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アネキシンA5による腱・靭帯と骨付着部(enthesis)のリモデリングの制御
Enthesisは、腱と骨の間に線維軟骨が介在する線維軟骨性付着とこれらが介在しない線維性付着に分類される。このうち線維軟骨性付着部では、生後7週以降、野生型に比べてAnxa5機能欠損マウスで特異的な皮質骨面積と線維軟骨層の増大を認めた。軟骨層には野生型と比べてアルカリフォスファターゼ活性の強い細胞がより多く観察された。一方、線維性付着部ではAnxa5欠損による影響を受けなかった。siRNAによってATDC5のAnxa5遺伝子をノックダウンすると軟骨分化マーカーの遺伝子発現が増大した。これらの結果は、Anxa5が腱・靭帯付着部の線維軟骨の分化と石灰化を負に制御することを示唆する。骨と靭帯・腱との接合部(enthesis)における機械的刺激による骨形成や骨リモデリングの分子メカニズムについては不明な点が多い。Anxa5はメカニカルセンサー、アポトーシスシグナル伝達、細胞膜裏打ちタンパクとしての膜修復調節など多彩な機能が見出されている。我々の予備検討によりAnxa5遺伝子の下流にlacZを挿入したAnxa5機能欠損マウス(Anxa5-/-)においてenthesis周囲で特異的に骨が肥大していることを見出した。このことから、enthesisのリモデリングが腱・靭帯組織と骨組織のAnxa5を介した相互作用により調節されているという仮説を立てた。まず、成体マウスにおけるAnxa5の発現部位をlacZの組織染色で調べたところ、関節軟骨、骨膜、および骨と腱・靭帯付着部に特異的に発現していた。次にAnxa5欠損によりenthesisで生じる骨形態の変化をマイクロCTにより解析した。生後4週において、Anxa5-/-と野生型の間に骨の顕著な差は認められなかったが、生後7週以降のAnxa5-/-マウスにおいて、骨と腱・靭帯付着部において野生型に比べて特異的な肥大化を認めた。骨幹部における皮質骨断面積や骨密度には顕著な差は認められなかった。この表現型は脛骨、大腿骨、上腕骨、下顎骨など、調べた骨でいずれも共通していた。生後12週に前脛骨筋に付着する腱を切断し、運動機能を制限したところ、Anxa5-lacZマウスおよび野生型マウスのいずれにおいても、術後8週の腱付着部における脛骨皮質骨の縮小が認められた。これらの結果は、Anxa5が骨と腱・靭帯の付着部において、機械的刺激依存的なenthesis領域の骨形成に関与することを示唆するものである。昨年度までに、アネキシンA5(Anxa5)が骨と腱・靭帯付着部(enthesis)に発現すること、Anxa5機能欠損マウス(Anxa5-/-)のenthesisでは生後発達に伴い骨の増大を示すこと、この表現型が運動制限により消失することを見出した。本年度は、enthesisの生後発達過程におけるAnxa5の機能についてさらに解析を進めた。enthesisは軟骨を介する線維軟骨性付着とこれを介さない線維性付着とに分類できる。そこで両者の表現型を比較したところ、線維軟骨性付着である脛骨と腓腹筋腱、大腿骨と内転筋腱、および下顎骨と顎二腹筋腱の間の付着では、いずれも骨の増大を認めたのに対し、線維性付着である脛骨と内側側副靭帯の間においては、皮質骨の増大は顕著ではなかった。組織学的解析の結果、腓腹筋と脛骨の付着部において線維軟骨層の増大を認めた。この線維軟骨はAnxa5-LacZ陽性の細胞で構成されていたが、線維性付着部においてはAnxa5-LacZはほとんど検出されなかった。また線維軟骨層には、野生型と比べてアルカリフォスファターゼ活性の強い細胞が多く観察された。カルセイン標識の結果、これらの細胞が石灰化に寄与することが示された。一方、TRAP陽性細胞の数や分布に顕著な差は認められなかった。これらの結果は、Anxa5が腱・靭帯付着部の石灰化に対し抑制的な調節機能をもち、それは線維軟骨の機能制御を介する可能性を示唆する。EnthesisにおけるAnxa5発現細胞の大部分が線維軟骨層に分布すること、軟骨細胞を含まない線維性付着において顕著な表現型が認められなかったことなどから、Anxa5が軟骨細胞において重要な機能を果たすことが示唆された。今後の研究推進方策を絞り込むことができた。昨年度までに、骨と腱・靭帯付着部(enthesis)のうち、線維軟骨性付着部にアネキシンA5(Anxa5)発現細胞が豊富に存在しているのに対し、線維性付着部ではほとんど認められないこと、また、Anxa5機能欠損マウスの生後発達に伴い、線維軟骨性付着部では皮質骨の局所的な増大を示すが、線維性付着部においては顕著な表現型が認められないことを明らかにした。これらの結果から、Anxa5機能欠損マウスの腱・靭帯付着部における局所的な石灰化の増大が、線維軟骨を介する可能性が考えられた。そこで本年度は、軟骨細胞におけるAnxa5の機能を解析する目的で、軟骨系未分化細胞株ATDC5を用いたin vitroでの解析を試みた。ATDC5をDME/Ham's F-12培地に5% FBS、1/100 ITS添加条件で培養し、Anxa5遺伝子に対するsiRNA、あるいはControl siRNAをjetPrime試薬を用いて導入した。導入後の細胞増殖能をMTT法で、遺伝子発現量をAgilent社のSurePrint G3 Mouse GEマイクロアレイ、およびリアルタイムqPCR法で調べた。Anxa5 siRNA
KAKENHI-PROJECT-26462825
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26462825
アネキシンA5による腱・靭帯と骨付着部(enthesis)のリモデリングの制御
導入によって、Anxa5遺伝子発現は8090%抑制された(p<0.001)。Anxa5 siRNA導入4日後の細胞増殖能は、Anxa5ノックダウンにより約23%低下した(p<0.05)。一方、分化形質の遺伝子発現の変化を解析したところ、Anxa5ノックダウンによってtype II、およびtype X collagen、Aggrecanなどの遺伝子発現が1025倍増大した。これらの結果は、Anxa5が腱・靭帯付着部の線維軟骨の分化と石灰化を抑制的に制御する可能性を示唆するものである。Enthesisは、腱と骨の間に線維軟骨が介在する線維軟骨性付着とこれらが介在しない線維性付着に分類される。このうち線維軟骨性付着部では、生後7週以降、野生型に比べてAnxa5機能欠損マウスで特異的な皮質骨面積と線維軟骨層の増大を認めた。軟骨層には野生型と比べてアルカリフォスファターゼ活性の強い細胞がより多く観察された。一方、線維性付着部ではAnxa5欠損による影響を受けなかった。siRNAによってATDC5のAnxa5遺伝子をノックダウンすると軟骨分化マーカーの遺伝子発現が増大した。これらの結果は、Anxa5が腱・靭帯付着部の線維軟骨の分化と石灰化を負に制御することを示唆する。当初、Anxa5ー/ーおよび野生型マウスの頭蓋骨より骨芽細胞を分離培養し、各々の細胞増殖能や遺伝子発現解析を行う計画であったが、成体マウス頭蓋骨から分離した骨芽細胞の分離が安定せず、検討に時間を要した。現在は、MC3T3-E1などの骨芽細胞系cellにsiRNAによるAnxa5ノックダウンを行い、その影響を検討している。腱細胞については、培養条件が確立しており、Anxa5ー/ーおよび野生型の成体マウスから安定して腱細胞が得られている。これらの細胞を用いて引き続きEnthesisにおける骨隆起は腱細胞と骨芽細胞のいずれに起因するのか、共培養による解析を進める予定である。Anxa5が線維軟骨を構成する細胞に強く発現すること、またAnxa5-/-マウスの腱・靭帯と骨の付着部のうちでも線維軟骨を介する付着部位において特異的な骨の肥大が認められたことから、Anxa5の軟骨細胞における機能欠損が付着部における骨の肥大を生じることが推測される。よって本年度は培養軟骨細胞、および軟骨用細胞株であるATDC5を用いてAnxa5欠損による細胞の増殖と分化への影響を調べる。具体的にはAnxa5-/-と野生型マウスの肋軟骨から軟骨細胞を初代培養し、その増殖能と分化能をBrdUの取り込み、分化軟骨マーカーの細胞免疫染色、およびリアルタイムPCRによる分化マーカー遺伝子の発現解析により明らかにする。また、ATDC5にBMP等を添加した軟骨分化系を用いて、Anxa5遺伝子に対するsiRNAによりAnxa5遺伝子をノックダウンし、同様の解析を行う。特に後者の系では、siRNAによるAnxa5遺伝子ノックダウンを行った後、伸展刺激下におけるよる増殖と分化への影響を調べる。歯科学骨芽細胞系cell lineに対し、siRNA添加によりAnxa5をノックダウンする。また、Anxa5ー/ーおよび野生型マウスから各々分離した腱細胞を得る。これらの細胞を共
KAKENHI-PROJECT-26462825
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北極圏地球環境科学野外教育コースの設立
20072009年の国際極年において,北極圏の地球環境科学を主題に,各国の大学院生を対象とする国際野外教育学校を企画・実施した.日本とノルウェーの永久凍土研究者で国際的な教授チームを組み,ノルウェー北部のスバルバール諸島を対象に,受講者に対し,(1)調査・観測法を取得させる,(2)2年間で得られた調査・観測データを解析させる,(3)国際学会や国際誌上で公表させる,という三段階の教育を行った.また,調査・観測法だけでなく,北極地域の調査活動に必要なサバイバル・危険回避の技術取得のための訓練も実施した.2年間で,日本,ヨーロッパ,アメリカの国々から,5名の教員,25名の大学院生が参加した.2年目となる2009年度は,8月中・下旬の2週間の期間に,スバルバールのロングイヤーベン地区(内陸)とカップリンネ地区(沿岸)において,セミナー,野外観測,試料採取,室内分析等を実施した.シロクマの出現により,野外活動の一部が制約されたが,充実した指導とデータ取得ができた.共同調査によって得られたデータに基づいて,学生各自がテーマを絞り,北極圏の陸域で起こる永久凍土環境変動の過去・現在・未来の諸側面について考察し,レポートを作成した.とくに,活動層厚の時空的変化,凍土の構成物質,凍土の化学的性質,多角形構造土の分布と内部構造,凍結割れ目の発達プロセスに関して,詳しい成果が得られた.最近の気候の年々変動と長期変動によって活動層厚の変化,永久凍土の部分融解,地形プロセスの年々変動が顕著に起こっており,今後も長期的なモニタリングの継続が必要なことが確認された.成果の一部は2008年7月の国際永久凍土学会で発表した.20072008年の国際極年において,各国の大学院生を対象とする,北極圏の地球環境科学を主題する国際野外学校の実践を企画した.永久凍土や氷河の専門家の国際的な教授陣でチームを組み,スバルバール諸島(ノルウェー北部)とグリーンランド東部の北緯80°付近の条件の異なる2地域をフィールドとして,(1)調査・観測法の取得,(2)2年間で得られた調査・観測データの解析,(3)国際学会や国際誌上での公表,という3段階の教育を行うものである.そして,2地域での調査・研究データの比較により,北極圏の陸域で起こる氷河・永久凍土変動の地域的な差異を解明することを目的とした.初年度は,スバルバール大学,マウント・ホリオケ大学(USA),筑波大学の合同で,スバルバールにおいて予備的な野外学校を実践した.2007年7月中・下旬に,2008年度の正式な野外学校の実施に先立って,2週間の予備調査と実験・観測地の設置と指導を行なった.教員5名,ティーチング・アシスタント4名,大学院生5名が参加した.スバルバール大学での野外活動基本実習の後,沿岸部(カップ・リンネ)と内陸部(アドベントダーレン)の2地点で,氷河・周氷河地形地形の観察と記載,各地形の地下構造の探査と計測,地形プロセスの観測機材の設置,土壌・凍土・氷・水試料の採取とデータ取得を行った.終了後,スバルバール大学で取得したデータの解析と,調査結果の報告会を実施した.調査結果の一部は,2008年67月にフェアバンクス(USA)で開催される第9回国際永久凍土学会で,2件の論文(受理済)として発表する.20072009年の国際極年において,北極圏の地球環境科学を主題に,各国の大学院生を対象とする国際野外教育学校を企画・実施した.日本とノルウェーの永久凍土研究者で国際的な教授チームを組み,ノルウェー北部のスバルバール諸島を対象に,受講者に対し,(1)調査・観測法を取得させる,(2)2年間で得られた調査・観測データを解析させる,(3)国際学会や国際誌上で公表させる,という三段階の教育を行った.また,調査・観測法だけでなく,北極地域の調査活動に必要なサバイバル・危険回避の技術取得のための訓練も実施した.2年間で,日本,ヨーロッパ,アメリカの国々から,5名の教員,25名の大学院生が参加した.2年目となる2009年度は,8月中・下旬の2週間の期間に,スバルバールのロングイヤーベン地区(内陸)とカップリンネ地区(沿岸)において,セミナー,野外観測,試料採取,室内分析等を実施した.シロクマの出現により,野外活動の一部が制約されたが,充実した指導とデータ取得ができた.共同調査によって得られたデータに基づいて,学生各自がテーマを絞り,北極圏の陸域で起こる永久凍土環境変動の過去・現在・未来の諸側面について考察し,レポートを作成した.とくに,活動層厚の時空的変化,凍土の構成物質,凍土の化学的性質,多角形構造土の分布と内部構造,凍結割れ目の発達プロセスに関して,詳しい成果が得られた.最近の気候の年々変動と長期変動によって活動層厚の変化,永久凍土の部分融解,地形プロセスの年々変動が顕著に起こっており,今後も長期的なモニタリングの継続が必要なことが確認された.成果の一部は2008年7月の国際永久凍土学会で発表した.
KAKENHI-PROJECT-19650220
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19650220
アルツハイマ-病の脳に沈着する異常物質の生化学的解析とその処理機構
老人斑を構成するβ/A4の前駆蛋白質であるAPPは、神経細胞の胞体内から突起内へ順行性に運ばれ,その流れが阻害される部位に集積することが各種の原因による軸索スフェロイドやクル斑にAPPが貯る所見から示された。β/A4の直前のAPP断片がアストログリアの突起内にも存在することや、β/A4以外のAPP断片が老人斑に存在することが報告された。β/A4の1517番アミノ酸を切断するAPPセレクタ-ゼ活性が,ラット肝臓から抽出したカテプシンBに認められた。ダウン症の動物モデルといわれるトリソミ-16マウス胎児脳を移植した正常マウスの脳内で、APPの発現増加と微量のβ/A4陽性細胞が証明された。ダウン症脳から分泌型APP,膜結合型APP、APPのC末端部およびβ/A4部が系統的に分離、精製された。西ドイツの122例の正常老人脳およびアルツハイマ-病(AD)脳を調べ、正常老人では原線維変化が海馬にほゞ限局するが、ADでは新皮質に広汎に出現し、日本人と大差がないことが判明した。幼若ラット脳では、MAP 1Bの多数のリン酸化分子種が存在し、PHF抗体はその一部とのみ反応することが判った。さらにラット胎児脳にPHFと共通抗原を持つ分子量70kDの胎児性蛋白質(P70)が存在し,それに対する抗体がラット脳内のcurly fiberよう構造およびPC12細胞の突起のgrowth coneを染めた。したがってこの新しい蛋白質は胎児脳とAD脳で神経突起の伸展と関連する可能性がある。PHFの成分であるタウたんぱくをリン酸化する酵素TPKI,IIについての広汎な研究が,公開シンポジウムで発表された。一方リン酸化されたタウを脱リン酸化する酵素としてプロティンホスファタ-ゼ2Aが同定され,その働きがアルミニウムにより阻害されることが報告された。老人斑を構成するβ/A4の前駆蛋白質であるAPPは、神経細胞の胞体内から突起内へ順行性に運ばれ,その流れが阻害される部位に集積することが各種の原因による軸索スフェロイドやクル斑にAPPが貯る所見から示された。β/A4の直前のAPP断片がアストログリアの突起内にも存在することや、β/A4以外のAPP断片が老人斑に存在することが報告された。β/A4の1517番アミノ酸を切断するAPPセレクタ-ゼ活性が,ラット肝臓から抽出したカテプシンBに認められた。ダウン症の動物モデルといわれるトリソミ-16マウス胎児脳を移植した正常マウスの脳内で、APPの発現増加と微量のβ/A4陽性細胞が証明された。ダウン症脳から分泌型APP,膜結合型APP、APPのC末端部およびβ/A4部が系統的に分離、精製された。西ドイツの122例の正常老人脳およびアルツハイマ-病(AD)脳を調べ、正常老人では原線維変化が海馬にほゞ限局するが、ADでは新皮質に広汎に出現し、日本人と大差がないことが判明した。幼若ラット脳では、MAP 1Bの多数のリン酸化分子種が存在し、PHF抗体はその一部とのみ反応することが判った。さらにラット胎児脳にPHFと共通抗原を持つ分子量70kDの胎児性蛋白質(P70)が存在し,それに対する抗体がラット脳内のcurly fiberよう構造およびPC12細胞の突起のgrowth coneを染めた。したがってこの新しい蛋白質は胎児脳とAD脳で神経突起の伸展と関連する可能性がある。PHFの成分であるタウたんぱくをリン酸化する酵素TPKI,IIについての広汎な研究が,公開シンポジウムで発表された。一方リン酸化されたタウを脱リン酸化する酵素としてプロティンホスファタ-ゼ2Aが同定され,その働きがアルミニウムにより阻害されることが報告された。
KAKENHI-PROJECT-03224103
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-03224103
GISを活用した河川流域における災害の民俗の統合的分析-吉野川を事例として
本研究では、吉野川流域の自然環境、災害史、災害の民俗に関わる空間情報をGISを用いてデジタルマップに集約した上で、使い吉野川流域の自然環境と民俗事象の相関関係を統合的に検討する作業を行い、河川環境と災害の民俗の関連を客観的に論証した。こうした作業を通して、災害の民俗〓生活の中から生み出された伝統的な治水対策が、当地の自然環境にいかに適応的になされてきたものであるかを立証した。方法論としては、民俗分析におけるGISの有効性を示した。本研究では、吉野川流域の自然環境、災害史、災害の民俗に関わる空間情報をGISを用いてデジタルマップに集約した上で、使い吉野川流域の自然環境と民俗事象の相関関係を統合的に検討する作業を行い、河川環境と災害の民俗の関連を客観的に論証した。こうした作業を通して、災害の民俗〓生活の中から生み出された伝統的な治水対策が、当地の自然環境にいかに適応的になされてきたものであるかを立証した。方法論としては、民俗分析におけるGISの有効性を示した。平成19年度は、徳島県等の河川流域における災害の民俗に関する主要文献を収集精読、我が国の河川流域における災害の特色と、災害に対処する民俗の特徴を把握した上で、1)吉野川流域の自然環境に関わるデジタルデータ(流域の土壌や植生、地域別の年間降水量、地点別河川流量、コンターデータ、土地利用、過去の洪水による浸水域、堤防の決壊地点などに関する資料)、2)吉野川流域の過去に洪水の被害に関わる空間データ(過去の洪水記録資料より作成)、3)築堤、防水竹林、高石垣造りの家、水神、不動尊、地蔵尊など「災害の民俗」に関わるデータを、文献調査および現地調査によって収集・整理し、吉野川流域のGISベースマップ上にデジタルデータとしてアップしていく作業を行った。平成19年度は、とくに吉野川中・下流域を中心として調査および作図作業を実施したが、全体を通して、過去に水害に襲われる頻度の高かった地域ほど「災害の民俗」が重層的な姿をもって立ち現れていること(板野郡藍住町、名西郡石井町など)、その対処のあり方として、技術的対応(築堤、高石垣造りの家、防水竹林など)、心意的対応(水神信仰、不動信仰、地蔵信仰など)の両面が併存していることが明らかになった。このような流域における災害の民俗の諸相を空間(地図)上に位置づけていく作業は、人々の生活の中から生み出された治水対策とハザードマップを再構成する作業という点でも大きな意味を持つものと考えられる。また、GISマップを援用して民俗事象の分析を行うという本研究の手法は、民俗の空間情報分析に新たなアプローチをもたらすという意義があるものと思われる。本研究の目的は、吉野川流域の自然環境、災害史、災害の民俗に関わる空間情報をGISを用いてデジタル化しGISマップを作成した上で、GISソフトや画像解析システムを使い、吉野川流域の自然環境と民俗事象の相関関係を統合的に検討する作業を行い、河川環境と災害の民俗の関連を客観的に論証することにある。作業としてはまず、2万5千分の1地形図(べースマップ)の上に吉野刀中下流域の自然地形、および過去の水害被害に関わる空間情報(破堤地点、浸水域など)を落としていった。その上で、別途文献調査・現地調査に基づきデータベース化した災害の民俗に関わる空間情報(築堤、防水竹林、高石垣造りの家、小祠、石造物、祭りや儀礼など)を入力、吉野川流域の自然環境に関わるデジタル地図、災害の民俗に関わるデジタルマップを作成した。地図の上では複数のレイヤー(層)を重ね合わせることによって、自然環境と民俗事象の相関関係を個別的、視覚的に検詞することができる。本研究では、GISソフトを用いることで、河道からの標高(洪水の被害域)と地蔵尊の台座の高さとの関係など、さまざまな要素間の関係性が浮かび上がってきた。こうした手法は、従来の要素限定的・静態的な民俗地図を用いた空間分析に比べ、多くの関係因子を重ねあわせる中から動態的・客観的・実証的に諸要素間の相関関係を分析できる点に特色がある。以上のような作業を通して、災害の民俗=生活の中から生み出された伝統的な治水対策が、当地の自然環境にいかに適応的になされてきたものであるかを立証した。方法論としては、民俗分析におけるGISの有効性を、河川流域の災害の民俗の分析を通じて明らかにした。
KAKENHI-PROJECT-19520702
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19520702
作曲領域における子どもの発達過程に関する研究
平成13年度は、12年度の研究成果をふまえて引き続きフィールドワークを行い、グループ活動による子どもの作曲作品及びその形成過程での言語的・非言語的・音楽的ディスコースをデータとして得た。ロンドン大学およびミラノISU大学において子どもの音楽作品の評定を行い、評定結果の分析をKappa及びPage Test for Alternativeを用いて統計的に分析した。それによって、数回の授業を通した各グループ毎の作曲作品の向上(発達)の変化を明らかにした。また、小・中学校間での発達の違いも明らかにした。統計学的に明らかにした各グループの発達の違いを指標として、その違いの背景にある「形成過程」を、主として言語的ディスコース分析の手法を用いて明らかにした。その際、非言語的・音楽的ディスコースも副次的に併せて分析することで、発達の違いの背景を明らかにした。以上の分析から、以下の点が明らかになった。1.グループによる子どもの作曲作品の形成には、主として言語的ディスコースが関わっていること。特に、モノローグとダイアローグの交代が見られ、それによって子どもが個人思考と社会的相互関係の交代を行っていること。2.上記2者の交代を通して、子どもは同一レベルでその交代を繰り返しているのではなく、ディスコース上の質的向上(発達)を行い、スパイラル的に発達していること。同時に、ディスコース上の発達は、Swanwick/Tillmanによる、作曲作品の発達モデルに対応していること。3.作曲作品及びディコースの発達には、道具としての音楽的要素(Musical Features)の使用、教師の指導性、グループ・リーダーの役割、音楽的な先行経験を持っている子ども・持っていない子どもの役割等、幾つかの要因が作用していること。2年間にわたる研究の初年度に当たる平成12年度は、主として研究計画の立案及びパイロット研究の実施とその結果の分析に当てた。4月に自費にて渡英し、ロンドン大学教育研究所のKeith Swanwick教授と研究計画の立案を行った。同時に、先行研究の検討と本研究に関わる資料の収集を行った。5月に松江市内の小・中学校と、本研究のための実験授業及びフィールドワークについて交渉及び説明を行った。その結果、6-7月の2ヶ月間にわたり、松江市立の小・中学校各1校においてそれぞれ5時間(2時間は予備授業)1単元の授業を、3クラスずつ実施した。その結果得られたデータ(子どもの音楽作品及びディスコース)を、8-9月間に整理した。特に子どもの音楽作品のため、10月2-22日間、ロンドン大学教育研究所に出向き、9人の評定者による分析を依頼した。この結果を、統計的に処理し、以下に挙げるような結果を得ることが出来た。この成果を生かし、10-11月に第1期の本フィールドワークを実施した。12月以降は、子ども間・子どもと教師間のディスコースのトランスクリプト化を実施中である。パイロット研究及び第1期本フィールドワークで得られた成果は次の通りである。9人の評定結果の相関関係を統計的に調べ、その結果を因子分析により9人の判定者の傾向を明確化し、特に相関の高い判定者6人の結果をKendallのW検定(カイ2乗検定)、対数線形検定により分析した。その結果、全体の傾向として、小・中学校共に3時間の本授業で子どもの音楽作品が有意に向上したことが明らかになった。同時に、同じ条件下(これまでに作曲の授業の経験があまりない子ども)でありながら、全く同じ授業を行ったにもかかわらず、小学校と中学校間に有意な発達差が確認できた。現在は、有意に子どもが発達した要因を、ディスコースから明らかにする作業を進めているところである。平成13年度は、12年度の研究成果をふまえて引き続きフィールドワークを行い、グループ活動による子どもの作曲作品及びその形成過程での言語的・非言語的・音楽的ディスコースをデータとして得た。ロンドン大学およびミラノISU大学において子どもの音楽作品の評定を行い、評定結果の分析をKappa及びPage Test for Alternativeを用いて統計的に分析した。それによって、数回の授業を通した各グループ毎の作曲作品の向上(発達)の変化を明らかにした。また、小・中学校間での発達の違いも明らかにした。統計学的に明らかにした各グループの発達の違いを指標として、その違いの背景にある「形成過程」を、主として言語的ディスコース分析の手法を用いて明らかにした。その際、非言語的・音楽的ディスコースも副次的に併せて分析することで、発達の違いの背景を明らかにした。以上の分析から、以下の点が明らかになった。1.グループによる子どもの作曲作品の形成には、主として言語的ディスコースが関わっていること。特に、モノローグとダイアローグの交代が見られ、それによって子どもが個人思考と社会的相互関係の交代を行っていること。2.上記2者の交代を通して、子どもは同一レベルでその交代を繰り返しているのではなく、ディスコース上の質的向上(発達)を行い、スパイラル的に発達していること。同時に、ディスコース上の発達は、Swanwick/Tillmanによる、作曲作品の発達モデルに対応していること。3.作曲作品及びディコースの発達には、道具としての音楽的要素(Musical Features)の使用、教師の指導性、グループ・リーダーの役割、音楽的な先行経験を持っている子ども・持っていない子どもの役割等、幾つかの要因が作用していること。
KAKENHI-PROJECT-12710148
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12710148
単一イオンイベントによる高分子ナノ構造体の形成と機能
イオンビームの物質への照射は、イオントラックと呼ばれる極めて高い活性種濃度の化学反応場を与える。高分子薄膜へイオンビームを照射した際には、飛跡に沿ったイオントラック内でのみ選択的に高分子の架橋反応が引き起こされる。照射後に有機溶媒で現像を行うことによって架橋反応を起こした部位のみを単離することができ、1次元の量子細線(ナノワイヤー)が得られる。イオントラック内でのエネルギー付与分布と、反応機構を解明することを目的とし、照射時に薄膜中で形成される動径方向での活性種濃度分布をナノワイヤーとして原子間力顕微鏡で可視化し定量評価する方法を確立した。この方法を用いて、LET・分子量のナノワイヤー径に及ぼす影響を比較・検討することにより、そのサイズを決定する理論モデルを提案した。さらに、ナノワイヤー表面の表面粗さと高分子の形状を比較することにより、ナノワイヤー表面近傍の高分子鎖の形状が、表面の粗さとして反映することを明らかにした。また、デバイス応用などを行う際に重要となるナノワイヤーの空間的な位置を制御することを目的に、基板の表面処理を行うことによりナノワイヤーを選択的に脱着すること、及び、重イオンマイクロビームを用いて基板上に等間隔にナノワイヤーを形成することに成功した。さらには、多層膜を用いることにより、それぞれの高分子セグメントから構成された多段式ナノワイヤ己の形成に成功すると共に、3層膜においては、親水・疎水性を利用した溶媒中での選択的な自己凝集性を見出した。イオンビームの物質への照射は、イオントラックと呼ばれる極めて高い活性種濃度の化学反応場を与える。イオンビームの高分子薄膜への照射によって引き起こされるイオントラック内での高分子架橋反応は、ナノメートルスケールの量子細線(ナノワイヤー)を与える。1)ナノワイヤーの長さは、ターゲットとなる薄膜の厚みを正確に反映する、2)ナノワイヤーの太さは入射するイオンのLET及びターゲットの分子サイズにより制御可能、3)ナノワイヤーの一端は基板上に化学結合によって固定され、その基板上の数密度が入射したイオン数を正確に反映する。即ち、一度の反応操作でナノワイヤーの3次元構造を規定する、長さ・太さが同時に、かつ自由に制御可能である事を実証した。また、ポリシラン・ポリカルボシラン及びポリカルボシランとポリビニルシランのブレンドポリマーで形成されるナノワイヤーを比較することにより、ナノワイヤーの太さは、ターゲットとなる高分子材料によっても制御可能であることを、さらに、その高分子の違いによるナノワイヤーの太さサイズの違いを、定量的に解析することによりエネルギー付与密度と高分子の架橋のG値との間の相関関係を明らかにした。ワイヤー末端が化学結合により固定されている点に着目し、1)基板処理によって形成されたナノワイヤーを選択的に着脱する、2)溶媒による未架橋部分の処理過程において、その溶出を利用してナノワイヤーの単一方向に配行させる、点に成功した。イオンビームの物質への照射は、イオントラックと呼ばれる極めて高い活性種濃度の化学反応場を与える。高分子薄膜ヘイオンビームを照射した際には、飛跡に沿ったイオントラック内でのみ選択的に高分子の架橋反応が引き起こされる。照射後に有機溶媒で現像を行うことによって架橋反応を起こした部位のみを単離することができ、1次元の量子細線(ナノワイヤー)が得られる。形成されたナノワイヤーを原子間力顕微鏡(AFM)により測定することは、イオントラック内中での「化学コア」を可視化するという側面を含む。形成されたナノワイヤーの断面半径は、高分子の分子量・イオン種によるLiner Energy Transfer(LET)に依存して変化するため、ナノワイヤーの断面半径をAFMで定量的に測定し、トレースしていくことによりイオントラック内でのエネルギー付与分布と高分子の架橋効率・分子量との間に相関関係を見いだし、定式化することに成功した。ポリシラン・ポリカルボシラン等の無機骨格を有する高分子は高い効率でSiCへの転換反応を引き起こす事が知られている。イオンビーム照射によりこれらの高分子ナノワイヤーを形成した後、雰囲気制御熱転換反応を行うことにより、無機骨格を有する高分子ナノワイヤーが1000度を超える温度条件において安定に焼成され、セラミクスナノワイヤーへ転化すると同時に、極めて高い耐熱性を有することが確認された。また、これまで行っていた単層膜を用いたナノワイヤー形成から、異種の高分子を組み合わせた多層膜を用いた多段ナノワイヤーの形成に成功すると共に、高分子の組み合わせを生かした溶媒中での自己凝集性という新たな機能を付加することに成功した。さらに、照射量を制御することによって凝集体の形態は大きく変化していくことを明らかにした。イオンビームの物質への照射は、イオントラックと呼ばれる極めて高い活性種濃度の化学反応場を与える。高分子薄膜へイオンビームを照射した際には、飛跡に沿ったイオントラック内でのみ選択的に高分子の架橋反応が引き起こされる。照射後に有機溶媒で現像を行うことによって架橋反応を起こした部位のみを単離することができ、1次元の量子細線(ナノワイヤー)が得られる。イオントラック内でのエネルギー付与分布と、反応機構を解明することを目的とし、照射時に薄膜中で形成される動径方向での活性種濃度分布をナノワイヤーとして原子間力顕微鏡で可視化し定量評価する方法を確立した。この方法を用いて、LET・分子量のナノワイヤー径に及ぼす影響を比較・検討することにより、そのサイズを決定する理論モデルを提案した。
KAKENHI-PROJECT-04J08417
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-04J08417
単一イオンイベントによる高分子ナノ構造体の形成と機能
さらに、ナノワイヤー表面の表面粗さと高分子の形状を比較することにより、ナノワイヤー表面近傍の高分子鎖の形状が、表面の粗さとして反映することを明らかにした。また、デバイス応用などを行う際に重要となるナノワイヤーの空間的な位置を制御することを目的に、基板の表面処理を行うことによりナノワイヤーを選択的に脱着すること、及び、重イオンマイクロビームを用いて基板上に等間隔にナノワイヤーを形成することに成功した。さらには、多層膜を用いることにより、それぞれの高分子セグメントから構成された多段式ナノワイヤ己の形成に成功すると共に、3層膜においては、親水・疎水性を利用した溶媒中での選択的な自己凝集性を見出した。
KAKENHI-PROJECT-04J08417
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ジェミニ型脂質による人工細胞膜モルフォロジー制御
本研究では、アミノ酸残基を含む脂質がスペーサーを介して二分子連結された特徴的なジェミニ型構造を有する人工脂質を用いて、多細胞膜モデルなどの多彩な人工細胞膜モルフォロジーの制御を行うことを目的として研究を推進し、今年度は以下の研究成果を得た。基板上へのベシクルの集積溶液中において、ジェミニ型脂質を含む脂質二分子膜ベシクルの集積挙動を、ジェミニ型脂質のイオン認識挙動により制御できることを見出してきた。この系を基板上に展開し、詳細な検討を行った。具体的には、交互積層法により作製した高分子電解質膜上にジェミニ型脂質を含む平面二分子膜を作製し、この膜上に金属イオン添加をトリガーとしてベシクルを集積した。水晶発振子法および蛍光ラベルしたベシクルが集積した基板の蛍光測定および蛍光顕微鏡観察から、外部刺激をトリガーとして、ベシクルが基板に集積されていることが示された。様々な外部刺激をトリガーとする基板上へのベシクル集積の制御これまでに、様々なジェミニ型脂質を用いることで、異種の金属イオン(銅イオン、カルシウムイオンなど)をトリガーとして溶液中および基板上へのベシクルの集積挙動を制御できることを見出してきた。そこでこの系を用い、異なる種類のイオン認識能を持つジェミニ型脂質を含むベシクルを数種類混合した溶液から、あるイオン種を添加することで、選択的に目的とするベシクルを基板上に集積できる系を構築できることを見出した。脂質膜の相転移がベシクル集積に与える効果脂質集合体としてのベシクルは特徴的な相転移挙動を示すことが知られている。この相転移挙動を利用することで、ジェミニ型脂質へのイオン認識挙動を制御した。さらにこの挙動を利用し、温度によるベシクル集積挙動を制御できることを見出した。本研究では、アミノ酸残基を含む脂質がスペーサーを介して二分子連結された特徴的なジェミニ型構造を有する人工脂質を用いて、多細胞膜モデルなどの多彩な人工細胞膜モルフォロジーの制御を行うことを目的として研究を推進し、今年度は以下の研究成果を得た。1.ジェミニ型ペプチド脂質の開発ペプチド残基としてヒスチジン、アスパラギン酸を有するペプチド脂質2分子を、オリゴエチレンオキシドおよび長鎖アルキル基を介して連結したジェミニ型脂質を合成した。これらのアミノ酸部位は金属イオンの結合サイトを提供し、オリゴエチレンオキシド鎖はアルカリ金属イオンに対するホストとしての擬クラウンエーテルとして機能する。参照化合物としてジェミニ型構造を有しないペプチド脂質の合成も行った。2.外部刺激をトリガーとする人工細胞膜ベシクルの会合制御上述のジェミニ型脂質を、天然由来のリン脂質からなる人工細胞膜ベシクルに導入したハイブリッドベシクルを調製した。このベシクルは銅イオンないしはカルシウムイオンに応答して、そのベシクル間での会合が可逆的に制御されることが示された。ジェミニ構造を有さない参照化合物ではこのような結果は得られないことから、この挙動がジェミニ型の脂質構造に起因しているものであることがわかった。種々の分光測定の結果から、脂質二分子膜間がジェミニ型脂質により架橋されたベシクル間会合が誘起されていることが示唆された。3.固体基板上へのベシクルの集積溶液中におけるベシクル間の会合挙動を基板上に展開した。交互積層法により作成した高分子膜上にジェミニ型脂質を含むリン脂質からなる平面二分子膜を作成し、この膜上に金属イオン添加をトリガーとしてベシクルを集積しうることを見出した。この基板上への、ベシクルの集積挙動は原子間力顕微鏡および水晶発振子法により確認した。本研究では、アミノ酸残基を含む脂質がスペーサーを介して二分子連結された特徴的なジェミニ型構造を有する人工脂質を用いて、多細胞膜モデルなどの多彩な人工細胞膜モルフォロジーの制御を行うことを目的として研究を推進し、今年度は以下の研究成果を得た。基板上へのベシクルの集積溶液中において、ジェミニ型脂質を含む脂質二分子膜ベシクルの集積挙動を、ジェミニ型脂質のイオン認識挙動により制御できることを見出してきた。この系を基板上に展開し、詳細な検討を行った。具体的には、交互積層法により作製した高分子電解質膜上にジェミニ型脂質を含む平面二分子膜を作製し、この膜上に金属イオン添加をトリガーとしてベシクルを集積した。水晶発振子法および蛍光ラベルしたベシクルが集積した基板の蛍光測定および蛍光顕微鏡観察から、外部刺激をトリガーとして、ベシクルが基板に集積されていることが示された。様々な外部刺激をトリガーとする基板上へのベシクル集積の制御これまでに、様々なジェミニ型脂質を用いることで、異種の金属イオン(銅イオン、カルシウムイオンなど)をトリガーとして溶液中および基板上へのベシクルの集積挙動を制御できることを見出してきた。そこでこの系を用い、異なる種類のイオン認識能を持つジェミニ型脂質を含むベシクルを数種類混合した溶液から、あるイオン種を添加することで、選択的に目的とするベシクルを基板上に集積できる系を構築できることを見出した。脂質膜の相転移がベシクル集積に与える効果脂質集合体としてのベシクルは特徴的な相転移挙動を示すことが知られている。この相転移挙動を利用することで、ジェミニ型脂質へのイオン認識挙動を制御した。さらにこの挙動を利用し、温度によるベシクル集積挙動を制御できることを見出した。
KAKENHI-PROJECT-15750145
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代謝調節型グルタミン酸受容体の神経変性防護作用に関する研究
筋萎縮性側索硬化症の病因の一部に興奮性アミノ酸による神経細胞死のメカニズムが関与していることが示唆されているが、グルタミン酸受容体のサブタイプである代謝調節型グルタミン酸受容体を刺激すると神経細胞死が抑制されることが近年示されている。このことをinvivo系で明らかにするために、代謝調節型グルタミン酸受容体アゴニストである(2S,1'R,2'R,3'R)-2-(2,3-dicarboxycyclopropyl)glycine(DCG-IV)を微小浸透圧ポンプを用いて長時間(10時間以上)持続的に脳室内または脊髄くも膜下腔に前投与したあと、カイニン酸、アクロメリン酸をそれぞれ脳室内、脊髄くも膜下腔に投与し、引き起こされる神経細胞死に対するDCG-IVの防護作用を検討した。DCG-IVの前処理により、これらの興奮性アミノ酸による行動変化・神経病理学的変化が用量依存性に著明に軽減した(最大効果は8-27pmol/hで投与したときに得られた)。DCG-IVの前処理のみでは脳室投与では800pmol/h以下、脊髄くも膜下腔投与では80pmol/h以下の投与量ではラットには行動・病理変化はみられなかった。このin vivo実験の結果は、イオンチャネル型グルタミン酸受容体サブタイプの活性化が興奮性アミノ酸の神経興奮作用・神経毒性と関係するのに対し、ある種の代謝調節型受容体サブタイプの活性化は、神経興奮抑制及び神経防護に関与し、神経細胞死の予防・治療が期待できることを示している。代謝調節型グルタミン酸受容体アゴニストは、興奮性アミノ酸の神経毒性を抑える可能性があり、筋萎縮性側索硬化症の治療法の開発の上で検討に値する。筋萎縮性側索硬化症の病因の一部に興奮性アミノ酸による神経細胞死のメカニズムが関与していることが示唆されているが、グルタミン酸受容体のサブタイプである代謝調節型グルタミン酸受容体を刺激すると神経細胞死が抑制されることが近年示されている。このことをinvivo系で明らかにするために、代謝調節型グルタミン酸受容体アゴニストである(2S,1'R,2'R,3'R)-2-(2,3-dicarboxycyclopropyl)glycine(DCG-IV)を微小浸透圧ポンプを用いて長時間(10時間以上)持続的に脳室内または脊髄くも膜下腔に前投与したあと、カイニン酸、アクロメリン酸をそれぞれ脳室内、脊髄くも膜下腔に投与し、引き起こされる神経細胞死に対するDCG-IVの防護作用を検討した。DCG-IVの前処理により、これらの興奮性アミノ酸による行動変化・神経病理学的変化が用量依存性に著明に軽減した(最大効果は8-27pmol/hで投与したときに得られた)。DCG-IVの前処理のみでは脳室投与では800pmol/h以下、脊髄くも膜下腔投与では80pmol/h以下の投与量ではラットには行動・病理変化はみられなかった。このin vivo実験の結果は、イオンチャネル型グルタミン酸受容体サブタイプの活性化が興奮性アミノ酸の神経興奮作用・神経毒性と関係するのに対し、ある種の代謝調節型受容体サブタイプの活性化は、神経興奮抑制及び神経防護に関与し、神経細胞死の予防・治療が期待できることを示している。代謝調節型グルタミン酸受容体アゴニストは、興奮性アミノ酸の神経毒性を抑える可能性があり、筋萎縮性側索硬化症の治療法の開発の上で検討に値する。
KAKENHI-PROJECT-06670643
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-06670643
酵母のDNA複製を調節する核蛋白の精製とその機能解析
酵母のDNA複製を調節する70Kdの核蛋白(p70)に対するモノクロ-ナル抗体を用い、発現ベクタ- λgtllに作成した酵母gene libratyよりこの抗体と反応する融合蛋白を生産するクロ-ンを取得した。さらに遺伝子全体を含むクロ-ンを酵母ゲノムライブラリ-より取得し得られたDNA 5.1KbのDNA塩基配列の決定を行ない、この配列中に4.1KbのORFの存在を見いだした。核酸および蛋白のデ-タベ-スに対しホモロジ-検索を行ない、本遺伝子が新規なものであることを確認した。解析の結果、本遺伝子はN末端近傍約250bp内にp70と同一のエピト-プを持つ130Kdの核蛋白をコ-ドするものであることが明らかになった。本遺伝子の発現は酵母の生育と強く関連しており、また本遺伝子を破壊した株は劣性致死の形質を示したことから、本遺伝子は酵母の生育に必須なものであることを見いだし、この遺伝子をNPSI(nuclear protein of Saccharomyces)と命名した。本遺伝子の破壊株内で遺伝子をGALIプロモ-タ-の支配下に発現させて生育させたのち、グルコ-スを含む培地に移して遺伝子の発現を停止させると細胞は核が一つで大きな芽を持った形態に揃って生育を停止した。このことから本遺伝子は細胞周期のS期またはM期の調節に関わるものであることが明らかになった。また本遺伝子の破壊をホモに持つ二倍体の条件致死株を作成し、NPS1遺伝子の胞子形成過程における作用の有無を調査した結果、NPS1は胞子形成にも必須であることを明らかにし、その作用時期は減数分裂前DNA複製期の当たりであることを示す結果を得た。さらにnps1蛋白にはDNA結合活性、蛋白リン酸化酵素活性があることを生化学的に明らかにした。以上の結果により、NPS1はDNA結合能、蛋白リン酸素酵化活性を持ち、酵母の生育・胞子形成に必須な核蛋白をコ-ドする新しい細胞周期調節伝遺子であることを明らかにできた。酵母のDNA複製を調節する70Kdの核蛋白(p70)に対するモノクロ-ナル抗体を用い、発現ベクタ- λgtllに作成した酵母gene libratyよりこの抗体と反応する融合蛋白を生産するクロ-ンを取得した。さらに遺伝子全体を含むクロ-ンを酵母ゲノムライブラリ-より取得し得られたDNA 5.1KbのDNA塩基配列の決定を行ない、この配列中に4.1KbのORFの存在を見いだした。核酸および蛋白のデ-タベ-スに対しホモロジ-検索を行ない、本遺伝子が新規なものであることを確認した。解析の結果、本遺伝子はN末端近傍約250bp内にp70と同一のエピト-プを持つ130Kdの核蛋白をコ-ドするものであることが明らかになった。本遺伝子の発現は酵母の生育と強く関連しており、また本遺伝子を破壊した株は劣性致死の形質を示したことから、本遺伝子は酵母の生育に必須なものであることを見いだし、この遺伝子をNPSI(nuclear protein of Saccharomyces)と命名した。本遺伝子の破壊株内で遺伝子をGALIプロモ-タ-の支配下に発現させて生育させたのち、グルコ-スを含む培地に移して遺伝子の発現を停止させると細胞は核が一つで大きな芽を持った形態に揃って生育を停止した。このことから本遺伝子は細胞周期のS期またはM期の調節に関わるものであることが明らかになった。また本遺伝子の破壊をホモに持つ二倍体の条件致死株を作成し、NPS1遺伝子の胞子形成過程における作用の有無を調査した結果、NPS1は胞子形成にも必須であることを明らかにし、その作用時期は減数分裂前DNA複製期の当たりであることを示す結果を得た。さらにnps1蛋白にはDNA結合活性、蛋白リン酸化酵素活性があることを生化学的に明らかにした。以上の結果により、NPS1はDNA結合能、蛋白リン酸素酵化活性を持ち、酵母の生育・胞子形成に必須な核蛋白をコ-ドする新しい細胞周期調節伝遺子であることを明らかにできた。酵母のDNA複製を調節する70kdの核蛋白(p70)に対するモノクロ-ナル抗体を用い、発現ベクタ-λgt11に作成した酵母gene libraryよりこの抗体と反応する融合蛋白を生産するクロ-ンを取得した。このクロ-ンに挿入されたDNAが酵母ゲノム由来であることを確認し、さらに遺伝子全体を含むクロ-ンを取得した。得られたDNA5.1kbのDNAが塩基配列の決定を行ない、この配列中に4.1kbのORFの存在を見いだした。核酸および蛋白のデ-タベ-スに対しホモロジ-検索を行ない、本遺伝子が新規なものであることを確認した。解析の結果、本遺伝子はN末端近傍約250bp内にp70と同一のエピト-プを持つ130kdの核蛋白をコ-ドするものであることを明らかにした。本遺伝子の発現は酵母の生育と強く関連しており、また本遺伝子を破壊した株は劣性致死の形質を示したことから、本遺伝子は酵母の生育に必須なものであることを見いだした。本遺伝子の破壊株内で遺伝子をGAL1プロモ-タ-の支配下に発現させて生育させたのち、グルコ-スを含む培地に移して遺伝子の発現を停止させると細胞は核が一つで大きな芽を持った形態に揃って生育を停止した。このことから本遺伝子は細胞周期のS期またはM期の調節に関わるものであることが明らかになった。そこでこの遺伝子の産物に対して調製した抗体を酵母の核抽出液を用いたin vitro
KAKENHI-PROJECT-01560125
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-01560125
酵母のDNA複製を調節する核蛋白の精製とその機能解析
DNA複製系に作用させたところ、dose dependentな活性の阻害が認められた。以上の結果により、本遺伝子は酵母のDNA複製に関わる新しい細胞周期調節遺伝子であることを明らかにできた。昨年度、本研究補助金を受けて研究を行ない、酵母の新しい細胞周期調節遺伝子NPS1(nuclear protein of Saccharomyces)のクロ-ニングに成功した。今年度はこの遺伝子の酵母の生育における機能、ならびに本遺伝子産物の生化学的活性の解析を行ない、以下の事を明らかにした。1)NPS1は酵母の生育に必須でその破壊は細胞に劣性致死の形質を与える。今回、本遺伝子の破壊をホモに持つ二倍体の条件致死株を作成し、NPS1遺伝子の胞子形成過程における作用の有無を調査した。この結果、NPS1は胞子形成にも必須であることを明らかにし、またその作用時期は減数分裂前DNA複製期の当たりであることを示す結果を得た。2)nps1蛋白に対する抗体を調製し、間接蛍光抗体法によって細胞の抗体染色を行ない、nps1蛋白が酵母の核にのみ局在していることを明らかにした。また同様に、細胞の各オルガネラを単離しその蛋白を電気泳動で分離後ウエスタンブロット解析でnps1蛋白の検出を行なった結果、この蛋白が核内のクロマチンまたは核骨格蛋白に結合した状態で存在する事を明らかにした。3)NPS1の推定アミノ酸配列中にヒストンH1とホモロジ-のある部分、および蛋白リン酸化酵素の活性領域との類似部位が存在した。そこでNPS1遺伝子を高発現させた酵母より、nps1の部分精製標品を調製し、これについてDNA結合活性、および蛋白リン酸化酵素活性の同定を行なった。この結果、本蛋白にはこの両方の活性が存在する事を明らかにした。
KAKENHI-PROJECT-01560125
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日本語教育中・上級教材開発のための動詞結合価辞典作成に関する研究
1.用例集の作成:本研究の目的は、日本語動詞の結合価を分析記述するための動詞の用例をテキストファイルに蓄え、さまざまな動詞についてその用例文を自由に検索し画面ないしはプリンタ-に出力できるような一種のデ-タベ-スを作成することにある。本研究では、比較的堅い文章からなるテキストとして月刊雑誌を用いた。文法的な分析のためには、1文を越えた大きなかたまりを1単位とした用例が必要であり、ランダムに選んだペ-ジに含まれる文章の各段落を一区切りとしたかたまりを用例文としてデ-タベ-ス上の1レコ-ドとした。さらに、これらの用例文に含まれるすべての動詞を取り出し検索のためのキ-ワ-ドとするためにレコ-ド内に付加情報として蓄えた。2.成果の利用:テキストファイルはMS-DOSのしたで動くファイルとした。本研究で扱う用例はレコ-ド長がひじょうに長く、また、可変長であるため、このようなレコ-ドを扱えるプログラム言語としてPROLOGを用いた。本研究の成果としては、検索用、プリントアウト用のプログラムを付しフロッピィディスクを媒体として大方の利用に供せられる形とした。この資料の利用者は、それぞれの目的に応じてPROLOGを用いて自由に加工し用いることができる。1.用例集の作成:本研究の目的は、日本語動詞の結合価を分析記述するための動詞の用例をテキストファイルに蓄え、さまざまな動詞についてその用例文を自由に検索し画面ないしはプリンタ-に出力できるような一種のデ-タベ-スを作成することにある。本研究では、比較的堅い文章からなるテキストとして月刊雑誌を用いた。文法的な分析のためには、1文を越えた大きなかたまりを1単位とした用例が必要であり、ランダムに選んだペ-ジに含まれる文章の各段落を一区切りとしたかたまりを用例文としてデ-タベ-ス上の1レコ-ドとした。さらに、これらの用例文に含まれるすべての動詞を取り出し検索のためのキ-ワ-ドとするためにレコ-ド内に付加情報として蓄えた。2.成果の利用:テキストファイルはMS-DOSのしたで動くファイルとした。本研究で扱う用例はレコ-ド長がひじょうに長く、また、可変長であるため、このようなレコ-ドを扱えるプログラム言語としてPROLOGを用いた。本研究の成果としては、検索用、プリントアウト用のプログラムを付しフロッピィディスクを媒体として大方の利用に供せられる形とした。この資料の利用者は、それぞれの目的に応じてPROLOGを用いて自由に加工し用いることができる。1)データ作成作業動詞結合価を分析するための資料として、長い文脈を持った用例を採集する作業を行った。2)データ入力作業用例集をコンピュータリーダブルなものとするために、パーソナルコンピュータ(NECPC980IUX)を用いてコンピュータファイルに入力する作業を行った。用いる言語はPrologとし、スクリンエディタC-writerを用いて元資料を入力した。3)データ分析2)で入力した資料を分析し、それぞれの動詞についてその結合価を決定する作業を始めた。それぞれの動詞について、その結合価及び用例はPrologを用いたプログラム上でデータベース作する予定である。4)データベース化プログラムの検討プログラミング言語Prologを用いてデータベース化する方法について検討をした。おおよその方針は得られたので、次年度に完成させる予定である。1.資料の蓄積:前年度に引き続き、用例の採集・コンピュ-タファイルへの入力作業を行った。比較的堅い文章で書かれているとおもわれる月刊雑誌から用例を採集した。1冊の雑誌につきランダムに頁を選び、それぞれの段落の全文を1単位とする用例文を取り出し、それぞれを1レコ-ドとするかたちでデ-タファイルを作成した。2.コンピュ-タ処理1)プログラム言語文法分析のための用例集を作ることが目的であるため、一つ一つのテキストがかなりの長さになり、256バイト以上の長さのストリング処理のできる言語ということでPrologを処理用の言語として採用した2)デ-タファイルの作成デ-タファイル作成のためのテキストエデイタとしてC-Writerを用い、Prologで処理のできるかたちのデ-タとして蓄え、さらに検索用の付加情報を付した3)処理用プログラム検索用・出力用のプログラムを作成して蓄積した。これらデ-タファイルと処理用のプログラムとを一体とし、フロッピディスクを媒体として大方の利用に供せられるかたちとした。
KAKENHI-PROJECT-63450056
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-63450056
未知の気道拡張性神経活性物質の検出および同定・合成に関する研究
1.ネコにおいて左右肺を別々に換気し,一方の肺をTyrode液で満し,迷走神紀を頚部にて電気刺激を行うと,気管支振張性の物質が得られるが,摘出気管支平清筋,胃底部手清筋,回腸の下清筋(いずれもモルモット)の反応からみて,VIP(Vasoactive Intestinal Polypeptide)とは異なった変化を示した.2.非アドレナリン作動性抑制神経は,上部気管支を物理的に刺激することにより反射性に興奮することが知られていたが,これは気管支のCー線維経末が刺激を受けたためと考えられた.3.健常者においても,カプサイシンを吸入させると,アトロピンの存在下では,非アドレナリン作動性抑制神経が刺激され,反射性に気管支拡張を生じることが認められた.4.非アドレナリン作動性抑制神経の知覚受容体は,Cー線維受容体ばかりでなく,刺激受容体もその役用を有していることが解明された.5.非アドレナリン作動性抑制神経は,即時裂アレルギー反応による気道収縮を抑制するのみならず,抗原抗体相応時のヒスタシン遊〓ヒ抑制することが示された.このことは,非アドレナリン作動性抑制神経が,肺内の炎症の制御にまでかかわっていることを示唆している.1.in vivoにおける非アドレナリン作動性抑制神経(NAIS)の機能に関する検討(麻酔人工換気下の猫を使用):1).NAISの気管支拡張作用は、交感神経のものに比べはるかに持続する。2).NAISと交感神経とは同時に刺激した場合には、収縮気道に対し相乗的拡張効果を示す。3).微小攷電管を用いた拡大ブロンコグラムの検討によれば、NAISは主に内径1-4mmの気道,つまり中等度の太さの気道を強く拡張する。4).1側のNAISは、頚部以下の神経の交叉により、弱いながら対側肺も支配している。5)NAISの肺内知覚受容体は、C-fiber受容体とirritant受容体の2種であり、これらはNAISと拡張性の反射弓を形成している。6)ヒト健常肺でも、カプサイシン吸入によるC-fiber受容体の刺激により、アトロピン下に気管支の反射性拡張が認められる。7).SPおよびPAF,気道炎症時のNAISの機能低下を検討中。2.灌流肺におけるNAIS神経伝達物質の検討:1).ネコ肺を神経束をつけたまま室温にて灌流する。セロトニンにより気道を収縮させておき、アトロピン下に頚部迷走神経を刺激すると気道は拡張する。しかし、数度の繰返し拡張は困難である。一方、交感神経による繰返しは可能である。この差は神経伝達物質の再吸収の差によると考えられる。2).どのような条件で灌流を行えば(ペリスタポンプ)刺激による繰返し灌流平滑筋の拡張が可能かを、現在、温度,pH,【O_2】供給,灌流液などの面から検討を加え、灌流モデルを確立中である。(張力計のマニプュレーターによる調節と動ひずみ測定器を用い、灌流法による拡張効果を検討中。気道平滑筋の切り出しに照明装置と実体顕微鏡を使用)1.ネコにおいて左右肺を別々に換気し,一方の肺をTyrode液で満し,迷走神紀を頚部にて電気刺激を行うと,気管支振張性の物質が得られるが,摘出気管支平清筋,胃底部手清筋,回腸の下清筋(いずれもモルモット)の反応からみて,VIP(Vasoactive Intestinal Polypeptide)とは異なった変化を示した.2.非アドレナリン作動性抑制神経は,上部気管支を物理的に刺激することにより反射性に興奮することが知られていたが,これは気管支のCー線維経末が刺激を受けたためと考えられた.3.健常者においても,カプサイシンを吸入させると,アトロピンの存在下では,非アドレナリン作動性抑制神経が刺激され,反射性に気管支拡張を生じることが認められた.4.非アドレナリン作動性抑制神経の知覚受容体は,Cー線維受容体ばかりでなく,刺激受容体もその役用を有していることが解明された.5.非アドレナリン作動性抑制神経は,即時裂アレルギー反応による気道収縮を抑制するのみならず,抗原抗体相応時のヒスタシン遊〓ヒ抑制することが示された.このことは,非アドレナリン作動性抑制神経が,肺内の炎症の制御にまでかかわっていることを示唆している.
