細胞である。この特殊性のため無機亜鉛は内皮細胞のMT誘導機構解析ツールとしては用いることはできない。そこで有機-無機ハイブリッド分子ライブラリーを活用し,有用なツールとして銅錯体Copper(II) bis(diethyldithiocarbamate)(Cu10)を見出したのが平成27年度の研究である。しかしながら,MT誘導に不可欠な転写因子MTF-1の活性化には亜鉛イオンの存在が必要である。その由来は不明であったが,平成28年度に亜鉛輸送体ZIP7がCu10による内皮細胞のMT誘導に関与していることを突き止めることに成功した。これは小胞体にプールされている亜鉛イオンがCu10によるMTF-1の活性化に関与していることを示唆するものであり,MTの新しい誘導機構を提示する結果であった。亜鉛イオンの動態を直接計測するに至っていないが,ZIP7の新機能を示唆する結果でもあり,順調な進展と言って良い。
KAKENHI-PROJECT-15K14992
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K14992
バイオオルガノメタリクス研究戦略に基づく内皮細胞メタロチオネイン誘導機構の解析
MTF-1/MRE経路はSb35,As35およびP35によって活性化されたが,MTアイソフォームプロモーターへのMTF-1の結合を増強したのはSb35およびAs35であった。いずれの化合物もNrf2/ARE経路を活性化し,MT-2A遺伝子より約3 kb上流にあるAREへのNrf2の結合を増加させた。一方,P35のMT-2A転写誘導におけるMTF-1/MRE経路の関与が部分的であること,Nrf2/ARE経路がMT-2A転写誘導には関与しないことが示されたことから,MTF-1やNrf2を介さない転写誘導機構の存在が示唆された。そこで細胞増殖因子/サイトカインについて検討し,TGF-βシグナル経路が内皮細胞MTを誘導することが分かった。すなわちALK5-Smad2経路が内皮細胞MTを誘導し,MT-1Aの誘導にはSmad2と協調してSmad4およびSp1が関与すること,このうちSp1はMT-2Aの転写誘導にも関与することが示された。血管内皮細胞におけるメタロチオネイン(MT)誘導を介在する細胞内シグナル経路を有機-無機ハイブリッド分子を活用して解析し,MTアイソフォームのうち,MT-1の誘導にはMTF-1-MRE経路とNrf2-ARE経路の両方が必要なのに対し,MT-2の誘導にはMTF-1-MRE経路のみが関与することを明らかにした。さらに,MT-1AおよびMT-2の誘導は,ALK5-Smad2/Smad4-Sp1経路およびALK5-Smad2-Sp1経路によって介在されることも明らかにした。MTアイソフォームには機能上の違いはないと考えられてきたが,実際には機能分化が存在することが示唆された。平成27年に研究が順調に進展し,エピジェネティックなMTアイソフォーム発現誘導制御機構が残っている。重要な問題は2つあると思われる。第一は,銅錯体copper(II) bis(diethyldithiocarbamate)によるMT誘導においてMTF-1活性化に必要な亜鉛イオンはどこから供給されたのかという問題である。我々は,この銅錯体が小胞体から細胞質に亜鉛イオンを輸送する金属輸送体SLC39A7の発現を上昇させることを予備的に見出している。そこで,平成28年度は,copper(II) bis(diethyldithiocarbamate)による血管内皮細胞のMT誘導にこの亜鉛輸送体が関与する可能性を検討し明らかにする。また,この銅錯体によるSLC39A7の発現誘導を介在する細胞内シグナル経路についても検討する。第二は,ヒストンのアセチル化によるエピジェネティックな制御の可能性である。MTF-1はp300と呼ばれるヒストンアセチル転移酵素活性を有するタンパク質と複合体を形成することが報告されている。そこで,ハイブリッド分子によるMTアイソフォームの誘導にMTF-1ーp300複合体形成とヒストンのアセチル化や他のエピジェネティックな調節が関与するかどうかを検討する。これについては平成29年度での実施を計画するが,MTF-1活性化機構が順調に解明された場合には,前倒しして実施する。内皮細胞のメタロチオネイン(MT)誘導の機構にはMTF-1-MRE経路およびNrf2-ARE経路の活性化だけでなく,エピジェネティックな調節も含まれている。
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変態・休眠を支配するホルモン分子の動態と環境応答
岩見はボンビキシン遺伝子が約30コピーからなる多重遺伝子であることを突き止め、ボンビキシン細胞特異的転写エレメントを同定した。市川は神経分泌細胞の電気的な活動を長期(25日)に渡り連続して記録することに成功した。その結果、同一の神経ペプチドホルモンを産生する神経分泌細胞群は、一つの自立的な機能単位として行動し、さらに上位中枢の制御下にあり、生殖行動(交尾により性フェロモン分泌が完全に抑制されるなど)等の高次生体機能の解発に密接に結びついていることを実証した。山下はカイコ卵休眠を支配する休眠ホルモン遺伝子の発現調節領域を同定するために、種々の長さのプロモーター領域にlacZ遺伝子を繋いだ人工遺伝子を導入した形質転換ショウジョウバエを作成し、約650bpのシスエレメントの同定に成功した。嶋田はカイコのperがZ染色体に座乗することや、第10染色体上のEcR・E75両遺伝子の座位を決定した。相薗はエビガラスズメの休眠蛹の休眠覚醒においてセロトニンによるPTTH分泌制御が重要であることを明らかにした。溝口は時間分解蛍光免疫測定法を活用した超微量定量法(検出感度0.1pg)を確立し、カイコ血液中の前胸腺刺激ホルモン(PTTH)濃度の変動を解明した。片岡は哺乳類細胞を用いた発現クローニング法によりカイコの前胸腺に存在するPTTH受容体をクローニングすることに成功し、いわゆる膜7回貫通型のG-タンパク質共役型受容体であることを明らかにした。藤原はカイコ無翅突然変異体(fl)ではエクジソン発現カスケードの初期後期遺伝子のBHRおよび後期遺伝子のurbainの発現が翅のみで低下していることを見出した。柳沼は受容体に関してはカイコ卵から7種類のEcRのアイソフォームを同定し,エクジソン作用の多様性が受容体の多様性によっている可能性も示した。岩見はボンビキシン遺伝子が約30コピーからなる多重遺伝子であることを突き止め、ボンビキシン細胞特異的転写エレメントを同定した。市川は神経分泌細胞の電気的な活動を長期(25日)に渡り連続して記録することに成功した。その結果、同一の神経ペプチドホルモンを産生する神経分泌細胞群は、一つの自立的な機能単位として行動し、さらに上位中枢の制御下にあり、生殖行動(交尾により性フェロモン分泌が完全に抑制されるなど)等の高次生体機能の解発に密接に結びついていることを実証した。山下はカイコ卵休眠を支配する休眠ホルモン遺伝子の発現調節領域を同定するために、種々の長さのプロモーター領域にlacZ遺伝子を繋いだ人工遺伝子を導入した形質転換ショウジョウバエを作成し、約650bpのシスエレメントの同定に成功した。嶋田はカイコのperがZ染色体に座乗することや、第10染色体上のEcR・E75両遺伝子の座位を決定した。相薗はエビガラスズメの休眠蛹の休眠覚醒においてセロトニンによるPTTH分泌制御が重要であることを明らかにした。溝口は時間分解蛍光免疫測定法を活用した超微量定量法(検出感度0.1pg)を確立し、カイコ血液中の前胸腺刺激ホルモン(PTTH)濃度の変動を解明した。片岡は哺乳類細胞を用いた発現クローニング法によりカイコの前胸腺に存在するPTTH受容体をクローニングすることに成功し、いわゆる膜7回貫通型のG-タンパク質共役型受容体であることを明らかにした。藤原はカイコ無翅突然変異体(fl)ではエクジソン発現カスケードの初期後期遺伝子のBHRおよび後期遺伝子のurbainの発現が翅のみで低下していることを見出した。柳沼は受容体に関してはカイコ卵から7種類のEcRのアイソフォームを同定し,エクジソン作用の多様性が受容体の多様性によっている可能性も示した。1.30コピー以上多重遺伝子であるボンビキシンの転写調節機構を明らかにするため各ボンビキシン遺伝子の発現量の違いを明らかにするとともに転写調節領域の塩基配列を決定し、転写調節機構のモデルを提示した。また、ボンビキシン受容体遺伝子の全塩基配列を決定し、インスリン受容体と基本的構造は一致していることを明らかにした。2.前胸腺刺激ホルモン(PTTH)の血中濃度の変動を測定し、エクジソンの分泌に先立ってその濃度が上昇していることを明らかにした。また、PTTHの分泌はムスカリン性アセチルコリン受容体を介した細胞内情報伝達が関与しており、これに関わる3種類のリン酸化蛋白質を同定した。3.性フェロモン生合成活性化神経ペプチド(PBAN)分泌細胞の電気的活動を連続的に測定することに成功し、分泌活性の光周期変動、交尾による制御を電気信号としてリアルタイムで解析できるようになった。4.休眠ホルモン受容体の1候補をクローニングした。休眠卵の代謝特性を明らかにするためトレハラーゼ阻害剤であるトレハゾリンを用いてグルコース欠損卵の作製に成功した。5.カイコ無翅変異体(fl)の解析から変態時の翅原基のエクジソンの受容や細胞増殖、分化にはautocrine型の因子(fl因子)が必要であることが示唆された。また、カイコの胚発生、胚休眠に関与するEcRを含むステロイドホルモン受容体類をクローニングし、その発現量の変動を明らかにした。一方、EcR遺伝子をゲノム上にマップするために遺伝子多型が第4イントロン中に存在することを見いだした。市川は、PBANを分泌する神経分泌細胞の活動を連続して記録することに成功し、日周リズム(昼高く、夜低い)を持つことを見い出した。
KAKENHI-PROJECT-08276101
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変態・休眠を支配するホルモン分子の動態と環境応答
また、岩見はボンビキシン遺伝子群の各遺伝子間のスペーサー領域(転写調節領域を含む)の全塩基配列を決定し、細胞特異的発現を調節していると思われるエレメントを推定した。相薗はPTTHの産生細胞がムスカリン性アセチルコリン受容体を発現していること、さらに脳-アラタ体器官培養系を用いて、アセチルコリンがPTTHA分泌を促進することを証明した。山下は環境温度による休眠ホルモン遺伝子の発現制御機構についてショウジョウバエへに休眠ホルモン遺伝子を導入し,解析を進めている。溝口はPTTH微量定量系を確立し、カイコ血液中のPTTH濃度の変動を詳細に解析し、PTTH濃度とそれに続くエクジステロイド濃度との間には相関が認められることなどを明らかにした。片岡は前胸腺に存在する分子量70kのPTTH受容体の同定を進め、その解離定数は54pMと極めて親和性が高いこと、5齢吐糸期の前胸腺には細胞1個あたり約16,000個存在していることを明らかにした。また、ボンビキシン受容体が中枢神経系や卵巣などに強く発現していることを示した。藤原は変態にともなうエクジソン受容体(EcR)遺伝子のアイソフォームの組織特異的な発現を解析し、2種類のアイソフォーム(A、B1)の発現パターンが成虫組織でAフォームが、幼虫組織でB1フォームが優勢であるという単純な発生運命には合致しないことを明らかにした。柳沼はカイコ卵から7種類のEcRアイソフォームをコードするcDNAをクローニングした。また、卵休眠の覚醒期に誘導されるソルビトール脱水素酵素遺伝子の5′-上流域にステロイドホルモン受容体ファミリーが認識結合する配列の存在を明らかにした。嶋田は休眠卵のみの初期胚に特異的に存在する、新規な2種類のmRNAを発現した。岩見はカイコをモデル昆虫として、ボンビキシン遺伝子をモデル遺伝子として、非トランスジェニック昆虫での転写解析系を開発した。市川はPBAN分泌細胞群は特徴的な同期的発火を繰り返していること、およびボンビキシン分泌細胞がPER抗体に対して強い免疫反応陽性を示すことを明らかにした。片岡はPTTH受容体のクローニングを進めるとともに、ボンビキシンによって脂肪体からリポプロテインと思われるタンパク質の分泌が促進されることを見い出した。溝口はカイコ脳の長期潅流培養系を開発し、蛹期の脳が反復的PTTH分泌の自律性を有すること、幼若ホルモンが5令初期のPTTH分泌促進作用をもつことを明らかにした。相薗はエビガラスズメの蛹休眠覚醒時にセロトニンおよびカルバコールによって脳からのPTTH分泌が促進されることを見い出した。嶋田は各染色体のPCR-RFLPマーカーを整備し、行動形質や変態・休眠に関連する多数の遺伝子をマップした。また、休眠特異的な転写因子BmEtsや性特異的に発現する転写因子Bmdsx、Bmfruの解析を進めた。山下は休眠ホルモン作用の分子機構を解明するため、SABRE法を改良して新規に誘導される遺伝子の探索を進め、l2の有力な候補を発見した。また、ソルビトール欠損休眠卵の作出に成功し、休眠代謝の新しい実態を提案した。藤原はエクジステロイド受容体のアイソフォームの発現の選択が、cAMPのシグナルによって制御される可能性を見いだした。
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漢魏六朝から中唐の「隠逸空間」の研究―園林・山林・居
本研究では、中国の漢魏六朝から中唐における「隠逸空間」をめぐる文学的表現について考察した。南朝梁・西魏・北周に仕えたユ信は、北朝に移り間もない時期に、隠逸の住まいを描く「小園賦」を作った。先行する潘岳・陶淵明・謝霊運・沈約らの作品と比較すると、「小園賦」が描く空間は際だって閉鎖的であり、外部から孤立している。地縁・血縁から切り離されたユ信の特異な状況が、このような隠逸空間の造形に深く関わっている。中唐の詩人白居易は、ユ信と同様閉鎖的な「小空間」を築いた。両者を比較すると、隠逸空間をどのような理念によって支えるかという点で、時代による大きな差違を見出すことができる。本年度は、ユ信「小園賦」を起点とした園林の小空間の考察を行った。「小園賦」の初歩的な考察は既に終えているため、本年度は、他作品との比較とその他の小空間を描いた作品の調査を中心に行った。ユ信「小園賦」は、南朝出身の文人ユ信が北朝の西魏に移ったばかりの時期に作られたとされる。「小さな園」を描くことは、政治への参与を放棄した隠逸者としての自らを描く、一種の擬態(あるいは逃避)の試みであったと解釈できる。しかしその試みは、作品内部で既に破綻をきたし、小園は作品が進むにつれ、自然の秩序が乱れた不吉な空間へと変容していく。ユ信「小園賦」をより深く理解するためには、隠者の暮らしを描いた先行する賦である潘岳「閑居賦」・謝霊運「山居賦」・沈約「郊居賦」などの考察が有効である。「小園賦」中には潘岳「閑居賦」を意識した表現も複数見られ、ユ信はこれらの作品を意識した上で自身の居住空間を描いたと考えられる。しかし、「閑居賦」「山居賦」などが描く秩序あるいわば「完全な」空間と比較すると、「小園」はあまりに小さく、また外界と対抗しうるほどの秩序を獲得するべくもなかった。このような結果は、「体制に背を向ける」隠逸空間を描く文学作品が、実際は体制による肯定が無ければ成立し得ないという事情を示唆しているようだ。以上の考察と同時に、「小空間」が文学としてどのように表現されてきたかの考察を進めた。『芸文類聚』巻六十四・居所部・室に収められる西晋・潘岳やユ闡の「狭室賦」は、「小さな・狭い」空間やものが、当時文学の題材として取り上げられていたことを示す。これらの作品は狭隘な空間に対する嫌悪感を描き興味深いものであるが、一部しか残されていないため、十全な比較は難しい。本年度は、漢魏六朝から唐代における類似の作品を調査・収集した。本年度は基礎的な作業が中心となったが、研究内容としては一定の進展が見られる。本年度は、昨年度に引き続き六朝文学を中心に居所・園林をめぐる表現の考察を行った。南朝梁・西魏・北周に仕えた詩人ユ信の文学に注目し、その作品や生涯を広く見通した上で、居宅を描いた作品である「小園賦」の意義を再考察した。ユ信の描こうとした「小園」は、文学研究・園林研究の分野における先行研究が既に指摘するように、最も早い時期の「外界との接触を断った個人空間」として、注目に値する。北遷間もない頃の作品とされる「小園賦」だが、そこに描かれる「隠逸空間」のあり方を深く理解するためには、南朝から北朝へという複雑な人生をたどったユ信の人生や、作品全体への理解が欠かせない。「小園賦」以外のユ信の作品、特に隠逸や隠者との交流を描いた詩は、当時の一般的な隠逸を描く作品と比べ、際だった特徴を有するとはいえなかった。またその隠逸空間も、「小園」のような閉鎖空間を描くものではなかった。「小園賦」はユ信文学全体にあっても、異質な隠逸空間を描いた作品と捉えることができる。また、そこには「詩」と「賦」が表現できるものの違いが反映されている可能性も大きい。当時、隠逸生活における「居住空間」を描く作品ジャンルとしては、詩よりも賦の方が主流であったと考えられるのである。その一方で「小園賦」には、ユ信詩文に頻出の典故が同様に使われている箇所も見られる。これらの表現の比較検討を通して、ユ信作品全体における「小園賦」の位置づけを探り、なぜこのような表現が生まれ得たかを考察することが、今後の課題となる。本年度は、ユ信文学の基礎的研究に時間を費やした。今後の研究の基礎となる重要な作業を進めることができたと考える。昨年度に引き続き、詩人ユ信の文学を中心に、六朝における隠逸空間のありかたについて考察した。六朝詩人たちが隠逸空間を描く作品として、「居」賦の系譜がある。西晋・潘岳「閑居賦」、南朝宋・謝霊運「山居賦」、南朝梁・沈約「郊居賦」がその代表的な作品である。これらの作品は、自身が定めた隠逸の「居」(すまい、生活)について、その由来・環境・美点などを賦特有の「鋪陳」(羅列によって全体を捉えようとする表現方法)を駆使して述べる。
KAKENHI-PROJECT-15K16721
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漢魏六朝から中唐の「隠逸空間」の研究―園林・山林・居
これら先行する作品と、南朝梁から西魏・北周に仕えた詩人ユ信の作品「小園賦」を比較し、「小園賦」の独自性を分析する研究を進めた。ユ信が北朝に移り間もない時期に作られた「小園賦」は、隠逸の住まいを描くという点において、「居」賦の変奏と見なすことができる。「小園賦」の独自性として、描かれる空間が閉鎖的であり、「外部」との交流をほとんど持たないことが挙げられる。「小園」にはそれを定位する言葉(隠逸の場の由来や自らの隠逸の意味づけ)が欠落しており、これを「居」賦の表現ー天子の支配する「世」と対置して閑居を意味づける(「閑居賦」)/先祖代々続く土地の由来から山居を意義づける(「山居賦」)/一族の歴史、王朝の歴史の中に郊居を位置づける(「郊居賦」)ーと比較すると、際だって異質である。地縁・血縁から切り離され、北朝で生きざるを得なかったユ信が築いた隠逸空間が、いかに「異例」なものであったかが、これにより浮き彫りになる。また「小園賦」の例からは、当時の隠逸の場が、地理的・歴史的な由来、天子が支配する「世」との対置など、周辺からの様々な保証を得て成立する面を持っていたことがわかる。中唐以降あらわれる、心身の満足によって隠逸空間を意味づける態度とは大きく異なり、六朝時代における隠逸の特徴の一つと指摘できる。以上の内容をまとめた論考を、『中國文学報』第九十冊に掲載予定である。本研究では、中国の漢魏六朝から中唐における「隠逸空間」をめぐる文学的表現について考察した。南朝梁・西魏・北周に仕えたユ信は、北朝に移り間もない時期に、隠逸の住まいを描く「小園賦」を作った。先行する潘岳・陶淵明・謝霊運・沈約らの作品と比較すると、「小園賦」が描く空間は際だって閉鎖的であり、外部から孤立している。地縁・血縁から切り離されたユ信の特異な状況が、このような隠逸空間の造形に深く関わっている。中唐の詩人白居易は、ユ信と同様閉鎖的な「小空間」を築いた。両者を比較すると、隠逸空間をどのような理念によって支えるかという点で、時代による大きな差違を見出すことができる。引き続き、収集した作品の分析を中心とした小空間を描いた文学の考察を続ける。ユ信の「小空間」と時代を下った中唐・白居易の「小空間」との差異とその背景を解明することも、本研究の目的の一つである。本年度は、「一枝」(『荘子』逍遙游)・「一丘一壑」(『漢書』)・「一室」などのキーワードを設定し、考察の手がかりとする。これらのキーワードが、六朝を経て唐代に至るまでの使用例を収集し、変遷を探る。また、ユ信の全作品の読解を目指し、それを背景に「小園賦」とユ信の隠逸観を探る。また本年度は、盛唐・杜甫の浣花草堂、キ州のジョウ西宅をめぐる文学の考察をすすめる。現在、成都時代の杜甫詩の読解を進めている。まずは浣花草堂を取り上げた作品を集中的に調査し、その詩的イメージを把握した上で、前後の時代における隠逸文学との差異を検討する。最新の参照すべき先行文献としては、古川末喜『杜甫農業詩研究』(知泉書館、二〇〇八年)・松原朗「杜甫の百花潭荘:浣花草堂のもう一つの顔」(『中国詩文論叢』32、2013)などがあげられる。ユ信文学に関する基礎的研究を進め、「小園賦」をめぐる論考をまとめる。また六朝に続くものとして初等の隠逸空間の表現、杜甫の隠逸表現について、作品読解を基礎とした分析を進めていく。中国古典文学前年度は電子検索ソフト・書籍などを中心に使用した。旅費の使用が予定の額に達しなかったこと、また、書籍等は金額が細かいため、予定金額に合わせることができなかったことなどから、次年度使用額が発生している。平成28年度には出張を予定していたが、予定日に不測の事態(子供の病気)が発生したため、出張に行くことができなかった。次年度使用額は、金額としては小さいため、物品費(書籍・電子検索ソフトなど)あるいは旅費の補助として使用する。出張(国内あるいは国外)費、物品費として使用する。
KAKENHI-PROJECT-15K16721
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視覚以外で機能するロドプシン類の分子レベルおよび神経レベルの機能解析
動物は光を視覚以外の目的に使っていることが知られており、近年、その仕組みや役割が注目されている。本研究の目的は、視覚以外の光受容について分子レベルから神経レベルまでの機能解析を行い、将来の生理機能解析への手がかりを得ることである。その研究成果として、松果体で機能するパラピノプシンを中心に、視覚以外で機能すると考えられているロドプシン類の分子特性の解明、さらに発現分布や神経ネットワーク解析のためのトランスジェニックゼブラフィッシュの作製に成功した。動物は光を視覚以外の目的に使っていることが知られており、近年、その仕組みや役割が注目されている。本研究の目的は、視覚以外の光受容について分子レベルから神経レベルまでの機能解析を行い、将来の生理機能解析への手がかりを得ることである。その研究成果として、松果体で機能するパラピノプシンを中心に、視覚以外で機能すると考えられているロドプシン類の分子特性の解明、さらに発現分布や神経ネットワーク解析のためのトランスジェニックゼブラフィッシュの作製に成功した。松果体で機能するパラピノプシンを中心に、視覚以外で機能すると考えられているロドプシン類について、生化学的、分光学的手法による物性の解析および免疫組織化学的手法と遺伝子導入実験による生体内機能の解析を行った。・パラピノプシン、エンセファロプシン、メラノプシンについて、光受容タンパク質の精製、分光学的・生化学的解析に成功し、それぞれの波長感受性および光反応特性を明らかにした。・2種類のパラピノプシンの特異的抗体を作製し、免疫組織化学的解析を行った結果、それらが松果体の先端部の近接した別々の細胞に局在していることを見出し、眼外色識別との関連を強く示唆する結果を得た。・2種類のパラピノプシンのそれぞれ約7kbp、5kbpの上流配列をクローニングし、レポーターGFPを連結したコンストラクトをゼブラフィッシュに導入した。その結果、それぞれのパラピノプシン発現細胞を特異的に蛍光標識するトランスジェニックゼブラフィッシュの作製に成功した。光は動物にとって重要な刺激の一つであり、視覚への利用がよく知られている。一方、動物は光を視覚以外の目的に使っていることが示唆されており、近年、その仕組みや役割が注目されている。本研究め目的は、視覚以外の光受容について分子レベルから神経レベルまでの機能解析を行い、将来の生理機能解析への手がかりを得ることである。本年度は、松果体で機能するパラピノプシンを中心に、視覚以外で機能すると考えられているロドプシン類について、光受容細胞の分布や神経ネットワークの解明を目指し、各遺伝子のプロモーターの取得およびその制御下でGFPや毒素を発現する以下のトランスジェニック(Tg)ゼブラフィッシュを作製し解析を行った。・松果体色識別を担うと考えられる2種類のパラピノプシンについて、発現する細胞をそれぞれ別の蛍光分子であるEGFP、RFPで標識するTgゼブラフィッシュを得た。このTgフィッシュの組織学的解析によって、松果体における色識別のための神経ネットワークの可視化に成功した。・松果体色識別の生理的役割の解明に必要なパラピノプシン発現細胞に選択的に毒素を発現させるTgゼブラフィッシュを作製することに成功した。・哺乳類において網膜神経節細胞に発現し概日リズムの光センサーとして機能するメラノプシンのゼブラフィッシュホモログの1種について、そのプロモーターの制御下でEGFPを発現するTgゼブラフィッシュを得た。その結果メラノプシン発現細胞の可視化に成功し、ゼブラフィッシュにおいては、メラノプシンは水平細胞に発現していることが明らかとなった。以上、本研究で作製したTgゼブラフィッシュの解析によって、動物の多様な視覚外光利用の神経レベルの解明が大きく進んだと考えられる。
KAKENHI-PROJECT-20770057
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干渉波刺激装置を用いた唾液分泌促進効果の比較検討試験
先行研究において,干渉波は大唾液腺を支配する自律神経や自律神経節の一部を刺激することで,刺激性唾液の分泌促進効果があることが示唆された.このことから,干渉波刺激装置の使用を継続することで唾液分泌促進が得られるのか,さらには継続により持続効果が期待できる使用期間を探索することが目的である.被験者は,主観的評価かつサクソンテストからドライマウスと診断された者である.今回の研究では,頭頸部がんに対する放射線治療の既往のある者3名(男:女=2:1),シェーグレン症候群4名(男:女=0:4)の計7名に実施した.被験者の平均年齢は, 59.4歳である.自宅で毎日30分間干渉波刺激装置を使用し, 3週間唾液分泌量の変化を調べた.装置の使用方法や刺激部位などは事前に説明を行った.1週間ごとに来院し,干渉波刺激前1回,使用期間中3回,刺激後1回の計5回唾液の採取を行った.干渉波刺激前に比べると,刺激期間中は,個人差があったものの,刺激1回目では2.5倍, 2回目3.0倍, 3回目2.5倍, 4回目3.1倍唾液の増加を認めた.刺激期間中の唾液量は採取できなかったが,刺激後の唾液量は,刺激前よりも増加傾向であった.唾液の採取とともに来院ごとに口腔のアセスメントを実施した.実施項目は,開口,口臭,流誕,口腔乾燥度・唾液,歯・義歯,粘膜(舌・口唇・歯肉)である.簡易的に口腔乾燥を評価したところ,それぞれの評価項目に改善はなかったが,刺激期間中の口腔乾燥の自覚症状の緩和および口角炎の改善を認めた者もいた.今回の研究では,干渉波刺激装置の使用を継続することで唾液分泌の促進がみられる患者が存在すること,口腔乾燥に対する自覚症状が軽減すること,口腔乾燥による口角炎の改善をみる患者がいたことが明らかになった.しかし,被験者が少ないこともありデータにばらつきがあったため,今後は,継続して被験者を増やして,さらなるデータの蓄積を図る必要がある.先行研究において,干渉波は大唾液腺を支配する自律神経や自律神経節の一部を刺激することで,刺激性唾液の分泌促進効果があることが示唆された.このことから,干渉波刺激装置の使用を継続することで唾液分泌促進が得られるのか,さらには継続により持続効果が期待できる使用期間を探索することが目的である.被験者は,主観的評価かつサクソンテストからドライマウスと診断された者である.今回の研究では,頭頸部がんに対する放射線治療の既往のある者3名(男:女=2:1),シェーグレン症候群4名(男:女=0:4)の計7名に実施した.被験者の平均年齢は, 59.4歳である.自宅で毎日30分間干渉波刺激装置を使用し, 3週間唾液分泌量の変化を調べた.装置の使用方法や刺激部位などは事前に説明を行った.1週間ごとに来院し,干渉波刺激前1回,使用期間中3回,刺激後1回の計5回唾液の採取を行った.干渉波刺激前に比べると,刺激期間中は,個人差があったものの,刺激1回目では2.5倍, 2回目3.0倍, 3回目2.5倍, 4回目3.1倍唾液の増加を認めた.刺激期間中の唾液量は採取できなかったが,刺激後の唾液量は,刺激前よりも増加傾向であった.唾液の採取とともに来院ごとに口腔のアセスメントを実施した.実施項目は,開口,口臭,流誕,口腔乾燥度・唾液,歯・義歯,粘膜(舌・口唇・歯肉)である.簡易的に口腔乾燥を評価したところ,それぞれの評価項目に改善はなかったが,刺激期間中の口腔乾燥の自覚症状の緩和および口角炎の改善を認めた者もいた.今回の研究では,干渉波刺激装置の使用を継続することで唾液分泌の促進がみられる患者が存在すること,口腔乾燥に対する自覚症状が軽減すること,口腔乾燥による口角炎の改善をみる患者がいたことが明らかになった.しかし,被験者が少ないこともありデータにばらつきがあったため,今後は,継続して被験者を増やして,さらなるデータの蓄積を図る必要がある.