KAKENHI-PROJECT-61480193
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-61480193
都市再生および再編におけるエスニック・グループの社会統合に関する調査分析
エラー!本研究は、日本における在日外国人にも対応した社会基盤や都市整備の為の基礎データの構築を目的として国内外の調査分析を行った。2006年度にロンドンのエスニックグループが居住する地区の商店街(7地区)、2007年度に、前年度のロンドンと比較分析を行うために、オーストラリア・シドニー(6地区)、メルボルン(6地区)にて調査を行った。現地調査においては、店舗配置に加えて、業種分類と共に地域のエスニックグループの特徴を示す商品を扱っているか否か、商店街へのアクセスといった観点から行い、人口構成・店舗の業種分類や業種部類別に可変半径法による連結度による配置特性を整理し、エスニックグループ毎の商店街の構成を整理・分析を行った。その結果、(1)対象地域内の特定のエスニックグループが多く住む地域内にある中心的な商店街の詳細なデータが得られたこと、(2)異なるエスニックグループと同一エスニックグループ内で複数箇所調査した結果、1)エスニックグループ毎に生活・習慣に根ざした連結度の高い業種を持つこと、2)同業種の個人商店が近接多数共存していること、3)商店街の活気を生み出す要素のひとつとしてロンドンでは屋台、オーストラリアでは駐車場が利用されていること、4)オープンスペースへの利用を促す工夫がなされていること、がわかった。上記の得られた結果は、日本における在日外国人に対応した社会基盤や都市整備の基礎データになるだけでなく、シャッター商店街等の再生へ応用可能なアイディアを示していると考えている。エラー!本研究は、日本における在日外国人にも対応した社会基盤や都市整備の為の基礎データの構築を目的として国内外の調査分析を行った。2006年度にロンドンのエスニックグループが居住する地区の商店街(7地区)、2007年度に、前年度のロンドンと比較分析を行うために、オーストラリア・シドニー(6地区)、メルボルン(6地区)にて調査を行った。現地調査においては、店舗配置に加えて、業種分類と共に地域のエスニックグループの特徴を示す商品を扱っているか否か、商店街へのアクセスといった観点から行い、人口構成・店舗の業種分類や業種部類別に可変半径法による連結度による配置特性を整理し、エスニックグループ毎の商店街の構成を整理・分析を行った。その結果、(1)対象地域内の特定のエスニックグループが多く住む地域内にある中心的な商店街の詳細なデータが得られたこと、(2)異なるエスニックグループと同一エスニックグループ内で複数箇所調査した結果、1)エスニックグループ毎に生活・習慣に根ざした連結度の高い業種を持つこと、2)同業種の個人商店が近接多数共存していること、3)商店街の活気を生み出す要素のひとつとしてロンドンでは屋台、オーストラリアでは駐車場が利用されていること、4)オープンスペースへの利用を促す工夫がなされていること、がわかった。上記の得られた結果は、日本における在日外国人に対応した社会基盤や都市整備の基礎データになるだけでなく、シャッター商店街等の再生へ応用可能なアイディアを示していると考えている。平成18年度においては、日本における在日外国人にも対応した社会基盤や都市整備の為の基礎データの構築を目的として国内外の調査分析を行った。国内においては、在日南米人のコミュニティ(静岡県浜松市や長野県松本市の周辺地域を中心に、ブラジル系スーパーにおいて対面式アンケートを行い、その調査データを整理して、生活・行動圏の実体把握を行った。海外においては、国内の調査との比較や、イギリス統計局によるロンドンの人口データの上位にあるエスニックグループが居住する地区の商店街(8地区)を選定し調査を行った。現地調査においては、店舗配置に加えて、業種分類と共に地域のエスニックグループの特徴を示す商品を扱っているか否か、商店街へのアクセスといった観点から行い、人口構成・店舗の業種分類や業種部類別に可変半径法による連結度による配置特性を整理し、エスニックグループ毎の商店街の構成を整理・分析を行った。その結果、(1)ロンドン内の特定のエスニックグループが多く住む地域内にある中心的な商店街の詳細なデータが得られたこと、(2)異なるエスニックグループと同一エスニックグループ内で複数箇所調査した結果、1)エスニックグループ毎に生活・習慣に根ざした連結度の高い業種を持つこと、2)同業種の個人商店が近接多数共存していること注4、3)商店街の活気を生み出すものとして屋台があり、屋台の出店管理を各boroughが行っている。注5その結果、各boroughがborough内のオープンスペース(例.車道の両側、ポケットパークなど)を把握し、それを有効活用して収入を得ていることがわかった。上記の得られた結果は、日本における在日外国人に対応した社会基盤や都市整備の基礎データになるだけでなく、シャッター商店街等の再生へ応用可能なアイディアを示していると考えている。平成19年度においては、日本における在日外国人にも対応した社会基盤や都市整備の為の基礎データの構築を目的として国内外の調査分析を行った。国内においては、韓国人街商店街として認知されている新宿区大久保を対象として、平成18年度のロンドン調査と同様の手法を用いて商店街の実体把握を行った。海外においては、国内の調査や前年度のロンドンのエスニックグループが居住する地区の商店街(8地区)都の比較を行うために、オーストラリア・シドニー(6地区)、メルボルン(6地区)にて調査を行った。現地調査においては、店舗配置に加えて、業種分類と共に地域のエスニックグループの特徴を示す商品を扱っているか否か、商店街へのアクセスといった観点から行い、人口構成・店舗の業種分類や業種部類別に可変半径法による連結度による配置特性を整理し、エスニックグループ毎の商店街の構成を整理・分析を行った。
KAKENHI-PROJECT-18560613
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18560613
都市再生および再編におけるエスニック・グループの社会統合に関する調査分析
その結果、(1)対象地域内の特定のエスニックグループが多く住む地域内にある中心的な商店街の詳細なデータが得られたこと、(2)異なるエスニックグループと同一エスニックグループ内で複数箇所調査した結果、1)エスニックグループ毎に生活・習慣に根ざした連結度の高い業種を持つこと、2)同業種の個人商店が近接多数共存していること、3)商店街の活気を生み出す要素のひとつとしてオーストラリアでは駐車場が利用されていること、がわかった。上記の得られた結果は、日本における在日外国人に対応した社会基盤や都市整備の基礎データになるだけでなく、シャッター商店街等の再生へ応用可能なアイディアを示していると考えている。
KAKENHI-PROJECT-18560613
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18560613
生体応用を志向した細胞膜高透過性ヘリカルペプチドの開発
従来の小分子を基盤にした創薬では治療することが困難な難治性疾患が数多く存在している。その中でRNA干渉を誘導するsiRNAなどを利用した遺伝子治療が注目を集めている。しかし、核酸などの生体高分子は細胞膜を透過することができず、その治療効果を十分に発揮することはできない。オリゴアルギニン(Rn)に代表される膜透過性ペプチド(CPPs)は生体高分子などの親水性分子を細胞内に導入するキャリア分子として注目を集めている。しかし、生体内安定性や細胞選択性に乏しいなど生体応用を目指した場合、多くの問題点が残されている。本研究では、ペプチドの二次構造制御を基盤とした細胞膜高透過性ペプチドの開発を行う。その中で、オリゴアルギニンに対しヘリカルテンプレートペプチドをコンジュゲートすることで、細胞膜透過性を飛躍的に向上させることを見出した。さらに、ヘリカルテンプレート構造に対し、post-midificationを行うための足場としてアジド基を導入したペプチドをデザイン・合成した。合成したペプチドは、CDスペクトルを用いることで二次構造解析を行い、安定なヘリカル構造を形成していることを見出した。また、HeLa細胞やMCF-7細胞に対する細胞膜透過性をフローサイトメトリーにより評価した。これらのさらなる応用研究として、水溶性生体高分子である核酸の細胞内デリバリーを検討し、効率的に各種核酸のデリバリーに成功した。細胞膜透過性ペプチドの二次構造制御を目的として、a,a-ジ置換アミノ酸を導入したヘリカルテンプレートペプチドのデザイン・合成をおこない、高い細胞膜透過性を示すペプチドの合成に成功した。また、テンプレートペプチドにpost-modification可能なアジド基を導入した新たなテンプレート細胞膜透過性ペプチドの開発を行なった。合成したペプチドの二次構造解析や細胞膜透過性評価を行い、研究計画の記載事項に沿う、新規細胞膜透過性ペプチドの創製に成功している。以上のことから、研究は順調に進展していると考えている。従来のCPPsは生体内安定性が乏しく、その実用化は困難であった。そこで、本研究ではアジド基を持つヘリカルプロモータ配列を足場として様々な官能基修飾を行うことで高い膜透過能を維持したまま生体内安定性の向上あるいは細胞選択性を付与することを目指す。まず、これまでに合成した膜透過ペプチドのヘリカルプロモータ配列上アジド基に対し、クリック反応を用いてPEG基を導入し、二次構造および膜透過能への影響を検討する。ヘリカル構造及び膜透過能を維持したペプチドに対し、トリプシンなどのペプチダーゼで処理後、HPLCを用いて半減期を算出することで安定性を評価する予定である。PEG基は血中滞留性を向上させる一方で、細胞内導入後の動態に不利に働くことが知られている。そこで、細胞内導入後にPEG基の脱離が好ましいが、クリック反応は不可逆的でありPEG基の脱離は困難である。このような場合に細胞内導入後の切断を目的として、光分解による脱離を考案しmAzNBLをデザイン・合成する。o-Nitrobenzyl基は光によって分解する保護基として利用されており、この性質を応用することでmAzNBLは細胞内に導入後光照射によってリジン残基に変換できると考えている従来の小分子を基盤にした創薬では治療することが困難な難治性疾患が数多く存在している。その中でRNA干渉を誘導するsiRNAなどを利用した遺伝子治療が注目を集めている。しかし、核酸などの生体高分子は細胞膜を透過することができず、その治療効果を十分に発揮することはできない。オリゴアルギニン(Rn)に代表される膜透過性ペプチド(CPPs)は生体高分子などの親水性分子を細胞内に導入するキャリア分子として注目を集めている。しかし、生体内安定性や細胞選択性に乏しいなど生体応用を目指した場合、多くの問題点が残されている。本研究では、ペプチドの二次構造制御を基盤とした細胞膜高透過性ペプチドの開発を行う。その中で、オリゴアルギニンに対しヘリカルテンプレートペプチドをコンジュゲートすることで、細胞膜透過性を飛躍的に向上させることを見出した。さらに、ヘリカルテンプレート構造に対し、post-midificationを行うための足場としてアジド基を導入したペプチドをデザイン・合成した。合成したペプチドは、CDスペクトルを用いることで二次構造解析を行い、安定なヘリカル構造を形成していることを見出した。また、HeLa細胞やMCF-7細胞に対する細胞膜透過性をフローサイトメトリーにより評価した。これらのさらなる応用研究として、水溶性生体高分子である核酸の細胞内デリバリーを検討し、効率的に各種核酸のデリバリーに成功した。細胞膜透過性ペプチドの二次構造制御を目的として、a,a-ジ置換アミノ酸を導入したヘリカルテンプレートペプチドのデザイン・合成をおこない、高い細胞膜透過性を示すペプチドの合成に成功した。また、テンプレートペプチドにpost-modification可能なアジド基を導入した新たなテンプレート細胞膜透過性ペプチドの開発を行なった。合成したペプチドの二次構造解析や細胞膜透過性評価を行い、研究計画の記載事項に沿う、新規細胞膜透過性ペプチドの創製に成功している。以上のことから、研究は順調に進展していると考えている。従来のCPPsは生体内安定性が乏しく、その実用化は困難であった。そこで、本研究ではアジド基を持つヘリカルプロモータ配列を足場として様々な官能基修飾を行うことで高い膜透過能を維持したまま生体内安定性の向上あるいは細胞選択性を付与することを目指す。まず、これまでに合成した膜透過ペプチドのヘリカルプロモータ
KAKENHI-PROJECT-18K14880
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K14880
生体応用を志向した細胞膜高透過性ヘリカルペプチドの開発
配列上アジド基に対し、クリック反応を用いてPEG基を導入し、二次構造および膜透過能への影響を検討する。ヘリカル構造及び膜透過能を維持したペプチドに対し、トリプシンなどのペプチダーゼで処理後、HPLCを用いて半減期を算出することで安定性を評価する予定である。PEG基は血中滞留性を向上させる一方で、細胞内導入後の動態に不利に働くことが知られている。そこで、細胞内導入後にPEG基の脱離が好ましいが、クリック反応は不可逆的でありPEG基の脱離は困難である。このような場合に細胞内導入後の切断を目的として、光分解による脱離を考案しmAzNBLをデザイン・合成する。o-Nitrobenzyl基は光によって分解する保護基として利用されており、この性質を応用することでmAzNBLは細胞内に導入後光照射によってリジン残基に変換できると考えている本年度は、ペプチド合成を行うための試薬や、縮合剤、溶媒等の消耗品に充てる予定であったが、これまでの試薬残分によって、予定よりも試薬購入が抑えられた。また、合成した合成が順調に進展したため、合成に関する消耗品購入が抑えられたと考えている、これらの差額分に関しては、今後のpost-modificatuionの試行例を増やすため、あるいは細胞系をしようした高次活性評価系の構築に充当される予定である。
KAKENHI-PROJECT-18K14880
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K14880
Central commandsが運動時の体温調節反応に及ぼす影響
体温調節反応には深部体温や皮膚温などの温熱性要因の入力が大きく影響しているが,運動開始時や運動強度が急変するよう状況ではこれらの要因の変化が遅れ,この場合にはそれ以外の要因(非温熱性要因:central commands,筋からの求心性入力等)が重要となる可能性が考えられる.非温熱性要因としてのcentral commandsが運動時の体温調節反応にどのような影響を及ぼしているのかを検討した.平成9年度の結果から,発汗反応に及ぼす影響はcentral commandsが約65%,それ以外の要因(筋の機械的受容器など)が約35%であることが明らかとなった.本年度はcentral commandsなどの非温熱性要因による熱放散反応が深部体温などの温熱性要因のレベルの違いによってどのように影響されるのかを検討した.健康な男子学生に対して,water-perfused suit(皮膚温38°C以上)あるいは下肢温浴を用いて,体温調節パラメータ(発汗量や皮膚血流量)が変化し始めた時とそれらが一定になった時に,受動的自転車運動と無負荷の能動的自転車運動をそれぞれ2分間実施した(回転数60rpm).また,同様に最大随意的筋収縮の45-50%でアイソメトリックハンドグリップ運動を1分間実施した.いずれの条件の運動においても非温熱性要因による発汗と皮膚血流反応は温熱性要因のレベルが低い状況では大きくなった.このことからcentral commandsなどの非温熱性要因が熱放散反応に及ぼす影響は体温調節系が駆動し始めた時に大きくなることが推察された.平成9年度と10年度の研究より,運動時における人の熱放散反応は非温熱性要因としてのcentral commandsに影響され,非温熱性要因の影響は熱放散反応が駆動し始めた時に大きくなることが明らかとなった.このことから,非温熱性要因の役割として,深部体温などが変化する前に熱放散反応を引き起こす補助的な働きを有していることが考えられた.体温調節反応には深部体温や皮膚温などが大きく影響しているが、運動開始時などではこれら以外の要因(非温熱性要因:central commands、筋からの求心性入力等)が重要となる.本研究では非温熱性要因としてのcentral commandsが運動時の体温調節反応にどのように影響しているかを検討した.男子学生7名(年齢19±1才、身長170.9±1.9cmおよび体重63.2±1.5kg)に対して、water-perfusedsuitで皮膚温を37°C以上に保ち、体温調節パラメータ(食道温、皮膚温および発汗量)が一定になった後、受動的自転車運動と無負荷の能動的自転車運動をそれぞれ2分間実施した(回転数60rpm).測定項目は心拍数、酸素摂取量、食道温、平均皮膚温、局所発汗量(胸部)および筋電図であった。受動的運動と能動的運動を比較すると、後者の方の発汗量が有意に多かった(P<0.05).また、受動的運動においても運動開始前と比較すると、少ない量ではあるが発汗量が有意に増加した(P<0.05).両運動中において食道温と皮膚温には顕著な変化は認められなかった.また、心拍数あるいはcentral commandsの大きさの程度を反映する自覚的運動強度も能動的運動の方が有意に高かった.これらのことから、運動時の発汗反応を大きく引き起こす要因として、centralcommandsが重要であることが推察された.下記の式よりそれぞれ影響する要因の割合を算出すると、発汗反応に及ぼす影響はcentral commandsが約65%で、それ以外の要因(筋の機械的受容器など)が約35%であった.筋からの求心性入力の割合=(受動的運動での変化/能動的運動での変化)×100%central commandsの割合=100%-筋からの求心性入力の割合体温調節反応には深部体温や皮膚温などの温熱性要因の入力が大きく影響しているが,運動開始時や運動強度が急変するよう状況ではこれらの要因の変化が遅れ,この場合にはそれ以外の要因(非温熱性要因:central commands,筋からの求心性入力等)が重要となる可能性が考えられる.非温熱性要因としてのcentral commandsが運動時の体温調節反応にどのような影響を及ぼしているのかを検討した.平成9年度の結果から,発汗反応に及ぼす影響はcentral commandsが約65%,それ以外の要因(筋の機械的受容器など)が約35%であることが明らかとなった.本年度はcentral commandsなどの非温熱性要因による熱放散反応が深部体温などの温熱性要因のレベルの違いによってどのように影響されるのかを検討した.健康な男子学生に対して,water-perfused suit(皮膚温38°C以上)あるいは下肢温浴を用いて,体温調節パラメータ(発汗量や皮膚血流量)が変化し始めた時とそれらが一定になった時に,受動的自転車運動と無負荷の能動的自転車運動をそれぞれ2分間実施した(回転数60rpm).また,同様に最大随意的筋収縮の45-50%でアイソメトリックハンドグリップ運動を1分間実施した.いずれの条件の運動においても非温熱性要因による発汗と皮膚血流反応は温熱性要因のレベルが低い状況では大きくなった.このことからcentral commandsなどの非温熱性要因が熱放散反応に及ぼす影響は体温調節系が駆動し始めた時に大きくなることが推察された.平成9年度と10年度の研究より,運動時における人の熱放散反応は非温熱性要因としてのcentral commandsに影響され,非温熱性要因の影響は熱放散反応が駆動し始めた時に大きくなることが明らかとなった.
KAKENHI-PROJECT-09780062
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-09780062
Central commandsが運動時の体温調節反応に及ぼす影響
このことから,非温熱性要因の役割として,深部体温などが変化する前に熱放散反応を引き起こす補助的な働きを有していることが考えられた.
KAKENHI-PROJECT-09780062
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連続繊維補強材を用いたコンクリート構造物のリハビリテーション
本研究課題は,各種材料を用いたコンクリート構造物の耐久性について,破壊あるいは非破壊試験を用いて検討するとともに,コンクリート構造物のリハビリテーションに関して補修・補強効果および耐久性能についての知見を得ることを目的としたものである。本年度は,前年度から劣化環境下に供してきたコンクリート供試体について,継続的なモニタリング,分析,破壊試験あるいは非破壊試験を行った。また,荷重あるいは環境作用により性能低下を生じたコンクリート構造物へのリハビリテーションの適用性を検討した。以下に,本年度の範囲内で得られた主な結果を示す.1.高炉スラグ,シリカフュームおよびフライアッシュ混入のコンクリートにおける塩化物イオンの透過遮断性は,普通コンクリートに比べて大きい。また,かぶり20-30mmにおける塩化物イオン量は,鋼材の腐食限界塩化物イオン量に比べてきわめて小さくなった。したがって,混和材混入コンクリートにおいては,同一の耐久性を得る条件下では,普通コンクリートに比べてかぶりを小さくできる可能性がある。2.種々の養生条件下におけるコンクリートの力学的性能および耐久性能を明らかにするために,コンクリートの微視的構造に基づいた考察を行った。不適切な養生は,コンクリートの細孔量および細孔径分布に変化をもたらし,結果として,力学的性能や塩害,中性化などの耐久性能を低下させる。3.電気化学的手法を用いたコンクリート構造物のリハビリテーションでは,コンクリートの種類によってそれ自体の電気化学的特性が異なるため,それぞれに対して補修効果の検討が必要である。種々の混和材を用いたコンクリートに対して通電実験を行い,コンクリート中の鋼材に対する補修効果と通電後の耐久性を確認した。4.超音波パルス伝播速度は,連続繊維補強材層の材料の組み合わせによって差が生じた。また,環境作用を受けて劣化した供試体においては,いずれの材料においても超音波パルス伝播速度の低下が見られ,補強層の環境劣化による弾性率の低下を表していると考えられる。化学的侵食あるいは物理的劣化に対するセメント系コンクリート材料の耐久性は、材料の機械的性質だけでなく、化学的特性および微視的構造特性、特に硬化コンクリートの細孔構造ときわめて重要な関係にある。また、このような化学的侵食あるいは物理的劣化に対して適用される補修・補強を含むリハビリテーションについては、その効果の耐久性を検討しておく必要がある。本研究では、セメントに混和使用する混和材の種類および養生の方法がコンクリートの細孔構造および耐久性に与える影響、また各種の劣化に対して適用した連続繊維補強材を用いた補強の効果を検討した。コンクリート供試体には、各種の混合セメントを用いた水セメント比0.4のものを用いるとともに、これに対して連続繊維補強材による補強工法を適用した。強度試験、超音波パルス伝播速度、動弾性係数、アコーステイック・エミッションなどの非破壊試験、あるいは元素分析、細孔径測定などの分析試験を実施した。本年度の範囲内で得られた主な結果を以下に示す。1.セメント系コンクリートへの混和材の使用はフレッシュおよび硬化コンクリートの特性の向上をもたらす。特に、ポゾラン系の混和材の使用はコンクリートの強度をより長期的に改善する。2.細孔構造特性および細孔径分布は、養生方法および混和材料の特性によって変化する。3.超音波パルス伝播速度と相対動弾性係数に顕著な低下が見られない場合でも、凍結融解作用により強度的な劣化が確認された。コンクリートの劣化が原因と考えられるが、その程度に樹脂の影響が見られた。本研究課題は,各種材料を用いたコンクリート構造物の耐久性について,破壊あるいは非破壊試験を用いて検討するとともに,コンクリート構造物のリハビリテーションに関して補修・補強効果および耐久性能についての知見を得ることを目的としたものである。本年度は,前年度から劣化環境下に供してきたコンクリート供試体について,継続的なモニタリング,分析,破壊試験あるいは非破壊試験を行った。また,荷重あるいは環境作用により性能低下を生じたコンクリート構造物へのリハビリテーションの適用性を検討した。以下に,本年度の範囲内で得られた主な結果を示す.1.高炉スラグ,シリカフュームおよびフライアッシュ混入のコンクリートにおける塩化物イオンの透過遮断性は,普通コンクリートに比べて大きい。また,かぶり20-30mmにおける塩化物イオン量は,鋼材の腐食限界塩化物イオン量に比べてきわめて小さくなった。したがって,混和材混入コンクリートにおいては,同一の耐久性を得る条件下では,普通コンクリートに比べてかぶりを小さくできる可能性がある。2.種々の養生条件下におけるコンクリートの力学的性能および耐久性能を明らかにするために,コンクリートの微視的構造に基づいた考察を行った。不適切な養生は,コンクリートの細孔量および細孔径分布に変化をもたらし,結果として,力学的性能や塩害,中性化などの耐久性能を低下させる。3.電気化学的手法を用いたコンクリート構造物のリハビリテーションでは,コンクリートの種類によってそれ自体の電気化学的特性が異なるため,それぞれに対して補修効果の検討が必要である。種々の混和材を用いたコンクリートに対して通電実験を行い,コンクリート中の鋼材に対する補修効果と通電後の耐久性を確認した。4.超音波パルス伝播速度は,連続繊維補強材層の材料の組み合わせによって差が生じた。また,環境作用を受けて劣化した供試体においては,いずれの材料においても超音波パルス伝播速度の低下が見られ,補強層の環境劣化による弾性率の低下を表していると考えられる。
KAKENHI-PROJECT-02F00092
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-02F00092
ヒストン変異癌のケミカルエピジェネティクス:リジンメチル化モジュレータの創製
本研究は、小児脳幹グリオーマドライバー遺伝子変異であるヒストンH3 K27Mに着目し、ヒストンH3K27メチル化モジュレータを創製することで、ガン細胞のケミカルエピジェネティクスを行うことを目的としている。これより、ヒストンH3K27メチル化増加を念頭に置いた1)ヒストンH3K27メチル化酵素活性促進剤、2)ヒストンH3 K27M機能阻害剤の獲得を試みる。ヒストンH3K27メチル化酵素(PRC2)活性を促進する化合物を見出すべく、生化学的ハイスループットスクリーニング(ヒストンH3K27ジメチル化の抗体検出)を行った。約6万個の化合物に対してスクリーニングを行った結果、PRC2活性を約1.5倍促進する化合物を数種見出すことができた。いずれも類似したケモタイプであったことから、有機合成化学的手法を用いて合成し、同様のin vitroでの酵素アッセイ系で再試験を行ったところ、濃度依存的にPRC2によるヒストンメチル化を亢進することが明らかになった。さらに、本ヒット化合物をもとに構造活性相関研究へと展開することで、約3倍強い活性を示す化合物を得ることができた。一方で、化合物アレイを用いてヒストン親和性化合物の探索を行うこととし、ヒストンH3、ヒストンH3 K27Mおよび対照としてヒストンH2Bを用いた約2万個の化合物に対するスクリーニングを実施した。その結果、ヒストンH3に親和性を示す化合物として計9種を見出すことができた。再合成を完了後、再合成化合物のヒストンH3およびK27M変異体に対する親和性評価を等温滴定型カロリメトリーにより評価したが、再合成した化合物においてスクリーニングで得られた結果は再現できなかった。本年度は、生化学的スクリーニングにより見出されたPRC2活性促進作用を示すヒット化合物の構造最適化を実施した。当初の計画通り、1)ビフェニル部位の末端フェニル環の除去、あるいは複素環の導入、2) 2級アミン部位への置換基導入による酵素活性促進作用への影響検討、3)ベンジル置換基部位の最適化、を行った。PRC2によるヒストンメチル化活性は、トリチウムでラベルされたS-アデノシルメチオニンを用いた放射活性測定試験により評価した。種々検討した結果、ヒット化合物の置換部位を変更することで3次元的構造を変化させたところ、所望のPRC2活性を亢進する化合物の獲得につなげることができた。本手法によりヒット化合物とくらべ、約3倍の活性向上となり、その濃度依存性も確認した。現在は、細胞を用いた機能評価へと展開している。一方で、化合物アレイを用いてヒストンおよびヒストン変異体に親和性を有する化合物の獲得を試みた。約2万個の化合物に対してスクリーニングを行ったところ、ヒストンH3に親和性を有する化合物として計9種を見出すことができた。母骨格が類似している6化合物について全6工程で再合成を完了後、再合成化合物のヒストンH3および変異体に対する親和性評価を等温滴定型カロリメトリーにより評価した。しかしながら、再合成した化合物においてスクリーニングで得られた結果を再現することはできなかった。平成29年度は、構造最適化研究により見出したPRC2活性を亢進する化合物を用いて、タンパクとの親和性評価および細胞を用いた機能解析を行う。具体的には、等温滴定型カロリメトリーあるいはバイオレイヤー干渉法を用いて、化合物とヒストンメチル化酵素の親和性を評価する。また、構造最適化研究を繰り返すことで、濃度依存性、酵素選択性等を総合的に評価し、リード化合物の獲得を目指す。一方、ヒストンH3 K27M機能阻害剤の開発では、現在再スクリーニングの実施や化合物の獲得に向けた新規アッセイ系の確立を試行している。ヒット化合物を獲得できたら、ヒストンタンパクとの親和性を評価する。さらに、先に述べた放射活性試験を用いてペプチドを加えた競合条件下、PRC2メチル化活性を評価する。同様に、濃度依存性等を評価し、構造最適化研究へと展開する。本研究は、小児脳幹グリオーマドライバー遺伝子変異であるヒストンH3 K27Mに着目し、ヒストンH3K27メチル化モジュレータを創製することで、ガン細胞のケミカルエピジェネティクスを行うことを目的としている。これより、ヒストンH3K27メチル化増加を念頭に置いた1)ヒストンH3K27メチル化酵素活性促進剤、2)ヒストンH3 K27M機能阻害剤の獲得を試みる。ヒストンH3K27メチル化酵素(PRC2)活性を促進する化合物を見出すべく、生化学的ハイスループットスクリーニング(ヒストンH3K27ジメチル化の抗体検出)を行った。約6万個の化合物に対してスクリーニングを行った結果、PRC2活性を約1.5倍促進する化合物を数種見出すことができた。いずれも類似したケモタイプであったことから、有機合成化学的手法を用いて合成し、同様のin vitroでの酵素アッセイ系で再試験を行ったところ、濃度依存的にPRC2によるヒストンメチル化を亢進することが明らかになった。さらに、本ヒット化合物をもとに構造活性相関研究へと展開することで、約3倍強い活性を示す化合物を得ることができた。一方で、化合物アレイを用いてヒストン親和性化合物の探索を行うこととし、ヒストンH3、ヒストンH3 K27Mおよび対照としてヒストンH2Bを用いた約2万個の化合物に対するスクリーニングを実施した。
KAKENHI-PROJECT-16K18913
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ヒストン変異癌のケミカルエピジェネティクス:リジンメチル化モジュレータの創製
その結果、ヒストンH3に親和性を示す化合物として計9種を見出すことができた。再合成を完了後、再合成化合物のヒストンH3およびK27M変異体に対する親和性評価を等温滴定型カロリメトリーにより評価したが、再合成した化合物においてスクリーニングで得られた結果は再現できなかった。本年度は、生化学的スクリーニングにより見出されたPRC2活性促進作用を示すヒット化合物の構造最適化を実施した。当初の計画通り、1)ビフェニル部位の末端フェニル環の除去、あるいは複素環の導入、2) 2級アミン部位への置換基導入による酵素活性促進作用への影響検討、3)ベンジル置換基部位の最適化、を行った。PRC2によるヒストンメチル化活性は、トリチウムでラベルされたS-アデノシルメチオニンを用いた放射活性測定試験により評価した。種々検討した結果、ヒット化合物の置換部位を変更することで3次元的構造を変化させたところ、所望のPRC2活性を亢進する化合物の獲得につなげることができた。本手法によりヒット化合物とくらべ、約3倍の活性向上となり、その濃度依存性も確認した。現在は、細胞を用いた機能評価へと展開している。一方で、化合物アレイを用いてヒストンおよびヒストン変異体に親和性を有する化合物の獲得を試みた。約2万個の化合物に対してスクリーニングを行ったところ、ヒストンH3に親和性を有する化合物として計9種を見出すことができた。母骨格が類似している6化合物について全6工程で再合成を完了後、再合成化合物のヒストンH3および変異体に対する親和性評価を等温滴定型カロリメトリーにより評価した。しかしながら、再合成した化合物においてスクリーニングで得られた結果を再現することはできなかった。平成29年度は、構造最適化研究により見出したPRC2活性を亢進する化合物を用いて、タンパクとの親和性評価および細胞を用いた機能解析を行う。具体的には、等温滴定型カロリメトリーあるいはバイオレイヤー干渉法を用いて、化合物とヒストンメチル化酵素の親和性を評価する。また、構造最適化研究を繰り返すことで、濃度依存性、酵素選択性等を総合的に評価し、リード化合物の獲得を目指す。一方、ヒストンH3 K27M機能阻害剤の開発では、現在再スクリーニングの実施や化合物の獲得に向けた新規アッセイ系の確立を試行している。ヒット化合物を獲得できたら、ヒストンタンパクとの親和性を評価する。さらに、先に述べた放射活性試験を用いてペプチドを加えた競合条件下、PRC2メチル化活性を評価する。同様に、濃度依存性等を評価し、構造最適化研究へと展開する。
KAKENHI-PROJECT-16K18913
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小・中学校における現代的経営ビジョンの構成と組織開発の関連性に関する実証的研究
近年、各学校に環境条件に対応した経営ビジョン形成を求める動きが全国的に強まる中、実効性あるビジョンの内容やその形成手法の解明が課題となっている。本研究では、日本の小・中学校に焦点を当てて経営ビジョンの策定実態とその課題について分析するとともに、事例研究を通じて、経営ビジョン形成過程やそこで用いられた手法について考察した。近年、各学校に環境条件に対応した経営ビジョン形成を求める動きが全国的に強まる中、実効性あるビジョンの内容やその形成手法の解明が課題となっている。本研究では、日本の小・中学校に焦点を当てて経営ビジョンの策定実態とその課題について分析するとともに、事例研究を通じて、経営ビジョン形成過程やそこで用いられた手法について考察した。研究初年度の本年度は、小・中学校レベルにおける「新しい学校経営ビジョン」(指標・期限の数値化の徹底を主たる特色とする)とそれに基づく組織開発の現状と課題を検証するための研究枠組みの構築に従事した。具体的には下記の研究を行った。1)日本の新しい学校経営ビジョンに関わる政策・理論動向の基礎的研究まず、学校経営論や組織経営論等の最近の理論動向についてレビューを行い、学校経営ビジョンの策定等に基づく新たな学校マネジメント(特に小・中学校)の可能性がどのように構想されているかを分析した。そして、最近の国、各地教育委員会レベルでの学校経営ビジョンに関する資料・報告書等の収集を進め、新たな学校経営ビジョン形成と組織開発が求められる背景やその施策化における意図・課題点を分析した。これらを通じて、本研究全体の考察枠組みを構築した。2)学校経営ビジョンに関わる実証調査に向けた準備(フィールド開拓等)次年度以降に予定している学校現場における経営ビジョン形成・実施プロセスの実証調査の準備として、予備的な学校訪問を行った。具体的には、ある自治体とその所管公立学校3校に年間を通じて数度訪問し、学校経営ビジョン形成過程を観察すると共に、校長・教員の課題意識を掘り起こした。また、短期間ではあるが複数の自治体教委関係者と本研究に関する意見交流機会を得て、研究構想づくりに役立てることができた。3)その他本研究の推進に関わる研究・上記1)の補強となる作業として、民間企業の学力実態調査に参画し、学校経営ビジョンの策定状況と子どもの学力向上の関連についてのデータを収集した(次年度に研究成果発表予定)。・新たな学校経営ビジョンの推進に関わるスクールリーダーの役割についても考察した。・アメリカにおける学校経営ビジョンの動向について、本年度は主に文献研究を行った。研究二年度の本年度は、以下の大きく三点の研究作業を展開し、その成果を別紙の通り発表した。1、前年度の基礎研究の継続:学校経営ビジョンをめぐる政策・理論形成の動向や全国の学校のビジョン形成の概要(民間企業の調査研究に参加し本研究の成果を部分的に応用した)を前年度に引き続いて考察し、いくつかの論文に発表した。2、日本の小・中学校における今日的な学校経営ビジョンの形成プロセスと校・内外の組織づくり(組織開発)の実際に関する事例研究(比較対照的に高校を含め五校):主に管理職との面談により、学校経営ビジョン形成を通じた学校づくりイメージや課題意識、ビジョン策定段階における課題やその機能化の条件などに関する情報を得た。この成果は次年度も継続するフィールド調査、同じく次年度に予定する質問紙調査に還元する。3、アメリカにおける小・中学校レベルにおける学校経営ビジョン策定の調査:米国ノースカロライナ州の公立学校三校及びチャータースクール二校を訪問し、管理職等に面談を行い、その学校経営の特徴や力点、及び学校経営ビジョンの形成の方法に関して情報を得た。本調査の実施に際して、大阪教育大学教育学部教授米川英樹氏に協力を得た。・合わせて、学校経営ビジョン策定と組織開発に関わる管理職・ミドル層教員の役割に関しても上記調査や文献研究等を通じて若干の考察を行った。本研究は、日米両国の先進地域を中心とする学校のビジョン経営形成の検証を行い、学校の活性化と学力向上への実効性をもつ経営ビジョンの内容構成及び組織開発のパターンを解明し、今後各学校が創意ある教育活動を主体的に開発する上で有益な示唆を得ることを目的としている。平成20年度は本研究最終年度にあたり、過去二年度の研究作業の継続として、次の作業を行った。(1)学校の経営ビジョン策定と組織開発の実態に関する調査の実施協力を得られた事例校(大阪府下自治体・北九州市)の数校に対して、特に校長を中心とした・聴き取り及び資料収集を行い、経営ビジョンの内容構成とそめ意図について、また経営ビジョンに基づく校内組織開発、校外保護者・地域等とのビジョンを介した関係形成の実際を調査した。また、小・中学校のビジョン形成の動向・課題について、数量データ(質問紙)を用いた考察を行った。さらに、本研究は小・中学校を主たる研究対象としているが、学校経営ビジョンの形成において先進例である公立高校、学校設置会社立高校の事例についても調査し、ビジョン形成プロセスの実際や経営ビジョン形成を支える条件について知見を得た。(2)研究成果の発表以上の成果のうち、本年度は特に、経営ビジョンを介した学校外との関係形成、学校経営ビジョン形成のための条件について、研究の知見を中心に発表した。現段階で未発表の知見(学校経営ビジョン形成の今日的動向と今日的課題等)についてもできる限り早期に発表する。また、三年間の研究からえられた知見用いて、教員免許更新講習のガイドブック(テキスト)の一部を執筆し、研究成果の社会的還元を図った。
KAKENHI-PROJECT-18730499
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有明海砂質干潟におけるマンガンの蓄積がアサリ稚貝の生残へ与える影響について
1)野外調査荒尾干潟において、覆砂地、非覆砂地、中間地点に調査定点を設置し、稚貝の着底、成長、生残を追跡した。底質と間隙水から採取されたマンガンのうち、可溶性Mnを定量した結果、稚貝死亡率と溶出可能Mn濃度との問に強い相関が認められ、大量死が起きるときの間隙水中のMnイオンは、60mg/L以上と推定された。2)稚貝飼育実験による死亡要因絞り込みMnイオン暴露だけでは60mg/Lでも死亡は認められず、底質を混ぜた場合にのみ生存率の低下が認められた。また、底質上澄みとMnイオンの混合飼育では、溶存態Mn濃度は徐々に低下していく一方で、稚貝の累積死亡数は上昇したが、有機物を燃焼させた砂ではMnイオン濃度も死亡率も変化がなかった。したがって、溶存態Mnが底質中有機物の成分と反応して稚貝の死亡を引き起こしていると考えられた。3)細胞培養によるバイオアッセイ野外調査や飼育実験で絞りこまれた因子について、常時確認実験が出来るよう、アサリ培養細胞によるバイオアッセイ系の確立を試みたが、脊椎動物の培養技術転用だけではうまくいかず、副次的実験としてのアフリカツメガエル肝細胞の実験から先行した結果が得られた。4)稚貝の病理稚貝組織切片を詳細に観察し、病理学的変異の探索をおこなったが光顕観察では明白な病変部位は特定できなかった。引き続き、電顕レベルでの観察をすすめている。一方、稚貝組織をMALDI-TOFMSにかけ、分泌生理活性物質の差異もとめ、特定されたペプチドからIn situ hybridizationによって病変部位を発見する試みを継続中である。上記実験の過程で、飼育実験の高死亡率グループと荒尾干潟の稚貝の殻が脆くなっている事が認められた。高Mn下で殻形成に問題が生じている可能性が高い。現在、殻の強度、微細構造、外套膜における殻形成細胞に焦点を当てた解析をおこなっている。1)野外調査荒尾干潟において、覆砂地、非覆砂地、中間地点に調査定点を設置し、稚貝の着底、成長、生残を追跡した。底質と間隙水から採取されたマンガンのうち、可溶性Mnを定量した結果、稚貝死亡率と溶出可能Mn濃度との問に強い相関が認められ、大量死が起きるときの間隙水中のMnイオンは、60mg/L以上と推定された。2)稚貝飼育実験による死亡要因絞り込みMnイオン暴露だけでは60mg/Lでも死亡は認められず、底質を混ぜた場合にのみ生存率の低下が認められた。また、底質上澄みとMnイオンの混合飼育では、溶存態Mn濃度は徐々に低下していく一方で、稚貝の累積死亡数は上昇したが、有機物を燃焼させた砂ではMnイオン濃度も死亡率も変化がなかった。したがって、溶存態Mnが底質中有機物の成分と反応して稚貝の死亡を引き起こしていると考えられた。3)細胞培養によるバイオアッセイ野外調査や飼育実験で絞りこまれた因子について、常時確認実験が出来るよう、アサリ培養細胞によるバイオアッセイ系の確立を試みたが、脊椎動物の培養技術転用だけではうまくいかず、副次的実験としてのアフリカツメガエル肝細胞の実験から先行した結果が得られた。4)稚貝の病理稚貝組織切片を詳細に観察し、病理学的変異の探索をおこなったが光顕観察では明白な病変部位は特定できなかった。引き続き、電顕レベルでの観察をすすめている。一方、稚貝組織をMALDI-TOFMSにかけ、分泌生理活性物質の差異もとめ、特定されたペプチドからIn situ hybridizationによって病変部位を発見する試みを継続中である。上記実験の過程で、飼育実験の高死亡率グループと荒尾干潟の稚貝の殻が脆くなっている事が認められた。高Mn下で殻形成に問題が生じている可能性が高い。現在、殻の強度、微細構造、外套膜における殻形成細胞に焦点を当てた解析をおこなっている。今期の最重点課題は定着直後の稚貝の飼育実験を精密に行い、死亡条件を絞り込み、死亡直後の異変箇所を病理学的に特定することであった。しかし、2004年秋期は例年になく稚貝の定着が少なく、稚貝を用いた実験が殆ど実施出来なかった。そのため、野村が確立しているカエル幹細胞、ヒト骨芽細胞を用いてMnイオンや現場の砂との混合液曝露による一般毒性、変異原性、環境ホルモン作用の検討を先行させた。現在のところ骨芽細胞系で若干の毒性が認められたが、条件を変えた実験や再現性の確認を繰り返しているところである。また、アサリそのものの培養細胞を用いて行う事が出来れば、迅速かつ、自然条件に左右されない繰り返し実験が可能になる。そのため、アサリ神経細胞と中腸線細胞の継代培養系の確立を最優先課題で取り組んでいる。なお、補足的実験として、日射の強い干潟表層を想定した条件下でのニトロ化生成物の検討もおこなった。その結果、UV照射によるMn存在下である化学物質生成が確認された。したがって、この物質の毒性も検討項目に加えることとした。一方、ようやく12月に定着が見られた稚貝について、第2回飼育実験をおこなった。その結果、Mnイオンの単独曝露ではかなりの濃度でも影響がなく、これに稚貝の大量死が起こる現場の砂を加えた場合のみ稚貝の死亡率増加が認められ、この砂だけでも死亡率低下はおこらなかった。したがって、Mn存在下における他要因による死亡率増加は改めて確認された。
KAKENHI-PROJECT-16580162
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有明海砂質干潟におけるマンガンの蓄積がアサリ稚貝の生残へ与える影響について
この現場の砂を更に詳しく検討すると、Mnより低濃度ではあるものの、他の生息地との間には他の重金属濃度にも差が認められた。そこで、現在、これら他の重金属および有機物、紫外線照射等の複合作用を考えた第3回飼育実験を実行中である。覆砂内外で稚貝死亡率に著しい差がある荒尾干潟において、覆砂地、非覆砂地、中間地点に調査定点を設置し、稚貝の着底、成長、生残について追跡した。また、底質の粒度組成の変動を記録するとともに、底質と間隙水から採取されたマンガンの形態分離をおこない、溶出可能マンガンを定量した。これらは大量死が起こった2000年夏の底質の凍結サンプルと併せて分析した。その結果、稚貝死亡率と溶出可能マンガン濃度との間には強い相関が認められ、大量死が起きるときの溶存可能形態のマンガン濃度から推定される間隙水中のマンガンイオンは、60mg/L以上となった。また、還元的環境下ではバクテリアの作用によりマンガンはイオンとして溶出しやすくなるため(Canfield et al 1987)、底質の泥分含有量もマンガン溶出に影響していると考えられた。なお、野外調査で採集された稚貝を用いて、室内飼育実験を行い、死亡条件の絞り込みをおこなった。その結果、単にマンガンイオンに暴露するだけでは上記の濃度でも死亡は認められず、底質を混ぜた場合にのみ生存率の低下が認められた。そのため、溶存態マンガンであっても、単独で稚貝の死亡を引き起こしているとは考えられず、「底質中の何らかの成分との相互作用が要因と考えられた。そこで、有機物を燃焼させた砂との比較実験を行った結果、有機物を含む砂の場合、溶存態マンガン濃度は徐々に低下していくにもかかわらず、稚貝の累積死亡数は上昇した。したがって、溶存態マンガンが底質中有機物の何らかの成分と反応して稚貝の死亡を引き起こしている可能性が強く示唆される。目下、底質成分を更に細かく分画することで死亡要因の絞り込みを行う一方で、稚貝組織切片を詳細に観察する病理学的変異の探索をおこなっている。しかし、現時点では特定部位の病変を発見するに至っていない。多岐にわたる染色法を駆使して神経や殻形成に関わる分泌細の逐次観察を進めている。それに加え、本年3月より、広島大学のMALDI-TOF MSの利用が可能となった。凍結切片をそのままMALDI-TOF MSにかける特殊な方法(安田&安田,2004)によりアサリ稚貝1個体といったごく微量サンプルからでも分泌顆粒中の各種ペプチドを特定することが出来る。死亡率が高い条件で飼育された稚貝をTOF MS分析し、特定ペプチドの分泌が認められた場合はIn situ hybridizationによって障害部位を特定する作業を進めている。アサリ細胞の初代培養と河川からのマンガン供給量解析は十分な結果を得られなかった。二枚貝の細胞培養には脊椎動物技術の応用だけでは通用しない部分がある事がわかり、引き続き試行錯誤を継続してゆく予定であるが、その一方で、カエル肝細胞を用いてMn,Zn,(イオン)の単独、複合暴露、およびE2との複合暴露実験をおこなった。その結果、Mnイオンは10^<-8>M以上、Znイオンは10^<-5>M以上の暴露でE2によるVTGの合成量が減少した、溶媒のHClによる影響を考慮した場合でも、MnイオンがE2によるVTG合成に何らかの抑制的な影響を及ぼしていることが示唆された。これは、稚貝死亡と直接関連がないとしても、他の動物一般への影響を示唆している。