KAKENHI-PROJECT-17H00677
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H00677
ツイスター理論による異なる幾何構造の間の対応と関係について
異なった幾何構造の間の関係を、付随した微分式系の解空間の構造としてとらえ、ダブル・ファイバリングを通してダイナミックにみていくのがツイスター理論の本質であり、我々はその考えに沿って、研究成果、予定を述べる。1. Grassmann構造:(n,2)型は射影構造と対応していて、特に面白い。ヌル平面束にトートロジカル分布を定義して、完全積分可能性と半平坦性の同値を示した。そのとき、その束にco-Grassmann構造が定義でき、lifting定理,reduction定理,twistor定理を示した。2.自己双対な8元構造:Spin(7)構造をもつ8次元多様体Mに、自己双対性が、2-形式の空間の既約分解によって、曲率テンソルに定義され、ファイバーがS^4である12次元ツイスター空間Fが構成できる。さらに、その上に、ファイバーがS^2である14次元ツイスター空間Zができる。Mが自己双対性をもつことと、Fがsemi-integrableな4元構造をもつことと、Zがintegrableな複素構造をもつこととは同値であることを示した。3. Laplace方程式の基本解:複素空間の(複素)Laplace方程式の基本解のツイスター積分表示を、最大全ヌル平面全体のツイスター空間上に、グラフ理論の樹木の概念を援用して、ある閉微分形式で行なった。奇数次元は、Hadamardの降下法を利用した。4. Monge-Ampere方程式:独立3変数以上の場合に、分解可能という概念を定義した。特性系のLagrange型、non-Lagrange型それぞれの中である種の方程式を特徴づけた。射影構造と、接触構造が定義できるシンプレクティック構造、及びキャリブレーションなどの幾何構造と関係があることを示した。予定としては、純スピノル構造と(n,n)型共形構造、Lie接触構造、Lagrangian構造、及び例外群G_2の3つのタイプのツイスター理論を展開したい。さらに、シンプレクティック構造(さらに接触構造)をもつ空間での(sub-)Laplace方程式の解、特に基本解のツイスター的構成を行ないたい。そして、キャリブレーションであるspeciaILagrangianを、Calabi-Yau多様体からFano多様体に拡張して、モジュライの構造を調べたい。ミラー理論、超弦理論と関係がある。異なった幾何構造の間の関係を、付随した微分式系の解空間の構造としてとらえ、ダブル・ファイバリングを通してダイナミックにみていくのがツイスター理論の本質であり、我々はその考えに沿って、研究成果、予定を述べる。1. Grassmann構造:(n,2)型は射影構造と対応していて、特に面白い。ヌル平面束にトートロジカル分布を定義して、完全積分可能性と半平坦性の同値を示した。そのとき、その束にco-Grassmann構造が定義でき、lifting定理,reduction定理,twistor定理を示した。2.自己双対な8元構造:Spin(7)構造をもつ8次元多様体Mに、自己双対性が、2-形式の空間の既約分解によって、曲率テンソルに定義され、ファイバーがS^4である12次元ツイスター空間Fが構成できる。さらに、その上に、ファイバーがS^2である14次元ツイスター空間Zができる。Mが自己双対性をもつことと、Fがsemi-integrableな4元構造をもつことと、Zがintegrableな複素構造をもつこととは同値であることを示した。3. Laplace方程式の基本解:複素空間の(複素)Laplace方程式の基本解のツイスター積分表示を、最大全ヌル平面全体のツイスター空間上に、グラフ理論の樹木の概念を援用して、ある閉微分形式で行なった。奇数次元は、Hadamardの降下法を利用した。4. Monge-Ampere方程式:独立3変数以上の場合に、分解可能という概念を定義した。特性系のLagrange型、non-Lagrange型それぞれの中である種の方程式を特徴づけた。射影構造と、接触構造が定義できるシンプレクティック構造、及びキャリブレーションなどの幾何構造と関係があることを示した。予定としては、純スピノル構造と(n,n)型共形構造、Lie接触構造、Lagrangian構造、及び例外群G_2の3つのタイプのツイスター理論を展開したい。さらに、シンプレクティック構造(さらに接触構造)をもつ空間での(sub-)Laplace方程式の解、特に基本解のツイスター的構成を行ないたい。そして、キャリブレーションであるspeciaILagrangianを、Calabi-Yau多様体からFano多様体に拡張して、モジュライの構造を調べたい。ミラー理論、超弦理論と関係がある。ツイスター理論を、数学的に、ダブル・ファイバリングを通しての2つ以上の幾何構造の対応、関係としてとらえる。1.(n,2)型Grassmann構造と、ヌルn-平面束を通して、射影構造の対応、関係について:ヌルn-平面束のn次元ト-トロジカル分布の完全積分可能性が、田中接続の曲率の半平坦性の概念で特徴づけられ、射影構造の定義しうるn+1次元のツイスター空間が構成できる。逆に、ツイスター空間に、Einstein-Weyl構造が付加されれば、2n次元の測地線の空間に、Lie接触構造から、(n,2)型Grassmann構造が定義できる。2.(n,n)型共形構造と、全ヌルn-平面束を通して、純スピノル構造の対応、関係について:これについては、今、進行中の課題である。全ヌルn-平面束のn次元ト-
KAKENHI-PROJECT-09640141
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ツイスター理論による異なる幾何構造の間の対応と関係について
トロジカル分布の完全積分可能性は、平坦なときのみ成り立ち、純スピノル構造が定義されるツイスター空間が定義される。ここでは、逆の立場が面白いと思われる。純スピノル構造に関するモデル空間のツイスター・ダイアグラムを調べ、一般論を田中理論の立場で調べる。典型的な例であるRiemann多様体上の長さ1の接枠束を、詳しくみてみる。3.4次元Riemann多様体のツイスター理論の高次元への拡張として、自己双対な8元構造とツイスター理論:Spin(7)構造をもつ8次元多様体Mに、自己双対性が定義され、ファイバーがS⌒4である12次元ツイスター空間Fが構成できる。さらに、その上に、ファイバーがS⌒2である14次元ツイスター空間Zができる。Mが自己双対性をもつことと、Fがsemi-integrableな4元構造をもつことと、Zがintegrableな複素構造をもつこととは同値である。4.例外群G_2に関するツイスター理論:5次元接触構造の立場と、7次元G_2構造の立場、それぞれ違った視点でツイスター理論を考える。いずれも、モンジュ・アンペ-ル方程式が絡んでいると思われる。進行中の課題である。異なった幾何構造の間の関係を、付随した微分式系の解空間の構造としてとらえ、ダブル・ファイバリングを通してダイナミックにみていくのがツイスター理論の本質であろうと思われる。その考えに沿って、研究成果、予定を述べる。1. Grassmann構造:(n,2)型は射影構造と対応していて、特に面白い。ヌル平面束にトートロジカル分布を定義して、完全積分可能性と半平坦性の同値を示した。そのとき、その束にco-Grassmann構造が定義でき、lifting定理,reduction定理,twistor定理を示した。2.自己双対な8元構造:4次元Riemann多様体の場合の高次元への拡張として、Spin(7)構造をもつ8次元多様体Mに、自己双対性が定義され、ファイバーがS^-4である12次元ツイスター空間Fが構成できる。さらに、その上に、ファイバーがS^-2である14次元ツイスター空間Zができる。Mが自己双対性をもつことと、Fがsemi-integrableな4元構造をもつことと、Zがintegrableな複素構造をもつこととは同値であることを示した。3. Monge-Ampere方程式:独立3変数以上の場合に、分解可能という概念を定義した。特性系のLagrange型、non-Lagrange型それぞれの中である種の方程式を特徴づけた。射影構造と、接触構造が定義できるシンプレクティック構造、及びキャリプレーションなどの幾何構造と関係があることを示した。4. (n,n)型計量構造、シンプレクティック構造(さらに接触構造)をもつ空間でのLaplace方程式などの解、特に基本解のツイスター的構成を行なった。
KAKENHI-PROJECT-09640141
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高電界を印加して生成させた石英ガラスの非線形分極相を利用した新型光メモリーの開発
高電界を印加することにより第2高調波を発する石英ガラスを利用することで将来実用化されるであろう光コンピュータのメモリーを作成することができる。この現象には欠陥が関与しており、欠陥の役割が解明されれば、高性能の光メモリーを酸化シリコンのみから作ることができる。今回、その基礎実験として以下のことをおこなった。1、SHG相の生成及び消去直径20mm、厚さ1.2mmの溶融石英ガラスに260°Cで4.8kVの電界を20分間印加すると、肉眼でも検知できる強いSHG信号を検出された。次に260°Cで20分間放置するとSHG信号は完全に消去された。2、SHG信号強度の印加電圧、温度依存性印加電圧を変化させると、1kVまではSHG信号が検出されなかったので敷居値があることがわかった。また電圧に対してSHG信号は比例的に増加した。また温度を変化させると、100°CでSHG信号は検出された。これよりSHG相を生成する不純物が100°Cで移動することがわかった。また260°Cまでほぼ比例的にSHG信号は増加していた。3、X線照射によって導入された欠陥とSHG相との相関そのままではSHG相が生成されない合成石英ガラスにCuKα線を照射すると溶融石英ガラス並のSHG信号を検出した。他の研究者らの報告と併せて判断するに酸化シリコンのSi-O-SiがX線により切断されSi-O・が生成されるためSHG相が生成されることがわかった。これよりX線と干渉マスクを使用することで酸化シリコン上に微細なSHG相のパターンを作成できる。以上より石英ガラスの非線形光学相を利用した光メモリーを開発するためのデータが得られた。高電界を印加することにより第2高調波を発する石英ガラスを利用することで将来実用化されるであろう光コンピュータのメモリーを作成することができる。この現象には欠陥が関与しており、欠陥の役割が解明されれば、高性能の光メモリーを酸化シリコンのみから作ることができる。今回、その基礎実験として以下のことをおこなった。1、SHG相の生成及び消去直径20mm、厚さ1.2mmの溶融石英ガラスに260°Cで4.8kVの電界を20分間印加すると、肉眼でも検知できる強いSHG信号を検出された。次に260°Cで20分間放置するとSHG信号は完全に消去された。2、SHG信号強度の印加電圧、温度依存性印加電圧を変化させると、1kVまではSHG信号が検出されなかったので敷居値があることがわかった。また電圧に対してSHG信号は比例的に増加した。また温度を変化させると、100°CでSHG信号は検出された。これよりSHG相を生成する不純物が100°Cで移動することがわかった。また260°Cまでほぼ比例的にSHG信号は増加していた。3、X線照射によって導入された欠陥とSHG相との相関そのままではSHG相が生成されない合成石英ガラスにCuKα線を照射すると溶融石英ガラス並のSHG信号を検出した。他の研究者らの報告と併せて判断するに酸化シリコンのSi-O-SiがX線により切断されSi-O・が生成されるためSHG相が生成されることがわかった。これよりX線と干渉マスクを使用することで酸化シリコン上に微細なSHG相のパターンを作成できる。以上より石英ガラスの非線形光学相を利用した光メモリーを開発するためのデータが得られた。
KAKENHI-PROJECT-07750438
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遍歴強磁性と異方的超伝導の新奇な共存現象の極低温・高圧下NQR法による解明
これまでの重い電子系超伝導が磁性の消失する磁気臨界点近傍で多く発見されてきたのに対し、近年報告された強磁性超伝導体UGe_2[1]は磁気秩序状態にもかかわらず超伝導が生じている。磁気秩序状態ではあるが、2つの強磁性磁気モーメントの異なる2つの強磁性相FM2からFM1へ一次転移する圧力P_x近傍で縦方向のスピン密度揺らぎが生まれ、この揺らぎを媒介とした超伝導が発生していると推測される。私は、たとえ磁気臨界点から離れた磁気秩序状態であっても縦方向にスピン密度が揺らぐことで一般的に超伝導が出現しうることを示すため、同様な超伝導発現機構が期待される反強磁性体CeNiGe_3[2]の研究を進めている。T_2測定から縦方向のスピン密度揺らぎを示唆する結果を得ているが、この磁気揺らぎが反強磁性磁気構造の転移と関連して生じていることがNQRスペクトル測定よりわかった。興味深いことに超伝導の生じる圧力下では、ネール温度(T_N)より十分低温で結晶構造の周期性に非整合な反強磁性磁気構造から整合的な磁気構造へと転移することを観測した。そしてこの磁気構造の転移に呼応し、スピン密度揺らぎも発生している。UGe2と同様に、たとえ磁気秩序状態であっても磁気構造の転移に伴って発生するスピン密度揺らぎが超伝導電子対を媒介とする引力相互作用となりうることを示した。近年、従来の常識を覆す反強磁性や更には強磁性などの磁気秩序と超伝導が共存するCe系化合物や強磁性超伝導体UGe_2[1]、URhGe[2]の発見により、相反するものと考えられていた磁性と超伝導が実は密接に関係していることが明らかになりつつある。本研究では強磁性超伝導体UGe_2における遍歴強磁性と異方的超伝導の新奇な共存現象を明らかにすべく取組んだ。UGe_2の超伝導状態での1/T_1の温度依存性から、超伝導状態でギャップ構造内に残留状態密度が存在することが分かった。この残留状態密度は、(1)サンプル内の不純物効果、(2)強磁性相と共存する超伝導状態に現れる自己誘起渦糸の存在、(3)強磁性磁化方向に平行なスピン対を形成する強磁性的な非ユニタリースピン三重項超伝導体で特徴的なアップスピンバンドにのみ超伝導ギャップが形成され、ダウンスピンバンドはギャップレス状態、などに起因することが予想される。最近の高品質な試料でも同様に残留状態密度が存在し、P_x付近の特異な振る舞いが試料依存しないことから(3)非ユニタリースピン三重項超伝導体が実現している可能性が高い。非ユニタリー三重項超伝導モデルによる1/T_1の解析の結果、超伝導に寄与する強磁性磁化方向に平行なスピンバンドの状態密度がFM2からFM1へ一次転移するP_x近傍で急激に上昇することが分かった。圧力P_xで磁化を増大させるN_↑(E)のこの急激な増大が縦方向のスピン密度揺らぎをも生み、超伝導を媒介していると期待される。さらに、FM1に比べてFM2でのT_<SC>が低い原因はスピン密度揺らぎの抑制、状態密度が小さいためであることを示唆している。近年発見された強磁性超伝導体UGe_2[1]は驚くべきことに強磁性状態で超伝導が生じている。このUGe_2ではどのような超伝導が生じているのか?何故強磁性状態で超伝導が生じるのか?と大変興味深く思われる。平成17年度の研究成果として、強磁性磁化方向に平行なスピン対を形成する強磁性的な非ユニタリー超伝導体がUGe_2では実現していることを核磁気緩和率(1/T_1)より指摘した。またFM2からFM 1ヘ一次転移する圧力P_xで急激に増大するN_↑(E)が縦方向のスピン密度揺らぎをも生み、超伝導を媒介していると推測した。今年度は、超伝導発現機構として考えられる縦方向のスピン密度揺らぎの存在、普遍性を明らかにすべく研究を取り組んだ。またUGe_2と同時に縦方向のスピン密度揺らぎを媒介とする超伝導である可能性を持つ反強磁性体CeNiGe_3[2]についても研究をすすめた。縦方向のスピン密度揺らぎを追究する上で新しく取り組んだことはT_2測定である。T_1(縦方向緩和時間)測定は量子化軸に垂直な成分の電子スピン揺らぎの存在を知ることができるのに対し、T_2(横方向緩和時間)測定は量子化軸に平行な成分の電子スピン揺らぎの存在を知ることができる。つまりT_1、T_2測定より磁気揺らぎの角度依存性を知ることができる。超伝導体CeNiGe_3におけるT_2測定の結果、反強磁性状態にもかかわらず量子化軸に平行な電子スピン揺らぎの発達を観測した。同様な実験手段でUGe_2について調べたところ、やはり超伝導の背景では縦方向の電子スピン揺らぎの発達が観測された。強磁性体のみならず反強磁性体においても縦方向のスピン密度揺らぎを媒介とする超伝導が発現することを明らかにした。これまでの重い電子系超伝導が磁性の消失する磁気臨界点近傍で多く発見されてきたのに対し、近年報告された強磁性超伝導体UGe_2[1]は磁気秩序状態にもかかわらず超伝導が生じている。
KAKENHI-PROJECT-17654066
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遍歴強磁性と異方的超伝導の新奇な共存現象の極低温・高圧下NQR法による解明
磁気秩序状態ではあるが、2つの強磁性磁気モーメントの異なる2つの強磁性相FM2からFM1へ一次転移する圧力P_x近傍で縦方向のスピン密度揺らぎが生まれ、この揺らぎを媒介とした超伝導が発生していると推測される。私は、たとえ磁気臨界点から離れた磁気秩序状態であっても縦方向にスピン密度が揺らぐことで一般的に超伝導が出現しうることを示すため、同様な超伝導発現機構が期待される反強磁性体CeNiGe_3[2]の研究を進めている。T_2測定から縦方向のスピン密度揺らぎを示唆する結果を得ているが、この磁気揺らぎが反強磁性磁気構造の転移と関連して生じていることがNQRスペクトル測定よりわかった。興味深いことに超伝導の生じる圧力下では、ネール温度(T_N)より十分低温で結晶構造の周期性に非整合な反強磁性磁気構造から整合的な磁気構造へと転移することを観測した。そしてこの磁気構造の転移に呼応し、スピン密度揺らぎも発生している。UGe2と同様に、たとえ磁気秩序状態であっても磁気構造の転移に伴って発生するスピン密度揺らぎが超伝導電子対を媒介とする引力相互作用となりうることを示した。
KAKENHI-PROJECT-17654066
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表面終端ダイヤモンドにおけるキャリア輸送特性解析
本研究課題は,ダイヤモンドと金属または絶縁体との界面におけるキャリア輸送現象と原子レベルの微視的構造との相関を明らかにすることを目的とする。ダイヤモンドデバイス応用において重要な「金属電極との接触特性」および「MIS構造におけるチャネル伝導」をモデル化した量子輸送シミュレーションを行い,ダイヤモンド表面終端構造とキャリア輸送特性との相関を明らかにする。それらを系統的に解析することにより,デバイス特性の向上あるいは劣化に関与する本質的要因の解明を目的とする。平成30年度は研究計画に基づき以下のことを行った。(1)前年度に引き続きダイヤモンド/金属界面の電子状態についてより詳細な解析を行った。ダイヤモンド(111)表面を-H, -OH, =Oの各化学種にて終端した上へAuまたはAlを積層したダイヤモンド/金属界面の計算モデルを構築し,界面近傍の原子に関する部分状態密度に着目して電子状態の解析を行った。今年度は特に,計算結果として得られる静電ポテンシャルの3次元分布に注目して解析を行い,表面終端構造によって変化する電子親和力(ダイヤモンド)・仕事関数(金属)について調べた。(2)前年度に構成した原子構造モデルについて,非平衡グリーン関数(NEGF)法による量子輸送の解析を行った。NEGF法の計算パラメータを最適化するために,先ずは水素終端面とAuとの接触界面を中心に計算を行った。これらの結果より,計算モデルについても再度見直しを行い,計算の効率化を図ると共に,計算可能なモデルのサイズについても見積もった。当初の計画どおり,非平衡グリーン関数(NEGF)法による量子輸送の解析を実施できた。しかしながら,モデルを構成する原子数の増加させた場合において計算時間の伸長は予想していたが,メモリ容量の不足による計算の中断が起こることがあり,計算環境の調整が必要であることがわかった。一方で,初年度から開始した静的な界面電子状態の解析については,着実に進めることができた。水素終端ダイヤモンドは負の電子親和力を持つことが実験的に知られているが,本研究における解析結果もそれを支持する結果が得られた。表面終端構造によってダイヤモンド表面に電気二重層が形成され,それらの差異によって電子親和力等に変化が生じていることがわかった。特にダイヤモンド表面の静電ポテンシャルに関する原子スケールで解析は,新しい知見が得られる可能性があると考えている。前年度までの計算および解析を継続し,ダイヤモンド・金属界面での電子輸送について解析してゆくと共に,新たにダイヤモンド・絶縁体界面の量子輸送特性の計算を開始する予定である。NEGF計算のSCF収束が予想以上に時間がかかっており,前述のようにモデルやパラメータの調整,さらには計算環境の調整が必要である。最終年度であるので,研究成果の発信についても積極的に進める。研究計画に基づき,平成29年度は以下のことを行った。(1)現有の計算機設備上にて密度汎関数法のSIESTAコードを用い,ダイヤモンド/金属界面の構造最適化と電子状態計算を行った。ダイヤモンド(111)表面を-H, -OH, =Oの各化学種にて終端した上へAuまたはAlを2原子層積層し,ダイヤモンド/金属界面の計算モデルを構築した。このモデルを構造最適化し,界面近傍の原子に関する部分状態密度に着目して電子状態の解析を行った。表面終端構造に依存して金属積層時のフェルミ準位エネルギーの変化に差異が見られ,また酸素終端時には金属積層によりダイヤモンド表面の構造に乱れが生じることがわかった。こうした構造乱れは電子状態にも影響を与えている。これらの結果は,量子輸送特性解析する上で基礎的な知見となる。(2)非平衡グリーン関数(NEGF)法による量子輸送シミュレーションを行うため,SIESTAコードの実行環境を購入備品のワークステーション上に構築した。現有の計算機上でのSIESTAコードの実行結果と,新規実行環境での実行結果について綿密にテストを行い,計算結果に差異がないことを確認した。当初の計画どおり,ダイヤモンド/金属界面の構造最適化と電子状態計算を実施できた。また,新規導入したワークステーション上に計画どおりの計算環境を構築することができ,動作試験結果も良好であった。本研究課題は,ダイヤモンドと金属または絶縁体との界面におけるキャリア輸送現象と原子レベルの微視的構造との相関を明らかにすることを目的とする。ダイヤモンドデバイス応用において重要な「金属電極との接触特性」および「MIS構造におけるチャネル伝導」をモデル化した量子輸送シミュレーションを行い,ダイヤモンド表面終端構造とキャリア輸送特性との相関を明らかにする。それらを系統的に解析することにより,デバイス特性の向上あるいは劣化に関与する本質的要因の解明を目的とする。平成30年度は研究計画に基づき以下のことを行った。(1)前年度に引き続きダイヤモンド/金属界面の電子状態についてより詳細な解析を行った。ダイヤモンド(111)表面を-H, -OH, =Oの各化学種にて終端した上へAuまたはAlを積層したダイヤモンド/金属界面の計算モデルを構築し,界面近傍の原子に関する部分状態密度に着目して電子状態の解析を行った。今年度は特に,計算結果として得られる静電ポテンシャルの3次元分布に注目して解析を行い,表面終端構造によって変化する電子親和力(ダイヤモンド)・仕事関数(金属)について調べた。(2)前年度に構成した原子構造モデルについて,非平衡グリーン関数(NEGF)法による量子輸送の解析を行った。NEGF法の計算パラメータを最適化するために,先ずは水素終端面とAuとの接触界面を中心に計算を行った。これらの結果より,計算モデルについても再度見直しを行い,計算の効率化を図ると共に,計算可能なモデルのサイズについても見積もった。当初の計画どおり,非平衡グリーン関数(NEGF)法による量子輸送の解析を実施できた。
KAKENHI-PROJECT-17K06343
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K06343
表面終端ダイヤモンドにおけるキャリア輸送特性解析
しかしながら,モデルを構成する原子数の増加させた場合において計算時間の伸長は予想していたが,メモリ容量の不足による計算の中断が起こることがあり,計算環境の調整が必要であることがわかった。一方で,初年度から開始した静的な界面電子状態の解析については,着実に進めることができた。水素終端ダイヤモンドは負の電子親和力を持つことが実験的に知られているが,本研究における解析結果もそれを支持する結果が得られた。表面終端構造によってダイヤモンド表面に電気二重層が形成され,それらの差異によって電子親和力等に変化が生じていることがわかった。特にダイヤモンド表面の静電ポテンシャルに関する原子スケールで解析は,新しい知見が得られる可能性があると考えている。新規導入した計算環境を用いてダイヤモンド・金属界面の量子輸送特性の計算を行う予定である。また,平衡状態の電子状態についてもさらに詳細な解析を行う予定である。前年度までの計算および解析を継続し,ダイヤモンド・金属界面での電子輸送について解析してゆくと共に,新たにダイヤモンド・絶縁体界面の量子輸送特性の計算を開始する予定である。NEGF計算のSCF収束が予想以上に時間がかかっており,前述のようにモデルやパラメータの調整,さらには計算環境の調整が必要である。最終年度であるので,研究成果の発信についても積極的に進める。
KAKENHI-PROJECT-17K06343
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TRPチャネルを介したAMPキナーゼによる疼痛制御とその分子機構の解明
AMPキナーゼは、細胞内AMP濃度の上昇によって活性化し、グルコースや脂肪酸の利用、遺伝子発現、タンパク合成など多様な生理機能に関与し、細胞のエネルギー恒常性の最上位の調節因子として重要な役割を担っている。一方、TRPチャネルは感覚神経に存在する痛みの受容に関わる重要なセンサータンパクとして知られている。本研究では一次感覚神経におけるAMPKの活性化によるTRPチャネルの機能調節に着目し、疼痛発症におけるAMPKの役割と、その疼痛制御の分子機構を解明した。平成26年度は、研究計画に従い下記の実験を行い、一定の成果が得られた。2.疼痛行動におけるAMPK関与を検討した。AITCによって惹起する実験動物の疼痛行動に対して、AMPKのactivatorやinhibitorを動物へ投与し、疼痛行動の変化を検討した。AMPKのactivatorはAITC疼痛行動を抑制することを明らかにした。3.TRPチャネルとリン酸化AMPKとの共存を確認した。(1)TRPV1、TRPA1、AMPK、リン酸化AMPKの抗体を用いて、免疫染色を行い、ラットのDRGニューロンにおける発現パタンを検討した。TRPチャネルとAMPKの共存が確認された。(2)強制発現したHEK細胞およびDRGニューロンの膜タンパクを採集後、TRPV1およびTRPA1の抗体で免疫沈降を行い、リン酸化AMPKとの物理的結合を検討した。少なくとも正常ラットでは二者のバインディングが認められなかった。4.AMPKによるTRPチャネル機能調節解析実験の一部を実施した。DRGの初代培養細胞を用い、capsaicin(TRPV1 agonist)やAITC (TRPA1 agonist)を投与することで発生する内向き電流をホールセルパッチクランプ法で測定した。AMPKのactivatorがTRPチャネルを介した内向き電流の抑制が確認できた。H27年度の研究計画に従い、下記の実験を行った。一定の成果が得られた。1.TRPチャネルとAMPK、リン酸化AMPKの膜タンパク発現を確認した。TRPV1、TRPA1、AMPK、リン酸化AMPKの抗体を用いて、正常ラットの後根神経節(DRG)ニューロンの膜タンパクを分画し、免疫染色を行った。AMPKの活性化は膜タンパクにおけるTRPA1発現の増加が認められた。対照的にTRPV1は変化がなかった。2.神経障害性疼痛動物モデルを作製し、AMPKの活性化変化を解析した。抗がん剤誘発性ニューロパチーなどの動物モデルを作製し、Western Blot法、免疫染色法でDRGニューロンにおけるAMPKおよびリン酸化AMPKの発現変化を検討した。モデルにおけるAMPKリン酸化の増強傾向が認められた。3.TRPA1を安定的に発現するHEK細胞株の作製を試みた。電気生理学解析のため、TRPA1の安定発現HEK細胞系を作製した。一部未発現細胞が混在する問題が残るが、電気生理的な解析に使用可能と判断した。4.AMPKによるTRPチャネル機能調節機構を解析した。TRPA1が強制発現したHEKやDRG培養細胞を用い、AITC (TRPA1 agonist)を投与することで発生する内向き電流をホールセルパッチクランプ法で測定した。培養液の浸透圧や糖分の濃度を変化させ、AMPK活性化の状態を誘導し、AITC電流の変化を確認した。本年度は、下記の研究を行い、一定な成果を得られたので、研究は概ね順調に進展していると判断した。1.TRPチャネルとAMPK、リン酸化AMPKの膜タンパク発現を確認した。2.神経障害性疼痛動物モデルを作製し、AMPKの活性化変化を解析した。3.電気生理学解析のため、TRPA1の安定発現HEK細胞系を作製した。4.AMPKによるTRPチャネル機能調節機構を解析した。H28年度の研究計画に従い、下記の実験を行った。一定の成果が得られた。2)AMPK活性化によるTRPチャネルの細胞内の局在調節とそのメカニズムを検討した。TRPチャネル強制発現したHEK細胞とDRG細胞を用いて、AMPKのactivatorやinhibitorをアプライし、細胞内TRPA1とTRPV1の局在変化を下記の方法で検討した。1膜タンパクにおける発現量をWestern Blotを用いて定量した。2蛍光標識したTRPA1プラスミドをHEK細胞に導入し、共焦点レーザー顕微鏡でその動態を観察した。3細胞外TRPA1ドメインを認識する抗体を用いて、細胞膜のTRPA1発現変化を調べた。結果、AMPKのactivatorはHEK細胞とDRG細胞に発現するTRPA1とTRPV1のトータルタンパクへの影響はなかった。膜タンパクはTRPV1の変化がなかったが、TRPA1は有意に変化することが確認された。3)TRPA1とTRPV1細胞内ドメインのAMPKバインディングサイトとリン酸化サイトを同定した。リン酸化部位を同定するため,AMPKによるリン酸化モチーフをもとにアミノ酸配列を検索し、TRP細胞内ドメインのAMPKによるリン酸化モチーフの多く存在する領域さらにこの領域に存在するリン酸化サイトの同定を免疫沈降法で試みた。結果、AMPKとTRPチャネルのバインディングが確認できなかった。AMPキナーゼは、細胞内AMP濃度の上昇によって活性化し、グルコースや脂肪酸の利用、遺伝子発現、タンパク合成など多様な生理機能に関与し、細胞のエネルギー恒常性の最上位の調節因子として重要な役割を担っている。一方、TRPチャネルは感覚神経に存在する痛みの受容に関わる重要なセンサータンパクとして知られている。
KAKENHI-PROJECT-26460713
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TRPチャネルを介したAMPキナーゼによる疼痛制御とその分子機構の解明
本研究では一次感覚神経におけるAMPKの活性化によるTRPチャネルの機能調節に着目し、疼痛発症におけるAMPKの役割と、その疼痛制御の分子機構を解明した。研究計画通りにすべての実験を行い、結果が得られたため、順調に進展していると判断した。今後、研究計画とおりで、以下の研究を行う予定。1.TRPA1細胞内ドメインのAMPKバインディングサイトとリン酸化サイトの同定2.平成27年度に引き続き、AMPKによるTRPチャネル機能調整機構の解析(Patch Clamp法)を行う。3.行動薬理学実験を用いてAMPKとTRPの関係およびAMPKの疼痛制御を確認する。次年度も計画通りに研究を推進していく予定である。計画通り研究を実施したが、順調に進んだため経費の節約ができ、少額の未使用額が生じた。平成26年度末に調達した抗体類や試薬などが年度末まで入荷されず、次年度に入荷予定となったため、末使用額が生じた。次年度に使用する消耗品の購入費用に充当する予定である。研究計画に従い、研究に必要な物品費用に充当する予定である。
KAKENHI-PROJECT-26460713
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『上海博物館蔵戦国楚竹書(二)』の研究
1.上博楚簡『子羔』の感生説と二重の受命論(『中国出土資料研究』第十一号、2007年、未刊)【概要】古文献に見える中国の感生説の例は枚挙に暇がないほど多い。特に漢代以降に成書された文献資料や編纂資料には、.ある程度まとまった形の感生説が多く見受けられる。しかし漢代以前となるとごく断片的な形で散見するにすぎない。その中でも最も古い形態が禹・契・后稷の感生説である。さてこの三代の始祖の感生説は、それらすべてが先秦文献に記録として残っているわけではない。契や后稷の感生説は『史記』に始めて明確な形で書かれているが、禹のそれは『史記』にすら見えない。このような事実から、三代の始祖の感生説は、従来、秦漢のような統一王朝形成期に要請され形成されたのではないかという見解もあった。しかし、上海博物館蔵戦国楚竹書『子羔』の発見によって、そのような認識は再考が迫られるようになったのである。本稿では、それを次の二つの観点から考察した。一つは禹・契・后稷の感生説が『子羔』を前後してどのように展開していくかという問題についてであり、もう一つは『子羔』の発見によって、先秦時代の感生説の漢代的変容をどのように描き直せるかという問題についてである。前者の問題については、禹・契・后稷の感生説は、同時代に出現したわけではないことが判明した。そして、後者の問題については、「受命」(感生説的受命論と禅譲説的受命論)ということばを手がかりに考察を行ったが、.『子羔』においては感生説的受命論を禅譲説的受命論の中に包摂するという特徴があった。ところが、このような二つの受命論の関係は、前漢末期から後漢初期になると、『子羔』のそれをちょうど逆転させたような形で変容していくことが判明した。このように『子羔』の発見によって、感生説の思想史的空白の一つは埋められたと評価することができる。その意味において当篇の存在意義は大きいと思う。1.「上海博物館蔵戦国楚竹書《容成氏》の古帝王帝位継承説話研究」(『大巡思想論叢』17、韓国、大巡思想学術院、2004年6月、197225頁)【概要】上海博楚簡『容成氏』の中で特に古帝王帝位継承説話は、主として郭店楚簡『唐虞之道』や『荘子』『墨子』『管子』『荀子』などと思想史的に直接的な影響関係にあった。そして思想史的には、『唐虞之道』と同様戦国後期から末期の移行期に統一の気運の高まりつつあった中国を支配するに最も相応しい新しい帝王像や理想的な帝位継承、政治像などを提言しようとした士や客の立場が反映されていると位置づけられる。2.「上海博楚簡『容成氏』の尭舜禹禅譲の歴史」(『中国研究集刊』36、2004年12月、7597頁)【概要】上海博楚簡『容成氏』の尭舜禹禅譲の記述には大略次の五つの思想的特徴が見られる。(1)尭の政治のあり方として信賞必罰の法家的統治方法を取らなくてもよく治まったという説話は、戦国後期から末期以降に成立した思われる諸文献に多く見られる。(2)尭のような天子の禅譲と万邦の君のような諸侯のそれとを意識的に分けて述べることは、『荀子』正論篇で天子レベルの禅譲と諸侯レベルのそれとを意識的に分けていることと形式上同じである。(3)舜の貧賎さを表す表現及びその数は『墨子』尚賢中篇と一致している。しかし、挙用の原因・理由として舜の孝子説話を利用したり、「天地人民の道」の具体的な内容として「政・楽・礼」のような儒家の徳目や政治理念(礼楽の方)が特に目立ったりすることから見れば、やはり墨家系の文献というより儒家系の文献と見なした方がよいと考えられる。(4)「天地人民の道」の具体的な内容として「政・楽・礼」が取り上げられていることは、『荘子』の天人関係論及び『荀子』の天人の分の思想とをふまえて登場した『左伝』や『礼記』などに見えるような新しい天人関係論の思想史的流れと軸を同じくするものと考えられる。(5)『容成氏』の尭舜禹禅譲説の思想的特徴と最も近いのは『唐虞之道』と『荀子』成相篇である。以上のことを考えれば、古帝王帝位継承説話の思想史的位置づけと同様、荀子や荀子学派と相互影響関係にありながら、法家とは鋭く対立し、かつ道家思想の一部を摂取した儒家の一派の作と推定される。しかし、尭の時代の叙述の中には、尭の天子となった経緯の記述や「賢」の基準の提示など、『容成氏』にしか見えないユニークな描写や思想が含まれているのも看過してはなるまい。
KAKENHI-PROJECT-16720011
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『上海博物館蔵戦国楚竹書(二)』の研究
1.上海博物館蔵戦国楚竹書『容成氏』訳注(上)(上海博楚簡研究会編『出土文献と秦楚文化』第二号、2005年11月、23216頁)【概要】本稿は、馬承源主編『上海博物館蔵戦国楚竹書(二)』に収録されている『容成氏』の前半部分(第一号簡第三十四号簡及び第三十五号簡下段)を訳出し注釈を施したものである。『容成氏』には、上古の帝王の時代から殷周革命の時代までの、各王朝の興亡盛衰の歴史が描かれている。具体的には、(1)「〔尊〕盧氏・赫胥氏・高辛氏(?)・倉頡氏・軒轅氏・神農氏・渾沌氏・包羲氏」の八名の古帝王の時代(「容成氏」を含むと九名)、(2)「□□氏」の時代、(3)逸名の帝王の時代(竹簡の残欠や散逸のため帝王の名は未詳)、(4)「又呉脯」の時代、(5)「堯」の時代、(6)「舜」の時代、(7)「禹」の時代、(8)「啓」による王位簒奪事件、(9)「桀」の虐政、(10)「湯」の放伐、(11)「受」(=紂)の無道、(12)「文王」の補佐、(13)「武王」の放伐、の順である。(6)の舜の時代には、さらに舜の臣下として「禹・后稷・咎陶(=皋陶)・質」の四人の名が見え、(8)には王位継承をめぐって「咎陶・益・啓」の三人の名が見える。そこに実際記されているのは、『史記』に代表されるような三皇五帝伝説と大きく異なることは勿論、夏殷周三代に関する記述の部分も、共通点より相違点や未見の内容の方が目立つ。本訳注ではその内容を文脈にそって全二六章に分けたが、本稿はそのうち第一章から第十九章までを扱ったものである。本訳注で解明できなかった文字や語句はまだ多いが、『容成氏』を通して他の地域とは異なる楚の地域の独特の時間認識(歴史観)や空間認識(地理観念)、ひいては正統観の一端を垣間見ることは、十分可能になったと思われる。1.上博楚簡『子羔』の感生説と二重の受命論(『中国出土資料研究』第十一号、2007年、未刊)【概要】古文献に見える中国の感生説の例は枚挙に暇がないほど多い。特に漢代以降に成書された文献資料や編纂資料には、.ある程度まとまった形の感生説が多く見受けられる。しかし漢代以前となるとごく断片的な形で散見するにすぎない。その中でも最も古い形態が禹・契・后稷の感生説である。さてこの三代の始祖の感生説は、それらすべてが先秦文献に記録として残っているわけではない。契や后稷の感生説は『史記』に始めて明確な形で書かれているが、禹のそれは『史記』にすら見えない。このような事実から、三代の始祖の感生説は、従来、秦漢のような統一王朝形成期に要請され形成されたのではないかという見解もあった。しかし、上海博物館蔵戦国楚竹書『子羔』の発見によって、そのような認識は再考が迫られるようになったのである。本稿では、それを次の二つの観点から考察した。一つは禹・契・后稷の感生説が『子羔』を前後してどのように展開していくかという問題についてであり、もう一つは『子羔』の発見によって、先秦時代の感生説の漢代的変容をどのように描き直せるかという問題についてである。前者の問題については、禹・契・后稷の感生説は、同時代に出現したわけではないことが判明した。そして、後者の問題については、「受命」(感生説的受命論と禅譲説的受命論)ということばを手がかりに考察を行ったが、.『子羔』においては感生説的受命論を禅譲説的受命論の中に包摂するという特徴があった。ところが、このような二つの受命論の関係は、前漢末期から後漢初期になると、『子羔』のそれをちょうど逆転させたような形で変容していくことが判明した。このように『子羔』の発見によって、感生説の思想史的空白の一つは埋められたと評価することができる。その意味において当篇の存在意義は大きいと思う。
KAKENHI-PROJECT-16720011
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看護師の道徳的発達段階と看護実践における倫理的課題の認識との関連
平成30年度は、研究者の出産・育児休暇取得のため研究を一時中断した。そのため、研究実績はなし。平成30年度は研究計画に基づき、質問紙で得られた内容の分析を進め、さらに看護師の道徳的発達段階との関連について検討する予定であったが、研究者の出産・育児休暇取得により研究を一時中断することになり、当初の予定から遅れている。平成30年度の研究計画を今年度(平成31年度)に移動させ、研究機関を1年間延長する手続きをとる。平成29年度は、看護師が日々の看護実践において認識している倫理的課題と対応について明らかにすることを目的とした質問紙を作成し、既存の「DIT日本版ー青年期における道徳判断の発達測定のための質問紙」と合わせて2種の質問紙調査を実施した。質問紙作成に向けて、看護分野における道徳的発達に関連する研究の動向と課題について文献検討を行い、さらに臨床で実際に倫理的課題として注目されている事象について検討を行った。文献検討の結果、看護分野における道徳的発達に関連する文献の多くが看護学生を対象としており、看護基礎教育において道徳的発達に関心が高いことがうかがえた。また、看護師を対象とした研究では、事例検討および特定の場面や状況下での看護師の道徳的発達や道徳的感受性を明らかにするものが多く見られ、看護師は日々倫理的な課題に直面しており、倫理的な実践という視点に重きが置かれていることが推察された。看護実践は患者の個別性や特殊な状況によって同じ場面はなく、看護師が葛藤を感じる場面も様々である。看護分野における道徳的発達に関連する研究数は少なく、引き続き看護師がどのような体験をして、どのような価値判断をしたのかを丁寧に分析し積み上げていく研究が必要があると考察した。文献検討で対象とした文献の中で、倫理的な課題として取り上げられている事象のうち、経験年数や診療科に影響されず、看護師が共通して理解できるものとして検討した結果「抑制の場面」を選出し質問紙を作成した。現在、質問紙の回収が終了しており、分析の結果をまとめ最終的に論文としてまとめていく予定である。研究実施計画に基づき、研究対象施設への研究協力依頼を平成29年10月より開始した。予定していた北海道および東北にある600床以上の病院20施設に事前連絡の上、書類を郵送し協力を求めたが、依頼先の看護師の勤務状況や、すでに協力している研究数が多いことを理由に協力を得ることが困難であった。そのため、研究実施計画に一部修正を加え、研究対象施設の規模を病床数500前後に修正し、追加で17施設に協力依頼を行った。このような経緯から、研究対象者への質問紙の配付が調査実施期間の直前となり、返送が調査期間の後半に集中したため、回収後のデータ入力が当初の予定よりも遅れている。平成30年度は、研究者の出産・育児休暇取得のため研究を一時中断した。そのため、研究実績はなし。平成30年度は研究計画に基づき、質問紙で得られた内容の分析を進め、さらに看護師の道徳的発達段階との関連について検討する予定であったが、研究者の出産・育児休暇取得により研究を一時中断することになり、当初の予定から遅れている。質問紙回収後のデータ入力がやや遅れているが、想定内である。研究実施計画の大幅な変更はせず、平成30年度内でデータ入力、分析を進め、翌年度には中間報告を行えるよう研究を進めていく。平成30年度の研究計画を今年度(平成31年度)に移動させ、研究機関を1年間延長する手続きをとる。研究対象施設へ協力を求めるため、直接現地に赴いて研究の趣旨を説明する計画であったが、すべての施設から資料郵送および電話や電子メールでの調整で問題が無いとの回答があり、「旅費」および「その他(手土産代)」の大半が未使用となった。また、質問紙回収が調査期間の後半に集中し、データ入力作業が次年度にずれ込んだため、データ入力作業の「謝金」も発生していない。次年度にデータ入力作業を依頼する予定であり、効率よく作業を進めるため貸し出し用のノートパソコン等の購入を行い環境を整えると共に、謝金として助成金を使用する計画である。研究者の出産、育児休暇取得のため研究を一時中断したため、次年度使用額が生じた。研究機関を1年間延長する手続きをとり、前年度使用予定の研究費を今年度(平成31年度)に使用して研究を継続する。
KAKENHI-PROJECT-17K17416
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自己幹細胞誘導を用いた中耳粘膜再生による中耳真珠腫根治治療へ向けての研究
中耳真珠腫は中耳腔の陰圧化により嚢状に陥凹した重層扁平上皮に角化物が堆積し、感染と骨破壊を起こしながら、難聴やめまい、顔面神経麻痺などをきたす疾患である。中耳真珠腫に対する根治治療は手術による完全摘出であるが、手術による骨削開と中耳粘膜掻爬により、本来の中耳粘膜によるガス交換能・圧調節能が失われれば、再び鼓膜上皮が陥凹して真珠腫の再形成を生じてしまう。真珠腫再形成を防ぐには、効率的かつ実践的な中耳粘膜の再生治療が必要と考えられ、本研究ではhigh-mobility group box 1 (以下HMGB1)を用いて自己間葉系間細胞誘導を誘導し、中耳粘膜再生を促すことによって中耳真珠腫の根本的治療法の開発を目指す。平成30年度は正常中耳粘膜の組織的評価と障害モデルの確立を目指した。前年度までは、中耳粘膜層が側頭骨から剥がれてしまい組織評価が困難であったが、固定・脱灰方法を改良することでこの問題を解決することが可能となった。また、障害モデルを作製する際には、前年度までは、側頭骨を一部穿破した後に中耳粘膜を掻爬していたが、今年度は、1.9mm耳用内視鏡を用いて経外耳道的に中耳粘膜を掻爬した。これにより、良好な中耳粘膜障害モデルを確立することができた。平成30年度は正常中耳粘膜の組織学的評価と障害モデルの確立を目指した。前年度までは、中耳粘膜層が側頭骨から剥がれてしまい組織学的評価が困難であったが、モルモットから側頭骨を取り出した後、固定時間を3日間と長くし、固定液や脱灰液を直接側頭骨内に注入することで中耳粘膜層が側頭骨から剥がれてしまうのを防ぐことができた。処理した側頭骨で凍結標本を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(H-E)染色で評価した。また、障害モデルを作製する際には、前年度までは、側頭骨を一部穿破した後に中耳粘膜を掻爬していたが、穿破した部位から肉芽組織が増生する問題点があった。このため、今年度は、1.9mm耳用内視鏡を用いて経外耳道的に鼓膜を穿破した後に、中耳粘膜を掻爬した。これにより、中耳粘膜以外の部位からの肉芽組織の増生を予防することができ、障害モデルを確立することができた。今後は、平成30年度に確立した障害モデルに、徐放製剤に含浸したHMGB1を投与し、中耳粘膜の評価を行う予定である。また、比較実験として、生理食塩水、ステロイド、レチノイド、Insulin-like growthfactor-1(IGF-1)を投与し、併せて中耳粘膜の評価を行う予定である。組織学的評価の時期としては、術後2週間を予定しており、H-E染色と免疫組織染色を行う。免疫組織染色では、上皮細胞マーカー、非上皮系細胞マーカー、基底膜マーカー、炎症性サイトカインなどの発現を検討し、中耳粘膜再生について評価を行う。中耳粘膜の再生を病理学的に評価するに当たり、以下の手順で、側頭骨中耳粘膜を採取し、凍結標本の作製を試みることとした。まず、モルモットを4%PFAで還流固定した後に、側頭骨を取り出し、一晩4%PFAにつける。その後、側頭骨全体をまるごと脱灰機にて脱灰し、側頭骨を内側(蝸牛がある側)と外側に分ける。中耳粘膜の断面が見える向きにOCTコンパウンドに包埋し、-80°Cで凍結させ、クライオスタットで切り出し、凍結標本を作製する。以上の操作を確立した後、実際に側頭骨中耳粘膜の病理学的評価を始めた。まず、手術操作を加えていない側頭骨で凍結標本を作製し、HE染色で評価したところ、粘膜と思われる層が一層確認できた。次に、モルモット中耳の粘膜再生について確認するために、耳後切開アプローチによる側頭骨耳包を露出・開放した後に、側頭骨中耳粘膜を機械的に掻爬したモデル、さらに掻爬部にトリアムシノロンアセトニド含浸メドジェル留置モデル、トリアムシノロン含浸ゼルフォーム留置モデル、High Mobility Group Box 1(HMGB1)含浸メドジェルを留置したモデルを作製した。4週後にHE染色を施行したが、いずれのモデルでも、組織学的に肉芽組織や中耳粘膜上皮の違いをはっきりと同定することができなかった。モルモットの中耳粘膜はヒト中耳粘膜と比較して薄いために、標本作製時に粘膜が剥がれやすい。また、ヒト中耳とことなり、モルモットでは乳突蜂巣が発達していないため、中耳粘膜操作に工夫が必要であった。この手術手技および組織標本作製の安定までに時間を要した。中耳真珠腫は中耳腔の陰圧化により嚢状に陥凹した重層扁平上皮に角化物が堆積し、感染と骨破壊を起こしながら、難聴やめまい、顔面神経麻痺などをきたす疾患である。中耳真珠腫に対する根治治療は手術による完全摘出であるが、手術による骨削開と中耳粘膜掻爬により、本来の中耳粘膜によるガス交換能・圧調節能が失われれば、再び鼓膜上皮が陥凹して真珠腫の再形成を生じてしまう。真珠腫再形成を防ぐには、効率的かつ実践的な中耳粘膜の再生治療が必要と考えられ、本研究ではhigh-mobility group box 1 (以下HMGB1)を用いて自己間葉系間細胞誘導を誘導し、中耳粘膜再生を促すことによって中耳真珠腫の根本的治療法の開発を目指す。
KAKENHI-PROJECT-17K11313
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自己幹細胞誘導を用いた中耳粘膜再生による中耳真珠腫根治治療へ向けての研究
平成30年度は正常中耳粘膜の組織的評価と障害モデルの確立を目指した。前年度までは、中耳粘膜層が側頭骨から剥がれてしまい組織評価が困難であったが、固定・脱灰方法を改良することでこの問題を解決することが可能となった。また、障害モデルを作製する際には、前年度までは、側頭骨を一部穿破した後に中耳粘膜を掻爬していたが、今年度は、1.9mm耳用内視鏡を用いて経外耳道的に中耳粘膜を掻爬した。これにより、良好な中耳粘膜障害モデルを確立することができた。平成30年度は正常中耳粘膜の組織学的評価と障害モデルの確立を目指した。前年度までは、中耳粘膜層が側頭骨から剥がれてしまい組織学的評価が困難であったが、モルモットから側頭骨を取り出した後、固定時間を3日間と長くし、固定液や脱灰液を直接側頭骨内に注入することで中耳粘膜層が側頭骨から剥がれてしまうのを防ぐことができた。処理した側頭骨で凍結標本を作製し、ヘマトキシリン・エオジン(H-E)染色で評価した。また、障害モデルを作製する際には、前年度までは、側頭骨を一部穿破した後に中耳粘膜を掻爬していたが、穿破した部位から肉芽組織が増生する問題点があった。このため、今年度は、1.9mm耳用内視鏡を用いて経外耳道的に鼓膜を穿破した後に、中耳粘膜を掻爬した。これにより、中耳粘膜以外の部位からの肉芽組織の増生を予防することができ、障害モデルを確立することができた。耳後切開によるアプローチで掻爬した中耳粘膜欠損部にHMBG1およびその他の成長因子を、投与量を振って実験を行い、H-E染色では粘膜の上皮化の有無、浮腫や瘢痕の程度を評価し、正常中耳粘膜との比較を行う。免疫組織染色では、間葉系間細胞マーカー、上皮細胞マーカー、非上皮系細胞マーカー、細胞外マトリックスや基底膜マーカー、炎症性サイトカインの発現になどを検討し、HMGB1や栄養因子を用いたMSC誘導による中耳粘膜再生について多面的に評価する。今後は、平成30年度に確立した障害モデルに、徐放製剤に含浸したHMGB1を投与し、中耳粘膜の評価を行う予定である。また、比較実験として、生理食塩水、ステロイド、レチノイド、Insulin-like growthfactor-1(IGF-1)を投与し、併せて中耳粘膜の評価を行う予定である。組織学的評価の時期としては、術後2週間を予定しており、H-E染色と免疫組織染色を行う。免疫組織染色では、上皮細胞マーカー、非上皮系細胞マーカー、基底膜マーカー、炎症性サイトカインなどの発現を検討し、中耳粘膜再生について評価を行う。初年度に購入予定としていたテレスコープを未購入であったが、耳後切開による薬剤投与の実験が進んだあとには、経外耳道的内視鏡下操作による薬剤投与実験に移行し、その際にはテレスコープの購入が必要となる。これまでは旧式のテレスコープで予備実験を行っており、経外耳道的内視鏡下操作による薬剤投与実験に移行する際には新式のテレスコープを購入し薬剤投与を行う予定であったが、中耳粘膜障害モデル作成の遅れにより、新規テレスコープが未購入であり、使用する薬剤や実験動物も予定より少ない購入であった。今回、中耳粘膜障害動物モデルが確立したため、今年度は経外耳道的内視鏡下操作による薬剤投与実験に移行し、新規にテレスコープを購入した上で、薬剤投与実験のデータを集積することができる。
KAKENHI-PROJECT-17K11313
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K11313
細胞運命決定転換におけるNotchシグナリングの新しい機能
器官のアイデンティティーがどのようにして決まるのかという問題は、発生生物学の重要な問題の一つである。これまでに、Notchシグナリングを活性化することにより、ショウジョウバエの複眼を翅、触角、肢へと改変できることを見出した。本研究の目的は、この系を用いて、細胞運命の決定転換におけるNotchシグナリングの新しい機能を明らかにすることである。そのために、酵母転写活性化因子GAL4のターゲット配列UASをゲノム上にランダムに挿入した系統(GS系統)を用いた、GAL4依存の機能獲得型変異体のスクリーニングを行った。これまでに、当初の計画通りおおよそ1万系統の解析を終了した。その結果、複眼が翅に変換する系統を3系統、複眼が触角に変換する系統を23系統、複眼が肢に変換する系統を11系統同定した。そのうちの1系統では、新規BAHドメインタンパク質の過剰発現により、複眼が翅に改変することを見いだした。さらに、その際、翅の決定に重要なvestigial(vg)遺伝子の翅特異的エンハンサーが異所印に活性化することがわかり、このBAHドメインタンパク質はvgの上位で翅のアイデンティティーの決定に関与していると考えられた。このBAHドメインタンパク質の過剰発現で誘導される翅は、背腹軸と前後軸を有するほぼ完全な翅であるのに対して、vgの異所的発現により誘導される翅は、背腹軸と前後軸を有さないボール状の構造を示す。このことから、BAHドメインタンパク質は、より上位で軸形成を含む翅形成プログラム全般の遂行を制御していると考えられた。さらに、このNotchシグナリングの細胞運命決定における新しい機能が脊椎動物の器官形成時にも存在するかどうか確認するため、アフリカツメガエルの眼の形成においてPax6遺伝子の発現をNotchシグナルが制御していることを明らかにした。器官のアイデンティティーがどのようにして決まるのかという問題は、発生生物学の重要な問題の一つである。これまでに、Notchシグナリングを活性化することにより、ショウジョウバエの複眼を翅、触角、肢へと改変できることを見出した。本研究の目的は、この系を用いて、細胞運命の決定転換におけるNotchシグナリングの新しい機能を明らかにすることである。そのために、酵母転写活性化因子GAL4のターゲット配列UASをゲノム上にランダムに挿入した系統(GS系統)を用いた、GAL4依存の機能獲得型変異体のスクリーニングを行った。これまでに、当初の計画通りおおよそ1万系統の解析を終了した。その結果、複眼が翅に変換する系統を3系統、複眼が触角に変換する系統を23系統、複眼が肢に変換する系統を11系統同定した。そのうちの1系統では、新規BAHドメインタンパク質の過剰発現により、複眼が翅に改変することを見いだした。さらに、その際、翅の決定に重要なvestigial(vg)遺伝子の翅特異的エンハンサーが異所印に活性化することがわかり、このBAHドメインタンパク質はvgの上位で翅のアイデンティティーの決定に関与していると考えられた。このBAHドメインタンパク質の過剰発現で誘導される翅は、背腹軸と前後軸を有するほぼ完全な翅であるのに対して、vgの異所的発現により誘導される翅は、背腹軸と前後軸を有さないボール状の構造を示す。このことから、BAHドメインタンパク質は、より上位で軸形成を含む翅形成プログラム全般の遂行を制御していると考えられた。さらに、このNotchシグナリングの細胞運命決定における新しい機能が脊椎動物の器官形成時にも存在するかどうか確認するため、アフリカツメガエルの眼の形成においてPax6遺伝子の発現をNotchシグナルが制御していることを明らかにした。器官のアイデンティティーがどのようにして決まるのかという問題は、発生生物学の重要な問題の一つである。これまでに、Notchシグナリングを活性化することにより、ショウジョウバエの複眼を翅、触角、肢へと改変できることを見出した。本研究の目的は、この系を用いて、細胞運命の決定転換におけるNotchシグナリングの新しい機能を明らかにすることである。本年度は、Notchシグナリングと共に働き、器官の改変を誘導する遺伝子を網羅的に同定するために、酵母転写活性化因子GAL4のターゲット配列UASをゲノム上にランダムに挿入した系統(GS系統)を用いた、GAL4依存の機能獲得型変異体のスクリーニングを行った。機能獲得型変異体9682系統のスクリーニングを行い、複眼から触角、翅、あるいは肢へと改変される系統をそれぞれ31、3、14系統ずつ得た。本研究では、2年間で1万系統の解析を目指していたが、1年目ですでに当初の目標を達成した。さらに、このNotchシグナリングの細胞運命決定における新しい機能が脊椎動物の器官形成時にも存在するかどうか確認するため、アフリカツメガエルの眼の形成においてPax6遺伝子の発現をNotchシグナルが制御していることを明らかにした(Proc. Natl. Acad. Sci. USA.99,2020-2025.2002)。器官のアイデンティティーがどのようにして決まるのかという問題は、発生生物学の重要な問題の一つである。これまでに、Notchシグナリングを活性化することにより、ショウジョウバエの複眼を翅、触角、肢へと改変できることを見出した。本研究の目的は、この系を用いて、細胞運命の決定転換におけるNotchシグナリングの新しい機能を明らかにすることである。これまでに、当初の計画通りおおよそ1万系統の機能獲得型変異体の解析を終了した。
KAKENHI-PROJECT-14380343
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14380343
細胞運命決定転換におけるNotchシグナリングの新しい機能
その結果、複眼が翅に変換する系統を3系統、複眼が触角に変換する系統を23系統、複眼が肢に変換する系統を11系統同定した。そのうちの1系統では、新規BAHドメインタンパク質の過剰発現により、複眼が翅に改変することを見いだした。BAHドメインを有するタンパク質は、クロマチンのリモデリングに関わるものがあることから、器官アイデンティティーの決定とクロマチンのリモデリングの関係が示唆された。さらに、その際、翅の決定に重要なvg遺伝子の翅特異的エンハンサーが異所的に活性化することがわかり、このBAHドメインタンパク質はvgの上位で翅のアイデンティティーの決定に関与していると考えられた。このBAHドメインタンパク質の過剰発現で誘導される翅は、背腹軸と前後軸を有するほぼ完全な翅であるのに対して、vgの異所的発現により誘導される翅は、背腹軸と前後軸を有さないポール状の構造を示す。このことから、BAHドメインタンパク質は、より上位で軸形成を含む翅形成プログラム全般の遂行を制御していると考えられた。
KAKENHI-PROJECT-14380343
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14380343
新規キラル化合物群の創製を目指した触媒的不斉付加環化反応の開発
報告者は既に、カチオン性イリジウム錯体とBINAPから調製される触媒が、アリールケトンのアルキンによるオルト位アルケニル化反応に対して高い活性を示すことを明らかにした。さらなる検討の結果、カチオン性イリジウム錯体の対アニオンとしてトリフラートを適用すると、オルト位アルケニル化-環化-脱水が連続的に進行し、ベンゾフルベン誘導体が得られることを見出した。この結果から、カチオン性イリジウム錯体はルイス酸触媒能を併せ持つ「二機能性触媒」として機能するものと推察された。次に、カチオン性イリジウム触媒の二機能性を活用すれば、カルボニル基を有する側鎖を適切な位置に導入したアリールケトンを基質として用いた場合に、C-H結合活性化、引き続く側鎖上のカルボニル基への付加という連続反応が進行し得ると考えた。そこで、カルボニル基を有する側鎖がメタ位に置換したアセトフェノン誘導体を合成し、検討を行った。その結果、側鎖を酸素原子で架橋した基質を用いると、望みの環化反応、引き続く脱水反応が進行し、対応する4-アセチルベンゾフラン誘導体を位置選択的に与えることがわかった。また、さらなる基質検討の結果、側鎖を窒素原子で架橋したアセトフェノンを用いることで、窒素原子上の保護基を必要としない4-アセチルインドール誘導体の合成も達成した。さらに、基質としてアルキンとアリールアミドを用いると、アミドの窒素原子に隣接するsp^3 C-H結合のアルケニル化が進行し、多置換アリルアミド体が良好な収率で得られることを見出した。本反応は種々のアミド化合物やアルキンにも適用可能であり、概ね良好な収率で対応する付加体を与えた。ジインと炭素-ヘテロ元素不飽和結合との触媒的[2+2+2]付加環化反応は、原子効率よくヘテロ環化合物を合成できる優れた手法である。これまでに、ジインに対するカップリングパートナーとしてニトリルやイソシアネート、二酸化炭素を用いる例は多く報告されているが、カルボニル化合物を用いた例は少数である。また、それらの例は基質一般性に乏しいため、より効率的な手法の開発が求められている。報告者は、カチオン性ロジウム-racemic-BINAP触媒がジインとカルボニル化合物との[2+2+2]付加環化反応に高い活性を示すことを見出した。すなわち、1,2-ジクロロエタン溶媒中、アルキン末端にメチル基を有する炭素原子架橋1,6-ジインとケトエステルであるピルビン酸メチルとの[2+2+2]付加環化反応が室温で速やかに進行し、不安定な二環性α-ピランの電子環状開環反応を経て、単環性ジエノン体が高収率で得られた。本反応は、窒素原子及び酸素原子架橋1,6-ジイン、またカルボニル化合物として1,2-ジケトンやアルデヒドも適用可能であり、高い基質一般性を有することもわかった。さらに、アルキン末端にフェニル基とメチル基を有する非対称1,6-ジインを用いたところ、不斉四級炭素を有する二環性α-ピランが安定に単離できることを見出した。そして、キラルなロジウム-BINAP触媒を用いることで、これまでに例のないエナンチオ選択的な二環性α-ピラン合成を達成した。今後は、ジインの置換基がα-ピランの安定性に及ぼす影響を調べ、その知見を活かして様々な光学活性α-ピランの合成へと展開する。遷移金属触媒による活性化を伴う炭素-水素結合の直接的な変換反応は、原子効率と反応工程数の点から優れた手法として注目を集めている。中でも、配位性官能基を利用した芳香環への触媒的炭素-炭素結合形成反応は、オルト位選択的に進行するため非常に有用である。しかし、「オルト位への官能基導入-配位性官能基への付加」という連続プロセスにより環化反応が進行した例は非常に少なく、近年レニウム触媒を用いた例が報告されたのみである。また、配位性官能基はイミノ基のみが有効であり、カルボニル基では進行しない。報告者は、カチオン性イリジウム錯体とBINAPから調製される触媒を用いると、配位性官能基としてカルボニル基を有するアリールケトンでも上述の連続反応が効率的に進行することを見出した。すなわち、クロロベンゼン溶媒中、アセトフェノンとジフェニルアセチレンを基質として用いることで、「オルト位炭素-水素結合活性化-ジフェニルアセチレンの挿入-カルボニル基への分子内付加反応-脱水反応」という連続プロセスが一挙に進行し、ベンゾフルベン誘導体が高収率で得られた。本反応はカチオン性イリジウム錯体の対アニオンの選択が重要であり、トリフルオロメタンスルホン酸アニオンが最も良い結果を与える。また、メトキシ基やトリフルオロメチル基などが置換した種々のアセトフェノン誘導体にも適用できることがわかった。しかし、カップリングパートナーであるアルキンには、少なくとも一つのアリール基がアルキン末端に置換している必要がある。ベンゾフルベン誘導体は近年、機能性ポリマー合成における有用なモノマーユニットとして注目されている。そのため、今後は基質適用範囲のさらなる拡大を目指し、種々のベンソフルベン誘導体の合成へと展開する。報告者は既に、カチオン性イリジウム錯体とBINAPから調製される触媒が、アリールケトンのアルキンによるオルト位アルケニル化反応に対して高い活性を示すことを明らかにした。
KAKENHI-PROJECT-07J00072
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07J00072
新規キラル化合物群の創製を目指した触媒的不斉付加環化反応の開発
さらなる検討の結果、カチオン性イリジウム錯体の対アニオンとしてトリフラートを適用すると、オルト位アルケニル化-環化-脱水が連続的に進行し、ベンゾフルベン誘導体が得られることを見出した。この結果から、カチオン性イリジウム錯体はルイス酸触媒能を併せ持つ「二機能性触媒」として機能するものと推察された。次に、カチオン性イリジウム触媒の二機能性を活用すれば、カルボニル基を有する側鎖を適切な位置に導入したアリールケトンを基質として用いた場合に、C-H結合活性化、引き続く側鎖上のカルボニル基への付加という連続反応が進行し得ると考えた。そこで、カルボニル基を有する側鎖がメタ位に置換したアセトフェノン誘導体を合成し、検討を行った。その結果、側鎖を酸素原子で架橋した基質を用いると、望みの環化反応、引き続く脱水反応が進行し、対応する4-アセチルベンゾフラン誘導体を位置選択的に与えることがわかった。また、さらなる基質検討の結果、側鎖を窒素原子で架橋したアセトフェノンを用いることで、窒素原子上の保護基を必要としない4-アセチルインドール誘導体の合成も達成した。さらに、基質としてアルキンとアリールアミドを用いると、アミドの窒素原子に隣接するsp^3 C-H結合のアルケニル化が進行し、多置換アリルアミド体が良好な収率で得られることを見出した。本反応は種々のアミド化合物やアルキンにも適用可能であり、概ね良好な収率で対応する付加体を与えた。
KAKENHI-PROJECT-07J00072
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07J00072
染色体複製開始における超分子構造の分子内クロストーク
本研究は出芽酵母の染色体複製開始点を特異的に認識するORCに着目し、ORC構成サブユニット間で特定の条件下に起こる特異な相互作用の機能構造と、その細胞内における重要性と制御系の解明を目指した。その結果、特異な相互作用に関わる領域をアミノ酸レベルで特定し、残基が細胞内機能に重要なことを見いだした。また、この残基を介した相互作用ネットワークの一端を明らかにした。本研究は出芽酵母の染色体複製開始点を特異的に認識するORCに着目し、ORC構成サブユニット間で特定の条件下に起こる特異な相互作用の機能構造と、その細胞内における重要性と制御系の解明を目指した。その結果、特異な相互作用に関わる領域をアミノ酸レベルで特定し、残基が細胞内機能に重要なことを見いだした。また、この残基を介した相互作用ネットワークの一端を明らかにした。染色体DNA複製は細胞が正常に増殖するためのまさに基盤である。申請者は、染色体DNAが正確に2倍化する分子機構を知るため、特に複製開始反応の全貌解明を研究の全体構想としている。これまでに研究代表者らは、染色体上の複製起点を認識する出芽酵母ORC蛋白複合体が特異的に構造変化するモデルを構造生物学的に提唱し、また、ORC構成サブユニット間で特定の条件下におこる特異的な相互作用を見出している。本年度はこのサブユニット間相互作用に関わるアミノ酸残基を同定するためのスクリーニングシステムを構築し、情報学的アプローチを併用することで実際に複数のアミノ酸残基を同定した。同定した残基の1アミノ酸置換変異によって試験管内での相互作用能が欠損すること、ならびに細胞内での機能が不活性になることが判明した。染色体DNA複製は細胞が正常に増殖するためのまさに基盤である。研究代表者は、染色体上の複製起点を認識する出芽酵母ORC蛋白複合体が特異的に構造変化するモデルを構造生物学的に提唱し、ORC構成サブユニット間で特定の条件下におこる特異的な相互作用を見いだしている。昨年度はこの相互作用に必須な領域をアミノ酸レベルで同定し、同定したアミノ酸が細胞増殖にも必須であることを見いだした。本年度は従来のバキュロウィルスを用いたORC多量生産システムの構築・維持が律速・煩雑であるという問題に対処するため、動物細胞のトランスフェクションを用いたシステムに転換した。これと並行して、同定したアミノ酸に変異を持つorc変異株の多コピーサプレッサーを探索し、これまでに有望な遺伝子を複数同定した。更に、昨年度行った情報学的アプローチを発展させ、出芽酵母を含めたほとんどの生物種で保存される特異的モチーフ群を見いだした。このモチーフに変異を持つ大腸菌は染色体複製開始が異常となったため、染色体複製開始を制御する新たなキープレーヤーを見いだした可能性がある。細胞内・試験管内ともに機能欠損するアミノ酸残基を所期の計画通り同定した。ORC複合体の蛋白精製は現在遂行中であるが、これは昆虫細胞・バキュロウィルスを用いた蛋白質多量生産システムの代わりに、他の細胞を用いてトランスフェクション法で多量生産する計画に変更し、このためORC遺伝子をサブクローニングすることが必要となったためである。従来、トランスファーベクターからバキュロウィルスを作成し、増幅、タイター測定し、その後も定期的なメンテナンスが必要となるため大変煩雑であったが、これらの手間が省けることにより、中期的な研究目的の達成はむしろ早まると想定している。25年度が最終年度であるため、記入しない。今後は同定したアミノ酸残基が染色体複製開始に及ぼす機能を生化学・構造生物学的手法を用いて具体的に解明し、当初の目的達成を目指す。ORCの構造変化が染色体複製開始に重要であるという実験的証拠が得られることがゴールである。25年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-24870021
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24870021
河川後背沼地とその多目的利用に関する調査研究及びデザイン手法