KAKENHI-PROJECT-16580162
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16580162
ゲニステインで初期誘導されるダイズ根粒菌多剤排出ポンプの共生における役割
ダイズ根粒菌にゲニステインで特異的に誘導発現する遺伝子領域(BjG30)が見出された。発現は誘導後15分で最大に達し、既知の共生遺伝子(nod遺伝子群)とは異なる発現プロファイルを示した。BjG30は薬剤排出ポンプとポリヒドロキシ酪酸代謝、及びその調節遺伝子から構成され、根粒の形成や窒素固定能など、ダイズとの相利共生に重要であることが明らかになった。更に、網羅的な遺伝子発現解析により、薬剤排出ポンプによるゲニステインの排出系が、共生遺伝子群の誘導発現量を機能的に制御している可能性が示された。構築された破壊株の根粒の着生数(接種2540日:number/plant)と重量(接種40日目:mg/nodule)、植物体重量(接種40日目:g/plant)、及び窒素固定能(接種40日目:acetylene reduction activity/nodule)を親株と比較した結果、ΔRND株の根粒数は親株よりも増加したが、根粒重量と窒素固定能は有意に低下した。ΔTetR7023株は、根粒数は親株の50%程度に減少したが、根粒重量と窒素固定能は増加した。しかし、いずれの破壊株も、植物体あたりの重量が減少した。一方、ΔPHB株とΔTetR7024株は親株と比べて大きな差はみられなかった。以上の結果から、BjG30の多剤排出ポンプとTetR転写調節遺伝子(blr7023)は機能的な共生関係の構築に重要であることが明らかになった。ダイズ根粒菌にゲニステインで特異的に誘導発現する遺伝子領域(BjG30)が見出された。発現は誘導後15分で最大に達し、既知の共生遺伝子(nod遺伝子群)とは異なる発現プロファイルを示した。BjG30は薬剤排出ポンプとポリヒドロキシ酪酸代謝、及びその調節遺伝子から構成され、根粒の形成や窒素固定能など、ダイズとの相利共生に重要であることが明らかになった。更に、網羅的な遺伝子発現解析により、薬剤排出ポンプによるゲニステインの排出系が、共生遺伝子群の誘導発現量を機能的に制御している可能性が示された。マクロアレイ解析により、ゲニステインで強く誘導発現することが見出されたダイズ根粒菌(Bradyrhizobium japonicum)ゲノム領域(BjG30)の遺伝子発現量を定量的RT-PCRで調べた。その結果、多剤排出ポンプに関わる遺伝子など12個の遺伝子で最大214倍の発現が確認され、マクロアレイの発現プロファイルとよく一致していた。しかし、ダイゼインでは顕著に発現せず、ゲニステインによる誘導発現がダイゼインで抑制されたことから、ゲニステインとダイゼインは構造が類似した、根粒菌の共生過程で機能する代表的なフラボノイドだが、BjG30の誘導発現はゲニステインでのみ生じ、ダイゼインで競合的に阻害されることが明らかになった。次に、ゲニステインで顕著に発現した4つの代表遺伝子(bll7019, bll7025, blr7027, blr7029)の誘導発現量をゲニステイン等の5-ヒドロキシフラボノイドとダイゼイン等の5-デオキシフラボノイドで比較した。その結果、5-ヒドロキシフラボノイド(ビオカニン、ケンフェロール、ケルセチン、アピゲニン、ルテオリン)では顕著な発現が見られたが、5-デオキシフラボノイド(フォルモノネチン、グリシテイン、クメストロール)では見られなかったことから、BjG30は主に5-ヒドロキシフラボノイドで強く誘導発現されることが明らかになった。更に、ゲニステイン誘導時間と濃度の発現への影響を調べた結果、発現は誘導5分で始まり、15分で最大に達すること、及び発現量は濃度に依存することが明らかになった。共生に重要な根粒菌のnodulation(nod)遺伝子(nodW, nodD1)の発現は誘導15分で見られ、時間とともに増加傾向を示し、発現量は濃度に依存しなかったことから、BjG30の発現プロファイルとは全く異なることが示された。1)ダイズ根粒菌Bradyrhizobium japonicumゲノム領域(BjG30)の12遺伝子で、ゲニステイン特異的な発現が確認された(最大214倍)。これらの誘導発現は、ゲニステイン代謝関連物質5-ヒドロキシフラボノイド(ケルセチン等)で顕著だったが、ダイゼイン代謝関連物質5-デオキシフラボノイドでは有意に低かった。発現は誘導後5分で始まり、15分で最大に達すること、及び発現量は濃度に依存し、共生関連遺伝子群(nodW,nodD1)の発現プロファイルとは全く異なることが示された(平成24年度)。2)BjG30のRND型薬剤排出ポンプ破壊株(ΔRND)、ポリヒドロキシ酪酸代謝破壊株(ΔPHB)、及びTetR転写調節因子破壊株(ΔTetR7023, ΔTetR7024)を遺伝子欠失/Ω挿入により構築した。ΔRND株の根粒数は親株よりも増加したが、根粒重量と窒素固定能は有意に低下した。一方、ΔTetR7023株の根粒数は親株より減少し、根粒重量と窒素固定能は増加したが、植物体あたりの重量は減少した。BjG30(RNDとTetR7023)は機能的な共生関係の構築に重要であることが示された(平成25年度)。
KAKENHI-PROJECT-24580099
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24580099
ゲニステインで初期誘導されるダイズ根粒菌多剤排出ポンプの共生における役割
3)マクロアレイを用いて、ΔRND株、及びΔTetR7023株のゲニステイン処理後12時間における共生関連遺伝子群の発現量を親株と比較した結果、nodYABCが含まれるクローン(brb16006:21835592186529bp)の発現量は、親株(43.6倍)に対し、ΔRND株(19.5倍)、ΔTetR7023(36.6倍)となり、RND型薬剤排出ポンプの破壊によりnodYABCの発現が有意に抑制された。RND型薬剤排出ポンプによるゲニステイン排出系は、ゲニステインによる共生関連遺伝子群の誘導発現系と密接に関わっていることが示された(平成26年度)。応用微生物学宿主ダイズから放出されるフラボノイド化合物(ゲニステイン)によって強く誘導発現するダイズ根粒菌Bradyrhizobiumjaponicum遺伝子領域(BjG30)の共生における役割を明らかにするため、当該年度は、BjG30領域の破壊株の構築とその共生能の評価を目的とし、以下1)2)の研究計画に対する結果を得た:1)BjG30の破壊株の構築を計画した。その結果、多剤排出ポンプ(RND型薬剤排出ポンプ)遺伝子(bll7019-7021)破壊株(ΔRND)、ポリヒドロキシ酪酸代謝遺伝子(blr7028-7029)破壊株(ΔPHB)、及びTetR転写調節遺伝子(blr7023, bll7024)破壊株(ΔTetR7023, ΔTetR7024)が構築された。2)破壊株の共生能の親株との比較を計画した。その結果、ΔPHB株とΔTetR7024株は親株と比べて大きな差はみられなかったが、ΔRND株とΔTetR7023株は植物体あたりの窒素固定能が低下したことから、BjG30の多剤排出ポンプとTetR転写調節遺伝子(blr7023)は機能的な共生関係の構築に重要であることを明らかにした。以上、BjG30領域の破壊株が構築され、その共生における役割が明らかになり、研究の目的はおおむね順調に進展している。宿主ダイズから放出されるフラボノイド化合物(ゲニステイン)によって強く誘導発現するダイズ根粒菌(Bradyrhizobium japonicum)遺伝子領域(BjG30)の中で、特に多剤排出ポンプの共生における役割を明らかにするため、当該年度は、遺伝子発現プロファイルの解析を目的とし、以下1)3)の研究計画に対する結果を得た:1)構造が類似した代表的なフラボノイドであるゲニステインとダイゼインによる遺伝子発現プロファイルの作成を計画した。その結果、ゲニステインにより多剤排出ポンプに関わる遺伝子など12個の遺伝子で最大214倍の発現を確認したが、ダイゼインでは顕著な発現が見られず、むしろゲニステインによる発現を競合的に阻害することを明らかにした。2)ゲニステインで顕著に発現したBjG30の代表遺伝子を用いて、ゲニステイン等の5-ヒドロキシフラボノイドとダイゼイン等の5-デオキシフラボノイドによる発現量の比較を計画した。その結果、多剤排出ポンプに関わる遺伝子を含むBjG30の遺伝子は、主に5-ヒドロキシフラボノイドで誘導発現することを明らかにした。3)ゲニステイン誘導時間と濃度の発現への影響を調べることを計画した。その結果、多剤排出ポンプに関わる遺伝子を含むBjG30の遺伝子は、誘導5分で始まり、15分で最大に達すること、及び発現量は濃度に依存することを明らかにした。更に、共生に重要な根粒菌nodulation(nod)遺伝子(nodW, nodD1)の発現と比較し、BjG30の発現プロファイルとは全く異なることも明らかにした。以上、多剤排出ポンプに関わる遺伝子を含むBjG30の遺伝子の誘導発現プロファイルが明らかになり、研究の目的はおおむね順調に進展している。
KAKENHI-PROJECT-24580099
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ポジトロン核医学画像診断のための新規ジェネレータシステムの構築
Positron Emission Tomography(PET)は、ポジトロン(β^+)放出放射性同位元素の特性を利用して開発された断層撮像法で、定量性の高い情報が入手でき、分解能が高い等、従来のインビボ核医学画像診断法にはない優れた特徴がある。しかし、ほとんどのβ^+放出核種は、極めて短寿命であり、病態診断等の臨床応用を行うためには、病院内に小型サイクロトロンを設置した大型施設を必要とするために、その優れた特性が評価されているにもかかわらず、広範な利用が制約されているのが実情である。そこで、この物理的制約を回避するために提案されている方法が、β^+放出核種の2次製法であるジェネレータの利用である。本研究は、β^+核医学の分野において、最も期待されている^<+68>Ge/^<68>Gaジェネレータを、新規高分子素材を用いて構築することを目的としている。(1)グルカミン型樹脂の非放射性Ge及びGaに対する吸着特性を検討した結果、Geに対しては、高い親和性を、Gaに対しては低い親和性を有することが確認できた。(2)グルカミン型樹脂の放射性^<+68>Geと^<68>Gaに対する吸脱着性を、バッチ及びカラム法により検討した結果、キャリヤフリーの場合においても、Geに対する高い親和性が確認できた。(3)^<68>Gaの溶離を以下の2通りの方法を試み、どちらの方法も効率よく^<68>Gaの溶離が可能であることが明らかになった。a)溶離剤に^<68>Gaと錯形成可能な低分子配位子(EDTA,デフェロキサミン)を用いて直接標識をおこなった。b)溶離剤に比較的不安定な錯体を生成する配位子(リン酸、クエン酸)を選択した。a)の場合は得られた錯体は、放射性医薬品として利用可能であり、b)の場合には配位子交換によるタンパク質などの高分子物質の間接標識が可能であった。Positron Emission Tomography(PET)は、ポジトロン(β^+)放出放射性同位元素の特性を利用して開発された断層撮像法で、定量性の高い情報が入手でき、分解能が高い等、従来のインビボ核医学画像診断法にはない優れた特徴がある。しかし、ほとんどのβ^+放出核種は、極めて短寿命であり、病態診断等の臨床応用を行うためには、病院内に小型サイクロトロンを設置した大型施設を必要とするために、その優れた特性が評価されているにもかかわらず、広範な利用が制約されているのが実情である。そこで、この物理的制約を回避するために提案されている方法が、β^+放出核種の2次製法であるジェネレータの利用である。本研究は、β^+核医学の分野において、最も期待されている^<+68>Ge/^<68>Gaジェネレータを、新規高分子素材を用いて構築することを目的としている。(1)グルカミン型樹脂の非放射性Ge及びGaに対する吸着特性を検討した結果、Geに対しては、高い親和性を、Gaに対しては低い親和性を有することが確認できた。(2)グルカミン型樹脂の放射性^<+68>Geと^<68>Gaに対する吸脱着性を、バッチ及びカラム法により検討した結果、キャリヤフリーの場合においても、Geに対する高い親和性が確認できた。(3)^<68>Gaの溶離を以下の2通りの方法を試み、どちらの方法も効率よく^<68>Gaの溶離が可能であることが明らかになった。a)溶離剤に^<68>Gaと錯形成可能な低分子配位子(EDTA,デフェロキサミン)を用いて直接標識をおこなった。b)溶離剤に比較的不安定な錯体を生成する配位子(リン酸、クエン酸)を選択した。a)の場合は得られた錯体は、放射性医薬品として利用可能であり、b)の場合には配位子交換によるタンパク質などの高分子物質の間接標識が可能であった。
KAKENHI-PROJECT-06672147
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隠岐諸島に生育する氷河期遺存樹種の更新戦略と遺伝的多様性
日本海島嶼の隠岐諸島は大陸と日本列島の間に位置し,氷河期には本州本土の島根半島と陸続きになっていた。隠岐諸島の森林植生は,暖温帯林の中に冷温帯や亜高山帯に生育する種が混生しており,氷河期の遺存的な種が残存して独特な植生を形成している可能性がある。そこで本研究では,隠岐諸島に生育する樹木を明らかにするため,樹木リストを作成する。さらに氷河期遺存樹種であるカツラとヒメコマツ,ミズナラ,クロベの生態と遺伝的多様性を調べ,隠岐諸島のレフュジアとしての役割を明らかにすることを目的とする。本年度は,第一に隠岐諸島に生育する樹種を明らかにするため,既存資料を収集,整理して樹木リストを作成した。その結果,隠岐諸島では304種の樹木が確認された。また,調査対象とした4樹種について隠岐諸島における分布特性を調べた結果,分布は樹種により大きく異なった。まずカツラは標高の高い内陸部の林道から渓畔域に多く生育し,源流域では群落を形成することから,本州における単木的に分布するカツラの特性とは異なった。一方,ミズナラは海岸沿いから山地帯の風衝地までに広く分布し,海岸沿いではスダジイやトベラなどと生育し,山地帯では群落を形成してスギなどとも混生していた。ヒメコマツは山地帯の露岩地に多く,岩盤で小径個体が多く生育していた。一方,同じ針葉樹のクロベは海岸沿いから分布し,山地帯ではヒメコマツと共に生育していた。隠岐諸島の樹木の分布の特徴として,本州では山地帯で生育する樹種が海岸沿いから常緑樹と共に生育すること,本州では優占しない樹種が優占していることの二つが挙げられた。既存資料の整理を行い,隠岐諸島に生育する樹木リストを作成した。樹木リストの中から,島根県立自然史博物館に所蔵されていない樹種を挙げ,今後採取する樹木リストを作成した。隠岐諸島には島後と島前があり,森林は主に島後にあることから,まずは島後における4樹種の分布を踏査により調べた。また,カツラについては,群落を形成する場所で固定の調査区を決定した。遺伝子解析用の資料の採取については,カツラおよびクロベについて行い,ヒメコマツの採取を途中まで行った。隠岐諸島の樹木リストを公表し,さらに同じ日本海島嶼である佐渡島の樹木リストと比較して,隠岐諸島の樹木相の特徴を明らかにする。また,博物館に所蔵されていない樹種を採取して隠岐諸島の樹木全種の標本をそろえる。固定調査地でカツラの分布,雌雄,個体サイズを調べ,遺伝的多様性と生態との関係を明らかにする。隠岐全域におけるヒメコマツの分布と個体サイズ,遺伝的多様性を調べ,絶滅危惧種でもあるヒメコマツの現状を明らかにする。ミズナラに関しては,全域の分布を調べ,海岸から山地帯までの植生調査と個体調査を行い,ミズナラの生態を明らかにする。クロベについては,ヒメコマツおよびミズナラとの比較から,分布特性を明らかにする。日本海島嶼の隠岐諸島は大陸と日本列島の間に位置し,氷河期には本州本土の島根半島と陸続きになっていた。隠岐諸島の森林植生は,暖温帯林の中に冷温帯や亜高山帯に生育する種が混生しており,氷河期の遺存的な種が残存して独特な植生を形成している可能性がある。そこで本研究では,隠岐諸島に生育する樹木を明らかにするため,樹木リストを作成する。さらに氷河期遺存樹種であるカツラとヒメコマツ,ミズナラ,クロベの生態と遺伝的多様性を調べ,隠岐諸島のレフュジアとしての役割を明らかにすることを目的とする。本年度は,第一に隠岐諸島に生育する樹種を明らかにするため,既存資料を収集,整理して樹木リストを作成した。その結果,隠岐諸島では304種の樹木が確認された。また,調査対象とした4樹種について隠岐諸島における分布特性を調べた結果,分布は樹種により大きく異なった。まずカツラは標高の高い内陸部の林道から渓畔域に多く生育し,源流域では群落を形成することから,本州における単木的に分布するカツラの特性とは異なった。一方,ミズナラは海岸沿いから山地帯の風衝地までに広く分布し,海岸沿いではスダジイやトベラなどと生育し,山地帯では群落を形成してスギなどとも混生していた。ヒメコマツは山地帯の露岩地に多く,岩盤で小径個体が多く生育していた。一方,同じ針葉樹のクロベは海岸沿いから分布し,山地帯ではヒメコマツと共に生育していた。隠岐諸島の樹木の分布の特徴として,本州では山地帯で生育する樹種が海岸沿いから常緑樹と共に生育すること,本州では優占しない樹種が優占していることの二つが挙げられた。既存資料の整理を行い,隠岐諸島に生育する樹木リストを作成した。樹木リストの中から,島根県立自然史博物館に所蔵されていない樹種を挙げ,今後採取する樹木リストを作成した。隠岐諸島には島後と島前があり,森林は主に島後にあることから,まずは島後における4樹種の分布を踏査により調べた。また,カツラについては,群落を形成する場所で固定の調査区を決定した。遺伝子解析用の資料の採取については,カツラおよびクロベについて行い,ヒメコマツの採取を途中まで行った。隠岐諸島の樹木リストを公表し,さらに同じ日本海島嶼である佐渡島の樹木リストと比較して,隠岐諸島の樹木相の特徴を明らかにする。また,博物館に所蔵されていない樹種を採取して隠岐諸島の樹木全種の標本をそろえる。
KAKENHI-PROJECT-18K05727
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隠岐諸島に生育する氷河期遺存樹種の更新戦略と遺伝的多様性
固定調査地でカツラの分布,雌雄,個体サイズを調べ,遺伝的多様性と生態との関係を明らかにする。隠岐全域におけるヒメコマツの分布と個体サイズ,遺伝的多様性を調べ,絶滅危惧種でもあるヒメコマツの現状を明らかにする。ミズナラに関しては,全域の分布を調べ,海岸から山地帯までの植生調査と個体調査を行い,ミズナラの生態を明らかにする。クロベについては,ヒメコマツおよびミズナラとの比較から,分布特性を明らかにする。隠岐諸島の植生と比較する予定の佐渡への出張を次年度に行うことにしたため。
KAKENHI-PROJECT-18K05727
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脳の老化機構に関する分子細胞生物学的研究
人口の老齢化に伴う痴呆性老人の増加は、先進諸国の中でも我が国において大きな社会問題となっている。本研究は、老年期痴呆の二大原因(アルハイツマー病と脳血管性痴呆)のうち、とくにアルツハイマー病を取り上げ、原因求明、病態解明、さらにはそれらの成果に基づき、治療法の開発の道を探る方向で進んできた。具体的には、(1)アルツハイマー病の脳に沈着する異常物質の生化学的解析とその処理機構、(2)アルツハイマー病における伝達機構障害、(3)アルツハイマー病における神経細胞死、(4)アルツハイマー病に関連した遺伝子異常の解析を、主要研究課題として、組織学、生化学、細胞生物学、分子遺伝学などの手法を駆使して研究を進めてきた。本研究班は、以上の研究を進めるにあたり、班の組織化、分担研究班間の連絡、情報交換を行なうとともに、班会議、公開シンポジウムを開催し、現在は研究成果のとりまとめを行なっている。本研究班による本年度の成果としては、アミロイド前駆体からβ蛋白が生じる階段で関与するプロテアーゼ(シクレターゼ)が明らかにされた。また、アルツハイマー病脳でダウンレギュレーションをうけていると考えられる成長抑制因子(GIF)の分子レベルでの研究が進み、活性部位が決定された。さらには、アミロイド前駆体蛋白遺伝子に点突然変異を有する家族性アルツハイマー病の存在が、我が国においても確認され、欧米諸国に比較して、この点突然変異を有する割合が、我が国において極めて高いことが明らかになった。人口の老齢化に伴う痴呆性老人の増加は、先進諸国の中でも我が国において大きな社会問題となっている。本研究は、老年期痴呆の二大原因(アルハイツマー病と脳血管性痴呆)のうち、とくにアルツハイマー病を取り上げ、原因求明、病態解明、さらにはそれらの成果に基づき、治療法の開発の道を探る方向で進んできた。具体的には、(1)アルツハイマー病の脳に沈着する異常物質の生化学的解析とその処理機構、(2)アルツハイマー病における伝達機構障害、(3)アルツハイマー病における神経細胞死、(4)アルツハイマー病に関連した遺伝子異常の解析を、主要研究課題として、組織学、生化学、細胞生物学、分子遺伝学などの手法を駆使して研究を進めてきた。本研究班は、以上の研究を進めるにあたり、班の組織化、分担研究班間の連絡、情報交換を行なうとともに、班会議、公開シンポジウムを開催し、現在は研究成果のとりまとめを行なっている。本研究班による本年度の成果としては、アミロイド前駆体からβ蛋白が生じる階段で関与するプロテアーゼ(シクレターゼ)が明らかにされた。また、アルツハイマー病脳でダウンレギュレーションをうけていると考えられる成長抑制因子(GIF)の分子レベルでの研究が進み、活性部位が決定された。さらには、アミロイド前駆体蛋白遺伝子に点突然変異を有する家族性アルツハイマー病の存在が、我が国においても確認され、欧米諸国に比較して、この点突然変異を有する割合が、我が国において極めて高いことが明らかになった。
KAKENHI-PROJECT-04299104
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典型金属イオンをルイス酸触媒とする完全水中反応の実現と次世代型不斉合成への展開
本年度は、他の高エナンチオ選択的合成反応の開発を目指し、リン酸配位子の構造修飾と、金属陽イオンの最適化を行った。モデル反応としてマンニッヒ反応を用い、これまで有機溶媒中での利用が困難であった基質を視野に入れた反応系の構築を計画して研究に着手したが、現在までのところ従来汎用されるイミンを用いるに留まっている。具体的なリン酸配位子としては、構造修飾の可能性が広いリン酸ジエステルとして、ビナフトール誘導体に代表されるような光学活性ジオールを有するリン酸エステルを種々導入した配位子を合成した。NMRによる複合体形成の確認実験では、これらの配位子は効果的にイミン化合物と錯形成を行うことを明らかにすることができた。実際にこれらの配位子を用いたマンニッヒ反応を、種々の金属イオン前駆体及び金属イオンフリーの条件下で反応を行った結果、驚くべきことに金属イオンの添加なしに反応は速やかに進行し、高い選択性を与えることがわかった。本反応は新規ブレンステッド酸触媒を用いる金属非存在下における高選択的炭素-炭素結合形成反応であり、合成化学的に非常に有用な反応系の創出に繋がると期待される。ブレンステッド酸触媒を用いる不斉合成反応の実現は従来非常に困難と考えられてきたが、本リン酸配位子の利用によりこれまで長年の懸案であった問題点を解決する新たなアプローチ法を提供した。水中で有効に作用するルイス酸を開発するため、カルボニル化合物のアリル化反応をモデル反応として様々な金属塩および有機金属化合物について探索を行った。その結果、13族の金属塩であるガリウムの有機金属化合物がアルデヒドのアリル化に働く可能性があることを見つけることができた。特に、塩化アリルマグネシウムと塩化ガリウムから調製したアリルガリウムジクロリドを水中でアルデヒドに作用させると、収率よくアリル化が進行することを見いだした。水溶性アルデヒドであるグリオキサールにアリルガリウムジクロリドを水中で作用させると、ジアリル化体が収率よく、かつ高い立体選択性で得られるという知見を得ている。さらに、カルボニル基のα-位にアルコキシ基をもつケトンに対してアリルガリウムジクロリドを水中で作用させると、高立体選択的にアリル化反応が進行することが明らかになった。このように有機ガリウム化合物がルイス酸触媒として水中で有効に働く可能性があることが示された。今後は、本年度に得られたこのような予備的な知見に基づいて、種々のガリウム塩および有機ガリウム化合物の水中での二点配位型ルイス酸としての作用の可能性について探索する。これらガリウム反応剤の特性に基づいた水中での新しい反応を開発していく予定である。今年度は、前年度までに明らかとなったアリルガリウム及び、遷移金属-インジウム複合系を用いるアリル化反応の不斉化に取り組んだ。このような反応系においては、水中において安定に金属イオンと相互作用を持つ配位子の設計が必須であった。種々の配位子候補化合物を鋭意検討した結果、リン酸構造が金属原子と安定な共有結合を形成し、効果的な配位子となることがわかった。リン酸構造は、生体酵素内の金属活性部位にも見られ、金属イオンを多点認識することで高選択性発現の鍵構造として機能しており、共通の構造が比較的単純な反応系においても有効であることは非常に興味深い。また研究の過程で、配位子として用いたリン酸化合物自体が単独でも強いルイス酸性を示すことが明らかとなり、現在、金属原子を用いない反応系についても平行して研究を行っている。さらに不斉リン酸触媒の開発についても検討を重ねている。具体的には酒石酸ジエステルに対して過剰量のグリニャール反応剤を加えることによってタドール型配位子を設計合成し、リン酸との複合分子を合成していうところである。これらの分子の合成は間もなく完了するので、来年度に向けて多大なる成果を期待している。リン酸という天然に豊富に存在する化合物の有用性が明らかとなればDNAを用いた不斉有機合成が達成される可能性を示唆している。化学者のみならず生物学や医学を専門とする研究者たちにも多くの示唆を与える研究になると考えている。本年度は、他の高エナンチオ選択的合成反応の開発を目指し、リン酸配位子の構造修飾と、金属陽イオンの最適化を行った。モデル反応としてマンニッヒ反応を用い、これまで有機溶媒中での利用が困難であった基質を視野に入れた反応系の構築を計画して研究に着手したが、現在までのところ従来汎用されるイミンを用いるに留まっている。具体的なリン酸配位子としては、構造修飾の可能性が広いリン酸ジエステルとして、ビナフトール誘導体に代表されるような光学活性ジオールを有するリン酸エステルを種々導入した配位子を合成した。NMRによる複合体形成の確認実験では、これらの配位子は効果的にイミン化合物と錯形成を行うことを明らかにすることができた。実際にこれらの配位子を用いたマンニッヒ反応を、種々の金属イオン前駆体及び金属イオンフリーの条件下で反応を行った結果、驚くべきことに金属イオンの添加なしに反応は速やかに進行し、高い選択性を与えることがわかった。本反応は新規ブレンステッド酸触媒を用いる金属非存在下における高選択的炭素-炭素結合形成反応であり、合成化学的に非常に有用な反応系の創出に繋がると期待される。ブレンステッド酸触媒を用いる不斉合成反応の実現は従来非常に困難と考えられてきたが、本リン酸配位子の利用によりこれまで長年の懸案であった問題点を解決する新たなアプローチ法を提供した。
KAKENHI-PROJECT-02J01111
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地理情報システムによる世界言語構造地図を活用した言語類型地理論的研究
研究代表者等は、世界諸言語の言語特徴の地理的分布を示す、GIS(地理情報システム)によって電子化した世界言語地図を作製してきた。これは、種々の言語特徴の地理的分布に対する微視的および巨視的な考察を可能にするものである。本研究では、これらの地図システムをより充実させるとともに、研究代表者による語順データの言語名とGIS地図上の言語名をより正確に照合させることによって、データの多くを地図に組み入れることができた。そして、研究代表者の語順データを組み入れた結果、研究代表者の論じてきた分布が実際にそれらの地図上に反映されることを実証した。研究代表者等は、世界諸言語の言語特徴の地理的分布を示す、GIS(地理情報システム)によって電子化した世界言語地図を作製してきた。これは、種々の言語特徴の地理的分布に対する微視的および巨視的な考察を可能にするものである。本研究では、これらの地図システムをより充実させるとともに、研究代表者による語順データの言語名とGIS地図上の言語名をより正確に照合させることによって、データの多くを地図に組み入れることができた。そして、研究代表者の語順データを組み入れた結果、研究代表者の論じてきた分布が実際にそれらの地図上に反映されることを実証した。本研究の主な目的は、平成18年度から21年度にかけて申請者等が科研費を得て世界諸言語について作製した、GIS(地理情報システム)によるデジタル世界言語地図に対して、さらに種々の修正を施し、効率的な検索、分析が可能になるようなシステムを開発することであった。これまでにデジタル化した世界言語地図を作製し、語順データを組み込んできたが、本研究で基にした世界言語地図の言語名と、我々が収集した言語名との間には、しばしば相違があるため、両者の言語名を正確に照合、対応させる必要があった。本年度は、山本の語順データについて、これまで正しく照合できていなかったところをほぼすべて照合させることができた。また、利用者がArcViewソフトの複雑な操作を覚えることなく、言語研究上必要な様々な検索を実現し得るようなGIS検索機能システムを開発することができた。このシステムには、(複数の検索項目ないし検索キーワードの条件検索を可能にする)複数候補検索機能、(複数の検索項目を指定する際に、候補リスト画面からの選択による検索項目の設定を可能にする)検索候補選択機能、(複数の検索条件に対応する)複数条件検索機能、正規表現を用いた曖昧検索機能を付与した。さらに、システムを英語化し、様々な検索条件および検索結果に対する印刷やマップイメージの保存を可能にした。本研究の主な目的は、平成18年度から21年度にかけて申請者等が科研費を得て世界諸言語について作製した、GIS(地理情報システム)によるデジタル世界言語地図に対して、さらに種々の修正を施し、効率的な検索、分析が可能になるようなシステムを開発することであった。22年度までにおいて、地理情報システム(GIS)と連動させてデジタル化した世界言語地図を作製し、これに山本の語順データを組み込んだシステムを開発して、それをWeb上で操作可能な状態にすることができた。23年度は、各言語のポリゴンの境界などに不整合が生じていた部分を修正しつつ、これまで世界全体での表示、検索に限られていたシステムに対し、より細かくユーラシア、アフリカ、オセアニア、北アメリカ、ラテンアメリカの5区域に分けて表示、検索することも可能にした。また、これまでの世界言語WebGIS(Web版地理情報システム)用サーバを高性能なものに入れ替えることで動作を大幅に改善し、世界言語地図の表示や検索システムをより迅速かつ効率的なものに改善していった。さらに、運用するWeb版世界言語地図に対して、検索・解析を行った結果の地図表現を汎用的に利用できるよう、PDF形式で出力可能な機能を追加開発した。なお、本年度の研究成果は、上記のような研究作業の性質上、文字媒体の論文等の形ではなく、改良したWeb版世界言語地図を下に記した新たなウェブサイトにアップするという形をとった。本研究の主な目的は、平成18年度から21年度にかけて申請者等が科研費を得て世界諸言語について作製した、GIS(地理情報システム)によるデジタル世界言語地図に対して、さらに種々の修正を施し、効率的な検索、分析が可能になるようなシステムを開発することであった。23年度までにおいて、地理情報システム(GIS)と連動させてデジタル化した世界言語地図を作製し、これに山本の語順データを組み込んだシステムを開発して、それをWeb上で操作可能な状態にし、さらに、運用するWeb版世界言語地図に対して、検索・解析を行った結果の地図表現を汎用的に利用できるよう、PDF形式で出力可能な機能を追加開発した。24年度は、種々の語順特徴および整合的言語の分布、整合性の度合いによる分布などを、我々が作製したデジタル世界言語地図上に表現し、さらに、SpatialAnalystと呼ばれるプログラムを用いて、データが欠けている空白地域についての特徴を推測させた地図表現を行った。そして、特に研究代表者が著書『世界諸言語の地理的・系統的語順分布とその変遷』で述べたような語順分布が、デジタル世界言語地図上に、どの程度反映されてくるかを検証した。その結果、おおむね著書で述べたような分布が、これらの地図上に実際に表現されてきたことが確認できた。最終的には、これらの地図で表現した結果、およびそれらの分析結果をまとめた報告書を作成し、印刷することができた。
KAKENHI-PROJECT-22520418
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地理情報システムによる世界言語構造地図を活用した言語類型地理論的研究
23年度までの段階で、今後さらに修繕、改善すべき点は残されているが、一通り、世界諸言語について作製したGIS(地理情報システム)によるデジタル世界言語地図をWeb上で操作可能な状態にし、ArcViewソフトの複雑な操作を覚えることなく、言語研究上必要な様々な検索を実現し得るようなGIS検索機能システムを開発することができたため。24年度が最終年度であるため、記入しない。今年度は、Web版世界言語地図をさらに改善し、GIS多機能検索システムを一層充実させる。また、作製した世界言語地図による言語特徴の地理的な分布を分析し、研究成果をまとめた報告書を作成し、印刷する。24年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-22520418
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22520418
神経血管柄付き筋肉移植におけるアセチルコリンレセプターの動向に関する研究
白色家兎の神経血管柄付き大腿直筋長頭移植モデルの筋性状、筋体重量、H-EやAzan等の染色による組織学所見、蛍光染色による筋体内アセチルコリンレセプターの解析を経時的に試みた。神経切断モデルでは筋委縮の経時的進行が、神経切断再縫合モデルでは術直後の萎縮と8週頃よりの再生が確認された。筋性状・重量、一般染色における筋組織の萎縮、再生の程度は筋肉内CATの経時的変化と一致したが、レセプターの描出は不安定で数量的解析に至らなかった。白色家兎の神経血管柄付き大腿直筋長頭移植モデルの筋性状、筋体重量、H-EやAzan等の染色による組織学所見、蛍光染色による筋体内アセチルコリンレセプターの解析を経時的に試みた。神経切断モデルでは筋委縮の経時的進行が、神経切断再縫合モデルでは術直後の萎縮と8週頃よりの再生が確認された。筋性状・重量、一般染色における筋組織の萎縮、再生の程度は筋肉内CATの経時的変化と一致したが、レセプターの描出は不安定で数量的解析に至らなかった。再建外科領域で用いられている血管神経柄付き筋肉移植における神経筋接合の修復過程を明らかにするため、ラットを用いた予備実験と白色家兎を用いた本実験を施行した。実験モデルとして、大腿直筋短頭を用い、(A)神経切除モデル、(B)神経切断、再縫合モデル、(C)神経血管柄付き移植筋モデルの3群を作成する計画で、現在までにモデル(A)、(B)の作成を行ってきた。術後各週数で、筋収縮に関する計測と、筋体標本の蛍光標識蛇毒を用いた蛍光顕微鏡での観察を行い、アセチルコリンレセプターの形態、単位面積当たりの数量分布を検討している。次年度以降に検体数を増やし、モデル間での相違を検討した上で、学会発表、論文作成を行なう予定である。なお、実験計画策定時には、アセチルレセプターの変動から移植筋の回復過程を探るととが主目的であったが、2010年に他家よる類似の実験の報告がなされたため(文献1)、独自性を高めるべく、新たに(D)神経端側モデルも作成し、端端吻合モデルである(B)、(C)との比較も行なうこととした。近年その有用性が報告され、顔面神経再建の分野においても臨床応用されている神経端側吻合における神経再生過程の解析を行なうことは臨床的にも重要であり、本実験の目的の一つに加えることには意義があると考える。実験計画年度内に、トレーサーを用いた軸策輸送の検討へと発展させたいと考えている。再建外科領域で用いられている血管神経柄付き筋肉移植における神経筋接合の修復過程を明らかにするとともに、実際に臨床で用いられ始めている手技の評価法としての有用性を確認する目的で、平成22年度23年度にわたり、ラットを用いた予備実験と白色家兎を用いた本実験を施行してきた。ラットによる予備実験では、神経切除モデルにおいても筋体の一部に再神経支配が認められる傾向があったため、実験モデルとして家兎大腿直筋短頭を選択し、(A)神経切除モデル、(B)神経切断、再縫合モデル、(C)神経血管柄付き移植筋モデル、(D)神経端側縫合モデルの4群の作成を行ってきた。検体となる筋肉組織におけるアセチルコリンレセプターの形態・分布については、術後124週数の固体で筋組織を採取した後、筋体標本の蛍光標識蛇毒を用いた蛍光顕微鏡像として観察を進めている。現在、モデル(A)(B)については一部作成モデルに不足があるものの、モデル(A)では対側正常大腿直筋との比較において、各週数に応じた肉眼的萎縮、重量変化、電気刺激に対する応答性の低下も含め、長期間経過後のモデルにおいても明らかな差異が認められる。一方、モデル(B)では、初期においてはモデル(A)同様の変化が認められるものの、依然より行ってきた移植筋における生化学的な解析結果と同様に回復傾向が得られているものと推察できた。本年度はモデル(A)、(B)における検体数のばらつきを整えるとともに、昨年度に引き続き、モデル(C)、(D)の検体作成と解析を行い、数量的変化の解析まで行う予定である。さらに筋組織の組織学的変化との関連性を評価するため、染色法の追加による相対的評価を行うことも計画している。マイクロサージャリ-を用いた微小血管神経縫合法による神経血管柄付移植筋での神経筋接合の修復過程解明を目的とし、移植筋モデルを用いてアセチルコリンレセプターの観察を試みた。予備実験としてラット大腿筋を用いた神経切断再縫合モデルを作成したが、direct neurotizationによる筋回復が危惧され、本実験には成熟雄白色家兎の大腿直筋短頭を用いた。支配神経・栄養血管に手技を加えないコントロールモデル(対側筋)、神経切除モデル、神経切断再縫合(同所性筋移植)モデル間での比較を行った。術後160週にphentobarbital麻酔下に筋体を採取し、筋性状観察と筋体重量測定を行うともに筋標本を作製し、筋体内アセチルコリンレセプターの解析を試みた。レセプターの描出には、凍結切片作成後、Alexa Fluora®488 phallodin (life technologiesTM)とα-Bungarotoxin-tetramethylrhodamine (SigmaAldrich, Co.)溶液による蛍光染色を行い、レーザー共焦点顕微鏡LSM510(カールツァイス社)を用いた。得られた画像をパソコンに取り込み、観察に供した。
KAKENHI-PROJECT-22591999
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神経血管柄付き筋肉移植におけるアセチルコリンレセプターの動向に関する研究
結果として、筋性状・重量は、以前報告したと同様の変化をたどり、神経切断再縫合モデルでは術後610週でコントロールの約6割に減少した後増加し、最終的に9割まで回復した。一方、蛍光染色による観察で、筋体内アセチルコリンレセプターは緑色に発光する筋組織内に赤色領域の散在という形で認められるが、神経切断再縫合モデルでの描出は非常に不安定であり、数量的解析には至らなかった。理由として、神経回復の個体差とともに固定時間や染色手技の差異が考えられた。今後の課題としてレセプターの安定した描出と解析を図る必要があり、プロトコールを改変し検討を進めている。主にラットを用いた実験を予定していたが、神経切除モデルでの神経再生の可能性や実験モデル作成の難易度の高さを勘案し、家兎を中心とした実験への変更を要した。また、レセプターと共に筋の再生状況炉判別可能な染色法を再検討したため。震災の影響により、数か月間実験動物や薬品の入手が困難な時期があったことも多少影響した。24年度が最終年度であるため、記入しない。当初は、作成した動物検体に対し標識蛇毒を用いた蛍光顕微鏡像と放射線標識によるautoradiographyを用いた解析を行う計画であったが、過去2年の経過から同時に筋線維の再生状況も把握すべきと考えられたため、後者を用いた解析は一時見合わせ、一部の検体を用いたHE等免疫染色以外での標本作成とビオチンを用いた免疫組織化学染色を優先する予定である。またこれまでの研究の結果については過去2年間の成果と共に本年度中に総括し、実験の手技的な点も含めて、学会等で報告する予定である。24年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PROJECT-22591999
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文化史を基礎視角とする19世紀イギリス史像の再検討
まず、論文「最初の産業国家における建築と文化ヘゲモニー」(「史学研究」181号)において当該期の四大雑誌たるQuarterly Review、Blackwood's Magazine、Westminster Review、Edinburgh Reviewの建築関係の論文を分析し、以下の結論を得た。つまり、新しい産業社会が形成されつつあったヴィクトリア時代に出現したグリーク、ゴシック等の歴史的建築様式による建築群は、産業社会に相応しい新しい建築様式を創出し得なかった中産階級の文化的力量の弱さと過去の威信の強大さを示すというだけではなく、その歴史的様式は「近代の必要性」という十字架を背負っていたが故に、「新しき要素」と「古き要素」との和解というある種の閉塞的な枠組みの中からヴィクトリア時代の人々を満足させ得る建築作品を創出せんとする建築界の苦闘をも表していることを論証した。次に、「産業都市のイメージ」(研究論叢13巻1号)において、第一にマンチェスターはただ産業革命の中心地であったというだけではなく、美術展覧会などを積極的に開催し、ゴシック・リヴァイヴァルの一大中心地と目される文化都市でもあったこと、第二にこれらの文化諸活動は中産階級エリート層による自己自身の変容(社会的地位の上昇)とマンチェスターの文化イメージの変容を目的とする試みであったこと、第三にこれらの文化諸活動は支配エリートの労働者階級に対する社会的コントロールの手段でもあったこと、これらの諸点を論証し得た。本研究は、ヴィクトリア時代の文化史的特質を明らかにすることで、19世紀イギリス史の再検討を試みるものであるが、今後はヴィクトリア時代における二つの異郷への憧憬、つまり通時的異郷ー中世主義と空間的異郷ージャポニスムの意味を探ることにより研究を更に深めたいと考えている。まず、論文「最初の産業国家における建築と文化ヘゲモニー」(「史学研究」181号)において当該期の四大雑誌たるQuarterly Review、Blackwood's Magazine、Westminster Review、Edinburgh Reviewの建築関係の論文を分析し、以下の結論を得た。つまり、新しい産業社会が形成されつつあったヴィクトリア時代に出現したグリーク、ゴシック等の歴史的建築様式による建築群は、産業社会に相応しい新しい建築様式を創出し得なかった中産階級の文化的力量の弱さと過去の威信の強大さを示すというだけではなく、その歴史的様式は「近代の必要性」という十字架を背負っていたが故に、「新しき要素」と「古き要素」との和解というある種の閉塞的な枠組みの中からヴィクトリア時代の人々を満足させ得る建築作品を創出せんとする建築界の苦闘をも表していることを論証した。次に、「産業都市のイメージ」(研究論叢13巻1号)において、第一にマンチェスターはただ産業革命の中心地であったというだけではなく、美術展覧会などを積極的に開催し、ゴシック・リヴァイヴァルの一大中心地と目される文化都市でもあったこと、第二にこれらの文化諸活動は中産階級エリート層による自己自身の変容(社会的地位の上昇)とマンチェスターの文化イメージの変容を目的とする試みであったこと、第三にこれらの文化諸活動は支配エリートの労働者階級に対する社会的コントロールの手段でもあったこと、これらの諸点を論証し得た。本研究は、ヴィクトリア時代の文化史的特質を明らかにすることで、19世紀イギリス史の再検討を試みるものであるが、今後はヴィクトリア時代における二つの異郷への憧憬、つまり通時的異郷ー中世主義と空間的異郷ージャポニスムの意味を探ることにより研究を更に深めたいと考えている。
KAKENHI-PROJECT-63510220
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東・東南アジア民主主義地域における共同的意思決定の公共選択論的分析