かつて、日本の国土には無数の沼地が存在し、河川環境との相補的関係を保ちながら表裏一体の自然環境、生態環境を形成するとともに独自の文化を育んでいた。近年ウォーターフロントアメニティが見直され水辺環境に注意が払われる一方、地域計画の中での沼の環境のあり方や文化的位置付けについては十分な研究が行われているとは言えない。以上の背景を踏まえ、本研究では沼環境と地域生活との関わりを歴史的に検証すると共に、環境の復元をを通じた地域計画のあり方についての検討を行った。ケーススタディの対象地には、現茨城県古河市近郊を選定し、地域空間の成り立ちを多層的に捉えるGISの分析枠組みを用いて地形環境、生活環境、文化環境の通史的変容を個別に捉えた。それぞれの粋組みには、地形及び植生・土地利用・集落立地・主要街路構造・農業・漁業・産業・余暇活動・地名の8つの分析項目を設け、各項目について渡良瀬川河川改修が行われる以前の明治初期より現在に至るまでの変容を、地図による検証、地域史料調査、ヒアリング調査により明らかにした。更に、これらの空間諸相の相互関係を明らかにすることにより、沼地消失前後での地域空間の成り立ちの違いを明らかにした。併せて、かつての河川後背湿地環境に見られた、多様な空間諸相による空間の重層的意味付けを示し、これら空間諸相相互の結びつきの再生を地域計画上の課題として示した。最後に、以上の結論を踏まえ、沼地環境の復元と重層的空間諸相の再現・断片化して残された地域遺産相互を結び合わせた地域空間計画・空間諸相の新たな結びつきに着目した空間計画、の3点を設計・地域計画上の目標として設定し、試験設計・計画を通じた実施上の検討を行った。かつて、日本の国土には無数の沼地が存在し、河川環境との相補的関係を保ちながら表裏一体の自然環境、生態環境を形成するとともに独自の文化を育んでいた。近年ウォーターフロントアメニティが見直され水辺環境に注意が払われる一方、地域計画の中での沼の環境のあり方や文化的位置付けについては十分な研究が行われているとは言えない。以上の背景を踏まえ、本研究では沼環境と地域生活との関わりを歴史的に検証すると共に、環境の復元をを通じた地域計画のあり方についての検討を行った。ケーススタディの対象地には、現茨城県古河市近郊を選定し、地域空間の成り立ちを多層的に捉えるGISの分析枠組みを用いて地形環境、生活環境、文化環境の通史的変容を個別に捉えた。それぞれの粋組みには、地形及び植生・土地利用・集落立地・主要街路構造・農業・漁業・産業・余暇活動・地名の8つの分析項目を設け、各項目について渡良瀬川河川改修が行われる以前の明治初期より現在に至るまでの変容を、地図による検証、地域史料調査、ヒアリング調査により明らかにした。更に、これらの空間諸相の相互関係を明らかにすることにより、沼地消失前後での地域空間の成り立ちの違いを明らかにした。併せて、かつての河川後背湿地環境に見られた、多様な空間諸相による空間の重層的意味付けを示し、これら空間諸相相互の結びつきの再生を地域計画上の課題として示した。最後に、以上の結論を踏まえ、沼地環境の復元と重層的空間諸相の再現・断片化して残された地域遺産相互を結び合わせた地域空間計画・空間諸相の新たな結びつきに着目した空間計画、の3点を設計・地域計画上の目標として設定し、試験設計・計画を通じた実施上の検討を行った。1.水辺空間イメージの抽出:研究対象地において,明治40現在までの地形図を収集,郷土資料を参考にして,地域の地勢状況を把握するとともに集落分布,成立時期を明確にした.更に,同期における小字地名,行政地名,地域呼称の分布及び変容を取りまとめ,地域において把握されている沼領域,河川領域の明確化を図った.2.沼空間における自然空間の様態と人間活動との繋がり:対象地区住民7名に対するヒアリング結果を地域資料と共にとりまとめ,過去の沼空間における自然空間の様態や,沼に関連する人間活動の様態を明らかにした.これらの分布を地図上で捉え,地勢と人間活動との関係を考察した.3.沼辺空間の後背都市との繋がり:隣接する都市と沼との産業的関係を,対象地区住民に対するヒアリングの他,現地調査や商工業資料の通事的変容調査の結果を併せて,考察した.4.成果の取りまとめ:上記13の項目に関して考察を行い,地勢環境-自然環境-地域環境認識-人間活動の一連の繋がりとして捉え,取りまとめた.結果については,1997年度土木学会環境システム研究に投稿予定である.5.近自然工法を用いた沼復元のための基礎調査:湿地帯の現況調査に関して,新潟県阿賀野川流域,北海道石狩地方における現地予備調査を行った.同調査結果については,次年度以降の調査研究課題に反映させ,取りまとめる予定である.1.前年度成果の取りまとめ:前年度の調査事項であった研究対象地における・水辺空間イメージ、・沼空間における自然空間の様態と人間活動との繁がり、・沼辺空間の後背都市との繁がりの各項目を、地勢・自然環境-地域環境認識-人間活動の一連の繁がりに沿って整理を行った。ここから、河川後背沼地環境の変容を、重層的意味システムとしての空間の乖離・解体過程として説明し、(1)重層的空間システムを含めた環境の復元、(2)現代社会システムに対応した環境システムの再構造化の2点を空間設定・計画上の留意点として示した(結果は1997年度土木学会環境システム研究において発表)。
KAKENHI-PROJECT-08455239
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08455239
河川後背沼地とその多目的利用に関する調査研究及びデザイン手法
2.都市計画、空間造形技術の収集・整理:研究対象地において1980年代以降に策定・実施された都市計画、空間造形事例を収集した。これらの事例の計画・設計プロセスを上記2項目に沿って分類し、その内容を計画・設計技術体系として整理すると共に、河川後背沼地環境における位置付けや意義を明らかにした。また、計画未策定地域にける試験設計・計画を行い、具体的な計画・設計案の策定プロセスを提示した。3.比較対象地における事例調査:1.の枠組みを、河川後背沼地に立地する他の都市変容事例に適用し、分析・比較考察を行った。古河市のケースでは、沼地環境の消失、社会システムの変容を主因として、河川後背沼地を中心とする既往の地域環境システムの崩壊が見られた。これに対し、(1)ある程度の河川・沼地環境が保全されながらも社会システムの変化に地域環境システムが影響を受けている場合(新潟県新発田市)、(2)古河市よりも早い時期に沼地環境の消失が起こり、現在まで度重なる社会システムの変容が起きている場合(東京都碑文谷地区)、の2ケースを選定し、事例調査を行った。これらの事例相互の比較を行い、取りまとめを行う。かつて、日本の国土には無数の沼地が存在し、河川環境との相補的関係を保ちながら表裏一体の自然環境、生態環境を形成するとともに独自の文化を育んでいた。近年ウォーターフロントアメニティが見直され水辺環境に注意が払われる一方、地域計画の中での沼の環境のあり方や文化的位置付けについては十分な研究が行われているとは言えない。以上の背景を踏まえ、本研究では沼環境と地域生活との関わりを歴史的に検証すると共に、環境の復元を通じた地域計画のあり方についての検討を行った。ケーススタディの対象地には、現茨城県古河市近郊を選定し、地域空間の成り立ちを多層的に捉えるGISの分析枠組みを用いて地形環境、生活環境、文化環境の通史的変容を個別に捉えた。それぞれの枠組みには、地形及び植生・土地利用・集落立地・主要街路構造・農業・漁業・産業・余暇活動・地名の8つの分析項目を設け、各項目について渡良瀬川河川改修が行われる以前の明治初期より現在に至るまでの変容を、地図による検証、地域史料調査、ヒアリング調査により明らかにした。更に、これらの空間諸相の相互関係を明らかにすることにより、沼地消失前後での地域空間の成り立ちの違いを明らかにした。併せて、かっての河川後背湿地環境に見られた、多様な空間諸相による空間の重層的意味付けを示し、これら空間諸相相互の結びつきの再生を地域計画上の課題として示した。最後に、以上の結論を踏まえ、沼地環境の復元と重層的空間諸相の再現・断片化して残された地域遺産相互を結び合わせた地域空間計画・空間諸相の新たな結びつきに着目した空間計画、の3点を設計・地域計画上の目標として設定し、試験設計・計画を通じた実施上の検討を行った。
KAKENHI-PROJECT-08455239
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08455239
運動発生におけるキネシン頚部の構造変化
微小管のモータータンパク質であるキネシンは、1分子が微小管上を数μmにわたり動くことができる。これはキネシンが双頭分子であり、各々の頭部が互い違いに微小管と相互作用を繰り返すというモデルによって説明されている。このためには頚部を介して2つの頭部の間で何らかの連絡が行われていると考えられ、運動連続性の起源を探ることは運動機構を明らかにする上で重要な情報をもたらす。本研究では、運動連続性を示すキネシンと運動連続性をもたないといわれるキネシン様タンパク質、さらに両者のキメラタンパク質についてナノメートルレベルの運動計測系で運動連続性を調べた。ショウジョウバエのキネシンのフラグメントのダイマーとモノマー、ショウジョウバエのncd、ヒトKidのモノマーを大腸菌で発現、精製し、これらのタンパク質をさまざまな濃度でポリスチレンビーズに結合させ、光ピンセットで微小管上へもってゆき、ATP非存在下で微小管に結合するビーズの割合と、ATP存在下で微小管上を20nm以上動くビーズの割合を調べた。その結果、NcdとKidは1分子では20nm以上の運動連続性を示さないことが明らかになった。さらに、キネシン頭部とKid頚部をつないだキメラタンパク質(Kined)とKid頭部とキネシン頚部をつないだキメラタンパク質(Kidsin)についても同様の実験を行ったところ、Kinedでは運動連続性がみられ、Kidsinでは運動連続性がみられなかった。このことは、キネシン頚部を持つものは1分子でも連続的に動くことができるが、Kidの頭部はキネシン頚部によりダイマーを形成していても連続的な運動が行えないことを意味する。従って、1分子の運動の連続性には、頚部を介した頭部どうしの共同性は必要でないと考えられる。微小管のモータータンパク質であるキネシンは、1分子が微小管上を数μmにわたり動くことができる。これはキネシンが双頭分子であり、各々の頭部が互い違いに微小管と相互作用を繰り返すというモデルによって説明されている。このためには頚部を介して2つの頭部の間で何らかの連絡が行われていると考えられ、運動連続性の起源を探ることは運動機構を明らかにする上で重要な情報をもたらす。本研究では、運動連続性を示すキネシンと運動連続性をもたないといわれるキネシン様タンパク質、さらに両者のキメラタンパク質についてナノメートルレベルの運動計測系で運動連続性を調べた。ショウジョウバエのキネシンのフラグメントのダイマーとモノマー、ショウジョウバエのncd、ヒトKidのモノマーを大腸菌で発現、精製し、これらのタンパク質をさまざまな濃度でポリスチレンビーズに結合させ、光ピンセットで微小管上へもってゆき、ATP非存在下で微小管に結合するビーズの割合と、ATP存在下で微小管上を20nm以上動くビーズの割合を調べた。その結果、NcdとKidは1分子では20nm以上の運動連続性を示さないことが明らかになった。さらに、キネシン頭部とKid頚部をつないだキメラタンパク質(Kined)とKid頭部とキネシン頚部をつないだキメラタンパク質(Kidsin)についても同様の実験を行ったところ、Kinedでは運動連続性がみられ、Kidsinでは運動連続性がみられなかった。このことは、キネシン頚部を持つものは1分子でも連続的に動くことができるが、Kidの頭部はキネシン頚部によりダイマーを形成していても連続的な運動が行えないことを意味する。従って、1分子の運動の連続性には、頚部を介した頭部どうしの共同性は必要でないと考えられる。キネシンは1分子で微小管上を数μmにわたり連続的に動くことが知られている。これはキネシンが双頭分子であるために各々の頭部が互い違いに微小管と相互作用を繰り返すというモデルによって説明されている。このためには、頸部を介して2つの頭部の間での何らかの連絡が行われていると考えられ、運動連続性の起源を探ることは、運動機構を明らかにする上で重要な情報をもたらす。本研究では、キネシン様タンパク質の1種で、キネシンのような運動性を持たないKidとキネシンの間で、頭部と頸部を入れ替えたキメラタンパク質を作成し、その運動連続性をナノメートルのレベルの運動計測系で調べた。キネシンの尾部を除いたフラグメント(a.a.1-410)はダイマーを形成し、Kidのフラグメント(a.a.1-448)はモノマーである。キネシン頭部(a.a.1-344)とKidの頸部(a.a.380-448)をつないだキメラタンパク質(Kined)と、Kid頭部(1-379)とキネシン頸部(a.a.345-410)をつないだキメラタンパク質(Kidsin)は、予想通りそれぞれモノマー、ダイマーであることをショ糖密度勾配遠心法によって確かめた。これらのタンパク質をさまざまな濃度でポリスチレンビーズに結合させ、光ピンセットで微小管上へもってゆき、ATP非存在下で微小管に結合するビーズの割合と、ATP存在下で微小管上を動くビーズの割合を調べたところ、キネシンとKinedではそれらが一致していたが、KidとKidsinでは動くビーズの割合がずっと少なかった。ATP非存在下での結合は頭部1つでももたらされると考えられるので、このことは、キネシン頭部をもつものは1分子で連続的に動くことができるが、Kidの頭部はキネシン頸部があってダイマーを形成していても連続的な運動が行えないことを意味する。
KAKENHI-PROJECT-10680626
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10680626
運動発生におけるキネシン頚部の構造変化
従って、1分子の運動の連続性には、頸部を介した頭部同士の協同性は必要でないことが明らかになった。キネシンとキネシン様タンパク質のncdは、モータードメインの結晶構造が明らかにされており、両者は多くの点で良く類似している。それゆえ、微小管上で働キネシンやキネシン様タンパク質は同様な分子メカニズムで働くことが予想される。しかし、微小管上の運動方向や運動速度、運動連続性などの点で多様性を持ち合わせている。ncdは微小管上を連続的に運動できないことが示唆されているが、キネシンのように数百歩以上にわたり微小管から解離せずに運動できないとしても、数歩程度の運動連続性があるかどうかという点については明らかにされていない。本研究ではncdの運動の実態をナノメートルのスケールで計測し、数歩程度の運動連続性があるかどうかを検討した。ショウジョウバエのncdのモータードメインと尾部の一部を含むダイマーのフラグメント(MC1)をBCCPとの融合タンパク質として大腸菌で発現させ、精製した。このタンパク質のBCCP上のビオチンをアビジンコートしたビーズに結合させ、このビーズを光ピンセットで捕捉し、微小管との相互作用を観察した。ビーズの像は4分割フォトダイオードに投影され、20nm程度の動きを示せば検出できる。タンパク質とビーズの個数の比を変化させて、微小管との結合、微小管上の運動について調べたところ、運動に要する最小の分子数は結合に要する最小の分子数よりもはるかに大きかった。このことは、1分子のncdは微小管上を20nm以上連続的に進むことができないことを示しており、1歩の大きさが8nmであると仮定すると3歩以上の連続性がないということを意味している。モータードメインが類似しているにもかかわらずキネシンとncdで運動連続性が異なるのは、それぞれの分子の頚部が運動連続性に重要な働きを持つことを示唆している。
KAKENHI-PROJECT-10680626
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炭素-シアノ結合切断を経る触媒的官能基化
これまで私は、有機ケイ素化合物を用いる炭素-シアノ結合を報告している。この反応は、有機ケイ素化合物とロジウム錯体の反応により生成するシリルロジウム種を活性種とし、この活性種がシアノ基と反応することで生成するイミノアシル錯体からシリルイソシアニドが脱離することにより進行するという、これまでに報告された一般的な炭素-シアノ結合切断の機構(酸化的付加)とは異なる興味深い反応である。今回、ジシランを用いるニトリルのシリル化反応において、オルト位にフェノキシ基を有する芳香族ニトリルを用いた場合、元のシアノ基の位置とは異なる位置にシリル基が導入されることを見出した。これは、中間体として生成するアリールロジウム種でロジウムの1,5転位が進行することでフェノキシ基上にロジウムが移り、その後ジシランと反応することで進行したものと考えている。遷移金属の1,5転位の例は限られており、パラジウムの1,5転位を含む触媒反応が一例報告されているのみである。この興味深い現象に関する知見を得るために、転位する側のアリール基に種々の置換基を導入したニトリルを用いて検討を行った。その結果、ロジウムの1,5転位は電子的な影響を受け、転位する比率が変化することが分かった。また、配位子の添加効果についても検討し、未だ傾向等は分かっていないが配位子の添加によっても転位する比率が変化することも明らかとした。以上のように、ロジウムの1,5転位を含む触媒反応を見出した。この反応をさらに検討することで有機ケイ素化合物による炭素-シアノ結合切断の反応機構に関する知見が得られると考えている。我々はロジウム触媒による炭素-シアノ結合のシリル化反応を既に報告している。このシリル化反応は、炭素-シアノ結合切断の機構としては珍しいシリルイソシアニドの脱離を経る反応である。シリル化反応において、ベンジルシアニドを用いるとエナミン型の生成物が得られた。この生成物はシリル化反応と同じ中間体から生成していると考えられる。したがって、私が見出した炭素-シアノ結合のシリル化反応はシリルイソシアニドの脱離を経て進行しているという間接的な証拠となる。ニトリルの適当な位置にクロロフェニル基を導入した基質をシリル化反応の条件下で反応させると、炭素-シアノ結合切断を経て分子内アリール化が進行することを見出した。この反応において、シリル化反応が競争することが問題となるが、電子不足ホスフィンを添加することにより目的生成物を選択的に得られることが分かった。これまでクロスカップリング反応では、鈴木-宮浦カップリングに代表されるように有機金属試薬を求核剤として用いることが多い。私が見出したロジウム触媒による炭素-シアノ結合切断反応を用いることで、ニトリルを有機金属試薬の代わりに用いることができる。ニトリルは、カルボン酸から容易に合成可能であり、様々な構造を持つニトリルを容易に調製可能である。また、ニトリルは通常のクロスカップリング反応の触媒条件で安定であるため、ハロゲンを持つニトリルを用いることで逐次的に炭素-炭素結合形成反応を行うことが可能である。これまで、ロジウム触媒による炭素-シアノ結合切断を経る触媒反応の開発を行ってきた。これらの触媒反応はシリルイソシアニドの脱離という珍しい機構を経て進行していると考えている。昨年度、ニトリルの分子内に求電子剤を導入することにより、炭素-シアノ結合切断を経て炭素-炭素結合形成反応が進行することを見出した。この反応は、炭素-シアノ結合切断により生成するアリールロジウム種が求電子剤と反応することで進行する。つまりニトリルがアリールロジウム種の前駆体となり得ることを示唆している。しかし、ニトリルのカップリングパートナーとして、分子内求電子剤しか用いることが出来なかった。今回、ニトリルのシリル化反応の反応系中にビニルシランを添加することにより、ニトリルとビニルシランとのMizoroki-Heck型のカップリング反応が進行することを見出した。このニトリルのアルケニル化反応の結果より、分子間でのニトリルと求電子剤のカップリングが可能となった。これまでの検討結果では、求電子剤としてビニルシランしか用いることが出来ないが、生成物であるアルケニルシランは様々な反応に用いることが可能である。例えば、アルケニルシランをNBSで処理することによりアルケニルブロマイドへと変換することが可能である。このアルケニルブロマイドへの変換を利用して、逐次的にアリール基とビニル基を導入することでフェニレンビニレン骨格を構築することにも成功した。これまで私は、有機ケイ素化合物を用いる炭素-シアノ結合を報告している。この反応は、有機ケイ素化合物とロジウム錯体の反応により生成するシリルロジウム種を活性種とし、この活性種がシアノ基と反応することで生成するイミノアシル錯体からシリルイソシアニドが脱離することにより進行するという、これまでに報告された一般的な炭素-シアノ結合切断の機構(酸化的付加)とは異なる興味深い反応である。今回、ジシランを用いるニトリルのシリル化反応において、オルト位にフェノキシ基を有する芳香族ニトリルを用いた場合、元のシアノ基の位置とは異なる位置にシリル基が導入されることを見出した。
KAKENHI-PROJECT-08J00687
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炭素-シアノ結合切断を経る触媒的官能基化
これは、中間体として生成するアリールロジウム種でロジウムの1,5転位が進行することでフェノキシ基上にロジウムが移り、その後ジシランと反応することで進行したものと考えている。遷移金属の1,5転位の例は限られており、パラジウムの1,5転位を含む触媒反応が一例報告されているのみである。この興味深い現象に関する知見を得るために、転位する側のアリール基に種々の置換基を導入したニトリルを用いて検討を行った。その結果、ロジウムの1,5転位は電子的な影響を受け、転位する比率が変化することが分かった。また、配位子の添加効果についても検討し、未だ傾向等は分かっていないが配位子の添加によっても転位する比率が変化することも明らかとした。以上のように、ロジウムの1,5転位を含む触媒反応を見出した。この反応をさらに検討することで有機ケイ素化合物による炭素-シアノ結合切断の反応機構に関する知見が得られると考えている。
KAKENHI-PROJECT-08J00687
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歯の漂白は酸素ラジカルの発生による(歯の漂白の機序と活性酸素による歯質への影響)
過酸化水素の浸透我々が考案した人工根管を付与した、ヒト歯歯冠部に高濃度過酸化水素水を用い漂白操作を行った結果、大量の過酸化水素が根管中で計測された。これは漂白操作によって、過酸化水素が歯の構造物であるエナメル、象牙質を通過して浸透したことを意味する。過酸化水素の分解過酸化物を用いた歯牙漂白法には,(1)高濃度(約3035%)の過酸化水素に光を照射する方法(2)高濃度の過酸化水素に熱を与える方法と(3)過酸化水素に2価の鉄イオンを混ぜる方法があり,これらの方法では為害性が最も高い活性酸素種のヒドロラジカル(・OH)が発生する。すなわち,(1)では過酸化水素の光分解で、(2)では熱分解反応で・OHが発生する。鉄イオンが混ざると活性酸素が発生するとされている。さらに過酸化水素(H_2O_2)は電気的に中性なので細胞膜に対し大きな透過性を有することである。すなわち細胞に侵入し細胞内の微量金属(赤血球の鉄イオンなど)と反応して細胞機能を障害することが考えられる。また過酸化水素は露出した象牙細管やセメント細管に入り込み,細胞内で・OHとなってこれらの細胞に障害を与える可能性は高いと考えられる。漂白による歯の形態学的変化および成分の溶解漂白操作による歯の表面の粗造化は周知の事実である。この粗造化によって光が散乱し漂白効果を発現するとの説もある。我々は、漂白後の歯の割断面の観察によって微細組織の形態的変化を観察している。多少の変化を認めるがまだ断定できる状況にはない。しかし、過酸化水素水中への歯の浸漬で歯質成分の大量の溶解が認められた。このことは漂白によって歯質の構造物が溶解し、その間隙を通り歯髄腔、根管に漂白剤が到達する可能性を示唆している。過酸化水素の浸透我々が考案した人工根管を付与した、ヒト歯歯冠部に高濃度過酸化水素水を用い漂白操作を行った結果、大量の過酸化水素が根管中で計測された。これは漂白操作によって、過酸化水素が歯の構造物であるエナメル、象牙質を通過して浸透したことを意味する。過酸化水素の分解過酸化物を用いた歯牙漂白法には,(1)高濃度(約3035%)の過酸化水素に光を照射する方法(2)高濃度の過酸化水素に熱を与える方法と(3)過酸化水素に2価の鉄イオンを混ぜる方法があり,これらの方法では為害性が最も高い活性酸素種のヒドロラジカル(・OH)が発生する。すなわち,(1)では過酸化水素の光分解で、(2)では熱分解反応で・OHが発生する。鉄イオンが混ざると活性酸素が発生するとされている。さらに過酸化水素(H_2O_2)は電気的に中性なので細胞膜に対し大きな透過性を有することである。すなわち細胞に侵入し細胞内の微量金属(赤血球の鉄イオンなど)と反応して細胞機能を障害することが考えられる。また過酸化水素は露出した象牙細管やセメント細管に入り込み,細胞内で・OHとなってこれらの細胞に障害を与える可能性は高いと考えられる。漂白による歯の形態学的変化および成分の溶解漂白操作による歯の表面の粗造化は周知の事実である。この粗造化によって光が散乱し漂白効果を発現するとの説もある。我々は、漂白後の歯の割断面の観察によって微細組織の形態的変化を観察している。多少の変化を認めるがまだ断定できる状況にはない。しかし、過酸化水素水中への歯の浸漬で歯質成分の大量の溶解が認められた。このことは漂白によって歯質の構造物が溶解し、その間隙を通り歯髄腔、根管に漂白剤が到達する可能性を示唆している。歯の漂白の実施後にみられる副作用には、軽度疼痛および歯髄炎様疼痛を伴う術後の不快症状や歯の脆弱化などが挙げられる。術後にみられる軽度疼痛、知覚過敏様疼痛や歯髄炎様痛を伴う不快症状の報告は過酸化物を用いた漂白の場合に多くみられる。そこで、これらの不快症状に注目して、歯の表面に適用した漂白剤の成分が歯質を通り抜け歯髄腔まで到達するか否かについて、ヒト前歯抜去歯を用い模擬人工根管を作成して調べた。歯髄腔に100mMリン酸緩衝液を満たし人工髄腔液とした。漂白剤を通法に従い人工根管の歯冠部歯面に適用したときの、人工髄腔液中に漏出した過酸化物量を測定した。その結果、過酸化物を主成分とする漂白剤の場合、漂白剤中の過酸化物はすべて歯髄腔内に漏出移行していた。過酸化水素を主成分とする漂白剤では、過酸化尿素を主成分とするものに比べて歯髄腔内に移行した過酸化物の量が多く、過酸化水素分解で発生した酸素ラジカルによる歯質の破壊が関与していることが考えられた。つぎに過酸化水素と過酸化尿素の違いを考察した。1分子の過酸化尿素は2分子の尿素と1分子の過酸化水素から構成されていて、同モルの過酸化水素にくらべて作用は約1/3である。また、過酸化水素はpHが高くなるにつれて反応性が上昇して分解されやすくなることが知られている。過酸化尿素を主成分とした漂白剤のpHは過酸化水素を主成分としたものに比べて高いので、過酸化尿素を構成する過酸化水素は自動分解し酸素ラジカルを発生する。
KAKENHI-PROJECT-14571863
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14571863
歯の漂白は酸素ラジカルの発生による(歯の漂白の機序と活性酸素による歯質への影響)
この酸素ラジカルは、漂白剤中の過酸化水素が分解して生じた酸素ラジカルと同一であると考えられる。さらに、この酸素ラジカルは過酸化尿素中に含まれる尿素で捕捉消去される可能性が知られているので、過酸化水素を主成分とする場合に比べて余剰の酸素ラジカルの発生が少なく、歯髄腔への移行量が少ないことがわかった。前年度での人工根管モデルを作成した研究の結果、過酸化物の歯に対する影響が、過酸化物を主成分とした漂白剤では、過酸化水素を主成分とするものと過酸化尿素を主成分とするもので、大きな違いがみられた。そこで、過酸化物から発生する酸素ラジカルについて調べた。発生する酸素ラジカル種を推定するために、過酸化物を主成分とした漂白剤の成分と酸素ラジカルの発生系との関係について検討した。過酸化水素から発生が考えられる酸素種には、ヒドロペルオキシラジカルやヒドロキシルラジカルなどが考えられる。過酸化水素を化学分解や光分解して発生する酸素ラジカルの発生系には、1)Fenton反応による系2)Fenton様(類Fenton)反応による系、3)長波長紫外線・可視光線(UVA/Vis)照射による光分解系の3つが考えられる。この3つの反応系に関与するイオンとして、1)ではFe(11)(111)イオンの存在が必要であり、2)ではCuイオンやTiイオンの存在が必要となる。そこで漂白剤の成分にこれらの金属イオンが存在するかをX線マイクロアナライザ(XMA, EPMA)を用いて定性的に調べた。その結果、Cu, Mn, Feが、過酸化水素を主成分とする漂白剤の粉末成分に多く含まれていることがわかった。過酸化水素を主成分とする漂白剤は、可視光線照射器で照射されたUVA/Visにより光分解されるほかに、これらの遷移金属がFenton反応や類Fenton反応をおこすことにより分解され、酸素ラジカルを発生することが示唆された。一方、過酸化尿素では、pHが高いので過酸化水素が自動分解され、酸素ラジカルを発生することがわかった。さらに、前年度と今年度の研究から、漂白剤から癸生する酸素ラジカルは、これまでいわれていた、スーパーオキシドやその水和型であるヒドロペルオキシドではなく、ヒドロキシルラジカルであることが示唆された。過酸化水素の浸透我々が考案した人工根管を付与した、ヒト歯歯冠部に高濃度過酸化水素水を用い漂白操作を行った結果、大量の過酸化水素が根管中で計測された。これは漂白操作によって、過酸化水素が歯の構造物であるエナメル、象牙質を通過して浸透したことを意味する。過酸化水素の分解過酸化物を用いた歯牙漂白法には,(1)高濃度(約3035%)の過酸化水素に光を照射する方法,(2)高濃度の過酸化水素に熱を与える方法と(3)過酸化水素に2価の鉄イオンを混ぜる方法があり,これらの方法では為害性が最も高い活性酸素種のヒドロラジカル(・OH)が発生する。すなわち,(1)では過酸化水素の光分解で、(2)では熱分解反応で・OHが発生する。鉄イオンが混ざると活性酸素が発生するとされている。さらに過酸化水素(H_2O_2)は電気的に中性なので細胞膜に対し大きな透過性を有することである。すなわち細胞に侵入し細胞内の微量金属(赤血球の鉄イオンなど)と反応して細胞機能を障害することが考えられる。また,過酸化水素は露出した象牙細管やセメント細管に入り込み,細胞内で・OHとなってこれらの細胞に障害を与える可能性は高いと考えられる。漂白による歯の形態学的変化および成分の溶解漂白操作による歯の表面の粗造化は周知の事実である。この粗造化によって光が散乱し漂白効果を発現するとの説もある。
KAKENHI-PROJECT-14571863
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14571863
光と熱によって自由に動き回るメカニカル結晶の開発
当該年度までに、光トリガー相転移という興味深い現象を見出していたため、当該年度はその光トリガー相転移について詳細に調べ、発現機構を明らかにした。光トリガー相転移は、熱的な構造相転移が起きる光反応性結晶において発見された現象である。この結晶は2度の構造相転移が起こり、温度変化に応じてα、β、γ相の間を変化できる。これまでに-50°Cで結晶に光照射すると光トリガー相転移が起きることは見出していた。これはβ相の結晶に光を当てるとγ相の結晶構造に変化することを意味する。新たに、α相およびγ相の結晶に光照射したところ、光トリガー相転移は起こらず、結晶相は変化しなかった。したがって、光トリガー相転移はβ相において特有の現象であることがわかった。このβ相からγ相への光トリガー相転移の発現機構を考察するため、光異性化による生成物trans-keto体の分子構造を量子化学計算により最適化した。その結果、元のenol体とは二面角が大きく異なり、光異性化による構造変化が大きいことがわかった。この分子構造変化が結晶中で起きると、trans-keto体は周りの分子にひずみを与えると考えられる。実際の結晶において、光照射前は全ての分子がEnol体である。光照射すると、照射面から光異性化が進行し、trans-keto体ができ、ひずみを与え始める。ある程度trans-keto体が生成すると、そのひずみを解消するように結晶全体の構造がドミノ倒しのように進む。これが、光トリガー相転移の発現機構である。この時、β相からγ相へのエネルギー障壁が0.2 kJ/molと小さいことも光トリガー相転移の発現に寄与していると考えられる。光照射によって、光異性化と光トリガー相転移を起こすことができ、それらを組み合わせた複雑なメカニカル機能を創出することができた。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。申請者は当該年度までに、145度で構造相転移するキラルアゾベンゼン結晶において、加熱・冷却を繰り返すことで結晶自体が基板の上を移動していく現象を見出していた。当該年度中に、顕微鏡とサーモグラフィーによる同時観察を行うことで結晶が方向性をもって移動していく機構を明らかにした。厚みに勾配がある結晶は、結晶の伸び縮みを利用して、尺取り虫のように歩いていくことがわかった。また、より薄く幅に勾配のある結晶は1回の加熱または冷却のみで基板上を転がって尺取り虫歩行の2万倍の速さで動いた。このように結晶外形の非対称性が方向性のある移動につながっていることを明らかにし、本研究成果をNature Communications誌に報告した。次に、より低い温度で相転移する結晶を見つけるために様々な分子を合成した。そのうち、あるサリチリデンアニリン系の結晶は約40度で相転移することがわかった。単結晶X線構造解析により、相転移前後の結晶構造を明らかにした。平板状の単結晶に紫外光を照射すると、段階的な屈曲挙動が観察された。光を当てた直後はねじれながら曲がるが、そのまま光を当て続けると突然ねじれが解消され、そのあとは屈曲のみ起こった。この段階的な屈曲挙動から、光反応と熱相転移が動きを創出していることが分かった。結晶表面温度を測定した結果、光照射によって40度までは温度上昇していないことが分かった。これは、熱ではなく光によって相転移を誘起したことを意味しており、期せずして「光トリガー相転移」と呼べる現象を発見した。この機構は、光異性化した分子が結晶中に微小なひずみを発生させ、ある程度光反応が進行するとひずみを解消するように結晶全体の構造が変化すると推察できる。光異性化は結晶全体から見たら数%程度しか起こっていないにも関わらず、結晶全体の構造が変化するという興味深い相転移現象を発見することができた。当該年度までに、145°Cで構造相転移する分子結晶が相転移時に屈曲し、加熱・冷却を繰り返すことで基板の上を移動することを見出していた。当該年度中に結晶外形の非対称性が方向性のある動きを引き起こしていることを見出し、結晶があたかも歩いたり転がったりするという現象をNature Communications誌に報告した。結晶が移動する現象は世界で初めての発見であり、本研究成果はいくつかの新聞・メディアにも掲載された。上記の成果に加え、より室温に近い温度で相転移する光反応性サリチリデンアニリン系結晶の発見にも成功した。光反応と構造相転移を組み合わせて、段階的なねじれと屈曲を示すことが見出された。また、予期していなかったことだが、同じサリチリデンアニリン系結晶が光によって「光トリガー相転移」という特異な相転移現象を示すことが分かった。光異性化は結晶全体から見たら数%程度しか起こっていないにも関わらず、結晶全体の構造が変化するという興味深い相転移現象を発見することができた。当該年度までに、光トリガー相転移という興味深い現象を見出していたため、当該年度はその光トリガー相転移について詳細に調べ、発現機構を明らかにした。光トリガー相転移は、熱的な構造相転移が起きる光反応性結晶において発見された現象である。この結晶は2度の構造相転移が起こり、温度変化に応じてα、β、γ相の間を変化できる。これまでに-50°Cで結晶に光照射すると光トリガー相転移が起きることは見出していた。これはβ相の結晶に光を当てるとγ相の結晶構造に変化することを意味する。
KAKENHI-PROJECT-17J10691
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17J10691
光と熱によって自由に動き回るメカニカル結晶の開発