公共選択の分野では、先進諸国のデータを利用した研究は行われているものの、東・東南アジアの民主主義国は研究対象とされていなかった。この研究計画は、実証研究の対象を東・東南アジアの民主主義国に拡げることを主な目的としていた。タイにおいては1948年から2014年までの政府予算データを分析して、クーデター後には予算全体の変化により説明される程度を超えて、軍事予算が923%増加することが確認された。これは公共選択の理論から得られる仮説と整合的である。台湾に関する民主制導入と政府規模の関係の研究、フィリピンでの立法府での地域代表と予算配分の研究は期間内には完了しておらず、引き続き研究を行う。公共選択(public choice)の分野での実証研究の対象を東・東南アジアの民主主義国に拡げることを目的として、平成26年度は「理論的枠組みの整備」と「タイ・フィリピンを対象とする実証研究」を行った。「タイ・フィリピンを対象とする実証研究」については、タイにおいては長期的な中央政府予算データを収集した。クーデターに関する考察を行うため、軍事関連支出についても情報を収集した。フィリピンについては、1990年からの中央政府から地方政府への移転支出について詳細なデータを収集した。いずれの国についても、海外共同研究者からの協力を得てデータ収集を進めた。前年度に引き続き、民主的意思決定における「逸脱」を説明する理論的枠組みの構築作業を行った。発展途上国では先進工業国とは異なり、法律などで定められた制度が必ずしもその通りに運営されていない場合が多く、成熟した民主主義のもとでは起こり得ないタイミングでの政権交代などが発生することがある。それは軍事クーデターや大規模デモなどの形態を取ることがあるが、本研究で構築している理論モデルは、そうした「逸脱」を説明することに貢献するものと期待される。それと平行して、その理論的枠組みから得られる仮説を検証するための実証分析に用いるために、タイ・台湾・フィリピンに関するデータ収集作業を行った。タイ、台湾に関しては分析に利用可能な段階までデータを整備することができた。しかし、フィリピンに関しては、データ収集作業を担当していたフィリピンの研究協力者が所属大学での業務が多忙になったため、本研究計画に携わることができなくなった。以下の【11.現在までの進捗状況】にある通り、代わりにデータ収集をすることができる研究者を探している。民主主義的意思決定手続きの浸透度合いに関して様々な段階にあるアジア3か国(タイ・台湾・フィリピン)を併せて実証分析することで、理論的考察から導出される仮説を検証することが研究計画の目的であった。しかし、フィリピンのデータ収集作業を担当していたフィリピンの大学に所属する研究協力者が、所属大学での業務が多忙になったため、本研究計画に携わることができなくなった。このためにフィリピンについてはデータ収集作業がやや遅れている。2016年度は、タイでの軍事クーデターと軍事予算の関係について分析を行った。クーデターは、軍事力などの非合法的な手段により政治の実権を奪う、民主主義的手続きからは逸脱した行為である。これは極めて政治的な行動ではあるが、同時に、クーデター成功後の経済政策を通じて国民経済にも多大な影響を及ぼす。タイでは民主主義への移行後もクーデターが繰り返し行われているが、この不幸な歴史は逆に実証研究の機会を提供していることにもなる。1948年から2014年までのサンプル期間内に15回のクーデターが試みられ、軍人を中心とした政権樹立、憲法の停止などの形でそのうち9回が成功した。軍事予算と政府予算総額双方の増加・減少率に関する回帰分析により、クーデター後には予算全体の変化により説明される程度を超えて、軍事予算が923%増加することが確認された。そして、この影響はクーデター直後の年度に限定され、クーデター後2年目および3年目の予算には影響は見られない。また、陸海空の三軍間での予算配分においては、陸軍への予算配分の上昇に繋がる変化がクーデター後に起きることが平均の差に関するt検定により確認される。三軍におけるその支配的な立場から、陸軍の参加無しにはクーデターの成功は見込まれない。クーデター後の予算配分決定の検証結果は、三軍の中で陸軍の発言力が強いと考えられることと整合的である。タイ国軍がクーデターを実行する際には政治家による汚職の一掃、王室の護持、国家の安定などの理由を挙げることが多い。しかし、タイ政府予算分析結果からは、実際には軍へのより大きな予算配分を求めるという動機がクーデターの背後に潜んでいる可能性も否定できないという結論を得た。公共選択の分野では、先進諸国のデータを利用した研究は行われているものの、東・東南アジアの民主主義国は研究対象とされていなかった。この研究計画は、実証研究の対象を東・東南アジアの民主主義国に拡げることを主な目的としていた。タイにおいては1948年から2014年までの政府予算データを分析して、クーデター後には予算全体の変化により説明される程度を超えて、軍事予算が923%増加することが確認された。これは公共選択の理論から得られる仮説と整合的である。台湾に関する民主制導入と政府規模の関係の研究、フィリピンでの立法府での地域代表と予算配分の研究は期間内には完了しておらず、引き続き研究を行う。平成26年度に計画していた「理論的枠組みの整備」と「タイ・フィリピンを対象とする実証研究」の2つの活動についておおむね順調に進んでいると評価している。タイ、フィリピンについて追加的に収集すべき情報は残っているものの、平成27年度にデータ収集を完了し次第分析を進め、年度中にある程度の結果を得ることができるものと期待している。
KAKENHI-PROJECT-26590047
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26590047
東・東南アジア民主主義地域における共同的意思決定の公共選択論的分析
フィリピン人、日本人を問わずフィリピンの政治・財政状況に精通した研究者を新たな研究協力者として、引き続きフィリピンに関するデータ収集作業を行う。それにより平成28年度中にはアジア3か国(タイ・台湾・フィリピン)の民主主義意思決定を併せて実証分析することを見込んでいる。公共選択今後は理論的枠組みを完成させ、それから得られた仮説をタイ、フィリピンのデータを用いて検証する作業を行う。これについては平成27年度に目途をつける予定である。また、台湾についてのデータも収集し、独裁制から民主制に移行した例として分析を行う。フィリピンのデータ収集作業に遅れが生じたため、予定していたマニラ出張が延期になったことによる。タイおよびフィリピンへの海外出張を計画していたが、データ収集の進展状況を鑑みて次年度に先送りしたために、次年度使用額が発生した。フィリピンに関するデータ収集を平成28年度には加速させて、マニラ出張を行う。タイおよびフィリピンへの海外出張を行う。
KAKENHI-PROJECT-26590047
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大学における数学基礎教育の総合的研究
1.教育体制調査研究部会(1)大学数学基礎教育の体制、教育内容等について総合的な調査を行った。特に教育内容については信頼できる全体像が初めて明らかになった。(2)教養部改革特別研究班では、大網化による教養部改革で数学教育の体制、内容がどの様な変化を受けたか詳細に調査した。その結果、旧教養部数学者集団の分散・授業時間数減少によるサービス低下などの問題が生じていることが明らかになった。また学部改革の結果「数学科」の名称が著しく減少している。私立大学においては常勤ポストが廃止されつつある。2.専門教育内容調査研究部会学部専門分野においてどのように数学が用いられているかを各分野の専門家と数学者と協力して具体的に調査した。基礎教育の立場からのこのような調査研究は過去に類を見ない。今回は物理学、経済学、情報科学の諸分野においてほぼ十分な成果を上げた。他分野、特に工学部諸学科および文系学科については今後の課題とする。3.学生学力調査研究部会大学の数学教育担当教官へのアンケートによってここ15年ほどの間に学生の数学能力に大きな低下が見られ、特に数学的表現力、論理的推理力、応用力の低下の著しいことが明らかになった。本部会では大学1年次の学生を対象に学年の始めと終わりとの2度サンプル調査を行い、上記の傾向を確認した(時系列的変化は実証不能)。4.これらの調査研究で、大学数学基礎教育の全貌が、同時に様々な問題点とともに明らかになった。全国の大学数学教室が本研究に協力したことは、上記の数学以外の分野の専門家との共同研究と合わせ、本研究において実現し得た大きな意義である。この調査を更に充実させること、調査結果を踏まえて如何に数学基礎教育を改善してゆくか、その具体化は今後の研究課題である。1.教育体制調査研究部会(1)大学数学基礎教育の体制、教育内容等について総合的な調査を行った。特に教育内容については信頼できる全体像が初めて明らかになった。(2)教養部改革特別研究班では、大網化による教養部改革で数学教育の体制、内容がどの様な変化を受けたか詳細に調査した。その結果、旧教養部数学者集団の分散・授業時間数減少によるサービス低下などの問題が生じていることが明らかになった。また学部改革の結果「数学科」の名称が著しく減少している。私立大学においては常勤ポストが廃止されつつある。2.専門教育内容調査研究部会学部専門分野においてどのように数学が用いられているかを各分野の専門家と数学者と協力して具体的に調査した。基礎教育の立場からのこのような調査研究は過去に類を見ない。今回は物理学、経済学、情報科学の諸分野においてほぼ十分な成果を上げた。他分野、特に工学部諸学科および文系学科については今後の課題とする。3.学生学力調査研究部会大学の数学教育担当教官へのアンケートによってここ15年ほどの間に学生の数学能力に大きな低下が見られ、特に数学的表現力、論理的推理力、応用力の低下の著しいことが明らかになった。本部会では大学1年次の学生を対象に学年の始めと終わりとの2度サンプル調査を行い、上記の傾向を確認した(時系列的変化は実証不能)。4.これらの調査研究で、大学数学基礎教育の全貌が、同時に様々な問題点とともに明らかになった。全国の大学数学教室が本研究に協力したことは、上記の数学以外の分野の専門家との共同研究と合わせ、本研究において実現し得た大きな意義である。この調査を更に充実させること、調査結果を踏まえて如何に数学基礎教育を改善してゆくか、その具体化は今後の研究課題である。大学における数学基礎教育は、近年の大学改革による教養部改組、教養科目の廃止に伴なう教育組織、教育計画の変化、これに伴う数学基礎教育の内容と専門教育との調和、整合性等が緊急の問題となっている。また、学生の知識・能力の多様化等の大きな問題も含め、これらの諸問題について、厳密かつ徹底的な調査を行い、そこから問題解決の方法を探る事が、本研究の課題である。今年度は、2年間の継続研究の初年度として、上記の問題を検討する為の3つの調査部会と調査、連絡の効率化を計る為のワットワーク部門からなる、4つの部会を構成し調査・検討に着手した。教育体制調査部会においては、教養部の改組、教養科目の廃止に伴う数学基礎教育の体制の変化、及び教育内容の変化を各大学から便覧、シラバス等を取り寄せ調査を開始した。専門教育内容調査研究部会では、基礎科目として数学が特に必要とされる、理学、工学、経済、教育系、情報系の5研究班を組織した。各研究班では、各々の分野で必要とされる基礎数学の内容の調査の為にそれらの分野における専門家を講師として研究会を開催している。学生学力調査部会では、来年度に行なう本格的調査の為の試行として、約10の大学の協力のもとに、初年級の学生を対象として、計算能力、思考能力を試す学力調査を行ない、本試験実施の為の検討を始めた。ネットワーク部門は、この研究、調査のために全国の大学の数学関係組織を結ぶネットワークを組織した。この結果、現在までに約120大学、160組織からの参加があったことは、この研究に対する期待の大きさを物語るものである。1.教育体制調査研究部会(1)大学数学基礎教育の体制、教育内容等について総合的な調査を行った。特に教育内容については信頼できる全体像が初めて明らかになった。(2)教養部改革特別研究班では、大綱化による教養部改革で数学教育の体制、内容がどの様な変化を受けたか詳細に調査した。
KAKENHI-PROJECT-07304009
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-07304009
大学における数学基礎教育の総合的研究
その結果、旧教養部数学者集団の分散・授業時間数減少によるサービス低下などの問題が生じていることが明らかになった。また学部改革の結果「数学科」の名称が著しく減少している。私立大学においては常勤ポストが廃止されつつある。2.専門教育内容調査研究部会学部専門分野においてどのように数学が用いられているかを各分野の専門家と数学者とが協力して具体的に調査した。基礎教育の立場からのこのような調査研究は過去に類を見ない。今回は物理学、経済学、情報科学の諸分野においてほぼ十分な成果を上げた。他分野、特に工学部諸学科および文系学科については今後の課題とする。3.学生学力調査研究部会大学の数学教育担当教官へのアンケートによってここ15年ほどの間に学生の数学能力に大きな低下が見られ、特に数学的表現力、論理的推理力、応用力の低下の著しいことが明らかになった。本部会では大学1年次の学生を対象に学年の始めと終わりとの2度サンプル調査を行い、上記の傾向を確認した(時系列変化は実証不能)。4.これらの調査研究で、大学数学基礎教育の全貌が、同時に様々な問題点とともに明らかになった。全国の大学数学教育が本研究に協力したことは、上記の数学以外の分野の専門家との共同研究と合わせ、本家機においい実現し得た大きな意義である。この調査を更に充実させること、調査結果を踏まえて如何に数学基礎教育を改善してゆくか、その具体化は今後の研究課題である。
KAKENHI-PROJECT-07304009
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光フーリエ変換を用いた低歪み光可変遅延線の研究
光通信ネットワークにおいて光信号の時間タイミングを可変するために不可欠な「光可変遅延線」を、光フーリエ変換を利用して構成し、光信号に対する時間遅延を低信号歪みで実現する手法を提案し、位相変調器と分散性媒質、光波長変換器によって構成された光可変遅延線の特性の評価を行った。光通信ネットワークにおいて光信号の時間タイミングを可変するために不可欠な「光可変遅延線」を、光フーリエ変換を利用して構成し、光信号に対する時間遅延を低信号歪みで実現する手法を提案し、位相変調器と分散性媒質、光波長変換器によって構成された光可変遅延線の特性の評価を行った。本研究計画においては、光信号のタイミングを柔軟に設定できる光可変遅延線を、光フーリエ変換を利用して構成し、高速光信号に対する時間遅延を低信号歪みで実現する手法の開発と、その性能を評価することを目的としている。今年度は、以下のような成果を得た。(1)光フーリエ変換器の設計信号の時間波形とスペルトルを交換可能な光フーリエ変換器の理論解析を行い、これに基づいて、現有の設備で生成可能な光パルス幅と位相変調の量、得られる波長分散量の最大値を考慮して、光フーリエ変換器を設計した。(2)位相変調器と可変分散補償器を用いた光フーリエ変換器の特性評価上記の設計に基づいて、電気光学効果を利用した位相変調器と可変分散補償器によって光フーリエ変換器構成した。構成した光フーリエ変換器に光パルスを入力し、その出力波形を評価したところ、出力波形に歪みが見られた。これは、生成した光パルスの信号波形が、理想的な光フーリエ変換の成立条件からずれていることに起因することが考えられ、次年度以降、設計の最適化や入力波形の修正などにより、光フーリエ変換器を適正に動作させることが課題として残った。本研究計画においては、光信号のタイミングを柔軟に設定できる光可変遅延線を、光フーリエ変換を利用して構成し、高速光信号に対する時間遅延を低信号歪みで実現する手法の開発と、その性能を評価することを目的としている。今年度は、以下のような成果を得た。(1)位相変調器と可変分散補償器を用いた光フーリエ変換器の設計昨年度に引き続き、電気光学効果を利用した位相変調器と可変分散補償器によって構成した光フーリエ変換器の設計と特性評価を行った。昨年度においては、入力波形が理想的な光フーリエ変換の成立条件からずれていることに起因する出力波形の歪みに歪みが観測されていたので、位相変調器の変調特性を計測することで、位相変調指数を明らかにした。ここで得られた位相変調特性に基づいて、フーリエ変換を可能とする可変分散補償器の補償量を明らかにした。(2)光フーリエ変換器及び光可変遅延線の動作特性評価(1)に基づいて構成した光フーリエ変換器に光パルスを入力することで、動作確認を行った。出力波形の観測により概ね設計どおりの動作をすることがわかったので、入力信号の波長を可変することで信号の可変遅延を試みた。しかしながら、光コムを用いた光源を用いたため、波長可変により波形が不安定となる問題が生じた。次年度はこのことを踏まえて、より波形が安定なパルス光源を用いた光可変遅延線の評価を行う予定である。・本研究計画においては、光信号のタイミングを柔軟に設定できる光可変遅延線を、光フーリエ変換を利用して構成し、高速光信号に対する時間遅延を低信号歪みで実現する手法の開発と、その性能を評価することを目的としている。今年度は、以下のような成果を得た。(1)光可変遅延線の動作特性評価昨年度に引き続き、電気光学効果を利用した位相変調器と分散性媒質によって構成した光フーリエ変換器を用いた光可変遅延線の特性評価を行った。昨年度は入力光信号生成に光コムを用いた光源を用いたことに起因する波形の不安定性が見られたので、より安定性の高い電界吸収変調器により生成したクロック信号を用いて入力光信号を生成した。この入力信号の波長を変化させることで、数種類の長さが数km程度の光ファイバ線路を分散性媒質として用いることで、所望の遅延量を得ることに成功した。さらに光信号の品質評価を符号誤り率特性により行い、信号品質劣化の少ない可変遅延が可能であることを明らかにした。(2)光可変遅延線の波形歪み補正効果の評価(1)で評価した光可変遅延線は、光フーリエ変換による波形歪み補正効果を有する。そこで光可変遅延線の光波形歪み補正効果の測定を試みたが、用いた光ファイバ線路による分散性媒質の分散値と入力光信号のパルス幅の値の組み合わせにおいては、信号波形の歪みは微小であり、評価が困難であることが分かった。そこで、上記の光可変遅延線に用いた光ファイバよりも長さが大きい25km長の光ファイバを用いた可変遅延線を構成したところ、波形歪み補正効果が観測されたので、(1)の光可変遅延線も波形歪みの補正効果を有すると結論づけた。
KAKENHI-PROJECT-21560350
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21560350
グラフ上微分方程式の解析
コンパクトな部分を含む無限グラフ上のSchrodinger作用素のポテンシャル再構成の問題に取り組む本研究では、ポテンシャル再構成をするため、Marchenkoの基本方程式を導き出した。Marchenkoの基本方程式は一意に解けるので、ポテンシャルの一意性と安定性の証明ができ、散乱データの特性評価可能となった。作用素のスペクトル表現から得荒れる定常波動作用素がMollerの波動作用素に一致した。ナノテクノロジを理論的に理解するにあたり、メゾスコピック領域においてグラフ上微分方程式は大切なモデルになる。本研究は、ループを含む量子グラフと星型のグラフに対するポテンシャル散乱の逆問題を追及するグラフ上微分方程式の研究である散乱関数(散乱行列)を、Heisenbergの定義に従って定常的に定義する。物理的により正当化できる散乱行列の時間に依存する定義はMollerによって与えられており、半直線上のSchrodinger作用素の場合には両者が一致することがFaddeyev-Secklerによって示されている。逆散乱理論の目的はポテンシャルの一意性、再構成の方法、再構成の安定性、さらに散乱特性評価である。そこで、本研究では、ポテンシャル再構成をするため、Marchenkoの基本方程式を導き出すものとする。Marchenkoの基本方程式は一意に解けるので、ポテンシャルの一意性と安定性の証明ができ、散乱データの特性評価が可能となる。2012年度は以下研究を行った:1.ループを含む量子グラフと星型のグラフに対するポテンシャル散乱行列を元にしたポテンシャルの一意性と再構成の方法。2.グラフ上Schrodinger作用素については逆散乱理論をもとにした非線型方程式。3.ループを含む一般のグラフと星型のグラフ上Schrodinger作用素の散乱行列の特性評価。ナノテクノロジを理論的に理解するにあたり、メゾスコピック領域においてグラフ上微分方程式は大切なモデルになる。本研究はループを含む量子グラフと星型のグラフに対するポテンシャル散乱の逆問題を追究する、グラフ上微分方程式の研究である。散乱関数(散乱行列)はHeisenbergの定義に従い,定常的に定義されている。物理的により正当化できる散乱行列の時間に依存する定義はMollerによって与えられており,半直線上のSchrodinger作用素の場合には両者が一致することがFaddeyev-Secklerによって示されている。逆散乱理論の目的はポテンシャルの一意性、再構成の方法、再構成の安定性、さらに散乱特性評価である。そこで、本研究では、ポテンシャル再構成をするため、Marchenkoの基本方程式を導き出すものとする。Marchenkoの基本方程式は一意に解けるので、ポテンシャルの一意性と安定性の証明ができ、散乱データの特性評価可能となり。2013年度は以下研究を行った:1.星型のグラフに対するポテンシャル散乱行列を元にしたポテンシャルの一意性と再構成の方法。2.星型のグラフ上Schrodinger作用素については逆散乱理論をもとにした非線形方程式。3.星型のグラフとループを含む一般のグラフ上Schrodinger作用素のResolventと散乱行列の特性評価。コンパクトな部分を含む無限グラフ上のSchrodinger作用素のポテンシャル再構成の問題に取り組む本研究では、ポテンシャル再構成をするため、Marchenkoの基本方程式を導き出した。Marchenkoの基本方程式は一意に解けるので、ポテンシャルの一意性と安定性の証明ができ、散乱データの特性評価可能となった。作用素のスペクトル表現から得荒れる定常波動作用素がMollerの波動作用素に一致した。ナノテクノロジを理論的に理解するにあたり、メゾスコピック領域においてグラフ上微分方程式は大切なモデルになる。本研究はループを含む量子グラフと星型のグラフに対するポテンシャル散乱の逆問題を追究する、グラフ上微分方程式の研究である。散乱関数(散乱行列)はHeisenbergの定義に従い,定常的に定義されている。物理的により正当化できる散乱行列の時間に依存する定義はMollerによって与えられており,半直線上のSchrodinger作用素の場合には両者が一致することがFaddeyev-Secklerによって示されている。逆散乱理論の目的はポテンシャルの一意性、再構成の方法、再構成の安定性、さらに散乱特性評価である。そこで、本研究では、ポテンシャル再構成をするため、Marchenkoの基本方程式を導き出すものとする。Marchenkoの基本方程式は一意に解けるので、ポテンシャルの一意性と安定性の証明ができ、散乱データの特性評価が可能となる。2011年度は以下研究を行った:1.本研究ではループを含む量子グラフと星型のグラフに対するポテンシャル散乱行列を元にしたポテンシャルの一意性と再構成の方法。2.星型のグラフ上Schrodinger作用素については逆散乱理論をもとにした非線形方程式。3.ループを含む一般のグラフ上Schrodinger作用素の散乱行列の特性評価。1.2012年度の計画のとおり、本研究ではループを含む量子グラフと星型のグラフに対するポテンシャル散乱行列を元にしたポテンシャルの一意性の証明と再構成をすることができ、2013年度も引き続き予定通り研究を続ける。2.グラフ上Schrodinger作用素については逆散乱理論をもとにした非線型方程式を研究した。3.ループを含む一般のグラフと星型のグラフ上Schrodinger作用素の散乱行列の特性評価を導き出した。1.2011年度の計画のとおり、本研究ではループを含む量子グラフと星型のグラフに対するポテンシャル散乱行列を元にポテンシャール再構成をすることができ、2012年度も引き続き予定通り研究を続ける。2.星型のグラフ上Schrodinger作用素については逆散乱理論をもとに非線形方程式を研究した。3.ループを含む一般のグラフ上Schrodinger作用素の散乱行列を導き出した。今年度はグラフ上Schrodinger作用素について逆散乱理論をさらに研究する。
KAKENHI-PROJECT-23540181
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グラフ上微分方程式の解析
また、研究成果を論文掲載や学会発表により発表する。研究結果を論文と発表によって推進する。2012年に論文2本を投函し、Novosibirsk Universityにおける学会で発表する予定である。次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い派生した未使用額と平成25年度請求額をあわせ、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり平成24年度請求額とあわせ、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
KAKENHI-PROJECT-23540181
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23540181
警察行政の組織教育と執行に関する第三者機関(審議会)関与の比較法的研究
比較研究対象としたオーストリア『安全警察法』は2002年に法改正され、安全アカデミーによる警察官教育の統括機能は強化されさらにはその高度化が図られることとなった。この背景には、非効率とされた連邦の一般職公務員の昇任やキャリア形成のための教育機関であった『連邦行政アカデミー』の解体があり、また行政事務職に関する企図された人事流通も機能不全となっていたことからの、公務員教育が各行政分野単位すなわち原則的な省庁事項へと転換されたことにある(連邦公務員法改正)。これを受け安全執行官教育は本来連邦内務省事項であったが、これに安全事務に従事する職員教育をも統括することとなる。今年度研究においては、改正安全警察法を受けた、1999年の「各級執行機関基礎教育命令」の改正、また隣国ドイツにおいてはEU下での治安に関する国際連携は「連邦刑事局(BKA)」で担当されるが、オーストリアにあっては安全アカデミーがこれを担当することから、その具体的な組織の充実化への動き、さらには連邦内での治安能力の向上・警察力の強化を図るための、現行の2元的治安担当機関システム(警察官・ジャンダマリー)の『連邦警察』への統合の動きを分析研究した。したがって上記「各級執行機関基礎教育命令」に加え、アカデミー任務の効率的実現を図るための「財政運営柔軟化命令」、各州設置の教育センターでの教育担当者養成を目指す「安全執行部教官教育命令」、新規「安全アカデミー教育命令」を考察した。比較研究対象としたオーストリア『安全警察法』は2002年に法改正され、安全アカデミーによる警察官教育の統括機能は強化されさらにはその高度化が図られることとなった。この背景には、非効率とされた連邦の一般職公務員の昇任やキャリア形成のための教育機関であった『連邦行政アカデミー』の解体があり、また行政事務職に関する企図された人事流通も機能不全となっていたことからの、公務員教育が各行政分野単位すなわち原則的な省庁事項へと転換されたことにある(連邦公務員法改正)。これを受け安全執行官教育は本来連邦内務省事項であったが、これに安全事務に従事する職員教育をも統括することとなる。今年度研究においては、改正安全警察法を受けた、1999年の「各級執行機関基礎教育命令」の改正、また隣国ドイツにおいてはEU下での治安に関する国際連携は「連邦刑事局(BKA)」で担当されるが、オーストリアにあっては安全アカデミーがこれを担当することから、その具体的な組織の充実化への動き、さらには連邦内での治安能力の向上・警察力の強化を図るための、現行の2元的治安担当機関システム(警察官・ジャンダマリー)の『連邦警察』への統合の動きを分析研究した。したがって上記「各級執行機関基礎教育命令」に加え、アカデミー任務の効率的実現を図るための「財政運営柔軟化命令」、各州設置の教育センターでの教育担当者養成を目指す「安全執行部教官教育命令」、新規「安全アカデミー教育命令」を考察した。本研究は1999年改正になる安全警察法を考察の対象としていたが、2002年にはオーストリアにおける警察官教育とりわけ安全アカデミーを頂点とする教育システムの統合・再編(主要ポイントは、警察と国家地方安全執行機関における教育制度の重複を回避すべく、全国に10カ所の統合教育センターを設置しアカデミーがその最高指揮を執ることとした)に係る関連条項の改正が実施された。これを本研究の新たな契機として、主に立法手続論の観点から、わが国の立法手続との対比においてきわめて特徴的である、社会的な各種の自治団体(経済・労働・職能・業種)さらには各州政府や地方自治体の立法への関与(意見具申手続)が、いかに進行実施されるかを詳細に考察した。とりわけ、政府官房案(立法草案)段階での各種団体の関与状況については、従来わが国における研究(成果)文献がなかったため、学界はもとより研究代表者自身にとっても有益な成果を発表することができた。また、改正法を受けて制定された安全アカデミーの運営および教育体勢の詳細を書く内務省命令の分析によって、教育にあたる警察官の資格条件等が命令をもって明定され公布されている点も、わが国に比して、より法治国家的であり透明化が図られている。警察官教育という執行機関の形成=いわゆる組織高権の中核領域にも命令形式での法的規律が導入されており、法実証主義発祥の国家たる所以を明らかにしている。なお03年9月には、連邦内務省第II部教育課において、基礎教育課長トーマス・ホプフナー氏および警察科学研究所所長オットー・プラントル氏による上記法改正の下での実務状況についてのブリーフィングを受け、04年2月にはザルツブルク大学憲法・行政法研究所で日本の治安状況についての講演を行い、ウィーンにおいては人権協議会会長(元最高裁判所長官)エルヴィン・フェルツマン氏への法執行における人権保全に関するインタヴユーを実施した。本年度の研究成果(関東学院法学14巻3・4合併号3月掲載)として、オーストリア安全執行機関教育の包括的指揮権を担う安全アカデミーに関する2002年安全警察法改正の分析とならんで、EU拡大化の下で国家行財政改革と連邦公務員の能力向上とその職務執行負担軽減に資する基本権としての公務員教育改革をめざす、連邦公務員法改正の研究に従事した。一般法たる公務員法改正を受けて1999年各級執行機関基礎教育命令の改正が実施され、具体的基礎教育課程の全面改定が命令別表改正をもってなされたため、これを分析した。
KAKENHI-PROJECT-15530026
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警察行政の組織教育と執行に関する第三者機関(審議会)関与の比較法的研究
さらに安全アカデミー機能充実の内実たる各種センター(国際・メディア・研修・公共安全研究所等)機能の紹介、教育機関の任務履行の実効性を確保するため予算執行を柔軟化し責任明確化を図る財政柔軟化命令、執行部機関教育の高度化と受講者への専修学位授与のための制度化である安全執行部教官教育命令、新規安全アカデミー教育命令の制定等、さらには2005年安全警察法改正法によるジャンダマリーと安全警護官システムの統合への法制の展開を実証的に分析した(なおこれら研究の成果は、本務校の出版助成金を得て、4月に『ウィーン警察官教育の法と命令』として刊行される)。また現地オーストリアでの研究遂行過程で、訪問先ザルツブルク大学憲法・行政法研究所において、日本の治安に関する現代的課題についてのドイツ語講演を実施した(関東学院法学14巻2号に掲載)。論文発表はこれからとなるが、2004年9月には、警察活動執行プロセスにおける人権保全を確保する人権審議会の下部コミッションメンバーでもあるウィーン経済大学オーストリア・ヨーロッパ公法研究所教授ゲオルク・リーンバッハー教授へのインタビューを実施し、これら委員会活動に関する人権審議会命令改正について、ヴィッツァースドルファー人権審議会事務局長への聴取もおこなった。なお3月下旬には、3月1日から連邦政府国制事務局局長をも兼務されることとなったリーンバッハー教授を再訪し、人権審議会事務の展開についても再び取材を行った。
KAKENHI-PROJECT-15530026
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農業参入企業を包含する地域農業計画の確立に資する地域自主協約策定方法に関する研究
本研究では,企業が農地法の枠組み内で農業経営に参画する動きが活発化してくる中で,コンフリクトの発生や農業経営の持続性を毀損する状況を回避する地域農業計画のあり方を明らかにする。まず,企業側が農業経営を始め農山村地域での協働活動に対して如何なるニーズや課題認識を持っているかについて,北陸圏の企業を対象としてアンケート調査を実施した。次いで,その参入を受け入れる地域側の意向を捉えるために,農業組織の代表者を対象としたアンケート調査を実施した。最後に,これらのギャップを精緻に検証すべく,双方への聞き取り調査や意見交換ワークショップの開催を通じて利害関係の齟齬を確認し,計画が具備すべき要件を整理した。2年目の年度は,最終目標である農業参入企業を包含した地域農業計画の確立に向けた現地調査を集中的に行った。具体的には,水田農業や林業経営に対して,企業がどのような立ち位置にあるかについて,さらに都市住民が農山村の環境保全に対してどのような経済価値を見出しているかについて,アンケート調査を行い,その結果の定量分析を行った。主な結果は以下の通りである。まず,企業の生物多様性保全活動の実態を圏域レベルで調査し,得られた結果を元にカテゴライズした企業群について,活動開始の障壁や継続条件の認識,及び活動不参加の要因を検討することを課題とした研究である。調査対象は,北陸4県を中心に事業所を置く企業とし,企業の実態を調べるためのアンケート調査を行った。その結果,企業が保全活動に取り組むには,まず社内の理解を進め,先行企業の情報等を参照しつつ,地域とのマッチングやノウハウ指導面で行政の支援が不可欠であることが示唆された。そして,その活動の持続性を担保する評価機構については,現状では企業外部からの積極的な関与が必要であることが分かった。次いで,里山活性化計画の精度を高めることを目的として,地域資源(漬け物)の特産品化を契機とする地域活性化計画の診断を行う調査研究である。診断手法としてCVMを用いて,実際の計画案に対する消費者の反応を経済的に評価する。結果,地産地消の理念から農産物直売所を設置しても,本事例では商品に付加価値が無ければ大きなインパクトとなりえなかった。また,計画主体が想定する主な消費者である高齢者層は,実際に漬け物への評価が特に高く,計画の方向性は概ね妥当であった。さらに,都市住民が里山行う環境活動や農作業などの経験は環境価値の評価向上に寄与し,購買行動に一定の効果が見られたが,簡易な情報提供では,殆ど効果が見られなかった。本研究では,企業が農地法の枠組み内で農業経営に参画する動きが活発化してくる中で,コンフリクトの発生や農業経営の持続性を毀損する状況を回避する地域農業計画のあり方を明らかにする。まず,企業側が農業経営を始め農山村地域での協働活動に対して如何なるニーズや課題認識を持っているかについて,北陸圏の企業を対象としてアンケート調査を実施した。次いで,その参入を受け入れる地域側の意向を捉えるために,農業組織の代表者を対象としたアンケート調査を実施した。最後に,これらのギャップを精緻に検証すべく,双方への聞き取り調査や意見交換ワークショップの開催を通じて利害関係の齟齬を確認し,計画が具備すべき要件を整理した。初年度は,最終目標である農業参入企業を包含した地域農業計画の確立に向けた基礎的作業として,国内の水田農業経営に対する企業の農業参入の持続事例,撤退事例を網羅的にとりあげ,その要因を文献資料の精読及び実地調査により明らかにした。その結果,地域と企業が農業参入以前にどれだけ緻密な情報共有をし,また参入後にどの程度協調的な取り組みが出来るかが最重要課題であることが指摘できた。そして,神戸市を対象にした実例調査では,文献調査で明らかとなった上記の課題が実証的に示され,多様な企業参入を想定した地域農業の体制づくりを強化する必要性があるという地域課題に帰着した。そこで,地域にとっては不確実性が高い企業参入を多様に想定し,参入企業に様々な制約を課した場合の水田農業の維持管理の将来予測として,マルチエージェントシミュレーションによる農地保全シミュレーションを行った。マルチエージェントシミュレーションの結果,地元農家が現況の経営行動のまま企業参入を受け入れた場合,水稲作のみでは企業の早期撤退は不可避であることが明らかとなった。また,企業のみが経営行動を協調的にした場合,あるいは地元が企業に対して協調的に行動した場合においても,若干の状況改善はみられたが,基本的には撤退による耕作放棄地の顕在化は起こってしまう。本シミュレーションで描き得た唯一の企業定着条件は,企業が本業部門から資金を動員し,農作業従事者の労賃を農業所得を原資とせずに経営を行った場合のみであった。次年度では,簡易的にシミュレーションを行った初年度の結果が現場でどの程度実践可能かについて検証する。最終年度は,これまでの研究で得られた「企業側の農山村地域における諸活動に対するニーズや課題認識」を踏まえて研究を開始した。まず,企業側が農業経営への参入,あるいはさらに包括的な環境保全活動への参加を実践する際の受け皿となる地域側のニーズを把握する必要がある。そこで,農山村地域の農業関係の自治組織代表者へのアンケート調査を実施し,地域への企業の参入に対する見解を伺った。その結果,地域農業の維持が深刻な地域においては,企業の参入に対する肯定的な意見と拒絶する意見が混同していることが明らかとなった。ここに,「過疎地においては少なくとも空間的には企業参入の余地は十分である」という単純な結論には至らないと結論づけられた。
KAKENHI-PROJECT-24780222
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農業参入企業を包含する地域農業計画の確立に資する地域自主協約策定方法に関する研究
そこで,さらに企業側の意向を詳細に捉えるために,多様な特性の企業を複数選定し,農山村地域との協働を進める部署の代表者への聞き取り調査を敢行した。結果,現状では既に地域に参入して,農業支援や環境改善事業に取り組む企業の特性には一般性は見いだしにくく,逆に参入していない企業にはある程度の一般性が見いだせるという統計的な傾向が確認された。つまり,今後農業経営を中心として農山村地域との結びつきを検討する地域は,過去に参入した企業の事例を参考にするために情報収集をすると見られるが,いわゆる成功事例には一般性は見いだせないため,方法論を導入することには注意が必要である。他方で,いわゆる失敗事例や非参入企業にはある程度の共通性が見られたため,内省的に自社の強みや注意点の確認を行う際には,過去の事例を参照することは有効である可能性がある。地域計画学地域との良好な協力関係のもと,計画を上回る進捗状況で研究が行えている。当初予定していたペースより多くの論文投稿,学会発表を行うことが出来ており,研究範囲も深化・拡張している。当初の計画では,初年度は「シミュレーション分析を行う段階」を目標としており,実際にその段階まで研究を進めることが出来た。モデルの詳細な改良や分析項目の精査については課題は残るが,当初の計画は最低限十分にクリアしていると考えられる。最終年度は,過去2年間での既往研究の整理,現地調査,定量分析の結果を踏まえて,研究の最終目的である地域での自主協約策定に関する実践的な研究を行う。既に現地での作業を開始しており,支障なく研究を進めている。最終的な分析結果は適宜学術論文等での公表を予定している。初年度の分析対象地域(神戸市)での評価と課題,つまり導出したシミュレーション結果から導かれる大まかな自主協約の策定方法を体系化し,自主協約を他地域に適用する際の留意点を整理する。この際,神戸市農業委員会や中核的な農業経営主体に再度ヒアリングを行い,達観的な評価軸も確認する。次いで,協約策定方法の内容に普遍性が保たれているかを実証するため,検証地域(牛久市・白山市)に適用する。具体的には,先行地域で予測された地元と企業の調和維持要件やコンフリクト解消のための規制が,地域性が異なる場所及びそこで参入を検討する企業に対しても受容され,特性を反映させた微調整程度の修正で適用可能かを実証する。基本的には調査旅費とその調査に必要な消耗品が中心である。また,国内外の学会で得られた成果を公表するための学会参加費,参加旅費についても計上する。そして,現場での研究過程を踏まえた議論を行うため,報告書の印刷代についても計上し,2年目の研究を円滑に進める。
KAKENHI-PROJECT-24780222
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微生物の線溶酵素の検索と食品への利用
本研究は、担子菌(きのこ)を用いた新しい健康・機能性食品の開発を目的として、血液関連生理活性物質のスクリーニングを行った。担子菌はその菌糸体の液体培養を、2%モルツ培地で、25°C、2-3週間、振とうを行った。液体培養中の線溶活性は人工血栓(フィブリン平板)溶解法で測定し、抗トロンビン活性は血液凝固装置を用いるトロンビン時間(TT)から求めた。その結果、強力な線溶活性が、栽培種および野生種のタモギタケと野生種Tricholomasp.に見出された。両種の線溶酵素については、平成12年度において酵素の諸性質をしらべ両菌種ともセリン系プロテアーゼであることを明らかにし、また一方、野生種マスタケに強力な抗トロンビン活性を見出し本種の人工栽培の困難性の観点からブナシメジとの細胞融合の結果、乳酸脱水素酵素を指標にしたアイソザイムパターンで両親株と一致する融合株が得られた。これら線溶活性または抗トロンビン活性を示す担子菌を用いて食品への利用を試みた。担子菌の持つ酵素について、特にアルコール脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、線溶酵素(プロテアーゼ)についてスクリーニングを行った結果、担子菌を用いての食品開発の可能性が見出された。米、麦、果汁、大豆、牛乳を食品素材としての食品の創製を試みた結果、従来知られているカビや酵母を全く用いないで、担子菌のみを用いるアルコール飲料(清酒、ビールおよびワイン)の製造を開発し、特許出願並びに成果の学術雑誌への報告を行った。製造されたアルコール飲料中には、線溶活性や抗トロンビン活性を示すものが見られ、また、また担子菌の生産する抗ガン物質であるβ-D-グルカンも含まれていることが判明した。更に、アルコール飲料のみならず、チーズ様食品の製造や味噌、納豆、パンの発酵においても担子菌の血栓溶解活性を持った食品の開発を行った。本研究は、担子菌(きのこ)を用いた新しい健康・機能性食品の開発を目的として、血液関連生理活性物質のスクリーニングを行った。担子菌はその菌糸体の液体培養を、2%モルツ培地で、25°C、2-3週間、振とうを行った。液体培養中の線溶活性は人工血栓(フィブリン平板)溶解法で測定し、抗トロンビン活性は血液凝固装置を用いるトロンビン時間(TT)から求めた。その結果、強力な線溶活性が、栽培種および野生種のタモギタケと野生種Tricholomasp.に見出された。両種の線溶酵素については、平成12年度において酵素の諸性質をしらべ両菌種ともセリン系プロテアーゼであることを明らかにし、また一方、野生種マスタケに強力な抗トロンビン活性を見出し本種の人工栽培の困難性の観点からブナシメジとの細胞融合の結果、乳酸脱水素酵素を指標にしたアイソザイムパターンで両親株と一致する融合株が得られた。これら線溶活性または抗トロンビン活性を示す担子菌を用いて食品への利用を試みた。担子菌の持つ酵素について、特にアルコール脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、線溶酵素(プロテアーゼ)についてスクリーニングを行った結果、担子菌を用いての食品開発の可能性が見出された。米、麦、果汁、大豆、牛乳を食品素材としての食品の創製を試みた結果、従来知られているカビや酵母を全く用いないで、担子菌のみを用いるアルコール飲料(清酒、ビールおよびワイン)の製造を開発し、特許出願並びに成果の学術雑誌への報告を行った。製造されたアルコール飲料中には、線溶活性や抗トロンビン活性を示すものが見られ、また、また担子菌の生産する抗ガン物質であるβ-D-グルカンも含まれていることが判明した。更に、アルコール飲料のみならず、チーズ様食品の製造や味噌、納豆、パンの発酵においても担子菌の血栓溶解活性を持った食品の開発を行った。本研究は、血栓症に予防効果を示す機能性食品の関発を目的として、担子菌をはじめとする各種微生物の線溶酵素のスクリーニングを行った。食用として安全性の面から、発酵工業や発酵食品生産に用いられている細菌68菌株、酵母34菌株、カビ11菌株、担子菌19菌株をそのスクリーニングの対象とした。これら各種菌株は、主としてモルツ培地に培養して、集菌後、細胞破壊、遠心分離により得た上澄液を線溶酵索の検索に用いた。線溶活性は、フィプリン平板における溶解面積の測定から求めた。その結果、細菌では、Bacillus属のものが強力であった。この結果は、納豆菌について報告されていることと一致する。しかし、Bacterium属,Brevibacterium属やCorynebacterium属の細菌にもBacillus属のものと同様の強力な線溶活性がみられた。カビでは、Aspergillus属とRhizopus属のものに線溶活性がみられたが、その活性はBacillus属のものに比較して1/10程度であった。酵母における線溶活性は、Cryptococcus属のものが顕著であった。担子菌においては、試験した菌株のほとんどに線溶活性がみられた。その中でも、とくに強力な活性を示したものはPleurotus属のものであり、細菌のBacillus属の示す線溶活性と同等であった。試験に用いた担子菌には自然界から新たに分離した野生株も含まれ、その中には栽培種のものよりも強力な線溶活性を示すものがあった。
KAKENHI-PROJECT-11680144
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微生物の線溶酵素の検索と食品への利用
特にタモギタケの線溶活性は強力であったが、酵素の安定性(40°Cで失活)が難点であった。しかし、栽培種のエリンギや抗トロンビン活性をもつ野生株の担子菌に強力な線溶活性か見出され、血栓症予防を目的とする食品の開発利用研究が推進できることとなった。今後、担子菌の線溶酵素を対象とし、酵素の分離・精製により酵素の性質を知り、人工栽培の可能な担子菌との細胞融合をはかり、線溶活性をもつ食品の開発を研究計画の課題としたい。血栓症に予防効果を示す機能性食品の開発を目的として、きのこの内、担子菌に血栓溶解酵素の給源を求めた。担子菌はその菌糸体の液体培養を、2%モルツ培地(三角フラスコ)で、25°C、1-2週間、振とうを行った。液体培養中の線溶活性は人工血栓(フィブリン平板)溶解法で測定し、プロテアーゼ活性はカゼイン分解法より求めた。その結果、各種の担子菌について両活性をしらべた結果、栽培種および野生種のタモギタケと野生種のシメジの仲間(菌株No.W510)に、強力な両活性が認められた。両菌種ともセリン系プロテアーゼであり、酵素の分子量は、各々32,000、26,000であった。タモギタケの酵素は熱不安定であったが、野生株No.W510の酵素は60°Cまでは安定であった。野生株No.W510の酵素の特徴はエラスターゼ活性が強力で、作用pHは、10-11のアルカリ側にあった。また、N末端アミノ酸分析の結果、本酵素はStreptomyces griseusのprotease CおよびAcromo bacter lyticusのα-lytic proteaseに各々81%、66%の相同を示した。一方、マスタケの野生種(No.W8)は強力な抗トロンビン活性物質を生産する。野生種No.W8の人工栽培が困難なためブナシメジとの細胞融合の結果、乳酸脱水素酵素を指標にしたアイソザイムパターンで両親株と一致する融合株が得られた。得られた融古株には、トロンビン時間(TT)の顕著な増大に示される抗トロンビン活性をもつことがわかった。食品への応用の観点から、耐熱性の酵素の検索を行ったところ、タイ国産の担子菌やタイ国で採集した温泉水から分離した微生物(Bacillus属細菌)に線溶活性を示すものが得られた。今後は、上記記載の線溶活性を示す菌株について、米、麦、大豆、牛乳等各種食品素材を用いての食品の創製を試みる。本研究は、ビタミンやミネラル、食物繊維を豊富に含み、抗ガン作用や血栓症に対して予防効果を示す担子菌(きのこ)を用いた新しい健康・機能性食品の開発を目的として、血液関連生理活性物質のスクリーニングを行った。担子菌はその菌糸体の液体培養を、2%モルツ培地(三角フラスコ)で、25°C、2-3週間、振とうを行った。液体培養中の線溶活性は人工血栓(フィプリン平板)溶解法で測定し、抗トロンビン活性は血液凝固装置を用いるトロンビン時間(TT)から求めた。その結果、強力な線溶活性が、栽培種および野生種のタモギタケと野生種Tricholomasp.に見出された。両種の線溶酵素については、平成12年度において酵素の諸性質をしらべ両菌種ともセリン系プロテアーゼであることを明らかにし、また一方、野生種マスタケに強力な抗トロンビン活性を見出し本種の人工栽培の困難性の観点からブナシメジとの細胞融合の結果、乳酸脱水素酵棄を指標にしたアイソザイムパターンで両親株と一致する融合株が得られた。得られた融合株には、トロンビン時間(TT)の顕著な増大に示される抗トロンビン活性をもつことがわかった。