新たに、α相およびγ相の結晶に光照射したところ、光トリガー相転移は起こらず、結晶相は変化しなかった。したがって、光トリガー相転移はβ相において特有の現象であることがわかった。このβ相からγ相への光トリガー相転移の発現機構を考察するため、光異性化による生成物trans-keto体の分子構造を量子化学計算により最適化した。その結果、元のenol体とは二面角が大きく異なり、光異性化による構造変化が大きいことがわかった。この分子構造変化が結晶中で起きると、trans-keto体は周りの分子にひずみを与えると考えられる。実際の結晶において、光照射前は全ての分子がEnol体である。光照射すると、照射面から光異性化が進行し、trans-keto体ができ、ひずみを与え始める。ある程度trans-keto体が生成すると、そのひずみを解消するように結晶全体の構造がドミノ倒しのように進む。これが、光トリガー相転移の発現機構である。この時、β相からγ相へのエネルギー障壁が0.2 kJ/molと小さいことも光トリガー相転移の発現に寄与していると考えられる。光照射によって、光異性化と光トリガー相転移を起こすことができ、それらを組み合わせた複雑なメカニカル機能を創出することができた。サリチリデンアニリン系結晶の光反応と構造相転移による複合的な動きを制御する。そのために、光照射の強度や波長、測定温度を変えて動きのパターンを観察する。結晶を固定せずにガラス基板上に置き、複合的な動き制御で得られた知見を元にして基板上を自由に移動させることができるようにする。本実験で観察されたサリチリデンアニリン系結晶の移動現象について、推進力の働く機構を明らかにする。また、上記の実験と並行して、光トリガー相転移の機構解明を行う。光トリガー相転移とは、熱的相転移温度の40度より低い温度においても、光照射によって結晶構造変化が誘起される現象である。そのため、室温より低い温度で結晶構造解析を行い、光照射前後の構造変化を確認する。また、赤外線サーモグラフィーを用いて、光照射による結晶表面温度の変化を測定する。さらに、スーパードライルームなどの結露しない条件下で、低温時の光による結晶形状変化を観察する。これらの結果を元に、光トリガー相転移という特異な相転移現象の発現機構を明らかにする。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-17J10691
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コンピュータを利用したタンパク質の理論的デノボ・デザイン
本研究の目的は、鋳型とする立体構造に巻きあがるタンパク質配列を人工的に設計する方法を確立することである。昨年度は3D-1D法というタンパク質の立体構造予測法を逆向きに活用してグロビン配列(DG1)を設計し、その構造を実験的に調べた。設計したタンパク質の概形はグロビン構造となったが、側鎖の揺らぎが大きいため天然タンパク質に特有の協同的転移を示さなかった。つまり、構造特異性が低い。この問題を克服するために、本年度は理論と実験両面から研究を行った。理論としては、ロータマという典型的な側鎖構造ライブラリーを利用した構造-配列適合性関数の開発を試みた。ロータマの導入により、側鎖のかみ合わせを向上させることが狙いである。ある手続きで作成した関数(A)を用い、人リゾチームで測定されている点突然変異体の安定性を計算した結果、実験値と0.65程度の相関係数を示した。以前の関数では0.5程度の相関係数しか得られなかったので、改良が確認された。T4リゾチームでも良好な結果を得た。しかし天然配列を安定な配列と判定するテストではこの関数(A)より他の関数(B)の方が性能が良い。関数評価に用いたテストを詳しく調べた結果、両テストでは利用するパラメータの数が異なり、AとBのいずれが優れた関数かを判定するには実験値が不足していることがわかった。実験としては、昨年度設計した配列(DG1)をベースにした改良を模索した。構造特異性を向上させるには、βブランチを含むアミノ酸を適宣使用することが有効であると言われている。そこでヘリックス部位にあるロイシンなどのアミノ酸をβブランチを含むイソロイシンやバリンに置換した配列(DG2-4)を作成し、構造の特異性を調べた。今回作成した3つのタンパク質はいづれもDG1より協同的に転移し、NMRなどの結果も改善されたが、面白いことに安定性は低下した。構造の特異性と安定性はぎりぎりの部分では背反性を持つことが示唆される。本研究の目的は、鋳型とする立体構造に巻きあがるタンパク質配列を人工的に設計する方法を確立することである。昨年度は3D-1D法というタンパク質の立体構造予測法を逆向きに活用してグロビン配列(DG1)を設計し、その構造を実験的に調べた。設計したタンパク質の概形はグロビン構造となったが、側鎖の揺らぎが大きいため天然タンパク質に特有の協同的転移を示さなかった。つまり、構造特異性が低い。この問題を克服するために、本年度は理論と実験両面から研究を行った。理論としては、ロータマという典型的な側鎖構造ライブラリーを利用した構造-配列適合性関数の開発を試みた。ロータマの導入により、側鎖のかみ合わせを向上させることが狙いである。ある手続きで作成した関数(A)を用い、人リゾチームで測定されている点突然変異体の安定性を計算した結果、実験値と0.65程度の相関係数を示した。以前の関数では0.5程度の相関係数しか得られなかったので、改良が確認された。T4リゾチームでも良好な結果を得た。しかし天然配列を安定な配列と判定するテストではこの関数(A)より他の関数(B)の方が性能が良い。関数評価に用いたテストを詳しく調べた結果、両テストでは利用するパラメータの数が異なり、AとBのいずれが優れた関数かを判定するには実験値が不足していることがわかった。実験としては、昨年度設計した配列(DG1)をベースにした改良を模索した。構造特異性を向上させるには、βブランチを含むアミノ酸を適宣使用することが有効であると言われている。そこでヘリックス部位にあるロイシンなどのアミノ酸をβブランチを含むイソロイシンやバリンに置換した配列(DG2-4)を作成し、構造の特異性を調べた。今回作成した3つのタンパク質はいづれもDG1より協同的に転移し、NMRなどの結果も改善されたが、面白いことに安定性は低下した。構造の特異性と安定性はぎりぎりの部分では背反性を持つことが示唆される。
KAKENHI-PROJECT-11166269
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循環器疾患の新規デバイスや医薬品の医療経済分析および分析に必要な基盤データの整備
日本では2019年度から医療経済分析が保険医療制度に本格導入される予定である。世界的に医療経済分析は重要視されている。しかし、日本では医療と経済の両方を理解する人材が不足しているため、個々の医薬品・デバイスの医療経済分析は十分に行われていない。本研究は循環器領域の高額な新規デバイスや医薬品の医療経済分析を行うとともに、循環器疾患の医療経済分析に必要な基盤データの整備を行う。本研究によって、医療経済分析が日本の保険医療制度にスムーズに導入されることが可能となると同時に、広く国民の診療に貢献することが期待される。日本では2019年度から医療経済分析が保険医療制度に本格導入される予定である。世界的に医療経済分析は重要視されている。しかし、日本では医療と経済の両方を理解する人材が不足しているため、個々の医薬品・デバイスの医療経済分析は十分に行われていない。本研究は循環器領域の高額な新規デバイスや医薬品の医療経済分析を行うとともに、循環器疾患の医療経済分析に必要な基盤データの整備を行う。本研究によって、医療経済分析が日本の保険医療制度にスムーズに導入されることが可能となると同時に、広く国民の診療に貢献することが期待される。
KAKENHI-PROJECT-19K10479
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ESDの視点による教科・領域横断的学習活動の構築
小・中学校の教科書および年間指導計画に基づき、ESDの主たる領域(資源・環境、平和・人権、経済・貧困など)毎に単元の類型化を行い、カリキュラム構造図(ESDカレンダー)の素案を作成した。また、小・中学校などの協力を得て、「大豆」「稲作」「鮭と森林」をテーマに公開研究授業(総合および社会科)を実施した。これは食品・食材、農業、食料自給率、生物・環境など多岐のテーマを包摂する教科・領域横断方学習を試行したものである。小・中学校の教科書および年間指導計画に基づき、ESDの主たる領域(資源・環境、平和・人権、経済・貧困など)毎に単元の類型化を行い、カリキュラム構造図(ESDカレンダー)の素案を作成した。また、小・中学校などの協力を得て、「大豆」「稲作」「鮭と森林」をテーマに公開研究授業(総合および社会科)を実施した。これは食品・食材、農業、食料自給率、生物・環境など多岐のテーマを包摂する教科・領域横断方学習を試行したものである。1.茨城大学の附属学校園におけるESD実施状況に関する予備調査を行った。全教員に、これまでの授業実践の中で、ESDに関わる内容が度の教科、領域においてどの程度扱われているかアンケートを行った結果、すべての学校園で環境に関わる内容は何らかの形で取り上げられているが、人権と多様性、経済に関わるものは小学校高学年と中学校以外ではほとんど取り上げられていない傾向にある。2.教員のESDに対する知識と認識は決して高いものではなく、ESDの視点から取り上げるべきであるが、扱われてないもの、扱われているが教員自身がESDとの関連を十分に理解していないものなども混在していると思われる。今後のカリキュラム構築の上での課題が浮き彫りになった。3.上記との関連で、附属小学校と附属中学校の年間指導計画に基づき、ESDカリキュラム構造図の作成に着手した。今後漸次、全校園についてカリキュラム構造図を作成する予定だが、カリキュラム全体の中でのESDの位置づけを視覚的にイメージできるものとして有用である。4.第2回ユネスコスクール全国大会に参加し、全国のユネスコスクールの実践発表を聞き、資料を収集した。5.奈良教育大学附属中学校のESD研究発表会に参加し情報収集と意見交換を行った。とくに生徒の意欲的な取り組みを組織する指導体制は参考になった。一方、特別支援学級における取り組みは様々な工夫が必要であることも示唆された。6.本学附属中学校におけるESD関連の研究授業に参加し、意見交換を行った。・今年度は、以下の2点を中心に共同の研究活動を行った。(1)小・中学校の教科書に基づき、カリキュラム構造図を作成し、ESDカレンダーを構想する基礎的作業として、各教科の各単元を、ESDの主たる領域(資源・環境、平和・人権、経済・貧困など)毎に類型化を行った。ESDに関わる単元の有無が教科によってかなりばらつきがあり、相互の連関がほとんど考慮されていないことや、一教科としては単元の配列・順序性が一貫していても、教科・領域を通して見ると、微妙な矛盾や重複があることがわかり、ESDの観点から教育課程全体を見直す意義があることが改めて確認された。(2)附属小学校におけるESDの実施条件・体制を考慮した上で、同校研究主任の協力を得て、4年生を対象とした総合の授業を公開研究授業として実施した。「大豆」をテーマに、3年生までに枝豆(大豆)の栽培から様々な大豆製品を作る学習を行ってきた経験の上に、大豆が様々な日本食の食材や食品に使われること、しかしそのかなりの部分をアメリカから輸入していることを学習し、将来輸入が難しくなったらどうなるか、どうすればよいかを子どもたちに考えさせた。今回の学習内容は5年生の社会科と理科の単元に繋げられる可能性があるので、引き続き附属小学校と連携した研究を発展させる必要がある。・また、昨年度行った附属学校園での予備調査の結果を、『茨城大学教育学部紀要』に掲載した。・その他、研究代表者・協力者が個別にこの研究の一環ないし一部として研究成果をあげている。本年度はESDカレンダーの試作と、モデル授業の考案柱に研究を行った。前者については、小・中学校各学年、各教科・領域での学習事項を一覧表にし、それををESDカレンダーづくりに使えのる形にできるよう試作データを作成、環境共生学会で発表した。後者について、22年度と23年度に附属小学校5年生を対象に行った大豆(家庭科)および米の生産(社会科)の授業の発展系のモデル授業をいくつか検討した。一つは、家庭科における環境負荷低減の観点からの地元食材による食文化教育である。食料自給率低下と環境負荷の問題については社会科や理科の分野で扱われるが,さらに教科横断的に,家庭科の調理実習において体験的にそれらの知識を実生活に結びつけることが可能と考えられる。その好適食材の一つである小麦粉代替用米粉に着目し、小麦粉と比較した教材としての特性を検討し、日本食品化学学会で発表した。また、音楽において、学習者が日々の生活のなかで興味深い音や気になる音などを日記につけることを通して、音の変化から環境の変化に気づかせる学習が一部でなされているが、この学習は音楽にとどまらず、小学校理科教育、環境教育に多彩に応用・発展できるので、附属小学校教諭と授業化について検討した。附属小学校でのモデル授業は日程調整が不備に終わり実現しなかったが、代わりに水戸市内の公立中学校において、「ふしぎな森」と題する授業を行った。
KAKENHI-PROJECT-22653114
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ESDの視点による教科・領域横断的学習活動の構築
これはカナダのある森の、10mの滝の上下で、木の大きさが違うと言う事実に着目し、滝の下で熊が捕獲する「サケの体が栄養となって森の木々の肥料と成っている」という生態系の知識を、過去の学習や経験を駆使して「推論」を働かせながら習得させるものである。この成果は国内のみならず、韓国科学教育学会で発表し好評を得ている。「ESDの視点による教科・領域横断的学習活動として、どのような授業やカリキュラムが構築可能であるか」明らかにするという目的について、実際にカリキュラム構造図とESDカレンダーの作成作業はほぼ順調に進んでおり、実際の授業実践を試行することができたことは、重要な成果である。24年度が最終年度であるため、記入しない。今後とも、例えば「二酸化炭素」「放射線」などの具体的なテーマを設定して、どのような授業実践が可能であるか、附属学校園と連携して行っていく。当初は公立学校での調査や連携も想定していたが、授業を行う可能性、条件等を考慮して、附属学校園を中心に行いたい。また、カリキュラム構造図とESDカレンダーを完成させ、ESD実践の資料として活用できるようにすることを目指す。24年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-22653114
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ヒト扁桃胚中心の機能的形態に関する研究
私共はGratzner氏法によるBrdU(5Bromo-2′-deoxy Urine)のモノクロナール抗体を用いて,扁桃の胚中心の細胞動態を免疫組織学的に観察し報告してきた。DNA合成期の細胞分裂S期にThymidinのAnalogeであるBrdUを取り込ませ,抗BrdUモノクロナール抗体で免疫染色し,BrdU摂取細胞を標識細胞として扁桃胚中心の細胞動態を観察した。家兎の扁桃ではBrdU標識細胞は大型リンパ球であり,胚中心の暗殻の対側である底極部に限局してみられ,この部でリンパ球の産生,増殖がおこなわれていた。そしてBrdU投与後,経時的に観察すると,BrdU摂取細胞は暗殻に向って移動し,胚中心の外へ移動する。ヒトの口蓋扁桃を用いて,in vivoのBrdU投与実験をおこなった。手術摘出扁桃を材料に用いた。扁桃組織をBrdU含有の人工血液(Fe-43,ミドリ十字社製)の中で培養した。試料はアマシアム社製の抗BrdUモノクロナール抗体キットで免疫染色し,BrdU摂取細胞を観察した。ヒトの扁桃の場合もBrdU摂取細胞は胚中心の暗殻の対側である底極部に多数観察され,この部がリンパ球の産生・増殖の場であることが理解された。そこで底極部の機能を知るため,今回S-100蛋白の免疫染色をおこなったところ,底極部にS-100の存在が認められた。S-100は主としてリンパ球をとりまく,dendritic cellにみられた。この細胞はリンパ節のinterdigitating Reticulum細胞に相当する。しかし底極部以外では反応が少なかった。さらにリンパ球産生に関与するインターロイキン6で免疫染色するとS-100の所見とほゞ同じ結果がみられた。胚中心の底極部にリンパ球産生・増殖の機能についてさらに検討したい。今回の結果は第6回日本口腔咽頭学会(平成5年9月)で発表予定である。私共はGratzner氏法によるBrdU(5Bromo-2′-deoxy Urine)のモノクロナール抗体を用いて,扁桃の胚中心の細胞動態を免疫組織学的に観察し報告してきた。DNA合成期の細胞分裂S期にThymidinのAnalogeであるBrdUを取り込ませ,抗BrdUモノクロナール抗体で免疫染色し,BrdU摂取細胞を標識細胞として扁桃胚中心の細胞動態を観察した。家兎の扁桃ではBrdU標識細胞は大型リンパ球であり,胚中心の暗殻の対側である底極部に限局してみられ,この部でリンパ球の産生,増殖がおこなわれていた。そしてBrdU投与後,経時的に観察すると,BrdU摂取細胞は暗殻に向って移動し,胚中心の外へ移動する。ヒトの口蓋扁桃を用いて,in vivoのBrdU投与実験をおこなった。手術摘出扁桃を材料に用いた。扁桃組織をBrdU含有の人工血液(Fe-43,ミドリ十字社製)の中で培養した。試料はアマシアム社製の抗BrdUモノクロナール抗体キットで免疫染色し,BrdU摂取細胞を観察した。ヒトの扁桃の場合もBrdU摂取細胞は胚中心の暗殻の対側である底極部に多数観察され,この部がリンパ球の産生・増殖の場であることが理解された。そこで底極部の機能を知るため,今回S-100蛋白の免疫染色をおこなったところ,底極部にS-100の存在が認められた。S-100は主としてリンパ球をとりまく,dendritic cellにみられた。この細胞はリンパ節のinterdigitating Reticulum細胞に相当する。しかし底極部以外では反応が少なかった。さらにリンパ球産生に関与するインターロイキン6で免疫染色するとS-100の所見とほゞ同じ結果がみられた。胚中心の底極部にリンパ球産生・増殖の機能についてさらに検討したい。今回の結果は第6回日本口腔咽頭学会(平成5年9月)で発表予定である。
KAKENHI-PROJECT-05671440
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病原性ウイルスにおける宿主内進化様式の解析
平成14年度は、この研究にとって実りの年であり、新たなスタートをした年でもあった。今年度中、2つの国際学会(Molecular Evolution, Jun.2002,Naples ; International conference on AIDS, Dec. 2002,Washington)と、3つの国内学会(第3回CBI学会,9月,東京;ウイルス学会,10月,札幌;分子生物学会,12月,横浜)で発表して、ウイルス専門の学者を始め、分子進化と分子計算などいろんな分野の専門者たちの意見を仰ぐことができた。そして、今年度の後半、分子進化やゲノム解析などの分野で影響力が大きい国際誌GENEに掲載が受諾された。一方、平成13年度の日本ウイルス学会での発表をきっかけで、この研究で開発した方法は国立感染研エイズセンターで集めたHIV-1の連続サンプルに適用することになった。大量なデータ解析を行った中、いままでの最尤法に基づいた逐次リンクアルゴリズムは尤度の計算量が膨大であり、また変異種の増加により指数的に可能な系統関係が増加するという困難があることが分かった。これらの困難を克服するため、今年度は我々が近隣結合法を利用した遺伝距離準拠型逐次リンクアルゴリズムを開発することに取り込んだ。そして、この新しい計算アルゴリズムを使って抗HIV治療を受けているエイズ患者から継時的に採集したHIV-1のgag及びpol遺伝子のデータについて解析を行い、興味深い結果が得られた。すなわち、我々の方法より、HIVが薬剤の攻撃を受けながら患者の体内でどのように進化していたのかを縦断的な系統樹(longitudinal phylogenetic tree)で示すことができた。今後、ニュージーランドの研究グループが開発したsUPGMA(serial sampled UPGMA)法の長所を取り入れて、我々の方法をより実用性と信頼性の高いウイルス進化解析法に発展させる予定である。平成14年度は、この研究にとって実りの年であり、新たなスタートをした年でもあった。今年度中、2つの国際学会(Molecular Evolution, Jun.2002,Naples ; International conference on AIDS, Dec. 2002,Washington)と、3つの国内学会(第3回CBI学会,9月,東京;ウイルス学会,10月,札幌;分子生物学会,12月,横浜)で発表して、ウイルス専門の学者を始め、分子進化と分子計算などいろんな分野の専門者たちの意見を仰ぐことができた。そして、今年度の後半、分子進化やゲノム解析などの分野で影響力が大きい国際誌GENEに掲載が受諾された。一方、平成13年度の日本ウイルス学会での発表をきっかけで、この研究で開発した方法は国立感染研エイズセンターで集めたHIV-1の連続サンプルに適用することになった。大量なデータ解析を行った中、いままでの最尤法に基づいた逐次リンクアルゴリズムは尤度の計算量が膨大であり、また変異種の増加により指数的に可能な系統関係が増加するという困難があることが分かった。これらの困難を克服するため、今年度は我々が近隣結合法を利用した遺伝距離準拠型逐次リンクアルゴリズムを開発することに取り込んだ。そして、この新しい計算アルゴリズムを使って抗HIV治療を受けているエイズ患者から継時的に採集したHIV-1のgag及びpol遺伝子のデータについて解析を行い、興味深い結果が得られた。すなわち、我々の方法より、HIVが薬剤の攻撃を受けながら患者の体内でどのように進化していたのかを縦断的な系統樹(longitudinal phylogenetic tree)で示すことができた。今後、ニュージーランドの研究グループが開発したsUPGMA(serial sampled UPGMA)法の長所を取り入れて、我々の方法をより実用性と信頼性の高いウイルス進化解析法に発展させる予定である。平成十三年度の研究計画が順調に進んでおり、特にウイルスの宿主内進化解析アルゴリズムの開発において、新たな知見が得られ、研究は新しい段階に至った。ウイルスの宿主内モデルの構築は平成十三年度でほぼ完成した。我々はYangのコドン準拠モデルを改良し、非一様性マルコフ進化モデルを作成した。このモデルを利用することにより、宿主内で進化する病原性ウイルスの準種がどの時期にどんな進化様式(中立進化あるいは淘汰進化)を採ったのかを調べることができた。しかし、今後多様な病原性ウイルス連続サンプルヘの適用に伴って、この進化モデルがさらに発展する可能性がある。Sequential-linking法について、最初最尤法に基づいてのアルゴリズムを開発したが、実際のデータに適用した段階で、この方法がウイルスの準種の数が増えると尤度の計算に莫大な時間がかかり、実用性の面では弱いことが分かった。これを解決するため、我々は距離法に基づいた新しいアルゴリズムを考え出した。この方法はウイルス準種間の距離の計算に基づいて順次に準種配列をクラスター化して、最後に時間経過的な系統樹を作成するという手順で、計算時間が最初の方法より遥かに速い。さらに、前の観測時点から次の時点へ引き続き存続する準種つまり"immunological escape variant"の選出について、「同じ時点で得られたvariantより、次の時点で得られたvariantとの進化距離が近いような準種を選び出す」という新しい基準を導き出した。この新しいアルゴリズムが平成十三年度の日本ウイルス学会で発表されて、ウイルス学者たちの注目を集めた。平成十四年度の計画は、この方法を大量かつ多様な病原性ウイルスサンプルに適用して、その独創性と実用性について検証することである。その研究成果を専門雑誌に投稿する予定であり、計算プログラムの公開も考えている。平成14年度は、この研究にとって実りの年であり、新たなスタートをした年でもあった。
KAKENHI-PROJECT-13680758
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13680758
病原性ウイルスにおける宿主内進化様式の解析
今年度中、2つの国際学会(Molecular Evolution, Jun. 2002, Naples ; International conferenece on AIDS, Dec.2002,Washington)と、3つの国内学会(第3回CBI学会.9月,東京;ウイルス学会,10月,札幌;分子生物学会,12月,横浜)で発表して、ウイルス専門の学者を始め、分子進化と分子計算などいろんな分野の専門者たちの意見を仰ぐことができた。そして、今年度の後半、分子進化やゲノム解析などの分野で影響力が大きい国際誌GENEに掲載が受諾された。一方、平成13年度の日本ウイルス学会での発表をきっかけで、この研究で開発した方法は国立感染研エイズセンターで集めたHIV-1の連続サンプルに適用することになった。大量なデータ解析を行った中、いままでの最尤法に基づいた逐次リンクアルゴリズムは尤度の計算量が膨大であり、また変異種の増加により指数的に可能な系統関係が増加するという困難があることが分かった。これらの困難を克服するため、今年度は我々が近隣結合法を利用した遺伝距離準拠型逐次リンクアルゴリズムを開発することに取り込んだ。そして、この新しい計算アルゴリズムを使って抗HIV治療を受けているエイズ患者から継時的に採集したHIV-1のgag及びpol遺伝子のデータについて解析を行い、興味深い結果が得られた。すなわち、我々の方法より、HIVが薬剤の攻撃を受けながら患者の体内でどのように進化していたのかを縦断的な系統樹(longitudinal phylogenetic tree)で示すことができた。今後、ニュージーランドの研究グループが開発したsUPGMA(serial sampled UPGMA)法の長所を取り入れて、我々の方法をより実用性と信頼性の高いウイルス進化解析法に発展させる予定である。
KAKENHI-PROJECT-13680758
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SFK活性化を標的としたオシメルチニブ耐性肺癌の新規克服治療研究
肺癌で広く用いられる第3世代上皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)のオシメルチニブはその治療症例に耐性がんが出現することが知られている。そこで我々が樹立したオシメルチニブ耐性肺癌細胞を用いて耐性メカニズムを明らかにすることを目的に研究を行う。耐性細胞ではSRCファミリーキナーゼ(SFK)の活性化が観察されたことから、SFKの活性化機序及び関連因子の耐性への関与を明らかにする。さらに、第1、第2世代EGFR-TKI耐性細胞と比較することで第3世代EGFR-TKI耐性機序を標的とした耐性克服が他の耐性細胞でも有用であることを示し、新たなTKI耐性克服治療の創出に向け貢献する。肺癌で広く用いられる第3世代上皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)のオシメルチニブはその治療症例に耐性がんが出現することが知られている。そこで我々が樹立したオシメルチニブ耐性肺癌細胞を用いて耐性メカニズムを明らかにすることを目的に研究を行う。耐性細胞ではSRCファミリーキナーゼ(SFK)の活性化が観察されたことから、SFKの活性化機序及び関連因子の耐性への関与を明らかにする。さらに、第1、第2世代EGFR-TKI耐性細胞と比較することで第3世代EGFR-TKI耐性機序を標的とした耐性克服が他の耐性細胞でも有用であることを示し、新たなTKI耐性克服治療の創出に向け貢献する。
KAKENHI-PROJECT-19K07222
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K07222
全身感覚運動情報の多相計測と能動再構成に基づく身体性変化即応認知行動機能の研究
全身の触覚情報を含む多数の感覚情報を計測する装置を開発し、それを用いて手の平で行う物体操作など、人間が行う巧みな運動の原理を明らかにした。加えて、俊敏な動作を行うロボットの設計法と動作生成法を開発し、棒高跳びやバドミントンなど、柔軟な道具を用いた俊敏動作を実現した。さらに、生物の神経系を規範とした、情報処理系を構築、解析、応用することで、適応的な運動を即時的に生成する手法を確立した。本年度は以下の項目に関して,実験系の構築と理論・手法の検討を行った.1.全身多相感覚運動計測装置の開発:独自開発の分布触覚センサやモーションセンサについて,小型化,薄型化,高密度化,耐久性向上等の改良を行い,身体表面に装着して日常動作中の触覚運動情報を高品質に計測する実験を体系的に実施可能なものとした.また,触覚運動データの同期計測と3次元表示等を行うソフトウェアを構築し,計測システムとしての完成度を高めた.これらの技術の一部は,産業応用に向けて企業に有償供与された.2.人体型筋骨格ロボットプロトタイプの開発と構成検討:空気圧人工筋を用いた棒高跳び動作実験用ロボットや瞬発的リーチング動作実験用ロボット要素,独自のパウチモータ要素に基づく新たな生体筋型アクチュエータとそれを用いた腕機構,などをほぼ全て自作により構築し,動作実験を行った.一連の成果は2015年中に開催される国際会議や国内学会大会等に投稿済みである.3.身体性変化課題の検討および被験者実験の準備:計画通り,体験用義肢装着時の適応に関する実験の検討と予備試行を行った.また,想定外の進展として,医学者との共同研究の機会を得て,歩行器利用中の転倒実験データを入手し解析に着手した.また,ダイナミック道具使用運動に関して,棒高跳び動作の力学モデル解析を詳細に行い,これに基づき上記2.で開発したロボットを用いて実験に成功した.これは想定以上の進展といえる.4.身体図式の基礎理論と手法の検討:手で物体を把持して振った時の対象物の長さ知覚(ダイナミックタッチ)に関して,複雑な筋骨格系を通した筋固有感覚と対象物運動との関係を,主に力学系理論に基づき解析した.また,身体の感覚・運動情報の構造を,情報理論的解析およびニューラルネットワークにより明らかにする研究をシミュレーションデータについて行った.本年度は,計測,再構成実験とモデル化に着手し,以下の項目に関して取り組んだ.1.人間全身多相感覚運動計測実験:多関節の運動データと多点接触データから,関節トルクと各点の3軸力を推定する手法を開発した.これを物体操作時の手の計測データに適用し,手法の有効性を検証した.また,物体操作における再現性の高い接触運動パターンを抽出して,タスク毎の特徴を明らかにした.2.筋骨格ロボットによる能動再構成実験:人間計測とロボットによる能動再構成を統合的に実行可能なウェアラブルバイラテラルテレオペレーション装置を開発した.この装置は力センサ搭載により,ロボットの感覚運動経験をヒトにフィードバックできる.これによりヒトの適応能力を活用した感覚運動情報が取得可能になった.また,能動再構成実験用に全身多自由度ロボットを改良し,バレーボールのフライングレシーブやバドミントンのスマッシュ・巧みなショットを行わせ,その運動性能を確認した.3.データ解析と身体図式モデル構築:2の装置から得た感覚運動ダイナミクスの学習に,リカレントニューラルネットワークの使用を検討した.ダイナミクス学習に適したネットワークとしてReservoir Computingに着目,自己運動の予測や,ネットワークの内部構造が機能に与える効果を調査した.さらに,テンセグリティ構造におけるPhysical reservoir computingを用いて,身体性変化が感覚運動情報の構造に与える効果を調べた.複合的なテンセグリティにおいて周期の異なるvan der pol振動子を学習でき,環境接触によりその周期が変わることを示した.また,即時適応に向けて,少数試行から適切な運動を生成する手法を提案し,2のロボットによってその有効性を検証した.身体図式に関して,Reservoir Computingなど新たなモデルを導入し,基礎実験では良い結果を得ているが,人体の複雑さやマルチモーダルへのスケールアップは今後の課題となっている.能動再構成実験に関しては,事前に想定していた計測,解析,ロボット適用という段階を経ずに,ロボットのための感覚運動経験を得られる,ヒトを含むロボット操縦システムの開発という想定外の進展があった.本年度は,計測,再構成実験とモデル化の高度化と即時適応機能構築に関して以下に取り組んだ.1.再構成・モデル化のサイクルの高度化:多点接触データの取扱いを容易にするために,非同期センサ入力からの運動学計算アルゴリズムを構築した.また,モーダルを超えて情報を活用するために,接触情報からの視覚情報の再構築を行った.さらに,人間計測とロボットによる能動再構成を統合的に実行可能なウェアラブルバイラテラルテレオペレーション装置の改良を行い,拭き取りタスクを実施することで環境とのインタラクションのあるタスクへの適用可能性を示した.2.予測・適応機能の構築:ダイナミクスを活用した予測・適応機能としてReservoir Computing、カオス結合系に着目し,以下を実施した.予測に関してPredictive CodingのためにReservoir Computingの1種であるEcho State Networkを用い,自己接触と他者接触が判別できること,他者からの自己運動への影響の大きさと予測誤差に関係が見られることを確認した.また,身体の柔軟性を備えたソフトロボットにカオス結合系を組み込み,粘弾性の違いによる創発運動の変化,障害物に対する適応動作の変化を調査した.さらに,身体による計算であるPhysical Reservoir Computingの考えに基づき,ロボット身体へのカオスの埋め込みも実現した.3.身体性変化
KAKENHI-PROJECT-26240039
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26240039
全身感覚運動情報の多相計測と能動再構成に基づく身体性変化即応認知行動機能の研究
即応実験のためのロボットシステム:筋骨格ロボットを改良し,身体変化のためにパーツの交換を容易化した.また,大きな身体性変化を伴うロボットとして,柔軟で伸縮可能な連続ロボットアームも開発した.各項目それぞれに対し実験,改良を進められており,おおむね当初の計画の通りの進展が見られると言える.本年度は,機能検証,応用開拓,知見のまとめと技術移転に関して以下に取り組んだ.1.即時適応行動ロボット実験:ロボットによる即時適応行動として,ダイナミックで破損のリスクが高いため多数の試行を行えないタスクである跳躍打撃動作に着目し,実際のロボットを用いて,少ない試行から飛来するボールを打ち返す動作を生成することに成功した.また,柔軟な連続弾性体からなるリング型ロボットをカオス結合系を用いて動かし,動作が遮られた時に別の運動に遷移することを確認した.さらに,道具使用ロボットの実験として,ラケットを用いてバドミントンを行う空気圧ロボットアームにより,飛来するシャトルを認識し,瞬時に動作を選択して,打撃することに成功した.2.人間支援技術等への適用の検討:即時適応行動を生成するロボットなどに幅広く知見を応用するために,ロボット一般の高速な運動生成アルゴリズムを提案し,その有効性を示した.さらに,リハビリ分野への応用に向けて,レーザーとオプトジェネティクスを用いて神経刺激を与える機構を開発した.3.知見の体系化と発信,技術移転:成果の論文化を行い,雑誌論文,国際会議に投稿することで本研究で得られた知見をまとめ,発信した.また,ホームページなどを通じて,得られた知見を一般に向けて発信した.さらに,本プロジェクトの成果を受けて,産業界から共同研究や委託研究の申し出があり,実用化に向けた協力を始めた.全身の触覚情報を含む多数の感覚情報を計測する装置を開発し、それを用いて手の平で行う物体操作など、人間が行う巧みな運動の原理を明らかにした。加えて、俊敏な動作を行うロボットの設計法と動作生成法を開発し、棒高跳びやバドミントンなど、柔軟な道具を用いた俊敏動作を実現した。さらに、生物の神経系を規範とした、情報処理系を構築、解析、応用することで、適応的な運動を即時的に生成する手法を確立した。全体として,当初計画内容は概ね順調に達成し,これに加え,独自のパウチモータ要素を用いた新たな生体筋型アクチュエータと腕機構の開発,空気圧人工筋を用いた双腕型棒高跳びロボットの開発と実験成功,医学者との共同研究による歩行器使用時の転倒動作実験データの入手と解析,などの,当初計画を越えた,あるいは想定外の,重要な進展があった.
KAKENHI-PROJECT-26240039
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乳癌を可視化するプローブ(gGlu-HMRG)を用いた術中迅速診断法の開発
乳癌を高感度かつ特異的に可視化できる蛍光プローブ(gGlu-HMRG)を開発し、「乳腺断端」と「センチネルリンパ節」の評価に有用であることを世界で初めて報告した。癌を特異的に可視化する蛍光プローブの臨床応用に向けた研究は少なく、他癌腫でも可視化が進むことが考えられ、本研究で開発した測定機器や解析方法は、他癌領域や膵液漏などたんぱく質検出が有用な臨床現場での多岐にわたる運用を目指し開発を行うため、汎用性が高く断端評価やリンパ節転移評価に有用となることが期待される。手術により切除された標本に体外にてgGlu-HMRGを塗布し、新規開発した蛍光イメージング装置により励起光をあて蛍光変化を測定を行い、蛍光部分についてはHE標本にて病理組織学的に確認した。本研究は、gGlu-HMRGは乳癌を迅速に可視化できる世界初のプローブを用い、実際の乳癌診療に寄与できるプロジェクトとして「術中の迅速診断」に焦点を当てた、橋渡し研究である。前研究より検出精度、測定精度とも向上させた測定機器を開発し、蛍光を自動測定可能なソフトを開発した。これまで腫瘍断端、センチネルリンパ節・リンパ節、針生検の検体を新規開発測定機器にて測定し、病理所見との照合を行いながら、測定結果から癌部と正常部を分けるための蛍光値のカットオフ値を測定結果から検討している。橋渡し研究であるため、臨床的に耐えうる感度特異度(それぞれ90%以上)が担保できるか画像解析をすすめており、臨床現場での有用性を確認する。また感度特異度が達成できた場合は、その蛍光カットオフ値を用い、前向き研究を行い、実臨床で有用かvalidationを行う。浸潤癌30例、非浸潤癌14例、良性腫瘍14例、正常乳腺組織55例の105標本を測定した(同一検体中に複数の腫瘍があるものは複数回カウント)。5分後の蛍光強度から試薬添加直後の蛍光強度を減算、5分間の蛍光増加を評価した。得られた蛍光増加を病理診断結果と照合し、蛍光増加と一致した部位にIDCまたはDCISが見い出された。病理診断により明らかにIDCまたはDCISと判定された部位の蛍光増加の分布は、明らかに正常な部位の蛍光増加よりも大きく、AUC 0.999と高い予測能が示された。このAUC曲線においてYouden indexが最大となる閾値を仮に求めると、5分間の蛍光増加が0.37 (a.u.)となった。この値を閾値と画素ごとのがん検出感度は0.99,特異度は0.98となった。本プローベを乳癌部分切除術における術中断端診断に用いることを想定すると、切り出した各検体ごとの腫瘍の有無を高い感度と特異度で検出できることが求められる。前述の閾値を用い、乳癌全摘から切り出した原発、原発周辺、および正常乳腺に加えて、乳癌部分切除術の断端近傍の組織を含む全40症例、105検体を用いて、検体ごとの検出成績を試算した。その結果は、感度78%、特異度67%となった。陽性判定閾値、陰性判定閾値の2つによって、蛍光+、蛍光ー、蛍光±の3つを判断することで、本プローベを術中断端診断に用いることができるか検討した。陰性判定閾値は偽陰性率10%未満(または90%以上の腫瘍なし検体を正しく蛍光+と判定できる閾値)とし、陽性判定閾値は偽陽性率3%未満(または97%以上の腫瘍あり検体を正しく蛍光+と判定できる閾値)を目標とした。閾値による偽陽性率、偽陰性率の変化から、陽性判定閾値2.1および陰性判定閾値0.31を得た。陽性判定閾値は偽陽性率3%未満(または97%以上の腫瘍あり検体を正しく蛍光+と判定できる閾値)を目標とし、閾値による偽陽性率、偽陰性率の変化から、陽性判定閾値2.1および陰性判定閾値0.31を得た。この2つの閾値により、蛍光±と判定される検体の割合は全体では50%,正常検体のみでは51%となった。本プローベの使用により、蛍光ーの場合は追加切除なしで手術を終了する判断を簡便かつ迅速に行うことが可能になると考えられる。一方で蛍光+の場合は、本プローベの特性から良性腫瘍等を検出している可能性も考えられるため、慎重な判断が求められると考えられる約半数は蛍光±となるため、その場合は病理診断を待って追加切除を行うなどの対応が想定される。病理診断の負担が大きいと言われる乳房部分切除術において、たとえ全検体の半数であっても、凍結することなく迅速・簡便に断端への腫瘍遺残を判別できる本プローベは外科医、病理医、臨床検査技師らの負担を軽減しうると考えられる。また手術時間短縮による患者への侵襲の低減、再手術を減らすことによる医療費負担の低減などに貢献できるのではないかと考えられる。今後、実験を継続し、実臨床に実用できるか検討をすすめる。乳癌を高感度かつ特異的に可視化できる蛍光プローブ(gGlu-HMRG)を開発し、「乳腺断端」と「センチネルリンパ節」の評価に有用であることを世界で初めて報告した。
KAKENHI-PROJECT-18K16259
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K16259
乳癌を可視化するプローブ(gGlu-HMRG)を用いた術中迅速診断法の開発
癌を特異的に可視化する蛍光プローブの臨床応用に向けた研究は少なく、他癌腫でも可視化が進むことが考えられ、本研究で開発した測定機器や解析方法は、他癌領域や膵液漏などたんぱく質検出が有用な臨床現場での多岐にわたる運用を目指し開発を行うため、汎用性が高く断端評価やリンパ節転移評価に有用となることが期待される。手術により切除された標本に体外にてgGlu-HMRGを塗布し、新規開発した蛍光イメージング装置により励起光をあて蛍光変化を測定を行い、蛍光部分についてはHE標本にて病理組織学的に確認した。本研究は、gGlu-HMRGは乳癌を迅速に可視化できる世界初のプローブを用い、実際の乳癌診療に寄与できるプロジェクトとして「術中の迅速診断」に焦点を当てた、橋渡し研究である。前研究より検出精度、測定精度とも向上させた測定機器を開発し、蛍光を自動測定可能なソフトを開発した。これまで腫瘍断端、センチネルリンパ節・リンパ節、針生検の検体を新規開発測定機器にて測定し、病理所見との照合を行いながら、測定結果から癌部と正常部を分けるための蛍光値のカットオフ値を測定結果から検討している。橋渡し研究であるため、臨床的に耐えうる感度特異度(それぞれ90%以上)が担保できるか画像解析をすすめており、臨床現場での有用性を確認する。また感度特異度が達成できた場合は、その蛍光カットオフ値を用い、前向き研究を行い、実臨床で有用かvalidationを行う。浸潤癌30例、非浸潤癌14例、良性腫瘍14例、正常乳腺組織55例の105標本を測定した(同一検体中に複数の腫瘍があるものは複数回カウント)。5分後の蛍光強度から試薬添加直後の蛍光強度を減算、5分間の蛍光増加を評価した。得られた蛍光増加を病理診断結果と照合し、蛍光増加と一致した部位にIDCまたはDCISが見い出された。病理診断により明らかにIDCまたはDCISと判定された部位の蛍光増加の分布は、明らかに正常な部位の蛍光増加よりも大きく、AUC 0.999と高い予測能が示された。このAUC曲線においてYouden indexが最大となる閾値を仮に求めると、5分間の蛍光増加が0.37 (a.u.)となった。この値を閾値と画素ごとのがん検出感度は0.99,特異度は0.98となった。本プローベを乳癌部分切除術における術中断端診断に用いることを想定すると、切り出した各検体ごとの腫瘍の有無を高い感度と特異度で検出できることが求められる。前述の閾値を用い、乳癌全摘から切り出した原発、原発周辺、および正常乳腺に加えて、乳癌部分切除術の断端近傍の組織を含む全40症例、105検体を用いて、検体ごとの検出成績を試算した。その結果は、感度78%、特異度67%となった。陽性判定閾値、陰性判定閾値の2つによって、蛍光+、蛍光ー、蛍光±の3つを判断することで、本プローベを術中断端診断に用いることができるか検討した。陰性判定閾値は偽陰性率10%未満(または90%以上の腫瘍なし検体を正しく蛍光+と判定できる閾値)とし、陽性判定閾値は偽陽性率3%未満(または97%以上の腫瘍あり検体を正しく蛍光+と判定できる閾値)を目標とした。閾値による偽陽性率、偽陰性率の変化から、陽性判定閾値2.1および陰性判定閾値0.31を得た。陽性判定閾値は偽陽性率3%未満(または97%以上の腫瘍あり検体を正しく蛍光+と判定できる閾値)を目標とし、閾値による偽陽性率、偽陰性率の変化から、陽性判定閾値2.1および陰性判定閾値0.31を得た。この2つの閾値により、蛍光±と判定される検体の割合は全体では50%,正常検体のみでは51%となった。本プローベの使用により、蛍光ーの場合は追加切除なしで手術を終了する判断を簡便かつ迅速に行うことが可能になると考えられる。一方で蛍光+の場合は、本プローベの特性から良性腫瘍等を検出している可能性も考えられるため、慎重な判断が求められると考えられる約半数は蛍光±となるため、その場合は病理診断を待って追加切除を行うなどの対応が想定される。
KAKENHI-PROJECT-18K16259
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K16259
HIV感染者を対象とした口腔癌の予防に関する研究
平成27年度は、先行研究で口腔前癌病変の診断が得られた病理組織検体の残検体よりHPVの検索を行った。今回は14検体のパラフィンブロックについてマルチプレックスPCR法(PapiPlexTM)でHPVTypingを行ったがいずれの検体からもHPVは検出できなかった。この結果の評価についてはさらに検討の必要性がある。平成27年度および28年度では60例のHIV感染者について、口腔がんスクリーニングを実施した。スクリーニングは先行研究から変更した新しいプロトコールに基づき行い、60例全員についてHPVの検索も行った。結果は、今回のスクリーニングでは口腔癌は見られなかった。口腔前癌病変は、先行研究で診断された例も含めると、12例に認められた。前癌病変の内訳は白板症10例、紅班症1例、扁平苔癬1例だった。口腔内擦過細胞によるHPVの検索はパラフィンブロック同様にマルチプレックスPCR法(PapiPlexTM)でHPVTypingを行った。結果は5例からHPVが検出され、HIV感染者のHPV陽性率は12%だった。平成29年度研究ではこれらの結果の解析を行った。解析結果で、HIV感染者では、HPV11など、ローリスク型の感染も無視できないことが確認された。本研究では、HIV感染者のがん発生のリスクのみならずHPVの感染様式の解明も必要となるため平成30年度ではローリスク型の検索も行った。これらの結果をまとめてIDWeek 2016. October 2016 New Orleans, USAおよびThe 16th European AIDS Conference. October 2017. Milan, Italy.にて発表した。平成27年度は、先行研究で行ってきたHIV感染者の口腔がんスクリーニングで口腔前癌病変の診断が得られた病理組織検体の残検体よりHPVの検索を行った。今回は14検体のパラフィンブロックについてマルチプレックスPCR法(PapiPlexTM)でHPV Typingを行ったがいずれの検体からもHPVは検出できなかった。この結果がパラフィンブロックからの検出という不利な条件に起因する結果なのか、実際に検体中にHPVが存在しなかった結果なのかについてはさらに検討の必要性がある。今後さらに検体数の追加および他の検索法についての検討も行う予定でいる。次に、平成27年度では口腔がんスクリーニングの方法を、先行研究から一部改変し、HPVの検索に必要な項目を加えて実施した。具体的には案内パンフレットの修正変更、新たなスクリーニングプロトコール・調査票の作成を行った。案内パンフレットにはHPVと口腔癌の関連についての記載、HPV検索のための擦過細胞採取に関する記載を追加した。スクリーニングプロトコール・調査票にもHPV検索に関する擦過細胞の採取および検査に関する記載を追加した。これらの準備の後に、平成27年度では53例のHIV感染者について、口腔がんスクリーニングを実施した。スクリーニングは変更した新しいプロトコールに基づき行い、53例全員についてHPVの検索も行った。結果は、今回のスクリーニングでも口腔癌は見られなかった。口腔前癌病変は、先行研究で診断された例も含めると、12例に認められた。前癌病変の内訳は白板症10例、紅班症1例、扁平苔癬1例だった。口腔内擦過細胞によるHPVの検索はパラフィンブロック同様にマルチプレックスPCR法(PapiPlexTM)でHPV Typingを行った。結果は2例からHPVが検出され、内訳はHPV16、HPV51各1例だった。口腔前癌病変の組織からのHPV検索に関しては、当初予定していた、先行研究で採取した検体についての検索はすべて終了している。しかし、結果はすべて陰性で、この結果の評価に関してはまだ検討の余地があると言える。また、新鮮組織からの検索についてはまだ実施していない。口腔がんスクリーニングに関しては、当初の予定の70例には及ばないが53例について実施され、おおむね順調と考える。口腔内擦過細胞によるHPV検索に関しては、口腔癌スクリーニングを実施した53例全例について検索が行われた。これまでに53例全例のHPV Typingが終了している。結果も2例に陽性例がみられ、検索方法に大きな問題はないものと考えられた。以上の状況から、本研究はおおむね順調に進展していると考える。平成27年度は、先行研究で口腔前癌病変の診断が得られた病理組織検体の残検体よりHPVの検索を行った。今回は14検体のパラフィンブロックについてマルチプレックスPCR法(PapiPlexTM)でHPVTypingを行ったがいずれの検体からもHPVは検出できなかった。この結果の評価についてはさらに検討の必要性がある。次に、平成27年度では口腔がんスクリーニングの方法を、先行研究から一部改変し、HPVの検索に必要な項目を加えて実施した。具体的には案内パンフレットの修正変更、新たなスクリーニングプロトコール・調査票の作成を行った。案内パンフレットにはHPVと口腔癌の関連についての記載、HPV検索のための擦過細胞採取に関する記載を追加した。スクリーニングプロトコール・調査票にもHPV検索に関する擦過細胞の採取および検査に関する記載を追加した。これらの準備の後に、平成27年度および28年度では60例のHIV感染者について、口腔がんスクリーニングを実施した。スクリーニングは変更した新しいプロトコールに基づき行い、60例全員についてHPVの検索も行った。結果は、今回のスクリーニングでも口腔癌は見られなかった。
KAKENHI-PROJECT-15K11422
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K11422
HIV感染者を対象とした口腔癌の予防に関する研究
口腔前癌病変は、先行研究で診断された例も含めると、12例に認められた。前癌病変の内訳は白板症10例、紅班症1例、扁平苔癬1例だった。口腔内擦過細胞によるHPVの検索はパラフィンブロック同様にマルチプレックスPCR法(PapiPlexTM)でHPVTypingを行った。結果は5例からHPVが検出され、HIV感染者のHPV陽性率は12%だった。内訳はHPV59陽性が2例、HPV16、HPV51、HPV11と45の重感染例が各1例だった。口腔前癌病変の組織からのHPV検索に関しては、当初予定していた、先行研究で採取した検体14例についての検索はすべて終了している。しかし、結果はすべて陰性で、この結果の評価に関してはまだ検討の余地があると考える。また、新鮮組織からの検索についてはまだ実施していない。口腔がんスクリーニングに関しては、当初の予定の100例には及ばないが60例について実施され、おおむね順調と考える。口腔内擦過細胞によるHPV検索に関しては、口腔癌スクリーニングを実施した60例全例について検索が行われた。これまでに60例全例のHPVTypingが終了している。結果も5例に陽性例がみられ、検索方法に大きな問題はないものと考えられた。以上の状況から、本研究はおおむね順調に進展していると考える。平成27年度は、先行研究で口腔前癌病変の診断が得られた病理組織検体の残検体よりHPVの検索を行った。今回は14検体のパラフィンブロックについてマルチプレックスPCR法(PapiPlexTM)でHPVTypingを行ったがいずれの検体からもHPVは検出できなかった。この結果の評価についてはさらに検討の必要性がある。平成27年度および28年度では60例のHIV感染者について、口腔がんスクリーニングを実施した。スクリーニングは先行研究から変更した新しいプロトコールに基づき行い、60例全員についてHPVの検索も行った。結果は、今回のスクリーニングでは口腔癌は見られなかった。口腔前癌病変は、先行研究で診断された例も含めると、12例に認められた。前癌病変の内訳は白板症10例、紅班症1例、扁平苔癬1例だった。口腔内擦過細胞によるHPVの検索はパラフィンブロック同様にマルチプレックスPCR法(PapiPlexTM)でHPVTypingを行った。結果は5例からHPVが検出され、HIV感染者のHPV陽性率は12%だった。平成29年度研究ではこれらの結果の解析を行った。解析結果で、HIV感染者では、HPV11など、ローリスク型の感染も無視できないことが確認された。本研究では、HIV感染者のがん発生のリスクのみならずHPV感染様式の解明も必要となるため、ローリスク型の検索を追加を計画した。
KAKENHI-PROJECT-15K11422
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K11422
消化器癌転移抑制へ向けての新しい挑戦
Transforming Growth Factor-β(TGF-β)は、多くの腫瘍細胞から分泌される多機能性サイトカインで、抗腫瘍免疫の抑制・細胞外基質分解酵素の発現増強・血管新生増強などにより転移形成を促進している。したがって生体内でTGF-βを不活化あるいは発現を抑制する物質は、転移抑制剤として機能する可能性がある。本研究では可溶型TGF-β受容体が転移抑制物質になり得るか評価することを目的とした。まずマウスTGF-β2型受容体遺伝子を鋳型として、細胞外領域のみをcodeするDNA配列をPCRにて増幅した。これを発現ペクターpEF321flに組み込みpEFSRIIを作製した(SRII=soluble receptor typeII)。この蛋白がTGF-βとの結合能を保持していれば、可溶型TGF-β受容体になることになる。次に可溶型TGF-β受容体遺伝子導入細胞株を作製し、導入株の特性および培養上清に含まれる可溶型TGF-β受容体の生理活性を検討した。可溶型受容体遺伝子導入株は形態的にも細胞の大きさが増し、正常細胞に近い形態を示していた。また親株はin vitroで重なり合ってランダムに増殖するのに対して、導入株はmonolayerで極性を持って増殖した。しかしマウスに皮下移植すると親株同様腫瘍を形成し、尾静脈注射しても生存期間の延長は認めなかった。濃縮された導入株の培養上清を用いた検討では、SRIIを親株の培養液に加えても細胞形態や増殖形態に変化を及ぼさなかった。マウスにMC1を尾静脈注射した後SRIIを静脈投与しても生存期間の延長は認めなかった。今回の検討ではSRIIが腫瘍細胞の良性化をもたらす可能性を示唆したが、転移抑制に何らかの効果をもたらすか否かは、転移に対するTGF-βの詳細な機能の解明を含め、さらなる検討が必要であろう。Transforming Growth Factor-β(TGF-β)は、多くの腫瘍細胞から分泌される多機能性サイトカインで、抗腫瘍免疫の抑制・細胞外基質分解酵素の発現増強・血管新生増強などにより転移形成を促進している。したがって生体内でTGF-βを不活化あるいは発現を抑制する物質は、転移抑制剤として機能する可能性がある。本研究では可溶型TGF-β受容体が転移抑制物質になり得るか評価することを目的とした。まずマウスTGF-β2型受容体遺伝子を鋳型として、細胞外領域のみをcodeするDNA配列をPCRにて増幅した。これを発現ペクターpEF321flに組み込みpEFSRIIを作製した(SRII=soluble receptor typeII)。この蛋白がTGF-βとの結合能を保持していれば、可溶型TGF-β受容体になることになる。次に可溶型TGF-β受容体遺伝子導入細胞株を作製し、導入株の特性および培養上清に含まれる可溶型TGF-β受容体の生理活性を検討した。可溶型受容体遺伝子導入株は形態的にも細胞の大きさが増し、正常細胞に近い形態を示していた。また親株はin vitroで重なり合ってランダムに増殖するのに対して、導入株はmonolayerで極性を持って増殖した。しかしマウスに皮下移植すると親株同様腫瘍を形成し、尾静脈注射しても生存期間の延長は認めなかった。濃縮された導入株の培養上清を用いた検討では、SRIIを親株の培養液に加えても細胞形態や増殖形態に変化を及ぼさなかった。マウスにMC1を尾静脈注射した後SRIIを静脈投与しても生存期間の延長は認めなかった。今回の検討ではSRIIが腫瘍細胞の良性化をもたらす可能性を示唆したが、転移抑制に何らかの効果をもたらすか否かは、転移に対するTGF-βの詳細な機能の解明を含め、さらなる検討が必要であろう。平成9年度はヒトの分泌型TGF-β受容体遺伝子導入細胞株を作製した。1.(可溶型受容体発現ベクターの作製)既報によれば、TGF-β受容体のうちTGF-βと結合するのは1型ではなく2型である。そこでマウスTGF-β2型受容体遺伝子(東京大学医科学研究所友田より供与)を鋳型として、細胞外領域のみをcodeするDNA配列をPCRにて増幅した。これを発現ベクターpEF321flに組み込みpEFSRIIを作製した(SRII=soluble receptor type II)。これはTGF-β2型受容体の細胞外領域のみを発現するので、発現した蛋白は分泌型蛋白になる。この蛋白がTGF-βとの結合能を保持していれば、可溶型受容体になることになる。2.(可溶型受容体遺伝子導入細胞株の作製)マウス線維肉腫細胞株MC1にリポフェクチン法でpEFSRIIを導入した後、G418で薬剤選択しstable transfectantを作製した。得られたstable transfectantを限界希釈法でクローニングし可溶型受容体の発現の有無を調べた。発現の確認は、可溶型受容体遺伝子をprobeとしてNorthern blottingで行った。これにより可溶型受容体を分泌する細胞株を得た。3.(可溶型受容体遺伝子導入株の特性)可溶型受容体遺伝子導入株は形態的にも細胞の大きさが増し、正常細胞に近い形態を示していた。また接触阻止が一部回復しているのか、重なり合って増殖することはなくなった。しかしマウスに移植すると親株同様腫瘍を形成した。平成10年度は、可溶型受容体遺伝子導入株の培養上清を濃縮し、TGF-βに対する中和能を検討する予定である。
KAKENHI-PROJECT-09671285
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消化器癌転移抑制へ向けての新しい挑戦
また導入株における転移・関連遺伝子の発現変化を検討する予定である。さらに肺転移形成能の変化についても検討する予定である。平成10年度はマウスの線維肉腫株MC1にマウスの分泌型TGF-β受容体遺伝子(SRII)を導入して、その細胞株(MC1SRII)の特性を調べた。2. MC1Neoは15クローンとも親株のMClと同様小型の紡錘状細胞で、confluentになると細胞同士が重なり合い多数のcolonyを形成した。これに対してMC1SRIIは大型の紡錘状細胞で細胞同士の重なり合いはほとんど見られず、極性をもって配列していた。しかし細胞増殖の接触阻止は認められず、ほとんど重層することなく高密度に増殖した。増殖速度にはほとんど差を認めなかった。3. MC1Neoに対するTGF-βの影響を打ち消すことによって、MC1SRIIと同様の特性を示すようになるか検討するために、TGF-βに対する中和抗体を培養液に加えてMC1Neoを培養した。しかし形態に変化は認められなかった。ただし中和抗体の量が十分であったという保証はない。4.またMC1SRIIの形態変化が、可溶型受容体によってTGF-βの作用が打ち消された結果であるのか検討するために、MC1SRIIを高濃度のTGF-βを含む培養液で培養した。しかし形態に大きな変化は見られなかった。5. MC1NeoとMC1SRIIを同系マウスC57BL/6に皮下移植したところ、いずれも腫瘍を形成したが、増殖速度はMC1SRIIの方が遅い傾向があった。今後、この特性の変化が何によってもたらされているのか検討する予定である。平成11年度はMC1SRIIの造腫瘍性と培養上清に含まれる可溶型受容体の腫瘍発育阻止能を検討した。1.まず可溶型TGF-β受容体を発現する細胞株は造腫瘍能が減弱するはずであると考え、平成10年度に再クローニングしたMC1SRIIをマウスの腹部皮下に接種したが、MC1SRIIも造腫瘍能を失ってはいなかった。また増殖速度についてもMC1Neo及び親株MC1と同程度で有意な差は認めなかった。2.MC1SRIIの培養上清には可溶型TGF-β受容体が豊富に含まれることから、この培養上清を親株MC1の培養液に加えMC1にMC1SRIIに見られるような形態変化が生じるか検討した。しかしMC1SRIIの特徴である細胞の大型化や極性をもった増殖は認められなかった。また重なり合って増殖する性質の消失は認められず多数のコロニーを形成して増殖した。3.MC1SRIIの転移形成能が消失するか検討するためにマウスの尾静脈からMC1SRIIを静注したところ、マウスは全例死亡した。MC1Neo及び親株MC1と比較して生存期間の延長は認めなかった。4.最後に可溶型TGF-β受容体の転移阻止能を検討した。親株MC1をマウスの尾静脈に静注した翌日に、濃縮されたMC1SRII及びMC1Neoの培養上清を尾静脈から静注し、生存期間の延長があるか検討した。結局、生存期間の延長は見られず全例死亡した。以上の結果からは可溶型TGF-β受容体の転移抑制能は証明することはできなかった。
KAKENHI-PROJECT-09671285
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準静水圧下での構造変化測定による配列ナノ空間物質の特異な物性の解明
本研究は、異方性のある配列ナノ空間が静的圧力に対してどのような圧力応答を起こすのか、静水圧性の高いヘリウム圧力媒体による準静水圧環境で構造・物性変化の詳細を明らかにすることにより、B_<12>クラスター化合物やSi,Geクラスレートなどの配列ナノ空間物質の特異な物性発現のメカニズムを解明することを目的としている。今年度は、特に室温でTc=0.24Kの超伝導を示す構造I'型クラスレートBa_<24>Ge_<100>について、ヘリウム圧力媒体を用いた低温高圧in-situ X線回折測定を行い、超伝導状態近傍での精密構造解析を行い、超伝導物性と構造との関係を調べた。特に、リートベルト解析により求められた原子変位パラーメターから、Geケージ内のBaイオンのラットリング挙動と物性との関係を調べた。その結果、100K前後で起こる低温相転移温度T_<s2>以下では、Ba_<24>Ge_<100>のopen cage内にあるBaイオン(以下、Ba(3)を表記)が大きな原子変位を起こした。これはBa(3)のラットリング挙動に対応しており、超伝導転移温度Tcが低く押さえられる原因と考えられる。しかし、この原子変位は圧力の上昇とともに徐々に抑制され、2.1GPa以上では原子変位の増大は見られないことが明らかになった。これは、圧力の上昇とともにTcが上昇し、2.3GPa付近でTcが上限に達する従来の物性測定の結果に対応しており、圧力上昇によるラットリング挙動の抑制がBa_<24>Ge_<100>のTcの変化を決めていることが、始めて実験的に明らかになった。このほか、温度一定で圧力を変化させて、Ba_<24>Ge_<100>の温度・圧力相図の検証を行った。このほか、α-ホウ素のヘリウム圧力媒体を用いた高圧ラマン散乱実験は、現在進行中である。当初は、Ba_<24>Ge_<100>の超伝導発現機構に関する結論を導くたために低温高圧ラマン散乱実験は必須であると考えていたが、構造解析の結果、ラットリング挙動と超伝導発現との関係が極めて明瞭に捉えられたため、ラマン散乱実験を必要とせずとも一定の結論は出たと考えている。α-ホウ素のMBar領域の高圧ラマン散乱測定実験は現在進行中であり、ほぼ結論が見えてきた。Si,Geクラスレートについては、今回の結果を受けて新たな関心が高まった。Ba_<24>Si_<100>のアナロジーで言えば、Ba_<24>Ge_<100>はやがて圧力上昇とともにTcが低下すると予想されるがその段階で構造的特徴が現れるのか、また、室温では約10 GPaから徐々にアモルファス化を起こすが低温でも同様のことが起こるのか、またそれが物性にどのように反映するのか、興味深い。これらは電気伝導測定と構造解析の圧力範囲の拡大で知ることができ、現在の実験技術でも達成可能である。B_<12>クラスター化合物については、α-ホウ素はあくまでも最も単純な物質の例として対象としたものであり、今後、B_<12>クラスター間にB,C,Oなどの元素を持つ物質(B_4CやB_6Oなど)へと展開することにより、B_<12>クラスター化合物の圧力応答と物性との関係の全体像が明らかになると考えている。本研究は、異方性のある配列ナノ空間が静的圧力に対してどのような圧力応答を起こすのか、ヘリウム圧力媒体による準静水圧環境で構造・物性変化の詳細を明らかにすることにより、配列ナノ空間物質の特異な物性発現のメカニズムを解明することを目的としている。対象物質はB_<12>クラスター化合物およびSi,Geクラスレートなどの軽元素配列ナノ空間物質とし、ダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)とヘリウム圧力媒体を用いて、高圧X線回折と高圧ラマン散乱により構造変化を詳細に測定し、これら配列ナノ空間物質が示す特異な物性との関係を明らかにする。2010年度は、III型構造GeクラスレートBa_<24>Ge_<100>について、低温下における電気伝導度変化と構造変化との関係を明らかにする実験を行った。低温高圧実験用のダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)としてガス駆動クランプセルを導入し、これに試料とヘリウムガスを充填し、クライオスタットのチャンバー内に取付けて、KEK-PFの高圧DACビームラインBL-18Cにおいて低温高圧粉末X線回折測定を行った。その結果、電気伝導度変化が起こる温度領域(100-200K)で、構造不変のまま、格子定数の膨張があることが確認された。この構造変化の詳細を明らかにするために、Baイオンのラットリング挙動について、得られた回折パターンから構造解析を行っているところである。しかし、2GPa程度の高圧下においては、低温下での圧力コントロールが困難で、微妙な格子定数変化を観測することはできなかった。また、Ba_<24>Ge_<100>のラマン散乱測定については、ラマン散乱スペクトルの入射レーザー強度依存性が確認されたので、その効果を調べた。その結果、特にBaイオンの振動ピークがレーザー強度上昇とともに顕著に低波数シフトすることが明らかとなった。本研究は、異方性のある配列ナノ空間が静的圧力に対してどのような圧力応答を起こすのか、静水圧性の高いヘリウム圧力媒体による準静水圧環境で構造・物性変化の詳細を明らかにすることにより、B_<12>クラスター化合物やSi,Geクラスレートなどの配列ナノ空間物質の特異な物性発現のメカニズムを解明することを目的としている。
KAKENHI-PUBLICLY-22013021
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準静水圧下での構造変化測定による配列ナノ空間物質の特異な物性の解明
今年度は、特に室温でTc=0.24Kの超伝導を示す構造I'型クラスレートBa_<24>Ge_<100>について、ヘリウム圧力媒体を用いた低温高圧in-situ X線回折測定を行い、超伝導状態近傍での精密構造解析を行い、超伝導物性と構造との関係を調べた。特に、リートベルト解析により求められた原子変位パラーメターから、Geケージ内のBaイオンのラットリング挙動と物性との関係を調べた。その結果、100K前後で起こる低温相転移温度T_<s2>以下では、Ba_<24>Ge_<100>のopen cage内にあるBaイオン(以下、Ba(3)を表記)が大きな原子変位を起こした。これはBa(3)のラットリング挙動に対応しており、超伝導転移温度Tcが低く押さえられる原因と考えられる。しかし、この原子変位は圧力の上昇とともに徐々に抑制され、2.1GPa以上では原子変位の増大は見られないことが明らかになった。これは、圧力の上昇とともにTcが上昇し、2.3GPa付近でTcが上限に達する従来の物性測定の結果に対応しており、圧力上昇によるラットリング挙動の抑制がBa_<24>Ge_<100>のTcの変化を決めていることが、始めて実験的に明らかになった。このほか、温度一定で圧力を変化させて、Ba_<24>Ge_<100>の温度・圧力相図の検証を行った。このほか、α-ホウ素のヘリウム圧力媒体を用いた高圧ラマン散乱実験は、現在進行中である。当初は、Ba_<24>Ge_<100>の超伝導発現機構に関する結論を導くたために低温高圧ラマン散乱実験は必須であると考えていたが、構造解析の結果、ラットリング挙動と超伝導発現との関係が極めて明瞭に捉えられたため、ラマン散乱実験を必要とせずとも一定の結論は出たと考えている。α-ホウ素のMBar領域の高圧ラマン散乱測定実験は現在進行中であり、ほぼ結論が見えてきた。Si,Geクラスレートについては、今回の結果を受けて新たな関心が高まった。Ba_<24>Si_<100>のアナロジーで言えば、Ba_<24>Ge_<100>はやがて圧力上昇とともにTcが低下すると予想されるがその段階で構造的特徴が現れるのか、また、室温では約10 GPaから徐々にアモルファス化を起こすが低温でも同様のことが起こるのか、またそれが物性にどのように反映するのか、興味深い。これらは電気伝導測定と構造解析の圧力範囲の拡大で知ることができ、現在の実験技術でも達成可能である。B_<12>クラスター化合物については、α-ホウ素はあくまでも最も単純な物質の例として対象としたものであり、今後、B_<12>クラスター間にB,C,Oなどの元素を持つ物質(B_4CやB_6Oなど)へと展開することにより、B_<12>クラスター化合物の圧力応答と物性との関係の全体像が明らかになると考えている。
KAKENHI-PUBLICLY-22013021
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大脳の局所回路ニューロンの機能