KAKENHI-PROJECT-11680144
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11680144
結核菌感染におけるTAB3の役割
結核菌による宿主免疫の回避機序を分子レベルで明らかにするため、結核菌が産生するエフェクタータンパク質Aに着目してその作用機序の解明に取り組んだ。まず、このタンパク質の宿主側標的分子を同定するために、Aをbaitとしたyeast two-hybrid screeningを行い会合分子を探索した。その結果、Aの新規結合分子として既知のミトコンドリア局在タンパク質を分離した(以後、この分子をEssential Regulator of Inflammation in Mitochondria, ERIMと呼ぶ)。自然免疫応答の制御におけるERIMの役割を明らかにするために、CRISPR/Cas9法を用いてERIM遺伝子を破壊したJ774.1マウスマクロファージ細胞株を2クローン樹立し、これらの細胞におけるIL-1bの産生をELISA法で調べたところ、ERIMはLPS + ATPおよびLPS + Nigericinで誘導されるIL-1bの産生に必須であることが明らかとなった。そこで、IL-1bの遺伝子発現をRT-qPCR法で調べた結果、LPS刺激で誘導されるIL-1bの発現量は、ERIM欠損細胞においてもJ774.1元株と同程度であった。以上のことから、ERIMはIL-1b産生制御において、転写因子NF-kBの活性化を誘導する"Priming"の経路には関与せず、NLRP3インフラマソームの活性化を誘導する"Activation"の経路で必須の役割を果たすことが示唆された。一方で、LPS + Poly dA:dT刺激を与えた場合は、ERIM欠損細胞においても元株と同レベルのIL-1b産生が認められたため、ERIMはAIM2インフラマソームの活性化には関与しないと結論づけた。結核菌が産生するエフェクター分子の一つで炎症抑制作用を持つAと会合する宿主ミトコンドリアタンパク質(ERIM)を世界で初めて同定した。ERIMタンパク自身は既知の分子であるが、IL-1b産生への関与はこれまで全く報告がない。本研究では、ERIM遺伝子欠損マクロファージ細胞株を独自に樹立し、細胞内在性ERIMがIL-1b産生に必須の役割を果たすことを見出した。ERIMの作用機序として、IL-1bのmRNA発現誘導には全く関係せず、NLRP3インフラマソームの活性化に必須であること、AIM2インフラマソームの活性化には関与しないことまで突き止めた。さらに、ERIMコンディショナルノックアウトマウスを樹立した海外の研究室との間で共同研究を行うことで合意し、当該研究室からERIM-floxマウスを譲り受け、申請者の所属施設で飼育中のCreマウスとの交配を始めている。今後はERIMの作用機序を詳細に明らかにする。ERIMはミトコンドリア局在タンパク質であるため、ERIM欠損細胞におけるミトコンドリア電子伝達系の活性およびATP産生量を元株と比較する。さらに、結核菌エフェクターAを安定発現するJ774.1マクロファージ細胞株を樹立し、Aの単独発現がERIM欠損と同じ効果をもたらすかについて、IL-1bの産生、IL-1bのmRNA発現、NLRP3インフラマソームの活性化、電子伝達系の活性等を指標に検証する。またAのプロテアーゼ活性喪失型変異体を用いて、同様の解析を行う。これらと平行して、ERIMコンディショナルノックアウトマウスから骨髄由来マクロファージ(BMDM)を調製してin vitroでの解析を進める他、BCG感染実験も行い、A-ERIM相互作用が結核菌に対する生体防御応答にどのように寄与するか明らかにする。結核菌による宿主免疫の回避機序を分子レベルで明らかにするため、結核菌が産生するエフェクタータンパク質Aに着目してその作用機序の解明に取り組んだ。まず、このタンパク質の宿主側標的分子を同定するために、Aをbaitとしたyeast two-hybrid screeningを行い会合分子を探索した。その結果、Aの新規結合分子として既知のミトコンドリア局在タンパク質を分離した(以後、この分子をEssential Regulator of Inflammation in Mitochondria, ERIMと呼ぶ)。自然免疫応答の制御におけるERIMの役割を明らかにするために、CRISPR/Cas9法を用いてERIM遺伝子を破壊したJ774.1マウスマクロファージ細胞株を2クローン樹立し、これらの細胞におけるIL-1bの産生をELISA法で調べたところ、ERIMはLPS + ATPおよびLPS + Nigericinで誘導されるIL-1bの産生に必須であることが明らかとなった。そこで、IL-1bの遺伝子発現をRT-qPCR法で調べた結果、LPS刺激で誘導されるIL-1bの発現量は、ERIM欠損細胞においてもJ774.1元株と同程度であった。以上のことから、ERIMはIL-1b産生制御において、転写因子NF-kBの活性化を誘導する"Priming"の経路には関与せず、NLRP3インフラマソームの活性化を誘導する"Activation"の経路で必須の役割を果たすことが示唆された。一方で、LPS + Poly dA:dT刺激を与えた場合は、ERIM欠損細胞においても元株と同レベルのIL-1b産生が認められたため、ERIMはAIM2インフラマソームの活性化には関与しないと結論づけた。結核菌が産生するエフェクター分子の一つで炎症抑制作用を持つAと会合する宿主ミトコンドリアタンパク質(ERIM)を世界で初めて同定した。ERIMタンパク自身は既知の分子であるが、IL-1b産生への関与はこれまで全く報告がない。
KAKENHI-PROJECT-18K07179
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K07179
結核菌感染におけるTAB3の役割
本研究では、ERIM遺伝子欠損マクロファージ細胞株を独自に樹立し、細胞内在性ERIMがIL-1b産生に必須の役割を果たすことを見出した。ERIMの作用機序として、IL-1bのmRNA発現誘導には全く関係せず、NLRP3インフラマソームの活性化に必須であること、AIM2インフラマソームの活性化には関与しないことまで突き止めた。さらに、ERIMコンディショナルノックアウトマウスを樹立した海外の研究室との間で共同研究を行うことで合意し、当該研究室からERIM-floxマウスを譲り受け、申請者の所属施設で飼育中のCreマウスとの交配を始めている。今後はERIMの作用機序を詳細に明らかにする。ERIMはミトコンドリア局在タンパク質であるため、ERIM欠損細胞におけるミトコンドリア電子伝達系の活性およびATP産生量を元株と比較する。さらに、結核菌エフェクターAを安定発現するJ774.1マクロファージ細胞株を樹立し、Aの単独発現がERIM欠損と同じ効果をもたらすかについて、IL-1bの産生、IL-1bのmRNA発現、NLRP3インフラマソームの活性化、電子伝達系の活性等を指標に検証する。またAのプロテアーゼ活性喪失型変異体を用いて、同様の解析を行う。これらと平行して、ERIMコンディショナルノックアウトマウスから骨髄由来マクロファージ(BMDM)を調製してin vitroでの解析を進める他、BCG感染実験も行い、A-ERIM相互作用が結核菌に対する生体防御応答にどのように寄与するか明らかにする。
KAKENHI-PROJECT-18K07179
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超新星残骸と星周物質の相互作用によるX線・ガンマ線放射
1.超新星爆発前の星の進化のモデルを計算し,質量放出の推定,リング形成の可能性の検討をおこなった。特に,星の回転が直接的にリングを形成する原因となり得る条件を導いた。また,星風の非球対称性にどの程度のものが期待できるかを推定した。さらに,UVや宇宙望遠鏡の観測デ-タとから,星周物質の現実的なモデルを設定した。2.超新星爆発の流体力学的モデルと上述の星周物質のモデルとから,超新星残骸と星周物質の衝突の流体力学的計算をおこなった。衝突に伴う衝撃波の伝播の計算から求められた密度と温度の分布から,放射されるX線の光度曲線とスペクトルを計算した。その結果,リングからのX線が最も強く,今後のX線天文衛星で観測可能であることが分かった。上記の過程を2次元の流体力学の問題として解くためにSPH法という,数値計算コ-ドを特に開発した。3.パルサ-の活動度と中性子星の冷却度の推定を行った。そのために,パルサ-や中性子星表面からの放射と周囲の物質との相互作用のモンテカルロ・シミュレ-ションをおこない,光度曲線を予測した。とくに爆発物質が塊状になっていること,また,ダストが形成されていることを考慮したシミュレ-ションをおこなった。将来のX線観測で,中性子星の表面温度が測定可能であり,パイオン凝縮の可能性が判定できることを示した。4.パルサ-の貢献度との比較の意味で, ^<57>Coや^<44>Tiの崩壊に起因するX線・可視光・赤外の光度曲線の計算を行い,その貢献度の上限を求めた。1.超新星爆発前の星の進化のモデルを計算し,質量放出の推定,リング形成の可能性の検討をおこなった。特に,星の回転が直接的にリングを形成する原因となり得る条件を導いた。また,星風の非球対称性にどの程度のものが期待できるかを推定した。さらに,UVや宇宙望遠鏡の観測デ-タとから,星周物質の現実的なモデルを設定した。2.超新星爆発の流体力学的モデルと上述の星周物質のモデルとから,超新星残骸と星周物質の衝突の流体力学的計算をおこなった。衝突に伴う衝撃波の伝播の計算から求められた密度と温度の分布から,放射されるX線の光度曲線とスペクトルを計算した。その結果,リングからのX線が最も強く,今後のX線天文衛星で観測可能であることが分かった。上記の過程を2次元の流体力学の問題として解くためにSPH法という,数値計算コ-ドを特に開発した。3.パルサ-の活動度と中性子星の冷却度の推定を行った。そのために,パルサ-や中性子星表面からの放射と周囲の物質との相互作用のモンテカルロ・シミュレ-ションをおこない,光度曲線を予測した。とくに爆発物質が塊状になっていること,また,ダストが形成されていることを考慮したシミュレ-ションをおこなった。将来のX線観測で,中性子星の表面温度が測定可能であり,パイオン凝縮の可能性が判定できることを示した。4.パルサ-の貢献度との比較の意味で, ^<57>Coや^<44>Tiの崩壊に起因するX線・可視光・赤外の光度曲線の計算を行い,その貢献度の上限を求めた。
KAKENHI-PROJECT-03218202
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間葉系幹細胞の生体内挙動解析に基づく機能増強型移植細胞の作製
間葉系幹細胞は成人の骨髄や脂肪から比較的容易に採取できる細胞であり、損傷部位に移植すると抗炎症作用や血管新生作用をもたらすことから、細胞移植治療の開発が進められている。しかしながら一方で、移植した間葉系幹細胞の生体内における正確な作用機序については解析が進んでおらず、治療効果の実体は未だ明確でない。そこで本研究では、下肢虚血モデルマウスを用いて、移植した間葉系幹細胞とレシピエント側の細胞の遺伝子発現を解析することにより、間葉系幹細胞の生体内挙動の全貌解明に挑戦する。間葉系幹細胞は成人の骨髄や脂肪から比較的容易に採取できる細胞であり、損傷部位に移植すると抗炎症作用や血管新生作用をもたらすことから、細胞移植治療の開発が進められている。しかしながら一方で、移植した間葉系幹細胞の生体内における正確な作用機序については解析が進んでおらず、治療効果の実体は未だ明確でない。そこで本研究では、下肢虚血モデルマウスを用いて、移植した間葉系幹細胞とレシピエント側の細胞の遺伝子発現を解析することにより、間葉系幹細胞の生体内挙動の全貌解明に挑戦する。
KAKENHI-PROJECT-19K10029
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K10029
ミトコンドリア新生の促進因子のスクリーニングと細胞機能亢進の解析
ミトコンドリアの減少や機能低下は、生活習慣病をはじめとする様々な疾患の発症と関連している。よって、ミトコンドリアの増加と機能亢進を誘導する化合物は、ミトコンドリア関連疾患の治療や予防に貢献すると考えられる。本研究において、マウスの骨格筋細胞に数種の化合物がミトコンドリア増加を誘導することが判明した。また、化合物で処理した細胞は酸化ストレスに対する耐性を獲得しており、細胞機能を亢進させる作用があることが明らかとなった。これらの化合物は、将来的にミトコンドリアの量と機能を亢進させる機能性化合物として、国民の健康に大きく貢献する事が期待される。ミトコンドリアは細胞の代謝活性の鍵となる監視機関であるだけでなく、増殖、分化、アポトーシスなど多彩な細胞活動に関与するオルガネラである。従って、ミトコンドリアの数の減少および機能の低下は、糖尿病や動脈硬化症などの生活習慣病、パーキンソン病などの神経変性疾患、老化に伴い筋肉の量や機能が失われる加齢性筋肉減弱症(sarcopenia)など、様々な疾患の発症と増悪に関連している。逆に、ミトコンドリアの量が多く、機能が保持された細胞では、種々の刺激に対する保護効果が高いとされる。また、ミトコンドリアのエネルギー代謝機能(脂肪酸酸化、酸化的リン酸化)を亢進させることで生活習慣病をはじめとした様々なミトコンドリア関連疾患の予防および改善に有効であると考えられている。ミトコンドリアの新生(増加)には、持続的な運動などの環境因子が重要であることは以前より知られるが、詳細なメカニズムは未解決な点が多い。この研究では運動などの環境因子に代わるミトコンドリア増加因子として、どのような化合物が効果的であるかを明らかにするとともに、ミトコンドリアの新たな機能を明らかにすることで、様々な疾患に有効な薬物の開発に貢献することを目的としている。ミトコンドリアの数の増加には、さまざまな因子が関与するとされる。近年、ミトコンドリア増加に寄与することが話題となったresveratrolなどのポリフェノールは、活性酸素レベルを抑える抗酸化作用を有することもよく知られる。よって、ミトコンドリア増殖メカニズムにおいて、細胞内の酸化還元レベルも重要な因子の1つであると考えられる。細胞内の酸化還元レベルを調節するような低分子化合物を中心にミトコンドリア増加作用を示す化合物の探索を行っている。現在、有力な数種の候補について、遺伝子レベルおよびタンパク質レベルで解析を進めている。ミトコンドリアは、細胞の代謝活性の鍵となる監視機関であるだけでなく、増殖、分化、アポトーシスなど多彩な細胞活動に関与するオルガネラである。従って、ミトコンドリアの数の減少およびその機能の低下は、糖尿病や動脈硬化症などの生活習慣病、パーキンソン病などの神経変性疾患、老化に伴い筋肉の量や機能が失われる加齢性筋肉減弱症(Sarcopenia)など、様々な疾患の発症と増悪に関連している。また、ミトコンドリアのエネルギー代謝機能(脂肪酸酸化、酸化的リン酸化)を亢進させることで生活習慣病をはじめとした様々なミトコンドリア関連疾患の予防および改善に有効であると考えられている。ミトコンドリアの新生(増加)には、持続的な運動などの環境因子が重要であることは以前より知られるが、詳細なメカニズムは未解決な点が多い。この研究では運動などの環境因子に替わるミトコンドリア増加因子として、どのような化合物が効果的であるかを明らかにするとともに、ミトコンドリアの新たな機能を明らかにすることで、様々な疾患に有効な薬剤の開発を最終的な目的としている。H25年度は、ミトコンドリアの新生や機能亢進に寄与する低分子の機能性化合物を見いだす目的で、マウス筋芽細胞C2C12細胞を筋管細胞に分化誘導し、その分化した細胞に種々の低分子化合物を処理して、ミトコンドリア新生および機能亢進効果を解析した。その中で有力と思われる化合物については、各パラメーターに関して様々な解析法を行いてその有益性について精査した。ミトコンドリアの減少や機能低下は、生活習慣病をはじめとする様々な疾患の発症と関連している。よって、ミトコンドリアの増加と機能亢進を誘導する化合物は、ミトコンドリア関連疾患の治療や予防に貢献すると考えられる。本研究において、マウスの骨格筋細胞に数種の化合物がミトコンドリア増加を誘導することが判明した。また、化合物で処理した細胞は酸化ストレスに対する耐性を獲得しており、細胞機能を亢進させる作用があることが明らかとなった。これらの化合物は、将来的にミトコンドリアの量と機能を亢進させる機能性化合物として、国民の健康に大きく貢献する事が期待される。ミトコンドリアは細胞の代謝活性の鍵となる監視機関であるだけでなく、増殖、分化、アポトーシスなど多彩な細胞活動に関与するオルガネラである。従って、ミトコンドリアの不足および機能の低下は、糖尿病や動脈硬化症などの生活習慣病、パーキンソン病などの神経変性疾患、老化に伴い筋肉の量や機能が失われる加齢性筋肉減弱症(sarcopenia)など、様々な疾患の発症と増悪に関連している。逆に、ミトコンドリアの量が多く、機能が保持された細胞では、種々の刺激に対する保護効果が高いとされる。また、ミトコンドリアのエネルギー代謝機能(脂肪酸酸化、酸化的リン酸化)を亢進させることで生活習慣病をはじめとした様々なミトコンドリア関連疾患の予防および改善に有効であると考えられている。
KAKENHI-PROJECT-23659122
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23659122
ミトコンドリア新生の促進因子のスクリーニングと細胞機能亢進の解析
ミトコンドリアの新生(増加)には、持続的な運動などの環境因子が重要であることは以前より知られるが、詳細なメカニズムは未解決な点が多い。この研究では運動などの環境因子に代わるミトコンドリア増加因子として、どのような化合物が効果的であるかを明らかにするとともに、ミトコンドリアの新たな機能を明らかにすることで、様々な疾患に有効な薬物の開発に貢献することを目的としている。ミトコンドリアのエネルギー代謝など生体における酸素代謝にはヘムタンパク質と呼ばれる鉄ポルフィリン錯体(ヘム)を含むタンパク質が関与している。そのヘム合成には初期代謝物としてミトコンドリアで5-アミノレブリン酸が生成される。これは、細胞質で代謝されたのち、ミトコンドリアに輸送されてプロトポルフィリンIXに代謝され、最終的に鉄イオンが配位してヘムとなる。アミノレブリン酸は外から投与しても細胞内に取り込まれヘム合成に利用される。結果として、ヘムタンパク質合成の亢進とともにミトコンドリア量の増加とエネルギー代謝の向上が期待され、現在その有用性を精査している。これまで、ミトコンドリア増加作用を示す化合物を見いだすために、さまざまな化合物についてスクリーニング解析を行ってきたが高い効果を示す化合物を見いだすことが困難であった。現在、様々な低分子量の化合物、特に酸化還元レベルを調節する化合物や生体成分について検討している段階である。有力な化合物がいくつか候補としてあがっており、それらの生理活性を詳細に検討することが必要である。現在、様々な化合物および環境因子について細胞内のミトコンドリア新生に対する影響を検討している段階である。いくつか候補化合物は挙がっているが、それらの効果を様々な解析法により詳細に検討する必要が残っている。これまでの研究結果をもとに、細胞内ミトコンドリア量を増加させる可能性のあるいくつかの有力な低分子量生理活性物質について焦点を絞って解析する。原則として、培養細胞実験系を用いて、その有効性を分子生物学的・生化学的手法を駆使して様々な角度から解析を行い、それら化合物の効果を明確にする。細胞内ミトコンドリア量を増加させる低分子生理活性物質もしくは環境因子についてスクリーニングし、効果が認められる化合物などに対してはさらに精査し、その有効性を分子生物学的手法により解析する。これまでに得られた実験結果をもとに、出来る限り研究計画に沿って実験を進める。良好な成果が得られた場合もしくはその逆の場合は、他の実験材料および方法などにも配慮して研究を進めていき、その成果を発表する。なお、次年度使用額の研究費については、本研究がスクリーニングを主体とするため、試験する化合物等を最小単位で購入することやキャンペーン価格での購入により生じた。前年度からの繰越金が生じたが、これは化合物のスクリーニングを中心に研究を進めているため、試験する化合物を最小単位で購入したり、キャンペーン価格を利用することで生じた。テストした化合物の中に有用なものが明らかになれば、今後の研究の中で大量に購入する必要が出てくる。よって、繰越金を含めた研究費は、原則としてこれまでに得られた実験結果を含め、研究計画に沿った実験を進めるために使用する。
KAKENHI-PROJECT-23659122
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23659122
肝炎ウイルス感染時の宿主自然免疫応答機構とウイルスによるその阻害機構の解明
本検討では、臨床検体を用いた解析により、以前に明らかにしたC型肝炎ウイルスのNS4B蛋白によるinterferon (IFN)抑制作用がIFN治療効果と関連する可能性がある事を示した。一方、B型肝炎ウイルス(HBV)感染時の自然免疫応答にはRIG-I経路が関与していること、またIFN投与時に誘導されるInterferon Stimulated GenesはHBV存在下で抑制されることを示した。以上の成果は、HBV、HCVの持続感染成立機序やIFN治療抵抗性機序の解明に有用な知見と考えらえる。研究代表者は、1以前に明らかにしたC型肝炎ウイルス(HCV)による宿主自然免疫応答の阻害機構に関する知見を発展させ、詳細な解析を進めることで、この機構がIFN治療効果に与える影響を解析する事、21の戦略を応用し、B型肝炎ウイルス(HBV)による自然免疫阻害機構を解析する事、により、肝炎ウイルスの持続感染のメカニズムの一端を明らかにすることを目的として研究を行い、以下の実績を得た。1. IFNβ, IL28B誘導抑制に関わるNS4Bの機能ドメイン解析:promoter assayにより、HCV-NS4BのN末端側がIFNβだけでなくIL28Bのpromoter活性の抑制にも重要である事を見出した。一方、IL28B promoterに関してはSNPの違いによる差は明らかでなかった。アラニンスキャンによる検討から、NS4B蛋白の24-27番目アミノ酸を含む領域がこの機能に関わる重要なドメインである事を示した。3. HBVによる自然免疫阻害機構の解析:HBVの1.24倍長プラスミドを導入した細胞において、IFNα処理時のISGや自然免疫関連分子の発現とその変化を定量PCRやウェスタンブロットにより評価した。その結果、HBVプラスミド導入時と非導入時で複数の分子の発現に差を認める事が明らかとなった。1. IFN-βおよびIL28B(IFN-λ3)誘導抑制に関わるNS4Bの機能ドメイン解析、に関しては当初の計画通り研究を進めることができ、一定の成果を得ることができた。すなわちHCV-NS4B蛋白のIFN-β、IFN-λ3の誘導抑制機能を担うドメインの一部として、N末端側の4アミノ酸という狭い領域を同定する事ができた。今後、HCV感染患者血清等の臨床検体を用いて、ウイルスのアミノ酸変異とIFN治療効果との関連を検討することにより、本研究で同定したNS4Bの機能ドメインの臨床病態学的な意義を明らかにすることができ得るものであり、重要な知見と考えられる。2. HBV感染時のpattern recognition receptors (PRRs)を介した自然免疫応答機構の解明、に関しては解析を進める上で鍵となるHBVの効率よい感染に必要な条件を検討中であり、準備が整い次第PRRの発現によるHBV複製増殖への影響に関する解析を進めることができる状態である。並行して、当初平成28年度に計画していた。HBVによる自然免疫阻害機構の解析、を一部平成27年度に計画を早めて行った。これらの解析により、IFN処理による複数の自然免疫関連分子の発現変動が、HBV導入時と非導入時で異なる事が示され、HBV感染時の臨床学的病態やIFN治療時の臨床経過に関連する可能性が考えられた。詳細な解析を進めることで、HBVの持続感染や治療効果を規定する因子に関わる要因とそのメカニズムの一端を明らかにしうると考えられる。以上のように、研究計画はおおむね順調に進展しているものと思われる。研究代表者らは、これまで明らかにしてきたC型肝炎ウイルス(HCV)による宿主自然免疫応答の阻害機構がIFN治療効果に与える影響を解析する事を目的とした。また、B型肝炎ウイルス(HBV)による自然免疫阻害機構を解析することより、HBVの持続感染のメカニズムの一端を明らかにすることを目的として研究を行い、以下の実績を得た。1. HCV-NS4Bによる宿主自然免疫応答の阻害機構とIFN治療に与える影響についての解析:promoter assayによる検討の結果、HCV-NS4BのN末端側がIL28B(IFN-λ3)抑制作用にも重要である事を見出した。IL28B promoterのSNPの違いによる差は明らかでなかった。アラニンスキャンによる検討から、NS4B蛋白の24-27番目アミノ酸領域を含む複数のアミノ酸がこの機能に関わる重要なドメインである事を示した。以上の結果を踏まえ、IFN感受性であるIL28B majorSNPを有するがpeg-IFN/RBV療法が無効であった症例の血清よりHCV RNAを抽出しNS4B領域の塩基配列を同定した。塩基配列が同定できた3例についてはNS4BのN末端側(1-84アミノ酸領域)にアミノ酸変異を認め、この領域のアミノ酸変異がIFN治療効果に関わる可能性が示唆された。本検討では、臨床検体を用いた解析により、以前に明らかにしたC型肝炎ウイルスのNS4B蛋白によるinterferon (IFN)抑制作用がIFN治療効果と関連する可能性がある事を示した。一方、B型肝炎ウイルス(HBV)感染時の自然免疫応答にはRIG-I経路が関与していること、またIFN投与時に誘導されるInterferon Stimulated GenesはHBV存在下で抑制されることを示した。以上の成果は、HBV、HCVの持続感染成立機序やIFN治療抵抗性機序の解明に有用な知見と考えらえる。1. HCVが自然免疫機構に与える影響についての解析:これまでの検討から、HCV-NS4BのN末端側にIFN誘導抑制作用を担うドメインの一部を同定した。
KAKENHI-PROJECT-15K19316
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K19316
肝炎ウイルス感染時の宿主自然免疫応答機構とウイルスによるその阻害機構の解明
そこで当初の計画通り、HCV感染患者血清等の臨床検体を用いて、ウイルスのシークエンス解析を行うことにより、NS4Bの変異がIFN治療効果に及ぼす影響について臨床病態学的解析を行っていく。これにより、本研究で明らかにしたNS4BによるIFN抑制作用の臨床病態学的意義の解明を試みる。2. HBVと自然免疫機構の関連、HBVが自然免疫機構に与える影響についての解析:これまでの検討から、HBVの存在によりIFNα処理時の自然免疫関連分子の発現が変化する事が示唆された。そこで当初の計画通り、前年度行った研究を発展的に実施、継続していく。すなわち、HBVプラスミドの強制発現によって得られた結果について、HBVの感染系での検証を進める。また、網羅的な解析としてmicro array等の手法も用いて、HBV感染時、特にIFN処理時の遺伝子発現の変動に大きな差を認めるような分子を探索する。これらの解析により、期待するような分子が探索された場合には、探索された分子とウイルス分子との分子間相互作用の解析やそれぞれの分子の局在の検討など詳細な解析を行う。更に、HBV感染後の臨床経過にはgenotypeによる違いが報告されており、そのメカニズムの解明は治療法を検討していく上で重要な知見となり得る。そこで、当初の計画に加えて、前述したような解析を、異なるgenotypeのHBVプラスミド(genotype A, B, C)を用いて行い、その差異が生じるメカニズムの解析を試みる。これらの検討から、自然免疫応答阻害に関わるウイルス蛋白とこれが標的とする自然免疫系分子が同定できれば、同定した分子の肝生検組織における局在や血清中の動態に関する解析も検討する。ウイルス性肝炎試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。
KAKENHI-PROJECT-15K19316
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K19316
モノユビキチン化53BP1による非相同末端結合修復制御機構の解明
我々はRad18が、53BP1と同様に、細胞へのX線照射に反応してDNA二重鎖切断(DNA double-strand break:DSB)部位に集積しフォーカスを形成することを見出した。X線によるRad18のフォーカス形成はG1期細胞においてのみ53BP1依存性であり、さらにRad18と53BP1との結合依存性であった。Rad18は、in vitroで53BP1の1268番目のリジン残基をモノユビキチン化し、さらに、Rad18は53BP1のモノユビキチン化を介して53BP1のフォーカスを安定化させた。53BP1およびRad18は、G0-G1期細胞に発生したDSBの修復を亢進させた。Rad18によるDSB修復の亢進には53BP1とRad18の結合、Rad18による53BP1のモノユビキチン化が必要であった。以上より、G0-G1期細胞においてRad18は、53BP1との結合を介してDSB部位に集積し、その後53BP1をモノユビキチン化することにより53BP1のDSB部位でのクロマチン結合を安定化させ、その結果53BP1によるDSBの修復を亢進させることが示唆された。我々はRad18が、53BP1と同様に、細胞へのX線照射に反応してDNA二重鎖切断(DNA double-strand break:DSB)部位に集積しフォーカスを形成することを見出した。X線によるRad18のフォーカス形成はG1期細胞においてのみ53BP1依存性であり、さらにRad18と53BP1との結合依存性であった。Rad18は、in vitroで53BP1の1268番目のリジン残基をモノユビキチン化し、さらに、Rad18は53BP1のモノユビキチン化を介して53BP1のフォーカスを安定化させた。53BP1およびRad18は、G0-G1期細胞に発生したDSBの修復を亢進させた。Rad18によるDSB修復の亢進には53BP1とRad18の結合、Rad18による53BP1のモノユビキチン化が必要であった。以上より、G0-G1期細胞においてRad18は、53BP1との結合を介してDSB部位に集積し、その後53BP1をモノユビキチン化することにより53BP1のDSB部位でのクロマチン結合を安定化させ、その結果53BP1によるDSBの修復を亢進させることが示唆された。53BP1はDNA二重鎖切断部位に速やかに集積しフォーカスを形成する。我々は、ニワトリDT40細胞を用いた遺伝学的解析から、53BP1が概知のKu70/80/DNA-PKcs経路、ATM/Artemis経路とは異なる経路で、非相同末端結合修復に関与していることを報告した。さらに、損傷乗り越えDNA複製に関与するE3ユビキチンリガーゼRAD18が、53BP1と同じようにDNA二重鎖切断部位に集積しフォーカスを形成することを見出した。Rad18のフォーカス形成は53BP1依存性であり、53BP1とRAD18は免疫沈降で共沈した。53BP1は、53BP1のフォーカス形成に必要な領域であるKBDドメインを介して、Rad18のZinc fingerドメインとin vitroで直接結合した。さらに、53BP1はin vitroでRad18依存性にモノユビキチン化された。Zincfingerドメインに変異を持つRad18(Rad18C207F)は、フォーカス形成能力、53BP1との結合能力を失い、同時に53BP1をモノユビキチン化する能力も失った。Rad18遺伝子欠損DT40細胞がG1期にX線感受性が亢進することから、Rad18もDNA二重鎖切断の非相同末端結合修復に関与することが示唆された。遺伝学的解析から、G1期のX線感受性においてRad18は53BP1とエピスタティックであった。さらに、Rad18遺伝子欠損細胞にRad18C207Fを発現させても、G1期のX線感受性は回復しなかった。以上より、Rad18は、損傷乗り越えDNA複製に関与するのみならず、53BP1依存性非相同末端結合修復経路でも機能することが示唆された。53BP1は、既知のKu70/80/DNA-PKcs経路、ATM/Artemis経路とは異なる経路で、G1期細胞の非相同末端結合修復に関与している。昨年度、E3ユビキチンリガーゼRAD18がG1期にのみ53BP1依存的にDNA二重鎖切断部位に集積することを見出した。遺伝学的解析から、Rad18はG1期細胞で53BP1の関与する修復経路で機能していることが示唆された。さらにRad18による、53BP1の1268番目のリジン残基のモノユビキチン化が、53BP1のDNA二重鎖切断修復活性調節に重要であることが分かった。Rad18遺伝子欠損細胞は、G1期にX線感受性が亢進するのに対して、紫外線に対してはS期に感受性が亢進した。このことから、Rad18は、異なったDNA損傷に対してG1期とS期で異なった機能を発揮していることが考えられた。そこで本年度は、DNA損傷発生時のRad18複合体が、異なったDNA損傷、異なった細胞周期でどのように変化するかを明らかにすることとした。HeLa細胞を用いてFlag-HAタグ付きRad18を恒常的に発現する細胞株を樹立した。
KAKENHI-PROJECT-20510056
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モノユビキチン化53BP1による非相同末端結合修復制御機構の解明
細胞周期同調後に、X線あるいは紫外線照射し、その後Rad18複合体を免疫沈降で回収した。G1期にX線照射した細胞と、S期に紫外線照射した細胞とで、Rad18結合蛋白質のパターンが異なっていることが確認された。現在、いくつかのRad18結合タンパク質の同定を試みている。53BP1は、既知のKu70/80/DNA-PKcs経路、ATM/Artemis経路とは異なる経路で、G1期細胞の非相同末端結合修復に関与している。昨年度までに我々は、E3ユビキチンリガーゼRAD18が、G1期にのみ53BP1依存的にDNA二重鎖切断部位に集積すること、その後Rad18が53BP1の1268番目のリジン残基をモノユビキチン化することにより、53BP1のDNA二重鎖切断修復活性を調節していることを示した。一方、DNA二重鎖切断の修復において、切断端が近接した部位に保持されること(synapsis機構)の重要性が認識され始めている。synapsis機構の破綻は、異なった染色体間の断端-断端結合をもたらすと考えられている。最近、53BP1がこのDNA二重鎖切断端のsynapsis機構に関与していることを示唆する報告がなされている。そこで、本年度は、染色体転座の発現頻度を指標に53BP1によるDNA二重鎖切断端のsynapsis機構が、Rad18による53BP1のモノユビキチン化により制御されているか否かを明らかにすることとした。53BP1-/-マウス胎児線維芽細胞、Rad18-/-マウス胎児線維芽細胞にSV40 large T抗原を導入し、不死化細胞を作製した。今後、これらの細胞に様々な変異型53BP1、変異型Rad18を発現させて、染色体転座の発現頻度を調べる予定である。
KAKENHI-PROJECT-20510056
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発生におけるミッドカインの作用機構
今年度、我々は個体発生におけるヘパリン結合性成長因子、ミッドカインMKの作用機構を解明する目的で、以下の3点に焦点を絞って研究を進めた。1. TGF-betaスーパーファミリーとMKの相互作用:アフリカツメガエルに初期胚への注入実験で、MKとアクチビンが共同して頭部神経組織をつくること、その際アクチビンの中胚葉誘導作用がMKによって抑制されることを明らかにした。さらにBMPの細胞内シグナル伝達の担い手であるSmad1とMKの同時注入ではBMP/Smad1による中胚葉誘導がMKによって抑制されるが神経組織誘導は起こらなかった。以上の結果はTGF-betaスーパーファミリーとMKの間にクロストークの機構がある可能性を提示したと言える。2. MKノックアウトマウスの神経発達の解析:MKノックアウトマウスは、胎生期発達や生殖能に障害はなかったが、出生後海馬の歯状回の発達が一過性に遅滞することが組織化学的に判明した。一方、短期記憶や情動の障害が、生後4週でMKノックアウトマウスでみられた。さらに、出生後中枢神経においてMKは歯状回で特異的に発現することがわかった。以上のことは、MKが海馬歯状回の発達に重要な役割を担っている可能性を示唆する。3. MK受容体の解析:細胞膜上のMK結合蛋白として400kDaを越える高分子量蛋白を見いだした。この蛋白は固相化されたMKと結合し、ヨードラベルされたMKとクロスリンクされる。現在この分子のクローニングを準備しているが、このことによりMKの作用機構の解明は飛躍的に進歩すると期待される。今年度、我々は個体発生におけるヘパリン結合性成長因子、ミッドカインMKの作用機構を解明する目的で、以下の3点に焦点を絞って研究を進めた。1. TGF-betaスーパーファミリーとMKの相互作用:アフリカツメガエルに初期胚への注入実験で、MKとアクチビンが共同して頭部神経組織をつくること、その際アクチビンの中胚葉誘導作用がMKによって抑制されることを明らかにした。さらにBMPの細胞内シグナル伝達の担い手であるSmad1とMKの同時注入ではBMP/Smad1による中胚葉誘導がMKによって抑制されるが神経組織誘導は起こらなかった。以上の結果はTGF-betaスーパーファミリーとMKの間にクロストークの機構がある可能性を提示したと言える。2. MKノックアウトマウスの神経発達の解析:MKノックアウトマウスは、胎生期発達や生殖能に障害はなかったが、出生後海馬の歯状回の発達が一過性に遅滞することが組織化学的に判明した。一方、短期記憶や情動の障害が、生後4週でMKノックアウトマウスでみられた。さらに、出生後中枢神経においてMKは歯状回で特異的に発現することがわかった。以上のことは、MKが海馬歯状回の発達に重要な役割を担っている可能性を示唆する。3. MK受容体の解析:細胞膜上のMK結合蛋白として400kDaを越える高分子量蛋白を見いだした。この蛋白は固相化されたMKと結合し、ヨードラベルされたMKとクロスリンクされる。現在この分子のクローニングを準備しているが、このことによりMKの作用機構の解明は飛躍的に進歩すると期待される。
KAKENHI-PROJECT-10171210
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東日本大震災の被災看護師を対象としたメンタルヘルスについての縦断追跡研究
本研究では災害後における被災地の看護師への支援方法を検討するために、東日本大震災の被災地の看護師を対象にした精神健康調査を行った。調査時期は震災から3033か月後と4145か月後であり、調査方法は自記入式アンケート調査であった。調査結果より、全体的な精神健康度は改善傾向にあるが、ハイリスク者には入れ替わりがあることが明らかになった。要因の検討から、震災時の自責感を感じていることがPTSDと抑うつの両方の回復を阻害することに関連していた。本研究では災害後における被災地の看護師への支援方法を検討するために、東日本大震災の被災地の看護師を対象にした精神健康調査を行った。調査時期は震災から3033か月後と4145か月後であり、調査方法は自記入式アンケート調査であった。調査結果より、全体的な精神健康度は改善傾向にあるが、ハイリスク者には入れ替わりがあることが明らかになった。要因の検討から、震災時の自責感を感じていることがPTSDと抑うつの両方の回復を阻害することに関連していた。本研究は、東日本大震災において被災した看護師を対象としたメンタルヘルスの縦断的調査である。東日本大震災から約1年後の時点で収集した横断調査(高橋葉子:平成24年度科学研究費補助金、挑戦的萌芽研究)を縦断調査に発展させ、震災から2年後と3年後の時点で、震災当時宮城県沿岸部の病院に勤務していた看護師(震災後病院の被災で職場変更している者も含む)のメンタルヘルスの実態を明らかにすることを目的とする。平成25年度は、震災から約2年半後の時点で、平成24年度にメンタルヘルス調査を行った看護師437名に対して、質問紙調査を実施した。主な質問項目としては、基本属性、個人的被災の程度、震災時の体験、PTSD症状を測定するPCL日本語版、うつ病症状を測定するPHQ-9日本語版、職業性ストレス簡易調査票とした。その結果、被災地看護師全体の傾向としては、PTSD症状に関しては、平均値およびハイリスク者の割合は下がっている傾向にあった。しかし、うつ病症状に関しては横ばいであった。また、縦断でみると、ハイリスクのまま経過している者、新たにハイリスクとなる者が存在することが明らかになった。さらに、職場が津波被害で全壊した看護師の方が、職場が津波被害を受けなかった看護師に比べて、長期にわたって心理的影響を受けていることがうかがわれた。現在、精神的健康度に影響している要因を分析中である。以上の調査結果に関しては、被災地の看護管理者にフィードバックを行い、メンタルヘルス対策についての話し合いをもった。また、途中経過を2014年度の学会で報告予定である。本研究の目的は、東日本大震災において被災した看護師を対象としたメンタルヘルスの縦断的調査である。東日本大震災から約1年後の横断調査(高橋葉子:平成24年度科学研究費補助金、挑戦的萌芽)を縦断調査に発展させ、震災から2年後と3年後の時点で、震災当時宮城県沿岸部の病院に勤務していた看護師のメンタルヘルスの実態を明らかにすることを目的としている。平成26年度は、震災から約3年半の時点で、平成24年度に調査を行った沿岸部の病院看護師約500名に対して質問紙調査を行った。そのうち、平成24年度調査参加者からの回答で連結可能なものは約300であった。主な質問項目としては、基本属性、個人的被災の程度、ソーシャルサポート、PTSD症状を測定するPCL日本語版、うつ病症状を測定するPHQ-9日本語版とした。その結果、平成24年度から比較すると、PTSDおよびうつ病症状の各平均値およびハイリスク者の割合は減少傾向であることが明らかになった。一般化推定方程式(GEE)を使用して解釈した結果、PTSDの合計点の2地点の変化に関しては、平成26年度においてもなお震災時の自責感を感じている者、住民から非難を浴びて精神的につらい思いをしている者の方が、そうでない者と比較して合計点が増加する傾向が見られた。PTSDのリスクに関しても同様の結果が得られた。うつ病症状の合計点の2地点の変化に関しては、平成26年度においてもなお震災時の自責感を感じている者、平成24年度と比較し平成26年度の家族のサポート得点が下がった者の方が、そうでない者と比較して合計点が増加する傾向が見られた。うつ病リスクに関しては、平成26年度においてもなお震災時の自責感を感じている者、平成24年度と比較し平成26年度の上司のサポート得点が下がった者、被災の影響で仮の場所で臨床業務にあたっている者の方がリスクが上がる傾向が見られた。精神看護今年度は、東日本大震災から約1年後時点の横断調査と同じ対象者に対し、震災から2年半後のデータを取得することができた。そのことによって、PTSD症状および抑うつ症状の継時的変化およびハイリスク者の変化を明らかにすることができた。その結果、震災から2年間の被災地看護師のメンタルヘルスの動向が明らかになった。被災地看護師全体の傾向としては、PTSD症状に関しては、平均値およびハイリスク者の割合は下がっている傾向にあった。しかし、うつ病症状に関しては横ばいであった。また、縦断でみると、ハイリスクのまま経過している者、新たにハイリスクとなる者が存在することが明らかになった。さらに、職場が津波被害で全壊した看護師の方が、職場が津波被害を受けなかった看護師に比べて、長期にわたって心理的影響を受けていることがうかがわれた。以上の結果を受けて、被災地の病院組織への継続的なメンタルヘルス支援を行っている。
KAKENHI-PROJECT-25862101
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東日本大震災の被災看護師を対象としたメンタルヘルスについての縦断追跡研究
また、今後の災害時のための支援者支援システムを検討する上でも貴重なデータを得ることができたと考えられる。本研究は、調査結果を現場に還元するとともに、将来的な災害対策にも活かしていくという、非常に意義のあるものになっていると考えられる。なお、対象組織の意向により、質問紙調査の時期が10月12月になった。そのことにより、予定では平成25年度にインタビュー調査も行う予定であったが、平成26年度に持ち越された。しかし、インタビュー時期がずれても研究全体には大きく影響しないと考えられるため、おおむね順調に進展していると判断した。平成26年度は、震災から約3年後時点における被災地看護師のメンタルヘルスの実態を明らかにし、震災から3年間の縦断調査をまとめることとする。方法としては、過去2回の調査と同じ対象者に質問紙調査を行う。主な尺度は今まで同様、PTSD症状を測定するPCL日本語版、うつ病症状を測定するPHQ-9日本語版、職業性ストレス簡易調査票を考えている。加えて、第1回目と第2回目のデータ解析を進め、その結果により、独立変数として加えるべき項目を検討する予定である。また、平成25年度に実行予定であったインタビュー調査を平成26年度に実施する。その上で、量的データと質的データを組み合わせた多角的な分析を行い、総合的な解釈を実施する予定である。なお、得られた結果については、この領域の最新の情報を得たうえで分析と解釈を行い、関係する学会などを通して公表する予定である。平成25年度にインタビュー調査を行い、テープ起こしで謝金が発生する予定だったが、インタビュー調査が次年度に変更になったため。平成26年度にインタビュー調査を行い、テープ起こしの謝金として使用する予定である。
KAKENHI-PROJECT-25862101
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1990年代以降のわが国人口の都心回帰現象と行政対応に関する研究