線条体投射細胞の膜電位は、一定した二つの膜電位の間を移り変わって(シフト)している。一つは、-80から-85mVの電位(Downstate)で、もう一つは、-60mVの電位(Up state)である。Up stateからのみスパイク発射が起きる。本研究では、基底核の機能を理解する上で重要と考えられる。投射細胞の膜電位のシフトの性質を調べ、その成因を考えた。ラットの線条体の細胞から細胞内記録を行った。記録している細胞の電位依存性電流を止めるために、電極内に次のような薬をいれた。(a)QX314(Naコンダクタンスを抑える)(b)D890(Caコンダクタンスを抑える)(c)セシウム(Kコンダクタンスを抑える)。最初に、脱分極がNaやCaによる電位依存性電流によるのかどうか調べた。QX314とD890を細胞内に入れ、NaコンダクタンスとCaコンダクタンスを抑えても、Up stateは影響を受けなかった。Up stateでは外向き整流が強く、Downstateでは内向き整流が強かった。細胞内にセシウムを入れて外向き整流Kコンダクタンスを止めると、Downstateはほとんど影響を受けなかったのに、Up stateは一定でなくなり、更に大きな脱分極が見えるようになった。次に、セシウム、QX314、D890を細胞内に入れ、K,Na,Caの電位依存性コンダクタンスを止め、Up stateの電位がどうなるかを調べた。その結果、Up stateは-10から-20mVになり、皮質からのEPSPの反転電位の値とほぼ同じになった。これらから、Up stateは、皮質由来のEPSPで作られており、その大きさは飽和しているが、Kによる外向き整流コンダクタンスによって、一定の電位にクランプされていると考えた。線条体投射細胞の膜電位は、一定した二つの膜電位の間を移り変わって(シフト)している。一つは、-80から-85mVの電位(Downstate)で、もう一つは、-60mVの電位(Up state)である。Up stateからのみスパイク発射が起きる。本研究では、基底核の機能を理解する上で重要と考えられる。投射細胞の膜電位のシフトの性質を調べ、その成因を考えた。ラットの線条体の細胞から細胞内記録を行った。記録している細胞の電位依存性電流を止めるために、電極内に次のような薬をいれた。(a)QX314(Naコンダクタンスを抑える)(b)D890(Caコンダクタンスを抑える)(c)セシウム(Kコンダクタンスを抑える)。最初に、脱分極がNaやCaによる電位依存性電流によるのかどうか調べた。QX314とD890を細胞内に入れ、NaコンダクタンスとCaコンダクタンスを抑えても、Up stateは影響を受けなかった。Up stateでは外向き整流が強く、Downstateでは内向き整流が強かった。細胞内にセシウムを入れて外向き整流Kコンダクタンスを止めると、Downstateはほとんど影響を受けなかったのに、Up stateは一定でなくなり、更に大きな脱分極が見えるようになった。次に、セシウム、QX314、D890を細胞内に入れ、K,Na,Caの電位依存性コンダクタンスを止め、Up stateの電位がどうなるかを調べた。その結果、Up stateは-10から-20mVになり、皮質からのEPSPの反転電位の値とほぼ同じになった。これらから、Up stateは、皮質由来のEPSPで作られており、その大きさは飽和しているが、Kによる外向き整流コンダクタンスによって、一定の電位にクランプされていると考えた。
KAKENHI-PROJECT-07279248
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肝細胞癌における腫瘍ワクチンおよびTRAILを用いた腫瘍特異的遺伝子治療
我々は、これまで肝癌細胞をモデルに腫瘍ワクチンおよびTRAILの開発をめざして、腫瘍細胞研究を以下の二点に注目して解析してきた。1)T細胞が認識する腫瘍抗原の同定。2)C型肝炎ウイルスの肝細胞障害作用。以上の二点についてこれまでの成果を述べる。2)肝細胞癌の主な原因の一つであるC型肝炎ウイルスの中に細胞障害を引き起こす領域を同定した。この領域には、アポトーシスを引き起こし肝細胞を死に至らしめる作用と核染色体異常をおこす作用がある事を見いだした。この領域をINES領域と名付けた。INES領域は、ロイシンとイソロイシンが多く含まれている特異な構造をとっていた。細胞内のRanとExportinに作用して、染色体構造を傷害している事が判明した。そして、肝細胞にアポトーシスを引き起こしていた。詳細なシグナル伝達系について検討を行っている。マウスのDC細胞に関しては、牌臓細胞、骨髄細胞より、RBCを除きnonT、nonBをGM-CSF/IL-4などを用いて分離採取を試みている。B7-1分子を発現させたtransfectant(Ll)とDC細胞との細胞融合を検討中である。我々は、これまで肝癌細胞をモデルに腫瘍ワクチンおよびTRAILの開発をめざして、腫瘍細胞研究を以下の二点に注目して解析してきた。1)T細胞が認識する腫瘍抗原の同定。2)C型肝炎ウイルスの肝細胞障害作用。以上の二点についてこれまでの成果を述べる。2)肝細胞癌の主な原因の一つであるC型肝炎ウイルスの中に細胞障害を引き起こす領域を同定した。この領域には、アポトーシスを引き起こし肝細胞を死に至らしめる作用と核染色体異常をおこす作用がある事を見いだした。この領域をINES領域と名付けた。INES領域は、ロイシンとイソロイシンが多く含まれている特異な構造をとっていた。細胞内のRanとExportinに作用して、染色体構造を傷害している事が判明した。そして、肝細胞にアポトーシスを引き起こしていた。詳細なシグナル伝達系について検討を行っている。
KAKENHI-PROJECT-10877189
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10877189
擬正則曲線とハミルトン力学系の周期軌道
シンプレクティック幾何における擬正則曲線の理論を応用してハミルトン力学系の周期軌道の研究を行い,以下の成果を得た:(1)境界付リーマン多様体の単位余接束のシンプレクティック容量をループ空間の幾何を用いて計算し,応用として最短周期ビリヤード軌道の長さのよい評価を得た.(2)ストリング・トポロジーの積構造を鎖複体レベルで定義(構成)した.これは,余接束のフレア・ホモロジー上の高次積と対応すると予想される.(3)埋込接触ホモロジーの理論を応用し,三次元レーブ流および二次元ハミルトン微分同相写像に対してC∞級の閉補題を証明した.1.周期ビリヤード軌道の研究:リーマン多様体の閉測地線を研究する最も基本的な手法は、ループ空間上の長さ汎関数に対してモース理論を使うことである。同様の手法をビリヤード周期軌道に適用する研究はBenci-Giannoniにより行われていた。私はこの研究を精密化(定量化)し、ビリヤード台の容量という概念を導入して、周期ビリヤード軌道の長さを捉えられることを示した。応用として、周期ビリヤード軌道の長さに関して以前得られていた私自身の結果の精密化・一般化を与え、同時に他の研究者により得られていた関連する結果にもこの方法による別証明を与えた。以上について論文"Periodic billiard trajectories and Morse theory on loop spaces"をまとめた(投稿中)。2.ストリングトポロジーの研究:Chas-Sullivanは、99年の論文で多様体のループ空間のホモロジー群の上に一種の交叉積を定義し、さらにそれがBatalin-Vilkovisky代数という構造にのびることを示した。これは余接バンドル上のフレア理論とも深い関係がある。この結果を精密化して、鎖レベルの構造を定義することは重要な課題であるが、まだ決定版の解答はないと思われる。一つの困難は、鎖レベルで交叉積を定義する際に不可避な横断正則性の問題である。これについて、de Rham理論に基づく新しいアプローチにより一定の成果を得たので、論文"Transversality problems in string topology and de Rham chains"にまとめてプレプリントとして公開した。ストリングトポロジー、特に鎖複体レベルの代数構造についての研究を継続した。昨年度は、その際の本質的な困難である横断正則性の問題に対する解決法としてde Rham鎖のアイデアを導入し、自由ループ空間の鎖複体のモデルを構成した。今年度はその鎖複体の上にBatalin-Vilkovisky(BV)構造を実現した。より詳しくのべると、サボテン・オペラッド(Voronovにより導入された、枠付き小円板オペラッドの変種)のセル分解から定まる次数付微分オペラッドの作用を定義し、ホモロジーレベルではChas-SullivanによるBV構造を再現することを示した。以上の成果についてプレプリントarxiv:1503.00403を発表した。また、これまでのストリングトポロジーの研究で得られた結果と、シンプレクティック幾何における擬正則曲線の理論の関係について考察を進めた。例えば、ループ括弧積の鎖複体レベルでの定義は昨年度の研究ですでに得られていたが、これからループ空間のホモロジー上にLie無限大代数の構造が定まる。これは余接束のフレアホモロジー上のLie無限大代数の構造と対応するはずであり、その対応を確立することは応用上も重要であるが、その証明に一定の見通しを得た。アイデアとしては、零切断(ラグランジュ部分多様体)に境界を持つ穴あき擬正則円板のモジュライ空間を用いる。実際の証明は、このモジュライ空間の解析を全て行う必要があるので、かなり大規模なものになると考えられる。今年度の特筆すべき成果として,三次元接触多様体上のレーブ流に対するC∞級の閉補題を証明したことが挙げられる(論文掲載済).閉補題は力学系における重要問題であり,また一般のハミルトン力学系においてはC∞級の閉補題が成立しない(M.ヘルマンによる)ことと比較すると,驚くべき結果である.証明には三次元接触多様体に対して定義されるフレアホモロジーの一種である埋込接触ホモロジー,特にそれに付随するスペクトル不変量(一種のミニマックス値)に関する最近の進展(M.ハッチングスとその共同研究者による)を用いる.さらにこの結果を応用して,浅岡正幸氏との共同研究において,閉曲面のハミルトン微分同相写像に対してもC∞級の閉補題が成立することを証明した(論文投稿中).証明には,上で述べた三次元レーブ流に対する閉補題とともに,ハミルトン力学系の古典的な知識(KAM理論やバーコフ標準形)を用いる.昨年度に引き続き,ストリングトポロジーに関する研究も継続した.昨年度までに,自由ループ空間のホモロジー群上のBV(バタリン・ヴィルコヴィスキー)構造を鎖複体レベルで実現することに成功していたが,これについて発表していた二編の論文を統合し改訂した(投稿中).また,この結果と余接束のフレアホモロジー上の代数構造との対応について考察を進めた.次の段階として,(1)余積などの複数の出力を持つ操作,(2)S1同変理論を扱う枠組みを作ることが必要となる.これについて考察し,いくつかの部分的な結果を得た.フレアホモロジーの一種である埋込接触ホモロジーの理論を応用して,三次元レーブ流に対するC∞級の閉補題を証明した.これは,必ずしも当初に計画していたものではないが,保存力学系の研究に新しい展開をもたらす結果であると考えている.(1):プレプリントとして発表していた論文``A Chainlevel Batalin-Vilkovisky structure in string
KAKENHI-PROJECT-25800041
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擬正則曲線とハミルトン力学系の周期軌道
topology via de Rham chains''の改訂を行い,Int. Math. Res. Notices誌から(オンライン上で)出版した。改訂の際に,オペラッドの代数的な理論に関わる部分を大きく簡易化することができた。この論文は,ストリング・トポロジーの鎖複体レベルでの厳密な構成を与えるもので,今後予定している研究の基礎となるものであり,きちんとした形で出版できたことの価値は大きい。(2):(1)の論文の手法と,ラグランジュ部分多様体に境界を持つ擬正則円盤のモジュライ空間上の倉西構造の理論をあわせることで,ラグランジュ部分多様体上の(鎖複体レベル)ループ括弧積のモーラー・カルタン元を構成する研究を行った(論文準備中)。この研究は,ラグランジュ部分多様体の分類問題に顕著な応用がある。また,余接束のフレア理論とストリングトポロジーを関係づけるチリバック・ラチェフのプログラムを実現するうえでの重要な一歩になるものである。(3):昨年度プレプリントとして発表した,閉曲面のハミルトン微分同相写像に対するC∞級の閉補題を証明した論文の軽微な改訂を行い,Geom. Funct. Anal誌から出版した。(4):閉曲面の単位余接束の埋込接触ホモロジーと,閉曲面上のストリング・トポロジーとの関係について考察を進めた。シンプレクティック幾何における擬正則曲線の理論を応用してハミルトン力学系の周期軌道の研究を行い,以下の成果を得た:(1)境界付リーマン多様体の単位余接束のシンプレクティック容量をループ空間の幾何を用いて計算し,応用として最短周期ビリヤード軌道の長さのよい評価を得た.(2)ストリング・トポロジーの積構造を鎖複体レベルで定義(構成)した.これは,余接束のフレア・ホモロジー上の高次積と対応すると予想される.(3)埋込接触ホモロジーの理論を応用し,三次元レーブ流および二次元ハミルトン微分同相写像に対してC∞級の閉補題を証明した.本年度の成果は、ストリングトポロジーにおける鎖複体レベルのBV構造をオペラッドの言葉を用いて記述したことである。これは昨年度より目標としていたことで、ほぼ理想的な形で示すことができた。また、シンプレクティック幾何における擬正則曲線の理論との関係について、昨年度よりもかなり精密な理解を得た。昨年度より継続している(鎖複体レベルの)ストリングトポロジーの研究について,目下の課題は(1)余積などの複数の出力を持つ操作,(2)S1同変理論,を扱う枠組みを作ることである.本年度にいくつかの部分結果を得たので,それをもとに論文にまとめる作業を行う予定である.また,埋込接触ホモロジーの低次元保存力学系への応用に関して,次に取り組むべき面白い問題が複数あるので,それらも検討していく予定である.シンプレクティック幾何学
KAKENHI-PROJECT-25800041
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-25800041
低分子量G蛋白質Rhoの活性化機構と作用機構
本研究では、Rho低分子量G蛋白質の作用機構と活性化機構について検討した。HGFやCキナーゼを活性化するTPAにより、KB細胞では細胞膜のラッフリングが、ケラチノサイト308細胞では細胞運動がそれぞれ惹起される。この際、Rhoの活性化を阻害するRho GDIや、Rhoの機能を阻害するC3をマイクロインジェクションすることによって、RhoがHGFやTPAの下流でこれらの機能を制御していることを明らかにした。一方、MDCK細胞におけるRhoの細胞内の局在を検討したところ、静止時には、Rhoは細胞質に存在していたが、HGFやTPAを作用させると、細胞膜ラッフリングが引き起こされ、Rhoは細胞質から細胞膜ラッフリング領域へトランスロケーションした。また、細胞外Ca^<2+>を上昇させると細胞間接着が引き起こされ、Rhoは細胞間接着部位にトランスロケーションした。Swiss3T3細胞では、細胞質分裂時にRhoは収縮環にトランスロケーションした。さらに、これらの部位には、アクチンと細胞膜との結合を制御すると考えられているERMファミリー(Ezrin,Radixin,Moesin)とCD44がRhoと共に存在していることを明らかにした。したがって、RhoはERMとCD44によるアクチンと細胞膜との接着部位にトランスロケーションし、そこでERM-CD44系を介してアクチン細胞骨格の再編成に関与していると考えられる。さらに、Db1発がん遺伝子産物がRhoのGDP解離促進蛋白質としての活性を有することを明らかにし、Db1が細胞内でRhoを活性化している可能性を示した。以上、Rhoの作用機構と活性化機構の詳細がかなり明らかになり、当初の研究目的はほぼ達成することができた。本研究では、Rho低分子量G蛋白質の作用機構と活性化機構について検討した。HGFやCキナーゼを活性化するTPAにより、KB細胞では細胞膜のラッフリングが、ケラチノサイト308細胞では細胞運動がそれぞれ惹起される。この際、Rhoの活性化を阻害するRho GDIや、Rhoの機能を阻害するC3をマイクロインジェクションすることによって、RhoがHGFやTPAの下流でこれらの機能を制御していることを明らかにした。一方、MDCK細胞におけるRhoの細胞内の局在を検討したところ、静止時には、Rhoは細胞質に存在していたが、HGFやTPAを作用させると、細胞膜ラッフリングが引き起こされ、Rhoは細胞質から細胞膜ラッフリング領域へトランスロケーションした。また、細胞外Ca^<2+>を上昇させると細胞間接着が引き起こされ、Rhoは細胞間接着部位にトランスロケーションした。Swiss3T3細胞では、細胞質分裂時にRhoは収縮環にトランスロケーションした。さらに、これらの部位には、アクチンと細胞膜との結合を制御すると考えられているERMファミリー(Ezrin,Radixin,Moesin)とCD44がRhoと共に存在していることを明らかにした。したがって、RhoはERMとCD44によるアクチンと細胞膜との接着部位にトランスロケーションし、そこでERM-CD44系を介してアクチン細胞骨格の再編成に関与していると考えられる。さらに、Db1発がん遺伝子産物がRhoのGDP解離促進蛋白質としての活性を有することを明らかにし、Db1が細胞内でRhoを活性化している可能性を示した。以上、Rhoの作用機構と活性化機構の詳細がかなり明らかになり、当初の研究目的はほぼ達成することができた。
KAKENHI-PROJECT-06770083
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06770083
経皮的血管形成術後の再狭窄に対する局所薬物注入によるアポトーシスの誘導の効果
ハイブリッド犬を、thiopental sodiumで麻酔導入後、輸液ポンプを用いて維持麻酔を行った。気管内送管後、呼吸管理を行い、無菌的に左内頚動脈を剥離し、ヘパリン5000IUを静注した。同部より、8F右冠動脈用ガイドカテーテルをガイドワイヤーとともに透視下に、右または左大腿動脈へ進め留置した。大腿動脈の血管撮影を施行し、膝窩から鼠徑部の血管径の1.31.5倍径をもつ冠動脈形成術(PTCA)用のバルーンカテーテルを選択し、デリバリーカテーテルを装着した状態で大腿動脈内に挿入した。まず、一側の大腿動脈を対照とし、PTCA用バルーンを8気圧で30秒間膨隆させ、一分間隔で3回繰り返した。同様の操作を同側大腿動脈近位部で繰り返した(C群n=14)。その後、反対側の大腿動脈で、同様の操作を行った後、デリバリーバルーンカテーテルをPTCA用バルーン上にかぶせ、同位置で2気圧で膨隆し、ONO-40070.05mg/ml(LD群n=3)または0.5mg/ml(HD群n=11)を計5ml、2気圧の注入圧で局所に注入した。カテーテル類を抜去後、頚動脈を縫合修復し麻酔より覚醒させた。2週後または一ヶ月後に、大腿動脈を摘出しホルマリン固定を行った。摘出組織をHE染色し、短軸断面像をコンピュータplanimetryにより総血管面積(VA)に対する中膜面積比(M/V)、内皮面積(%I)および最大内皮肥厚径(maxI)を測定した。VA、M/Nは各群にて差を認めなかった。%Iは、HD群で2.75±1.06%とC群(6.42±3.42%)より有意に減少していた。また、maxIはC群の128±104μmに比してLD群で65.5±61.4μm(p<0.05)、HD群で50.5±21.5μm(p<0.01)と有意に減少していた。新生内皮内におけるTunel陽性細胞数は治療群で71.4±14.1でありC群の12.9±5.3に比して有為に増加していた。これらの結果から血管損傷局所へのONO-4007注入によるアポトーシスの誘導はその後の内皮の増殖に拮抗的に働き経皮的血管形成術後の再狭窄を予防する可能性が示唆された。ハイブリッド犬を、thiopental sodiumで麻酔導入後、輸液ポンプを用いて維持麻酔を行った。気管内送管後、呼吸管理を行い、無菌的に左内頚動脈を剥離し、ヘパリン5000IUを静注した。同部より、8F右冠動脈用ガイドカテーテルをガイドワイヤーとともに透視下に、右または左大腿動脈へ進め留置した。大腿動脈の血管撮影を施行し、膝窩から鼠徑部の血管径の1.31.5倍径をもつ冠動脈形成術(PTCA)用のバルーンカテーテルを選択し、デリバリーカテーテルを装着した状態で大腿動脈内に挿入した。まず、一側の大腿動脈を対照とし、PTCA用バルーンを8気圧で30秒間膨隆させ、一分間隔で3回繰り返した。同様の操作を同側大腿動脈近位部で繰り返した(C群n=14)。その後、反対側の大腿動脈で、同様の操作を行った後、デリバリーバルーンカテーテルをPTCA用バルーン上にかぶせ、同位置で2気圧で膨隆し、ONO-40070.05mg/ml(LD群n=3)または0.5mg/ml(HD群n=11)を計5ml、2気圧の注入圧で局所に注入した。カテーテル類を抜去後、頚動脈を縫合修復し麻酔より覚醒させた。2週後または一ヶ月後に、大腿動脈を摘出しホルマリン固定を行った。摘出組織をHE染色し、短軸断面像をコンピュータplanimetryにより総血管面積(VA)に対する中膜面積比(M/V)、内皮面積(%I)および最大内皮肥厚径(maxI)を測定した。VA、M/Nは各群にて差を認めなかった。%Iは、HD群で2.75±1.06%とC群(6.42±3.42%)より有意に減少していた。また、maxIはC群の128±104μmに比してLD群で65.5±61.4μm(p<0.05)、HD群で50.5±21.5μm(p<0.01)と有意に減少していた。新生内皮内におけるTunel陽性細胞数は治療群で71.4±14.1でありC群の12.9±5.3に比して有為に増加していた。これらの結果から血管損傷局所へのONO-4007注入によるアポトーシスの誘導はその後の内皮の増殖に拮抗的に働き経皮的血管形成術後の再狭窄を予防する可能性が示唆された。当初、家兎を用いて実験計画を作成したが、巨大兎も含め6羽で実験を施行した結果、デリバリーバルーンを含めたカテーテルシステムの頚動脈からの挿入に困難を認めたため、対象動物を約15kgのハイブリッド犬に変更して実験を行った。ハイブリッド大を、thiopental sodium 20mg/kgで麻酔導入後、輸液ポンプを用いて維持麻酔を行った。
KAKENHI-PROJECT-10670680
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10670680
経皮的血管形成術後の再狭窄に対する局所薬物注入によるアポトーシスの誘導の効果
気管内送管後、人工呼吸器で呼吸管理を行い、頚部を悌毛後Isodineで消毒し、以後無菌的操作を行った。頚部切開後、左内頚動脈を剥離し、カットダウン法で8Fシースイントロヂューサーを挿入し、ヘパリン5000IUを静注した。同部より、8F右冠動脈用ガイドカテーテルをガイドワイヤーとともに透視下に、右または左大腿動脈へ進め留置した。大腿動脈の血管撮影を施行し、膝窩から鼠徑部の血管径を測定し、その1.31.5倍の径をもつ冠動脈形成術用のバルーンカテーテルを選択し、デリバリーカテーテルをマウントした状態で血管形成術用ガイドワイヤーを用いて大腿動脈内に挿入した。まず、一側の大腿動脈を対照とし、血管形成用バルーンを68気圧(血管径によって)で30秒間膨隆させ、一分間隔で3回繰り返した。同様の操作を同側大腿動脈近位部で繰り返した。その後、反対側の大腿動脈で、同様の操作を行った後、デリバリーバルーンカテーテルを血管形成術用バルーン上にかぶせ、同じ位置で2気圧で膨隆し、ONO-4007 0.01mg/1mlを計5ml、2気圧の注入圧で約12分かけて局所に注入した。カテーテル類を抜去後頚動脈を縫合修復し、麻酔より覚醒させた。後日、大腿動脈を摘出しホルマリン固定を行った。現時点で、血管損傷作成後6時間で摘出した標本2個および、4週間後の標本2個が固定中であり、3週生存犬1頭、2週生存犬1頭、1週生存犬1頭の作成を完了しているが、病理学的検索は平成11年度に行う予定である。また、各週でそれぞれ、平均4頭となるよう実験を進めていく。ハイブリッド犬を、thiopental sodiumで麻酔導入後、輸液ポンプを用いて維持麻酔を行った。気管内送管後、呼吸管理を行い、頚部を悌毛後Isodineで消毒し、以後無菌的操作を行った。左内頚動脈を剥離し、ヘパリン5000IUを静注した。同部より、8F右冠動脈用ガイドカテーテルをガイドワイヤーとともに透視下に、右または左大腿動脈へ進め留置した。大腿動脈の血管撮影を施行し、膝窩から鼠徑部の血管径の1.31.5倍径をもつ冠動脈形成術用のバルーンカテーテルを選択し、デリバリーカテーテルを装着した状態で大腿動脈内に挿入した。まず、一側の大腿動脈を対照とし、血管形成用バルーンを8気圧で30秒間膨隆させ、一分間隔で3回繰り返した。同様の操作を同側大腿動脈近位部で繰り返した(C群)。その後、反対側の大腿動脈で、同様の操作を行った後、デリバリーバルーンカテーテルを血管形成術用バルーン上にかぶせ、同位置で2気圧で膨隆し、ONO-4007 0.05mg/ml(LD群)または0.5mg/ml(HD群)を計5ml、2気圧の注入圧で局所に注入した。カテーテル類を抜去後、頚動脈を縫合修復し麻酔より覚醒させた。一ヶ月後、大腿動脈を摘出しホルマリン固定を行った。摘出組織をHE染色し、短軸断面像をコンピュータplanimetryにより総血管面積に対する内皮面積(%I)および最大内皮肥厚径(max I)を測定した。%Iは、HD群で2.8±1.3%とLD群(3.3±2.8%)、C群(6.2±3.2%)より有意に減少していた。また、max IはC群の111.5±66.2μmに比してLD群で65.5±61.4μm(p<0.05)、HD群で54.0±27.8μm(p<0.0l)と有意に減少していた。現在、血管損傷後1週間、2週間のモデルを作成しアポトーシス発現の有無を検討するためTunnel染色法で組織を検討中である。ハイブリッド犬を、thiopental sodiumで麻酔導入後、輸液ポンプを用いて維持麻酔を行った。気管内送管後、呼吸管理を行い、頚部を悌毛後Isodineで消毒し、以後無菌的操作を行った。左内頚動脈を剥離し、ヘパリン5000IUを静注した。同部より、8F右冠動脈用ガイドカテーテルをガイドワイヤーとともに透視下に、右または左大腿動脈へ進め留置した。
KAKENHI-PROJECT-10670680
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10670680
酵素を応用した少糖類の大量調製・分離法の確立と少糖類の利用に関する研究
1.α-グルコシダーゼの糖転移反応による少糖調製に利用するため、ソバ、酵母、ミツバチ、Asp.niger,Asp.oryzae等の各種の材料からα-グルコシダーゼを結晶化あるいはディスク電気泳動的に均一な蛋白標品にまで精製した。2.固定化ソバα-グルコシダーゼの糖転移反応により新しい三糖類、【3^G】-α-グルコシル-シュクロースの調製を行なった。3.Asp.niger α-グルコシダーゼの結晶酵素を用いることにより、イソマルトースやパノースを調製し、これら二糖類、三糖類を活性炭カラムクロマトグラフィーにより分離調製した。4.ソバα-グルコシダーゼは特異的にニゲロースやコジビオースを生成するが、反応液中のこれら二糖類の混合物をそれぞれ定量する方法は確立されていなかった。本研究においてガスクロマトグラフィーとペーパークロマトグラフィーを組合せた手法を用いることによって、はじめてその定量法を確立した。この方法によって反応液中の各種二糖類の生成量を経時的に定量し、ニゲロースないしコジビオースの生成最適反応条件を設定することによりこれら二糖類の大量調製を行なった。5.ニゲロースとマルトースを相互分離することは通常極めて困難であるが、本研究においてはニゲロースをほとんど分解することのできないミツバチα-グルコシダーを用いて、マルトースを特異的に分解することにより高純度のニゲロースを分離する方法を確立した。6.一連のセロオリゴ糖の調製法を検討するためにエンド型のセルラーゼ(A.niger)を均一な蛋白に精製した。7.イソマルトースの調製に利用するため、デキストランからイソマルトースのみを特異的に生成するイソマルトデキストラナーゼを均一な蛋白標品にまで精製した。1.α-グルコシダーゼの糖転移反応による少糖調製に利用するため、ソバ、酵母、ミツバチ、Asp.niger,Asp.oryzae等の各種の材料からα-グルコシダーゼを結晶化あるいはディスク電気泳動的に均一な蛋白標品にまで精製した。2.固定化ソバα-グルコシダーゼの糖転移反応により新しい三糖類、【3^G】-α-グルコシル-シュクロースの調製を行なった。3.Asp.niger α-グルコシダーゼの結晶酵素を用いることにより、イソマルトースやパノースを調製し、これら二糖類、三糖類を活性炭カラムクロマトグラフィーにより分離調製した。4.ソバα-グルコシダーゼは特異的にニゲロースやコジビオースを生成するが、反応液中のこれら二糖類の混合物をそれぞれ定量する方法は確立されていなかった。本研究においてガスクロマトグラフィーとペーパークロマトグラフィーを組合せた手法を用いることによって、はじめてその定量法を確立した。この方法によって反応液中の各種二糖類の生成量を経時的に定量し、ニゲロースないしコジビオースの生成最適反応条件を設定することによりこれら二糖類の大量調製を行なった。5.ニゲロースとマルトースを相互分離することは通常極めて困難であるが、本研究においてはニゲロースをほとんど分解することのできないミツバチα-グルコシダーを用いて、マルトースを特異的に分解することにより高純度のニゲロースを分離する方法を確立した。6.一連のセロオリゴ糖の調製法を検討するためにエンド型のセルラーゼ(A.niger)を均一な蛋白に精製した。7.イソマルトースの調製に利用するため、デキストランからイソマルトースのみを特異的に生成するイソマルトデキストラナーゼを均一な蛋白標品にまで精製した。1.α-グルコシダーゼの糖転移反応による少糖類調製に利用するため、ソバ、酵母、ミツバチ、Asp.niger,Asp.oryzae等の各種の材料からα-グルコシダーゼを結晶あるいはデイスク電気泳動的に均一な蛋白標品にまで精製した。2.イソマルトースの調製に利用するため、デキストランからイソマルトースのみを特異的に生成するイソマルトデキストラナーゼを均一な蛋白標品にまで精製した。3.一連のセロオリゴ糖(β-1,4-グルコシド結合)の調製法を検討するためにエンド型のセルラーゼ(A.niger)を均一な蛋白に精製した。4.ソバα-グルコシダーゼは特異的にニゲロースやコジビオースを生成するが、反応液中のこれら二糖類の混合物をそれぞれ定量する方法は確立されていなかった。本研究においてガスクロマトグラフィーとペーパークロマトグラフィーを組合せた手法を用いることによって、はじめてその定量法を確立した。この方法によって反応液中の各種二糖類の生成量を経時的に定量し、ニゲロースないしコジビオースの生成最適反応条件を設定することによりこれら二糖類の大量調製を行なった。5.ニゲロースとマルトースを相互分離することは通常極めて困難であるが、本研究においてはニゲロースをほとんど分解することのできないミツバチα-グルコシダーゼを用いて、マルトースを特異的に分解することにより高純度のニゲロースを分離する方法を確立した。6.A.niger α-グルコシダーゼの縮合反応を応用した少糖類の合成法を検討し、この反応によりイソマルトースの調製が可能であることを確認した。7.A.niger α-グルコシダーゼを用いてパノースの調製とその分離を行なった。
KAKENHI-PROJECT-59860008
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-59860008
社会体育領域における障害者のスポーツ活動に対するボランティアに関する国際比較研究-日米のスポーツボランティアのボランティア観及び継続規定要因の比較研究-
本研究の目的は、日本とアメリカの障害者に対するスポーツボランティア活動(障害者のスポーツ活動に参与しているボランティア活動)の実態を明らかにして、ボランティアの価値意識、継続意欲、ボランティア観、社会的背景などの比較を行い、両国のボランティア活動の継続規定要因を明らかにしていくことを目的とした。研究対象は、関東近郊のスポーツボランティア(車椅子バスケットボールのボランティア、障害児キャンプのボランティア、チアスキー教室のボランティア)123名及びアメリカの登録ボランティアのうちスポーツボランティアを行ったことのあるボランティア78名を対象として、郵送法及び直接インタビュー法による質問紙調査を行った後、両国より各5名を有意に抽出して直接ヒアリング調査を行った。調査項目は、価値意識、ボランティア観、活動に際しての阻害要因等であった。主な結果として、以下のことが明らかになった。1)属性は、日本が学生の割合が8割を占めているのに対して、米国では学生が約5割で社会人が3割を占めていた。活動は、日本が個人での活動が多く、アメリカでは、地域、教会、関係ボランティア団体等の集団で活動を行っているケースが多かった。2)「活動の価値意識」及び「ボランティア観」では、日本ボランティアは「社会的価値」を重視しており、アメリカのボランティアは「個人的価値」を重視している傾向があった。3)「ボランティア活動の阻害要因」では、日本のボランティアは、「時間の不足」「所属の理解の無さ」を上位に挙げており、アメリカのボランティアは、「活動上の価値観の違い」「経済的な援助」を上位に挙げていた。これらの結果より、アメリカのボランティアは、宗教より活動に関わっているケースが多く、活動の本質によって活動の継続が規定されており、日本のボランティアの場合、活動する上での実質的な問題が活動継続に影響していることが窺われる。本研究の目的は、日本とアメリカの障害者に対するスポーツボランティア活動(障害者のスポーツ活動に参与しているボランティア活動)の実態を明らかにして、ボランティアの価値意識、継続意欲、ボランティア観、社会的背景などの比較を行い、両国のボランティア活動の継続規定要因を明らかにしていくことを目的とした。研究対象は、関東近郊のスポーツボランティア(車椅子バスケットボールのボランティア、障害児キャンプのボランティア、チアスキー教室のボランティア)123名及びアメリカの登録ボランティアのうちスポーツボランティアを行ったことのあるボランティア78名を対象として、郵送法及び直接インタビュー法による質問紙調査を行った後、両国より各5名を有意に抽出して直接ヒアリング調査を行った。調査項目は、価値意識、ボランティア観、活動に際しての阻害要因等であった。主な結果として、以下のことが明らかになった。1)属性は、日本が学生の割合が8割を占めているのに対して、米国では学生が約5割で社会人が3割を占めていた。活動は、日本が個人での活動が多く、アメリカでは、地域、教会、関係ボランティア団体等の集団で活動を行っているケースが多かった。2)「活動の価値意識」及び「ボランティア観」では、日本ボランティアは「社会的価値」を重視しており、アメリカのボランティアは「個人的価値」を重視している傾向があった。3)「ボランティア活動の阻害要因」では、日本のボランティアは、「時間の不足」「所属の理解の無さ」を上位に挙げており、アメリカのボランティアは、「活動上の価値観の違い」「経済的な援助」を上位に挙げていた。これらの結果より、アメリカのボランティアは、宗教より活動に関わっているケースが多く、活動の本質によって活動の継続が規定されており、日本のボランティアの場合、活動する上での実質的な問題が活動継続に影響していることが窺われる。
KAKENHI-PROJECT-05858017
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-05858017
リン酸化修飾によるミトコンドリア機能と品質管理の制御機構