本研究は、東京の都心部を事例地域に、近年の都心人口の回復現象=都心回帰現象に関して(1)都心の人口構成の変化、(2)人口構成の変化に伴う公共サービスや対人社会サービスに対する需要の変化と行政対応、(3)それら行政需要への対応が自治体財政に及ぼす影響、の3点に関して実態を明らかにすることを課題とする。平成18年度は、上記の課題(3)を中心に調査・分析を実施した。1990年代中盤以降の特別区の財政状況を分析した結果、とくに大きな人口増加を経験した中央区、港区、江東区の財政状況には以下の特徴がみられた。まず、歳入に関しては、恒久的減税にもかかわらず増加傾向にあった。これは、人口増加、とくに比較的経済力のあるマンション取得層の増加による区税収入の増加によるものであった。対して歳出に関しては、その伸びが歳入のそれを下回る傾向が近年顕著であり、事業委託や指定管理者の拡大、PFIの活用、それらによる人員・費用削減の効果が出ていると考えられた。また、財政の好転により公債費の繰り上げ償還を行ったり、今後バブル期に建設された公共施設の補修・改修が必要になるため基金の積み上げが行われていた。都心部の人口回復により公共サービスの需給にアンバランスが生じ、江東区などでは児童・生徒の急増による学校の深刻な教室不足が発生している。このような問題に対して、学校選択制の導入や通学区域の弾力的設定による是正、サービス需要自体の抑制を図るためのマンション建設に関する条例が施行されるなどの方法を用いて対処されている。本研究の結果から指摘されることは、こうした方法の是非を評価する際には、自治体の全体的な財政状況のなかに位置付けて、さらに将来動向も加味した上での評価が必要とされることである。また、残された課題として、人口の減少局面に入った郊外自治体との比較研究の必要が指摘される。本研究は、東京の都心部を事例地域に、近年の都心人口の回復現象(都心回帰現象)に関して(1)都心の人口構成の変化、(2)人口構成の変化に伴う公共サービスや対人社会サービスに対する需要の変化と行政対応、(3)それら行政需要への対応が自治体財政に及ぼす影響、の3点に関して実態を明らかにすることを課題とする。平成16年度は、上記の課題(1)を中心に、GIS支援により1990年代後半の東京区部における人口回復現象に関して以下の分析を行った。都心部における人口増加町丁の特性:町丁目のスケールで、1990年代後半の人口増減と土地利用の変化、交通網整備による近接性の変化、地価の変動との関係を明らかにした。人口増加地区における人口構成の変化:国勢調査の小地域集計結果の分析を通じて、人口増加町丁における人口構成の変化を、年齢、居住する住宅、社会経済的属性に注目して明らかにした。以上の分析の結果からは、1990年代後半の東京都心部ではその南東から南西にかけて人口回復が著しいが、アフォーダビリティ(取得容易性)に関して多様な条件の住宅が供給されたため、特定の住民のみが都心居住を可能にしたわけではないことが示唆された。人口増加町丁における人口構成の変化をみても、人口回復に寄与した住民は、特定の町丁に対して選択的に転入した中にも、家族構成と社会階層に応じて居住地・住宅を分化させていると考えられる。その結果として、都心部の居住地構造にミクロスケールの量的・質的変化が生じており、短期間のうちにその異質性が高まったと結論づけられる。この異質性の高まりは都市社会の再編成をもたらすものと予想され、特に人口の急激な量的・質的変化は公共サービス・対人社会サービスの需要に急変をもたらすであろう。本研究は、東京の都心部を事例地域に、近年の都心人口の回復現象(都心回帰現象)に関して(1)都心の人口構成の変化、(2)人工構成の変化に伴う公共サービスや対人社会サービスに対する需要の変化と行政対応、(3)それらの行政需要への対応が自治体財政に及ぼす影響、の3点に関して実態を明らかにすることを課題とする。平成17年度は、上記の課題(2)を中心に、調査・資料収集を実施した。その結果、人工構成の変化に伴い行政需要が大きく変化した公的サービスとして、教育、保育、介護の各部門が明らかになった。前者のサービスは、とくに分譲マンションに入居した、夫婦と学齢期以下の子どもからなる世帯が人口回復に顕著に寄与した江東区において需給にアンバランスが生じており、特定地区の小学校で教室の不足が深刻化していた。これに対して自治体は、学校選択制の導入、通学区域の弾力的設定による是正を試みる一方、サービス需要自体の抑制を図るため、マンション建設計画の調整に関する条例を定めていた。介護サービスに関しては、民間の介護付き有料老人ホームの開設が高齢者の都心回帰を促す一方、介護保険給付が膨らむ懸念から、自治体がその抑制に取り組みはじめており、中央区などでは住民も介護保険料の高騰を理由に建設反対を展開していた。また、保育に関しては、中野区などでみられるように、保育所の民営化や指定管理者制度の適用により運営の民間委託が進められており、都心部に居住する子どもをもつ共稼ぎ世帯に対して、柔軟なサービスを提供することが民間のノウハウに期待されている一方、その背景には自治体雇用の保育士の定員削減問題が存在していた。以上のように、近年の都市人口の回復に伴う行政需要の変化に直面した自治体は、地方自治法の改正、規制緩和、民間の参入促進といった地方自治制度が変革されるなかで、さまざまな対策を講じている。このことと自治体の財政との関係を分析することが最終年度の課題である。
KAKENHI-PROJECT-16720197
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1990年代以降のわが国人口の都心回帰現象と行政対応に関する研究
本研究は、東京の都心部を事例地域に、近年の都心人口の回復現象=都心回帰現象に関して(1)都心の人口構成の変化、(2)人口構成の変化に伴う公共サービスや対人社会サービスに対する需要の変化と行政対応、(3)それら行政需要への対応が自治体財政に及ぼす影響、の3点に関して実態を明らかにすることを課題とする。平成18年度は、上記の課題(3)を中心に調査・分析を実施した。1990年代中盤以降の特別区の財政状況を分析した結果、とくに大きな人口増加を経験した中央区、港区、江東区の財政状況には以下の特徴がみられた。まず、歳入に関しては、恒久的減税にもかかわらず増加傾向にあった。これは、人口増加、とくに比較的経済力のあるマンション取得層の増加による区税収入の増加によるものであった。対して歳出に関しては、その伸びが歳入のそれを下回る傾向が近年顕著であり、事業委託や指定管理者の拡大、PFIの活用、それらによる人員・費用削減の効果が出ていると考えられた。また、財政の好転により公債費の繰り上げ償還を行ったり、今後バブル期に建設された公共施設の補修・改修が必要になるため基金の積み上げが行われていた。都心部の人口回復により公共サービスの需給にアンバランスが生じ、江東区などでは児童・生徒の急増による学校の深刻な教室不足が発生している。このような問題に対して、学校選択制の導入や通学区域の弾力的設定による是正、サービス需要自体の抑制を図るためのマンション建設に関する条例が施行されるなどの方法を用いて対処されている。本研究の結果から指摘されることは、こうした方法の是非を評価する際には、自治体の全体的な財政状況のなかに位置付けて、さらに将来動向も加味した上での評価が必要とされることである。また、残された課題として、人口の減少局面に入った郊外自治体との比較研究の必要が指摘される。
KAKENHI-PROJECT-16720197
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高空間分解多次元磁気光学応答計測技術の開発
本研究の目的は、固体分光計測において高い空間分解能を有する走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)の小型化を図り、外部装置との整合性を高め、空間的な多次元化を実現することである。本年度は、昨年度製作したSNOMを用いて、半導体量子ナノ構造の光学特性の取得と、その小型化を含めた多次元計測への応用を目標とした。半導体量子ナノ構造を調査する目的として、制御性の高い量子ドットを測定対象とした。量子ドットではキャリアの自由度が全方向に制限されるため、ナノ領域の光物性として特異な性質を示すことが知られている。量子ドットを光励起すると、キャリアはまずドットの閉じ込めに起因する離散状態に励起され、発光再結合準位へと緩和し発光する。さらに今回試料として用いている自己形成量子ドットでは、周囲の媒質を反映した多くの局在フォノンモードが存在し、その緩和スペクトルはドットのキャリア閉じ込めと周囲の格子状態を反映することになる。したがって個々のドットの共鳴エネルギーに対して、その発光分布像を得ることにより、その共鳴がどのようなフォノンと結合しているか決定することが可能となる。今回の測定結果では、バルクのフォノンモードと、局在フォノンモードの共鳴エネルギーに対してそれぞれ異なる発光分布像が観測された。このことは自己形成量子ドットにおけるキャリア-フォノン結合状態の違いを意味しており、ヘテロ界面の重要性を明らかにしたものである。したがって空間的な多次元計測を達成すれば、より詳細な物性が明らかになると考えられる。この目的のために、いくつかの装置要素に対して小型化と多機能化を試みた。具体的にはイナーシャルスライダーの小型化、高さ制御ピエゾの小型化、光学機器の低減を達成した。装置の小型化は、機械的な安定性も向上させるため、上記の結果をもとにしたフォノンイメージングへと発展させることが可能となる。本研究の目的は、固体分光計測において高い空間分解能を有する走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)の小型化を図ることで、外部装置との整合性を高め、空間的な多次元化を実現することである。本年度は標準的なSNOMの製作と、その自動制御系の立ち上げを行った。分光計測を自動化するために、GPIBとADボードを用いることでSNOM走査系と励起分光系のコンピューター制御を実現した。製作したSNOMを評価するために、半導体量子ナノ構造を用いた分光計測を行った。SNOMにおいては個々のナノ構造を調査することが可能であり、閉じ込めを反映した狭い線幅をもつ発光が観測される。したがって発光スペクトルを利用することで、より精密な測定が可能となる。すなわち正確なエネルギーの物差しを用いて、ナノ構造の光学特性を詳細に調べることが可能となる。さらにSNOMによる分光イメージングでは、ナノ構造を通して周囲の局所的な光物性を検出することが可能となる。これは局所的なセンサー、いわばナノセンサーというべき役割をもつ。ここでは本年度研究成果である半導体量子ドット(QD)のフォノンイメージングの結果を簡潔に記す。QDの0次元性を利用することで、QDの周囲に熱浴として存在する格子場のイメージングが可能となる。QDのキャリアと光学フォノンの相互作用は、光学フォノンのエネルギー分散が小さいため、キャリアの緩和に大きな寄与は無いと考えられていた。しかしながら自己形成QDでは、その良質なへテロ界面の存在と、非常に大きな閉じ込めの存在のために、周囲にあるフォノンとの結合が強まる。この様子は近接場イメージングによって明らかとなる。結果から緩和エネルギー36meV付近に存在するすべてのQDが共鳴的に発光している様子が確認された。これはGaAs半導体の縦光学フォノンのエネルギーに相当し、この領域に存在するすべてのQDに対して共鳴していることからフォノンとキャリアの強い結合が示唆される。本研究の目的は、固体分光計測において高い空間分解能を有する走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)の小型化を図り、外部装置との整合性を高め、空間的な多次元化を実現することである。本年度は、昨年度製作したSNOMを用いて、半導体量子ナノ構造の光学特性の取得と、その小型化を含めた多次元計測への応用を目標とした。半導体量子ナノ構造を調査する目的として、制御性の高い量子ドットを測定対象とした。量子ドットではキャリアの自由度が全方向に制限されるため、ナノ領域の光物性として特異な性質を示すことが知られている。量子ドットを光励起すると、キャリアはまずドットの閉じ込めに起因する離散状態に励起され、発光再結合準位へと緩和し発光する。さらに今回試料として用いている自己形成量子ドットでは、周囲の媒質を反映した多くの局在フォノンモードが存在し、その緩和スペクトルはドットのキャリア閉じ込めと周囲の格子状態を反映することになる。したがって個々のドットの共鳴エネルギーに対して、その発光分布像を得ることにより、その共鳴がどのようなフォノンと結合しているか決定することが可能となる。今回の測定結果では、バルクのフォノンモードと、局在フォノンモードの共鳴エネルギーに対してそれぞれ異なる発光分布像が観測された。このことは自己形成量子ドットにおけるキャリア-フォノン結合状態の違いを意味しており、ヘテロ界面の重要性を明らかにしたものである。したがって空間的な多次元計測を達成すれば、より詳細な物性が明らかになると考えられる。この目的のために、いくつかの装置要素に対して小型化と多機能化を試みた。具体的にはイナーシャルスライダーの小型化、高さ制御ピエゾの小型化、光学機器の低減を達成した。装置の小型化は、機械的な安定性も向上させるため、上記の結果をもとにしたフォノンイメージングへと発展させることが可能となる。
KAKENHI-PROJECT-12875074
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12875074
肝切除時におけるリアルタイム肝機能モニタリングシステムの開発と臨床応用
リアルタイム肝機能モニタリングシステムとしてNOプローベの開発を行なった。肝虚血・再潅流モデルにおいて虚血によりNOレベルが上昇し、虚血15分で定常状態に達した。再灌流5分後には虚血前と比較して類洞径が拡張しているのが観察された。p-eNOSは虚血の初回時に強く発現し、虚血再灌流の繰り返しにより、徐々に低下した。逆にiNOS発現は徐々に増強した。本研究において虚血再灌流の反復時のp-eNOSとiNOSの異なる活性化パターンを明らかにした。虚血・再潅流に対するNOモニタリングシステムの検討:15分の虚血と5分の再潅流を2回繰り返した肝組織と5回繰り返した肝組織では、平成25年度の結果同様に虚血によりNO濃度が上昇し、再潅流によりNO濃度が減少した。しかし虚血回数が増加することにより再灌流後NOレベルは徐々に減弱していき、虚血前のレベルまで回復しなかった。15分の虚血と15分の再潅流を2回繰り返した肝組織と5回繰り返した肝組織においても虚血回数が増加することにより再灌流後NOレベルは徐々に減弱していった。同じ再灌流回数での再灌流時間5分と15分では再灌流後NOレベルの減弱は15分のほうが緩やかであった。虚血・再潅流のメカニズムに関する研究:ラット虚血・再潅流モデルで異なる虚血時間(0,1,3,5,7,10,15,30分)の肝組織、15分虚血・5分再潅流した肝組織と15分虚血・15分再潅流した肝組織を採取した。窒素ガスを注入して無酸素状態を作り、酸素の影響を排除出来る特殊チャンバーを使って厳密なNOSの活性測定を行った結果、NOSの活性は再潅流時間により異なっていた。NOモニタリングシステムの基礎的研究:肝臓の流入血管(門脈)、流出血管(肝静脈-下大静脈)を確保して閉鎖回路内を還流液で循環させる分離肝灌流モデルを作成し、肝臓以外の影響を排除した環境で肝臓にNOプローベを挿入し、肝臓の流入血管にNO donorであるS-nitroso-N-acetyl-l,l-penicillamine (SNAP)を投与してNO値を測定した。肝組織内のNOレベルの測定は可能であり、SNAPによりNOレベルは抑制されていた。リアルタイム肝機能モニタリングシステムとしてNOプローベの開発を行なった。肝虚血・再潅流モデルにおいて虚血によりNOレベルが上昇し、虚血15分で定常状態に達した。再灌流5分後には虚血前と比較して類洞径が拡張しているのが観察された。p-eNOSは虚血の初回時に強く発現し、虚血再灌流の繰り返しにより、徐々に低下した。逆にiNOS発現は徐々に増強した。本研究において虚血再灌流の反復時のp-eNOSとiNOSの異なる活性化パターンを明らかにした。虚血・再潅流に対するNOモニタリングシステムの検討:ラット肝虚血・再潅流モデルでの1異なる虚血時間(5, 15, 30, 60分)による肝組織、215分の虚血時間後に異なる再潅流時間(5, 15, 30分)による肝組織でNOプローベを用いてNO濃度変化を測定した。いずれの虚血・再潅流モデルにおいても虚血によりNO濃度が上昇し、再潅流によりNO濃度が減少した。ラット60分虚血/30分再灌流モデルでの検討では虚血によるNOレベルの増加は10分程で定常状態に達し、虚血中高いNO濃度を維持していた。再灌流後NOは減少し、約30分後には虚血前のレベルに回復した。非特異的NOS阻害剤(L-NAME)投与によるNO濃度の変化について検討した。ラット60分虚血/30分再灌流モデルへの生食投与群では虚血中NOレベルは高濃度を維持し、再灌流後NOは虚血前のレベルに回復した。一方非特異的NOS阻害剤(L-NAME)投与群では虚血・再潅流を通じてほとんどNO濃度に変化を認めなかった。NOの存在確認のためDAF-2DAによる虚血・再潅流後の肝組織の観察を行ったところ、生食群では虚血15分で血管内皮に強くNOの発現が認められるのに対して、L-NAME群では全く発現を認めなかった。以上より虚血・再潅流におけるNOの関与を明らかになった。肝虚血再灌流中の肝内微小循環の変化を検討するために、5分虚血/5分再灌流モデルで生体顕微鏡による観察を行った。生食投与群では、再灌流5分後には類洞径が拡張しているのが観察された。一方L-NAME投与群では虚血前から再灌流後までを通じて類洞径が非常に細くなっていた。iNOSの特異的阻害剤(L-NIL)を事前に投与した群では、生食投与群と同様に再灌流5分後には類洞の拡張を認めた。さらに生体顕微鏡の結果をビデオに録画して肝血流を客観的に検討した。再灌流後の類洞径(Ds)は生食群・L-NIL群で虚血前に比べ有意に拡張するのに対して、L-NAME群では全期間を通じて狭いままであった。流速(VRBC)は各群とも虚血前に比べ再灌流後に有意に遅くなった。
KAKENHI-PROJECT-24659604
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24659604
肝切除時におけるリアルタイム肝機能モニタリングシステムの開発と臨床応用
類洞1本の流量(VF)、及び各小葉血流としての灌流指数(PI)は、生食群・L-NIL群で再灌流後も虚血前と同様のレベルに保たれているのに対して、L-NAME群では再灌流後に有意に減少していた。また15分虚血/5分再灌流を4回繰り返すモデルでの各虚血中の肝組織でp-eNOSおよびiNOSをウエスタンブロッッティング、RT-PCRで検討した。p-eNOSは1回目に最も強く発現し、虚血再灌流を繰り返す度に発現が低下していった。eNOSは全期間を通じて一定の発現量であった。一方iNOSは虚血再灌流を繰り返す毎に発現が強くなっていった。p-eNOSとiNOSの免疫組織染色を行ってみると、p-eNOSでは1回目・2回目に強く発現していたが、4回目には全く発現がみられず、iNOSは4回目になって初めて強く発現していた。消化器外科学15分の虚血と5分の再潅流を2回繰り返した肝組織と5回繰り返した肝組織、15分の虚血と15分の再潅流を2回繰り返した肝組織と5回繰り返した肝組織など複数回の虚血・再潅流に関する検討が終了した。生体顕微鏡による肝微少循環障害および白血球の接着、遊走とNOレベルとの相関の検討が不十分である。虚血・再潅流終了後1時間、6時間、12時間、24時間での肝組織の障害度の生化学検査(ALT,AST,T-Bil,Alp,γ-GTP,ヒアルロン酸, AT-III, Alb etc.)、病理組織学的検査、肝組織中のIL-6, TNF-α, INF-γなど炎症性サイトカインの測定(リアルタイムPCR法、ELISA)による虚血・再潅流のメカニズムに関する研究が不十分であり、やや遅れていると考えられる。虚血・再潅流に対するNOモニタリングシステムの検討:ラット肝虚血・再潅流モデルでの異なる虚血時間、15分の虚血時間後に異なる再潅流時間(5, 15, 30分)でのNOプローベを用いたNO濃度変化の検討および非特異的NOS阻害剤(L-NAME)投与によるNO濃度の変化の検討が終了している。またNOの存在確認のためにDAF-2DAによる虚血・再潅流後の肝組織の観察を行い、生食群での血管内皮におけるNOの強発現に対して、L-NAME群ではNOの発現が全く認められず、虚血・再潅流におけるNOの関与を明らかにした。一方で15分の虚血と5分の再潅流を2回繰り返した肝組織と5回繰り返した肝組織、15分の虚血と15分の再潅流を2回繰り返した肝組織と5回繰り返した肝組織など複数回の虚血・再潅流に関する検討が終了していない。虚血・再潅流のメカニズムに関する研究が不十分であり、やや遅れていると考えられる。1.肝障害モデルでのNOモニタリングシステムの検討:ラット胆管結紮による閉塞性黄疸、CCl4(四塩化炭素)による肝硬変、高脂肪食による脂肪肝、アルコール性肝障害、リポポリサッカライド(LPS)腹腔内投与による敗血症等のモデルを用いて障害肝と正常肝の各肝組織でNOレベルの変化を比較し、肝障害と肝組織中のNOレベルの変化の関連を検討する。2.NOモニタリングシステムの安全性の検討:ラット肝臓にNOプローベを挿入し、挿入1時間後、2時間後、3時間後の肝組織および血液よりNOモニタリングシステムによる副作用の有無を明らかにする。3.大型実験動物(イヌまたはブタ)でのNOモニタリングシステムの検討:大型動物で、以下の条件で肝組織にNOプローベを挿入しNOレベルを測定、有用性を検討する。i)現在臨床で行われている15分の虚血と5分の再潅流で繰り返し回数:5回、ii)【平成24年度】の実験結果で同定された至適虚血・適再潅流時間で繰り返し回数:5回虚血・再潅流に対するNOモニタリングシステムの検討:15分の虚血と5分の再潅流を2回繰り返した肝組織と5回繰り返した肝組織、15分の虚血と15分の再潅流を2回繰り返した肝組織と5回繰り返した肝組織など複数回の虚血・再潅流に関する検討を行う。
KAKENHI-PROJECT-24659604
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24659604
風浪中を航行する船の針路安定性とそれに及ぼす主機出力の影響に関する研究
風浪中における船の操縦運動の時刻歴非線形シミュレーション計算法を開発し,水槽試験結果との比較により検証した。風浪下を航行する船の釣り合い状態を求め,その状態において運動方程式を線形化して,針路安定性を判別する新しい理論計算法を開発した。開発された2つの計算ツール,風浪中における船の操縦運動計算法と風浪中における船の針路安定性の理論計算法を用いて,種々の船種を対象に,外乱条件や主機出力を種々変化させたときの操縦運動や波浪動揺を計算し,その計算結果を基に,安全な航行が可能となる外乱条件や主機出力の影響を具体的に提示した。1.主機出力の変化を考慮した風浪中における船の操縦運動の実用計算法の開発操縦運動は低周波数での運動であり,波浪動揺は比較的高周波数での運動である。この性質を利用して,低周波数での運動方程式と,高周波数での船の運動方程式を導き,両者を連成させながら問題を取り扱った。波のない平水中においては既存のMMG型操縦運動モデルに,直進航行時の波浪中においては広く用いられるストリップ法(New Strip Method)に一致するような計算モデルを構築した。さらには,外乱下におけるプロペラトルクと主機のモデルを導入して,操縦運動に及ぼすエンジン出力やプロペラ回転数の変動の影響を考慮した。2.計算プログラムの開発と水槽試験の実施,計算法の検証と改良上記計算モデルを数値的に解き,実際に運動を求めることができるシミュレーション計算プログラムを開発した。低周波数域における運動方程式(4元),高周波数域における運動方程式(6元)ならびに実際に運動を求めるための微分方程式(6元)の計16元連立の運動方程式を解く必要があり,具体的に解く方法としてNewmarkのβ法を用いた。次に,理論計算法の検証データを得るため水槽試験を実施した。水槽試験に用いる模型船の計画,製作を行い,この模型船を用いて,広島大学船型試験水槽にて,平水中における操縦流体力特性(舵力特性,船体減衰力特性等)に関する基礎データを計測した。また,水産工学研究所角水槽において,短波長不規則波における旋回運動やzig-zag運動といった船の操縦運動ならびに波浪動揺を計測した。開発された理論計算プログラムを用いて,波浪中の操縦運動を計算し,水槽試験結果と比較した。理論計算結果は,水槽試験結果と実用上の精度で一致し,本理論計算法の妥当性が確認された。研究計画に従い,風浪中における船の針路安定性の理論の開発と基礎となる波漂流力の計測,計算法の検証と改良を行った。初年度に開発した計算法の低周波数における運動方程式をベースに,一定風速ならびに不規則波中を航行する船の針路安定性の理論を開発した。先に開発した一定風速下を航行する船の針路安定性の理論をベースに,波の影響を含むものへと拡張し,風浪下を航行する船の釣り合い状態を求め,その状態において,運動方程式を線形化し,針路安定性に関する基礎式を誘導した。上で述べた針路安定性の理論計算法ならびに初年度に開発した風浪下での操縦運動の非線形シミュレーション計算法において,波漂流力は重要な役割を演ずることが分かっている。そこで,既存の方法による波漂流力の推定精度を確認すべく,検証データを取得するため,波方向を種々変化させた規則波中での水槽試験を実施した。水槽試験は,角水槽で実施する必要があり,三菱重工業長崎研究所の耐航性能水槽を借用して実施した。計測にあたり,低速から船速を変化させ,その影響を把握した。風浪中における船の操縦運動の非線形シミュレーション計算法の計算プログラムを用いて,種々の条件における操縦運動や波浪動揺の計算を行った。得られた計算結果は,水槽試験結果と比較を行い,理論計算法の検証を行った。基礎となる漂流力の取り扱いの見直しを行い,修正係数等の導入による実用的な見地からの計算法の改良を行った。研究実績の概要に示した通り,研究は順調に進捗している。種々の船種について,航行安全性や操船限界に及ぼす風波下等の外乱や最低主機出力の影響を把握するための検討を行った。具体的には,本研究を通じて開発された2つのツール,風浪中における船の操縦運動・耐航運動の非線形シミュレーション計算法と風浪中における定常航行性能の理論を用いて,コンテナ船,VLCC,自動車運搬船を対象に,風波条件や主機出力を種々変化させ,そのときの操縦運動や波浪動揺等を計算した。コンテナ船については,風波下を航行する具体的なシナリオを設定し,プロペラレーシングや海水打ち込みを考慮しながら,危険海域から離脱するシミュレーション計算を実施し,実際に近い状況下での操船限界について議論した。VLCCについては,外乱下での当て舵,船体斜航角,船速低下,プロペラトルクさらには安定した航行が可能となるオートパイロットのゲインなどを指標として,安全な航行が可能となる条件と主機出力の関係を例示した。主機出力が小さくなると,一般に操縦性能が悪化するものの,その低下は舵面積の増加や特殊舵の採用によって補える程度のものであることが示された。また,それらに及ぼす載荷状態の影響についても例示した。自動車運搬船については,外乱下での当て舵,船体斜航角,船速低下,プロペラトルクに加えて,横傾斜の計算ができるように拡張し,安全な航行が可能となる条件と主機出力の関係さらには,操船限界と水深の影響についても具体例を示した。あわせて,それらを一部検証するため,性能の基本となる抵抗・自航特性,迎波中での波浪中抵抗増加特性を広島大学曳航水槽で計測した。
KAKENHI-PROJECT-26249135
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風浪中を航行する船の針路安定性とそれに及ぼす主機出力の影響に関する研究
風浪中における船の操縦運動の時刻歴非線形シミュレーション計算法を開発し,水槽試験結果との比較により検証した。風浪下を航行する船の釣り合い状態を求め,その状態において運動方程式を線形化して,針路安定性を判別する新しい理論計算法を開発した。開発された2つの計算ツール,風浪中における船の操縦運動計算法と風浪中における船の針路安定性の理論計算法を用いて,種々の船種を対象に,外乱条件や主機出力を種々変化させたときの操縦運動や波浪動揺を計算し,その計算結果を基に,安全な航行が可能となる外乱条件や主機出力の影響を具体的に提示した。当初予定した通りに研究が進捗しており,研究成果も期待した通りである。本研究の目的の一つである船の航行安全性と最低主機出力に関する具体的な検討を行う。二年間をかけて開発された2つのツール,風浪中における船の操縦運動の非線形シミュレーション計算法と風浪中における船の針路安定性の理論,を用いて,種々の外乱条件や主機出力を変化させ,そのときの操縦運動や波浪動揺を計算する。VLCCタンカー,ばら積み船,コンテナ船,自動車運搬船を対象とする。外乱下での当て舵や船体斜航角,さらには安定した航行が可能となるオートパイロットのゲインなどを指標として,安全な航行が可能となる外乱条件と主機出力の関係を具体的に例示する。あわせて,今回対象としたばら積み船の性能の基本となる抵抗・自航特性,迎波中での波浪中抵抗増加特性を広島大学曳航水槽で計測し,最低主機出力と推進性能との関連について議論する。28年度が最終年度であるため、記入しない。工学1.風浪中における船の針路安定性の理論の開発:初年度に開発した計算法の低周波数における運動方程式をベースに,一定風速ならびに不規則波中を航行する船の針路安定性の理論を開発する。一定風速下を航行する船の針路安定性の理論は,既に提示されており,この方法を波の影響を含むものへと拡張する。まず,風浪下を航行する船の釣り合い状態を求め,その状態において,運動方程式を線形化し,針路安定性に関する基礎式を誘導する。2.基礎となる波漂流力の計測,計算法の検証と改良:上で述べた針路安定性の理論計算法ならびに初年度に開発した風浪下での操縦運動の非線形シミュレーション計算法において,波漂流力は重要な役割を演ずることが予想される。そこで,既存の方法による波漂流力の推定精度を確認すべく,検証データを取得するため,波方向を種々変化させた規則波中での水槽試験を実施する。その上で,風浪中における船の操縦運動の非線形シミュレーション計算法の計算プログラムを用いて,種々の条件における操縦運動や波浪動揺の計算を行う。得られた計算結果は,水槽試験結果と比較を行い,理論計算法の検証を行う。必要があれば,基礎となる計算法や漂流力の取り扱いの見直し,もしくは修正係数等の導入による実用的な見地からの計算法の改良を行う。3.船の航行安全性と最低主機出力に関する検討:本研究で開発される2つのツールである「風浪中における船の操縦運動の非線形シミュレーション計算法」と「風浪中における船の針路安定性の理論」を用いて,種々の外乱条件や主機出力を変化させ,そのときの船舶の操縦運動や波浪動揺を計算する。
KAKENHI-PROJECT-26249135
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有機触媒によるジフルオロカルベンの発生制御と有機フッ素化合物合成
1,1-ジフルオロシクロプロパンは生理活性化合物の部分構造として重要であるほか、高い歪みエネルギーを有するため、合成中間体としても有望である。平成27年度は、有機触媒により発生させたジフルオロカルベンを用いる、シリルエノールエーテルのジフルオロシクロプロパン化反応を検討した。有機触媒による穏やかな条件でのジフルオロカルベン発生は、従来のジフルオロカルベン発生条件下で不安定であることが多いシリルエノールエーテルのシクロプロパン化に特に適している。諸検討の結果、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(プロトンスポンジ)が有機触媒として適していることを明らかとした。すなわち、種々のα,β-不飽和ケトンから容易に調製できるシリルジエノールエーテルに対し、触媒量のプロトンスポンジ存在下、2,2-ジフルオロ-2-フルオロスルホニル酢酸トリメチルシリル(TFDA)を作用させた。その結果、系中で発生した遊離ジフルオロカルベンによるジフルオロシクロプロパン化が効率良く進行した。生成した1,1-ジフルオロ-2-シロキシ-2-ビニルシクロプロパンは、医農薬として有望な含フッ素シクロペンタノン誘導体合成のための中間体として機能した。まず、上述のジフルオロ(シロキシ)(ビニル)シクロプロパンに触媒量のBu4N SiF2Ph3 (TBAT)を作用させ、シクロプロパン環の開裂を伴う脱離を経て、1-フルオロビニル=ビニル=ケトンを収率良く得た(ナザロフ前駆体)。このジビニルケトンに等モル量のMe3Si B(OTf)4を作用させ、フッ素のα-カチオン安定化効果を利用する位置選択的なナザロフ環化により、2-フルオロ-2-シクロペンテノンを収率良く得た。有機触媒の活用によりその前駆体の簡便合成が可能になったため、このような位置選択的なナザロフ環化が実現した。27年度が最終年度であるため、記入しない。27年度が最終年度であるため、記入しない。ジフルオロカルベン(:CF2)は、有機フッ素化合物合成のための有望な一炭素ユニットである。ジフルオロカルベンを有効活用するには、カルベン同士の二量化を抑制し、かつ過剰反応を防ぐために、基質との反応速度に応じてその生成速度を制御する必要がある。しかしこれまで、そのような手法がなかった。筆者は最近2,2-ジフルオロ-2-フルオロスルホニル酢酸トリメチルシリル(TFDA)を有機求核剤(有機分子触媒)で活性化できることを見いだした。有機分子触媒は、その構造を合成化学的に変更し触媒活性を調節できるため、TFDAからのジフルオロカルベン発生制御に適している。今年度は、TFDA活性化のための有機分子触媒として1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(プロトンスポンジ)が利用可能であることを新たに見いだした。またこれを利用して、硫黄上のジフルオロメチル化反応を実現した。すなわち、アミドから容易に調製できるチオアミドを基質として選択し、触媒量のプロトンスポンジ存在下、TFDAを作用させた。系中で発生したジフルオロカルベンによりチオアミドの硫黄上が位置選択的にジフルオロメチル化され、対応するジフルオロメチルスルフィドが良好な収率で得られた。ジフルオロメチルスルフィドは医農薬にも見られる重要な構造であるが、これまでその構築には強塩基性条件や高温条件を要した。本研究課題により、より温和で汎用性の高いジフルオロメチルスルフィド合成法が実現した。1,1-ジフルオロシクロプロパンは生理活性化合物の部分構造として重要であるほか、高い歪みエネルギーを有するため、合成中間体としても有望である。平成27年度は、有機触媒により発生させたジフルオロカルベンを用いる、シリルエノールエーテルのジフルオロシクロプロパン化反応を検討した。有機触媒による穏やかな条件でのジフルオロカルベン発生は、従来のジフルオロカルベン発生条件下で不安定であることが多いシリルエノールエーテルのシクロプロパン化に特に適している。諸検討の結果、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(プロトンスポンジ)が有機触媒として適していることを明らかとした。すなわち、種々のα,β-不飽和ケトンから容易に調製できるシリルジエノールエーテルに対し、触媒量のプロトンスポンジ存在下、2,2-ジフルオロ-2-フルオロスルホニル酢酸トリメチルシリル(TFDA)を作用させた。その結果、系中で発生した遊離ジフルオロカルベンによるジフルオロシクロプロパン化が効率良く進行した。生成した1,1-ジフルオロ-2-シロキシ-2-ビニルシクロプロパンは、医農薬として有望な含フッ素シクロペンタノン誘導体合成のための中間体として機能した。まず、上述のジフルオロ(シロキシ)(ビニル)シクロプロパンに触媒量のBu4N SiF2Ph3 (TBAT)を作用させ、シクロプロパン環の開裂を伴う脱離を経て、1-フルオロビニル=ビニル=ケトンを収率良く得た(ナザロフ前駆体)。このジビニルケトンに等モル量のMe3Si B(OTf)4を作用させ、フッ素のα-カチオン安定化効果を利用する位置選択的なナザロフ環化により、2-フルオロ-2-シクロペンテノンを収率良く得た。有機触媒の活用によりその前駆体の簡便合成が可能になったため、このような位置選択的なナザロフ環化が実現した。
KAKENHI-PUBLICLY-26105705
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PUBLICLY-26105705
有機触媒によるジフルオロカルベンの発生制御と有機フッ素化合物合成
本研究課題では、(1)ジフルオロカルベン(:CF2)の発生制御を有機分子触媒で達成し、(2)これを様々な有機フッ素化合物合成に活用する道を拓くことを最終目標としている。平成26年度は「研究実績の概要」で述べたように、プロトンスポンジ(有機分子触媒)による硫黄上のジフルオロメチル化反応を開発した(2)。硫黄上のジフルオロメチル化はすでにいくつかの研究グループにより報告されている反応ではあるが、その条件は過酷であり、筆者らの方法のようにほぼ中性条件下、50°C程度の温度で進行した例はほとんどなかった。これは有機分子触媒の活用によって初めて得られた成果であり、有機分子触媒の合成化学的な有効性を実証したものである。よって、その達成度は十分である。その一方平成26年度は、ジフルオロカルベンの発生制御(1)を定量的に取り扱うまでには至らなかった。これは、上述の硫黄上のジフルオロメチル化反応(2)が順調に進行したため労力を集中し、想定よりも多くの時間を割いたためである。これにより生じる予定の変更は深刻ではなく、本研究は最終目標に向けておおむね順調に推移している。27年度が最終年度であるため、記入しない。最終目標の一つである、ジフルオロカルベン(:CF2)の発生制御の定量的な取り扱いに取り組む。本研究経費を利用して出席した学会等での議論を通して、ジフルオロカルベンおよびこれから生じるペルフルオロイソブテン(CF3)2C=CF2は、アルコールとの付加体の形で捕捉可能との情報を得た。これにより、生成したジフルオロカルベンを定量し、その発生速度を数値化することが可能になると考えられる。これを足がかりに、有機分子触媒の構造-活性相関を明らかとし、最終的には、各々の基質に対する最適触媒の予測や、新触媒の設計・合成にも役立てたい。27年度が最終年度であるため、記入しない。
KAKENHI-PUBLICLY-26105705
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PUBLICLY-26105705
環境中キノン体によるレドックスシグナル伝達と高求核性イオウ化合物によるその制御
本研究は,レドックス活性を有するキノン体(AhQs)によるレドックスシグナル伝達機序および当該シグナル制御におけるパーイオウやポリイオウのような高求核性イオウ化合物の関与の有無を明らかとし,毒性学や予防医学において高求核性イオウ化合物の重要性を提示することを目的とした.これまで,ヒト上皮様細胞癌由来細胞株(A431細胞)において,AhQsのモデル化合物である9,10-フェナントラキノン(9,10-PQ)のレドックスサイクルにより産生されたH2O2がPTP1Bへの酸化修飾を介して,PTP1B/EGFRシグナルを活性化することを示した.本成果を受け,H30年度は,本シグナルの活性化が9,10-PQの細胞毒性等に関与するか否か,EGFR阻害剤を用いて検討したところ,EGFRシグナルは低濃度の9,10-PQ曝露による細胞増殖の亢進および毒性の発現に寄与していることが明らかとなった.また,1)高求核性イオウ化合物のモデル化合物であるNa2S2,Na2S3もしくはNa2S4と9,10-PQとの相互作用および2)当該イオウ化合物によるPTP1BのCys残基のS-sulfhydryl化についても検討した.その結果,1)高求核性イオウ化合物は9,10-PQのような電子受容体に対して電子供与体として働くこと,および2) PTP1BのS-sulfhydryl化は過剰なH2O2による過酸化からタンパク質を保護することが示唆された.H30年度は,個体における9,10-PQによるPTP1B/EGFRシグナル活性化および9,10-PQによる当該シグナル活性化における高求核性イオウ化合物の役割に関する検討を計画していた.9,10-PQと高求核性イオウ化合物との相互作用に関して良好な結果が得られたために,計画を変更し,個体を用いた検討よりも優先して行った.9,10-PQ依存的PTP1B/EGFRシグナルの活性化は,9,10-PQ曝露で見られる細胞生存率の亢進および細胞毒性の発現に関与することが示唆された.先行研究で,ヒト肺胞基底上皮腺癌由来A549細胞において,9,10-PQの細胞毒性を二価鉄のキレーターである1,10-フェナントロリン(OPT)が有意に抑制したことから,9,10-PQは生成したH2O2と二価鉄とのフェントン反応を介してヒドロキシルラジカル生成することが示唆された.そこで,OPTもしくはヒドロキシルラジカル消去剤であるチオ尿素を前処理すると,9,10-PQ曝露による毒性が有意に抑制された.現在,9,10-PQ曝露による毒性等における鉄の関与を詳細に検討している.また,高求核性イオウ化合物によるPTP1BのS-sulfhydryl化は,-SSHおよび-SSOnH (n = 1-3)の可逆性から,イオウを介したレドックスシグナル伝達,もしくは過剰な酸化修飾から本タンパク質を保護する役割を有することが示唆された(投稿準備中).さらに,現在までに,高求核性イオウ化合物のモデルとして用いたNa2S2,Na2S3,もしくはNa2S4は本研究課題の中心的な環境中キノン体である9,10-PQだけでなく,ビタミンK3,コエンザイムQ10もしくはピロロキノリンキノンのような電子受容体に対して電子供与体として働くことが明らかとなった.これらの成果から,本研究はおおむね順調に進展しているといえる.細胞で見られた9,10-PQ曝露によるEGFRの活性化が個体においても見られるか検討する.また,H30年度の内容から9,10-PQによる細胞毒性はレドックスサイクルによるROSの産生だけでなく,鉄結合タンパク質からの鉄の遊離など,産生したROSに起因した二次的な作用も関与する結果を得た.そこで,当初計画していた内容に加え,9,10-PQ曝露によるPTP1B/EGFRシグナルの活性化および毒性における鉄の関与を詳細に検討し,9,10-PQの曝露濃度を変えることによりH2O2や鉄に起因する毒性を引き起こす誘導剤として、使用できる可能性があることを示していく予定である.本研究は,レドックス活性を有するキノン体(AhQs)によるレドックスシグナル伝達機序および当該シグナル制御における高求核性イオウ化合物の関与の有無を明らかとし,毒性学や予防医学において高求核性イオウ化合物の重要性を提示することを目的とする.H29年度は,9,10-フェナントラキノン(9,10-PQ)をAhQsのモデル化合物とし,9,10-PQ依存的PTP1B/EGFRシグナル伝達活性化における活性酸素種(ROS)の関与およびUPLC-MS/MSによる酸化修飾部位の同定を行った.ヒト上皮様細胞癌由来細胞株(A431細胞)を9,10-PQに曝露すると,濃度・時間依存的なEGFR/ERKシグナルの活性化が認められた.本リン酸化はEGFRの中和抗体で阻害されなかったことから,リガンド依存的なEGFRのリン酸化ではないことが示された.また,ポリエチレングリコール結合カタラーゼの前処理により,9,10-PQ曝露によって産生されたROSを消去するとEGFR/ERKシグナルの活性化が抑制されたことから,9,10-PQ曝露によって見られたEGFRおよびERKのリン酸化にはROSが関与することが示された.9,10-PQを曝露したA431細胞のPTPs活性を検討した結果,9,10-PQ曝露
KAKENHI-PROJECT-17K15489
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環境中キノン体によるレドックスシグナル伝達と高求核性イオウ化合物によるその制御
濃度依存的なPTPs活性の阻害が認められた.さらに,精製ヒトPTP1Bタンパク質(hPTP1B)を用いた検討により,内在性ROSにより修飾されるCys215が9,10-PQ由来のROSによっても酸化修飾される結果を得た.H29年度の研究により,9,10-PQはA431細胞内でのレドックスサイクルによるROS産生を介してPTPsを酸化修飾により不活性化することで,EGFR/ERKシグナルを活性化することが明らかとなった.H29年度は,9,10-PQ依存的PTP1B/EGFRシグナル伝達活性化におけるROSの関与およびUPLC-MS/MSによる酸化修飾部位の同定を計画しており,それを実行した.その結果,9,10-PQはA431細胞内でのレドックスサイクルによるROS産生を介してPTPsを酸化修飾し阻害することで,EGFR/ERKシグナルを活性化することが明らかとなった.また,精製ヒトPTP1Bタンパク質およびUPLC-MS/MSを用いた検討で,9,10-PQにより産生されるROSは,少なくともPTP1Bの活性部位にあるCys215を酸化修飾することで本酵素活性を阻害することが明らかとなった.さらに,PTP1B活性における高求核性イオウ化合物の役割を検討するために,そのモデル化合物として二硫化ナトリウム(Na2S2)をPTP1Bと反応させたところ,PTP1Bのシステイン残基がS-sulfhydryl化(-SSH)され,PTP活性が阻害された.S-sulfhydryl化による本活性阻害は可逆的であったことから,S-sulfhydryl化されたPTP1Bが酸化修飾(-SSOH, -SSO2H, -SSO3H)を受けても,その可逆性が維持されることが示唆された.本結果は,H30年度以降に予定される研究の一部であり,研究課題の順調な進行が期待できる.これらの成果から,本研究はおおむね順調に進展していると言える.本研究は,レドックス活性を有するキノン体(AhQs)によるレドックスシグナル伝達機序および当該シグナル制御におけるパーイオウやポリイオウのような高求核性イオウ化合物の関与の有無を明らかとし,毒性学や予防医学において高求核性イオウ化合物の重要性を提示することを目的とした.これまで,ヒト上皮様細胞癌由来細胞株(A431細胞)において,AhQsのモデル化合物である9,10-フェナントラキノン(9,10-PQ)のレドックスサイクルにより産生されたH2O2がPTP1Bへの酸化修飾を介して,PTP1B/EGFRシグナルを活性化することを示した.本成果を受け,H30年度は,本シグナルの活性化が9,10-PQの細胞毒性等に関与するか否か,EGFR阻害剤を用いて検討したところ,EGFRシグナルは低濃度の9,10-PQ曝露による細胞増殖の亢進および毒性の発現に寄与していることが明らかとなった.また,1)高求核性イオウ化合物のモデル化合物であるNa2S2,Na2S3もしくはNa2S4と9,10-PQとの相互作用および2)当該イオウ化合物によるPTP1BのCys残基のS-sulfhydryl化についても検討した.その結果,1)高求核性イオウ化合物は9,10-PQのような電子受容体に対して電子供与体として働くこと,および2) PTP1BのS-sulfhydryl化は過剰なH2O2による過酸化からタンパク質を保護することが示唆された.H30年度は,個体における9,10-PQによるPTP1B/EGFRシグナル活性化および9,10-PQによる当該シグナル活性化における高求核性イオウ化合物の役割に関する検討を計画していた.