ミトコンドリアは様々な細胞機能に重要な役割を果たしているため,その活性は細胞により調節されている。特に,オートファジーを介した障害を受けたミトコンドリアの排斥は,ミトコンドリア品質管理として,近年,その詳細な分子メカニズムが明らかになってきた。私達は,PINK1とParkinにより制御されるミトコンドリアの品質管理が,cAMP/PKA経路を介したMIC60/MIC19のリン酸化修飾により調節されていることを明らかにした。しかし,ミトコンドリアでのリン酸化による調節機構には,まだ不明な点が多く残されている。本研究では,MIC60/MIC19,そしてDNAJC11のリン酸化修飾に着目して,そのリン酸化を介したミトコンドリア機能の調節機構の分子メカニズムを明らかにする事を目指している。平成30年度は,次の3点について研究を進めた。1.MIC60相互作用因子SLC25A46の発現抑制で,Parkinのミトコンドリア標的化に阻害効果が観察されたため,異なるsiRNAを用いてその効果を検討したが,2次的な影響であると推察された。2.MIC60/MIC19のPKAによるリン酸化反応が細胞質またはミトコンドリアのどちらで起こるかは,調節機構を理解する上で重要なポイントとなる。そこで,新規合成後に翻訳後修飾によりリン酸化されたMIC60がミトコンドリアへの輸送出来るかを検討するため,ウサギ網状赤血球抽出液を用いた無細胞系で合成したMIC60を,細胞抽出液中に内在するPKAにより合成と同時に修飾する方法を確立した。3.PKAによる直接的なDNAJC11のリン酸化は,これまで確認できていないが,DNAJC11はMIC60/MIC19とMIBと呼ばれるタンパク質超複合体を形成することから,ミトコンドリア品質管理に寄与することが推定される。そこで,DNAJC11の機能ドメインを欠損変異体を用いて解析したところ,C末端にミトコンドリア局在化に必須な4アミノ酸残基から成る配列を見出した。1.MIC60相互作用因子SLC25A46の発現抑制で,Parkinのミトコンドリア標的化に影響が観察されたが,その効果は弱く,二次的な影響と推察された。そこで,同じ外膜タンパク質のPINK1の安定性を介してSLC25A46がParkin標的化に影響している可能性を検討している。2.大きな負の電荷を持つリン酸基を付加された新生タンパク質が,ミトコンドリアの膜透過装置を通過できるかは不明である。そこで,ウサギ網状赤血球抽出液を用いた無細胞系でMIC60を合成と同時にPKAによるリン酸化修飾を行い,ミトコンドリア輸送系のモニタリング基質を作成した。3.DNAJC11のPKAを介したリン酸化反応は未同定であるが,ミトコンドリア局在化に必須なアミノ酸配列を,そのC末端領域に見出した。この部分は,神経筋疾患モデルのspc変異マウスにおいて欠損している領域に位置していた。1)MIC60/MIC19のリン酸化による品質管理の調節を解析するため, MIC60相互作用因子SLC25A46を発現抑制したがParkin標的化への影響は小さく間接的な効果であると考えられたため,次にPINK1の分解への役割を解析する。SLC25A46の野生型と変異体の安定発現細胞を樹立したので,ヒトで見つかったSLC25A46変異の影響についても検討する。2)PKAによりリン酸化されたミトコンドリアタンパク質のミトコンドリア内への輸送機構を解明するため,無細胞系で合成したリン酸化MIC60の輸送活性をin vitroミトコンドリア輸送系を用いて検討し,様々な輸送因子の要求性を明らかにする。3)ミトコンドリアタンパク質DNAJC11の生理的役割を明らかにするため,ミトコンドリアでの膜配向性と輸送に必須なシス領域を決定する。ミトコンドリアは多彩な細胞機能を担っており,その活性は細胞により様々な調節を受けている。特に,障害を受け膜電位が低下したミトコンドリアのオートファジーによる排斥は,ミトコンドリア品質管理として,近年,その詳細な分子メカニズムが明らかになってきた。私達は,PINK1とParkinにより制御されるミトコンドリアの品質管理が,cAMP/PKA経路を介したMIC60/19のリン酸化修飾により調節されていることを明らかにした。しかし,ミトコンドリアでのリン酸化による調節機構には,まだ不明な点が多く残されている。本研究では,MIC60, MIC19, SAM50そしてDNAJC11のリン酸化修飾に着目して,そのリン酸化を介したミトコンドリア機能の調節機構の分子メカニズムを明らかにする事を目指している。平成29年度は,次の3点について研究を進めた。1.MIC60相互作用因子SLC25A46の発現抑制で,Parkinのミトコンドリア標的化に阻害効果が観察された。今後は,SLC25A46のPINK1機能への役割の解析を進める。2.Hexokinaseの発現抑制により, Parkinのミトコンドリア標的化は顕著に阻害され,Hexokinaseの異所発現により回復した。繰り返し構造で2つの活性部位を持つHexokinaseのうち,活性部位を1つだけ持つユニットでもParkinの標的化阻害を回復できることから,Hexokinase全構造は必要ないことが明らかとなった。3.DNAJC11の推定リン酸化部位に特異的な抗体を作成したが,forskolin処理による優位な変化は検出できなかった。
KAKENHI-PROJECT-17H03676
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17H03676
リン酸化修飾によるミトコンドリア機能と品質管理の制御機構
今後は,内在性DNAJC11の免疫沈降産物でのリン酸化修飾の検出を試みる。1.MIC60相互作用因子SLC25A46の発現抑制で,Parkinのミトコンドリア標的化に影響が観察されたが,その効果は弱く,二次的な影響も懸念された。現在は,SLC25A46の異所発現による発現抑制の相補効果を検証している。2.Hexokinaseの発現抑制は,顕著にParkinのミトコンドリア標的化を阻害した。この標的化の阻害は,Hexokinaseの異所発現により回復した。Hexokinaseは活性部位を2ヶ所持つ繰り返し構造をとっているが,活性部位を1つだけ持つユニットでもParkinの標的化阻害を回復できることから,Hexokinase全構造は必要ないことが明らかとなった。今後は,Hexokinase活性のParkinの標的化への影響を検討する。今後は,低ブドウ糖培養条件でのHexokinaseの細胞内局在を検討する。3.DNAJC11はPKAによる推定リン酸化部位を持つため,特異的リン酸化部位抗体を作成し,forskolin処理によるリン酸化の検出を試みたが,優位な変化は検出できなかった。今後は,内在性DNAJC11のリン酸化を免疫沈降と組わせて検討する。ミトコンドリアは様々な細胞機能に重要な役割を果たしているため,その活性は細胞により調節されている。特に,オートファジーを介した障害を受けたミトコンドリアの排斥は,ミトコンドリア品質管理として,近年,その詳細な分子メカニズムが明らかになってきた。私達は,PINK1とParkinにより制御されるミトコンドリアの品質管理が,cAMP/PKA経路を介したMIC60/MIC19のリン酸化修飾により調節されていることを明らかにした。しかし,ミトコンドリアでのリン酸化による調節機構には,まだ不明な点が多く残されている。本研究では,MIC60/MIC19,そしてDNAJC11のリン酸化修飾に着目して,そのリン酸化を介したミトコンドリア機能の調節機構の分子メカニズムを明らかにする事を目指している。平成30年度は,次の3点について研究を進めた。1.MIC60相互作用因子SLC25A46の発現抑制で,Parkinのミトコンドリア標的化に阻害効果が観察されたため,異なるsiRNAを用いてその効果を検討したが,2次的な影響であると推察された。2.MIC60/MIC19のPKAによるリン酸化反応が細胞質またはミトコンドリアのどちらで起こるかは,調節機構を理解する上で重要なポイントとなる。そこで,新規合成後に翻訳後修飾によりリン酸化されたMIC60がミトコンドリアへの輸送出来るかを検討するため,ウサギ網状赤血球抽出液を用いた無細胞系で合成したMIC60を,細胞抽出液中に内在するPKAにより合成と同時に修飾する方法を確立した。3.PKAによる直接的なDNAJC11のリン酸化は,これまで確認できていないが,DNAJC11はMIC60/MIC19とMIBと呼ばれるタンパク質超複合体を形成することから,ミトコンドリア品質管理に寄与することが推定される。
KAKENHI-PROJECT-17H03676
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古代ロシア文語成立の萌芽期におけるブルガリア写本テクストの影響について
『ヴァチカン・パリンプセスト・キリル・アプラコス』と『サバの書』を主対象に上記テーマで研究を行った。『サバの書』本体のみではなく、やや後のロシアやブルガリアの写本をも包含する「とり合わせ本」として1冊のアプラコスをなすコーデクスNo14を研究対象とするなど新たな試みも行った。また、『サバの書』を中心に『オストロミール福音書』、『アルハンゲリスク福音書』、『ムスチスラフ福音書』のそれぞれを四福音書での章節順に並べ替えた電子的平行テクストも作製した。最後に報告書(iii+173ページ)を刊行して各位に配布した。『ヴァチカン・パリンプセスト・キリル・アプラコス』と『サバの書』を主対象に上記テーマで研究を行った。『サバの書』本体のみではなく、やや後のロシアやブルガリアの写本をも包含する「とり合わせ本」として1冊のアプラコスをなすコーデクスNo14を研究対象とするなど新たな試みも行った。また、『サバの書』を中心に『オストロミール福音書』、『アルハンゲリスク福音書』、『ムスチスラフ福音書』のそれぞれを四福音書での章節順に並べ替えた電子的平行テクストも作製した。最後に報告書(iii+173ページ)を刊行して各位に配布した。「オストロミール福音書」(Ostr)については、分かち書き化の後Vostokov・Kozlovskij・Rep・版の諸補訂によりチェックを終えたテクストを、119va迄電子化した。すでに電子化してある「ムスチスラフ福音表」(Mst)・「アルハンゲリスク福音書」(Arch)の両テクストを四福音書順に置換する作業は終了した。この間岩井は、「サバの書」(Sar)とOstrとの密接な関連性から、カノンテクストに準するブルガリアの「バチカン・パリンプセスト・キリル・アプラコス」(VP)に注目し、そのmenologionを検討した。結果、1)Menologionにおいて81のカレンダー項目を、<12の副音>において8つの項目を確認した。2)Ostrとの間に差異が存することを確認した。3)カレンダー部分の日付け・視察対象・Imeの型・アンモニオス番号・ペリコペー等を詳細に見ると、VPのmenologionには少数の誤認がありさらに記事に不統一性が認められる。これは即ちにVPのmenologionがブルガリアないしマケドニアにおけるmenologion編集の完成への流れにあって、整理・改新をも含めて、その途上の作品であった可能性を推察せしめる。4)細部の点でDogramadzijeva、2010の記述と少数意見をことにした、等々の知見を得た。服部は、ロシアのOstr・Arch・Mstの3アプラコスとOCSの諸カノンや東ブルガリアのテトラ系写本との間で、これ迄の研究をふまえた上で改めて比較対照を行なった。これによりロシアのアプラコスの共通特徴さらに独自の個性的特徴を明確にせんとした。例えば次のような動詞形にその事例をみる。OCSカノンテクストKljucitz(Mt26.35)に対しロシアのアプラコスArchはlucitz、その平行箇所Mc14.31では「ゾグラフォス写本」(Zog)はlucitz、Ostrはpri-lucitz、Mst sz-lucitz、東ブルガリアのテトラ「バニシコ福音書」(Ban)sb-kljucitzと、語彙の異なり・接頭辞の有無と接頭辞の異なり等の諸状況が存在している。岩井の許においては、「オストロミール福音書」(Ostr)のテクスト111葉から電子化を続行し、一次的作業を終えて紙に印刷し、Ostrのファクシミリ版との対校作業を208葉迄終了した。又、「サバの本」(Sav)のテクストについては一次的作業を終えて紙に印刷し、Knjazevskajaらの刊本テクストおよび写真との校正を終了した。今後は誤植・変更箇所を電子テクストに反映する作業に入る。岩井はSavと他のOCSテクストの文献学的研究を当初の課題としていたが、「ヴァチカン・パリンプセスト・キリル・アプラコス」(VP)とSavおよびOstrとの関係性を重視し、前年の研究を踏まえてVPのsynaxarionにつきOstrと比較しつつ精査・検討を行ない、次の結果を得た。1)VPの底本はグラゴル文字で書かれた複数のaprakosである可能性あり。2)VPのsynaxarionはその構成上、スラブでのaprakos編集史上、創草期に位置すると考えうる。3)VPに元来存在しなかった項目が存する。4)VPインキピット(Inc)、に特異な例が存する。5)工ncに関し、VPはタイプIが主であるのに対し、OstrはタイプIからIaにドミナントが移行する。6)工ncとペリコペーとの間に、この間をつなぐテクストが挿入されるケースがみられる。7)VP同様、Ostrにも数字表記に関し、グラゴル・キリル両文字の誤認・混同が存する。これらは祖本に辿る可能がある。服部は、これ迄の研究を踏まえて、11世紀12世紀頃のルーシの言語における過去時制に関し、「アルハンゲリスク福音書」(Arch)に見られる興味深い諸例を手掛かりとして、《文法化》という視点から考察を加え、当時の非標準語である日用語(zhivajarech')の姿に追った。
KAKENHI-PROJECT-22520332
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古代ロシア文語成立の萌芽期におけるブルガリア写本テクストの影響について
その成果は別項に示した国際シンポジウム(2011.11.13,北海道大学)において講演発表された。なお、2010年の服部の研究と今回の岩井の研究により、ロシアにおける拡張型aprakosの成立・発達に関するZhukovskajaの主張は、VPの存在とその構成から、再考されなければならないことが明確化した。これは大きな収穫である。岩井の許において、『サバの書』(Sav)を中心として、『オストロミール福音書』(Ostr)、『アルハンゲリスク福音書』(Arch)、『ムスチスラフ福音書』(Mst)のそれぞれを四福音書での章節順に並べ替えた、平行テクストの作製を開始した。7月にはまずマタイ伝を紙に印刷し(A4版全391ページ)、試作品として種々の検討を行った。年度末までにマルコ伝、ルカ伝、ヨハネ伝についても完成させた。岩井はさらに、(前年度に文献学的な分析の対象とした)Savのsynaxarionの研究に対応させるべく、同書のmenologionについても文献学的な分析と検討を行った。今年度の研究の特徴は、従前のように古代教会スラブ語のカノンであるSav本体のみではなく、やや後のロシアやブルガリアで作られた写本をも包含する「とり合わせ本」として全体で1冊のアプラコスをなすコーデクスNo.14を研究対象とする点にあった。得られた結論は次の4点である。1)Kniazevskaiaらの刊本で列挙されるmenologionに認められる日付に関して漏れや誤りが有ることを確認した。2)前年度のsynaxarionの研究で「ペンテコステ後第17土曜・日曜」は設定されていなかったと結論付けたが、設定されていたと考えうる。3)「主日の早課十一の福音」は『アッセマーニ写本』、Arch、Mstと同様にmenologionの後に配されている。これに対してOstrでは、synaxarionとmenologionの中間に配される。4)コーデクスNo.14では、さらに写本末尾にアポストルの聖務日課とみられるHeb 3.1-4を含む半葉が付加されており、きわめて興味深い(この葉は11世紀ブルガリア制作にかかる)。一方、服部は、Ostr、Arch、Mstのアプラコスとしての構成に注目しつつ、今次の研究の総括を試みた。その結果、三写本の中で成立年代が最も古いOstrが、当時の最新のブルガリアのアプラコスにならうことで、革新的であることを示し、その成果を国際学会において発表した。岩井の許では,Ostrの電子化した本文とファクシミリ版との対校作業を終え,verse順に並べ終えた。Savは電子化をほぼ終了し,並べ換えに着手した。この間,岩井はSavの基礎研究として1999年Knjazevskajaらの刊本によりsynaxarionの構成を調査・検討し次の結果を得た。1)第2サイクルはペンテコステ後第16週のみ設定。これに対しVat PalとArchは第17週迄設定。2)IncはI ́が多い。ArchはIa。3)アンモニオス番号に誤りが多い。原因としてVat Palとは別理由が考えうる。4)Arch全体のsynaxarionの構成はSavに近似。ただし少なからぬ同異点が存し,1)に関連づけられる。「オストロミール福音書」のファクシミリ版と印刷本において細々とした文字・記号の問題があり、予想外であったが、おおむね順調に進展している。25年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-22520332
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臓器移植希望者(レシピエント)に対する心理社会的評価のためのガイドラインの作成
臓器移植希望者(レシピエント)に対する心理社会的評価のためのガイドラインを作成するための予備調査として、国内における現行の心理社会的評価法を整理し、問題の所在を明らかにすることを目的に、国内の主要な移植施設において実施されている心理社会的評価方法と、そこで生じている問題についてフォーカスグループインタビューを実施した。インタビューの内容は、各施設における評価者・評価時期・評価項目・評価方法(各施設で使用している評価ツールを含む)・評価者が感じている評価上の問題点等である。対象は国内における主だった臓器移植施設においてレシピエントの心理社会的評価に3年以上関与している医療従事者(精神科医、臨床心理士、レシピエント移植コーディネーター、ソーシャルワーカー)である。2018年度末までに、目標施設数を超える心臓移植9施設、腎臓移植14施設、膵臓移植5施設、肝臓移植9施設を対象に実施できた。現在、インタビュー結果を集約中である。このインタビュー結果によって、移植先進諸外国での知見と対比するかたちで、メンタリティや移植事情の異なるわが国独自の課題をあぶりだすことができるため、わが国の事情に即したガイドライン作成のための有益な資料となった。本ガイドラインによって1施設を超えて一定のコンセンサスを得た評価を行うことが出来る、2移植適応基準における心理社会的・精神医学的評価の信頼性を担保できる、3予後に悪影響を及ぼす要因を特定し、介入に繋ぐことが出来るため、移植患者の予後の改善、QOLの向上に寄与できる、4脳死・心臓死下臓器提供への国民の理解促進にも寄与しうる等が期待できる。参加者の日程調整に難航し、上記インタビューの目標施設数の達成に時間がかかったため。インタビューによって得られた課題について、外部識者(医療倫理の専門家)、移植医、移植経験者、移植に携わっていない精神科医などを含めたワーキンググループメンバーで対応策を検討する。この検討会を今年度の前半に複数回行い、今年度中にガイドラインを策定する。1.移植先進諸外国のレシピエントの心理社会的評価の系統的レビュー移植先進諸外国における臓器移植レシピエント候補者に対する心理社会的評価に関する文献・ガイドラインをドナー種別(生体・死体)、臓器(心臓・腎臓・肝臓)の別を問わず、収集した。評価者・評価時期・評価項目・評価方法・予後予測・事後評価について整理し、同時に臓器横断的な共通要素と、臓器特異的要素の有無を整理した。現在、この成果をまとめ、論文化している。2.国内におけるレシピエントの心理社会的評価の整理と問題点の抽出国内における現行の心理社会的評価法を整理し、問題の所在を明らかにすることを目的に、国内移植実施施設において実施されている心理社会的評価方法(各施設で使用している評価ツールを含む)と、そこで生じている問題についてのヒアリングを実施するために準備中である。対象施設は2013年実施の全移植施設(心臓9施設、肝臓22施設、腎臓126施設)のうち、研究代表者が委員長を務める、日本総合病院精神医学会の臓器移植関連委員会のワーキンググループに所属する全国17移植施設の精神科医・レシピエント移植コーディネーター・臨床心理士等のメンバーが所属する心臓5施設、肝臓10施設、腎臓12施設程度を予定している。施設ごとあるいは職種ごとにフォーカスグループインタビューを行い、評価者・評価時期・評価項目・評価方法・予後予測・事後評価・評価者が感じている問題点について整理する予定である。特に先行研究において指摘されている以下のアドヒアランス不良のリスク要因に留意する:若年者、ソーシャルサポートの不足(家族の脆弱性)、不十分な理解力・意思決定能力、過去のアドヒアランス不良歴、精神障害、パーソナリティ障害の既往、現在症(アルコール・物質使用障害を含む)。おおむね順調に進展している。【課題1】移植先進諸外国のレシピエントの心理社会的評価の系統的レビュー移植先進諸外国における臓器移植レシピエント候補者に対する心理社会的評価に関する文献・ガイドラインをドナー種別(生体・死体)、臓器(心臓・腎臓・肝臓)の別を問わず収集した。評価者・評価時期・評価項目・評価方法・予後予測・事後評価について整理し、同時に臓器横断的な共通要素と、臓器特異的要素の有無を整理した。現在、この成果をまとめ、論文化している。【課題2】国内におけるレシピエントの心理社会的評価の整理と問題点の抽出国内における現行の心理社会的評価法を整理し、問題の所在を明らかにすることを目的に、国内移植実施施設において実施されている心理社会的評価方法(各施設で使用している評価ツールを含む)と、そこで生じている問題についてのヒアリングを開始した。対象施設は2013年実施の全移植施設(心臓9施設、肝臓22施設、腎臓126施設)のうち、研究代表者が委員長を務める、日本総合病院精神医学会の臓器移植関連委員会のワーキンググループに所属する全国17移植施設の精神科医・レシピエント移植コーディネーター・臨床心理士等のメンバーが所属する心臓5施設、肝臓10施設、腎臓12施設程度を予定している。29年度末までに、全17施設19名(精神科医6名、レシピエント移植コーディネーター13名;心臓移植施設3、腎臓移植施設11、膵臓移植施設4、肝臓移植施設6)に対するフォーカスグループインタビューを行い、各施設におけるレシピエントに対する心理社会的評価に関して、評価者・評価時期・評価項目・評価方法・評価者が感じている評価上の問題点等についてヒアリングした。課題1の論文化が遅れているが、課題全体の進捗としては概ね順調である。
KAKENHI-PROJECT-16K10261
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臓器移植希望者(レシピエント)に対する心理社会的評価のためのガイドラインの作成
臓器移植希望者(レシピエント)に対する心理社会的評価のためのガイドラインを作成するための予備調査として、国内における現行の心理社会的評価法を整理し、問題の所在を明らかにすることを目的に、国内の主要な移植施設において実施されている心理社会的評価方法と、そこで生じている問題についてフォーカスグループインタビューを実施した。インタビューの内容は、各施設における評価者・評価時期・評価項目・評価方法(各施設で使用している評価ツールを含む)・評価者が感じている評価上の問題点等である。対象は国内における主だった臓器移植施設においてレシピエントの心理社会的評価に3年以上関与している医療従事者(精神科医、臨床心理士、レシピエント移植コーディネーター、ソーシャルワーカー)である。2018年度末までに、目標施設数を超える心臓移植9施設、腎臓移植14施設、膵臓移植5施設、肝臓移植9施設を対象に実施できた。現在、インタビュー結果を集約中である。このインタビュー結果によって、移植先進諸外国での知見と対比するかたちで、メンタリティや移植事情の異なるわが国独自の課題をあぶりだすことができるため、わが国の事情に即したガイドライン作成のための有益な資料となった。本ガイドラインによって1施設を超えて一定のコンセンサスを得た評価を行うことが出来る、2移植適応基準における心理社会的・精神医学的評価の信頼性を担保できる、3予後に悪影響を及ぼす要因を特定し、介入に繋ぐことが出来るため、移植患者の予後の改善、QOLの向上に寄与できる、4脳死・心臓死下臓器提供への国民の理解促進にも寄与しうる等が期待できる。参加者の日程調整に難航し、上記インタビューの目標施設数の達成に時間がかかったため。2つ目の課題である「国内におけるレシピエントの心理社会的評価の整理と問題点の抽出」に関して、対象施設を増やすために、上記ワーキンググループ以外の施設にも打診している。課題1の論文化を進める。課題2については順調に進んでいる。インタビューによって得られた課題について、外部識者(医療倫理の専門家)、移植医、移植経験者、移植に携わっていない精神科医などを含めたワーキンググループメンバーで対応策を検討する。この検討会を今年度の前半に複数回行い、今年度中にガイドラインを策定する。すでに20万円の前倒し支払い請求をしていたが、人件費・謝金が予定より少ない額にとどまったため、次年度使用額が生じた。課題2のインタビューのための必要経費として次年度に使用する。インタビュー調査の実施回数を参加者の日程調整により節約できたため。次年度の会議実施のために使用する。次年度の人件費・謝金に充てる予定である。
KAKENHI-PROJECT-16K10261
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皮膚悪性リンパ腫におけるT細胞受容体(γ鎖)遺伝子再構成に関する分子生物学的研究
昭和63年度からの2年間の本研究において、皮膚の悪性リンパ腫におけるT細胞受容体遺伝子再構成に関する分子生物学的研究をおこなった。4例の悪性リンパ腫(ATL1例を含む)のうち3例においてT細胞受容体β鎖cDNAを用いてDNAの再構成が認められ、T細胞由来の性格が明らかとなった。さらに1例においては免疫グロブリン産生遺伝子Jhの再構成が認められ、B細胞性リンパ腫であった。反応性リンパ節腫脹の1例では、Tβ、Jhとも陰性であった。本研究の当初の目的としてT細胞受容体γ鎖遺伝子の再構成をも検討したいと考えていたが平成元年度に新しい臨床検体が得られず、現在の段階では未施行である。Tγは一般に幼若な分化段階のT細胞に表現されていると考えられており、成熟型の腫瘍細胞からなることの多い皮膚悪性リンパ腫における発現は可能性が少いとも想像されるが、腫瘍性T細胞と密接な関係にあるランゲルハンス細胞類似の表皮樹枝状細胞に発現していることがマウスで証明されており、今後症例を重ねて検討して行きたい。さらにこれらのT細胞受容体遺伝子のin situ hybridizationも試みたが現段階では成功していない。組織切片においていかにノイズを減らし、シグナルを拾い上げるかが最も重要なポイントであり、よりよい標識法を選択することと同時に今後も検討を加えていく必要がある。本年度は、皮膚T細胞性リンパ腫におけるT細胞受容体γ鎖の検討の前段階として、(1)臨床検体からのDNAの摘出、(2)サザンブロッティングによるハイブリダイゼーション、(3)T細胞受容体γ鎖cDNAの作製、(4)非放射性(ビオチン標識)Tα鎖、Tβ鎖cDNAの作製を予定した。研究は順調に進行し、まず、臨床検体からのDNAの描出とサザンブロッティングによるハイブリダイゼーションに関しては、5例において検索された。その内訳は、ATL1例、小児のリンフォーマ3例、反応性リンパ節腫脹1例で、ATLと2例のリンフォーマでT細胞受容体β鎖cDNAを用いてDNAの再構成が認められ、T細胞由来の性格が明らかとなった。さらに1例の小児リンフォーマでは免疫グロブリン産生遺伝子Jhの再構成が認められ、B細胞性リンパ腫であった。反応性リンパ節腫脹の1例ではTβ,Jhとも陰性であった。T細胞受容体γ鎖cDNAは現在作製中である。プラスミドはpuc21を用い、VJcγ1領域を大腸菌HB101に挿入し、クローニング中である。in situ hybridizationのための非放射性(ビオチン標識)Tα鎖、Tβ鎖cDNAの作製に関してはこの方面のテクノロジーの進歩は目覚ましく、次々と改良された標識法が開発され、利用可能となってきているので、我々の目的に最も適した方法を選択して来年度に実行することにした。昭和63年度からの2年間の本研究において、皮膚の悪性リンパ腫におけるT細胞受容体遺伝子再構成に関する分子生物学的研究をおこなった。4例の悪性リンパ腫(ATL1例を含む)のうち3例においてT細胞受容体β鎖cDNAを用いてDNAの再構成が認められ、T細胞由来の性格が明らかとなった。さらに1例においては免疫グロブリン産生遺伝子Jhの再構成が認められ、B細胞性リンパ腫であった。反応性リンパ節腫脹の1例では、Tβ、Jhとも陰性であった。本研究の当初の目的としてT細胞受容体γ鎖遺伝子の再構成をも検討したいと考えていたが平成元年度に新しい臨床検体が得られず、現在の段階では未施行である。Tγは一般に幼若な分化段階のT細胞に表現されていると考えられており、成熟型の腫瘍細胞からなることの多い皮膚悪性リンパ腫における発現は可能性が少いとも想像されるが、腫瘍性T細胞と密接な関係にあるランゲルハンス細胞類似の表皮樹枝状細胞に発現していることがマウスで証明されており、今後症例を重ねて検討して行きたい。さらにこれらのT細胞受容体遺伝子のin situ hybridizationも試みたが現段階では成功していない。組織切片においていかにノイズを減らし、シグナルを拾い上げるかが最も重要なポイントであり、よりよい標識法を選択することと同時に今後も検討を加えていく必要がある。
KAKENHI-PROJECT-63570476
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抗腫瘍血管新生能を持つPECAMアンタゴニストの探索と解析
α2,6-シアル酸を欠損したST6Gal I KOマウスを用いて、そのKOマウスと野生型マウスに腫瘍細胞を移植し、その後の腫瘍のサイズや腫瘍内の血管新生について調べました。その結果、欠損マウスでは腫瘍の増殖が野生型マウスと比べて明らかに減退していることがわかりました。さらに両マウスの腫瘍組織において血管内皮マーカーとアポトーシスマーカーであるcleavef PARPの二重染色をおこなった結果、欠損マウスでは腫瘍内部の血管内皮細胞の多くが死んでいることが分かりました。本来PECAMは、α2,6-シアル酸に結合することで細胞同士を接着させると同時に、他の細胞膜上のシグナル分子であるVEGFFR2やインテグリンと機能的複合体を形成して生存シグナルを伝えています。しかし、α2,6-シアル酸が欠損するとPECAM同志のホフィリックな相互作用が失われる結果、細胞表面にとどまれず、結果的に複合体成分が異常なシグナルを伝えることで、血管内皮細胞が死にやすくなることが明らかになり、この結果は2018年のOncogeneに掲載されました。現在、α2,6-シアル酸を模倣した低分子化合物のスクリーニング中であり、将来的にPECAMの相互的結合を阻害するような選択的化合物を得られれば、新たな抗血管新生阻害剤の候補になると期待できます。私達は、血管内皮細胞の主要な接着分子PECAMがα2,6-シアリル化糖鎖を持つこと、そしてα2,6-シアリル化糖鎖に対するレクチン活性を持つこと(S. Kitazume et al. (2014)J. Biol. Chem. 289, 20606)を最近明らかにした。α2,6-シアル酸を欠損した血管内皮細胞でPECAMはホモフィリックな相互作用が出来なくなるために細胞表面に停留できず、エンドサイトーシスされてしまうために生存シグナルを細胞に送ることが出来なくなる結果、アポトーシス刺激に脆弱になることも分かった。今年度はPECAMが細胞表面に停留できなくなる結果、パートナー分子であるVEGFR2やintegrinβ3も細胞表面の発現量が低下し、細胞内に異常なシグナル伝達をする結果、腫瘍血管新生が減退する分子機構を明らかにしたため、現在論文としてまとめており、投稿間近である。また、α2,6-シアリル化糖鎖をミミックする化合物がPECAMアンタゴニストとして作用することで抗血管新生阻害剤になるのでないか、との期待の元にスクリーニングを行った。今年度はPECAMに結合する化合物を理研化合物アレイを用いて3万化合物のスクリーニングをした結果、11種類のヒット化合物を見出した。また独自にα2,6-シアリル化糖鎖をミミックするペプチドを共同研究者より分与して頂き、PECAM-PECAM相互作用のアッセイ系に添加したところ、予想外に相互作用を強める化合物を見つけた。この化合物は血管透過性を抑制する効果を持つことが期待できるため、さらに次年度は解析を進める計画である。本年度、3万種類の化合物を搭載する化合物アレイの中から、PECAMに結合するヒット化合物を複数同定することが出来たのは、大きな進展と言える。また、これとは別にα2,6-シアリル化糖鎖をミミックしたペプチドがPECAM-PECAM相互作用を増強する効果があることを偶然にも発見した。このことは、私達の構築したin vitroの実験系でPECAMのアンタゴニストとアゴニストの両方をスクリーニングできる可能性を示している。さらに、本年度はin vivoでのα2,6-シアル酸の欠損によって腫瘍血管新生が減退すること、その分子的背景を明らかにした論文をまとめることが出来たのも大きな収穫である。私達は最近、血管内皮細胞に特異的に発現する接着分子PECAMがα2,6-シアル酸特異的に結合するレクチン活性を持つこと、α2-6シアリル化糖鎖を添加するとPECAM同志の相互作用が失われて細胞表面に停留できなくなり、PECAM依存的な生存シグナルを細胞に伝達できなくなることを明らかにした(S. Kitazume et al J. Biol. Chem. 285, 6515, (2010)、S. Kitazume et al. J. Biol. Chem. 289, 27606 (2014))。2017年度は化合物ライブラリーを用いてα2-6シアリル化糖鎖をミミックするようなPECAMアンタゴニストとなる化合物探索を引き続き進め、複数の候補化合物を見出した。また、本研究の根幹となる発見は、α2-6シアリル化糖鎖を欠損させたなマウスにおいては腫瘍内の血管新生が特異的に減退し、その結果、腫瘍の壊死が亢進するというものであり、Oncogeneに投稿していたが、レビュアーからいくつかの追加実験を求められた。まず、ポリライゲーションアッセイによって、α2-6シアリル化糖鎖を欠損させた血管内皮細胞においては、PECAMと複合体を形成しているVEGFR2がPECAMと共にエンドサイトーシスされて細胞に過剰なシグナルを伝達することをみいだした。また、polyHEMAコートしたプレート上でα2-6シアリル化糖鎖を欠損させた血管内皮細胞を培養することで、インテグリン依存的なアノイキスが昂進していることが血管内皮細胞死につながっている可能性が高いことなどを明らかにした。これらの結果をまとめ、再投稿を行った結果、受理された。血管内皮細胞系を用いてpolyligation assayを行うことで、PECAM-VEGFR2 complexの可視化に成功した。
KAKENHI-PROJECT-16K08601
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