KAKENHI-PROJECT-17K15489
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野生の認知科学:こころの進化とその多様性の解明のための比較認知科学的アプローチ
本研究の最終的な目的は、さまざまな認知機能の総体であるこころの進化の道筋を明らかにし、そのような進化の理由を解明することにある。今年度はこれまでの成果を基に各研究課題をさらに発展させるとともに、分担者間で連携を図りつつ、「物理環境の認識」と「社会環境の認識」に分け、その相互作用も視野に入れつつ研究を進めてきた。「物理環境の認識」に関しては、チンパンジーを対象とした注意特性の分析、アンサンブル知覚、色相の知覚、感覚間一致などの研究を進めた。ヒトを対象とした研究では、感情対象の処理と心的回復力の個人特性との関係を明らかにし、嫌悪感情と身体化の関連について検討を行った。また、ウマについてはタッチパネル課題を用いた数認識の研究に加えて、種概念の形成過程の分析をイルカやチンパンジーと比較しながら検討を進めた。さらに類人猿各種を対象とした対象操作とその種差に関する研究を進めた。ヒトについては、パラボリックフライトによる微小重力環境下での時空間認知の変容過程について検討を行った。「社会的環境の認識」に関しては、チンパンジーにおける幼児図式の認知、注意状態の認識などについて研究を進めた。また、ハンドウイルカの協力行動や模倣学習、注意状態の認識についても検討した。さらに、シャチ、ハンドウイルカ、ベルーガ、などを対象とした音声コミュニケーションに関する研究を進めた。本研究のもう一つの柱である野外調査については、チンパンジー、ボノボ、オランウータン、マウンテンゴリラ、幸島のニホンザル、北海道沿岸での鰭脚類およびシャチなどの各種鯨類、御蔵島や錦江湾でのミナミハンドウイルカ、駿河湾での各種鯨類の調査を精力的に進めている。とくに知床海域におけるシャチの集団採餌行動についてデータロガーによる行動モニタリングから明らかにした。今年度は、それぞれの研究テーマについて順調に進展した。北海道東部でのシャチなどを対象とした調査研究は今年度も首尾よく実施され、その成果の概要はTV放送等で一般市民にも周知された。ドローンを用いた調査は鹿児島錦江湾においても継続し、興味深い成果が得られつつある。さらに、飼育下の研究では、チンパンジーでの研究は言うまでもなく、イルカでの認知研もが引き続き順調に推移している。ウマの研究も精力的に行うことができた。また、10月には海生哺乳類の研究者や飼育関係者を集めた研究会、1月には認知科学、行動学、心理学の幅広い領域の研究者が集った研究会、そして年度末にはかごしま水族館で一般にの方々向けの講演会と研究体験会をアウトリーチ活動の一環として実施し、それぞれに高い評価を得た。次年度は最終年度である。これまでの研究をさらに進展させることは言うまでもなく、それぞれの研究を取りまとめるよう分担者と協力して進めていきたい。年度後半には研究会やシンポジウム、講演会を実施し、成果の社会への発信を進めるとともに、本計画の総括と今後への展望を示し、さらなる研究の展開のための礎を築きたい。本研究の最終的な目的は、さまざまな認知機能の総体であるこころの進化の道筋を明らかにし、こころがそのように進化してきた理由を解明することにある。今年度は計画初年度である。そこで、先行する基盤研究や各研究者のこれまでの成果を基盤として、各研究課題を発展させるとともに、分担者間で連携を図りつつ、「物理環境の認識」と「社会環境の認識」に分け、その相互作用も視野に入れつつ研究を進めてきた。「物理環境の認識」に関しては、陸生哺乳類であるウマを対象として、世界で初めてタッチパネルを導入した実験系を構築した。そのうえで、彼らの基礎的な視知覚特性を検討し、その結果を、チンパンジー、ヒト、さらにはイルカでの結果と比較した。また、イルカについては、空間認識の異方性の問題について検討を行うとともに、エコロケーションによる物体認識についても研究を開始した。さらに、音響タッチパネルによる実験システムの開発を継続して進めた。チンパンジーやヒトを対象として、視覚認知、異種間感覚統合、大域情報の統合過程について検討を行った。「社会環境の認識」については、チンパンジーを対象とした顔刺激を用いた種認知の実験や、自己顔認知、さらには視線認識の問題などを検討した。さらに、ジェスチャーコミュニケーションにおける空間の情報の符号化、複数個体間での行動の同期、外部リズムへの同期などについても検討を行った。イルカを対象にした研究では、飼育下イルカを対象に、2個体に協力行動の形成とその要因の分析を進めるとともに、向社会行動の観察と実験についても継続して進めている。さらに、ベルーガにおける音声の研究も遂行した。これらの研究と並行する形で、野外での観察研究についても推進した。御蔵島でのミナミハンドウイルカの調査、北海道周辺海域におけるシャチや鰭脚類の行動と生態の調査、マレーシアでのオランウターンの調査などを実施した。今年度は、前回までの基盤研究(S)の最終年度であったが、本計画が採択されたため、鰭脚類やヒトを対象とした新たな研究者が参画し、順調に再スタートを切ることができた。相互の研究交流についても研究代表者である友永をハブとして着実に強固なネットワークになりつつある。今年度はそれまでに少しずつ導入を検討していたウマでの新しい実験システムが確立し、論文にすることができた。また、イルカ用の音響タッチパネルについてもその機能に関する予報を発表することができた。本研究の最終的な目的は、さまざまな認知機能の総体であるこころの進化の道筋を明らかにし、そのような進化の理由を解明することにある。
KAKENHI-PROJECT-15H05709
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野生の認知科学:こころの進化とその多様性の解明のための比較認知科学的アプローチ
今年度は初年度までの成果を基に各研究課題を発展させるとともに、分担者間で連携を図りつつ、「物理環境の認識」と「社会環境の認識」に分け、その相互作用も視野に入れつつ研究を進めてきた。「物理環境の認識」に関しては、チンパンジーを対象とした大域的視覚情報処理、鮮度知覚、感覚間一致、空間認知などの研究を進めた。ヒトを対象とした研究では、身体化認知、情動処理の文化間比較や発達研究を進めた。また、昨年度導入に成功したウマ用タッチパネル課題を用いた数認識の研究を進めている。これについては、チンパンジーでも同様の比較実験を行っている。また、イルカではエコロケーションを用いた数比較の研究を進めている。タッチパネルシステムはヤギにも導入し、研究に着手した。鰭脚類については新奇物体に対する反応性について検討した。さらに、ほ乳類の外群である爬虫類も視野に入れ、リクガメを対象とした比較認知研究に着手した。イルカについては音響タッチパネルを用いた視覚弁別実験を進めている。さらに類人猿各種を対象とした対象操作とその種差に関する研究を進めた。「社会的環境の認識」に関しては、チンパンジーにおける視覚的種認識、幼児図式の認知、注意状態の認識などについて研究を進めた。また、シャチ、ハンドウイルカ、ベルーガ、などを対象とした音声コミュニケーションに関する研究を進めた。また、ハンドウイルカの協力行動や模倣学習についても検討した。本研究のもう一つの柱である野外調査については、チンパンジー、ボノボ、オランウータン、幸島のニホンザル、都井岬のウマ、北海道沿岸での鰭脚類およびシャチなどの各種鯨類、御蔵島や錦江湾でのミナミハンドウイルカ、駿河湾での各種鯨類の調査を精力的に進めている。今年度は、昨年度までの成果を基盤として、各研究分担者の研究がそれぞれに着実に進展した。また、相互の研究交流についても、研究代表者である友永をハブとしたネットワークが構成された。イルカにおける音響タッチパネルも本格的に研究に導入され成果を挙げつつある。また、チンパンジーやウマで確立したタッチパネルの技術もヤギ、リクガメ、イルカへの導入に向けて進捗しつつある。野外調査においてはドローンを用いた空中からの調査の有効性について鯨類やウマで確認されつつあり、研究チーム内外の研究者と連携してさらに活用していく環境が整った。本研究の成果を広く社会にアウトリーチする活動にも注力した。本研究の最終的な目的は、さまざまな認知機能の総体であるこころの進化の道筋を明らかにし、そのような進化の理由を解明することにある。今年度は初年度までの成果を基に各研究課題を発展させるとともに、分担者間で連携を図りつつ、「物理環境の認識」と「社会環境の認識」に分け、その相互作用も視野に入れつつ研究を進めてきた。「物理環境の認識」に関しては、チンパンジーを対象とした注意特性の分析、鮮度知覚、アンサンブル知覚、感覚間一致、空間認知などの研究を進めた。ヒトを対象とした研究では、昨年度に引き続き身体化認知、情動処理の文化間比較や発達研究を進めた。また、ウマについてはタッチパネル課題を用いた数認識の研究を進めている。
KAKENHI-PROJECT-15H05709
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臨床応用を目指した、膵癌血管新生におけるIGF1シグナルの解明
インスリン様成長因子(IGF)-1は通常は肝臓で産生される成長ホルモンで,癌の増殖・浸潤に関与することが報告されている.今回の研究では,IGF-1がPI3K/AKT/mTOR/NF-κBを介して炎症性サイトカインのCXCL8/IL-8の発現を制御し,膵癌血管新生を亢進することを確認することを目的としており,平成30年度までに以下の研究を行い,成果をあげている.(A)膵癌細胞株および正常膵管上皮細胞株のIGF-1R発現をRT-PCRおよびWestern Blotにて検討し,膵癌細胞株にIGF-1Rが発現していることを確認した.(B)リアルタイムPCRにより,IGF-1刺激が膵癌細胞株のCXCL8/IL-8発現を亢進することが確認した.(C)IGF-1の下流シグナルの解明:PI3K/AKT/mTORシグナルがIGF-1の下流にあることをWestern Blot等で確認した.これらの研究成果を受け,平成30年度は下記の研究を行い,成果をあげた.膵癌は悪性度の非常に高い癌であり新たな分子標的薬剤の開発は急務である.インスリン様成長因子(IGF)-1は通常は肝臓で産生される成長ホルモンで,癌の増殖・浸潤に関与することが報告されている.今回の研究では,IGF-1がPI3K/AKT/mTOR/NF-κBを介して炎症性サイトカインのCXCL8/IL-8の発現を制御し,膵癌血管新生を亢進することを確認することを目的としており,平成28年度は以下の研究を行い,成果をあげている.(A)膵癌におけるIGF-1およびIGF-1R発現の検討膵癌細胞株を用いたIGF-1R発現の検討:膵癌細胞株および正常膵管上皮細胞株のIGF-1R発現をRT-PCRおよびWestern Blotにて検討し,膵癌細胞株にIGF-1Rが発現していることを確認した.(B)IGF-1が膵癌細胞のCXCL8/IL-8産生に及ぼす影響の検討我々はCXCL8/IL-8が膵癌血管新生の中心的役割を果たしていることを報告してきており,IGF-1がこの発現を制御していることを確認した.これはIGF-1シグナルの抑制が膵癌治療へ結びつく可能性を示唆している.今後はIGF-1の下流シグナルを検討する.予備実験よりIGF-1がPI3K/AKT/mTOR/NF-κBを介してIL-8の産生を亢進すると考えてり,Western Blotなどによりこのシグナルを探求すると同時に,動物実験でもIGF-1R inhibitorの効果を検討する予定である.IGF-1が膵癌における血管新生因子のCXCL8/IL-8の産生を亢進することを確認でき,これは新しい知見である.今後はIGF-1とCXCL8/IL-8をつなぐ下流シグナルの解明を行う予定で,これは平成29年度に行う予定である.これらのシグナルの解明ののちに,動物実験に移る予定である.膵癌は悪性度の非常に高い癌であり新たな分子標的薬剤の開発は急務である.インスリン様成長因子(IGF)-1は通常は肝臓で産生される成長ホルモンで,癌の増殖・浸潤に関与することが報告されている.今回の研究では,IGF-1がPI3K/AKT/mTOR/NF-κBを介して炎症性サイトカインのCXCL8/IL-8の発現を制御し,膵癌血管新生を亢進することを確認することを目的としており,平成29年度までに以下の研究を行い,成果をあげている.我々はCXCL8/IL-8が膵癌血管新生の中心的役割を果たしていることを報告してきており,IGF-1がこの発現を制御していることを確認した.これはIGF-1シグナルの抑制が膵癌治療へ結びつく可能性を示唆している.今後はIGF-1の下流シグナルを検討する.動物実験でもIGF-1R inhibitorの効果を検討する予定である.IGF-1が膵癌における血管新生因子のCXCL8/IL-8の産生を亢進することを確認でき,これは新しい知見である.今後はIGF-1とCXCL8/IL-8をつなぐ下流シグナルの解明の一部が確認できている.今後,このシグナルがCXCL8/IL-8の産生に関与していることを解明し,動物実験に移る予定であるインスリン様成長因子(IGF)-1は通常は肝臓で産生される成長ホルモンで,癌の増殖・浸潤に関与することが報告されている.今回の研究では,IGF-1がPI3K/AKT/mTOR/NF-κBを介して炎症性サイトカインのCXCL8/IL-8の発現を制御し,膵癌血管新生を亢進することを確認することを目的としており,平成30年度までに以下の研究を行い,成果をあげている.(A)膵癌細胞株および正常膵管上皮細胞株のIGF-1R発現をRT-PCRおよびWestern Blotにて検討し,膵癌細胞株にIGF-1Rが発現していることを確認した.(B)リアルタイムPCRにより,IGF-1刺激が膵癌細胞株のCXCL8/IL-8発現を亢進することが確認した.(C)IGF-1の下流シグナルの解明:PI3K/AKT/mTORシグナルがIGF-1の下流にあることをWestern Blot等で確認した.これらの研究成果を受け,平成30年度は下記の研究を行い,成果をあげた.
KAKENHI-PROJECT-16K10606
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K10606
臨床応用を目指した、膵癌血管新生におけるIGF1シグナルの解明
今後はIGF-1/IGFRがCXCL8/IL-8の発現を亢進するまでのシグナルを解明したのち,IGF-1がCXCL8/IL-8を産生することにより血管新生を亢進することをin vitro angiogenesis assayで検討する.そののち,ヌードマウスを用いたin vivo実験でIGF-1R inhibitorの抗腫瘍効果を検討する.(C)IGF-1の下流シグナルの解明:以下のシグナルをWestern Blot等で検討する.(D)IGF-1が膵癌血管新生能を亢進し,CXCL8/IL-8が関与することを検討する(E)IGF-1受容体の制御が腫瘍血管新生を抑制し効腫瘍効果をもつことをin vivoで検討し,IGF-1R inhibitorの抗腫瘍効果を検討する.今後はIGF-1がCXCL8/IL-8を産生することにより血管新生を亢進することをin vitro angiogenesis assayで検討する.そののち,ヌードマウスを用いたin vivo実験でIGF-1R inhibitorの抗腫瘍効果を検討する.(C)IGF-1の下流シグナルの解明:以下のシグナルをWestern Blot等で検討する.:(C-2)IGF-1のNF-κBシグナルへの関与の検討. (C-3) IGF-1によるCXCL8/IL-8発現亢進に関与するシグナルの検討(E)IGF-1受容体の制御が腫瘍血管新生を抑制し効腫瘍効果をもつことをin vivoで検討し,IGF-1R inhibitorの抗腫瘍効果を検討する.
KAKENHI-PROJECT-16K10606
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酸可溶性リグニンの生成機構・特性の解明とリグニンの機能性物質変換への応用
1.ASLの生成機構・特性の解明ブナ材から調製したASLは約半量がクロロホルムに溶解し、残りの半量は水可溶成分であった。報告されているASLに関する化学分析を解析結果、後者の水可溶ASLはリグニン-炭水化物結合体(LCC)構造を有することが推測されたので、リグニンモデル化合物を用いてクラーソン処理(72%硫酸処理)におけるヘミセルロースとの反応性を検討した。その結果、グアヤシルリグニンは専ら縮合反応に関与するが、シリンギルリグニンは立体障害のために縮合反応が遅く、それ故にヘミセルロースとも反応して炭素-配糖体構造を有する水可溶ASLを生成することが明らかになった。一方、シリンギルアルキルエーテル結合は72%硫酸中で不安定で加水分解を受ける。かなりの程度に低分子化されたSALがクロロホルム可溶ASLであると推測される。ASLの生成は72%硫酸中のシリンギルリグニンの反応性の問題であった。2.機能性物質の調製酸加水分解リグニンの有効利用法の開発を目的として、SALをリグニン試料として機能性物質への化学変換について検討した。初めに、水可溶ASLの構造を模して糖成分を親水性基とする中性界面活性剤の調製を試みた。縮合型リグニンモデル化合物を用いて72%硫酸存在化における各種単糖やヘミセルロースとの反応性を検討したが、炭素-配糖体の収率が低くSALやフェノール化SALへの応用は断念した。ウロン酸構造中のカルボキシル基に着目し、グリオキサル酸との反応を検討した。単糖に比べて反応収率は高かったのでP-SALに応用したが、アルカリ溶液中でのグリオキサル酸の分解反応が早く可溶性界面活性剤の収率は低かった。次に、CMC(carboxymethyl cellulose)を模したカルボキシメチル化硫酸リグニンの調製を試みた。P-SALにブロモ酢酸を作用させてC_9-C_6単位当たり1.4個のカルボキシメチル基をもつ可溶性界面活性剤を定量的に調製した。さらに、マンニッヒ反応を用いてP-SALからC_9-C_6単位当たり1.3個のジメチルアミノメチル基をもつカチオン性界面活性剤を得た。同様の反応により樹脂化P-SALからイオン交換能2.1meq/gの陰イオン交換樹脂も調製した。今後この研究をさらに発展させ調製した機能性物質の界面活性能を明らかにすると共に新たな機能を付与した機能性物質を調製する計画である。1.ASLの生成機構・特性の解明ブナ材から調製したASLは約半量がクロロホルムに溶解し、残りの半量は水可溶成分であった。報告されているASLに関する化学分析を解析結果、後者の水可溶ASLはリグニン-炭水化物結合体(LCC)構造を有することが推測されたので、リグニンモデル化合物を用いてクラーソン処理(72%硫酸処理)におけるヘミセルロースとの反応性を検討した。その結果、グアヤシルリグニンは専ら縮合反応に関与するが、シリンギルリグニンは立体障害のために縮合反応が遅く、それ故にヘミセルロースとも反応して炭素-配糖体構造を有する水可溶ASLを生成することが明らかになった。一方、シリンギルアルキルエーテル結合は72%硫酸中で不安定で加水分解を受ける。かなりの程度に低分子化されたSALがクロロホルム可溶ASLであると推測される。ASLの生成は72%硫酸中のシリンギルリグニンの反応性の問題であった。2.機能性物質の調製酸加水分解リグニンの有効利用法の開発を目的として、SALをリグニン試料として機能性物質への化学変換について検討した。初めに、水可溶ASLの構造を模して糖成分を親水性基とする中性界面活性剤の調製を試みた。縮合型リグニンモデル化合物を用いて72%硫酸存在化における各種単糖やヘミセルロースとの反応性を検討したが、炭素-配糖体の収率が低くSALやフェノール化SALへの応用は断念した。ウロン酸構造中のカルボキシル基に着目し、グリオキサル酸との反応を検討した。単糖に比べて反応収率は高かったのでP-SALに応用したが、アルカリ溶液中でのグリオキサル酸の分解反応が早く可溶性界面活性剤の収率は低かった。次に、CMC(carboxymethyl cellulose)を模したカルボキシメチル化硫酸リグニンの調製を試みた。P-SALにブロモ酢酸を作用させてC_9-C_6単位当たり1.4個のカルボキシメチル基をもつ可溶性界面活性剤を定量的に調製した。さらに、マンニッヒ反応を用いてP-SALからC_9-C_6単位当たり1.3個のジメチルアミノメチル基をもつカチオン性界面活性剤を得た。同様の反応により樹脂化P-SALからイオン交換能2.1meq/gの陰イオン交換樹脂も調製した。今後この研究をさらに発展させ調製した機能性物質の界面活性能を明らかにすると共に新たな機能を付与した機能性物質を調製する計画である。研究内容を酸可溶性リグニン(acid soluble lignin; ASL)の構造・特性の解明に重点を置き、研究を行っている。1.ASLの調製設備備品の液体クロマトグラフ分取システムを用い、調製用ゲルの選択と測定条件を検討している。2.ASL調製おけるリグニンと炭水化物との反応
KAKENHI-PROJECT-11460079
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-11460079
酸可溶性リグニンの生成機構・特性の解明とリグニンの機能性物質変換への応用
木質試料を72%硫酸処理後、3%硫酸中で煮沸してASLを調製するが、72%硫酸処理の際にリグニンとヘミセルロースの糖成分が反応する可能性についてモデル化合物を用いて検討した。その結果、リグニンと単糖は72%硫酸触媒のもとで縮合反応をおこし、炭素ー炭素結合を有する配糖体を生成する。さらに、グアイアシル核に比べてシリンギル核が約3倍反応性に富んでいることが明らかになり、ASLには配糖体が関与している可能性が示唆された。72%硫酸処理でリグニンは主に縮合反応を受けることが知られているが、縮合反応とLCC形成反応の比率については検討中である。3.ASL調製における硫酸の処理時間とASL生成量の関係木質試料中のリグニンー炭水化物結合体(ligin-carbohydrate compounds; LCC)も含めてリグニンが、どのようにASLに変換するかについての知見を得るために、ASL調製における硫酸の処理時間とASL生成量の関係を検討した。その結果、ASLを与える物質は72%硫酸に速やかに溶解し、時間と共に硫酸中で変質し、最終的にASLを生じることがわかった。さらに、硫酸に溶解したASLを生じる物質にはLCCが関与していることも明らかになった。研究内容を酸可溶性リグニン(acid soluble lignin:ASL)の生成とリグニンの機能性物質への変換に重点をおき、研究を進めている。1.ASLの生成これまでの研究結果より、ASLはリグニン-炭水化物結合体(lignin-carbohydrate compounds:LCC)と低分子リグニン分解物からなり、さらに木粉試料を72%硫酸で処理した際の極初期の段階で生成していることが知られた。ASL中のLCCの生成と構造に関する知見を得るために、グアヤシル核およびシリンギル核を有するそれぞれの簡単なリグニンモデル化合物の混合物をヘミセルロース共存のもとに72%硫酸で処理すると、リグニンモデル化合物間の縮合反応生成物(リグニンの縮合反応生成物に相当)に加えて低収率でLCCが生成した。生成したLCCはシリンギル核を有しており、グアヤシル核を有するLCCは検出できなかった。生成物の定量と本実験で明らかになった芳香核の反応性から、グアヤシル核は優先的に縮合反応に関与し、他方、シリンギル核は立体障害を受けるために縮合反応が遅く、それ故にヘミセルロースとの反応生成物を与えると考えられる。ASL中のLCCが上記以外の反応、例えば天然に存在するLCCの残存や変質、新たな生成機構の存在などについても今後検討する予定である。2.機能性物質の調製前年までに、高度の縮合構造を有する硫酸リグニン(=クラーソンリグニン)から市販のフェノール型とスチレン型の中程度の性能をもつ強酸型陽イオン交換樹脂を定量的に調製した。今年度はASL中のLCC構造に類似した新たな界面活性剤の調製を試みた。リグニンモデル化合物と反応性に富んだ単糖であるキシロースを72%硫酸触媒のもとに反応させると、低収率でLCCを生成した。5-メトキシクレオゾールを芳香核モデルとした反応では約50%収率でLCCを与えたが、縮合型リグニンモデル化合物とキシロースとの反応では極端に収率が低下し、収率に及ぼすリグニン構造の立体的障害の影響が多きいことが明らかになった。そこでLCCそのものの構造を有する界面活性剤の調製は今後の検討課題とし、単糖に代えて極性官能基を有するグリオキサル酸を用い研究を進めている。現在、モデル化合物を用いて反応条件の検討と生成物の構造について検討している。
KAKENHI-PROJECT-11460079
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後白河院の絵巻制作とその機能に関する調査研究
後白河院(1127-1192)はさまざまなジャンルにわたる浩瀚な絵巻を作らせたことが知られるが、その多くは失われ「伴大納言絵巻」「吉備大臣入唐絵巻」「病草紙」「餓鬼草紙」「地獄草紙」などが現存するのみである。これらの絵巻研究は個別の作品研究が中心であり、後白河院による絵巻制作の全容とその意味は未だ明らかにされていない。これは「年中行事絵」をはじめとする行事絵や「彦火々出見尊絵巻」が模本でしか現存していないことが要因であると考えられる。本研究は、今まであまり注目されることのなかった模本の調査研究と資料収集を通して、後白河院の絵巻制作とその機能を複眼的に、また総合的にとらえるものである。まずはじめに、福井・明通寺蔵「彦火々出見尊絵巻」模本と「伴大納言絵巻」「吉備大臣入唐絵巻」を取り上げ、人物表現を中心に比較検討をおこなった。「彦火々出見尊絵巻」に措かれた人物は、絵所絵師常磐光長系の表現としてパターン化されているが、龍王の姫君の特異な表現から、治承2年(1178)平徳子の皇子出産が絵巻制作の契機になったと考察される。さらに、陸地と龍宮を往還する神武天皇の祖父の物語である「彦火々出見尊絵巻」は、異国の征服と皇統の視覚化を目的として制作されたと解釈することができる(詳細は、「措かれた出産-「彦火々出見尊絵巻」の制作意図を読み解く」(服藤早苗・小嶋菜温子編『生育儀礼の歴史と文化-子どもとジェンダー-』森話社、平成15年3月)にて発表した)。後白河院が制作させた絵巻群は、自国の支配と異国の支配、そして、皇統と皇権の表象であった。後白河院は、絵巻制作というイメージ戦略によって、自らの権威を認識させようとしたと考えられるのである。後白河院(1127-1192)はさまざまなジャンルにわたる浩瀚な絵巻を作らせたことが知られるが、その多くは失われ「伴大納言絵巻」「吉備大臣入唐絵巻」「病草紙」「餓鬼草紙」「地獄草紙」などが現存するのみである。これらの絵巻研究は個別の作品研究が中心であり、後白河院による絵巻制作の全容とその意味は未だ明らかにされていない。これは「年中行事絵」をはじめとする行事絵や「彦火々出見尊絵巻」が模本でしか現存していないことが要因であると考えられる。本研究は、今まであまり注目されることのなかった模本の調査研究と資料収集を通して、後白河院の絵巻制作とその機能を複眼的に、また総合的にとらえるものである。まずはじめに、福井・明通寺蔵「彦火々出見尊絵巻」模本と「伴大納言絵巻」「吉備大臣入唐絵巻」を取り上げ、人物表現を中心に比較検討をおこなった。「彦火々出見尊絵巻」に措かれた人物は、絵所絵師常磐光長系の表現としてパターン化されているが、龍王の姫君の特異な表現から、治承2年(1178)平徳子の皇子出産が絵巻制作の契機になったと考察される。さらに、陸地と龍宮を往還する神武天皇の祖父の物語である「彦火々出見尊絵巻」は、異国の征服と皇統の視覚化を目的として制作されたと解釈することができる(詳細は、「措かれた出産-「彦火々出見尊絵巻」の制作意図を読み解く」(服藤早苗・小嶋菜温子編『生育儀礼の歴史と文化-子どもとジェンダー-』森話社、平成15年3月)にて発表した)。後白河院が制作させた絵巻群は、自国の支配と異国の支配、そして、皇統と皇権の表象であった。後白河院は、絵巻制作というイメージ戦略によって、自らの権威を認識させようとしたと考えられるのである。後白河院(1127-1192)はさまざまなジャンルにわたる浩瀚な絵巻を作らせたことが知られるが、その多くは失われ「伴大納言絵巻」「吉備大臣入唐絵巻」「病草紙」「餓鬼草紙」「地獄草紙」などが現存するのみである。これらの絵巻研究は個別の作品研究が中心であり、後白河院による絵巻制作の全容とその意味は未だ明らかにされていない。これは「年中行事絵」をはじめとする行事絵や「彦火々出見尊絵巻」が模本でしか現存していないことが要因であると考えられる。本研究は、今まであまり注目されることのなかった模本の調査研究と資料収集を通して、後白河院の絵巻制作とその機能を複眼的に、また総合的にとらえるものである。平成11年度は、既に調査をおこなった福井・明通寺所蔵「彦火々出見尊絵巻」模本および東京国立博物館保管「彦火々出見尊絵巻」模本の画像資料を入力し、人物表現を中心に「伴大納言絵巻」および「吉備大臣入唐絵巻」との比較検討をおこなった。「彦火々出見尊絵巻」に描かれた人物は、絵所絵師常磐光長系の表現としてパターン化されていることが明らかになったが、龍王の姫君の得意な表現から、治承2年(1178)平徳子の皇子出産が絵巻制作の契機になったと考察される。本年度は当初、明通寺本、東博本以外の模本調査および写真撮影を予定していたが、入力作業を進めるために、国内旅費および調査費を設備備品費に計上し、入力機器と「伴大納言絵巻」の大型図書を購入した。
KAKENHI-PROJECT-11610061
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後白河院の絵巻制作とその機能に関する調査研究
模本調査は平成12年度に実施する予定である。後白河院(1127-1192)はさまざまなジャンルにわたる浩瀚な絵巻を作らせたことが知られるが、その多くは失われ「伴大納言絵巻」「吉備大臣入唐絵巻」「病草紙」「餓鬼草紙」「地獄草紙」などが現存するのみである。これらの絵巻研究は個別の作品研究が中心であり、後白河院による絵巻制作の全容とその意味は未だ明らかにされていない。これは「年中行事絵」をはじめとする行事絵や「彦火々出見尊絵巻」が模本でしか現存していないことが要因であると考えられる。本研究は、今まであまり注目されることのなかった模本の調査研究と資料収集を通して、後白河院の絵巻制作とその機能を複眼的に、また総合的にとらえるものである。平成12年度は、平成11年度に引き続き、「伴大納言絵巻」の大型図書を購入し、「彦火々出見尊絵巻」模本と「伴大納言絵巻」および「吉備大臣入唐絵巻」の人物表現の比較検討をおこなった。本年度はさらに、文献史料から平安時代の結婚儀礼と出産儀礼の様相を明らかにし、それを踏襲あるいは逸脱した「彦火々出見尊絵巻」の女性表象を検討することによって、「彦火々出見尊絵巻」の制作意図について考察した。詳細は、『成育儀礼の歴史と文化(仮題)』(服藤早苗編、森話社)にて発表の予定である。また、模本の資料収集の一環として、東京国立博物館保管の「年中行事絵」模本と「承安五節絵」模本の写真資料を購入したため、「彦火々出見尊絵巻」の模本調査および写真撮影は平成13年度に実施する予定である。平成13年度は、「彦火々出見尊絵巻」の模本に描かれた異界の表現、ひいては院政期の異界観について検討した。まず、「彦火々出見尊絵巻」の原本と同じ、常磐光長または光長工房の作である「伴大納言絵巻」「吉備大臣入唐絵巻」を取り上げ、これらの絵巻に描かれたモチーフを、装束、武器、調度、建築、自然、乗物の六つのジャンルに分け、さらにそれらを、帝(皇帝、龍王)、男性貴族、女房(女官)、武将、庶民の装束、扇(団扇)、刀(剣)、槍、鉾、弓矢、馬具、飲食器、家具、建物、樹木、牛車、船に細分し、比較検討した。その結果、三つの絵巻はそれぞれ日本、中国、龍宮を卿台にしているが、「吉備大臣入唐絵巻」に表わされた中国風のモチーフは、「彦火々出見尊絵巻」における龍宮世界のモチーフと共通すること、そして、これらの異国・異界のモチーフは、日本を舞台にした「伴大納言絵巻」のモチーフと基本的に同形ではあるものの、輪郭線を湾曲させ、大柄な文様を描き込み、鮮やかな色彩を塗るなど、より装飾的に加工されたものであることが明らかになった。これらのことから、色彩と装飾の過剰なモチーフは、絵巻の鑑賞者に対し、物語の舞台が異国または異界であるとの認識を促し、それらが繰り返し用いられることによって、異国・異界を表わす記号になっていったと考察される。すなわち、院政期における想像上の異国・異界とは、色彩と装飾の過剰な世界であったと考えられる。詳細は、平成14年度中に論文として発表する予定である。平成14年度は、現在、京都国立博物館に寄託されている京都・曇華院蔵の「彦火々出見尊絵巻」模本の調査をおこない、さらに、京都国立博物館に所蔵されるカラーおよびモノクロ写真を、曇華院の許可を得て入手した。曇華院本は全4巻。第1巻は明通寺本の第1、2巻に、第2巻は明通寺本の第3、4巻に、第3巻は明通寺本の第5巻に、第4巻は明通寺本の第6に相当する。模写の経緯や筆者は不明であるが、画風から、江戸時代後期の住吉派の絵師による模本と考えられる。丁寧に描かれたモチーフのかたち、建物や衣の彩色や文様は明通寺本と非常に近く、詞書の字詰の行どりも同一であることから、おそらく、明通寺本を転写したものと推測される。一方、東京国立博物館には、狩野養信、中信、立信による全3巻の模本が保管されている。
KAKENHI-PROJECT-11610061
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ペプチド開口放出の調節とペプチドによる神経修飾作用の分子生理学的解析
本研究では、脊椎動物においてGnRHニューロンの解析に最も適した実験系の一つである淡水産熱帯魚ドワーフグーラミーの脳を用い,まず脳・下垂体スライス標本から培養液中へのGnRH放出をラジオイムノアッセイ(RIA)で測定し、視索前野と終神経という異なるGnRH系の分泌活動の違いやそれらの機構を明らかにした。また,視索前野GnRH系においてGnRH放出の顕著な雌雄差を見出し,それがsbGnRHという分子種のGnRHペプチドを産生するニューロンの雌雄差によることを発見した。次に,微小炭素繊維電極を作製してGnRHを電気化学的に測定する方法を開発し、この方法を用いて、脳・下垂体スライスにおける視索前野GnRHニューロン軸索終末領域から、ホルモン分泌活動のリアルタイム記録を行った。また、GnRH放出に関与すると考えられるイオンチャネルなどの検索を行った。次に,GnRH放出に重要であるGnRHニューロンのペースメーカー活動の生成と,神経伝達・修飾物質によるその修飾のメカニズムについて電気生理学的に解析した。その結果,GnRHペプチド自体による終神経GnRHニューロンのペースメーカーの修飾にはNおよびR型のカルシウムチャネルが関与していることが強く示唆された。また,終神経GnRHニューロンへの興奮性シナプス入力としてグルタミン酸が候補に上がったので,このグルタミン酸受容体の同定を試みた。各種のアゴニスト・アンタゴニストを用いた実験の結果、既知のグルタミン酸受容体に加え、これまでにない新しい薬理学的性質を持ったグルタミン酸受容体があることを発見した。本研究の結果は、脊椎動物中枢神経系のペプチド神経修飾系の一般的な性質を理解する上で貴重な常法を提供すると考えられる。本研究では、脊椎動物においてGnRHニューロンの解析に最も適した実験系の一つである淡水産熱帯魚ドワーフグーラミーの脳を用い,まず脳・下垂体スライス標本から培養液中へのGnRH放出をラジオイムノアッセイ(RIA)で測定し、視索前野と終神経という異なるGnRH系の分泌活動の違いやそれらの機構を明らかにした。また,視索前野GnRH系においてGnRH放出の顕著な雌雄差を見出し,それがsbGnRHという分子種のGnRHペプチドを産生するニューロンの雌雄差によることを発見した。次に,微小炭素繊維電極を作製してGnRHを電気化学的に測定する方法を開発し、この方法を用いて、脳・下垂体スライスにおける視索前野GnRHニューロン軸索終末領域から、ホルモン分泌活動のリアルタイム記録を行った。また、GnRH放出に関与すると考えられるイオンチャネルなどの検索を行った。次に,GnRH放出に重要であるGnRHニューロンのペースメーカー活動の生成と,神経伝達・修飾物質によるその修飾のメカニズムについて電気生理学的に解析した。その結果,GnRHペプチド自体による終神経GnRHニューロンのペースメーカーの修飾にはNおよびR型のカルシウムチャネルが関与していることが強く示唆された。また,終神経GnRHニューロンへの興奮性シナプス入力としてグルタミン酸が候補に上がったので,このグルタミン酸受容体の同定を試みた。各種のアゴニスト・アンタゴニストを用いた実験の結果、既知のグルタミン酸受容体に加え、これまでにない新しい薬理学的性質を持ったグルタミン酸受容体があることを発見した。本研究の結果は、脊椎動物中枢神経系のペプチド神経修飾系の一般的な性質を理解する上で貴重な常法を提供すると考えられる。本研究では、脊椎動物においてGnRHニューロンの解析に最も適した実験系の一つである淡水産熱帯魚ドワーフグーラミーの脳を用い,まず脳・下垂体スライス標本からのGnRH放出をラジオイムノアッセイ(RIA)で測定し、異なるGnRH系の分泌活動の違いやそれらの機構を明らかにした。次に,微小炭素繊維電極を作製してGnRHを電気化学的に測定する方法を開発し、この方法を用いて、脳・下垂体スライスにおける視索前野GnRHニューロン軸索終末領域から、ホルモン分泌活動のリアルタイム記録を行った。その結果,1)GnRH分泌量の雌雄差などの点において終神経GnRH系と視索前野GnRH系のGnRH分泌活動に違いがあること、終神経GnRHニューロンではグルタミン酸の入力を受けて脱分極がおこり、主に電位依存性N-typeカルシウムチャネルが開いてCa^<2+>が流入し、それによってGnRH分泌が起こること,終神経GnRH系の自発的GnRH放出には、細胞内カルシウムストアとストアヘCa^<2+>を補充する役割を持つ容量性カルシウム流入が関わっていること等を明らかにした。2)微小炭素繊維電極を自作してGnRH溶液の電気化学的測定を行ったところ、微小炭素繊維電極の電極電位をおよそ600-800mV以上にすればGnRHの酸化電流を測定できることが分かった。このことから、微小炭素繊維電極の電極電位を800mV以上に保持することにより、脳・下垂体の局所的な場所からのGnRH分泌を記録することができると考えられた。この方法を利用して、ドワーフグーラミー矢状断脳スライス標本の下垂体における視索前野GnRHニューロンの軸索終末付近からの分泌活動のリアルタイム記録を行ったところ,脱分極刺激により分泌活動を反映する酸化電流がK^+濃度依存的に観測された。
KAKENHI-PROJECT-12440237
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ペプチド開口放出の調節とペプチドによる神経修飾作用の分子生理学的解析
この方法は、GnRHを分泌する脳内の領域や細胞からの局所的なGnRH放出のリアルタイム測定に応用することができ、GnRH系の機能を解析する有効な手段になると考えられる。本研究では、脊椎動物においてGnRHニューロンの解析に最も適した実験系の一つである淡水産熱帯魚ドワーフグーラミーの脳を用い,まず脳・下垂体スライス標本からのGnRH放出をラジオイムノアッセイ(RIA)で測定し、異なるGnRH系の分泌活動の違いやそれらの機構を明らかにした。次に,微小炭素繊維電極を作製してGnRHを電気化学的に測定する方法を開発し、この方法を用いて、脳・下垂体スライスにおける視索前野GnRHニューロン軸索終末領域から、ホルモン分泌活動のリアルタイム記録を行った。また、GnRH放出に関与すると考えられるイオンチャネルなどの検索を行った。その結果,GnRH分泌量の雌雄差などの点において終神経GnRH系と視索前野GnRH系のGnRH分泌活動に違いがあること、終神経GnRHニューロンではグルタミン酸の入力を受けて脱分極がおこり、主に電位依存性N-typeカルシウムチャネルが開いてCa^<2+>が流入し、それによってGnRH分泌が起こること,終神経GnRH系の自発的GnRH放出には、細胞内カルシウムストアとストアへCa^<2+>を補充する役割を持つ容量性カルシウム流入機構(SOC)が関わっていること等を明らかにした。また、電気生理学的にもこれらがGnRH放出に重要なペースメーカー活動の生成および頻度修飾に関与していることがわかった。次に微小炭素繊維電極を自作して、ドワーフグーラミー矢状断脳スライス標本の下垂体における視索前野GnRHニューロンの軸索終末付近からの分泌活動のリアルタイム記録を行ったところ,脱分極刺激によりGnRH分泌活動を反映する酸化電流がK^+濃度依存的に観測された。この方法は、GnRHを分泌する脳内の領域や細胞からの局所的なGnRH放出のリアルタイム測定に応用することができ、GnRH系の機能を解析する有効な手段になると考えられる。本年度の研究では、脊椎動物においてGnRHニューロンの解析に最も適した実験系の一つである淡水産熱帯魚ドワーフグーラミーの脳を用い,まず脳・下垂体スライス標本から培養液中へのGnRH放出をラジオイムノアッセイ(RIA)で測定し、視索前野と終神経という異なるGnRH系の分泌活動の違いやそれらの機構を明らかにした。また,視索前野GnRH系においてGnRH放出の顕著な雌雄差を見出し,それがsbGnRHという分子種のGnRHペプチドを産生するニューロンの雌雄差によることを発見した。次に,微小炭素繊維電極を作製してGnRHを電気化学的に測定する方法を開発し、この方法を用いて、脳・下垂体スライスにおける視索前野GnRHニューロン軸索終末領域から、ホルモン分泌活動のリアルタイム記録を行った。また、GnRH放出に関与すると考えられるイオンチャネルなどの検索を行った。次に,GnRH放出に重要であるGnRHニューロンのペースメーカー活動の生成と,神経伝達・修飾物質によるその修飾のメカニズムについて電気生理学的に解析した。その結果,GnRHペプチド自体による終神経GnRHニューロンのペースメーカーの修飾にはNおよびR型のカルシウムチャネルが関与していることが強く示唆された。
KAKENHI-PROJECT-12440237
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湖沼水中における活性酸素種の化学的動態の解明
活性酸素種は多様な分子・化合物と高い反応性を示すため、その動態を理解することは生態系評価において重要である。しかし、自然水中での活性酸素種生成や消費に関わる因子は十分に解明されていない。本研究では、腐植物質と光学反応が活性酸素種の化学的動態に及ぼす影響に着目し、多様な腐植物を用いた光照射実験から腐植物質の芳香族含有量が、自然水中でのスーパーオキシド及び過酸化水素の生成に寄与していることを明らかにした。腐植物質を介した光化学反応は、湖沼を含めた淡水中において、活性酸素の生成に寄与しているが、その活性酸素種生成や消費を介する腐植物質の化学的因子は十分に解明されていない。本課題では、活性酸素の中でも特に過酸化水素(H2O2)とスーパーオキシド(O2-)の生成機構に着目し、腐植物質を介した活性酸素種の化学的動態を明らかにすることを目的とした。起源を異にする多様な腐植物質を含む模倣自然水に、模倣太陽光であるキセノンランプ光を照射する実験系を構築した。その結果、H2O2濃度は紫外領域の光照射により時間とともに線形的に増加し続け、一方で、O2-濃度は照射直後に増加するものの、その後減少する傾向が観測された。O2-が不均化反応によりH2O2に変換されるという仮定のもと速度論モデルを提案し、実験データに適合させることで、各活性酸素種の生成速度定数を算出した。腐植物質の化学性質と比較した結果、各速度定数は芳香族含有量と高い正の相関があった。これは、光照射することで芳香族部位、特に電子授与体の働きがあるキノン系部位によって活性酸素が生成されるためと考えられる。湖沼を含めた淡水中で腐植物質が遍在することを鑑みると、晴天時に太陽光の中でも紫外光が表層水に吸収されることで、活性酸素が容易に生成されることが推測される。実際に、本課題の一部で、相模湖の水サンプルに模倣太陽光を照射したところ、上記実験で得られた活性酸素生成速度と同程度の値が得られた。このような活性酸素が生物や金属循環を含めた自然環境においてどのような影響を及ぼしているのか不明な点は多いが、O2-はH2O2より反応性が高いこと等を考えると、環境中での動態は両分子で大きく異なると予想される。本課題では、腐植物質を介した活性酸素種の生成を定量的に示すことができ、その成果は活性酸素分子の環境中での動態を明らかにするための重要な基礎的知見となる。活性酸素種は多様な分子・化合物と高い反応性を示すため、その動態を理解することは生態系評価において重要である。しかし、自然水中での活性酸素種生成や消費に関わる因子は十分に解明されていない。本研究では、腐植物質と光学反応が活性酸素種の化学的動態に及ぼす影響に着目し、多様な腐植物を用いた光照射実験から腐植物質の芳香族含有量が、自然水中でのスーパーオキシド及び過酸化水素の生成に寄与していることを明らかにした。過酸化水素(H2O2)やスーパーオキシド(O2-)など活性酸素種は自然水中で反応性が高く、自然有機物質や還移金属などの酸化還元に深く関与しているため、活性酸素種の動態理解は水域生態系を評価するために重要である。自然水中でのH2O2は、主に腐植物質に光が照射されることで生成されることが知られているが、その生成因子や過程は十分に明らかにされていない。このような背景の中本研究は、腐植物質の光化学反応により活性酸素種の主要な生成過程や因子を化学的に解明することを目的とした。既往の研究から、腐植物質の光化学反応によるH2O2の生成では一重項酸素が関与することが推測されている。しかし、本研究では、室内実験において一重項酸素を極端に増減させた系においても活性酸素種の生成が大きく変化しなかったことから、H2O2生成は溶存酸素がO2-さらにH2O2に還元される経路を取ることが分かった。この結果を確認するため、腐植物質存在下で溶存酸素が光還元され、さらに腐植物質の触媒作用によりO2-がH2O2に還元される化学反応をモデル化し、それにより算出されたH2O2生成速度と実測した生成速度の比較を行った。腐植物質によるO2-の還元反応速度に関して既往の報告値を用いると、15種の腐植物質に対しての予測値と実測値の間で正の相関がみられたが、予測値が十倍ほど上回る結果となったため、本研究では、新たにO2-の還元反応速度を決定し、合理的な化学反応モデルを構築した。また、H2O2とO2-の生成速度が、腐植物質中の芳香族化合物の割合と高い相関を示すことが明らかとなった。光照射することで腐植物質中の芳香族化合物部位、特に電子を受け渡す働きのあるキノン基の働きによってO2-、H2O2が生成されていると説明できる。このように実験室にて得られた知見は、野外で得られた湖沼水サンプルのいくつかにも同様に適用することができた。本年度の研究はおおむね順調に進展した。過酸化水素やスーパーオキシドなどの活性酸素種は、多様な分子やイオンと高い反応性を示すため、微量であっても金属や有機物質の酸化還元反応や生物利用性に深く関わり、一方生物毒性も示す。従って、活性酸素種の動態を理解することは生態系評価には重要と考えられるが、ダム湖や河川などの自然水中での活性酸素種生成や消費に関わる因子は十分に解明されていない。
KAKENHI-PROJECT-23760501
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湖沼水中における活性酸素種の化学的動態の解明
今年度は、腐植物質と光学反応が活性酸素種の化学的動態に及ぼす影響を解明することを目的とし、様々な標準腐植物を用いた光照射実験の結果、スーパーオキシド及び過酸化水素の生成速度が、紫外線および腐植物質の芳香族部位と高い相関を示すことが明らかになった。本研究のように、自然水中で活性酸素種を対象として、その化学反応速度論を詳細に調べた既往研究は限られており、本研究はこれまでにない新しい知見を提供したといえる。次年度以降は,野外調査なども含めて広範な実水域での検証が望まれる。平成24年度は、前年度の実験ならびに野外調査を継続するとともに対象湖沼をさらに12つ選定し,湖沼の地域性や季節変化が活性酸素種の動態に及ぼす影響を調査する。さらに、自然水中での活性酸素種の動態や役割、機能について得られた結果を取りまとめ、学会等にて成果の発表を行う。本研究では、野外調査により採取した試料を持ち帰り、実験室で化学反応速度の分析に供する。そのため平成24年度においては、実験や調査で使用する消耗品類として、ガラス・サンプリング器具類、一般試薬類、記憶媒体等の物品費として500千円を計上している。野外調査や海外共同研究者との打ち合わせ、学会発表にかかる旅費(宿泊・交通費)として800千円を計上した。野外・実験室での作業を円滑に行うため、調査・実験協力人件費として200千円を計上した。研究成果の執筆や発表に関わるその他費用として100千円を計上した。また、研究をより効率的に遂行するため、平成23年の予算の一部(消耗品類等)を平成24年4月に使用したことをここに記す。
KAKENHI-PROJECT-23760501
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23760501
超音波治療における生体の3次元変動追従型治療領域検出システムの開発
本研究の目的は、超音波治療の新規で革新的な3次元超音波イメージングを可能にする小型1.5-dimensional(1.5-D)アレイプローブ、および3次元イメージングのための新規アルゴリズムの研究開発である。昨年度まで、新規の3次元超音波イメージングのための1.5-Dアレイプローブの形状・超音波パラメータの最適化を行い、。最終年度は、1.5-D超音波アレイプローブを実際の治療装置に統合した治療システム開発を行った。本研究の目的である、1.5-Dアレイプローブによる組織変位の追従が実際の治療系でも可能かを検証するため、自動3軸ステージを使い、組織変位を模擬した実験系を構築した。強力集束超音波照射実験を行った結果、実際の体動の速度でも十分に組織変位が追従できることを確認した。本研究を通して研究開発した新規超音波プローブの実用性・有用性を確認した。また、強力集束超音波治療時の治療用超音波ノイズを除去する新規アルゴリズムを開発し、そのアルゴリズムを本イメージングプローブに実装した。本研究により、従来の1-dimensional(1-D)アレイプローブでは、追従不可能なスライス方向(超音波照射方向に対して垂直な方向)の変位を追従する1.5-Dアレイプローブを開発し、従来の約3倍の範囲までの変位を追従することができるようになった。本研究により、非常に低コストで、広範囲(従来の3倍)の超音波治療モニタリングが可能になり、従来の超音波治療では不可能であった、呼吸振動を追従できる安全な治療が実現できることが示唆された。また、本研究で得られた成果により、医師の知見・スキルに依存しない、半自動超音波治療システムを構築することができた。本研究の目的は、超音波治療の新規で革新的な3次元超音波イメージングを可能にする小型1.5-dimensional(1.5-D)アレイプローブ、および3次元イメージングのための新規アルゴリズムの研究開発である。平成28年度は、新規の3次元イメージングのための1.5-Dアレイプローブの形状・超音波パラメータの最適化を行った。従来の1-dimensional(1-D)アレイプローブでは、追従不可能はスライス方向(超音波照射方向に対して垂直な方向)に関して提案する1.5-Dアレイプローブでも追従できるような、形状・素子配置・超音波周波数の探索を行った。超音波シミュレーション・生体変形有限要素解析等を行うことで、従来の超音波プローブの約3倍のスライス方向の変位追従を可能にする1.5-Dアレイプローブの超音波・形状パラメータを決定し、その最適化法に関して体系的に整理した。素子数の限られた1.5-Dアレイプローブでのスライス方向の変位追従検討および最適パラメータを体系的に整理した結果は、世界で初めての成果であり、本検討により、本プローブの超音波治療の超音波3-Dモニタリングへの適用可能性を明らかにしただけでなく、今後、研究が広く進められていくであろう2-Dアレイプローブの最適化への知見を得ることができ、社会的意義も大きい。平成28年度の成果は、1.5-Dアレイプローブを用いた超音波治療モニタリングへの挑戦的な課題への解決の第1歩となるアレイプローブの最適化に関する重要な知見と、それを体系化したことである。平成28年度は、3次元イメージングのための超音波シミュレーションを精力的に行い、その結果を解析することで、超音波治療モニタリングのための新規1.5Dアレイプローブに関する、周波数・形状・素子配置等の最適化を行うことができた。当初28年度に計画していた仕様検討を終了できたことから、おおむね順調に進展していると言える。また、生体組織変形に関する有限要素解析にも取り組んでおり、3次元の組織変動追従のための新規アルゴリズム開発にも着手していることから、ほぼ計画通りに研究を遂行していると考える。1.5D超音波アレイトランスデューサのプロトタイプを試作し、その性能評価および有用性の評価を行った。前年度に行っていた音場シミュレーション結果とプロトタイプによる実測結果の比較を行い、その違い等について詳細な検討を行った。結果として、前年度の音場シミュレーション通りの音場実測結果が得られた。また、本プロトタイプを用いて超音波治療モニタリングを行い、有用性評価も行った。従来不可能であった、超音波イメージングプローブのスライス方向の変位追従を可能にしながら、強力集束超音波治療中の組織変化をモニタリングすることができた。本新規プローブにより、従来の1Dプローブの約3倍のスライス方向変位追従を可能にできた。1.5D超音波プローブのプロトタイプ開発により、本研究の目的の一つである、「呼吸振動時の超音波治療モニタリング」を可能にすることできた。本研究により、今まで不可能だった、ランダムな呼吸振動時においても超音波治療モニタリングを行いながら治療できる画期的な技術を創出することができた。本技術により、超音波治療のより複雑な系への適用が期待できる。平成30年度は、本プロトタイプの超音波プローブの画像再構成アルゴリズムを検討し、キャビテーションや沸騰気泡が治療中に生じた場合にも、治療領域のみを検出・可視化できる技術や、治療中の治療用超音波ノイズを除去する新規アルゴリズム開発を行い、より実用的に有用な超音波治療モニタリングシステムを検討していく予定である。研究計画当初の予定であった、新規1.5D超音波アレイプローブの試作と音場シミュレーションの比較を行い、性能評価を行った。その点において、計画通りに進捗していると考えられる。
KAKENHI-PROJECT-16K16404
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K16404
超音波治療における生体の3次元変動追従型治療領域検出システムの開発
また、計画にある通り、本プローブを用いた強力集束超音波治療モニタリングへの適用も実施しており、本プローブの実用的有用性の検討にも着手している点において、おおむね順調に進展していると考えられる。本研究の目的は、超音波治療の新規で革新的な3次元超音波イメージングを可能にする小型1.5-dimensional(1.5-D)アレイプローブ、および3次元イメージングのための新規アルゴリズムの研究開発である。昨年度まで、新規の3次元超音波イメージングのための1.5-Dアレイプローブの形状・超音波パラメータの最適化を行い、。最終年度は、1.5-D超音波アレイプローブを実際の治療装置に統合した治療システム開発を行った。本研究の目的である、1.5-Dアレイプローブによる組織変位の追従が実際の治療系でも可能かを検証するため、自動3軸ステージを使い、組織変位を模擬した実験系を構築した。強力集束超音波照射実験を行った結果、実際の体動の速度でも十分に組織変位が追従できることを確認した。本研究を通して研究開発した新規超音波プローブの実用性・有用性を確認した。また、強力集束超音波治療時の治療用超音波ノイズを除去する新規アルゴリズムを開発し、そのアルゴリズムを本イメージングプローブに実装した。本研究により、従来の1-dimensional(1-D)アレイプローブでは、追従不可能なスライス方向(超音波照射方向に対して垂直な方向)の変位を追従する1.5-Dアレイプローブを開発し、従来の約3倍の範囲までの変位を追従することができるようになった。本研究により、非常に低コストで、広範囲(従来の3倍)の超音波治療モニタリングが可能になり、従来の超音波治療では不可能であった、呼吸振動を追従できる安全な治療が実現できることが示唆された。また、本研究で得られた成果により、医師の知見・スキルに依存しない、半自動超音波治療システムを構築することができた。今後は、昨年度までの超音波シミュレーション結果および1.5Dアレイプローブの最適化結果を元に、プローブの試作と評価を行う予定である。そのプローブを使い、実際の超音波治療時を模擬した実験系を形成し、治療モニタリングへの適用有効性を検討していく予定である。沸騰気泡・キャビテーション気泡等が治療中に生じた際に3次元変位追従が困難になる可能性があるが、その際の対応策・新規技術なども同時に研究開発していく予定である。また、生体組織変形に関する有限要素シミュレーションをさらに進めることにより、生体中にキャビテーション・沸騰気泡が生じた場合の特異な変形を解析する。その解析結果を元に、平行移動と線形変換を組み合わせたアフィン変換等のアルゴリズムと画像補間技術を適用して、より複雑な変形が生じた場合にも動きが追従できるアルゴリズムを開発する。平成30年度は、主に、超音波画像を生成する画像処理アルゴリズムの研究開発に取り組む予定である。現状では、超音波治療時に治療用超音波ノイズが超音波画像に被ってしまい、確実な治療モニタリングができない。
KAKENHI-PROJECT-16K16404
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膵癌の糖代謝を標的とした遺伝子治療 -糖輸送担体の発現抑制により腫瘍の増殖・浸潤を抑制できるか
癌組織では活発な糖代謝が行われており、その主要な糖輸送担体GLUT1の発現が亢進し糖の取り込みが増加していることが報告されている。膵癌は難治性悪性腫瘍の代表であり、その予後は非常に悪い状態にとどまっているが、2-deoxy-2[18F]fluoro-d-glucoseを用いたpositron emission tomographyでは膵癌において陽性率高く、臨床的にも糖代謝を重要であることを示唆している。本研究ではヒト膵癌細胞株から作成したanti-sense GLUT1mRNA高発現株の中で最も糖輸送活性が低下していたstable clone Capan-2-ASを中心にGLUT1蛋白の発現抑制による細胞増殖に及ぼす効果を検討した。GLUT1発現抑制した細胞株(αGLUT1)の細胞増殖速度をMTT法にて測定、野生株(Wt)に比較して約35%の低下、糖輸送活性は24%まで低下を示した。さらにαG1LUT1細胞株ではMAPKは低下しており、細胞周期の解析ではS期が減少しG1期の比率が増加していた。p21の発現は増加していた。このGLUT1発現抑制効果はその他のヒト膵癌細胞株PANC-1、AsPC-1、BxPC-3でも共通した効果があり、その作用はGLUT1発現量に依存する傾向であった。しかしながら、糖輸送担体のαGLUT1細胞株におけるアポトーシスの増加は認めなかった。膵癌細胞では活発な糖代謝から糖の細胞内への取り込みが亢進している。GLUT1の発現抑制により糖の取り込みを抑制することにより細胞増殖は抑制されたが、アポトーシスには影響を認めなかった。これらの結果をら膵癌の遺伝子治療の標的としてエネルギー供給を抑制し、癌治療への応用が示唆された。癌組織では活発な糖代謝が行われており、その主要な糖輸送担体GLUT1の発現が亢進し糖の取り込みが増加していることが報告されている。膵癌は難治性悪性腫瘍の代表であり、その予後は非常に悪い状態にとどまっているが、2-deoxy-2[18F]fluoro-d-glucoseを用いたpositron emission tomographyでは膵癌において陽性率高く、臨床的にも糖代謝を重要であることを示唆している。本研究ではヒト膵癌細胞株から作成したanti-sense GLUT1mRNA高発現株の中で最も糖輸送活性が低下していたstable clone Capan-2-ASを中心にGLUT1蛋白の発現抑制による細胞増殖に及ぼす効果を検討した。GLUT1発現抑制した細胞株(αGLUT1)の細胞増殖速度をMTT法にて測定、野生株(Wt)に比較して約35%の低下、糖輸送活性は24%まで低下を示した。さらにαG1LUT1細胞株ではMAPKは低下しており、細胞周期の解析ではS期が減少しG1期の比率が増加していた。p21の発現は増加していた。このGLUT1発現抑制効果はその他のヒト膵癌細胞株PANC-1、AsPC-1、BxPC-3でも共通した効果があり、その作用はGLUT1発現量に依存する傾向であった。しかしながら、糖輸送担体のαGLUT1細胞株におけるアポトーシスの増加は認めなかった。膵癌細胞では活発な糖代謝から糖の細胞内への取り込みが亢進している。GLUT1の発現抑制により糖の取り込みを抑制することにより細胞増殖は抑制されたが、アポトーシスには影響を認めなかった。これらの結果をら膵癌の遺伝子治療の標的としてエネルギー供給を抑制し、癌治療への応用が示唆された。膵癌は難治性悪性腫瘍の代表であり、その予後は非常に悪い状態にとどまっている。早期発見が困難でありしかも転移、浸潤しやすいといつ解剖学的要因と共に、膵発癌の分子機構の複雑さもその一因と考えられる。このような治療困難な悪性腫瘍の新しい治療法として各種疾患に対する遺伝子治療が検討されている。さらに、宿主の全身管卑の立場から担癌状態では癌の進展に伴い、インスリン抵抗性が生じ糖輸送担体GLUT4が病気が進むと栄養状態の不良と独立の因子として低下してくる。本研究では糖輸送の観点から膵癌細胞に対する遺伝子治療の基礎的研究と臨床的宿主のインスリン抵抗性の改善を目的に研究を行った。本年度はヒト膵癌細胞株PANC-1,Capan-2を用いてantisense GLUT1mRNAの高発現株を作成し、stable cloneを得た。各々の細胞株からのcelllysateをSDS-PAGEからWestern Blot法にてGLUT1蛋白の発現抑制を確認した。GLUT1発現抑制した細胞株の細胞増殖速度をMTT法にて測定したところ、野生株に比較してGLUT1発現抑制株ではPANC-1では約42%の低下、Capan-2では35%の低下が認められ、細胞株によりGLUT1発現抑制による細胞増殖抑制の感受性は異なっていた。糖輸送活性の測定(3-o-methylglucose transport activity)では野生株に比較してPANC-1では51%まで低下し、Capan-2においては24%と著明な糖輸送活性の低下を示した。現在さらに、他の細胞株MIA-PaCa-2,AsPC-1、BxPC-3についてもantisense GLUT1mRNAの高発現株からGLUT1発現抑制株の作成を実験中であり、膵癌細胞株によるGLUT1発現抑制の感受性の差から細胞増殖の機構を検討している。
KAKENHI-PROJECT-13670540
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-13670540
膵癌の糖代謝を標的とした遺伝子治療 -糖輸送担体の発現抑制により腫瘍の増殖・浸潤を抑制できるか
癌組織では活発な糖代謝が行われており、その主要な糖輸送担体GLUT1の発現が亢進し糖の取り込みが増加していることが報告されている。膵癌は難治性悪性腫瘍の代表であり、その予後は非常に悪い状態にとどまっているが、2-deoxy-2[18F]fluor-d-glucoseを用いたpositron emission tomographyでは膵癌において陽性率高く、臨床的にも糖代謝を重要であることを示唆している。本研究では平成13年度に引き続き、ヒト膵癌細胞株から作成したanti-sense GLUT1mRNA高発現株の中で最も糖輸送活性が低下していたstable clone Capan-2-ASを中心にGLUT1蛋白の発現抑制による細胞増殖に及ぼす効果を検討した。GLUT1発現抑制した細胞株(αGLUT1)の細胞増殖速度をMTT法にて測定、野生株(Wt)に比較して約35%の低下、糖輸送活性は24%まで低下を示した。さらにαG1LUT1細胞株ではMAPKは低下しており、細胞周期の解析ではS期が減少しG1期の比率が増加していた。p21の発現は増加していた。このGLUT1発現抑制効果はその他のヒト膵癌細胞株PANC-1、AsPC-1、BxPC-3でも共通した効果があり、その作用はGLUT1発現量に依存する傾向であった。糖輸送担体のαGLUT1細胞株におけるアポトーシスの増加は認めなかった。膵癌細胞では活発な糖代謝から糖の細胞内への取り込みが亢進している。GLUT1の発現抑制により糖の取り込みを抑制することにより細胞増殖は抑制されたが、アポトーシスには影響を認めなかった。これらの結果から膵癌の遺伝子治療の標的としてエネルギー供給を抑制し、癌治療への応用が示唆された。
KAKENHI-PROJECT-13670540
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多元的宗教教育の意義と限界に関する国際比較研究
近年、多文化共生の観点から必要性が高まっている多元的宗教教育について、トルコとイギリスを事例に比較検討を行った。まず教科書の分析をもとに、両国ともに他宗教に対する寛容性を育むための宗教教育がどのような内容で行われているかを確認した。さらに、両国の宗教教育の内容の共通点と相違点、およびその背景や近年の教育改革の動向について分析しながら、多元的宗教教育の意義と限界について明らかにした。平成25年度は研究実施計画に沿う形で、トルコでの聞き取り調査を中心に研究を進めた。トルコの2012年の義務教育改革によって、多元的宗教教育にも大きな影響を与える改革が行われたため、海外調査以前には2012年の教育改革に関する情報の収集・整理・分析を行い、調査時には教育改革に関する情報収集及び意見交換を中心に行った。その結果、2012年の義務教育改革によって、宗教関連の選択科目が新設されるとともに、1997年に廃止されていたイマーム・ハティプ中学校が再開されるなど、イスラームに関する教育の強化傾向が明確になっていることが確認できた。再開されたイマーム・ハティプ中学校は、1997年以前よりも宗教科目が強化されている。また、宗教関連の選択科目として新設された「クルアーン」「ムハンマドの生涯」「宗教の基礎知識」の3科目は、イスラームに関する知識と理解を深めるための科目であり、この点もイスラームに関する教育の強化である。従来、公立普通学校では、宗教教育は「宗教文化と道徳」という科目でのみ行われていた。この「宗教文化と道徳」は、イスラームの教えそのものを教えるというよりもイスラームを題材に現代的な道徳を教えることに重点が置かれている点や、他宗派・他宗教について学ぶことを重視しているなどの点で、イスラームから少し距離を置いた宗教教育であり、その意味では多元的宗教教育として積極的な教育的意義を有している。選択科目として新設された宗教関連科目には、既存の「宗教文化と道徳」と重複する内容もあり、この重複が今後どのように整理されていくのか(あるいはそのままなのか)によって、トルコの多元的宗教教育を巡る状況は大きく変化することになる。2012年の義務教育改革に伴うイスラームに関する教育の強化という動きを踏まえながら、トルコの多元的宗教教育についての検討を進める必要性が確認できた。近年、多文化共生の観点から必要性が高まっている多元的宗教教育について、トルコとイギリスを事例に比較検討を行った。まず教科書の分析をもとに、両国ともに他宗教に対する寛容性を育むための宗教教育がどのような内容で行われているかを確認した。さらに、両国の宗教教育の内容の共通点と相違点、およびその背景や近年の教育改革の動向について分析しながら、多元的宗教教育の意義と限界について明らかにした。平成24年度は研究実施計画に沿う形で、トルコ・イギリスを中心に、諸外国の宗教教育に関する情報の収集・整理・分析を進めた。その結果、社会の多文化化の進行に伴い、自宗教だけでなく他宗教についても学ぶ多元的宗教教育のような形で、宗教教育が変化する傾向が見られることが確認できた。また、宗教教育に関する情報の分析を通して、多文化時代において異なる宗教間の相互理解を進めるために、自宗教の伝統や決まりの持つ意味を論理的に問い直し、他者に対して論理的に説明できることが重要な資質とされていることを認識することができた。異なる宗教間で価値観が衝突する場合には、自らの価値観を主張するだけでなく、その価値観を相手に伝わるように論理的に説明することが重要であり、それゆえ、自宗教を論理的に客観視し論理的に説明しようとする態度及びスキルは、宗教間の対話を進める上で重要な資質である。このことは、来年度以降の海外調査を行う際の重要な研究視点の1つとして位置づけている。トルコに関しては、現行の宗教教育において、具体的にイスラーム以外の宗教がどのように扱われているかに注目して分析を進め、他宗教・他宗派に関する寛容が重視されていること、イスラームとの共通点が強調されていることを確認した。また、トルコの宗教教育で、そうした点が重視されている要因について考察するために宗教教育を取り巻く歴史的背景についても整理した。さらに、トルコで2012年に行われた教育改革が、宗教教育に対しても大きな影響を与える改革であったため、その改革に関する情報収集も行った。平成26年度は、平成24年度・平成25年度に得られた研究成果を踏まえながら、多元的宗教教育の意義と限界について検討を重ねた。その成果は次の通りである。トルコとイギリス両国の宗教教育は、教科書の内容的には、異なる宗教間の相互理解を進める上で重要な内容(他宗教を学ぶこと、宗教・宗派の違いを肯定的に評価すること、宗教の伝統や決まりを論理的に考え直すことなど)が含まれており、多文化社会において求められる多元的宗教教育として意義のあるものである。ただ、トルコとイギリスの多元的宗教教育には共通点だけでなく相違点もある。トルコではイスラーム(=自宗教)を中心に学びながら、イスラームが(宗派・宗教の)違いを尊重してきた宗教であることを強調することで他宗教に対する寛容性を育もうとしているのに対して、イギリスでは他宗教を学び、他宗教に対する親しみを抱かせ、宗教の伝統や決まりを論理的に考えることで、他宗教に対する理解を進めようとしている。こういった相違点はあるものの多元的宗教教育として意義深い内容になっている両国の宗教教育ではあるが、多元的宗教教育としての宗教教育の内容やその内容の持つ意義が、国民の間で必ずしもコンセンサスを得ているわけではないという問題を抱えている。
KAKENHI-PROJECT-24730716
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24730716
多元的宗教教育の意義と限界に関する国際比較研究
以上の成果の一部は、7月の日本比較教育学会第50回大会で報告し、そこで得られた示唆を含めて、これまでの研究の再分析を行った。その上で、論文としてまとめた(「トルコにおける多元的宗教教育の状況とその可能性ーイギリスとの比較を通してー」『京都女子大学発達教育学部紀要』第11号、平成27年、3140頁)。比較教育学トルコの2012年義務教育改革に伴い宗教教育に関しても重大な改革が行われたことで、この改革に関する情報収集・整理・分析を集中的に行う必要が生じた。また、この改革によって、トルコの多元的宗教教育のあり方も今後大きく変化する可能性が高く、当初想定していた分析視点とは異なる視点から多元的宗教教育の意義と限界について分析する必要性も生じた。こうした理由から、2012年義務教育改革に関する分析に時間を費やさざるを得なかったため、当初予定していた、イギリスの多元的宗教教育に関する分析と学会での成果発表が予定通りに進めることができなかった。しかし、トルコでの聞き取り調査等を通じて、2012年義務教育改革に伴う宗教教育の変化とその影響について情報収集を行うことができた。最新の教育改革を踏まえた上で、多元的宗教教育について検討を進める下地を作ることができた点は、今後の研究内容の深化につながることと思われる。また、2012年義務教育改革によって、それまでの宗教教育に変化が生じたことは、ある意味で、これまでの多元的宗教教育のあり方がトルコでコンセンサスを得ていたわけではないことを示していると解釈できる。2012年義務教育改革によって、研究の達成が予定より遅れた部分もあるものの、予定とは違った観点から分析を進めることができたという点で、おおむね順調に進展していると言える。トルコ・イギリスを中心に、諸外国の宗教教育に関する情報の収集・整理・分析をある程度まで進めることができた。ただ、十分な分析が行えていない情報もまだ残っており、さらに分析を進めていく必要がある。多元的宗教教育を評価する際の視点として、自宗教の伝統や決まりの持つ意味を論理的に問い直し、他者に対して論理的に説明できる資質が重視されているかどうかという視点を得ることができたことも成果である。ただ、宗教教育を通じてその資質を伸ばすことができたかどうかをどのようにして評価していくか、という評価基準の問題が生じている。また、多元的宗教教育を評価するための他の視点も挙げていくことも今後の課題である。トルコについては、具体的に情報の収集・整理・分析を進めることができた。ただ、2012年の教育改革が宗教教育にも大きな影響を与える改革だったため、今後さらに2012年の教育改革に関する情報の収集・整理・分析を行う必要が生じてきている。特に、教育改革によって、宗教教育に新たに加えられた変更についての分析を進めることが、本研究の目的に照らし合わせて不可避である。イギリスについても、ある程度まで分析を進めることはできたが、まだ資料の収集・整理・分析が十分な点も残っているので、研究協力者の助言をもとにさらに研究を進めていく必要がある。
KAKENHI-PROJECT-24730716
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24730716
インフルエンザ菌によるphase variationと慢性中耳炎病態への関与
小児の滲出性中耳炎の起炎菌である無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)の菌体外膜にはphosphorylcholine (PCho)が存在する。我々はPChoの表出の有無による中耳粘膜免疫反応の相違について検討した。PCho陽性株とPCho陰性株による中耳炎マウスモデルを作成し、菌投与後1、3、7日後に中耳洗浄液の生菌数を計測し、中耳粘膜を採取した。生菌数はPCho陽性群では経時的に減少し、陰性群では生菌数の増加した。中耳洗浄液中サイトカイン濃度は、PCho陰性群でIL-1β、IL-6、IL-10、KC、IL-17、TNF-αが高値であった。PChoの表出は中耳粘膜での粘膜免疫応答に差を認める。無莢膜型インフルエンザ菌は、菌体外膜のリポオリゴ糖(LOS)の位相変異に伴いphosphorylcholine (ChoP)をepitopeに表出し、敗血症や髄膜炎などの感染症を引き起こすことが報告されている。本研究ではリポオリゴ糖(LOS)の位相変異と中耳炎の難治化、遷延化との関係についてマウスモデルを作成して検討した。臨床分離されたインフルエンザ菌40株に対して、lic1領域中のCAAT縦列配列をDNAシークエンサーを用いて解析を行った。CAAT縦列配列リピート数を計算し、ChoPの発現強度別のstrainを分別し、ChoP発現につきタンパクレベルでの発現をWesternblot法およびColony blotting法にて確認を行ったところ、13株が一致していた。このうち、無莢膜型インフルエンザ菌のChoP陽性株とChoP陰性株をマウスの中耳骨胞にそれぞれ106cfu/mouseずつ投与した。両群ともDay1、3、7に断頭して中耳洗浄液を採取した。同検体を用いて細菌生菌数の測定、遠沈をかけて得た上清でELISAを行い炎症性サイトカインを測定、また沈渣における炎症細胞をフローサイトメトリーで測定し、RT-PCR目的にRNAを抽出した。さらに中耳組織を採取してH-E染色及び免疫染色を行い、炎症細胞の浸潤及び粘膜飛行の程度について評価した。これらについてChop陽性株群とChop陰性株群、また生理食塩水投与のコントロール群で比較検討を行った。生菌数は日数が経過するとChop陽性株群の方が少なく、中耳クリアランスが促進される状況にあった。上清のサイトカインでも、IL-1bとTNF-αではChop陰性株群が高値であった。中耳粘膜肥厚の程度では明らかな差は認めなかった。臨床分離されたインフルエンザ菌40株に対して、lic1領域中のCAAT縦列配列をDNAシークエンサーを用いて解析を行い、CAAT縦列配列リピート数を計算し、ChoPの発現強度別のstrainを分別し、ChoP発現につきタンパクレベルでの発現をWesternblot法およびColony blotting法にて確認を行っており、その株である無莢膜型インフルエンザ菌のChoP陽性株とChoP陰性株をマウスの中耳骨胞にそれぞれ投与し、中耳炎モデルを作成しており、概ね進行は良好である。小児の滲出性中耳炎の主要な起炎菌の一つである無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)の菌体外膜にはphosphorylcholine (PCho)が存在する。今回我々はPChoの表出の有無による中耳粘膜において産生されるサイトカインの測定を行って粘膜免疫反応の相違について検討した。BALB/cマウスの右中耳骨胞にNTHiのPCho陽性株とPCho陰性株を投与し、菌の投与後1、3、7日後に各マウスの中耳洗浄液からの生菌数をカウントし、また中耳粘膜を採取した。生菌数はPCho陽性群では経時的に生菌数を減らす一方、陰性群では経時的に生菌数を増やす傾向を認めた。中耳洗浄液中のサイトカイン濃度であるが、IL-1βやIL-6、IL-10、KCではPCho陰性群が高値を示し、投与後3、7日後においても同様であった。投与後7日後でのみIL-17とTNF-αもPCho陰性群で高値だった。PChoの表出の有無に置いて、中耳粘膜での粘膜免疫応答に差を認める。小児の滲出性中耳炎の起炎菌である無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)の菌体外膜にはphosphorylcholine (PCho)が存在する。我々はPChoの表出の有無による中耳粘膜免疫反応の相違について検討した。PCho陽性株とPCho陰性株による中耳炎マウスモデルを作成し、菌投与後1、3、7日後に中耳洗浄液の生菌数を計測し、中耳粘膜を採取した。生菌数はPCho陽性群では経時的に減少し、陰性群では生菌数の増加した。中耳洗浄液中サイトカイン濃度は、PCho陰性群でIL-1β、IL-6、IL-10、KC、IL-17、TNF-αが高値であった。PChoの表出は中耳粘膜での粘膜免疫応答に差を認める。ChoP発現しているNTHi strainとChoP発現していないNTHi strainを用いたマウスモデルを作成し、慢性中耳炎症病態のレベルについて相違を検討し、中耳組織を採取し、H/E染色や、Thy1.2、PanB ,CD11c等の免疫組織染色をおこなう予定である。Tリンパ球分画および樹状細胞の局在を見るために、CD4、CD8、CD25、CD11c等の蛍光重染色を施行し、共焦点レーザー顕微鏡にて分布について調べ、細胞生物学的検討を行う。また、炎症性サイトカインであるTNF-alpha
KAKENHI-PROJECT-16K20261
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K20261
インフルエンザ菌によるphase variationと慢性中耳炎病態への関与
、IL-1beta、IL-17,調節性サイトカインIL-4、IFN-gamma、抑制性サイトカインIL-10、TGF-beta mRNAの発現についてrealtime RT-PCR法にて調べ、慢性炎症による粘膜におけるサイトカイン産生細胞を同定し、感染免疫応答の機能細胞について検討する予定である。医歯薬学
KAKENHI-PROJECT-16K20261
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16K20261
水稲根圏のメタン動態:アイソトポローグ解析による生成・酸化の分離定量
水田は人類最大の食料生産基地である一方、強力な温室効果ガスであるメタンの大きな排出源でもある。水田からのメタン排出量は、水稲の根圏で生じるメタンの「生成」と「酸化」(分解)の差し引きで決まる。そのため、メタン排出量の削減策を評価・開発する上では、排出量の変化が生成・酸化のどちらのプロセスによってもたらされるかを把握する必要がある。ところがこれまでは生成・酸化の両者を現場で区別して定量することは技術的に難しかった。本研究は、メタンの水素・炭素同位体分子種の反応性の違いを利用し、実際の現場で同位体分別の情報からメタン酸化が定量できるかどうかを検証した。前年度までに日本に広く分布する灰色低地土水田においてメタン酸化阻害剤を用いて試験を行った結果、イネ根圏では確かにメタン酸化が生じており、最大で生成されたメタンの約30%が大気へ放出される前に分解されていること、一方、予想に反し、メタン酸化の際に炭素同位体の分別は殆ど生じていなかった。そこでH30年度は炭素よりも大きな分別が生じると考えられる水素の同位体比を外部機関の協力を得て測定したが、やはりメタン酸化に伴う同位体分別は検出されなかった。既存の研究は、排出されるメタンの同位体比の変動がメタン酸化の変化に起因すると仮定しているが、本研究の結果からその仮定は少なくとも今回の条件では満たされないことが分かった。今回の結果から、メタン酸化の制限要因は必ずしもメタン酸化菌による酵素反応自体ではなく、基質であるメタンや酸素の可給性等にある可能性が浮上してきた。その場合、同位体情報からメタン酸化を定量することは難しいと結論せざるを得ない。一方で、排出されるメタンの同位体比自体には大きな日・季節変動が観測された。この変動を解明することで、メタンの輸送プロセスや基質(炭素)源、あるいはメタン生成経路に関する情報が得られると考えられた。水田は世界人口の半数に主食のコメを提供する主要な食料生産基地である一方、強力な温室効果ガスであるメタンの大きな発生源でもある。水田からのメタン発生量は、水稲の根圏で生じるメタンの「生成」と「酸化」(分解)の差し引きで決まるが、これまでは両者を区別して定量することは難しかった。本研究は、メタンの水素・炭素同位体分子種の反応性の違いを利用してメタン酸化を定量する新規手法「アイソトポローグ法」を確立することを目的としている。初年度は、改良阻害剤法を用いたメタン酸化量・酸化率およびメタン酸化に伴う同位体分別の実測を重点的に行った。具体的にはメタン酸化をストップさせた阻害区からの発生量(=生成量)を求め、別途用意したコントロール区(阻害剤無し)からの発生量(生成量ー酸化量)と合わせてメタン酸化量および酸化率を求めた。さらに阻害区とコントロール区から発生したメタンの同位体比の差から酸化に伴う同位体分別を求めた。これらの測定を、メタン発生量が異なる二つの品種および二つの窒素条件下で行った。その結果、実圃場においても生成されたメタンの一部は酸化分解されてることが確認された一方、メタン酸化が生じていても炭素に関しては同位体分別が生じていなかった。これは大きな分別が観測されてきた培養実験に基づくこれまでの知見とは異なる結果であり、既存の同位体分別係数を実際の圃場条件下にそのまま適用することは難しいことが示された。改良阻害剤法を用いた圃場試験によるメタン酸化率の実測は当初の予定以上に進んだ。特に実際の水田圃場において、メタン酸化と炭素同位体比に関して精度の高いデータを取得し、既存の知見を覆す結果が得られたことは予想以上の進展であった。一方で当初予定したメタンの水素安定同位体比測定ラインの構築は未達成であった。今後は他の機関と連携し水素安定同位体比を測定する予定である。水田は世界人口の半数の主食であるコメを提供する食料生産基地である一方、強力な温室効果ガスであるメタンの大きな排出源でもある。水田からのメタン排出量は、水稲の根圏で生じるメタンの「生成」と「酸化」(分解)の差し引きで決まるが、これまでは両者を区別して定量することは難しかった。本研究は、メタンの水素・炭素同位体分子種の反応性の違いを利用してメタン酸化を定量する新規手法「アイソトポローグ法」を確立することを目的としている。H29年度はH28年度に得られたデータの解析を進め、イネ根圏では確かにメタン酸化が生じており、最大で生成されたメタンの約30%が大気へ放出される前に分解されていることが分かった。一方、メタン酸化過程における律速段階は、メタン酸化菌による酵素反応自体ではなくその前段階であるメタンの溶解や拡散移動である可能性が示された。そういった条件では炭素安定同位体比の分別は殆ど生じていないと考えられた。なおH29年度は研究分担者の海外長期滞在や研究代表者の育児休暇取得により、当初予定していた圃場実験や安定同位体比の分析はH30年度に延期した。水素安定同位体比測定については、必要な機材を入手することが研究リソース的に困難となったため、自前でラインを構築する方針を変更し、外部の機関と連携して分析を進めるよう計画を変更した。
KAKENHI-PROJECT-16K14875
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水稲根圏のメタン動態:アイソトポローグ解析による生成・酸化の分離定量
H30年度はH28年度に採取済みのサンプルおよびH30年度の新規栽培試験で得られるサンプルを対象に、炭素では同位体分別が生じていない条件でも水素の同位体分別が生じているかどうかを検討する予定である。H29年度はH28年度試験とは品種や生育段階などが異なる条件でアイソトポローグ法の適用可能性を検討する予定であったが、研究分担者が海外に長期滞在したことと、研究代表者が夏季に育児休暇を取得する必要が生じたため、予定していた圃場実験や安定同位体比分析の大部分を次年度に延長することとした。水田は人類最大の食料生産基地である一方、強力な温室効果ガスであるメタンの大きな排出源でもある。水田からのメタン排出量は、水稲の根圏で生じるメタンの「生成」と「酸化」(分解)の差し引きで決まる。そのため、メタン排出量の削減策を評価・開発する上では、排出量の変化が生成・酸化のどちらのプロセスによってもたらされるかを把握する必要がある。ところがこれまでは生成・酸化の両者を現場で区別して定量することは技術的に難しかった。本研究は、メタンの水素・炭素同位体分子種の反応性の違いを利用し、実際の現場で同位体分別の情報からメタン酸化が定量できるかどうかを検証した。前年度までに日本に広く分布する灰色低地土水田においてメタン酸化阻害剤を用いて試験を行った結果、イネ根圏では確かにメタン酸化が生じており、最大で生成されたメタンの約30%が大気へ放出される前に分解されていること、一方、予想に反し、メタン酸化の際に炭素同位体の分別は殆ど生じていなかった。そこでH30年度は炭素よりも大きな分別が生じると考えられる水素の同位体比を外部機関の協力を得て測定したが、やはりメタン酸化に伴う同位体分別は検出されなかった。既存の研究は、排出されるメタンの同位体比の変動がメタン酸化の変化に起因すると仮定しているが、本研究の結果からその仮定は少なくとも今回の条件では満たされないことが分かった。今回の結果から、メタン酸化の制限要因は必ずしもメタン酸化菌による酵素反応自体ではなく、基質であるメタンや酸素の可給性等にある可能性が浮上してきた。その場合、同位体情報からメタン酸化を定量することは難しいと結論せざるを得ない。一方で、排出されるメタンの同位体比自体には大きな日・季節変動が観測された。この変動を解明することで、メタンの輸送プロセスや基質(炭素)源、あるいはメタン生成経路に関する情報が得られると考えられた。圃場試験でよるサンプル採取およびメタンの炭素安定同位体比測定に関しては、想定以上に研究が進展している。一方でメタンの水素安定同位体比測定ラインを自前で構築することは、研究リソース上、困難であることが明らかとなった。したがって今後は炭素に関しては研究代表者が自前で分析する一方、水素安定同位体比に関しては外部の機関と連携して分析を進めるよう研究計画を一部変更する。H29年度に実施予定だったイネの栽培試験については、研究期間を1年延長してH30年度に実施する。メタンの水素安定同位体比測定については、自前で分析ラインを制作するための技術は確立しているものの、研究リソース的に難しいことが明らかとなった。そのため、水素安定同位体比測定は、既に分析手法を確立している海洋研究開発機構の川口慎介研究員、松井洋平特任技術主任の協力を得て実施することとした。当初予定していた水素安定同位体比の測定を次年度に回したため、ライン整備や分析に関わる消耗品およびオペレーター経費に残額が生じた。H29年度は研究分担者の海外長期滞在や研究代表者の育児休暇取得により、当初予定していた圃場実験や安定同位体比の分析を行うことが困難となった。
KAKENHI-PROJECT-16K14875
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線源内療法を視野に入れた放射性同位元素ナノコンテナ製造の試み
本実験では加速器および原子炉等からの量子ビーム(中性子、陽子、光子など)を用いた原子核反応による反跳効果を利用し、ナノコンテナ(ここではC60フラーレン)への各種放射性同位元素の内包化を目指した実験的・理論的な検討を行った。特に本実験では生体内イメージングや線源内療法を視野に入れた核医学で使用されているTc99m及び使用の可能性のが見込まれるAu194放射性同位元素内包の可能性(Tc99m@C60, Au194@C60)の検討を行なった。まず、標的として濃縮100Moを使用した光核反応(γ,n)によるMo99→β-壊変→Tc99mを利用して、Tc99m@ C60の可能性について調べた。ここでは約96%に濃縮された金属のMo100と粉末C60の等重量をメノウ乳鉢内で混ぜ合わせ、さらに二硫化炭素(CS2)を用いてC60を溶かし込み、照射標的とした。電子線加速器からの30MeV、100μAの電子線を用いて6時間照射を行った。標的物質内では、Mo100(γ,n)99Mo反応が起き、この核反応では中性子や即発γ線の放出を伴うので、核反応生成物のMo99は反跳を受ける。この反跳エネルギーによって動くMo99原子とC60は標的物質内で原子分子衝突を起こす。また、安定同位体Ptと陽子を用いたPt194(p,n)Au194反応では生成物のAu194は反跳を受け、原子分子衝突が起こる。これらMo99やAu194はこの反跳により、C60ケージと衝突し6員環や5員環から内包される可能性がある。この実験事実を明確にするために、第一原理を用いたシミュレーションを行った。その結果、核反応生成物のMo99は反跳を受けたTcやAu原子はそれぞれあるエネルギー範囲で内包がが可能であることが分かった。他、核種Cu64等の核医学核種については、現在、解析中であり、順次、発表予定である。近年、α線核種Ra-223やβ線核種Y-90などの線エネルギー付与(LET)の高い放射線が、がん治療に有効であることが分かり、放射性物質の核医学利用が注目されている。また、Tc-99mなどの単一γ線(single photon)放出核種は生体中でのトレーサーとして広く利用されている。特に、Tc-99mは半減期6時間で安定なTc-99になるため医学応用に適している。さらにTl-201やAu-194は心筋や前立腺腫瘍のシンチグラムに期待されている核種である。我々は、1996年のBe@C60やXe@C60などを量子ビーム(中性子線、陽子線、光子など)の原子核の反跳効果を利用した種々放射性元素のC60への内包実験を行ってきた。また、共同研究者らにより第一原理分子動力学シミュレーションを行い、どの様な原子がC60に内包可能かを調べてきた。結果として重い原子であるα線放出核種のPo-210などでもC60への内包に成功している。本研究では、医学利用可能なα線源やβ線源を、内療法を視野に入れて放射性同位元素ナノコンテナの製造を試みている。また、それらの大量合成法の検討も行っている。ここでは医療用放射性同位元素の種類と内包のための照射エネルギー範囲の検討を行なった。放射性同位元素をトレースすることで、その内包C60の収率の見積りを行っている。実験としては加速器や原子炉照射等が整備されている本研究施設を利用し、医療に有用な放射性同位元素を製造しその原子核反応の反跳エネルギーを利用し、放射性異原子を内包させる手法を用いる。具体的には、実際にプロセスとして反跳効果を利用してTc-99m@C60の可能性を調べている。また、同様の方法により、Au-194@C60の合成を試みている。内包第一原理分子動力学シミュレーションも行いつつある。本実験では加速器および原子炉等からの量子ビーム(中性子、陽子、光子など)を用いた原子核反応による反跳効果を利用し、C60への各種放射性同位元素の内包化を目指した実験的検討を行っている。特に本実験では生体内イメージングや線源内療法を視野に入れたTc-99m及びAu-194、At-211, Cu-67などの放射性同位元素内包の可能性(Tc-99m@C60, Au-194@C60, Cu-67 etc.)の検討を行っている。このためにまず、Tc-99mの製造量を見積もる実験を行っている。本実験では20MeV40MeVまでの電子線によるMo-100(γ,n)Mo-99反応→β→Tc-99mによりTc-99mの収率の検討を行ない、学会発表等を行った。今後、核的反跳を利用したTc-99m@ C60の可能性について調べる。電子線加速器からの30MeV、100μAの電子線を用いて照射を行った。標的物質内では、Mo-100(γ,n)Mo-99反応が起き、この核反応では中性子や即発γ線の放出を伴うので、核反応生成物のMo-99は反跳を受け,この反跳を利用したMo-99のC60への内包をする実験に関しては続行中である。
KAKENHI-PROJECT-16K15579
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線源内療法を視野に入れた放射性同位元素ナノコンテナ製造の試み
本研究施設には研究用原子炉KURが設置されていて、実験はこの原子炉を用いて放射性同位元素を製造し、ホットアトム(反跳)効果を利用し、医学利用可能な線源を、内療法を視野に入れて放射性同位元素ナノコンテナの製造の試みを目的としていた。しかし、福島第一原発事故後に原子炉や核燃料等に新しい規制基準が導入され、この3年間研究用原子炉の停止を免れることができなかった。よって、多少進捗に遅れが生じている。本年7月より研究用原子炉も稼働予定であるので、多少遅れてはいるが、原子炉を用いた実験も可能となる。近年、α線核種Ra-223やβ線核種Y-90などの線エネルギー付与(LET)の高い放射線が、がん治療に有効であり、これらの放射性同位元素(RI)の核医学利用が始まっている。また古くから、Tc-99mなどの単一γ線(single photon)放出核種は生体中でのトレーサーとして広く利用されてきた。さらにTl-201やAu-194は心筋や前立腺腫瘍のシンチグラムに利用や期待がなされている核種である。我々は、1996年頃からBe@C60やKr@C60などを量子ビーム(中性子線、陽子線、光子など)の原子核の反跳効果を利用した種々放射性元素のC60への内包実験を多くの元素に対して行ってきた。また、共同研究者らにより第一原理分子動力学シミュレーションを行い、どの様な原子がC60に内包可能かを調べてきた。結果として重い原子であるα線放出核種のPo-210などでもC60への内包(Po@C60)に成功している。本研究では、医学利用可能なα線源やβ線源を、内療法を視野に入れて放射性同位元素ナノコンテナの製造を試みている。ここでは医療用放射性同位元素の種類と内包のための照射エネルギー範囲の検討を行なった。放射性同位元素をトレースすることで、その内包C60の収率の見積りを行っている。実験としては加速器や原子炉照射等が整備されている本研究施設を利用し、医療に有用な放射性同位元素を製造しその原子核反応の反跳エネルギーを利用し、放射性異原子を内包させる手法を用いる。具体的には、実際にプロセスとして反跳効果を利用してTc-99m@C60の可能性を調べている。また、同様の方法により、Au-194@C60の合成を試みている。内包第一原理分子動力学シミュレーションも行いつつあり、また、それらの大量合成法の検討も行っている。本研究では加速器や原子炉等からの多種類の量子ビーム(中性子、陽子、光子など)を用いて、核反応による反跳効果を利用し、C60やC70フラーレンへの各種放射性同位元素の内包化を目指した実験・理論的検討を行っている。特に本実験では生体内イメージングや線源内療法を遠視野に入れたTc-99m及びAu-194、At-211, Cu-67などの放射性同位元素内包の可能性(Tc-99m@C60, Au-194@C60, Cu-67 etc.)の検討を行っている。このためにまず、Tc-99mの製造量を見積もる実験を行っている。本実験では20MeV40MeVまでの電子線によるMo-100(γ,n)Mo-99反応→β→Tc-99mによりTc-99mの収率の検討を行ない、国際会議や国内会議発表等を行ってきた。現在、核的反跳を利用したTc-99m@ C60の可能性について調べている。電子線加速器からの30MeV、100μAの電子線を用いて照射で標的物質内では、Mo-100(γ,n)Mo-99反応が起き、この核反応では中性子や即発γ線の放出を伴うので、核反応生成物のMo-99は反跳を受け,この反跳を利用したMo-99のC60へ内包させる実験を継続中である。本研究施設には研究用原子炉(KUR)が設置されていて、実験はこの原子炉を用いて放射性同位元素を製造し、ホットアトム(反跳)効果を利用し、内療法を視野に入れて放射性同位元素ナノコンテナの製造の試みを目的としている。
KAKENHI-PROJECT-16K15579
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新規遺伝子改変動物と患者iPSを利用した分子病態に基づくてんかんの革新的治療開発
本研究はてんかんの分子病態を明らかとし、治療法の確立のために実施された。多くのてんかんの責任遺伝子変異と、次世代シークエンサーを利用して世界に先駆け小児交互性片麻痺の責任遺伝子を同定した。また、SCN1Aの異常によるドラベ症候群の患者より樹立したiPS細胞により、その分子病態を明らかにした。さらにこの細胞のSCN1Aの異常を修復、また正常細胞に導入することに成功した。Scn1aの遺伝子の微少欠失を持つマウスの作出とScn1aの遺伝子とPcdh19に変異を導入したラットを作出した。現在、樹立したiPS細胞と作出した動物を用いて、病態に基づく治療薬のシーズのスクリーニングを実施している。てんかんの病態は長い間不明であったが、最近の分子生物学の発展に伴い遺伝子異常が発見されるようになった。しかしながら、その遺伝子異常がヒト脳内でどのような病態を引き起こしているのかは、ヒト脳を利用する他なく困難と考えられてきた。ところが、最近患者由来のiPS細胞を神経細胞等に分化誘導することにより、ヒト脳での病態研究が望める可能性が生まれた。我々はナトリウムチャネルをコードする遺伝子、SCN1Aの異常により起こるドラベ症候群の患者より樹立したiPS細胞から、神経を分化させることに世界に先駆け成功した。これにより、ドラベ症候群の分子病態を明らかにすることができた。さらにこの細胞を用いて、そのSCN1Aの異常をTALENによる方法で、修復することに成功した。てんかんでの遺伝子異常の発見により、その遺伝子異常をもつ動物を、遺伝子操作で作出することができるようになった。我々はドラベ症候群でみられるようなSCN1Aの遺伝子の微少欠失を持つマウスの作出に成功した。さらにTALEN技術を使い、ラットのSCN1Aの遺伝子に変異を導入することに成功した。今後は、樹立したiPS細胞を用いて、病態の回復を指標として多種の薬剤をスクリーニングすることにより、効果のある薬剤のシーズの探索を行う。同様に作出した動物を用いて、病態に基づく治療薬のシーズとなる薬剤のスクリーニングを行う。A.てんかん遺伝子バンクの資料をもとに、てんかんの責任遺伝子変異を同定する。てんかん遺伝子バンクより8名の患者サンプルを使用して、次世代シークエンサーを用いた全エクソーム解析により、てんかんを来す小児難治性疾患である小児交互性片麻痺の病因遺伝子がATP1A3であることを世界に先駆け報告した。Ishii et al PLOSE ONE 2013)B.見出された遺伝子変異を有するモデル動物を作出し、てんかんの分子病態をin vivoで明らかにする。Dravet症候群は、ニューロンNaチャネルα1サブユニット遺伝子(SCN1A)のヘテロのナンセンス変異やミスセンスなど点変異のほか、微小欠失が原因となりうる。今回、我々が独自に開発してキックイン法の一部を利用し、SCN1Aの欠失を持つマウスの作出に成功した。本マウスを、24時間ビデオ脳波計を用いて観察したところ、離乳後の4週齢から8週齢の間に激しいけいれんと脳皮質波でてんかん性の放電が観察された(論文準備中)C.患者iPS細胞から樹立した神経細胞を用いて、てんかんの分子病態をex vivoで明らかにする。Dravet症候群で、SCN1Aのナンセンス変異を有する患者皮膚より繊維芽細胞を樹立し、これよりiPS細胞を作成した。さらにiPS細胞を分化誘導して、神経細胞を作ることに成功した。この神経細胞を用いて、その電気生理学的変化を観察したところ、活動電位が対照健常者より同様に樹立した神経細胞に比べ減弱していることを見いだした。(Higurashi, Molecular Brain 2013 in press)D.分子病態に基づく革新的な治療法を開発する。本研究は遺伝学的背景が要因と考えられる“てんかん症候群"と“けいれん疾患"の責任遺伝子を同定し発症機序の解明と利用戦略基盤を構築することを目的とした。てんかんの病態は長い間不明であったが、最近の分子生物学の発展に伴い遺伝子異常が発見されるようになった。しかしながら、その遺伝子異常がヒト脳内でどのような病態を引き起こしているのかは、ヒト脳を利用する他なく困難と考えられてきた。ところが、最近は技術革新により、ヒト脳での病態研究が望める可能性が生まれた。我々はすでに500種以上のてんかんの責任遺伝子変異を見出してきた。また次世代シークエンサーを利用して、世界に先駆けてんかんを来す小児交互性片麻痺の責任遺伝子を明らかにした。これら変異による病態を電気生理学的、細胞生物学的に明らかにしてきた。特筆すべきはナトリリウムチャネルをコードする遺伝子、SCN1Aの異常による起こるドラベ症候群の患者より樹立したiPS細胞から、神経を分化させすることに世界に先駆け成功した。これにより、ドラベ症候群の分子病態を明らかにすることができた。さらにこの細胞を用いて、そのSCN1Aの異常をTALENによる方法で、修復また正常細胞に導入することに成功した。てんかんでの遺伝子異常の発見により、その遺伝子異常をもつ動物を、遺伝子操作で作出することができるようになった。我々はドラベ症候群でみられるようなSCN1Aの遺伝子の微少欠失を持つマウスの作出に成功した。さらにTALEN技術を使い、ラットのSCN1Aの遺伝子とPCDH19に変異を導入することに成功した。現在、樹立したiPS細胞を用いて、病態の回復を指標として多種の薬剤をスクリーニングすることにより、効果のある薬剤のシーズの探索を行っている。
KAKENHI-PROJECT-24249060
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